ほむら「思い出せない…私は何者だ?」2(1000)


ほむら「思い出せない…私は何者だ?」
ほむら「思い出せない…私は何者だ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1330265526/)

↑の次スレ。

( *・∀・)φ ミー(・∀・*)))


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1333269106(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)


QB「ワルプルギスの夜が具体的にどのくらい強いのかは、僕にもよくわからない」

QB「ただ、普通の魔法少女一人で敵う相手ではないことは確かだ」


杏子「………」

QB「当然、杏子一人で勝てる相手ではないね」

杏子「………アタシが、ほむらやマミと協力すれば…!」

QB「いいや、それでも結果は未知数だよ」

杏子「なに?」


QB「ベテランの魔法少女3人が集まったところで、勝てるかはわからない……むしろ、ワルプルギスはそれ以上だと予想するのが妥当だよ」

杏子「なんだって…!」


QB「なにせ遥か昔から現代までに続く魔女だからね、多くの魔法少女が立ち向かっていっただろうさ」

QB「3人や4人くらいの魔法少女でなら、当然ね」


杏子「…じゃあ、どうしろっていうのさ」

QB「ワルプルギスの夜を防ぐ方法はいくつかあるよ」


QB「まず街の壊滅は免れないが、人々を遠くへ避難させることだ」

杏子「……」

QB「ただ、それには少々時間が足りないかな」

杏子(いや…マミやほむらだけならいける…)

QB「僕個人として最も有効なのは、ワルプルギスの夜を倒すことだね」


杏子「……はあ?」

QB「実は不可能ではないんだ」

[せいろ]*・∀・)

QB「見滝原で鹿目まどか、という子に会ったね」

杏子「ああ、ぼんやりした……素質があるっていう奴の一人だろ?」

QB「まどかが魔法少女になれば、ワルプルギスの夜は倒せると思うよ」

杏子「…魔法少女が一人や二人、って相手なんでしょ?」

QB「まどかについては例外だよ、彼女はとんでもない素質をもっている」


杏子「アタシやマミ以上だっての?」

QB「比較にならないね……魔法少女になったまどかは、あらゆる魔女を一撃の下に粉砕できるはずだよ」

杏子「なっ……」

QB「まどかは君より2歳下だけど、彼女が含有する魔力は途方もない量だ」


QB「ワルプルギスの夜だって、彼女なら簡単に倒してしまうだろうね」


杏子「……へえ、つまりあの子が契約すれば、ワルプルギスは倒せて、街を守れる……良い事尽くめ、ってわけ?」

QB「ワルプルギスを倒すにせよ、街を守るにせよ、まどかの力は必要になるだろうね」

杏子「……ふうん、そうかい」


杏子「でもアンタはどうして、そのまどかって子に契約をもちかけない?」

QB「持ちかけているよ?ただ気が進まないらしくてね」

杏子「ワルプルギスの事を踏まえてか」

QB「いいや、まどかにはまだ話していないよ、新しい情報だからね」

杏子「……」


杏子「なあ、その契約の持ちかけ…うまくできなくて、困ってる?」

QB「そうだね、困っているといえば困ってるよ、このままでは見滝原市も危ないしね」

杏子「…アタシが協力してやろうか」

QB「杏子が?かい?」

杏子「ああ、ワルプルギスがこっちのテリトリーにまで影響するっていうんなら、もう見滝原だけの問題じゃないからな」

QB「それはそうだけど、近頃の君は随分と献身的に僕を手伝ってくれるね」

杏子「偶然だよ、グーゼン」


ほむら「ふっ……!」


ハードルを飛び越える。

魔法少女の身体能力は体育の時間で最も花開く。


何も考えずに力半分でやっていればいいのだ。

加減がなければ、むしろやりすぎてしまうからね。




教師「ま、またすごい記録を……」

ほむら「フリーです」

教師「聞いてないけど……何らかの機会で目に触れれば、スカウト、来るかもしれないわね…」

ほむら「なに」


それは困る。

さすがに魔法少女の力で、この国の有能なアスリートの卵たちを挫折させたくはない。


仁美「はぁ、はぁ……ほむらさん、すごいですわ…全く、追いつける気がしない…」

ほむら「ふふ、仁美もなかなか早かったじゃないか」

仁美「ああ……振り返りながら走っていましたものね…それでよく、ハードルに引っかからないものですわ…」

ほむら「歩数で数えていればハードルなんて目を瞑っていても越えられるさ」

仁美「あーあ…ほむらさんには、何ひとつ叶わないわぁー……」


委員長にちょっとした挫折を味あわせてしまったのかもしれない。

でも、この程度は勘弁してほしい。



ほむら「……」


昼休み。

やれやれしかし、学校生活というものは疲れる。


よくある人間関係や勉強面での問題がなくても、魔法少女というだけで大きな気を使ってしまう。

力を出し過ぎればすぐに教師一同の期待がかかり、神童呼ばわりされてしまいそうになる。


次からは脱力して臨むようにしよう。



『暁美さん、いる?』

ほむら『ああ、いるよ』


マミからのテレパシーが入った。


『今日もどうかしら、昨日頑張って作ったのよ』

ほむら『ほほう、しかし毎日悪いね』

『ううん、いいのよ…あ、そうだ暁美さん』

ほむら『ん?』

『美樹さんや鹿目さんも屋上に呼ばない?』

ほむら『ああ、そうだね、それがいい』


皆で食べる昼食は楽しそうだ。

是非ともそうしよう。

(布団)*・∀)-з

Σ * ∀ )ボーン!


さやか「おー、やっぱ屋上はいいねえ」

まどか「風が気持ちいいねー」


月並みなコメントをありがとう。


マミ「うふふ、暁美さんとはよくここで食べてるのよ」

さやか「あ、それで昼休みいつもいないの?」

ほむら「言っていなかったっけ」

まどか「てぃひひ、私、ほむらちゃんはいつもどこで食べてるんだろうって、ずっと不思議に思ってたよ」


今さらだけど変な笑い方だなこの子。

……私もかな?


カチッ


まぁ、とりあえずせまいベンチの上で食べるのもなんだ。


カチッ


マミ(! シートが、突然……)

ほむら「さあ、シートをひいたよ、ここで座って食べようか」

さやか「うお!?また魔法か!」

まどか「今のってマジック?魔法?」

ほむら「さあ、どっちだろうね」


シートの上に並ぶ4つの弁当。

マミの丁寧につくられたものが2つ。

まどかの弁当は、どこか可愛いらしい盛りつけ。

さやかの弁当は…なんというか、米の量が結構多い。良く食べる子なのだろう。

活発そうだし、これくらいの量が合うのかもしれない。


まどか「あれ?ほむらちゃんはマミさんと同じお弁当なんだね」

マミ「ああ……これね、前までは暁美さん、自分でご飯を持ってきてたんだけど……」

ほむら「マミが作ってくれると言ってね、それじゃあ厚意に甘えようかなと」

マミ「んー、ちょっと違うわよ、暁美さんのお昼ごはんを見てると心配になってくるから……」

さやか「心配?」

ほむら「何がさ」

マミ「だって、暁美さんたらいつも……スニッカーズ?とか、ゼリーのほら、アレ……とかね、そういうのばっかりで」

まどか「え、ええ!?それだけ…?」

さやか「うわー、ひどいですね」

マミ「でしょ?私もう見てられなくて……」


な、なんだこの言われようは。

私がいつ、誰に何をした。



ほむら「……ふー、ごちそうさま」

まどか「ごちそうさまー」

さやか「んー、おいしかった」

マミ「お粗末さまでした」


完食。

四人揃っての昼食は、賑やかに終わった。


まだ昼休みの時間はあるが、屋上にいつまでも居続けると変な汗をかいてしまう。

屋外とはそういうものだ。私達は退散することにした。


まどか「……あ、さやかちゃん」

さやか「ん?なーに、まどか」

まどか「昨日の…」

さやか「あー、うーん」

ほむら「?」


さやかがこちらを見た。マミも見た。

なるほど読めた。まだまどかに伝えていないのだな。

魔法少女になる決心を決めた、と。


さやか「んーやっぱ、放課後で!」

まどか「えー、気になるよう」

さやか「いいからいいから!」


二人は長い間柄の親友だ。

二人の間での事は、二人に任せよう。

私もマミも二人には触れず、静かに良い雰囲気のまま、屋上を後にした。


それにしてもレンコンの肉詰めは美味しかった。



さやかは、まどかに告げるだろう。魔法少女になる旨を。

そして私とマミ、そこに魔法少女となったさやかが加わる。


見滝原市を守る魔法少女が三人になるというわけだ。



ほむら「……」


国語教科書の右上に載せられた、拳を握りしめる少年の白黒写真を眺め、その向こうに杏子の姿を思い浮かべる。

杏子の縄張りは隣町だ。見滝原ではないようだが……。


しかし、魔法少女三人のグリーフシードを安定供給するためには、時として魔女を求めに遠征する必要性も出てくるだろう。

その時、もしかしたら、隣町にも…私達の手は及ぶのかもしれない。


杏子と出会った時に起こる摩擦……考えたくはない。


彼女とは考え方が違っている。

私はそれを受け入れるくらいの度量を持ち合わせているつもりではあるが、マミやさやかが杏子のやり方を受け入れるとは思えない。軽く乱闘騒ぎくらいは起こるだろう。

私が一時的にそれをおさめたとしても、継続的にはどうなるか……。


あ、そういえば杏子はソウルジェムの真実を全て知っているのだろうか。

そういった知識も自分の信念には大きく関わって来るから……ああもう、面倒くさいなあ。


マジックだけをやっていたい。



教師「ではここを暁美――」

ほむら「道化」

教師「うむ、正解」


子供の写真に落書きするの楽しい。

(布団)* ∀ )フシュゥ・・・

幾多のみくマミSSを見たがいまだにこのネタを使ったみくマミSSはない
パターン1
マミ「あなた誰なの?」
(*・∀・*)「私は歌って踊れる肉まんアイドル!けど三時間前に私の姉妹が食べられちゃって…」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた肉まんを修復すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
マミ「今日も肉まんが美味しいわ」
ほむら「思い出せない…私は何者だ?」 - SSまとめ速報
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パターン2
(*;∀;*)「うううっ……マミ、どうして、死んじゃったの……マミを蘇らせてホシイ!」
まどか「私の願い事はマミさんの蘇生。叶えてよインキュベーター!」
QB「そいつ誰だよ」
こんな感じの旧肉まん蘇生みくマミ魔法少女全員生存ワルプルギスせいろ蒸し誰か書いてくれたらそれはとってもみくぅー


考え事で授業は終わる。

グッバイ、ミスグリーン。


大人しくしていればホームルームは早めに締まるので、その時だけは皆口数が少ない。


一連の流れが終わると、小グループを作り始めたクラスメイト達をよそに、私は鞄を取って、素早く教室から出る。



「暁美さん、帰り一緒に……」

ほむら「うーん、どうしようかなあ」


悩むような仕草をしてみせる。


ほむら「今日はダメ、じゃあね、ばいばい」

「むう、残念、じゃあねー」


女子たちをしり目に教室を出る。

さやかが何かアイコンタクトを送っていたようにも見えなくもないが、適当に無視することにする。


今日は少々、やるべきことがあるから。



ほむら『マミ、今日は魔女狩りの予定は?』

『あら、…うーん、そうね、私は少しだけパトロールしようかと思っているけど』

ほむら『じゃあ私はちょっと、今日は別行動させてもらうよ』

『そう?わかったわ』

ほむら『じゃあね、マミ』

『うん、じゃあね、暁美さん』


さてと、町へ繰り出そう。


向かう先は病院。

例の上条恭介を訪ねにゆく。


さやかはきっと、まどかに打ち明けた後に、キュゥべえと魔法少女の契約を結ぶだろう。

そうすればたちまちのうちに上条の左手は完治するはずだ。

それを一足早く確認するのがひとつ。


もうひとつは……上条恭介という人間について、また調べてみようと思う。

前回はさんざんに嫌われたが、平時は違うのだという。

そんな彼を見に行く。


さやかの願いの賜物を。


ガラララララ


恭介「っ!」

ほむら「失礼します」

恭介「君は……開けてから言うなよ」


いきなり間違えてしまったようだ。

出だしから彼のひんしゅくを買ってしまった。


ほむら「……」


ガラララララ。病室を出て戸を閉める。


コン、コン。ノックは二回。



ほむら「失礼します」

「…まあ、いいけどね…どうぞ」


よし、辛くも許してもらえたようだ。

中に入ろう。



窓の外の景色が広い。

本当に良い病室だとは思うが、ホテルではないんだからもうちょっと慎ましい間取りでも良かったのではないだろうか。


まあ、ここもいわゆる見滝原高度成長期の恩恵を受けたということか。



恭介「……で、君はまた僕に何の用?」


前よりも受け答えがぶっきらぼうになっている気がしなくもない。


ほむら「なに、これからクラスメイトとして仲良くやっていくんだ、ケンカ別れは良くないだろう」

恭介「誰のせいだと……というより、クラスメイトと君は言ったけど、僕が復学するのはまだまだ先だよ」


窓の外を見やる。うつろな目。


恭介「片腕は動かない…足はまだまだ…杖もつけなきゃ、外になんて出れない」


全てを諦めたような目をしている。


恭介「……」

ほむら「なあ、上条」

恭介「馴れ馴れしいな」

ほむら「名前呼びでないだけありがたく思って欲しいな」

恭介「……なんだよ」


ほむら「君は、もしも願いがひとつだけ叶うとしたら、何を叶える?」

恭介「……ふん、バカバカしいけど、決まってるさ……当然、」

ほむら「それは、君の魂を差し出すに足るものかい」

恭介「……なんだって?」

ほむら「そのままの意味だよ」


手にした指輪を外し、上条恭介の眼前へ持っていく。


ほむら「何でも願い事がひとつだけ叶う…ただし、その代わりに一生、地獄のバケモノ共と戦い続けなくてはならない」

恭介「馬鹿らしい」

ほむら「やっていく勇気は無いということかな」

恭介「……」


彼の目がこちらに向いた。

小さな挑発に乗せられたようだ。


ほむら「バケモノは強い…いつだってすぐそこにいる…そんな奴と、君は戦い続けられるかい」

ほむら「終わることのない戦いに身を投じ、いつでも殺される危険を枕の脇に置けるかい」


指輪の空洞の向こうに見える恭介の片目は冷めたような澄ましたものだったが、ふと細まり、口元に笑みを浮かべた。



恭介「……決まってるじゃないか、戦うさ」

ほむら「ほう」


自信満々といった表情だ。


恭介「もっとたくさん弾きたい曲がある……聴かせたい人がいる」

恭介「その人のためだけに、僕は自分の腕を治すことを選べるよ」

恭介「それと引き換えに、すぐ死ぬことになったとしてもね」


恭介「…バイオリンの弾けない僕は、僕じゃないから」

ほむら「……そうか、それが君の願いか」


願いは願い。夢は夢。君の願いはかなわないだろう。

それを叶えるのは君じゃない。さやかだ。


ほむら「さて、今日の暇潰しの為の道具を君にあげよう」

恭介「?」


ポケットからハートの4を取り出し、上条恭介のベッドの上に置く。

彼は、“もう慣れっこだ”と何も言わない。


ほむら「この前の無礼のお詫びだよ、はい、これ」

恭介「!」


トランプを裏返すとともに、カードはCDウォークマンに変わった。

以前に彼が壊したものだ。


恭介「こ、これは、一体どうやって?」

ほむら「Dr.ホームズのマジックショーは不定期だけど、放課後のショウロードでやっているよ」

恭介「マジック……はは、すごい、こんな間近で見たのは初めてだ」

ほむら「また見たければ、ショウロードに足を運んでくれ」

恭介「……」

ほむら「なに、マジックがあるくらいだ、奇跡や魔法だってあるとも」

恭介「……ふ、君は、変わっているね」


私というものにも慣れたか、薄く微笑んだ。優しい表情だった。


彼も少しは機嫌を直してくれたようだ。

仲直りはできたかな。



ほむら「それじゃ、私はこの辺で失礼させてもらうよ」

恭介「……わざわざありがとう、それと、この前は僕の方こそごめん」

ほむら「大丈夫、気にしてないから」


扉を開く。

これ以上いると、いつの間にか彼の腕が治ってしまうかもしれない。

そんな場面に居合わせたくはない。だから。


ほむら「ちちんぷいぷい」


それだけ言い残して、私は上条恭介の病室をあとにした。

http://myup.jp/fQP7CurG

(スカーフ)*・∀・)<ねる

まどか「…そっか、魔法少女に…なるんだね」

さやか「……うん」


まどか「さやかちゃん…大丈夫なの?」

さやか「まだわかんない、けど決めたんだ」

まどか「……」

さやか「そーんな顔しないでって!すぐ死ぬわけじゃないんだから!」


まどか「…でも、今さやかちゃん言ってたでしょ……ソウルジェムが真っ黒になると」

さやか「うん、魔女になる」

まどか「…そんなのやだよ…!」

さやか「だから、まだわかんないって」


さやか「…丁度、ほむらが来てからだよね…色々な事があったよ」

まどか「……」


さやか「世界には、まだまだ私達の知らないことが沢山あるんだって…私ってバカだけど、この数日は私なりによく考えたよ」


さやか「世の中には不条理に死ぬ人がいる、頭ではわかっていたけど…目の前で満たし、当事者にもなりかけた」

さやか「怖いよね、魔女って……ううん、魔女だけじゃない、世の中って本当に突然に、思いもよらない悲劇が起こるんだ」


さやか「……短い命だとしても、私は魔法少女になりたい」

まどか「……」

さやか「あはは、だーから、そんな暗い顔しないでってば」

まどか「さやかちゃん…私、私は怖いよ…」

さやか「……ふふ、まどかはまどかだよ、それが普通なんじゃない?」


さやか「私だってそりゃあ、怖いよ……魔女を間近に見た時は竦んじゃって動けなかったし…殺されそうにもなったしさ」

さやか「でも私ってバカだからね」


さやか「考えて頭の中でモヤモヤさせてるだけでもいいことなのに、つい手は出ちゃうんだよ」

まどか「…私、臆病だよね…ずるいよね、さやかちゃんは覚悟を決めたのに…私…」

さやか「あはは、だから、そーいうんじゃないんだってば」


まどか「……じゃあ、さやかちゃん、契約するんだね」

さやか「うん、今日にでもね」

まどか「ま、魔女が現れた時でいいんじゃないかな……」

さやか「……いいや、今日するよ、そういう覚悟だからさ」

まどか「……さやかちゃん」

さやか「ん?」


まどか「…私なんかに話してくれて、ありがとう」

さやか「……へっへー、当然でしょ!まどかは私の親友だもん」

まどか「てぃひひ…」


さやか「さて、なんか考えたらまたお腹すいてきた!バーガー買ってくる!まどかは?」

まどか「わ、私はいいかな…お腹いっぱいだし」

さやか「そか、じゃあ行ってくるねー」

まどか「うん」

(*-∀-)ムゥムゥ・・・


杏子「…ったく、いつ来てみても騒がしいところだな」

QB「この時間ならそうでもない方じゃないかな」

杏子「アタシにとっては、ここでも随分だよ」


杏子「まあいいや、まどかはここにいるんだろ?」

QB「そうだね、彼女の強い魔力の跡があるから、まず間違いないよ」

杏子「よし、じゃあ行くか」




マミ「…?…あれ…佐倉さん?」

マミ(間違いない、佐倉さんだわ)

マミ(見滝原に戻っていたのね!やった…!)

マミ(…けど、何故かしら…頑なに関わりを拒んでいた彼女が…)


マミ(……ここはモールね…あとをつけてみましょうか)

マミ(また一緒に戦ってくれるかしら…ふふっ)

( *・∀・)○ ガツガツ…

ユーザーID:1799489


さやか「えー、グリーンソースフィレオないんですか?」

店員「申し訳ございません、可能ではあるのですが、かなりお時間の方取らせてしまう形と……」



まどか(さやかちゃん遅いなぁー…)

杏子「お、見つけた」

まどか「え?」


QB「やあ、まどか」

まどか「この前の…杏子ちゃん、だっけ…?それにキュゥべえも」

杏子「ここ座るよ」

まどか「あ、その……」

杏子「大事な話があって来たんだ、突然で悪いけど聞いてほしい」

まどか「…私、に?」

杏子「ああ」


杏子「アンタ、ワルプルギスの夜、って知ってる?」

まどか「わ…ぷ?…ごめんなさい、ちょっと知らないかな…」

杏子「まあ仕方ないよね、まだ魔法少女じゃないんだし」


杏子「平たく言えば最強の魔女だ」

まどか「最強の……」

杏子「現れただけでひとつの都市が消滅するって話だよ」

まどか「!」

杏子「こいつの話じゃあ、そんな魔女があと二週間かそこらのうちに見滝原に現れるって話だ」

まどか「そ、そんな!」


杏子「そいつとは複数の魔法少女で戦っても勝つ見込みは無い、って話だ」

QB「僕の見解はそうだね」

まどか「ま、マミさんや…ほむらちゃんが戦っても?」

QB「暁美ほむらの戦力は把握しきれていないけど、無理だと思うよ」

杏子「未だかつてワルプルギスの夜を倒した魔法少女はいない」


杏子「……けど、倒す見込みのある魔法少女候補がいるっつー話を聞いてね」

まどか「!」

(*・∀・*)飛べねえ肉まんはただの肉まんダ


QB「まどか、君が魔法少女になってくれれば、襲来するワルプルギスの夜を倒すことができる」

まどか「私が……」

杏子「ワルプルギスが来たら街はただじゃ済まないからな、奴を倒すか……街の全員を避難させるしかない」

QB「一体何人の人が信じるかはわからないけどね」

まどか「そ、そんな……いきなり言われたって、私よくわからないよ」

杏子「まぁ確かに何の話だか、いきなりだし混乱はするだろうけど……」


さやか「誰?この子」

杏子「あ?」

まどか「さやかちゃん」

杏子「ああ、友達がいたか、悪いね」

さやか「まどかの知り合い?」

まどか「うん、そんなところかな……」

QB「彼女は美樹さやか、まどかの友人で、魔法少女の素質はあるよ」

さやか「!」

杏子「へえ、じゃあ一緒に話せるじゃん」

QB「彼女は佐倉杏子、隣町の魔法少女だよ」

さやか「へー…よろしく」

杏子「おう…ん?良いもの持ってるな、アップルパイかあ」

さやか「半分あげよっか?」

杏子「サンキュー」


杏子「んぐ……んぐ……んー!懐かし!この味やっぱ良いなあ」

さやか「…杏子も魔法少女なんだ」

杏子「ああ……まあ、ね」


QB「杏子はマ…きゅぷ」

杏子「うっせえ、余計な事喋るな」

QB「やれやれ」


さやか「…話、ちょっと聞いてたけど、ワル?ホトトギス?なにそれ」

QB「ワルプルギス。ワルプルギスの夜と呼ばれる、最強の魔女がやってくるという話だ」

さやか「最強の魔女……」

杏子「現れたが最後、半端な魔法少女じゃ返り討ちで街ごとオジャンっていう規模らしい」

QB「かなり低頻度で出現する魔女でね、謎の大災害の原因はワルプルギスの夜が原因である場合が多い」

さやか「……そいつがいつ現れるの?」

QB「およそ二週間後だね、前後はするかもしれないけど」

さやか「…そんな魔女、放っておけないよ、どこに現れるの?」

まどか「……」

杏子「見滝原」

さやか「……ええっ!?なにそれ!」

杏子「まあそうなるのも無理はねえ」


杏子「ワルプルギスの夜を倒すには、ただの魔法少女じゃない……遥かに強い力を持ったやつがいる」

まどか「……」

さやか「…待ってよ」

杏子「ん?」


さやか「アンタ、まどかが強い因果を持ってると知ってて言ってるの?」

杏子「はあ?因果って何さ?」

さやか「魔法少女としての素質のこと」

杏子「ああ……もちろん、強い魔力を持ってるんだろ?」

さやか「っ…!まどかを魔法少女にさせるために、ここに来たってわけ?」

QB「見滝原が壊滅するのを黙って見過ごすのは不本意だろう?僕は選択肢を提案するだけのつもりなんだけど」

まどか「……」

杏子「まあ突然の話だし、先はあるからすぐ決めろってことじゃあない」


さやか「…ッ…杏子、だっけ…魔法少女になるっていうことが、どういうことかわかって言ってるの?」

杏子「……わかってるさ」

さやか「まどかが魔法少女になるっていうことがどういうことか…!」



マミ「話は聞かせてもらったわ」

さやか「!」

まどか「! マミさん!」

杏子「……ぁ」

マミ「…久しぶりね、佐倉さん?」

杏子「……」

( *・∀・)σ)=∀・*)ココマデ

マミ「話は聞かせて貰ったわ、世界は滅亡する!!」


まどさやあん「な、なんだってー!?」


が浮かんでしまった…


杏子「ぁ……マミ…」

マミ「……」

杏子「その…」


さやか「…知り合い、以上って感じだね」

まどか「うん…」


マミ(佐倉さん……今の話は、つまり…)

杏子(マミ…くう、まだ心の準備が…)


マミ「えっと、佐倉さん」

杏子「な、何さ」

マミ「鹿目さんを魔法少女にさせたいの?」

杏子「あぁ…ああ、ワルプルギスを倒すにはそれしかないからな」

マミ「…あまり賛同できる事ではないんだけど……変わってくれたのね」

杏子「は…」

マミ「人のために…」

杏子「…!私はッ、…そんなんじゃねえ」


杏子「変わるもんか、自分のためだよ…自分のために魔法を使う…」

杏子「ワルプルギスの夜を倒さないと…見滝原だけじゃない、私の笠箕だって…」

杏子(…何いってんだ、アタシ……)


マミ「理由なんて良いわ、あなたが街を、人を守るためにって…その気持ちを無くしていなかったと知れて、私は凄くうれしい」

杏子「……やめろよ、そんなんじゃねえ」


杏子「アタシの考えは変わらない、アタシは使い魔を見つけても見逃す」

マミ「……」

さやか「え?」

まどか「!」


杏子「使い魔が人を食べれば、そいつは元々の魔女になる…そうすりゃ、グリーフシードが手に入るかもしれない」

さやか「あんた、グリーフシードの為に使い魔を見逃すっての?」

杏子「やり方はアタシの勝手だ」

マミ「…そう」

杏子「…けど!ワルプルギスの夜だけは別だ!使い魔がどうこうとか、そんな些細な問題じゃない」


杏子「マミや…ほむらのやり方とは反するかもしれねーが、街が壊滅するってなったら、共闘でもなんでもするしかないだろ?」

さやか「勝手な奴!」

杏子「勝手で結構、アタシはそういう信念で動いてる」


マミ「…でもね、佐倉さん」

杏子「あ?」

マミ「……ワルプルギスの夜が来たとしても…鹿目さんを魔法少女にするわけには、いかないわ」


杏子「は?」

さやか「……まどか以外の魔法少女で、やるしかない」

まどか「……」

杏子「なんでさ」

マミ「それは……」


マミ「うーん…」

杏子「このまどかってのは、魔法少女の素質があるんだろ?な?」

QB「その通り、まどかなら、一撃でワルプルギスの夜を倒すことも可能だろうね」

杏子「それで、アタシ達が束になったって、ワルプルギスの夜は倒せない、そうだろ?」

QB「成し遂げた事は、この長い歴史の中でも未だかつて無いね」

杏子「ならまどかが魔法少女になるしかッ……!」


「魔法少女だって」

「コスプレでもするんじゃない?」


杏子「……なるしか、ないだろ」

マミ「…混んできたわ、場所を変えましょう」

杏子「…チッ」

(下痢;・∀・)ココマデヨー


茜空に、ちぎれた雲が流れてゆく。

見滝原の夕焼けは美しい。


ほむら「ふぁぐ」


そしてサーティワンのトリプルアイスは美味しい。

思わず2つも買ってしまった程だ。


ほむら「……ふーむ」


海を見渡せる場所まで来た。

橋の上。


海もオレンジとかそんな感じの、とりあえずノスタルジックな色調で煌めいている。

けれど私にノスタルジックという感覚はないので、ただただ綺麗な海というだけだった。


しかし何故だろう。

海を見ると、無性に心がざわめく。


なんというか、動機が激しくなるのだ。


ほむら「……海が私を呼んでいるのだろうか」


船を接岸するためのロープをくくるアレが無かったので、私の片足は何に乗ることもなく、ただ橋を過ぎた。


詢子「……」

ほむら「……」



橋の入り口でたそがれているOLが居たので、私もなんとなくその隣でたそがれてみた。

オトナとコドモの、夕時のガールミーツガールだ。イケナイ感じがなんとなく良い。



詢子「…美味しそうなもん食べてるね」

ほむら「でしょう」


彼女は私に話しかけてきた。

アイスを食べたいわけではないようだ。


ほむら「食うかい」


食べかけの方を差し出す。

ベリー・ベリー・ベリー・ベリー・ベリー・ベリー・ストロベリーだ。


詢子「良いのかい?こんなにたくさん」

ほむら「思いの外、頭が痛くてね、溶けてももったいないし」

詢子「はは、二つ目かあ…食い意地あるねえ」


細そうなのに、と言って、彼女はアイスにむしゃぶりついた。

食べている途中で「悪い意味じゃないよ」と気遣ってくれた。


…どうやら、彼女は死ぬ気ではないらしい。良かった。

どうも黄昏時とOLという組み合わせは、あの日の惨劇を思い出してしまうのだ。


詢子「ちょっと悩み事があってね、ここで立ち止まって、考え事をしてたんだよ」

ほむら「考え事」


アイス美味しい。


詢子「あたしの娘がさー…あ、君と同じで見滝原中学なんだけどね」

ほむら「はあ、そりゃ奇遇な」

詢子「最近になって、様子がおかしいというか……思い詰めてるような感じなんだよねえ」

ほむら「勉強かな」

詢子「てわけじゃあなさそうなんだけど」


さっぱりわからん。


詢子「前は普通に、私になんでも相談してくれる子だったんだけど……はあ、やっぱり難しい年頃だよなあ」

ほむら「……」


もはやアイスを舐めるしかない。


詢子「……はは、まあ君も思い詰めるようなことがあったら、ちゃんと親に相談するようにしなよ?」

ほむら「…そういうものかな」

詢子「そういうもんさー……、それじゃあ、ばいばーい、アイスありがとー」


腕時計を見た彼女はさっさと歩き始めてしまった。


ほむら「ふん」


私も残りのアイスを口の中に放り投げる。


大人目線でしか見えない世界もあるのだろうが、魔法少女にしか見えない世界もあるということだ。


やれやれ。魔法少女は孤独だ。

私はこれから、さやかとマミと共に戦っていくべく、グリーフシードをどう工面するか考えている最中だというのに。


本来、私たちの年齢の子供は、悩み事を親に相談するものだが、魔法少女はそうもいかないのだ。

ガキの小さな頭で全てを受け入れなくてはならない。

というより私の親がどこにいるのかわからない。

電話番号の控え、あったかな…。



ほむら「誰にも頼れない、か……」


黄昏空を見上げる。


焼けた空が美しい。

焼けた空……。



ほむら「……」



焼けた……。



――燃え上がれーって感じ――



もう、誰にも……。



ほむら「……鹿目、まどか…佐倉、杏子…」


……。


ほむら「……消さないと。あの子はもう、危険だわ」


……。


杏子(結局あの後、ずっとはぐらかされっぱなしだったな……)


――とにかく、鹿目さんとの契約はダメ。

――絶対にダメだから。無理やりさせようったって、そうはさせない。


杏子(…何なんだよ、あいつら)

杏子(そりゃあ無理強いはできないかもしれねーけど)


杏子「……帰るか、はあ…」


杏子(…けどこれで諦めたわけじゃない、説得すりゃ、まどかって奴も気が変わるだろう)

杏子(ただの人間の人生に未練があっても、いつかやってくる絶望を前にしては、そうも言っていられないはずさ)




ほむら「……」


杏子「! アンタ…」

ほむら「……」

杏子「…ほむらじゃん、これは笠箕に続く橋だけど?自分の持ち場ってのはこの前――」


ほむら「二回」

杏子「……はあ?」

ほむら「流れとしては同じパターンよ。貴女はまた、鹿目まどかに魔法少女になることを強要する」

杏子「お、おい…なんでまどかの事知って…あ、テレパシーで聞いたか?」

ほむら「最初はソフトに、けど次第にあなたの“お願い”は“命令”、“脅迫”に変わってゆき……まどかを殺す」


ほむら「……私はいつか、そんな貴女を殺したいと思っていたの」

杏子「!!」

(*・∀・*)<乙マム



佐倉杏子の身体が爆風で吹き飛んだ。

紅い装束はボロ雑巾のように煤けて汚れている。


寂れた工場街にはお似合いの姿だ。



ほむら(…火器が少ない、けど燃料はある。これならある程度はヤれる)

ほむら(杏子……許さない、ただ殺すだけでは済まさない)


ほむら(徹底的に苦しませてやる)



唯一入っていたショットガンを担ぎ、彼女が吹き飛ばされた路地裏へと入る。

そこらに転げていると思ったけれど、なかなか逃げ足の速い獲物だ。


私はそれでも構わないのだけれど。



ほむら(……)


自分の左手のソウルジェムを見る。

もうかなり穢れてきた。消耗が早い。



ほむら(そろそろ杏子を殺さないと)


私は闇へ歩く。


杏子「はっ…は…!」

杏子(……! 来る…!)


ほむら「……」

カッカッカッ・・・


杏子(頼む、気付くな…こっちだって恥も何もかも忍んでゴミ溜めに隠れてんだ…)


ほむら「……」

カッカッカッ・・・



杏子(…行ったか)


杏子(……何だよ)

杏子(何なんだよ…何なの…あいつ…)


杏子(ほむら……突然変身して、そうしたら何か、目の前が……爆発して)

杏子(戦おうとしたけど、まるでダメだった…近づけば隙があるとか、そんなもんじゃない)


杏子(ほむらがアタシを吹き飛ばして、ほむらが近づいて、またアタシを吹き飛ばす…)

杏子(…何だよ、アタシが一体何をしたってんだよ…!)


杏子(あの目……アタシをマジで殺しにきてる目じゃねえかよ…!)



「少し歩き過ぎてわかったけど、そこだけ腐臭が掘り返された匂いがするのよね」

杏子(! しまっ…)


赤い爆風がゴミを蹴散らす。


ほむら「よく飛んだわ」


工場の外まで、杏子を吹き飛ばしながらやってきた。

それにしても、ガソリンの爆発と時間停止の組み合わせは便利なものだと実感した。

とても有意義な時間だった。


敵を嬲りながら新たな発見をするなんて、とっても建設的だわ。



杏子「あがッ…は…は……」

ほむら「惨めな姿ね、佐倉杏子」


工場脇の薄汚い水辺の近くまでやって来てしまった。

季節は暖かいが、この時期の水の中はさぞ冷たいだろう。


杏子「なん、で…?ほむら…」

ほむら「気安く呼ばないで頂戴」


カチッ


薄汚い害虫め。


カチッ


ぼん。空間が瞬間のうちに燃焼し、爆発する。


杏子「っぐぁ」


小さな爆発ではあったが、杏子を川に突き落とすには十分な威力だ。


どぼん。ケミカルにやられた魔法少女は、ケミカルに濁った川に沈んで見えなくなった。


ほむら「……」


ゴミ色の川の下を見る。

静かに波紋を広げる水面の下に、杏子の姿は見えない。



ほむら「……ふっ、しぶとい野良犬も、これで死んだわね」


小さく嘲り笑う。


……なんて。

私はそんな中途半端に終わらせる魔法少女じゃない。



ほむら「川に逃げ込んだ野良犬ほど、いつか這い上がって噛みつくものよね」


口元が歪む。

私がこのくらいで終わらせるはずがない。


やるならとことんやる。溺死なんて甘すぎる。この私自身の手で葬ってあげる。



ほむら「さあ、杏子!終わりにしてあげ……!」


盾の中から取り出す手榴弾。


ほむら「……」


それは手榴弾ではなかった。

ただの安っぽい缶コーヒーだった。


ほむら「…水の中で爆死…良いと思ったのだけれど」


缶コーヒーでは爆発などしない。

盾の中に無駄なものが多すぎる。


ほむら「ガソリンを撒いて殺そうかしら…」


多めに使うにはもったいないだろうか。

けれどここで派手にやっておかないと、私の気が済まない。


ああ、なんとかして手早く、パーっと気前よくやってしまわなければならないのに。



ほむら「…ふん、ま…時間の無駄ね、どうせ死んでいるわ」


左手のソウルジェムも限界に近い。これ以上は私の身が危険。


ほむら「寝ましょう…杏子はもう居ない、これで安心して休めるわね、ふふ」


せめてもの手向けに、缶コーヒーを投げ込んでやった。

彼女の安っぽい嗜好ならば、これくらいが似合いだろう。



ほむら「……」


私は自分のアパートへ歩き始めた。

早くグリーフシードを使って、ジェムを浄化しないと。

(オムツ)*・∀・)ココマデヨ

(砂トイレ)*・∀・)見ないでよヘンターイ!!



杏子(身体中が痛い)

杏子(これ、全部…火傷なのか)


杏子(顔もとんでもなく……痛い) 

杏子(息が苦しいのが、気にならねえ)


杏子(…水が、染みる)

杏子(胸糞悪い感覚が、傷口からも入って来る)


杏子(ああ、町の水って……こんなに汚れてるんだな)

杏子(そりゃあ、みんなの心が荒んでるわけだよな…)


杏子(ほむら……)

杏子(アタシ、そんなつもりはないのに)


杏子(…アタシのやってきたことって、そんなに悪い事だったの……?)

杏子(マミ……ほむ、ら……)



「……ん?」

「え?えっ!?」


「ちょっと、嘘でしょ…!」

「…く、…いや、それでも助けなきゃ!」


恭介「……?」

恭介(……もう夜か)


恭介「いや、違う」

恭介(変な時間に目覚めたからってわけじゃない…何か、おかしい)


恭介(懐かしいんだ、何かが…何か)


ゴソ


恭介「え?」

恭介(なんだ、この感覚…)


ググ・・・


恭介「そんな」

恭介(嘘だろう)


グッ・・・パ


恭介「たちの悪い夢を見させるなよ…!」


グッ・・・


恭介「う、うそ……そんな、ことが…!?」



母(やれやれ……私も年か、甘くなったのか……)


父「大変だったな、バラライk……ではなく、母さん」

母「フン、いつの間に帰った?」

父「時空間を繋げて戻った、私は一週間ぶりの帰宅だよ」

母「一週間も働いたのか?」

父「忙しくてな、ミレニアムとか学園都市とか言う組織を潰すのに手間取った」


父「母さん、食事は?」

母「何が食べたい」

父「何でもいいさ」

母「じゃあ時空間を繋げて五分後の台所に来てくれ」

父「うむ」

誤爆申し訳ありませんでしたああああああああああああああああ

すみませんでした……


まどか「ひどいよ、キュゥべえ……どうして嘘ついてたの?」

QB「嘘をついていたわけじゃないよ」

まどか「そんなのウソだよ…知ってるのに言わないなんて、騙してるのと同じだよ」

QB「僕は人間じゃないんだから、思考回路が全く同じだとは思ってほしくないな、まどか」

まどか「……」

QB「これでも僕は僕なりに最善を尽くしているつもりなんだよ?」


まどか「…ソウルジェムが濁りきると、グリーフシードになるなんて……」


まどか「それを知らずに契約しちゃってたら、私……!」

QB「けど君たちは暁美ほむらから、ソウルジェムは魂だということは聞かされているじゃないか」

まどか「聞いたけど、これはひどいよ…ひどすぎるよ」

QB「その魂が濁りきるのだから、僕は正直、ある程度の危機感は伝わっていたかと思っていたよ」

まどか「……無茶いわないでよ!」


まどか「私が知らずに契約しちゃったら…!魔女になったらどうするの!世界はどうなるの!?」

QB「大変なことになってしまうだろう」


QB「けれどそれは確実な未来じゃないんだ」

QB「要はソウルジェムが濁らなければいいだけの話だろう?」

まどか「……帰って」

QB「……」

まどか「キュゥべえって…もっと話が通じるかと思ってたのに…」

QB「やれやれ、嫌われちゃったか……まったく、困ったもんだよ」


QB「けどまどか、これだけは覚えておいてほしい」

QB「ワルプルギスの夜を倒すには、並大抵の力じゃ無理なんだ」


まどか「……」

QB「願い事を決めたら、いつでも僕を呼んで」


ほむら「ん?」


見慣れた天井。

起き上り、時計を確認する。


ほむら「…夜か」


どうやら眠っていたらしい。

私の身体には毛布がかけられ、適当な空きスペースに横たわっていた。


ほむら「?」


おかしい。こんな寝方をした覚えはない。

そもそも私は寝た覚えなどない。


確か最後に、ええと、なんだ。記憶喪失ではないはずだ。


確か、アイスクリームを食べて、OLと話して、それで…。

アパートまで戻ってきたのだろうか。曖昧だ。



ほむら「……っつ」


頭が痛む。こめかみの奥辺りの鈍痛を右手でさする。


ほむら「あ、これなんだか思い出す時のあれだな……」


別段思い出したくもない暁美ほむらの過去だが、それらしい兆候が出てきてしまった。

思い出したら思い出したで構わない。けれど新たな自分として、何のしがらみもなく今の生活を満喫したいものだ。



「……にゃぁ…」

ほむら「眠そうな鳴き声だな、よし、私も一緒に寝てやろうか」

「……にゃ…」


さて、明日も学校。

さやかの報告が楽しみだ。

>>212
(((*・∀・)*・∀・)*・∀・)*・∀・)ゾロゾロ・・・

ホウフクダー

(・∀・*(・∀・*(・∀・*(・∀・*)))スゴスゴ・・・

ハーイ

杏子(……お父さん…お母さん)

杏子(…モモ……待ってよ、置いてかないでよ…アタシを)

杏子(いつか絶対にみんなで笑える日が…)


杏子「……ん?」

杏子「天井…」


杏子「ホテルじゃない…?ここは、一体…?」


さやか「スー…スー…」

杏子「…!?」

バッ


杏子「こ、こいつあの、バーガー屋にいたうるさい奴…!なんで隣…え!?ていうかアタシどうして…」

さやか「ん、ん~うるせぇ~…何よ一体…」


さやか「あ」

杏子「…ここは何だ」

さやか「あんた起きたんだ…良かった」

杏子「答えろよ!ここどこだよ、なんでアタシがここにいる」

さやか「はあ…助けてやった上に私の家まで運んでやったのに、そんな言い方はないでしょ」

杏子「助、なに?」

さやか「覚えてない?昨日びっくりしたんだから」


杏子「昨日…あ、昨日……」


さやか「せっかく魔法少女になったんだから、ってことで、ソウルジェムを持ちながら歩いてたらさ」


――気安く呼ばないで頂戴


さやか「川の中にヘンなものがぷかぷか浮いてるなあって思って見てみたら」


――惨めな姿ね、佐倉杏子


さやか「ボッロボロになったあんたが居たってわけ…死ぬほど驚いたんだよ?死体かと思って、涙も出ちゃったくらい」


――私はいつか、そんな貴女を殺したいと思っていたの



杏子「うっ、ぅあ…ぁ…」

さやか「! ご、ごめん、思い出したくないよねあんな事…」

杏子「な、なんで…なんであんな…」

さやか「ま、まぁ魔女だって強いの弱いの色々あるんだろうね…私も気をつけないといけないっていうかな…」

杏子「ぅう…うぐぐ…」


さやか「…もう、大丈夫だって」

ギュ

杏子「……」

さやか「あんたは生きてるから…生きてさえいれば大丈夫なんだから、ね」


さやか(震えてる…よほど怖い、強い魔女が相手だったのかな)

さやか(……まさか、ワルプルギス?いやいや、まだのはずだよね…)


席についているだけでも、クラスの皆が声をかけてくれるようになった。


まどか「おはよー!ほむらちゃん」

ほむら「おはようまどか、そのリボン良いね」

まどか「え、えへへ、いつも付けてるよう…」


仁美「おはようございます、ほむらさん」

ほむら「やあ仁美おはよう、口元に海苔がついてるよ」

仁美「!」

ほむら「冗談だよ、ごめんね」

仁美「も、もう、ひどいですわ」


「暁美ー、この間の問題答え教えてくれよっ」

ほむら「ふふん、もうギブアップということは、君の賭け金は私のものになるということだが」

「ひ、ヒントくれ!」

ほむら「じゃーあー…そうだな、200円くれたらヒントをあげよう」

「くそっ!もってけえ!」

ほむら「よしよし、ヒントは“コップの裏”だよ、ふふ、次の月曜までに答えられなければ私に千円だ」



男も女も分け隔てなく話しかけてくる。

なんとも退屈のしない日常だ。


さやか「おっはよーう!」


さやかも遅れて登場だ。

やはり彼女がいなければ、この教室は賑やかにならない。


まどか「あ、さやかちゃん!おはよう、今朝居なかったね、どうしたの?」

仁美「ごめんなさい、先に来てしまいましたわ」

さやか「ううん、こっちも何も連絡入れずにごめんね、色々あってさ」


ちらりと、彼女の目がこちらに向く。


彼女の手には指輪がはめられていた。

そして軽い秘密のウインク。


無事に契約は済ませたようだ。



ほむら「おはよう、さやか…調子はどうかな」

さやか「んーんー…絶好調!」


胸を張って、爛々と目を輝かせて。


さやか「って、感じかな?へへ」

ほむら「そっか、良い事だな」


私は、そんな彼女の踏み出した新たな一歩を、心から祝福しようと思う。


さやか「…あ、ねえホムラ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」

ほむら「ん?」


さやか「えっと……」


告げる前にガラスの扉は開かれた。



和子「はい静かにー、席についてー」


教鞭を取る先生の表情は固い。

また失恋でもしたのだろうか。機嫌がよくないこの先生は、非常に指名が厳しくなる。

私も最初のうちはなかなか当てられたものだ。


さやか「あー…おっけ、じゃあ次の休み時間!」

ほむら「良いよ、その時にね」


私に何か聞きたいことでもあるのだろうか。

昼休みに聞きたいことではないようなので、そこまで大事な事ではないのだろうが…。



ほむら(ふん、ふん)


右手の上に二百円を乗せてコインロールを楽しむ朝。

音はなくとも、鼻歌が交じる。

(*・∀・*)新着 ココマデ

( ;・∀)たまにほむらがホムラとか焔になっちゃうかもしれないけどユルシテネ

(*・∀・*)っ 焔SSはあれで完結ヨ 続きはナイワヨ

(*=∀=)φ ウトウト (・∀・*)ガンバッテ

Σ*×∀×)ミィー! カクワヨ!


『あ、そういやテレパシー使えたんだっけ』

ほむら『む』


頭の中にさやかの声が届いた。

マミ以外の声を聞くというのも新鮮だ。


ほむら『そうだったな、魔法少女になった君は、自発的にテレパシーを使えるようになったんだっけ』

さやか『へへ、いやー、便利な世の中になったものですなあ』


教師の話はつらつらと続くが、私は意識を教室の後ろに向けることにした。


ほむら『さて、話を聞こうか』

さやか『うん…まぁ、昨日契約する前に色々あってさ』

ほむら『ほう』

さやか『杏子って奴に会ったんだけどさ、知り合い?』

ほむら『…知り合いだよ』


杏子がさやかと会った?どういうことだ。


―――――――――――――


ほむら『……そうか、杏子と、そんなことが』


一連の話を聞き終わった私は、ホワイトボードの焼けた文字を見て思索に耽った。


もうすぐ“ワルプルギスの夜”が来る。

まどかならば容易くそれを倒すことができる。

杏子はまどかを魔法少女にしたい。


そして、杏子は昨日の夜、瀕死の状態で川に浮いていた。



ほむら『…杏子の話だけにとどまらず、私が居ない間に大変な事が起きていたんだな』

さやか『大変だったよー、昨日は』

ほむら『…ワルプルギス…頭に引っかからないでもないのだが』

さやか『?』

ほむら『まあそれは後ででもいいよ、気になるのは杏子の方だ』

さやか『ああ、そう、杏子の様子がおかしいんだ』


さやか『私の魔法は癒しの力があってね、怪我を治す魔法なら他の人よりも遥かに強いんだ』

さやか『…昨日の杏子は、私じゃなかったら治らないような…そんなひどい怪我を負っていた』

さやか『全身火傷だらけで、血みどろで…』


さやか『…傷は治っても、あんなふうにされたら心だって傷付くだろうなって……そのくらい深い傷だった』


明るい彼女の声のトーンは一気に落ちる。


さやか『朝になったら杏子は目を覚ましてたみたいでさ、その時は平気な風だったんだけど』

さやか『昨日の事を聞いた途端、震えが止まらなくなっちゃったみたいで…言葉も、満足にきけないっていうか、錯乱しててさ』


さやか『ずっと、うわごとのように繰り返してるんだ…“なんで”、“どうして”、“ごめん”…』


さやか『……“ほむら”…って』

ほむら『…私?』


心当たりがないわけではないが、彼女にそこまで深い心の傷を与えていたなんて思いもしなかった。


さやか『震えて、泣いて……昼間の勝ち気さっていうのかなぁ、そんなの一切無かった』

ほむら『そうか…杏子が…』

さやか『見てらんなかったよ、許せない魔法少女だけどさ』


声にも悲哀がこもる。

話を全て聞いた私は、昼間に聞けばよかったと後悔した。


この話は、さやかと向かい合って話したかった。

(ヽ ∀ )-з フシュゥゥ・・・

(∀ 三 ∀ 三 ∀)グルグル ヴゥーン

( *-∀-)ホクホク… キョウハオシマイナノ


雲ひとつない快晴の空を見上げて思う事はひとつ。

常識的に考えて、嵐などは来ないということだ。


しかし私たちの生きる世界は、少しばかり常識からかけ離れた場所にある。

ただの人が四方を壁に囲まれた迷路の中でしか可能性を見定められないのに対して、我々は迷路の壁の上から、常人よりも離れた場所を俯瞰して見ることができる。


たとえこの空が一般常識的に何日後かも快晴であるとしても、我々の業界の非日常が“嵐だ”と告げれば、嵐はやってくるだろう。

そしてその嵐を消し去ることのできる者が居るのだというのであれば、それは間違いないのだろう。



マミ「テレパシーを聞いていたわ」


タコさんウインナーを摘み上げる。


マミ「佐倉さんとは……知り合いなのだけど、彼女がそんな風になってしまったなんて、信じられないわ」

ほむら「私もだよ」


マヨネーズのついたブロッコリーを口の中に放り込む。


ほむら「…けど、私の名前を呼んでいたというのが気になるな」

さやか「心当たりはある?」

ほむら「…あるといえば、ある」


キャベツ巻きを半分噛み切る。けどキャベツの繊維がしぶとかったので全て頬張る。


ほむら「けど、彼女の考え方が私とは合わないから、ちょっと突き放しただけ」

マミ「……なるほどね」

ほむら「けど彼女を傷つける程だとは」

まどか「……」

さやか「……」


二人の表情は、どこか重かった。


アスパラを頭から齧る。


ほむら「…杏子の様子を見に行くべきかな」

まどか「今はさやかちゃんの家にいるんでしょ?」

さやか「うん、落ちつかせて、寝たんだけど……今もいるかな」

マミ「佐倉さんが心配だわ……」

ほむら「さやかの家に行っても良いかな」

さやか「あーいやっ、それはー、なんていうかな…今日は…」

ほむら「今日は?」


今日は何か……あ、そうか。


ほむら「上条の完治を祝わなければならないね」

さやか「…なんかごめん」

ほむら「気にする事は何もない、一生に一度の願いを叶えた大事なお祝いだ、譲っちゃいけない」

さやか「……えへへ」


やっぱり可愛い笑顔も似合う。


マミ「じゃあテレパシーで佐倉さんを呼びだしてみても良いかしら?話は外でも聞けるし……」

さやか「ああ、お願いします」

まどか「私は……」

マミ「鹿目さんも美樹さんと一緒に、上条君をお祝いしてあげたらどうかしら」

さやか「おお!まどかも一緒に居てくれる?」

まどか「私が行っても良いの?」

さやか「もちろん!」


ほむら「…杏子、私と会っても大丈夫かな」

さやか「あー」


さやかが駄目っぽい顔をしている。


マミ「……暁美さんに対しての反応があまりに過敏なようだったら、良くないかもしれないわね」

さやか「私もそう…思っちゃうかな、今のあいつ、どこか不安定っていうか……繊細だし」

マミ「もちろん暁美さんが悪いってわけではないわよ?」

ほむら「うむ……わかった、私はグリーフシードを集めているよ」


杏子に会えないのか、それも残念だ。

彼女と私の生き方は違うにせよ、杏子の身を案じていないわけではない。

いつか解りあえる日がくれば。そう願っている。



ほむら「しかし昨日もグリーフシードが一つ減っていたよ、このままだと皆の使うグリーフシードが、見滝原だけでは供給できなくなる」

まどか「…見滝原に魔女がいなくなるの?」

ほむら「居なくなることはないだろうけど、数が減れば探しにくくなる……つまり収集率は下がるということだ」


ほむら「……私は、杏子の縄張りだった隣町に赴くことにするよ、何個か取ってこよう」

マミ「ええ、ありがとう……大丈夫?」

ほむら「皆は杏子を見てやってくれ、私は問題ないさ」


さてさて。これからマジックをやっていく時間は取れるだろうか。

魔女退治にてんてこ舞い、とはなりたくないものだが。

( *-∀-)ムゥムゥ…


さやかとまどかは病院に。

マミは杏子の様子を見に。

私は隣町へ柴刈りに。



QB「やあ、ほむら」

ほむら「やあ」


ソウルジェムを手の中で転がしながら歩いていると、白猫がちょっかいを出してきた。


白猫は私の隣の柵の上を器用に歩き、ついてくる。



QB「杏子の様子がおかしいんだけど、君がやったんじゃないだろうね」

ほむら「いきなり酷い事を言うな君は」

QB「今日、彼女に会ったら君の名前を呟いていたからね」

ほむら「私は何もしていないつもりなんだが…」

QB「本当に?」

ほむら「随分疑うな…だって昨日は杏子に会わなかったし」


私以外の皆は会ったらしいが。


ほむら「昨日までの事も、杏子を豹変させるほどではないだろうし…」

QB「君にもわからないみたいだね」

ほむら「生憎ね」


ソウルジェムが煌めいた。

わずかな紫の鼓動を見逃さない。


私の質の悪い索敵能力が反応したということは、近くに魔女がいるということなのだ。


ほむら「さて、魔女を狩って来るか」

QB「頑張ってね、ほむら」

ほむら「ふふ、応援してくれるの?」

QB「もちろんさ、魔法少女をサポートするのは僕の役目だしね」

ほむら「はは、どこまでが本当なのやら」


赤い目の奥には何も見えない。

ただ彼の考えていることは、私にはわからない。



彼は、私たちとは……。



ほむら「―――――……」

QB「? どうしたのほむら?立ち止まって」

ほむら「――ふふ。なんでもないよ、キュゥべえ」


カチッ



QB「! 暁美ほむらが消えた」

QB「……どういうことだろう」



恭介「――ふう」

さやか「おめでとう」

まどか「おめでとう、良かったね上条くん」


恭介「! …ありがとう、みんな」

さやか「なあに、恭介が諦めなかったから、天も味方してくれたんだよ!」

恭介「……はは、そう、なのかな」

まどか「きっとそうだよ、てぃひひ…」


さやか「……じゃ、私はそろそろ行かないと」

まどか「もう良いの?」

さやか「うんっ、こんくらいが丁度良いよ」


さやか「……これ以上ここにいたら、離れたくなくなっちゃうしね」

まどか「……」

さやか「暗い顔すんなって!」バシバシ

まどか「あう、痛いよう」


恭介「さやか、帰るのかい?」

さやか「うん、脚の方はまだみたいだけど、お大事にね」

恭介「……うん、ありがとう、さやか」

さやか「へへ」


さやか(…これで、私には何の悔いもない)

さやか(ううん、悔いとかそういうのじゃない)

さやか(これからの私が、悔いのない生き方をしていかなきゃいけないんだ)


さやか「…杏子の様子、見に行こっか」

まどか「うん」




マミ「えっと……あった、ここね」

マミ「このマンションが美樹さんの……間違いないわ」


マミ「つまり、ここでテレパシーを使えば……きっと」


マミ『…佐倉さん、聞こえる?』

『!!』


マミ(……言葉ではないけど、思念の反応があったわね)

マミ『居るのね?佐倉さん』

『……ま、マミ?』

マミ『そう、私よ、佐倉さん』

『……マミは、さやかの仲間か?』

マミ『どういうこと?』

『美樹さやかっていう奴の、仲間なのかって聞いてるんだ』

マミ『え、ええそうだけど…どうして』

『……304号室』

マミ『!』

『開け方知らないから……窓から入ってくれ』

マミ『……わかったわ』


マミ(どうしたのかしら?佐倉さんの様子がおかしいわ)


マミ(……あの身覚えるのあるパーカーが掛かっている部屋ね)

マミ(じゃあ早速変身して…っと)


マミ(あそこなら一蹴りでいけるはず……っとう!)タッ


シュタ


マミ『佐倉さん、ガラス戸を開けてもらえる?』

『鍵は掛かってない』

マミ『……ええ、わかったわ』


カラララ・・・


マミ「! ちょ、ちょっと佐倉さん、槍なんて構えて、どういうつもり!?」

杏子「…巴、マミだな」

マミ「そ、そうよ?どうしたの…部屋の隅で、そんな…それじゃまるで」


マミ(何かに…怯えているような)

杏子「…ほむらは、居ない?」

マミ「暁美さん…?暁美さんなら今日は、魔女退治に…」

杏子「……?」

マミ「と、とりあえずその槍を降ろしてもらえると嬉しいのだけど…」

杏子「……わかった」スッ


マミ「……変身は解かないの?」

杏子「……このままでいい」

マミ「そう……」

杏子「……」


マミ(久しぶりに佐倉さんに会えたのに……何を話していいのか、わからない…)


杏子「なあ、マミ」

マミ「え?」

杏子「アタシって…酷い奴なのかな」

マミ「……それは、魔法少女として?」

杏子「…全部かな」

マミ「全部、難しいわね」


マミ「…そうね、佐倉さんの事、詳しく知っているわけではないから……魔法少女としては、理想ではないわね」

杏子「……そうか」

マミ「でも勘違いしないでね、佐倉さん……私は、貴女のことを嫌いになった事なんて一度もないわよ」

杏子「……本当?」

マミ「ええ、もちろん」


マミ「あれから長い月日が流れて……私の考え方は変わったのかしらね」

マミ「魔法少女としての信念を、理想を抱いていた時期もあった」

マミ「けど、まだまだ私は何も知らなかった…現実の壁にぶつかって、私の中の正義がいかに脆い土の上に建っていたのかを知った、というのかしら」


マミ「…今なら、昔の佐倉さんの事も…多少は受け入れられるかもしれないわね?私にはやっぱり、堅い正義があるのだけど、ふふ」

杏子「…! マミ、変わったな」

マミ「ふふ、変えてくれた人がいたから、かしらね?」

杏子「変えてくれた、人……」

マミ「ええ……彼女がいなければ、私はずっと浮ついた正義の上で戦ってたわ」


マミ「暁美さんのおかげよ」


杏子「あ、あいつ……ほむら!」

マミ「ん?」


杏子「マミ…ああ、そうだ、ほむらだ……」

マミ「……一体どうしたの、佐倉さん。美樹さんから聞いた話では、暁美さんの事を気にしているらしいけど…」

杏子「な、なあマミ、どうしてほむらはあんなに怒ってるんだよ?」

マミ「暁美さんが怒ってる?」

杏子「アタシ、生まれて初めてだよ、あんな激しい怒りを買った事なんて…!アタシって、そんなに悪い人間なのか!?」

マミ「ちょ、ちょっと落ちついて、何があったの…」

杏子「あいつは、ほむらは……!」



『――巴マミ、もう着いているのかしら』


杏子「…~!!ぁ、ぅああぁ…!」

マミ「あら、暁美さんのテレパシーね…その話も含めて、彼女を中に入れましょうか」

杏子「だ、駄目!絶対に駄目だ!」

マミ「何よ、ちょっと変わってはいるけど……」

杏子「次に会ったら……今度こそ殺される!」

マミ「……え」



『――……巴マミ、居ないの?じゃあ、佐倉杏子、あなたは居るのかしら』


マミ「……暁美さん?」

杏子「うぁあ…!に、逃げないと、とにかくあいつから逃げないと…!」

マミ「……なんだか、様子がおかしいわ」



『――返事がないなら、強引にでも入らせてもらうわよ』

マミ「……!」



美樹さやかのマンション。

ここへは何度か訪れたことがある。


彼女と友好関係を築こうと努力をしたけれど、だいたいのケースでは美樹さやかが私の考え方を受け入れることができず、関係が破綻した。


美樹さやかの事は今はどうでもいい。

このマンションにいる杏子と、訪れているはずの巴マミ。


巴マミは無視するが、佐倉杏子を無視することはできない。

杏子を殺さないと、私の気が済まないから。



でも、まさかあの状態で生きていたなんて。

美樹さやかによって治療されるとは、神様がくれた奇跡なのかしらね。


その奇跡もその時限りで、今日も来ることはないのだけれど。



ほむら「さて、美樹さやかの部屋は304号室だから……ん?」



美樹さやかの部屋のベランダから、制服姿の巴マミが現れた。

私を視認し、小さく手を振っている。


マミ「あら暁美さん、魔女退治は終わったのね?」

ほむら「ええ」

マミ(……“ええ”、ね…)


マミ「佐倉さんの服も干してあるし、中にも痕跡はあるんだけど…どうも、既に居ないみたい」

ほむら「本当に?」


巴マミの目を見る。


落ちついた上級生の目。


長年魔女と戦ってきた目。


眼球の動きは見逃さない。



マミ「…ええ、他人の家にずっと居るわけにもいかなかったんでしょうね」

ほむら「……そう」


目に揺るぎは無い。

嘘はついていないか?



いいや。

巴マミはハッタリが上手い魔法少女だ。

嘘をついている可能性は十分にある。



ほむら「嘘でしょう?」

マミ「…っ」


眼球が揺らいだ。見逃さない。

三階から私を見下ろす目に、明らかな恐怖と動揺が垣間見えた。


その綻びを見て、私は口元をゆがめる。



ほむら「――佐倉杏子、出てきなさい」


マミ「だから、佐倉さんは……」

ほむら「口を閉じなさい巴マミ」

マミ「…!」


巴マミが驚きに閉口する。

そうね、それも仕方ないのかしらね。


“私”は、随分と風変わりみたいだから。



ほむら「ねえ、杏子、私の声はきっと、その部屋にも聞こえているのでしょう?」

マミ「……」


ほむら「聞こえていないのかしら?そんなはずはないわよね」

マミ「……」

ほむら「……」


ほむら『杏子、テレパシーは通じるわよね、聞こえているでしょう?』

『……』

ほむら『テレパシーでも私を無視するというの?それとも、本当にそこに居ないのかしら』



ああ、もう、じれったい。

隣町からここまで結構な時間を使ったのに。

もう、足踏みをしている時間は無いのに。


佐倉杏子、ああ、杏子。

憎い。佐倉杏子が憎い。

殺してやる。

絶対に!


今すぐに!!




ほむら『ッ…ァアァアアァアァアッ!!!』

マミ『ひゃっ!?』

杏子『っぅ…!』



私の憎悪の咆哮に混じり、二人の短い悲鳴も聞こえてきた。



ほむら『いま、確かに聞こえたわよ、杏子』


私は今まさに、口元が三日月のように歪んでいることだろう。

(毛布)*・∀・)-з ココマデヨ


グリーフシードは貴重だ。砂は止められない。

杏子如き、地の力で圧倒しなくては。



ほむら「さあ、行くわよ」


変身する。

即座にアスファルトを蹴り、3階のベランダへ飛ぶ。


美樹さやかの部屋へ繋がるガラス戸を開く。


ほむら(居ない)


部屋が荒れた様子は無い。

さっさと玄関から退避でもしたか。

だとしたら厄介だ。逃げ道はいくらでもある。大胆な手を使えば、他人の部屋に上がり込むなりすることで隠遁も可能。

時間を止められようとも、捜索範囲はあまりに無限大。追うことはできなくなる。



マミ「暁美さん!」

ほむら「……」


後ろからうるさいのがついてきた。

ああ、面倒臭い。


ほむら「……何?」


今、巴マミに構っている余裕はない。

私の左手のソウルジェムが警鐘を鳴らしている。


マミ「暁美さん、よね?」


巴マミの装いも魔法少女に。

しかし銃は出していない。かなり珍しいケースだ。

普通ならば疑わしきを躊躇なく撃つのに。


マミ「何故佐倉さんを…?」


しかし、彼女の怯えた目は私の気分を悪くさせる。

すぐにでも私を殺しそうな、そんな不安定な目。

この目が何度、私を苦しめたことか。



ほむら「率直に言うわ、佐倉杏子を殺す」

マミ「何故!?」

ほむら「黙りなさい、巴マミ」

マミ「っ」

ほむら「今のは予告よ、貴女の問いに答えたわけではない」



一歩、マミが後ずさる。

そして金縛りにあったかのように、自ずと動かなくなる。


いつからだろう、凄むだけで彼女が退がるようになったのは。


一体私の何が研鑽されたというのかしら。

怒り?殺気?闘志?


まあ、どうでもいいことだわ。

この感情は、最も間近にある邪魔ものにぶつけるだけだもの。


ほむら(……くっ)


左手にわずかな痺れが走る。

まずい。感覚が薄れてきたか。


思った以上に余裕はない。



ほむら「杏子、この部屋のどこかにいるのはわかっているわ」



私の存在に恐怖心を抱いているのであれば、彼女は私のテレパシーを受けて多少のパニックに陥ったはずだ。

生まれ持っての逃げの才能はあるかもしれないが、それでも見知らぬマンションの中でおにごっこをする度胸が沸くだろうか。

玄関からさっさと出ていった、と見せかけて、実はまだ部屋に残っているのではないか。



ほむら「杏子、出てきなさい」


ベッドを蹴り、ひっくり返す。いない。


ほむら「杏子、どこにいるの」


椅子を蹴る。机の下にもいない。

だとすれば後は……。


ほむら「さあ、杏子、後は無いわよ」


クローゼットに微笑みかける。

向こうから私は見えているだろうか。別に、向こうの視点などどうでもいいけれど。


さあ、終わりの時は来た。

これでやっと、まどかを守ることができる。



ほむら「さあ、死になさい……」


マミ「駄目!」


黄色のリボンが襲いかかる。


カチッ


そんな単調なわかりやすい攻撃、私に読めないはずがない。


カチッ



マミ「へぐぅっ!」


時間停止解除と共に、マミの身体は勢いよく窓へ突っ込み、外へ投げ出された。

腹部にお見舞いした4発の蹴りの威力がそれだった。



ほむら「無駄な魔力を使わせてくれたわね、巴マミ」


巴マミはそういう人間だから別にいいのだけれど。

けれど、本気で私を邪魔するつもりなら、私も本気で殺しにかかる。



ほむら「さて…」



巴マミの事はどうだっていい。問題は杏子。

この杏子は殺さなくてはならない。

まどかに甘い言葉を囁く悪魔の女め。



クローゼットに向かって、魔力を込めた脚を振りかざす。



ほむら「地獄で家族に逢いなさい」


私の蹴りは、確かにクローゼットを叩き割った。


ほむら「……」


中には散乱する衣服が。

美樹さやかのものだろう。



ほむら「~~!!」



佐倉杏子にしてやられた。

その許し難い事実だけで、私のソウルジェムは限界だった。


ほむら「ぁああぁぁあああッ!」


近くにあったボールペンで左腕を掻き毟る。

このままでは不味い。


杏子を殺したい。けれどもう今は難しい。

自分の魂を優先しなくては。


早く。早くグリーフシードを。



ほむら「クソアマめぇええぇッ…!」




巴マミが突っ込んだ窓ガラスから表へ飛び出す。

植え込みの緑の上に、巴マミの姿があった。それはどうでもいい。


全てを無視して私は街を駆けた。



ああ、今は全てをどうでもよく思わなければ。


早く家に帰って、グリーフシードを使って浄化して、寝よう。

考えては駄目だ。考えては駄目……。

(*・∀・*)新着アルヨ

>>370
>ほむら「クソアマめぇええぇッ…!」

このホムホムはジョジョ風の絵柄になってそうだな…ゴクリ
>>1

>>379
おい、てめーのせいでイメージがマライアになっちまったじゃねーか

>>381
ほむら「味なまねをしおってこのッ!ビチグソどもがァァーッ!!」

あら、意外とすんなりマッチするかも。


マミ「……つぅ…」


マミ(止めようと思ったけど…やられちゃった…)

マミ(少しの間、足止めはできるかと思ったけど……さすが、暁美さん、なのかしら…)


マミ(…お腹痛い…動けない)



杏子「……マミ、無事か?」

マミ「……え?佐倉さん?逃げたんじゃ…」

杏子「マンションの中でな…アタシよりもマミのが重傷だよ、起き上がれるか?肩貸そうか?」

マミ「うん……」


グイッ


杏子「……あいつは行ったみたいだな…くそ、マミにまで手を出すとは思わなかったぜ」

マミ「……」

杏子「……ごめんな、マミ…アタシのせいで、こんな事に」

マミ「あれは、暁美さんじゃないわ」


杏子「え?」

マミ「あれは暁美さんなんかじゃない……」

杏子「……あれは、ほむらだよ」

マミ「違うわ…!絶対に!」

杏子「……」


杏子「違うのかな……」

マミ「ええ、違うわ……」

杏子「そうなのかな……」

マミ「そうよ…だって、暁美さん、いつもの暁美さんじゃないもの」


マミ「そうでしょ?佐倉さん」

杏子「! お前、泣いて……」

マミ「暁美さん、人殺しなんてしないもの…魔法少女を殺したりなんて、絶対にしないもの…!」

杏子「マミ……」


杏子(…ほむら……)


まどか「杏子ちゃん、どうしてるかな」

さやか「うーん、ちゃんと部屋で大人しくしてればいいんだけどなあ……」

まどか「でもマミさんがいれば安心だよね?」

さやか「あはは、居ればなんだけどねー…」


タッ タッ


まどか「! 前から何か、屋根の上…来る!」

さやか「えっ!?魔女!?使い魔…!」


タッ


ほむら「……!」


まどか「あ、なんだ、ほむらちゃんか……」

さやか「魔女退治はもう…ってオイ!ほむらどうしたの!?その腕…」

ほむら「…チッ」


カチッ



さやか「は……あれ?」

まどか「消え、た…?」


さやか「…私の家に急ごう」

まどか「うん、なんだか…嫌な予感がする」


―――――――――――


ほむら『……』


殺風景な白い自室。

私は力ない姿勢でソファーに座っていた。


ほむら『また夢か』


ほんの少しだけ、寝起きのようにぼやけた視界。

はっきりしない世界の中で、唯一はっきりと視認できるものがあった。


私の姿だ。



『……』

ほむら『……』


みの虫のように毛布に包まれているが、長い黒髪は外に飛び出している。

癖のある私の髪だ。


ほむら『結局、地べたで寝ているわけか』

『……』

ほむら『まあ、布団もベッドもない部屋では仕方がないんだろうけど』

『……』

ほむら『ふふっ、ロクに毛布も使わない私が言えた事ではないか…』

『……使ってるじゃない』

ほむら『え?』


使った覚えは無い。

確かに何度か羽織ったことはあるが、使ったとしても最近ではない。



『毛布、私は、貴女は、使っているのよ……暁美ほむら』




―――――――――――


ほむら「……」


目を醒ますと、そこは暗闇の中だった。

とても窮屈で、とても温かい中だった。


ほむら「んんっ……なんだ、ここは…」


身体に纏わるものを退けるようにして這い出る。



ほむら「……え」

「にゃぁ……」


目の前にワトソンがいた。

ここは私の部屋の中だった。


ほむら「ええ?」


そして、私は身体に毛布を巻き付けていた。

自室の床の上で。寝ていたのだ。



ほむら「……」


昨日も寝た覚えは無い。

最後の記憶は、ええと、確か魔女を狩ろうとして、それで…。


ほむら「……痛っ」


保留のできない思考は、より衝撃ある腕の痛みによって阻害された。

毛布のまとわりつく左腕が、とても痛かった。


ほむら「…何だ、これは…」


私の左腕には無数の裂傷が刻まれていた。

多くの傷は意味ありげに交わり、連なり、言葉を形成している。


私の見間違えでなければ、それはこう読めるのだ。



“杏子をころせ マ女をころせ コドクになれ”


血液が逆流する。

身体中の血の気が引くという意味が理解できた瞬間だった。

(カシミヤ)*-∀-)ココマデ


ほむら「~~!!」


文字を理解すると共に、言い知れぬ恐怖に駆られた私は反射的に腕へ治癒魔法をかけた。

浅い傷は瞬時に治ったが、頭に焼きついた文字は離れることは無い。



ほむら「……」


無傷に戻った左腕を見て、安堵か落胆かのため息をひとつ。



ほむら「ついに、この時が来てしまったのか…」


心の隅で予感していた未来の一つに遭遇したのだ。

それは悪い未来の一つだった。


ほむら「私の前の人格が戻り……私は暁美ほむらに乗っ取られる」


私としての自我が消え失せ、奥底に眠っていた暁美ほむらの記憶が私の体を再ジャックするのだ。


こんな簡単なことに気付かない私ではない。


私の記憶は、二日前から曖昧になっているのだ。

そして、曖昧になる感覚が広がってゆく。


私が私として活動しない時間が消えてゆくのだ。

いずれ私はどうなるのか。



ほむら「…私は、消えてしまうのか……?」


半分ほど濁ったソウルジェムを、震える手で握り締める。


傍らのワトソンにも目をくれてやれず、私はテーブルの上を漁った。

邪魔な小物を退け、アイデアを描き殴ったばらのルーズリーフを押しやり、そして一か所に固められたグリーフシードを手に取る。


ほむら「……」


数は減っていない。

だがこのうちの2個がほぼ9割近くまで穢れをためており、使えない状態にまでなっていた。


…暁美ほむらが使ったのだ。

半日で、2つも。


どんな魔力の使い方をすれば2個も減るのか。という疑問は、すぐに“何に魔力を使ったのか”という疑問に変わった。


……決まっている。



“杏子をころせ”


ほむら「……何があったんだ」


私託された、“杏子を殺せ”というメッセージ。

魔女を殺せ。それだけはわかる。だが何故杏子を殺さなければならないのだ。

孤独になれとはどういうことだ。


暁美ほむらは私を恨んでいるのか?憎んでいるのか?


それともやはり、暁美ほむら、君はそういう人間だというのか。

かつてのように魔法少女を殺し、街を破壊し尽くす幽鬼だというのか。


ほむら「私にそうなれとでも言うのか……」


私よ。そんな暁美ほむらを受け入れろというのか。



ほむら「……!」


悪寒が走る。


残された杏子を殺せというメッセージ。

減りに減った魔力。


これが示すものは何だ。


魔法少女を狩る暁美ほむらの、血みどろの戦い。


メッセージを見るに杏子はまだ死んでいない。

だが、私が狙うのは杏子だけか?

私の殺人は杏子だけにおわるのか?



――この毒牙は、マミやさやかにもかかるのではないか。



ほむら「~~ワトソンッ!留守を頼む!」

「に」


返事を待たずに私は部屋を飛び出した。


制服姿のままで、路地を駆ける。鞄など持たない。だが学校に行かなくてはならなかった。


たとえ私が昨日何をしていようとも、マミとさやかの安否を確認しなくてはならない。

彼女らに邪険にされようとも、撃たれようとも、二人の無事を見届けなくては。



――そして、私は告げなくてはならない。私は、記憶の失った人間であるという事を。



何故私は今まで告白しなかったのか。

変に格好つけて、挙句こうして状況を悪くさせた。なんとも馬鹿けた話だ。



ほむら「格好悪い……クソ、ああもうっ!」



焦燥感と苛立ちに駆られ、私は魔法少女の姿となって学校へ急いだ。



さやか「……」

まどか「……」

QB「そんなことがあったのとは…知らなかったよ」


マミ『…上の階から失礼するわね』

まどか『マミさん』


マミ『そう、大体今の話の通り……まとめると、つまりは、暁美さんが豹変して…』

QB『よくわからないけど杏子の命を狙ったんだね?』

マミ『ええ……探すのを諦めてどこかへ行ってしまったけれど、また来るはずよ』

QB『君たちはどうするんだい?マミ、さやか』


マミ『……』

さやか『…私は、ほむらを止める』

まどか『大丈夫なの?さやかちゃん……』


さやか『ちっとも大丈夫じゃないよ……ほむらの戦いは何度か見たけど、正直勝てる気がしないわ』

まどか『そんな……!』

さやか『けど、ほむらを倒すことが私の目的じゃない』


さやか『ほむらと話さないと駄目なんだ…ほむらとちゃんと話して、しっかり事情を聞く』

マミ『ええ、そうね……それからでないと、全くわからないものね』


まどか『……ほむらちゃんは、危ないよ』

さやか『まどか……』


まどか『マミさんも私と一緒に見ましたよね?仁美ちゃんとさやかちゃんを操ろうとした魔女の時の事…』

マミ『……ええ、あの、魔女が映しだした映像ね』

さやか『……』


まどか『ほむらちゃんは魔法少女を…そういう人なんだよ…絶対に、危ないよ…!』

マミ『……確かに見たわ、あの時のことははっきりと覚えているし……今まで、大きな疑問として残るものでもあったしね』

QB『……』


マミ『けれど、暁美さんにそのような過去があったとしても、絶対に何らかの事情があったように思うのよ』

まどか『……杏子ちゃんに酷い事したのに?』

マミ『…理由があるのよ、きっと』

まどか『私、怖い……ほむらちゃんのこと、全然信用できないよ……』

さやか『……』



ガララッ


ほむら「はぁ…はぁ…」

さやか「!」

まどか「あ……」


ガラス戸を開けた向こうには、驚く顔で止まったさやかと、私を畏れるような顔で小さく震えるまどかがあった。


私は口を閉じて息を整え、早足で二人の傍へ近づく。



そこに、さやかを庇うようにして、すかさずまどかが立ちふさがった。



まどか「……」

ほむら「……」


涙ぐみそうな決意ある目が、私の昨日の空白に一抹の答えを彩ってゆく。

まどかの後ろのさやかの複雑な顔も、無慈悲で明瞭な答えを持っていた。


ああ、私はやはり、昨日、何かをしたのだ。



ほむら『……話がしたい』

まどか『……ほむらちゃん…先に、言うことない…?』

ほむら『……』


わからない。そう言いたい。

けれど、今の二人に告げる言葉としては、あまりに配慮にかけるものだと思った。



ほむら『屋上で話す…マミも、来てほしい』

マミ『暁美さん………ええ、わかったわ』



誰もが重々しい声を発していた。

身構え、決意し、慎重に選ぶ言葉のなんと重いことか。



ほむら(……)


私は黙って教室を出た。さやかと、まどかも後から距離を置いてついてくる。


重い足取りで、屋上へと向かう。


ほむら「……」


私は地べたに腰を降ろしていた。


マミ「……」

さやか「……」

まどか「……」


ベンチにはマミが、さやかが、そしてまどかが座っている。

マミとさやかは緊張した凛々とした面持ちで私を見て、まどかは悲しそうな伏し目で私の脚辺りを見ていた。


QB「僕も同席してもいいよね」


白い毛並みの未確認生物も、まどかの隣に居た。



さやか「……ほむら、話って何」

まどか「まずは……」

さやか「まどか、全部ほむらに任せよう」

まどか「……うん」


もう後に引き返すことはできない。

……いいや、逃げ道なんてもう無い。


私はもう、消えるしかない存在なのだ。

ならばせめて消える前に……言わなくてはならない。



ほむら「…なあ、みんな…私の話を聞いてほしいんだ」


半分濁ったソウルジェムを地べたに差し出し、私は口を開いた。


ほむら「私が、私の名を暁美ほむらであると知ったのはつい数週間前…この見滝原中学に転校する前の、病院でのことだ」

さやか「……?」

マミ「?」

まどか「…?」


ほむら「私が目を醒ましたその日は晴れだった…カーテンが揺れ、窓の外も中も、全て静かだった」


ほむら「まず思い浮かんだ事は、私が魔法少女であるという事だった」

ほむら「魔女を倒すのが魔法少女、いずれ魔女になるのが、魔法少女……」


ほむら「まずはそれだけ」

ほむら「目覚めた私は、自分の名前すら知らなかった」

まどか「え…?」


ほむら「まるで物語の主人公のようだろう、記憶喪失だよ」

さやか「記憶喪失?」

ほむら「私が私を“暁美ほむら”という名前だと知ったのは、病室を出て扉の横のプレートを見た時だ」


マミ「どういうこと…?」

ほむら「……」


ほむら「……私は、自分が魔法少女であるということ以外、全てを忘れていた」

ほむら「自分でも戸惑ったよ……起きたらベッドの上で治療を受ける身、そして記憶喪失だ」


ほむら「最初はただ、唯一覚えている“魔法少女”のシステムに従い…魔女を倒す者して動くしかなかった」


ほむら「魔女を倒し、グリーフシードに余裕が生まれるにつれて、私は自分の記憶を取り戻す努力をしようと考えるようになった」


ほむら「さて、以前の私は何者であったか……顔つきや髪型から、陰湿で根暗な女であろうとはなんとなく思っていた」

さやか「根暗って」

ほむら「根暗さ、目覚めた時の私は酷い顔だったとも…地味で、それゆえ気の弱い、どうしようもなさそうなタイプの女だ」

マミ「そんな」

ほむら「ま、今はそれは良い」


ほむら「……以前の暁美ほむらが何者であろうと、何の信念も無かった私はとにかく、魔法少女である私の祈りの為に、そのために生きることにした」

ほむら「だが私の祈りとはなんだろう?私の願いは?目的は?幸せとは……」


ほむら「変身した姿から、私は予測を立てることにした」

マミ「……」

まどか「……」

さやか「……それで」

ほむら「それがマジシャンだった」


マミ(……?)

まどか(え?)

さやか(……ん?)


ほむら「変身した自分の姿を見て常々思っていた……そう、私の姿はマジシャンに似ている」

ほむら「ハットとステッキを独自に購入してセットにしてみると、私の感は正しかったのだろう…その姿はまさにマジシャン」

マミ「あ、あのちょっと、暁美さん」

ほむら「…何だい」

マミ「…いつもつけている帽子と、ステッキって、魔法で作ったものではないの?」

ほむら「違うよ、見た目だ」

マミ「……そう」


ほむら「私はマジシャンだった、そうに違いない…そう思った私は、その日からマジックを始めた」

まどか「……」

ほむら「マジックなど覚えてはいなかったが、それでも新たに覚えて、やってみれば私の記憶を取り戻すためのきっかけになるかもしれない」

さやか「そ、それで……?」

ほむら「私はマジックを始めた」


ほむら「……学校に通いはじめ、皆と出会い、色々な事を経験して……」


ほむら「……ふふ、すごく楽しかった」

まどか「……!」


ほむら「本当に、毎日が楽しくてね……マジックはいまいち、私の記憶に関わるようなものではなかったみたいでさ…ちっとも成果はなかったけどさ」

ほむら「それも、やっていくうちに楽しくなって……ひとつの趣味としてやるようになったよ」

ほむら「学校の友達も、面白い人が多くて……」


ほむら「……でもその頃だっけかなぁ」


ほむら「私は、不可思議な夢を見るようになった」


さやか「夢……?」

ほむら「……嫌な夢さ、無駄にリアルで、暗いイメージの夢」


ほむら「いつかの時には、魔法少女のソウルジェムを銃で撃ち抜き」

ほむら「暗いどこかで、何者かに引導を渡そうと手を伸ばし」

ほむら「路地裏に追い詰めた何者かを虐殺し続け……」


マミ「……私と鹿目さんが見たのって、もしかして……」

ほむら「……そう、きっとそれは、私の夢で見た記憶だ」


ほむら「陰惨で意味ありげな夢を毎晩のように見る度に、私は暁美ほむらというものに疑念を抱くようになった」

ほむら「……以前の私は一体何をしていたのか?」


ほむら「……私は、次第に暁美ほむらの事を忘れ去ろうと思うようになっていった」

( *・∀・)<ねる


ほむら「暁美ほむらのためならば、と、私はなるべく正義に寄り添い、純然たる普通の女子中学生として過ごしてきた」

マミ「……」

さやか「……」

まどか「……」

ほむら「だが私が過去の断片らしきそれらの記憶を手繰るにつれて、私は“個”として生きる決心を固め始めたのだ」


ほむら「…杏子とも、夜のゲーセンで会うようになってね……彼女とはよく夜通し、ゲームをしたものだよ」

マミ「佐倉さんと?」

さやか「杏子のことは、結構前から…?」

ほむら「ああ、杏子とは……そうだ、杏子は無事か?」

まどか「…うん」

ほむら「……そっか」


心の底から安堵する。

誰も死んではいない。ならば間に合ったということだ。

良かった。


ほむら「“暁美ほむら”は忘れ去り、私は暁美ほむらとして、私自身で新たな人生を生きる」

ほむら「まどかや仁美たち、学校の友達と過ごして」

ほむら「マミと、さやかと共に、魔法少女を生きて」

ほむら「杏子と、…そりゃあ考え方の違いもあったが、彼女ともいつかは仲直りして、それで、また遊ぶようになってさ……」


ほむら「……そんな日々が、ずっと続くと思っていたのになぁ」

ほむら「でももう、駄目みたいだ」


マミ「もしかして」

ほむら「……“暁美ほむら”が、私を侵し始めているんだ」

さやか「……そんな」


ほむら「一昨日から、私の記憶は途切れ途切れでね」


ほむら「……一昨日は夕暮れ時」

さやか(…その時に杏子が)

ほむら「昨日は放課後、魔女を探している時に記憶が切れてしまった」

マミ「その後に、美樹さんの家に…」


まどか「……待って、そんな…おかしいよ、時間がずれてきてるよ」

さやか「!」

ほむら「うん」

マミ「夕暮れ…放課後…そんな、まさか!」

ほむら「そうだ」


ほむら「…暁美ほむらが私を侵食するペースは、おそらく段々と早くなっている」


自分のソウルジェムを睨む。

半分黒く濁った私自身の魂が、今この時だけは、とても憎らしい。


ほむら「最初は記憶の断片…段々と夢はリアルになり…次は私自身を動かすまでになっている」


ほむら「もう時間がない、次に“暁美ほむら”が現れるのは、放課後を待たずしてだろう」


私は石の地面に膝を付き、正座した。


ほむら「お願いがある」

ほむら「……――――」


言おうと思って開けた口。言葉が出ない。

私の意志が躊躇を見せた。


自我を乗っ取られたわけじゃない。他ならぬ私自身がためらったのだ。


マミ「……お願い?」

さやか「何でも言って、私にできることがあるなら!」


……けど立ち止まってはいけない。

口に出さなくてはいけない。


今、すぐにでも告げなくてはならないのだ。



ほむら「……私のソウルジェムを、砕いてくれ」

さやか「!」

マミ「な…っ…そんなことできない!」

ほむら「私では砕けない…皆の手で砕いて、皆に安心してほしいんだ、私が完全に消え去ったことを」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「もう一人の私ではない、“暁美ほむら”がこの脳を占領し、悪事を働く前に、頼む……」


私は深く頭を下げた。


でも嘘だ。

死にたくない。消えたくない。

みんなと別れたくなんてない。


だが、仲間を殺すくらいならば、魂を粉々に砕かれて死んだ方がマシだ。


さやか「何か方法があるはずでしょ!?」

まどか「そ、そうだよ、もう一人のほむらちゃんだって、説得すれば…!」

マミ「……」

まどか「ねえ、マミさん!?」

マミ「説得……」


ほむら「過去の私を説得できると思うかい、マミ……」

マミ「……」


苦虫を噛み締めて舌の両端で味わったような顔をして、マミは目を逸らした。


マミ「……説得、できる自信……私にはないわ」

まどか「そんな!」

さやか「やってみなきゃ……!」

マミ「失敗すれば、私達も殺されてしまうかもしれないのよ?私は、皆を危険にさらす事はできない…!」


ああ。


ほむら「……ふふ」


私は幸せ者だ。


ほむら「ありがとう、マミ」


みんな、私のために涙を流してくれているのだな。

彼女たちになら、私の魂を差し出しても怖くない。


私には友達がいる。それだけで、死の恐怖を振り切るには十分だ。


マミ「……やめて、暁美さん、笑わないで……」

ほむら「さあ、ソウルジェムを受け取ってくれ」

まどか「ぅう…ほむらちゃん…」

ほむら「ありがとう、まどか…楽しかった」


さやか「……」


さやかが私のソウルジェムを、静かに受け取った。

静かな彼女の表情には、マミよりも、まどかよりも涙で濡れていた。


まどか「……さやかちゃん?」

さやか「…わだしがやるっ!」


決意を込めた綺麗な目だ。

涙が昼に近い太陽の光をうけ、綺麗に煌めいている。


QB「僕に止める権利なんて無いけれど、貴重な魔法少女を失ってしまうのは痛いなぁ」

マミ「……黙って見てなさい、キュゥべえ」

QB「やれやれ、まぁ、他の魔法少女に牙を剥くのであれば、それもやむなしか」



私のソウルジェムを、私よりも少し離れた場所に置き、ソウルジェムを挟んだ向こう側にさやかが立った。



さやか「……ほむら」

ほむら「ん」

さやか「……一緒に戦いたかった」

ほむら「……ふふ、だな」



そうだ。せっかくさやかが魔法少女になったのに。

私はまだ、彼女の晴れ姿を見ていなかったな。


彼女は、一体どんな姿になったのだろう。



さやか「……」


彼女が、幻想的な青い光に包まれる。


ほむら「……おお」


凛々しい立ち姿だった。

露出は高めだが、スタイルの良いさやかには似合う井出達だ。



さやか「うぐっ…あうぅっ…!」


右手に握りしめるのは、サーベルだった。


悪を断ち切る裁きの象徴。

正しい自分を突き通すための力の道具。



ほむら「……サーベルか、格好良いよ、さやか」

さやか「ほむらぁ……!」

ほむら「そんなに泣いていては、サーベルが上手く当たらないぞ」

さやか「ううっ……うん…!」

ほむら「ほら、よく狙って」


さやかがサーベルの柄を握りしめ、大きく真上に掲げた。

剣先は真下の私のソウルジェムへ狙いを定め、カタカタと小さく震え動いている。



さやかとマミならば、きっと上手くペアを組んでやっていけるはずだ。

ワルプルギスの夜は……わからないが、私がいなければ、きっと上手く具合に転がるだろう。

そう信じたい。


ほむら(……ふふ、“時よ動け、お前は美しいのだから”)



私がいなくとも、私が生きていたかった美しい世界を守る彼女たちがいる。

魂を差し出すには十分な素晴らしい未来が、私の脳裏には広がっていた。



さやか「ぁあぁああああああぁあッ!」


サーベルが振り下ろされる。



――ガキンッ





――ああ、意識が深い闇の底に……。




――……沈まない。





杏子「うわぁああぁぁあッ!」

さやか「きゃっ…!」


突如として現れた、赤い影。


槍の一撃で弾かれるサーベル。

勢いよく突き飛ばされる、さやかの身体。



赤い髪を垂れる小さな背が、顔を上げた私の目の前に、大きく広がっていた。



杏子「ほむらにっ…手を出すなぁああ!」

ほむら「……!」


マミ「佐倉、さん…!?」

まどか「え!?」



大きく咆えた杏子が、無茶苦茶に槍を振るってマミ達を遠ざける。

私を庇うように。

私を守るように。



ほむら「杏子…!」

杏子「ううううっ…ほむら、ほむらだよなっ!?」

ほむら「……ああ、私だよ、ほむらだよ」

杏子「杏子だよ?わかるよな!?私のこと、殺したいわけじゃないんだよな!?」

ほむら「当たり前だ…!友達を殺すわけないだろ…!」

杏子「ううう…!」


大粒の涙を流して、杏子は私を抱きしめた。

( *・∀・)<キマシ

>>503
しかたねぇな
http://beebee2see.appspot.com/i/azuYrpinBgw.jpg

>>517
(**・∀・**)-з

( *・∀・)σ)-∀・*)フニ


杏子「ほむらぁ…!」

ほむら「杏子……」


普段の気丈な姿を忘れ、おいおいと泣く彼女。

珍しい杏子の一面を見ることができた。


けれど。


ほむら「…杏子、駄目だ、離してくれ」

杏子「……!」


私を抱きしめたまま、頭をぶんぶんと横に振って抗議する。

ポニーテールが顔に当たって痛い。


さやか「……杏子…」

まどか「杏子ちゃん…」

マミ「今日はずっと隠れているって言ったのに…」

杏子「だって……あんなの聞かされて、黙って見てられるかよぉ!」


ほむら「離してくれよ、杏子…私は…」

杏子「知ってる!全部知ってるよ!」

ほむら「“暁美ほむら”を野放しにはできない…私のソウルジェムは砕かなくてはならないんだよ」

杏子「馬鹿野郎!諦めるんじゃねえよ!」


濡れた釣り目が私を睨む。


杏子「……マミ達からみんな聞いたよ、ほむらのことや、魔法少女のことも、みんな」

ほむら「…」

杏子「まどかを契約させちゃいけないってのは、そういうことなんだろ?」

ほむら「……そうだ」

杏子「なら、もう一人の方のほむらが私に殺意を抱いたのも頷ける気がする」

ほむら「え?」


杏子「ほむらじゃない方のお前は、私だけに殺意を抱いていた」

ほむら「……なに」

杏子「私を殺したい理由が、ほむらにはあったんだ…なら、説得ができるかもしれない…!」

ほむら「無茶だ!暁美ほむらは……」

杏子「最悪の場合でも、まだ正義を持ってる理性のあるやつならさ…殺されるのは私だけ、だろ?」

ほむら「杏子、離せ!本当に危険だぞ!」

杏子「…嫌だ!」


私の背に腕を回し、頑なに離そうとはしない。

これでは時を止めても無駄だ。


ほむら「マミ、さやか、杏子を…!」

マミ「……佐倉さん!」

杏子「みんな助かるかもしれないんだぞ!?」

マミ「!」


杏子「ほむら一人だけを死なすなんて、そんなの絶対にさせない!」

ほむら「!」



――ひとりぼっちは――



ほむら「ぁ…あぁあっ…!」


暑い。

佐倉杏子の体温が、早い鼓動が、小さな震えが、全身から私に伝わってくる。


杏子「……ほむら?」

ほむら「……」


あたたかい。

人肌が心地良い。


ほむら「……佐倉杏子」

杏子「!」



マミが身構え、杏子は身体を大きく震わせて反応した。

私の異変を感じたのだ。



私が“暁美ほむら”に成り変わったことを。



ほむら「……ねえ佐倉杏子、私を説得すると、確かにそう言ったわね」

杏子「…!」


腕を杏子の背中から、うなじへと回す。小刻みな震えは大きくなった。


さやか「ほむら…!?」

ほむら「私は佐倉杏子に聞いているのよ、美樹さやか」

まどか「!」


二人も私の豹変ぶりに気付いた。


ふふ。

誰もが私を恐れていた。


当然のことだけれど。



ほむら「ねえ杏子、これ、私のソウルジェム……わかるわよね?」

杏子「……」


彼女からは見えないだろうけど、拾い上げた紫のソウルジェムをちらつかせて見せた。


ほむら「変身すれば、貴女を殺すことなんてワケないわ」

杏子「……そうかい」

ほむら「貴女はそれでも良いというのね?」

杏子「……ああ」

ほむら「!」


両肩を掴み、身体を無理やりに引き剥がす。


私は、杏子の目を見なければならなかった。

目を見て、杏子の心の真贋を見抜かなくてはならなかった。



杏子「…アタシはそれだけのことをしてきたし、もしかしたら、これからやっちまいそうにもなった」

ほむら「……!」


嘘をついていない目。純真で濁りの無い目。

打算も何もない、佐倉杏子にあるまじき目をしている。


杏子「アタシを殺して、“ほむら”の気が済むなら……」

ほむら「ぁ……」


やめて。

そんな目で見ないで。

私は、誰からも許されることなんてしていない。許される人間じゃないのは私の方なのに。


杏子「いいよ、アタシを殺して」

ほむら「や、やめてぇええ!」


堪え切れず、杏子の胸を突き飛ばした。


押された杏子は静かに床にうちつけられた。


杏子「っ、たぁ……」

ほむら「……あ」


痛そうな表情。

でもなぜだろう。その表情がとても、静かで。

受け入れているような、そんな。


ほむら「ぁ、な、なんでよ、なんでそんなこと言うの」


自分のソウルジェムを血が滲みそうなほど握りしめる。

2歩も、3歩も後ろに退く。

一刻も早く、杏子から離れたかった。


でも杏子の穏やかな目線は、決して私を逃がさない。


杏子「…殺さないのか?ほむら…」

ほむら「む、無理よ…いや…そんな」


この杏子はもう、だめだ。

私はもう、この杏子に手を上げるなんてできない。


ほむら「ぁあ…!」


そして代わる代わるにやってくる後悔の波。

杏子への暴力。殺意への大きな後悔が襲ってくる。


もう駄目だ。とても私は、彼女を見ることなんてできない。


ほむら「うわぁぁああぁあ!」

カチッ


逃げないと。

グリーフシードを集めないと。

(*・∀・*)コノヘンニシトコカ


杏子「ほむらっ…!」


さやか「……消えた」

QB「瞬間移動が彼女の能力なのかな?」

マミ「今はそんなこと、どうでもいいわ」


まどか「…杏子ちゃん、大丈夫?」

杏子「あ、ああ…いや、私よりもさやか、ごめん」

さやか「ははは…大丈夫、大丈夫…ちょっと頭打ったけどさ」


杏子「……みんな、ごめん、ほむら、どっか行っちまったよ」

さやか「ううん、謝ることなんてないでしょ」

杏子「そうかな…」

さやか「うん、私はむしろ、杏子が止めてくれて…ほっとしちゃった」

杏子「?」


さやか「……ほむらを手にかけるのが、本当はすっごく怖かったんだ」

まどか「さやかちゃん…無茶しちゃ、駄目だよ…」

さやか「ははは、そうだね…私、やっぱりヒーローぶりすぎなのかもしれないわ」


さやか「…それだけじゃない、まだほむらが、何でもかんでもに襲いかかる狂人じゃないって解って良かったよ」

マミ「そうね…あの暁美さんの様子、ただ事ではないけれど、佐倉さんに敵意を向けることに躊躇しているように見えたわ」


杏子「……みんな、ほむらを探したいんだ」

さやか「うん」

マミ「ええ、もちろん」

まどか「……」

杏子「私の友達なんだ…お願いだ、手伝ってくれ」

まどか「……私も、あの、何も力になれないかもしれないけど…」

杏子「そんなことない、力がないだなんて言うなよ」


杏子「アタシは嬉しいよ、ホントにありがとう、まどか」

まどか「……てぃひひ」


本の魔女。


結界に入り、本の階段を駆け上る。

足下を狙って飛来する栞のナイフたちを盾で強引に弾き退け、なおもハードカバーを昇る。


階段の最上部で開きっぱなしの巨大な本が、はらりはらりと3ページめくれた。

そこに挟まれていた2枚の栞が宙に浮いて、燕のように階段のすれすれを飛びながらこちらに向かってきた。



ほむら「邪魔しないで…!」


盾をまさぐり、ツーハンドソードを抜き放つ。

使い魔が射出した栞のナイフを一凪ぎで消し去り、距離を詰める。


ほむら「はっ!」

使い魔「ぴぎっ!」

使い魔「きゅびい!」


横に並び、使い魔を両断する。

紙切れのように静かに揺られて落下する使い魔は、階段の脇から結界の下へと落ちていった。

下にどのような空間が広がっているかなどは、私は知らない。知っても意味は無い。

落ちることなどないのだから。



魔女「パララララ……」


魔女、つまり階段の最上部に居座る巨大な本は再び自身のページをめくり、何かを探し始めた。


カチッ


次に何かが来られても面倒なので、先手必勝の一撃を決めることにする。


カチッ


魔女「パラララ……!?」


ページをめくる動作は、ナイフ5本で容易く止まった。


ほむら「嫌だわ、紙を切ると切れ味が落ちるのに…!」

魔女「!」


ツーハンドソードを中心に振り下ろす。


まずはグリーフシードをひとつ。


ルチャの魔女。


魔女「ヒィィィヤッフゥゥウゥゥウウ」


結界に通路がない、その自身の分だけ、魔女自体が強力だ。

特撮でよく見るような巨人ほどではないが、ちょっとした二階建の民家ほどの人型の魔女が、空から大の字で落ちてくる。


カチッ


オレンジと水色の毒々しい模様の全身タイツに、同じ色の笑顔を浮かべる巨人。

この魔女のボディプレスをまともに受ければ、どんな魔法少女でも確実に即死だろう。


カチッ


魔女「ゴォオオオオオオォ!?」


しかし単純な攻撃しかできない魔女に対して、私が何らかの引けを取るはずもない。

時間を停止して、盾の中に無駄に入っていた刃物を床に固定するだけで、魔女は容易く手玉に取れた。


身体の全面に無数に刺さる刃。傷口からは、赤と青の体液がとめどなく流れる。



魔女「ォオオォウ…!」

ほむら「まだまだ…“あいつ”と比べれば、あなたなんて雑魚よ」


勿体ないが、巨体を葬るには大きなエネルギーが必要だったので、ガソリンによる大爆発で、一方的な戦いは終結した。


グリーフシードは落ちなかった。

武器を使ったから、反則負けなのかしら。ふふ。

くそ。


影の魔女。


巨大な石膏像が伸べる手の先に握られた松明。

その前で跪き、祈る黒い女の姿。


象徴的。ある意味献身的。

けど祈りなんてものは無意味。


少なくとも地に膝を付けている時点で、人に頼り切りなのだ。

立たない者に良い報いなどくるものか。


私はそれを信じ続けたい。

だからこの魔女は嫌いだ。


カチッ


ほむら「これが私なりの救いよ」


カチッ


時間停止を解除した時、私の目の前には黒いサボテンが佇んでいた。

結界は間もなくひび割れ、崩壊を始め、サボテンも跡形もなく崩れていった。


グリーフシード、ふたつめ。


海月の魔女。


能面のような単色の夜空に、等間隔で眩しい星が浮かんでいる。


一面は大海原。

結界に地面らしい地面はなく、海には正方形の木箱がいくつも浮かんでいるだけだった。



魔女「ォオオォオオ……」

ほむら「はあ、面倒くさい」



海面に顔を出した半透明の半球。そして隻眼。

高さでいえば先程のルチャの魔女と同じだが、足場が悪い分、戦い難い相手だ。

火器類があれば容易いものだけど、今は持ち合わせが少ない。


どこかの暴力事務所から漁ってきた散弾銃と拳銃程度。これではどうしようもない。


だから私は、余りに余った刀剣類を投げるという、ひどく原始的な戦い方を選んだ。


ほむら「やあっ!」


カットラスは回転させながらでも効果的に投げることができ、思いの外扱い易かった。

けれど私は“あのほむら”のように、こんなものを主軸に戦いたくはない。


こんな大きさだけの弱い魔女、RPGだけでもあれば事足りるのに。



魔女「グォオオオォオオ……」

ほむら「ふん」


結局、足場を変えて攻撃を避けつつ刀剣を投げるだけで、たった4分で魔女は倒れた。

目が弱点であることは知っていたから。


グリーフシード、みっつめ。

これくらいでいいわね。

(((魔女;・∀・)ヒィィ キョウハ オシマイ

ぼふん。


ほむら「……」


毛布の上に倒れ込む。

そして、毛布を身体に巻きつける。

外の世界を遮断する。自分の世界に篭る。


いつからだろう。こうしておかないと、心を保てなくなってしまった。


ほむら「……」


そして暗い毛布の中、自分のソウルジェムの輝きを抱いて瞑想に耽る。

自らの魂すらも監視して、異常があればすぐに処置を施す。


バカみたいな話だ。

近頃の最大の敵は、自分なのだから。



「にゃぁ……」

ほむら「!」


毛布の中に黒猫が入りこんでくる。


ほむら「エイミー……」

「にゃ……」

ほむら「……そっか、今はワトソン、っていうんだっけ」


ソウルジェムが瞬いた。

いけない。自分に嫉妬してしまうなんて。


ほむら「……」


このままではいけない。

もう私は限界を感じたのだ。

全てを、私に託さなくてはいけないのだ。


他ならぬ私のために。

まどかのために。


ほむら「……」


ソウルジェムを左手で握り込み、耳にあてがう。

それは海辺で拾った貝殻のように、魂の流れをささやかな音に変える。


私の脳には今、二つの記憶がある。

ひとつは限定的な範囲の記憶を持っている、もう一人の私。

もうひとつは、それを内包する全ての私。


限定的な私へと、私のコントロールが移った時。

全ては彼女に託されたはずだった。


私が持つ負の記憶を全て忘れ、全てを捨てて生きるはずだった。


けれど、どういう巡り合わせか、彼女は綺麗な道筋を作り、わざわざ私が立てた“立ち入り禁止”を蹴飛ばして、今のここまできてしまった。

暁美ほむらは、やっぱりまどかと出会う運命なのだろうか。



ほむら「……身勝手なあなたなら、身勝手に運命の輪を外れてくれると思ったのに」


記憶の葉を揺らし、枝をゆらし、最後には木をも揺らしてしまった。全てが台無しになった。

けどそれは私にも責任のあること。


私がケアをしなくてはならないこと。

――――――

――――

――


意識が部屋に落ちる。

私の過去の部屋。

私の頭の中だけにある、私の部屋。



『……』

ほむら『…突然ここへ飛ばされて驚いたのが一つ、そして来てみたはいいが、先に君がいなかったことが二つ目だよ、暁美ほむら』


シルクハットとステッキを携えた私がソファーに座っていた。

足を組み、余裕ありげにそこに存在している。


私は黙って、彼女と向かい側のソファーに腰を落とした。


ほむら『何度となく君と出会った事はあるが、私の抽象的な深層心理くらいにしか思っていなかったよ』

『……』


饒舌。


ほむら『でも昨日わかった……ここは君、暁美ほむらの世界なのだと』

『……』

ほむら『そして君は、何故私が君と会話ができるのかは不思議だが、間違いなく“暁美ほむら”だ』


得意げに話す様は、誰にも似ていない。

まるで私ではないみたいだし、誰と例えようもない。


私なのに、初めてのタイプの人。



ほむら『…君と対話ができるなら、聞きたいことは結構ある…いいかな』

『……ええ』


もとより、そのつもりだった。


ほむら『身近なことから聞こう…どうして、杏子を殺そうなんて酔狂なことをしようと思ったんだ?』

『私の、為よ』

ほむら『杏子を殺して何のメリットがあるというんだ、まどかを勧誘したからか?』

『……間接的にはそう、けど直接的な理由が他にあったから』

ほむら『ほう』

『それを説明する時間は無い……こんな短い夢の中じゃ、いつまで経っても終わらない話が続く』

ほむら『……』


『安心してほしい、もう杏子には手を出さないから』

ほむら『! 本当か?』

『ええ、もうそんな気分じゃなくなったもの』

ほむら『気分……だと』


向かい側の私の目つきが鋭くなる。


ほむら『君は気分で杏子を殺すのか、暁美ほむら』


じゃきん。と盾の中から取りだしたのは、一本のカットラス。

立ち上がって、私の首元に伸べている。


『物騒なものを仕舞ってくれないかしら、無駄よ』

ほむら『ここで君を殺せば、暁美ほむらはどうなるのかな』

『どうにもならないわ、貴女の目覚めが悪夢になってるだけ』

ほむら『……』


納得がいかない。もどかしい。

彼女はそんな顔をしている。


『……杏子は無事だし、誰も怪我はしてないわ』

ほむら『! ……そうか』

『ええ、貴女は私を、魔法少女を殺し続ける殺人鬼か何かと勘違いしているのだろうけど……いえ、でも合っているのかしらね』


紛れもなく私は、人殺しなのだから。


ほむら『…君は、魔法少女を殺した事はあるんだろう』

『……ええ、あるわ……』

ほむら『今まで』

『“数えるのをやめるくらい”』

ほむら『……』


『……ふふ、でも良いのよそれは…仕方のない事だったから』

ほむら『……君がわからないよ、暁美ほむら』

『?』


もう一人の私が深く息をつく。


ほむら『私は君の為にあらゆる事を頑張ってきたつもりだけど、私は途中から君の為に努力することをやめてしまった』

『……何の努力もする必要はなかったわ』

ほむら『厚意を無駄にするなよ、そして応えてほしかった』


ほむら『…君は、魔法少女だが…普通の女子中学生として生きることもできただろうに』

『………………何も知らないくせに』

ほむら『!』

『知ったような口を聞かないでよ!?私がどれだけ普通の女子中学生として生きたいと、今まで願ってきたか!!』

ほむら『お、おい』

『何度も何度も私は頑張ってきたの!貴女のやってきたことなんて些細!私と比べれば、貴女なんて……!』


がし。

手を掴まれる。


ほむら『……そうだな』

『……!』

ほむら『…すまない、私は何も知らないのに、軽率だったよ』


私の手は暖かかった。


ほむら『…私はこのまま、どんどん私の時間を失い…消え去ってしまうのかな?』


手を握りながら尋ねる彼女は、憂いある表情だった。


『……ええ、そう、ね』

ほむら『そうか…』


諦めの笑みは、自分でも見ていて辛かった。


ほむら『…君は、私の記憶も持っているのかな?』

『ええ……でも、ちょっと変だけど』

ほむら『なに?どこがだ』


本当にこの私は“なに?”という顔をするから、こっちが不思議に思う。

彼女は本当に私なのだろうか、と。


『……けれど、このまま何もしなければ、という事でもあるわ』

ほむら『え?』

『手段がないわけではないのよ』

ほむら『しゅ、手段とはつまり』


『…あなたが、見聞きして、歩いて、感じて……私を動かせる時間を設けることができる、その方法が、よ』

ほむら『本当か!?』


そう、そのために私は彼女に会いに来たのだ。

(毛布)*・∀・)っ ココマデ ナノヨ

三三三((((アンニャ*・∀)ウヒャヒャヒャヒャ


ほむら『君の全ての時間が欲しいとは言わない』

『……』

ほむら『少しでも良い、マミたちと一緒に過ごせる時間を、私にも分けて欲しい!たのむ!』


『…謙虚ね』

ほむら『え?』

『私の時間、全て欲しくは無いの?』

ほむら『…欲しくない、と言ったらウソになる』


ほむら『でも暁美ほむら、君が悪い魔法少女でないと、今なら信じられるんだ』

『……そうかしら』

ほむら『そんな君から時間を取ろうとする事自体が、私の傲慢な願いでもある』

『そんなことないわ…貴女だって、私なんだもの…私の時間を有する権利はあるわ』

ほむら『……』


『…“そうは思えない”って顔をしているわね』

『大丈夫、これから全てを知ることになるのだから』


ほむら『……?』

『……ねえ、貴女はこれを何だと思ってた?』


左腕の盾を指し示す。


ほむら『時を止められる盾だろう』

『そうね、時を止められる盾…同時に、砂時計でもあるの』

ほむら『砂時計?』

『ええ、砂時計……ひっくり返して、落ちた時間をさらさらと戻すことのできる砂時計』


ほむら『…時間操作』

『この魔法を手にした時から、私の迷走は始まっていたのよ』

ほむら『どういうことだ』

『それを今から知るのよ、“暁美ほむら”』


盾から拳銃を取り出す。

使い慣れた、オートマのハンドガンだ。


ほむら『……何を』

『今から貴女に撃つのは、ただの弾ではないわ』


『私の魔力を込めた、魔法の弾……貴女と、それを包む私との間の壁を取り払う弾よ』

ほむら『意味がわからな……』


言葉を遮り、銃口を暁美ほむらの右こめかみに押し当てる。


ほむら『……』

『境界が消え去れば、貴女は私に戻ることができる……二人の“暁美ほむら”は混じって、全ての記憶を共有するわ』


『その後、私は魔法の弾の効果ですぐに封印されるけど…まあ、とにかく撃てばわかるわ』

ほむら『なあ、少し心の準備を―――』

『大丈夫よ、理解するのは一瞬だもの』


『そして、……自分に押し付けるなんて、最低だとわかっているけど……どうか耐えて』

『私はもう、貴女を信じなければいけないの』



タァン。軽い音と共に、銃弾は暁美ほむらの頭部を打ち抜いた。


―――

――――――

――――――――――――


まどか「ほむらちゃん、ごめんね。私、魔法少女になる」

ほむら「まどか…そんな…」

まどか「私、やっとわかったの…叶えたい願いごと見つけたの。だからそのために、この命を使うね」

ほむら「やめて!」


ほむら「それじゃあ……それじゃあ私は、何のために…」


何のために、今までやってきたというの。

私はただ、貴女だけを救いたかったのに。

何故貴女は、私の差し伸べる手を弾いてしまうの。


まどか「ごめん。ホントにごめん……これまでずっと、ずっとずっと、ほむらちゃんに守られて、望まれてきたから、今の私があるんだと思う」

まどか「ホントにごめん」


謝らないで。私に守らせて。


まどか「そんな私が、やっと見つけ出した答えなの。信じて」

まどか「絶対に、今日までのほむらちゃんを無駄にしたりしないから」

ほむら「まどか…」


無駄になる。

まどかはまた、魔女になる。

私はまた、まどかを守れずに終わってしまう。


QB「数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない望みだろうと、叶えられるだろう」


嫌だ。


まどか「本当だね?」


そんなの嫌だ。


QB「さあ、鹿目まどか――その魂を代価にして、君は何を願う?」


そんな未来、絶対に許さない。


そんなの私の望む未来じゃない。

まどかの望んだ結末じゃない。


まどか「私…」

まどか「はぁ…ふぅ…」

まどか「全ての――」


それは、まどかの望んだ未来じゃない!


ほむら「うあああああああっ!」


左手のすぐそばにあった小石を、思い切り投げる。

一番近くにあった、一番殺傷力のありそうな石。


QB「きゅブっ」

まどか「きゃっ!?」


インキュベーターの顔面は、風船のように弾け散った。


まどか「あ……ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「はーっ…はーっ…!」


させない。

この腕一本だけしか動かなくなったとしても。

絶対に、まどかに契約はさせない。



QB「今は大事な時なんだ、邪魔しないでほしいな」


インキュベーターはしつこく現れる。

わかっていた。

それでも私は立ち止まるわけにはいかない。



QB「さあ、まど――」

ほむら「ぁああぁああっ!」


石は再びインキュベーターに命中し、胴体を喰い破った。


まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「駄目よ…絶対に駄目…!まどか!どうしてわかってくれないの!?」

QB「わからないのはこっちの方だよ、暁美ほむら。契約するかしないかを決めるのは、その当人次第なんだよ?」

ほむら「うるさい!絶対にさせない!絶対に!」

まどか「……ごめんね」

ほむら「!」


まどか「ごめんね、ほむらちゃん……それでも私は…」

ほむら「やめて…!」

QB「さあ鹿目まどか、君の願いを……」



盾を開き、ショットガンを取り出す。

先台を片手で、勢いだけでスライドさせて、白い悪魔へ合わせ、放つ。


まどか「ひっ!」


大きな音と大きな反動と共に、インキュベーターは跡形もない肉片となって飛び散った。


深い息と共に銃を降ろす。

私は何度だって、この銃であいつを撃ち抜いて見せる。


ほむら「まどか……お願い」


私はまどかさえ無事であれば良いのに。

優しすぎる彼女は、いつだってそれを受け入れてくれない。


まどか「……ほむらちゃん」


まどかは悲しい表情をしている。

いいえ、それよりかは、困ったような表情だった。


駄々をこねる私という子供を相手にして、困っているような、そんな。


ほむら「お願いよ、まどか…私に、守らせてよ…」

まどか「……ほむらちゃん、私の叶えたい願いはね、」




そこまで言って、まどかは私の視界から消えた。


ほむら「―――え」


そのかわりに飛びこんできたのは、巨大な鉄骨をむき出しにした、コンクリートビルの破片。

少し遅れてやってきた喧しい音は、がりがりと壁面を削りながら私の後方へと流れていった。


ほむら「あ、あ……」


まどかの立っていた場所には、大きな破壊の爪跡と。

血だまり。



ほむら「ぁあぁああああぁああぁッ!!」


まどかはどこにいった。

私は手榴弾で脚を破砕して、彼女の姿を探した。


ほむら「まどか…まどかぁっ…」


脚から血が流れ出る。そんなことはどうだっていい。脚なんてなくても生きていける。

まどかはどこ?

さっきまであっちに立っていたのに。



「まどか!急いで願い事を!まどか!」


ほむら「!」


性懲りもない奴の声が聞こえた。

感情の無い奴の声は、ひどく切迫している。あっちにまどかがいるんだ。まどか。



QB「まどか!何でも良い、願い事を!自分の命でも、何だって君なら叶えられるんだ!」

ほむら「……!」



凄惨な姿だった。


灰色の破片がまどかの下半身をすり潰し、腕を削ぎ、まどかの顔は、半分皮膚が無かった。


QB「まどか……!」


それでもなお、自分たちのために勧誘を続ける奴の姿は、まさに悪魔と言う他ない。


ほむら「ぁああ、まどか!まどかぁ!起きて、起きてよ…!」

まどか「……」


まどかのもとに擦り寄って、彼女の肩を掴み、声をかける。

でも彼女は反応を示さない。

口元がわずかに、開いたり、閉じたりするだけ。


けど。


まどか「……」

ほむら「……っ!」


彼女の涙を湛える目は、“無念”を示していた。


QB「……やれやれ、なんてことだ」


まどかは、それきり動かなくなった。



ほむら「まどか……」


強い意志をもっていた先程までの彼女の双眸が光を宿していない。

汚らしい色をした血で汚れ、煤け。まどかは一瞬のうちに、死んでしまった。


QB「君の時間稼ぎも無駄ではなかったみたいだね、暁美ほむら……完敗だよ」

ほむら「っ!?」


赤い目が私を刺す。


QB「まさか、あんな時間稼ぎで僕の契約を阻止するなんてね……まさか、これも計画のうちだったというのかい?」

ほむら「ち、ちが、私は……」

QB「契約する前の鹿目まどかはただの少女……その時に殺してしまえば、彼女は契約なんてできなくなる…さすがの僕も、死者とは契約はできないからね」

ほむら「私は殺してない、違う…!違うの…そんなつもりじゃなかったの!」

QB「結果として鹿目まどかは死んだ、君に殺されたようなものじゃないか」

ほむら「ぐぁ……あ…あぁ…」

QB「やれやれ、せっかくワルプルギスの力を利用できると思ったのにな…まどかのような素質の魔法少女はもう居ないし…」


ほむら「まどかぁあああぁああっ!!」


私は、もう立ち止まれない。

このまま死ぬことなんてできない。

魔女になんかなれない。


まどかを。まどかを助けないと。

早くまどかを助けないと…!



砂時計が反転する。

――――――


ほむら「あ……」


自分でも驚くくらいの情けない声で目を醒ました。

いつもの陰鬱な病院のベッドの上。


ほむら「あ、ぐぁ、あ……ああ……まどか……」


手で顔を覆う。このまま自分の手を噛み砕きたい。

私はなんてことをしてしまったのだろう。


私は今まで、まどかのためにとやってきた。

けど、一体だれが私の行為を正当化できるというのだろう。

私は何度も何度も時間を戻して、一人の少女の願いを否定し続け、彼女を殺し続けているだけなのに。


ほむら「ごめんね、ごめんねまどか、ごめんねぇ…!」


インキュベーターの言っていたことはまさにその通りだ。

あの時のまどかは。

あのまどかは、紛れもなく私が殺した。


ほむら「……!」



そこまで自責の念を渦巻かせて、私は自分のソウルジェムが限界に近い事に気付く。


ほむら「ぁああ!い、急がないとっ!」


私は部屋を窓から抜けだし、もっとも近い魔女のもとへと向かった。

グリーフシードを手に入れなくちゃ。


地獄の日々だった。

毎晩の夢に、あの日のまどかが出てくる。


まどかの死に際の瞳が私に語りかけてくる。

“どうして私を殺したの?”と。


私はそのたびに、汗だくで起き上る。

目ざましは必要なくなった。

どうせろくに眠れないから。


けれど。

けれどまどかに会えば、きっと大丈夫。

私はまた、まどかを守る。

今度こそ、きっとまどかを守ってみせる。


もうあの時のような失敗はしない。まどかを殺したりなんかしない。


私のささやかな希望が辛うじて形を保っていたのは、学校での自己紹介の時までだった。


和子「じゃ、暁美さん、いらっしゃい」


いつものように、強い自分を演じる。

凛と歩き、教壇の前に。


さやか「うお、すげー美人!」

まどか(え…?)

まどか(嘘…まさか)


ああ、まどか。

まどか……。


和子「はい、それじゃあ自己紹介いってみよう」

ほむら「……暁美、ほむらです」


言葉の歯切れが悪い。ちゃんと言わなくてはいけないのに。なのに。


ほむら「よろしく、お願……ッ!」

まどか「!!」


唐突な吐き気が私を襲った。

堪らずに、私はその場にしゃがみ込む。


和子「暁美さん!?」

ほむら「っ…!!」


突然にせり上がってきた吐き気。

眩暈。頭痛。いえ、とにかく全身が痛い。全身が苦しい。



私の心はもう、あの目を見た時から。

厄介な砂時計を抱えていたのだ。

(布団)*・∀・) (・∀・*))) ココマデ

(布団)*=∀=)#・∀・)子供が起きるデショ!


まどかの顔を見ることができなかった。

少しでも目を向けるだけで、あの時の顔が思い浮かばれるのだ。


ほむら「……」

まどか「あ、暁美さん、大丈夫?」


だから、保健室に向かう途中が一番の苦痛だった。

体重の半分をまどかに預けつつも、私は目を開けることができない。

手が空いていれば、耳さえも塞ぎたいくらいだった。



ほむら「ごめんなさい……」

まどか「いいよ、私、保健委員だから…」

ほむら「本当に、ごめんなさい……」

まどか「気にしなくていいって…」



私はいつもと違う日々を過ごすことになる。

インキュベーターを追いかけ回し、まどかを極端に避けるという、矛盾した日々を。


巴マミはインキュベーターのこともあり、私を嫌悪した。それに付随して美樹さやかも私を嫌悪した。

まどかも私を警戒するようになった。


ほむら「……」

まどか「……」

さやか「……」

マミ「……」


いつかと似たようなものだった。


巴マミを裏で助けることはできた。

しかし美樹さやかは魔女となり、それを知った巴マミは錯乱してまどかを撃った後、すぐに自決した。


寂れた橋の下では、3人の抜け殻が横たわっている。

私が発見したのは、彼女たちの反応を見失ってから、2時間後のことだった。


また、まどかを守れなかった。

ワルプルギスの夜が来る前だというのに。



ほむら「……」


守れなかったのではない。

私の遠まわしで、おっかなびっくりな行動が、結果としてまどかを殺したのだ。


私がまどかを殺した。


ほむら「……魔女、倒さないと」


ワルプルギスの夜を迎えるまで、私は魔女を狩り、グリーフシードを集め続けた。

火器を集める気には、到底なれなかった。


様々な世界を歩き続けた。

かつてと同じように、まどかを守るために、世界を歩き続けた。


けれど、どこか可笑しい。

“打倒ワルプルギスの夜”を抱いていた自分を遠くに感じる。

ワルプルギスの夜が来る前に、まどかが死んでしまうのだ。


ある時は巴マミ、美樹さやからと一緒に魔女に殺されたり。

ある時は魔女となった美樹さやかにより殺されたり。

集団自決に巻き込まれたり。

……勢い余った杏子に殺されたこともあった。


時を歩くたびに、たくさんのまどかが死んだ。私が殺した。


私があまりにも、あまりにも弱すぎたから。


まどかの空虚な目に怯え、心揺さぶられ……まどかの“呪い”を受けた私は、かつてのように動くことができなくなってしまっていたのだ。


そのかわりに魔女と戦う時間が増えた。私のソウルジェムが、あまりにも早く濁ってしまうから。

まどかを守ろうと決心を固める度に、私の魂はそんな驕った私を拒絶するのだ。


私は、そんな私を保つためだけに魔女を倒し、グリーフシードを集め続けた。

まどかを守ることもできずに。

その思いもまた負の連鎖として組みこまれ、私を蝕む。




この世界は何度目か。


本当に数えることも忘れた頃になって、私は嵐吹きすさぶ見滝原の灰色の大地。

私は、血みどろになったまどかの遺体のそばに立っていた。


気がつけば、まどかの遺体の脇に立ちつくす自分がいる。

少し気を逸らしていた、で1カ月を跨ぐ自分が存在している。


私はいつからか、自らのソウルジェムを濁らせない行動のみを取るようになっていた。

キュゥべえを殺す。魔女を殺す。


失恋してまどかを突き放した美樹さやかには躊躇なく引導を渡すし、まどかに契約するよう持ちかける佐倉杏子には問答無用の殺意が芽生えたが、彼女はすぐに逃げてしまう。

かつて、巴マミに言われた言葉を思い出す。


「いじめられっ子の発想ね」。


その通りなのかもしれない。

私は決して敵わないワルプルギスの夜ではなく、他の対象を攻撃するようになってしまっているのかもしれない。



ほむら「……」


私の右手には一挺のハンドガンが握られていた。

弾はまだ撃っていない。もう全てが崩壊した後だというのに、ワルプルギスの夜とはまだ戦っていないから。


ほむら「……愚かよね、私って」


私の魂のような色をした暗雲を見上げて、つぶやくように語りかける。


ほむら「まどかを守る……そのためだけに生きると決めていたはずなのに」

ほむら「今の私には、まどかを守れる力がない」

ほむら「それでも私は、触れも見れもしないまどかとの出会いをやり直すために、また砂時計を置き返すのよ」

ほむら「本当に愚かだわ」


ハンドガンを自分の右こめかみに押し当てる。

冷たい鉄の感触。


ほむら「……まどかを守れないのなら、まどかを守らない私でありたい」

ほむら「もうこれ以上、まどかを守らない私になりたい……まどかを殺さない私になりたい」


ほむら「ねえまどか……私も、かっこ良い自分になれるよね?」


ハンドガンに魔力を注ぎ込む。

それは、遅すぎる私のためだけの祈り。私の身勝手な願い。


もう私がまどかを守れないのであれば、そんな私を捨てて、新たな私になってしまいたい。


ほむら「さよなら、まどか」


私はハンドガンの引き金を引いた。

何度も。何度も。何度も。


全ての弾を撃ち尽くすまで。

銃弾が私の頭部を半分以上、壊し尽くすまで。



ほむら「…ッ…ッ……」


それでもなお、わずかに宿した魔力の脳は、私の身体をゾンビのように動かす。

醜い仕草で盾を掴み、砂時計を反転させる。


怨霊が新たな自分に生まれかわるために。




――――――――――――

――――――

―――

(布団)*・∀・)ノシ ココマデー

ヽ(*・∀・)人(・∀・*)ノ 春の肉まん大感謝祭


ほむら『……!』


記憶の奔流が収まると、“暁美ほむら”の今までの全てが、私の脳内に焼き付けられた。

散っていった命。助けられなかった友達。


彼女が抱えてきた、いつまでも終わることのない戦いの記憶。

奔走するも無力に終わる自分の戦い。

無力を承知で掛かっても倒せない敵。



『…これが、私の全てよ』


床に倒れる私を見下ろす“暁美ほむら”の目は、とても冷たく、無感情だった。

私に銃弾を撃ち込んだためか、夢の世界はちりちりと焼け煤けはじめ、端から崩壊を始めていた。


この部屋の崩壊が終わった時、きっと“暁美ほむら”は、再び魂の中へと篭るのだろう。


私は頭を押さえながらも立ちあがる。


ほむら『暁美ほむら……』

『私はもう、この世界を見ていたく無いの……当分の間、ここでじっとしているわ』


全てに疲れた表情。

いつの記憶か、さやかから言われた“全てを諦めた顔”とはこのことだろう。



『この世界を押し付けちゃって、ごめんね…でも私は、限界だから…』

ほむら『……』

『貴女が私の戦いを引き受ける必要はないわ……だから、あなたは暁美ほむらとして、どこか遠くで……静かに暮らして』


『……それが私の願いよ』


ほむら『……それが、君の望んだ未来かい』

『え?』


ほむら『私は空虚な人間だ』

ほむら『私は魔法少女……しかし願いはなく、執着もなく、信念がない』


ほむら『精神がすりきれるまで戦い続けた暁美ほむら……君は、立派な人間だよ』

ほむら『まどかを守るために魔法少女となり、何カ月も、何年もその戦いを繰り返している』


ほむら『何が起ころうとも、挫けそうになろうとも繰り返す』

ほむら『全ては、たった一人の少女の為にだ』


ほむら『……私にそんなものはなかった』

ほむら『私はいつだって、ただ漠然とした“格好良さ”だけを求めて生きてきた』


ほむら『暁美ほむら、君が怨霊だというのなら、私は亡霊だよ』

ほむら『何もない、存在しているかどうかも怪しいただの亡霊だ』


ほむら『……君は怨霊だろう?ならばその恨みは、世に顕現して果たすべきだろう』

ほむら『このまま私の中に閉じこもっていて、いいはずがないだろう?』


『……どうしろっていうのよ』

『貴女もわかっているはずでしょ…?私はあらゆる手を尽くしてきた』


『途方もない時間を費やして研究して、実践してきたのよ…それでも、無理なの』


『必ずワルプルギスの夜はやってきて…私の望む未来を消し飛ばしてしまうのよ』

ほむら『……君も同じことを言うのか?暁美ほむら』

『え?』


ほむら『魔法少女はあらゆる条理を覆す存在だ』

ほむら『君の望む未来は必ずある』

『……だからどうしろっていうのよ…!』

ほむら『ふふん、わかってないなあ、暁美ほむら』

『え?』


ほむら『私の魔法はね、暁美ほむら……奇跡を起こすんだ』

ほむら『私達が奇跡を起こさずして、誰が奇跡を起こすというんだい?』

『……!』



空想の部屋が焼け崩れ、消え去ってゆく。

夢から覚める時間がやってきたようだ。


けれど、ぼやけた夢の中で最後にみた“暁美ほむら”の表情は、


どこか、再び希望を抱いたような表情だった。


ほむら「……」


むくり。起き上る。

が、しかし私の身体は無力、起き上れずに床に倒れた。


ほむら「痛っ」


身体中を毛布で雁字搦めにされていたのだ。

なんとも器用に巻かれている。


こうでもしなければ、外界のものに嫌でも目が行ってしまうのだろう。


ほむら「…暁美、ほむら」


私は全てを思い出した。

何故契約したのか。

何故魔法少女を殺したのか。

キュゥべえは何者なのか。


私はあらゆる全てを理解した。

同時に、私の肩へ一気に重圧がのしかかる。

あまりに凄惨すぎる未来を回避する、私だけの使命。


でも同時に高揚する。私が初めて手にした、私の生きる意味。


「にゃぁ」

ほむら「ワトソン……いや、エイミーって呼ぶ方がいいのかな」

「にゃ?」

ほむら「ふふ、いや、ワトソンでいいね」

「にゃ」


あらゆる世界での過去と未来を理解した私は、心の中の深で決意する。

暁美ほむら。必ず君を救ってみせる、と。


ほむら「いただきます」

「にゃー」


それにしても、これほどの量の記憶が一度に頭へ刻みこまれたというのに、私も悠長なものだと思う。

おそらく未だ“暁美ほむら”を他人として見ている自分が居るのだろう。


まどかを巡る日々の記憶が、どうにも当事者のものとして実感できないのだ。


ほむら(それにしても、まどか、ねえ)


半透明の麺を啜りながら考える。

まどか。記憶の中では、暁美ほむらにとって欠かせない存在であった彼女。


もちろん私にとってもまどかは大切な友達ではあるが、願い事として彼女を救い続けるほどかと問われれば、正直口ごもってしまう。

似たような願いはあれども、まどかを名指しすることはないだろう。


私自身だというのに、たいした温度差だ。



ほむら「ごちそうさま」

「にゃ」


ワトソンも缶詰を食べ終えたようだ。

綺麗に食べたので頭をなでてやる。ワトソンは喜んだ。



ほむら「……よし、じゃあワトソン、行ってくる」

「にゃ」

ほむら「……なに、着いてきたい?珍しいな、まったく」

「にゃぁ~」


さて。

ワルプルギスの夜が見滝原にやって来るまで、そのタイムリミットが間近に迫ってきた。


ワルプルギスの夜をなんとかしなければ、暁美ほむらにも、私にも未来はない。

私がやらなくては。


さやか「おっはよー」

まどか「おはよう、さやかちゃん」

仁美「おはようございます」


まどか『……ねえ、昨日はやっぱり』

さやか『うん……マミさんと夜まで探してみたけど、駄目だった』

まどか『……』


仁美「そういえば昨日から、ほむらさんはどこへ行かれたのでしょう?」

さやか「へっ?あ、あ~…そうだね、急に何も言わずに早退なんてね…エスケープ?」

まどか「…心配だよね」

さやか「……うん」

仁美「何もなければ良いのですけど…」


仁美「ふふ、けど、ほむらさんなら何事もなかったかのように教室で振る舞っていそうですわね」

まどか「! …えへへ、そうだね」

さやか「……ね、きっとね」

まどか「うん」


まどか「あ!」

さやか「ん、どうしたまどか……あ」



恭介「……」

「~…?」

恭介「……、……」

「……、……?」



さやか「……恭介」

まどか「退院、したんだね」

仁美「あら、上条君、大丈夫なのですか……?」

さやか「あー…手の調子が良くなったから、復学するんだって」

仁美「そうなのですか…」


さやか(…なによ、退院するなら一言でも言ってくれればいいのに)

さやか(まぁ、一足早い退院お祝いはやったから、良いのかな?)


ガラララ・・・


さやか「みんなおは……」

ほむら「ん?やあ、おはようさやか」

さやか「……え」

まどか「え?」

ほむら「む」


ほむら「ああ、おはよう、まどか」

まどか「……お、おはよ」

仁美「ほむらさん、おはようございます、昨日は何かあったのですか?」

ほむら「おはよう仁美、…うん、まぁ色々あってね」

さやか「色々ってちょっと、」


ほむら「けどもう大丈夫」

まどか「!」

ほむら「もう、そうそう夢遊病になったりすることもないだろう」

仁美「夢遊病?寝ていないのに……?」

さやか「……それって」

ほむら「ふふ」


ほむら『おはようマミ、昨日はすまなかったね』

『……!暁美さん!?』

ほむら『私ならもう大丈夫だよ、マミ』


和子「え~ですので、この文章にはMrsとありますが、既婚者かどうかを区別するためだけにこういった言葉回しを変えることは非常に失礼です、なのでどのような相手であってもMs……」


教師の私情入り混じる授業を適当に聞き流し、テレパシーの会話は粛々と進む。


ほむら『暁美ほむらとは私の方で和解してね、時間の大半を譲ってくれるそうだ』

さやか『それ、本当に……?』

マミ『じゃあ、暁美さんはこれからも今まで通りに過ごせるっていうこと…?』

ほむら『そうだね、特に不便はないと思う』

まどか『……良かったぁ…』


まどかの安堵する声。

そうやって安心するにはまだ早いんだな、これが。特にまどか。君が安心するのは、きっとまだまだ先の事だ。


まどか『昨日、杏子ちゃん、すっごく心配してたんだよ…?』

ほむら『杏子が……そうか』


暁美ほむらは出てこないし、出てきたとしても、もはや彼女に危害を加えることはないだろう。


ほむら『杏子に会いたいな』

マミ『すぐに会ってあげなさい、私たちに頭を下げてまで、彼女は暁美さんの事を探していたんだから』

さやか『ひょっとしたら今でも探してるかも……』

まどか『杏子ちゃん、携帯持ってないんだよね』

さやか『ん~、参ったなあ、次は杏子探しってこと?』

ほむら『……そうだな、放課後になったら杏子を探すか』


とにかく、ひとまず全員を集めなくてはならない。

今までの事に決着をつけるために。これからのことを決めるために。


放課後と同時に、私は学校を飛び出した。

最近めっきりできなくなったマジックショーに勤しんでから、とも思ったが、そんなところを杏子に見られたら2発ほどは殴られそうだったので、真面目に彼女を探す。



ほむら(杏子なら、きっとゲームセンターにいるんじゃないか)



私の足は、いつものゲームセンターに向いて急いでいた。

よくある話で、誰かを探す時、その人との思い出の場所に行けば見つかるという、お決まりのパターンだ。

その線でいけば、きっと杏子は隣町のゲームセンターにいるはず。


噴水ある公園を横切って、端を渡って、そうすればすぐだ。




杏子「……」

ほむら(……あ)



公園のベンチに杏子が座っていた。

ゲームセンターじゃなかった。そうか、公園か。そうくるか。


ほむら(……よし)


思い通りとは事が進まなかった腹いせとは言わないが、なんとなく遠目に窺える杏子に悪戯をしでかしたくなった。

こっそりと、ベンチの裏側から忍び寄ってやろう。


杏子(……ほむら、どこに行ったんだろ)

杏子(もう、見滝原には居ないのかな…)


杏子(…会えないなんて、そんなのウソだろ…?)

杏子(みんな待ってるんだよ?お前の帰りをさ……)


ほむら「……」

杏子(ほむら……)


すぱぱーん。

紐を引くと共に、高い炸裂音が閑静な公園に響き渡る。


杏子「うっわぁああ!?」


カラーのペーパーリボンを髪にひっかけた杏子が、前のめりに倒れる。

クラッカーでここまでびっくりするとは、さすがの私も予想外だ。


杏子「ななな、なん……な?」

ほむら「やあ」


空になったクラッカーを持つ私は、軽く手をあげて挨拶をしてみせる。

涙を浮かべながら飛びつき抱き合うのも悪くは無い再会だが、どうしても私は、そういうのは苦手のようだ。柄ではないというのか。


杏子「……やあ、じゃねえよ!」

ほむら「…すまない」


怒られた。


杏子「すごく、すごく心配してたんだからなあっ!」

ほむら「!」


そして、抱きつかれた。

柄ではないのだけど、私もその背に手をまわしてやることにした。


私ではなく、杏子が泣いた。子供のようにおいおいと。

私だってこうして会えたことが、涙を流すほどに嬉しい。

けれどこうも泣かれてしまっては、私はそれを受け止める立場にいなくてはならないだろう。


そんなことを気にする私は、やっぱりまだまだ格好つけということだ。



杏子「ぐすっ……もう、大丈夫なのか?また、ほむらじゃなくなるのか?」

ほむら「もう大丈夫、私とは和解したからね」

杏子「自分と和解?」

ほむら「ああ、私の時間は十分にもらえることになったよ」

杏子「……そうか、良かった」


柔和な表情。

らしくもないと口に出せば、1発分は殴られるかもしれない。


ほむら「さて、マミやさやかも杏子の事を探しているんだ、見つけたことを報告しよう」

杏子「…私の方が、みんなに迷惑かけちゃったな」

ほむら「私のせいさ、手間をかけてすまなかったよ……む?」


異変を感じ、魔法少女の姿に変身する。


杏子「どうした?まさか、魔女か?反応はないけど」

ほむら「……いや、君と会いたがってる子が、もう一人いたよ」

「にゃぁあ!」



盾を開くと、中から勢いよくワトソンが飛び出した。


杏子「うわっ!?猫!?」

ほむら「ははは、食事を与えられた事を覚えていたらしい」


ワトソンは杏子にしがみついて、甘い声でにゃあにゃあ鳴いていた。

杏子もまんざらでもなさそうだった。


じゃれあう二人をよそに、私はさっさと見滝原方面へ歩きだした。


ほむら「ふふ……さ、行こうか……みんなに話さなきゃいけない事もあるからね」

杏子「やめ、やめろって……え?」


顔を舐めていたワトソンが杏子から離れ、私の左足下の傍へ戻る。


ほむら「私が戻っても、ワルプルギスの夜はやってくるだろう?その話をしなくてはならないだろうと思ってね」

杏子「……一難去って、また一難か」

ほむら「そうでもないかもしれないがね」

杏子「え?」


杏子と向き合う。


ほむら「ワルプルギスの夜をなんとかする手立て、私は持っているよ」

杏子「え…!?それって、本当か?まどかは…」

ほむら「まどかが契約する必要はないさ」

杏子「そんな、どうやってそんなことを…」

ほむら「大丈夫」


微笑む。私の最大限の自信と虚栄心を振り絞って、最高のアルカニックスマイルを作る。


そして、そんなシーンを狙っていたかのように、空から一羽のハトが舞い降りてきた。



杏子「!」

「くるっぽー」

ほむら「ふふ」


白いハトは、レストラードは私の右足下にやってきた。


ほむら「とにかく、話は皆と集まってからにしよう……作戦会議とまでは言わないけど、楽屋での打ち合わせは必要だからな」

杏子「あ、ああ」


私の語らぬ説得力に圧されて、杏子は安心する根拠なく頷いた。

そして、思い出したようにベンチの上の紙袋をまさぐる。


取りだしたのは、一本の缶コーヒーだった。


杏子「……変な意味は無いけど、これで今までのは全部清算だよ」

ほむら「……ふふ、いやぁ、うん、いいだろう」


コーヒーを飲む前からつい苦い顔をしてしまう。


杏子「食べ物を無駄にはできいし、なっ」

ほむら「ほっ」


投げ渡された缶コーヒーを受け取る。


杏子「……あとこれも、食うかい?」


紙袋をまさぐり、更に何かを投擲する。

大きな弧を描き飛んでくるそれを、私は両手を真上に伸ばしてキャッチした。


ほむら「……おお、瑞々しいな」

杏子「ちゃんとお金でかったもんだから、安心してよ」

ほむら「ふ、何も疑っちゃいないさ」


私の記憶には万引き強盗なんでもござれの不良少女としてあるが、私はそれを含め、特に気にもしない。


杏子「……ゴーギャン」

ほむら「ん?」

杏子「……いーや、なんでもない」


しゃり、と林檎をかじる。

うんまい。

(*・∀・*)っ ココマデ

(*・∀・)<安価下!

① 3

② 5

③ 9

④ 0.5

(*・∀・)<3レス更新スル

(*・∀・)<あ、9レスカ


久々にきたマミの家には、魔法少女4人と人間一人が集まった。

杏子もそうだが彼女を探しに出た私も携帯電話を持っていなかったので、合流するには多少手間を食ったのだが、打ち上げ花火をかます事によって諸問題は解決された。


マミ「病院の近くで花火は上げないように」

ほむら「はい」


正座は嫌だ。クッションに座りたい。


さやか「……えーと?とりあえずこれで、ひとまず……ほむらの方は解決ってことでいいの?」

ほむら「そう思ってもらって構わない」


暁美ほむらの人格は封印されているだけらしいのだが、この人格が具体的にどういったタイミングで再発現するのかは、私にもわからない。

厳重に身を束縛し、そのまま一生出ないということはないのだろうが、暁美ほむらは乗り気ではなさそうだし、当分は私がこの身体を動かすことになるだろう。


マミ「本当に大丈夫?よね?」

まどか「どういう経緯で解決したのかな……」

ほむら「色々あったのさ」


説明はできるが、全てを説明している間にワルプルギスの夜が来てしまう。


ほむら「よく漫画にあるような、自分に打ち克つ、みたいなものだと思ってくれればいいさ」

さやか「おー」


本当は結構違うけど。


ほむら「で、まあ、私が随分と皆に迷惑をかけたみたいだから」

ほむら「とりあえず、この場を借りて謝らせてもらうよ、ごめんなさい」


もう一度深く頭を下げる。


さやか「杏子には謝らないとね、まあそれはほむらがやったわけじゃないんだけどさ」

杏子「わ、私には全然いいって……気にしてないから」

ほむら「しかし、なあ」


私の記憶には、杏子に対して執拗に攻撃し続けるものもある。つい最近、私の中から抜け落ちたものだろう。

ガソリンに着火させて、爆風のみで戦うその様は、杏子からは悪魔のように映ったに違いない。


杏子「…あれは、私が悪いんだよ……まどかに契約するよう持ちかけたのは、事実だしな」

まどか「……」


重苦しくなりつつある空気を、ほのかな紅茶の香りが濁した。


マミ「紅茶を淹れたわ、飲みましょう?」

さやか「おおー、マミさんの紅茶だ!」

ほむら「いただこう」


ほむら「……さて、みんなを集めようと思ったのは、謝罪がしたいだけではないんだ」

マミ「ええ、なんとなくわかっていたわ」

さやか「やっぱりワルプルギスの夜の話?」

ほむら「ああ、それに向けての話をしようと思ってね」



目の前を白ネコが横切り、まどかの膝に乗ってから、そいつはガラスのテーブルの上に腰を降ろした。


QB「ワルプルギスの夜を魔法少女4人で討ち倒す、という作戦会議でもするつもりかい?」


無感情な赤い目が全員を見る。

もはや、彼女らはキュゥべえに好意的な目を向けてはいなかった。


みんな薄々と気付いているのだ。彼が信用ならないネコであるということくらいは。

一番理解しているのは私だろうけど。


さやか「会議してたら、何かいけないっていの?」

QB「いけないというより、おすすめはできないよ」

杏子「……」

QB「前にも話したと思うけど、ワルプルギスの夜は、並大抵の魔法少女が“たかが”4人程度揃ったところで、決して太刀打ちできない相手だ」


QB「徒労に終わる戦いに挑むことはないだろうと、これでもアドバイスに来たんだけど」


マミ「どういう風の吹きまわしなの?キュゥべえ」


温厚なマミでさえ、キュゥべえを見る目つきは鋭い。

嫌われてかわいそうに、と同情するでもなく、私はキュゥべぇの飴玉みたいな目を見ながら美味い紅茶を啜るのであった。


QB「言った通りさ、無駄な事はしない方が良い」

さやか「街を守るってことが、無駄だっていうの」

QB「ことワルプルギスの夜に関して言えばね、一つの街を見限る覚悟は必要だよ」


まどか「……」

QB「けどまどか、」


私は俯くまどかに声をかけたキュゥべえに対し、思い切りスプーンを突き立てることで答えた。


マミ「!」

杏子「うげっ……」

まどか「ひっ……」


QB「……」

ほむら「私が話を進めようとしているのに、割り込むとは無礼なエイリアンだな」


スプーンはキュゥべえの脳天を貫き、奥深くまで突き刺さった。私はそれを、キュゥべえのクズごと部屋の窓際に投げ捨てる。

べしゃ、と気持ち悪い音と共に、白ネコは床に倒れて動かなくなった。


ほむら「作戦会議中だ、次からまどかへの私語は慎むように」

QB「随分と乱暴になったね、ほむら」

さやか「えっ!?」


そう、奴は何度でも甦る。

いくら殺しても、捕獲しても、キュゥべえは消えることはない。


私の記憶の中でも、いつからかキュゥべえを追いかけることをやめたくらいだ。


マミ「きゅ、キュゥべえが…2匹…」

ほむら「彼は宇宙人だよ、身体はいくらでも用意できている」

まどか「へっ!?」

さやか「宇宙人!?って、あの、細くて目のでっかい」

ほむら「グレイ型とは限らないけどさ」


QB「やれやれ、暁美ほむら…君はどこまで僕のことを知っているのか、想像がつかないけど…それを説明するためだけに、僕の個体を潰したのかい?」

ほむら「彼をいくら殺したって、次から次へと新たな個体が出てくる……まどかへは、しつこく契約を迫るだろう」


とりあえず、彼の存在のありかただけは説明しておく必要があるだろう。

まどかが契約してしまえば、仮にワルプルギスの夜を越えられたとしてもゲームオーバーだ。


ほむら「とりあえずキュゥべえ、なんとか彼女らに宇宙の大切さを説明してやってはどうかな」

杏子「宇宙?」

QB「本当に、どこまで知っているんだい?」

ほむら「私よりも君から明した方が、信用は得られるんじゃないかな」


もっともらしく誘導しているが、単にこの白ネコの説明をするのが面倒なだけだったりする。


QB「それもそうだね、じゃあ、僕の事についてみんなに聞いてもらおうかな」


こうして得意げに始まったインキュベーターの宇宙保存計画ストーリーは、魔法少女含む女子中学生からたいへんな反感を買ったのだった。


まどか「こんなのってないよ……」

マミ「いじめっ子の発想ね……」

杏子「お前それでも人間か!?」

さやか「いや人間じゃないでしょ」


口を揃えての大不評に、インキュベーターは「君たちはいつだってそうだ」とかなんとか負け惜しみをこぼしながら、部屋の片隅の方へすごすごと退散していった。

美味しい紅茶をなおも啜りながら、私はその光景を和やかに眺めていた。


ほむら「というわけだ、契約はやめてくれ、まどか」

まどか「うん、私契約しない」


それでも彼女は幾度となく契約しているんだけども……。

まぁ、そのことについて話す必要はない。


何せ……。



ほむら(私が時間遡行者であることは、隠し通すつもりだからね……)


缶コーヒーを開け、くい、と一口飲む。

私の能力は、まだまだ隠し通さなくてはならない。

インキュベーターにはもちろんのこと、彼女たち魔法少女にも、絶対に漏らす事はできないだろう。


ほむら(……あ)


缶コーヒーを飲み始めた私の様子を、マミがポットを構えながら気まずそうに眺めていることに気付いた。


まどか「魔法少女たちは、希望を信じていたのにね……」

さやか「ちょっと、厳しすぎる現実だよね…私もなったばかりで、人ごとみたいだけどさ」

杏子「あいつらの目的がわかったところで、私たちはそのルールに縛られることを良しとしたんだ、受け入れなきゃいけないさ……」

マミ「不本意だけどね……」

さやか「くそぉ、なんか、悔しいなあ……」


ほむら「で、結論から言うとワルプルギスの夜は倒せるわけだ」


まどか「……え?ほむらちゃん、今なんて」

さやか「ちょっと、今すごいことサラッと言わなかった?」

ほむら「ワルプルギスの夜は倒せる」

マミ「……えっと、鹿目さんが…?」



困惑する皆の表情。

何を言っているんだ。そんな顔をしている。

まさかな。期待を裏切られまいと、疑心暗鬼に食ってかかる彼女たちの顔だ。


私はここぞ、今この時、最高に無責任で、まったく根拠のない微笑みで応えるのだ。



ほむら「いや、普通に倒せるよ」


彼女達から上がる、わずかに期待の混じった驚きの声を聞き、私は自分のありようを再確認する。


やっぱり私は空虚な存在だ。

空虚で、嘘つきな奇術師だ。


だが、暗い未来しか用意されていないステージだからこそ、おどける奇術師は必要なのだ。


杏子「ちょっ、ちょちょ、どういうことだよオイ!」


ガラスのテーブルに身を乗り出す杏子。

勢いよく突いた手の近くにあったティーカップの皿を2枚、咄嗟に退避させるまどか。


ほむら「記憶が戻ると同時に、私の魔法の正しい使い方も思い出してね」

マミ「暁美さんの、魔法……?」

さやか「そういえばほむらの魔法って何なの?」

QB「気になるね」


白ネコが復活した。現金な奴だ。


ほむら「そう簡単に見せてやることはできないよ、魔力は消耗させたくないし……ワルプルギスの夜に向けて、グリーフシードを集めなくてはならないからね」

まどか「あ……そっか、グリーフシードがないと、魔法を沢山使えないもんね」

ほむら「うん、私の魔法はわりと燃費が悪いから、ワルプルギスの夜と戦おうとなれば、さすがに慎重になった方がいいかなって、ね」

QB「魔力に余裕がないというのは可笑しな話だね、普通に倒せるんじゃなかったのかい?」


この白ネコ、根絶できないのかな。

無駄なことばかり言いやがって。


ほむら「倒せるけど、間違いがあっては困るだろう?一応、初めて戦う相手なんだからさ」

QB「なるほど、そういうことか」


危ない危ない。

インキュベーターめ、油断も隙もないな。

嘘をつくにも細心の注意が必要だ。


ほむら「私の魔法は、口では説明が難しいけど……とにかく大げさなものだ」

ほむら「ワルプルギスの夜は超弩級の魔女だと聞く……ならば私の魔法は、ワルプルギスの夜に対して非常に有効なはずだ」


さやか「おおげさな……魔法?」

ほむら「次の魔女狩りの時に見せてあげようか?」

さやか「! お願い」

杏子「……私も見たいな」

マミ「わ、私も!」

ほむら「もちろん良いとも、見てもらわないと信じられないだろうしね」


まどか「……あ、あの」

ほむら「……ふふ、もちろん、まどかも来るかい?結界の中は危ないけれど」

マミ「鹿目さん、あなたには全てを知る権利があるわ」

まどか「! 私も連れて行って!」

ほむら「当然さ、まどかに見てもらわないと困るしね」

まどか「?」


ほむら「私の力を見てみなければ、底から安心はできないだろう?」

まどか「え、ああの、でもほむらちゃんの実力を疑ってるっていうのは、その、悪い意味じゃないよ?」

ほむら「気遣わなくてもいいさ、ふふ」


ここまで余裕をぶっこいてみせている私だが、はてさて。


私の実力をお披露目する魔女退治。

どう仕組んでみせたものか…。


真面目にやらなくてはならない事だというのに、しかしこういうことになると、相反して私の胸は高鳴るものだ。

まったく、マジックのやりすぎだな。ふふ。

(水風呂)*・∀・)ココマデニシトクワネ

この人はもっと無愛だと思ってた
過去SSのイメージとはずいぶん違うな

>>834
この人のTwitterみたらおもしろいとおもうよ

┗(┛^o^┗)┛ホムマドゥ

アキト「あれ、こんなの作ったっけ……」

レイ「私は幕の内弁当」 ゲンドウ「やっぱり崎陽軒だな」

(*・∀・*)アリスゲームに参加するワ!

ハルヒ「変な肉まん拾ったわよ!」 キョン「」

ルイズ「な、なによこの生き物!」 (*・∀・*)ノ ヤァ!

かがみ「なんだ、可愛いぬいぐるみもあるんじゃない」 こなた「え?」

唯「にくまん!」

上条「ベランダに小さいクッションが引っかかってる……」

ほむら「魔法少女にくま☆マギカ」

槍使い「ヤバい・・・砲撃だ!伏せろ!」

だけ知ってる


紅茶をもう一杯ほど満喫した後、マミの家を出た。

記憶を失っていた間に色々とあったので、その処理をしなければ、というなんとも悠長な体で、私の公開魔女退治はお流れとなった。


今日はさやかと杏子でペアを組み、魔女と戦う術を学ぶそうだ。

当然グリーフシードの収集も兼ねている。


そして肝心の私はさて、記憶喪失の後片付け、と皆の前では言ったのだが、そんなものは嘘だ。

おそらく魔女退治に勤しんでいるさやか達以上にせわしく、目的のために動いているだろう。


ほむら「はっ…はっはっ…!」


ダッシュでサイクリングショップに到着。

これから忙しくなるので、グリーフシードを使わない足は重要になってくるだろう。

行動範囲を広げるためにも、自転車は欠かせなかった。



「はいなんでしょ、パンク修理ですかね」

ほむら「いえ、とびっきり早い自転車を一台」

「え?とびっきりはやい……」

ほむら「詳しくないけど、とりあえず速度が出るやつをお願いしたい、金に糸目はつけないから」

「…うーん、速いものだと本当に早いけど、安くても10万はするよ」

ほむら「問題ない」


私は指を鳴らした後、その手を開き、30万ほどの紙幣を開いてみせた。


「おぉお」

ほむら「とりあえずこれで買えるもので、一番早いものを」

「高い買い物だねえ……親御さんは大丈夫って?」

ほむら「心配無用だ」

「……よし、じゃあこれかな?」


どうやら、苦は無く自転車を手に入れられそうである。

ガソリンとは大違いだ。


ほむら「うむ、どうかな」

「うんうん、似合ってるよ!カッコイイねえ」


細くコンパクトなデザインのバイクに跨り、それっぽいポーズを取ってみる。

店員は惜しみない拍手を送ってくれた。



ほむら「華奢そうなボディだけど、これは簡単には壊れたりはしないだろうね」

「強く衝突とかしない限りは大丈夫、保証期間もあるしね、思いっきりサイクリングを楽しむと良いよ」

ほむら「ありがとう、感謝するよ」


よし。ひとまず、これで足を手に入れた。

隣町との往復は、今までよりも容易くできるようになるはずだ。


早く移動する分、魔女の反応を察知できなくなる可能性はあるが…。

記憶にある魔女の推定位置を頼りにしていれば、そう見落とすことはないだろう。


今までの暁美ほむらの記憶を、最大限活用するしかない。


ほむら「じゃ、また用があったら来る」

「はい、ありがとうございまーす!」


私は勢いよくペダルをこぎ、発進した。



ほむら「おおお……!」


風を切り、まるで魔法少女に変身した時のような速度で歩道を駆けてゆく。



ほむら「えええっとこれどうやってカーブすればい」


言葉を言い切る前に、私は街路樹に衝突した。


見滝原を走る。

健全な中学生は足腰をよく使うべきだ。


走り高跳びで県内記録を叩き出そうとも、全国大会へ向けて精進する気持ちを忘れてはいけない。



ほむら「はぁ、はぁっ……」

「わっ、びっくりした」


受付のおばちゃんを驚かせたようだが、気にしてはいられない。

躊躇なく受付にあった用紙を5、6枚ほど取りあげ、鉛筆でマーキングしてゆく。



「学生さん?こういうのやるんだ」

ほむら「はぁ、はぁ、いや、普通はこういうことは、やらないかなっ」


マークした用紙を手渡すと、おばちゃんはそれを機械に読みこませた。



ほむら「はい、代金」

「一万円、ほー随分お金持ちね」


仁美ならもうちょっと持っている。驚くことでもないだろう。


「はい、じゃあ、頑張ってね」

ほむら「うむ、ありがとう」


ドキドキワクワクな宝くじ数枚を握りしめ、私はその場を徒歩にて去った。


次に来たのは寂れたネットカフェだ。

時間も時間で、中学生はそろそろ締め出される頃合いだが、構わない。


すぐに終わらせるつもりだったから。



ほむら「買い、買い、買い、買い……っと」


古臭い色合いのタッチキーボードを弾き、取引を繰り返す。

ひとまずはこのくらいで良いか、と息をついた所で、店員が私を注意しにやってきた。


念入りにページ履歴を消去して、私はそのままネットカフェを出る。


西の空には、茜色の空が「燃え上がれ~」という感じに輝いていた。

その景色を細めでそれっぽくしばらく眺め、すぐに歩き始める。



ほむら「時間がない……金もない」


元手は少ないが、とにかく少しずつでもやっていくしかないだろう。

ワルプルギスの夜まで時間がないのだ。最善を尽くすしかない。



ほむら「あ、ガソリンも補給して、グリーフシードも集めておかないと…ああ、もう、こんがらがる」


頭も掻きたくなる。

不眠不休、学校で寝る生活が、しばらくの間は続きそうだ。


―――――――――――


ほむら『ん、ん……』


殺風景な私の部屋で目が覚めた。


『私が言えたことではないけれど、無茶をするのね』


顔を上げると、そこには私を見下ろす暁美ほむらが。


ほむら『おっと、どうしてこんな体勢で寝ていたんだ、すまない』

『構わないわ』


いつの間にか、私は暁美ほむらに膝枕され眠っていたようだ。


ほむら『君とは、やはり夢の中では会えるのか』

『ええ、無いとは思うけど、交代したければ私に言って』

ほむら『君が交代したいというのであれば、私に拒否権は無いよ?』

『今の暁美ほむらは、貴女が築いた賜物よ、私が表に出たら、きっとたまらなく嫉妬してしまうわ』


薄く微笑みながら暁美ほむらは言うが、いまいち冗談として成り立っていない気がする。


『……あなたの見聞きした出来事は私も共有できるけど、貴女の考えまではわからないわね、一体何をするつもりかしら』

ほむら『んー?』



なんとなく彼女の隣に腰を降ろして、ハットを被る。


ほむら『ん~?君にもヒミツにしようかな?』

『私自身にも?まどか達に隠し事をするのも随分と意味ありげだけど、どういう事なのよ』

ほむら『よし、やっぱりこれは君にもヒミツだ!』

『ちょっと、ふざけないでよ』

ほむら『ふふ、まさか?ふざけてなんかないさ、至って真面目だよ』

『……』


眉だけ吊り上げ、不機嫌そうな顔になってしまった。けれどこういった表情がある方が、生き生きとしていて、良いものだ。


ほむら『その時になれば十分にわかるはずさ、君も楽しむと良いよ』

『……もういいわ、あなたに託した人生よ、好きに生きて』



暁美ほむらは、尖った言葉を投げ放ったまま霞んで消えてしまった。

私の意識も、混濁して覚醒してゆく。



―――――――――――

( *・∀・)ココマデヨ (・∀・*)ハーイ

(*;∀;)ママー! ( *・∀( ギャアアア

三三(******・∀・)アートカーラ♪キータァノーニ♪オーイコーサーレー♪

(納豆*・∀・)イラッシャイ (・∀・* )ヒサシブリー

( ;・∀・)φ (・∀・;)納豆クサイ・・・


ほむら「……おはよう、ワトソン」

「にゃぁー」

「くるっぽー」

ほむら「レストラードもおはよう、二人とも早起きだな」


起き上って伸びをする。

睡眠時間は長いとは言えないが、健康に気を遣う暇はない。

これからも、かなりの時間の節約を強いられるだろう。


ほむら「……暁美ほむらのために、ワルプルギスの夜をなんとかしなければね」


まどかを契約させず、魔法少女達を守る。

それを達成するには、今までのやり方では不可能だ。

暁美ほむらは実体験を通じて、それを私に教えてくれた。


私に休む暇はない。がんばろう。


ほむら「まぁ、腹が減っては戦争もできないな……食べようか、ふたりとも」

「にゃ」

「くるっぽ」


普通のヌードルのキングサイズの前で、私は合掌した。

いただきます。


ある意味でこれからのある程度の未来を見通す事ができるようになった私には、いくつかの心配事が生まれていた。


ほむら「やあ、おはよう」

さやか「お、ほむらおはよーう!」


さやかだ。


まどか「おはよー、ほむらちゃん」

ほむら「やあまどかおはよう、今日も背が低いね」

まどか「えー……」

仁美「おはようございます、ほむらさん」

ほむら「うん、おはよう」


そして仁美である。

この時期に二人の間で問題が発生するのが、とりあえず見える懸念の一つと言えるだろう。


さやか『あー、えっとそうだ、ほむら』

ほむら『うん?』

さやか『ちょっと私、用事があるからさ……』

仁美「……」

さやか『だから、魔女退治には少し遅れるかも』

ほむら「ふむ、そうか、わかったよ」


さて、この二人、どうしたものだろう。

(;・∀・)ママ!カッコガ オカシイワヨ! (・∀・;*)ヒィー


何度目かの挑戦の中で、暁美ほむらは放課後に待ち合わせたさやかと仁美について知ったのだ。

彼女ら二人はハンバーガー店で話をする。


こともあろうに、上条恭介への告白についてだ。



ほむら(さやかに後悔しないよう念押ししてはいるが……)


ペンを親指の上で回しながら考える。

さやか。暁美ほむらとしてではない、私として、彼女はとてもいい子だと思っている。

けれど彼女の恋路の先に道が続いているかどうかは、また別問題。


実際のところ、仁美に「時間をあげます」と言われたさやかは、一人で悩んで……挙句に魔女となった場合は、仁美と恭介が付き合う事はなかったのだが。

恋が実らないことを再確認した時、仁美と恭介がどうこうにあまり関わらず、彼女は深く落ち込んでしまうのだ。



「で、この証明は~……上条君、わかるかな?」

ほむら(どうしよう……)

恭介「あー……すみません、わからないです」

「ああ、うん、仕方ないね、じゃあ暁美さん、これを」

ほむら「わからないのはこっちだっての」

「え?」

ほむら「2番の証明方法を使います」

「うむ、正解……しかし暁美さん、さっき何か……?」

ほむら「2番の証明方法を使います」


「でも良かったよなぁ」

恭介「うん、本当にね、それにさ、」


教室の隅で楽しそうに話している男子達。

上条恭介。彼も悠長なものだ。そして鈍感だ。


奴がさやかの気持ち……いや、さやかだとは言わない。仁美でもいいのだ。

どちらの気持ちでもいいから感じ取ってやらないから、こうして私がそのツケを払わされるのだ。


ほむら(仁美の気持ちに気付かないのは経緯もしらない私からは何もいえないから良しとしてもだ)


さやか「んでそれがまたセンスなくってさあー!」

まどか「あはは、ひどいねぇ」


少なくとも、かなりの頻度でお見舞いに来ていたさやかの気持ちくらい気付いてやってもいいんじゃないのか。

私がおかしいのか?鈍感を通り越して無だ。無の境地に立っていると言っていい。


ただの幼馴染がそう何度も甲斐甲斐しくCD持ってきてやるはずがないだろう。


ほむら(ああダメだ、なんかイライラしてきた)

仁美「ほ、ほむらさん?何か手元のトランプが、ものすごく荒ぶっているのですが……」

ほむら「え?ああ、いいんだ、どうにもこうしてないと落ちつかなくてね」


トランプを二つの束に分け、それぞれを一枚ずつ噛みあわせてゆくショットガンシャッフル。

それをほぼ連続的にやることで、私は上条恭介への苛立ちを抑えていた。


まどか「ほ、ほむらちゃん……ショットガンシャッフルはカードを傷つけるよ?あんまりよくないと思うな…」

「鹿目!お前やっぱり知ってるな!?」

まどか「ええ!?な、何が?」

ほむら(どうしよう、本当にどうしよう)


シャッフル瞑想は、クラブのキングが二つ折れになって弾き飛ばされるまで続いた。


屋上。

マミの弁当の中のレンコンをぱりぱりと噛んでいる最中に結論は出た。



ほむら(放っておこう……)


さやか、仁美、恭介。

私はもう、この三人の恋愛問題について関わらないことに決めた。


確かに、未来を知っている私はこの問題に干渉する事はできるだろう。

言葉によって三人の未来を動かすことはできるかもしれない。


だが色恋沙汰に詳しくない私が適当な茶々を入れても意味がない。

上手く誘導できれば話は早いが、私にそんな技術は無いのだ。


だから私は今回のさやかを信じ、何もしないことに決めた。

投げと言ってしまえばそれまでだが、仕方のないことだ。


これもひとつの青春だと思って、苦悩なりしてもらいたい。



マミ「――それでね、佐倉さん、プリペイドの携帯を持つことにしたらしいの」

ほむら「はあ……そうか……」

マミ「ねえ暁美さん、聞いてないでしょ」

ほむら「ああ……え?いや、何だっけ」

マミ「もう、あまり上の空でいられると、また前のようになってしまうんじゃないかって、心配になるわよ?」

ほむら「すまない、ぼーっとしていたよ」

マミ「いつも変なところで力を抜くんだから、暁美さんって」


厚焼き卵を一口食べながらマミは言った。


ほむら「……そうかな」


私はパセリの茎を噛みながら、首を傾げるのだった。

(トークン*・∀・)今日はココマデネ

(*・∀・*)っ(*・∀・)ガシャコン NP8000 <ウァーォ


頭の中で考えを巡らせているうちに、放課後はやってきた。

マミやまどかは期待に満ちた目で私を見やるし、さやかはそそくさと先に帰ってしまうし、なんとも私の胃は重い。


分身マジックを身につければ、本当に分身できるのだろうか。可能であるならば今からでも猛特訓するのだが…。



マミ「それじゃあ暁美さんの魔法を実際に見学する魔女退治、これから始めましょうか?」

まどか「えへへ、ほむらちゃんの戦い方、私憧れるんだよね」

ほむら「まどか、憧れるというのは冗談でも怖いよ」

まどか「あ、ご、ごめんね、そういうつもりはないよ?」


まどまどする彼女の態度は、暁美ほむらが最初に出会った時のまどかからは全く想像もできないものだ。


マミ「まあまあ、それで、どうかしら?美樹さんは用事があって来れないのが残念だけど、佐倉さんを呼んで、早速魔女探しといくのかしら?」

ほむら「あー、そうだね、魔女を探さなければならないか」


私の力ならばワルプルギスの夜を簡単に倒すことができるという事を皆に証明しなくてはならない。

それは、皆が納得する未来を迎えるために必要な、最低限私がやらなくてはならない関門のひとつだ。


……だからこそ、私は上を目指さなくてはならない。


ほむら「しかし、さやかが居なくては困るね」

まどか「え?さやかちゃんが?」

ほむら「うん、せっかく私の力を見せるのだから、どうせならね?」


疑問を浮かべる二人の表情に、一人明瞭な答えを得ているような、不敵な笑顔で語り聞かせる。


ほむら「同じステージを皆で見てもらって、その上で納得してもらわないとね」

まどか「……」

マミ「うーん、けど、美樹さんの用事がいつ終わるかはわからないし……」

ほむら「なに、さやかが来るまでは私のマジックショーでも見ていてくれよ、せっかくなのだからね」

まどか「え?マジック?」


驚いたような、呆れたような顔。それでいい。


マミ「ちょっと余裕が過ぎるんじゃない?魔力は節約しなきゃいけない時期なのに…」

ほむら「そうかな?マジックショー“くらい”なら全然わけ無いよ」


本当は結構燃費の悪いエンターテイメントなのだが、秘密だ。


ほむら「ギャラリーもそろそろ待ち遠しくしてる頃合いだろうしね、さやかを待ちつつ、楽しんでよ」

まどか「うーん……ほむらちゃんが大丈夫っていうなら……」

マミ「……そうね、ふふ、お客さんとして、久しぶりに見ようかしら」

ほむら「うん、ありがとう二人とも、楽しんでくれ」


私は笑顔を向ける。

まったく、道化だ。内心ハラハラだ。

さやかには早く戻ってきてほしいから、出来る限り病院に近い場所の通りでやろう。


ほむら「Dr.ホームズのマジックショー、開演!」


空中で癇癪玉が破裂し、始端の無い紙テープがはらりはらりと広がり落ちる。

待っていましたとばかりに拍手が傾れ込み、遠くに歩く通行人を振り向かせる。


もう少し高めに調節を施した台の上に立って見下ろすギャラリー達は、以前の倍ほどにまでなっていた。


マミ『頑張ってね』

まどか『楽しみー!』

ほむら『うむ』


何があったか、段ボールに白い模造紙を張りつけて“ホームズさん素敵”とか掲げてる女の子まで、視界の端に捉えられる。

黄色い声を大声で浴びせているあの子は、私のマジックのおかげで試験に合格したとでもいうのだろうか。

いまいち、やっている身としては、このマジックショーが及ぼす影響というものがわからない。



ほむら「ではまずはじめに、このハットからマジックの小道具を取りださせていただきましょう」



掲げるハットの中から、体積を無視して大量のおもちゃ達が零れ落ちる。

ちょっと懐かしいマジックショーに、声援は割増して大きく聞こえた。


そして、彼らの声を聞いて私は自覚するのだ。

これも立派に、間違いなく、暁美ほむらとしての居場所であるのだと。


「すごーい!」

「やっぱりかっこいいなぁホームズちゃん…」

「どうやってんの?全然見えないー」


杏子「んしょ、悪いね、んしょ……おいマミっ」

マミ「あ、佐倉さん来てくれたのね、もう始まっちゃってるわよ」

杏子「始まっちゃってるわよ、じゃないっての、なんだこりゃ」

まどか「えへへ、ほむらちゃんのマジックショーだよ」

杏子「慣れない携帯のメールを開いてみて、“とりあえず来て”で足を運んでみりゃ、随分悠長なことやってるじゃん」


ほむら「はい、盾の中から公園の電灯~」

「うわー電灯っぽい!すごい!」

「あれ?あのタイプの電灯どっかで見たよ私」


杏子「……」

マミ「素敵よね、暁美さん」

杏子「……まあ、なんていうか、うん」

マミ「魔女を倒して平和を守るっていうことももちろんだけど……」

杏子「うん……」

マミ「こうして奇跡の片鱗を振りまいている彼女を見ているとね、魔法少女として希望を振りまくということに、まだ私たちの知らない色々な可能性があるんじゃないかって、そう思うのよね」

杏子「……」


ほむら「さあ、お嬢さん、このトランプの数字は何だったかな?」

「んーっと、ハートのエースだよ!」

ほむら「おっと残念!ハートのエースは私が食べてしまったので、これは白紙のトランプだ!」

「えー!」

ほむら「かわりにほら、ハットの中に丁度偶然、画用紙に描いたハートのエースがあるから、これで我慢してくれ」


マミ「……暁美さんを見ていると、何故かしらね…安心するわ」

杏子「……わかるよ、それ」


仁美「ずっと前から…私、上条恭介君の事、お慕いしてましたの」

さやか「……」

仁美「……」

さやか「あはは、まさか仁美がねえ…恭介の奴、隅に置けないなあ?」

仁美「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」

さやか「……まあ、腐れ縁っていうかね、うん……そう、幼馴染み」

仁美「本当にそれだけ?」

さやか「……」

仁美「私、決めたんですの……もう自分に嘘はつかないって」


仁美「さやかさんは?さやかさん……あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」

さやか「……私自身の本当の気持ち」

仁美「あなたは私の大切なお友達ですわ、だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの」

さやか(……仁美)

仁美「上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ」


仁美「だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです」

さやか(……私の、本当の気持ち)

仁美「私、明日の放課後に上条君に告白します」

さやか(……私の気持ち…)


仁美「丸一日だけお待ちしますわ……さやかさんは後悔なさらないよう決めてください、上条君に気持ちを伝えるべきか――」



さやか「……ふう、伝えないよ、私は」

仁美「……どういうことですか?」

さやか「一日も待つ必要なんてないよ、私は良いや」

仁美「き…!気付いていますわ!さやかさん!貴女は上条君の事を……!」

さやか「あはは、だからこそなんだよ、仁美……」

仁美(! なんて目を……)

さやか「うん、私は恭介の事、好きだよ……自分の命を賭けてもいいくらい好き」


ヴーッ ヴーッ

さやか「……だからこそ、ちょっと嬉しいな、仁美があいつのこと、そんなに好きでいてくれるなんて」

パカ


“近くの通りで、ほむらちゃんのマジックを見ながら待ってるから! fromまどか”


さやか「あはは……だから、仁美、お願いするよ、恭介の事」

仁美「さやかさん!」

さやか「んーごめん!用事が出来ちゃった、行かなくちゃ!ほんとごめんね!ありがとう!」


タタタッ・・・


仁美「……さやかさん」


タタタ・・・

さやか「……」グスッ

さやか「仁美、そっか、好きだったんだ……」


さやか(……仕方ない!仁美じゃどうせ敵わないし!)

さやか(私の魔法少女としての体じゃ、いつか恭介と別れることになるだろうし…!)


さやか(……うん、これで良いの!良い区切りと思っちゃえばいいんだ!)

さやか(最近は恭介もそっけないし…うん、良いんだ、これで…)


さやか「……ぐすっ、……うう」

さやか「くそぅ……でも、やっぱ、ちょっぴりだけどっ、堪えるなぁっ!」


さやか「良いもん!仁美と付き合う恭介も、全部私が守ってやるんだから!」


さやか(恭介の手を治して、恭介と付き合うのが私の願いじゃない!)

さやか(この世界に少しでも救いの手を差し伸べること!それが私の祈り!)


さやか(ああもう!でもなんか、すんげーモヤモヤする!後で何かスイーツ食べよっ!)

(((ワタポン*-∀-)ココマデネ

( *・∀・)っ 次スレ立てたワヨ

ほむら「思い出せない…私は何者だ?」3
ほむら「思い出せない…私は何者だ?」3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1336396694/)

http://myup.jp/FZ7hmlxB

(*・∀・*)このスレにはもう本編を書かないから、肉まんの話や肉まんのイラストを投稿したりして、盛り上げて終わりにしようネ!

ぶたまん>にくまん=ピザまん等>>>越えられない壁>>>あんまん

(*・∀・*)あんまんは奴隷として地下で強制労働ヨ

>>965
え?
肉まんは豚まんのバリエーションの一つでしょ。
「肉と言えば豚」という地域向けにローカライズされただけで、どちらも同じものだったはず。味付けの地域差以外は。

関東で肉まんって言ってるのを関西では豚まんって言ってるだけだったはず

>>973,975
種類を言わずに単に「肉」と言ったとき、
関西では牛肉、関東では豚肉をさすが、ほかにも、鶏肉を指す地域もある。
ひょっとしたら魚肉を指す地域... はさすがにないか。

ということはだ。
「肉まん」という名称を使ったとき、
関東の人は豚肉入りと思うし、関西式なら牛肉入りじゃないとウソ名称になる。
鶏肉入りと思う人だっているだろう。地方によってはな。

だから、「肉まん」という名称は「関東ローカル」としか表現しようがない。江戸っ子言葉と同じ事だ。

マムの隣によくいる
肉まんの子はなんて呼べばいいの?

何度も聞くけど、なんでマムなの?
なんかのスレで何かあったの?
この肉まんってミクちゃんだぞ?

>>985
こういう感じのやり取りが何回か出てきたからだと思います。

( *-∀・)ヾ(・∀・*)ママ ツヅキー

( *・∀・)φ (・∀・*))) ママー ダッコ

(*・∀・)ザマァー! ( *・∀( ギャアアア

じゃあ肉まん子で

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