少年「そうだ!天使を見つけに行こう!」僧侶「私もお伴します」(166)



ピィーーー……ヒョロロー……


少年「………」

ここは町と炭鉱場を一望できる丘
少年はそこに寝そべっていた


少年「なんか……面白いことないかなぁ…」

少年「平和もいいけど、退屈すぎるんだよなぁ」



――サワサワサワ………


風がゆったりと、草木を撫でる









―――今より昔に魔王を討つため


―――勇者を補佐した天使の伝説


少年「ん……?」


―――それはただの伝説だった


少年「……嘘、でしょ…」


―――それはただのお伽話だった


少年「天使……さま…」


―――だが、これからはかつての話になる








少年冒険者と天使の伝説






少年「なんで誰も信じてくれないんだ…」

―ガチャガチャ

少年「嘘なんて言ってないのに!」

―ガチャン!

怒りに任せて荷物に八つ当たりをした


少年は怒っていた。丘で見た光景を誰にも信じてもらえなかったからだ

少年「なにが、『光線目玉怪獣の次は天使か!夢見がちなのも大概にしろよ』…だ!」
   「父さんなんか酔って白昼夢を見たくせにっっ」

少年は昔からよく不思議なものを見かけた
それを正直に話すと決まって「想像力が豊かだな」と言われるのだ


彼にしてみれば嘘など言っていないので、その反応は常に心を苛立たせた

少年「こう、なったらっ、僕がっ、見つけて、ギャフンとっ、言わせてやるッ」

ドスンッ

まとまった荷物をベッドから下ろし、今度は自分の服装を整えていく

つまり少年は、彼を嘘つき呼ばわりした連中を見返すために、一人で天使を探しに行くというのだ
今はその身支度をしている最中である

少年「あれ?確かこの辺りに去年買ってもらった剣が……あっ、あった」

買ってもらったきり結局使うことのなかったショートソードを、クローゼットの奥から取り出した


剣を腰……では無く、荷物リュックに挿し、荷物を背負う
吊るした鍋がカラカラと音を立てた



少年「よし……準備は出来た」


少年は、この炭鉱の町が好きだった
臭くうるさいけども、町に住む人は気のいい人ばかりで優しかった

お気に入りのあの丘も好きだった
情緒の欠片もない混沌とした場所だったが、そこで感じる風や音がたまらなく好きなのだ

少年「……迷うな。もう、決めたんだ…」

まだ一歩も出ていないのに溢れ出す郷愁の念に、決意が鈍り出した

パチンッ!

自分で頬を張り、意気を取り戻す

少年「……行ってきます…」

覚悟をかため、そっと家を抜け出す
今は深夜。誰も起きては居ない

少年「丘。丘に行こう」

最後の見納めに、思い出深い丘へ訪れる事にした



――丘

深夜のため何も見えず、虫の鳴き声すら聞こえなかった

少年「…あ、そうだ。コンパス…」

コンパスを取り出し、じっと見つめた
天使がどの方角へ飛び去ったか正確に知るためだ

少年「北西か」

少年「そういえば父さんが言ってたっけ、「旅をするなら冒険者になれ」って」
  「鉄の都に冒険者ギルドがあるって言ってたな………丁度同じ方角だ」


とりあえずの目標を見定め、北西へ歩き出した少年

無茶で無謀で無鉄砲な旅路
彼は無事でいられるのだろうか


所変わって東の地
ここは海に面し、極東の国との貿易の街である

そこに見慣れない異国の寺院が建っていた
寺院は極東の国の教会…のようなもので、交易記念で建てられた経緯を持つ


僧正「僧侶よ、僧侶をここへ」

柔和な顔つきに白いヒゲを蓄えた老僧侶が声をかけた

僧侶「はい。なんでございましょう」

返事をしたのは長身痩躯の男だった
痩せた鳥を思わせる外見だったが、表情は優しく、目には温かい光が灯っている

僧正「僧侶、お主今年でいくつになる?」

僧侶「40と3になります」

僧正「ふむ……」

僧侶「……僧正さま、いかが致しました?」


僧正「お主はこの寺が出来てからずっと努めていたな?」

僧侶「は。不肖僧侶、長らく研鑽を積み申しても、今だ悟りを開けぬまま…」

僧正「よい。確か五つの時より入門していたな」

僧侶「はい」

僧正「うむ。それで本題に入ろう。この寺院が建てられてからここ近年、ようやく落ち着きを取り戻してきた」
   「そこで、お主にはこの地を離れ見聞を広めてきて欲しいのだ」

僧侶「はい。…………なんですと?」

僧正「驚くのも無理もない……急に決まったことなのだ。御上のお達しでな」
   「わが寺院も世情を知り、その知識を活かして発展を促していかねばならぬのだ」

僧侶は驚きを隠せなかった

僧正「そこで長く仕え、武芸の腕も立ち、教理に深く精通している人物……」
  「お主に白羽の矢がたったのだ」

僧侶「あ、あ、わた、私が……ですか?」

僧正「うむ。お主になら任せても問題はないとの判断を下したのだ」


僧侶「……弟子僧侶。不肖の身ながら、謹んでお受けいたします…」

僧正「お主ならそう言ってくれると思っておった」

では、と僧正が続ける

僧正「今より二日後の明朝を出発とする。路銀、その他の物資はこちらで用意する」
  「お主は簡単に身辺の整理を行うと良い」

僧正「ただ、この大陸にはここにしか我々の寺院は存在しない。支援は望めぬと思うてくれ」

僧侶「心得ております」

僧正「うむ。では以上だ。我が宗派の品位を貶さぬよう振る舞うのだぞ」

僧侶「は。では、失礼致します…」



僧侶(ううむ。これは大変な事になったぞ…責任重大だ……)

先ほどの話を噛み締めるように反芻していた


僧侶(しかし、天子さまも思い切ったことをなさる。ただの思いつきで無ければ良いのだが…)

様々なことに思いを巡らせながら今後の行路について検討していく

僧侶(……やはり大陸を旅するのであれば冒険者資格を取るべきか…)
   (となると、ここから一番近いギルドは……鉄の都)

地図を広げ、最初の行き先を決めていった

僧侶「冒険者のメッカ、鉄の都……か」




――二日後

予定通り僧侶は寺院を離れ旅立っていった
前日はプレッシャーもあってか眠り込むまで経を読んでおり、やや眠たげだった

しかしそれを気力で補い、無事出立したのである



まずは西へ一直線。目指すは冒険者の街、鉄の都






冒険者の聖地、鉄の都


ここは冒険者ギルドの総本部が存在し、また多くの冒険者がクエストを求めて訪れている
そのため都は非常に活気に溢れ、人の出入りが激しい

『天凱の塔』を発見した、かの有名な赤髪の冒険者の出身地で有名でもある


しかし冒険者というのは血の気の多い連中である。もちろん全てがそういう訳ではないのだが…

つまり、他の街と比べ治安が少しばかり悪いのだ


それでも都で大きな騒ぎは起きたことはない
それらを取り締まる屈強な者達を雇っているからだ


冒険者は冒険者で抑える。それがこの都のルールの一つなのだ


僧侶「ううむ。なんと活力に溢れた街だ。祖国でもこうまでの街はあるまい」

人でごった返した大通りを、するすると避けながら歩いていた

僧侶「あれが冒険者ギルドか」

人混みの先に見える一際大きい建物。あれが冒険者ギルドであった



冒険者になるのにはいくつかの試験を受けなければならない
身体検査、体力測定、技術検査、筆記試験、面接

これらを合格したものに、ギルドから発行される資格を得ることが出来る
試験を実施する理由は、冒険者の特典を悪用されないように、という理由だ


冒険者の特典とは
ギルドが存在する市町で物品、宿泊費が割引される
保護指定動植物の採取の限定的許可
兵局(依頼に応じて品物を輸送し、これを守る専門業)行為の許可

などが上げられる


試験は3500gかかる
試験…と言ってもそれ程難しくはなく、その人物の人間性を見極めるために行うのである

試験は一日で全て終了し、結果は二日後に発表される流れになっている


以下が各試験の詳細になる

身体検査――健康面を見る
体力測定――クエストを行うに足る体力か見る
技術測定――いざという時の身を守る術を持っているか見る
筆記試験――常識・倫理観を見る
面接  ――資格を与えるに足る人物か見る


結果が発表されるまでの間は、ギルドから宿を提供され、そこで寝泊まりすることになっている


また、体力・技術に自信のないものはギルドが開講する冒険者学校に通うことも出来る
500gで受けることが出来、その人にあった武器や道具の扱い方をしっかりレクチャーしてくれる
その間の衣食住はギルド側で賄われるという安心設定だ


僧侶(そのようなものもあるのか…随分太っ腹なのだな…)

既に試験を終えた僧侶はあてがわれた部屋で、冒険者ギルドのパンフレットを見ていた

僧侶(結果発表まで時間が余る。せっかくだからこの街を歩いてみようか)


旅の疲れがありその日はゆっくり休むことにし、翌日から街の散策を行うことにした

結果発表当日

結果は合格だった
特に体力、技術、面接の評価が高かった


僧侶「これで晴れて私も冒険者か……ちょっと前までは想像も出来なかった」

担当官「合格おめでとう。貴方の今後の活躍に期待していますよ」
     「ところで今後の方針なんかは…?」

僧侶「いえ、決まっておりません」

担当官「そうですか。冒険者としてのセオリーはまずパーティーを組むこと。これですね」

僧侶「パーティー…ですか」

担当官「はい。パーティー、仲間を集めるのです」
    「仲間がいたほうが生存率もクエストの達成率も上がりますからね」

担当官「もちろん一人で行く一匹狼もいますが…」
     「パーティーを組むのであれば、クエスト発注所に冒険者がたむろしているので、声をかけてみては?」
 
ああ、と担当官が一言加える

担当官「これはクエスト受注のさいに聞かれますが、受注時にパーティーか個人かで受注登録が選べます」
    「気をつけてくださいね」

僧侶(パーティーか…とりあえず覗いてみようか)


冒険者ギルド・クエスト発注所
ここではクエストの発注・受注が行える場所だ
基本的に酒場と合わさった形態をとっている。冒険者は酒飲みが多いのだ


僧侶(む…酒の匂いが……部屋に充満している)

部屋の所々から笑い声が高らかに響いてくる。昼前だというのに出来上がっているのだろうか

僧侶が部屋を見回すと、部屋の隅の方で小さくなっている少年を見つけた

僧侶(…?この場に似つかわしくない子だな。彼も冒険者なのだろうか…)

「お、異国のお坊様。お坊様も冒険者に?」

僧侶「ええ。見聞を広めるために必要と思ったので…」

「へぇ、真面目なんですなぁ。おれっちは一攫千金を狙って!…俗ですかね?」

僧侶「いえ、夢を持つことは良いことだと思いますよ」

「ところでお坊様。なにを見ていたんで?」

僧侶はそっと隅の少年を指した

僧侶「あの子もここにいるという事は冒険者なんでしょうか。ちょっと気になりまして」

野卑な男はちょっと顔をしかめた

「あのガキンチョですかい。その通り、あいつも冒険者ですぜ。ぺーぺーですが」
「あいつは……奇妙なガキなんでさ…」

僧侶「奇妙?」

「パーティーを組みたいらしんですがね、誰にも相手にされずにもう三日もここにいるんでさ」

グビリと酒を呑む。近くにいる僧侶は、一層酒の匂いが増したと感じた

「普通冒険者っつーのは始めは『利』で考えるんでさ。魔法使いや戦士なんかはクエスト達成に直接関わるんで、
 引っ張りだこ。達成出来れば報酬を得られるし、難度が高ければ名声も得られる」

話のあとを継いだのはヒョロッとした話し好きの男だった

「つまり、そういうのを通して仲間意識を育てるんス。これが『利』、パーティーを組む際のメリットスね」
「だが、シロートだからか誰見向きもしないような募集要項をおったてやがったんス」

僧侶「それが奇妙なというわけですか。私も素人でして、そこを教えていただけませんか?」

話し好きの男は喜び、一口酒を仰いで続けた


「かつて魔王を討伐した勇者の伝説をご存知スか?」

僧侶「ええ。ですが少ししか…」

「じゃあそこから……」



今から約400~500年前に起きた人魔大戦
その戦いを人間の勝利に導いた偉大な勇者
敵の本拠地に軍を率いて乗り込み、自らの手で魔王の首級をあげたという
その際、勇者を守護する存在があった。それは天界から使わされた『天使』だった
勇者を影に日向に守護し、魔王の元まで導き、補佐したという
それから魔の物が力を取り戻すたびに、天使が現れ力を貸す伝説が生まれたという



「これが勇者の伝説と天使の伝説ス」

僧侶「はあ…」

「あのガキンチョはその天使を探す、っつーのが目的らしいんスね」

そう言って鼻で笑う

「大昔の伝説、お伽話の存在を一緒に探してくれっつーんスから、誰も寄り付かないのも当然、ってわけスね」


僧侶(伝説の天使の探索……か。話だけでも聞いてみるべきだろうか)

話を聞き、興味の湧いた僧侶
教えてくれた男達に酒を一杯ごちそうし、その場を後にした


―――


少年(この街に来てもう六日か……)

少年の意気はそろそろ折れようとしていた
路銀は残り少なく、宿泊している宿で働き、なんとか賄っている状態だ

少年(やっぱり、あれは見間違いだったのかな…僕の頭がおかしいのかな……)

しみったれた顔はさらに人を遠ざける。もはや八方塞がりだった

少年(いや、まだまだ。せめて後一日、後一日粘ろう)





「あの、もし…」

コンコンコンと、少年のいるテーブルを叩く手が見えた


僧侶「パーティーを募集しているのですか?少し……お話を伺えないでしょうか」

眼の前に立っていたのは見慣れないふわりとした服を着た、長身痩躯のハゲ男だった


――――


僧侶「天使を…見た…?」

少年は必死に当時の情景を説明した
恐らく今を逃したら、これが最後のチャンスになるだろうと思ったからだ

少年「そうです。夢でも幻でもありませんっ」
  「ヒューン!って西の空に消えていったんですっ」


僧侶(う……ム。嘘を言っているわけでも無いようだし、当時の状況を鮮明に覚えても居る……)

少年は気丈な面持ちでいたが、不安で居ることが手に取るように伝わってきた

僧侶(……悩めるものに手を差し伸べる。これも我が宗派の役目、か)
  (もし天使を拝めたのであれば、それはそれで寺院へのみやげ話が潤うだけだ)


僧侶「……私も、伝説の天使を見てみたいですね。私も、お供いたします」

少年「えッ!?」
  「ほ、本当ですか!?」

僧侶「はい。私の名は僧侶と申します。どうぞよろしくお願いします」

少年の前で深々と頭を下げた

――――

無事パーティーを組んでから四日が過ぎていた
二人は今クエストを受け、その護衛目標の馬車に揺られていた

――

喜んだ少年としてはすぐにも旅立ちたかったが、現実はそうも言っていられなかった

少年「うっ…。お金が、無い……」

旅に出るには様々な物資が必要だった
食料と水。他には固形燃料や場合によってはマントやテント

特に方角しかわかっていないはぐれ旅には、より多くの装備が必要だったのだ


僧侶「私が出しましょうか?」

少年「い、いいですっ」

僧侶「パーティーなんですから、遠慮なさらずに。これは共通財産ですよ」

少年「そ、そうりょさん……」



が、結局二人分を合わせても、長旅に必要な金額には足りていなかった

そこで、冒険者は冒険者らしく、クエストを達成させてお金を稼ぐことになったのだ


――

クエストの内容はこうだった

【 品物を隣の町まで運びたいが、最近になってその道中に魔物が出没するようになった。
  依頼人、馬車、品物を魔物から守り、町まで護衛してほしい――難易度 低 】


少年「魔物……出ませんね」

僧侶「いいことですよ。安全なんですから」

少年「でも、なんかただでお金貰うようで…ちょっと気が咎めるというか…」

依頼人「冒険者の方、気にしなくていいんですよ。無事が一番!そんな時もありますって」
   「それにいちいち気にしてたら疲れちゃいますよ」

少年「はあ、そ、そうですか……」

依頼人「そうですって。……ん、ここいらで野営しましょうか」

大きな木の下に着き、そこで一夜を明かすことに決めた


食事を終え、焚き火を囲みながら、依頼人が作った紅茶を飲んでいた


依頼人「後、一日、二日くらいですかね。この調子だと」

僧侶「その間も何事もなければいいですね」



ガサッ



少年「そ、そ、そうも言ってられないみたい……」
  「い、いつの間にか……囲まれてる!」


犬のような人のような、気味の悪い体を持ち、頭は人の顔している
おぞましい怪物が十数匹、彼らを取り囲んでいる

僧侶「魔を誅するのも我らが本懐。依頼人どの、馬車へ!」

ふわりとした足取りで魔物へ近づいていく

異様に発達した前足をかかげ、僧侶へ襲いかかる
それを巧みに避け、封魔の力を込めた拳打を素早くお見舞いしていく


少年「強い!……わ、こっちくんなっ!」

大多数は僧侶が相手どっているが、漏れたわずかの魔物は少年と、少年が守る依頼人へ襲いかかった

剣を突き出し、正面から突撃した魔物の頭部へ突き刺さる
初めて肉を切り、骨を砕く感触に思わず身震いする

少年「う、うわあああぁぁぁぁーーーーッ!」

怯えを、叫ぶことで追い出し、迫り来る怪物たちを迎撃する


ぅうしゃぁぁぁーーーっ!!


魔物たちが奇声をあげ襲いかかってきた
それを力いっぱいなぎ払う

少年「せいっ!ィヤァッ!!」

ジャクリッ ジャクリッ

なんとも言えない音と感覚が伝わってくる

少年「ぅあっ! ぁぁぁあああーッ!」

背後から体当りされ、もんどり打つ一人と一匹
もがきながらも直感で相手を蹴り飛ばした

少年「キモい……んだよッ!」

ドガッ!

突き飛ばした魔物が焚き火へ突っ込んでいった
火だるまになった魔物が悲鳴をあげてのた打ち回る

火のついた魔物が他の魔物へ突っ込んでいった

ひぎゃあ! あぎゃぁぁぁぁ!

あわを食ったように無様に慌て、火だるまになった魔物を避けだした


そして気付いた


火のついた薪を手に取り、近くにいた魔物に押し付ける

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ

人の言葉で酷く汚い叫び声をあげる

少年(火に…弱いのか!)

そう判断し、依頼人にも火を持つように促す

少年「依頼人さん!火をッ!」

依頼人「わ、分かった!」

弱点を見つけて勇気づけられたのか、少年の背後を守るように依頼人も戦いに参加した

依頼人「う、後ろは、ま、まかせてく、れ…!」


退くに引けなくなったのか、そもそもそんな考えを持つ脳みそがあるのか……
ともかく劣勢になっても、魔物たちは少年たちを襲うのを諦めたりはしなかった

少年「えーいッ!」

火と剣で確実に勢いを削ぎ、一匹ずつ減らしていく
既に感覚は麻痺していて、最初に感じた嫌悪感は無かった

ただ、生き残らなきゃ、守らなくちゃ。その思いだけで少年は戦っていた


依頼人「わは、わははあ、ハハハハハハハハーーッ!」

依頼人はわけもなく笑っていた
目にはうっすらと涙を浮かべ、ひたすら迫り来る怪物たちを、火で打ち払っていた

もはや現実なのか夢なのか、それすらも混乱して分かっていなかっただろう




小半時もたったか、僧侶が最後の一体に掌打を叩きこみ、魔物は全滅した

少年「ハァ…ハァ……」

依頼人「お、終わった……?」


僧侶「よかった、そちらは無事のようですね」

わずかに汗をかいているが、戦闘前の様子と変わらない僧侶が、少年たちの元へ戻ってきた

少年「そ、そうりょさぁん……」

ヘナヘナとその場に崩れ落ちる少年
苦しげに息を荒げている


依頼人「は…ははは……と、父ちゃんやった、ぞ……」

こちらも疲労と緊張のためか、糸の切れた人形のようにぱったりと倒れている
どうやら気絶しているようだ


僧侶「……無事の、ようですね…」





その後僧侶は、二人をちゃんとした寝床に移し、一人で魔物たちの死体を片付けていった
お祓いを行い、その場を浄化する
魔物の出現で不浄に満ちていた場が一転、清潔な聖域へと変わっていった

僧侶「…これでよし。これで魔孔は塞がれたはず」


――魔孔

魔物が現れる孔。偶然出現し、魔界と繋がっていると言われている
たいていは低級の魔物が通るくらいの小さな孔しか開かない
その孔を通ってきた魔物を倒し、然るべき措置をとることで、孔を閉じることが出来る
穴を閉じる作業は、主に教会で訓練を受けた神父が行なっている

―――

僧侶「手持ちは少ないが、薬を作っておこうか。起きた時、きっと大変な事になっているに違いない」

そそくさと準備をして、薬草を組み合わせて薬を作っていく


――――

少年「ん……ン。…ふあぁぁ~……」

僧侶「おはようございます。…さ、これを飲んで下さい。元気が出ますよ」

少年「んム……・・・!?ゲホッ、ゴホッ!な、なんですかこれ!うあぁぁ、すっっっごく苦いっ」

僧侶「ハハハ、効くでしょう?私もこの苦さにはまだ慣れないんですよ」


僧侶「味は最悪ですが、効果はテキメンですよ。一口に飲んだほうが、さほど辛くない」

少年「ん、んんんー………」

鼻をつまんで一気に飲み干した
苦味が口内を暴れ回り、舌が麻痺した感覚におちいった……気がした


程なくして依頼人も目を覚まし、先ほどの少年と同じリアクションを取り、笑いを誘った


――

再び旅を再開した一行
残りの道程は何事も無く、予定通りに町へ到着した


依頼人「ハハ。一時はどうなることかと思いましたが、無事たどり着けました。ありがとうございます!」

少年「そんな!こちらこそ危険に晒してしまってごめなさい」

依頼人「いやいや!あなた達は素晴らしい活躍だったじゃあないですか!」
   「もっと胸を張って下さい!保証しますよ。あなた方はきっと素晴らしい冒険者になる!」


そう言い残して朗らかに笑いながら去って行った

中途半端ですが残りは本日の夕方頃に投下したいと思います
読んでくれた方ありがとうございました。レスくれた方も感謝

ゆっくりですが、投下していきます


――


少年「んーー……まだ足りないかなぁ」

報酬と合わせて数えるが、いまいち心もとなかった

僧侶「フム…。簡単なものを受けてみますか?」

少年「うん。幸いこの町もギルドがあるし、行きましょうか」

相談を終え、冒険者ギルドへ向かう


――


鉄の都にくらべると、この町の冒険者ギルドは二スケールほどダウンして見えた

少年「小さいけど、ここも賑わってるなぁ」

ガヤガヤ、ザワザワと慌ただしい
ここも他と同じように酒場と合体しているので、酒の匂いが充満している


少年「なにか手頃なクエスト……ないかな」

ズラッと貼りだされた用紙を眺めていく

「なんだ?入り用かい?」

少年「え?ああ、はい。そうです」

「これなんかどうだい?収集クエストだし、近場だから日帰りで出来る」


【 毒消しの素材となる『新緑のコケ』を袋いっぱいに集めてきてほしい。
  コケはここから南西にある沢で取ることが出来る――難易度 低 】


少年「…どうします?」

僧侶「いいと思いますよ。特に日帰りというのがいい」

少年(判断基準はそこなんだ……)

「あいよ。これが収集用の袋だ。集まったらここに納品してくれ。気をつけて行ってこいよ!」

町から南西へ進むと、緑豊かな綺麗な沢を見つけた

少年「わぁ!すごい……」

僧侶「おお、なんとも素晴らしい場所だ……」

木漏れ日が小川に反射し、キラキラと煌めいている


少年「コケは…どの当たりにあるかな」

僧侶「資料にはこういった手頃な石、岩の影にあるそうです」

少年「ふーん……あっ、これがそうかな」

僧侶「それですね。……どれ、自分用にいくつか拝借……」


小一時間ほど収集に没頭した

少年「この辺りのはだいたい取ったけど、まだ足りないなぁ」

僧侶「もう少し奥へ行ってみましょうか?」

コケを求めて奥へ進んでいった
もう、沢というより山に近くなり、先ほどのような神秘的な光景も鳴りを潜めていった

少年「なんか……いきなり薄気味悪くなったような…」


ズゥゥ…ン……

少年「!?」

僧侶「!」

日の当たらない暗がりで、巨大な何かが蠢いている
それが身動ぎするたびに木に当たり、大きな音をたてていた


少年「か、カニの怪獣……」

僧侶「周りも見て下さい…サイズは落ちてますが、他にも怪物カニは居ます…」


巨大なカニがボスなのだろうか、取り巻くように大小のカニがその下を這いずっている

僧侶「どうしましょうか…」

少年「…あと少し集められれば……」

僧侶「やはりあれとやりあうのは避けるべきかと。そっと迂回して、もう少し上流へ行きましょう」

僧侶の提案通りに恐る恐る迂回して、上流へ向かう
しかし……


少年「だ、だめだ…全然見つからない……」

僧侶「この荒らされた状況から察するに、先ほどのカニが食べ尽くしたようですね」

少年「じゃあ…さっきのところにしか、もう無いってこと…?」

僧侶「かも、しれません」

さっき見た巨大カニとその取り巻きの多さを思い出し、怖気を振るう

少年「か、簡単って話だったのにぃ~…」

僧侶「ううム…半分以上集まってますから、今回はこれで妥協しますか?」


前のクエストの時に、超人的技能を発揮した僧侶だったが、彼をして避けたほうがいいと言うのである
少年にしてみれば、それはこの世で最も恐るべき言葉だった

しかし

少年「少しだけ…少しだけ様子を見てみよう」

僧侶(フム……?)

少年「無理そうだったら僧侶さんの言う通りに諦めましょう」

僧侶「…少年殿がそういうのであれば、私はそれに従います」
  「ただ、危険と判断したらすぐに逃げますよ?」

少年「ハイ。それでいいです……では、行ってみましょう」


再びカニたちの元に戻ってきた一行
カニたちは大人しく、先ほどのように動いては居ない

少年「あれ?動いてない……寝てる?」

僧侶「かも知れませんな。ただ休憩しているだけなのかも…」

よく観察して見ることにした


本当に寝ているのか、身じろぎ一つしていない
それどころか休憩しに来た鳥達が、止まっているのにも気づいていない様子だった

僧侶「これは、千載一遇のチャンスかもしれませんぞ」

少年「うン。こっそり行って残りの分も取れそうだ」

チャンスを逃さないように、こっそり、そして迅速に行動していく


カニたちから離れた場所に到着し、手早くコケを採集していく

少年(うううぅ……近くで見たら、お腹のあたりに顔があるぅ…)

僧侶(なんという威圧感……町へ戻ったらギルドへ報告したほうがよさそうだ)


ガリィッッ!

恐怖と焦りのせいか、手元が狂い、大きく岩を削ってしまった
音が波紋のように響き渡る

カシャ……  カシャ……


硬くて乾いた、何かが擦れる音が背後から聞こえてくる

僧侶(マズイ!気付かれた!)

少年「あわわわわわわ……」

背後を見ると、先程までぐったりしていたカニたちが起き上がりはじめていた

僧侶がガッとコケを鷲掴みにして袋へ詰める

僧侶「さあ!逃げますよッ!」

少年「!? は、ハイッ!」

元きた道を矢のように駆けていく
その後をガシャガシャという音が追随する

少年「わわわ!き、来てるぅっ!!」

僧侶「後ろを見ずに走ってッ!」


ブォォンッ!
        ドガァッ!

背後から轟音が聞こえてくる
続いて、ミシミシミシ……という木が軋む音が聞こえてきた

少年「木ッ!? 木が倒れてる!!?」

僧侶「ッ! 急いでそちらへ避けて!」

間髪を入れず、横へ飛び退る二人
だがそのせいでバラバラになってしまった

――大丈夫ですか! 私は無事です! このまま平野まで逃げ切りましょう!

少年「わ、分かった!!」

そう返事すると、足を大車輪のように動かし、力いっぱい走る

出口は近いはずだった



―――

僧侶(少年殿を少しでも遠くに逃さねば……私一人ならどうとでもなる)


僧侶は少年を逃すため、囮になることに決めた
自分一人なら脱出もさほど困難ではない、という算段があったからだ

近くにある枝を折り、カニの集団へ投げつける

―― !?

脇に人間が居ることを気付かなかったのか、すぐに僧侶へなだれ込んだ

僧侶(そう、それでいい……相手は私だ…)

徐々に誘導して、少年が逃げていった方向とは違う場所へ誘導する


僧侶「なにッ!?」

自分の頭上からカシャカシャと音が聞こえた
カニだ。小さなカニが木を伝って襲ってきたのだ

僧侶(木登りも出来るのか!?)

慌てて拳を上へ突き出す

バキャァッ

カニのカラが砕けた

僧侶「小さいものなら攻撃は通るのか……しかし…」

足を止めてしまったために、カニに追いつかれてしまった

僧侶(万事休す…か……)

僧侶(いや……まだだ)

閃いたことがあり、慌てて懐へ手を伸ばす

僧侶「…これが間違いでないのなら、食いつくはず……」

パッと、懐からとりだしたなにかを辺りに投げつけた


―― !!

それは緑色をしていた
自分用にこっそり集めていた新緑のコケだ

一瞬動きが止まり、そして投げ出されたコケに一斉に群がり始めた

僧侶「や、やった。今のうちに…」

コケに目を奪われている内に、身を翻し脱兎のごとくその場から逃げ出した

ついに平野へとたどり着いた
少し離れたところに少年が弓をつがえて待機していた

少年「そうりょさーん!いそいでぇー!」

走りながら背後を見る
そこには、最初に見た巨大カニの姿があった


ヒョォォ……
      バァァンッッ!

何かが飛来して、爆発した
それはカニに直撃し、ひるませた

続いて第二射、第三射と命中していく


僧侶「少年殿!御見事ぉッ!」

飛来しているのは矢で、それを射ているのは少年だった
爆発は、恐らくなにかを矢に括りつけて飛ばしているのだろう

少年「さあ、逃げましょう!」

最後の一矢を射ち切ってから走りだした


僧侶「いやぁ、助かりました。弓も達者なんですね!」

少年「父さんに習ってたんですよ!」

走りながら先ほどのことを話す

僧侶「あの爆発は?矢になにかついてると見ましたが」

少年「あれですか?僕は『爆発の実』ってよんでます」
  「故郷の近くになってて、出立の時に少し持ってきたんです」

この辺りにもあると思ったんですが中々ないですねー
そう言って空になった袋をひっ繰り替えしてみせた


そうこうしている内に、町の門が見えてくる


―――

門番「な、なんだあれは!? あ!人が二人追われているぞ!門を開けろ!」

門番「ギルドと兵舎へ連絡をとれ!怪物がこっちに向かってる!」


―――


少年「ヤバイかも…アイツまだ追ってくる!」

僧侶「城門の上を!兵隊が集まってる!」

門の入口で、門番がこちらに向かって叫んでいる
どうやら急げと言っているようだ

僧侶「迎撃するようです!私達はいそいで門の中へ!」

少年「はいッ!」


――

門番「二人を保護した!門を閉じてくれ!」

急いで門が閉じられていく

門番「二人とも無事ですか?よく逃げてこれましたね」

兵士「安心して下さい。今我々と冒険者が力を合わせてアイツを追い払います」

少年が門の上へ目をやると、先程よりも多くの人が立っていた
次々と矢を射掛けているのか、先程から風切音がひっきりなしに聞こえてくる

魔術師も居るのだろう、風切音とは別の爆発音が聞こえてきた


兵士「魔術師がいるなんて、運が良かった。一人いるだけで随分と安全度が上がる…」


ドゴォォォ!

轟音をたてて、門が揺れる

「ヤバイ!接近された!門を破られるぞ!!」

「術師どのぉ!アイツを止めてくれッ!!」

「やっているッ!このぉ!止まれ、クソカニ野郎ォォ!!」

「うわぁ!だ、駄目だ!!破られるッ!」


バゴォッッ!

城門がついに破られてしまった
巨大カニはあちこち焼け焦げ、矢が大量に刺さっていた
それでも動くことをやめようとはしなかった


兵士長「ひ、避難状況は!?」

兵士「ハッ!門付近はほぼ完了しております!」

兵士長「弓隊を後方へ下げさせろ。戦鎚隊前へ!」

巨大で物々しい戦鎚をもった兵士たちが前へ進み出てきた

兵士長「小さいのは我々と冒険者が相手にする。戦鎚隊はあのデカブツを落とせ!」

行けッ!
号令一喝。戦鎚隊は巨大ガニに近づき、次々と攻撃していく

他の兵士たちは、既に侵入していた中型、小型のカニたちと戦っていた


少年「僧侶さん、僕達も一緒に戦ったほうが……」

僧侶「そのような疲れた顔をしていては、きっと足手まといになるだけですよ……残念ながら…」

兵士「さあ、あなた方は安全な場所へ。私が案内します」


その時町の方向から鉄塔のような体躯の男が進みでてきた
黒いマントに身を包み、腰にチラリと短刀がのぞく
影になっていたが、傍らには少女もいた

状況が読めていないのか、男が質問してくる

男「なんだい?ありゃぁ」

兵士「危険だから近づいちゃダメだ! 化け物カニだよ。見ての通りッ」

男「ふぅん?……見たところやばい状況のようだ、手伝おうか?」

兵士「あんた……冒険者かい?」

男「一応。本業は行商だがな」


兵士「そ、そうか。助かるよ。今戦鎚隊がデカブツを攻撃してるから、それよりちっちゃいのを何とかしてくれ」

少女「……」

男「……いや。俺が殺るのは、あのでかいのだッ!」

大きさに見合わない俊敏さで、一直線に巨大ガニに迫っていく

少女「私は他の方の援護に回りますね」

少女は兵士の言う通りに、小型のカニたちのほうへ向かっていく

兵士「な、なんなんだ?……一体」


―――


風の様に駆けていく男
身を出来るだけ低くし、巨大カニに接近する

男「くらえッ!」

身体を滑り込ませ、腰の短刀を抜き放ち、すれ違いざまにカニの足の一本を容易く両断する
巨体が傾ぎ、体勢が大きく崩れた

戦鎚兵「お見事!!」

見事な一撃と、短刀の切れ味に喝采をおくる隊のメンバー
そして今が好機と、いっそう攻撃を強めた


男は次々とカニの要所を削っていった
恐怖を感じたか、カニは巨体を震わせ、振り落としに掛かった

男「ムオッ!?」

足場がおぼつかなくなったところを、ハサミが男を狙って動く

男「邪魔なハサミめ!」

飛んできたハサミをギリギリでかわす
ハサミの勢いで身につけたマントがヒラリとはためいた

避けた動作がそのまま攻撃につながり、付け根の部分に刃を叩きつける

パキンッ!と音を立て、そのままの勢いで切れたハサミが飛んでいった


ゥオオオオオオオオオオオォォォォ!!!

その様子に沸き立つ兵士と冒険者たち

兵士長「身ぐるみ剥がされた今が好機だ!押し込めェッ!」

男と共に現れた少女も素晴らしい活躍だった

少女「力はないけど、これくらいなら!」

腰のポシェットに手を伸ばし、そこから取り出したものを投げつける

ビシィッ!

投げナイフがカニの関節に深々と突き刺さった

少女「私が援護します。皆さん頼みますよ!」

その様子をみた冒険者達は、少女の手並みに感心した
動いている物体、それも小さい的となれば、どれほどの技術が必要なのか

思わぬ強力な助っ人に、負けじと張り切りだした



少女の目は的確で、全方位を見えているかと錯覚させるほどのナイフ捌きだった

いつしか少女を中心に人々が動き、彼女の精確な援護で確実に怪物の数は減っていった


ただ途中から、ナイフからツブテへ変わったことが周りの人の首を傾げさせた
もしかしたらナイフが尽きたのだろうか?


――


程なくして化け物カニは全て駆逐された
男の活躍に喜んだ兵士長は彼に謝礼を出そうと探したが、いつの間にか消えており、見つけられなかった
少女も同様だった





少年と僧侶はギルドと兵隊に事情聴取を受けることになった
クエストを受け、近くの沢にコケを取りに行ったところ、あのカニと遭遇し追われたと話した

ギルド役員「それはおかしい」
       「あの場所は危険なことで有名で、我々の方でもクエストを出さないようにしている」

不審に思った役員は、彼らにクエストを与えた担当者を調べるも
該当する人物は勤めていないとわかった


しかし、これはギルド側の過失とし、支払われるはずの金額の倍を払い、決着した
コケは折角なので、然るべき場所へ納品された


ギルドは、

ギルド役員「何者かがギルドへ無断で出入りして、意図的に事件を引き起こそうとしている」

と、各ギルドへ事の顛末を発信することで、注意を促した


少年はその話を聞き、無差別に悪意をばらまく人物が居ると知って、恐怖した
平気で人が死ぬことを行える者がいるのかと思ったのだ

その様子を見たギルド役員は

ギルド役員「安心して下さい。あなた方のおかげで、今後このようなことは起こりません」

そう少年を慰めた



一大事件へ発展してしまったが、無事帰還でき、報酬も得ることが出来た
その日はそのまま泥のように眠り、翌日も疲労を落とすため、町でゆっくりすることに決めた



そして三日後……






―――


少年「うん。これだけあれば十分すぎるかな」

僧侶「次の目的地は……『花の街』ですか。なにやら賑やかそうなところですね」

少年「話によると、三年前の事件で大被害を被ってから、街の防備強化を決定して……」
  「最近になって、ようやく冒険者ギルドが出来上がったそうですよ」

僧侶「そうですか。もしかしたら、そこまで華やかではなくなってしまったのかもしれませんね」

少年「うん。それまでは兵隊さんたちも、花で彩られた装備をしていたらしいですし」

僧侶「いいですねぇ……今もそうであると嬉しいんですが」

少年「どんな感じなんでしょうね?花っていうからやっぱり花で溢れてるのかなぁ?」



目指すは西。向かうは花の街。天気は快晴


名前に胸を踊らせながら、中年と少年は街道を往く





 前編  完



 後編  女盗賊とベテラン冒険者に続く

ここまで読んでくださってありがとうございました
レスくれた方もありがとうございます。嬉しかったです

後編はまだ書き溜めてないので、それが終わり次第このスレで投下したいと思います

投下します




――リリリリリリ……


虫の音がそこかしこで合奏している


ここは、はるか昔に存在した王家の森である
その森に30年ほど前から流布している噂があった


【この森に、亡国の莫大な隠し財宝がある】


というものだった。このありふれた噂、いまだに真偽を確認したものは出ていない
毎年「俺こそが!」という冒険者が挑戦するが、あるものは半ばで死に、あるものは無様に逃げ帰ってくるという

そしてまた一人、この噂に挑戦するものがいた


戦士「へえ…古い森って聞く割には、なかなか手入れが行き届いてるじゃないか」

年季の入った佇まいの男が、森の入口に立っていた
背中にはバカでかい剣と荷物を下げている


戦士「30年もの間存在しているのに、真偽不明……いいじゃないか。それでこそ冒険って感じだ」

そう言って森に入っていく。自信を伺わせる足取りだった


戦士「ふーん…流石に中までは手入れされてないか」
  「だけど先人たちのおかげか、足元が踏みならされてるから歩きやすいな」

そうは言っても行く手を遮る枝までは処理されておらず、手にしたナイフで切り落としていく

戦士「だれも達成してないけど、それほど危険な森なのだろうか……」

森に入って二時間。鬱蒼と生い茂る木々が行く手を邪魔するだけで、特に変わった様子は見られなかった
雰囲気も至って静かで、毎年死人が出てる場所とは思えなかった


戦士「もしかして、宝を守護するガーディアンがいるのか?」
  「もしそうなら厄介だなぁ」


―ガーディアン
重要な場所を守護する存在
ゴーレムだったり、魔術で生み出された怪物だったり、あるいは儀式で長命を約束された人間の事を指す


戦士「ガーディアン……会ったことはないけど、聞いた話によるとかなり面倒そうなんだよな」
  「この装備で突破できるだろうか…」

森の深さが分からなかったので、その殆どを食料と水にあて、
残りは対森用の道具ばかりだった


ブツブツ独り言を呟きながら進むこと更に二時間
開けた場所へ出た
先人が行ったのだろうか?野営の跡が残っていた

戦士「お、これはありがたい。ここで休ませてもらおうか」

かまどを作り、火を焚いていく
ゆっくり進む予定だったので、今日の行軍はここで終わるつもりだった


少し早めの夕食を取っていく
食事に舌鼓をうっていると、背後から悲鳴が聞こえてきた


――わああああぁぁぁぁぁーーーー!


戦士「女の声?」

驚いて後ろを振り向く
そこには見事に逆さ吊りになった女性がいた

戦士「あんた、何してんの?」

モグモグと咀嚼しながら聞く

「テメー!こら、下ろしやがれっ!」

喚く女をよそに、戦士の目は女の手に吸い寄せられていった

戦士「ああ…盗っ人か」

女の手には彼が所有する食料の三分の一があった

女盗賊「コラァッ!てめ、聞いてんのか!」

戦士「そんなこといいからそれ返せ」


「へっ、誰が返すかよバーロー!これはアタシのもんだ!」

戦士「状況わかってんのか?……ほれ」

焚き火から薪を一つ抜き取って、燃え盛る火を彼女の顔に近づける

女盗賊「お、おい!やめろバカ!」
   「わ、分かった!ほら、返すよ!」

戦士(何だコイツ、弱いな~…)

戦士「プライドってもんがないのかよ…いきなりヘタれるな…」

盗まれた物を取り返し、離れた場所に置いていく

戦士「おら。これからは相手を見て盗みに入るんだな」

縄を切られ、トンボを切って見事に着地する
頭に血が回ったのか、少しふらついている

女盗賊「…………」

戦士「どうした?ほら、もう行けっ」

女盗賊「……バーッカ!死ねっ!覚えてろ!」

捨て台詞に罵詈雑言を浴びせ、煙幕玉を使い逃げていった


戦士「エホッ、ゲホッ!クソッあのアマ!」

思わぬことで煙を吸い込み、戦士は激しくむせた

戦士「……余計な体力使っちまった…」

どっと脱力感が襲ってきた
疲れたのだろう。そう思いさっさと眠ることにした



――――


女盗賊「ちくしょー!なんなんだあの男!」
   「こうなったらとことん邪魔してやる!」

不穏なことを口走る女盗賊

その時丁度戦士に悪寒が走ったとか走らなかったとか…


ともかく、二人の出会いはおよそ、そんな感じだった

その日から、幾度と無く何者かの襲撃を受けることになった
しかし、ありとあらゆる方法で来られても、その全てを返り討ちにしてきた

そして―――


戦士「なぁ……疲れるからもうやめようや…。俺の負けでいいからさ」

女盗賊「よくない!全っ然よくない!」

初日から三日目の夜。二十四回目の襲撃が失敗に終わり、女盗賊はいつもの様に捕まっていた

女盗賊「そんな言葉だけの宣言で、アタシが満足すると思ってるの!?」

戦士(なんとなくわかる…)

戦士「なんでそんなに俺に突っかかってくるんだ?俺が何かしたか?」

女盗賊「…………ら」

戦士「あぁ?」

女盗賊「アタシが初めて盗みを失敗したから…」
   「この、天才大盗賊のアタシがっ!事もあろうにあんたみたいな奴相手にっ、盗みをっ、しくじったからッ!」

キーー…ン

大音声で叫び、戦士の鼓膜が悲鳴を上げる

戦士(何だコイツ……なんだ、コイツ…)

女盗賊「どう贔屓目に見ても天才のアタシがしくじるなんてありえないのよ!」

キッと睨みつける

女盗賊「あんたどんな手品使ってるのよ、インチキ!」

戦士「インチキって、お前なぁ…」

女盗賊「ねぇ、あんたどんな秘密を持ってんのよ。誰にも言わないから教えてよ…」

戦士「秘密…」(こいつマジかよ…)

女盗賊「言っとくけど、アタシはしつこいわよ?秘密をしゃべるまで付きまとってやるんだから」

戦士(うーん。追い払いたい。実に追い払いたい。しかし、いいのだろうか…?)
  (一冒険者としてこんな危険分子を野に解き放ってしまって…)

戦士は深く考える

戦士(幸い?この女は俺の秘密とやらを暴くまでは付きまとうようだ。ならそれを逆手に取ってしまえば?)
  (野に放って被害が拡大するよりは、俺の監視下で制御するほうがいいのかもしれないな…)


考えがまとまり、今度はどうやって言いくるめようか考えた

戦士「あー、オホン!」

女盗賊「なによ。喋る気になったの?」

戦士「あんた、俺の秘密を知りたいのか?」

女盗賊「さっきからそう言ってるでしょ。これはアタシの沽券に関わるんだ」

戦士「秘密は教えてはやれん。だが、俺のもとにいれば…技術が盗めるかもしれんぞ」

戦士(ど、どうだ?食いつくか…)

女盗賊「はぁぁぁ?本気で言ってんの?」

戦士「知りたくないなら別にいいんだぜ。そもそも俺にそんな義理なんてないしな」

んー…、としばし考えこむ女盗賊

戦士「俺は天才を止める程の技術を持ってるんだぜ?特すると思うんだがなぁ…」

女盗賊「わかった。あんたとパーティーを組んで、あんたがどんな手品を使ってるか、私自身が暴いてあげるわ」
   「アタシも盗賊としてのプライドは持ってるもの、引き下がれないわ」

戦士(よく言うぜ)

戦士「よし、奇妙な感じだがこれで成立したな。一応チームリーダーは俺だ」
  「文句は?」

女盗賊「別にー。アタシとしてはちゃっちゃと暴いて、パッパと盗んでおさらばしたいとこなの」


戦士「……い、一応言っておくが、チームリーダーのいうことには従ってもらうぞ」

女盗賊「チッ。へーい、りょーかい」


女盗賊(アタシの観察眼を持ってすれば、早くて一週間で全てを盗める!)
   (せいぜいそれまで、天狗で居ることね!)


戦士(単純で助かった。こいつを長くここに留めておけば、どれほど平和なことか…)
  (絶対に解き放つわけにはいかんのだ!)


こうして、複雑な思いを抱いたチグハグなコンビが誕生した

人が増えたことにより、これ以上の捜索は危険と判断し、撤退を決めた
当然それに文句を言う女盗賊だったが、切々と説明したら根負けして納得した


女盗賊「それで?何処に行くのよ」

戦士「ん?花の街に行こうと思う。この辺りで一番大きい街だし」
  「最近になって冒険者ギルドが出来たって言うから、一度寄っておきたいんだ」

女盗賊「あの?もう復興したの?」

戦士「そうだ。あそこは貴族御用達の街だからな」
  「貴族にとっちゃ花ってのはかかせないものだ。愛されてる証拠だよ」

女盗賊「フーン」

戦士「乗り気じゃねぇな。もっと「花はアタシにこそ相応しいッ!」ってくるもんだと思ってたが」

女盗賊「……別に。興味ないだけだし」
   「それに、アタシはそんなんじゃねーから」

戦士「ああ、さいですか…」


一路花の街へ向け、歩き出す

ここまで
続きは本日18時くらいから

のんびり行きます

――花の街

数々の花を最高品質で取り扱い、王侯貴族に愛されている街
花といえばこの街をあげるほど知名度は高い

しかし、今より三年前にとある大事件が発生する
謎の一団に突如街は襲われ、壊滅的被害を受けたのだ

当初は組織的な盗賊団の可能性を疑われていたが、後に魔術師の関与が発覚してからは一転、
それ以上のテロの可能性が浮上した


その街に住む市民以上に嘆いたのはお得意先の貴族達だった
花を愛してやまない貴族達は、莫大な復興費を負担し
あっという間にもとの花の街を取り戻したのだ

また、その教訓から警備を増強し、加えて冒険者ギルドに加盟することに決めた


そして現在
あの有名な花の街に冒険者ギルドが出来たと聞いて、野の無頼どもが続々と集結しているのである


戦士「とまあ、これが今までの流れだな。理解したか?」

女盗賊「ご丁寧にどうも」


退屈な道中を説明に費やし、暇をつぶす
もっとも、あまり興味は無さそうだったが


戦士「これは、また…以前よりも大分派手になったな…」

女盗賊「…なに?ここの住人って頭湧いてんの?」

戦士「お前は悪口言わんと生きていけないのか?」

女盗賊「性分なんだよ、ほっとけ」

二人は花の街の入り口に立っていた
イカツイ城門がありとあらゆる花で彩られ、なんとも言えない香りをはなっている

右を見ても花。左を向いても花。下も上も花だらけ

戦士「…復興してからタガでも外れたのか?」

女盗賊「別に花は嫌いじゃない。だけど、こうまで目に入ると…ウザったいわ」

戦士「まあ言うな。復興する前は見る影もないほど無残だったんだぞ」


花に溢れた大通りを突き進んでいく
門番に聞いたところによると、大通りを進んでいけばすぐ分かるとのことだった


戦士「ここ、だよな?」

女盗賊「一応、書いてあるね。『冒険者ギルド』って」

二人が目にしたものは他の建物同様、花で埋め尽くされたギルドだった

戦士「なんだか場違いな印象を受けるなぁ。本当にギルドか?」

そう言いつつも店内へ入っていく

中は他のギルドとは違い酒場ではなく、カフェの様な優雅な造りになっていた
入口から見えるメニューにザッと目を通すと、酒のたぐいはなく、殆どが紅茶だった

女盗賊「あれだね、徹底してるね」

戦士「ここまで来ると尊敬できるな」

周りを見ると彼らと同様に圧倒されたのか、酒がないとうるさい冒険者たちが大人しくしている


女盗賊「クエスト受けんの?」

戦士「そのつもりだ。……あの森を俺は諦めたつもりはないぜ」
  「資金を集めて、また準備してから再挑戦だ」

女盗賊「それはいいけど、面倒なのは無しよ」

戦士「……いい機会だから言っておくか」
  「俺は神秘専門の冒険者だ」

女盗賊「ハッ!?マジ?今時!?」

戦士「それに人助けも好きだ。よっく覚えておけよ、盗っ人」

女盗賊「盗っ人はやめろ!」

女盗賊(え~、こいつマジかよ…今時ガチの冒険者、いや探求者なんて珍しいを通り越して貴重だよ…)


手頃なクエストを物色している時、デカデカと何かが貼りだされていった




  【 討伐クエスト 近隣の村に出没する魔物を退治してほしい
    これはギルドからの正式な依頼である 難易度――中 】



これはつまり、緊急を要するという意味を持っていた

ギルドは、国が軍隊を軽々しく動員出来ない事案を請け負うこともある
被害を最小限に抑え、かつ放っておけば大惨事になる可能性のあるもの…
そういったものをギルドは緊急クエストとして発注するのである



ギルド内がにわかにざわつき始めた
内装に圧倒されていた冒険者達の顔に、いつものギラついた光が戻ってきていた

「珍しい、緊急クエストだ」

「よほどの事なのだろう…」

「だが報酬はスゲェぞ……それに名もあげられる」



「…俺は遠慮するぜ、命が惜しいんでな」

「お、俺もだ…どんだけ危険か知らんが、命あっての物種だ…」

何人かが尻込みした発言をすると、それは波紋のように他へ広がっていった
冷静になったのか、臆病風に吹かれたのか、あちこちでかつての緊急クエストの危険性について語っていた


戦士(チッ……あんま言いたくねぇが、この臆病者共め)

それら有象無象を脇に、戦士はクエストを受注していった


その時



「あの、僕らもそのクエスト…受けます」


戦士が驚いて横に目をやると、少年とその後ろに佇む長身痩躯のハゲ男がいた

戦士(驚いたな。こんな子供が緊急クエストを受けるのか…なんとも勇ましい)
  (それに比べて…アイツラは見かけだけ立派だな)


戦士「なあ、あんた。このクエスト受けるのかい?」

少年「えっ?」

少年は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた
突然声をかけられたことに戸惑っているようだ

少年「え、ええ。そうですよ。えっと……あなたも?」

戦士「ああそうだぜ。若いのに立派なもんだな」
  「あそこでたむろしている奴らが躊躇するようなクエストを受けるんだからな」

少年「その、僕は怖かったんですけど、仲間の僧侶さんが…」

僧侶「人助けは良いことです。我らはそれを行える資格と力があります」
  「それに、修行にもなります。積極的に行なって行きましょう。善行を行えば、何より清々しくなりますよ」

少年「僕も賛成して、未熟だけど人の役に立ちたいなって思いまして…」

戦士(なんと見上げた心意気…。このような若者がまだいたとは…)
  (しかし、確かに未熟そうだ。ここで彼を失わせるようなことになってはいかん…)

戦士(ちと唐突だが…)


戦士「ちょっといいだろうか、提案があるんだ…」

少年「はい?なんでしょう」

戦士「実は俺も一人連れがいてな、そっちも二人…」
  「どうだろう、このクエストの間だけでも即席パーティーを組まないか?」

少年「即席パーティーですか?」
  「うーん…僧侶さん、どうします?」

僧侶「…………」

僧侶は真意を計りかねていた
悪い人間には見えなかったが、前回のクエストの件もあり、慎重になっていた

戦士(こいつの目…ただもんじゃあねぇな…)
  (見慣れない服装だが、まさか「あの国」のモンか?)

戦士「ああいや、別にあんたらをどうこうするって分けじゃないんだ」
  「仮にでも組んでおけば、いざという時助けるのに迷う必要がなくなるってだけだ」

それに、と続けた

戦士「さっき言ったように俺達も二人だからな。人数が多いほうが心強いんだ」

僧侶「見たところ、そちらに手助けが必要なようには見えませんが……」
  「……いえ、いらぬことを言いましたね。少し前に酷い目に会いまして…」

僧侶「少年殿、私はいいと思いますよ。危険は…少ない方が良いですし」

少年「うん。それじゃあよろしくお願いしますね!」

戦士「ああ、こちらこそ。…無理を言ってすまないね」
  「おい、聞いてたんだろ?こっちきて挨拶しな!」

戦士が声を掛けた方に目を向けると、しなやかな身体つきをした髪の短い女性がいた
何故だが凄く顔をしかめている


戦士「おいおい…なんだよその顔」

女盗賊「…別にー。クエストを受けるのはいいんだけどさあ…」
   「なんでガキとハゲとパーティー組まなきゃいけないわけ?」

僧侶「ハゲ…」(これは剃髪しているだけなんだが…)

少年「が、がき……」

戦士「お前…」

女盗賊「事実でしょ!こんなお守りが必要な奴と組んでたら、命がいくつあっても足りないよ」
   「あんた正気なの?なに?アタシの言ってること間違ってる?」


少年「が、ガキだし未熟だけども!これでも冒険者なんだ!」
  「自分のお守りなら自分で出来るよ!」

女盗賊「はーん?小便臭いお子様がなにナマ言ってんだよ」

少年「臭くないっ!」

戦士「お、おい女盗賊、やめろ!」


僧侶「少年殿、落ち着いて下さい」

熱くなっている少年を押しとどめ、引き離す

僧侶「そちらの方も、軽々しく他者をおとしめるような事は慎むべきです」
  「口は災いの元と言いますよ」

僧侶「それに、少年殿はもう立派な冒険者です。先ほどの言葉…取り消していただきたい」

丁寧な言い方だったが、断固とした意思を感じさせる語調だった
さしもの女盗賊も、その意気に押され口をつぐむ

女盗賊「フ、フンッ!」

女盗賊(なんだこのハゲ…怖…)



戦士が顔を近づけ、小声で喋りだす

戦士(お前なぁ…なんでそう喧嘩を売るんだ?)

女盗賊(あたしは思ったことを言っただけよ)

戦士(お前、次こういう事したら技術の件は…ナシだからな!)

女盗賊(うっ、わ、分かったよ………分かったからクセー顔近づけんなって)

戦士(この… ク ソ ア マ ! )

ますます危機感を強めた戦士だった


多々問題はあるが、こうして即席パーティーは誕生した


その後、彼ら以外にクエストを受けたのは八名
三、三、ニのパーティーだった

ギルド側は一応満足いったのか、募集を締め切り、受注者を用意した馬車に誘導した



女盗賊「へぇ~、ギルドって金持ちなのね。随分立派じゃない」

戦士「そりゃな。貴族連中がスポンサーだし」

普段使用する馬車よりも格段に豪華でしっかりした造りをしていた
恐らく戦車の技術が使われているのだろう、と戦士が話した

少年「緊急って言う割には人が集まりませんでしたね」

戦士「嘆かわしいことだが、今やそういう輩のほうが多いんだ」
  「冒険者に求めるものが変わっちまったらしい」

僧侶「そうなのですか?」

戦士「ああそうさ。昔は誰もがあの『赤髪』に憧れたもんさ…」


少年「『赤髪』?」

戦士「知らねーのか?伝説の『天凱の塔』を発見した人だよ」

少年「ああ!あの!?知らなかった…」

戦士「俺が子供の頃の話さ。あの人は様々な困難に立ち向かい、その都度生還した…」
  「幾度も悪人を懲らしめ、多くの人を救い、そして前人未到の地を発見した……」

戦士「まさに冒険者の中の冒険者。冒険者の鑑だよ…」

少年「へぇぇ!」

興味を持ったのか、目を輝かせている

僧侶「伝説の『天凱の塔』とは?」

戦士「勇者の伝説で出てくる塔の事だよ。魔王を倒した後、その塔で勝どきを上げ、神に勝利を捧げたってやつだ」
  「騎士の間じゃ、そこで勝利を報告することが第一級の名誉なんだと」

少年「それは何処にあるんですか?行ってみたいなぁ…」

戦士「さあなぁ…。見つけたことは事実なんだが、帝国神秘部隊ってのが秘匿しているんだ」
  「なにより伝説だからなぁ…それも仕方ないってことで、何となくみんな納得してるのが現状だ」

女盗賊「それじゃあ本当に見つけたかどうかなんて分かんないじゃない。崇拝しすぎて脳みそ腐ったんじゃないの?」

ジロリと女盗賊を見る僧侶
その視線にはたしなめるような含みが持たれていた

慌てて口を抑える女盗賊

戦士「そりゃ、誰だってそう思うよな。だが、証拠があったんだ」

少年「証拠?それってなんですか」

戦士「『聖杯』、だよ。勇者が神に勝利を捧げるときに使ったとされる、聖なる杯」
  「それを赤髪が持ち帰ったんだ」

戦士「伝承通りの色、形で、その杯に聖酒を注ぐと、黄金色に輝いたという」
  「それは多くのものが見ていて、俺もこの目で見たんだ」

女盗賊「…マジ?」

戦士「マジだよ。今は帝都の博物館で厳重な警備のもと、飾られているぜ」
  「一昨年見に行ったし」

戦士「ちなみにその博物館の五分の一が赤髪寄贈なんだぜ」

少年「すっっごいなあ! あの、今赤髪さんはどうしてるんですか?」

戦士「数々の功績を認められ、その博物館の館長やってる」
  「だけど、すぐ殺されっちまった」

少年「えっ!」

僧侶「なんと…」


戦士「まあ、恨みは随分かってたみたいだぜ」
  「いろんな奴が悪事を暴かれて、切歯扼腕してたようだし」

戦士「しかし、稀代の大英雄の最期が、あんなんだとはなぁ…」
  「俺はショックで一週間メシが食えなかった」

女盗賊(真性のバカか)

戦士「お前、今俺のことバカにしただろ」

女盗賊「し、してにあよ!失敬な」

少年(噛んだ…)

僧侶(噛みましたな…)

女盗賊「なんだ!?やんのか!そんな目で見んな!!」


「お客さん方、着きましたぜ」

その言葉を聞き、確かに揺れが収まっていることに気付いた
表に飛び出る女盗賊


戦士「なんか、久々に語ったから喋り疲れちまった」

馬車を降りると、既に他の連中は村長の元へ集まっていてた


村長「冒険者に皆さん、此度はありがとうございます…」
  「まずは拙宅にておくつろぎ下さい」

村長に案内され、もてなしを受けた
肉や魚、地酒を振舞われ、気分は高揚していた

ひと通り飲み食いし、腹を満たしていく


村長「皆さん、満足いただけたでしょうか?」
  「早速で申し訳ないのですが、此度のことについて、説明させて頂きます」


この村に面している森、ひと月程前に魔物が現れ、狩猟を行なっていた村人を襲った
それから徐々に被害は拡大し、ついに森以外にも現れるようになってしまった

そして、今から一週間前。村で飼っている羊が十数匹と、その管理者食い殺されているのを発見した
協議した結果ギルドへ報告し、現在に至るという


村長「それから徐々に村の奥へ入ってきているようなのです…」
  「見張りを立てれば、尽く殺されてしまって…もう既に六人やられています…」

羽兜「魔物の姿や数はわかってるのか?」

村長「目です…三つの目……最初に襲われて、生き延びた者のいうことには」
  「三つ目の魔物、だそうです」




結局、目撃者は殆ど死に、恐怖のせいで姿すら確認できていない状況だった
深夜に現れる三つ目の魔物。情報はそれだけだった


少年「三つ目の魔物かぁ…」

戦士「三つ目ねぇ…まさか邪眼持ちか?」
  「いやいやいや…そんなんだったらもっと被害が拡大しているはずか」

僧侶「邪眼持ちとは?」

戦士「最悪の魔物だよ。邪眼、邪視とも言うが、とにかくひと睨みで敵をぶっ殺しちまうのさ」
  「防ぐ手立てが殆ど無い。だが、邪眼は不浄を嫌うらしい。性器とか糞尿とか…」

戦士「そいつで気を引いて居る内に逃げるのが出来る戦法か」

少年「ま、まさか…その邪眼持ちが?」

戦士「んーやっぱ無いと思うぜ。死因はだいたい喰われてるって話だ」
  「邪眼持ちは血肉を喰らうことはしない」

自殺行為だからな、と付け加えた

女盗賊「じゃあ、何のための三つ目なのよ」

戦士「それが分からん。魔物なんて千差万別だし、有名なものしか情報はないんだから」

女盗賊「ちぇーっ、いざという時役に立たんなー」

戦士「それについては面目ない。が、お前が言うな」

既に真夜中を過ぎている
冒険者は散らばり、森に面している場所を各自見張っている

現れれば花火をあげて知らせる手はずになっていた


少年「フアァ~……」

起き慣れていないのか、大きなあくびをする少年

女盗賊「お?なんだガキンチョ、おねむの時間か?」

少年「ム! 別に、全然平気です!」

女盗賊「おいおいおいおい、目がしょぼしょぼしてんじゃん。嘘言うなよ~」

少年「本当です!眠くなんか無いですっ!」

女盗賊「ファファファファ!ガキンチョが一人前に怒った~!」

少年「むぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」

戦士「二人共落ち着け。特に女盗賊!僧侶さんがお前を睨んでるぞ」

女盗賊「えっ」

表情からは何も読み取れなかったが、まっすぐ女盗賊を見ていた

女盗賊(こいつ、苦手だ…)


ヒュゥッ……
      ……パァンッ!

遠くの方で花火が上がる音が聞こえた
ついに出たのだ

フザケていた空気が一瞬にして張り詰める


戦士「来たか」

僧侶「大丈夫でしょうか」

女盗賊「あっちのグループには贅沢にも魔術師がいたし、大丈夫でしょ」


ヒュッ……
     ……パァンッ!


もう一方を見回っている方からも花火が上がった


戦士「こりゃ、思ったよりも数が多いぜ……。真逆二方向からとは…」

女盗賊「いいえ、方向なんて関係ないわ……」
   「全部よ…。山全部から魔物が来る…ッ!」

最初に動いたのは少年だった
暗がりへ一発矢をお見舞いする


――ギャンッ!


命中したのか悲鳴が聴こえた
悲鳴に続くようにわらわらと、気持ちの悪いくらいの数が突撃してきた
そのどれもが三つ目で、赤く光っていた


戦士「こりゃやべぇ…クエストどころじゃない!」
  「俺が前に出る!みんなは互いの背後を護れ!」

背中に背負った巨大な剣を解き放ち、大上段に構える
背後からでもわかる威風堂々たる姿、圧倒的威圧感を放っていた


暗がりから出てきたのは、赤い三つ目の虎だった
尻尾は二股に分かれ、顔が醜悪に歪んでいる

ディヤアァァッッ!!

気合とともに目の前の虎を一刀両断にした

続いて横薙ぎに剣を振り、もう一体を仕留める


その剣勢に圧倒されたのか進軍は止まり、ジリジリと彼らを囲っていった
この場での最大の脅威と理解したのだ


開始早々の膠着状態
緊張がピリピリと肌を刺した


戦士(ここまではいい。だが次の手はどうする?)
  (『生き延びなければならない』、『背後の村を守らねばならない』。この数相手に出来るか…?)

僧侶「戦士殿、私がこの場をかき回しましょう。少年殿と女盗賊殿を頼みましたぞ!」

戦士「なにィ!?あんた正…!」

ヒョイッ、と驚異的な跳躍力で只中へ飛び込んでいく


突然動き出した人間に、反射的に魔物は反応してしまった
魔物のほとんどが僧侶の動きに釘付けとなった

戦士「どぉっせいっ!!」

大剣を二振り。魔物に当たり、肉塊となって飛び散った


女盗賊「くっそーッ!こいつらなにガンたれてんだよ!」

手にした短弓を鮮やかに操り、次々と射かけていく
少年も、それに遅れてはいるが、手早く矢を放っていく

戦士「頭だ!なるべく頭を狙え!下手に傷つければ手が付けられなくなってしまうぞ!」

女盗賊「わかっ……てるよ!!」

少年「は、はいッ!!」

戦士(だが、あの僧侶さんが撹乱しているから、まだ余裕がある…)



少年「うあああッ!」

避けきれなくて、左肩を爪でエグられてしまった
怪我を負ったことで、思わず足が止まる

そこをすかさず魔物が大口を開けて襲いかかった


女盗賊「ボヤッとしてんじゃないよッ!!」

魔物の口に矢を射掛け、閉じたところで下顎を突き刺した



魔物の間を飛び回っていた僧侶は、少年の悲鳴を聞きつけ助けに行こうと思ったが、
今行けば更に危険に晒すと踏みとどまった


僧侶は敵を撹乱しながらも、必殺の拳脚を存分に振るっていた

体躯が大きいため、流石に頭部を打ち付けなければ一撃とは行かなかったが、
骨を折り、内臓を傷つけることには成功していた


僧侶(カニの時のように、強力な外殻を持っていなければ通じるか…)




少年と女盗賊は離れたところに移っていた
少年の傷が思ったよりも深く、出血が多かったからだ


今は戦士一人が剣戟の暴風と化し、二人から守っている


女盗賊「おい、しっかりしろ!男だろ、泣くんじゃない!」

彼女なりに鼓舞しながら消毒と、気休め程度の軟膏を塗っていく

少年「……う、ぐっ…。な…泣いて、なんか…ないで、す」

女盗賊「…そうかい…それでこそ、男だよ」

傷に布を当て、その上から包帯を巻いていく


女盗賊(これで、一応手当は済んだけど…もう弓は持てそうにないね…)
   (いくらあの二人が魔物よりも怪物じみてるって言ったって、限度がある…)

女盗賊(アイツらを生き残らせなきゃ、アタシも死んでしまう…それだけは避けなくちゃ…)
   (……付け焼刃なんて………ええいっ!四の五の言ってられないだろ!この状況!)



女盗賊「あんた、意識はしっかりしてるね?……よし。右手は動く?……よし!」
   「これからあんたに投擲術を教えてやる。生き残りたかったら、死ぬ気で覚えな!」


女盗賊(ひと通り…いや、必要なところだけの口伝とコツは叩き込んだが…使い物になるか?)
   (下手すれば、変に気を引いて二人ともどもムシャリ!なんてことに…)

女盗賊「構うか!一、ニの、三で投げるぞ、……一…ニの…」


―――三ッッ!!


――ドガッ!


投げたナイフは見事に一体の魔物に命中した


女盗賊「へぇぇー……才能あるじゃん」

少年「ハァ…ハァ…ど、どうも……」

女盗賊「酷なこと言うけどさっさと場所移すよ。オラ、ヘタってないで足動かせ!」


戦士(……自称するだけあって、確かに多芸だな。助かったぜ)


――ゥゴァァァッ!!


戦士「おおっと、そっちにゃ行かせねーぜ」


魔物は思いの外のことに戸惑っていた
目の前にいるこの人間は、圧倒的暴力で近付くことも出来ないし、
後ろを飛び回っている変態は、追えば追いつけない、無視すれば強力な攻撃を受ける

そして新たに登場したのか、何処からともなく攻撃が飛んでくる事だった

八方塞がりに、徐々に恐慌に陥っていった


戦士(ん?勢いが落ちた?)

剣で感じる感覚が明らかに減っていることに気付いた
目を上げてみれば、逃げ腰になっているのが見えた

戦士「僧侶さん!今がチャンスです!逃げられないうちに一気に押し込みましょう!」


返事の代わりか、魔物が宙に吹っ飛んでいった

戦士「お見事!」


尻込みしている魔物に剣を突き立てると、既に片付けたのか、他の冒険者達が加勢にやってきた

羽兜「どうやらあんたんとこが大当たりで、一番多かったみたいだな」

髭面「女とガキ連れて、よくここまで蹴散らしたなぁ。感心するぜ」

話しながら残った魔物を全滅させていく

戦士「そりゃどうも。……誰か治療術の心得持ってる奴居ないか?」
  「仲間が怪我したんだ」

狩人「簡単な治療魔法なら。俺がやろう」

戦士「すまん、頼んだ。他のみんなは俺についてきてくれ!今から山狩りを行う!」

デブ「山狩り?もう魔物はやっつけただろ」

戦士「おかしいと思わないのか?いくらなんでも魔物が多すぎる。山で何かが起こっているんだ」
  「ついでに残りの魔物を狩り尽くす。ここまで来たんだ、徹底しようぜ」

魔術師「賛成だ。これだけの規模、もうこの村だけの問題じゃあない」
   「敵に被害を与え、手練が集まっている今が殲滅の好機だ」

傷顔「だがその間にこの村が襲われたらどうする?何人かは残るべきだ」
  「けが人も居るんだろ?」




全員合わせて十二名
一人は怪我、それを治療するために一人
村の防備に三人の、五人が残ることになった

戦士、僧侶、女盗賊、魔術師、髭面、羽兜、傷顔

の七名が山へ突入することになった





今回はここまで
残りの半分は明日の18時以降に投下します

ここまで読んでくださってありがとうございます

今日こそは投下し切りたい
いきます



髭面「なんてこたあねぇ。ただの山だぜ」

深夜の激闘から夜明けを迎え、引き続き魔物の討伐を行うために山へ入った一行だった

魔術師「今のところ、なにかの呪物の気配を感じたことはない」
   「ただ、先程までの魔物の気配は色濃く残っているがな」

僧侶「やはり魔孔が…?」

魔術師「ああ、開いている。それも二つもだ」

羽兜「ふ、二つもか!?そりゃあ、多いはずだ」

魔術師「しかもまだ成長している。早期で発見できたのは僥倖だった」

戦士「どちらにあるか、分かるか?」

魔術師「蛇の道は蛇ってな。任せておけ。一つはもうすぐだ」


魔術師が言った通り、魔孔が見つかった



魔孔は本当に孔があるわけではない
便宜上それが適切だと判断され、そう呼ばれている


では、実際の魔孔とは?


それは空間の穢れ、不浄である
空間の穢れは、増大すればこちら側の世界の物質を、次々と侵食していく


侵食されればどうなるか?
簡単にいえば、尋常な生き物は住めなくなってしまうのだ
土地は毒に覆われ、植物が瘴気を出し、空気は汚染されてしまう


一度そうなってしまえば、数十年、あるいは数百年の地鎮を行うことで、ようやく正常に戻る
魔物を、魔孔を恐れる理由がこれだった


僧侶「こ、これは…!」

髭面「こいつは、ひでぇ…」

あまりの光景に絶句する
規模こそ大したことはないが、既にかなり侵食が進んでおり手遅れだった

魔術師「ヤバかったな。これ以上放置していたらどんな怪物を呼び込んだことか」

羽兜「位置の記録は出来たかい?」

女盗賊「誰に向かって言ってんの?当然完璧だよ」

戦士「俺達にできることはこれだけだ。次の場所を……」

僧侶「ちょっと待っていただきたい。私に任せてもらえないでしょうか」

傷顔「あんた…払えるのか?もしかして…」

僧侶「ここまでの進度です。完全には不可能でしょう」
  「ですが、これ以上侵食を進ませないようには出来るはずです」


そう言って、聞いたこともない呪文を、独特の作法で儀式を行なっていく



魔術師「おおおお…凄い…これが浄化……。初めてお目にかかった…」


僧侶の浄化は無事成功し、感じていたプレッシャーが減ったような気がした

僧侶「これで一応の応急処置は出来たと思います」
  「完全に払うには何年も、そして何人もの人が必要でしょう」

戦士「よし、じゃあ次へ急ごう。僧侶さん、次もお願いしていいですか?」

僧侶「もちろんですとも。任せて下さい」

魔術師「上の方だ。もしかしたら山頂付近かもしれない」



髭面「いやぁ、凄いもんなんだなぁ。なああんた、東の国の出だろ?」

羽兜「ああ~。そういえば見たことのない服装だな」

僧侶「ええ。そうですよ」


髭面「するってぇと、あの『帝都の魔人』の生まれ故郷か?」
  「そりゃスゲーのも納得できるぜ」

傷顔「『帝都の魔人』か…。良くもあんな怪物が生まれたものだ」

羽兜「あいつが名を馳せてから何年だ?」

戦士「六十年だよ」

魔術師「ほとんど妖怪だな。しかもまだ現役ときた」

僧侶「……」

羽兜「二十五年前の邪竜騒ぎ。アレを対峙したのも魔人だからな」

髭面「まさに魔人!人に非ず!」

羽兜「僧侶さん、あんたの出身国なんだろ?なんか魔人のことで知ってたりすることってないの?」

僧侶「……申し訳ありませんが、その事について語る口を持たないのです…」

髭面「ああ?どういうこった?」

戦士「お国の問題があるんだろう。無駄口はそこまでにしてくれ」
  「到着したそうだ」



そこは、先ほどの魔孔よりも侵食が進行しており、近寄るのでさえも困難に見えた

魔術師「これはマズイ。非常にマズイ」

戦士「どうした?魔術師どの」

魔術師「孔を通って何かが現界してくるぞッ!」

戦士「なっ!?伏せろォォォーーッ!」


空気がググッと圧縮し、次の瞬間、瘴気をまき散らしながら爆発した

間一髪で地面に伏せたため、全員すんでのところで被害はまぬがれたようだ


――グロロロロロロロ………


魔術師「こんな、まさか……ミノタウロス!?」

牛頭の怪物は、人間の倍ほどもある戦斧を手に持っていた


牛頭は、人の姿を見つけると、大戦斧を力任せに打ち落とした

あまりの重さと力に、土が舞い上がる


髭面「おい!どうする!?殺るか!」

羽兜「いやいや無理だろ!今の見たか!?」

戦士「いや、殺るしかなさそうだぞ!逃がしてはもらえないみたいだ!」

第二撃が地面をえぐる


魔術師「大魔術で一気に片を付ける!俺を守ってくれ」

そう言って詠唱に入る魔術師

髭面「うおおおおお!チックショー!やってやらぁぁぁぁ!」


怪物との戦いが始まった

戦士「足だ!足を狙え!」

曲刀、戦斧、大刀、大剣が、足元を動き回りながら斬りつけていく
さすがの熟練者達で、いかに大怪物といえど安定した立ち回りを演じていく

しかし、それを巨体を活かした力任せの攻撃で跳ね除けていく


ピシュッ!


ナイフが空を裂き、牛頭のふくらはぎへ突き刺さる

女盗賊「ちょっと、アタシを忘れないで貰いたいね」

思わぬ傷に、いきり立ち突撃してきた

戦士「女盗賊、避けろ!!」

女盗賊「ったく…見るからに脳みそまで筋肉でござい、って姿してるな…」


目に向かってナイフを投げつけた
見事に命中し、巨体がよろめいた。それでもまだ女盗賊へ猛進している


僧侶「ハッッッ!!」

気合とともに、牛頭の側頭部を蹴り抜いた


強力な一撃で、ついに牛頭の足は止まり、ドウと倒れた

女盗賊「念の為だ、もう一個の方貰っておくよ!」

ダメ押しに、残った目に向かってナイフを投げつけ命中させる


――グォォォォオオオオオッ!!


痛みのあまりにのたうち回る


戦士「チィ…これだけしたのに、まだ来るのかよ…」

両の目を潰されたことで逆上したのか、やたらめったら大戦斧を、巨木のような腕を振り回している
木が次々となぎ倒されていく

戦士「女盗賊!もう一度足を狙ってくれ!」

女盗賊「あいよ!」

三発続けて投げつける


痛みに更に怒り狂い、今まで以上の力で大戦斧を、ナイフが飛んできた方向に叩きつけた

戦士「せぇぇぇーーーのぉおおおおッ!!」

大振りになり、大戦斧が足元から離れたところを狙っていたのだ
四人の武器が一斉に牛頭の足を襲う


――ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


雄叫びを上げて膝から崩れ落ちた
もう、動けないだろう

傷顔「魔術師!まだか!」


魔術師「待たせたな!みんな!離れてくれ!!」


牛頭の頭上に現れたのは巨大な火球だった
それが落ちていき、着弾した

周囲を焼きつくすような火柱が上がる


――ブォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!


牛頭の断末魔だろう。周囲に木霊していく


牛頭を焼き尽くした火柱は、徐々に収束していき、後に何も残さず消え去った
山火事になるかと肝を(密かに)冷やしていた戦士は、その様子に驚いていた

戦士「魔術ってのはそういうことも出来るのか……お見事、魔術師ど…」

称賛を贈ろうと魔術師の方へ顔を向けると、バッタリと倒れていた
それを傷顔が介抱している

傷顔「まだまだ若造なんでな、デカイの一発やるとすぐ枯渇しやがる…」
  「だが、良くやった」

あまり表情は動かなかったが、わずかに誇らしげだった


先ほどの魔孔より念入りに浄化を行い、一応の沈静化を見せた
夜中から戦い詰めだったため、帰りはふらふらしながら下山していった


ふもと、村へ帰還すると、村人が総出で出迎えてくれていた
どうやら居残った仲間が事情を説明していたらしい


すぐに手厚い看護を受け、それぞれ用意された部屋で泥のように眠った


目を覚ますと、小奇麗な衣服を受け取った。これに着替えるそうだ
着替え終えると、村人に案内され、村長の元へ案内された


村長「冒険者の皆さん…本当にありがとうございます…!」
  「あなた方に感謝を伝えるべく、宴を一席設けました…存分に堪能してくだされ!」


ワッ!と賑やかになる
どの顔も晴れ晴れとした笑顔をしている

出された料理も豪華…とまではいかなかったが、色とりどりの料理が並んでいる
飢えた身体には持って来いのボリュームだった


酒、歌、踊り、音楽
疲れた身体に染み渡る数々な催し物に、一同は酔いしれていた

酔った戦士が少年に話しかけた

戦士「おー!少年、楽しんでるかー!」

少年「戦士さん。ハイ。なんだかすごくって、圧倒されてます」

戦士「ん?こういうの初めてか?」

少年「お祭りは初めてじゃないんですけど、なんていうか、雰囲気?」
  「なんだか凄く清々しくて…」

戦士「…ああ、感謝されて、人の笑顔を見て食うメシは、うまいよなぁ」
  「分かるぜ、その気持ち」

戦士「その感覚を持って初めていっぱしになれるんだ。あんたは今、ようやくいっぱしの冒険者になれたのさ」

少年「いっぱしですか?」

戦士「そうさ。ほら、見てみろ。この村の人達の顔を。みんなうれしさに溢れてる」
  「その顔にしたのはあんたなんだぜ。いや、精確には俺達、だけど」

少年「僕達……」

戦士「俺達みたいな無頼者があんなにも嬉しそうな顔に出来るんだ…これぞ冒険者冥利につきるってやつだ」
  「俺はこれが見たくて冒険者をやめられない」

少年「でも、僕は途中で怪我しちゃって…役に、立てませんでした…」

戦士「ハハハハハ!そう落ち込むな!誰だって怪我すればああなるさ」
  「だが、その後援護してくれたじゃないか。痛みを堪えて助けてくれたじゃないか」

少年「でも!」

戦士「そう自分を卑下するな。評価してる俺が居た堪れなくなってくる」

少年「え…?」

戦士「技術や経験は確かに足りない。でもな、一番大事なのは心だ。心根の良さなんだよ」
  「君はクエストで受ける時、周りが怖がって躊躇していたのにクエストを受けようとしていたな?」

戦士「自分も怖いと、不安と想っていたのに。僧侶さんの後押しがあったとはいえ、君はそれを選択したんだ」

戦士「そして、自分が怪我をしてても、仲間のために頑張ろうとしていただろ?」
  「そんなこと、中々出来るもんじゃない…」

戦士「君は勇気がある!誇っていい!君はきっとあの赤髪をも超える、偉大な冒険者になる!」

少年「あ、あの…。酔ってます?」

戦士「酔ってない!よっってないぞぉ!」

ピタリと今度は喋らなくなった

少年「あの、戦士さん?大丈夫ですか?」

戦士「…………ゲフゥ…」

少年「……酔っぱらいって、誰も似たようなもんなんだなぁ」


しばらく大人しくなったあと、ポツリと戦士が聞いてきた

戦士「少年、君はなんで冒険者になったんだ?」

少年「え?理由ですか?」

戦士「俺は赤髪に憧れてなぁ。十五の時、冒険者になったよ」

少年「僕は………」

戦士「どうした?」

少年「あの、笑いません?」

戦士「なんで笑う必要がある?ほら、言ってみな」


少年「僕の故郷で…天使を……その、見たんです」
  「でも、誰にも信じてもらえなくて、だから…その……」

戦士「見返したくて?」

少年「はい……子供、ぽい、ですよね……」
  「天使なんて…伝説でしか、ないのに……」

戦士「……それは、僧侶さんも知って?」

少年「え?は、はい。知ってます」



戦士は密かに衝撃を受けていた
少年は、まさに自分が目指していた冒険者そのものだったのだ

弱気を助け、まだ見ぬ未知の世界を探求する
戦士はそれに憧れて冒険者になったのだ


しかし、彼は未だに目標を持っていなかった
その上、今時彼のような冒険者は殆どいなくて、パーティーすら組むことが出来なかったのだ


各地を放浪して、戦士は様々なクエストをこなしていった
次第に名が売れ、ギルドの間では人気の冒険者になっていった

その名声に群がり、彼とパーティーを組もうとする人は増えた
しかし、彼と志を同じくする人物は、一向に現れることは無かったのだ
彼の下に来るのは、実力を当てにしたもの、自分の名を売ろうとする者ばかりだった


そんな連中ばかりを見てきた彼にとって、今眼の前に居る子供が、
自分が求めてやまないものを持っていることに衝撃を受けた



戦士「君は、天使を探しているのか…そうか、天使…」

少年「あの、その、は、はい……」

戦士「で、どんな姿をしていた?やっぱり伝説の通り?」

少年「はい………えっ?し、信じるんですか?」

戦士「嘘なのか?」

少年「ち、違いますよ!」


戦士「俺は君が羨ましく思う。君は進むべき道を知っている…」
  「俺には、それがない。見つけられなかった…」

少年「羨ましい、ですか?」

戦士「俺は赤髪に憧れてたって、話したよな?俺は彼のように神秘を解き明かしたかったんだ」
  「だが、それには仲間が必要だった。彼のように…」

戦士「しかし、時代なんだろうな。俺が実力、知識共に充実してきた頃には、彼のような冒険者はいなくなっていた」
  「もちろん、一人で探したこともあったが…あまりの過酷さに、断念してしまった」

少年「そう、だったんですか」

戦士「俺が甘かったんだ。慢心していた。たった一人で挑めるほど、神秘ってやつは優しくなかった…」

少年「………」


戦士「そこでなんだが…」

少年「はい?」

戦士「俺に、君たちの目的の手助けをさせて欲しい」
  「それに、これは俺の夢でもあるんだ」

少年「え、え、えええええぇぇぇええ!?」


少年「え、え、い、いいですけど…」

少年(出会った時もそうだったけど、唐突な人だなぁ~)

戦士「ああ、ありがとう。俺にも、ようやく全てを掛ける目標が出来た……」

少年「でも、いいんですか?あてなんて殆どありませんよ?」
  「北西っていう情報しか…」

戦士「大丈夫だ。探求ってのはそういうもんだ」
  「むしろ、それでもやめようとしない君が凄いと思うね」



女盗賊「ちょっと。なに相談もなく勝手に話し進めてんのよ」

戦士「お?聞いてたのか?スケベだなぁ…」

女盗賊「どういう意味よ、酔っぱらい!」


女盗賊「アタシは嫌よ。そんなガキとパーティー続けるなんて」

戦士「じゃあ、ここでパーティー解散か?」

女盗賊「グググ……あんたって本当こすい奴よね…ろくな死に方しないわ!」

戦士「お互い様だよ、盗っ人娘」

少年(この女の人苦手だなぁ…)


少年「僧侶さん、それでいいですか?」

僧侶「少年殿が決めたのなら、異論はありません」


戦士「ありがたい。……こんなに気持ちのいい気分は初めてだ!」
  
そう言ってダンスの輪に突撃していった

女盗賊「……ガキ」

少年「ガキじゃないです」

女盗賊「師匠にそんな口聞いていいと思ってんの?」

少年「弟子入りした覚えはありませんよ!」

女盗賊「あの時私の技を伝授したじゃない。あれは私のところの秘伝なのよ」
   「高弟にしか伝授されないの」

少年「で、でもあの時は……」

女盗賊「男なんだからつべこべ言うな」
   「伝授されたってことは、その門派に入門しなければならないのよ。でないと…」

少年「な、なんです…?」

女盗賊「技術の漏洩と、悪用を封じるために殺さなくてはならないの……」

少年「そんな!僕が望んだわけじゃないのに!」

女盗賊「望もうが、望むまいが、あんたは既に僅かといえど覚えてしまったの」
   「さあ、選びなさい。私の弟子になるか、命を絶つか」

女盗賊「言っとくけど、冗談じゃないから。そこのハゲも手出し無用よ」
   「私は殺ると言ったらやるの。それが決まりなのよ」


少年「…………どうしても、ですか?」

女盗賊「そうよ」

少年「分かりました……弟子に、なります」

女盗賊「そう……」

女盗賊はニンマリと意地の悪い笑みを浮かべた

女盗賊「じゃあ、これを持ちなさい」

少年「これ、ナイフですか?装飾が綺麗ですね」

受け取ったナイフは華美な装飾が施されていた
どうみても実用的なものではない

女盗賊「これは入門したものに、その証として贈られるの」
   「なくしちゃダメよ」

女盗賊「それから、これからはあたしの事を師匠と呼ぶように。分かった」

少年「……はい…師匠……」


僧侶「少年殿、まあそう気を落とされるな」
  「彼女の技術は確かに非凡なものが見受けられます。ここはチャンスと思ったほうが…」

少年「う、うん。ありがとう僧侶さん。……そう、思うようにするよ…」




それから丸一日騒ぎ通しだった
よほど嬉しかったのだろう


翌日の昼に全員が起きだし、昼食が振舞われた
それを食べたあと、行きと同じようにギルドの馬車で帰ることになった

別れ際、随分惜しまれたが、特製のパン等のお土産を受け取って、泣く泣くわかれた

――花の街


女盗賊「はぁ~。数日しか離れて無かったのに、なんだか凄く懐かしい気がするわ~」

戦士「密度の濃い数日だったからな。流石に俺もしんどいよ」

女盗賊「あー、疲れちゃったなー。弟子ー、師匠の荷物持っといてねー」

戦士「ああ?」

少年「…はい、ししょー…」

戦士「あん?これは、どういうこった…?」
  「女盗賊、お前、なにしてんだ…」

女盗賊「なにって、師匠の荷物を弟子に持たせただけよ」
   「さあ、キリキリついといで!」



戦士「僧侶さん…一体何が?」

僧侶を見ると、面目なさそうに首を振った

僧侶「申し訳ありません。…止められませんでした…」

戦士「あの、 ク ソ ア マ ~ …ッ!」



女盗賊「げっ!なんか怒ってる。ほら弟子!逃げるよ!」

少年「え!?ぼ、僕もですか!」

女盗賊「師匠と弟子は一蓮托生、一心同体なの!……うわっ、こっちに走ってくる!」

少年「あっ、ちょっと待って…!」



結局、一時間後には双方倒れてしまい、僧侶に回収されることになった

――翌日


戦士「さて、今後の方針だが…」

少年「僕が最後に見たのは北西に飛んでいく姿だけです」
  「だから今まで、西へ西へと移動して来ました」

戦士「そこでなんだが、途中に修道院が建っている」
  「そこは天使の伝説を記録ていてな、もしかしたら何かしらヒントが得られるかもしれない」

少年「ということで、次の進路はここから北にある修道院へ向かうことにしました」

僧侶「天使の伝説を…?」

戦士「ああ、ここから二日くらい行ったところにある」

女盗賊「馬車は?馬車はあるの?」

戦士「ちょいと調べたが、無いみたいだ」
  「……荷物は自分で持てよ?」

女盗賊「わ、わかってるよ!」

少年は女盗賊が密かにお尻を抑えたのを見逃さなかった


戦士「今から二時間後に出発する。各自荷物をまとめておくように」
  「では解散」



――天使の修道院


酷くみすぼらしい院だった
しかし、良く手入れされているのか、清潔だった
屋根の上に天使を象ったものが置いてあり、それがその場を厳粛なものにさせていた


修道女「天使のお話を聞きに来たのですか?」
   「それは、まあ、珍しい方々ですのね」

武器を入り口に預けると、資料室へ案内された
いや、資料と言うよりは本、図書室というべきだろう
見ると様々な天使に関する文献から絵本まで揃っていた


女盗賊「あたし、なんか目が回ってきちゃった…」

少年「ぼ、僕も…」

戦士「おいおいおい、しっかりしろよ。もちっとシャッキリしろよな」

一同、手分けして有用な情報を探し始める




一時間…
二時間…
三時間…


女盗賊「だぁーーーーッ!全部似たような話でなんも情報なんて無いじゃないのぉぉぉぉぉーー!!」

痺れを流石に切らしたのか、アホみたいに騒ぎ始めた

戦士「う、うむ…まさかこれほどまでに情報が無いとは思わなかった…」

女盗賊「もういい、疲れた、寝る」

その場でコテンと横になり、ふて寝し始めた

戦士も僧侶も疲れたのか、休憩をとった

少年だけ、今だ黙々と資料を漁っている

戦士「おーい、あんまり根を詰めると見つかるもんも見つからんぜ」

少年「…………」

戦士「…大丈夫か?これ…」


少年「一つだけ、分かったことがあります」

戦士「お?なにか見つかったのか?」

少年「この部分です」


今から約400~500年前に起きた人魔大戦
その戦いを人間の勝利に導いた偉大な勇者
敵の本拠地に軍を率いて乗り込み、自らの手で魔王の首級をあげたという
その際、勇者を守護する存在があった。それは天界から使わされた『天使』だった
勇者を影に日向に守護し、魔王の元まで導き、補佐したという
それから魔の物が力を取り戻すたびに、天使が現れ力を貸す伝説が生まれたという


戦士「…誰もが知ってる伝説だな。なにか変なところでも?」

少年「この一文『それから魔の物が力を取り戻すたびに、天使が現れ力を貸す伝説が生まれたという』」
  「ここにヒントがあったんですよ」

僧侶「それはつまり…?」

少年「簡単に言うと、強い魔物が現れれば天使が出現する、ってことです」

戦士「うーむ。伝説通りってことか」

僧侶「しかし、先のクエストでは、かのミノタウロスまで出現したというのに、現れませんでしたよ?」

戦士「…もっとヤバい奴じゃないとだめってことか?」

女盗賊「魔孔の侵食度も関わってるかも!」

戦士「起きてたのか」

少年「でも、ヒントは得たけど、これからどうすれば……」

再び考えこんでしまった



戦士「かなり危険だが、ギルドのクエストを受けて行って、難度の高いものを遂行するしかないだろうな」

女盗賊「げっ!それってかなりしんどい方法じゃん」

僧侶「しかし、それが確実な方法でしょうな」

戦士「だが、一つ疑問が残るぜ」
  「なぜ少年に見える位置で天使が飛んでいたかってことだ」

戦士「伝説の通りなら、強力な魔物がいないと会うことすら出来そうにないぜ」

少年「近くに魔物が出たとか、そういう話は聞いたことなかったです」

女盗賊「もしかしたら、また魔王が出てくるのかもね」
   「なーんて……」

空気が凍りついてしまった
全員彼女を見つめたまま止まってしまっている

女盗賊「や、やだなー、ただの冗談だって、ジョーダン!」


戦士「いや、もしかしたらそのまさかかも知れんぞ」

女盗賊「え?」

戦士「気付いてる奴は居ないと思うが、ここ一年くらいで、規模のデカイ魔孔の出現率が跳ね上がってるんだ」

少年「そうなんですか?」

戦士「あの山でもそうだ。近くに二つも魔孔が開くなんて普通じゃないと思ったんだ」
  「魔王、もしくはそれに匹敵する何かが関係してた、ってなら合点はいく」

女盗賊「ち、ちょっと待って、話が飛躍しすぎ!ただの冗談だから!」

僧侶「私も結論を出すのは早計だと思います」
  「ですが、奇妙なところがあるのも事実です」

僧侶「なにか確証が得られればよいのですが…」


少年「天使を探していけば…きっとそれにも答えが出ると思う…」
  「勘……ですけど…」

戦士「でも西かぁ。どこまでの西なんだろうなぁ…」

女盗賊「西にあるのは、帝国と霧の山を挟んである霧の国くらいか」
   「それ以上行っちゃうと田舎も田舎、ど田舎があるだけ」

僧侶「帝国、ですか…」

戦士「だがべらぼうに遠いな。馬車を乗り継いでもひと月くらいか?」

少年「その途中で討伐クエストがあったなら、積極的に受けて行きましょうか」
  「そして、とりあえずの最終目標地は帝都でいいですか?」

僧侶「いいと思います」

戦士「異論はないぜ」

女盗賊「できる事なら近ブァッ!ちょっと叩かないでよ!」


こうして四人に増えた一行は、西の地を目指して征くことになった

女盗賊は難色を示していたが、戦士に言いくるめられて渋々ついてきていた


少年は女盗賊に無理やり弟子にさせられたが、一応師匠の勤めは果たすらしく、
道中彼に稽古をつけていった

それを見て腕が疼いたのか、女盗賊が教えない日は変わって彼が剣術を教えることになった

「私の弟子だぞ!」といきり立ったが、再び言いくるめられて承知した



少年の旅路はにわかに危険なものになった
しかし、今や仲間と呼べる者が三人にも増えたのだ

少年は嬉しかった。あれほどまでに誰も信じなかったのに、今はこんなに目的を共にする仲間がいる、と
少年は(絶対に天使を見つけてやる)と、固く心に誓った





しかし、伝説に挑むのならば、相応の試練を受けねばならない
彼らの行き先は、不吉な暗雲がたちこめていた


――――――
―――


「星々がついに動き始めました…」

「地の動きは?」

「力を蓄えつつあります」

「天は?」

「気付かれておりません…」

「望みがありそうなのは?」

「今のところ覚醒しているのは獣の一つだけ…」
「しかし、後二つ。可能性があります」

「龍は?」

「まだなんとも…」
「恐らくこれからわかります」

「ご苦労…」

影が蠢く…

「時は来た。今こそ我らの悲願成就の時…」

影の声に周囲がざわめく

「長らく辛酸を嘗めてきたが、それもこれまでだ」

「人の人による人のための勇者!」
「人を守護する最後の盾にして剣!」

「今ここに、勇者計画の発動を宣言するっ!」


ォォォォォォオオオ……


鳴き声とも、歓声ともつかぬ声が空間にこだまする


「思い知らせよう!我らを玩具とした者達に!」

「思い知らせよう!我らを騙し利用した者達に!」


「そして、報いを受けさせるのだ!我らが人の手でッ!」

狂喜に満ちた者達の拍手は、いつまでも、いつまでも鳴り止まなかった……





ここまで読んでくださってありがとうございます
なんか長くなってしまって申し訳ない

最後のは蛇足感がありますが、許して欲しいです。加えるか迷ったんですが…

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