後輩「もう七夕の季節ですか」先輩「まだ一ヶ月ある」 (44)

6月初旬

後輩「いやはや先輩、一ヶ月なんてすぐですよ、すぐ。先輩だってこの高校に入学してから今までなんてあっという間だったでしょう?」

先輩「確かにそうではあるのだが…………」

後輩「ありゃ、やけに言葉を濁しますね」

先輩「それを認めてしまえば、受験が超高速で私の元へやってくることになるからな」

後輩「あー、先輩、高三ですもんね。でしたら冬までにタイムマシンを開発しましょう」

先輩「そのための努力がめんどくさいよ」

後輩「ダメ人間だ」

先輩「タイムマシンなんて夢物語を語るやつには言われたくない」

後輩「しかし、そういう時節柄なイベントは大切にしたいものですね」

先輩「そういえば君は去年もそう言ってことあるごとに色々していたな」

後輩「イベントは楽しまないと、ですからね!」

先輩「いやはや、君と過ごすクリスマスは斬新だった」

後輩「クリスマスですか、何してましたっけ?」

先輩「かき氷機で雪作って部室にばらまきやがって」

後輩「あー!ありましたね!そんなこと!」

先輩「冬にかき氷機を引っ張り出してくるのなんて君ぐらいだろうな」

後輩「やだなぁ、褒めないでくださいよぅ」

先輩「あのあとびしょ濡れの部室のことで先生にこってり起こられたぶん、ここで説教してやろうか?」

先輩「ふむ、まぁいい。して、七夕も何かするのか?」

後輩「そりゃあするに決まってるじゃないですかぁ、この部活が何部か、お忘れですか?先輩」

先輩「…………青春部」

後輩「いえす!青春部っすよ!こりゃもう青春するっきゃねーってもんです!この部室も七夕色に染め上げちゃいましょう!」

先輩「やっぱりというか、なんというか。君はこういう、イベントごとになるとやけにテンションが高いな」

後輩「それが私のいいところです!」

先輩「暴走しやすいのが玉に瑕だがな」

後輩「しかし、問題もありありですねー」

先輩「問題?」

後輩「まず、笹がありません」

先輩「あんなの、そこらへんに売ってたりしないのか?……というか去年はどうしてたんだ。確か去年も願い事、吊るしてただろう」

後輩「そうでしたか?……あぁ、そうでしたね。短冊は私と、先輩の二枚だけでしたけど。貰ったのは……あー。そうです!おねーさんですよ!おねーさん!」

先輩「あぁ、あの駅前の書店の」

後輩「あの人、謎に人脈広いですからね!去年は確か知り合いのおじいさんがそういうのを伐採してるだとかで貰ったはずです!」

先輩「ただの本屋の店主だろうに、そう言われるのは少しばかり可哀想だな。まぁじゃあ、帰りに書店、寄ることにするか」

書店にて

女「ん、いらっしゃい」

後輩「こんちゃーっす!」ブンブン

先輩「ども」ペコリ

女「あぁ、キミたちか、どうしたんだい?何か事件?」

先輩「もう本を買いに来たという選択肢はないんですね」

女「はっはっは、キミたちが本を買いに来たことがあったかい?」

後輩「ないです!」

先輩「即答すんな、私はたまに来てるぞ」

後輩「ら、ラノベですか!」

先輩「ん、ラノベもあるけどな」

女「まぁ少なくとも私の記憶じゃキミたちが二人で来たときは大抵、頼み事か暇潰しだね」

先輩「迷惑かけてます」ペコリ

女「いや、楽しいからいいのさ。んで、今日はどうしたんだい?」

カクカクシカジカ…………

女「七夕、もうそんな季節かぁ」

後輩「えぇ!もう!今年は張り切っちゃいますよー!」

女「張り切っても吊るされる短冊は二枚、かい?」

後輩「もー!こーゆーのは数じゃないんです!質ですよ!質!笹に託す想いの重みは私と先輩で全校生徒を凌駕します!」

先輩「いや、私の願いはそんなに重くないぞ」

後輩「ぶー、先輩もノってくださいよぅ」

女「はっはっは、まぁ微笑ましくていいじゃないか、まぁ、そうだね。今年も二枚なら、小さな笹でいいのかな?」

後輩「あぁ、はい、そうですね!お願いしま「いや」

先輩「今年は、少し大きいのをお願いします」

後輩「先輩、大きい笹なんて、どうするんです?」

先輩「決まってるだろ?短冊を吊るすのさ」

後輩「でも、青春部は私達二人ですよ?」

先輩「別に、私達だけで笹を使わなきゃいけない、なんて決まりはないだろう?」

後輩「ということは……全校生徒に書かせるんですか!?」

先輩・女「「いや、無理だろ」」

先輩「うちの高校、割と生徒数は多いからな」

女「全校生徒の短冊吊るすっつったら大変なことこの上ないよねぇ」

後輩「え、じゃあどうするんです?」

先輩「書いてくれる人だけ書いてもらえばいいじゃないか」

後輩「え、でも私も先輩も友達なんて……」

先輩「おいやめろ」

先輩「まぁ、その、友達いないのをなんとかしようぜ、笹でさ」

後輩「……うぅ、じゃあアレですよね。生徒さんに短冊書いてくださーいって喋りかけないとダメな感じですよね?」

女「はっはっは、まぁそう気を張るなよ。誰だって知らない相手に喋りかけるのは怖いが、なんだ。そういう時節柄の催しが好きなやつはいっぱいいるさ」

先輩「……だってさ。別に後輩一人じゃないし、私も声かけはするから。たまにはこういう、開いた活動もしてみないか?」

後輩「うぅ、確かに今までは先輩と二人きりではしゃいできましたもんね……」

先輩「君がはしゃぐおかげで私達、学校じゃ変わり者扱いだけどな」

後輩「有名ではあるのですか。しょぼん」


先輩「まぁ、そういうことです。女さん、短冊、大きめ頼んでいいですか?」

女「ふむ。まぁ、あのじいさんのことだ。快く了承してくれると思うよ。一週間後、また来な」

先輩「では、よろしくお願いします」

女「はい。それじゃあ、また来週」

一週間後。駅前書店。


先輩「ども」ペコリ

女「おや、今日はキミ一人かい?」

先輩「えぇ、後輩はなんだか委員会の方が重なっちゃったみたいで」

女「まぁ、笹は荷台にくくりつけてあるから、学校まで運ぶのにキミ一人でも問題はないだろう」

先輩「いつも迷惑をおかけしてすみません」

女「はっはっは、迷惑ばかりなら請け負ってないさ」

女「後輩ちゃんのためかい?」

先輩「何のことでしょう?」

女「笹、だよ」

先輩「気まぐれですよ」

女「来年には君はあの学校を卒業してしまっている。その後の後輩ちゃんがひとりぼっちにならないように、友達を作ってあげようとしてる、ように私には見えたんだけどな」

先輩「そういう妄想を巡らすところ、女さんの悪い癖ですよ」

女「はっはっは、本の読みすぎかな」

先輩「……私は先輩に救われたようなものでしたから。卒業する前にあの子をなにかしら救ってやりたいんだと思います」

女「ふむ。でも彼女はキミが部室にいる。それだけで救われてると思うよ。実際キミがその先輩に救われていたのはそういう行為からだろう?」

先輩「私は男先輩の行為でなく好意に感謝してるのですよ」

女「はっはっは、それは失礼」

先輩「言うまでもなくあなたのコウイにも感謝してますけどね」

女「それは行為かい?好意かい?」

先輩「さて、どちらでしょう」

先輩「あの、女さん」

女「どうした?」

先輩「これから先、私が卒業してからも。後輩はあなたを頼ることがあるかもしれません。……そのときはよろしくしてやってください」

女「はっはっは、そんなこと言われなくてもわかってるさ」

先輩「……ですよね。変なこと言いました。笹、貰っていきます」

女「うん、持っていきな。しかし、私はいつかどこかでキミが今言った台詞と同じ台詞を聞いたよ。どこだったかな」

先輩「……そうですか。ありがとうございます。それでは、また笹、見に来てくださいね」

女「キミも、また来なよ。それじゃあな」

先輩「」ゼェゼェ

後輩「わぁー笹、おっきいですねぇ!」キラキラ

先輩「」ゼェゼェ

後輩「こんなに大きいの、先輩が持ってきたんですかー?」キラキラ

先輩「女さん……一人でも……支障ないって……言ってたけど……支障あり……まくり……ゲホッ……じゃないか」ゼェゼェ

後輩「せ、先輩、あの!飲み物買ってきますね!冷えてるやつ!」バタバタ

後輩「せんぱーい!ポカリで良かったですかぁ?」

先輩「あぁ、ありがとう。助かるよ。えっと150円だったか?」

後輩「今日は私が部活出れなかったのが悪いんですから!先輩は奢られちゃってくださいよぅ!」

先輩「……ん、じゃあ言葉に甘えるよ」

後輩「明日の笹の取り付けは手伝いますから!それで今日のぶん、チャラにしてくださいね!」

先輩「許さん」

後輩「ひゃー!すみません!すみません!」

先輩「冗談だよ」ハハ

翌日、中庭


後輩「中々綺麗に立てられたのではないですかね!」

先輩「笹の出来映えより多すぎるギャラリーの方が気になるかな、私は」

後輩「こんだけギャラリーがいたらいっぱい吊るされそうですね!短冊!」

先輩「……だといいな」

後輩「そんじゃ、部室に戻って短冊作っちゃいましょ!短冊!書くものがなければ吊るせませんからね!」

先輩「あ、短冊に使う色紙買ってないな」

後輩「抜かりありませんよ、先輩」

先輩「ほう、買っておいてくれたのか?」

後輩「去年二枚しか書いてませんから!余りまくりです!」

先輩「…………悲しすぎるな」

後輩「……」チョキチョキ

先輩「……」チョキチョキ

後輩「……」チョキチョキ

先輩「……」チョキチョキ

……

先輩「しかし、あれだな。君はこういう、手先を使う作業とかになると途端に無口になるな」

後輩「……集中してますからっ」

先輩「少々、頑張りすぎではないか?」

後輩「……苦手なもので……」

先輩「なんというか、その困ったような苦悶してるかのような表情可愛いな」

後輩「先輩、器用だからって調子に乗ってると切りますよ」

先輩「それは怖い」

二日後

後輩「切り終えました!切り終えましたよ先輩!」

先輩「私は今更ながら職員室に行けば裁断機を貸してもらえたのではないか、という可能性に行き当たったのだが」

後輩「……」ゲシッバシッ

先輩「いたっ……ちょっ……いたっ、先輩を無言で蹴るな!」

後輩「大変だったんですからねっ!」

先輩「私も一緒に切ってただろう……」

後輩「だって先輩私と違って何でもなさそうに切るんですもん!ずるいです!器用ずるいです!」

先輩「そう言われてもなぁ。まぁあれだ。穴を開けるのはパンチがあるから。君にも出来るだろう?」パチンッ

後輩「んー。んっ!んんっ!」

先輩「……後輩」

後輩「ん!んんん!穴、開きません!」

先輩 「言いにくいが、流石にそんな何十枚も束ねると穴開けるのに相当体重かけなきゃ無理だぞ。もう少し一回辺りの紙の量減らすといい」

後輩「」ガーン

先輩「じゃあ、そろそろ短冊を配るとしよう。この部室にはなぜかサインペンはいっぱいあるしな」

後輩「書く場所も必要ですし折り畳み式の机ももってっちゃいましょ!」

先輩「なんだか、駅前とかにある七夕のイベントコーナーみたいだな」ハハ

後輩「やってることは似たようなもんですよ」

先輩「違いない、あぁじゃあ私はこっち持つから、後輩そっちの方持って」

後輩「りょーかいですっ!」

先輩「ふぅ、準備は粗方こんなもんだろう」

長机の上に無造作に散らばる色とりどりのサインペンと紐の通された色紙。その中央にある笹はいつもの光景とは違う、非日常で。
道いく生徒たちからその光景は一定の視線を集めつつも、接していいものかわからず誰一人として近づいては来ない。

先輩「ほら、後輩」

後輩「……わかってます」


後輩は部室になぜかあったメガホンを口に当て、顔を真っ赤にして叫ぶ。

後輩「みなさーんっ!七夕のお願い事、吊るしませんかーっ!」


電池の切れたメガホンは音を発することはなかった。
その代わり、中庭には後輩の声そのものが直接響き渡ったのであった。

先輩「やればできるじゃないか」

後輩「……めちゃくちゃ恥ずかしいです。今なら顔で目玉焼き焼けますよ、これ」

しかし、その後輩の声はひとつの引き金になるには十分だったらしく。

中庭の短冊には次々と色とりどりの色紙が吊り下げられていった。

時折質問等を受け、ぎこちない笑顔を見せながら敬語で返す後輩を見てニヤけてしまう自分が少し、気持ち悪く思えた。

もうこれくらいなら。
ここまで短冊があるのなら。
私が吊るしても、きっと紛れて後輩の目に留まることはないだろう。

そう思って私は後輩の目を盗み、短冊をひとつ吊るしたのだった。

後輩「もう七夕の季節ですか」

先輩「明日だな」

後輩「なんだか忙しい一ヶ月でした」

先輩「特にこの……一週間半くらいか?その間はずっといろんな人と喋りっぱなしだったしな」

後輩「えへへ、私、最近廊下なんかでもいろんな人に声をかけられるようになっちゃったんですよ」

先輩「それは良かったじゃないか」

後輩「嬉しいけど、少し照れ臭いです」

先輩「でもまぁ、これで私がいなくてもやっていけそうかな。もう友達が少ないとかいない、なんて言えないだろう?」

後輩「そうですね。なんだか奇跡や魔法のようです」

先輩「七夕はきっとひとつの魔法だよ。何せ、願いを叶えてくれるんだから。魔法以外の何者でもないさ」

後輩「それはなんというか、素敵な言葉ですね」

先輩「……受け売りだけどね」

後輩「それじゃあ、私はもう帰りますね、先輩は戸締まりよろしくお願いします」

先輩「ん、あぁ。おつかれ。明日は6時になったら笹、神社に持ってくからよろしくな」

後輩「りょーかいですっ」

ガララッピシャッ


一人きりの部室で窓の外を眺めてみると、立てた頃とは似ても似つかない笹に目が止まった。
そのとき、ふと。
どうせ明日で燃えてしまうんなら今のうちに色んな願い事を眺めてみるのも悪くないかな。
そう思えたのである。
女さんに知られたら「趣味が悪いな」なんて言われちゃいそうだけど。

先輩「……おや、帰るのではなかったか?」

後輩「ありゃ、奇遇ですね」

先輩「こんなところでどうしたんだい?」

後輩「先輩こそ、どうしたんです?」

先輩「わかってるくせに」ハハ

後輩「先に聞いたのはそっちですよ、もぅ」

先輩「ふふ、しかしこう見ると不思議だな」

後輩「不思議?何がです?」

先輩「こんな、私たちが持ってきたちっぽけな笹にこの学校の生徒の大半の願いが乗っかってるなんてさ、想像したらなんだかすごい神秘的じゃないか?」

後輩「それは……素敵ですね」

『○○君とずっと幸せでいられますように』

『好きなアイドルのコンサートのチケットが手に入りますように』

『お金が欲しい』

『受験合格』

『テストの点数80点!』

『宇宙人に会いたい』

『触手が生えてきますように』


先輩「なんというか……」

後輩「えぇ、色んな願い事、詰まってます」

先輩「最後のとかなんだ。触手って」

後輩「私には……むしろ罰ゲームのような気がします……」

先輩「少なくとも使用用途は不明すぎるな」

先輩「後輩は何かお願い事、吊るしたのか?」

後輩「えーっと。えへへ。秘密です」

先輩「ふむ。じゃあ私も秘密だ」

後輩「ひぇー、ずるいです!」

先輩「君だって秘密じゃないか」ハハ

後輩「むー」

先輩「まぁ、今日のところは帰るか」

後輩「そうですねぇ。明日は大変そうですし、ゆっくり休まないと」

先輩「まっすぐ帰るんだぞ」

後輩「……はーい」

先輩「……いい、七夕だったな」

その言葉を受け、後輩はいたずらそうに笑って私に言う。

後輩「七夕は明日なんですよ、先輩」

七夕、当日。

ワイワイガヤガヤ


先輩「なぁ後輩、これが当日ラッシュってやつか」ムシャムシャ

後輩「人混みヤバイですね。なんか出店みたいなのまで出ちゃってますよ」

先輩「あぁ、あれはなんか家庭科部らしい。笹の葉クッキー売ってるんだと」ムシャムシャ

後輩「さっきから食べてるクッキーあの屋台のなんですか」

先輩「さっきクラスの男子が持ってきてくれたんだ、なんか知らんが笹のおかげで彼女ができたとかでそのお礼だと。あ、一枚いる? 」ムシャムシャ

後輩「あ、貰います。……ふむ、確かに美味しいですね。私買ってこようかな……じゃなくて!これ、笹足りるんですかね 」

先輩「……はぁ、しゃーない。女さんに電話してみる。クッキー頼むわ」

後輩「お願いします」ムシャムシャ

先輩「当たり前のように食べやがったな」

prrrrr……

先輩『あ、女さんっすか』

女『ふむ、そうだが。……なんというか、うるさいな』

先輩『なんか予想以上に賑わってるもので、すみません』

女『はっはっは、君の高校のいいところはそういうところだと思うな。あぁ、用件に関しては粗方、笹が足りないとかそんなんだろう』

先輩『よくわかりましたね、話が早い』

女『ということでバイト君に頼んで校門の……あー、店に近い方だから駐車場側の門かな。そこに笹を置いてある』

先輩『話だけでなく仕事も早い』

女『はっはっは、そう褒めるな』ムシャムシャ

先輩『絶対バイト君に笹の葉クッキーパシらせましたよね』

女『ふむ、美味しいな。後で屋台にもう少し買いに行こう。ついでに君の笹のとこにも顔を出すことにするよ』

先輩『あくまで屋台がメインなんすね』

女『はっはっは』プチッ

先輩「あ、切った。ちくしょう。まぁいいや。駐車場の方の門だっけ。取りに行かなきゃなぁ」

先輩「うーい、笹持ってきたぞー」バサバサ

\ウォオオオオオオ/

後輩「なんかかっこいいですね」ムシャムシャ

先輩「おいクッキーもうほとんどないじゃないか」

後輩 「気のせいです」ムシャムシャ

先輩「あー、ほら食ってないで取り付け手伝え。一人じゃできないんだぞ」

後輩「はーい」ムシャムシャ

先輩「ちくしょう」

……七夕、夕方。

後輩「……落ち着きましたかね」

先輩「まぁ、もう六時前だしな」

後輩「笹持っていくの、大分遅れちゃいそうですね……」

先輩「二本になってしまったしなぁ」

後輩「後半とか裁断機からかなりの量の短冊持っていってましたけどアレの重さが全部笹に加味されていると考えると……」

先輩「考えるな、気が遠くなる」

後輩「そもそも神社までどれくらいでしたっけ?」

先輩「……歩いて15分」

後輩「もうこれ置いてかえ「おいやめろ」

男子生徒A「……お?もう終わっちゃった感じ?」

後輩「はひっ、あぁ、いや、まだ全然大丈夫ですよー!今どうやって持っていこうかなーって悩んでたとこなんですw」

男子生徒A「おー、そりゃよかった。じゃあ一枚書かせてくれw」

後輩「はいはいーっ!」

…………

A「にしても、こんなん女の子二人で運ぶの?」

先輩「大変そうだろ」ハハッ

A「そりゃあなwしゃーない。いっちょ手伝うかーっ」

後輩「えっそれは悪いですよ!」

A「いやいや、俺も楽しませてもらったしさ」

後輩「い、いえ!でも私達が勝手にしたことですし!」

A「勝手にしたことでもさ、楽しんだのは事実だwそのお礼くらい、させてくれよ。な?」

後輩「……むぅ、でも……」

先輩「後輩」

後輩「……先輩?」

先輩「こういうとき、後輩なら引き下がるか?」

後輩「……じゃあ、お言葉に甘えて。お願いします。」

A「よっしきた、じゃあ知り合い何人か呼ぶわw」

先輩・後輩「「えっ」」


A「後片付けも大人数でやる方が楽しいっしょ?w」

後輩「……先輩」

先輩「どうした?」

後輩「いつもは、二人だけなのに今日はこんなに人がいて……」

先輩「10人は超えてるな」

後輩「こんなに、巻き込んじゃってっ……」

先輩「……彼らも巻き込まれたくて巻き込まれてくれてるんだよ」

後輩「私っ……私っ……」

先輩「あぁ、わかってる」

涙目の後輩を見ながら、思う。
きっと、私も彼女も同じで。

祭りのあとの静けさと達成感に包まれて。
すごい幸せな気持ちに包まれて。
嬉しすぎて、どこか泣きたいような。

そのとき、私ももしかしたら涙目だったかもしれない。

ただひとつ、私が言えるのは。
私も、後輩も。
口角は上がって仕方なかった、ということくらいだ。

神社にいくと、地元の笹がすべてそこに集められるらしく、既にいくつかの笹が燃え始めていた。

七夕の笹というのは燃やして天に願いを届けるらしい。

詳しくは知らないけれど、かぐや姫でも不死の薬を燃やして天に何かを届けていたんだっけ。

今度、起源を女さんに聞いておこう。

とにもかくにも。私たちは、その神社に積み上げられた笹の中に私達の学校の生徒の夢の塊を積み上げてきたのである。

後輩と私の行動で、いくつの願いが天に登っていくのだろう。
そう考えるだけで元々上がっていた口角がさらに上がるのを感じるのであった。

後輩「先輩、ニヤけちゃってますよ」

先輩「君もだよ」

後輩「嘘っ…………ほんとだ」

先輩「達成感、あるよな」

後輩「えぇ、ほんとに。よかったです」

先輩「あぁ、私も。今までで一番楽しい七夕だったよ」

後輩「やっぱり、時節的なイベントは大切でしょう?」

先輩「あぁ、そうかもしれないな」

後輩「……私も、ここまで楽しいものだとは、思ってませんでしたけどね」

男子生徒A「な、またさ。ハロウィンとかクリスマスとか、楽しみにしてるな!」

男子生徒B「あ、あれでしょ!去年のクリスマス室内に雪降らせたの、君達でしょ!あれめっちゃウケたんだけど!」

男子生徒C「あー、あれ。ハロウィンにめちゃくちゃ禍々しい装飾で彩られてた教室も確か青春部とかいうやつだろ」

B「おー、じゃあもう今年とかハロウィン学校中禍々しくしよーぜw

A「それは流石に先生に怒られるんじゃないか?」


先輩「どうやら、これからも楽しくなりそうだぞ」

後輩「……えぇ、楽しみです」

ニヤけた表情とは打って変わってくすりと笑う彼女の表情はなんだか、初めて見る気がしたのだった。

先輩「……そういえば、後輩は結局笹になんと書いたんだ?」

後輩「……教えませんってば」

先輩「ぶー」

後輩「む、じゃあ先輩が教えてくれたら私も教えますよ」

先輩「あー、それはちょっと恥ずかしいかな」

後輩「じゃあダメです」

先輩「まぁ、私の願い事はもう叶っちゃったようなもんだけどな」

後輩「ふぇ、そうなんですか。なんだか勿体ないですね。願い事の無駄遣いみたいで」

先輩「……いや、そうでもないさ。後輩はどうだい?叶いそう? 」

後輩「いえ、叶いそうもないですかね。……それでも願ってしまうんですけど」

先輩「じゃあ、お互い、叶ったら教え合うことにしようか」

後輩「……それじゃあ、永遠に教え合えませんね」

先輩「むー、なんでだよぅ」

…………

もしも、この七夕が些細な一言で始まった奇跡なのだとすれば。
あの一言は魔法の呪文のようなものだったのかもしれない。
あの一言がなければ、こんな幸せな毎日がめぐることがなかったかもしれない。
私は、私を気遣ってくれた先輩に。
私のためにこんな奇跡を起こしてくれた先輩に。
感謝の気持ちと、少しの後ろめたさを込めてもう一度魔法の呪文を唱えてみる。



後輩「先輩、先輩」

先輩「どうした?」

後輩「もう七夕の季節ですよっ」

先輩「先週終わっただろうが」

おしまい。

お読みいただいた方は貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます。
初SSなのと、スマホでリアルタイムで書いてたので文章は拙いかもしれません。

以下は言おうか迷っていた設定の打ち明け話のようなものです。私自身が忘れてしまいそうなので描いてしまおうと思います。
おまけ程度に読んでください。

先輩に挨拶をして、廊下を歩くとふと中庭の笹が目に入った。

んー。明日燃えてしまうのなら。
見ちゃってもいいかな?なんて。
少しの悪戯心が私の胸をくすぐったのです。
気づけば足は中庭へとむかっているのでした。

『○○君とずっと幸せでいられますように』

『好きなアイドルのコンサートのチケットが手に入りますように』

『お金が欲しい』

『受験合格』

『テストの点数80点!』

『宇宙人に会いたい』

『触手が生えてきますように』

そんな、色紙の色によく似てそれぞれ違った願い事の書かれた短冊を眺めていると、ふと見覚えのある字が目に飛び込んだ。


『私が卒業しても後輩が幸せでありますように』


それは紛れもなく先輩の字で。
きっと後輩っていうのは私のことで。
でも先輩だって受験生なんだから、もっと色々、願わなきゃいけないこともあるはずなのに。

それでも先輩は私の幸せを願ってくれたんだな。
そう思うと、なんだか胸が暖かくなりました。


この笹のこともきっと。
私に友達を作ろうと。
先輩がいなくなっても私がひとりぼっちにならないように。
先輩がしてくれていたのでしょう。

あぁ、私は先輩に恵まれ過ぎちゃってるみたいです。

私はふと思い立ち、傍らにあった色紙を手に取り、ペンを走らせました。

そして、わざと先輩の横にくくりつけ、少しだけ満足感を得ます。

先輩のお願い事はもう、先輩の中では叶ったのかもしれません。
だってきっと。
私はもうひとりぼっちにはならないでしょうから。

だけど。
やっぱり。
それでも。

これだけは。
無理だとわかっていても、これだけは願わずにはいられなかったのです。

もしかすると、たとえ100人の友達がいても。私はきっと、本当の意味で幸せにはなれないのかもしれません。


先輩「……おや、帰るのではなかったか?」


そう背後から聞こえてきた声を。
受け止め、反芻して。
先輩の声だと認識して。
私の短冊が見えないように先輩と笹の間に立って、何でもないように答えます。

後輩「ありゃ、奇遇ですね」


『私が卒業しても後輩が幸せでありますように』

そう書かれた短冊の横には

『先輩が卒業しませんように』

そんな、叶いもしない願い事がヒラヒラと舞っているのでした。

ありがとうございました。

どうか、皆様。幸せな七夕をお過ごしください。

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