マミ「もう何も怖く……」ほむら「勇気とは怖さを知ること!」(565)






「無」から「有」は生まれないという表現がよくされる。







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1343995930


――だがそれはかつての話だ。


現代の物理学ではまったくなにもない「無」=「絶対真空」の中で、「素粒子」という超とてつもなく小さい粒子が突然発生する事が証明されている。

そしてその「素粒子」はエネルギーに変身、化ける事ができる。

エネルギーになって突然発生したり、突然消えたりするそうなのだ。

「引力」とか「重力」もこれらが原因らしい。


つまり「無」から「有」が生まれ、「無」は「可能性」の事だというのだ。

この「素粒子」は宇宙の彼方の理論や話ではなく、この地球上の日常でも満ちあふれるように行われている出来事だ。



以上の事を前置きとして

この奇妙な冒険は、一人の少女が本来出会う「可能性」が「無」である男と出会ってしまったことから始まる――。


――病院

「………………」

「今……何回目だっけ……」

「……また、だ……またダメだった……」


我々はこの少女を知っている! いや! この赤ぶち眼鏡と、この黒いおさげを知っている!


ほむら「まさか……あんな事になるなんて」

ほむら「魔女になった美樹さんに止めようとした鹿目さんが殺されて、佐倉さんが美樹さんと心中。巴さんは私も死んだと勘違いし孤独になったと絶望し自害した……」

ほむら「全員死んだ。……最悪だった」

ほむら「……今回、どうすればいいかな……」

ほむら「もう誰にも頼らないだとか、いざというときは誰かを切り捨てるだとか……そういう覚悟というか残酷さというか、必要なのかな……」

ほむら「私は臆病だから……それができない。その差で食いつぶされたチャンスもある」

ほむら「…………」

ほむら「今回でもダメだったら、心のあり方だけででも、考え直そう。誰かを切り捨てられるような。甘さを捨てるような」

ほむら「もしそうなるなら……イメチェンから始めようかな」

ほむら「鏡を見る度に臆病な自分を思い出すから……眼鏡を取って、おさげも解いて……タイツ履いてみようかな。いつもニーソだし」

ほむら「何とか今回の時間軸中に覚悟を決めて、次に活か――」

ほむら「……ダメ。もしもでも先の時間軸のこと考えちゃ……」

ほむら「…………考えて。暁美ほむら」

ほむら「前回は魔女になった美樹さんによって、戦わなければならなくなったから鹿目さんが犠牲になった」

ほむら「だから鹿目さんと美樹さんを魔法少女にしないという方針で考えると……」

ほむら「鹿目さんは転校する前に予め何とかすれば、取りあえずは契約を先伸ばしにできる」

ほむら「美樹さんは……今のところ魔法少女のことを知ったら必ず契約する。そして……魔女に……」

ほむら「………………どうしよう」

ほむら「どうすればいいの……? 何もわかんないよ……」



ほむら「本当に私なんかが鹿目さんを守れるのかな……グスッ」

ほむら「……全部、私のせい。私には課題がある」

ほむら「強くなりたい。あまりに弱すぎる」

ほむら「前の時間軸も、その前もそうだった。私は力不足。足手まとい。だから救えなかった」

ほむら「これまでの時間軸で魔法の使い方、戦い方はあらかた学習したつもりでいる」

ほむら「鈍器と爆弾と時を止める能力。これが今の私の戦力。これだけじゃ足りないんだ」

ほむら「何か新しい『武器』が欲しい。新しい『力』が欲しい」

ほむら「…………」

ほむら「新しい『力』か……」


ほむら「やっぱり爆弾なんかじゃなく、魔法少女らしく魔法を使うべきなのかな……」

ほむら「魔法……今更だけど魔法って何だろう」

ほむら「名前にあやかって炎でも操る? 飛び回るビルを念力みたいな力で投げつける? ……そんなことしてもワルプルギスを倒せるとはとても思えない」

ほむら「ワルプルギスを地球の外に放りだして二度と戻れないように軌道に乗せて地球から追放してしまいたい」

ほむら「……私、何言ってるの? そんなわけのわからないことを……」

ほむら「アハハ……思わず自分で自分を笑っちゃう」

ほむら(新しい『力』かぁ……そううまくいかないな……)


ほむら「……そういえば警官の人の銃が盗まれたってニュースがあったっけ」

ほむら「銃、かぁ……。私の魔力は弱いから銃を作っても無駄としても……兵器を使うこと自体はいいかもしれない」

ほむら「でも銃火器までは自作はできない……どうせ魔法がだめなら……」

ほむら「…………盗む」

ほむら「…………」

ほむら「……そ、それはダメ! 盗むだなんて!」

ほむら「鹿目さんに、みんなに知られたらケーベツされちゃう……鹿目さんに嫌われたりなんかすれば……私が魔女になりかねない」

ほむら「でも、それくらいやってのけるくらいの覚悟を決めないと救えないのかな……?」

ほむら「うぅ……嫌われたくなんかない……どうすればいいかな。鹿目さん……クスン」


――帰路

ほむら(私はこの時間軸で何をすればいいのだろう)

ほむら(どうせするなら、何か……前の時間軸でやらなかったことをやるべきだ。バタフライエフェクトみたいに、何がどう影響するかわからないから)

ほむら(転校前に誰かしらに会うというのはどうだろう。巴さんと接触してみるとか、むしろ鹿目さんに会ってみるとか……)

ほむら(美樹さんは……会っても何を話せばいいのかわからないし、佐倉さんはどこにいるかがわからないから会うに会えないけど……)

ほむら(そういうこと、試してみる価値はある)


ほむら(…………)

ほむら(とか何とかあれこれ考えていながら……結局タイミングを逃すんだよなぁ……私っていつもそう)

ほむら(爆弾の材料の補充でもうこんな時間……。もう夜分遅いから、誰かと接触というには迷惑がかかちゃう)

ほむら(新しい爆弾は明日の夜にでも作るとして……帰って学校に備えよ……)



ほむら「――ハッ!」ピキーン

ほむら「ま、魔女だ……! こんなところで……?!」

ほむら「と、とにかく行かなくちゃ……」タッ


――結界

ほむら「……初めてだ。こんな結界……どうしよう。不安だなぁ……」

ほむら「……ん、人の気配……? 既に誰かいる? もしかして巴さんとか……だとしたら嬉しいけど……」

使い魔「――」

ほむら「あ、使い魔だ……ん? あの人は……?」


「な、なんだこいつは……!」


ほむら「あの男の人……結界に巻き込まれたのかな……とにかく、助けなきゃ!」

ほむら「でも、爆弾はダメだ……この距離だと爆風に巻き込んでしまう」

ほむら(ならば鈍器しかないッ! 時間停止ッ!)


カチッ


ほむら「ええい!」タッ

ボコッ

ほむら「やあ! たあ!」

ボコスカ

ほむら「うにゃあ!」

ドコンッ

ほむら「おらーっ!」

メメタァ



ほむら(ふー……時は動き出す)



ドォ―z_ン

使い魔「――!」

ほむら「…………」

男「な!? なんだ君はッ!? いつの間にッ!」

ほむら(くっ……あんまり効いてない!)

使い魔「――!」グォッ

ほむら「あ! しまっ――」

バシィッ

男「!」

ほむら「あぐっ!」



ドヒュ――ゥン ドサァッ

ほむら(つ、強い……! 結構飛ばされた……)フラッ

使い魔「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

ほむら(でも……これで標的が私に移った……!)

ほむら(ダメージは魔法で何とかするとして……まずはこの人を避難させないと……!)

男「大丈夫かッ!? 君ッ!」

ほむら「に、逃げてッ!」

男「な……!」

ほむら「私なら大丈夫ですから!」


ほむら「100mくらい行けば……この結界はぬけられる!」

男「だ、だが君が……!」

ほむら「行ってくださいッ! 何て事ないですから……。ここは危険ッ!」

男「…………」

男「わかった……。確かに、ここは危険だ。行かせてもらおう」

ほむら「ええ、行って……」

使い魔「――」ジリジリ



ほむら(使い魔をもっともっと引きつけて……もう一度時を止め、爆弾で――)

ザッ ザッ

男「ただし方角はそやつの方だがな」

ほむら「えッ!?」

使い魔「――」

ザッ

男「……」

ほむら「そんな……あ……危ない……!」

ほむら(ど、どうして逃げないの!? それどころか、私と使い魔の間に入って……)



ほむら「あなたはこの結界を脱出するだけでいいのにッ!」

使い魔「――!」バァッ

ほむら(お、襲いかかる! ここは時を止めて避難を――)

「クゥォォオオオ……」

ほむら「……何の音?」

男「コォォォォォ……」

ほむら「し、深呼吸? この人の……?」



男「波紋疾走(オーバードライブ)ッ!」ズアァッ


バキィィッ

ほむら(つ、使い魔を殴った!? お、おーばー……何?!)

ボッコォ!

使い魔「TEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」

ほむら「なっ!? 何ッ!? つ、使い魔が……!」

ボシュゥゥゥ

使い魔「」

ほむら「使い魔が……消え……いや、と、溶けた?」



ほむら(それに……き、奇妙! 殴ったことも溶けたこともそうだけど……あの人の拳が光ったように見えたッ! あの輝きは魔法? ま、まるで太陽のような……!)

男「フゥ――。だがこの手応え。屍生人ではないようじゃの……」

ほむら「ぞ、ぞん……?」


ガォンッ


ほむら「――あっ!」

「――!」

ほむら「ま、魔女……!」

魔女「――――!」

ほむら(初めて見る……あの魔女は……逃げていったけど……)

男「またこいつか……っ! 今のはこいつの手下だったのか……?」

ほむら(『また』……? 既に出会っている?)


スッ

ほむら「あ、結界が……。……今は、頭を整理しないと」

ほむら(魔女はひとまずいいとして……あの人……使い魔を……不思議なパンチ一発で倒してしまった……ッ!)

ほむら(整理しよう……。私は結界にきた。結果にはすでに人がいた。その人が、使い魔を奇妙な力で倒した。その力は使い魔を溶解した……)

男「助けてくれてありがとう。お嬢ちゃん」

ほむら「……え? あ、い、いえ……私、何もしてませんので……」

男「いやいや、そんなことはない。君のおかげで助かったのだ」

ほむら「あの……今……何をしたんですか? あの太陽のような輝きは何なのですか? それに……あなたは……?」

男「ン――……質問は一つずつにしてくれないかね。まずは名乗らせていただこう」


男「わしはツェペリ男爵じゃ」

ほむら「ツェペリさん……?」

ツェペリ「うむ」

ほむら「……ま、魔法少女でもないのに使い魔を倒せるなんて……」

ツェペリ「ん? 魔法……何だって?」

ほむら(少なくともこの人は魔法少女ではない……となると、魔法少女とは別の……)

ほむら(……別の……何?)



ほむら「あ、あの、失礼ですが、あなたは呪い師とか超能力者とか魔法使いとか……そういうのの類、でしょうか……?」

ツェペリ「呪い師……うーむ。……まあ似たようなもんじゃろう。確かにその超能力とか魔法みたいなものでさっきの化け物を倒した」

ほむら(あの『力』……使う直前に深呼吸をしていた。呼吸が関与しているのかな……)

ツェペリ「それよりも大丈夫か? 使い魔? と言ったな。それに殴られたようじゃが……」

ほむら「あ、大丈夫です。ご心配なく」

ツェペリ「あのパワーで殴られて骨も折れていないようだ……さっき瞬間移動もある。……おまえさんこそ何者なんじゃ?」

ほむら「あっ、私は暁美ほむらと言います。……それで、あの……信じられないかもしれませんが……魔法少女です」

ほむら(目の前で魔法を使ってしまった。誤魔化すことはできない)


ツェペリ「魔法……少女? なるほど、魔法か」

ほむら「なるほどって……信じてくれるんですか?」

ツェペリ「ああ。目の前であんなことがあったんじゃ。疑う方がおかしいわい。怪奇(ウートン)には慣れとるからのォ」

ほむら(魔法少女のことはもはや隠しようがない……。そのまま何も言わずに時を止めて消えるのもカッコイイけど……)

ほむら(私は、この人に言いたいことがある……。だから、魔法少女という身分も明かした)

ほむら「あ、あの……」

ツェペリ「うん?」


ほむら(これは直感だけど……あの『力』ならワルプルギスに対向できるかもしれないと思ったッ!)

ほむら(新しい『力』……!)

ほむら「お、お願いします!」

ほむら「私に……私に今の力を、お、教えてくださいッ!」

ツェペリ「……何? この『波紋』の能力を身につけたいと? まだ幼いおまえさんが?」

ほむら「波紋……。はい! その波紋を……教えてくださいッ!」

ツェペリ「…………」

ツェペリ「ふむ……。君は、魔法少女だとか言ったな。君はわしを助けようとしてくれた。その恩義がある」

ほむら「じゃ、じゃあ……!」

ツェペリ「だからこそ忠告せねばならない。この波紋を学ぶとなると、おまえさんには幼すぎる。ハッキリ言って無理だ」

ほむら「命を賭してでも、救わなければならない人がいるんです! お願いします!」

ほむら(その能力は私にとって、希望ッ! 絶望に立ち向かうための光!)

ツェペリ(……この気迫。無理だとは言ったが、彼女には……その力に伴う十分な精神はないこともない。この必死な表情が何よりの証拠)

ツェペリ「訳を聞こう。本当はここはどこだとか、色々聞きたいところじゃが、まずは、それから」

ツェペリ(波紋の素質は見たところない。その状態から……ゼロから波紋の全てを学ぶには、辛すぎる!)


ほむら(訳……どうする? 嘘をついても私なんかじゃあ必ずボロが出る……。真実をそのまま言うしかない。でも……)

ほむら「……嘘だと、思われます……」

ほむら(信じられるはずがない。未来から来ただなんて)

ツェペリ「何でも信じるよ」

ほむら「……で、でも」

ツェペリ「わしは怪奇(ウートン)には慣れておる」

ほむら「……うぅ」モジモジ

ツェペリ「……さっき現れた馬鹿でかい奴――あーっと?」

ほむら「さっきの……魔女のことですか?」



ツェペリ「そうか。魔女というのか。わしはな、気が付いた時にはその魔女がいたのだ。わしはあの魔女に連れてこられたらしい」

ほむら「連れてこられた?」

ツェペリ「そう。だからここは『異世界』とか何かだと思う」

ほむら「い、異世界……?」

ツェペリ「異世界と推測する根拠はあるぞ。何故なら、わしは既に死んでいるはずだからだ。かと言ってあの世でもないらしい」

ほむら「死ん……え?」

ツェペリ「わしは1888年、イギリスのウィンドナイツ・ロットという町で死んだ」

ほむら「せ、せんはっぴゃ……! 百年以上も前?! それに、し、死んだ?!」

ほむら(私と同じ……時間遡行者? いや、ツェペリさんは今、死んだと言った。死んだって……?)


ほむら「それにウィンドナイツ・ロットという名前なんか聞いたことがない……」

ツェペリ「わしは若い頃世界中を航海していたため、幸いにも日本語がわかる。だから色々な調べ物が比較的楽にできた」

ツェペリ「そこでわかったことは! この世界の過去は、わしの知っている歴史と違うということ!」

ほむら「ど、どういうことですか?」

ツェペリ「ジョースター邸の火災の記録はなかった! 黒騎士ブラフォードの伝説もなかった! サティポロジア・ビートルという虫も図鑑に載っていなかった!」

ほむら「どれも聞いたことがない……」

ツェペリ「そう! 存在しないからだ! あってもフィクション! だからここが『異世界か何か』という結論に至った! 使い魔だとか魔法だとか、そういうのの影響でこの世界に導かれたとこのツェペリ、推測する!」

ツェペリ(そう……魔法。魔法という不思議な力があれば、彼女に波紋の素質がないとて! 扱えるようになるかもしれない!)


ほむら「そ、そうだったんですか……」

ツェペリ「信じるのか? 異世界だなどと」

ほむら「実際に目の前で波紋という不思議な力を見せられまし、実際使い魔を退治しました。それに、魔女を理由に出されたら……信憑性がないとは言えません」

ツェペリ「ならばわしも同じ。どんな事情であれ、君の波紋を学ぶ理由がどんな突飛なことであっても信じられる」

ほむら「!」

ツェペリ(その波紋を習得するのなら、あのジョナサンの覚悟に相当するか、手が届く程のそれが必要。修行を受ける資格を得た)

ほむら「ありがとう……ありがとうございます……!」

ツェペリ「さあ話せ。ほむらよ。その命を賭してまで救いたい人と、その故を!」

ほむら「私は……未来から来ました。大切な友達……鹿目さんを救うために――」



――学校


先生「『黄金長方形』っ…てよォ~~~ 『長方形』ってのはわかる……スゲーよくわかる。見たまんまだからな……」

先生「だが『黄金』って部分はどういう事だあああ~~っ!? 図形が金色っつーのよーッ! ただの比率の話じゃねーか! ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜぇ~ッ!! 」

先生「はい中沢君」

中沢「どうでもいいんじゃでしょうか」

先生「ですよね。はい、転校生です。どうぞ」

さやか「理解不能! 理解不能! 理解不能!」



ガラッ

ほむら「……」ドキドキ

仁美「あら美人」

さやか「眼鏡っ娘ktkr」

ほむら「あ、暁美ほむらです。よろしくお願いしますっ」

ほむら(何回繰り返してもこの瞬間は緊張する……)

ほむら(鹿目さん……)ジー

まどか「…………?」

まどか(こっち見てる?)




ヤンヤヤンヤ

ほむら(さて、今回は鹿目さんとどうファーストコンタクトをとるか……)

ほむら(できれば私の方から接触したい。保健室に連れてって、だとか、あなたとお話したい、だとか言って……)

ほむら(うーん……昨日は波紋がどうこうで色々ありすぎて、こういうとこ考えてなかったなぁ……)

ほむら「……」モジモジ

ほむら「……」ソワソワ

ほむら(ど、どうしよう……こういう時ってどうすればいいんだっけ? 友達の作り方ってどうやるんだっけ……)




「あのね、初対面っていうのはインパクトが大事なんだ。インパクト」

ほむら「へ?」


まどか「インパクト……」

さやか「そう。インパクト」

ほむら(か、鹿目さんッ!?)

さやか「そうすれば相手は印象に残ってくれる。嫌でも残る」

まどか「そうなのかなぁ。普通でいいと思うんだけど」

仁美「……では、美樹さんの言うインパクトある挨拶とはいかがなものでしょう」

さやか「刮目せよッ!」

ほむら「…………」

さやか「……」クルッ

ほむら「!」


さやか「……」ニコニコ

ほむら「……?」

さやか「ハッピーうれピーよろピくねーーー!」

ほむら「へ?」

さやか「転校生。さあご一緒に。さん、しー……ハッピーうれピーよろピくねーーー」

まどか「滑ってるよさやかちゃん!」

ほむら「……」

ほむら(何これ)


さやか「ほらほらっ! 笑顔笑顔ォ」

キュッ

ほむら「ふぇっ!?」

さやか「はわぁー……ほっぺモチモチですやん……」クニクニ

ほむら「ひゃ、ひゃめてくらひゃいぃ……」

まどか「ちょ、ちょっとさやかちゃん……」

仁美「キマシ」

まどか(モチモチかぁ……いいなー。わたしもモチモチしたいなー)

仁美(キマシ)

まどか(こいつ直接脳内に……!)




さやか「はい! ハッピーうれピーよろピくねーーー!」

ほむら「は、はっひぃ~」

まどか「む、無理してやることはないんだよ!」

仁美「暁美さんが大変なことになってますわ」

ほむら(な、なんかよくわかんないけど鹿目さん達との接触に成功……色々とアレだから二人きりになりたい)

ほむら「あ……あのっ、かりゃへひゃん」

さやか「……からあげ? からあげが欲しいのか? 3つか? ジューシーなの3つか? イヤしんぼめ!」

仁美「手を離してあげましょう」


ほむら「ほへーひふひひはひへふー」

まどか「え? 保健室に行きたいです?」

さやか「通じてるし」パッ

ほむら「は、はい……連れてって欲しいなって……」

まどか「わたし、保健委員って言ったっけ?」

ほむら「……せ、先生に聞いて」

まどか「ふーん? じゃあついてきてっ」スタスタ

ほむら「うん」テクテク


さやか「いってらー」

仁美「ですわー」



――廊下

ほむら「……」トコトコ

ほむら(何話そうかな……)

まどか「……」ジー

ほむら(見てる……何かこっち見てる……)

ほむら「あ、あの……鹿目さん?」

まどか「うん?」

ほむら「私の顔に何か……?」

まどか「あ、ごめんね? 気にしないで」

ほむら「そ、そう……?」

まどか(ん~……夢の中で、会ったような……ないような……まあいっか)


まどか「暁美さん。この学校、馴染めそう?」

ほむら「はい」

ほむら(……)

ほむら「……あの、呼び方は……名前がいいかな」

まどか「ティヒッ、うん。わかった。ほむらちゃんっ♪」

ほむら「うんっ」

まどか「ほむらって炎って意味? かっこいいね。この世の始まりは炎につつまれていたって言うし」

ほむら「そんな……名前負けしてます……」

ほむら(このやりとり……懐かしいなぁ)

まどか(内向的な子って思ったけど……案外人懐っこい感じなのかな?)


まどか「ねぇ、お昼、一緒に食べない?」

ほむら「あ……誘ってくれて……嬉しいけど、ちょっと用があって……ごめんね? また、今度」

まどか「用? そっか……うん。じゃあまた今度一緒に食べようね」

ほむら「うん。また今度」



ほむら(よかった……また鹿目さんと友好的になれた)

ほむら(本当はお昼も一緒して、もっともっと鹿目さんとお喋りとかしたいとこだけど……やらなきゃいけないことがある……)

ほむら(だから、朝早くに仕込みを――)






――今朝


さやか「今日さー。転校生が来るらしいぜェ――」

仁美「しかも私達のクラスという話ですわ」

まどか「そうなの? へーっ。どんな人だろ。わくわくするなぁ~」

さやか「まさかまどか、その転校生にアピールするために新しいリボンを……」

まどか「そ、そんなことないもん!」

さやか「どうかなぁ~? タイミングってもんがあるだろ?」ニヤニヤ

まどか「そ、そもそも転校生がくること自体初耳……!」


仁美「そういえば転校生の方は女性らしいですわ」

まどか「ほ、ほらっ!」

さやか「えっ、まどかそっちの気が……」

まどか「その理屈はおかしくないかな?」

仁美「女性同士って、恋をするものですから」

まどか「何を言ってるのかわからないなー」

さやか「まどかはあたしの嫁になるのだーっ。ンッン~名言だなこれは」ガバッ

仁美「キマシ」


まどか「回避!」サッ

さやか「オー! ノォー!」

仁美「チッ」

まどか「!?」

さやか「!?」

仁美「どうかなさいましたか?」

まどか「な……なんでもない……」

さやか「うん……多分、いや、絶対に空耳」


< ヤンヤヤンヤ

「…………」


(……楽しそうだなぁ)

(私も普通の女の子だったら、今頃あの子達みたいに……)

同級生「巴さんオッスオッス」

マミ「え? あっ、おはよう」

同級生「付き合ってください」

マミ「ごめんなさい」

同級生「わぁん」

マミ(……今の同級生の学年顔立性格性別その全ては想像に任せるとして――今日も長い一日が始まるわ)


マミ(私は魔法少女として日夜魔女と使い魔を倒す使命を背負っている。巻き込んでしまう。そんなことできないのよ……!)

マミ(オープン・ザ・下駄箱)ガチャ

マミ(あら……? これ……何かしら? 手紙?)

マミ(下駄箱の中に手紙と言えば……)

マミ(ま……まさか、ラブレターというやつ!?)

マミ(ど、どうしましょう……読んでみよう)ペラッ


巴さんへ

今日のお昼、屋上に来てください。←1人でお願いします。←あ、なるべく早めにお願いします。
 ↑
用事があればすいませんが空けておいてください。←もしダメでしたら明日も待ってます。
 ↑
せっかくなのでお昼をご一緒しましょうなので、お弁当も持ってきといてください。←迷惑でしたらすみません…。


PS.場所が無理でしたらこの手紙にご希望の場所を書いて入れといてください。←巴さんの下駄箱にです←明日見ます←時間も




マミ「つ、追記が多い……」


マミ「この字……女の子よね……」

マミ「どうしよう……同性なのに、こんな可愛らしい丁寧な字でラブレターを……胸キュン危機一髪ゥ~」

マミ「どうすればいいのかしら……私……」

マミ「お友達から……いえ、ダメよ。魔法少女は……普通の子と、必要以上に接してはいけない……」

マミ「その子を巻き込んでしまう……それだけはいけない」

マミ「これは仕方がないことなの……どうしよう。何とかお断りしなくてはならないわ……」


――屋上

マミ(……で、結局お断りの言葉が思いつかなかった)

マミ(追記をしまくる程丁寧な良い子だと思うし、冷たくあしらうなんてできないし……)

マミ「ハァ……」

「ハァ~~~~」

マミ「あら?」

マミ「あ……あの子かしら。ラブレターの子は……」

マミ「下級生の子よね。何をしてるのかしら……深呼吸? ストップウォッチ片手に?」

マミ「しかし随分な吐息ね。……溜息だったら魔女でも真摯に相談に乗るレベルだわ」



「~~~…………すひぃーっ!」

マミ「!?」

マミ(な、なに今の……)



ほむら「ハァーハァーハァー……し、死んじゃう……」

ほむら「え~っと、タイムは……『吸う』のラップタイムが30秒……『吐く』のラップタイムが31秒……」

ほむら「基礎のリズムは何となく覚えたとは言え……こんな苦しかったのにこの程度……?」

ほむら「フゥ~……。取りあえず目標はプラス10で40秒……」

ほむら「本当に極めれば10分間吸い続けて10分間吐き続けるなんてできるのかな……自信無くすなぁ」

ほむら「でもまだまだこれから……これからが大事」





マミ(……何かブツブツ言ってるわね。ここからじゃ聞こえない……)

「ん?」クルッ

マミ(あ、見つかっちゃった)



ほむら「と、巴さん!?」

マミ「え!? あ、ええ……」

マミ(なんでそんな意外そうに……あなたが呼んだんじゃないの?)

マミ(さっきの深呼吸、きっとあれよね。やっぱり緊張を和らげるための深呼吸よね。何か酸欠っぽいけど)



ほむら(ちょっとした待ち時間に「呼吸」の練習してたら……)

ほむら(み……見られた……。絶対今のすひぃー聞かれた……っ///)

ほむら「コ、コホン……あ、あ、あのですね……えぇっと……」

マミ「は、はい」

ほむら「わ、私は暁美ほむらと、いいます。二年生、です。今日、転校してきたばかりです。よろしくです」ペコリ

マミ「は……はあ……きょ、今日!? いや、あの……うん。よろしく……」

マミ(今日転校してきた子がラブレター? 転校する前から私を知ってたってこと……?)

マミ(まさか……! 一目惚れ!?)



ほむら「じ、実は……その、巴さんにお話したいことがありまして……」

ほむら「えと……お越しいただきました次第です。はい」モジモジ

マミ「そ、そのことなんだけど……あのね?」

マミ「私達、まだ……知り合ってもいないじゃない? だから急にそんなこと言われても……困るの」

ほむら「……っ」

ほむら(う、……そうだった。私はかつて、美樹さんに裏切り者だとか疑われていたことがある……魔女退治は命がけ。急に言われたらそうなっちゃうかな……? いくらなんでも急ぎすぎた)

ほむら「い、いきなりで申し訳ありません……。どうしても気持ちが先走っちゃって……」モジモジ

ほむら「何を言ってるのかわからないと思いますが……私……ずっと巴さんに憧れているんです。尊敬しているんです。だから、あの……えっと」モジモジ

マミ(モジモジしてる……どうしよう。純粋だわ……一点の曇りのないピュアピュアオーラだわ……!)



マミ(私に憧れてくれてるのは嬉しいけど……)

ほむら「そ、その……ですね……私……」


マミ「ごめんなさい!」

ほむら「?!」

マミ「あなたの気持ちには答えられない!」

ほむら「」ガーン

ほむら「…………クスン」

マミ(泣かせた!?)ガーン

マミ「な、泣かないで……その……本当に申し訳ないけど……」オロオロ

ほむら「グスッ、い、いいんです……急に言われても……そうなるのも仕方ないですよね……」ウルウル

ほむら「でも、言わせてください!」

マミ「!」



マミ(ど、どうしましょう……これは「この気持ちは本気なんです」とか「いつか必ず振り向かせます」みたいなことを言うパターン!)

ほむら「私は……」

マミ「ダメよ……これ以上言ったら……あなたは引き返せなくなる!」

マミ(あなたは純粋無垢な女の子……同性、それも魔法少女の私を愛してはいけないの!)

ほむら「いいえ限界です! 言います!」

マミ「ダメよッ!」

ほむら「今はだめでも……私は……いつか絶対に……!」

マミ「ダメェ――!」

ほむら「巴さんの仲間にしてもらいますっ!」

マミ「えっ」

ほむら「えっ」


――
――――

マミ「まさか暁美さんが魔法少女で、どこで知ったか同じ魔法少女である私と共闘関係を結びたくて呼び出してたなんて……」

マミ「確かに当然なシチュエーションよね。人気のないとこに呼び出して……。他の魔法少女だなんてかれこれ随分会ってないものだから、つい」

ほむら「巴さんにそんな勘違いさせてたなんて……。ただでさえ私口下手なのに……文章下手ですみません……」シュン

マミ「そ、そんな落ち込まないで! 私が勝手に暴走しちゃっただけだから……ほんと恥ずかしい……///」

マミ「でも……嬉しいわ。私も、仲間が欲しかったから……」

ほむら「じゃ、じゃあ……」パァッ

マミ「これからよろしくねっ」ニコッ

ほむら「はいっ!」


マミ「あなたのこと、色々知りたいわ。お昼でも食べながら、聞かせて?」

ほむら「はいっ」

マミ「あなたの力も見せてもらいたいし……ふふ、色々忙しくなるわね」

ほむら「そうですねっ。えへへ……」

マミ「ところで……さっきの深呼吸はなに?」

ほむら「え?」

マミ「すひぃーっ」

ほむら「だ、誰にも言わないでくださいね///」

マミ(かわいい)



ほむら(巴さんと接触成功……そして共闘を結んだ)

ほむら(よかった……。一時はどうなることかと)

ほむら(巴さんの優しさに甘えて受け入れられること前提に考えてたのは反省点だったかも)

ほむら(……過ぎたことはいいとして)

ほむら(これからは、波紋の特訓をしながら巴さんと魔法少女としてしばし共に活動しよう)

ほむら(そして問題は、キュゥべえだ)

ほむら(キュゥべえは鹿目さんと契約したがっている。だからどうせいつか鹿目さんに接触を図ってくる)

ほむら(ベストなのは出会わせないことだけど……何にしても、これからが大事!)

今日はここまで。ツェペリ一族大好きです。


数日後

――CDショップ  ズッタンズッズッタン!ズッタンズッズッタン!



さやか「ルイス・クラスナーも尊敬してるしザハール・ブロンも渋くていいなあ~」

まどか「さやかちゃんが難しいことを言ってる……!」

さやか「テキトーに目に入ったバイオリン奏者の名前をテキト~に言ってただけなんだけどね」

まどか「ああ、よかった……。さやかちゃんが賢くなったかと思った」

さやか「……ま、まあ、いいだろう」


まどか「そういえばほむらちゃんってどんな音楽聴くのかな?」

さやか「あたしは転校生の音楽の趣味も何も知らないなぁ」

まどか「少なくとも演歌は聴かないみたい」

さやか「……聞いちゃったんだ」

まどか「何となく好きだと思ったんだよね。何か共鳴というか似ているところある気がして」

さやか「女子中学生の同級生が演歌が好きなんて普通思わないでしょ……」

さやか「それはそうと転校生さ、また三年生の人と一緒にいるのを仁美が目撃したんだけど」

まどか「え? また?」

さやか「あれ? 知ってたの?」

まどか「いやね? 転校した日、一緒にお昼をって誘ったんだけど、用があるって断られちゃったって話したよね?」

さやか「うん」


まどか「で、あの後、ほむらちゃんと三年生の人が……えっと、モモエさんだがロメオさんだかって人と屋上でお昼を食べてたって話を聞いたの」

さやか「へー」

さやか「……言っちゃあ何だけど、あの子、何か変じゃない?」

まどか「え? 何で? 別に今日は一緒にお昼食べたよ?」

さやか「それはそれとして、転校して初日に同級生差し置いて上級生とお昼だよ? ぼっち飯ならまだしもさ」

まどか「そんな変なことかな? 言うほどじゃないと思うけど……。もしかしたら部活の先輩だとか、転校前からの知り合いだとか、あるんじゃない?」

さやか「う~ん。そっかなぁ」

まどか「そうだよ」


『タスケテ…』


まどか「……ん? 何か言った?」

さやか「え? 何?」

『タスケテマドカ……』

まどか(まただ……助けてって……)

まどか「?」

さやか「……っと。いつの間にか結構時間経ってたようだね。そろそろ帰ろっか」

まどか「あ、うん。そうだね」

さやか「まどか、先に帰ってていーよ。あたしこれ買ってるからさ」

まどか「うん。また明日ね」





『タスケテー』

まどか「何だろう……気になる……」

まどか「行ってみよう……声のするとこに……」



――廃墟


まどか「こんなとこに来ちゃった……」

QB「タスケテータスケテー」フラフラ

まどか「!?」

QB「」ポテッ

まどか「な……なに? この子……!? 何だかわからないけど、酷い怪我……」ヒョイ


(事前調査で「心優しい」タイプであることはわかっている)

(と、いうことで怪我をして助けを求めている体を装って接触……計画通り)

(……と、言ったとこかな)

(まさかこんなところで会えるなんて……)



ほむら「鹿目さんっ!」

まどか「えっ!?」クルッ

まどか「あ……」

ポトッ

ほむら「あ……」

QB「キュプッ!」ベチッ

まどか「落としちゃった……。え、えーっと……ほ、ほむらちゃん……?」

ほむら「どうも……」

まどか「どうしてここに……それにその格好……」

ほむら「……何て言ったらいいか……。と、とにかくここは危な――」


「はたからみたらあんたの方が危険っぽいよ!」


ほむら「こ、この声は……!」

まどか「さやかちゃん!?」

ほむら「美樹さん……」

さやか「まどかを追跡してきましたっ!」バーン

さやか「転校生……そのコスプレは何? そしてその手に持ってるゴルフクラブは何さ?」

ほむら「コ、コスプレって……」


ほむら「あー、えーっと、これはですね……」

さやか「七番アイアンと見た!」

ほむら「ドライバーなんですけど……」

さやか「すんません。テキトーなこと言いました」

まどか「……ま、まさかほむらちゃんがこの子を……?」

ほむら「ち、違っ……!」

まどか「あ! さやかちゃん! 尻尾踏んでる!」

QB「」

さやか「え? ……おっといけね。ってか何これ? ぬいぐるみ?」



グニャァ……


まどか「!?」

さやか「!?」

ほむら(しまった……結界……ッ!)


使い魔「シラナイハナガナンチャラ」

まどか「えっ!? な、なにこれ……!?」

さやか「うわーっ! 怖いーっ!」

ほむら「危ないっ!」

ザッ

まどか「ほ、ほむらちゃん!?」



さやか「お、落ち着け……素数を数えて落ち着くんだ……素数ってなんだっけ?」

ほむら「私の側から離れないでっ!」

まどか(な、何……? 何なの……?)

まどか(お、落ち着いて……冷静になって。この得体の知れない空間……得体の知れない生き物……)

まどか(わたしの辞書にパニックという言葉は……まああるんだけどね。足が震えるよぉ)ガタガタ

さやか「はぅはぅはぅ……」プルプル

ほむら「こぉぉ~~……」



さやか「な……なんだ? 何をやってるんだ? 深呼吸?」

ほむら「ドライバーに波紋の伝導率をあげる油を塗り、そこに波紋をこめて……」

使い魔「バラガホニャララ」バッ

まどか「く、来るっ!」

ほむら「コォォ……。名付けて、波紋ドライバー!」

ほむら「吹っ飛ばすほどのショット!」ブンッ

バキィッ



さやか「な、殴ったァァァァ! チョビヒゲの怪しい物体を殴ったァァァァ!」

ほむら「オーバードライブ。ドライバー……。ドライブとドライバーがかかってますね。だからどーだこーだ言うわけではないですけど」

使い魔「――」

ほむら「うぅっ、ダ、ダメだ……。効いていない!」

まどか(これは……夢? 夢なの?)


「まだまだ波紋の蓄積が甘いな」

まどか「え? 誰ッ!?」



さやか「今度はなんだ!? そこの得体の知れない物体に腰掛ける怪しいオジサンは!?」

ほむら「ツェペリさん!」

さやか「ちぇぺり……?」

まどか「ほむらちゃん、知ってる人……?」

ツェペリ「……」ダンッ

ブアァッ

さやか「な!? 座ったままの姿勢でジャンプした!?」

まどか「あの跳躍力! 何者!?」

ツェペリ「波紋疾走!」

バキィッ!

まどか「そしてあの変なのを殴った!?」


ボシュゥ――

さやか「と、溶けてる……?」

使い魔「Vooooooo!」ドーン

まどか「太陽のような光が……」

ほむら(相変わらず……すごい……。ツェペリさん……。また使い魔が一瞬で……)

ツェペリ「ふぅ――……大丈夫か? レディース」

ほむら「あっ、そうだ! 鹿目さん! 美樹さん! 怪我はない!?」



さやか「なんか混乱してきた……」

まどか「わたしも……でも怪我はないよ」

ほむら「よかった……」

ツェペリ「そういうほむらはどうなんだ?」

ほむら「大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」

ツェペリ「やはり波紋だけで奴を倒すにはまだ早かったようじゃの」

ほむら「はい……努力します」



「大丈夫?! 暁美さんッ!」

まどか「こ、今度は誰……?」



ほむら「あ、巴さん!」

さやか「また転校生の知り合いかっ! 年齢的に例の三年生説浮上!」

マミ「まさかあなたがここにいるなんて……」

マミ「大丈夫? 怪我はない? どこかぶつけてない? 眼鏡のレンズ割れてない?」

マミ「まあ、ほこりが……払ってあげるね」ポンポン

ほむら「だ、大丈夫ですよぅ……」

まどか(何か過保護なお姉さんって感じ……)

マミ「……あら? あなた達は……?」

マミ「それにキュゥべえまで……まあ……怪我してる……」

まどか「きゅぅ……べー?」

QB「」

さやか(やべぇさっきどさくさに紛れてお腹も踏んじゃったかもしんない。あの人のペット? 怒られないかなぁ)


ほむら「私のクラスの鹿目さんと、美樹さんです」

マミ「鹿目さんと、美樹さん……。暁美さんから聞いてるわ。あなた達がキュゥべえを助けてくれたの? ありがとう」

マミ「私は巴マミ。三年生。あなた達の先輩にあたるわね。そして、この……、……ねえ、暁美さん。先輩と友達、どっちがいい?」

ほむら「と、友達でお願いします」

マミ「ふふ、そう。私は暁美さんの友達であり、そのキュゥべえの友達。よろしくね」ニコッ

まどか「ど、どうも……マミ……さん……?」

さやか「頭がこんがらがってしちゃった……」

マミ「無理もないわね」クスッ

マミ「…………」


マミ「…………」

マミ「そして……あなたは……?」

ツェペリ「どうも。わしはウィル・A・ツェペリ。君に会えて光栄じゃ」

さやか(ツェって言い辛くね?)ヒソヒソ

まどか(聞こえちゃうよ……)ヒソヒソ

マミ「光栄……? それはどうも。それで……ツェペリさん? あなた、何者……ですか?」

マミ(何者? 何故ここにいる? いつのまにここに? ずっと結界にいた? 何より……)

マミ(うさんくさい)

マミ(ジャケット、シルクハット、そしてちょびひげ……怪しすぎるわ。暁美さんをつけ狙うストーカーかもしれない……!)


ほむら「あの、巴さん」

マミ「なに?」

ほむら「こちらは、私の師匠です」

マミ「し、師匠……?」

まどか(何の師かな……さっき使い魔? ってのを殴ってたから、武道系の……)ヒソヒソ

さやか(えー……見るからに怪しいじゃん。気功とかそういう類だよ。内なるパワーとかそういうのだよ)ヒソヒソ

マミ「師匠ってどういうことかしら?」

ほむら「私に波紋という能力を教えてくださってます」

まどか「波紋?」

ツェペリ「…………」


――
――――

ほむら「――だから、私は鹿目さんを守ると誓ったんです。私は、鹿目さんを守りたい!」

ツェペリ「…………」

ツェペリ「おまえさんの過去……まどかという少女との出会いをやり直すだとか、魔女が使い魔を産み、魔法少女が魔女を生むだとか……、宣言通り全て信じよう!」

ツェペリ「その覚悟! 悲しい過去! 未来への責任!」

ツェペリ「わしは波紋を教わる資格を与える!」

ほむら「ありがとうございます!」

ツェペリ「しかし! 最後にもう一度だけ忠告する! 波紋と関わったらおまえさんの運命は大きく変わってしまうだろう、と!」

ほむら「私の運命は既に、鹿目さんと出会った時から変わっています。今更……躊躇しませんッ!」

ツェペリ「ほむらとわしは共通点がある。似た過去がある。挫折は許されない!」


ほむら「教えてください。波紋の使い方を! どんな苦しみにも耐えます。どんな試練も克服します!」

ツェペリ「よし、まどかとやら救うのに、全力でサポートしちゃるわい!」

ほむら「お願いします!」

ツェペリ「まずは波紋の何たるかを教えよう!」

ツェペリ「簡単に説明すれば呼吸には血液が関わっている! 血液は酸素を肺に運ぶ! そして血中酸素は体細胞に関わる! 体細胞=肉体ッ!」

ツェペリ「つまり! 水に波紋を起こす様に、特別な呼吸法によって肉体に波紋を起こしてエネルギーを作り出すッ!」


ツェペリ「使い魔とやらには完全ではないがその波紋が通じた! わしは推理した! なぜ波紋にと! そして君の過去や事情を聞いて理解した!」

ツェペリ「使い魔を産む魔女は魔法少女の心から生じる未知なるエネルギーと絶望、憎悪、邪悪な感情の具象!」

ツェペリ「わしの波紋エネルギーは、邪悪な力の具象であるとある怪奇(ウートン)と反対のエネルギー! つまり……」

ほむら「お、同じようなエネルギー……ということですか?」

ツェペリ「全く同じという訳ではないが、似ている事には違いない! 水面の波紋を消すにはもうひとつの波紋をぶつける。則ちうち消せる!」

ほむら「……なるほど」


ツェペリ「さて、波紋とは呼吸なわけだが、波紋を極めれば、呼吸を極めることになるな」

ほむら「はぁ」

ツェペリ「極めれば10分間息を吸い続け10分間息を吐き続けられるし、何里走っても息切れしなくなる!」

ほむら「!」

ツェペリ「それでは早速、波紋の呼吸を教えよう。それを覚えたら、学校でずっとやるんじゃよ」

ほむら「はい!」

ツェペリ「では、これより、修行を始めよう……!」


――――
――



マミ(波紋……暁美さんが学んでいるという、あの……何か酸欠になるうさんくさいやつ……)

ツェペリ「君のことはほむらから聞いておるよ」

マミ「……あら、そうですか」

ツェペリ「なんだか警戒させているようじゃの」

マミ「それは失礼。お気になさらずに」ジト…

ほむら(う……巴さんが露骨に敵意を向けてる……どうして?)

マミ「……」



ほむら「あ、そうだ。巴さん。これには色々事情があって……」

マミ「言わなくていいわ」

ほむら「……」

マミ(テレパシー)『暁美さん……あなた騙されてわよ……この人もう見るからにうさんくさいもの』

ほむら(テレパシー)『……ほ、ほんとですよぅ』

マミ(テレパシー)『波紋だなんて、どうせ怪しいネックレスを買うことで宇宙のエネルギーがどうこうっていうようなやつじゃないの?』

ほむら(テレパシー)『私はまだ、見せられる程の波紋力がないので今までお見せできなかったのですが……』



QB「どうやら彼には僕が見えているようだね……」

さやか「うわあ……喋ったよこれ……」

まどか「この声……やっぱりわたしを呼んだのって……」

QB「そうだよ。まどか。来てくれてありがとう」


ツェペリ「ほむらから聞いておるよ。おまえさんがキュゥべえという奴か」

QB「そうだよ」

ほむら(ツェペリさん。話がややこしくなるので、キュゥべえのことは余り言及しないでください)ヒソヒソ

ツェペリ(あいわかった)

QB「何故僕が見えるのかという疑問は残るけど……その波紋という能力。興味があるなぁ」

マミ「キュゥべえ!?」

QB「気を失っていた(フリをしてたんだけどまどかに抱き抱えられてて目撃できてない)からね。是非見てみたいな」

ほむら(…………)

ほむら(キュゥべえ……ここに魔女、使い魔が現れることを知って鹿目さんを誘い込んだんじゃ……)

ほむら(危険な目に遭わせて、命に危機に瀕したところを契約させようとしたんじゃ……)

ほむら(…………)


カチッ





ほむら「ツェペリさん。実際に波紋を見せましょう」

さやか「あれ? 転校生、いつの間にそんな物……」

ほむら「盾の中に入れてたコンクリートブロックと、これで」

QB「……おや?」

まどか「あれ? キュゥべえが……消えた?」

まどか「と思ったらキュゥべえがコンクリートブロックの上に横たわっている!」

さやか「まるで何かの実験台にされるかのようだ!」

マミ「ちょ、ちょっと! キュゥべえに何するのよ! っていうかいつの間に!」

ほむら「まぁまぁまぁ落ち着いてください。ツェペリさん、どうぞっ」

さやか「助手かあんたは」


ツェペリ「よし、波紋を見せようぞ」

ツェペリ「コォォォ……」

まどか「ほむらちゃんがさっきしてたのと同じ呼吸……」

マミ「ちょっと! なにするのよ! ちょっと! ちょっとぉ!」ジタバタ

ほむら「落ち着いてくださいぃ~」ギュー

さやか「どさくさに紛れてあの人の巨大な獲物を鷲掴みたい」

まどか「何を言ってるのかなさやかちゃん」

QB「……こんな間近で見せてもらう必要はないよ?」



ツェペリ「るオオオオオオオオ」ドグォォォン

マミ「きゃあぁあぁッ!」

さやか「殴りかかったァッ!」

まどか「やめてェッ!」

QB「え、ちょっと待ってっ。まさか――」


QB「」メメタァ


ドグチアッ

マミ「キャアアアアア?!」

まどか「あっ!」

ビシァ

ツェペリ「はァーッ!」

ボゴォォンッ

マミ「……」ワナワナ

まどか「コンクリブロックが壊れた!」

さやか「でもキュゥべえはなんともないッ!」


ほむら「……」ニコニコ

ツェペリ「……」ニヤリ

QB「……あれ?」

さやか「コンクリートブロックを粉々にしたのもすさまじいけど……それにしても不思議なのはキュゥべえを殴ったというのにキュゥべえが無事なことッ!」

QB「い、一体僕に何があった起こったんだい?」

ツェペリ「これが仙道だ」

ほむら「ツェペリさんの波紋エネルギーはキュゥべえの肉体を波紋となって伝わりコンクリブロックを砕いたのです!」

まどか「ほぇー……よくわかんないや」ポカーン

ほむら「……」



マミ「……こ、これが暁美さんの言う波紋なの?」

ほむら「はいです! 私はまだ修行中故、弱いのですが……」

マミ(暁美さんから話を聞いていた。その時は……はっきり言ってアレな団体に騙されてるんじゃないかと思ってたけど……)

マミ(目の当たりにした以上波紋は実在するということはわかったわ。あれは魔法ではない。あの男……人間なの?)

マミ(何にして……キュゥべえを怖がらせたのは事実!)

マミ「暁美さんッ!」

ほむら「はいっ!」ビクッ


マミ「あなたともあろう子がキュゥべえにそんなことするなんて!」

ほむら「うぅ……で、でも……波紋……」

マミ「でもじゃありませんっ!」

ツェペリ「まあ落ち着きなさいお嬢ちゃん。ほむらだって悪気があったわけじゃあないんだ」

ほむら(すいません。悪気ありました)

さやか「修羅場ってるねー」

まどか「わたし達蚊帳の外だね」

ほむら「……ごめんなさい」シュン…

マミ「私の仲間として、キュゥべえが無事なことに免じて、暁美さんは許してあげるにしても……」





マミ「あなたは人として信用できないッ!」キッ

ツェペリ「おやおや、嫌われてしもうた」

ほむら「と、巴さ……」

マミ「めっ!」

ほむら「ひっ! すみません!」ビクッ

マミ「……ツェペリさん? これから女の子だけの大切なお話をするの……」

マミ「お引き取り願えるかしら?」

ほむら「そ、そんな巴さん……」

ツェペリ「いや、いいんじゃ。お嬢ちゃんの言う通り、レディー達の話に首を突っ込むのは野暮ってもんじゃ」

ツェペリ「それじゃ、わしはお暇するよ」スタスタ

マミ「……ふぅ」

ほむら「ツェペリさん……」

ほむら(そういえばツェペリさんって普段どこで寝泊まりしてるんだろう……)



ほむら「……」ショボン

まどか「ほむらちゃん。元気出して?」ナデナデ

ほむら「……うん」

マミ「……さて、と。ごめんなさいね、無駄な時間を」

さやか「えーっと……その……」

マミ「単刀直入に言うけど、私達は魔法少女なの」

さやか「魔法少女……?」

マミ「そしてあなた達が助けてくれたキュゥべえは、魔法少女の素質のある人にしか見えない……例外はあるけど。則ち、あなた達は魔法少女の素質がある」

まどか「……? ……?」



QB「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

さやか「うわっ、急に大きな声を」

QB「この台詞は大事だからね」

ほむら「……」

ほむら(結局、キュゥべえと鹿目さんとの接触は避けられなかった。何らかの方法はあったのかもしれないけど……)

まどか「えーっと……すみませんマミさん。混乱しちゃって……何がなんだか」

QB「さっきの使い魔や、マミが戦った魔女と戦う使命を負うけど、どんな願いでも叶えてあげられるんだ!」

さやか「どんな願いも……だと……」

まどか「それって……何だか夢みたい……」

ほむら「……できることなら、契約しないで欲しい」

まどか「え?」

さやか「転校生?」

マミ「……暁美さん?」



ほむら「鹿目さん……」

まどか「う、うん?」

ほむら「さっきの使い魔にしかり……戦うということは死ぬ危険があるということなの」

ほむら「魔法少女と関わったら……あなたの運命は大きく変わってしまう……。ほんとは、巻き込みたくなかった……」

QB「でも……素質がある以上、既に巻き込まれていると言えるんじゃないかな」

ほむら「……私は、あなたに危険な目に遭わせたくないの」

まどか「ほ、ほむらちゃん……」


さやか「あたしは?」

ほむら「も、勿論美樹さんも……」

さやか「よろしい」

マミ「……そうだったのね」

マミ「……暁美さん。あなたの気持ちはわかったわ。お友達を巻き込みたくないという気持ち。痛いほどよくわかる」

ほむら「…………」

マミ「でも、資格がある以上、彼女達には権利があってしまうの」

マミ「魔女という存在と戦う運命、それに引き替えに願いが叶う……。二人には契約をする権利がある。私達にはその権利を一方的に否定することはできない」

ほむら「うぅ……」




マミ「……そうだ。体験ツアーをやりましょう」

さやか「体験ツアー?」

マミ「魔女と戦うことがいかに危険かを教えるのも義務よ」

マミ「もしかしたら、危険性を目の当たりにして契約を思いとどまるかも」

ほむら「そ、そうですね……」

ほむら(それが妥当……か)

ほむら「……わざとケガして」ボソッ

マミ「めっ!」

ほむら「す、すみません」ビクッ

さやか(小動物だなぁ……)


マミ「それじゃあ明日、学校で会いましょ?」

さやか「は~い」

まどか「は~い」



ほむら(あの一件以来、ツェペリさんに不信感を抱いている巴さんに見つからないように、家庭の都合だとか言って波紋の修行をして……)

ほむら(魔法少女として巴さんと二人で活動して……生徒生活をする。それは、とても大変なこと)

ほむら(でも、鹿目さんと美樹さんは、今のところ契約させずにいる……私はまだまだ頑張れる!)

ほむら(波紋の修行もそうだけど、佐倉さんのことはまだほったらかしにしてるし、色々やることあるなぁ……)



――帰路

マミ「……ねぇ、暁美さん。昨日の戦いの事なんだけど」

ほむら「はい」

マミ「あなたが用があるっていうから昨日はできなかった。だから今、歩きながらで反省会をするわ」

ほむら「……」



マミ「あのね? あそこで爆弾を爆発させたら、煙で私が撃てなくなっちゃうの。標的が見えなくてその生死がわからない。煙に紛れて襲われるかもしれないし、私が下手に撃とうものならあなたに当たるかもしれない」

ほむら「……はい」

マミ「時を止める能力はとても素晴らしいと思うわ。でも、共闘してるのだから、その辺りはちゃんと考えてくれないと……」

ほむら「……すみません」

マミ「あ、別に怒ってるわけじゃないからそんな萎縮しないで……?」

マミ「あと……そうね、もう一つ。あなたは波紋を無理に使おうとして返り討ちにされる傾向がある」

ほむら「……」


マミ「とても言いづらいけど、暁美さんって結構鈍くさい方だから……素手で戦うのは無茶があるわ。波紋自体……なんて言うか、アレだし」

マミ「かと言ってあなたの武器はゴルフクラブと油と爆弾……。この組み合わせ、端から見たらわけがわからないんだけど……特に油って何?」

ほむら「油は波紋の伝導率を100%にしてくれるんです。要するに空気と爆弾。ガソリンと炎みたいな関係です」

マミ「そう……。何にしても武器としては誤用の方の意味で役不足だわ」

マミ「あ、そうだ。暁美さん。私のマスケット銃、使ってみる? 一発しか撃てないけど」

ほむら「…………」

マミ「……あ、あら? もしかして気に入らなかった?」

ほむら「いえ……ちょっと、懐かしい気持ちになっただけです……」

マミ「……?」


マミ「ねえ、暁美さん。二人はどう?」

ほむら「二人? 鹿目さんと美樹さんのことですか?」

マミ「ええ。魔法少女になることについて何か言ってた?」

ほむら「別に……普段通りです」

マミ「そう……」

マミ(鹿目さんはそーゆーのに憧れている所がある。美樹さんも願いが決まればって雰囲気だった)

マミ(二人とも、動機が何であれ街の平和のために戦いたいという正義の炎が宿っているわ。だが、まだ迷いがある)

マミ(……今度、体験ツアーする時に、私がもっと格好良く決めれば……決心が……)

ほむら「……巴さん?」

マミ「……あっ、ごめん、ボーっとしてたわ」

ほむら「そう……ですか?」

マミ(……暁美さんには悪いけど、仲間は多い方がいいものね。私の方から……促す)


まどか「あ! いたっ!」



マミ「へ?」

ほむら「あ、鹿目さん」

まどか「ハァ……ハァ……」

マミ「ど、どうしたの?」

まどか「じ、実は……ぐ、グリーフシードが……」

マミ「何ですって!?」

まどか「それで……さやかちゃんが今、見張ってるの!」

ほむら「鹿目さん、すぐ案内して!」

まどか「うん!」

マミ(……待って、これは……丁度良いタイミングってやつじゃないの?)


――

ほむら「病院……」

まどか「うん……それで、グリーフシードは……」

マミ「既に結界が張られているわね。急ぎましょう」

まどか「さやかちゃん……大丈夫かな……」

ほむら「…………」

マミ「結界に入るわよ。暁美さん、鹿目さん」

まどか「はいっ」

ほむら「え、鹿目さんもですか?」

まどか「え?」

ほむら「え?」

マミ「え?」


マミ「何かいけなかった?」

ほむら「そんな……危ないです……」

まどか「ど、どうして? 今までもそうだったのに……」

ほむら「あ……そっか……」

ほむら(今まで出会った魔女や使い魔は例外はあるけどほぼ少なくとも二度目……余裕があった。でも……今回は……)

マミ「とにかく行くわよ」

ほむら「……はい」


――結界

まどか「お菓子がいっぱい……」

マミ「……差詰めお菓子の魔女ってとこね」

まどか「ここにいるだけで太っちゃうそう……」

マミ「折角のメルヘンな結界だけど……年頃の女の子からすれば長居したくない結界ね」

ほむら「…………」

マミ「……暁美さん?」

ほむら「…………」



マミ「暁美さん!」

ほむら「えっ? あっ、はいっ!」

マミ「大丈夫? 何というか……顔色が悪いけど……」

まどか「もしかしてほむらちゃん、具合が悪いとか……」

ほむら「ちっ、違っ……そ、その……美樹さんが心配なだけ……」

マミ「そうなの? 暁美さんってホント友達思いね。ふふ、妬いちゃうわ」

マミ「さて、と。それじゃ行きましょうか」

まどか「はいっ」

ほむら「……はい」



ほむら(ごめんなさい美樹さん……。美樹さんのことも心配ですが、今、嘘をつくための引き合いに使っちゃいました)

ほむら(複数の時間軸。……どれも必ず同じ展開ということはない)

ほむら(鹿目さんが演歌好きをカミングアウトしたり、巴さんを呼び出したり、美樹さんにほっぺ弄ばれたり、ツェペリさんと出会ったり……必ず、初見の展開がある)

ほむら(でも行き着くところは大体は同じ……というタイムリープだからこその安心感があった。でも、だからこそのイレギュラーに対する不安……)

ほむら(今が私が最も危惧している状況。今までの時間軸で『出会ったことのない魔女』に出くわすこと……)

ほむら(ツェペリさんと出会った結界で見たあの魔女とは戦えなかったけれど……)

ほむら(ついにきた。この時が……お菓子の魔女という初見魔女と戦う時が……。つまりそういうこと。とにかくそういうこと)

ほむら(……お菓子の魔女、か。全く想像がつかない。鹿目さんと美樹さん。二人を守りながら倒せる相手だといいんだけど……)

ほむら(こんな時……いてくれたらなぁ……)



マミ「……何でいるのよ」

ほむら「へ?」


ツェペリ「おお、来てくれたか。やはり本職がいてくれんとの~」

ほむら「ツェペリさんっ!」

まどか「ど、どうしてここに?」

ツェペリ「いやぁ、街中を散歩していたんだが……たまたまあの時と同じような……結界といったかな? それを見つけてな」

ほむら「よかった……いてくれて……」ホッ

マミ「…………」

ツェペリ「たまたま会った酒屋のネエちゃんと話が合って、ワインを一本貰ったんじゃ。廃棄予定だったヤツだけど」

ツェペリ「ところで誰か、コルク抜き持ってなあい?」

ほむら「あ~……コルク抜きは持ってないですね……」ゴソゴソ



ほむら「あっ、ワイングラスならありました。どうぞ」

ツェペリ「何故持っておるのかはさておき……グラッツェ」

まどか「ほむらちゃんの盾って……一体何が入ってるの?」

ほむら「色々あるよ? 持ち出し袋に裁縫セット、救急箱、トランシーバー、貯金箱、懐中電灯、ラジオ、双眼鏡、非常食、カラオケのマイク、ロックバンドG・E・Rのステッカー……」

まどか「も、もういいよ……ありがとう。色々入れてるんだね……。色々突っ込みたいとこだけど、盾に持ち出し袋入れてるの? 盾自体が持ち出し袋みたいなのに……」

ほむら「あ、そっか」

ツェペリ「えーっと、まあとにかく。今は魔女を倒すのが先決じゃな」

ほむら「ですね」

まどか「ツェペリさん。さやかちゃんに会いませんでした?」

ツェペリ「さやかがここにおるのか? 見なかったが……いるというなら急がねば――」


シュルッ



まどか「え?」

ツェペリ「ッ!」

ガシィッ

ツェペリ「何ッ!?」

ほむら「え!?」

ツェペリ「おぉっと!」ポトッ

ほむら「あっと……」パシパシッ

ツェペリ「フー、ナイスキャッチ。折角のワインとグラスが割れなくてすんだわい」

マミ「…………」

ド ド ド ド



まどか「え……マミさんの……リボン?」

ツェペリ「何の……真似じゃ?」

ほむら「……と、巴さん! ツェペリさんを離してください!」

マミ「暁美さん……あなた、騙されているのよ。この男に……」

まどか「え……?」

マミ「……怪しすぎるのよ。こんなところにいるなんて……普通ありえない」

マミ「ありえないが多すぎる……キュゥべえが見えることは元より、波紋、容姿、その全てが怪しい」

ツェペリ「そうは言ってもなあ……」


マミ「信用できないのよ! キュゥべえを殴るような人!」

ほむら「あ、あの時のことを……!」

まどか「でも……無傷だったじゃないですか……」

マミ「二人は黙ってて」

ほむら「あ……あの時は……。……ご、ごめんなさい!」

ほむら「あれは私が勝手にやったことなんです! ツェペリさんは悪くないです!」

マミ「謝らないで暁美さん……。あなたは悪くない……。そう。騙されてるだけ……。このうさんくさい男に……キュゥべえだってイレギュラーな存在と言っていた」

ほむら「そ、そんな……!」



マミ「暁美さんは、私とその人、どっちを信じるの? 心理テスト風に言えば『どちらか一人しか助けられない状況でどっちを助けますか?』ってヤツよ」

ほむら「うぅ~……時を止めて二人とも……」

マミ「そういうことを言ってるんじゃないのよ」

まどか(ど、どうしよう……)オロオロ

マミ「いい? チームにおいて最も大事なことは『信頼』なの。援護だとかフォローだとか、何ができるか、とかじゃあない……」

マミ「私は、この人を信頼できない! 戦いにおいて『不信』は少しでもあってはならないのよ! その差は命を食いつぶす!」

まどか(マ、マミさん……ちょっと怖い……)

マミ「私は、暁美さんも、鹿目さんも美樹さんも信頼している。だから命を賭けられる。でも……この人は違う」

ほむら「で、でもぉ……」


マミ「わかって……暁美さん。大丈夫。あのリボンには使い魔を寄せ付けない効果もある。だから危害はないと保証するわ」

ツェペリ「ふむ……仕方ない。そんじゃ、わしはここで待っていよう」

ほむら「ツェペリさん……」

マミ「……フン。それでいいのよ。魔女を倒すまでそのままにしてなさい」プイッ

マミ「行くわよ二人とも」

まどか「えーっと……」ソワソワ

ほむら「で、でも……」オロオロ

マミ「鹿目さん。早くしないと美樹さんが危ないわ」

まどか「う、うぅ……す、すみません。ツェペリさん……」トテテ

マミ「大丈夫よ。鹿目さん。あなたも美樹さんも、私が責任を持って守ってあげるわ」


ほむら「はぅ……」

マミ「……暁美さん!」

ほむら「ひっ!」ビクッ

ほむら「ど、どどど、どうしましょう……」

ツェペリ「やれやれ、こうにも嫌われてしもうたら仕方ない」

ツェペリ「ま、わしはおまえは勿論、そこのネエちゃんの力も信頼しておる。何とかなるじゃろ」

ほむら「で、でも……私、不安なんです……ツェペリさんがいないと……」

ツェペリ「これこれ、ほむらがそんなんでどうする。いいか、これは大事な物の考え方じゃぞ。戦いの思考その①……『もし自分が敵なら』と相手の立場に身をおく思考!」

ほむら「魔女の立場……」

ツェペリ「ほれ、行け。あのネエちゃんが怒るぞ」

ほむら「……わ、わかりました」


ほむら「行ってきます……」

ツェペリ「あっと、その前に!」

ほむら「はい?」

ツェペリ「水を一口くれ。ワインとグラスはそこに置いといてくれてかまわん」

ほむら「あ、はい……。盾に常備してる非常用の、ですが……」スッ

ツェペリ「なんじゃこの容器」

ほむら「ペットボトルですけど……1888年、でしたっけ。その時にはない物です」キュッ

ほむら「どうぞ、口に流しますね」トプトプ

マミ「……暁美さんッ! いい加減にしなさいッ!」

ほむら「はいぃっ!」ビクッ

ほむら「す、すいません。行ってきます!」ピュー




ツェペリ「……」

ツェペリ(……さて、行ったか。なら、もういいじゃろう)

スパッ スパッ

ツェペリ「……」スタッ

ツェペリ「フゥー……、リボンを切ってやったわい」

ツェペリ「さてさて……弟子とあのネエちゃんの戦いっぷり、見学させてもらおうかの」

ツェペリ「ああ、いかん。ボトルまで切れた……ま、いいか。どうせコルク抜き無かったし」




さやか「あっ! やっときた!」

マミ「お待たせ、美樹さん。ちょっと余計なやりとりが多すぎたわ」

さやか「見てください! あれが魔女っぽいです!」

ほむら(あれが……魔女……!)ゴクリ

まどか「……可愛いね?」

さやか「……可愛いでしょ」

マミ「暁美さん。二人の護衛をよろしく」

ほむら「え……?」

マミ「私が相手するわ」スッ

マミ(スタイリッシュにそしてダイナミックに決めさせてもらうわ)

さやか「マミさんがんばってー! きゃー!」




バスッ!

魔女「――」

マミ「大したことないわね」

ドギャンッ!

まどか「す、すごい……いつにもまして何かすごい!」

さやか「すっげやっべ! カッコイイ!」

ほむら「……確かに、すごい」

ほむら(けど……)



マミ(鹿目さん……美樹さん……そして普段共に戦っている暁美さん。三人が私の戦いを見てくれている……)

マミ「……」フワッ

マミ(華麗な身のこなし!)

マミ「ティロ・ボレーッ!」バッ

マミ(かっこいい技!)

マミ「ボラーレ・ヴィーア(飛んでっちゃいなさい)!」

マミ(かっこいい台詞!)

ズギャァ―z_ン!



さやか「完全にマミさんの世界だ……」

まどか「魔女を完全に征服している……!」

さやか「あたしもあんな風になれたらなぁ~……」

まどか「ちょっと怖いけどね……でもすごい」

ほむら(巴さん……何をそんなに張り切っているの……?)

ほむら(普段の冷静さからはかけ離れている……)



マミ「トドメッ!」

マミ「ティロ・フィナーレッ!」

マミ(そしてこのかっこいいフィニッシュ……!)

ドッギャァ――z__ンッ!

バスッ

魔女「」


マミ「フッ……」

マミ(ああ……感じる! 感じるわ! みんなの視線! 羨望の眼差し!)

マミ(体が軽い……! こんな気持ちで戦ったのは初めて……! もう、何も怖くない……!)

マミ(暁美さん……思えば私、いつも……あの時はあれこれこう。ここがよかった考え直したらどう……と、口ばかりだった……)

マミ(それは、あなたの戦闘スタイルが特殊だから、そういう口出ししかできなかったから)

マミ(私は今まで、あなたに戦闘面で先輩らしさを見せていなかった。……もっと刮目して! 私を! もっと見てッ! もっと!」



まどか「決まった……!」

さやか「いや~、転校生が出るまでもありませんでしたなぁ~。ドンマイ。そういう時もあるさ」

ほむら「そ、そう……ですね。あはは……」

さやか「マミさんもすごいけど、魔女が大したことないってとこもあるね。もう、見るからにアレだもん」

ほむら(戦いの思想その①……相手の立場で考えること……)

ほむら(……そう。美樹さんの言うとおりだ。あまりにあっけなさすぎる)

ほむら(だから何かが……何かがおかしい……この違和感は……)

ほむら(考えて。もし私が、巴さんを戦うとすればどうする? そんなこと考えたくはないけれど)

ほむら(私なら……)

ほむら(油断をさせる。巴さんは今、理由はわからないけど、完璧主義というか……スタイリッシュさにこだわっている)

ほむら(つまり油断している。そんな今の巴さんが相手なら、私なら死んだフリなりなんなりして、その隙をつく)

ほむら(……もし、魔女がその隙をつくことができたら……? またはあの弱さがわざとだとしたら……? あるいはあれが仮の姿だとすれば……?)


マミ「う~ん……快・感……」ウットリ

魔女「――」プクッ



ほむら(…………ッ!)

ほむら「巴さん!」ダッ

まどか「ほむらちゃん?!」



マミ(スガスガしい……とっても気持ちいい……!)

魔女「――」ヌルッ

マミ「ん?」

魔女「――」グィィィ

マミ「え」

さやか「あ――」

まどか「あ――」


ガブンッ


さやか「…………え?」

まどか「…………な、何?」

さやか「あ……! ああ……! うわあああ……ああああ……!?」

まどか「マ、マ、マ……マミ……さ……マミさん……が……!」

まどか「食べられ……た……?」

さやか「う……うそ……でしょ?」



ほむら「え……ええ……嘘ですね」

さやか「!?」

まどか「ほ、ほむらちゃん! それに、マミさん!」

ほむら「時を止めて巴さんを救出した」




マミ「…………」ガクガク

ほむら「ショックで言葉が出ないようだけど……これは一時的なもの」

ほむら「……これがお菓子の魔女の本当の姿……!」

まどか「本当の姿……? あの海苔巻きみたいなのが……!」

ほむら「巴さんをお願い……! ここは私がやる!」

マミ「……! ……!」パクパク

ほむら「大丈夫です! 巴さん!」

まどか「ほ、ほむらちゃん……」

ほむら(……危なかった。……あと少し時を止めるタイミングが遅かったら間に合わなかった)

ほむら(それくらい、早かった。油断していたとは言え、巴さんが一歩も動けないくらいに……)

ほむら(私一人で倒せるか……?)



「やれやれ、見てられんのう。油断しすぎだ」


マミ「……! ……!?」

ほむら「え!? ……あ! ツェペリさん!?」

さやか「オ、オジサン!? どうしてここに……!」

まどか「縛られてたはずじゃ……?」

ツェペリ「フーッ、三人ともさがってなさい。わしが闘う!」トプトプ

さやか「ワイン注いでる場合かァ――ッ!」

まどか(……? ワインのビンが割れて……いや、切れてる?)



ほむら「そんな無茶です! あの魔女は強い!」

ツェペリ「……ほむら! 戦いの思考その②じゃ!」

ツェペリ「ノミっているよなあ……ちっぽけな虫けらのノミじゃよ。あの虫は我々巨大で頭のいい人間にところかまわず攻撃を仕掛けて戦いを挑んでくるなあ!」

ツェペリ「巨大な敵に立ち向かうノミ……これは『勇気』と呼べるだろうかねェ」

さやか「知るかァ――ッ!」

ツェペリ「ノミどものは勇気とは呼べんなあ。……それではほむら! 『勇気』とは一体何か!?」

ほむら「勇気……」



ツェペリ「『勇気』とは『怖さ』を知ることッ! 『恐怖』を我が物とすることじゃあッ!」

ツェペリ「呼吸を乱すのは恐怖! だがその恐怖を支配した時! 呼吸は乱れない! 波紋法の呼吸は勇気の産物!」

ツェペリ「人間讃歌は勇気の讃歌ッ! 人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!」

マミ(勇気……今の私は、恐怖に支配されている……つまり、私は腑抜け……?)

ツェペリ「勇気だけでは魔女には勝てんのだ!」

ツェペリ「……」クイッ

さやか「飲んどる場合かァ――ッ!」

まどか「さやかちゃん。うるさい」

さやか「あ、ごめ」



魔女「――!」

グオォォ

まどか「く、来るッ!」

ほむら「ツェペリさん! 逃げてッ!」

ゴオォォォォォ

さやか「に、逃げるどころか、棒立ち!? あのままだと、今度こそ頭が!」

ほむら「ツェペリさんッ!」


ツェペリ「……」



ツェペリ「波紋カッター!」

パパウパウパウッ  フヒィィ――ン



まどか「口から何か吐いた!?」

ほむら「あれは……今飲んだワイン!?」

スパァスパァ ボトッザクッ

さやか「魔女の歯が折れた!? ……いや、切れた!?」

魔女「!」

ツェペリ「魔女の牙よりも波紋カッターの切れ味の方が鋭いわい! 波紋呼吸法の利用によってワインにものすごい圧力をかけて歯の間から押し出しただけだがのォ~!」

ほむら「あれでリボンを切ったんだ!」

魔女「――!」ジタバタ

マミ「魔……苦し……る……!」

まどか「ま、マミさん!」

さやか「声ほとんど出てませんよ! 無理しないで!」

マミ「ゴメ……なさ……あけ……さ……」

ほむら「大丈夫。大丈夫ですよ。巴さん……。誰もあなたを攻めたりなんかしない……」

マミ(…………私、ほんとダメな先輩だわ)



ツェペリ「ほむら! あとは教えた通りおまえが仕上げしろ!」

ほむら「私が……」

ツェペリ「牙のないこやつを倒せんようではついていけんぞ!」

さやか「は! こ……このオジサン! 改めて見たらすげぇッ! 今のてんやわんやでワインをこぼしていない!」

まどか「あれ、でもさっきワイン吹き出したよね」

さやか「と、とにかくすげぇ!」

ほむら「……やってみます!」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「大丈夫。任せて!」



ツェペリ「ほむらよ。これを持て」スッ

ほむら「ワイングラス?」

ツェペリ「ほむら! そのワインをグラスから一滴もこぼさず奴を倒してこい!」

ほむら「!」

まどか「えぇっ!?」

ツェペリ「戦いの思考その③じゃ。北国ノルウェーにこんな諺がある……『北風が勇者バイキングをつくった』」

ツェペリ「そのワインをほんの一滴たりともこぼしてみろ! その時は例え奴を倒したとしてもわしはもうおまえを見捨てる!」

さやか「おい! オジサンよォ――ッ! あんた遊びにきたんじゃあねェ――んだぞ――ッ! 正気かーっ!?」

ツェペリ「あんたはー、だーっとれぃ!」

ほむら「待って! 美樹さん」

ほむら「わかりました。ツェペリさん。頑張ってみます」

マミ「気を……つけて……!」

ほむら「はい……!」



ゴゴ ゴゴ ゴ

ほむら「……」

魔女「――」

ほむら「……さて、戦いの思想その②……恐怖を支配すること……か」

ほむら「私の一番怖いことって何? 魔女? 痛み? イレギュラー?」

ほむら「……」チラッ


まどか「……」オドオド

さやか「……」ビクビク

マミ「……」ソワソワ



ほむら「違う……。大切な人を救えない方がもっと怖い!」

ほむら「ツェペリさんが助言をくれなかったら巴さんが死んでいた。もし死んでしまっていたら、私が二人を守らなければならなかった」

ほむら「私がやるんだ……! 私は強くならなければならない……!」

ほむら「成長しなければ……。こんな様では私は栄光も未来も掴めない」

魔女「――!」バッ

ほむら「来るっ!」バッ

ほむら(素早いけど……避けられない速さではない!)

ほむら(あまり賢くなくて、小回りが苦手なタイプと見た。なら、地形を活かして飛び回って翻弄する!)


―――

まどか「うぅ……ほむらちゃん大丈夫かなぁ……」

マミ「暁美さんなら……大丈夫よ……」

マミ(腰を抜かしてやっと声が出るようになった腑抜けな私なんかよりも、ずっと……!)

さやか「転校生……不器用そうに見えてものすごい器用だ! あんなに動いてワインをこぼしてない!」

ツェペリ「器用? 器用さとは違うなぁ……。地面の上ならまだしも、あんだけ飛び回ってこぼさないなんてありえんわい」

まどか「え?」

ツェペリ「ほむらは既に北風の意味を理解しておる」

ツェペリ「北風とは、ワインのことじゃ――」




ほむら「――ワインはバイキングを作った厳しい北風……」

ほむら「これは! ツェペリさんの課した試練! 『理解』した!」

魔女「――!」

サッ

ほむら「『くっつく波紋』と『はじく波紋』!」

ほむら「『ワイン』を持った左手に『くっつく波紋』を!」

ほむら「逆に魔女を攻撃するための右手に『はじく波紋』を!」

ほむら「この正反対のふたつの波紋を! 同時に体内でコントロールする事を今『覚えた』ッ!」

魔女「――ッ!」グワッ

ほむら「早速この新技術で決める! 時よ止まれッ!」


カチッ


ほむら「私だけの時間だよ」

パシィッ

ほむら「……足に『くっつく波紋』を流す。魔女に張り付いた」

ピッタァァ

ほむら「時が動きはじめるまでに『はじける波紋』を同時に練って、ぶつける!」

ほむら「呼吸に関わる筋肉を強化ッ! 呼吸の強化、イコール波紋のパワーアップッ!」

ほむら「コォォォ――……」

ほむら「左手と足に流すくっつく波紋! 右手に流すはじく波紋!」

ほむら「震えますハート! 燃え尽きちゃうほどのヒート! 刻みますは……血液ビート!」

ほむら「時は動き出す! 喰らえッ! 魔法強化波紋疾走(マジカル☆オーバードライブ)ッ!」



マミ「――ハッ!」

魔女「――ッ!?」

ボシュ――ッ

まどか「この光……! ああ、魔女が溶けていく……!?」

さやか「波紋が通ったんだ……何が起こったのかよくわからないけど……」

マミ「時を止めて……魔女に攻撃した……何故か魔女の体に、天井に張り付く蜘蛛やトカゲみたいに張り付いているけど……それも、波紋……!」

ツェペリ「ベネ(良し)。ワインが北風を作ったぞ」


――
――――


ほむら「……終わりました」スタッ

まどか「ほむらちゃん!」タッ

ギュッ

ほむら「か、鹿目さんっ!?」

まどか「よかった……無事でよかったぁ……」ギュー

ほむら「あ、あの……その……は、離して……///」

まどか「あっ、ご、ごめん……つい」

さやか「ごちそうさまだよちくしょう」



マミ「暁美さん……ほんとうにごめんなさい。私が不甲斐ないばっかりに……」

ほむら「いいんですよ。巴さんは少し張り切りすぎただけですよ」

マミ「……ダメな先輩でごめんなさい」

ほむら「巴さん……」

ツェペリ「ワインはこぼしていないな。合格だ。よく気付いたな」

ほむら「ツェペリさん」

ツェペリ「さて、ほむらよ。水の入ったぺっとぼとるとやらを寄越すのじゃ」

ほむら「あ、はい。お水まだ残ってますよ」スッ

ツェペリ「うむ」

キュッ


ツェペリ「……ほむら。おまえには少なくとも、これからわしがやることができるようにならなくてはならん」

ほむら「へ?」

ツェペリ「コォォォォ…」

グルルルン

さやか「!?」

まどか「蓋を開けたペットボトルを逆さまにしたのに……」

マミ「中の水が流れ落ちない!」

ほむら「くっつく波紋ですね。それなら私にも……」

ツェペリ「ほむら、ホレ! そのまま水を維持してみよ」ヒョイッ

ほむら「は、はいっ」ブブブ



バシァ


ほむら「あ……」ビチョビチョ

さやか「あーあ……」

ツェペリ「そうなると思って染みになるワインでなく水を使用した」

さやか「わぁ紳士」

ほむら「ま、待ってください! 私、ワインで同じようなことできましたよね!?」

ツェペリ「違いを言ってやろう! おまえとわしは実際の波紋の強さそのものに大きな差はない! しかし、おまえはいつも手の平や拳から波紋を一気に放出しておる」

ツェペリ「手足等の末端から波紋が出ると教えたが――わしは今、この指の先……一点からだけ波紋を放出した。一点集中!」

ツェペリ「一点集中で水面に波紋の振動膜ができ、水は強力に固定されて落ちない! 手の平や拳だと波紋が分散する」


まどか「拳からの波紋が弱いなら……今のパンチで倒せたのは?」

ツェペリ「波紋カッターでつけた波紋傷が悪化したということもあるが、魔法か何かで無理矢理強化したんじゃろう。いい応用だと思う」

ほむら(お見通しだ……)

ツェペリ「おまえはワイングラスのボウル部分でなく、脚(ステム)の部分をつまんでいた。則ちグラスに触れていたのは指先! だから自然と指先からの一点集中の波紋によりワインの固定ができたのだ!」

ほむら「指先の方が強い……ホースの口は小さい方が勢いよく遠くまで飛ぶ原理ですねッ!」

ツェペリ「その通り! 一点集中ゆえに指先! 波紋は指先だけの方が強い!」

マミ「なら最初からそれを教えていればよかったものを……」

ツェペリ「わしが最初からそれを教えなかったのは、波紋は拡散してしまうものの拳や手の平はビギナー向けではあるから」

ツェペリ「そして慣れない内に無理に指だけを使わせると突き指、骨折の危険性があるからだ」

さやか「なるほど……ちゃんと気を使っているんだ……」

ツェペリ「ほむらよ。指先からの波紋を習得すれば、理屈の上では指の細い女子供の方が波紋を強力に扱える!」

ツェペリ「これからは指先からの一点集中を心がけよ!」

ほむら「……はい!」


ツェペリ「……さて、一件落着、と。ほむらも新しい波紋のステップに立てたことだし」

ほむら「…………」

マミ「……どうしたの? 暁美さん」

ほむら「……着替えたいです」ビチョビチョ

まどか「お菓子な結界にいたからクリームとかついちゃってるね……」

さやか「魔女の涎もついてるね……加えてオジサンによる水の追い打ち」

マミ「私の家に寄りましょう……シャワーを貸してあげるから」

ほむら「す、すみません……」

ツェペリ「悪いことしたのぉ……」

さやか「魔法少女って……時として汚い仕事なんだね」

マミ「…………なりたい?」

まどか「……うーん」

さやか「……どうしよう」

ほむら「…………」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さやか「ノックしてもしもぉ~し」

さやか「可愛い女の子と思った? 残念! さやかちゃんでした!」

上条「……さやか」

さやか「元気? 調子はどう?」

上条「さやかは僕を苛めて楽しいのかい……」

さやか「え……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さやか「……………………」

さやか(――と、まぁ色々あってね……)


さやか「…………どうしても叶えたい願いがあったから……。契約、しちゃった」

まどか「…………」

ほむら「そんな……どうして……」

まどか「ほむらちゃん。あの……さやかちゃんは……わたしを魔女から助けてくれたの。だから……だから攻めないであげて……」

さやか「パソコンみたいな……むしろパソコンそのものだったよ」

ほむら「…………」

ほむら「美樹さん…………」

さやか「……わかってるよ転校生。みなまで言わないで」



さやか「あたしは修行の類を一切積んでいないのに魔女をたった一人で倒せたからって、あたしはあんたより強いだなんて思ってないよ!」ドヤァ…

ほむら「……別にそういうこと言ってるんじゃないんですけど」

まどか「さやかちゃん……その言い方はちょっとウザいよ」

さやか「えー」

ほむら「まあ……なってしまったものは仕方ないです。ただ、せめて一人で魔女を相手するとか、無茶はしないで……」

さやか「無茶も何も、余裕しゃくしゃくでさっきの魔女フルボッコだったよ。一人で相手したのは不可抗力なとこもあったし」

さやか「しっかしなんだね。こりゃもう転校生超えかな? あたしってばホント天才。才能あるぅ~」

ほむら「……」ムッ


ほむら「……い、今のはカチンときました。私が本気出せば美樹さんに負けませんもん」

さやか「んー、どうかなぁ?」ニヤニヤ

ほむら「波紋は普通の人がもろにくらえば電気のような衝撃が走って昏睡状態にさせられるんです」

さやか「そ、それは……波紋のアレじゃん?」

ほむら「波紋がなくても時を止めて爆弾を間近で起爆させます」

さやか「こ、怖えぇよ……」

まどか「あ、あはは……」

さやか「…………ねぇ、転校生」

ほむら「……?」



さやか「あのさ……。……その、ごめん」

ほむら「えっ」

さやか「転校生はさ……危険だからとか言って、心配してくれてたのに……相談もなしに契約しちゃって。どうしても、叶えたい願いがあったんだ」

ほむら「上条くん……ですね」

さやか「えっ……す、すごいな。転校生……お見通しじゃん……」

まどか「あれ? ほむらちゃん上条くんのこと知ってたっけ?」

ほむら「あ」

さやか「転校生……あたし、また恭介のバイオリンが聴きたいんだよ……わかってくれる?」

まどか「さやかちゃん……」



ほむら「いえ……美樹さんの気持ち、わからないでもないですから……それに、鹿目さんを助けてくれましたもの」

さやか「……ありがと。あたし、頑張るからね!」

ほむら「……はいっ」

まどか「ティヒヒ、それじゃほむらちゃんはさやかちゃんの先輩だねっ」

さやか「そうなるね……うーん。そうか、そうなるか……。ツェペリのオジサン的存在になるのかな……?」

ほむら「先輩……」

さやか「うん! よし、転校生改めほむら先輩! マミさんと二人がかりであたしに戦い方を御教授お願いするよ!」

ほむら「ええっ!?」


さやか「だからペコペコしてないでドンと構えていいんだよ?」

ほむら「ド、ドンっと言われても……」

ほむら(まさか美樹さんに教える立場になるなんて……どうしよう)

まどか「先輩風を吹かせるんだよ! ほむらちゃん!」

ほむら「え、えーっと……え、えっへんです!」

さやか「…………」

まどか「…………」

ほむら「……今のは無しで///」

まどか(かわいい)

さやか(あざとい)



マミ「……あれ? もしかしてもう終わっちゃった?」

まどか「あ、マミさん」

マミ「み、美樹さん……! この格好は……!」

さやか「え、えへへ……なっちゃいました」

マミ「そう……」

マミ「…………覚悟はできているのよね?」

さやか「はい。だから、あたしに戦い方を教えてください! マミ先輩。ほむら先輩」

マミ「せ、先輩……何か、余所余所しくなったわね」

ほむら「……普通に呼んでください」

さやか「はぁい。マミさん。ほむら」

まどか「ティヒヒッ」


マミ「そうね……美樹さんの魔法少女就任祝いにお茶会でもやりましょうか!」

さやか「ぅわーいっ」

ほむら「…………」

ほむら(美樹さんの魔法少女化はやはり避けられなかった。予測はできていたし、止めることもできたはずだ)

ほむら(とは言え、美樹さんの上条くんへの思い……わからないでもない。修行で忙しいとか、色々言い訳あれど、結局は私自身の甘さがそれをさせてしまったんだ)

ほむら(私は何て弱いんだろう。いっつもそう。先生にプリントか何かを提出するだけなのに職員室に入れなくて10分くらいうろうろするような……そんな弱さ)

ほむら(魔法少女にさせてしまった以上……恋を成就させるとまではいかないにしても、絶望させないまで!)

ほむら(でも……どうすればいいのかな? 恋愛なんてよくわかんないし……難しいよ……)

ほむら(今度ツェペリさんに相談してみよう。大人の意見を聞いてみよっと)



マミ「さー、明日からビシバシ特訓するわよ!」

さやか「はい!」

マミ(私はお菓子の魔女で情けないところを見せた……。もう、あんなへまはしない!)

さやか「……ところで、もしかしておもいっきしハードなやつですか?」

マミ「いつ魔女が現れるかわからないもの」

さやか「オー! ノーッ! あたしの嫌いな言葉は一番が『努力』で二番目が『ガンバル』なのにーッ!」

マミ「嘘よね?」

さやか「まあそうですけど。でも甘口でお願いします」

マミ「ダメよ」

さやか「しょぼーん」

マミ(暁美さんは戦い方が特殊で元々それなりに強かったから指導内容に戸惑ったけど……美樹さんの武器は剣。近距離型の子の指導は『既にしたこと』がある。経験があるわ!)



マミ「さあ! 来たるべく強い魔女に立ち向かうため! ビシバシいくわよ!」

さやか「ふえぇぇ!」

まどか「さやかちゃん頑張って~」

ほむら(来たるべく魔女……か。色々あってワルプルギスのことを言うタイミングも逃してたなぁ……いつ言おう)

ほむら(美樹さんが魔法少女になって間もないのにワルプルギスの話を聞いたら落ち込ませるかも……日を置こう)






「ふぅーん……あれがキュゥべえの言ってたイレギュラーって奴か……でもどっちがだ?」

「青か? 紫か? 紫の方はもう見るからに弱そうだから……青い方かな」

「ん、あいつは……。やっぱまだ生きてたか。……フリッツうめぇ」

今日はこの辺で。お疲れさまでした。



数日後

――魔女の結界


ほむら(関節を外して、腕の長さを伸ばす! その激痛は波紋で和らげる!)ゴキャッ

ほむら「ズームパンチ!」バキィッ

魔女「――ッ!」

ドギャァーン

ほむら(よし! ここで爆弾でトドメッ!)

さやか「うおおおおおおお!」

ほむら「!?」




さやか「マミさん直伝! ス……スワク……すく? ス何とかーレェッ!!」バッ

ほむら「あっ!」

ボガァーン

ほむら「あぁ~……」

さやか「ギニャァ――ッ!」

マミ「うーん、倒せなかったようね……魔女が逃げちゃった」


ほむら「あの……大丈夫ですか?」

さやか「ほ、ほむらァーッ! 爆弾使うときは合図の一つや二つしてよ!」

ほむら「ご、ごめんなさい……まさか突っ込んでくるとは思わなくて……」

マミ「暁美さん。爆発は近距離型の美樹さんを巻き込む事があるわ。気をつけてね」

マミ「美樹さんも美樹さんで、無鉄砲に突っ込み過ぎ。だから巻き込まれたのよ?」

ほむら「すみません……」シュン

さやか「ごめんなさい……」シュン

まどか「まぁまぁまぁ……」


ツェペリ「だがまぁ、波紋の扱いも大分上達してきたもんだ」

ほむら「ありがとうございます。……あの、ツェペリさん。一つ質問が」

ツェペリ「何かね」

ほむら「外した関節ってどうやって戻せばよいのでしょうか」ダラーン

ツェペリ「…………」

まどか「」

マミ「」

さやか「治してあげるから二度とその技を使うなよほむら。いいか。絶対に使っちゃだめだからね」

ほむら「はい……」プラプラ


さやか「ザ・キュア~」パァ…

まどか「cure――回復、治癒……合ってる。ど、どうしようさやかちゃんが英語を使ってる……」

さやか「あんたの中のあたしってどんだけなんだよ」

マミ「さ、さて……と。ツェペリさん。体験ツアー参加者な鹿目さんの護衛、ありがとう」

まどか「お師匠さんとしてほむらちゃんを見てなきゃいけないのにごめんなさい……」

ツェペリ「いやいや、気にすることはない」

マミ「あ、のんきに話してる場合じゃなかったわ。魔女を追わなくちゃ! ツェペリさん。引き続き護衛お願い!」タッ

ほむら「追いましょう!」タッ

ツェペリ「よし、行こう。足下に気をつけるのだよ」

まどか「はいっ」


さやか「あ、待って……」

使い魔「――!」

さやか「ハッ!」

さやか「ぉおっと!」ガシッ

さやか「使い魔め! このこの! みんなー! 使い魔が出たぞォ――ッ!」バシバシ

使い魔「――」フラフラ

さやか「……ありゃ?」

さやか「しまった。みんなとはぐれた」

さやか「も~……みんなせっかちなんだからなぁ~……しかたない。ここはあたしが」

使い魔「――」

さやか「逃がさないぞコラァー!」



「ほっといていいだろ」


さやか「!?」

使い魔「――」フラフラ

ザッ…

さやか「だ……誰だあんたは……!」

「あたしの名は佐倉杏子」

杏子「ただのしがない魔法少女さ」

さやか「なんだ……! あんたは……! 魔法少女だな!」

杏子「今言っただろ」


さやか「…………」ジッ

杏子「何じろじろ見てんだよ」

さやか「なんてことをしてくれたんだ!」

杏子「うん?」

さやか「あんたが邪魔するから逃がしちまったッ!」

杏子「あぁ、使い魔ね。使い魔なんてほっときゃいいだろ」

さやか「よくない! 使い魔は一般人を襲って魔女になる!」

杏子「あー、もう……わかったよ。暑苦しい奴だ。悪かったよ。これでいいよな? で、そんなことよりも、あたしはあんたに用があるんだ」

さやか「……杏子っつったか。あたしは美樹さやか。用があるなら早くしてよ」

杏子「あんたが噂のイレギュラーか?」


さやか「イレギュラーってどういう意味?」

杏子「……普通じゃないってことだ」

さやか(普通じゃない? 確かにあたしは初心者でありながら魔女を単独で倒せた……なるほど)

さやか「えへへ、見る目あるじゃぁ~~ん」

杏子(うぜぇ……)

杏子「それで、あんたは……普通の魔法少女にはない特別な能力を持っているそうだな?」

杏子「ひとつ……それをあたしに見せてくれるとうれしいのだが……」

さやか(うん……? 治癒魔法のこと? そんなに珍しいのかな)

さやか「まあ、いいけど……」

杏子「よし、それじゃあ……手合わせ願おうか」

さやか「へ? なんで?」



杏子「互いの力を見るには、決闘が一番シンプルでいい」

さやか「いいだろう! この妖刀が早えーとこ三百四十人の血をすすりてえって、慟哭しているぜ!」クイクイ

杏子「プッ」

さやか「なっ! 何がおかしい! このドサンピン!」

杏子「ハッタリはよせってこった」ケラケラ

さやか「にゃにお~~んっ!?」

杏子「そーゆーのは経験で分かる」

さやか「無駄に恥かいた! ええい! かかってこい!」

さやか(怪我させたら治してやるからいいとして……魔法少女同士で戦うなんて初めてだな……)チャキ

杏子「ところでドサンピンってどういう意味だ?」

さやか「……わかんない」






魔女「――」

マミ「ようやく追いついた……!」

ほむら「頑張って倒しましょう!」

マミ「えぇ、準備はいい!? 二人とも!」

ほむら「はい!」

マミ「……あれ?」

マミ「美樹さんは……?」

ほむら「あれ? そういえば……」

まどか「マミさん! ほむらちゃん! 大変!」

マミ「!?」




ほむら「ど、どうしたの?!」

ツェペリ「さやかがはぐれた」

マミ「何……ですって……?」

まどか「追ってる途中で気付いた! どうしよう!」

ツェペリ「さやかは魔法少女としてまだ日が浅い! 魔女を単独で倒せたとは言え一人になったところを使い魔に囲まれたりしたら……」

マミ「……暁美さん!」

ほむら「はい!」



まどか「ど、どうするの?」

ほむら「ツェペリさん! 魔女をお願いします!」タッ

ツェペリ「わかった!」

マミ「鹿目さんは暁美さんについてって!」

まどか「は、はいっ!」

ほむら「鹿目さん、どの辺りではぐれたって気付いた?」

まどか「え、えっとね――」


タッタッタ…



マミ「……使い魔程度なら、暁美さんと鹿目さんが美樹さんと合流すれば……どちらか一人で十分。鹿目さんの護衛する余裕はある。最悪暁美さんの時を止める能力が何とかしてくれる……」

マミ「でも、魔女を相手するとなると……鹿目さんの護衛をする余裕はない。だから、二人……」

ツェペリ「共闘するほど、わしを信用できるか?」

マミ「こればっかりは仕方ないもの」

ツェペリ「足手まといにならないよう注意させてもらうよ」

マミ「……そうね。そうしてくれると助かるわ」






さやか「うりゃ!」

杏子「踏み込みが甘い!」サッ

さやか「ぐぬぬ……」

杏子(なにか変だぞ……こいつ……剣のにぎり方やかまえの姿勢はド素人だ。だが……)

杏子「オラァッ!」ブンッ

さやか「何のッ!」サッ

杏子(この身のこなし……)

さやか「ふふふ……やるじゃないか」

杏子「…………あたしも、あんたをすこし見くびっていたよ」

杏子「なあ、さやかといったか……さやかは誰か師事しているな?」

杏子(あたしと同じタイプだ。戦い方が似ている)



さやか「え? 支持? ここで政治の話? あたし選挙権ないよ」

杏子「……誰かを師匠としているはずだ」

さやか「あ、あ~、まあ、そうだけど……何で?」

杏子「誰だッ! その師はッ!」

さやか「お、おいおい……どうしたのさ」

杏子「何であたしとやり方が似ているんだッ!」

さやか「え? 似てた? 剣と槍だよ? 似るわけないじゃん」

さやか「あ、槍とやり方で、かけてた? うーん。60点」

杏子「うぜぇ……」

さやか「冗談はさておき……仮に似てるなら……あたしら、気が合うかも!」

杏子「ほざけ」



さやか「ねぇ、あたしの仲間が今魔女と戦ってると思うんだけどさ、それ終わったら一緒に何か食べに行こうよ」

杏子「必要以上に馴れ合うつもりはないね」

杏子(見滝原で師と言ったら……どうせあいつがいる)

さやか「つれないねぇ……」

杏子「……で、あんたの師は結局誰だなんだ。大体想像はつくが、答えろよ」


「その必要はないです」

杏子「!」

さやか「!」




さやか「ほむら! それにまどか!」

ほむら「こんなところで……」

まどか「ハァ……ハァ……さ、最初から……はぐれてたんだね……さやかちゃん……この子は……?」

杏子「…………」

ほむら「……佐倉さん」

まどか「ハァ……ハァ……え? ……ハァ、知って、……るの? ハフゥ……疲れた」

杏子「……何であたしの名を知ってるんだ? 一応は初対面だろ。……まあ、どうでもいいな」

杏子「そこのちっこいのも魔法少女か?」

まどか「わ、わたしは……」


さやか「魔法少女ではないけど、ムードメーカーみたいなもんだと思ってよ。まどかって言うんだよ。可愛いでしょ」

杏子「いや知らんけど」

さやか「あたしの嫁です」

杏子「いや知らんけど」

ほむら(何故美樹さんと争っているってのはさておき……ここで佐倉さんと遭遇か。ちょっと、タイミングが悪い……『前』より早い)

ほむら(ところで、佐倉さんは今、美樹さんと戦い方が似ていると言った……聞き間違いではない)

ほむら(それは私が、美樹さんに戦い方を教えるのが初めてで戸惑ったから、どの時間軸でも美樹さんとなんだかんだで仲良くなる佐倉さんの戦い方を基準に、美樹さんにそれを教えたからだ)

ほむら(それに加えて、佐倉さんの師である巴さんの指導……佐倉さんと酷似もするだろう。そして、結果的に美樹さんは佐倉さんに共鳴を感じたっぽい。……今回も、まぁ、二人は仲良くなりそう)

杏子「それはそうと、あんた。まどか、あるいはほむら。どっちの方だ」

ほむら「私は、暁美ほむらといいます」


杏子「そうかい。……そんで、さやかのお仲間、と」

さやか「今言ったじゃん……こっちがまどかだって」

杏子「興味をなくしたあんたの言葉は耳から耳へ抜けるのさ」

さやか「ひどい」

ほむら「……私は冷静な人の味方で無駄な争いをするお馬鹿さんの敵です」

ほむら「あなたはどっちですか? 美樹さん」チラッ

さやか「いやいやいやいやいや! 向こうが喧嘩売ってきたんだよ!」

まどか「え……? 何で……?」

さやか「あたしィィ? そんなの知らないよ」

杏子「喧嘩っていうか決闘だ」

ほむら「……決闘、ですか?」



杏子「ああ、キュゥべえからイレギュラーな奴って聞いて、興味が沸いてね。戦った感想としては、それはもうド素人だった」

さやか「おぉい!」

杏子「なぁ、ほむらと言ったな。一つ聞いていいかい?」

ほむら「……?」

杏子「そこのちっこいのはゼーゼー息切れしている。つまり、走ってここに来たという解釈でいいよなぁ……それもかなり急いで、だ」

まどか(ふぅ……喉乾いちゃった)

ほむら「……それがなにか」



杏子「何であんたは息切れをしていないんだ?」


ほむら「……」

杏子「あんたが噂のイレギュラーだったんだな。相手しろよ。さやかの先輩さんよぉ」

さやか「……あたし、勘違いで喧嘩売られてたの?」

まどか「どんまいさやかちゃん」

ほむら「……わかりました。お相手しましょう」

まどか「へ?」

ほむら「グリーフシードを賭けます」

杏子「あん?」

ほむら「あなたが勝ったら、グリーフシード3つ……差し上げましょう。ということです」

杏子「……へー、見かけによらず威勢のいいことを言ってくれるな。いいだろう。3つだな。その賭け乗っ……」

ほむら「いえ、私が負けてもグリーフシードは不要です。その代わり、あなたに協力を要請する」

杏子「協力……?」



ほむら「この街にワルプルギスの夜が現れる。私はそいつを倒したい。だから協力してもらいたいんです」

杏子「……何故現れるとわかる」

ほむら「私に勝ってそれを望むなら……あるいは私に負けて共闘するというなら教えましょう」

さやか「わるぷ……?」

まどか「……魔女? 魔女の名前かな?」

杏子「波紋という力があれば、ワルプルギスを倒せると言うのか? あのワルプルギスを?」

ほむら「……わからない」

杏子「まあいいだろう。負けたら共闘してやる。言い出されたからには後には退けない。乗らないなんて言ったらあたしがワルプルギスから逃げてるみたいになるからな」

ほむら(グッド……乗ってきた。争うのは嫌だけど……佐倉さんの手は既に知っている。今の私なら、彼女に勝てる)



 ド ドド ド ド


ほむら「……」

杏子(……この構え……素手で戦うのか? いや、何か秘密があるはずだ。見当はつかないがあたしには経験がある)

ほむら「コォォォ……」

杏子「おい、緊張してんのか? 深呼吸なんかしちゃってよォ~……」

ほむら「これが……波紋という能力です。魔法ではありません……人間には未知の部分がある」

ほむら「波紋とは! 呼吸から生じる生命のエネルギー!」

杏子「ほう……。それが波紋……。それにしても魔法じゃないだと? 確かにそりゃイレギュラーだ。ますます興味が沸いた。お手並み拝見だ」

杏子「オラァッ!」

ドッヒャァッ

ほむら「……ッ!」



ガッシィィィ

杏子「ムッ!」

さやか「柄を掴んだ!」

まどか「すごい反射神経……! ……時を止めたのかな?」

杏子「へぇ……あたしの攻撃を見切るとは、なかなかやるじゃん。さやかとは大違い。見た目によらないな」ググッ

ほむら「……オリーブオイルは好きですか?」

杏子「あ?」

ほむら「オリーブオイルは好きか、と聞いているのです」

杏子「何言ってんだよ」

ほむら「今から『これ』をぶっかけます」


杏子「お、おいバカ! やめろ! そんなもんかけようとすんな!」

ほむら「残念。既に……かかってますよ。あなたの槍に……」

杏子「はっ!」

ヌルリ

さやか「うわぁ……杏子のヤリ、スゴイヌルヌルしてる……」

杏子「何だよその地味な嫌がらせは! っていうかいつの間に……」ベチョォ

杏子(あの盾に一瞬触れたよな……やはりあの盾に秘密があるのか……?)



杏子「つーか食い物を粗末にするな!」

杏子「……オリーブオイルって食い物か? 食い物……だよな? うん。ってことでふざけんな!」

まどか「オリーブからとれるし、食べ物だよね」

さやか「調味料も食べ物と言えるのかな?」

ほむら(時を止めて矛先を見極め、オイルを塗りたくった)

ほむら(物体に油を塗れば……その物体は波紋を100%通す!)


ほむら「武器に伝わる波紋疾走!」チョイ




バチィッ


杏子「ビリっときたあああああああ!」

カシャンッ

杏子「ハッ! 思わず手を離しちまった……。何があったんだ……? 電気が走ったかのような……」

ほむら「武器を離しましたね……。あの、私の勝ちでいいですか?」

杏子「ぐ、ぐぬぬ……ちょいと油断しちまったぜ。これが波紋……」

まどか「ほむらちゃんすごい!」

さやか「やったー! かっこいー!」




グニャァ……


杏子「むっ」

まどか「あ、結界が……」

さやか「と、いうことは……魔女を倒したんだ!」

杏子「チッ、何か茶々入れられた気分だが……まあいい。続けっぞ」

杏子「言っておくが、あたしは負けを認めたわけじゃない! 覚えたぞ! 波紋ってのは全身スタンガンみたいなもんだ。水は電気通すって言うし。油は知らんけど!」

ほむら「……」

杏子「ちょいと本気出させてもらう!」

まどか「本気……?」




杏子「あたしの能力を説明せずにこれからあんたを攻撃するのは騎士道に恥じる闇討ちにも等しい行為……」

杏子「ゆえに秘密を明かしてから次の攻撃に移ろう」

ほむら「……畏れいります」

杏子「実はあたしは幻影・幻覚の固有魔法を持っている。それを利用してあたし自身が複数になることが可能!」

ズゥラララァ

さやか「な!? なんだ……!? やつの姿が6…いや…7人にもふえたぞッーっ!」

まどか「ぶ、分身の術! いくらほむらちゃんでも複数は……!」

杏子s「「「ロッソ・ファンタズマかわせるかッー!!」」」

ほむら「……時を止め――」




「待ちなさいッ!」


ほむら「!?」

杏子「?!」

さやか「?!」

まどか「!?」




ザッ

マミ「何をしているの? 佐倉さん……」

杏子「マミ……それとなんだこのオッサン」

ツェペリ「…………」

ほむら「ツェペリさん……」

杏子「知り合いか」

さやか「え……? マミさん。杏子と知り合いなんですか?」

杏子「マミは……あたしの元師匠だ」

さやか「え!?」

杏子「あたしはマミから戦い方を学んだ。だが、方向性の違いから仲違いして、あたしは独立した」

まどか「そ、そうだったんだ……」



マミ「佐倉さん! 何をしているのかと聞いているのよッ!」

まどか「ま、マミさん!?」ビクッ

杏子「チッ、うるせぇな……決闘だよ」

マミ「決闘……? 何でよ」

杏子「あたしはいずれこの見滝原を乗っ取るつもりでいる。そのためにはここに住む魔法少女以上の力が必要だ」

杏子「キュゥべえからそこの眼鏡っ子のことを聞いて、ハモだかカモだかの能力と手合わせしたんだ。ちょいと勘違いはしたが」




杏子「おい、オッサン。あんたが波紋の師か何かか?」

ツェペリ「……いかにも。わしが波紋を教えたのだ」

杏子「なぜこんなオッサンが魔法紛いの能力があるのかとか疑問は残るが……なかなか興味深い能力だった」

杏子「だが、こんな力で、あのワルプルギスに対抗できるのか? 師のあんたの意見はどうなんだよ」

マミ(ワルプルギス……!?)

ツェペリ「わしはそのワルプルギスを実際に見ていないからわからん。だが、希望だと、ほむらは言った。今度こそ……と」

まどか(今度……? その……多分ものスゴク強いんであろう魔女に、ほむらちゃんは何度か戦っていた……?)



さやか(ギスギスしてるなぁ……折角魔女倒したのに……お腹空いた)

マミ(何故ワルプルギスが話題に上がるの……? まさか、近い将来、現れると言うの? 暁美さん……不思議な子だとは思っていたけど……いったい、過去に何があったの?)

マミ(でも、今は……目の前の問題を片付けないと……)

マミ「私は何故決闘していたのかと聞いているッ!」

杏子「話の腰を折りやがって……。あのな、あたしはただ手合わせしたかっただけだ。何故もへったくれもねぇ」

マミ「本当にそれだけ? 今の結界で使い魔退治の邪魔をしたとか、どうせしたんじゃなくって?」

さやか「あ……」

杏子「あぁ。したなぁ……」

ツェペリ「……」



マミ「あなた……! 人のテリトリーで……ッ!」

マミ「使い魔は、一般人を襲い、魔女へと成長する! あなたの行為は、灰色熊の入った檻の鍵を故意にあけたような行為!」

マミ「あなたは人の命を餌に魔女を育てている!」

まどか「えぇっ! そ、そんな……!」

杏子「食物連鎖ってあるだろ? ちっさい昆虫をカエルが食って、カエルをヘビが食って、ヘビを鳥が食べる」

杏子「使い魔を一般人が食って、使い魔は魔女になって、魔法少女がそれを食う。これは自然の形に則った、自然に敬意を表した形だぜ」

杏子「魔法少女同士は自然界で言うとこの競争の関係だ。学校で習うもんだろ? これがあたしのやり方さ」

さやか「こ、こいつ……!」

ツェペリ「何が食物連鎖か。くだらん」

杏子「オッサンは黙ってろよ」


マミ「私は、そんなことのためにロッソ・ファンタズマという名を与えたんじゃない!」

杏子「へっ、あたしの能力なんだからどう呼ぼう関係ないね。便宜上その名を使ってるに過ぎんがな」

マミ「そんなことしてると知ったらあなたの家族が悲しむわ!」

杏子「ッ!」

杏子「おい、テメーッ! 家族は関係ないだろ! マミと言えど聞き捨てならんッ! あたしの家族と食い物と決闘への侮辱は許さんッ!」

マミ「あなたの家族は侮辱はしていない! けど……あなたは命を侮辱した! 私の心も裏切った!」

マミ「とにもかくにも! 今後私達の後輩に手を出したら、例えあなたでも容赦しないわよ……!」チャキッ

まどか「あわわわ……」

マミ「私とて、あなたと違って人に攻撃はしたくない。撃たれたくないなら……」

杏子「……フン! 勝手にしやがれッ!」プイッ



杏子「いいかほむら! あたしは負けてないからな! ワルプルギスに関しては、勝ち負け関係なく共闘は考えてやるッ!」ザッ

ほむら「……」

ツェペリ「威勢がいいやつだ……」

まどか「……行っちゃった」

さやか「……ま、待ってよ杏子!」タッ

マミ「美樹さん!」

さやか「すいませんマミさん! でもほっとけないんで! それじゃあまたよろしくおねがいしますっ!」ノシ

マミ「……もうっ!」


まどか「マミさん……その……杏子ちゃんと何かあったんですか……?」

マミ「…………」

マミ「……佐倉さんは、美樹さんの姉弟子にあたる子よ。彼女とは、色々あってね……ほんと、色々とね……」

まどか「色々……」

マミ「それよりも、暁美さん。ワルプルギスに関して……ってどういうこと? ツェペリさんも存在は知ってた風よね」

ほむら「……はい」

ツェペリ「そいつが現れるのだ。……近い内に、な」

マミ「……詳しく聞かせて」

まどか「ど、どうして黙っていたの?」

ほむら「隠してたつもりは……」


さやか「杏子ってばさぁ!」トコトコ

杏子「……うるせぇ。馴れ合うつもりはない」

さやか「まぁまぁ……。……ねぇ、マミさんと何があったの?」

杏子「…………」

さやか「ノックしてもしもォ~し。ねーねー、何があったのよぉ~」

杏子「……あんたには関係ない」

さやか「またまた~。マミさんに久しぶりに会えたってのに怒られて傷心してるって感じなんでしょ?」

杏子「違っ……!」

さやか「あたしはあんたと一戦交えたからわかる。あんたは多分いいヤツだ」

杏子「知った風なことを抜かすなよ。あたしはマミの言うとおり、グリーフシードのために使い魔を見逃しにして一般人を襲わせてるわけだ。いいヤツなんかじゃない」

さやか「うーん……そりゃアレだけどさ……」

杏子「わかったらさっさと帰りな。正義の味方さん」



さやか「そうはいかないよ。杏子はあたし基準では確かに悪者になるけど『ほっとけねー』タイプって感じなんだよね」

さやか「これから暇? 何か食べよーよ。おごってあげる」

杏子「ほっといてくれよ」

さやか「そこのカフェーの『山形県天童市の菅原さんが愛情たっぷりの放し飼いニワトリのフンを使った有機栽培で育てた完熟さくらんぼをふんだんに使った星空の下での初キスの味チェリーパイ580円そして幸せが訪れる』を食べようよ」

杏子「…………」

さやか「ねーねー、いいでしょー? CD買ってお金があんまないのにおごってやるって言ってんだよ? それってすごいことだよ?」

杏子「わかったよ……付き合えばいいんだろ」

さやか「よっし! じゃあ行こう!」






――数日後

さやか(……マミさんから)

さやか(ワルプルギスのことを聞いて、ちょっとだけ魔法少女になったことを後悔した)

さやか(あたしは魔法少女になって日が浅いのに、伝説級の魔女が現れるなんて……)

さやか(……なァーんてね! むしろ闘志がわき上がる! あたし達の街はあたし達が守るんだ!)

さやか「――と、いうことで結界に来ています。一人です」




使い魔「ワタシの名はペイジ」

使い魔「ジョーンズ」ビン

使い魔「プラント」ビン

使い魔「ボーンナム」ビビン

使い魔「「「「血管針攻撃!」」」」パバァ――ッ

さやか「うおぉぉぉッ! まずい! 囲まれ――」




ザクッ、グサァッ

さやか「グハッ……!」

使い魔「ヤッタッ! 勝ッタッ! 仕留メタッ!」

使い魔「勝ッタ! 『マミ「もう何も怖く……」ほむら「勇気とは怖さを知ること!」』完!」

さやか「……その気になれば本当に痛みって消せちゃうんだァ」

使い魔「!」

さやか「ダンス・マカブル!」

ズビズバァッ

使い魔「オゴーッ」ボシュン

さやか「はっはっは! マカブルの意味は知らないけどどうだこのダンスっぽい剣捌き! 思い知ったか!」




さやか「さぁーて、治癒治癒」パァ…

「無茶すんなあんた」

さやか「新手の敵か! ……って何だ。杏子か」

杏子「何だってなんだよ」

杏子「あんたのやり方は見てらんねーわ。ここの魔女はあたしに任せろよ」

さやか「助けはいらないよ。あたし一人でやれるんだから」キリッ

杏子「違うんだよ。この前、あたしがあんたの邪魔して逃げた使い魔が成長した奴なんだよ。ここの魔女は」

さやか「え? そうなの? 何でわかるの?」

杏子「どうでもいいだろ。とにかくそうなんだ。経験でわかるってことにしろ。とにかくあたしに任せろ」

さやか「邪魔しないで……一人でやれる……」


杏子「元々はあたしの獲物だ。あたしだけが処理する権利がある。この前さやかにおごってもらった借りってことでグリーフシードちょっと使っていーよ」

さやか「やだー! 邪魔しちゃやだー! あたしがやるんだい!」

杏子「…………ああもう……わかったよ。ただ、さっさと片付けてくれ。あたしはあんたを見守ってやっから」

さやか「ほほう……あたしの戦いっぷりをとくと見たいんだね! 素直じゃないな~」

杏子「馬鹿いってねーぜさっさとやれ」

さやか「……ちぇー、つまんない。ちょっとはノッてくれてもいいじゃん」

杏子「早くしないとマミが来やがるぜ」

さやか「…………」

さやか「ねぇ。マミさんに言われたこと気にしてる?」

杏子「バッカ、ちげーよ」

さやか「……仲直りしようよ。ね?」

さやか「その……使い魔を逃がしてどうこうってのは、許せないことだよ。でも、真剣に謝ればマミさんなら許してくれるって……」

杏子「ふーんだ。あんな奴知らねー。ほら、このあたしに踊って見せろよ。スロー・ダンサー・さやか」

さやか「やれやれだわ。……おい、今、遠回しにノロマって言わなかったか?」

杏子「べっつにー」


――
――――

さやか「と、いうことで魔女を倒しました」

杏子「あ、終わった? おつかれさん」

さやか「クラゲの傘の部分が脳になったかのようなグロテスクな魔女だった……。強敵だったよ」

さやか(当然あたし程じゃないがねという確固たる自信の気持ちはあるがね)

杏子「どう見ても苦戦する相手じゃないぜ。……全く、こういうチョロい奴ばっかりだから使い魔の放牧はやめられねー」

さやか「おいこら」

杏子「冗談だよ。たまーに苦戦する」

さやか「そういうことじゃあないんだよ」

杏子「……で、グリーフシードは?」

さやか「あれ? そういや無いなぁ……。ねえ、あたし、確かにぶった切ったよねぇ?」

杏子「そうだな。死に様は見てないがな。グリーフシードがないってことは、逃がしたのかも」

さやか「えー……がっかり」



杏子「ガムかむかい?」

さやか「お、くれるの? 何のガム? 何味?」

杏子「サ・キッスミント。ジューシーグレープ味」

さやか「ぐらっちぇぐらっちぇ」モグモグ

杏子「何語だよ。まあいいや」

さやか「……杏子ってやっぱ、いい子だよね」

杏子「あ?」

さやか「うん。いい子だよ。とにかくいい子」

杏子「うざったいな」

さやか「頭なでなでしたい」

杏子「くたばれ」



さやか「杏子ってさ、マミさんの弟子だったわけだよね」

杏子「過去のことだ」

さやか「やっぱり……妹弟子のことが気になるの?」チラッ

杏子「……アホ抜かせ」プイ

さやか「またまた~そう言いながらあたしを気遣ってくれるじゃない」

杏子「そんなんじゃねぇよ」

さやか「あははっ。あたし、あんたみたいなの嫌いじゃあないよ」

杏子「嫌いだったらこうして馴れ馴れしくしてないわな」



さやか「根は優しいんだもんね。ツンデレってやつだね」

杏子「何だそれ」

さやか「なんだろね? ははは」

杏子(…………あたしがいい子、ねぇ)

杏子「おい、さやか」

さやか「ん? 何?」

杏子「こないだの能書きがやたらに長いメニューのサ店で話したよな……。あんたの願いのこと」

杏子「確か……幼なじみの動かなくなった腕を治す、だったか」

さやか「うん。……やっぱ脚も一緒に治すべきだったなぁ……」

杏子「そんときあたしは他人のために願いを使うのは馬鹿だと言ったよな」

さやか「そうだね。カチンときたね」

杏子「今思えば、実にあんたらしい願いだ。その幼なじみの坊ちゃんのことは知らないけどさ」

さやか「そ、そうかな? あたしらしい?」


杏子「馬鹿そのもの」

さやか「何だとコラァ!」

杏子「へへ、そう騒ぐと尚更馬鹿っぽいぞ」

さやか「もう! ……でも、まあいっか。ねぇ、これから暇?」

杏子「なんでよ」

さやか「また何か食べてこうよ。おごったげるから」

杏子「ほんっと馴れ馴れしいよなさやかは」

さやか「そういいながら誘ったら必ず付き合ってくれる杏子ちゃんまじプリティ」

杏子「殴られたいか?」

杏子「まあいい。で……腕治した奴との仲はどうなんだ?」

さやか「え? いや、別に……」



杏子「別にって何だよ。願いを使ったからには、好きなんだろ?」

さやか「やっ! そ、そーゆーわけじゃないよ! あ、あ、あたしはただ……」

杏子「好きなんだろ? 付き合ってくれって言えばいいじゃん」

さやか「……あのねぇ」

杏子「いいじゃん」

さやか「…………」

さやか「あたしの願いは……恭介の腕を治すこと……」

さやか「もし、もしだよ。仮に、あたしが恭介と付き合うとすれば……」

さやか「あたし、何か卑怯っぽいんだよね。治してやったから、みたいで。あたしの心が許せないっつーか」



さやか「とにかく、恭介がまたバイオリンを弾けることが、あたしの幸せで本心なんだよ」

杏子「……何だそれ」

杏子「そんな中途半端に自己解決して、ただの自己満足じゃん」

さやか「そ、それに、魔法少女とだなんて……いつ死ぬかわからない危険な仕事をしてるようなもんじゃん。中学生なのに」

さやか「いつ死ぬかわからない人と付き合ってもさ、もし死んじゃったら無駄に悲しませるだけじゃん」

さやか「ほむらが危険だからやめてって言ってくれたのにそれを無視してさ……あたし」

杏子「ほむらがねぇ……甘いやつだな」

さやか「……」

杏子「ま、あんたがそれで納得するならいいけどさ。あたしには関係ない」



杏子「ほれ、とっとと行くぞ。おごってくれんだろ?」

さやか「う、うん」

杏子「…………まあ、なんだ」ポリポリ

杏子「あたしに相談したいことでもあれば……聞いてやらんこともない」

さやか「杏子……」

杏子「ま、ほむら達に聞けないようなことをあたしに聞いて貰おうってのも変な話だが」

さやか「やっぱあんたいい子だね!」

杏子「うっせー。そんなことより何食わせてくれるんだい?」

杏子(あたしは必要以上に馴れ合うのは嫌いだが……)

杏子(こいつ、ほっとけねー)





ほむら「………………」



ほむら「巴さんへ……美樹さんと佐倉さんは……っと」メルメル

ツェペリ「こんな小さいもんで文通ができるのか。このツェペリが生まれた時代にはイギリスに郵便制度ができたかできないかくらいじゃった」

ほむら「時代は常に変わるんです。変わらないものもありますけどね。人の心とか、何か、そーゆーのが……送信、っと」メルメル

ツェペリ「いいこと言うじゃあないか」



――マミ宅

ティロッ♪

マミ「暁美さんからのメール……」

まどか「ほむらちゃんは何て?」

マミ「…………」

マミ「明日、みんなで話し合いましょう」

まどか「え?」


昼休み

――屋上


ほむら「お腹空いたね」

まどか「うん。今日は体育があったからねー」

さやか「ねぇほむら。走った後に一切息切れしてないってのは正直気味悪いんだけど、何とかならない?」

ほむら「え……」

マミ「気味悪いって……美樹さん……デリカシーのないことを」

まどか「は、波紋の影響だね。無意識だから仕方ないよ」

ほむら「き、気味悪い……」

ほむら「……」クー

まどか「あ」

ほむら「///」

マミ「あらあら」

さやか「腹ぺこほむらもいるし、さっさといただきますしよう」



まどか「ほむらちゃんのお弁当箱って大きいよね」

ほむら「波紋の修行をしてるからか……お腹が減るの」モグモグ

まどか「一人暮らしなんだよね? 手作り?」

ほむら「う、うん……でも私、手際が悪いからこの通り見栄えは……量ばっかりは多いけど」

さやか「格闘技(?)をやってるのに体が華奢で……お弁当が大きくって腹ぺこキャラ」

マミ「守ってあげたくなるようなその性格。そして眼鏡っ子」

まどか「萌えってやつだよね?」

ほむら「………あ、あの、もしかして腹ぺこキャラって」

さやか「クラス公認」



ほむら「…………ほ、ホントに? ねえ……ホントですか?」

さやか「…………」

ほむら「な、なんで黙ってるんですか?! ねえってばっ!」

マミ「ギャップ萌えって素晴らしいと思うの」

ほむら「!?」

まどか「ほっぺにご飯粒つけちゃう食いしん坊さんのほむらちゃんなまら可愛い」ヒョイパク

ほむら「あっ///」

さやか「食べる割には脂肪が付かないよね。主に胸――」

マミ「それ以上はいけない」

ほむら「ほむほむ」

まどか「まどまど」



マミ「ねぇ、美樹さん。お話があるのだけど」

さやか「な、何すかマミさん改まって……」

マミ「佐倉さんと仲よさそうよね」

さやか「うぐっ……!」

さやか「す、すいません……敵対してるのに、杏子と遊んで……でも、ほっとけなくて……」

マミ「……私は別に佐倉さんと敵対はしているつもりはないわ」

さやか「そうでしたっけ?」

マミ「あのね……美樹さん。佐倉さんを、何とか私達に引き入れてほしいの」

さやか「え?」

マミ「あの子、乱暴者で一匹狼なんだけど、……何というか、丸くなってるようなの。あなたのおかげで」


マミ「暁美さんと再決闘して勝ってもらうというのが一番てっとりばやいけど、それが嫌なのはわかるわよね?」

さやか「はい」

マミ「美樹さんは、佐倉さんの心の錠前を解いている」

さやか「…………」

マミ「私には……それができないから。あなたなら、佐倉さんは心を開いてくれるわ」

さやか「……わかりました」

マミ「お願いね」

さやか(やれやれ、さやかちゃんは忙しいね。杏子を任されるわ……)

さやか(仁美に呼び出されるわ……)

さやか(仁美があたしを呼び出すなんて何のようかね)




――放課後



仁美「……ずっと前から私、上条くんのこと、お慕いしておりました」

さやか「…………」

仁美「抜け駆けや横取りをするようなことは、したくありません」

仁美「私にはわかっています。上条くんの事、好きなんでしょう?」

さやか「そ、そんな……!」

仁美「丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください……」

さやか「う……な、何だよ……何なんだよぉ……」

仁美「…………」


杏子「オッス、さやか」



仁美「!?」

さやか「!?」

さやか「きょ、杏子……」

杏子「おい、さやか。今日もあたしと付き合えよ」

仁美「へ?」

仁美(つ、付き……?)

杏子「うん? あんたは……さやかの友達?」

仁美「わ、私は……」

杏子「まあいいか。悪いね割り込んで。すぐ済むから待ってくれよ」



さやか「おい杏子……」

杏子「なぁいいだろ。さやか~。あ、そうだ、今夜ホテル行こうぜホテル」

仁美「!?」

さやか「あんたねぇ……雰囲気ブチ壊しだよ!」

さやか「ホテルつってもどうせアレでしょ?」

杏子「まぁね」

さやか(仁美の前で忍び込んでるだなんて言えまい)

仁美「……!」

仁美(アレということは……や、やはり……! ラ、ラブ――)

さやか「パス」

杏子「何だよぅ。あんたはいつもあたしを見かけ次第ベタついてくるのに、あたしが見かけたらダメなのか?」

仁美「ベ、ベタつ……!?」


さやか「そうじゃあない。空気を読めと言っているんだよ」

杏子「空気は吸う物だ。ほれ、何か食いに行こうぜ。今度こそあたしがおごってやっからな」

さやか「そういうことじゃあないんだよ……」

杏子「空気で腹が膨れるか? 同じ釜の飯食った仲じゃあねぇか」

仁美「……」

さやか「こないだうちに来てカレー食べた話をしているの? 妙な表現すんなよ」

仁美(お泊まり!?)

さやか「ねぇ、杏子。悪いけど、今は仁美と二人にしてよ? 今大事な話をしてるんだ」

杏子「大事な話? あたしよりもか」

さやか「そりゃそうだよ」

仁美「……既に、だったんですね」

さやか「は?」



仁美「美樹さんは、既にそこの方を誑かしていたんですね……」

さやか「た、たぶっ!?」

仁美「いけませんわ! 禁断の恋の形ですわ!」

仁美「まさか美樹さんがバイセクシャルだったなんて……」

さやか「あんたは何かとんでもない勘違いをしている」

仁美「美樹さん。ずるいです。上条くんとそこの方を同時に……」

杏子「こいつ、何言ってるの?」

さやか「ちょっと百合を拗らせておりまして」



仁美「……とにかく、明後日、私は上条くんに告白します。それでは……選んでください。そこの方と、上条くんを……」スック

さやか「あ、ちょ、ま、待って! 誤解だって……!」

杏子「なぁ、あたし邪魔した?」

さやか「それはもう見事に」

杏子「そりゃ悪かったな。でもあんたがあたしがホームレスだからって金銭面で気を使ったのが悪いんだぞ。余計な貸し作りたくないんだよ」

さやか「だって……」

杏子「追いかけなくていいのか?」

さやか「言われなくても!」ダッ



まどか「仁美ちゃんがさやかちゃんを呼び出してた」

まどか「何やらただごとではない雰囲気だったから思わずつけてきちゃったわたしはいけない子でしょーかぁーっ?」

まどか「ティヒヒッ、気になっちゃったんだもん。ほむらちゃんもマミさんも用があるって言うし……」

まどか「あ、出てきた」



仁美「…………」スタスタ

さやか「待って! 待ってよ仁美ぃ!」

仁美「話すことなんてありません」

さやか「勘違いだよォ――!」


まどか「……あれ?」


さやか「ねぇ、聞いて。あたしと杏子はあんたが想像しているような仲じゃあないんだ……」

仁美「……私と美樹さんはただの恋敵です。それ以上でもそれ以下でもありません」

さやか「そ、そんな養豚場の豚さんを見るような目で見ないでよ……誤解だってばさァ!」

仁美「聞きません」ツーン



まどか「……ど、どうしたの?」

仁美「あ、鹿目さん」

さやか「まどか?! 丁度良いところに! まどかも弁解手伝ってよ!」

まどか「べ、弁解?」



仁美「美樹さんは……AC/DCでしたわ……」

まどか「え? なに?」

さやか「バイセクシャルの隠語だよ。仁美ったら百合を拗らせたからか……こんなわけわからんことに」

仁美「美樹さんなんて知りません」

まどか「ばいせくしゃる……ってなに?」

仁美「……」

さやか「……」

仁美「鹿目さん。申し訳ございませんでした」

さやか「あたし馬鹿でございました」

まどか「え? え?」



仁美「そして、美樹さん。私、冷静でなかった……ごめんなさい」

さやか「いいんだよ。仁美……誤解が解けてよかった」

まどか「…………?」

仁美「ですが……とにかく、丸一日です。明後日、私は……」

まどか「明後日?」

さやか「わ、わかって――」

さやか「ハッ!」


グニャァ…



――結界

まどか「え!? こ、これって……」

さやか「結界……! こ、こんな時に……」

まどか「そ、そうだ、仁美ちゃん! こんな状況だけどパニックになっちゃダ……」

仁美「……」

さやか「仁美?」

仁美「」ドサッ

さやか「仁美ッ!? どうして倒れた! 仁美! 仁美ッ!」

さやか「き、気を失ってる……何で? 結界の影響かな……」

まどか「……さやかちゃん? 何をしているの」

さやか「へ?」



さやか「……って、ああ、そうだった。あたしのちょっとした魔法で気を失わせたんだ」

さやか「魔法少女の素質がない仁美には刺激が強すぎるってモンだ」

まどか「う、うん……」

さやか「……あれ?」

まどか「え?」

さやか「……何を、言ってるの? あたしぃ?」 

まどか「何をって……自分で言ったでしょ?」

さやか「待ってよ。あたしが仁美を気絶させるなんてありえないよ。親友だもん。……どうして?」

まどか「どうしてって……さやかちゃん、何を言ってるの?」




さやか「まあギャアギャア騒がれても困るからね」

まどか「え?」

さやか「今あたし何か言った?」

まどか「え?」


ド ド ド ド ド


さやか「待て……。整理しよう……」

まどか「うん……」

さやか「いつ誰が仁美を気絶させた?」

まどか「結界に入った瞬間、さやかちゃんが一瞬で変身して仁美ちゃんを眠らせた」




さやか「あたしがいつ仁美が騒がしくなると言った? そんなこと思ってもないよ」

まどか「さやかちゃん……無意識で言ったの? 今の……」

さやか「今のも何も……」

さやか「こっそりと仁美を消して恭介はあたしの旦那になるのだ」

まどか「え?!」

さやか「何を言ってるだァ――――ッ!」

さやか「ウオォォォォ魔女はドコだァ――ッ! あたしに変なこと言わせやがってェ――ッ!」

まどか「お、お、落ち着いてさやかちゃん! 冷静になって!」

さやか「うぅぅ……と、とにかくまどか! ここは危険だ! 今すぐ離れ……いや、使い魔が現れるか……離れるのは危険!」

さやか「使い魔の餌になってくれた方が都合がいいんだけど」

まどか「さ、さやかちゃ……」

さやか「ンガー! 何なんだよあたしはさっきから!」バタバタ



杏子「おいこら。あたしほっといて何してんだよ」


さやか「杏子!」

まどか「あ……」

杏子「オッス。眼鏡っ子にくっついてたちっこいのじゃあないか」

さやか「杏子! あ……ありのまま今起こった事を話すよ! 『あたしは何も考えていなかったのに謎の行動をしていたし変な事も言っていた』……」

さやか「な、何を言っているのかわからねーと思うが、あたしも何をされたのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……」

さやか「催眠術だとか幻聴だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ……」

杏子「意味がわからん」



さやか「まどかとそこの気絶してる仁美を、この結界から逃がしてくれ!」

杏子「はぁ? 何であたしが……」

さやか「あたしは、既に魔女の結界の影響を受けてしまった! それは無意識に魔法を使っちゃうほどに!」

さやか「早く! 今のあたしじゃ、まどかと仁美に何するかわかったもんじゃない!」

さやか「あんただけが頼りなんだッ!」

杏子「…………そ、そこまで言うなら」

仁美「」

杏子「よいしょっと……。おい、まどか。こっちだ。ついてこい」

まどか「う、うん」

タッ


さやか「頼んだよ……!」



――結界外


まどか「ほむらちゃんとマミさんに電話したから早く来てくれるよ!」

杏子「そうか。助けは必要ないと思うが……」

杏子(ほむらはともかく、マミは呼ばないでほしいとこだ……)

まどか「だめだよ! 油断大敵! 何があるかわからないんだから……!」

杏子「わかったわかった」


仁美「……うーん」

杏子「お、目覚めたか」

仁美「あら……ここは……あら、鹿目さん。私……どうしてたんですの?」

まどか「う、うたた寝しちゃったんだよ。どう? 立てる?」

仁美「そりゃあまあ……うたた寝? そんなまさか……」スクッ

杏子「おい、あんた。大丈夫か? ほれ、指何本に見える?」

仁美「四本……。あっ、あなたは……」



杏子「このあたしがそっちの気があるみたいな無礼極まりない勘違いしてくれたよな」

仁美「す、すみませんでした……私、妙な勘違いして……」

まどか「何があったの?」

杏子「気にするな」

杏子「さ、あんたはとっとと帰りな」

仁美「え? あの、美樹さんは……?」

杏子「いいったら。帰れったら」

仁美「で、でも私……」

まどか「だからほら。その……時計を見て」

仁美「時計……?」



仁美「えぇっ!? もうこんな時間!?」

仁美「た、大変! 門限が!」

杏子「五時の鐘が鳴るとかじゃなくてリアル門限?」

まどか「世の中には色々な家庭事情があるんだよ」

杏子「……そりゃそうだ」

仁美「あ、あの! 今日は申し訳ありません! 急いで帰らなくては!」ワタワタ

仁美「鹿目さん! また明日! その……み、美樹さんにもよろしくお伝え下さい」ペコペコペコ

まどか「う、うん」

仁美「あと、見ず知らずの方! ご迷惑おかけしました!」ペコォーッ

ドタバタ


杏子「いったか……馬鹿丁寧な奴だ」

まどか「ゴメンね。余計な魔法使わせちゃって」

杏子「気にすんな。ちょっとした幻覚で時計を見間違えさせただけさ。本当の時間に気付くのは帰路か自宅だぜ」

まどか「……ね、ねぇ杏子ちゃん」

杏子「あん?」

まどか「さやかちゃんの事、どう思う?」

杏子「どうって……ウザったいし、面倒くさい奴だと思う」

まどか「…………」

杏子「でも、好きな男にウジウジしたりさ、ガラにもないとこもあるし……なんつーか、ほっとけねーな」

まどか「やっぱり仲いいんだね」

杏子「やっぱりってなんだよ。監視してたわけでもあるまいし」

まどか「」ギクッ


杏子「ま、いいや。…………なぁ、あたしからも一ついいか?

まどか「な、なにかな?」

杏子「あんたはさ……どっちの人間なんだ?」

まどか「え?」

杏子「例えばさ、あたしは『魔法少女』だ。それはいいな? 仁美は『一般人』だ。……じゃああんたはどっちなんだ?」

まどか「わたしは……どっちなんだろう?」

杏子「素質のある未契約者ってのは、あいまいで気に入らない。アウト・サイド・イン。イン・サイド・アウト。はっきりしろよ」

まどか「そ、そうは言っても……」

杏子「一般人と魔法少女の境界を行き来するのはやめてもらいたいんだがね。……契約しろってんじゃない。むしろしないでほしいよ」



杏子「答えはいつか聞かせろよ。……と。あんたも帰りな。魔女狩りの時間だ。答えはまた今度聞かせろ」

まどか「……うん」


杏子(友達……か)

杏子(……あたしとさやかが?)

杏子「…………へっ」

まどか「え?」

杏子「何でもねーよ」

TO BE CONTINUED...


――結界


杏子「おい。さやか。ちびっ子とワカメッチを避難させたぞ」

さやか「……ああ、ありがと。恩に着るよ……」

杏子「気にするな。だって……あたしら……」

さやか「?」

杏子「あたしら……そ、その……」

杏子「……と、友達、だもんな」ポリポリ

さやか「…………」

杏子「……な?」

さやか「……プッ」


さやか「あっはははははははッ」

杏子「お、おめー! 何笑ってんだよ!」

さやか「ははは……いやいや、ごめんね。なんかちゃんちゃらおかしくって……」

杏子「全く……それで? 魔女はいたか?」

さやか「…………」

杏子「いないのか。何してたんだよ」

さやか「あ、そう言えばさ……杏子。あんた……人間を使い魔や魔女が食い、魔法少女が魔女を食う……そう言ったよね」

杏子「あ? 何だよいきなり」




さやか「理科の授業でさぁ……やったんだよね。食物連鎖。そこであたし、思ったんだ」

さやか「あんたは食物連鎖の頂点に立ったつもりなんだろうけど、魔法少女って、魔女に殺されることもあるんだよ」

さやか「あんたは魔法少女同士は競争の関係にあるって言ったけど、それは違う。魔法少女と魔女こそ『競争』の関係なんだ」

杏子「何を言ってるんだ?」

さやか「魔法少女は魔女の高次消費者じゃあないんだよ」

杏子「おい……さやか……?」

杏子「……いや」

杏子「おまえ……」

杏子「……誰だ?」



さやか「……ククッ」



さやか「ようやく……気付いた……?」

さやか「ワタシは……この結界の魔女だよ」

杏子「なっ!?」

杏子「どういうことだ! さやかをどこにやった!」

さやか「目の前にいるよ。ワタシがさやかだ」

杏子「ッ!」

さやか「ワタシは……この娘の意識を占領しているんだよ。記憶も共有しているんだ。キョーコちゃん?」

杏子「……き、寄生する魔女……!?」

さやか「そうそう。オマエはワタシの親みたいなもんだヨ」

杏子「なっ……ま、まさかッ! あの時の……」

杏子「さやかに倒されて無様にも逃げ回っているはずだ……」


さやか「失礼な。ワタシは一度も負けてはいない」

杏子「……さやかにずっと『取り憑いて』いたのか! あの時既に!」

さやか「Exactly(その通りでございます)」

さやか「そう! ワタシはオマエに救われた使い魔さ! 魔女に、めでたく出世したんだぜ! 祝福しろ!」

さやか「ワタシは人の体内に寄生することができる。憑依の魔女とでも呼んでよ」

さやか「ワタシは逃げたふりをしてこの子の意識の中に入って、生活した!」

さやか「最も宿主を操ることは……わざわざ結界を作るか結界の中でないとできないがね!」

杏子「……なんて奴だ。クソッ」



さやか「この子の中で生活して……この子……なんか男子が好きみたいでさー。……かと思えば仁美とかいう女にバイだなんだって言われてさー……」

さやか「そんなワタシの初宿主に肖リ、その仁美の言った『AC/DC』から……エー、スィー、ディー、スィー。エシディシとでも呼んでよ。憑依の魔女エシディシ!」

杏子「ペラペラペラペラと……喋る魔女なんて初めてだ」

さやか「そりゃ~ね、寄生してる間に語学をマスターしたからね」

杏子(たった数日程度だろ……知能は高い……のか?)

杏子「ただこれだけは言える! 寄生虫ごときが偉そうに名乗る名はない!」

杏子「あんパンチ!」

ボコッ

さやか「痛ェ! 殴られた! DVだ! 虐待だ!」

杏子「魔女なら話は別だ! ブッ潰す!」


さやか「おいおい待てって! この体はオマエの友達じゃないか! 傷つけていいのかよ!」

杏子「痛いと言ったな……痛みを感じるなら、このままさやかを死なない程度に痛めつけていけば魔女のテメーも音をあげるだろうな」

さやか「ヒドイッ! オニ! アクマッ! マジョ!」

杏子「うっせー! 魔女はテメーだろッ! スカタン! あたしが撒いた種ッ! あたしが始末してくれる!」

さやか「ちくしょー! いくぜ! 剣と槍の対決だッ! 早くしねーと『サシ』の勝負ができねーぜッ!」

さやか「おい! その槍で突いてこい!」

杏子「あ?」

さやか「カモーン! その槍でワタシを串刺しにしてみろォ――ッ!」

杏子「おう」

杏子「うおおおお――ッ」ボッ

グサァ


さやか「」

杏子「普通に刺さったァ――ッ!」ガーン

さやか「ゲホァッ!」

杏子「な、なんなんだァ! かっ、体で槍をもろに喰らったッ!」

さやか「その気になれば痛みなんて消せちゃうんダァ……」

杏子「!?」グッ

さやか「……フェアにいこう。ワタシの宿主、さやかの得意魔法は治癒。体を貫いた瞬間に、その穴を治して槍を固定した」

さやか「ついでに言うと、こいつは痛覚を消すこともできる。だからワタシは痛くない」

杏子「しまった! 刺さった槍が固定されて突けも抜けもしない……!」グググッ


さやか「うおおぉぉぉぉ!」

杏子「来るか!」

杏子(殴るつもりか! だが! この距離……)

さやか(関節をッ! 関節を外して腕を伸ばすッ! その激痛はなんとかするッ!)ゴギン メギッ

ググーン

杏子「ゲ!?」

さやか「ズームパンチッ!」

ドゴッ

杏子「うげっ! う……腕が伸びた!? そんな無茶苦茶な!」

さやか「どうだ! まいったか!」

杏子「早とちりにも程があるぞボケッ!」


さやか「なぁ、オマエ!」

杏子「なんだ」

さやか「『貴様、魔女に成長するまで何人の命を喰らってきた』って聞いてみろ!」

杏子「は? やだよ。……何が言いたいんだ?」

さやか「ワタシがどれだけ一般人を喰らってきたか、もとい、オマエがどれだけ一般人を殺したのかを言いたい」

杏子「……そう、かよ。それがどうしたってんだ」

さやか「自分を魔法少女だって言ってるけど、人を間接的に殺すオマエは、一般的な定義の魔女と同じなんだヨ」

杏子「あっそ。だからなんだよ。あたしには関係ない」

さやか「そんなんだから、マミという奴に嫌われるんだヨ」

杏子「……マミは関係ないだろうが」

さやか「…………」



さやか「ねぇ杏子……あたし、あんたのこと実は嫌いなんだよね……」

さやか「だって、あんたがマミさんの心を裏切ったじゃん」

杏子「ッ!」

さやか「迷惑なんだよね。マミさんにとっても、まどかにとっても、ほむらにとってもさ……空気読めてないっていうか」

杏子「お、おい……なんのつもりだ……」

さやか「あんた、さっきあたしと友達になったつもりになってたよね。馬鹿じゃないの?」

さやか「あたしはね、あんたを馬鹿にして笑ってたんだよ。友達面しないでよ」

杏子「さやかの声で、口調で、仕草で……何を言わせてるんだよ……! やめろよ……!」

さやか「本心だけど? 記憶を共有できるって言ったじゃん。馬鹿」

杏子「なっ……!? う、嘘をつくな! さやかが……そんなこと言うわけ……」

さやか「そんなこと言うわけないって? あんたにあたしの何がわかるの? 別に友達でもなんでもないんだから」

杏子「…………」

杏子(友達でもなんでも……ない)



さやか(……いくら魔女のワタシが人殺しだとか馬鹿だとか罵詈雑言を与えても、何も通じない)

さやか(だが、やつはこの娘に心の錠前を開きかけている。だから……声、姿、仕草、etc...この娘の97%が罵倒すること、それが重要なのダ)

さやか「――」ブツブツ

杏子「や、やめ……」

さやか「――」ボソボソ

さやか(例えそれが嘘でもダ)

杏子「……」

ジワッ…

さやか(計画どーり……だ。イー感じに心が抉れてる)

さやか(傷は、ふさがりかけが一番抉りやすい)


ズルッ


魔女「サテト……逃ゲルトシヨウ……巻キ添エニナリタキャネーカラナ」



さやか「……ハッ!?」

さやか「あれ? あたし、何を……確か……結界が急に現れて……えっと……」

杏子「…………」

杏子(失った……)

さやか「あ、杏子……。いつの間に戻ってたの? 二人は無事?」

さやか「……杏子?」

杏子(……あたしはまた失ってしまった)

杏子(あたしが願ったから……話を聞いて欲しいと……強くなりたいと……友達が欲しいと)

さやか「……杏、子?」

杏子(家族からもマミからもさやかからも拒絶された。……みんな失っちまった)

杏子「あたしにはもう何もない」

パキンッ


ズアッ

さやか「うわぁっ!? なっ!? 何ッ!?」



さやか「……あぁ、ビックリした」

さやか「な……なんだ? 今の」

さやか「あ、あれ……? さっきと結界が違う……?」

さやか「い、いや、結界には変わらないッ! 進化か!? 進化なのか!?」

さやか「あッ?!」

武旦の魔女「――――」

さやか「い、いきなり魔女のご登場か……」


さやか「杏子! こいつは何かヤバイ! 共闘するよ!」

さやか「……杏子? ……どこいった?」

さやか「どこいった! 杏子! さっきの風圧みたいなので吹き飛んだか!? 杏子ォッ! どこだ!」

QB「目の前だよ。魔女になってしまったようだね」

さやか「キュゥべえッ?! あんたいつのまに!」

QB「やぁ。さやか。気をつけて。この魔女は――」

さやか「……ちょっと待って。いま、あんた何ていった?」



QB「何って、何がだい?」

さやか「いいから何て言ったか言えッ!」

QB「この魔女は今までにない強さを……」

さやか「そうじゃない!」

QB「魔女になってしまったようだね?」

さやか「どういうこと……?」

QB「そのままの意味さ。杏子が魔女になってしまったんだ」

さやか「杏子が魔女に……? ハぁ? な、何言ってんの?」

魔女「――」


QB「絶望したりしてソウルジェムが穢れきると魔法少女は魔女になるんだ」

さやか「ま……魔女……? 魔法少女が……魔女? ……え? え?」

さやか「何よそれ……あんた、何を言ってるの……?」

QB「聞かれたから答えただけだよ」

さやか「あの――あの魔女が――杏子……?」

さやか「う……嘘だよ……そんなのありえない……だって……ぐ、ううぅ……!」

QB「真実だよ」

さやか「……つ、伝えなくては! みんなにこの恐ろしい事実を伝えなくちゃ――」

魔女「――!」

ズアッ

さやか「あ――」


――結界外

ほむら「鹿目さん!」

まどか「ほむらちゃん! ツェペリさんも!」

ツェペリ「待たせたな」

まどか「さやかちゃんと仁美ちゃんの三人でいるところを結界が起きて……」

まどか「結界内で杏子ちゃんと会ってここまで連れてきてもらったの! 仁美ちゃんは帰った! そして杏子ちゃんは戻ってった!」

ほむら「私達も行きましょう」

ツェペリ「ああ、そうじゃな。マミは時間がかかるそうじゃからの」

まどか「わ、わたしは……」

ほむら「危ないから、待っていて。巴さんがもうすぐ来ると思うから……」

まどか「う、うんっ!」


――武旦の魔女の結界


ゴ ゴ ゴ ゴ


ほむら「……そ、そんな」

ツェペリ「なんということじゃ……!」

ほむら「み、美樹さんが……美樹さんが……!」


ほむら「死んでる……!」


ほむら「嘘……そんな……そんなのって……!」


魔女「――」

ツェペリ「あの魔女に……やられてしまったのか」

ツェペリ「武器を持っているな……あの武器でバラバラにされてしまったのか?」

ほむら「う……ウプッ」

ツェペリ「大丈夫か?」

ほむら「ハァ……ハァ……だ、大丈夫……です。……鹿目さんを待たせておいてよかった」

ツェペリ「全くじゃ、親友の惨死体なんて刺激が強すぎるわい」

ほむら「……あなたの遺体は、結界から持って帰ります。ここで、休んでいてください……」

ほむら「……ん?」


ほむら(これは美樹さんの腕……? こんな所まで飛ばされて……。でも、何か不自然な切り傷が……)

ほむら(この太さと深さは……美樹さんの剣でついたものだ)

ほむ「……?」


QB「二人とも。気をつけるんだ。この魔女は今までにない強さを持っている」

ほむら「あ、キュゥべえ……!」

ツェペリ「確かに、雰囲気が違うな……」

QB「杏子が魔女になってしまったんだ」

ほむら「ッ!」

ツェペリ「何ッ!?」

ツェペリ「……何があったんだ」

ほむら「……間に合わなかった」

ツェペリ「何がったのかわからんが……自身を追いつめていたのか? ……もっと早く気付いてやれれば……!」

ほむら「仕方、ないです。とにかく、さく……この魔女を止めないと!」

ほむら「ツェペリさん! 使い魔をお願いします! 魔女は私が!」



使い魔「――」

ツェペリ「仙道波蹴!」ドゴォッ

ツェペリ「これが杏子の精神と考えると……青と黄色の使い魔に精神の暗示があるのか?」

ツェペリ「……なってしまったものをあれこれ考えても仕方あるまい」

ツェペリ「問題はあの二人だ。……もし、このことを知ってしまったら……」



ほむら「単独でなら……巻き込む心配はない!」

カチッ

ほむら「時間停止+爆弾!」



魔女「――!」

ほむら「効いていない……!」

ほむら「ならば接近戦! ドライバーに油を塗って波紋を流す! 波紋ドライバー!」



ほむら「吹っ飛ばす程のショットッ!」

ボコォッ

魔女「――」

ほむら「だ、ダメ……っ!」

魔女「――!」

ズアッ

ほむら「しまっ――」


ガァン!

魔女「!」

バシィッ



マミ「大丈夫!? 助太刀に来たわ!」

ほむら「巴さん!」


マミ「ごめんなさい。また遅刻しちゃったわ」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「かっ、鹿目さんッ!?」

まどか「ご、ごめん……いてもたってもいられなくって……」

ツェペリ「……そういう性格じゃ。来てしまったものはしかたない」

マミ「これが例の魔女ね……! 暁美さんとツェペリさんの二人? 美樹さんと……佐倉さんは?」

ほむら「ツェペリさんには使い魔を任せています……」


ツェペリ「だから実質、魔女と戦っておるのは一人……」

マミ「……一人? えっと確か、ふた――」

ほむら(テレパシー)『……美樹さんがこの魔女と遭遇して……負けました』

マミ「ッ!」

ほむら(テレパシー)『酷い状態です。鹿目さんには、見せたくない』

マミ(テレパシー)『そう、ね。………残念だけど……仕方ないわ』

マミ「佐倉さんは……どこ? いるはずよね……?」


ほむら「…………」

マミ「……暁美さん?」

ツェペリ「……今は奴を倒すのが先決」

マミ「そ、そうね……。三人もいれば……」

ほむら「ツェペリさんは使い魔をお願いします」

ツェペリ「あ? あ、ああ……」

ほむら「マミは魔女をお願いします!」

マミ「えぇ。あのときのように油断はしないわ!」チャキッ

ほむら「私は鹿目さんを護衛します。そして余裕があれば援護をします!」

マミ「わかったわ! 行ってくる!」

まどか「ご、ごめんね。ほむらちゃん……! また足手まといに……」



まどか「ねぇ……さやかちゃんはどこなの? それに杏子ちゃんも……」

ほむら「…………」

まどか「どこかに避難してるの? ……きっとそうだよね。ね? ほむらちゃん?」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃん……わたし怖いよォ……」キュッ

ほむら「あっ、ちょ、ちょっと……腕を掴んだら……」

まどか「怖いから……もう少しこうさせて」キュゥ…

ほむら「……危ないから離して?」

まどか「や……」


ほむら「も、もう……」

まどか「ん~」キュー

ほむら「……鹿目さん」

スッ

まどか「あっ……」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃん……」



ほむら「離して」

バチィッ


まどか「うあああッ!?」

QB「!?」

まどか「ビリっときたあああああ!」

ツェペリ「ほむら! 何をしているんだ!?」

QB「そうだよ! 君はまどかに好意的なはずだ。こんな乱暴なこと……」

まどか「酷いよほむらちゃん! 何て酷いことするの?! あんまりだよ!」

ほむら「……冷静すぎる」

まどか「え?」



ほむら「ある方向だけ、ピンポイントで、故意に目を背けている。とても不自然だよ」

ほむら「あなたは鹿目さんじゃない」

まどか「え? ……え?」

QB「な、何を言ってるんだい……? 彼女はまどかだ。それは間違いない……」

ほむら「ところでこれ……なんだと思う?」スッ

まどか「!」

ツェペリ「こ、これは!」

ほむら「美樹さんの『腕』……あの魔女に吹き飛ばされたものだよ」



ツェペリ「何を考えているんだほむら! まどかには刺激が強すぎるぞ!」

まどか「…………い、いやあああああ!」

ツェペリ「ハッ!」

ほむら「今! おまえはリアクションを悩んだ! それは、親友の惨死体を見た時のリアクションの仕方、その恐怖がわからないからだッ!」

ツェペリ「まさか……!」

まどか「…………!」

ほむら「この美樹さんの腕に……『Be Oll Aiz』って傷がある。ほら、これ……。ビー、オール、アイズ。スペルはミスっているけど、これは決して目を離すなという最期のメッセージ……」

ほむら「……魔女のことかな、と思った。でも、魔女に目を離さないのは当たり前のこと。だから鹿目さんを目を離すなと言っているのだと思った」

ほむら「使い魔とかの幻影か何かかと思った。でも、実際に抱きつかれて、肌の感触、シャンプーの匂いは……鹿目さんだった。魔女が匂いまで知る由はない」


ほむら「だからこの違和感の正体は、鹿目さんに取り憑くとかしている魔女か使い魔がいて、意識を乗っ取っているものだと推測したッ!」

ツェペリ「なん……だと……!」

まどか「……」

ほむら「それにキュゥべえは本物の鹿目さんだとはっきりと言った。契約をしたい人間を間違えることはそうそうないだろうし、そういうことで嘘はつかない」

まどか「…………」

ツェペリ「そうか……最初から気付いていたのか。だからマミから離れて……」

ほむら「正体を表しなさい!」



まどか「…………ジブいねぇ……お嬢ちゃん全くシブいねぇ……」

ツェペリ「既に……だったのか!」

まどか「そのと~りさ……。ワタシは憑依の魔女……名はエシディシ。由来はバイセクシャル!」

QB「まどかが……」

まどか「そしてワタシが嘘と事実を巧みに織り交ぜて、杏子を絶望の淵に追いやってやった~」

ツェペリ「こいつ……!」

ほむら「許せない……! こいつはメチャ許せないッ!」

まどか「ハンッ! ワタシをその波紋とやらで攻撃してみろォ――!」

まどか「波紋が正とすれば魔女は負! 抜群に効くんぜェ――! 知っとるんだぜ――ッ!」

まどか「だが! 間違いなくこの小娘の心臓はタダじゃすまないッ!」




まどか「杏子退治に加勢するならこのワタシを倒してからにしやがらチンボコ野郎!」

ほむら「鹿目さんの口から何て事を……!」ギリギリ

ほむら「女子中学生として恥ずべきことだけど……この暁美ほむらは……」

ほむら「恨みをはらすために! 貴様を殺すのだッ!」

まどか「ティヒヒヒヒッ、ほむらちゃんにわたしを殺せるの?」

ツェペリ「波紋を喰らえば電気のような衝撃が走る。やつの言うとおり、心臓に……」

QB「ほむら! 僕は人に寄生する魔女や使い魔は何度か見たことある。……だがどれも宿主ごと死なすという対処法が取られている!」

QB「まどかを傷つけるのはやめてくれ……契約してないのに……」

ほむら「……ツェペリさん! 例の波紋で行きます!」

ツェペリ「例の?」

ほむら「菓子の魔女で覚えた波紋効果! あの波紋をやるんです!」


ほむら「私とあなたの二つの波紋。二つの……」

ツェペリ「……なるほど。あれなら……大丈夫か?」

ほむら「やるしかない!」

ツェペリ「よし! 呼吸はおまえの方に合わせる。いくぞッ!」

まどか「何をするつもりなのかな? ほむらちゃん? ティヒヒッ」

ほむら「コォォォォ~…」

ツェペリ「コォォォォ~…」

まどか「き、来た!? だが奴等ははったりだ! どうせビビらせて追い出そうと……」

ほむら/ツェペリ「「波紋疾走!」」

ボゴォッ

まどか「グホォッ!?」


ツェペリがまどかの体全体に流したのははじける「正の」波紋! ほむらが心臓に一点集中したのはくっつく「負の」波紋!

つまり心臓は波紋エネルギーがプラスマイナスゼロ! 




まどか「…………う、そ」

まどか「……」ポロポロポロ

ビンビンビン!ビン!

魔女「ギャァァ――ッ!」


ツェペリ「たまらず飛び出てきたぞ!」

QB「こ、こんな方法で……!」



まどか「」ドサッ

ほむら「鹿目さんッ!」

QB「気を失ったようだ」

魔女「RRRRRRRRRRUUUOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHH!!」グッパォン

ツェペリ「来るぞ! だが苦し紛れの攻撃と見た!」

ほむら/ツェペリ「「とどめ! 波紋疾走!」」

魔女「URRYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」




ツェペリが魔女に流したのははじける「正の」波紋! ほむらが魔女に流したのははじける「正の」波紋!

つまり魔女に集中する波紋エネルギーは相乗効果で数倍!



魔女「ト、溶ケルゥ……コノエシディシノ体ガ……知性ガ……マダ若イノニ……」

魔女「……ダガシカシ! テメーラニハアノ魔女ハ倒セナイィ! ツエー魔法少女ガ魔女ニナリ! カツアンタラノ仲間ナノダカラ!」

ほむら「ッ! しまっ――」

ツェペリ「波紋疾走!」ボッ

魔女(セメテ……我ガ同胞ノタメニ……魔法少女ヲ減ラスノダ……)

魔女「タコスッ!」

ドシュゥ…

コツン

QB「グリーフシードを落としたね。これで憑依する方の魔女は倒した」

QB「やってくれたね。二人とも。波紋……つくづく興味が沸いてきた」



ほむら「…………ツェペリさん。鹿目さんをお願いします」

ツェペリ「ああ……わかった」

ほむら「私は巴さんを……」



「……ちょっと、……今、……何て言った?」


ほむら「……」

ツェペリ「……」

マミ「ハァ……ハァ……」スタッ

マミ「今、何て言ったの? ……苦戦はしているけど、何とか聞き取る余裕はあった。でも、聞き違いかもしれない」

マミ「強い魔法少女が魔女になり、かつ、仲間……?」

マミ「魔法少女が魔女にってどういうことなのよ……。ただの物の例えよね。聞き間違えと言ってちょうだい」

ツェペリ「……まずは、魔女のことを考えるんだ」



マミ「キュゥべえッ!」

ほむら「…………」

QB「……言葉通りだよ。マミ。この魔女は魔法少女だったんだ」

マミ「ッ!」

マミ「そ、そんな……魔法少女が……魔女に……」

マミ「う、嘘よ……魔法少女が魔女になるなんて……」

ほむら(いけない! 巴さんが錯乱してしまう!)

QB「嘘じゃないよ。杏子は、絶望してあの魔女になったんだ」

マミ「さ、佐倉……さ……!? わ、悪い冗談はやめて!」


QB「僕が今までマミに嘘をついたことはあるかい? 誤解はさせたことあるようだけど」

ほむら「キュゥべえ! 喋んないでッ!」

マミ「う、嘘! 嘘嘘嘘! 嘘よォッ!」

ツェペリ「落ち着け! 落ち着くんじゃ!」

マミ「ソウルジェムが魔女を生むなら、みんな死ぬしかないじゃないッ!」

ほむら「や、やめてッ!」

マミ「あの魔女が……佐倉さんだなんて!」

魔女「――――」

マミ「…………」


マミ「佐倉さん…………」

魔女「――――」

マミ「……あなたは何に絶望したの?」

ほむら「え?」

マミ「あなたは……私にとって、妹のような存在だった。ちょっと生意気で、反抗的な……」

マミ「負けず嫌いで意地っ張り。素直じゃなくって情熱家。繊細だけど根は優しくてとっても強かった」

マミ「あなたの自由な性格……私、尊敬していた……。そんな佐倉さんが、何に絶望したの? 私のせいかしら?」

マミ「……私はあなたのこと大好きだった。だから、一緒にいたかった。だけど、どうしても、あなたに戻ってきてとは言えなかった……」

マミ「あなたが間違っていて、私が正しいと、確信していたから……」

マミ「私っていつもそう。失って初めて気付くのよ。私ってほんと馬鹿」


魔女「――」

マミ「……私の名前は巴マミ」

マミ「佐倉さんの魂の名誉の為に! 美樹さんの心の安らぎの為に! この私があなたを円環の理へ導いてあげる!」

ツェペリ「マミ……君は、一体何をするつもりだ?」

マミ「…………」

ツェペリ(……目でわかる。あの目は……)

キュゥゥ――

ほむら「と、巴さん……何を……」

QB「マミは魔力を高めているね」

ツェペリ「……自爆するつもりだ!」

ほむら「えぇっ!?」



マミ「……フフッ、お見通しね。年の功ってやつかしら」

ほむら「やめてッ! 巴さん! それだけはッ!」

ツェペリ「……ほむらッ! 退けッ! 巻き込まれるぞ!」

ほむら「巴さん! だめ! あなたがいなくなったら……私……!」

マミ「…………撃つわよ」チャキッ

ほむら「!」

マミ「撃ちたくないし、撃たれたくないなら……行って。暁美さん。これしか、彼女を救う方法はない。私が、救わないといけないの」

マミ「……暁美さん。鹿目さんと一緒に、可能な限り生きて。私の大切な友達だから……生きて欲しい」

マミ「ワルプルギスを倒そうなんて考えずに……幸せにね。……自分勝手な先輩でゴメンね。私、生きていく自信がもうないの」

マミ「……アリーヴェ・デルチ(さようなら)」

バッ


ほむら「巴さぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」



魔女「――――ッ!」


マミ「佐倉さん……」

マミ「あなたは一人で戦うことを選んだ。結局最期まであなたの気持ちがわからなかったわ」

マミ「でもね? 誰にも頼らないことが強さじゃない……。一人で生きることが強さじゃあない」

マミ「それはだけは言える。このことだけには命を賭けられる。絶対に正しいって」

マミ「……寂しかったでしょ? 私も寂しかった。友達の美樹さんも既に向こうで待っているわよ」

マミ「一人ぼっちは寂しいものね」


カッ




――
――――
――――――


QB「ベテランの魔法少女が一気に二人、そしてさやか。三人の死はとても大きな損失だ……」

ツェペリ「…………」

まどか「いやだあぁぁ……いやだよおぉ……」

まどか「ひどいよ……グスッ、こんなのってないよ……エグ、あんまりだよぉ……ヒック」ポロポロ

ほむら「…………あの人は、ご両親を亡くして、小さい頃から見滝原の魔法少女をしてきた」

ほむら「毎日この街を守るのがあの人の使命だった……今さっきも佐倉さんと自爆しようとした時……」

ほむら「あの人は『全てを救う戦士』の目になっていた」

ほむら「巴さんは……魔法少女が魔女になる真実を知ったら、自暴自棄になるはずだっ……なるなりするものだと思って……いたから」



ツェペリ「マミから……わしは黄金のように輝かしい精神……」

ツェペリ「そして魔法少女という生き方に対する誇りを感じ取った」

ツェペリ「彼女は死の恐怖、絶望よりも……守る勇気、杏子の救済を優先できた。意図してかせずしてか、恐怖を克服しておった……」

まどか「グスッ……」

ほむら(この時間軸は……失敗だ……。折角波紋を覚えたのに、また……。私の力不足で……)

ほむら(……もし、過去に遡行したら……ツェペリさんはどうなるんだろう)

ほむら(波紋にはまだ伸び代がある。次の時間軸で会えない可能性もあるから……今の内にもっと学ばなければならない)

ほむら(それまで……辛い日々を送るハメになる……か……)

まどか「ねえ、ほむらちゃん……」



ほむら「鹿目さん……?」

ツェペリ「…………」

まどか「……みんなでワルプルギスを倒そう?」

ほむら「え?」

まどか「わたし、契約する。願いは……みんなを生き返らせること。……できるよね? キュゥべえ」

QB「可能だよ」

ほむら「!」

ツェペリ「なっ、し、死んだ人間を生き返らせるだと……!」

QB「犬や猫とかならまだしも、人間を生き返らせるとなれば、そうそうできない」

QB「でも、まどかならできる。どんな途方のない願いでも……。そういう素質がある」

QB「彼女がその気になれば、魔法少女三人を生き返らせるくらい造作ない」

ほむら「それだけは……契約だけはダメ……!」



ツェペリ「君も理解しているはずだ。杏子の魔女化、マミの心中、そしてさやかの死……魔法少女の残酷な最期を……」

ツェペリ「……それでもか?」

まどか「…………うん」

ほむら「ダメだよ鹿目さん!」

ほむら「下手をすれば、志筑さんだって……あなただって……死んでいた! それは巻き込んでしまったから! それが魔法少女というものなの!」

ほむら「それでも魔法少女のなるのッ?! あの魔女になるかもしれないのに! 死ぬかもしれないのに! 大切な物を失うかもしれないんだよ?!」

まどか「……さやかちゃんはわたしの大切な親友……マミさんは尊敬する先輩。杏子ちゃんはまだそんな仲良くないけど優しい子だったわかっている……」

まどか「既に大切な物を失った……だから、わたしは……」

QB「そうだね」

まどか「わたしは、大切なみんなとまた会いたい! それが叶うなら……その運命も受け入れられる」

まどか「みんなのためなら……わたし……!」

ほむら「う、うぅぅ……どうして……」



ほむら「どうして自分を犠牲にしようとしちゃうの……!」

まどか「……」

ツェペリ「ほむら……」

ほむら「どうして……こんなに……こんなに私が必死になってるのにどうして契約しようとするの……!」

ほむら「…………ごめんね。わけわかんないよね。気持ち悪いよね……鹿目さんにとっての私は、出逢ってからまだ1ヶ月も経ってない転校生でしかない。でも私は……私にとってのあなたは……」

まどか「ほむらちゃん……」

QB「……」

ツェペリ「……まどかよ。本当に魔法少女になるつもりか? なれば契約したことのために運命が大きく変わる」

まどか「受け入れます。みんなが戦っているのに、わたしだけ傍観者なのは、嫌なんです……!」

ツェペリ「そうか……」



ツェペリ「……ほむら。話してやれ。おまえの覚悟を。そして過去を」

まどか「……過去?」

ツェペリ「ほむらは、想像を超える程、悲しい過去を持っている」

まどか「そ、そうなの……?」

ツェペリ「彼女の覚悟を、心から受け止めろ」

ほむら「……鹿目さん。私は、何を願って魔法少女になったのかを話すね」

まどか「……うん」

QB「それは僕も知りたいな」

ほむら「……嘘かと思われるかも知れないけど……これは真実。鹿目さん。私はあなたを守るために――」


――
――――

まどか「そ……そんな……わたしなんかの……ために……」

QB「……時間遡行者。なるほど。辻褄は合うね。でも、信憑性は薄いよ」

ツェペリ「わしには真偽を確かめる術はないが……わしは信じた。だからわしは波紋を教えたのだ。取りあえずあんたは黙っとれ」

QB「…………」

ほむら「だから……私、鹿目さんを巻き込みたくない。お願いだから……契約しないで……自分の幸せだけを考えて……」

まどか「……信じるよ。わたし、ほむらちゃんを101%信じる。……わかったよ、ほむらちゃん」

ほむら「鹿目さん……」

まどか「ほむらちゃんの覚悟が『言葉』でなく『心』で理解できたッ!」

ほむら「え……?」

まどか「わたしは……ほむらちゃんの力になる! ほむらちゃんのわたしを救うという誓いも大事だけど、わたしがほむらちゃんに誓う! 絶対に負けないって!」

まどか「わたしはみんなと一緒にいたい! ほむらちゃんと一緒にいたい! だから……一緒に戦いたい! 傷ついて悲しむ様子を傍観なんてできないよ!」



まどか「ほむらちゃん! わたしに契約する許可をちょうだい! わたしに、ほむらちゃんを救わせてください!」

ほむら「わかってない……。あなたは理解もなにもしていない……ッ! あなたの覚悟は間違っている」

ツェペリ(彼女のは……ただの覚悟ではない)

ほむら「鹿目さんが魔女なんかになったら……」

まどか「その前にソウルジェムを砕けばいい! わたし自身の手で砕くッ!」

ほむら「私はそういうことを言ってるんじゃあないのッ! どうして自分を犠牲にするような真似を……!」

ツェペリ(まどかが抱いているのは犠牲の心ではない)

まどか「ほむらちゃんは、わたしの幸せを考えてって言ったよね。わたしは今、わたしの幸せを誰よりも一番に考えている。『みんな』がわたしの『幸福』への道標なの!」

まどか「わたしは……ほむらちゃんに守られるわたしじゃなくて、ほむらちゃんを守るわたしになりたいッ!」

ツェペリ(真の覚悟がある。……かつてジョナサンから感じた、わしが抱いていた……暗闇の荒野に進むべき道を切り開く心が……まどかの心にも「それ」がある!)



ほむら「……やめて、グスッ、……やめてよ! そんな言葉聞きたくない! 私は……私は――」ポロポロ

グイッ

ほむら「……ツェペリさん」

ツェペリ「……彼女には魔法少女になる資格と権利がある」

ツェペリ「ほむら。誰よりも優しく弱い彼女に、失った親友達を諦めろと、命を賭けるその覚悟を蔑ろにすることが我々にできようか?」

まどか「…………ほむらちゃん。お願い。わたしに……許可を」

ほむら「う……うぅぅ……エグッ」

ほむら「……そんな。……それなら、私は何のために戦っているんですか……」ポロポロ

ほむら「鹿目さんは……私の初めての友達……私が憧れた大好きな人……。鹿目さんの幸せこそが、私の全て……。鹿目さんは、私の光……!」

ほむら「私は、鹿目さんのためにこの時間軸を彷徨っている。契約させたら、全てが終わる……!」

QB「ほむら。君が時間遡行者で、僕の目的まで知っている。そんな僕の言うことなんか耳にしないだろうけれども……」



QB「例え今、まどかを契約させないにしても、僕は今後、マミ達を引き合いにして契約させようと思っている」

QB「まどかが契約するのも時間の問題だ。それが後になるか今なのかというだけに過ぎないんだ。どっち道ね」

ほむら「……クッ」

QB「波紋の可能性は計り知れないけれど、ワルプルギスに対してどうせ勝ち目はない」

まどか「ほむらちゃん……お願い。……一緒にワルプルギスを倒そ?」

ほむら「…………」

まどか「みんなで……」

ほむら「……ょ」

まどか「え……?」

ほむら「ずるいよ……」


ほむら「ずるいよそんなの……!」ポロポロ

ほむら「私はただ……巻き込みたくないだけなのに……ずるいよ……!」

ほむら「大切な人を危険な目に遭わせたくないと願うのは……いけないことなの……!?」

まどか「……ほむらちゃん!」

ギュッ

ほむら「……っ」

まどか「わたしは、みんなの笑顔がまた見たい……一緒に、戦いたい」

まどか「お願い……わたしにほむらちゃんを救わせて!」

ほむら「う、ううぅ……うああああああ……ああ……!」ボロボロ

ツェペリ「……」

QB「……」

ほむら「えぐ……うぐ……そんなのって……そんなのってないよ……! ずるいよぉ……!」

まどか「ほむらちゃん……みんなで力を合わせれば……乗り越えられるよ。ワルプルギスを……」

ほむら「はうぅ……エグッ……グスッ」



――
――――

ほむら「う……うぅ……クッ……グスッ……うぅぅ……」

まどか「…………」

さやか「……」

杏子「……」

マミ「契約……したのね……」

まどか「……はい」

マミ「暁美さん……知ってたのね。魔法少女が魔女になるって……」

ほむら「うぅ……うぇぇぅ……ヒック……はぃ……」

マミ「どうせ、ツェペリさんも知ってたんでしょ」

ツェペリ「ああ……」



さやか「あたし……目の前で見ちゃったよ。その瞬間」

杏子「……ソウルジェムは……魔法少女の魂だったんだな。…………そうか」

マミ「……どうして黙ってたの?」

ほむら「…………グスッ」

ツェペリ「前もって言っておこう。ほむらは、何も隠していたわけではない……」

ツェペリ「言えなかったのだ。例えば、マミが動揺で無理心中をするようなことを恐れて」

マミ「…………」

まどか「ほむらちゃん……みんなに話していい? ほむらちゃんのこと……」

さやか「ほむらのこと……?」

ほむら「……」フルフル

杏子「……イヤだ、だってよ」



ツェペリ「……ほむら。マミが錯乱することを恐れているのなら、それはないとわしが保証する」

ツェペリ「目を見ればわかる。彼女は死の恐怖を乗り越えた。魔女になる恐怖を救済する気持ちが上回ったのだ」

ツェペリ「あるいは、信じてもらえないことを恐れているのなら、自信を持て。まどかもわしも、この通り信じたのだから」

ほむら「…………」

まどか「……いい?」

ほむら「…………」コクッ

まどか「……うん」

さやか「…………」

マミ「…………」

杏子「……フン」


まどか「みんな。話すね。ほむらちゃんは、わたしを……みんなを助けるために――」


――
――――


マミ「……そう、だったの……。……もちろん、信じるわ。俄には信じがたいけど……」

マミ「暁美さん……既に、私とあなたは友達だったのね。そして……私は……」

さやか「……なんか、あたし、魔女になったりほむらを否定したり、散々なことしてたんだね」

さやか「ごめん……ほむら。あたしなんかのために……。まどかやマミさん、杏子だけじゃなくて、あたしなんかまで……」

さやか「それなのにあたしは……。……あたしって、ほんと馬鹿。……うぅ」

マミ「鹿目さん……私達を生き返らせてくれてありがとう」

マミ「暁美さん。鹿目さんの契約、決して後悔させないわ! 戦いましょう!」

さやか「あ、あたしだって! 絶対にワルプルギスを超えよう!」

ほむら「…………ぅん」

まどか「みんな……!」


ツェペリ「あと、一人だな」

ほむら「…………佐倉さん」

杏子「…………フンッ」

杏子「……さやかだけでなく、まどかも、そしてほむらまで……馬鹿丸出しだぜ。全く」

杏子「他人のために願いを使うやつは馬鹿がすることだ。出会いをやり直したいだと? その結果、おまえは余計な苦しみを抱えてるだけじゃねーか」

杏子「甘ちゃんだからこーなるんだぜ。なんてザマだ。最高の友達だか何だか知らないが、適当に割り切っておけばよかったものを……」

杏子「誰が生き返らせてくれと頼んだ。おせっかい好きのシャシャリ出なウスノロどもの分際で……」ゴソゴソ

杏子「こういう奴が面倒臭いからあたしは一人でやることを決心したんだよ!」ビリッ

杏子「いつだって死んでもいい覚悟はあったんだよ! あたしには! ……ったく、勝手なことしやがって」パクッ

ほむら「…………」

まどか「そ、そんな言い方……!」


マミ(佐倉さん……あなた……)

さやか「た……助けてもらってなんてヤツだ……こいつ……!」ギリッ

ジャキィッ

さやか「…………」

さやか(……と怒って以前のあたしなら背後からだろうが容赦なく襲いかかっただろうけど……)

さやか「……杏子。ロッキー、逆さだよ」

杏子「……ッ!」

杏子「…………クッ」



ツェペリ(……今一番に泣き叫びたいのは誰よりも杏子の方だ……)

マミ(佐倉さんは今、戸惑っている。絶望して魔女になり、生き返ったということは、魔女になる寸前の自分を覚えているということ……)

さやか(ほむら。すぐに熱くなっちゃうこのあたしが……今、杏子の気持ちを読んで、あろうことが思いやったよ……少しは成長したかな?)

杏子「……迷惑なんだよ」ポロポロ

杏子「あたしは勝手なことして勝手に絶望して魔女になったんだ……」

杏子「そんなヤツを生き返らせてもらってもスゲー迷惑だぜッ! このあたしはッ!」ブワッ

杏子「このあたしを救うだと!? 甘ちゃんのくせに! みんなで倒すだと!? さやかとマミ、あたしはその二人を葬っちまったんぞ!」

杏子「……クソッ!」



さやか「……杏子。それは、あんたじゃなくて、魔女だ。気にする必要はないんだよ」

さやか「一緒に戦おう。そして……みんなで幸せになろうよ。また……ケーキ食べようよ」

杏子「……どっちにしても、あたしはあんたらの仲間になる資格はない」

マミ「……そうね。確かに、あなたは『悪』よ」

杏子「……」

さやか「ま、マミさん……!」

マミ「私は……最も忌むべきことは『侮辱』することと考えている。あなたはエゴのために無関係な人の命を侮辱した」

マミ「あなたは間接的に人を殺したのは事実。……だから、あなたは私達の仲間になるのを思いとどまっている」

杏子「うぅ……」

マミ「半歩よ」

マミ「あなたが一歩を踏み出せないと言うのなら、私の方から――半歩だけ近づく」



杏子「…………」

マミ「全ては佐倉さんの決断にかかっている。それでも十字架があなたの脚を重くするって言うのなら、私もそれを共に背負っていく」

杏子「マミ……」

マミ「一人ぼっちは寂しいでしょ?」

杏子「……うぅぅ……マミィィ……」ポロポロ

マミ「……ね?」

杏子「…………今まで溜めてきたグリーフシードも全部やる……これから集めたグリーフシードもみんなにあげる……」

杏子「だから……だから……! あたしを許してよ……! 嫌いだなんて言わないでよぉ……!」

マミ「当たり前じゃない。あなたは一人ぼっちなんかじゃない。あなたは、私の妹のような存在なんだから……」


ギュッ

杏子「う……うぅ……ごめん……ヒグッ、ごめんなさいぃ……マミィぃ……グスッ」

マミ「いいのよ。これからは仲間なんだから」

杏子「うぅ……まどか……あんた……いいヤツなんだな。ごめん……きついこと言って……」

まどか「ティヒヒ、いいんだよ。杏子ちゃん!」

杏子「しゃやかぁ……グスッ……殺してごめん……」

さやか「だ、だから、それは魔女なんだってば! 何も気にすることはないよ。友達なんだから!」

杏子「……友達。……あたしとさやかって友達? 本心なのか? ほんとに?」

さやか「もち!」

杏子「あうぅ……ありがと……グスッ……」



ほむら「…………」

ツェペリ「もし、契約させなかったら、この光景は見ることはなかっただろう」

ツェペリ「とは言え、ワルプルギスを超えて初めて、君の望む幸せになるんだろうがな。……今は一時的なものだ」

ほむら「それが……何になるんですか?」

ほむら「結局、鹿目さんを魔法少女の運命に引き込んでしまったんですよ? 結局……」

ほむら「私がもっと強ければ……こんな状況にそもそもならなかったはずです……」

ツェペリ「…………」



ツェペリ「全てを敢えて差し出した者が 最後には真の全てを得る」


ほむら「……?」

ツェペリ「これが、わしが前の世界で理解したこと。……おまえはその資格を持っておる」

ほむら「全てを差し出す……? 真の全て……?」

ツェペリ「まぁ……だたの中年の戯言と思ってくれてもいいがね」

ほむら「…………」



主人公が作者の意に反して行動せざるを得ない時とか、 絵にも描かざるを得ない絵というのが出てくる。
これをぼくは『重力』と感じ、『重力』とは『運命』だと感じるのだ。  ――荒木飛呂彦

いつの間にかこんな展開になっちゃった。気付いたら。

続く


――次の日


杏子「なあ! オッサン! ツェペリのオッサン!」


杏子「あたしにもさぁ、『波紋法』とやらは可能か?!」

杏子「実はやってみたかったんだ! おせーて! おせーてくれよォ!」

さやか「あっ! あたしもやりたい! おせーてよぉ!」

ツェペリ「…………」

杏子「……」

さやか「……」

ツェペリ「無理だよ」

さやか「え~~~~ッ! なんでェーッ!?」

杏子「おいテメーッ なんでだよォー! なんでにはあたしらにはできないってんだよー! ズバァーっと言ってみろーッ!」




ツェペリ「ほむらはこうしてる今もわしの教えた『呼吸法』を連続してやっておる。特別な呼吸を意識せず昼も夜も起きている時も眠っている時も……」

ツェペリ「授業を受けている時も使い魔や魔女と戦っている時も続けるというのは大変なことなのだ」

ツェペリ「魔法という力。そして……ほむらは悲しすぎる過去と重すぎる未来への責任を背負っているからできるのだ。年齢を考えるとものすごい精神力なのだよ。これは!」

ツェペリ「波紋の『は』の字も知らなかった少女からここまで波紋を習得できたのは、体力や筋力を魔法で補うとかそういうのではなく、その精神力だからこそ!」

ツェペリ「君達には背負ってるものがいまいち軽いというのが自分自身でもよくわかっていよう」

さやか「う……そうかもしんない」

杏子「そうかもしれねぇ! でもあたしはみんなの力になりてえんだよ! あたしには借りがある! この気持ちわかるかってんだオッサンよぉ! テメ――ッ!」

杏子「それにあたしは人を間接的に殺しちまった十字架を背負っている! いまいち軽いだと? 自業自得だが心外だぜッ!」

さやか「この街のどこかに今も魔女がいると思うと! そいつはメチャ許せんよなァー!?」

杏子「なァー!? そうだそうだ!」

ツェペリ「とは言ってもなぁ」


杏子「頼むよオッサンよぉ!」

さやか「美少女二人からのお願いなんだよぉ? オジサンってばさぁ!」

杏子「びっ、美少女……照れるぜ///」

さやか「馬鹿はほっといて、お願い。オジサン! いや、ミスターツェペリ!」

杏子「馬鹿に馬鹿と言われる程プライドが傷つく瞬間はない」

ツェペリ「ん――……十分戦う力はあるじゃろうて。無理に学ぶこともあるまい」

さやか/杏子「ぐぬぬ……」



さやか「……い、いいもーん! ほむらに教えてもらうもーん!」

杏子「その手があったか!」

ツェペリ「やめておいたほうがいいぞォ~」

杏子「何でだ! あたしはほむらを信頼してるんだぜー!」

さやか「聞く耳持たずに行っちゃうもんねー!」





マミ「佐倉さん……すっかり元気になっちゃって……。子どもみたい」

まどか「ティヒッ、そうですね! なんていうか……隔たりが取れてスッキリしたって感じ!」

ほむら「生き返るだなんて非現実的すぎて……夢だったんじゃないかって思えてきます」

まどか「夢じゃないよ? ほら。わたしのソウルジェム」

ほむら「うん……」

まどか「わたしがワルプルギスで戦線で活躍できるように訓練するには時間がいくらあっても足りないよ!」

マミ「安心して鹿目さん。鹿目さんの武器は『弓と矢』……私と同じ遠距離武器」

マミ「しっかりと鍛えてあげられるわ! 大船に乗ったつもりでね!」

まどか「はい!」



まどか「ほむらちゃん。何度かループしてるってことはほむらちゃんもある意味ベテランだよね?」

ほむら「え? そ、そんなことは……」

まどか「わたしにも、さやかちゃんの時みたいに色々教えてね?」

ほむら「うん。いいけど……私、人に教えるなんて……あの時だって佐倉さんの戦い方の真似だったわけだし……」

マミ「そんなことないわ。暁美さんの教え方は、とっても丁寧だった。私が教わりたいくらい」

ほむら「そ、そんな……///」

まどか「ティヒヒ、照れてるほむらちゃんかわいい~。いや、ほむらちゃん先輩かな?」ギュー

ほむら「も、もう……///」



さやか「へい! ほむほむ!」

ほむら「え? 美樹さん……ほ、ほむほむ?! え、えっと……な、なんでしょう?」



杏子「かくかく」

さやか「しかじか」



ほむら「波紋を学びたい? 私から?」

さやか「オジサンが教えてくれないんだよぉ~」

杏子「頼むよほむら。何なら土下座してやってもいいよ」

マミ「何で土下座する人が上から目線なのよ……」

ほむら「そ、そこまでしなくても……」

さやか「おねがぁい!」

ほむら「うーん……」

まどか「やってあげてもいいんじゃないかな?」

さやか「ほら! まどかも言ってるし!」




マミ「頑張って。暁美さん♪」

ほむら「ン~……」

ほむら「……一時的になら」

杏子「ん?」

ほむら「一時的になら横隔膜を刺激して軽い波紋なら作れるようにできるかも」

杏子「マジすかッ!」

さやか「やってやって!」


ほむら「えと……、初めは少し苦しいでしょうけど……」

まどか「く、苦しいの!? だ、大丈夫なのそれ……?」

さやか「カモォ~ン! ほむほむちゃ~ん!」

ほむら「い、いきますよ!」

さやか「おーっ!」

杏子「wktk」

ほむら「え……えい!」

ドスッ



ほむら「………………」

マミ「あれ? 暁美さん、どうかした?」

ほむら「いえ……そ、その……ちょいとミスりました……。指がスベっちゃって……ごめんなさい! すみません美樹さん……」

まどか(ほむらちゃんがさやかちゃんに腹パンする光景……)

さやか「おおおお……」プルプル

ツェペリ「ほれ見たことか。ほむらはまだ修行中の身。失敗は目に見えとるわい。頼まれたら断れない性格だがのぉ」

マミ「わあ……苦しそう……」

まどか「大丈夫? さやかちゃん」

さやか「あ、あんたねえ~~~~。できないならできないって言ってくれないと……」

ほむら「す、すみません……できないってわけじゃあないのですが」

杏子「よし、次はあたしだ」

マミ「え?」



さやか「マ、マジかよ……正気? ヤバイよ? これ……」

杏子「ここで退いては名が廃るぜ!」

マミ「今の見て、よくやろうと思えるわね……」

ツェペリ「……なかなかいい覚悟だ」

杏子「だろ? さあほむら! 頼んだぞォ!」

ほむら「わかりました。今度こそ……!」

まどか(何か嫌な予感がするなって思ってしまうのでした)

杏子「いいぜーッ! ズバッとやってくれっ! おもいっきりなぁ! どんとこいッ!」

ほむら「行きます!」

杏子「おーっ!」

ほむら「ぱうっ!」


ドスゥッ



マミ「…………」

さやか「…………」

まどか「…………」

ツェペリ「…………」

ほむら「ほんとごめんなさい……」

杏子「おおおお……」プルプル

杏子「おかしいだろ……そこは……成功する流れだろ……」



ほむら「すみません。……少し、自信過剰になってました……」

ツェペリ「自惚れてはならないという良い教訓となったな」

まどか「ええぇ~……」

マミ「自惚れ……」

マミ「……」プルプル

まどか「あ、マミさんのトラウマが」

さやか「結局ほむらに腹パンされただけだったよ……」

ほむら「お腹じゃないです……横隔膜……のつもりだったんです」

さやか「つもりってあんた……」


杏子「あ゙、あ゙だしはあぎらめね゙ーぞ……ぢぎじょお……」

さやか「あたしだって……」

杏子「ぜってぇーに、波紋をマスターしてやるからな!」

ほむら「は、はぁ……」

さやか「ほむらに殴られたからには、意地でもほむらから学んでやる!」

ほむら「えぇっ!?」

杏子「ってことでオッサンはもういいぜェ――?! ……謝れば教わってやるぞ?」

ツェペリ「やれやれ」

ほむら「あ、あはは……」



まどか「あ、そういえばさやかちゃん」

さやか「うん?」

まどか「いいの? 上条くんのこと……」

さやか「え?」

ツェペリ「カミジョー……ああ、名前はほむらから聞いたことがあるが……」

ほむら「はい。美樹さんの好きな男の子です」

さやか「何言ってくれちゃってんの!?」

杏子「仁美って言ったっけ? そいつに宣戦布告されたんだっけ」

マミ「え? どういうこと? 私聞いてないわよ?」

杏子「言ってないもん」

マミ「へぇー、オッたまげたわ」



杏子「あたしあの時盗み聞きしてたんだけど、一日自分の気持ちに向き合えって言われたんだ。そして明日になれば仁美が上条てやつに告る」

さやか「おい盗み聞きってなんだおい」

まどか「それで……さやかちゃんどうするの?」

さやか「ど……どうするったって……あ、あたしは別に……そんな……」

ほむら「ツェペリさん。大人の意見をお願いします」

ツェペリ「そうだなぁ……」

さやか「えー……中年のオジサンに若い子の何がわかるってのさー」



ツェペリ「わしは……若い頃結婚していた。しかしある事情で家族を捨てた。それでも自分の運命には納得していたよ」

マミ「色々事情があったようね……予想外に重い感じの」

ツェペリ「君の一番怖いことは、死ぬことや魔女になることではなく、振られることなんじゃないか?」

ツェペリ「自分の気持ちに素直になれずに後悔するほうが、そのままずるずると生きていくことの方が怖いと思わんのか?」

さやか「…………」

ツェペリ「これは君だけの問題じゃあない。君がその後悔によって絶望し、魔女になることをほむらは案じておったのだ」

さやか「ほ、ほむらが……」





ほむら「私……恋愛したことないからよくわかりませんけど……後悔だけはしないでほしいんです」

まどか「前の時間軸では恋慕がどうこうでさやかちゃんは魔女に……ってほむらちゃん言ってたっけ」

杏子「さやか。魔女になるってすごい気持ち悪い感覚だぞ。あたし実体験したぞ」

マミ「私……佐倉さんが魔女になって、思いを伝えられないままってのは、悲しすぎるってわかったわ」

マミ「生き返ったからよかったものの……ねぇ、佐倉さん」

杏子「…………ふんっ」

さやか「………………」



さやか「……わかったよ」

さやか「実際に死んだからこそ、余計な感傷を与えるのもどうかって気も強くなるけどさ……」

さやか「オジサン。あたし……告白してくる! 明日って今さ!」

ツェペリ「うむ。それがいい」

杏子「昨日の今日なんだから当たり前だろうそれは」

さやか「思い立ったがすぐ行動!」

まどか「い、今から?!」




さやか「今から! そんじゃ!」

杏子「おう。当たって砕けろだ!」

さやか「砕ける前提!? ちょっと期待してもいいんじゃないかな?!」

まどか「がんばってね~」

ほむら「…………」

ほむら(どの時間軸でもウジウジして何も出来なかった美樹さんが……ツェペリさんの説得のおかげか、一度死んだという実感からか……わからないけど)

ほむら(結果はどうであれ、美樹さんはこれで後悔しない……んじゃないかな)

マミ「…………」

マミ(後輩の恋の相談を受けた時の対応のイメトレはしてたんだけどなぁ。ツェペリさんにお株取られちゃった)




さやか「…………まあ、色々ありまして」



さやか「気持ちは嬉しいけどさやかを異性として見ることはできない、だって……あはは……まいったね」ポリポリ

杏子「おまえ男と思われてたのか……!」

さやか「なんでそうなるんだよ! 『友達以上恋人未満』みたいな意味合いだ! あははー! 今度から顔合わせ辛ぇ~!」

ツェペリ「まあ、気を落とすな。君はよくやった」

さやか「あざーっす。そんな落としてないけど」

さやか「フゥ~~~……。初めて……失恋しちゃったぁ~。けど思ってたよりなんてこともないね」

マミ「吹っ切れたの? それとも無理矢理抑えてるの?」

さやか「いえいえ、さっぱりしたって感じです。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーにねっ!」

マミ「女の子が公衆の面前でそーゆーこと言うもんじゃありませんっ」

さやか「さーせん」


さやか「でも、まぁ……振られたら振られたで仕方ない。もういいんだもん! まどかがあたしの嫁になるんだもんっ!」ギュッ

まどか「さ、さやかちゃんってば……も~」

ほむら「…………」ムスッ

マミ「……あら、ヤキモチ?」

ほむら「ふぇっ!? ち、違います!」アタフタ

さやか「ほほ~う……可愛いとこあんじゃん。よし! ほむらもあたしの嫁に……」

杏子「尻軽野郎」

さやか「さやかちゃんは野郎じゃない! 乙女だ!」



杏子「あたしを嫁にしろ!」

さやか「えぇっ!?」

杏子「嘘」

さやか「乙女心を弄ぶなぁっ!」



ツェペリ「さやかは君が思っていた以上に強い精神を育んでいたようだ」

ほむら「そうですね……。うん、安心しました」

ツェペリ「……一番成長したのはほむらだがな」

ほむら「……え?」

ツェペリ「わしと出会う前のおまえが、さやかや杏子の鳩尾を殴れたか?」

ほむら「それは……無理ですね」

ツェペリ「フフ、だろう? 師匠として、弟子の成長を実感できる時ほど嬉しいことはない」

ほむら「……えへ」



さやか「失恋終了! これで心おきなくワルプルギスと戦える!」

さやか「訓練がんばるぞー!」

まどか「じゃあビギナーなわたしはもっと頑張るよ!」

杏子「それじゃああたしはもっともっ……」

マミ「佐倉さんは教える側に立ったら?」

杏子「お、おう。……じゃあさやかを痛めつけるか!」

さやか「痛めつけるメイン!? 鍛えろよ!」



ツェペリ「……さて、波紋の修行も大詰めってとこだな」

ほむら「はい!」


さやか「ぜってぇーにワルプーを滅ぼしてやるさー! うはははー!」

杏子「はっはっは!」




杏子(……なんかあたし。この前まで自分の事だけ考えて生きてきた……でも今、メラメラとわきのぼってくるこの気持ちは……)

杏子(これが「仁」てものか。ほむらの思いのために戦ってやるさ……)

杏子(ワルプルギスだろうが何だろうが……絶対に倒す!)




本日はチト短くて申し訳ないけどここまで。

次回、ワルプー戦。その次、最終回。って感じ。今週中に終わるといいなぁ



――ワルプルギスの夜当日


ほむら(ついに……ついにこの時がきた)

ほむら(波紋を学んでいる時……私は、もしここまで努力してだめだったら……とネガティブな思考を持っていた)

ほむら(けど今は、奴に……とにかく全力を叩き込んでみたくて仕方がない……!)

ほむら(私は……鹿目さんを守る私になる資格を得たと自覚がある! ワルプルギスを超えて初めて、守る私になったと胸を張れる!)

マミ(私は、先輩であるはずなのにいつも迷惑をかけてきた。……名誉を挽回しなくちゃね)

マミ(暁美さん達が本来歩むべきだった幸福の未来。salti reali……真実へ踏み出そう。運命を乗り越えるのよ)

まどか(この日のために……わたしはほむらちゃんを守るわたしになることを願って必死に訓練した)

まどか(そして今……みんなで力を合わせて、幸せを掴む!)


ツェペリ(わしは……わしの全てをほむらに教えた。だからこれから何が起きようと、決して悔いはない)

ツェペリ(ほむら達なら……この先どんな困難でも超えられると信じておる。そう、わし何かがいなくてもな……)


杏子「あたし……これが終わったら学校に行くよ! 頭悪いって他のヤツにバカにされるのもけっこういいかもな……」

さやか「みんなでアツアツのお好み焼きも食べたい! でっかい鉄板で焼いた本場の広島風だ! マヨネーズもたんとかけてもらおう!」

杏子「関西風だろ!」

さやか「広島風がいい!」

さやか/杏子「ぐぬぬ……」



ほむら「……来る!」



ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハ」


まどか「で、でかい……!」

マミ「何てこと……ビルが浮いている……!?」

ツェペリ「……ほむらの言った通り、奴を倒すには骨が折れそうじゃわい」

ほむら「それでは……作戦を確認します」

まどか「うん!」


杏子「お好み焼きとコーラって合うよな」

さやか「ゲゲ! お好み焼きにコーラ……気持ち悪いど!」

杏子「何だとテメー。そーゆー否定は試してから言えよ。あと舌噛んでんじゃねー」




ほむら「……佐倉さーん」

杏子「広島風食べたことないからわからんけど、あたしは焼きそばは焼きそばで食いたいんだよ」

さやか「それでも広島風が食べたいんだよあたしは」

ほむら「佐倉さんッ!」

杏子「もんじゃ!」

さやか「その返答はシュールすぎる」

マミ「緊張感がないわね」

杏子「わかってるよ。作戦だろ作戦。まずあたしが――」


今日はここまで


今回はこれだけしか書けなくて申し訳ないです。

帰省していたということもありますが、不慮の事故で書き溜めデータが消えちゃいました。

現在、記憶を元にボチボチとリメイクしているところです。


おとなはウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです

なんとなくなんだけど、
杏子「巻きますか、巻きませんか」 の人?



――
――――


杏子「ロッソ・ファンタズマッ!」

マミ「じゃあ、これを持って」

杏子s「うい」

杏子s「それじゃあ行ってくる」


~~~~~~~~~~

ほむら「まず、佐倉さんは分身して、巴さんのリボンを持って飛び回ってください」

ほむら「そして、たくさんのリボンが絡み合うように……」

~~~~~~~~~~



杏子「よし……こんなもんだろ」


――リボン同士が結び合い、蜘蛛の巣のように縦横無尽に伸びている。

ワルプルギスを鳥篭の中のインコのように、リボンで囲んだ。リボンの結界である。


使い魔「――」ズッ

杏子「おいおい。あたしみたいに考えないで飛んでるとリボンに当たるぞ」


バチィッ

使い魔「!」

杏子「ほれ見たことか。痛いだろ」



――多量のリボンその全てに波紋が通っている。そのリボンに触れた使い魔は波紋のダメージを喰らうのだ。

すなわち、波紋の電気柵!


――地上


使い魔「――」

さやか「そりゃ!」

ザシュッ

さやか「マミさんのリボンには油が染みこませてある!」

ツェペリ「コォォォ……」

ほむら「コォォォ……」

まどか「そこにほむらちゃんとツェペリさんの波紋が高圧電線のように走ってるんだよ!」

マミ「名付けて直径200mバッリエーラ・イル・ソーレ(太陽の結界)ッ!」

さやか「マミさんはブレないね」

ツェペリ「――しかし、魔女を攻撃するためではない」

ツェペリ「よし、ほむら。後を頼む」

ほむら「はい!」



~~~~~~~~~~~~

ほむら「結界が張れたら、佐倉さんとツェペリさん。私達の2:4に分かれます」

ほむら「私は結界に波紋を流し続けて、佐倉さんは待機。鹿目さんと巴さんは遠距離攻撃。美樹さんは私達の護衛をお願いします」

~~~~~~~~~~~~



ビシィッ


ツェペリ「綱の上で修行した時のことを思い出すなぁ」



――ツェペリは、リボンに流れる波紋に対する波紋を足に流す。

そうすることで、リボンの結界の上を渡ることができるのだ。

空を飛ぶことのできない者へのワルプルギスの夜直通ルートがこのリボンだ!


ツェペリ「ホッ、ホッ、ホッ……」

トットット


さやか「すげぇ……あのオジサン曲芸師みたいだ……」


~~~~~~~~~~~~~~~~

ほむら「佐倉さん。ツェペリさんが来たら、ワルプルギスの顔面に、攻撃をしかけてください」

ほむら「それを合図として、私達で集中砲火を仕掛けます! そしてツェペリさんの波紋でとどめッ!」

ほむら「私はリボンに波紋を流すお仕事なので攻撃に参加しません。できません」

~~~~~~~~~~~~~~~~


杏子「オッサンが来る……。よし、そろそろだな」

杏子「ロッソ・ファンタズマ一斉攻撃ィィィッ!」

ドグシアァッ


さやか「いったッ!」

ほむら「攻撃開始ッ!」



マミ「よく狙って。佐倉さんとツェペリさんに誤射しないように……」

まどか「はい!」

マミ「狙撃(シュートヒム)!」

バギュゥ――z_ンッ!

マミ「……魔女だからヒムじゃないわよね」

まどか「発射(シュートァー)ッ!」

バシュゥ――z_ンッ!

さやか「ラストショット!」 

バヒュゥ――z_ンッ!

マミ「え!?」

さやか「マミさんにも秘密の奥の手だよ。この剣身を飛ばすのは……もっとも一本しかないから無くしたら作り直さなくちゃいけないんだけどね」

ポチャン

さやか「あ、ダメだ届かね」

ほむら「…………」



杏子「――と、まぁ色々あってだなぁ」

杏子「あたし達がワルプルギス直通の道を切り開いたのは……」

ツェペリ「わしが直接ワルプルギスに波紋を流し込むためだ!」

杏子「遅いぞオッサン! 使い魔退治もこんな間近で不快な笑い声聞くのも辛いんだぜェ――ッ」


バァ ――――z____ ンッ


杏子「まどかの矢が当たったッ!」

ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハ」

杏子「オッサン! やれッ! 追い打ちだッ!」


ツェペリ「コォォォォォォ」

クルッ

ツェペリ「波紋乱渦疾走(トルネーディオーバードライブ)ッ!!」

バァッ



ドギャンッ !

杏子「むっ! 足が軸になってドリルのように……」

ギャルギャルギャルギャルギャルギャル!

杏子「回転による貫通力でワルプルギスの顔面に穴をブチあけてやれッ!」

ワルプルギス「アハハハハハハハハ…」


キュゥ――ン


杏子「……ッ!」

杏子「マズイ! オッサン! 退けッ!」

グイィッ

ツェペリ「くっ!」

杏子「そこにビルに飛び移れェ――――ッ!」



ズキュゥ――――z____ ンッ!


ほむら「ワルプルギスの攻撃……炎の矢ッ!」

まどか「うわあぁッ! す、すごいッ!」

ほむら「ツェペリさんと佐倉さんが攻撃の標的。だから矢はそのままどっかへ飛んでいく……だけど……」

さやか「だけど……なんてパワーとスピード……! まともにくらってたらひとたまりもないな……!」

マミ「二人はすんでの所で避けれたようね……!」

まどか「魔女が攻撃したってことは……今の攻撃……」

ほむら「……倒せなかった。ということになる」





杏子「……ぐっ! ちくしょう!」

杏子「折角張ったリボンの結界が台無しじゃねぇか……。蜘蛛の巣に石を投げ込まれたみてーにぽっかりと穴が空いちまった」

杏子「くそったれ魔女め! 何て攻撃だッ!」

ツェペリ「杏子! 大丈夫か!」

杏子「左の膝から下が吹っ飛んじまったよ。だが大丈夫だ」

ツェペリ「……! すまない。わしを助けるために……」

杏子「礼なんて後で嫌になるほど聞いてやる! それより波紋はどうなんだよッ!」

ツェペリ「……ダメだった」

杏子「なん……だと」



杏子「どういうことだ! 波紋強ぇーんじゃねぇのかよ!」

ツェペリ「波紋が流れていかないのだ!」

ツェペリ「巨体で頑丈なボディ故に! 体表全てがアースのように、波紋が分散してしまう!」

杏子「おいおい……マジかよ。どうしろってんだよ……」

ツェペリ「ひとまず退却じゃ。策は残されていないわけではない」

杏子「そうか……。早いとこさやかに足を治して貰わないとな……」




さやか「――それで……次はどうするのさほむらッ!」

ほむら「……今度は私が波紋をぶつけに……」

マミ「またリボンの結界を張り直さないといけないわ。まずは小休止よ」

…ォォォ


まどか「あれ……? 何の音?」

ほむら「…………?」

ゴオォォォォォ

まどか「あれは……! ほ、炎の矢だッ!」

マミ「な……ど、どうしてッ!?」



さやか「軌道を変えやがったッ!?」

ほむら「Uターンしてくる!」




マミ(テレパシー)『二人とも!』

杏子「マミからのテレパシー!?」

ツェペリ「どうかしたのか?」


マミ(テレパシー)『炎の矢が戻ってくるわ! ツェペリさんをつれて逃げて!』

杏子「何だって! あの矢が戻ってくるッ!?」

ツェペリ「何ィッ?! た、確かにこっちに向かってきている……!」

杏子「くっ……だ、だが使い魔が邪魔だ……! 逃げるにも厳しいぜッ」

ツェペリ「いや! 逃げる必要はない! こっちに来るって軌道がわかっていれば避けられる!」


ドゴォンッ!


杏子「!?」

ツェペリ「な、何の音だッ?!」



さやか「炎の矢が……浮遊しているビルに……!」

まどか「外した……?」

マミ「まさか……あのワルプルギスがそんなこと……」

ほむら「……ッ! いや、狙い通り! 奴はわざとビルを狙ったッ!」

まどか「ビルの瓦礫が……魔女の方へ……いや、杏子ちゃん達に飛んでいく!」

まどか「う、撃ち落と――」

マミ「ま、間に合わないッ!」

ほむら(時を止めても……リボンが切れてしまったから行く術がない! まずい……ッ!)


使い魔「」ブシャ

使い魔「」メキョッ


ツェペリ「おおおおッ! も、ものすごい破片飛沫の広がりとその爆発さながらのスピード!」

杏子「使い魔が潰されていく! や、やばい! やばいぞこれはッ!」

杏子「飛んで避けるかッ!? 屈んで避けるかッ!?」

ツェペリ「だめだ! どうしても広がり飛んでくる破片のどれかにあたってしまうッ!」

ツェペリ「コォォォォォォォォ!」

杏子「オッサン! 波紋してる場合じゃない! 負傷覚悟で逃げるぞ! 屈め!」

杏子「あ、いや飛ぶんだ! 飛んで避ける方がいい!」

ツェペリ「いいや、これしかない! わしの後ろにつけぃ!」バッ

杏子「お、オッサン何を……!」


ツェペリ「当たる面積を最大にして波紋防御!」


グォォォン

杏子「オ、オッサン?!」

メメタァッ

杏子「そ、そんな……! あ、あたしの『盾』にッ?!」

バシバシバシバシ

ツェペリ「うがあああッ!」

ドバババ

杏子「んな無茶苦茶なッ! あたしを庇うために……!」


ツェペリ「足を負傷したおまえに……これ以上の負傷……は……グハッ!」

杏子「ち、ちくしょう! ひ、退かなくては!」ガシィッ

杏子「重い……! 瓦礫が肉に食い込んでるからなおさら重い……!」

――
――――

ほむら「ツェペリさん! ツェペリさんッ!」

ユサユサ

ツェペリ「ゲフッ…」

マミ「な、なんてことを……全身ズタボロじゃない!」

杏子「どうしてあんなこと……!」

ツェペリ「かっこつけたかった……じゃあダメかな」

さやか「喋らないでオジサン! 今、治癒魔法で治してあげ……」

パァッ

さやか「る……?」

まどか「……え?」

さやか「治らない」

まどか「さ、さやかちゃん?」


ほむら「…………」

マミ「……どうして?」

さやか「どうして治らないんだよぉぉぉぉぉっ!」

まどか「お、落ち着いて、ゆっくりやれば……!」

さやか「あたしは腕がもげても足が吹っ飛んでもお腹に穴があいても、絶対に治るのに!」

杏子「おいさやか! 手ェ抜いてんじゃあねーだろォ――なッ! 早く治――」

ツェペリ「その必要はない……」

杏子「!」

ツェペリ「それは、わしが……既に死んでいるからだ。死んでいる者は治らない」

まどか「し、死んでいる!? ど……どういうことなの!?」

杏子「オッサン! おい! 意味わかんねーぞ!?」



ツェペリ「ほむらよ……手を……」

ほむら「…………はい」スッ

ガシィッ


まどか「ツェペリさん……何を……」

ツェペリ「おまえはよく頑張った。たった一ヶ月で……。後は……この世界のことは……この世界の者が解決するのだ」

マミ「な、何を言ってるの……? この世界? どういうこと……」

ツェペリ「わしが託すのは……この世界の未来に託す魂……人間の魂じゃ!」

ツェペリ「一度失った波紋エネルギーを……何故か生き返ったこの世界で再び蓄えた……その全てをッ!」

ツェペリ「わが……究極の奥義……ほむらに捧げる!」

ほむら「うぅ……ツェペリさん……!」

ギャンッ

ツェペリ(二度目……か。この技を二回目を使うチャンスがくるとは思わんかった)





ツェペリ「究極! 深仙脈疾走 (ディーパスオーバードライブ)!」

ボッ ゴアァ

ほむら「!」

ゴアッ


ツェペリ「フフ……ほむら。わしの生命エネルギー……」


ツェペリ「全て……捧げた……ぞ……」

ツェペリ(とは言え……『一度目』の時よりも捧げたエネルギーは少ないがな……これでは究極とは言えん……か)

杏子「オッサン! おい、オッサン! さやか! 手ぇ抜いてんじゃあないのか! さっさと治せよ!」

さやか「あり得ない……どうしてあたしの魔法が……死んでるって……どういうことなんだよ……」

マミ「こ……こんな! こんなこと!」

まどか「そんなのってないよ……! 残酷すぎる!!」ポロポロ

杏子「オ……オッサン!」

さやか「ツェペリのオジサぁ――ン!」

ツェペリ「…………」




ほむら「そ、そんな……そんな……!」

ほむら(感じる……ツェペリさんの手から伝わる……波紋が、生命エネルギーなくなった……)

ほむら(冷たい消滅……! 「終わり」の感覚……!)

ほむら「やだよぉ……ツェペリさん……!」

ツェペリ「……気にするな。わしは、そうなるべきだったところに戻るだけじゃ。元に戻るだけ……ただ、元に……」

ほむら「あなたがいなくなったら……エグッ、私達は、どうすれば……グスッ、いいのですか……? ……ウック」ポロポロ

ツェペリ「…………」

ツェペリ「……ほむら……き……きさま……大……バカ者が……悲しんどる場合! 今のおまえは!」

ほむら「……!」



まどか「き、消えた……?」

マミ「嘘……幽霊のように……」

杏子「魔女に感謝……とか言ったな。オッサンは……魔女の生まれ変わりか何かだったのか……?」

杏子「理解を超えているが……もしそういう類なら、死んで……消えても納得はする」

さやか「既に死んでたとか……全然わからんなかったけど……そういう、ことだよね」

さやか「……はは、何でこんなに冷静なんだろうね。オジサンが死んだって言うのに」

マミ「……逝ってしまったようね。彼の言う『元』の世界に導かれて……」

まどか「……ううぅ」

ほむら(ツェペリさん……)

ほむら「…………」グシグシ


ほむら「…………」


ほむら「同じ傷口を狙うッ!」

杏子「うおっ!?」

さやか「な、なんだいきなり!」

ほむら「奴に一斉攻撃を与えた場所に! もう一度! 同じ傷口に叩き込む!」

まどか「お、同じ傷口……?」

マミ(暁美さん……。……そうね。悲しんでいる暇はないわ)

杏子「だが……傷口も何も、あのクソッタレ魔女にまともなダメージを与えられなかったんだぞ? 手応えでわかる」

さやか「それに……同じ箇所を攻撃するってんなら……あたしは今の攻撃に参加してないし、同じも何も、わからない……」

マミ「私と鹿目さんは遠距離攻撃だから、頭とか手先とか部位を狙うならまだしも、せめてわかりやすい目印でもないと……」

まどか「わたしの矢は魔法で作ったものだから……刺さっても、すぐに消えちゃうし……」


ほむら「……よく見て」

ほむら「双眼鏡」スッ

まどか「え? 覗くの? うん、わかった……」

ほむら「額の辺り、よく見て。目も鼻もないからちょっとわかりにくいかもしれない」

まどか「……あ!」

マミ「どうしたの鹿目さん!?」

まどか「眉間……いや、眉はないけど……その辺りに、よく見たら傷がある……!」

さやか「え、マジで?」


ほむら「直前に射った鹿目さんの矢は! 一瞬だけ、矢先が界面活性剤のように魔女の顔にくっつきました!」

ほむら「その瞬間に! ツェペリさんの波紋乱渦疾走の回転蹴りで矢を『押し込ん』でもらったのですッ! ドライバーがネジを材木にねじ込むように!」

ほむら「結論から言うと……ワルプルギスの眉間に! 矢尻の分だけくい込み、えぐれた傷があるということ!」

ほむら「人間の皮膚でいう真皮にちょこっとめりこんだ程度に過ぎないけど……とにかくそこをもう一度狙います!」

さやか「よ、よし! わかった! 何にしてももう一度だなッ! 使い魔の行動パターンとかは覚えているッ!」

杏子「グリーフシードで浄化は完了したぜ! あたしはいつでも行けるッ!」

マミ「とにかく眉間を撃てばいいのね! なら大丈夫! 任せて!」



ほむら「傷が深まった所に波紋をぶつけてみせるッ!」

まどか「…………」

まどか(……いつからだろう)

まどか(ほむらちゃんは……あらゆる他人に恐怖心というか遠慮というか控えめというか……)

まどか(そういうのを持ってて、おどおどした性格だった。小動物のようだった)

まどか(わたしも初対面の印象は「守ってあげたくなる子」だった。実際はずっと守られてきたけど……)



シュルル

マミ「リボンを修復したわ。これでいい? 暁美さん」

ほむら「はい」

ほむら「巴さん。援護射撃と鹿目さんの護衛をお願いします」

マミ「ええ、わかったわ」

ほむら「鹿目さんは、リボンに魔力を流してワイヤーみたいに硬くして。そして、さっきと同様に佐倉さんの攻撃を合図に一斉攻撃!」

まどか「う、うんっ!」

まどか(スポーツをすると性格が変わるとは聞くけど……とにかくほむらちゃんは……この一ヶ月で大きく印象が変わった……!)




ほむら「佐倉さんは飛んで、私と美樹さんはそのワイヤーを綱渡りの要領で駆け上がって、ワルプルギスに接近します」

杏子「おう!」

さやか「つ、綱渡り!? そ、そんな無茶な……」

ほむら「ツェペリさんは、波紋があったからリボンにくっついてその上を安全に走れました」

ほむら「しかし事情は事情! できなくてもやってください! 途中までなら、落ちそうになっでも時間を止めて助けますから」

さやか「わ、わぁったよ! やってやんよ!」


まどか(転校初日の緊張した顔、臆病な態度、わたしが契約する時の震えた声。その全てが、夢のだったかのよう……)




ほむら「一斉攻撃再開ッ!」

ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハ」



杏子「行くぞオォォォォッ!」バッ

さやか「うわっ! こ、怖ッ! ちょっと揺れてる! うおわッ! えぇい南無三ッ!」ダッ

ほむら(これで……全てを決める!)ダッ



マミ「……そろそろね。行くわよ! 鹿目さん!」

まどか「はいっ!」

マミ「ボンバルダメントォッ!」

まどか「スタ――ライトアロォ――ッ!」

ドギャンッ! ドギュウウウゥゥ――z__ン


まどか(マミさんやツェペリさんの後ろを歩いていたほむらちゃんが今、先頭にたってわたし達を引っ張る程に逞しくなった)

まどか(これで……全てが決まる!)




杏子「最後の審判ッ!」

さやか「スティンガァ――ッ!」

ボムギ! ズギャンッ!



ワルプルギス「アハハハハ」

キュィ――

ほむら「!」

さやか「やばいッ!」

杏子「奴の攻撃がくるッ!」


ズキュゥ――――z____ ンッ!



杏子「うおおおおおおおッ!」

さやか「うああああああッ!」


ドサッ ドサァッ


まどか「さやかちゃん! 杏子ちゃん!」

マミ「二人とも! 大丈夫!? こ、ここまで吹っ飛んでくるだなんて!」

杏子「ふ――、だ、大丈夫だ。武器とリボンが盾になって何とか……な」ムクリ

さやか「あの炎の矢……そのままの意味で骨が折れるね。指が焼き切れたりとかしたけども」

杏子「スマナイが……また治してくれ。今のままじゃゾンビを名乗っても通っちまうよ」

さやか「あたしの後でね」ズギュンッ



まどか「ほ、ほむらちゃんはッ!?」

マミ「……いるわ。あそこに」

さやか「あいつさァー……あたしらでワルプルギスの注意惹かせてちゃっかりとさぁー」

杏子「敵を騙すなら味方からとは言うが……何で黙ってしちゃうかねぇ」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハ」


ほむら「コォォ……」

ピッタァァ




まどか「ほむらちゃん……! ワルプルギスに張り付いているッ!?」

マミ「くっつく波紋ってやつね……!」

まどか「あっ……! 見て! わ、ワルプルギスの白い顔に……赤い亀裂が……ッ!」

杏子「ワルプルギスは、二度の総攻撃を受けて、人間でいう皮下細胞がむき出しになっている状態になっている!」

マミ「そこから波紋を……! 外部がダメなら内部から! これは賭けになる!」

さやか「でも……ほむらには、オジサンの波紋パワーが受け継がれている! 行ける!」

杏子「行けェ――ッ! ほむらァ――ッ! 波紋を流し込め――ッ!」

まどか(ほむらちゃん……ッ!)



ほむら「人間讃歌は勇気の讃歌……」


ほむら「勇気とは……恐怖を我が物とすること」

ほむら「全てを敢えて差し出した者が真の全てを得る」

ほむら「巴さん、美樹さん、佐倉さん、鹿目さん。そして……ツェペリさん」

ほむら「奴を倒すためなら……私は……『全て』を敢えて差し出せます。……もう、何も怖くない」


ほむら「私の肉体に残された全ての力……。ツェペリさんから託された魂の力……そのすべてを一気に放出する!」

ほむら「みんなから受け継いだ人間の魂……私からみんなに託すのは、未来への遺産……!」

ほむら「夜を明かして……みんなに暁を……陽の光を見せたいから!」



カチッ

ほむら「時は止まった」

ほむら「時が止まっている間に、体勢を整え――波紋のエネルギーを蓄える!」

ググッ…

ほむら「肉体を強化させる魔法で、呼吸に関わる筋肉……呼吸筋を限界まで強化ッ!」

ほむら「ワルプルギスに波紋を与える際、より深くに流すために、ねじ込む程の腕力をッ! 途中で折れないように骨も強化ッ!」

ほむら「最大の魔力ッ! 最強の波紋ッ! これが、私の最高のパワーッ!」

ほむら「夜を明かすのは太陽の波紋ッ! これが私の全ての力だッ!!」


ほむら「コォォォォォォォォォ!」

ほむら「震えるぞハートッ! 燃え尽きるほどヒートッ! 刻むぞ血液のビートッ!」


――時は動き出す。







ほむら「山 吹 色 の 波 紋 疾 走 (サンライトイエローオーバードライブ) ッ!!」






カッ



まどか「うわっ!? ま、眩しいッ!」

さやか「あの黄色い……太陽のような輝きは!」

杏子「波紋疾走がぶつかってはじける輝きだ!」

ギュキュゥ――ン

マミ「やったッ! この音! ブ厚い鉄の扉に流れ弾丸のあたったような音……いつも聞く『波紋』の流れる音よ!」




ワルプルギス「AAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHh!」

ボゴボゴボゴ


まどか「わ、ワルプルギスの頭が……溶けている……!」

さやか「そのまま……そのまま溶けきれ! 溶けて顔面の中をシェイクされろォ――ッ!」



――人間とて強い直射日光をあびれば火傷で皮フが水ぶくれになる。

ほむらが普段の波紋を与えれば普通の人はしびれて気を失う程度であろう。

しかしほむらが魔女の内部に直接与えたのはその数百倍! 魔女の体が液体化しはじめ気化しはじめた――



ワルプルギス「――――」

ボゴォッ

杏子「魔女の顔面が破壊された!」

マミ「……魔女の体も消えていく……!」

まどか「黒い空も……一緒に……」




パァ――z__ッ!


杏子「空が晴れた……見ろよこの快晴……」

マミ「今にも落ちてきそう……」

まどか「魔女が……消えた……!」

さやか「倒したんだ……魔女を……!」

マミ「勝ったのよッ! ワルプルギスにッ!」

さやか「ついにッ! ついに倒したッ!」

まどか「ほむらちゃん……! やったんだね……! ほむらちゃん!」ウルウル

杏子「あ、あたし! あたし! ほむらを迎えに行ってくる!」




――――パキッ



ほむら(き……切れた)



ほむら(私の体の中で何かが切れた……決定的な何かが――)

ほむら「…………」

ほむら(そっか……私は……死ぬんだ)

ほむら(私の全てを……私の命のエネルギーを使い果たしたから……命にヒビが……)

ほむら(……死、か)

ほむら(死ぬことは別に……恐怖じゃない……)

ほむら(私はついに、鹿目さんを……みんなを救えたんだから……)




ほむら(ありがとう……ツェペリさん)

ほむら(巴さん。美樹さん。佐倉さん……。鹿目さんを……見滝原をよろしくお願いします)

ほむら(お父さん、お母さん。入院や一人暮らしでお金ばかりかけて……親不孝な娘でごめんなさい)


ほむら「そし……て……」


ほむら「――幸……わ、せ……に……まど……」


ほむら「…………」



ガシッ


杏子「おいおい、変身が解けてやがる」

杏子「おい起きろ。気が抜けたんでマジに寝ちまったのか?」

杏子「へへっ、みんなが待ってるぜ。寝るのは後にしろよ。ほむらっ」

杏子「おーい」

杏子「……」

杏子「……ほむら?」

杏子「…………」





コポコポコポ


カチャ…


マミ「はい、紅茶のおかわり」

ほむら「あっ、ありがとうございます」

杏子「このケーキ、うめぇだろ? あたしのお気に入りさ」

ほむら「はい。苺が甘酸っぱくて……」

さやか「転校生、ほっぺにクリームついてるよ!」

ほむら「え? あ、ほんとだ……」



マミ「ふふ……慌てなくていいのよ?」

さやか「そうだよ。何たって、マミさんはたくさんのケーキを所有してるんだから!」

杏子「だからどんどんと脂肪が……」

マミ「さ、く、ら、さん?」

杏子「う……。じょ、冗談だよ」

さやか「杏子はお菓子ばっか食べてるのに痩せてるよね」

杏子「食べても太らない体質なんだよね」

マミ「あなたは今、多くの女性を敵にまわしたわ」

ほむら「あはは……」

ほむら「…………」



ほむら「あの……一つ、聞いてもいいですか?」

さやか「?」

ほむら「えっと……ちょっとした好奇心で尋ねるんですが……」

ほむら「もし……もしですよ。もし、タイプリープ系のお話で……」

ほむら「自分自身が主人公に、もとい、時間遡行者になったとすれば……」

ほむら「何度も何度も絶望して、苦しんで、悲しんで」

ほむら「そういう立場になったら……どうします?」

さやか「…………」

マミ「…………」

杏子「…………」


さやか「んー……そうだな。あたしは『結果』だけは求めないかな」

さやか「結果だけを求めると人は近道をしたがる……近道をした時、道標を見失うかもしれない」

さやか「それこそ、友達だったはずなのに友達でなかったり、仲間と敵対したりしてね」

マミ「大切なのは『道標に向かおうとする意志』じゃないかしら」

マミ「向かおうとする意志さえあれば……またやり直さなくてはいけなくなってもいつかは辿り着ける」

マミ「向かっているんだから。……見当違いかしら? ふふ、言うだけなら簡単なんだけどね」

杏子「仲間の無事、戦力、そして成功……全てを祈り続ける。時間遡行は祈りの旅だ」

杏子「急がば回れっていうことわざもあるしさ、色んな道を祈りながら進もうとする意志が大事だと思う」

杏子「あー、なんていうかな? 『まわり道こそが最短の道』だったりすることもある。まるで迷路さ」



ほむら「…………」

ほむら「うらやましい……」

ほむら「私は……大切な人を守りたいと思ってた。鹿目さんと出会ってから……ずっと」

ほむら「かつてはみなさんが言ったような意志を抱いていた……けど、繰り返していくうちに崩れていく……」

ほむら「私という弱い人間は……なにをやっても途中でダメになっちゃう」

ほむら「幾度か諦めちゃってもいいかなって……別に誰かに怒られるわけでもないし」

ほむら「そう、思ったこともあって……」

ほむら「私は……」



さやか「そんなことはないよ……ほむら」

ほむら「え?」

杏子「あんたは立派にやったんだよ。意志は同じさ」

マミ「あなたが私のお弟子さんになったばかりの時に抱いていたその意志……今、ようやく報われた」

ほむら「な……なんで……巴さん」

ほむら「なったばかりの時って……なんで知っているんですか? 話しましたっけ……?」

ほむら「……? そ、そういえば……私、なんでここにいるの?」

ほむら「鹿目さんは……どうしてここにいないの?」

ほむら「……そ、そうだ。行かなくちゃ……私は行かなくちゃいけないんだ……」


ほむら「でも……でも……どこへ? 私は……どこへ行かなくちゃいけないの?」

ほむら「わからない……私は……私はどこへ行けば……」

杏子「……全く、しょうがねぇ奴だな。教えてやるよ。……戻るんだ」

ほむら「戻る……?」

杏子「そう。あんたがいるべき場所に、あるべき世界にな」

さやか「さ、外に停まってるバスにちゃっちゃと乗っていきなよ」

さやか「あんたはそれに乗ってここに来たんだ」

ほむら「私が……バスに……?」


マミ「ここは終点……。誰にも戻ることはできない」

マミ「……ただし」

マミ「あなたは往復の切符を持っている」

ほむら「あ……」

ほむら「あなた達は……! そうだ……! あなたはッ!」

ほむら「巴さん。あなたは私を庇って亡くなった『時間軸』の……!」

マミ「暁美さん……あなたは立派にやったのよ。私が誇りに思うくらい立派にね……」







杏子「…………」スタッ

まどか「ほむらちゃん!」

さやか「おっとぉ、お疲れかい? ほむらぁ。何寝ちゃってんだよ!」

マミ「お疲れさま! 暁美さん!」

杏子「…………」

さやか「……杏子?」

杏子「ほむらは…………」

マミ「どうかしたの……?」


杏子「死んだ」


まどか「……え」


まどか「な……何を言ってるのかわからないよ……?」

杏子「見ろ。これを」ゴソ…

マミ「こ……ッ! これって……!」

杏子「ほむらのソウルジェムだ。割れているだろう」

さやか「ッ!?」

まどか「あ……ああ……あああ……」

マミ「…………クッ」

杏子「波紋は生命のエネルギー。ほむらは自分の命を全て、ワルプルギスにぶつけたんだ。そして、命が尽きた。……オッサンと同じようにな」

さやか「そ、そんな……」

まどか「あああああ……! ああうぅ……っ!」

ガクリ



さやか「そんなことって……せっかくワルプルギスを乗り越えたってのに……!」

杏子「……ほむらはすでに救われていたんだ」

まどか「うぅ……えぐ……うっく……」

まどか「ひどいよ……こんなのあんまりだよ……!」

まどか「ほむらちゃんを守るって……誓ったのに……!」

まどか「折角……! 折角ほむらちゃんが幸せになれるのにッ!」

まどか「いやだ! いやだよそんなのぉ! ほむらちゃん……! ほむらちゃぁん……!」

マミ「鹿目さん……」

杏子「ほむら……ろうそくの炎のように儚い奴だ……」


まどか「ううぅ……」

QB「犠牲者が二人だけで済んだだけでも、それは異常とさえ言える程だ」

QB「……しかもその内一人が魔法少女じゃないときたものだ」

さやか「キュゥべえ……」

QB「あのワルプルギスが溶けてしまうだなんて……波紋というものに興味が沸いた」

杏子「…………もう、波紋を使える者はいない。誰もな……」

QB「そう。……僕には感情がないからわからないけど、この喪失感が、悲しみなのかな。それとも、勿体ないという気持ちなのかな」

QB(ツェペリという人間、いや、概念は……遺体も残さずに消えた。彼は魔女の影響で生まれた『得体の知れない何か』だ。まぁ彼はともかくとして……)

QB(ほむらには、死んでもらっては困る。かと言って……まどかに「それ」を教えるのも……)

マミ「…………」



マミ『……キュゥべえ』

QB『……うん? どうしたんだい? わざわざテレパシーで』

マミ『…………』

QB『……気付いていたのかい?』

マミ『確証がないの。でも……鹿目さんは「それ」ができるの? それを聞きたい』

QB『……僕もわからない。……仕方ない。試してみるよ』



QB「まどか」

まどか「グスッ……なに? キュゥべえ……」

QB「君には素質があるんだ。それはもう、とんでもない……ね」

まどか「えっ……?」

杏子「何言ってんだ? こいつ……」

QB「君の願いは、魔法少女の蘇生だ。幼なじみの怪我を治したいという願いから治癒魔法が得意なさやかと同じように……もし、その願いが反映されるなら……」

まどか「まさか……」

QB「可能性はある」

マミ「……」



まどか「わたしが……」

さやか「……何? 何の話?」

杏子「ほむらが、あたし達と同じように……?」

さやか「?」

まどか(ほむらちゃんのソウルジェム……)

キュッ

さやか「え……? まどか……?」

パァッ

さやか「なっ……! こ、この光は……まさか、そんな……そんなッ!?」

まどか「お願い……ほむらちゃん……!」


QB(まどかには……)

QB(まどかには素質がある。この世の概念を覆すことができるような……全ての魔女をなくしてしまうような……)

QB(失った魂を再び繋ぐような……死をなかったことにするような……)

QB(まどかの願い、「魔法少女の蘇生」が反映されて、ほむらのソウルジェムを「直す」……)

QB(ソウルジェムに直接関与する固有魔法を持つ「可能性」はある)


さやか「…………」

杏子「…………」

マミ「…………」


まどか「…………ほむらちゃん」


QB(実際に、そうだった)

QB(ありえない話だが、本当に直ってしまった。……本当のイレギュラーほむらでもツェペリでもない)

QB(まどか。君だ)




死んだ人間が生き返るなんて、都合がいい話だけど……そこはまぁ、うん。奇跡も魔法も、あるんだよ!

――21世紀日本女子中学生 美樹さやかの言葉



ほむら(…………)

ほむら(……夢?)

ほむら(私は何を……)

ほむら(確か私は……紅茶を飲んでて……えっと……)

ほむら(往復……切符)

ほむら「…………」

ほむら「空……」

ほむら「…………」

ほむら「私……」

ほむら「生きてる」



まどか「ほむらちゃん……!」

ほむら「わ、私は……!」

ギュッ

ほむら「鹿目さん……!」

まどか「ほむらちゃんの馬鹿……自分の生命を使い果たすなんて……」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃんは……ほむらちゃんはわたしに自分を犠牲にしないでと言った……!」

まどか「なのに……何で、勝手に死んじゃうの……!」

ほむら「それは……」



まどか「ほむらちゃんは……」

まどか「……わたしのこと、嫌い?」

ほむら「まさか! 私の願いは鹿目さんの幸せ……。命を賭してまで叶えたかった私の願い。これは所詮、私が勝手にやったこと……!」

まどか「それじゃあ、どうしてわたしの幸せにほむらちゃんが必要だって考えてくれなかったの?」

ほむら「……」

まどか「やっぱり……嫌いなの?」

ほむら「そんなことない! 鹿目さんは、私の最高の友達! 大好きに決まってる……!」

まどか「なら! ずっと一緒にいて! どこかにいかないで……!」


まどか「わたしのために……みんなのために……! ずっと……!」

ほむら「うぅっ……鹿目さん……」ポロポロ

ほむら「ごめんなさい……ごめんなさいぃ……グスッ」

まどか「……ほむらちゃんが初めて会った時の鹿目さんを、超えてみせる」

ほむら「……ん」

まどか「わたしがほむらちゃんを引っ張って、守ってあげるからね」

ほむら「……うん」

まどか「ほむらちゃん……わたしもあなたのこと大好きだよ!」

ほむら「……うん!」



さやか「泣かせてくれるねぇーオロロ~ン」

マミ「これで……みんな一緒ね……グスッ」

杏子「おい、本当に泣いてるぜこいつ」ケタケタ

マミ「な、何よっ! 暁美さんが生き返ったのよ?! 二人ともケロッてしてるけど、なんとも思わないの?!」

杏子「嬉しいから笑ってるんじゃないか」

さやか「あっはっはー」

杏子「はっはっはー」

マミ「……目が赤いわよ」

杏子「な、泣いてないしっ」プイッ

さやか「えへへ…………グスッ」



今回はここまで。色々トラブルはあったけど何とかなった。

ワルプル戦、結構急ぎというか、展開が気持ち早く、都合のいい展開、お見苦しいかもでした。

次回、ようやく最終回となります。

今夜9時か10時くらいに再開予定です。少なくとも今日中には終わらせたい。




>>402

何故バレたし。その通りです。自分はスレタイ飾った割にあんこちゃんが若干空気なアレの作者です。

これで二作目になります。今にして思えば前作は色々とミスが多かったなぁ



一週間後


――ほむら宅


ほむら「…………」

「ゃーん……」

ほむら「…………」ポケーッ

「ほむらちゃん!」

ほむら「ふぇっ!? え、あ、はい!」

まどか「もー、ほむらちゃんったら、ボーっとしちゃって~。ティヒヒッ」

杏子「そうだぞー。あたしらは客なんだぞー」

ほむら「ご、ごめんなさい……何だか……ワルプルギスを超えて気が抜けたというか……色々考え事してて」

さやか「あんたねぇ……ワルプルギスから一週間ぶりに顔合わせたってのに……。学校は休校中けどさ。いい加減シャキっとしなよ!」

マミ「シャキっと……と言えば、紅茶よりコーヒーかしらね。まあ紅茶なんだけどね」カチャ

ほむら「あ……巴さん、いつの間に紅茶なんて……」



マミ「暁美さん。あなたが話したいことがあるっていうからあなたの家に集まったのよ?」

ほむら「そうでした……すみません。お客さんなのに淹れさせちゃって……」

マミ「いいのよ。友達の家に遊びに行くの、憧れてたから」

杏子「ぼっちは不憫だよな」ホロリ

マミ「夕飯抜き」

杏子「ごめんなさい。マミさんはこのあたしめを家に置いてくださっている慈愛に満ちあふれた魔法少女の鑑でございます」

マミ「よろしい」

さやか「…………」

まどか「…………」

杏子「そんな目で見るな」



ほむら「……」ボーッ

まどか「ほらまた」

ほむら「あっ、ごめん。じゃあひっくり返します!」

マミ「ちょっ!」

杏子「オッサンか? 液体見るたびにオッサン思い出すのか?」

さやか「……ほむら、ちゃんと生活できてるの?」

ほむら「…………」

杏子「どうした?」


ほむら「……死人であるツェペリさんと出会って、巴さんが私からプロポーズされると勘違いして、美樹さんが惨死して……」

まどか「プ、プロポ……!」

マミ「ちょ! あ、あの時のことは言わないでって言ったじゃない!」

ほむら「佐倉さんが魔女になって、私が死んで、鹿目さんが生き返らせてくれた……」

杏子「何おさらいしてんだよ」

さやか「ほむら?」

ほむら「嘘みたいなことばっかり続いて……今、こうしているのが現実なのかって……今でも不思議で……」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「嬉しいのと同時に、不安で……」

まどか「不安?」


ほむら「私は、鹿目さんとの出会いをやり直すことができた。……だから、時を止める能力は無くなって……」

マミ「えぇ、それは聞いたわ」

ほむら「しかも波紋エネルギーを一度使い果たしたからどうにも回復が遅いというか……」

ほむら「うまく波紋が練れないんです」

さやか「それって……」

杏子「一度死んで感覚が鈍ったってとこか」

ほむら「はい……一時的なものです」



ほむら「それに死んじゃって盾も一時的に失ったから、中身も全部なくなっちゃって……」

まどか「爆弾とか……カラオケのマイクとかも?」

さやか「マイク? ……なんか盾の能力がショボく見えてきた」

ほむら「波紋と爆弾と時を止める能力にずっと頼ってたし……魔法少女としての元々の素質が大したことないわけですし……」

ほむら「だから……全部失った今のままじゃ使い魔さえ倒せない。みんなの足手まといになるんじゃないかって……ずっと考えてて……」

ほむら「なかなか言い辛くって……」




ほむら「……他にも色々悩んでることもあるけど」

まどか「ほむらちゃん……そんなこと考える必要ないよ!」

ほむら「……」

さやか「そうだよほむら! むしろあたしらがあんたを足手まといに思う根拠ってなにさ!」

マミ「暁美さんはずっと私達のために尽くしてくれたんだもの。私達があなたを支える番になっただけよ」

杏子「そうそう。……ま、せいぜい感覚を取り戻すのを頑張れよってこった」

ほむら「みんな……」

ほむら「……うん! 私、頑張る! ワルプルギスを倒した時より強くなる!」

まどか「その意気その意気!」

ほむら「休校が解除されるまでに5分間息を吸い続けて5分間息を吐けるようになる!」

さやか「女子中学生としてその意気込みはどうなの?!」

マミ「あらあら、張り切っちゃって」


杏子「おいほむら」

ほむら「はい」

杏子「ついででいいからあたしにも波紋教えろよ~」

ほむら「えっ」

さやか「あ! そうだった! あたしも波紋やりたい!」

ほむら「う、う~ん……」

さやか「切磋琢磨しよう!」

まどか「さやかちゃんが四字熟語を……!」

さやか「…………」

杏子「頼むほむら! いや、先生!」

ほむら「せ、先生!?」



さやか「嫌だと言っても無理矢理教わるもんねー!」

マミ「よかったわね。弟子が二人もできたわよ?」クスクス

ほむら「そ、そんな、からかわないでください……」

杏子「あたしはあんたにも恩がある。だから絶対に挫折しないぜ!」

さやか「あたしはその気になれば痛みとか消せるからどうにでもなるよ!」

ほむら「…………」

ほむら「…………丁度いっか」ボソッ

まどか「え? 何か言った?」

ほむら「いえ……鹿目さんもやってみる? 巴さんもどうですか?」

まどか「え?」

マミ「私達も?」

ほむら「よければみんな一緒に……」



さやか「うおおおおお! やったぜ!」

杏子「やったぜホムホム先生!」

ほむら「ほむほむ先生!?」

さやか「ホムホム先生!!」

まどか「……マミさん。どうします?」

マミ「ふふ、しょうがないわね。やりましょう」

まどか「ティヒヒ、そうですね! ほむらちゃん。よろしくお願いしますっ」

ほむら「うんっ!」

マミ「先生♪」

まどか「せんせっ♪」

ほむら「うぅ、先生だなんてやめてよぉ……」



ほむら「コホン……それでは早速始めましょう!」

杏子「え? 今? ここで?」

ほむら「早い方がいいじゃないですか! それに最初は呼吸をするだけですから屋内でも大丈夫ですよ?」

ほむら「この部屋は防音性も高いしマジカルパワーもあるので多少騒いでも問題ないです!」

まどか「ほむらちゃん……本当に変わりましたよね」

マミ「そうね……笑顔の質が変わったというか、逞しくなったというか」

ほむら「実はですね。私、みんなに波紋を教えたかったんです」

さやか「そうなんだ。ナイスタイミングだったねっ」

マミ「張り切ってるわねぇ」

ほむら「別のことでも悩んでたんですけど、それはまあ後で」



ほむら「それではみなさん。波紋教室を始めます」スック

ほむら「起立!」

マミ/杏子/まどか/さやか「は、はいっ!」ザッ

ほむら「えへへ……一度やってみたかったんだよねこれ」

マミ「鹿目さん……随分とお茶目になって……」

まどか「かわいいですね」

ほむら「え~っとですね。早速なんですが、この一週間。試行錯誤してあるもの作ったんですよ……」ゴソゴソ

さやか「あんたこの一週間何をしてたんだ」

ほむら「こちらです」

杏子「何それ? すっげーダサいデザインだなぁ」

ほむら「これは呼吸矯正マスク!」バーン



マミ「矯正マスク?」

まどか「まるでガスマスクみたいだね」

ほむら「えーっと……」

マミ「うん?」

まどか「どうしたの?」

ほむら「ん――……」

杏子「何だよ」

さやか(ちょいと小腹空いたかなー)

ほむら「えい!」バッ

さやか「むぐっ!?」

パチン、パチン


まどか「な、何やってるの?!」

杏子「マスクを着けた!」

さやか「ウ、ウググッ!? は、外れない! 外れないィ!?」

マミ「ど、どうしたの!? 美樹さん? 美樹さんっ!」

さやか「こっ、き、う、が……ンパ! ンパッ!」プルプル

ほむら「特定のリズム……則ち波紋の呼吸でないと息ができなくなり酸欠になる仕組みのマスク!」

杏子「なん……だと……」

ほむら「これ作るのに苦労しました」ホムッ

まどか「な、なんて器用なことを……」

さやか「おごごごご……」ピクピク



ほむら「波紋の呼吸をしないと窒息します」

ほむら「これをつけた状態で100km走っても息切れしなくなるのが目標! あなたも! 私も!」

マミ「ひゃ、100km……!」

ほむら「波紋は呼吸を征すること。息切れは呼吸。極めれば息切れしなくなります!」

ほむら「逆を言えば、故意に息切れしないと怪しまれます。ハイ」

杏子「うわぁ……」

さやか「」

まどか「さやかちゃーん!」


杏子「いやいやいや! いきなり着けられたって無理に決まってるだろ!」

ほむら「はい。重々承知です。なので……」

ほむら「パウッ」

ドスゥ

さやか「ンムゥ!?」

杏子「いつぞやの腹パンきたァ――ッ!?」

マミ「踏んだり蹴ったりね……」

さやか「ぃ……ぃ……」プルプル



さやか「いい加減にしやがれェ――ッ!」

まどか「!?」

さやか「……あ、あれ? 息ができる」

ほむら「横隔膜を刺激して一時的に波紋の呼吸ができるようにしました。ちゃんと練習しました」

さやか「お~。すげ~。さやかちゃんのセクスィーな唇が隠れてるという点に目を瞑れば最高ォ~」コォォォ

杏子「何言ってんだおまえ」

ほむら「このリズムを体で覚えてください。慣れれば風邪のマスクくらいに気にならなくなる……と思う」

ほむら「あ、マスク外しますね。美樹さん。どうでした?」

さやか「うん。死にかけた」パチンッ



マミ「……ね、ねぇ、暁美さん」

ほむら「はい?」

マミ「もしかして、そのリズムを覚えるまで腹パンされ続けるの?」

ほむら「お腹じゃないです。横隔膜です」

まどか「……わたしも突かれちゃうの」

ほむら「……ごめんね?」

杏子「あたしは経験済みだ。失敗されたけど」

ほむら「本当はこんなことしたくないんですが……私、それ以外に教え方知らないんです」

さやか「あたしには躊躇なくやったのに……」



杏子「それしか知らないって……まさかほむらもオッサンからそうやって?」

ほむら「はい。私もツェペリさんにこの波紋の呼吸を覚えるまで横隔膜を何度も殴……ツボ押ししてもらいました。そしてそのリズムを体で覚えた次第です」

ほむら「何度もリズムが乱れて5、6回くらいかなぁ、横隔膜突かれました。……何度もツボ押ししたくないしさせたくないし効率的じゃないので、このマスクを作りました」

マミ「暁美さん……あなたって子は……」

ほむら「素質のない私が最も手っ取り早く覚える方法だったんです。他にも方法はあったらしいのですが、今更わかりませんし」

まどか(ほむらちゃんが殴……苦しむ側だったんだ……。ほむらちゃんがさっきのさやかちゃんみたいに……)

まどか(……むぅ、例えツェペリさんと言えど、波紋を学ぶためと言えど……複雑な気持ちになる)



ほむら「あ、そうそう。マスク一つしかないんで使い回してください。次は誰?」

まどか「…………」

マミ「…………」

杏子「…………」

さやか「おいあんたらその沈黙は割と傷つくぞ」

ほむら「つ、次までにちゃんと人数分作りますね」

さやか「沈黙の意味を悟りやがったな……」


ほむら「本格的な波紋の修行はまた後日ということで」

さやか「ツーン」

杏子「元気だせよ。何もさやかだから嫌ってわけじゃないんだからな」

まどか「そうだよさやかちゃん。わたし達思春期なんだから」

マミ「スプーンとかの間接キスってならまだしもマスクはディープすぎるじゃない」

さやか「……うぅ~」

ほむら「あの……ですね」

まどか「どうしたの? ほむらちゃん」



ほむら「……まだあと二つ、相談したいことが……」

マミ「どうしたの? 改まっちゃって」

さやか「二つでも三つでも四つでも! 何でも言いたまえ」

ほむら「あの……私、実はたくさんの魔法少女に波紋を教えたいんです」

まどか「へ?」

杏子「……? どういうことだよおい」

ほむら「あ、もちろんみんなにあらかた教えるのを優先するけど……その……」

ほむら「……『組織』を作りたい。波紋の後継者を育てるために、居場所を失った魔法少女のために」

まどか「そ、組織……?」

杏子「それってつまり……群れを作ろうってことか?」

ほむら「事情は、まあ後々説明します」

ほむら「…………」


~~~~~~~~~~


――ワルプルギスの夜を越えた日の夜



QB「僕は君達人間から学んだことがある。それは、人間はすぐに成長するということだ」

QB「僕が君と会った時、自分に自信が持てない、弱さがあった。しかし今は違う。強くなった」

QB「たった一ヶ月で君は、あまりにもね。ほむら」

ほむら「……何か、用?」

ほむら「私はあなたの顔は見たくないんだけど」

QB「そんな冷たい言い方、君には合わないよ」




ほむら「……」

QB「話を聞いてよ」

QB「君……波紋の能力は衰退したようだけど、それは一時的なものだろう?」

ほむら「……うん。すぐにでも、戻すつもりだよ」

QB「そうかい。それがいい」

QB「ツェペリという人間は、実に不思議なものだった」

QB「魔女の影響で現れたと考えれば、その魔女はお手柄だったというわけだ」

ほむら「……」

QB「呼吸という生物として当たり前の行為であんなエネルギーが放出されるなんて……」

QB「純粋に僕は驚いた。そこで、物は相談なんだけど……」



QB「波紋エネルギー。僕達に研究させてほしい」

ほむら「……へ?」

QB「魔法少女が絶望する感情のエネルギーは膨大で魅力的だけど……」

QB「はっきり言って効率的じゃあないんだ」

QB「感情の研究はまだまだだけど、上の方では『ワルプルギスの夜を倒した力』ということで、波紋に注目する一派ができた」

QB「だから研究させてほしいんだ。僕は君にその交渉をしにきた」

ほむら「……もう、騙されない」

QB「騙すだなんてとんでもない。そもそも僕は最初から騙してなんか……いや、その話はよそう」

QB「これは、契約とかそういう話ではなく、直々の要望なんだ」



ほむら「要望?」

QB「まず前置きなんだけど……」

QB「君達やまどかはまだ気付いていないがまどかには特異な能力がある」

ほむら「うん……私は、生き返った。鹿目さんの能力はソウルジェムの復元……」

QB「そう。彼女の願いは魔法少女の蘇生。そして得た能力はソウルジェムの復元……。金属が形状が記憶して元に戻るように」

QB「問題はその復元なんだ」

ほむら「……何が問題なの?」

QB「僕達の目的を理解しているのなら、冷静に考えたらわかるんじゃないかな?」


QB「結論から言おう」

QB「理論上、まどかはソウルジェムを『穢れた状態』から穢れる『前の状態』に戻すことができる」

ほむら「……それって」

QB「簡単に言えば、まどかはソウルジェムを『浄化できる』……ということだ」

ほむら「……ッ!」

ほむら「そ、それは……かもしれないという話でなく?」

QB「確定的だね」

ほむら「……だとすれば、あなたにとって都合が悪い。何故それを私に話したの?」

QB「どうせいつかわかることだからね」



QB「それでここからが問題なんだ。……そうだね」

QB「普通、グリーシード一個でソウルジェムを二人分浄化できるとしよう」

QB「穢れの程度やその器量によって燃費が違うからね。例えばの話だ。例えばグリーフシード一個でソウルジェム二個」

QB「まどかの能力の場合……まどかがグリーフシードを一つ使ってその魔力を浄化に使うとすれば」

QB「……グリーフシード一個で恐らく六人分のソウルジェムを浄化できてしまう」

ほむら「なっ……!」

QB「魔法少女全員が集団を結成したとすれば……単純に考えて回収能率は1/6になるね」

QB「感情エネルギーの回収率が悪くなる。魔女にならないからね」



ほむら「…………」

QB「しかもまどかが成長すればするほど、その能力が強まるほど、その能率は悪くなる」

QB「だったらいっそのこと、新しいエネルギーの研究に手を出してみよう。というのがさっき話した一派の考えの一つだ」

QB「僕は君達と知り合いだから、その一派として研究する命を授かった」

QB「そもそも僕がこの能力を容認させたようなもんだからね。責任がある」

ほむら「…………」

QB「研究させて欲しいんだ。だから要望と言った」



ほむら「……私は、唯一の波紋後継者。私がいなければ研究もなにもない」

QB「わかってるよ。だから君にとっていい交換条件を考えている」

QB「僕は新しいエネルギー開発の協力を要請する。そして開発に成功した暁には……」

QB「全ての魔法少女を普通の人間に戻す……というのはどうだろう?」

ほむら「!」

QB「感情より効率的なエネルギーができたら、魔法少女の制度と並行って意向もあったんだけど……」

QB「君の性格から推測するにそういうことを望むと思ってね」



QB「死なないために契約した魔法少女は死の運命をねじ曲げたまま。蘇生を望まれれば生き返った者も存命のまま。君達も死ななきゃ生き続ける」

QB「何なら君の病気もおまけに治しとおいてあげたっていい。しつこいようだけど感情を超えるエネルギーができたらね」

ほむら「そんな……随分と都合のいい……怪しいよ」

QB「本来なら失った命が元に戻ること自体都合がいい話じゃないか」

QB「それくらい僕達は今切羽詰まっているという世界なんだよ。まどかの素質があるのは知っていたが、こんな大ごとになるなんて……」

ほむら「……いいよ。キュゥべえ。その話、乗る」

QB「本当かい? ありがとう」


ほむら「……え?」

QB「データはたくさんあった方がいいし、今後も魔女や使い魔は普通に現れる。つまりいつ君が死んでも、絶望してもおかしくないままなんだ」

QB「君を死なせないということはできないからね。替えが必要。……当然の欲求だろう?」

ほむら「……私に、教育しろ、と」

QB「そうだよ。波紋使いを育てる組織でも集団でもコミュニティでも作ってほしいんだ。僕もできる範囲でなら協力するよ」

QB「集団を作られては感情エネルギーという視点では困るけど、波紋使いを増やすにはやむを得ない」

QB「魔法少女同士で争うのを嫌っていただろう? Win-Winな希望だと思うんだけどね」

ほむら「……」



~~~~~~~~~~~

さやか「あのコミュ障なほむらが……組織を作る……だと?」

ほむら「魔法少女同士で争うのは間違ってます。居場所を失った魔法少女に、帰る場所を提供したいです」

まどか「うん……。うん! そうだよね! みんな一緒なら、楽しそうだし!」

杏子「いやいやいや……片方の面だけで物を言うのはよせ」

杏子「グリーフシードの取り合いになるぜ? 人間トラブルも増えるだろうし」

杏子「あたしみたいな奴、うようよいるんだぜ」

さやか「確かに……グリーフシードって限られた資源感あるもんね」



ほむら「……その心配はありません」

杏子「は?」

さやか「どういうこと?」

ほむら「……」チラッ

まどか「……うん?」

ほむら「……」

まどか「?」

まどか「どうかしたの? ほむらちゃん」

ほむら「……ふふ、何でもないよ」

まどか「……?」


ほむら「さっき言った通り、みんなに波紋を教えるのを優先するので、組織を作ること自体は追々……後回しです」

杏子「……ま、まあ、ほむらが大丈夫っつーならいいんだけどさ」

杏子「ちゃんと説明はしてもらうぞ」

まどか「魔法少女の組織……波紋の後継者の育成……。どういう事情か気になるなって思ってしまうのでした」

ほむら「しつこいようだけどそれは追々……」

さやか「居場所をなくした魔法少女……か。その辺ちょい重いよね」

杏子「その辺、イメージアップを図る必要があるな。まぁ追々な」

さやか「追々ね」


すみません。>>511の頭の文章コピペミスです。脳内変換お願いします

訂正



QB「そこでお願いがあるんだ。早速協力を要請したい」

ほむら「…………」

QB「色んな魔法少女に波紋を使えるようにしてほしいんだ」

ほむら「……え?」

QB「データはたくさんあった方がいいし、今後も魔女や使い魔は普通に現れる。つまりいつ君が死んでも、絶望してもおかしくないままなんだ」

QB「君を死なせないということはできないからね。替えが必要。……当然の欲求だろう?」

ほむら「……私に、教育しろ、と」

QB「そうだよ。波紋使いを育てる組織でも集団でもコミュニティでも作ってほしいんだ。僕もできる範囲でなら協力するよ」

QB「集団を作られては感情エネルギーという視点では困るけど、波紋使いを増やすにはやむを得ない」

QB「魔法少女同士で争うのを嫌っていただろう? Win-Winな希望だと思うんだけどね」

ほむら「……」



マミ「パッショーネ!」

まどか「え?」

マミ「……なんてどうかしら? イタリア語で『情熱』という意味よ」

杏子「あ? 何だよいきなり」

マミ「何って組織の名前よ! 相談ってそういうことでしょ?」

さやか「何聞いてたんスかマミさん」

マミ「重要でしょ?」

まどか「パッショーネ……情熱……燃え上がれーって感じでかっこいいです! 流石マミさん」

さやか「なん……だと……?」


マミ「あらあら、もうっ、誉めても何も出ませんよ///」

杏子「まどかもそういうタイプだったのか……」

さやか「魔法少女ノート書き溜める子だからねぇ……」

まどか「ほむらちゃん。どう? パッショーネ。わたし、それはとってもイカしてるなって」

ほむら「えーと……」

さやか「あんたは次に『名前もまぁ追々……』と言う」キリッ

ほむら「あの……じ、実は、私も及ばずながら考えてたんです……名前」

マミ「ほほう」

さやか「あれれー?」



まどか「ほむらちゃんが考えた名前……かぁ。気になるなー」

さやか「ほむらってそういうの決めるタイプじゃないのに……」

杏子「マミのは色々とアレだけど、これはセンスが問われるぜ。クマちゃん団とか言い出すなよ?」

さやか「クマちゃんって……」

マミ「アレってどういう意味? まあいいわ。暁美さん。あなたの考えた名前って?」

ほむら「……コ」

マミ「ん?」

ほむら「……『コチネーレ』……なんて……どうでしょう」

さやか「え? なに? コマネチ?」

マミ「Coccinelle...『てんとう虫』という意味ね」

杏子「結局イタリア語かよ? ……先輩後輩って感性が似るのかな」

さやか「マミさんイタリア語好きだもんね」



まどか「てんとう虫って……あの? 小さいの?」

ほむら「……///」コクッ

マミ「てんとう虫は『太陽の虫』……生命の象徴。だったわね。暁美さん?」

ほむら「ええ、そのとおりです。『てんとう虫』はお天とう様の虫です……幸運を呼ぶんです」

まどか「幸運かぁ……情熱もいいけど、幸運の象徴というのもいいなぁ……」

さやか「まどか……あんた……」

ほむら「それに波紋は……太陽と同じエネルギー……なので、はい……」

ほむら「それも……名前の候補として検討してください」

ほむら(ああ……言っちゃった……は、恥ずかしい……///)

マミ「成る程……敢えて虫とかありふれた物から取って……」ブツブツ



ほむら「ま、まあ名前はいいとしてっ」

ほむら「あと一つお願いしたいことがあるんですよ」

マミ「幸運はイタリア語でフォルトゥーナ……同じ幸運なら響きとしてはこっちの方が……」ブツブツ

まどか「幸運と言えば四つ葉のクローバーですよね。どうですかね?」ブツブツ

マミ「なるほど、フォルトゥーナ・フィオーリ……クローバーなら組織のシンボルにしやすいわ……いやでも……」ブツブツ

まどか「そうですね。てんとう虫でも同じことが言えますよね……組織の証にてんとう虫のブローチなんかかわいいと思います」ブツブツ

ほむら「…………」

杏子「聞けよてめーらッ!」

マミ「え、あ! はい!」

まどか「なんでしょうか!」

さやか「続けたまえ」


ほむら「えーっと……」

ほむら「じ、実は私、ずっと探していた魔女がいるんです」

まどか「魔女?」

ほむら「その魔女を探して、退治するのを手伝って欲しいのですが」

杏子「魔女を? いつ?」

ほむら「近い内に……」

ほむら「ほら、私……波紋力弱体化しましたし、波紋と爆弾に頼ってたから魔法には自信ないし……時間も止められないし」

ほむら「足引っ張っちゃうに決まってるのに魔女を倒したいっていうのもどうかと思ったんで……」モジモジ

さやか「魔女退治ならいつだってオーケーさ!」

まどか「水くさいよほむらちゃん! みんなでほむらちゃんを支えるって言ったじゃないっ」

マミ「そうよ。暁美さん。私達がその魔女を倒してあげる」

杏子「あんたは遠くで見ているだけでいいぜー」


ほむら「あ……も、もちろん私も一応新しい武器とか用意してるんですよ?」

杏子「武器? へーっ。どんなの?」

ほむら「……えーっとマスクの制作と並行して作ったんですが……」ガサゴソ

杏子「ほんと一週間何してたんだ」

ほむら「鋼鉄球のボーガン!」バーン

ほむら「直径五・八センチ重さ五・五キログラムの鋼鉄球! 美樹さんとてまともにくらえば脳が爆裂して吹っ飛ぶであろう威力のボーガン!」

ほむら「まして油を塗れば波紋をこめて発射もできますっ!」

マミ「ワイルドだわぁ」

さやか「さらっとあたしで例えやがった!」

まどか「得意気に解説するほむらちゃんが親に図工の時間に作った物を見せびらかす子どもみたいでかわいい」

杏子「正気か? おいまどか本気で言ってるのか? 脳が爆裂とか言ってるぞ?」



ほむら「それと……」スッ

ほむら「特製石鹸液!」バーン

ほむら「これでシャボン玉を作ります!」

まどか「シャボン玉?」

マミ「あらかわいい」

ほむら「波紋を込めることで……触れるとバチンッ! ってスタンガンみたいな衝撃が走る波紋シャボンが……」

杏子「メルヘンの欠片もねぇな」

ほむら「ツェペリさんが使った波紋カッターの応用としてシャボン玉を高速回転させてカッターに……」

マミ「暁美さんはどこへ向かっているのかしら……」

ほむら「それからアメリカンクラッ……」

杏子「もういい」

杏子「もういいから。武器の紹介はいいよ。もう」

マミ「何か魔法少女というより波紋メインって感じよね」

ほむら「そ、そうですか?」

まどか「どっちかと言えばほむらちゃんのは『技術(ワザ)』だよね」

ほむら「技術……確かに爆弾メインで戦ってた時期もありますし……」

杏子「はよその魔女の話をしろよ」

ほむら「はい……」

まどか「紹介し足りなくてショボンってなるほむらちゃんかわいい」

さやか「シャボンだけに?」

まどか「…………」

さやか「ごめんなさい」

マミ「探していたってことは、どんなのか知ってるのよね?」

ほむら「はい。私はその魔女を、次元の魔女『ルーシー』……と個人的に名付け呼んでいます」

まどか「ルーシー?」

マミ「次元?」


ほむら「あの……並行世界……『パラレルワールド』という物を聞いたことありますか?」

杏子「パラ……何?」

さやか「漫画とかで聞いたことあるけど……」

マミ「パラレルワールドとは、ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界とする……wehiペディアより」

ほむら「数学の樹形図みたいにたくさん世界が分岐している……という考え方」

ほむら「今、私達がこうしている一方で、まだワルプルギスを超えていないという……別の世界が存在するかもしれないという考え方」

ほむら「例えば、波紋みたいな特別な力を誰かが得る世界。私が未だ希望が見出せず試行錯誤を繰り返している世界」

ほむら「ツェペリさんみたいに、異なる世界からの来訪者がいる世界……」

杏子「えーっと? よくわからん」



ほむら「ワルプルギスを超えた後……誰かがいない世界。鹿目さんと美樹さんのどっちかあるいは両方が魔法少女になっていない世界」

ほむら「かみじょ……い、色々あるかもしれません」

さやか「恭介の恋愛事情を例えに出そうとして躊躇したな。あたしが恭介と付き合っている世界もあるかもしれないって言いたかったんでしょ」

マミ「美樹さん。元気出して」

さやか「元気ビンビンですけど!」

まどか「今わたし達がこうしているのとは別だけどそっくりな異世界ってことだね!」

ほむら「うん。そしてルーシーが異次元に存在しているツェペリさんの魂をこの次元に呼び寄せたのかな~、と……」



ほむら「ただ、ツェペリさんの場合は時代が違う。ツェペリさんのいた世界の歴史と私達の歴史とは異なっている」

ほむら「だからパラレルワールドがどうこうの次元を超えた『何か』という可能性もあります。つまり、みんな私の推測でしかないわけです」

まどか「ずっと不思議だった……ツェペリさんが何でキュゥべえが見えてたのか……」

杏子「魔女の影響なら合点がいく」

マミ「結局そのルーシーが本当にツェペリさんを連れてきたのかはわからないのね」

さやか「でも現段階ではそうだとしか考えられないね」

まどか「だねっ」




ほむら「さて、ルーシーの対策を練りましょう。私、この通り今はダメダメですけど……」

まどか「大丈夫だよ! わたしがほむらちゃんを守ってみせる!」

杏子「ま、わけのわからん武器を使わずともあたしらがいるし、そんな気にする必要もないぜ」

マミ「とは言え油断は禁物よ。ちゃんと役割分担とかを決めておかないと」

さやか「あたし達の戦いはこれからだ!」


 




――『ルーシー』撃破から三週間。

魔法少女達のその後。








まどかは――

微弱な波紋は練れるようになったが、「組織(名称未定)」において主にソウルジェムを浄化する能力で多くの魔法少女を救済している。

浄化の能力とその慈悲深い性格から「まど神様」と呼ばれているが、本人はそのことを知らない。

友達と自分の幸福と無事を祈りながら、楽しい日々を暮らしている。



キュゥべえ(インキュベーター)は――

波紋と感情の研究のため、魔法少女達、特にほむらと積極的に接し、暮らしている。

組織のマスコットを自称し、全国各地の魔法少女を組織に勧誘して回っている。

感情に置き換わる新たなエネルギー。彼女達が存命している間に完成するかどうか、未来のことは誰にもわからない。



ほむらは――

魔法少女の組織を設立した。そこでホムホム先生と呼ばれ、組織の代表代理兼波紋の師となる。

波紋の修行、研究。組織へ入団した魔法少女との対応をしている内に、おどおどした性格が直ったつもりでいる。

最高の友達と、大切な仲間達と共に、幸福な生活をしている。



さやかは――

ほむらから波紋を学んでいる。そしてメシアと呼ばれ組織において波紋の師範代となる。

「まど神様」という呼称を組織内に広めてみたりと、基本的にはいつも通りである。

杏子とは勉学と波紋のライバルであり、親友である。



杏子は――

さやかと同じく、ほむらから波紋を学んでいる。そしてロンギヌスと呼ばれ組織において波紋の師範代となる。

宣言通り学校へ通うようになってから、成績は芳しくないがそれなりに楽しく過ごしている。

いつもさやかと行動し「できてるんじゃあないか?」と噂されるくらい仲が良い。



マミは――

街角で大手芸能プロダクションにスカウトされ、アイドルとなった。組織の代表者を掛け持ちしている。

デビューシングルの「恋のティロフィナーレ」は4週間チャートの1位で6百万枚売った。

不思議な少女を歌った希望にあふれる曲だった。また、全国ツアーの合間に魔法少女を探している。






バ ァ ――――z____ ン





マミ「もう何も怖く……」ほむら「勇気とは怖さを知ること!」(完)



ジョジョ25周年おめでとうの気持ちで一ヶ月くらい、ちまちまと書き続けました。


オリジナル魔女を出すのに少し抵抗はありましたが、案外すんなりと受け入れられててうれピーです。

クロスの割にツェペリさんの絡みが少ない気がするし、尺が長くなって、後半になるにつれて展開が気持ち早く、

ワル夜戦がぶっちゃけ雑だったりミスもあり、お見苦しいとこも多々ありましたが……、書いてて楽しかったです。

ロギンズ師範代とソルベとジェラート的な意味であんこちゃんに死亡フラグが立ってる気がするけど、別にそんなことはないのでご安心を。


みなさまからのレス、大変励みになりました。長々とお付き合いいただき、ディ・モールト グラッツェ!



前作について:特定されましたが、杏子「巻きますか、巻きませんか」 というSSを書いた者です。

当作のwikiを書いてくださったようでしたので、この場を借りてお礼申し上げます。

ttp://ss.vip2ch.com/ss/%E6%9D%8F%E5%AD%90%E3%80%8C%E5%B7%BB%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%99%E3%81%8B%E3%80%81%E5%B7%BB%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%81%8B%E3%80%8D



次作について:今作とほぼ同時に書きためていて、同時連載なんてのも考えていたのですが、あからさまに次作の方が長くなりました。

そういうわけもあり現在の段階では未完成。できれば八月中に投稿し切れればいいなと考えております。





次回(次作)予告




「人の出会いとは『重力』であり、出会うべくして出会うもの」とある人は言う。

これは出会うはずのない人間同士が重力に導かれるように出会ってしまった、奇妙な冒険――




ほむら「ハッピーうれピぃ、よ、よろピクねぇんっ」   

さやか「何だこれ! ンマイなァー!」

マミ「あなた……『覚悟して来てる人』……ですよね」

杏子「黒い琥珀の記憶――メモリー・オブ・ジェット」

まどか「明日って今なんだよッ!」



ほむら「レッスン4……『敬意を払え』」
   



TO BE CONTINUED... |>  さやか「奇跡も魔法も……」ほむら「私のは技術よ」


完成次第公開予定 (完成率80%)

ド ギ ァ ――――z____ ン

1です。

読み直したところ>>220の訂正箇所を見つけましたので脳内変換おながいします

×杏子「使い魔を一般人が食って~
○杏子「一般人を使い魔が食って~

です。一般人こえー

再び1です。本当に申し訳ないのですが、またミスをしてしまってました。
何か変だと思ったら書きためのコピペミスしてましたです。

>>426>>427の間が抜けてしまいました。今更書くのもなんですし、HTML依頼もしてしまったですよ……。前も同じミスしたし……





ツェペリ「フッ…。おまえには……わしの生前、兄弟子がおったのだ。わしは命を賭して彼に未来を託した。だけれども……自分の運命に満足しておる……全て受け入れておった」

ツェペリ「そして、生き返った今、それがために失った波紋エネルギーを、お前に波紋を教えながら共に波紋を蓄え続け、今再び託すのだ。わかるか?」

ほむら「うぅ……わかりました……。……あとは、任せてください……ッ!」

ツェペリ「フフ……妹と娘を同時に持ったような気持ちだったぞ……。このような気持ちを二度も味わえるとは……神、いや、魔女に感謝するべきことだ」

ほむら「ツェペリさん……。……本当に……本当にお世話になりました……」

スッ……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月12日 (日) 21:09:14   ID: Xtpx2C-4

キャラを大切に扱ってるのが感じられて好き

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