少女「『責任』……とってくださいね」 (62)


 十二月。すっかり寒さが体を苛める季節になった頃の夜。
俺は勤務先の工場から、アパートの三階にある自宅に帰ってきていた。

「くそっ!」

正直言って、今の俺は機嫌が悪い。
今日は仕事でミスをして、同僚から白い目で見られてしまったのだ。
あの工場に、俺の居場所は無い。
いや違う、俺はあんなところにいるべき人間じゃない。
俺は善行を積み重ねる、あいつらでは及びもつかない偉人なのだ。

そう思いながら、数世代前となったモデルのノートパソコンを立ち上げる。

起動画面が終わり、デスクトップが表示されると真っ先にインターネットに繋ぎ、
お気に入りにある匿名掲示板の名前をクリックする。
今日も幾多のスレッドが立てられている。
俺はその中でも、目的のスレッドを絞り込むためにスレッド検索欄に、文字を入れる。

「フリーター」、「ニート」などの文字を入れる。

      _,. -‐ '' " ",. ̄'' ̄` ''‐、        
      ,.-'      ,r''  _,,.. - 、  ` 、      
    ,.r'/// /   ,.-'      `' 、. \

   /       ,r'  ,r'       ,rfn、 \ '、    
  / /////  ,'   ,'  ,rffn.   '"     ヽ ',   

  i     ,.ァ   .i  '"     ,riiニヽ.   ',. ',  
 |  ,.r '"  |.   {  ,riiニヽ  ハ   _.    ', ',  ヨコハマタイヤ様が素敵な笑顔で>>2GET!!
 | .,.r'    |   !   ,..  _,,.. -‐' _,..r'  i .i   轢き殺されたくなかったら道をあけろ!!
 |,'      ',   ',   '、., __ ,.. -‐''"゙  }  | .| 
  |       ',    `、  ヽ        !   } .} 

  ',         ',    '、  ヽ      ./   ! .|    >>3 タッチの差だな。タイヤ交換しろ!

   '、       `、   \  `ヽ==='゙    ,' !   >>4 おせーよバカ教習所からやり直せ(プ
    `、        '、     ' 、        / .,'   >>5 クルマ乗る前にオンナに乗れよ(ゲラ
      '、'-..,,_____ ___`、    `''‐- ..,, ,,.. r'  /   >>6 ペーパードライバーって素人童貞のことだろ(ワラ
      \ ヾヾヾヾヾ \          /    >>7 毎晩シフトレバー磨いてんじゃねーぞ(爆
       ` 、  、、、、、、、、 ` - ..,,, _ _,.r'゙      >>8 おめーの人生転がりっぱなしだな(ギャハ
         `' - .,,_       _,. - ''"       >>9 ガキの頃俺の顔見て泣いてたの知ってるぞ(クス
             `"'' '' '' ""           >>10以下はちゃんと空気圧チェックしろよ!




すると絞り込まれたのにも関わらず、尚も数多くのスレッドが表示された。
いかにこれらのワードが、皆の興味をひきつけているのかがわかる。
だが、俺の目的はさらに特定のスレッドだ。
上から順に、目的のスレッドが無いか探してみると――

あった。

「25才のニートだけど、まだ大丈夫だよな?」

これこそまさに、俺が探していたスレッドだ。
1レス目を見てみる。

「まだ、人生逆転出来るよな?」

と、書かれていた。
こいつだ、まさに理想のスレ主だ。
俺は心が躍るのを自覚しながら、ログを追っていった。

「27までなら平気」「資格とれば?」「いますぐ動け」

などといったレスが並んでいる。


バカが。

フリーターやニートを安心させてどうする。希望をもたせてどうする。
こいつらは社会のゴミだ。お荷物だ。
こいつらに引導を渡すのが、社会貢献だ。
だから――

「もう何をしても無駄だよ。そのまま生きていても仕方が無いから、
 さっさと自殺しろよ。クズニート」

と、書き込んでやった。すると――

「正論キタ!」「同意」「早く死ねよ」

というレスがついた。

エロでも腹筋でもない…だと…


ああ――気分爽快だ。
このレスを見て不安に駆られたニートを想像すると、溜飲が下がる。
同時に、俺は社会のお荷物を排除する善人だという誇りを感じる。
フリーターやニートは社会の癌だ。社会のために、全員今すぐ自殺するべきだ。
我ながら、なんて正しい価値観だ。
そう思っていると――

ピンポーン

玄関の呼び鈴が鳴った。
誰だ、こんな至福の時間を邪魔する奴は?
そもそも、俺を訪ねてくる奴は殆どいない。
新聞の勧誘か何かと思い、ドアののぞき穴を見てみると――

高校生くらいの女がいた。

>>5
まだだ、まだ気を抜くな腹筋はどこから来るか分からないぞ


何だ? こんな知り合いはいない。
そもそもこんな時間に、あんな年齢の女と関わるのは絶対ヤバイ。
そう思って、無視しようとした。
だが……

カギを回す音が聞こえ、玄関のドアがゆっくりと開く。

何だと!? 何であの女、俺の家のカギを持っている!?
ストーカーか!? やっぱりヤバイ奴なのか!?

緊張した心で、招かれざる訪問者を見つめる。
やはり、そこには高校生くらいの女が立っていた。

「お、お前、なんでカギを持っている!? どういうことだ!?」

すっかり動揺してしまったが、大声を出して威嚇する。
だが、女は少しもたじろぐことなく、家の中に入ってきて……

頭を下げた。

俺…まだ大丈夫だよな?

>>7
確かにwww

でもこれ面白いな
腹筋でもいいや、期待

上手いな

パンツ破り捨てた

>>9
「27までなら平気」


「すみません。私は、このアパートの大家の孫です。××さんですよね?」
「え!? あ、ああ……」

大家の孫? それなら、カギを持っていても不思議じゃないが……

「ほら、これが証拠です」

そう言うと、女は生徒手帳を取り出し、顔写真と名前を見せる。
確かに、大家と同じ苗字をしていた。

「だ、だが、いくら大家の孫だと言っても、勝手に入るとはどういうことだ!?」
「すみません、ただ××さんにどうしてもお願いしたいことがあって」

お願い? 大家の孫が?
何か力仕事を手伝って欲しいのだろうか。しかし、こんな夜中だぞ?

ニート罵倒するだけで気分爽快できるとか人生楽そう

強引なjkだなおい

パンツ吹き飛んだ

おーぷんなら在日か禿叩きかな?
楽しくないけど


「……わかったよ、話だけは聞いてやる。それが終わったらすぐ帰れよ」
「そんなにお時間はとらせないと思います。××さんの得意なことですし」

俺の得意なこと? 一体何を頼むつもりなんだ?

「えっとですね……」

俺は次の言葉を待つ。


「私を殺してもらえませんか?」


その言葉に、頭を殴られたかのような衝撃が走った。

期待age

ふむ

必要部分を最小限で描写していて分かり易い
イイね


「な、え……何を……?」
「だから、私を殺すんです」

何だ!? なんだなんだ!? やっぱりヤバイ奴なのか!?
いや待て、カギを持っていて大家と同じ苗字ということは、
大家の孫なのは間違いない。
だが、こんな変人なのは予想外だ。
いや、落ち着け。こういうのは強引に追い出したほうがいい。
後で大家に文句を言ってやる。

「バカなことを言うんじゃない! 何で俺がお前を殺さなければならねえんだ!」
「え? だって、得意じゃないですか。あなたは人を殺すのが得意じゃないですか」

そういえば、俺の得意なことをしてもらうとか言っていたな。
いやいや、俺はそんなこと得意じゃないぞ!?

まさかの展開

腹筋はよ

スレタイと中身の違いに戸惑いつつ
でも面白い


「ふざけるな! 人を勝手に人殺しにするんじゃねえ!
 大体、お前のせいで俺の人生を台無しにしてたまるか!」

だが、俺がひとしきり叫んだ後――
女の雰囲気が変わった。

「そうですか……やっぱり、そうなんですね」

何かを納得したようだが、俺にはさっぱりわからない。


「あなたは人を殺しておいて、人の人生を台無しにしておいて、
 その『責任』は絶対にとらないんですね」


あ? 何を言っているんだ?

女に食われるとか?


「そのパソコン」

突然、女が部屋の中にある俺のノートパソコンを指差した。

「それで何を書き込んでいたか知っています」

知っている? 俺が書き込んだこと?

――ニートは自殺しろと書き込んだこと。

え? まさかこいつ……

「ネットで『自殺しろ』って書き込んだことを人殺しって言いたいのか?」

俺の出した答えに対し、

「ええ、そうです」

女は当然の如く言い放った。

SSならスレタイに書いといてくれよ
開いちまったじゃねーか

>>28
黙って消えろ


「ふざけんな! 俺の書き込みで人が死のうが知ったことか!
 大体、何でそれを知っている!? 俺を見張っていたのか!?」
「ええ、祖父に頼んで、この部屋に隠しカメラを仕掛けました」
「隠しカメラだと!?」

なぜ!? なぜ俺は見張られていたんだ!?

「あなたは日常的に、ニートやフリーターに対し、『自殺しろ』って書き込んでいたそうですね」
「だから何だ!? あいつらは社会のクズだ! 死んだところで何も困らない!
 俺のやっていることは社会貢献だ!」

「だったらなぜ、救いを求めているであろうスレッドだけを狙ったのですか?」

わぬてか


「な、何を言って……」
「あなたの理屈で言うと、社会復帰する気のないニートの方が、
 より害悪のように思えます。なのになぜ、ニートから脱しようとしている人だけを狙ったのですか?」
「そ、それは……」
「大体、想像がつきます」


「自分の手を汚さず、他人を破滅させるのが楽しいんですよね?」


「な、何を言ってやがる!」
「完全に諦めている人は逆に絶望に陥りにくい。あなたはそれをわかっていた。
 だから、ニートから脱しようとしている人を狙ったのですよね?」
「ち、ちが……」
「違うのなら、どうして全部のニートが対象じゃないんですか?
 いや、そもそも……」

「ニートが憎いなら、どうして直接殺しに行かないのですか?」


「ふ、ふざけるな! そんなことしたら……」
「そう、そんなことをしたらあなたは破滅する。
 あなたは他人を破滅させたいけど、自分は破滅したくない」


「そんな、最低な人間です」


最低? 俺が? 違う!
俺は善人だ! この世から社会のクズを排除する正義だ!
それをこんな小娘が……

わっふるわっふる

主人公が俺過ぎてワロタ

はよ


「黙れ、だまれえええええええ!」

そして、気がつくと……


そばにあった、包丁を女の腹に刺していた。


「……え?」

笑っている。女は腹を刺されているのに笑っている。
口から血を吐き出しながら、言葉にならない言葉を放っている。
だが、俺にはなぜか、何と言っているかはっきりとわかった。


「『責任』……とってくださいね」

怖いな……

スレタイキタ!!!!!


我に返った俺の目の前には――

血まみれの、女の、死体。

「あ、あああああああ!」

ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。

人を殺した、殺してしまった。
ヤバイ、どうする、どうする!

あ、ああそうだ。掲示板だ。
俺は正義の味方なんだ。誰もが俺の味方をするはずだ。
すぐにスレッドを立てる。

「正義の味方だが、悪を殺してしまった。お前ら助けろ」

この男……
やばいな、虚像に縋りすぎてナニも見えてない


来い! 俺を助けに来い!
だが、次々とついたレスには――


「通報しました」「バカがきたぞ」「釣りだろ」


何を言っている!? 早く俺を助けに――


「あーあ、お前の人生終わったな」


終わり? 俺の? 人生?

「あ、あ、あ」


「ああああああああああああああああ!」

お……おお……



――次のニュースです。
昨夜未明○○市、△△区の路上で男性が頭から血を流して死亡しているのが、
見つかりました。

なお、現場そばのアパートにある男性の自宅からは、
腹部から血を流した少女が見つかっており、
病院で手当を受けていますが、
男性の事件への関与が疑われています……



終わり!

前作と似た傾向になってしまった。

少女、死に際の一撃と俺は見た

死んでないのか

終わった……

前作あるのか

少女は死んだかどうなのかわからないが
男は死んでザマァだな

今回は対してSS叩きも出なくてよかったな!!乙!!

三作目、キタイシテルゼ!

前作読みたい

面白い短編だった

>>49
前に、ニートを説教するはずが逆にニートに説教される男の話を書いた。

終わってた……

いちおつ!!!
面白かった!!!

>>54
あれか!読んだわ!
同じ人か、乙!!

前作これか?

ニート「それが君の『説教』か?」
ニート「それが君の『説教』か?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1408360846/)

>>57
そう。

>>58
おぉ、マジか
安定して面白いな

三作目も期待してるぜ!!!

お前らの末路じゃねーか

あげ

まとめられていた。

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