後輩「先輩より胸が大きくなってしまいました……」 (270)

後輩『……』

先輩『……何見てんだよ』

後輩『先輩って』

先輩『おう』

後輩『……胸ないですよね』

先輩『ていっ』ベシッ

後輩『いった!』

先輩『うっさいなー、お前だって全然ねーだろーが!』

後輩『知ってますよぉ! だから、何て言うか、仲間意識わくなぁ、って言いたかっただけで……』

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先輩『仲間意識ねぇ』

後輩『わきません?』

先輩『わくかなぁ……』

後輩『ワタシ、アナタ、オナジ』

先輩『あはは、誰だよ』

後輩『先輩……、私を置いて勝手におっきくなったら嫌ですよ?』

先輩『前から思ってたけどさ、私も馬鹿だけど、お前すっげー馬鹿だよな』

後輩『えぇ~――……』








~昼休み・一年生教室~


後輩(……――なんて、つい最近もそんな会話をしていたのに……)

後輩(間違いない……)

後輩(……おっぱい、育ってきてる……)

後輩「……」

後輩(……そりゃ、一般的なサイズと比べれば、ですね)

後輩(ちょっと……、いやかなり、見劣りはしますが)

後輩(……先輩と比べると……)

後輩「妖怪・絶壁女だもんなぁ、先輩……」

先輩「だーれが」ガシッ

後輩「フガッ!?」

先輩「妖怪だクソ後輩ぃ……!」メリメリメリ

後輩「いぁらぁぁぁギブギブギブギブ!」

先輩「……ったく」

後輩「せ、先輩……、いつからそこに……」

先輩「お馬鹿な後輩に、妖怪呼ばわりされた辺り」

後輩「いや、すみません……。って、何の用です?」

先輩「ジャンプ貸ーして」

後輩「あー……、まぁ、いいですけど……」ゴソゴソ

先輩「あれ、まだ読んでなかった?」

後輩「いえ、いいですいいです。大体読んだし。後で返してくださいね」ゴソゴソ

先輩「っていうかさぁ、お前、人のこと絶壁女とか言うなよなー」

後輩「はいはい……、あれ……どこだっけ……」ガサゴソ

先輩「お前だって、私と変わんねーサイズなんだからよ」

後輩「」ビクッ

先輩「そんなちんちくりんで人をだなー――……ん?」

後輩「そ、そうですね。アハ、ハハ……」ドキドキ

先輩「後輩?」

後輩「ジャンプ! はいジャンプ! どうぞどうぞ!」

先輩「お……、おう……、サンキュー」

後輩「ほ、ほら先輩! はやく戻らないと昼休み終わっちゃいますよ!」

先輩「……? あ、あぁ、そうね……。じゃ、ありがとなー」

後輩「はい……」ホッ

先輩「……あ、そうだ」

後輩「!」ビク

先輩「お前、今日ヒマ?」

後輩「……普通に部活ですよ」

先輩「終わったら、一緒に帰ろうぜー。待ってるからさぁ」

後輩「結構遅くなっても、大丈夫ですか?」

先輩「いいよ。また図書室にいるからさ、終わったら連絡ちょーだい」

後輩「りょーかいです」

先輩「ヨロシク。んじゃなー」

後輩「はーい」

~放課後・グラウンド~


部長「後輩ー! ラスト一周ー!」

後輩「……っ!」ダッ

部長「……はい、オッケー!」

後輩「はぁ……、はぁ……」

部長「休憩したら次、ビルドアップラン行くからね!」

後輩「はい……」ゼェゼェ

部長「返事ー!」

後輩「はいっ!」ゼェゼェ








陸上部員1「……後輩ちゃんってさー」

陸上部員2「ん?」

部員1「カッコいいよね……」

部員2「えっ」

部員1「いや、変な意味じゃなくて!」

部員2「……分かる」

部員1「あっ、やっぱり!?」

部員2「キリッとしててさ。クールで寡黙なアスリート! って感じで」

部員1「そうそう! ストイック、っていうの? いつも真剣な顔で……」

部員2「あ、ほら、後輩ちゃんキリッとした顔してる」

部員1「ほんとだ」

後輩「……」ハァハァ

後輩(うーん……)

後輩(もう、先輩に言っちゃおうか、おっぱいのこと……)

後輩(『ごめんなさーい、成長期きちゃってー』とか。……いや、謝るのもわざとらしいです)

後輩(『先輩よりもナイスバディですよ! ドヤっ』って……)

後輩(先輩なら、笑って済ましてくれるはず)

後輩「……よし」キリッ





部員2「カッコいい」

部員1「ねー」

後輩「……」

後輩(……いや、駄目だ)

後輩(先輩は、胸もないし、男みたいな変な口調だし)

後輩(すぐぶつし、胸もないですけど……)

後輩(実は内面は、とても乙女なんです……)

後輩(自宅にクマちゃんのぬいぐるみとか置いているし)

後輩(私服もワンピースとか、着ることが多いし……)





部員1「でもさぁ……」

部員2「ん?」

部員1「カッコいいだけじゃなくて、可愛いよね、後輩ちゃん」

部員2「……分かる」

部員1「だよね! 顔は基本的に可愛い系っていうかさ、目ぇクリッとしてて」

部員2「そうそう! たまに表情が変わるのが、すっごい可愛くて……」

部員1「あ、ほら、後輩ちゃんシュンとした顔してる」

部員2「ほんとだ」

後輩(……もし)

後輩(もし先輩に、うっかり打ち明けて、下手したら――……)


~ポワワーン~


先輩『そんな……、後輩の方がバストあるなんて……』

後輩『ち、違うんです、先輩、これは――』

先輩『仲間だって、言ってたのに……後輩の……後輩の……っ』

後輩『聞いて、先輩! 私は……!』

先輩『後輩の裏切りモノぉーーッ!!』ダッ

後輩『せんぱぁぁーーい!!』


~ポワワワン~


後輩(そうなったら……)

後輩「……」

後輩「……せんぱぁい……」シュン





部員1「可愛い」

部員2「ねー」

部員1「……」

部員2「……」

部員1「……私」

部員2「ん?」

部員1「声かけてこようかな」

部員2「えっ、マジ?」

部員1「だ、だってほら、何か後輩ちゃん、困ってるみたいだし」

部員2「あー。あれかな、タイムもあんまり伸びてないみたいだし、最近。それかも」

部員1「で、でしょ! 色々相談とか、乗ってあげられたらなー、って」

部員2「え、じゃあ私も行く!」






後輩(……やっぱり、黙っていよう)

後輩(おっぱいのことは……)

部員1「後輩ちゃん!」

部員2「やっほー」

後輩「……どうも。何か?」

部員1「あ、あのさ、何か悩み事?」

後輩「え……」

部員2「ずっと考え事してたみたいだから」

後輩「え、えっと……」

部員1「困ってることがあるなら、話聞くよ?」

部員2「そうだよー、私たちも、一応部活のセンパイなんだし」

後輩「あの……」


後輩(できるわけないです……)


後輩「そう言ってもらえるのは、すごく、嬉しいですけど」


後輩(おっぱいの相談なんて……!)


後輩「これは、私自身の問題ですから」キリッ!

部員1(カッコいい……!)

部員2(可愛い……!)

後輩(おっぱい……!)

部長「休憩終わりなんだけどねー君たちー」





後輩「……」

後輩「……うぅ」ヨタヨタ

先輩「おーっす」

後輩「先輩!」

先輩「お疲れー」

後輩「遅くなってすみません……」

先輩「ホントだよ。部活長すぎだろ」

後輩「終わった後の、自主トレが……」

先輩「……頑張ってるじゃん。お疲れ」ナデ

後輩「はい……」

先輩「無理すんなよ」

後輩「はい……」





~夜・帰り道~

後輩「……――って感じで、最近、全然タイム伸びなくてー」

先輩「ふぅん」

後輩「4000すぎた辺りから、ガクッと息切れしちゃうんですよ」

先輩「体力ねーなぁ、チビだから」

後輩「チビって言わないでくださいよぉ!」

先輩「ひひひ」

後輩「私、前に食事制限して、カロリー絞ってたときには、全然ならなかったんですよね」

先輩「いや、でもアレ、お前ヤバかったじゃん、あの頃。生理来なくなったとか言って」

後輩「そうですけど、やっぱりもうちょっと、体重落としたほうが……」

先輩「やめとけって」

後輩「えぇー……」

先輩「今ちゃんと体作っとけ。先々絶対いいから」

後輩「そうですかぁ……」

先輩「っていうか、お前まだ、あの短距離みたいなフォームやってんの?」

後輩「つま先走法ですよ」

先輩「フォアフットじゃねえだろアレ。前傾過ぎるって」

後輩「アレが一番しっくり来るんですって」

先輩「そうかぁ? ……あ、うどん食ってく?」

後輩「行きます!」

先輩「行きますかー」

後輩「私丸天」

先輩「好きだねー、丸天ー」

後輩「あれ絶対美味しいですって」






~うどん屋~


後輩「うどん、丸天ー」

先輩「私もうどんー……あとー……」

後輩「何か面白いの、あります?」

先輩「おっちゃん、これ、この『金のショウガ天』って、何?」

うどん屋「ショウガのぉ~……」

先輩「……」

後輩「……」

うどん屋「天ぷらぁ……」

先輩「……」

後輩「……」

うどん屋「……」

先輩「……なるほど」

後輩「まったく情報が増えてませんでしたけど」






うどん屋「おまちぃ~……」

先輩「……」パキッ

後輩「……」パキッ

先輩「いただきます」

後輩「いただきます」

先輩「ん……」ズルルルル

後輩「ん……」ズルルルル

先輩「……」モグモグ

後輩「……」モグモグ

先輩「ハフハフ」

後輩「ハフハフ」






先輩「……」ゴクゴク

後輩「……」ゴクゴク

先輩「……ゲフッ」ゴトン

後輩「……けふっ」コトン

先輩「ごちそーさん」

後輩「ごちそーさん」

先輩「……はぁ」

後輩「どうでした? 金のショウガ天」

先輩「あー……いや、……普通?」

後輩「……ああいうの好きですよね、先輩。変り種というか、イロモノというか」

先輩「人生には冒険心が必要なんだぜ、後輩ちゃんよ」

後輩「しょっぱい冒険心ですね」

先輩「ほっとけ。お前こそ」

後輩「はい」

先輩「いっつも丸天って、飽きるだろ」

後輩「飽きないですよぉ。美味しいもん」

先輩「そうかぁ?」

後輩「そうです。いいですか、丸天はです……ね……ふァ……」

先輩「……」

後輩「ぁふ……」

先輩「……」

後輩「すみません……」

先輩「……またウチ来るか?」

後輩「えー……」

先輩「バス待ってるだけで一時間だろ、お前のトコ」

後輩「うーん……」

先輩「別にどっちでもいいけど」

後輩「……じゃあ」






~市内アパート・先輩の部屋~


後輩「おじゃましまーす」

先輩「あー、だっる……」

後輩「先輩、シャワー借りていいですか?」

先輩「後で返せよー」

後輩「来週返します」

先輩「なんで返す気ないのよ。着替えは……」

後輩「下着持ってきてるんで」

先輩「じゃ、勝手に使ってくれー」

後輩「はーい」

先輩「うーい」






ジャーーーーーーーー


後輩「……はふ」

後輩「……」

後輩「……ぁー」

後輩「……」モミ

後輩「……」

後輩「……ぅーん」


ガチャリ


先輩『後輩ー?』

後輩「うひゃあ!」

先輩『変な声だすな馬鹿。スウェット貸すから、ここ置いとくぞー』

後輩「あ、ありがとうございます!」

先輩『おうー』


ガチャリ


後輩「……」

後輩「……ふぅ」

後輩(……あ)

後輩(先輩シャンプー変えてる……)

後輩「……」ワシャワシャ

後輩「……」

後輩「……」ワシャワシャ

後輩(……前の方が好きだな……)


ジャーーーーーーーー






後輩「……ふぅ」

後輩「シャワーいただきましたー」

先輩「おー」

後輩「……シャンプー、変えたんですね」

先輩「ん? ああ。いいだろ別に」

後輩「前のがいいです」

先輩「高いんだよ、前のやつ」

後輩「そっかぁ……」

先輩「私もシャワー行くわ」

後輩「はーい」






先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」


\オワカリイタダケタダロウカ……/


先輩「……」

後輩「……」


\ガメンノミギハシニ、ウラメシゲナオトコノカオガ……/


先輩「」ビクッ

後輩「」ビクッ


\コノチデコロサレタモノノオンネンガ……/


先輩「……」

後輩「……」


\ワレワレノマエニスガタヲミセテイル……/


先輩「とでも」


\トデモ……/


先輩「……言うのだろうか……」

後輩「……」


\イウノダロウカ……/


後輩「……」

先輩「……」

\オワカリイタダケタダロウカ……/


先輩「……」

後輩「……」


\シロイキモノヲキタオンナノカゲガ……/


先輩「」ビクッ

後輩「」ビクッ


\モウイチドゴランイタダコウ……/


先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「」ビクッ

後輩「」ビクッ

こんな感じで書きます






先輩「……」

後輩「……」

先輩「」ビクッ

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「」ビクッ

後輩「せんぱい……」

先輩「……ん」

後輩「なんで……陸上……」

先輩「……」

後輩「やめちゃったんですかぁ……」

先輩「……ほっとけよ」

後輩「わたし……は……」

先輩「……」

後輩「また……せんぱいと……はしり……」

先輩「お前なぁ……」

後輩「……」

先輩「あのな……私は……!」クルリ

後輩「……ムニャー」

先輩「……」

先輩「……寝言かよ!」

後輩「……フニャ」

先輩「馬鹿……、もう……ベッドで寝ろっての……」ガシッ

後輩「……」ポフッ

先輩「……おやすみ」

後輩「……フガ」Zzz

先輩「……」

先輩「……スゥ」






~先輩の夢~



部長『……そっか、辞めちゃうんだね』

部長『仕方ないね……。私は、何も言えないけどね』




顧問『どうして退部なんだ? お前なら、もっと上を目指せるはずじゃないか』

顧問『なぁ、理由くらい、話してくれてもいいじゃないか。お前には、期待していたんだが――……』




父親『お前が決めたことなら、俺は文句は言わない』

父親『好きにしろ……』




後輩『どうして……』

後輩『勝手にいなくなっちゃうんですか……』

後輩『どうして……っ』




後輩『先輩なんて……』

後輩『嫌い、だ――……』






先輩「……」

先輩「……」パチ

先輩「……」

先輩「……」ムクリ

先輩「……」

後輩「……グゥ」

先輩「……ぁー」






~後輩の夢~


後輩「うぁー……」タユン

後輩「もうおっぱいおっきくなるの嫌だよぉ……」タユンタユン

後輩「神様ぁー」

神「いや、そう言われてもねぇ……」

後輩「おっぱいいらないよぉー」

神「そうなの?」

後輩「だって……、先輩に知られたら……」

神「知られたら?」

後輩「……なんだろ、気まずい?」

神「何それ。自分でもよく分かってないんじゃん」

後輩「とにかく! 嫌なものは嫌なの!」

神「……でもそれ、ビーム出るよ?」

後輩「……マジで?」

神「マジマジ」

後輩「おっぱいビーム!」

神「あ、ちょっと練習、いりますけど」

後輩「おっぱいビーム! おっぱいビーム!」






~朝~


先輩「おい、起きろー。おい後輩、おいったら」

後輩「……おっぱいびーむ……」ムニャムニャ

先輩「うわすげー馬鹿だこいつ! おい、いいから早く! 遅刻するだろーが!」

後輩「……ぅ?」

先輩「なーにがおっぱいビームだボケ! そんな胸から出るか!」

後輩「……? ……!」ガバッ

先輩「うぉ……!?」

後輩「……せん、ぱい?」

先輩「おう」

後輩「……おっぱい?」

先輩「は?」

後輩「……見た?」

先輩「見てねーよ馬鹿」

後輩「……おっぱいビームって何……?」

先輩「こっちが聞きてーよクソ馬鹿たれー!」






~学校~


後輩「……――だから、もっとギリギリまで寝れましたって」

先輩「やだよ、遅刻するじゃん」

後輩「しませんって、ダッシュで来ればー」

先輩「それが嫌だって。朝からバタバタしたくねーの」

後輩「あと10分は寝れたのにぃ……」

先輩「10分寝たって何も変わらねぇだろ……ほら、教室」

後輩「あ、着いちゃった。……それじゃ、先輩」

先輩「んー、またな」

後輩「……またですー」


後輩「……あ」クルッ

後輩「先輩! 今日……!」

後輩「ほうかご……」

後輩「……」

後輩「……」

後輩「……行っちゃった」


キーンコーンカーンコーン

今日はここまでです






~昼休み・一年生教室~


後輩「……」


ガヤガヤ

ガヤガヤ


後輩「……」

後輩(……ぁー)

後輩(……つまんない)


ガヤガヤ

ガヤガヤ


後輩(……クラスもつまんないし)

後輩(……授業もつまんないし……)

「見た、昨日のドラマー?」

「見た見たー、あれ全っ然面白くないんだけど!」

「分っかる! ヤバいよねー」


後輩(……何で面白くないことの話してるんだろう)


後輩「……ぁー」


後輩(つまんない、つまんない、つまんない……)

後輩(………………走りたい)


級友1「ねぇ、後輩ちゃん」

後輩「……何?」

級友2「あのさ、クラスでカラオケ行こって言ってるんだけど、後輩ちゃんも来ない?」

級友1「なんかー、西高の男子もくるとかでー」

後輩「……ごめん、パス」

級友1「だよね、ごめんごめん」

級友2「部活だもんね」

級友1「やっぱり、1年生エースともなるとね。サボってられないか」

級友2「また今度ー」


後輩「……」


後輩(……何なんだ)

後輩(西高の男子が来るから何だって言うんだろう……)

後輩(……っていうか、だよね、って何だ。だよね、って)


後輩「……」ウズ


後輩(早く走りたい)

後輩「……」ウズウズ


後輩(走りたい、走りまくりたい……)

後輩(走って、走って、走って)


ガヤガヤ

ガヤガヤ


後輩「……」


後輩(走って、走って、そんで先輩に、疲れたぁ、って一緒にうどん屋行って、丸天食べて……)


後輩「……」


後輩(早く放課後にならないかな……)






~放課後・グラウンド~


後輩「……ハッ ハッ」ダッダッダッ

後輩「……ハッ ハッ」

部長「後輩ー! ペース速すぎるー!」

後輩「……!」ダダッ

部長「はいゴール!」

後輩「……ゼヒッ ゼヒ……」ハァハァ

部長「ちょっと飛ばしすぎだよね。ずっと走りっぱなしだし。ほら、いい加減休憩――」

後輩「……すみま……せ、もう一本タイム……お願いします……」フラ

部長「後輩、ちょっ……」

後輩「……っ」ダッ

後輩「……ハッハッ」


後輩(……先輩、連絡なかったな……)

後輩(もう帰ったかも……)


後輩「……」ダッダッダッ

後輩「……ハッ ゼハ」


後輩(……今日はもう、いないかなぁ……)


後輩「……」ダッダッダッ


後輩(もっと、走りたい)

後輩(……何か今日は)

後輩(……ずっと走ってたい……)


部長「――ぅはい! ――ス! ペースおと――……」

後輩「……ハッ ハッ」ダッダッダッ






部員1「――ゃん! 後輩ちゃん! 聞こえてる!?」

後輩「……ぁ」

部員1「よかった……、座り込んだきり、返事なかったから……」

後輩「……ゲホッ」

部員1「大丈夫?」

後輩「……だいじょう、ぶ、です」スク

部員1「後輩ちゃん!?」

後輩「……」タッタッタッ


後輩(……まだ体動く)

後輩(……もっと、もっと走りたい……)


後輩「……っ!」ダッ

部員1「……」ハラハラ






~夜~


顧問「自主トレ組も今日はそこまでー! 解散ー! 今日はグラウンドもう使うなー!」

後輩「……ゼェ ゼェ」

後輩「……」ヨロ

顧問「後輩……? おい……」

後輩「大丈夫です……」

顧問「フラフラじゃないか……、ちょっと後輩……」

後輩「お疲れ様でした……」


後輩(……先輩)

後輩(……図書室にいるかな……)


後輩「……」タッ

後輩「……」タッタッタッ

後輩「……」タッタッ…

後輩「……ハァ ハァ」


後輩(……図書室、電気消えてる)


後輩「……」


ガチャン


後輩(……鍵かかってるし)


後輩「……つまんないの」

後輩「……帰ろう」






~帰り道~


後輩「……」トボトボ

後輩「……」

後輩「……」

後輩「……」タッ


後輩(つまんないなぁ……)


後輩「……」タッタッ…

後輩「……」タッタッタッ


後輩(……走りたいな)

後輩(もっと走りたい、もっと走りたい、もっと……)

後輩(走りたい……!)


後輩「……っ!」タッタッタッ

後輩「っ――…………」タッタッタッタッ…








~翌日昼休み・一年生教室~


後輩「――こっちがイチゴみるく味でしょ?」

先輩「……うん」モグモグ

後輩「で、こっちがミルクいちご味」

先輩「……はい」モグモグ

後輩「どっちが美味しいです?」

先輩「……」モグモグ

後輩「……」

先輩「変わんねーだろ」

後輩「ですよねー!」

きょ、今日はここまでです…

先輩「一緒じゃん」

後輩「ですよね、先輩もそう思いますよね!」

先輩「え、何が違うのよ、これ実際」

後輩「イチゴみるくの方が、10円高いんですよ」

先輩「だったらミルクいちごだけ買えよ……」

後輩「いや、私の舌が馬鹿なだけかなー、と思って」

先輩「頭ほどじゃねーから安心しな」モグモグ

後輩「なにおー!」

先輩「……あ、でも私これ、違い分かるかも」

後輩「マジで?」

先輩「マジマジ」

後輩「じゃ、これ当ててくださいね」

先輩「よっしゃ、こいやー」

後輩「目ぇつぶってー」

先輩「おし」

後輩「……薄目開けてません?」

先輩「開けてない開けてない」

後輩「じゃ、はい、あーん」

先輩「あー」パクッ

後輩「……どうです?」

先輩「……」モグモグ

後輩「……」

先輩「……今何げに」

後輩「はい?」

先輩「すげー恥ずかしいことした気がする……」

後輩「あ」

先輩「……」

後輩「……」キョロキョロ


ガヤガヤ

ガヤガヤ


先輩「……」

後輩「……」

先輩「……さ、さて……、そろそろ戻るかな」

後輩「は、はい。……あ、先輩、今日放課後暇です?」

先輩「おう」

後輩「一緒に帰りません?」

先輩「お前、遅くなる?」

後輩「あー……、いつも通りかと……。何か用事ありました?」

先輩「や、聞いただけ。また図書室にいるから、終わったら連絡くれな」

後輩「はーい」


キーンコーンカーンコーン


先輩「じゃ、本当に戻るぞ」ガタッ

後輩「はい、それじゃ……っと……あっ」ガタッ フラッ

先輩「お……っと!」ガシッ

後輩「ひゃっ……、す、すみません……」

先輩「何よろけてんだよ、危ねーなぁ……」

後輩「あはは、ちょっと昨日、部活張り切りすぎちゃって足が……、……あ」

先輩「おいおいおい、無理す――」

後輩「っ!」バッ

先輩「?」

後輩「……む」

先輩「む?」

後輩「……胸、触りました……?」

先輩「はぁ?」

後輩「あっ、いや、な、何でもないです……」

先輩「……? まぁいいや。気をつけろよー?」

後輩「はいー……」

~放課後・グラウンド~



部長「――でー、来月の大会に向けて、今日からタイムを取っていくからねー」


「「「「はい!」」」」



後輩(うーん……)

後輩(何かの拍子に、うっかり先輩におっぱいを触られたら、アウトだな……)

後輩(……いや、ブラ小さいヤツのままだし……触られたくらいじゃ……)


部長「今回は最初の二週間でメンバー決まるから、みんな気合入れていくこと!」


「「「「はい!」」」」



後輩(当分ブラは変えない方がいいのかな……)


後輩「……」

顧問「……おら後輩ぃ! 聞いてるのかぁ!」

後輩「っ!」ビクッ

顧問「聞いてるのかって言ってんだ! 返事どうしたぁ!」

後輩「っ……すみません! 聞いてませんでした!」

顧問「ボーっとしてるんじゃない! 大会出さねぇぞお前!」

後輩「すみませんでした!」

顧問「しっかりしろお前ぇ!」

後輩「……」

顧問「返事ぃ!」

後輩「はいっ!」



後輩(うぅ……)シュン






~夜・帰り道~


先輩「それで、一日中センセイにしごかれた?」

後輩「……はい」

先輩「はは、災難だったなー」

後輩「いっつも居ないくせに、たまに練習来ると怒鳴るんですもん」

先輩「センセイ怒ると怖ぇよな」

後輩「はぁ……、いつもより疲れました……」

先輩「お疲れ」ナデ

後輩「……はい」

先輩「ていうか」

後輩「?」

先輩「珍しいな、後輩がセンセイに叱られるなんて」

後輩「そうですか……?」

先輩「部活中はマジメな方じゃん、お前」

後輩「別に、マジメではないですけど……」

先輩「叱られるほどボサッとしてた、なんて言うからさ。珍しいなー、って思っただけだよ」

後輩「……」

先輩「なんかあったか?」

後輩「え……」

先輩「……」

後輩「べ、別に、何もないですよ?」

先輩「そう?」

後輩「たまたまですって。たまたま、ボンヤリしてただけで」

先輩「……なら、いいんだけどさ。じゃ、うどん食い行こうぜ」

後輩「……はい」

~うどん屋~


後輩「うどん、丸天ー」

先輩「私、うどんのー……えーと……」

後輩「何か面白いの、あります?」

先輩「……んー。おっちゃん、この、『三種のネギかき揚げ』って……」

うどん屋「ネギのぉ~……」

先輩「……」

後輩「……」

うどん屋「かき揚げぇ……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……私も丸天で」

後輩「えっ」

うどん屋「エッ……」






後輩「ネギ、頼んだらよかったのに」

先輩「いや、あれは違うだろ」

後輩「違うって何ですか」

先輩「何つぅの、トキメキ? みたいなのをね、感じないっていうか……分かるだろ?」

後輩「分かりません」

うどん屋「おまちぃ~……」

先輩「……」パキッ

後輩「……」パキッ

先輩「いただきます」

後輩「いただきます」

先輩「……」ズゾゾ

後輩「……」ズゾゾ

先輩「ハフハフ」

後輩「ハフハフ」

先輩「丸天うまいな」ズゾー

後輩「ですよね」ズゾー







~別の日、昼休み・二年教室~


ザァーーー


部長「……雨、やまないねぇ」

先輩「部活お休みですか」

部長「今日は室内練習だね」

先輩「……マジで珍しいですね。部長が二年の教室来るなんて」

部長「三年になってから初めてだからね。……やっぱり、落ち着かないね」

先輩(部長、語尾に『ね』がつく癖、変わってねーなぁ……)

部長「……何ニヤニヤしてんのよ、人の顔見て」

先輩「いえ、別に別に」


ザァーーー

今日はここまでです

ザァーーー


先輩「……んで」

部長「……後輩さんのことなんだけどね」

先輩「あぁ……」

部長「どうも最近、様子がね……」

先輩「……」

部長「部活中もね、なんだか集中力を欠いてることが多いみたいで」

先輩「うーん……」

部長「……身が入ってないのかと思ったら、別の日には、倒れるまで走り込んだり」

先輩「倒れるまでって?」

部長「そのまんま。倒れるまで」

先輩「うぅーん……」

部長「落ち着いてるようで、性格にムラのある子だけど、この頃は特に、っていうかね……」

先輩(部長、よく見てるなぁ……)

部長「部長としては、やっぱり気になるじゃない。何かあったのかな、って」

先輩「それで私のところに来ますか……」

部長「だってあなた、今もちょくちょく、後輩さんと帰ったりしてるんだよね?」

先輩「ちょくちょくっていうか、まぁ、結構頻繁に」

部長「だからね、あなたの目から、気づくこととかない? 後輩さんの、普段と違うところ」

先輩「うぅん……」


ザァーーーーーー

先輩「普段と……、そう言われると、確かに……」

部長「うんうん」

先輩「最近、ちょっと変……かな?」

部長「……どんな風に?」

先輩「いや、大したことじゃないんすけど……、なんか声かけたり、体触ったりすると、やけにビビッて、変な声出したり」

部長「さ、触る?」ピクリ

先輩「肩叩いたり、転びそうなとこ、支えたりするとか」

部長「ああ、うん、そうね……そうだよね……」

先輩「……あ、あと、胸かな?」

部長「胸?」

先輩「えぇ……、たまにですけど、おっぱいって単語に反応したり、胸を、こう……隠す? ポーズ、よくしたり」

部長「……」

先輩「何なんすかねー、あれ」

部長「……なるほど」

先輩「はい」

部長「男ね」

先輩「はい?」

部長「だから! 好きな男ができたんだよね、きっと! 」

先輩「部長?」

部長「そのせいで後輩さん、ちょっと情緒不安定になってるんだよ」

先輩「はぁ……」

部長「胸のことも、やっぱり好きな男ができたせいで、自分の発育不良な体が気になって、つい意識しちゃってるんだろうね」

先輩「そうかなぁ……。陸上が恋人、って感じですけどねぇ、どっちかっていうと、あいつ」

部長「その陸上がおろそかになってるんだもん。間違いないね」

先輩「そんなもんですかねぇ……」

部長「結構当たるんだよね、私のカン」メガネクイッ

先輩「なるほど……」

ザァーーーーーー


先輩「でも……、そうかそうか、男かぁ……」

部長「何その顔」

先輩「にひひ……、いや、折角だから、どんな男に惚れてるのか、後輩のヤツから聞き出してやろうと思って」

部長「あなたねぇ……」

先輩「何です?」

部長「それ聞き出して、どうするつもり?」

先輩「それは……いや……、別にどうも、しねーですけど……」

部長「だったら、そっとしておいてあげなさいよね」

先輩「えぇー……。でも、水くさいじゃないですか」

部長「でもねぇ」

先輩「それに、」

部長「それに?」

先輩「変な男につかまってたら、嫌ですし。あいつ馬鹿だから」

部長「……そうだとしても、それは後輩さん自身の問題でしょ。私やあなたが、口出していいことだとは思わないけどね」

先輩「いやいや、そこは先輩としてね、言ってやったほうが……」

部長「やめときなさいって」

先輩「……えぇー」

部長「確かに、あなたが陸上部にいたころは、あの子にとって『憧れの先輩』だったけどね、あなた」

先輩「……」

部長「いつもあなたにベッタリで……、私の言うこと全然聞かないのにね、あなたが言うと、すぐ言うこと聞いてね……」

先輩「はは……」

部長「でも、今は違うからね。今は『ただの』『仲の良い先輩』」

先輩「……」

部長「そんな、ただの先輩が、とやかく言える立場かしらね」

先輩「いや、私は、あいつにとって、それでも、先輩だし……」

部長「あのころみたいに?」

先輩「……」


ザァァーーーーーー


先輩「それは……」

部長「キツい言い方だけどね、後輩さんのプライベートに口を挟んで、それで、あなたから後輩さんに、何かしてあげられるの?」

先輩「ぅ……」

部長「今のあなたに」

先輩「今の、私は……」

部長「……」

先輩「……う、うどんとか、打てる」


ザァァーーーーーー


部長「……」

先輩「……」

部長「……手打ち?」

先輩「……はい」

部長「……」

先輩「……部活辞めてから、凝ってて」

部長「……いや、それはそれで、すごいけどね」

先輩「……」

部長「それだけ……?」

先輩「……め、めちゃめちゃ美味しいの作ります……」

部長「……」

先輩「……」

部長「……」

先輩「……丸天も、つけます……」

部長「……」

先輩「……」


ザァァーーーーーー






~放課後・廊下~


後輩「――あ、先輩」

先輩「……」

後輩「せんぱーい!」タタッ

先輩「……後輩」

後輩「……どうかしました?」

先輩「……私、絶対日本一のうどん職人になるから……」

後輩「はぁ」

先輩「お前に、最高のうどん食わせてやるからな……」

後輩「うわ馬鹿だこの人……。それより、今日一緒に帰れます?」

先輩「ん? ああ……」

後輩「今日、たぶん室内練習だから、居残りなしなんで。いつもよりは早いです」

先輩「おー。それじゃ、終わったら連絡くれー」

後輩「はいー」


~夕方・帰り道~


ザーーーーーーー


後輩「やっぱり、ちゃんと走れないと、ストレスたまるなぁ……」

先輩「犬かお前は」

後輩「あー……、まだ降るのかなぁ」

先輩「……」

後輩「さっさと晴れないかなぁ」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……先輩?」

先輩「……んぁ」

後輩「どうかしました?」

先輩「へ? あぁ、いや、なんでもない。なんでもないよ?」

後輩「そうですか……?」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……先輩!」

先輩「あ、あぁ! うん! 聞いてる聞いてる」

後輩「もう、どうしたんですか! 何か今日、変ですよ、先輩!」

先輩「……んー」

後輩「……?」

先輩「いや」

後輩「先輩……?」

先輩「お前こそ」

今日はここまでです

後輩「え」

先輩「変だろ、ちょっと。最近」

後輩「そ、そんなこと、ないですよ……」

先輩「そんなことあるって」


ザーーーーーーー


先輩「なぁ……」

後輩「……はぃ」

先輩「なんか、あったんだろ?」

後輩「……!」

先輩「えっと……それってさぁ、やっぱ私にも、言いたくない?」

後輩「……それは」

先輩「……」

後輩「っ……先輩」

先輩「うん」

後輩「あの、わ、私……っ」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……本当に、なんでもないんですってばぁ」

先輩「……」

後輩「あはは、やーだなぁ、もう。何変な顔してるんですか、変な先輩ー」

先輩「……だよなぁ」

後輩「え」

先輩「そーだよなー、隠し事なんて器用な真似、お前には無理だもんなー、馬鹿だからー」

後輩「ちょっとぉ! 何ですかそれぇ!」

先輩「うーるせぇー。あー、心配して損したぁー」ガツッガツッ

後輩「わっ、ちょっと! 傘に傘ぶつけんのやめてください! つめたっ! 雨入る! つめたい!」

先輩「よーし、うどん屋行くぞぉー」ガツガツ

後輩「やーめーてー」



ザァァー…………






~うどん屋~


後輩「うどん、丸天ー」

先輩「私はー……」

後輩「……」

先輩「……おっちゃん、この『イカ墨ゲソ天』って何」

うどん屋「イカのぉ~……」

先輩「……」

後輩「……」

うどん屋「天ぷらぁ~……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……じゃあそれで」

後輩「……おぉ」






先輩「……」

後輩「……」


後輩(……何で、嘘ついちゃったんだろう)

後輩(私の馬鹿……)

後輩(……完全に、先輩に話すタイミングを失いました……)


後輩「……」


後輩(どうしよう……)

後輩(このまま、先輩に隠し通せるのか――……)


うどん屋「おまちぃ~……」

先輩「黒っ!」

後輩「うわ黒っ!」

先輩「……」

後輩「……うわぁ」

先輩「……」パキ

後輩「……」パキッ

先輩「……うわ、なんかネチョっとしてる」

後輩「……」

先輩「こ、後輩ちゃん? ちょっといる?」

後輩「いらないです……」

先輩「……」

後輩「……いただきます」

先輩「……」ゴクリ







先輩「……」ゴト

後輩「……」コトッ

先輩「ごちそうさまでした」

後輩「ごちそうさまでした」

先輩「……ぁー」

後輩「……先輩、イカ墨天……」

先輩「めちゃめちゃ美味かった」

後輩「えぇぇ……」

先輩「イカ墨のクセのある塩味が、うどんだしによく馴染んでですね、とろみのある衣が麺に絡みまして」

後輩「マジですかぁー……」

先輩「冒険してみるもんだわぁ」

後輩「明らかに食べちゃいけない感じでしたけどねぇ」

先輩「……今日どうするよ? ウチ来るか?」

後輩「あ、いいですか?」

先輩「いいぜー。そうだ、こないだ、新しいDVD買ったんだよね」

後輩「怖いヤツ?」

先輩「怖いヤツ」







~夜・先輩の部屋~


\キャッ……ナニイマノォ……/


先輩「うわ……っ」

後輩「え?」

先輩「いや、今写ったじゃん。人の顔みたいなの」

後輩「嘘、写りましたか?」

先輩「写った写った。見えただろ?」

後輩「えー、どの辺でした?」

先輩「あの辺、画面の左上の……」

\モウイチドゴランイタダコウ……/



先輩「ほら、左上の、あそこにな、もうすぐ写るから」

後輩「は、はい」ゴクリ



\ミギハシニ、オンナノスガタガクッキリト……/



先輩「……」

後輩「……」






先輩「……」

後輩「……」

先輩「」ビクッ

後輩「……ムニャ」

先輩「……あ」

後輩「……グゥ」

先輩「……また寝るし」

先輩「はぁ……」


先輩(なーんで……)

先輩(何も言わねーのかなぁ……)

先輩(……『なんでもない』なんて)

先輩(そんなわけねーだろ、馬鹿……)

後輩「……」Zzz

先輩「……ったく、ベッドで寝ろっての」ガシ

後輩「……フニャ」Zzz

先輩「よいしょっと……」フニッ

後輩「……」Zzz

先輩「……?」

後輩「……」Zzz

先輩「……」モミ

後輩「……ん」

先輩「……」フニフニ

後輩「……ん、ぅ」

先輩「……」モミモミ

後輩「……ぅう~ん」

先輩「……うぉ」


先輩(……おおきくなってる)


先輩「……」

後輩「……ンヘヘェ」


先輩(……こいつも)

先輩(成長してるんだな……)

先輩(ちんちくりんのままだと思ってたけど、いつの間にか……)

先輩(私の知らないうちに、成長して)

先輩(大人になって、色んなことがあって……、色んな人と出会って)

先輩(私の関係ねーところで)


先輩「……」



先輩(私は……)

先輩(陸上やめて、ただ毎日、だらだら過ごして……)

先輩(なーんにも、成長してなくて……駄目なヤツのまんまで、変わらなくて……)



先輩「……はぁ」

先輩(後輩には、後輩の人生があって)

先輩(その中で、ちゃんと成長してるのに……)

先輩(私は……私の人生って……何だ……?)



先輩「……うぁー」



先輩(……なんか)

先輩(……泣けてきた)



先輩「……」グスッ

後輩「……しぇんぱぃぃ……」Zzz

先輩「なんだよばかぁ」グス

後輩「……ウヘヘ」

先輩「なんの夢だよ……」

今日はここまでです




~数日後、昼休み・一年生教室~


後輩「……」モミモミ

先輩「……」

後輩「……」モミモミ

先輩「……うぁー」

後輩「……」モミモミ

先輩「あっ、そこそこ、もうちょい下」

後輩「どっちですかぁ……」モミモミ

先輩「あー、そこ。そこでいいって。……いや、お前上手いな、肩揉み」

後輩「何が悲しくて、先輩の肩なんて揉まなきゃいけないんですか……」モミモミ

先輩「じゃんけんで負けたお前が悪い」

後輩「うぅぅ……」モミモミ

先輩「うぁー」

後輩「……」モミモミ

先輩「あー、気持ちい」

後輩「おばあちゃんですか」

先輩「うーるせえ」

後輩「……」モミ

先輩「……」

後輩「……?」モミモミ

先輩「……なんだよ」

後輩「いえ……、いつもなら、アイアンクローが飛んでくるところだったので」

先輩「ははっ、しねーよそんなこと」

後輩「そ、そうですか」

先輩「そうですよ。おら、ちゃんと揉めー」

後輩「はーい……」モミモミ

後輩(最近の先輩、……なんだろう)

後輩(優しい? というか、まとも……? いや……)

後輩(なんというか……)

後輩(普通だ……)

後輩「……先輩、今日放課後、一緒に帰ります?」モミ

先輩「おう。あー……いや、今日パス」

後輩「えぇー……」

先輩「えぇー、ってなんだよ」

後輩「つまんないです……」

先輩「だったらたまには、部活のヤツとか、あと色々、一緒に帰ったりさ」

後輩「色々って何ですかぁ」

先輩「色々は色々だろ」

後輩「……」



後輩(それから……)

後輩(あんまり、一緒に帰ってくれなくなったような気がする……)



後輩「……むぅ」







~夕方・グラウンド~


部長「後輩ー! ラストー!」

後輩「……っ!」ダッ

部長「はいゴール!」

後輩「……ハァ ハァ」

顧問「後輩! 来い!」

後輩「センセイ……」ゼェゼェ

顧問「お前、どんどんフォームが雑になってる! 何だ最後の一周! ペースも無茶苦茶!」

後輩「……」

顧問「どんどんタイム落ちてるだろーが! 大会本気で出さねぇぞ!」

後輩「はい……」


後輩(……部活なんて)

後輩(全然楽しくないし……)


部員2「後輩ちゃん? 大丈夫……?」

後輩「……っ」ダダッ

部員1「あっ……」

部員2「……」



後輩(大会だって、興味ないし……)

後輩(……私は、ただ走れればいいんだ)

後輩(速く走れれば、それはもちろん、うれしいけど……)

後輩「ハァ ハァ」タッタッタッ


後輩(とにかく、走って、走って、走って。走って……、走って)


後輩「ハァ ……っ」タッタッタッ


後輩(あのときの、先輩みたいな……)


後輩「……」タッタッ


後輩(先輩――……)



後輩「……」タッ……

後輩「……」

後輩「……ぁ!」

後輩「あぁ……っ!」



後輩(先輩……! もしかして……)

後輩(気付いた!? 私のおっぱい……)

後輩(おおきくなってることに!)

後輩「あ……ぁ……」


後輩(そうだ……、でも、きっと私を気遣って――……)


~ポワワワ~


先輩『お前が悪いわけじゃないさ』

先輩『胸なんて、大きくなるヤツは、勝手に大きくなっちゃうんだから……』

先輩『そんなことで、お前との付き合い方を変えたくないよ』

先輩『分かってる……でも……』

先輩『やっぱり、気持ちの整理を、付けられないんだ……』

先輩『だから、しばらく……距離を置きたい……』

先輩『ごめんな……』


~ポワワーン~

後輩「……」

部長「……後輩さん? ちょっと、後輩さん?」

後輩「……っ」ウルウル

部長「えっ!」

部員1「あー……」

部員2「部長が後輩ちゃん泣かしたー……」

部長「えっ!? えぇ!?」






~夕方・うどん屋~


先輩「素うどんー」

うどん屋「あい~……」

先輩「……」

先輩「……ふぅ」

うどん屋「……今日はぁ~」

先輩「ん」

うどん屋「一緒じゃねぇのか、あのちっさい子ぉ……」

先輩「……まぁね」

うどん屋「……ケンカかい」

先輩「あはは、違うよ。たまたま」

うどん屋「……」

先輩「……ま、私とうどん食ってるだけが、あいつの人生じゃないってことさ」

うどん屋「……そうかいぃ」

先輩「うん」

うどん屋「……」

先輩「……」

うどん屋「……」

先輩「……」

うどん屋「……お待ちぃ~」

先輩「……何か、乗ってるけど」

うどん屋「サービスぅ~……」

先輩「いや、サービスじゃなくて、なに……何これ」

うどん屋「塩辛とヌタのぉ~……」

先輩「……」

うどん屋「天ぷらぁ……」

先輩「……」

うどん屋「……」

先輩「……」パキ

先輩「……いただきます」

うどん屋「……」

先輩「……」ズルルー

先輩「……」モグモグ

先輩「……」

先輩「……ハフ」

先輩「……」モグモグ

先輩「……んグふぉ!?」

先輩「……げほっ、げほ……」

うどん屋「……」

先輩「……」モグモグ

先輩「……ングッ」ゲホッ

うどん屋「……」






~夜・後輩の家~


後輩「……」

後輩「……はぁ」


後輩(うどん、食べたくなってきた……)


後輩「……」

後輩「……」

後輩「……」ガタ

後輩「……」



後輩(走ろう……)

後輩(走って、モヤモヤしてるの、全部忘れよう……)

後輩(走って、走って、走って、忘れなきゃ、全部)





後輩「……」タッタッタッ



後輩(走らなきゃ、走らなきゃ、走らなきゃ)

後輩(走らなきゃ、走らなきゃ、走らなきゃ)

後輩(走って、走って……)



後輩「……」タッタッタッ

後輩「……っ」ダッ



後輩(走らなきゃ、もっと速く)

後輩(もっと、もっと、もっと――……)



後輩「……ハァ ハァ」ダッダッダッ

後輩「……――」








~別の日・一年生教室~


先輩「おじゃましまー……あれ」


ガヤガヤ

ガヤガヤ


先輩「……」キョロキョロ

先輩「……?」

先輩「……」

先輩「……ねぇねぇ、ちょっと」

級友1「ひゃ! ご、ごめんなさい!」ビクッ

先輩(なんか謝られた……!)

先輩「いや、大したことじゃないんだけどさぁ」

級友1「私、何かしました……?」ビクビク

先輩「……」

先輩(……露骨にビビられてる……)

先輩「あ~……、あのね」

級友1「は、はい」

先輩「ちょっと、聞きたいんだけど」ニッコリ

級友1「あ……はい……」ドキ

先輩「後輩のヤツ、どこか知ってる?」

級友1「えっと、後輩ちゃんなら……」

先輩「うん」

級友1「あそこに」チラッ







~グラウンド~


後輩「……ゼハ ゼハ」タッタッ

後輩「……っ、……ハァ ハァ」タッタッタッ







先輩「……」

級友1「最近は、昼休みもしょっちゅう、ああしてるみたいで」

先輩「……そっかぁ」

先輩「……」

先輩(後輩……)

ガヤガヤ

ガヤガヤ


級友1「……」

級友2「ちょっと! ねえ!」

級友1「え……?」

級友2「え、じゃないわよ! 何で上級生に絡まれてんの!」

級友1「あ、うん……」

級友2「大丈夫だった? 怖いことされなかった?」

級友1「うん……かっこよかった……」

級友2「はぁぁ!?」






~放課後・グラウンド~


後輩「……」

部員1「後輩ちゃん、メンバー選ばれたんだってね!」

後輩「えぇ、まぁ……」

部員2「さすがー。やっぱり、5000は後輩ちゃんがウチで一番だねー!」

後輩「……すみません、走ってきます」

部員1「あ……!」

部員「……行っちゃった」

部長「後輩さん!」

後輩「部長……」

部長「ちょっとね、いいかな」

後輩「はい……」

後輩(いいから早く、走りたいのに……)

部長「今回は、あなたも大会メンバーに選ばれたわけだけどね、最近はタイムも伸びてないじゃない」

後輩「……」

部長「走り方も、分かってないと思うけど、かなり崩れちゃってるし……」

後輩「……」

部長「大会まで日がないしね、メンバーとしてね、一度自分のランを見直す必要がね――……」

後輩「すみません……、そういうの、走りながら考えさせてください」

部長「……あのね、そういうわけにもいかないよね。ちょっと、大会メンバーとしての自覚が足りないんじゃ――……」

後輩「……」ペコリ

部長「あっ、ちょっと! こら!」

後輩「……」タッタッタッ

部長「まったくもう……」

後輩「……ハッ ハッ」タッタッ

後輩「……」



後輩(どうでもいいです、大会なんて……)

後輩(つまんないし、面倒くさいし……)

後輩(部活なんて……)



後輩「……ぁー」タッタッ


後輩(……やめちゃおっかな、部活)


後輩「……」タッ

後輩「……ハッ ハッ」タッタッ


後輩(……そうだ、やめちゃえばいいんだ)

後輩(走るだけなら、いつでも、どこでもできます)

後輩(部活じゃなくても、別によくて)

後輩(そうすれば放課後だって、早く帰れますし、先輩とも――)


後輩「……」タッタッ

後輩「…………」タッタッタッ


後輩(……先輩)






~夜・公園~


後輩「……イッチニィ」グッグッ

後輩「……サンシー」グッグッ


後輩(……何かもう……)

後輩(全部どうでもいいや……)


後輩「……」グイーッ


後輩(走ろう。走ります)

後輩(走って、走って……)

後輩(そうすれば、どうでもいいことなんて……)

後輩(全部、忘れて……)

後輩「……ぉし」タッタッ


後輩(……そうだ、こうやって)

後輩(走って、走って、走って……つまんないこと、忘れて)

後輩(先輩のことだって……)


後輩「……ゼッ ゼハッ」ダダッ


後輩(そもそも、先輩のことなんて、最初から気にしなければいいんだ)

後輩(私に何にも言わないで、部活やめちゃうし)

後輩(誘わなきゃ一緒に帰ってくれないし)

後輩(意地悪言うし、すぐぶつし)

後輩(胸ないし)

後輩(先輩なんて……)


後輩「……っ!」ダッダッダッ

後輩「……――っ ――! ――」








部長『はーい、体験入部の一年生は、ここに並んでねー』


ゾロゾロ


後輩『……』

部長『体験入部といってもね、今日は見学だけですけどね。えーっと――……』


後輩『……』

部長『……――で、あっちのメンバーは短距離チームですね。中には長距離もやってる人も――』



後輩『……』


後輩(つまんない、な……)

後輩『……』


後輩(走るだけなら、どこでもできるし……)

後輩(……陸上部、別に入らなくてもいいかもしれません……)



部長『トラックの方はね、今、5000メートルの練習中ですね。って、一人だけですけど――……』

後輩『……』

後輩『…………あ』



先輩『……ハッ ハッ』ダッダッダッ



後輩『……!』

後輩(速い……!)



先輩『……っ!』ダダッ



後輩(あの人、すごい……! まだ速くなるんだ……!)

後輩(それに……)

後輩(すごく、綺麗な走り方……)

後輩『……』

先輩『……ハァ ハァ……、ん……?』

後輩『……』ポケー

先輩『おい、おーい』

後輩『……ハッ』

先輩『……あんた、一年? 体験入部だろ?』

後輩『は、はい!』

先輩『……いいのか? みんなもう、ゾロゾロどっか行っちまったぞ?』

後輩『へェ!?』

先輩『……』

後輩『えっ、あ……!? あれ……どうしよ……っ』キョロキョロ

先輩『……なぁ』

後輩『……は、はい』

先輩『あんた見てただろ、私、走ってるの。ずっと』

後輩『……』コクン

先輩『どうだった?』

後輩『そのっ……き、綺麗でした! それで、すごく迫力あって! あと……』

先輩『っはは、テレビのセールスかよ』

後輩『あっ……』



後輩(笑うと……)

後輩(えくぼ、できるんだぁ……)

先輩『なぁ』

後輩『はい』

先輩『走る? 一緒に』

後輩『え……』

先輩『走りたいんだろ? ずっとこっち見てたし』

後輩『あ……は、はい!』

先輩『よーし、じゃあ行こうぜー』グイッ

後輩『……あっ、あの! 先輩!』

先輩『ん?』

後輩『……もしかして、男の人、ですか……?』

先輩『……』ベシッ

後輩『いたい!』








後輩「……――ゼヒッ ゼヒ」タッタッタッ

後輩「……ゲホ」

後輩「……ぅぐ」

後輩「……」

後輩「……ぉぇぇ」バシャ

後輩「……ハッ ハッ」

後輩「……っ」バシャッ

後輩「……はぁ、ハァ……」

後輩「……ゲホッ」

後輩「……しぇんぱい」

先輩「――後輩?」

後輩「……?」

先輩「え、後輩? は? 何してんだお前」

後輩「……先輩こそ……なにして……」

先輩「いや……コンビニ行こうと思って……、って、お前、なんでこんなとこ……まさか、走って?」

後輩「こんな、とこ……?」

先輩「……いや、ここ」

後輩「……」

先輩「ウチの前……」

後輩「……あ」

今日はここまでです

いっぱい書きました(小並感)


後輩「……」

先輩「……」

後輩(本当だ……)

先輩「……ってかお前、モドした? おい、大丈夫かよ、おい」

後輩「……」

先輩「とにかく、ウチ行くぞ。な、歩けるか?」

後輩「……」ヨロッ

先輩「ほら、肩」

後輩「ぁ……」

先輩「行くぞ」

後輩「……」コクリ







~先輩の部屋~


先輩「……ほら、水」

後輩「……大丈夫です」

先輩「飲めよ。いいから」

後輩「ありがとう、ございます……」

先輩「……はぁ」

後輩「……」グビ

先輩「ったく、お前は……、嫌なことがあるとすぐそうやって……」

後輩「……」

先輩「ムチャするなよー、本当にー……」

後輩「……」

先輩「っていうかそれ、気は晴れても、問題解決にはならねーんだからな」

後輩「……」

先輩「はは、体育会系ネクラめ」

後輩「……」

先輩「……なぁ」

後輩「……」

先輩「……そんな顔してるくらい悩んでるなら、誰かに相談しろって」

後輩「……」

先輩「……私に言えってことじゃなくてな?」

後輩「……」

先輩「私はさ、本当、駄目だし、どうしようもないからさ」

後輩「……」

先輩「でも、私にじゃなくてもさ。お前の周りは、色んなヤツいるんだから」

後輩「……もん」ボソ

先輩「部活の連中でも、クラスでも、家族でも、何でも――……」

後輩「……――じゃないもん」

先輩「……ん?」

後輩「……先輩、駄目なんかじゃないもん」

先輩「お、おう」

後輩「駄目じゃないもん! だ、駄目じゃない……、先輩、どうしようもなくないもん……!」

先輩「もん、ってお前……後輩、どうした? おい……?」

後輩「先輩は、先輩が……っ、本当は、いちばん……、すごくて……っ、ぅぐ」ポロポロ

先輩「うわっ! ばか、泣くなお前!」

後輩「ェぐっ……、みんなぁ……知らないだけだもん……、しぇんぱいがぁ……どんな人かぁ……しらないんだぁ……ヒック」ポロポロ

先輩「な、何言ってんのこの子は……、分かった、分かったから落ち着いて……!」

後輩「ぜんぱい゛ぃ゛……」ヌギ

先輩「え?」

後輩「ごべんなさ゛い゛ぃ……」ヌギヌギ

先輩「……え、何が。っていうか、え、何で脱いだの? え?」

後輩「わ゛だし゛……、おっぱい゛おっきくな゛っだぁ゛……」ポロポロ

先輩「……うん。え? え?」

後輩「う゛え゛ぇ゛ぇぇん」ポロポロポロ

先輩「……うん、うん? ねぇ待って分かんない私」






~後輩による赤裸々な事情説明~




後輩「…………」

先輩「アッハハハハ!! アハハハハハハ!!」

後輩「…………」

先輩「アハハハ!! アーッハッハハハ!!」バンバン

後輩「…………」

先輩「はぁー……、はぁー……」

後輩「…………」

先輩「ふっ……ぶふっ……アハハハハ!!」

後輩「……ちょっと! もう! 笑いすぎですよぉ!」

先輩「はっ、ははっ、わる……悪い……」

後輩「もう……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……ングフッ」

後輩「……」

先輩「……アーハハハハ!」バンバン

後輩「もーおーやぁーだぁー」

先輩「あー腹いて。はぁー……」

後輩「……」

先輩「後輩ちゃーん……」

後輩「……はい」

先輩「ばーか」

後輩「ムカつくっ……」

先輩「お前、胸が大きくなって、気まずいとか……、いやぁー……、お前……」

後輩「……」

先輩「ばっかだなー本当……」

後輩「うるさいなー! こ、こっちは、これでも真剣に悩んでたんですよ!」

先輩「どれどれ、ちょっとよく見せろ」ズイッ

後輩「あ……いや、そんなじっくり見られると、恥ずかしいんですけど……」

先輩「なーに照れてんだ、自分から脱いどいて、……うわー、ブラ痕真っ赤……」

後輩「ブラ、前のサイズのままだったから……、先輩にバレないように……」

先輩「はぁぁ……」

後輩「ため息つかないでください!」

先輩「んじゃ、新しいの買い行こうぜ、週末あたりさぁ」

後輩「あ……」

先輩「あ、でも土曜、部活か」

後輩「ご、午前中で終わるから……」

先輩「じゃあ午後からか。街中の方の駅前でいいかー?」

後輩「はい……、あ……の……」

先輩「ついでに昼もあの辺食べようぜ」

後輩「……あのっ、先輩!」

先輩「ん」

後輩「私……、おっぱいおっきくなっても……、先輩、一緒に遊んでくれるんですか……?」

先輩「…………………………」

後輩「何ですかその表情ー!」

先輩「馬鹿馬鹿しすぎて答えたくないんだけど……」

後輩「あー! またバカって言ったぁ! もうバカっていうの禁止ですー!」

先輩「ばーかばーか」

後輩「うーるさーいー!」

先輩「いい加減服着ろよバカ」

後輩「汗でビショビショなの! 着たくないの!」

先輩「スウェット貸そうか?」

後輩「う、うん……」

先輩「シャワーは?」

後輩「うん……使う……」








~土曜・市街駅前~


先輩「……」ボケー

先輩「……」

先輩「…………ふァ」

先輩「はぁ……」


先輩(なーにが、『おっぱいおっきくなったぁ』だ……)

先輩(ばかだなぁ、アイツは……)


先輩「……」


先輩(別に……)

先輩(私だって、そのうち……あのくらいだったら……)


先輩「……」サワサワ

後輩「あっ! 先輩いた! 先輩!」

先輩「うおぉ!?」ビクッ

今日はここまでです

後輩「すみません! 部活、長引いちゃって……」

先輩「いや、うん、いいのよ、全然」アセアセ

後輩「? どうしま……し…………えぇぇー……」

先輩「な、なんだよ」

後輩「先輩がぁー……、かわいい服着てるぅー……」

先輩「い、いいだろ別に……!」

後輩「やーぁーだー……、私だっさいブレザーだもん、一緒に歩くのやだぁー……」

先輩「何が嫌なんだよ。誰も気にしねーから、そんなこと」

後輩「気にするぅー……、おうち行くー……着替えてくるぅー……」

先輩「うわ、クソ面倒臭いこいつ……」

後輩「臭……、あ……やばい、私、汗くさいかも」スンスン

先輩「大丈夫だっての! ああもう!」

後輩「やだ、これ、先輩と一緒に歩くの嫌です。帰る」

先輩「帰んなバカ! ほら、もうさっさと行くぞ!」グイッ

後輩「やーだーもーうー、一回おうちかーえーるー……」

先輩「行ーくーぞー」グイグイ

後輩「うーあー……」






~市街・喫茶店~


先輩「……」

後輩「……」ハムハム

先輩「……」

後輩「……おいっ」

先輩「……」

後輩「っしい……!」

先輩「うまいだろー、この店のミルフィーユー」

後輩「はい!」ハムハム

先輩「よかったなー」

後輩「~♪」ハムハム

先輩「……」

後輩「……?」ハム

先輩「……」

後輩「……なんです?」

先輩「いや……、すっかり調子戻ったなーって」

後輩「私?」

先輩「うん。こないだは、ビービー泣いてたのに」

後輩「ビービーなんか、泣いてないですよぉ……」

先輩「泣いてたじゃねーか」

後輩「せめて、ピーピーくらいですって」

先輩「変わんねーから。どっちでもいーから」

後輩「いえ、ピーピーの方がまだ可愛げが――……」

先輩「…………お前さ」

後輩「はい?」

先輩「悩んでたのって……、本ッ当に、胸のことだけなの?」

後輩「い……、いいじゃないですか、別に」

先輩「そうじゃなくて。……実はもっと他に、マジで悩んでるとか、ないんだな?」

後輩「えと……、たとえば……?」

先輩「たとえばー……、……好きな男が、できたとか……」

後輩「ブッ!」

先輩「どうなんだ?」

後輩「あははははっ! ないですよ、ないない!」

先輩「……」

後輩「もぉー、マジメな顔で何言い出すのかと思ったらー」

先輩「……そっか」



先輩(部長、大ハズレですよ、アンタのカン……)



後輩「どうしたんですか、急に」

先輩「いや、部長って残念な人だな、って……」

後輩「へ? 何で部長……?」

先輩「いやいや、こっちの話」

後輩「?」

先輩「ま、分かった……けど、後輩」ズイ

後輩「は、はい?」

先輩「お前な、何か悩みができたら、絶対誰かに相談しろよ」

後輩「なんですか急に……」

先輩「黙ってたら、一人で抱え込んで、勝手に落ち込んじゃうだろ、お前」

後輩「う……」

先輩「埒明かなくなって、どうしていいか分からなくて、走り回ってさぁ。どーせ、クソつまんねーことなのにさー」

後輩「また、そうやってバカにするし!」

先輩「本当のことだろー?」

後輩「それは……、まぁー……」

先輩「だから、ひとりで悩まない! お前がさ、もし、言いにくいことでもな、私に――……」


~~~~

部長「確かに、あなたが陸上部にいたころは、あの子にとって『憧れの先輩』だったけどね、あなた」


部長「でも、今は違うからね。今は『ただの』『仲の良い先輩』」



部長「そんな、ただの先輩が、とやかく言える立場かしらね」



部長「キツい言い方だけどね、後輩さんのプライベートに口を挟んで、それで、あなたから後輩さんに、何かしてあげられるの?」


~~~~


先輩「……――わ、私にじゃ、なくても、いいんだけど……」

後輩「?」

先輩「とにかく、誰でもいいから、言うこと!」

後輩「ちぇー……、わかりましたよぉ、だ」ハムハム


先輩(くそう……)

先輩(部長め……)

先輩(残念なくせに、妙にグサッと来ること言いやがって……)


後輩「……おいひい」ハムハム

先輩「クリームついてる」

後輩「……」ゴシゴシ

先輩「……食べ終わったら、下着屋行こうな」

後輩「はい」






~市街・ランジェリーショップ~


後輩「わぁ……、綺麗なお店ぇ」

先輩「最近できたんだと」

後輩「へぇぇ……、あっ、先輩見て見て! これすごい!」

先輩「うっわ、何それ」

後輩「……ど、どういう仕組みですか、これ」

先輩「……多分、ここが、こう……で、ここが開いて……」

後輩「うわ……」

先輩「うわぁ……」












~夕方~


後輩「いっぱい買ったぁ……」

先輩「結局、あちこち周ったなぁ」

後輩「部活のは、スポーツショップ行かないと、ないんで」

先輩「もっと可愛いヤツ、買えばよかったのに……」

後輩「せ、先輩のチョイスだと、フリフリのヤツばっかりなんですもん」

先輩「可愛いじゃん」

後輩「もっとシンプルなのがいいんです!」

先輩「あー、そう」

今日はここまでです

先輩「……」テクテク

後輩「……」テクテク

先輩「うわー……、結構いい時間になったなぁ……」

後輩「……」

先輩「暗くなるの早ぇなぁ……」

後輩「……」

先輩「……あー」

後輩「……」

先輩「……さみ」

後輩「……先輩」

先輩「ん」

後輩「今日は、ありがとうございました」

先輩「あはは、何だよ、いいよ、そういうの」

後輩「先輩がいてくれて、よかったです……」

先輩「な、何だよ、急に……」

後輩「私、人付き合いとか、下手くそで、苦手で……」

先輩「……」

後輩「……クラスの皆とかも、何を話してるのか、全然分かんないし、部活も……」

先輩「……」

後輩「……距離感? っていうか……何言ったら嫌がられる、とかも……分かんないし……怖いし……」

先輩「バカだもんなー」

後輩「何で茶化すんですかぁ! もう、マジメに言ってのに!」

先輩「ははは」

後輩「……先輩は、先輩なら……」

先輩「ん」

後輩「……そうやって、ばーか、って言って、笑ってくれるから……」

先輩「……」

後輩「先輩には、何でも話していいんだって、思いました、私」

先輩「……別に、私だけじゃないだくて、誰でもそんなもん――……」

後輩「先輩だけですよぉ」

先輩「……」

後輩「先輩は特別なんです!」

先輩「……特別」

後輩「はい」

先輩「部活辞めちゃっても?」

後輩「はい」

先輩「……後輩より胸がなくても?」

後輩「……ええ、一緒に走ってくれなくても、妖怪えぐれ乳でも、私にとって特べ――」

先輩「……」メリメリメリメリ

後輩「いだだだだごめんなざいごめんだざいギブギブギブギブ」

先輩「……お前、人を面白妖怪みたいに言うのやめろな」

後輩「ごべんなさい……」



先輩(特別――……)

先輩(私は、こいつにとって、特別でいられるほど……)

先輩(何かを、してあげられて、いるんだろうか……?)


先輩(何を、してやれるんだろうか……?)


先輩(……)



先輩「……?」

先輩「……あれ?」

先輩(……そもそも、私は何で)

先輩(こいつに、何かしてやりたいって思ってるんだ?)



先輩「……んぁ?」

後輩「先輩?」


先輩(……『特別』でいたいのか? 私は……?)

先輩(……『ただの先輩』じゃなくて……)


先輩「あ、いや、何でもねー」

後輩「変なのー」ケラケラ

先輩「……」


先輩(……あ、そっか)

先輩(違うんだ)

先輩(私は……、)


後輩「じゃ、私バス停こっちなんで」

先輩「……おう。気ぃつけてなー」


先輩(後輩にとって、特別でいたいとか……、)

先輩(そういうわけじゃなくて……)


先輩「……後輩!」

後輩「はい?」

先輩「大会、がんばれよ!」

後輩「えぇー……」

先輩「……何だその顔」

後輩「ダルいです……」

先輩「応援、行くよ。私も」

後輩「本当ですか!」


先輩(私にとって、後輩が――……)


先輩「おう」

後輩「じゃ、ちょっとがんばります」

先輩「おう、優勝したら、うどん奢ってやる」

後輩「しょぼい」

先輩「丸天もつけるから」

後輩「しょぼいですって。もう、別にそんなのなくてもがんばりますから」



先輩(……そうだ)

先輩(そうなんだ)


先輩「がんばれよ」

後輩「うん」



先輩(私、こいつのこと――……)









~数日後・夕方、うどん屋~


うどん屋「相手に、何かしてやりてぇ、ってぇ気持ちはぁ~……」

先輩「……」

うどん屋「そいつに想われたくてぇ、そういう気持ちになるんじゃねぇ……」

先輩「……」

うどん屋「そいつのことを想ってるからぁ、なるもんだぁ……」

先輩「……はぁ」

うどん屋「……」

先輩「いいこというねぇ……」

うどん屋「……」

先輩「……って、何の話だよ」

うどん屋「天ぷらぁ……」

先輩「うん?」

うどん屋「アンタが毎回、オレのスペシャル天ぷら頼むからよぉ~……」

先輩(スペシャル天ぷら……)

うどん屋「……いつの間にかぁ、アンタに『すげぇ!』って言われたくてぇ……、スペシャル天ぷら作ってたぁ……」

先輩「そ、そうなの……?」

うどん屋「あぁ……、でもなぁ~……、最近じゃアンタがどう思うかばかり追いかけてぇ……、正直、迷走してたぁ……」

先輩「あー。最近アレだったもんね」

うどん屋「……けど、やっと分かったぁ……」

先輩「……」

うどん屋「アンタの評価は関係ねぇ……、でも、アンタを喜ばすためにぃ、天ぷらぁ……作るぅ……」

先輩「……」

うどん屋「それがぁ……大事なんだってなぁ……」

先輩「な、なんか、照れるな……」

うどん屋「やっとできたぜぇ……、そんな天ぷらがよぉ~……」

先輩「へぇ」

うどん屋「頼んでみるかい……?」

先輩「どんなヤツ?」

うどん屋「フルーツポンチ天」

先輩「……」

うどん屋「頼んでぇ……」

先輩「……」

うどん屋「みるかいぃ……?」ニイィ

先輩「……」


先輩(これは……)

先輩(試されている……!)


うどん屋「……」

先輩「……」

うどん屋「……」

先輩「……じゃ、それひとつ」

うどん屋「はいよぉ~……」ニイィィ


先輩(やばい、嫌な予感しかしない)


うどん屋「……」

先輩「……」

うどん屋「……今日もぉ」

先輩「ん」

うどん屋「……一緒じゃ、ねぇんだなぁ、あのちっちゃいの……」

先輩「大会が近いからね。そっちに集中してんだよ」

うどん屋「そうかいぃ……」









~同時刻・グラウンド~


後輩「……ハァハァ」ダッ

後輩「……っ!」ダダッ



部長「……」ポカーン

部員1「速……」

部員2「うわぁ……」



後輩「……」ダッダッダッ

後輩「……ハッ ハァッ」ダッダッ


後輩(最近の不調の原因……)

後輩(やっと分かった気がする……)

部員1「後輩ちゃん、あんなに速かったっけ……」

部員2「いやあれ、調子崩す前より、ずっと速いよ……」

部長「……なるほど」



後輩「……ハァ ハァ」ダッ

後輩「……」ダッダッ


後輩(腕も振れる……)

後輩(呼吸も苦しくない……)



部長「……やっと、吹っ切れたみたいね」メガネクイッ

部員1「部長?」

部員2「部長?」



後輩「……っ!」ダダッ


後輩(不調だったのは……)

後輩(間違いない……)


後輩(ブラのサイズが合ってなかったから……!)

今日はここまでです








~大会前日・うどん屋~


後輩「じゃあ、私丸て――……」

先輩「後輩ちゃぁ~ん、今日はこれにしなよぉ~」ズイッ

後輩「どこから出してるんですか、その気色悪い声」

先輩「うっさいうっさい。いいからこれ、頼めって」

後輩「これって……?」

先輩「フルポン天」

後輩「……」


後輩「……」

先輩「……いや、マジ、すげーから」

後輩「じゃあ、それで……」

先輩「………………」

後輩「な、何ですか……」

先輩「……」ニイィィ

うどん屋「……」ニイィィ

後輩「嫌な予感しかしない!」

先輩「んじゃ、私はー……」

後輩「っていうか、メニューめっちゃ増えてますね……」

先輩「この、海老コーヒーかき揚げで」

後輩「コっ……」

うどん屋「あいよぉ~……」

後輩「コーヒー……」

先輩「それより」

後輩「はい」

先輩「どうよ、調子の方は」

後輩「それが……」

先輩「?」

後輩「先輩、私多分……」

先輩「おう」

後輩「今、人生で一番足速いです……」

先輩「あはは、すごいじゃん」

後輩「いや、本当ですよ? なんか、練習のタイムですけど、去年の県大会の二位の人より、速かったみたいですし」

先輩「マジで」

後輩「マジで優勝しちゃうかも……」

先輩「……あんまり、自分にプレッシャーかけすぎんなよ」

後輩「はい」

先輩「……」

後輩「……先輩?」

先輩「……」ナデナデ

後輩「……?」

先輩「なんか……」ナデナデ

後輩「……何です?」

先輩「撫でたくなった」ナデナデ

後輩「? 変な先輩……」

先輩「……明日、ちゃんと見に行くからなー」

後輩「はい、いっぱい応援してくださいね」

先輩「いや、応援はこっそり……」

後輩「いやいやいや! そこはちゃんと、最前列で声出ししてくださいよぉー!」

先輩「ばか、お前、明日学校サボって行くんだからな、私。センセーに見つかったらヤベぇから」

後輩「あ、そっか……」

先輩「念送って応援するわ」

後輩「あはは、絶対効かなそう」

先輩「舐めんな、すげぇ効くから」

後輩「ふふっ……、期待してますねー」

うどん屋「はいぃ……、お待ちぃ~……」

先輩「お、きたきた」

後輩「フルポン天……」

先輩「……」ニイィ

うどん屋「……」ニイィ

後輩「だから何なんですかそれ!」







~翌日・陸上競技場~


先輩「……うわ」

先輩「人いねー……」


先輩(……後輩)キョロキョロ

先輩(……)

先輩(……あ)

先輩(いた……)



後輩「……ハッ ハッ」タッタッ



先輩(……ウォーミングアップ中か)

先輩「……」

先輩「……」


先輩(今の内から念送っとこう)


先輩「……ムムムム」グググ







後輩「……ハァ ハァ」タッタッ

後輩「……」タッタ……


後輩(……あそこで変なポーズ取ってる人……)

後輩(先輩……だよね……)


後輩「……」タッタッ

後輩「……」タッタッタッ


後輩(恥ずかしいから、とりあえず気付かないフリしましょう)

部長「後輩さん」

後輩「はい!」

部長「もうすぐ出番ね」

後輩「はい。行ってきます」

部長「今日のレースは、県の強化選手にもなった西高の部長が出るからね。強敵だけど、がんばって」

後輩「……大丈夫です」

部長「……」

後輩「負けません」


後輩(先輩が、応援してくれてるんだ……)

後輩(がんばろう)

後輩(がんばります)


部長「行ってきなさい!」

後輩「はい!」






パァン


先輩(……はじまった)

先輩「……」

先輩「……あは、超なつかしー」

先輩「……」

先輩「……お」

先輩「……」

先輩「……いいじゃんいいじゃん」

先輩「……」

先輩「よし……」

先輩「……そうだ、逃げ切れ……」

先輩「……お前の得意な展開だろ」

先輩「……」

先輩「……おいおい!」

先輩「……」

先輩「……もっと離さねーと!」

先輩「……」

先輩「……ムムムム」グググ

先輩「……」

先輩「なに、あの金髪、速……」

先輩「……」

先輩「……あ、あ」

先輩「……」

先輩「……あーもう!」

先輩「……」

先輩「……っ!」


ダッ






後輩「……ハッ ハッ ハッ」ダッダッ


後輩(抜けない……!)

後輩(この人、速いっ……)


後輩「……ハッ ゼッ ゼハッ」ダッ


後輩(やば……)

後輩(もう、息が切れて……)

後輩(足が……)


後輩「……ゼェ ゼェッ」ダッ

後輩(くそ……っ)


後輩「……ゼェッ」


後輩(ダメだ……)

後輩(追いつけない……)

後輩(これ以上は……)


先輩「後輩ーっ!!」


後輩「!」


先輩「いけー!! いけいけいけ! 走れーっ!!」


後輩(先輩……!)

先輩「まだいける! 走れ走れ走れー!! いけー後輩ー!!」


後輩「……ハァ ハァ」ダッ

後輩「……っ!!」ダダッ


後輩(そうだ……)

後輩(まだいける……!)


後輩「……っ」


後輩(だって、あのときの……)


先輩「いけいけいけーっ!! ラストスパートだー!! 走れーっ!」


後輩(あのときの先輩は……)


後輩(もっと速かった!)



後輩「……っっ!」












~夕方・陸上競技場前~


後輩「……」

後輩「…………」

後輩「…………」ポケー


~~~~


先輩『まだいける! 走れ走れ走れー!! いけー後輩ー!!』


~~~~


後輩「……」

後輩「…………」ドクン


後輩(……先輩の応援が)

後輩(耳から離れません……)

後輩(まだ走ってる最中みたいに……)

後輩(心臓、バクバクいってて……)

後輩(顔熱い……)


後輩「……」

後輩「…………」

後輩「………………」


後輩(実際……)

後輩(うすうす、自覚はありましたが……)

後輩(これは……)

後輩(もしかして……)

後輩(私……、先輩のこと……)



先輩「よ」ポン

後輩「うひゃあ!」

先輩「お疲れ」

後輩「せ、せんぱ……」

先輩「……惜しかったな、後輩」

後輩「あ、あ、あ……」カアァ

先輩「でも、ホントあとちょっとだったじゃん」

後輩「あ、あわ、わ、私……」カアァァァ

先輩「今日はな、悔しい思いしたけど、次は絶対――……、……後輩?」

後輩「私、その、えと……先輩……、私……っ」

先輩「どうしたお前? 顔赤くねーか?」ナデ

後輩「あっ、あ……!」

先輩「あ?」

後輩「あ……っ、ご……」

先輩「ご?」

後輩「ごめんなさぁぁぁい!!」ダダダダッ

先輩「何がぁ!?」


ダッダッダッ……


先輩「……」

先輩「……えぇー……」

先輩「今日イチ出てるんだけど、あいつ……」

今日はここまでです








~数日後、うどん屋~


先輩「寒くなってきたなー」

後輩「ですねぇ……」

うどん屋「おまちぃ~……」

先輩「……」パキッ

後輩「……」パキッ

先輩「いただきます」

後輩「いただきます」

先輩「ん……」ズルルルル

後輩「ん……」ズルルルル

先輩「……」モグモグ

後輩「……」モグモグ

先輩「ぁー……、あったまるー」

後輩「……」

先輩「……」ズルル

後輩「……」

先輩「……うめー」ズルル

後輩「先輩」

先輩「んぐ?」ズルルル

後輩「す、好きです」

先輩「ブハッ……!」

後輩「……」

先輩「……ゲホッ ゲホッ」

後輩「付き合ってください!」

先輩「や、やだ」

後輩「……」

先輩「……」ズルルー

後輩「……」

先輩「ハフハフ」

後輩「……」

先輩「……おい?」

後輩「……うぇぇぇぇん」

先輩「泣いた!?」

後輩「ふーらーれーたーぁー」ポロポロ

先輩「当たり前だバカ」

後輩「何でぇぇー……」ポロポロ

先輩「いや、お前な、うどん啜りながら告白されてな、『素敵、嬉しい!』なんてなるか?」

後輩「?」

先輩「ならねぇからなバカ」

後輩「……シチュエーションが大事ってこと?」

先輩「常識が大事ってことだバカ」

後輩「いっぱいバカって言われました……」グシグシ

先輩「ほら、鼻かめ」

後輩「……」チーン

先輩「うどん冷めるぞ」

後輩「……」モグモグ

先輩「……」モグモグ

後輩「……丸天おいひい」

先輩「そうだな」






~先輩の部屋~


先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」


\コノエイゾウハ、トウコウシャガカゾクデリョコウニ……/


先輩「……」

後輩「……」


\ソノトキ、ブキミナスガタガウツリコンダトイウ……/


先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……せんぱぁい」

先輩「……んー?」

後輩「……私のこと、嫌い?」

先輩「……なんで?」

後輩「だってぇ……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……ばーか」

後輩「……」

先輩「……好きだよ」

後輩「ホントに?」

先輩「マジで」

後輩「……どれくらい?」

先輩「ちゅーしたいくらい」

後輩「ちゅ…………!?」


\オワカリイタダケタダロウカ……/


先輩「……」

後輩「……」

先輩「……後輩」

後輩「……は、はいっ!?」

先輩「ちゅーしていい?」

後輩「え、えっと……っ、あの、それは……っ」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……っ」ンーー

先輩「……ぷ」ペシ

後輩「あぅっ!」

先輩「キス顔おもしれーからやめろ」

後輩「ひ、ひどい!」


\モウイチドゴランイタダコウ……/


後輩「ご覧いただかない!」

先輩「あははは! あはははは!」

後輩「笑うなー!」

先輩「後輩」

後輩「何ですか、もぉー……」

先輩「こっち向いて」

後輩「えっ……」

先輩「……」

後輩「あ……っ」

先輩「ん――……」

後輩「……」

先輩「……」


後輩「……ん」

先輩「……」


後輩「……」

先輩「……」

後輩「……っは」

先輩「はぁ……」

後輩「……」

先輩「……」ナデ

後輩「せんぱぁい……」

先輩「ん?」

後輩「……私、今までずっと、内緒にしてたんですけど……」

先輩「おう」

後輩「……私ね」

先輩「何だよ」

後輩「先輩のハダカ、実はめちゃくちゃ興奮するんです……」

先輩「……あっはは」

後輩「……」

先輩「ヘンタイー」

後輩「……えへへ」

先輩「……後輩」

後輩「……」

先輩「おいで」

後輩「うん」








~おわり~




これで、このSSはおしまいです。

お読みくださった方、ありがとうございました。

コメントくださった方、とても嬉しかったです。ありがとうございました。

HTML依頼を出しました。
改めて、ありがとうございました。
あと第二章ないです。

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