勇者「剣と魔法のトライバル・クロス」【安価あり】 (510)



・地の文あり。

・過度に性的な内容や下ネタを含む安価は対象外とさせていただきます。

・他の方を不愉快にさせかねない安価は対象外とさせていただきます。

・基本的に23時から24時までのあいだで投下させていただきます。

・ご意見ご感想などはなるべく反映していく所存です。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394625546



ー・-・-・-



勇者「この世界には3つの種族がいる」


 教壇に立つ、目の死んだ青年が気だるげに語る。


勇者「人間。頭が良くて手先が器用。剣も魔法もそれなりにこなせる」

勇者「精霊。知識豊富で自我が薄い。それぞれに宿る自然を司っている」

勇者「魔物。概ね粗暴で知能が低い。種族ごとに大きく特性が異なる」


 青年は自分を指さして言った。


勇者「人間の上位種が『勇者』だ。自殺以外ではまず死なない」


 青年は傍らに佇む少女を指さして言った。


勇者「精霊の上位種が『生霊』だ。自我は薄いが外見は人間と遜色ない」


 青年は傍らに佇む少年を指さして言った。


勇者「魔物の上位種が『魔人』だ。比較的知能が高くて能力も強く、人間に化けられる」


 青年は黒板に要点を書き留めつつ、熱心に耳を傾けている生徒たちに振り返る。


勇者「魔法とは、人間にとっては道具、精霊にとっては感覚、魔物にとっては身体能力の一部だ」

勇者「人間と精霊、そして魔族。これらはとても仲が悪い。臆病な人間と粗暴な魔物は相性が悪いし、精霊は彼らに自然を破壊されることが多いため嫌っている」

勇者「だが互いのテリトリーに踏み込まなければ、争いが起こることは滅多に……」


 そう言いかけた青年はそこで、傍らの少女が自分の服を引っ張っていることに気が付いた。



勇者「どうした、ファイバー」


 ファイバーと呼ばれた少女は、虚ろな瞳を床に向けながら口を開いた。


ファイ「……校庭に魔物。種族は牛鬼。下位種。中型。生徒まで140メートル」


 青年は駆け足で窓に近づくと、校庭を一直線に走る牛と蜘蛛の混合生物を見とめた。そして教壇に立つ少年を振り返る。


勇者「ダンピール、足止めしてくれ」


 ダンピールと呼ばれた少年は、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて鼻を鳴らす。


ダンピ「ふん。礼は弾めよ? 日光があるからここからやる。窓を開けな」


 青年が窓を開けるのと同時に、少年はその場で3メートルほど垂直に跳び、懐から取り出した銀のナイフを信じられない速度で投げ放った。

 ナイフは校庭を走る牛鬼の足へと正確に突き刺さり、その場に縫い止めてしまう。


勇者「そういえば、これを言っていなかった。勇者だけが使える魔法というものが存在する」


 窓から身を乗り出した青年は、透き通るような青空に人差し指をまっすぐに向けた。


勇者「雷を落とす魔法だ」


 次の瞬間、校庭を中心として凄まじい閃光と大音量が響き渡った。

 そして後に残ったものはといえば、粉々になって黒煙を立ち昇らせる炭のような物体だけだった。


勇者「よし、午前の授業はここまで。質問がある者は俺の部屋まで来るように。以上、解散」



ー・-・-・-



ー・-・-・-



【勇者】

種族:人間(勇者)
職業:小学校の「種族学」教師 兼 勇者
性別:男
年齢:24
性格:冷静沈着 無気力
性質:誰もいなくて見通しのいい屋外でないと眠れない
趣味:入浴
好きな女性:担任クラスの学級委員長(10歳)
嫌いな天気:曇り


【ファイバー】

種族:精霊(繊維の生霊)
職業:親善大使 兼 勇者補佐
性別:女(外見)
年齢:16(外見)
性格:人懐っこい さわがしい
性質:潔癖症
趣味:入浴
好きな部位:うなじ
嫌いな天気:雨


【ダンピール】

種族:魔物(元ダンピールで吸血鬼の魔人)
職業:吸血鬼ハンター 兼 勇者補佐
性別:男
年齢:8(外見)
性格:ぶっきらぼう ツンデレ
性質:同性愛
趣味:入浴
好きな血液:血糖値の高めなAB型
嫌いな天気:晴れ



ー・-・-・-



ー・-・-・-



委員長「えっと、つまり木の精霊は森だと自我が薄くなって、都会だと自我が強くなるの?」

勇者「そうだ。自分が司ってるものが近くにあると、意識が拡散してしまう。代わりに木さえ生えていれば遠くのものを見たり聞いたりできるけどな」


 勇者は膝の上に乗せている幼い少女から、反対側のソファに座っている虚ろな目の少女へと視線を移す。


勇者「だから『繊維』の精霊であるファイバーは、人間がたくさんいるところだと自我が薄くなる」

委員長「服も繊維の集まりだもんね。じゃあ森とかだと、もっと元気なの?」

勇者「鬱陶しいくらい元気だな」

委員長「へぇ~」


 話が一段落したところで、勇者はチラリと時計を見る。


勇者「そろそろお昼休みも終わりだ。教室に戻れ」

委員長「はーい。先生、今日のお弁当はどうだった?」

勇者「最高にうまかった。良いお嫁さんになるな」

委員長「先生のお嫁さんにね♪」


 委員長は勇者の膝から降りると、黒くて大きな弁当箱の上に、ピンク色の小さなお弁当箱を重ねて胸に抱える。


委員長「それじゃあ、またね、先生!」

勇者「ああ」


 穏やかな笑みを浮かべて委員長に手を振っていた勇者は、彼女が退室した瞬間に一切の表情を消し去る。

 そして日光の射し込む窓から離れた壁際で、腕を組んでいる魔物の少年へと鋭い視線を突き刺す。


勇者「なにか言いたげだな、ダンピール」

ダンピ「へっ。いっそ清々しいまでのロリコンだなぁ、と思ったまでよ」

勇者「俺は委員長が10歳だから好きなんじゃない。委員長が委員長だから好きなんだ。俺が結婚するのは16歳の委員長だし、俺が74歳の時に委員長は60歳だ。何ひとつ問題は存在しない」

ダンピ「おいおいコイツぁ筋金入りだぜ……」

勇者「ガキは黙っていろ。ホモが感染る」

ダンピ「感染るかボケがぁ!! テメェふざけてっとぶっ殺すぞコラァ!!」

勇者「勇者を殺す? これだから魔物は頭が弱くて困る」


 ダンピールの小さな指から凶悪な爪がスラリと伸び、勇者の手が傍らに置かれた剣にかかる。

 すると今まで沈黙を貫いていたファイバーが、ほんの少しだけ顔を上げて、ポツリと漏らした。


ファイ「……どっちもどっち」


 バッサリと切り捨てるかのようなその言葉に、臨戦態勢だった勇者とダンピールはガックリと肩を落として殺気を収めた。

 と、その時。学校から勇者にあてがわれた個室の扉をノックする音が響いたのだった。



ー・-・-・-




これにてオープニングは終了です。


勇者の部屋を訪れた人物について、安価をさせていただきます。


本日の22時以降に投下されたキャラ5人までで、最もコンマ下2桁が大きかったものを序章の主人公とさせていただきます(00は最少)。

ご協力のほど、どうぞよろしくおねがいいたします。



キャラの設定はすでに上記した三人を参考にしてください。

人間→ドラクエ職業名
魔物→モンスター名
精霊→司っている媒体の名前


【???】

種族:人間or精霊or魔物()
職業:
性別:
年齢:
性格:
性質:
趣味:
好きな○○:
嫌いな○○:



キャラ設定のあとで、他のことも安価にて決めていこうと考えております。

また、質問には随時お答えしていければと思っております。


乙です。1レスの文章が多いのがあれだけど世界観の説明が非常に分かりやすくていいですね。

【パラディン】

種族:人間(パラディン)
職業:大司教・地方支部長
性別:男
年齢:27
性格:高圧的
性質:狂信的  
趣味:晴れた日の散歩
好きな人間:努力する者
嫌いな人間:地位に見合わない働きをする者

・・・・ごめんなさい、22時以降、か。


>>7
ありがとうございます。
申し訳ありません、なるべく文章は分散させるように気をつけます。


>>8-9
申し訳ありません、自分はじっくり設定を考えたいタイプですので、同じような性質の方々へ配慮したつもりの時間指定でした。
ご協力ありがとうございます。

前のスレとは大分方向性変わったね
こういうSS大好物

【妖怪獣】

種族:魔物

職業:咄家

性別:男

年齢:55

性格:人をおちょくるのが好き

性質:風呂に入る時以外はふんどしをつけないと落ち着かない

趣味:くだらない冗談でシリアスな空気をぶち壊してアホな空気にすること

好きな踊り:阿波踊り

嫌いな踊り:真面目っぽいもの全部

【王女】

種族:人間
職業:第二王女・開拓事業担当
性別:女
年齢:18
性格:元気一杯で好奇心旺盛。お人よしで気さくな人柄。ちゃんと考えてから行動できる一面もある。
性質:天性のトラブルブレイカー。周りの問題を自然と引き寄せるが、頑張っていつの間にか解決してしまう。国民からの支持は高い。
趣味:いろんな人の話を聴くこと。生活に役立つ魔法の研究。
好きな食べ物:まともであればなんでも。あえて言えばにんじんの入ったシチュー。
嫌いな天気:天気雨。

【妖怪獣】

種族:魔物

職業:咄家

性別:男

年齢:55

性格:人をおちょくるのが好き

性質:風呂に入る時以外はふんどしをつけないと落ち着かない

趣味:くだらない冗談でシリアスな空気をぶち壊してアホな空気にすること

好きな踊り:阿波踊り

嫌いな踊り:真面目っぽいもの全部


【竜王】

種族:魔物(元魔王の魔人、現在は人間の姿で、竜の姿にはなれない)
職業:人間の国の女王
性別:女
年齢:25
性格:冷静
性質:博愛主義
趣味:食べ歩き
好きな食べ物:ベーコンエピ
嫌いな食べ物:ビーフシチュー

【人虎(ワータイガー)】

種族:魔物(元人間で、人間と魔物を融合させようとする実験の実験台にされた)
職業: 人間時代は花屋の手伝い 現在は帰る場所がなくなったので無職
性別: 女
年齢: 16
性格: 自虐的、無口
性質: 本当は誰かにずっとそばにいてほしい
趣味: 以前は花を育てることだった 段々人間や動物を襲いたい気持ちが増えてきている
好きな時: 嫌なことを考えずに済むから、夜眠る時間
嫌いなもの:自分を化け物にした人間、化け物になっていく自分

>>14

すみません、時計が狂ってました。
改めて。

期待しています。

【パラディン】

種族:人間(パラディン)
職業:大司教・地方支部長
性別:男
年齢:27
性格:高圧的
性質:狂信的  
趣味:晴れた日の散歩
好きな人間:努力する者
嫌いな人間:地位に見合わない働きをする者

見事に外れた

>>16もずれてるんだよぉ……

2回打っちゃった上に時計狂ってて22時に打てなかったとは泣ける

もうこの流れに身を任せよう……



皆さん、ご協力ありがとうございました。

今回は>>18(コンマ97)の【王女】という判断で、どうかよろしくお願いいたします。

時間による安価という形式が混乱を招いたようで申し訳ありません。安価の形式は随時変更していくと思われます。



【王女】 22:00:24.97

種族:人間
職業:第二王女・開拓事業担当
性別:女
年齢:18
性格:元気一杯で好奇心旺盛。お人よしで気さくな人柄。ちゃんと考えてから行動できる一面もある。
性質:天性のトラブルブレイカー。周りの問題を自然と引き寄せるが、頑張っていつの間にか解決してしまう。国民からの支持は高い。
趣味:いろんな人の話を聴くこと。生活に役立つ魔法の研究。
好きな食べ物:まともであればなんでも。あえて言えばにんじんの入ったシチュー。
嫌いな天気:天気雨。



引き続き安価をさせていただきます。


>>24
私の>>16も救って下さいお願いします何でもしますから……


>>26

>>21が「22:02:21.90」であったため、王女という判断になりました。まだ一つ目の安価ですので、どうぞご理解のほどよろしくお願いいたします。

こちらこそ失礼しました。
プレビュー表示だと22時になってたんですよね……。

以後気をつけます、すみませんでした。

>>26
いえ、主人公になれないからではなく採用されない方を危惧したんですすみませんでした。



勇者というのは、死なない肉体を見込まれてさまざまな厄介ごとを押し付けられます。

そういったわけで、王女が勇者を訪ねたからには何か依頼があるというわけです。

その依頼を安価で決定したいと思います。


※あくまで主人公は【王女】です。勇者たちはサポートにすぎません。



【王女の依頼】

事件のあらすじ: (どのような困難が王女を襲ったのか)
事件の経緯: (どうしてそうなったのか)
依頼達成条件: (どうすれば依頼を達成したことになるのか)



物語の根幹ですので、22時55分までに書き込まれたものの中で、私がもっとも面白くできるのではないかと判断したものを選択したいと思います。

完全な運任せの場合ですと台無しになる可能性がありますので、こういった形を取らせていただきます。どうぞご理解のほどよろしくお願いいたします。

それでは、22時50分まで。ご協力お願いいたします。


事件のあらすじ:兄の第三王子(将軍)が無理矢理軍の一部を動かして他国に攻め込もうとしている、相当な被害が予想されるので止めてほしい。
事件の経緯:王位継承権の低い馬鹿が功を焦った。
依頼達成条件:侵攻作戦の中止

事件のあらすじ: 魔人『ドラゴン』の来襲

事件の経緯
ドラゴンが、気まぐれで王城に来襲し、この国で強い者数名と戦いたい。
断れば国を荒らすと宣言した。
もし勝てれば、以後この国を守護してやるという条件付。

依頼達成条件: 自分と共に戦い、ドラゴンに勝利する。

フライングに負けるとか悲しいなぁ
事件のあらすじ:姉ちゃん(第1王女)と継承戦争が勃発
事件の経緯:最初は譲る気だったけど、多くの民から自分が王女になってほしいとせがまれて
それに姉が怒って戦いを仕掛けてきた
依頼達成条件:姉を黙らせる、もしくは殺害

どれも面白そう



申し訳ないのですが、すべてまとめてしまってもよろしいでしょうか。



【王位継承争いとドラゴンの山】

事件のあらすじ:兄の第三王子(将軍)が無理矢理軍の一部を動かして、王国から少し離れた山に住み着いたというドラゴンの魔人を攻撃しようとしている。しかし被害甚大となることは明白。

事件の経緯:第二王女の圧倒的な人気に危機感を覚えた第一王女が功を焦って、第三王子をそそのかして利用している。

依頼達成条件:第三王子を説得して侵攻作戦をやめさせるか、それよりも早くドラゴンを王国から遠ざける。



といったところで書き始めたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。


乙です。
期待しています。

乙です。頑張ってください。

>>34
結果混ぜ込んだ方が面白かった


何でドラゴンを攻撃しようとしている? 功績になるから?


>>38
人間と魔族の仲が悪くて、その上魔族は大抵知能が低く粗暴。それなのにドラゴンという上級魔族のさらに上位種(魔人)が、王国からすぐの山に無断で住み着いてしまったので、国民は怯えている……というわけです。



ー・-・-・-



「あのお方は誰にでも優しくて、それでいて気さくで、本当に素晴らしいお方ですわ」

「その上あんなにお若いのに、どんなトラブルだって、たちどころに解決してしまうんですものね」

「けれどお人形のように愛らしくて、勉強熱心でらして……非の打ち所がないとはまさにこのことね」

「王女となるのは、あのお方以外には考えられませんわ」


 それが彼女、第二王女のごくごく一般的な評判だった。

 そんなときには、彼女は決まってこのように返す。


王女「いいえ、私なんて。姉さまに比べれば、全然大したことないもの」


 それを聞いた者は皆、複雑な思いで苦笑を浮かべて口を噤むのだ。



ー・-・-・-



ー・-・-・-



 姉である第一王女からの視線が日に日に鋭くなっていくのを、彼女は気づいていた。

 しかし自分自身に落ち度があるわけでもないことを、どうにかできるわけもない。

 そうして時間が流れ、やがて第二王女の人気が決定的に不動のものとなったとき。

 溜まった膿が弾けるように、事態は取り返しのつかない方向へと急速に転がり落ちてゆくのだった。



ー・-・-・-



ー・-・-・-



「あ、王女様だー!」

「すごーい! 次の女王様!」

「生王女だー!」


 子供たちの無邪気な(しかしとても胃に悪い)言葉に笑顔を作って応えると、王女は傍にいた小学生を呼び止めた。


王女「あの、ちょっといいかな?」

委員長「はい、なんでしょうか」


 やけにしっかりした利発そうな子だ、というのがその少女に対する印象だった。だから彼女に道を訊ねることにしたのだ。

来たか



王女「この学校に、『勇者』をやってる人がいるって聞いたんだけど……どこにいるかわかる?」

委員長「はい、わかります!」


 なぜか勇者という言葉を聞いた途端に、輝くような笑顔を見せる少女。

 そしてやけにしっかりした道案内をしてもらって、その少女とはそこで別れたのだった。


王女「……ここね」


 思っていたよりずっと地味な鉄扉に、「勇者」という簡素なプレートがかかっている。

 下手をすればこの国家において自分よりも重要人物かもしれない勇者という存在。

 誰とでもすぐに親しくなることのできる王女であっても、やや緊張を感じていた。

 深呼吸。

 そして、扉を叩く。



ー・-・-・-



今日はここまでということでお願いいたします。

このような文体ですが、読みづらい、地の分を減らせ、などといったお意見がありましたら参考にさせていただきます。


それでは、お付き合いありがとうございました。明日も23時から24時までで投下すると思われます。失礼いたします。

了解

乙でしたー。
あんまり暗い内容にはなって欲しくなあ、個人的にはですけど。

続きに期待しています。


>>1って他にも何か書いてたの?


>>48
過去にいくつかここで稚文を晒しておりますが、お恥ずかしいので引き出しの奥に押し込んでおります。

>>1さんの過去作が気になります。

無知なんで、詳しい人がいたら教えていただきたいんですが、少なくても兄が三人、姉が一人いる状態。

この場合、いくら実績と民衆からの支持があっても、第二王女に王位継承の可能性って出てくるものなのですか?
中世の世界観では、むしろ政略結婚の対象にされそうな気がするのですが。

継承順無視しちゃうとすさまじく面倒くさくなるからするわけないと思う。
父王は普通に第一王女(か第一王子)に譲るつもりなんだけど娘が1人勝手に焦ってんじゃね?

>>51さん

ありがとうございます。
勝手に深読みすると

1 第一王女の勝手な先走り
2 第二王女の人望、実績、才覚が兄や姉に比べてずば抜けていて、無視できない
3 現王が第二王女を妄愛しており、王位を継承したがっている
4 兄や姉が余りに頼りなく、王とするには不安

のいずれか、もしくは複合要因でしょうか?
3が4あったら、この国ヤバそうですけど。

女性の方に優先的に継承権があって(要するに女王制っすね)
妹のほうが圧倒的に優れてて人望もあるor姉が絶望的にそれらの面で劣ってる場合
現実でもあり得る話


王位継承権に関する詳しいことは、後々触れようと考えております。

それでは、投下していきます。よろしくお願いいたします。



-・-・-・-



 扉を開くと、まず目に入ってきたのは若い男性だった。

 黒く無造作に伸びた髪、長い手足、そしてなにかにウンザリとしているかのような澱んだ瞳。


勇者「……」


 青年はなにも言わずに、ただ王女のつま先から頭のてっぺんまでをじっくりと観察していた。

 一方、彼の正面に座っている少女は振り返りさえしなかった。


ファイ「……」


 輝く純金を紡いで糸に変えたかのような髪の少女は、見たことのない織られ方をした美しく荘厳なパーティドレスに身を包んでいる。

 そして最後に、開いた扉の裏に少年が立っていた。


ダンピ「……なに見てんだ。さっさと座りやがれ」


 褐色の肌、純白の髪、やけに露出の多い服装に身を包んだ少年は、その真っ黒な瞳で心底鬱陶しそうに睨め上げてきた。

 王女はこの18年間の人生の中で、こんなにも興味なさげでぞんざいな扱いを受けたのは初めてだった。



 とりあえず言われた通りに、青年の正面のソファに腰を下ろしてみる。

 純金の髪の少女は、それでも床を見つめたまま無反応だった。


王女「え、えっと……あなたが勇者さん、なのかな?」

勇者「ああ」

王女「……あの、ここに来ればお願いを叶えてもらえるって聞いたんだけど……ほんと?」

勇者「ボランティアじゃない。『勇者』は種族の名前であり、職業の名前だ。金を積まれれば動く」


 身も蓋もない言葉だった。

 そして血も涙もない言葉だった。


ダンピ「へっ。おい嬢ちゃん、そいつは小せぇガキにしか興味がねぇんだ。悪ぃな」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべた少年が、小馬鹿にするような声色でそう言った。


勇者「ガキは黙っていろ。この女が何者かも知らない癖にな」



ダンピ「あぁ? 知り合いかよ。高そうな服着てっから、どこぞのボンボンのガキなんだろうけどな」

勇者「この国の第二王女だ」

ダンピ「あぁっ!? マジかよ!」


 王女はとても驚いた。

 自分のことを知らなかった少年に対して……ではない。

 自分のことを王女だと知ったうえで、ぞんざいに扱っていた勇者に対してだ。


王女「ええっと、そういうわけでお金ならいっぱいあるよ」

勇者「だろうな。だがそれこそ母親にでも頼めばいいだろう。なんせ『女王』なんだからな」

王女「今、お母さまは病床に臥せっているから……あまり気苦労をかけさせたくないの」

ダンピ「けっ。ごちゃごちゃ言ってないでさっさと依頼内容を話せよ。こっちの気が変わらないうちにな」


 促され、王女はひとつ深呼吸をして、やがてそろりと語りだした。



-・-・-・-



-・-・-・-



王女「依頼っていうのは、私の家族についてのことなんだ」

王女「家族関係が複雑だから、まずはそこから説明するね」


 王女は勇者の澱んだ瞳をまっすぐに受け止めて、説明を始める。


王女「先々代の国王だった私のお父さまには、三人の妃がいたの」

王女「第一夫人から長男と次男、第二夫人からは三男と長女、そして第三夫人からは次女の私が生まれたわ」

王女「そしてある日―――悲劇が始まった」

王女「まず第一夫人が奇妙な事故で亡くなったんだ」

王女「それからすぐにお父さまが病気で寝たきりになると、第二夫人が一時的に女王として国政の代理を務めたの」

王女「すると翌年、剣術の達人だった第一王子が戦死した。なぜか致命傷は、背中にあったらしいんだ」

王女「さらに次の年、魔術の天才と呼ばれていた第二王子が事故死した。完成したばかりの船が壊れて沈んだんだって」



 そこまで説明すると、王女の後ろで話を聞いていた少年が口を挟んできた。


ダンピ「なーんか、きな臭ぇな。その第二夫人ってのが王子たちを殺してたんじゃねぇか?」

王女「……当時も、そんな噂が流れたらしいんだ」

勇者「しかも先代女王はずいぶんな独裁者だったらしいな。国民の気持ちなんてまったく考えない暴政だったと聞く」

王女「結局、先代の女王は暗殺されたんだ。犯人は今でも見つかってない。そして私のお母さまが女王になってから、すぐにお父さまも病気で息を引き取ったの」

勇者「そこまでが前フリか。それで、依頼内容というのはなんなんだ」


 勇者が促すと、王女は躊躇いがちに切り出した。


王女「私の兄さま……第三王子が、この王国から少し離れた山に住み着いたっていうドラゴンの魔人へ攻撃を仕掛けようとしているの」

ダンピ「はあっ!? おいおい、冗談だろ! そんなの、ただで済むわけがねぇ」

勇者「なんでまた、そんなことを。向こうから手を出してきたわけじゃないんだろ」

王女「それでも国民は怯えているんだよ。だから兄さまは次期国王になるために、ドラゴンを倒そうとしているの」



ダンピ「……あ? なんでドラゴンを倒したら国王なんだよ」

王女「お父さまの遺言なの。『国の民が最も支持した王族が、王位を継承しろ』って」


 王女はその当時の情景―――父である国王の最期―――を鮮明に思い出してしまい、目を伏せる。

 国王がどうして突然そんなことを言い残したのか、王女にはいまだによくわからない。


勇者「要するに、今の女王が死んだときに自分が国王になれるよう、今のうちから功績を上げておきたいわけだ」

王女「お母さまの病気は重くて……お医者さまも、もしかしたら危ないかもしれないって」

勇者「それで焦って、馬鹿な真似に走ろうとしているのか」

ダンピ「ならお前が言えばいいじゃねぇか。アホなことしてんじゃねぇってよ」

勇者「現在最も国民からの指示を集めている第二王女が言ったら、逆効果ってわけだな」

王女「……うん、そういうこと」



ダンピ「じゃあそのアホ王子をぶっ飛ばせばいいわけか」

王女「ぼ、暴力はやめて!」

勇者「第三王子の説得か、あるいは山に住み着いたというドラゴンをなんとかするか……だな」

ダンピ「おいおいおい。下位種ならまだしも、魔人だぞ?」

勇者「知能のある魔人だからこそ、話が通じるかもしれない。べつに戦う必要はない。王国から少し離れてもらえればそれでいい」

王女「なるべく被害の少ない解決法でお願い。私のポケットマネーだけでも、かなりのお金は払えるから」

勇者「報酬は成功したらでいい。ファイバー」


 勇者は今までまったく言葉を発さずにじっとしていた少女へと顔を向けて、


勇者「第三王子はどこにいる?」

ファイ「……王宮。会議室。侵攻作戦の会議中」

王女「えっ?」


 なぜそんなことがわかるのか、という王女の疑問は、すぐに解決することになる。



勇者「自己紹介がまだだったな。俺は勇者、人間だ。呼ぶときは勇者でいい」

ファイ「……ファイバー。精霊。ファイバーでいい」

ダンピ「俺ぁダンピール。吸血鬼の魔人だ。気安く呼ぶな」

王女「私は王女。この国の第二王女だよ。王女って呼んで」

勇者「早速だが、王宮に向かうぞ。ついて来い」


 勇者は剣を腰ベルトに差して立ち上がると、仲間の2人に目配せをしてから歩き出す。

 そのあとをファイバーとダンピールが無言で付き添い、王女も慌てて彼らの後を追いかけた。


-・-・-・-



-・-・-・-


「王女様ー!」

「こんにちわ、王女様」

「王女様、ごきげんよう」


 すれ違う国民のことごとくに笑顔で声をかけられる王女を見て、ダンピールは薄ら笑いを浮かべた。


ダンピ「へっ。大したもんだな。女王になりたくて昔から頑張ってたってわけか? なぁオイ」

王女「そんなつもりじゃないよ。いろんな人の話を聞くのが好きなだけだもん」

ダンピ「ふん。どうだか」


 王女の言葉を鼻で笑うダンピール。

 すると前を歩く勇者がチラリと振り返って、


勇者「ダンピール、依頼人が女だからといって八つ当たりするな。残念な心中は察するがな」

ダンピ「テメェが察するべきは、たった今自分に向けられてる殺意だよクソボケがァ」

勇者「太陽の下で粋がるなよ。駄菓子でも買ってやろうか?」

ダンピ「あー急に空が曇らねぇかなぁー、コイツ殺してぇわマジで」



 物騒なことを呟く吸血鬼の少年に、王女はふと疑問に感じたことを訪ねてみる。


王女「そういえば、吸血鬼って直射日光を浴びると溶けるんじゃなかったっけ?」

ダンピ「それは下位種の雑魚共だ。魔人は人間に化ければ吸血鬼らしい弱点はある程度消せる」

王女「へ~、そうなんだ」


 王女がダンピールの注意を引いているあいだに、勇者は隣を歩くファイバーに話しかける。


勇者「第三王子はなにをしてる」

ファイバー「……まだ会議中」

勇者「好都合だな。王宮が見えたぞ」


 王女たち4人が王宮の敷地へと続く橋へ足をかけると、橋の向こうに立っていた警備兵があわてて走り寄ってきた。



警備兵「お、王女様……」

王女「どうしたの? なにかあった?」

警備兵「し、しばらくのあいだ王女様はお通しできません」

王女「どうして王女である私が、王宮に入れないの? あそこは私の家よ」

警備兵「そ、それは……とにかく、そういった命令を受けておりますので……」

勇者「第三王子の命令だな。金でも掴まされたか」

警備兵「っ! だ、誰だ貴様は! なんの証拠があって、そんな世迷言を……!」

ファイ「……左の懐。金貨。宝石」

警備兵「!?」

ダンピ「失せろ、ダボカスが」


 ダンピールは警備兵の影を踏んで太陽光から逃れると、彼の胸ぐらを片手で掴む。

 そしてそのまま橋の下を流れる川へと投げ込んでしまった。



王女「警備兵さん!?」

勇者「おい、川にゴミを捨てるな。拾って来い」

ダンピ「知らねぇのか? 吸血鬼は川を渡れねぇんだぜ」


 そうこう話しているうちに、警備兵は漂流物をせき止める金網に引っかかって難を逃れていた。


勇者「しばらくそこでじっとしていろ。国民に袋叩きにされたくなかったらな」


 勇者はそれだけ言うと、さっさと王宮へと歩を進めてしまう。

 ファイバーやダンピールもそれに続いてしまったので、王女はやや逡巡したのち、謝りながらも橋を後にした。



-・-・-・-



-・-・-・-



 第三王子が軍の人間を数名引き連れて会議室から出ると、そこで彼は見覚えのない3人を引き連れた妹と出くわした。


王子「なっ……王女!? どうしてここに……」

王女「兄さま……お願いだから、馬鹿な真似はやめて」

王子「なんのことだ」

王女「ドラゴンの魔人にこっちから攻撃を仕掛けるなんて、馬鹿げてるよ!」

王子「……知ってしまったのか」


 王子は気まずそうに視線を逸らすと、苦渋の表情を浮かべる。


王子「お前には関係ないことだ。邪魔をするんじゃない」

王女「関係ないわけないよ! どれだけの人が犠牲になるか、わかるでしょ!? 兄さまは作戦指揮の鬼才なんだから!!」

王子「うるさい! 僕ならうまくやれるんだ! 犠牲は最少でドラゴンを討伐してみせる!」



ダンピ「わかってねぇな、ボンクラが」


 憐れみさえ込められた表情で、ダンピールは息巻く王子をあざ笑う。

 それに対して、王子は露骨にピクリと眉根を寄せる。


王子「なんだって?」

ダンピ「ドラゴンを見たこともねぇお坊ちゃんが、鼻息荒く吠えてやがるぜ。はっ。近年稀に見るノータリンだな」

軍人「貴様……! 王子に向かってなんという口をきくのだ!!」


 王子の背後に控えていた軍人の1人が、見た目8歳ほどの子供に対して、大人げなくも剣を抜いた。

 次の瞬間。

 その軍人は見えない何かに吹き飛ばされるように縦方向に4回転しながら数メートル宙を舞い、会議室のテーブルへと落下した。



王子「……っ!?」

ダンピ「これがドラゴンだったら、今頃テメェらは骨まで炭になってたぜ」

勇者「今のが見えなかったのなら、話にならないな」

王女「ぼ、暴力はだめだってば!」

ダンピ「馬鹿言うな、今のは暴力じゃなくて躾だ」

勇者「ドラゴンの魔人は、世界に10体いるかどうかという最上級の魔人だ。しかもヤツらは傷つくと、配下のドラゴンを呼び出せる」

ダンピ「見た目に騙される馬鹿が多いが、ヤツは単体でもちょっとした小国レベルの戦力だぜ」

王子「……だ、だが、僕はそれでもドラゴンを倒さなくてはならないんだ!」

王女「兄さまっ!」

王子「王女、僕はお前には騙されない! お前の思い通りにはならない!」


 王子は突然駆け出すと、王女たちの脇を通り抜けて走り去ってしまった。



 それを見送った王女は肩を落とし、拳を握りしめる。


王女「兄さま……どうして、こんな……」

ダンピ「へっ。妹に負けちまいそうで余裕無くなってんだろうよ。もうあんな阿呆は放っておけ。時間の無駄だぜ」

王女「……上の兄さま達が亡くなったとき、兄さまは私を慰めてくれたんだよ……」

ダンピ「そうかい。だが昔は昔だ。今とは違う」

王女「……そう、なのかな」


 王女は俯いて、懐から1枚の写真を取り出す。

 それは、まだ全員が存命していた頃の王族による集合写真だった。



王女「もう、あの頃みたいには戻れないのかな……」

ダンピ「……」


 王子に置いて行かれた軍人たちが散り散りに逃げ去っていくのを見送っていた勇者は、そこで自分の服が引っ張られていることに気が付いた。


勇者「どうした、ファイバー」

ファイ「……さっき、見られてた」

勇者「なに? 誰にだ」

ファイ「……第一王女」

勇者「第一王女だと? ……ファイバー、もっと詳しく話せ」


 勇者の言葉に、ファイバーは虚ろな瞳のまま小さく頷いた。



-・-・-・-

面白い


本日は、ここまでということでよろしくお願いいたします。

ドラゴン(魔人)の設定を安価するかといったことを迷っております。

前回のスレで、安価はごくたまにでいいというアドバイスをいただいたので、今回はそういった方向性で進めさせていただいています。

それでは、今日はこれにて失礼します。ありがとうございました。

乙です。
面白いので、これからも楽しみにしています。

スレタイの略称は「トラクロ」か……ゲームの名前みたい。


暖かいコメントをありがとうございます。とても励みになります。

スレタイを省略したときに語感がいいように考えたので、気づいていただけてとてもうれしいです。

それでは、書き溜めた分を投下していきたいと思います。



ちなみに第一王女の名前の表記は「第一王女」や「王女姉」では紛らわしいため、「皇女」とさせていただきます。



-・-・-・-



皇女「どうしたのかしら、兄様。そんなに慌てていてはみっともないわ」

王子「……皇女。侵攻作戦を王女が嗅ぎ付けたみたいなんだ。どうする?」

皇女「うふふ。それでいいのよ、兄様」

王子「え?」

皇女「兄様はそんな些事に気をやらなくていいの。兄様の邪魔をする者は、私が排除するもの」

王子「……排除」

皇女「女王と、王女。あの2人の思惑通りに、王位継承順位を踏み倒されてしまっても良いの?」

王子「いや……」

皇女「本当なら、次期国王となるべきは兄様ですもの。そうでしょう?」

皇女「第一王子、第二王子の亡き今、王族の長子は兄様なのだから」

王子「ああ。だが父様の遺言のせいで、おそらく王女が次の……」



皇女「騙されてはいけませんわ、兄様。だってその遺言を聞いたのは、女王と王女の2人だけ……」

皇女「それって、おかしくないかしら?」

王子「都合が良すぎるってことか?」

皇女「今の女王は第三夫人。その実子は王女だけ」

皇女「女王は私たちのことを我が子のように思っているだなんて、歯の浮くようなことを言っているけれど……」

皇女「結局は、自分の本当の娘を次期女王にしたいと考えているに決まっていますわ」

皇女「そんな陰謀に騙されて、兄様はみすみす王位を譲ってもいいの?」

王子「……良いわけないさ」

皇女「そうよ、良いわけない。だから私が兄様を次の国王にしてあげるの」

皇女「2人で、この国を支えていきましょう? 兄様」

王子「ああ……頼りにしているよ。皇女」

皇女「ええ、任せて」



皇女「まずは今夜、兄様に従う兵力でドラゴンを襲撃するの」

王子「今夜?」

皇女「時間をかけてしまえば、王女の妨害で後手に回るわ。どれだけ早く先手を打てるかが勝敗を決めるの」

王子「しかし、僕1人の独断で動かせる兵力はたかが知れているよ」

皇女「それでいいのよ。兄様のお仕事は、ドラゴンにちょっかいをかけてこの国を襲わせること」

皇女「そうすれば、ドラゴンの方から攻めてきたという口実で、兄様が動かせない残りの全兵力を無理やり戦いに引き込めるもの」

王子「僕はちょっとだけ攻撃して、あとは逃げればいいってわけか」

皇女「そうよ、私たちの国からの刺客だということを印象付けてくれれば、あとは無理をしないで逃げてくれればいいの」

皇女「ドラゴンが国に乗り込んできたときの『作戦』は、既に兄様名義の緊急用マニュアルとして軍部全隊に回してあるわ」



皇女「王女の言う通り、それなりの被害は出るでしょうけど……そんなことはどうだって良いのよ」

皇女「―――あいつらは母様を殺した低能どもなんだから」

王子「……わかった、戦いは今夜だ」

皇女「突然襲い掛かってきた恐ろしいドラゴンを、迅速かつ的確な陣頭指揮で討伐した英雄……それが明日からの兄様の評価よ」

王子「頼りにしているよ、皇女」

皇女「兄様のためですもの。国の一つや二つ、手のひらで転がして見せますわ」

王子「相変わらず素晴らしい手際だよ。さすがは『作戦指揮の鬼才』だな、皇女」

皇女「うふふ。この国を手に入れるのは、私たち兄妹ですものね。そうでしょ、兄様?」

王子「……ああ、その通りだ」



-・-・-・-



-・-・-・-



 王女の寝室で、勇者たち4人は顔を突き合わせていた。

 その目的は、言うまでもない。


ファイ「……『うふふ。この国を手に入れるのは、私たち兄妹ですものね。そうでしょ、兄様?』」

ファイ「……『……ああ、その通りだ』」

ファイ「……第三王子が第一王女の寝室を出た」


 ファイバーが滔々と語った密談の内容を聞き終えた王女たちは、それぞれ違った意味合いのため息をついた。


勇者「第三王子は第一王女の操り人形に過ぎなかったというわけか」

ダンピ「けっ。コソコソ他人を操るなんざ、性根の腐った女だぜ。気に入らねぇ」

王女「そんな……姉さまが、こんな……」



 勇者は澱んだ瞳を王女へと向けて、今の話の中で気になったことを訊ねた。


勇者「国王の遺言は、女王とお前しか聞いていなかったのか」

王女「……お父さまの看病をしていたのは、主に私とお母さまだったから」

勇者「遺言の内容は、本当なんだろうな?」

王女「……証拠は、ないけど……」

ダンピ「けっ。遺言がホントかウソかなんて、んなこたぁどうでもいいんだよ!」

ダンピ「間違いねぇのは、今夜、この国が火の海になるかもしれねぇってこった。それでいいのか、テメェはよ!」

王女「よくない! そんなこと、絶対にさせないよ!」

ダンピ「だったらゴチャゴチャ悩んでんじゃねぇ!」

ダンピ「やるべきことはハッキリしてんだ、なにも難しいことなんざありゃしねぇだろぉがよ! そうだろ!?」

王女「そっか……うん、そうだよねっ!」


 ダンピールの言葉で、王女の瞳に闘志が燃え上がる。

 それを見た勇者は、ほんの少しだけ唇の端を持ち上げた。



勇者「第三王子を叩いても対症療法に過ぎない。俺たちはドラゴンへ事情を説明しに行くぞ、ダンピール」

ダンピ「ふん。こんな国どうなったってかまいやしねぇが、ちょうど散歩に行きてぇ気分だ。付き合ってやるよ、勇者」

王女「わ、私も……!」

ダンピ「阿呆が、足手まといだ。引っ込んでろ」

勇者「お前はお前のやるべきことをやれ。ファイバー、王女をサポートしろ」


 ファイバーが小さく頷く。

 それを見た勇者は剣を腰ベルトに差すと、ダンピールに目配せをして部屋の出口へと向かう。



 ダンピールは勇者の後を追う直前に、王女を振り返って、


ダンピ「決着つけてこい」


 ニヤリ、と笑った。それはいつものような嫌味ったらしい笑みではなく、年相応の少年らしい笑みだった。


王女「ありがとう、みんな」


 王女は勢いよく立ち上がると、珍しく床ではなく王女の目を見つめていたファイバーへと顔を向ける。


王女「お願いファイバー、力を貸して!」


 ファイバーは、いつもより心なしか大きく頷いたように思えた。

 そしてこれは王女の気のせいかもしれないが……その人形のような唇が一瞬、微笑んだように見えたのだった。



-・-・-・-



-・-・-・-



 月明かりに照らされた大平原を、軍馬で駆け抜ける20名ほどの集団。

 その先頭をきっているのは、色素の薄いブロンドの髪を風になびかせる青年―――第三王子だ。


王子「いいか、みんな。ドラゴンには極力近づくな」

王子「僕たちの目的はドラゴンを倒すことではなく怒らせることだ」

王子「無理はせずに、目的を果たしたらすぐ―――全体止まれッ!!」


 王子は慌てて騎馬隊を止まらせた。もちろん、目的地に着いたからではない。

 行く手を遮る影が現れたためだ。

 褐色の肌、純白の髪。やけに露出の多い格好をした8歳ほどの少年。

 その少年が、20名からなる人殺しの訓練を受けた騎馬隊へと立ち塞がったのだ。



ダンピ「陽が沈んで、月が昇った。この意味が、テメェらポンコツどもにわかるか……?」


 王子はつい先刻の出来事を思い出して、軍馬の手綱を握る手に汗を滲ませる。

 いくつもの戦場を経験しているであろう軍馬たちが、目の前に立つ1人の少年に対して本能的な恐怖を示す。


王子「……邪魔をするな」

ダンピ「そりゃこっちのセリフだ。ついさっきドラゴンに会ってきた」

ダンピ「そしてテメェらをドラゴンの山に近づけさせねぇっていう結論を出した」

王子「人間に対して反逆するつもりか!!」

ダンピ「だからそりゃこっちのセリフだっての、笑わせんなボケナス。テメェのお粗末な出世プランなんざ割れてんだよ」

王子「……!」

ダンピ「ここから先に進みたけりゃ、好きにすりゃいい。何本の足が宙を舞うのか、見物すりゃいいさ」



 ダンピールの不遜な物言いに、王子は軍馬を降りて剣を抜いた。


ダンピ「やめとけ。勝負にならん」

王子「……たしかに、僕は兄様たちのような剣術や魔術の才能はない。妹たちのような策略や人徳の持ち合わせもない」

ダンピ「へっ。そのようだな」

王子「だが、それでも成さねばならないことがある! 邪魔はさせない!!」


 王子は薄暗い平原を駆け、ダンピールへ一直線に肉薄する。


王子「うおおおおッ!」


 そうして振り下ろされた剣は、亡き第一王子ほどではないにせよ、それなりに研ぎ澄まされた一閃のはずだった。

 しかし王子が目撃したのは、他愛もなく1本の爪で受け止められた自分の剣。



ダンピ「俺を殺したいってんなら、テメェらは救いようのない間抜けだ。言っただろ、『月が昇った』ってよ」

ダンピ「だが結果として、テメェらは運がいいと言えるだろうぜ」

ダンピ「なんせ『この姿』のままじゃ、うまく手加減できねぇからな」

ダンピ「光栄に思えよ……俺の『真の姿』を拝めることをな」


 褐色だった皮膚が、見る見るうちに色を失い青ざめていく。

 ショートカットだった純白の髪が急速に伸びると、マントのように風にたなびく。

 墨を流したかのようだった漆黒の瞳は、今や血のように赤く染まり炯々と輝いていた。



ダンピ「よくよく見てみりゃ、それなりにイイ男じゃねぇか。……美味そうだな」


 凶暴に伸びた犬歯を覗かせて笑うダンピールは、真っ赤な舌で艶めかしく唇を舐めた。

 ゾクリ、と背筋が凍ったのと同時に、王子は見えない何かを顔面に食らい、さきほど降りた軍馬の近くまで吹っ飛ばされる。


王子「ぐっ……!」


 王子が倒れた体を起こすと、すでに騎馬隊の20人全員が軍馬の上から叩き落され、呻き声をあげていた。


王子「―――なッ!?」


 月を背負って降り立つ白い吸血鬼が、凄惨な笑みを浮かべる。


ダンピ「さて、遊んでやるよ傀儡ども。せいぜい楽しませてくれや」



-・-・-・-



-・-・-・-



ファイ「どーして私たちが人間とツルんでるのか、ね。良い質問だよー、王女ちゃん♪」

王女「あ、ありがと……」


 お人形のような顔に浮かぶ表情をころころと変えるファイバーに、王女はまだ馴染めずにいた。

 目的を果たすために王国を離れて大平原へと向かった影響で、繊維の精霊であるファイバーの自我が強まっているのだ。


ファイ「まずはダンピールだけど、そもそもダンピールっていう種族は吸血鬼と人間のあいだに生まれたハーフなんだよねー」

ファイ「吸血鬼を殺す能力とか技術を持ってるんだけど、死ぬと自分も吸血鬼になっちゃうの」

ファイ「だけどあの子は諸事情あって、吸血鬼になってからも吸血鬼ハンターとして生きることを選んだんだよ」

ファイ「だから魔人として覚醒してからは王国に下って、血液を提供してもらう代わりに魔物退治とかを請け負ってるってわけ」



王女「じゃあどうして勇者補佐なの?」

ファイ「ダンピールが吸血鬼になると……えっと、『反動』で困ったことになるんだよね」

王女「……困ったこと?」

ファイ「しかもその時、あの子にはお兄ちゃんしか家族がいなかったらしくって、もっとややこしいことに……」


 ファイバーはなんだか言いづらそうにしていて、困ったように頭をかいていた。


ファイ「今はもうお兄ちゃんがいないから、勇者がその代わりになってあげてるの」

王女「そうなんだ。魔人が人間の味方をしてるなんて不思議だなって思ってたけど、いろいろあるんだね」


 純金を紡いだようなブロンドヘアーをなびかせるファイバーは、王女を振り返ってにんまりと笑う。



ファイ「ちなみに私はね、人間が大好きなんだよ」

王女「精霊が、人間を好き……?」

ファイ「そもそも精霊が人間を嫌うのは、自分が司ってる自然が破壊されるからなんだよね」

ファイ「だけど私は『繊維』の精霊。破壊どころか、人間は新しく繊維を作り出して、す~っごく綺麗な布を織ってくれるの!」

ファイ「王女ちゃんの着てる服も、すっごく素敵だよね! そういったわけで、私は精霊と人間の親善大使をやってるのですっ!」

王女「じゃあ、勇者補佐をやってるのは?」

ファイ「これはダンピールにも言えることなんだけど、勇者にはいろいろ助けてもらったんだよねー」


 ほんのり頬を赤くして、くねくねするファイバー。具体的になにがあったのかを言うつもりはないらしかった。



 そこでファイバーは突然おどけた表情を引っ込めると、


ファイ「さて、王女ちゃん。楽しいお話の時間は終わりだよ」


 そう言いながらファイバーが指さした先には、王女が決着をつけるべき相手が立ち塞がっていた。


王女「……姉さま」

皇女「うふふ。イレギュラーはあったけれど……まだまだ『シナリオ』の範疇ね」


 色素の薄いブロンドの長髪。

 その向こうで妖艶に細められた瞳は、仄暗い闇を宿していた。



-・-・-・-



書き溜めはこれにて終了です。24時までに間に合いましたら、もう少し続くかもしれません。


第三王子や第一王女の設定などは、安価で決定した方がよろしかったのでしょうか。

ご意見など頂きましたら、なるべく反映させていきたいと考えております。

それでは、今日のところは失礼いたしました。

乙です。

>>1さんのやりやすい形で良いと思います。



-・-・-・-


国王「げほっ、ごほっ……」

女王「……あなた」

王女「おとーさま、だいじょうぶ?」

国王「……ああ、大丈夫だよ。心配いらないさ」

王女「おとーさま、はやく元気になってね! わたしがね、元気になる魔法をかけてあげるから!」

国王「ふふ、それは嬉しいな」

王女「元気になーれ! うーっ! ううーっ!」

女王「もう、王女ったら。うふふっ」



国王「王女、お前は本当に優しい子だな」

王女「やさしい? そうかなー?」

国王「そうだとも。王女が王様になったら、とても良い国になるかもしれんな」

国王「王女は、王様になってみたいと思うかね?」

王女「うーん、どっちでもいい!」

国王「ほう? どっちでもいい、か。王様には興味がないのか?」

王女「きょーみはあるよ?」

国王「では、なぜどっちでもいいんだ? 王様になりたいとは思わないのか?」

王女「だって、それは国のみんなが決めるべきことだもん」

国王「……!」

女王「まぁ……!」



王女「国のみんながしあわせになれることをしたいなーって思うけど……」

王女「でも、それはべつに王様じゃなくてもいいもん」

王女「わたしが王様になると、みんながしあわせになってくれるんなら、なりたいって思うけど」

国王「……そうかい。それが、王女の帝王学なのだね」

王女「ていおーがく?」

国王「それならば、王女。これからも国のみんなを幸せにするために、笑顔にするために、がんばりなさい」

国王「それが国のみんなに認められたとき、お前は誰よりも立派な王様になるだろう」

王女「? よくわかんないけど、わかった!」



国王「女王。王位継承順位は撤廃する」

女王「えっ……!?」

国王「そして、次の王位継承の条件は『最も多くの国民から支持を得た王族』とするのだ」

女王「は、はい……!」

国王「ふふ……そうか、『どっちでもいい』か」

国王「―――もう、大丈夫だな」

女王「あなた……」

王女「?」

国王「私は、すこし、休む。後は任せたぞ……女王」

女王「……っ……はい。お疲れさまでした、あなた」


 国王はそれっきり、二度と目を覚ますことはなかった。

 なにか憑き物が取れたかのような安心しきった顔で、安らかにこの世を去ったのだった。



-・-・-・-


>>95
ありがとうございます。あまり気負わずに進めさせていただきます。



今日はここまでということで、よろしくお願いいたします。

それでは、ありがとうございました。

乙です
フワッとしてますが

   うたまほう
王女は「詩魔法」を使えると言うのはどうでしょうか?

乙でした。
・・・・この国王の決断は愚行の気がするぞ。



書き溜めでは無事完結いたしました。23時を回ったら投下させていただきます。

次の安価の形式をどうしようかは考えておりませんので、明日辺りにでも次章の安価をさせていただきたいと思います。

了解しました



-・-・-・-



 王国と、ドラゴンの住まう山。そのどちらもが見える小高い丘で、第一王女と第二王女は対峙していた。


皇女「王女、あなたも王国とドラゴンの戦争を高見の見物に来たのかしら?」

王女「……ちがうよ、姉さま。今夜、戦争は起こらないもん」

皇女「どうかしらね。兄様の騎馬隊を足止めしているようだけど、まさか私が、それだけしか手を打っていないとでも?」

王女「ドラゴンの山には勇者さんがいる。だからきっと、なんとかしてくれる」

皇女「他人任せなのね。そして根拠のない希望的観測だわ。やっぱりあなたに王は向いていないわ」

王女「姉さま、国は王様一人で成り立ってるものじゃないんだよ。みんなの力がないと、みんなが幸せにはなれない!」

皇女「青臭いこと言わないでちょうだい。国の舵取りっていうのはね、冷酷さが必要なのよ」

王女「お父さまが冷酷な人だったとは思えないよ」

皇女「そのお父様が王位継承順位を撤廃するなんて言ったから、戦争が起ころうとしているのだけど?」



王女「それでも、まだ戦争は起こってない! 私たちが止めて見せるから!」

皇女「まぁ、そうね。べつにドラゴンだとか、戦争だとか、じつはそんなことはどうでもいいのよね」

王女「……え?」

皇女「たとえば、ここで私があなたを殺して、ドラゴンの山にでも投げ込んだら……それですべて丸く収まるのよ」


 そう言いながら、皇女はスカートをまくると、太腿のベルトに仕込んでいたナイフを取り出す。


王女「姉さま……!?」

皇女「あなたの中には、そういう『シナリオ』はなかったのかしら? だとしたらおめでたいわね」


 月光に煌めくナイフを持って歩み寄ってくる皇女。

 その妖しい笑みに威圧されて、思わず1歩後ずさりする王女だったが……


皇女「……っ!」


 皇女の身に纏っていた衣服が突然、不自然に捻じれて身体の動きを束縛する。


ファイ「私たちは話し合いに来たんだよ。そのために勇者は、私をサポートに来させた」

王女「ファイバー!」



皇女「……そう。まあ、私が直接殺すだなんて下策を採る必要はないものね」

ファイ「どういうこと? この周囲には馬が一頭しかいないことはわかってるよ。誰も隠れていない」

皇女「ドラゴンが王国を襲えば、王女、あなたは必ず国民を助けるためにドラゴンの前に姿を晒す」

王女「……!」

皇女「そして兄様は、ドラゴンを怒らせて逃げ切れるわけがない」

皇女「王族で生き残るのは私だけ……あとは『私が』手配した作戦で軍部を動かして、ドラゴンを迅速に退治すればいい」

皇女「そうして後日、涙でも流して会見を開き、悲劇のヒロインを演じながら英雄にでもなってみるわ」

王女「兄さまも殺すつもりなの……!?」

皇女「誤解しないでほしいのだけれど、私は兄様のことが好きよ。多分、この世界の人間で一番大好き」

皇女「だけど考えが足りないところがあるから、生きていると、いろいろ不都合なことがあるのよね」

皇女「だからあわよくば消しておきたいの。もちろん、運よく生き残ったなら、わざわざ殺し直すこともないけど」



王女「……姉さまは、人の命をなんだと思っているの……」

皇女「キングさえ守れれば、それでいいのよ。リスクリターンを計算すれば、ポーンやクイーンが取られたってなんともないわ」

王女「……っ」

ファイ「先代女王よりも、さらに悪質になってるね」

皇女「それもあなたたちの勝手な思い込みよ。母様はすごく優しい人だった」

皇女「兄様たちの不幸な死については知らないけれど、きっと母様は手を下していないわ」

皇女「ただ、国民に要求する政策がストイックすぎたのは認めるけれどね」

皇女「だけど国民が一致団結して母様の要求に応えていれば、今頃我が国は数倍も栄えていたでしょう」

皇女「それなのに、悪魔の女王? 冷血の独裁者? 母様を殺した暗殺者が英雄?」

皇女「そんな低能どもは、私が支配してあげるの。真綿の首輪で家畜化して、徹底的に調教してあげる」



王女「……そんなことは、させない。私は国のみんなが幸せに、笑顔になれるようにするってお父さまと約束したの!」

皇女「そうやって父様に取り入ったのね」

皇女「あなたが開発してる日常で使える便利な魔法とやらも、その一環かしら? あの詩魔法とかいう、子供でも使えるっていう魔法」

王女「私は国民に媚びるために魔法を研究してるんじゃないよ」

王女「私は自分の気持ちを偽ったことはない。だってそんなの、いつか絶対後悔するから!」

王女「だから姉さまの残酷な作戦も止めて見せる!」

皇女「もしかして、まだ気づいていないの?」

王女「え?」

皇女「まさかあなた、自分の力で、自分の能力で、私の作戦を事前に察知できたとでも思っているの?」

王女「……どういうこと?」

皇女「そんなの、あなたをドラゴンの前に引っ張り出すために、私がわざとあなたに『気づかせた』に決まっているじゃない」

王女「―――」



皇女「もっとも、あなたは思っていたより賢明な子だった。まさか勇者に依頼するとはね。それだけはイレギュラーだった」

皇女「それでも、私はさらにいくつかの策を巡らせている。勇者がドラゴンの山で交渉してようが関係ないわ」


 皇女がドラゴンの山に目を向けたところで、闇夜を薙ぎ払うかのような強烈な業火が山から吹きあがるのが見えた。


王女「……っ!!」

皇女「ほうら、ドラゴンがお怒りよ。もう後戻りはできない。あなた、少々この私を舐めすぎているんじゃなくて?」

王女「……そ、そんな……こんなことって……!」

皇女「他人は頼るものではなくて、操るものよ? 甘っちょろいあなたに、私の『シナリオ』は止められない」

王女「……あ、あぁ……私……戦争、が……!!」

皇女「駒がどれだけ強かろうとも、盤上を支配する大いなる流れには抗えない」

皇女「さあ、『シナリオ』も大詰めよ! 人形劇のボロ切れ共!!」

皇女「丹精込めて作り上げた、ハリボテの英雄を讃えなさい!!」



 皇女が計画の完遂を確信して、高らかに勝利を宣言した、その時。

 闇夜を切り裂く幾条もの雷光が、ドラゴンの山に降り注いだ。


皇女「なッ……に……?」

王女「……!!」


 山の麓から矢でも放っていたらしい皇女の手先が、大慌てで散り散りに逃げ去っていくのが見えた。

 事の成り行きを黙って見守っていたファイバーは、当然のことのように落ち着いていた。


ファイ「ちょっと勇者を舐めすぎだよ。駒の配置を間違えたね」

皇女「……。どうやらそのようね……」

ファイ「大丈夫だよ、王女ちゃん。勇者はこれくらいの事態、なんともない」

ファイ「王女ちゃんは、目の前のやるべきことに集中して!」

王女「……ファイバー」


 にっこりとほほ笑むファイバーの笑みに安心して、思わず腰が抜けそうになる王女。

 こみあげてきた涙をこらえて、彼女は姉へと向き直る。



王女「こ、これでもう戦争は起こらない! 姉さま、お願いだから、おとなしく手を引いて!」

皇女「そういうわけにはいかないわ。母様の優しさ、実直さはすべて兄様に引き継がれているんだもの」

皇女「うちの国民は、女王であろうと平気で裏切る低能どもだと知っている」

皇女「だからもう、私が安心するためには、裏切る気さえ起こせないほど圧倒的に支配するしかないの」

皇女「そのためなら、私は最後まで戦うわ。それでも止めるというのであれば、今ここであなたが、私を殺しなさい」


 皇女の拘束された腕から、小ぶりなナイフが落ちて刺さる。


王女「……姉さま」

皇女「私は生まれてこの方、敗北を認めたことがない」

皇女「人は敗北を認めた瞬間、惨めな気持ちに押し潰されて、二度と背筋を伸ばしては立ち上がれなくなる」

皇女「みっともなく腰を折りながら生き続けるくらいなら、私はここで潔く散ることを選ぶわ」



王女「……そんなこと、できないよ」

皇女「私にとってあなたは邪魔な障害物だけれど、あなたにとって私は国賊のはずよ」

皇女「王になるというのなら、私を排除してみせなさい」

王女「違う! 私にとって姉さまは、頭が良くてかっこよくて、なんでも余裕な顔でこなせる自慢の姉さまだもん!!」

王女「私がいろんな人の話を聞くようになったのは、なんでも知ってる姉さまに、ちょっとでも近づくためだったんだよ!」

皇女「……そう。最後の最後で期待を裏切ってしまったみたいで申し訳ないわね」

王女「姉さま、お願いだから、国に帰ろう……?」

王女「姉さまの好きなシチュー、作るから……姉さまのきらいなにんじんは、私が全部食べるから……」

皇女「どこまで行っても甘いのね。けれど、いい加減気づきなさい」



皇女「どうしてわざわざ私が、たった一人で人目につかない丘に来たと思うの?」

皇女「もう疲れたのよ。母様が殺されてから、ずっと体が冷たいの。誰も信じられないのよ」

皇女「こんなにも辛いなら、もう生きていたくない……」


 闇を宿した瞳を滲ませる皇女に、王女は早足で近づく。

 皇女はこれでようやく終われるのだと安堵した。


皇女「―――っ!?」


 しかし王女は、どこまで行っても彼女の『シナリオ』を裏切るのだった。

 皇女を襲った感覚は、ナイフで刺し貫かれるといった冷たいものではなく、もっと暖かくて柔らかいものだった。

 ふわりと姉を抱きしめた王女は、一点の曇りもない微笑みを浮かべる。



王女「次の女王には、姉さまがなってよ!」

皇女「……え? は?」

王女「だけどその代わり、私だってどんどんいろんな口出ししちゃうんだから。兄さまだって、きっとそうだよ」

王女「国民みんなが笑顔になれるように、私たち兄妹3人で国を支えていこうよ!」


 皇女は、もはや驚きを通り越して呆れてしまった。

 こんなに馬鹿な生き物がいるのか。

 こんなに優しい生き物がこれから先も生きていけるのか。

 けれど同時に。

 どうしてこの妹が国民からあれだけの支持を得ていたのか……その理由が、なんとなくわかった気がした。


皇女「……私は」


 そうして、第一王女は決断する。



-・-・-・-



-・-・-・-



 月夜の大平原。

 既に軍馬は逃げ帰って、散々打ちのめされて立ち上がることもできない軍人たちが横たわっていた。

 その中でたった一人だけ、剣を支えにして必死に立ち上がろうとしている男がいた。


ダンピ「いい加減やめとけ、アホ王子。格の違いは思い知っただろぉが」

王子「……うるさい」


 肩で息をする王子はどうにか立ち上がると、ふらふらとダンピールへと近づいていく。


王子「僕は……ドラゴンを……」

ダンピ「だからよぉ、ドラゴンにちょっかいかけて逃げ切れるわけねぇだろ!」

王子「……皇女が……ドラゴンは、夜目がきかないと言っていた……」

ダンピ「おめでたいヤツだな、ホントによぉ!!」



 ダンピールは吸血鬼の脚力で移動し、王子の視界から一瞬で消え去る。

 次の瞬間には王子は宙を舞い、なにをどこから叩き込まれたのかを知ることもなく地面へと落下した。


ダンピ「魔物の感覚が人間より鈍いわけねぇだろうが、間抜けが!」

ダンピ「人間の位置なんざ、目を瞑ってたってもわかるに決まってんだろ!」

王子「……」

ダンピ「テメェはあの女に踊らされてるだけの傀儡よ。他人の手のひらの上でしか踊れねぇ哀れなお人形さ」

王子「……知っているさ」

ダンピ「なに?」


 王子はボロボロの体で、なおも立ち上がろうとする。

 他の軍人だってとっくに気絶しているような攻撃を何度も受けて、それでも瞳から闘志が消えることはない。



王子「ドラゴンが嗅覚だけで数キロ先の標的を狙えるということも」

王子「妹が、あわよくば僕を殺そうとしていることも」

王子「仮に生き残ったとしても、王国に僕の帰る場所はないということも、全部」

ダンピ「……お前」

王子「妹は、母様を殺されたトラウマで人間不信に陥っている」

王子「自分が支配している、自分が操っている人間にしか安心できない」

王子「それなら僕は人形でいい。妹のためなら、僕は傀儡に徹する。その結果殺されようとも、それでいい」

ダンピ「全部わかってて、騙されてたってのか……」

王子「妹が大嘘つきだというのは知っている。だけど、それでも!」

王子「兄である僕が信じてやらなくて、誰が妹を信じてやるんだ!!」



 王子はこれで何度目になるか、再び剣を構えてダンピールに突撃する。


王子「うおおおおおっ!!」

ダンピ「……青臭ぇな。クソくだらねぇ感傷だが……思っていたよりかはイイ男だな、お前」


 ダンピールの赤い瞳が妖しい輝きを放ち、禍々しい気配が空間を覆い尽くす。

 外套のように広がっていた純白の長髪が爆発的に膨張し、天使の翼のように展開する。


ダンピ「その健気さに免じて、手加減はしておいてやる」

ダンピ「さぁ、終わりだ―――」

皇女「兄様!!」

王子「!?」


 ダンピールと王子が振り返ると、そこには皇女と、そしてファイバーや王女が立ち並んでいた。



 皇女はボロボロの王子を見るなりすぐに駆け寄ってきて、すっかり冷たくなった王子の身体を抱き寄せた。


王子「皇女……どうして、ここに」

皇女「もういいの。全部終わったのよ、兄様……」

王子「……そうか」

皇女「ごめんなさい、兄様……兄様の気持ちも知らないで、私……!」

王子「お前が女王になることで幸せになれるのなら、僕はそれでよかったんだ」

皇女「兄様……」


 その様子を見ていたダンピールは肩をすくめて、戦闘態勢を解いた。

 真っ白に青ざめていた皮膚は健康的な小麦色に染まり、地面につくほど伸びていた長髪も瞬く間に元のショートヘアへと戻る。



ダンピ「けっ。とんだ茶番だぜ。くっだらねぇ」

勇者「そう言うな、これで一件落着だ」


 ダンピールの後ろから歩いて来たのは、ボロボロな姿の勇者だった。

 その姿に、王女は心配する言葉をかけるか、労う言葉をかけるか、それともまずは感謝の言葉をかけるかを迷っていたのだが……


ダンピ「勇者ぁああああああああああっ♡♡♡」

勇者「うぐっ」


 突然、とんでもなく甘ったるい声を発したダンピールが、愛する恋人にするかのように飛びかかって抱き付いたのだった。

 勇者の腰に腕を回したダンピールは、一生離してなるものかといった勢いで勇者の胸に頬ずりをしている。

 そのあまりのキャラ崩壊っぷりに、王女は顔をひきつらせてファイバーを振り返った。



 するとファイバーは、なんのことはないといった様子で淡々と解説をしてくれた。


ファイ「あれが吸血鬼化の『反動』なんだよねー」

ファイ「ダンピールっていう種族はね、吸血鬼になると家族とえっちなことしたくなっちゃうの」

ファイ「だけどあの子が吸血鬼になったのは8歳。しかも家族はお兄ちゃんしかいなかった」

ファイ「だから、年上で好意を抱いてる男の人に、ベッタベタに甘えんぼしちゃうようになったの」

王女「そ、そうなんだ……」


 ダンピールは人目も憚らず、トロトロに蕩けきった恍惚の表情で勇者に甘えまくっていた。

 王女はたじろぎつつも、勇者へと歩み寄る。



勇者「チッ、くそ、離れろ」

ダンピ「勇者っ、勇者ぁ♡」

王女「勇者さん……その、ドラゴンは倒したの?」

勇者「見ろ」


 ダンピールの顔を押しのけている手とは反対の手で、ドラゴンの山の方角を指さす勇者。

 王女がそちらを振り返ると、ちょうど、山から巨大な影が飛び立つところだった。


王女「ドラゴン……!」

勇者「王国から離れてさえくれれば、戦う理由はないんだろう?」

王女「どうやって……」



勇者「あのドラゴンは妊娠していたんだ。そしてあの山の近くを飛んでいたところで突然産気づいた」

勇者「だから急遽、あの山に下りて卵を産んだんだ。それが孵るまでは動けないから、あそこに住み着いたってわけだな」

勇者「産卵直後のドラゴンは警戒心が強く気性が荒いから、近づく者は即座に焼き払う。俺も交渉に苦労した」

王女「それじゃあ、ドラゴンが飛び立ったってことは……!」

勇者「卵が孵るまで俺たちが王国の部隊を退ける代わりに、卵が孵ればあの山を離れる。そういう契約だ」


 よく見れば、勇者は切り傷や打撲痕、火傷まで負っていた。

 それでも、勇者はドラゴンとの対峙を『交渉』と表現している。


王女「ドラゴンの魔人に襲われながら、説得してたの……? 普通に戦ったって命が危ないのに」

勇者「卵を庇わせながら戦えば、おそらくほとんど無傷で殺すことはできただろう」

勇者「だがお前からの依頼は『なるべく被害の少ない解決法』だったからな」

王女「……!!」



勇者「お前の性格からして、人間側の被害だけを考えてたわけじゃないんだろう?」

勇者「殺す必要がないのなら、わざわざ殺したりはしない。それが多少面倒でも、クライアントの意向だからな」

勇者「ドラゴンも、その辺りのことを察したんだろう。最後には了承して、あの山から離れてくれた」

王女「勇者さん……ありがとうございました!」

勇者「金を貰うんだ、礼は必要ない。……おいダンピール、いい加減離れろ」

ダンピ「勇者ぁ、ぎゅーして! ぎゅー!」

ファイ「よーし、わたしも混ぜろー!」

勇者「おい!」


 ファイバーまで勇者に飛びかかってしまい、ドラゴンや皇女の刺客たちの相手をしてボロボロになっていた勇者は堪らずひっくり返る。

 いよいよ収拾がつかなくなってきたところで、王女は苦笑しながらも自分たちの帰るべき場所を振り返った。

 自分たちが守り抜いた、大切な人たちの住む王国を。


王女「よーし、帰ろっか!」



-・-・-・-



-・-・-・-



 ほとんどクーデターのような暴挙を働いた第一王女と第三王子は、しかし正直に女王へとそのことを告白した。

 その結果、少し回復の兆しを見せていた女王はベッドから起き上がると、2人の頬を激しく引っぱたいた。


女王「なんて馬鹿な真似をしたのですか……!」

皇女「……ごめんなさい」

王子「……申し訳ありません」

女王「何事もなかったから良いものを……一歩間違えれば、大変なことになっていたのですよ!?」

王女「……お母さま、あの、あんまり怒らないであげて……」

女王「あなたもあなたですよ、王女! どうして私に相談もせずに独断で行動していたのですか!」

王女「ひぅっ!?」


 王女は今日まで本気で怒られるといった経験がなかったため、ちょっと怒鳴られただけでじわりと涙が浮かんでしまった。



 それを見た女王はいくらか怒気を収めて、


女王「国に対することもそうですが、私が怒っているのは、それだけではないのですよ」

王女「……え?」

女王「皇女も! 王子も! あなたたちは、自分たちの命をなんだと思っているのですか!」

女王「これでは先代女王に顔向けができません!」

女王「私は女王である前に母として、あなたたち我が子を、立派に育てると決めているのです!」

皇女「!」

王子「!」

女王「なにか不満が、文句があったのなら、どうして直接私に言わないのです! 話し合おうとしないのです!」

女王「どうして、こんなことを……あなたたちに、もしものことがあったら、私は……」


 女王は涙を流しながら、皇女と王子、そして王女を強く抱き寄せる。

 その抱擁は、王女のそれと同じくやっぱり温かくて、自然と皇女の瞳から涙がこぼれた。



皇女「……お母様」

女王「!」

皇女「私、お母様になら、支配されてもいいわ。なんとなく、そう思うの」

王女「姉さま……」

皇女「私は、女王にならなくていいわ。きっと、私は裏側から支えるというのが性に合っているのよ」

王子「……」


 今まで一度も敗北を認めたことのなかった皇女は、その日初めて心から敗北を認め屈服した。

 しかしそれは思っていたよりも屈辱的なことではなく、むしろ清々しい気分ですらあった。

 だが女王は皇女の言葉に、ゆるやかに首を横に振る。



女王「それは、これからたくさんのことを経験して変わっていくあなたが、最後に結論を出せばいいのよ」

女王「きっと今のあなたなら、国のみんなに愛される女王にだってなれるはずだわ」

皇女「……そう、かしら」

女王「そうよ。だから、今は結論を急がなくていいの。もちろん、王子も、王女もね」

王子「今日みたいな事件を引き起こしたのに……ですか?」

女王「それは王女の頑張りのおかげで、運よく、無事に済んだでしょう?」

女王「失敗することがいけないんじゃないわ。そこからなにを学べるかが重要なの」

女王「あなたたちのお父様だって、若いころはやんちゃだったのよ?」

女王「あなたたちは、もう二度とこんなことはしないはずだわ。それに、とっても多くのことを学んだはず」

女王「だから今日、みんなが王様になる資格を得られたんだと、私は思うの」

王女「大丈夫だよ、お母さま。だって誰が王様になっても、結局3人で協力してやっていくもの!」

女王「……ふふ、そうね。それなら心配いらないわね」



女王「だけどしばらくの間は、私がこの国を支えていくわ。なんだか勝手に私が死ぬみたいに早とちりしてくれたみたいだけれど……」

王女「うっ……」

女王「その時が来るまでは、しっかり私のやり方を学んで頂戴ね」

女王「王子の軍事指揮と、皇女の対外戦略と、王女の開拓事業での活躍にはとても助けられているわ。これからもよろしくね」

王女「うん!」

王子「はい!」

皇女「……うん」

女王「それじゃあ今日は疲れたでしょう。素敵な明日のために、今日はもうおやすみなさい」

女王「私の大切な子供たち」


 女王はそれぞれの子供たちの額に、精いっぱいの愛情をこめた口づけをする。

 王女は、姉である第一王女がくすぐったそうに、けれど嬉しそうにはにかんでいるのを見て胸がいっぱいになった。


 ―――こうして、国家の命運をかけた事件は幕を閉じた。

 勇気ある優しい王女と、彼女とともに立ち上がった三人の活躍によって。



-・-・-・-



-・-・-・-



 結局、第一王女や第三王子、そして2人の企てた ある種のクーデターに加担した者たちに対する処分は見送られた。

 その女王の判断について第一王女は「甘すぎる。そんなことでは国が滅んでしまうわ」と言って、自ら地下の独房へと潜ってしまった。

 今までは第一王女の指示通りに動いていた第三王子は、人が変わったように将軍として精力的に活躍している。彼なりの償いの形であるらしい。

 そして今日。

 王女はあの日、自分に力を貸してくれた3人の元を訪れていた。



王女「失礼しまーす!」


 今度は迷わずにまっすぐ勇者の部屋を訪れた王女は、ノックもそこそこに扉を開いた。

 しかし室内に人の気配はなく、一応扉の裏も覗いてみたが、あの口と目つきの悪い少年はいなかった。


王女「……ん? あっちから音が……」


 応接室のような家具の配置である室内には、もう一つ扉がついていた。

 開いてみると、そこは脱衣所。その向こうにはすりガラスによって遮られた浴室が見えている。

 しかも、なにやら複数人の声が聞こえたような気がして、王女は思わず怪訝そうな声を上げてしまった。

 するとそれに気が付いたすりガラスの向こうの人影が、浴室の扉を開いた。


勇者「……おい、勝手に入ってなにやってるんだ、お前」


 扉の向こうには、シャツをまくってスポンジを手にしている勇者。

 服を着たまま身体を洗ってもらっているファイバー。

 そして湯船に浸かっている裸のダンピールがいた。



王女「……えっと、なにやってるの?」

勇者「見ればわかるだろう、体を洗ってやってる」

王女「ファイバー、女の子だよ!? しかも服着たままだし!」

勇者「見ればわかる。……精霊の衣服というのは、身体と同時に生成される」

勇者「だから服も体の一部だ。特に、繊維の精霊であるファイバーはな」

勇者「それと、こいつは潔癖症でな。一日に三回は風呂に入れてやらないと拗ねる」

ファイ「……勇者。閉めて。寒い」

勇者「ああ、わかっ―――」


 勇者が扉を閉めて浴室へと戻ろうとした、その時。



委員長「あれー? 先生いないのかな?」


 脱衣所の向こうから、女の子の声が聞こえて来た。

 瞬間、勇者の死んだ瞳に光が宿る。


勇者「おい王女、ファイバーの体を洗え、いいな」

王女「えっ、ちょ……!?」


 王女の返事も待たずに脱衣所を飛び出した勇者は、いつもより遥かに優しい声色で訪問者を出迎えた。


勇者「ここだ、委員長」

委員長「あっ、先生! ファイバーさんをお風呂に入れてあげてたんだね」

勇者「ああ、悪い。だが他のヤツに任せたから気にするな」

委員長「ふーん。そうだ、私もいっしょに入っちゃおっかな~」

勇者「なっ……だ、ダメに決まってるだろう」

委員長「パパは良いって言ってたよ?」

勇者「マジでか!?」



 外の会話を聞いたダンピールは、じつに重いため息をつく。


ダンピ「はぁ……アレさえなければなぁ……」

ファイ「……仕方ない。あれは病気。不治の病」

王女「……あはは」


 先日の勇姿とのギャップに、苦笑するしかない王女だった。

 しかし世界に数人しかいないと言われる『勇者』の特異体質を持った伝説の人物が、意外にも人間臭いというのはなんだか嬉しかった。

 そこで王女は、自分がここに来た理由を思い出す。


王女「そういえば依頼のお礼金を払いたいんだけど、どういう形がいいかな? 現金? 金塊? 宝石?」

ダンピ「シレっと次元の違う価値観を晒すんじゃねぇよ……」

王女「?」



ダンピ「まぁいい……だが、べつに金なんざどうでもいいんだ」

ダンピ「勇者業なんざ、所詮は副業よ。本業でちゃんと稼いでんだから、こんなの小遣い稼ぎでしかねぇんだよ」

王女「でも勇者さん、ボランティアでやってるんじゃないって……」

ダンピ「そうでも言わなけりゃ、メンドクセェ仕事も押し付けられんだろぉがよ」

ダンピ「だがお前みてぇに私利私欲じゃねぇ、本当に困ってるヤツのためなら、アイツは命だって懸けんのさ」

王女「……!」


 王女は自分の胸が熱くなるのを感じた。涙腺も少し緩んでしまう。

 勇者に押し付けられたスポンジを持って浴室に入ると、ファイバーの背中をゴシゴシ擦ってやった。


王女「……ねぇ、依頼は終わったけど、私も時々ここに来てもいいかな……?」

ダンピ「ふん。んなこと知るかよ。勝手にすりゃいいだろぉがよ」

ファイ「……大丈夫。みんな歓迎してる」

ダンピ「べつに歓迎はしてねぇよボケ!」

王女「ふふ、ありがとっ!」


 ジトッとした目で鼻まで湯船に浸かるダンピールがぶくぶく言ってるのを聞きながら、王女はファイバーの身体(服?)を洗っていく。



 すると脱衣所の扉が開き、勇者と幼い少女が現れた。


勇者「おいお前ら、今から浴室使うからどこかに消え失せろ」

ダンピ「失せるのはテメェだよクソロリコン!! 雰囲気とか全部台無しじゃねぇか!!」

ファイ「……ばか」

王女「ふふ、あはははっ!」


 それからしばらくギャーギャー言い合って、けれどそれもすぐに収まって元通りになる。

 つい先日、王国の危機を見事に救ったというのに、そんなことは気にも留めていないようにふざけ合っている。

 そんな不思議な彼らのことを、王女はこれからもずっと見ていきたいと、心からそう思うのだ。



 こうして、王女の物語は幕を閉じる。

 けれど彼らの物語は、まだまだ始まったばかりなのである。




 了。

乙でした。



……といったところで、序章は終了とさせていただきます。

ここまで読んでくださった方は本当にありがとうございました。


安価の形式は決めておりませんが、やはり投下してくださった設定から私が選ぶというのがもっとも無難であると思われますので、そのような形式となるかもしれません。

次の安価は、明日にアナウンスいたします。

それでは今日のところはこれにて終了とさせていただきます。ありがとうございました。

お疲れ様でした!

面白い



次章の安価は、本日の【18時00分~18時05分】のあいだに行います。

その時間内に投下していただいた【キャラ設定】の中から次章における【主人公】を選ばせていただきます。

そこで5人以下だった場合は、再び安価のアナウンスをさせていただきます。


1、時間内であれば投下された順番や数は関係ございません。

2、今回はフライング投下、再投下、前回と同じような設定での投下、などは対象外とさせていただきます。

3、コンマ下2桁の大きさ(00は最少)と、私が書けそうか否かといった点から総合的に判断させていただきたいと思います。判定に納得いかない点もあるやもしれませんが、どうかご了承ください。




キャラの設定は>>4を参考にしてください。

人間→ドラクエ職業名
魔物→モンスター名
精霊→司っている媒体の名前


【???】

種族:人間or精霊or魔物()
職業:
性別:
年齢:
性格:
性質:
趣味:
好きな○○:
嫌いな○○:



ご意見・ご質問は随時受け付けております。

それでは、どうぞご協力のほどお願いいたします。


「前回と同じような設定での投下」っていうのは選ばれなかったのも含める?



とても書きごたえのありそうな設定もあり大変もうしわけないのですが、

これから先皆さんがずっと同じ設定をコピペされてしまいますと、書き手の心境としましてはとても悩ましいものなのです。


代わりに、たくさんの設定が増えていきますと、物語の展開上、不自然にならなければ選ばれなかったキャラの設定も要所要所で使わせていただくことがあるかもしれません。

そういったわけで、どうかご理解のほどよろしくお願いいたします。


初回のでやりたいネタ出し切っちゃったよww
【勇者】
種族:人間(本人は知らないが半分魔物の血を引いていて、子供のころから念力が使えた)
職業: 村の偉い人に呼ばれて、羊飼いから勇者に転職することになった
性別:女
年齢:17
性格: 内向的、純粋
性質:勇者の血とかは流れておらず、「勇者として魔物の砦を攻め落とせ」という名目で村を追いだされた
趣味:村から出るときにもらった武器の「ひのきの棒」で素振り
好きな人:自分についてきてくれた元気な武闘家(元踊り子)、やたらスキンシップが過剰な魔法使い(元遊び人)
嫌いな事: 自分はともかく仲間二人の悪口

【剣士(見習い)】

種族:人間
職業:学生
性別:男
年齢:15歳
性格:元気、単純、熱血
性質:食べるの大好き、勇者に憧れている。意外にも洞察力がある。
趣味:剣術の修行、勇者や英雄達の冒険譚
好きな女性:幼馴染みの錬金術士見習い(15歳)
嫌いなこと:じっとしていること。

種族:人間(教祖)
職業:魔法使い
性別:男
年齢:23
性格:高慢 へたれ
性質:頭脳明晰 詐欺師 
趣味:布教
好きなもの:金と権力
嫌いな天気:よく晴れた暖かい日

あわてて書いたが間に合わなかったか。



中途半端な時間設定をしてしまい申し訳ありませんでした。

この結果を見るに、もう一度キャラ安価のアナウンスをする必要はないようですので次に進ませてください。

今回の主人公は勇者(女)ということでよろしくお願いいたします。



【勇者】 18:01:33.92
種族:人間(本人は知らないが半分魔物の血を引いていて、子供のころから念力が使えた)
職業:村の偉い人に呼ばれて、羊飼いから勇者に転職することになった
性別:女
年齢:17
性格:内向的、純粋
性質:勇者の血とかは流れておらず、「勇者として魔物の砦を攻め落とせ」という名目で村を追いだされた
趣味:村から出るときにもらった武器の「ひのきの棒」で素振り
好きな人:自分についてきてくれた元気な武闘家(元踊り子)、やたらスキンシップが過剰な魔法使い(元遊び人)
嫌いな事:自分はともかく仲間二人の悪口


続きまして、物語の安価をさせていただきたいと思います。



続きまして、物語についての安価をさせていただきたいと思います。



【女勇者の依頼】

事件のあらすじ: (どのような困難が女勇者を襲ったのか)
事件の経緯: (どうしてそうなったのか)
依頼達成条件: (どうすれば依頼を達成したことになるのか)


これは前回と同じく、【本日の20時】までに投下していただいた依頼設定から、私に選ばせてください。

また、これも前回と同じく別々の物語を複合することがあるかもしれませんが、それについてもご了承ください。

キャラ設定に書かれている物語と多少食い違いがあっても調整いたしますので問題ありません。

ご協力よろしくお願いいたします。

事件のあらすじ: 武道家と魔法使いの生活保護

事件の経緯: 魔物の砦を攻め落とさないと故郷の村に戻れないが、自分では勝ち目はゼロ。
しかし、他に行く当てもなく、このままでは生き倒れる。
せめて、武道家と魔法使いが、治安のいいこの王都で無事暮らせるようサポートして欲しい。

依頼達成条件: 武道家と魔法使いが無事生活できるようにすること。

事件のあらすじ:完全に力不足で、砦に近づくどころか魔物一匹と戦うだけで命がけの状態、資金もほとんどない
事件の経緯: 3人とも今まで戦う職業ではなかったので、勇者は武器の使い方がわからず、武闘家に必要なたくましい筋肉はないし、魔法使いは魔翌力がとても少ない
依頼達成条件(勇者):彼女たちをある程度まともになるまで鍛えた後、パーティを組んで砦を落とし全員で生還する

依頼達成条件(武闘家、魔法使い):仮に砦を落としても、村に帰った後また厄介事を押し付けられて村を追いだされるはずなので
勇者に村には帰れないことを分かってもらった上で、念力を持つ勇者を怖がらないで受け入れてくれる安住の地を手に入れたい


ご協力ありがとうございます。

事件のあらすじに関しましては、むしろ明かさないほうがよろしいかと思いまして、すぐに本編から始めさせていただきたいと思います。

それでは、よろしくお願いいたします。


プロットを組んでいたら今日の投下時間が終わってしまいました。幻獣辞典をなくしたのが手痛いです。

それでは、今日は失礼いたします。ありがとうございました。

乙でした
5回に1回ぐらいでも、過去に投下された案を使って良い時というのがあると嬉しい


了解いたしました。それでは次の安価におきましては過去に投下された設定もありということにさせていただきます。

こういうある程度の部分まで読む側に考えさせるのって
引くほどガチガチに細部まで考えるやついるから苦手だわ

安価とってないのに設定載せてくる奴とかな

や、>>1がいいならそれでいいんだが


せっかく安価スレなので皆さんからいただいた意見をなるべく反映させていきたい反面、

あまり委ねすぎるとコントロールを脱する場合も多く、その辺りがとても難しいです。

なるべく多くの人が楽しめるスレにしたいので、どうぞご協力のほどよろしくお願いいたします。


といったわけで、投下を始めさせていただきます。



-・-・-・-



 平原を駆ける4つの影。

 荒い息を振りまきながらぶつかり合うそれらは満身創痍で、決着の訪れを予感させた。


魔法使「燃えあがれ!!」


 黒いローブを肩に引っかけて、水着のような服を着た少女が右手をかざす。

 するとやせ細った巨大な狼のような魔物の顔面から、ほんの小さな火柱が上がった。


武闘家「今だ!」


 こちらもやけに露出の高い服を着た少女が、火柱に驚き よろめいた魔物の足へと蹴りを放つ。

 そして動きの止まったところへ、地味な色合いの服を身に纏った少女が棍棒を振り下ろす。

 棍棒は魔物の後頭部へと直撃すると、ようやく魔物はその動きを止めて地へ伏した。



女勇者「……はぁ、はぁ……」


 狼の魔物は、二足で直立すると体長が1メートル50センチほど。

 この平原においては、別に珍しくもなんともないサイズだ。

 そして強くもなんともない、ただの雑魚というのが一般的な認識。

 その魔物を倒した3人の少女は、心も体もボロボロ……今にも倒れてしまいそうなほど疲弊していた。


魔法使「もーイヤ! どこかで休みましょうよー!」

武闘家「だけど全然強くなってないぞ私たち。こんな魔物に手こずってちゃ、魔物の砦なんて攻略できない」

女勇者「……うん」

魔法使「だからー、そんなに急ぐことないってば。べつに村が襲われてるわけじゃないんでしょ?」

武闘家「それはそうだけど、あまり時間をかけると……」

魔法使「それで焦って死んだら元も子もないじゃないのよ!」

女勇者「……そ、そうだね」



 地味な服装の少女は、言い争う2人のあいだにさりげなく入り込んで宥めようとする。

 しかし突然、少女は足に痛みを感じてうずくまった。


武闘家「女勇者! 大丈夫!?」

魔法使「さっきのやつにやられたの!? 見せて!」


 女勇者と呼ばれた少女がズボンをまくると、そこには小さな『歯型』が生じていた。


女勇者「い、いつものだよ……だいじょうぶ」

武闘家「……仕方ない、あそこに王国が見える。しばらく休ませてもらおう」

魔法使「そうね、そうしましょ。ほら女勇者、立てる?」

女勇者「う、うん……ごめんね、武闘家ちゃん、魔法使いちゃん……」

武闘家「謝らなくていいよ。さ、行こう」


 3人ともボロボロの格好で、互いに肩を貸し合いながら進んでいく。

 おぼつかない足取りで歩を進める彼女たちは、やがて王国と外界とを仕切る外周壁に埋め込まれた関所へとたどり着くのだった。



-・-・-・-



-・-・-・-



 昼下がりの小学校、その職員棟の廊下で、2人の人物が肩を並べて歩いていた。

 一人は褐色の肌、純白の髪、そしてやけに露出の多い格好をした8歳ほどの少年。

 一人は純金を紡いで糸に変えたかのような美しいブロンドヘアに、どう織ったのか理解の及ばない精緻なパーティドレスを身に纏った16歳ほどの少女。

 しかし『人物』と表現したものの、それは彼らの本質を示す表現とは言い難い。

 不機嫌そうな8歳ほどの少年は、『魔人』と呼ばれる存在だ。

 魔物として一定以上の存在となった者にだけ備わる、人間に化けることのできる能力。

 それによって人間社会の中でも不自由なく活動することができるのである。

 一方で虚ろな表情をした16歳ほどの少女は『生霊』と呼ばれる存在だ。

 自然を司る精霊として一定以上の存在となった者にだけ備わる、人の形をとり比較的強い自我を持つ能力。

 それによって、パッと見では人間と遜色ない外見を得ることができるのである。



ダンピ「ったくよぉ、この俺たちをパシリに使おうなんざ、人間様ってのは偉くなったもんだよなぁ!」

ダンピ「そう思わねぇかよ、ファイバー?」

ファイ「……私も、ダンピールも、お金もらってる」

ダンピ「へっ。だからってよぉ」

ファイ「……断れなくはない。でも勇者を迎えに行くのは、嫌じゃない。私も。ダンピールも」

ダンピ「んなこたぁねぇよボケ! 嫌だっつーの! 嫌々だっつーの!」


 ムキになって反論するダンピールを半ば無視して先へ進むファイバーは、そこで虚ろな表情を硬くさせた。


ダンピ「あ? オイ、どうかしたのかよ?」

ファイ「……勇者が大変」



ダンピ「なに? おい、そんなこと言って心配させようったってそうはいかねぇぞ?」

ファイ「……冗談じゃない。大変。勇者が危ない」

ダンピ「チッ」


 ダンピールはファイバーの腰を片手で抱えると、凄まじい速度で廊下を駆け抜ける。

 そして目的地である勇者の部屋の前までたどり着くとファイバーを下ろし、一目散に扉を開いた。


ダンピ「勇者!!」


 その先に広がっていた光景は……


勇者「……!?」

委員長「あっ」


 10歳ほどの少女が自らの手で上着をたくし上げて、その露出した胸部に勇者が頬を押し付けていた。



ダンピ「………………お前、マジでか……」

ファイ「……言った通り。勇者が危ない」


 ダンピールとファイバーはなんだかとても悲しそうな表情を浮かべて、静かに後ずさりをする。


勇者「待てお前たち。これは誤解だ」

ダンピ「……俺たちの仲だ、話だけは聞いてやるよ。死ね」

ファイ「……言い訳くらいは聞く。聞くだけだけど。死んで」


 魔人と生霊が本気で殺しにかかってくるとなると、さすがの勇者でもちょっとヤバイ。

 勇者は嫌な汗をかきつつも誤解を解くための説明を開始する。



勇者「これは……『お医者さんごっこ』なんだ」

ダンピ「よし、死ね」

ファイ「……待って。まだ遺言を聞いてない」

勇者「お前こそ待て! 話は最後まで聞け!」


 ダンピールの皮膚の色が変わり始め、ファイバーの身体がにわかに輝きを発し始める。

 すると委員長が勇者の前に立ち塞がり、


委員長「今日の健康診断で、ちょっと心臓の鼓動がおかしいかもしれないって言われて、再検査になっちゃって……」

委員長「それで怖くなって、先生に診てもらってたの」

勇者「そういうわけだ。決してやましい気持ちはない」

ダンピ「……どうするよ?」

ファイ「……執行猶予」


 どうやら勇者の首の皮は、ギリギリのところでつながったようだった。



ダンピ「ちなみに、委員長ちゃんの心臓はどうだったんだよ?」

勇者「やけに鼓動が速かったのが気になったな。いつもそうなのか?」

委員長「いつもはちがうんだけど……健康診断のとき、先生のこと考えてて……」

勇者「ダンピール。俺は今、幸せだ」

ダンピ「そうか、死ね」


 勇者はそこで急に真面目な表情になると、


勇者「それでお前ら、なにか用事があったんじゃないのか?」

ダンピ「そうだったんだが、さっきの衝撃で忘れちまった」

ファイ「……王国外周壁の関所。不審者。至急応援を求む」

勇者「わかった、すぐ行く」


 勇者は剣を腰ベルトに差して立ち上がると、委員長の頭を優しく撫でる。



勇者「委員長。学校の健康診断なんてあまりアテにはならない。だが念のために、あとで俺の知り合いの医者に診てもらおう」

委員長「はい! 先生、いってらっしゃい!」

勇者「ああ、行ってくる」


 委員長を部屋の前まで送り届けると、勇者は2人に目配せをして昇降口へと歩き出す。


勇者「不審者というのは?」

ファイ「……女が3人。うち2人は人間」

勇者「残りの1人は?」


 怪訝に思った勇者がファイバーを振り返ると、彼女は虚ろな瞳のままに、呟くように漏らした。


ファイ「……魔人、かもしれない」



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ギルティ



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 もうかれこれ20分以上は、硬くてごつごつした石の壁に背中を預け、硬くてごつごつした地面に座らされている。

 お尻や背中が痛くなってきたので身じろぎすると、金属質な音が関所に響き渡る。

 後ろ手に両手首を拘束する鉄の錠は重く、また鎖も短いためお世辞にも快適とは言い難い。


魔法使「ねぇねぇ、お兄さ~ん! これ外してくれたら良いことしてあげるから~!」

門番「静かにしていろ」


 重そうな鎧を着込んだ男は、先ほどどこかに連絡を飛ばしてから、チラチラと外周壁の内側へ視線を走らせている。

 魔法使いは嫌な想像をしてしまう。

 誰かを待っているのだろうか。それは自分たちにとって不都合な人間なのだろうか。

 まさかなにかの勘違いで処刑でもされてしまうのだろうか。痛い目に遭ってしまうのだろうか。



女勇者「2人とも、ごめんね……私のせいで……」

武闘家「いや、女勇者が気にすることじゃない」

魔法使「そうよ、悪いのはあの能無し門番なんだから!」

門番「静かにしていろと言っているだろうが……」


 門番が、手にした槍で突いてやれば少しは静かになるだろうか、などと物騒なことを考え始めていた時……

 見覚えのある3人が向こうから歩いてくるのが見えて、門番の表情が一気に明るくなった。


門番「お待ちしておりました! わざわざご足労いただきありがとうございます!」


 門番が出迎えたのは、独特の外見をした3人組だった。

 無造作に伸ばされた黒髪に、長い手足。世界には何一つ楽しいことはないとでも言いたげな、澱んだ瞳をした青年。

 褐色の肌に、純白の髪。やけに露出の多い服装をした少年。

 純金を紡いだかのようなブロンドヘアに、精緻なパーティドレスに身を包んだ少女。

 安っぽい剣を腰に差している目の死んだ青年が、門番へと近づいていく。



勇者「礼は良い。金を貰うからな。それより、不審者というのはこいつらか」

門番「はい! リストに載っていない顔だったので、身体検査と魔力検査を行ったところ……」

勇者「そこの厚着女が、魔人かもしれないという判定が出たってわけか」

門番「流石ですね、その通りです。いかがいたしましょう?」


 目の死んだ青年は、特に気負いもなくこちらへと近づいてきて、拘束されている女勇者の顔を間近で観察してくる。

 その隣で同じく拘束されている魔法使いは甘ったるい声を出しながら、青年へと顔を近づけようとした。


魔法使「ねぇねぇお兄さ~ん、私たち、なんにも悪いことしてな―――」


 しかし、最後まで言い切ることはできなかった。

 魔法使いの鼻先スレスレを通過した褐色少年の足が、すぐ後ろの石壁へと突き刺さったからである。


ダンピ「テメェは誰に『喋っていいですよお嬢ちゃん』って言われたんだよ? えぇオイ」 

魔法使「―――っ」


 顔を真っ青にした魔法使いが口をパクパクさせながら門番を見るが、彼は肩をすくめて知らんぷりを決め込んでいた。




 そしてすぐ隣でそんなことがあったにもかかわらず、目の死んだ青年はまったく意に介さず口を開く。


勇者「お前、魔人か?」

女勇者「ち、ちが……ます」

勇者「大きな声で」

女勇者「ちが、ちがいますっ」

勇者「なら、なにかおかしな力を持っているか」

女勇者「わ、私……その、『勇者』で……」

勇者「なに?」


 その言葉に、青年は初めて人間的なリアクションを見せた。



勇者「つまり、お前は『勇者体質』ということか?」

女勇者「えっ……?」

勇者「なにをしても、なにをされても死ぬことはない、不死身の身体を持っているということか?」

女勇者「え、えっと、それは……」

勇者「たとえば、俺が今ここでお前の首を刎ねたとして、それでもお前は死なないのか?」

女勇者「えっ……いや、その……」

武闘家「そんなことしたら死ぬに決まってるだろ!」

勇者「なら勇者じゃない。勇者は首を刎ねられたくらいじゃ死なないからな」

武闘家「そ、そんな人間、いるわけない」

勇者「いるんだよ。悲しいことにな」


 青年は立ち上がると、門番の方へと歩いていく。



勇者「こいつらは俺が預かる。手錠を外してやれ」

門番「は、はぁ。よろしいんですか?」

勇者「なにか問題あるか?」

門番「いえ、とんでもない! 勇者さんにお任せすれば、なにも問題はありません!」

女勇者「えっ……!?」

武闘家「いま、『勇者』って……!」

魔法使「う、嘘でしょ……!?」


 門番が3人の手錠を外し終えると、目の死んだ青年は振り返りもせずに歩いて行く。


勇者「ついて来い」


 青年のあとを、同じく振り返りもせずについていく金髪の少女と褐色の少年。

 しばし放心していた彼女たちだったが、先を行った3人が建物の陰に消えそうになると我に返り、慌てて後を追いかけるのだった。



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-・-・-・-



村長「いいかい、女勇者。お前は『勇者』なんだ」

女勇者「『勇者』……?」

村長「特別な力を持った人間のことだよ。お前は昔からいろいろ不思議なことを起こすだろう?」

女勇者「うん……」

村長「それは『勇者』の力に他ならない。だから、お前の力を必要としている人たちのところへ行ってあげてほしい」

女勇者「……私の力を……」

村長「そうだ、必要としている人たちがいるんだ」

村長「ここから北へ行ったところにある、王国の近くの小さな村」

村長「その村の近くには、魔物の砦があるそうなんだ。そこへ行って、魔物をやっつけてきてほしい」



女勇者「……で、できない、よ……」

村長「大丈夫さ、お前は『勇者』なんだからね。神様のご加護が護ってくださるよ」

村長「この、ひのきの棒を持っていきなさい。扱っていれば、じきに手に馴染むだろう」

村長「その村の人たちは、魔物の砦のある森には怖くて近づけないそうなんだ。まだ被害は出ていないようだが……」

村長「お前が行かないと、その村との関係が悪くなってしまう。どうか、頼んだよ」

女勇者「えっ……あ、うん……わかった」

村長「そうか、行ってくれるか! ありがとう、女勇者」

村長「行ってらっしゃい」

女勇者「行ってきます……お父さん」



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武闘家「女勇者ー!」

魔法使「もう、行くなら行くって言ってくれないと」

女勇者「……えっ?」

武闘家「私たちも一緒に行くぞ!」

魔法使「いくら『勇者』だっていっても、1人じゃ危ないからね」

女勇者「で、でも2人は戦闘職じゃないんじゃ……」

武闘家「それを言うなら、女勇者も羊飼いじゃないか。今日から私は踊り子ではなく武闘家だよ!」

魔法使「それじゃあ私は、遊び人じゃなくって魔法使いね♪ これでもちょっとは魔法使えるのよ?」

女勇者「……武闘家ちゃん……魔法使いちゃん」

魔法使「ほらほら、泣かないの。これから3人で頑張りましょ!」

武闘家「そうだな、そしてみんなで無事に帰ってこよう!」

女勇者「うんっ……私は『勇者』だから、村のみんなのために、がんばる」

武闘家「…………ああ」

魔法使「……そうね」



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 勇者の部屋には、それなりに多くの人間が集まっていた。

 勇者とファイバーがソファに隣り合わせで座り、その対面に女勇者たち3人が座っている。

 ダンピールはいつものように、窓から離れた壁際に寄りかかって立っていた。

 話を聞いたダンピールは、じつにつまらなそうに鼻を鳴らす。


ダンピ「ふん。要するに厄介払いじゃねぇかよ」

武闘家「な、なにを言い出すんだ!」


 それに対して過剰に反応した武闘家を、女勇者は不思議そうな目で見る。

 勇者は濁った目で女勇者を睨み、


勇者「全員、それまで戦闘なんてしたことがないのか」

女勇者「はい……」



勇者「昔から不思議なことを起こす……というのは、どういう意味だ」

女勇者「そ、それは……」


 女勇者がどう説明したものかと言葉を選んでいると、テーブルの上に置いてあったコップが独りでに揺れだした。

 さらにカタカタと揺れながら移動していくと、やがて勝手に倒れ、中に注がれた水がテーブルへと零れてしまう。


勇者「……それのことか」

女勇者「は、はい。その、勝手に、触ってもいないものが……そのたびに、体に変な傷ができるんです」


 女勇者の手の甲に、先ほどまでなかった『歯型』が生じて、一筋の血が流れていた。


勇者「現象は、今のようなちょっとしたことなのか」

女勇者「ときどき、浮いたり、壊れたり……」

ダンピ「迷惑なヤツだな」

武闘家「おい!」

女勇者「武闘家ちゃん……べつに、だいじょうぶだから」

武闘家「……うっ、ごめん」



 勇者はダンピールへと視線を飛ばす。それを受け取ったダンピールは小さく鼻を鳴らすと、腕を組んで瞑目した。

 勇者は女勇者へと向き直ると、


勇者「要は、戦った経験もないのに村を追い出され、かといって魔物の砦に挑むのは自殺行為だとわかっている」

勇者「だから多少は実力が付くまでこのあたりで腕を磨こうとしていたが、雑魚相手にさえ満身創痍」

勇者「仕方なくこの王国で休もうとしたら、お前の特異体質が関所の検査に引っかかってしまったというわけだ」

女勇者「……はい」


 すっかり打ちのめされて俯いてしまう女勇者。

 そこで突然 魔法使いが立ち上がると、ローブを脱ぎ去り、勇者とファイバーのあいだに無理やり腰を下ろした。

 そしてほとんど水着のような服で勇者にしなだれかかり、甘ったるい声を出す。



魔法使「お願いです、勇者さまぁ。どうか私たちを助けてくださぁい。このままじゃ、野垂れ死んでしまいます」

勇者「依頼があるなら金を用意しろ」

魔法使「……っ……そ、それが今、お金がなくってぇ……だから代わりに私が、『良いこと』をして差し上げても……」

勇者「その『良いこと』とやらで金を稼いで持って来い。話はそれからだ」

魔法使「…………。」


 魔法使いのお色気作戦が一切通じない様子に、ダンピールは思わず吹き出してしまう。

 それにカチンときた魔法使いは、勇者にしなだれかかったまま低い声を出す。


魔法使「なに笑ってんのよ。私の魅力は、子供にはわからないのかしら?」

ダンピ「くっひひ。いやぁ、そいつには、そういうのは絶対通じねぇよ……なんせ」


 ダンピールが魔法使いのお色気作戦の重大な欠陥を教えてやろうとすると―――

 ちょうど勇者の部屋の扉がノックされ、そこから10歳ほどの少女が顔をのぞかせた。



委員長「あれ、お客さんがいたんだ。ごめんなさい、先生」

勇者「いや、大丈夫だ。気にする必要はない」

委員長「その女の人……」

勇者「!」


 勇者は焦った。もしかしてこのいかがわしい格好の女を自分が侍らせているように見えるかもしれない、と。

 急いで魔法使いを突き飛ばしつつ立ち上がると、


勇者「なんだ? この頭の緩そうなジャガイモ女がどうかしたのか?」

女勇者「!」


 魔法使いを貶めるような勇者の発言に、女勇者の表情が強張る。

 少女の方へと歩いていく勇者を目で追いながら、女勇者は精いっぱいの勇気を振り絞って異を唱える。



女勇者「魔法使いちゃんは……あ、頭が緩くなんかないし、ジャガイモでもないです……!」

勇者「俺からすれば、委員長以外のすべての存在はジャガイモと同列だ」

魔法使「なによそれ、っていうかロリコンなわけ? 私がジャガイモなら、その子はちんちくりんのニンジンね!」

ファイ「……!!」

ダンピ「ば、馬鹿ッ……!!!」


 ファイバーとダンピールが血相を変えて、魔法使いに前言撤回させようとした、その時。







勇者「 おい。 」






 先ほどテーブルの上で倒れたコップが突然、木っ端微塵に吹き飛んだ。

 べつに誰かが触ったわけではない。女勇者の不思議な力によるものでもない。

 いつもはやる気なさそうに伏せられた目を限界ギリギリまで見開いて血走らせている……勇者の『殺気』のためだ。 


勇者「―――いま、なんて言った?」


 まるで地震のように、室内のありとあらゆる物体が細かく振動している。

 テーブルに立てかけられていた勇者の剣が、吸い寄せられるかのように勇者の手元へと飛んでいく。

 ダンピールとファイバーが早くも説得を諦めて、無言で後ずさりしながら部屋の隅へと避難する。

 かなりの実力者である魔人と生霊がその様子なのだ、魔物1体に手こずる3人がどうなるかなど、説明するまでもない。

 早く謝罪をしなければいけないとわかってはいるが、あまりの殺気に声を発することができない。

 勇者の親指が、剣の鍔をほんのわずかに押し上げる。

 しばらく前、王国の命運をかけたドラゴンとの戦いでも抜かれなかった剣が顔を見せようとした。




 しかし。


委員長「先生、ジャガイモ女はかわいそうだよ。それに全然頭ゆるそうじゃないよ? あの人に謝って」


 まるでスイッチを切ったかのように、一瞬で室内の殺気が消失して、器物の振動が収まる。


勇者「悪かった。口が過ぎた」


 仏頂面で魔法使いを睨みつつ、とても淡々とした口調で謝罪を口にする勇者。


委員長「ふふっ、でも怒ってくれてありがとね、先生」

勇者「当然だ」

委員長「この人たちのこと、助けてあげてね?」

勇者「委員長が言うなら仕方ないな」

委員長「それじゃ、お客さんがいるなら教室に戻るね。先生、またねっ!」

勇者「ああ」


 委員長を見送ってから扉を閉めると、勇者は何事もなかったかのようにソファへと腰を下ろした。

 そして呆気にとられる3人の顔を見渡し、とても事務的な口調で訊ねた。


勇者「それで、なにをしてほしいんだ?」



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 勇者の部屋の浴室で、2人の少女が向かい合っていた。

 一方は無気力そうな少女で、もう一方は快活そうな少女だ。


武闘家「魔物の砦を攻略するために、修行をつけてくれるというのはありがたいんだけど……」

ファイ「……」

武闘家「こんなところでどんな修行をするのさ?」

ファイ「……着て」


 ファイバーは手にしていた厚手のパジャマのような上下服を武闘家に差し出す。

 武闘家は首を傾げつつも、黙ってそれを着用する。元々彼女は恐ろしく薄着なので、上から着てもなんの問題もなかった。

 武闘家がその服を着たことを確認したファイバーは、水を抜いた浴槽に立っている武闘家から1歩、後ろへと下がる。



ファイ「……私に触れたら、修行クリア」

武闘家「え?」


 武闘家は自分の足元を見る。

 浴槽の中に立っているとはいえ、ファイバーとの間を仕切っている壁は、ひざ上くらいまでしかない。

 というより、そんなに広くもない浴室だ。

 こんな仕切りを飛び越えるまでもなく、前傾して腕を伸ばせばファイバーに届いてしまいそうでさえある。


武闘家「……もしかして、あんまり乗り気じゃなかったりする?」

ファイ「……修行を開始する。5。4。3……」


 なにを考えているかわからないファイバーに、武闘家は困惑する。

 とはいえ、もしかしたらなにか考えがあるのかもしれない。とりあえず、ここは彼女に従っておくことにした。



ファイ「……修行開始」


 無感情なファイバーの声と同時に、武闘家は即座にファイバーへと飛びかかった。

 いや、正確には『飛びかかろうとした』という表現が正しい。

 なぜなら、武闘家が身に纏っていたパジャマのような服が突然捻じれ、武闘家は無様に転んで浴槽の縁に顎を強打してしまったためだ。


武闘家「くぅぅ~~~っ!?」


 あまりの激痛に、浴槽の中でもんどりうつ武闘家。

 しかしそんな悠長なことを、ファイバーは許さなかった。

 そのままパジャマのような厚手の服が捻じれて、次第に武闘家の手足が、腰が、どんどんイケナイ方向へと曲がっていく。

 平たく言えば、全身の関節が極められているような体勢となってしまったのである。


武闘家「痛い痛い痛いっ!! 折れる捥げる外れるっ!!」

ファイ「……そのつもり。抵抗しないと大変」

武闘家「うぐぐぐっ!?」


 しかし武闘家歴がたった数日の彼女には、大した筋力も備わっていない。

 そのため必死で抵抗していても、悲惨な体勢から脱することができない。



武闘家「ちょ、ちょっと待って!? ほんとにやばいからコレ! 折れる!!」

ファイ「……勇者の命令。容赦は一切なし。殺す気で鍛えろ」

武闘家「むしろ積極的に折りに来てる!?」


 武闘家が騒いでいると、ファイバーは蛇口の首をスライドさせて浴槽の上へとセットする。


武闘家「え? え? 嘘でしょ!? 嘘だよね!?」

ファイ「……容赦は一切なし」


 ファイバーは蛇口のハンドルを回し、浴槽に水を流し込み始める。


ファイ「……時間制限。今日の24時まで」

武闘家「それあと半日以上はあるよね!?」

ファイ「……私に触れればクリア」

武闘家「誰か助けてー!! 殺されるー!!」

ファイ「……」



 ファイバーが浴槽に包帯を落とす。

 その包帯はまるで蛇のように武闘家の顔に巻き付き、口を塞いでしまう。

 こうなっては、注がれる水を飲んで時間を稼ぐことも、口で浴槽の栓を抜くこともできなくなってしまった。


武闘家「んむぐーっ!?」

ファイ「……」


 しかしファイバーは勇者やダンピールほど非道ではないので、少し考えてから浴槽の栓を抜いてあげた。


武闘家「んむっ!」


 そしてファイバーは水が流れきったのを確認してからガスを点け、浴槽にお湯を流し込み始める。


ファイ「……風邪ひいちゃう」

武闘家「んむぐーッ!!!!」



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 浴室の方から聞こえてくる凄惨な悲鳴に、魔法使いは戦々恐々としていた。


魔法使「ね、ねぇ……向こうでなにしてるの……?」

勇者「お前たちが魔物に勝つための修行だよ」

魔法使「今でも、2足歩行する大きな狼くらいなら倒せるんだけど……」

勇者「まともな戦士ならあれくらい1人で倒せる。3対1なら尚更な」


 勇者は知り合いの教師から借りて来た「魔法学入門書」という教科書を魔法使いに手渡す。


勇者「趣味で勉強したことがあれば、1回2回はちょっとした魔法が使える。だがすぐに疲れるだろう?」

魔法使「ええ、あっという間にバテちゃうわね」

勇者「見たところお前は、元々魔力が少ない。体力も少ない。ゴミのようなステータスだ」

魔法使「ゴミ!?」



勇者「いいか、魔物の砦とか言ったな。アジトを持つ魔物には、最悪の場合『ブレイン』がいる」

魔法使「『ブレイン』?」

勇者「魔物たちを操っている親玉のことだ。時には魔人の場合もある」

魔法使「魔人って、頭のいい魔物よね? あと、人間に化けられるっていう……」


 勇者は「種族学入門」という付箋だらけのボロボロな教科書を読みながら説明を続ける。


勇者「基本的に、魔物が1000体いれば、魔人は1~2体ほどだ。種族によってはもっと少ない」

勇者「そこらへんを歩いてる魔物は、訓練した兵士と互角ぐらいの強さだ」

勇者「つまり鍛えぬいた兵士1000人の中でも最強の兵士……わかりやすく言えば、それが『かなり弱い魔人』だ」



魔法使「……戦ったら勝てるの?」

勇者「1対1ではまず無理だな。だが鍛えぬいた兵士100人ぐらいで挑めば勝てる」

勇者「もちろん、ちょっと鍛えただけの素人3人では勝てるわけがない」

魔法使「じゃあもし魔物の砦に魔人がいたら……」

勇者「一瞬で手足を粉々にされて、何メートル上から落としたら死ぬのかというチキンレースの遊具にされる」

魔法使「―――」

勇者「子供の頃、虫をいたぶったことはないか? なまじ知能が高いと、残虐なことを嬉々として実行するからな」


 勇者の説明を聞くたびに、どんどん自分の寿命が削れていってる気がしてならない魔法使いなのだった。


勇者「だがお前たちの村長の話が本当なら、おそらく大丈夫だろう」

魔法使「え?」



勇者「近くに村があって、しかも自分たちの存在に気づかれているというのに、それを放っておく魔人はいない」

勇者「知能が高いといっても、所詮は魔物だ。短絡的に村を襲ってしまうだろう」

勇者「だが被害が出ていない。つまりそこまで強くはないか、数が少ないか」

勇者「あるいは臆病か、移動が困難な魔物という可能性は高い」

魔法使「それを聞いて、ちょっとは安心したわ……」

勇者「少なくともお前たちよりは強いだろうがな。だから鍛えておくんだ」

魔法使「でも魔力なんて、そう簡単には増えないでしょ?」

勇者「教師を呼んである」


 すると、勇者の部屋の扉がノックされた。



勇者「入ってくれ」

王女「久しぶり! いきなり来いって連絡きたからびっくりしちゃった」


 扉の向こうから現れたのは、まるでお人形のように愛くるしい外見の少女だった。

 かなり高そうなドレスを身に纏い、癖の強いブロンドヘアを、これまた高そうな髪留めでまとめている。


勇者「悪いな。公務は忙しかったか?」

王女「ううん、一段落ついたところだから大丈夫だよ。それより、なんの用?」

勇者「こいつに魔法を教えてやってほしい。たしか、子供でも使える詩魔法というものを開発していただろう」

王女「うん、いいよー。それで、どんな効果が良いの?」

勇者「なるべく魔力の消費は抑えて、仲間の身体能力を底上げする魔法だ」

王女「効果を上げると詩が長くなっちゃうよ?」

勇者「そこは妥協する。それじゃあ、頼んだぞ」


 そう言うと、勇者は剣を腰ベルトに差して立ち上がってしまう。



魔法使「え、どこ行くのよ?」

勇者「体育館の様子を見に行く。ダンピールのことだ、うっかり殺してないといいんだが……」

魔法使「えっ!?」

王女「よくわからないけど、レッスンを始めるよー」

魔法使「え、ああ、うん。っていうかアンタ誰なの?」

王女「この国の第二王女だよ」

魔法使「      え?」

勇者「それじゃあ頼んだぞ、王女」

王女「はいはーい、行ってらっしゃい!」


 浴室から聞こえてくる断末魔やフリーズしてしまった魔法使いを置いて、勇者は体育館へと足を運ぶのだった。



-・-・-・-



今日はここまでとさせていただきます。

それでは、お付き合いいただきありがとうございました。失礼いたします。

乙でしたー



勇者たち3人とか委員長の事は章が進むにつれてもっと分かってくる?


勇者たちの過去などにつきましては既にある程度は考えており、徐々に明かしていくつもりです。

ただし、今後の安価次第ではそれも大きく変わってくると思われます。

乙! 精霊は人気がない?

うーん、個人的には、精霊は自我が薄いという設定だから、主人公として想像がしにくいって感じですね。


精霊は主人公というよりもヒロインポジションで輝く気がします。キャラ設定の募集を主人公とヒロインの2枠にしてみることも検討してみます。

それでは、投下を始めさせていただきたいと思います。



-・-・-・-



 生徒のいない無人の体育館に、2つの人影が立っていた。

 褐色、白髪の幼い少年・ダンピールは、とても面倒くさそうに首をコキコキと鳴らしながら、対する少女をつまらなそうに見ている。

 女勇者は村長にもらった「ひのきの棒」を構えつつも、その表情は浮かないものだった。


ダンピ「オイ、修行開始だっつってんだろぉが。いつまで突っ立ってんだ」

女勇者「ほ、ほんとにいいの……?」

ダンピ「あ?」


 ダンピールは首を傾げ、そして女勇者がなにを逡巡しているのかということに思い至った。


ダンピ「ああー、なるほどねぇ、ハイハイ。そういうことか」

ダンピ「つまりアレか? 俺の外見があまりにプリチーなお子様だから、殴り掛かるのは申し訳ないってわけか?」

ダンピ「はーなるほどそりゃ悪かったよ、ずまんすまん、気が利かなかった。反省反省」



ダンピ「そいじゃ、まずは『準備運動』と行きますかね」


 ダンピールが滔々と一人語りをしていると、女勇者はわずかに気を緩めた。

 『準備運動』というくらいだから、まずは2人仲良くストレッチでもして親睦を深めるのだろうか。

 いきなり実戦練習というのはやめて、トレーニングでも始めるのだろうか。

 そんな『人間が考えそうなこと』を考えてしまったのだ。


ダンピ「じゃ、行くぞー」


 ダンピールがヒラヒラと手を振って……

 次の瞬間、彼の姿が女勇者の視界から完全に消失した。


女勇者「―――え」



 直後、内臓を根こそぎ吹っ飛ばすかのような衝撃が腹部を襲い、意味もわからないままに宙を舞う女勇者。

 自分の目線の高さに、体育館2階の手すりがやってくる。

 そしてその高さから床に叩き付けられる直前で、さらに足を掴まれてブン投げられた。

 方向感覚が狂い、自分がどこの壁に叩き付けられたのかを知ることもなく、さらに顔面を掴まれてすさまじい勢いで投げられる。

 何度も体育館の床をバウンドしながら転がって、気が付くと女勇者は、最初に自分が立っていた位置に転がされていた。

 同じくダンピールも、最初に立っていた位置に何食わぬ顔で立っている。


ダンピ「自分がどれくらい間抜けなのか、今のでわかったか?」

女勇者「……ッ……かひゅっ……ごぇ……」

ダンピ「さて、『準備運動』は終わりだ。ほら立てよ、『本番』始めんぞ」


 さきほどの攻撃で手からすっぽ抜けたひのきの棒を、ダンピールが女勇者に放り投げる。

 しかし女勇者は四肢を投げ出して床に転がったまま、身じろぎさえできずにいた。

 ギリギリ呼吸をするのが精いっぱいといった様子で、おびただしい量の鼻血を流しながら痙攣している。



ダンピ「ただでさえ昼なのに、さらに手加減までしたんだが……人間ってこんなに脆いのか?」

ダンピ「そりゃ勇者を基準にしてちゃダメだが……それでもあのシスコン王子は、もうちっと頑張ってたんだがなぁ」

女勇者「……くひゅっ……カフっ……」

ダンピ「おい、立てねぇか?」


 ダンピールが訊ねてみると、女勇者は泣きながら一生懸命に首を縦に振る。

 それを見たダンピールは唸って、


ダンピ「まだなんも修行らしいことはしてねぇよな……こいつぁ困ったぜ」

ダンピ「よし、じゃあこうしよう」


 ダンピールは少年らしからぬ凶悪な笑みを浮かべて、


ダンピ「お前の仲間の『指』を持ってくる。それでちっとはやる気出してくれよ」

女勇者「―――ッ!?」



ダンピ「どの指がいい? あぁ言っとくが、親指はオススメしないぜ? いろいろ支障が出るからな」

女勇者「…………」

ダンピ「もしかして、『いくらなんでも、そんなことはしないだろう』とか思ってねぇか?」

ダンピ「だとしたらおめでたいな。俺の行動を人間基準で考えるんじゃねぇよ」


 ダンピールは本当に踵を返して、体育館を去ろうとする。おそらく向かう先は、勇者の部屋だ。

 するとダンピールの背後から、カツン、という硬質な音が聞こえた。

 振り返ると、ひのきの棒を杖代わりにして、必死に立ち上がっている女勇者がいた。


ダンピ「なんだよ嬢ちゃん、やっぱ立てんじゃねぇか」

女勇者「……ぎッ……ぐぅぅ……」


 ダンピールは再び踵を返し、女勇者へと歩み寄って……

 そこで、ある『異変』に気が付いた。



ダンピ「―――お前」

女勇者「ああああああああああッ!!」


 女勇者が叫ぶのと同時に、彼女の身体から『見えないなにか』が放出されるのをダンピールは知覚した。

 それはかなりの速度で爆発的にダンピールへと迫ると、彼を食い潰そうとする。


ダンピ「風の魔法か? なんだ、そういうのもイケんのか」


 ダンピールは爪を1本急速に伸ばすと、その風を切り裂こうと指を振るった。

 しかし切り裂いたはずの『見えないなにか』は、そのままダンピールへと襲い掛かる。


ダンピ「なにっ……!? ぐあッ!?」


 ダンピールは『見えない何か』に吹き飛ばされると、そのまま窓から射し込む直射日光が当たる壁へと叩き付けられ、磔にされる。

 直射日光に晒された彼の身体能力は、人間のそれと変わらない。

 凄まじい圧力で壁に押し付けられた彼の、左右の脇腹にいくつもの巨大な穴が開き、そこからおびただしい鮮血が迸る。



ダンピ「ぐっ、あああああッ!?」


 体内から肋骨が折れる音や内臓が潰れるような音が響き、ダンピールの口から蛇口をひねったような勢いで血液が吐き出された。

 女勇者の方を見ると、どうやら倒れて気を失っているらしい。これでは攻撃を中断してもらうことも期待できない。

 さすがの魔人も、この状況にはかなりの危機感を覚えた。

 しかし。

 真横から突然押し寄せた爆炎によって、『見えないなにか』が吹き飛ばされる。


ダンピ「あぐっ!?」

勇者「楽しそうだな、ダンピール」

ダンピ「……。」


 勇者は、上半身と下半身が分離しそうになっているダンピールの頭を掴むと、直射日光の当たらない日陰へと放り投げた。



 水っぽい音と共に落下した血まみれのダンピールの身体は、見る見るうちに傷がふさがり、元通りの肉体へと再生する。

 軽快な動きで跳ね起きたダンピールはストレッチをするように身体を伸ばしつつ、


ダンピ「あー、くそ。油断した……」

勇者「視覚を吸血鬼化せずに、決めつけで敵の攻撃を判断するからそうなるんだ。アレに物理攻撃は効かない」

勇者「念のために様子を見に来て正解だったみたいだ。命拾いしたな」

ダンピ「ふん。余計なことしやがって……背後の影を操れば脱出できないことはなかったんだよ」

勇者「そいつは悪かったな」


 ダンピールは不機嫌そうな顔でそっぽを向いていたが、その態度に反して彼の小さな手は勇者の袖を掴んでいた。

 口ではいろいろ言いつつも、やっぱりなんだかんだでちょっと怖かったらしい。

 勇者はダンピールの手を引いて女勇者へと近づくと、彼女の傷の具合を確認した。



勇者「骨も、内臓も無事だな。大したダメージはないようだ」

ダンピ「んだよ、やっぱそうだったのか。こいつ死にそうな反応しやがるから、ちっとばかし不安になったじゃねぇか」

勇者「この娘は『護られている』とは言ったが、それにしてもお前はやりすぎだ。俺の推測が外れてたら入院だぞ」

ダンピ「心身ともに追い詰めねぇと、本当の力を発揮しねぇっつったのはお前だろぉが。悪役演じてやったんだ、感謝しろ」

勇者「……見ろ、『歯型』だ。それも大量のな」

ダンピ「十数ヶ所はあるな。しかもかなり血が出てやがる。俺の攻撃よりこっちのが重傷なんじゃねぇか?」

勇者「やはり、俺の推測通りの結果だったな」


 勇者は女勇者を背負うと、体育館の出口へと向かう。

 ダンピールはその後ろに付き従いつつ、


ダンピ「で、結局そいつは何者なんだよ?」

勇者「『犬神使い』だ……それも無自覚のな」

ダンピ「ははぁ、なるほどな。じゃあさっきのは……」

勇者「ただし」


 勇者は背中で眠る少女を横目で見ながら、こう付け足した。


勇者「こいつの中には『女勇者を護ろうとしている犬神』と『女勇者を殺そうとしている犬神』の両方が混在している」



-・-・-・-



-・-・-・-



 ダンピールは先ほどの一件で血を流しすぎたため、支給血液を受け取るために保健室へと向かってしまった。

 そんなわけで勇者は1人、王女と魔法使いがレッスンをしている勇者の部屋へと女勇者を運び込んだのだが……

 すると血まみれでぐったりした女勇者を見た魔法使いが悲鳴を上げる。


魔法使「ちょっと、なによこれ! 女勇者、大丈夫なの!?」

勇者「見た目はショッキングだが、この『歯型』は放っておくと痣のようにすぐ消えるんだろう?」

魔法使「……え、なんでそれを……」

勇者「さっきの手の甲の『歯形』が消えていたからな。そんなこと、少し考えればわかることだ」

勇者「それよりお前、サボってないだろうな?」

魔法使「そっ、そんなわけ……ないわよ?」



 勇者は王女を振り返ると、彼女は肩を竦めつつ、


王女「あんまりマジメにやってるようには見えないなー」

勇者「だ、そうだが?」

魔法使「うっ……だって……」

勇者「他の仲間が死ぬような思いで修行しているのに、自分だけお歌のレッスンというのが不服か」

魔法使「……なんでわかるのよ」

勇者「お前は不真面目なようでいて真面目だな。だが、そんなことを考える必要はない」

勇者「お前にはお前の役割というものがきちんとあるんだからな」

魔法使「役割……?」


 勇者は魔法使いが座っていたソファに女勇者を寝かしてやると、王女の隣へと腰を下ろす。

 座るところのなくなった魔法使いは、仕方なく立ったまま勇者の話を聞くことにした。



勇者「魔法使いというのは、なにも魔法をバカバカ撃って敵を殲滅するなんて頭の悪い職業じゃない」

勇者「魔物の『ブレイン』の話をしただろう。ただの魔物の群れであれば、対した脅威にはならない」

勇者「だが魔物を統率し、思慮深く動かし、それぞれの力を最大限に発揮する場を整える『ブレイン』は脅威だ」

勇者「魔法使いというのはな、パーティの中における『ブレイン』の役割を果たす者のことを言うんだ」

勇者「お前が万全な役割を果たせば、仲間たちは100%以上の力を発揮できる」

勇者「そして逆に、敵の力を万全に発揮できないように立ち回ることだって可能となる」

魔法使「……それが、私の役割」

勇者「べつにお前がどうしてもと言うなら、他の仲間と一緒にしごき倒してやってもいい。だがな、適材適所というものがある」

勇者「魔物に比べて、人間個人の戦闘能力というものはかなり低い。それはさっきも説明したな」

勇者「それなら人間が優れている点はなんなのか? それは、チームプレーと武器や兵器の扱い……」



勇者「そして『頭脳』だ。お前が担っている魔法使いという役割は、もっとも『人間らしい』役割なんだ」

勇者「ゆえに人間が魔物と戦うに当たって、最も重要な役割とも言える」

勇者「魔物ごときに頭脳で後れを取る馬鹿はすぐに死ぬ。だが戦闘中は頭に血が上ってしまい、冷静な思考ができなくなることも多い」

勇者「仲間が戦闘だけに集中できるように、戦場を俯瞰で見ることのできる1歩引いた視野を持つ司令塔が必要なんだ」

勇者「仲間が生きるか死ぬかは、お前次第だ。どうだ、頑張れるか?」


 勇者の澱んだ視線を真っ向から受けて、魔法使いはゴクリと喉を鳴らす。

 そして彼女の白くしなやかな手が、強く固く握りしめられた。


魔法使「がんばる! 私にしかできないやり方で、みんなを助けたい!!」

勇者「そうか」


 小さな子に勉強を教えているような気分になっていた勇者は、そこでほんの少しだけ口角を上げて微笑んだ。

 それはふとすれば見逃してしまいそうなほどの変化だったのだけれど、魔法使いはそれに目敏く気が付いた。



魔法使「さっ、王女様! 続きをお願いします!」

王女「魔法使いちゃん、顔赤くない? ちょっと休憩した方が……」

魔法使「だ、大丈夫ですから!!」

勇者「まずは味方の身体能力の底上げをする魔法を素早く的確に発動できるようになることだ」

勇者「そして敵の特性や弱点、行動パターンや魔法のロジックを瞬時に見抜いて対策する能力も磨いた方がいいな」

魔法使「そんなのすぐに上達するの……?」

勇者「こればっかりは経験がものを言う」

勇者「しかし魔法というのは論理的なものだからな。概ね『数字』というものに注目すれば突破口が見えるかもしれないぞ」

勇者「……そして」


 勇者はソファに寝かされた『歯型』だらけの少女へ視線をやって、


勇者「もしも、その娘の体質の原因を見抜いてやれる者が、お前たちの村にいたのなら……」

勇者「あるいは村を追い出されずに済んだのかもしれないな」



魔法使「……!」

王女「その子、自分の村を追い出されちゃったの?」

勇者「そうなんだろう?」

魔法使「……っ」

勇者「これは俺の推測だ。だから違ったらそう言ってくれていい。謝罪してやる」

勇者「この娘は村長をお父さんと呼んでいたようだが……本当の父親じゃないんだろう?」

魔法使「なっ……!?」

勇者「捨て子か、養子か、それとも預けられているのか……おそらく、『捨て子』だな」

魔法使「……」

勇者「本当の両親の家系は『犬神使い』で、そしておそらく既にこの世を去っている」

魔法使「え!? そうなの!?」

勇者「推測だと言っているだろう。だが俺はそう思っている。そう思うだけの材料がある」

王女「どういうこと?」



勇者「その娘の中には、『女勇者を護ろうとしている犬神』と『女勇者を殺そうとしている犬神』が混在していた」

勇者「『守護』と『呪詛』。犬神というのは家系に憑き、代々受け継がれていく。犬神筋、と呼ばれるものだな」

勇者「もちろんその娘を守護しているのが、その娘の家系に憑いている犬神だ」

勇者「本人に犬神使いだという自覚がないのに犬神がその娘に移っているということは、本来の持ち主がこの世を去っているからだな」

魔法使「そんな……」

勇者「そしてこれも推測だが、その両親は『犬神』に呪われたんだろう」

王女「2匹目の制御が効かなくなったってこと?」

勇者「それも考えられるが、それなら解除もできるはずだ。きっと『同業者』の犬神使いに呪われたんだろう」

勇者「その呪いは強く、末代まで祟らんと両親を蝕んだ。そして両親は考える」

勇者「このままでは、まだ物心もついていない幼い我が子に呪いが移ってしまうかもしれない」

勇者「せめてこの子だけは助けたい。その一心で、その娘を、遠く離れた村に捨てたんだ」



魔法使「でも……」

勇者「そう、でもだ。呪いはしっかりついてきた。だが子供を『捨てた』ことで親子の縁を切ったおかげか、呪いは少し弱まった」

勇者「あるいは守るべき対象が『3人』から『1人』となった影響か、『守護』と『呪詛』の釣り合いが取れたんだ」

勇者「その娘の身体に『歯形』を残しているのが『呪詛』で、物体を動かしたり『歯形』による傷を治癒させているのが『守護』だ」

魔法使「な、なんで『守護』の犬神が、勝手にものを動かすのよ?」

勇者「違う、動かしているのはその娘だ。犬神使いとしての自覚はないが、それでも無意識に犬神を操っているんだ」

勇者「そして普段は『歯形』を抑制してくれている犬神をその娘が体の外に出して操るせいで、一時的に『呪詛』の割合が強くなる」

勇者「そうすると『歯形』が発生し、そして『守護』の犬神がそれを治癒させる」

勇者「これが、その娘に起こっている現象のすべてだ。……まぁ、推測だがな」

魔法使「じゃあ、女勇者以外の人が被害を受けることはないの?」



勇者「そいつが殺意を向けなければな。実際、さっき犬神を使役してダンピールを殺そうとしていた」

勇者「吸血鬼のあいつだったからよかったものの、人間だったら間違いなく即死だ」

勇者「とはいえ、ダンピールが追い詰めたのが原因だがな。普通に生活している限り、そんなことはまずないだろう」

魔法使「……じゃあ、村を追い出されなくてもよかったんじゃない」

勇者「理解できないものというのは恐ろしいものだ。ましてや、村を、村人を守らなければならない村長の立場もあるんだろう」

勇者「多くの村人から詰め寄られて、渋々決断した、ということもあるかもしれんが」

魔法使「だからって……自分の拾った娘を魔物の砦に放り込んで、あわよくば死なせようとするなんて……」


 魔法使いが失意の中で呟いたその言葉は、誰に向けられたものでもない独り言のようなものだった。

 しかし望むにせよ望まざるにせよ、口から出た言葉というものは人の耳に届いてしまう。

 それは例えば、聞き覚えのある声が自分の名前を呼んだことによって意識が覚醒し……

 そのまま眠ったふりをしながら話を聞いていた哀れな少女の耳にも。


女勇者「…………そうだったんだ」



魔法使「女勇者っ!? うそ、起きて―――」


 女勇者は痛む体を無理やり動かしてソファから飛び起きると、そのまま部屋の外へと飛び出してしまった、

 魔法使いはほとんど悲鳴のような声を上げて後を追いかけようとするが、そんな彼女の腕を勇者が掴み引き止めた。


魔法使「なによ、離して!!」

勇者「一緒になって騙していたお前が、今さらあの娘になにを言うつもりだ……!!」

魔法使「―――っ」

王女「勇者さん、そんな言い方は……」

勇者「どっちが正しいかなんて、そんなことはわからない」

勇者「だが少なくとも、あの娘は本当のことを言ってほしかったはずだ」

勇者「おそらく自分でも、薄々勘付いてはいただろうからな。考えないように、していただけで」

魔法使「……っ!!」

勇者「ましてやただの人間であるお前の慰めなんて、惨めになるだけだ。今追いかけるのはやめておけ」

魔法使「でも、あの子が馬鹿なことしようとしてたら……!」

勇者「そんなことは、あいつがさせない。あいつも似たような苦しみを知っているからな」

魔法使「あいつ……?」

勇者「魔物として人間社会で生きて、魔物として人間社会に殺された……哀れな吸血鬼だ」



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-・-・-・-



 外に出るとすっかり陽は沈んでいて、やや肌寒いくらいだった。

 勇者の部屋から出て職員棟を抜け出し、裸足のまま芝生をひたすら走り抜けた先にある池のほとりに、彼女は腰を下ろしている。

 自分の身体が周囲の深い藍色に溶けて混ざっていることにささやかな安心を感じていると、背後から足音が聞こえて来た。


女勇者「……魔法使いちゃん?」

ダンピ「悪かったな、俺でよ」


 女勇者は驚いて振り返った。てっきり魔法使いが、憐れみの表情で慰めの言葉でもかけに来ると思っていたのだ。

 特に冷酷無比な魔人という印象のダンピールがここにいるということに、強い驚きを感じていた。

 もしや勇者に言われて、無理やり力づくで連れ戻しに来たのだろうか……と勘ぐっていた女勇者に、ダンピールはなにかを差し出した。

 見れば、それはカップに注がれた温かいココアだった。



女勇者「……えっと」

ダンピ「んだよ。コーヒーの方がよかったか? あんな苦ぇモン飲むヤツの気がしれねぇな」

女勇者「……い、いえ。……あり……ぃます」

ダンピ「礼を言うならちゃんと聞こえるように言えっての」

女勇者「あ、ありがとう、ございますっ」

ダンピ「ん。」


 ダンピールも自分の分のココアを持ってきていて、無言で女勇者の隣に座ると、ちびちび飲み始めた。どうやら猫舌らしい。

 女勇者もおっかなびっくりココアに口を付けつつ、隣で一生懸命にココアをフーフーしている幼い少年を盗み見る。

 こんな小さな、愛くるしい少年が魔人だなんて……あの恐ろしい実力を目撃した今でもにわかに信じがたいものだ。

 内向的な性格の女勇者は普段なら進んで人に話しかけたりはしないのだが、今はなにぶん自暴自棄になっていた。

 だから彼女は、ダンピールに思い切って声をかけてみることにしたのだ。



女勇者「あ、あの……」

ダンピ「あ?」

女勇者「ダンピール、さんって……魔物なんですよね……?」

ダンピ「まぁな。8歳まではハーフだったが、それから完全に魔物になった」

女勇者「8歳から……じゃあ、大変じゃなかったですか?」

ダンピ「そら大変だったに決まってんだろクソボケ。言っとくがよ、お前はまだ幸せな方なんだぜ?」

女勇者「……幸せ?」

ダンピ「悪ぃが、さっきの話は途中から聞かせてもらった。お前は、親に愛されてたんじゃねぇのかよ?」

女勇者「でも……捨てられて……」

ダンピ「ちゃんと勇者の話聞いてたか? このままじゃ呪いで全員お陀仏だから、我が子だけでも呪いから遠ざけようってことだろぉが」

ダンピ「捨てられたんじゃねぇ、護ってもらったんだよ」



女勇者「……お父さ……村長が、私を……」

ダンピ「お前は村長のことが嫌いなのか?」

女勇者「そんなこと、ない、ですけど……」

ダンピ「村のヤツらはどうだよ? いつも酷い目に遭わされたりしたのか? 大嫌いか?」

女勇者「みんな、優しかった……」

ダンピ「お前の体質の原因はわかったんだろ? お前がちゃんと制御できれば、誰にも迷惑かけねぇんだろ?」

ダンピ「ちゃんと使いこなせるようになればっ! お前の力でそいつら全員守ってやれんだろ!?」

女勇者「!!」

ダンピ「なぁ、お前のことだからよ。どうせ向こうが拒絶して来たら、はいわかりましたごめんなさーいっつって……」

ダンピ「こっちからおとなしく離れていくんだろ? ちゃんと事情も説明せずに。ほんのわずかな可能性を試そうともせずに」

ダンピ「そんなとこだけ育ての親に似てんじゃねぇよ、このスカタンが!!」



ダンピ「好きなら、ちゃんと説明しろよ! 全力で誤解を解く努力でもしてみたらどぉなんだよ!」

ダンピ「みっともなく頭を下げろよ! 見苦しく許しを乞えよ!」

ダンピ「考え付く限りのことを全部試して、自分の居場所を守るためにやれるだけのことは全部やれよ!」

ダンピ「俺は、やったぜ……ダメだったけどな」

女勇者「……ダンピールさん」

ダンピ「でもお前は、大丈夫かもしれねぇじゃねぇかよ……居場所を守れるかもしれねぇじゃねぇか」

ダンピ「それにな。もしダメでも、今の俺には居場所がある。居場所でいてくれるヤツらができた。ちっとばかし変態どもだが……」


 ダンピールは照れくさそうに、幸せそうに、


ダンピ「でも、大好きだ」


 儚げに、噛みしめるようにそう呟いて、笑った。



ダンピ「なぁ、村のヤツらはお前のことをバケモンだと思ってるかもしれねぇ。お前自身もそう思ってるのかもしれねぇ」

ダンピ「だがよ、その称号は、俺ぐらいのレベルになって初めて、名乗っていいんだぜ?」

ダンピ「お前は人間だ。ちょっと家の事情でごたごたがあったが、それでも親に愛されて守られた、ただの人間だ」

ダンピ「魔人にだって居場所ができたんだぜ? 人間に居場所ができねぇはずねぇだろうが! そうだろ!?」

女勇者「……はいっ!」

ダンピ「んだよ、大きな声も出せんじゃねぇかよ」

ダンピ「体育館で俺を殺そうとしたときみてぇな勢いで、自分勝手に生きてみろよ。多分、その方が楽しいんじゃねぇか」

女勇者「ダンピールさん……ううん、師匠!」

ダンピ「し、師匠ぉ……!?」

女勇者「師匠です! あなたは私の目標だから!」

ダンピ「や、やめろよ……なんかむず痒いだろ」

女勇者「やめません! 自分勝手に生きるんです!」

ダンピ「へっ。……じゃ、好きにしろ」

女勇者「好きにします!」



 吹っ切れた様子の女勇者からは今までのようなびくびくした表情は嘘のように消え、晴れ晴れとした清々しい顔つきになっていた。

 それを見たダンピールは満足して立ち上がる。


ダンピ「ふん。つまんねぇ話をしてたら、せっかくのココアが冷めちまった。学校に戻って温め直すぞ」

女勇者「はい!」


 ダンピールは振り返らずに、どんどん先を歩く。

 女勇者はその小さな背中を見つめながら、まるでココアを飲み下した時のように、体の内側が温かくなっていくのを感じていた。

 そうしてその気持ちを、精いっぱいの言葉にして吐き出す。


女勇者「私、村を出ることに決めました!」

ダンピ「あ?」


 怪訝そうに振り返るダンピールに、女勇者は物怖じせずに続ける。



女勇者「師匠の話を聞いてて、私も自分でいろんな人たちに出会って、いろんなものを見て、知って……」

女勇者「そして自分の手で、自分の居場所を見つけ出したいって思ったんです」

ダンピ「……そぉかい」

女勇者「もちろん、あの村にも帰ったりはします。お父さんも、村のみんなも大好きです」

女勇者「だからみんなに、お世話になりました。今までありがとうございましたって言いたいです」

女勇者「そしていつか、私はちゃんと幸せになったぞって、言ってやるんです!」

ダンピ「へっ。俺には関係ねぇな……まぁ、好きにしな」

女勇者「えへへ、好きにします!」


 それから2人で勇者の部屋に戻ると、魔法使いが心配そうな顔を女勇者に向けて、しかしその別人のような表情に茫然としていた。

 浴室から現れたファイバーが、なぜか無言で抱き付いてくるのを鬱陶しそうに押しのけるダンピール。

 その様子を満足げに見守る勇者と王女。

 そして武闘家が浴槽から解放されるまで、残り5時間となった。



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今日はここまでということでよろしくお願いいたします。

それでは、お付き合いいただきありがとうございました。失礼いたします。

乙 武闘家空気過ぎww
羊飼いが犬神だと、牧羊犬的な使い方ができて得なのだろうか?

羊が犬神認識できるのだろうか


戦闘の書き方が上手くなったのか、同性愛吸血鬼が王子より、元一般市民の女の子をボコボコにしてるように見えて吹いた


役立つかどうかはさておき、女勇者が犬神使いという設定は、羊飼いという設定から連想いたしました。

そして実際問題、王子より女勇者のほうがひどい攻撃を受けているかもしれません……
(結果的にダメージはあまりありませんでしたが)


それでは、投下を始めさせていただきたいと思います。



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ダンピ「誰かっ! 誰かぁ!!」

ダンピ「おねがい! おにいちゃんを助けて!!」

ダンピ「吸血鬼に襲われて、血を……!!」


 「……ついに本性を現したのか」


ダンピ「……えっ?」


 「おい、神父様を呼べ! やはりこいつは、ただの魔物だ!」


ダンピ「な、なに言ってるの……?」


 「今まで育ててもらった恩も、庇ってもらった恩も忘れて、兄を殺すとはな。このバケモノが!!」


ダンピ「ッ!? ち、違うよ! さっき吸血鬼がこの家に来たんだよ!」

ダンピ「ぼくに仲間になれって言ってきて……! そ、それで、断ったら、おにいちゃんをっ!!」

ダンピ「ホントだよ! おねがい、信じて! おにいちゃんの血を吸ったのはぼくじゃない!!」



 「このところの吸血鬼騒ぎもお前が原因だな。やはり、こんなバケモノを村に置いておくべきじゃなかったんだ」


ダンピ「違う!! ぼくは人の血を吸ったことなんて一回もないよ!」

ダンピ「だっておにいちゃんと約束したんだもん!! 人はぜったい襲わないよ!!」

ダンピ「おねがいします! 信じてください!」

ダンピ「そうだ、ぼくがその吸血鬼を捕まえてくるから……! だ、だから……」


 「神父様がいらっしゃった。お前はもうおしまいだ。肉親殺しのバケモノがッ!!」


ダンピ「ち、ちがっ……」

ダンピ「ぎゃあああああああああッ!! 痛いっ!! やめてぇ!!」

ダンピ「おねがい、助けて! ぼくじゃない!」

ダンピ「おにいちゃんを殺したのは、ぼくじゃない!!」

ダンピ「うわああああああああッ!!!!」



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 勇者は今日一日、急な来訪者たちの面倒を見ていたせいで、教師としての業務ができなかった。

 そのため彼は深夜を回ってからも、ひたすらプリントを作成したり授業の準備をしたりと忙しく働いていた。

 勇者の後ろでは、移動して合体させた2つのソファの上で、折り重なるようにして3人の少女が眠りについている。

 この作業量では、おそらく今夜は眠れないだろうな……と勇者は死んだ瞳をさらに澱ませていると、


ダンピ「……勇者」

勇者「っ!?」


 書類を並べていたデスクの下、勇者の両脚の間から突然、吸血鬼化した幼い少年が顔を覗かせたのだった。

 地面まで届く 純白の輝く長髪に、ルビーのような赤い瞳。月のように白く青ざめた皮膚に、長く伸びた犬歯。

 吸血鬼としての能力で、自分の部屋から勇者の影へと移動してきたのだろう。突然だったのでさすがの勇者も肝を冷やした。



勇者「お前、なにやって……」


 言いかけたところで、勇者はダンピールの目元が赤く腫れ、大きな瞳から涙がこぼれていることに気が付いた。


勇者「……また怖い夢を見たのか」

ダンピ「……うん」


 勇者はダンピールの脇に手を差し込んで抱えると、自分の膝の上に乗せてやる。

 ダンピールは勇者に抱き付くと、彼の胸にきつく顔を押し付けた。


ダンピ「……ぼくじゃない……ひっく……ぼくじゃない……」

勇者「ああ、わかってる。お前じゃない。大丈夫だ」


 震えるダンピールの背中を優しく撫でてやりながら、委員長に対するときのような優しい声をかけてやる勇者。

 そうしてしばらくあやしてやると、次第にダンピールの嗚咽も収まってきた。

 ダンピールは勇者の胸から顔を離して、彼を見上げる。



ダンピ「……ありがと、勇者」

勇者「ああ」

ダンピ「一生のおねがいがあるんだけど」

勇者「なんだ?」

ダンピ「ちゅーして」

勇者「断る。6年後に予約済みだ」

ダンピ「……くそ」


 ダンピールは悪態をついてうな垂れるが、答えはわかりきっていただけに、あまり残念そうではなかった。

 しかし勇者はダンピールの陰鬱な表情を見るにつけ、少しだけ思い直す。

 そして自分が委員長だったらどこまで許すかを考えて……

 ダンピールの左手をとって、その手の甲にほんの少しだけ口づけをしてやった。



ダンピ「あっ……!」

勇者「さっさと寝ろ」

ダンピ「……このまま寝てもいい?」

勇者「今日だけだぞ」


 ダンピールがここまで弱るのは本当に珍しいことなので、今日だけは甘やかしてやることに決めた勇者。

 こうして自分の過去を鮮明に思い出してしまうくらい、あの哀れな少女と真剣に向き合ってあげていたのだろう。

 それを思えば、これくらいのご褒美はあってもいいかもしれないと思ったのだ。


ダンピ「……おやすみ」

勇者「ああ」


 ダンピールは宝物のように左手を胸に抱き、とても幸せそうな顔で眠りについた。

 勇者は彼の小さな背中を優しく撫でてやりながら、残った書類にペンを走らせていく。

 この書類が片付いたら、明日からの特訓メニューを考えなければならない。

 そうなるとやはり、今夜は眠れそうにない。



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王女「ところで、勇者さんたちが代わりに魔物の砦を攻略しちゃうっていうのはダメなの?」


 翌日の昼下がり。

 昼休みが終わって委員長が教室へと戻ると、それと入れ替わりのように王女が勇者の部屋を訪れた。

 そして魔法使いが魔物辞典を読み耽っている合間に、そんなことを聞いて来たのだった。

 勇者は生徒たちの小テストを採点する片手間で、それに答える。


勇者「魔物の砦なんていうのは、得体のしれない娘を追い出すための口実に過ぎない」

勇者「それを俺たちが攻略してやったところで、今度は別の、もっと危険な場所へと送り込まれるだけだ」

勇者「根本的に解決するなら、こいつらに自分たちだけで生きていく力を付けさせるしかない」

王女「私がどうにかしてあげてもいいけど……」

勇者「それも一つの手だったが、あまり上策とは言えないな」

勇者「するとこいつらは、ずっと誰かの庇護下で、自分では何も獲得することなく生きていくことになる」



王女「自立の奨励かー。学校の先生らしい考え方だね」

勇者「それでも他に手がなければ頼もうかとも考えていたが……」

勇者「女勇者は昨日、自分の足で歩いていくことを決めたようだ。その心配はいらない」

王女「ふふっ、そっか」

勇者「お前のところの王子も、妹の庇護下から脱して活躍しているそうじゃないか」

王女「そうだね。兄さまも、最近はすごく自信に満ちた良い顔してるよ」

王女「やっぱり自分の力で手に入れたものには、ずっと大きな力が宿るんだね」

勇者「そういうことだな。一から十まで面倒を見てやるのは、お互い楽で魅力的だ」

勇者「だがそれでも、突き放して試練を与えてやらなければならない時というのは、いつか必ず来る」



王女「昨日、女勇者ちゃんの寝たふりに気づいてたのに、魔法使いちゃんの口から酷いこと言うように誘導してたみたいに?」

魔法使「えっ!?」

勇者「なんのことだ。よくわからないな」

王女「ふーん、そっか♪」

魔法使「ちょっと待って! その事実如何では、私はこの人に対する態度を変えなきゃいけないわよ!」

勇者「さて、採点終わりだ。体育館の様子を見てくる」

魔法使「逃げるな! ハッキリさせてから行きなさいよ!! ちょっと!」

王女「さて、魔法使いちゃんは詩魔法のレッスンを始めましょっか」


 後ろからいろいろ聞こえてきていたが、勇者はそれらを無視してそそくさと部屋を後にするのだった。



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 今日も体育館が使用されない時間の合間を縫って、女勇者たちが修行のために使用させてもらっていた。

 とはいえ前日、大量の血痕をそのままにして帰ったせいで厳重注意を食らったため、今日はソフトな修行だったが。

 現在、体育館の中央辺りで2人の少女が向かい合い、しのぎを削っていた。


女勇者「……っ!!」

武闘家「ふっ! せいっ!!」


 それを遠くで座りながら見守っているのは、彼女たちの師匠であるファイバーとダンピールだ。

 ファイバーは2人の攻撃が当たった部位の繊維を操ることで衝撃を逃がして、最低限のダメージに抑えるという役割。

 ダンピールは2人がなまっちょろい攻撃をしていると感じたら、10メートルほど蹴り飛ばすという役割。

 おかげで2人は、親友同士という立場でありながら真剣に戦いに臨むことができていた。

 ちなみに負けた方は、体育館の天井に激突するような威力で蹴り飛ばすとダンピールに脅されている。

 彼ならやりかねないと怯えている2人は、余計に集中して戦いに臨んでいた。



ダンピ「ファイバー、質問なんだがよ。お前んとこの女、動きが悪くねぇか?」

ファイ「……私が邪魔してるから」

ダンピ「おい」


 さっきから武闘家がよくわからないところで転んだりしているのは、ファイバーが原因だったらしい。

 呆れたような顔をしているダンピールに、ファイバーは虚ろな目を向けて、


ファイ「……私からも質問」

ダンピ「んだよ」

ファイ「……さっきから左手をずっと撫でてるけど、痛いの?」

ダンピ「なっ……なんでもねぇよボケっ!」

ファイ「……?」


 ダンピールはファイバーから慌てて顔を逸らすと、特に理由もなく女勇者の尻を蹴り飛ばした。



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 連日の厳しい修行のせいで、全身が悲鳴を上げている女勇者と武闘家。

 そこで魔法使いが2人をマッサージをして癒してやるということになった。

 外はすっかり暗くなっており、彼女たち3人の他に、勇者の部屋には誰もいなかった。


魔法使「お待たせー」

女勇者「ありがとね、魔法使いちゃん」

武闘家「変に気を遣わなくていいのに」

魔法使「仲間の体調管理も、『ブレイン』の役割なのよ」

女勇者「ぶれいん?」


 3人は勇者の部屋のソファやテーブルを動かして、簡易ベッドを作り上げる。

 そこで魔法使いは辺りを見渡して、



魔法使「そういえば勇者さんはどこ行ったのかしら?」

武闘家「あそこにいるぞ」

魔法使「え?」


 武闘家が指さした先は、すっかり暗くなった校庭だった。

 魔法使いは目を凝らして注視してみると、校庭の真ん中になにかが転がっているのが見えた。


魔法使「なにあれ……?」

武闘家「寝袋。いつもああやって、校庭の真ん中に寝袋で寝てるそうだよ」

魔法使「嘘、なにそれ!?」

女勇者「よくわかんないけど、ずっと昔からああやって寝てるんだって」

魔法使「……変なの」



 しかし今は勇者の特殊な性質は問題ではなく、魔法使いにはとても重大なミッションがあるのだ。

 女勇者と武闘家をソファに寝かせると、魔法使いはギラリと目を輝かせて飛びかかった。


魔法使「どりゃあああ! ここのところずっとあんたらとスキンシップしてなかったわよね!!」

女勇者「ひゃあ!?」

武闘家「そんなことだろうとは思ったよ……」

魔法使「もう数日分は揉み倒してやるんだからね!」


 舌なめずりをしながら乙女の柔肌に襲い掛かる魔法使い。

 しかし彼女にとって誤算だったのは、彼女たちそれぞれの修行内容の違いだった。

 すなわち、既に武闘家と魔法使いの間には、明らかな腕力の差があったのである。


魔法使「ちょっ、なにこの力……!?」

武闘家「お前にわかるか……浴室恐怖症になるまでひたすら肉体を苛め抜かれる苦痛が……」

武闘家「死ぬ気で抵抗し続けなきゃ、トイレにも1人で行けなくなる体になる恐怖に怯えながら溺れる絶望が……!」



 武闘家は魔法使いを片手で押さえつけると、ソファに押し倒す。


武闘家「よし女勇者、今日はたっぷり魔法使いとのスキンシップに付き合ってあげようじゃないか」

女勇者「そうだね、たまには友達同士で息抜きも必要だもんね」

魔法使「え、ちょ、2人とも目がマジなんだけど……きゃあああああっ!?」


 結論から言えば、疲れた体を癒すという目的はまったく達成できなかったと言っていい。

 むしろ余計に疲れて、ぐったりと3人で折り重なって、力尽きるように眠ることになった。

 しかしそれでも、厳しい修行の合間にこうやってふざけて笑い合える時間というのは、彼女たちにとって大切なものだったはずだ。

 そして日は昇り、また地獄の特訓が始まる。



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 それからも彼女たちは、毎日のように徹底的にしごかれ続けた。

 時に蹴り飛ばされ、時に浴槽に沈められ、時に窓から捨てられ……

 ダンピールが1日に3回ほど「やべっ、死んだか?」と呟いているのも、みんな知っていた。

 時には「もう嫌だ」と、修行場所に行くのを拒否して泣き崩れる者もいた。

 しかしそれでも、仲間たちの励ましの声に後押しされて、最後には立ち上がることができた。

 合言葉はこうだ。


 「行かなきゃ殺られるからっ!!」


 こうして地獄の特訓を潜り抜けた彼女たちは、物理的に一皮も二皮もむけて、立派に成長した。

 そしてある日、勇者によって『最終試験』が言い渡された。



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 校庭の真ん中で、ダンピールは腕を組んで仁王立ちしていた。

 時刻は午前9時を回ったあたりで、空は快晴。当然ながら校庭には余すところなく陽光が降り注いでいる。

 ダンピールから20メートルほど離れたところで、女勇者、武闘家、魔法使いは緊張の面持ちで相対していた。


ダンピ「そう固くなんじゃねぇよ、こっちは吸血鬼で、日中の屋外だぜ? むしろ俺に勝ち目はないんじゃねぇか?」


 皮肉っぽく笑うダンピールの言い分はもっともなのだが……

 ではなぜ勇者がこの戦いを『最終試験』に設定したのか、その説明がつかない気がするのだ。

 だから3人は、油断なく身構える。

 校舎の日陰までは50メートル以上あるが、逆に言えば、1歩でも日陰に入られたら即終了なのである。

 ダンピールは、遠くで観戦している勇者とファイバーに視線をやる。

 ファイバーが右手を上げたら、それが戦闘開始の合図となのだ。


ダンピ「ま、せいぜいお手柔らかに頼むぜ」

女勇者「……師匠こそ」



 3人は互いに目配せして、事前の作戦通りに事を運ぶことを確認し合う。

 ダンピールが太陽光の下にいる間は、人間と同じところまですべてのステータスが低下する。

 だが念には念を入れて、魔法使いが2人の身体能力を上げたうえで突撃する。

 8歳の少年に過ぎないダンピールには、どうやっても勝ち目はないはずだ。

 3人はファイバーを振り返り、頷く。準備完了の合図だ。

 そしてファイバーの右手が動き……

 戦闘が開始した。


武闘家「よし、魔法使い! 詩魔法を―――」

ダンピ「原初の煌きよ、我が手に集え!!」

武闘家「……え?」


 3人が驚いて振り返ると、ダンピールは左手で「軍事魔法学(戦略級)」という教科書を広げ、右手を天に掲げていた。


ダンピ「舞い降りて報せよ! 留まりて遺せ! 憐憫の闇をその剣で照らせ!!」


 ダンピールの掲げた右手に、直視できないほどの輝きが生じる。



 魔法使いはそれがなんであるかを直感で理解し、2人に叫んだ。


魔法使「炎の上級魔法よ! 避けてっ!!」

女勇者「!?」

武闘家「!?」


 3人がその場から慌てて飛びずさった瞬間、天に向けたままのダンピールの手から、強烈な光の柱が迸る。

 それはダンピールの手のひらが向けられていた青空へとまっすぐに飛んでいくと……

 直後―――上空で、学校の敷地すべてをすっぽり包める規模の大爆発を引き起こした。

 閃光の後に、爆音と衝撃波が遅れて地上へと降り注ぐ。木がしなり、校舎のガラスをびりびりと振動させた。

 やがて爆発の余波が収まると、ダンピールは頭をポリポリと掻きながら首を捻った。


ダンピ「ああそうか、手は敵に向けないといけねぇのか……あ、下に書いてあった」



 遠くからその様子を見ていた勇者は、両手で頭を抱えてしまっていた。


勇者「馬鹿かあいつは……! いや、それより誰があいつにあんなものを……」

ファイ「……ごめん」

勇者「ファイバー、お前か……」

ファイ「……それと、もう一つ」


 魔法使いは考えを改めた。

 ダンピールは人間レベルにまでステータスを落とされたのではない。

 膨大な魔力にものを言わせて、人間に可能だとされる攻撃ならなんでも仕掛けてくるようになったのだ……と。


魔法使「詩魔法とかやってる場合じゃないわ! こっちが粉々にされる前に殺してきて!!」

武闘家「あ、ああっ!!」

女勇者「うんっ!」



 武闘家と女勇者が、必死の形相でダンピールへと迫る。

 ダンピールは「軍事魔法学(戦略級)」をしまって両手を開けると、漆黒の瞳を鋭利に細めた。

 武闘家の方がわずかに足が速いことを確認したダンピールは、女勇者と武闘家、そして自分が一直線になるように移動する。

 武闘家によって放たれた蹴りをすれすれでかわすダンピール。

 女勇者が武闘家の右から回り込んで来るが、ダンピールは武闘家を中心に左へと移動して彼女から逃げる。


魔法使「武闘家! あんたが邪魔になって女勇者が戦えてない!」

武闘家「!」


 指摘されてようやくダンピールの思惑に気が付いた武闘家は、ダンピールから距離を取ろうと後ろに下がる。

 すると今度はダンピールが校舎の日陰に向かって走り出してしまう。


武闘家「くそっ……!」


 しかしそこは8歳の少年。歩幅も脚力もさすがに差がありすぎる。

 武闘家はあっという間に追いついて、ダンピールの進む方向へと回り込んだ。

 女勇者はダンピールの後ろに迫っている。



武闘家「よし、これで……!」

魔法使い「馬鹿! あんたが影になってる!!」

武闘家「―――っ!!」


 気が付いたときには遅かった。

 武闘家の身体で太陽光を逃れたダンピールは、彼女の腹に強烈な蹴りをお見舞いして吹っ飛ばす。

 ファイバーに守られていない彼女は宙を舞うと、そのまま落下して動かなくなった。


女勇者「武闘家ちゃん!」


 女勇者が武闘家へ駆け寄ろうとすると、


ダンピ「終末の波濤よ、我が足元に溢れよ!!」

女勇者「!?」



 「軍事魔法学(戦略級)」を再び取り出したダンピールが、適当に開いたページの適当な殲滅呪文を詠唱しようとする。

 女勇者は慌ててひのきの棒を握り直すと、ダンピールへ突進する。

 ダンピールは詠唱を中断し、教科書をしまって迎え撃とうとしたところで……


魔法使「―――♪」


 走って近づいて来ていた魔法使いが、武闘家の近くで詩を歌う。

 するとぐったりして倒れていた武闘家が、呻き声を上げて意識を回復した。


武闘家「うっ……ごめん、助かった……」

魔法使「太陽の位置に気をつけて!」


 よろよろと立ち上がった武闘家は、ダンピールの元へと駆け出す。

 さらに魔法使いが別の詩魔法を歌い始めると、女勇者と武闘家の動きが目に見えて加速する。



魔法使「女勇者、そいつの影を踏まないで!」

女勇者「っ!」

ダンピ「……チッ」

魔法使「武闘家、そっちから攻撃するなら姿勢を低くして下段よ!」

武闘家「ああっ!」


 徐々にペースは、女勇者たちに傾いていた。

 やがて8歳児の身体能力ではついていけなくなったダンピールは、ついに女勇者の一撃を貰ってしまう。


ダンピ「ぐっ……」


 棍棒による攻撃を左腕で防いだものの、骨をやられたのか、苦痛に顔をゆがめるダンピール。

 女勇者と武闘家はほとんど勝利を確信しつつ、しかし慎重に間合いを測る。

 遠くで見ていた勇者も、そろそろ頃合いかと腰を浮かせた。



 しかし、ダンピールは懐からなにかを取り出すと、それを校舎の方向へと放り投げた。


女勇者「……?」


 それはシューシューと音を立てながら赤い煙を発する筒……いわゆる発煙筒だった。

 緊急時に自らの存在や居場所を伝えるための道具で、かなり昔に発明されたものだ。

 3人はそれによってダンピールがなにを狙っているのか測りかねて、一瞬立ち往生してしまった。

 しかし煙が立ち上っていく先にある太陽を見て、魔法使いが狙いに気づく。


魔法使「あれは太陽の光を遮るためのものよ!」


 3人が発煙筒に目を向けている間に、ダンピールは煙によって生じた影へと飛び込んでいた。

 あわてて煙の影から飛び出した3人が振り返ると、ダンピールが「軍事魔法学(戦略級)」を広げている。

 形勢逆転によりテンションが最高潮に達したダンピールは、まるで悪役のような高笑いをしながら勝利を宣言した。


ダンピ「アーッハハハハ!! これで終わりだッ!! さぁ滅べ虫けら共!!」

ダンピ「聖裁の星よ、我が導きに応えよ!!」



 またしても大魔法を詠唱し始めるダンピール。このままでは校庭全域に破滅が襲い掛かることになる。

 しかし今回は、迂闊に接近すれば吸血鬼の力により返り討ちとなってしまう。

 そうしているうちにも、ダンピールは呪文を読み上げていく。


ダンピ「黒き荒布を纏う太陽! 血の涙を流す月!」


 遠距離攻撃が必要だ。そして女勇者に思いつく手段は、一つしかない。

 覚悟を決めなければならない。自分の力を受け入れ、必ず支配してみせるという強靭な意志を持たなければ成功しない。


ダンピ「高きを低く! 多きを少なく! 天と地を結ぶ道標!」


 血の底から響くような振動が校庭に迫る。これから自分たちに大災害が襲い掛かると確信した魔法使いが青ざめる。

 女勇者は体育館での感覚を思い起こし、そして叫ぶ。


ダンピ「万象普く枯れ落ちる、青き―――」

女勇者「あああああああああッ!!!!」



 女勇者の身体から、『見えないなにか』が放たれる。同時に全身を『歯形』が襲うが、気にしてはいられない。

 教科書を開き詠唱に集中していたダンピールは反応が遅れたが、しかし余裕の笑みは崩さない。

 体育館では油断したが、同じ轍は二度と踏まない。

 しっかりと視覚を吸血鬼化すると、巨大な犬の頭部を象った魔力の塊が見える。

 それなりに速いとはいえ、吸血鬼の動体視力をもってすれば、こんなものは止まっているも同然だ。

 物理攻撃ではなく、吸血鬼の能力で影を操って細切れにしてやろう……ダンピールはそう考えて、ニヤリと笑う。

 しかし。


ダンピ「ぐああッ!?」


 犬神による突撃を真正面から食らったダンピールは宙を舞い、遠く離れた地面へと落下した。

 ダンピールは視界の端で目撃していた。あの刹那、発煙筒の煙を風魔法で吹き散らす、勇者の姿を。

 勇者は何食わぬ顔で女勇者たちへ近づくと、彼女たちに宣言した。


勇者「よくやった。最終試験は『合格』……お前たちの勝ちだ」



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お時間はまたありますが、書き溜めはこれにて終了です。

それでは、ここまでご覧いただきありがとうございました。

乙です
女性のダンピールに来てもらいたい

乙 ダンピは元々ホモだったのか、勇者にあってからホモになったのか

もう武道家も勇者もムキムキで足とか太くなったから、踊り子には戻れなさそう

>>268
>>121-123を見てみると良いよ。

>>269 書いてあった、ありがとう



中身が強くなっても武器は未だにひのきの棒な女勇者


女性ダンピールが死亡して吸血鬼化した場合、放送コードにひっかかてしまいそうです。

そしてダンピールが男の人好きをこじらせたのは、だいたい勇者が甘やかすせいだと思われます。



第2章が、たった今 完結いたしました。

申し訳ありませんが、今日中に完結させたかったため時間がずれこんでしまいました。

それでは、投下を始めさせていただきたいと思います。



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 勇者の部屋で向かい合う、勇者と魔法使い。

 『最終試験』を終えて、あとは翌日の出立まで体を休め英気を養うようにということになっていた。

 魔法使いは落ち着かない様子で、「種族学」の教科書を読んでいる勇者の横顔をチラチラと窺っていた。


魔法使「ね、ねえ」

勇者「なんだ」

魔法使「あ、ええっと……一流の魔法使いって、さっきみたいなスゴイ魔法を使えるの?」

勇者「あれは魔力バカの魔人だから発動できたんだ。普通、あんな規模の魔法を1人で発動させることはありえない」

魔法使「複数人で発動するの?」

勇者「最低でも20人程度で息を合わせて詠唱する。でなければ魔法はまともに発動せず、魔力が一瞬でなくなって死ぬだろう」

魔法使「そ、そうなの……」



勇者「もっとも、言葉を流暢に操れる魔人は少ないうえに、文字を読める魔人なんていうのはさらにごくわずかだ」

勇者「やはり呪文を唱えて発動する魔法は、人間の専売特許だな」

魔法使「さっき戦いで、最後の魔法が発動してたらどうなってたの?」

勇者「まず局地的な大地震と地割れが発生して校庭が粉微塵になった後で、さらに隕石が降ってきて辺り一帯が消し飛んだだろうな」

魔法使「…………。」

勇者「まぁ本当に危ない場合は俺が止めてくれると思っていたから、好き勝手に暴れてるんだろうが……」

勇者「だとしてもやりすぎだ。ダンピールには厳重に注意しておいた」

勇者「……それで、お前が本当に言いたいことはなんなんだ?」

魔法使「うっ……せ、急かさないでよ」


 魔法使いは視線を泳がせると、小さく深呼吸をしてから口を開いた。


魔法使「ほ、ほんとにありがとう。まだお金も用意できてないのに、こんなに面倒見てもらって……」



勇者「金は……そうだな、出世払いに期待しておく。それにお前たちが魔物の砦で殺されれば、依頼は未達成だからな」

魔法使「やなこと言わないでよ……」

勇者「事実だ。だが金は欲しいからな、せいぜい死なないでもらいたいものだ」

魔法使「なんなら私が一流の魔法使いになってから、あなたのお手伝いをしてあげてもいいけど?」

勇者「せいぜい日中のダンピールに1人で勝てるようになったらだな」

魔法使「うぅ……先は長いわね」

勇者「だが、お前ならできるかもしれないぞ」

魔法使「え?」


 勇者はまた、ほんの少しだけ口角を上げて微笑むと、「種族学」の教科書へと視線を落とす。

 魔法使いは大いにうろたえながら、開いていた魔道具辞典で顔を覆い隠すのだった。

 そこで勇者はふと思い出したように顔を上げ、


勇者「そうだ、お前に聞いておきたいことがある」

魔法使「?」



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 その部屋は、この世界のありとあらゆる色彩が凝集されているのではないかと思われるような光景だった。

 色も形も大きさも素材もさまざまな布や糸がところ狭しと並べられたその場所は、ファイバーの私室である。

 そこに案内された武闘家はすぐに服をひん剥かれて、着せ替え人形に徹しているのだった。


ファイ「……これもいい。こっちもいい。どうしよう」

武闘家「あの、これはなんなの……?」

ファイ「……プレゼント。戦闘服。耐久性とお洒落の両立」

武闘家「そ、そうなんだ……」


 ファイバーはいつも以上に自我が拡散しているはずなのだが、その瞳には並々ならぬ情熱が燃えている。

 そしてある程度まで服を絞ったところで、ファイバーは抑揚のない言葉を紡ぐ。



ファイ「……修行。厳しくしてごめんね」

武闘家「え? あ、ああ、終わってみれば、しっかり強くなったし……むしろお礼を言いたいくらいだよ」

ファイ「……マゾ?」

武闘家「違う! そりゃ修行中に何度か泣いたけどさ!」

武闘家「でも、あなたたちは私たちのことをしっかりと気にかけてくれていたのが伝わってきたし」

武闘家「それにこっちからはなにもできてないのに、こんなに面倒見てもらって……」

武闘家「だから……、ありがとうございましたっ!!」


 武闘家は深々と頭を下げて、精いっぱいの感謝を込めた礼をする。


ファイ「……うん。あなたたちなら、きっと大丈夫」

武闘家「!」


 武闘家は、ファイバーが一瞬だけ微笑んだような気がして注視したが、彼女はすでにいつも通りの虚ろな表情になっていた。

 それは武闘家の気のせいだったのかもしれないが……

 それでもしっかりと、勇気を貰うことができた。



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ダンピ「……こんなとこでなにやってんだよ、お前はよ」


 ダンピールと女勇者が初めて腹の内を見せ合った池のほとりで、女勇者はひのきの棒の素振りをしていた。


女師匠「趣味なんです……素振り。今は、私があの村にいた証は……この棒切れだけですから」

ダンピ「ふん。そぉかよ。熱心なのは結構だが、休めっつっただろぉが」
 

 女勇者はひのきの棒を下ろすと、池のほとりに腰掛けて隣を指さす。

 ダンピールはやや逡巡してから、渋々そこに腰を下ろした。


女勇者「師匠、なんで半泣きなんですか? もしかして、私と明日でお別れだからですか?」

ダンピ「……勇者にすっげぇ怒られたんだよ……怖かった」


 ダンピールは不機嫌そうに目を細めると、


ダンピ「っつぅかお前、そういう冗談も言えるようになったんだな」

女勇者「冗談っていいますか、そうだったらいいなって」




ダンピ「一生会えなくなるわけでもねぇのに泣くわけねぇだろボケ」

女勇者「じゃあ、私が死んだら泣いてくれるんですか?」

ダンピ「それは……いや、やっぱ泣かねぇな」

女勇者「ええっ、そこは泣いてくださいよ師匠!」


 くすくすと笑う女勇者に、ダンピールもつられて薄く笑う。


ダンピ「お前はここに来た頃、なよなよビクビクしてる阿呆だったが……今じゃ、なよなよビクビクしてねぇ阿呆になったな」

女勇者「阿呆の部分を変えたかったです……」

ダンピ「お前は本当に変わったと思うぜ。だから自信をもっていいんじゃねぇか」

ダンピ「勇者が言ってたんだが、魔力ってのは精神の力だ。だから心の持ちようってのが、ダイレクトに反映されるんだとよ」

ダンピ「犬神使いとして自覚して、それをコントロールする訓練もしたお前なら」

ダンピ「きっと、お前の中の犬神を、2匹とも操れるようになる。いや、もう操れるはずだ」

女勇者「わ、私を祟ってる犬神もですか? それは、私の本当のお父さんたちでも……」

ダンピ「うるせぇ、俺ができるっつったらできんだよ。お前ならできる」

女勇者「……えへへ、そうですね。私なら、できちゃいます!」

ダンピ「へっ。それでいいんだよ、ボケ」


 ダンピールは満足げに笑うと、女勇者の髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。



女勇者「わっ、わっ……!」

ダンピ「俺の貴重の時間を使ってまで修行してやったんだ。結果を出せなかったら承知しねぇ」

女勇者「はい、絶対生きて帰ってきます!」

ダンピ「ふん。」


 ぼさぼさになった髪を手櫛で整えつつはにかむ女勇者を、横目で見たダンピールは……


ダンピ「……お前は俺とは違う。きっと上手くいく」

女勇者「え?」


 女勇者が首をかしげるのを無視して、ダンピールはそれ以上なにも言わず、そのまま後ろに寝そべって空を仰いだ。

 天気は相変わらず透き通るような青空で、ダンピールの大嫌いな清々しい晴れ模様だった。



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 王国外周壁の関所に並んだ3人―――女勇者、武闘家、魔法使いは、声を揃えて頭を下げた。


「「「ありがとうございましたっ!!!」」」


勇者「礼は良い。金を貰うからな」

ファイ「……がんばって」

ダンピ「ふん。」


 ここに来たときとは別人のような顔つきになった3人が王国に背を向けて歩き出すと、関所の門番が感嘆の声を漏らした。


門番「ははぁ、やっぱりさすがですね。ここに来た時は捨て犬みたいだった3人が、あそこまで変わるとは」

勇者「なに他人事みたいなことを言っているんだ。金はお前から貰うんだぞ」

門番「えっ!?」

勇者「当然だろう、関所の不審者を排除するというのが今回の仕事だからな」

勇者「給料から天引きしておく。これに懲りたら、次からは自分で処理することだ」

門番「そんなぁ……!?」



 勇者は言うだけ言うと、王国から南の方角へと足を向ける。


ダンピ「おい、どこ行くんだ? 魔物の砦はそっちじゃねぇぞ」

勇者「俺はお前たちのように過保護じゃないんでな。私用だ」

ダンピ「か、過保護じゃねぇよボケ! 暇つぶしだ!」

勇者「そうか、まぁほどほどにしろ。じゃあな」


 勇者は振り返りもせずに、そのまま王国の南へと歩を進めていく。

 ダンピールは不機嫌そうに目を細めると、


ダンピ「へっ。なぁにが過保護だ……。オイ、俺たちはあっち行くぜ、ファイバー」

ファイ「……過保護。勇者も」

ダンピ「あ?」


 ファイバーは意味深な言葉を漏らしつつ、虚ろな視線を勇者の背中に向けていた。



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 王国からしばらく進むと、やがて周囲を自然に囲まれた小さな村が見えてきた。

 お世辞にも栄えているとはとても言えないが、だからといって魔物の被害を受けているような様子もない。

 しかし女勇者たちがその村に到着すると、村人たちは顔を見合わせ、そして突然歓声を上げたのだった。


村人「もしかして、キミが勇者様かい!?」

女勇者「あ、はい……ここから南にある村の……」

村人「よかった、ずっと音沙汰がなかったから、もう来てくれないものかと……」

女勇者「えっと、ごめんなさい。それで、魔物の砦……ですよね?」

村人「そうなんだ。そこの森の奥に、古い洋館が建っているんだが……そこに魔物が出るんだ」

魔法使「洋館? 魔物というのは、どんな姿ですか?」

村人「私は直接見たことはないんだが、なんでも腐った卵のような匂いのする、黒い狼だそうだ」



魔法使「……硫黄臭の、黒い狼」

武闘家「そいつらは村まで降りてきて襲い掛かってくるわけですか?」

村人「いや、そんなことはないんだが、村で病気の者なんかが出ると、遠くからじっとこちらを見ていることがあるそうだ。不気味だろう?」

女勇者「それで私たちに、倒してきてほしいわけですね」

村人「じつは、勇者様というのは屈強な男の人を想像してたんだ。それがまさか、こんな女の子たちだったなんて」

村人「いい大人が申し訳ないんだが、いつ子供たちが襲われるかと思うと夜も眠れない。どうかお願いできないだろうか」

女勇者「わかりました。お任せください」

村人「ありがとう! 私たちにできる限りのお礼はさせてもらうつもりだ。よろしく頼んだよ」

女勇者「はいっ」


 そのまま村人の男性から、魔物の砦と呼ばれている洋館までの道筋を聞き出す女勇者たち。

 そして休むことなく村を発つと、彼女たちは早速その洋館へと向かってみることにしたのだった。



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女勇者「ここ……みたいだね」


 村人に教わった通りの道を進むと、やがて鬱蒼と茂る森の中にそれらしき建物を見つけた。

 壁を蔓植物が這い回る、人の気配の全くない不気味な洋館。


魔法使「硫黄臭のする黒い狼というのは、おそらくブラックドッグね」

武闘家「ブラックドッグ? ただの犬なの?」

魔法使「もちろん魔物。新月を司る死刑執行人。死に瀕した人の前に現れ、その魂を連れていくのよ」

女勇者「病気の人がいると村の近くに下りてくるって言うのは……」

魔法使「その性質からでしょうね。死神に使役されているとされる魔物だから」

武闘家「強いのか?」

魔法使「一応、一般人でも追い払えるくらいの強さらしいけど……油断は禁物ね」

女勇者「頼りになるね、魔法使いちゃん」

魔法使「そのかわり、戦いはあんたたちを頼りにしてるからね。頑張ってちょうだい」

武闘家「ああ、任せといて」



 本当は館に火でも放って終わりにしたい魔法使いだったが、それでは魔物がどこかに逃げて余計に厄介なことになるかもしれない。

 なにより、植物を通じて延焼してしまえば大惨事は免れない。


女勇者「行こう」


 静かに洋館へと近づき、3人は扉の前へとたどり着く。

 そして魔法使いが詩魔法によって、あらかじめ2人の身体能力を底上げしておく。

 3人は目配せをしてタイミングを計ると、勢いよく扉を蹴破り洋館へと突入した。


武闘家「うっ……!?」


 館に入った瞬間、特有の硫黄臭が鼻をついた。どう考えても健康に良さそうな匂いではない。

 目の前には幅広な階段と、2階まで吹き抜けとなっている広々とした空間が広がっている。

 そして1階と2階の左右にはそれぞれ部屋が見受けられるが、生き物の気配は全くと言っていいほど感じられない。



魔法使「2人とも、2階のあそこ!」


 魔法使いが指を向けた先には、暗闇に光るいくつもの瞳が。

 2階に突き出した通路の右側、その一室から顔をのぞかせたのは噂通りの黒い狼、あるいは大型犬だった。

 ブラックドッグは2階通路を駆け抜けると、中央の階段を駆け下り、そのままこちらへと飛びかかってくる。

 その数は、合計3体。


武闘家「はぁっ!!」


 一番最初に飛びかかって来たブラックドッグを、武闘家の強烈な蹴りが迎え撃つ。

 耐久力自体は普通の犬とそう変わらないらしいブラックドッグはたまらず吹っ飛び、5メートル先の壁に叩き付けられる。

 それを見た後続のブラックドッグは、警戒してその動きを止めた。

 壁に叩き付けられたブラックドッグはグズグズと黒い煙のようになって溶けると、硫黄臭をまき散らしながら消滅していった。



武闘家「ははっ、なんだ、あんまり大したことなさそうだな」

魔法使「さっきの部屋を見なさい。また2匹、こっちに走って来てるわよ!」


 魔法使いの言った通り、新たなブラックドッグが2階の部屋から飛び出してくる。

 それを見た女勇者は、新手が合流して4匹となる前に走り出し、最初の2匹に襲い掛かった。

 武闘家もそれに続くように駆け出し、2人はアイコンタクトで左右に分担すると、


武闘家「はっ!!」

女勇者「っ!!」


 女勇者の振るったひのきの棒が、飛びかかって来たブラックドッグの頭部を捉える。

 武闘家は飛びかかって来たブラックドッグを体を捻ってかわすと、その腹部に強烈な拳を叩き込んだ。

 どちらも魔法使いによって身体能力が底上げされた一撃。たまらず活動を停止したブラックドッグは、黒い煙へと変わった。

 しかし2階の部屋から、またしても新たなブラックドッグが4体、飛び出してきた。



武闘家「……キリがないな。2階の奥には、いったいどれだけのブラックドッグがいるんだ……?」

女勇者「あんまりもたもたしてると、詩魔法が切れちゃう……」

魔法使「…………。」


 詩魔法が切れれば、つい最近まで魔物1体に苦戦していた少女たちだ。そのまま数に圧倒されて潰されてしまうかもしれない。

 女勇者は目つきを鋭くさせて、


女勇者「こうなったら……」


 女勇者の首筋に、うっすらと『歯形』が浮かびかける。

 しかし。


魔法使「待って、女勇者」


 目を伏せ、顎に手をやって考え込む魔法使い。

 彼女は勇者に言われた数々のことを思い出していた。

 そして、その中から今の状況の突破口となる言葉を……

 ―――突破口。



魔法使「……魔法というのは論理的なものだからな。概ね『数字』というものに注目すれば突破口が見えるかもしれないぞ」

魔法使「……知能が高いといっても、所詮は魔物だ。短絡的に村を襲ってしまうだろう」

武闘家「は?」

女勇者「魔法使いちゃん……?」


 6体ものブラックドッグに囲まれた2人は、よくわからないことを言い出した魔法使いに困惑する。

 しかし対する魔法使いは、ニヤリと余裕の笑みを浮かべていた。


魔法使「2階にはブラックドッグなんていない。ブラックドッグは、出てくる直前に生み出されてる」

女勇者「生み出されてる……?」

魔法使「それもおそらく『自動』でね」

武闘家「どういうこと? っていうか、いま戦闘中だってわかってる!?」


 飛びかかって来たブラックドッグの1体を、蹴りで数メートルぶっ飛ばす武闘家。

 そのブラックドッグが黒い煙となって消滅すると、また2階から、新たに2体ものブラックドッグが現れる。



魔法使「私たちは3人で、最初に出てきたのも『3体』。『1体』倒すと『2体』増える。『2体』倒すと『4体』増える」

女勇者「ほ、法則があるってこと?」

魔法使「ブラックドッグを使役する死神の属性は、『多産』と『復活』とされているわ」

魔法使「おそらく館に踏み込んだ者を自動迎撃して消耗させる術式。だから館から魔物は出ていかないし、一定時間で全員消滅する」

武闘家「だけど、村に下りていくこともあるって……」

魔法使「自動術式だから、そこまでは制御できないのよ。それはブラックドッグの本能だからね」

魔法使「おそらく役割を全うして消滅待ちの個体が、人の死の気配に惹かれて館を出たのよ」

魔法使「2階にたくさんブラックドッグがいるなら、全員一斉に飛び出してくるはず。魔物は短絡的だからね」

魔法使「つまりこの館には、最初から魔物なんて住んでいなかった!」

魔法使「そしてこいつらを使役しているやつがいるとしたら、それは魔人じゃなくて『人間』」

魔法使「2階のあの部屋に、こいつらを操ってる魔術師か……あるいは術式を構成してる魔法陣や魔道具があるはずよ」



武闘家「なんにしても、あの部屋に飛び込まないといけないんだな」

女勇者「でも、もう7体になっちゃったよ……?」

魔法使「一旦館から出れば、深追いはして来ないはずだわ」

魔法使「全員消滅するのを待ってから、女勇者だけ館に入って『1体』からやり直しましょう」

武闘家「いや、もっといい手がある」

魔法使「え?」


 武闘家は女勇者の前に跪くと、両手を肩の上で構える。


魔法使「え、ちょっ……本気!?」

武闘家「いくよ、女勇者!」

女勇者「う、うんっ!」


 女勇者は武闘家の両手に足を乗せると、そのまま2人分のバネで大ジャンプを決めた。

 そして2階の廊下手すりに飛びつくと、手すりを乗り越えて2階の廊下へ着地。そのままブラックドッグが出現する部屋へと駆け抜ける。



魔法使「あんたたち、逞しすぎでしょ……」

武闘家「おいおい、たかが数メートル飛んだくらいでなにさ。こっちは毎日のように10メートル以上蹴り飛ばされてたんだよ?」


 女勇者が2階へ行ったのを確認したブラックドッグたちは階段へと引き返そうとするが、


武闘家「おっと、そうはさせないよ」


 武闘家は壁を蹴って三角跳びすることで、ブラックドッグたちの頭上を飛び越えて階段の中腹へと着地する。


武闘家「生かさず殺さず、足止めすればいいんだよね?」

魔法使「あんた、ほんとに何者よ……」


 7体ものブラックドッグを前にして、しかし武闘家の目に怯えの色は一切感じられない。


武闘家「さぁ来い! 吸血鬼ぐらいのスピードじゃないと、私の横は抜けないよ!!」



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 ブラックドッグが出現する部屋へと飛び込んだ女勇者は、そこで予想外のものを目にした。


女勇者「ううっ……!?」


 荒廃した一室には、安楽椅子が一脚。

 そして硫黄臭以外の異臭が、室内を満たしていた。

 安楽椅子に腰かけていたのは、白骨化した死体だった。


女勇者「……っ」


 白骨死体は、その服装から女性であったと推察された。

 その手には松でできている、先端が三叉に分かれた杖が握られている。

 直感ではあるが、女勇者はあれが魔法使いの言っていた『魔道具』だと判断した。

 周囲を警戒しつつ白骨死体へと近づき、女勇者がその杖に手を伸ばすと―――



女勇者「きゃあっ!?」


 三叉杖から硫黄の匂いがする黒い煙が爆発的に発生し、女勇者は驚いて2、3歩後ずさる。

 すると部屋中に拡散した黒い煙は見る見る凝集し、1体の黒い犬を形作った。

 ただしその大きさは、先ほどまでの個体のゆうに5倍はあろうかという巨体。しかも3つの頭部を備えていた。

 魔法使いがここにいれば、彼女はこの名を口にしただろう。

 地獄の番犬『ケルベロス』。


女勇者「……っ!!」


 天井まで届きそうなその巨体は、女勇者の足を竦ませた。

 しかし脳裏によぎるのは、あの地獄のような特訓の日々……

 この大きな犬が、果たして巨大な大爆発を発生させることができるだろうか?

 視認できないほどの速度で移動できるだろうか?

 できないのなら、戦える。



 尊敬する師匠が言ってくれた。


女勇者「私ならできる……!」


 黒い煙によって生み出されたケルベロスの突撃を、女勇者の身体から飛び出した不可視の犬神が受け止める。

 犬神に物理攻撃は通じないはずだが、そこは全身が魔法で構成された疑似生物。犬神に対しても互角に渡り合っていた。

 しかしケルベロスは大質量に加え、3つの頭がそれぞれ攻撃してくるため、犬神は徐々に消耗していく。

 このままでは、女勇者を守護している犬神がかなりのダメージを負ってしまう。

 そうなれば、体内における守護と呪詛の均衡が崩れて、女勇者はあっという間に命を落としてしまうだろう。


女勇者「ぐっ……うぅ……!!」


 全身を激痛が襲う。『歯形』が至るところに発生し、衣服に血が滲んでいく。

 このままでは約束を果たせない。

 絶対に生きて、魔物の砦から帰ってみせるという師匠との約束を。



 ケルベロスが首を激しく振るうと、犬神が弾かれて消失してしまう。

 すぐに魔力として女勇者の体内に還ってくるが、再び出しても結果は同じ事だろう。

 ケルベロスが女勇者に迫る。だが女勇者は慌てない。

 魔力は精神の力。だから心の持ちようが、ダイレクトに反映される。

 だから焦ったりしないし、むしろ笑ってやるのだ。


女勇者「私ならできるっ!!」


 次の瞬間、ケルベロスの左右の首が根本から消し飛ばされる。『2頭』の犬神によって食いちぎられたのだ。

 続いてケルベロスの胴体や手足に致命的な『歯形』が刻まれ、最後に残った首が断末魔の叫びをあげると、その黒い巨体は霧となって爆散した。

 そして白骨死体の持っていた松の三叉杖が独りでに宙を舞うと、女勇者へと吸い寄せられ、彼女の手に収まる。

 洋館に散らばっていたブラックドッグたちは即座に霧に還元されると、三叉杖へと吸い込まれて消失した。

 死神の三叉杖が、女勇者を『新たな主』として認めた瞬間だった。



-・-・-・-



-・-・-・-



 この辺りでも一際高い1本の大木、その頂上に2つの人影が立っていた。

 純白の髪と純金の髪を風になびかせる2人は、下方に建つ洋館を見下ろしていた。


ファイ「ミッションコンプリート♪ ま、ちょっちヒヤッとしたけどねー」

ダンピ「そうか? あんなんで死ぬようなら、吸血鬼として生き返らせてから、もう一度俺が殺し直すとこだぜ」

ファイ「過保護なだけじゃなくて親バカなのか、手に負えねー。もう大丈夫だから、さっさとその銀のナイフをしまいなよ」

ダンピ「ふん。」


 ナイフを懐にしまうダンピールから視線を外したファイバーは、洋館へと目をやって、



ファイ「『死の女神』『霊の先導者』『死者たちの女王』……呼び方はいろいろあるけど」

ファイ「あの杖は、その力を秘めた魔道具だね。その杖に認められるなんて、大したものだよ」

ファイ「まだ不完全だろうけど、呪詛の犬神も支配しちゃったしさ」

ダンピ「へっ。どぉでもいいっつの」

ファイ「素直じゃないなー。……まあいいや。さて、そろそろ帰りますか」

ダンピ「ああ」


 過保護な2つの人影は、最後にもう一度だけ洋館を見下ろす。

 そして手を取り合いはしゃいでいる彼女たちの様子を見て、2人は満足げに微笑むと……

 その姿は、一瞬で樹上から消え去るのだった。



-・-・-・-



-・-・-・-



村人「本当にありがとう! なんとお礼を言ったらいいか……!」


 女勇者たちはすぐに村へと下って、依頼の達成を報告した。

 特殊な力が原因で、自分の村を追い出された経験のある女勇者。

 もしかしてここでも、白い目を向けられるのではないかと思っていたのだが……


村娘「勇者様、噛み傷だらけではありませんか! すぐにこちらへ!!」

女勇者「え、あ、これはその……」


 ここの村人たちは、女勇者のことをバケモノではなく『勇者』として迎え入れてくれた。

 村の小さな子供たち……特に女の子なんかは、落ちていた棒切れを振り回しながら勇者ごっこを始める始末だ。

 自分の力が誰かの役に立って認められるということに、女勇者は心から感激していた。


村人「私たちにできることだったら、なんでも言っておくれ! 大したものは用意できないが、それでも……!」


 そう言われて、女勇者は武闘家と魔法使いを振り返る。2人は女勇者の言いたいことを察したのか、笑顔で頷いてくれた。



女勇者「それじゃあ……ちょっとのあいだだけ、この村に泊めてもらうことはできませんか?」

村人「……え? いえ、それはもちろん構わないが……」

女勇者「なんでもお手伝いします。それに、用心棒だってできますよ」

村人「勇者様は、あちらの村へ戻らなくてもいいのかい?」

女勇者「……はい。旅に出ようと思います。世界はとっても広くて、私の知らないことがまだまだあって……」

女勇者「それに、とっても素敵な人たちがたくさんいるってわかりましたから」

女勇者「だから、もっと世界を見て回ろうと思います!」

武闘家「私たちも、女勇者にずっとついてくぞ!」

魔法使「ずっと一緒だからねっ!!」


 女勇者の一点の曇りもない笑顔と堂々たる宣言に、武闘家と魔法使いが感極まって飛びかかる。

 たくさんのことを知って、たくさんのものに触れた女勇者。

 変わりすぎたくらいに変わった女勇者だったけれど、それでも。

 この友情だけは、ずっと変わらずに続いていくだろうと信じている。



-・-・-・-



-・-・-・-



 しばらくは例の村で暮らすことを決めた女勇者たち。

 それでもやはり、その旨を故郷の村長や村の人たちに伝えておくべきだろうと考え、彼女たちは自分たちの村へと足を運んでいた。

 話を聞いた村長は、とても複雑な表情を浮かべる。


村長「……そうかい」

女勇者「世界を見てくるの。いつかは自分の足で歩かなきゃって、漠然と思ってたけど……きっとそのタイミングは、今なんだと思う」

村長「……本当に、別人のように変わったね。女勇者」

女勇者「村のみんなが、私を『勇者』として送り出してくれなかったら、今の私はなかったと思うの」

女勇者「だからすごく感謝してるよ。これは本当の気持ち」


 『勇者』として送り出したのは、女勇者を異物として、バケモノとして排除するためだった。

 だからそれについて女勇者が感謝していると口にしたときに、村長の目に涙がこみ上げてきた。

 遠巻きに女勇者たちの帰りを迎えた村人たちも、後ろめたさから俯き、女勇者の笑顔をまともに直視することができずにいた。

 村長は衆人環視の中でも構わず、地面に膝をついて土下座した。



村長「女勇者……本当にすまなかった……!!」

女勇者「えっ……」

村長「さきほどここに、『勇者』と名乗る男が現れたんだ」

女勇者「―――」

武闘家「勇者さんが!?」

魔法使「……。」

村長「彼は本当にお前たちのことを大切に思ってくださっていた。そして、だからこそ私に多くの辛辣な言葉を投げかけた」

村長「そのおかげで、私はずっと目を逸らし続けていたことに向き合うことができた」

村長「お前のために私がしてやれることがあったのかどうかはわからない」

村長「それでも、お前のためにしてやれたことがなにも無かったとは、どうしても思えない」

村長「私はそれを探すことを怠った。お前から目を逸らし、その結果犬神憑きさえ見落として、お前を手放してしまった」

村長「お前がここを出るというのなら止める権利は私にない。それでもどうか、時々でもいい……ここに帰って来てほしい」

村長「許されないことをしてしまったのは承知している……だが、謝らせてくれ。済まなかった……この通りだっ……!!」



 女勇者は、村長が涙を流しているところを初めて目にした。

 いつも女勇者の立派な父親として、威厳ある村長として振る舞ってきた彼の、本当の人間性を垣間見た気がした。


女勇者「私は、この村のみんなが大好きだよ」

村長「―――っ」

女勇者「この力のせいで、いろいろ悩んだりもしたけど……でも、『勇者』として誰かの役に立つことができることを知れた」

女勇者「だから私は、この力をもって生まれてきてよかった」

女勇者「この力をくれて、そして守ってくれた、私の本当のお父さんもお母さんも、大好き」

女勇者「そして村のみんな、それに『お父さん』!」

村長「!!」


 女勇者は深々と頭を下げて、ここを追い出された頃では考えられないくらいの大きな声を張り上げた。


女勇者「今まで私を育ててくれて、本当にありがとうございましたっ!!」



-・-・-・-



-・-・-・-


 あれから、しばらくの時が流れた。


 星空のよく見える池のほとりで、女勇者は趣味であるひのきの棒の素振りに勤しんでいた。

 すると、背後から足音が聞こえてくる。


女勇者「……だめだなぁ。そんなわけないのに、『あの人』かもって思っちゃう」

魔法使「あんたの愛しの師匠?」

武闘家「ほんとにゾッコンだな、女勇者は」

女勇者「会いに行ってもいいのかな? ちゃんと無事にお仕事完了しましたって報告したいな」

女勇者「まだお金は用意できてないけど……」

魔法使「そんなこと気にする人たちじゃないでしょ。会いたいなら会いに行っちゃえばいいじゃない」

武闘家「こうやって毎日毎日、師匠師匠と言われるとこっちも気が滅入っちゃうよ」

女勇者「うぅ、ごめんね……」



 女勇者はひのきの棒を腰に差すと、傍らに置いておいた松の三叉杖を拾い上げる。


女勇者「これをお土産にしたらどうかな? すごい魔道具みたいだし」

魔法使「あんた以外が触ったら攻撃されるようなもの、貰っても迷惑でしょ……」

武闘家「でも私たちも会いに行ってるし、女勇者も行ってみれば?」

魔法使「あ、バカっ!」

女勇者「ええええええええええっ!? 2人とも王国に行ったの!? なんで!? ずるい!!」


 女勇者の持つ三叉杖から、硫黄臭のする黒い霧が立ち込め始める。


魔法使「ちょっ、漏れてる漏れてる! 魔力が漏れてるわよ!?」

武闘家「ごめんごめん! この前、王国に荷馬車で届け物に行ったとき、ついでに学校に寄ったんだよ!」

女勇者「王国に届け物……? え、知らないんだけど……」

魔法使「女勇者は居眠りしてたから、私たちだけで行ったのよ」

女勇者「起こしてよぉ!!」


 あの内気な女勇者が、顔を真っ赤にしてぷんすか憤慨していた。それくらい本気で悔しいのだろう。



女勇者「もう怒った! 明日行く! 絶対行く! お仕事があっても行く!!」

武闘家「いや、明日は朝から……」

魔法使「やめときなさい武闘家、こうなったら女勇者は聞かないわよ」

武闘家「すっかり強くなっちゃったからなぁ……心も身体も」

魔法使「能力もね……厄介なことに」


 メラメラと瞳の奥に炎を燃やす女勇者。彼女の周りの木が『歯形』によってガリガリと削れ、周囲に黒い霧が立ち込めていた。


女勇者「待っててくださいね、師匠! 明日会いに行きますからっ!!」



 女勇者の物語は、これにて一旦幕を閉じる。

 しかし彼女の『勇者』としての旅は、まだまだ始まったばかりなのである。




 了。




これにて、第2章は終了です。

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。



第3章の安価についてのアナウンスは明日に行わせていただきます。

また、質問は随時受け付けております。

それでは、ありがとうございました。失礼いたします。

乙です



第3章の【主人公】および【ヒロイン】の安価を行わせていただきたいと思います。




【主人公】

●投下時間の【下5桁の合計数値】が【高】かった【男性キャラ】。

 つまり『00:44:12.34』の場合は、合計数値が『14』となります。(4+1+2+3+4)
 そして『23:53:48.56』の場合は、合計数値が『26』となります。(3+4+8+5+6)

この場合は、下の『26』の方が優先度が高くなるということです。




【ヒロイン】

●投下時間の【下5桁の合計数値】が【低】かった【女性キャラ】。

 つまり『12:33:12.04』の場合は、合計数値が『10』となります。(3+1+2+0+4)
 そして『06:21:54.78』の場合は、合計数値が『25』となります。(1+5+4+7+8)

この場合は、上の『10』の方が優先度が高くなるということです。




●今この瞬間から、【今夜21時30分までに】投下していただいたキャラの中で決定いたします。

●再投下等は、1つめの数値をさんこうにさせていただきます。

●2キャラのあいだに相関関係は必要ございません。物語次第では対立することもあり得るためです。

●安価するまでもなくストーリーを決定づけるような設定ではなく、キャラの人間性の設定をお願いいたします。

●過去に投下されたものでも良いということにさせていただきます。

●性別不明の場合でも、どちらの性別に分類して投下するかをあらかじめご明記ください。

●私の力では書けないと判断された場合は、次に優先度の高いキャラに決定させていただきます。




どうかご協力のほど、よろしくお願いいたします。



【ヒロイン】

種族:人間(呪術師)
職業:研究家
性別:女
年齢:17
性格:根暗で嫉妬深い 
性質:喪女 三白眼 フヒヒヒ
趣味:妄想
好きな天気:雨の降らない曇りの日
嫌いな人間:リア充

乙 女勇者の手に入れた武器がすごく闇っぽいのは、この後闇堕ちするとかじゃなくて
親を呪ったやつを越えたって事? 読解力無くてごめん

>>17


>>312

素晴らしい読解力だと思います。あの白骨死体は両親を呪った犬神使いです。

しかしブラックドッグを使役している死の女神は、『浄めと贖罪』という属性を担っています。

彼女が生涯をかけ必死になって手に入れた魔道具は、自分が呪った娘を『勇者』にする決定的な役割を持ちました。

まわりくどい贖罪ですね。



ダンピールに近い影の力、闇の力、冥界の力の片鱗を手にした女勇者ですが、

死の女神の『太陽光』『新月』という、吸血鬼とは真逆の属性も手に入れました。

似た生い立ちで正反対の結果となった師匠のダンピールとは、これからも似ているようで正反対の道を進んでいくことでしょう。



さらに『浄めと贖罪』によって彼女は、これからも『勇者』として正義の道を進むことを決定づけられました。

>>146

主人公とヒロイン両方の案、OKですか?
ダメなら主人公のみでお願いいたします。

【ヒロイン】

種族:人間
職業:錬金術士見習い
性別:女
年齢:15
性格:素直で少しおとなしめな、頑張り屋。かつては何をやってもうまくできない自分が嫌いだったが、錬金術との出会い、錬金術の師匠や幼馴染みの交流により、徐々に自分に自信をつけ、明るくなってきている。
性質:すこし天然 七転び八起き 善人気質
趣味:料理、錬金術
好きな人:幼馴染み(>>146
嫌いなこと:自分が目立つこと


マナーの範囲内であれば、主人公とヒロインは一人ずつOKということでお願い致します。

>>13

【主人公】で

精霊が司るのは物質だけですか?


>>319

自然界にありふれているものなら、【炎】などといった現象でもよいと思われます。

しかし【光】や【音】といったものは、世界にありふれ過ぎていて自我はほぼ持てないと思われます。

【時間】などの概念は、超越しすぎていてコンタクトは取れないとご理解ください。


●生霊(人間の姿をとることのできる、自我の強い精霊)

●精霊(明確な人格や実体のない、自然の意思そのもの)

【ジュエ】
種族:精霊(遊戯の生霊)
職業: 元精霊王(仕事がつまらないので引退した)
性別: 男
年齢: 30(外見)
性格:冷徹、自身家
性質:彼にとって全ては彼が楽しむための玩具
趣味: 玩具を作ってあそぶ、つまらなかったら壊す
好きなもの:自分を楽しませる面白いもの
嫌いなもの:つまらないもの、ありふれたもの

時間みたいに超越してないし、ありふれ過ぎてないつもりですが大丈夫ですか?
「遊戯」という概念が無理なら「玩具」の生霊でお願いします


「遊戯の神」というものも探せばいるかもしれませんので、今回は大丈夫という判断でよろしくお願いいたします。

しかしプロレスごっこを『遊戯』と見るか『暴力』と見るか……

宝物のテディベアを『玩具』と見るか『友達』と見るか……

時間や光といったもののように、誰が見ても意見の分かれない絶対的なものですと助かります。

【主人公】

種族:人間(子爵)
職業:政治家
性別:男
年齢:26
性格:慇懃無礼 
性質:野心家 ナルシスト しぶとい
趣味:フェンシング
好きなもの:金と権力
嫌いなもの:偽善者

【宇宙人】

種族 人間(古代の地球から遠い銀河へ移住した人間達の子孫)
職業 宇宙警備隊・諜報部隊員
性別 男
年齢 18
性格 例え誰が相手でも心を開き仲良くしようとする。逆に言えば例え誰が相手だろうとウザいくらい馴れ馴れしく接してくるという事でもある
性質 臭いものがあったら思う存分嗅がずにはいられない
趣味 臭いものパブに通う事
好きなもの 物理的な臭いもの
嫌いなもの 物理的ではない臭いもの。要するに何か隠しているっぽい雰囲気

主人公です

>>324

どんな話になるか見てみたい



【主人公枠】

20:58:17.79 『32』 子爵 
21:08:54.47 『28』 宇宙人 
13:38:52.17 『23』 妖怪獣 
17:28:53.05 『21』 遊戯の精霊

12:33:01.39 『16』 剣士

【ヒロイン枠】
22:00:20.93 『14』 人虎 
12:50:38.64 『21』 錬金術師
11:41:15.88 『23』 呪術師



それぞれの優先度1位キャラの設定に問題がありませんので、決定ということでよろしくお願いいたします。

たくさんのご協力をいただきまして、ありがとうございました。




【子爵】

種族:人間
職業:政治家
性別:男
年齢:26
性格:慇懃無礼
性質:野心家 ナルシスト しぶとい
趣味:フェンシング
好きなもの:金と権力
嫌いなもの:偽善者




【人虎(ワータイガー)】

種族:魔物(元人間で、人間と魔物を融合させようとする実験の実験台にされた)
職業: 人間時代は花屋の手伝い 現在は帰る場所がなくなったので無職
性別: 女
年齢: 16
性格: 自虐的、無口
性質: 本当は誰かにずっとそばにいてほしい
趣味: 以前は花を育てることだった 段々人間や動物を襲いたい気持ちが増えてきている
好きな時: 嫌なことを考えずに済むから、夜眠る時間
嫌いなもの:自分を化け物にした人間、化け物になっていく自分






続きまして、物語・ストーリーの募集を行わせていただきます。

以上の2キャラに関する物語、あるいはどちらか1キャラの物語を募集いたします。

私の裁量におきまして、皆様の物語の一部、または全部を使わせていただき1つの物語へと形成いたします。

募集は【明日の午後6時まで】とさせていただきます。

どうぞご協力のほど、よろしくお願いいたします。

二人分の依頼を書くのですか?
つまり子爵の依頼、人虎の依頼、二つを書くということ

とある邪悪な魔術結社があった。誘拐と人体実験を繰り返すおぞましき犯罪者どもだ。
そのアジトが発覚してすぐさま騎士団が出動、アジトは壊滅させられた。

人虎はその際に救出されたが、こんな姿ではもう元の場所には戻れず、
被害者とはいえ化物であるために引き取り手もおらず、行く場所がどこにもなかった。

一方、この国には野心家の貴族・・・・子爵がいた。
金と権力と自分が好きな小人物だ。
人虎の噂を聞いた子爵は、彼女を引き取る事にした。
「行き場のない哀れな少女を引き取る」という美談を演出するため、そして「戦力」を欲したためである。
こんなに優しくしてやったんだ、私に忠誠を誓うに違いない!強大な力を持った忠臣を楽々ゲットゲット!私天才!

そんなわけであくまで利害から人虎を引き取った子爵だったが・・・・


「A.子爵の物語」あるいは「B.人虎の物語」あるいは「C.子爵と人虎の物語」を募集させていただいております。

そして私が最終的に、それらABCを統合および補足付け足し等を行い、「D.完成形ストーリー」へと成形させていただきます。



よろしければ、下記のテンプレートをご利用ください。

【子爵or人虎の依頼】

事件のあらすじ: (どのような困難が子爵or人虎を襲ったのか)
事件の経緯: (どうしてそうなったのか)
依頼達成条件: (勇者に頼る場合、どうすれば勇者たちが依頼を達成したことになるのか)


【子爵の依頼】

事件のあらすじ:第三王女に好かれるにはどうすれば良いかアドバイスしてほしい
事件の経緯:怒涛の勢いで影響力を増している第三王女と婚約できれば私の地位は安泰だ!彼女と婚約する為に手を貸してくれ!礼はするぞ!
依頼達成条件:第三王女との婚約


【人虎の依頼】

事件のあらすじ:第三王女とくっつこうと目論むうちの主人(子爵)を止めてほしい
事件の経緯:王女と恋仲になろうとする子爵を見てると何故かイライラしたので、なんかこうどうにかしてほしい
依頼達成条件:王女と婚約しようとする子爵を諦めさせる

【子爵の依頼】

事件のあらすじ: 人虎の魔物化を止める
事件の経緯: 数少ない心を許せる友(故人)の妹が、事故により大怪我をした。
命を救うために、やむなく禁忌である、人と魔物の融合に手を染め、一命をとりとめることはできた。しかし、徐々に人らしさを失い、魔物となっていく人虎をなんとか救いたい。
依頼達成条件: 人虎の魔物化を止め、可能であれば人に戻すこと。


……ところで、子爵は偽善者が嫌いなのですが、自身は金と権力が好きな野心家です。偽善者ではない野心家というのはいないと思うのですが、しかし彼はナルシストです。

ですので「自分の偽善はOK」ということでよろしいのでしょうか?

>>333
自分大好きで自信があるから、野心を隠さず公言しちゃう可能性もある?
最終的に決まった物語、依頼に合うように>>1が調整して良いと思う


なるほど、「小物っぽくてせこい嘘が嫌い」という風に考えれば、

・素晴らしい人間を演じて他人を騙し利益を得る偽善者が嫌い

・自分は堂々と包み隠さず潔くえげつないことをするので大好き

と考えられそうですね。

質問に答えてくださり、ありがとうございました。


引きつづき、午後6時までストーリーを募集させていただきます。

なんだろう、子爵のビジュアルがナーシェンしか思い浮かばない。

子爵
事件の発端:軍と協力して、伝説の白虎の力と世界樹の花の再生力を人の理性で制御するというコンセプトの兵器を作った
事件の経緯:実験を繰り返す内に、理性が壊れて来たので、失敗作として凍結処分する事になった
ところが、人にも精霊にも魔人にも良い趣味をしている方々がいて、若い女の子がもがき苦しむ姿が彼らに大変評判が良かった
そこで、精霊と人の技術を合わせてコイツが苦しみ人に迫害される映像を撮って、欲しい人に売る商売を始めた
依頼達成条件:「必死に生きようとしたが、勇者に討伐される」という演出をしたいから、理性が残っているうちにじわじわと追い詰めて殺害してほしい
       遺体は再生する前に子爵側が回収する、口止め料もだすよ

人虎
事件のあらすじ:交配実験の為に来た魔物が暴れて、彼女の制御装置を破壊したので脱走したが、行く当てはないし思考が魔物に近づいてくる
事件の経緯:「最強」を目的にして作った彼女に戦闘実験、交配実験、再生力確認のための耐久実験を連日行っていた
依頼達成条件:こんな力も姿も再生能力もいらない、普通の女の子として結婚して子供を産んで暮らしたい、という願いを叶える

宇宙人とか子爵ってドラクエの職業にあったっけ…って思ったけど、今回はドラクエの職業じゃなくてもよかった?
【子爵の依頼】
事件のあらすじ:一目見て彼女の美しさに心を奪われた、そして強さの象徴である虎は頂点に立つ私の妻にふさわしい、だが本物の虎になったら困る

事件の経緯:夜に外出した際に彼女が魔物の大群を倒した後、理性を失い暴走しかけるのを見た おそらく馬鹿戦争屋達が兵器として彼女を作ったと思われる
      彼女の存在を公表し馬鹿達を失脚させて、奴らが失った地位・財産を手に入れるのも目的の一つ

依頼達成条件:彼女を捕縛した後、彼女の姿はそのままに理性を失わない方法を探してほしい、彼女の気持ちは私の力で手に入れる
      また、私が彼女の気持ちを手に入れ公表するまで、馬鹿達に動きを気づかれない様に頼む


【人虎の依頼】
事件のあらすじ:人虎の人間としての心はとても弱っていて消えそうで、彼女は心の無い本当の化け物になりかけている
事件の経緯:人でも魔物でも魔人でもない人虎は、その全てから攻撃・拒絶・迫害され身も心もズタボロになるまで犯された
依頼達成条件:全てから嫌われる自分を激しく憎んでいるが、誰かに側にいてほしい、人として幸せになりたいという気持ちがわずかに残っている
       


>>339

子爵をありにするか否かは5分ほど悩んで、そのほかの設定がとてもきちんとされていらっしゃったので可とさせていただきました。

さすがに宇宙人までいくと、1時間ほど悩んだことでしょうが……


それではこの辺りでストーリーの募集を締め切らせていただきます。

たくさんのご協力、ありがとうございました。


プロットが完成し次第、本編を書き始めていきたいと思います。

月曜日に大切な用事がありますので、書き始めは月曜か火曜の23時からとなると思われますが、ご容赦ください、

質問は随時解答させていただく所存です。


それでは、失礼いたします。

こういってはなんだけどドラクエの職業限定だとかなり厳しくないですか?

まだまだ出ていない職あるし、あまり人間の自由度が高過ぎると精霊と魔物が更に減りそう
精霊と魔物は自由度高いのに人間に比べると全然いないし


私がファンタジー職業一覧の中から「可とする職業一覧」をチョイスするのもいいかもしれませんね。



魔物は頭が悪くて人間嫌いで、しかも力が強すぎると仲間にできず敵に傾きやすいという傾向があり使いづらい。

精霊は自我が薄いうえに、まだファイバーしかいないため情報が少なすぎてストーリーが想像できません。

これでは人間に偏りやすいのも仕方ないと思いますので、私の方でなにかしら考えておく必要がありそうですね。

もしかしますと今回のストーリーの中で、私が新たな生霊を考えて登場させるかもしれません。

主人公を決める際に、精霊と魔物を人間より多少優遇します
みたいな事を書けば増えるかもしれない



そうですね、精霊や魔物はキャラ決定時の優先度を何段階か上げてみるという形を検討してみます。

今回の話でどれだけその2種族を掘り下げられるかによって変わってくるかもしれません。
が、この章ですと難しそうですね。

四章は精霊限定とかしたほうがいいかもしれませんね、今までのメインキャラほぼ全員人間でしたし。

>>346
2章では魔物のダンピールがとても活躍していたのに
3章の安価の時には増えてなかったから、3章でたくさん魔物と精霊の出番があっても
その後の安価で魔物と精霊が増えるとは限らない?



申し訳ありませんが、まだプロットができておりませんので今しばらくお待ちください。



第4章をやるとしたら、精霊を中心に話を進めていきたいと思います。

ですので、もしこれからキャラを考えようと思ってくださっている方は是非、精霊をお考えいただければ幸いです。



つい先刻プロットを書き終えましたので、本文を書き進めていきたいと思います。

ひとまず今日のところは、オープニングだけ投下したいと思います。



-・-・-・-



 腕時計を確認すると、約束の時間である正午がもうすぐに迫っていた。

 男はキザったらしい仕草で前髪をかきあげると、これまた気取った仕草でコーヒーを一口すする。

 決められた時間、決められた喫茶店の、決められた窓際のテーブルに、入口へ背を向けるように座って、コーヒーを飲む。

 そして対面の椅子に、たっぷりと金を詰め込んだバッグを置いておく……それが『合図』だ。

 喫茶店の外で何かがチカッと光ったような気がして、男は窓の外へと視線を移す。

 そして気のせいだったかと視線を前方へ戻すと、そこには直前までいなかったはずの『少年』が座っていた。

 銀色に輝くショートヘア、キラキラと生気に満ちた双眸。白シャツに、黒のショートパンツをサスペンダーで吊っている。


ライト「こんにちわ、子爵のおにーさん。ボクのことは、ライトとお呼びください」


 ライトと名乗ったその少年は、柔和に表情を綻ばせる。そこに打算的な色合いは微塵もなく、じつに純粋な微笑みだった。



 子爵と呼ばれた男性は少年とは対照的に、朗らかさとは縁遠いニヒルな笑みを浮かべる。


子爵「完全紹介制の情報屋……どんな人物かと思えば、なんとも可愛らしいお子様で驚きましたよ、ライトくん」

ライト「知っていますか? 牛乳というのは、光に触れている『表面』しか白くないんです」


 子爵の皮肉気な物言いに対して、ライト少年はまったく笑みを崩さずに意味深長な言葉で返した。


子爵「……貴方の内面も、白とは限らないと仰りたいのですか?」

ライト「目に見える物なんて、表面のほんのわずかだということです。ですがご安心ください」


 少年は胸ポケットから、折りたたまれた一枚の紙を取り出す。


ライト「ボクのお取り引きする『商品』は、しっかり中心まで光が届いておりますので」

子爵「……まだこちらは、質問の内容を言っておりませんが」

ライト「子爵のおにーさん、あなたがボクに聞きたいこと、そしてそれを成すための方法は、そこに書いておきました」



 子爵は、ライト少年に差し出された紙を受け取って開く。

 そして驚愕に目を瞠った。たしかに子爵が聞きたかったこと、さらには彼が抱えている問題を解決するための方策が、そこには記されていたのだ。

 ライト少年は、椅子に置かれていた大金を詰め込んだバッグを持つと、席を立った。


ライト「またのご利用をお待ちしております」


 そう言ってにっこりと微笑んだ少年は、バッグを重たそうに持ちながら喫茶店を後にしてしまった。

 一人残された子爵は、ライト少年から受け取った紙をまじまじと見つめる。

 そしてそこに記された文字列へと、改めて目を通す。

 王立小学校の職員棟最奥……そこに『勇者』という男がいるのだという。



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今日はここまでということでよろしくお願いいたします。

それでは、失礼いたしました。


王女様は勇者の場所を誰かから聞いたけど、子爵は金を積まないと居場所が分からなかった
でも門番は知っている勇者の情報の価値はどれくらいなんだろう?



勇者の居場所だけですと、学校や王宮となんらかの接点があれば簡単に知ることができます。


しかし委員長と出会う前の勇者を知っている人たちは、決して関わり合いになろうとはしません。

そして勇者が戦闘以外も請け負ってくれることは、勇者を雇っている王宮上層部と関わりがあるか、あるいは勇者と面識がある人しか知りません。



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 とある小学校の職員棟、その最奥に位置する……通称・勇者の部屋。

 そこから続く浴室は現在、3人の人物によって使用されていた。


ダンピ「なぁ勇者ー、ここは風呂なんだからお前も服脱げよー」


 湯船に浸かりながらそんなことを言うのは、見た目8歳ほどの幼い少年だった。

 純白のショートヘアに褐色の肌という外見の少年は、なんともいやらしい目つきをしながら舌なめずりしている。

 彼は人間と吸血鬼の間に生まれたダンピールにして、現在は吸血鬼の魔人という存在である。


勇者「お前が風呂から上がるというなら、考えないでもない」


 風呂場だというのに服を着て、せっせと手を動かしながら答えたのは、二十代半ばの青年だった。

 無造作に伸ばされた黒い髪、長い手足、こんな世の中には何ひとつ期待すべきことはないとでも言いたげな澱んだ目つき。

 呪われし体質を持って生まれた人間の上位種、勇者と呼ばれる存在である。



 そんな彼は腕まくりをしつつ、目の前に座っている少女の髪を洗ってやっていた。


ファイ「……。」


 ただひたすらに沈黙して勇者に髪を洗われているのは、見た目16歳ほどの少女だった。

 純金を紡いで糸にしたかのような、美しいブロンドの髪。どこを見ているのか判然としない、焦点の定まらない虚ろな瞳。

 彼女は風呂場だというのに、精緻な織り方をされた荘厳なパーティドレスを身に纏っていた。

 名をファイバーという彼女は、精霊という不安定な存在でありながら固有の自我と肉体を持つ、生霊と呼ばれる存在。

 精霊は自然界に存在する物質や現象を司る存在であり、彼女は繊維を司っている。


勇者「それよりもダンピール、お前のせいで先日、委員長と不和が生じたんだぞ」

ダンピ「あぁ? なんでだよ」

勇者「以前お前がキスしろとせがんできて、仕方なく手にしてやったことがあっただろう」

ダンピ「ふえっ!? ……う、まあ、そんなことも、あったかな……」

ファイ「……。」


 顔を真っ赤にして湯船に沈むダンピールを、ファイバーがジトッとした目で見つめる。



 勇者はぶくぶく言ってるダンピールには目もくれず、忌々しげに続けた。


勇者「隠しておくのも気が引けたから、一応、委員長には報告しておいたんだ」

勇者「そうしたら拗ねてしまった。キスはもちろんのこと、委員長には絶対に手を出さないようにしているからな」

ダンピ「手を出さないって言いながら、なんだかんだでいろいろすげーことしてねぇか、お前……?」

ファイ「……お医者さんごっこ」

勇者「ゴホン。とにかく、お前のせいで俺のファーストキスが奪われたらしい。どうしてくれる」

ダンピ「どうりで最近、委員長ちゃんが唸りながら睨んでくるわけだ。子犬みてぇにな」

勇者「可愛いだろう」

ダンピ「くたばれロリコン野郎」


 勇者はシャワーからお湯を出すと、ファイバーの髪の泡を洗い流した。すると金色の髪が眩いほどの輝きを放つ。

 続いて別のボトルから白い液体を手に出した勇者は、それを両手で泡立ててファイバーの背中に塗りたくる。

 するとファイバーがほんの少しだけ顔を上げて、ポツリとつぶやいた。



ファイ「……お客さん。男。二十代半ば。たぶん貴族」

勇者「なに?」


 勇者が振り返ると、ちょうど脱衣所の扉が開かれたところだった。

 浴室の擦りガラス越しでもわかる、貴族特有の悪趣味に高価な服装が見て取れる。


子爵「勇者さん、ですね?」

勇者「誰だ、お前は」

子爵「扉越しに失礼いたします。私は子爵と申します。まだ若輩ですが、これでも貴族として国の政治にかかわる立場ですね」

勇者「要件を言え」

子爵「…………。なにか洗っていらっしゃるようですが、それが終わるまで待って差し上げますよ」

勇者「俺はお前と違って暇じゃない。要件があるならさっさと言え」

子爵「……………………。そうですか、それでは本題に入らせていただきます」


 口調は丁寧だが、誰が聞いたってブチギレ寸前といった声音の子爵。



 勇者はそんなことには一切頓着せずに、ファイバーの身体(服?)を洗っていく。


子爵「なんでも貴方は、金さえ積めば依頼を受ける便利屋なのでしょう? そこで依頼を任せて差し上げますよ」

子爵「私と『第三王女』を恋仲にしていただきたいのです」

ダンピ「……あぁ? 第三王女だと? 第三王子じゃなくてか?」

勇者「お前といっしょにするな、ホモガキ」

ダンピ「んだとコラァ!!」

勇者「だがダンピールの言う通りだ。第一王女や第二王女ではないのか?」

子爵「おや、ご存じありませんでしたか。これは失礼いたしました。貴方を買い被りすぎていたようです」

ファイ「……先々代国王の隠し子。先日見つかった。魔物と話せる少女」

子爵「その通り。まだ第三王女として公表はしておりませんが、対話によって魔物を退けたとして巷では話題になっていますよ」



勇者「それで、なぜ俺にそれを依頼する?」

子爵「貴方は以前、ある事件によって、王位継承者のお三方とパイプを構築しているのでしょう?」

ダンピ「……テメェ、なんでそれを」

子爵「まぁそんなことはどうだって良いではありませんか。とにかく貴方たちは、私を王族へ近づけてくださればいいのですよ」

勇者「目的は?」

子爵「そんなものは決まっているではありませんか! 第三王女に将来性を感じたからですよ!」

子爵「彼女と婚約できれば、私の地位は揺るぎないものとなる! 目的というなら、それ以外になにがありますか!」

ダンピ「……チッ、金好きのボンクラかよ」

子爵「地位や金が嫌いな人間がいますか? 金とは価値! 金を持っているということは、それだけ高い価値を持つ人間ということです」

ダンピ「テメェに価値があるとは、俺にゃぁ到底思えねぇがな」

子爵「人間個人に大した価値などありませんよ。あくまで価値があるのは肩書きと金だけですからね」

ダンピ「……クズが」



勇者「子爵といったか。この件は引き受けない。お引き取り願おうか」

子爵「なに……? 金なら支払いますよ。いくら欲しいんです? 言ってごらんなさい」

勇者「さっきも言ったが、俺は忙しい。そんなくだらないことに時間を割いている暇はない。こっちもボランティアじゃないんでな」

子爵「……この私の依頼を断るというのですか」

勇者「話は終わった。さっさと帰れ」

子爵「…………」


 擦りガラスの向こう側の人影が、無言で消える。そして遠くから乱暴に扉を閉める音が響いた。

 ダンピールは軽く鼻を鳴らし、


ダンピ「ふん。ザマぁねぇな、クソ貴族が。俺はああいう態度のでかいヤツがイッチバン嫌いなんだ」

ファイ「……勇者」

勇者「ああ、お前の言いたいことはわかっている、ファイバー」

勇者「だが嘘をつく依頼人は信用できない。だから依頼も受けない」

ダンピ「……嘘?」

勇者「それに偽るということは、差し迫った事態ではないということだ」

勇者「向こうが真実を話すまで、俺は手出しをしない。ボランティアじゃないんだからな」

ファイ「……。」



 勇者はファイバーの体の泡を丹念に洗い流すと、浴室のガラス戸を開く。


勇者「俺はこれから授業だ。ダンピール、ファイバーのことは任せたぞ」

ダンピ「俺ももう出かけるんだがな」

勇者「ん? ああ、あの娘か」

ファイ「……デート」

ダンピ「ちげぇよボケ!!」


 いつも通りのやり取り、いつも通りの風景。

 3人とも不機嫌そうな顔をしながらも、互いに信頼しているからこそ気取らずに感情をぶつけ合う。

 しかし今日は少しだけ、いつもとは違っているのだった。


ファイ「……。」



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 豪奢な装飾が所狭しと並ぶ邸宅の一室に、忌々しげな舌打ちが響く。


子爵「チッ……役立たずどもめ。話が違うぞ情報屋……」


 あのライトとかいう情報屋の少年から受け取ったメモには、勇者に依頼すれば助けになってくれると書いてあった。

 子爵はメモを握りつぶしてポケットにねじ込むと、部屋を出て廊下を進んでいく。


子爵「……まぁいい。第三王女の存在が事実だということはわかった。アイツらを使わずとも、私が直接……」


 やがてたどり着いた一室の扉を開いた子爵。その向こうには……


 「……」


 窓もなく、照明も薄暗い室内。

 そこには、無骨な首輪で繋がれた『何か』がうずくまっていた。



 子爵は無遠慮に室内へと踏み込んで、分厚いコートを頭から被り体を丸くしている『何か』へと声をかける。


子爵「生きていますか?」


 ある程度近づいて、残り数歩で『何か』のうずくまっている場所へと辿り着くといったところで……

 コートが勢いよく跳ね除けられ、その下から飛び出してきた人影が思いっきり腕を振りかぶる。


子爵「―――っ」

人虎「……ハァーッ、ハァーッ……!!」


 白い体毛に覆われ、ナイフのように鋭い爪を備えた腕。それが子爵の喉元寸前でぴたりと止まる。

 白い毛に覆われた首に繋がれた鎖が、ピンと伸び切っていた。

 もしも鎖があと少し長ければ、子爵の首はぱっくりと裂けていたかもしれない。


子爵「日に日に、魔物へと近づいていますね……人虎」

人虎「……!」


 縦に割けていた瞳孔が、徐々に形を変え丸くなっていく。それに合わせて、獰猛だった息遣いもおとなしくなる。

 やがて完全に正気を取り戻した『彼女』は、泣き崩れるようにしてその場へとうずくまった。



子爵「人間と魔物の合成実験……その悪夢の実験の被験体」

人虎「……」


 その少女の姿は異様なものだった。

 16歳ほどの少女の身体が、多くの『虎』の特徴を備えている。

 ボロボロの布きれを身に纏った少女の全身は、白い体毛と黒の縞に覆われていた。さらに牙や爪、頭部には獣の耳、臀部には尻尾。

 少女は毛むくじゃらの腕で涙を拭いながら嗚咽を漏らす。


子爵「やれやれ、戦力になるかと思って『私が』貴女を被験体にしたというのに……これでは兵器として機能しそうにありませんね」

人虎「……」

子爵「悪い事というのは続くものです。王立小学校の『勇者』という人物をご存知ですか?」

子爵「依頼をすればどんなことでも解決してくれるという、いわゆる何でも屋のようなことをしている男なのですが」

人虎「……!」

子爵「第三王女との婚約を手伝えと依頼したのですが、断られてしまいました。まったく、使えませんよねぇ」



 子爵は懐からなにかを取り出すと、それを人虎の近くへと放り投げた。


子爵「さきほど『発作』があったのなら、夜までは大丈夫でしょう。今日は特別に、外へ散歩に行くことを認めて差し上げますよ」


 人虎は放り投げられたものへと目を向ける。それは、彼女の戒めを解くための小さな鍵だった。


子爵「私は王宮へ行ってくるとします。なんとしても、第三王女に会わなければ」


 そう言い残し、子爵は踵を返して部屋の出口へと向かう。 

 その背中を無言で見送った人虎は、毛むくじゃらの手で小さな鍵を掴む。


人虎「…………勇、者」



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ダンピ「オイ、いい加減手ぇ離せ……握り潰すぞ」

女勇者「あっ、師匠! 次はあそこの劇場に入ってみませんかっ?」

ダンピ「聞いちゃいねぇ……」


 すでに数軒ほど連れまわされているダンピールは、ウンザリとため息をついた。

 ダンピールの隣を歩くのは、優しげな目をした素朴な容姿の少女。腰にはひのきの棒と松の杖が差されている。

 彼女は以前ダンピールが修行を付けたこともある犬神使いの少女で、名を女勇者という。

 とはいえ彼女を王国から送り出してからは、しばらくは音沙汰がなかった。

 武闘家や魔法使いから女勇者が元気でやっていることは聞いていたので、それはそれでいいかとダンピールも考えていたのだが……

 ある時を境に、彼女は暇を見つけては王国へと足を運び、師匠師匠と囀りながら徘徊するようになってしまったのである。



女勇者「師匠、疲れてますか……? それじゃあ、どこかで休憩しましょう!」

ダンピ「お前、キャラ崩壊しすぎだろ……もっとこう、内向的ってやつじゃなかったか?」

女勇者「今でも内向的ですよ? 初めて会う人とは全然喋れませんし……だけど師匠は『内側』ですから!」

ダンピ「……お前の内側に踏み込んだ覚えはねぇよ、ボケ」


 女勇者の太陽のような笑顔をうけたダンピールは、不愉快そうに顔をそむける。

 しかし魔人である彼が本気になれば、握られた手を振りほどくことなんて造作もないはず。

 女勇者はそれがわかっているからこそ、彼が小さな手で、ほんの少しではあるけれど……握り返してくれていることに、ついついだらしなく頬が緩んでしまうのである。

悪人か善人か分からん・・・・先が気になるな



ダンピ「ふん。へらへらしてんじゃねぇよ、スカタンが」

女勇者「えへへ、なんだか師匠の罵倒には愛を感じます」

ダンピ「……お前」

女勇者「えっ、そ、そういう趣味じゃないですよっ!? その冷たい目をやめてください!!」


 パッと見では、幼い弟と、その面倒を見ている姉……というような構図ではあったけれど、その実 立場関係はまったくの逆なのだった。

 しかしダンピールの方も、こうやって自分に懐いてくる人間の相手をするなんてことは初めての経験。

 そのため、まるっきり迷惑しか感じていないわけでもなかったりするのである。


女勇者「師匠、次はどこに行きたいですかっ?」

ダンピ「どこでもいいっつの……ったく。おい走るな、転ぶぞ」


 あくまで、手のかかる妹……という認識だったが。



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今日はここまでということでよろしくお願いいたします。

PCがおそろしく不調なのが怖いですが、このまま何事もなく書き進めていけたらと思います。

それでは、ここまでご覧いただきありがとうございました。失礼いたします。

乙でした。

乙 
いくつかの依頼の安価の中にあったラブコメ要素は、女勇者とダンピールが担当するのかな?


ラブコメ……と言うにはダンピール師匠の性癖が問題すぎますが……

けれど確かに、ダンピールサイドと他との温度差が大変なことになっていますね。

人虎ちゃん、あそこまで悲惨な描写をするつもりはなかったのですが、うっかり手がすべってしまいました。



それでは投下していきたいと思います。よろしくお願いいたします。



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 等間隔に並べられた30近くの席に着く生徒たちが、教壇に立つ勇者へと注目している。

 勇者は、もう結末や展開を知りつくした演劇を眺めているような無気力な目を生徒たちに向けて口を開く。


勇者「今日は精霊についての授業をする」

勇者「前に、俺の仲間の生霊をここに連れてきたことがあったな。目が虚ろな金髪の女だ」

勇者「覚えているかは知らんが、生霊というのは精霊が人間の姿をとり自我を持った存在のことを言う」

勇者「そして精霊というのは、自然界に存在する物質や現象を司る種族だ」

勇者「火、水、木、花、空気、土……」

勇者「主観や認識に左右されないものであれば何でもいいため、数えれば枚挙に暇がないな」


 勇者は話の中の要点を黒板に書き出しながら、熱心に耳を傾けている生徒たち1人1人と順番に目を合わせていく。



勇者「これも以前に話したが、精霊というのは、司っている物質や現象と感覚を接続することができる」

勇者「司っているものというのは、精霊の肉体の一部のようなものだ。だからある程度は操作もできる」

勇者「特に生霊は明確な自我や自意識を持っているため、自分の意識を切り離して、乗り移らせるようなイメージだな」

勇者「たとえば木の生霊なら、あそこに生えている木が、なにを見て、なにを聞いているのかを知ることができる」

勇者「木の近くで俺の悪口を言ったりした場合、それも丸聞こえということになる」


 何人かの生徒が「えっ!?」という表情になった。勇者はそいつらの顔を心のメモ帳に書き留めておく。

 ともあれ、そういったわけで精霊相手にはプライベートという概念はなくなってしまうのである。


勇者「ガラスの生霊なら、お前たちが自分の部屋でなにをやっているのか、すべて知っていることになる」

勇者「国家の行く末を左右するような重要機密などを、手に入れることもできるだろう」

勇者「人間や魔物は自然を破壊するため精霊に嫌われていると前にも言ったが、そういう意味では精霊も大いに嫌われる」

勇者「ただし、司っているものに意識が持っていかれるということは、本体の自我が希薄になることを意味する」

勇者「喩えるなら、友達と会話しながら宿題をやりながら料理をしながら遊びながら部屋の片づけをしているようなものだな」

勇者「意識を拡散させる範囲は個体差があるが、生霊ともなれば街1つをすっぽりカバーするものも珍しくはない」

勇者「自分が司っているものが範囲内に多すぎる場合は、まともに身動きが取れなくなるほど自我が薄まってしまうことさえある」



 そして……と勇者はやや声のトーンを落として、


勇者「精霊に嫌われる精霊……というものも、中には存在する」

勇者「代表的なところでは、『火』の精霊や『ガラス』の精霊だ。……なぜかは、すこし考えればわかるはずだ」

勇者「自然を破壊する『火』や、人間への依存度が高い『ガラス』は、精霊の間でも軽蔑の対象となる」

勇者「……『繊維』もな」


 聞こえるか聞こえないかといった声量で、勇者は最後にぽつりと付け足した。


勇者「ともあれ、そうした人間への依存度が高い生霊や、訳アリの生霊は、人間社会の中で生きていることがある」

勇者「そうした者たちをサポートすることも、親善大使という職業の業務内容に含まれる。まぁ、これは今回の授業趣旨とずれるか」



勇者「本当なら、今日も実際に生霊を連れて来てやりたかったんだが……」

委員長「先生。ファイバーさん、どうかしたんですか?」

勇者「委員長、それは授業の内容とは関係のないことだ」

委員長「あう……ごめんなさい……」


 勇者は委員長に対してやけにそっけなく応対すると、ふと窓の外を眺め、


勇者「まぁ俺が思うに、精霊は基本的に……心優しい、というのが特徴だな」


 その物憂げな勇者の表情に、生徒たちは小首を傾げる。

 勇者はそれには取り合わずにチョークを持つと、再び黒板へと白い文字を刻んでいく。


勇者「さて、そして生霊のさらに上位種が……」



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子爵「いやぁ、ですから第三王女を一目見られれば、それで良いのですよ」

警備兵「第三王女などという方はおりません。ですのでお通しできません」

子爵「……いいんですかねぇ。自分で言うのもなんですが、私に顔を覚えられて得なことはないと思うのですがねぇ」

警備兵「お引き取り願います」

子爵「……チッ」


 子爵は盛大に舌打ちして、王宮に背を向ける。

 いくら貴族とはいえ簡単に入ることはできないということはわかっていたが、第三王女の名前を出した途端、警備兵の態度が露骨に頑ななものとなってしまった。

 かなりしぶとく粘ってみたのだが、押しても引いてもビクともしない。


子爵(……くそ、第三王女が正式に顔出しして警備が厳重になる前に会っておきたいというのに……)



 警備兵に金を握らせて強行突破しようともしたのだが、なぜかこの警備員、断固として受け取りを拒否するのである。

 子爵は偽善者というものが大嫌いだが、しかし彼の反応はそういったものとは一線を画す、鬼気迫る雰囲気があった。賄賂にトラウマでもあるのだろうか?

 ともあれ、これでは王宮に入れない。つまり第三王女とも出会えない。それはとても困るのである。

 子爵は頭を抱え、次なる計画を練り始める。

 するとそこで、


ライト「あれ、子爵のおにーさん」

子爵「あっ……!」


 子爵の目の前に、見覚えのある少年が現れた。

 銀髪のショートヘア、キラキラと輝く瞳、白シャツに、黒のショートパンツをサスペンダーで吊っている。

 『ライト』と名乗るこの少年は、こんな外見ではあるが、知る人ぞ知る凄腕の情報屋である。

 子爵は足早に少年へと接近すると、驚く少年の目前でピタリと止まって顔を近づけた。



子爵「貴方の言う通りに勇者へ相談を持ち掛けたのに、依頼を断られたのですが……どういうことです……!?」

ライト「きちんと正直に、事情を1から10まで説明しましたか? 勇者のおにーさんは、嘘をつく依頼人は嫌いなのです」

子爵「…………」

ライト「まぁそんなことだろうとは思いました。ボクは情報を売りますが、それを上手に活用できるかはお客様次第なのですよ」


 ライト少年は一切の邪気が感じられない純粋な微笑みを浮かべながら、


ライト「しかしご安心ください。それでも助けてくださる方はおりますので」

子爵「……なに?」

ライト「そうですよね、おねーさま?」


 子爵がライト少年の視線の先を追うと、そこには……


ファイ「……。」


 純金を紡いだかのようなブロンドの髪、精緻なパーティドレス、そして虚ろな瞳。

 勇者補佐にして王国公認の親善大使。

 繊維の生霊・ファイバーが、そこにいた。



 ……じつは二人はすでに一度出会っているのだが、擦りガラス越しだったため子爵にしてみれば知る由もない。


ライト「ご無沙汰しております、おねーさま」

ファイ「……久しぶり、ムーンライト。サンライトは元気?」

ライト「元気ですよ。もちろん太陽が出ているあいだはベッドから動けませんが」


 展開についていけず困惑している子爵に、ライト少年はにっこりとほほ笑んで、


ライト「彼女は、勇者のおにーさんの右腕、ファイバーおねーさまです。おねーさまはとても心優しいお方なので、子爵のおにーさんを助けてくださいますよ」

子爵「そ、そうなのですか?」

ファイ「……そう」


 まったく生気の感じられないファイバーに、子爵は怪訝そうな顔つきになる。

 しかしライト少年は気にせず、もう自分の役目は終わったとでもいうように踵を返して。街並みの中へ消えてしまった。



 残されたファイバーは、茫然と突っ立っている子爵の横を通り過ぎて、王宮の門番をしている警備兵へと歩み寄る。

 彼女の顔を見た瞬間、警備兵は「ひっ」という喉が引きつるような声を発した。


ファイ「……通して」

警備兵「…………か、かしこまりました、ファイバー様」


 子爵がぽかんと口を開けてしまうくらいにあっけなく、どれだけ粘っても開かれなかった王宮への道筋が、簡単に切り開かれてしまった。

 ファイバーは子爵を振り返ると、感情の起伏に乏しい声音で呟いた。


ファイ「……あなたの目的。あなたの事情。知ってる」


 吸い込まれそうなくらい虚ろな瞳で子爵を射抜くファイバー。

 彼女は緩やかに、子爵へと手を差し伸べた。


ファイ「……これは、ボランティア」



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まだお時間はありますが、今日はここまでと言うことでよろしくお願いいたします。

それでは、失礼いたします。ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

乙です
余計な心配だと思うけど、次の章の中心にする精霊のストーリーを、依頼内容や主人公の設定を書く人が想像しやすくするために
精霊の説明や活躍(ファイバー、ライト)に力を入れすぎて、主人公の子爵と人虎がおざなりにならないか少し不安

あと、自分は人虎の描写はやり過ぎとは感じなかった


ありがとうございます。

そうですね、極力勇者一行と安価によって生まれたキャラ以外はストーリーの根幹には関わらせないように気をつけます。

それに安価以外のキャラ=書き手の性癖ですからね……あまり露見しないようにも気をつけます……



人虎はやりすぎではありませんでしたか、よかったです。

安価スレ以外では鬱展開をよく書くので、そちら方面へ引きずられないように注意します。


コメントありがとうございました。



適度に悲惨な描写の方が、幸せな日常の描写との差ができて良いと思う


ありがとうござます。そうですね、SSとはいえ物語には明暗の起伏があったほうがいいですね。


といったわけで、書き溜めた分を投下していきたいと思います。



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 王立小学校の職員棟最奥。

 そこには世界でほんの数人しかいないとされる『勇者体質』を持つ、伝説の人物が住まうと言われている。

 通称・勇者の部屋と呼ばれるそこは応接室のような内装で、大きな窓からは気持ちのいい晴天の日差しが差しこんでいた。

 そして黒い革張りのソファの上で、2つの人影が重なり合っている。


委員長「先生、あーん♪」

勇者「……あーん」 


 適当に伸ばされた黒い髪、雑に着崩されたワイシャツ、極めつけは鮮度0パーセントの澱んだ瞳。

 研究者たちの間では『現代の神話生物』などと呼ばれている特殊体質を持つ男―――勇者。

 そんな彼は現在、膝に乗せた10歳ほどの少女にお弁当を食べさせてもらっていた。




委員長「どう、先生?」

勇者「いったいどこまで美味しくなり続けるんだろうな、委員長の手料理は」


 普段はにこりともしない勇者だが、委員長の前でだけは穏やかな微笑みを浮かべる。

 その微笑みに応えるように、委員長もこれ以上ないくらいの輝く笑顔を浮かべた。


委員長「さっきはそっけなかったから、怒ってるかと思っちゃった」

勇者「いくら俺が委員長を愛しているといっても、仕事中は特別扱いしない。教師としての一線は守るさ」

委員長「でもプライベートでは、すっごく優しいんだよね」

勇者「べつにそんなことはない。委員長に対してだけだ」

委員長「ダンピールくんに、ちゅーしてあげたのに?」

勇者「うっ……それは……」


 その一件は、委員長にとってはよほど大事件だったらしい。

 唇を尖らせつつジッと見つめてくる委員長に、勇者はどうしたものかと必死に頭を働かせる。



 そこでふと、委員長は勇者の胸に頭を預けた。


委員長「私たち、出逢ってから結構たつよね?」

勇者「ああ、そうだな」

委員長「結婚の約束もしてるよね?」

勇者「……まあ、そうだな」

委員長「なのに、こうやってあーんしたり手を繋いだり、それくらいしかしたことないよね?」

勇者「……委員長が16歳になっても俺のことが好きだったら結婚しようという約束だ。それまではなにもしない」

委員長「結局、いっしょにお風呂にも入ってくれなかったもんね」

勇者「ああ」

委員長「だけど私の気が変わるって……それ、私のことを思いやってるように見えて、じつはかなりヒドイこと言ってるって自覚はある?」

勇者「うっ……」



 委員長は勇者の瞳をまっすぐに見つめて、真摯に言葉を紡ぐ。

 もともと彼女は大人びているけれど、今日の彼女はより一層に『女性』らしさを強調しているかのようだった。


委員長「私は先生としたことを後悔したりなんて、ぜったいしないよ」

委員長「それに、「ずっと一緒にいる」って約束したでしょ」

委員長「私を信じて……勇者さん」

勇者「……ああ、そうだな。そうだった」


 勇者は委員長の髪を優しく撫でると、精いっぱいの愛情をこめて抱き寄せた。

 二人はすぐ近くに顔を寄せ合って、子供のようにくすりと笑う。



委員長「それに、勇者さんとキスしたいってパパにお願いしたら、してもいいって言ってたよ?」

勇者「マジでか!?」

委員長「うん。「い、一回だけだぞ~!?」って泣いてたけど」

勇者「……お義父さん……」


 あの娘を溺愛する物腰柔らかな男の泣き顔が容易に想像できてしまい、勇者はいたたまれない気持ちになった。

 今度いっしょに酒を飲むときにでも慰めてあげよう……と心の中で誓う勇者なのであった。

 ともあれ、愛する女性にそこまで言わせて日和るような勇者ではない。


勇者「こんなこと、女の子の口から言わせてすまなかった」

委員長「もう、ほんとだよ」


 くすりと笑う委員長が、その子供らしい表情を一瞬で引っ込めて、目を伏せる。

 勇者は彼女の腰に腕を回し、そして……



-・-・-・-



-・-・-・-



 小学校の昼休みともなれば、当然のごとく若きパワーを持て余した少年少女たちが、校庭へとくり出して青春を謳歌するものである。

 そういったわけで多くの子供たちが走り回っている校庭に、しかし今日は小さな異変が起こっていた。

 露出度皆無の長袖の上から分厚いコートを羽織り、さらにフードやマフラーなどによって徹底的に素性を隠した人物が、校庭へと侵入していたのだった。

 さすがにそんな怪しい人物が正門の警備をパスできるはずはない。おそらくは校舎の敷地を囲う高いフェンスを乗り越えたのだろう。

 『彼女』はきょろきょろと周囲を窺いつつ、幾重もの布に隠れた鼻をすんすんとならす。



人虎(……子爵さんの匂い、まだ残っててよかった)


 非常に不本意ながら、自らの肉体を改造されたことによる特性を利用する人虎。

 人間の頃ではまず不可能だった、人が通った道を残り香によって探り当てるという離れ技を駆使して、彼女はここまでたどり着いた。

 そして警備の人間に見つかる前に、早く『勇者』なる人物とコンタクトを取らなくては……

 そう思い、子爵の残り香を辿ろうとしていた人虎に話しかけて来た子供がいた。


少年「なにそのかっこ? なにやってるの?」


 おそらく悪意なんて微塵もない、少年の無邪気な問い。

 しかしいろいろな意味で後ろ暗いところのある人虎は、非力な少年の登場にビクリと肩を震わせる。


少年「暑くないの? ねぇなにやってるの?」


 目に見えての危険は見当たらない相手だからか、少年はじつに無警戒に人虎へと近づく。

 そして彼女が巻いていたマフラーへ、なんの気なしに手を伸ばす。

 それに過剰な反応を見せた人虎が、少年の手から逃れるために大げさに後ずさった。



 すると運命の悪戯か、偶然にも校庭を強い風が吹き抜けた。

 風は人虎を厳重に覆っていたフードを煽り……


少年「……え」

人虎「―――っ!!」


 その下から現れたのは、毛むくじゃらの顔だった。

 白い体毛に覆われた人虎の顔を目撃した少年は、引きつった声を上げて叫んだ。


少年「ば、ばけもの! 魔物だぁ!」


 少年の叫びを聞いた数名の児童が振り返ったころには、人虎は再びフードを深くかぶり駆け出していた。

 目指すは職員棟最奥、あのプライドの塊のような子爵が頼ろうとしたという勇者なる人物がいる場所。

 背後で騒ぎが広がっていたが、人虎は振り返らず、涙で滲む視界の中を駆け抜けた。



 慣れてはいたつもりだったが、それでも……どうしても耐えられなかった。

 この醜い姿が嫌い。自分をこんな醜い姿にした人間が嫌い。

 勇者に依頼すれば、それを終わりにすることができる。

 もう辛い思いを抱えて生きていかなくて済む。


人虎「!」


 子爵の匂いが濃くなった。並ぶ教室の名前を見るに、おそらくここが職員棟。

 子爵の残り香を追ってひたすらに駆けると、突き当りには『勇者の部屋』という簡素なドアプレートがかかった鉄扉が。



 人虎は考える。

 勇者とはいったいどんな人物なのだろうか?

 今は亡き兄が言っていた。勇者というのは、かつて神に愛されし特殊な力でもって魔王を倒したという神話上の英雄。

 その体質を発現した幻の存在……となれば、さぞや立派な人物なのだろう。

 もしかしたら自分のこの醜い姿を見ても、眉ひとつ動かさないでいてくれるかもしれない。

 あの目を……同情や憐憫、嫌悪や侮蔑、そういった仄暗い感情が込められた、あの目で……自分を見ないでいてくれるかもしれない。

 人虎の胸が、久方ぶりに熱く脈打つ。

 震える毛むくじゃらの手で、ドアノブを握る。

 そして精いっぱいの勇気を振り絞って、扉を開いた。



勇者「―――」

委員長「……え、あっ……!?」


 そこには、抱き合って今にも口づけを交わそうとする青年と少女の姿があった。


人虎「……え」


 青年に抱かれていた幼い少女があわてて飛びずさり、あたふたしながら顔を真っ赤に染める。

 そして少女は人虎の隣を走り抜けると、そのまま部屋から飛び出してしまった。

 その少女の背中を呆然と見送った人虎が再び室内へ視線を戻すと、そこにはテーブルに突っ伏して動かなくなっている青年の姿が。


人虎「……えっと」


 どうしていいかわからず、青年が再起動するまでの数分間……人虎はただただその場に立ち尽くすしかないのであった。



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今日はここまでということでお願いいたします。

次回は勇者について少し明らかになる予定です。


それでは、ここまでご覧いただきありがとうございました。失礼いたします。

乙でした



それでは、今日の分の投下を始めていきたいと思います。

よろしくお願いいたします。



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 いろんな意味でのショックから立ち直った勇者が顔を上げると、そこには全身をくまなく衣類で覆った人物が立っていた。

 その姿、気配、魔力だけでもある程度の事情を呑み込んだ勇者は、とりあえずその人物へ腰掛けるように促す。


勇者「それで、依頼はなんだ」

人虎「……」


 人虎はやや逡巡した後、自分の素性を厳重すぎるまでに隠していた戒めを解き始める。

 やがて現れたのは、白い毛並みを備えた少女の姿……人と獣の混成生物だった。

 人虎は勇気を振り絞って勇者の反応を窺ったが、対する勇者はこれといった反応を見せず、


勇者「なるほどな、だいたい事情はわかった」


 人虎は心の底から安堵して、胸を撫で下ろした。

 さきほどの衝撃的な光景から、本当にこの男は大丈夫なのかと不安になっていたのだが、どうやら彼はデキる人らしい。

 それにこの姿になってから初めて、自分を怯えた目で見ないでくれた勇者に心から感謝した。



勇者「それで、どうしてほしいんだ」


 淡々と訊ねる勇者に、人虎は小さく深呼吸をする。

 そして、言った。


人虎「私を……殺してほしいんです」


 その言葉に、勇者は初めて表情らしい表情を見せた。眉をひそめ、怪訝そうな顔つきとなる。


勇者「……どういうことだ」

人虎「私は、もうすぐ完全にバケモノになります。だからその前に……」


 俯き、声を震わせながら語る人虎を、勇者は無気力な目で睨む。


勇者「状況が見えない。初めから話せ」

人虎「はい……。といっても、私もよくわからないけど……」


 そう前置きした人虎は、努めて感情を排するように、ぽつりぽつりと語っていく。



人虎「私、前は人間だったんです。半年くらい前までは、普通の……」

人虎「でもある日、いつものように花屋で働いていて……そうしたら、そこから記憶がなくなって……」

人虎「……気が付いたら……こんな体に」


 人虎は毛むくじゃらな手で、震える身体をきつく抱きしめた。


人虎「人間と魔物を、合体させるっていう実験をされたと、あとで科学者の人たちに聞かされました」

人虎「それから間もなく、その研究所は軍の人に解体されて……」

人虎「けど、私を引き取ると言ってくださった方がいたんです」

人虎「それが子爵さんという貴族の方だったんですが……」

勇者「……」



人虎「両親も兄もこの世を去り、身寄りがなかった私は、こんな姿にも関わらず引き取ってくださった子爵さんに感謝しました」

人虎「だけど、その子爵さんという人が……私があの実験に巻き込まれたのは、自分が仕組んだことだと言ってきました」

人虎「それで私、もうわけがわからなくなって……」

人虎「そのころから、私は……破壊衝動というか……時々無性に、なにかを壊したくてたまらなくなることに気が付いて……」

人虎「そして私は首輪をつけられ、暗い部屋へ閉じ込められました」

人虎「私が唯一 安らげる時間は、寝ているときだけでした」

人虎「寝ている間は、嫌なことを考えないで済むから……なのに、最近では……」

人虎「夜になると、かなりの頻度で暴走して……昼間もときどき、なんの前触れもなく近くのものに襲い掛かるようになりました」

人虎「もう、嫌なんです……私はもうすぐ完全なバケモノになります。いつか本当に人を殺してしまいます」

人虎「こんなバケモノは、生きてちゃいけないんです……だけど自分で体を傷つけても、このバケモノになった体では……」

人虎「だから勇者様、おねがいします……私が人間の心を持っているうちに」

人虎「……殺して、ください」


 嗚咽をこらえ、涙を流しながら殺してくれと懇願する少女。その姿に、勇者は静かに目を伏せる。



勇者「………………」


 勇者は腕を組み、なにやら思索しているようだった。

 そしてたっぷりと考えた末に、


勇者「お前は、使っても使ってもインクの切れないペンを持っていたとしたら、普通のペンを使うか?」

人虎「……?」


 唐突な勇者の問いかけに、人虎は濡れた瞳を丸くして固まってしまった。

 勇者は構わずに続ける。


勇者「あるいは飲んでも飲んでもなくならない飲み物を所持しているとしたら、わざわざ普通の飲み物を買って飲むか?」

人虎「……いえ……」

勇者「普通はそうだな。わざわざ消耗してしまうものは使わない。当然だ。誰だってなくならないものを使いたがる」


 人虎は、勇者が何を言いたいのかがわからずに困惑する。

 しかし勇者にふざけている様子はなく、むしろ真剣そのものといった迫力があった。



勇者「お前は、殺しても殺しても死なない人間が、どんな目に遭うか……わかるか?」

人虎「……!」

勇者「『勇者』なんていうのは体のいい押し付けだ」

勇者「本当のところは、使い勝手のいい鉄砲玉であり、何度も再利用できる実験動物であり、全人類の雑用係だ」

勇者「俺とお前はタイプこそ違えど、それなりに近しい存在かもしれないな。だからこそ、ある程度はお前の気持ちもわからないでもない」

勇者「知ってるか……『勇者』の平均寿命は20歳前後なんだ」

人虎「え……」

勇者「勇者は心から死にたいと強く願ったときに、勇者体質を手放す。だから自殺以外では基本的に死ぬことはない」

勇者「逆に言えば、自分が勇者であると気づいてしまった者のほとんどが、20歳前後で自殺するんだ」

勇者「俺も、ある人物との出会いがなければ間違いなく自殺していた。いや、その人物に自殺を止めてもらったんだ」

勇者「その人物と過ごす時間はなによりも幸せだ。だから今振り返れば、自殺しなくて良かったと心から思える」

勇者「お前にも、そういう時がきっとくる」

人虎「でも……私の心は……」

勇者「今、俺の仲間が、お前の主人である子爵のところへ行っている。おそらくな」

人虎「!」



勇者「あいつが自分の意思で動くということは、つまりそういうことなんだろう」

勇者「まだすべてを諦めるには早いかもしれないぞ。最終手段というのは、最後までとっておくからこその最終手段だ」

勇者「お前には、まだ希望が残されている。失った幸せを取り戻すチャンスは、きっとある」


 勇者のその言葉に、ずいぶん前から錆びついてしまっていた人虎の心が動き出す。

 バケモノには流すことのできない、温かい涙があふれ出した。


勇者「もう一度、確認するぞ。お前は本当に死にたいのか?」


 勇者の問いに、人虎は勢いよく首を横に振る。

 そしてグシャグシャになった顔を手で覆うと、ずっと押し殺していた感情を思いっきり吐き出した。


人虎「……たすけて……死にたくないよぉ……!!」


 うずくまって痛ましい嗚咽を漏らす人虎。

 勇者は無言で立ち上がると、傍らに置いていた安っぽい剣を腰ベルトに差す。


勇者「どいつもこいつも、回りくどいんだ」


 そして出口まで歩いて部屋の扉を開くと、子供のように泣きじゃくる人虎を振り返った。


勇者「最初から、そう言え」



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 子爵の家もそれなりに豪奢な調度品であふれているが、そんな彼でさえ息を呑むほどの超一級品が嫌味なく室内に配置されていた。

 恭しく案内された応接間で柄にもなく背筋を正した子爵は、なんとも現実味のない光景に息を呑む。


王女「そしたらね、姉さまったら、兄さまにこんな姿は見せられないって言い出して」

ファイ「……気持ちはわかる」

王女「姉さまもいつまで地下牢にいるつもりなのかしら。一応、地下から指示を出してお仕事はしているみたいだけど」

ファイ「……焦らず待つべき」

王女「ふふっ、そうね。ファイバーも、よかったら会いに行ってあげてね」

ファイ「……わかった。王女の頼みなら」


 この国の第二王女が気さくだということは知っていたが、それにしたって王女と対等に話すこのファイバーという女は何者なのか。

 子爵は緊張して乾ききった喉を、給仕に差し出された紅茶で潤す。

 そんな子爵の様子を見た王女はにっこりと微笑んで、



王女「いま三女ちゃんを呼びに行ってるから、もうちょっと待っててね」

子爵「は、はぁ……」

王女「それにしても、三女ちゃんのことをよく知ってるね。ファイバーが教えたの?」

ファイ「……違う。べつの生霊」

王女「へ~。ファイバー以外にも、この国に生霊っていたのね」


 そんなことを話していると、応接間の大きな両扉が厳かにノックされる。

 3人がそちらへ顔を向けると、やがて開かれた扉の向こうから、メイドたちに導かれた1人の少女が顔を出す。

 年の頃は中学生ほどだろうか。やや幼く見えるが、実際の年齢は判然としない。

 薄紫の髪を備えた少女は、宝石のように煌めく瞳で室内を一瞥した。

 彼女こそが第三王女。先々代国王の隠し子にして、対話により魔物を退けたという謎多き少女。

 子爵は油断なく目を細めると、研ぎ澄まされた刃物のように鋭く、第三王女を睥睨していた。



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 澱みきったドブ川のような瞳の青年と、割れ物を梱包するかのように全身を衣服を覆い隠した少女が並んで歩く。

 場所は王国の、なんの変哲もない表通りだった。

 時折馬車が往来するほかには、これといって変わった点もない街並みである。


勇者「ここか」

人虎「……はい」


 2人が立ち止まったのは、そんな街並みを構成する『花屋』の店先だった。

 勇者はなんの気負いもなく花屋へと足を踏み入れ、人虎はその後ろをひっそり躊躇いがちに続いた。

 店内に立ち込める花屋特有の香りが、人虎の研ぎ澄まされた嗅覚を刺激する。

 その香りは、彼女がここで人間として働いていた頃の記憶をまざまざと想起させるものだった。



店長「いらっしゃい。なにかお探しかい?」


 来店した2人を出迎えたのは、素朴な顔立ちの三十代ほどの女性だった。

 彼女……この花屋の店長を見た人虎が息を呑む。

 かつての自分が親しくしていた知人に、久しぶりに出会えたのだ。思うところがないはずがない。

 しかし当然ながら今の姿では、感動的に久闊を叙するといったわけにもいかない。

 さまざまな思いによって口を開けない人虎の代わりに、勇者が一歩前に出て花屋の店長に応対した。


勇者「愛する女性に花束を……と言いたいところだが、生憎今日は買い物に来たわけじゃない」

店長「ほほう?」

勇者「ここで半年前に働いていた、人虎という少女について聞かせてくれ」

店長「人虎? あんた、あの子の知り合いかい……?」

勇者「そんなところだ。詳しくは言えないが、彼女について知っていることなら何でもいい」

勇者「特に彼女が姿を消した前後のことを教えてくれ」



 淡々と話す勇者を、女店長はまじまじと観察する。

 それは大切な仲間のことを話しても良い相手かどうかを見定めているようだった。

 しばらくそうしていると、やがて彼女は朗らかな笑顔で大きく一つ頷いた。


店長「うん、あんたは信用できそうだね」

勇者「俺が言うのもなんだが、そんな簡単に信用していいのか? 根拠はなんだ」

店長「女の勘さ! それにあの子のことは、私も気になってるんだ。突然王国から出て行っちまってさ」

勇者「王国から出て行った? 待て、なんの話だ?」

店長「知らないのかい? あの子は怪我して病院に担ぎ込まれたんだけど、もう次の日には王国を発ったって話だよ」

勇者「……」


 勇者はチラリと背後の人虎を振り返るが、彼女はただ首を横に振るだけだった。

 彼女にもなにがなんだかわからないらしい。



勇者「怪我、というのは?」

店長「そこの店の前の通りには、時々馬車が走ってるんだけどね」

店長「あの日、店の前でちっちゃな子が馬車の前に飛び出しちまってね。それをあの子が助けたらしいんだ」

店長「だけど代わりにあの子が馬車に撥ねられて……もちろんすぐに病院に運ばれた」

店長「いつ目を覚ますかわからないってんで病院から帰されて、私は一度この店に戻ったよ」

店長「次の日、その子供の親があの子のお見舞いがしたいって言うんでね。また病院に行ったんだ」

店長「そしたら、なんと既にあの子は退院して、病室はもぬけの殻……」

店長「それっきり、あの子とはまったく連絡が付かない状態ってわけさ」


 店長もその顛末には納得がいっていないのだろう。話が終盤に向かうにつけ、どんどん顔つきが険しいものとなっていった。

 それはもちろん勇者も同じことだ。



勇者「人虎が退院したということは、誰に知らされたんだ?」

店長「あの子を治療したっていう医者だよ。……右の頬に火傷跡のある、小太りの」

勇者「退院した、ということだけ告げられたのか?」

店長「遠い親戚に連れられていったって……食い下がってみたけど、患者の個人情報だなんだってはぐらかされた」

勇者「……あんたは、人虎が馬車に撥ねられたところは見たのか?」

店長「新しい花を受け取りに出かけてて、私が戻った時には、あの子が血まみれで病院の馬車に担ぎ込まれてるところだったよ」

勇者「どう見ても、1日で退院できるような傷ではなかったんだな?」

店長「もちろんさ。あんな傷が次の日にケロッと治ったりしたら人間じゃないよ」

勇者「……」


 勇者はしばらく顎に手を当てて瞑目していたが、やがて顔を上げると人虎を振り返った。



勇者「その病院へ行ってみるぞ。右の頬に火傷跡のある、小太りの医者……だったな」

店長「ああ。なあ、もしもあの子のことがわかったら……」

勇者「うまくすれば、近いうちに人虎はここに帰ってくるかもな」

店長「えっ」

人虎「!?」


 勇者は置き土産のようにそう言い残すと、早足でさっさと店から出て行ってしまった。

 我に返った人虎がそれに続こうとすると、彼女の背中に店長の声がかけられた。


店長「あ、あのさっ」

人虎「!」

店長「もしあの子に会ったら、伝えてほしいんだ……いつでも戻ってこいって! あんたの代わりは雇うつもりないからって!」

人虎「……」


 人虎は無言で立ち尽くすと、深々と一礼して、その場を立ち去った。

 獣と化してから緩やかに死んでいった心が、再び動き出す。

 帰る場所は見つけた。

 あとは、失った自分を取り戻すだけだ。

 

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今日はここまでということでよろしくお願いいたします。

それでは、ここまでご覧いただきましてありがとうございました。失礼いたします。


もっと酷い目に合うと予想してたけど、思ったより早く解決しそう



申し訳ありませんが、今日は諸事情により投下を見送らせていただきたいと思います。

調子が良ければ、明日か明後日には完結すると思われます。



このトラクロは、話の展開次第では第4章か第5章くらいで終わりになるかもしれませんね。まだ第3章なので、何とも言えませんが……

それでは、今日はここまでということで。失礼いたします。

ようやくキャラの設定や世界観がわかってきた所なので、個人的にはまだ続いて欲しいです


コメントありがとうございます。

まだ出すべき設定がどれくらいあるのかによって、終わるタイミングが決まりそうですね。


思いのほかペースが遅く、完結は明日辺りになると思われます。

それでは、投下していきたいと思います。よろしくお願いいたします。



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 病院の廊下を、2人の男女が手を繋いで歩いている。

 1人は、軍人でもないのに堂々と剣を携帯してする目の死んだ男。もう1人は、全身をくまなく衣類で覆い隠した少女。

 ……誰が見たって怪しさ満点な2人組だった。

 普通に考えれば、そんな彼らが病院などというデリケートな公共施設へ入るにあたって、何のお咎めも無いわけがない。

 しかし彼らの行く手を阻もうとした警備の人間は、勇者の顔を見とめた瞬間、深々と頭を下げてそそくさと去って行く。

 一部では良い意味でも悪い意味でも有名な勇者は、大抵の施設には顔パスで入り込むことができるのである。

 当然、そんな彼に手を引かれていた人虎を咎める声も、上がることはない。

 
勇者「おい」

人虎「……」


 人虎は呼びかけに反応して、少し前を歩きながら自分の手を引いている勇者の顔を見る。

 彼は澱み切った目をちらりと人虎へ向け、気だるげな声音で言葉を紡ぐ。




勇者「子爵という男とは、引き取られた時に初めて出会ったのか?」

人虎「……いえ、昔から、知ってました」

勇者「話せ」

人虎「……子爵さんは、私の兄の親友でした」

勇者「それだけか」

人虎「兄が生きていた頃は、私もよく遊んでもらいました……素直じゃない人、というのが、兄の子爵さんに対する評価です」

勇者「……」

人虎「私、じつは子爵さんの言ったことは信じてないんです……子爵さんが私を陥れたという話を」

勇者「素直じゃないから、か」

人虎「……はい。子爵さんが悪いということにしておけば、私は子爵さんを恨みます」

人虎「そうすれば、私の行き場のない怒りは、子爵さんに向きます」

人虎「そうしているうちは、私は絶望して死のうとは思わないから……」

人虎「……少なくとも子爵さんに復讐するまでは」

人虎「だから、子爵さんは憎まれ役を買って出てくれたんだと……そう、信じてるんです」

勇者「だといいがな」

人虎「きっと、そうです……子爵さんが私に、そんな酷いことをするはずがないんです……」



 歪んではいるものの、人虎の心の支えは子爵だけだった。

 わけもわからないうちに醜い化け物へと変えられてしまった自分を引き取り、匿ってくれた人。

 この世界で唯一の味方であり、恩人であり、英雄だった。

 そんな彼が、自分をバケモノに変えた元凶であるはずがない。そのようなことは、『あってはならない』のだ。

 そうなればいよいよ、この世界に救いなんてものは何一つなくなってしまうから。

 勇者は委員長の顔を思い浮かべ、無言で目を細めた。

 
人虎「理由はわからないけど……きっと子爵さんは私のために、第三王女という人に会いに行ってくれてるんです……」

勇者「……。」


 勇者の洞穴のような漆黒の瞳が、フードの影から覗く人虎の瞳を射抜く。

 まるで自分に言い聞かせるように希望的観測を並べる人虎は、しかし心の奥底では本気で言ってはいないように思えた。

 『そんなわけはない』とは心の底で思いつつも、『そうであってほしい』と強く希っている。

 自分には価値がないと考えている彼女は、そんなジレンマに押し潰されないよう、心にもない希望を口にするのだ。

 子爵の思惑は、正直なところ勇者にもわからない。勇者といえど、なんでもかんでもお見通しというわけではない。

 だからこそ勇者は、子爵のことはすべてファイバーに託し、自分は自分のやるべきことに集中する。


勇者「ビンゴだ」

人虎「!」


 右の頬に火傷跡のある、小太りの医者。

 白衣を窮屈そうに着たその医者は、曲がり角から現れて勇者たちとすれ違おうとしていた。

 勇者は素早く周辺へと視線を巡らせると、人虎と繋いでいないほうの手を、目にも留まらぬ速さで繰り出した。



-・-・-・-




-・-・-・-



 扉の前に『清掃中』という看板を設置した勇者は、再びトイレの中へと戻る。

 戻ってきた勇者の顔を見た医者は、恐怖と憤慨の入り混じった顔で声を荒げた。


医者「お、お前たち、こんなことをしてタダで―――」

勇者「黙れ」


 勇者の一言で、小太りの医者は喉をひきつらせて沈黙する。

 べつに勇者が剣を抜いたわけではない。魔法を放ったわけでもない。ただ、勇者から滲み出る殺気に気圧されたのだ。


勇者「心配しなくても、今から好きなだけ喋らせてやる。いくつか質問を持ってきたからな」


 窓際で腰を抜かしている医者の目の前で、勇者は腕を組んで仁王立ちする。

 その傍らに立つ人虎は、さきほどまでとはまったく雰囲気の違う勇者に少しだけ怯えていた。



勇者「半年ほど前……お前が施術した少女が病室から消えたな。それについて話せ」

医者「な、なんのことだ……」

勇者「知らないのか。じゃあ次の質問だ。……医者っていうのは、何本くらい指が残っていれば自分で治療できるんだ?」

医者「―――っ!?」

勇者「安心しろ。どれくらい痛めつけられると人間が死ぬのかは、俺が誰より知り尽くしてる。なんせ『勇者』だからな」

医者「ゆ、勇者だとっ!?」


 その名前に。勇者の冷たい瞳に。医者の喉が一瞬で干上がる。

 勇者の目は、あわよくば拷問をしないで済むように脅しているといった生ぬるいものでは決してない。

 その目は、すでに喋らなかった相手の『末路』を見ている目だった。

 そして……この医者に限らず、ある程度王宮との接点がある人間は知っている。

 かつて王国に出没する魔物を残虐に殺し尽くしていた男の名を。

 さらには王宮にさえ牙を剥いた男の名を。



勇者「拷問を受けるときのコツを教えておいてやる。最初に決めておくんだ。口を割るか、それとも死ぬか」

医者「ま、待て! 誰にそのことを聞いたんだ!? なにかの間違いじゃないのか!?」

勇者「人虎という名前だったらしいな……その少女は」

医者「うっ……!?」

勇者「おい、フードをとれ」


 勇者は傍らの少女に視線をやって、そう指示した。

 そしてフードやマフラーが取り除かれ、やがて現れたその顔を見て……今度こそ医者の顔に絶望の表情が浮かんだ。


人虎「……よくも、私をこんな姿に……」

勇者「もう既に、お前に聞くまでもなく事情はほとんど知っているんだよ。だからこれは、『質問』ではなく『確認』なんだ」

医者「ヒッ……!?」

勇者「少しは反省して謙虚な姿勢を見せると思っていたんだが……最後までシラを切り通すとは思わなかったよ」

人虎「……許さない」

医者「ま、待ってくれぇ! わ、私は、脅されただけなんだ! 本当だ! あの時も私はヤツに、いつか絶対にバレるからやめろと言ったんだ!!」



勇者「薄っぺらい遺言だな」

医者「ほ、本当なんだよ! 自分で言うのもなんだが、私は出世コースを進んでいる!」

医者「それに、王宮最大の病院で働いている時点で、かなりの地位だ!」

医者「それなのに、わざわざあんな危険なことをするメリットなんてあるはずがないんだ!!」

勇者「もうほとんど知ってると言っているだろう」

勇者「もしもこれから一言でも、俺たちの知っている事実と食い違っていることを言ったら……わかってるだろうな?」

医者「誓って真実しか言わない! 私は、あの男に脅されていただけなんだ!」

医者「細剣を突き付けられて、術後の彼女を運び出す手続きと口裏合わせを強制された!」

医者「私はあの件に、直接は関わっていない! 彼女を、あの悪魔のような連中に売り払ったのは……!」


 医者はおびただしい量の脂汗と、そして涙まで流しながら、必死に当時の状況を説明する。

 その様子は勇者と人虎の見る限り、嘘をついているようには見えなかった。

 ここまでの彼の言葉に、おかしな点や矛盾も見当たらない。

 しかしその直後、彼が口にした真実は……

 およそ想定しうる、最低最悪の結末だった。



医者「その男の名前は、たしか『子爵』! その子を売り払い、そんな姿に変えたのは……ヤツの差し金なんだ!!」


 ガタン、という音が室内に響いた。

 勇者が目をやると、それは人虎がよろけ、背後の個室のドアに背中をぶつけた音だった。

 人虎の瞳は激しく揺れており、まるで焦点を結んでいない。まともな精神状態とは、とても思えなかった。

 俯き、震えながら、自分の身体を抱きしめる人虎はうなされるように同じ言葉を繰り返し呟く。


人虎「……うそだ、うそだ、うそだ……」

医者「ほ、本当なんだ! そもそも私は、人間と魔物を合成させるようなイカレた科学者集団なんて、まったく知らなかった!」

人虎「うそうそうそうそ……だって子爵さんは、私を助けてくれたんだ……うそだ……子爵さんが……」

医者「……なんだって? その男と会ったことがあるのか……?」


 医者が怪訝そうな表情を浮かべた、その時。


人虎「うそだぁぁぁアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 人虎の瞳孔が縦に裂ける。

 ナイフのような鋭い爪が飛び出し。手をついていた個室のドアが激しい音を立てて抉れる。

 人虎は爆発的な勢いで医者に向かって飛びかかり―――しかしその直前、2人の間に勇者が飛び込んだ。



勇者「人虎!!」

人虎「ガァァアアアアアアアッ!!!!」


 人虎は正気を失っている。ここは『勇者』として、彼女を『魔物』とみなし斬らなければならない。

 勇者は油断なく身構えながら剣の柄を握る……が、しかしどうしても剣を抜くことができなかった。

 人虎はその一瞬の隙をついて、凄まじい跳躍力でトイレの窓を破り、外へと飛び出してしまう。


勇者「くそっ……!」


 ここは病院の三階。勇者といえど人間だ。こんな高さから飛び降りればただでは済まない。

 けれどそんなことを言っていられる状況でもない。勇者は人虎の破った窓枠に足をかけ……

 しかしその直前で動きを止め、医者を振り返った。

 そしてすっかり怯えてうずくまっている医者の胸ぐらを掴むと、怒鳴りつけるように言葉を投げかけた。


勇者「答えろ、最後の質問だ……!!」



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王女「この子が、私の妹になった三女ちゃん」


 嬉しそうに笑う第二王女が、隣に腰掛けた少女を示してそう言った。

 三女と呼ばれた少女……第三王女は、薄紫の髪を備えた頭をぺこりと下げる。


三女「三女。よろしく」


 三女はなんとなく引っかかるイントネーションで自己紹介をした。どうやら言葉はあまり堪能ではないらしい。

 やや表情が少なく人間味に欠ける三女は、クリッとした宝石のような瞳でファイバーと子爵を交互に観察している。

 子爵は咳払いを一つして注目を促すと、胡散臭い笑顔で三女に語りかけた。


子爵「お初にお目にかかります。私、子爵と申します」

三女「シシャク?」

子爵「ええ。貴女のお噂はかねがね聞いておりますよ。なんでも戦わずして魔物を追い払ったのだとか。その歳で大した胆力です」

子爵「貴女にどうしてもお会いしたく思い、今日は無理言ってこういった場を設けていただいたのですが……」

子爵「実際にお会いしてみると、なんとお美しいことか!」

三女「うつくしい?」

子爵「そうです! 私はこれまで多くの女性とお会いしてきましたが、貴女ほどの女性には未だ巡り合ったことがありません」

子爵「もしかすると、私は貴女と出会うために生まれてきたのかもしれません。いえ、きっとそうです! これは運命!!」



 歯の浮くようなセリフをのべつ幕なしにまくし立てる子爵。

 その様子を見ていた王女が引きつった笑みを浮かべてファイバーへと視線をやるが、彼女は虚ろな目を細めてだんまりを決め込んでいた。

 一方、そんな胡散臭さ極まる言葉を浴びせかけられた三女はというと、


三女「……?」


 子爵のセリフ回しが難解でうまく伝わらなかったのか、目を丸くして首を傾げていた。

 子爵は内心で舌打ちして、作戦を練り直す。

 三女とかいうこの少女が、ここまで幼い雰囲気だというのは想定外だった。

 第二王女がたしか17歳なので、それより下ということは覚悟していたが……

 女性というよりも少女である三女を、この場で即座に口説き落とすことはできそうにない。

 しかしあまり悠長にしていられるわけでもない。相手は仮にも王族……これから何度も会えるわけではないのだ。

 そう結論付けた子爵は、仕方なく直球勝負に打って出ることにした。



子爵「……三女さん。貴女が『元』魔物だということを、私は知っています」

三女「!」

王女「えっ、そうなの!?」


 これは王女も初耳だったらしい。驚きの声を上げながら、王女は三女を振り返った。

 子爵はそれを無視して、強引に話を進める。


子爵「そして貴女が、なんらかの魔道具の力によって『人間になった』ということも」

三女「……すごい。みんなの人には、まだナイショなのに」

子爵「貴女の言語能力を鑑みるに、おそらく貴女が人間になった……あるいは人間社会に参入したのは最近なのでしょう」

子爵「その魔道具は、今も持っているのですか」

三女「……いま、もってない」

子爵「!!」


 子爵の心に絶望の影が差す。これが最後の希望だったというのに、それさえも潰えてしまった。

 もはや打つ手はない……と目を伏せて俯く子爵に、三女はケロッとした顔で、


三女「部屋にある、から……いま、もってない」

子爵「…………」


 ちょっと目を血走らせながらも、子爵は怒りを抑えこんで笑みを浮かべる。



子爵「……それは今すぐに、誰にでも、何度でも使用できるのでしょうか?」

三女「強い、魔力いる」

子爵「魔力ですか。貴女は使用できますか?」

三女「できない」


 子爵は渋面を浮かべると、前のめりになりつつ質問を重ねる。


子爵「では、誰ならば扱えるのでしょうか? 魔法使いや魔物でしょうか?」

三女「わからない。強い、魔力の人」

子爵「貴女が使ったときは、誰が使ってくれたのです?」

三女「ママ。夢魔の魔人。使ってくれて、私、人間になった」

子爵「貴女の母君は、今どこに?」

三女「……死んだ。その道具、使ったから、魔力、使いすぎる」


 情報を整理すると、つまり三女は先々代国王と夢魔の魔人との間に生まれた存在。

 しかし何かしらの事情によって、三女は人間になった。

 そしてそのために、彼女の母親である夢魔の魔人が、魔道具を使用して死亡した……ということらしい。

 ほとんど魔力の塊のような存在である魔人でさえ、使用すれば反動で干からびてしまうような魔道具。

 犠牲を出さずにそんなものを使うアテは、残念ながら子爵にはない。



子爵「……っ」


 拳を握りしめ、打ちひしがれる子爵。

 そんな彼の様子を不思議そうに見ていた王女は、気になって訊ねてみた。


王女「誰か、人間にしたい魔物がいるの?」

子爵「……ええ」

三女「人間になれるの、魔人と、ちょっと人間、だけ」

子爵「彼女は元人間です。人間の血が半分である貴女が使えるのなら、彼女にも使えるはずです」


 王女はファイバーへと視線を移して、


王女「ねぇ、ファイバー。どうして今日は、勇者さんとダンピールくんがいないの?」

ファイ「……子爵が、依頼内容を偽った。だから私だけ」

王女「偽った? なにか言えないような事情でもあるの?」

三女「悪い人なら、道具、あげない」

子爵「……」


 3人から視線を注がれた子爵は、しばらく口を噤んでいたが……

 やがて、意を決したように口を開いた。


子爵「……隠し通すことはできそうにありませんか。あまり自分の汚点を晒したくはなかったのですが……」

子爵「気は進みませんが、そういうことなら聞いていただきましょう」

子爵「……私の引き起こした、事の顛末を」



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-・-・-・-



子爵「お邪魔しますよ」

庭師「ああ、上がってくれ」

子爵「お久しぶりですね。お仕事は順調ですか?」

庭師「まぁ、ぼちぼちだな。あんまいい暮らしとは言えないが……身分を捨てても食っていけてるだけマシさ」

子爵「没落貴族は大変ですね。だから再三に渡って、私の家で面倒を見て差し上げても構わないと言っているのに」

庭師「そこまでしてもらうのは悪いって。幼馴染だからって、甘えすぎるわけにはいかない」

子爵「やれやれ、無駄にプライドが高いというのは困りものです」

庭師「お前にだけは言われたくなかったよ……ああそうだ、妹が飯作ってるんだが、食べていかないか? 仕事回してもらったお礼にさ」

子爵「ほう、人虎さんが。いつの間にやら料理もするようになったんですね」

庭師「まあ始めたのは結構最近だけど。2人で暮らしてると、どうしてもな」

子爵「きちんと花屋で働いて生活を支えているそうですし、料理もしてくれるとは。しっかり者の妹さんがいて羨ましい限りですよ」

庭師「いやいや、今日はお前が来るって言ったら急に張り切りだしてな。まともに食えたもんかわかったもんじゃ……痛っ!?」

人虎「……。」



庭師「あ、あはは……人虎、もう作り終わったのか?」

人虎「……お兄ちゃんの分はないけどね。子爵さん、行きましょう」

子爵「は、はぁ……」

庭師「悪かったって! いっぱい練習してるから、こいつの飯はほんとにうまいぞ」

子爵「それは楽しみです。人虎さんは、いいお嫁さんになりますね」

人虎「う、うん……」

庭師「にやけてるぞ……痛っ!?」

人虎「……うるさい」

庭師「ま、まあこれを食えば、今度の戦争も無事に乗り切れるさ!」

人虎「……やっぱり、戦争行っちゃうんですか……?」

子爵「貴族というのは、真っ先に兵士として志願しなければならないのですよ」

庭師「俺も没落してから身分を捨てたとはいえ、志願しなくちゃ世間が許さないからな。まったく、世知辛いよ」

人虎「2人とも、ちゃんと帰って来てね……?」

子爵「ふっ。私は頭脳も剣術も魔法もずば抜けておりますので、そういった心配はご無用ですね」

庭師「やれやれ……まぁ、そんなに心配しなくたって、このナルシストは俺が守ってやるさ」

人虎「……うんっ」



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庭師「………………。」

子爵「な、んで……私を庇ったんです……」

庭師「……約束、したからな」

子爵「人虎さんはどうするんです!?」

庭師「…………すまん。任せた」

子爵「任せたって、そんな……!」

庭師「……第一王子がやられたという話が本当なら……ここも危ない……俺を置いて、一旦退け」

子爵「バ、バカなことを言わないでください……医療魔術師がいるところまで戻れば……!」

庭師「そんなの無理だって……わかるだろ……。お前まで死んだら、人虎はどうすりゃいいんだ……頼むよ、子爵……」

子爵「くッ、くそ……ちくしょう!!」

庭師「……あいつ、お前に惚れてるからさ……まぁ、その……気にかけてやってくれ……」

子爵「そんなの、無責任だぞ、お前……!!」

庭師「敵がそこまで来てる……早く、行け……」

子爵「…………すまない……っ!!」

庭師「……ありがとな」



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人虎「……そ、そんな……」

子爵「……申し訳、ありません」

人虎「やめてください……子爵さんが謝ることなんて、ないじゃないですか……」

子爵(違う……私が油断しなければ、あいつは……)

人虎「お疲れでしょうに、わざわざ、ありがとうございます……あの、良ければ……その、ご飯、食べていきませんか……?」

子爵(言え、私のせいであいつが死んだと……言わなければ……!)

人虎「……子爵さん?」

子爵「す、すみません、これから用事がありますので……」

人虎「あっ……そう、ですか」

子爵「それでは」

人虎「……は、はい……」

子爵「失礼します」

人虎「………………。」

子爵(どのツラ下げて、私が彼女を慰めればいいんだ……あいつは私が殺したも同然だというのに……それでは偽善者もいいところだ)

子爵(すまない、庭師……だが、人虎さんはどんな手を使ってでも幸せにしてみせる。彼女の幸せを、裏側から支え続けてみせるよ)

子爵(そのためには……私が自由に使える力が、金が、地位が必要だ。この王国の『闇』に精通してでも、功績を上げて見せる)

子爵(……くそ……なぜさっき、あいつの死は私のせいだと言えなかったんだ……!!)



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子爵「なにをふざけたことを……!! 貴様、それでも医者か!?」

医者「そ、そう言われましてもですな。私も手は尽くしたのですが、しかしここまで脳が損傷を受けているとなると……」


 人虎「―――」


医者「……おそらく、もう二度と目を覚ますことは……」

子爵「そんな馬鹿なことがあってたまるか……! か、金か!? いくら出せばいい!? 言え!! いくらでも出すぞ!!」

医者「で、ですから無理なものは無理なのです! 聞き分けてください!」

子爵「あいつに、た、頼まれたんだ……約束したんだよ……本当に、どうにもならないのか……!?」

子爵(私が、人虎さんが引き取っておけば……こんなことには……)

医者「魔物でもあるまいし、失われた臓器の再生には限界があります。それに、昏睡状態を維持するのにも限界が……」

子爵「……魔物……魔物だって……?」

子爵(そうだ、そういえばこの前尻尾を掴んで泳がせておいた、あの連中……ヤツらは人間と魔物を合成する実験をしていたのではなかったか)

子爵「人間の回復力には限界があっても、魔物を合成すれば、もしかしたら……」

医者「な、なんだって……!?」

子爵「そうだ、ダメで元々なら手を尽くしてみよう。おい、この子をある研究所に移す手続きをしろ」

医者「なにを馬鹿な! そんなことが許されるわけが……! それにいつか絶対にバレる! そうしたら懲役なんかじゃ済ま……ぐっ!?」

子爵「今ここで私に斬り刻まれるのと、バレない可能性に賭けるのと」

医者「ひっ……!?」

子爵「どちらが賢いか、考えろ」


 人虎「―――」



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人虎「……お邪魔、します……」

子爵「ッ!!」

子爵(こ、これが……人虎さん……!?)

人虎「…………見ないで、ください……こんな醜い姿……」

子爵「人虎さん、ですか?」

人虎「……はい」

子爵「今日から、私の屋敷で住んでいただきます」

人虎「はい……こんなバケモノを、引き取ってくださって……なんとお礼を言ったらいいか……」

子爵(……ち、違う、私は……こんなはずでは……!!)

人虎「子爵さんは、私の恩人です……子爵さんのためなら、どんなことだってします……」

子爵(これでは、まるっきり偽善者ではないか……!!)

子爵「……ふっ、ははは、ははははっ!」

人虎「……子爵さん?」



子爵「なにを間抜けなことを言っているのですか? 貴女がそんな姿になったのは、私の指示だというのに!」

人虎「…………え?」

子爵「私が恩人? ハッ、馬鹿馬鹿しい! 言われなくとも、貴女のことは利用するつもりですよ! 兵器としてね!!」

人虎「なに、言って……」

子爵「はははははッ! 憎みたければ私を殺せばいい。もっとも、私以外に貴女のような存在を匿ってくれるアテがあるのならね!」

子爵「貴女を引き取ったのは、器の大きく慈悲深い領主を演じるため。そして有用な戦力を確保するため」

子爵「ゆくゆくは王女を手に入れるための、貴女は布石に過ぎないのですよ!」

人虎「え……あ……」

子爵(……彼女の姿をどうにかするまで、私を彼女の憎悪の対象に設定しよう。もっとも、設定もなにも事実だが)

子爵(人虎さんが完全な魔物となる前に、そして彼女が馬鹿なことを考える前に、なんとしてでも元に戻す方法を探さなくては……)

子爵(今さら善人ヅラをするつもりもない。全てが終わるまで、私は討たれるべき宿敵に徹する)

子爵(そして彼女を元に戻すことができたら、その時は……)

子爵(私の死をもって、幕を引こう)



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今日はここまでということで、よろしくお願いいたします。

明日辺りには終わりそうな雰囲気です。ちなみに、ちゃんとダンピールも出てきます。


ここまでご覧いただき、ありがとうございました。それでは、失礼いたします。

いい展開だ

乙です
今の所大きな問題は人虎の精神ですね


金と権力が好きな子爵が友達思いのいい人になってた


コメントありがとうございます。

良い人にしよう良い人にしようと考えていたら、思いのほか情に厚い人になってしまいました。



現在最終局面を書いているのですが、どうにもまだかかってしまいそうです。

とてもキリが悪いので、申し訳ありませんが明日まとめて投下するということでよろしくお願いいたします。

それで良いですよ


それでは、第3章のラストを投下させていただきたいと思います。



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 すっかり陽も傾き、空は橙色と藍色のグラデーションに覆われていた。

 既に半分ほど王国の外周壁に隠れつつある夕陽の日差しを浴びながら、ダンピールは倦怠感を隠そうともせずため息を漏らす。


ダンピ「だからよぉ、どっちでもイイっつの……」

女勇者「師匠! ちゃんと選んでくださいっ!」


 店内から2着の服を示してくる女勇者に、ダンピールは目を細める。

 服なんてどんなものを着ても同じだと考えているダンピールは、女勇者がどうしてそこまで衣服にこだわるのか理解に苦しんだ。

 ちなみにダンピールはいつも、わざわざ引き裂いたような、やけに露出の多い薄着を着用している。

 勇者業の3人の中でも、その性質や性格のせいで前衛を担当することの多いダンピールは、圧倒的に攻撃を受けやすい。

 もちろん肉体の損傷はすぐに回復するものの、しかし破れた衣服は戻らない。

 そのため彼は、いつも犯罪の匂いがする刺激的な格好に甘んじているのである。

 そんな彼にとって衣服とは、「最悪、局部さえ隠しときゃいいんだろ?」といった程度の存在なのである。

 ……ましてや女の子の服ともなれば、死ぬほどどうでもいいわけで。



ダンピ「あー、じゃあそっちでいいよ、そっちで」

女勇者「すっごい適当ですね……」

ダンピ「こういうのを俺に訊くんじゃねぇよ。ファイバーに訊け、ファイバーに」

女勇者「師匠に訊くから意味があるのに……」


 と言いつつも、ダンピールが適当に指さした方の服を買って、店から出てくる女勇者。

 やれやれようやく帰れそうだ……とダンピ―ルが安堵していると、女勇者が怪訝な顔をして夕陽の方角へ視線をやっていた。


女勇者「師匠、あれって……」

ダンピ「あぁ?」


 女勇者が指さした先には……


人虎「………………。」


 背後の夕陽を照り返す、輝く白い毛並み。

 衣服を身に纏っているため、一見するとシルエットこそ人間にも見えるが……その存在は明らかな異形。

 平和な王国の街並みには似つかわしくないソレは、荒い息遣いで立ち尽くし、縦に割れた瞳孔でこちらを見据えている。



ダンピ「なんだぁ、ありゃ……?」

女勇者「魔物……獣人? どうやって王国の中に……」


 2人がその異形の出方を窺っていた、その時。


人虎「ガァァアアアアッ!!」


 突然、野獣の咆哮をあげた白い獣人は、驚異的な速度で大通りを駆け抜けて2人へと迫る。

 戦闘経験の浅い女勇者は、そこで驚きのあまり硬直してしまった。


ダンピ「引っ込んでろボケ!!」


 咄嗟に女勇者を突き飛ばしたダンピールが、直後、白い獣人の攻撃を受けて吹っ飛んだ。

 ナイフのような爪で腹部を抉られたダンピールは、血をまき散らしながら数メートル宙を舞い、服屋の正面に店を構えていた武器屋へと突っ込む。


女勇者「し、師匠!?」


 もしもダンピールが冷静だったなら、いくら正面から夕陽を浴びていたにしても、こんな醜態は晒さなかっただろう。

 女勇者の後ろに移動するか、あるいは獣人の足元に飛び込むかして吸血鬼の力で瞬殺できたはず。

 それができなかったのは、つまり彼もあの瞬間、それだけ焦っていたということに他ならない。

 自分のせいだ、と女勇者は歯噛みした。



人虎「グァァアアアアアア!!」


 再び雄叫びをあげた白い獣人の振り回した腕が、傍らの街灯を中途からへし折った。

 それは破損部を支点としてゆっくりと倒れ……その先には運悪く、赤ん坊を連れた女性が立ち尽くしている。


女勇者「危ないっ!!」


 女勇者の身体から見えない力が噴出すると、親子に迫っていた街灯がひしゃげて吹き飛ばされた。

 そして事なきを得た親子から視線を戻した女勇者は、目前まで迫っている獣人に気が付く。


女勇者(しまっ―――!?)


 毛むくじゃらの手から伸びる凶悪な爪が、女勇者の腹部を捉えた。

 そして女勇者は服屋の壁に叩き付けられ、さらに間髪入れずに飛びかかった白い獣人による追撃が加わろうとした。

 その時、夥しい数の刃物が飛来してきたことで、獣人はその場から慌てて飛び退る。

 それらは、先ほどダンピールが突っ込んだ武器屋から投擲されたものだった。



人虎「……ッ!?」


 薄暗い武器屋の奥から、おぞましい殺気が迸る。

 それを敏感に察知したらしい獣人は、逃げるようにこの場を後にした。

 やがて夕陽が完全に外周壁の向こうに隠れると、すっかり暗くなった街道にダンピールが姿を現した。


ダンピ「……。」

女勇者「……師、匠」


 ダンピールは無言で女勇者の元まで歩み寄ると、彼女の腹部を確認する。

 傷は痛々しいものだったが、思いのほか深くはない。

 いつぞやと同じように、体内に残っていたもう1体の犬神で無意識に防御したのだろう。

 それに『歯形』と同様に回復も始まっているらしく、早くも出血は止まっているようだった。

 しかしダンピールは、いつもの軽口や罵倒を口にすることもなく、ただ女勇者の傷口を見つめて沈黙していた。



勇者「……これは」


 そこへ、病院から人虎を追って走ってきた勇者が路地裏から現れた。そして周囲の惨状を見て絶句する。

 街道を歩いていた人間は軒並み腰を抜かしていて、街灯は吹き飛び、そして勇者もよく見知った少女が血を流して倒れている。

 ぐったりした女勇者の前にしゃがみ込むダンピールに、勇者は恐る恐る近づいていく。


勇者「……ダンピール」


 呼びかけられたダンピールは顔をあげず、純白の髪で表情は窺えない。

 しかしその小さな身体からは、かつてないほどの殺気が溢れ続けていた。


ダンピ「……なぁ、勇者……あれ、お前の獲物か?」

勇者「……依頼人だ。今は、暴走しているが……」

ダンピ「お前がついてて、なんでこんなことになんだよ……なにやってんだよ、お前……」

勇者「……すまない……」


 ダンピールは勇者を糾弾するような言葉を紡ぐが、しかし実際のところ責めている対象は勇者ではなかった。

 お前がついてて、なんでこんなことになる……それは、そっくりそのまま自分にも当てはまる。

 魔人である自分がすぐ目の前にいて、どうしてたった1人の少女も守れなかったのか。それを責めているのだった。



ダンピ「……殺す……文字通り体を八分割して……八つ裂きにしてぶっ殺してやる……あンのクソネコがァァアアアアアッ!!!!」


 ダンピールの褐色の肌が、見る見るうちに青白く染まっていく。

 ショートカットだった純白の髪が爆発的に伸び、瞳は血のような真紅に輝く。


勇者「待て、ダンピール」


 平静さを失っているダンピールの細い腕を掴む勇者だったが、


ダンピ「ここで血を流して倒れてんのが委員長ちゃんでも、同じこと言えんのかテメェはッ!!」

勇者「……っ」


 ダンピールの腕を掴んだ勇者の手が、ゆっくりと力を失っていく。

 しかし。

 その離れかけた勇者の手ごと、ダンピールの腕を女勇者が掴んだ。


勇者「!」

ダンピ「女勇者……?」

女勇者「勇者さんの、依頼人ってことは……あの獣人さん……「たすけて」って、言ってきたんですよね……?」

勇者「……ああ」

女勇者「なら、師匠……あの人を、助けてあげてください……私からも、依頼しちゃいます……えへへ」



 腹部の痛みをこらえ、無理して笑顔を作る女勇者。

 その健気さに、ダンピールは殺意に満ちた表情をゆっくりと消してゆき……


ダンピ「……勇者。こいつを病院に連れてけ。あのクソネコは俺が追う」

勇者「ダンピール……」

ダンピ「お前の足じゃ追いつけねぇし、なによりお前、手加減ってのが一番苦手だろ。俺に任せろ」

勇者「……すまない、頼んだぞ」


 ダンピールは音もなく一瞬で消えると、直後には王国の上空へと飛び上がっていた。

 そして紅く輝く瞳を高速で動かし、すぐにその瞳は1つの影を捉える。

 馬車を追い越すような速度で走る、白い影。

 それはどうやらまっすぐに、ある建物へと向かっているようだった。


ダンピ「目的地は……王宮ってわけかよ」


 マントのように広がっていた純白の長髪がより合わさって、ダンピールの背中に一対の大きな『翼』が形成される。

 さながら天使の如き姿となったダンピールは、即席の翼を巧みに制御することで風を掴み取り、目標へと急降下していく。



-・-・-・-



-・-・-・-



 王宮の、とある一角。

 三女にあてがわれているという部屋の前で、子爵、ファイバー、そして王女と三女が向かい合っていた。


三女「これ、道具。人間になる」


 そう言って三女が部屋から持ってきたのは、小さな巻物だった。

 子爵は恐る恐るそれを受け取って広げてみる。すると中には、赤いインクで不思議な絵が描かれていた。

 王女とファイバーも、左右から巻物をのぞき込む。


子爵「これは……シャンデリアでしょうか」

王女「キャンプファイヤーじゃないかな?」

ファイ「……天体」


 どうとでも解釈できそうな絵の内容はともかくとして、子爵はその巻物の表や裏を注意深く観察してみる。

 しかしこれといって特殊なところは見当たらない。手触りは、ややしっとりした羊皮紙のようだった。



子爵「これはどう使うのですか?」

三女「相手、近くで見せる。魔力、使う」

子爵「この絵が描いてある面を相手に見せて、この巻物に魔力を注ぎ込む……ということですか?」

三女「そう。でも」

子爵「……でも?」

三女「消せるの、出してる魔力だけ」

子爵「どういう意味です?」

ファイ「……本気で戦う。本気で魔力を使わせる。100%」

王女「えっと、つまり使ってない魔力は吸収できなくって……」

王女「せっかく必死に発動しても、引き出してなかった魔物成分が残っちゃうってこと?」

王女「60%くらいしか力を使ってなかったら、残りの40%は残っちゃう……みたいに」

子爵「それは……難しいですね。暴走しているときでも、彼女が100%の力を出しているとは限りませんし……」

三女「2回、3回でも、大丈夫。けど、すごい大変」

王女「たった1回使うだけでも、すごく魔力を消費しちゃうんだもんね……」

ファイ「……大丈夫」

王女「え?」

子爵「なにか良いアイデアでもあるのですか?」

ファイ「……怒って、外に来てる。人虎」


 ファイバーがそう言ったのと同時に、廊下の奥から慌ただしい足音が聞こえて来た。


メイド「お、王女様、三女様! 王宮の庭園で魔物同士が戦っておりますので、お部屋にお戻りくださいませ!」



-・-・-・-



-・-・-・-



 月明かりに照らされた王宮庭園で、2つの白い影が激突する。

 とはいえ両者は拮抗しているとはとても言えない有様で、どちらが圧倒しているのかは一目瞭然だった。

 見た目8歳ほどの少年が放つ蹴りを受けた白い獣は、何度もバウンドしながら数十メートルも吹き飛ばされて、石像に衝突する。

 白く美しかった毛並みは、さまざまな汚れによって見るも無残なものだった。

 それでもガクガクと震える四肢を無理やりに動かして、人虎は必死に立ち上がろうとする。

 そうだ、こんなところで倒れている場合ではない。自分の目的は、すぐそこにあるのだから。

 音もなく彼女の目の前に降り立った少年が、人虎を冷たい瞳で見下ろす。


ダンピ「……テメェ、もうとっくに正気は取り戻してんだろ?」

人虎「……っ」

ダンピ「今すぐテメェを八つ裂きにしてやりてぇところではあるが……どうやらテメェに『お客さん』みてぇだぜ」


 そう言ってダンピールが顔を向けた先には……

 人虎が今、もっとも会いたいと思っていた人物が立っていた。

 絢爛な王宮の明かりを背にした長髪の男―――子爵。



子爵「……人虎さん」

人虎「…………子爵、さん……」


 人虎は必死に立ち上がろうとしていた四肢から力が抜けていくのを感じる。

 さっきまで、あれだけ憎悪の炎を燃やし、殺してやろうと思っていた男が目の前にいる。

 それなのに……自分を心配そうな顔で見つめる彼を見た途端、心のどこかで燻っていた人間の心が、再び目を覚ますのを感じた。

 子爵は臆せずに人虎へと歩み寄り、やがて互いの距離が数メートルとなったところで足を止めた。


子爵「ここに、なにをしに来たんですか?」

人虎「……し、子爵さんを……殺して、私も死にます……」

子爵「私は貴女なんかと一緒に死ぬつもりはありませんよ。今日ここで死ぬのは1人だけです」

人虎「……っ……本当に、子爵さんが、全部仕組んだんですか……?」

子爵「私は貴女に嘘をついたことはありませんよ。わざわざ私の口から親切に教えて差し上げた通りのことが、すべて真実です」

人虎「……そう、ですか」


 人虎はボロボロの身体をゆっくりと支えて起き上がる。

 子爵も、王宮で拝借した細剣を抜いて構える。



子爵「生き残るのは『人間』1人です。貴女程度では私の足元にも及ばないとは思いますが、せいぜい全力でかかってくることですね」

人虎「……ガァァアアアアアッ!!!!」


 人虎は石畳を踏み砕く勢いで突進し、子爵もそれを紙一重で横に跳んでかわす。

 そして振り向きざまに振るわれた子爵の細剣が、人虎の爪によって弾かれた。

 丹念に整備されつくした王宮庭園の中央で、何度も激しい火花と金属音が炸裂していく。


人虎「グァァアアアア!!」

子爵「……っ」


 人虎の振るった腕を、寸でのところで避ける子爵。

 背後の石像が大きく抉れる音を聞いた子爵は、何かを呟き、手のひらから炎を生み出す。


子爵「燃えなさい!」


 薙ぎ払うような炎の鞭を、人虎は俊敏な身のこなしで器用にかわしていく。

 そして一気に懐まで潜り込んできた人虎に、子爵は目にも留まらぬ剣捌きで応じる。

 一瞬でも気を抜けば命取りとなるその攻防の中で、しかし子爵は見てしまった。

 瞳孔が縦に裂け、正気を失っている人虎の瞳に……涙が浮かんでいるのを。



子爵「―――ッ」


 子爵の振るった細剣が、根元から折れて宙を舞う。

 ほんのわずかな気の迷いから生じた剣閃のズレが、細剣に負担をかけた結果だ。

 直後、人虎の蹴りを受けた子爵は凄まじい勢いで吹っ飛ばされ、石畳に転がされた。

 内臓がおかしな動きをしている。子爵は吐き気をこらえながら、ゆっくりと近づいてくる人虎を見上げた。

 そしてさりげなく、懐にしまい込んでいた『巻物』を取り出す子爵。


人虎「……子爵さん。お兄ちゃんがいなくなってから、私の心の中には子爵さんだけしかいませんでした」

人虎「子爵さんが悪いことをするなんて、そんなわけないです……そう、ですよね……?」

子爵「………………。」


 手放した人間性を強靭な意志だけで繋ぎとめている人虎は、事ここに至っても子爵を信用したがっていた。

 たとえ明らかな嘘でもいいから、子爵に綺麗ごとを口にしてもらうことを願っていた。

 しかし彼女の望みをかなえてやることはできない。

 子爵はこの戦いの中で、彼女の『100%』を引き出さなければならないのだから。



子爵「本当に……おめでたい兄妹ですね」

子爵「この際だから、教えて差し上げますよ。貴女の兄を殺したのは、私なのです」

人虎「―――え?」

子爵「私が例の研究所と繋がっていることを、あいつは気づいてしまったのです。だから戦争のドサクサに紛れて殺しました」

人虎「う、そ……ですよね……?」

子爵「滑稽でしたよ……あいつも貴女のように、私を最後まで信じて死んでいったのですからねぇ」

子爵「どこまでも間抜けな男ですよ、貴女の兄は!!」


 彼女の幸せだった過去の象徴である兄への侮辱。

 それが引き金となり、ついに人虎が本気の敵意を向けて子爵へと襲い掛かった。


人虎「ガァァアアアアアアアアッ!!!!」

子爵(引き出した―――『100%』!!)


 飛びかかって来た人虎へ向けて巻物を広げると、子爵はありったけの魔力を流し込む。

 すると次の瞬間。巻物から迸った無数の赤い光球が、まるで炎のように人虎へと殺到してまとわりついた。


人虎「―――ッ!?」



 瞬く間に赤い光に包まれた人虎は、なにがなんだかわからずに立ち尽くす。

 よく見れば、赤い光に触れた彼女の白い毛並みが次々と燃えるようにして消失していた。

 熱いというよりむしろ、春の日差しのような温かさの光。その中で人虎が見たのは、見る見るうちに衰弱していく子爵の姿だった。

 明らかに異常な汗を流し、顔色は死体のような土気色。巻物に触れている指先の皮膚が、枯葉のようにひび割れていく。

 人虎の身体はまだ半分も治っていない。それなのに、すでに子爵の魔力はほとんど底を尽きかけていた。


子爵(……ああ、くそ……)


 魔人から生まれたハーフである三女と違って、人虎はただの魔物を足されただけの不完全な存在。

 だからこそ消費する魔力も少ないのではないか……という子爵の読みは的中していた。

 しかしそれでも、圧倒的に魔力が足りない。


子爵(やはり私では駄目なのか……)


 巻物から放出される赤い光が、目に見えて減っていくのがわかる。もはや絞りカス同然の魔力が、もうじき空っぽになる。

 ゆっくりと頭に霧がかかるように意識を手放していく子爵。それは安らぎとは程遠い、冷たい眠りに他ならない。

 しかし遠のいていく意識の中で、子爵は最後に見た。

 自分のひび割れた手を、横から掴む力強い手を。


勇者「死ぬなよ。お前には、まだやるべきことがあるんだ」


 巻物から放出される赤い光が、爆発的に増加する。

 そして―――



-・-・-・-



-・-・-・-



女勇者「あっ、師匠! またお見舞いに来てくれたんですか?」

ダンピ「……まぁな」


 自分よりも元気な入院患者に、ジトッとした目を向けるダンピール。

 女勇者は味の薄そうな病院食の食器を置いて、嬉しそうに微笑んだ。


女勇者「さっきまで武闘家ちゃんと魔法使いちゃんも来てくれてたんですよ」

ダンピ「今そこですれ違ったっての」


 ダンピールはベッド脇に椅子を置くと、腰を下ろして胡坐をかいた。


ダンピ「傷の具合はどうだ?」

女勇者「もう全然へっちゃらですよ。ほら」


 女勇者が服をまくって腹部を露出する。確かに彼女の言う通り、もうどこに傷があったのかもわからなかった。

 しかしダンピールは女勇者の手を握って、じつに真剣な面持ちでこう言った。


ダンピ「女勇者。お前はたしかに犬神という特別な力を持ってる。けどな、お前だって元は普通の女の子だ」

ダンピ「本来なら死んだっておかしくないような傷なんだ。もうちっと大事をとって、ゆっくり休んでくれ」

女勇者「―――っ!!!!」



 女勇者は感極まって、思わず泣きそうになってしまった。

 普段は不愛想でぶっきらぼうで、じつは嫌われてるんじゃないかと思ったりすることも何度となくあったが……

 いざというときは守ってくれるし、自分が傷つけられたら本気で怒ってくれた。そして極めつけは、今の言葉である。


女勇者「師匠……わかりました! もうしばらくは大事を取ろうと思います!」

ダンピ「ああ、それがいい」


 ダンピールと女勇者が微笑み合った、その時。

 病室の扉が開いて、その向こうから勇者が現れた。


女勇者「あ、勇者さん……」

勇者「先日はすまなかった。俺の判断ミスのせいで、怪我を負わせてしまった」

女勇者「だ、大丈夫ですよ……? この通り、ピンピンしてますから。怪我も治りましたし」

勇者「そうか。もうすぐ退院できそうだな」

女勇者「あ、でも退院は―――」

勇者「お前が退院してくれれば、ようやくダンピールとの添い寝から解放される」

女勇者「………………んん?」


 勇者の言葉に、なにか強烈な引っ掛かりを覚えた女勇者。



女勇者「……どういう、ことですか?」

勇者「今回の一件で俺は、なにも役に立っていなかったからな。それにダンピールの大切な弟子を傷つけてしまった」

勇者「だからお前が退院するまで、ダンピールと添い寝してやることを約束させられたんだ」


 女勇者がダンピールを見ると、彼は思いっきり目を泳がせながら変な汗をかいていた。

 今の話と、そして先ほどまでの話を統合すると……


女勇者「……師匠。まさか……まさかとは思いますけど、私を退院させたがらなかった理由って……」

ダンピ「……。」

女勇者「師匠が頻繁にお見舞いに来てくれるのって、私の怪我が『治ってるか』じゃなくて『治ってないか』を見に……」

ダンピ「……。」


 ガリッ、ゴリッ、というおぞましい音と共に、病室の至るところに『歯形』が生じる。

 勇者は無言で後ずさりすると、静かに病室を後にした。

 夫婦喧嘩は犬も食わないというが、きっとこれからダンピールは犬に食い散らかされることだろう。



-・-・-・-



-・-・-・-



 花瓶に花を活けていた人虎は、隣の病室から聞こえてくる悲鳴と破壊音に首を傾げた。


人虎「……なにかあったんでしょうか?」

ファイ「……気にしなくていい」


 人虎とはベッドを挟んだ向かい側に座るファイバーが、ため息交じりに呟いた。

 彼女たちに挟まれたベッドには、死人のような顔色の男が眠っていた。

 あの事件から数日、ほとんどの魔力を使い切った彼―――子爵は、未だに目を覚まさずに眠り続けている。

 包帯を巻かれた子爵の手を、人虎は細くしなやかな両手で包み込んだ。獣の体毛がきれいに消え去った、彼女本来の手で。


人虎「……ありがとう、ございました」


 人間の姿を取り戻した人虎が、俯きながら礼を言う。

 ファイバーはなにも答えず、ただ虚ろにベッドのシーツへと目を落としていた。

 構わず、人虎は続ける。



人虎「……もう少しで、私はなにも知らないまま死んでいました」

人虎「自殺していたかもしれません。完全に魔物になっていたかもしれません。そして兵士さんにでも殺されていたかもしれません」

人虎「子爵さんのことを、なにも知らないまま……子爵さんに騙されたまま、お別れしてしまったかもしれません」

ファイ「……不器用。どっちも」

人虎「そう、ですね。それに子爵さんも、最初から本当のことを言ってくれたら……」

ファイ「……1人でいちゃ、ダメ……1人にしちゃ、ダメ」

人虎「……はい。あなたたちに救っていただいた命を無駄にしないためにも、これからは1人で抱え込まないように気をつけます」


 そう言うと人虎は、突然すさまじい速度で右手を振るう。見ると、その手にはハエが捕らえられていた。


ファイ「……『100%』じゃなかった」

人虎「あの時、自分でも本気で怒ってたとは思うんですが……それでも子爵さんのことを殺そうとは、できなかったみたいです」

ファイ「……見た目は人間。身体能力は虎」

人虎「完全に人間になることはできませんでしたけど……暴走もなくなりましたし、薄着で街を歩けるようになりました」

ファイ「……あとは」



子爵「私が目を覚ます……ですか?」

人虎「!!」


 弱々しい掠れ声を発したのは、相変わらず死人のような顔色の子爵だった。

 眩しそうに目を細める彼は、ゆっくりと辺りを見渡すと、


子爵「天国……ではないようですね。まさかこの私が地獄に落ちるわけもありませんし、では私は死にそびれたということでしょうか」

人虎「……子爵さんっ」

子爵「貴女の顔をまともに見たのは、戦争から帰って以来ですか。……美人に、なりましたね」


 ぼろぼろと涙を流す人虎に手を伸ばそうとした子爵だったが、体が全く動かないことに気が付いて断念した。

 代わりに、辛うじて自由にできる口を動かす。



子爵「まさか私が、こんな金にもならないことに命を懸けようとは……あいつが聞いたら驚くでしょうね」

人虎「……子爵さん、ごめんなさいっ……私、なんにも知らなくて……」

子爵「隠していたのですから、知らなくて当然です。そのまま墓場まで持っていくつもりだったのですが……彼らからすべて聞いてしまったようですね」

人虎「……もう、私なんかのために、こんなことしないでください……」

子爵「べつに私個人としては、貴女のことなんてどうだっていいのですよ。ただ、友人の死に際の頼みを無碍にするのも寝覚めが悪かったというだけで……」

人虎「それじゃあ、これからも私のこと、ずっと見てください……ずっと、傍にいてくださいっ……!」

子爵「…………まぁ……貴女が幸せになれるまでは、面倒見て差し上げますよ」

人虎「私、今が一番幸せですっ……」


 涙でくしゃくしゃになった顔で微笑む人虎に、子爵はなにも言わず目を伏せる。

 それからの2人は会話もなく、ただ手を繋ぎ合うだけの時間を過ごした。

 たったそれだけのことを、ずっと長いあいだ待ち続けたのだから。



-・-・-・-



-・-・-・-



 こっそりと病室から抜け出していたファイバーは、扉越しに室内を窺っている勇者の袖を引っ張る。


ファイ「……もう、大丈夫」

勇者「そうらしいな」


 勇者は一瞬、女勇者の病室を覗こうか考え、やっぱりやめておくことにした。

 2人はダンピールを置いて、病院の廊下を並んで歩く。

 すると、ファイバーが珍しく勇者の目を見て言葉を発した。


ファイ「……人虎の命を助けたのは、勇者……子爵の命を助けたのも、勇者」

勇者「慰めてるつもりか。べつに気にしちゃいない」


 勇者は相変わらず死にきった目を細め、かと思えば口元をだらしなく緩ませる。



勇者「それにどうせなら、委員長に慰めてもらうしな」

ファイ「……平常運転」

勇者「あの花屋で、委員長に花でも買っていくか」

ファイ「……ダンピールに供える花も」


 背後の病室から「勝手に殺すな!」という声が聞こえたような気がしたが、2人は聞かなかったことにした。





 こうして彼らの非日常は幕を閉じ、やがて普段通りの日常が再び顔を見せる。

 大切な人が傍にいてくれる安心というのは、人虎に限らず、彼ら全員が身に染みてわかっている。

 だからこそ、そんな日常を守っていくために、彼らはこれからも戦い続ける。






といったわけで、これにて第3章は終了となります。

ここまでご覧いただきまして、ありがとうございました。



第4章のアナウンスは、また後日させていただこうと思います。

それでは今日はここまでということで、失礼いたします。

乙です
現在の人虎の姿を詳しく解説してほしいです>>1さん


いいハッピーエンドだった
ダンピーは自業自得ww


勇者のいる国って結構警備が甘い?


人虎ちゃんは完全に元の人間の姿に戻りました。外見的に、虎の要素はありません。

人間状態の特徴は次に登場することがあったら描写すると思われます。



警備面は……王国外周壁をよじ昇ってこれたり、ある程度ゴリ押しパワーのある魔物ですと突破できてしまいます。

ただし人間は食べづらい上に美味しくないので、わざわざ危険を冒してまで入ってくる魔物は少ないのです。

……校庭に犬が入ってくるくらいの確率でしょうか。




それでは第4章の【主人公】および【ヒロイン】の安価を行わせていただきたいと思います。




【主人公】

●投下時間の【下5桁の合計数値】が【高】かった【男性キャラ】。

 つまり『00:44:12.34』の場合は、合計数値が『14』となります。(4+1+2+3+4)
 そして『23:53:48.56』の場合は、合計数値が『26』となります。(3+4+8+5+6)

この場合は、下の『26』の方が優先度が高くなるということです。




【ヒロイン】

●投下時間の【下5桁の合計数値】が【低】かった【女性キャラ】。

 つまり『12:33:12.04』の場合は、合計数値が『10』となります。(3+1+2+0+4)
 そして『06:21:54.78』の場合は、合計数値が『25』となります。(1+5+4+7+8)

この場合は、上の『10』の方が優先度が高くなるということです。




●今この瞬間から、【月曜日までに】投下していただいたキャラの中で決定いたします。

●再投下等は、1つめの設定・数値を参考にさせていただきます。

●2キャラのあいだに相関関係は必要ございません。物語次第では対立することもあり得るためです。

●安価するまでもなくストーリーを決定づけるような設定ではなく、キャラの人間性の設定をお願いいたします。

●過去に投下されたものでも良いということにさせていただきます。

●性別不明の場合でも、どちらの性別に分類して投下するかをあらかじめご明記ください。

●私の力では書けないと判断された場合は、次に優先度の高いキャラに決定させていただきます。

●今回に限り、【精霊】の優先度を上げて処理いたします。



どうかご協力のほど、よろしくお願いいたします。




精霊/生霊



●精霊には自我がほぼない。

●精霊に明確な自我が生まれたのが、「生霊」と呼ばれる存在。(ファイバーは「繊維」の「生霊」)

●精霊の名前は、司っているものに由来する。「ファイバー」「サンライト」「ムーンライト」



●自然(物質)を司っている精霊。「木」「水」「土」など

●自然(現象)を司っている精霊。「火」「風」「光」など

●自然(概念)を司っている精霊。「時間」「太陽光」「月光」など

●人工の物質を司っている精霊。「ガラス」「レンガ」「布」など





詳しくは本文を参照してください。

>>2-5

>>377-379


>>321

【フィアー】
種族:精霊(恐怖の生霊)
職業: 墓守
性別:女
年齢: 人の歴史と同じ
性格: 淡泊
性質: 人と精霊の歴史を見続けてきた観察者
趣味: 必死に生きる命を見る事
好きな人:命を大事にする人
嫌いな人:恐れを知らない人

【メラルダ】

種族:精霊(エメラルドの生霊)
職業:学者
性別:女(生殖能力有り)
年齢:2000歳(外見20)
外見:エメラルドの綺麗な長髪を持つ美人、身長は160cm、スレンダー巨乳。
性格:物静かで可愛い、以外ときまぐれ
性質:知識を求めてる、大喰らい、激怒すると男言葉になる。
趣味:魔導図書館巡り、新魔法の開発、パン作り。
好きな時間:満月の夜
嫌いな事:抑圧

【クロック】

種族:精霊(時計の生霊)
職業:『王国時計塔』管理責任者
性別:女(外見)
年齢:18(外見)
性格:落ち着いている お人よし
性質:几帳面 根は熱い
趣味:機械整備
好きなもの:平穏な日常
嫌いな天気:雪

【ヴァイス】
種族:精霊(白、「知る」、万力、悪を司る聖霊)
職業:元白騎士、学者でもあり、犯罪者でもある
性別:男
年齢:28(外見)
性格: 掴みどころがない
性質:4つのものを司る異常な精霊。多くの面を持つ
趣味: 人を知ること、操ること
好きなもの:人間観察
嫌いな場所:獣しかいない緑の森(彼が操れるものが存在しない)

【ラスト】

種族:精霊(色欲の生霊)
職業:キャバレーのオーナー
性別:女
年齢:本人にも分からない
外見:スタイル抜群の長身美女、胸はそこそこある。髪色は漆黒のウインドボブ。
性格:解放的
性質:天才肌、基本エロいけど自制心がある、泥酔すると真面目な性格になる(記憶も残ってる)
趣味:各種族の観察、下着集め、後はお察し。
好きなタイプ:相性の良い人(男女問わず)
嫌いな食べ物:甘い物全般




たくさんのご協力、誠にありがとうございます。



【主人公枠】
23:59:58.87『35』ヴァイス
23:49:52.02『18』ジュエ

【ヒロイン枠】
23:52:05.56『18』フィアー
23:53:41.92『19』メラルダ
02:17:05.73『22』ラスト
23:59:08.09『26』クロック



大変魅力的なキャラが多い中で、第4章の主人公・ヒロインは下記の2人ということで、よろしくお願いいたします。



【ジュエ】
種族:精霊(遊戯の生霊)
職業:元精霊王(仕事がつまらないので引退した)
性別:男
年齢:30(外見)
性格:冷徹、自身家
性質:彼にとって全ては彼が楽しむための玩具
趣味:玩具を作ってあそぶ、つまらなかったら壊す
好きなもの:自分を楽しませる面白いもの
嫌いなもの:つまらないもの、ありふれたもの


【フィアー】
種族:精霊(恐怖の生霊)
職業:墓守
性別:女
年齢:人の歴史と同じ
性格:淡泊
性質:人と精霊の歴史を見続けてきた観察者
趣味:必死に生きる命を見る事
好きな人:命を大事にする人
嫌いな人:恐れを知らない人




主人公枠の優先度1位であるヴァイスにつきましては、申し訳ございませんが私の力量等の関係で見送らせていただきたいと思います。どうかご了承ください。

ジュエという名前がどういった意味なのか調べたのですがわかりませんので、お心当たりのある方はどうかお知らせ願います。

また、特に表記の無いフィアーの外見年齢は、ヒロイン枠優先度の『18』にちなんで18歳ということで進めたいと思います。


それでは、続きまして物語の募集に入りたいと思います。




続きまして、物語・ストーリーの募集を行わせていただきます。

私の裁量におきまして、皆様の物語の一部、または全部を使わせていただき1つの物語へと形成いたします。

募集は【水曜日になるまで】とさせていただきます。




「A.ジュエの物語」あるいは「B.フィアーの物語」あるいは「C.ジュエとフィアーの物語」を募集させていただいております。


そして私が最終的に、それらABCを統合および補足付け足し等を行い、「D.完成形ストーリー」へと成形させていただきます。


よろしければ、下記のテンプレートをご利用ください。



【ジュエorフィアーの依頼】

事件のあらすじ: (どのような困難がジュエorフィアーを襲ったのか)
事件の経緯: (どうしてそうなったのか)
依頼達成条件: (勇者に頼る場合、どうすれば勇者たちが依頼を達成したことになるのか)



それでは、どうぞご協力のほどよろしくお願いいたします。



B.フィアーの依頼

事件のあらすじ:城に住まう墓守フィアー、朝目覚めると共に異変に気付いた、街の人間から恐怖が消え去ってしまったのだ。

事件の経緯:遊戯の生霊であるジュエが、「お遊び」で街の人間から「恐怖」の感情を抜き取った。

依頼達成条件:ジュエをこの世から抹消する。

連投すみません
依頼名は【恐怖無き恐怖】です

度重なる連投すみません

補足情報です
事件が起きた街:勇者達とは別の街
追加設定:フィアーとファイバーは親友
状況:恐怖を失ったことにより街で怪我人が続出、無謀な挑戦を行い死亡する者も出てきた。
   ジュエはその様を観て楽しんでいる。
   フィアーの能力でジュエの居場所を探知するのは現状不可能。

jouer(フランス語)、jouerの発音が「ジュエ」かは微妙だけど…
ジュエ
事件のあらすじ:勇者達3人が活躍するから面白くない
事件の経緯:王族を殺して後継者争いを引き起こしたり、人虎を馬車で轢いて子爵がどうするかを見てたのに、勇者達が介入するせいで実につまらない結末になった

フィアー
事件のあらすじ:人が増えれば恐怖も増える、よって彼女の自我が薄くなるのは当然、のはずだが何故か自我が戻ってきた
事件の経緯:勇者たちが次々依頼を解決して、国の脅威を取り除いているらしい
      また、勇者たち自身もは相手が王族でも全く恐れず、何か悟りきった感じがすると聞いた

フィアーの目的:勇者一行と国に恐怖と恐怖の素晴らしさを教える
ジュエの目的:今まで散々不愉快にされたので、今度は勇者で遊んで楽しませてもらう

事件のあらすじ:精霊と人間の間で戦いが始まり、現在人間は苦戦している
事件の経緯:精霊の国と人間の国の国境近くの山から、貴重な魔翌力を持つ鉱石がとれる事が発覚して資源の取り合いになった

国から勇者への依頼達成条件:王女や女勇者と共に戦場に行って、精霊を退け山を手に入れる

事件のあらすじ:最初は上手く山を守れていたけど、後から現れた勇者達が強すぎて歯が立たない
事件の経緯:これ以上人間に自然を破壊され、国土を侵されるのは嫌なので、譲らずに戦いを挑んだ…が、勇者の戦力を計算していなかった

精霊王からジュエへの依頼達成条件:自分たちではどうにもできないので、どうか元精霊王に戦況を覆してほしい

フィアーは王女を尊敬している兵士や、勇者達が死を恐れないと聞いて参戦
ジュエは戦場の人間をもてあそんで遊ぶために出陣
       

ヤヴァイ、上2人の方が出来が良い……。


ご協力ありがとうございます。

それではこれらを基にプロットを作成し次第、物語を進めていきたいと思います。

現在他のことをやっていますので、プロットの作成には時間がかかると思われます。どうかご了承ください。

それでは、今日のところは失礼いたします。

結構苦戦している感じ?

気長に待ってる

色々立て込んでるなら仕方がない、待機してる。

時間かかってるなぁーーーーーーーーーーーーーーーーー…………………………

せめて生存報告しに来て

期限が迫ってる……

このSSの終わりが近い……

>>1よ、このSSを忘れたのか……。

突然ですが宣伝です!

ここの屑>>1が形だけの謝罪しか見せていないため宣伝を続けます!

文句があればこのスレまで!

加蓮「サイレントヒルで待っているから。」
加蓮「サイレントヒルで待っているから。」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401372101/)

もう来ないな……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月06日 (土) 12:29:10   ID: hfDqdx7-

つまんねーくせに注意書きだけ多いの臭っさ

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