勇者「魔法都市の調査ですか」(154)

兵長「それは個人からの依頼だな」

兵長「天界のどこかにある隠れ都市を探してほしいとのことだ」

勇者「都市、ですか?」

兵長「なぜか規模は知れ渡っているらしい」

兵長「……というかガセネタだろう」

兵長「お前がわざわざ行くような話じゃないぞ?」

勇者「いえ、この依頼にします」

兵長「そうか?」

勇者「この依頼人は知人ですし……」

勇者「ちょうどこんな夢のある話が欲しかったところです」

――

王女「天界の魔法都市!? 連れて行ってくれるのか!?」

勇者「うん。 王様の了承もとってある」

王女「嬉しいぞ! ありがとう勇者!」

勇者「まあ天界なら危険もないだろうし」

勇者「魔法都市なんて面白そうじゃないか」

王女「よし! それでは準備を始めるか!」

勇者「別に必要な物はないよ」

勇者「あんまり大荷物だと重量制限に引っかかるし」

王女「そういえば勇者は手ぶらだな。 鉄の剣だけか」

勇者「大体の道具はお金に変えておいた」

王女「ふむ?」

勇者「まあ歩きがてら話そうか」

テクテク

勇者「王女、天界についてはどれくらい知ってる?」

王女「ほう、わたしを試す気か?」

王女「いいだろう! 答えてやる!」

王女「天界とは! 神とその従者の住む高尚な場所!」

王女「その場所は天高くにあり、限られた人間のみがそこへ行くことを許される!」

王女「……というのは昔の話!」

王女「今では一般開放されていて、誰でもお金を払えば気球船で行き来できるのだ!」

勇者「そう、そこが問題なんだ」

勇者「高いんだよね、乗船代」

―乗船場―

勇者「大人1枚と子供1枚」

券売り「はいよ」

王女「お、おい! 大人2枚だ!子供扱いするな!」

勇者「……王女、あそこを見て」

王女「うむ? 料金表か……」

王女「……ええと、天界行きは……」

王女「!? 駅馬車の20倍はするではないか!」

勇者「ね? ちゃんと年齢通りの券を買おうよ」

王女「うぬぅ……」

王女「子供で……仕方あるまい……」

王女「おお……! これが天界行きの気球船か!」

王女「うっすらと青色に輝いてるような……」

勇者「中に雲……水が入ってるんだよ」

王女「ほう?」

勇者「天界の雲には魔力が込められていて上に乗ることができる」

勇者「それと同じものがあの中に入っているんだ」

王女「普通の気球ではダメなのか?」

勇者「それはね……」


「ですから! 魔族の方を乗せるわけにはいかないのです!」

魔女「ふふふ、そこをなんとかお願いできないかな」

天界船員「できません! 無理なんです!」

勇者「何かあったんですか?」

天界船員「あーほら、他のお客さんが来ちゃっ……」

天界船員「て、勇者様!」

魔女「おや、勇者君。 いいところに来てくれた」

勇者「魔女さん? 依頼人のあなたがどうしてここに?」

王女「依頼主はお前だったか。 自分で行くなら依頼など必要ないのではないか?」

魔女「いいじゃないか。 楽しそうだったんだ」

天界船員「勇者様のご友人でしたか……」

魔女「ふふふ、そういうことだ。 通してくれたまえ」

天界船員「……それでも魔族の方は乗せられません!」

魔女「ふふふ」

魔女「あれっ」

このssは

勇者「銀鉱の調査ですか」
勇者「銀鉱の調査ですか」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1368806285/)

の続き物ですが
ここから読んでも楽しめるように頑張ります


勇者「あー……魔女さん。 俺から説明します」

魔女「分かりやすくたのむよ」

勇者「この気球船は自動操縦なんです」

勇者「飛ぶ道筋や速度も全て魔力を込めた者が設定していて」

勇者「"風が強い日はゆっくり飛ぶ"などの細かい設定も気球の中に入ってるんです」

魔女「なるほど。 進んでるんだね」

勇者「そしてその中の一つに」

勇者「"魔族が乗っている場合は動かない"というのがあるんです」

王女「どうしてそんなものがあるのだ?」

勇者「まあ名残だね」

勇者「それで魔族の人が乗るときは設定をし直さないといけないから」

勇者「予約と身体検査と……とにかく手間をかけないとダメなんだよ」

魔女「ふぅん」

勇者「あ、乗船券返しますのでお金返してもらっていいですか?」

天界船員「なっ!? 勇者様から金をとっていたのですか!?」

天界船員「ええい! 予約のない魔族を通すだけでなくこんなことまで!」

天界船員「だから現地人など雇うべきではなかったんだぁー! うがー!」

王女「うーむ、大変そうだな」

勇者「というわけなので」

勇者「俺達は別の気球を使いましょう」

テクテク

王女「別の気球などあるのか?」

勇者「役目を終えたあとの物を使わせてもらってるんだよ」

王女「な!? そんなものがあるなら最初から使え!」

勇者「いや、俺専用ってわけでもないし」

勇者「それに……あんまりコネは使いたくないんだ」

王女「……」

王女「カッコつけるなら大人2人分払わんか」

勇者「ごめん」

テクテク テクテク

王女「そういえば……」

魔女「ん? なにかな?」

王女「お前は魔族だったんだな」

魔女「おや、言ってなかったかな」

魔女「私は魔族と人間のハーフなんだよ」

王女「ほお……そんなものがあるのか」

王女「それで見た目では分からないのだな」

魔女「魔族を見慣れてる人には分かるみたいだけどね」

勇者「さて、ちょっと歩いたけど……ついたよ」

王女「着いたって……ここは……」

魔女「お城のように大きい建物だよね。前から気になってたんだ」

魔女「なんていう建物なんだい?」

勇者「名前は見たまんまですよ」

王女「ここは教会本部、大教会ではないか!」

魔女「ややこしいね」

僧侶「あら? 王女さま」

僧侶「お城を抜け出してこんなところまで来たのですか?」

王女「今日は仕事だ!」

勇者「王女は城を抜け出し過ぎじゃないかい?」

僧侶「平和になった証拠ですよ。 よく分かりませんがお仕事頑張って……」

僧侶「ゆ、ゆゆ勇者様!」

勇者「こんにちは」

僧侶「よよよようこそ御いで下さいました!」

勇者「そ、そんな風にならないでくださいよ」

僧侶「今日はお日柄もよく猊下も教会へ来られられられ……」

勇者「ええと……入らせてもらいますね」


王女「すごい反応だったな」

王女「勇者は神に愛された人間と聞いたが、それでか?」

勇者「う、うん……教会関係者はちょっと困るぐらい慕ってくれるんだ」

―大教会内部―

王女「それでこれからどうするんだ?」

勇者「気球は屋上にあるんだよ」


騎士a「勇者様!? いらしてたんですか!?」

騎士b「やはりあやつは……あ、勇者様!」

騎士長「こんなとき司祭様がいれば……て、勇者様!」


魔女「なんだかこっちまで偉くなった気分だね」

王女「わたしでもここまで持ち上げられたことはないぞ」

勇者「お、おかしいな……いつもはもっと人が少ないはずなのに……」

「ほっほっほ。 教会が賑やかだと思ったらあなたでしたか」

教皇「今日は客人が多い日だ」

勇者「お久しぶりです、教皇」

王女「きょ、教皇殿!」

魔女「おやおや。 すごい人にあってしまったね」

教皇「王女様も一緒でしたか。 勇者君と知り合いだったのですね」

王女「ゆ、ゆうしゃくん?」

教皇「おやご存じない。 私と勇者君は古い友人なのですよ」

勇者「あ、あはは……」

王女「教皇殿と友だちなんてすごいことではないか」

王女「なぜバツが悪そうにしておる。胸を張っておればいいだろう」

勇者「う、うん。 そうだね」

教皇「それで勇者君、気球で天界に行くのですか?」

勇者「はい。 今使えますか?」

教皇「残念ながら今は使用中ですね」

勇者「えっ!? じゃあ……」

教皇「ほっほっほ。 ええ、今天界に来ていますよ」

教皇「魔皇女ちゃんがね」

王女「魔皇女とは誰だ? いや、それよりも……」

勇者「参ったな。アレが使えないんじゃ天界に行けないぞ」

魔女「困ったね」

カチッ

王女「うむ? ステンドグラスが動いた……?」

教皇「おや、たった今降り始めたようですね」

勇者「あ、本当だ」

王女「おお! 天界にいけるか!?」

勇者「うん。 よかったよかった」

教皇「ああそうだ。勇者君」

勇者「はい?」

教皇「天界に行くならお願いがあります」

勇者「司祭が行方不明?」

教皇「はい。天界街の目撃情報を最後に、ここ半年姿を消しているのです」

教皇「天界に何度も捜索隊を出すわけにはいきませんので……」

勇者「分かりました。 探してみましょう」

教皇「頼みましたよ」

勇者「はい!」

勇者「よし、それじゃあ屋上で気球を待とうか!」

王女「うむ!」

教皇「王女様」

王女「む?」

教皇「天界は我々が神と崇める方がおられる世界」

教皇「毎日世界中の人が祈りを捧げる……その場所へ行くのです」

教皇「それだけは常に意識してくだされ」

王女「う……うむ。 心得た」

魔女「ふふふ、ワクワクしてきたね」

教皇「それと」

魔女「ふ?」

教皇「魔族の方が天界にどんな用があるのか知りませんが」

教皇「あまり勇者君を困らせないでくださいね」

王女「おおー! 大教会の屋上はこうなっておるのか!」

王女「正直狭い! 気球がのるギリギリの広さだな!」

勇者「まあ元々気球をのせる場所ではないからね」

魔女「ふ、ふふふふ……」

魔女「釘を刺されてしまった……」

勇者「魔女さん。気にしなくても大丈夫ですよ」

勇者「教皇は和平が成立した時その場にいました。魔族への偏見もありません」

魔女「ほんとうかい?」

勇者「はい」

魔女「ふふふ」

魔女「涙とかが流れ出そうになったよ」

王女「おっ! あの空の黒い点が気球ではないか!?」

勇者「あー……うん。 たぶんそうだね」

王女「あそこに魔皇女という者が乗っておるのだな?」

勇者「そうだよ」

王女「肩書きからして魔族……」

王女「なぜあの気球船には魔族が乗ると動かないという設定がされて無いのだ?」

勇者「それはね……ん?」

勇者「……」

勇者「あ"っ!!」

ヒュー…

「それは!! わたくしがお答えしますわ!!!」

勇者「ふ、ふたりとも伏せて!! 早く!!」

王女「!?」

魔女「ん? なにか降ってくるね」

「あの気球の名前は"特別護送船"!」

ドッゴォォオオオオ!!!

王女「な、なんだ!? 砲弾か!?」

魔皇女「もともと魔族の人質を運ぶために作られたのです!!」

勇者「や、やあ魔皇女ちゃん」

勇者「相変わらず元気だね……」

王女「な……? は……?え?」

王女「お前……あの気球から飛び降りてきたのか……?」

魔皇女「その通り!!」

魔皇女「わたくしの話をされていた様子なので」

魔皇女「話に飛び込むならこのタイミングが一番と思い……」

魔皇女「一度そう考えると、その……いても立ってもいられなくなって……」

魔皇女「飛び降りてしまいましたわ!!!」

王女「そ、それで大丈夫なのか……?」

魔皇女「ご心配には及びません」

魔皇女「あの気球も自動操縦。ひとりでにここへ降りてきますわ」

王女「いや、そうではなく……」

魔女「すごい人にあってしまったね」

魔皇女「さあさあ、そんなことよりも」

魔皇女「勇者、早くこのお二方を紹介して頂戴な」

勇者「う、うん」

勇者「魔皇女ちゃん、こちらは中央国の王女と西の国の魔女さん」

王女「う、うむ。 わたしがこの国の王女だ」

魔女「私はただの魔女だよ。よろしく」

魔皇女「まあ! 会えて光栄ですわ!」

勇者「……王女、魔女さん。 こっちは魔皇女」

勇者「魔王の一人娘だよ」

王女「な、なんと……!」

魔女「そう言われると聞き覚えがある気がしてきたね」

王女「魔王の娘が大教会に出入りだと……?」

王女「すごい! 和平はここまで進んでおったのか!!」

魔皇女「勇者、話していませんの?」

勇者「……自分から言うようなことじゃないよ」

王女「む?」

魔皇女「そうですわね……、一言で言いますと……」

魔皇女「わたくしと勇者は昔からの同業者なのですわ」

魔皇女「詳細はお察しくださいませ」

魔皇女「それに大切なのは昔ではなく今」

魔皇女「あなたたちに出会えた今日という日の記念に……これをどうぞ」

ゴソゴソ スッ

王女「なんだこれは? 紙?」

魔女「なにか書いてあるね」

勇者「あ、それは……」

魔皇女「天界街で買った魔法のお守りですわ」

王女「ふむ……ありがたくいただいておこう」

魔女「ありがとう」

王女「しかしすまんな。今なにも返せるものがないのだ」

魔女「私も手ぶらだよ」

魔皇女「必要ありませんわ」

魔皇女「魔皇女! この顔と名前を覚えていただければ!」

王女「うむ、もう忘れんと思うぞ」

勇者「……その札に書いてあるのは創作魔法陣だね」

勇者「天界街のお土産屋で売ってるやつだ」

魔女「本当だ。なにか図形が書いてあるね」

王女「ほう……どんな効果があるのだ?」

魔皇女「創作ですのでまだ分からないんだとか」

魔女「へー。確かに見たことのない形だ」

魔皇女「効果が発揮されることがあれば教えて下さいませ」

勇者「いや、なんの効果もないよ」

魔皇女「……」

魔皇女「なんですって?」

勇者「新魔法を開発するときに」

勇者「なんらかの効果が出そうな図形を片っ端から書いていって」

勇者「そうやってできた大量の失敗作がこれなんだ」

魔皇女「そんな……」

魔皇女「教皇のおじさまにお金まで借りたのに……」

王女「なんと……」

王女「そ、それでも……絶対に効果がないとは言い切れないのだろう?」

王女「大切に持っておこう!」

魔皇女「王女さま……」

フワッ…

勇者「あ、気球がやっと着陸したね」

魔皇女「……それでは、わたくしは用事がありますので」

魔皇女「そろそろおいとまさせていただきますわ」

王女「うむ!また会おう!」

魔皇女「勇者」

勇者「うん?」

魔皇女「魔王城でお待ちしていますわ」

勇者「……うん。またね」


王女「よーし乗り込むぞ! 出発だ!」

魔女「三人でちょうどいいぐらいの大きさだね」

―特別護送船―

フワフワ

王女「そういえば」

王女「魔皇女と教皇殿はなぜ知り合いなのだ?」

勇者「俺と3人でご飯を食べたりしてたからね」

勇者「昔からの友達なんだよ」

王女「昔とはいつだ? 和平より前なのか?」

王女「勇者はどのような立場でここに来ていたのだ?」

勇者「えっと……いいのかい?」

勇者「王女は気球に乗るの、初めてなんだろう?」

王女「……む?」

王女「おおーっ!」

王女「もう大教会があんなに小さくなっておる!」

魔女「ふふふ、すごいね」

魔女「こんなに高く飛んだのは初めてだよ」

勇者「魔女さんはいつも箒で飛んでるじゃないですか」

魔女「鳥よりも高くは飛べないんだ」

魔女「もし落ちたらと思うと怖いからね」

パタパタ…

王女「お、その鳥が飛んでおるぞ」

魔女「あの鳥は私の故郷でもよく見かけるね」

勇者「それじゃあ渡り鳥なのかな」


青髪の人間「いえ、ただ全国に生息しているだけですね」

勇者「っ!?」

王女「ひ、人が飛んでおる!」

王女「それも生身で!」

青髪「魔皇女が乗っていると思っていましたが……」

青髪「あなたにお会いできるとは光栄です。勇者様」

勇者「……あなたは向こうの一般気球船から飛んできましたね?」

青髪「?? はい、そうですが」

王女「自分で飛べるなら気球に乗る必要などないではないか」

青髪「天界に旅行するのは富豪層の方が多いんですよ」

青髪「私はその護衛役というわけです」

勇者「では早くその人の元へ帰ってあげてください」

勇者「もうすぐ天界領内です。生身で飛んでると天馬隊がやってきますよ」

青髪「あなたの気球に潜り込もうと思っていましたが……」

青髪「どうやらもう満員のようですね」

青髪「それでは失礼しました」


王女「変わったやつだったな」

魔女「道具も使わずこの高さを飛ぶのは相当な技量と度胸がいるはずだ」

魔女「ふふふ、魔法都市となにか関係があるのかもしれないね」

勇者「確かにそうですね。あとで会いに行ってみようか」

王女「おっ? 雲に大きな穴があるぞ?」

勇者「あそこから一般気球船を入れるんだよ」

勇者「この気球はその隣の小さい穴に入るんだ」

王女「雲の端につければ穴など開けずに済むのではないか?」

勇者「雲の端は滑って危ないのと」

勇者「中心部は戦闘をしている可能性が低いため……の名残だね」

―天界街のはずれ―

天界兵「魔皇女殿、なにか忘れ物ですかな?」

天界兵「あまり頻繁に行き来されると城内が混乱……」

天界兵「て、勇者様!」

勇者「こんにちは」

王女「この反応にも慣れてきたな」

王女「おお……ここが天界!」

フミフミ

王女「ここが雲の上か!」

魔女「絨毯を何枚も重ねてあるかような踏みごたえだね」

天界兵「勇者様、お帰りになるなら事前にご連絡してくだされば」

天界兵「一同総出で」

勇者「ああいや、城に寄る予定はないんだ」

王女「む? そうなのか?」

勇者「うん、兵士一人に尋ねれば十分だからね」

天界兵「魔法都市ですか?」

勇者「そう。今回はそれの調査に来たんだ」

天界兵「……ありえない話ではないですね」

王女「ほう?」

天界兵「天界に来る者と出て行く者の数が合わなくなってきてるのです」

勇者「!! 行方不明者が……?」

天界兵「旅行者を完全に記録しているわけではないので」

天界兵「行方不明と決まったわけではありませんが……」

天界兵「どこかに隠れ里のようなものがあるのかも知れません」

天界兵「……とはいえ」

天界兵「天界はそれほど広い場所ではありませんし」

天界兵「天馬隊が雲の裏側まで毎日見回りしているので」

天界兵「人が集まるようであればすぐに気づくはずですがね」

天界兵「数もただの誤差といったところでしょう」

勇者「うん、ありがとう」

勇者「とりあえず天界街に行ってみるよ」

―天界街―

ワイワイ ガヤガヤ

魔女「ここが天下の天界街だね」

王女「ほぉー、店がたくさんあるな」

勇者「地上の人に向けた観光街だからね」

王女「よし! 早速見て回るか!」

店員「お嬢さん。 天界名物、雲ごおりはいかが?」

王女「おお……! こ、これは買わねばなるまい」

王女「必要な経費というわけだな、うむ」

勇者「あはは……じゃあ3つもらうよ」

店員「ありがとうござ……て、勇者様!」

店員「どうぞどうぞ何個でも持って行ってください!」

勇者「あ、いや……その……」


王女「うむ! ふわふわでかつシャリシャリしていて……」

王女「食べにくいがうまい!」

魔女「甘くて美味しいね」

勇者「細かく砕いた氷と雲粒を固めて入れてあるんだね。不思議な食感だ」

魔女「しかし、勇者君がいると逆に聴きこみがしづらいね」

王女「人気があるのは誇るべきことだが……ここまでだとな」

勇者「うーん……でもこればっかりはなぁ……」

王女「ようし!」

王女「ここはわたしに任せるがよい!」

王女「見事にこの街で情報を手に入れてきてやる!」


勇者「あ、ちょっと……行っちゃった」

魔女「私がそれとなく付いて行くよ」

勇者「お願いします」

王女「お、店だけでなく出し物もあるのか」

羽のついた人「おっとっと……」

王女「おお! 天使が玉乗りをしておる!」

羽の人「これは衣装ですよ、とっと……」

王女「……でも玉に乗っているだけか」

羽の人「地上では違うんですか?」

王女「よし、見せてやるからちょっと変わってくれ!」

羽の人「はあ……」

王女「わたしの国に来ていた芸人はな……」

王女「こうして! 玉にのったあと!」

王女「小さいボールを4つほど投げつづけ……」

王女「どわーっ!」

ズッテーン

羽の人「だ、大丈夫ですか?」

王女「うむ、痛……くない! 地面が雲だと安全だな!」

羽の人「しかし……今のは面白そうですね……」

王女「はっはっは! やはり見よう見まねでは難しいな!」

王女「そうそう、聞きたいことがあるのだ」

羽の人「はい?」

王女「天界に魔法都市があるという噂は知らんか?」

羽の人「魔法都市……? 知りませんね」

王女「そうか。では他をあたって見ることにする」

羽の人「ええ、ではまた会いましょう」

王女「うむ! 必ずまた来よう!」

羽の人「その時までに今の技を覚えておきますよ」

土産屋「展開名物、創作魔法陣だよー」

王女「お、ここが魔皇女の言っていた……」

土産屋「お嬢ちゃん、お守り代わりに一ついかがかな?」

王女「ああいらん。 もう持っておる」

土産屋「へえ、それはどこで?」

王女「?? 気球で貰った」

土産屋「……じゃあ奥で別のやつを探しな」

王女「ああいや、気球乗り場といったほうが正しいのか?」

王女「む?」

王女「まあそれはありがたいが……一つ聞きたいことがあるのだ」

土産屋「ん?」

王女「魔法都市があるという噂は知らんか?」

土産屋「はあ?」

土産屋「お嬢ちゃん、もしかして知らねえのかい?」

王女「む? 何がだ?」

土産屋「いや、なんでもねえよ」

土産屋「魔法都市なんざしらねえな、他をあたってくれ」


魔女「ふふふ……」

旅行客の子供「おにーさん、ペガサスの羽ください!」

羽売り「天馬の羽は一人一枚までだよー」

子供「じゃあお父さんとお母さんの分も!3つください!」

羽売り「しょうがないなあ」

子供「やったー! ありがとう!」

王女「ふむ、次はあそこで聞いてみるか」

富豪「ワシにもそれを売ってくれ」

羽売り「はい。一人一枚までですが」

富豪「では6枚もらおう」

羽売り「ろく……!?」

富豪「今日は召使いを5人連れてきている」

羽売り「し、しかし……」

富豪「なんだ? 子供の言うことは信じてワシは信じないと?」

羽売り「そういうわけでは……」

王女「何をやっておるのだ」

富豪「おや、王女様」

王女「召使いなどどこにおるのだ?」

富豪「それは……今は乗船場の近くで休んでいます」

富豪「気球船に酔ったなどと言い出しまして」

王女「5人ともか?」

富豪「……」

王女「本当ならそいつらに付いていてやらんか」

王女「おい、わたしにも一枚売ってくれ」

羽売り「え? あ、ありがとうございます」

王女「……これを貴様に同額で売ってやろう。これで2枚買えるぞ」

富豪「なんですと?」

王女「それで手を打てぬのなら5人の召使いとやらを連れてくるのだな」

富豪「……買いましょう」

羽売り「お、お買い上げありがとうございます」

富豪「王女様、それではまた」


富豪「全く……あいつが消えたりしなければもう一枚は買えたものを……」

王女「まったく、懐が豊かなら心も豊かにならんか」

羽売り「た、助かりました」

王女「礼などいらん。 わたしのしたことが正しいとは限らんからな」

王女「……部外者の立場から無責任なことを言っただけだ」

羽売り「何を言ってるんですか!」

王女「む?」

羽売り「両方を納得させる素晴らしい案でしたよ!」

羽売り「それにあなたはそこまで考えた上で話しかけてくれたのでしょう?」

羽売り「本当にありがとうございます!」

王女「う、うむ……そうか……」

王女「そ、それより聞きたいことがある」

羽売り「魔法都市ですか? 聞いたことありませんね」

王女「うーむ、そうか」

王女「ではもうひとついいか?」

羽売り「なんでしょう?」

王女「ここ一帯の店は金が目的で商売してるわけではないのか?」

王女「うまく言えぬが……地上の商店とは全く違うもののように感じるのだ」

羽売り「ああ、それはですね」

羽売り「私達天界人は代々神の従者です」

羽売り「ですが和平による軍縮で兵士の数に限りができ」

羽売り「昔のように全員が天空城にお勤めできなくなったので」

羽売り「今は交代で休暇をもらっているのですよ」

羽売り「だからなかなか商売の技術が蓄積されないのです」

王女「ほう……うむ?」

王女「つまり今は休暇中なのか?」

羽売り「? はい」

王女「なぜ働いておる!」

羽売り「??? そりゃあ労働に勝る幸せはないでしょう?」

――

勇者「王女、どうだった?」

王女「何軒か回ってみたがダメだったぞ」

勇者「そっか……じゃあ仕方ない」

勇者「街の外をシラミ潰しに探してみよう」


魔女「いや、もういいよ」

勇者「え?」

魔女「王女ちゃんのおかげで検討はついた」

魔女「この調査は終わりでいい」

王女「な、なんだと?」

魔女「ふふふ、それじゃあ行ってくるよ」

勇者「ああちょっと! 俺達も行きますよ」

王女「そうだぞ! ここまで来て中止など!」

魔女「君たちがいると入れない場所にあるんだ」

勇者「え……?」

魔女「また会おう、勇者君」

王女「行ってしまったな」

勇者「魔女さん……」

勇者「一人だと天界から降りられないって分かってるのかな……」

勇者「どうする? 王女だけでも先に帰るかい?」

王女「まさか!」

勇者「だよね」

――

土産屋「おっ姉ちゃん、お守り代わりに一ついかがかな?」

魔女「ふふふ、もう持ってるよ」

土産屋「へえ、それはどこで?」

魔女「気球で」

土産屋「……じゃあ奥で別のやつを探しな」

魔女「そうさせてもらうよ」

魔女「さて、見た目は普通の倉庫だけど……」

魔女「こういうのは絨毯の下かな?」

ペラッ

魔女「……やっぱり」

魔女「それじゃあ魔法都市へ出発だね」

―天界の宿―

王女「今更かっこつけてもしょうがないだろう」

勇者「別にそういうわけじゃないよ」

王女「部屋ぐらい一緒で構わぬぞ?」

勇者「もうお金払っちゃったし」

王女「話し相手がおらんとつまらんではないか」

勇者「? なにか話があるのかい?」

王女「聞きたいことはいくつかある」

王女「……のだが、なんだか疲れてしまった」

王女「先に部屋で休ませてもらおう」

王女「それほど歩いておらんのだがな」

勇者「雲は柔らかいからね。その上を歩くのは疲れるんだ」

王女「道の整備はしないのか?」

勇者「何度か提案されたらしいけど……」

勇者「このままのほうが観光客のウケがいいんだって」

王女「なるほど、納得した」

王女「じゃあ勇者、また明日」

勇者「うん、おやすみ」

勇者「……」

勇者「俺と王女の両方が入れないってことは……」

勇者「天界街の中で……かつ内密な場所で……」

勇者「……」

勇者「そんな場所に一人で魔女さんは……」

勇者「……」

勇者「……考え過ぎか」

勇者「俺も寝るかな」

――

勇者「すぅ……すぅ……」

チカッ チカッ

勇者「すぅ……ん……」

チカチカッ

勇者「ふぁあ……なんだ?」

勇者「外で何か光って……」

チカッチカッ

勇者「んー……? 信号光……?」

チカチカッ

勇者「"ユウシャ"」

チカッ チカチカッ

勇者「"スグコラレヨ"、かな」

勇者「……行くしかないか」

従業員「おや、こんな夜更けにお出かけですか?」

勇者「うん。 ちょっと散歩」

勇者「あ、ひとつ頼んでいいかな?」

従業員「はい?」

勇者「俺が出かけてる間、王女の部屋には誰も入れないでくれ」

従業員「了解しました」

勇者「ありがとう」

―宿の裏―

勇者「……来たよ」

「夜遅くにすみません」

勇者「な……あなたは……!」

「おや、覚えていてくれましたか」

司祭「勇者様とお話ししたことはほとんど無いんですがね」

勇者「司祭さん!」

司祭「ありがたい話です」

勇者「教皇が心配してましたよ」

勇者「なぜ地上へ戻らないのです?」

司祭「今重要なのはそこではありません」

司祭「身を隠していた私が自らあなたの目の前に現れた」

司祭「その理由は」

司祭「"人質とは双方の信頼があって初めて機能する"からです」

勇者「!!」

司祭「ついてきてくださいますね?」

――

勇者「ここはたしか……創作魔法陣の書いた札を売っていた……」

司祭「ここの地下……いえ、雲下とでもいうべきでしょうか」

勇者「! 隠し階段……!」

司祭「中へどうぞ」


勇者(ん? あれは……)

勇者(創作魔法陣……この模様は魔女さんが魔皇女ちゃんからもらっていたやつだ)

勇者(ここに来ているのは本当のようだな……)

― 魔法都市 ―

勇者「すごい……!」

勇者「雲の中にこんな空間があったなんて……」

魔導士a「司祭様!」

魔導士b「勇者様を連れてきたのですね!」

司祭「……ここには同じ志を持った仲間が集まっています」

勇者「……」

司祭「勇者様に見て欲しいものは最深部にあります」

勇者「その前に人質の無事を確認したい」

司祭「あの魔族かぶれならベッドでぐっすり眠っていますよ」

司祭「招かれざる客でしたが丁重にもてなしました」

司祭「魔族らしいマイペースな性格で少々困りましたがね」

司祭「勇者様の友人に無礼なことはしませんよ」

司祭「神に誓って」

勇者「……分かった。案内してくれ」

司祭「ありがとうございます」

司祭「ここです」

ギィィイイイ……

勇者「大きな倉庫……」

司祭「魔法都市最深部、武器庫です」

司祭「勇者様」

司祭「御覧ください」

勇者「!?」

勇者「こ、これは……」

司祭「勇者様なら当然ご存知ですよね?」

勇者「上が魔族に対抗するために創った……」

勇者「動く鉄の塊……」

ゴゴゴゴゴゴ…

勇者「兵器・メタルゴーレム……!?」

勇者「そ、そんなバカな! 全て廃棄されたはずだ!」

司祭「その廃棄作業は教会が手伝っていました」

司祭「3体程度なら誤魔化すことができます」

勇者「あ、あなたたちはこんなものを隠して……!」

勇者「これは明らかな条約違反だ!」

司祭「いずれ破られる条約です」

司祭「その時が来れば、これが必要となりましょう」

勇者「な、何を言って……」

司祭「和平条約が締結してもう5年……」

司祭「条約通り天界の兵器・兵力は半分に削減され」

司祭「魔界の軍隊は3分の1になりました」

司祭「……が、魔界側の力はそれほど減少していない」

司祭「魔族は好戦的な種族。 これは紛れもない事実です」

勇者「……」

司祭「軍隊でない者であっても日常的に体を鍛え、技を磨きます」

司祭「そして、強い力を得ればそれを活かす場所を欲す」

司祭「その戦力が天界を大きく上回った時、攻めてこないという保証はどこにもありません」

司祭「こちらも力を蓄えておかねばならないのです」

勇者「本気で……そう言っているのか?」

司祭「もちろんです」

司祭「つまりこちらの要求は」

司祭「この場所と兵器の黙認です」

司祭「"魔法都市"という名称は魔導士を集めるための仮の名前でしたが」

司祭「そう言って差し支えないほどの規模になりました」

司祭「見回りに見つかるのも時間の問題でしょう」

司祭「そうなる前に、勇者様から天馬隊に伝えて欲しいのです」

勇者「魔界を裏切り兵力を蓄えろ……と?」

司祭「はい」

勇者「……1つだけ聞きたい」

司祭「なんでしょう?」

勇者「メタルゴーレムは上が魂を入れて初めて起動する兵器」

勇者「これだけではただの鉄の塊だ。 動かすあてはあるのかい?」

司祭「その点は問題ありません」

魔導士a「そのために私どもが集められたのです」

魔導士b「中に空洞を作り、そこ魔力を込めることによって動くよう改造しました」

勇者「……」

勇者「なるほど、話は分かりました」


司祭「承諾してくださるのですね?」

勇者「もちろんお断りです」

司祭「……勇者様、ご自分の立場が分かっているのですか?」

勇者「あなたの話には二つの間違いがある」

勇者「そもそも取引として成立していないんです」

司祭「ほう?」

勇者「一つ目は」

コンコン

勇者「こんな鉄クズ、実戦ではなんの役にも立たない」

司祭「!」

司祭「メタルゴーレムは神の作りし超兵器」

司祭「あなたはそれを侮辱するのですか?」

勇者「馬鹿な改造を施しゴミに変える行為こそ侮辱でしょう」

魔導士a「ゆ、勇者様は魔法動力を舐めておられる!」

魔導士b「本来の性能の7割は引き出せています!」

勇者「見たところ1割以下ですよ」

勇者「なんなら今ここで証明しましょう」

司祭「勇者様、今なんと?」

勇者「勝負をしませんか?」

勇者「あなたたちの操るメタルゴーレム3体と」

勇者「俺一人のどちらが強いか」

司祭「……」

勇者「そちらが勝てば全ての要求を飲みましょう」

勇者「超兵器なら問題なく勝てますよね?」

魔導士a「勇者様、お待ちください!」

魔導士b「わ、私たちは戦争がしたいわけではありません!」

魔導士b「これも平和の時を長く続けるため……」

勇者「約束を守らないで何が平和ですか」

司祭「勇者様……」

司祭「あなたは我々の行いがすべて無駄だと仰るのか?」

勇者「その通り」

勇者「そしてそれはこっちのセリフです」

司祭「……そうですか」

司祭「あなたを必要以上に怒らせてしまったようだ」

司祭「いいでしょう。お相手いたします」

勇者「決まりだね」

魔導士a「し、しかし司祭様!」

司祭「皆を集めなさい。これからを決める大事な一戦です」

――

魔導士d「一体何の騒ぎだ?」

魔導士g「あ! 勇者様だ!ほんとに来てる!」

勇者「いっぱいいるな……本当に都市なのか」

司祭「もはや名実ともに魔法都市と言って差し支え……」

司祭「まあ今は関係のない話ですね」

司祭「始めましょうか」

勇者「俺はいつでもいいですよ」

魔導士a「ゴーレム、起動します!」

メタルゴーレムa「……」

ブゥン

メタルゴーレムa「……!……!!…」

ガ…ギギギ…

魔導士a「では……勇者様、お覚悟を!」

勇者「よし!来い!」

メタルゴーレムa「…!」

ブオンッ バフッ

勇者「やはり外部操作では無理があるよ」

勇者「まず動きがぎこちない。簡単に避けることができる」

ギギ…ブォン!

メタルゴーレムb「…!」

勇者「次に関節の擦れる音が大きすぎる。囲んだ利点がひとつ減ってるよ」

勇者(と……あった)

ザシュッ

勇者「そして魔力を流しこむ穴に剣を入れて……」

勇者「少量の魔力を勢いよく放つ!」

メタルゴーレムb「」

ズズーンッ

司祭「なっ……!?」

勇者「これだけで使用者との接続が切れ、機能が停止する」

魔導士b「そんな……!?」

勇者「まだだよ。ここから」

チカッ

勇者「っ!?」

ドシュッ

勇者「うおっ……!?」

メタルゴーレムc「ホウ、イマノヲ カワシマスカ」

勇者(な、なんだなんだ!?)

勇者(ゴーレムが喋った!?)

勇者(いや、それよりも……)

勇者(目からビームを撃ってきた!!)

勇者(こ、こんな機能、本来のメタルゴーレムにもないぞ!?)

勇者(あいつ、他の二体とは違うのか……?)

メタルゴーレムa「……!」

ブォン

勇者「わっと!」

勇者(お、落ち着け! 余裕の表情を崩すな!)

勇者(この勝負は圧勝しないといけないんだ!)

チカッ

勇者「今だ!」

ドシュッ

勇者(懐に入り込んで……)

ガシッ

メタルゴーレムc「ナッ!?」

勇者「ぐ、ぐぎぎぎ……」

魔導士b「そ、そんなバカな!」

勇者「く、空洞が大きすぎるから……か、か、軽い……」

グググッ

勇者「俺の筋力でも持ち上げられる……!」

勇者「ど、どりゃああぁあぁあああ!!!」

メタルゴーレムc「ウワァッ!!」

メタルゴーレムa「…!」

ゴシャァアアアアンッ

勇者「あ、あの中には人が入っていたんだね」

勇者「でもそれなら投技が……ゆ、有効になるんだ……」

勇者「ぜぇ……ぜぇ……」

魔導士a「ゆ、勇者様……ここまでの強さを……」

メタルゴーレムa「…!」

ギギ…

勇者「ふぅ……ふぅ……」

勇者「ま、まだ一体動けるね」

勇者「このままでも勝てるけど……最後の弱点を教えておくよ」

勇者「ふんっ!」

勇者「ところで」

勇者「なぜ気球に雲が入っているか知っているかい?」

魔導士b「……浮力を得るためでは?」

勇者「それだけなら空気でも構わない」

勇者「一番の理由は……」

ギギ…… ムクリ

メタルゴーレムb「…!」

魔導士a「おお!まだ動けるじゃないか!」

魔導士b「い、いや……私は命令していない……」

勇者「空洞に魔力を入れただけなら、簡単に乗っ取ることができるからさ」

勇者「まあ鉄の塊に水を入れるわけにもいかないけどね」

魔導士b「ま、魔力の術式を書き換えられた……?」

勇者「そんな大層なものじゃない。俺の魔力と繋げただけさ」

魔導士a「勇者様がここまで魔法に精通してたなんて……」

勇者「それも違うよ」

勇者「俺の使える魔法は一種類。天界ではそれも使えない」

勇者「魔力そのものを放つだけなら練習次第で誰でもできる」

勇者「つまり誰でもこいつを倒すことができるんだ」

メタルゴーレムb「…!」

勇者「さあ行け!」

勇者「ゴーレム勇者パンチだ!」

魔導士a「なんのっ!」

メタルゴーレムa「…!」

メタルゴーレムb「…!」

ドゴォォオッ

勇者「相打ちか! 次はゴーレム勇者キックだ!」

魔導士a「あ、甘い! 操縦者の年季を見せてあげます!」

バシィッ!

勇者(あっ!)

勇者(これ楽しい!)

――

メタルゴーレムa「」
メタルゴーレムb「」
メタルゴーレムc「ウゥ~ン。 クラクラスル……」

勇者「ゴーレム同士は引き分けだったけど」

勇者「三体とも機能停止したんだから、俺の勝ちですね」

司祭「……お見事」

司祭「我々の負けのようですね。仕方ありません」

勇者「あ、あれ? 観念してくれるんですか?」

司祭「最期にあなたと遊べて……満足してしまいました」

勇者「うーん……」

勇者「やっぱりこの辺が魔界とは違うなあ……」

勇者「せっかく盛り上がってきたのに」

司祭「……はっ?」

チカッ

勇者「!!」

ドシュッ

青髪「そうですよ……消さないといけません」

勇者「ね、熱線魔法を……」

勇者「おでこから撃った!?」

青髪「本来、杖についた宝玉から撃つ魔法ですが」

青髪「光沢があればどこからでも撃てるのです」

勇者「なるほど、あなたがゴーレムの中に……」

司祭「し、新入り! 自分が何をしているか分かっているのか!?」

青髪「わかってないのは司祭様です」

青髪「我々の行動が勇者に否定された……」

青髪「つまり我々は神に歯向かってしまったのですよ」

青髪「だから勇者を消して、罪を消さないと……」

勇者「……いいね」

勇者「ちょっと予定と違うけど丁度いい」

青髪「……なんですって?」

勇者「他にもだれか納得してない人はいませんか?」

魔導士d「な、なんだ……?」

勇者「第二ラウンドをしよう!」

魔導士e「な、何を言っているんですか……?」

勇者(ここが大事だ……しくじるな……)

勇者(落ち着いて……不敵に笑って……煽るんだ!)

勇者「あなた達が勝てば今回の件を不問にします!」

勇者「この人の言うとおり俺を消したら罪を隠せるし」

勇者「殺す気でかかってきていいですよ!」

勇者「それともなんですか?」

勇者「ここまでコケにされて何もしないのですか?」

勇者「魔導士というのは臆病者の集まりなんですね」

魔導士d「……」

魔導士d「お、オレならもっとうまく動かせる!」

勇者(よし!のってきた!)

勇者「いいでしょう!」

魔導士e「というか私が生身で戦ったほうが強いし!」

勇者「それもいいですよ!」

勇者「なんならまるごとかかってきなさい!」

魔導士r「さ、さすが勇者様だぜ!」

魔導士t「都市の魔導士を全員起こせー!」

ウォォオオオオオ!!!

魔導士d「では勇者様!」


魔導士e「お覚悟を!」 魔導士q「お覚悟を!」
    魔導士p「お覚悟を!」    魔導士w「お覚悟を!」
 魔導士g「お覚悟を!」   魔導士m「お覚悟を!」
       魔導士z「お覚悟を!」


勇者「……あ、あれ?」

チカ チカ チカ チカ チカ チカッ

勇者(じょ、冗談じゃない! やりすぎた!)

ドシュドシュドシュドシュドシュッ

勇者(こんな数どうしようもないぞ!)

魔導士h「あの数の熱線魔法をかわし切った!?」

魔導士e「雲に潜ってやり過ごしたんだよ!」

魔導士y「ゴーレムが暴れて雲に凹凸ができてたのか!」

魔導士!「おっしゃー! つぎは外さねぇ!」

勇者(勝負を決めるタイミングで使って効率よく説明に入るつもりだったけど……)

勇者(出し惜しみしてる状況じゃない!)

勇者(切り札を使う!)

スッ……

魔導士d「あ、あれはなんだ!?」

魔導士a「創作魔法陣の書いた札だ!」

ザシュッ

魔導士s「剣を突き刺した!?」

魔導士h「いったい何が……!?」

ダッ

勇者(今だ! 一旦距離をとる!)

魔導士!「……は、ハッタリだぁー! 追えぇー!」

ダッダッダッ

勇者(な、なんだ? 下から上に流れる川がある)

ドボーンッ

勇者(ここに潜って隠れよう!)

魔導士i「逆流河に入ったぞ!」

魔導師c「よし!取り囲むぞ!」

魔導士e「面倒くさい! 凍らせてしまおう!」

パキパキパキパキ……

勇者(う、うぉおおお!?)

勇者(こ、ここはダメだ! 別の場所に逃げよう!)

ダッダッダッ

勇者(な、なんだ? 宙に浮かぶ小島がたくさん)

バッ

勇者(ここに隠れて様子を見よう!)

魔導士f「小島群に隠れたぞ!」

魔導士l「落ち着け!1つずつ洗っていくぞ!」

魔導士a「待って! 今五人います!」

魔導士m「そうか! 特大魔法が使える!」

魔導士e「よし! まとめて消し飛ばしてしまおう!」

勇者(こ、ここもダメだ!)

――

――――

魔女「うぅーん……よく寝た……」

女魔導士「あら?お目覚めかしら?」

魔女「ああ……ありがとう」

魔女「見ず知らずの私にここまで良くしてくれて」

女魔導士「うふふ、勇者様のお連れさんなら当然よ」

魔女「そうだ、勇者君がいないと帰れないんだった」

魔女「まだ天界にいるといいけど」

女魔導士「勇者様なら今ここに来られてると思うわよ」

魔女「?」

女魔導士「外に出てみましょう。きっと面白いものが見れるわ」

ドガァァアアアアアアンッ!

ズゴゴゴゴゴゴ……

「ぎゃああああああああああ!!」

「また一人やられたぞ!」

ババババババババ

「3人以上で囲めええええ!」

「そっちに行ったぞぉおおお!!!」

ドドドドドドド


女魔導士「えっ」

女魔導士「なにこれ」

勇者「ひぃー……ひぃー……」

勇者「はぁ……はぁ……」


魔導士e「うぅ……」 魔導士q「やられた……」
    魔導士p「ううーん……」   魔導士w「運動不足だった……」
 魔導士g「足がつった……」   魔導士m「きゅ~……」
       魔導士z「……参りました」


勇者「が……勝"った……!」

ドテーンッ

司祭「勇者様、感服いたしました」

勇者「し…司祭さん……」

勇者「分かって……貰えましたか……?」

司祭「ええ。もう一つの理由ですね」

司祭「魔族が戦を好むのと同じように」

司祭「魔導士達も純粋に魔法が好き……ということなのですね」

司祭「彼らのあそこまで充実した顔は初めて見ましたよ」

司祭「人間も魔族と同じように自主的に力を蓄える種族」

司祭「……ということなら力のバランスが崩れることもないでしょう」

司祭「もう兵器温存などという馬鹿なことは言いません」

勇者「ははは……よかった」


勇者「でもちょっとやりすぎましたね」

司祭「そうですね」

司祭「魔法都市が瓦礫の山になってしまいました」

魔女「勇者君、ひどいじゃないか」

勇者「あ! 魔女さん!」

魔女「こんなに良い人が集まる都市を破壊してしまうなんて」

魔女「なにを考えているんだい?」

勇者「そ、そっか……」

勇者「よかった……」

女魔導士「司祭様! これは一体……」

司祭「我々の負け。それだけですよ」

司祭「あなたは混ざれなくて残念でしたね」

女魔導士「はあ……?」

勇者「よ、よし。何はともあれ……」

勇者「一件落ちゃ……」


フバァッ

天馬隊a「天馬隊だ! 全員動くな!」

天馬隊b「両手を上げてゆっくりとうつ伏せになってください!」

魔女「わあ、ペガサスだ。初めて見たよ」

天馬隊a「余計な言動をするな!」

天馬隊b「だ、黙って言うとおりにしてください!」

司祭「……今思えば当然ですな」

勇者「まあこれだけドンパチやれば来ますよね」

天馬隊a「しゃべるなと言った!」

天馬隊b「せ、先輩をあまり怒らせないほうがいいですよ!」

天馬隊a「て、天王子様!」
天馬隊b「て、勇者様!」

天馬隊b「あ…先輩……」

天馬隊a「あっ!」

天馬隊a「も、申し訳ございません!」

勇者「……別に構いませんよ。 司祭さんは事情を知ってますし」

勇者「魔女さんは友達だし」

勇者「魔導士の人はみんなノビて……」

女魔導士「て、天王子といえば神の子の……」

女魔導士「なぜ勇者様が!?」

勇者「あっ」

勇者「あー……」

天馬隊a「ももも申し訳ございません!」

天馬隊b「わ、私もすみません!」

女魔導士「ど、どういうことか聞いてもよろしいでしょうか?」

勇者「絶対に口外してはいけない重要秘密」

勇者「……と、いうほどではありませんが」

勇者「むやみには広めないでくださいね」


青髪「いや、話す必要などないでしょう」

女魔導士「!!」

青髪「我々は天に仇なす大罪人」

青髪「どの道、誰も助かりません」

青髪「冥土の土産とするには過ぎた話です」

天馬隊b「ゆ、勇者様。 状況の説明をお願いしても?」

勇者「うん」

勇者「と言っても俺達はここでケンカしてただけですよ」

青髪「なぁっ!?」

勇者「ここの人たちが作った人形がたまたまメタルゴーレムに似てたから」

勇者「壊すように言ったらケンカになったんです」

青髪「ちょ、ちょっと! 何を言って……」

天馬隊a「例え人形だろうと兵器を一定以上天界に置いていたのなら……」

勇者「兵器と呼べるものじゃなかった。 条約違反ではありません」

天馬隊b「で、でも! 勇者様に武器を向けた者を許すわけには行きません!」

勇者「いやー、最初に手を出したのは俺なんですよ」

勇者「そうですよね? 司祭さん」

司祭「い、いや……許さないでください勇者様」

司祭「私たちはあなたに対して人質を……」

勇者「あなた達は俺の友達をもてなしてくれただけですよ」

勇者「ね、魔女さん?」

勇者「……」

勇者「魔女さん?」

魔女「ふふふ、ここだよ」

勇者「あ、両手を上げてうつ伏せになってる……」

天馬隊a「……大体の状況は分かりました」

天馬隊a「勇者様のおっしゃる通りに報告しておきます」

勇者「ありがとう」

天馬隊a「しかし勇者様、一つだけ言わせてください」

勇者「うん?」

天馬隊a「あまり無茶をしないでくださいね」

天馬隊b「そ、そうですよ! もしものことがあったら天馬騎長様に合わせる顔が……」

勇者「うん、気をつけるよ」

勇者「いつも心配かけてごめんね」

青髪「……ふざけないでください」

勇者「?」

青髪「天王子ィ! 分かってるんですか!?」

青髪「あの時魔皇女が乗っていたら私がどうしていたか!!」

青髪「いや、あなたが一人で乗っていたとしても!!」

勇者「……俺も魔皇女ちゃんもそんなにヤワじゃないですよ」

勇者「それに、丸く収まったのはあなたのお陰です」

青髪「な、なんですって?」

勇者「ゴーレムを停止させたあと」

勇者「あなたが交渉よりも俺を狙うことを優先してくれたお陰で」

勇者「魔導士のみなさんと楽しく遊ぶことができました」

勇者「こっちは必死でしたけどね」

青髪「な……な……!」

青髪「あ、あなたは勇者となったあとの五年間!」

青髪「ずっと今日と同じようなことを!?」

勇者「そうだよ」

勇者「一足飛びで平和になっちゃったからね」

勇者「その補強をしてきたんだ」

勇者「不思議とケンカ友達が増えたけどね」

青髪「ど、どうかしてる……」

天馬隊b「えっと……」

天馬隊a「こ、こいつは逮捕だ!」

天馬隊b「はいっ!」

青髪「ああ、観念しますよ」

青髪「こんなの諦めるほかない」

勇者「そんなに罪は重くならないと思し」

勇者「しばらくしたら南の大陸で会いましょう」

青髪「な、気づいていたのですか!?」

青髪「私が組織の……」

勇者「あっ、今魔界に用事が二つあるからだいぶ後回しになると思うけどね」

青髪「……」

青髪「……世界が平和になるわけだ」

――

――――

―天界街―

王女「勇者ぁ!!」

勇者「悪かったよ」

王女「起きたら誰もおらん! どういうことだ!」

勇者「俺が置いていったからだね。ごめんね」

王女「魔法都市はどうなったのだ!」

勇者「ぶっ壊しちゃった」

王女「なんだと!?」

王女「どういうことだ! なにがあった!」

勇者「知り合いがいて……ケンカしたら……丸く収まった?」

王女「なぜわたしも連れて行かなかった!!」

勇者「俺の問題だったからかな」

王女「うむぅ……」

王女「終わってしまったものは仕方あるまい」

勇者「うん?」

王女「お前が行ったのだ。あの魔女は無事だったのだろう?」

勇者「う、うん」

王女「では早速出かけるぞ! 次の冒険に!」

勇者「ああ、それはできないんだ」

王女「な、なに? なぜだ!」

勇者「数週間後に大事な予定があるんだよ」

勇者「行き掛けに会った魔皇女ちゃんを覚えてるかい?」

王女「うむ。あの者ならたぶん一生忘れんだろう」

勇者「あの子は天界予選を見に来てたんだ」

王女「予選?」

王女「なんのだ?」

勇者「魔界格闘大会」

王女「魔界……格闘大会?」

勇者「そう、略して魔闘会だ」

勇者「毎年開かれる大きな大会でね、俺も出場する」

王女「だから次の冒険は中止ということか?」

勇者「うん、それまでちょっと体を休めたいんだ」

王女「わ、わたしも見に行くぞ! 魔界ではやらねばならんこともある!」

勇者「そうだね。だからこれをあげるよ」

スッ

王女「なんだこの紙は?」

魔女「おおすごい。sカードだね」

王女「おお! 無事だったのだな!」

王女「少し心配したぞ!」

魔女「天馬隊の人に事情聴取をされてたんだ」

魔女「ふふふ、天空城に入った魔族二人目になってしまったよ」

王女「それで、sカードとはなんだ?」

魔女「その名の通り魔闘会のs席チケットさ」

魔女「それを売ると1年は食べていけるよ」

王女「なんと!」

王女「い、いいのか?そんなものを渡してしまっても」

勇者「まあ前回の分と合わせての埋め合わせだよ」

王女「教皇殿や魔皇女に渡したほうが……」

勇者「教皇は忙しいし、魔皇女ちゃんは出場者だからね」

王女「そうか……ならばもらっておこう」

王女「……ところで」

勇者「ん?」

王女「勇者はいつの間に地区大会に出たのだ?」

勇者「ああ、俺はシード枠なんだよ。下位だけど」

王女「ほう? 勇者より格上がいるのか?」

勇者「そりゃいるよ」

勇者「……」

勇者「だから、これから始まるんだ」

勇者「俺の、本当の戦いがね!」

魔女「ああ勇者君」

魔女「天界の偉い人が『ケンカをしたならお説教です』と言っていたよ」

勇者「!!」

おわり

乙でした

俺たちの戦いはこれからだ( ゚д゚)
次回(?)を楽しみにしてます

おまけ

観光客a「いけー! 勇者パンチだー!」

観光客b「なんのっ! 魔王キックだ!」

ワイワイ ガヤガヤ

魔導士a「天界新名物、木偶対戦! 大人気ですね」

元司祭「ええ、メタルゴーレムを動かす技術が役立ちました」

魔導士b「ここで働かせてくれる天界人の皆さんに感謝ですね!」


魔導士a「しかし司祭様は教会に戻っても良かったんじゃ……」

魔導士b「そうですよ。せっかく勇者様が黙ってくれたのに」

元司祭「教皇猊下には嘘をつきたくなかった。それだけですよ」

おまけおわり

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