男「俺が神様?」 犬娘「はい」(507)

多分すっげぇ長くなる

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1336233599(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)


幼「男ー。今日新しいクラスのみんなで遊びに行くんだけど、男も来るよね?」

男「え? あー……俺はいいや」

幼「えー、何で? 別に用事も無いんでしょ?」

男「いや、実は俺今日買いにいきたいものがあってさ。残念ながら忙しいわ」

幼「……ウソでしょ」

うわー、すっげぇ疑いの目。ひでーなー。
まぁその通りなんですけど。

男「何で嘘なんかつかなきゃいけないんだよ?」

幼「じゃあ何買いにいくのか教えなさいよ」

ぐいぐいくるねー。


男「おいおい、いくら幼馴染だからってそんなに詮索してくることないだろ?」

幼「はぁ……私はアンタの為に誘ってあげてるのよ? こういうクラスの集まりにはちゃんと参加しとかないと、すぐに置いてけぼり食らうんだから」

男「お気づかいどうも。次の機会があればその時には参加させてもらうよ」

幼「そう……じゃ私はもう行くけど……最後に一つ」

男「何?」

幼「男さ……そろそろ……もうちょっと明るくなっても……いいんじゃない? その……昔みたいにさ」

男「……あぁ……うん」


幼「……ま、まぁ! アレね! 幼馴染がノリの悪い奴ってのもつまんないし! 別にどうでもいいっちゃどうでもいいんだけど!」

幼「あ、もう本当に行かなきゃ! じゃ、じゃあね男! 明日は遅刻するんじゃないわよ?」

男「おーう、また明日」

タッタッタッ

行ったか。なんか最後の方えらい慌ててたなアイツ。

……明るく……か。
やっぱ俺暗いのかな。幼にあんなこと言われちゃうくらいだし、多分傍目から見たら相当暗いんだろうな。

いかんなー。これからはもうちょっと笑顔とか作れるようにしとこう。


友「あれ、男じゃん」

男「おお、友。お前も今から帰りか?」

友「いや、俺は部活があるわ」

男「なんだよ、一緒に帰ろうと思ったのに」

友「悪いな……てか、あれ。確かお前のクラスって今日親睦会とかいって駅前まで遊びに行くって言ってなかったっけ?」

男「お前隣のクラスなのによくそんなこと知ってんな」

友「風の噂でな……んで、お前がここにいるってことは」

男「ああ、断った」

友「ですよねー……お前帰宅部だしバイトもしてないだろ? 別に断る理由なんかないと思うが……」


男「ああ、別に大した理由なんてないよ。でも俺みたいな平凡でつまんない奴が参加したってクラスのみんなが盛り上がる訳でもないし」

男「逆に盛り下げたりすることもない……つまりは全く影響がないんだ。俺がいようがいまいが何も変わらない」

男「ただ俺の体力が無意味に削られていくだけ……だったら断って家でゴロゴロしてた方が得策だろ?」

友「く……くっくっくっ。相変わらずお前はひねくれてるっつーか……めんどくせぇ奴だなー」

男「えー、そうか? 理論的かつ効率的な考えだと思うんだけど」

友「だがそんなお前が俺は嫌いじゃないぜ……そうだ、暇なら部室寄ってけよ。新しいゲーム貸してやっから」

友「家でただゴロゴロするよりは有意義に過ごせるんじゃないか?」

男「お、マジで? サンキュー友!」


帰り道―

へっへっへ。某RPGの新作ゲットー。今日は徹夜でプレイだな。

にしても友ってば良い奴だよな。いっつも俺に色んなゲーム貸してくれるし。

それにアイツって何となく俺と似てるところあるし……微妙に冷めてるところとか。

そのせいか知らんけど、俺もアイツに対しては飾らず素の自分で接せられるし。

……なんかあんまアイツのこと褒めてるとキモいな。やめとこ。

とにかくゲームだ。さっさと帰ってゲームをしよう。


犬「……」スタスタ

男「……ん?」

犬「……」スタスタ

犬が歩いてる……首輪がついてないけど、まさか野良犬か?

にしてはやけに綺麗というか……気品を感じるというか……

なんて言うんだろう。あの犬はただ歩いているだけなのに……魅入られる。

犬「……!」ピクッ

あ、こっちに気付いた。

犬「」ダッ

……え? 逃げた? 何で!?


男「くっ!」ダッ

犬「」スッ

……ちっ、細い路地裏に入っていっちまった。

犬「」タッタッタッ

あー……逃げられちゃった……





………………って、あれっ?

何で俺はあんな犬必死に追いかけてんだ? 別に捕まえたいなんて考えてなかったのに。

わっけ分かんねー。無駄に疲れたし。もう帰る。


その夜―

男「おっしゃ、ボス撃破ー!」

男「……ふわぁー、ひと段落ついたしちょっと休憩すっか」

男「今何時だー? ……げっ」

男「もう0時30分? 日付変わってんじゃねーか」

男「やべぇ、時を忘れて熱中しすぎた……そんだけこのゲームが面白かったってことだな」


ゲームはいい。ゲームは最高だ。

今やってるRPGもいい。格闘ゲームも熱い。シューティングゲームも面白い。FPSのゲームも楽しい。恋愛ゲームも萌える。パーティゲームも盛り上がる。

俺はゲームなら何でも好きだ。ゲームはつまらない現実を忘れさせてくれる。

たまに現実はクソゲーだっていう奴がいるけど、それはクソゲーに失礼ってもんだ。

クソゲーにはクソゲーなりの楽しみ方ってやつがあるんだ。けど、現実は違う。

現実ってやつは、どこまでいっても現実で、そこに救いはない。“非現実”というものは、ゲームの中にしか起こり得ない。

現実はつまらない。

……そして……俺という人間は……そんな現実を軽く超えるくらい究極につまらない人間だ。

俺ってばどうしようもないくらいに凡人だからな。


男「……ん」

あれ、いつの間にかメール来てた。気付かんかったなー。誰からだろ。

カチャ

幼からか。どれどれ、内容は……



『今日のクラス親睦会めちゃくちゃ楽しかったわよ? ボウリングではクラスメイト1くんがこけながら投げるし……
カラオケだとクラスメイト2ちゃんがすっごい歌上手くて……その歌に合わせてクラスメイト3くん達が踊りだしちゃうし……
ファミレスでは色んなこと語ったしね。もうとにかくすごい楽しかったんだから! あーあ、アンタも来ればよかったのに。勿体無い。
どうせアンタ家でゲームやってるだけなんでしょ? そんなことしてる暇あったら、次は来なさいよ?
アンタが来れば私もちょっとは楽しいしね。ホントにちょこーっとだけどね!』



なっげぇメールだなー。ゲームしてることはバレバレだし。流石は幼馴染様。
わざわざ最後に俺に対するフォローも入れてくれちゃって。ちょこーっと、ね。お世辞でも嬉しいよ。

でも、こんな報告みたいな長文メールをいちいち送ってきたのかコイツ? ご苦労なこって……。

ん? スペースを空けてまだ下に続いてる……?


男「……」カチャカチャ



『それと、男。17歳の誕生日おめでと。
面倒臭いけど毎年のことだし、今年も料理とか作ってお祝いしてあげるから、明日(というか今日)学校が終わったらウチ来なさいよ』



男「……へ? 誕生日?」

えーっと、今日の日にちは……って、マジだ。俺、今日誕生日じゃん! すっかり忘れてた。

まぁ普段そんなこと気にしてないからなー。家には俺一人しかいないし。

祝ってくれるのも毎年幼だけだから、アイツが忘れたら俺の誕生日完全にこの世から忘れ去られるんじゃないのか?

よく見たらこのメール0時ジャストに送られてきてるし。きっちりしてんなーアイツ。


17歳か。

……うん。ぶっちゃけ、だからどうしたって感じだな。一つ歳をとったからっていきなり何かが変わる訳じゃない。

現実が楽しくなることはない。

俺が素晴らしい人間になれる訳じゃないんだ。

「……ふわぁ……ねむ」

徹夜も考えてたんだけどやめた。風呂入って歯磨いて寝よ。


朝―

チュンチュン

男「……ん」

朝か……あれ。目覚まし時計なったか?

って、まだ6時半じゃねぇか。こんな朝早く起きられるなんて珍しい。

今日はドタバタせずに早めに学校行けそうだな。


男「よし……準備おっけー。いってきまーす」

いってらっしゃいを言う人はいないけれども。

ガチャ

男「うおー、今日はいい天気だな。まさしく春って感じだ」

「あっ……お、男さん……」

男「ん? あ、あなたは」




隣人女「お、おはようございます……」

男「隣人女さん、おはようございます。今日も朝からお花の世話ですか?」

隣人女「は、はい……」


男「毎日毎日ちゃんと世話して偉いですよね。俺が朝家出ると必ずそうやってそこで世話してますし」

隣人女「え、偉いだなんてそんな……ありがとうございます……」

男「あれ、でも今日は俺いつもよりずっと早く家出たからまだ隣人女さんは外にいないと思ったんだけど」

隣人女「あ……きょ、今日は……私……は、早起きしたので……」

男「え、マジですか? 奇遇ですね。俺も今日は珍しく早起きしたんですよ」

隣人女「す……すごい……これは……運命……なんじゃ、ないですかね……」

男「運命って……あはは。たまたまお互い早起きしただけで運命は大げさですよー!」

隣人女「そ、そうですかね……あは」


相変わらず隣人女さんは面白い。俺はこの人と妙に縁がある。

最初の出会いは偶然だった。そしたらその後も何回か偶然顔を合わせることがあって、とうとうこの間。

偶然俺の家の隣に引っ越してきたのだ。

ここまで偶然が続くっていうのは確かにある意味運命のようなものが働いているのかも知れない。

そういうことを考えてるとちょっとした“非現実”を味わっているような気分になってテンションが上がる。


男「あ、じゃあ俺そろそろ学校行きますね」

隣人女「い、行ってらっしゃい。男さん」フリフリ

俺なんかに手を振りながらお見送りしてくれるとは……隣人女さんはいい人だ。


男「……」スタスタ

ポーンッ

男「ん?」

コロコロコロ…

なんだ? 向こうの公園からいきなりボールが飛んできた……?

「あははー! やべー! ボール飛んでっちゃったー!」ダダダダ…

な、なに? 何か凄い勢いで子どもがこっちに来る!





幼女「ととと……あれ? お前誰だー?」

男「ん……? だ、誰って……男ってものですけど」


幼女「ふーん、そっかー! で、お前何してんだー?」

名前聞いても結局お前って呼ぶんかい。

男「何って……学校向かう途中だけど。君こそこんな朝っぱらから何してるの?」

幼女「私か? 私はなー、あっちの公園でボール使ってキャッチボールしようとしたんだけどなー」

幼女「1人じゃキャッチボール出来ないってことに気付いたんだ! 頭いいだろ?」

男「え……? あ、あぁ、うん……」

幼女「だからなー、どうしよっかなって思って、とりあえず思いっきりボールを投げてみることにしたんだ!」

なんでだよ。

幼女「そしたらこっちの方にボールが飛んでっちゃったから、捜しにきたんだー」


男「ああ、そっかー。じゃあハイ、これ」スッ

幼女「おおー! そう、これ! このボール! 私もこれと同じボール使って遊んでたんだ! お前も持ってたのか。すげー偶然だな!」

男「……いやいや……あの……このボールが君のやつだから」

幼女「え? 何でお前私のボール持ってるんだ? ぬ、盗んだのか?」

男「なんでそうなるんだよ! たった今これが飛んできたから、たまたまここを歩いてた俺が拾ってあげただけだよ!」

幼女「……! そうか! 今私はすごいことに気がついたぞ!」

男「あぁもう、やっと分かってくれたの? ったく……」


幼女「ここに2人いるってことは、キャッチボールが出来るぞ! やったああああ!」

男「えぇぇぇええぇぇ」

なにこの子ども!? アホすぎるだろ! 誰がキャッチボールなんか……


男「はぁ……はぁ……やべぇ……予想外にタイムロスした……」

ちくちょう。結局30分くらいあの子どもに付き合わされた。

キャッチボールだけの約束だったのに途中から鬼ごっことかかくれんぼまでやらされたし。

ま、付き合う俺も俺か。見知らぬ子どもと2人で遊ぶ、なんてちょっと普通じゃない体験だったからついつい乗っかっちまった。

とはいえ、もう無駄な時間は使えない。ここからは道草食わずに学校向かわないと




「あのー、すいませーん」

男「……はい?」

お姉さん「ちょっとお聞きしたいんですけどー」


お姉さん「えっとー、○○大学ってどこにあるか分かりますかねー?」

男「○○大学ですか。ここからだとそう遠くはないですね。あっちに見える駅あるでしょ? あの駅の丁度向こう側にありますよ」

お姉さん「あー、そうなんですかー」

男「駅を目指していけばすぐ分かると思いますけど……一応そこまでの道順を細かく言いますね。まずそこの角を左に……」



お姉さん「わざわざご丁寧にありがとうございますー」

男「いえいえ、それじゃ俺も学校があるんでここで」

お姉さん「はいー。お気をつけてー」


あのお姉さん……なんだかぽけーっとしてマイペースな感じだけど、美人だったな。それに巨乳だったし。

一瞬話しかけられた時また面倒臭いことになってタイムロスするんじゃないかと思ったけど、まぁ道を教える程度なら問題ないな。

おっ、校門が見えてきた。この分なら予定よりは遅れたけど、いつもよりは早く着くことが出来そうだ。

お姉さん「あれー? おかしいなー。ここどこだろー」




……ん? …………んんん!?

お姉さん「あー、また迷っちゃったよー」

なんで? なんであのお姉さんがここにいるの!? ○○大学に向かった筈じゃ? こっちは反対方向なんですけど!


お姉さん「んー……ん? あ、あなたはー」

げ……見つかった。

お姉さん「すごーい。また会いましたねぇ」

いや……本当は会ったらおかしいんですが。

男「あの……もしかしなくても……また迷っちゃったん……ですよね?」

お姉さん「はい、そうなんですー。すいませーん」

男「一応分かりやすく道順を教えたつもりだったんですけど……俺が教えたルート覚えてます?」

お姉さん「え、えーっとぉ……まずは小腹が空いてくるまでスキップで前進……」

いきなり違う! しかも全然意味分からん!


お姉さん「うーん……困ったなー。今日の一限の授業結構大事なのに……」

う……。

お姉さん「でもそろそろ行ける気がする……よし、がんばろ! えっと、スキップしながら……」

男「あ、あの」

お姉さん「……はい?」

男「……はぁー……えっと……もしよかったら、俺が一緒に大学まで連れていきましょうか?」

あー、言っちまった。言っちまったよ、俺。

お姉さん「ええー? いやぁ、それは流石に悪いですよー」

男「お気になさらず。こっちも乗りかかった船なんで……」

どう見ても大学に辿り着け無さそうなお姉さんを目の前にして、それを見殺しにするのはこっちもちょっと気分悪いんですよ、うん。


男「はい、着きました。ここが○○大学前です」

お姉さん「わー、やったぁ! 本当何から何までありがとうございますー!」

男「いえ……大丈夫ですよ……」

お姉さん「これだけしてもらって何もお返ししないのは悪いですから、何かご飯でもご馳走しますよー」

お姉さん「えーっと、確かこの辺りに美味しい料理屋さんが……」ウロウロ

男「……! あー、いいですいいです、そんなの! 俺も学校あるし!」

ていうかまた迷子になられちゃかなわん。

男「それじゃ今度こそ俺行きますけど……もう迷ったりしないでくださいね」

お姉さん「はいー。お気をつけてー」

さっきもそうやって言われたけど、お気をつけてほしいのはあなたなんですが……

それより今の時間は…………うん。

遅刻けってーい。やったね。


学校―

あーもう畜生ー。せっかく今日は早起き出来て学校にも早く着けると思ったのにさ。結局今日も遅刻だよ。

そのせいでこうして俺は、他のみんながとっくに下校してる筈の時間に一人残って罰の掃除をやらされております。

とっとと終わらせて誕生日会の用意して待っててくれてる幼馴染の家に行かないと、「遅い!」ってどやされちまう。急ごう。




「お、しっかり掃除してるね。感心感心」

男「ん? あー、先生。どうしたんですか、こんなところへ」

先生「いやなに、一生懸命汗水垂らして学校を綺麗にしてくれている男くんの働きぶりをしかとこの目に焼き付けておこうと思ってね」


男「なるほど……つまりは俺がサボってないか監視にきた、と」

先生「ふふっ、まぁ身も蓋も無い言い方をすればそういうことかな」

男「安心してくださいよ。見ての通り廊下はピッカピカにしておきましたから」

先生「うん……確かに。すごく綺麗だね。これだけ隅々まで掃除できるとは、流石遅刻しまくりで罰掃除常連の男くん。手慣れたものかな?」

男「……涼しい顔してなかなか手厳しいですね。掃除……っていうか家事はいつも家でやってるんで慣れてるんですよ」

一人暮らしだしな。

先生「済まない、軽いジョークのつもりだったんだけど……気に障ったかな?」


男「いえ、別に気にしてないっすよ」

先生「そうか。それにしても君は家で家事をしているんだね、偉いな。とても普段遅刻を連発する生徒の発言とは思えない」

男「遅刻のこと結構引っ張りますね! 一応弁解しとくと、今日の遅刻に限っては致し方ない事情があったんですよ!」

先生「ほう、今日の遅刻は致し方ないのか……では昨日の遅刻や、その前の遅刻は致し方なくないのかな?」

男「うっ……は、はい……昨日以前の遅刻は……致し方……なくないです……」

ゲームのやり過ぎで夜更かしして寝坊、とか……そんなんです。

先生「……ふっ、ふふふっ! あー、すまないすまない。別に責めてる訳じゃないんだ。ただ君をからかってるとついつい面白くてね」

男「面白い……? 俺がですか? あはは、それこそ面白い冗談ですね」

先生「む? 何故だい? 君は十分面白い子だと思うけど」

男「いえいえ、俺はつまんない男ですよ。現に俺なんかに進んで声かけてきてくれるのだって先生入れてもほんの数人ですし」


先生「それはまだみんな君のことをよく知らないだけだよ……」

先生「それに……ほんの数人でも君に声をかけてくる人がいるっていうのは、君がつまらない人間じゃない、っていうことの証明にはならないかい?」

男「先生……慰めてくれてありがとうございます……」

先生「うーん、慰めとかそういうつもりじゃないんだけど……あ、そうだ」

先生「男くん。君、確か帰宅部だよね?」

男「はい、そうですけど」

先生「だったら何か部活動をしてみてはどうかな? 私のお勧めとしては運動系がいいと思う」

先生「やっぱり男の子は掃除よりもスポーツで体を動かしている方が似合っていると思うしね……どうだい?」

スポーツ……………………か。

男「……そうですね。考えときます」ニコッ


帰り道―

ふう、やっと帰れる。先生と思いのほか話しこんじゃったな。

あの人は俺みたいな奴にも気兼ねなく話しかけてきてくれるいい人で、その上美人ってこともあり、うちの学校では生徒から一番人気のある教師だ。

ただまぁごめんなさい、先生。俺は部活やる気はさらさらないです。

そんなことより俺は一刻も早く幼の家に行かねば……さっき催促のメール来てたし。



ワイワイガヤガヤ

男「ん、何だ? 何かあっちの方に子ども達の人だかりが出来てる……?」


女の子1「ねーねー、少女ちゃんって最近何のドラマ見てるのー?」

少女「うーん、あんまり詳しくないんだけど、月曜日の9時からやってるあの恋愛ドラマなら結構見てるよ?」

女の子2「あーアレね! アレ面白いよねー! 女優さん可愛いし……あっでもー、少女ちゃんも負けないくらい可愛いけど!」

少女「えー、全然そんなこと無いよぉ、でもありがとね。えへへ」

女の子3「きゃー! そのはにかんだ笑顔も可愛いよ少女ちゃーん!」

男の子1「おい、お前らそんなに少女にくっつくなよ! 少女が歩きにくそうだろ!」

女の子4「はぁー!? なんでそんなことアンタに言われなきゃいけないのよ? 本当は羨ましいだけなんでしょ?」

男の子1「な、ん、んな訳ねぇだろ! お、俺はただ少女を心配してだな……」

女の子5「大体なんで男子達まで一緒に帰ってるのよー? 少女ちゃんといたいからってついてこないでよねー」

男の子2「おっ、俺達は別に……た、たまたま帰り道が同じなだけだし……なぁ?」

男の子3「そ、そうそう! 他意はないよ、他意は! けど……もしかして……少女は迷惑だったり……したかな……?」

少女「ううん! 全然迷惑なんてこと無いよ。むしろ大勢で帰れてとっても楽しいし……それに男の子1くんも、私なんかを心配してくれてありがとね!」ニコー

子ども達(か、可愛い……!)ズキュウウウウン


男「何じゃありゃ……」

子ども達がただ大きいグループを作って下校しているだけなのかと思ったが……よく見ると……

あの少女という子を中心に他の子がくっついて取り巻いているんだ。

男の子も女の子もみんな。あの銀髪で小柄な少女に夢中、といった感じでついていってる。

格好や雰囲気からして中学生か? あの年でもう周りの人間をあんなに惹きつけるとは……なんというカリスマ性。俺とは真逆の人間だな。

見た目は確かに……すごく可愛い。子ども特有のあどけなさを残しつつも、どこかしっかりしていて妙に大人びた色気があるというか……

……はっ! いかんいかん。俺みたいな男が子どもの集団をじっと凝視していたら怪しまれて通報されてしまうやも知れん。気にせず通り過ぎよう。


少女「あっ、じゃあ私はここで曲がるから……残念だけどお別れだね」

女の子1「あーん、残念! もっとお話したかったよー」

女の子2「こーら。あんまり少女ちゃんを困らせちゃダメでしょー? ほら、私達はこっちなんだから、行くわよ」

女の子3「あ……ちょ、ちょっと待って少女ちゃん! さ、最後に渡したいものが……」

少女「なーに、女の子3ちゃん?」

女の子3「こ、これ……昨日うちで焼いてきたクッキー……あんまり美味しくないかもだけど……よかったら」

男の子1「えー、何クッキーなんか焼いてきてんだよ! そうやって少女の好感度あげようってかー?」

女の子4「あーやだやだ。ほんっと男の嫉妬ほど見苦しいものは無いわよねー」

男の子1「ぐ、ぬぐぐ……」

少女「……」

女の子3「……あ、あの、少女……ちゃん?」

少女「…………え? ああ、ごめん。これ私に? ありがとー! あまりに嬉しくて一瞬意識が飛んじゃってたよー!」

女の子5「もー! 少女ちゃんったら大げさなんだからー!」

少女「えへへへ。それじゃ、私行くね! みんな、また明日ー!」

子ども達「ばいばーい!」


少女「……」スタスタ

む、この少女ちゃんの帰り道、幼の家の方角と一緒なのか。

なんか図らずも俺がこの子の後をストーキングしている構図に見えるな……いや、考え過ぎか。

少女「……」スタスタ

男「……」スタスタ

少女「……」ピタッ

……ん?

少女「……」ゴソゴソ




ポイッ

………………え?


あれ? あれー? き、気のせいかな? 今、目の前で少女ちゃんが、さっき友達から貰ってたクッキーを道端に捨てたような気がしたんだけど……

気のせい……だよな?

少女「……」スタスタ

い、行っちゃう。捨てた訳じゃ無くて……落としちゃったんだよな? それでそのことに気付いてないだけだよな?

少女「……」スタスタスタスタ

ああああ、どんどん進んでっちゃうなー……

男「……はぁ、しゃーない」ヒョイッ

男「おーい、君ー。ちょっと待ってー!」タッタッタッ

少女「……はい? 何か私に用ですか?」クルッ

うっ、近くで見るとさらに可愛いな! って、そうじゃなくて……

男「君さ、今このクッキー落としたよね? だから、はいコレ」

少女「……! ……え? なんですかソレ? 見覚えないですねー。私のじゃないですよ?」



……は? いきなりこの子は何を?


男「え? だって俺君がコレ落とすのを後ろから見てたんだよ?」

少女「え? 後ろから私について来てたってことですか?」

男「いや違う! 断じて違うよ! 後ろを歩いてたのはたまたまだから、たまたま!」

少女「そうなんですか? コレをきっかけに私に話しかけてきたナンパさんとかじゃないんですか?」

男「違います。残念ながら俺に中学生をナンパする勇気はありません」

少女「でも結構お兄さんくらいの人でデートに誘ってこられる人がいるからなぁ……」

そうなの? 今の日本はすごいな。


男「とにかく! 俺はナンパとかそんなくだらない理由で君に話しかけた訳じゃないから!」

男「ていうか……見覚えないって、冗談だろ? 思いっきりコレ君のものの筈なんだけど……」

少女「う……うぅ……」ウルウル

男「……って、えええ!? ちょっと、待った待った! な、なんで急に泣きそうになってるの!?」

少女「だって……本当に……私、見覚えないのに……お兄さんは……私の事が……信用出来ませんか……?」ウルッ

うっ、ぐおおおおお! 目に涙を浮かべてこっちを上目使いで見るのは……反則的に可愛いだろおお!

お、俺はなんて馬鹿な事をしてしまったんだ! こんな可愛い子が嘘をつく筈ないじゃないか!

そうだ、この形の悪いクッキーだって、最初からあそこに捨ててあったに違いない……

こんな……いかにも手作りですって感じの……不格好な……クッキー……


クッキー……


男「……」

少女「……お兄さん? どうしました、そんなにクッキーを見つめて……」

男「やっぱり……このクッキーは君のものだよ」

少女「……! ま、まだ信用してくれないんですか? ぐす……」ウルウル

男「ごめん。別に君を泣かせるつもりは全くないけど……でもこれは本当のことだから」

男「俺さ、全部見てたんだ。君が女の子からこのクッキーをもらうところから……クッキーを捨てるところまで」

少女「……っ」


男「君みたいな純粋で良い子そうな子がそんな事したなんてあんまり思いたくないけど……まぁ、やむにやまれぬ事情があるんだと信じたい」

男「でもとりあえず、これは持って帰ってやってくれないかな?」スッ

少女「……」

男「俺は君の事やこのクッキーを作った子の事を全く知らない。けど、あの子がクッキーを君の為に一生懸命作ったことは分かる」

このクッキーを見れば簡単に伝わってくる。

男「だからさ、例え食べないんだとしても持って帰るだけ持って帰って気持ちは受け取ってあげてよ……ね?」

少女「お兄さん……」







少女「……はぁ………………………うざ」ボソッ


男「……え? 今なんて……」

少女「ウザいって言ったんだよ、バーカ」

男「え、う、ウザい? あ、あれ、えっと、その……どういうこと……かな?」

少女「ウザいの意味も分かんないの? アンタって見た目通りの馬鹿なのねー」

ちょっと待て。え? 何? 状況についていけないんですけど。
今目の前で俺に暴言を吐いている生意気なガキは誰? さっきまで可愛い泣き顔を俺に振りまいてくれていた少女ちゃんはどこ?

少女「ぷっ……あははは! 何よその間抜けな顔はー! もしかして私がいきなり変わっちゃってびっくりしてる? そうなんでしょー?」

はい、その通りでございます。

少女「……お兄さん、大丈夫? 驚いた顔してどうしたの?」ニコッ

あ、そうそう、これこれ。俺が話しかけたのはこの可愛い笑顔の少女ちゃん。

少女「なんて……残念でした。この顔は私の表の顔……演技でしたー。騙されちゃった?」

演技って……



……………………なにいいいいい!?

マジかよぉ……残酷すぎるだろ!


男「な、何でクッキー捨てたりなんかしたんだよ」

少女「なんでって……私みたいな可愛くて完璧な子が、こんな汚いクッキーを持ち歩ける訳ないじゃない。私の品格を下げるだけよ、こんなの」

男「じ、自分で自分のこと可愛くて完璧って……っていうか、なんだその理由。そんな理由でクッキーを捨てたのかよ?」

少女「私にとっては大事な理由よ。私は常に周りのみんなから崇められてなきゃいけないの。そのためには細かいところまで気にしてなきゃいけないのよ」

男「なんだよソレ……あの子達だけじゃなく……周りの人達みんなを騙してるのか? その表の顔ってやつで」

少女「そうよ? 現にあなたも騙されたでしょー? 私の事可愛いって思ったでしょー?」

男「そ……それは……さ、最初は……けど何で俺には本性を見せたりしたんだ?」

少女「アンタがしっつこいからよ!」クワッ

男「うおっ! ……え、何?」


少女「大人しく私にメロメロになってればいいのに、いちいちクッキーのことでつっかかってくるから……必殺の上目使いまでやってやったのに……」

狙ってやってたのかよ、あの上目使い。こえー。

少女「基本的に私は誰にでも優しいのよー? けど……アンタみたいな面倒臭い奴に対しては別」

男「め、面倒臭いだとぉ?」

少女「そうよ。アンタみたいなのに媚売ってもこっちには何のメリットもないからね……ていうか、アンタ誰なのよ? いきなり馴れ馴れしく話しかけてきて」

男「お、俺は……通りすがりの男です」

少女「は? なにそれ、キモ……もういい。訳分かんない。もう私行くから」スッ

男「おい、ちょっと待て」

少女「……んもう! 何よ!?」

男「クッキー……忘れてるぞ。ちゃんと持って帰って」


少女「…………ちっ! 分かったわよ、もう!」パシッ

乱暴に持っていきやがって。引っ掻かれるかと思った。

少女「あーもう本当うっとうしい……アンタ」

何だよ。てか豹変してから呼び方がアンタだな。

少女「もう2度と会う事は無いでしょうけど、もし万が一私を見かけてもぜっっったいに話しかけてきたりしないでよね」

男「何だ? 本性ばらされるのが怖いか?」

少女「はぁ? 何勘違いしてんの? 話しかけられたくないのは単純にアンタがキモいからよ」

少女「というかもしもアンタがいきなり本性ばらそうとしたって、みんな私の事が大好きだから信じてもらえないっつーの」

少女「分かったか、ばああああああああか」ベー




こ……

このガキぃぃぃ……





最悪だっっっっっ!!

あーもうマジ、なんなんだよあのガキは。

仮面優等生ってやつか? にしてもあそこまで両極端なぶりっこ初めてみたぞ。

アイツの周りにいた子ども達は、明日からもあのクソガキに騙され続けていくのかな。可哀想に。

ちっ、やっぱ余計なお節介なんかするもんじゃないねー。現実ってやつはちょっと行動を起こすとすぐ牙を剥いてきやがる。

あのガキもきっと、俺が調子に乗らないように、って神様から送られてきた刺客かなんかなんだよ。そう思わないとやってらんねぇ。

はぁーぁ、頼むぜ神様。


にしても、今日はなんだか濃い一日だなぁ。

いつも通りの珍しくもなんともない平日ではあるんだけど……やけに色んな人と絡んだ気がする。

色んな人って言っても数人なんだけど、その一人一人がいちいち個性的だったからな……

普通の人からすれば大した事じゃないんだろうけど、普段ほとんど人との交流がない俺からすると今日はなかなかハードだった。

まぁ流石にもう新たな出会いはないだろ。てか勘弁。

あとは幼馴染の家に行くだけ……って、そうだった!

やべぇ、すっかり頭から飛んでたけど幼馴染の家に行くんだった! 早く行かんと怒られ……




「見つけましたよ、神様!」

男「……え?」


何? 今誰か何か言った?

クルッ



犬「……」ジー

い、犬? ……ってコイツ! 昨日俺が何故か追い掛けちゃったあの綺麗な犬じゃん! 何でここに……

あれ? でも犬だけ? 人の声がしたと思ったから振り返ったんだけど。犬以外誰もいねぇな。気のせいだったのか?

犬「……」ジー

う、な、なんだよこの犬。さっきから俺の方じーっと見やがって。
相手して欲しいのか? 昨日は全力で逃げたくせに。

いやいや、悪いが駄目だ。俺はもうこれ以上無駄な時間を過ごす訳にはいかないんだ。


「どうされました? 神様」

……ん? あれ? また人の声がした……こ、今度こそ気のせいじゃないだろ!

男「だ、誰だ? どこから俺に話しかけてるんだ? 出てこいよ!」

「何を言ってるんですか神様? 目の前にいるじゃないですか」

男「目の前? 何言ってんだ、俺の目の前には犬が一匹いるだけだぞ」

「だからそれが私なんですってば」


男「……は?」

犬「お久しぶりです! この再開の時をずっと待ち焦がれておりました!」


い……い……い……

男「犬がしゃべったああああああああ!?」

犬「……? 何をそんなに驚かれておるのですか? ……ああ、もしかしてこの姿にご不満が? でしたら」


ボンッ


犬娘「この人間の姿ならばよろしいですかね?」

男「犬が人間になったあああああああ!?」

犬娘「か、神様!? 先ほどから何故そんなに取り乱されておるのですか!?」

男「ま、待て待て! あ、頭が……混乱して……ば、爆発しそうだけど、とりあえず聞かせて!」

犬娘「なんでしょう」

男「さっきから何回も言ってる神様って何? 誰の事を言っているのさ!?」

犬娘「何を言っているのですか? 神様といえばあなた様のことに決まっているでしょう?」







男「俺が神様?」

犬娘「はい」





やっとスレタイに辿り着けた…
想像以上のストーリーの長さに俺もびっくりしている
まぁマイペースに書いていくんで暇な人は読んでいってやってください

皆さんありがとうございます。すっごい励みになります。マジで
完結は勿論させるつもりです。更新は不定期になりますが

がんばってな


――――――――――――――――――――――――




男「……ふぅ」

犬娘「どうですか? 落ち着きましたか?」

男「うん……多分もう大丈夫。取り乱したりしないよ」

犬娘「よかった……一瞬神様の身に良くない事が起きたのかと思い心配しました」

男「……あのさ、さっきも言ってたことだけど。俺が神様って、どういうこと?」

犬娘「神様……やはりまだ思い出せませんか?」

男「残念ながら全く」

犬娘「そうですか……おかしいですねぇ……普通神様と私達は記憶が受け継がれている筈なんですが」

男「人違いなんじゃないの? その神様とやらと俺が見た目そっくりで、見間違えてるんじゃ?」


犬娘「人違いなんかじゃありません! 私が神様と他の誰かを間違える訳ないじゃないですか!」

男「そ、そうなの……?」

犬娘「はい。それに私は神様を外見で見つけ出した訳じゃありませんから」

男「じゃ、じゃあ何を基準に俺が神様だと……?」

犬娘「分かるんです。神様の気配……匂い……オーラ……その他諸々の全ての情報が、あなた様が神様だという事を私に伝えてくれています」

匂い!? オーラ!? おいおい何かやばい判断基準で見つけられたな。

犬娘「……とまあ無理やり理由付けしてみましたが……実際はもっと至極簡単な事なんですよ」

犬娘「私と神様の昔からの“絆”……それこそが、私が神様を見つけられた一番の理由です」

“絆”……ねぇ。


男「ところで君は……」

犬娘「君だなんて悲しいです。犬娘とお呼びください」

男「君、犬娘って言うのか。それじゃ、犬娘。聞くけど、犬娘は何故今日になって俺に会いにきたんだ? 昨日は逃げていったのに」

犬娘「えっ? 逃げた? 私がですか!?」

男「うん。昨日も偶然犬娘を見かけたんだけど、その時はすごい勢いで逃げていってたぞ?」

犬娘「もっ、申し訳ございませんっ! わ、私とした事が神様にそんな無礼な真似を働いていたとは! これに対する処罰は如何様にもお受けする所存で……」

男「処罰って……そんなんいいからさ、昨日と今日との態度の違いの訳を教えて欲しいだけなんだけど」

犬娘「はっ! ……えっと、その前にですね。失礼ながら一つお答え願いたいのですが……神様は現在年の方はおいくつで?」

男「年? 年は16……じゃなかった。今日が誕生日だから17だな」


犬娘「今日が誕生日……やはりそういうことでしたか」

男「やはりって?」

犬娘「実はですね。神様がこの時代で覚醒するのは17歳の誕生日を迎えた今日からなのですよ」

犬娘「覚醒するまでは神様と私達を結ぶ“絆”の力も全く意味をなしませんから……」

犬娘「だから昨日の時点でまだ16歳だった神様に私は気付くことが出来なかったんだと思います……すみません」

まだ色々意味不明だけど、何となく分かった。要するにコイツにとっては16歳の俺と17歳の俺じゃ全く別物なんだな。だとしても……

男「俺って分かんなかったからって、あんな全力で逃げなくてもよくねぇ? ちょっとショックだったんだぞ?」

犬娘「あうう、すみません! すみません! 私、これでも割と人見知りでして……」

犬娘「昨日に限らず人に近づいてこられたら、姿も確認せず全力で逃げていたんですー!」

ま、いいけどね。全然気にしてないけどね!


男「さてと……それじゃそろそろ俺と犬娘との詳しい関係を教えてくれないか?」

犬娘「神様はこの世界を統べる壮大で素晴らしいお人で、私はそんなあなた様に仕える従者です」

男「俺が世界を統べるって……は……はは……冗談でしょ?」

犬娘「冗談などではございません! 私はいつだって神様には正直です!」

男「そ……そうか……うん……まぁ、いちいち否定してたら話が進まなそうだからとりあえず聞こう」

男「その話もっとしっかり教えてよ。何せ俺はその事が全く記憶にないからね」

犬娘「しっかりですか。でしたらこの時代にまで受け継がれている昔話があるくらいですので、結構簡単に説明できそうですね」

男「……昔話?」

犬娘「ええ」








犬娘「『十二支』のはじまりの昔話……聞いた事はおありですか?」


『十二支』? ってあの……占いとかにも使われる……子、丑、寅、卯……って続くアレだよな?

それのはじまりの昔話か……あー、何か小さい頃に聞いた事あるな。どんなんだっけ?

男「うーん、何となくしか覚えてないなぁ」

犬娘「では、かいつまんでお話ししますね」




犬娘「むかーしむかし、あるところに一人の神様と沢山の動物達がおりました」

犬娘「動物達は事あるごとに諍いを起こしあっては口ぐちに『私が一番強い』『いや、私が一番優れている』と言い張っていました」

犬娘「そんな状況を見かねた神様はある日こう言いました」

犬娘「『もうすぐ元旦が来て新しい年になる。その日に私のところへ挨拶に来るがいい。宴の準備をして待っている』」

犬娘「『そしてその挨拶の順番が早かった十二の動物には、他の動物の上に立ち私とともに世界を統治していってもらいたい』……と」

犬娘「それで私を含めた十二の動物が、光栄にも神様のパートナーとして選ばれ、世界の争いを止めていった訳ですね!」


男「あー、確かそんな感じだったな……俺が聞いた話とはちょっと違った気もするけど……」

犬娘「なんだか受け継がれている昔話も、地方によって諸説あるようですしね。ですが、コレが昔話の真実のお話ですよ」

男「そっかー……っていうか……あれ?」

男「えーっと、この流れからすると……もしかして……いや……もしかしなくても……」




男「そのお話に出てくる神様が……………………俺!?」

犬娘「はいっ!」ニコッ


男「そんで十二支の“戌”が………………………お前!?」

犬娘「はいっっ!!」ニコー


あ、まだあったばかりの女の子に向かってお前とか言っちゃった。
あ、でもあっちからしたら随分昔から知ってるのか。じゃ大丈夫かな。
あ、もっと言えばコイツただの女の子ですら無かったわ。あっはっは。

……って

そんなことはどーでもいいんだ!

何、あの昔話ってノンフィクションだったの? 昔の人が適当に考えたお話なんじゃないの?

うさんくさい! うさんくさすぎるけど……

くそ! 現に犬が人語を話しているのを耳にして、犬が人間に変身するのを目にしちまってるからなぁ。

むしろ俺がおかしくなっちゃったんじゃないのか? うん、その可能性も十分あり得るな。

いや……ちょっと待て。

その前に確認しなきゃいけないことがあった……。


犬娘「……神様?」

男「おい……今の話が本当なら……ほ……他の奴は?」

犬娘「他の奴……とは?」

男「だから、他の『十二支』だよ! 鼠とか牛とか虎とか兎とか!」

男「そいつらもまさか……こ、この時代にいるのか!?」


犬娘「はい、勿論ですよ!」

やっぱりかあああああああ!

とりあえずこんだけ更新


>>65
ありがとうございます、がんばります


男「そ、それで? そいつらが俺に接触してくる可能性も、あ、あるのか?」

犬娘「彼女達にも事情はさまざまありますが……そうですね。まず神様に会いに来ると見て間違いないです」

じゅ、『十二支』の動物達が……俺のところに……?

男「ムリムリムリムリ! お前一人の存在でさえまだ受け止めきれてないのに、こんなのがあと十一回もあるなんて無理だってぇ!」

犬娘「お、落ち着いてください神様! 何もすぐに他の『十二支』達が神様の元へやってくる訳ではございませんから!」

男「……何? そうなの?」

犬娘「はい……先ほど、私は“絆”によって神様を見つけ出したと言いましたよね?」


男「ああ……もしかして他の奴らは違う方法で俺を見つけ出すのか?」

犬娘「いえ。他の動物達も神様との“絆”を頼りにやって来るでしょう」

男「だったら……」

犬娘「ただし。その“絆”を感じ取る力はそれぞれ違います。神様は今日17歳になられたばかりですので、まだ時間はあるかと」

男「それはつまり……まだ他の動物達は俺の気配に気付いてないって事か?」

犬娘「その通りです。まぁ、時間が経てば必ず皆気付きますが」

結局いつかは俺の前に現れるんじゃねぇか。マジかよー、勘弁してくれよ……


男「それにしても……お前は現れるの早すぎだろ! 今日17歳になって早速今日きやがって」

犬娘「私は犬ですから! 何かを“嗅ぎ分ける”能力には長けてるんですよ!」クンクン

ちょ、いきなり俺の匂いを嗅ぐな。なんか恥ずかしいから。

犬娘「それに私は一刻も早く神様に会うために、毎日毎日常に“絆”の気配を探ってましたので」

男「どんだけ会いたかったの!? お前神様大好きだな!」

犬娘「だ、大好きだなんてそんな……! 従者としてお慕いはしていますが……!」

あれ……俺今何気にコイツに「俺の事好きなんだろ?」的な事言った?
うわ、めっちゃ自意識過剰みたいじゃん! 今の無しでお願い。


犬娘「は、早くお会いしたかった理由はそれだけではありません。私はどうしても一番に神様の元へ行き、お守りしなければいけないと思ってましたから」

男「……守る?」

犬娘「その判断はどうやら正しかったようですね。まさか神様が昔の記憶を全く引き継いでいないとは……」

犬娘「この状態でもしも神様が襲われていたら訳も分からぬままにやられていた事でしょう」

男「……は? 襲われる……?」

犬娘「しかーし! この犬娘がやってきたからには安心ですよ! 神様には傷一つつけさせないと約束いたしましょう!」

男「ちょ、ちょっと待って! なんだか穏やかじゃねぇぞ? 俺がやられるって……一体誰にだよ!?」


犬娘「それは……他の『十二支』にです」


何……? 何だそれ、分かんない分かんない。コイツの話通りなら、俺は神様の筈だろ?
それが何で、『十二支』の奴にやられるんだよ?

男「お、お前、言ってる事むちゃくちゃだぞ?」

犬娘「すみません……説明してませんでしたが『十二支』にもさまざまなタイプがおりまして、皆が皆神様に友好的な訳ではないんです」

犬娘「特に“辰”や“巳”は……少々厄介というか……」

男「えええ? じゃあアレか? お前みたいに俺を慕ってやって来る奴だけじゃなく、俺を殺しにやって来る奴がいるってのかよ!?」

犬娘「さ、流石に殺そうとはしないかと……攻撃はされるかもですが……」

男「いやー……どっちみちすっげぇ面倒臭いっすわー……うへー」


犬娘「あ、あのあのっ! ですから私が神様をがっちりお守りしますのでっ!」

男「お前が……?」ジー

犬娘「わふっ!」

男「……お前ただの女の子じゃーん! 変身してもただの犬じゃーん!!」

犬娘「ひ、酷いっ! い、一応これでもですね、剣術の心得がございまして、腕にはそれなりに自信があるというか……」

剣術の心得って……お前剣持ってねぇじゃん!

ギャグか? ギャグなのか!?


犬娘「あ、そういえば。何故神様や私達『十二支』が現代に再び戻ってきたかを説明していませんでしたね。これは……」


Prrrrrrrrrrrr…


犬娘「って、わわ、な、何の音!?」

男「あ、悪い。俺の携帯だ」

着信か。誰だよこんな時に……






『幼』


男「………………………あ」



あああぁあああぁああああああぁぁああ!!


幼との約束うううぅぅううぅうぅうう!!


犬娘「か、神様……? 何だかすごく顔色が悪いように見えますが大丈夫ですか……?」

男「シャラァップ! ちょ、ちょ、ちょっと黙っててくれ!」

犬娘「え、は、はいっ!」

男「ごく……」



ピッ

男「も、ももももも、もしもしー……」

幼『男ぉ……今……何時か……分かるぅ……?』ゴゴゴゴゴ

ひいいいいいい! 電話越しに怒りが伝わってくるうううう!


今までの付き合いの経験上……下手な言い訳は火に油!

男「すいませんでしたああああ! 今すぐ光の速さで幼様の家に向かいますのでええええ!」

幼『分かった……楽しみに待ってるから……』ゴゴゴゴゴ

何を楽しみにしてるんですか幼様!?




ピッ

男「……ふぅ。とにかく……うん」

急いで幼の家へ行かなければっ!

ダダダダダダダダダッ


犬娘「えっ!? あ、あの、神様!? そんなに急いで何処へ!? ただ今なかなかに重要な説明の途中でもあるのですがっ?」

男「今の俺に、幼の怒りを一刻も早く鎮める事以上に重要な事なんかない!」

犬娘「い、いかに大事な用事か神様の気迫を見て伝わってきました……」

犬娘「でしたらその用事が終わり次第続きをお話するとしましょう」

スタタタタタッ

げっ! コイツ、まさか幼の家にまでついてくる気か!? それはまずい。止めなきゃ!

けどコイツ俺の事守るとか言ってるし聞き入れてくれなさそう……どうやって説得するか。

男「お、おい……とりあえずその……待て!」

犬娘「はいっ」ピタッ

男「え……?」


犬娘「待ちましたよ?」

男「あ、あぁ……えと……俺今からちょっと人の家に行かなきゃいけないんだけど……お前は、来るなよ?」

犬娘「はい、わかりました!」ビシッ

男「……え……わ、分かったの? ホントに?」

犬娘「はい、行ってらっしゃいっ!」

えぇー……めちゃめちゃ物分かりいいじゃん……

男「うん……じゃ……い、行ってくるね……?」

とりあえずこんだけ更新

皆さんたくさんの乙等ありがとうございます


幼家―




幼「遅いっっ!!」

わー。やっぱこうなりますよねー!

幼「一体どこほっつき歩いてたらこんなに来るのが遅れるのよ!? 罰掃除って学校の隅から隅までやらされるもんなの!?」

男「ほんっとごめん。なんかもういちいち説明するのも面倒臭いくらい色々ありまして……」

どうせ説明しても「言い訳するな!」の一喝で終わりそうだしな。

幼「ったく、何で私がアンタなんかの為に2時間近くも待ってなきゃいけない訳?」

男「そうだよな……幼は待たせるのは好きだけど待つのは大っ嫌いだもんな」

幼「そうそう……って! 何それ、どういう事よ!? 別に私待たせるの好きじゃないし! 待たせたりしないし!」

あはは。


幼「男……アンタまだ反省が足りてないんじゃない? もしかして……引っ掻かれたいのかしら?」

男「わーすいません調子乗ってましたぁ! マジで反省してますので引っ掻きだけはご勘弁を!」

コイツの引っ掻きは冗談抜きで痛い。しかも結構長い事ひりひりするし。

幼母「まぁまぁ、幼ちゃん。いつまでも玄関前でおしゃべりしてないでそろそろ男くんを部屋にお招きしたら?」

男「あ、幼母さん。こんにちは」

幼母「はい、こんにちは。男くん、誕生日おめでとう」

男「ありがとうございます」

幼「あぁ、ちょっとお母さん! まだ私が『おめでとう』って言ってないのに先に言わないでよ!」

幼母「そんなの知らないわよー。あなたが早く言わないでお説教始めちゃったのが悪いんでしょー?」

幼「うー……」


男「あ、でも幼からはメールで先に『おめでとう』って言われてるぞ? だから大丈夫……」

幼「メールと直接言うのじゃ、また全然違うでしょー!」クワッ

男「はいっ! そうですねっ!」ビシッ

幼「……もーいい。さっさと私の部屋行くわよ」

男「お、おうっ」


スタスタ





幼「男…………………………誕生日……おめでと」

男「……………………うん……ありがとな」


幼の部屋―

幼姉「あら、やっと主役のおでましね」

幼妹「男お兄ちゃんおっそーい! 私もう先に料理食べちゃおうかと思ったよー!」

男「おわ、幼姉さんに幼妹ちゃん。2人も待っててくれたんだ。てっきりいないもんだと」

幼妹「私が男お兄ちゃんの誕生日をお祝いしない訳ないじゃーん! ずっとここで待ってたんだよー?」

幼「よく言うわよ。さっきまで『待つの飽きた』って言って、自分の部屋に漫画読みに行ってたじゃない」

幼妹「あれれー? そうだっけー?」

男「あはは、遅れてごめんね幼妹ちゃん? 幼姉さんも……わざわざありがとうございます。今日はバイトは無かったんですか?」


幼姉「幼の大事なボーイフレンドの誕生日にバイトなんて入れる筈ないでしょー?」

幼「お、お姉ちゃん! いきなり何言ってんの!? 男はただの幼馴染だってば!」

幼母「あらあら、もうみんな楽しそうに盛り上がっちゃって。私も混ぜてちょうだい」

幼「あっ、お母さん。私も料理運ぶの手伝うよ」

うおー、幼母さんが台所の方から次々と美味そうな料理を持ってくる! いい香りも漂ってきた……



幼母「……最後にケーキを真ん中に置いて……よーし。これで準備おっけーね」

うひゃー……
毎年思うが、やっぱり幼の家で誕生日会すると食事が豪勢だよなぁ……

俺ごときの為にホント申し訳ない。


男「マジで美味そうだなー……見てるだけで涎が出そうだよ」

幼母「あらー、そう言ってもらえると私達も腕を振るった甲斐があるってものねー。ねぇ?」

幼妹「うんっ! 私も今年は頑張ったからね!」

幼姉「そうね。幼妹も野菜洗ったりしたもんね。でも……一番頑張ってたのはやっぱり……」チラッ

幼「何でこっち見るのよ、お姉ちゃん? ……別に、みんなで作ったんだから一番とか無いでしょ」

男「うん……4人の力で作られただけあって、凄い完成度だね」

幼「……出来たてだったら、きっともっと美味しかったのに」ボソッ

あ……


幼母「こーら、幼ちゃん。いつまでも引っ張らないの。男くんが気にしちゃうでしょ?」

幼姉「もう……ごめんね男くん。幼ってば料理作る時からウキウキして、男くんに食べてもらうの楽しみにしてたから……ちょっと拗ねてるのよ」

幼「そんなんじゃないってば! て、適当な事言わないで!」

幼……

そうか……そうだよな……



男「幼……ごめんなさい」

幼「何よ。謝罪ならさっき聞いたってば……」

男「いや、違う。今のは、さっきの謝罪が適当だった事に対するごめんなさいだ」


幼「そうなの? ……って、さっきのは適当だったの!?」

男「うん。はっきり言って心から謝ってなかった。色々事情あったし、遅刻してもしょうがないだろ、とか思ってた」

幼「あ、アンタ……」

男「けどどんな事情があったとしても、みんなを待たせて、作ってくれた料理を冷まさせてしまった事は変わらないんだから……ちゃんと謝らないとな」

男「だから幼……遅刻してごめんなさい!」ペコッ



男「そして……こんな俺に素晴らしい誕生日会を開いてくれてありがとう! 俺……幼と幼馴染で本当によかった」

幼「……ま! まぁ……そこまで言われたら……ゆ、許してあげるしかないわね……せ、せいぜい感謝しなさい……!」


幼姉「幼ったら……嬉しそうにしちゃってー」ニヤニヤ

幼妹「もー、2人ともいちゃいちゃするのは後にしてよねー! こっちはお腹ぺこぺこなんだからー!」

幼母「そうよー、それに料理ならまた温め直せばいいんだから。それより2人とも早くグラス持って……はい、男くん。オレンジジュースでよかった?」

男「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

幼母「幼ちゃんも……はい」

幼「ったく、お姉ちゃんと幼妹は後できつく言っとかなきゃ……」

幼母「よーし、みんな飲み物持ったわねー? それじゃ男くんの17歳の誕生日を祝って……」

全員「かんぱあああああああい!!」



幼母「男くーん。幼ちゃんにいらないって言われちゃったんだけど、本当に今年はハッピーバースデーの歌流さなくていいのー?」

男「いいですよ別に。どういう形であれ祝ってもらえるだけで俺は嬉しいですから」



幼姉「男くん。幼とは最近どうなのよ?」

男「どうって……今まで通り仲良くさせてもらってますよ? 幼の方は交友関係が広いんで、学校では前より話しませんけど」



幼妹「ねーねー男お兄ちゃん、聞いて聞いて! 私ね、今成長期でおっぱいが前より5㎝も大きくなったんだよ!」

男「へ、へー……あっ、た、確かに何だか幼妹ちゃん少しセクシーになった気がするよ……」



幼「お、男……ど、どう? その私が作った料理……美味しいかな?」

男「うん……マジうっっめぇ!! これお店とか出せると思うよ! いや、冗談抜きでさ!」


ああ……

幼の家はいいな。まるで我が家のように……いやむしろ我が家より落ち着く。

幼も幼母さんも幼姉さんも幼妹ちゃんも……あと今は仕事でいないけど、幼父さんも。

この家の人達はみんな暖かくて、俺なんかに優しくしてくれる。



幼「幼妹ぉ……アンタさっきいちゃいちゃがどうとか言ってたわね? 何度も何度も言ってるけど、私と男はそういうのじゃ無いっての!」
幼妹「きゃー! 助けて幼姉お姉ちゃーん! 幼お姉ちゃんが照れ隠しで襲ってくるよー!」
幼姉「それは仕方ないわ幼妹。ツンデレって生き物はね、そういうもんなの」
幼母「あなた達暴れないでよー? もしジュースこぼしたりしたら折檻ですからねー♪」


……それに家族同士でもすごく仲が良い。時折冗談も混ぜながら楽しそうにじゃれあう様子は見ていて微笑ましい。

……俺の家族とは大違いだ。



男「誕生日プレゼント?」

幼「そっ。まぁ一応今年も用意してあげたから」

男「本当毎年ありがとうございます……開けていいかな?」

幼「どうぞー」

男「どれどれ……ん? これは」ゴソゴソ

男「『幼妹が一回言う事を聞いてくれる券』……?」

幼妹「あーそれ私のプレゼントだよ!」

男「えーと……これは……?」


幼妹「その名の通り、その券を使えば私が男お兄ちゃんの言う事を一回だけ何でも聞いてあげるという、素晴らしいものだよ!」

幼「アンタ……お金無いからって、そんな『肩叩き券』みたいな……」

男「はは……ありがとね幼妹ちゃん。何かあった時は使わせてもらうよ。……それじゃ次はこっちを……」ゴソゴソ

男「えーと、なになに……『健康食品詰め合わせ』か」

幼母「あら、それは私が用意したやつね」

幼母「男くん、一人暮らしでしょ? あなたは料理出来るからまだいいけど……それでもやっぱり一人で食べてると栄養って偏りがちだから……ね?」

男「確かにあんまり栄養なんて気にしてなかったですね……助かります、ありがとうございます」


次は……『香水』だ。

幼姉「男くんっておしゃれとかそういうのには無頓着なタイプでしょ? だから幼……じゃなかった、彼女とデート行く時はそれ使ってよ」

男「香水かー……何か大人っぽくて格好いいですねー。ありがとうございます、彼女ができるかは分かんないですけど使わせてもらいますね」

そんで最後は……

男「これは……『PSPSP』!?」

幼「それが私のプレゼント……誕プレにゲームなんて、とも思ったけど、やっぱり本人が好きなもの送るのが一番いいと思ってさ」

男「お前コレ今はまだめちゃくちゃ高いじゃん……」

幼「ああ、何かソレ一番最新の奴なんでしょ? 私携帯ゲーム機の事情とか興味ないから知らないけど……」

幼「というかこういう時に値段の事気にしたりするのは野暮でしょ。それとも何? アンタはこれ貰っても嬉しくなかったの?」

男「いや、嬉しいよ……うん。すっげぇ嬉しい。幼……ありがとう!」


実はコレ……発売当日に即買いに走ったから持ってたんだけど。

そんなもの関係ない。幼が俺を喜ばせるために買ってくれたという、その行動と気持ちがすごく嬉しい……大事にさせてもらいます。


幼母「うふふ。プレゼントのお披露目もあらかた終わったみたいね。それじゃ私はお皿を片付けようかしら……って、あら」

幼母「いつの間にか雨降ってきてるわねー。誕生日会が楽しくて全然気がつかなかったわー」

え、雨?

男「……」チラッ

マジだ。幼母さんの言葉で窓を見れば、結構な勢いで雨が降っている。しかも空はすっかり暗くなっていた。

時計を見れば、俺が幼の家に着いてからかなりの時間が経っている。楽しい時間が過ぎるのは早いというのは本当だな。




そういやアイツ……犬娘はどうしたんだろうか。この家来てからすっかり頭から飛んでいた。

まぁこの雨だし、アイツも一旦家に帰っただろ。

……あれ? そういえばアイツって……ちゃんと家あるのか? 昨日見た感じだと野良犬っぽいようにも思えたけど……

まぁどっか休める場所くらいあるだろ、多分……


男「……」

幼「……男? 急に外見てぼーっとして、どうしたのよ?」

男「えっ!? あ、いや、何でもないよ。何でも」

いかんいかん。どうして俺があんな出会ったばかりの得体の知れない奴の事を気にしなきゃならんのだ。

大体アイツはなんだったんだよ。

いきなり俺の前に現れて俺の事を神様と呼ぶわ、自分は『十二支』の“戌”だと言うわ、俺が他の『十二支』に狙われてるとか脅してくるわ……

つーか犬が喋るとか人間の女の子に変身するとか、ありえねーだろ。

うん、やっぱり今思い出しても信じがたい。アレは全部夢でしたーって言われたら簡単に納得できる。


男「……」チラッ

幼「……? 何よ」

そうだ、そうだよ。俺にとっては今幼達といるこの空間が“常識”なんだ。これが普通の世界。

さっきまで俺が犬娘といた空間は“非常識”な世界……普通じゃない。本来俺が入りこむ場所じゃなかったんだ。

図らずも俺は一旦犬娘と別れた訳だけど……このままでいいんじゃないか?

もしアレが俺の妄想だったならそれで良し……現実だったとしても、わざわざまた自ら場違いな“非常識”の世界に足を突っ込む必要はないだろ。

よし、そうと決まればさっきあった事はとっとと忘れるように努めよう。

とりあえずこんだけ更新

っていうか思った以上に見てくれてる人が多いようでびっくり&嬉しいです
皆さん乙ありがとうございます
面白いと思ってもらえるよう頑張ります

頑張らなくていいよ?


あれだ>>1が楽しく投下出来ればそれでいいと思うぜ
 そんなわけで>>1乙!






幼妹「あー食べた食べたー! 私もうお腹いっぱいで動けないよー」

幼姉「食べてすぐ横になると体に悪いわよ?」

幼母「そろそろ会もお開きね……それにしても随分遅くなっちゃったわね」

幼母「それに雨も降ってるし……男くん今日はウチに泊まっていったら?」

幼「お、お母さんっ!? そ、そんなあっさりと……」

男「いえ……お言葉はありがたいんですけど、明日も学校があるんで遠慮しておきます」

幼「男……そ、そうよね!」

幼姉「残念だった? 幼」

幼「っ! んな訳ないでしょ! もー!」



男「それじゃ俺はこれで……今日は料理といいプレゼントといい本当にありがとうございました」

幼母「またいつでも遊びに来て。こんな幼ちゃんだけど、これからも仲良くしてあげてね?」

幼妹「男お兄ちゃんばいばーい! 今度は一緒にゲームしようね! 幼お姉ちゃんにばれたら嫉妬されちゃうから内緒でね!」

幼姉「私は男くんを義弟として迎える準備はいつでもしてあるからね……ふふっ」

幼「最後の最後までアンタ達は……ったくぅ! 男、玄関まで送ってくから! こんな人達無視してさっさと行くわよ!」



ガチャ


幼「あーもう……ほんと騒がしい家族なんだから。やんなっちゃうわ」

男「でもみんな仲良しでとってもいい家族じゃないか。俺の家からしたらすげぇ羨ましいぞ」

幼「あ……ご、ごめん……男の事も考えずに……」

男「え? あ、いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。気にしないでくれ」



男「幼も……もう今日何度目か分かんないけど、マジでありがとな」

幼「まぁね、アンタは私にとっては家族以外で一番付き合いが長い人間だし……その特権って事で大人しく受け取っときなさい」

男「ん、そうする」

幼「アンタさぁ……学校でも今みたいに普通にしなさいよ……大丈夫だから……」

男「…………………え? 別に普通だろ?」

幼「はぁ……バーカ」

男「なんだよそれ」

幼「何でもないわよっ……それじゃ私も戻るから。じゃあね」

男「おう、また明日……学校でな」


帰り道―

どひゃー、やっぱ結構雨強いなー。今日は天気予報見てきてなかったからなぁ。
やっぱ毎日チェックしなきゃいかんよなぁ。

幼の家で傘借りられたからよかったけど、もし無かったらこれ風邪ひいてたな。

うーん……今から帰ると時間的に今日はゲームできなさそうだな。

夜中の間使ってやる、っていう手もあるけど、それだとまた遅刻する可能性が高いからなー。

流石に何回も連続で遅刻してたらそろそろマジで進級に響くし……

それに、罰掃除中にまた先生にからかわれるのも癪だ。

しょうがない。今日はさっさと家に帰って夜更かしせず寝よう。


男「……」スタスタ

……あー……それにしても今日はいい誕生日だった……

男「……」スタスタ

幼の家系って美人揃いだよなー……幼や幼姉さんは言わずもがなだし……

男「……」スタスタ

幼母さんは3人の娘がいるとは思えないくらい若々しいし……幼妹ちゃんは将来有望だし……

男「……」スタスタ

そう考えると今日の俺……両手に花どころか両手両足に花だったんだなー……あはは……はは……は。

男「……」スタスタ

…………………………というか…………ちょっと待て俺。

男「……」スタスタ

何で俺このルートで帰ってるんだ? この道使って帰ると……さっき犬娘と出会った場所に行きつくんだぞ?



おいおい、さっきアイツの事は忘れちまおうって決めたばかりだろ?

それとも無意識の内に行きの時と同じ道で帰ろうとしちゃったのかな? んもー、俺ってば律儀だなー……



…………なんて。

自分で自分を誤魔化すのは無理だな……うん、認めよう。

はっきり言ってこのまま犬娘を忘れるのは無理だ。さっきからアイツの事が気になって気になってしょうがない。

だから俺はもう一度さっき犬娘と出会った場所に戻って確かめたいんだ。あの嘘みたいなやり取りが本当に“現実”だったのかを。

だけど、これ以上“非常識”な世界に関わりたくないっていうのも、また本音。

だから俺にとって一番望ましい結果は、「さっきの場所に戻ってみたけど犬娘なんかいなくて、ただそこには普通の景色が広がっていた」だ。


その結果が得られれば、俺はきっと安心して、アレはやっぱり妄想だったんだと……

やはり強引ではあるけれど、何とか自分を納得させられる……筈だ。

そうと決まれば早速向かうか。


大丈夫……アイツはいない。


いる筈ない。


いないでくれ!




……って散々祈ったのに……






犬娘「……」

男「………………何で……いるんだよぉ……?」



アイツはいた。この雨の中、傘もささずにさっきの場所で立っていた。

まるで世界でアイツだけ時が止まってしまったかのように……微動だにせず直立している。

俺と喋っていた時には考えられないほど凛としたその雰囲気は、近づく事さえ憚られるようだった。

俺はこれを見て……どうすればいい?

「ごめーん、お待たせー」とでも言って声をかけりゃいいのか?

それでその後は? コイツを家にお招きすりゃいい? 「何も無い家ですがー」って?

いやいやいや! 無理! 嫌だよ! なんで何も義理が無いコイツにそこまでせにゃならん?


それに『十二支』がどうとか……神様がどうとか……そういう不思議な話も、正直お腹いっぱいなんです。

関わりたくない。関わりたくないが……でもそれじゃ、無視するのか?

雨に打たれながら頑なに俺を待っている、アイツを?

……くっそ、どうすりゃいいんだよ……







……ってあれ?

何か俺が悩んでる間に、誰か犬娘に話しかけてるぞ? 犬娘の知り合いか?


DQN1「ねぇねぇお嬢ちゃん。こんな雨の中、傘もささないでどうしたのー?」

DQN2「このままじゃ風邪ひいちゃうよ? 俺達がホテル連れてってあげるからシャワーでも浴びなよ?」

犬娘「あ……あの……わ、私……ひ、人を……まま、待って……ますので……」オロオロ

DQN1「人ってもしかして彼氏ー? けど俺達ずっと君の事車から見てたんだけど、さっきから全然来る気配ないじゃん」

DQN2「もしかして振られちゃったの? 可哀想に。俺達が慰めてあげるよ……だからほら、いこ?」

犬娘「い、いえ……でも……私……その……あの……」オロオロ


男「……んだよアレ……ナンパか?」

少なくとも知り合いでは無さそうだな。

つーかあの男達何してんだよ。ソイツ見た目は確かに結構可愛いかも知れんが……犬だからね? 無知って怖いわー。

犬娘もはっきり拒否の意思を見せろよ。それか警察呼ぶぞ、って脅してやりゃいいんだ。

……いや、携帯持ってないかもな、アイツ……

それにそういえばアイツ、人見知りだって言ってたな……



男「…………はぁ」



DQN1「いいじゃんいいじゃん。俺達ならその彼氏なんかより君を楽しませてあげられるよ?」

DQN2「そうそう。それに気持ちいい事もできるよ? げへへ」

犬娘「で、ですから……ひ、人……人を……」

DQN1「よーし、そうと決まれば早速車に乗ろうか!」

DQN2「あ、車内が濡れちゃうとかは気にしないでいいよ。俺達心広いからねー。ほら、車はすぐそこだから。行くよ!」

犬娘「あうぅ……か……神様ぁ……」




男「ごめーん、お待たせー」



犬娘「……あっ!」パアアア


DQN1「あ? お前誰だよ?」

DQN2「もしかしてこの子の彼氏かぁ?」

男「いや……俺は彼氏とかそんなんじゃなくてですね……なんていうか……そう、保護s
犬娘「神様ぁ! おかえりなさい! 犬娘はいい子でお待ちしてましたよー!」

……おい。

DQN1「……は? 神様?」

DQN2「お前……彼女に神様とか呼ばせてるのかよ!? ……ひくわー」

犬娘「どうしたんですか神様? 苦虫を噛み潰したような表情をして……はっ! まさか神様、どこか体の調子が悪いのですか? 大丈夫ですか神様!?」

俺の心配をするなら今すぐ俺を神様と呼ぶのをやめろぉ!
こんなDQN達にひかれてしまって、心底恥ずかしいんだよ!


男「は、はは……とりあえず俺達はもう帰るんで……行くぞ、犬娘」

犬娘「あっ、はい神様!」

DQN1「おい、ちょっと待てよ……」

男「……何か?」

DQN2「てめぇ……こーんな雨降ってんのに長時間放置してたようなひどい男のくせに、いきなり出てきて彼氏づらして連れていこうとすんなよ」

男「確かにな……俺はひどい奴かも知れない。で? だったらなんなんです?」

DQN1「お前じゃその子を幸せにしてやれねぇって言ってんだよ。大人しくその子置いて帰れや」

DQNのくせにちょっと格好いい事言ってんじゃねぇよ。

男「……ま、それでもいいんですけど……犬娘、お前はどうしたい?」

犬娘「私には神様についていく以外の選択肢はありませんよ?」


男「……と。コイツはそう言ってますけど」

DQN2「おいおい……随分懐かれてんじゃねぇか。羨ましいねぇ。一体何したらそんなに従順になるんだ?」

DQN1「ふーん……そうかい……だったらさ……お前にお願いがあるんだけど」

男「何すか?」

DQN1「その子、俺達にちょっと貸してくれよ? なーに、一晩でいい。明日には返してやっからさ。いいだろ? な?」

ふん……一瞬格好いい奴かと思ったのに……やっぱ結局目的はソコなのね。

男「残念ながらお断りします。俺はコイツの彼氏じゃないけど、それでもあんた達みたいなのに渡してヤられちゃったら責任感じちゃうんで」

DQN1「そうかい……だったら……」

DQN2「力づくでも貸してもらうしかないわなー」


……ちっ、マジかよ。ホントDQNって奴は、すぐ暴力に訴えるから嫌いだぜ。


男「おい、犬娘。お前、早く逃げた方がいいと思うぞ?」

犬娘「え? 何故ですか?」

何故ってお前……この場の雰囲気察しろよ!


DQN1「おらあああああああああ!」ダダダッ

……きやがった。こうなったらコイツだけでも守りきらないと……!


犬娘「……」スッ


DQN2「死ねやあああああああああ」




ビュッ!!


DQN2「あああああ……って…………え、えええ!?」


DQN1「……な……なななな……何で……か、かた……かたな……」



男「……嘘……だろ」


俺は……いや、俺と2人のDQNは目を疑った。

DQN達が俺に殴りかかろうかというその瞬間。

間に現れた犬娘が、DQN達の動きを止めたからだ。

どうやって止めたのかというと……



刀。



刀を2人の喉元に突きつけていたのだった。




犬娘「おい」


DQN1「……へ?」

犬娘「貴様ら、今この方に何をしようとした?」

DQN2「な……ななな、何を……」


犬娘「神様に向かって何をしようとしたか聞いているんだっ!」ギロッ

DQN1「ひっ、ひいいいいいいいい!」


犬娘「……神様?」クルッ

男「……え? な、なんでしょう?」

犬娘「この者達、どうします?」

えええ……そこで俺に振るのぉ……?


男「えっと……は、反省してるんだったら……帰してあげれば……いいんじゃないかな?」

犬娘「おい、反省してるか貴様ら!」

DQN1「は、はいいいいいいい!」ガクガク

DQN2「反省してますうううううう!」ブルブル

犬娘「……そうか。では今日のところは見逃してやる。神様に感謝しろ」

DQN1「……ホッ」

犬娘「だがもしまた、神様に手を出そうなどとしてみろ……その時は容赦なく……」







犬娘「斬るぞ」チャキッ

DQN達「」ゾクッ



犬娘「よし、じゃあもう行け。神様の気が変わらない内にな」

DQN1「す、すす、すいませんでしたあああっ!」スタタタタタタタ

DQN2「もう2度とナンパなんてしませえええええええんっ!」スタタタタタタタ

犬娘「去り方から何から全てが醜い輩だな……ふん」

男「……」ボケー




犬娘「さて……それじゃ神様!」

男「!! ……は、はいっ!」

犬娘「気を取り直して……帰りましょうか!」ニコー

とりあえずこんだけ更新


皆さん乙等ありがとうございます

>>127
そう言ってもらえると気が楽になります
けどやっぱり書いてる側も読んでる側も楽しい、ってのが理想ですので
無理しない程度に頑張ります



呆気にとられる、とは正に今の俺のような状態を言うのだろう。

俺の方を振り返った犬娘に、先ほどまでDQN達に向けていた冷たい表情は無く。

最初に出会った時のような笑顔でまじまじとこちらを見つめていた。

そのあまりの変わりようは、コイツが二重人格なのでは、と疑ってしまうレベルだ。

犬娘「神様……何か仰りたそうな顔をしていますね……?」

男「え……? まぁ、えっと……いや、やっぱいいです、はい」

犬娘「な、何故そんなによそよそしいのですかっ!? それに、私如きに敬語を使うなどおやめください!」


男「いやー……そんなかっちょいい刀なんか見せられたら、そりゃ敬語にもなりますよー」

犬娘「あ、刀……すみません! コレが神様の気を悪くしていましたか! す、すぐにしまいますので!」


シュウウウン..


な……刀が……消えた!?

犬娘「はい、しまいましたよ? これでよろしかったですかね!?」

男「あ、ああ……ってか……ソレ、どうなってんの?」

犬娘「……? ソレとは?」

男「その、刀を出したりしまったりするやつ……DQN達追い払う時も、いきなり刀出したでしょ?」

犬娘「あっ、この能力ですか? これはですね、“神力”を使ったもので……ふぁ……ふぁ……はくちゅっ!」


男「あっ……!」


犬娘「す、すみません、説明中に……えーっと、それで“神力”というのは……」

男「寒いのか!?」

犬娘「え?」

男「くしゃみなんかして……体、冷えてるのか?」

犬娘「体ですか? えと、あの、はい……少し……ですけど」

……そりゃそうだよな。いつから雨が降ってるか知らねぇけど、長い事こいつは濡れ続けてるんだ。寒くない訳が無い。

男「」ヌギッ

男「……これ。俺の学ラン羽織ってろよ。ちょっとはマシになると思う」

犬娘「そ、そんな! 私が神様のお召し物を羽織るなんて恐れ多いです! 私っ、あの、平気です! 体は丈夫ですので……」

男「いいから。着とけ。それと傘の中入れ」

グイッ

犬娘「あう……あ、ありがとうございます……お気を使って頂いて……」




近い。

そりゃ1つの傘に2人で入れば必然的にその距離は近くなる訳だが。


犬娘の申し訳なさそうな顔が、すぐ俺の目の前にあった。

髪や服が濡れていて、やけに扇情的に見えた。

だが、不思議と俺はドキドキしなかった。

コイツが犬だからなのか……それともさっきの凄い光景が頭から離れないからなのか……

理由は分からないけれど、とにかく俺はドキドキするよりも先にコイツに言いたい事があったのだ。



男「お前……なんでいるんだよ!?」

犬娘「……えっ?」

男「俺と別れてから、ずっとここに立ってたのか?」

犬娘「あっ、はい! しっかり立ってました!」

男「なんでだよ? 傘もささずに雨宿りもせずに……なんでずっと立ってんだよ!?」

犬娘「神様が……そう命令されたので」

男「はぁ? 俺が……お前に……命令? いやいや、そんな事した覚えないぞ!?」

犬娘「ですが……別れ際に確かに私に『待て』と……」


『待て』なんてコイツに言ったっけ? あの時は幼の家に行く事ばっか考えてたから覚えてないな。大体……

男「待てって言われたからって、馬鹿正直に待つか!? 普通は何時間も待たされたり、雨が降ってきたりしたら、帰るか場所移るかするだろ!?」

犬娘「そ、そこまで頭が回りませんでした……愚かな従者で申し訳ございません!」ペコッ

男「……!」


なんで……なんでそこで謝れるんだ?

お前からしたら、「『待て』って言われたから命令に従って待ってただけ」だろ?

それなのに怒られたら……ちょっとは反論したくならないか?


男「俺が……ここに戻ってこないっていう可能性は考えなかったのか?」

犬娘「いえ、全く考えなかったですね」

男「俺はな……一回お前の事を完全に忘れようとしたんだよ」

犬娘「えっ!? そうなのですか!?」

男「ああ……お前と関わると面倒そうだと思って……」

男「正直ここに戻るかどうか何回も悩んだし……戻って来てからもお前に声をかけようかめっちゃ迷った」

男「DQNの奴にも言われちまったけど、俺はひどい奴なんだよ。お前に慕われる価値なんかこれっぽっちも無い人間なんだ。だから……」

犬娘「ですが、神様は戻って来てくれました!」

男「……それは」


犬娘「それに神様は私が屑どもに言い寄られている時に助けに入ってくれました!」

屑ってのはDQN達の事だよな。

男「助けたって……俺何にもしてねーじゃん。実際に追い払ったのはお前だろ? つかお前あんな力持ってるんだったらさっさと見せつけてやりゃよかったのに」

犬娘「いや、その……はじめは神様に殴りかかろうとするような下賤な輩だと思ってなかったので……」

お前をナンパしてきてる時点で結構下賤な輩だったと思うがな。

犬娘「それに……私が力を発揮できたのは神様のおかげです。神様がそばにいてくれるから私は、勇気が湧き、元気が出るのです!」

犬娘「神様が『お待たせ』と言って現れてくれた時、私がどれ程安心した事か……」

男「犬娘……」

犬娘「ですから……神様はひどい奴じゃありません! 慕われる価値の無い人間なんかじゃありませんよ!」

犬娘「それはこの犬娘が、命を懸けても保障いたしますっ!」ニコッ




やめろ。やめろよ。

俺にそんな明るい笑顔を向けるな。

俺はお前を雨の中何時間も待たせたんだぞ?

しかもお前の存在を忘れようと思ってたんだぞ?

2人のDQNに喧嘩で勝つ事もできない、無力で平凡でつまらない人間なんだぞ?

頼むから……こんな俺を……そんなに澄んだ目で……信頼しきった表情で見ないでくれ。

…………裏切れなくなっちゃうだろぉ。



男「何か俺に……言う事はないのか……?」

犬娘「え……? 言う事ですか?」

男「ああ。お前、ここで随分待たされただろ。その時に俺に対して何か思った事はないか?」

犬娘「思った事ですか……」

男「もしあるんだったら正直に言ってくれていいから……」

「遅くて待ちくたびれた!」とか「寒くて心細かった!」とか……何でもいい。

頼むから俺に少しでも不満があるなら言ってくれよ。じゃないと逆に俺が耐えられねぇよ。

犬娘「んーっと……あ! そういえば私、神様に申し上げたいと思っていた事が一つあるんでした!」

男「……! マ、マジか! 何だ!? 遠慮せず言ってくれ!」

犬娘「はいっ……」







犬娘「神様……本日はお誕生日……おめでとうございますっ!」



男「…………は? なんだ……それ……なんで……」

犬娘「あの、私……まだ神様が17歳になった事へのお祝いをしていなかったのを待っている間に思い出しまして……」




…………は…………ははは。

……駄目だこりゃ……コイツは……本物だ……

こんな時に誕生日のお祝いとか……本物のバカだわ……

不満を吐きださせようとした俺の計らいを完全に無駄にしやがって……




……けど、俺もバカかもな。

コイツと関わったら絶対面倒臭い事になるのは分かってるのに……

犬娘の事……気にいっちまったんだから。




男「……」

犬娘「か……神様? あのー……もしかして私、何か変でしたか?」

男「……ん? いや……ありがとな。嬉しかったよ」

犬娘「そ、そうですかっ!? そう言って頂けるとこちらも嬉しいといいますか、心躍るといいますか……!」

男「あはははっ、何でお前の方がテンション上がってんだよ?」

犬娘「それもそうですね、って…………あ」

男「ん? どうしたんだ?」

犬娘「神様……笑いました」


男「ふっ、何だそれ。そりゃ人間なんだし笑うだろ」

犬娘「いえ、その……私の前ではまだ神様はちゃんと笑った顔を見せてくださっていなかったので……驚いた顔なら何度も見たのですが」

男「そうだったか?」

犬娘「はい。しかし……今のは心から笑っているといった感じで……何と言いますか、その……素敵でした」

男「……やめろよ。恥ずかしいから」

犬娘「えっ!? 恥ずかしかったですかっ!? すみませんそんなつもりは……はくちゅっ!」

男「……! お前、またくしゃみ……」


犬娘「あわわ、すみません、こんな距離でくしゃみを……! かかったりしてませんか!?」

男「そんなんいいから……もう行くぞ」

犬娘「え?」

男「だから、俺んちに帰るぞって。それともお前自分の家あるのか?」

犬娘「い、いえ! 私今まで野良やってましたので!」

男「じゃあ大丈夫だな……ほれ、歩くぞ。しっかり傘に入ってついてこい」

犬娘「は……はいっ!」





……あーあ。結局コイツ家にお招きしちゃったよ。






ま……………………いっか。


とりあえずこんだけ更新
土日にいっぱい更新できるかと思ってたら飲み会地獄で予定も俺自身も潰れちゃったよ


皆さん乙やら支援やらありがとうごさいます
しかし何度ss書いても、ヒロイン可愛いって言われるのはめちゃくちゃ嬉しいものですね










男の家―

男「着いたぞ。ここが俺の家だ」

犬娘「し、ししっ、失礼しますっ!」

男「何でそんな緊張してんだよ。もっと普通にしろ、普通に」

犬娘「そ、そうですよね……普通に……普通に……」

男「とりあえずお前はすぐにでもシャワーを浴びた方がいいな」

犬娘「シャワー……ですか?」

男「うん。風呂場まで案内するから。ついて来て」





男「ここが風呂場だ」

犬娘「ふわぁー……」

男「特に変わった作りでもない普通の風呂だから使い方は分かると思うんだけど……一応説明いる?」

犬娘「は、はい……というか、そのー」

男「どうした?」

犬娘「私、シャワーを使った事が一度も無いのですが……」

男「……は?」

犬娘「もっと言いますと、お風呂に入った事がないというか……」

えええええ。コイツきったねええええ。


男「そういえば今まで野良だったんだもんな……え、じゃあ体を洗ったりした事無いの?」

犬娘「たまに川で水を浴びたりしていた事はありますが、ちゃんと洗った事は無いですね」

マジかよ。生まれてから一度も風呂に入った事無いの? まぁただの犬なら納得できるけど、コイツは人間でもある訳だしなぁ。

うーん、本当はささっと先にシャワーだけ浴びてもらおうと思ってたけど……しょうがない。

男「よし、じゃ今日は俺と一緒に風呂入るぞ。一からやり方を教えてやるから」

犬娘「はぁ、やり方ですか……って、え!? 一緒に!?」

男「ああ、勿論お前は犬に変身してもらうぞ? 流石に人間の状態で一緒に入ったら色々問題があるからな」

犬娘「そ、それでも十分問題ですよぉ! かか、神様と一緒にお風呂だなんて……!」

男「じゃあお前一人で風呂の入り方分かるのかよ?」

犬娘「う……それは……分からないですけど」


男「決まりだな。じゃあ俺は今から準備すっから、お前は犬に変身して待ってろよ」

犬娘「え? このまま犬になるのですか?」

男「何か問題あったか?」

犬娘「お風呂というのは衣服を脱いで入るものだと認識しておりましたが」

男「どういう意味だ? 犬になっちゃえばそんなの関係ないだろ」

犬娘「いえ……神様は私の“犬”の状態と“人間”の状態を分けてお考えかも知れませんが、私からするとどちらも同じ一つの感覚なのです」

犬娘「つまりこのまま変身すると、私は服を着た感覚のままお風呂に入る事になるのですが」

男「よく分からんけど……だったら、服を脱いでから変身すればいいんじゃないか?」

犬娘「そっ、そそっ、それは、裸で神様とお風呂に入れと……そういう事ですかぁっ!?」


えー……面倒臭いなぁ。

要するに見た目は同じ犬でも、人間だった時の格好に合わせて「服を着た状態」や「素っ裸の状態」があるって事か。

俺からしたらどっちも一緒だからどうでもいいんだけど、コイツ的にはやっぱ恥ずかしいんだろうなー……。

男「まぁ今日はしょうがないから服を着たまま変身してくれ。今日やり方覚えれば、明日からは一人で脱いで入れるだろ」

犬娘「……やっぱり入らなければいけませんか?」

男「往生際悪いな。まだ諦めてなかったのか」

犬娘「私、お風呂なんて入らなくても別に平気ですよ? 死ぬ訳でもありませんし……」

男「だーめだって。お前仮にも女の子なんだし、お風呂入らなくて平気なんて言うもんじゃないぞ?」

犬娘「――私に性別など関係ありません。私は神様の従者、ただの道具なので」


……はぁ? 道具ぅ? 意味分からん。けど。

男「確かに性別は関係なかったな……すまん」

犬娘「分かっていただけましたか?」

男「ああ、体をキレイにする行為に男も女も関係無い。人間も犬も関係無く清潔であるべきだよなー……という訳でお前は風呂に入らなくちゃ、な?」

犬娘「えっ? いやあのそういう意味ではなくてですね……」

男「つーかぶっちゃけ、汚れたまんまで家の中うろつかれたくないんだよ。どう足掻いてもお前に拒否権は無いの。OK?」

犬娘「な、なるほどー……お、おーけー……です……はう」





男「よし、支度できたぞ。犬娘も準備いいか?」

犬「心の準備は全然できてないですぅ……」

男「そっかそっか……よいしょっ」

ヒョイッ

犬「!! わわっ!?」

男「おー、お前犬の状態だとめちゃくちゃ軽いんだなー」

犬「いいっ、いきなり持ち上げないでくださいよー!」

男「お前のタイミングを待ってたらいつまでたっても風呂に入れなさそうなんでな。ぱぱっと入ってぱぱっと終わらせるぞ」



ジャアアアアア


男「ほれ、生まれて初めてのシャワーだぞ。気分はどうですかお客様?」

犬「そうですねー、温かい水というのはなかなか気持ちい……――っ!」バッ!

ん? いきなりすごい勢いでそっぽ向いてどうした?

男「あれ、もしかしてシャワーが目に入ったか?」

犬「い、いいいえ、そ、その……」

犬「男の人の裸体をこんなに間近で見るのは初めてなので……き、緊張して……」

男「裸体って……一応大事な所はタオルで隠してるだろー?」


コイツかなりの奥手さんか?
いや、でも普通の女の子のリアクションならこんなものなのかな。

うーむ、分からん。何せこっちは完全にペットを洗ってやってる感覚だからなー。

男「よし、それじゃボディソープを手に取って……体洗うぞー?」スッ

犬「か、体ですかー? ……ひゃうっ!?」

男「……おい。変な声出すな。なんか気まずいだろ」

犬「す、すみません……ひ、人に触られる事に慣れてなくてですね……」

そうなの? “昔の俺”も触ったりしなかったのかな。

男「我慢しろ。しっかり洗わないと汚れ落ちないんだから」ワシャワシャ

犬「は……はい……」



男「」ワシャワシャ

犬「……」

男「」ワシャワシャ

犬「……わふぅ」

男「」ワシャワシャ

犬「……か……神様」

男「」ワシャワシャ

犬「はぁ……か……神様……あ……あの……!」

男「」ワシャワシャ

犬「……う、うぅ…………神様っ! そろそろぉっ!」

男「…………はっ! 何!?」

犬「はぁ……はぁ……そ、そろそろ……キレイになっ、たんじゃ……ないですかぁ……?」

男「お、おぉ、悪い! 何か毛並みが触り心地よくて、つい我を忘れてワシャワシャしちゃった」



ジャアアアアア

犬「うぅ……全身洗われてしまった……何だか凄い辱めを受けた気分です……」

男「で、でもお陰ですっかりキレイになったぞ。あはは……」

……とは言ったが、少しおかしい事がある。

コイツはさっき、お風呂に入った事は一度も無いと言った。嘘をつく理由も思いつかないし、これは本当の事だろう。

けど、それにしては犬娘の体……キレイすぎないか?
確かにそれなりに汚れてはいたが、どう考えても今までの人生分の汚れはついていなかったように思えた(まず犬娘の年齢を知らないが)。

それに今考えれば、さっきまでの人間バージョンだった犬娘も髪とか整ってたし……
普通一回も美容院とか行ってなければもっとボサボサだよなぁ?

これは何か仕掛けがありそうだ……っと!

犬「こ、これでキレイになりましたし、もう出ていいですよね!?」ススッ

男「おーっと、待て。まだ俺が洗って無いぞ?」ガシッ

犬「わうっ……も、もう神様も今日は洗わなくてもいいんじゃないですかね……?」

男「よくねぇよ。というか早く人間状態での風呂の入り方覚えねぇとお前一生1人で風呂入れないぞ。だからちゃんと俺の動きを見ておけ」

犬「ああ、神様の元にやって来て早速こんな試練があるとは……」




男「……んで、後はこうやって洗い流すだけ。分かった?」

犬「……っはい……分かりましたー……」チラッ

男「何でそんなチラっと見てんだよ。そんなんで本当に分かったのか?」

犬「わ、分かりましたともっ。神様はたくましい体つきをしていますっ!」

男「どこ見てんだよ!? ……それに全然たくましくないっつーの」

犬「そうですか? ほ、他の殿方の体を見た事が無いので比べられませんが、神様はほっそりした体型に似合わず筋肉があると思いますよ?」

犬「特に足、太もものあたりなど……何かスポーツでもやっておられるのですか?」


男「人の身体どんだけ見てんだよ。ムッツリか?」

犬「むっ、ムッツリ!?」ガーン

男「……スポーツはやってねぇよ……今は」

犬「……神様?」


男「……よーし、お互い体も洗った事だし、一緒に湯船浸かるかー!?」

犬「え……無理です無理です! こんな狭い浴槽に2人で入るなんて……恥ずかしくて死んでしまいます!」

男「何ー? 俺んちの風呂が狭いだとー? いい度胸じゃねぇか、意地でも一緒に入ってやる!」ガシッ

犬「か、神様っ! お、おお、お放しください! 殺生ですから! ち、近い、裸体がっ、裸体があぁぁあぁ……」

とりあえずこんだけ更新
誤って書き溜めしていた文章を消してしまいモチベーションを取り戻すのに時間がかかってしまった…

皆さん乙、感想等ありがとうございます
俺のモチベーションが回復したのも九割方皆さんのお陰です









男の部屋―

男「……ふぅー、さっぱりしたー。やっぱり風呂は最高だな」

犬「……」ボー

男「どうしたんだよ犬娘、そんなボーっとして。のぼせちまったか?」

犬「うー……理由は分かっているでしょうに……」

男「何だよ、そんなに俺と同じ湯に入るのが嫌だったのか……? そうか、ごめんな……もう俺お前に馴れ馴れしくしないようにするわ……」

犬「えっ? あ、いや、その……ち、違うんです! 神様が嫌だとかそういうのでは無くて、ただ恥ずかしくて……あの、す、すみませんっ」オロオロ

男「……ぷっ、冗談だ冗談。分かってるよそんな事」

犬「な、何だ冗談でしたか……よかった、神様に嫌われてしまったかと……」

犬娘はからかうと面白いな。コイツのリアクションが見ていて楽しいから、ついお風呂にも長い事浸かっちまったよ。

おかしいなー。俺はSでは無かった筈なんだけど。


男「そういやお前ずっと犬のままだけど、人間に戻らないのか? 動物状態の方が気楽なの?」

犬「いえ、特にどちらが楽とかは無いですよ。人間になりましょうか?」

男「別に俺もどっちでいてもらっても構わないんだけど、自由に行動しやすいのは間違いなく人間状態だよな」

犬「そうですね……では」


ボンッ


犬娘「基本的にはこちらでいましょうかね」

男「……お前ってやっぱり服それしか持ってないの? その……和服みたいなやつしか」

犬娘「服ですか? はい、これ一枚です」

その答えが返ってくるのは予想してた……しかし。やはり気になる点がある。


男「ずぅっとその服だけで今まで生活してたにしては、やけにキレイすぎないかソレ?」

男「さっき風呂場でも思った事だけど、これまで一回も風呂に入らず、美容室にも行かず、洗濯もしてこなかったお前が……」

男「どうしてそんなにキレイなんだ?」

犬娘「……!」ビクッ

ん? 何だ今の反応? まさか体があまり汚れていないのは何か重大な理由が……




犬娘「き、き、キレイだなんてそんな……わ、わわ、私のような者にそのようなお言葉、勿体無いです……!」

男「……何で照れてんだよっ! キレイって別にそういう事じゃないから!」

犬娘「あ、あれ?」




犬娘「あぁ、私の体の汚れが少ない理由でしたか……」

ったく、思わせぶりな反応するからてっきりすごい秘密があるのかと……

犬娘「それは私の“神力”の影響だと思います」

……“神力”?

男「って、ソレ刀の説明してる時も言ってたよな?」

犬娘「あっ、はい。そういえばアレも説明の途中でしたね」

犬娘「では改めて説明させていただきますが……神力とは、私達『十二支』が神様からいただいた特別な力の事です」

男「俺が……お前に?」


犬娘「はい。神力を得た事により私はただの『動物』から『神獣』へと、己の存在を高める事が出来た訳ですね」

男「神獣……ってのは、動物に神の力がプラスされたものって解釈でいいのか?」

犬娘「ええ。正確には『動物に神の力が付与された』のではなく、『動物から、神の力を扱える存在にシフトした』のですが、大体それであってます」

男「それで……その神力ってのは、一体どんな力なんだ? その力で何ができる?」

犬娘「何が、というならば……そうですね。何でもできます」

男「な、何でも!?」

犬娘「はい。例えば私がこのように人間に変身できるのも、犬の状態のまま人語を話せるのも、全部神力のなせる技ですし……」

犬娘「先ほどのように刀を出したりしまったりしたのも神力によってできた芸当です」

犬娘「あっ、それと私が神様を見つけ出す時に“絆”を探りましたが、これも神力を使ってできる行動ですね」


男「何でもできるって事は……大量の金を生みだしたり、可愛い女の子からモテモテになったりする事もできるのか!?」

犬娘「え? えと、はい……多分努力すれば。神様も『突き詰めればほとんど不可能はない』と仰っていましたし」

そうか……俺が…………ん?

男「あれ……俺がお前らにその神力とやらを与えたのなら、俺も神力が使えるんじゃないの?」

犬娘「当然ですよ! 神力は元々神様のお力なんですから!」

男「う……うおおおおっ。マジかっ。やっぱりか! 俺にも神の力が……よし、ちょっと使ってみるか!」

じゃあそうだな……とりあえず机の上にあるマグカップを神力を使って動かしてみよう。

いくぞー……はっ!




…………………………えーっと。


男「あの、犬娘さん」

犬娘「は、はい、何でしょう?」

男「神力ってどうやって使うの?」

犬娘「あ、やはり使えませんか……」

男「やはりって何だよ!? お前が使えるって言ったのに……騙したのか!?」

犬娘「いえいえ! だっ騙すなんてそんな滅相も無い! ただ、神様は昔の記憶も受け継がれていないので神力もまだ扱えないやも、と思い……」

男「う……何だよ……神力って使いこなすの難しいのか」

犬娘「それなりに訓練は必要かと」


そうだよな……俺みたいな凡人にいきなりそんなスゴイ能力が使える訳ないよなー……。

男「はぁ、まぁいいや……んで、結局話を戻すとお前の格好が汚れないのは神力を使ってるからなんだな?」

犬娘「神力を使っているというより……」

犬娘「神力は神聖なるエネルギーですので、纏っているだけで体の汚れ等を浄化してくれるのですよ」

犬娘「だから私の体やこの服がそんなに汚れていないのだと思います」

男「ふーん、成程ねー……納得」


神力…………神力かぁ……


男「……はぁーぁ」ボフッ

犬娘「……神様? 突然ベッドに突っ伏して……体調が悪いのですか?」

男「いや、そんなんじゃないよ……ただちょっと疲れただけ」


何か……今日はホント色々あったな。

隣人女さんといつものように朝の挨拶をして。

アホな幼女とキャッチボールとかして遊んで。

巨乳なお姉さんを○○大学まで案内して。

学校遅刻した罰掃除をしながら先生と雑談して。

生意気な少女に馬鹿と言われて。

犬娘が現れて、俺の事を神様と呼んで。

幼の家で俺の誕生日を祝ってもらって。

雨の中犬娘が刀でDQNを撃退して。

犬娘を家に連れ帰ってしまって、一緒に風呂入って。

そして今、俺の部屋で不思議な能力の説明を受けて……


こんだけの事が今日一日だけで全部行われたのか。我ながら驚きしかないぜ。

今まで生きてきてこれほどまでに濃い一日を味わったのは初めてだ。

この中で一番でかいイベントはやっぱり……犬娘と出会ったことだよな。

というか何かノリで犬娘を連れてきてしまったけど、よかったのかな? 今更だけど安直すぎたかも。

コイツからは色々話を聞いたけど……まだまだ分からない事がいっぱいある。

どうして『十二支』は現代にまた生まれてきたのか?

『十二支』は俺の元へ来て何がしたいのか?



……どうして犬娘は……俺をこんなに慕ってくれるのか。


犬娘は……いつまで俺の元に……いるのだろう……か……


あ……何か……一気に……眠い……まだ色々……話したいのに……



話…………話を…………







男「zzz……」


犬娘「神様……お眠りになられましたか。疲れていたのですね……」

犬娘「お休みなさい……神様」ニコッ

とりあえずこんだけ更新

皆さん乙、感想等ありがとうございます

犬娘の犬種ですが、コレというものがある訳じゃないですけども
一般的な柴犬のようなフォルムで毛は真っ黒だというのを想像していただければいいんじゃないかと








次の日―

時計「……」カチッカチッ

男「」zzz


ピッ

時計「ジリリリリリリリリリリリ!!」

男「……ん……んんー……朝かぁ……」

男「あと……5分……」

男「……」

男「…………っは!」ガバッ

男「そうだ! 犬娘はっ!?」


シーン

男「いない……」

アイツ……出ていったのか?

それとも……昨日のアレはやっぱり全部夢?


トントントン..

あれ……台所の方から何か音が聞こえる……。





男「……いたよ」

犬娘「あっ、神様! おはようございます!」

男「おはよう……何やってんの?」


犬娘「えと、神様の朝餉を作っていたんですが……余計でしたでしょうか?」

男「いや、全然そんな事無いけど……ていうかお前料理作れるんだ」

犬娘「一応昔は神様によく振舞わせていただいていたんですよ?」

男「そうなの? 何か悪いね、こっちが寝てる間にやってもらっちゃって……起こしてくれてもよかったのに」

犬娘「神様、とても気持ちよさそうに眠っていましたから……」

男「んーっ、確かによく寝れたかなーっ、昨日はドタバタしてたから……って、あ、そういえば」

男「昨日いつの間にか寝ちまってたな俺。お前に寝る場所とか教えてなったのに……すまん」


犬娘「いえいえ、私に寝る為のスペースなど必要ありませんよ。いざとなればどこでも寝られますので」

男「え……お前、昨日どこで寝たの」

犬娘「神様の寝ていた部屋にある椅子に腰かけて、軽く睡眠をとらせていただきました」

男「い、椅子ぅ!? 何で!? 俺の部屋以外にもベッドあっただろ? 勝手に使ってくれてよかったのに」

犬娘「す、すみませんっ。もし何者かが神様を襲ってきた時の為にも出来るだけ近くにいた方がいいと思いまして……」

男「寝てる間に襲われる心配があるようなバイオレンスな人生送ってねぇよ!」

椅子で寝るとか、絶対疲れとれないじゃん。馬鹿だな。

……いや、俺がちゃんと言わずに寝たのが悪いか……コイツは従順すぎるほどに従順なんだし。


男「それはともかく腹減ったな……昨日家に帰ってきてからは何も食ってないんだっけ」

犬娘「よかった。丁度朝餉の用意が出来たところだったんですよ」


コトッ


犬娘「さぁどうぞ……この程度のものしか作れませんが」

男「いやいや……十分だろコレ。こんなしっかりした朝飯が食えるなんてすごい久々だぞ」

犬娘「本当ですかっ? そう言っていただけるとありがたいです!」

犬娘が作った朝飯は、白飯に味噌汁、漬け物に焼き魚と、正に日本の朝ご飯! って感じのラインナップだった。

犬娘は着てる服も和服だし、何だか古き良き時代のお母さんみたいだな。


犬娘「……」ジー

あ、犬娘が期待した眼差しでこっちを見ている。これは早く食べて欲しそうな目だな。

男「それじゃ、いただくとするかなー」

男「」パクッ

犬娘「ど、どうですか? 味の方は……」

男「……うん。素朴なんだけど、薄すぎない程度に塩味が効いてて……普通に美味いよ。胃にも優しそうだしな」

犬娘「……ふぅ、現代でも神様が受け入れられるものが作れてよかったですー……」

犬娘はほっと胸を撫で下ろしている。いちいち大げさな奴。


男「うーん、しかしまさか二日も連続でこんな落ち着いた朝を過ごせるとは」

犬娘「普段は違うのですか?」

男「俺基本的に朝弱いからさー。朝飯も食わなかったり、適当にコンビニで買ったりしてるんだよ」

朝が弱いっていうか生活リズムが悪いだけだけど。

犬娘「そうなのですか? いけませんよ、朝食はその日の体を動かす大事なエネルギー源なんですからしっかりとらないと……」

犬娘「神様が起きるのが億劫なのでしたら、ご迷惑でなければ私がこれから朝食を作りましょうか?」

男「マジで? それすっげぇ助かるかも……でも流石にそこまで世話になるのはなぁ」

犬娘「私は少しでも神様の役に立つのが生きがいですから、遠慮する理由は微塵もありませんよ!」

男「ん……そうか? じゃあお前が面倒じゃなければお願いしようかな……」

犬娘「はいっ!」ニコー

……いい笑顔でいい返事するなーホント。


男「まぁとりあえずお前も食えよ、コレ美味いし……って、あれ?」

男「この朝飯……一人前しか無くないか?」

犬娘「はい、神様の分しかありませんよ」

男「……ああ、自分の分はもう食ったのか」

犬娘「いえ、食べていません」

男「は? じゃあ何で? お前も昨日からほとんど何も食ってないんじゃないの?」

犬娘「……言ってませんでしたが私達神獣は、少ないエネルギーで長時間活動できるように身体が作られているので、食事という行為がほぼ必要無いのですよ」


男「そ、そうだったの? いやでも、『食べなくてもいい』ってだけで『食べちゃいけない』訳じゃないんだろ?」

犬娘「まぁ、そうですが」

男「だったらお前も食えよ。作るだけ作らせて俺一人で食ってたらおかしいだろ」

犬娘「何もおかしくありません。昔の神様と私は、ずっとその方針でやっておりましたよ?」

男「でもさ……」

犬娘「……神様。今しがた申し上げましたが、人間にとっては朝食は大事な要素。私としてはしっかりとっていただきたいのです」

犬娘「その料理も一人分のつもりで作ったので、二人で分けてしまうと神様に行き渡る栄養が減ってしまいます」

犬娘「私にしたら、それこそおかしい事。どうか私なんぞの事は考えず、それは神様が食べてください」ペコッ

男「……むぅ」



何だよそれ。お前俺の事ばっか優先しすぎ。

って言おうとしたけど……犬娘が真剣な表情で、あげく頭まで下げるものだから、言葉に詰まってしまった。


結局……俺は言いくるめられ、黙ってこっちをニコニコして見てる犬娘の視線を感じながら一人で朝飯を食ったのだった。

ご飯は美味いのに、気分は釈然としなかった。

とりあえずこんだけ更新

皆さん乙、感想等ありがとうございます







男「――さて。準備出来たし、そろそろ行くか」

犬娘「学校へ行かれるのですか、神様?」

男「ああ、昨日はせっかく早起きしたのに遅刻したからな。今日は絶対遅刻しないようにしなきゃ」

犬娘「そうですか。では……」

男「先に言っとくがついてくるなんて言うなよ? いきなり和服の女同伴して教室入ったら周りに何言われるか分からんからな!」

犬娘「あっ、はい。分かりました」

男「……そう? ならいいけど」

昨日といい今日といい、強く命令するとあっさり従うんだな。有難いけど。


犬娘「家にはいつ頃戻られますか?」

男「そうだな……特に用事も無いし、16時過ぎには帰れるんじゃないか」

犬娘「では、それまでに何かしておくべき事はありますか?」

男「何かって……別に何も無いよ」

犬娘「何も、ですか?」

男「ああ。あんまりその姿で外うろつかれるとアレだけど、適当に好きに過ごしておいてくれればいいから」

コイツは昨日会ってからずっと俺の事ばっかりだからな。
それまでは自由気ままに野良犬やってたみたいだし、俺が学校行ってる間くらいは自分の時間を満喫してもらおう。

犬娘「適当に、好きに……はう、了解です」



男「よし、そんじゃ俺行くわ」

犬娘「あ、外までお見送りいたします!」


ガチャ


男「……おっ、昨日の雨はすっかり止んでるな!」

犬娘「そうですね。神様は晴れてる方が好きですか?」

男「そりゃまぁ、雨よりはな。あんま太陽が元気過ぎて熱いのも嫌だけど……ポカポカした陽気が一番だ」

犬娘「ふふっ、私も散歩が気持ちいい晴れが一番好きですっ」

あー、やっぱコイツも犬だし散歩とか好きなのかな……







隣人女「お、男さん……!?」


男「え? ……あ、隣人女さん!」

今日もいつもよりは早く家出たんだけどまた出くわしたな。ホント隣人女さんとは偶然の縁があるというか……ていうか、気のせいかな。

何か隣人女さん、すごい動揺してないか?


男「おはようございます。毎朝毎朝花の世話ご苦労様で……」

隣人女「その女の人は誰ですかっ!?」

男「す……って、はい? 女の人って……」

隣人女「あ、あなたよ、あなたっ!」ビシッ

犬娘「わふっ、私ですか?」


あー、そうか……今まで俺はずっと一人で暮らしてた筈なのにいきなり誰かと一緒に家から出てきたら、そりゃ驚くよな。

しまった。俺の家まで遊びに来るような知り合いなんてほとんどいないから、犬娘の存在がばれた時どう誤魔化すかとかまだ考えてなかったぞ。

さて、どう答えようか……まさか正直に言う訳にもいかないし……

隣人女「あ、あなた……お、男さんとどういう関係……!? ま、まさか……恋人とか……」

犬娘「私は従者ですよ。こちらにおられる神s
男「わあああああああああああああ!!」

隣人女「……男さん……?」

男「い、いやー! 何か急に思いっきり叫びたくなっちゃったよー、あはは! ……で、お前……ちょーっと来い」グイッ


犬娘「ど、どうされました?」

男「どうされました、じゃねぇよ……いいか? 他の人の前で俺の事を神様とか呼ぶんじゃねぇ」コソコソ

犬娘「えっ、何故ですか?」コソコソ

男「普通の人が神様とか言われてもびっくりするだけだろーが。あだ名にしても痛いわ。俺隣の家の人に頭おかしいと思われたくないんだよ」コソコソ

犬娘「で、では何とお呼びすれば?」コソコソ

男「神様じゃなきゃ何でもいいよ」コソコソ

隣人女「2人とも……こそこそと何を話してるの……?」


男「あー、何でもないですよ、何でも!」

隣人女「そう……? それであなた……さっき従者とか言ってなかった……?」

犬娘「あっ、はい。そうです! 私はこちらの……えーっと……」

犬娘「……そう、ご主人様! ご主人様に仕える従者なのです!」




バカヤロオオオオオオオオオオオオオオ!!


神様もご主人様も怪しさは大して変わらんわああああああ!!


隣人女「ご……ご主人様……?」

やっべぇ、めちゃくちゃ怪訝な顔してるよ。そりゃそうだ。どうやって言い訳する?


隣人女「えと、どういう事……? あなた達は恋人同士ではないの……?」

犬娘「こ、恋人同士だなんてとんでも無い! 私と神さ……ご主人様とでは次元が違いすぎてつり合いが全くとれませんよ!」

隣人女「そうなの……? お、男さん……?」

男「えーとですね……コイツ、実は昨日からウチで世話する事になった親戚の子で……見ての通りちょっと……頭がおかしいんですよ」

犬娘「えっ!? 頭がおかしい!?」ガーン

隣人女「親戚……? じゃ、じゃあ男さんは……その子の事が好きだとか……そういうのではないの……?」

男「全然そんなんじゃないですよ。どっちかって言うとアホなペットって感じですね」

犬娘「ア、アホ……」ガーンガーン




隣人女「親戚……頭がおかしい……アホ……ふふっ……そっかぁ……」ブツブツ

隣人女「そうよね……男さんが勝手に恋人なんて作る筈ないわよね……心配して損しちゃった……」ブツブツ

隣人女「男さんにとっては……あんな女……家畜みたいなものよね……女も自分が低俗な事を自覚してるし……」ブツブツ

隣人女「でもやっぱり……羨ましいなぁ……男さんと同じ家……同じ空間で過ごせるの……いいなぁ……いいなぁ……いいなぁ……」ブツブツ




男「…………あのー……隣人女さん? 俺、そろそろ学校に行きますね?」

隣人女「あ……い、行ってらっしゃい! 気をつけて!」

男「はは、行ってきます」


犬娘「行ってらっしゃいませ、ご主人様ー!」

男「メイド喫茶かっ! 恥ずかしいから大声でそんな事言うなっ!」

犬娘「ええっ? す、すみません……」

男「ったく…………行ってきます」

犬娘「……はいっ! 行ってらっしゃい!」









隣人女「……」ジロー

犬娘「!! ……あ……あ、えと、あの……こ、ここ、こんにちはっ」オロオロ

隣人女「…………」プイッ

犬娘「あ、あれ……?」

とりあえずこんだけ更新

皆さん乙、感想等ありがとうございます
スレの4分の1を消費しているのにまだ序盤というマイペースっぷりにもかかわらず
温かい目で見てくれている方達には本当にいつも感謝してます




学校―


数学教師「――えー、ここの値を求める為にはさっきの公式を利用する訳で……」

男「……」カキカキ



英語教師「――皆さん、この英文はとっても重要なのでアンダーライン引いといてくださいねー。それじゃ次―……」

男「……」スーッ



体育教師「――よーし、そんじゃ順番に100mのタイム計ってくぞー。呼ばれたら位置につけー……」

男「……」タッタッタッ



音楽教師「――男子のみんなー、女の子に声負けてますよー。もっとお腹から声を出す感じで……」

男「……」ボソボソ




ああ……何か懐かしいな、この感じ。

懐かしいって言っても、たったの一日しか経ってないんだけど……

そうだったな。“現実”ってこんな感じだったな。

中身はスッカスカだけど、時間だけは無駄に長い。

こういうものだととっくに理解していたのに、昨日が少しばかり特別だったためにいつもより余計に退屈に感じてしまう。

まぁでも次は昼飯。学校の時間で一番楽しいひと時だ。

人でごった返す前に早く購買に行くか。






幼「あ……ねぇ、男っ」


男「っと……幼? どうした?」

幼「あ、あのさ。私達これから教室で一緒にお昼ご飯食べるんだけど……アンタもどう?」

男「私……達?」


クラスメイト1「ど、どもー……」

クラスメイト2「は、初めましてー……ではないか……同じクラスだし」

男「……」

はぁ、またこのパターンか……

ホント……幼は優しいねー……


男「……せっかく誘ってくれたとこ悪いけど、遠慮しとくよ」

幼「なっ、どうしてよ?」

男「俺今から購買で昼飯買いに行かなきゃいけないし」

幼「別に買い終わってから戻ってくればいいじゃない。私達待ってるしさ」

男「それは申し訳ないよ……あー、それに」

男「俺友と昼飯食う約束してるんだよね……だから今回は……」

幼「それ本当? まーた適当な事言って逃れようとしてるんじゃないの?」

全く……毎度幼は鋭いなー。俺の嘘ってそんな分かりやすい?
いや、毎回断ってたら普通に怪しいか。


男「本当だってば……こんな事で嘘つく筈ないだろ?」

幼「うーん……」

クラスメイト1「も、もういいよ幼……男くんも違う子と約束があるって言ってるんだし……」

クラスメイト2「そうだよ……それに女子3人と混じって男子1人がご飯食べるのはきっと恥ずかしいって……ねぇ、男くん?」

男「あ、あはは……」

幼「……はぁ、分かった。2人とも、いこっか」


スタスタスタ..




行ったか……ふぅ。


幼は……事あるごとに、俺をクラスの奴らと絡ませようとしてくる。

俺がクラスに全く友達がいないのを心配してくれているのだ。

けど、幼には本当に申し訳ないが……はっきり言ってありがた迷惑だ。

俺は、今のこの状態を維持していきたいんだから。

このまま俺がクラスの人達と関わりを持たなければ、“男”という存在がどういう人間なのか知られる事は無い。

それは、誰かと仲良くなって好いてもらえる可能性が無くなる、という事だが……

逆に言えば、嫌われて失望される可能性も無くなる、という事。

ならば俺は喜んで存在感を消そう。嫌な奴と思われないように。「期待外れだ」と言われないように。

その為なら俺は昼飯くらい平気で1人で食べるさ。
さぁ、購買でパンとジュースを買ったらいつもの場所に行こう。








屋上―

男「ふぅー……よし、今日も誰もいないな」

俺は学校の屋上にやってくると、手すりの近くで腰を落とした。

今日みたいに天気がいい日はよくここで食事をする。

この場所は、辿り着くには高い位置に固定されたはしごを伝って埃っぽい踊り場を抜けてこなければいけない為、わざわざ昼時に来る人はまずいない。

つまり、落ち着いて1人で食事をしたい俺にとっては素晴らしいスポットなのだ。

しかも手すりから身を乗り出して外を見れば、なかなかにいい景色が広がっているという特典付き。


男「うーん、程よく吹く風が涼しくて気持ちいいし……こうやって街を見渡しながら食うと、購買のパンの美味さも3割くらい増すなぁ」

我ながら大げさだと思う独り言をポツリと呟いていると、突然後ろの方でガチャリ、と扉が開く音がした。


そして……






バンッ


「音楽室はここっスかああああ!?」







男「な、な、何だぁっ……!?」

後輩「あれー? 間違えて屋上に来ちゃったよ……って、ん?」

あ、目があった。誰だコイツ。


後輩「人気の無い屋上に1人佇む青年……手すりに手をかけて……顔は生気をまるで感じない……こ、このシチュエーションはまさかっ!?」

な、何をでっかい声でゴチャゴチャ言ってるんだ……? もしかしてヤバい系の人ですか!?


後輩「……ダメっス」

男「……はい?」

後輩「自殺なんかしたら……ダメっスうううううううう!!」ドドドドドドドドド...


男「な……何? 何、何、何なのおおお!?」

マジで何だコイツ!? いきなり俺の方に向かって全力疾走してきやがったんですけどぉ!

男「ちょ、止まれ! ぶつかる……危ない、危ないからぁ!」

後輩「ストップ・ザ・自殺っスうううううううう!!」

男「いやまずお前がストップしろ! く、来るな……ぁぁぁああああああ!!」





ドカアアアアアン




後輩「い、いてて……目ぇ瞑って走ったからどっかに頭ぶつけてしまったっス……って、ハッ! そうだ、さっきの自殺青年はっ!?」


男「ぐふっ……」グタッ

後輩「あ、ああっ! 自殺青年っ! どうしてそんなにぐったりしているんスか!? そんなに自殺を止められたのがショックだったんスか!?」

男「お、お前が……」

後輩「え?」

男「お前が俺の腹に頭突きかますからだろうがあああああ!」

後輩「あれ? ……あー、どこに頭ぶつけたのかと思ったらキミのお腹だったんスか。こりゃ申し訳ないス」

男「はぁ……はぁ……きゅ、急に現れて……何なの? 俺を仕留めたいの!?」

後輩「し、仕留めるだなんてそんな……むしろボクはキミを救おうと……」

男「救う? 一体何の話だよ?」





後輩「えっ!? 自殺しようとしてたんじゃないんスかぁ!?」

男「誰が自殺なんかするか。普通にここで昼飯食ってただけだ」

後輩「も、申し訳無いっス! 何か今にも死にそうな顔してたんでてっきり……」

男「謝ったそばから早速失礼だなっ!? 死にそうな顔て!」

俺は現実に対して心底失望しているが、それでも自ら命を絶とうとした事は一度も無いぞ。

全く、とんだ勘違い女だな。思わず初対面なのに豪快に叫んじゃったよ……


……って、やべぇ! そうだよ、俺何してんだ! 学校の見知らぬ奴相手に素で接しちまった!

学校では頑張ってキャラが露呈しないように努めてたのに……

いやいや、まだ大丈夫だ。コイツが俺と同じ学年じゃなければ顔を合わす機会もそんなに無いから、大した影響は出ない筈!


男「と、ところでつかぬ事をお聞きするけど、君は一体……」

後輩「あっ、自己紹介がまだだったスね! ボクの名前は後輩と言うっス!」

男「後輩ちゃんね。あれ、そういやさっきから一人称が“ボク”だけど……女の子……だよね?」

後輩「あ、当たり前じゃないっスかぁ! 見て分かんないんスか!?」

男「そ、そうだよね! いや、中性的な顔立ちしてたから一応……ね? あはは……」

後輩「女子の制服着てるのに断定してもらえないなんて……うぅ……」

男「ご、ごめん……それで、後輩ちゃんって……今何年生なの?」

後輩「ボクはこの春入学してきたばかりなんで一年生っス」

一年生……一つ下か! よかった、まだマシだ!


後輩「そちらさんの名前も教えてほしいっス」

男「あ、ああ。俺の名前は男。学年は君の一つ上で二年だよ」

後輩「えっ、先輩だったんスか!? ボクずっとタメ口きいてしまってたっス!」

男「別に俺はそういうの気にしないからいいよ」

というかその口調だと、タメ口なのかそうじゃないのかもよく分からんしな。

後輩「いや! そういう上下関係はしっかりしておかないとダメっス! 申し訳ありませんでしたぁ、先輩!」バッ

男「い、いいっていいって!」

なんか体育会系っぽいノリだなぁ、この子。




男「それで……後輩ちゃんはどうしてここに?」

後輩「実はですね、ボク音楽室に行く予定だったんスよ」

男「音楽室? なんでまた」

後輩「同じクラスの女の子達にそこでお昼ご飯を食べようって誘われてて……」

後輩「ボクはまだ板書をノートに写し終わってなかったから先に行っててもらったんス」

男「音楽室ってお昼開放されてたんだ」

後輩「そうらしいっス。その時間にピアノを弾きに来る生徒とかもいるみたいっスよ」

男「らしいとか、みたいとか、曖昧だね……?」

後輩「あ、実はボクも音楽室でご飯を食べようってなったのは今日が初めてなんス。だから音楽室の場所が分からなくて……」


男「え? ちょっと待って。って事はもしや君、音楽室に向かおうとして間違えて屋上に来ちゃったの!?」

後輩「ハイっス!」

ハイっスって……ええー。


男「おかしいでしょ! 普通音楽室と屋上は間違えないよ!」

後輩「で、でも人に音楽室の場所を聞いたら『一番上の一番端っこ』と言っていたので……」

後輩「ボクはその言葉通りの道を通ってきただけのつもりだったんスが」

男「確かにここも上で端っこだけど! 音楽室なら最上階の廊下の一番端にあるんだけどなぁ」

男「ていうかはしご伝って埃っぽい踊り場を抜けないと辿り着けない音楽室は嫌だろ!」

後輩「う、うぅ……そうっスよね……ボクは本当大馬鹿者ス」


あ……ついまた思いっきりツッコんでしまった! 俺も馬鹿!



男「で、でもさ! ……ぎゃ、逆に間違えてよかったんじゃない? 屋上の存在を知れてラッキー……みたいな……」

後輩「……へ? ラッキー……スか?」

男「えっと……そ、そう! ほら、見てよこの景色! 結構見晴らしよくない?」

後輩「まぁ……いいッスね」

男「でしょ? 個人的にここは学校の中でも特に好きな場所なんだよ。穴場ってやつ? だから偶然訪れる事が出来た後輩ちゃんはラッキーかなって!」

後輩「そ、そういう考えもありますかね?」

男「ありあり、全然アリ! だから俺のツッコミなんか気にしなくていいし……俺の事なんか忘れちゃえばいいっていうか……」



後輩「そっか……確かに……うんっ! そうだ! そうっスね先輩!」


男「え? あ、うん………………何が?」


後輩「先輩の言う通り、屋上に来て逆によかったっス! ここ、いい場所っスもんね!」

男「お、おーう……切り替え早いね……」

後輩「それに実はボク、屋上でお昼ご飯食べるの憧れてたんスよ!」

男「へー、そうなんだ……って、えっ? もしかして……ここで食べてくつもり!?」

後輩「い、嫌だったスか……?」

男「そ、そんな、全然嫌とかではないよっ? 嫌じゃないけど……音楽室で友達が待ってるんじゃないかなーっと……」

後輩「大丈夫っス! 友達には後でちゃんと説明しとくっスから!」

男「そ、そっかぁ……な、なら心配ないねぇー……」

後輩「それじゃ、お隣失礼するっス!」





男「……」パクパク

後輩「……」モグモグ

…………あれ。何だコレ。


後輩「……あっ! その先輩の食べてるカツサンド美味しいっスよねー! ボクも買おうと思ってたんスけど、もう売り切れちゃってたんスよぉ」

男「……一口食べる?」

後輩「いいんスかぁ!? 先輩ってば太っ腹ー!」

男「はは……ところでさ……後輩ちゃんにお願いがあるんだけど」

後輩「あむっ……ふぁい? お願いっスか?」

男「うん……今日ここで昼飯食べた事、友達とかには内緒にしてて欲しいんだよね」

後輩「えっ、何でっスか?」


男「屋上はさ、あんま人が来なくて落ち着いて飯が食えるから好きなんだよね。だから出来ればこれ以上知られたくないというか……」

後輩「うーん、ここボクも気にいったからまた友達と来ようと思ってたんスけど……」


男「お願いっ! この場所は俺達2人だけの秘密の場所って事で、どうか!」


後輩「……!! ふ、2人だけの……秘密!? そ、それって……まるで……」

男「……どうかした? 何か顔が赤いけど」

後輩「な、ななな何でもないっス! ……け、けどそこまで言われたら仕方ないっスねー! い、いいッスよ。秘密にしといてあげますっ」

男「ほ、本当? ありがと! 助かる! お礼にカツサンドもっと食べていいよ!」

後輩「あ、ありがとうございます……っス……」




その後も何故か終始顔が赤いままの後輩と一緒に昼ご飯を食べた。

学校で誰かと一緒に昼飯を食べるのはすごく久々だった。

とりあえずこんだけ更新
今回は何か疲れた…

皆さんたくさんの乙、感想等ありがとうございます





放課後―

あーやっと終わった。今日も今日とてつまらん学校だったぜ。

少しだけいつもと違った事と言えば、後輩とかいう奴と昼を過ごしたぐらいか。

後輩には少し素をさらけ出しちまったけど……ま、平気だろ多分。

学年違うし。あと、バカっぽかったし。



……そういや、家で俺を待ってるバカ犬もいたんだっけ。

別に学校に残ってやる事もないし、とっとと帰ってやるか。




友「おっとこー。今帰り?」

男「ん? おっ、友か。そうだよ、一緒に帰るか?」

友「いやー、悪いけど今日も部活がありますわー」

男「何だよ今日もかよ……ゲーム研究部のくせに忙しいんだな」

友「くせにとはなんだよ、くせにとは! ゲー研馬鹿にすんなよ」

男「だって実際最近まで大した活動してなかっただろ?」

友「ま、まぁ確かにな……けど今は部長がやる気出してきて、みんなでゲーム作ろうって流れになってんだよ」

男「部長って……ああ、あの人か……」


友の所属している部活動はゲーム研究部。今まで何度か俺も部室を覗いた事があるが、部活ってより暇なゲーマー達の溜まり場みたいな雰囲気の部だ。

友に入部を誘われた事も何回かあるが、当然お断りさせてもらっている。

そんなゲー研がゲーム作りね……果たして大丈夫なんだろうか。

友「てな訳で残念だが一人で帰宅してくれたまえ。せっかく早く帰りたかったのにわざわざ呼び止めてしまって悪かったな」

男「いや別に……ってか何だよソレ? 早く帰りたかったって、俺が?」

友「ああ。一刻も早く家に帰って遊びたい! ……って、顔に書いてあったぞ」

男「はぁ?」

友「違うのか? 何か楽しみそうにしてる感じに見えたからそう思ったんだけど」


コイツは何を言っているんだ。別にそんな事全く考えてなかったんだが。

さっき考えてた事といえば、家で犬娘が待ってるから帰るかってくらいで……ん?


……って事は何。俺は無意識の内にアイツの元に帰るのを楽しみにしていたと? そういう事?

はははっ。





男「……そんな訳ないだろ! 全然楽しみになんかしてねーっつの!」

友「ぅおっ!? な、なんだよいきなり大きい声出して……」

男「あ……す、すまん。けどお前が変な事言うから……」

友「俺何か言ったか? ……しかし……そうか、楽しみじゃないのか。お前ならあの新作ゲームハマると思ったんだがなー」

男「俺のアイツへの好感度がそんな高い訳が……え……? ゲーム? って何の?」


友「何のって……俺がこの間貸してやったゲームだよ。てっきりゲームが早くやりたくて楽しそうなのかと思ったのに」

男「えーっと………………ああ、そうそう! そうなんだよ! 俺の生きがいってやっぱゲームだしさー!」

男「実は今もアレの続きがやりたくて、いてもたってもいられないって感じなんだよなー!」

友「え? でも今、全然楽しみじゃないって……」

男「ああああ、やべー! やべーわー! もう我慢できねー! 友、悪いけど俺もう帰るな! ゲームが俺を呼んでいる!」

友「お、男?」

男「それじゃ明日! あ、明日は休日かっ。また来週の月曜なっ! お疲れーっ!!」ダッ

友「お、おう……お疲れ……」






帰り道―


…………あー。

何やってんだよ俺ー……がらにもなく焦っちゃったよ……かっこわりー。

冷静に考えりゃ友が、俺んちに犬娘がいるのを知らないって事くらい分かるのに……必死になって否定しちゃって……

そんでそれが勘違いだと気付いた瞬間めちゃめちゃ恥ずかしくなってきて、飛ぶように逃げてきちまった。

友のやつに絶対怪しまれたよなー……

まぁアイツは人の事情に無理やり立ち入ってくるような奴ではないし、大丈夫だとは思うけど。


それよりも問題は俺だよ、俺。

なんだよ、俺のあのリアクションは! なんつーか……アレじゃん。

典型的なツンデレみたいじゃん、俺! 本当は犬娘の事が大好きみたいじゃん!

確かにアイツは俺なんかを慕ってくれてるし、俺もアイツの事はそれなりに気に入ってるけど……アイツは……犬! 犬だから!

犬娘自身、今は俺の従者だとか言って下手に出てるが……もしも俺がアイツに気を許し過ぎてたら、どんどん色々な権利を主張してくるかも知れん。

俺はあくまでも犬娘を“住まわせてやってる”立場なんだ。これだけは揺るいじゃいけねぇ。

よし、そうと決まれば早速帰ったら犬娘に俺との上下関係を改めてはっきりと伝えるか。





男の家―

ガチャッ

男「ただいm……
犬娘「わふぅっ! お帰りなさい神様ー!!」バッ



男「び……びっくりしたぁ……ド、ドア開けた瞬間現れるんじゃねーよ! 心臓に悪いだろ!」

犬娘「あっ、す、すみません! 神様が帰ってこられたと思ったら、つい舞い上がってしまって……」

コイツは……そういう事を簡単に言うから……

犬娘「学校はどうでしたか? あ、カバンお持ちします」

男「あーうん、ありがと。けどちょっと待って。その前に……犬娘。お前に改めて言っておく事がある」

犬娘「はい? なんですか?」


男「これから一緒の家で住んでいく上でのお互いの立場の再確認だ」

犬娘「立場、ですか」

男「ああ……聞くが、俺がお前をこの家に連れて来てやったのは何でだと思う?」

犬娘「え、えっと、私は神様の従者で……すぐそばで神様をお守りしなければいけないから……」

男「……俺がお前を気に入ったからだよ」

犬娘「はうっ……!?」

男「けどな。ここで勘違いされちゃ困るのが、だからといってお前の立場が俺と同等以上になることは絶対にない、という事だ」

男「お前はあくまでも俺の家の“居候”。そんな事無いとは信じたいが、もし万が一お前が立場をわきまえずあんまり調子に乗ってるようだったら……」




犬娘「か、神様が……私なんかを……気に入ってくださってる……ゎふふ……ふふふふふっ……」


男「っておい! 聞いてんの!?」

犬娘「……はっ、すみません! 聞いてませんでしたっ」


男「はぁー……ったく……だからー、お前は俺より下の立場なんだぞって事。それを忘れたらもう家には置いてやらないからな」

犬娘「は、はい! それは当然存じております!」

犬娘「私は神様の従者でいられる事に至上の幸せを感じているのです。それ以上を望むなどという度の過ぎた考えをもしわずかでも持ってしまったら」

犬娘「その時は自ら果てる所存でございます!」

男「う……うむ。そんだけ言いきれるならとりあえずは信用できるな」

犬娘「ありがとうございます!」



……まぁこういう答えが返ってくるよね。大体分かってたけど。

じゃあ何でこんな確認したんだって話だよな。


…………何でだっけ。


こんだけ更新



すいませんすいません

本当すいません






すいません





男「ふぃー、疲れたー」ダルーン

犬娘「お疲れ様です。勉学というものはやはり大変ですか?」

男「大変っていうか……めんどくさい。将来役に立つとは思えないような事ばっか習ってても、今いち気持ち入らないよ」

犬娘「そうですか……では学校など行かなくてもよいのでは?」

男「いや、そういう訳にもいかないだろ。今時高校も出てないと就職先が見つからないって」

男「……俺には……特筆すべき能力なんてないんだから……せめて平凡でも大衆の歩む道のラインからは外れないようにしなきゃいけないんだよ……」

犬娘「そうなのですか。難しい問題なのですね」

男「まぁ人間は色々あるんだよ……」

犬娘「なるほど……」

男「うん……」


犬娘「……」

男「……」

犬娘「……」

男「……」


…………あ……あれ?


男「……え? えっと、何?」

犬娘「わふっ? どうかされましたか?」

男「いやむしろこっちのセリフというか……俺に何か言いたい事でもあるのか?」

犬娘「いえ、何もございません」

男「そ、そうか? ならいいけど」

犬娘「は、はい」


男「……」

犬娘「……」

男「…………」

犬娘「……」

男「………………」

犬娘「……」


…………って!


男「何で用も無いのにずっと俺の部屋の入り口から、無言でこっちを見続けてるんだよ!」

犬娘「えっ? えと、あの、何か気に障りましたでしょうかっ?」

男「気に障るっていうか気になるわ! くつろごうにもくつろぎ辛いし!」

犬娘「も、申し訳ございませんっ!す、すぐにでも後ろを向きますので!」クルッ

部屋から出ていく訳じゃないんかい!


男「あのさ、無理して俺の近くにいようとしなくていいんだぞ? 特に何か無ければ普段は自由にしててくれれば」

犬娘「自由に……というのならば、私はここに居たいのですが……」

男「……俺の部屋が気に入ったのか?」

犬娘「いえ。神様のおそばに居たいだけです」

……ぅぐ。

男「別に俺のそばにいても楽しくないぞー? ほら、俺気のきいた話題とかも振れないし……何にも面白くないと思うんだけど」

犬娘「えっと、面白い面白くないとかではなくて、純粋に神様のそばが一番落ち着くので……」

お前は“気まずい”という空気を知らんのか? 勝手な事言ってくれちゃって。

犬娘「か、神様は私の事など気にせず、普段通りにおくつろぎください!」

男「ええー……普段通りと言われても……」


犬娘「そうだ、神様はいつも学校から帰ってこられたら何をされているのですか?」

男「へ? な、何って……えーっと」

男「ゲームとか……学校の宿題とか……ゲ、ゲームとか……えっと……家事したり……ゲームしたり……昼寝したり……あとは……ゲーム……とか」

ゲームし過ぎだな俺ぇ! 我ながらちょっとヤバい!

犬娘「へぇー」

男「い、いや! あのな、今はちょっと思いつかないけど、多分まだ何かある筈……」

犬娘「……ふふっ、神様はゲームがお好きなんですねっ」ニコニコ

男「……え、あ……うん」

犬娘「でしたら、そのゲームというのを私にやって見せてくれませんか?」

男「い、今から? 別にいいけど……」



チャーンチャチャーンチャーチャーチャーチャッチャーチャーチャチャーチャー♪


男「」カチャカチャ

犬娘「」ジー

……何か人が見てる前でゲームやるのって新鮮かも。

家族と暮らしてた時はゲームなんてほとんどしなかったしな。

男「えっとー、前回はどこまで進んだんだっけー……あ、そうだ。ここのボスを倒して……」

犬娘「ほぇー……すごくリアルな映像ですね……本物みたい……」

何か後ろで最先端の技術に口を開きっぱなしにしてる奴の事が気になるけど……

無視しよう、そうしよう。


男「」カチャカチャ

犬娘「」ジー

男「……」カチャカチャ

犬娘「」ジィー

男「…………」カチャカチャ

犬娘「」ジィィー


……あの……これ。


さっきとあんま変わんねえええ!!

結局ゲームに集中できないよ! 穴が開きそうなぐらい見られてるよ!!

無理、これ! 無視、無理!

男「い、犬娘……?」

犬娘「…………え? あ、は、はい! 何でしょう!」

男「あー、その……あれだ……お前もやってみるか? このゲーム」


犬娘「えっ? いっ、いえいえ! そんな! お気遣いなく! 神様と同じ娯楽を私なんかが味わおうなど……恐れ多き事ですっ」

男「流石にその言い方は大げさすぎるだろ! たかがゲームでそんな堅苦しくならなくても!」

犬娘「あの……で、でも、本当に大丈夫です! 私別にやってみたいと思ってる訳ではないですから。ここから見てるだけで楽しいです」

男「つってもなぁ……後ろから黙ってガン見されてると……正直こっちが気になるっつーか……」

犬娘「あっ…………そうか……そうですよね……すみません、従者のくせに配慮が足らなくて」

男「ん? んんー……いや、なんつーか」

犬娘「……では、私はそろそろ……」スッ

……おっ、立ちあがった。部屋から出ていくのか。

別に出ていってほしい訳じゃない。けど朝も言ったように、俺は極力コイツを縛るような真似はしたくない。

ちゃんと自分の自由な時間を持ってもらいたいと考えているんだ。

俺がゲームやってるのを黙って見てるより何かやりたい事があるのなら、断然そっちを優先するべきだと……

犬娘「……神様の夕餉の下ごしらえをして参りますねっ」




…………なっ……!


男「ちょ、まっ、えっ? お、俺の飯作る気? 今から?」

犬娘「はい、そのつもりですが……まだ早かったですかね?」

男「うん、まぁ早いのもそうなんだけど! ……何で?」

犬娘「あ、あれ? もしかして余計なお世話でしたか? 朝は私に任せていただけるようだったので、勝手に夜も任された気でいたのですが」

男「余計なお世話って事も無いけどさー……ううん…………あー……もぉー」



男「そんなに俺の事ばっか考えてなくていいよ! お前は」

犬娘「えっ?」



男「お前が俺の従者だって事はもう分かったし、お前が俺の事を慕ってくれてるのも伝わった! 十分すぎるほどにな」

男「だから、そんな自分の時間を無くしてまで俺に尽くそうとするな。俺もいきなりお前に愛想尽かしたりなんかしないからさ」

男「晩飯だって今まで俺一人で作ってやってきたんだし、いきなり無理にお前が作る必要は無いんだよ。なっ?」

犬娘「は、はぁ……」


男「よし、そうと決まったら今日のところは俺に任せてお前は自分の好きなようにくつろいでてくれよ」

犬娘「くつろぐ……」



……あれ、犬娘の奴うつむいちまった。

もしかしてちょっと言い方強かったかな。怒ってるように取られたかも。

男「あー、犬娘? 俺は別に怒ってる訳じゃ……」

犬娘「神様……お尋ねしてもよろしいですか?」

男「ないぞ……って、ん? 何?」

犬娘「好きにくつろぐ……とは、一体何をすればいいのでしょうか?」


男「は? 何をって…………いや、そんなの俺に聞いても知らねえよ!」

犬娘「あう……そうですよね。すみませんっ」

男「はぁ。何というか……自分の趣味の時間に費やすとか。俺で言うならゲームだし……あ、もしお金が必要ならその辺話しあえば何とかしてやれるかもだし」

犬娘「趣味……ですか……わ、私、実は自分の時間を過ごした事があまり無いので、趣味と言われても思いつかないですね」

男「マ、マジで? …………ん? じゃあさっきまでは?」

犬娘「さっきまで?」

男「ああ、俺が学校行ってる間。適当に好きに過ごしてくれーって言っただろ? 何してたんだよ」

犬娘「あ、それでしたら……ずっと神様の事を考えておりました」

男「俺の事を?」


犬娘「はい。神様は今頃何をされているのだろう、だとか……今日の夕餉は何が食べたいだろう、だとか……」

男「……え……ほ、他には?」

犬娘「神様はいつ頃帰ってこられるだろうか、だとか……何をすれば喜んでいただけるだろう、だとか……」

男「いやそうじゃなくて! 俺の事を考える以外には何してたんだよって聞いてんの」

犬娘「それ以外ですか? えと……何もしてないですかね」

男「は? 何も!? 俺が学校行ってる8時間以上もの間、お前はずっと俺の事ばっか考えてたのか!?」

犬娘「は、はい……で、でも結構すぐでしたよ? 神様の事を考えていると時が経つのは早いですね」







……わ……分かっちゃいたけど……コイツ……

本当バカだろ!

口を開けば神様神様って…………くっそ!



男「お前の頭の中には俺しか無いのかよっ! 神様が全てってか!?」

犬娘「はい」


……な……そ……即答かよ!


犬娘「申し訳ございません。もし何か神様の気を悪くしていたのなら心より謝罪します……しかし、その通りなのでございます」

犬娘「私には神様にお仕えする事が全てなのです。神様が幸せであれば、それが私にとって一番の幸せ」

犬娘「ですので神様に関する事以外で好きに過ごせ、とおっしゃられても何をすればいいのか思いつかないのですよ」

犬娘「……どうすればいいでしょう?」

犬娘はわずかに首をかしげ、そんな事を俺に聞いてくる。


俺を見つめるその瞳はおそろしいぐらい澄んでいて、コイツが全く嘘をついてないというのがイヤというほど伝わってきて……

それが何だか無性に悲しいような、ムカつくような変な気持ちにさせられて……









男「………………………じゃあ…………さ……散歩」

犬娘「……はい?」

男「ちょっと……今から……散歩でも行くか? 2人で」

犬娘「あっ! はい! お供しますっ!」




俺は咄嗟に朝のやり取りを思い出して、犬娘を散歩にお誘いしたのだった。

果たしてコイツが本当に散歩好きなのかどうかも分からないけれど。

こんだけ更新

このスレの皆さんはどうしてこんなに寛大な心をお持ちなのか
それはきっと現代の科学ではまだ証明できないだろう





男「そんじゃ行くぞ犬娘ー、準備出来てるかー?」

犬「あっ、はーい! いつでも大丈夫ですっ」

男「よし、行くかって……お前何で犬の姿になってんの?」

犬「えっ? あの、人間の姿で外をうろつくのはアレだと神様が今朝おっしゃられたので……」

男「あー、そういやそうか……お前あの和服しか持ってないもんなぁ。女ものの服は家には無いし……これからの事考えたら服も買ってやらんとな」

犬「い、いえいえ! 私にはあの和服だけで十分ですよ? わざわざ新しいものを買っていただかなくとも……」

男「まぁ……その話は後でいっか。とりあえず外出ようぜ」


ガチャ

男「ああ、それと……分かってると思うけど、外ではその姿で人語を喋ったりしないようにな?」

犬「わんっ!」

おお、もう犬になりきってるのか?





近所の町内―

男「……」テクテク

犬「……」スタスタ

男「……」テクテク

犬「……」スタスタ

当たり前の事だが……無言だな、お互い。

いやまあ、犬の散歩で犬と飼い主が軽快なトークしてたらおかしいからね。これでいい。

これでいいんだけど……

犬「……」スタスタ

俺がコイツを散歩に誘った理由。

それは、コイツに楽しんでもらうためだ。

俺の事……神様の事は抜きにして、純粋に犬娘自身が「楽しい」と感じる事。


だけどもしこの散歩も、俺が誘ったから付き合ってるってだけで、犬娘本人は別に全然興味が無いのだとしたら……コレ、全くの無意味なんだよな……


……そういや、犬って喜んだりするとしっぽを振るっていうよな。

犬娘のしっぽは……

犬「……」シーン

変化なし……かー。

まぁしっぽだけで判断する訳じゃないけど……うーん……


男「い、犬娘ー……散歩……楽しいかー……?」

犬「わんっ!」

わー元気なお返事ー。

って、コイツにそうやって聞いてもこう答えるに決まってんだよ。本人確認は意味をなさねー。


あーもー。何なんだよー。

ってか、何で俺が犬娘の事でこんな悩んでんだよ。訳わかんねー。

もういい。考えるのやめたーっと……ん?

男「電柱に張り紙……何々?」


『犬のフンは飼い主が責任を持って持ち帰ってください!』


ああ……たまにあるよね。こういう注意の張り紙。

最近はマナーのなってない飼い主も増えてるって事かね……



男「」ピクッ


犬「……」スタスタ

男「……えっと、犬娘」

犬「わふっ?」

男「一応……一応な? 確認だけしたいんだけど」

男「俺、スコップとかエチケット袋とか持ってきて無いんだけど……」

犬「……わ、わう……!?」



男「お前、途中で何か催したりなんかは……
犬「わおおおおおんっっ! わんっ! わんわんっ!! わうわうわーぅっ!!! きゃんっ! きゃんきゃんっっ!!」


男「……あーごめん。何言ってるか分かんないけど、何言いたいかは分かった。流石にデリカシーとか色々足りなかったね。うん、ごめん」





公園―

男「ほら犬娘、公園についたぞー!」
犬「わふぅっ!」

男「広いぞー! 大きいぞー! ここらの子ども達が皆利用してる遊び場だぞー!」
犬「わんっ! わんっ!」

男「すべり台もあるぞー! ブランコもあるぞー! 遊具いっぱい揃ってるぞー!」
犬「わんわんっ! わーんっ!」

男「よーし! こっからあっちまで、思いっきり駆けてこーい!」
犬「わおおおぉぉぉぉっっ」ダダダダダダダダ

男「俺はここで見ててやるから、好きに楽しんでいいぞー!」

犬「…………はぅっ」ピタッ

犬「…………わ、わぅー」チラッ

犬「くーん……くーん……」オロオロ



あああー、駄目かああああー。


勢いで背中押してやればいけるかと思ったけど、やっぱ自由に行動させた途端駄目かあああー。

はぁ、結局犬娘に自発的に楽しんでもらうってのは無理なのかねー……



「あははっ! 待てー!」

はぁーぁ、公園で遊ぶガキはいいねー。悩みなんかこれっぽっちも無くて心から笑って楽しんでるって感じで。

「あははははーっ、逃げろー! あはははー」

……ん? 何かこっちに向かってくる子、どっかで見た覚えが……

「かれーな走りを見せる私を捕まえるのはふかのーだぞー! あはは……って、あれ?」

男「……ん?」








幼女「あーっ、お前はっ!」



男「あ、誰かと思ったら昨日の……」

幼女「私のボール盗んだやつっ!」

男「……いや違うわっ! お前の中でどういう記憶処理が行われたらそうなるんだ!?」

幼女友1「幼女ちゃんどうしたのー?」

幼女友2「何かボール盗んだとか聞こえたよー?」

幼女友3「あれー? ていうかこの人誰ー? 何でこんな大きいお兄ちゃんが公園にいるのー?」

う……な、なんかガキの集団にわらわらと囲まれ始めたんだが。

幼女「え、えっとなー、ボール盗まれたっていうのは勘違いだったー。でも昨日ここで会ったやつなんだけど……なんだっけー?」


男「一緒にキャッチボールとかして遊んであげた男だよー。一日で忘れないでねー」

幼女「あああーっ! そうだ! それなっ! 昨日は結構楽しかったぞ! ありがとなー!」

男「……ど、どういたしましてー……」

幼女友4「お兄ちゃん、幼女ちゃんと遊んだの?」

男「え? まぁ、そうだね。成り行きで、というか……」

幼女友4「それって昨日が初めて?」

男「うん、初めてだよ。会ったのがまず初めてだしね」

幼女友4「えーっ、それってすごーい!」

男「……すごい? 何が?」


幼女友4「だってだって、幼女ちゃんってば私達の事は全然覚えてくれなかったんだよー! ねー!」

幼女友5「そーそー! 何回も何回も遊んでやっと覚えてもらったんだからー!」

幼女「まー私は過去に縛られないで生きてるからなー!」

何かガキのくせにえらい難しくて格好いい事言い出しましたけど。

幼女友4「だから、たった一回遊んだだけで覚えてもらったお兄ちゃんはとってもすごい人だと思うよー」

男「へー……そ、そうなんだ」

幼女「んー、でも確かにお前は何か特別っていうか、他のやつとは違うって感じでよく分かんないけど覚えてたなー」

よく分かんないのはこっちだよ。

しかも覚えてたっつってもかなり曖昧だったし、何より未だに呼び方「お前」じゃねぇか。名前覚えてないだろ。

まー何でもいいけど。


幼女友1「ところでお兄ちゃん」

男「ん、どうした?」

幼女友1「あっちにいるワンちゃんって、お兄ちゃんの?」

男「え? …………あ」

犬「……」ポツーン

やべぇ。す、すっかり忘れてた……

俺と子ども達の集団から少し離れた所に、犬娘が一人ポツンとおすわりしてこちらを見ていた。

男「あ、うん。そうだよ……」

幼女友たち「わあああああ、かわいいいいいい!!」ドドドドドドッ

犬「っ!!」ビクーン

犬「わ、わ、わううっ」ダッ

幼女友2「あーっ、ワンちゃん逃げちゃうー!」

男「あーっと、アイツちょっと人見知りなんだよ。だからいきなり走って近寄ったりは……ね」

まあ今のは人見知りの犬じゃなくても怖かったかも知れんが。


男「犬娘ー、こっちおいでー」

犬「わん、わんっ」タタタッ

幼女友3「あー、ずるいー! 何でお兄ちゃんの方には行くのー?」

男「あ、あはは……一応飼い主だからね」

幼女友4「私もワンちゃん欲しいー! ワンちゃんに懐かれたいー!」

幼女友5「わーたーしーもー!」

えー、何これ……まいるわー。



幼女「よおおおし! じゃあいい事思いついたぞー!」


幼女友1「いい事って何ー?」

コイツ……何言うつもりだ?

幼女「今から皆で鬼ごっこするんだ。鬼は犬を飼ってるお前な!」

男「えぇー……俺ー?」

幼女「それで私達は鬼から逃げて、逃げきれたら私達の勝ち!」

幼女「勝ったらあの犬を私達が貰えるんだ! どーだ!」

男「えええぇぇええ!? むちゃくちゃだろ! どーだも何も、駄目に決まって……」

幼女友たち「わあああああい! さんせえええい!」

男「ちょっと待てええええええ!!」


幼女「おしまいはお日様が沈むまでなー! みんな、逃げろおおおおお!」

男「ちょっ……」

幼女友たち「わあああああああ!」


バババババッ


く……ガ……ガキども……

クモの子を散らすように逃げていきやがって……

日が沈むまでって……もうほとんど時間ねーじゃねーか!

犬「か……神様……」ボソッ

男「ちっ……上等だ。この理不尽な勝負、受けて立つ。ただし……少々大人げなくなるかも知れんがな!」

大体ちょっと本気を出せばこんなガキども一瞬で全員捕まえられるよな。よく考えたら別にムキになる事じゃないわ、うん……





男「はぁ……はぁ……」

幼女友1「いいぞー、幼女ちゃーん!」

男「ぜぇ……ぜぇ……」

幼女友2「このまま逃げ切っちゃえー!」

男「……くっ」

お、おかしい……

あの幼女以外の子ども達なら速攻で捕まえられたのに……


幼女「あっはははは! よゆーよゆー!」

あいつだけ……一向に捕まらねぇ!

はっきり言ってこっちは全力だぞ。息が切れるほどに。

なのに捕まえられないって……そんな事あるの? 相手は5~6歳のガキなんだぞ。

やべー、自信無くすわー……

そういや昨日鬼ごっこやった時も本気じゃなかったけど何だかんだいって一回も捕まえられなかったんだった。


男「ちっくしょ……」チラッ

犬「くぅん……」

そんな不安げな目でこっちを見るな犬娘。

この遊びに負けたからってまさか本当にお前が取られる訳もないんだし……ないよな?

幼女友3「お兄ちゃんもう降参かー!?」

男「うるせー! 誰が降参なんかするかー!」

とにかくまずはもう一回冷静に……冷静……に……



冷静に考えたら……何で俺こんな事やってんだろう……

元はと言えば犬娘に楽しんでもらいたかっただけだよな?

それで散歩しにきただけなのに……公園に来ただけなのに……

何で当の犬娘をしり目に、俺がガキ共と鬼ごっこして楽しんでんだよおおお! いや楽しくもないけどおおおお!




もう……いいや。こうなったら…………アレだ。


男「ごめんな犬娘……何故かお前ほったらかしで俺だけこんな事やってて……お前さっきから暇だろ」

犬「わん」


男「こんなしょうもないゲームとっとと終わらせてくるわ……ってかっこよく言いたいけど、あの幼女超素早いんだよ」

犬「わん」


男「情けないけど俺だけじゃ捕まえられないみたいだ……つー訳でさ……」

犬「わん」




男「……ヒマならちょっとお力貸してもらっていいかね? 2人であの幼女を捕まえないか?」


犬「…………わんっっ!!」


男「よっしゃ! 行くぜ犬娘!」

犬「わんっ! わおおおおおおんっ!!」ダッ

幼女「……おっ? 何だ何だ!?」


犬「あおおおおおおんっ!!」ダダダダ

幼女「おわー! 犬が来たー!?」ダダダダ


幼女友1「あー! ずるいよお兄ちゃーん!」

幼女友2「そうだよー! ワンちゃん使うなんて聞いてないよー!」

男「あー、だって今決めたからねー」

幼女友3「えー!? 何それー! それって大人げないっていうんだよー!」

男「ふっふっふ……大人げない?」

男「そんなもん、お前ら相手に全力で鬼ごっこやってる時点でとっくに分かってたわぁ!」



幼女「ほっ、ほっ、ほーいっ!」ダダダダダダダ

犬「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」ダダダダダダダ

幼女「うおー、やっぱ犬は足早いなー! これは流石に鬼ごっこの神である私でもきついぞー」

幼女「しかーし! 足の早さだけでは決まらないのが鬼ごっこなのだー」

幼女「このステップについてこれるかなー?」


幼女「よっ、ほっ、さっ」キュッ

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

おお、細かいステップからなるジグザグ走行。

あのガキ、反復横とびとかもすげえんじゃないか。

犬「……!」


犬「わふっ!」キュッ

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

幼女「なー!? なにー!?」


男「おー、全く同じ要領でついていってみせた! 犬娘もやるー!」


……いや。ちげぇわ。

やるのはあの幼女の方だ。

神獣とかいう普通の動物じゃないあの犬娘から、あそこまで逃げられるなんて……やっぱあのガキもただもんじゃねーぞ。

けど……


幼女「うあー、来るなー!」タッタッタ…

犬「わふーっ」ダダダダ

そろそろお縄につく頃合いかな。




幼女「うー、このままじゃ捕まるー! 何とか逃げ切るいい方法は……」チラ

幼女「おっ、あれだっ!」ダッ

犬「……?」


幼女「ほいほいほいほいほい……」トットットットットッ

幼女「……ふうっ! どうだ! すべり台! ここに上っちゃえば犬のお前は辿り着けないだろーそうだろー! あははは」

犬「わふわふわふわふ……」トットットットッ

幼女「ぎゃー! よゆーで上ってきたー!?」

幼女友4「あー! 幼女ちゃん捕まっちゃうー!」

幼女「ぬー、まだまだー! あいきゃんふらあああい!!」ピョンッ

犬「わふっ!? ……と……とんだ……!?」ボソッ


幼女「……とうっ!」スタッ

幼女友5「幼女ちゃんやっぱりかっこいいー! あの高さからとんでも全然平気だなんて!」

幼女「あはははは! 私はさいきょーだからなー! ……これで、あの犬っころがゆっくりすべり降りてる間に距離をとって……」

犬「」ピョンッ

幼女「え」

犬「」スタッ



幼女「……えーと」

犬「……わふっ!」ダッ

幼女「ぎゃー! お前きらーい!」ダダダダ


犬「ハッ……ハッ……」ダダダダ

幼女「うわー、もー……来るなー!」ダダダダ


「幼女ちゃん! こっちだ!」

幼女「……ふぇ?」


「こっちの砂場に逃げ込め! 安全だぞ!」

幼女「砂場……? 安全……?」

「ほら、早く早く! こっちにおいで!」

幼女「わ、わかったー……!」

幼女友1「あー、幼女ちゃん! だめー! トラップだよトラップ!」

幼女「トラ? 虎? 虎っぷ……?」

幼女「………………………………あっ」


男「はい、たあああああああああっっっちぃ!!」パフッ


幼女「……………………あぁー……捕まっちゃったー」










幼女友1「お兄ちゃんずっこーい! 大人げなーい!」

幼女友2「そーだそーだー! いきなりワンちゃん使ったり、幼女ちゃん騙しておびき寄せたりー!」

男「わはははー、大人はずっこい生き物なのだよ。君達も一つ勉強になったかなー?」

幼女「くぅ……まさか味方のふりして私を安心させて近づいて捕まえるとは……なんという頭脳ぷれー! やるなー!」

男「頭脳プレーっていうか……実はこっちもまさかこんなんで捕まると思わなかったっつーか……」

いや……



男「それもこれもお前のお陰だな………………犬娘」

犬「……わふっ?」


男「お前がいなかったらこの幼女ちゃんを追いこむ事すらできなかったし、最後の罠に誘導するところまで行けなかったと思う」

男「お前のお陰で鬼ごっこ勝負に勝てたよ……ありがと」

犬「わんっ!」フリフリッ

男「あはははっ、しっぽなんか振りやがってこいつぅ……」

って……ん? あれ……? しっぽ……?




男「あっ、しっぽ! しっぽふってんのかお前!?」

犬「わ……わぅ?」



男「犬娘……お前……楽しかったか? 今の鬼ごっこ……楽しんでたのか?」

犬「……わんっ! わんっ!」フリフリフリッ



男「そっか……そっかぁ……あははっ!」


幼女友1「お兄ちゃん達……楽しそう……いいなー」

幼女友2「そりゃそうだよ……飼い主とペットだもん……」

幼女友3「私達は……もう負けちゃったから……ワンちゃんとは遊べないんだよね……」

幼女友4「うん……そう……だね……うぅ……ぐす……」

男「……ちょ、ちょ、ちょっと待って! 泣かないでねお願いだから! 君達に一斉に泣かれたら俺途方に暮れちゃうから!」

幼女友5「で、でもぉ……ぅぐ……」

男「勝負は俺達の勝ちだから……犬娘はあげられないけど……一緒に遊ぶくらいなら……いいから」

幼女「ほんとかー!?」

男「あ、ああ……いいよな……犬娘?」

犬「わぁんっ!」フリフリッ

ホント楽しそうじゃんコイツ……よかったー……


幼女「みんなああ、犬っころと一緒に遊べるぞおおおおお!」

幼女友たち「わあああああああああい」

元気になるのはえー。さすが子ども。幼女に至っては落ち込んですらいなかったしな。

男「それじゃ……ちょっくら相手してやってくれるか? 俺見てるしさ」

犬「わ…………わふぅ……?」ピタッ


……あれ? 急に表情が曇った? 何で?

さっきはあんなに楽しそうだったのに……




『“一緒”に遊ぶくらいなら……いいから』






―――――――――――――あ……。



男「……お……俺も……」

男「“一緒”に……遊ぼっかなー…………なんて」


犬「……!!」パアアアア


犬「……わぁんっ! ぜひっっっ! …………あっ」

ぅおおおおおおおいい! 日本語おおおおおおおお!

幼女「ん? 今なんか……」

男「ぜひいいい! ぜひ俺も一緒に遊びたいなああああ!」

幼女友1「んもー、お兄ちゃん大人のくせにー。しょうがないなー」

幼女友2「よーし、みんなで一緒に遊ぼー!」

幼女たち「おおおおおー!」




そして――

俺達はその後。

ボールを使ったり……

遊具を使ったり……

走り回ったりして……

子ども達の親が迎えに来るまでの間、精いっぱい遊んだ(正直親御さん達に見られた時はかなり恥ずかしかった)。

子ども達や……犬娘は……とても楽しそうに遊んでて……

俺も……

まぁ……それなりに楽しめたと……言えない事も……なかった……かも。





幼女友5「じゃーばいばい幼女ちゃーん! また遊ぼーねー! お兄ちゃんとワンちゃんもー!」

幼女「うん、またなああああ」

男「はは……ばいばーい」

犬「わんっ」

さて……と。

男「もう幼女ちゃん以外の子は帰っちゃったし……そろそろ解散だね」

幼女「むう、すげー嫌だけど……しょうがないなー」

男「一応幼女ちゃんの親が迎えに来るまで一緒に待ってるよ」

幼女「それ意味ないよ。だって私親いないからなー」


……え?

な、何? もしかしてこの子、めちゃくちゃ複雑な家庭?




幼女「お前も今日はありがとなー」

男「……急にどうした」

幼女「お前のおかげで今日の遊びはいつもよりうんと楽しかった! 昨日もヒマな時にお前が現れてくれたから私はすっごく楽しかったのです」

男「いや、ま……それを言ったら俺の方こそ……」チラッ

犬「……ゎぅ?」

男「……幼女ちゃん達のおかげで、何かふっきれたっつーか……んー…………とりあえず……犬娘ともども楽しませてもらったよ」

幼女「そーか? あははは、まー私の手にかかればそんくらいらくしょーってやつだな!」

男「ふっ……はいはい」








男「じゃ俺達も帰るけど……幼女ちゃん本当に一人で帰れる? ついていかなくていい?」

幼女「だいじょーぶだ! いっつも一人だからな」


男「そっか……でも、もう暗いから気をつけるんだよ」

幼女「任せとけー。お化けが出てきたらちゃんと仲良く遊べるようにボールを持ってるからな」

そんなところに気をつけるとは……たくましいなこの子は。

ま、この子なら1人でも平気かな……?


男「それじゃ……ばいばい幼女ちゃん」クルッ

幼女「うん、ばいばい!」


スタスタスタスタ..


幼女「……また」

幼女「……また……あそぼーな! おとこー! 犬娘ー!」





………………名前…………覚えたのか。


こんだけ更新

皆さん乙、感想等ありがとーございます







男の家―

ガチャ

男「……ただいまー」

犬「わん」

男「……」

犬「……?」


ボンッ


犬娘「……か、神様?」

男「…………ん? あ、ごめんごめん。早く入ろうか」

犬娘「あ、は、はいっ」





男「……ふぅ」

犬娘「……」

男「……」

犬娘「……あ、あのー」

男「…………どーした?」

犬娘「わ、私はまだ……自由時間というやつなのでしょうか?」

男「え?」

犬娘「も、もし神様が私に何か命じたい事があれば、別に今からでも言ってくだされば……」


男「…………はー」

男「今さ……ちょっと色々考えてた。お前との向き合い方」

犬娘「え? 私との向き合い方ですか?」

男「ああ。そんでさ……俺、決めたよ」

犬娘「決めた、とは……?」

男「俺は……お前を……」







男「“家族”として迎え入れる」


犬娘「……か、家族って……わ、私が? か、神様とですか!?」

男「うん」

犬娘「そ、そそそんなっ、私は神様に仕えるただの従者であって……従者ごときが神様の家族になるなどと……」

男「よーし、分かった。待て。とりあえずちょっと黙ってろ」

犬娘「……う、うぅ?」

男「どうせお前『私ごときが家族なんておこがましいー』とか『勿体無いお言葉ですー』とか、馬鹿の一つ覚えみたいに言うだけだろ?」

犬娘「馬鹿って……」ガーン

男「もうそういうノリは聞きあきたんだよ。おこがましいかどうか……勿体無いかどうかは俺が判断する事だ」


犬娘「で、ですが何故突然……」

男「俺はお前が、俺の事にばっか力入れてるのが気に食わないんだ」

犬娘「そ……それは、私の奉仕はお邪魔だという事でしょうか……?」

男「違う、それは違う。……はー、ったくもー。何でお前はそういう発想をするかなー」

犬娘「す、すみません……」

男「いいか? お前は俺の事を神様だとか勝手に呼んでるけどな。こっちはそんな記憶微塵もねぇ! いきなり特別待遇されても困るだけなんだよ」

男「だから、そんな我が身の事も考えないで尽くされたりすると……その……」



男「し……心配になる……だろ……が」



犬娘「……! あ、えと、し、心配……ですか! いえ、あの、わ、私ごときにそのようなお言葉もったいな……あ、じゃなくて、その……」

男「つ、つまりだ! そこでお前には、俺に関する事以外に楽しみを見つけてもらおうと思ったんだが……」

男「さっき公園で気付かされたよ。その計らいは無駄だった、と」

犬娘「……えっと」

男「…………今からちょっと自信過剰な事言うぞ?」

犬娘「えっ……? あ、はいっ」


男「お前は、俺と一緒に何かをするのが楽しい――そうだろ?」


犬娘「え……え、ええええ!? えと、その、わ、私は……!」


男「……違うのか?」ジッ

犬娘「!! ぅ…………は……はい。確かに……そうです」

犬娘「本来ならば従者である私がこんな感情を抱きながらお仕えするのは間違っているのですが……」

犬娘「先ほどの追いかけっこや子どもとの遊びも然り。私一人でやっても恐らく無味乾燥に終わっていた筈のものも」

犬娘「神様とご一緒にする事で、とても……その、楽しいと、思いました」

男「そっか」


とりあえず……よかった。

ここでもし「別に」とか言われてたら、俺恥ずかしすぎて死ぬところだった。


犬娘「あ、あの、申し訳ございませんっ」

男「な、何で謝るんだよ? 別に怒ってる訳じゃねーから! ま、まぁそりゃ、俺みたいな奴といるのが楽しいとか何考えてんだ、とかは思ったけどさ」

男「本当は俺なんか関係なく趣味があればそれが一番だが……お前の楽しみ方が“そう”だってんなら俺も付き合ってやんよ」

犬娘「それは……つまり……」

男「おう、これからお前はただの“居候”じゃなく、俺の“家族”って事だ」

犬娘「や、やはり」

男「全部が全部そうする訳にもいかねーけどさ。やれる事はお前と“一緒に”やって行こうと思う」

犬娘「神様……」

男「その神様ってのもやめてもらいたいけど……ま、呼び名とか接し方を急に変えろって言っても難しいんだろうし、こっちはおいおい……だな」

犬娘「は、はい。そうしていただけるとありがたいです……」





犬娘「あの、神様」

男「何だよ?」

犬娘「何故神様は、私のようなものにここまで気を回していただけるのでしょうか?」

男「……どうした? いきなり『お前は家族だ』なんて言われて引いたか?」

犬娘「い、いえいえっ! そんな筈はございません! …………ただ」

犬娘「少々困惑は……しております」

男「……」

犬娘「わ、私の頭の中にある“前の神様”は……従者である私達を家族にするなどとはおっしゃりませんでした」

犬娘「そ、それが悪いとかいう訳ではないのですっ。むしろそれが普通であり当然で……だから何故突然……」

男「そんな事言われてもな。生憎俺には過去の記憶なんて無いんでね。前の俺の方針なんざ知ったこっちゃないんだよ」


犬娘「そこも気になったのです。神様は私と違い前の記憶を引き継いでいない。つまり神様にとって私など、ポっと湧いて出た何処の誰かも知らぬ存在」

犬娘「邪険に思うならともかく、こんな手厚く歓迎していただける理由が思い当たりませんでしたので……」

男「あー…………ま、確かに。俺もちょっと自分にツッコミ入れたいよ。『お前、そんな安易にどんどん犬娘に深入りしていっていいのか!?』って」

犬娘「……」

男「けど……」

仕方ねーだろ。






―――――――――――――――わぁんっ! ぜひっっっ!







あーんな顔をもっと見たいと思ったら……

不思議と簡単に腹括れちまったんだから。





男「……まぁアレだ。若さ故の衝動ってやつ? 気まぐれみたいなもんかな」

犬娘「気まぐれですかぁ!?」

男「あ、ってかそんな事より! お前はもう俺の“家族”なんだから……今日の朝みたいな事はすんなよ!」

犬娘「今日の朝?」

男「朝飯俺の分しか作んなかっただろ?」

犬娘「で、ですからアレは……」

男「神獣の身体の事は聞いた。けどな、飯も食わせずにひたすら家族を働かせ続ける家庭なんてあっちゃいけねーんだよ!」

男「お前がいくらいいって言ってもだ、こっちは何か罪悪感とか色々感じて落ち着かない訳。お前はそれでもいいのか?」

犬娘「そ、それは……いけませんね」

男「だろ? だから……家事とか、この家の事と同じで、食事も…………“一緒に”……だ」

犬娘「……はい…………っ、はいっ!!」



犬娘「あ、では……」

男「……ん?」

犬娘「任せてくださると言っていた、朝餉の用意も……無しという事で?」

男「えっ? あ、そーいえば……あぁー」


男「……あ、朝飯だけは……と、特例で任せちゃおっかなー……な……なんちゃって……」

犬娘「……ふぇっ?」

男「……ぐっ、や、やっぱ今の無しっ! と、当然朝飯作りも共同作業だぞっ、なぁ!」


犬娘「…………ぷっ……ふふっ……ふふふふっ!」

男「な、何だよっ!? 悪かったなぁ調子良くてっ!」カアアアッ

犬娘「す、すいませ……笑うつもりは……ふふっ!」

男「あっ、あー、もうすっかり夜飯の時間だぞっ。おしゃべりはおしまいっ! 飯だぞ、飯!」

犬娘「は、はい……ふふふっ!」

いつまで笑ってんだー!






犬娘「……あ、あの、神様」

男「……あ?」

犬娘「私……実は少し不安だったんです」

男「何が?」

犬娘「この時代で……神様にお仕えする事です」

男「へぇ、初耳だな」

犬娘「神様の覚醒を心待ちにする反面、この時代の私は果たして立派に神様の従者を務められるのか……常に考えておりました」

男「で、いざその生活が始まって……どーよ?」



犬娘「……ふふっ」

がっ!? ま、また笑われたー……!?



犬娘「何だか……私の想像するものとは少し違いました」

男「へ、へ、へえぇぇー」






犬娘「……けれど」

犬娘「私の想像していた以上に楽しくて…………幸せを感じておりますっ!」ニコッ

男「…………ふーん……あっそ」

犬娘「はいっ!」





男「じゃ、まっ……夜飯作るとすっか…………一緒に」

犬娘「はいっ! ふふっ…………ご一緒にっ!!」


こんだけ更新

てことで毎度毎度暖かい皆さんに感謝








それから。

夜飯を作り(犬娘と一緒に)。

夜飯を食べ(犬娘と一緒に)。

ゴールデンタイムのバラエティ番組を観賞し(犬娘と一緒に)。

月曜に提出する簡単な数学のプリントの宿題をささっと済ませ(犬娘が見つめる横で)。

風呂の掃除をし(当番制でやる事になり、今日は俺が)。

風呂に入り(犬娘と一緒ではない)。

風呂から上がり、俺の部屋でのんびりした(犬娘と一緒に)。





男の部屋―

男「……ぷはーっ! やっぱ風呂上りに飲むフルーツオレは格別だねー」

犬娘「この飲み物を飲むのは初めてですが、私もこれは素晴らしいものだと思いますっ」

男「お? ふふん、犬娘。お前なかなか分かってる奴じゃねえかー」

犬娘「あ、ありがとうございます……神様は何だか先ほどから機嫌が良さそうですね?」

男「そうか? んまぁ、今日は金曜、週末だからな。学校を気にする事無く夜通しゲームが出来るとあっちゃ、そりゃテンションも上がるってもんよ」

犬娘「なるほど……って、神様ー? 夜更かしは体に良くないのでやめてくださいよー」

男「何だよお前。俺のカーチャンか」

まぁ、本当の母親にそんな心配された事は無いけどね。


にしても、どうもコイツはゲームの持つ魅力……もとい魔力が分かってないらしい。

ここはやはり一度ゲームをやらせてみたいものだが……

俺の持っているTVゲームのソフトは基本一人用のものばかりだし、何よりそれ以前にコントローラが一個しかない。

どうせやらせるなら一緒にプレイしたかったんだけどな……


男「……って、あ、そうだ! アレがあったじゃん!」

犬娘「どうかされましたか?」




男「ちょーっと待ってろよー」ガサガサ…

犬娘「何を漁っているのですか?」

男「昨日知り合いからいただいた誕生日プレゼントが入った袋だよ……っと」ガサガサ…




男「あったぞ、PSPSP」

犬娘「ぴーえすぴーえすぴ……えっと、それは一体何でしょう?」

男「それもゲームだよ。携帯型のやつだな」

犬娘「こんな小さな形なのにゲームが出来るのですか。むむぅ、やはり現代の技術は凄いですね」

男「それと元々俺が持ってた分も出して……ソフトは……これでいいかな」

男「ほい犬娘。こっちのPSPSP貸してやるから、ちょっくら対戦しようぜ」

犬娘「えっ!? 私もやるのですかっ!?」

男「何のために2つあると思ってんだよー」

犬娘「えーと、でも、しかしですね……全く触った事も無いのに突然やれとおっしゃられましても……」

男「大丈夫だって。このゲーム戦略性は深いけど、操作自体はめちゃくちゃ簡単だから。すぐ覚えちゃうよ」

犬娘「は、はぁ……では少しだけ……」




犬娘「『アニマルファイターⅡ』……ですか」

男「うん。様々な種類の動物を使って戦う格闘ゲームだ。結構古いソフトなんだけど『アニⅡ』の愛称で今でも親しまれてる人気ゲームなんだぞ」

男「他にもいっぱいゲームは持ってんだけど、一つのソフトで通信対戦が出来るってのは案外少なくて……お前はこれで良かったか?」

犬娘「はい。神様が決めたものならそれで」

男「そっか。じゃあ操作方法はやりながら教えてくから、とりあえず自分が動かすキャラクターを決めよう」




犬娘「うわぁ……い、いっぱいいるんですね。どれがいいんでしょう……?」

男「まあどのキャラにもメリット、デメリットはあるからなぁ。どれがいいとかは一概には言えないけど」

男「んー……お前自身が犬だし、キャラも犬でいいんじゃね?」

犬娘「あっ、犬がいるんですか?」

男「能力値もスタンダードで初心者にも扱いやすいし丁度いいんじゃないかな。それに、実はかくいう俺も犬使いだしな」

犬娘「そうなのですかっ。ありがとうございますっ!」

なぜお前がお礼を言うのか。




男「よっしゃ、じゃあやってくぞー」




犬娘「わわっ、始まった! え、えと、このボタンがジャンプで、このボタンが……」

男「ははっ、そんな焦んなくてもいきなりボコったりしないから安心しろよ」





犬娘「よし、何とか基本的な技は覚えました……けど……あ、当たらないっ」

男「はっはっは、そんな単純に突っ込んでくるだけの攻撃じゃ駄目だぜ」





犬娘「あー……流石、神様は強いですねー。よし、とにかく体力半分削れるくらいまでは頑張りますっ!」

男「ふふふ、犬娘め。すっかりゲームにハマりおったな……思惑通り!」





犬娘「また負けた……う、うぅ……次こそは! 次こそは一勝してみせますっ! 神様、決して手を抜いたりはしないでくださいね!」

男「お……おう。けどさ、もう結構長い事やってるし今日はそろそろ終わりでもいいんじゃ……」





犬娘「あ、あと一度! あともう一度だけやれば諦めがつきますので!」

男「は……はは……それ言うのもう五回目なんですけど……」









犬娘「くぅーん……な、何故…………何故…………っ!!」ミシミシミシミシッ

男「おおーい! 落ち着いて! PSPSPがミシミシいってるからー!!」





犬娘「本当に申し訳ありませんでしたっ!!」

男「いや、まぁいいよ。PSPSPも何ともなかったし」

犬娘「いえ、それだけではございません! 主の言葉も耳に入らず、意地になってずるずるとこんな時間まで神様を付き合わせてしまうなど!」

犬娘「従者としてあるまじき態度! どうか私を叱ってくださいませっ!」

男「それもいいって言ってんだろーが。気にしすぎだお前」

犬娘「し、しかし……」

男「……ばーか、ゲームやっててついついムキになって我を忘れるなんて、俺でも良くある事だ」

PSPSPを壊しかける事はないけど。



男「俺がお前から聞きたい事はそんな事じゃなくて……感想なんだよ」

犬娘「わぅ……感想ですか」

男「どーだ? ゲームの凄さ、ちょっとは分かったか?」

犬娘「は……はいっ、それはもう存分にっ! ……まさかゲームがこれほど恐ろしいものとは思いませんでした」

犬娘「そして……このような抗いがたい誘惑の力を秘めたものを、決して自我を失わず大量に所有している神様の壮大さも改めて感じました!」

男「そ……そうか?」

何か明らかにゲームの評価がおかしい気がするけど…………まぁ面白さは伝わったっぽいし……いいか。






男「あ、犬娘。そこのPSPSP取って。また箱に閉まっとくから」

犬娘「はい、どうぞ」ヒョイッ

男「ん、サンキュ」ガサガサ…

犬娘「……その袋、他には何が入っているのですか?」

男「他? 他は……健康食品の詰め合わせと……幼妹ちゃんが言う事聞いてくれる券と……あと」

犬娘「コレは何でしょう?」

男「あっ、それは香水だな」

犬娘「『ルシアンハート』……」

男「なんか聞いたら、外国にしか売ってなくて日本じゃかなり珍しい香水らしいぞ」

犬娘「綺麗な装飾ですね」

男「見た目が綺麗でも、匂いが良くなきゃな……よし、せっかくだしちょっと開けてみようか」



キュポッ



男「……おお……何か独特……けどなかなかいい匂いじゃ……
犬娘「きゅうぅぅぅぅん……」



男「ど、どうした犬娘!?」

犬娘「ふ、ふみまへん……しょうしょうにおいのしげきが……つよくてですね……」

あ……! そういやコイツ、嗅覚が強いんだったっけ?

男「すっすまん! すぐに閉めるから……」

犬娘「あっ、大丈夫です大丈夫ですっ! 突然の強い匂いだったから少し鼻にきただけで、慣れたら平気ですのでっ」

男「む……そ、そうか?」


犬娘「はい、どうかお気になさらず。それに……ふふっ、よくよく嗅げばとても心地良い匂いではないですかっ」

男「お……おお。だよなぁ! 俺もこの匂い気に入ったよ。今まで香水とか興味無かったけど、コレつけようかなぁ」



犬娘「外国の香水というだけあって、他に類の無い匂いですね……この香水を神様がつけるのでしたら……」

犬娘「私にとってはこの匂いは……いわば…………神様の匂い…………という事になりますねっ」



男「……な、何言ってんだお前」

犬娘「ふむ。そうなると、この匂いしっかりと鼻に染み込ませておかねばなりませんねっ」クンクン

男「おい……や、やめろ! 嗅ぐな! そういうの何か……こ、こそばゆいからっ!」




ガチャッ

男「ほ、ほらっ! 来い、もう寝るぞっ! 夜更かしは体に良くねーんだろ!?」

犬娘「そうでしたっ! ……しかし、おや? 何故部屋を出られるのですか?」

男「俺の部屋にはベッドが一つしかねぇだろうが。それともまさか、また椅子で寝るとか言い出すつもりじゃあ…………無いよなぁ?」ギロッ

犬娘「わ、わぅー……で、では私は……」

男「この家は元々4人で住んでたんだ。使ってない部屋ならいくらでもあんだよ」



スタスタスタ





男「ここだ」ピタッ

犬娘「この部屋は?」

男「……俺の妹が使ってた部屋だ。今日からはここで寝てくれ」

犬娘「神様の……妹君」



キィ…

男「使ってない部屋もたまーにだけど掃除はしてたから、そんなめちゃめちゃ汚いって事はないと思う」

男「まぁそれでも気になるんだったら、悪いけど時間がある時にでも自分できれいにしてくれや」

犬娘「は、はいー……」

男「何か分からない事とかあるか?」

犬娘「…………あ、あのっ、もし気を悪くするような質問だったら申し訳ないのですがっ……!」

男「……何だ?」




犬娘「神様の……その、ご家族の方は……?」


男「……あー、まぁそりゃそうか……言ってないと気になるわなぁ……」




犬娘「か、神様がおっしゃり辛いのなら別に……」
男「外国に住んでるよ。3人とも」



犬娘「えっ?」


男「まぁ色々と都合があってな。俺は面倒臭いから行かなかったけど」

犬娘「そうだったのですか……」


男「…………ま! 俺にはここに新しい家族がいるし? 気にする事じゃないんじゃねー?」ポンポン

犬娘「わ……わふっ!? そ、そ、そうですねっ」





男「それじゃ、電気消したら俺は戻るぞ?」

犬娘「ほ、本当に離れて眠るのですか?」

男「なんだ? まさかお前一人で寝るのが怖い、とか可愛らしい事言い出すんじゃ……」



犬娘「いえ、やはり何者かが神様を襲ってきた時の為にも出来るだけ……」

男「そ・ん・な・こ・と・は! ねぇっ! 分かったか!!」

犬娘「はう……そ、そうでしょうかぁ……」



男「ったく、くだらねぇ事言うだけならもう行くからなー……」

男「……っと、俺も言いたい事あるの忘れてたわ」

犬娘「あ、何でしょう?」



男「明日休みだからさ、食材の買いだし行くついでにお前の服とかも買いに行くぞ」

犬娘「わ……私の服……ですか?」

男「……おう」



犬娘「えーと、あの、その………………あ、ありがとうございますっ! お願いしますっ」

男「…………へっ」



男「んじゃ、おやすみー……犬娘」

犬娘「お休みなさい……神様」






…………やーっと遠慮せずに素直にお礼言えるようになったな。




再び男の部屋―


ゴロンッ

男「はふーっ、それにしても…………家族……か」

男「けっ、我ながらとんでもねぇ変わり種を家族に迎えちまったぜー……」








――――なんて。




口では言いつつも。

すでに明日の買い物の構想まで組み立てていた俺は、今思えばはっきり言ってまんざらでもなかったようだ。



少なくともこの時の俺は、最初に犬娘からうけた『十二支』の説明をほぼ頭の記憶から消失させてしまうほどには呑気だった。



そう。

『十二支』は犬娘一人ではない。

そして、『十二支』がこの現代に現れたのにはちゃんと理由があるのだ。



そんな当たり前の事を。

俺はこの次の日。犬娘と買い物に行った先で。

やっと実感させられる事になる。


こんだけ更新


ひどい空白期間があったせいで皆さん展開についていけなくなってないか心配です
読み直すのもだるいですよねー
……すいません

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom