【咲-Saki-】咲「麻雀って楽しいよね」 (241)


咲キャラでのむこうぶちパロ…の予定でしたが、予定してない方向に話が飛んでいきました。最後までお付き合いいただければ幸いです。

闘牌シーンのミスは各自で脳内補完をお願いします。一応見直しましたが、多分どっかやらかしてます。

>>1の原作の読み込みが甘いため設定におかしいところがあると思いますが、生暖かく見守っていただけるようお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413333348

『ツモ、8000オールでラストです』

『な…それ、さっきの俺の4筒で…』

『ツモれる手でしたので』

『ふ、ふざけんな!もう一回だ!レートを倍に上げるぞ!当然受けるよな!?』

『はい。なんなら五倍でもお受けしますよ?確か、お時間がないのでは?』

『そ、そうか?なら五倍だ!レート五倍でもう一回だ!』

ーー

咲「…麻雀って楽しいですよね」

カモ「ああ!?そりゃ勝ってるお前は楽しいだろうな!」

咲「ロン」

カモ「は?」

パタ

1222333444555p

咲「四暗刻単騎、64000。あなたの飛びで終了ですね」

カモ「あ、ああああああ…」


モモ「相変わらずの人鬼っすねえ」

ゆみ「人の姿をしているが、間違いなく鬼…彼女の角がその証拠、か。誰のセリフだったかな?」

モモ「忘れたっす。まあ、今回は私の出番がなくて良かったっすよ。流石にカイさんとは打ちたくないっす」

ゆみ「おまえもこんなところに来ないで表で頑張ればいいだろう?『デジタルモモ』」

モモ「本気の勝負はこういうところに潜らないと出来ないんすよ。表で本気出して八百長の疑いを何度もかけられたっす」

久「…あれが、カイ。人鬼か。知り合いに似ている気がするのよねえ…」

モモ「リンシャンさんっすか?」

久「ええ、髪は伸びてるし、打ち筋も雰囲気も変わってるけど…そう見えたわ」

ゆみ「だろうな。私もモモもそう感じた。そもそも、あれほどの強さの人間自体、咲を含めて数人しか思いつかない」

モモ「そのうえ、あのインターハイ以来行方不明っす。他の人間だと思う方が難しいっすね」

久「…和には言わない方が良さそうね。あの子絶対に来るわよ」

ゆみ「表のトップの一人が、裏の世界に、か。笑えないな」

モモ「あの人に来られたら私は商売あがったりっすよ。ま、金のために打ってるわけじゃないからいいっすけど」

ゆみ「注目を浴びたくないな。合法とはいえ、うちは高レートの裏雀荘だ。トラブルは避けたい」

モモ「法改正で、許可を得たレートの範囲でなら合法になったんすよね」

ゆみ「うちは点10万まで許可を取っている。さっきカイがやったレートがその天井だな」

久「合法の範囲でやってるのね。抜け目ないこと」

モモ「…追う気っすか?」

久「待ってても尻尾を出す手合いじゃなさそうだもの。高校の頃とは別人だわ」

モモ「あなたはあなたでみんなから探されてると思うんすけどね。長野に来たんだから顔ぐらい見せても…」

久「…あの子を連れ戻すまで、私も戻れないわよ。あの子をインハイに連れ出したのは私だもの」


ゆみ「…だそうだ。今なら急げば会えるぞ?」


久「へ?…ゆみ、あんたそれ…」

『…いえ、久さんが無事なのが分かって、声まで聞けたんです…十分です…グスッ』

久「…相変わらず、とんでもないことするわねあなた」

ゆみ「お前に関する情報が入ったらすぐに知らせろと、前金までもらっているからな」

モモ「チームのエースが毎晩泣いてるのも問題っすからね。止める気はなかったっす」

『桃子…ヒック…加治木さん…ヒック…ありがとうございます…』

久「…あの子を連れて、必ず戻るわ。ごめんね美穂子」

『はい…待ってます…私、ずっと待ってますから…』

久「じゃあ行くわ…すぐまた来ることになりそうだけどね」

モモ「基本は長野を根城にしてるっすけど、カイさんは神出鬼没っす。追うのは大変っすよ?」

久「さんざん味わったわよ…知ってるでしょ?悪待ちは得意なの」

ゆみ「…そうだったな。今度は咲と一緒に飲もう」

久「ええ。じゃあ、またね。美穂子をよろしく」

ゆみ「任された」


?「ふん!あとひっかけの洋榎とはうちのことや!」

?「やってられるか!ラストだラスト!」

モモ「…活きのいい獲物がいるっすね」

ゆみ「ああ、これなら奴が来るな…」

?「なんや?卓がかけてまうやないか?おーい、店長!誰かおらんの?」

モモ「卓が欠けるっすね。私が入るっす」

ゆみ「ああ、頼む」

?「済まんが、おれも手持ちが切れた。もう一人欠けるぜ」

カランカラン

久「打てる?」

ゆみ「ちょうど一人欠けたところだ。レートは…」

久「点10万よりは安いんでしょ?いくらでもいいわよ」

ゆみ「…まあ、お前ならそうだろうな」

?「ん?お前久やんけ!?まさかうちを追っかけて来たんか!?」

久「…見たことある口ね」

ゆみ「そこは顔と言ってやれ」

久「久しぶりね洋榎。でも、私の地元に来ておいてそれはないでしょう?」

洋榎「ああ、長野出身やったか…って、お前とは行く先々で会うから地元とか関係ないやんけ。…地元におるっちゅーことは、探し物は見つかったんか?」

久「長野にあるらしいって聞いて戻って来たのよ」



モモ「…もう一人のお客さんがお待ちかねっす。早く卓についてほしいっすね」

久「あら、ごめんなさい」

洋榎「…おい、待て、入るのは別にかまわんが、なんでプロがこんなとこにおるんや!?」

モモ「ここの店長と知り合いでして。高レートの卓が欠けた時に手伝いをしてるっす。この卓のレートはバイトのメンバーには荷が重いっすからね」

久「バイト代は場代の現物支給プラス勝ち分ってわけね」

モモ「そうっす。割のいいバイトっすよ」

洋榎「なら、今日のバイトは割の悪いバイトになりそうやな」

モモ「…場決めするっすよ」


「こんな卓で打ってられるかー!」

モモ「…まあ、こうなるっすよねえ」

久「あらあら、差し込んであげたのに」

モモ「目的が違う人が好き勝手暴れたっすから」

洋榎「おいおい、プロってのはこんなもんか!?久も腕なまったんちゃうか?半年前に打った時はあんなヘボに振ったりせんかったやろ」

ゆみ「ワン欠けか。済まないが、少し待ってくれるか?」

カランカラン

咲「…打てますか?」

ゆみ「ちょうど一人欠けたところだよ、レートは…説明する必要はないな?」

咲「はい」

洋榎「お、新しいカモがきたか!」

モモ「…」

久「さあ?カモとは限らないわよ?」

洋榎「はっ!この面子でカモれんやつなんか宮永照ぐらいやろ!」

久「ちょっ…」

咲「…打ちましょう」

モモ「…場決めするっすよ」


洋榎「泣く子も黙る洋榎様のリーチや!」

咲「…」

久「…」

モモ「…」

洋榎「なんや、誰か反応せーや。つまらん」

久(咲がこのリーチをどう捌くのか…今の咲の情報が少なすぎるわ。しばらく見に回らせてもらう)

モモ(三人がかりで勝てるかどうかの相手っす。一人で勝手に沈んでくださいっす)

洋榎「なあ、黒いの。あんた名前は?」

咲「カイ、と呼ばれています」

洋榎「カイかー、外人みたいな名前やなー」

咲「ツモ、300、500」

洋榎「は?」

久「はい」

モモ「500っすね」

洋榎「あああー!うちの倍満確定三面張がそんなゴミ手にー!?カッコだけやなく麻雀まで地味かあんたー!?」

咲「…」

久(地雷っぽいとこ平気で踏むわね洋榎。咲の反応がないのが怖いわ)

モモ(カイさんの地雷ワード。地味、妹、宮永照…私の知る限り、カイさんは基本的に生かさず殺さず毟るっす。しかし、これらを一つでも踏んだものは身ぐるみはがれてきたっす。あと一個でコンプっすね)

洋榎「絹とは大違いやな。あ、絹ってのはうちの妹なんやけどな。今プロで頑張ってる自慢の妹なんやでー!」

久(あ…)

モモ(「自慢の妹」…カイさんが嶺上さんなら完全な地雷っす。生きて帰れるっすかこのひと?)


半荘一回目

咲  25200

洋榎 15000

久  30200

モモ 29600


洋榎「あー、スッキリせんなー!大物張ったら流されてばっかや!もっかいやるで」

久(一人沈み…まさか、狙ってやってるの、咲?)

モモ(狩られる獲物は決まったっすね。私たちはこの人を一人沈みにするためにプラマイゼロにされるっす)

久(自分のマイナスは後で取り返せるから、預けてるだけってこと?)

咲「…では、続行ですね」

ーー

洋榎(手は入る。半ヅキっちゅうわけでもない、本手が入っとる)

洋榎(本手で引いたらツキを逃がす!さっきからやり込められてるけど…)

洋榎「リーチや!」

打:1p

モモ(…哀れっすね。半ヅキどころか不ヅキっすよ。『本手らしき手しか入らない』のがその証拠っす)

久(洋榎だって、裏一本で食べていける本物の裏プロよ。実力は何度も打ってこの目で確かめた。それがここまで遊ばれるの?)

咲「ロン。三色のみ。1000」

23p123s12344m チー:678s

洋榎(また…そんな片アガリのクソ手で…)

洋榎(こいつは、クソ手でうちの本手を何とか凌いでるだけや。いずれツキが枯れてどうにもならなくなる)

洋榎(お前の腕が上なのは認めるけどな、麻雀は運7分に腕3分)

洋榎(お前の腕がどんだけ上でも、うちは麻雀の7割は極めとる!腕では大した差はつかん!)

洋榎(残り7分の運、本手で攻めてるうちと、クソ手でかろうじて凌いでるお前、すぐに差が出るで…!)


久(五半荘終わって、私とモモはプラマイ0。洋榎は一人沈み、咲は原点…これが五回繰り返された…)

洋榎(くそっ!あと少しや…うちには順調に手が入る。ツキは落ちてない。逆に、奴の手は捨て牌と最終形から察するに毎回6向聴以下。7対子を考慮せんなら7向聴の時だってある!)

モモ(…熱くなってるっすね。カイさんはこの人に迷うことのないツモを送ってる、熱くなっても打牌はミスしようがないっす。ノーミスでも和了れないってことがどういうことか、早く気付いた方が良いっすよ)

咲「…続けますか?」

洋榎「…レートをあげようや」

久「そう言えば、この卓、レートいくら?」

モモ「確認せずに入ったっすか?基本レートが千点一万っす」

久「ま、その程度なら構わないけど、出来ればあんたら二人でサシで握ってくれない?」

モモ「一応、千点10万のトビ分、500万までならサシ馬も可能っすよ。その場合は基本レートを下げてサシ馬だけでやってもらうっすけど」

洋榎「…50で握ってもらうで、ええよな?」

咲「受けましょう」

久(…洋榎、悪いわね。あなたには底なし沼に沈んでもらうわ。今のこの子の底を探るためにね)

モモ(これは、500まで行くっす。そろそろ、あれが出る頃っすかね?)


洋榎(来た!今日一番のバカヅキや!ムダヅモなしで四暗刻単騎聴牌!場に一枚切れの西か、生牌の1筒待ち!)

洋榎(うちが西家やから他は西を使えへん、当然西待ちのダマ)

打:1p

咲「…麻雀って、楽しいよね」

モモ(…来た。麻雀は終わりっすね、ここからはただの略奪っす)

洋榎「おい、黒いの。珍しくしゃべったと思ったら何わけわからんこというとんねん!?」

咲「ロン」

1112345678999p ロン:1p

咲「純正九連宝燈、64000」

洋榎「は?…なんでお前にそんな手が…」

咲「トビで終了ですね。続けますか?」

洋榎「…当たり前や!そんな事故みたいなもんで止められるか!」

咲「レートは?」

洋榎「上限いっぱいや!500握れ!」

久「あら、500?なら基本レートを下げないとね。千点10万以上は法に触れるわよ。私は下げても構わないけど」

モモ「ノーレートでもいいっすよ。私はメンバーだからそれでも手を抜いたりはしないっす」

咲「お二人がよろしいようなので、500で」

洋榎「話が分かるやないかお前ら!卓上でも邪魔せんとけよ!」

久「しないし、出来ないわね」

モモ「カイさんが仕上がってるっすからね。何も出来ないっすよ」

咲「では、続行します」


咲「ツモ、8000オール」



咲「ロン、12000」



咲「ロン、24000」



咲「ツモ、6000オール」



モモ「ノーレートでよかったっすね。賭けてたらいくら毟られたかわからないっす」

久「あらあら、これは予想以上ね」

洋榎「…パンクや」

咲「では、終了で」

久「咲、ちょっと待って」

咲「…」ピクッ

久「あなた、咲よね?」

咲「ああ、私のことですか?そちらの方も、昔、同じことを聞かれましたね」

モモ「あの時は失礼しましたっす」

咲「…私の名は、カイです。人偏に鬼と書いて、傀」

久「あなたを私が見間違えると思う?」

咲「…失礼します」

テクテク

ゆみ「またお越し下さい」

咲「はい、いずれまた…」

カラーン

洋榎「人編に鬼で、傀か…あれはホンマモンの鬼やな。角生えとるし」

久「笑えないわね、あの子は人間よ。ちょっと麻雀が強いだけの、おとなしくて気弱で、仲間想いの、普通の子なのよ…」

モモ「…あの人が、そう見えるっすか?同一人物だけど、嶺上さんと傀さんは別人っすよ。そう思って臨むべきっす」

ゆみ「…傀として彼女と接する我々なら、それが正しいだろうな」

久「けど、私が用があるのは咲よ。何としても、あの子の心のどこかに居るはずの咲を引きずりだしてやるわ」

洋榎「…あれが、お前の探し物か」

久「ええ、悪かったわね。止めようと思えば全部毟られる前に止められたんだけど…」

洋榎「なに、うちもアホやない。手持ち以外にも蓄えはあるわ」

モモ「傀さんの地雷を踏んでまともに生きて帰れる人は初めて見たっす。流石っすね」

洋榎「大阪の主、愛宕洋榎ってのはうちのことやで。そんな簡単にやられるかい」

ゆみ「見てる分にはボロボロだったがな」

久「良いとこなしだったわね」

モモ「相手の力を見誤りすぎっす。よくそんなんで裏で生きて来れたっすね?」

洋榎「なっはっは、引き際と、今までの勝ち貯めやな。うちは強いからたまにぼろくそにやられても勝ち貯めでどうにかなるねん」

久「口に似合わず堅実よねえ」

洋榎「ま、この界隈からはもう退散するわ、あんな化けもんはもうこりごりや」

久「元気でね。絹恵ちゃんによろしく」

洋榎「お前もな、探しもんは見つけてからが大変そうやけど、気張れよ」

久「…私一人でどうにかする自信はなくなったわね。ま、なんとかするわ」

洋榎「じゃあな、またどっかで会おうや」

ゆみ「で、どうだ?やはり間違いないか?」

久「咲って呼ばれて動きを止めた。間違いないわね。あれは咲よ」

モモ「別人だったら驚きっすよ」

久「しかし、私が直接言ってもあの対応だと、和と照ぐらいしか切るカードがないわね」

ゆみ「なぜあいつが姿を消し、なぜああなったかもわからん。その二枚は切り札としてまだ取っておくべきだろうな」

モモ「となると、しばらくは様子見っすか」

久「ま、長野なら網はいくらでも張れるわ」

ゆみ「…私もこのあたりでは顔が効くようになった。出来る範囲なら協力はするよ。傀はお得意様だから直接は動けんがな」

一話あたりこれぐらいの分量で、11話あります。
時間不定期になりますが、書きあがってる分の見直しと手直しをしながら毎日一話ずつ更新していく予定です。

乙ー
ちょっと気になったのが、四暗単騎なら
何か3個暗刻に111筒/西か
何か3個暗刻に西西西/1筒しかないから

1筒or西なんて待ち選択ができないような気がする。


>>17
ツモ切る場面だから暗刻四つに1pと西で
どっちを切るか、の場面じゃない?

宮永界の話かと

人鬼だとか勝ったらキツいこと言ってプラマイゼロで手を抜いたら畜生と罵しる、ss書く人たちの中ではすっかり咲ってキャラは底辺になったわけだな

ただの女子高生が人鬼名乗るとかふざけてんのか

>>17さん
>>18さんのおっしゃる通り○○○●●●□□□△△1p西 ツモ:△ の場面です。描写不足をお詫びします。

>>20さん
これを書いた時点では界さんの名前を知らなかったので…界さん使ってまともなむこうぶちパロを書く力量は今も当時も>>1にはないです。

>>21さん
むこうぶちパロのつもりで書き始めたSSで人鬼を名乗らせる以上、貶める気は全くないです。

>>23さん
ごもっともです。申し訳ありません。


先述したとおり一応完結まで書き上げてありますので、>>1がいかに豆腐メンタルといえど、よほどのことがない限りは予定通りのペースで投下して完結させます。萎えてスレ放置して逃げ出す心配等はせずに率直なご意見をいただければ幸いです。

これ以降、ご質問への返答とミスのご指摘等に対するお礼、投下以外のレスは控えますが、手厳しい批判を含めてレスには全て目を通します。引き続きよろしくお願いいたします。


マスター「悪いな、あんたがいると客が寄り付かない。もう来ないでくれるか?」

?「…このあたりで私が打てる店はここしか残っちょらん、どっか紹介してくれんかね?」

マスター「…元プロ、しかも一部リーグ所属チームのエースだったあんたを受け入れる店なんかあると思うか?そうじゃなくても裏で通り名がついてるんだ。裏の主なら主らしく玄人だけ狩っててほしいね」

?「紹介じゃなくても構わん。打てそうな店を教えてほしい」

マスター「長野にでも行け。九州には打てる店はない」

?「…魔物の巣窟、長野か。よか、そもそも武者修行のために始めた裏プロ稼業やけん」

マスター「達者でな。出来れば、早いとこ表で戦うあんたを見せてくれ」

?「…今の私は、まだ姫子の重しにしかならん」

マスター「別にリザベーションしないで別々に打てばよかろうに」

?「…私と姫子の絆は、他人には分からん。もう行く、世話になった」

マスター「次来る時は、表のプロとして来てくれ。それなら歓迎するよ。おれはあんたのファンだ」


カランカラン

モモ「…見たことのある顔っすね」

?「…お前が居ると聞いて来た。元タイトルホルダーのお前が打てるなら、あるいは私も、と思ってな」

ゆみ「いらっしゃい、あいにく、ピンで打てる卓はないな。少し待ってくれるか?」

?「…面子が集まれば、打っても良いのか?」

モモ「一見の客をビビッて追い返す店は長野にはないっすよ。それが一部リーグの名門チームの元エース、白水哩であってもっす」

哩「…助かる。地元は軒並み出禁にされちょってな」

ゆみ「うちはノーレートから合法最高レートまである。打ち手も初心者から裏プロも避ける鬼まで揃ってるよ」

哩「…一番強い奴と打たせてほしい」

モモ「…活きの良い獲物がいれば向こうから来るっすよ」

ゆみ「今日は久が顔を出すと言っていた。卓は立つだろう」

哩「久?私と卓を囲めるっちゅーことは…竹井久か?あのインハイ以降、姿をくらませちょると聞いたが…」

ゆみ「風のような奴だ。たまに顔を出すだけで、今住んでいる場所さえわからない。最近は長野に落ち着いているがな」

モモ「…一応忠告しておくっす。傀さんと打つなら、余計な詮索はしないことっす」

哩「カイ?」

モモ「日本最強の打ち手、さっき先輩が言った、裏プロも避ける鬼の名前っすよ。本名は知らないっす」

哩「…日本最強は小鍛冶健夜か宮永照だと思うちょったが、元タイトルホルダーのお前がそこまで言う打ち手か?」

モモ「少なくとも、照さんよりは上っすね。傀さんに勝てる人間が想像できない程度には強いっす」

ゆみ「私も同意見だ。あいつに勝てる人間がいるとは思えない。宮永照でも、な」

哩「…ありがたい」

モモ「奇特な人っすね。これだけ言ったら、普通の裏プロなら逃げるっすよ?」

哩「私は裏プロじゃなか、表のプロとして通用する実力をつけるために裏で修行しちょるだけばい」

ゆみ「十分通用するだろう?福岡の元エース」

哩「…今の私じゃ、リザベーションの成功率は4割に満たん。6割は姫子の力を削ぐだけになっとよ」

ゆみ「二倍の翻数で確実に和了する能力の起爆が四割成功するなら麻雀においては完全に勝ち組だがな。贅沢なことだ」

モモ「まったくっす。こっちがどれだけしんどい思いして止めてたことか」

哩「本音か?」

モモ「2000の手が下手すれば親の満貫で12000になるんすよ?必死で止めるに決まってるじゃないっすか」

ゆみ「お前を鶴田の前におけば三人がかりで潰される。素で打っても十分強い二人だ、鶴田をお前の前に置くべきだな。私が監督ならそうする」

モモ「ま、本人たちの意向があるみたいっすけどね。でも、仮に三人がかりで阻止されてもリザベーションを八割成功させる力があるとして、そこまで強くなったら鶴田さんを使わずに一人でチームを背負うべきっすよ?照さんみたいに」

哩「…勝手ば言いよってからに、こっちにだってこだわりがあったい」

カランカラン

久「あら、珍しい人がいるじゃない。打てる?」

ゆみ「お前らと打てる奴がそうそう居るわけがないだろう。昔話でもして、人鬼を待とうじゃないか」

モモ「打てる人ならいるっすけどね、ここに」

哩「ただの店長っちゅうわけやなかろ?仕事も暇そうにしとる」

久「無茶言わないの。ゆみは確かに強いけどね」

ゆみ「引退した身だ。お遊びならともかく、真剣勝負でお前らの相手など務まらないさ」

久「あらあら、傀からまともな直撃を取ったモモの知る限り唯一の人って聞いてるわよ?」

ゆみ「それこそお遊びさ、金策で抜けた一人を待つ間の暇つぶしで打った三麻の話だ」

モモ「謙遜するっすねえ。先輩は美穂子さんがチームに何度となく誘ってるぐらいの腕前っすよ」

ゆみ「買いかぶりだよ…もういいだろう。思ったより早かったな、お待ちかねの人鬼も来たようだ」

カラン

咲「…打てますか?」

ゆみ「卓が立たなくて腕の立つ人間を待っていたところだよ。元プロが入るが、構わないか?」

咲「ええ、打てるならどなたでも」

哩(…似ちょる…宮永照に…)

久「レートは?」

モモ「私はいくらでも。合法の範囲なら問題ないっす」

哩「強か相手と打てるならいくらでも構わん、ノーレートだろうと、点100万だろうと受ける」

咲「私はいくらでも」

久「あら、決まらないわね。私もいくらでもいいの」

ゆみ「このフロアの基本レートは千点千円だ。奥の卓が10倍、特に希望がないなら千点千円でいいだろう」

咲「たまには違う卓で打つのもいいでしょう。皆さんは構いませんか?」

モモ「オーケーっすよ」

久「私はいくらでも構わない」

哩「右に同じ」

ゆみ「決まりだな。そこの空いてる卓を使ってくれ」


タン

哩(…この面子、そこらのプロよりはるかに強い…特に東横、捨て牌すら見えん…これが、緑王位と白王位を立て続けに取った元タイトルホルダー東横桃子の本気、『ステルスモモ』か)

タン

久(あらあら、モモったら、サービス精神豊富ね。咲が居るんだからあなたが本気出さなくても十分でしょうに…てゆうか、捨て牌見えないと読みが狂うのよねえ。東場の一局目から消えるとかやめてほしいわ)

タン

モモ(…このレベルの面子なら、私と傀さんの勝負の途中に殺されて終了なんてことにはならないはずっす。久しぶりに、本気で挑ませてもらうっすよ)

タン

咲「…」

久(ああ、そっか、腕試しがしたいのは、哩だけじゃないってことね)

ーー

モモ「ツモ、タンヤオピンフドラ1、1300、2600っす」

哩(強い…デジタル一本でも、原村和に並ぶとされる『デジタルモモ』。それが、ステルスを解放して本気で打つとここまでになるんか…)

久(…あなたが本気なら、私も咲に本気でぶつかってみようかしら)

モモ(私は本気っすよ、傀さん。さあ、どう出てくるっすか?)

咲「…」

ーー

タン

久「リーチ」

哩(リーチ?東横の捨て牌が見えんこの状況でか!?)

モモ(…竹井さんも本気っすか。そう言えば、今のあなたとは、まだ本気で打ったことはなかったっすね)

咲「…」

ーー

ピン

ズダン!!

久「ツモ、6000オール」

哩「…お前は普通にツモれんのか?」

モモ「それ、懐かしいっすね」

咲「…」クスッ

久「本気で打ってるとついやっちゃうのよね。旅先でも何度かこれで出禁にされたわ」

ゆみ「パフォーマンスじゃなかったのか」

久「高校時代の癖でね、最初の一年は一人で牌を磨いてた。二年目だって卓は立たなかった。二年間毎日ずっとやってりゃ体に染みつくわよ」

咲「…」

久「さ、一本場よ」

ーー

哩「ポン!」

モモ(オタ風…私が居るこの卓で役牌バックで仕掛けるなんてことはない。混一色か対対…張ってるっすね)

久(本命は混一色。ドラ含みのこの辺かしら?『和了れれば』高そうね)

咲「ポン」

哩(動いた、か。東横が日本最強とまで言う人鬼の力、見せてもらうぞ)


咲「ツモ、発のみ、400、700」

哩(和了牌が完全に止められた…)

久(臭そうなところ抱えてるわね。もう白水さんは読み切ったってこと?)

モモ(…期待外れっすね、福岡の元エース)

哩(強い…東横だけじゃない、竹井も、黒服のこいつも恐ろしく強い…こいつらから何かを盗めれば…)

ーー

哩(さっき、竹井がやってたのは、ツモる覚悟だったはずばい。高校時代は私の方が上やった。あいつに出来て私に出来んはずがなか!)

哩「リーチ!」

打:1p

久「…慣れないことは、やめた方がいいわよ?」

モモ「同感っす。場が白けるっすよ」

哩「やかましか。鳴かんならさっさとツモれ竹井」

久「ツモる必要はあるのかしら?」

咲「はい、どうぞ」

久「…そう?じゃあ遠慮なく」

タン

モモ「鳴けないっすね。これはどうっすか?」ステルス解除

タン

久「残念。鳴けないわ」

咲「ツモ」

1999p999s123m発発発 ツモ:1p

咲「ツモ、発、チャンタ、三暗刻。3000、6000」

哩「なっ!?」

久「あら、やっぱりツモる必要なかったじゃない」

モモ「見逃して自分でツモる方が1翻高いっす。傀さんなら普通っすよ」

咲「…私の親ですね」


哩(さっきの見逃し…あれはなんね?ツモれる確信があったとでも?)

タン

打:1p

咲「…麻雀って、楽しいよね」

モモ(まだ1半荘目っすよ?)

久(あらあら、勝負はお預けかしら?)

哩「ああ、楽しいな。お前みたいな強い奴と打つのは特…に?」

咲「ロン」

パタ

9p19s199m東西南北白発中

咲「国士無双、48000」



哩「な…」

モモ「トビっすね。続けるっすか?」

哩「当然たい!何もつかめちょらんまま帰るわけには…」

咲「…では、続行で」

ーー

咲「ロン、8000」

ーー

咲「ロン、24000」

ーー

咲「ツモ、8000オール」

ーー

咲「ロン、36000」

ーー

咲「ツモ、12000オール」

ーー

咲「…ロン、18000」


哩(手も足も出ん…ここまで強いのか…)

モモ「トビっすね。まだ続けるっすか?」

哩「ああ、すまんがもうしばらく…もう少しで何かが掴める気がすっと」



咲「…帰った方がいいですよ」



久「…咲?」

モモ(傀、さん…?)

哩「な、何を…まだ勝負は…」

咲「マスター、今のでラストにします」

ゆみ「わかった」

哩「ま、待て!勝ち逃げする気か!?」

咲「…」

カラン

久「優しい子ね。変わってないわ」

モモ「あの人が勝負に関係ないことを自分からしゃべるのを見たのは初めてっすよ」

哩「…私は、弱いままやけん…どの面下げて姫子のとこに戻れっと?」


ゆみ「さあ?どんな顔で戻ればいいか、本人に聞いてみればどうだ?」

モモ「本人…っすか?いつの間に?」

久「…ゆみ、顔広いわねえ」

ゆみ「福岡の裏雀荘のマスター経由だよ。そいつが長野に来たら連絡を寄越せとさ。で、連絡したらこれだ」

哩「…なんの話をしとーと?」


カラカラカラカラ!


姫子「哩さん!」

哩「この声、姫子!?」

ゆみ「奥に仮眠用の部屋がある、使っていいぞ。好き好んで他人に聞かせる話でもないだろう?」

姫子「哩さん…やっと、やっと会えたと…」

哩「…すまん、部屋、借りるぞ」

ゆみ「ああ」


ゆみ「人鬼が勝てる勝負を中断して帰ったんだ。来るタイミングを見計らってのことだろうと思ったが、ピッタリだったな」

久「…あー、なるほどね。恐ろしい子に育ったもんだわ」

モモ「あのセリフは、なんだったんすかね?」

久「本心、と思いたいわね。気付いた?あの子、私があれやった時、少しだけど笑ったのよ」

ゆみ「笑った?あの人鬼が?」

モモ「…見逃すはずないっす。懐かしいものを見て、少しだけ昔の優しいリンシャンさんに戻ったってとこっすか?」

久「ふふ、あの子を連れて表社会に戻れる日も近いかもね」

モモ「…私が『傀さん』との決着をつけてからにしてほしいっすね」

久「…白水哩でも役者が足りない、か。これは私も危ないかもね」

モモ「竹井さんで足りなきゃ、引退した小鍛冶さんと宮永照でも呼ぶっすよ。私はあの人と全力で打ちたいっす」

ゆみ「その時は店を貸切にしないとな。そんな面子を呼んだらギャラリーがワラワラとよってきそうだ」


数日後

モモ「美穂子さん、今日のオーダーっす」

美穂子「先鋒が私、次鋒が桃子、中堅が優希で、副将が数絵、大将が華菜、ベストオーダーね。相手は…えっ?」

優希「どうしたじぇ?」

モモ「…戻って来たみたいっすよ、福岡のエース」

美穂子「あらあら、これは厳しくなりそうね」

モモ「先鋒が鶴田、次鋒が白水さんっすね。この並びだと例の翻数倍加もないから、以前みたいな他チームとの暗黙の了解での三対一の共闘もできなそうっす。私が本気出してもいいっすけど…」

美穂子「リーグ戦はまだ序盤、そこまでする試合ではないわ。いつも通りお願い」

モモ「了解っす。私も八百長とか叩かれるのは面倒っすからね」

数絵「大丈夫ですよ、桃子なら力負けはしません」

華菜「桃子はキャプテンの次に頼りになるし!休みボケした福岡のエースなんか返り討ちだし!」

桃子「こないだ打った感じだと、確かにデジタルだけでも何とかなりそうだったっすけど…あのままではないと思うッす。先鋒で貯金が欲しいっすね」

優希「え?打ったのか?」

桃子「勝ちすぎで福岡の雀荘を軒並み出禁になって、長野に流れてきたっす」

華菜「桃子も賭け麻雀なんかやめてプロに専念しろし…危ない目に合わないか心配だし」

桃子「私が本気で打てる場所は裏にしかないんすよ。金目当てじゃないから信頼できる店にしか行かないし、なにかあってもステルス発動すれば私が暴力でどうにかされることはないっす」

美穂子「信用してますよ、桃子。では、今日もいつも通り打って、いつも通り勝ちましょう」

「「「「了解(っす・だじぇ!・だし!)」」」」

以上が本日分となります。明日もこのぐらいの時間に更新する予定です。

?「透華のばかー!こんな屋敷出て行ってやるー!」

?「ちょ、お待ちなさい!衣ー!!!!」

ーー

?「ワハハー、それでうちに来たのかー」

?「グスッ…透華のやつ、衣はニンジンが嫌いだって言ってるのに無理やり食べさせて…」

?「衣はウサギみたいな髪型してるのにニンジンは食べられないんだなー」

?「これは髪型ではない!智美まで衣を馬鹿にしてー!」プンプン

?「ワハハ、すまんすまん。しかし、家出かー」

?「お金はあまり持ってきていないんだ…雀荘を紹介してもらえればそこで稼いでくるから…」

?「ワハハ、お金なんかいいさ。と、言いたいところだが、人一人の生活費はばかにならないからなー」

?「うう…」

?「そうだな、ゆみちんが雀荘やってるから、そこで稼いでくるといい。あまり暴れすぎちゃダメだぞ、ゆみちんにも迷惑がかかるからなー」

?「うん!衣も手加減を覚えたから心配無用だ!では、行ってくる!」

?「ワハハー、道分からないだろ。連れていってやるさ、支度するから少しまってろ」


ゆみ「お前ら…また下らないことで…」

衣「くだらなくなどない!衣にとっては死活問題だ!」

智美「というわけだ、しばらく頼むよゆみちん」

ゆみ「まあ、天江ならノーレートの指導対局でも講師料を払うさ。逆に高レートでは卓が立たないだろうな」

衣「うう…衣が居ると知れたら透華が来てしまうぞ…」

智美「何とか賭け麻雀で卓を立てられないか、ゆみちん?」

ゆみ「流石に名が知られ過ぎているからな…」

モモ「立つっすよ。あと二人にもあてがあるっす」

衣「本当か!?」

智美「モモ、ますますステルスに磨きがかかったなー、臭いすら分からなかったぞ」

ゆみ「…立つには立つが、モモが言ってる卓だと天江の勝ちは保証できない」

智美「は?またまたゆみちん、衣だぞー?しかも、今日は満月だ」

ゆみ「天江でも勝てるかどうかわからん化け物がいるんだ」

智美「…まじか、衣より強いやつなんか想像できないなー。満月なら宮永照にだって確実に勝てるぞこいつはー」

衣「…それは、是非にでも卓を立てねばならんな」

モモ「衣ちゃんならそう言うと思ったっすよ。負け分が足りなきゃ私が出すっす」

智美「ワハハ、気前がいいなー、なんかあるのかモモ?」

モモ「あの人と本気で打ちたいだけっすよ。そのために面子が必要っす」

衣「…ずいぶんと軽く見てくれるものだな」

モモ「いやいや、衣ちゃんを見込んでのお願いっすよ。そこらのトッププロぐらいで良いなら美穂子さんに頼むっす」

智美「美穂子さんでも卓を囲むのが無理な化けもんがいるのかー、怖い店だなゆみちん」ワハハ

ゆみ「つい先日、福岡の白水哩がぼこぼこにされて裏プロを廃業して表に戻って行ったよ。それほどの打ち手だ」


衣「分かった。だが、負け分を出す必要はないぞ」

モモ「負け分を払う当てはあるっすか?あの人、千点千円以上の卓でしか打たないっすよ?」

智美「それは、私は立て替えてやれないなー」

衣「…負け分を払う当てだと?誰に言ってるつもりだ?」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



ゆみ「くっ!?」

モモ「へえ、期待できそうっすね」

智美「ワ…ハハ…。衣、ちょっと怖いぞ…。私の心臓が止まってしまう…」



衣「衣は勝つ、負け分の心配などする必要はない。分かるな?」ゴゴゴ



モモ「期待してるっすよ。こっちとしても衣ちゃんぐらいしか面子の当てがないっす」

ゆみ「お前と傀が打つなら池田を呼んで私も混ざりたいところだがな、役者が足りないだろうから遠慮しておくよ」

モモ「あ…」

ゆみ「気にするな、天江も池田も連絡はつくし、私はここに居る。久が全て片づけたら、傀ではなく咲としてのあいつと打つさ」ヒソ

モモ「すみません、わがまま言わせてもらうっす」ヒソ

衣「…衣とそやつが打つと、何かあるのか?」

智美「ゆみちんが自分から魔物と打ちたがるなんて珍しいなー」

モモ「…会えば分かるっすよ、多分、今夜には来るっす」


久「今日は満月か…綺麗ね。さて、今夜はどんな人がいるかしら?」

カランカラン



衣「…来たか」ゴゴゴゴゴゴ



久「…ごめん、帰っていい?」

モモ「ダメっす」

久「なんで満月の夜にこんなの連れて来るのよ!?」

モモ「白水さんが何も出来ずに飛ばされたっすから、念には念を入れて最上のパートナーを用意したっす」

衣「…どこかで見たと思ったら、清澄の中堅ではないか。確かに相当腕を上げていると見えるが、こやつが貴様らが言うほどの打ち手とは思えんぞ?」

モモ「竹井さんは面子の一人っすよ。メインは…」

カラン

咲「打てますか?」

ゆみ「ああ、ちょうど三人揃ったところだ」

衣「…さ、き?」

咲「…私の名前はカイ。人偏に鬼と書いて、傀です」

モモ「どの卓にするっすか?」

久「ま、どれでも構わないけど、衣はお金あるの?」



衣「衣の目をごまかせるとでも思っているのか咲!一体どこに居た!?また打とうと約束したのに姿を消して…衣がどれほど待ったと…」

咲「人違いですよ。私は傀。宮永咲ではありません」


久「衣はもちろん、私たちも『宮永』とは一言も言ってないわよ?」


咲「…」

久「今はいいわ。打ちましょう。この面子なら思いっきり楽しめそうだわ」

衣「咲…」

咲「言いましたよ?人違いだって」

衣「…そうか、なら傀とやら、衣と賭けをしよう」

咲「受けましょう。何を賭けますか?」

衣「衣が勝ったら、衣の質問に真実を答えてもらう」

咲「私が勝ったら?」

衣「…考えていなかったな」

桃子「負けることを考えてない、か…衣ちゃんらしいっすね」

衣「お前が決めろ。貴様の賭けるものは衣が決めたのだ。衣の賭ける物は貴様に決める権利がある」

咲「…では、一日の間、私の言うことを聞くということで」

衣「きまりだな。では打とう」

咲「はい」


モモ(今日は満月の夜。衣ちゃんの力が最大限発揮される条件っす)

久(正直、それでも咲が負けるとは思えないけど、少なくとも私たちレベルだとこれはキツイわね)

モモ(ステルス状態の私にも有効なんすね、イーシャンテン地獄。さっきから手が進まないっす)

咲「…」

タン

衣「ポン」

久(…海底コース。そして、それを鳴かせたのは咲)

モモ(あの傀さんが、わざわざ相手の手に乗るわけがないっす。何を考えてるっすか?)

ーー

衣(次巡で衣が海底ツモ、ここまで咲は動きをみせていないが…)

タン

モモ(鳴いて海底をずらすことすら出来なかったっす。さて、傀さん、どうなってるっすか?)タン

久(ん~、私の親でツモはいやねえ。どうしようもないけど)タン



咲「ツモ」



衣「…なんだと?」



パタ

13s123456p678m北北 ツモ:2s

咲「ツモのみ。300、500」

衣「…」

久(衣の支配の上を行った…のかしら?)

モモ(聴牌してるだけでも異常っす。それでこそ私の目標っすよ)

咲「私の親ですね」


モモ(今回は普通に手が進むっすね。ありがたいっす)

タン

久(…イーシャンテン地獄じゃなく、普通に運が悪かっただけか。なんとか張ったわ)

タン

咲「…」

タン

衣「…」

タン

モモ(要注意人物二人の動きがないっす。ここが攻め時か、それとも…)

タン 

久「リーチ」

タン

モモ(ツモ切りリーチ!?何がしたいっすか?)

咲「…」タン

衣「…」タン

モモ(まあ、私はステルス状態だからアタらない、普通に押すっすよ)タン

打:1p

久「ロン」

モモ「は?もう私切ったっすよ?」

久「ええ、その1筒よ」

パタ

23p112233s12399m ロン:1p

久「リーチ一発、ジュンチャン3色ピンフイーペーコー…裏2、24000」

モモ「な…なんで私が見えるっすか?」

久「さあ?理由は分からないけど丸見えだったわよ?」

モモ「そんなはず…私は確かにステルスモードに…」ハッ

咲「」ゴゴゴゴゴゴ

衣「何をごちゃごちゃ言っている?次は衣の親番だ、さっさと進めるぞ」

モモ(これは、あなたの仕業っすか、傀さん…衣ちゃんより浮いた状態で誰かが飛べば、賭けは傀さんの勝ち…そう言うことっすか?)

久(多分違うとは思ってたけど、共闘のためにステルスを解いたわけではない…か、だとするとどっちの仕業かしら?)


衣「ツモ、500オール」

咲「…」

久「はい」

モモ(…残り200点、これは笑えないっすね)

ーー

モモ(衣ちゃんが居るとは思えないほど普通に手が進むっす)

モモ(しかし、リーチは出来ないっすね、リー棒がないっす)

咲「…」

衣「…」

久「…」

モモ(私が見えてるのか見えてないのか…まあ、どうであろうとここは押すしかないっす。ゴミツモでも飛ぶんすから)

タン

咲「…槓」

久(なっ…大明槓!?)

衣(…ふん、咲が槓をしたぐらいで何を驚いている?こいつにとっては普通のことだろう)

モモ(ちょっ…そう言えば、リンシャンさんは、ステルスモードの私相手でもカン材だけは見えてーーーー)

咲「…」

タン 打:1p

モモ「そ、それっす!ロン!」

1234赤567p567s567m ロン:1p ドラ:6m 槓ドラ:1p

モモ「三色ドラ2、ななせんななひゃーー」

咲「槓ドラ」

モモ「へ?」

久「槓ドラ、表示牌は9筒よ。12300ね」

モモ「え?あ…失礼しました、12300、お願いしますっす」

咲「はい」

久(どう見ても差し込みよね?どうなのモモ、生かされた気分は?)

モモ(これ以上の屈辱はないっすよ…私にはいくら預けても回収出来るってことっすか?)

モモ(…あんまり舐めないでほしいっすね、私は、元タイトルホルダーっすよ?)



ゴゴゴゴゴ



モモ「私の親っすね。本気で行くっすよ」

衣(ほう…)

咲「…」

久(あらら、咲、あなた虎の尻尾を踏んだみたいよ?それとも、あなたにとっては獰猛な虎も可愛い子猫なのかしら?)


モモ(傀さん相手にステルスはあてにならないっす。なら、本気のデジタルモモを見せてやるっすよ)

衣(ほう?こやつ、気付いているのかいないのか…ステルスとやらに使う力を、有効牌をツモることに使っている…)

久(意識的にオンオフが出来るようになった時点で、もはや影が薄い特性に頼った能力じゃなくなった、ということかしら?…って、なによあの手?)

モモ手牌

1p1115557799s中中

咲「…」

久(索子の混一色…しかもなんか嫌な気配がするわね。私のほうには衣のイーシャンテン地獄も効いてるっぽいし、危ないところ引いたらオリね)

衣(奴の手から感じる気配は18000以上…。どうやら、衣の支配もかいくぐってくるようだ。これは侮れんな)

タン

モモ(来たっす、倍満確定の最後の中が先に入ってのツモリ四暗刻聴牌。ここに紅孔雀が採用されてればダブル役満も見えたんすけどね)

ツモ:中  打:1p




咲「…ツモ。1000、2000」

パタン

23p123s123789m白白 ツモ:4p ドラ:白

モモ(は?)

久(あらあら…跳満見逃して4筒で和了るの?)

モモ(そうっすか、そこまで馬鹿にされるっすか…もうキレたっすよ!ブチコロ確定っす!)ゴゴゴ

衣(わざわざ跳満に差し込んでツモ和了りが出来ない状況を回避したのだ、即座に跳満を回収することはしないだろう…と言っても、今は聞かんだろうな)

久(こんな化け物の檻の中に放り込んでくれちゃって…普通ならトラウマになるわよ?)

モモ「南入っすね。竹井さんの親っす」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「…」

衣(東一局ですでに示されたように、こやつら相手に海底まで潜るのは自殺行為だ。ここからは、衣は支配者ではなく狩人になるーーー)

久(こんなにうれしくない親番は、なかなかないわね。なるべく安く済んでほしいわ)


久(で、あっさり張るわけね。何してんのよ衣?満月よ?お得意のイーシャンテン地獄で止めなさいよ)

久(じゃないとーーーー攻めちゃうわよ?)

久「リーチ」

1p3444567s白白白中中 ツモ中

打:3s

咲「…」クスッ

衣(おかしい。奴の手はリーチなしで跳満程度の気配だった。なぜリーチして満貫程度の気配しかない?)

モモ(どう見ても索子の染め手、索子があふれたってことはそろそろ張ったっすよね?)

モモ(しかし、なんすかねこの嫌な感じ。1筒を切るなと私の勘が警報を鳴らしてるっす。切らなきゃ進まない手っすから、オリっすね)

久「一発は…なしか」

咲「…」タン

衣(得体が知れん。こやつも理外の生き物か…久方ぶりに心が躍るぞ)タン

モモ(あー、分かったっす、絶対変な待ちしてるっすこの人。むしろ索子は安牌…そんなもん一発でツモられてたまるかっす!)タン

久「一巡待ってツモ切りリーチが正解かー、私の勘も鈍ったかしら?」

ピンッ

ズダン!

久「リーヅモ白中…裏は…7索か、1枚だけね。4000オール」

モモ「その手でなんで3索を切るっすか?非常識にもほどがあるっす」

咲「…」クルン

ゆみ「次の天江のツモは…天江の和了り牌か」

衣「手を下げ、待ちを減らし、それでも、それが唯一の和了りへの道筋か…面白いものだな。衣は貴様らと打てて嬉しいぞ」

久(咲…終わった局の後のツモを見るなんて、私たちの知ってる『人鬼』はしないわよ。分の悪い勝負だけど、目が出て来たかしら?)

久「一本場ね。あんたら相手だとこの点差でも気が抜けないわ」


モモ「ツモ。2100、4100っす」

久「4000なら安いもんよ」

衣「さて、これで、貴様がラスか」

咲「…」

衣「次は貴様の親だが、この親を流せば逆転は厳しかろう。洗いざらいしゃべってもらうぞ」

モモ「傀さんに、逆転不能な状況なんかないっすよ。油断したら一瞬でもっていかれるっす」

久「…」


モモ(ん~、衣ちゃんから聴牌気配っすね。傀さんは…わかんねーっす)

咲「…」

久「通らば、リーチ」

衣「通らんな。ロン、12000」

久「はい」

ーー

咲「…」

久「…」タン

モモ「ロン、8000っす」

久「はい」

ーー

衣(こやつ、先の二局、明らかに差し込みだった…何が狙いだ?)

久(んなもん決まってるじゃない。私だって、衣が聞き出してくれるならその方が楽なのよ)

モモ(さて、私も敵に回して、竹井さんは差し込みしてでもサポートに回る、それに加えて満月の夜の衣ちゃんっす。流石に無理っすか?)

咲「…」


オーラス 点数状況

久  34900
咲  11200
衣  31100
モモ 22800

ーー

久(衣と咲の差は19900か、跳直か倍ツモ条件ね。普通なら安全圏だけど)

衣(衣が振り込むことはない。咲は倍ツモか三倍満の出和了り条件だ)

モモ(衣ちゃんが振り込むことはない。倍満以上の手だけ読めばいいっす。大分読みが楽になるっすよ)

咲「…」

モモ(まさか、地和とか人和とかないっすよね?)タン

久(さて、どうするのかしら、咲?おとなしく衣に負けてくれればそれが一番ありがたいけど)タン

咲「…」タン

衣(動きはない、か。手もさほど早くも高くもない…)

ーー

衣(咲の手は…聴牌もしていない。あとは、この手に久が差し込めば…)タン

打:6p

咲「麻雀って、楽しいよね」

モモ(は?ーーーまさか、この場面でそれを言うッすか?)

久(衣相手にこのセリフ…思い出すわね、県大会の決勝を)

衣「…懐かしいな、あの時も、貴様はそう言ったのだったか」

咲「…その6筒、槓」

衣(これは、軽率だったか…衣の感覚を超越してくる打ち手が存在するーーそれを、誰から学んだ?)

咲「もう一個、槓」

咲「もう一個、槓」

咲「…」タン

打:3s

久(困ったわね。衣のアタリ牌は分かるのだけど…切っていいのこれ?衣は多分早さ重視であまり高くない。衣が3900以下で咲が三倍満ならダブロンでもまくりよね?)

久(確定してるだけで三槓子、おそらく清一色、対対もつく。見えてる範囲ではドラは乗ってないけど、三暗刻でもドラ2でも11翻)

久(衣がドラをもってるなりして4500以上あれば良いけど…)

久(さあ、責任重大よ?どうするの、竹井久…)




衣「なあ、久よ。麻雀は楽しいな」



久「ええ、私がこんなに悩むことなんて、他にないわ。ほんと楽しい」

衣「結果がどうなろうと衣は何も言わん。この一打を、楽しめ」

久「ふふ、お子様みたいな見た目して、かっこいいこと言うじゃない…」

衣「衣は大人だ!」プンスカ

久「じゃあ、切るわよ。あんたを信じるわ、天江衣!」

打:1p

咲・衣「ロン」

衣手牌

12233p赤567s34赤5m西西 ドラ:4p 3s 6s 西   ロン:1p

衣「ピンフイーペーコードラ5、12000」


久(流石ね。跳満あったか。これなら咲が三倍満でもーーー)ゾク

モモ「…傀さん、手牌を見せてくれないっすか?」

久(私、今なんて?咲が『三倍満』でも大丈夫?)

衣(…そうか、衣は倍満以上でなければならなかったのだな。あと1翻…届かなかったか)

咲「…」パタン

咲手牌

1444p 明槓 6666p 暗槓 8888p 9999p ロン:1p

咲「清一色、対対、三暗刻、三槓子、ドラ3」

咲「…32000です」

ーー

南三局終了時   半荘終了  オーラス差分


久  34900→ー9100(ー44000)
咲  11200→43200(+32000)
衣  31100→43100(+12000)
モモ 22800→22800(     0)


久「ちょっと、あと1翻どこに忘れて来たのよ衣!?これじゃトビ損じゃない!」

衣「すまん、ツモる予定だったが、リーチをかけるべきだったな」

モモ「差し込ませる気満々だったじゃないっすか。しらじらしいっす」

衣「さてどうだったか?終わった対局のことなど覚えていないな」

咲「」クスクス

ゆみ「めずらしいな、人鬼が笑うか。明日は雨かな?」

久「予報は晴れよ。それに、もともと笑顔が似合う子じゃない」

モモ「ま、私は完敗っすよ。差し込みで生かされ、勝負手は相手にもされず、オーラスは蚊帳の外っす」

久「トバされた私も完敗よ。負け犬同士、あっちで卓を囲みましょうか」

モモ「ま、この卓で勝てる気はしないっすね。罰ゲームもあるし、後は二人でよろしくやってくださいっす」

ゆみ「ははは、こいつら相手にオーラスまで行ったんだから上等だろう?もっと胸をはれモモ」

モモ「お情けの差し込みが無かったら飛んでるっすよ」

衣「ときに、モモとやら、貴様のあれは意識してやっているのか?」

モモ「…なんのことっすか?」

衣「やはり意識していなかったか…良かろう、意識して使えるようになれば衣も遊び相手が増える。いいか、貴様はステルスに使う力を…かくかくしかじか」

モモ「まじっすか…あの時はまだイーシャンテン地獄使ってたんすか…」

久「で、一日言うこと聞かせるってやつ、衣になにをさせる気なの?」

咲「…いずれ使わせてもらいます。今は、使い道がないので」

衣「そうか?咲がそれでいいなら構わないが…」

咲「…傀です」

ゆみ「ところでお前たち、続行するのか?するならするで場代をだな…」

咲「…帰ります」

衣「あっ、こら、待て咲!衣はもっと打ちたいぞ!」

咲「…」

カラン

ゆみ「…今の半荘だと大して稼いでいないはずだが…なぜ引いたんだろうな、人鬼は?」

久「衣を一日使役できる権利。使い方次第でいくらにでも化けるわ、それで十分ということかしら?」

モモ「衣ちゃんはいつでも呼び出せるってわけじゃないっす。ちょっと納得しがたいっすね」

衣「むー、咲が居ないならゆみでも構わん!打つぞ!」

ゆみ「アホか、流石に満月の夜のお前相手に金をかけるほど酔狂ではない」

カラン

?「どうせここだろうと思いましたわ…蒲原さんも無駄に黙秘をしなくてもよろしくてよ?」

?「むー、むー」

?「ああ、そもそも今はしゃべれませんか」

衣「…透華、貴様、何をしている」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ゆみ「事と次第によっては、龍門淵の当主と言っても無事では済まさんぞ?」ゴゴゴ

モモ「…」ステルス

久「…あなたも損な役回りねえ」

透華「…見れば分かるでしょう?あなたを連れ戻しに来ましたわ、衣」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


衣「そんなことはどうでもいい。智美に何をしているのかと問うているのだ!」ゴッ

?「むむむー、むむむむむむむむむむー、むむむむー!」

衣「智美が大丈夫というならそれでいいが…」ゴゴ…

久「え?今の分かるの?」

衣「ころもー、わたしはだいじょうぶだー、おちつけー。と、言っていたぞ。分からなかったか?」

久「むしろなんで分かるのよ…」

透華「相変わらずあなた達は非常識ですわね…」

モモ「そうっすね。非常識ついでに、荒っぽいこともさせてもらったっすよ」

透華「へ?」

SP「」ノビテル

モモ「思いっきり振りかぶって頭に一撃。ステルスだから出来る一撃必殺っすよ」

智美「ワハハー、助かったけどやりすぎだぞモモー」

衣「さとみー!」ダキツク

智美「ワハハ、麻雀は勝ったか衣?」

衣「ま、負けたけどプラスだったぞ!問題ない!」

智美「ワハハー、満月の夜に衣に勝てる奴がマジでいるのか、顔ぐらい見たかったな」

久「で、どうするの透華?ここじゃ分が悪いわよ?モモがいるしね」

透華「はあ…話も聞かずに暴力に訴えるとは思いませんでしたわ」

モモ「いきなり人質を取る方が悪いっす」

ゆみ「防犯カメラも回っている。正当防衛を主張させてもらうさ」

透華「…ハギヨシ」

?「ここに」

透華「例のものを」

?「かしこまりました」


透華「衣、一つだけ言っておきます」

衣「…何だ?」

透華「家出するなら、お金ぐらい持っていきなさい。身一つで出て行って余所に迷惑をかけるなど、もってのほかです」

衣「へ?」

透華「あと、もう大人なのですから、ニンジンぐらい食べられるようになりなさい」

衣「う、うるさい!ニンジンなど食べられなくても困らん!」

?「お嬢様、お持ちしました」

透華「ご苦労」

久「あら、通帳?」

透華「衣、あなたのお小遣いですわ。なくなったらいつでも戻って来なさい。一たちも待っていますわ」パス

衣「と、透華?」キャッチ

透華「では、私はこれで」

カラン

智美「ワハハ、だから言っただろう、落ち着けって」

ゆみ「い、いや、しかし…」

久「どうせ、『無事に返して欲しければ家に戻れ』とかやりたかっただけでしょ。あの子、目立つの好きだし」

智美「ビンゴだぞ。相変わらず久はすごいな」ワハハ

久「で、かっこよく締めるプラン2…多分アドリブねあれは。そこらへんは成長が感じられるわ、流石、龍門淵の当主」

モモ「それは悪いことしたっすね…」

衣「気にするな、あれは透華の悪い癖だ…まったく、これはおねーさんである衣が見張ってやらねばならんな」

ゆみ「戻るのか?」

衣「…もう少しお前たちと遊んで、智美にも世話になったから恩返しをして、そうしたら戻る」

モモ「人騒がせっすねえ、龍門淵の人たちは」

一「透華と衣だけだよ、ボク達まで一緒にしないでほしいな」

衣「はじめ!?」

一「『衣がすぐ帰ると言い出すはずだから残れ』って言われたんだけど、やっぱりそんなはずないよね」

久「あらあら、やっぱり成長してないわね。上手くやれてるってことは周りの人間が優秀なのかしら?」クスクス

一「衣が絡まなければ優秀な当主だよ。屋敷のみんなにも慕われてる」

衣「すまんな、そう遠くないうちに戻る。純と智紀にも伝えておいてくれ」

一「分かった。ちなみに、通帳の残高は見た?」

衣「いや、見てないが?」

一「見れば透華の過保護っぷりがわかるよ。じゃあね」

カラン

久「ふーん…どれど…れ…?」カタマル

ゆみ「久が固まるとは、いくら入って…る…?」カタマル

智美「このあたり一帯で最大の雀荘を経営してるゆみちんまで固まっただと!?」

久「これ、円立てよね?ルピーとかじゃないわよね?」

ゆみ「桁も見間違えではないな。最後の三ケタは小数点以下だったりしないよな?」

智美「で、いくら入ってるんだ?」

久「ここにあっていい額ではないわね。一億のサシ馬を握ったことがある私が固まるレベルよ」

モモ「…一部上場企業が一社丸ごと買えるっすね。これがお小遣いっすか?」

ゆみ「長野県の年間予算総額より多いぞ、馬鹿なのかあのお嬢様は?」

智美「ワハハー、常識ってなんだろうなー?」

衣「ああ、以前透華に頼まれて代打ちをしたことがあるからな。その時の勝ち分だろう。取り分は6:4と言っていた」

久「何賭けたのよあの子…って、知らない方が良さそうね。これヤバい世界だわ」

ゆみ「ああ、私も今見たものは忘れよう」

モモ「残高もアレっすけど、それと別に毎月100万入ってるっすね」

久「うわ、過保護。多分、一は毎月100万入ってることしか知らなかったんでしょうね。他人の通帳見る子じゃないし」

ゆみ「100万が普通の額に見える程度には感覚がマヒした。少し衝撃的すぎたな」

モモ「しかもこれ、よく見たら龍門淵と対立してるって噂のあのグループの銀行に預けてるんすね」

ゆみ「やめろ、これ以上社会の闇に踏み込むな」


久「さて、衣の懐の心配も、透華に見つかる心配もないわけだけど、レートどうする?」

モモ「衣ちゃんの懐の心配なんかするだけ無駄っすよ。傀さんも居ないのに誰が衣ちゃんに勝つんすか?」

智美「ワハハ、私も久しぶりに打ちたいな」

ゆみ「お前の場代はまけとくよ。私を麻雀に誘った恩人から場代はとれない」

智美「ワハハー。助かるぞ、今月厳しくてなー」

ゆみ「まったく、少しは計画を立てて使え。おい、蒲原の懐が厳しいらしいからノーレートで頼む。下のフロアに話は通しておく」

衣「智美の負け分は衣が出すぞ?」

久「そうすると私は遠慮なく智美から毟るから、ノーレートにしておきましょう。私もたまにはお金かけずに気楽に打ちたいし」

モモ「蒲原先輩がいるなら、私も気楽に麻雀楽しむっすかね?」

ゆみ「こっちのフロアは資格持った責任者が居ないといけないから私は動けない。楽しんできてくれ」

智美「ワハハー、もしかして、とんでもない面子と打たされるんじゃないかこれ?」

ゆみ「ノーレートなら場代も安いからいくらでも相手が見つかるさ。金がかからなければ天江に挑む命知らずもいるだろう」

以上が本日の更新分となります。では、また明日。

?「なんや、北ではこんなヌルイ麻雀打っとんのか?」

?「ぐっ…」

?「自分ら、レートに腕が追いついとらんわ、負け分おいて出直して来や」

?「く、くっそおおおお!」バシン

ダダダダダ ガチャン、バタン



カチャ パタン

?「打てますかー?」

マスター「ちょうど一人欠けたとこだよ、ケイちゃん」

?「一人かー、どっちが打つ?ジャンケンしよか?」

?「嫌やー、怜はこっちの手見て出すやん。こないだ怜が先打ったから今度はうちや」

?「ちえー、憩はちゃっかりしとるわー」

?「そう何度も同じ手食わんって」

?「…どっかで見た顔やな。荒川と園城寺か」


憩「どうもー、長野でボコボコにされて地元に帰ってきた負け犬の愛宕さん、お久しぶりですー」

洋榎「ああん!?」ピキッ

怜「憩、ホンマのこと言うたらアカンで。傀ちゃんに手も足も出んでボコボコにされて傷ついとんのやから」

洋榎「よーし分かった、喧嘩売っとんのやな自分ら!?」

憩「あはは、傀ちゃん、ホンマにボコボコにしたんやな。うちの知っとる愛宕さんやったら負けとらんって言うのに」

怜「せやから言うたらアカンって言うたやん」

洋榎「…自分ら、あれと知り合いなんか?」



憩「裏の世界なんて狭いもんですわ。今日のゴミ掃除も知り合いでしたし」

怜「せめて二人組できてや、一人で来られると片方が暇やねん。傀ちゃんの時は二人がかりやったけど」

洋榎「その『ゴミ掃除』ってのが終わって、気楽に打とうとしたらうちがおったんか。災難やなお前ら」


怜「いやいや、お仕事は今からですわ」

洋榎「ほう…?」

憩「ま、今回の仕事は楽そうやな」

洋榎「つまり、あれか?自分らは好き勝手稼いどるうちを追い返すために店に雇われたってことでええんか?」

憩「はい、場代タダで『カモ』から好きなだけ毟ってええそうです。『割のええバイト』ですわ」

洋榎「どっかで聞いたセリフやな…ええやろ、返り討ちにしたるわ」

憩「ほな、よろしくお願いしますー。あ、そうそう、ルールなんですけど…」

洋榎「この店は順位点なしの25000返しやろ?わかっとるわ」

憩「それプラス、トビなしでやらせてほしいんですわ」

洋榎「かまへん、ほな、始めるで」

ーー

怜(トビなしって、『連荘する限り永遠に毟り続けられる』ってことやろ?あっさり受けたんは失敗やで、洋榎さん)

マスター(うちの店荒らした落とし前、きっちりつけてもらう)

憩(ま、愛宕さんなら乗るわな。さて、稼がしてもらいますわ)


洋榎「リーチや!」

憩「あ、そうそう、そんな余裕なくなると思いますけど、一応説明しときますわ」

洋榎「なんや?」

憩「トビなしルールは、1000点以下でもリーチ出来ます。うちに、リー棒たくさんくださいね?」

洋榎「はっ、リー棒よこすんはお前やろ?…ちっ、切った牌が来たか」タン

憩「…ロン、2000」

洋榎「は?お前、ツモ切りだったやん…さっきのうちの宣言牌で…」

憩「…見逃した方が、リー棒の分だけお得やん?うちは基本的に打点低いし、千点でも稼げるときに稼ぐんですわ」

洋榎「な…」ゾワワ

憩「ほな、うちの親やでー」

カラカラカラカラカラカラカラカラ…

ーー

憩「ツモ、500オール」

ーー

憩「ツモ。2100オール」

ーー

憩「ロン。1500は2100」

ーー

『ツモ。2300オール』

『ツモ。900オール』

『ツモ。1000オール』

『ツモ。4600オール』


憩「ツモ。500オールは5400オール」

洋榎「な…なんや、これ?」

ガラガラガラガラ



怜「ようやく100万超えたかー。脇二人から毟った分は返さなアカンから、実質30万ぐらいやなー」

憩「ま、積み棒も増えて来たからこっからは楽勝ですよって。負けることもないから帰ってもええよ?」

怜「憩の打ってるとこ見たいやん。帰っても憩がおらんとすることないし」

憩「せやなー。ほい、またまたツモや、高いでー」

パタン

1234555678m北北北 ツモ:9m

憩「リーヅモ、混一色、一気通貫、お、裏まで乗ったわ。8000オールは13000オール」



怜「洋榎さん、脇の二人は置物みたいなもんで絶対和了らんから、洋榎さんは突っ張らんと話にならんよ?まあ、直撃で毟られるだけやろうけど」

憩「怜、そんな露骨に『振り込んではよ終わらせ』って言わんでも」

怜「包んだオブラートを全部引っぺがすなや」

洋榎「…くそ、最近化け物ばっかやな…引きが悪いわ」

憩「酷いわー。傀ちゃんに比べたらかわいいもんやん」

怜「あれは二人がかりでも全く毟れんかったなー。時間の無駄やったわー」

憩「ま、向こうも時間の無駄やと思って帰ってくれたから良かったけどなー」


洋榎「ちなみに、お前ら二人はどっちが強いんや?」

怜「憩やろ?いつも本気で打つとか言うて結局手え抜いてるもんな?」

憩「怜かて、うちに花持たせようとして負けたフリの演技に必死やん」

怜「ばれたか」

憩「バレバレやって」

怜「てなわけで、多分同じぐらいや。ほんとのガチで打ったのは一度だけやんな?」

憩「あれは引き分けやったしなー。うちと互角の人がおるーってそのままコンビ組んで傀ちゃんが来るまで無敗やん?いや、傀ちゃんにも負けてはいないから不敗神話続行中やったわ」

洋榎「…そうか」



憩「ほい、リーチ」

打:7m

洋榎「そんなら、お前らより強い人間がもう一人居るって覚えとけや!リーチや!」

打:1p

怜「…まだリーチかける元気があるか、流石やな」

憩「…ツモ」

パタン

22334p234s234赤55m ツモ:4p

憩「リーチ一発ツモ、タンピン三色イーペーコードラ1…裏裏。12000オールは17100オール」

憩「で、何の話やったっけ?うちらより強い人やったっけ?とりあえず目の前の人は眼中にないとして…」

怜「…傀ちゃん以外だと満月の夜の衣ちゃんぐらいしか思いつかんなー。以前ヤバイもん賭けた代打ちの場に面子として居合わせたけど、あれは化けもんやったわ。あと、裏に来てから会ったことないから噂だけやけど、東京の主がそこそこ打てるらしいわ」

洋榎「…くそっ…」


憩「洋榎さんがマイナス100万突破やでー」

怜「千点1万やったっけ?何買おうかなー」

憩「うちのお小遣いやでー?」

怜「ぶー、やっぱジャンケンにしとけば良かったわー」


怜「憩ー、もうマイナス1000万超えたし、十分毟ったやん。そろそろええやろ」

憩「はいはい、分かりましたよーぅ、ほい」

洋榎「…ロン、1000点は…64000」

洋榎(やっと、終わるんか…)




怜「南場があるんやから、こんなもんにしとかんと明日になるで?」




憩「明日になってもええけどなー。まあ、東場はこんなもんにしとくかー」

洋榎(あ…そうや…まだ、東2局なんやった…なんやこれ…夢か?)

怜「ま、泣いて土下座したら東風にしてもええでー。いつまでも卓使っても店長に悪いしなー」

洋榎「あ…ああ…」カタカタ

憩「…懲りましたか?愛宕さん」

洋榎「…すんませんでした…」



怜「自分の狩場に帰り。そこで、ちゃんと殺さないように手加減して稼ぐ。出来なきゃ、またうちらが呼ばれる」

憩「獲物食い散らかして、居なくなったら次の狩場、なんてのが許されるのは、主に勝てない雑魚のうちだけや」

怜「ま、洋榎さんが南大阪で主やっててくれたらうちらの手間も減るからな。頼むでー」

洋榎「えろう、すんませんでした…」

憩「愛宕さんは、表のプロになると思ってたんやで?妹の絹ちゃんはプロになったしな」

怜「もう、抜けられんとこまで足突っ込んでもうたな。うちらに会ったら終いや。表には行けんで」

憩「ホンマは、もっと早く来るはずだったんですわ。けど、怜が、あんたに期待してたんで先延ばしになってた。風当たりきつかったんですよ?大阪どころか西日本の高レート全部から『はよあれどうにかせえ』って言われて針のむしろでしたわ」

怜「うちな、高校の頃は、セーラと互角にやりあうあんたに憧れとったんやで?洋榎さんには、裏じゃなくて表で輝いててほしかった」

洋榎「…迷惑、かけたな…」

憩「その分、これから返してもらいますわ。しばらくは暴れ回った雀荘にご奉仕やでー」

怜「ほな、東風打ちきろか。憩」

憩「はいはいー。サクサク終わらすでー」


絹恵「お姉ちゃんお帰り!遅かったやんな?」

雅恵「…そら遅いやろな。何本場まで行った?」

洋榎「210…」

絹恵「は?お姉ちゃんそんなに勝ったん?トビなしで打っとるってオカンから聞いたけど…」

洋榎「はは、あんな化けもんが二人がかりでようやく引き分けた奴相手にして生きて帰って来てたんか。うちはやっぱ強運やな」

雅恵「懲りたか?もう手遅れやけどな」

絹恵「え?オカンもお姉ちゃんもなに言っとんの?」

洋榎「悪いな絹、うちはもう表のプロにはなれんわ。裏で生きてくしかないみたいや」

絹恵「は?なに言うとんのお姉ちゃん?」

雅恵「せやから、さっさと足洗ってプロに行け言うたんや、ドアホ」


絹恵「な、なあ、もしかしてお姉ちゃん、負けたん?」

洋榎「ごめんな絹、お姉ちゃん、弱かったみたいや…」

絹恵「で、でも、210本場って…」

雅恵「軽く見積もって、マイナス千万点くらいか?千点一万やろ?」

洋榎「あはは、今までの勝ち貯め、東風一回で溶かされたわ」

絹恵「で、でも、借金ならうちも一緒に返すから…お姉ちゃんがプロになれんなんて、そんなの嫌や!」

洋榎「借金は作ってないで?あいつら、うちの蓄え把握してたみたいでな。きっちり全財産取られたわ」

絹恵「だったら…何もないならプロに…」

洋榎「足、突っ込みすぎたんよ。今更、足洗って表の世界なんかいかれへん。ごめんな絹、待たせといて、うちがいかれへんようになってもうた」

雅恵「自業自得や、ドアホ。今日だって言うたやろ。あの店には怖いのがおるから行くなって」

洋榎「せやな、ホンマに…ドアホやな…」



雅恵「ま、わかったと思うけど、西日本の裏の世界のボスはあいつらやから、うちも裏にそこそこ顔が利く。雀荘経営者は千里山とか姫松みたいな名門高校の卒業生も多いしな。裏プロやるなら不自由せんようにはしたる」

絹恵「オカン、裏に顔が利くんやったら何とかならんの!?」

雅恵「ならん。むしろ、私の娘が暴れとるって言って私も火消しに追われてたんや。ここまで引き延ばせただけで奇跡やで」

洋榎「すまんな、あいつらにも、オカンにも迷惑かけて」

雅恵「江口の奴にも謝っとけよ。お前がプロに来るのを一番楽しみに待ってたのはあいつや


ゆみ「…そうか。まあ、あいつクラスが旅打ちなんかしてるのがおかしいのさ。うちは来れば打たせてやると伝えてくれ」

モモ「愛宕さんの話っすか?」

ゆみ「聞いたのか?」ツウワシュウリョウ

モモ「蛇の道は蛇。私も一応裏プロっすよ…まあ、竹井さん経由っすけどね」

ゆみ「ま、あいつらは旅先でも良く顔を合わせてたらしいからな。久は悪い話はあまり聞かなかったが」

モモ「あの人はその辺わかってそうっすからね」

ゆみ「ファンも多い。うちに居ると聞いた全国の雀荘から、また来てくれと伝言を頼まれてるぐらいだ」

モモ「美穂子さんには聞かせられない話っすね」

ゆみ「…ああ、そっちの可能性もあるか。聞いた限りでは純粋に打ち筋に見惚れたというのが多いが」

モモ「嶺上さんを探すためになんでもしてたはずだから、そっちも何人か居ると思うッすよ?うちに居ると聞いて押しかけて来るぐらいの人もいるはずっす」



カラカラカラーン



?「久は…居ますか?」

モモ「こんなふうに、ね」

ゆみ「…頭が痛いな。あいにく、今はいないよ」

?「…」ズズ…

?「…」カリカリ

モモ(東京の人…まあ、嶺上さんが失踪したのは東京っすから、東京メインで探すっすよねえ…)

ゆみ(鹿児島の、巫女か…見つからなくて神頼みに行ったか…)


カランカラン


咲「…打てますか?」

モモ「なぜこのタイミングで来たっすか!?」

?「あなたは…宮永咲…?」ズズ…

?「久が追いかけてた人…長野から帰って来ないと思ってたら…」カリカリ

ゆみ「人数は居るな。君たち、打てるか?」

尭深「誰がなんと言おうと…」ズズズ…

春「久の想い人なら、決着をつけないと…」カリカリ

モモ「先輩、もしかして私も面子に数えてるっすか?」

ゆみ「他に誰かいるか?」

モモ「はあ…なんかこの卓には入りたくないんすけどね…」

尭深「本命と、長野の女…タイトルを取ったことのあるプロだって聞いた」

春「なるほど、あなたが長野に待たせてる女性ですか、元緑王・白王位、東横桃子」

モモ「先輩、あらぬ誤解を受けてるっす」

ゆみ「そのうち本人が来るだろう。本人に誤解を解かせればいい」


咲「…」テクテク


桃子「傀さん!?いつもはレートを確認するのに、なんで今日に限って無言で奥の卓に向かうっすか!?」

尭深「ちなみに、あの卓のレートは?」

ゆみ「基本レートが千点一万。最大で千点10万まで許可を取ってある。全国に10卓しかない合法の最高レート卓だよ」

春「…久を賭けるのに相応しい」

尭深「全くその通り…」

モモ「…竹井さん、恨むっすよ?」

ゆみ「今、『傀が来た』とだけ伝えて呼び出したからそのうち来る。本人に思う存分不満をぶちまけろ」


カラ…

久「…」

ゆみ「随分静かに入って来たな。珍しい」

久「ものすごく嫌な予感がしたのよね。今日だけは来る気なかったんだけど、咲が来てるって言うじゃない?」

ゆみ「ああ、久しぶりに奥の卓が動いてるよ」

久「あの部屋、許可申請通すために不正防止用の監視カメラあるでしょ、見ていい?」

ゆみ「随分慎重だな」

久「これは女絡みのトラブルの予感ね。胡桃とか憧とかならいいんだけど、尭深か春が来てたらヤバいのよ…」

ゆみ「そうか、残念だがあのカメラは資格持った人間じゃないと見せられん。直接行って来い」

久「ゆみ、私には分かるわよ、あなた絶対楽しんでるでしょ?」

ゆみ「少なくとも、今言った二人のどちらかは確実に居る」

久「はあ…まあ、覚悟決めて入るか…」


久「やっほー、傀が来てるって聞いて、来た…わ…よ…」

尭深「久…待ってた」

春「久…なんで帰って来なかったの?」

モモ「美穂子さんと間違われて殺気が痛いっす。早いとこ誤解を解いてほしいっすよ」

咲「…」

久「二人とも居るじゃないのーーーー!!!!ゆみいいいいいいい!!!!!!騙したわねええええええ!!!!!」

ーー

ダマシタワネエエエエエエエエ!!!!!!

ゆみ「…『どちらかは確実に居る』と言っただけで、一人しかいないとは言っていないからな。嘘ではない。騙したことに変わりはないがな」


モモ「対局中っすよ、叫ばないでほしいっす」タン

咲「…」タン

春「久の声が聞けて、嬉しい…」タン

尭深「…他の女の名前が久の口から出るのは不快」タン

久「春は、まあ、一緒にお告げ聞いて行き先知ってたから分かるとして、尭深はどうやって私の居場所を知ったのよ?」

尭深「…東京中の雀荘を巡って久の情報を集めた」

久「全く、私のことなんか忘れて良い人見つけなさいって言ったでしょ?」

尭深「久よりいい人なんか、いない」

春「久、その子とはどんな関係?」

久「あなたと同じよ、春。咲を探す際に、協力をお願いして、その地方に居る間の宿を借りた」

春「女同士の関係になったことは?」

久「『あなたと同じ』よ、尭深もそれで分かるわね?」

春「そう…」ホッ

尭深「」ホッ


モモ「意外っすね。竹井さんは普通に手を出しそうなもんっすけど」

春・尭深(まさか、こいつ、久と関係を持ってーーー)ビクッ

久「まさか。長野に待たせてる人がいるのに他の人に手を出すわけないじゃない」

モモ「安心したっすよ(美穂子さん的な意味で)」

春・尭深(安心!?)

久「心配されなくても、私は本当に大切な人を泣かせたりしないわよ」

モモ「思いっきり泣かせてたじゃないっすか(最初のあたり参照)。今だって不安にさせてるっすよ?(裏社会に潜ってる的な意味で)」

春・尭深(ああ…久にベッドの上で泣かされて、私たちの存在を知って不安になって…)

モモ「ん?なんか殺気が…」

春・尭深(東横桃子…こいつが最大の敵ーーーー)

久(悪いわね、モモ。この場は私一人じゃキツイわ。あなたを逃がしはしない…)

モモ(今の会話のどこに私への殺気が増大する要素があったっすかー!?)

咲「ツモ、6000、12000」

モモ(傀さんは傀さんで全開っすーー!?どうするっすかこれ!?)

久「…外の卓で遊んでるわ。勝った子だけ、私のところに来て」




久「あなたが勝つって、信じてるわよ」



モモ「誰に言ったか知らないっすけど、んなもん傀さんが勝つに決まってるっす。なぜか最初から仕上がってて勝ち目の欠片もないっすよ。私が全力出しても無駄なのは衣ちゃんの時に証明済みっす」



咲「ツモ、16000オール」



モモ「生きるって辛いっすねえ…」

尭深「条件…」

モモ「へ?」

春「勝利条件を決めましょう」

モモ「いや、決めるまでもないっす。三人仲よくトビじゃないっすか」

咲「ここから、一万ずつレートをあげて行って、最後の半荘でトップだった人の勝ち、ということでどうでしょう?」

尭深「乗った」

春「つまり、最後に勝てばいい…久が好きそうな条件」

モモ「いや、それ、あと半荘9回私らを毟りたいだけじゃ…」

咲「決まりですね。席はこのままで?」

尭深「時間がもったいない、早く久に会いたい」

春「同じく」

モモ「はあ…仕方ないっすね。そこまで毟られたら流石に痛いっす。本気であがくっすよ…」


尭深(流石、久の本命…強い…それに…)

春(東横桃子…宮永咲に、喰らいついてる…あんなに必死に…)

モモ(せめて原点超えないとマイナスが痛すぎるっすよ!この卓合法最高レートっすよ?)

咲「…」

尭深(正直、私は、もうこの人に勝つのを諦めてる…一度はオーラスまで行ったのに、蒔いた種が全て踏みつぶされた…)

春(久、なんとなく分かるよ…あなたがこの人達に惹かれて、私たちには見向きもしなかった理由…)

尭深(圧倒的な強さと…諦めないひたむきさ…この二人は、ただ久に憧れてるだけの私たちとは違う…)

春(敵わないなあ…麻雀でも、女としても…)

春・尭深(どうやら、向こうもそう思ってるみたいだし…)

春・尭深(せめて、応援したい方に勝ってほしいよね?)


咲「最終半荘ですね。レートは取り決め通り千点10万でよろしいですか?」

モモ「下げて良いなら下げたいっすよ」

尭深「構いません」

春「決着を、つけましょう」

モモ「決着とかとっくについてるっす!仮に二位の私が148000のトップで傀さんがー48000でもトリプルスコアで傀さんの勝ちっすよ!?」

尭深「確かに、麻雀では惨敗です」

春「けど、想いでは負けていない。そうですよね?」

モモ「何言ってるかわかんねーっす…」

尭深「今更照れなくてもいいですよ。私は、せめて、あなたに託したいと思います」

春「私たちの届かぬ想いを…」

モモ「お二人とも…(頭がおかしくなったっすか?、とは流石に直接は言えないっすね)」

尭深「この半荘、私たちはあなたのサポートをします」

モモ「…ありがたいっす」

咲「では、始めましょう」


モモ(半荘9回打って思うっすけど、この二人普通にそこそこ強いっすよね)

尭深(おそらく、このあたり…)

モモ「ポン!」

モモ(このレベルの打ち手がサポートに回ってくれて、衣ちゃん直伝の『デジタルモモ改』を全開にすれば、プラスで終わることぐらいは出来そうっす!)

咲「…」

モモ「ツモ。1000、2000っす」


咲「ツモ、4000、8000。終了ですね」

モモ「現実は非情っすねえ。まあ、トータル若干のマイナスぐらいで終わったから御の字っすか」

尭深「そん、な…」

春「これが…久の追い求める高み…」

咲「清算を」

尭深「…はい」

春「…はい」

モモ「私の負けは場代分ぐらいっすね。私が場代出しとくっすよ」

咲「お願いします」

バタン

モモ「はあ、全く、なんであんな勝負受けるっすか…仕上がった傀さんに挑むとか自殺行為っすよ?」

尭深「想いだけは、負けたくなかったから…」

春「それでも、届かないぐらい、強かった…」


久「…で、律儀に来てくれたわけ?」

咲「…勝ちましたから」

久「ふふ、そういうところ、可愛いわね」ナデナデ

咲「あう…」///

久「ふふ、七年探し続けて、ようやく手が届いたわね。それも、そっちから来てくれるなんて…」ナデナデ

咲「うう…部長はどこに行っても追いかけて来るんですから…」

久「…やっぱり、逃げてたの?」ピタ

咲「あ…」

久「毎回毎回、鹿児島であなたの居場所をお告げで聞いて、行ったら確かにあなたが暴れた痕跡があって、でも、結局会えなかった…」ナデナデ

咲「うう…」///

久「ねえ、戻ってきてくれないかしら?宮永咲として」ナデナデ


咲「あ…うう…失礼しますっ!!!」バッ

カラカラカラーン!


ゆみ「珍しいな、人鬼があんなに慌てるとは…」

久「ふふ、意外とチョロいかもしれないわよ、あの子」

ゆみ「七年かけて追いかけておいて何を言ってる」アキレ

久「あ、それもそうか…今の話だと、私が追いかけてるのには気づいてたみたいだし…」

ゆみ「ま、あいつが宮永咲として私の前に現れるのを待っているよ。天江たちとの約束もあるしな」

久「全く、七年も手間かけさせて…」

ゆみ「で、余所の女との話はつけたのか?」

久「それっぽいこと言って逃げてきたからね…どうなってるかしら?」


久「…お疲れ様」

尭深「久…」

春「…あなたが、私たちに振り向かなかった理由、なんとなくわかった」

モモ「竹井さん、さっきから会話が成立しないっす。どうにかしてくださいっす」

久「…」ピラッ

久「ふーん、あの子相手に良く打ったじゃない、モモ」

モモ「レートいくらだと思ってるっすか。二・三戦ならともかく、さすがになんにもしないで毟られたら痛い額になるっすよ」

久「ご褒美として、場代は私が出しとくわ」

モモ「もう少しましなご褒美が欲しいっすね」

久「それはまた今度ね。満月の夜に衣の居る卓に放り込んでくれたお礼もあるし」

モモ「根に持つっすねえ…」

春・尭深(…やっぱり、この人は、私たちより深く、久とつながってる…)

春「久…私、いえ、私たちは、あなたのことが好き」

モモ(いきなり何を言い出すっすかこのひとは?やっぱり会話が成立しないっす)

尭深「でも、あなたの心に、私たちの想いは届かない」

久「…そうね。わたしも、あなた達の想いに応えるつもりはない」

春「けど、好きでい続けることぐらいは、許してほしい」

尭深「届かないことは分かっていても、私はあなたのことが好きだから…」

久「ええ、嬉しいわ。…私を忘れてあなた達が幸せになってくれた方がもっと嬉しいけどね」

春「…努力する」

尭深「じゃあ、私、帰るね。もし、東京に来たら…」

久「ええ、顔ぐらいは見せるわ。元気でね、尭深」

春「…私も、姫様のところに戻る…」

久「上手く行ってもお礼はする気だし、上手く行かなくてもまた力を借りる、いずれにしても春にはまた会うことになるわ。またね、春」

春「うん…」


久「…今回ばかりは寿命が縮んだわね」

ゆみ「旅先で何をやったんだお前は…大体想像はつくが」

モモ「いや、あの二人が相手だと、竹井さんの非は小さい可能性があるっす」

久「気付いたらベタ惚れされてたのよ…インハイで対戦したよしみで少し協力をお願いしただけなのに最初から異常に協力的だったのよね…」

モモ「私も、なんか知らない間に尊敬の対象になってたっす。あの二人なんなんすか?」

久「…ちょっと思い込みが激しいだけで、基本は良い子なのよ」

ゆみ「ははは、まあ、無事に済んだんだから良いじゃないか」

モモ「私も、場代を竹井さんが持ってくれたからノーダメージっすね」

久「正直、高いとはいえ場代だけであの二人の襲撃を切り抜けられたのは奇跡よ。あなたと咲には感謝してるわ」

モモ「いいっすよ。私も『デジタルモモ改』の試運転が出来たっす」

ゆみ「…使うのか?」

モモ「ステルスと違って、あれはどっかのプロも『偶然』で済ませてくれるっすから、表で本気出せるっす」

久「…悪いわね、私の教育不足だったわ」

モモ「竹井さんが失踪してから三年後の話っすよ?竹井さんのせいじゃないっす」

ゆみ「連続天和や打点上昇、四喜和や一色支配まで偶然で片付けるくせに、ステルスだけは八百長を主張して譲らなかったな…」

モモ「まあ、他のは確率的には一応あり得るっすからねえ…けど、ステルスで誘発されたミスは普通ならプロがやるもんじゃないっす。リーチしての見逃しやフリテンチョンボが多発すれば、八百長に見えなくもないっすね」

久「能力だって擁護する人がいくら居ても、デジタルの頂点であるあの子の発言は影響が大きいものねえ…」

モモ「一応こっちが身を引いてステルス封印という形で落ち着けたっすけど…」

ゆみ「…モモ?」


ゴゴゴゴゴゴ


モモ「…正直、そろそろ一回ボコボコにしてやろうと思ってたところなんで、ちょうどいいっす」



久「トッププロの証、『大三元』。獲得条件は該当する三大タイトルの獲得…出場資格は該当タイトルそれぞれについて未取得かつ出場回数3回を超えないプロであること…あと一つ、残ってたわね」

ゆみ「大三元を獲得するためには、それぞれ三度しか機会が与えられないトーナメント式のタイトル戦を三つ制覇しなくてはならない。歴代タイトル取得者は小鍛冶健夜や三尋木咏など8名、現役では宮永照のみだ。まさにトッププロの証だな」

モモ「…ちょうどあのデジタル畜生が決勝に上がって来たっす。ぶちのめして赤王と大三元をいただくっすよ」

ゆみ「お前なら取れるさ。私も決勝当日は観戦させてもらうよ」

以上が本日分の更新となります。四話の後味が悪すぎるので五話も本日分とさせていただきました。
では、また明日。

えっと、先に宣言します。和好きな人ごめんなさい。



モモ「さて、気分はいかがっすか、出場回数3、最後のチャンスでようやく決勝卓まで辿り着いた原村プロ」

和「…八百長をやめて以来タイトルと縁がなかった東横プロですか。相応の実力があるのですから八百長などせずに実力を磨けばもっと早くこの場に来れたでしょうに」

優希「のどちゃん…何度も言ってるじょ…モモちゃんのあれは能力で…」

和「そんなオカルトありえません。打点上昇も鬼門も偶然です。そして、東横さんのステルスの正体は八百長です」

モモ「…まあ、そう思ってるうちは私のカモになるだけっす」

和「…八百長で麻雀を汚す卑怯者が、少し腕を上げたぐらいで調子に乗らないでください」

哩「お前ら…喧嘩なら余所でやれ。ここは対局室ぞ?ついでに、東横のステルスが能力なんは私も保証する」

和「能力などありません。あなたと姫子さんの和了りがつながっているのもただの偶然です」

優希「…のど…ちゃん」

哩「おい、東横、私はこいつばハコらす、邪魔ばしたら殺す」ゴゴゴゴゴゴ

モモ「奇遇っすね。私もこいつだけはトバさないと気が済まないっすよ」

和「プロから逃げた臆病者と、八百長をした卑怯者が共闘ですか。お似合いですよ」


哩「…場決めすっと、片岡」

優希「お、おう…」クルン



モモ「…ま、優希ちゃんが起家っすよね。プロになってから公式戦だけで1744連続っすけど、これも偶然っすか?」

和「4の1744乗分の一の確率で誰にでも起きることです」

モモ「2の10乗で約1000、4の1744乗は2の3488乗、その確率、小数点の下にゼロが何個つくか分かってるっすか?」

和「1000個以上のゼロがつきますね。しかし、ゼロではありません。ゼロでないなら偶然おこることもあります」

モモ「今この瞬間に隕石が降って来て私たちが消え去る確率とどっちが高いんすかねえ?」

和「さあ?どうなんでしょうね?」


モモ「…嶺上さんがああなったのも良くわかるっすね。この性悪と親友なんてやってたら性格歪んで当たり前っす」

和「…え?」

哩「鬼のように恐ろしいやつばってん、根はやさしか。間違いなくこいつのせいやね」

優希「モモ…ちゃん?哩さんも…咲ちゃんに会ったのか?」

和「言いなさい!どこで会ったのですか!?場所は!?時間は!?姿は!?」

モモ「…この決勝、半荘五回で私に一度でも順位で勝てたら教えてやるっすよ。ありえないっすけどね」

和「…そうですか…待っていて下さいね、咲さん…すぐに私が迎えに行きます」


モモ「ツモ。2000、4000」

優希(…二順目…だと?東場のあたしが、追いつけないじょ?そんなはず…)

哩(…ステルスと違う…こいつ、まだ隠し玉があったと?)

和(ふん、偶然早い手が来ただけで調子に乗らないでください)

ーー

モモ「ツモ。1300、2600」

優希(じょ…これは…何が起きてるじょ?)

哩(おいおい…飛ばしすぎやなかと?こっちまでトビかねんぞ)

和(…この半荘は分が悪そうですね)

ーー

モモ「ツモ、4000オール」

優希(…あたしの力が無効化されてるわけじゃないじょ…あたしだって四巡で倍満イーシャンテン…なのに…)

哩(傀と打って、さらに成長しちょるんか、こいつ…)ゾク

和(断トツですか…まあ、半荘一回ぐらいならそういうことも…)


モモ「…優希ちゃん、喜んでいいっすよ」

優希「…じょ?」



モモ「これから打つ半荘五回。南場は一度も来ないっす」



優希「…へ?」

哩(こいつ…本気たい…本気で、半荘五回を東場で終わらせるつもりでおる)ゾクゾク

和「…トラッシュトークですか。少しついてるぐらいで調子に乗らないでください」

モモ「ついてる?今の私が?ははははは…本当に節穴っすね、このデジタルの目は」

和「これ以上ないほどのバカヅキでしょう。こんなもの半荘一回も続きません」

モモ「なら、半荘五回続いたら、なんになるんすかね?偶然っすか?」

和「…もし続いたなら、偶然ですね」

モモ「…続けるっすよ。そろそろ運も味方してくれると嬉しいんすけどねえ」


モモ「…ダブリー」タン

和(ここにきてダブリーとはバカヅキここに極まれりですね)タン

優希(東場なのに…なにも出来ないじぇ…)タン

哩(この…馬鹿どもっ!なんで鳴けるとこば切らんと!?今のこいつのヤバさがわからんのか!?)タン

モモ「そんなに怯えなくてもいいっすよ、白水さん」タン

和「対局中に私語は謹んでください」タン

モモ「ロン」

和「は?」

モモ「デジタルは現物がなくなったら字牌や端牌から切るっすからね。立直かければあんたから出ると思ったっすよ」パタ

11p東東東南南南西西西北北 ロン:1p

モモ「小四喜。48000っす」

哩(こ…いつっ…)ガタガタガタ

優希(配牌で、小四喜確定だったのかじょ!?モモちゃん…こんなに強かったのか?)

和(こ…んな…理不尽なことが…いえ、麻雀は確率に支配されるゲームです、一度や二度はこんなことも…)


モモ「さて、二回戦っすけど…先に言っとくっすよ」

優希「なんだじぇ?怖いから聞きたくないじょ」



モモ「この半荘に、東二局は来ないっす」



優希「…へ?」クルン



哩「…は?おい、片岡、何したお前?」

和「1745回目で、偶然が終わったというだけです。驚くことはありません」

モモ「…私の親、この面子に終わらせられる人はいるんすかね?」クルン



哩(…これは、予想外やったな…こいつ、ここまでの化け物だったか…)

優希「あ、あたしの起家が…奪われた?」カタカタ

和「何を馬鹿なことを、場決めなどランダムです。まさかこんなくだらないところでイカサマでもしていたのですか優希?」

モモ「ま、親が私じゃなくても、ツキが本流に乗ってれば東二局は来ないっすけどね。一応保険っすよ」


モモ(ダマで十分っすね。どうせ高目がでるっす)

和(ふざけたことを…子で東二局を迎えさせない方法など、役満直撃しかありません。そんなヌルイ打牌をする者がこの決勝卓にいるとでも…)タン

打:1p

モモ「ロン、48000」

和「は?」

パタ

1112222333399p ロン:1p

モモ「清一色純チャン二盃口、ついでにピンフっす」

和「こん…な…こんな大事な時に、なぜこんな理不尽が…」


モモ「…優希ちゃん、場決めの時点で、私には逆らっても無駄だと分かったと思うッす」

優希「う…」

モモ「次からは普通に起家っすけど、変な気は起こさないでオリててほしいっすよ。私の狙いは一人だけっす」

優希「…私だって、タイトル戦の決勝に遊びに来たわけじゃないんだじぇ、モモちゃん?」

モモ「優希ちゃんは、二回目。まだチャンスはあるっすよ…それとも」


ゴゴゴゴゴゴ


優希「」ゾクッ

モモ「…私に、チームメイトを潰させたいっすか?」


モモ「ツモ。3000、6000」



モモ「ツモ。2000オール」


モモ「ツモ。6100オール」


モモ「ツモ。6200オール」


モモ「ツモ。8300オール。全員トビで終了っすね」

ーー

モモ「ツモ。2000、4000」



モモ「懲りないっすねえ、ロン。24000。あと半荘一回っすよ?」


モモ「ツモ。300、500」

和(…ゴミ手。最後の半荘でようやく、バカヅキが終わりを見せましたね…咲さんの手がかり、この半荘で彼女に勝てば…)



モモ「ツモ。700、1300」

和「二連続…しかし、安手です。まだ逆転は…」



モモ「ツモ。1300、2600」

和(親が流されましたか…しかし、先ほどまでと違って手は安い。まだ勝負は…)



モモ「ロン、24000」



和「…え?」

モモ「え?じゃないっすよ。終わりっす」

哩「…はー、しんど…タイトル戦ば負けて良いから終われと思うたんは初めてばい…」

優希「東場だから手は来るのに…何も出来なかったじょ…」グスッ

和「…そんな…だって、ここで負けたら咲さんの手がかりが…」

モモ「それでも、終わったものは終わったんすよ。あんたの都合など関係なく、あんたは何も出来なかったという事実だけが残るっす」

哩「…東横のステルスが能力かどうかに関係なく、『お前の発言を信じて八百長だと非難する人間がいる』という事実だけが残ったように、な。現実ってのは残酷やね」

モモ「では、私は表彰式まで消えてるっす」ステルス

優希「…消えたじぇ…」

哩「見えんが、その辺にいるはず。陰口はやめとけよ」



和「…なんのトリックですか今のは?突然消えた?」



哩「…ステルス状態の東横が見えるのは卓上だけか…」

和「ステルスなどという与太話を信じる気はありません。あれは八百長以外に説明がつきません…あっ!」ハッ

和「…そうです。八百長をするような卑怯者がまともに勝負するはずがなかったのです…さっきの対局だって、きっと積み込みか何かで…」



哩「蛇か鳥ならともかく、人間に自動卓で積み込みが出来るはずなかろーが。狂ったか」



和「くっ…なんて卑劣な…八百長の次はイカサマですか!正々堂々と勝負できないのですか!東横桃子!」

優希「のどちゃん…」

和「優希…あなたはチームメイトでしょう!?あの卑怯者に、イカサマをやめるように言って下さい!ばれていないうちなら資格はく奪は免れますよ!」

優希「のど…ちゃん…」ポロポロ

和「…すみません、あなたもチームメイトに裏切られて辛いのでしたね…大事なタイトル戦で、イカサマをされて…」

優希「…い……に…ろ…」プルプル

和「…許せません…麻雀そのものに対する侮辱である以上に、私の親友を裏切ったことが…東横桃子…外道が…」ギリッ



優希「いいかげんにしろっ!この畜生が!」



パアーーーーン!

和「…え?」ヒリヒリ


優希「お前みたいなやつが、私の友人を名乗るな…私の親友は、のどちゃんは!お前みたいな屑じゃない!」

哩「…能力云々の話は、まあ、こいつにも信念があるから許してやってもよかったとよ。やけん、今のは許せん」


モモ「…悪かったっすね、優希ちゃん。腐っても竹井さんの後輩で優希ちゃんと嶺上さんの友人でもある人間がここまで屑とは思わなくて、あっけにとられて出そびれたっす」スウッ


優希「気にしなくていいじょ、モモちゃん。こんな奴を友達だと思ってた自分が恥ずかしいじょ。こいつの本性が見られて良かったぐらいだ」

和「ゆ、ゆうき…?いま、ゆうきがわたしをたたいたのですか?」

優希「気安く呼ぶな、畜生が」


哩()ゾクゾク


モモ「四位は表彰式での出番はないっすよ。さっさと会場から消えて下さいっす」

和「…そうか…優希までたぶらかしたのですか…とことん外道ですね、東横桃子」

優希「まだ言うのか、このっ!!」ブンッ

パシッ

哩「やめろ片岡。お前の手を汚す価値はなか」

和「…この場は引きましょう…しかし、必ずあなたの不正、イカサマの証拠を暴いてみせますからね!」

タッタッタ

モモ「んなもんどうやっても見つからないっすよ。正真正銘、実力なんすから」


和「咲さん…咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん咲さん」

和「そうです…あの卑怯者に勝たずとも、あの卑怯者があなたと会ったという情報だけでも十分あなたにたどり着けるではないですか…」

和「まずは東横桃子が出入りしている雀荘がどこかを調べましょう…咲さんが東横桃子に会ったというならきっとそこに違いありません」

和「咲さんがいれば、優希の洗脳だって解けるはずです…咲さんと私の愛があればあらゆる障害は越えられるのですから…」

和「ふふっふふふふふうhっふふふふふふふふふ、咲さん…今いきますよ…」



ゆみ「『大三元』の東横桃子がこんなところにいて良いのか?」

モモ「ここ以外にどこに行けって言うんすか。日本最高レートの卓があるこの店こそ私に相応しいっす」

久「北大阪にある裏雀荘の千箇牧とかは?二人組の無敗の裏プロがいるって話よ」

モモ「そんな化け物にわざわざ会いたくないっすよ。勝てない相手は傀さん一人で十分っす」

咲「…」

久「しかし、いつもは面子が揃ってからふらりと現れるあなたが一番乗りとはね。どういう風の吹き回しかしら?」

咲「…」

ゆみ「小鍛冶健夜や三尋木咏に比肩しうるトッププロの証、『大三元』。もう一度聞くが、その資格を持つものが裏にいて良いのか?もう、表でも本気を出せるだろう?」

モモ「…そうっすね。裏でしか本気で打てないってことは、もうないっすね」

久「…でも、表ではステルスはできないでしょう?」

ゆみ「モモはもうステルス使いではない」

モモ「…私は、『ステルスモモ』っすよ。ステルス以外に何使えって言うんすか?」

ゆみ「大三元を取ったのは『デジタルモモ』だ、わかっているだろう?」


咲「…モモちゃんには、ステルスの方が似合うよ」


久「同感ね。七年前から、東横桃子は『ステルスモモ』よ」

モモ「分かってるじゃないっすか。私は鶴賀のエース、『ステルスモモ』っす。先輩が見つけたトッププロっすよ」

ゆみ「…」

モモ「言わなきゃわかんないっすか?」

ゆみ「…いや、分かった。これからも、ここに居てくれ、モモ」


モモ「分かって貰えてなによりっす。私のためにとかなんとか言い出したらぶん殴ってたっすよ」

ゆみ「ふん、非合法には手を染めていない。お前をそばに置いて後ろ暗いことなどないさ」

久「ノーレートとか置いてるのはモモに表プロとして指導対局させるためでしょ。さっさと素直になればいいのに」

ゆみ「なんのことかわからんな。そう言えば、珍しくしゃべったじゃないか、人鬼」


咲「…」


モモ「ま、今更『正体をー』なんて言う気はないっすよ。私は裏プロの傀さんの方が付き合いが長いっす」

久「私だって咲とはインハイまでの四か月しか付き合いないわよ。そろそろ傀が馴染んできたわね」

ゆみ「四か月の付き合いしかない奴を七年も追っていたのか。酔狂なことだ」

久「それは言わないでよー。私だって最初は半年ぐらいで戻れると思ってたんだから。鹿児島の協力も得られたし」


咲「…」



モモ「しかし、どの卓も欠けないっすねえ…欠けたら卓についてた四人がみんな帰るっす」

久「欠けたらこの三人の誰かが入るんだもの。みんな空気が読めるようになってきて悲しいわ」


『当たり前じゃボケー!』『モモちゃんはまだしも傀や久と好き好んで打つ奴なんかいるか!』『そのうち挑むから待ってろ悪待ち外道!』


ゆみ「強すぎるのも困りものだな。衣が家出した時もそうだったが、卓が立たん」

カラン

?「…懐かしい匂いです…咲さんの匂い…」

ゆみ「…いらっしゃい。来るものを拒むつもりはないが、少々場違いじゃないかな?」

咲「…」

?「咲さん、探しましたよ」

咲「…」

久「…今のあんたには会いたくなかったわね、和」

和「…部長…咲さんを見つけたらすぐに連絡をいただける約束でしたよね?」

久「見つけてないもの。確かに似てるけど、この子は傀っていう裏プロよ」

和「咲さん、お久しぶりです。今は素性を隠して裏プロをなさっているんですか?咲さんなら表でもトッププロになれますよ、私が保証します」

咲「…」ギリッ

桃子「不愉快な羽音が聞こえるっすね。麻雀プロのくせに麻雀で完膚無きまでに叩き潰された虫けらの羽音っす」

和「…あなたもいたのですか、東横桃子」

桃子「あんたの腕じゃこのフロアは100年早いっすよ。身ぐるみはがされる前に帰った方がいいっす」

久「…同感ね。今このフロアで空いてるのは私たち三人だけ。表のプロごときが来ていい場所じゃないわ」

咲「…ここは雀荘です。四人揃ったようですし、打ちませんか?」


久「和、あなた、手持ちは?」

和「カードしかありません」

ゆみ「…カード決済にも対応している。残高は?」

和「8ケタはあります」

モモ「このフロアは千点千円、奥の卓は最低千点一万、最高で千点10万っすよ」

ゆみ「…奥の卓でのレートアップは認めない。破滅する。それを防ぐための管理責任者だ」

久「トビなしは?」

ゆみ「認めるわけないだろうが」

久「…そう、残念」

咲「…」

モモ「…千点一万はオーケーなんすよね?まさかビビッて逃げないっすよね、原村和?」

和「…ええ、あなたこそ、イカサマを使ったりしないでくださいね?」

モモ「傀さん相手にイカサマが通じるわけないっす。ま、あんたにとってはイカサマなのかもしれないっすけどね」

和「咲さんがいる以上、神は私の味方です。もはやどんな障害も恐るるに足らず」

久(…狂ってる…これをあの和と同一人物とは思いたくないわね)


モモ「ここまでマイナス800万っすか。貯金の一番上の位が2以上だったらまだまだ破滅には程遠いっすねえ」

咲「…」

久「そりゃそうよ。ゆみが潰れないって判断したレートだもの」

和「あはははっは、神が味方していても、麻雀に負けることはあるんですね!」



咲「…うるさいな」



和「…え?」

咲「その耳障りな羽音を止めてくれるかな?」

和「さ、咲さん…何を?」


咲「あなたの知っている宮永咲は死んだ。殺したのは、あなた」


和「そ、そんな、あんな些細な隠し事ぐらいで…」

咲「…」

和「あ、そうです、咲さん、また一緒にお昼寝しましょう」

和「一緒に麻雀を打って、一緒にお昼寝して、一緒にお出かけして…」

咲「…」ポチッ

カラカラカラカラ



和「ね、咲さん、そうしましょう?きっと楽しいですよ?」

久「…あなたが転校の話を隠していたのが最後のきっかけだったかしら?」

咲「…」

和「だって、そんな話をしたら咲さんに余計な負担がかかりますし…話したところで麻雀の結果は変わりません。話すべきではなかったんです」

咲「…」タン

久「親友というなら、話すべきだったと思うわよ」タン

モモ「…」タン

和「で、ですが、話したところで…」タン



咲「ロン。36000」



和「…話していれば、勝てたっていうんですか!?そんなオカルトありえません!」

モモ「勝てたと思うっすよ、私の知ってるリンシャンさんなら」

久「…勝つための理由があれば、あの時の咲は『絶対に』勝ったでしょうね」

和「あり得ません!麻雀は腕によるところがあるとしても基本的に運で決まるゲームです!」

和「あの時の決勝!大将戦!咲さんの打牌にデジタルから見たミスは一切ありませんでした!どうやっても勝てなかったんです!」

モモ「それが、あんたがオカルトを頑なに否定する理由っすか。思ったより浅いっすね」ポチッ

カラカラカラカラ



久「咲が完全デジタルで打ってる時点で勝つ気なんかまったくないわよ。あなた、咲がデジタルで打ったの見たことあった?」

和「あの時は勝つためにこだわりを捨ててデジタルに徹したんです!そうに決まってるんです!」ダン

咲「ロン。12000」


カラカラカラカラ


モモ「デジタルで打って、リンシャンさんに勝てたことあったんすか?」

和「咲さんは私より強いんです!」

久「トッププロに名を連ねる『デジタルの申し子』より強い子がただのデジタルで打つなんて、勝つ気の欠片もないじゃない」

和「う、うるさいうるさいうるさい!私は悪くないんです!あの別れは決まっていたんです!回避する手段はなかったんです!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


和「ひっ!?」



咲「ツモ。16000オール」



久「…もういい。私は抜けるわ」

モモ「…私も、一緒の空間に居るのに耐えられそうにないっすよ」

咲「…では、清算を」


和「咲さん…私は…私は…」

咲「…私は、傀。人の姿をした、鬼です」

久「…」

モモ「私は仮眠室で寝てるっす。獲物が来たら起こしてくださいっす」

和「咲…さん」

久「和、今更あの時のあなたの判断を責める気はないわ。あなたなりに考えた上での選択だったんでしょ?」

和「は、はい…」

久「けど、それが間違っていた。それを自覚できるかどうかよ。今のあんたは、私が一番嫌いなタイプだわ」

和「そんな…だって…」

咲「…」

カラン

ゆみ「またのお越しをお待ちしております」

和「あ、あああ、うあああああ…」ポロポロ


久(…あの子が変わったきっかけは、七年前のインターハイ、それしかない…)

久(…なら、もとに戻すためには、あの時の絡まった糸を解すしかない、か)

久(昨日のことのように思い出せるわね…七年も前の、ことなのにね)


~~

久「ほら、あんまりはしゃいで迷子になると大変よ?」

咲「そ、そうだよ優希ちゃん、もう少しゆっくり…」

優希「咲ちゃんじゃあるまいし、迷子になんかならないじぇ!」

京太郎「そう言うこと言うやつに限って迷子になるからな」

優希「なんだとー!こら犬!そんな風にしつけた覚えはないじぇ!」

京太郎「しつけられた覚え自体がねーよ、ほれ、迷子になんねーように手握っとけ」

優希「お、おう…」


咲「ほっといていいんですか?」

和「まあ、須賀君もついてますし大丈夫でしょう」

久「優希に付き合ってたら息抜きなのに疲れちゃうわよ。いいのいいの」

まこ「わりゃあホントに…あの二人をくっつけるために二人にしたんじゃろ?」

久「さあ?何のことかしら」



咲「あ、飛行機だ!」

和「もう、咲さんは本当に迷子になるんだからふらふらしないでください!」



久「和もすっかり咲の保護者ねえ」クスクス

まこ「にぎやかじゃのう」

久「そうね。しかも明日はインハイの決勝よ。幸せすぎて怖いわ」

まこ「あんたは幸せになるべきじゃ、それだけの苦労をしてきたからの」

久「…あれ?」

まこ「どうした?」

久「…今会わせていいのかしらね?」

まこ「なんのことじゃ?」



照「あ、飛行機」

菫「おい、よそ見をするな。そんなんだからいつも迷子になるんだ」



照「私は迷っていない。道の方が私を惑わしているだけ」

菫「それを迷子というんだ馬鹿が」

照「あ、ちょうちょ…」

菫「人の話を聞けえええ!」ガー



?「…え?うそ…」

?「どうしたんですか、咲さ…あ」



照「?」フリムク



咲「おねえ…ちゃん?」



菫「君は…たしか清澄高校の…おい、照、お前やっぱり…」

照「ち、違う!私に妹は居ない!私は嘘はつかない!」

菫「…今言ったセリフが嘘だったらハリセンボン飲ますぞ?今なら見逃してやる」


照(不味い、しかし、前に言ったのが嘘だとバレてもハリセンボン…嘘をつきとおすしかない)

照「神に誓っていない」キョド

菫(明らかに嘘だな。やはり妹か…)


咲「…」


和「そ、そんな…咲さんはお姉さんに会うためにインターハイまで来たんですよ!?そんな言い方…」

照(う…それは…いや、しかし、ハリセンボンは…ごめん、咲)

菫「…すまん、本人がこう言ってる以上、今はどうにもならないな。日を改めてもらえるか?」

和「ふ、ふざけないでください!」

咲「…」グイッ


和「さ、咲さん…?」


咲「…」

和「…分かりました、そっちがそういうつもりなら、卓上で語らせていただきます」



照(どうしよう?咲に悪いことしたな…)


久「…あれ?読み間違えたかしら?チャンピオンから敵意を感じなかったから行けると思ったんだけど…」

まこ「ありゃあいかんの、目に見えて沈んどる。明日までに立ち直るんか?」

久「…せめて会話の内容がわかればね…下手打つとさらに地雷を踏むわ」

まこ「厳しいのう…」




久(あれが最大のミスだったわね。敵意はなかったと思うのだけど、あの時、照は何考えてたのかしら)



久「オーラスで役満和了るとかそんなの知ったこっちゃないわよ!この親で飛ばせばオーラスも来ないでしょ!?」

尭深(…この人…強い)ズズ…

ーー

和「…咲さん、すみません、二位に落ちてしまいました…あんな三副露を繰り返す素人みたいな打ち手を相手にふがいないです…」

咲「…」

和「でも、咲さんなら、きっと優勝できるって、信じてます!」

咲「…行ってくるよ」

ーー

『大将戦決着ーー!!!白糸台の大星選手、見事な和了で白糸台の三連覇を締めくくりましたー!』

『ん~?清澄の咲ちゃんがやけにおとなしかったねえ。てゆうか、あの子のデジタルとかこの大会初めてじゃね?知らんけど』


和「…そんな…咲さんが、負けるなんて…」

久「完全にデジタルだったわね。気持ち悪いぐらいノーミスのデジタル。下手すると和より精度高いんじゃないかってぐらい」

まこ「あんなん初めてみたの。立ち直れんかったか」

優希「昨日から様子がおかしかったじょ…一回も槓しない咲ちゃんとか咲ちゃんじゃないじょ…」

和「…咲、さん…」

ガチャ

咲「…ごめんなさい」


久「…いいのよ、ここに来れただけでも、私は十分。あなたには感謝してるわよ、咲」

まこ「久以外には来年もある、こいつがお前さんに感謝しとるっちゅーなら、謝る相手なんかおらんわい」

優希「咲ちゃんが居なかったらここまで来れなかったんだじぇ、ありがとな、咲ちゃん!」

京太郎「ほら、胸張れよ、インハイ準優勝校の大将なんだぞお前は。つっても張るほどないけどな」

咲「…セクハラだよ、京ちゃん」

久「重症ね。負けたことよりあんたが暗い顔してることの方が問題よ」

まこ「ほれ、シャキっとせい、個人戦もあるんじゃぞ」

咲「…私が辞退したら、部長は個人に出られますか?」

久「無理よ。辞退の届け出は先週までになってるもの。今辞退しても繰り上がり出場はないわ」

咲「…そう、ですか」


久「昨日、何があったの?」

咲「…お姉ちゃんに、『妹は居ない』って、言われました…」

久(うわ…面と向かってそれ言うのあの人?そんな人には見えないんだけど)

まこ(咲がインハイに出たのは、姉と仲直りするため、じゃったか。それはきついのう…インハイに来た理由がたった一言で全部オジャンじゃ)

優希「咲ちゃん、元気だすじぇ…」

和(…団体戦では、負けてしまいました。しかし、個人戦で優勝すればまだ転校は免れることが出来ます…)

京太郎「…和?」

和「え?な、なんですか須賀君?」

京太郎「い、いや、こんな時一番に咲の心配しそうなお前が何も言わないから、ちょっと気になってな。二位に落ちたこと気にしてんのかと…」


久「…和、あんた、何悩んでるの?今日の麻雀ではないでしょ?」

まこ「『どんな強者でも半荘数回程度なら負けることがある』が持論じゃからな。麻雀の負けを引きずるわきゃーない」

優希「…うん、のどちゃんもおかしいじぇ。何があったんだのどちゃん?」

和「大したことではありません。私の問題です」

咲「…聞かせて、和ちゃん…私に出来ることがあるなら、してあげたいから」

和「…そうですね。余計な負担をかけまいと黙っていましたが、もう話してもいいでしょう」

久「(え?余計な負担…?)ちょ、ちょっと待った…」

和「…私は今回のインターハイで優勝できなければ、進学校に転校することになっています」


まこ「は?」

優希「じぇ!!?」

京太郎「お、おい、和、何言ってんだ!?」

久(…最悪だわ、よりにもよって今言わなくてもいいじゃない)

咲「なに…言ってるの、和ちゃん?」

久(さすが幼馴染ねー、咲と須賀君、反応が同じだわー…)

和「残念ながら団体戦では優勝を逃しましたが、まだ個人戦があります。個人戦で優勝すれば…」



咲「出来るわけないでしょ!!!!!!!!!」



久(咲の大声とか初めて聞くわね…)

まこ「お、おい、久、どうにかならんのか?」ヒソヒソ

久「…手に余るわね。私だって打ち出の小槌ではないのよ?」

咲「亦野さんにすら勝てない人が全国優勝!?笑わせないでよ!」

和「麻雀は運の要素が大きいゲームです、半荘二回ぐらいなら負けることだって…」

咲「私に勝てない人がどうやって私より強い人に勝つの!?馬鹿なの和ちゃん!?」

和「可能性はあります…確かに低いでしょうが、ゼロでは…」

咲「」ギリッ



パアーーーーン!



和「…さ、き…さん?」ヒリヒリ

咲「もういい。もう、なにも信じられない…」タッッタッタ


久「咲、ちょっと待ちなさい!咲!」

和「う…うあああああああーーーー!!!」ポロポロ

久「ああもう、和まで…どうすんのこれ…  須賀君!」

京太郎「はい!」

久「咲を追って!無理やりでもいいから連れ戻して!」

京太郎「はい!行ってきます!」

久「優希、まこ、和についてて」

優希「お、おう…」

まこ「おんしは?」

久「…とりあえず白糸台、宮永照の真意を探る。あとは、須賀君だけじゃ心もとないから援軍を呼んでくるわ」

まこ「うむ。和はまかせんしゃい」

久「頼むわ。行ってくるわね」

ガチャ


久「え?」

記者「麻雀ウイークリーです!初出場で準優勝の快挙を成し遂げた清澄高校に取材に来ましたー!」

久「今それどころじゃないのよ!取材なら後で受けるから、今は…」

記者「またまたー!顧問もいない無名校が準優勝ですよ!今を逃したら独占取材なんてできませんって!普段の練習方法などを聞かせてください!」

久「どけって言ってるのよ!消えなさい!」

記者「逃がしませんよー!苦労してインハイの控え室まで潜り込んだんですからー!」

久「っこの…答えることはない!消えろ!」

記者「そんな怖い顔しないでー、いいでしょーちょっとぐらい」


京太郎「すみません…外出た途端に雑誌の記者につかまって…」

久「…そっちもか、美穂子たちが見つけてくれればいいけど…あの方向音痴がどこ行くかなんて予想出来ないからね」

まこ「…どうにかなりそうか?」

久「彼女たちが会場から出た以上、白糸台とはもう連絡が取れないわね。前人未踏の三連覇だもの、電話すらしばらく繋がらないわよ」

優希「…警察は?」

久「この辺の警察はインハイの警備で手一杯よ。白糸台なんか二軍の子の家にまで取材が殺到して警備の手が全く足りてないらしいわ」

まこ「人探しをしている場合じゃない、か」

京太郎「くそっ、どこ行ったんだ咲のやつ…」ガン

久「私たちも迂闊に外出られないし、マスコミが嫌いになりそうだわ」

まこ「わしゃ、もとから嫌いじゃ」

優希「咲ちゃん…無事でいてくれじょ…」


『次のニュースです、何の罪もない記者に暴行です』

『都内で行われたインターハイの会場から二キロほど離れたところで、記者が倒れているのが見つかりました』


久「…まさか…」

『倒れた記者の話では、インターハイで準優勝した清澄高校の大将、宮永咲選手に取材していたところ』

優希「…取材、だと?」

『いきなり意識がなくなって、気が付いたら病院だったということです。外傷はないものの、暴行事件として告訴する姿勢を見せており…』

まこ「…なにせ咲じゃからな。あのプレッシャーをもろに受けたら相当気合入ったもんでもない限り、意識ぐらい軽く飛ぶじゃろうな」



久「…ほんっとうに、最悪だわ!これじゃ身動きできないじゃない!身の程ぐらいわきまえなさいよ!!」



優希「じょ?」

久「…ゆみ?今すぐ引き上げて。ええ、見たわ。…そう、手際がいいわね。うん、こっちは大丈夫よ、ありがとう」

まこ「どういうことじゃ?」

久「無名校がインハイ準優勝、大将の突然の不調、失踪、暴行事件…さあ、どうなると思う?」

まこ「腐っとるな。反吐がでる」

久「それはそれとして割り切って、現実の問題に対して手を打たなきゃいけないのよ。とりあえず、協力してくれたみんなの安全確保ね」

京太郎「…でも、それじゃ、咲が…」

久「この状況だと、龍門淵さんぐらいしか動ける人間はいないわ。私たちはなんの力も持たない高校生、出来ることの範囲で動きなさい」

京太郎「俺は、なんにも出来ないんですか…」

久「…」

まこ「久がなんもできんと言っとるんじゃ、ほとぼりが冷めるのを待つしかない」

久「…個人戦で、なにか起きてくれればいいんだけどね。起こせそうな唯一の人間が、失踪してる当の本人なのよねえ…」

まこ「宮永照のインハイ三連覇じゃダメか?」

久「宮永照の三連覇なんか今更よ。負けてくれる方がニュースになるわ」


久「…結局、あれから三か月以上経ってようやく本腰入れて探し始めたけど、手がかりなんかないわよねえ」

?「…あれ?清澄の…どうしたんですかこんなところで…?」

久「あら、あなたは確か白糸台の…」

尭深「お久しぶりです。次に会うのはどこかの大会だと思っていました。…あなたは、強かったから」

久「光栄ね。でも、今は大会どころじゃなくてね。知らないかしら?」

尭深「宮永、咲さん…?」

久「そう、探してるのよ。あの子が消えた東京に手がかりがないかと思ってね」


~~

久「で、それから尭深のところに泊まって毎日手がかり探して、それらしき打ち手が高レートで暴れてるって聞いて乗り込んで…」

~~


?「は?あのガキのことなんか思い出したくもねえよ!他あたんな!」

久「…そう、知ってるのね?」

?「うるせえ、ガキの小遣いで払えるレートじゃねえぞ。痛い目見ないうちに消えな」

久「出来るもんならやってみなさい。こっちだって引けないのよ」



久「手持ちが足りない?じゃあ、話してもらいましょうか、ここで暴れてた女の子のことを」


久「噂を追って鹿児島まで来たけど、噂がパッタリ途切れたわね。外れか…」

久「そういえば、有名な神社があったわね、神頼みでもしておこうかしら?」



?「立ち去りなさい、魔に魅入られし者よ」カリカリ

久「…それはなんの冗談かしら?まあ、裏プロなんかやってるから神域に入り込むには後ろ暗い身の上だけど」

?「…あれ?清澄高校の…?」カリカリ

久「ん?ああ、永水の…滝見さん」

春「なんで、あなたが『魔』に?」

久「いや、意味が分からないのだけど…」

?「春、その人は違うわ。と言っても、関係は深いみたいだけど」

春「そう…良かった」カリカリ

久「で、何これ?永水女子のレギュラーが勢ぞろいでお出迎え?」

小蒔「すみません、『魔に魅入られし者が訪れる』と神託があったもので」

久「オカルトは麻雀だけにしてほしいのだけど、どうやらマジっぽいわね」

初美「ん~、このひとが来たということは、『魔』は失踪中の大将さんですかねー?」

霞「そうね。小蒔ちゃんをも飲み込むかもしれない巨大な魔、その身に宿せる人間はあの子ぐらいでしょう」


洋榎「おお、清澄の悪待ちやんか。なんでこんなとこにおるんや?」

久「こっちが聞きたいわよ。あんたこそプロにならなかったの?」

ーー

?「ダルい…『人鬼』といい、あなたといい、なんでわざわざ塞の店に来るの?」

久「来たくて来たわけじゃないわよ。うちの後輩知らない?」

?「後輩かどうかは分からないけど、『人鬼』なら一昨日までここで暴れてた…ダルかった…」

久「また入れ違いか。にしても、あの子が暴れて良く無事で済んだわね」

?「豊音と二人がかりだったから…それでも負けたけど」

久「『負けた』って言葉で済む程度の負けなのね。流石と言っておくわ」

ドタドタ…バタン!

?「シロ!無事!?今度は『悪鬼』が来てるって聞いたけど!?」

久「ああ、大丈夫よ。打ちに来たわけじゃないから」

?「ダルい…」



久「色々あったわね。でも、これ以上は思い出しても仕方ないか」

久「…宮永照に、話を聞きに行かなきゃね。咲を探すのに夢中で、見つけた後の手を打つのを忘れてたわ」

後味が悪いという理由で二話上げたなら、やっぱり三話一気に行かないといけないんですよね、この話。

というわけで本日は三話分でした。では、また明日。

ゆみ「東京へ?」

久「ええ、あの子を『咲』に戻すための仕込みをしないとね。流石の私でもノーテンじゃ和了れないわ」

モモ「卓が立たなくなるっすねえ」

久「案外立つかもよ?化け物三人よりは二人の方が希望があるでしょ」

ゆみ「福路には東京に行ったと伝えるぞ?」

久「出来れば宮永照か弘瀬菫にアポを取ってほしいわね。私からじゃ名乗ってもアポ取れないでしょ」

モモ「私から言っとくっすよ。弘瀬さんは堅物のわりに話がわかる人っす」

久「…てゆうか、尭深から連絡取ればいいわね。三連覇を成し遂げた元チームメイトだったわ」

ゆみ「まだ会いに行くのか。懲りない奴だ」

久「東京に行ったら顔出すって言っちゃったもの。約束は守るのよ、私」スクッ

ゆみ「…もう行くのか?」

久「ええ、美穂子によろしくね」


久「やっほー、久しぶりー」

店長「久か、探し物は見つかったのか?って、見つかってたら来ないか」

久「いやー、見つかったんだけど、鍵がないと箱が開かないのよね」

店長「で、今度は鍵探しか?」

久「それもあるけど、今日は別件」

店長「別件?」


久「麻雀ウイークリーとかいう雑誌を潰さないと気が済まないのよ。社長、ここに来てるんでしょ?」ニコッ


店長「」ゾクッ

久「レート、黙認してね」

店長「あれは常連だが嫌われ者だ。別にかまわんが…何があった?」

久「…私が七年を棒に振る事になった原因の一つよ。しかも結構大きいほうね。あれがなければ二週間ぐらいで片付いたわ」

店長「竹井久の七年、か。ま、あれの一生じゃ償いきれんわな。オーケー、黙認しよう」

久「ま、社長個人には恨みはないけどね。監督責任ってやつよ」


記者「いやー、インハイの会場警備なんかザルですって。潜り込めばいいんですよ」

社長「お前は本当に潜り込んでスクープ取って来るからな、頼りにしてるぞ」

記者「頼りにしてるのはそれだけじゃないでしょー」

社長「ああ、こっちの方も頼りになるからな。今日も稼がせてもらうぞ」

記者「任せて下さいよー」

ーー

久「あら、社長も同罪みたいね。しかも、忘れもしないわあの顔…」

店長「…七年前のインハイか…あれ以来羽振り良くなったからな、あの社長」

久「さて、どっちを殺そうかしら?」

店長「…二人とも、だろ?」

久「分かってるじゃない。けど違うわよ。どっちを殺してどっちに生き地獄を見せるかって話なの」ニコッ

店長「…お前だけは敵に回したくないな」

久「今の私は、高校生のガキじゃないからね。たとえその時はただのガキに見えても、敵にまわしちゃいけない人間はいるのよ。あんたも覚えておきなさい」

店長「肝に銘じておくよ…卓が欠けたな」

久「じゃ、行って来るわね。邪魔しないでよ?」

店長「仮眠でも取らせてもらうよ。寝てる間のことは何も知らん」


久「空いてるかしら?」

記者「おやおやおや、えらい美人さんだねー。空いてるよ」

社長「ぐふふ、手持ちはあるのかな?足りなきゃ別の方法で払っても良いぞ?」

久「ふふ、あいにく、千点千円ぐらいならいくら負けても払えるわよ」

記者「レートをあげたりとかは…?」

久「そうねえ…負けても『そっち』で払わせてもらえるなら受けてもいいわよ」

記者「おお!じゃ、レート上げましょう!ね、社長!」

社長「ぐふふ、そうじゃの、千点千円ならいくら負けても払えるなら、千点10万で行こう!」


久「えっ!?あ、あの…それは流石に…手持ちが…」ハクシンノエンギ


記者「良いじゃん良いじゃん、負けても『そっち』で払ってもらうからさー」

社長「勝てばいいじゃろ勝てば…ぐふふ」

久「あ…あの…」

記者「はい、サイコロ回すよー。あ、ついでにトビなしね」

久「へ?」

社長「ぐふふふふ、一回負けたぐらいだったら払えてしまうかもしれんからのー。逃がさんぞー」

久「…」


記者「お嬢さんが起家だね、そう言えば名前なんてーの?」

久「…ねえ、あなた達、手持ちはいくら?」タン

記者「あはは、聞いてどうすんのー?」タン

久「…決まってるじゃない。全部頂くのよ。払えない分は勝っても仕方ないからね」タン

社長「は?」タン

久「ここまで簡単に引っかかるとは思わなかったわ。あんたらの人生、ここでゲームオーバーよ」タン

記者「おいおい、ただの雑誌記者だと思ってナメてない?俺に勝てる奴なんて、裏プロでもそんなには…」タン

久「…名前聞かれてたわね。教えてあげるわ」

記者「…あんた、どっかで見たことあるな…」


久「竹井久。あんたの強引な取材で、自分と後輩の人生を台無しにされた女よ」


記者「は、逆恨みか、それで返りうちにあってりゃ世話ないぜ。思い出したよ、七年前はインハイで活躍してたようだが、裏の世界は甘く…」タン

久「ロン、12000」

記者「は?まだ5巡目だぞ…しかも二枚切れの西なんかで…」

社長「竹井…久、だと?」

記者「なんすか社長、別にビビることないっすよ、ちょっとインハイで活躍したぐらいでプロにもならずに消えたガキですって。今のだってどうせまぐれですよ」


社長「…東京の裏プロのトップ、『悪鬼』竹井久、か?」ガタガタ

久「…私が長野に帰ってる間に他の裏プロは何やってたのかしら、まだ私が東京のトップなの?」

記者「へ?」

社長「表のスクープばかり追ってるお前は知らんかもしれんが、裏には決して敵に回してはいけない化け物が居るんだ」ビクビク

久「あら、私も知らないわね。敵にまわしちゃいけない相手なんか居ないもの。ご教授願えるかしら?」

社長「神出鬼没の『人鬼』と『悪鬼』、北大阪の『千里眼』と『白衣の悪魔』、東北の『八尺』と『ダルマ』、北九州の『白渦』、南九州の『神』…」

久「あ、『白渦』は引退したわよ。『人鬼』にボッコボッコにされて、泣きながら表プロに戻ったもの」

社長「な…」

久「さあ、長い半荘になるわよ。楽しみなさい」

社長「た、頼む、見逃してくれ…」

久「あら、レートもルールもあなたが決めたんじゃない。私は、あなたの決めたルール通り普通に打つだけよ?」

記者「な、なに、悪鬼かなんだか知らないが、二人がかりで勝てないはずが…」

社長「…裏プロが三人がかりで50本場を積まれたという噂もある…」


久「事実よ?そこに三人ともいるじゃない」


記者「は?あいつらはこの店を荒らしに来た裏プロを追い返すための裏メンバーだぞ?」

久「この店荒らして私にボッコボコにされて借金のかたに働かされてるのよ。ねえ?」

コクコク×3

記者「い、いや、騙そうたってそうはいかないぜー、戦意喪失させようって魂胆だろうけど…」

久「ツモ、8100オール」

社長「頼む、見逃して…」

久「…あんたが生んだ化け物よ。あんたらが居なければ、私が裏に来ることはなかった」

記者「俺が何したって言うんだよ!悪いことなんかなにもしてねえよ!」

久「…さ、二本場よ。十本積んだら千点棒で良いわよね。八連荘はなしにしといてあげるわ」

社長「あ、ああああ…」


久「あー、すっきりしたわー」

尭深「なにがあったの?」

久「ん?ムカつく奴を地獄に落として来ただけよ。あー、スッキリ」

尭深「久の敵は私の敵です…呼んでほしかった」

久「あはは、ありがたいけど、いい加減他の女見つけなさいって」

尭深「想い続けるのは自由です」


久「そう。ところで、こっちに来たのはそれが目的じゃなくて、会いたい人がいるからなのよ」

尭深「えっ?」ドキ


久「…宮永照か、弘瀬菫、連絡取れる?」

尭深「裏のトップである傀さんの次は、表のプロのトップである宮永先輩…久は本当にどうしようもない…」

久「そういうのじゃないの。あの二人に聞かなきゃいけないことがあるのよ。七年前のことでね」

尭深「なら、私に聞けばいい。私だって元虎姫、インターハイのことなら全部知ってる…」

久「決勝の前日、宮永咲と宮永照が会った時のことも?」

尭深「…それは、初耳です」

久「あの決勝、大将戦で咲が本来の力を出せなかった原因。それを探してるの。お願い出来る?」

尭深「うん…どっちに連絡すれば?」

久「とりあえず弘瀬さん。場所と時間を指定してくれればこっちから出向くわ」


菫「…七年ぶりか。あいつの妹は見つかったのか?」

久「妹だってことは知ってるのね?」

菫「明らかに嘘をついていたからな。インハイの後の騒ぎでうやむやになってしまったが…」

尭深「妹さんの失踪で一番ショックを受けていたのが宮永先輩でしたから。無理に聞き出すわけにも行かず…部内では『妹』が禁句になっていたぐらいです」

菫「そもそも、大将戦の様子を見ていた時から様子がおかしかったからな。脂汗を流しながら『ヤバイ、ワタシノセイダ、デモバレタラハリセンボン…』と呟いていた」

久「…あのチャンピオンは一回シメる必要がありそうね。で、インハイ前日になにがあったの?」

菫「私が見聞きした内容はこんな感じだな」

(省略)

久「…ちなみに、最初に妹は居ないって言ったのは?」

菫「それについては問い詰めたんだが、『嘘だったらハリセンボン飲ませるが今なら見逃してやる、本当に妹はいないのか?』と聞いても口を割らなかったから諦めた」

尭深「インハイまで上がって来たのを聞いて、許している感じではあったんですが…清澄高校をやたらと気にしていましたし」

菫「姉妹喧嘩の原因自体は結構根深いものがあったらしいな。私も未だに聞けていない」


久「そう。まあ、照が咲に対してカードとして使えそうなのが分かったから十分だわ」

菫「すまないな。そもそも、私が照の嘘を問い詰め過ぎたのが原因だ」

久「今更言っても仕方ないわ。それに、普通に生きてたら得られないものも七年間でたくさん得たしね。悪いことばかりでもなかったわよ。『私は』ね」

菫「…妹の方には謝っても謝りきれんな。本来なら姉同様に表の世界で日本を背負う器だっただろうに…」

久「そっちは、私には何とも言えないわね。本人に直接謝って。今は、『本人』を取り戻すために協力してもらうわよ」

菫「もともと私の不始末が招いた結果だ。すべて終わったら、お前にも改めて何か罪滅ぼしをさせてくれ」

久「期待してるわ。本来なら白糸台の三連覇を止めて無名校を優勝に導いた名将として鳴り物入りでプロデビューするはずだったんだもの」

菫「ぬかせ。妹が万全でも白糸台が優勝していたさ」

久「ふふ、ま、パラレルワールドがあればそっちで証明されるでしょ。ここで過去の『IF』を語っても仕方ないわ」


尭深「…ところで、なんで来たんですか、弘瀬先輩。久は自分が行くって言ってたのに」

菫「照の妹を追って失踪した清澄の元部長が会いたいと言っているんだ。妹の失踪の原因の一人としては出向くのが筋さ」

尭深「変わりませんね、そういうところ」

菫「それに、久しぶりにお前の顔も見たかったしな。ずいぶんと女らしくなったじゃないか、渋谷」

尭深「…そういうところは、変わった方が良いと思います」///

菫「?」

久「天然なのね。いつか刺されるわよ」

菫「おいおい、私が何をしたって言うんだ?」

久「ま、宮永照が近くにいたら横取りしようとする身の程知らずもそうはいないか。照に感謝しなさいよ」

菫「あいつに感謝される覚えはあっても感謝するようなことをしてもらった覚えはない」

尭深「ふふ、いつも宮永先輩の世話やいてましたもんね」


久「…さて、どうしようかしら、ただ仲直りってだけじゃ、ちょっと弱いわよねえ…なにせ、七年も経ってるわけだし」

菫「照の奴は、妹に会いたがっているが…」

久「なるほど。なら、取材か何かでそれを言わせることは出来る?」

菫「…おまえ、楽しんでないか?」

久「七年越しの悲願が叶う見通しがついたのよ?顔もほころぶってものだわ」

菫「あいつの行動は私には読めん。誘導は難しいな」

久「そう、なら私がやる。あなたのマネージャーとして潜り込ませてもらうわ」

菫「…本気か?」

久「大丈夫よ、ボロを出すようなヘマはしないわ」

菫「はあ…仕方ないか、自分で蒔いた種だ」

以上、本日分です。ご意見はすべて目を通しておりますが、言い訳の一部にネタバレを含むので、申し開きと謝罪は全部投下した後でさせていただきたく願う次第です。では、また明日。

面白いけど何故に主がsage進行?

>>183
特に理由はないです。こういう場合ってsage入れないのが普通ですか?


照「…菫」

菫「なんだ?」

照「その人は誰?」ジト

菫「ああ、最近私もスケジュール管理が厳しくなって来てな。マネージャーを雇ったんだ」

照「昨日まで居なかった」ウタガイノマナザシ

菫「雇ったのは今日だからな」

照「面接は?募集は?そもそも私に相談は?なんで女の人なの?しかも美人」

菫(…おい、竹井、何とかしろ)メクバセ

久「」クスクス

照「…何がおかしいの?」

久「いえ、聞いていた通り仲がよろしいな、と思いまして」

照「…菫と私は親友。当然」

久「見ていれば、お二人の絆の深さは分かります」

照「う、うん…まあね」テレ

久「心配しなくても、お二人の間に他人が入り込む余地なんてありませんよ」

照「そ、そう?」

久「はい。お二人がとても強い絆で繋がれているのを感じます」

照「む、むう…悪い人ではなさそう…」

久(思ったよりチョロイわね)アイコンタクト


菫「…渋谷に久々に会ったついでに軽く愚痴を言ったら紹介されてな、見ての通り能力も人格も問題なさそうだったからその場で採用したんだ」

照「尭深の紹介なら安心…かな?」

久「ふふ、それはご自身でお確かめ下さい。もちろん、私自身は誠実であるつもりですが」

照「う、うん…」

久「これから、よろしくお願いします。弘瀬さんのパートナーであるあなたとはお会いする機会も多くなるでしょう」

菫「…パートナーかどうかは別として、私のマネージャーをするなら照と会う機会は多い。だから最初に会わせたんだ。仲よくしてやってくれ」

照「うん、分かった」

久「では、他のチームメイトの方々とも…」

菫「そうだな。照、また後でな」

照「う、うん、行ってらっしゃい」


久「あれなら普通に誘導できそうね。楽勝よ」

菫「…お前を敵に回すのだけはやめておくよ」

久「ふふ、でも、私を敵に回すことになっても、何かあれば照につくんでしょう?」

菫「…さあな」

久「ま、光と闇は混じることもあるけど、表と裏は決して交わらない。関わる機会自体がそうそうないわよ」

菫「…表に戻ってくる気はないのか?七年前のインターハイでの闘牌は見事だった、お前なら…」

久「裏のトップの一人、神出鬼没の『悪鬼』。それが私の通り名よ。今更、表には出られないわね」

菫「そうか…」


久「さて、マネージャーのお仕事をしますか」

菫「別に要らんぞ?お前を潜り込ませるための名目だけの役職だ。そもそも自分のスケジュールぐらい管理できる」

久「あら、照とスケジュール合わせて誘導しなきゃいけないんだもの。あなた、管理は出来ても強引な調整は出来ないでしょう?」

菫「おい、待て、まさか…」

久「とりあえず個人の取材を後にずらして…って、麻雀ウイークリーじゃない、この雑誌無くなるから消すわね。若手の指導?適当な裏プロ呼んで代役立てるわ。あとは…監督と打ち合わせってなにこれ?」

菫「照の調子ややる気の報告だ。あいつの調子でチームの方針やオーダーが変わるからな」

久「じゃあ要らないわね。私がコントロールするからそんなもんどうにでもするわ」

菫「スケジュールを白紙にする勢いでごっそり仕事がなくなって行くんだが…」

久「試合は流石になくせないわね。チーム戦は照と同じチームだからいいとして、個人参加の大会の方はどうしようかしら…」

菫「マジで試合以外全部白紙にしやがったこいつ」

久「モモと哩に協力させれば大丈夫かしら?照はほっといても勝つわよね」

菫「待て、やはり若手の指導は責任を持って私が…」

久「そう?なら、照の方の予定を…うん、オーケー、若手の指導は一緒にやってね」

菫「なんで照のスケジュールを把握してるんだお前は!?」

久「どこのプロチームも、監督ってやつは選手連れて裏に来るのよねえ…ここの監督への貸しは2億ぐらいだったかしら?」

菫「とんでもないなお前。私は関わっちゃいけない奴と関わってしまったんじゃないか?」


久「ちょっとトラウマがあって、後手に回るのって嫌いなのよね。大抵の場合先手が取れるように、日本中に網を張ってあるの」

菫「…どこから予定通りだ?」

久「軌道修正してばっかりよ。より良い道が見つかればそっちに行くし、無理そうなら即回り道。選択肢を無数に用意して素早く判断するから傍から見れば予定通り進んでるように見えるけどね」

菫「ちなみに、最初の予定は?」

久「あんたら二人に会って七年前のいきさつを聞き出すのと、いざというときの協力の約束だけ取って終わりの予定だったわ。今の行動は当初の予定には一切ないわね」

菫「用意周到に計画してことを進めているようにしか見えんが」

久「言ったでしょ?先手が取れるように日本中に網を張ってるって。普通の人間が十年越しで計画するより私の思いつきの方が優れてるってだけよ」

菫「…あいつの妹は、お前が七年かけてようやく見つけたんだよな?」

久「あの『人鬼』相手に鬼ごっこで勝つのは並大抵のことじゃないわよ。こっちは神様まで使って探してるのによく七年も逃げきったものだわ」

菫「とんでもない化け物だな。本当にあいつの妹か?」

久「照も一歩間違ってたらそうなっていたかもしれないわね。そしたらあなたも私と同じ立場よ」

菫「…たとえ必要に迫られたとしても、私はお前のようにはなれんな」

久「『やらなきゃいけない』からと言って『出来る』とは限らないものね。むしろ出来ないのが普通よ」

菫「妥協とはそうやって生まれる。しかし、お前は妥協せずやってのけたんだな」

久「私だって妥協ばっかりよ。さて、スケジュールの変更も終わったし、照のところに行きましょうか。空いた時間は全部あの子と過ごす時間にあてるわよ」


照「菫」

菫「なんだ?」

照「最近、一緒に居る時間が多い。どうしたの?」

久「弘瀬さんが、そのようにスケジュールを調整するようにお望みでしたので」

照「…菫」ウルウル

菫「知らんな。管理を任せたら思った以上に時間が空いた。お前はほっとくとすぐ迷子になるから空いた時間もそばにいる。それだけだ」

久「だ、そうです」

照「上埜さんのおかげ。感謝する」

菫「それが仕事だ。助かってはいるが感謝する必要はない」

久「素直じゃないですね」

菫「首にするぞ?」

久「ふふ、それは困ります」

照「そしたら私が雇う。問題ない」

久「助かります」

菫「…はあ」


久「そういえば、宮永さん?」

照「なに?」

久「宮永さんに、妹さんはいらっしゃいますか?」

照「…え?」

菫「…おい(今なのか?せめて事前に打ち合わせをだな…)」

久「(あんた演技下手くそなんだもん、打ち合わせとか無意味よ)わたくしの個人的な問題なのですが、一応確認しておこうかと」

菫「何故お前の個人的な問題で照の妹が出てくる?」

照「…」

久「知人から、伝言を頼まれたのです。しかし、内容が少し妙でしたので。妹さんがいらっしゃらないのでしたら、人違いということで先方に伝えておきます」


照「…居る」


久「え?」

照「妹はいる。だから、伝言を聞かせてほしい」

菫「…」

久「えっと…そのまま申し上げますね」

照「お願い」


『お姉ちゃんの活躍はいつも見てる。お姉ちゃんに妹は居ないけど、私に姉は居るから。妹としてあなたに会うことはもうないけど、ずっと応援してる』


久「私に伝わる際に多少変わってしまっているかもしれませんが、おおむねこのような内容でした」

照「…誰に、頼まれたの?」

久「雀荘を経営している知人なのですが、『上埜久が来たら宮永照宛に伝言を頼んでほしい』とだけ伝えてきてすぐ居なくなったそうです」

照「なんでもいい。特徴とかは?」

久「そうですね。見た目の特徴はあまり目立つものはなかったそうです。一応聞いてはいますが、黒髪のロングとか背丈は普通とか、特定には到底つながらない情報ですね。ただ、知人の経営しているのは高レートで腕の立つ方も多い雀荘なのですが…」

照「…」

久「一度も、その方以外の誰かが点数を残して半荘が終わることはなかったそうです」


菫「…相当な化け物だな」

照「咲だ。間違いない」

久「それが、妹さんのお名前ですか?」

照「うん」

菫「おい、お前、妹は居ないって…」

照「あ」

菫「…はあ、全く。もう時効だ、ハリセンボンは勘弁してやる」

照「」ホッ

久「…ふむ、いたずらの類かと思っていましたが…どうしたものでしょう?」

照「…私は、咲に会いたい。会って、謝らないといけない…上埜さん、お願い、力を貸して」



久「…それは、妹さんに会えるように何か手を打て、ということでしょうか?」

照「そう」

菫「無茶を言うな。手がかりが何もないんだ。いくらこいつでも…」

久「いえ、手がかりはありますよ?」

菫「は?」


久「まず、その方の強さ。高レートでそのような勝ち方が出来る以上、名の知れた人間でしょう。どんなに才能があっても、ブランクがあって出来る勝ち方ではありません」

照「うん、ブランクがあったら私でも無理。多分、相当打ちこんでる」


久「そのレベルの裏プロとなると、『人鬼』、『悪鬼』、『千里眼』、『白衣の悪魔』、『八尺』、『ダルマ』、『神』のいずれかでしょうね」

照「すごい、七人まで絞り込んだ」


久「このうち、『千里眼』と『白衣の悪魔』は常に二人で行動するらしいので違います。また、『八尺』はその名の通り身の丈八尺の巨人と聞いていますのでこれも違いますね」

照「おお、四択」


久「『神』は、その本領を発揮するときは眠りに落ちるとのことです。そのような様子はなかったらしいのでこれも違いますね」

照「すごいすごい」

菫「…」


久「『ダルマ』は、ダルいからと言って地元から出ません。これも違います」

菫「『ダルマ』はあいつか。プロの試合ですらホームでしか出ないぞ」

照「もう二人まで絞り込めた」


久「『悪鬼』は私なので違います。ということで、『人鬼』でおそらく間違いないですね」

照「ん?…うん、つまり、その人鬼って言うのが咲なんだよね?」


久「はい、ただ、だとすると問題が…」

照「問題?」

久「『人鬼』は、本拠地を持たず、神出鬼没なのです。探すのはほとんど不可能です」

照「…残念」


久「ということで、探すのではなく呼び出すしかないでしょうね」

菫「いや、探すことが出来なければ呼び出すのも無理だろう?」

照「…確かに」

久「ええ、普通ならそうですね。しかし、ここに居るのはだれですか?」

照「?」


久「幸い、彼女は『ずっと応援している』と伝言を残しています。つまり、あなたのことを見てはいるのですよ」


照「テレビ…」

久「はい、対局中でも、MVPインタビューでも構いません。あなたがテレビで呼びかければ彼女に伝わります」

菫「おい待て、そんなことしたら大騒ぎに…」


久「場所は…そうですね、彼女が伝言を残した雀荘。長野にあるのですが、そこが良いでしょう。伝言があったのは昨日、まだ遠くへは行っていないはずです」


照「…長野…」

久「対局中だとカットされるかもしれませんね。出来ればMVPインタビューで呼びかけるのがベストです」

菫「いやいやいや、だから全国放送でそんなことしたら…」

照「つまり、今日の試合は私が先鋒で終わらせればいいんだね?」

久「ええ、先鋒しか打っていなくて、その中で最も活躍した選手。それなら確実にMVPです」

菫「おいこら、全国放送とは聞いてないぞ久!」

久「ちょっと黙ってね?」トン

菫「…むきゅう~」カク

照「…」


久「愚問かもしれませんが、今の彼女は、『人鬼』です。それでも会いますか?」

照「うん。会わなきゃいけないから」

久「場所は渋谷さんが知っています。私は、彼女が来たら帰らないように足止めしておきますので、渋谷さんと一緒に来てください」

照「お願いする」

久「では、ご武運を」

以上、本日分です。明日で完結になります。では、また明日。

>>184
主がsage 進行だと更新に気づかない可能性があります

>>199さん
あ、確かにそうですね。ここは一応毎日更新すると宣言しているのでおそらく問題ないため引き続きsage入れたまま更新しますが、他のスレもsage入れたまま書いてたので以後改めます、ありがとうございます。


カランカラン

久「ただいま~」

モモ「…誰っすか?」

ゆみ「久だろ。髪型変えて化粧して似合わん服着てるが、この声は間違いない」

久「あら、声色も変えてるつもりなんだけど?」

ゆみ「伊達に雀荘の経営をしてるわけじゃない。ずいぶんかかったな」

久「別件の仕込みをしてたからね。咲は?」

ゆみ「奥の卓で身の程知らずを狩ってるよ。と言っても、生かさず殺さずだがな」

モモ「竹井さんが居なくなってから傀さんに挑むやつが増えたっすよ」

久「まあ、モモは卓割れしなきゃ打たない裏メンバーだし、私が咲に挑む障害になってたのは間違いないわね」

ゆみ「…わかってて居座ってたのか」

久「それでも、あの子はこの店に落ち着いていた。待ちは悪いけど、良いとこ引いたんじゃない?」

ゆみ「そうだな。最近は打たずに帰ることも多かったが、それでも毎日のように顔を出していた」

?「おーい、そこのかわいこちゃん、打たないかい?」

久「ふふっ、バレないもんね。じゃ、打って来るわ」



ツモ、12000オール ゲッ、コノマチ、オマエマサカ… アラアラ、キヅカナカッタノ? ウギャアアアア!ヒサジャネーカ、フザケンナ!


久「まったく、自分から誘っておいて半荘一回で終わりなんて失礼しちゃうわ」

ゆみ「ははは。仕方ないだろう」

モモ「見た目だけだとホントに別人っすねえ。麻雀は見た瞬間に分かるほどいつも通りっすけど」

ゆみ「で、戻って来たということは、目途はついたのか?」

久「ええ、今夜にでも状況は動くわよ。てゆうかそろそろね。テレビ、録画してもらえる?」

ゆみ「…まったく、何が起きるやら。全国放送を使うとはな、呆れたよ」

モモ「竹井さんがテレビ、しかも録画って、そういうことっすよねえ…」

久「あはは、私は仕込んだだけよ?やるのはあの子の意志。さて、ホントにやるのかしら?」


バタン

?「あー、負けた負けた。やっぱ傀は強ええなあ…」

?「だからやめとけっつっただろうが。俺まで毟られたよ」

?「三対一でも無理か…てゆうか、途中からサイン読まれてなかったか?」



モモ「終わったみたいっすね」

久「グッドタイミング。面白いものが生で見られるわよ」

咲「…」ポー

モモ「…傀さん?」

久「おーい、聞いてるー?」

咲「え、あ、ぶ、部長!?」///

久「ああ、分からなかったのね。着替えてからくれば良かったかしら?」

咲「え、あの、その…」

咲「に、似合ってると、思います…」///

久「ふふ、ありがとう」


『すさまじい試合でした。今日のヒーローインタビューは当然この方です!』


ゆみ「面白いものというのは、これか?何やら様子がおかしいが…」

モモ「10万点持ちを先鋒で片付けるとかいうえげつない真似して、インタビューでなにを言い出す気っすかね?」

咲「お姉ちゃん…?」


『咲、見てるか?』


モモ「ちょいちょい、宮永さん、何を言い出すッすか?」


『私はお前に会いたい。会って、言わなきゃいけないことがある』


久「あらあら、この言葉の意味が分かってる人が全国で何人いるのかしらね?全国放送で愛の告白してるようにも見えるわ」


『今から長野に行く。『人鬼』でも、『私の妹』でもいい。待っていてくれ』


咲「おねえ…ちゃん…」

ゆみ「久…おまえ、帰りが遅いと思ったら…これはお前の仕込みか?」

久「って言ってるけど、どうする咲?」

咲「…待ちます。『人鬼』として」

久「そう…なら、これが最後の大勝負ね」

モモ「私は『ステルスモモ』として待つっすよ。どうせ面子に数えられてるんすよね?」

久「分かってるじゃない。あなたと衣ぐらいしか卓を囲める面子にあてがないのよ。今日はあいにく新月だしね」

モモ「表と裏の頂点が入る卓に面子として呼ばれるのは光栄っす」

咲「…期待してるよ」

久「ふふ、さて、場所を言ってないとはいえ、テレビで宣言しちゃったからねえ。ギャラリーは何人来ると思う?」

ゆみ「全く、トラブルは避けたいと言っただろう。よりにもよって日本麻雀界史上最大のトラブルを持ってきてくれるとは」


カラン

?「面白いものが見れそうだったので来てやったぞ。面子は居るのか?」

?「今日は新月、あなたが打つこともないでしょう。私たちに声がかからないということは、あてはあるのでしょう?」

?「ワハハ、モモが居るからなんとかなるだろー」


カラン

?「長野って言ったら、多分ここだよねー」

?「ダルイ…」

?「シロが見に行こうって言ったんでしょ!」

久「あらあら、久しぶりね。あなた達が来るのは予想外だわ」

?「悪鬼と人鬼が居る…ダルイ…なんかヤバげなちっこいのも居るし」

?「裏の有名人だー!サインもらって良いかな?」

?「あんたら、この面子みてもマイペースねえ…私は震えが止まんないわ」カタカタ


カラン

?「来ちゃった」カリカリ

?「神託でも結果が見えませんでしたので、この目で見届けようと思いまして」

久「あなた達には世話になったわね」

?「神代さんだー!サインサイン…色紙が足りないよー!」

?「今宵が満月でないのが惜しいな。いや、朔でも構わん、貴様ら卓につけ、打つぞ!」

?「ダルイ…」

久「楽しそうねえ…こっちは今から一世一代の大一番だってのに」


カラン

?「よう、久しぶりやな」

?「いつぞやは世話になったな」

久「あら?あなた大阪から出れたの?…そっちは試合があったでしょう?後ろの二人は、裏プロとして会うのは初めてね」

?「…今日は試合が大阪やったけん、そこで会った。こいつらのおかげで何とか間にあったと。お前らの戦い、私にも見届けさせてくれんか?」

?「うちらのライバルが裏からいなくなるかもしれんからなー。洋榎さん連れて見に来たわ」

?「久しぶりやな傀ちゃん。てゆうかなんやここ?人鬼と悪鬼は当事者だから当然いるとして、鹿児島の巫女に、東北の八尺にダルマに…衣ちゃんまでおるやん。戦争でも始めるんか?」

?「千里眼と白衣の悪魔…ダルい…」

?「園城寺さんと荒川さんもサインちょーだい!」

?「裏のオールスターね。モノクル持ってこなくてよかったわ」


カラン

?「たのもー!」

久「表のプロがこんなとこ来ちゃだめよ、今日は特にヤバいのが揃ってるから、帰るか下のフロアに行きなさい、優希」

?「…華菜と美穂子さんは下にいるじぇ。あたしたちも見てるからな、部長、咲ちゃん」

咲「…」


美穂子「会わなくて良かったのかしら?」

和「…今は、会わせる顔がありません。優希やあなたに会うのだって恥を忍んでのことです」

華菜「気にすんなし、おまえだけのせいじゃないし。あたしらだって、あの時あいつを見つけられなかったし」

和「…それでも、咲さんを人鬼にしてしまったのは私です。なのに、全てを他人に委ねるしかない。あの方々の卓に入るには、私はあまりにも力不足です」

美穂子「力不足は私も同じよ。わたしは、久さんを待つことしか出来ない」

一「世界でも、あの卓に入れる人間なんか10人もいないよ。力不足は誰だってそうさ」

智紀「…待つしかないのも、みんなそう。透華や衣ですら、待つしかなかった」

純「そう考えると、竹井さんはすげえな。この状況を作ったの、ほとんどあの人が一人でやったんだろ?」

和「あの人ならできます。七年前の清澄高校の中心はあの人です。あの人以外の誰にも、清澄高校を準優勝に導くことは出来ませんでした」

まこ「そうじゃの。そもそも久がおらんかったらワシもおらんかったけえ。咲だって入部しとらんじゃろ」

京太郎「部長に任せとけば間違いないですよ。あの時だって、あの記者が邪魔さえしなけりゃ何とかなってたはずですから。てゆうか、俺が咲の奴を捕まえてれば…」

まこ「そういや、あの記者の雑誌の出版元、潰れたのう。大方、久の奴がなんかやったんじゃろうな。売り上げは悪くなかったらしいからの」

一「それについてはノーコメント。情報は入って来てるけどね」


純「竹井さんが連絡くれなかったら龍門淵にも損害出てたからな。味方で良かったぜ」

智紀「純。口が軽い」

純「っと、わりいわりい。つってもこいつらなら別にいいだろ?」

一「口が軽そうな猫が居るからね。漏らさないに越したことはないよ」

純「国広くんは真面目だなあ…」

一「純くんが不真面目すぎるんだよ」

智紀「同感」

純「同感ってどっちにだよ?」

智紀「両方。一はもう少し肩の力を抜いていい。純は不真面目すぎ」

まこ「おんしらは仲が良さそうでええの。同じ五人だけの部でもうちとは大違いじゃ」

純「なに言ってんだか、なあ?」

一「これは純くんと意見が一致するね」

智紀「清澄の次鋒はアホ。データが増えた」

まこ「酷い言われようじゃの」

華菜「いや、あたしでもこいつらが正しいのは分かるし。眼鏡のくせにアホなんだなお前」

まこ「眼鏡は関係ないじゃろ。てゆうか、おんしらが何をいいたいのかさっぱりじゃ。もったいぶらずにさっさと言ってほしいんじゃが」


純「仲が悪い連中が、人生賭けた大ゲンカなんかするかよ」

一「お互いの人生を変えるぐらいに、君たちの絆が強いってことだろう?ま、ボクたちの絆が強いというのは否定しないけどね」

智紀「私たちが大ゲンカして出て行っても、透華が人生を捨てて追ってくるとは思えない。私はあなた達が羨ましい」


まこ「…そう、か…確かに、そうじゃな。」

和「…そう、ですね。私が大切だからこそ、咲さんは怒ったんですよね…今更わかっても遅すぎますが」


純「しかし智紀、お前も人のこと言えないぐらいアホだぞ。なあ、国広くん?」

一「そうだね。ともきーが出て行ったら透華は追うよ、絶対にね。ボクや純くんでもそうだと思うけど」

智紀「透華はそんなアホじゃない。冷静な判断が出来る人」

純「いや、あれはアホだ。どんなに立派になっても根本的なところがアホなのは変わってない」

一「同意するよ。それが透華の魅力だと付け加えた上でね」

智紀「…喧嘩は出来ない、か」

一「そうだね。少なくとも屋敷を出るような大ゲンカはやめておこう」

純「衣がしょっちゅう出て行ってるけどな」



尭深「…ここです」

照「ありがとう。ここまででいい」

尭深「いえ。最後まで見届けます。久の七年間を」

照「そう。それなら私には止める権利はない。好きにすればいい」

尭深「はい」

カラン

照「…」

久「いらっしゃい。待ってたわよ、宮永照」

照「…上埜さん、ありがとう。あなたのおかげ」



咲「…」



照「…咲、か?」

咲「…私は、今、傀と呼ばれています」

照「人編に鬼で、傀、『人鬼』か」

咲「はい」

照「上埜さんは凄いね、本当にあれだけの情報で当てたんだ」

久「ええ、だって知ってたもの」

照「…え?」


久「この後輩が頑固でね。人鬼の鎧の奥に居る『咲』がなかなか出てきてくれないのよ。それで、あなたを利用させてもらったわ。あなたにとっても都合がいいでしょう?」

久「改めて自己紹介するわね。裏のトップの一人、『悪鬼』こと竹井久、上埜は偽名よ。七年前、清澄高校麻雀部の部長をしていた、と言えば伝わるかしら?」

照「咲を追って失踪した、部長さん…?」

モモ「その通りっす」


咲「…宮永さん、賭けをしましょう」


照「…受けよう。何を賭ける?」

久「決まってるじゃない。あなたは『咲』を、咲は『傀』を賭けるのよ。あなたが妹に謝りたければ、この勝負に勝ちなさい」

ゆみ「ここのレートは千点10万までだぞ。そんな重いものをかけられると困るな。まあ、実際に値段がついているわけではないから法には触れないが」

久「あなた達二人のサシ馬よ。値段をつけたら千点一億でも半荘一回じゃ到底足りないけどね」

モモ「奥に行くっすよ。日本に10卓しかない合法最高レート卓。それでも不足なぐらい重いものを賭けた麻雀っす」


照「面子は?」

久「裏のトップ『人鬼』と『悪鬼』、表のトップの証明である『大三元』の東横桃子と宮永照。不足かしら?」

照「…あなたの力を、私は知らない」

久「あら、モモじゃなく私が役者不足って?なめられたものね」

咲「…モモちゃんよりは強いよ」

モモ「そうっすね。残念ながらそこは否定できないっす」


照「…わかった。それなら十分」


久「私たちより強いのが二人ほど来てるけど、あの子たちは『傀』の味方をするだろうからね。『傀』を敵に回すなら、おそらくこれが現時点では日本最強の面子よ」

モモ「私と竹井さんは照さんの援護に回るっすよ。それでようやく五分っす」

咲「…では、行きましょう」

照「冗談じゃ、ないみたいだね」

久「ええ、ここは裏の世界の闇の中でも、とびっきりの深い闇よ。あなたの光は、人鬼の心の底を照らせるかしら?」

モモ「…」

ゆみ「期待しているぞ、チャンピオン。私はお前の妹との約束があってな」

照「期待されるのには慣れている。そして、私は常に応えてきた」

久「頼もしいわね。…私もあなたに期待しているの。私たちの世代の頂点、宮永照にね」


照(…おそらく、この三人の実力は本物)

照(私の鏡に、映るかな?)タン

咲「…」タン

久(いつもの様子見、か。思い出すわね。色々対策考えたのよ、それ。諦めたけどね)タン

モモ(照さんが起家なのは勿体ないっすね…)タン

照「…」タン

咲「…」タン

久(さて、照が様子見してる間だけでも咲を止めないとね。あとのことは照とモモに任せて最初から飛ばしていくわよ!)タン

モモ(このプレッシャー…竹井さん、後のこと考えてないっすか?ま、そうっすよね。期待させる何かがこの人にはあるっす)タン


照・咲「ノーテン」

久・モモ「聴牌」

照(…咲は張っていると思ったけど?いや、それより、二人の手…)

久手牌

234567p444赤5666m

モモ手牌

34赤5p678s南南南北北発発

照(うえの…じゃなくて竹井さんは、途中で和了ってるのにツモ切りしてる…私が親だから?)

咲「…」

咲手牌

333456777m発発北北

久(きっつー…ナイスよモモ。どう?宮永照、あんたの鏡には何が映った?)

モモ(流局まで傀さんを抑え込むなんて真似は二度も三度もできないっすよ。何も見えないとかは勘弁してほしいっす)

ゴオオオオオオオ

久(来たか。相手の本質を見抜く鏡。宮永照を常勝たらしめる力)

モモ(相手に合わせて打ち方を変える。もちろん連続和了は変わらないっすけど、相手に対応した打牌で常に優位に立つ、それが表のトップ、宮永照っす)


咲「…」

照(…竹井さんと東横さんは私のために咲を抑えてくれたのか…うん、二人ともすごく強い…この二人が二人がかりで勝てない人間が居るなんて信じられない。私だってこの二人相手には二対一じゃ勝てない。けど…)

照(…けど、確かにいるんだね、ここに。抑え込んでくれた二人には申し訳ないけど、咲の纏う闇が深すぎて、何も見えなかった)

照(直接触れないと何もわからない、か)

久(あの顔だと空振りってとこね。ま、人鬼の闇を照らせるような便利なもん持ってるなら、はなから苦労しないわ。それなら鹿児島でもどうにでもなるはずだもの)

モモ(マジっすかー。いや、傀さん相手じゃ仕方ないっすけど)


咲「…九種九牌」パタン

111p19s19m東西南白発中 ツモ:9p

照「なっ…」

久(…私たちが照のサポートに回る以上、ツモで削られる可能性がある親は要らないって?ま、和了り目もないけど)

モモ(国士テンパイっすよ?親の役満和了って決めてやるとかそういう欲はないんすか?)

久(そんな打ち手だったら人鬼なんて呼ばれないわよ。にしても、全力のこの子を抑えるのは半荘一回も持たないわね…早く何とかしてよ、照)

久手牌 1p334455s677889m

咲「…」


久(さて、親だけど、二人のサシ馬でしょ?咲から直撃取るなんて、手牌全部アタリ牌にしても厳しいわよね。実際さっきはかわされたし)タン

モモ(次は私の親っすけど、傀さんから直撃とか取れるはずないっすからねえ…竹井さんが親番でどうするのか見せてもらうっす)タン

照(可能なら私が和了るのがベスト。しかし…)タン

咲「…」タン

久(三対一で、均衡はとれている…のかしら?咲に動きはないわね)タン

モモ(と言っても、気付いたら仕上がってるとかたまにあるっすからねえ…)タン

照「…」タン

咲「…」タン

ーー

モモ「…ツモ、1000、2000」

久(まあ、私が親かぶりするぶんにはサシ馬に影響はない。モモが和了れるなら、均衡も取れているはず…)チャラ

照「はい」チャラ

咲「…」チャラ

ーー

東4局

久「ツモ。2000、4000」


南1局


照「…九種九牌」パタ

久(普通の九種ね。そうよね、この面子相手に無理国士を狙うような馬鹿じゃないわよね)

モモ(照さんの親番だとツモれないから、竹井さんとやり取りするしかないっすからね。そんな隙見せたら一瞬で持ってかれるっす。流して正解っすね)

ーー

南2局


咲「九種九牌」パタ

久(あんたもか…)

照(11種11牌…国士も狙えないわけじゃないけど、流すのか)

モモ(並みの相手なら軽く国士を和了ってみせるはずっすけどね)

久(国士向きの配牌は国士しか狙えない。動きが制限される中で万が一が起きるのを恐れた、か)

モモ(つまり、あの人鬼に警戒されてるってことっすね。傀さんを目標にしてる身としては嬉しいことっす)


南3局


久(なにこれ?どうしろってのよ)

久手牌

14567p456s45m東東東 ツモ:6m

久(普通に考えたら1筒、私に限って言えば7筒切りが自然なのよね。嫌な感じがするから絶対切らないけど)

久(てゆうか、照のサポートするんだから切る牌とか決まってるわよね)

打:東

照(む…東は切れるのか。ありがたい)

モモ(悩んだ?なにがあったっすかね…)タン

照「」タン

打:東

咲「…」タン

久(親の私がツモってもサシ馬には影響しない。咲からの出和了りが期待できないなら、自分の聴牌より対面に期待させてもらうわ)タン

モモ(鬼同士でなんかやりあってるっぽいっすね…蚊帳の外っすよ…)タン


照(…聴牌、か)

照手牌

1123p23s23m西西西白白 ツモ:1m

照「…」

打:1p

咲「ロン」

11赤56777p567s赤567m ロン:1p


咲「三色ドラ2。8000」


モモ(やっちまったっすね…サシ馬で満貫直撃。これは、痛いっすよ)

久(あっちゃー、私が攻めてたほうがましだった?)



照「随分焦ってるみたいだな…人鬼」



咲「…なんのことかな?」

久(ただじゃやられなかったみたいね。…なるほど、南3局まで来てまだ様子見だったのか、待たせすぎよこのバカ)

照「見えたぞ、お前の闇の底」

咲「…」

モモ「いや、もうオーラスっすよ?待たせすぎっす」

照「…ごめん」

咲「…そう、あと一局で終わる。親も残ってない。16000差、まくれるのかな?」

照「…南四局だ。始めるぞ」


南三局終了時 点数状況

照  12500
咲  28500
久  32500
モモ 26500


親:モモ  ドラ:6p

モモ(…オーラスで16000差。満直で同点っすけど、傀さん相手に直撃とか傀さんの手牌全部アタリでも無理っすよねえ…てゆうか東1局はそこから流されたっす)タン

照「…」タン

咲「…」タン

久「…」タン

打:南

照「ポン」タン

モモ(ダブ南…しかし、鳴いたら混一色でも倍満は厳しいっすよ?倍ツモじゃないとまくらない状況で…)

咲「…」タン

久「…」タン

打:4s

照「ポン」タン

モモ(索子の染め手…ドラは筒子っすから、ダブ南、混一色、赤、対対ぐらいっすか?いやいや、鳴いてるから足りないっすよ?)

咲「…」タン

久「…」タン

打:2p

照「ポン」タン

モモ(は?染めてないっすか!?ドラ暗刻あるとして…ダブ南、対対、ドラ3…赤でも持ってるっすか?)

咲「…」タン

久「…」タン

打:発

モモ(わけわかんねーっす。だって、これ…)

モモ手牌

赤5赤56p6s赤5m白白白発発西西西 ツモ:赤5s

モモ(照さんの手につく役がもうないっすよー!!!!どうやって倍満作る気っすか?さっきの発を鳴いて私に傀さんから直撃取れとでも言ってたっすか!?)


モモ(つーか、竹井さんは何やってるっすか?鳴かせてたってことは照さんの手と狙いが分かってるんすよね?)チラ

照手牌

???? ポン:南南南 444s 222p

モモ(いやいや、ここから倍満とかどうやっても無理っす…いや、一つあるっすか?)

打:6p

モモ(これを照さんが槓すれば、ダブ南対対ドラ4っす。なるほど、竹井さんはここまで見えてたっすか)

久「槓」タン

槓ドラ:2s


モモ(なんであんたが鳴くっすかー!?てゆうかこれどうやって倍満作るんすか!?鳴いてるからリーチもかけられないんすよ!?加槓して槓ドラでも乗せるっすか!?)


ツモ:3s

モモ(マジでわけわかんねーっす。もうツモ切りでいいっす)

打:3s


照「チー」

チー:234s 打2p

モモ(はあああああ!?加槓のタネ二つをあっさり捨てたっすか?てゆうか、手に暗刻あったならなんで槓しなかったっすか!?


咲「…それを一点で読めるのか。モモちゃんの力を読み違えたよ」タン

モモ(傀さんまでおかしくなったっすか?私はツモ切りしただけっすよ?てゆうか、勝ち確定なのになんで悔しそうにしてるっすか?)

久「見事よモモ、あなたを面子に選んで良かったわ」タン

打:1p


モモ(なんか完全に蚊帳の外なんすけど。今何が起きてるっすか?)


照「ロン」


モモ(いや、それでロンって、…30符3翻。3900っすよ…なんで四着確の和了りをするっすか…)

咲「…まだ、勝った気になるのは早いよ」

モモ(いや、あんたの勝ちっすよ。全然早くないっすよ)

照「負け惜しみを言うのはまだ早くないか?」

モモ(そして、なんであんたは勝ち誇った顔してるっすか?)






久「さあ、西入よ。よく一点で読んで鳴かせてくれたわ、モモ」








モモ「…へ?西入?」

照「うん、西入」

モモ「…」ポチ

ーー

照  16400
咲  28500
久  28900
モモ 26500


久「『オーラス』じゃなくて『南4局』って言ったものね。良かったわ、勘違いじゃなくて」

照「咲、お前の底は見えた。私一人じゃ勝てないけど…この二人と一緒なら勝てる」

咲「…だから、まだ勝った気になるのは早いよ!まだ12100差あるんだからね!」

久「四局あれば十分まくれるわよ。全く、南4局で本気出し始めるとかやめてよ。心臓に悪いわ」

モモ「…」


照「というわけで。咲、あの時は悪かった、ごめん。嘘がばれるとハリセンボン飲まないといけなかったから…」

久「ハリセンボン飲んだ方がましよ!手間かけさせて!このポンコツチャンピオン!」

咲「…お姉ちゃんのバカ。絶対許さないから!」プンプン

モモ「切り替え早いっすねみなさん」

咲「うーん…南四局の時点で大体覚悟してたからね」

久「いやー、モモの南4局の6筒切りから3索切りは完璧だったわね。あれが無かったらノーテンリーチからアタリ牌ツモって差し込むしかなかったもの」

照「槓ドラを乗せてから一点で読み切って鳴かせてくれた。咲が全力でドラを私以外のところに送ってたから、私が手を高くするにはあれしかなかった」

咲「あれは想定外だったよ。モモちゃんに槓ドラが見えてるのもそうだし、あれを一点で読むのも出来ないと思ってた」

モモ(いや、実際見えてないし、読めてもいなかったっすよ。傀さんの目測は正しいっす)

咲「照魔境じゃなくて手さぐりで私を探って来るのまでは想定内だったんだけどね。オーラスでツモか部長以外からロンで和了るだけなら何とかなるつもりだったんだけど」

久「終わった勝負の話はもういいわ。あなたを待ってる人間が何人いると思ってるの?さっさと行くわよ!」


バタン

華菜「おっと、卓から離れる必要はないし!」

ゆみ「咲、覚えているだろうな?長野予選の決勝、あの時の約束を果たそう」

衣「あいにくの新月だが、こやつらへのハンデとしてはちょうどいい」

華菜「ハンデなんか要らないし!あたしはプロだし!」

モモ「プロのトップの『大三元』が二人がかりでようやく勝負になる化け物っすよ。華菜ちゃんはおとなしくハンデもらっとくことをおすすめするっす」

久「ふふふ、待ちきれなかったみたいね」

咲「…そうみたいですね」

照「竹井さん、あなたも待たせてる人がいるみたいだけど、いいの?」

久「…そうね、ちょっと待たせすぎたし、早く行ってあげるとしますか」


一「一件落着、かな」

純「流石は宮永照ってとこだな。俺たちの世代の頂点だけはある」

智紀「衣や咲とは直接の対決はない。もし直接対決があれば、あの二人なら勝てた」

透華「その『もしも』がなかったのですから、あの方が我々の頂点なのです。簡単に負けられては困りますわ」

一「ちなみに、透華はボク達の世代で誰が一番強いと思う?」

透華「あのインハイの時点なら、満月の夜でもない限りはあの姉妹のいずれかでしょう。私は姉だと思いますわ」

純「今は?」

透華「愚問ですわ、最強を語る際に名の挙がる目ぼしい人間は、大星淡を除いて全員この場にいるではありませんか」

智紀「打って決めればいい」

一「ボクはパス。あんなのに勝てる気はしないね」

純「俺もパスだ。てゆうか最強は宮永妹でいいだろ。満月の衣に勝ったんだろあいつ」


憩「うーん、傀ちゃん引退かー。うちらの敵がおらんよーになるなー」

怜「せやなー。コンビ解消して日本を半分こでもするか?」

塞「東北は荒らさせないからね」

シロ「ダルイから帰っていい?」

豊音「サイン一杯で持ちきれないよー!」

塞「あんたらもうちょい緊張感持ってよ!今だけでいいから!」

憩「冗談やから安心しい。コンビ解消する気なんか欠片もないわ」

怜「にしても傀ちゃん羨ましいなー。竜華もセーラもうちのこと信じとるゆーて、全く追ってきてくれんかったからなー」

憩「まだましやん。うちなんか追っかけてくる人のあてもないで」

怜「うちがおるやん」

憩「…怜、今それ言うんは反則やで」///


智美「ワハハ、さっきから打つたびに飛んで終わるぞー。守りは固いつもりなんだがなー」

モモ「相手がわるいっすねえ…今のこの店、平均雀力がプロのタイトルホルダーぐらいあるっすよ」

照「並みのタイトルホルダーに負ける人が見当たらない。平均ならもっと上」

洋榎「平均をアホみたいに上げる化けもんが居るからな、平均で自分ぐらいやん?」

哩「宮永照が平均値か。狂っちょるな」

モモ「私が平均以下っすか…」

哩「お前は強か、私が保証しちゃるけん」

洋榎「うちも保証したる。あの辺で打ってる連中がおかしいだけや」

照「東横さんは、今の表プロで唯一私とまともに戦える人」

哩「おい、私も表プロだって忘れとらんか?」

照「知ってるけど…?」

哩「よーし、ちょっと身の程ってもんを教えちゃるけん、卓についてもらおうか」

モモ「元気っすねえ…」

洋榎「白水は現状ではうちより名が知れとる裏プロや、つまり、白水をナメるのはうちをナメるのとおんなじや。うちもそのボケしばくの手伝うでー」

智美「あー、これまた私が飛ぶんだろうなー」ワハハ

モモ「いや、私が入るっすよ。もう少しましな面子と打てばいいっす」

智美「そうだなー。他に空いてる卓は…」



?「少し眠くなってきました…どなたか打ちませんか?」

?「うちらの方見て言うとはいい度胸やなー、ほな打とか。二人で打ったら勝負にならんから憩は見学やな」

?「面白そうだな、衣も入るぞ」


「「「あと一人…」」」



智美「なあ、マシな面子ってなんだモモ?」ワハハ

モモ「…この場所の平均値がおかしいんすよ。下に行けば『ただのプロ』がいるっす」

智美「ただのプロの卓でも十分場違いなんだがな。私は一般人だぞー」


美穂子「で、さっきいきなりあらわれてしがみついてる『それ』はなんですか久さん?」ゴゴゴ

久「えっと…七年追いかけた結果…かしら?」ダラダラ

咲「…」ギュッ

和「…こんなオカルトありえません」ゴゴゴ

京太郎「まあ、部長みたいな美人が七年も追いかけてくれたらこうなってもおかしくないよなあ…」

優希「美穂子さんがこわいじぇ…」

まこ「久の奴は七年経ってもかわらんのう」

久「まこ、笑ってないで助けてよ」

まこ「どないせえっちゅうんじゃ。わしは死にとうない、自分でなんとかせえ」

咲「美穂子さん、あなたもプロなら、麻雀で決めませんか?」

美穂子「決めるもなにも、久さんは私の恋人です」

久「あ、あの、咲…?出来れば空気を読んで引いてくれると…」

咲「嫌です。七年追っかけてその気にさせといて用が済んだらポイとかひどくないですか?『久さん』」

美穂子「あらあら、『ただの部活の後輩』が調子に乗って…下の名前で呼ぶなんて十年早いわよ?」ゴゴゴゴ

咲「…」ゴゴゴゴゴ

久「全く、仕方ないわね。感動の再会シーンだったのに…」

美穂子「久さん、早くその子から離れ…て…はわわわわわ!ま、待ってください、み、みんなが見てる前でそんな…」

久「目、閉じてね…」チュ

美穂子「」プシュー

パタリ

まこ「…気を失っとるな」

久「悪いわね美穂子。この場を収めるにはこれしかないのよ」

咲「むー」

久「はいはい、むくれないの」ナデナデ

咲「ふみゅう…」

和「うう…咲さん…」


久「ねえ、咲、一つ聞いていい?」

咲「なんですか、久さん」

久「傀として打ってるとき、よく言ってたセリフ…、あれ、どんな意味で言ってたの?」



咲「…ずっと、苦しかったんです。全部忘れたくて、思い出すと辛くて…」

咲「それが、麻雀を打っているときだけは忘れられた。でも、決着がついてしまうとまた思い出してしまって…」

咲「我に返った時につぶやくんです、今打った麻雀を思い出そうとして、辛いことを忘れていられる時間を少しでも伸ばそうとして」

久「それが…あのセリフか」

咲「…でも、今は、心の底から言えます。本当に、楽しいものを楽しいというだけの純粋な気持ちで」

久「そう。ねえ、咲」

咲「はい?」

久「麻雀って、楽しいわよね?」

咲「…ふふふ、『傀』でも楽しいって言うんですよ?『咲』の答えなんか決まってるじゃないですか」




咲「麻雀って、楽しいよね!」


 槓 

以上で完結です。

当初は最初のノリで淡々と咲さんが勝ちつつ負けたキャラの背景書くだけの話の予定でしたが、思いっきりブレてこうなりました。

人鬼を名乗らせた以上簡単に負けさせるわけにもいかないので、最後に咲さんに挑む三人は強者として書きました。また、その関係で、対戦相手はいいところなく負けるようになってしまいました。

負ける側のキャラが見せ場もなく負ける点については、話数増やすなりなんなりして、どこかで負けたキャラの勝つところを書けばもう少しましになったかなと思います。これは明らかに話数を増やすのを避けた自分の怠慢です、申し訳ありません。

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