美希「天辺に一番近い場所」 (18)

・アイマスSSです。
・美希誕SSです、美希お誕生日おめでとう!!
・地の文あります。

ではよろしくお願いします。

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誰が最初にこうしたのだろうか。
ドアノブに挿したままの鍵を一度回す。

錆び付いた音と共にドアを押すと、隙間から強い風が漏れる。

「…………っ」

今は11月末、すっかり寒くなってしまった強い北風に押されながら、
両手で屋上へのドアを開ける。

開け放った瞬間、風は止み耳に入ってくるのは下で聞こえる鉄の音ばかり。
ずっと風の音だけ聞いていれば、少しは現実に引き戻されなくて済んだのかもしれない。


「…………ちょっと、寒いかな」

一番下に着た防寒着が無ければもっと寒かったのだろうか。
想像するだけで身震いしてしまう。 今日は曇り。

何の気無しに、フェンスに沿って歩いてみる。
網目状に作られたフェンスを歩きながら爪で鳴らす。
非常に耳障りなその音は、マニキュアを少しずつ削る事で奏でることを許される。

「しょっ、と」

屋上の床に背を預けて、目を閉じる。
服から皮膚、皮膚から脂肪、筋肉へと目を瞑っている分だけより鋭敏に伝わっていく。
唯一外気に触れる手が、気温的な寒さと、物体の持つ冷たさに堪えたのか、
胸の上に両手とも逃げてくる。 成る程、かちこちだ。


体が冷たくなるほど、肉体が睡眠を欲していく。
頭や瞳の疲労とは異なった重みを瞼に感じ、開く気力も沸きやしない。

「なにしょぼくれてんのよ」

頭上、つまり後ろから甲高い声がする。

「でこちゃん」

口調、声だけで誰か解る。 瞳を開ける必要も無い。

「アンタにしては珍しいじゃない、仕事で失敗なんて」

瞼の裏で、対象だけ浮き出てくるホログラフのようなイメージに合わせて動く彼女は、
実物と一切変わらない身振り手振りで、自分の記憶力に感心する。


「あはっ、そんなおっきい失敗じゃなかったんだよ?」

言葉の通り、失敗は目立ったものでは無かった。

あの時の仕事は、シリーズものの刑事ドラマのゲスト役。
被害者役を演じる事になり、泣く演技をするのは少々骨が折れた。
台詞や位置取りもすぐに覚える事が出来た上に、撮影も一発OKだった。

だとすれば、何故失敗が起こったのか。

それは仕事内で起こったものでは無かった。 勿論、この仕事が切欠の失態ではあるのだが。
撮影終了時、我が愛しのハニー、もといプロデューサーがいつものように労いの言葉を投げかけてくれた。

『お疲れ、美希。 良かったぞ』


当時の自分の気持ちなど、もうとうに忘れてしまったが、
涙を流す演技を見られたことによる気恥ずかしさか、それとも疲れを見せないための強がりか。
そのどちらか、あるいは両方の気持ちでこう言ったハズだ。

『このくらいの仕事なんて、へっちゃらなのっ☆』

それがプロデューサーの逆鱗に触れたらしい。

『このくらい……?』

『あっ、違くて…………』

『…………このくらい、なんて言い方はしちゃいけない。 これだって立派な仕事なんだ。
 それとも、手抜きでやったわけじゃないよな?』

『そんなワケっ!!』

『だよな。 ごめんな試すような事言って』

『あの、ハニー…………』

『さ、事務所戻るぞ。 少し休憩したら行こう、先に車乗ってる』


あの時の車内での空気は、吐き出せないほど重く苦しいものだった。
いつも車内の空気を誤魔化す芳香剤も、その時は毒に思えた。

「へぇ……、そんな事があったの」

「心配してくれるの?」

瞼は閉じたまま、眼球だけを上に動かす。
動かしたからと言って、見えるわけではないが。 気持ちの問題である。

「まさか。 良い気味だって言ってやろうとしてたトコよ」

フン、と鼻を鳴らすのが聞こえると、小さく微笑んだ。


「素直じゃないの」

「私はいつだって素直よ。 今だって、アンタが失脚してくれればライバルが一人減って助かる、って思ってるんだから、本当よ?」

テレビか何かで見たことがある。 「人は嘘をつくと、口数が多くなる」と。 
それが本当なら、彼女は本当に素直じゃない女の子なのだろう。

嘯いたような態度のまま、「残念」と返した。

一度、大きく風が凪いだ。
人の体にぶつかった、遮られるような音を一度だけさせると、風は遠くへ飛んでった。

「…………もう少し、頑張んなさい」

予想とは反した、優しげな声。 それも激励。
思わず目を見開いてしまいそうになった。


「…………ビックリ」

「何がよ」

「励ましてくれてるの」

「ふんっ、何勘違いしてるのよ。 アンタが居なくなったら張り合いが無くなると思ったの」

良く回る口だ。

「さっきは「ライバルが減って助かる」~、とか言ってたのに」

「あれも本心よ。 けど、それじゃつまらないって今気が変わったの、悪い?」

「…………うぅん」

きっと、これが彼女の本心なのだろう。
そう思うのは、自分がそう望んでいるからだろうか。
彼女が自分を応援してくれていると、望んでいるからだろうか。


気付けば、冷えた床と接した背中や腰は感覚を殺し、唇も震えていた。
筋肉を震わせ、熱を発生させ、主を生かそうとしている。
医学では、これを戦慄と呼ぶらしい。

「…………うん、もう少しだけ。 がんばってみるの」

大袈裟にうんしょ、と立ち上がり伸びをする。
背後から「ババくさい」の声。 背中や腰についた砂埃を払い笑う。

「私はもう天辺だから、そこまで聞こえるくらい頑張んなさいよね」

「天辺って……、もうでこちゃん。 さっきとムジュンしてるの」

「解ってるくせに」

「うん」


天辺とは、何をもってどうすれば天辺なのか。
精神的に物理的に地位的に。 どれを極めれば天辺なのか。
それを考えた所で、答えが出るのは自分も天辺にたどり着いた時だろう。 

鉛色の空が、雲の破片を散らすように大粒の雫を落としてきた。
曇天は、雨粒を産み落としたことにより雨天になった。

「…………雨」

「……そろそろ戻んなさい。 あのヘボプロデューサーが心配してるわよ」

声がする方向では、雨粒が床に当たる音が聞こえてくる。
と思えば、雨滴の合唱は両方の耳を包み込むように鳴り響いた。


「また来るね、ここはでこちゃんに一番近い場所だから」

「エベレストの方がもっと近いわよ。 そうね、カブルーとエルブルースも認めてあげる」

俗に言う、アメリカンジョークのようなものだろうか。

「それじゃ、行きたくても全然行けないのっ!」

「それで良いのよ」

「むー!」

程度の低い漫才もそろそろ幕引きか、雨足が早くなる。

「…………じゃあね、でこちゃん」

「えぇ、行ってらっしゃい」


背後では、彼女はどんな顔をしているのだろうか。
彼女の知らない顔は、きっといくつもある。
自分に向ける顔は、殆どが怒りに顔を赤らめた表情ばかりだった。

今振り向けば、自分の知らない彼女が見られるかもしれない。



しかし、それも憚られた。

自分の中に停滞し続ける、彼女の思い出を不変のままにしたかった為だ。
今ここで彼女との思い出を改変してしまえば、それは彼女への不敬となるだろう。
引かれる後ろ髪を断ち切るように、手櫛で大きく梳くと付着した雨粒が跳ねた。

扉を開けて中に入ると、雨粒の音も随分と篭る。 それどころか外で走る喧騒すらも。
服や髪に張り付いた雨が、また新しい水滴となって床に落ちる音以外、全て非現実に思えてしまう。


「…………頑張るって、ミキ言ったじゃん」

想起するのは、彼女の言葉。

「頑張れ、美希」

自分に言い聞かせるようにボソリと呟くと、瞬間体が濡れて冷え切っていたことに気付く。
開く瞼、広がる瞳孔。 心臓を早めようと小刻みになる呼吸。
唇だけではない、体全体が震えていた。 体が全力で死から遠ざかろうとしている。

そうだ、頑張るまでは、まだそちらに行くわけにはいかない。

「頑張るよ、ミキ」

今度は自分ではなく、彼女に向けて。
向こうに居る彼女は聞こえただろうか。 

もう一度深く目を閉じると、誰かがこうしたのか解らない、
挿したままの鍵を反対方向に回した。


・ ・ ・ ・ ・


P「ただいま戻りましたっ!!!!」

小鳥「あ、おかえりなさいプロデューサーさん。 わぁビショビショ」

P「美希が、見つかったってっ、聞いて。 傘も差さず全速力で……っ」

小鳥「お、落ち着いてください。 えぇ、さっき事務所に戻ってきたんです。 屋上に居たんですって」

P「お、屋上ぉ!? くそぉ、めっちゃ近いじゃんか……。 盲点だった……」

小鳥「プロデューサーさん、探し回ってましたもんねぇ……。 それで、ついさっき帰っちゃいました」

P「そう、ですか……。 とにかく無事でよかった……」

小鳥「伊織ちゃんが、助けてくれたんですって」

P「………………え」


小鳥「美希ちゃんがですね、「でこちゃんがミキを元気付けてくれたの。 だから戻ってきちゃった」って」

P「………………そうですか」

小鳥「伊織ちゃん、変わってないみたいですね」

P「なるべく長生きして、向こうでもこき使われないようにしないと」

小鳥「うふふ、そうですね。 あっ、ドライヤーとお茶、持ってきますね」

P「あ、すいませんお願いします」


P「…………………………伊織ぃ」

P「お前には、助けられてばっかだな」

P「ありがとう」





おしまい

ここまで読んでくださって有難う御座いました。
美希お誕生日おめでとう!!! けど伊織ごめん!!!!!

書きたいって思ってしまったんや。

乙です

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