先輩「本を読む後輩と」 後輩「かもめの先輩」 (264)

このssには、女性同士の恋愛の表現が含まれます
あらかじめご了承ください

また、一部性的な内容があります
こちらも、あわせてご注意ください

何卒よろしくお願いします

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~放課後・校舎 廊下~


後輩「……」

後輩友「ちょっと後輩~!」タタッ

後輩「あ、友ちゃん」

友「へっへっへ、お姉ちゃん、ひとりでどこいくつもりだい?」

後輩「図書館だよー。あと、私より友ちゃんの方がお姉ちゃんだよ! 私、八月生まれだから」

友「……いや、うん。そうね。私が悪かった」

後輩「?」

友「私も行っていい?」

後輩「うん! 友ちゃん、何か読みたい本あったんだ?」

友「いや、ただついていくだけ」

後輩「何それぇー」

友「しかし、あんたも好きだねぇ。毎日通ってるじゃん、図書館」

後輩「毎日じゃないよぉ。一昨日は行ってないもん」

友「一昨日は日曜だ」

後輩「うん」

友「うんじゃない」

後輩「えへへ……」

友「そうだ、今日この後、ヒマ?」

後輩「私はこの後、部活行くよ」

友「えー。一緒に帰ろうよー」

後輩「んー……、でも、部活だし……」

友「どうせ、今日も誰もいないんでしょ、文芸部」

後輩「うん、多分……」

友「ひとり寂しく本読んで帰るだけなら、可愛い友ちゃんと一緒に帰って遊ぼうや、ねぇ?」

後輩「でも、部活はちゃんと出た方がいいと思うし……。それに、本読むの好きだから、私」

友「はぁ、真面目だねぇ……」

後輩「……あ!」

友「ん?」

後輩「と、友ちゃんは可愛いよ! そこは、うん、本当、そう思うっ」

友「あーもう! そこは拾わなくていいんだよぉー! 可愛いなぁーこのポンコツはぁー!」ワシャワシャ

後輩「わっ、ちょ……もう、私は可愛くないからぁ……」

友「ポンコツの方はちゃっかり聞こえない耳はこれかぁー? うりうりーっ」グイグイ

後輩「うわわ、やめてよぉ! ほら、もう図書館つい――……」


ドンッ


後輩「ひゃっ」ヨロッ

友「ぎにゃっ!?」

後輩「……あっ」

先輩「……」

後輩「あ、あの……、すみません、ぶつかっちゃっ――……」

先輩「……」

後輩「……え、えっと」

先輩「……入りたいんだけど」

後輩「え……」

先輩「邪魔」

後輩「あ……! ご、ごめんなさいっ」

先輩「……」プイ

後輩「……」

友「……」


ガラッ


パタン


後輩「……」

友「……」

後輩「……」

友「……うぁー、焦ったぁ……」

後輩「……もう、友ちゃん……」

友「あっはは、ごめんごめん! ……っていうか、今の……やっべぇ、先輩さんじゃん。こわ……」

後輩「知り合い?」

友「いや、違うけど……ほら、有名じゃん」

後輩「有名?」

友「……あぁ、あんたは知らなそうだね、そういうの」

後輩「何それぇ」

友「うわさとか、裏話とか、そういう話しないでしょ」

後輩「そんなこと――……あるけど。うわさの人なんだ」

友「影の有名人ってやつ。……ちょっと、言えないことしてるんですって」

後輩「ちょっと、言えないこと……、って?」

友「そりゃあ、ちょっと言えないッスよ」

後輩「本当に言えないことなら、そもそも、うわさにもならないと思う!」

友「あ、はい……、うん、そうッスね……」

後輩「……」ムフー

友「うぉぉ、その論破ぁ! みたいなドヤ顔やめて! 腹立つ!」

後輩「それで?」

友「いや、うん、うわさだけどさ……、ウリやってるんだって、学校で、あの人」

後輩「瓜」

友「ウリ! お金もらって、えっちなことすんの!」

後輩「えっえっえっ」

友「慌てすぎ」

後輩「お金で?」

友「うん」

後輩「えっ、えっちな?」

友「うん」

後輩「売春みたいなもんだよ、それ!?」

友「みたいな、じゃなくて、売春そのもの! 藤浪ばりの剛速球ど真ん中!」

後輩「え、いや……でも……」

友「何?」

後輩「犯罪じゃないかな?」

友「あー、もう! そうだよ! だから有名人なんだってば!」

後輩「あぁ、なるほど。……ん、でもでも、やっぱりおかしくない?」

友「何が」

後輩「うち、女子高だよ?」

友「だぁーかぁーらーぁ!」


ガラッ


先輩「……」

友「女相手に、金もらって体売ってるから、ヤバい人だっつってんの!」

後輩「あ……」

友「ぎゃっ……!」

先輩「……」ジロ

友「……!」

後輩「……!」

後輩(こっち見た!)

先輩「……」

後輩「……」ドキリ

後輩(……うわ、正面からまじまじ見ると……)

後輩(すごい、きれいな人……)

先輩「……」

後輩(まつ毛、長い……)

先輩「……」

後輩(目、おっきくて……なんか吸い込まれそうな――……)

先輩「おい」

後輩「……ハッ」

先輩「なに見てんだよ」

後輩(こ……怖っ!)

後輩(男口調……!?)

友「ちょ、ちょっとあんた! 何ガン飛ばしてんの!」

後輩「いいいいいえ! 私は別に、そんな……」

先輩「……」

後輩「あう……」

先輩「……」プイ

後輩「ぁ……」


スタスタ……


後輩「……行っちゃった」

友「うーぁー、もぉー、ビビッたぁー」

後輩「……」

後輩(……あれ)

友「ちょっと、こら、あんたのせいでぶん殴られるかと思ったじゃないの」ウリウリ

後輩「……」

後輩(そういえば、あの人……、さっき持ってた本……)

友「……おい、おーい? 聞いてますかー、人の話ー?」

後輩「……」

後輩(あの本……、あれって――……)

友「もしもーし? 後輩たん? あの……、無視やめて? ねぇ、ちょっと……」




こんな感じです
saga忘れてた…






~数日後・放課後、文芸部の部室~


後輩「……」

後輩「……」ペラ

後輩「……」

後輩「……」ペラリ

後輩「……」

後輩「……ふぅ」

後輩「……」チラッ

後輩(……もう、こんな時間)

後輩「……」パタン

後輩(今日はもう、帰ろうかな)

後輩「……」ガサゴソ

後輩「……?」

後輩「……あれ?」ガサガサ

後輩「携帯ない……」

後輩「……あ、あれ? あれあれっ?」ガサゴソ

後輩「……」

後輩(落ち着け、私……)

後輩(こんなときは、落ち着いて……目を閉じて)

後輩「……」

後輩(ゆっくり十秒、数えて――……)

後輩「……」

後輩(おもむろに目を開ける!)カッ

後輩「……」

後輩「……」

後輩「……やっぱりないよぉぉぉ」









トタタタ


後輩「……はぁ、私ってドジだな……」

後輩「絶対、机の中だよ、もう」

後輩「……ぁー、外もう真っ暗だし」

後輩「早く帰らないと――……あれ?」

後輩「……教室」

後輩「電気ついてる……」トタタッ


ガララッ


先輩「……」

後輩「……」

先輩「……ん」

後輩「へ?」

後輩(あれ!? 教室間違えた!?)

後輩「……」キョロキョロ

後輩(……一年B組)

後輩「……あってる」

先輩「……何してんの」

後輩「ひゃい!?」ビクッ

先輩「きなよ、こっち」チョイチョイ

後輩「は、はい……?」


トテトテ


後輩(……っていうか、そこ私の席……)

先輩「ふぅん……」スッ

後輩「……?」


ギュッ


後輩「!?」

後輩(あれ!? 教室間違えた!?)

後輩「……」キョロキョロ

後輩(……一年B組)

後輩「……あってる」

先輩「……何してんの」

後輩「ひゃい!?」ビクッ

先輩「きなよ、こっち」チョイチョイ

後輩「は、はい……?」トテトテ

後輩(……っていうか、そこ私の席……)

先輩「ふぅん……」スッ

後輩「……?」


ギュッ


後輩「!?」

>>22はなかったことにしてください…

後輩(いいいいきなり、抱きしめられた!?)

先輩「……ちっこくて、可愛いじゃん」

後輩「なっ、なななななな!?」


ギュウ


後輩「えっ、あっ、えぇ!?」

先輩「……もっと、リラックスしろよ」

後輩(無理ぃ!)

後輩(っていうか、この人、私より華奢なんだ……)

後輩(なのに、抱きしめられると、すごく……)

後輩(力強くて、包み込まれるような……)

後輩(アンバランスな、感覚……)

後輩「……ぁ」

後輩(でも、何だか……、ずっとこうしていたくなるような――……)

先輩「……あんた、すげー抱き心地いいんだね」モゾッ

後輩「あっ……! ど、どこ触って――……」

先輩「……っふふ」

後輩「や、ちょ……んんっ!」ビクッ

先輩「っていうか、次からは教室じゃねーところにしてくれよな」

後輩「え……」

先輩「誰か来たら、困るだろ?」

後輩「ひ……ぁ、ぁ、なんの……ことですかぁ……」

先輩「何って、このメモ……」ピラッ

後輩「メモ……?」

先輩「あんたが書いたんだろ、この教室で、って……」

後輩「……?」

先輩「……?」

後輩「私、あの、携帯……、教室に、忘れて……、取りにきて……」

先輩「え」

後輩「それ……だけ……デス、ハイ」

先輩「ぁー……」

後輩「……」

先輩「悪い」スッ

後輩「あ……」

後輩(離れちゃった……)

先輩「……」ガタッ

後輩(……じゃなくて! 何考えてんの、私!)

後輩「……」

先輩「……何だよ」

後輩「い、いえ、そこ……私の席、でしてぇ……」

先輩「……」ガタン

後輩「っ……」ビクッ

先輩「……」スタスタ

後輩「……」

先輩「……」ガタン

後輩「……」

後輩(……あ、そうだ、携帯)

後輩「……」ガサゴソ

先輩「……」

後輩「……あれ、あれぇぇ」ガサゴソ

先輩「……」

後輩「……うぅぅぅ」ガサゴソ

先輩「……はぁ」パサッ

後輩「……あ」

後輩(あの本……)

後輩(この前も、持ってた……)

先輩「……」

後輩「あ、あのぅ」

先輩「……ん?」

後輩「その本って……」

先輩「……本?」

後輩「あぁ、やっぱり! 『かもめのジョナサン』!」

先輩「……?」

後輩「この間も、借りてましたよね、図書館で! ひょっとして、お好きなんですか!?」

先輩「いや、えーっと」

後輩「私もすごい好きなんですこの本! もう、何回も読んでて、読むたびに感動しちゃって!」

先輩「あのさ……」

後輩「嬉しいです、私! 同じ本を好きな人に会えて、本当に!」ニコリ

先輩「……あの、おい……」

後輩「特に好きなシーンが、やっぱり三章のあの、フレッチャーが岩に……」

先輩「お、おい、おいって……」

後輩「はい?」

先輩「……あのさ、わりーんだけど、私、読んだことねーから、この本。興味もねぇし」

後輩「そんな……、もったいないですよぉ! ぜひ、ぜひ読んでみてください! 損はさせませんからぁ!」

先輩「セールスマンかよ」

後輩「……って、あれ? じゃ、じゃあ何でこの本持って――……」


ガラッ


女生徒「……」

後輩「……」

先輩「あ」

女生徒「……は?」

後輩「?」

女生徒「ねえ、ちょっと、何これ。ダブルブッキング?」

後輩「え?」

先輩「はぁ……」

女生徒「はぁ、マジで? 信じらんないんだけど……」

先輩「ちげーよ。こいつ、知らない子」

女生徒「うそ。教室の外まで、話し声してたんですけど」

今日はここまでです

先輩「違うったら」

女生徒「ちょっと、あんた!」

後輩「わ、私!?」

女生徒「どういうつもりよ! ルール違反でしょうが!」

後輩「うぅ……、な、何のことですかぁ……」

女生徒「はぁぁ? とぼけるつもり!?」キッ

後輩「ひぅっ」ビクッ

先輩「おい、ちょっと……」

女生徒「……何よ」

先輩「揉めんなよ、こんなとこでさぁ」

女生徒「だって――……」


ギュッ


女生徒「あっ……」

先輩「本当、知らないんだって……」モゾモゾ

後輩「!」カァァ

女生徒「あっ……ん」

先輩「な、分かってくれよ……」

女生徒「もう……、そんなこと言って……ぁんっ」

先輩「ん……」

女生徒「んっ、私……怒ってるんだからねぇ?」

先輩「悪かったって。今日は、サービスするからさぁ」モゾッ

女生徒「本当ぉ?」

先輩「マジマジ……、だから、さ……」チュッ

女生徒「もぉ、しょうがないなぁ」

後輩「……」

先輩「じゃ……場所変えてさ……」スタスタ

女生徒「ん……」スタスタ

後輩「……」

先輩「……」チラッ

後輩「……っ!」ビクッ


ガラッ

パタン


後輩「……」ドキドキ

後輩「……」

後輩「……ぁー」

後輩「……あ、そうだ……、携帯……」


ピロリロリロリン♪


後輩「!?」ビクッ

後輩「……って、あ……」

後輩「ポケット……」ピロリロリロリン♪

後輩「……」

後輩「……あった」

後輩「……」

後輩「……」ピッ


友『もっしもーし、後輩ー? 今何してるーん?』

後輩「……あー、うん」

友『?』

後輩「何してるんだろうね、私……」

友『え、何それ? 哲学?』









~夜・先輩宅~


先輩「……」

先輩「……」ドサッ

先輩「はぁ」

先輩「……」ボフッ

先輩「つーかれたーぁー」

先輩「……」

先輩「……あの一年」

先輩「……」

先輩(変なヤツだったなぁ)



後輩『私もすごい好きなんですこの本! もう、何回も読んでて、読むたびに感動しちゃって!』


後輩『嬉しいです、私! 同じ本を好きな人に会えて、本当に!』ニコリ



先輩「……」

先輩(そんなに面白いのか、この本……)

先輩「……」ペラッ

先輩「……」

先輩「……かもめって」

先輩(童話か?)




すべてのカモメにとって、重要なのは飛ぶことではなく、食べることだった。だが、この風変わりなカモメ、ジョナサン・リヴィングストンにとって重要なのは、食べることよりも飛ぶことそれ自体だったのだ。その他のどんなことよりも、彼は飛ぶことが好きだった。



先輩「……」

先輩「……ふぅん」ペラッ

先輩「……」

先輩「……」ペラッ



ジョナサンは、<朝食の集い>に集ったカモメの群れのまん中を、弾丸のようにまっすぐ突き抜けていったのだ。時速三百四十キロのスピードで、目を閉じ、風と羽毛のまきおこす怒号のような金属音につつまれて。


先輩「……」

先輩「……はっ?」

先輩「……時速340キロっ!?」

先輩「……」

先輩「……」ペラ



ジョナサンの両翼のところに現れたその二羽のカモメは、星の光のように滑らかで、夜空の高みに優しく心をなごませるような輝きをはなっていた。



先輩「……は」

先輩「はぁぁ……!?」



そして、ジョナサン・リヴィングストンは、星のように輝く二羽のカモメとともに高く昇ってゆき、やがて暗黒の空のかなたへと消えていった。



先輩「……」

先輩「……」ポカーン









~翌日・昼休み 図書館~


後輩「……あっ」


先輩「……」


後輩「……」トタタッ

先輩「……」

後輩「あの……」

先輩「……」

後輩「あのっ、先輩……?」

先輩「あぁ?」

後輩「……っ」ビクッ

先輩「あぁ、あんた……」

後輩「はい。あの……、き、昨日は……すみませんでした!」ペコリ

先輩「別に、謝られる筋合いねーけど」

後輩「でも……、なんだか、ご迷惑おかけしたみたいで……」

先輩「別に」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……あう」

先輩「……あのさ」

後輩「は、はい?」

先輩「読んだんだけど、これ。かもめのジョナサン」

後輩「本当ですか!? どうでした!? 感動でしたよねぇ!」

先輩「いや、全然」

後輩「うぇぇぇ!?」

先輩「……おかしいだろって。何でかもめが340キロで飛ぶんだよ」

後輩「ハヤブサも、それくらいで飛ぶらしいですよ」

先輩「かもめはハヤブサじゃねぇよ!」

後輩「それだけ頑張ったんですよね、ジョナサンは……!」ジィィン

先輩「努力で済ますな! ……あと、何だあの……いきなり、光り輝く二羽のかもめが……あの……、何だあれ!」

後輩「感動のシーンですよね……」

先輩「おっかしいだろ!」

後輩「えぇ!?」

先輩「展開ぶっとびすぎて、本間違えたかと思ったわ!」

後輩「えぇー……、でもでも、考えてみてくださいよ! ある日、きらきらーってした人が、先輩の前に現れて」

先輩「おう」

後輩「貴方を迎えに来ましたー、って言ったら、どう思います?」

先輩「……宇宙人? って思う」

後輩「……先輩……」

先輩「な、なんだよ……」

後輩「意外と、ロマンチストなんですね……」

先輩「なんっで、そうなるんだよっ!」

今日はここまでです

後輩「クスクス……」

先輩「何がおかしいんだ、この……」

後輩「すみません……、私、こうやって誰かと本の話したのって、はじめてで……」

先輩「……」

後輩「すごく、楽しくて」クスクス

先輩「……変なやつ」

後輩「あっ、そうだ!」

先輩「うん?」

後輩「部室、来ませんか? これから!」

先輩「部室?」

後輩「先輩なら、きっと気に入るんじゃないかなって本があって!」

先輩「いや、私は……」

後輩「ねっ」キラキラ

先輩「……ぁー」









~文芸部 部室~


後輩「ささ、どうぞどうぞ!」

先輩「お邪魔――……って」

後輩「ちょっと座っててくださいね! ……えーっと、確かこの辺に……」ガサゴソ

先輩「……」

後輩「……あれぇ?」ガサガサ

先輩「……なぁ」

後輩「こっちかな? んー……、あ、はい? 何ですか?」

先輩「部室って……、誰もいねーけど……」

後輩「幽霊部員ばっかりですからねー。……あ、こっちか」ガサゴソ

先輩「……いっつも、こんななの?」

後輩「まぁ、大抵は」ドサドサドサ

先輩「……」

後輩「ちゃんとやりたい人は、文学研究会の方に行っちゃうらしいですからね、ウチの学校、伝統的に」

先輩「……へぇ」

後輩「文芸部は、ほとんど活動してないですねぇー」ガサガサ

先輩「……お前は?」

後輩「後輩です!」

先輩「名前聞いたんじゃねーよ。……後輩は、文学研究会? にしなかったんだ?」

後輩「あはは、書くのは苦手なんで。読むのは好きなんですけどねぇ」

先輩「……」

後輩「あ、でも……私、部活好きですよ! 本読めるから」

先輩「読むって言ってもよ……、ひとりだろ?」

後輩「はい」

先輩「本読むだけ?」

後輩「はい」

先輩「……寂しいやつ」

後輩「寂しくないですよぉ。本読んでますもん」

先輩「意味わかんねー。それが寂しいって言ってんの」

後輩「あっ!」

先輩「ん?」

後輩「あったぁ……」

先輩「……何?」

後輩「この小説、ぜひ先輩に読んでもらいたくて!」

先輩「私に?」

後輩「はい!」

先輩「……ふぅん」ペラッ

後輩「最初は普通の恋愛小説なんですけどぉ、実はヒロインが宇宙人で――」

先輩「……」ポイッ

後輩「ああっ! 本を投げないでください!」

先輩「つまんなそう」

後輩「えぇー……」

先輩「……っていうか、お前すっごいサラッとネタバレする人なのな……」

後輩「あ、じゃあこっちはどうですか? 宇宙船の中に入って、色んな宇宙人と――」

先輩「……」ポイッ

後輩「ああっ!!」

先輩「いや、あのな、別にウチュージン大好き人間じゃないからな、私は」

後輩「……えっ」

先輩「えっ、じゃないんだよ、えっ、じゃあ」

後輩「うーん……、じゃあ、こっち? いやいや、こっちの方が読みやすいし……」ブツブツ

先輩「……」

後輩「……いや、ここは敢えてここ?」ブツブツ

先輩「……」

後輩「むぅ……」ブツブツ

先輩「……あのさ」

後輩「はい?」

先輩「お前さ、あんまり私に関わらない方がいいよ?」

後輩「……?」

先輩「うわさ、本当だから」

後輩「……」

先輩「昨日みたいなこと」

後輩「……」

先輩「しょっちゅうしてるから」

後輩「……」カァァ

先輩「お前まで」

後輩「……」

先輩「そーいう目で、見られるかもって……」

後輩「……先輩は」

先輩「……ん」

後輩「優しいんですね!」

先輩「……はぁ?」

後輩「はい、どうぞ」

先輩「お、おい……」

後輩「これ、私のオススメです。かもめのジョナサンの次くらいにおすすめ」

先輩「……」

後輩「あの、私、き……昨日みたいなのは……」

先輩「……」

後輩「あ、あんまり、よくないかも、って……思いますけど……」

先輩「……」

後輩「でも、えっと……、なんていうか……、うまくいえないんですけど……」

先輩「……」

後輩「先輩とは、もっとお話、してみたいなって……」

先輩「……」

後輩「……あの、うぅ……」

先輩「……はぁ」

後輩「す、すみません……」

先輩「変なやつ……」

後輩「うぅ……っ」

先輩「……これ」

後輩「あ……」

先輩「借りてく」

後輩「は、はい!」









~夜 先輩宅~


先輩「……」

先輩「……」



後輩『意外と、ロマンチストなんですね……』



先輩「……はぁ」

先輩(何なんだ、あいつ……)

先輩「……」

先輩「……ま、どうでもいいや」

先輩「『お客』でもない他人と」

先輩(今さら……)

先輩「……馴れ合ったところで……」

先輩「……」

先輩「……」



後輩『すみません……、私、こうやって誰かと本の話したのって、はじめてで……』

後輩『すごく、楽しくて』クスクス


後輩『……先輩は』

後輩『優しいんですね!』



先輩「……」

先輩「……」

先輩「……本」

先輩(……ま、適当に読んで)

先輩(んで、明日つき返して、それで……)

先輩「……」

先輩「……」ペラッ

先輩(……それで……)



後輩『先輩と、もっとお話、してみたいなって……』



先輩「……」ペラ

先輩「……」

先輩「……」ペラッ




今日はここまでです(二回目)






~三日後 放課後・文芸部 部室~


後輩「……」

後輩「……」ペラ

後輩「……」

後輩(先輩……)

後輩(やっぱり、来てくれない、かぁ……)

後輩「……」

後輩「……」ペラッ

後輩「……はぁ」


ガラッ


先輩「おっす」

後輩「……?」

先輩「……?」

後輩「……先輩っ!?」

先輩「反応にぶっ! カメか」

後輩「人間です!」

先輩「知ってる」

後輩「あ、あの……、今日は……」

先輩「……これ」

後輩「あ……」

先輩「読んだ」

後輩「……ど、どうでした?」

先輩「まぁ……、かもめのやつよりは、面白かったんじゃねーかな」

後輩「……!」パァァ

先輩「読書なんてさ、したことねーから、よく分かんねーけど……」

後輩「……! ……!」ガサガサガサッ

先輩「まぁ、暇つぶしには十分……って、後輩?」

後輩「せんぱぁい!」ドサドサッ

先輩「うぉっ」

後輩「こ、これ! これがその作家の代表作で! こっちがこれに影響を受けた日本の作家の! それでこれが――、これとこれと――」

先輩「はしゃぐな」ベシ

後輩「ぷひゃ」

先輩「……ぷっ」

後輩「ぶったぁ……」

先輩「あはは、ぷひゃ、ってなんだよ、ぷひゃ、って……」ケラケラ

後輩「……先輩」

先輩「くっく……、ん?」

後輩「笑った顔、初めて見ました……」

先輩「な、何だよ、見るなよ……」

後輩「え、何でですか」ジィーー

先輩「やめろったら」

後輩「いいじゃないですかぁ、見せてくださいよ。にこーって、ほら、にこーって。はい、1たす1はー?」

先輩「見せもんじゃねー!」

後輩「あ、じゃあ変顔しますね、私。絶対笑うやつ」

先輩「いいからそういうの!」

後輩「……」ムィィィーーン

先輩「ぶふっ」

後輩「わぁぁ……」

先輩「あっははは! み、見んなばか!」

後輩「……」ムィィーンン

先輩「あっはははは! あはははは!」ベシッベシッ

後輩「ぷひゃぁ」









後輩「……」


後輩(あれから……)

後輩(先輩は、よく部室に来てくれるようになって……)


ガラッ


先輩「おーっす」

後輩「いらっしゃーい」


後輩(先輩のこと、色々……知ることができて……)


後輩「どうでした、この間の?」

先輩「あー、私ダメ。挫折した」

後輩「えぇー、読みやすいと思ったのになぁ……」

先輩「暗いんだよ、話が」


後輩(悲劇よりも、明るい話が好きなこと……)


先輩「……ま、かもめのジョナサンよりは、マシかな」

後輩「……、先輩、ジョナサン駄目ですよねぇ……」

先輩「あれは駄目だ。ムカつくもん」

後輩「感動なのに……」


後輩(『かもめのジョナサン』は、好きじゃないこと……)


先輩「だいたい、他のかもめを見下してるんだよ、ジョナサンは」

後輩「そんなことないですよぉ」

先輩「自分が好きなことしてるからって、そうじゃない連中を、ばかにしてるんだ」

後輩「でも、『他人を愛することを学べ』って、サリヴァンから教わったから……」

先輩「それはチャン長老のセリフだ」

後輩「……」


後輩(……もしかしたら、本当はちょっと、好きなのかもしれないこと……)

後輩「……」

先輩「……」ペラッ

後輩「……」

先輩「……うぉ」

後輩「……」ビク

先輩「……」ペラッ

後輩「……」

先輩「……あぁ、やばいって」

後輩「……」


後輩(読みながら、独り言が出ちゃうこと……)


先輩「飲みもん買ってきたー」

後輩「……な、何です、それ?」

先輩「購買ちゃんソーダ、アボカドバター味」

後輩「……」

先輩「新発売!」

後輩「……底に何か、溜まってます」

先輩「アボカドだろ」


後輩(意外と、新しいもの好きなこと……)


先輩「じゃあ次いくぞー、……火星探査車」

後輩「火星たんしゃしゃ」

先輩「ブフッ……」

後輩「むぅ……、火星たんささ! 火星しゃんさしゃ! 火星ちゃん……」

先輩「あっはははは! 全滅! 全滅かよ!」

後輩「かしぇー……っ! うぅ……」

先輩「あはははは! あはははは!」バンバン


後輩(よく、笑うこと……)


先輩「……んー」ノビー

後輩「……あ、読み終わりました?」

先輩「おう」

後輩「その本、続きありますよ、後日談みたいなの」

先輩「あー……、読む」

後輩「あ、私の家だったかも……」

先輩「そっか、じゃあ明日に――……」


後輩(それから……)


ピリリリリ♪ ピリリリリ♪


ピリリリリ♪ ピリリリリ♪


後輩「……あ」

先輩「……」


後輩(携帯のアラームが鳴ったら……)


後輩「……」

先輩「……じゃ、今日はもう行くわ」

後輩「……はい」


後輩(誰かと……『約束』の、時間で……)

後輩(それから……)


ガラッ


先輩「じゃな」

後輩「……またです」


後輩(それからは……)

後輩(誰かと……)


バタン


後輩「……」




今日はここまでです






~数日後 教室~


後輩「……」

後輩「……」ボンヤリ


後輩(いけないことだとは、思うけど……)

後輩(先輩にとっては、きっと大事な……、必要なことなのかもしれない……)

後輩「……」

後輩「……」

後輩(ゾラの『ナナ』とか……いや、あれは悲劇だっけ? じゃあ『ファニー・ヒル』とか……)

後輩(吉行淳之介……は、読んだことないや)

後輩(色んな小説の、体を売る女性たち……)

後輩(特別な人たちじゃなくて……、私と同じように、考えたり、悩んだりする……)

後輩「……」

後輩「……なんて」

後輩「本で読んだだけなんだけどさ……」

後輩(読んだだけの――……)


先輩『……あんた、すげー抱き心地いいんだね』


後輩「……っ!」カァァァ

後輩(忘れろ! 忘れろ私……!)

後輩「……!」ワタワタ

友「後輩ぃー?」

後輩「ひぃう!」

友「なーにしてんの?」

後輩「べ、別に何も……」

友「……ふーん」

後輩「……」

友「……むぅ」ジィー

後輩「な、なに?」

友「後輩さぁ、最近ちょっと、雰囲気変わったよね……」

後輩「え、そう……かな……」

友「うん、なんか、明るくなった気がする」

後輩「自分では分かんないけど……」

友「と思ったら、さっきみたいにボンヤリしてることも増えたし」

後輩「そ、そんなことないよぉ!」

友「あと挙動不審」

後輩「挙動不審!?」

友「なーんか、ひとりでワタワタしてたりするしー?」

後輩「わ、ワタワタって何っ? 私、そ、そんなこと……」ワタワタ

友「それだよ、それそれ」

後輩「……あ、うぅ……」

友「後輩……、もしかして」

後輩「え」

友「……ははーん」

後輩「え、え……、何それ」

友「はぁっはっはぁーん!」ズムムム

後輩「いや、本当に何それ! 何そ……それ何! すごいよ友ちゃん!」

友「好きな人、できたんでしょ」

後輩「えぇっ……!」

友「図星っしょ」

後輩「えぇぇぇ!? 違う違う! わ、私は……!」

後輩(先輩のことは……)

後輩「そ、そういうのじゃなくて……!」

友「ふぅん?」

後輩「一緒にいると、楽しいとか……、その……そういうので……」

友「……」

後輩「だから……いや、でも、何考えてるのかとか、もっと知りたいなって思うけど……」

友「……」

後輩「で、でもでも、それは気になるといえば、気になるってだけで……、だから、好きっていうのとは……その……」ワタワタ

友「……ぁー、はいはい。甘酸っぱそうで何よりッスねーっ」カーッペッ

後輩「友ちゃん?」









~放課後・文芸部 部室~


後輩「んー……、じゃ、これなんてどうですか?」

先輩「ツルゲ……? 何人だよ」

後輩「ロシアの人です」

先輩「難しそ……」

後輩「大丈夫ですよ! 結構読みやすいですよ? 薄いし」

先輩「んー、じゃあ……読む」

後輩「どうぞどうぞ!」

先輩「さんきゅー」

後輩「……」

先輩「……」ペラッ

後輩「……」

後輩(たとえば、今……)

後輩(先輩が何考えてるのか、私には分からないけど……)

先輩「……」ペラッ

後輩「……」

後輩(でも、そもそも、そんなことを考えている、私自身のことが……)

後輩(自分でも、よく分かってなくて……)

先輩「……しかし」

後輩「……」ピクッ

先輩「本当に誰も来ねーんだな、ここ」

後輩「そ、そうですね! あ、でも……」

先輩「……ん?」

後輩「たまに、生徒会長来ますよ。ほんとたまにですけど……」

先輩「会長ぉ? 何でぇ?」

後輩「いえ、何でも、放課後は校舎の見回りしてるらしいですよ、自主的に」

先輩「何だそりゃ」

後輩「色んな部活の様子とか、残ってる生徒が何してるとか、チェックしてるらしいですよ」

先輩「はぁ……」

後輩「そうそう、結構前なんですけど――……」









後輩『さて、部活部活……あれ?』


チョットー

アハハハ


後輩『……あっ』ガラッ

幽霊部員1『……あ?』

後輩『あ、あの……! ここ、文芸部の部室で……、その……』

幽霊部員2『は? あんた何?』

幽霊部員3『っていうか、ウチらも文芸部だし!』

部員1『ねー』

後輩『でも……、本を……』

部員2『はぁ? だから何なの』

部員3『って言うかこいつ、1年じゃん。ウザッ』

部員1『邪魔なんですけどー。”部活”しないなら、帰ってくんない?』


キャハハハ


後輩『うぅ……』グスッ

会長『――ふむ、ならば君たちは、それが文芸部の正式な活動だと?』

後輩『……!』

部員1『げっ……』

部員2『会長……!?』

会長『私には、ただ部室を占拠して、無駄話をしているだけにしか、見えないのだがね』

部員3『は……はぁ? 勝手に決め付けないでよ』

部員1『そ、そうよ……!』

会長『しかし、あんまり目に余るようであれば、生徒会としても、黙っていられない。分かるかい?』

部員1『……』

部員2『……いこーよ』

部員3『チッ……』

後輩『……』ポカン

会長『……ふふっ、あっさり引き下がって……。生徒会程度、そんな権限があるわけないのにな』

後輩『あっ、あの、会長……』

会長『ん?』

後輩『ありがとうございましたっ!』ペコリ

会長『いやいや、気にすることはない。好きでやってることだからね。それに……』スッ

後輩『……』

会長『キミのような、真面目に部活に取り込む子の力になれて、私としても嬉しいよ』ナデナデ

後輩『あっ』カァァ

会長『ふふっ――……』ニッコリ









後輩「……って」

先輩「うっげ……」

後輩「うっげ、って……。先輩、会長さん苦手です?」

先輩「苦手ってか……、キザくせーし、何だかんだ偉そうだしよー」

後輩「えぇー、カッコいいじゃないですかぁ」

先輩「あと口調が変」

後輩「それは……先輩が言っちゃ駄目なんじゃ……」

会長「――おやおや」ガラッ

後輩「あっ、会長……!」

先輩「げっ……」

会長「うわさされるのは構わないが、陰口はご免こうむりたいね」

後輩「す、すみません……」

会長「いやいや、キミのことではないよ。私が言ってるのは……」チラッ

先輩「……はぁ」

会長「……部員でもないキミが、どうしてここにいるのかな? 先輩クン?」

先輩「ほっといてくださーい」

会長「いいや、放っておくわけにはいかないね。特にキミのような生徒は」

先輩「……」

会長「どういうつもりで、文芸部に近付いたかは知らないが……」

後輩「か、会長、違うんです! これは私が……」

会長「心配ないよ、後輩クン。すべて私に任せたまえ」ニッコリ

後輩「あう……」

先輩「ケッ」

会長「きなさい、先輩クン。キミとはじっくり、話し合う必要がありそうだ」

先輩「……へいへい」

後輩「先輩っ」

先輩「心配すんなって。お前は大人しくしてろ」

後輩「でも、うぅ……」

先輩「大丈夫」

後輩「……」

先輩「またな」

後輩「……」コクン









~廊下~


会長「……」スタスタ

先輩「……どこ行くんだよ」スタスタ

会長「ずいぶんと」

先輩「ん?」

会長「なつかれたんだな」

先輩「……変なやつだろ」

会長「キミが言うか」

先輩「ほっとけ」

会長「……意外だった」

先輩「ん?」

会長「先輩クンが、あんな風に、誰かと打ち解けているところを、見れるなんてな」クックッ

先輩「うるせ」

会長「他人なんて、どうでもいいってタイプだろキミは、ええ?」

先輩「どうでもいい他人は、どうでもいいんだよ。あんたとかな」

会長「すると、彼女はどうでもよくはないと」

先輩「……」

会長「……ふふっ」

先輩「ちげーからな」

会長「……まさか、本気になったわけじゃ、ないだろうね」

先輩「よせよ。ちげーって言ってるだろ」

会長「ふん?」

先輩「そんなんじゃねーから。ただ、暇だから寄り付いてるだけだ」

会長「そう……。まぁ、そうだろうねぇ、生来のクズだものなぁ、キミは」

先輩「うるせーよ」

会長「何かに興味を持ったり、本気になったり、そういうことがうまくやれない、がんばれない、そんなどうしようもない――……」

先輩「……なぁ」

会長「うん?」

先輩「説教なら、ちゃっちゃと済ませてくれねーかな。私この後、大事な『約束』が――……」

会長「心配ない」

先輩「あ?」

会長「今日の『お客』は、私だ」ニッコリ

先輩「……あー」

会長「ふふ……大事な『約束』か。嬉しいねぇ、そんなに気にかけてもらえて……」クックッ

先輩「……あのさ」

会長「何かな」

先輩「私も大概どうしようもねーけど、あんた本当にどうしようもねーな……」

会長「知ってるよ」




今日はここまでです






~日暮れ過ぎ~


先輩「……」トボトボ

先輩「……はぁ」


先輩(やっと解放してもらえた……)

先輩(あいつ……会長の相手は)

先輩(どうも、苦手なんだよな……)


先輩「……」

先輩「……ん?」チラッ

先輩(あそこ……部室? まだ電気ついて――……)

先輩「……」

先輩(あいつ……、まだいるのか? もしかして、何か……)

先輩「……」

先輩「……」タッ









~文芸部 部室~


ガラッ


先輩「……」

後輩「……」スピー

先輩「……」

後輩「……」プフー

先輩「……」

後輩「……ムニャ」

先輩「……うーん」

後輩「……」zzz

先輩「腹立つくらい安らかな寝顔だなぁ……」

後輩「……ンヘヘ」ゴロン

先輩「寝相わりー……」

後輩「……」zzz

先輩「……」

先輩(こいつ……)

先輩(意外と、あるんだよなぁ……)

後輩「……んっ」

先輩「……」

後輩「……」スピー

先輩「……」ムラ

先輩(やばい……)

先輩「……」

先輩(まだ、さっきの熱が……)

先輩(引いてないのかも……)

先輩「……」ナデ

後輩「……」zzz

先輩「……」ムニュ

後輩「……ふ、ぅ」

先輩(体温高い……、柔らかい……)

先輩「……」モミ

後輩「ん……」

先輩「って、いやいやいや!」

先輩(何してんだ私!)

先輩(……落ち着け、落ち着け)

先輩「……おい、起きろ、こら」ユサユサ

後輩「……」グゥ

先輩「起きろってーの」グニー

後輩「むにゃ……、ふぁい……?」

先輩「ふぁい、じゃないんだよ」

後輩「……? ……!? ……先ぱっ……!」ガバッ

先輩「なーに寝てんだ、ばか」

後輩「だっ、だだだ大丈夫だったんですか!?」

先輩「当たり前だろ」

後輩「でも、でもでも……!」

先輩「……、……部員、なったから、私。文芸部」

後輩「え……」

先輩「部員なら、部活に出ても問題ないって、あいつも……」

後輩「うわぁ……!」ガシッ

先輩「お、おい」

後輩「良かったですねぇ!」ギュッ

先輩「……」

後輩「嬉しいです、私!」

先輩「……」

後輩「また一緒にいれますね、先輩!」

先輩「……」



会長『……まさか、本気になったわけじゃ、ないだろうね』



先輩「……」

後輩「……先輩?」

先輩「ま、飽きるまではな」

後輩「えぇー、そんなぁ……」

先輩「ほら、帰るぞ。正面玄関、もう閉まってるから、裏口行くぜー」

後輩「え? うそ、もうこんな時間!? えっ、なんで!? 病気!?」

先輩「ばーか」









~夜・帰り道~


先輩「――だから、心配ないって言ったろー」

後輩「無理ですって、本当に心配したんですからぁ」

先輩「嘘つけ、ぐっすり寝てたくせに」

後輩「ぐっすりではないです! 眠り浅かったです! 半端に寝たから、今も若干ダルさが……」

先輩「知らねーよ……」

後輩「もう……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……はぁ」

先輩「……」

後輩「……寒い」

先輩「……なぁ」

後輩「はい?」

先輩「ウチくる?」

後輩「え?」

先輩「……いや、もう割と遅いし……」

後輩「んー」

先輩「寒いし」

後輩「ん、でも大丈夫ですよぉ、まだバス、ありますし」

先輩「そっか」

後輩「はい! ……あ、私バス停、こっちなんで」

先輩「おー、そんじゃな」

後輩「はい! また明日ぁ!」

先輩「気が向いたらな」

後輩「もう、またそんなこと言ってぇ!」

先輩「はいはい」ヒラヒラ

後輩「おやすみなさーい」ヒラヒラ


タタッ…


先輩「……」

先輩「……」

先輩「……はぁぁ」

先輩(なーんで、誘っちゃったんだろうなぁ、私……)

先輩「……しかも、断られるし」

先輩「……」

先輩「……」

先輩(本気なわけじゃない……)

先輩(ただ、何か……)


後輩『また一緒にいれますね、先輩!』


先輩(あいつ……)

先輩(どう思ってるんだろうな、私のこと……)









タッタッタッ


後輩「~♪」タッタッ

後輩「……」タッ…

後輩「……」

後輩(さっきのって……)


先輩『ウチくる?』


後輩「……」ピタリ

後輩(私、もしかして……)

後輩(誘われてた……!?)

後輩「いや、いやいやいや!」

後輩「……」カァァァ

後輩(そ、そんな変な意味のわけないじゃん!)

後輩(そう、あの先輩だもん! あんなの、あいさつ程度の……)

後輩「……」

後輩(そう……)

後輩「……」

後輩(あいさつみたいに……、誰にでも……)

後輩「……」

後輩(先輩……)

後輩(どう思ってるのかな、私のこと……)









~翌日 休み時間・1年教室~


ブー ブー


後輩「あ、メール……」カチッ

後輩「……」


『今日部活行かないよー(乂'ω')』


後輩「えぇー……。『来て下さいよ』っと……」カチカチ


ブー ブー


『アレなんだよ』


後輩「あー……」カチカチ


『お大事に』


『うん (o´・_・`o)ノシ』


後輩「……」

後輩(……っていうか、顔文字可愛いんだけど)

後輩(まぁ、どうせ色んな人に使ってるんだろうけど――って)

後輩「……」

後輩(……私、何考えて……)

後輩「……」

後輩(昨日から、私……変だ……)

今日はここまでです
ちなみにEカップです

友「後はーい!」

後輩「友ちゃん?」ビクッ

友「見て見てー! さっきの授業中、がんばって似顔絵描いたんだー!」

後輩「……誰?」

友「阪神の上本」

後輩「ごめん、分かんない」

友「えぇー、似てると思うんだけど……。あ、そうそう、後輩、今日一緒に帰らない?」

後輩「友ちゃん、部活は……」

友「サボる!」

後輩「はぁ……」

友「いいじゃん、たまにはさぁ! 息抜きだよ息抜き、後輩も部活休んで――……」

後輩「……うん、いいよ」

友「そう言わないでぇ、今日くらい――って、えぇ!?」

後輩「一緒に帰ろっか。部活休んで」

友「……」

後輩「……友ちゃん?」

友「……後輩」

後輩「うん」

友「の、ニセモノ!?」

後輩「ち、違うよぉ!」

友「本物の後輩が、部活サボるはずがないっ」

後輩「本物だってばぁ」

友「どうかな……、本物の後輩なら、ものすごい変顔ができるはずだ!」

後輩「……」ムィィーーンン

友「あはははははっ! あっははははっ!」バンバン









~放課後・市街 書店~


先輩「……」

先輩(うーん……)

先輩(部活行かない日も、本屋寄ってるとか……)

先輩(なんか、感化されてるな、私……)

先輩「……」ウロウロ

先輩「……ん?」

先輩「これ……」


『かもめのジョナサン 完全版』


先輩「完全版……」

先輩(ジョナサンのくせに生意気な……)

先輩「……」

先輩(あいつは……)

先輩(喜びそうだな……)






後輩『えっ、これって……! すごい! 幻の第四章を収録!?』

先輩『これ、やるよ』

後輩『ええぇっ!? 本当にっ? いいんですか先輩!?』

先輩『おう』

後輩『ありがとうございますぅ!』パァァ

先輩『いいってことよー』







先輩「……」

先輩「……よし」

先輩「……」ヒョイ

先輩「……あ」

先輩(でも……)

先輩「でも……、後輩……」







後輩『でも……、先輩……』

先輩『うん?』

後輩『この本を買ったお金って……』

先輩『……』

後輩『誰から、もらったお金なんですか?』

先輩『……』

後輩『何をして、稼いだお金なんですか……?』

先輩『……』

後輩『……そんなお金で、プレゼントされても……私』

先輩『……』

後輩『困ります……』







先輩「……」

先輩「……」

先輩「……」ハッ

先輩「……いやいや」

先輩(あいつはそんなこと言わねーだろ)

先輩(言わねー、けど……)

先輩「……」

先輩「……うぅーん」モンモン









友「――っていうかさぁ」

後輩「うん?」

友「なーんで本読む部活サボって、本屋に来ちゃうかなー!」

後輩「えへへ、まあまあ」

友「まったくぅー」

後輩「あとでゲームセンターにも付き合うから、ねっ」

友「約束だよぉー」

後輩「……」

友「……後輩?」

後輩「あっ、うん。そうだね、約束……――あれ」

友「……どしたの?」

後輩(あそこにいるのって……)

友「どしたー? うんこかー?」

後輩「……友ちゃん、ちょっと待っててね!」ダッ

友「あっ、ちょっとぉ!」









先輩「……」

先輩(やっぱり……やめておこう……)

先輩「……はぁ」

後輩「せーんぱい?」

先輩「うひゃあぁ!?」ビクーッ

後輩「あはは、びっくりしました?」

先輩「後輩!? おま……、何でここに……」

後輩「偶然ですよぉ。たまたま寄ったら、先輩見かけたから……」

先輩「……部活は」

後輩「えへへ、サボっちゃいました」

先輩「お前なぁ……」

後輩「それより、これ!」

先輩「あっ……」

後輩「完全版ですよね! 私も買って読みましたけど、もぉ……すっごいよかったですよ!」

先輩「……ぁー」

後輩「四章で、もうすっごい泣いちゃって、一週間くらい引きずっちゃってー!」

先輩「……」

先輩(そ、そっか……)

先輩(そうだよな……、冷静に考えれば)

先輩(こいつが、買ってないわけないよな……)

先輩「はは……」

後輩「でも先輩、どうしてこの本を? かもめのジョナサン嫌いだって、言ってたのに……」

先輩「あー、いや……、それは……だな……」

後輩「あっ、ははーん……、分かりましたよ!」

先輩「……っ」ドキッ

後輩「ふふ……、先輩もようやく、ジョナサンの面白さに気付いてくれたんですねぇー!」ニッコリ

先輩「……はぁ?」

後輩「そうですそうなんです! 何回、何十回と読んで、初めて分かる”味”っていうんですか!? そういう、”深み”が! ”コク”が!?」

先輩「ちげーし! そんなんじゃねーから! っていうかコクって何だ!」

今日はここまでです

後輩「もう、素直じゃないんですからぁ……、……あれ、確かここに……」ガサゴソ

先輩「ちげーって言ってんだろー」

後輩「あった……! はい、先輩!」ズイッ

先輩「うぉ……」


『かもめのジョナサン 完全版』


先輩「……」

後輩「んふふ、言ってもらえれば、すぐ……本当にもう、その場ですぐお貸しできたんですからぁー」

先輩「常に持ち歩いてんのかよ、お前は」

友「ちょっと、後輩ー!?」

後輩「あ、友ちゃん!」

先輩「……」

友「うにゃ……っ!?」ビクン

後輩「じゃ、先輩! 私行きますんで」

先輩「いや、お前、これ……」

後輩「しばらく借りてていいですよー! 私まだあと四冊持ってるんでー!」

先輩「何でだよ! 怖ぇよ!」

後輩「また明日ーっ」ヒラヒラ

先輩「……」

先輩「……」

先輩「……何やってんだ、私は……」









後輩「~♪」

友「ねえ、後輩? さっきのって……」

後輩「ん?」

友「先輩さん、でしょ? あの、『うわさ』の……」

後輩「あ、うん……まぁ……」

友「何であんたと先輩さんが?」

後輩「ま、まあ、色々あって……」

友「……まさか、あんた……」

後輩「えっ、何?」

ポワワーン


後輩『先輩……私、教えてほしいんです、物語やおとぎ話だけじゃ、分からないこと……』

先輩『ふふっ、やれやれ……困った子猫ちゃんだ……』

後輩『ああっ、しぇんぱぁい……』

先輩『大人の階段のぼる……、キミはまだシンデレラさ……』


ポワワワワーン



友「幸せはだれかがきっとぉぉーんっ↑」クネクネ

後輩「ちちち違うもん! あと先輩は子猫ちゃんとか言わないっ」

友「違うのぉー?」

後輩「違うったら! 先輩は、文芸部に入ってくれて……」

友「それで?」

後輩「それで部室で、よく話すようになっただけ!」

友「……それだけ?」

後輩(それだけ……)

後輩「それだけだよ!」

後輩(たったそれだけ、なんだ……)

友「でも、あの先輩でしょ? やばい人じゃ……」

後輩「そ、そんなことないよ。口は悪いけど、気のいい人だよ」

友「ふぅーん……」

後輩「あ、でもすぐぶつかも。チョップとか。あのチョップ、意外と痛くてさ……」

友「……後輩」

後輩「ん?」

友「そんないい顔で、笑うんだねぇ、あんたは……」

後輩「な、何それ友ちゃん」

友「私ゃ心配だよ、あんたのこと……」

後輩「もう、大丈夫だって。本当に優しい人で――」

友「そうだとしてもさー」

後輩「……」

友「あんたや私とは、違いすぎるでしょ」

後輩「……」

友「このままだとあんた、きっと痛い目に会うから……」

後輩「あはは、やだな友ちゃん、どうして私が痛い目なんて――……」

友「だって」

後輩「え?」

友「好きなんでしょ、あんた。あの先輩さんのこと」









~翌日・文芸部 部室~


先輩「……」ペラ

後輩「……」

先輩「……おぉ」

後輩「……」

先輩「……ふーん……」ペラ

後輩(まずい……)

後輩(私、めちゃくちゃ意識しちゃってる……)

後輩(友ちゃんめ……)

先輩「……」

後輩「……」チラ

先輩「……」ペラッ

後輩(でも、そっか……)

後輩(先輩が来てくれて、嬉しいとか……)

後輩(先輩といると、落ち着くとか……)

後輩(この気持ちは……)

後輩「……」ジッ

先輩「……」ペラッ

後輩(そうなんだ……)

後輩(きっと、最初から私は――……)

後輩「……」

先輩「……ん?」

後輩「……」ボケー

先輩「……何見てんだよ」

後輩「ひゃい!? あ、わっ、べ、別ににゃにもっ!?」

先輩「あっはは、なーんだにゃにもって」

後輩「うぅ……」

先輩「顔の筋肉がねーから、噛むんだよ。ひょーじょーきん」ズイッ

後輩「な……っ」

先輩「ほーら、やーわらけーの」ムニムニ

後輩「あっ、あっ……」カァァァ

先輩「あっはは、何赤くなっ……」

後輩「……」カァ

先輩「……」

後輩「……」モジモジ

先輩「……ぁー」

後輩「……」

先輩「……わり」

後輩「……いえ」

先輩「……」ペラッ

後輩「……」

先輩(な、何だよ……あの表情……)

先輩(あんな顔、されたら……)

先輩「……」チラッ

後輩「……っ!」ハッ

先輩(目が合った……!)

後輩(目が合った……!)

先輩「……」プイ

後輩「……」ドキドキ

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……し、しかし、あれだなー!」

後輩「は、はいっ!?」

先輩「か、完全版って言っても、大して変わらねーもんだなぁ!」

後輩「あ、え……、ああ! 読んだんですか!?」

先輩「途中で投げた」

後輩「えぇー、せっかく貸したのにぃ」

先輩「だって駄目だ、あのかもめ。40年経っても何の成長もねぇ」

後輩「そんな無茶言わないでくださいよ!」

先輩「だってよ――……」


ピリリリリ♪ ピリリリリ♪


後輩「……っ!」

先輩「……」

ピリリリリ♪ ピリリリリ♪


ピッ


後輩「……」

先輩「……ぁー」

後輩「……」

先輩「……じゃ」

後輩「……」

先輩「……行くわ」

後輩「……」ズキリ

先輩「またなー」

後輩「……」キュッ

先輩「……後輩? 離して――」

後輩「……あの」

先輩「……」

後輩「今日だけは、もうちょっと……一緒に……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……お前」

後輩「……」スッ

先輩「あ」

後輩「……な、なんちゃってぇー……」

先輩「……」

後輩「あはは……」

先輩「……はぁ」

後輩「……」

先輩「ばーか」

後輩「……すみません……」

先輩「……じゃ」

後輩「はい……」

先輩「……」


ガララ

パタン


後輩「……」

後輩「……」

後輩「……」









~廊下~


先輩「……」

先輩「……」タッ

先輩「……」タッタッタッ

先輩「……っ!」ダッ


先輩(やばいやばいやばい……!)


先輩「はっ、はっ……!」ダッダッ

先輩(その気に……)

先輩(その気になるな私……っ!)


先輩「はぁ……はぁ……っ!」タッ


先輩(駄目だ……)

先輩(もう限界だ……)

先輩(これ以上踏み込んだら、あいつは……)

先輩(私も……っ!)









~夕暮れ過ぎ・三階空き教室~


会長「恋はまことに影法師」

先輩「……」

会長「こちらが逃げれば追ってくる、こちらが追えば、逃げていく……」

先輩「……いや、何言ってんだ」

会長「シェイクスピアさ。読んでないかい、文芸部?」

先輩「……あのさ、親切で言うけど、あんたマジでやめた方がいいって、そういうの。将来絶対後悔するから。マジで」

会長「ふふ、放っておいてくれたまえ」

先輩「いやいや」

会長「いいんだよ。意外とモテるんだ、このキャラ」

先輩「……あー、そうですか」

今日はここまでです

会長「それにしても……、ふふふ、どうしたのかな? 髪が乱れている」ナデ

先輩「別に」

会長「まるで走ってきたみたい……、いや、逃げてきたみたいじゃないか」クックッ

先輩「……」

会長「んふふ、そんな顔をするなよ」スッ

先輩「……もう、おしゃべりはいいだろ」

会長「まぁ、焦りなさんな。ところで……、ちょっときてごらん」

先輩「……」

会長「この空き教室からは、向かいの西棟の様子が、よく見える」

先輩「……」

会長「ほら、あそこの……、2階のところだ」

先輩「……ぁ」

会長「キミたちの部室だ」

先輩「……」

先輩(窓際に……、後輩の姿が見える……)

先輩(あいつ、まだ本読んでるし……)

先輩「……」

先輩(私がいないと、ずっとああしてるのか……)

先輩(ひとりで……)

先輩「……っていうか」

会長「うん?」

先輩「あんた、まさか見てたのか、ここから! 今日も……!」

会長「はは、いやいや、まさか」

先輩「おい、こら……」

会長「本当だって。出歯亀の趣味はないさ」

先輩「……ちっ」

先輩(後輩……)

先輩「……」

会長「……ふふ」ギュッ

先輩「……! おい……、ちょっ……やめっ」

会長「何故?」

先輩「なぜって……」

会長「ふふふ、あの子がこちらを向いたら、見られてしまうかもねぇ……」プチ プチ

先輩「ふざけっ――あ……っ」

会長「……」モゾッ

先輩「っ……、や、うぅ……っ!」

会長「――いいじゃないか、見てもらえば」

先輩「やめ……あっ、い……いい加減……あぁっ、んっ!」

会長「キミのその表情も、この薄い胸も」キュゥ

先輩「やだっ……、ばかっ、やめろぉ……」ピクン

会長「キミの本当の姿も――」

先輩「あぁぁっ!」ビクッ

会長「どうしたんだ? いつもより敏感じゃないか……」

先輩「やだ、やだぁっ! 分かったから、もぉ……う、んぅぅっ!」

会長「見られるかもしれないのに、興奮しているんだろう」クチュッ

先輩「やめてっ、ねえ、お願……やっ、あぁっ!」

会長「――……」クニュ

先輩「あっ、あ、あぁっ! うぁぁっ!」ガクガクッ

会長「……これが、本当のキミだろ? このあばずれめ」

先輩「っくぅ、いや……もう、やなの……っ、っあぁ!」

会長「周りのみんなのように、誰かと上手くやれない……、普通にできない……」

先輩「んっ、んんっ!」フルフル

会長「まともにやろうとしたことも、あったんだろう? 何度も。……駄目だったんだろう」

先輩「あぁっ、そこ、もう……っ」

会長「ばかで、間抜けで……、こういう風にしか、他人と接点を持てない、頭のおかしい女の子だ、キミは」

先輩「あぁっ、あっ、っ……! くぅぅぅっ!」ビクッビクッ

会長「……あの子は、いい子だな」

先輩「はぁ……はぁ……」

会長「キミみたいな人間には、もったいない」

先輩「……」

会長「そうは思わないかい?」

先輩「……」

会長「……指が汚れてしまったな」

先輩「……」

会長「舐めてくれよ」

先輩「……、……」チュ

会長「そうだ、それでいい……」

先輩「……っふ……ん」

会長「それでいいんだよ、先輩クン」









~数日後 放課後・文芸部 部室~


後輩「……」

後輩「……」ペラッ

後輩「……」

後輩(あの日から)

後輩(先輩は部室に来なくなって……)

後輩「……」

後輩「……」ペラッ

後輩(以前と、同じ)

後輩(独りぼっちの、静かな時間……)

後輩「……」

後輩(いなくなって、心から思い知った)

後輩(どれだけ大切に思っていたか……)

後輩(先輩との、時間を)

後輩「……うぅ」

後輩(私が、壊したんだ……)

後輩「……」

後輩(どうして、あんなことを、してしまったんだろう……)

後輩(どうして、我慢できなかったんだろう……)

後輩(どうして……、我慢できないんだろう)

後輩(この気持ちを、どうして……)

後輩「……」

後輩「……先輩」



先輩『……寂しいやつ』

後輩『寂しくないですよぉ。本読んでますもん』



後輩「先輩……」

後輩(私は……)

後輩(寂しいです……)



後輩「……」



友「さぁぁみ゛しい子はい゛ね゛ぇぇぇがぁぁぁ!!」ガラララバターン!!

後輩「!」ビクーン

友「電撃部活見学だーっ! 後輩ー! おーっす!!」

後輩「……なんだ、友ちゃんか」

友「何だとは何よぉ」

後輩「別に……」

友「むぅぅ」

今日はここまでです

後輩「……」

友「……はぁ」

後輩「……」

友「……あんた、まだ引きずってるの」

後輩「……」

友「もう、忘れちゃいなよ……」

後輩「……無理だよ」

友「……」

後輩「忘れるなんて」

友「……」

後輩「……」

友「……まったく」

後輩「……」

友「……私さ、後輩のこと、好きだよ。大事な友達だと思ってる」

後輩「……」

友「だから、これは、本当は教えたくなかった。けど……」

後輩「友ちゃん?」

友「後輩……、よく聞いてね?」

後輩「……」









友「……」

後輩「……」

友「……」

後輩「……友ちゃん」

友「……」

後輩「……ありがとう」

友「はぁ……、あーあ……」









~さらに一ヵ月後 放課後・三階空き教室~


先輩「……」

先輩「……」ペラッ

先輩(文芸部に行かなくなってから、ずいぶん経った)

先輩(……要は、前と同じに戻っただけ)

先輩(後輩と出会う前の……)

先輩(なんの抵抗もなく、そんな毎日に戻っていて……)

先輩(……やっぱり、どうしようもないやつだ、私は)

先輩(でも……)

先輩「……」

先輩「……」チラリ

先輩(空き教室から見える、部室)

先輩(後輩の姿は……ない)

先輩「はぁ……」

先輩(いつからだったか)

先輩(後輩は、文芸部に顔を出さなくなっていて……)

先輩「……」

先輩「あのばか……」ボソッ

先輩(……構うな)

先輩(これでよかったんだ)

先輩(これで……)

先輩「……」スッ


ガララ

パタン









~図書館~


先輩「……」

先輩(この学校の図書館には……)

先輩(なぜか、『かもめのジョナサン』が二冊、置いてあって――……)

先輩「……」スッ

先輩「……」

先輩(そのうちの一冊は、辞書のコーナーに、ひっそりと置かれていて……)

先輩(その、100ページ目――……)

先輩「……」ペラッ




『ぼくなんかにかまうなんて、時間の無駄ですよ、ジョナサン! ぼくは駄目なやつなんだ! どうしようもない間抜けなんだ! 何度やったって、どうせものになりゃしませんよ!』



先輩「……」

先輩(そのページに、メモが挟められている――……)

先輩「……」


『12/13 十九時 東棟三F 空き教室 5』


先輩「……」

先輩「五千かぁー……」

先輩(日時と、場所と……、金額を示す、符丁)

先輩「……ま、いっか」

先輩「……」

先輩「……今日じゃん」

先輩(いつ、誰が作ったのかも、分からないルール)

先輩(『約束』のためのルール……)

先輩「……」

司書「……」チラ

先輩「……これ、お願いします」

司書「ここに、名前書いてね」

先輩「……」

司書「どうも」

先輩「……」

先輩「……行くか」









~空き教室~


先輩「……」

先輩(あいつの大好きな、この本は)

先輩(私にとっては、ただの目印で……)

先輩「……」

先輩(私は、結局……、勝手にやってるつもりで……)

先輩(誰かのルールに、乗っかっているだけで……)

先輩(中途半端な私には、お似合いだけどさ)

先輩「……はは」


ガラッ


先輩「……っと、いらっしゃ――……」

後輩「……」

先輩「……ぁー」

後輩「……」

先輩「教室、間違ってるぞ」

後輩「……先輩」

先輩「……ま、間違ってるってば……」

後輩「……五万円、あります」スッ

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……おま」

後輩「あ、あれっ? 足りませんか!? だったらまだ――……、あれ……あった! まだありますから!」

先輩「いや……、いや、お前な……」

後輩「先輩、だから、先輩……!」グイッ

先輩「……っ」

後輩「して、ください……」ギュ

先輩「……冗談やめろよ」

後輩「冗談じゃないもん……」

先輩「怒るぞ」

後輩「『お客』に?」

先輩「っ!」

後輩「……友達が、教えてくれたんです。やり方」

先輩「……」

後輩「……『お客』だったら、して……くれるんですよね、先輩は……」ギュウ

先輩「……あっ」

後輩「だから……」

先輩「……っ、……だめ」グイッ

後輩「どうして……!」

先輩「……ばか」

後輩「……」

今日はここまでです
いつも読んでくださる方、ありがとうございます
コメントくださる方、とても嬉しいです
書き溜めがここに来て尽きました(報告)

後輩「……」

先輩「お前は……、違うだろ……」

後輩「……」

先輩「私みたいな駄目なやつとは、違うじゃん……!」

後輩「先輩……」

先輩「だから、やめろよ、こんな……」

後輩「……」ヌギヌギ

先輩「って、聞け! 脱ぐな!」

後輩「先輩は駄目じゃないです!」

先輩「……」

後輩「……っていうか、駄目でもいいんです!」

先輩「どっちだよ……」

後輩「私にとっては、先輩と一緒に入れないことの方が、ずっと、ずっと駄目なんです!」

先輩「お前は、こんな馬鹿なこと、していいやつじゃないだろ!」

後輩「私はこんなやつなんです!」ズイッ

先輩「ま、待て……」

後輩「先輩のせいで、馬鹿になっちゃったんですからぁー!」ガシィィ

先輩「ひっつくなぁー!」グイッ

後輩「せんぱぁぁぁいぃぃ!」ギュゥゥゥ

先輩「はーなーせぇぇぇー! 脱がすなぁぁぁ!」グイグイ

後輩「やーぁー……」


ガララッ


生徒1「そしたらさー、あいつ、西岡は外側走ってたとか言い出してぇー」

生徒2「うそー! それってありえな――……」


先輩「あ」

後輩「あ」ギュゥゥゥ


生徒1「……」

生徒2「……」

先輩「……」

後輩「……」

生徒1「……」

生徒2「……」


カラカラ


パタン


先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……先輩」

先輩「……」

後輩「……部室、行きますか?」

先輩「ぁー……」









~部室~


先輩「……部室も久しぶりだな……」

後輩「本当ですよぉー……」シャッ

先輩「カーテン閉めんな!」

後輩「……」プチ プチ

先輩「脱ーぐーなー!」

後輩「先輩……」

先輩「い、いいから! いったん座れ! 落ち着け、な!」

後輩「どうして、してくれないんですかぁ……」

先輩「だから、それは……」

後輩「先輩は、私のこと……、嫌い……?」

先輩「ちが……っ!」

後輩「……」

先輩「……ちげーよ」

後輩「先ぱ……」

先輩「私だって、お前のこと……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……うん」

後輩「言ってよぉぉ!」

先輩「あーもう、うるせーうるせー!」

後輩「うん、ってなんですか、うんって!」

先輩「どうせ! どうせ好きだって言っても!」

後輩「……」

先輩「うまくいかないんだ! お前だって、きっと私に、愛想つかして……!」

後輩「どうして、そう思うんですか」

先輩「……だってさ、私、ダメだし……」

後輩「さっきも聞きました」

先輩「性格悪いし……」

後輩「私は好きですよ」

先輩「お前と本の趣味、合わないし」

後輩「その方が、面白いじゃないですか」

先輩「……性欲強いし」

後輩「うっ……、そ、それは、がんばります……」

先輩「お前の……」

後輩「……」

先輩「知らない誰かと……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……もし、それが」

先輩「……」

後輩「先輩にとって、大切なことなら……」

先輩「……」

後輩「私、構いません」ニコリ

先輩「お前……」

後輩「『お客』でも、構いませんから……」

先輩「……」

後輩「それで、先輩と一緒に入れるなら――……」

先輩「……ていっ」ベシッ

後輩「あうっ」

先輩「……本当、お前は……。見てて心配になってくるわ」

後輩「ぶったぁ……」

先輩「そのうち、悪いヤツに騙されて、のこのこついて行きそうな……」

後輩「……今まさに、そんな感じですけどね」

先輩「……」ベシッ

後輩「うっ! じょ、冗談です、冗談」

先輩「……後輩」

後輩「お、怒らないでくださいよぉ」

先輩「本当に……」

後輩「……」

先輩「いいの?」

後輩「……」

先輩「私で」

後輩「先輩がいいんです」

先輩「……」

後輩「大丈夫ですよ、先輩」

先輩「……」

後輩「きっと、大丈夫です、私たち」

先輩「後輩……」

後輩「はい……」

先輩「ありがとう」

後輩「……」

先輩「好きだよ、私も。大好き」








~帰り道~


先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……寒くなったな」

後輩「……ですね」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……そういやさ」

後輩「はい?」

先輩「お前、あんな金、どうしたの」

後輩「バイトしました! 一ヶ月、ずっと!」ムフー

先輩「……あー、それで部室に……」

後輩「何です?」

先輩「い、いや、別に別に。で、何のバイト?」

後輩「清掃業」

先輩「せーいそうぎょおぉー?」

後輩「な、何ですか何ですか!」

先輩「お前……、華の女子高生が、アルバイトしますー、って言って、便所掃除するかぁー?」

後輩「便所掃除って言わないでくださいよ!」

先輩「便所掃除だろ」

後輩「便所掃除ですけど……」

先輩「……あはは」

後輩「……ふふ」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……あの」

先輩「ん?」

後輩「…………手」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」ギュ

後輩「……あ」

先輩「さみいなー」

後輩「……はい」

先輩「……あのさ」

後輩「はい」

先輩「……私も、がんばるから」

後輩「え?」

先輩「後輩と、一緒にいれるように、がんばる」

後輩「……そうですね」

先輩「おう」

後輩「……そうです! 大切なのは、研究と練習! ジョナサンもそう言ってました!」

先輩「それはチャンのセリフだ」

後輩「……そ、そうでしたっけ」

先輩「はは」

後輩「……」

先輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……ゆっくり」

後輩「……」

先輩「ゆっくり帰ろうな」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……はい」

先輩「……」

後輩「ゆっくり帰りましょう」








~おわり~

これで、このお話は終わりです
お読みくださった方、ありがとうございました

コメントくださった方、ありがとうございます
本当に励まされました
後日談とか、またちょっと、今度、書こうと思いますので、その後でhtml依頼します

乙です
以前も先輩後輩モノ書いてた方かな?






~アフター1~


先輩「……ふぅ、終わったぁ」ノビー

後輩「何読んでたんですかー?」

先輩「オースター」

後輩「あぁ、いいですよねー!」

先輩「おう、かなり面白かった。犬がさー、可愛くてさー」

後輩「先輩、犬好きなんです?」

先輩「好きー。飼ったことねーけど」

後輩「……うち、犬飼ってますよ」

先輩「マジで」

後輩「見に来ます?」

先輩「見たい見たい」

後輩「じゃ、今日うちどうですか?」

先輩「おー、行くー」

後輩「了解ですー」

先輩「かわいい?」

後輩「滅茶苦茶かわいいです」

先輩「撫でていい?」

後輩「撫でていいですよー」

先輩「そっかぁ……、えへへ……」









~後輩の家~


犬「……」ズゥゥン

先輩「……」

犬「……」ズムゥゥン

先輩「……」

先輩(……でけぇ!)

後輩「どうですか、先輩! かわいいでしょ!?」

先輩「いや、ちょっ、いやっ……、でけえ!」

後輩「うん」

先輩「いや、うん、じゃなくて……、え、犬? これ犬?」

後輩「犬ですよー」

先輩「熊じゃなくて?」

後輩「犬です」

先輩「……」

犬「……ヘッヘッ」

先輩「熊だろ?」

後輩「犬です」

先輩「……」

後輩「えへへ、いっぱい撫でてあげてくださいー」

先輩「……」オソルオソル

犬「……ガオウ」

先輩「うぉぉ!?」ビク

後輩「そんな緊張しなくても大丈夫ですよぉ」

先輩「いや、ガオーって言った! ガオーって言ったから!」

後輩「あはは、あんまり怖がってると、逆にパクッといかれちゃいますよ」

先輩「あははじゃねぇよ怖ぇよ! パクッといかれてたまるか!」

後輩「ザムザー、おすわりー」

先輩「名前やめてやれよ! 虫になったらかわいそうだろ!」

犬「……ガウ」

先輩「ほらガオーって言ったぁー!?」ビクーッ









~後輩の部屋~


後輩「はい、お茶どうぞ」

先輩「わりぃね」

後輩「よかったですね、ザムザ、先輩に懐いてました」

先輩「慣れたらかわいいもんだなぁ」

後輩「でも、先輩が犬好きなの、ちょっと意外ですね」

先輩「何でだよ」

後輩「……何となく、猫っぽいし、猫派かな、って」

先輩「あはは、それ言ったらお前は、犬だな」

後輩「犬!? っぽいとかじゃなくて!」

先輩「あはは、ほーら、よしよし」ワシャワシャ

後輩「わっ、もう、髪ぼさぼさになっちゃいますー!」

先輩「嬉しいくせにー、ほれほれー」ワシャワシャ

後輩「あはは、わんっ! なんちゃってー……」ギュッ

先輩「はは……」ナデ

後輩「先ぱ……」

先輩「……」ギュ

後輩「あっ……」

先輩「……あのさ」

後輩「……、いいですよ……」

先輩「……」ドキドキ

後輩「……」ドキドキ

犬2「……」

先輩「……」

犬2「……キャン!」

先輩「うわぉ!?」ビク-ッ

後輩「……何ビックリしてるんですかぁ、ずっといたじゃないですか、この子」

先輩「い、いや、ぬいぐるみだとばかり……」

後輩「座敷犬です」

犬2「ヘッヘッヘッ」フリフリ

先輩「……かわいい」

後輩「ポチー、おいでー」

先輩「ザムザと大分ネーミングに差が」

犬2「キャン! キャン!」ペロペロ

先輩「わっ、あはは、おい、そんな舐めんなよー」

後輩「ふふっ……」

犬2「クゥーン」ペロペロ

先輩「ははっ、めっちゃ舐めてる。そんなに美味しいかー、私の指ー、ほれほれー」ナデナデ

犬2「キャン!」

先輩「あは、かーわいいー」ワシャワシャ

後輩「……!」ハッ


後輩(あれ……)

後輩(私、犬に負けてる……!?)


先輩「ほーれ、しっぽしっぽー」

犬2「キャンキャン」フリフリ

後輩「……」

先輩「あはははー」ケラケラ

後輩「……」ニッコリ


後輩(まぁ……)

後輩(いいか……)









~アフター2~


友「……でさー、そしたら妹が、『えぇっ、カメルーンなの!?』って」

後輩「あはははっ、ははっ、カメしか合ってないよぉー!」ケラケラ

友「でしょー、そんで結局、リクガメひっくり返ったまんまでー」

後輩「あっはは、ぜってーありえねーだろってー!」ケラケラ

友「!!」

後輩「あははは、はぁー……、あれ、友ちゃん?」

友「こ、後輩が……」

後輩「え、な、何」

友「後輩が不良になったぁー……」ウルウル

後輩「えぇっ!? あ! い、今のは! 違うの、先輩のがうつっただけで……」

友「私の後輩がぁぁ……」ウルウル

後輩「ち、違うってばぁ! あと友ちゃんのものじゃないから私!」

友「おのろけだぁぁぁ……」シクシクシク

後輩「ちげーっての! あ……」

友「あぁぁぁ……」シクシク

後輩「あぁぁ……」









後輩「……と、いうわけで、ですね」

先輩「うん」

後輩「先輩の言葉遣いを直そうキャンペーン」

先輩「ほっとけよマジで……」

後輩「放っておいたら、そのうち私、完全に先輩の口調がうつっちゃいますよ! いいんですか!?」

先輩「いいんですかと言われても……」

後輩「あ、もうだんだん、それっぽくなってきた。あー、ッべー、まじッべーですー」

先輩「お前の中の私ってそんななん?」

後輩「……っていうか、おしとやかな先輩が見てみたい……」

先輩「んなこと言われたってよー」

後輩「それ」

先輩「お」

後輩「そこは『そんなこと言われましても……』で」

先輩「マシテモ!?」

後輩「ちょっと大げさなくらいでいいんです! ショック療法ですよ」

先輩「そうな……の、かしら」

後輩「おぉ、その調子ですよ!」

先輩「絶対間違っている気がしますわ……」

後輩「大丈夫です!」

先輩「ふふっ、後輩さん、ごきげんよう」

後輩「お、お嬢様っぽい!」

先輩「あら、後輩さん、タイが曲がっていてよ」クイッ

後輩「はわー……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩(コレジャナイ感すげぇ……)

後輩(コレジャナイ感すごいな……)









~アフター3~


先輩「……」

後輩「……」ペラッ

先輩「……」

後輩「……」ペラ


ピリリリリ♪ ピリリリリ♪


後輩「……」

先輩「……ん」



ピリリリリ♪ ピリリリリ♪


ピッ


後輩「……」

先輩「時間だ……」

後輩「……」

先輩「……」ペリペリ

後輩「……」

先輩「……」パキッ

後輩「……」

先輩「いただきます……」

後輩「……」

先輩「……」ズゾッ ズルル

後輩「……」

先輩「……ハフハフ」

後輩「……」

先輩「……」ズルルル

後輩「……」

先輩「購買ちゃんラーメン、ブルックリン味噌味」

後輩「……」

先輩「新発売!」

後輩「……」

先輩「……ハフハフ」

後輩(味噌くさいな……)

先輩「……」ズゾゾー










~アフター4~


先輩「~♪」トタタッ

先輩「人間はもう~おわりだ~♪」

先輩「……~♪ ……ん?」

後輩「………………」

先輩「おーっす、後輩。どうした、部室入らねーの?」

後輩「せ、先輩ぃ……」ウルウル

先輩「おいおい、どうしたよ」

後輩「これぇ……」ウルウル

先輩「あん? 何この張り紙……、えーと、なになに……?」



『連絡

文芸部は12/1をもって廃部となります

部員は各自、部室の私物を処分のこと

生徒会』


後輩「先ぱぁい……」

先輩「……」ポカーン









~生徒会室~


先輩「かぁぁぁいぃぃ長ぉー!」ガララッ!バシーン!

会長「……おや、誰かと思えば、先輩クンじゃないか。久しいな」

先輩「それどころじゃねー! なんだあの張り紙はぁー!!」

会長「張り紙……? ああ、文芸部の廃部のことかい?」

先輩「それだよ! なんだ廃部って! どーいうことだよ!」

会長「私に言われてもな……。決めたのは先生方だ」

先輩「でも、生徒会の名前が……!」

会長「たかが生徒会、決定事項には従うしかないさ。学校が決めたことに、口出しできるわけないだろう?」

先輩「むぅぅ……!」

会長「そもそも、何の活動もしない、ただ本読んでるだけ、なんて部活がある方が、おかしいのだからね」

先輩「う……、それは……」

会長「学校が用意した部室を使っているんだ、然るべき活動実態が必要に決まっているじゃないか」

先輩「……」

会長「それを、キミらふたりで占有して、日暮れすぎまでイチャこらイチャこらと……、はんっ、別に羨ましくなどないがねっ!」ペッ

先輩「……」

先輩(おぉ……、会長様が荒んでらっしゃる……)

先輩「……って、ていうか、別にいちゃこらなんて、してねーし!」

会長「はっはっは、じゃあシッポリの間違いだったな? グッチョリでもネットリでもいいぞ?」カーッペッ

先輩「だーかーらー! 何もしてねぇって言ってるだろ!」

会長「……?」

先輩「な、何だよ……」

会長「え、いや、ほ、本当に?」

先輩「う、うん……」

会長「何もしてないの……?」

先輩「……」コクリ

会長「いや、いやいや……、キミら、つ、付き合ってるんだろう?」

先輩「……」コクン

会長「いやいやいや、キミみたいなヤツが、何もしてないなんて、そんなわけ……」

先輩「……」

会長「え、逆になんで? なんで何もしてないの?」

先輩「……とき……――まり…………」ゴニョゴニョ

会長「ふんふん、『いざというとき、あんまり手馴れすぎてて』?」

先輩「……でる……ずか……ぃ……」ゴニョゴニョ

会長「『遊んでると思われたら恥ずかしいし』?」

先輩「……」コクン

会長「……ば~~~っかじゃないのかキミは!?」

先輩「うっ……うるせーうるせー!」

会長「なーにが、『遊んでると思われたら恥ずかしい』だ! 遊んでるじゃないか! 遊びすぎて真っ黒じゃないか!」

先輩「誰が真っ黒だっ! 全然きれーな色してるっつーの!」

会長「内面! 内面が真っ黒なんだよ! 完全に汚れきってるだろうが!」

先輩「汚れてないですー! 処女ですー! 理論上は処女ですうぅー!」

会長「処女! 言うに事欠いてショジョ! ガバガバのくせに、ガッバガバのくせに! どれだけ厚かましいんだこのビッチは!?」

先輩「だだだ誰がガバガバだっ! この腹黒ヅカモドキ!!」

会長「はははは腹黒ヅカモドキぃぃ!? キミぃ! 言って良いことと悪いことが――!」


ギャーギャー


ワーワー









先輩「……」ハー ハー

会長「……」ハァハァ

先輩「……あーもう、分かったよ! アンタには頼まねぇ!」

会長「……」

先輩「はぁ……、邪魔したな」ガラッ

会長「……先輩クン」

先輩「ん」

会長「私は……、私は反対したんだ。伝統ある部活動だからって……」

先輩「……」

会長「ちゃんと、真面目に取り組んでいる生徒もいるって、反対したんだ! だけど……!」

先輩「いいよ、会長。分かってる」

会長「……」

先輩「ありがとな」

会長「……キミは……」

先輩「んじゃな」


ガララ


パタン


会長「……キミは、変わったな」

会長「……」


会長(……私も)

会長(恋人探すか……)ハァ









~帰り道~


後輩「はぁ……」トボトボ

先輩「元気出せよ。別に、本が読めなくなるわけじゃねーだろ」

後輩「それは、そうですけどぉ……」

先輩「……」

後輩「文芸部、好きだったのに……」

先輩「……そうだなー」ナデナデ

後輩「うぅ……」

先輩「……あー、それじゃあ、さ……」

後輩「……?」

先輩「ふたりで、プチ文芸部、やる?」

後輩「ふたりで?」

先輩「放課後にさ」

後輩「……」

先輩「わ、私のウチ、とかで……」

後輩「……!」

先輩「……」

後輩「……あ、あの」カァァ

先輩「いや、べ、別に変なアレじゃなくて――」

後輩「先輩!」

先輩「お、おう……」

後輩「よ、よろしくお願い……します……」

先輩「……」カァァ

後輩「……」カァァァ

先輩「……後輩」

後輩「……」

先輩「行こっか」

後輩「はい」









~アフター おわり~

これで、このssは本当に終わりです
お読みくださった方、ありがとうございました
お付き合いありがとうございました

>>221
以前も書いたことはあります
でも、1年近く前の話なので、おっしゃっているものとは違うやつかもしれませんです

よければ前作も教えて欲しいな

コメントありがとうございます

>>259
前作では『真澄「柚子……柚子……」クチュクチュ』
真澄「柚子……柚子……」クチュクチュ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414941301/)
というssを書きました
遊戯王アークファイブの二次ssです
よろしければ、ぜひお読みください
先輩・後輩ものだと『後輩「先輩より胸が大きくなってしまいました……」 』
後輩「先輩より胸が大きくなってしまいました……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382277650/)
というssも書いています
こちらも、お読みいただけたら、とても嬉しいです

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