ほむら「思い出せない…私は何者だ?」3(675)

ほむら「思い出せない…私は何者だ?」
ほむら「思い出せない…私は何者だ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1330265526/)

ほむら「思い出せない…私は何者だ?」2
ほむら「思い出せない…私は何者だ?」2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1333269106/)

↑これらの次スレ


( *・∀・)φ ミクッ (>∀<*) キャー


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1336396694(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)


ほむら「御静観、ありがとうございました」


ハットを掲げて、挨拶をひとつ。

盛大な歓声を浴びる私。

ソウルジェムに回復効果があるならば、きっと今頃は淀みひとつない綺麗な状態になっているだろう。


「今日こそ、今日こそ握手をー!」

「写真撮らせてくださーい!」

「ていうか撮る!」


やれやれ、終わっても冷めない熱気。

嫌いではないが、やることはある。


ほむら「ほっ」


身体を大きな白い布で包みこむ。

カーテンサイズの布によって、私の身体は靴から頭までが覆い隠れる。



まどか「あれ?まだ続きがあるのかな?」

さやか「おっ、またせぇー!」

マミ「あら美樹さん、用事は済んだ?」

さやか「はい!かなり!」

杏子「かなり、って何だよ…」

さやか「あれ?ほむらのマジックショーは終わった感じ?」

まどか「うん、それなんだけどね……」


カチッ


台の上で繭となった布が、重力に従ってはらりと下に崩れ落ちる。

そこにはもう、私の姿は無い。


カチッ


「わ、イリュージョンだ!」

「またー!?どうして最後は消えて居なくなっちゃうのー!?」


まどか「わっ、ほむらちゃん消えちゃった!」

マミ「本当……いつ見ても不思議だわ、暁美さんの瞬間移動」

杏子「どんな魔法なんだって話だよなぁ、見当もつかないよ」

さやか「でも今日、ほむらの魔法が見れるんだよね?」

マミ「そのはずなんだけど……うーん、どこに行ったのかしら……」


「あの、みなさん、待たせてごめんなさい」

さやか「ん?誰?」


ほむら「私ですよ、私」


皆の後ろから小さく手を上げて、声をかける。


まどか「……」

マミ「……」

さやか「……え?」

杏子「うそっ」


一様に並ぶ、キョトンとした顔。


ほむら「三つ編みに眼鏡を加えただけですけど、そんなに変ですか?これ」

まどか「…えー!」


以前の暁美ほむらの元々の姿に変装しただけだというのに、彼女らが私だと認識するまでには随分と時間がかかった。


私のマジックを見に来た人だかりの中を、こんな陳腐な変装だけで切り抜け、私達5人は歩き始めた。

しばらく歩いてほとぼりも冷めた後には、鬱陶しかったので眼鏡を外し、三つ編みも解いた。

暁美ほむらの姿といえど、今の私からしてみれば格好良くない姿だ。


杏子「……いやー、びっくりした、別人だったな」

マミ「ええ、なんていうか…本当に」

ほむら「これからもあの舞台から抜け出す際は、変装のお世話になりそうだよ」

さやか「あはは」


ソウルジェムを片手に歩く放課後の道。

もう小一時間もすれば日が暮れ始めるだろうか。

皆のためにも、手早く魔女を見つける必要がある。


ほむら(まあ、今日の魔女の位置はわかっているんだけどね……)


過去の暁美ほむらの記憶を辿れば、魔女と出会うのは簡単だ。

当然、倒す事だって造作もない。


まどか「ところで、さやかちゃんの用事って何だったの?」

ほむら「!」


事情をわかっているだけに、知らぬ存ぜぬ興味示さぬの態度を維持するのは難しい。


さやか「あー、まぁちょっとヤボ用ってやつ?ははは」

杏子「緊張感の無いやつだなぁ、どんな用事があったらこんな集まりに遅れるんだっての」

マミ「まあ、まあ」

ほむら「…お、魔女の反応が強くなった、こっちかな」


仁美と会って、さやかはどんな話をしたのだろうか。

上条恭介への告白まであと一日。ワルプルギスの夜。


ほむら(……とんでもない重圧だろうな)


それでも私、暁美ほむらは、時間遡行者などではない。

過去と未来を知り尽くしている人間ではない……あくまでもそのつもりでいなくてはならない。


ほむら「見つけた、結界だ」


魔女の結界の前に立つ。

オフィス街の路地裏、スプレー缶の落書きに混じるようにして、その入り口は不気味な発光と共に口を開いていた。


まどか「……私も、行って良いんだよね?」

ほむら「もちろん、マミや杏子がいれば安全だろう、守ってもらうといい」

さやか「私だって守れるぞー」

ほむら「ふふ、そうだね、さやかには練習がてら、使い魔だけ手伝ってもらおうかな?」

さやか「よしきた!頑張るぞー!」

杏子「死ぬなよー」


呑気な雰囲気のままに結界へと突入する。

呑気。まあ、当然だ。


どんな手ごわい魔女が相手だろうと、魔法少女が4人もいればさすがに瞬殺も良い所だ。

緊張感が多少薄れていようとも、誰一人として傷付かずに終えることも不可能ではない。



ほむら「さあ、行こうか」


変身。

ハットとステッキと一緒に、結界へ飛び込む。


結界の中は和風。

どこまでも不格好に繋がり続く紺色の瓦屋根の道。


瓦屋根の脇には大きな雪洞が街灯のような高さで林立し、暗い夜の中で瓦の道を照らす。


さやか「わ、江戸っぽい」

まどか「……この景色を作りだした魔女って、どんな人だったんだろう」

杏子「さあ、歴史が好きだったのかね」

マミ「魔法少女が魔女に、って知っていると……そういうことも、考えてしまうわよね」


マミは心に覚悟を決めていても、魔法少女の運命についてはナイーブな面があるようだ。


ほむら「さあ、景色に見とれている暇はないよ、刺客のお出ましだ」

さやか「!」


8等身の細身な五人囃子達が、日本刀を携えてゆっくりと正面から歩いてくる。

モデル歩きで。


さやか「よーし、同じ剣なら負けないぞ!」

ほむら「さやかは右の2体を、私は3体を片づける」

さやか「おっけーまかせて!」

杏子「さやかのお手並み拝見でもあるな」

まどか「さやかちゃん、がんばって!」

マミ「危なくなったらいつでも呼んでね!」


私とさやかは、多少過保護な声援を受けて正面へ飛び出していった。



ほむら「ショータイムの前座だ、久々に楽しませてもらう!」

ほむら「1.非合法切断マジック!」


左腕の盾から湾曲する広い刃が顔を出す。

久々に使う、ギロチンナイフだ。


使い魔「キェェエエエエッ!」


五人囃子の一体が、日本刀を真上に掲げた。

気合いの入った示現流の上段。

使い魔の攻撃といえど、力任せの攻撃を私の柔な防御で受け切ることは難しい。


カチッ


なので私はいつも通りの手法でやらせてもらう。


カチッ


使い魔「ェエッ…!?」

ほむら「まずは一体」


私は瞬時に使い魔の背後に回った。

そして、使い魔の全身はパズルのように斬り崩されて地面に落ちる。


五右衛門のような切り刻みっぷりに、マミたちギャラリーの息を飲む音も聞こえてきた。



使い魔「キェエエェエエ!」

使い魔「キェエッ!」

ほむら「うるさい使い魔だ」


高音で喚く二体の狭間に滑り込んで、盾のギロチンを振るい舞う。

このギロチンをメインに据えて戦ったことはあまりないが、思いの外使い勝手は良い。

暁美ほむらの経験のせいもあるのだろうか?


ほむら(なんだ、時を止めずとも楽勝じゃないか)

使い魔「キェッ……!」


二体の使い魔を通り抜ける間に、私のギロチンはそれらを3パーツ以上に分けて切り刻んだ。


まどか「すごい……!」

マミ「あらやだ、格好良いわね」


ばらりと瓦に落ちて、使い魔のかけらは煙に巻かれて消滅した。



さやか「え!?もうかよっ!」

使い魔「キェエェエエエ!」

ほむら「頑張れさやか!」



さやかはまだ最後の一体と戦っていた。

うむ。やっぱりさやかは、そこまで強くないみたいだ。

彼女はとことん応援したい。

(布団)*・∀・)*=∀) ココマデ

( *-∀-)φ ネテタワ


どんどん結界を進んでゆく。

瓦屋根の通路も勾配が強くなってきた。


使い魔「キェエェエエ!」

ほむら「おっと」


遠方の小天守閣から、薙刀を担いだ三人官女が降りてきた。

先程倒した五人囃子よりも背が高く、得物も大きい。

ちょっとした巨人3体と相手だ。


さやか「数は少ないけど、キツいね…!」

ほむら「少数精鋭だね、少なければ戦闘力が高いのは、あるかもしれん」

マミ「……あれは、使い魔だけど美樹さんや佐倉さんとは相性が悪いかしら」

杏子「アタシを馬鹿にすんなって、あんなの楽勝だよ」

ほむら「さやかにはまだ早い相手だな」


そのままでも戦えないことはないが、近接武器ではあまりにもリーチに難有りなため、ギロチンナイフを収納する。


カチッ


マミ「……え?これって」

ほむら「私がお相手しよう」


時間停止を解くと、私の周囲には輪を描くようにして、漆黒の猟銃が瓦屋根に突き刺さっていた。

その数は20を越える。


杏子「……その技って」

マミ「私の……」


使い魔「キェエエ!」

使い魔「キェエェエエエッ!」


ゆったりと裾を揺らしながら近づいては来るが、緩慢とした雅な動きは、瞬時にこちらに接敵してくるものではないだろう。

遠くから撃ち抜くには十分すぎる距離だ。


ほむら「2.シャフトスティール」

マミ「!」

ほむら「マミ、杏子、真後ろは危ないから気をつけてくれよ」


右手で一番近い猟銃を、力任せに引っこ抜く。

瓦の破片とぱらりと落とす猟銃。黒塗りは自分でやった。


片手で正面に構え、ドン、と放つ。

スラッグ弾は使い魔の腹に命中したようだ。


ほむら「ふ」


かかって来る反動は一切殺さなかったために、猟銃は回転しながら後方へと吹き飛んでいった。

続けて左手で猟銃を掴み取り、撃ち、反動のまま後ろへ棄てる。


ドン、ドン、ドン、ドン。

マミのように優雅な舞踏はできないが、同じようなことは可能だ。


さやか「……すご」

マミ「ワイルドね…」


使い魔「ギェェエエエ……!」


二体の官女が消滅した頃には、既に並べ立てた猟銃が1挺だけになっていた。

これで仕留められるかも疑問だ。


ほむら「ラスト!」


ドン、撃つ。頭部らしき箇所には命中したが、致命傷には至らなかったようだ。

全身に風穴を作ってはいるが、平然とこちらに歩いてくる。


ほむら「仕方ない」

カチッ


猟銃での乱射は数の多い使い魔相手に披露するべきだったかな。まあ、別に良いか。


カチッ


ほむら「こっちもこっちで見てほしいしな」

杏子「うげ」

マミ「あ」


肩に掲げる黒い砲筒。

対魔女武器として暁美ほむらが愛用していたRPGだ。


ほむら「3.プレリュード」


何の工夫もいるまい。そのまま白煙と共に、砲を放つ。

使い魔に着弾すると同時に轟音が貫き、当然ながら、相手は跡かたもなく消え去った。



ほむら「ふん」


空になったRPGを瓦屋根の外へ放り捨てる。


まどか「……マミさんとは、また別の感じのかっこよさがあるよね」

さやか「マミさんは優雅、ほむらは…そうだなあ、言い表しにくいけど、スタイリッシュっていうの?」


ちやほやされる話を聞きながら先を歩くのはとても気持ちが良い。

でも、ニヤリと微笑んではいけない。あくまで真顔で、真面目にやっているんだという体でいかなくては。



ほむら「おっと、城についたな」

杏子「本当に城だなー」


ついたのは和式の城。

木製の大きな扉が立ちはだかる。


中ではおそらく、魔女が待っているのだろう。


ほむら「さて……これから魔女と戦うかもしれないけど、気をつけて観戦してくれよ」

まどか「う、うん」

マミ「大丈夫、私達が守っているわ」

ほむら「よろしく頼むよ」


杏子「……今回の戦いで」

ほむら「ん?」

杏子「ほむらがワルプルギスの夜と戦えるのか……見させてもらうからな」


この中で最も重い口調で、杏子は言った。

彼女は、近づきつつある大災害に並々ならぬ危機感を抱いているようだ。


ほむら「ふ、大丈夫、楽しんで見ていて」


そんな彼女に、私は余裕しかない微笑みを振りまくのだ。

ぎい、と扉が開くと、そこは漆喰の壁の通路だった。

もう少し歩くことになるだろう。


薄暗い通路をしばらくゆくと、その先は巨大な空間。

今までも和風とはかなり趣の異なる、レッドカーペットの敷かれた大広間。

広くて天井も高い。魔女も私も、暴れるには丁度いいスペースだ。



魔女「……ォオオオッ!?」

ほむら「お前が魔女だな」


空間の中央に浮いていた4mの巨人がこちらに顔を向ける。

身なりから察するに、おだいりさまだろう。お雛様はいない。


魔女「ォオオオオオオッ!」


お内裏は刀を抜き放ち、和装束をばたばたと靡かせながらこちらへ跳んできた。

その素早さは、さやかの瞬発力と同じ程はあろうか。


マミ「来るわよ暁美さん!」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「何、うろたえる事などないよ」

カチッ


便利なこれがあるからね。

これがなかったら私はものすごい勢いで真横にヘッドスライディングして退避を図っているだろうが、これさえあれば何の憂慮もいらないというものだ。

/新聞紙/*=∀)) ココマデ


カチッ


ほむら「4.猛獣退治の鞭」


盾を翳すようにして左腕を前方に向け、盾を開くだけ。

少なくとも皆にはそう見えるモーションだ。


そうするだけで、私の盾の入り口からは大きな炎が噴き出した。



魔女「オオオオッ!?」

まどか「わ!?」

杏子「これは……!」


私の盾から噴き出した炎は螺旋状に吹き抜け、魔女に着火すると共に大きく炎上した。

こちらへ跳び込もうとしていた魔女は堪らず止まり、というよりも爆風に押しやられ、後方へと吹き飛ばされた。


マミ「すごい……はじめて見る魔法だわ!」

さやか「今のどうやって……!?」


企業秘密。ガソリンがあれば、頑張ればみんなもできるけど。


ほむら(まだまだ、ワルプルギスの夜に勝てると思わせるには押しが弱いな……)



こんな魔女程度、倒そうと思えば方法はいくらでもある。

しかしもっとも私の強さを誇示する方法で倒さなければ、この場で皆は納得してくれない。


皆が納得できなければ、私の計画は成り立たないのだ。


カチッ


だから全力で、私の盾の中の全勢力をもって、この雛祭りの魔女を倒す。


下手をすればグリーフシードすら砕け散る可能性があるが、それも仕方ないだろう。

なんといっても、キュゥべえにすら“強い”と思いこませなければならないのだから。

カチッ


ほむら「5.ホーミングフレア」


盾の中から八条の爆炎が伸び、鋭い弧を描いて魔女に直撃。

魔女は再び強く炎上する。


カチッ


ほむら「6.脱出できないチェーンプリズン」


燃え上がり悶える魔女の巨体を瞬時に鎖が四肢を束縛し、巨大な金属の杭によって鎖を固定。

悶え暴れることすら許さない。


カチッ


ほむら「7.ノータイム時限爆弾」


魔女の真下からバリスタイトが炸裂する。束縛された魔女は真上に吹き飛ばされるだろうが、鎖がそうはさせなかった。

束縛する鎖の大半が吹き飛ぶその威力にも魔女は耐えたようだが、この先そう長くは保たないだろう。

まるで拷問だが仕方ない。


もっと派手さを出してみよう。



カチッ


ほむら「8.大砂漠の大嵐大作戦」


魔女空間、私やまどか達が立つ場所以外の全ての床が爆発した。比喩ではなく爆発した。

しかも一度だけではない。爆発した後に、2度、3度の爆発する。

赤いカーペットは一発目で剥がれ、二発目で漆喰の床が大きく削がれ、三発目でその下のよくわからない材質の部分まで破壊された。


魔女は……ここからでは良く見えない。

砂や土煙がひどすぎる。


暁美ほむらが集めておいてくれたグリーフシードのおかげで、ある程度の無茶な演出が可能だ。

ソウルジェムに休息を与えつつ、私の悪戯……もとい、魔法の披露は続く。


カチッ


ほむら「9.バンホーのハナビ」


私のかなり真上から、巨大な炎の柱が飛んでゆく。

炎の塊は魔女へと突撃をかますと同時に、当たりにたちこめていた土煙を一掃した。


開けた視界には魔女……らしき面影の、何か…がいる。かもしれない。

炎の塊の直撃を食らい、燃え上がっているが…。


とにかく形は残っているので、相手をすることにしよう。



ほむら「10.資本主義の流星」


右手を上にかざす。

魔女空間のほぼ真上から、10個ほどの影が猛スピードで魔女に落下する。


私お得意のRPGの弾頭だ。


1発や2発で魔女を倒せるので、さすがにここまで使えばこの魔女も即死せざるを得ないだろう。

なので、このままオーバーキルだとわかっていて、なおも追撃する。


結界が崩壊するまでが、私の戦いだ。


カチッ


ほむら「11.キングダム」


和洋中、様々な時代、様々な文明の刀剣類が荒廃した床から現れる。

そのうちの槍やランスといった、長めのものは魔女の真下から大量に伸びた。


カチッ


ほむら「12.地獄の一通」


自動車標識が魔女のすぐ真上から何本も、突き刺すようにして落下する。

そこに魔女がいたかどうかはわからないが、とにかく串刺しにするような感じに落下した。


カチッ


ほむら「13.マヂギレボーヒーズ」


魔女の面影がある、煤けた小山に5機のチェーンソーを突き刺した。

ガリガリと轟音を立てて砂やら魔女やらを切り刻む。


ほむら「……このくらいか」



そんなこんなと暴れ回った所で、結界は消え始めた。

ほぼ最初にだけ魔女は声を出していたが、そこから先は終始無言だった。

きっとかなり前の段階で決着はついていたのだろう。


からん、とグリーフシードが路地裏に落下する。そして針のように細い部分を支点に直立する。ミステリアスだ。


杏子「……」

さやか「……」

マミ「……」

まどか「……」

ほむら「やれやれ、ショータイムにすらならなかったな」


さわやかそうな風に腕で額を拭う。


当然嘘だ。

実際のところ、何分も何時間も止まった時間の中で動き回っていたせいで、魔法少女の身体でも満身創痍だ。



ほむら「ん、どうしたみんな、これが私の魔法だ」


誰からも返答が返ってこない。

皆、顔が引きつっている。まどかとさやかはちょっぴり泣いている。


私だって第三者であれば泣いていたかもしれない。



マミ「…なんていうか…」

杏子「なんでも……アリなのか?」

ほむら「……ふふ」


やや衝撃は強かったみたいだが、無事に作戦成功、といったところらしい。

(無傷*・∀・)+ キョウハココマデヨー

〈無傷*・∀・〉+ アストローン

Σ(在庫*;∀;)*;∀;) ( *;∀;)

アナタモ ヽ(*・∀・)人(・∀・*)ノ ワタシモ

(*・∀・*)(*・∀・*)ポッキー!


夜も良い時間ということで、皆と解散することになった。

魔法少女とはいえ、あまり遅くまで活動していると補導も怖いのだ。


特にまどかは魔法少女ではない。彼女はマミに送ってもらう事になった。


さやか「いやぁー…それにしても、あれは凄いなぁ…」


先頭はさやか。後ろには私と杏子が並び、夜の街を歩いている。

グリーフシード集めは1つで終わるには時間がもったいないので、皆で集めることになったのだ。


マミも途中から合流すると言っていたが、私はその頃にはいないだろう。

個人的な用事もある。魔女狩りは、ワルプルギスの夜との戦いにおいてはそこまで重視されるものではない。

グリーフシードをまったく使わないわけではないだろうが、それ以上に力を入れる場所というものもあるのだ。


杏子「アタシもあの盾から炎を出す魔法、あれでやられたよ」

さやか「うげっ……良く生きてたね」

杏子「ああ、今日のを見ると、もしかしたらアタシ……あの時加減されてたんじゃないかって」

ほむら「なんかごめん」

杏子「いや、悪ィ、ほむらは悪くないよ」


本当は暁美ほむらも悪くは無い…と、擁護してやりたい。

けれど暁美ほむらの過去を語るわけにはいかない。もどかしいものだ。


ほむら「……魔女、どうやらなかなか見つからないようだね、すまないが私はそろそろ用事がある、おいとまさせてもらう」

さやか「あ、うんわかった、今日はありがとね!ほむら!」

ほむら「私の魔法、参考になったかな?」

さやか「あはは……参考になったかはわかんないけど」


手を振り、二人と別れた。

さやかと杏子は、もう少しだけ魔女探しをするようだ。


見滝原のスーツ達の中に混じり、肩で冷たい風を切る。


決戦の日は近い。

ワルプルギスの夜が現れた時、この街は無事では済まないだろう。


均整の取れたタイルも、等間隔の街灯も、デザインの凝らされた陸橋も、経済を動かし続ける数多の自動車も、人の全てがあろう家たちも、その大多数が破壊されるに違いない。

仕方がない。それを受け入れなくては、先へは進めない。


ほむら(……武器を使いすぎたな、集めるか)


また暴力事務所に立ち寄って、少しばかりの装備品を調達するとしよう。

ここから武器を調達することによって内輪で何らかの事件が発生していようとも、私は一切の関知をしない。そもそも暴力事務所というものが駄目なのだ。


ほむら(そうだ、ついでに正義の味方らしいことでもしておこうか)


少しばかり面白いことを思いついた。

うむ、勧善懲悪。いけないことではない。やってしまおう。


カチッ


悪戯が始まる。


ほむら「ふんふんふーん」

『……』

『……』


とりあえず、ロッカーの中に入っている武器、刀剣類、弾薬は全ていただく。

どうせ使うのは魔女の結界の中だけだ。消耗品なので困ることは無いだろう。


ほむら「お、いい日本刀じゃないか、いただくよ」

『……』


高そうなソファーの脇に立て掛けてあったものすらかっぱらう。

彼らとしてはたまったものではないだろう。

暴力団がいきなり武装解除されるのだから。


ほむら「14.正義の裏拳」


左腕の盾によって、思い切り金庫の扉を吹き飛ばす。

2発でその堅い入り口を開いた金庫の中には、大量の現金が入っていた。


ほむら「おお、さすがだ……儲かる職業だなぁ」


わしづかみにしたまま全てを盾に収納する。

はてさて。この事務所の人々は、果たして上司になんと釈明するのだろう。

小指で済めば楽だろうな。


ほむら「おお、このカーペットも良さそうだ、いただこう」

ほむら「……ん?おー、虎の毛皮か、カッコ良いな…これも貰っておこう」

ほむら「掛け軸…まぁカーテン代わりにはなりそうだし、これも」

ほむら「というよりこの人たちの装身具も高そうなものばかりだな、全部取っていくか」


ふむふむ、よくよく見れ見れば宝の山。

実に楽しい時間だ。


カチッ


ほむら「ふぅー、良い仕事をした」


事務所の外。

窓からは死角となる路地で、缶コーヒーを啜る。


「でぃあぁあああ!?」

「なんじゃこらぁあああああ!!」


すごい声が聞こえる。

あれだけ煙草を吸っておきながら、なんという声量だろう。

やはり男性は女性とは違うのだろうか。


私はどれだけ張り切ってもあれほどの声を出せない。



「てめえがやったかテツぅう!?」

「ち、ちがいまアガァッ!」


物騒な音も聞こえて耳障りになってきたので、私は場所を変えることにした。


ほむら(工場街に行かなくては)


そろそろ立ち寄らなければまずい場所と言うものもある。

準備は周到にしておかなくてはならない。


夜は短い。私は走った。

こんこん、と扉をノックする。

スモークのかかった窓には明りが灯っているので、中には人がいるだろう。



開いた扉からは男性が出てきた。

中年辺りの、くたびれた表情の男だ。


「……おや、君はあの時の」

ほむら「お久しぶりです」



いつぞやの集団自殺未遂の現場に居合わせていた、陰鬱な工場長だ。

やや酒気を帯びた匂い、こけた頬。報われない苦労に自棄になっている男の典型的な表情だ。


「猫は知らないよ」

ほむら「前金で一千万、完成すれば三千万、秘密厳守で作って欲しいものがある」


札束を放り投げ、男に渡す。


「うげぇっ!?なな、なに…!?」

ほむら「あるものがあればそれを譲ってくれても構わない、とにかく絶対に失敗しないものが欲しい」

「な、何の話だ!?君は一体……!?」

ほむら「暁美ホームズ、マジシャンさ」


鞄から数枚の紙を取り出して男に渡す。

疑問には一切答えてやらない。


ほむら「作ったものを指定した場所に施設するまでやってもらう、期限は厳守してもらわなければ私も困るし、あなたもきっと、かなり困る事になる、わかるかな」

「……」


唾を飲み込む音が聞こえた。


ほむら「その紙に全て書いてある……場所も、時間も指定してある、その手筈通りに」

「……」


ミステリアスな女、という感じの冷笑を浮かべて、私は男のもとを立ち去った。


ほむら「……」


大きな買い物をいくつか終えて、私は見滝原一高い塔の頂上に腰掛けていた。

風に靡く黒髪。夜の明るい街。


ほむら「……ふむ」


思っていたよりも強い風せいで、髪を掻きあげられない。

両手を離すのがすごく怖い。


QB「やあ、暁美ほむら」

ほむら「キュゥべえ、こんなところにまで現れるのか」


白い来客がやってきた。

私の隣の鉄骨に座り、一緒に見滝原を見下ろしている。


QB「僕は見ることはできなかったが、今日はまどか達に君の魔法を見せていたんだって?」

ほむら「おや?君は見ていなかったのか?」

QB「探していたんだけど、誰も呼んでくれなくてね」


そこまで不自由な生き物だとは思わなかった。

呼ばなくても必ず来るものだと思っていたのだが。


ほむら「君にも私の魔法を見てほしかったんだけどね?インキュベーター、ふふ」

QB「僕にかい?」

ほむら「君の考えも、私の勝利に傾倒してくれるんじゃないかと思って、真面目にやったんだけどな」


首の後ろを摘み、膝の上に乗せる。

一緒に街を見下ろす。


QB「数多の魔法少女を見てきた僕だけど、僕の正体から目的まで全てを知っていてもなお、君のように有効的に振る舞う魔法少女は初めてだよ」

ほむら「君に対して?」

QB「普通はコミュニケーションを取ってくれなくなるんだけどね」

ほむら「それは仕方がないだろう、騙そうとしているのだから」

QB「僕自身は騙そうなんて考えているわけではないのだが……」

ほむら「屁理屈ばかりだな、君は」


高速道路のビームを眺めながら、口を開く。


ほむら「なあキュゥべえ、君は魔法少女を“奇跡を起こす者”と謳って契約を持ちかけているが……その奇跡に見合う生き方をした、という魔法少女は、一体どのくらい存在していたんだい?」

QB「僕が見てきた今までで、かい?」

ほむら「割合でいえば、だけど」

QB「彼女達は例外なく奇跡を起こすが、その結果に満足する者は少ない……僕が見てきた中には、1割もいないだろう」

ほむら「不思議だね」

QB「僕も不思議に思うよ、僕達の計算では、絶望して魔女になる少女は、もっと少ないはずなんだけど」

ほむら「君達の試算での話だろう?」

QB「そうだよ」

ほむら「まったく、感情もないくせにどんな計算式を立てたんだかね」

QB「ないくせに、とは心外だよ、感情なんてものは精神疾患でしかないのに」

ほむら「ふふ、馬鹿を言うなよ、インキュベーター」

QB「?」


白ネコの頭をなでる。


ほむら「君達のような感情の無い生き物には、奇跡は起こせないのだろう」

QB「まあね、感情によるエントロピーの凌駕は発生しない」

ほむら「それを扱えるようになった時、…それは果てしない先の未来かもしれないが、我々人類は君達インキュベーターからの支配を脱し、莫大なエネルギーを内包する知類として、この宇宙の頂点に君臨するだろう」

QB「その時に君達が生きていればの話だけどね」

ほむら「何を?」

QB「まあ、でも面白い話ではあるよ、楽しみだ。君達人類が、その性質を保ったまま地球を脱し、銀河群を越えるその日をね」

ほむら「……ふふ、楽しみにしているといい、キュゥべえ」

QB「気長に付き合うことになる、楽しみにしているよ」


こうして、ひとつの地球上の夜は更けていった。


―――――――――


夢の世界。

ソファーに腰をかける暁美ほむらは、俯いたまま横目に私を睨んだ。


『……随分と、あの宇宙人と仲良しなのね』

ほむら『感情の無い生き物に悪意をぶつけることもないさ』


向かい側に座る私は、あくまで飄々と答える。


『……ワルプルギスの夜を、どう越えるつもりなの?』


私に突っかかっても無駄だと悟った彼女は、話を変えた。


ほむら『それは内緒だけど、計画は順調に進んでいるよ』

『動いているのは私にもわかるけれど、どういうつもり?全く読めないのだけれど』

ほむら『うん、君からしてみれば無駄なことも並行して行っているからね』

『……』

ほむら『ま、インキュベーターを混乱させるつもりでもあるし、完璧に“無駄”ではないかもしれないけど』

『……そうね、錯乱という意味では、無駄なことなんてないかもしれないわ』


彼女も解ってくれたようだ。結構適当に言ったのだが。


ほむら『…残りの日も少ない、大詰めだ、頑張っていくよ』

『……無茶はしないでね、あなたの自由ではあるけれど……死なないで』

ほむら『私が心配か?』

『私だもの』

ほむら『あははっ、そうだ、それもそうだな、当たり前か、ははは』



――――――――――

(虎毛皮)*・∀・)ココマデネ


ほむら「……ふぁあ…」

「にゃあにゃあ!にゃー!」

ほむら「! いけない」


毛布を跳ね上げて起床する。

ただいま通常起床時刻を20分オーバー。地味に辛いラインだ。


ほむら「なんで起こしてくれなかったんだ!」

「にゃ!」

ほむら「…すまん!ワトソンは悪くないよ!」


傍にあった白いコンビニの袋から空き缶ひとつと紙皿一枚を取りだし、ガッと開けてがぱっとよそる。


ほむら「……ええい!」


もう一枚の紙皿を出して、そこにももうひとつの缶をあける。

どろどろした美味しそうなマグロが皿の上いっぱいに展開された。


ほむら「いただきます!」

「にゃ」


学校に遅れてしまう。急がなくては。


本来ならば、ワルプルギスの夜を相手に準備する直前にあたって学校へ通う必要はないのだが、そこは心を鬼にして通っておかなくてはならない。

私はワルプルギスの夜を容易く玉砕することができ、学校生活を並行しても何ら問題ないからだ。



がらりと、強くガラス戸を開ける。



ほむら「っはー!間に合った!」

和子「……うーん、ちょっと遅刻ですね!」

ほむら「あれ!?」

さやか「あはは……」

まどか「ほむらちゃん……」


クラスのみんなが授業の直前のような、全員着席状態で頭だけ私の方に向いている。

なんということだ。


ほむら「先生、まだ授業は始まっていない……」

和子「遅刻です」


有無を言わさない笑顔によって、私の経歴には一粒の泥のシミがついた。


恭介「ははは……」


くそ、あいつまで私を笑いやがった。

油断したとき治りかけの脚を蹴ってやる。


ほむら「まったく、ひどいものだよ、マグロ缶だけを主食にして登校したのは初めてだ」

さやか「えー!?マグロ缶!?これはまたすごいもの食べてきたなぁ」

まどか「お腹空いちゃわない?」

ほむら「空くだろうね……3時限目には腹の虫が悲鳴を上げそうだよ」


自分の机に座り、寄ってきたさやか達と会話する。

二人とも制服にシワもシミもなく、コンディションは万全のようだ。

マグロ缶の汁が跳ねて、右袖に新たなシミを作った私とは準備の良さが違う。


まどか「それで、さやかちゃん達は昨日大丈夫だったの?」

さやか「え?あー…そうだね」

ほむら『あの後、マミとも合流したかい?』

さやか『うん、粘って探したらなんとか魔女を見つけたから、倒したよ』

まどか『どうだった?』

さやか『いやぁ、杏子先生の指導が厳しくてねー…まだまだ私の先は長そうだよ…』

ほむら『ふふ、そんなもんさ、でも接近戦に慣れないと魔力の消費は馬鹿にならないし…』


そこまで念話を進めていると、授業を始める教師が入ってきた。


ほむら『……じゃ、この時間の暇な時に』

さやか『うん、そうだね』


おしゃべりは授業中に行うことにしよう。

魔法少女の素敵な特権だ。


さやか『マミさんは遠距離からの投擲を練習した方が良いって言うけど、杏子は接近の技を身につけてからって……』

ほむら『はは、板挟みだな』


念話の最中でも、私の思考は別の方面に向いている。

机のPCはアシがつくので、わざわざ薄型のタブレットを持ちこんでの作業を行う。


:委託されていたもの、期間と値段の兼ね合いで渋られています。

ほむら「……」


まどか『杏子ちゃんも熱心に教えてくれてるんだね』

さやか『うん、意外だなーって思ったけど、世話焼きなんだね、あいつも』

ほむら『……そう、杏子は素直でいい子だよ』


:期間は変更できない。プラス百万で交渉。それ以降は一度でも値段にケチをつけたら御破算で。

:それ以降の交渉は無しということですか?

:そんな企業は相手にしなくていい。

:了解しました。

:頼むよ。


ほむら(……思ったよりも安く済みそうだ)


水面下の動きは順調だ。金の運用には経験もあり慣れているが、ここまで動きが多いと管理も難しい。

だが、突貫でやるには仕方がないのだ。舞台の袖で火事が起こっているようなものだと思わなくてはならない。


:資材搬入の期日には間に合います。問題ありません。

:理由を明かしてはくれませんか?クライアントから疑問の声があがっているのですが。

:もっとも近い保管庫の契約が取れました。

:可能でしたら一度顔を合わせての打ち合わせを行いたいのですが、お時間は…。


ほむら「……」


流れるメッセージをひとつひとつ返していく。

メッセージを見ながら、マップの画像ファイルに印をつけてゆく。

色分けは赤、青、黄。


ほむら(……こっちのエリアにはもっと多くの拡声器が必要だな)

まどか『ところでさやかちゃん、今朝、仁美ちゃんとあまり喋ってなかったけど……何かあったの?』

ほむら(!)

さやか『え……あー、うん…いや、なんでもないけど…』

まどか『…そう?ほんと?』

さやか『あ~、ほんと、じゃあ、ない…ごめん、実は昨日の放課後、ちょっとあった』

ほむら『……』


:施工が予定に間に合いません。外装枚数を減らせませんか。

:これは合法的な施工ですか?私どもの方では、疑問の声が……。


ほむら(……)


頭が割れそうなほど痛い。けど、ここが正念場だ。

表舞台で何事もなかったかのような顔をして、裏でもがく。

実にすばらしいことじゃないか。


ほむら(……)


拳を握る。

私は絶対に折れないぞ。

必ず、見滝原に奇跡を起こしてやる。

それが大した奇跡でないにせよ。

(∀=*(布団)*・∀・)φ ココマデ

【審議結果】

.         | ̄ ̄|
 . ∫∫   |∧∧|
 <⌒>  (゚Д゚ )___         (( ⌒ )

   | | ̄⊂l   l⊃ |          (( ) )
   |  ̄ ̄||.  .|| ̄ ̄              ( ::)
   |タベル?|=.=.||              ) ;:) ∫ ∫

  ..(  ´・)∪∪|       ∧,,∧ ∫∫ (;;, 从<⌒> ∧,,∧
   (    ).   |    ∧,,(´・ω・)<⌒>( ;;从   `゛\ (・ω・`)
   `u-u'.|   .|    ( ´・ω) U)/´゛ ∧∧;;从    と と ノ
      ~~~~~~~~  | U (  ´・)   (・`  )ヘヘ     u-u
              u-u (     )   (   ノ
                      `u-u'     `u-u'

昼休みになると同時に私は動いた。

空腹と眠気であえなくダウンした身体を覚醒させ、足早に屋上へと向かう。


「ホムさん!ホムさんですよねー!?」


見知らぬ黄色い声が廊下の後ろの方から聞こえたので、私は足早に階段を駆け登った。


マミ「あら、暁美さんおはよう」

ほむら「おはようマミ、今日も巻きが綺麗だね」

マミ「うふふ、これ癖っ毛よ暁美さん」


癖っ毛とは。暁美ほむらにとっても衝撃の新事実だ。

綺麗な癖っ毛だと感心しながら、ベンチに腰を降ろしてうなだれる。


マミ「ど、どうしたの?暁美さん」

ほむら「いやね、ちょっと空腹がな…辛いものだ」

マミ「あら…遠慮せずに食べてもいいわよ?はい、お弁当」


いつものように、自前とは別に作った弁当を差し出してくれるマミ。

私にとってはいつものような、慣れてしまった厚意。


けれど私は知っている。

暁美ほむらは、マミから毎日昼食を振る舞われた事など無いのだ。


ほむら「ふふ、いつも思うが、夫婦みたいだな」

マミ「あら、ふふ、それもいいかもしれないわね、あなた」

ほむら「いただくよマミ、はは」


雲の多い天気だが、それでも青い空は垣間見えた。

日差しも少なく、工事日和だろう。


さやか「お、二人はもう居たんだね」

まどか「マミさん、おはよーございます!」

マミ「あら二人とも、おはよう」


ちょっと食べている間に、まどかとさやかもやってきた。


さやか「あー、ほむらまたマミさんの弁当食べてる!いいなー!私も食べたい!」

ほむら「ふふん、マミの愛妻弁当は私だけのものだぞ、さやか」

さやか「ずるーい!美味そー!」

ほむら「じゃあ一口だけ分けてあげよう」

さやか「なんでプチトマトなんだよー!」

まどか「あはは」


賑やかで和やかな昼食が始まった。

おかずを取っかえ引っかえにして楽しんだ。


……うむ、昼休みは何も考えず、ただ楽しむに限る。


まどか「ほむらちゃん、ほむらちゃんは今日は何をするつもりなの?」

ほむら「私か?」


特に深い意味もなさそうな顔でまどかは訊いた。


ほむら「マジックも連日にやることもないだろうし……今日は遊んで魔女退治して、その後遊ぼうかな?」

さやか「…け、結構、ほむらって遊ぶよね…」

ほむら「まあね」

さやか「いやぁ、この時期にっていうか……」

ほむら「この時期?テストが近かったっけ?」

さやか「いやいやいや!ワルプルギスだよ、ワルプル!」

ほむら「あー、ワルね、ワル」

マミ(ワル……)


もちろん念頭から消えていたはずもない。

頭の中の半分ほどはそいつで埋まっているくらいだ。


今なお私のタブレット端末を責めるメッセージのように、ワルプルギルの夜に関する懸念事項は後を絶たず浮かんでくる。


ほむら「ワルプルギスの夜対策は特に考えなくても良いんじゃないか?」

さやか「いや、つっても……」

ほむら「マミやさやか達、3人束で私にかかってきて私を倒せるというのであれば……まぁ、私とワルプルギスの夜との戦いに乱入してきても良いのだが」

さやか「うぐっ」

マミ「ふふ、難しいわね……」


相性の問題もある。

だが彼女達からすれば、魔法少女としての私の実力は、比べて遥か雲の上のものであるという認識に間違いはないだろう。


この力関係の認識を、最後までキープしていきたい。


ほむら「ワルプルギスの夜が来た時には、みんなにはあくまで住民の安全の確保のために動いてほしいものだね」

マミ「…そっか、被害が甚大なのよね」

ほむら「ま、それは追々に説明するけどね……ワルプルギスの夜がどこに現れるか、まだわかったものではないから」


本当は大体の目星はついているし、正確な時間もわかっている。

しかし私はそんなこと知らない前提でなくてはならないし、直前の調整でも大して問題ない。


ほむら「さやかの治癒魔法は、きっとその時に大いに役立つはずだよ」

さやか「! そうかな」

ほむら「私はワルプルギスの夜と戦うが、きっとその余波は避けられるものではない、けが人も大勢出るはずだ……こっそり重傷人の治療にあたるのが良いだろう」

さやか「……悲しいね」

まどか「……」


まどかの暗い表情だけが、私の何よりのプレッシャーだ。


ほむら「……多少の犠牲はつきものさ」

ほむら「代償の無い報酬など無いのだよ」


私は自分に言い聞かせるように呟いた。

そう、多少の犠牲はつきものだ。


我々はみんな、これを受け入れなくてはならない。

タブレット相手にメッセージ受送信のやりとりを繰り返し、表では遊ぶ。

何食わぬ顔で学校での生活を満喫し、放課後には遊び、夜中は人知れず動く。


魔女を狩り、グリーフシードを入手したり。

資金の工面に追われてみたり。


さやかと仁美の間柄は未だ、ちょっとギクシャクしたような風に見えるが、仁美と恭介はどうなたのだろうか?

そこは私の預かり知らぬ所であるとはいえ、後日談は気になるものだ。


少なくとも校内で仁美と恭介がいちゃついているようには見えないのだが……。


そんなことを考えながら、深夜の公園で自転車に乗る練習をしている最中の事である。



仁美「……ほむらさん?」

ほむら「うおっ」


稽古ごとの帰りで偶然通りかかったか、仁美が私を見つけたのだ。

片手で電灯に掴まりながら自転車に乗るという、魔法少女活動の次に見られたくない姿を仁美に見られてしまった。


私の記憶を消す弾丸の安全性が確立されているならば、容赦なく2発は仁美に撃ち込んでいるところだったが、咳払いひとつで頑張ってごまかすことにしよう。


ほむら「……仁美は稽古の帰りか、大変だな」

仁美「え、ええ…ほむらさんは?」

ほむら「……自転車の練習」

仁美「そ、そうですわね……」

ほむら「あんまり、乗れないことを他人に知られたくもなかったんだけどな」

仁美「……申し訳ございません、偶然だったのですが」

ほむら「ううん、仁美は何も悪くないよ、私が気にしなければいいだけだからね」


格好悪いことは好きではないが、仕方のないことだってある。

乗れないものは乗れないのだから。


仁美「そうですか……入院生活、やっぱりハンデだったのですね」

ほむら「ああ、今でこそ落ちついて、何の反動か健康優良児になったけど…ちょっと前まではベッドの上の華奢な女だったよ」


夜のベンチに私と仁美が並ぶ。

暖かい紅茶家伝を両手の中に握り、時々喉を鳴らしながら、滅多にできない二人きりの会話を楽しんでいる。



ほむら「転校するまでは人付き合いのなんたるかも不明瞭だったけど、良い学校で助かったよ」

仁美「うふふ、まどかさんやさやかさんのおかげでしょうか?」

ほむら「君のおかげでもあるとも、仁美」

仁美「あら、ふふふ」


彼女は。

志筑仁美は、上条恭介に対して密かに想いを寄せていた女性だ。


親友であるさやかとは今くらいの時期に衝突し、なんというか古風な告白による白兵戦を行うのだが、結果としてさやかのリタイアで全てが決着している。

さやかがリタイアした時間では…あまり良い結末が迎えられていない。


まどかの平穏に大きく関わるさやか、彼女に大きく関わる上条恭介。

仁美に魔法少女としての素質が無いにせよ、彼女が見滝原の魔法少女事情に大きく関わっていることは間違いないだろう。


ほむら「ところで仁美、最近、上条恭介という男子の方をやけにチラチラと窺っているようだが……」

仁美「!」


私に恋愛関係の流れを制御することはできない。

それでも状況を見守るくらいはやっておきたい。


さやかのためにも、仁美のためにも。

/新聞紙/*-∀)ココマデニスルワ


ほむら「彼の事が気になっているのか」

仁美「……はい」

ほむら「けど、どこか気が進まない?」

仁美「ふふ、お見通しですのね」

ほむら「仁美の顔に書いてあるものな」

仁美「あらやだ」


冗談もそこそこに。


仁美「…上条くんに想いを伝えようと思っていましたの」

ほむら「ふむ、良いね」

仁美「けど、やっぱり良くないのかな、と」

ほむら「何故良くない?自分の気持ちに正直に向き合っているじゃないか」

仁美「ええ、正直に向き合おうと思いましたの、けれど…やっぱりやめておこうかと思いまして」

ほむら「……」


ほむら「さやかの事は気にするな、仁美」

仁美「!」


仁美「……ほむらさん、さやかさんから相談を」

ほむら「違う」

仁美「では」

ほむら「仁美、君はさやかに告げたのだろう?」

仁美「……そうです、けれど」

ほむら「さやかは何と言ったんだ」


仁美「……“私は伝えない”、と」

ほむら「伝えない、か」


仁美「“一日も待つ必要ない、私は良い”って」

仁美「そう言ったんですよ?」


仁美「なのにさやかさんは上条君の事を、命をかけてもいいくらい好きって!」

仁美「ならどうして身を引きますの!?どうしてお願いなんて!?」

ほむら「……」


堰を切ったように言葉を繰り出す仁美は、そのうちに涙を流していた。

怒りながら泣く仁美は、次第に口から吐き出す言葉も形をあやふやに、ぐずり、しゃくり上げ、そして言葉を失った。


膝の上の雫を薄手のスカーフで拭い、頭を撫でる。


仁美「うっく…うう…私、どうすれば……」

ほむら「……」


また膝に涙が落ちる。その雫を私は拭う。


仁美は。さやかもまどかとも、随分前から知りあった仲だった。

上条恭介に思いを寄せる幼馴染みのさやかを間近で見て、それでも上条恭介を想う仁美。


大切な友達に宣戦布告をしてまで譲れなかった恋慕を、仁美はそれまでずっと抱え隠し続けてきたのだ。

口火を切る覚悟は相当なものであっただろう。それこそ、魔女の口づけを受けるほどに苦悩したに違いない。


仁美「私っ…さやかさんの気持ち、全然知らなくて…!」

ほむら「……」


その苦悩を乗り越えた先で、仁美はさやかの覚悟を見てしまったのだろう。


幼い頃から眺め続けて抱いた強い恋心すらも二の次に回す、さやかの苦悩。

好きだからこそ譲る、彼女の本当の気持ち。


ほむら「それでもさやかは君に託したんだよ、仁美」

仁美「うぐっ…ううっ…!」

ほむら「さやかの気持ちさえ解っていれば、その権利は君が譲り受けてもいいのさ」


さやかも仁美も、私は二人の恋路の果てを何度も見てきた。

私は恋など、よく解らないが。


きっと、これがさやかと仁美の、最も良い恋路であるのだと。そう思った。

紅茶は冷めた。


仁美「ぐすっ……お見苦しいところを」

ほむら「ふ、良いさ、泣くだけ泣いて、それでいいよ」

仁美「…私、決めました……上条君に、想いを伝えます」

ほむら「そう、それでいい」


魔法少女でなくとも、私達くらいの子供にだって願望を叶える権利はあって然るべきだ。

私は魔法少女であるからといって、さやかに加担することはしない。


二人とも友達なのだから。

さやかがその機会を手放し、逆に仁美を祝福するというのであれば、私だって仁美を祝福するとも。



仁美「……やっぱり、ほむらさんは不思議な方ですね」

ほむら「ん?私か?」

仁美「ええ…私達よりもずっと大人で…まるで、全てを知っているような」

ほむら「ははは、全てを知っている、か」


仁美は鋭いな。まどか以外は皆鋭いけど。仁美は特に、鋭い気がする。

これ以上仁美と話していると、思わぬ所でボロを出してしまいそうだ。それは大義に響く。


さっさと退散させてもらおう。



ほむら「じゃ、私は帰るよ……仁美も気をつけてお帰り」

仁美「はい!…ほむらさん、ありがとうございます」

ほむら「では、また学校で!じゃあね仁美」

仁美「はい、また――」



ガシャーン



仁美「……あらー」

( *・∀・)<ここまで

( #・∀・)-з ウルサイワネ!


―――――――――――――――――


おぼろげな自室にて、空想の缶コーヒーを一口飲む。味は無い。

向かいの席の私は虚ろな目で呟く。


『あと3日ね』

ほむら『そうだな、あっという間だ』

『どうかしら、私の記憶を持って生き続けるのは、苦痛でしかないかしら』


自嘲げに薄ら笑む暁美ほむらが、私にぽつりと零す。


『全てを知らずに生きていければ、きっと貴女なら幸せになれていたわ』

ほむら『ふむ』


悩んだように頬を掻いてみる。

だが自分の中での答えは既に出ている。


ほむら『後悔なんてあるわけないよ、暁美ほむら』

『……』

ほむら『知らずに生きていても、そう遠くないうちに折に触れて……どの道、私の記憶は戻っていただろう、それが早くなっただけだ』


ほむら『むしろね、暁美ほむら。私は、ワルプルギスの夜が来る前に君の記憶を持つことができて、本当に良かったと思っているよ』

『……』

ほむら『たとえ少ない時間の中で足掻くことしかできなくとも、動ける私に後悔は無いさ』


『……やっぱり、貴女は強いのね』


暁美ほむらは寂しげに言った。


ほむら『私は君の中にあるひとつの部分だよ』


私は微笑んで彼女に言った。



運命の時が、着実に近づいている。


―――――――――――――――――


君は怨霊だ。

どこかで目的を見失いかけた、暴走する怨霊。

恨まずにはその魂を保ちきれない、心細い怨霊。


君は世を恨みすぎて、自らその魂を封印した。



ほむら「やあ、おはよう」

まどか「おはよー、ほむらちゃん」


私は亡霊だ。

自らを封印した君の代わりに生まれた、空虚な亡霊。

目的などは全て忘れ、虚ろに楽しく、勝手に動き回る馬鹿な亡霊。


全てを忘れた君は、私として世に生まれ落ちたのだ。


ほむら「おはよう仁美」

仁美「おはようございます!ほむらさん」

ほむら「ふふ」

仁美「うふふ」

さやか「?」


けれど私は思い出した。

私はもう亡霊ではない。亡霊は、怨霊である君の意志を知ったのだ。


君の意志は私の中に再び生まれた。

君は私だ。生きる意味の無かった私は、大きな目的を得た。だから私は君のためなら、なんだってやってやる。


魔法少女は条理を覆す存在だ。

あまりにも高く、堅すぎる条理の壁でも、その前で佇み絶望する必要などない。


一緒に次へ進もう、暁美ほむら。

私がその手を引いてやる。


雲が薄く引き延ばされた青めの空の下で。

私とマミは弁当を広げて、ランチを始めていた。


まどかとさやかは仁美と一緒に食べているらしい。今日は来ないようだ。


マミ「美味しいかしら?」

ほむら「うん、悪くない」

マミ「ふふ、それは良かったわ」


手を添えて、端で食べ物を口へ運ぶ。マミはどの作法を取っても行儀の良い女性だ。

マミ自身の意識の問題もあるだろうけど、しつけた両親は素晴らしい人達だったに違いないと、私は思う。



ほむら「良い景色だな」


屋上から見下ろせる柵越しの見滝原。

マミは今まで、たった一人でこの街を守ってきた。


親を失い、友と決別し、誰から認められるわけでもないのに、彼女は正義の為に魔女と戦い続けてきた。

私ならば出来ただろうか?無理だ。私ではきっと、そう長くは耐えられない。


マミ「ええ、良い景色でしょう?」

ほむら「ああ、本当に、良い景色」


遠くで工事が進んでいる。

上から見下ろすことではじめてわかる、異常な急ピッチ作業。


ほむら「良い街だ」


この街も無事では済まない。

そう思うと、少しだけ胸がちくりと痛んだ。


マミ「ねえ暁美さん」

ほむら「ん?」


マミ「私、暁美さんが居なかったら、もしかしたらもう、ここには居なかったのかもしれないわ」


弱音か?珍しい。


マミ「暁美さんが一緒に居てくれたから、そう言ってくれたから、私は折れずにここまでこれた」

ほむら「どうしたんだマミ、急に」

マミ「ふふ、なんだか感謝したくなっちゃった」

ほむら「恥ずかしいな?」

マミ「私の本当の気持ちなのよ」


食べ終わった弁当を片づける。


マミ「そんな暁美さんだからこそ、私は信じるわ」

ほむら「……」

マミ「ワルプルギスの夜、私は別の所から戦うことにする…暁美さんの邪魔にならないように、それはちょっと悔しいけれど、自分にできることをするわ」

ほむら「…ありがとう、マミ」

マミ「だからお願いね?暁美さん……見滝原を、お願いね」


その言葉には、さすがの私も胸をズドンとやられた。


ほむら「ああ、任せろ」


それでも笑顔はさらっと作れた。

(布団)*・∀)ハーイ ヾ(・∀・* )電気消すワヨ

( *・∀)(*・∀・*)(∀・* )ハイスクールララバイ♪


「さようならー」

「はい、さようなら、気をつけて帰るんだよ」


広い廊下を足早に歩く。

今日も早めの行動を心がけ、適当に魔女退治した後に準備を進めなければ。

タブレットも目を離せない速度で流れている。私が動かなくてはならない時期に差し掛かっているといえよう。


さやか「ほむら!」

ほむら「お?さやか」

さやか「魔女退治、私にも手伝わせてよ!」

ほむら「……ふむ」

さやか「ほむらの足を引っ張らないようにするから!お願い!特訓だと思って!」

ほむら「……」


仁美と話したこともある。

さやかは恋を捨て、正義を選んだ。

その正義を貫くためには、力とそれを運用するための経験が必要だ。


ほむら「わかった、一体だけね」

さやか「やった!ありがとう!」

ほむら「今日はスケジュールがおしてるからね、早く行くよ」

さやか「うん!」


二人で街へ出る。


工場地帯までやってきて、ようやく魔女の結界を見つけた。

魔法少女4人を支えるためのグリーフシードを供給するためには、見滝原ではもう手狭なのだ。


多少の遠征は覚悟しなければならない時期に差し掛かっているのかもしれない。



さやか「……ここ」

ほむら「ん?」


さやかの手のひらの中の青いソウルジェムが煌めいている。


ほむら「魔女か」

さやか「ううん、そうじゃなくて、ここって…」

ほむら「……ああ」


いつの日だったか、さやかとまどかを連れてやってきた場所だ。

魔女の口づけによって飛び降り自殺を遂げてしまったOLの遺体があったビルの真下に、私達は立っていた。


さやか「……」


血だまりが広がっていたであろう場所を、さやかは覚えていた。

そこをじっと見つめていた。


さやか「…すぐ近くから反応があるね、行こう」

ほむら「そうだな」


私から彼女に言えることはないだろう。

彼女の中で完成されている意志に、私の色を付け加える必要はない。



ほむら「5.二列縦隊カットラス」

魔女「!」

ほむら「今だ!」


一列につき10本のカットラスが魔女の左右を連続的に掠め、動き封じた。

そこへすかさず飛び込む、剣を携えたさやか。


さやか「だりゃぁああああッ!」


地を駆け、跳び、魔女が反応するよりも早く突きを叩きこむ。

彗星のように尾を引く一撃は、魔女を大きく吹き飛ばし。壁へ叩きつけた。



ほむら「素晴らしい」


魔女が衝突してひび割れた壁から、結界が崩壊してゆく。

はらりはらりと舞い落ちる破片の中に、さやかの姿が映る。


さやか「へ」


満足げな笑顔で、私に親指を突き立てていた。


ほむら「ふ」


私も親指で応える。


さやかに教えたい戦闘技術は多い。

だが、私は彼女に全てを教えることはできない。

さやかが一人で、苦戦せずに魔女を倒せるようになるまでには、まだもう少し時間がかかるだろう。


どうかそれまでは、杏子やマミの手助けの下、自己の素質を恨まずに努力を重ねていってほしいものだ。


夜の街をふらりふらりと歩く。

自転車はつい一時間ほど前の夕時に、つい癇癪を起して蹴り壊してしまった。もう二度とあれに乗ることは無いだろう。



:手筈通り、期日までに


ほむら「……」


タブレットを片手に、増築中の建物の外観を遠目から窺う。

無骨な見た目だが気にする事は無い。

観客席は実用性さえ備わってあればいいのだ。


ほむら「さて、大体見終わったかな」


指でスクロールする。受信したメッセージのうち、興味のある場所はだいたい全てこの目で確認した。

少々時間に余裕が出てきた。


ほむら「……息抜きに、久々にあそこに行ってみるか」


ワルプルギスの夜の事だけを考えていても仕方ない。

見滝原の形があるうちに、楽しむべき場所を楽しんでおこう。


私にとってもこれが最後と決めているのだから。


ほむら「や、奇遇」

杏子「あれ?」


なんとかディウスの前の椅子に座る杏子にコーラを差し出すと、彼女はポッキーを口から落として驚いた。

私はパーカーの上に落ちたポッキーを拾い上げて、コーラの代わりとそれを口の中に入れた。


杏子「今のアタシが言える事じゃないけど、悠長だなあ」

ほむら「おあいこって事だな」


コーラを受け取って笑顔に変わった杏子が、どういう怪力か片手の親指だけでキャップを弾き開けた。

私もどどんなんとかの機械の前に座って、自前のコーラを一口飲む。


杏子「そうだ、ほむらのためにグリーフシードを2個手に入れておいたんだ」

ほむら「へっ?」

杏子「あはは、なんだその声!まぁ受け取れよ」


そう言う彼女は、私の座る台の上に2個のグリーフシードを転がした。

しっかり針で立っている。本物だ。それも未使用。


ほむら「……良いのか?こんなに、大変だっただろう」

杏子「うちの方じゃ結構魔女もいるからね、ほむらのために狩っておいたんだ」

ほむら「……」


グリーフシードを握りしめる。

これを、突き返すことも良い。私に受け取る資格はない。


けれど、それでも私は握りしめる。


ほむら「ありがとう、助かるよ……大事に使う」

杏子「へへ、気にすんな!ちょっとした贖罪でもあるしさ」


彼女の笑顔を見るのも、少し辛かった。

( *・∀)ネマショ (∀・* )ソーシマショ


『無駄ぁ!無駄ぁ!』


レバーとボタンを素早く操作して、一撃一撃を確実に当ててゆく。

以前の私とは一味も二味も違う。そこらへんのヤワなキャラ相手では、今の私に太刀打ちすることはできないだろう。



杏子「うお、そう来っか、ぬぬぬ」

ほむら「ぬぅん」


どうやら、以前の暁美ほむらもこのゲームをやっていたらしい。

なるほど、私の身体もなんとなく操作を覚えているわけだ。



杏子「なあ、ほむら」

ほむら「ん?」

杏子「勝てるのか?」

ほむら「勝てるさ」

杏子「ワルプルギスの夜にさ」

ほむら「そっちか」

杏子「そっちだろ」


『無駄無駄無駄無駄無駄無駄』


ほむら「…なんとかなるよ」

杏子「それ、信じていいんだよな?」

ほむら「……」


『お前の欲しいものは何だ…?』


杏子「あっ、てめ」

ほむら「むだぁ」

杏子「あー!くっそー!もう一回だ!」

ほむら「ふ」


格闘ゲームに飽き、コーラも空き、ついにやることも無くなり、座り心地が良くも悪くもない椅子に並んで座る。

二人でぼんやりと、明るすぎる照明の天井を眺める。


ここ最近ずっと動きっぱなしだったので、杏子とのゲームは久々に良い息抜きとなった。


杏子「…なあ、ほむら、聞いてよ」

ほむら「んー…?なんだい、杏子」

杏子「アタシ、元々はマミみたいな、普通の魔法少女だったんだ」

ほむら「……」


知っている。

彼女がさやかに告白した過去の事も、私は全て知っている。

しかし、意を決して私に打ち明けている最中の杏子を止めることはない。


惨劇とも呼べる過去を一通り喋った後、杏子は一息ついて、空になったコーラに口を付けた後、ペットボトルを投げ捨てた。


杏子「……魔法は全て自分の為に使う、あれからアタシは、そういう風に生きてきた」

ほむら「……」

杏子「けど、もうやめようと思う」

ほむら「!」

杏子「また昔みたいに、何かのために戦っていけるなら……ちょっと傷付いたり、早死にするくらい、別に良いかなって思ったんだ」


薄く微笑んだ杏子の表情は穏やかで、未だ私も見たことがないものだった。


杏子「だからさほむら、アタシにはワルプルギスの夜に戦う力は無いけどさ……」


するりと髪留めを外し、胸の前に当てて握り込んだ。

流れるような長い髪は背中に下りて、シスターのベールのように杏子の背を包む。


杏子「せめて皆の為に戦うほむらを、祈らせてくれよ」

ほむら「……ありがとう」

杏子「……頑張れよ、ほむら」


視界の隅に転がるペットボトルについ目がいったが、彼女の祈りはきっと神の下へ届いただろう。

誰もいない、暗黒の地下。

軍用の明るい懐中電灯を片手に、広い地下を進む。


ほむら「……」


物資はきっちり、そこに大量に積まれていた。

光を天井に向けると、照明の配線もなされていた。この分ならば、発電機もきっと問題はないだろう。


ほむら「さあワトソン、しばらくの間、お別れだ」

「にゃ」


黒猫を闇の中に離してやる。

すぐにどこかへ歩いて行ってしまうかと思いきや、暗がりの中で猫の目が発光しており、こちらに向いたまま離れる気配は無い。


ほむら「ワトソン、すまないが大事な公演を控えているんだ」

「にゃぁ」

ほむら「うん、今までも二人の息はぴったりだったさ……けどこれは大事なソロ公演、ワトソンといえど、共演はできない」

「にゃぁ……」

ほむら「泣くな、すぐに復帰できるさ」


猫の頭をなでてやる。

1カ月で、ワトソンも随分成長した。


相変わらずの仔猫だが、それでも身体は大きくなっている。

私が与えた食べ物が良かったのだろう。


ほむら「じゃあね、ワトソン……また会いに来るからね」

ほむら「その時はきっと、レストラードも…どうだろう、いや、レストラードともきっと会えるだろう」

ほむら「みんな集まったら、またマジックショーを……」


ほむら「……ワトソン?」


ほむら「……最後の大事な別れの時にだけ消える?普通……」


ともあれ、これで準備は万全に整った。

あとは嵐が来るのを待つだけである。


――――――――――――――――


『ついに、明日ね』

ほむら『ああ、明日だ』


いつものように対面して座る。

無感情な暁美ほむらの表情も、今この時ばかりは強張っているように見えた。


ほむら『怖いかい?暁美ほむら』

『……私が訊くべきことよ』

ほむら『はは、それもそうだね』


味の無いコーヒーを一口啜る。


ほむら『すごく怖い』

『……』

ほむら『腹痛の最中にやったマジックショーと同じくらい緊張するよ』

『馬鹿にしているの?』

ほむら『まさか、馬鹿になんてしていないさ』


ほむら『ただ、私のやるべきことは随分と楽ではあるからね』

『……』

ほむら『気持ちに多少の余裕はある、っていうこと』


嘘だった。

本心では失敗するんじゃなかろうか、と、非常に波立った思いでいる。

それでも暁美ほむらに心配はかけさせたくない。

弱い私の前では、絶対に私は、強い私でなくてはならないから。


ほむら『……さて、せっかくのパレードだ、早起きすることにしよう、じゃあね』


準備の確認もしておきたい。

私は席を立とうとしたが、


『……待って!』


暁美ほむらがそれを止めた。


『……勝手だとわかってる、けど…!』

ほむら『……』

『まどかを、お願い…!』

ほむら『大切な友達なんだ、当然だろ』


私は親指を立て、最高の笑顔で部屋から出た。


――――――――――――――――


「くるっぽー」

ほむら「……」


レストラードの鳴き声で、仮眠から醒める。

風の吹く、どこか高い塔の上。

カーキのブランケット一枚を羽織ったままで、眠りに落ちていた。


朝と呼ぶには暗すぎる空模様に、これから起こされる大災害の予兆を見てとれなくもない。



ほむら「……ワルプルギスの夜が来る」


別に言わなくてもやって来る。

恐怖のパレードが来る。


公演の時間を確認してないが、あと数時間後には始まりそうだ。

遅れてしまってはいけない。早めに準備をしておかなくてはならない。


ほむら「……いただきます」

「ぽー」


いつの日か食べそびれたカロリーメイトを朝食に、最終準備が始まる。

もぐりもぐりと、口の中の水分を奪う朝食。


ただでさえ渇いた口内には、あまりよくないチョイスだったのかもしれない。



「くるっぽー」

ほむら「……さあ、レストラード、しばらくの間……君の場合は、もしかしたらずっとかもしれないけど、」

「くるっぽー」


全部を言い切る前に、白い鳩はどこかへ飛び去ってしまった。

ワトソンといい、最後だけ随分薄情じゃないか?


時折空を見上げて、タブレットをいじる。


ほむら「おいらはほ~むら~」

ほむら「やんちゃなほ~むら~」

ほむら「おいら~が生きてりゃ嵐を呼ぶぜ~……」


もう一度、曇天を見上げる。


まだまだワルプルギスの夜が来るほどのものではない。

スーパーセルの兆候と断定するにも難しい空模様だ。


だがこのままいけば、必ず嵐はやってくる。



ほむら「喧嘩混じりにボタンを叩きゃ~……」


タブレットに映し出される複数のストリーム映像を見る。人影は無い。

万全だ。



ほむら「日頃の憂さも~」


ほむら「吹っ飛ぶぜ」



タブレット上の赤いボタンを押す。



―――ドドン


―――ズドン


―――ドゴン



塔から見下ろされる見滝原の景色に、いくらかの爆炎が上がる。

その全てが見滝原市により指定されている緊急避難場所であることは、現時点では私しか知らない。

(*・∀・*)ゞ キョウハ ココマデ!



ほむら(ポイントは全て爆破完了……中央の屋根さえ壊れてしまえば、避難所としては機能不全)


無理に多く破壊する必要はない。最低限の破壊で効果を発揮できれば十分だ。

あとは大げさに立ち上る黒煙が、避難所の破壊を解りやすく教えてくれる。



『キャァアアア!』

『うわすっげ……』

『逃げろ!逃げろっ!』


パニックに陥る少数の人々は仕方ない。避難所については、多少の荒っぽいやり方が必須だったのだ。

頭の堅い馬鹿な役所の連中は、ハリケーンなどへの対処法を熟知していないし、経験もない。ただ避難すれば良いと思っている。

一か所に住民を避難させてしまえばそれで終わり。お役目終了。簡単な仕事で良いものだ。


だが実際にハリケーンなどが来た時、正しい対応は家屋に入る事ではない。地下へ潜る事こそが最善の手。


ほむら(人は多く雇った、誘導は彼らがやってくれるだろう)


タブレットを通じて配置したカメラを確認する。

爆発を察知した人々が困惑している。大きすぎる爆発ではなかったので、けが人は無し。

血を見なければ恐慌することはない。まぁ、テロだとわかったならば大騒ぎになるだろうが……まあ、眠っている住民には良い目ざましのニュースとなるはずだ。


だが現場に調べが入り、爆破と判明するまでの時間は無いだろう。

その前に避難指示命令が入るはずだ。


そして人々は、避難できる場所が無いと知る。



ほむら(順調だ)


騒がしくなった眼下の街を見下ろし、カロリーメイトを一口齧る。


急速に暗雲を湛えはじめた空。

ほどなくして、街中のスピーカーから悠長な女性の声が響き渡る。



『竜巻警報……ただいま、見滝原市全域に、緊急避難指示が出されました……』

ほむら「だな」


時間は予定通り。

爆発、そして警報。さて、人々はどこへ避難するか。


役所もそこまで馬鹿ではない。そろそろ避難所が使えないことは把握しているはずだ。

大多数は街の外へと出るように指示が出されるだろう。


では街の中心部などの人々はどうするか。

子供、老人。なかなか外に出れない人々も多いだろう。


何も問題は無い。

私の方で全ての準備が整っている。




『地下貯水トンネル、避難場所として解放しておりまーす!』

『地下用水路建設跡地です!一時避難される方は、どうぞこちらに!』



一定間隔で配置されたスピーカーが、地域の人々に最寄りの避難場所を伝える。


ほむら「よしよし、みんな真面目に働いてくれるじゃないか」


どこぞの汚職議員が進めた見滝原急開発。見滝原バブルの負の遺産。


見滝原の真下には、貯水トンネルとして使われるはずだった頑丈な空洞がいくつもある。

水資源や都市の洪水問題に対処するため、都会ではよく進められるプロジェクトだ。



ほむら(避難の方は大丈夫そうかな)


問題が無ければ、後はワルプルギスの到来を待つばかりである。

それまではもう少し、この美しき見滝原を眺めていよう。


ほむら「……ごめんね」


私は街に謝った。


巨大ホールのように天を隠し尽くす雲の天蓋。

星一つ瞬かない白昼の夜がここにはじまる。


空調のいらない吹き抜ける風。

ドライアイスのいらない白い靄。


こちらへ近づく低気圧のブラックボックスは、百年に一度の奇跡となって、見滝原に顕現するだろう。





ほむら「……さあ!見滝原市民の皆さま!」

鉄塔の先で、分厚い雲に大声を張り上げる。





ほむら「今世紀において最も輝ける!時を駆けるマジシャン!Dr.ホームズ!」

ほむら「生憎のお天気!しかし全ての装置が整ったこの場所は、もはや誰にとってもホールと同じ!」

ほむら「史上最も努力し、苦悩し、辛酸をなめ尽くし!それでも輝かしい未来の為に、時を越え戦い続ける時空の戦士、暁美ほむら!」

ほむら「挫折を味わい、それでも前に進み!夢をあきらめなかった一人の少女!わずか14年の人生に下積み5年以上を詰め込んだ精神と時の部屋による苦しい修行の成果は、今回の公演で大輪を咲かせるか!?」





ほむら「スペシャルゲストはそう!皆さまご存じ!ワルプルギスの夜!」





ほむら「Dr.ホームズのマジックショー!これより開幕!」



巨大な積乱雲から、素敵な笑みを浮かべた来賓が登場する。

今日の為に着飾った紫の衣装は、きっとこの私に合わせてくれているのだろう。


上等だ。



ほむら「さあ、始めようか」



私はタラップを使ってゆっくり鉄塔から下りた。


知久「えっと、ここで良いんでしょうか?」

「はい、避難所として活用できるように、最近になって開発された場所ですから」


まどか「近くで良かったね」

詢子「うんうん」

知久「あ、そうだ、何かブランケットのようなものがあれば…」

「中に全て揃えてあるので問題ないですよ、僕と同じこのゼッケンをつけている人に聞けば、貰えますので」

知久「そうですか!ありがとうございます」


まどか「……あ、この人のゼッケンのマークって…」

「ん?これかい?うちの会社のロゴらしいけど、詳しくはわかんないなあ」

まどか(……スーツを着たソウルジェムが、シルクハットを被ってる)

まどか(デフォルメされてるけど、間違いない……これって)


さやか「ほむらだね」

まどか「! さやかちゃん」

詢子「あら、さやかちゃーん久しぶりぃ」

さやか「へへ、お久しぶりです」


さやか「ほーい、お茶もらってきたよ」

まどか「ありがとー、さやかちゃん」

さやか「いやぁ~タダで色々な飲み物が飲めるなんて、避難場所とは思えないくらい良い施設だねえ」

まどか「えへへ、そうだね」


さやか「さっきもロゴ見たけど、「Hompty」っていうんだって、すごい会社もあったもんだよねえ」

まどか「ホンプティ…あはは…これってさ…」

さやか「間違いないだろうね…」

まどか「ほむらちゃんて、一体何者なんだろうね…」

さやか「きっと、私達の考えの及ぶような奴じゃないんだよ、あいつはさ」

まどか「?」


さやか「普段学校とかでは何も考えてない、ちょっと抜けてる所はあるけどさ……隙が無いっていうか」

まどか「うん」

さやか「そう!深さがあるっていうの?うん」


さやか「そんなところに、私は随分助けられたような気がするよ」

まどか「…ほむらちゃん、かぁ」

さやか「だから、私はほむらの言葉を信じてる」


さやか「街のために一緒に戦えないのは悔しいけど、私はほむらの言う通り、ここで待つことにする」

まどか「……うん」

さやか「だからまどかも安心して――」


「すみません、貴女は鹿目まどかさん、でよろしいですか?」

まどか「?」


まどか「私は、鹿目まどかですけど……」

「会社の方で手紙を預かっているので、これを」

まどか「手紙……?」

さやか「ほむらから、なのかな?」

まどか「これって誰から……?」

「いや僕は下っ端なのですみませんね、そこはわからないです」

まどか「はあ……」


ペリ


さやか「何が書いてあるんだろ」

まどか「わかんない……」

パラ


“まどか、一人でJ14のパイプ室に入って、指示に従って来てくれ”


まどか「……これって」

さやか「間違いないね、ほむらっぽい感じがする」

まどか「呼ばれてるの?私だけ?」

さやか「…何か、意味があるんじゃないかな」

まどか「そうなのかな……」


さやか「行ってきな、まどか」

まどか「……うん、行ってみるよ」

さやか「ここに居るから、待ってるからね」

まどか「うん、じゃあね」


タッタッタッ・・・


ガチャ


まどか「ここだよね……わ、パイプ管が沢山通ってる」

まどか「指示って、どういうことだろ……?」


“コーヒーが好きなら左へ”

“ココアが好きなら右へ”


まどか「……これって」

まどか「……こっち、っていうこと?」タッタッタッ


“演歌が好きなら左へ”

“スラッシュメタルが好きなら右へ”


まどか「……やっぱり」


“ブリューナクを持っているなら左へ”

“トリシューラを持っているなら右へ”


まどか「……ほむらちゃん、なんだね」



“赤いリボンが似合う君は階段を上ったその先へ”


まどか「……」


タッタッタッタッ・・・


“この先にイースターエッグは無いけど、真実はある”


まどか「……」

ガチャ



ほむら「やあ、まどか」


湾曲した白いソファーの上で、私は脚を組みながら彼女を待っていた。

まどかは予定通り、ちゃんとやってきた。


まどか「…ほむらちゃん?何をして……それに、ここって」

ほむら「ここはちょっぴり頑丈な部屋さ、快適だよ」

まどか「ワルプルギスの夜って、もう来るんじゃ…」

ほむら「来ているよ」


そう。ワルプルギスの夜は既に見滝原に顕現している。


まどか「え?じゃあ、ほむらちゃん、早く行かないと」

ほむら「まあ急ぐ必要は無いさ」

まどか「……ほむらちゃんなら勝てるって…本当だよね?」


心配そうに、戸惑うようにまどかは訊いた。


ほむら「ふふっ」


私は彼女の困ったような顔を見て薄く笑い。


ほむら「嘘」


笑顔で全ての期待を裏切った。

(卵*・∀・)ヒトマズハ ココマデネ


まどか「え……?」

ほむら「全て嘘っぱちだよ、まどか」


ソファーから立ち上がる。


まどかに背を向けて、大きな壁に向かってリモコンスイッチを押す。

すると、壁一面の巨大モニターに、ワルプルギスの夜が映し出された。


まどか「……!」

ほむら「これこそが最強の魔女、ワルプルギスの夜だ」

まどか「ま、待ってよほむらちゃん、前に勝てるって言ってたのに!」

ほむら「こいつにか?」


モニターに映されたワルプルギスの夜は、ゆっくりと宙を進んでいる。

攻撃を受けず、平穏なるままに動くワルプルギスの夜は、特に凶暴性を見せる事もなく、強い嵐を発生されているだけだった。


ほむら「こいつに勝つメリットなどはないよ、まどか」

まどか「そんなこと……!」

ほむら「戦っている最中に街は破壊され、砕かれ…勝ったとしてもそれは、全てを失った後だろうよ」


ほむら「ならば私は、街を捨てる」

ほむら「そして人だけを守る」

まどか「…この避難所って」


ほむら「見滝原には私が急ごしらえした避難所がいくつもある…地下の頑丈なシェルターは大多数の人命を救うだろう」


ここも例外ではない。

ワルプルギスの夜とて、地下の避難所までは襲いきれないだろう。

その前に飽きて、自ずと去ってゆく。


街に執着しなければ、ワルプルギスの夜を倒す必要などはない。


ほむら「だが君は街を救う事ができるよ、まどか」

まどか「…わ、たし?」

ほむら「そうともまどか」


モニターに映るワルプルギスの夜を背に、まどかに向き直る。


ほむら「君だけが唯一、その権利を手にしているんだよ、まどか」

ほむら「インキュベーターと契約し、願う事によってそれはすぐ果たされるだろう」

ほむら「見滝原を元の状態に……いいや、もっと途方もないことだって出来るに違いない」

ほむら「君は祈り、願う権利がある」


戸惑う彼女に優しく微笑みかける。

そして、まどかの入ってきた扉には、いつの間にか白猫の姿があった。


QB「全てはまどかの意志に任せるということだね?暁美ほむら」

ほむら「まあ、ね」

まどか「……」

ほむら「怖いかい?まどか」

まどか「……」


何か言葉を発したい。しかし混乱する思考が発生を妨げていた。

まどかは葛藤している。


ほむら「怖くて当然だよ、ただの街など、自分の魂を賭けるに値しないものな」


彼女の肩に手をやる。


ほむら「罪を感じる事は無いよ、まどか」

まどか「うっ……ぁう……」


まどかは静かに涙を零した。


まどか「ご、ごめんなさい……私、本当に嫌な子だよねっ……」

まどか「本当は、みんな助けて、街だって守りたいのに……」

まどか「不公平だって、釣り合わないって思っちゃってるの……!」


ほむら「……」


私は内心でほっとしていた。

まどかならば、自分の命を引き換えにしても、街だけですら守りたいと言うだろうとも思っていたから。


ほむら「私の方こそすまない、まどか……こうでも嘘をつかなければ、皆を守れなかったんだ」


さやかやマミは、それを知っていればきっと戦っていただろう。

杏子だって、無謀でも戦いを挑んでいたかもしれない。

皆で力を合わせれば勝てると、そう信じているから。


ほむら「でも君にだけは教えておかなければならないと思ったんだ、まどか」

まどか「私……?」

ほむら「後から街の壊滅を知ると、君は何をするかわからないからね……趣味の悪い話だが、間近で君の後悔を受け止めてあげたかったんだ」

まどか「……」


モニターを見る。

ワルプルギスの夜が踊りを始めた。


烈風が吹き荒れる。


ほむら「半日で、見滝原は荒野と化すだろう」

ほむら「地下にいる人々はその惨状を知る事はない」


ほむら「けど、“どうにかすることができたかもしれない”私達にとって、この破壊の様を見届けることこそ、罰であると言えるのかもしれないね」

まどか「……辛いよ」

ほむら「辛いかい?まどか」

まどか「……うん」


涙を湛える彼女は、本当に辛そうだった。


ほむら「……よし!ならばせめて、気分良く見滝原の最期を見送ろうじゃないか!」

まどか「へっ?」


大きく手を広げ、モニターを見る。


ほむら「せっかくの百年に一度級の大災害だ!ただ黙って見ているのも価値はあるが、ここで楽しまなくては人生の損というものだろう!?」

まどか「え?え?どういうこと…?」

ほむら「執念を裏切り、願いに決別をつけるならば、せめて明るく振る舞っておかなくては!」


紫に輝くソウルジェムを手に、変身する。

ハットを被り、ステッキを右の手首にひっかけ、盾の中から黒いリモコンを取り出す。


ほむら「魔女のお祭りなど知ったことか!魔法少女だって似たようなものだ、乱入して一緒に楽しんでやろう!」


黄色いスイッチを押すと、モニターの変化が現れた。


ワルプルギスの夜を囲むようにして、巨大な打ち上げ花火が上がる。

巨大な花火たちは大きく開いた後、ワルプルギスの夜が巻き起こす嵐によってすぐに流され、消えてしまった。



ほむら「ワルプルギスの夜など関係ない!戦うつもりなどない!戦う気も無いのであれば、勝っても負けてもいないのだよ!私達は!」

まどか「ほむらちゃん……?」


赤いスイッチを押す。

ワルプルギスの夜のすぐ脇を、特注のジェットエンジンを積んだ簡素なロケットが通過し、爆発して巨大な花火を咲かせる。

無重力によって地面から引きはがされたビル群が大爆発を起こし、破片が大空を舞う。

改修された電車のレールから、魔改造を施されたウイング付きの電車が猛スピードで脱線し、ワルプルギスの夜に衝突する。



ほむら「はははは!自分の心のために自分でピエロを演ずる!医者もパリアッチも全て私だ!これほど面白い事があろうものか!」


身体を曲がったソファーに投げ出し、仰向けに蛍光灯を眺める。

ちかりちかりと瞬く蛍光灯。まぶしく、寂しい明滅だった。



ほむら「……魔法少女でも、型にはまりきった正義の味方をやることはない」

ほむら「正義の味方になれないからといって、気に病む事も戦い続ける事もしなくていいんだよ、私も、まどかも」


それでも、私は魔法少女だから。

そう言って戦いに身を乗り出していったまどかの姿が脳裏に映る。


ほむら「……ふふっ」


大丈夫。誰も責めないよ。暁美ほむら。


まどか「……そう、だね」


自信無さげではあるが、何よりも彼女がそれを認めてくれたのだから。

ここが妥協点で構わないだろ?

(*・∀・)*・∀・)*・∀・)<今日はココマデ

(布団)*-∀-)ウフフ・・・キンセイガニ・・・

ヽ(*・∀・*)ノ 紅茶飲んでフッカツ!


全ての財が流された、といえば頭の重い結果だ。

しかしバベルが打ち砕かれて、建て直す事がゆるされたと考えれば、……そうもいかないか。


ある程度の時間があったとはいえ、避難率は100%ではないだろう。


身体の不自由すぎる孤独な人。

運悪く睡眠時間の長すぎた鈍い人。

理由あって、施設を出ることができなかった人。


私はそれらを関知していないが、少なからず居たはずだ。

犠牲はある。人を全て助けられるはずはない。


まどかには言わなかったが、そこが現実の問題だった。



ほむら「……」



地上に立った私は、ワルプルギスの夜の後ろ姿を見送る。

夢にまで見た瓦礫の山の上で、缶コーヒーを飲みながら、そのパレードが向かう先を見送る。


あの魔女はまたいつか、どこかの見知らぬ地で、大規模な絶望をまき散らすだろう。

そこまでは手に負えない。仕方がない。私にも出来ることと出来ないことがあるのだから。


まどか「……うう、まだ、風強いね」

ほむら「危ないぞ」


まどかも避難所を抜けだして地上へやってきた。

まだ避難の警告は解除されていない。地下の人々はまだ、この凄惨な光景を知らない。


私とまどかだけが、まだ悲鳴も嗚咽も無いこの惨状を目の当たりにしていた。



ほむら『さやか、マミ、杏子、聞こえる?』


テレパシーを送る。

反応はすぐにやってきた。



『ほむら!?無事!?』

『怪我は無い!?』

『ワルプルギスの夜は!』


回線は混雑しているようだ。



ほむら『全ては終わったよ、みんな』


小高い瓦礫の山を、尚も登る。

足場の悪いコンクリの破片を踏みしめ、モルタルのタラップを掴み、鉄骨の頂上へ躍り出る。


ほむら『地上へ出てきてくれ』


瓦礫の小山から見下ろす光景は、いっそ清々しいものだった。


透き通るような青空。

透き通る景色。


ほむら『……認めたくなくとも、やらなくてはならないことがある』


これが私の望んだ未来。

暁美ほむらが頷ける、素晴らしい世界。


大きく両腕を広げ、天を仰いだ。

ワルプルギスの夜が去っても、そこはまだ昼の空だった。


さやか「……何も、残ってない」

マミ「そんな……」

杏子「嘘だろ?」


さやか「……あ、ほむら」

杏子「ほむらぁー!」


遠くの方で、魔法少女の姿が3人、確認できた。

三人とも周囲の惨状を見まわしながら、それでも私の方へ走って来る。



さやか「はぁ、はっ…ほむら!街が…!」

ほむら「街は壊滅した」


瓦礫の山の上から私は言った。


マミ「何も、残ってない」

ほむら「ワルプルギスの夜に勝つことはできなかった」


表情を変えずに私は言った。


杏子「…勝てるって言ったのに」

ほむら「……」


私は何も言えなかった。


嘘だよ。なんて、そう軽く言えるものではなかった。言えると思っていたけれど。

そうおちゃらけることはできなかった。


冗談をかますには、みんなの表情があまりにも重すぎた。

全てが無くなった見滝原を見回す三人の反応が、私は怖かったのだ。


マミ「…全然服が汚れてない所を見ると、ワルプルギスの夜とは戦ってない?」

ほむら「その通り、直接は一度も手を出していない」

さやか「…意味もなく、そんなことはしないよね、ほむらは」

ほむら「住民を避難させ、君達を戦わせないようにするだけで精いっぱいだった」


まるで尋問のようだ。息がつまりそうになる。


ほむら「……私には、奴を倒せる“奇跡”なんて無かったんだ」

ほむら「私は皆を騙していたんだ」

ほむら「私の独善で、私が救うもの、見放すものを取捨選択したんだ」

ほむら「……私だけの意志で」


でもこの行いに後悔は無い。

私は自らの信じる最善を行った。

この素晴らしい結果を覆したいとは思わない。



ほむら「……すまない、みんな」


私は瓦礫から下りて、ハットを手に持ち、深く頭を下げた。

この結果は覆すことはできない。だから私は、ただ頭を下げるしかなかった。


承知の上で皆を裏切った。その罪がどれほどのものか、私はわかっているつもりだから。



まどか「……ほむらちゃんは、悪くないよ」

ほむら「……」

まどか「だって、街の人を沢山救ってくれたんでしょ?」

ほむら「……」

まどか「ワルプルギスの夜に勝てないのなら…仕方ないんだよ」

マミ「鹿目さん……」


まどか「……ずるいのは、やっぱり私の方」

杏子「!」

まどか「私、こんな見滝原を見てもね、まだ願い事を叶えたいって……踏ん切りがつかないんだ」


まどか「私なら叶えることができるのに、ズルいよね」

さやか「ちょ、ちょっとやめてよ二人とも!」

杏子「そうだよ!まるでアタシらが責めてるみたいじゃんか!」


さやか「ワルプルギスの夜とは戦わないって、それをずっと隠しとおされてたのはムッと来る所はあるけど……ほむらのやったこと、間違いではないとは思うよ」

ほむら「!」

さやか「だってそうじゃん、ほむらでも勝てないんでしょ?だったらまどかにしか勝てない相手ってことじゃん」


杏子「で、まどかに戦わすなんてもっての他だからな……そうくりゃ、ほむらのやった人を救うってのは一番正しいように、アタシも思う」

ほむら「…さやか…杏子」


二人に言われ、私はかなり救われた気がした。


マミ「……」


それだけに、三人の中で沈黙を守っていたマミの難しそうな顔が怖かった。

じっと口を結び、目線を動かさず、ただどこでもない瓦礫の山の尾根を見つめている。


まどか「…あ、あの…マミさん…ほむらちゃんは悪くなくて…」

マミ「わかっているわよ、鹿目さん」


口調だけ優しくマミは言った。


マミ「私たちにずっと嘘をついてたこと、少しショックだっただけ」

ほむら「……本当に、ごめん」

マミ「でもそれは暁美さんの、とても優しい嘘なんでしょ?」


マミ「…なら、それだけ。私も暁美さんのやったことは正しいって思えるわ」

ほむら「…マミ」


彼女はやっぱり大らかで、優しい人だ。

(殻)*・∀))) ズルズル

( *?E??E)?? ?? ??????@(???*)Ш?

!!!???

(*・∀・)<テスト

(*・∀・*)テスト

(布団)*・∀・)テスト

(*・∀・) (・∀・*)テスト

ほむら「テスト」

マミ「テスト」

杏子「テスト」

テスト。

「テスト」

――テスト

“テスト”

( *・∀・)問題ないみたいネ 書くワ


さやか「……でも、これからどうすればいいの?」

杏子「どうって」

さやか「見滝原、もう無くなっちゃったよ……家も学校も、病院も……みんな壊されてさ」


その言葉を待っていたのかもしれない。

私はハットを被り直して言う。


ほむら「当然だろう、さやか」

さやか「え?」


大多数の人命が助かったとはいえ、被害はあまりにも大きすぎた。

その被害の大きさは、後々の命にも関わるはずだ。


いつかの自殺しそうになっていた工場長。また、実際に自殺してしまった夕時のOLのように。


ほむら「これから、現状に絶望して、魔女の口づけに対して抵抗を持たない人々が多く増える程だろう」

マミ「……そうね、増えるわね……間違いないわ」

ほむら「そうなれば必然的に魔女も増えるだろう」


ほむら「ワルプルギスの夜をやり過ごした我々に出来ることは、これからさ」


青い空を見上げる。白い鳥が高く飛ぶ。


ほむら「見滝原を建て直すために頑張る人々を裏で支え、助け……全てはこれから始まるんだ」

まどか「ほむらちゃん……」


それは暁美ほむらが辿り着けなかった未来。



ほむら「ワルプルギスの夜は倒せなくとも、私達に出来る事はたくさんあるはずだよ、さやか」

さやか「……そうかな」

ほむら「ああ、まだこの瓦礫の惨状の中にだって、逃げそびれてしまって……しかし、その中で生き残っている人はいるかもしれない」

さやか「!」

マミ「そ、そうね!避難できなかった人も当然、いるかもしれないのよね…」

さやか「なら、早く助けにいかないと!」

杏子「……ならアタシも行く!」

さやか「え、杏子も!?」

杏子「ったりめえだ!アタシだって回復魔法くらい出来る!」


さやかとマミは素早く変身すると、血相を変えて走り出した。

正義心に燃える彼女達は、きっと日が暮れても捜索を続けるだろう。


杏子「アタシもいかないと…!」

ほむら「杏子、行くなら二人にこれを分けてあげてほしい」

杏子「え……?」


左手を差し出す。

私の全ての指の上には、未使用のグリーフシードが器用に直立して乗せられている。


これら全て、みんなから貰ったグリーフシードだった。


杏子「……これって」

ほむら「君達の努力はここで発揮される……そしてどうか、頼む、私のかわりに、助けられる人々を探して欲しい」

杏子「え?…要りようかもしれないから貰ってはおくけど…ほむらは一緒に探さないのか?」

ほむら「ああ、私にはもうその力はない」


左腕の時計を愛おしく撫で擦る。


ほむら「私の奇跡は最後の一粒まで使い果たした…今の私が行った所で、燃費の悪いブルドーザーのような働きしかできないからね」

杏子「魔法が使えない……?」

まどか「え?」

ほむら「ああ、私はもう、基礎的な魔法しか使えない最弱の魔法少女となってしまった」

杏子「!」

ほむら「これからは魔法を使わずに、工夫で魔女を倒す算段を立てなくてはならない、はは」

まどか「そんな!」


それはどうしようもない事だ。

ワルプルギスの夜と一戦を交えなくとも、私の力はここで消える運命だったのだから。

揺らぎようの無い因果というものだ。


ほむら「でもね杏子、それでも私は良いのさ」

杏子「……なんでだよ?」

ほむら「全てを失っても、一からやっていくのも悪く無い」


さやか達が走っていった方向に背を向けて歩きだす。

一旦、避難所へ戻らなくてはならない。


私にしかできないことは、そこにたくさんある。



ほむら「見滝原も、私の奇跡の力も、……なぁに、また記憶を失ったようなものだと思えばさ?」


杏子とまどかに向き返って笑いかける。


ほむら「これまでの日々のように、色々と事件もあった毎日だけれど」

ほむら「それはそれで、面白い事が待っているかもしれないだろう?」


記憶を失っても、それこそ奇跡のようにみんなと出会うことができた。

そんな素敵な出来事が、見滝原の何もない荒野の上で花開くかもしれない。


この先にある希望に、私は期待するばかりだ。


避難所の奥まった場所にある、私専用の制御室。


ほむら「さて、見滝原復興に向けて頑張ろうか?」


パソコンに向き合う。

モニターに映し出される、極々最近に立ちあがった慈善組織の質素なホームページ。


“募金はこちらへ”の可愛らしい画像は私のお気に入りだ。

黒猫と白い鳩がじゃれている、とてもファンシーなイラスト。


「にゃ」

ほむら「お、ワトソン!無事だった~?」


足下に忍び寄ってきたワトソンの頭を片手で撫でてやる。

ワトソンとの再会を喜びたいところだが、先にやらなくてはならないことも数多くある。


ほむら「入金、っと」


ボタンひとつで投下される、世界中の宝くじと為替の流れを掌握した、私の奇跡の結晶。


“ご支援、ありがとうございました!”


ほむら「……ふふ、よし、じゃあワトソン、私はしばらく寝るから、ゆたんぽごっこして遊ぼうか?」

「にゃー!」

ほむら「よしよし」


私は布団の中にもぐりこんだ。


ほむら「……ふー」

「にゃ?」

ほむら「ん?……いーや、なんでもないよ、ワトソン」

「にゃぁ」


覚悟を決めて眠りに落ちる。


―――――――――――――――


そして、缶コーヒーを打ち鳴らして祝杯が上がる。


ほむら『乾杯、ほむら』

『……』


二人とも黙ってコーヒーを流し込んだ。

例によって、夢の中では何の味も無い。


だからこそ、向かいに座る彼女の無表情は、この時ばかりはしっくりきていた。



ほむら『こういう結末、きっと君にとってのベストではなかったんだろうね』

『……』

ほむら『私は知っているよ、君のやりたかった事を』


ワルプルギスを倒し。見滝原を救う。


けどそれは、最初のうちは力の差を見誤るばかりで失敗し続け。

力の差を知った後も、その目的を自分の存在意義として、縋り続けるために失敗し続けた。


きっと無理なことなのだろう。

ワルプルギスの夜を倒すということは。



『……ベストだと思ってしまうからこそ、今の私は後悔しているわ』

ほむら『ふむ』


悲しげな言葉とはやや相反するように、暁美ほむらの口元はわずかに微笑んでいた。

自嘲だけではない、そこには真の喜びも混ざっている。


『街を一切壊さず、人を一人も殺さず……あいつを相手にして、そんなこと…無理な話だったのよね』

『私は甘かったのよ、妥協ができなかった……馬鹿だったのね』

『でも貴女のおかげよ、あなたのおかげでまどかは…やっと前に進める事が出来た』

ほむら『……ふふ』


暁美ほむらは微笑んでいた。

朗らかに。きっといつかの、彼女が幸せだった頃のように。


ほむら『前に進むのはまどかだけじゃない、君も前に進むことができるよ』

『……え?』

ほむら『当然だろう、全て終わったんだ、これからは君だって、暁美ほむらの人生を楽しまなくちゃ!』

『む、無理よそんなの』

ほむら『何故?』


戸惑う暁美ほむらの表情は、自身の無かった頃のそれにそっくりだった。


『無理よ……私、胸を張ってまどかと向き合えないもの』

ほむら『そんなことはない、君が努力したからこそ今があるんだぞ?』

『無理よ、無理だもの…』

ほむら『……ほう、ならば、胸を張った未来に導くことができれば、君の心は解放されると?』

『?』


我ながら頑固な人間だ、暁美ほむら。

けど私は、そんな弱気な君を引っ張れるくらいには強くできている。


ほむら『さあ、暁美ほむら……どっちか一枚だけ、引いてごらん』


彼女の前に2枚のトランプを差し出す。


『……?どういうつもり?私にどうしろっていうの?』

ほむら『簡単だよ、選ぶだけさ』


ほむら『こっちのスペードの10を選ぶなら、再び砂時計をひっくり返そう』

『っ! 嫌よそんな…!』

ほむら『また全ての人間関係が元に戻り、ワルプルギスの夜は来襲するだろう』


ほむら『だが今回の時間で、私は実に面白い、様々なプランを思いついたものだよ』

『プラン……』

ほむら『何をどうすれば上手くいくのか、どうすればよかったのか……』


ほむら『きっと次に時間を巻き戻した時、見滝原への損害を限りなくゼロにまで抑え、死者だって完璧にゼロにできるかもしれない』

『!』

ほむら『妥協せず、まどかに胸を張って生きるならば、この選択肢も悪くは無い……私は君の選択に全て従うつもりだ』



ほむら『もう一枚、こっちのジョーカーを引いたなら……この世界に骨を埋める覚悟で、皆と手を取りあって生きていくんだ』

ほむら『1から建て直す喜びが、希望がそこにはある……私としてはこの結果に満足しているつもりだよ、暁美ほむら』

『……私も、不満というわけではない』


ほむら『より貪欲に完璧な未来を生きたいのであれば、10を選ぶんだ』

ほむら『どの時間よりも苦悩し、事件が起きたこの世界で、少しずつ居場所を取り戻すならジョーカーを引いてほしい』


『……私は』

ほむら『私は暁美ほむら、君も暁美ほむらだ、私はどちらの選択でも、何の文句は無い……君の決定に全てを委ねるよ』

『……私が選ぶ、世界は』



暁美ほむらがカードを引いた。



ほむら『……それが君の選ぶ人生だね?』

『ええ』

ほむら『やっていけそうかい?』

『もちろんよ、やってやるわ』


『…私も、あなたのように……格好良くなるために、頑張ってみせる!』

ほむら『その調子だ、暁美ほむら!燃え上がれー!』

『ちょ、ちょっと、馬鹿にしないでよ、それはまどかだけが……』

ほむら『はっはっは!』


――――――――――――――


―――――

―――――――――

――――――――――――――



はてさて、そこはいつの青空の下か。

高くそびえるビルの下、整備されたアスファルトの上。


ここは見滝原。私が生きると決めた街だ。



期待のまなざしを向ける大勢の観客達の中心で、私は深く頭を下げる。


紫のシルクハットを被り、紫のステッキを持ち。

今日もまた、市民を楽しませる公演が始まろうとしている。



まどか『頑張って!』

ほむら『ありがとう、まどか』



今日はまどかが見に来てくれているようだ。

まだまだ低い背でも何度もジャンプし、私のマジックを見ようと頑張っている。

その姿は、かつて私が奔走した日々が遠い昔以上の、おとぎ話だったんじゃないか、と思えてしまうほど、微笑ましかった。


おっと、けれど笑ってはいけない。

マジシャンの笑いは不敵に。妖しくなくてはならないからね。



ほむら「お集まりいただき、ありがとうございます」


ん?

ここは過去か?未来か?どっちなんだ、って?


さあ、どっちの世界だろう?

思い出せないな。どっちだろうか。


でも間違いないから安心していただきたい。

過去でも未来でも、私は必ず輝かしい未来を手にするのだ。


ここはあの子が守ると決めた世界。その場所。

私はそれを信じている。それは覚えているとも。


だから私は、この場所で。自分の人生を全力で楽しむつもりだ。



ほむら「では!ショータイムと参りましょう!」



さあ、ステージにもっと光を。

( *・∀・)っ□ カケタワヨ (∀・* )))ワーイ!

>ほむら『ありがとう、まどか』
>ほむら「お集まりいただき、ありがとうございます」

括弧を見るに、オリジナルほむも普通にまどかと話せるようになってるのか

(布団)*・∀・)ある程度の質問に答えヨウ

(布団)*・∀・)ただし答えたくない質問にはみくちゃんのプロフィールを放出スル

今書いているものと近日書く予定のタイトルを聞こう

>>440
( *・∀・)φ 今カイテルノ

剣士「パーティを組めだと?」
村人「めんどくせえええええ」
無垢「フィオナの森は、俺が守る」
女「あー、消しゴムないよぉ」
「クァルケル=ガ=クェチカ」

( *・∀・)近日新たに書くものは今のところナイワ

汚職議員はただの議員に対しての毒吐きなのか美国議員なのかとか気になる。ホームズのキャラが若干キリカと似てるから外伝組について触れられてるっぽいと気になる

>>443
( *・∀・)汚職議員は美国を意識したし、そこははぐらかさないワ

みくちゃんのプロフィールお願いします

>>446
(*・∀・*)両掌サイズの特大にくまん

得意なものは歌と踊り

好きなものはぶたまん

( *・∀・)一週間くらいなら大丈夫ヨ!待つワ!

ヾ(*・∀・*)ゞ 楽しみダワ!


(*つ∀・*)質疑応答だけじゃ持たないかもしれないワネ…

(*・∀・*)ぴざまんもかれーまんも私、にくまんと同じ中華まんヨ

(*・∀・*)ただ、ぶたまんだけは皆の憧れダワ…


(*・∀・)φ おちびがオマケ カイチャウ?

魔法少女にくま☆マギカ


(*・∀・)φ イケルワ!

マジックは熱心に覚えてるから、魔法がなくなってもある程度は大丈夫



(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ


ほむら「何度ループを続けたかしら……」


ほむら「でも、前回はワルプルギスの夜との戦いで、あと一歩の所までダメージを与えられたわ」

ほむら「この時間軸では、必ずまどかを守ってみせる…!」

ほむら「待っててまどか、必ず貴女を助けるから!」



和子「卵は赤玉ですか?白玉ですか?」

中沢「トサジロー以外は等しくゴミ」

和子「中沢てめー覚えたからな、卒業できると思うなよ」


和子「…じゃ、転校生の人、どうぞ」


ガラララ



ほむら「まどか……あなたは私が守…」

(*・∀・*)……

ほむら「」ピタァ


和子「どうしたの?せっかくだから教壇まで来てください、皆から見えやすいようにね」

ほむら「は、はい」


ほむら(え…?なにあれ…まどかの机の上に乗ってるあの…え…?)


( *ノ∀・)なかなか美人ネ

さやか「そだね」


ほむら(うわっ、アレなんか喋ってるっぽい)


ほむら「あの……」

(*・∀・*)……

ほむら「暁美……ほむら…です……はい」

(  *・∀)名前カッコヨクネ?

さやか「うんうん」

ほむら「…あ…はい、以上です…はい」

和子「じゃあ席は……ここで」

ほむら「はい……」ガタ



ほむら(いや、アレなんなのよ…あのツインテールのスライムみたいな薄ピンクの生き物は……)


「どこ中だよ?」

ほむら「はあ…あの…ミッション系の…」

「部活は?」

ほむら「いや特に……」

「綺麗な髪だね」

ほむら「あ、そうかしら……」


ほむら「…ごめんなさい…割と本当に気分が優れないから保健室に…」

(*・∀・*)!

ほむら「ぁ」


「なら保険係の人に連れてってもらおっか?」

「誰だっけ」

ほむら(ヤバい嫌な予感が)

さやか「保険係ならまどかだよー」

(*・∀・*)+ マカセテ!

ほむら(違う絶体違う私の知ってるまどかは貴女の頭の上に乗らない)

~ろうか~


( *・∀・)ごめんね?私ちっちゃいから、移動は頭の上に乗せてもらってるノ

ほむら「うん…いや…いいのよ…」

(*・∀・*)ほんと、ゴメンネ?

ほむら「気にしてないわ…うん…」

( *・∀・)あ、次の角を右ヨ

ほむら「うん……」


ほむら「………いや」

(*・∀・*)ミ?

ほむら「ちがくない…?」

(*・∀・*)何が?ホムラチャン

ほむら「いや……」

( *・∀・)あ、保健室着いたわヨ

ほむら「あ……そうね…」


ピョン


(*・∀・*)ノ じゃあ私は跳ねて戻るから、ほむらちゃんはゆっくり休んでてネ

ほむら「うん……あ、まどか…」

(*・∀・*)?

ほむら「貴女は……」

(*・∀・*)……

ほむら「………やっぱりいいわ」

(*・∀・*)ソカ

ほむら(信じたくないけどあの生き物は……まどかだ)


( *・∀・)才色兼備ヨネー

さやか「ねー」


ほむら(ツインテールも生えてるし間違いなく………)

ほむら(いや、可笑しくない?何普通に溶け込んでるの?)


さやか「まどかは私の嫁になるのだぁ~」グニグニ

つ)*=∀<*) くすぐったいよサヤカチャァン


ほむら「……」

マミさんはピザまんだろ

>>517
は?

>和子「卵は赤玉ですか?白玉ですか?」
>
>中沢「トサジロー以外は等しくゴミ」
>
>和子「中沢てめー覚えたからな、卒業できると思うなよ」
>
>
>和子「…じゃ、転校生の人、どうぞ」
中沢くんと早乙女てんてーのキャラクターステキすぎる

(*・∀・)じゃあ下2つのうちコンマ大きい方にするワネ

( *・∀・)ワトソンスカ

番外編ってあんまし好きではないけどフライングしたエレファント速報に中指立てたいから書くワネ

(*・∀・*)あと571は信託にモドリナ

(*-∀-)φ ワトソンのお気楽な一日



黒猫「うみみゃあ」


僕は猫である。名はワトソン。

食にあぶれていたところを、ある人間に雇われて、今は住み込みの最中だ。


ほむら「……」

黒猫「……」


机の上で突っ伏して寝ているこの人間が僕の雇い主。

名前をほむら、というらしい。

所によって呼ばれ方は違うみたいだけど、僕にとってはわりとどうでもいい話だ。


黒猫「うみゃみゃ」

ほむら「んー…」


僕の朝は、ほむらを起こすことから始まる。


ほむら「……んお、もうこんな時間か」


いつもの事だが、ほむらはいつも僕が起こしてやっているということに気付いていないのかもしれない。

ゆっくり起きては首を回し、それから僕の朝食を出す。

住み込みとはいえ、こちらもタダで働いているわけではないのだから、ちゃんとやるべきことはやってほしいものだ。


ほむら「いただきます」

黒猫「にゃ」


まぁ、それなりに朝食の質は良いので、多少の文句も飲みこむのだけど。

偏っているのが珠に瑕か。


ほむら「じゃあワトソン、今日もショーがあるからね、心の準備をよろしく頼むよ」

黒猫「にゃぁ」


はいはい、行ってらっしゃい。

まったく。ほむらはいつも袖を汚して食事をする。


黒猫「ペロペロ」


僕のように綺麗に食べる癖をつけるべきだ。

黒猫「にゃ」


ほむらの部屋からは窓をつかって外出ができるようになっている。

外出は僕の権利だ。ほむらが帰るまでは、好き勝手に外へ出てもお咎めは無いだろう。


黒猫「にゃぁー」


ロンドンのようなシックな路地を抜けると、そこは大通りだ。

人間も車も多い喧噪だが、僕はこの通りを気に入っている。


他の猫と出会う事もあるし、人間は僕を見ただけでチップをくれる。

それはきっと、日頃のほむらの下での知名度もあるのだろう。そこは素直に、ほむらに感謝しなきゃいけない。


黒猫「……」


隣街まで散歩するのは、いつもの習慣だ。


杏子「お?よう、久々だな」

黒猫「にゃあ」


彼女は僕達猫の気持ちを解ってくれる、数少ない友好的な人間の一人だ。

身体の造りは人間そのものだが、口の中に見える八重歯は立派な僕達の仲間の証だろう。


杏子「ほれ、残さず食えよ」

黒猫「にゃ!」


彼女が分け与えてくれる食事は日によって質がとんでもなく左右されるが、文句は言うまい。

まだまだ若造の僕には栄養がいるのだ。朝にマグロを食べただけでは到底足りるものではない。



白鳩「くるっぽー」

黒猫「にゃ」


そして今日も彼女の出す食事に釣られて、風来の白鳩がやってきた。

彼の名前はレストラード。僕の仕事仲間だが、僕よりもオフの時間は長い。

それに彼は住み込みだったり、そうでなかったりする。きっと僕よりも有能な助手なのだろう。


杏子「よしよし、ちっちゃな粕もな」

白鳩「ぽー」

黒猫「にゃにゃ」


横取りされるようで癪ではあるが、当然彼にも食事を取る権利はある。

文句は言うまい。僕は職場の空気を乱すのは嫌なのだ。


昼間はもっぱら、公園の日向でのんびりしている。

虫も陰もない良いポジションを一人占めだ。


広いこの街では、そうそう日向を取りあうような戦いは起こらない。

カラスさえ出なければ平和なものだ。


「あー、猫ー!」


いや訂正しよう、カラスよりも恐ろしい生き物がいた。


「ねこ、ねーこ」

黒猫「にゃ」


小さな人間に首の皮を摘まれる。人がせっかくのんびりしていたのに、ぶち壊しだ。


「こらタツヤ、可哀そうだろう、やめなさい」

「はーい」


そして急に手を離すものだから、尻を打ってしまう。

人間は身勝手だ。


「あ、ちょうちょ!」

「本当だ、綺麗な蝶だねえ」


ふん、勝手にやってろ。

騒がしくなる頃には、僕は場所を変える。


そろそろ家に戻っていなければほむらの仕事に支障をきたすだろうし、余裕をもって早めに帰ろう。


黒猫「にゃ?」

QB「ん?」


帰り道、たまにほむらと一緒にいる白い生き物に出会った。

身体は猫のようだが、無臭であるし生き物のような感じはしない、不気味な生き物だ。


黒猫「……」

QB「おかしいな、僕を認識できているのか」

黒猫「にゃあ」


それに人間の言葉を話すものだから、なおさら不気味だ。


QB「知類以外に強い感情エネルギーがあるわけではないのに、変な現象だね。まあ、イレギュラーな事は今に始まったことではないから、気にするほどではないのかもしれないけど」

黒猫「……」


白いそいつは何かを喋っていたが、生憎と人間の言葉を全て理解できるほど、僕は言語に長けているわけではない。

さっさと無視してほむらの家に戻らせてもらう。

ワトソンの最初の鳴き声から某ローグライクフリゲの黒猫思い出した

( *・∀・)エー…

QB「その魂を代価にして、キミは何を願う?」
まどか「q!!」



黒猫「にゃ……」


部屋に戻ってきたはいいが、やれやれ、散らかしっぱなしだ。

商売道具の調整をするのは良いが、ほむらには整理整頓を心がけてほしいものだ。

昨日も何かを探して、あちこちひっかき回していたし。



ほむら「ただいまー」


おっと、噂をすればほむらだ。


ほむら「やあワトソン、早速出かけるぞ!」

黒猫「にゃあ…」

ほむら「盾の中は窮屈かもしれないが、まあ我慢だ、さあ行こう、すぐ行こう」

黒猫「にゃぁー」


やれやれ、またあのよくわからない目の回る空間の中に入れられるのか。

まぁ、少しの辛抱だから構わないけど。


ほむらも、観客にはあの景色を見せてやればいいのに。


ほむら「さあ、このハットから~……」


おっと、そろそろ出番のようだ。

ぐるぐると渦巻き模様を眺めているのも辛抱ならなくなってきた頃合いだ。良かった。


かちりと時計の音が鳴る。


ほむら「うむ、すまなかったね、ワトソン」

黒猫「にゃ」


気にすることはないよ、ほむら。

これは僕の役目だからね。


ほむら「はい」

黒猫「にゃ~!」


帽子の中から顔を出すと、そこにはいつものように、僕らを興味深く見る人たちが並んでいた。

騒がしい人間たちだけど、悪い気分じゃない。

この時ばかりは、僕も人間と一緒にいるのが楽しく思える。


ほむら「ふふ、ありがとう、ワトソン」

黒猫「にゃ」


だから、気にするなって。

僕はほむらの助手だろ?


ショーが終われば、ほむらと一緒に帰宅だ。

たまにほむらは町で何かをしているようだけど、きっとソロで活動しているのだろう。

ほむらならその実力はあるだろうけど、少し寂しいものだ。


ほむら「ただいまー…いやあ、お疲れ」

黒猫「にぁあ」

ほむら「ワトソンも疲れたか、うん、私も疲れたよ…」


さあほむら、晩御飯を。


ほむら「ふぁあ……眠いな…ん~、いかん、眠い…」

黒猫「にゃあぁ」


ほむら~!


ほむら「……すぅ……すぅ…」

黒猫「……」


なんてことだ。給料を出し遅れるなんて。


黒猫「…にゃ」


まぁいいか。ほむらは頑張っているし。

僕はそれを尊敬している。



黒猫「……うみみゃあ」


机に突っ伏す彼女の傍で、僕も寝ることにしよう。

少しはほむらの暖になるはず。


やれやれ、ここまで気を遣わなきゃいけないなんて。

助手も大変だよ、まったく。

( *-∀-)φ ハイヨー (・∀・*)ワァオー

*ブラボー*

( *・∀・)(ツナ:荷車) ショボン…

(*・∀・*)+ 番外編はこんなもんネー

(*・∀・)マロカァー! (>∀<*)))ホムラチャッ!ホムラチャッ!

[ ・∃・]クルッポー (・∀・*)スゲー!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom