古の力と四人の戦士 (477)



昔々、まだ精霊が人間と共にあった時代。


大陸は、四つの国に分かれていました。

火の国、水の国、風の国、土の国からなる四つの国。

この四つの国には、どんな宝石よりも光り輝く美しい石が。

それは、精霊の石と呼ばれていました。

この石は、精霊から人間へ友情の証として渡された物。

精霊の石は、人間に様々な恵みを与えました。


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精霊の石のお陰で、人間の暮らしはみるみるうちに豊かに。

人間は毎朝精霊の石に手を合わせ、感謝しました。

そして年に一度、精霊への感謝を込めて、国を挙げてお祭りをしました。

ですが、生活が豊かになっていくにつれ、人間達は、感謝の心を忘れてしまったのです。


そしていつの間にか、年に一度のお祭りも、なくなってしまいました。

人間の愚かさに精霊達は悲しみ、心を閉ざしてしまいます。

すると、たちまち精霊の石から光が失われ、空は真っ暗闇に包まれてしまいました。

人間は何とか許してもらおうと精霊にお願いしましたが、許してはもらえませんでした。






精霊達は、ほんの少しの間、人間達におしおきしようと考えていたのです。





しかし、そのほんの少しが、さらなる悲しみを生んでしまいます。

なんと、罪を擦り付け合い、これまで仲の良かった四つの国が戦争を始めてしまったのです。

精霊達はなんとか戦争を止めようと、精霊の石に光を戻し、空から暗闇を払いました。

しかし何ということでしょう。戦争は終わるどころか、より激しさを増していったのです。

人間は、精霊の石の力を使った兵器まで作ってしまいます。

精霊達は、何度も何度も戦争を止めるように訴えかけましたが、人間は聞いてくれません。





ーーこのままでは人間が滅びてしまう。




その時、火、水、風、土。

それぞれの国から一人、勇気ある若者が立ち上がりました。

精霊達は、この四人に特別な力を与えました。

一人は火を、一人は水を、一人は風を、一人は土を操る力。

精霊達は、この四人に、戦争を終わらせてくれるように頼んだのです。

四人の若者は力を合わせ、戦争を終わらせる為に



ーーー戦いました。




ですが、いくら戦っても、兵器を壊しても、戦争は終わりません。

人間は、何かに取り憑かれたように戦争を続けるのです。

四人の若者は、精霊にたずねました。


ーーなぜ人々は怒ったままなのか、と。


精霊達は、原因をつきとめる為に、国中を飛び回りました。


精霊達は、四つの国の王様をそそのかす悪者を見つけ出しました。


その悪者は、自分を暗闇の妖精だと言いました。

とても強い力を持つ、邪悪な妖精です。

四人の若者達は、精霊と協力して、暗闇の妖精に挑みました。

しかし、いくら頑張っても、暗闇の妖精に太刀打ちできません。


ーーこのままでは負けてしまう。

ーー明るい未来をつくる若者達が、しんでしまう。



それを避ける為に、精霊達は、四人の若者達に自分達の力。

その全てを与えます。


自分達の、いのちとひきかえに…


全ての力を託された若者達は、その力を使い、暗闇の妖精を打ち倒しました。

すると、人々から怒りの心は消え去り、戦争は徐々に収まっていきました。

各国をめぐり、残る混乱を鎮めた四人の若者達は、それぞれの国に戻り、復興を始めました。


後にこの四人は、火の王様、水の王様、風の王様、土の王様。

と、呼ばれるようになりました。


四人の王様は手を取り合い、人々の為に、国の為に、生涯掛けて尽くしました。

なにより、自分達に力を与え、人間に恵みを与え、いのちをかけて救ってくれた精霊達を想い。


この悲しい出来事を忘れないように


やさしい精霊達を忘れないように


人々に、何度も何度もこの物語を聞かせました。

主人公達のみ名前あり。きっと厨二。


ー火の国・灯火の里ー


「またその話し? もう一万回くらい聞いたよ」

爺様「何度でも話す。忘れて貰っては困るからの」

「ははっ、大丈夫だって。忘れたくても、忘れられそうにないから」

爺様「カルよ、信じるか?」


カル「えっ、精霊とか暗闇の妖精を?」

爺様「そうじゃ、儂が語った事を信じるか」


カル「……正直、信じられない」

カル「だって精霊も、精霊の石なんて物も、存在しないし」


爺様「まあそうじゃろうな。無い物を信じろと言っても無理がある」

カル「でも嘘じゃない。と思う」

爺様「ほう。何故、そう思うんじゃ」


カル「えーっと、爺ちゃんの目は、何て言うか……嘘を言ってないから」

爺様「ははっ、そうかそうか。まあ今はそれでよい。今日の稽古はこれで終いにしよう」


カル「なあ爺ちゃん。もしかして何かあった?」

爺様「いんや? 別に何も無いぞ。それより儂、今日は肉が食べたい気分」



カル「全く……分かったよ。じゃあ、今から山に行ってくる」

爺様「気を付けて行くんじゃぞ」

カル「大丈夫だって、すぐ帰って来る。俺も腹減ってるし」


ガラッ…パタン


爺様「カルも十七か。時が経つのは、本当に早いもんじゃ」


ーー灯火山

カル「……ごめんなさい。ありがとう」


獲物には手を合わせて謝る。その後は、感謝する。

これは爺ちゃんに教わった。

狩りの仕方、山の歩き方、武術剣術、さっきの昔話も、全部。


爺ちゃんは灯火の里の長で、道場の師範。

随分昔に、里を賊から救ったらしい。

色んな国を旅してたらしいけど、村の人達に武術指南を頼まれて、何だかんだあって今に至る。


今じゃ灯火の里は、武術剣術の里なんて呼ばれてる。

爺ちゃんに会う為に武芸者が来たりするんだ。

最近は飽きたとか面倒だとか言って、兄弟弟子達に任せてるけど……


武芸者、武芸者か。

そういえば今日来たっけ、強そうな人だったな。

わざわざこんな里に来るくらいだから、余程強くなりたいんだろうな。

それとも、戦うのが好きなのか。

確かに武術剣術の稽古は楽しいけど、戦うのは、好きになれそうにない。


カル「あっ、そういえば今年で十七か……」


爺ちゃんには、感謝してもしきれない。

早くに両親を亡くした俺を引き取って、今まで育ててくれた。

いや『くれた』じゃない。

今も育ててくれてるし、色々教えてくれる。皆が言うけど、凄く強くて、優しい人なんだ。


いつか、恩返ししたいな。

そんでもって、爺ちゃんみたいな、優しくて強い人になりたい。


カル「とりあえず、出来る事からしないと……ん?」


ポツッ…ポツッ……ポツポツポツッ


カル「うわっ、雨だ。さっきまであんなに天気良かったのに」


ーー灯火の里

カル「あぁー、すっごい疲れた」


あれから急に雨が強くなるから、随分時間が掛かっちゃったよ。

爺ちゃん、先にご飯食べてたりしてないよな。案外子供っぽいし、心配だ。


カル「まっ、その時は仕方無いか。よっこいせ」


……あれ。何だろ、随分静かだな。山に行く時は皆居たのに。

雨が降ってきたから、家に入ったのか? いや、そうだとしても、何か里の様子が変だ。

妙な、寒気がする。


ザァァァァッ


カル「何だろ、この感じ。ん? 何だろ」


それを見つけた瞬間。何とも言えない、凄く嫌な感じがした。

近寄ってみると、どうやらそれは、黒い氷。のような物で出来てる。

そしてその氷柱の中には、人が氷漬けにされていた。

その近くにあった氷柱にも、そのすぐ側の氷柱にも。里の皆が、氷漬けにされていた。

くそっ、何が何だか分からない。一体何が起きたんだ。


カル「何だよ、何だよこれ。人が凍るなんて」





『ぜあぁぁっ!!』





カル「っ、爺ちゃん!?」


今の声、何かと戦ってる?

そいつが皆を凍らせた?

駄目だ、考えても全然分からない。

とにかく、急いで家に向かわないと!!


※※※※

爺様「ぬぅ……」

武芸者「なる程、確かに素晴らしい。これが、精霊の力」

爺様「それは精霊の力などでは無い。今からでも間に合う、その黒水晶の首飾りを壊すんじゃ」


武芸者「ふん、何を言い出すかと思えば……」

武芸者「こんな力を、人を超える力を、そう簡単に手放すはずが無いだろう」


爺様「馬鹿者めが……その力は、お主を滅ぼすぞ」



武芸者「脅しのつもりか、下らん」

爺様「……ならば、仕方無し」


応えてくれるか、否か。

応えてくれたとして、この老いた体が保つかどうか分からん。

長引けば、里の皆をも巻き込んでしまうじゃろう。

何としても、一撃で終わらせなければ。


まだ伝えねばらなん事があると言うのに、目覚めが早過ぎる。


武芸者「な、何だその炎は!! まさか貴様も!?」

爺様「答える義理は無い」


炎よ、応えてくれたか。

奴を葬れるだけでいい。力を、貸してくれ。


武芸者「くっ、老いぼれがぁ!!」


爺様「ぜあぁぁっ!!」


※※※※


ザァァァァッ…


爺様「ぐっ、流石に……きっついのぉ」

カル「爺ちゃん、大丈夫!? さっきの炎は!? 誰が」

爺様「カル……まずは落ち着け。話しはそれからじゃ」


カル「わ、分かった!!」

爺様「安心せい、儂は大丈夫じゃ。里はどうなっとる?」

カル「そ、それが、皆が黒い氷の中に閉じ込められてて、何が何だか」


爺様「……そうか」

カル「爺ちゃん?」


『死ねぇ!!』


爺様「何っ、まだ生きとったのか!! くっ、拙い!!」

カル「えっ…」


いきなり得体の知れない化け物が現れたと思ったら

雨は氷の槍に変わって、次の瞬間、その全てが、降り注いだ。


俺を庇った爺ちゃんに、全て……


カル「爺ちゃん? 爺ちゃん!!」

爺様「ごふっ、怪我は……無いか?」

カル「俺は大丈夫。でも、爺ちゃんが!!」


氷の槍の所為で、血だらけだ。

それに爺ちゃんの体が、燃えてる。のか?


爺様「儂は、もう保たん。よいか、今から話す事を……ぐぬっ」

カル「爺ちゃん、体が!!」


爺様「聞くんじゃ。よいか、奴は暗闇の妖精の力。その一片を使っておる」

カル「暗闇の妖精? 昔話しの?」


爺様「奴を倒す術が一つだけある。じゃがこの通り、儂にはもう戦う力が無い」

爺様「何も伝えられんで済まん。理解出来んじゃろうが」


カル「分かった。俺が、戦う」


爺様「!!」


カル「あいつを倒さなきゃダメだって事は、俺にも分かる。だから、戦うよ」


爺様「(!! 知らん内に、こんな顔をするように……)」

爺様「仲間を捜せ、黒水晶を壊せ、心を、曇らせてはならんぞ」


カル「えっ」


爺様「時間じゃ、カル」


炎が、俺を包んだ。

熱いはずなのに、不思議と熱くない。

優しくて、強い炎。


つづく


※※※

ザァァァァッ


カル「爺ちゃん……」


武芸者「別れは済んだか?」

カル「……何故、こんな事を?」

武芸者「誰よりも強くなる為、それだけだ」

カル「人の姿を失っても手に入れたかったのが、その力なのか?」

武芸者「それだけの価値がある。究極の強さ、力とは、人を超えた先にあると知った」


カル「そんなのは、強さじゃない」


武芸者「だが事実、貴様の祖父を殺した。俺が勝った!!」

武芸者「貴様も俺に殺される。祖父と、同じようにな!!」


ピシッ…パキパキッ


カル「(氷の槍……来るっ)」

武芸者「死ねぇ!!」


ドガガガガッ


カル「ぐっ!!」ガクッ


武芸者「口先だけか、つまらん」


カル「(何とか致命傷は避けれた……)」

カル「(でも、このままじゃ殺される。どうにか、しないと)」


武芸者「てっきり貴様も、祖父のように炎を使うのかと思ったが、違ったようだな」

カル「(炎? さっきのあれは、爺ちゃんが出した炎だったのか?)」


武芸者「これで終わりだ」


ピシッ…パキパキッ


カル「(俺にも炎が使えるのか? でも人間が炎を出すなんて……)」



カル「(駄目だ、分からない。今出来る事を、やるしかないっ)」ダッ

武芸者「何っ!?」

カル「うおぉぉっ!!」ググッ


バキッ…


武芸者「……そんな拳が効くと思ったか? 愚かだな」


カル「(だよなぁ。でも、分かった)」

武芸者「何を笑っている。この距離では躱せんぞ」ガシッ



カル「(今、ほんの少しだけ拳に炎が宿った。理屈は全然分からないけど、倒すぞって思ったら炎が出た)」

武芸者「串刺しにしてやる」


ピシッ…パキパキッ


カル「(こんな危険な奴を、野放しには出来ない!!)」


ゴオォォォッ…


カル「えっ!?」

武芸者「氷が!! き、貴様ッ!! 隠していたのか!!」

カル「(そんなつもり全く無いけど、この炎なら、倒せる!!)」




カル「おりゃあああ!!!」グッ



つづく


武芸者「ぐっ」ガクン

カル「(効いてる!! 拳が氷の鎧を突き抜けた。よしっ、このまま畳み掛ければ、畳み掛ければ……)」

武芸者「甘いッ!!」ヒュッ


グサグサッ


カル「がっ!! ぐっうぅ…」ドサッ


武芸者「馬鹿が。情けや躊躇いなど、殺してくれと言っているようなものだ」

カル「(躊躇うに決まってる。誰かを殺すなんて、俺には……)」


武芸者「俺は躊躇いは無く、お前を殺せる」グイッ

カル「(俺には、こんな風に戦えない。こんな風には……)」

武芸者「ふん、腑抜けが。死ぬがいい」


死ぬ? 死んだらどうなる。俺が死んだら、誰がコイツを倒す?

此処で終わらせないと、沢山の人が、コイツに殺される……


カル「嫌だ!!」ゴォッ

ドガッ

武芸者「……往生際の悪い。殺す覚悟も無い小僧に、何が出来る」


決めなきゃ駄目だ。

倒さなきゃ駄目なんだ。

話して分かる相手じゃない。戦うしか方法は無い。

殺すなんて嫌だ。

殺されるのだって嫌だ。

皆を助ける為とか、救う為とか言ったって……

結局、殺す事に変わりない。


ーー爺ちゃんなら、どうするんだろう。


爺ちゃんなら逃げるか? 迷うか?


カル「……逃げない。辛くたって、逃げずに戦うはずだ!!」ググッ

武芸者「立ち上がったところで何が、なっ!?」


カル「……炎が」


さっき出た炎よりも、ずっと凄いのが分かる。

何だか、炎が懐いてるような不思議な感じ。

ちょっとは、認めてくれたのか?

……力を持つって、強いって、大変なんだな。

やっぱり、爺ちゃんは凄いな。


カル「もう、大丈夫」ザッ


武芸者「(な、何だあの炎は!? 祖父とは比べ物にならん)」

武芸者「(声が、出せん……圧し潰されるようだ)」


カル「行くぞ」ダッ

武芸者「ぬっ、ぐうぅ……動、けぇ!!」ググッ


パキパキッ…


氷の槍!! さっきより数が多い。

駄目だ。止まったら負ける。走れ!!

炎を、脚に集中するんだ。


武芸者「喰らえぇ!!!」


ドガガガガッ


構うな。

纏った炎が、全て掻き消してくれる。

このまま、跳べっ!!


カル「おりゃあああっ!!」ダンッ

武芸者「馬鹿なっ!?」


ドッ!! ゴォォォォ……


武芸者「ぬっ、ぐうぅ……」ヨロッ


爺ちゃんに言われた通り、鎧胸部にあった黒水晶を蹴り砕いた。

確実に効いてる。けど、まだ足りないのか?


ビシッ…ビシッビシッビシッ


武芸者「ぬっ、ぐがあぁぁぁッ!!」


ガシャ…ガシャガシャ……


カル「体が、崩れた? うっ…」ガクッ


踏ん張れ。

倒れるのは、里の皆を助けた後だ。

きっとこの炎なら、あの黒い氷も溶かせる。


次回「旅立ち」


※※※

ーー爺様の屋敷・朝

カル「んー、ん? うわぁっ!!」ビクッ

婆様「なんじゃ、失礼な奴じゃな」


カル「なんだババ様か、びっくりしたぁ」

婆様「どうじゃ、まだ体は痛むか?」

カル「まだあちこち痛いけど、大丈夫。じゃない!!」


婆様「うっさいのぉ。なんじゃ急に大声出しおって」

カル「里の皆は? 他の皆は大丈夫!?」


婆様「大丈夫じゃ、安心せい」


カル「そっか、良かった」

婆様「皆、お主に感謝しとるよ。ほれ、見てみぃ」バサッ

カル「これ、花飾り?」

婆様「何か出来る事は無いかと、皆が祈りを込めて作った物じゃ」

カル「こんなに沢山……そっか。うん、凄く嬉しいよ。後でお礼言わないと」


婆様「そうしてやれ、何せ三日間寝っぱなしじゃったからの」


カル「えっ、俺そんなに寝てたの!?」

婆様「うむ、まるで死んだように寝とった」

カル「そっか……」

婆様「………」


あんなに戦ったの、初めてだしな。

とにかく、皆が無事で良かった。

氷を溶かした後の記憶が無いから、心配だったんだよな。


婆様「カルよ……爺様は、やはり亡くなられたのか」

カル「……うん。氷の怪物から、俺を庇って」

婆様「そうか、薄々分かってはいたが、そうか…寂しくなるの」


カル「あのっ、ババ様」


婆様「ん、なんじゃ?」

カル「俺、旅に出る。爺ちゃんが死に際に言ったんだ」

婆様「また急な話しじゃな。なんと言われた? 話してみよ」


カル「仲間を探せ、黒水晶を壊せ。あの力は、暗闇の妖精の一欠片」


婆様「ふーむ、暗闇の妖精か。随分と古い話しじゃな」

婆様「今回の件は、それが関係しとるんか?」

カル「詳しくは分からない。でもきっと関係ある」

婆様「仲間とは、里を襲った者の仲間か?」


カル「うーん、多分違うと思う。俺の仲間を探せ。って事じゃないかな」


婆様「ふーむ、わしゃ何とも言えんが。その為に旅に出ると?」


カル「うん。他にも色々知らなきゃ駄目だと思うし」

婆様「田舎者の一人旅は危険じゃぞ、お供はいらんのか?」


カル「大丈夫。だってさ、あの時の怪物って一欠片に過ぎないわけだろ?」

カル「だから、出来るだけ多くの人に里の守りを固めて欲しいんだ」


婆様「(男は変わるものよのぉ。あの一日で、どれだけの経験をしたのやら)」


婆様「うーむ……」





婆様「皆の者、カルはこう申しとるが、どうじゃ?」




ガラッ

『カル様、皆を救っていただき、誠にありがとうございます』

『あの一大事、此処だけには留まらぬかもしれんわけか』

『傷を負いながらも我々を救うべく奔走するお姿、一生忘れません』

『里は我々にお任せを』


カル「はっ、えっ!? 皆いつから居たの!?」

婆様「ずっと居ったよ。三日三晩、な」


皆、疲れてるはずなのに、ずっと居てくれたんだ。

お祈りまでしてくれて、本当にありがとう。


つづく


※※※

俺は、里の皆が凍っている間に起きた事を全て話した。

炎を使えるようになった事とか、色々。

その後、爺ちゃんの葬儀が始まった。

里の皆が泣いてたけど、俺は泣けなかった。

思えばあの時、爺ちゃんが消えて炎になって俺を包んだ。

あの炎が、俺に炎の力を与えたんだと思う。

爺ちゃんは、俺の中で生きてるんじゃないか? そう思った。


ーーそう思いたい。


葬儀を終えた後、ババ様が


「今日は疲れたじゃろ。無理せず休んだ方がええ」

「急いてはいかん」

「準備はきちんとせんといかんぞ? 渡さにゃならん物もあるでな」


って言うから、明日出発する事にした。

里から出た事なんてほとんど無いから、ちょっとだけ不安だ。

爺ちゃんも旅してたって言うから、本当は楽しみでもある。


※※※※

ーー翌朝


カル「渡したい物って、これ?」

婆様「灯火の里一番の着物じゃ、動き易いし目立つぞぉ。じゃから、これ着てけ」


カル「白地に赤の刺繍って、派手過ぎじゃないかな」

婆様「何を言う。都の人間は、そんくらい派手なもん着とるらしいぞ?」

カル「そうなの? まあ、着物の方が着慣れてるし、落ち着くけどさ」


婆様「ええから、早よう着てみぃ」

カル「分かった。ちょっと着替えてくる」


ガラッ…パタン

カル「(はぁ。あんなぐいぐい来られたら、着ないわけにはいかないよな)」

パサッ…ギュッ


こ、これは……派手過ぎる。

あぁなる程、柄が炎なんだ。

高そうな着物だなぁ。いや絶対高い。

家一軒建てれたりするんじゃないか?

生地の肌触りが違うし、着心地も良い。お金、出さなくていいのかな……

高価な物だからか、身が引き締まるな。


ガラッ…

カル「どうかな?」

婆様「ほぉ、男っぷりが上がったの。それ着てりゃあ、おなごがほいほい寄ってくるわ」

カル「ははっ、まさか。婆様、そろそろ行くよ。墓参りも済ませたし」


婆様「そうか……ん? そりゃ爺様の剣かえ?」

カル「うん。炎の使い方、まだ分かんないし」

婆様「そうかそうか。どれ、ちょっと腰に差してみ」


カル「よいしょっと。これで大丈夫?」


婆様「ほほっ、この村来た時の爺様にそっくりじゃ」

カル「ははっ、ありがとう。嬉しいよ」

婆様「カル……気を付けて、行くんじゃぞ」


カル「婆様、そんな顔しないでよ。俺なら大丈夫だから」


婆様「(爺様にも、この姿見せてやりたかった……逞しくなったの)」

婆様「さっさと終わらせて、早よう帰って来い。皆で、お前の帰りを待っとるよ」


カル「色々ありがとう!! じゃあ、行って来ます!!」


次回「田舎者」


※※※※


カル「あの、そろそろ解放してくれないかな?」

女盗賊「うっさい間抜け。今から荷を開けるから黙ってて」チャキ

カル「……はい、分かりました」


さっきまで気分良く白月(馬)を走らせてたのに、今や縄で縛られて変な所に…

洞窟の中みたいだけど。この人の隠れ家、みたいなものなのかな。

旅の一番最初に出逢ったのがこんな人だなんて、何て幸先悪い。

白月、大丈夫かな。


女盗賊「金目の物は無いわけ!?」


カル「お金ならあるけど、少ししか無いよ?」

女盗賊「じゃあ荷は!? この食糧だけじゃないわよね!?」

カル「今調べただろ? 荷はそれだけだよ」


女盗賊「じ、じゃあ、お宝的な物は!?」

カル「だからそんなの無いって。あの、そろそろ縄解いてくれない?」

女盗賊「畜生、ハズレかよぉ…」


カル「(全然聞いてない)」


女盗賊「こんなんじゃ、もうどうしようも……」ボソッ


カル「え? 何か困ってるの? 俺で良かったら相談乗るけど」

女盗賊「うっさい間抜け!!」ヒュッ

カル「痛っ、ちょっ、石投げないで!!」

女盗賊「高そうな着物を着て、白馬になんて乗ってるから期待したのに!!」

カル「えぇ…そんな事言われたって」


女盗賊「うあー、もうっ!!」ダンッダンッ


カル「大人っぽいのに、駄々をこねる子供みたいだな……」


女盗賊「あ? 何か言ったか?」

カル「いえっ、何も言ってません。それより馬は?」

女盗賊「馬なら外に置いてるよ。あの馬は金になりそうだし」

カル「…………」


まあ、白月が無事で良かった。

と言うか、間抜けなのか、俺。

道でうずくまってる人がいた。

だから馬を降りて「大丈夫ですか?」って声を掛けたんだ。

そしたら、いきなり変な匂いする袋を投げつけられて。

目が覚めたら、これだ。


……まあ確かに、騙された俺が間抜けなだけかもしれないけどさ。

人を見た目で判断しちゃ駄目だよ。うん。

でも、何でこんな事するんだろ?


女盗賊「他に、他に何か方法は……」イライラ

カル「怒っても良いこと無いよ? 少し落ち着い」

女盗賊「 うっさい!! 」


きっと事情があるんだろうけど…

この調子じゃ、話してくれなそうに無いな。


つづく


※※※

カル「落ち着いた?」

女盗賊「……あんたさぁ、何でそんなに冷静でいられるわけ?」

カル「いや、何でかな?」


女盗賊「知るかバカ。あぁ、殺されるぅ…とか思わないわけ」

カル「だって殺さないでしょ?」

女盗賊「…………」


カル「殺すつもりだったら、あの時殺されてただろうし」


女盗賊「騙されたのに平気な顔して、変な奴」


カル「そうかな? 困ってる人がいたら助けるだろ?」

女盗賊「オマケにお人好し。で、田舎者」

カル「田舎者? 俺が?」

女盗賊「あんた以外に誰がいるわけ?」

カル「おっかしいな。都じゃ皆こんな格好してるって、ババ様が言ってたのに」


女盗賊「今時っつーか、今も昔も、そんな派手な格好してる奴いねーよ」


カル「そ、そうなの?」

女盗賊「そういう間違った認識が、如何にも田舎者っぽい」

カル「(ババ様……まあ、俺は気に入ってるし、いいけどさ)」


女盗賊「もういいよ」

カル「え?」


女盗賊「縄、もう解けたんでしょ? もう、行っていいよ」


カル「気付いてたんだ」


女盗賊「当然でしょ。ほらっ、さっさと行きなよ」

カル「……あのさ」

女盗賊「なに?」

カル「こうして出逢ったのも何かの縁だし、話してくれないかな」

女盗賊「………」


カル「俺には、どうしても君が悪い人には見えないんだ」


女盗賊「聞いてどうするわけ?」


カル「うーん。それは、聞いてから考えるよ、うん」

女盗賊「ぷっ、あははっ、なにそれ。はぁ全く、本当に変な奴」


うん。やっぱり女の人は笑ってる顔が一番いい。


女盗賊「あたし、恩返ししたいんだ」

カル「恩返し?」

女盗賊「そ、恩返し。昔……って言っても、最近なんだけどさ」


女盗賊「ちょっとしたヘマした所を、お人好しのバカ神父に助けられたんだ」


カル「そ、そうなんだ」

女盗賊「その神父は教会で孤児達と一緒に暮らして、面倒見てるんだ」

カル「へぇ、格好いい人だね」


女盗賊「ああ、あたしとは全然違う。真面目で、真っ当な人間だよ」

女盗賊「でもそんな真面目に生きてる奴が、病で倒れちまったんだ」


カル「………」


女盗賊「治療には、かなり金が掛かる」


カル「じゃあ君は、その為にお金を?」

女盗賊「まっ、そういうこと」

カル「(嘘吐いてるようには、見えないな)」

女盗賊「……こんな事したって、あいつは喜ばないんだろうけど」

カル「治療には幾ら掛かる?」


女盗賊「んー、百万くらいじゃねーかな。腹を開くって言ってたし」


カル「そっか……」

女盗賊「これで話しはお終い。ほらっ、もう行きなって」


カル「そのくらいなら、何とか出来る」


女盗賊「はぁ!? あんたにそんな金無いだろ、何バカなこと言ってんだ」

カル「いや、大丈夫だよ。取り敢えず、神父さんがいる町に案内してくれないかな」

女盗賊「その話し、嘘じゃねえだろうな? 何か企んでるんじゃ」


カル「……それはこっちの台詞だよ」


つづく


※※※※

ーー篝火の町

ガヤガヤ…

女盗賊「あんたの馬、やっぱり速いわ。まさか馬売る気?」


愛馬を売るなんて信じられない。

みたいな顔で俺を見てるけどさ、白月、売ろうとしてたよね。


カル「違う違う。売るのはこれだよ」

女盗賊「その派手な着物? 確かに高そうだけど」

カル「まあ、鑑定して貰えば分かるよ。呉服屋はどこにある?」


女盗賊「……あのさ、今更だけど本当にいいわけ?」


カル「いいって、何が?」


女盗賊「何がって、知らない奴にここまでするなんてさ……」

カル「大丈夫。俺は、したい事をしてるだけだから」

女盗賊「まさか、あたしの体が目当て?」


カル「えっ、何で?」

女盗賊「こんなに良くしてやったんだから、体で払え。ゲヘヘ…的な」

カル「ははっ、ないない。絶対無い」


女盗賊「………」イラッ


カル「大体、人を眠らせて、縄で縛る女の人なんて誰が」


女盗賊「あ?」

カル「いやほら……人には、その、好みがあるから」

女盗賊「ああ」

カル「縛られて喜ぶ奇特な人も、いると思うし……」

女盗賊「………」

カル「呉服屋、行きましょうか」

女盗賊「さっさと付いて来い、変態」スタスタ


カル「なんで!?」


※※※※

ーー篝火呉服店

店主「こ、これは凄いッ!! お客さんッ!! これを何処でッ!?」


カル「灯火の里です」

店主「やはりそうでしたかッ!!」

女盗賊「(声、デカっ)」

店主「いやはやッ!! まさかッ!! これ程の品に出会える日が来るとはッッ!!」

カル「あの、少々汚れてしまいましたが、幾らで売れます?」


店主「売って下さるんですかッ!? これならッ!! 一千万出しますよッ!!」


女盗賊「いっ、一千万!? そんなにすんの!?」


店主「もっと大きな呉服屋ならばッ!! 数倍の値段を提示されても買うでしょうなあッ!!」

店主「それだけのおッ!! 価値がありますよッ!! ええッ!!」

カル「じゃあ、お願いします」

店主「喜んでッ!! 替えの着物は、こちらで用意しますのでッ!!」

カル「分かりました」

店主「少々ッ!! お待ち下さいッ!!」

女盗賊「あ、あんた、本当にいいわけ? 大事な物なんじゃ」


カル「ババ様には申し訳無いけど、聞いたからには放っておけないし」


女盗賊「もっかい聞くけどさ、どうして?」

カル「んー、尊敬してる人が、そういう人だからかな」

女盗賊「(尊敬する人、か)」


カル「その人ならこうするだろうし。着物一つで人が助かるなら、安いもんだよ」

カル「それにほら、何て言うか……あれだよ」

カル「一つの物は二つに分けて、大きい方を相手にあげなさい。ってやつだよ」


女盗賊「それとこれとは、話しが違うっつーの。そんなんじゃ、詐欺師に騙されるよ、あんた」

カル「大丈夫。それに、君は騙してないだろ?」ニコッ

女盗賊「(こんなバカなお人好し、あいつの他にもいたんだ……)」

店主「準備、出来ましたぁッッ!! 此方へどうぞッ!!」


カル「あ、はい」


次回「治癒」


※※※※

ーー篝火教会

カラーン…カラーン……

女盗賊「着いたぞ。此処だ」

カル「…………」


女盗賊「どうした?」

女盗賊「その着物の所為か、浪人が懺悔しに行くみたいに見えるぞ」


カル「あ、いや。思ったより立派だったから。って言うか懺悔って……」

女盗賊「まあ外見はな。内装はボロいけど」

カル「……そうなんだ。で、神父さんはどこに?」


女盗賊「さっき昼の鐘が鳴ったから、今はチビ達と一緒に、聖堂で飯食ってるはずだ」


カル「あの、今更だけどさ」


女盗賊「なんだ?」

カル「いきなり知らない人が来てさ」

女盗賊「ん? おうっ」

カル「いきなりお金渡されたらさ」

女盗賊「…………」

カル「受け取って、くれるかな」

女盗賊「行こうか」スタスタ


カル「(かなり不安だけど、やれるだけやってみよう)」


※※※※

神父「お気持ちは嬉しいですが、そんな大金、受け取れません」


女盗賊「そんな事言わないで受け取れって、盗んだ金じゃないし!!」

神父「そういう問題ではありません」

カル「(そりゃそうだよな……)」

女盗賊「こんなバカみたいに良い奴、二度と現れないぞ!!」

カル「(酷い言われようだ。確かに馬鹿かもしれないけど)」


女盗賊「それに、チビ達はあんたがいなけりゃ生きてけない」


神父「…………」


女盗賊「だから、頼む。受け取ってくれよ……」グスッ

神父「……すいません。それでも受け取れません」

神父「既に後任の者は決まっております。子供達には、上手く伝えるつもりです」


女盗賊「っ!! バカッ!! もう勝手にしろ!!」ダッ

神父「…っ、すいません。貴方も、お引き取り下さい」ガタッ


チリン…


カル「ちょっと待って下さい」


神父「まだ何か?」


カル「神父さん、その首飾りはどこで?」

神父「これですか? これは、子供達が露天商から頂いた物らしいです」

神父「子供達から初めての贈り物なので、身に付けているんですよ」

カル「……あの、倒れたのは最近ですよね?」

神父「ええ、そうですが」


カル「具合が悪くなったのって、それを貰った時からなんじゃないですか」


神父「!! 確かに時期は合致しますが、ただの偶然です」


カル「偶然じゃ無いかもしれません」

神父「何を根拠にそんな事を、失礼ではありませんか?」

カル「怒るのも分かります。ごめんなさい……」

カル「確かに根拠は無いです。でも倒れた原因が、その首飾りかもしれないんです」


神父「(……何だ。この青年から、何か不思議な温かさを感じる。心なしか、体が軽い)」

カル「神父さん、少しだけ俺の話しを聞いてくれませんか」


神父「分かりました。では此方へ。お話しは、私の部屋で聞きましょう」


つづく


※※※※

ーー神父の部屋


神父「黒水晶に氷の怪物、暗闇の妖精。ですか……」


カル「それに、あの時と同じような感覚がしたんです」

神父「あの時?」

カル「はい。氷の怪物と対峙した時の、嫌な感じです」

神父「この首飾りから、ですか」チリン

カル「……はい」

神父「ですが私に、そんな力は使えませんよ?」


カル「そう、そこなんですよ!!」


神父「えっ、何がです?」


カル「嫌な感じは確かにするんですけど、神父さんはアイツとは違う」

神父「は、はぁ」

カル「神父さん、悪い人じゃないし」

神父「(ふっ、素直な青年だ。あの子が頼ったのも分かる気がする)」

カル「あの、何か変わったな。って事ありませんか?」


神父「変化。ですか」


カル「何でもいいんです、何か以前と違うとか」


神父「……思い当たる事なら、あります」

カル「それはどんな?」

神父「この事は、他言無用でお願いします」

カル「はい。約束します」

神父「子供達を見ていると、湧き上がってくるのです」


カル「湧き上がる?」


神父「ええ。何と言えば良いのか、憎しみや怒りのような。黒いものです」


カル「(黒いもの……)」

神父「後任者を立てたのは、病が原因などでは無いのです」

カル「え?」

神父「その感情が日に日に強くなり、それが、子供達に向けらている」

神父「私が守るべき子供達なのに!! それなのに、私は……」グッ


カル「(神父さん……)」


神父「体が悪いのもありますが、私には、それが怖ろしくて……」


カル「だから、後任者を決めた」

神父「ええそうです。ですから、私にはもう神父など」

カル「大丈夫です。神父さんなら、絶対大丈夫です」

神父「何故、そう言えるんです?」

カル「これは俺の想像なんですけど……」


カル「神父さんが良い人だから、苦しんでるんじゃないかって思うんです」


カル「その黒水晶は強い力を与える物。だけど、神父さんはそんな力を望んでない」


カル「神父さんの心が拒否してるんです。だから悪影響しか及ぼさない」

神父「ふふっ、貴方は純粋な人ですね」

カル「女盗賊さんには馬鹿って言われましたけどね……」

神父「ですが、同時に本当は聡い方でもある。一体、何を考えているんです?」


カル「その首飾り、少しの間預からせてくれませんか?」


神父「……分かりました。いいでしょう」スッ


カル「後、空いてる部屋貸して貰えますか!?」

神父「え、ええ、どうぞ」

カル「じゃあ、待ってて下さい!! 絶対、壊したりしませんから!!」

ガチャ バタンッ

神父「(本当に、不思議な青年だ。人を惹き付ける何かを持っている)」


神父「清らかな心を、持っているのだろうな」


つづく


※※※※

篝火教会・空き部屋

カル「…………」


この黒水晶が人の思いに応える物で、持ち主に力を与えるとしたら。

どんな『思い』に応える?

力への欲求。

ーー憎しみや怒りのような、黒いものです。


カル「そういえば黒かったな、あの氷。暗闇の妖精、力の一欠片……」


そういう感情を力にするのか?

あの時戦った氷の怪物。

ババ様の話しによれば、あれは里に来た武芸者で間違い無い。


ーーそれだけの価値がある。

ーー究極の強さ、力とは、人を超えた先にあると知った。


あの武芸者は、力を求めていた。

人じゃ無くなっても、後悔してる様子は一切無かった。

じゃあ単純に、力を求める者に力を与える物なのか。


でも結果的には、人を壊す。

力を求めない人にも、害を為す。


カル「誰がこんな物をばらまいてるんだ。何が目的で……」


教会の子供達に聞いたら、露天商にタダで貰った。と言っていた。

どんな人物かと聞いたら、皆バラバラの答え。

俺と同い歳くらいの男、可愛いお姉ちゃん、おばさん、お爺ちゃん。

こんな風に、皆が別々の人物を口にした。


カル「……まっ、今は置いておこう」


今すべきは、この黒水晶の首飾りを、壊さずに何とかすること。

爺ちゃんには壊せって言われた。

けど神父さんにとって大事な物だし、絶対に壊したくない。


カル「この中に入ってる何か。それだけを壊せばいい……」


俺が触っても大丈夫だった。多少、気分悪いけど。

って事は、そこまで敏感な物じゃない。

この黒水晶の首飾りは、力を与えるか、人体に害を為す。

危険を察知したり、知性みたいな物は無い。


カル「問題は、どうやって壊すか。だよな」


ちょっと調べてみよう。

うん。黒水晶の中は、まあ当然黒い。

……んっ!? 今、なんか動いたぞ。何て言うか、真っ黒い蛭みたいだ。

この中で生きてる。のか?

じゃあこの黒い蛭が、武芸者に力を与えてたモノ。

そして、神父さんを苦しめてるモノなのか。


カル「だとしたら、この黒い蛭さえ退治出来れば……ただの首飾りに戻るはず」


外部からじゃ無理だ。壊れる。

だったら、内側からやるしかない。

……やれるか?


カル「いや、やってやる。絶対に成功させる」


まずは、手のひらに炎を呼び出す。

呼び出し方なんて分からないけど、とにかく呼び出す。


カル「…………」グッ


ーー助けたいんだ。

力って、戦う為だけにあるわけじゃない筈だ。

誰かを守る為にだって、力は必要なんだ。

だから、頼む。力を貸してくれ。


カル「……!! よっしゃ、出た!!」


これを何度か繰り返して、火力を調整。強弱のコツを掴む。

掌にしか出してないのに、滅茶苦茶疲れるな。でも、出来た。

後は、この黒水晶の首飾りを持って……



カル「黒水晶の内側に、炎を!!」



次回「消失」


※※※※

篝火教会・神父の部屋

コンコンッ

神父「はい」


カル『俺です。入っていいですか?』

神父「ええ、どうぞ」

ガチャ…バタン

神父「早かったですね。何か分かりましたか?」

カル「色々分かりました。首飾り、ありがとうございます」スッ

神父「あの、これは?」


カル「すいません……」


神父「綺麗な赤ですね。一体何が?」


カル「黒水晶の中には、黒い蛭のような奴がいました」

神父「黒い、蛭……」

カル「それを内部から燃やしたんです」

神父「そんな事、どうやって?」

カル「言ってませんでしたっけ。俺、炎を使えるんですよ」

神父「聞いていませんよ……」

カル「ははっ、すいません。とにかく、炎で蛭を燃やしたら」


神父「黒水晶の色が、赤に変わったと?」


カル「はい。俺もびっくりしました」


神父「(暗闇の妖精、炎使い……まさか!!)」

カル「もう嫌な感覚はしないし、身に付けても大丈夫だと思います」

神父「……そうですか」

カル「あの、やっぱり駄目でした? 色変わっちゃったし」

神父「いえいえ、そんな事はありません。ありがとうございます」チャラ


カル「おぉ、ちょっと派手になっちゃいましたけど、似合ってますよ」


神父「そうですか? ありがとうございます」


ヂリッ…カッ!!

カル「首飾りが光った!? なにが!?」

神父「うっ…」ドタッ

カル「神父さん!! 大丈夫ですか!?」

神父「え、ええ。一瞬、くらっときただけです」


カル「……やっぱり、お金は受け取ってくれませんか?」


神父「それは、出来ません。それに」


カル「ど、どうしました?」

神父「どうやら、病は失せたようですから」

カル「えっ?」

神父「嘘ではありませんよ?」

カル「そんな、病気が急に治るわけ」


神父「炎を司る者」


カル「は、はい?」


神父「汝、その身に浄火を宿し闇を照らし、穢れを焼き尽くすであろう」

カル「あの、それは?」

神父「暗闇の妖精と戦った四人の戦士の物語。その一文です」

カル「へぇ、何か格好いいですね」

神父「ふふっ、これは貴方の事ですよ」


カル「へ? 俺が、炎を司る者?」


神父「ええ、私にはそう思えてなりません」


神父「事実、私の中の穢れ。この場合は病ですね。それが消えた」

カル「そんな凄い炎なら、神父さんまで燃えちゃうんじゃ?」

神父「ええ、私自身が穢れ。そう判断されれば、消し炭になっていたでしょうね」

カル「……あの、体は本当に大丈夫なんですか?」

神父「勿論。先程まで体中を刺すような痛みも、今では綺麗さっぱり無くなりました」


神父「憑き物が落ちた。正にそんな心地です」


カル「何だか良く分からないですけど、病気が治ったなら良かったです」


神父「貴方の方こそ大丈夫ですか? 随分お疲れのようですが」

カル「黒い蛭を燃やすのに炎をかなり使っちゃって……」

カル「それに病気治ったって聞いて安心した所為か、どっと疲れました」

神父「空き部屋で良ければ自由にお使い下さい。私には、これくらいしか」

カル「いやいや十分ですよ!! それに、俺が勝手にやった事ですから」


神父「……本当に、ありがとうございます」


カル「お礼なんていいですって。それより、あの子達に元気な顔見せてあげて下さい」


神父「(こんな心優しい青年が、過酷な戦いに身を投じるのか……)」

カル「どうしました?」


神父「いえ、力を宿したのが貴方のような人物で良かった」

神父「そう思う反面、何故貴方のような人物に力を授けたのか。そう思っていました」

神父「戦いなど、辛いだけでしょうに」


カル「殴ったりするのは確かに嫌ですけど、それしかないなら、やるしかないですよ」


カル「強いって、そういう事だと思うんです。投げ出さないって言うか、逃げないって言うか……」


神父「(この瞳。やはり、なるべくしてなったのかもしれない)」

神父「……今更ですが、お名前は?」

カル「あれ、言ってませんでしたっけ? 俺はカルです。カル・アドゥル」


神父「カルさん、良ければ泊まっていってくれませんか。子供達も喜びますので」

カル「そういう事なら是非!! 俺、女盗賊さん呼んできます」

神父「え?」


カル「きっと喜びますよ? さっき子供達と一緒にいましたから、すぐに連れて来ます!!」ダッ

ガチャ バタン

神父「ふふっ、全く忙しい人だ」


ドンッ…

『痛っ、ちゃんと前見て走れ!! バカ!!』

カル「すいません。ってあれ、女盗賊さん!? なんで」

神父「どうしました? 一体何の騒ぎです?」


女盗賊「町の広場に、火を吐く化け物が出たんだ!! だから避難しろって伝えに来たんだよ!!」

神父「火を吐く、化け物?」

女盗賊「ああそうだよ。嘘臭いから見に行ったら町は大騒ぎで、兵士が化け物と戦ってた……」

女盗賊「とにかく!! あんなのに勝てっこない。チビ達を連れて早く逃げないと」


カル「神父さん。俺、行って来ます!!」ダッ


女盗賊「バカっ、死ぬ気!? あんたに何が出来るわけ!?」


カル『大丈夫!! なんとかしてみせる!!』


女盗賊「行っちまった…あんな化け物、絶対倒せるわけない」

神父「我々は、我々の出来る事をしましょう。子供達の避難が優先です」

女盗賊「あいつを見殺しにする気かよ!? あたしも行く!!」ダッ

ガシッ…

神父「待ちなさい!!」

女盗賊「離せよっ!!」

神父「離しません!! カルさんにはカルさんの、我々には我々のやるべき事があるのです!!」

女盗賊「っ、何だよ…それ」


神父「(カルさん。どうか、ご無事で)」


※※※※

篝火の町・広場

カル「もう、此処には居ないのか?」


露店が全て燃やされてる。

それに、炎が黒い。

黒水晶を身に付けた人間の仕業なのか、それとも他の何かが?

くそっ、酷い臭いだ。

所々に見える黒い塊は、死体で間違い無い。自我があるとしたら、武芸者とは質が違う。


奴は、民を殺しはしなかった。

だがこれをした奴は、そんなの関係無しだ。


早く見つけないと、被害者が増え続ける。

カル「どこに居る……?」


何だ? 地面が揺れてる。地震か?

いや違う。何かが向かって来てる……

あれが炎を吐く化け物か。武芸者とは、形態が全然違う。

人の面影が全く無い。四つ脚で疾駆する姿は正に獣だ。


炎獣「ゴアァァァッ!!」

カル「っ、何て声だ……」


元が、猪か何かなのか?

黒水晶で変化するのは、人間だけじゃない?

一体どうやって……

くそっ、分からない事だらけだ。

とにかく、これ以上被害が拡大する前に倒さないと。


カル「……あれ?」

炎獣「ブオァァッ!!」ダダッ

ズドンッ

カル「がっは…」ドサッ


何でだ!? 何が起きた!?

ーー何で、炎が出ないんだ!?


次回「意地」


カル「ぐっ、うぅ」ググッ


戦う術が無い。

炎が使えないなら、どうすればいいんだ?

普通に戦ったって、恐らく通じない。

武芸者の時だって、炎を使ってようやく倒せたんだ。

唯一、望みがあるとすれば……


炎獣「ブオァァッ!!」ダダッ

カル「っ!!」


突進が速い。

さっきの突進をまともに喰らったせいか、まだ視界が定まらない。

あの突進、後何度躱せるか分からない。


カル「どうにか、しないと」


黒水晶は、背中に刺さっていた。

誰かが刺した。あれは、人為的に変化させられたんだ。

まだ時間が経っていないのか、黒水晶のツタは、猪の全身には達して無い。

どうにか、背中に乗れれば……


炎獣「ブルルルッ」


俺を狙ってくれるのは嬉しいけど、戦う力が無い。

何度も試したけど、やっぱり炎が出る気配は無かった。

炎獣「ブルッブルルッ!!」ザッザッ

カル「(次が来る。なにか、何かないのか……)」

炎獣「ブルオォォッ!!」


カル「(っ、駄目だ。避けきれないっ)」

ドガッ…


カル「うぅっ」ズリッ


何だか衝撃が軽かったような……

助かったのか?

待て、さっきの突進とは全く感覚が違った。

奴の突進なら、間違い無く死んでたはずた。

何かに、違う何かに突き飛ばされたんだ。

でも、一体誰が……

カル「うぅ!? なっ、やめ」


顔、舐められてる。

この臭い。人間じゃあ無いよな。

だったら、何だ。

まさか……

カル「白月か!!」ガバッ


白月「ブルッブルルッ」ペロペロッ

カル「よしよし、もう大丈夫だ。放っといてゴメンな」


ごめんな白月。

今はお前と戯れてる暇は無いんだ。

戦えないないなら、戦えないなりに何かやるしかない。

カル「…………」

そうだ。白月で引き付けて、町を出ればいい。

そうすれば、被害拡大は防げる。


カル「白月、頼む」

白月「ブルルッ……」スリスリ


カル「ありがとう。じゃあ、行こう」タンッ


まずは、奴の周囲を走って挑発する。

剣で斬りつけるってのもありだな。

取り敢えず、意識を完全にこっちに向けてくれればそれでいい。


カル「行くぞ、白月」ポンッ

白月「ブルッ…」カカッ


そうだ。円を描くようにゆっくり。

それから速度を上げて、一気に近付く。よしっ、いける。

一度、馬上から黒水晶を狙って斬りつけてみよう。

怒ってくれればいいけど。


カル「ぜりゃっ!!」

ガギンッ…

炎獣「ブッギャアアアッ!!」


効いてる?

まだ黒水晶との繋がりが甘いのか?

これなら、剣でもいけるかもしれない。

それにしても、町中はまずい。あの調子なら、絶対に追ってくるはずだ。

それに外に出れば、もっとやりやすくなる。


カル「こっちだ!! 来いっ!!」

炎獣「ブルッ…ブルオォォッ!!」ダダッ


つづく



暗闇の精霊サイドや化け物達の中から
主人公側につくキャラとか出す予定はありますか?

のび太、おばあちゃんの思い出 これ見て大変な事になってるから夕方に投下。

>>145 ちゃんとした『仲間』になるか分かんないです。


※※※※

カル「くっ、速い」

炎獣「ブガアァッ!!」ズドドッ


草原におびき寄せたのはいい。

でも、距離が近過ぎる。これ以上は引き離せない

白月だから、まだ距離を保っていられるんだ。

並の馬なら、とっくに追い付かれて吹っ飛ばされてる。

このままじゃ、じきにやられる。いくら白月だって、長くは保たない。

得体の知れない化け物に追われてるんだ。

急激に疲労する事だって、十分にありえる。


炎獣「フゴッ!!」


カル「止まった? 何を……」


炎獣「ゴアァァッ!!」グアッ

カル「炎か!? 走れっ、白月!!」ガッ

ゴオォォォ…

カル「っ、熱風が…」


何て火力だ。範囲も凄まじい。

仮に炎を使えていたとしても、勝てたかどうか。

あれを何度もやられたら、逃げ場か無くなる。

最悪、草原一帯が燃える。


白月「フーッ…フーッ」

カル「白月……」


恐怖に耐えて走っただけでも、かなり消耗した筈だ。

挙げ句、炎なんて吐かれたら尚更だろう。

今もこうして俺を乗せていられる事自体、白月が強い証拠だ。

でも、白月もそろそろ限界だ。


一か八か、やってみるしかない。


カル「もう一度、走れるか?」


白月「フーッ…フーッ…ブルルッ!!」

カル「ありがとう。じゃあ、行こう!!」ガッ


真っ正面から突っ込んで、ぎりぎりの所で曲がる。

横並びになった瞬間が勝負だ。


炎獣「ブルッ…ブルオォォ!!」ダダッ

カル「やっぱり向かって来たか…」


カル「今だ。白月っ!!」グッ


よしっ、何とか躱せた。重要なのは、次の動作。

白月の背に立って、跳ぶ。

そして猪の背に刺さった黒水晶を、掴む。

カル「くっ、おおおおっ!!」バッ

ガシッ…

カル「何とか、なった……うぉ!?」グラッ

炎獣「ブギィィィッ!!」


カル「そりゃ、暴れるっ、よな!!」ガシッ


炎獣「ブルオォォ!!」ダダッ

カル「ぐっ、振り落とされ…て」

グサッ…

カル「たまるか!!」

炎獣「フギャアアアア!!」


……短刀、持ってて良かった。

お陰で、さっきよりは、ちょっとだけ楽になった。

後は、この黒水晶を引き抜くだけだ。


片手じゃ難しいけど、やるしかない。


カル「ぐぬぬっ!! 思ったより、深いっ」ググッ

炎獣「ブッ…ガアァァァ!!」ゴッ

カル「ぐっ、あぁぁっ!!」


コイツ、炎を吐くだけじゃない。

体に炎を纏わせる事も出来たのか!!

熱が、上がってる。早く抜かないと、焼かれる。


カル「なっ、蔦が伸びた!?」


何でだ? さっきまでは、何の動き無かったのに。

伸びたのは炎を纏ってからだ。それから、蔦が急速に伸びた。

まさか、力を使った所為で黒水晶が反応した?

だから蔦の侵蝕が早まってるのか。


カル「うっ…」


蔦が、体に巻き付いてきた。俺ごと覆うつもりか。

でも、お陰で体が固定された。

これなら、いける。


カル「もう、少しだ」


くそっ、さっきより熱いぞ。腹が燃えてるのが分かる。

それに胸、腕、太腿、右頬……

頭が、重い。息が苦しい、どうにかなりそうだ。

だけど、もう少しで、抜ける。


カル「諦めて、たまるか」ググッ

ズッ…ズズズッ


カル「…け…ろ。抜けろっ、抜けろおぉぉ!!」


つづく


炎獣「ブ…ガ…」グラッ


カル「とっ、取れた」ドサッ

炎獣「ガッ…ブガッ……」ドスン

カル「まだ、生きてるのか」


繋がりが甘いから、死なずに済んだのか?

いやそれより、黒水晶を取り除いたのはいいけど、今の俺じゃあ、これを壊せない。

炎が、もう使えないとしたら……


もしそうなら、早く仲間を見つけなきゃならないな。


後は町に戻って黒水晶の存在を知らせて、色々説明しないと。


そしてその情報を、国王に伝えて貰えれば……

そうすれば、神父さんみたいな被害に遭う人も減る。

こんな危険な物、誰の手にも渡しちゃ駄目だ。

人。まして動物さえも苦しめる物は、あっちゃ駄目なんだ。


カル「…白月、いるか?」

白月「ブルッ…」ペロペロッ

カル「無理させて、ごめんな」ポンッ


目が霞む。っていうか、右目が見えない。


着物は勿論、密着していた部分は、炎でかなりやられた。

火傷、酷い事になってるだろうな。

全く。旅の初日だっていうのに、随分と散々な目に遭ったもんだ。


カル「……それは、俺だけじゃないか」


篝火の町は、その多くが破壊されて、人も亡くなった。

町を守ろうとした兵士。

逃げ遅れた人、きっと訳も分からない内に死んだ人だっているだろう。


カル「…………」

今頃きっと、消火作業や怪我人の手当てで大変だろうな。

炎獣「ブ…ガッ…」


……この猪が町を壊し、人をころしたのは確かだ。

でも、そうさせた奴は別にいる。

そいつを止めない限り、黒水晶による被害が無くなる事はないだろう。

だから早く町に戻って、俺が知っている事、今回の事件の原因を説明しないと。


早く行かなきゃならないのに、体が動かない。


カル「やっぱり駄目だ。自力じゃ立てそうに」


白月「ブルルッ!! ヒヒーン!!」

カル「白月? どうした?」

『見つけた!!』

カル「えっ、誰…」

「っ、酷い火傷……おいっ、しっかりしろ!!」


カル「この声、女盗賊さん?」


女盗賊「うっさい喋んな。今から町に運ぶ」グイッ

カル「あ、はい」


助けに来てくれたのか。

人を眠らせて、金品強奪を企ててた人とは思えない行動だ。

やっぱり、本当は優しい人なんだ。


女盗賊「あんたの馬、借りるよ。ちゃんと掴まりな」


女盗賊「じゃっ、行くよ」ガッ

カル「……………」


ガガッ…ガガッ


カル「あのっ、女盗賊さん」

女盗賊「喋んなって言ったろ。それよりあんた、随分無茶したね」

女盗賊「火傷、かなり酷いよ。見てるこっちが、痛くなるくらいに…」

カル「それより、町はどうですか?」


女盗賊「……火は大分収まった。死んだ奴は、大半が兵士だったよ」


女盗賊「怪我人はかなりいるけど、あんた程じゃないよ」


カル「そうですか…良かった……」

女盗賊「ちっともよくねーよ、バカっ。あいつも、かなり心配してたぞ」

カル「す、すいません」

女盗賊「でも」

カル「……?」


女盗賊「あんたがいなきゃ、もっと沢山の人が死んでた」


カル「……………」


女盗賊「な、なんだよ」

カル「あっ、いや。誰も死なないのが、一番良いのになって……」

女盗賊「……疲れてんだろ。少し、休め」

カル「女盗賊さん」

女盗賊「なんだよ」

カル「助けてくれて、ありがとう」

女盗賊「(っ、それはこっちの台詞だっつーの、お人好し田舎バカ)」


女盗賊「……こっちこそ、ありがとよ」


次回「戦士の休息」


※※※※

篝火の町・広場


娘「あっ、シスターさん」


女盗賊「あ? なんだ…すか?」

娘「カル様の具合はどうですか?」

女盗賊「あいつなら、まだ目を覚まさねー。ですよ?」

娘「あのっ、これ」サッ

女盗賊「なにこれ」

娘「カル様に、渡して下さい」タタッ


女盗賊「めんどくせーな、自分で渡せ…って、いねーし」


ーー商店街


おばちゃん「あら、シスターさん」


女盗賊「ようっ、こんにちは」

おばちゃん「あの子、まだ目を覚まさないの?」

女盗賊「ああ。ぐーすか寝てやがる…ますよ」

おばちゃん「心配だわねぇ、早くお礼したいわぁ」

女盗賊「目が覚めたら、教えてやるよ」

おばちゃん「そうだ、これ持っていきな」ドサッ


女盗賊「いいのか? 食い物少ねーのに」


おばちゃん「いいのいいの。お医者さんの手伝いで疲れてるでしょ?」


おばちゃん「家の旦那も、世話になったからね」

女盗賊「おうっ、ありがとな」

スタスタ…

おじさん「お、教会の姉ちゃん」

女盗賊「あ? なんか用か?」

おじさん「あの坊主、まだ目ぇ覚まさねぇのか?」

女盗賊「まだ寝てるよ。峠は越したから大丈夫だけどな」

おじさん「目ぇ覚めたらよ、ウチの店にメシ食べに来い。って言っといてくれや」


女盗賊「おう、ちゃんと言っとく」

スタスタ…


店主「あのッ!!」


女盗賊「んだよ!!」

店主「カルさんはッ、大丈夫ですかッ!?」

女盗賊「峠は越したから大丈夫だよ!!」

店主「そうですかッ!!」

女盗賊「じゃあな…」


店主「ちょっと待って下さいッッ!!」


女盗賊「うっせーな!! なんだよ!?」


店主「この着物ッ、お返ししますッ!!」

女盗賊「それ、あいつの……良いのかよ? 高値で買い取ったのに」

店主「彼は、町を救ってくれた。多くの命を救ってくれた」

女盗賊「……そうだな」

店主「私には、こんな事しか出来ません。目が覚めたら、これを渡して下さい」スッ

女盗賊「分かったよ。あ、あのさっ、あんたから受け取った金は手付かずなんだ」


女盗賊「だから、後で返しに来る。あいつなら、そうするだろうし」


店主「いえ、結構です」


女盗賊「えっ、なんでだよ」

店主「商売を再開すれば、すぐに取り戻せますから」ニコッ

女盗賊「そうかい、じゃあな」

店主「ちょっと待って下さい」

女盗賊「ん? どうした?」


店主「出来ればッ!! 返して頂けると助かりますッ!!」


女盗賊「じゃあ最初からそう言え!! 変な見栄張るんじゃねーよ!!」

店主「すいませんッ!!」

女盗賊「じゃあな」

店主「はいッ!! では失礼ッ!!」ザッ

スタスタ…

女盗賊「……………」ピタッ

女盗賊「あのハゲ……普通に喋れんじゃねーか!!」


つづく


※※※※

篝火教会・空き部屋


カル「すぅ…すぅ…」


医師「あの不良娘をよく更正出来たな」

医師「言葉遣いは相変わらずだが、今じゃシスターなんて呼ばれてるぜ?」

神父「元々ああいう子なんです。私は何もしていませんよ」

医師「若い娘を誑かすなんて、悪い神父もいたもんだ」


神父「…………」


医師「冗談だ。そんな目で睨むな」


神父「それより、今日で五日目です。彼の容態はどうですか?」

医師「何度も言っただろ?」

医師「峠は越えた。後は目が覚めるのを待つだけだ」

神父「右目はどうですか?」

医師「網膜は完全に治癒してる。全く、馬鹿げた回復力だよ」


神父「では…」


医師「ああ、起きる頃には視力は戻ってるだろうよ」


神父「医師。他にも怪我人がいる中、ありがとうございます」

医師「気にするな。それに、俺は消毒くらいしかしていない」

神父「そうなのですか?」

医師「ああ。運ばれてきた時は、正直諦めていたんだがな」

神父「私はその時、教会に居ましたので。そんなに酷かったのですか?」


医師「酷いなんてもんじゃない。焼け爛れた死体かと思ったよ」


カル「すぅ…すぅ」


医師「……仮に治療したとして、回復する見込みは殆ど無かった」

医師「それがどうだ? たった五日でここまで回復してる」

神父「私の話し、信じて下さいましたか?」

医師「精霊の加護、か。こんなものを見せられれば、信じざるを得ないわな」

神父「彼が居なければ、町は壊滅的な状態になっていたでしょう」


カル「白月…が…飛ん…でる…」


医師「なあ、本当にコイツが化け物を倒したのか?」


神父「ふふ、まだあどけなさが残る青年ですが、間違い無いでしょう」

医師「あんな火傷を負った癖に、幸せそうな顔して寝ていやがる」

神父「彼は、そういう人なんですよ」

医師「話しは変わるが、町を襲った化け物。あれは猪らしいな」

神父「ええ、あの子に聞きました」


医師「その猪だが、まだ見つかってないそうだ」


神父「……もう町には来ないと思いますが」


医師「コイツが持っていた黒水晶、それが猪を凶暴化させた。そう言ったな」

神父「ええ、貴方は何かを感じませんでしたか?」

医師「確かに言いようのない何かを感じた。心身に害を為すだって事は分かる」

医師「だがな、それを信じる奴がいるか?」

神父「…それは」

医師「俺はお前と付き合いが長い……」


医師「だから、荒唐無稽な話しを最後まで聞いた」


医師「だが他の奴なら、お前の頭を疑うぞ?」


医師「ましてあの猪を擁護するような発言は、他の奴の前では絶対にするな」

医師「例え凶暴化していたのが真実だとしても、あの猪に殺された者がいる」


医師「これは、事実だ」


神父「大丈夫です。それは、分かっていますから…」

医師「そうか、ならいい」

カル「…爺…ちゃん……」


神父「何にせよ。彼が目覚めるのを待つしかないでしょう」


つづく


医師「まっ、コイツならもう大丈夫だ。じきに目を覚ますさ」


神父「そうですか。ありがとうございました」

医師「礼はいいよ。それじゃあ俺は、普通の怪我人の治療に戻るとするよ」

神父「また手伝える事があれば、何でも言って下さい」

医師「いや、大分落ち着いてきてるから問題無い」

医師「それに、聖堂を貸してくれただけでも十分だ。子供達も、手伝ってくれてるしな」

カル「すぅ…すぅ…」

医師「ふっ、じゃあな」


神父「ええ、貴方も体には気を付けて下さいよ?」


医師「そうは言っても、休む暇が無いんでな。んじゃ、またな」

神父「ええ、また」

ガチャ…バタン

カル「すぅ…すぅ」

医師「カルさん。せめて今は、ゆっくり休んで下さい……」

コンコンッ…

女盗賊『入るよ?』

神父「あ、はい。どうぞ」

ガチャ…バタン


神父「お帰りなさい」


女盗賊「なんだよ、まだ起きてねーのか」

神父「きっと疲れが溜まっているんです。気長に待ちましょう」

カル「そんなの…おとこわり…だ」

女盗賊「……お断りだろうが、バカ」

女盗賊「つーかさ、医者も大変なんだな、廊下走ってったよ」


神父「近隣の町からも医者は来ていますが、それでも足りないのでしょう」


女盗賊「瓦礫の撤去にも、時間がかかりそうだった」


神父「……そうですか」

女盗賊「それでも、被害は少ない方だよ」

カル「べ…すとを…つくせ」

女盗賊「それも、こいつのお陰だな」

神父「ええ、そうですね。ところで、その荷物は何です?」


女盗賊「言っとくけど、盗んだんじゃねーからな」


神父「ふふ、分かっていますよ」


女盗賊「町の皆が、こいつにやってくれってさ」ドッサリ

神父「そ、そうですか。凄い量ですね」

女盗賊「持ってくるの大変だったんだぞ」

神父「……女盗賊さん」

女盗賊「な、なんだよ。急にかしこまって」


神父「怪我人の搬送や手当て、ありがとうございました。それに子供達の世話まで」


女盗賊「あっ…べ、別にいいよ」


女盗賊「あたしがしたいから、しただけだし」

神父「それでも、ですよ」ニコッ

女盗賊「あっ、あのさ」

神父「何です?」

女盗賊「これからも、ここにいて良いか?」

神父「えっ?」


女盗賊「ほ、ほらっ、あんた一人じゃチビ達の相手は辛いだろ?」


女盗賊「だから、その……」


神父「私からも、頼みがあります」

女盗賊「な、なんだよ?」

神父「良ければ、此処に居て下さい。貴方がいると、その、私も嬉しいですから」

女盗賊「そっ、そうか。し、仕方ねー奴だな」

女盗賊「じゃあそういう事だから、これからよろしくな」


神父「えっ、ええ、此方こそ」


女盗賊「つーかお前、後任者の話しはどうなった?」


神父「大丈夫です。なんとか取り下げて貰いましたから」

女盗賊「そうか、よかった……」

神父「病気も、治りましっ」

グイッ…ギュッ

女盗賊「おい。どこにも行くなよ?」

神父「あっ、う、いやその……はい」

ギュッ…

女盗賊「あっ…」

神父「私は、何処にも行きません」


カル「(……神父さん、女盗賊さん。良かったですね)」

カル「(とりあえず、もう少し寝ようかな)」


次回「帰還」


※※※※

篝火教会・空き部屋

カル「んーっ、寝たなぁ」


あ、夜になってる。月が真ん丸だ。

神父さんや女盗賊さんは、もう休んでるのかな。

カル「痛っ…」

やっぱり、まだ所々痛む。

だけど、どういうわけか、右目が見える。


全然見えなかった筈なのに。


カル「……火傷も、治ってる。何でだ?」


何日寝てたんだろ? 俺の体は、どうなってる?

何だか、ちょっと怖いな。


カル「まっ、考えたって仕方無いか」


そう言えば、俺は炎の事とか何にも知らないな。

あ、神父さんなら、何か知ってるかもしれない。

でも夜も遅いし、明日にした方が良いよな。


寝てたら悪いし。


カル「………………」


駄目だ。

目が冴えて寝れそうに無い。

少し、外でも歩いてこようかな。

町の様子も気になる。

どうせ布団に入ってても、色々考えるだけだ。


カル「あれ? この着物」


これ、呉服屋に売った筈なのに、なんで此処に?

何だろ、他にも色々置いてある。


果物、花飾り、手紙。

後は折り鶴に……似顔絵?

これ、子供達が書いてくれたのか。

うわぁ、めちゃくちゃ嬉しい。明日、お礼言わなきゃな。


カル「さて、着替えるか」


お、やっぱり着心地が違うな。

呉服屋の店主さんにも、会いに行かないとな。


※※※※※

篝火の町・広場

カル「広場が、一番酷いな」


着替えを済ませて部屋を出ると、聖堂には沢山の人がいた。

しんと静まり返っていて、皆は寝ているようだった。

きっと、住まいを失った人や、傷を負った人達だろう。

教会の子供達は、聖堂の一画で寄り添って寝ていた。

その中には、親を失ったであろう子供も……


カル「傷付いたのは、町だけじゃない」


家が直って、町並みが蘇っても、失われた命だけは、戻らない。


爺ちゃん……爺ちゃんに会いたい。

ーー泣き声を言うな。お前がするべき事はなんじゃ?

とか言われそうだけど、やっぱり悲しいよ。

もっと色々な話しを、聞きたかった。

カル「仲間か。どこにいるんだろうな……」

スタスタ…

カル「お、いたいた」


白月「ブルッ…ブルルッ」


カル「よしよし、元気だったか?」ポンッ


白月「ブルッ…」スリスリ

カル「あの時、お前がいたから何とか出来たんだ」

カル「本当にありがとう」ナデナデ

白月「ブルルッ…」
   

カル「月明かりもあるし。少しだけ外走るか」タンッ

カカッ…カカッ…


兵士「あ、おい。こんな夜更けに何処へ行く」


カル「あっ、すいません。目が冴えて、何だか眠れなくて」

兵士「ん? もしかして、君がカルか?」

カル「あれ、何で名前を?」

兵士「町は君の話題で持ちきりだ。知らない者などいないさ」


カル「そうなんですか? 何だか照れますね」


兵士「ふっ、目が覚めたようで何よりだ。皆が心配しているよ」


カル「今は皆寝てますから、朝になったら顔出します」

兵士「そうか。ところで、体は大丈夫なのかい?」

カル「はい。もう大丈夫です」

兵士「(まさかこんな爽やかな青年だったとはな……もっと猛々しい男かと思っていた)」

カル「どうしました?」


兵士「あぁ、想像と違ったものでな。ところで、何処へ行くつもりだい?」


カル「ちょっと外を見て来ようかなって。駄目、ですかね?」


兵士「ああ、駄目だ」

カル「うっ…すぐに帰って来ますから。お願いします」

兵士「そんな顔しても駄目」

兵士「君に何かあったら何を言われるか分からない」

カル「じゃあ五分、五分で帰って来ますから」

兵士「……五分だな」


カル「はいっ、五分です」


兵士「はぁ…分かったよ」


カル「いいんですか?」

兵士「行くなら早く行ってこい。だが、五分で帰って来なければ……」

カル「こっ、来なければ?」

兵士「町中は大騒ぎ。それから、君の捜索が始まるだろう」

カル「えっ」

兵士「じゃあ、今から数えるからな」

カル「い、行って来ますっ」ガッ

ガガッ…ガガガッ…


兵士「……まるで子供だな」


※※※※※

ーー草原

カル「……こっちからだ」


町を出る前から感じていた気配が、強くなってきた。

何かが、俺を呼んでる。そんな気がする。

黒水晶の時のような、嫌な感じはしない。気のせい、なのか。


カル「この辺のはず、なんだけどな」


やっぱり気のせいか?


早いとこ帰らないと兵士さんも心配するし、帰るか。


カル「また今度走ろうな」

白月「ブルッ………」


白月もまだ満足してなさそうだけど仕方無い。我慢しよう。

本当に捜索が開始されたら大変だし。


白月「ブルッ…ブルルッ!!」

カル「どうした!?」


あれは、町を襲った……


月明かりで照らされた猪の体は、傷だらけだった。


体には、まだ蔦が絡まっている。あれが猪を傷付けてるのか?

黒水晶を取り除いても、蔦は消えなかったのか。

炎獣「ブゴ…」

歩くたびに、膝を突きそうだ。いつ倒れてもおかしくない。

こいつが、妙な気配の正体? まさか、また町を襲うつもりだったのか?


いや、敵意は感じない。


炎獣「ブガッ…」ドスン


カル「何で、こんな所に……白月、ちょっと待っててくれ」タンッ


ずっと俺の目を見つめてる。

本当に、こいつが呼んでいたのか。

戦う力はなさそうだけど、油断は出来ない。

まだ炎を使えるのか試して無いけど、今なら、剣で何とか出来る。


『お前の手で、終わらせて欲しい』


カル「猪が、喋った…」


炎獣『喋ってはいない。お前の心に、語り掛けている』

カル「……信じられない」

炎獣『ならば、今から起きて見せよう』ググッ

カル「ほ、本当に立ち上がった…信じるしか、なさそうだ」

炎獣『それは助かる』


カル「でも、何で俺に」


炎獣『お前は、救ってくれた』


炎獣『後一つ。他の人間に討たれるのは我慢ならん』

カル「……俺も、一つ聞きたい事がある」

炎獣『何だ』

カル「化け物に変えたのは、誰なんだ?」

炎獣『それが、分からんのだ。気付けば、暴れていた』


カル「そっか……」


炎獣『お前が止めなければ、町を破壊し尽くしていた。礼を言う』


カル「お礼なんて、いいよ」

炎獣『頼む。お前の手で、止めを刺してくれ』

カル「……分かった」チャキ

炎獣『お前のような勇敢な人間に出逢えて、良かった』

炎獣『さあ、やってくれ』


カル「……っ!!」

ザンッ……ボッ…ゴォォォ…


カル「炎が出た!? 失ったわけじゃなかったのか?」


手を伝って剣から発した炎は、あっと言う間に猪を包み込んだ。

どす黒い蔦は、一緒にして焼失。

巨大な炎は、猪の姿を模しているように見えた。


カル「な、何なんだ?」


燃え盛る炎はやがて収束。

炎は、完全に猪の姿を取った。


それはゆっくりと、俺に近付いて来る。

怖ろしさは全く感じない。

それは気高く、神聖な獣。

視線が重なった次の瞬間、炎は渦となった。


カル「うわっ!!」


そしてその直後。

俺の両脚に、巻き付くようにして吸収された。


カル「な、何だったんだ、今の……」


次回「知識」


※※※※

篝火の町

兵士「……五分。だったよな」


カル「すいません。いやー、ちょっと色々ありまして」

兵士「ちょっと色々って何だ」

カル「えーっと、知り合い? と話してました」

兵士「なる程なる程。それで? その知り合いは一緒じゃないのか?」

カル「それが、挨拶しか出来なかったんですよ」

兵士「ほぉー」

カル「で、知り合いから聞いた話しなんですけど」


兵士「(雰囲気が変わった? 何故そんな顔を……)」


※※※※

篝火の町

兵士「……五分。だったよな」


カル「すいません。いやー、ちょっと色々ありまして」

兵士「ちょっと色々って何だ」

カル「えーっと、知り合い? と話してました」

兵士「なる程なる程。それで? その知り合いは一緒じゃないのか?」

カル「それが、挨拶くらいしか出来なくて」

兵士「ほぉー」

カル「あの、知り合いから聞いた話しなんですけど」


兵士「(雰囲気が変わった? 何故そんな顔を……)」


カル「あの火を吐く化け…猪の亡骸を見つけたって」


兵士「なに!! それは本当か!? 嘘じゃないだろうな」

兵士「近隣の町の兵士と協力して捜索しても、見つからなかったんだぞ?」

カル「嘘じゃないですよ。さっき、亡骸を燃やしましたから」

兵士「燃やしただって? この短時間でか」

カル「あの、兵士さん。俺の掌を、見て下さい」

…ボォォォ

兵士「なっ!?」


カル「……これで、燃やしました」


兵士「その炎は何だ。奇術、ではないよな」


カル「炎を司る者」

兵士「なに?」

カル「神父さんは、俺をそう言ってました」

兵士「精霊と四人の戦士。昔話しの、あれか?」

カル「はい。何で使えるかは全然分からないですけど、そうらしいです」


兵士「待て、何だか頭が痛くなってきた」


カル「そんなに考えなくても」


兵士「あのなぁ…お前は、分からない事が怖く無いのか?」

カル「んーっ、ちょっとは不安ですけど、大丈夫です」

カル「それより兵士さん。疲れてませんか?」

兵士「あ、ああ。この町の兵士の殆どが、化け物にやられたからな」

兵士「あの化け物がまた来るとも限らんし、ずっと見張り通しだった」


カル「じゃあ、代わります。兵士さんは休んで下さい」


兵士「は?」


カル「どうせ眠れないんで。俺は、夜が明けたら教会に戻ります」

カル「その時まで戻ってくれれば」

兵士「馬鹿野郎、お前だって起きたばかりだろうが。そんな事させられるか」クラッ

ガシッ

兵士「す、済まないな。だが任せるわけには」

カル「無理しちゃ駄目ですよ。俺なら、大丈夫ですから」


兵士「……分かった。何かあったら、すぐに呼ぶんだぞ。いいな?」


カル「はい、任せて下さい。白月もいるし、なっ?」


白月「ブルッ!!」

兵士「(着物も性格も、本当におかしな奴だ……)」

カル「……?」

兵士「(おかしな奴だが、皆に好かれているのも、分かる気がする)」

兵士「なるべく早く戻る」

カル「ゆっくり休んで下さい。じゃあ、また明日」

兵士「はぁ…ああ、また明日な」ザッ

カル「(町の皆も、つかれてるんだろうな)」


カル「明日から、何か手伝わないと」


つづく


※※※※

カル「ふっ!!」


剣を振るのなんて、随分久しぶりな気がする。

あれから、まだそんなに時間は経ってないのに……

色々、あったからな。いや、ありすぎたくらいだ。

誰かと戦うとかじゃなく、思うままに体を動かすのは、やっぱりいい。


ーー里の皆は、元気かな。


カル「ふーっ、よし。良い感じだ」

白月「ブルッ…」コツン


カル「ん? どうした?」


あ、いつの間にか、空が白んでる。

夢中になってたから、全然気付かなかった。

カル「一緒に見ようか」

白月「ブルルッ」

もうすぐ日が昇って、夜が明ける。

……兵士さんの様子からしても、町の皆も疲れてるんだろうな。

何か出来る事があれば、やらなきゃ。


カル「……暗闇の妖精は、何が目的なんだろう」


それを確かめる為にも、精霊について知らなきゃ駄目だよな。

仲間がいれば、そりゃ頼もしいだろうけど、俺が足を引っ張ってちゃあ意味ないし。


カル「おっ、日の出だ。綺麗だなぁ」


まあ焦っても仕方が無いし、少しずつ進んで行くしかないか。

色々手伝いたいけど、この町に長居は出来ない。

暗闇の妖精を倒さない限り、こんな事が起きる。


他の場所にも奴等が現れたら……


兵士「どうした? 難しい顔して」


カル「えっ? あ、兵士さん。おはようございます!!」

兵士「あ、ああ。おはよう」

カル「どうです? 眠れました?」

兵士「お陰様でな。どうだ?」


カル「はい?」


兵士「この町だよ」


カル「好きですよ。町並みも、住んでる人達も全部」

兵士「俺もこの町が好きだ。だから、守りたいと思ってる」

カル「あのっ、すいません。俺がもう少し早く」

兵士「違う。俺が言いたいのは、そういう事じゃない」

カル「えっ」

兵士「お前は、何の為に戦ったんだ? この町の人間でも無いのに」


カル「…………」


兵士「いや、済まない。そういうつもりじゃあ無いんだ」


兵士「何だか、少し気になってな」

カル「……多分、戦うのが嫌いだからだと思います」

兵士「なに? 戦うのが嫌いなら、何故戦う」

兵士「炎の力を得た責任からか?」

カル「うーん、何て言うのかな」


カル「嫌いな事だから、人に任せちゃいけない気がするんです」


兵士「…………」


カル「それに、爺ちゃんに『俺が戦う』って言っちゃいましたから」

カル「その為に村を出たんだし。最後まで、やるつもりです」

兵士「……そうか」

カル「あっ、そろそろ教会に戻ります。白月の事、頼みます」ダッ

兵士「(最後まで、か。全く、呆れるほどに……)」


兵士「呆れるほどに、いい奴だよ。お前は……」


つづく

仲間はもう少し先になると思います。


※※※※※

篝火教会

カル「あ、神父さん。おはようございます」


神父「はぁ…カルさん、一体何処へ行っていたのですか?」

カル「あ、いや。夜更けに目が覚めて、それで眠れなくて散歩に」

神父「それなら何故声を掛けて下さらなかったです?」

カル「寝てたら悪かなーと……」

神父「全く貴方は……子供達も女盗賊さんも心配しています」

カル「えっ、みんな早起きなんですね」

神父「……それより、カルさん」


カル「分かってます。黒水晶の事ですよね?」


神父「ええ。今は私の部屋に保管してあります」


カル「じゃあ、早速壊さないと。あの、神父さん」

神父「何でしょう?」

カル「黒水晶を壊したら、精霊の事で聞きたい事があるんですけど、大丈夫ですか」

神父「ええ、分かりました。私が知り得る範囲で良ければ、ですが」

カル「お願いします」


神父「では、中へ入りましょう」


※※※※※

神父の部屋

カル「じゃあ、早速やってみます」

ボォォォ…ビシッ…バキィン


カル「よし。あの、神父さん。何か異常はありまんでした?」

神父「ええ。触らない限り影響は無いものと見ていいでしょうね」

カル「でも、危険な物には変わりない」

神父「そうですね。ですが、まさか動物にまで黒水晶を使うとは……」

カル「俺もびっくりしましたよ。急に炎が出なくなっちゃうし」

神父「……今、何と仰いました?」


カル「いや、炎が出なかったんですよ。ちっとも、少しも、一切」


神父「で、では貴方は生身で戦ったと!?」


カル「対峙してから気付いたんで……すいません」

神父「何て無茶な事を……」

カル「でもまあ、白月がいたんで、何とか勝てました」

神父「まさか生身で戦っていたとは……」

神父「ですが重度の火傷。そう聞いた時から、おかしいとは思ってはいたんです」

カル「何をですか?」


神父「言いましたよね。貴方は、炎を司る者だと」


カル「はい。浄火を何とかって」


神父「そうです。穢れを焼き払うとも言いました」

カル「ああ、そう言えばそうですね」

神父「それは炎すら、例外では無いのですよ」

カル「えっ、それって炎が炎を焼くって事ですか?」

神父「それは分かりません。ですが……」

ゴソゴソ…


カル「……?」


神父「確か……ありました。この一文ですね」


神父「汝、清らかなる心あらば、黒き炎もまた、浄火とならん」

カル「えーっと、それってどういう意味ですか?」

神父「貴方の心が清らかであれば、黒い炎すら浄火に変わる」

神父「と言ったところでしょうか。この本によれば、ですが」

カル「なる程。じゃあ、あの猪の炎も自分の炎に出来た」


神父「そういう事になります」


カル「あの、質問があるんですけど」


神父「何でしょう?」

カル「俺と戦った武芸者は、雨を氷に変えて攻撃してきました」

神父「その理由は簡単です」

神父「それぞれ四つの力を司る者は、それを自由に出来る」

カル「なら奴は、水を、変化させた?」

神父「そうかもしれません」


神父「もしくは、そういった方法でしか攻撃出来なかったか」


カル「だったら俺は」


神父「ええ。貴方は、そこに存在する全ての炎を意のままに出来る。という事です」

カル「そんなに凄い力だったんですね……」

神父「確かに凄まじい力です。扱う者すら怖れる程でしょう」

カル「………」

神父「きっと、彼等は強い精神を持っていたのでしょうね」

カル「!! そうか、だから爺ちゃんは、心を曇らせるなって言ったのか」


神父「どうしました?」


カル「あっ、いや。何でもないです」


神父「……?」

カル「確かにそれを知っていたら、苦戦せずに済んだかもしれないです」

カル「でもあの時は、どんなに呼んでも炎は出なかった」

神父「……それなんですが、一つ心当たりがあります」

カル「えっ」


神父「カルさん。貴方は黒水晶の首飾り、その中の黒蛭を焼いた」


カル「あぁ、そういえば。色、赤くなっちゃいましたね」


神父「そこです」

カル「えっ?」

神父「貴方は首飾りを浄化したと同時に、ある物を生み出したのですよ」

カル「生み出した? 何をですか?」

神父「精霊石です」

カル「ははっ、そんなまさか」


神父「私は本気です」



カル「神父さん?」


神父「精霊石は、様々な恩恵をもたらす物」

カル「(そういえば、爺ちゃんの聞かせてくれた昔話しに、そんなのがあったな)」

神父「事実。これを身に付けた直後に、私の病は失せた」

神父「貴方は、これを生み出したが故に、一時的に力を失ったのです……」

神父「私は、貴方に詫びなければなりません」


カル「いいじゃないですか」


神父「えっ」


カル「だって、神父さんの病気は治ったんですから。ねっ?」

神父「(全く……本当にこの人には敵いませんね)

神父「(まだ短い付き合いだというのに、何度その笑顔に救われたことか)」

カル「だから、俺は大丈夫です」


神父「カルさん、ありがとうございます」


カル「いやいや、俺も色々教えて貰って助かってますから」


神父「……カルさん。後一つ、それと同じく証明された事があります」

カル「証明?」

神父「貴方が、真に、炎を司る者だという事です」

カル「いや、まあ。確かに炎は使えますけど」

神父「いいですか? 貴方が生み出したのは、精霊石です」

カル「あ、はい」


神父「精霊石は、精霊が人間に友情の証として授けた物」


神父「つまり、精霊にしか生み出す事は出来ない」


カル「あの、俺は人間ですけど……」

神父「四戦士の昔話しはご存知でしたよね?」

カル「ああ、はい。爺ちゃんに何度も聞かされましたから」

神父「その昔話しには、こうあります」


神父「精霊は四人の若者に、自らの力、その全てを与えた」

神父「いのちと、ひきかえに、と」


カル「あぁ!! 知ってます知ってます!!」

神父「それにより、四人の若者は、精霊と同等」

神父「もしくは、それ以上の存在になったと考えられます」



神父「恐らく貴方は、その力を授かった」


つづく


カル「多分、それは違います」


神父「失った視力が蘇り、死に至る火傷が五日で治癒しているんですよ?」

神父「これを精霊の加護と言わずに」

カル「ちょっ、神父さん。落ち着いて下さい」

神父「あっ。も、申し訳ありません」

カル「違うって言ったのは、そういう事じゃないんです」

カル「この力については、神父さんの言う通りだと思いますから」

神父「…? では、一体何が違うと?」

カル「『受け継いだ』って言う方が正しい気がして」


神父「……受け継いだ」


カル「はい。あの時、爺ちゃんが炎になったんです」


カル「その炎は、俺を優しく包んで、溶け込んだ……ような気がします」

神父「(っ、そうだった。カルさんは、お祖父様を……)」

神父「すいません。貴方の気も知らず、嬉々として語ってしまって」

カル「えっ? 謝る事なんて無いですよ」

神父「いやしかし」

カル「だって俺、凄く嬉しいですから」


神父「苦しくは、無いのですか? 私が言うのも……変な話しですが」


カル「ははっ、苦しいなんて言ったら爺ちゃんに叱られますよ」


カル「確かに色々な事が分かって、少し混乱してます。だけど……」

神父「……?」

カル「簡単な話し。爺ちゃんは俺の中に存在してて、もの凄い力を与えてくれるんですよね?」

神父「ま、まあ。そういう事になります」

カル「それが嬉しいんです」

カル「だから俺、これからは、もっと頑張れる気がします」


神父「(っ、辛い筈だ。苦しい筈だ。それなのに、彼は決して笑顔を絶やさない)」


神父「私も嬉しいです」


カル「えっ? 何がですか?」

神父「貴方のような人と出逢えた事が、ですよ」

カル「そうですか? いやー、面と向かって言われると照れますね」

神父「(炎を使えなくとも、彼には強い意志がある。だから猪と戦えたのだろう)」

神父「(そして、笑顔という……人を幸せにする力がある)」

カル「あっ、そうだった」


神父「どうしました?」


カル「その本に、暗闇の妖精について何か書いてませんか?」


カル「どんな奴だとか。それと、食い止める方法とか」

神父「……ではまず、暗闇の妖精が生まれた理由からですが」

神父「精霊達は人間への罰として、精霊石の力を封じた」

カル「はい。その所為で、空は真っ暗になるんですよね?」

神父「ええそうです」


神父「暗闇の妖精は、その時に生まれたのではないか、と記されています」


カル「じゃあ、精霊石の力を封じなかったら……」


神父「もしくは、人間が精霊達への感謝を忘れなければ……」

カル「暗闇の妖精が生まれる事は、無かった」

神父「そうなります」

カル「何だか寂しい話しですね」

神父「自分達の力だけで生きている。そう思ったのかもしれません」


神父「精霊が存在していた時代は、現在よりも遥かに発達していたようです」


カル「(兵器だか何だかを造っちゃうくらいだもんな……)」


カル「(どんな世界だったんだろう? ちょっと気になるけど、今はいいや)」

神父「カルさん?」

カル「あっ、すいません。続けて下さい」

神父「暗闇の妖精も、精霊と同じように凄まじい力を使えたようです」

カル「それは、どんな力ですか?」


神父「黒き雷や黒き炎などの禍々しい力、他にも様々ありますが……」


神父「真に恐ろしいのは、人々の暗部を増長させる事です」


カル「だから戦っても戦っても、戦争が終わらなかった」

神父「ええ。その力は、暗闇の妖精を討つまで続いたようです」

カル「……倒す方法とかって、書いてありますか?」

神父「倒す術に関しては、四人が協力して倒した……」

神父「としか、記されていません」


カル「(だったら、早く仲間を探さないと……)」


カル「(でも、この町の人達はどうする? 何もせずに立ち去るのか?)」


神父「カルさん、これを」スッ

カル「えっ? それって子供達に貰った大事な物なんじゃ」

神父「この首飾りは、今や『精霊石』です。貴方が持っていた方が」

カル「精霊石。あぁ、そうか!!」

神父「ど、どうしました?」


カル「それ、神父さんが持ってて下さい」


カル「精霊石には、色々な力があるんですよね?」


神父「えっ、はい。そうですが」

カル「病気を治したんだったら、怪我だって治せる筈です」

神父「確かに可能でしょうが、私に扱えるかどうか……」

カル「大丈夫ですよ。神父さんの方が、俺より詳しいし」

神父「あの、何故そう断言出来るか聞いても?」


カル「神父さんがいい人だからです」


神父「はぁ…それでは答えになっていませんよ……」


カル「ははっ、確かにそうですね。でも一応、作った本人ですから」

神父「では、私が使えない場合はお渡しします。それで宜しいですね?」

カル「はい。そんな事にはならないと思いますけど」ニコッ

神父「では早速試してみます。かなり気が引けますが……」

カル「神父さんなら絶対使えますよ。俺、外のベンチで待ってますから」

神父「分かりました。では、また」

ガチャ…パタン

カル「んーっ、何だか疲れた。こういうの、慣れてないからなぁ」

カル「よしっ、俺も行こう」

カル「(神父さんと話したら、町の人に挨拶して……)」


ガチャ…パタン


カル「(この町を、発つ)」


※※※※※

篝火教会

カル「(色々分かったのはいいけど、奴等がどこに出るのか分からない)」

カル「(どうしても、後手になっちゃうんだよなぁ……)」

カル「未然に防げれば、それが一番良いんだけど」

ズズズズズ……

カル「(何だ? 地面が盛り上がって……)」

ボゴンッ

カル「岩?」

ゴゴゴゴッ

カル「っ!! 来るっ!!」チャキ

バゴッ…パラパラ


少女「やっほう」ニカッ


※※※※※

篝火教会

カル「(色々分かったのはいいけど、奴等がどこに出るのか分からない)」

カル「(どうしても、後手になっちゃうんだよなぁ……)」

カル「未然に防げれば、それが一番良いんだけど」

ズズズズズ……

カル「(何だ? 地面が盛り上がって……)」

ボゴンッ

カル「岩?」

ゴゴゴゴッ

カル「っ!! 来るっ!!」チャキ

バゴッ…パラパラ


少女「やっほう」ニカッ


カル「……は?」


少女「やっと着いたー!!」

カル「(なんか、小麦肌の健康的な子が岩から出てきた)」

カル「(黒水晶は無いし、嫌な気配も無い……)」


少女「どうした? ソニャのことじろじろ見て」


カル「あの、君は誰?」


ソニャ「えっ!? ソニャのこと分かんないか?」

カル「ごめん。全然分かんない……」

ソニャ「えぇー、ソニャは分かる。オマエの仲間だ。土、土が使える!!」

カル「へー、こんな小さいのに」ポンッ


ソニャ「へへ、偉いだろ?」


カル「(……子供がいたら、こんな気持ちになるのかな)」


カル「…っていうか、本当に土の力を使えるの?」

ソニャ「今見たろ? 信じないか?」

カル「いや、突然の事だったから」

ソニャ「びっくりした?」

カル「あ、うん。凄いびっくりしたよ」


ソニャ「あははっ、そっか」


カル「…………」


ソニャ「…………」ニコニコ

カル「えーっと、君はどうやって力を?」

ソニャ「ん?」

カル「力を受け継いだんじゃないの?」

ソニャ「分かんないけど、気付いたら使えた」


カル「気付いたら……」


ソニャ「うん。なんか、水を使う悪いヤツが森に来た」


カル「水か……」

ソニャ「そいつ、すっごく嫌な奴で、追い出そうとしたら」

カル「したら?」

ソニャ「土とか木が守ってくれて、それから、ぶっ飛ばした」

カル「その人はどうなった?」

ソニャ「ぐだけちった」


カル「……あの、聞いてもいい?」


ソニャ「いいぞ? なんでも聞け」


カル「何で俺の居場所が分かったの?」

ソニャ「土から、ぶわっ!! て伝わってきた」

カル「な、何が?」

ソニャ「いい奴がいるのはこっち。って」

カル「(そんな簡単に分かるものなのか? 俺には、何も感じなかったけどな)」


神父「カルさん、お待たせしました。おや? その子は?」


ソニャ「いいぞ? なんでも聞け」


カル「何で俺の居場所が分かったの?」

ソニャ「土から、ぶわっ!! て伝わってきた」

カル「な、何が?」

ソニャ「いい奴がいるのはこっち。って」

カル「(そんな簡単に分かるものなのか? 俺には、何も感じなかったけどな)」


神父「カルさん、お待たせしました。おや? その子は?」


つづく

なんか分かんないけど被った。ごめん。


※※※※

篝火教会・空き部屋


ソニャ「むにゃ…」


神父「この子の話しからすると、土の国から来たようですね」

カル「……森に住む民族で、森を守る為に戦った」

神父「そのようです。しかし、詳しい経緯は分かりませんでした」

神父「ですが、暗闇の妖精や精霊。そういった知識はあるようです」

カル「実際、俺より詳しかったです。もしかしたら、そういう部族なのかな」

神父「先程の会話からして、精霊への信仰心が強いようでした」


神父「服装もかなり独特なものですし、恐らくそうなのでしょう」


ソニャ「…月牙…て…すぅ」


カル「神父さん、やっぱりこの子が?」

神父「地を司る者に間違い無いでしょう」

カル「……証明する為だけに、一瞬で俺の像を造り出しましたからね」

神父「力の使い方に慣れているようです。しかし、幼い」

カル「…………」


神父「カルさん?」


カル「神父さんは精霊石を使えたんですよね?」


神父「確かに扱うことは出来ました。物が物だけに、素直には喜べませんが」

カル「それ、よろしくお願いします。町に役立てて下さい」

神父「……本当に私で良いのですか? 国王のような御方に渡した方が良いのでは?」

カル「んー、その方が皆の為になるなら、そうすると思います」

神父「分かりました。でしたら、その時までお預かりします」


カル「お願いします。じゃあ、俺は行きます」


神父「この子を、置いて行くつもりですか?」


カル「ん? はぁ、出来ればそうしたかったんですけど」チラッ

ソニャ「!!…すぅすぅ…」ピクッ

カル「どうやら、そうも行かないみたいです」

神父「ふふっ。外見は幼くとも、彼女は戦士です」

神父「貴方の探していた仲間には違いないと、私はそう思いますが?」

ソニャ「…ソウダソウダ…すぅすぅ…」ニコニコ

カル「戦士、か。ソニャ、無理しない? 辛かったらちゃんと言う?」

ソニャ「無理しない!! ちゃんと言う!!」ガバッ



ソニャ「絶対、カルと一緒に行く!!」


※※※※※

篝火の町

神父「もう夕方です。発つのは明日でも良かったのではありませんか?」


カル「折角仲間が来てくれたんだし、今日発ちます」

ソニャ『カル、早く行こーよー!! 白月も待ってるよー!!』

カル「ちょっと待って!!」

神父「(出逢って数時間、最早兄妹のようだ……)」

カル「それに、他の場所も気になります」


カル「国の対応がまだ無いって事は、黒水晶の被害が国王の耳に届いて無いんだと思います」


神父「では、都を目指すと?」


カル「直接伝えれば対応も早まるし、他国の状況も聞きたいので」

神父「なる程。では、お気を付けて」

カル「はい。短い間でしたけど、沢山お世話になりました」

カル「本当にありがとうございす」

神父「此方こそ、町を救って頂きありがとうございます」


神父「町の皆を代表して、お礼申し上げます」


カル「呉服屋さんや、食堂のおじさん、果物くれたおばさん」


カル「それと、編み物くれた女の子に、また来ますって言って下さい」

神父「ふふっ。はい、必ず」

カル「じゃあ、行ってきます」

神父「あっ、ちょっとお待ち下さい。これを」スッ

カル「手紙? これは……」


神父「子供達からです。お兄さんに遊んでもらったお礼。だそうですよ?」


カル「うわっ、絶対大事にします。それより…その」


神父「あの子達なら、私が責任を持って育てます」

神父「まだ心を開いてはくれませんが『大丈夫です』」

カル「!! 頑張って下さい。俺、絶対また来ますから!!」

神父「ええ、お待ちしてます」

ソニャ『カル、まだかー!? 日が暮れちゃうぞー!!』


カル「ああそうだった。神父さん」


神父「はい? 何でしょう?」


カル「女盗賊さんと、末永くお幸せに」ニコッ

神父「えっ、はっ? な、何故それを」

カル「!! じ、じゃあ、またいつか!! 白月、急ぐぞ!!」ダッ

ソニャ『じゃあねー!!』

神父「お気を付けて!! しかし、一体何に怯えて…」クルッ

女盗賊「あ、あ、あんの野郎。あの時起きてやがったな!!」

神父「まっ、まあまあ、いいじゃないですか」


女盗賊「うっさい!!」


次回「田舎者と野人」


※※※※※

草原

カカッ…カカッ…

ソニャ「おー、白月は速いなー!!」


白月「ブルルッ!!」ガガッ

カル「ははっ、だろ? 里で一番の馬なんだ」

ソニャ「へー、カルは何てとこに住んでた?」

カル「灯火の里って所。自然が沢山あっていい所だよ」


ソニャ「じゃあ、狩りとかするか?」


カル「うん。山菜採りとかもするかな」


ソニャ「おー、気が合うな。ソニャも森で狩りするぞ?」

ソニャ「みんなに巧いって言われる!! 凄いだろ?」

カル「よしっ、じゃあ今後一緒に狩りするか?」

ソニャ「するっ!! 約束だぞ? 絶対な?」

カル「ははっ、うん。って言うか、ソニャ」


ソニャ「なんだ?」


カル「何で俺の所に来たんだ? 他の二人の居場所は分からない?」

ソニャ「んー、一番はっきりしてたのがカルだった」

カル「はっきり?」

ソニャ「うん。一番優しくて、凄く暖かい感じがした。それにな?」

カル「どうした?」

ソニャ「族長が『火を頼れ』って言ったんだ」

ソニャ「だから、一生懸命暖かいの探した」


カル「ん? 何で族長さんは火を頼れって言ったの?」


ソニャ「昔、炎使いが来て助けてくれたんだって。だからじゃないかなー」


カル「その時の炎使いは、どんな人だったの? ちょっと気になる」

ソニャ「剣術武術は得意だったけど、狩りがド下手だったって言ってた!!」

ソニャ「だから助けて貰ったお礼に、わざわざ族長が教えてあげたんだって」

カル「何だか……うん。言い話しだね。あのさ、ソニャの部族は何て言う部族なの?」

ソニャ「ガウリ族!! みんなガウリ付く」


カル「じゃあ、ソニャ・ガウリ?」


ソニャ「うんっ、カルはガウリか?」


カル「違う違う。俺はカル・アドゥルっていうんだ」

ソニャ「お揃いと違ったかー」

カル「ははっ、ごめんな?」

ソニャ「あっ、そう言えば!! 族長は炎使いを好きになったんだー」

カル「えっ? 族長って女の人なの!?」


ソニャ「昔っから族長は女だぞ? 一番強い女が族長になれるんだ」


カル「じゃあ、その炎使いは強かったんだ?」


ソニャ「うんっ。今でも言うよ?」

ソニャ「『あの男こそ、我が夫に相応しかった』とかって」

カル「凄いな」

ソニャ「顔真っ赤にして言うんだ。もう婆ちゃんなのに」

カル「そんなに? まだ好きなのかな」

ソニャ「うん。結婚してない」


カル「へ、へー。そ、それは凄いな……」


ソニャ「だから、ソニャは頼まれたんだ」ウン


カル「族長に? どんな頼み?」

ソニャ「炎使いをとりこにしろって言われたー」

カル「……意味、分かる?」

ソニャ「あははっ、全然わかんねー」

カル「(こんな子供に何てことを言うんだ。まあ、冗談だろうけど……)」

カル「(冗談。だよな?)」


ソニャ「なあ、次の町まだかー?」


カル「もう少しで着くと思うよ。どうした?」


ソニャ「腹減った!! 眠いっ!!」

カル「ははっ、そっかそっか。俺も腹減ったけど、もう少しだけ我慢しような?」

ソニャ「……うん、分かった」

カル「やっぱり疲れた? ずっと移動してたんだもんな?」

ソニャ「ぬぅ、眠…い」

カル「(寝ちゃったのか。疲れてるか。なんて、そりゃあ疲れてるよな……)」


ソニャ「(カル、優しい。あったけー)」ギュッ


つづく

都に着くまで結構掛かるかもしれない。


※※※※※

炎陽の街

カル「やっと着いた。白月、お疲れ様」ポン


白月「ブルルッ……」

カル「しっかし、もう真っ暗だ。ソニャは……」

ソニャ「…んやっ…すぅ…すぅ…」

カル「寝てるか。やっぱり、相当疲れてたんだな」


カル「よし、まずは白月を預けないと……」

カカッ…カカッ…


※※※※※※

カル「じゃあ、白月をよろしくお願いします」


お婆さん「こんなボロ小屋で良いのかい? もっと上等な厩舎があっただろうに」

カル「いやー、どういうわけか白月が嫌がっちゃって」

お婆さん「あらあら、こんなに大人しくて良い子なのにねえ」ナデ

白月「ブルッ……」スリスリ

カル「あのっ、お代」


お婆さん「ほほっ、お代なんて要らないよ」


カル「えっ、でも」


お婆さん「ただ、この街に長く居るようなら……」ポン

白月「ブルルッ…」

お婆さん「この子が寂しがらないように、顔を見せに来なさいよ?」

カル「は、はいっ。ありがとうございますっ!!」

お婆さん「なあに、気にせんでいいよ」

お婆さん「それより、そんな大声出しちゃあ」


カル「あっ、そうだった……」


ソニャ「んー…すぅすぅ」ギュッ


お婆さん「そのお嬢ちゃんは、妹さんかい? 可愛いねえ」

カル「いやっ、はい。まあ、そんなもんです」

お婆さん「まだ小さいねえ、大事にするんだよ?」ニコッ

カル「はいっ。じゃあ、お願いします」


お婆さん「(あんなに素直で礼儀正しい子、久しぶりに見たねえ……)」


※※※※※

カル「宿屋はここで最後か。来るのが遅かったからな」


カル「でも、見るからに高級そうな宿屋だな……」


街並みも、篝火の町とは全然違う。

お洒落っていうか、建物も殆ど石造りだ。

いやー、凄いもんだな。

通りを歩く人も、何だか全然違って見える。これが都会か。


何だか落ち着かないな……


お洒落だし頑丈そうだ。


けど、やっぱり木造の方が俺は好きだな。

都会って、みんなこんな雰囲気なのか? 都は、これよりも凄いのか?

何だか、都に行くのが怖くなってきた。


ソニャ「すぅ…すぅ…ぬー」

カル「まっ、いいや。取り敢えず部屋が空いてるか聞こう」

ガチャ…パタン

カル「うわっ、凄い。目が、チカチカする」


ソニャ「うー…んわっ!? どこだ!?」


カル「あっ、起きちゃったか」


従業員「当ホテルへ、ようこそ」

カル「ほてる?」

従業員「ええ、ホテルですが?」

カル「ここ、宿屋じゃないんですか?」

ソニャ「ほてるってなんだ? 何でこんなに眩しくしてる?」


……クス…クスクス


カル「……?」


『ぷっ、宿屋。ですって』


『今時着物なんて、恥ずかしくないのかしら』

ザワザワ…

『汚い格好だな。よく来れたものだ』

『背中の子なんて泥だらけじゃない』

『こっちは食事中だってのに……』


『何してんだ? 早く追い出せ』


ソニャ「なんだ!! ソニャ達、悪いことしたか!?」


カル「怒っちゃ駄目だ。な?」

ソニャ「だってアイツ等、ソニャとカルを笑ったぞ? 嫌じゃないのか?」

カル「ソニャ」

ソニャ「うっ、わ、分かった。我慢する」

従業員「す、済みませんが、部屋は全て埋まっていまして……」


カル「……そうですか、ありがとうございました」


従業員「あ、あのっ」


カル「はい?」

従業員「申し訳ありません」ペコッ

カル「大丈夫です。気にしなくていいですよ」

従業員「……っ」


ソニャ「(カルだって嫌なはずなのに。アイツ等、嫌いだ)」ギュウッ


『とっとと出てけ、田舎者』


『大体、あんな格好で金持ってんのか?』

『おい。あの娘の服、見てみろ。山育ちかっつーの』

『あははっ、笑わせないでよ。もうっ』

キャハハハ…アハハ…

ソニャ「っ!! ガウリを馬鹿にした奴は誰だ!!」バッ


カル「ソニャ、駄目だ!!」ガシッ


ソニャ「カルっ、はなせっ!!」


カル「気にしちゃ駄目だ。行こう、ソニャ」

ソニャ「嫌だ!! ガウリを馬鹿にする奴は、絶対許さない!!」


『おぉー怖い、まるで野獣だな』

『あんなのと一緒に泊まるなんて、考えらんない』

『さっさとつまみ出せ!!』


従業員「み、皆様!! 落ち着いて」


カル「 黙れ!! 」


…ビクッ……シーン

カル「望み通り出て行く。でも」

ソニャ「(カル、怖い顔してる。さっきまで、笑ってたのに……)」

カル「これ以上、仲間を侮辱するのは許さない」


『けっ、格好付けやがって」

『あははっ、許さない。だってさ』


カル「あなた達の服装が、いくら綺麗でも……」


カル「人の大事な物を平気で馬鹿にして、笑い物にする」


カル「そんな、あなた達の心が……」

カル「俺には、醜く見える」

従業員「!!」


『ふんっ、さっさと出て行け』

『貧乏人が、何を偉そうに』

『全く、彼奴等の所為で料理が冷めちゃったよ』


カル「……ソニャ、もう行こう」スッ

ソニャ「あっ…うんっ!! ソニャは外でも大丈夫だ!!」ギュッ


次回「強者」


※※※※※

スタスタ…

カル「ソニャ、我慢してくれてありがとう」


ソニャ「腹立つけどなっ!! すっごくすっごく腹立つけど……」

カル「ん、どうした?」

ソニャ「カルが怒ってくれたから、許してやった。とくべつになっ!!」

カル「そっか、特別か。頑張ったな」

ソニャ「まーな。でも、族長がこの話し聞いたら…」


カル「ど、どうなるんだ?」


ソニャ「族長なら、くびを持って来いって言うだろう」


ソニャ「きっと、おそらく…なっ?」ニコッ

カル「そ、そんなに怖い部族なのか?」

ソニャ「家族をいじめたり、馬鹿にされたら、ほーふくする」

ソニャ「そうしないと、他の奴等がつけあがるからな」

カル「(縄張り争いみたいなものなのか? 家族、家族か……)」


ソニャ「どーした?」


カル「俺も、爺ちゃんを馬鹿にされたら怒るだろうな。って思ってさ」


ソニャ「爺ちゃん? 父ちゃん母ちゃんは? 後、婆ちゃんは?」

カル「両親は小さい頃に死んじゃったんだ」

ソニャ「…………」

カル「育ててくれた爺ちゃんも…」

ソニャ「カルっ、上を見ろ!!」


カル「えっ!?」


ソニャ「いいから見ろ!!」バシッ


カル「わ、分かった!!」

ソニャ「よし。今から、いいこと教えてやる」

カル「良い事?」

ソニャ「いいか? 空には何が見える?」

カル「月と星?」

ソニャ「星は、死んだ人のタマシイなんだ」


ソニャ「タマシイは星になって、空でずーっと光ってる」


カル「魂の光。か」


ソニャ「それで、星になったタマシイは、家族を見守ってる」

カル「!!」

ソニャ「だから、カルの父ちゃんも母ちゃんも爺ちゃんも……」

ソニャ「みーんな」グイッ

カル「うわっ!?」

ソニャ「みーんな、カルを見てるぞ?」ニコッ


カル「そっか……ありがとう。ソニャ」


ソニャ「へへっ、カルは知らなかったかー」


カル「うん。初めて聞いた」

ソニャ「もしかして、ソニャは物知りだったか?」

カル「ははっ、そうかもな」

ソニャ「……元気、出たか?」

カル「大丈夫。ソニャのお陰で、めちゃくちゃ元気になったから」ニコッ


ソニャ「よし、元気出たなら早く外に行こう」


カル「えっ、ご飯食べないのか? 店なら沢山あったけど」


ソニャ「ふんっ、どうせさっきみたいな奴等がいるに決まってる!!」

カル「(あぁ、あの後じゃ嫌だよなぁ)」

カル「(出来れば、美味しい料理を一緒に食べたかったけど……これじゃ無理だな)」

ソニャ「早く外にでる。そして、狩りをする」

カル「今からか!? 疲れてるんだろ?」

ソニャ「疲れてる。疲れてるが、ソニャは餓えている……」グー

カル「はぁ…じゃあ、食べ物買って」


紳士「君達。少し宜しいかな?」


つづく


※※※※※

ソニャ「よろしくない。それにオマエ、ほてるにいたな?」


紳士「ああ、確かに居た。私の名は紳士。君達を見ていたんだ」

紳士「しかし、声を掛ける機会を逃してしまってね」

カル「あのっ、俺達に何の用ですか?」

紳士「とても興味が湧いた。単純に、君達と話しがしたくなった」

ソニャ「また笑いにきたか!? 次は許さないぞ!!」


カル「ソニャ、少し落ち着け。なっ?」


※※※※※

ソニャ「よろしくない。それにオマエ、ほてるにいたな?」


紳士「ああ、確かに居た。私の名は紳士。君達を見ていたんだ」

紳士「しかし、声を掛ける機会を逃してしまってね」

カル「あのっ、俺達に何の用ですか?」

紳士「とても興味が湧いた。単純に、君達と話しがしたくなった」

ソニャ「また笑いにきたか!? 次は許さないぞ!!」


カル「ソニャ、少し落ち着け。なっ?」


ソニャ「……少しだけな」


紳士「私は、決して君達を馬鹿にしに来たわけでは無い」

紳士「カル君。だったかな?」

カル「はい」

紳士「君の言葉が胸に刺さった。君達は、美しい心を持っているね」


ソニャ「あたま大丈夫か?」


カル「ソニャ、この人は大丈夫。ちょっと変だけど」


紳士「ふっ、それに素直だ」

カル「あ、すいません」

紳士「いいさ。実は私も、あの宿泊客達が気に入らない」

ソニャ「ほぅ、気が合うな」


紳士「カル君の言う通り。いくら着飾っても、美しくない」


紳士「確かに服装は大事だが、やはり大切なのは内面だ」


カル「……俺達に、何をさせたいんですか?」

紳士「ふむ、君は察しがいいな。一つ、頼みたい」

ソニャ「なんだ? ソニャは腹が減って大変なんだ。さっさと言え」

紳士「君達には、是非、あのホテルに泊まって欲しい」

カル「無理ですよ。見ていたんでしょ?」


ソニャ「カル、行こう?」


ソニャ「カル。アイツはもう駄目だ。あたまが、やられている……な?」


カル「こら。あの、もう行きます」

紳士「少し時間をくれれば、豪華な料理が食べ放題なんだが……」

ソニャ「くわしく話せ」

カル「(紳士さんか。悪い人じゃなさそうだけど……)」

カル「分かりました」


紳士「では、来たまえ」


※※※※※

カル「あの、ここは何の店ですか?」


ソニャ「ほてる、行かないのか?」

紳士「ホテルに行くのは、この店で準備した後だよ」

カル・ソニャ「準備?」

紳士「ああ、準備だ。さあ、中に入ろう」

ガチャ…パタン…

女店主「いらっしゃいま…あ、貴方は!!」


紳士「しーっ、今は客として来ている」


女店主「すぅ…はぁ…」


ソニャ「あの女、どうしたんだ?」

カル「さ、さあ…」

女店主「ふぅ。お客様、何をお求めでしょうか?」

紳士「突然で悪いが、この二人に似合う服を見立てて欲しい」

紳士「それと、髪を整えて欲しい」


女店主「畏まりました。では、お二人共此方へどうぞ」


カル「えっ、ちょっと」


ソニャ「なにをする?」

女店主「お着替えするだけです。皆も手伝って頂戴」

ゾロゾロ…


『『『はい!!』』』


カル「な、なんだ?」

ソニャ「あははっ、くすぐったい!! やめろー!!」バタバタ


※※※※※

『『『出来ました』』』


女店主「ご苦労様。皆戻っていいわよ」

カル「な、なんか、窮屈だな」

ソニャ「なんだこれ、ひらひらしている」

紳士「カル君が着ているのはスーツと言う」

カル「すーつ? 何だかぴっちりした服ですね。肩が凝りそうです」


紳士「ふむ、実に似合っている。結わえた髪もね」


ソニャ「なー、ソニャのはなんて服だ?」


紳士「ソニャ君が着ているのは、ドレスという」

紳士「やはり女性は化けるものだな……」

紳士「数年経てば、世の男が放って置かないだろう」

ソニャ「どれす、か。なんか、わーってなるな、これは」モジモジ

紳士「少しだけ我慢したまえ」


ソニャ「やぶきてーけど、我慢してやる」


カル「(紳士さんが凄い人なのは何となく分かるけど、一体……)」


紳士「女店主、無茶を聞いてくれてありがとう」

女店主「いえ、またのお越しをお待ちしております」

紳士「では、失礼する」

ガチャ…パタン……

カル「紳士さん、何でここまで?」


ソニャ「うぬぬっ…」モジモジ


紳士「如何に美しい宝石を持ち、如何に素晴らしい服を着ても……」


紳士「何かが変わる事は無い。と、私は思う」

カル「それはどういう?」

紳士「高価な物を身に纏っていれば、優れた人間になったと勘違いする者もいる」

紳士「あのホテルの宿泊客が、それだ」

カル「…………」


紳士「一方。田舎者だ野獣だと言われても、ホテルを去る君達は堂々としていた」


紳士「そう。君達は、恥じる必要など一切無かった」


カル「でも、泊めては貰えませでした」

紳士「……近頃、ああいった宿泊施設が流行っているんだが」

紳士「あんな宿泊客がいるお陰で、一般の方々は泊まりたくても泊まれないのだよ」

カル「それは、知りませんでした……」

ソニャ「くぬー、うぅ」モジモジ


紳士「これから、様々な分野に新しい時代が訪れるだろう」


カル「(このスーツとか、靴とか言う履き物も、俺は知らなかった)」


カル「(新しい時代か。人も、変わるのかな……)」

紳士「皆、必死なのかもしれない。時代に、取り残されない為に」

カル「えっ、そんなの、着たい物着ればいいじゃないですか」

カル「皆が同じ服を着る必要なんてないでしょう?」

ソニャ「カルの言う通りだ。こんなの、ソニャは嫌いだぞ」プルプル

紳士「そろそろホテルに着く」


紳士「ソニャ君、それまでは破かないでくれたまえ」


カル「あのっ紳士さん、これを」スッ


紳士「代金は要らない。私が好きでやった事だ」

カル「受け取って下さい。これは、俺がしたくてしてることです」

カル「それに、色々と勉強になりましたから」ニコッ

紳士「ふむ、なる程。では、有り難く頂戴しよう」

紳士「だがこれでは、私が受け取ってばかりな気がするな」


カル「えっ、スーツとか靴とかドレスとか、沢山貰いましたよ」


紳士「いや、少し違う」


紳士「君達のような人に出逢えた事が、何より嬉しいのだよ」

ソニャ「やっぱりコイツ、あたまが……」

カル「こら、そういう事は言っちゃ駄目だ」

紳士「ふっ。だから、まだ足りない気がしてね」

カル「も、もう十分ですよ」

紳士「では、これを」スッ


カル「これは、封筒?」


紳士「その中には魔法の紙が入っている」


紳士「それを、ホテルの従業員に渡してくれたまえ」

カル「は、はあ」

ソニャ「着いたぞ!! 本当に腹一杯食えるんだろうな!?」

紳士「それは保証する」

紳士「出来れば一緒に入りたいのだが、君達だけで行きたまえ」

カル「……ソニャ、行こう」

ソニャ「うんっ。たくさん食うぞー!!」ギュッ

ガチャ…パタン

紳士「どうやら、もう気付かれたらしい。出来れば勧誘したかったが…」


紳士「いくら口説いても、決して首を縦には振らなかっただろうな」


次回「二人の夜」

思ったより長くなりそう。


※※※※※

カル「(入ったものの、本当に大丈夫なのか? 着替えて髪整えただけなのに)」


ソニャ「おーい、従業員って奴はどこだ?」

カル「(まっ、成るようになるか)」

従業員「当ホテルへようこそ…?」

カル「あ、さっきはどうも」ペコッ


ソニャ「腹が減っている」グー


ザワザワ…

『お、おい。あれ』


『まさか、さっきの小汚いガキ共か?』

『ねえ、もしかしてあのドレス』

『女店主さんの!? いや、そんなまさか』

『あのスーツも、そう簡単に手が出せる物じゃないわ』


『何者だ。あの二人……』


従業員「(この二人、確かにさっきの二人だよな? 気付かなかった)」


ソニャ「カル、そんなのいいから。早く早く」グイグイ

カル「あの、この封筒を渡せばいいと言われたんですけど」スッ

従業員「は、はいっ。えーと…!!」

カル「やっぱり、泊まれませんか?」

従業員「先程は、大変失礼致しました!!」

カル「へっ? いやいや、別にいいですよ」チラッ


『『『 うっ… 』』』ビクッ


カル「事情は、何となく分かりましたから」


ソニャ「いいから早く食わせろ。そしたら許してやる」

従業員「いやまさか、お二人が総支配人の友人だったとは……」


『『『  なっ!? 』』』ザワザワ


カル「総支配人?」

ソニャ「アイツ、そんなに凄いか?」


従業員「え、ええ。このホテル含め、国内外のホテルを……」


カル「(規模が違った。でも、不思議な人だったなぁ)」

ソニャ「ふーん。よくわかんねーな」

従業員「お二人の荷物は後で届くようなので、ご安心下さい」

従業員「わたくしが、お部屋に御案内致します」


ソニャ「そんなのは後でいい。ソニャは、腹が減って……」グー


カル「ソニャ、もう少し我慢しよう。すぐに食べれるから、な?」


ソニャ「……ちょーっとだけな?」

従業員「あ、あの。如何なさいますか?」

カル「出来れば、ご飯を先に食べたいです」


従業員「はい、畏まりました。では、此方へ」


※※※※※

従業員「では、少々お待ち下さい」


ソニャ「まだ待たせる作戦か……」

カル「ははっ、大丈夫大丈夫」

カル「ちょっと待てば、凄く美味しい料理が食べれるから」

ソニャ「ずっと前からそれ言ってるけど、まだ食べれてないっ!!」

ソニャ「カルは腹減ってないか!? 我慢できるか!?」


カル「……いいか、ソニャ。怒ると余計に腹が減るんだぞ?」


ソニャ「ぬー、それは知っている」


ソニャ「ソニャは物知りだから知っているが……」

カル「だからこんな時は、どんな料理が来るか考えよう?」

カル「そうすれば、少しは気が紛れるよ」

ソニャ「……いちりあるな。カルはどんなの考えた?」


カル「俺は、鹿とかじゃないかな。って思う」


カル「ソニャは、何が思い浮かんだ?」


ソニャ「クマ。きっとそうに違いない」ウン

カル「熊か。昔、爺ちゃんと里の皆で食べたなぁ」

ソニャ「クマ、二匹」

カル「二頭も!?」

ソニャ「だって、アイツは沢山って言ったぞ?」


従業員「お待たせ致しました」


※※※※※

カル「……………」モグモグ


ソニャ「……………」モグモグ

ソニャ「カル、あのな?」

カル「うん、分かる。分かるけど……」

カル「それは、あれだよ。俺達が食べ慣れてないからだ」

ソニャ「あんまし美味しくないな?」


カル「(言っちゃったよ……)」




『(この料理で物足りないだと!?)』

『(あの二人、普段どんな料理を食べてるんだ……)』




カル「お、お肉は美味しいだろ?」


ソニャ「まー、そこそこだなー」

カル「俺の肉あげるから。ほら」スッ

ソニャ「うん……」パクッ

カル「ソニャ、ごめん」

ソニャ「…? なんでカルがあやまる?」


カル「あの時、街を出た方が良かったかな。って思ってさ」


ソニャ「食い物はいまいちだが、ソニャは嬉しい」


ソニャ「変な服着たり、変な食い物食べたり。な?」ニコッ

カル「そっか、そりゃ良かった」

ソニャ「それにな?」

カル「うん?」

ソニャ「カルは優しい。おんぶしてくれたし、今も肉くれた」


ソニャ「だから、カルはなーんにも悪くない」


カル「ははっ、ありがとう、ソニャ」


ソニャ「うんっ。じゃあソニャも、カルにありがとうだな」ニコッ

カル「……あっ、そういえば」

ソニャ「どーした?」モグモグ

カル「ソニャって箸使えるんだな。びっくりしたよ」

カル「このフォークとかの使い方は、俺も分からないけどさ」


ソニャ「あー、これは族長から教わった」


カル「族長から?」


ソニャ「うん。でも族長は炎使いから教わったって」

ソニャ「それまでは手掴みだったみたいだ。けど、今は箸を使う」

カル「何で族長は使い方教わったの? 覚えるの面倒だろうに」

ソニャ「『何とかして、振り向いて欲しかった』んだって」

カル「……頑張ったんだね、族長さん」

ソニャ「でも炎使いは行っちゃったんだ」

カル「だから今でも、すっごく悔しそうにしている」モグモグ


カル「(……一途な女性、なのかな?)」


※※※※※

従業員「此方の部屋になります。では、ごゆっくりお休み下さい」

ガチャ…パタン


カル「うわっ、凄いな。こんなの見たこと無い」

ソニャ「カル、そんなことより、ソニャはこれ脱ぎたい」

カル「ははっ、実は俺もだ。羽織るやつあるし、着替えよう」

ソニャ「うっ、ぬー、脱げない。カル、脱がしてくれ」


カル「分かった。なる程、背中に留め具があるのか……」


カル「ソニャ、髪持ち上げて? 引っ掛かると痛いから」


ソニャ「ん、分かった」

プチッ…プチッ…プチッ

カル「よし、出来た」

ソニャ「やっと脱げたか……後はこれも」

カル「それは一人で脱げるか?」


ソニャ「ぬっ、くぬっ…ダメだ……」


カル「仕方無い。うわっ、何だこれ」


ソニャ「どーした?」

カル「外し方が、かなり面倒そうだ……」

ソニャ「だろ? これのせいで胸がきついんだ」

カル「ちょっと待ってて。よし、段々分かってきたぞ」

ソニャ「なー、まだか?」ソワソワ


カル「もう少し……」


カル「あっ、そうか。横にずらせば」

パチンッ


カル「よしっ、外れた」

ソニャ「はぁ助かった。ありがとな?」

カル「あの白いふわふわ、ちゃんと羽織るんだぞ?」

ソニャ「うんっ」

カル「じゃあ俺、向こうの部屋で着替えてくる」

ソニャ「分かったー……んっ…」モジモジ

   
ソニャ「……下のやつも脱ごう。なんかもそもそしてダメだ」


つづく


※※※※※

カル「(あー、やっと脱げる。やっぱり着物が一番いい)」


カル「(着物が届くまでは、この白いやつ着ておこう)」

ソニャ「カル、着替えたか?」

カル「あ、うん。着替え終わったよ」

ソニャ「やっぱしなんか変だな?」

カル「ん? 何が?」


ソニャ「夜なのに明るいし、寝るとこもないし」


カル「明るいのは電気ってやつだよ」


カル「大きな街とか都は、夜も明るいって聞いた」

ソニャ「カミナリ様か?」

カル「まあ、そんな感じ。仕組みは全然分かんないけど」

ソニャ「なんか、落ち着かないな?」

カル「ははっ、そうだね。俺も落ち着かない」


カル「ちなみに、寝るのはここ」

ボフボフッ


ソニャ「なんだそれ?」


カル「ベッド。って言うんだって。ソニャはどうやって寝てた?」

ソニャ「毛皮の上で寝てた」

カル「(思ってた以上に原始的な暮らしだ。完全な自給自足の生活か)」

カル「取り敢えず、ちょっと横になってみたら?」


ソニャ「う、うん」

ポフッ


カル「どう? 寝れそう?」


ソニャ「わるくないな。カルも来い」

カル「えっ? ベッドは二つあるし、一人で寝るよ」

ソニャ「……実は、ここだけの話し」

カル「ん?」

ソニャ「一人じゃ寝れそうにない。落ち着かなくて」


カル「……そっか、じゃあ一緒に寝よう」


ソニャ「いいのか?」


カル「いいのかって、一緒じゃないと寝れそうにないんだろ?」

カル「凄い部屋だけど。こんな部屋じゃ、俺だって落ち着かないよ」

ソニャ「……そうか、わかった」

カル「…? それよりソニャ」

ソニャ「な、なんだ?」


カル「従業員さんに聞いたんだけど、風呂があるんだって」


ソニャ「あー、体洗うとこな? それは知ってる」


ソニャ「で、どこにある?」

カル「それが……」

ソニャ「なんだ? しんこくな顔して」

カル「この部屋の中にあるらしいんだ」

ソニャ「ふっ、ウソだな」

ソニャ「川もないのに、どうやって水を出す?」


カル「温泉からお湯を引っ張ってるらしいけど、詳しくは分かんないな」


カル「気になるし、折角だから入って来る」


カル「何日も風呂に入ってないし」

ソニャ「そうか、気をつけてな?」

カル「ははっ、うん。じゃあ入って来る」


ガチャ…パタン


ソニャ「……………」ポツン

ソニャ「………………」ソワソワ


カル『ぎゃあぁぁぁ!!!!』


ソニャ「っ、カル!!」ダッ


※※※※※

カル「説明では、これを捻ると」グイッ


バッシャアアアア!!


カル「ぎゃあぁぁぁ!!」

ガラッ

ソニャ「どーした!? 大丈夫か!?」

カル「冷たっ!!」グイッ

ピタッ…


ソニャ「お、おい。カル、大丈夫か?」


カル「あ、ソニャ。俺なら大丈夫」


カル「いきなり冷たいのが出たから、びっくりしただ……け」

ソニャ「どーした?」

カル「さ、流石に恥ずかしいから、早く閉めてくれないかな」

ソニャ「なにが恥ずかしい?」

ソニャ「カルだって、ソニャの肌を見ただろ?」

カル「肌と素っ裸じゃえらい違いだ。全く違う」


カル「だからほらっ、早く閉めて。な?」


ソニャ「やっぱしソニャも入っていいか?」


カル「は!? 流石にそれは」

ソニャ「頭がかゆい。ソニャは、カルに洗って欲しい」

カル「(まだ出逢って一日目。いや、日数は関係無い)」

カル「(女の子と風呂に入る。ってことが問題なんだ)」

カル「(いくらソニャが小さい女の子でも、恥ずかしいものは恥ずかしい)」

ソニャ「入るぞー?」


カル「……………」


カル「(まあ、そういう自覚は無いだろうし。さっさと済ませよう)」


カル「髪は洗う。でも、あんまり見ないように」

ソニャ「なんでだ? 一緒寝るんなら、見たっていいだろ?」

カル「えっ?」

ソニャ「一緒に寝るなら体きれいにしろって、族長から言われた」

ソニャ「それが男女のれーぎだと、ソニャはそう聞いたが?」


カル「……お風呂上がったら、少し話そうな」


次回「子供」

話し進むの遅いけど、ご勘弁。


※※※※※

ソニャ「…くぅ…くぅ…ぬー」

カル「まだ子供、だもんな……」


泣き疲れたのか、ソニャは眠ってしまった。

何で泣いてしまったかというと。

故郷と家族を思い、寂しくなったからだ。


カル「我慢。してたんだな」


※※※※※

ソニャ「…くぅ…くぅ…ぬー」

カル「まだ子供、だもんな……」


泣き疲れたのか、ソニャは眠ってしまった。

何で泣いてしまったかというと。

故郷と家族を思い、寂しくなったからだ。


カル「我慢、してたんだな」


恥ずかしいし、女の子の裸を見るなんて当然慣れてない。


だから、さっさと髪を洗って風呂から上がろう。

そう思って、ソニャの髪を洗い始めた時。

ソニャが泣き出したんだ。

俺は素っ裸の恥ずかしさなんて忘れて、そのわけを聞いた。

どうやら、お母さんに髪を洗ってもらった事を思い出したらしい。


ソニャの小さな体が、震えていた。


だけど、決して俺には涙を見せなかった。


ーーガウリの女はみんな強い。だから、泣いちゃダメなんだ


ソニャはガウリを、家族を大事に思っている。

きっと、気高く誇り高い部族なんだろう。

風呂を上がると、ソニャはすっかり笑顔に戻っていた。


その後、従業員さんが来て、俺達の服と荷物を持ってきてくれた。


それから、調子が戻って元気なったソニャに、色々教えた。


男女が一緒にお風呂入るのは、夫婦くらいだ。

とか、色々。

すると、ソニャにも教えられた。

何とガウリの人達は、一緒に川に入り、体を洗うらしい。

一緒とは言ったけど

女性が入っている時は、男性が辺りを見張る。


男性が入っている時は、女性が辺りを見張るようだ。


ーー恥ずかしくないの?

と聞いたら。


ーー見慣れてるから平気だが?

……と、返された。


こっちは慣れてないから、どうか勘弁して欲しい。

だけど、ガウリではそれが当たり前の事なんだろう。


改めて、育った場所が違うんだな。と思った。



後、一緒に寝るなら体を綺麗にしろ。


これは族長から吹き込まれたもの。

説明するのに、かなり時間が掛かった。

まだ小さい子に、なんて事を教えるんだ。

と思ったけど……

それは、族長なりに考えがあったらしい。


ーー愛する男と夜を共にするのなら

ーー床に入る前に、必ず身を清めなさい


という、大人の話しだ。


ソニャ「くぅ…くぅ」

カル「はぁ…」


それが正しい事だとしても、この子に教えるのは早過ぎる。

一体、族長さんは何を考えてるんだ。

ソニャには、男女について色々質問された。

その話しは、なんとか誤魔化すことに成功した。

その後、明かりを消して一緒にベッドに入ったんだけど……


また、泣き出した。


温もりが、色んな事を思い出させたのかもしれない。


背を向けて涙を流しながら。

ソニャは、俺の手を取り、頭に乗せた。

どうやら、落ち着くまで撫でて欲しいみたいだ。

それからしばらく撫で続けると、ソニャは眠ってしまった。

ソニャの寝顔を見ていたら……


ーー暗闇の妖精を倒すまで

ーー俺が、この子を守っていかなければ


と、今更ながら思った。


※※※※※

ソニャ「……カル、いるか?」モゾモゾ


カル「起きちゃったか。大丈夫、ここにいるから」

ソニャ「……うん」

カル「明日から、頑張ろう」

ソニャ「大丈夫だ。ソニャ、実は頑張り屋だから」ギュッ

カル「ははっ、そっか。頑張り屋か」

カル「あのさ。いつか、見せてくれないかな」


ソニャ「……?」


カル「ソニャが育った場所とか、ガウリのみんなとか」ポンッ

カル「(族長は怖そうだけど、炎使いの話しとか色々聞きたい)」


ソニャ「あっ…うんっ」

カル「きっと、綺麗な場所なんだろうなぁ」

ソニャ「絶対連れてってやる。約束だ!!」ギュッ

カル「いっ、痛い痛い。大丈夫、離れないから、ちょっと緩めて」

ソニャ「んーっ、カルは温かいな」ムギュ


カル「はぁ…もう寝たいから。な?」


ソニャ「ソニャは、このまま寝たいんだが、ダメか?」


カル「それはいいけど、もうちょっと緩めてくれない?」

カル「その代わり腕枕するから、布団から頭出して。な?」

ソニャ「むー、腕枕ならしょうがないな」モゾモゾ

ソニャ「今日のところは、この辺で止めておこう」


カル「助かった……じゃあ、お休み」


ソニャ「おやすみっ」ギュッ


カル「ちょっ、強い強いっ」

ソニャ「(優しくて温かくて……やっぱし優しい)」

カル「(こんな可愛い娘を旅立たせて、ソニャの両親も心配してるだろうなぁ)」

カル「……すぅ…すぅ」

ソニャ「もう寝ちゃったか?」ツンッ

カル「…ふー…すぅ…」

ソニャ「カルに逢えて、ソニャは本当に嬉しいぞ?」

ソニャ「……ソニャも、寝よう…」モゾモゾ


ソニャ「……くぅ…くぅ」ギュッ


次回「噂」


※※※※※

炎陽の街・大通り


カル「武器屋はどこだろう?」

ソニャ「はぁー、ごちゃごちゃしてるなー」


スタスタ…


目覚めてすぐに身支度を済ませた俺達は、ホテルを後にした。

そう言えば、従業員さんから四角くて硬い紙を貰った。

確か、カードとかいうやつだ。

他のホテルに泊まる時に使うと、役に立つ。らしい……


今は、ソニャの武器を買う為、武器屋を探している。


カル「ソニャってさ」


ソニャ「んー?」

カル「どんな武器使うんだ?」

ソニャ「斧。斧を使う」

ソニャ「実は弓と短刀も使えるが、ソニャは斧の方がいい」

カル「斧? 振れるのか?」


ソニャ「重いなら、振り回される。軽いなら、振る」


カル「斧の重さに身を任せるってことか?」


ソニャ「まーな。だが、重いと何回も振れない……」

カル「じゃあ、軽いのを買おう」

ソニャ「小さいのなら、二つがいい。止め刺す時、楽だから」

カル「……なる程、分かった」

カル「まだ店は見つかってないけど……」


ソニャ「探すの、めんどくせーな?」


カル「そうだなぁ。建物も多いし、道もぐちゃぐちゃだ」

カル「はぐれると大変だし、手繋ぐか」

ソニャ「うん」ギュッ


スタスタ…


カル「あっ、ここだ」

ソニャ「他のとこと違うな?」


カル「売ってるだけじゃなく、造ってるんだろうな」


カル「煙出てるし。ほら、煙突があるの見えるか?」


ソニャ「おー、本当だ」

カル「気に入ったのが無いなら違う店に行く。だからちゃんと言うんだぞ?」

ソニャ「だきょうは、しない」

カル「ははっ、そっかそっか」

ソニャ「よし、行くぞ。カル」


カル「はいはい」

ガチャ…パタン


武器屋「……いらっしゃい」


カル「おはようございます」

ソニャ「おはよー」

武器屋「あ? ああ、おはよう」

カル「斧を探してるんですが、ありますか?」

ソニャ「頑丈なヤツな」


武器屋「斧ならこっちだ。来い」


ズラリ

カル「凄い数だ。ソニャ、どれがいい?」


ソニャ「うーん。これと、これだ」

カル「小型の斧か。でも、他のより刃が厚いな」

ソニャ「そこが気に入った」

カル「振れるか?」

ソニャ「ふんっ…」ブンッ


カル「へー、凄いな」


ソニャ「これは持つとこもいい。な?」ブンッ


武器屋「……………」

カル「よし、じゃあそれにしよう」

ソニャ「カル、大丈夫か?」

カル「お金ならまだあるし、大丈夫」

ソニャ「それもだが、カルはなんか要らないか?」


カル「あぁそうだ。短刀が駄目になったんだった」


武器屋「短刀はこっちだ」


カル「あ、はい。ありがとうございます」

ソニャ「クマみたいだな?」

武器屋「…………」ジロッ

カル「こらっ。あの、すいません」

ソニャ「悪気はなかった……ごめんな?」


武器屋「いい。よく言われる」


ソニャ「ほぅ、中々いいヤツだな」


カル「(言葉遣いも教えよう……)」

武器屋「ここが短刀だ」

ズラリ

カル「……あっ、これ」スッ

ソニャ「それ、いいやつな」


カル「ソニャもそう思う?」


ソニャ「柔らかそうで、いい」


武器屋「……………」

カル「ソニャにも一つ買おう。この店のは凄い」

ソニャ「ガウリのみんなの分もほしいな」

カル「それは、今度な」

ソニャ「わかった」

武器屋「お前達は、何者だ」


武器屋「まだ子供なのに、何故武器を買う」


ソニャ「悪いヤツを倒す」


武器屋「子供二人でか?」

ソニャ「馬鹿にするな。ソニャはガウリだ。子供じゃない」

カル「ソニャ、馬鹿にしてるわけじゃないよ」

ソニャ「むっ、そうなのか?」

武器屋「子供二人が武器を買う。気になるだろう」


カル「あの、俺も聞きたい事があるんですけど」


武器屋「何だ?」


カル「こんなに良質の物が揃っているのに…」

カル「なんでお客さんがいないんですか?」

カル「兵士や武芸者なら放って置かないんじゃ」

武器屋「……………」

カル「あっ、すいません」

ソニャ「や、やる気か?」


武器屋「売らないからだ」


カル「えっ?」


武器屋「俺は、俺が選んだ奴にしか売らない」

武器屋「お前達も、軍に志願するのか?」

ソニャ「なんだそれ?」

カル「いや、しませんけど。何でですか?」

武器屋「この前、お前ぐらいのガキ共が来てな」

武器屋「近々戦争が起きると言っていた」


カル「戦争?」


武器屋「どうせ単なる噂だろうがな」


武器屋「勿論、そのガキ共には売らなかった」

カル「あの、その話しを聞かせてくれませんか?」

武器屋「……火の王が戦を始めるらしい。兵士を集めている」

武器屋「これだけだ」

カル「……そうですか」

ソニャ「なー、ソニャ達には売ってくれないか?」

武器屋「お前達は、それを何に使う?」


カル「人では無いモノ。悪を討つ為に使います」


ソニャ「ウソじゃないぞ?」


武器屋「……その四つでいいのか?」

カル「は、はい」

武器屋「五万だ」

カル「えっ!? 安く見ても十五万はしますよ?」

武器屋「俺が五万と言ってるなら、それでいいだろう」

ソニャ「いいのか?」

武器屋「いい。買うのか、買わないのか」


カル「か、買います」スッ


武器屋「丁度だな。おい、これも持って行け」ドサッ


ソニャ「おー、斧入れるやつか」

武器屋「腰に巻いて行け」

ソニャ「わかった。カル、早く早く」

カル「はいはい、今着けるよ」

カチャカチャ…

ソニャ「よし、いい感じだな」ウン


カル「あの」


武器屋「何だ? まだ何か買うのか?」


カル「いえ、ありがとうございました」

武器屋「用が済んだらさっさと行け」

ソニャ「ありがとなー」

カル「(戦争。噂だとしても、急いだ方が良さそうだな)」

ガチャ…パタン

武器屋「ガキの癖に、俺の造った物だけを選んだ」

武器屋「目も、そこらの兵士や自称武芸者共とは違う」


武器屋「変な奴等だ……」


次回「黒の群れ」

ようやく都に行きます。


※※※※※

カル「さっきの話しが本当だとしたら大変だ。急ごう」


ソニャ「戦か?」

カル「国と国が戦う、大きな戦かもしれない」

ソニャ「なんだか、嫌な感じするな?」

カル「ああ、単なる噂や何かだと良いんだけど」

ソニャ「ところで、どこに行く?」

カル「この国で一番大きい場所。王様のいる都に行く」


カル「すぐに王様に会うのは難しい。だから、都の人に話しを聞く」


ソニャ「……暗闇の妖精のしわざ。カルは、そう考えてるか?」


カル「ソニャの方が詳しいだろうけど、王を唆していたのは暗闇の妖精だ」

カル「もし戦争が本当なら、その可能性は高いと思う」

ソニャ「そっか。でも他の仲間はいないぞ、どーする?」

カル「今は、俺達の出来る事をしよう。仲間は、その後だ」

カル「戦争が噂だとしても、黒水晶の存在を王様に伝えなきゃならない」


ソニャ「そうだな。うん、わかった」

タタタッ…


※※※※※

お婆さん「あらあら、そうかい。もう発つのかい」


ソニャ「ちょっと忙しくなってな」

お婆さん「そうなの、小さいのに大変だねえ」

カル「お婆さん。白月を預かってくれて、ありがとうございました」

ソニャ「ありがとな?」

お婆さん「ほほっ、いいよいいよ」


お婆さん「またこの街に来たら、顔を見せておくれ」


カル「はい。必ずまた来ます」タッ


ソニャ「約束な」タンッ

白月「ブルルッ…」

お婆さん「気を付けて行くんだよ?」

カル「お婆さんも、お元気で」

ソニャ「元気でな? 転んだりするな?」


お婆さん「はいはい。またね、お嬢ちゃん」


カル「……白月、行くぞ」ガッ


白月「ブルルッ!!」

ソニャ「婆ちゃん、またなー!!」

ガガッ…ガガッ…

お婆さん「しっかりしたお兄さんに、素直な妹さん。いいもんだねえ」

お婆さん「あら? そういやあ、名前聞くの忘れちまった」


お婆さん「……神様仏様。二人の旅が、どうか無事でありますように……」


※※※※※※

都への街道

ガガッ…ガガッ…

カル「ソニャ、何か嫌な感じがしないか?」


ソニャ「するけど、アレと違うな」

カル「アレって、黒水晶のことか?」

ソニャ「うん。アレより、なんていうか……」

カル「気持ち悪い?」


ソニャ「それだ。なんか、どろどろしてる感じ」


カル「どこにいるとか、数とか分かる?」


ソニャ「ぬー、ちょっと待て」

カル「どうだ?」

ソニャ「ダメだ。ぐちゃぐちゃに混ざってて、わかんねー」

ソニャ「森に来たヤツは、粒みたいな感じだったけど、泥みたいだ」

カル「……泥」

ソニャ「うん。それが、どんどん近付いてくる」


カル「ソニャ、約束覚えてるか?」


ソニャ「うん。無理しない、辛いなら言う」


カル「守れる?」

ソニャ「ソニャは、約束は破らないぞ?」

カル「分かってる。確認しただけだよ」

ソニャ「……?」

カル「(この先に何かがいるのは、間違い無い)」


カル「(でも何だ? 以前戦ったモノとは違う。何かが、欠けてる)」


ガガッ…ガガッ

ソニャ「っ、カルっ!! あれ見ろ!!」

カル「白月っ、止まれ!!」

白月「ブルルッ!!」ガガッ


遠方に見えたのは、黒い鎧を纏った兵士・騎士の隊列。

頭の先から足の先まで、全てが黒い鎧で被われている。

あんな異様な兵士は、一度足りとも見たことが無い。


あんな造りの鎧も、見たことが無い。


カル「何なんだ……あれ」


ソニャ「カル。林にかくれて様子を見よう。なんか、変だ」

カル「うん。その方が良さそうだ」


それすら分からないけど、これ以上は近付かない方がいい。

俺達は、一旦街道から外れて林に身を隠した。




ザッザッザッザッ……



ソニャ「カル、あれはなんだ?」

カル「分からない。あんな兵士は見たことが無いよ」


陽を浴びて輝く黒の軍勢は、途轍もない威圧感を撒き散らしている。

まるで、これから戦が始まるような。張り詰めた空気。


カル「あの兵士達は、炎陽を目指してるのか?」


ソニャ「……カル、アイツ等を行かせちゃダメだ」


カル「確かに不気味だけど、あの兵」


ソニャ「違う。アイツ等は、戦士でもヒトでもない」

ソニャ「アレは多分、黒水晶で出来てる。アイツ等、全部だ」

ソニャ「だからソニャは、ぐちゃぐちゃに感じた」

カル「そんな…」

ソニャ「アイツ等がなにをするのかは、わかんねー」


ソニャ「でも、絶対に行かせちゃダメだ。必ず災いをふりまく」


カル「ソニャ」


ソニャ「なんだ?」

カル「あの兵隊全員が黒水晶。それは間違い無いんだな」

ソニャ「絶対間違いない。あれは、ソニャ達の敵だ」

カル「………………」


まだ何も分からないけど、あれが嫌なモノなのは確かだ。

ソニャの言う通りの存在なら、絶対に見過ごせない。

しかもあの兵隊、都の方から来てる。


もしかしたら、最悪の事態になっているかもしれない。


ソニャ「カル、急がないと」


カル「………………」

ソニャ「カル。もしかして、ソニャを信じてないか?」

カル「いや、ソニャを信じる。ちょっと考えてただけだよ」

カル「……白月はここにいてくれ。何かあったら、頼む」


白月「ブルルッ…」


カル「いいかソニャ、まずは俺が行く」


カル「ソニャはその隙に、奴等の後ろに回り込んで欲しい」

ソニャ「一緒に行きたいが、我慢する」

カル「ははっ、うん。ありがとう」

カル「じゃあ、奴等が俺に攻撃を仕掛けたら、頼む」ポンッ

ソニャ「んっ…カル?」


カル「俺は大丈夫。じゃあ、行ってくる」

……タタタッ


カル「貴方達は、火の国の兵士ですか?」


『『浄火よ。捜したぞ』』


カル「……ソニャの言う通り、やっぱり違うみたいだな」


黒鎧の兵。

……胸の中央に、黒水晶が埋め込まれてある。

あれを破壊すれば、砕け散る筈だ。

何だ? 黒鎧の隙間から何かが蠢き出てる。

アレも、黒水晶の力なのか。


黒鎧『『忌まわしい精霊よ』』


カル「……来い」

黒鎧『『死ぬがいい』』

カル「っ!! やっぱり、力を使えるのか」


風と水の力。

同時に二つの力を相手にしなきゃならないのは辛いな。

でも、これぐらいなら。

押し戻せる。


カル「おりゃああああっ!!」


黒鎧『『これは、中々』』

カル「(よし、行ける)」


敵の総数は軽く見ても七十以上。

黒鎧胸部の黒水晶を破壊すれば、勝てる。

でも油断しちゃ駄目だ。

絶えず炎を纏っていないと、やられる。


カル「街には、行かせない」ヒュッ

黒鎧『『な…に…』』ピシッ

ガシャガシャガシャ…


猪の時みたいに、力を使えなくなったら、奴等には勝てない。

出来るだけ剣で破壊して、それだけは防がないと。


カル「巨岩の拳……」


あれが、ソニャの力。

奥の黒鎧が跳ね上がった。あれなら、一気に片付けられるだろう。

でも、こっちの黒鎧は俺が倒さないと駄目だ。

ソニャの力が保っている内に、何とか突破しないと。


カル「っ、何だ? 足が…」


黒泥『姿無くとも影はあり』


くそっ、この黒泥は、鎧とは別の何かか?

だから、黒水晶を壊しても独立して動ける?

なら、黒水晶を壊しても、この黒泥を何とかしない限り……


カル「ソニャ、聞こえるか!!」

ソニャ『聞こえる!!』

カル「今すぐ鎧の残骸から離れろ!! 鎧は入れ物に過ぎない!!」

カル「鎧の中から溢れ出した泥を、土で固めるんだ!!」


ソニャ『わかった!! やってみる!!』


黒泥『『お前はどうする』』


カル「っ、燃えろおぉぉ!!」

ゴオォォォッ

あの黒泥、触れた場所から力を奪うのか。

脚に、力が入らない。

神父さんの言っていた通り、何て禍々しい力だ。

こんなのが、街に行ったら。

篝火の町や灯火の里へ行ったら……


嫌だ。それだけは、絶対にさせない。


でも、この黒泥相手に力を温存して戦うのは無理だ。


一気に焼き尽くさないと、呑み込まれる。

辺りに飛び散った黒泥が集まって来てる……

だったら、力が空っぽになるまで、やるしかない。

それにソニャだって、いつまで保つか分からないんだ。


ソニャ『カルっ!! 固めたヤツは斧でも壊せる!!』


カル「分かった!! 今から行く!! 少し耐えてくれ!!」


ソニャの声、かなり疲れてる。

早く行かないと拙い。黒泥は燃えるのに時間が掛かる。

くそっ、どうする?


黒鎧『どうした。行かないのか』

カル「行くよ。ソニャは、俺が守る」


何とかしないっ、な、何だ!? 

脚が熱い。何かが、巻き付いてくるみないな感じだ。


カル「っ…これは、具足か?」


それに、猪を模した炎。

力が漲る。脚が、燃えるみたいだ。

でもこんなの、一体どこから出て来たんだ……


ーーお前のような、勇敢な人間に出逢えて良かった


あの時の、脚に巻き付いた炎が力を貸してくれてるのか?


カル「よし、だったら……」

黒鎧『なんだ、それは』


カル「今に、分かるさ」


炎を纏え、脚に集中しろ。

全ての力を使ってでも、ソニャの所まで突っ切るんだ。

今は、それだけを考えろ。


黒鎧『隙だらけだ』

カル「ぐっ…」ブシュッ


今は、耐えろ。

振り返るな。もう少し、もう少し溜めるんだ。


カル「くっ、まだだ……」


この炎じゃ足りない。

黒鎧ごと、内側の黒泥を溶かせ。

それぐらいの炎じゃないと駄目なんだ。

頼む。助けたいんだ。

戦うって、決めたんだ。

失うのは、あんなのは、もう沢山だ。


黒鎧『切り裂け』

カル「ぐっ…邪魔だ!!」ダンッ


ドガガガガガッ…


黒鎧『『流石は浄…火』』ジリッ

ジュッ……シュゥゥゥゥ…


ソニャ「(ちょっと調子に乗ったか? 力に頼り過ぎたな)」

ソニャ「(まだ、けっこう残ってるのに……?)」


ズガガガガッ…


カル「ソニャ、大丈夫か!?」

ソニャ「カル!! ソニャは平気だが……」

カル「力はどうだ? まだ行けるか?」


ソニャ「実のところ、ソニャはそろそろかもしれない……」


黒鎧『『狙いは浄火。奴だ』』


ザッザッザッ……ジャキ…


カル「……ソニャ」

ソニャ「っ、嫌だ!! ガウリは逃げない!! 一緒に戦う!!」

カル「俺なら大丈夫」

ソニャ「大丈夫なわけない!! たくさん血が出てる!!」

カル「逃げろとは言わない。ただ、頼みがある」


ソニャ「……?」


カル「ソニャには、他の仲間を見付けて欲しい」


ソニャ「そんなの、逃げると同じだ!! ソニャも戦う!!」

カル「こんな奴等、俺一人で十分だ。だから頼んでるんだ」

ソニャ「……カル、死ぬ気か?」

カル「ははっ、大丈夫。すぐに追い付くから。な?」ポンッ

ソニャ「……約束な? やぶらないか?」

カル「勿論!!」ニコッ


ソニャ「じゃあ、わかった……」


カル「来いっ、白月!!」

ガガッガガッ

カル「ソニャを頼む。さあ、行くんだ」

白月「…ブルッ」

カル「行けっ!!」


ガガッガガッ…


ソニャ「カルっ!!」クルッ


ーー大丈夫。すぐに追い付くから


ソニャ「(ダメだ。ソニャは約束した。ソニャは、仲間を捜す)」


ソニャ「(カルは死なない。大丈夫って、追い付くって言った……)」

ソニャ「白月。カル、笑ってたな? だから、大丈夫だよな?」

ソニャ「……ダメだ。やっぱり戻る!!」ガッ


ガガッ…ガガッ…


ソニャ「白月、戻ろうな? カルが、カルが死んじゃう」ポロポロ


ガガッ…ガガッ…ガガッ


ーー白月、ソニャを頼む


白月「ブルッ…ブルルッ!!」


黒鎧『『別れは済んだか』』


カル「一つ聞かせてくれ。火の王はどうした?」


黒鎧『『考えている通り、王は我々を求めた』』

黒鎧『『今や、力の虜』』

黒鎧『『浄火は相変わらずよ』』

黒鎧『『王が求める戦が始まるであろう』』


カル「……暗闇の妖精。お前も、そこにいるのか」


黒鎧『『どうだろうな』』


黒鎧『『我々は、何処にでもいる』』

黒鎧『『人あらば、影あり』』

黒鎧『『悪いが、話しは終わりだ』』

黒鎧『『厄介なモノは、早めに片付けないと』』


カル「……戦いたくない。か」


黒鎧『『何?』』


カル「お前達と戦って気付いた。俺は甘かった」

カル「まだまだ、足りなかったんだ」


黒鎧『『……仕方無い』』

黒鎧『『逃げられはしない、か』』

黒鎧『『命は炎、浄火よ、死ぬ気か』』


カル「ああ、逃がしはしない」

カル「誰かを傷付けるのは、絶対に許さない」


カル「もう誰も、泣かせはしない」


黒鎧『『偽善、独善』』

黒鎧『『綺麗事、言葉とは美しいものよ』』


カル「綺麗事か、確かにそうかもしれない」


黒鎧『『だが浄火よ。傷付けるのは、王だ』』

黒鎧『『王が望み、決めた事だ』』

黒鎧『『早まるな。浄火よ、我々と共に来い』』


カル「俺は人間だ。俺は、綺麗事の為に戦うよ」


カル「だから……」






ーー俺の命と、燃えて逝け










ーーーあぁ…貴方以外に、誰が暗闇を照らすというの?











ーーー貴方以外に、誰が私を照らすというの?






戦士覚醒編 完

トリップ? ベストは尽くした。ありがとう。

読んでる人いて本当に安心した。ありがとう……

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