男「この世界の英雄達へ」 (29)

 この世界は残酷だ

「離せ! 一体俺が何をしたっていうんだよ!」

『なにもしてないさ。ただ、お前は存在自体が罪なんだよ』

「ふざけるな!」


 力の無いものは、ただ死んでいく


 弱き民は、希望となる英雄を待ち望んでいた

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1

 東京。


男「はぁ・・・」

 この男、20歳。成人したばかりである


友「どうしたぁ?」

男「話したろ。彼女に振られたんだ」

友「マジか!?」

男「そうだよ...」

友「なんでよ?」

男「察してくれ」

友「...ああ」

男「...悪い。もう帰るわ」

友「え、飲みいかねーの?」

男「そんな気分にはなれないんだ」


 この男が歩き出すと、街行く人は必ずといっていいほど、振り返る。


男「はぁ...」


 別に芸能人なわけでも、特別顔が良いわけでもない。

 人々にとって、彼の存在はあまりにも眩しすぎたのだ。







 〔家〕


男「ただいま」

男「って言っても誰も居ないか」

男「・・・」ガチャッ

男「・・・」バタンッ


 冷蔵庫にはたくさんのわかめが入っている。

 男はそれを取り出した。


男「ふぅ...何とか就職は出来たんだけど、なぁー」

男「つまらん人生だ・・・」

男「努力は身を結ぶ、ねぇ」ゴロッ


 男はソファに横になる。

 
男「俺には生き辛い世の中だ」







 
男「っう。まぶしっ」グッ

男「・・・は...どこだここ」


 いつの間にか公園のベンチに寝転がっている。


男「いつ移動したっけ? てか今何時だ・・・」フラッ

男「うっ...妙にふらつくぞ」


「動くな!」


男「は?」

警官「お前は完全に包囲されている!」


 男の周りには10を越える警察官がいた。


男「なっなっ」

男(どうなってる...何で囲まれてるんだ!?)


警官「動いたら発砲する! すでに許可は下りているんだ!」

男「まっ待ってください! 俺...今何が何なのかわからなくて・・・」

警官「ふざけるな!」

警官「情況はお前自身が説明しているじゃないか!」

男「はっはい?」

警官「あくまでしらを切るつもりか・・・」

警官「お前はすでに、いるだけで罪だというのに・・・」

男(こいつら...やばいぞ)

男(逃げるしかない・・・)

警官「構え!」ザッ

男「!?」

警官「・・・」


警官「この世からハゲを根絶やしにしろ!」

2

男(今...何て言ったんだ・・・ハゲを...根絶やし?)


 プシュウウウウウ


警官「何だこれは!?」

男(煙幕?)

男「ゴホッ」


「こっちよ」グイッ


警官「おのれ...そこを動くなよ! ハゲ!」







〔廃墟〕


男「・・・」

「私は女。ここまで来れば大丈夫よ」


女「警官も追って来れない」

男「...助けてくれてありがとうございます」

女「いえいえ」

男「俺は何で警察官に囲まれていたのでしょうか?」

女「え・・・?」

 
 女は困惑した。


女「それは...あなたがハゲだからでしょ?」


男「! お、俺は確かに禿げてます...でも、だからって・・・何故!」

女「不思議なこと言うのね。名前は?」

男「男、です」

女「そう。男、あなた・・・今この世界がどうなってるか知ってる?」

男「? いえ」

女「・・・記憶喪失にでもなったの?」

男「...いや、ちゃんと記憶はありますけど・・・」

女「そう。なら今は何年?」

男「2014年です」

女「・・・」

女「今は2034年よ?」

男「えっ」


男(バカな・・・20年先の未来ってことか? でも、さっきここに来るまでに見た光景は20年先って感じはしなかった)

女「信じてない?」

男「・・・」

女「・・・20xx年。政府はハゲを絶滅させる命令を出したわ」

男「な、何故?」

女「ハゲになった人間は、ツルメテウス病だって言われているからよ」


 ※ツルメテウス病・・・一度かかれば死にいたる病気。これを持ってる人が死ぬとき、周りの人もこれになって死ぬ。


女「ツルメテウス病の完治は不可能。さっきの警官はあなたに麻酔銃を打ち込んで、人のいないところで殺す気だったわよ」


男「そんな...」

女「世界中でこんな感じよ。その中で、ここ日本では最もハゲ狩りが行われてるわ」

男「・・・あなたも?」

女「私? ハゲ狩りなんてしないわよ」


女「だってツルメテウス病なんて嘘だもん」

男「え?」

女「そんな症例は一つもない」

女「それなのに、世界中が信じてるってことは、相当の権力を持った人が世界の大物にたきつけているってことなのか...」

女「まぁ、とにかく! ハゲは悪くないのよ」

男「そ、そうですか」

女「でもこの流れを変えないとねぇ」

男「あの、あなたは何者ですか?」

女「ん・・・」


女「私は女だって。レジスタンスの一員」


男「レジスタンス?」

女「ハゲを守り、ハゲは悪くないってことを世界にわからせる組織。世界中にいるわよ」

男「す、すごい」

女「まぁ、表立った行動は出来ないけどね」

女「で・・・どう? あなたも入らない? レジスタンス」

男「! 良いんですか? こんな見ず知らずのやつを」

女「もちろん。それに今の世の中じゃあなただけだと生き辛いでしょ?」

男「はっはい...ありがとうございます」


3

男(この世界を、パラレルワールド・・・? 的な世界として)

男(俺はもと居た世界に帰れるのか・・・何故こんな世界に来たのか...)


 ポーン


女「着いたよ」


〔レジスタンス本部〕


男「地下にあるんですねぇ」

女「そうよ。ちなみに、日本の東京にあるのが本部だからね」

男「つまり、ここだと」


大工「おかえりなさい」

女「ただいま」

大工「おっ。またハゲた人見つけたんだ」

女「まぁね」

大工「兄ちゃんも大変だな。悪いことなんてしてねぇのに」

男「ええ、はい」

大工「まぁゆっくりしていきな。ここじゃあハゲ狩りなんてねぇからよ」

男「ありがとうございます」

女「じゃあ、男。まずは団長のところに行こうか」

男「団長・・・レジスタンスのですか?」

女「うん。あともう丁寧な言葉なんていらないよ。同い年でしょ、たぶん」

男「わかった」


〔団長室〕

 コンコン

女「失礼します」

男「失礼・・・します」


団長「おお、おかえり...新しい人だな」

男「男と言います」

団長「そうか、よろしく」スッ

団長「さっそくで悪いがこのプロフィール表を書いてもらえるか?」

男「わかりました」

男(団長、おっさんて感じだな)


女「特に変わった様子はありませんでしたよ」

団長「そうか・・・」

団長「市民に何を言っても無駄だな」

団長「一体誰がツルメテウスのデマを流してるのか・・・」


コンコン

友「失礼します」

団長「おお、友か」

男「!」


男「友・・・」

友「ん?」

男「お前...ハゲてる・・・何で...」

友「はは、新入りか? どれどれ」

友「ほう、男か。20歳」

男「ちょっ勝手にプロフィ見るなよっ」

女「二人は知り合い?」

男「・・・いや」


団長「友、そっちはどうだったんだ?」

友「全然駄目です。やつら話し合いにも応じません」

友「あと、カツラの完成度ももっと上げたほうが良いですよ。ハゲセンサーに引っ掛かりそうです」

団長「そうか。後で技術班に言っておく」


男「カツラ・・・」

女「外に行くときは必須よ」

男「書けました」

団長「おっ・・・ふむふむ。なるほど」


団長「良いよ。よくわかった」

団長「そうだ、男の部屋を案内してやってくれ。これからもよろしくな」

女「わかりました」

男「ありがとうございます!」







女「ここがあなたの部屋よ」

男「おおっ」

女「畳五畳分しかないけど・・・」

男「いやいや、一人部屋なだけで十分だよ」

女「そう? もう遅いし私も寝るわね」

男「あっおやすみ。今日はありがとう」

女「ううん、明日からレジスタンスの一員として働いてもらうから」

女「おやすみなさい」





男「ふぅー」


男「いろいろな事がありすぎだって」

男「まだ信じられねえよ。ハゲが殺される世界なんて」

男「これが...全部夢だったら」

男「・・・zz」

4

 ティイイイイイイ


男「っわ!」

男「目覚ましか・・・変わった音だな」





〔食堂〕


男「おはようございます」

友「おう、おはよう」

男「友・・・」

友「ん?」

男「俺が言えることじゃねぇけど、元気出せよ」

友「はぁあ? 俺はいつも元気だっての」ヒュッ


男「っと」パシッ

男「何コレ?」

友「栄養ドリンク。それ一本でほとんどの一日分の栄養を得られる」

男「凄いな・・・」

男「こんなものはあるのに、ハゲを治す薬とかはないの?」


女「そんなものがあったらノーベル賞ものよ。おはよう」

男「あ...おはよう」

女「さっそく仕事に行くわよ。これに着替えて」

男「これって・・・普通の服ですよね?」

女「ただの着替えよ。あとこれ」スッ

男「これは・・・」


 男は黒い塊を見つめる。


男「アフロ・・・カツラ」

女「あなたに似合うと思うけど」


友「ぶふっはは」

 ポーン

〔外〕

女「じゃあ、ばれないようにね」

男「おう」




 一時間前。


男「外に出る?」

女「そうよ。調査」

女「外にはハゲセンサーってものがたくさんあるから気をつけて」

女「もしハゲだってばれたら、人生の終わりよ」

男「わかった」




男(あのカメラ見てーのがハゲセンサーか)チラッ

女「こっちよ」

男「ああ」テクテク


警官「あのー」


男「!(昨日の警察官!)」ビクッ

女「はい?」

警官「ここら辺でこんな感じの怪しいやつを見ませんでしたか?」スッ


 警官は似顔絵を見せる。

 そこには男の顔が載っていた。


男(俺じゃないか!)

女「いえ? 見てませんけど」

警官「そうですか。ありがとうございます」


男「えっはっ?」

女「ハゲの印象って強いから、カツラつけてたら案外ばれないもんよ」ボソッ






〔マイクロツルーン社〕


男「なんだ? ここ」

女「日本一の製薬会社・・・私達が疑っているところ」

男「え?」

女「つまり、ツルメテウスのデマを流したんじゃないかってとこ」

女「ここの社長はかなりの権力者なの」

男「へぇ」

女「まぁ知っておくのもいいかと思ってね」

女「じゃあ、今日はこれくらいにして帰りましょう」

男「もう?」

女「まだ昼だけど、初日だしね」

女「レジンスタンスって言っても、今は何も打つ手が無いからね。だれが悪なのかもよくわかってないし」

男「日本政府が悪いんじゃないの?」

女「ハゲ狩りの命を出したのは確かに政府よ。でも、今更ツルメテウスはデマだ、なんて言えないでしょ」

男「でも俺たちはハゲの無実を証明するんだろ? そのとき・・・日本は・・・」

女「男、今までにハゲた人が何人死んでると思う?」

男「え...」


女「日本だけでも、650万人のハゲが死んだわ」


男「そんな・・・」

女「私達はハゲを、大げさな言い方をすると・・・世界を救わなければならないの」

男「世界・・・」

女「あなたにはその覚悟がある?」

男「・・・もちろん」ニッ

男「仲間が殺されるのを、これ以上黙って見てられない」

男(ここに来てまだ一日だけど)

女「よく言った!」

女「来るべき日のために、私達はこうして情報収集してる。けど、今日はもう帰りましょう。あまり長居するのはよくないわ」

男「わかった」



 来るべき日。

 来て欲しくない日。

 このとき、男は...まだ無知だった。



 

5

 男がこの世界に着てから、一週間。


〔団長室〕


女「マイクロツルーン社が!?」

団長「そうだ」

女「そんな・・・」

女「もしそれが現実になったら、私達は無実を証明できなくなる」

友「絶対に阻止しねぇと・・・」







男「ふぁぁ。今日は仕事休みなんだよ」

大工「なら手伝ってくれよ、兄ちゃん」

男「ん...ああ」ヨイショ

男「これを運べばいいのか?」


 三時間後。


男「これはどこだ?」

大工「それはあっちだ」

男「おっけー。ふぅ」


団長「やぁ」

男「ども・・・」

団長「今日は休みじゃなかった?」

男「自主で手伝ってるんですよ」

団長「ほう・・・ところで男は以前、世界を救う覚悟がある。と、女に言ったそうだな」

男「ええ、世界なんて規模は無理ですけど・・・一応」

団長「・・・お前に頼みがある」

男「どうしたんですか、急に」

団長「マイクロツルーン社にいるうちの諜報員から入手した情報だ」


団長「あそこでは、今...ツルメテウス病を実現させようとしている」

男「なっ・・・」


団長「ツルメテウスなんて病がないことは知ってるだろ? ハゲ狩りが行われるようになったのは、ハゲに恨みを持った権力者が放ったデマが、何らかの偶然と重なり合って起こったものだと俺は考えている」

団長「例えば、禿げた人が死んで、偶然周りの人間も死んだ。これが重なりあったとかな」


団長「だから、デマを止めさせ、ツルメテウスなんてないと証明できれば我々の勝ちだったんだ!」

男「本当にツルメテウス病が広まったら・・・ハゲに弁明の余地はない・・・」


団長「男、お前に命を捨てる覚悟はあるか?」

男「・・・」

男「ありません。でも! 仲間を助け、無実を証明するという覚悟はあります!」

団長「...よし」


団長「明日、マイクロツルーン社に忍び込む」


団長「目的は二つ」

団長「一つは、ツルメテウスについてのファイルとそれに関係するものを破壊すること」

団長「もう一つは、社長を生け捕りにすることだ」


男「生け捕り?」

団長「そうだ。そいつから全ての情報を得る」

男「・・・なるほど」

団長「お前は女の班・・・正面突破の班に入れ」

男「はい!」


大工「・・・」

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