青年「勇者が村を出ない」 (37)


村長「……青年くん、今週の勇者は何人じゃったかの?」

青年「今週の勇者候補は四人です、村長」

村長「今週もそんなに……」

村長「やっぱり『はじまりの村』の村長は疲れるのぅ」

青年「まぁ、他の村と違ってここはイベントが多いですからね」

村長「いくら城から援助があると言っても嫌になってくるわい」


青年「それより村長、先週の勇者が一人まだ旅立ってないんですが、どうします?」

村長「へぁ!? せ、先週の勇者!?」

青年「はい、先週の勇者です」

村長「は、早く旅立たせろ。青年くんは勇者の親友の設定じゃろ!?」

青年「一応そうですね、設定は」

村長「こ、ここはいい。早く勇者を旅立たせてくれ、もう次の勇者が来てしまうわい」

青年「分かりました、説得してみます」


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青年「勇者さーーん」

青年「いない、この勇者の家にはいないのかな……」


勇者「おーーい、こっちだこっち」


青年「あぁ勇者さんいたんですか、って木の上で何してるんです?」

勇者「何って昼寝だよ。あれ、確かお前はオープニングのときにいた……」

青年「勇者の幼馴染の青年ですよ」

勇者「あぁそうだったな。そういや幼馴染ならさん付けは止してくれよ」

青年「設定では幼馴染ですけど、ほぼ初対面じゃないですか」

勇者「気にすんなって、ロールプレイングは役になりきってこそだろ?」

青年「……まぁ確かに。分かったよ、勇者」


青年「それより勇者、何で魔王を倒す旅に出ないんだ?」

青年「村長も困ってたよ。次の勇者が来るから、勇者の家をあけとかないといけないからね」


勇者「いやぁだってよ、いきなり魔王を倒せとか言われても俺には関係ねぇしなぁ」


青年「おい、さっき役になりきるとか言ってなかったか」


勇者「じょ、冗談だよ冗談。でもよ、俺以外にも勇者はいるんだろ?」

青年「そうだね、この村から毎週勇者候補が旅立っていくよ」

勇者「それならその誰かが魔王を倒すだろ? 別に俺が行かなくても大丈夫じゃないか?」

青年「そんな人任せな勇者聞いたことないよ……」

勇者「でも死ぬの嫌だしなぁ。四天王とか超強いって聞いたぜ? 怖ぇよ怖ぇ」

青年「お前はその上の魔王を倒さないといけないんだが」


勇者「とにかく俺は旅立つ気はないからな。魔王に怖気づいた勇者がいてもいいだろ!?」

青年「この勇者開き直ったよ……。でも、それならこの勇者の家から出て行ってくれよ」

勇者「何でだよ、この家は俺の家なんだろ?」

青年「それは、そうだけど……」

勇者「もう勇者の家の前の畑も耕して使えるようにしたし壊れた塀も直したんだ!!」

青年「旅立たずに勇者がそんなことをしてたのか……」

勇者「この家は俺のものだーー!!」

青年「分かった分かったよ。村長のほうには僕から上手く言っとくよ」

勇者「なんて言うんだ?」

青年「そうだね……。とりあえず、レベル上げをしてるみたいとか、そういう感じで」

勇者「村の中で? 説得力ねぇだろぉそれぇ」

青年「お前のせいだろ!!」


村長「それで、まだ勇者は旅に出れないと?」

青年「はい、相変わらずチュートリアルを確認中のようですね」

村長「うぅむ、確かに操作方法の確認は大事じゃが……」

青年「そういえば次の勇者がそろそろ来る頃ですが、どうします?」

村長「まぁ仕方ないのぅ、新しく来る勇者達には予備の勇者の家で対応するんじゃ」

青年「分かりました」

村長「旅に出ない勇者のほうも何とか早く出て行くように言っといてくれんかの」

青年「はぁ、まぁ、何とかしてみます」


青年「おい勇者」

勇者「おぉ親友設定の青年じゃねぇか」

青年「幼馴染の設定です、まぁどっちもどっちですが」

勇者「その様子だと上手いこといってるみたいだな」

青年「とりあえずは村長も納得してる、だが所詮は時間稼ぎだ。いつかはバレるぞ」

勇者「いいのいいの、そんときはそんときよ」

青年「いいのか本当にそれで……」

青年「……それより勇者なにか準備をしてるみたいだが、まさか旅に!?」

勇者「まっさかぁ、お前俺が旅に出るとでも思ってんのかぁ?」

青年「お前勇者!!」


青年「なんだ、村の子供と遊ぶ準備だったのか」

勇者「おう、なんだかんだで俺は勇者だからな、人気なんだぜ?」

青年「勇者なら早く魔王を倒しに行ってくれよ」

勇者「やだよぉ、死にたくねぇよぉ」

青年「はぁ……」


男子A「来たな魔王!!!!」

男子B「今日こそ倒してやる!!!!」


勇者「フハハハハ!! 勇者共め、今日も皆殺しだぁぁ!!」

青年「お前勇者役じゃねぇの!?」


男子A「今日は四天王もいるのか!?」

男子B「手下を連れて来るなんて卑怯だぞーー!!」


青年「お、おい、私は……」

勇者「おいおい青年、ノリ悪ぃぞ。これだから真面目君はダメなんだよなぁ」

青年「…………」


青年「……フン、愚かな勇者達だ……」

勇者「ん!?」

青年「貴様達など魔王様の手を煩わせることもない、風の四天王の私だけで十分だ」

男子A「なにをーーーー!!!!」

男子B「倒してやるぅぅーー!!」


青年「さて、地獄巡りの片道切符は貴様らの命で買ってもらうとするか」


勇者「……ノリノリやん、意外にイケる設定だったのか……」


勇者「そういえば今日は女子はいないのか?」

男子A「女子の家に行ったけど会えなかった~~」

男子B「なんか病気でダメなんだってさぁ」

勇者「病気か、なんだ風邪か?」

男子A「分かんない、僕達は会っちゃいけないんだって」

勇者「そうかぁ、それは心配だな」

青年「…………」

勇者「ん? 青年? 何か知ってんのか?」

青年「いや、そんな筈は……」

青年「フラグが立つわけがない、あれは中盤のイベントのはず……」

勇者「おい、青年」

青年「あ、あぁ、いや、まぁ後で確認しとくよ」

勇者「??」


勇者「おい青年、もう夜だぞ?」

青年「ちょっと確認するだけだよ。勇者には関係ないから帰ってくれ」

勇者「そうはいくかよ。あの病気の女子の家に行くんだろ、俺も行くぜ」

青年「それはそうだけど、勇者が来ても意味はないよ」

勇者「分かんねぇぞぉ? 俺は勇者だからな」

青年「こんな時だけ勇者面されてもなぁ、別にいいけど」


勇者「ん……? あそこなんか人が集まってねぇか?」

青年「あそこは……」


青年「村長、これは一体……」

村長「おぉ青年くん、まさかのバグじゃよ」

青年「バグ? まさか中盤のイベントが発生したんですか!?」

村長「あぁその通りじゃ」

勇者「おいおい、勝手に話を進めるなよ。バグ、イベント、どうなってんだ?」

青年「物語の中盤のイベントであるんだよ」

青年「魔王に完全に倒されて心に傷を負った勇者が故郷に戻ってくるんだ」

青年「その時に流行り病にかかった女子のために、勇者がもう一度立ち上がるイベントだよ」

勇者「なるほどなぁ、ということは今この村に中盤まで行った勇者がいるんだろ?」

村長「…………」

青年「…………」

勇者「まさか……」


村長「今この村には勇者は君しかいない、完全にシステム側のバグのようじゃ」

勇者「おいおい……。あんた医者だろ!? どうにかならないのかよ!?」

医者「この流行り病を治すには裏山の頂上付近に咲く薬草以外ダメなんだ」

勇者「なんだ、その薬草があればいいのか」

青年「それを勇者が取りに行くのがこのイベントなんだ」

勇者「なんだよぉ、それを早く言えよ。それじゃ行ってくるぜ!!」

青年「あっ、お、おい!! あのバカ勇者……」


勇者「この初期装備を着けるのも久しぶりだなぁ、よし行くか」

青年「待て待て、どこ行く気だ」

勇者「おう、もちろん薬草取りに行くぜ」

青年「やっぱり分かってないか、これは中盤のイベントだって言っただろ?」

青年「この裏山のモンスターはレベル40はないと倒せない、そういう仕様なんだ」

勇者「だからレベル1の俺には無理だってか?」

青年「あぁ、後はこっちで何とかするから勇者は待っててくれ」

勇者「そういうワケにいくかよ。この村には勇者は俺一人なんだろ?」

勇者「ということは、このイベントは俺のイベントってことだ」

青年「違う、これはバグだよ。どこかでフラグがおかしくなったんだ」

勇者「どこもおかしくねぇよ。病気の女の子がいる、勇者がいる、やる事は一つだろ」

青年「はぁ、言っても無駄だってことは分かったよ」


青年「それでレベル1の勇者がどうするんだ? 一撃もらったら即死だよ」

勇者「逃げる」

青年「逃げ切れるかなぁ」

勇者「死にたくねぇからなぁ、死ぬ気で逃げるさ」

勇者「それじゃ、行ってくるぜ」

青年「何一人で行く気になってるんだよ」

勇者「えっ」

青年「さっさと行くよ」

勇者「……へっ、お前仲間キャラだったのかよ」

青年「幼馴染の設定だって言ったろ、ここでついていかない幼馴染はいないよ」

勇者「どこまでも設定にこだわるヤツだなぁ」

青年「勇者も勇者になりきってるじゃないか」

勇者「ロールプレイングだからな。まぁ、お互い様か」


勇者「はぁはぁ…………」

青年「まさか本当に戦闘なしで頂上まで来れるとは」

勇者「はぁはぁ…………」

青年「だ、大丈夫?」

勇者「お、おま、お前、足、速かったんだ、な……」

青年「それより勇者、これが薬草だよ」

勇者「お、おぉ、これが!! これで女の子を助け」


魔物「ガアアアア!!!!」


勇者「な、なんだぁ!?」

青年「あぁ、このイベントのボスだよ」

勇者「ボス!? おいおい、ボス戦は逃げれねぇんじゃ……」


魔物「グオオォォ!?」


勇者「な、なんだぁ、ボスのほうが逃げてく……?」

青年「そうみたいだ。まぁ、当たり前なんだけど」

勇者「??」

青年「さぁ、早く村に戻ろう。子供達が勇者を待ってるよ」

勇者「お、おう、そうだな」


女子「あっ、勇者様だ~~!!」

勇者「おっ、女子か。今日も元気だなぁ」

勇者「この間の病気はもう大丈夫みたいだな」

女子「うん!! ありがとう勇者様!!」

勇者「へっ、気にするな。これでも勇者だからな」

男子「ところで勇者は何してるんだ~~?」

勇者「青年と待ち合わせだよ。何でも大事な話があるとかなんとか」


青年「今日も子供には人気だな、勇者は」


勇者「それで話って?」

青年「先月に村から出た勇者が中盤の魔王城のイベント付近まで進んでる」

勇者「へぇ、そいつはすげぇな」

青年「あぁ、あそこまで行った勇者は久しぶりだよ。それで……」


青年「私は早く魔王城に戻って相手のHPが1だけ残る技を練習しないといけないんだ」


勇者「……はい?」

青年「これが中々難しいんだ……」

勇者「ど、どういう意味だ?」

青年「察しが悪いな勇者。私が魔王だって言ってるんだよ」

勇者「えぇ!?」


青年「おかしいとは思わなかったのか? ボスが見逃してくれたりとか」

勇者「そりゃまぁ、思ったけどさ」

勇者「それより実は幼馴染が魔王だったって設定バラしていいのか?」

青年「あぁ、君はもうクリアしたことにするよ」

勇者「クリア!?」

青年「もう勇者には付き合いきれないよ。魔王役は数が少ないんだ」

青年「早く魔王城に戻らないと、こうしてる今もフラグがグチャグチャだ」

勇者「そいつは悪いことしたなぁ」

青年「まさか勇者が旅立たない場合の設定はなかったからね、まぁいい経験になったよ」


勇者「俺はこれからどうなるんだ?」

青年「クリアしたことにしたから、二周目じゃないかな?」

勇者「レベル1で二周目とか逆に難易度上がってそうだなおい」

勇者「お前はどうなるんだ?」

青年「今から魔王城に戻って、当分は魔王役になる予定だったかな」


勇者「…………」


青年「勇者?」


勇者「……顔も知らねぇ魔王を倒しに行く物語より……」

勇者「幼馴染の魔王を倒しに行く物語のほうが、面白そうじゃね?」


青年「は?」


勇者「俺たちのロールプレイングはまだまだ一周目ってこと」


勇者「そうだろ?」


勇者「魔王」


青年「……ハハ、役になりきる、か」


青年「……また会おう、魔王城で」


青年「勇者」


風の四天王「さて、地獄巡りの片道切符は貴様らの命で買ってもらうとするか」




勇者「ブフッッ」

姫騎士「ゆ、勇者? どうしたのです?」

格闘家「おいおい、四天王戦だぞ」

魔法使い「勇者、笑ってないで攻撃して」

勇者「すまんすまん悪かったって。いや、まさかアレ物真似だったのか」

仲間「????」


勇者「へっ……。みんな!! こいつを倒して絶対に魔王城まで行くぞ!!」

仲間「おおおおおおおお!!!!」




おわり




ここまで読んでくれた人、ありがとうございます

それではHTML化依頼だしてきます

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