エレン「ま、やれるだけやるさ」(312)

※似非シリアス※
※エレンがほぼ別人※
※10巻ぐらいまでのネタバレあるかも※

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369409240

キース「貴様は何者だ!」

教官の声が響くグラウンドに、104期生一同が並んでいる。

頭突きされ、アイアンクローを受け、怒鳴られ、ランニングを命令され、多くの同期が倒れていく中。

キース「貴様は何者だ!」

エレン「…………エレン・イェーガーです」

キース「そうかバカみてえな名前だな! 親につけてもらったのか!」

エレン「分かりません、親はもういないので確かめられません」

キース「そうかそうか、じゃあ戦場に出てすぐに親元に行って、名前の由来を聞いてくるがいい!」

直立不動、薄い微笑を顔に貼り付けたままの男が一人いた。



教官a「おや、彼はシガンシナ区出身のはずだ、巨人の洗礼を受けたにもかかわらず怒鳴られているね」

教官b「え、あれでですか? なんというか、虫も殺せそうにないというか、気配がないというか……」

教官a(あの目……あの目、なんていうか……底が見えない……)ゾクッ

夕食の時間になれば、訓練生たちが親睦を深める時間もくる。

話題の中心となるのはやはり巨人だからか、巨人を見たことのある人間――すなわちシガンシナ区出身の人間に注目が集まっていた。

コニー「おい、お前ってあのさ、巨人見たことあるんだろ?」

エレン「ああ、そうだな」

コニー「あの超大型巨人ってやつもか!?」

エレン「バカみたいにデカかったぜ。多分お前が1000人いても届かない」

コニー「そ、それは言いすぎだろ! チビだって気にしてんだぞ!?」

エレン「ははは、悪い悪い」

柔らかい笑みを唇にたたえながら、エレンはスープを口に運んだ。

ジャン「……味が薄いな」

彼の正面に座っていたジャンがふと愚痴をこぼす。

エレン「そうか? 美味いぞこれ」

ニコニコと笑みを絶やさず、エレンは夕食の皿を空にした。

エレン「そういえばお前は憲兵団志望だったっけ」

スプーンを置いてエレンが問う。まっすぐに見つめられ、ジャンは思わず目をそらした。

何か、エレンの瞳をずっと見ていると、少し気分が悪くなってきそうだった。

ちょうど底の見えない井戸を覗き込むような感覚。

ジャン「あ、ああそうだよ! 俺は内地に行って楽するんだ! 絶対お前に10位以内は渡さねえからな!」

エレン「そうか、がんばれよ。俺もまあ、やれるだけやるさ」

変わらず表情を崩さないエレンに、ジャンは圧倒的な違和感を拭えない。

ここまで顔色の変わらない人間がいるのか。初対面の相手に敵意のこもった言葉を投げられ、悪意のかけらも見せない男がいるのか。

エレン「どう生きようと人の勝手だからな。お前がそうしたいんならそうするべきだ」

エレン「あとで後悔するとしても自分の選択ならずっとマシだ。他人に流されちまって、それで後悔するのが一番取り返しがつかない」

エレン「がんばれよ」

ジャン(…………なんか、よく分からんが、負けた)

席を立ったエレンの背中が、少し大きく見えた。

コニー「なんか落ち着いてんな、雰囲気も考え方も」

ジャン「……ああ」

でもそれだけとは、やはり思えなかった。

数日後、104期生に最初の関門が立ちふさがった。立体機動装置の訓練だ。

実際に飛ぶわけではないが、ここで適正が見られなければ兵士になれない。

コニー「意外と楽だな」

サシャ「お昼ご飯まだですかね」

ジャン(……あいつは?)

エレンの番になっても、彼はやはり薄く微笑んだままだった。

ワイヤーを体にくくりつけ、持ち上げられる。足が中に浮き、瞬間、ぐるんと彼の体は勢いよく回転した。

ジャン(ッ! しっぱ――)

エレン「うおっあぶね」

何が起きたのかよく分からなかった。エレンが失敗したように見えて、一瞬で体勢を立て直した。

なぜかホッとしている自分がいることに気づき、ジャンは少し居心地が悪くなる。

ジャン(まあ、ライバルがいるに越したことはねえな)

キース(ベルトの金具が壊れている……!? この状態で姿勢を保っているのか、こいつ)

結局エレンは十分な評価を得て、適正訓練をパスした。

格闘訓練や馬術訓練、立体機動訓練など訓練生は多様な訓練をこなす必要がある。

数ヶ月もすれば、皆ある程度なれて来ていた。訓練の仲でも気が緩みやすい――というよりは適度に力を抜いてやれるのが格闘訓練だ。

この訓練を真面目にこなす者などほとんどいない、が、その分真面目にしている者は嫌でも目立つことになる。

たとえば、エレン・イェーガーとアニ・レオンハート。

エレン「アニ、蹴りが早すぎ早すぎ」

重心を低く保ったまま、連撃の嵐をすり抜けるようにして距離をつめる。

蹴りの弾幕が破られたことに固執せずすばやくアニは下がった。ここで下手に食い下がると痛い目に会うのは学習済みだ。

アニ「今のを避けられると自信無くすねぇ」

エレン「よく言うぜ、こっちは余裕なんてぜんぜんないのにさ」

彼我の距離にかかわらず二人の攻撃は錯綜する。距離が開くなら踏み込む。自分のリズムで打ち込み、相手のリズムを叩き壊す。

アニ「あんた本当にどんな手品使ってるんだい?」

蹴り技を受け流し、勢いのままアニを押し倒す。日をさえぎって逆光のエレンに、アニは目を細めながら聞いた。

エレン「やれるだけやってるだけだ、手品とかじゃねえよ」

その姿勢の二人を見て、しばらくエレンとアニが会話するだけで、あちこちからからかいの言葉が飛んできた。

エレン「やりたいこと?」

立体機動訓練を終えて、エレンは汗を拭いながら同じ班のクリスタに顔を向けた。

クリスタ「うん。エレンは訓練すごいがんばってるから、目標があるのかなーって」

チラリと森のほうに目をやる。エレンの機動は実際のところあまり参考にならない。――凄まじすぎて真似ができないのだ。

最近こそ班員に合わせた飛び方だが、習い始めたばかりのころは周りとの差があまりに顕著で、キース教官ですら言葉を失っていた。

巨人を模した大型の木板はうなじの部分を切り裂かれていた。角度、深さ、どれもぴったり正確に、まるで機械で測ったかのように。

エレン「そういうのはあんまり人に言わないようにしてんだよ」

軽く微笑んで言う。その笑い方が、クリスタは、少し見ていて不安になる。

彼の笑みはおかしい。誰も言わない、けれど誰もが感じる。言葉も態度もなにもおかしくないはずなのに、笑顔を見ていると、瞳を覗くと、胸が締め付けられるような感覚になる。

あの笑い方は、自分が鏡を見るたびに見ている気がするのだ。

クリスタ「じゃあ、憲兵団に入りたいとか、駐屯兵団に入りたいとかは?」

エレン「ぼんやりとは決めてるけどなー」

話題を変える。クリスタとしても、エレンのことを根掘り葉掘り聴いたところでどうというわけでもない。

エレン「クリスタは?」

答えに詰まった。自分は死に場所を探して、自己破滅願望のままにここに流れ着いた。それをどう言えと。

クリスタ「私も、秘密」

エレン「なんだよそれ」

秘密のある人には、秘密をついてやり返すんだよ。クリスタは笑顔を顔に貼り付け直した。

エレンの笑顔に揺らぎはなかった。

ジャン「おらあコニー! サシャー! ついてこいあっち狙うぞ!」

サシャ「飛ばしすぎですよジャン!」

ジャン「ガスの使用量はお前より少ねーぞ! 早くかっとんで来い!」

コニー「スイッチはいってんなあいつー」

林の中を駆け抜ける。ジャンの率いる班は、今のところ三回連続で2位の成績だ。

1位は不動と言われている。

ジャン「今日こそは勝ってやんぞ、エレェェェェン!!」

また一体仮想巨人を屠る。

意地っ張りというか、そのある意味悲痛な叫び声に、コニーとサシャは肩をすくめた。

コニー「歴代随一の逸材にどうやって勝つんだよ」

サシャ「ですよねー」

訓練の後の風呂は、食事を除けば唯一といっていいくつろぎの場だ。

大浴場でタオルもつけずに男子一同息を吐く。

ライナー「今日もハードな訓練だったな」

ベルトルト「ご飯も少ないし、元気はあまり出ないね」

確かに訓練生に支給される食事はお世辞にも立派とは言いがたい。

エレン「そうかぁ? 美味いし、三色食えるだけでも感謝しねえと」

サシャとエレンだけだった、いまだに食事のたびに笑顔を崩さず、本当に美味しそうに平らげるのは。

二人が並んで食事を取れば、貧相な中身でもなぜか本当に、自分の食までもが美味しく思えると皆言う。

ジャン「変わってるよお前……っとと」

遅れて風呂に入ろうとしたジャンが、足を滑らせた。

エレン「危ねぇ!」

瞬発力が爆発する。エレンが飛び出し、ジャンを受け止めた。勢いはそのままに、エレンを下にして二人は風呂場の床に打ちつけられる。

ベルトルト「だ、大丈夫!?」

ジャン「俺は大丈夫だ、おいエレン!?」

エレン「心配するな」

何事もなかったかのように立ち上がる。ライナーたちは自分の目を疑った。

――見間違いか? あいつ、明らかに頭を打っていただろう!?

ライナー「……なあお前、訓練中でも、あまり痛がったりしないよな。どれほど頑丈なんだ?」

エレン「ん、ああ」

湯船に浸かりながら、エレンは少し口を吊り上げた。

普段の微笑みと微妙に違う。

エレン「痛いとか、よくわかんねえや。痛いっていうのがどんな感じだったか忘れちまった」

あの分厚い仮面の笑顔じゃない。水に溶けて破れてしまいそうな儚い笑み。

風呂から上がりベッドに入っても、まだジャンの脳裏にはその笑みが焼きついていた。

――■え

――なにやってんだよ――俺は――違う、そんな――

――迎えに来るから

――だから待ってろ

――待っていてくれ、        ――


エレン「っ」

毛布を跳ね飛ばす。

起床のラッパにはまだ時間がある。

大きく息を吐いて、汗を拭った。

そろそろ卒業が迫る時期になっている。

エレンは、ぼんやりとした目標が、手の届くところに近づいてきているのを実感していた。

訓練課程を修了し、ついに104期生は正式な兵士となった。

上位10名になれば配属先を自分で決めることができる。大半は憲兵団を志望するのが通例だ。

キース「貴様らも卒業だ! これより104期生の成績上位者10名を発表する!」

全員『ハッ!』

整列を乱さず敬礼。教官の言葉を待つ。

キース「第1位! エレン・イェーガー!」

エレン「ハッ!」

順当な結果だった。

ライナー、ベルトルト、アニと続き、ここでジャンをはさんでマルコ、コニー、サシャが並んだ。9位にはクリスタ、そのちょうど一つ下にユミルが名を連ねる。

キース「名を呼ばれたものは配属先を考えておけ! その培った巨人殺しの技術を無碍にするなよ!」

全員で最後の敬礼を返す。

きっとみんなはもう配属先など最初から決めているのだろう。

それでもエレンは、今やっと、自分が何をしたいのかわかってきている、というような気がしていた。

解散式の夜に、食堂でジャンはスープを豪快にすすっていた。

――これで内地行きが確定だ! 俺は楽に安全に生きることができるんだ! それに……憲兵団なら、母さんだって……!

エレン「うれしそうだな」

正面に座っていたエレンがスプーンを先をジャンに向ける。

ジャン「うるせえ、これからの同僚に不遜だぞ」

エレン「同僚?」

ジャン「お前もくるんだろ、憲兵団に」

思わずエレンは周りを見回した。予想を裏切り、みんながさも当然だろうという風にジャンの発言を聞いていた。

それもそうだ。壁の外に出た人間がどのような目にあうのか、エレンとて見てきている。

なんのために訓練するのか。内地に入った安全にすごすため。

なんのために巨人を殺す技術を会得したのか。巨人から遠ざかるため。

エレンは失笑した。

いつもどおりの笑みが破れたことに、少しジャンは驚く。

エレン「俺は内地には行かない」

全員、次の瞬間には度肝を抜かれた。

エレン「俺は調査兵団に入る」

ジャン「は、はぁっ……!?」

コニー「正気かよエレン!?」

食堂中がざわめきに包まれる。

あのアニでさえもが表情を崩して驚いていた。クリスタにいたっては口を手で覆い、全身で驚きを表している。

サシャ「な、なんでですか!? 危ないですよ壁の外なんて!」

あのサシャが食事を一旦やめてエレンに噛み付いていた。

エレン「や、知り合いの受け売りなんだけどさ、壁の外が見てみたいんだよ」

コニー「そんなのやめとけって、せっかく憲兵団に入れるのに」

エレン「そいつからその夢を託されたんだ、俺が、他ならぬ俺が」

一気に食堂の温度が下がる。ライナーもベルトルトも居住まいを正した。

普段の微笑はもうない。エレンは視線を伏せ、笑っているような泣いているような、ごちゃごちゃに感情を混ぜ合わせた色を浮かべている。

エレン「受け継いだんだ。絶対壁の外を探検する。炎の水や氷の大地、砂の雪原、塩水の湖。そういったのが壁の外にはあるんだ、すげえだろ。ずっと本でしか見てない世界が実際にあるんだ!」

マルコ「で、でも」

エレン「俺の身の危険とかじゃなくて、約束したんだ、そいつと! 絶対にそいつの夢を俺が代わりに叶えるって! 俺は絶対に諦めない。立ちふさがるのなら、巨人なんて下等生物、一匹残らず駆逐しつくしてやる……ッ!」

拳を握りエレンは吼えた。今までずっと押し込め続けてきたドロドロのマグマが一気にあふれ出すかのように。

104期生は解散した。今はもう、それぞれ所属の部隊に配置されるのを待つだけだ。

明日にそれを控え、ひとまずエレンを班長とする固定砲整備4班は駐屯兵団の仕事を手伝っている。

エレン「砲弾良しと。アニ、そっちはどうだ?」

アニ「問題ないね」

班員たちもそろそろ作業が終わりそうだ。

アニ「……ねえ、あんた」

エレン「んあ?」

アニ「嘘ついてるでしょ、昨日のあれ」

エレン「なんのことだ? 嘘なんてついてないぜ?」

二人で壁の外を見ながら話す。

少し離れて、トーマスやコニーからからかう言葉が飛んできたが、すぐ悲鳴に変わった。

何があったのかと見れば、サシャが肉を持っている。肉。貴重な食料だ。

エレン「あいつまた教官の保管庫から盗んだのか、こりねーな」

アニ「話題を変えるんじゃないよ」

サシャ「何を話してるんですか、二人で」

肉を箱の中に仕込んで、サシャが歩いてくる。

アニは意地悪い表情を浮かべた。

アニ「こいつが調査兵団に入った本当に理由、知りたくない?」

サシャ「ええ!? このあいだの話嘘なんですか!? コニーあれのせいで志望配置変えたんですよ!?」

エレン「嘘ではねえよ嘘では。つーかコニー本当かよ」

食って掛かるサシャをなだめつつ、エレンは困ったように頭をかいた。

エレン「あれだぞ、昨日の話は本当だ。つーかアニはなんで俺の誤魔化しが分かったんだよ」

アニ「格闘訓練で、あんた嘘のフェイントしかけるときちょっと表情が変わるんだ。それで」

サシャ「さすがめざといアニめざといですねぇ~」

エレン「話すにはいいけど、手短に話すぞ」

エレンは改めて壁の外を見た。人類を守る二枚目の壁、ウォール・ローゼ。

最も外側にあるウォール・マリアは5年前に破られた。

シガンシナ区――かつて自分が幸せな日々を過ごしていた場所。

家族。

親友。

少女。

エレン「迎えに行かなきゃならないんだ、母さんを、友達を、家族を」

アニ「は?」

彼の表情をうかがい知ることはできない。だがなぜだろうか、アニは足元を縫いとめられたかのように動けなかった。

隣のサシャも同様であるようだ。向こう側とここで世界が断絶されているような圧迫感。息が苦しい。エレンの発する雰囲気が、何か、違う。

「俺はシガンシナ区出身って言っただろ? ウォール・マリアが破られた5年前、俺は避難する時に、家族を置いてきちまったんだ」

「優しい母さんと、物知りな親友と、それと、ずっとずっと一緒にいた大切な、誰より何より大切な女の子」

「みんなを置いてきちまったんだ、だから迎えに行かなきゃならない」

「寂しがってんだろうなあ。ああいや、俺がいなくても死んだりはしないだろうけど、でも、やっぱり一緒にいたいっていう気持ちは同じはずだ。はずだよな?」

「ハンネスさんはこの夢を人に言うなって言ってるんだ、おかしいよな、夢なんだから宣言したっていいはずだ」

「俺はあいつらを迎えに行く。早く行かなきゃいけない。迎えにいって、母さんのご飯食べて、アルミンと本読んで、ミカサと手ぇつないで歩いて、それで、それで、それで…………」

エレンが振り向いた。

アニは、彼のそんな表情を見たくなかった。

満面の喜色――違う違うこれは絶対に違うこんなものが笑顔だと認めるか認めてたまるものか。

隣で縮み上がっているサシャを捨て置いて、アニは一歩踏み出す。

アニ「ウォール・マリア内部に取り残されてたってことだろ? じゃあ、迎えに行っても、その……巨人に食われてるんじゃ」

エレン「ああ、巨人に食われてるな」

思考が真っ白になった。今度こそアニも言葉を失った。

目の前の少年は何を言っているのか。類まれなる才能と粘り強い努力とリーダーシップと思慮深さとを兼ね備えていた、はずの、皆の憧れの彼と、会話が通じない。

サシャ「巨人に、食べられた? その人たちを……どう迎えに行くんですか……?」

エレン「ははっ、サシャ何言ってんだお前、巨人に食べられたからって死ぬわけじゃないだろ。確かに目の前で母さんは踏み潰されてアルミンは千切られてミカサは噛み砕かれたけどだからって死んだわけじゃないだろなにいってるんだよさしゃ」

これが、エレン・イェーガーなのか。

これが、彼の笑みに隠れていた本当の姿なのか。

ああもうだめだとアニは眩暈に参った。

アニ「……あんた、それで、調査兵団に?」

エレン「おう」


人を惹きつける笑み。高く掲げた理想の旗。


それらを焼き尽くしてまだ余りある熱を放つ、狂気の焔が、少年の瞳に宿っていた。


こいつを敵に回してはいけない。アニはそう直感する。

ただ――

サシャ「エレン、今日はもう休みましょう……私……疲れちゃいました」

エレン「ん? しかたねーな」

顔面蒼白のサシャを気遣うエレンは正常そのもので。

集まってくる班員たちは素直にエレンを慕っていて。先ほどのエレンが現実のものとは思えず、アニは頭がくらくらする。

だからだろうか。

知っていたはずの事態に、対応が遅れた。

稲妻。

眼前に聳え立つ、皮を全部剥いだ人体模型。ただ50mの壁の上から顔を覗かせている。

超大型巨人。

エレン「――飛び降りろ!!」

全員がその声に従った。風圧で吹き飛ばされながらも、体勢を立て直し壁にアンカーを突き立てる。全員意識ははっきりとしている。

コニー「なんだ!? なんなんだ!?」

次の瞬間、なぎ払われた固定砲台が地に落ちる間すらなく、超大型巨人の蹴りが門を突き破った。

エレン「……ッ! この野郎!」

立体機動装置が作動する。

エレン「固定砲整備4班! 各員は本部に引き返し事態報告!」

アニ「あんたは!?」

悲鳴じみた声にエレンはいつもの微笑を返した。

エレン「やれるだけやる、時間をかせぐから先に行け」

瞬間、彼の動きをアニは目で追えなかった。

混乱にざわめく町を、避難民たちが駆け抜ける。

迅速な避難だった。破られた門から巨人たちが入ってくる。

それに備えなければならない。

前衛には駐屯兵団の兵士が、中衛と後衛には、配置を目前にしていた104期生たちも並んでいた。

104期生「最悪だ……なんで、巨人と……」

104期生「だめだ、死ぬんだ……」

エレン「おいアニ、ジャン、大丈夫か」

家屋の屋根に座り込む同期に、エレンは努めて明るく声をかけた。

ジャン「大丈夫なわけねえだろ、明日から俺は内地暮らしのはずだったんだ。それなのになんでこんな……」

アニ「正直キツいね。あんたが超大型を相手取って、撃退したってのがせめてもの士気の支えどころか」

エレン「撃退したんじゃない、あっちが俺を見逃しやがったんだ。次は必ず殺す」

ブレードを硬く握り締めて言葉を漏らす。

その様子を見て、ジャンは取り乱した。

ジャン「なんでだよ……なんでそんな冷静なんだよ!」

エレン「俺は死なないからだ」

断言した。

エレン「俺には果たせていない使命がある、だから死なない」

双眸に決意の光が閃く。

エレン「お前はどうだ、ジャン」

ジャン「……ックソ! マルコ、ガス補給所周辺の見取り図もっかい見とくぞ!」

立ち上がり、彼はずんずんと歩き去っていった。

ベルトルト「アニ、前衛の様子は」

アニ「分からない……いや、待って」

砂煙が上がる。

はるか前方で行われていた戦闘は、いつの間にか中衛へと差し掛かっていた。

ライナー「巨人が目視できる……!?」

エレン「全員戦闘準備ッ!」

抜刀の音が響いた。唾を飲み下す。死の権化が迫る。

エレン「やれる! 俺たちはやれる! あいつらを皆殺しにして、俺たちは生き残るんだ!」

ブレードの切っ先を巨人の群れに突きつけた。

エレン「人々を守れ! 人類を守れ! 下等生物から、人類の誇りを守れッ!!」

104期生『うっ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

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エレン「……ッチ」

家屋の屋根を走り抜ける。最小限のガス噴射で加速、そのまま巨人の周りを一周、視線を完全に振り切ったところでアンカーを対岸に打ち込み飛翔。すれ違いざまの斬撃が巨人を絶命に至らしめる。

エレン「討伐数4! ガス補給部隊はまだか、俺はともかくもうガス切れのやつだっているんだ!」

視認できる巨人は7体。すぐ左に15m級。左肩にアンカーを打ち込んで巻き取り、円弧を描くようにして狙い通りのアタック。

討伐数5、一際高い塔の上に着地する。

あちこちから悲鳴が聞こえてきた。絶命の咀嚼音に奇妙なデジャヴを感じる。

既視感がひどい。耳鳴りがする。頭が内側から激しくノックされている。

エレン「俺は、これを知っている。こうして、巨人に嬲られている町を知っている……」

ぼうっとしている間に、塔の下を3m級が通り過ぎていく。避難中の住民たちのいる方向へ向かおうとする巨体をロックオン。飛び降りる。ガス噴射のみで自由落下にさらに加速。

エレン「らあああっ!!」

切り裂いた。血が辺りに撒き散らされる。

ミーナ「いやぁっ!! 誰か、誰か!!」

上のほうから、プシュッ、プシュッというガス切れ特有の音がした。

同じ班の黒髪お下げの少女だ。すぐさま上昇し応援に駆けつけようとする。向こう側からコニーも来ていた。

エレン「は?」

一瞬だけ混乱した。助けを求めていたはずのミーナの姿が見当たらない。

コニー「テッメェェェェェ!!」

突然コニーが雄たけびを上げ怒り狂った。

目の前の巨人を見上げる。15m級だ。

口から、人の腕がはみ出ている。なんどもなんども咀嚼のため噛み砕こうとしていてガムでも食べるように何度もあごをうごかしてその度に鮮血が舞い肉が零れ落ちていって――脳が白熱した。

エレン「討伐数7」

自分でも驚くほど無駄なく速やかに首を刈り取った。

まだ飲み込んでいなかったのか、巨人の口からミーナだったものがこぼれる。駆け寄ろうとしたコニーも、エレンも、足を止めた。

コニー「……な、なぁ、これ、ミーナなのか? 嘘、だよな?」

エレン「…………」

コニー「ああ、チクショウ、なんだよ、なんなんだよこれは」

巨人に食われると、こうなるのか。

まるで初めて知ったような気分だった。

今まで知らなかった、知りたくなかった、巨人に食べられた人間の末路を。

だって、だってそれじゃあ、アルミンやミカサは、自分が追い求めていた人間たちは。

エレン「……ははっ、はははは」

コニー「え、エレン?」

エレン「そうかそうかそうだったのか、そうかぁ……」

空を見上げた。

ふうを息を吐く。

もう普段貼り付けている笑顔は脱ぎ捨てた。

エレン「コニー、本部から撤退の狼煙が上がっているのは見えるな?」

コニー「ああ」

エレン「まずガスを補給しないと本部に戻れるかどうか怪しい。ただガス補給所には補給部隊が篭城してて巨人が張り付いてやがる」

耳を立てていたジャンが驚いたようにこちらに近づいてきた。

ジャン「あれを突破するっていうのか!?」

すまんな、今日はここまでなんだ。
明日には終わると思うよ。

エレン「やるぞ。絶対にやるんだ」

尋常じゃない剣幕でエレンは怒鳴り飛ばす。

ジャン「無茶だ、もう戦意はまともに残ってねえんだぞ!?」

エレン「先陣は俺が切る。お前らは俺の後ろに引っ付いてればそれでいい」

ガスボンベを小突き、残量を確認。

心もとない量だが、まだいける。

だが、エレンは必死に檄を飛ばしながらも、ふと脳内の余白に考えを浮かべた。

――俺、なんのために戦ってるんだっけ?

決まっている、大切な人を、巨人に食われてボロボロにされたあの人たちを迎えに行くために。

アニ「あんた、あんたこそ大丈夫なんだろうね?」

エレン「俺は強い! ここにいる誰よりも強い! だから分かる、俺たちはあそこまでたどり着ける!」

自分でも無我夢中で叫んだ。そうでもしなければ自分を保てない。

今まで自分を支えてきた揺るぎないものが崩壊していく音が、エレンの頭蓋骨に響いた。

ジャン「だからどうやって!」

エレン「無駄に巨人の相手をする必要はない。最低限の数を屠りながら突破する」

単純な考えだが、どう考えても全員が無事に済むとは思えない。これはつまり、ついてこれない人間は切り捨てるということなのだ。

コニー「ああ、それしかねえよ! ここにいたってジリ貧だ、全員殺されるよりまマシだ!」

先ほどのミーナを末路を見ていたからか、コニーは突破口に食いついた。

他の訓練兵たちも少しずつ、瞳に光を宿していっている。

ジャン「……ああクソッ、煽るだけ煽りやがってどうすんだおい。数だけはたくさんいるぞ」

エレン「やってやる! 俺はまだ死ねない!」

なんで、どうしてだ。俺はなんのために戦うんだ。もう二人は。■■■も■■■■もだめかもしれなくて俺ががんばってきた意味はないかもしれないのに。

それでも戦わなくてはならない。

世界はエレンに闘争を強いる。

エレン「続けえええええええええええええっ!!」

入り組んだストリートを疾走する。低空を維持したまま、ガス噴射の慣性で一気に加速。最低限の消費でどうにか巨人群を突破。

すれ違いざまの斬撃で弱点を丁寧に切り取ろうとする。

フランツ「よ、よし! 俺たちも!」

切り開かれた道を後釜も追随する。

ワイヤーを壁に突き刺して駆け抜けようとしたフランツを、下から突然現れた手が叩き落した。

うなじを切り取られたはずの巨人が再び立ち上がる。再生が始まっていた。エレンの攻撃が浅かったのだ。

そのまま墜落したフランツをつまみ上げる。末路など分かりきっている。

ハンナ「え……え、え!? フランツ!?」

コニー「おいハンナ危ねえ!」

家屋の影から姿を現した8m級巨人が、出会いがしらにハンナの両足を食いちぎる。

ハンナ「やあああっ!?」

フランツ「う、うああ……」

同時に二名脱落。噛み砕かれる音がエレン達の背を追う。

ジャン「おいエレン、お前さっきから殺し損ねてんぞ!」

エレン「……ッ!!」

同様が殺しきれない。立体機動こそまだまともにやれているが、戦闘は無理だ。

あと少しで補給所までたどり着く。

クリスタ「エレンッ!!」

真横に併走する金髪が、視界の隅で躍った。

クリスタ「だめだよエレン! 今のエレンは死に急いでる!」

エレン「……誰がッ!!」

巨人の豪腕をすれすれで避ける。風圧で吹き飛ばされそうになるクリスタの腕をつかみ、あちこちから死をもたらす衝撃が迫る中を必死に駆け抜ける。

コニー「おらぁっ!」

ジャン「今なら俺でも……!」

俊敏な動きでかく乱するエレンと、後続として隙だらけの巨人を狩り続けるコニーとジャン。

偶然がもたらしたフォーメーションだったが、結果的には現状で最大の突破力を有するに至った。

クリスタ「エレンだって分かっちゃったんでしょ!? 友達が、家族がどうなったのか!!」

エレン「やめろ言うな! やめろやめてくれ!!」

自分の存在意義の根底を成していた基盤がひび割れる。

クリスタ「今すぐにでも戦死すればいいなんて思ってるんでしょ!?」

図星、だった。

クリスタ「私はあなたの表情を知っている! あなたの絶望を知っている!」

エレン「うるっせェ!! そんな簡単に、分かってたまるかよ!」

ブレードを振るう。巨人の首に深い切れ込み、だが致命傷には至らない。

そこをクリスタが追い討ちをかけ完璧に仕留める。驚異的なスピードで訓練兵たちが巨人を駆逐し、侵攻していく。

クリスタ「私は、あなたと同じだから!!」

エレン「ッ!?」

ブレードが空を裂き、ジャケットがはためく。

屍山血河の戦場に閃くエレンとクリスタのシルエットが交錯する。

クリスタ「死に場所を探して兵士になった! もう何もかもがどうでもよくて、いつ死んだって良かった!」

15m級を無視して突破。すでに補給所は目と鼻の先だ。

喉から振り絞るようにしてクリスタは叫び続ける。

クリスタ「でも私は! あなたと出会った!!」

エレン「……!」

クリスタ「希望を見たから、私も人類のために戦えるかもって思えた! だから私はあなtない、死んでほしくなんかないっ!!」

エレン「……」

一閃、7m級のうなじを切り落とす。

迷いの薄い剣戟が確実に巨人の生命を刈り取る。

エレン「……でも、俺は、これから……」

サシャ「エレンっ! これからはこれからですよ!」

斜め前方の巨人が突如崩れ落ちた。隙を伺っていたサシャが仕留めたようだ。

サシャ「ほらリーダー! 作戦通りみんな着いてきてますよ!」

エレン「り、リーダー?」

アニ「あんたが炊きつけた、あんたが率いて進軍した。今ここの指揮官は、あんただ」

後ろを見れば、想定をはるかに上回る数の訓練兵が生き残って、ここまでたどり着いている。

自分のような死にたがりに、死せた存在にすがり付いてみっともなく生きてきた人間の背に、希望の光を見出して。

――人はそれを英雄と呼ぶのかもしれない。

エレン「……間近だ」

アニ「ああ」

ライナー「このまま突破するのか!」

ベルトルト「勢いも十分あるし、いけるよエレン!」

続々とやって来る仲間たち。

エレン「全員気を引き締めろ。ここで死ぬな、ここまで来て死んだら、あの世で夕食抜きのランニングに処してやる」

サシャ「ええっ! それは困ります!」

コニー「お前は本当にバカなんだな……」

ジャン「ったく、ここにきて冗談とか、なんともまあ……おい、誰かマルコを見てないか?」

両手のブレードをしっかりと握る。

自分は死にたいのか、生きたいのか。

戦いたいのか、あきらめたいのか。

エレン「進め! 進め! 真っ直ぐに進め! お前らは人類の反撃の嚆矢だ! 狼煙だ! 逆襲の合図だ!!」

立体機動装置の駆動音がいくつも重なる。

彼自身も飛び出そうとして。


隣にいたはずの少女がいないことに気づいた。

ちょっと抜けます

いたはずだ。

クリスタ・レンズが隣にいて、自分に発破をかけていたはずだ。

エレン「……クリ、スタ?」

認められない。

確かにさきほどまでいたはずの存在の欠如を、認められない。

恐る恐る、ギチギチと首をめぐらせる。

ジャン「行け行け行け! 早く進めよ!」

みんな前ばかり見て突き進んでいる。エレン以外に横を見るものはいない。

8m級の頭頂部だけが見える。

慌てて屋根の端まで駆け寄る。

壊れた人形のように、地面にぼとりと落ちた金髪の少女。

エレン「う、ぁ」

まだ生きている。クリスタはまだ生きている。横合いから不意打ちを受けて落下したようだ。

巨人がにたりと笑う。

細い腕が一本、口元からはみ出ている。

クリスタをもう一度見る。左腕がない。

エレン「……! てめぇ」

小柄な体躯が摘み上げられた。

いけ、助けろ、彼女を助けるんだ、エレン。そう自分の中で叫び声があがる。けれど動けない。

エレン「……ぅ」

見たことがある。この光景を自分は見たことがある。金髪が黒髪にダブる。こちらを見る生気のない瞳。口元がわずかに開く。

『戦わなければ勝てない』

気づけばクリスタはもう口元まで運ばれていた。足が縫いとめられたかのように動こうとしない。

汗がにじむ。視界がぼやけ、頭の中でガンガンと騒々しい音が鳴る。

うるせぇ。

『戦わなければ勝てない。そう言ったのはエレン』

分かってる。

『戦わなければ勝てない。生き残れない、何も守れない』

もうお前を守れなかったんだ。なのにいまさらどうしろってんだ。

エレン「俺は、俺はッ……!」

デジャヴ。かつての光景と眼前の絶望が重なる。

『戦うんだ、エレン!』

俺の戦う理由はお前たちだ、だったんだ、でももう……

『目の前の子は、私じゃない』

『エレン、君はかつて動けなかったかもしれない。でも』

『でも今は違う』

……そう、だ。

エレン「今は、違う」

両手には刃がある。体は戦うためにある。視線を突き刺す。あと数秒で彼女は致死の口蓋に吸い込まれる。

許容できるものか。

体は、動く。

先ほどまでの眩暈が嘘のように、動く。

動く!!

エレン「調子にッ」

アンカーを同時に射出、ガス噴射と平行して最短で突っ込む――真正面から。

エレン「のってんじゃねええええええええええええ!!」

閃く刃が、巨人の手首をまるごと切り裂いた。

エレン「らァァァァッ!」

クリスタを拾い上げ、空中で一回転。

常人なら目を回す突発軌道での180度ターン。勢いをつけて巨人の双眸を引き裂いた。

視界を潰し、隙だらけの間に後ろへ回りこんでトドメ。

ここまで二秒弱、並みの兵士なら目で追うことすら困難な機動だ。

クリスタ「う、んっ……」

エレン「クリスタっ!」

ひとまず屋根に足を落ち着け、クリスタを介抱する。ジャケットをきつく結んで千切られた左腕を止血。

彼女の瞳が薄く開く。

クリスタ「あ、れ……?」

エレン「良かった、本当に良かった――っとッ!?」

瞬間、二人がさっきまでいた地点を15m巨人が叩き割った。

とっさの反応でクリスタを突き飛ばし、二人は真反対に吹き飛ぶ。

エレン「しまっ……クリスタぁ!」

クリスタ「んっ、うぅ」

まだ意識が朦朧としているのか、クリスタはもぞもぞと動くだけで立ち上がろうとはしていない。

周囲に巨人が集まってきた。4体ほどだ。

エレン「ひとまず全部駆逐してッ……!?」

アンカーを射出しようとして、腰元の立体機動装置がうんともすんとも言わないことに気づく。

先ほどの衝撃で不具合が生じたのか、どうにもならない。

エレン「ガス残量もほぼゼロ! ガスの慣性で全部ぶっ殺すしか……!」

冷静に考えればそんなことできるはずもない。立体機動装置なしに無謀すぎる。

さらに巨人は4体。補給所への突破を目指すのなら、ここでガスを使うわけにはいかないのだ。

最善の一手は分かりきっている。

クリスタ「え、れ……」

エレン「…………」

そしてエレンがそんなものを決して選ばないことも、分かりきっている。

エレン「俺のキルスコア稼ぎに付き合ってくれよ、なァ?」

切っ先を突きつける。

恐怖という原始的な感情すらない、家畜以下の下等生物4匹ごときに手間取る必要はない。

何より、もう。

エレン「もう失いたくない! もう守りそこなったりしない!」

戦うための理由を、背負ってしまった。

エレン「るアァァ!!」

噴射。戦場へ一直線にかっ飛ぶ。

振り上げられた手を、あろうことか蹴って方向転換。空中で腰を捻りうなじめがけて再び加速。

一撃で、屠る。両刀が弱点を余すところなく削り取った。

エレン「一体ィ! 次!」

家屋に飛び移る。エレンを叩き潰そうとする巨人の手を避け、腕を駆け上がる。

虫でも振り払うかのような動作で目標8m級巨人は片腕を振り回した。

エレン「ッハァ!!」

その勢いすら利用して宙に躍り出る。目標目の前。

ガスを噴射。超加速のスピードを乗せて、ブレードを眉間に叩き込んだ。そこを起点として巨人の頭を飛び越える。

ちょうど目の前に弱点が届いた。一刀のみで、素早く二断――巨人が崩れ落ちた。

エレン「二!! クリスタ待ってろォ!!」

そして次の巨人が膝をついたときだった。

ミーナを見つける直前に聞こえた、あの音。

エレン「……!」

必要不可欠な加速装置が消え、残り一体にしてついに打つ手がなくなった。

ひとまずクリスタに視線をやるが、幸いなことに近辺に巨人は見当たらず、彼女自身もしっかりと起き上がり、どうにか二本の足で立ち上がろうとしている。

クリスタ「だめ……逃げて……!」

エレン「まだだ! まだ殺せる、殺れるだけは殺ってやる!!」

最後の巨人を見上げた。15m級。

なんてことはない一体が、今は異様に大きく感じる。手元の超硬ブレードも刃が欠け根元とわずかな刃しか残っていない。

エレン「ガス残量ゼロ! 換えの装填用ブレード残数ゼロ!」

それでも、諦めない。

エレン「もう諦めねぇ! クリスタ、俺は諦めない!」

今まで被っていた厚い仮面を脱ぎ捨て。

彼は、エレン・イェーガーは本来の獰猛な、まるで肉食動物が獲物を前に浮かべるような笑みを見せた。

犬歯が剥き出しになる。

エレン「死んじまったらもう、あいつらのことを思い出すことも、今度こそ誰かを守ることもできねえ!」

折れたブレードを構える。

エレン「だから、何としてでも勝つ! 何としてでも生きるッ!!」

――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――

――――――――

補給所内部で、3m級巨人を掃討したジャンたちは、新たな3m級を警戒しながらもガスを補給していた。

ジャン「よし……よし……いけるぞ!」

補給兵「何が行けるだ……無理なんだ、俺たちはもう」

コニー「ぐだぐらうっせえんだよこの腰抜け!」

青筋を浮かべたコニーが、うつむいた補給兵を蹴飛ばす。

正直この連中を切り殺したいほどに苛立ちは募っていたが、ここでは我慢する。

ジャン「お前らが任務を放棄してここでガタガタブルブル震えている間、俺たちはその巨人を殺して突破してここまで来た」

アニ「ああ。まだ希望はある」

ライナー「あいつが俺たちを導いてくれた」

ベルトルト「大丈夫、勝てるさ。彼がいる限り負ける気はしない」

サシャ「……そういえば本人が遅いですねぇ」

サシャがそう言ったちょうどその時、外から声がかけられた。

104期生「一人また来たぞ!」

扉を開けて入ってきたのは、俯き金髪で顔を隠した小柄な少女。

ユミル「クリスタ!!!」

すぐにユミルが抱きつき、涙を流しながら彼女は大切な少女の生存を喜んだ。

だが、本人は身じろぎもしない。何か体を動かす歯車が欠落してしまったかのように、ぼそぼそと喋っていた。

抱えている布にくるまれた何かを必死に握り締めながら。

ジャン「……おい、ガス補給は?」

クリスタ「……は……い、……ました」

コニー「はぁ?」

顔が上がる。

泣きはらした赤い目。

アニ「あんた、それ、まさか」

誰もが耳をふさごうとした。

クリスタ「訓練兵34班……フランツ、ハンナ、エレン・イェーガー」

絶望が、ついに足音を殺すこともなく迫る。

クリスタ「以上三名は自分の使命を全うし、壮絶な戦死を遂げました!!」

部屋の空気が、凝結した。

ジャン「は、はは、フランツとハンナは、俺もこの目で見た」

震える声。ジャンは立ち上がると、恐る恐るクリスタに近寄る。

よく見れば彼女も片腕を失っている。死線を掻い潜ってきた証拠だ。

その彼女が、残った片腕で抱きしめていたそれを、ジャンに差し出した。

コニー「……んだよ、それ」

現実から逃げようとしても、目の前で打ちしがれる少女の息遣いがそれを許さない。

布を、開く。

部屋の全員が、エレンに希望の光明を見出した戦士たちが、その物体が最初なんであるか分からなかった。

ジャン「右、腕」

それは人間の一部分だった。見覚えのある屈強さ。ライナーの剛でもなく、コニーの柔でもなく、ただ引き絞られた、美しさすら感じる造形。

クリスタ「それしか、持って来れませんでした……!!」

おまままらおおぉちぃぃつけぇええぇ(ガタガタ

最後の巨人を相手に、エレンは刀一本で立ち向かい、打倒してみせた。

ただし空中で支えを失い、地に堕ちる中、死力を尽くした巨人に叩き落とされ。

右腕が千切れ飛び、エレンは血だるまに、赤い肉塊に成り果てた。

クリスタ「今回の戦闘で私は、いや、今回も……うっ、……何の戦果も得られませんでしたぁぁ!!」

ジャン「もうッ、いい……もうやめてくれ!」

自分の胸を自分で刺すように、彼女の慟哭は止まらない。

クリスタ「私が無能なばかりにただいたずらに彼を死なせ、彼を、彼という希望を生かしてここにたどり着かせることが、できませんでしたぁぁぁぁ!!」

希望の象徴が零落した。

104期生「もう……ダメだ……」

104期生「俺たちは、ここで死ぬのか」

誰もが膝をついた。

言葉ひとつなく、沈黙が沈む。

窓を破り3m巨人が部屋に入ってきた。それでも、誰も動けない。

サシャ「あ、あははは」

コニー「嘘だ、エレンだ、そんな、なんで」

アニ「…………」

ライナー「どうする」

ベルトルト「最悪、ここでやるしか」

瞬間、抜刀音。

ブレードを装填した音が響き渡る。

ジャン「ざっけんじゃねえぞ…………ッッ!!」

ジャン「ああんのクソ野郎!」

ワイヤーを打ち出し、柱を影に回りこむようにして無駄なく巨人の背後を取る。

ジャン「俺が! 何のために強くなったと思ってやがる!」

剣戟。絶命。

ジャン「あいつを、超えるためだった!!」

憲兵団に入る。それだけでは足りない。ずっと超えたかった壁、否――憧れていたものがあった。

ジャン「勝ち逃げか、ふざけんなよあのクソ野郎!! 許すわけねえだろそんなこと! 早く出て来い!」

窓から巨人の群栄が見える。

両手にブレードを持ち、唯一しっかりと二本の足を地に着け、ジャンはぎらりと睨みをきかせた。

ジャン「それまでは絶対に持ちこたえさせてやる、俺が巨人を殺し続けてやる。だから、さっさと戻って来いよ、エレンッッ……!!」

アニ「ああ、そうだ。ここでくたばってる暇はない」

彼女もまた立ち上がる。ガスの補給は十二分。

ライナー「……本部に戻ってから、あの穴を塞ぐ考えを立てなきゃならない」

ベルトルト「巨人の数も減ってきている。いけるよ」

戦士たちが、震える膝を叩いて立ち上がり始めた。

這い上がるようでも、何かに縋るようであっても、それは確かな再起。

コニー「……エレンに導かれてここに来たんだ……あいつがいなけりゃ、みんな屋外で野たれ死んでた」

サシャ「まだ私は死にたくないです、怖いし、それに……ここまで引っ張ってくれた、エレンの為にも」

クリスタ「…………」

ユミル「ほら、ガス」

クリスタ「でも、私のせいで」

ユミル「あんたが死ぬのが、一番、あいつが報われない」

真正面から覗き込んでくるユミルの瞳には、涙がたまっていた。

クリスタは俯いたまま、補充されたガスの調子を確かめる。使えるワイヤーは一本なので戦闘にはあまり参加できない。

それでも、彼は自分に生きていてほしいと願った。

それでも、彼は自分を生かすために戦った。

クリスタ「……もう諦めない、か」

諦めかけていたのはどっちだったか。

ゆっくりとクリスタは、柄を握る手に力をこめた。

ジャン「ここで死んだら本物の腰抜けだ、夕食抜きのランニングだ! 一気に駆け抜けろ!」

104期生『おお、おおおおおおおおおおおおおおお!!』

放てば戻らぬ弓矢が、一斉に放たれる。

――頭が痛い。

アルミン「どうしたんだよエレン、さっきの座学も調子悪そうにしてたし」

ミカサ「体調が悪いなら医務室で休むべき」

エレン「…………」

――頭が痛い。

――頭が痛い。

アルミン「最近はアニとばっかり格闘訓練してるよね、エレン」

ミカサ「あの女は危険。私と組んだほうが効率よく学習できる」

アルミン「ま、まあまあ。組み相手ぐらいは自分で決めたいものでしょ。ねえ?」

ミカサ「そうなの? エレン」

エレン「……ああ」

――頭が、痛い。

とてもつらい夢を見ている気がした。

自分はずっと強いけど、ずっと寂しくて、最終的には死んでしまう。

そんなことありうる訳がないのだけれど、不安になってしまう。

もし自分の傍に、ミカサもアルミンもいなければ、どうなってしまうだろうかと。

エレン「……頭が、痛い」

そんなこと、ありうる訳がないのだけれど、考えてしまう。

エレン「……頭が、痛い」

起きろ。

起きろ。

お前がいるべき場所は、ここではない。


呼ぶ声が聞こえた。

振り向けば自分がいる。

エレン「誰だよ、お前は」

エレン「お前こそ誰なんだ」

エレン「俺は俺だ」

エレン「そうだな、俺も俺だ」

エレン「どうしてお前は戦うんだ」

エレン「…………」

エレン「俺は、すべての巨人を駆逐するため」

エレン「…………」

エレン「お前は、どうなんだ」

エレン「俺、は――――」


『壁の外が見たいんだ、僕は』

『戦わなければ勝てない』

『人類はたどり着かなければならない! 仲間を、大切な友を守れ、エレン……!』

『エレン、ご飯できてるわよ』


答えられない。

鎖にがんじがらめに縛られて、動けない。

水面越しのエレンは、失望したように息を吐いた。

ジャン「あ、駐屯兵団、か……?」

補給所周囲の巨人から逃れるうちに、本部付近で陣形を組んでいる兵士たちを見つけた。

兵士「まさか君たち中衛の!? よく戻ってきてくれた! 早くこっちに合流を!」

コニー「あの、何をするんですか?」

兵士「あれを動かすんだ」

そう言って兵士が指差したのは、穴を塞ぐのには十分だろうと思われる大岩があった。

サシャ「あ、あれを……!?」

ライナー「なるほど……」

ベルトルト「まあ、そうするか」

アニ「人力で動かすとしても、その間巨人たちをどうやって?」

兵士「それは俺たちに任せてくれ。岩を引くのは君たちが主だ」

ジャン「……やってやる。綱引きだろうがなんだろうが、やってやんぞ!!」

巨人たちが腕を振り回し、ワイヤーごと兵士が吹っ飛ばされる。

まだ岩にたどり着くことすらできていない。数十の巨人たちが行く手を阻んでいるのだ、岩を動かす要因も巨人を突破するのに必要となる。

兵士「ああもうダメだっ! 死ぬんだ!」

ジャン「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

塔を中心に旋回するようにして8m級の死角を突く。鋭く抉る斬撃あちこちで104期生が食われ、嬲られ、そして引き裂き、殺し返す。

ジャン「フゥーッ、俺は生きる、俺は死なないッ。俺はまだ死なない、あいつを超えられていないうちは死なない!」

だから。

両手に握る剣を構え、壁を乗り越え、自分を鼓舞する。

ジャン「俺たちはッ! 負けないッ! 絶対にッ! 死なないッ!」

――それでもどす黒い濁流は、一切の流れを止めなかった。

あちこちで、兵士によって形成されていたはずの防衛ラインが崩れ、巨人が侵入してくる。

コニー「あああクッソオオオオオオ!!」

サシャ「コニー!? 出すぎですッ」

ユミル「いや……正しいのはあいつだ!」

飛び出したコニーを追って、ユミルが続く。

ユミル「あんたら何ちんたらしてんだ、向かって左右どっちも突破された! 正面を抜けなきゃ挟まれるんだぞ!」

ジャン「……!」

先陣を切ることになったコニーは天性の勘でそれを見抜き判断したのか。

何にしても続かない手はない。

ジャン「急げ! 正面を突破する!」

兵士「おい邪魔だ訓練兵! お前らはこの場で戦線を維持しろ、先に俺たちが抜ける!」

アニ「はぁ……!?」

今の会話を聞いて状況を理解したらしい、駐屯兵団所属兵たちがわれ先にと、ガス残量もお構いなしに加速していく。

クリスタ「……」

クリスタ「これじゃ、ダメだ……全滅する」

ジャン「! クリスタてめぇ何言って!」

クリスタ「分かってるんでしょ、ジャンも!」

団結がまばらになり始め、先達である兵士たちは自分のことしか考えていない。

そもそも岩を動かせるかどうかだって分からない。

ジャン「……でも戦う」

クリスタ「分かってる。だって、エレンならそうする」

ジャン「バ、バッ、あいつは関係ねえだろ!」

狼狽するジャンは、ふとクリスタの瞳を見た。

クリスタ「……私は生き延びなきゃいけない。エレンのためにも。だから、退くことはできない」

ジャン「分かってる。勝つ以外に道はない!」

高くブレードを掲げた。

全員が注視する。

ジャン「戦わなければ勝てない。全員……死ぬ気で、勝ちを取りにいくぞッ……!!」



――その様子を見ている目が、崩れ落ちた家屋の奥の奥に。

――動くことのできない、血みどろの肉人形が一体、あった。

ちょっと抜けます

『……行かなくていいの?』

「見てたろ。俺には今、戦う理由がない。聞かれても答えられなかった。諦めない、とかえらそうに言ってたくせによ」

自嘲する。笑うことすらできない。

あまりの情けなさに、自分でも涙が出てくる。

「俺は……ッ、いつまでもいつまでも、お前らにすがってた。それでした生きてこれなかったんだ。いつか会えると信じ込んでいたから」

『今こうして僕らは会っているだろう?』

「違う、違うんだ」

『さっきみたいに、私たちと一緒にいられる世界もある』

「そうじゃない。お前らはもう死んじまったんだ。亡霊は暗闇に帰るしかない。俺にはもう、どうすることもできないんだ」

そして、二人を襲った死が、今自分に運ばれようとしていることも分かる。

息ができない。コヒュー、と変な音だけが出る。

自分はここで死ぬ。

誰かが戦っているのだけが薄ぼんやりと見える。自分はもう戦えない。一人守って、けれど、最後まで守り通すことはできなくて、野垂れ死ぬ。

『それでいいの?』

……

……いいはずが……ない。

「いいわけねえだろ……ッ!」

『戦わなければ』

「ああそうだッ! 戦わなきゃ、みんなを助けることすらできない! だから、俺は今悔しい……ッ! 戦えない自分が情けない!」

『……なら、そのために戦えばいい』

『あなたはもう立派な意思を見つけている』

ハッとする。

自分があの時、刀一本で巨人に立ち向かったのはなぜだ。

もう失いたくないと願ったからじゃないのか。

もうこれ以上、『今』を汚されたくないと憤ったからじゃないのか。

ならば。

「俺は――戦う! みんなを守るために! お前らと会うためじゃない! 死んでしまったお前らに、報いるために! なにより、今戦っているみんなを助けるために!!」






『『いってらっしゃい、エレン』』




ふと、動きを止める。

もう四方八方を巨人に囲まれていた。最も危惧していた、囲まれるという状態。

ライナー「……念のため、念のために言っておくが、自決用にブレードを残しておけよ」

アニ「…………」

クリスタ「…………」

コニー「あァ、ちくしょう……エレンに、なんて詫びたらいいんだ、ああ、怖い、怖ぇ……死にたくねぇ」

涙を流すもの、歯を食いしばって体の震えを誤魔化す者、空ろな瞳である一点を見つめる者。

人類の敗北は確定していた。

ユミル「増援ゼロ。巨人多数。……クリスタ、介錯をお願いしてもいいかい? さぱっとやっちまってほしいんだが」

クリスタ「…………」

答えは返ってこない。訝しげに顔を覗き込む。

ユミル「クリスタ?」

クリスタ「……あそこに、いる」

半壊した家屋。

そこを起点とし――世界が、震えた。


「お、雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄ォォォォォォォッ!!!」

やれないことはやれない。

できないことはできない。

自分にできるのは自分にできることだけだ。

やれるだけのことをやるだけで、いつだってやってこれた。

でも。

エレン「やれるだけやるんじゃ足りなくて、届かなくて、救えないっていうんなら……!」

無くなった右手が、かすかに見えた。

渇望するように、巨人たちに向けて見えざる右手を向ける。


エレン「俺はそんな下らない自分の限界、超えて、超えて、超えて……戦う!!」


腕が、千切れた断面から、肌色の皮膚が、血管が、神経が、総て復元され巻き戻され形作り、流出していく。

それはまるで――巨人の生体再生のように。

アルミン『勝ったな…』

ミカサ『ああ…』

エレン「あっちまで、行けよおおおおおおおッ!!」

崩れかけの家屋を踏み台に、獣のように四足で、視線を鋭く突き刺す。

駆け出す。クラウチングスタートのような加速――だがそのトップスピードは桁外れだ。

立体機動装置なしで、数キロ先まで秒速。

エレン「っツァァ」

右の拳で、殴りつける。

ただそれだけの攻撃が、8mの巨体を弾き飛ばす。首から上は衝撃で微塵と化した。

残った勢いで巨人の体は宙に浮いた。高く舞い飛び、錐揉み回転もかかり――


――そのままウォール・ローゼの外まで吹き飛んだ。

ジャン「……は?」

巨人が一体視界から消えた。というか、人類の活動領域から消えた。

サシャ「え、えっと?」

エレン「――っ」

空中でバランスを取り直し、どうにか着地する。

クリスタ「……あ」

エレン「…………」

着地といっても人間として、二本足ではない。俊敏に動く四本足。

エレン「!!!!」

獣のような咆哮を上げ、再びの跳躍。

首まで一気に距離を殺し、弱点部位を見つけ出し――食い千切る。

ユミル「……巨人を、食ってる」

コニー「ん、だよ、あれ、エレン……?」

目にも留まらぬ速さで、本来は削ぎ落とすはずの部位を噛み千切っていく。

エレン「ああああああっ! OOOOOAAAAAAA!!!」

ジャン達は、何もできなかった。

地獄が地獄に塗り潰されていくのを見ているしかなかった。

アニ「……あれ、が」

ライナー「最後の希望だ、人類の、そして俺たちの」

ベルトルト「――人間のカタチに巨人の概念を圧縮し凝縮した存在、か」


エレン「巨人、殺す……殺す……GAAAAAA! AAAAAAAAAAAAAA!!!」


呆然と見ているだけだったクリスタの足元に、巨人の血が飛ぶ。

エレンの一つの動作が、幾多もの巨人を屠っていく。

クリスタ「止まって、止まって……エレン!!」

獣の動きが、止まる。

ちょうど取り付いた巨人を片手間に首元から千切り捨て、エレンは一瞬でクリスタの元へと移動した。

すでに巨人の数は半数ほどに減っている。

クリスタ「エレンは……みんなを守りたいの……?」

彼の口元から、蒸気が立ち上った。

クリスタ「でも、これは違う……私たちだって戦える、エレンと一緒に戦いたい」

彼の黄金色の瞳が、クリスタを射抜く。

ジャン「……ああ、そうだっ! テメェ一人にカッコつけさせるかよ!」

言いつつ、ジャンは両手の刃を新たに換装した。

コニー「よく、分かんねんけど、エレンが生きてて、戦えるんだろ!? だったらやろうぜ、まだ戦える!」

クリスタ「みんなが望むのは、あなたと一緒に戦うことだから、そんな風にする必要はない。ただ、人間として戦ってくれるだけで、良かった。そんな風にしてエレン一人だけが戦うようなのは、違う……!」

エレン「…………」

ジャン「俺たちが巨人の相手をする。お前はあの岩を運んで穴を塞げ! 間違っても砕くなよ!」

エレン「…………」

彼は応答の代わりに、行動で示した。


人類の勝利が、決まった。

――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――

――――――――

調査兵団団長のエルヴィンは、報告書を見て眉間をもんでいた。

リヴァイ「生身の人間が巨人を素手で撃破、または壁の外側へ飛ばした? どんな幻覚だ」

隣に立っているリヴァイ兵長もさすがに困惑顔で、眼前に横たわる少年を見ている。

三重の鉄格子と、四肢をつなぐ手錠に、がんじがらめに巻かれた鎖。

リヴァイ「起きるぞ」

薄く少年が目を開けただけで、待機している兵士たちが縮み上がった。

よく状況がわかっていない様子で周りを見回す少年。

リヴァイ「エレン・イェーガーだな?」

エレン「え? はいっ!?」

リヴァイ「お前が気絶した後、巨人は皆殺しにした。死者も出ていない」

やっとエレンは自分の現状を把握する。

あの時つかった力は、自分の知識には無い。うっすらと覚えていないことも無いが扱いきれていたわけでもない。

リヴァイ「単刀直入に聞く。お前はどうしたい?」

エレン「……俺は」

出し抜けな質問に対し、エレンの瞳のそこで、新たな篝火が轟々と滾っているのが、リヴァイには見えた。


エレン「俺は、巨人を殺しまくって……それで、とにかく一人でもいいから仲間を守りたいです」


リヴァイ「気に入った。悪くない答えだ」

そしてこの数日後、審問会に突き出されたエレン・イェーガーが調査兵団所属になるのは、また後々の話である。

くぅ~疲w
これにて終わりです

あ、マルコは生きてます普通にジャンと再会しました
104期生は軒並み調査兵団に入りました
理由:エレンのそばにいたら死なない

さすがに寝るわ
ヤンデレもの書いて以来頭おかしい俺

クリスタ生きて良かった…後日談エレン×クリスタ&ユミル

一応、エレンの右腕は戻ってます
クリスタはもうダメかも分からんね(白目)

乙です
ミカサとアルミンの存在って大事だなと再認識した
覚醒エレンで盛大に吹いてしまったんだけどエヴァが元ネタなの?

なんだまだ残ってたのか
と思ったらここ残るシステムなんだな

後日談というか続けていくわ







エレン「ま、やれるだけはやったさ」





>>160
エヴァ以外ネタにすべきものがなかった


エレンの身柄をどうするのか、という話し合いが、扉の向こう側では行われているらしい。

憲兵団や駐屯兵団、調査兵団の重鎮が集う場だ。

待機するジャンたち訓練兵が立ち入れるはずも泣く、104期生は部屋の前で右往左往する他なかった。

「中はどうなってんだ……エレンの姿すら見てねえよ」

コニーが不安そうに目をせわしなく動かしている。

挙動不審なのは皆そうだ。

唯一、ジャケットの左袖を垂らしたクリスタが、床に体育座りで微動だにしていなかった。

「……大丈夫。エレンは私を守ってくれた、ので、そう簡単にいなくなったりはしない」

「んんっ? なんで訓練兵の子たちがここにいるのかな?」

せわしなくしていたジャンたちに、一人、話しかけてくる人間がいた。

調査兵団のジャケットを着込み、ゴーグルを額に引っ掛けた女性。

「……ああ、エレン・イェーガーの同期なのか。この度はご愁傷様」

「は、はあ」

ご愁傷様? 言葉が場に合っていない。だがこの言葉遣いに、直感的に身震いした女がいた。

「なんですか、それ。エレンに何かあったんですか!?」

「おい芋女、落ち着けよ」

サシャが立ち上がり、女性につかみかかる勢いで迫った。

慌ててユミルが抑えようとするが、女性はそれを受け止める。

「まあまあ。生きてることは生きてるよ」

「じゃあ、やっぱり何かされたってことじゃないですか!!」

「ちょっとした実験だよ。人外であることは明白だから」

「だから何を!」

女性は酷薄に笑う。

「巨人並みの再生能力」

「……は、あ?」

困惑するジャンに、言葉が突き刺さる。

「右腕、左腕、右足、左足、耳、目、舌、鼻、髪、指、どれも再生したらしいよ」

意味が分からなかった。

ベルトルトの奥歯が割れる音がした。

拳を握りすぎたのか、ライナーとアニの手から血が滴っている。

「ざ、っけんな」

ジャンが一歩踏み出した。

「やめて」

いつの間にか立ち上がっていたクリスタが、振りかぶったジャンの腕をつかむ。

「止めんな!!」

「やめて」

無理にほどこうとして、動かない。

信じられない腕力でクリスタが自分をとどめている。

「エレンは死んでないんですよね?」

「うん。でもあれだけ痛めつけられたらしいのに、あの力を解放はしなかったんだよなぁ」

うーんとうなりだす女性。

ふつふつと、104期生のボルテージが上がっていく。

「……ねえアンタ、止める必要はないだろ。少なくともあたしは止めんな」

アニが一歩進み出た。

「さっきからあなた、『そうだ』とか『らしい』とか言ってますよね」

止める代わりにクリスタは早口に言葉をつむいだ。

「ああうん。全然関わってないから」

「…………」

ジャンが静かに拳を下ろす。

「憲兵団がまず身柄を押さえてたからね。うちの団長とか兵士長とかも面談にほとんど行けてないし」

「……」

ギリ、とジャンは歯を食いしばる。

何が実験だ。何が確認だ。ふざけるな。俺たちの仲間を、俺たちのリーダーをそんな理由でバラバラにしやがったのか。

「クソがッッ!!」

苛立ち紛れに壁を殴りつける。

「化け物だろうよ、素手で巨人ぶっ殺してんだ! けどなあ! あいつは人間だ!」

血を吐くように、思い切りゴーグルの女性を睨み付けた。

「俺たちを助けたんだ! 俺たちと共に戦ったんだ! あいつは血を流して苦しんだ、あいつは、戦友なんだ!」

もう更新しないのかな?(´・ω・`)

書き溜め中かな?(´・ω・`)

他のスレとりあえず完結させてきたわ
んじゃ再開します

ブーツが床を打つ音がする。

リヴァイは自分の息遣いが響くのをじっと聞いていた。

静寂。

「……なあエレンよ」

視線を上げる――天井に蜘蛛のように張り付き、こちらをじっと窺っている男が一人。

まだ少年とも言えるあどけない顔つきだ。

「お前がなぜあの時、あれほどの力を発揮したのか、俺は知らん。見てもいないのに分かるはずがない」

ただな、と両手のブレードを構える。

「力がないお前は、ただの兵士だ。だから、俺でも簡単に勝てる」

「――ッ!!」

脚力と重力加速を乗せた爆発的な加速が、少年を真下へ突撃させた。

ただの少しも動揺することなく、リヴァイは――

「はい兵長の3勝目」

「どうしてお前が兵長に勝てないか教えてやろうか? お前がまだ兵長の領域に届いていないからだ」

「うぐっ……」

そこは、調査兵団本部の中でも隔離された部屋だった。


人類の刃として戦うことを許された者は、誰しもが守りたいものを持つ。

街を守る者は駐屯兵団に、生活や家を守る者は憲兵団に。

では調査兵団に入るものは、何を守るのか。

人類の尊厳だと、ある兵士は言った。

子供のころからの夢だと、一人の兵士が言った。



ではエレン・イェーガーは。

この隔離室で、ごく一部の人間とのみ面会を許された半人間は。

いったい何を守ろうというのか。

「……」

部下が淹れた紅茶を啜る。

「兵長、今日の訓練はどうでした?」

「……やる側もやられる側も、やる意味を感じていないんだ。有意義になんぞなるはずがない」

巨人との戦いにおいて、なぜあのような狭苦しい空間での戦闘を想定しているのか。

このメニューを組んだ上層部の思惑は二つほど。


まず一つ目は、エレン・イェーガーを外に出さないこと。

現在は兵士長のリヴァイと彼直属の部下、それに調査兵団団長のエルヴィン以外で、エレンと面会できるものはいない。

それはもちろん104期生も当然である。


そして二つ目は、いざという時にエレン・イェーガーを殺せるよう、リヴァイに手馴れさせておくこと。

実際のところ、立体機動はともかく、室内での白兵戦ならリヴァイの全勝ではある。



(とはいえ、三回目にして俺に傷をつけやがった)

真っ二つになったブレードと、引きちぎられたスカーフ。

それらの替えを調達するのを、リヴァイは眉間を揉みながら先送りにした。

「おい小僧、兵長にちょっと当てたからっていい気になるなよ?」

「や、そんな調子乗ってないですって俺。むしろ偶然過ぎるし神様万々歳って感じですし」

「おおいオルオ、新人君が鬼強いからって苛めすぎじゃないか?」

一方、エレンに割り当てられた部屋。

鎖で体を縛っても勝手に引きちぎってしまうので、諦めてエレンはもう部屋の中に放っておくことにした、らしい。

本人としてはそもそも抵抗の意思がないので無駄なことをされても気分が悪いのだが。

「それにしてもイェーガー君、同期と会えないのは、つらくないかい?」

リヴァイ班の一人、グンタが何気なく言葉を発した。

「……ッ、そうですね。少し、寂しいです」

薄っぺらい笑顔を貼り付ける。ハンジから聞かされた、憲兵団によるこの少年への実験内容。

人知を超える苦痛だっただろう。

その結果、憲兵団が何を得たのか――否、




エレン・イェーガーから何を奪ったのかは、何人たりとも知る由もない。


「うーんこの立体機動装置、絶対使えないと思ってたんだけどなあ」

調査兵団の訓練用グラウンド。

分隊長ハンジ・ゾエはゴーグルを引っ掛けたり外したりしながら、目の前の光景を見つめていた。

あのエレンとかいう少年は憲兵団によって壊されてしまったので、ひとまず直るまでは楽しみとしてとっておくことにする。

問題は、彼の同期である、新たな兵士たちだ。

「マルコォ! 引導を渡してやるよ!!」

「そろそろ突っ込んでくるな……サシャ、正面からジャンを押さえて。そろそろこっちも隠し玉だ、覚悟しろよジャン!」

障害物を設置しての、立体機動装置に模擬刀を使っての演習訓練。

5対5のチーム戦で行うそれは、巨人との戦闘というより、対人戦闘を強く意識していることを隠しもしない訓練。

他の団員たちも興味深そうにそれを見ていた。

「」

ジャンが率いるのは、コニー、ライナー、ユミル、サムエル。

対するマルコの組は、サシャ、ベルトルト、トーマス、そしてクリスタ。

脱落している、戦闘不能判定を受けたのはユミルとサムエル、ベルトルトにトーマスだ。

数だけなら互角だが、ジャンはまだコニーにライナーという強力な手札を残している。

ジャン「っし、ライナーもコニーも小細工する必要はねえ、今は思いっきり突っ込むときだ!」

コニー「おう!」

ライナー「サシャは任せたぞ、俺はマルコを狙う!」

このゲームの勝敗は単純で、相手のチームの王を戦闘不能にすればよい。

ライナー「終わりだなマルコ!」

マルコ「……それはどうかな?」

不適な笑み。

一対一なら当然ライナーが勝つ。

だがしかし――マルコの勝利条件は、今このタイミングで、ライナーもコニーもジャンの傍にいないことだった。

ジャン「ん?」

斜め後ろ、茂みからアンカーが射出される。

残っている人間はクリスタか――と考えたところで、違和感。

彼女は片腕で、どう戦うんだ?

確かに自ら参加を申し出てはいたが、みんなは注意も払わなかった。戦えるはずがないのだ。

しかし、現実が、執念が、ジャンの眼前に躍り出る。


クリスタ「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


視認できたのは、風を切る金髪と、片手にのみ握られた剣。



え待って待ってなんでいきなり台本形式にしてんの俺

>>209>>210は読み飛ばしてください。

ジャンが率いるのは、コニー、ライナー、ユミル、サムエル。

対するマルコの組は、サシャ、ベルトルト、トーマス、そしてクリスタ。

脱落している、戦闘不能判定を受けたのはユミルとサムエル、ベルトルトにトーマスだ。

数だけなら互角だが、ジャンはまだコニーにライナーという強力な手札を残している。

「っし、ライナーもコニーも小細工する必要はねえ、今は思いっきり突っ込むときだ!」

戦力差を確認し、ジャンはぎらりと瞳に光を宿した。

スチールの刃で目標を指す。

「おう!」

「コニー、サシャは任せたぞ、俺はマルコを狙う!」

ライナーとコニーは二手に分かれた。

このゲームの勝敗は単純で、相手のチームの王を戦闘不能にすればよい。

どうやらコニーが残ったサシャを押さえている間に、ライナーが敵の王であるマルコを仕留める作戦のようだ。

「終わりだなマルコ!」

「……それはどうかな?」

不適な笑み。

一対一なら当然ライナーが勝つ。

だがしかし――マルコの勝利条件は、今このタイミングで、ライナーもコニーもジャンの傍にいないことだった。

「ん?」

ジャンはふと悪寒に背を震わせた。

斜め後ろ、茂みからアンカーが射出される。

残っている人間はクリスタか――と考えたところで、違和感。

彼女は片腕で、どう戦うんだ?

確かに自ら参加を申し出てはいたが、みんなは注意も払わなかった。戦えるはずがないのだ。

柄を握り締めるは戦女神。

しかし、現実が、執念が、ジャンの眼前に躍り出る。


「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


視認できたのは、風を切る金髪と、片手にのみ握られた剣。

「うおっ!?」

両手のブレードを交差させガード。一撃を防がれ、クリスタは素早く後退。

追いすがろうとしたジャンは、改めて彼女の様子を確認して絶句した。

たなびくジャケットの片袖はいつもどおり。

健在する右手に握った剣が、おかしな形をしている。

立体機動装置を扱うトリガーが、一本の剣に四つついているのだ。

(こいつ……ッ!? 片手でやろうってのか!?)

「まだ慣れてないけど、対人戦ならこういう戦い方もできる」

クリスタがアンカーを再び射出。狙いはジャンの真横スレスレ。これは立派な攻撃だ。

「落ちてよ」

冷たい、しかし奥底には煉獄の炎をたたえた双眸が、ジャンの瞳を射抜いた。


衝撃。

墜落。

(うわぁ、本当に使ってる)

想像以上の機動性にハンジは舌を巻いた。

クリスタのなめらかな指の動きと、それに不釣り合いな重厚な駆動音に鼓膜を揺らしつつ、ハンジは技術班が手を加えたという新型の立体機動装置を見やった。

基本的な原理も出力も変わらない、大きく違うのは、アンカー射出トリガーの役割を果たしていた剣を一本に減らしたこと。

そして操作体系を簡略化し、射出トリガーをすべて一本の剣に集約させたことだ。

無論それの操作には、想像を絶するほどの技量と練熟が必要となる。

だがクリスタ・レンズは。

「どう動かせばわかるの。なんでかは分からないけど」

あの日以来、何かの歯車が欠けてしまった彼女は、その装置を自らの手足のように操っている。

地面に仰向けに倒れたジャン。

その上に、ちょうど彼の胴をまたぐような格好で仁王立ちしているクリスタ。

勝敗は明らかだった。

「ってぇ……隠し玉にもほどがあんだろ、オイ」

「ジャンは周りを冷静に見ることができる。だから私は限界まで潜んでいた。早めに出ていたら、きっとジャンは私もどうにかしていたはずだから」

褒められているのか、これは。

少し意外だった。

他のメンバーも続々と集まっている。

「じゃあ反省会始めよっか。クリスタ、もうどいていいよ」

「了解」

クリスタがブレードを収め、ジャンはあぐらをかいて座り込んだ。

そもそも彼らがなぜこのような訓練をしているのか。

理由は、ただひとつであった。



もし人類がエレンを排除しようとするのなら。

そのときは、自分たちがエレンを守ろう――――

ひとまず今日はここまで。
待っていてくださった方々、ありがとうございます。
今のうちに注意しときます、中二汚染数値がどんどん跳ね上がっていきます。
多分後半戦になるとオリジナルの敵も出さざるを得ないので、ご了承ください。

セリフの前にキャラの名前入れたほうがいいかな?
最初のころと今とで書き方ブレすぎて残像が……

乙でした
まあ名前入れたほうが読みやすいけど自分の好みで問題ないと思います

再開します。
とりあえず名前は入れる方向で。

>>クリスタ
まあご想像にお任せするけど、進撃の世界観にあまり合わない設定というかオチになるかも。
ガッツギミックはマジで悩んだけど「片手のビハインドをものともしない、人知を超えたバランス感覚……ッ!」ってクリスタTUEEEEしたいから隻腕状態のままで行きますわ。

エレン「ん?」

ジャン「うおっ」

珍しく割り当てられた自由時間。

もちろん監視役としてエルドとグンタの二人が後ろからついてきているが、比較的自由に出歩ける貴重な時間。

顔を洗うべく井戸まで繰り出そうとして、エレンは思わぬ遭遇を果たした。

エレン「よぉ。最近訓練がんばってるみたいじゃねえか。窓から見えてんぞ」

ジャン「あ、ああ。は……え?」

エレン「じゃーな」

時間がもったいない。ひとまずエレンは歩みを始めた。

ジャン「ちょっと待てや」

エレン「ぐえっ」

直後に襟元を引っ張られ、転倒。

ジャン「テッメェ久々に会えたってのにずいぶんな対応じゃねーの」

エレン「ちょっ、苦しい。無理無理ギブギブ。グンタさんエルドさんやばいですってこれ」

エルド「おいグンタまずい、雨が降りそうだ」

グンタ「洗濯物干したままだな。オルオが取込むとは思えんしいったん戻るか」

エレン「任務放棄ですよねそれッ!?」


それが2人なりの気遣いだとは思わないのか、とオルオがいれば悪態をつくだろう。

ジャンは目ざとく気づいたようだ。エレンには見えないように二人に対して会釈した。

グンタ(少しは羽伸ばしてこいよ)

エルド(まだお前は15歳のガキなんだからな)



エレン「……おいジャン、いい加減離せよ。床に2人で倒れこんでたら勘違いされるだろうが」

ジャン「お前にそういう発想があるのか……ライナーかよ」

エレン「あいつをことあるごとにホモ扱いするのやめろよ……」

不憫そうにエレンは眉を寄せた。

立ち上がって服についた埃を払う。

ジャン「ちょっと付き合えよ、見せたいもんがあるんだ」

中庭でおこなれている訓練は、対人戦闘を想定している。

チーム戦での互いに大将を狙いあう戦闘を見ながら、エレンは各々の戦いぶりを観察していた。

エレン(……大将は保護対象ってことは、何かを守りつつ戦うケースを想定してるのか)

エレン(しかも相手は複数、巨人ではなく人間)

気づく。


エレン(これは、俺を守るための訓練だ)

ふざけやがって。

エレンは唇をかんだ。

エレン(俺たちの使命は、お前たちの職務は、巨人を討伐することだろう? 俺なんかに時間を割いてるんじゃねえよ)

悔しかった。

自由の翼をもがれ、地に這いながら機をうかがうしかない自分が。

同胞だったはずの彼らから、庇護対象として扱われている自分が。

情けなかった。

握りすぎたこぶしから、血が滴る。

それでも、巨人化は起きなかった。

ジャン「っしゃあ勝ったッ! 午前訓練完ッ!!」

マルコ「くっ、今日のジャンなんか指揮のキレが段違いだったんだけど、どうしたっていうんだよ」

ジャン「へへっ、観客がいたから、みっともねえ真似できなかったんだよっ」

コニー「観客……?」

立体起動装置は身につけていない、エレンは歩いて林を抜けてきた。

同期たちの顔を見るのも、久しく感じる。


……

エレン「どんな表情してんだお前ら、間抜けすぎんだろ」

クリスタ「エレンッッ」

金髪が揺らめいた。

エレンの着込んだジャケットで包める程度に小柄な少女が、飛び込んでくる。

■■■『エレンッッ』



違う。


クリスタ「エレン、大丈夫だった? 本当に、本当に……心配だった」

■■■『エレン、大丈夫だった? 本当に、本当に……心配だった』


違う。


クリスタ「エレンがいなくなったら、私、私は……」

■■■『エレンがいなくなったら、私、私は……』



否定のしようのないデジャヴ。

絶対に見間違えるはずのない二人を視界に重ねて、エレンはあいまいに微笑む。

それは、その笑みは――かつてのエレンはつけていた厚い仮面そのものだった。

今回は短いけどここまで。
トータル・イクリプス見直しながら書いた。
デートといいトータル・イクリプスといい俺の見るアニメの扱い悪すぎわろ
みんなもIS2期見て円盤買おう(ステマ)

遅れてすみません。
投下します。

>>226
進撃はもちろん、二期確定したデレさせデートラブコメの方も……分かるな?

訓練も一段落つき、みんなで顔を洗いに井戸へ向かう。

道すがら訓練の概要を聞く。個々の能力よりはブレインの指揮が重要になるだろうな、と予想はついた。

エレン(もしアルミンがいたら、すげえ強えんだろうな)

不意に沸いた憂鬱な思考は、口に出す必要もないことと判断。

彼女と彼が訓練に参加している光景など……ありえないのだから。

しかしそれ以上に不可解な、現象というか、現実が、エレンの隣に立っていた。

ありえないということぐらいは分かっている。

クリスタ「どうかした?」

エレン「ああ、いや」

亡くしてしまった、誰よりも大切な家族。その面影が否が応でも重なる。左胸の奥底の古傷が疼く。

余りにも似すぎているのだ。言動も、視線も、表情も、態度も。

クリスタ「エレンは、一人で抱えるだけ抱えてしまう。もっと私たちを頼らなくては」

エレン「うっせえな、お前は俺の……」

――母さんかよ。

そう言葉を続けようとして、ハッとした。今自分は何を言おうとした。

既視感にまみれた会話に涙を流しそうになり、一方で吐き気すら感じる。

追い求めていた安らぎが目の前に、突然再臨したかのようで。

けれど、在るべきはずの『彼女』の姿は、赤の他人に塗り替えられていて。

自分の幻覚ではないかと本気で疑うほどに、エレンは目の前の歪な少女を直視できなかった。

クリスタ「なに?」

エレン「……何でもねえよ。行こうぜ」

エレン(……エルドさん、グンタさん、早く戻ってきてくださいよ)

エレン(じゃないと、俺、こいつを抱きしめてしまいそうだ)

夜まで中断 22時ごろ再開予定

再開



この世には、自分とそっくりの人間が三人いるという迷信がある。

もっとも壁がない時代の迷信であって、エレンもアルミンから聞いたものに過ぎない。

エレン(……それは外見での話、だよな)

そうだ、それは顔が似ているだけに過ぎない。

間違ってもクリスタとミカサのように、体つきや髪の色などの外見が相異なっておきながらどこか印象が重なるようなことではないのだ。

それは、個人的な感傷に過ぎない。

エレン(惑わされるなよ……)

クリスタ「エレン、ちゃんとご飯食べてる? 寝られる? ベッドは固くない?」

エレン「……んー、あー、一応三食食ってるし、ベッドは若干固いけど寝れる」

クリスタ「そう、固いのね」

ぞろぞろと集団で歩けば嫌でも視線を集める。エレンはひとまずその辺の草原に腰を落ち着けた。

座り込む104期生たちの真ん中で、クリスタの隣に座る。

クリスタ「じゃあ時間いっぱい休んで」

エレン「は?」

ぐい、と襟を引っ張られた。

そのまま体が倒れる。クリスタの膝めがけてエレンは倒れこんだ。

地下室の枕とは比べ物にならない感触。やわらかく、適度に沈み込んでおきながら、しっかりとエレンの首を落ち着けさせる反発。

周囲の男子が目をむいた。

ライナー「なん……」

ユミル「だと……」

二人してあんぐりと口を開けているのはゴリラとそばかすである。

エレン「…………」

クリスタ「気持ちいい?」

日差しを遮る、艶やかな金髪。

光の関係か、それが黒髪に見えて仕方ないのだ。そうこれは光の影響だ、目のせいだ。

俺は、惑わされない。

軋む胸の音など聞こえないし、決壊しそうになる涙腺などとうの昔に破棄しているし、彼女との思い出は心の奥底に沈んでいて、自分でも容易に思い出すことはできない。

エレン「……やめてくれ、ミカサ」

その声が聞こえたものはごくわずかで。

クリスタは女神という呼称に劣らない、美しい微笑をたたえた――逆行で、エレンにはそれが別人の笑みに見えたが。

>>280
逆行×
逆光○




リヴァイ「おい、次の壁外調査の日程が決まったぞ」

いつも通り地下室の寝室で目覚めたとき、すでにリヴァイが部屋にいた。

エレン「……俺は、どうすればいいんでしょうか」

リヴァイ「戦え。人類の矢としてだ」

エレン「なら一回目の遠征で帰ってきませんよ、俺」

リヴァイ「大半がそうだろうな、お前の同期も」

部屋の温度が下がる。

エレンとしても、口論を交わしたところでおいしい相手ではない。

リヴァイ「……なあ、トロスト区での戦闘でお前が使った能力は、どうなってるんだ」

エレン「分かりません」

即答。

彼を調査兵団に入れた意味がない。リヴァイの思考の、冷え切った部分がどう不満を漏らした。

だがそうは思わない自分もいる。

リヴァイ「まああの力だけがお前の全てじゃない。お前が人類にとって有益かどうか、見極めさせてもらう」

敬礼を返す少年の姿に、ふとリヴァイはなにかを幻視した。

渦巻く何か、審議所に現れた彼に欠けていた何か。

――背筋が震えるのを誤魔化し、リヴァイは少年に敬礼を返した。

-憲兵団団長室-

ナイル「……では、第57回壁外調査についての命令は以上だ」

窓から差す日の光に目を細める新兵が二人。

ナイル「期待しているぞ、エレン・イェーガーの力を人工的に移植した、王政下初の人工巨人――」


――マルロ、ヒッチ。


ヒッチ「りょーかいです」

マルロ「了解しました」

敬礼が二つ並ぶ。

本作戦の目的は二つ。

侵攻してくる、あるいは侵攻『している』であろう壁外の知性巨人の撃破、または捕獲。

そして――エレン・イェーガーの抹殺。

椅子に座ったまま、憲兵団団長ナイル・ドークは口元を歪めた。

ナイル「さぁ、銃と剣の時代を始めよう」

今日はここまで
就寝時間過ぎててワロス

Mステでandrop(外見は浪人生4人組)見てたらこのザマだよクソが

ニャハハハハハハ


ナイル・・・

スー


ウッッッッッザァァァァァァァアァァァァイ

ナイル[ピーーー]

っと
思っている
自分がいるニャン

禁語使ったら
[ピー]
って
ニャwwwwww
チッ([ピーーー]って書いたのに・・・)

禁語使ったら
[ピー]
って
ニャwwwwww
ナラ ([ピーーー]・・・)
コレナラ…

クソ

[死]シを書いてイケナイノカ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月19日 (水) 15:25:43   ID: V9sogtz8

つまらん

2 :  SS好きの774さん   2014年08月12日 (火) 04:04:12   ID: i7wA2xJ_

終わったのか…?期待してたんだが…こんな途中では…残念だな…

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