幽霊「ツーリング浪漫を求めて」女「仕方ないから付き合います」(336)


…女の自宅アパート、駐輪場


女(──待ちに待ったよ…この週末を)

女(火曜日納車。それからの三日間、町内を低回転で流すだけにとどめて)

女(来ないんじゃないかと錯覚するほどに遠かった…ついに今日、土曜日の朝!)


女「天気よし!」ビシッ

女「降水確率ナシ!」ピコッ

女「バイク、新車!」キュピーン


キュルルッ、ドロロロロォンッ!


女「エンジン一発始動! 当たり前!」

女(堪んないね! このVツインの鼓動感!)ウキウキ


女(さあ…初の愛車、VTR250ちゃん…キミは男の子? 女の子かな?)

女(今日の初ツーリングの乗り味で、性別と名前決めてあげるからね)


女「よし…スタンドを払って──」グイッ…

女「………」

女「やっぱり立ちゴケ怖いから、跨ってからにしよ」イソイソ…


女(スタンドOK、アイドリングOK、よーし…ローに…)

女「あ、グローブしてないや」

女「…怖いからエンジン切ってスタンド立てとこ」モタモタ


女「今度こそ!」

女(グローブ&ヘルメットOK、アイドリングOK、スタンド払った)


女(クラッチを…ギアをローに…)ギュッ…コトンッ

女「ふふ…ふふふ…っ」

女(ヤバイ、ニヤニヤ止まんない)


女「よっ…と」グッ…

──ドロロロロォンッ!

女(クラッチ…ミート…)スス…ッ

ドロロロロロッ──

女「よぉし…!」


──コトン、プスンッ


女「エンストOK…いいよ、やると思ってたから…」ガクッ…


………



ドロロロロロロロ…


女「──ひゃっほーーう!」


女(最高です、最高ですよ…教習所や夜の慣らし運転とは別モノだなぁ)

女(BGMかけるなら、ステッペンウルフで是非っ!)

女(バスの窓から眺める景色とは大違いだよ)


女(ヘルメット越しに伝わる風切り音とエンジンノイズ、純正だから控え目な排気音)

女(グリップから届く、この子の鼓動感)

女(制限速度を守った安全運転でも、こんなに気持ちいい)


女(思えば昨日…)


女友『女ちゃん、明日みんなでランチしに行くけど来ない?』

女『あー、めっちゃ魅力的だけど…パス。約束あるんだー』

女友『えっ!? まままさか…彼氏できた!?』

女『まだ男の子か女の子か解んないんだけどね』


女友『…それってまさか』

女『バレた? 初ツーリング行くつもりなんだ!』

女友『はぁ…あんた可愛いのに、なんでそんな男前な趣味に走っちゃったのよ──』


女(──みんな、ごめんね)

女(大丈夫、ランチも夜の女子会も行かなくなるわけじゃないんだよ)

女(でも今日は…)グイッ


ドロロッオオオオオオンッ!


女「ヤバイ、官能的…!」ウットリ


女(ウチから渋滞無くツーリングロードに出ようと思ったら)

女(うん…ちょっと怖いけど、やっぱりあの峠を越えなきゃね)

女(大きな事故もあったりする峠らしいけど…)

女(攻め込んだりはしない、安全運転で)

女(よしっ、できるだけ峠ライダーに会いませんように──)


………



女「とっ…ととっ…!」モタモタッ


…ドドロロロロッ


女(おっけー、ヘアピンクリア!)

女(よかった…すれ違うライダーはいるけど、追ってくる人はいないや)

女(まあこれだけモタついてたら、たぶん後ろから来ても生暖かい目で見てくれるはず…)

女(あんまりミラー見る余裕は無いでーす。あおるくらいなら、速やかに抜いて下さーい)


《──やっぱり気持ちいいな》


女(…ん?)

女(何か聞こえたような…気のせいか)


女(確かこのコーナーの先には展望パーキングがあったはず…止まって写真でも撮ろっかな)

女(…げっ、ベテランっぽいライダーいっぱいだ)

女(パスしよ…今日はやーめた)


女(あ、一人ピースサイン出してくれた)ペコリ

女(ごめんなさーい、まだお辞儀するので精一杯でーす)

女(ちゃんと伝わったかな…)


女(よーし、あとコーナーいくつかで峠はおしまい)

女(うわわっ! 危ない…このコーナー、道に砂が出てる)

女(ガードレールに花が供えてあるし…危ないところなんだな)

女(…覚えとこうっと)


女(お…ラストコーナー、こうして見るといい角度…)

女(ちょびっとだけ頑張っちゃおうかな! ギア…ひとつ下げて──)


──ドドロロロッ、カツンッ…
…ヴァオオオオンッ!


女「てーいっ!」


オオォォン…ヴォンッ…
…ヴォォォオオオオオオオオンッ!


女「最っ高…! イッちゃいそう!」ゾクゾクッ

女(でもでも、視界も開けて…あとはゆっくり走ろ──)


《──また、来てね》


女(えっ…?)

女(……なんだろ、やっぱり気のせいなのかな)


……………
………


…夕方、同じ峠の手前


ドロロロロッ…ドロロロロロッ…


女(はぁ…疲れた)

女(手は痺れてるし、髪はぐちゃぐちゃ)

女(何より私のお尻はどうなっちゃたんでしょう)

女(石のように固いような、板のようにぺったんこなような)


女(こんなじゃ今夜男性に誘われても応えられない!)

女(…無えよ、そんな話! 悪かったな!)


女(でも、最高に楽しかった)

女(道の駅で会ったZRX1200のお姉さん、格好よかったな…)

女(その後、めっちゃハーレーのおじさま達に話しかけられて参ったけど)

女(だけどみんないい人)


女(さあ…あとちょっと、朝の峠を越えて)

女(でももうダルなライディングしかできないな──)


《──おかえりなさい》


女(…!!)

女(気のせいじゃない…やっぱり声がする)

女(少し薄暗くなってるし、怖いな…)


女(どこから聞こえてるんだろう──)チラッ


女「……うっ!!?」


女(──後ろに…誰か乗ってる…!)

女(朝はミラーを見る余裕が無くて気付かなかった)

女(どうしよう…怖い怖い怖いっ)


女(気付かないふり…気付いてないふりを!)

女(何も見てない…私は知らない! ユウレイなんか見えないっ!)


…チラッ


女(やっぱりいるよおおおぉぉぉ!)


女(ううう…あとみっつ、コーナーを抜けたら地元だ…!)

女(無事に抜けられますように…!)


…ヴォオオオオンッ!


《また通ってね、楽しかった──》

──フッ


女「消えた…?」

女(よかった…峠、抜けた)

女(でも、最後…)

女(『楽しかった』って…『また通ってね』って…)

女(なんか、悪いユウレイじゃない…のかも?)


ドロロロロロロッ……


……………
………


…翌日、日曜日の朝


女「う…痛たた…」

女(情けないなぁ…二の腕が筋肉痛になってる)

女(お尻は…よしよし、魅惑の柔らかさ回復)


女(今日はどうしようかなぁ)

女(…っていうか、昨日の峠での出来事は本当だったのかな)

女(怖かったけど…喉元過ぎてみると、興味が掻きたてられますなー)


女「…よしっ」


………



ドロロロロロロッ……


女(さあ、峠道…出てくるかな?)

女(今は明るい時間だから、夕暮れほど怖くはないぞっ)


《──また来てくれたんだね》フワッ…


女「!!」

女(…出た! 今度は姿もよく見える…!)

女(女の子だ…高校生?)

女(制服着てる…)


女「…バイク、好きなの?」

《えっ…!?》


女「見えてるよ、昨日も後ろに乗ってたよね?」

《気付いてたんだ…どうして、怖くないの?》

女「怖くない事は無いけど…貴女、悪いユウレイじゃなさそう」


《驚いた…ユウレイが後ろに乗るって解ってて、また来てくれたんだ…》

女(…今日はまだパーキングに誰もいないな)


女「貴女、バイク停めたら消えちゃう?」

《いいえ…?》

女「じゃあ、ちょっと停まるね──」


………



モゾモゾッ…ファサッ


女「ふうっ…」


《…ごめんなさい、勝手に後ろに乗って》

女「構わないよ……ユウレイだからかな? 重さも感じないし、なんの邪魔にもならない」

《そう…ですか》


女「貴女、本当にユウレイ?」

《…はい、そうです》

女「びっくりだなぁ…20年ちょっと生きてきて、初めて見たよ」

《私だって…もう3年もユウレイやってますけど、気付かれたのも話しかけられたのも初めて》


女「あはは……私、『女』っていうんだ。貴女は?」

《『幽霊』…です》


女「じゃあ、幽でいいね」

幽《ぷっ…あははっ、すごい…ユウレイにあだ名までつけちゃうんですか》

女「いいでしょ、これでもう全然怖くない」

幽《…ありがとうございます》


女「それで、なんで後ろに乗ったの? やっぱりバイク好きなの?」

幽《はい、好きです……自分で運転した事は無かったけど》

女「…もしかして、ユウレイになっちゃったのって、バイク関係ある?」

幽《………》コクン


女「それでもバイク好きなんだ」

幽《はい、すごく気持ちいいです》


女「他の人の後ろにも乗ったりするの?」

幽《たまに…できるだけ女性ライダーさんの後ろに》

女「私なんか、まだまだ下手くそでしょ」

幽《確かに他の方はもっとすごいスピードで曲がっていきますね》


女「いいんだよ、安全運転で」

幽《はい、いいと思います》


女「……あ、バイクだ」

幽《大きなバイクですね》

女「CB1300だね、格好いいなあ……停まらずに行っちゃった」


幽《女さんのバイクも格好いいですよ》

女「うん? …ありがと」

幽《小柄で、女の人っぽいバイクです》


女「あっ」

幽《…はい?》

女「そうだ…昨日この子の性別と名前決めるつもりだったんだ」


幽《バイクのですか? あはは…面白いですね》

女「確かに幽の言う通り、女の人っぽい気がするね」

幽《ボディも赤ですしね》


女「よし…じゃあ性別は女の子で、名前は──」

幽《……?》ワクワク

女「──パッといいのは思いつかないなぁ、保留しよ」

幽《えっ》ガクッ


女「ところで幽って、他の人にも見えてるの?」

幽《解らないですけど…たぶん見えてないと思います。今まで気付かれた事ないですし》

女「そっか…じゃああんまり人前で話してたら怪しい人になっちゃうな」

幽《そうですね、気をつけて下さい》


女「うーん…今日はどうしよっかな、せっかくだから違う方向に走って…」

幽《いいんじゃないですか? 天気もいいし》


女「うん、じゃあ一緒に行こうよ」

幽《…それは無理みたいなんです》

女「えっ?」

幽《私、この峠からは離れられないみたいで…》


女「そうなんだ…」

幽《でもせっかくですもん、行ってきて下さい。どんなツーリングだったか、夕方にここを通って教えてくれると嬉しいな》

女「…うん、そうだね。ちょっと早目に戻ってくるようにするよ!」

幽《はいっ》


女「じゃあ、また後ろ乗って? 峠越えるまでゆっくり行こう」

幽《えへへ、お邪魔しまーす》


女「なんか重さを感じないから不安になるなぁ」

幽《大丈夫、落ちても平気ですから》

女「本当は免許とって一年間はタンデムしちゃいけないんだけどね。…まあ、ユウレイの事は決められてないか」

幽《あははっ、捕まえようがないですよ》

女「そだね…よし、行くよっ」


…ドロロロロッ…ヴォオオオオオォォンッ!


……………
………



ドロロロロロロンッ──


幽《──おはようございます》フワッ

女「おっ、出たなユウレイ…おっはよ」ニコッ


幽《二週間ぶりですね》

女「先週はごめんね、雨降ってたから」

幽《仕方ないですよ、そんなの》


女「今日はこの峠にもっと慣れるためにも、何往復かしようと思うんだ」

幽《嬉しい、いっぱい走れますね!》

女「コーナリングが上手くできてたか批評してね? …行くぞっ──」


……………
………



女「──でね、疑われてるんだよ」

幽《そりゃここ一ヶ月も毎週末ぜんぜん友達と会って無かったら、彼氏の存在を疑われますよ》

女「実際には鋼鉄製の彼女とユウレイの彼女と、百合ゆりハーレムなんだけどね」


幽《あははっ…でも、本当に彼氏さんとかいないんですか?》

女「いたら毎週こんなにガソリンばっか燃やさないよー」

幽《…なんだか申し訳ない事を訊きました》

女「ちょっと、本当にすまなそうな顔するのやめてくれる?」


……………
………


ヴォオオオォォッ──


幽《わわっ…! すごくいい角度でしたよ、今の!》

女「もうここを走り始めてふた月だからね、あのコーナーだけは得意になったつもりっ!」


幽《でもあんまり飛ばしすぎちゃダメですよーぅ》

女「この峠、制限速度50km/hだから」

幽《そりゃヘアピンですから、50km/hも出てないでしょうけど…》

女「…たぶんそういうのも別の違反にかかるんだろうけどね」


幽《女さん、絶対に大きな事故はしちゃだめですよ》

女(…幽がユウレイになったのって…やっぱりバイク事故が原因なのかな)

……………
………



女「あ、来たよ……あれは?」

幽《V-max?》

女「残念ー、ホンダのX4だね。…次のは?」


幽《あの色はニンジャです》

女「何ccの?」

幽《…400cc?》

女「違いまーす。ほーら、ナンバープレートが白枠でしょ? 250ccの下忍だね」


幽《下忍ですか》

女「うん、忍者の格付け。250cc以下が下忍、400ccのNinjaやGPzが中忍、ZX6やGPz600が上忍…って、勝手に思ってる」

幽《もっと大きいのは?》

女「GPz900とかZX11とかは、もう忍者の頭領だね。ハットリとか呼んであげたいね」

幽《ニンニンでござる!》


……………
………



幽《…ところで女さんって、社会人なんですか?》

女「うん、一応OL一年生」


幽《へえぇ…私、最初はてっきり学生さんかと》

女「あははっ、いいけどね! 学生さんに見えるくらい若いけどね!」


幽《いえ…どちらかというと、社会人に見えないくらい落ち着きが──》

女「──この峠も最後かぁ…寂しくなるなぁ」フッ…

幽《嘘っ! 嘘です! そんな意地悪言わないで下さいよぅ!》アタフタ


女「っていうか、お給料貰ってなきゃバイクなんて買えないよ」

幽《親御さんの出資かと思ってました》

女「軽自動車ならともかくねえ…バイクは買ってくれないかな」


幽《社会人一年生で、お給料で買った初めての大きなものがバイクって…》

女「みなまで言うな、オンナらしくないとは自覚しておる…」


……………
………



ドロロロロッ──


女(…さて、そろそろ乗ってくるかな?)

女(………)

女(……来ないな)

女(おかしいな…他の人の後ろでも乗ってるのかな?)


女「むむ…幽の浮気者っ! 文字通りの尻軽オンナッ!」


女(…悪口言っても出てこないなぁ)


女(おっと…この次のコーナーだけは気をつけなきゃ)

女(特に雨あがりの時は、よく砂が出てるから──)


女「──ん?」


女(待避所で広くなったところに…軽自動車)

女(山菜が採れる時季でも無いのに、珍しいな)


女「……えっ」


女(オトコの人が、ガードレールに花を…)

女(…その向こう、あの人は気付いてないみたいだったけど)

女(正面に立ってたのって…幽──?)


……………
………


…翌日


女「…昨日、乗ってこなかったね」

幽《ごめんなさい、ちょっと…》

女「いいんだよ、ユウレイもいろいろ忙しいでしょ」

幽《…ありがとうございます》


女「雨の多い時期になっちゃったなぁ…今にも降り出しそう」

幽《降り始めない内に帰った方がいいですよ》


女「幽は…? なんだか独りぼっちで雨に打たれたりするのかと思うと、すごく辛い事のような」

幽《姿を消せばいいですから》

女「夜は…?」

幽《…姿を消してる間って、寝てるみたいなものなんです。大丈夫…心配ないですよ》


幽《まあ姿を現してるつもりでも、気づくのは女さんくらいですけどねー》

女「なんで私、貴女が見えたんだろう」

幽《なんででしょう…でも女さんは私を怖がったりしないから、受け入れてくれる人には見えやすいのかも》

女「なんとなく今の『受け入れてくれる人』っていうのが『単純な人』って意味に聞こえた」ムスッ

幽《…間違ってはないかな》クスクス


女「ね、幽は今までどんなバイクの後ろにお邪魔した事あるの?」

幽《基本、女性ライダーの後ろにしか乗らないようにしてますからね…それに車種ってイマイチ判らないです》

女「女の人が乗るって事は、割と小柄なバイクが多いのかな」

幽《あー、えーと…なんでしたっけ…ハロー? なんか悪路を走るようなバイク》

女「ぷっ…! それハローじゃなくて、セローだよ…あはははっ」

幽《うわ、めっちゃ笑われた! もういい、答えませーん》プイッ


女「ああ…可笑しかった。でもセローは確かに女の人多いね」

幽《知らなーい》


女「ごめんってば、あとは…今だったらCBR250とか? それからアメリカンとかも女の人けっこういるよね」

幽《アメリカンかぁ…ドラッグスターとか?》

女「そうそう、特にあれの250ccは男の人にはちょっと小さいからね」


幽《マグマは250ccでも大きいんですけどね》

女「ぷはっ!」


幽《……?》

女(いけない…ここで『マグマじゃなくてマグナだよ』とか言ったら、また拗ねる…)プククク…


幽《女さんは、どうしてこのバイクにしたんですか?》

女「ん…? うーん…単純にデザインに惚れて、ネットとかで調べたらこのVツインエンジンはすごく故障が少ない&扱いやすいって」

幽《へえ…》


女「でもよく調べると排ガス規制の関係で、エンジンは大きく型替わりしてるみたいなんだ。この型の信頼性はまだまだ未知数かもね」

幽《でも調子いいですよ》

女「ま、まだまだ新しいしね。扱いやすいのは確かみたいだし」


幽《音もトコトコいって可愛いです》

女「二気筒だからね。400ccとかなら四気筒のキュンキュン回るエンジンもいいかもしれないんだけど」

幽《250ccには四気筒エンジンは無いんですか?》

女「ひと昔前はクォーターでも四発が全盛だったらしいんだけどね。バリオスみたいなネイキッドも、FZRやZXRみたいなレプリカも」


女「今は400cc以上しか四発のラインナップは無いんじゃないかなぁ」

幽《ふーん…》

女「普通二輪の免許しかもってない私としては、乗れる中で一番図体の大きいCB400への憧れはあるけど…体格に合わないの」テヘッ


幽《CB…400…》

女「知ってる? よく走ってるバイクだとは思うけど。最近はハーフカウルのタイプも多いよ」

幽《それって、別の名前ありますか…?》

女「別の名前…? ああ…スーパーフォア、略してスーフォアとか400ccに限定すればヨンフォアとか…」


幽《スーパーフォア…! 私…それも乗せてもらった事あります》

女「そうなんだ、格好いいよね!」


女(…後ろに『乗った』でも『お邪魔した』でもなく)

女(『乗せてもらった』…って言ったな…)


幽《…バイクっていいですよね》

女「ん?」

幽《運転…してみたかったなぁ…》


女「…私の身体に憑依するとか、できないのかな?」

幽《あははっ…それはどうなんでしょう? でもこかしちゃいそうだから、試さないです》

女「じゃあいつか私が転んで、遠慮いらない状態になったら試してみよう」


幽《…ありがと、でも転んじゃだめですよ》

女「うん、気をつける」

幽《女さん、これ…受け取れますか?》

女「えっ? 受け取るって…」

幽《手、出してみて──》


──スウッ…フワリ


女「わっ…すごい、手にとれた…! 髪留め…?」

幽《私の唯一の持ち物です。女さん、お守り代わりに持っててくれませんか…?》

女「うん…ありがとう、大事にしとくよ。可愛いね、七宝焼のスズランがあしらってある」


幽《スズランの花言葉って『幸せが訪れる』なんですよ》

女「おお! 恋の予感!?」

幽《毎週バイク三昧じゃ、なかなか訪れないかもですけどね》クスクス

女「言ってくれるねえ…」ピキッ


──ポツッ、ポツポツッ


幽《あ…少し降り出した!》

女「わわっ、ごめん…今日は帰るね!」

幽《はい、気をつけて! 雨に打たれても飛ばしちゃだめですよ!》

女「はーい! じゃあねっ!」


ドロロロロッ…ヴァオオオオンッ──


幽《気をつけて…下さいね》

幽《ずっと、貴女が来てくれますように》

幽《…ずっと、怪我のないバイクライフを過ごせますように──》


……………
………


…約一ヵ月後、女の職場


女友「…で? 明日~明後日の週末は、どう過ごすのかな?」

女「えーと…えへへ」


女友「全くもう…最近ぜんぜん付き合ってくれないんだから」

女「ごめんね、真夏や冬場は乗る頻度落ちると思うんだ」

女友「はいはい、どーせ私達はバイクに乗れない時の保険ですよーだ」


女「そんなつもりじゃないよ!」

女友「…解ってるよ、ちょっと意地悪言ったんだ」


女友「でもさ、みんな心配してるからね?」

女「うん…」

女友「だってあんた、近くの○○峠に行ってるって言うじゃない」

女「…そんなに攻め込んだ走りはしてないよ」


女友「あそこ、事故多いって聞くしさ…ほら何年か前には死亡事故もあったって」

女「そうなの?」

女友「えー、有名だよ? 兄妹で二人乗りしてて、妹さんだけ死んじゃったって……胸が痛くなるような話でしょ」

女「妹だけ…」


女友「お兄さんもまだ未成年だったから大きく報じられはしなかったらしいけど、女子高生のユウレイ見たって話もあるよ」

女「!!」


女友「近道に使えるから私も時々車で通るけど、ガードレールにいっつも花が供えてあるんだよね」

女「…△△市側に下りる手前のところ?」

女友「そうそう、ちょうどオトコの人が供えてるのも見た事ある。もしかしてその人なのかなって思うと…いたたまれないよ」

女「私も見たかも…」


女友「あんたは二人乗りするわけじゃないんだろうけど、危ないのは同じだからね?」

女「うん、解ってる」


女友「…やだよ? 同僚達と花を供えに行くなんて」

女「お花よりお菓子がいいかな」

女友「ぶっとばすよ」

女「…ごめん」


……………
………


…翌日


ドロロロロロッ──


幽《──おはようございます》フワッ

女「…おはよ」

幽《あれ…元気ないですか?》

女「ううん…大丈夫だよ。パーキング、誰もいなかったら停まろっか」


………



幽《──そう…聞いたんですか、私がユウレイになった事故の事》

女「やっぱりそうなんだ」

幽《…はい》


女「ガードレールの花…お兄さんが供えてるんだよね?」

幽《毎月はじめの休みの日に必ず来てくれます。土曜日だったり日曜日だったりはするけど》

女「うん、先月の時は見かけたよ」

幽《…気付いてたんですね。私も目が合ったかなと思いました》


女「お兄さんが乗ってたバイクって…もしかして?」

幽《私はよく知らなかったけど、確か『スーパーフォア』って言ってたと思います》

女「乗せてもらったって言ってたもんね」


幽《でも、お兄ちゃん…バイク乗らなくなっちゃった》

女「無理もないかな…」


幽《『乗せて』ってせがんだのは私なんです》

女「…うん」

幽《お兄ちゃんは『危ないから』って言ってたのに『安全運転でツーリングに連れてって』なんて、しつこく》

女「………」

幽《それでお兄ちゃんは、休みの日に部活がある私を『学校に送るだけしてやる』…って》


幽《朝、行きがけは遠回りしてでもこの峠は通りませんでした》

幽《…でも帰りの時間、部活が長引いて遅くなってしまって》

幽《私はその日、友達の家の誕生日会に呼ばれてて》

幽《お兄ちゃんに『19時までにどうしても帰りたい』って無理を言って…》


女「…帰りはここを通ったんだ」

幽《春の事で、もう辺りは薄暗かったです》


女「あのコーナー、砂が出てる事あるよね」

幽《もしかして明るい内…行きがけに通ってたら、それにも気付いてたのかもしれないですね》

女「…時間に追われて、薄暗い峠道…か」

幽《危ないですよね、どう考えても》


幽《…お兄ちゃんは悪くない》

幽《砂が出てたとはいえ、運転のミスはあったのかもしれません》

幽《でも無理に後ろに乗ったのも、急かしたのも…私なんです》

幽《なのにお兄ちゃん…すごく傷ついて…バイクもやめちゃった──》


女「お兄さんには、幽の姿は見えないの?」

幽《…見えてないみたいです。私が死んだ事、受け入れられてないから…かな》


女「今日は月はじめの土曜日だけど、来てないみたいだね」

幽《わかりません…でもこの時間に来ないなら、明日なのかも》


女「…よし、話そう」


幽《えっ…?》

女「お兄さんがずっと罪の意識に囚われてるの、辛いんでしょ?」

幽《それは…そうだけど》

女「お兄さんに落ち度が無いわけじゃないけど…でも、あまりにも悲し過ぎるよ」


幽《でも、どう言うんですか? ユウレイの私に会ったって…?》

女「それしかないよね、本当の事だし」

幽《女さん、変な人扱いされちゃいますよ》


女「大丈夫! 同僚からはすっかり『バイクが恋人の変人』扱い受けてるよ!」

幽《…それは、確かに》


女「あん?」ピキッ

幽《な、なんでもないですっ──》


……………
………


…その夜、女の部屋


女(明日、お兄さん来るかなー)

女(間違いなく怪しまれるだろうけど…話せば解るんじゃない?)

女(だって当時高校生の幽と、今OLやってバイク乗りの私…接点が無いはずだもの)


女(あれから幽の事は随分聞いた)

女(お兄さんに対して、私がユウレイになった幽を知ってるって根拠にできるように)

女(好きだった食べ物…アーティスト、お兄さんと観に行った映画)


女(お兄さんが少しでも罪の意識から救われて、悲しみが癒えるなら)

女(…それでまたバイクに乗るようになるかは、本人次第だけど)

女(少なくとも、幽はお兄さんの事を恨んだりなんかしてないんだよ)


女(お兄さんが乗ってる軽自動車、なんの飾り気も無いベーシックなタイプだった)

女(年齢を考えれば、一番楽しい青春真っ盛りの頃のはずなのに)

女(きっと幽の事ばかりを考えて、自分が幸せになる事は避けてるんだ)


女(お兄さん…それじゃ逆に幽は悲しんでしまうんだよ)

女(きっと貴方がそうだから、幽は──)


……………
………


…翌日、峠道


──ヴァオオオォオォォンッ!


女(いけない…! 考え過ぎて眠れなかったから、起きるの遅くなっちゃった…!)

女(お兄さん、まだ居るといいけど…)


幽《──ちょっと飛ばし過ぎですよ、女さん》フワリ

女「幽! 遅くなってごめん、お兄さんは!?」


幽《大丈夫です。さっき来て、まだゆっくりしてます》

女「そっか、よかった…」ホッ


幽《でも、女さん。やっぱりやめませんか…?》

女「何を言ってんの、お兄さんの心を軽くしてあげたくないの!?」

幽《それは…でも、私…》


女(言いたい事…怖れてる事は解ってるよ、幽…)

幽《………》

女(それを考えてたから、昨夜は寝付けなかったんだよ──)


………



幽兄「──暑くなってきたな」

幽兄「もう花屋には、向日葵が列んでたよ」

幽兄「好きだったろ、お前」


幽兄「……もう三年以上にもなるんだな」

幽兄「兄ちゃん…お前がいないなんて、まだ信じられなくてさ」

幽兄「理解して…詫びなきゃいけないのにな…」

幽兄「嘘みたいなんだよ…あんなに大事にしてた妹を…」


幽兄「自分が、殺し──」

女「──違うよ」


幽兄「…何を、貴女は?」

女「幽の友達」

幽兄「幽…妹の?」


女「そう、最近知り合ったばっかだけどね」

幽兄「最近…って、冗談にしても笑えないですよ」

女「…妹さんなら、いるよ」

幽兄「ふざけないで下さい」


女「ふざけてない。妹さんは今、私の横に立ってる」

幽兄「性質の悪い冗談はやめてくれ! 妹は三年も前に…!」

女「……っ…」

幽兄「三年…前……俺が殺した…死んだんです…」


女「…違うってば」

幽兄「貴女が妹の生前の友人なら、俺を恨んでも当然です……すみません、俺が怒鳴ったりして」

女「ふぅ…じゃあ落ち着いて、こっちの話を聞いてくれるかな?」

幽兄「……?」

女「とりあえず、信じられなくても黙って聞いて? 戯言だと思っててもいいから、ちゃんと耳に入れてね──」


………



幽兄「じゃあ、今…妹は週末の度に貴女のタンデムシートに座ってると?」

女「そうだよ、とっても仲良しなの」


幽兄「…あんな事があったのに、バイクが原因で死んだのに…それでもバイクに乗りたがってる…」

女「本当は貴方の後ろに乗りたいんだと思うけどね」

幽兄「俺はもう…バイクに乗る資格も、その話が本当だったとしてもアイツを乗せる資格も無いですよ」


女「…妹さんは、貴方がそうやって自分を責めてる事が気がかりなんだよ」

幽兄「責めないわけにいかないじゃないですか」

女「それはそうする事で、自分の罪の意識を消さないようにしようとしてるだけだと思う」


女「妹さんが貴方に、ちゃんと自分の幸せを見つけて欲しいと願ってたら? …それに応えてあげる方が彼女に報いる事だと思わない?」

幽兄「………」


女「妹さんは貴方を恨んでなんかない。むしろ貴方の心をずっと縛りつけてしまっている事が辛いの」

女「だから彼女は私の後ろに乗っても、この峠から出られない。貴方の心が縛られている限り、あの娘も解放されないんだよ」

女「…貴方が自分を少しずつでも許していく事が、妹さんに対する供養なんじゃないかな」


女「…そうしないと」

幽《女さん、私は…》

女「幽は、いつまでも──」

幽《…お兄ちゃんには自分を許してあげて欲しいけど…! 私はずっと貴女と…!》

女「──成仏できないから」

幽《女…さん…》


幽兄「…わかった」

女「おっ…信じてくれるんだ?」

幽兄「いや、信じられないけど……でも貴女の言いたい事はわかりました」


女「…信じようよ、そこは」

幽兄「信じたいですよ」

幽《お兄ちゃん…》


幽兄「でも、やっぱり非現実的だ。アイツがそう望んでくれてるなら、確かにそうしたいけど…どう考えたって都合が良すぎる」


女「…幽は、たまの休みに貴方が作る手作りホットケーキが好きだったわ」

幽兄「そうでしたね」

女「最後に観に行った映画は『タイタンの戦い』、とんだB級で笑ったってね」

幽兄「ええ、覚えてます」

女「…全部、あの娘から聞いた事だよ」


幽兄「貴女が生前からの知り合いなら、聞いてるかもしれません。あるいは友人から聞いたか──」

女「──たらこおにぎり」


幽兄「…はい?」

女「貴方が彼女をバイクで学校に送った日、行きがけのコンビニで食べた朝ごはん」


女「コンビニの駐車場で車止めの縁石に腰掛けて、バイクを眺めて食べた…って。すごくワクワクして美味しかったって」

幽兄「…そんなに印象深かったなら、部活の友人に話したかもしれませんね」


女「じゃあ、ポカリスエット」

幽兄「…!!」

女「部活終わり、迎えに来た貴方が運動後の彼女のために買ってたってね。待たせたから仕方ないけど、ちょっとぬるかったって言ってたよ」

幽兄「……信じない」


女「それを半分飲んでからスーパーフォアの後ろに跨る時、彼女は反対から乗ろうとして」

幽兄「…やめて下さい」

女「タンデムステップじゃなく、買ったばかりのサイレンサーに足を掛けて酷く怒られたって」

幽兄「…やめてくれっ」


女「そして帰り道。学校からほど近い雑貨屋に寄って、友達の誕生日祝いのプレゼントを探した」

幽兄「なんで…そんな事まで」

女「不思議でしょ? だって学校を出発した後の事だもの。貴方自身と彼女しか知り得ない…貴方が誰かに詳細に話したならともかくね」

幽兄「……っ…」


女「プレゼントは髪留め、スズランを模した七宝焼の飾りがついてた。彼女は断ったけど、貴方はお金を出したわ」

幽兄「…本当…なのか」

女「さっきからそう言ってるよ」


幽兄「そんなの…信じられない、信じたら俺は…」

幽《…お兄ちゃん》

幽兄「…自分を許そうとしてしまう」ポロッ


女「…これ、貴方が持っておくべきだと思う」スッ

幽兄「!!」

女「買った髪留め…事故の時、彼女のポケットから落ちたんでしょうね。このコーナーのガードレールの外、草むらにあったって」

幽兄「…うっ…ぅう…」ボロボロ…


女「本当は友達へのプレゼントだけど、貴方が買ってくれた物だから…ここに遺るユウレイになった彼女は拾って大事に持ってたわ」

幽兄「妹……妹っ…」ガクッ

女「貴方を憎んでたら、そうするわけない…解るでしょ?」

幽兄「…は…ぃ……」

女「スズランの花言葉ってね、幸せが訪れる…なんだって。貴方、幸せにならなきゃ…ね?」


フワッ…スゥーッ


幽《お兄ちゃん──》

幽兄「──妹っ…!?」


幽《…よかった。私の事を信じてくれた今なら、きっと見えるんじゃないかと思ったの》

幽兄「妹…! お前…俺の事…!」

幽《恨んだりするわけないじゃん、馬鹿兄貴》

幽兄「ごめん…ごめんな…!」


幽《謝るのは私だよ》

幽《わがまま言って無理矢理後ろに乗って》

幽《わがまま言って急がせて》

幽《そのせいでお兄ちゃんを傷つける事になったんだ》

幽《それなのに、ずっと来てくれてありがとう…お兄ちゃん》


幽兄「違う…俺がもっとしっかり運転してれば…帰りもこの峠を通らなかったら!」

幽《『たら』とか『れば』をたくさん使えば、誰のせいにだってできちゃうよ》

幽兄「……でも…!」


幽《お兄ちゃん、私…幸せだった》

幽《あんな事になっちゃったけど、バイク…大好きなんだ》

幽《…バイクに乗ってるお兄ちゃんが、大好きだったから》

幽《だから…もういいの》

幽《お願いだから、お兄ちゃんは自分の幸せを見つけて欲しい》


幽《女さん…ありがとう》ニコッ

女「幽…私は──」グスン


幽《これできっと私、成仏しちゃうんだろうから…最初は怖かった》

幽《…貴女とずっと走ってたかった》

幽《でも、お兄ちゃんを縛りつけたままじゃだめだよね》

幽《やっぱり…これで良かったんだと思います》


──スゥーッ


女「幽っ…!」


幽兄「妹…俺、この髪留めずっと持っとくから!」

幽《うん…いつかそのスズランが幸せを呼んでくれたら、その後は渡すつもりだった友達にあげて欲しいな》

幽兄「解った…解ったよ、約束する!」


幽《女さん…私、貴女の後ろに乗せて貰ったこと忘れない》

女「私も…絶対忘れないからっ! このバイクの名前『幽』にする! ずっと一緒に走るんだからね!」

幽《バイクの名前…いいんですか?》

女「うん! それしかつけられないよ!」

幽《嬉しい…ずっと…どこまでも…》フワッ


女「幽っ!」

幽兄「妹…!」

幽《ありが…とう──》


──フッ


女「…幽……」

幽兄「………」

幽《………》

女「………」

幽《………》

女(…なんで消えないの?)

幽《…あれ?》


幽兄「妹…ありがとう。俺、少しずつでも前に向くから…!」

女(ん? お兄さんには見えてないな…?)

幽《お兄ちゃーん?》


幽兄「…女さん、ありがとうございました。まだ信じられないくらいだけど、俺…救われた気がします」ペコリ

女「えっ? あ、ああ…そだね! 良かった良かった!」

幽《えっと、お兄ちゃん…私の事見えてない?》


女「じゃあ、私…行くね! お兄さんも元気出してね!」アタフタ

幽《あ、あの…?》

幽兄「はい、これからも毎月花を供えには来るつもりなので、お会いするかもしれませんね」

幽《女さん…?》

女「うん、いつかまたバイクで来れるようになったらいいね! そ、それじゃ…!」


………



…ヴァオオオォオォォンッ


幽《もう…なんで急にあの場を離れたんですか?》

女「だって、幽がまだ消えてないとか言ったら『やっぱり思い遺しがあるのかな』とか、お兄さんが気になっちゃいそうじゃん!」

幽《うーん、そう…かも?》


女「ってゆーか、消えないじゃん! 成仏しないじゃん! 何それ!」

幽《あ、ひっどい! 消えた方が良かったって言うんですか!?》

女「違うよ! ただ、すっごい悲しくて寂しくなってた自分が馬鹿みたいじゃない!」


幽《あららー、私って愛されてますね》

女「もう…! 目上のヒトをからかわないの! あ…峠道、終わっちゃう──」


幽《──あれ?》

女「えっ」


幽《…出られた、峠から》

女「まま…まさか、お兄さんの呪縛が解けたから…?」

幽《これは…アレですね。私、地縛霊から浮遊霊にクラスチェンジしましたね》

女「クラスチェンジって」


幽《でも、やったぁ! これでどこにでもお供できますね!》

女「…まじですか」

幽《今日はどこ行きます!? ああ…ワクワクするっ!》


女「とりあえず安全運転で、気の向くまま行ってみよっか」

幽《それでいいです! 頼みますよー、バイクの『幽』ちゃん!》

女「あっ、そうだった! それ無し! 貴女がいるんだったら、この子が『幽』である必要ないもん!」

幽《あははっ、やっぱりダメですか》

女「名前は…もうしばらく未定かな、ピンとくるのが閃くまで」


幽《あの交差点、左に行きましょう。確かあっちは海の方ですよね? 山にばかりいたから、海見たーい》

女「いいね、今日のところは海沿いを流そうか」

幽《ツーリング! ロマンを求めて! …なんちゃって》

女「あははっ…なんか昔、TV番組のタイトルで聞いたような? 仕方ない…満足して成仏できるまで、付きあったげよう──」


──カツンッ
ヴァオオオォオォォンッ!


《おわり》

過去作置場、よかったら覗いてやって下さい
http://garakutasyobunjo.blog.fc2.com/

ありがとうございます
ナビの話の焼き直しみたいなもんなんですが、これなら続き書けるだろうと思ってます
なのでたぶんそのうちブラッとバイク旅な続編SS書きます

毎度すんません
まあこのSSは、ここまで幽霊を出すための前フリみたいなもんという事で
次からは釣りロマンみたいにまったりバイクライフを書きます


……………
………



女「──おっはよーう!」

幽《ふわわ…まだ早いですよーう。今日は土曜日じゃないですか…》


女「ふっふーん、この土曜日になにがあるかは言っておいたはずだけど?」

幽《はいはい…ツーリングですよね?》

女「そう!梅雨だってのにせっかく今日は晴れてくれたんだから!」

幽《はぁ…眠い》


女「それにしても、なんで毎朝生身の私が幽霊の貴女を起こしてるわけ?」

幽《それは偏見ってものです。私、もともと朝には弱かったから》

女「すっかりこの部屋にも馴染んじゃって、全然幽霊って感じしないなぁ…」


女「とりあえず朝9時に道の駅で待ち合わせしてるんだから、もう寝てる時間なんて無いよっ」

幽《大丈夫なんですか? ネットで知り合った人なんて…》

女「実名晒したSNSの女性ライダー専用コミュニティだもん、あとは馬が合うかどうかだけでしょ」

幽《そんな事言って、会ってみたら男性だったりして…?》

女「夜会うわけでも、ひと気の無いところで会うわけでも無いんだから、そうだったら『嘘つき!』って言って帰るよ」


幽《……いい人だといいですね》

女「うーん、願わくば…」

幽《?》

女(幽が見えたら、いいな──)



女「ツーリング浪漫を求めて」 幽《日帰り温泉ツアー編!》

.


【「渇いた音の戦闘機」の巻】

………



ドロロロロロロンッ──


女「時間的には少し余裕あるし、安全運転だねー」カコッ

幽《ツーリングで事故なんて、一番あっちゃいけない事ですよ》

女「全くです。たとえ慣れた峠を走るにしても、無理せず急がず…」


ビイイイイイイィィィンッ!


幽《……?》

女「ん?」

幽《お…女さん、後ろからバイク来ます!》

女(速いっ…!)


幽《うわ…アッという間に追いつかれた!》

女「公道でレースする気はないからね…左、寄るよ」ドロロロロッ…


シャラララッ…ビィンッ!ビイイイイィィンッ!


幽《派手なカラーリング…競技用みたい》

女「うん、まさにね。それを模したレーサーレプリカだから」


シャラッ…ビイイイイイィィィィンッ──!


幽《…もう見えなくなっちゃった。なんか古い原付みたいな音なのに、すごく速かったなあ…》

女「それだけじゃないよ、クラッチ切った時の渇いた音…聞こえた?」

幽《はい、なんだか金属音がシャラシャラ言ってました》

女「今となっちゃ希少なバイクだよ、あれは」

幽《へえ…?》

女「…2サイクル250cc、乾式クラッチと片持ちプロアーム、ロスマンズカラーでキーはなんとカード式──」

さて、なんでしょう

>>105
NSR?

つづききた!これで勝つる!
MC28のSPすな

>>106>>107
さすが、簡単すぎるな


女「排ガス規制の波によって姿を消したけど、80~90年代のハイパフォーマンス2サイクルクォーター、その結晶だよ…あれは」

幽《…名前は?》

女「ホンダNSR250SP。解る…? 頭文字が『N』なんだ」

幽《N…何か意味が?》


女「最初もN360だったし、今もスモールカーなんかによく与えられてはいるけど、Nの頭文字はホンダの本気の現れだと思う」

幽《本気ですか》

女「うん、軽自動車ではエコとか快適性に本気出してるんだと思うけど、それだけじゃないよ」


幽《そういえばアパートのTVでCM観ましたよ。イッツ・ア・スモールワールドのBGMで、ニッポンノリモノ! …って》

女「あはは、New-Next-Nippon-Norimonoだね。スモールカーに与えるNはその中でもN360の頃から『Norimono』のNなんだって」


幽《…じゃあ、NSRは?》

女「あのNSRも楕円ピストンのNRも、四輪のNSXも…与えられてるのは『New』のNだそうよ」

幽《新しい…かぁ》


女「うん、でもね…それだけじゃないと思う」

幽《…?》

女「きっと『New』のNを冠する車両は、その時のホンダの全力を注がれた特別な存在──」


──ドロロッ…カツンッ、ヴァオオオォォンッ!


女「HO『N』DA…その真ん中のNなんじゃないかなっ!」

幽《わわっ…!?》

女「ええい、コイツについてないのが悔しいぜっ!」


幽《…あっ、NSRが折り返してきました》

女「うわ…さすがに速いなぁ……って、あれ?」

幽《後ろからもう一台、喰らいついてますよ!》


シャラッ…ビイイイイイィィィィンッ!
ビイイイイィィンッ──!


女「すっごい、なんかタイムスリップしたみたい!」

幽《もう一台のバイクは?》

女「全盛期、NSRと火花を散らしたライバル。ヤマハのTZR250だね…ああ、これでガンマが加われば…!」

幽《がんま?》

女「うん、スズキのRGV-Γ(ガンマ)。どれも日本の2ストローククォーターの代名詞的存在だね」


幽《そのどれもが排ガス規制で?》

女「そうなんだ…4ストと比べて点火頻度は2倍、しかもオイルを一緒に燃やす2ストはねぇ…」

幽《仕方ないのかもしれないけど、なんとなく寂しい感じですね》

女「まあね…でも実際、スペックに特化し過ぎて実用的では無かったよね」


幽《私、VTRのトコトコエンジン好きですよ?》

女「うん、気持ちよくバイクを楽しむだけなら、このスペックでも充分に爽快感あるし」

幽《なにより女さんに似合ってます》クスクス

女「どーせあんな戦闘機みたいなマシン、扱いきれませんよーだ」


幽《音速なんて出なくていいですよ。のんびり気球の旅でいきましょ》

女「それは遅すぎるよー、せめてセスナ機くらいにはしてよー」



【「渇いた音の戦闘機」の巻】おわり

KR-1R「...」

>>113
いや…だってMC28とは年代かぶらないじゃん…?
後にZXRとか4ストは出すからさ、ね?


【「受け継がれる心臓」の巻】

………


ドロロロロロロッ…


女「──川沿いは脇道が無いから、気楽でいいなぁ」

幽《ですねー、土手の草が風に靡いていい景色。…あ、対抗からバイクですよ》

女「おっ」ピッ

幽《…あ、ピースサイン出してくれた!》ピッ

女「嬉しいもんだよねー」

幽《ソロツアラー同士ですから、親近感ありますもんね》


女「うん、でもピースしてくれた理由はそれだけじゃないかも」

幽《他にどんな?》

女「さっきのバイク、型式はMC20…ホンダの250cc水冷Vツインエンジンを積んでるんだ──」

長らく間を空けてごめんなさい
ひとまずこの巻10レス分くらいは書き溜め完了してます

さて、なんのバイクでしょう

おk!


女「──正式な名前はVT250SPADA(スパーダ)だよ」ニヤリ

幽《…VT!》


女「そう、ホンダの250ccVTシリーズのひとつ。このVTRと同じ系譜に属する一台なんだ」

幽《なるほど、それは仲間意識ですね。…同じ系譜に属するって事は、他にも?》

女「よくぞ訊いてくれましたっ!」ワキワキ


幽《あ、長くなりそう。やっぱいいです》

女「まあまあ、そう言わずに! 短く纏めるから聞いていってよ、お嬢さん!」

幽《…あぅ、なんか変なキャラになってるよー》


女「まず250ccのVTシリーズは、80年代はじめにデビューしたVT250Fから始まるの」

幽《ほうほう》

女「この頃のVTは2スト車に4ストで真っ向勝負を挑む、本気モード全開のコンセプトだったそうよ」


幽《2ストって、さっき峠で会ったような?」》

女「うん、ただレプリカじゃあなくて当時デビューしたヤマハの2サイクルネイキッドRZ250を事実上のライバルと睨んでた」

幽《レプリカじゃない2サイクルとかあるんだ…》

女「もちろん2サイクルの瞬発力なんかには及ばない部分もあったけど、ピークの出力なんかは遜色ないくらい。けっこう常識破りの4サイクル車だったの」


幽《なんとなくこのVTRとはイメージが違いますね》

女「そうだね、でもそれはこの90°V型水冷二気筒エンジンの優秀さを表すものでもあるんだよ」

幽《どういう事ですか?》


女「80年代半ばには、VT250Fからカウルを取り払って価格を下げたネイキッドモデルのVT250Z…その後のVTZ250が登場して」

幽《なんか名前がややこしくなってきた!》

女「80年代後半には、さっきすれ違ったVT250スパーダが。設計を一新されてVT史上一番軽く、走りのスペックが高い一台だったんだけどね」

幽《…けど?》


女「90年代に入って、次にデビューしたのはXELVIS(ゼルビス)。今度はうってかわってシリーズ最大の車格のツアラータイプだった」

幽《随分と進路変更するんですね》

女「まだまだ…だよ。ゼルビスと時期を並行して94年にデビューしたのは、なんとアメリカンクルーザーのVツインマグナなんだ」

幽《えっ!? マグナってVTシリーズなんですか!?》

女「うん、フェイクエンジンカバーをつけられて空冷ルックに仕立てられたけど、れっきとしたMCシリーズ水冷エンジンの持ち主だよ」


幽《…なんかVTシリーズ、迷走してません?》

女「そして90年代終わり、ついにこのVTRがデビューしたの。スパーダを彷彿とさせる少しコンパクトな車格のネイキッドとしてね」

幽《じゃあこのVTRって息の長いモデルなんですねー》


女「2009年に排ガス規制の関係で電子制御化されて、実質二代目だけどね。でも型式のMC33は引き継いでるし、息の長いモデルなのは間違ってないかな」

幽《VTの文字は車名から消えたりしてても、型式名のMCは伝統あるんだなー》

女「そう、MCって名前こそVTの系譜の文字通り心臓なんだよ。エンジン型式、最初はMC08…そして今も現役のこのMC15E」


幽《…ちょっと待って、じゃあそのエンジンは30年以上も現役なんですか?》

女「そこだよ、肝心なのは。デビュー当初、2ストと勝負するために開発されたMC型エンジンは、そのスペック以上に耐久性や扱いやすさに優れていたの」

幽《それで長く使われたんだ…》


女「『買い換えたくても壊れない』とさえ言われたからね。バイク便がよくVT系の車両を採用してるのも、それを物語ってる」

幽《すごい事ですよね、それ》

女「一線級のスポーツエンジンだったMCも、その後の四発クォーターやレプリカ2サイクルには及ぶはずもなくてね。やがてその丈夫さと素直さが売りに変わっていった」

幽《だから色んなタイプのバイクで使われたんですねー》


女「そういう事、ツアラーのゼルビスなんかは今になって中古相場が上がってきてたりしてね」

幽《へえ…?》

女「車検が無い250ccで、ロングツーリングに耐えうる車格…維持費のかさむバイクは持たせてもらえないパパライダーにとっては、貴重なタイプなんだよ」

幽《ああ…身体の大きい人にはVTRじゃ少しサイズが足りないですもんね》

女「ツーリング向けなハーフカウル付きのVTR-Fもデビューしたけど、全体的な大きさは変わらないからね」


幽《このエンジン、いつの時代まで使われるんでしょうね》

女「多くの車種・エンジンが姿を消した排ガス規制をも乗り越えた名機だからね」

幽《けっこうすごいバイクだったんだなぁ、この娘》


女「初めてのバイクにVTの系譜を選ぶのは、色んな意味で良い選択だと思うなぁ」

幽《あっ、あの道の駅じゃないですか? 待ち合わせ場所…》

女「うん、そうだよ。さーて…二人の女性ライダーに会う事になってて、内一人が何に乗ってるかは聞いてるけど」

幽《もう一人は聞いてないんですね》


女「コミュニティで仲良くなったその娘の友達なんだって。…例えその人が何に乗ってようと」

幽《羨ましくなんてないですね!》

女「…でも色んなバイクに乗ってみたいかなぁ」

幽《あれっ──?》


ドロロロロロロッ…


【「受け継がれる心臓」の巻】おわり


【「レトロな星と究極の翼」の巻】

………


…待ち合わせの道の駅


ドロロロロロ…ドルンッ…カチャッ


女「…まだ来てないのかなぁ?」

幽《バイクの姿、ありませんねー》


女「ま、時間には少し早いしね。自販機の前に停めたんだし、コーヒーでも買おうっと」

幽《缶コーヒーとバイクって、セットですよね》

女「その通りっ!」ガコンッ


女「よっ…と」プシッ

幽《女さん…私がいるからって声に出してると、周りから見たらオジさん臭い独り言だと思われますよ》


女「失敬な…じゃあ、黙ってた方がいい?」

幽《前に練習したじゃないですか》

女「ああ…心の中で幽に話しかけるつもりで念じるアレ?」


幽《私がここにいるのを解ってて、伝えようと意識すれば聞こえるはずなんですよ》

女「だって声に出した方が早いんだもーん」

幽《これから他の人と合流するなら、そうもいかないでしょ》


女「うーん…じゃあ、やってみようか…」

幽《はい、それじゃ『幽、大好き』って念じて下さい》ニコッ

女「そんなの念じる内容を幽が知ってたら伝わったかどうか解らないじゃん。違う事……じゃあ、今夜の晩ご飯の事を念じるよ」

幽《ちぇっ、どうぞー》

女(…カニ炒飯、カニ炒飯、カニ炒飯──)

幽《ん? …よく聞こえない…》


??「あ、あの…」


女(天津飯、中華丼、親子丼、オムライス、スープカレー、カルボナーラ……あ、カルボナーラ食べたいなぁ)

幽《あれ? ちょ…女さん、色んな事考えてません?》

女「あはは、バレたかー」テヘヘ


??「あ、ええと、その…すみません…」


幽《ん?》

女「ん?」


??「お取り込み中でしたか…?」


女(げっ、気づかなかった。どこから見られてただろ…)

幽《栗色のお嬢様ヘア、背も150cmあるのかな……なんかバイク乗りっぽくないけど、もしかしてこの人が…》


??「あの、女さん…ですよね? バイク、赤のVTRだし」

女「そ、そうだよ! ごめんなさい…考え事してたの。貴女が『お嬢』さん…?」

お嬢「はいっ、お嬢って呼んでくれて構いません。お会いできて嬉しいです」


女「そっか…よろしくね、お嬢。改めて私、女だよ」

お嬢「よろしくお願いします」ニコッ


女《よかった…いい人っぽいや》

幽《あ、今の聞こえましたよ。よかったですねー、可愛い感じの人だなぁ…》

お嬢「ふふっ…ありがとう、お隣の方のお名前は?」


女&幽《えっ》


お嬢「あっ…ごめんなさい。私…視えるんです、昔から」クスクス

幽《視える…って、私の事ですか? 声も…!?》

お嬢「はい、制服姿までバッチリ」


女「驚いた…でも良かった! 幽が視えるヒトならいいなって、思ってたんだ!」

お嬢「幽…っていうんですね、よろしくお願いしますね」ニコッ


幽《………》

女「……幽?」

幽《………》

お嬢「あら…? 何かまずい事を言ったかしら…」


幽《…ふぇ…っ…》グスッ

女&お嬢「ふぇ?」


幽《ふええぇぇえぇぇぇん……嬉しい…よぅ…》ポロポロ


女「幽…」

幽《うぅ…っ……女さんと会えただけでも幸せな事だけど、こうしてまた何人もで話をできるなんて…なんか…生きてた頃を思い出して…っ》グスン

お嬢「…あらあら」

女(良かったね…幽…)ホロリ


………


お嬢「──ここの道の駅わかり難いですけど、二輪の駐車スペースはこっちなんですよ」

女「あっ、ほんとだ。バイクたくさんあるや」


幽《どれがお嬢さんのバイクなんです?》

お嬢「…これなんです」ポンッ

女「うん、コミュに上げてた写真で見てたけど、やっぱりお洒落だね」

幽《わあ…なんだか可愛くて格好いいっ》


女「ロングストロークなSOHC単気筒エンジンに、クラシカルスタイル…やっぱりいいねぇ」

お嬢「えへへ」

女「男のバイクなイメージが強いカワサキ車だけど、これは彼女みたいな小柄な女性にもピッタリな足つき性だからね」


幽《うん、お嬢さんにすごく似合ってますよ! …なんてバイクなんです?》

女「車名はスペイン語で星を現す単語、日本では通常カタカナ表記するかな?」

お嬢「その事が多いですね──」

さてなんでしょう…

…ですが、毎回これやるのもレス乞食みたいなので45分になったら続き投下しまーす


お嬢「──名前は『エストレヤ』です」

幽《えすとれあ…?》

女「一応、メーカーによると最後は『ア』じゃなくて『ヤ』みたいだよ」

幽《エストレヤかぁ…なんか名前も綺麗っていうか、可愛いなぁ》


女「それで、もうお一人は…?」

お嬢「さっきお手洗いついでに道の駅の店の中に入ったんです……あ、ちょうど出てきました」フリフリ


女「おはようございまーす」ペコリ

幽《うわぁ…お嬢さんとは正反対に、背が高くて格好いい女性だぁ……胸も大っきい…》

お嬢「あの…たぶん彼女には幽さん視えないけど、よく私と話すからそんなに抵抗は無いはずですよ」

女「そっか」


??「おはよう、はじめまして」

女「うん、はじめまして! 私、『女』っていいます。よろしく!」ニコッ

??「こちらこそ、私は『姐』…好きに呼んで貰って構わないわ」


幽《姐さん…かぁ。ちょっと怖そうだけど、悪いヒトじゃなさそう》

お嬢《全然怖くないですよ、あるヒトコトを言わなければ…ね》

幽《ヒトコト…?》


女「姐さんのバイクって、どれなんですか?」ワクワク

姐「ああ、私の愛機は──」


モブツアラー「お、この『ブサ』走りこんでんなー。タイヤすげえ脇まで使ってる」

モブツアラー「よく『ブサ』の巨体をこんだけ寝かすよなー」


お嬢「…あーぁ」

女「え?」


姐「──おい」

モブツアラー「はい?」


姐「今、何て言った? 誰の愛機がブサイクですって…?」ピキピキ


モブツアラー「え? あの、ブサイクとは一言も…」

モブツアラー「そうそう、略しただけで…」

姐「略さないで、その呼び方は不愉快なのよ……正しい名を言ってみなさいっ──!」

20時になったら続き投下しますー
間に合ったらお答えどうぞー


モブツアラー「は、隼…です…」カタカタ

姐「はぁ!? 聞こえないわ!」

モブツアラー「GSX1300Rハヤブサですぅ!」


姐「最高速度はっ!?」

モブツアラー「300km/hオーバー…?」ガクブル

姐「1999年式の312km/hよ! 覚えておきなさいっ!」

モブツアラー「は、はいぃ…!」


幽《…あのヒトコトですか》

お嬢「うん…ていうかハヤブサを貶める発言全般なんですけど」ヤレヤレ


女「姐さんのハヤブサって99年式なんですか?」

姐「ううん、2009年式だからメーターは300km/hまでしかないの」テヘッ


幽《…なんかキャラが掴みにくいヒトだなー》

お嬢「普段は大丈夫ですよ、幽さん」


姐「…さっきからお嬢は誰と話してるのかしら?」

女「あ…あの…」

お嬢「いるんです、ここに。四人目の仲間が…ね?」


姐「ああ…女さんにも視えてるってわけ?」

女「はい…もともと私の相棒なので」

幽《あ、相棒…! なんか照れます…》ポッ

お嬢「もちろん姐さんの言葉は聞こえてますよ。私と女さんで中継役しますから」


姐「そうね…お名前は?」


幽《幽です》

女「幽…っていいます」

姐「幽さん…か、よろしくね?」


幽《こちらこそです!》

お嬢「こちらこそ…って」

姐「はぁ…」


女「どうかしました…?」

お嬢「自分だけ視えないのが、ちょっと寂しいんですよ」


姐「そ、そんな事ないわっ!」アセッ

女「あははははっ」

お嬢「こう見えて姐さんは寂しがりの甘えんぼさんですから」クスクス

姐「ちょ…!? お嬢っ!」


幽《大丈夫ですよ、姐さん。ハヤブサの後ろにも乗せて下さいね?》

お嬢「ハヤブサにタンデムしたいって」

姐「そ、そうっ!? いつでもいいわよ! これからでも!!」パァッ…ニコニコ


女《確かにキャラが掴めないなー》

幽《ですよねー》

お嬢《悪い人じゃありませんから…ねっ?》


姐「あっ、なにか聞こえない会話したでしょう!? ずるいわ!!」

お嬢「してないしてない、仲間外れになんかしませんよー」クスクス


女&幽《………》プッ


【「レトロな星と究極の翼」の巻】おわり


【「文明の利器とオカルトの相性」の巻】


幽《すぐ出発するんです?》

女《そうだね、お嬢たちは朝ごはんは食べてる?》

嬢《はい、済ませてます》


女《……あれ?》


幽《どうかしました?》

嬢「ふふっ…気づいたみたいですね」クスクス

女《…なんで私とお嬢も思考で会話できてるの!?》

幽《そういえば…》

嬢《まあ、あんまり姐さんを蚊帳の外にしちゃだめだから──》


嬢「──私は元々ユーレイを感じられる性質だから、今みたいに話すのは慣れてます」

姐「また私を置いてけぼりにしてたのね」シュン…


女「でも、なんで私とまで?」

嬢「今まで何人か会った事があるんですけど、同じようにその性質を持つ人とは近くにユーレイさんがいると通じ合えるみたい」

幽《私、中継アンテナ…?》

女「そんな感じだね、あははっ」


嬢「そうですね、それと…」ゴソゴソ

姐「仲間外れは嫌だから、私も着けるわ」

女「着ける…?」


嬢「…はいっ、これ貸しますね」ヒョイ

幽《それって、無線ですか?》

嬢「Bluetoothのヘッドセットです、ペアリングはできてますから」ニコッ

女「うわ、欲しいと思ってたけどメーカー品はけっこう高くて買えずにいたのに…」


姐「「OK、感度はどうかしら?」」

女「「おお…よく聞こえる」」


幽「「でも仲間外れは嫌だからってどういう事ですか?」」

嬢「「それはね…」」

姐「「そのまんまの意味よ? 可愛い声ね、幽さん…改めてよろしく」」


女「「聞こえてるんですか!?」」

嬢「「やっぱりできましたね。前にもヘッドセットを使ってると姐さんにユーレイさんの声が聞こえた事があって」」


幽「「すごい…嬉しい、でもなんでこんな機械で私の声が拾えるんだろう…」」ウルウル

姐「「理屈は解らないけれどね、ユーレイの声って空気の振動というより電気信号に近いのかしら?」」

女「「あー、そういえば霊の声が入った音楽CDとか紹介されることあるね…」」

嬢「「不思議ですけど、電気機器とユーレイさんって相性いいのかもしれませんね」」クスッ


女「「やった…よかったね、幽! これで四人で会話できるねっ!」」ウキウキ

嬢「「さすがにお店に入ったりする時はヘッドセット着けてるわけにいかないですけど」」

姐「「その時はお嬢か女さんが、ちゃんと口頭で中継してね?」」

嬢「「はいはい、やっぱり寂しがり屋さんなんだから──」」



【「文明の利器とオカルトの相性」の巻】おわり


【「隊列走行とマナー」の巻】


ズキュキュッ…ドロロロォンッ
…ドッドッドッ…


女(うぅ、緊張する…初の複数台ツーリングだよ)

女(ずっと憧れてたけど、上手く走れるかなぁ)

幽「「女さん、肩に力入ってますよ?」」

女「「うっ…そ、そんなことないもん」」ドキドキ


嬢「「ふふっ…初めての隊列走行だと緊張しますよね」」クスッ

姐「「女さん、慣れないところ悪いけれど、先頭を頼めるかしら?」」

女「「ふぇっ!?」」

幽「「わぉ…女さん、大役ですねっ」」


姐「「お嬢のエストレヤは三台の内では最も走行性能に劣るわ、三台の真ん中…二番目を走るのが無難なの」」

嬢「「ごめんなさい、加速でついていけなかったりすると思います」」


女「「でも、それなら隼が先頭を…!!」」

姐「「隼は一番後ろに置くのがいいと思うわ」」

幽「「どうしてです?」」

嬢「「それは走ってると分かりますよ」」


女「「あぅ、先頭か…大丈夫かなぁ」」ドキドキ

姐「「ここからしばらくは田舎道が続くから、そう心配しないで」」

女「「だけどこの先は道がよく解らないよ…」」

嬢「「何のためのヘッドセットですか、曲がる時はお知らせしますから」」クスクス

姐「「じゃあ、行こうかしら?」」


…キュキュキュキュッ、ギュオオォォンッ!
ドルッドルッドルッドルッ…


幽「「わぁ…隼、吹かすとすごい鋭い音なのに低回転では重低音…」」

嬢「「アイドリングの音だけ聞くと大排気量ツインみたいですよね」」


…キュルルルッ、トロロロロロオォォンッ
トコトコトコトコ…


幽「「エストレヤの排気音は可愛いです」」

嬢「「えへへ…マフラー変えればもう少し迫力ある音にもなるんですけど、これで気に入ってたりします」」


女「「うぅ…じゃあ、覚悟を決めて…い、いきますっ」」

嬢「「はい、いつでも」」

姐「「OKよ」」


ドッドッドッ…カツンッ、ドロロロオォォンッ!
ドロロオォォォォオオオッ…ヴァオオオォォォッ──


女(制限速度は50km/h、周りの流れは60km/hちょっとかな…)


女「「姐さん、ストレスあるかもだけど周りに合わせていきますね?」」

姐「「もちろん、ツーリングは無理なくスムーズに…が基本よ」」

嬢「「さっきくらいの加速なら、エストレヤでも充分ついていけますから」」

女「「うん、わかった」」


嬢「「BGMとか、かけてもいいですか?」」

姐「「各自、周りの音が聞こえる音量でね」」

嬢「「それは解ってますよ、ヘッドセットも片耳の引っ掛けタイプですしね」」ピッ…


≪BGM:Get Me Outta Here/JET≫


女「「おおぅ…音楽のあるバイク旅、いいなぁ…」」

嬢「「くれぐれも周囲の音が聞こえる程度の音量にして下さいね」」

姐「「片耳とはいえ、それを守らなければ安全運転義務違反よ。あと音楽に集中して運転が疎かにならないように」」


姐「「あと…女さんは車線中央より少し右寄りを走ってもらえるかしら?」」

女「「あ、はい」」スゥッ…

幽「「あ、姐さんも右に寄って互い違いになりました」」


嬢「「千鳥隊列、コーナーがきつくない道でのツーリングの基本隊形ですね」」

姐「「お嬢、各自の車間距離は充分にとって。詰めてしまうと並列走行になりかねないわ」」

嬢「「解ってますよー」」


幽「「左右の順番は、先頭が右って決まってるんですか?」」

女「「ううん、多分…」」

姐「「…先頭じゃなく、最後尾が右側なのが望ましい。絶対の決まりではないけれどね」」

嬢「「しかもその役を隼が担えば──」」


嬢「「──ちょうどそんな状況ですね、大丈夫ですか? 姐さん」」

姐「「解りきったこと訊かないで……平気よ」」

幽「「あれ? いつのまにか隼の後ろに後続車…なんかスポーツカーっぽいのがつけてます」」

女「「新しいハチロクだね。でも車間は充分あるみたい」」


嬢「「周りの流れに合わせたツーリングの時って、バイクにしては低速で走ってますからね」」

姐「「四輪よりずっとシルエットの小さいバイクが左寄りをゆっくり走ってると、どうしても追い越しにかかってくる車が増えるのよ」」

女「「…しかも例えば三台全部を抜いたとしても、先頭のバイクはその前の車と適正車間程度で走ってるわけで」」

嬢「「通常、間に車がもう一台入るようなスペースじゃないだけに、急に来られるとすごく危ないんです」」

幽「「なるほど…目の前に突然割り込まれたら怖いですよね」」


姐「「ハチロクもトヨタ渾身のライトウエイトスポーツだけど、右寄りを走る隼を抜きにかかれるかしら…?」」クスッ

嬢「「それでも抜きたそうなら譲ってあげましょうね? 姐さん」」

姐「「それも解ってるわよ。女さん…前との車間を更にとって、それから全車左へ」」

女「「はいっ」」スーーーッ

幽「「抜いてきますよっ」」


ブォォォオオオオッ!チッカ、チッカ…


幽「「ハザード焚いてる」」

女「「スムーズに追い越させた事への感謝ね」」


姐「「なにも先を譲りたくないわけじゃないの…『急で無理矢理』な追い越しをさせたくないだけ」」

嬢「「だから最後尾に明らかなメガスポーツバイクを配置しておくといいんです」」

姐「「それでも強引に来る奴はいるけどね」」


幽「「ジグザグな隊列には、そんな効果があるんですねー」」

嬢「「それだけじゃないですよ。今は三台だけだからそうでもないけど、まともに一台ずつ車間をとるより列が短くなります」」

姐「「つまり後方のバイクだけが赤信号に引っ掛かったりって事が起こりにくくなるわ」」

女「「先導役のバイクのウインカーとかも、素早く後ろに伝わるしね」」

幽「「なるほどー」」


姐「「ただし、あくまでそれはゆったりと走れる直線やカーブの少ない道でのお話」」

嬢「「峠なんかで千鳥を組んでると、イン側やアウト側だけに寄った走行をしなきゃいけなくなりますから」」

女「「実質車線の幅が半分になったようなもんだもんね…それは危ない」」

姐「「その時は更に車間距離を空けて一列になった方がいいわ」」


嬢「「そういう道になったら後ろで勝手に隊形を変えますから、女さんはお気遣いなく」」

女「「はーい」」


幽「「先頭って格好いいけど、案外後ろの人も走行に工夫してるんですね」」

姐「「10台を超えるような集団になる時は、更に二班に分けてリーダーとサブリーダーがそれぞれ先導したりね」」

嬢「「バイクが集団で走るってだけで、慣れない四輪の方は同じ流れに入るのが怖かったりするそうなので」」


女「「じゃあ目的地まで、この調子の安全運転でいきまーす」」

嬢「「約100km弱、よろしくお願いします」」

姐「「頼んだわよ、チームリーダー」」

幽「「女さん、リーダーだって!」」

女「「やめてー、隼にリーダーって言われるなんてとんでもないプレッシャーだよー」」



【「隊列走行とマナー」の巻】おわり


【「虫採り網で捕まえて」の巻】


…ドロロロロロロォンッ


幽「「やっぱり川沿いは楽ですねー」」


女「「横から誰も出てこないしね、あとはちょっと前の車が…」」

嬢「「…随分ゆっくりペースです」」

姐「「まあまあ、初心者マークついてるし。車間を充分とっていった方がいいわ」」

女「「はーい」」


幽「「コペン…かぁ、小っちゃいけどスポーツカーっぽいですね」」

嬢「「今はオープンだけど、電動でクローズもするんだったと思いますよ、可愛いですよね」」


女「「…カップルで乗っちゃって、免許取りたてで幸せいっぱいなんでしょーねー」」ケッ

幽「「お、女さん…荒んでます」」


姐「「コペン、コンビニに入るみたいよ…減速注意」」

嬢「「あわわ…すごくもたついてる」」

女「「左に充分車線内のスペースあるから、躱していきます」」


カツンッ…ドロロロロロロォンッ!


幽「「おー…助手席の女の人、美人さんだー」」

女「「くっ…胸でかい…」」


姐「「なんとなくアンバランスなカップルねぇ」」

嬢「「姐さんったら…いいじゃないですか、幸せそうですよ?」」

女「「それが腹たつんだよーだ!」」ベーッ


姐「「さて…ペースが遅かったから、いきなり目の前がオールクリアになったわね」」

女「「何者も横から出てこない川沿いの土手道、先行車なしっ! 最高だぁ」」

嬢「「でも気をつけて……ん?」」


幽「「川の歩道っぽい木橋…何台もバイクが渡ってきますよ」」

姐「「ほんと、よく見たら土手下の河川敷にも生活道路があったのね」」

女「「でもしばらくこの国道に合流してくる登り道はなさそうだし──」」


嬢「「女さん、距離は充分あるけど前に気をつけて」」

女「「え?」」

姐「「登ってくるわ──」」

幽「「──えっ!?」」


──ビイイィィイィィィンッ!
パウゥンッ…キュッ!


女「「土手の堤体を斜めに登ってきた!」」

幽「「最後、ジャンプ気味に合流しましたよ…!」」

姐「「まだ来るわ、KSRね」」

嬢「「しんがりはフルサイズオフローダーみたいです」」


女「「そっか…KSR、小っこくて可愛いけどかなりの戦闘力だよ、あれは」」

幽「「そうなんですか…音は峠で会ったNSRに似てるけど、もっと軽い感じ…?」」

姐「「80ccのミニサイズだからね。…でもその軽量さ、排気量もサイズによく合ってる」」

嬢「「実際、オンロード寄りのデュアルパーパスタイヤを履かせたものが多いから、峠で会っても速いんですよね」」


幽「「デュアルパーパスかぁ、舗装路でもダートでも走れるんだ…」」

女「「ある意味、公道走行可能な乗り物の中では最もどこへでも行けるジャンルかもね」」

姐「「そうね…隼みたいなスーパースポーツに乗ってて、唯一時々羨ましく感じさせられる相手だわ」」

嬢「「あれはあれですっごく楽しいでしょうねー」」

女「「一度は乗ってみたいけど、こかしちゃいそう…」」


幽「「最後の一台が上がってきます! すごい加速…っ!」」

姐「「あれは速いわ、暴れ馬ならぬカワサキオフロードきっての暴れ蝗──」」


──ビイイィィイィィィンッ!
ヴァウゥゥンッ!キュウッ…!


姐「「──KDX250…2ストローク全盛期に生まれた、ホンダCRMやスズキRMXをライバルとするハイパワーオフローダーよ」」

幽「「すごい、みんな緑色だから動きと言い本当にバッタ軍団だ…」」

女「「やっぱりカワサキはグリーンが多いね、オフ車だとなおさらかな」」

嬢「「土手を駆け上がってくるのはあまり褒められた事じゃないけど、あれに乗ってたらやりたくなるでしょうねー」」


女「「あうぅ…でも前を行くのが80ccだから舗装路ではペース変わんないなぁ…」」

幽「「こんな事言っちゃなんだけど」」

嬢「「わんぱく悪戯がきんちょの群れに迷い込んだみたいですね」」

姐「「ま、心配ないわ。この先もうすぐ…」」


幽「「あっ、右に降りてった」」

嬢「「あっちの峠は林道に入れますからね」」

女「「でもそこも道じゃないよ! 去る時まで草むら突っ切るのかっ」」


姐「「…あいつら白バイに追われてもあの調子で逃げるからね」」

幽「「捕まえる方法ありますよ」」

女「「なあに?」」


幽「「わんぱく坊主にはわんぱく坊主です。麦藁帽子かぶって、半ズボン履いて…」」

嬢「「あははっ、なるほど」」

姐「「虫採り網でばさーっと…ね」」

幽「「カゴの中でもびーびーうるさそうですけどね──」」


【「虫採り網で捕まえて」の巻】おわり


【「好きな体位は?」の巻】


幽「「──女さん、さっき滝がありましたよ!」」

女「「………」」


幽「「女さん…?」」

女「「…話しかけないで」」

幽「「えっ」」

女「「今、滝とか見る心の余裕ないから」」ドキドキ…


幽「「どうしたんです…?」」キョトン

女「「だって、前見てよ! もうすぐちょっとした峠だよ!?」」

幽「「そりゃそうですけど…峠ならいつも私がいたところを通ってるじゃないですか」」


女「「ああ、もうっ…解んないかなぁっ」」チッ

幽「「どーせ私には解りませんー」」ムッ…


女「「今、私は明らかに自分よりバイク暦長い二人…しかも片方は最上級のスポーツバイクを先導して、峠に差し掛かろうとしてるんだよ!?」」

嬢「「女さん、そう緊張なさらずに」」クスクス

女「「そんなの無理だよ、どうせ後ろからライディングの姿勢をじっくりチェック入れてダメ出しされるんだー!」」


姐「「そうね、よーく見させて貰うわ」」

嬢「「もう、姐さんったら…余計なプレッシャーかけないの」」

女「「うわああぁあぁぁん」」


姐「「ごめんなさい、ちょっと悪ふざけだったわね。女さん、いつも通りのライディングを心がけて」」クスッ

幽「「そうですよ、無理しようとしたら危ないですから…ねっ?」」


姐(…でも本当に、そのいつも通りのライディングを見させてもらうわ)

姐(聞いた話じゃ、地元の慣れた峠以外はワインディングの経験浅いとか)

姐(だから尚更ね──)


カツンッ…ヴォオオォォッ!!


女「「…よ…っと!」」

幽(よかった…いつも通りのペースと走り、できてる)

女「「このコーナー、気持ち良さそう! てーーーいっ!」」ギュインッ…


姐「「…女さん、もうすぐ左側にパーキングがあるはず。停まりましょう」」

女「「ふぇっ!? もしかしてダメ出しされちゃう…?」」ビクゥッ

姐「「そうね、ちょっとだけ」」

嬢「「姐さん…いちいち怖がらせるような言い方しちゃいけませんよ」」


………


…ドッドッドッドッ…ヴォンッ…コトンッ


女「…ぷぁっ」ファサッ

嬢「気持ちいい峠ですよね」ニコッ

女「それはそうだけど…これからお説教タイムでしょ…?」オドオド…


姐「お説教だなんておこがましいわ、アドバイスよ。少しばかり貴女よりバイク経験が長い私からの──」ニコッ


『──姐ちゃん、これはもう買った方が早いし安いよ』

『でも、私…これが初めてのバイクでっ』グスッ…

『解るけどなぁ…大事にしてたし。いいの探してやっからよ、な?』

『うぅ…なんであんななんでもないところで転んじゃったんだろう…そんなに飛ばしてもないのに』ポロポロ…

『あー…そういう理由の解らない転び方だったって事は、多分──』


女「転倒で初めてのバイクを廃車にしたんだ…」

姐「もう7年になるかしら、苦い思い出よ……カタナ250、初めてのヒトだった」

嬢「ヒトって」


幽《でも、その姐さんが気づかなくってお店の人が気づいた理由ってなんだったんです?》

女「姐さん、続き聞いてもいい?」

姐「ええ、もちろん話すわ。そこを知って欲しかったの──」


『──コーナリングの姿勢……はい、それは確かに習った…けど』

『一番の基本はリーンウィズだ。バイクを寝かす角度とライダーの身体の軸を同じにする、最も素直な姿勢』

『あと二つ…リーンインとリーンアウトですよね』

『そうだ、バイクの角度に対してより身体をイン側に寝かしこむリーンインと、逆にバイクよりアウト側に身体を立てるリーンアウト』


『姐ちゃんはいつも、コーナリングをどの姿勢で抜けてると思う?』

『基本的にはリーンウィズのつもりだけど…少しアウト寄りかも』

『だったらかなりリーンアウトに寄ってるだろうな』

『えっ』


『これは初心者が非常に陥りやすい事だ。ハングオフは別として、さっきの三つの姿勢…それぞれのメリットって解るかい?』

『メリット……リーンウィズは、万能?』

『間違っちゃないな、けど全てに優れてるってわけじゃない。バランスが中間どころだってだけだ』

『………』


『いいか、初心者ってのは比較的リーンアウトに寄りやすいんだ。ましてや自分でもそうなってる意識があるなら尚更だろうね』

『初心者向けだから…?』

『…答えはNOだ、リーンアウトは決して初心者向けじゃない。そもそもそれぞれの姿勢は慣れてきたからこのタイプ…って固定するものじゃない』


『じゃあ、なぜ初心者がリーンアウト寄りになってしまうの?』

『怖くないからだよ、本当は怖い姿勢なのに』

『怖いのに怖くない…』


『リーンアウトの姿勢をとると、身体は比較的真っ直ぐに立ち上がる事になるし、なにより視界がいい。高い位置、しかもコーナーの外側から先を眺める事になるからね』

『…確かに』

『初心者に限らず、先の見えないブラインドコーナーは怖いものだ。それに身体が起きているから、バイクを深く寝かす恐怖感も薄れる』

『はい』コクン


『そして……格好がいい、違うかい?』

『うっ…』ドキッ


『…それが一番タチが悪いんだ。初心者ほどタイヤを端まで使ってバイクを深く寝かすのが格好いいと思ってしまう。そしてそれを再現しやすいリーンアウトに寄ってしまう』ヤレヤレ

『再現しやすい…』

『うん、身体を外側に逃がしておきながら他の姿勢と同じだけ重心を移動するには、当然よりバイクを寝かす必要がある…自然にバンク角は深くなるよ』

『…はい』


『リーンアウトのメリットは恐怖心が薄れる事じゃない。視界がいい事と、コーナリング中の僅かな姿勢制御が素早くできることだ。つまり通常、低速で非常にきついコーナーを抜ける時に有効なんだよ』

『………』

『そうきつくない中速コーナーで、それでもけっこうバイクを寝かしこんで駆け抜ける…格好いいと思わなかった?』

『うっ』ギクッ


『そして、カタナを潰してしまった転倒…それもそんなコーナーだったんじゃないかい──?』


姐「──バイクを寝かせば寝かすほど転倒のリスクは高まるなんて、当たり前の事なのにね」

女「なるほど…」

姐「だから無理し過ぎてはいないつもり、そんなにキツくもないつもり…っていう中速コーナーで、理由も解らず転ぶのよ」


幽《確かに、女さんも基本リーンアウト寄りで走ってると思います》

女《うん…自覚ある、カッコいいと思ってた…》シュン…


嬢「やっぱりコーナリングの姿勢は使い分けです、基本はリーンウィズとして」

姐「そうね、間違ってもタイヤを滑らせたくない高速コーナーや砂が出てそうだったりグリップの低そうな路面なら、バンク角度をつけないリーンイン」

女「そもそも遠心力の弱い低速のヘアピンでは、姿勢制御のしやすいリーンアウトって事だね」

幽《納得…》


姐「この峠を抜けるまで先頭を代わるわ…よかったら眺めてて頂戴──」


………


──ギュオオオオオォァアァァァンッ!


姐「「思い返せば自分の転倒の時もそうだったと思うけど、グリップを失って転倒するのは立ち上がりでアクセルを開ける時が多いわ!」」

嬢「「同じバンク角をつけた状態でも、加速しようとすれば遠心力は増しますからね」」

女(綺麗なリーンウィズ…ほんの僅かに身体の軸がイン側にずらされて、リヤタイヤの接地面から真っ直ぐに重心が通ってる)


幽「「いい感じの中速コーナーですよっ」」

女「「ハングオフまで寄らないけど、手前からサッとイン側に軸を寄せて……」」


姐「「リーンインのメリットはバンク角が浅いから、タイヤがグリップを失いにくい事……! そしてそれは──」」ヴォンッ…!

女(立ち上がりが速いっ…!)

姐「「──横方向へのグリップだけじゃないのよっ!」」ギュオオオォァアァァァッ…!


女「「そうか…ある程度バイクを起こさないとアクセルは開けられない。リーンインだとバンク角が浅い分、早くそれが可能になるんだ」」

嬢「「そういうことです」」


幽「「たしかに大きく車体を寝かすリーンアウトは格好いいですけど、さっきの姐さんの走りもすっごく素敵でしたねっ」」フンス

姐「「ちょっ…へ、変なこと言わないでっ」」アセッ…

嬢「「あらあら? コーナリング姿勢がおかしいですよ?」」クスクス

姐「「うるさいわよ! お嬢っ!」」



【「好きな体位は?」の巻】おわり

すんません
ちょっと忙しいのと季節モノ書いてまして
遅くとも11月になったら本気出す


【「カブとハーレー」の巻、前編】


……………
………


…ドルルンッ…カチッ


女「ん……ふわっ」ファサッ

幽《着きましたー、温泉街ー!》


嬢「ふぅ…先導役お疲れ様でした」

姐「なかなか安定したペースで、後続も楽だったわよ?」

女「えへへ、よかったー」


幽《公営の駐輪場、色んなバイクが停まってますねー》キョロキョロ

女「う、うん…」

幽《広いからグループ毎に別れてるんでしょうね。あそこの一角、すごいスポーツバイクばっかり》

嬢「あっちは2ストレプリカの集まりみたい。KR-1や後方排気のTZRもいますよ」


姐「ちょっと、会話が虫食いのように感じるんだけど?」ジロッ

幽《あ、そうか…今は私の声、姐さんには聞こえないんですね》

嬢「はいはい、ごめんなさい。ちゃんと中継しますからね」ナデナデ

姐「こらっ、頭を撫でるのやめなさいっ」


女「………」

幽《…女さん?》


嬢「あ、今度はネイキッドスポーツの集団ですよ」

姐「ゼファーにCB750、XJR、ビキニカウルのZRXなんかもいるけど。あら、ザンザスは珍しいわね」


幽《女さん、どうしたんです? さっきから黙って…》

嬢「…女さん、大丈夫ですよ。私のエストレヤもいるでしょ?」

女「うっ…」ギクッ

幽《…?》


姐「ああ…もしかして、メンバーのバイクジャンルがバラバラなのが気になるの?」

女「…バレちゃった。でもジャンル…っていうか──」

嬢「──VTRもロードスポーツよりのバイクだからこそ、隼と同じグループにいるのがアンバランスに思えるんでしょう?」クスッ


女「…このバイクの事、大好きなの」ポツリ

姐「ええ」

女「でも、やっぱりロードスポーツ系のバイクの中では排気量もサイズも小っちゃくて」

嬢「…まあ、そうですね」

女「やっぱりこういうところに来ると周りのバイク見ちゃうから…それはつまり周りからも見られてるって事で」モジモジ

幽《女さん…》


女「エストレヤみたいなクラッシックスタイルなバイクは、ある意味250ccとか400ccくらいが王道的なカテゴリーだと思うの」

嬢「でもネイキッドやツアラーは大排気量モデルが幅をきかせてるから…ある意味コンプレックスがあるんですよね?」クスクス

女「うん…だけど、それを気にするのが自分の愛車に対して後ろめたくて」シュン…


ドドドドドドドッ…!


幽《わ…アメリカンの大集団がきましたよ》

嬢「20台近くいそうですね」

姐「…女さん、彼らを見てごらんなさい」

女「え?」

幽《え?》


姐「先頭はハーレーのファットボーイね、次はスピードスター。…でも、ほら」

嬢「その次はドラッグスター1100みたいです」

女「そうだね…?」キョトン


姐「その数台後ろ、小柄だし女性かしら? ドラッグスターの250がいるわ」

嬢「懐かしのエリミネーター250SEも混じってますよ」


幽《うわ、しかもその後ろの一台すごく大きい!》

嬢「トライアンフのロケットスリー。エリミネーターの約10倍、排気量2300ccですね」

女「………」


姐「女さん、そしてあの最後尾から二番目のバイク…解るでしょう?」ニコッ

幽《女さん、あれって》

女「解らないわけない」

嬢「ですよね」クスッ

女「Vツインマグナ…だよ」

幽《マグナ…VTRと同じエンジンの》


姐「…あら、今度はえらくバラバラな大所帯が来たわ。どこかのショップ主催のチームかしら」

嬢「本当ですね。CB1300にニンジャ250R、セローやジェベルも混じってるし…あははっ、中には100カブもいますよ」ニコニコ

女「うん」


幽《反対からは10台もいないけど、随分小さいバイクの集団が…》

嬢「モンキーやエイプ、ゴリラ。ああ…やっぱり最近はグロムも混じるんですね」


姐「みんなナンバーは黄色やピンクだけどね。…女さん、彼らはみんな小型自二の免許しか持ってないと思う?」

幽《小型って125ccまでの免許ですよね》

女「中には小型しか持ってない人もいるかもしれないけど」

嬢「きっと多くの人は普通自二を取得してますよね」


姐「じゃあ、女さん。さっきのアメリカンのチームやバラバラな大所帯のグループを見た時にね──」

女「?」

姐「──その中のマグナや100カブを『周りに合ってなくて格好悪い』って思った?」クスッ


女「…思わなかった」

幽《女さん…》

嬢「それが全てですよ、ねっ?」ニコッ

姐「そういう事、続きは温泉に浸かりながら話しましょうか──」



【「カブとハーレー」の巻、前編】おわり


【「カブとハーレー」の巻、後編】


……………
………


…チャプーン


幽《──青空の下で浸かる露天風呂とか、最高ですねー》

女「うん、そだね」


嬢「寒い時期に熱いお風呂もいいけど、暖かい時期にぬるめのお湯で長風呂もいいですよね」

幽《私、死んだ時にまだ学生だったし、温泉とかあんまり来たこと無いんです。嬉しいなー》ニコニコ

女「そっかぁ、じゃあこれからあちこち行こうね」


嬢「でも幽さん、そうやってお湯に浸かっててちゃんと暖かいの?」

幽《ん…そこは雰囲気だけです。ほら、お湯が全然私の身体の影響受けてないし、制服のままでもそれが濡れたりしてないでしょ?》

女「それはなんとなく残念だなー」


姐「……ごほんっ」

嬢「あ、ごめんなさい、また会話が虫食いになっちゃいましたよね」クスクス

女「幽がね、お湯に浸かっててもその温度やお湯の感触は解らないから、残念だなーって」

姐「ああ…それは確かに残念ね。誰かの身体に憑依するとかできないのかしら」チャプン

幽《やろうとした事がないなぁ…》


嬢「たぶんできますよ? 幽さんがその身体に入る気になって、その人は幽さんを受け入れる気になれば」

女「…なんかお嬢って、妙に詳しいね?」

嬢「ん? えへへ…まあまあ、それはいいからやってみたらどうですか?」

幽《むむ…女さん、いいです…?》

女「もちろん」


幽《じゃ…じゃあ、女さん…入りますよ…?》ドキドキ

女「う、うん…受け入れるイメージをすればいいんだよね。いいよ、来て…幽」ドキドキ

嬢(自分で言っといてなんだけど、言い回しが若干いやらしかったなぁ…)ドキドキ

姐「?」


…スゥーーーッ


女「んっ…」ピクッ

幽女「…入れ…た? 女さん?」

嬢「上手くいったみたい。たぶん今は女さんの意識は途切れてるはずです。どうですか、湯加減は?」

幽女「あったかーい…幸せ…」ニヘラ


姐「お嬢、今は女さんには会話も聞こえないの?」

嬢「ええ、眠ってるみたいなものだと思いますよ」

姐「そう」


幽女「えへへー。ごめんね女さん…久々のお風呂の感覚、もうちょっと味合わせて下さいねー」チャプチャプ


姐「…でも、やっぱり普通自二に乗ってると、大型に対するコンプレックスがあるものよね」

嬢「そりゃそうですよ、大きなバイクにはどうしても憧れますし」

姐「お嬢は乗れるじゃない、それに──」

嬢「──姐さん、免許の事はともかくその先は今は内緒です。女さんが余計にプレッシャー感じちゃう……って、幽さん聞いてなさそうだけど」クスクス


幽女「はー…極楽ごくらく…」ウットリ


姐「コンプレックス…でもそれは大型乗りにも悪いところがあるのよね。250や400を軽んじた態度をとるライダー、実際にいるもの」

嬢「そうですね」


幽女「…んーと」モゾモゾ


姐「私はVTR250、素晴らしいバイクだと思うわ」

嬢「もちろん、エストレヤも負けませんけどね。…勝負する事じゃないですけど」


幽女「…んっ」ピクン


姐「じゃあ、そろそろ女さんにその事を再確認してもらわなきゃね」

嬢「そうですね。…幽さん、いいかしら?」

幽女「え? …あ、はい。そのまま出るつもりになればいいのかな…」

嬢「ええ、自然に出られるはず」


幽《よっ…と》スルッ…

女「ふぁ…? あれ? 幽…出たの? なんか一瞬の事みたいだった…」キョロキョロ


嬢「うん、やっぱり眠ってるようなものみたいですね。幽さん、よかったら今度は私に入っててもいいですよ?」

幽《え、いいんですか?》パァッ

嬢「ええ、姐さんは女さんにさっきの続きを話すつもりだから」ニコッ


幽《えへへー、じゃあ遠慮なく…お邪魔しまーす》

嬢「はい、どうぞー」


スゥーーーッ…


姐「…ふぅ、ちょっと逆上せてきたわ。腰掛けるわね」ザァッ…

女(ぐぬぬ…豊かなお胸、羨ましい…)ゴクリ


幽嬢(女さんの時よりお湯がぬるい気がする…人それぞれの感覚の違いなのかな?)チャプン


姐「…で、さっきの続きだけど」

女「うん」

姐「私はね、大型に乗ってるから…女さんには共感しにくいかもしれないけれど」


幽嬢(やっぱり女さんより小柄だなぁ…私と変わらないくらい?)


姐「バイクってね、どれも魅力的だと思う。大型だろうと普通二輪だろうと、小型でも原二でも…50ccの原付だって、それぞれの楽しさがあるわ」

女「うん…それは解る気がする」

姐「もちろんサーキットでVTR250が隼に勝負を挑むのはアンバランスだとは思う。でもそれがジムカーナならどうかしら」


幽嬢(おお…お肌すべすべだ…お手入れしてるんだろうなぁ)シミジミ


姐「さっきのモンキチ集団、きっと普通二輪以上の免許を持つ人もいるのに、あえてあのバイクを選んだのは決して安いからじゃないと思う」

女「どのモンキーもエイプもかなりパーツ変えてて、きっと総額を言えば普通二輪なんか買えちゃうよね」

姐「そうね、ただあのバイクが好きなのよ。さぞ面白いんだろうと思うわ、乗るのも改造するのもね」


幽嬢「……んしょっ」モゾモゾ


姐「125cc以下のバイクは高速道路を使うツーリングには同行できない。原付が小型以上のグループに加わるのは無理がある…それらは仕方ない事」

女「30km/h制限だもんね」

姐「でも、同じ条件の仲間と共に同じ風を浴びて走る。そこに大型と原付の違いなんてないわ」

女「うん、そう思う」


幽嬢「………」モジッ


姐「自分のバイクが一番!…と思っておけばいいのよ、みんなね。見せびらかしちゃえばいいの、大丈夫…赤のVTR格好いいわよ?」

女「あはは…ありがとう、姐さん」ニコッ


幽《…お邪魔しましたー》スルッ…

嬢「ん…? もうよかったんですか?」

幽《はい、ありがとうございました。…えっと、それで──》チラッ


女「…あ、幽ったら」クスッ

姐「うん?」

嬢「あはは、姐さんに入ってみたいんでしょ…?」クスクス

幽《えへへ、バレましたか》テヘッ


姐「ああ…できるのならどうぞ? 私の話はちょうど終わったわ」

幽《わーい、じゃあ続けてお邪魔しまーす》ウキウキ

嬢「姐さん、受け入れるイメージですよ」

姐「こうかしら…?」


スゥーーーッ…


幽姐(おお…腰掛けて見下ろす視線の高さに違和感、やっぱり背が高いなぁ)


嬢「ふぅ…それで女さん、姐さんからどんな話を聞きました?」チャプン

女「えっと…色々だけど、とにかく自分のバイクが一番って思っておけばいい…って」

嬢「なるほど…でも、やっぱりどうしたって大型のバイクには憧れるでしょう?」クスッ

女「そりゃあ…もちろん」


幽姐(いやはや…なんというか、下を向くとすごい迫力…。なんか恥ずかしいや、お湯に浸かろう)ドキドキ…チャプッ


嬢「私、自分のバイクはエストレヤだけど免許は大型持ってるんです。だからあれこれ乗らせてもらった事はあるの」

女「そうなんだ」

嬢「きっとみんな、自分のと全然違うバイクって乗ってみたいんです。ハーレーに乗りでも機会があればNSR250に乗りたがるはず」

女「…確かに私も大型にも憧れるけど、KSRとかにも乗ってみたいや」


嬢「一度マジェスティに乗らせて貰ったことありますけど、ビッグスクーターってズルいくらい快適。あれはあれでいいものだと思いますよ」

女「うん」


幽姐(すごいなぁ…胸って重いんだ…)


嬢「250ccって維持費の面とか楽ですし、逆に言えば大型って買う時も維持するにも比較的お金がかかる…つまり贅沢なものです」

女「そうだね、だからこそ余計に250cc以下ってお手軽バイクなイメージがあるよ」

嬢「うん、でもそれって決して悪い事じゃないですよね」

女「もちろん、すごく助かってる」


幽姐「……えいっ」モゾモゾ


嬢「女さんはVTRが初バイクでしょうし、社会人としてもまだまだ駆け出しでしょう?」

女「うん」

嬢「そんな人がバイクを選ぶにあたって、ちゃんと求める性能は満たす上に購入費や維持費に有利…って、立派な理由だと思います」

女「…400ccも考えたんだけどねー、まさにその理由もあって250ccにする事にしたの」


幽姐「………」ピクッ


嬢「車検が無いって、やっぱり楽ちんですよ。…そして一番大事な、最終的にVTRにした理由は?」

女「一目惚れしたからだよ! あのトラスフレーム、自分にぴったりのサイズ…全部気に入ったから」

嬢「じゃあ、やっぱり姐さんの言う通りです。カブでもハーレーでも、持ち主にとっては……ねっ?」ニコッ

女「うん! 私にはあの子が一番だよ、見せびらかしちゃう!」ニパッ


幽《じゃあ、おっぱ…じゃなかった、お風呂堪能させてもらいましたし、出まーす》スルスルッ…

姐「ん…? あぁ…本当に一瞬に感じるのね」チャプン


幽《三人ともありがとうございました。久しぶりのお風呂の感覚、すっごい気持ちよかったです》ペコッ

女「どーいたしまして」

嬢「いえいえ…姐さん、ありがとうって幽さんが」

姐「いいのよ、運転中じゃなければいつでもどうぞ。…それで、女さんはお嬢とも話したのかしら?」


女「うん、大きなバイクにも憧れるし小さくてヤンチャなバイクにも乗ってみたいけど、やっぱり自分のが一番だよ」フンス

幽《そうそう、大事なのは大きさじゃないです!》


嬢「バイクも、女性の胸も…ですか?」

幽《えっ!?》ギクゥッ


嬢「女さんの時も姐さんの時も、感触を確かめてたでしょう?」クスクス

姐「…虫食いでも何となく話が読めたわ」

女「うわ! 幽ひどいっ、自分が一番小さいって判ったから話題に出さないようにしてたのに!」フルフル…

幽「だ…大丈夫ですよ! 感度は女さんが一番良かったですっ!」アワワワ…

女「ちょっ!? 余計な情報まで追加するなっ──!」



【「カブとハーレー」の巻、後編】おわり


【「旅先の甘い思い出」の巻】


……………
………



女「──旅といえば!」ジュルル

姐「しかもオンナばかりとくればね」

嬢「うんうん」ニコニコ

幽《こうなりますよねー》アハハハ


女「この辺ってお茶の産地なんだね」

幽《すっごい見た目も綺麗…》

嬢「ほんと美味しいんですよ、ここの抹茶パフェ」


女「……美味っしーい…しやわせ…」トローン

幽《女さんっ》フンスフンス

女「わ、解ってるってば、あとで憑依させてあげるから」


嬢「あはは…今までは女さんの食事の時、見てるだけだったんですか?」

幽《はい、でもユーレイになるとあんまりお腹は減らなくて》

女「じゃあ今もいいじゃん!」ムムッ

幽《甘いものはお腹が減ってなくても食べたいんですー》ベーーッ


嬢「女さんは家ではあまりお菓子とか食べないんですね、偉いなー」

姐「私もあまり普段、甘いものは食べないわ」

嬢「姐さんはその分お酒を飲むじゃないですか、辛目なおつまみも欠かさないし」

姐「ぐぬぬ」


幽《女さんの普段の食事、貧相ですよー? 昨日なんかスーパーで一玉30円の焼きそば麺と野菜をケチャップで炒めて、なんちゃってナポリタン》

嬢「うわぁ…」

女「その情報、必要だったかなー」ジトー

幽《だからいつも別に食べたくならないんですもん》


女「すっ……」

嬢「ん?」

女「……っごく、ケーキとか食べたくなるんだけどね。太りやすい体質みたいで…」シュン…


姐「あら、そんなに細いのに」

幽《ですよねー?》チラッ

女「ちょ、どこ見て言ってんの」


嬢「大丈夫ですよー、きっとちょっとくらいなら胸から育ちますって」ニヤニヤ

女(絶対信じない! 脂肪がつくのは胸が最後、落ちる時は胸が最初!)ムキーーッ


嬢「でもやっぱり、ツーリングには美味しいものを食べるって目的がつきものですよね」モグモグ

女「んー、そうかも。あんまり女一人で入れるお店知らないけど」


姐「前にお嬢と二人で行ったダム湖畔にあるお店のタコ焼きは美味しかったわ」

嬢「ああ、そう! 広島空港近くの○竜湖ですよね! 道の駅の向かいにある店、特にソース味じゃなく塩マヨが絶品でした…」

姐「そのまま瀬戸内海に出て寄った尾道のラーメンも美味しかったわ」

女「塩マヨタコ焼き…尾道ラーメン…」ジュルッ

幽《タコ焼きなら甘いものじゃなくても食べたいなぁ…》ジュルル


姐「うどん県のそれこそうどん屋さんを巡った事もあるし、そうそう…長崎までちゃんぽんを食べに行った事もあったわね」

女「九州や中四国って、もちろん泊りがけだよね」

嬢「ええ、さすがにオンナだけでライダーズハウスってのも使いにくいから、旅館とかホテルに泊まりましたけど」


女「いいなー、長期の休みには泊まりツーリングもしてみたい」

嬢「折り返しを考えなくていいってことは、片道倍以上の距離を走れるわけですから、すごくワクワクしますよ」


幽《女さん、北海道行きましょうよ! 私、行ったことないです!》

女「いきなり北海道は遠すぎるよ、着くまででも一泊じゃきかないじゃない」

姐「バイク北海道を走るなら、このへんではフェリーでの旅が一般的ね」

幽《船旅でバイク旅かぁ…すごく楽しそう》ウットリ

女「ちょ、時間とかだけじゃなくてお金の問題もあるからっ! まずは一泊か二泊、そうだなぁ…伊勢志摩とか」


幽《えー、伊勢うどんはそんなに興味ないけど…》

嬢「カツオの手こね寿司…」ボソッ

幽《いいですね! 伊勢志摩!》キランッ


姐「まあ、どこの地方に行こうと美味しいものはあるわ。是非また一緒に行きたいわね」

女「うん、楽しみ」ニコッ

嬢「家で貧相な食事を摂る女さんのためにも、食い倒れツーリングでも企画しますか」


幽《やったね、女さん! おっぱいも育つかも!》

女「あ、もういい、私これ全部食べる」ガツガツガツ

幽《えっ!? 待って! いや、ごめんなさいいいいぃいぃぃ──!!》


【「旅先の甘い思い出」の巻】おわり

良い場所教えてくれてどうもありがとう。
いつか行って食ってみるわ。

レスさんくす

>>266
察しがつくなら是非どうぞ
タコ焼きと尾道ラーメンは実際にツーリングした時の写真、あとは拾い画像

飯テロ失礼しました


【「名を冠する者」の巻】


ズキュキュッ…ドロロロォンッ
…ドッドッドッ…


姐「「同期できたかしら、感度は?」」

嬢「「ばっちり聞こえてますよ」」

女「「クリアだよー」」

幽「「感度は女さんが一番です」」


女「「幽、しつこい」」

幽「「あい」」


女「「えっと、この後は国道を西へ?」」

嬢「「はい、言ってた通り姐さん馴染みのミニサーキットに寄りましょうか」」

幽「「うわぁ…サーキットとか、初めて行きます」」

姐「「ほんとにアットホームなところよ、身構える必要なんて無いわ」」クスッ

嬢「「よく四輪でも二輪でも、ジムカーナ大会が催されてるところなんですよ」」


姐「「途中で県道に逸れるから、ここからは嬢が先導してくれる?」」

嬢「「はいはい、トコトコいきますね」」

幽「「じゃあ私達は二番手ですね」」

女「「よろしくー」」


トロロロオォンッ、トコトコトコトコ……


嬢「「次の車が通り過ぎたら出まーす」」

女「「了解」」

姐「「待って、その後ろ……けっこう飛ばしてるわ」」

幽「「ほんとだ、そんなに速そうな車じゃないのに」」


ヴォオオオオォオォォォ……


姐「「……下品な音」」

嬢「「スポーツサウンドとは言い難いですね、そもそもスポーツ走行する車じゃないですし」」

幽「「車高も低ーい、ミニバンなら乗り心地いい方が良さそうなのに」」

嬢「「じゃあ、いきますよ──」」


幽「「やだなぁ……さっきの車、前の紅葉マークの軽にあんなにくっついて」」

嬢「「黄線じゃないし、煽るくらいならサッと抜いた方がスマートなのに」」


女「「ステップワゴンかー、ああいう改造施してるの多いねー」」

姐「「車のせいじゃないけれどね、乗り手のセンスよ」」

嬢「「家族や仲間で広々快適に乗るためのジャンルですからね、本来」」

幽「「車名のロゴの下にもうひとつ……なんて書いてるだろ、SP…」」


姐「「『SPADA』よ、聞いたことあるでしょう?」」

嬢「「今、あの前の車を見ながら語られるのは女さんには不本意かもしれませんね」」クスクス

幽「「んん…?」」


女「「ホント、今は不本意。いやホンダのせいでもステップワゴンが悪いんでもないんだけど」」ムスー

幽「「あ……もしかして、VTRのご先祖さま」」

姐「「そう、同じホンダの二輪VT250スパーダのネーミングをグレード名に継いでるわ」」


幽「「なんでだろう、スポーツカーなら似合いそうだけどミニバン……」」

嬢「「まあ同車の中では外観を中心にスポーツルックに作られたグレードですからね」」


女「「CMじゃ『スーパーダディ』とかモジッてたよ?」」

姐「「……もしかしたらそこに理由がある気もするわ」」

嬢「「あー、あるかも」」

幽「「そこに?」」


姐「「ステップワゴンにスパーダってグレードが登場したのは二代目、2000年台前半頃だったと思うの」」

嬢「「そしてVT250スパーダは1990年頃のバイク、その頃に18~20歳だった人が十数年後、どんな車を必要とすると思います?」」


幽「「あ、そっか…家庭を持って子供ができて、ダディになってたり」」

女「「その時、昔乗ってたバイクの名を冠したミニバンがあれば、それを選ぶ率は上がる……かぁ」」


姐「「本当にそうかは解らないけれどもね、そういう考えもあったのかも」」

嬢「「あとはあれです、商標を既に取得してるから……とか」」

女「「企業って……」」チッ


嬢「「はーい、県道に入りまーす」」


トロロロロッ…
ドルンッ、ドルルルルルッ…
ギュウウウゥゥンッ…ォォォォォォン──


女「「やっと変な車から離れられたー」」

嬢「「変なのは乗ってる人ですから」」

幽「「そうそう、車は悪くないです。名前を引き継いでるからって偏見もっちゃダメですよ」」

女「「むー…」」


姐「「全然違うジャンルに思えるものに車名を引き継ぐって、けっこう例はあるわ」」

嬢「「そうですね、最近だとスズキのハスラーとか」」

幽「「あー、CMすっごくよくしてた」」

女「「バカ売れしてるみたいだね。そっか……そういえばオフ車のTSもハスラーの愛称だったっけ」」

姐「「まあその例は軽自動車のハスラーも少しオフテイストだから、頷けなくはないけど」」


姐「「スクーターのトゥデイも軽自動車の名前よね」」

嬢「「ビートは逆パターンですし、ホンダの例って多い気がします」」

女「「だって国産バイクのメーカーで二輪と四輪両方作ってるのはホンダとスズキだけだもん」」

姐「「ヤマハのSRVは……」」ウーン…

嬢「「さすがにプレジャーボートのSRVとは関係ないんじゃ?」」クスクス


女「「でもその内『セピア』とかって名前の車は出そう」」

嬢「「『フォルツァ』とか『サベージ』もありそうですね」」

姐「「『ハヤブサ』を軽自動車の名前につけたら許さない……」」ブツブツ


女「「おー、すごく見晴らしのいい直線道路──」」


──ヴォオオオオオオォォォアアァァッ!!


幽「「きゃ…!? すごい追い越しスピード…」」

女「「黒いバイク……私達の前で減速したよ…?」」

嬢「「あらら…重なっちゃっいましたね。あのヒトも同じサーキットに行くみたい。熱くならないようにね、姐さん?」」


幽「「知ってる人なんですか?」」

女「「わざとらしく左右に蛇行して挑発してる……あ、行っちゃった」」


姐「「……公道であんなにスピード出して、相変わらずみたいね」」

嬢「「メーカーやジャンルどころか、走る舞台まで違うし関係ないのかもですけど」」

姐「「CMで似せた飛行機まで登場させておいて、意識してないなんて言わせない」」


幽「「飛行機?」」

女「「車名の由来よ、引き継ぐのとは違うけど」」

姐「「サーキットに着いたら文句言ってやるんだから」」

幽「「なんて車名なんです? さっきの大きなバイク」」


嬢「「米空軍の超高速偵察機を意識して……」」

姐「「その名はCBR1100XX『スーパーブラックバード』、隼がデビューするまでの世界最高速量産車よ──」」


【「名を冠する者」の巻】おわり

(書き始めてます)


【「希望の轍」の巻】


ドルルルルッ…ヴァオオオォォォ…


姐「「………」」イライラ

嬢「「姐さん、無言でもインカムから不機嫌さが伝わってますよ」」

女(さっきのブラバ、なにか因縁のある人だったのかなぁ…)


幽「「あ、ほら、姐さん! 対向車にすごい車がいますよ!」」

女「「わあ、ロータスのエリーゼだね! 格好いい!」」

姐「「……そうね」」

女&幽「「はぅあ」」


嬢「「もう、姐さんったらお二人にまで気を遣わせちゃって…」」


姐「「ごめんなさい、気分を切り替えなきゃね」」

女「「…そんなに仲悪い人だったんですか?」」


嬢「「仲が悪いっていうのとは違うかしら」」

幽「「ふむふむ?」」

姐「「何度か一緒にツーリングもした事がある関係よ」」


嬢「「姐さん、それ以前に伝えるべき情報があるでしょう?」」

女&幽「「……?」」

姐「「はぁ…そうね、さっきのブラックバードを駆っていたのは私の古い友人なの」」


姐「「高校の頃からの同級生、免許も一緒に取りに行ったわ」」

幽「「じゃあ、仲良しさん?」」

嬢「「…根の深いところでは、きっとそうですよ」」


姐「「解ってるわよ、彼女に敵意を持ってしまうのは……きっと私の僻みね」」

幽「「彼女…ってことは、女性なんですね。確かにバイクに対しては小柄だったかも」」


女「「姐さん、言いたくなかったらいいですよ」」

姐「「うん…ありがとう、女さん。どちらにせよ目的地に着いて面と向かえば紹介する事になるわ」」

嬢「「でも公道でスピードを出すのは僻みとか関係なくいけませんね」」


嬢「「じゃあ、気分転換のためにもBGMを爽やかなものに変えましょうか」」

女「「いえーい」」

幽「「わーい」」

姐「「でも音楽に集中しすぎるのはダメよ…って、今の私には言う資格無いわね」」

女「「まあまあ」」クスッ


≪BGM:You and I Both/Jason Mraz≫


幽「「透明感のある綺麗な曲ですね」」

嬢「「歌詞を訳せばちょっと切ないんですけどね」」


女「「洋楽ってこういうBGMにすると歌詞が風景を邪魔しないからいいよね」」

幽「「いくらメロディが似合っても、夏の青空の下を走ってて歌詞が冬の内容だと判ったらおかしいですもんね」」

女「「英語が判らない利点だね!」」


姐「「ふふっ…あはははっ」」

幽「「やっと笑ってくれました」」

嬢「「ねー? 姐さんったらたまに子供みたいなんだから」」

姐「「ごめんなさい、でもありがとう……やっぱりマスツーリングっていいものね」」


女「「こんな風に話しながらツーリングできるなんて、文明の利器のおかげだけどね」」

幽「「それが無くても私と女さんは話しながら走ってましたけど」」


姐「「…バイクって、ワインディングでもない限り一人で走ってると物事を考える時間があり過ぎるわ」」

女「「あー、わかるかも」」

姐「「今までだってお嬢が付き合ってくれる事は多かったから、随分恵まれてる方だけど…女さんや幽さんと一緒に走れて嬉しい」」

幽「「おおぅ、照れますな」」


姐「「二人とも、末長くよろしくお願いね」」

女「「こちらこそだよー、いっぱい知らないとこ走ろうね」」

幽「「いいなぁ…こういうバイク旅が夢だったんですよね、私──」」


嬢(──幽さん…)


【「希望の轍」の巻】おわり

今書いてるクリスマス短編終わったら必ず更新します、長らく滞ってすみませんでした


【ハロウィン閑話】※本編外

……………
………


…女と幽の部屋


女「──ハッピーハロウィーン!」

嬢「女さん、お邪魔しちゃってごめんなさいね」

女「何を言いますやら、オンナ2人ぼっちよりお客様がいた方が楽しいよ!」ニコニコ


幽《私だけじゃ不満なんですね……》

女「幽は私の同居人、家族だと思ってるよ?」

幽《口説かれちゃった!》キャッ

嬢「はいはい、ご馳走さま」クスクス


姐「ごほん……そろそろ乾杯しない? ビールは冷たい内に飲まなきゃね」

女「そだね、じゃあ何に乾杯しよう?」

嬢「4人で過ごす初めてのハロウィンに、とか?」

姐「それでいいわ、では」

幽《私もポーズだけしよっと》

女「せーの……」


一同「「「「かんぱーい!」」」」イェーイ!


………



女「しっかし、ハロウィンパーティーだなんて言ってもこれじゃただの宅飲み会だよね」

幽《部屋も特にハロウィンらしい飾りつけとかしてませんもんね》

嬢「バイクで集合したので、仮装しておくわけにもいきませんでしたから……」

姐「いいのよ、楽しい時間を分かちあえればそれで」


嬢「デザートにパンプキンパイは買ってきてますよ?」

女「やったね、私もかぼちゃプリンは用意してるんだ! 被らなくてよかった……」


姐「私はかぼちゃの種をオリーブ油で焼いたおつまみを持ってきたわ」

女「かぼちゃの種! パンとかにのってるのしか知らない!」

姐「あとでウイスキーを飲む時のアテにすれば、けっこう相性いいのよ」


幽《姐さん、お酒の事ばっかり……》

女「幽っ」アセッ

嬢「大丈夫です、聞こえません」シーーッ


姐「あら、なんて言われたのかしら? バイクはガソリンなのに、私の燃料はアルコールだ……って?」

幽《ひいぃ……悪口は次元を超えるんですね……》


………



姐「ここへ来ながら嬢と『もしかしたら女さんが仮装してくれてるかも』なんて話してたのよ」グビグビ

女「ごめんなさーい、そこまで手が回らなかったや……」

嬢「まあまあ、本来は訪問する側が仮装してるものですし」


幽《嬢さんはふわふわ可愛いし、魔女っ娘の衣装とか似合いそうですよね》

嬢「うふふ、ありがとう。でもさすがに20代じゃ照れ臭いわね?」クスッ

女「えー、イケると思うけどなー」


幽《姐さんはスタイルいいし、狐とか豹とかの耳と尻尾でも着けたら似合いそう》

嬢「身体は黒のレザースーツで?」

女「それ、普段のツナギを黒にしただけじゃ……」

姐「?」


女「じゃあ、私は?」

幽《女さんは……ぬりかべ……とか》チラッ

女「おい小娘、今どこ見て言った」フルフル…

幽《スミマセン》


姐「…………」グビグビ


嬢「ふふふ……でも仮装なんてしなくても、この部屋には本物の幽霊さんがいますから」

女「そうだ、幽が訪ねてくる役をやればいいんだよ」


幽《いいですけど、お菓子くれるんです?》

女「後でデザート食べる時に憑依させてあげよう。ただし半分は自分で食べるからね!」

嬢「じゃあ、プリンかパイどちらかは私が依り代になります」


幽《わーい! じゃあ、はりきっちゃいますよ! ……と言っても仮装はできないけど》

女「そのままでもJKコスプレじゃない」

幽《やだ! 女さん何だか今、目がやらしかったですよ!》キャー

女「へっへっへっ……こういうのは初めてかい?」ジュルル

嬢「こらこら、なんの撮影ですか」


姐「…………」プハ


幽《それじゃ玄関まで出るのもなんだし、この部屋のドアから入ってきますね!》

女「おお……本物のお化けからあのコールが聞けるとは」

嬢「これは贅沢ですね──」


姐「──ちょっと、置いてけぼりにし過ぎじゃない?」ムスッ

幽《あ……そっか、せっかくなら姐さんも声だけでも参加して貰えたらなぁ》

嬢「どうしましょうね……」

姐「まあさすがに話の流れは大体見えるけれどもね。だからこそ、その時くらい参加したいわよ」モジモジ


女「うーん……これは仕方ない。迎える側も仮装するしかないね」

幽《え──?》


トントンッ、ゴメンクダサーイ!
……ガチャッ


幽《──こんばんは! Trick or Treat!》

女「「ようこそ!」」

嬢「「こんばんは、ハッピーハロウィン!」」

姐「「いらっしゃい、お化けさん」」


幽《あの……インカム通せば聞こえるにしても、室内でヘルメット被ってテーブル囲んでるのってすごいシュールなんですけど……》

嬢「「普通の部屋着ですしね」」

女「「お気になさらず」」

姐(声は聞こえて嬉しいけど、お酒が飲めないわね……)ウーン…


………



女「ぷはー、美味しかったー!」

嬢「かぼちゃの種は瓶のカクテルともよく合いましたね」

幽《オリーブ油と塩ふってオーブン入れるだけですって》


女「バイクっていう共通の話題を持つ仲間での宅飲み、幸せだなー」ウットリ

嬢「ほんと、この雰囲気はなかなか他の人とは難しいですよね」

幽《いい女性ライダーのお仲間ができて良かったですねぇ》

姐「私もよく飲ん……ごほん、楽しかったわ。これからも時々こういう席を設けましょう」


嬢「でも毎回この部屋というわけにも……」

女「私は全然構わないよ?」

姐「春や初秋の気候が良い時季なら、ウチのガレージを使ってもらってもいいわよ。10月末じゃ流石に寒いけど」

幽《ガレージ飲み! なんか男っぽい! 全員オンナですけど!》フンスフンス


女「だけどまあ、寒い間はこの部屋でいいね。次はお鍋とか?」

幽《バイクで冷えた身体なら、より美味しく感じられそうですねー》

姐「鍋! いいわね!」キラーン

嬢「姐さん、食いつき過ぎです」


姐「フフ……飲める機会は多いほどいいのよ。じゃあ、いつにしましょうね? クリスマス?」

女「あはは、クリスマスに鍋かぁ」

嬢「もう、節操ないんだから」


幽《…………》

女「ん? どしたの、幽?」

幽《いえ……誰も『クリスマスは彼氏と過ごすから』とか言わないんだなぁ……って》

三人「「「うぐっ──!」」」


【閑話おわり】

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