男「俺の会社に東大出身の新入社員がやってきた」 (34)

あるゲームメーカーにて……



同僚「おい聞いたか?」

同僚「今度ウチの会社に入ってくる新入社員、東大出身らしいぞ」

男「え、マジで!?」

同僚「マジマジ。人事の連中が“まさか東大生がウチに来てくれるなんて”って騒いでたもん」

同僚「しかも、ウチの部署に配属されるってさ。東大生が後輩になるなんて緊張しちゃうよな」

男「おいおい、今からビビってどうすんだよ」

男「高学歴なんてのは、実際社会に出たら何の役にも立たないもんなのさ」

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新入社員「本日より入社いたします。よろしくお願いします」パァァァァァ…



男「うわあああああ!!!」

同僚「ぐわあああああ!!!」

新入社員「私の出身大学は……東大です」パァァァァァ…

新入社員「日本を代表する一流ゲームメーカーに入社できて、嬉しく思っています」パァァァァァ…



男「なんなんだ、この圧倒的オーラは……!」

同僚「後光が差してやがる……! これが東大かよ……!」

男「いやー、東大生や東大出身者を生で見るって生まれて初めてかも」

同僚「まさか、こんな身近な存在になるとは思わなかったよ」

新入社員「灯台下暗し、というやつですかね。東大だけに」パァァァァァ…

男「うおわああああああ!!!」

同僚「学力が超一流なら、ギャグも超一流ってか……!」

男「東大生といっても、まずは雑用から始めてもらうよ」

新入社員「はい」パァァァァァ…

男「じゃあ、これコピーを10部とってきて」

新入社員「かしこまりました」パァァァァァ…



新入社員「できました」パァァァァァ…

男「うおお……コピーされた書類まで光ってる……!」

男「へえ~、昼食は弁当か」

同僚「どんなのを食べるんだ?」

新入社員「赤ウインナーが好きですね」パァァァァァ…

男「赤門だけに、赤ウインナーってか!」

同僚「やっぱり東大生ってすげえええええええ!」

男「じゃあもう上がっていいよ」

同僚「お疲れ様!」

新入社員「失礼いたします」パァァァァァ…

男「背中でも魅せてくれるぜ!」

同僚「ああ、早くも重役の貫禄を漂わせてやがる!」

……

男「いやー、君が入ってから仕事がはかどるはかどる!」

男「東大出身者ってだけで、大抵の取引先がビビっちまうんだもん」

同僚「今日はおごりだ! 大いに飲んでくれ!」

新入社員「ありがとうございます」パァァァァァ…

男「酒を飲んでるところも絵になるなぁ」

同僚「東大生ってすごいんだな……」

男「ところで、東大ではどんな感じで過ごしてたの?」

新入社員「色々やってました」パァァァァァ…

同僚「色々って?」

新入社員「色々ですよ、アハハハ」パァァァァァ…


男「うーむ、口が堅いな」ヒソヒソ

同僚「ああ、これを開かせるのは難しいかもな」ヒソヒソ

男「だったら東大に直接問い合わせてみようぜ!」

同僚「おう!」

男「もしもし、東大ですか?」

東大事務員『はい』

男「~っていう卒業生について色々教えて欲しいんですが」

東大事務員『そんな人がウチの大学に在籍してたことはありませんよ』

男「なんだってえ!?」

同僚「あいつは東大に在籍してなかった? どういうことだよ!」

男「……分からん!」

男「人事部に頼んで、もう一度履歴書を調べてみる必要があるのかもな……」

男「これがあいつの履歴書だ……」ペラッ

男「あーっ!」

同僚「どうした?」


東大大学 卒業見込


男「あいつの出身大学……東京大学(とうきょうだいがく)じゃなく東大大学(とうだいだいがく)なんだ!」

同僚「なにいいいいい!?」

男「東大大学って俺知らないんだけど、どんな大学だ?」

同僚「知る人ぞ知るバカ大学だ」

同僚「試験を受けさえすれば合格、どころか、試験を受けてないのに合格になることもあるらしい」

男「とんでもない大学だな……」

同僚「きっと大学名自体が、東大と間違われるのを狙ったものに違いない」

男「ウチの人事の連中もまんまとしてやられたってわけか」

同僚「そして俺たちもな」

男「あいつから感じたオーラやら後光やらは、全部思い込みによるものだったんだ……」

……

男「話がある」

新入社員「はい、なんでしょう?」

男「俺たちは君が本当はどこの大学の卒業生なのか、知ってしまったぞ」

新入社員「!!!」ギクッ

同僚「東大は東大でも、東京大学じゃなく東大大学だったんだな」

新入社員「あああ……申し訳ありませんっ!」

新入社員「名前が似てるのをいいことに、ぼくは東大生を騙っていたんです……」

新入社員「本当にすみませんでしたっ!」

新入社員「こうなった以上、やっぱりぼくはクビ……ですよね?」

男「いや……そんなことはないさ」

同僚「全てを許そう」

新入社員「ええっ、どうしてですか!?」

男「なぜなら――」

男「――ウチの社名も“任夫堂”だからね」

新入社員「え!? ここって“任天堂”じゃないんですか!?」

男「ちがうよ。ウチはしがない弱小ゲームメーカーさ」

男「といっても、ウチのソフトを任天堂のソフトだと勘違いして買ってく人って結構多くて」

男「それなりの業績はあるし」

同僚「ウチの名刺って合コンではかなりの威力を発揮するんだよね」

男「つまり、君みたいな人が入社するのにピッタリな会社ってわけさ!」







おわり

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