魔王「対勇者兵器を雇いたいのだが……」 (22)

ー魔王の宮殿ー

ワイワイガヤガヤ

魔王「皆の者、静まれぇー!」

「魔王様だ!」
「今日も麗しゅうございますー!」
「魔王様ー!」
「モフモフしたいお!」

魔王「静まれと言ったそばからうるさくするなぁー!」

シンッ ……

魔王(今度は静か過ぎる……)

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魔王「えー、君達魔族に集まって貰ったのは言うまでもない」

魔王「この中から対勇者用の魔物を一匹、選出するためだ!」

ザワザワ

竜「ちょいと待ちな、魔王様は一人でも勇者に勝利してきたじゃねぇか」

竜「別に俺達の協力なぞ無くても良いだろう」

魔王「そう、私は今まで全ての戦いにおいて勇者に勝利している」

魔王「しかし……」

魔王「勇者まだピンピンしてんだよ! 擦り傷の一つも負ってねぇの!」

魔王「これっておかしくない!?」

竜「まぁなー」

ゴブリン「割とどうでもいい」

魔王「私は勇者の『息の根』を止めたいんだよ!」

竜「誰かが5で止めてやがる……」

ゴブリン「誰ですかねぇ」

人魚「あら、私じゃないわよ」

魔王「なに七並べとかしてんの!? 国の危機よりゲームの方が重要なわけ?」

竜「そう熱くなりなさんな。勇者だってすぐには来ねぇよ」

魔王「あいつら遊牧民族なんですけど……馬に乗ってパカラって来るんですけど……」

魔王「火矢とか平気で使うし……」

ゴブリン「ちゃんと馬止めは作ったのかい?」

魔王「いや……スライム程度なら」

ゴブリン「なるほど、これは統治者に問題がありますな」

ゴブリン「もっと早くから堤防を築いておくべきだったのですよ」

魔王「とにかく! 5分後に面接を開始するから各々準備するように!」

魔物達「ふわ~い??」

魔王(ぬっ……)

魔王(士気が低い……これでは勇者を屠れないではないかっ)

魔王(今まで通り一人で闘えば良かったのか……?)

魔王(いや、些細な事を気にしている様では魔王稼業はやって行けぬ)

魔王「ではNo.1、入れ!」

サラマンダー「こんにちは~」

魔王「君は何ができる」

サラマンダー「火が吐けます」

魔王「つまらん、却下」

サラマンダー「はい?」

魔王「火が吐けるなど、人間でもできる芸当だ。つまらんよ」

サラマンダー「え……」

魔王「おい、帰って良いぞ」

サラマンダー「えっえっ?」

魔王「No.2、入れ!」

ゴーレム「ウッス!」

魔王「君は何ができる」

ゴーレム「硬くてデカいです!」

魔王「素早くはないのか」

ゴーレム「ふぁい!」

魔王「なら却下、勇者は馬に乗っているのだぞ。君みたいな『でくの坊』ではまるで相手にならん」

魔王「帰って良いぞ」

ゴーレム「ショボーン」

魔王「No.3、入れ!」

竜「うぃーっす」

魔王「なんだ、君か」

竜「ゴーレムがメッチャ悲壮感漂わせて去って行くのを見たが、あんた何か言ったのか?」

魔王「ん、特に何も」

竜「馬鹿言え、また自信を打ち砕く様な事でも言ったのだろう」

竜「例えば『このでくの坊が!』とかさ」

魔王「ギクッ!」

竜(言ったな、こいつ)

竜「深い詮索はせんが、あまり冷たく接し過ぎない事をお勧めする」

竜「下剋上って言葉もあるしな」

魔王「……」

竜「ところで、俺は採用されんのかい? されないのかい?」

魔王「……却下」

竜「だろうな、何となく予想はしてたぜ」

竜「ま、落選者とポーカーでもしながら気長に見守るとするよ」

竜「わっはっはっは……」

魔王(冷たくするな……か)

その後も数え切れない程の魔物達が面接を受けに来たが、皆無惨にも却下されていった。

「アホウドリを自在に操る能力」却下!

「蟹味噌をスマートに抉る能力」却下!

「宇宙の真理を悟る能力」却下!

「取り敢えず芋を蒸す能力」却下!

「呼吸をする能力」却下!

魔王「ふぅ……ふぅ、もう却下と言い続けるのも辛くなって来たぞ」

魔王「最後の方はもはや能力でも何でもないな」

ゴブリン「結局全員不合格、ですか」

竜「そりゃ魔王のことだ、自分より優れた能力を持ってなけりゃ合格にはしないさ」

竜「なぁ、一つ気になったんだけどよ」

竜「魔王の能力って何なんだ?」

竜「俺達一度も見てないよな」

ゴブリン「確かに……」

魔物達「そうだそうだ! 他人の能力を批判ばかりしていないで、自分のも見せろ!」

魔王「うっ……!」

魔王(まさか無能力者、だとは言えまい……)

魔王(こうなれば!)

魔王「最終奥義を使うしかあるまいッ!」バッ

ゴブリン「あ、魔王様が逃げた!」

ゴブリン「逃げるとは卑怯千万!」

魔王「フハハハハー!」

魔王「『逃げるが勝ち』という言葉を忘れたかーッ!」

魔王「私はいつもこうやって勇者に勝って来たんだーッ!」

竜「魔王を城から逃がすな! おいサラマンダー、入り口を火の海にしろ!」

サラマンダー「もうしてるよ!」ゴォッ

魔王「愚かな真似を!」

魔王「そんなちゃっちい火、私には効か……」

魔王「あちッあちちッ!」

竜「思いっきり効いてるじゃねぇか!」

ともあれ城外へ躍り出た魔王様!

黄金色の朝陽を一身に受けながら立ち上がりました。

魔王「地平線から土煙が挙がっている……まさか!」

勇者「我に続けーッ! 魔族を皆殺しにするのだッ!」ドドドドド

騎馬隊「おぉー!!」ドドドドド

魔王「ヤッベ、勇者だ!」

魔王「もう能力見せる見せないの話じゃないよ」

魔王「気迫が違う、気迫が違い過ぎますって」

ゴブリン「遊びは終いだ!」

ゴブリン「魔王様をお守りするのが先です!」

勇者「フンッ」シュッ

勇者の弓から放たれた矢が空を切り、ゴブリンの喉笛を貫いた。

ゴブリン「おごッ……」バタ

魔王「1km離れた場所から放った弓矢が……あいつ化け物だわ」

勇者「我々は裏から回る。戦士達は正面から魔族を圧迫してくれ」

戦士「はいよ!」

勇者「30年間続いた因縁……今こそ終わらせる!」

勇者「もう逃がしはしないぞ、魔王!」

僧侶「そーれっそーれっ!」

ゴーレム「おぐぐ」ドサッ

僧侶「フーッ中々強かったね」

魔法使い「違うわ、私達の魔力が単に落ちただけよ」

僧侶「痛た……張り切ったら腰が痛くなっちゃった」

魔法使い「私達も今年で55、大分年食ったわねぇ」

魔王「ゴーレムもゴブリンも殺られてしまった……」

魔王「私が殺られるのも時間の問題かもしれない」ブルブル

竜「おいこら、待ちな!」

魔王「竜!」

竜「そんな抜け切った腰で逃げてちゃあ格好が悪りい」

竜「俺が東の都まで乗せて行ってやる」

魔王「……そうだ! あそこは私の息がかかった場所だ!」

魔王「至急東の都に撤退し、軍を立て直そう」

魔王「恩に切るぞ、竜」

竜「初乗り金貨5000枚だぜ」

魔王「はは、その落ち着きっぷりには敬服するよ」

僧侶「あ、何だかでっかいトカゲがびゅーんって空を飛んでる!」

魔法使い「どう考えてもドラゴンでしょう! ほら、さっさと撃ち落とすわよ」

魔法使い「少しでも敵を殲滅するのが勇者様の命令なんですからね」

魔法使い「良いこと? 私が火炎弾を放つから、僧侶さんはその弾道を調節するのよ」

僧侶「はいはい、ちょっと老眼鏡かけさせて下さいな」

僧侶「ややっ! よく見たら竜の首に魔王らしき女がしがみついてる!」

魔法使い「ほう、逃げようって算段ね」

魔法使い「悪いけど、もう『勝ち』の椅子には座らせない」

魔王「今回は本当に酷い戦いだった……」

魔王「前回まではたった四人のはずだったのに」

魔王「まさか騎馬隊を連れてくるなど……」

竜「魔王、また嫌な事から逃げちまったな」

魔王「は?」

竜「背中を見せて逃げまくって……そんなものが王と言えんのか?」

竜「こんな時だからこそ、軍の先頭に立って皆を鼓舞するのが真の王なんじゃないのか?」

魔王「竜族に説教を受ける気は無い」

竜「……済まなかったな、説教好きな竜で」

不意に竜の横顔を火炎弾が掠めた。

僧侶「うーん、年のせいか全然当たらないですよー」

魔法使い「火炎弾結構MP消費するんだから、調節しっかりしなさい!」

竜「フン、どうやら地上では楽しいシューティングゲームが始まったみてぇだな」

竜「お客様、こっから少々揺れますが、耐えられるよな?」

魔王「……うむ」

言葉の後、竜が急激に錐揉み回転をしながら急降下した。

その感覚はフリーフォールを頭から回転も付加し、落ちるのに似ている。

魔王(これっ少々じゃないっ!)

東の都付近を流れる川まで来た時、竜は魔王様をそっと降ろした。

竜「さ、勇者が来ない内に早く都へ行け」

魔王「……でも」

竜「お前には軍を立て直す使命がある、俺はあくまで兵士だからな」

竜「あのシューティングゲーム野郎二人や勇者と戦わにゃならん」

竜「いや、最後に一つだけ言わせてくれ。この先、お前を様々な困難が待ち受けるはずだ」

竜「しかしその時は、地に足踏ん張って困難に立ち向かって行け」

竜「死んでも逃げるが勝ちなんて思うなよ、嫌な事があろうと、指導者は逃げてはならないんだ」

竜「それだけ言いたかっただけさ」

竜「もし生きて帰る事ができたら、二人でポーカーでもしようぜ」

竜は大きな翼を広げると、バッと雲の彼方へ飛び去った。

……そのまま竜が帰る事は、無かった。

魔王「……皆、ありがとう」

魔王「私は間違えていたのかもしれないな」

魔王「これからは……逃げないよ」

この後、勢力を盛り返した魔王軍が勇者騎馬隊を見事撃破する事になる。

ーーーーー

竜「逃げてばかりの人生じゃ何も生み出せないんだぜ?」

ゴブリン「誰です5止めてる方!」

ゴーレム「ふぁい!」

竜「ちょw自らカミングアウトw」

ゴーレム「次のポーカーで巻き返すから良いもん!」

竜「……魔王とも一緒にやりたかったな」

ーFinー

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