モブリット「副官のゆううつ」アンカ(11)

モブリット「副官のゆううつ」アンカ


ハンジの副官モブリットと、駐屯兵団ピクシス司令の副官アンカ・ラインベルガー女史のお話

某サイトにあげたものの、加筆版です

似た立場の二人は、一体どのような関係になるのでしょうか

シリアスです

よろしくお願いいたします

トロスト区 駐屯兵団指令室

「司令…もうすぐ調査兵団が、壁外調査について、報告にくるそうです。どうやら巨人の捕獲に成功した様です」

駐屯兵団の司令官、ドット・ピクシスは、執務机に肘を立てて、何かを考えているのか、目を伏せていた

背後に控える女性兵士が声を掛けても、思考に没頭しているのか、全く返事をする気配がない

「司令、聴こえてますか…って、寝てるでしょう!?司令起きて下さい!!」
女性兵士が、ピクシスの肩をぽんと叩いたが、それでも起きない

挙げ句の果て、グーグーと寝息までたてる始末

女性兵士は、はぁと息をついた

「司令!お客様がいらっしゃいますから、起きて下さい!」
そう叫んで女性兵士が、ピクシスの頭をバシッと叩いた瞬間

部屋の扉が開いて、司令室に客が入ってきた

「ピクシス司令、こんにちは!!相談に乗って頂きたくて来ちゃったんだけど…ってアンカ、また司令の頭殴ったの…?ふふ」

客の兵服には、自由の翼のエンブレムが縫い付けられていた

眼鏡の下の凛々しい利発そうな顔が、笑いで歪んでいた

「ハンジ分隊長、殴っていませんよ、人聞きの悪い…叩いただけです」

アンカと呼ばれた、先程ピクシスの頭を叩いた女性兵士は、肩の辺りの長さのブラウンの髪を振り乱しながら、首を振った

「…フガッ…おおハンジか、おはよう」

「ピクシス司令、おはようございます。実は巨人を一体捕獲したんですが、その警備について相談したくて…」

ハンジは、ピクシスの執務机に歩み寄ってそう言った

その時、司令室の扉がノックされた

「どうぞ」
アンカがそう言うと、かちゃりと扉が開いた

「ピクシス司令官、こんにちは。エルヴィン団長からの伝言を持って参りました…あと、うちの分隊長がノックも無しに部屋に入室したことをお詫び致します…すみませんでした」

入室していた人物は、丁寧に敬礼と挨拶をし、頭を下げた

その人物も、背中に自由の翼を背負っていた

「あ…」
アンカは入室してきた兵士を見て、一瞬目を見開いた

その声に気が付いたのだろうか

その兵士は、アンカに視線を移動させて、軽く会釈をした

「おお、ハンジの副官の…モブ…モブ…」

「モブリット、です。司令」

ピクシスの言葉にすかさずフォローを入れるアンカ

彼女と司令との関係は、まさに阿吽の呼吸といえる

長年連れ添った夫婦の様に…と言えば、アンカは複雑かもしれないが

「モブリット…そうじゃったな。挨拶など堅苦しい事はわしにはいらんぞ、気にせんでいい」

ピクシスはそう言うと、カラカラと笑った

ハンジがそれに呼応する様に笑う
「そうですよね~司令!ははは」

「分隊長、調子に乗らないで下さい!!司令が寛大な方だから良かっただけです!!常識として、人の部屋に入る時はね…いえ、今はいいです、後程みっちり…」

モブリットは、ついつい何時もの様に説教をしかかったが、止めた

「ええ~また叱られるのお!?モブリットしつこいからなあ…」
ハンジがさも嫌そうに顔を歪めながらそう言うと、司令室内が笑いで充満した

「ハンジよ、あいわかった。巨人の警備については、人数を割いて、調査兵団本部に派遣しよう。エルヴィンにもそう伝えてくれ」

ハンジの要望に、ピクシスは快諾した

巨人の研究など、調査兵団はともかく、駐屯兵団の兵士にとっては何の意味があるのか理解が出来ないのが現状だった

だがピクシスは違った

初めから、巨人を捕獲したいというハンジを後押ししていたのだ

そんな上司のお陰か、アンカも、他の側近も、現状維持な考え方の駐屯兵団にありながら、巨人に対する考え方はウイットだった

「司令、ありがとうございます。では早速調査兵団本部に戻ります!!あっ、モブリットはエルヴィンの書状の返事を貰ってから帰ってきてね!?」

ハンジはそう言うと、今度はきっちり敬礼を施して、退室していった

「…嵐のような女じゃのお。説教をされそうだから、逃げたのじゃろうな…ハハハ」

ハンジの後ろ姿を見送った後、ピクシスはそう言って笑った

「はい、逃げ足が早くて困ります…。司令、こちらがエルヴィン団長からの書です。お目通しお願いいたします」

モブリットはそう言って、ピクシスに書状を手渡した

「返事は後で持たせよう。別室で茶でも飲んで待っていてくれ…アンカ」

ピクシスに呼ばれて頷くと、モブリットを誘う様に、扉を開けて退出した

モブリットを伴って司令室を出たアンカは、隣にある応接室へと彼を誘った

「…しばらく、ゆっくりして下さい。お茶をお入れしてきます」

アンカがそう言って退出しようと踵を返しかけた時、ポンと肩に手を置かれた

アンカの体がビクッと跳ね上がる

「久しぶりだね、アンカ。元気そうでなにより」

モブリットは笑顔でそう言った

「…あなたは、相変わらず大変そうね。モブリット」

肩に置かれた手を振り払う様に後ずさりながら、アンカは言葉を発した

「そうだね。毎日振り回されて大変だよ。君は…」

「私も、似たようなものよ。老人介護だとかいろいろ言われているしね…」
アンカはそう言うと、ため息をついた

「俺は、忠犬だなんて二つ名がついているよ…。もう諦めたけどね」
モブリットもため息をついた

「忠犬…ふふっ」

「笑い事じゃないんだぞ、アンカ…。あらぬ噂をたてられて困っているんだ」
モブリットは眉をひそめた

「あらぬ噂?ハンジ分隊長とできてるって話なら、ここにまで伝わっているわよ?」

アンカは腕を組みながら言った

「…ほらね、根も葉もない噂がこんな所にまで。だいたい分隊長にはちゃんとした相手がいるのに…」

「へえ…誰?」
アンカがモブリットに詰め寄った

「…兵長だよ。リヴァイ兵長」

「あら、御愁傷様」

アンカはそう言うと、ぷいっとそっぽを向いた

「…アンカ。君、まだ怒っているのか?」
モブリットの言葉に、アンカは拳をぎゅっと握りしめた

「怒ってなんか…いないわ。お茶を入れてくるから、座っていて」

アンカはそう言うと、モブリットから視線を反らしたまま、退出していった

「…怒っている様にしか、見えないじゃないか」
閉まった扉を見ながら、モブリットは肩を竦めた

アンカとモブリットは、訓練兵団で同期だった

まだ巨人に壁が破られていなかった時代

今より随分気楽な訓練兵時代を過ごしていた

人々も、兵士でさえも、壁を絶対の物として何の危機感も抱いていなかった

一部の兵士を除いては…


その一部の兵士達は、壁に守られる事だけを由とはしなかった

自ら果敢に、巨人の謎に迫るために壁外へ足を踏み出していた

それが、自由の翼を掲げる調査兵団だった

ただ、壁が破られていなかった時代に、そこまでの危機感と気概を持つものは少なく、調査兵団には殆ど新兵が加わる事はなかった

殆どの訓練兵が、憲兵団か、駐屯兵団を希望するのが常であった

アンカとモブリットは、訓練兵時代良く共に過ごしていた

その間に男女の仲があった訳ではなく、ただ似た者同士で気が合う親友の様な存在だった

そんな中、最後の進路選択の時

二人の仲を裂く事件が勃発したのであった

―数年前―

「ちょっと!!どう言う事なの、モブリット!!憲兵団に行くんじゃなかったの!?」

何時もは沈着冷静なアンカ・ラインベルガーが、有り得ないほど取り乱していた

「アンカ、落ち着いて…話を聞いて欲しい。俺は…」

モブリットは尋常ならないアンカの態度に面食らいながらも、必死に宥めようとした

「憲兵になるって言ってたじゃない!!嘘つき!!」

「…ごめん、アンカ」
モブリットは、詰め寄るアンカに頭を下げた

「モブリットみたいな人が、調査兵団に入って…生き残れるわけないじゃない!!そんなに死にたいの!?」

「アンカ…死にたくはないよ。でもね、誰かが行かなきゃ…いけないんだ。俺はそう思った…だから、調査兵団に行くって決めたんだ。わかって、くれないかな…?」

モブリットはそう言うと、アンカの肩にぽんと手を置いて微笑んだ

その微笑みは何処と無く憂いを帯びていた

「…分かるわけ、ないじゃない。あなたみたいないい人は、いくら成績が良くても、すぐ死んじゃうわよ!!モブリットの、わからずや!!」

アンカは肩に置かれた手を振り払って、走り去っていった

「アンカ…最後の最後に、泣かせてしまったな…」
モブリットはそう言うと、何かを堪える様に目を伏せた


それから、アンカは駐屯兵団へ、モブリットは調査兵団へ…

道を別ってお互い違う場所にいながら、戦い続けていたのであった

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