上条「俺がジャッジメント?」(1000)

~注意~

・二、三日に一度という投下ペース

・禁書の知識も曖昧

・上条×初春

・多分シリアス


「はい、上条ちゃんになぜかお誘いがきてるんですよー」

 と言う、目の前のロリ教師の手には一枚のプリント。
進路希望と書かれたその紙には書くべき箇所は空白で、答えを出しあぐねていた結果だ。
実際、進路と言われても高校一年の冬でまだまだ考えた事もなかった。

 いや、考えなければならない時期なのかもしれない。
しかしこの右手が持つ『幻想殺し』のおかげで学園都市の成績とも言える能力は発現しようがないし、そうするとここで働くともなるとどうしても範囲は狭められてしまう。

進学──

あの両親に頼み込めば進学はさせてもらえるのだろう。
しかし行った所でこの学園都市では学ぶ事は主に能力開発。
この学園都市では働くにせよ、学ぶにせよまずは能力というものが先行してしまう。

──うーん……。

つまりは能力が発現『しようにない』自分──上条当麻にとって進路を考える事はとても難しいものであった。

それに、上条にはつい最近までの記憶がない。
内緒で(目の前の教師は知っているが)同居しているある銀髪少女を助ける際に『思い出』の記憶を失った。

今まで生きてきた思い出がすべてなくなり、両親の顔も声も知らないという状態に陥った事があった。
記憶をなくしてから何回か会っていた為、今では顔も分かるのだが共に生活した記憶はない。
つまり上条にとって、確かにあの二人が両親ではあるのだが、ほとんど『他人』。

進学という事はそれ相応の金額が飛んでしまう。
日頃貧乏生活を送っている上条だからこそ、気分的に進学は遠慮してしまうのだった。


 そこで目の前の教師──小萌からの口から飛んできた言葉はそれだった。


『ジャッジメント』

学園都市の生徒達で編成されたこの学園都市の風紀、ルールを取り締まる治安維持部隊。
学園都市の教師達による『アンチスキル』と呼ばれる警備隊のようなものと協力し合い、この学園都市の治安を守る誇るべき仕事だ。

ちなみにどちらもボランティア団体であり、職業ではない。

進路に直結する訳ではないのだが、ジャッジメントを通して警備会社のスカウトでその仕事に就いた者は多く、また力ある者には要人のSPになった者までいると聞く。

「でもお誘いって……何でまた俺に?」

「先生も何でかは聞かされてないですけど。でも上条ちゃんには向いてるんじゃないですかねー」

自分が受け持つ生徒に関する事で詳しく内容を聞かされてない事が不服か、小さな口を膨らませながらその言葉が飛び出す。
しかし上条がジャッジメントに誘われるという事実は喜ばしい事だ。

確かに上条は困っている人がいれば黙っていられないし、助けを求める人には迷わず助ける。
例え自分がどれだけ傷付こうがお構いなしに手を差し延べる性格だ。

「はぁ」

しかし自分がジャッジメントが向いてると言われてもいまいちピンと来ない。
それに常に休日は補習で潰されるという底辺の成績の為、とてもではないが無理だと思ってしまっていた。

「……あと」

そこで小萌が少し不機嫌そうに再び頬を膨らましながら続ける。

「黄泉川先生が言ってましたけど。ジャッジメントになれば上条ちゃんは無条件補習免除、みたいです」



 なんですと。




 結局あれからジャッジメントの資料をもらい、上条は家に戻った。
ジャッジメントの資料は各学校に置いてあり、志願する事によって適性試験が行われる。

「うーん……9枚の契約書に13種類の適性試験。受かった場合は4ヵ月の研修か……これ結構大変だな」

「とうま、何見てるの?」

テーブルに何やら資料を広げ、うんうんと頭を唸らせる上条を見て風呂上がりの銀色の綺麗な髪を拭きながら少女が尋ねた。

「おー、インデックス出たのか。いや、大した事じゃないんだけどな」

インデックスもなになに?といった様子でそれを覗き込む。
しかしそれを見た瞬間、インデックスは表情を少し堅くした。

「……とうま。また危ない事するの?」

インデックスという少女は、上条に危害が及ぶ事を特に嫌がる。
自身を救う為に何度も上条が傷付くのを見てきたし、その度に泣いた。
上条に対して、恐らくだが特別な想いを抱く彼女にとって、もう彼が傷付くのを見たくない。

「まぁ危険っちゃ危険なのか?」

上条が今まで経験してきた出来事……科学世界の事、魔術世界の事。
常人が決して味わう事のない危険な場面をいくつもくぐり抜けてきた。
しかしまぁそれに比べれば全然大した事に思えなく、むしろ「補習がなくなるならラッキー」くらいにしか上条は感じていない。

実際問題ジャッジメントの仕事は主に喧嘩の仲裁、迷子の保護、落とし物の捜索など。
それ以上の重大事件ともなるとアンチスキルの仕事になり、ジャッジメントは言わば風紀委員のようなものだ。

「これに受かれば上条さん補習免除なんですと」

「むー」

ぶっちゃけ上条にとっての学生生活は、一番出席日数がネックになったりする。
困ってる者を助けては怪我をして入院し、はたまた困ってる者を助けては怪我をして入院し……その繰り返しが溜まりに溜まって出席日数が実はかなりきわどい所まできていた。
進級する為にも補習免除という待遇はかなりの優遇だ。
毎週必ず補習があるというダメ学生ぶりにさすがに危機感を覚え、そろそろどうにかしなきゃいけないな、と考えていた矢先の事だったのだ。

後ろで少し機嫌悪そうにしているインデックスをよそに書き上げた書類をまとめ、鞄の中にさっとしまい立ち上がる。

「んじゃ俺も風呂行ってきますか」

そう言い、上条はこの日は一日の疲れを洗い流す事にした。


「今日はケーキでも買って帰ろうかなー」

 ある道の途中、少女はご機嫌そうに呟いた。
一仕事終えた後の大好物である甘い物はまた格別と言った具合に、甘味な味を想像しては頬を緩める。
頭に乗せた花飾りも、彼女の機嫌と同調するかの様に綺麗な彩りを見せていた。

 prrrrrrrrr──

「ふあっ」

すると、彼女の手にしている鞄の中から着信を告げる音が鳴り出した。
突然の事で軽いウキウキ気分から現実に引き戻された感覚で鞄の中を探る。
ディスプレイを見るまで油断は出来ない。
もしかしたら彼女が属するジャッジメントの仕事の案件であるのかもしれない。
それならそれで今の気分は沈む事になるであろう。
自ら進んでジャッジメントになったとはいえ、まさに休息モードに入っていた今の気分を害されたくはなかった。

 ディスプレイを見る。そこで少女──初春飾利はホッと安心の溜め息を吐いた。

「はーい」

『ういはるーっ』

通話ボタンを押すと、彼女の親友の声が耳に響き渡る。

「佐天さん。どうしました?」

『宿題一緒にやろうよ。後で初春の部屋行くからーっ』

「確か数学の宿題出てましたね。いいですよ、待ってますね」

『うん。また後でね』

内心「仕事じゃなくてよかったぁ」などと思いながら、簡潔に約束を取り付け、電話を切る。

「ケーキ、余分に買っていきましょうか」

誰に言い聞かせる訳でもなくそう呟くと、初春は少し足取り軽く好みの洋菓子店へと足を進めた。






……しかし。

「あぁ!?なんだテメー文句あんのかコラァ?」

「うっせーよテメーから先に絡んできたんじゃねーか!?」

そんな怒号が初春の耳に届いた。


突然の大声に初春の身体はビクッと反応し、その方に視線を向けると、やはり道のど真ん中で高校生だろうか、今にも殴り合いが勃発しそうな雰囲気の二人がいた。

──ど、どうしよう……。

こういう喧嘩の仲裁も。

彼女が属するジャッジメントの仕事の内だ。
しかし二人を見るに明らかに初春よりも一回り身体の大きい男二人。
彼女の相棒である空間移動の能力者の少女であるならば余裕で捌けるのであろうが、しかし初春は非戦闘要員だ。
とても止めれる力を持っている訳ではない。

──うぅ……。

「テメーぶっ殺してやる!」

「あぁ!?んだと!?」

そうこう迷っている内にとうとう殴り合いが起きてしまった。
こういう場面を見るのも慣れてない初春にとって、目の前で起きている事は恐怖心を十二分に与える。
無理もない、まだほんの中学一年生の小さな女の子なのだ。

でも。
でも初春はジャッジメントである。
こういう場面に出くわせば、やはり止めなければなるまい。
彼女の仕事の相棒に電話などしている暇はない。
話し合いで解決できれば、それでいい。

恐怖心が先行してしまうが、それでも少し震える手で鞄からジャッジメントの腕章を取り出し腕に着けた。

「じゃ、ジャッジメントですっ!喧嘩はダメです!」

勇気を振り絞り、二人を止めようと近付いたのだが。

「うるせえよクソガキ!すっこんでろ!」

「あうっ……!」

一人にドンッと身体を押され、初春はその場に倒れ込んでしまった。

「いたっ……」

コンクリートに身体を叩き付けられたかのような衝撃。
ズサッと横から倒れた為に身体を庇った肘から少し血が出てきている。
見れば制服も少し破れてしまっていた。

「……っ」

頭は打ち付けなくてよかった。
しかし突然の事と痛みで視界が涙で滲む。


何となく立ち上がれずにいると、ハンカチが初春の目の前に差し出された。

「あの、大丈夫でせうか」

「え──?」

「あちゃ。肘に傷が出来ちまってるな。とりあえずこれで押さえといて」

その声の主に手を取られ、ハンカチを渡されるとその渡した本人はさっと立ち上がり男達の方を睨んだ。

「おいテメェら」

「あ!?なんだテメーは!?」

「関係ねえ奴はすっこんでろ!」

殴り合いから次第に能力での対戦になっていた様で、その片方の男の方から大きな炎が牙を向いた。

「危ないっ──!」

その炎が自分を助けてくれた「彼」に向かっていったのを見て……初春はそう叫んでいた。





「お前らのせいで女の子が傷付いてんだぞ」





しかしその炎は彼が突き出した右手に触れると、嘘の様に消えた。


「え──」

「消えた……?」

それを見た初春や、その炎を繰り出した男は驚きの表情を顔に貼り付ける。
特に出した本人が一番驚いているのだろう。

「俺のレベル3の炎が消えただと!?」

「んな事はどうでもいい。いいかお前ら。歯を食いしばれよ」

「何いい気になってんだこの野郎!」

するともう片方の男も次は水で出来た刃の様なものを彼に向けて斬り掛かる。

「なっ──!?」

しかしその刃がやはり彼の右手にぶつかった瞬間、ただの水に変わり地面に水しぶきとなって染みを作るだけだった。

「覚悟しろよてめぇら!」

驚きによって反応出来ない男の顔に拳が入り──男は簡単に崩れ落ちた。

「う……うわあああぁぁ!!」

それを見た炎使いの方は先程よりも大きな炎を彼に浴びせる。

……しかし。

「なんなんだよてめぇは!」

やはり右手を振るう事によって炎は消えてしまい、炎使いは動けずにその顔に強烈な衝撃を受け、炎使いもその場に崩れ落ちた。

「ふぅ」

パンパン、と埃を叩くように手を叩くと彼は初春の方に再び振り向き、しゃがみ込んで手を差し出した。

「大丈夫か?立てるか?」

「あ……は、はい」

初春はただボーッとした様子でその手を取り、立ち上がろうとするが……。

「……いたっ」

肘の痛みを感じ、手を引っ込めてしまった。

「わ、悪いっ」

その様子を見た彼は申し訳なさそうに謝ると、どうしたもんだかと困った様な表情を見せる。


「あ……」

なんとなくその表情を見た初春も申し訳ない気分になった。

「うーん、病院で診てもらった方がいいかな」

彼はそう呟くとポリポリと頭をかく仕草を見せる。
初春もどうしたらいいのか分からず、ほんの少しの間彼の顔を見ているとふと一人の少女の声が場に響き渡った。






「……アンタ、なにしてるのよ?」

「げっ!ビリビリ!?」

「ビリビリ言うな!ってそっちにいるのは初春さん……?」

「あれ、御坂さん……?」

「アンタ……まさか初春さんを!?」

「ち、違う誤解だ待てビリビリその電気をしまえ」

「み、御坂さんこれは違っ……」

「初春さん泣いてるじゃないの!この節操なしがああああああぁぁぁ!!」

立ち上がり、彼は非常に気まずそうな顔をして冷や汗も流していた。


しかし初春の釈明も聞かずに御坂と呼ばれた少女──御坂美琴はお構いなしに彼に向け、今にもその美琴の能力である電撃を浴びせようとしている。

「ちょ、御坂さん待ってくださ……」

それを見て初春も誤解だと美琴に言い聞かせようとしたのだが。

「ああもう不幸だああああああぁぁぁ!!」

彼はそう大声で叫ぶと脱兎の様にこの場から逃げてしまった。

「待てやゴラアアァァァっ!!」

逃げた彼の背中に電撃を放ったのだが、彼は振り向かずに右手を振るうだけで電撃は消えてしまい、そのまま彼の小さくなってゆく背中を見ているだけしか出来なかった。

「……………………」

「あ、あの……御坂、さん?」

元気よく電撃を放った先程の様子とは一変、ただ彼の背中を美琴はじっと見つめており、初春は少し怪訝に感じた。
少し、表情は悲しんでいるような、そんな雰囲気を感じ取った。

「……また……やっちゃった……」

「え?」

そんな彼の背中を見つめながら美琴は呟く。
何と言うか、もう怒りなどない。
ただ己の行為を反省するかの様に言うと、美琴は初春の方に振り向いた。

「あ、あの。御坂さん……」

「あーゴメンね。アイツとは腐れ縁だから……って初春さんを先に手当てするのが先ね」

「え……あ、はい……」

初春は状況についていけない様子でただそう答えるしかなかった。


「ん。ちょっと擦りむいただけだね。一応包帯巻いておくよ」

「ありがとうございました」

 やたらとカエルに似ている医者からの診察も終わり、初春は治療室から出た。

「大丈夫だった?」

「あ、はい」

待合室にて初春の姿を確認した美琴は、開口一番に初春の身を案じる。
あぁ、やは学園都市が誇るりレベル5の第三位は人間もきっちり出来ているのだなと場違いな印象を受け、初春は返事を返すとペこりと美琴に頭を下げた。

「ありがとうございました」

「あはは、よしてよ、そうゆーの」

なんて事ない、と明るく笑う美琴に初春も表情が緩み、二人して微笑んでいる。
しかし初春には気になる事があった。

「あの、御坂さん。さっきの人って……」

「あー、うん……別に友達ーとか……こ、恋人ーって間柄でもないんだけどね」

何やら少し言い辛そうに言葉を淀める美琴。初春はそれに?を浮かべながらも頷いた。

「本当は助けてくれたんでしょ?アイツ」

「はい」

初春が返事をすると、嬉しそうなそうでもないような表情を一瞬作っては消す。

「やっぱりね。二回目、か……」

「え?」

「ううん、何でもない」

妙に一人で納得した美琴を見て、あの人と何かあったのかな?と首を傾げる。

「…………」

しかしそれを言うと沈黙が包み、口を開けるのも躊躇われてしまう。


この場に初春の親友の佐天がいればニヤケ顔で迷わず追求したのであろうが、初春はそれをしない。
空気を読めなさそうで実は読む子、初春飾利。


「ま、そろそろ暗くなるし帰りましょうか」


「あ、はい」


そう言い、初春は美琴と共に帰路についていった。









 この時のこの出会いが、後にもたらす展開をまだ誰も知らない。


 知る由もなかった。



こんな感じでまったり進めていこうかと思います

ちょっと短いけど、続きはまた次回!

こりゃ期待
しっかし、学園都市は暗部と言いスキルアウトと言い大変だな
初春に幸あれ


「は?」

「いや、だからな。ジャッジメントやってみようかなと思う訳ですよ、上条さんは」

 ある高校の教室で、金髪にサングラスをした男の素っ頓狂な声が響き渡る。
しかし休み時間の喧騒の中で彼のそんな間抜けな声に気に留めるものもおらず、別段至って変わらぬ様子の教室内だった。

「どういう風の吹き回しだにゃー」

窓の外に視線を移し、「にゃー」と「ぜい」を語尾に付けるのが特徴なこの男。
顎に手をやり考え込む仕草を見せたのは上条の親友である土御門元春だ。

 クラス内では3馬鹿トリオと呼ばれている「デルタフォース」の内の一角を担う土御門も、さすがにもう一角である上条の口から飛び出した言葉に驚いた様子だった。
ちなみにもう一角である青髪にピアスをした長身の男──通称青ピは購買に昼食を買いに行っており、今現在この場には不在だった。

「それにしてもなんでまた急になんだにゃー?」

「うーん……しいて言えば進路の為、かな?」

「ほう、カミやんもとうとう将来について真面目に考えはじめたのか」

感心した様な、まさかと言う気持ちかそんな驚きを顔に土御門は貼り付けた。

 この学園都市では、ジャッジメントというステータスはかなり高い位置に存在する。
ジャッジメントと言えば回りにも一目置かれ、また進学や就職に相当影響するのだ。
やりたい事がいまだ見つからない──それは今の学生達にとって割と当てはまるのであろう。
それなら色んな事を経験して、自分に合ったものを探し出すのもまた一興だろうと上条は考えていた。

 考えなしにまずは行動に移る上条の事だ、意外にうまくいくかもしれない。
土御門はそんな感想を浮かべ、義妹の手作り弁当を次々に口に運んでいた。

「……カミやん」

「ん?なんだ?」

「ジャッジメントになるんなら食生活、もうちょい考えるんだぜい」

色とりどりの自分のとは違う、目の前の親友が持ってきた米だけの白一色の弁当に冷や汗を垂らしながら、だったが。


「はぁ」

 あれから結局ロクな礼も言えてない事に初春は少し気分が沈んでいた。
ピンク色の箸を口にくわえながら、だがあまり箸は進んではいない。

「初春ー、元気ないね。どうしたの?」

目の前の親友の少女も、そんな彼女を心配そうに見ていた。

「もしかして恋患いー?」

「そんなんじゃないですよー」

やはり色気を気にしはじめた華の中学一年生、目の前の佐天涙子という少女はそういう話が好きみたいだ。

「うーん」

やはり助けてもらった事にお礼はしたい。しなければなるまい。
礼儀を重んじる、そういう堅いものでもないのだが、助けてもらってそれではい終わり、という訳にもいかない。

それに──。

──あの背中……どこかで見た事ある様な……。

あの時の彼の背中が何故かチラつく。
妙な既視感に捕われていて、その事も初春に考え事をさせていた。


──最近?それともずっと昔?

「それで…………でね……よね」

わからない。考えても思い出せない。

「き……るの?……る」

でも、きっと重要な、何か──。

「初春ってばっ」

「あっ、はい」

佐天の少し大きな声と、視界いっぱいに振られる佐天の掌で初春はようやく我に返ると、ごめんなさいの意味も込めて苦笑いを見せた。

「初春ったら……お昼休み、もう終わっちゃうよ?」

「あ」

時計を見れば昼休みも後五分。自分の弁当の残りはいまだ半分以上。

……と思ったのだが、おかずはあと卵焼き一個だけだった。

「佐天さーん……」

「あはは、ボーッとしてる方が悪いんだからね」

あと一口ご飯を口の中に入れると、初春は弁当箱をしまうことにした。


「うおおおおおおおおお特売いいいいいいぃぃぃぃっっ!!」

 放課後になった瞬間、毎週決まった曜日のこの日だけは上条は風となる。
彼の気合いを入れるために口に出したその言葉の通り、この日は上条ご用達のスーパーの特売日。
とはいえいくつものスーパーの特売日を把握しているおり、週の半分くらいはこういう日が続いていたりする。


 こういう特売日を狙わなければ、上条の生活は成り立たない。
無能力者という肩書、そして居候。


これだけで上条の経済状況を知らしめるには十分だとは思う。


「ふおおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!」


逆に気の抜けるような声なのだが、間に合わなかったら白飯に漬物の生活が待っているという泣きの意味も含まれているのだろう。






とまぁ、ここでいつもの『不幸』を上条が襲い掛かるのだが。



 本日はジャッジメントの仕事があり、初春は彼女が属する第一七七支部へと来ていた。
どうやら他に人の姿はなく、初春が部屋の鍵を開け、中に入る。
エアコンのスイッチを入れ、すぐに到着するのであろう二人の為に茶を沸かす準備をした。

「…………ふぅ」

「あら初春。早いじゃありませんの」

「わっ」

すると本当に唐突に、初春の背中に声が届いた。
ドアを開けた音もない、物音一つもなくこの場に『いた』。

「もー白井さん、驚かさないで下さいよー」

「その割には随分落ち着いてるんですの」

当然だ。
初春がジャッジメントに属した日から、常盤台の制服に身を包んだこの『空間移動』の能力者の黒子の登場は大体これで。

 勿論、当初は腰を抜かしたり、驚きすぎてちょっぴりだけ泣いたりしてしまった事もあった。
本当にちょっぴりだけ、と本人の談。
だがまぁ毎回毎回この登場シーンなのだ、慣れてしまうのにも仕方はない。

「固法先輩はまだ来てらっしゃらないんですの?」

「はい、まだみたいですね」

黒子は鞄を起き、椅子に腰掛けながら初春に尋ねる。
初春もそう答えながらも紅茶を煎れる手は休めずに返事をした。

 固法先輩というのは、同じジャッジメント第一七七支部に属する眼鏡を掛けた年上お姉さん。
あの凛とした雰囲気と抜群のスタイルに初春は少し憧れを抱いていたりするのだが、ここでは特に特筆する事ではないだろう。

「紅茶ありがとうですの。それで初春、昨日は無事だったんですの?」

初春は黒子の目の前に紅茶を置き、自身の机にも紅茶を置いて椅子に腰掛けると、黒子からそんな言葉が届いた。

昨日の事。それは勿論、あの不良達の喧嘩に巻き込まれた件。

「はい、大丈夫ですよ。ちょっと肘を擦りむいちゃいましたけど」

「お姉様から聞きましたの。なんでも、あの類人猿に助けられたとか」

「えっ、白井さんあの人の事知っているんですか?」

黒子の言葉に初春は紅茶から目を離し、黒子の目をじっと見つめる。
相変わらず黒子は優雅に紅茶に口を付けながら、しかしよくよく見ればほんの少し眉間にシワが寄っているのかもそれない。

・・・ほう?

漬物あるのか…豪華だな…上条さんの普段から見て


黒子がお姉様と慕う少女、御坂美琴と黒子は寮の相部屋。
ふと話のタネにと美琴が黒子に話していた。
黒子も黒子で美琴の前なので表情は笑顔、しかし内心青筋を立てたい感想を抱いていた。

──類人猿……?ちょっとそれ酷くないですか?

という風に言いたい気持ちもあったのだが、どうやら黒子は上条と知り合いなんだと、大人しく黒子の言葉を待った。

「まぁ、顔見知り程度、ですの」

黒子としては思い出したくない相手だ。
愛しのお姉様に纏わり付くあの忌ま忌ましきツンツン頭。

あの気怠そうな目!
下品な髪型!
やる気なさそうなあの態度!

「思い出すだけでイライラしますの!ムキーッ!」

「私、まだお礼してないんですよね……また会えるかな」

「あんな類人猿にそんな気遣いいりませんの」

「あれ、白井さんもしかしてあの人の事、気にかけてたりします?」

「なんでそうなるんですの!」

全く心外だ、と言わんばかりに黒子は一喝するが初春は特に気にも留めず、紅茶に口をつける。
うーん、この茶葉微妙だなーなどと思いながら自身の仕事に取り掛かる事にした。


「間に合ったぁー!」

お目当ての卵一パック30円という利益も考えてないような超特売品を三つ、スーパーの袋の中に入れてホクホク顔で上条はスーパーから出てきた。
その特売に間に合った為、他の目玉商品も買う事ができ上条はかなり上機嫌になっていた。

 昼食時にも記したが、上条の食生活は大体白飯と漬物。
おかずは?と聞かれると全て居候の胃袋の中に収められてしまうと即答せざるを得ない。
大ぐらいのインデックスのため、自分は遠慮してインデックスにおかずを回すという紳士な部分も兼ね備えている。
しかしさすがにその生活が続くと、上条の栄養バランスが偏りまくっていて、なにより育ち盛りの高校一年生だ、たくさん食べたいに決まっているのだ。

今回特売品をゲットできた事により、久しぶりに上条もおかずにありつける事が出来るという喜びが上条を支配していて、それなら早速帰ってご飯にしようと足を踏み出したのだが──。







 ……復唱するが、上条当麻という少年は不幸である。







「やめてください!」

「へへ……いいじゃねえか姉ちゃん」

「結構な上玉だぜ……たまんねえなその身体も」

「おい俺にも回せよ」

「ゲヘヘ……いいぞ、もっとやれ」

ふと視界の隅に写ったその光景。学園都市では割と頻繁に見るのは彼だけなのだろうか。



──はは…………特売日に間に合ってラッキーかなって思ってたのに…………。


なるほど、上げてから落とすパターンか、などと少しガックリ気分を沈めながらも。





「おー、ここにいたんだ。あっちで待ってたけど見つからなくてさー」






「は、はい?」


「「「「あ?」」」」


困っている人を見捨てられるほど、上条という少年は『できちゃいない』。


「不良共がまた暴れてるですって?」

通報を受け、黒子はまたかという様な溜息を吐き腕に腕章を着けた。
この学園都市、そういう案件は後を絶たない。やはりやんちゃしたい年頃の人間が集まれば、そういう事が起きてももはや仕方のないことなのかもしれない。

 それ故にジャッジメントという立場の人間が必要になる。
しかしまだまだ足りないのは事実。猫の手も借りたいほどの時だってあったりする。

「行ってきますの」

「はい、気をつけていってらっしゃい」

初春という少女も気軽にそう答えた。
黒子の力を信頼しているからこそ、こんなやり取りだ。

 勿論当初は心配ばかりしていたのだが、毎度毎度黒子は無傷で犯人を捕らえてくる度に高能力者の力を思い知らされ、今では安心して自身の仕事に取り掛かっていられる。
慢心ではなく、信頼だ。

目の前でフッと消えた黒子から目を放し、初春はキーボードを叩くのを再開した。


「はぁ…………はぁ…………!」

──うーむ、マズいな、これ。

「オラ待てコラアアァァァ!!」

「待ちやがれクソがアアアァァァ!」

あの場面から絡まれていた自分と同じくらいの年頃だろうか、女の子の手を引っ張りながら上条はあの不良共から逃げていたのだが、女子生徒の体力が尽きそうな事に気付いた。
やはり男子と女子では身体能力が違う。
後ろから聞こえる怒声に、不良共もまだまだ元気そうだった。

──やむない、か。

「ごめん、ちょっとこれ持って逃げてて」

「はぁ、はぁ…………え、え?」

ある人気の少ない路地に来ると、上条は女子生徒に背を向け、向かって来る不良共の方に振り向いた。

──四対一か…………、いや二対一が二回。

この路地の幅を確認すると、大の高校生の自分でも両手を伸ばしてちょっと余裕があるくらいの幅だ。
この狭さなら相手は一気に四人同時に掛かって来ることは出来ないだろう。

「鬼ごっこは終いかあぁ?」

「手間取らせやがって…………この野郎」

夕日が沈みかけ、ちょうど街灯が灯った。
それを合図に、まず一人が飛び掛かってきた──!

──能力じゃないのかい。

いや、もしかしたら身体能力の上げる能力者だったりする可能性もある。
しかし、どちらにせよやるしかない。

「ダイナマイト・キーック!!」

訳の分からない言葉と共に襲ってきた飛び蹴りに上条は冷や汗を垂らしながら横に半身を翻す事でかわした。
そしてその反動でまずは裏拳を一人の顔に入れる。


「ごほらっ!!??」

──綺麗に入ったなー。

拳をくらった一人は建物にビターン!という音と共に崩れ落ちた。

「てめぇ!!」

「死にさらせ!!」

それを見た後ろの二人が殴り掛かってきたのだが、上条はバックステップでかわすとカウンターのパンチをまず一人に入れ、そしてその勢いで廻し蹴りをもう一人に入れた。

「ごめすっ!?」

「ぐっちょん!?」

崩れ落ちたその二人を見て、残りの一人と目を合わせる。

「さて、次はお前だ」

「やるなテメー」


残りの一人は喧嘩慣れしているのか、勝つ自信があるのか、はたまた別の理由があるのかやけに余裕ぶっている。

「ふん、その三人はかませの様なものだ。レベル3の俺にすぐに平伏す事になるさ!」

そういい、残りの一人は手に電気を宿した。

というかその台詞がかませ臭がぷんぷんするのだが、まぁ置いておこう。
それに上条は知っている。


「くらえや!稲妻の嵐(サンダーストーム)!」


 電気使いの最高峰の力を──。












「えっ、なんだって?」

「!!??」

右手を突き出す、消滅。


聞いてるこっちが恥ずかしくてなぜか上条が少し赤面してはいるが、幻想殺しで電気を打ち消すのはいつもの事だ。


お前も十分恥ずかしい事言っているがな、上条。


「うるせえよ!!」

「何も言ってねぇよ!?」

いきなりうるさいと罵倒されたその男は、掻き消された事に何より驚いており、見間違いだと言わんばかりにもう一度電撃を放つ。

「というか昨日もこのネタだった様な…………」


うるせえよ。


 やはり上条の右手に触れた瞬間、電気は消えた。

「しょ、しょんな…………効かないはずがねえっ!!」


電気を放つ。
……消される。
電気を放つ。
消される。


「一丁あがり…………」

「きゃっ!?」

「っ!?」

最後の一人に制裁の拳をくらわせようとした瞬間、上条の背中から悲鳴が届いた。


「なになに、面白そうな事ヤってんじゃん」

後ろから先ほどの女子生徒を羽交い締めにし、もう一人、不良が出てきた。

「クソっ!」

詰めが甘かったという風に苦虫を噛み潰した様な表情を作り、上条は振り返った。

「おおっと、それ以上動くとこの女の首がへし折れるぜ」

「きゃ…………っ!?」

「…………くっ」

それを合図に回りの不良達も回復してしまったのか、のそのそと次々に立ち上がった。

──…………マズいな、こりゃ。

マズい。非常にマズい。
このままいけばあの女子生徒はとんでもない目に合わされてしまう。
何か、方法はないのか?
と模索している所、先ほどの電気使いの男に今度は上条も羽交い締めにされた。

「っ!?」

「へへ…………さっきのお返しをしてやらなきゃな……」

「ああ、そうだな……」

 上条は動けずにいた。
この程度なら自分一人なら何とかなる。しかし今は人質がいるのだ。

ドッ──────!!

「ぐはっ!!」

すると先ほどの真っ先に倒されたダイナマイトが上条の鳩尾に強烈な拳を入れた。

「────!────!!」

それを見た人質の女子生徒がもがくが、押さえ付けられている力の違いに全く動けない。

ガッ────!!

次にもう一人が今度は上条の頬に拳を振り抜いた。

ゴッ────!!

「ぐっ!!」

続いて脳天からまた拳を振り落とされ、上条の口から苦痛の声が漏れた。


──ちく、しょう…………。

 上条は不幸がどれだけ辛いかを知っている。
己の右手に宿る『幻想殺し』は、開発された異能の力や、強力な魔術、そして神の祝福でさえも打ち消してしまう──。
それによって降り懸かる不幸で、自分は色々な目に合ってきた。

だからこそ──。

だからこそその不幸を他人に味わわせたくはない。
自分の守れる範囲であるならば、手の届く距離ならばなんだって守ろうと決めた。
守っていきたかった。

例え、インデックスであろうが美琴であろうが妹達であろうが、目の前にいる今日初めて会った女子生徒であろうが。

「ふん…………ったくよ、なんだこのヒーロー気取りは」

電気使いがそう言い、先ほどダイナマイトはとどめだと言わんばかりに拳に力を込め、上条に振るおうとした時──。










「ジャッジメントですの!大人しく投降しなさいな!」






不良達が恐れる、あのジャッジメントの声が響き渡った。



「いやぁ、恐れ入ったぜ白井。あれだけの荒くれ共を一瞬で片付けてしまうとは」

「その様に褒めても嬉しくありませんの」

結局、あれからその場に現れた黒子はものの数秒で不良達を片付けてしまった。

 もはやその手際は見事、と言うしかあるまい。

まず女子生徒を羽交い締めにしている男の脳天に空間移動した黒子が渾身の踵落とし、これでその男は一発で倒れた。
その際に女子生徒が手にしていたスーパーの袋を思いっ切り地面にぶちまけてしまい、卵のパックの中は白から黄色一色にイメチェンして、それを見た上条はがっくり項垂れたのだが黒子は全く気にしない。
続いて二人同時に服に鉄芯を空間移動させ、壁に一瞬で磔にすると、もう勝負は決まっていた。

残った電気使いがとても戦力がありすぎて敵わないと見たのか、突然土下座しはじめたのだ。

「情けない男ですの」なんて溜息を吐きながら黒子は拘束し、アンチスキルに五人を引き渡した。

「とりあえず事情聴取の為、お二人はジャッジメントの支部まで来てもらいますの。…………所で類人猿さん」

「は、はいっ」

黒子の最後辺りの台詞にやけに迫力を感じたため、年上なのに関わらず敬語で返事をする上条。
痛む身体もそのままに足を揃え、やけに綺麗に敬礼をしていた。

「そのお方はお知り合いなんですの?」

「いえ、面識はありませんです、サー!」

そうは言うが。
もし、記憶をなくす前の知り合いだったりしたらどうしようなどとちょっぴり不安だったのだが。

「あ、あの。私も助けてもらっただけで……」

「そうなんですの。とりあえず、お話を聞かせて下さいな」

「あ、はい……」

だがやり取りの中でそれは杞憂だったらしく、上条はほっと一息撫で下ろした。


「割とジャッジメント第一七七支部は近いですので。空間移動するまでもありませんの。類人猿さんも歩けますわよね?」

「イエス、マム!」

「それやめなさい」

「イエエエエス、マムウウウウゥゥゥ」

「次言ったらコレ埋め込みますわよ……?」

「ごめんなさい」

自分がもしジャッジメントになったら、この小さなどSの所にはなりませんよーに、と内心思いながら上条は歩き始めた。



繰り返すが、上条は、不幸である。
この言葉が意味するのは……もう少し後で、判明するのであろう。



「ほら、キリキリ歩きなさい!」

「あの、白井さん…………自分で言うのもなんなんですけど上条さん功労者ですよ?」

「貴方みたいな猿にはこの扱いでも十分過ぎますの」

「あは、あはは…………」

とまぁこんなやり取りがあったりして、三人はジャッジメントの支部に向かった。





そして。






「ただいま戻りましたの」






「お帰りなさい、白井さ…………っ!?」


「お、お邪魔します…………」


「あ……貴方は…………」


「おー、確か、昨日の」


また一つ、新たな出会い────。

今はまだ形としてはなってはいない。
なってはいないが。


この三人が(色々な方面で)有名になるとは、まだ誰も知らなかった。


とりあえず書けた所まで!
というかCP違うけど似たような題材、SSがこのSS速報にあったのね……そっち面白くて読んでた

また次回!


「あ、あのっ昨日は本当にありがとうございました!」

「はは、大丈夫だよ。それより……初春さんだっけ?そっちの怪我は大丈夫?」

 ポカーンと呆けていた初春を余所に、上条は黒子に促され椅子に座ると初春がハッとした様な表情を見せ、ペコリと頭を下げた。

──あ、そういえばこのコもジャッジメントだったか。

そういえばあの時腕章付けてたなーなんて思いながら答え、上条はふぅと少し息を吐いた。
実はちょっぴり殴られた箇所が痛かったりする。

「はい、あの後御坂さんに病院に連れていってもらいました」

「ん、そうか。無事で何より…………つっ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

ふと笑顔を見せようとした時、ピキンという痛みが頬に感じた。
上条の頬が腫れかけて来ている事に、初春はそこで気付いた。

「ん、ああ大丈夫だよ。寝れば明日には治ると思う」

とは答えるが、翌日にはもっと腫れる事になるだろう。
かと言って財布の中には病院に行くお金もなく自然回復に任せるしかないか、と上条は思っていたのだが。

初春はどこからか救急箱を持ってきていた。

「ダメです!じっとしててください」

「あ、あの…………?」

「動かないでくださいね」

 さっとガーゼを取り出すと、消毒液を染み込ませ少し切れていた上条の口元に当てる。
どこか手つきがよく、サッと上条の口元を拭うと初春は次に湿布を取り出し腫れてきている箇所にペタッと貼り付けた。

「はい、いいですよ」

「お、おお…………どうもっす」

簡単だが丁寧な処置に上条は少し驚いたような、感心したような、そんな感想を抱いた。

「ありがとう」

だが素直に感謝する。
痛みはまだあるが、それでも笑顔を見せる男、上条。


「…………い、いえ」

初春は普段、男子生徒とあまり話す機会がない。
学校では大体佐天と共に行動しており、放課後はジャッジメントの仕事か佐天と遊ぶ。
そして寮生活の為、異性と接する機会はあまりなく、いまだ免疫がないためか…………はたまた別の理由が出来たか、上条の笑顔を見た時ハッとした様に初春は顔を赤らめた。

「あ、あの」

「ん?」

すると事情聴取が済んだのか、上条に助けられた先ほどの女子生徒が声を掛けてきた。

「ほ、本当にありがとうございました!お怪我の方は、大丈夫ですか?」

「全然大した事ないよ。それより無事でよかった」

「む……」

「い、いえ……その、お礼は必ずしますから!」

「いや、お礼と言われても……その為に助けた訳じゃないんだから、気にしなくていいよ」

「で、でも…………」

「いいのいいの。困ってる人を助けるのが普通、だろ?」

助けるのが当たり前だ、という考え方を持つのが上条だ。
実際、いままで救われてきた者は数知れない。
それは例えか弱い者であろうが、力ある者であろうが関係なしに上条は手を差し延べてしまう。
天然で底抜けのお人よし、優しさに惹かれさせてしまうのが上条だ。
これで完全に無自覚だから困る。

「……………………///」

──またこの類人猿は…………。

どうやらこれでまた一人、落ちた者が増えた、と黒子は溜息を吐いた。
しかしまあ何人落ちようが黒子には関係ない。
寧ろ愛しのお姉様から遠ざかってくれればそれでよかった。


 そして事情聴取が終わり、女子生徒は黒子が空間移動にて送り届ける事となった。
ふう、と帰り支度を始めながら上条は部屋を改めて見渡す。

 大量に積まれた書類と、本棚には本や事件ファイルなのだろうか、日付シールが貼られたドキュメントファイルがびっしりと並べられている。

──これがジャッジメントか。

と初春と黒子の仕事ぶりを見ていた。
黒子が聴取し、初春がキーボードを叩いて情報整理をする。
こういう事もジャッジメントの仕事の範疇だ。
全てが全て現場という訳ではない。
カタカタとキーボードを叩く初春を見て、そんな事を考えていた。
頭に乗せた花飾りも、彼女の動きと一緒に揺れていた。

「あ、あの…………そ、そんなに見られると、恥ずかしい、です」

「あ、ああ、ごめん」

そんな自分の視線を感じてか、上条の方に振り向き顔を赤らめた上目遣いを見せた。

──…………不覚にも。

年相応のあどけなさが残る彼女のそんな仕草に少しドキッとしたのは気のせいだろうか。
しかしこんな女の子がジャッジメント──少し上条は不思議にも思えた。

「初春さんは、どうしてジャッジメントに?」

ふと、ほぼ無意識で尋ねてしまっていた。
その言葉と同時に、初春のキーボードを叩く手が一瞬止まった。
何やら少し考え事をしているような、そんな感じ。

しかしすぐにエンターキーをターンと叩くと、椅子を回転させて上条の方に振り向いた。

「そうですね…………ある事件がきっかけです」

「ある事件?」

初春は思い出す。自分がジャッジメントに入るきっかけとなったあの事件を。


『もう心に決めてますの!私の信じた正義は決して曲げないと!』

『私、約束します。“己の信念に従い、正しいと感じた行動を取るべし!”私も、自分の信じた正義は決して曲げません!』

……………………

………………

…………

「へえ、そんな事があったのか」

少女達が決意する事となった、あの強盗事件。
あの事件をきっかけに、初春と黒子は知り合った。
そして訓練生時代も共に助け合って乗り越え、今の二人の絆を繋いでいる。

寧ろあの事件がなければ、恐らく初春はジャッジメントを目指していなかったのだろう。

「私の方は能力もあれですし、もっぱら情報処理の方ですけど」

自分の過去をペラペラ話して少し恥ずかしいな、という意味合いも込めて少しテヘッと舌を出して笑って見せた。

「しっかし、あっぶなかしい事してたんだな、白井のヤツ」

「天狗になってたんじゃないですかね。小学校では飛び抜けてたって言ってましたから」

「はは…………」

意外と黒子に対して毒舌を吐く初春に、上条も苦笑いを見せた。
まあそれは仲のいい証拠、でもあるのだろう。

「でも初春さん、しっかりしてるな。上条さんも初春さんくらいの年頃、多分遊びほうけてたと思うぞ」

「そ、そんな事は…………」

とは言っては見るが、上条にはその頃の記憶がない。
だが今の生活ぶりを見るに、恐らくそうだったのだろう。

そんな初春が、少し輝いて見えたのかも知れない。


ピンポンパンポーン。
翌日の昼休み、上条の通う高校で校内放送のチャイムが鳴った。

『一年の上条当麻、上条当麻。職員室に来るじゃんよ』

「んあ?」

昼食も摂り終わり、まだ半分以上昼休みが残っており土御門や青ピと談笑していると、突然名前を呼ばれた上条は間抜けな声を出した。

「おいおいカミやん、なんかやらかしたんかにゃー?」

「くぅ~、あの声は隣のクラスの黄泉川先生の声やん。カミやんいつの間にフラグ立てたんやー?」

「何言ってやがる青ピは」

少し嫌な予感が横切る。
呼び出し、というのはあまりいい知らせが多くない気がして、特に不幸体質の上条の事だ。
とんでもない事を知らされるかもしれない、と危惧していた。

「はあ、何だろうな…………行ってくるよ」

しかし無視する訳にもいかないだろう。
足取り重く、上条は職員室に向かうことにした。


「上条ちゃん、お待ちしていたのですよー」

「お、上条来たか」

職員室に入ると小萌と黄泉川の姿があり、やはり職員室という場所は慣れない為か控え目にそそくさと寄った。

「あのう…………なんの用事でせうか」

内心ビクビクしながら何の用事かと尋ねる。
しかし呼んだのは黄泉川だという事で、その事もまた上条の頭に疑問符を作っていた。
ちなみにアンチスキルでもある黄泉川とは上条が巻き込まれる事件の度に顔を合わせたりするのでお互い面識はある。

「小萌先生から話は聞いたか?上条、お前ジャッジメントをやる気はないか?」

「その話でしたか。いやー何かやらかしちゃったのかと思いまして」

その話かー、とホッとした表情を見せ、促された椅子に座った。
ジャッジメント。
上条は一応の答えを出した書類が鞄の中に入っており、今は手元にはないのだが近い内に提出しようかと考えていた所だった。

「で、どうなんだ?」

黄泉川も目の前で能力が打ち消された右手の事を知っており、その能力を考慮してこうして上条に提案しているのだが。

「でも、どうしてまた急になんですか?」

黄泉川の隣にちょこんと座った小萌が黄泉川に尋ねる。
担任の小萌が一番よく分かっている、上条の学校生活、成績。
しかしそれは度々色々な事に巻き込まれ、放っておけない性格の上条の事だ、仕方のない事と言える。
しかし小萌自身は、上条のジャッジメント入りにはあまり賛成してはいなかった。
学生の本分である学業を疎かにして、そっちの方に力を費やすのは小萌としては納得がどうにもいかなかった。

「ここではあまり大きな声で言えない事なんだがな…………実はな」

と、そこで黄泉川が周りを確認して椅子にもたれさせた姿勢を丸め、小さい声で呟いた。


「上からの通達じゃんよ」


「「へ?」」


上条と小萌が声を揃える。
上からのの通達?どういう事だと言わんばかりにお互いの顔を見た。

「んー、私も実は詳しい事はそこまで聞かされてない。だが上からそう言われたじゃんよ」

上────。
それは黄泉川の属する、アンチスキルの上層部、で合っているのだろうか。
すると上から上条を指名してきた、という事になる。

「え、え…………?」

上条は自分が思っていたよりも、何やら大事な事に気が付いた。

「でっ、でも、上条たんの補習が免除って……」

小萌が可愛らしく噛みながら尋ねる。
確かに、補習免除というのはかなりの優遇だ。
それに上条は出席日数の不足や、元々の出来の悪さでもはや必須項目だったのだが。

「…………それも、上からの通達、じゃんよ」

黄泉川としても小萌と色々話す機会があったりする為、上条の事についても色々知っていたりする。
進級さえ危ぶられるほどなのに、それを無条件免除という事は事態が予想以上に重いと痛感させられていた。

しかし、それとこれとは話は別で。
全ては、上条の決断に委ねられているのだ。


「それで、上条はどうするじゃんよ?」

上条は考える。
別に優等生になりたい訳でもない。
しかし立派なジャッジメントになりたい!という思いもまだない。

だが…………。

「俺は…………答えをもう出してます」

「ほう?」

「上条ちゃん…………」

ほんの少し、深く息を吸い込んだ。

「この性格の通り、困っている人を見れば放っておけない性格です。泣いてる人なんて見たらいてもたってもいられなくなってしまう。俺のこの手の届く範囲でなら…………助けれるのなら、限りなく助けていきたい」

「上条…………」

見つめていた自分の右手をキュッと閉じ、握り拳を作って見せた。
インデックス、美琴、妹達…………上条の記憶の中で色々な泣き顔を見てきた。
上条はそれを見るのが辛かった。

皆が笑い合えるハッピーエンド────。
聞こえはいいだけなのかもしれない。
余計なお世話なのかもしれない。
自分のエゴなのかもしれない。
偽善なのかもしれない。

しかしそれがどうした。助けられるなら、それでいいじゃないか。
だったら偽善者でも構わない。
大切な人達をこの手で守れる事ができれば、それでいい。


意を決して言う。





「小萌先生、黄泉川先生。俺、ジャッジメントになります」


書けたところまで
また次回!

書けたところまで
また次回!

…………orz


「とうまー、ご飯まだー?」

「おー、すぐ出来るぞ。箸並べといてくれるかー?」

「うんっ、わかったんだよ」

 フライパンを転がし、ジュージューと音を立てて野菜を炒める。
インデックスも待ちきれないかの様に急かすが、もうすぐ出来るという上条の言葉に目を輝かせて箸を並べはじめた。

 この日の帰りがけに、口頭でも伝えたのだが改めてジャッジメント志望の書類を黄泉川に提出した。
その際、隣にいた小萌に「上条ちゃんは先生の補習を受けるのが嫌なんですね」なんて泣かれて必死になだめた。
だが補習が嫌だったからという訳ではなく、先の事も踏まえしっかりと理由を説明した。説明したらしたで別の意味で涙を流させてしまい、また慰めるのに一苦労したのはいい思い出だ。

「ごっ飯、ごっ飯♪」

即興の歌を口ずさみ、夕食を今か今かと待ち焦がれているインデックスの様子に平和だなーと感じた今日この頃。

 そんな平和が、上条は好きだった。


「あっ」

 昼休みに初春が鞄から弁当箱を取り出すと、見た事がある布切れが落ちた。

「あれ?初春こんなハンカチあったっけ。…………むむ、これは男物…………!?」

水色を基調としたそのハンカチに、佐天は少し目を丸くしながらそれを拾い上げた。
初春といえば年相応の可愛らしいハンカチしか持っていなかったはず。それを何故知っているのかと言えばまぁいつも一緒にいるからとしか答えようがないのだが、女の子はそういう所にも目を付けるのだろう。

「ねね、これって初春が前に言ってた助けてくれたって人の?」

「そうですよ」

──……返すの、忘れちゃってたなー…………。

あの時。
不良に突き飛ばされて、肘を擦りむいた際に差し出されたあのハンカチ。
返そうと思って、洗濯してアイロンまで掛けていたのだが、突然の再会に少し戸惑い返す事を忘れてしまっていた。

あの時はジャッジメントの仕事の時で、黒子が連れてきて話をして。
その時、何故か「話しやすいな」という印象を受けて。
美琴と黒子の知り合い、というのも相乗しているのかもしれないが、会ったばかりの、しかも年上の異性だというのに初春は気付けば色々な事を話していた。

『楽しかった』

結果的に残った感想は、何故かそれ。
黒子からの話によると「たらし」だの「低脳」だのかなりの悪評だったのだが、自身が感じたそれは真逆だった。

「初春って、最近何だか上の空だよね」

「へ?そ、そうですか?」

 自分の真正面で少し心配そうな、また何故か期待をも込めた表情で佐天は呟いた。


「で、それ以降その人には会えたの?」

「昨日会ったんですよー、また事件に巻き込まれていたみたいで。それでジャッジメントの支部で事情聴取という形で白井さんが連れてきて」

「おお」

「それで、色んな話もしたんですよー。ジャッジメントの仕事とか、なんで私がジャッジメントになったかとか」

「そうなんだ。何だか初春、楽しそうだね」

「へっ?」

これは面白いおもちゃを見つけた!とばかりに佐天の目が光った気がした。
こういう時、嫌な予感がするのは気のせいなのだろうか。

「初春にも春の兆しが見えてきたのかなー?」

ニヤニヤと口角を吊り上げた笑いを見せた佐天。

「ち、違いますよー」

だがまだ会ったばかりの相手に、そういう答えを出すのはまだ早い気がした。
ぶっちゃけ佐天から言わせれば、そんな赤い顔を見せられれば大体の意味は分かってしまっていたのだが。


「お、上条。ちょっと来るじゃん」

「あ、はい」

 翌日、昼休みに廊下で上条は黄泉川に呼び止められた。

「くぅ~、カミやんあの乳を独り占めかいなー。羨ましいかぎりやdへぶし!」

隣を歩いていた青ピにゲンコツを入れておき、先を歩いた黄泉川についていく。
まぁ話はジャッジメントの事なのだろう。

「書類は正式に受理されたみたいじゃん。あとは試験があるんだが、いつが都合がいい?」

「え、いつがいいって……?」

いつ?こういう試験は決められた日に行われるのが大体だろう。

──って言うか…………いつだ?

そういえば。
上条は試験の日取りを知らない。
まあ冬のごたごたした季節だ、来春辺りに試験はあるのだろうと思い、ゆっくりとそれに向けて勉強しようかなーなんて考えていた。

「言い忘れてたじゃんよ。試験は」

しかし試験内容に何が出るのか、あまり情報を掴んでなかったりする。
体力面では…………一応自信はある。
それはよしとして、あとは何だろうか。
一般教養?専門知識?
恐らく、いやきっとそれをも含めた13種類もの適正試験があるのだ、どんな内容が出るのかわからないとやはり不安になってくる。

そんな事を考えていたら、話を聞き落としそうになっていたが次の黄泉川の言葉に上条の思考は停止を余儀なくされる事になる。







「三日後、じゃんよ」






「…………はひ?」




うん、詰んだ。


「とほほ…………」

 上条は途方に暮れていた。
夕焼け滲む栄えた町並みを、肩を落としながら家路に着いていて、彼の背中は少し煤けてみえるぜ状態であった。

それもそうだ。いきなり三日後に試験があると言われれば焦るどころではない。
なら今回のは諦めて次の試験に臨めばいいのでは?と普通は考えてしまうのだが、次の試験はどうやら来春頃になるらしく。
ぶっちゃけ出席日数が足りない上条にとって、ジャッジメントになる=補習免除とはかなりのアドバンテージだったりする。

出席日数が足りないのならば、『休まなければいい』のお考えはは常日頃、様々な事件に巻き込まれる不幸体質の彼にとって実に短絡的な極論なのかもしれない。
巻き込まれたら巻き込まれたで放っておける様な立派な性格はしておらず、自身がいくら傷付こうが解決するまで奔走する。
結果、長期の入院生活を送る事になるのはもはや彼にとって日常茶飯事になりつつあったりもしていた。
だから、出席日数が足りない。
学校が嫌いな訳ではない。むしろ好きだ。
事情があるとはいえ、これ以上の欠席は死活問題だ。

極端に言えば、進級がかかっている。

故に、ジャッジメントになれるとすればなるべく、早めになっておきたかった。

 一応受けるか否かの判断は直前まで出来るらしく、どうしようかななんて考えながら、上条は通り道であるあの公園に差し掛かった。



「…………か、上条さん」

「ん?」

するとまだあどけなさが残る少女の声が上条の耳に届き、上条は振り返った。

「おー、初春さん。昨日ぶり」

あの特徴的な花飾りを頭に乗せた、上条が目指すジャッジメントの初春がもじもじと腰の辺りで手を組み、立っていた。


「はい、昨日ぶりですね」

 彼のにこっとした笑顔を見ると、何だか少し嬉しい気分になった。
やっぱり、この人は接しやすい。
年上の異性は初春にとって少々苦手意識を持ってたりするのだが、この上条には不思議とそれがなかった。

「あれ、初春さんこっちの方なの?」

「これをお返ししようと、思いまして」

「おー、そうか」

鞄から水色のハンカチを出す。
綺麗に折り畳まれたそれを差し出すと、上条は受け取った。

「もう腕は大丈夫?」

「あ、はい。包帯巻いてたんですけど、かすり傷くらいだったのでもう絆創膏だけで大丈夫ですよ」

「ならよかった」

長袖の制服なので捲って見せるまでもしないが、大した事はないと告げると上条も安堵の表情を見せた。

「あの、本当にありがとうございました」

ペコリと頭を下げる。
あの時、彼がいなかったらどうなっていた事だろう。
あの不良達を止めれたとは到底思えず、恐らく自分ももっと傷が増えていたのかもしれなかった。

「はは、そういうのはよしてくれよ」

笑いながらそう言う上条に、そういえば美琴からも同じ様な事言われたななんて思い返しつつ。
少し、上条と美琴の関係が気になった。


「あれ、上条さん、それって」

しかしふとそこで上条が手にしていた茶色い封筒が初春の目に留まり、気付けば尋ねていた。
その茶色の封筒は、初春も見覚えがあるものだったりする。

「ああ、これか」

「それは…………ジャッジメントの……?」

「ん、まあ、そうだね」

上条は困った様に苦笑いをしながら後頭部をぽりぽりかいて見せた。
初春もジャッジメントだ、これが何か分かったらしく、言い当てると少し恥ずかしそうにして上条は答えた。

「上条さん、ジャッジメントに?」

「んー、まあなれるかどうかはわかんないけど、一応受けてはみようかなと…………ん?あ、そうだ」

「?」

言葉を出している途中で、何かに気付いた上条は初春の方に向き直った。

「試験、どんなのが出るんだ?」

「あ、試験ですか」

初春は顎に指を当て、思い返す仕草を見せた。

「んー…………」

「…………」

「えっと…………」

「……………………」

「んーと……………………」

「…………………………………………」

そういえば試験、どういうのが出たんだっけと思い返してみる。
とはいえ初春が試験を受けた時も、緊張しからかがむしゃらだったりしていたので、試験内容は…………そういえば、あまり覚えていなかった。


「あー、ごめん。やっぱそういうの言えないよな…………?」

「あ、そ、そんな事ないですよ」

少し答えるのが遅くなった初春に上条が申し訳なさそうな表情をして謝ってきた。

「あ」

 そこで初春はある考えが思い付く。そういえば上条に、まだきちんとしたお礼をしていない。
それを踏まえて、初春はある提案をする事にした。

「上条さん」

「はい」




「私の部屋に、来ませんか?」



「……………………はい?」


そこで上条の思考は本日二回目だが飛ばされる事になった。

遅くなっちゃった、ごめんなさい
次は早めに投下するよ、また次回!


──えーと…………この状況は一体…………。

 見慣れない部屋で、出されたお茶に口をつけつつ上条はそわそわしていた。
目の前には白を基調とした座卓と可愛らしいティーカップ。
そして本棚にてゴソゴソと何やら探す仕草を見せる初春。
その本棚の横に設置されている学習机の上には、彼女の特徴的ともいえるあの花飾り。

「うーむ…………」

なぜこんな事になったんだと考えるが、まあホイホイついてきてしまったのは何より自分だ。
しましここに来てすぐに初春は本棚と向き合った為、上条はただ座ってお茶の中に写る自分と睨めっこをするしかなかった。

出されたお茶に、少し口を付けるのを躊躇ったのだが出された物を遠慮する訳にもいかず、また貧乏性がここで発動してゴキュゴキュとまではいかないがチビチビ飲んでいた。

 どうにも慣れない女の子の部屋。それに寮だったのだが、何故かここの寮監は上条の姿を見てもスルーしたし。
…………まあそれは仕方がない、結構なヨボヨボのお婆さんだったのだから。

しかし最早そんな事はこの際どうでもいい。
問題はこの小さな女の子の部屋で、思春期真っ盛りの男子学生がいる事だった。

「えーと、確かここに…………あ、あった」

この小さな部屋に二人きりという状況。
しかもそこまで仲良いという訳でもない、というかまだ会って間もない間柄なのだ。
人見知り、という性格でもないのだが、状況が状況であって、さすがの上条もどう対処すればよいのかわからなかった。

ふとそこでそんな声がしたので、上条はそっちの方に向くと、何やらこの部屋の主の初春は教科書サイズの本の様な物を手にしていた。


「はい、上条さん。これ、ジャッジメントの試験の過去問です」

「お、おお…………ど、どうも」

可愛らしく微笑みながら差し出されたそれを受け取ると、上条はしどろもどろながら礼を告げる。
なるほど、自分がここに連れて来られたのはこれを渡す為だったのかと少し納得した。

「…………」

「……………………」

「…………………………………………」

しかし、それっきり沈黙状態に陥った。

「…………………………………………へ、へー。こんなのが試験で出るんだな、うん」

それに初春はそれっきり、何やらモジモジし出してしまったし。
この状況に慣れていない上条は、どうすればいいのかわからず。

そして何より、沈黙が痛い。

気を紛らわそうとピラ、と中身を少し確認する。

「…………」

だがこの状況で内容などしっかりと頭に入る訳でもなく、ただ羅列された文字を見るだけ。

「…………ぁの…………ぇと…………」

「そ、それじゃこれ借りるとして、そ、そろそろおいとましようかな、はは…………」

初春が何かを呟きかけた所だったが、上条の耳には届かず そそくさとそれを鞄の中にしまってしまった。

「ぁ……………………」

それにハッとした初春は、少し寂しそうな表情を浮かべていた。


 ジャッジメント試験の過去問を探していた時、背中を向けていて助かったのだがその時の初春の顔は真っ赤であった。
実際、キチンと整頓された本棚にあった為、すぐさま渡す事も出来たのだが、気を落ち着かせる為わざと探すフリをして少し時間を稼いでいた。
ぶっちゃけ首元まで真っ赤だったのだが、上条は気付かなかったか、キョロキョロと意識が別の方に行っていたかある意味助かっていた。

しかしそこからは…………沈黙だ。
何より、話題がない。
異性と話すのにも慣れていない初春だ、なかなかに積極的に話し掛ける、という事まで出来やしない。
相手が佐天や黒子だったら気も楽なのだが、恩人の上条だ。

そもそも。

──何で部屋に来ませんかなんて言っちゃったの私────────!

ぶっちゃけ、無意識だった。
お礼をしなくちゃいけない、という強迫観念からだったのだろうか。
それともまた別の意図があったからなのだろうか。

それはまだ、初春自身も分かっていない。

「……………………」

「……………………」

二人して沈黙を守りながら、時間が過ぎる。
カチコチ、という時計の針の音だって脳にまで響き渡る程の沈黙。

いや、でも初春にはお礼をするという自身に科した任務がまだ残っている。
いや、お礼をしなければいけないのではない。


お礼を、したかった。



「ぁの…………ぇと…………」

しかし。

「そ、それじゃこれ借りるとして、そ、そろそろおいとましようかな、はは…………」

そういい、上条は過去問を鞄の中にしまい、立ち上がってしまった。

「ぁ……………………」

「まあ、試験明けたらこれ返すよ。ジャッジメントの支部に行けばいいか?」

彼が、帰ってしまう。
どうすればいい。このまま帰してしまうのか。

「これ、ありがとな。ジャッジメントになれたら、その時はよろしくな。はは、でも受かったとしてもどこの支部の配属になるかわかんないけど」

「ぁの……………………」

喉の奥まで出かかった言葉。

「あー、それと一つ。お礼とか、そういうのは本当にいいからな。…………って言うか、この過去問借りれるだけで十分にお礼貰ったぞ」

「ぁ…………は、はい…………」

そうじゃない。
自分だってそれはお礼のつもりじゃない。
そうじゃなくて、もっといいものでお礼をしたい。
こう…………心に残るものを、彼に。

「うん、それじゃ。お邪魔しました」

しかし────────。


「あ、はい…………さようなら…………」


自分の口から出た言葉は、それだった。





 バタンと音を立てて閉められたドアに、じっと視線を送り続ける初春。
先程の沈黙の静寂より、更に深い音無き世界が初春を包み込んだ。

どうしてだろう。

どうして。


「行っちゃった…………」


どうして、こんなにも寂しさが込み上げてくるのだろう。



「私の……………………意気地無し」



出会って間もない彼なのに。
どうしてこんなに、気にしてしまうのだろうか。



初春の言葉をも、その静寂が飲み込んでしまっていた。


「ふぃー…………」

 自宅に戻り、夕食と入浴も済ませ上条はテーブルの前に座っていた。
インデックスはどうやら小萌にお呼ばれしたらしく、

『こもえの所に焼肉パーティ行ってくるんだよ』

という書き置きがあっただけでインデックスの姿はなかった。
普段ならエネルギー摂取だとここぞとばかりに上条も相伴にあずかっていた所なのだが。

「せっかく借りたんだし、やる事しっかりやっとかなねーとな」

テーブルの上に広げられたジャッジメントの過去問とノート。
所々可愛らしい文字で注釈など書かれていたりしていて、結構使い込まれた様だった。

「初春さん、か…………」

小さな女の子。下の名前は、まだ知らない。
美琴や黒子の友達で、ジャッジメント。

「自分の信じた正義は決して曲げない、か」

あの時話してくれた初春の事。あんなに小さな女の子なのに、信念をしっかり持っていて。
黒子の様な戦闘能力は持たずとも、あの時もそれに従いあの不良達を制しようとした。


思い返す。
インデックスの事、美琴の事、天草式、イギリス清教、その他にも色々と。

その時、自分は何を信念として守ろうとしたのか。
激情に駆られて体当たりをするだけの時もあった。
結果的にはよかったのかもしれない。結果だけを見れば。

異能をなんでも打ち消すこの幻想殺しが、運を掴んだだけなのかもしれない。
次何かあったとき、果たして自分は生き残れるか、それもわからない。

わからないのだが────。

「でも、やっぱ…………。守りてーよな、この平穏な日常を」

たくさんの笑顔を、守りたい。
やはりそれが自分にとっての、信念、なのだろう。

「……………………よし、やるか」

パンパンと二回頬を叩いた上条は、再びノートの上にペンを走らせはじめた。


「ええええええええええ、その人を部屋に呼んだああああああああ!!??」

「ちょっ、佐天さん……声が大きいです!」

 昼休み、初春の目の前の佐天が絶叫の様な声を上げた。
咀嚼していたご飯粒をも撒き散らす様から驚いた様子が実に大きいことを表していた。
当然クラス内の視線は二人に集まり、初春は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべ、佐天は別段気にしていない様子だった。

「うっわー…………初春ったら大胆…………」

「あはは…………ですよねー……」

とは言うものの、初春は部屋に上条を呼んだ事よりも、結局お返しも何も出来なかった自分への落胆の様なものの方が大きかったりしていた。

「でさ、初春。向こう、高校一年生の男の訳でしょ?何もされなかったの?」

「何もしてませんよ!へっ変な事言わないで下さいっ」

ニヤニヤしだした佐天を非難するかのように真っ赤になって反論するが、佐天にはあまり効果はないようだ。

「でもさー、初春。やっぱり危なかったんじゃないの?それって」

「あ、危ないって…………上条さんはそんな人じゃないですぅ」

プクーッと頬を膨らまして怒る仕草を見せる初春だが。
だが佐天は上条の事を知らないのだ、親友として心配するのは当然に決まっている。
それを感じた初春は感傷的にならずに、そんな佐天に感謝をしながら卵焼きに箸を伸ばした。


「けど、初春って男子と話すのにも慣れてない感じじゃん?よくそんな事したよねー」

「それは…………その、勢いって感じで…………」

いまだに何故自分が上条を部屋まで招き入れる行為をしたのかは分かっていない。
異性の上に、会って間もない人物。
自分を助けてくれたとはいえ、上条も男なのだから初春も自身のした事に少し恥ずかしくなってきた。

「で?」

「…………?」

「何しに呼んだの?初春は」

「あ、はい。上条さん、どうやらジャッジメント志望みたいなので、試験の過去問を渡そうと思いまして」

「それだけ?」

「……………………いえ。本当は助けてくれたお礼もしようと思いましたけど…………」

「そこで帰っちゃったんだ?」

「…………はい」

あの時の上条の帰ってゆく後ろ姿を思い出して、初春は少し憂鬱な気分になったり。
佐天もむむむ、と腕を組んで考え事をしはじめたのか、黙りこくってしまった。

だが実際、お礼をするといっても具体的に何かをするという考えもそこまである訳でもなかった。
何かしたい、という思いはあっても何をしようか決まらず、それも結局あの時何も言い出せなかった原因に起因しているのかもしれなかった。

「それで、明後日には試験があるって言ってましたし…………早く帰って勉強でもしたかったのかも、だから無理に引き止めるのもどうかな、なんて……」

とは言い繕うが、実際はどうだろうか。
あれだけの寂しさが胸に去来したのだ、本当は引き止めたかったはず。
だから何度も何かを口にしかけたし、背中をじっと見つめていた。

どうしたんだろ、私──とタコさんウインナーを口に運ぼうとすると。



「ねね、初春」


「あ、はい」


そこで佐天がパッと組んだ腕を外し、ズイッと初春の顔を覗き込んだ。








「初春。その人に、恋、しちゃったんじゃないの?」






「………………………………ふぁい?」



タコさんウインナーが、ポロッとこぼれた。


ここまで
また次回!


あの、別にケチつける訳でもないんだけど、初春の部屋って春上さんいたよね?
他のSSとかでも佐天さんが部屋に来たりしてるけど春上さんどこいっちゃってるんだろか?


 恋、恋、恋────────。

 特定の人物に強く惹かれる様。切ないまでに深く想いを寄せる事。
気付けば、自室でキーボードを叩いてその意味を何度も熟読していた。

『初春。その人に、恋、しちゃったんじゃないの?』

佐天の言葉が脳裏に蘇る。
自分が、恋。
とても、不思議な感覚。

テレビで役者が演じる恋愛ドラマも見た事あるし、ネットで恋愛小説も読んだ事もある。
だがそれに示されていたのは、主に客観的なもので主観的なものはそこまで深くは伝わってはこなかった。

相手を思うと、胸の動悸が収まらない。
頬が熱を帯び、紅潮している。
切ないほどに、もう一度会いたい。



  これが、恋なのか。



初春はマウスから手を離し、少し息を吐いて天井を仰ぐ。
昨日は、この部屋に彼がいた。
そうか、彼を呼んだのも、引き止めたかったのもこれが理由なのか。
そう思えば、実に簡単な答えだった。
そう思えば、昨日感じた寂しさだってちょっぴり愛しさが込み上げてきた。

不思議な感覚。不思議な胸の痛み。
でも、嫌な気分ではない。

一人の少女が、はっきりと想いを自覚した瞬間であった。


「とうまー」

「んー?」

 上条は昨日に引き続き問題集に手を付けていると、インデックスが構ってほしそうな声を上げた。
しかしそっちの方に振り向くもせず、上条は黙々とペンを走らせている。

「むー、つまんないんだよ。とうまー、ゲームしようよー」

「今忙しいの。テレビでも見てろって」

「テレビ、面白いのやってないかも」

ベッドにチョコンと腰掛けてあちこちチャンネルを回すのだが、どこも五秒も経たずに変えてしまう。
プクーッと膨れて上条の背中越しにノートの中をチラッと覗き込んだ。
しかしそれもやはり長続きせず、上条の背中をポンポンと叩き始めた。

「痛い」

「暇なんだよ」

「暇だったら殴っていいのかよ」

「とうまが構ってくれるまで殴るのをやめないかも」

「やたらとガタイのいい男が思い浮かんだぞ。でもダメったらダメなの。カナミンのDVDとかあるし、ゲームなら一人で出来るのもあるだろ」

実際問題、試験は二日後。
インデックスには悪いが、遊んでいる暇はない。
入院生活ばかりで授業を受けられないから、とも言うがそもそもの学力もそこまでない上条だ、今は一秒だって惜しかった。

幸い、明日は土曜日で休日。試験は明後日の日曜日に行われる。
それもどうやら上条の通う高校で行われるらしいので、試験会場への移動等に関して心配する事はないだろう、多分。

それにしても。

本当に間に合うのだろうか。
単なる徒労に終わる可能性も十分に有り得る事。
それを考えると、今回は見送って次回の試験にはしっかりと備えるという手もあるはずなのだが。

しかし、そうしたくはない。

なぜだか、そんな思いが上条を巡っている。
それは、ほんの少し焦りにも似ているような、そんな感じ。
勿論、補習免除と出席日数確保の件を考えれば今回の試験に受かる事が最良となるだろう。
しかし、今上条を突き動かしているのはそんな理由ではない。
なぜかはわからないが、試験には受からなくてはいけない。

そんな気分だった。


「ねーとうま」

「なんだよ、今忙しいって言って」

「かざりって…………誰?」

「………………ん?」

いきなりインデックスが呟いたその言葉に、上条は首を捻った。
かざり──誰かと問われれ、その言葉が恐らく人物の名前だということを察するが。

「誰だ?」

しかし上条の記憶には、その名前の知り合いはいない。
いや、記憶を失う前の自分なら分からないのだが、一度記憶を失った事などインデックスには言えはしまい。

「この本に、書いてあったんだよ」

そう言い、インデックスは上条がテーブルの上に広げていた問題集を裏返し、裏表紙を指差した。

「これ。明らかに女の子、なんだよ」

「あ」

そこに書かれていたのは、可愛らしい文体で『初春飾利』という文字だった。
上条はそれを指摘されるまで、そこにそれが書かれていた事など全く気付かなかった。

しかし、いつインデックスはこれを見たのだろう。
……いや、完全記憶能力を持つ彼女の事だ、一度見た物を忘れる事はない。恐らく、どこかでそれをチラッと見かけたのだろう。

「……………………」

その文字を上条も改めて見る。

──…………そうか、飾利って言うのか。

あれだけ話もして部屋にも呼ばれたというのに、まだ下の名前は知らなかった。
…………そういえば、俺部屋に呼ばれたんだよなと彼女の突然の行動を思い返すと、苦笑いが込み上げてきた。

「…………とうま。その子と何かあったんだね?白状するんだよ」

「ん?別に何もないぞ」

特に何もなかったよな?と思い返す。
本当に、何もなかった。

「白状しないと噛み付くかも!」

「だから何もねえって…………ぃつっ、噛み付くのはやめろおおおおおおおお!!」

頭部を噛み付かれ、絶叫が部屋に木霊する。
やはりそこは上条か、インデックスの機嫌が悪い事の理由が全く分からなかった。


──不幸だ………………。

右手を見る。ギュッと小さな手に繋がれている。
視線を横の下の方に向ける。

「ひぐっ…………えぐっ……、えっぐ…………」

自分よりも半分も生きてはいまい見知らぬ女の子の小さな頭が、涙の嗚咽で揺れている。

「大丈夫だよ、すぐに見つかるから。ほら、もう泣くなって」

その小さな子供の目線の高さまでしゃがみ込み、優しく諭すと、正面からギュッと抱き着かれた。

──たはは………………。

どうしてこうなった。と言いたい所なのだが。

事の顛末は、土曜日のお昼時のスーパーにて。
毎回食材をすっからかんにしてしまう居候がいるゆえに、ほぼ毎食毎にこうして上条は買い出しに来ている。

買い置き?出来るはずがない。
あればあるだけ食べてしまうと言うだけならまだ可愛い。
食に関しては食べる、食べ切る、食べ尽くすの三段活用の常に上をゆく上条が養っている銀髪少女は言葉通り全てを胃の中に押し込んでしまう。
見ていて気持ちがいいほどの食べっぷりとはよく言うが、もう次元が違う。うん。

とまあその話は一旦置いておいて、どうして上条が今こんな状況になっているかというと。

いつも通りの不幸が発動し、迷子になってしまった子を見つけてしまった、という訳だ。

「ほら、大丈夫だから」

頭を撫でるのだが、上条にしがみつく小さな手はギュッと更に締まって一向に泣き止む気配はない。

しかし、迷子になったのはスーパーだと言うのに、店員に頼んで迷子のお知らせのアナウンスを流してもらったのだが、保護者はなかなか現れない。

「おがあさぁん…………ひぐっ…………」

──ったく、なにやってんだよこの子の母親は。

ちょっぴりこの子の母親に苛立ちが湧いていたのだが、それよりも懸念すべき事があった。


──早く来てくんねえとインデックスには噛み付かれるし勉強できねえし…………はあ、不幸だ。

恐らく家ではフライングで箸を持って待っているインデックスの姿が容易に想像できる。
少しでも時間が遅くなると…………これ以上やられると将来禿げそうで心配にもなってくる。

ふと、そんな事を考えていたら、やけに生温かい視線を感じた。

「………………ん?」

「(ねえねえ、あれって…………)」

「(やだ、誘拐かしら…………)」

「」

買い物袋を持った主婦らしき二人のヒソヒソ話が上条の耳にも届いた。
恐らく聞こえないと思っていたのだろうが、しっかりと上条の耳にも届き上条は言葉を失った。

「ち、ちが…………」



「おがあざあああああああああん!!」



「このタイミングでそれえええええええ!?」


「やだ、やっぱり誘拐よ!」

「は、早く通報!」

「違いますって!!」

さっきまで少し落ち着いてきたというのに、その小さな女の子はいきなり大声で泣きはじめてしまった。


まあ場所はスーパーの駐車場だ。
店内にどうにもいないのだから、一旦外に出ようと女の子を連れ出したのが仇となった様だ。
スーパーの店員に預けて、自分は帰るという選択肢も勿論あったのだが、上条は当然それを真っ先に捨てている。

「チクショウチクショウ」

この子の母親見つかったら説教してやるなんて思いながら女の子をなんとか宥めようとする。
上条の胸元が涙で湿ってきたのだが、まあそれは別に気にならない。

「困った…………」

結局どうする事も出来ずに女の子の頭を撫でるだけしか出来ない。
女の子もまた少し落ち着いてきたか、嗚咽は止まった様だ。

 これからどうするべきなのだろうか。この子の親を見つけるのにもどうにも手がない。
ここで迷子になったのだから、ここを離れる訳にもいくまい。
しかし実は、来るまで待とうホトトギスなんて気軽に言えないほどの時間も経過してしまっている。

「ひぐっ…………だっこ…………」

「ん?ああ」

人肌恋しいのか、ギュッと上条に女の子はしがみついた。
ちょっと疲れたのかな、と抱き上げると女の子は大人しくなり、上条も少しそこで一息ついていた………………





が。






「ジャッジメントですの!これでもくらえですの!」

「か、上条さん…………?ちょ、白井さん!?」






「えっ…………ぶほっ!!??」




その声が聞こえた途端、上条の脳天にとんでもない衝撃が襲い、上条の首はちょっと身体にめりこんでいた。


「危うく亀条さんになる所だったぜ…………」

「上条さんっ、本当にごめんなさい!」

まだちょっと朦朧とする意識をなんとかコントロールし、 手で首を摩る。
まだ痛みは残るがまあこれくらいの痛みなら別にどうって事はなかった。

「白井さんも!ちゃんと上条さんに謝ってください!」

「はいはい、申し訳ありませんでしたーの」

必死に謝る初春と謝る気などない黒子。
どうやら駐車場での騒ぎに気が付いて慌ててスーパーの店員が飛び出し、事情を説明してくれたので上条の冤罪が晴れていた。
まあその時の様子は、初春はよかったあと安堵、黒子はやっぱりねと予想していたらしいが。

というか、この場に何故この二人がいるのだろうか。

…………あれ、もしかして、結局通報された?
違うと主張したのに。

「にしても、いまだ見つからないんですの?この子の保護者は」

「ああ。結構もう時間経ってんのになー」

「大丈夫ですわよ。すぐに見つかりますからねー」

「おねえちゃん、こわい……」

「」

女の子をなんとなくあやそうと黒子は声を掛けたのだが、女の子はギュッと上条の手を更に強く握り上条の足の陰に隠れてしまった。
怖い、といわれた事に黒子はショックを受けた様子だったのだが、先程の行為を考えるとまあ当然の事だろう。


初春は女の子と上条の繋がっている手を少し羨ましそうに眺めていたのだが、しゃがみ込み女の子と目線を合わせた。

「お名前は?」

「みおちゃんはね、みおっていうの」

「みおちゃんかー。おねえちゃんはね、かざりって言うんだよ」

「かざりちゃん?」

「うん、そうだよ」

どうやら子供をあやすのは初春の方が黒子より何倍も上の様だ。
何となく微笑ましいその光景に口元が自然と緩む。
黒子はまだちょっとショックから抜け出せないのか、固まっていた。

「かざりちゃんもてつなぐー」

女の子はそう言うと空いている方の手を初春と繋ぎ、とってもご機嫌になったか笑顔が零れはじめた。



「はは、なんだか家族になったみたいだな」



「!!??」///


その上条の一言で、初春の心臓は激しく揺れた。
ドキ、というよりキュンという感覚。

やばい。
とにかくやばい。
心臓がやばい。
顔がニヤける。

「?大丈夫か?」

突然顔が赤くなった初春のおでこに上条が空いている手を当てた。

「!?あわわわわわ………………///」

その上条の手が、更に初春の頬の紅潮を助長していた。

>>88
( ゚д゚) _
C__っ/_/

…………

(゚д゚)  _
C__っ/_/

(//д//) _
|__っ/_/

おかげで嫁が増えたぞ

また次回!

……もしもしで即興AA作るなんて慣れない事するもんじゃないな


 まともに彼の顔が見えない。
自分の頬が紅潮しているのは自分でもわかっていたが、彼の手が額に当てられると、より一層体温は上がっていった。

「あわわ…………」

自分と歳が近い異性にこんな風に触られた事など、ない。
何より共学の学校生活でさえ、あまり異性と関わる事を初春はしていなかった。
クラス内でも休日に女子グループと男子グループが混ざって一緒に遊んだりすることはあったりもしたのだが。

しかし初春はそれに参加はした事がない。

ただそれもジャッジメントの仕事が入ったりして、行きたくなった訳でもないのだが、もともと自分から異性に関わる事はしない初春だった為に、そういう経験などなかった。
 そういう経験などなかった為に、初春の脳内で勝手に色々補完してしまうのは仕方がない事、なのだろうか…………。



『はは、なんだか家族になったみたいだな』



──かかかかかかか家族って事わわわわわわけけけけけけけっこここここここんんんんんんん…………



 それは付き合いはじめて幾年もの月日が流れ、二人は平和で幸せな生活を送っていた。
彼はジャッジメントでのいくつもの難事件解決の功績が認められ、今では教鞭を振るいながらアンチスキルの幹部も務めている。
自分はというと、やはり自分もアンチスキルの情報処理係に特化した任務をこなしながら、彼と同じ様に教壇に立っていた。

そんな二人は周りでも非常に仲の良いカップルとしてチヤホヤされ、照れ隠しでそんな事はないと言いながらも否定はしない。
しかし彼女はちょっと不満があった。

 せっかく職場でも一緒なのに、彼はすぐ現場に出てしまう。
もう立場的に幹部という役柄。
外仕事は全て部下に任せて、安全な支部内で書類作成や処理などの裏方の仕事に回ってもいいはずなのに。

しかし付き合ってかなりの時間が経って、お互いの事は何でも知っている。
平和を特に好む彼にとって事件が起きれば足を動かさずにはいられない性格だというのはわかっていた。

そんな中、彼が突然支部に来なくなった。
連絡してみるのだが、繋がらない。
職場の人間に聞いてみても、知らないと返されてしまう。

どうしたんだろう。
今まで一度もそんな事はなかったのに。
何かあれば自分に言ってくれる彼なのに、何も言わず姿を消すなんて。

心配と焦燥感が彼女を襲った。
ほとんど毎日会っていた。
もはや生活の一部に彼との時間が組み込まれていた。
しかし、それが急にスパッと切れてしまった。
いてもたってもいられなくなり、朝起きて、昼休み、夕方、夜、深夜と…………何度も何度も連絡してみるのだが。

しかし、繋がらなかった。


学生時代からの親友に相談を持ち掛けた。
しかし、収穫はなかった。
初春、泣きすぎだよなんて言われてもまた涙が零れてしまう。

それに、最近凶悪な事件が頻繁に起きているのだ。
何かあったのではないかと、心配で頭がどうかなってしまいそうで。
彼に会えない寂しさと、彼の身に何かあったのかという恐怖が二重にも三重にもなって彼女に襲い掛かっていた。

会いたい。
会いたい。
会いたい。




そして。

彼が姿を消して一週間くらい経ったのだろうか。



『ただいま』

『とうま、さん…………?』



彼女の部屋に突然彼が現れた。


『ああ、俺だよ』

『…………会いたかった…………会いたかったああああああああぁぁ!!』

『おっと…………ごめんな、飾利』

感極まって、彼の胸に飛び込んだ。
ああ、彼の匂い、彼の温かさ。
背中に回した彼の腕。頭を撫でてくれるのも、彼の感触だ。

『当麻さんのバカ!どれだけ心配したと思ってるんですか…………!グスッ……ヒッグ…………』

『ああ…………心配かけてごめんな』

彼の温かい胸を叩く。
しかし、それにはそれほど力はこもってはいない。
何故急にいなくなったのかという怒りよりも、彼が無事でよかった、彼に会えてよかったという安堵が数段上回っていた。

『…………ようやく、捕まえたよ』

『え…………?』

彼女の頭をその手で撫でながら、優しく彼は語り出した。

『随分と、時間が掛かっちまった』

『………………』

 彼が言っている事をそこで理解した。
あの世間を揺るがした凶悪事件の犯人を、捕まえたのだ、と。
今まで野放しにしてしまっていたが為に、被害が拡大してしまっていたのを彼はずっと懸念していた。
しかしそれも、彼のこの手で捕まえたのだ。


『飾利にも被害が行っちまわないか、それが心配だった』
ああ。
どうしてこんなに彼は優しいのだろう。
どうしてこんなに温かいのだろう。
不幸だと口癖で不満をいつももらしているのに、彼の心の中はいつも前向きで。
それが彼女だけではなく、周りの色んな人をも勇気付けたりしていた。

『これで学園都市にも平和が戻る、な。………………よし』

そこで彼が意を決した様な目をした。
この時の彼を彼女は知っている。
いつもの少し抜けている様なものとは違う、本当に重要な事を決めた時の目。






『………………当麻さん?』





『飾利』








『結婚しよう』







「えへへ…………ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いしますぅ…………」

「おーい、初春さーん」

「はっ!え……あれ…………ここは?」

 気付くと、目の前で女の子がぶんぶん手を振っていた。

「きづいたー?」

「おいおい、大丈夫か?」

「え、えと…………あれ、プロポーズは……?」

「…………はい?」

 そこで初春はハッとした。
そう、先程初春が見ていたのは、全て初春が作り出した虚像だったのだ。
目の前には小さな女の子と、手に感じる小さな感触。
そしてその女の子のもう片方の手は上条に繋がれていて。

「…………まあとにかく。手を離してくれると有り難いのですが」

そして自分のもう片方の手。
自分より大きな手の感触。
先程(脳内で)しっかりと味わった優しい、大きな手。
その手から、腕、身体、首元、そして顔へと視線を移した。
少し苦笑いした様な、恥ずかしがっているようなそんな表情。

──あれ、もしかして今私、上条さんとも手を繋いでる?

「三人で小さな輪っかを作ってるっていうのも変な状況だよな…………?」

「みんな、なかよし」

──あわわわわわわわわわわわわわわ………………///

「うおおおおおおお!?ちょ、初春さーん!?」

フラッと倒れそうになったのを上条が何とか手を引っ張り上げ、地面にぶつかりそうになったのは回避した。


「落ち着いたか?」

「ご、ごめんなさい…………」

初春の意識が次にハッキリしたのは、スーパーの駐車場の敷地を囲う植え込みの石塀に腰を掛けてからだった。

「調子悪いのか?それなら家まで送ってくぞ?」

「あ、いえ、大丈夫です!」

隣では上条が本気で心配そうな目を向けていたので、慌ててなんでもないという事をアピールした。

「ちょっと考え事しちゃってたみたいで…………てへ」

コツンと自分の頭を叩く仕草を見せた初春。
その様子に上条も一先ずは安心した様だった。

「あれ、みおちゃんは…………?」

ふとそこでさっきの小さな女の子がいない事に気が付いた。

「ああ、それならそこで…………」

「あ」

上条が指差した先には、見知らぬ女性が黒子に向かって何度も頭を下げていて、女の子はその女性の足の陰に隠れながらチラチラ黒子の様子を伺っている所だった。
その様子を見るに、どうやらあの女性が母親なのだろう。
しかしまあ妙齢の女性が明らかに半分くらいしか生きていない黒子に対してペコペコ頭を下げているのは、いささかシュールに見えるのは気のせいだろうか。

「よかった、お母さん見つかったんですね」

「ああ。どうやらあの子目を離すとすぐどっか行っちゃうらしくてな。しかも迷子になったの、全然この場所から離れてたんだとよ」

とは言いつつも上条も優しい目線をそっちの方に向けていて、どうやら彼も本当に見つかってよかったと安堵している様だった。


そんな上条を横目でチラリしつつやっぱり優しい人なんだなと初春は嬉しく感じていた。
すると黒子の話も終えたのか、女性がこちらに向かってきた。
女の子も女性と手を繋いでキャッキャはしゃいでいた。

「あの、みおがお世話になったみたいで。本当にありがとうございました」

こちらに向かってもペコリと頭を下げたので、上条と初春は立ち上がって頭を上げるようにと返事をする。

「いえ、何事もなくてよかったですね」

「とんでもないっす。みおちゃん、お母さんから離れちゃダメだぞ」

「うん。おにいちゃん、かざりちゃんばいばい」

「みおちゃん、ばいばい」

笑顔で手を振る。
ちょっぴり名残惜しい気もするけど、でもやはり母親と一緒の方がいいだろう。
小さくなっていく背中を見て、微笑ましい気分に浸っていた。

「…………こういうのも、ジャッジメントの仕事なんだよな」

「そうですね。やっぱり笑顔を見れるのは、いいですよ」

「はは、だな」

そこで初春は、ん、と伸びをした。


やはり、いい事をした後は気持ちがいい。
そこで見れる笑顔や感謝の気持ちは、ジャッジメントでよかったと感じさせる。
ふと、そこで視線が自分に向いている事に気が付いた。

「あ、あの…………」

上条もクスッと笑っていたので、初春はちょっとアタフタしていた。
変な顔してなかったかな、と心配になったのだが。




「いいもんだな、ジャッジメントって」

「…………はい、もちろんです」




自分のしている事に誇りを持てる。
困っている人がいれば、助けてあげたい。
それが自分の掲げた信じる正義を貫く、という信念で。

だからこそ、とびっきりの笑顔を返してあげた。






「何だか入りづらい雰囲気ですの」

一人ボソッと呟いていたがそれはまあいいだろう。


「あ」

「どうしたんですか?」

 上条が時計に目をやると、表情が固まった。

「やっべ…………もう一時半かよ…………」

時刻を見ると短針が既に右に傾いており。
冬の青い空はもうこれから段々と紅くなっていくのだろう。

 上条が懸念している事柄は二つ。
一つは家に帰ればまずは頭部に傷が出来る事。
そしてもう一つは、翌日の試験の事だ。

一つ目も勿論大ダメージは間違いないのだが、二つ目が特に脳裏に突っ掛かる。
本当はこんな事している余裕もなく、少しでも明日の試験に向けて頭に叩き込んでおきたい所だったのだ。

「何か用事あるんですか?」

「ほら、勉強しなくちゃいけないんだ。ほら、明日試験だからさ」

なんとなく、今日感じた事で更にジャッジメントになりたいという気持ちがちょっと増え、珍しく上条はやる気だった。
しかしまあ帰ったら勉強以外にもやることは割とあったりする。


炊事、洗濯、掃除、風呂洗い等。
少しは居候も手伝ってくれればいいのに、という気持ちもあったりするのだがあの居候もあの居候だ、それはとっくに諦めていた。

「まずは帰ったら飯で、洗濯して……」

ゴニョゴニョと独り言を呟き始めた上条。
初春はそんな上条を見て────。





今度こそ、勇気を出そうと手をキュッと胸の辺りで握り締めた。




「あの。私でよかったら…………お手伝い、させてくれませんか?」



彼が今回の試験に受かり、もし第一七七支部で働く事になれば。




彼と、もっと一緒にいられる。




そんな思いが、初春を突き動かしていた。




うーむ、もっかいコンセプトまとめるか
意外と長くなりそうな予感

また次回!


「わぁ、ここが寮なんですね」

「……ったく、何で私までここに来なきゃいけないんですの」

「なら白井さん、帰っていいですよ」

「こんな類人猿と二人っきりにさせる訳にもいきませんの」

 そんな女子中学生の会話を右から左へと受け流し、上条は自分が住む寮の前で佇んでいた。

──つい勢いで押されたけど…………。

お手伝いをさせて下さいなんてお願いを無下にも断れなく、ついついここまで来てしまった。
昨日は初春の部屋にお呼ばれをして、今日は自分の部屋に呼ぶ。
どんな関係なんだよと自分で自分にツッコミを入れつつ、エレベーターのボタンを押した。

 ジャッジメントの仕事はいいのかと尋ねると、どうやら今日は非番らしく、たまたまあの場に二人で居合わせていたとの事。
そして昼食もまだだというので、初春が腕に縒りを掛けてご馳走するなんて奮起していた。
そして勢いに流されるままここまで来てしまったのだが、上条には不安要素が一つ。

──インデックスの奴、また噛み付いてくるんだろうなぁ。

現在時刻はそろそろ二時になってしまう所。
ただでさえご飯の時間が遅れることに機嫌が悪くなるというのに、それに女の子を連れ込むという行為なのだ、怒るのは当然だろう。

『私のご飯ほっぽらかしにして遊んでたんだね、とうま』

実際には遊んでなどなかったのだが、そういってまた噛み付かれるのだろうなーなんて上条は考えていた。
……まあしかし、インデックスが怒りそうな本当の理由は上条は全く知らないのだが。


「ここ」

「結構見晴らしいいんですね」

「……中に入るとそれ言えなくなるぞ。ベランダ側はすぐビルがあるから」

おかげで洗濯物も乾きにくいんだよななんて愚痴混じりにため息を吐きながら、ドアの鍵を開けた。

「あ、そいえばインデックスの事言い忘れてた。一人同居人がいr





瞬間、青と白の二色の何かが飛び出してきた。





ガブッ──────!!

「みぎゃああああああああああああああああああ!!!」

「遅すぎるんだよ!とうま!」







「えっ」

「えっ」

上条の後ろに立っていた二人は、そんな様子を見て素っ頓狂な声を上げていた。


「いってぇ…………」

とりあえずと促され、頭を押さえた上条と上条に噛み付いた銀髪少女を視界に入れつつ、部屋の中に入ったのだが。

「とうまあああぁぁぁ?これはどーゆーことなのかなあああぁぁぁ?」

その修道服を着たシスターらしき銀髪少女はこっちを見ると、再び上条の頭部に視線を移しいまにも危害を加えんとロックオンしていた。

「あー、この二人はまあ知り合い?かな。成り行きで昼飯作ってくれる事になった」

「…………成り行きでまたフラグを立ててくんだね」

「私は違いますが」

この学園都市に場違いなシスターの異国の銀髪少女がここにいること。
そして上条の部屋から出てきた事が特に気になっていた。

「こっちは同居人のインデックスだ。仲良くしてやってくれると嬉しい」

「……とりあえず貴方の交遊関係が気になりますの」

「…………」

黒子の言う通り、どういう関係なのだろう。
同居人、という事は共に生活しているのだろう。
ともなれば、ただ事ではない二人の関係が窺える。
それを思うと、初春は気分が沈んできた。

「同棲って言ってほしかったんだよ」

「ニュアンス的に違うだろうが。夫婦でも恋人同士でも何でもない、ただの居候だろ、事実」

「確かにそうだけど何となく酷い言われようかも」

しかしその会話を聞き、初春は首を捻る事となった。
付き合っていたりしている訳でもないのか。
しかし同居しているという事は恐らく並の関係ではない。どういう事だと聞きたい。

聞きたいが、聞くのは少し怖い。
でも、知りたい。
知りたいけどもしこの少女と特別な関係だとしたらどうする。


そんな悶々とした気持ちを持ちながらも、初春は口に出すことが出来ず。
しかしまあここまで来たのだ、先ほど自分が言った昼食を作る事だけはしようなんて考えていた。


しかしまあ自分は単純な女なのだろう。

「美味い!」

自身が作った料理を美味しいと言ってくれ、次々と箸を伸ばしてくれるその姿を見ると恥ずかしくもやはり嬉しく、気持ちとはうらはらに自然にはにかんでしまう。

「いやあ、こんなに美味しいとは。いいお嫁さんになれるぞ、初春さん」

「お、お嫁さ…………」///

つい左記ほどの妄想もあり、そんな上条の言葉に意識してしまうのは仕方のない事なのだろうか。
しかし自分はあまり箸が進んではいない。
それもそうだ、チラチラと彼の方に視線を向けては恥ずかしくてそらす、それの繰り返し。

「美味しいんだよ、美味しいんだよ!」

ズババ!という擬音さえ聞こえてきそうな程の勢いで掻き込む少女も視界におさめつつ、やはり中心は上条。

「あ、やっぱりそっちのコがかざりって子なんだね」

「ふぁい?」

そんな中、箸をくわえながら銀髪少女が唐突に自分の名を口にした。
やっぱりって、どういう事なのだろう。

「そういえば自己紹介してなかったんだよ。私はIndex-Librorum-Prohibitorum。魔法m「あー、美味いなぁ」」

「ん?」

食事中に急に自己紹介を始めた銀髪少女の言葉を遮るようにして上条が言葉を被せた。
心なしか、ジト目でインデックスという少女を見ている様な。

「なんか魔法という単語が聞こえてきたような気が」

やはり聞き間違いではなかったか、黒子のその言葉に自然と初春も頷いていた。

「10万3000札の魔導sy「いやーこんなに美味しいなら毎日食べたいくらいだぜ」」

更に言葉を続けたインデックスとそれを遮る様にしてまたもや上条が口を挟んだ。
彼女に送る視線が更にキツくなった様なのだが、その彼女は至って気にしていない様子。

何かあるという事を一重に現していたかの様だが、それよりもなぜ彼女が自分を知っている様な口ぶりが気になった。


「ま、まあ改めて。私は初春飾利って言います」

「白井黒子ですの」

ペこりと頭を下げると、インデックスもはにかんでぺこりと頭を下げてきた。
どうやらイギリス人らしいのだが、そういう日本人の礼儀?みたいなものは一応知ってはいるようだ。

「インデックスさん?でもどうして私の事を……」

会ったことはなかった筈。
というかこの学園都市には珍しい異国の者だ、会ったことがあるのならば忘れる筈がない。
日本語上手だなーなんて感慨にふけながら、そんな感想を抱いた。

「とうまが持ってきた本にかざりの名前が書いてあったんだよ」

「あ」

合点。
なるほど、自分が貸したジャッジメントの問題集を目にしたんだと分かった。
しかしまあ問題集に名前を書くなど、まるで小学生の様な自分に今更ながら少し恥ずかしくなってきたのだが、裏面に名前を書く欄があればつい書いてしまうのは仕方のない事だろう。

「本って何ですの?」

「あ、白井にはまだ話してなかったっけ。俺、ジャッジメントを目指そうかなと。それで初春さんに試験の過去問を借りたのだが」


「はあああああぁぁぁぁ??」


上条の言葉を聞いた途端、黒子はやや大袈裟に驚いてみせた。

「貴方がジャッジメント?はっ、笑わせないでくだだいの」

「「「くだだいの?」」」

「う、うるさいですの!!」

はい、噛みまみた。


そんな恥態を一蹴するが如く大声を出してごまかしてみるのだが、効果はどうなのだろうか。

「……まあそういう反応されるのは予想通りなんだけどな」

しかしそんな黒子の煽りも上条は特に気に留めていないようだ。

「ジャッジメントの仕事を嘗めないでいただきたいですの」

黒子としては自身が誇りを持っているジャッジメントの仕事。
それは少し聖域みたいに神格化している部分もあって、部外者が気軽に立ち入ることの出来ない領域というのが黒子の持論だ。
そんなに簡単に入られたとしても黒子としては思う所があった。

「勿論、嘗めてなんかない」

「…………」

「ジャッジメントの仕事が大変なのはわかる。だがな」

しかし、この男が。
この男が、自分より強いなんていうことはとっくに知っている。
助けられたあの時や。
自分よりも遥か上に位置する美琴を簡単にあしらう時や。聞けば、そこまで詳しい事は知らないのだが色々な問題に巻き込まれながらも彼が全て解決してきたと、美琴から聞かされて。


「俺にも、守りたいものがあるんだ。信じてみたい、己の正義ってやつを」


ただのおちゃらけた人間ではない事は、知っていた。


「あ、ここ間違ってますよ」

「え゛」

 間違った答を訂正する度、大袈裟に反応する上条に対してキュンキュンときながら初春は彼の勉強を見ていた。
いよいよ、試験は明日なのだ。
少しでも彼の力になりたく、彼の隣に座って横からノートを覗き込んでいた。

黒子は洗い物をしていて、インデックスはベッドの上で何やら大人しく本を読んでいる様だった。
外人さんはなんでも絵になるなあなんて感想をもらしつつインデックスも見ていたのだが、彼女が読んでいるものが漫画だという事に気付くとちょっと冷や汗をかいたりしたのだがまあそれはいいだろう。

いよいよ明日が試験。
付け焼き刃にしかならない、とは思うが。
それでも彼が一生懸命になっているのだ、自分も一生懸命力になろうと奮起していた。

「そう言えば、体力テストみたいなのあった?」

ふと休憩中、上条が尋ねた。

「ありましたよ?」

「やっぱあるよな」

体力は問題ない。
まあそこそこ、なのだが一応自信はある。
問題は筆記等の頭を使う方だ。

「んー……」

ポリポリと頭をかく。
問題集に出てくるのは、一般教養がほとんどで、後はほんの少し道徳的なものもあったりする。
事件が起きた際に自分が取るべき行動や、心意気を問うものも。


しかし、そこで初春を見る。
中学一年生の女の子らしく、見ての通りの華奢な身体。
恐らく、こんな子がジャッジメント?と聞かれれば知らない人は首を捻る事になるのであろう。

「ど、どうしたんですか?」

「あ、ああいや、ごめん」

突然視線を向けられた初春は恥ずかしそうに頬を染め、上条に視線を返した。

「こんな小さな女の子でも、ジャッジメントなんだなーって」

確かに、風紀を律する側の人間としては体格的に迫力が足りない気がする。
それは初春の相棒である黒子にも当てはまるのだが、彼女の場合はレベル4の能力が認められているのであろう。

「私は見ての通り体力あんまりないんですけど、情報処理一点集中で合格しちゃいました」

「そういうやり方もあるんだなー」

もっぱら裏方仕事に回る初春は、彼女の特性を活かしたやり方でもはや一七七支部には欠かせない存在となっている。

へえ、と納得した表情を見せると、上条は再びペンを走らせる作業に集中した。





そんなこんなで、運命の日はやってくる──────。

うげ……たった8レス分だけとは……

また次回!


 運命の日、午前七時半。

しぱしぱする目を擦り、上条は歯を磨いていた。
前日遅くまで追い込みをかけて勉強し、後は野となれ山となれ状態だ。

しかし、昨日は初春がいたおかげで大分はかどった。
要所でポイントとなりそうな部分を纏めてくれ、それを中心とした内容を頭に叩き込み上条はこの日を臨んでいた。
もし、初春がそのポイントを外していたら上条としては落ちるのは必至であろうが、不思議となぜか出来る様な気がしていた。

「むにゃむにゃ……」

「お、インデックス。起きたか」

「おはよう、なんだよ……」

洗面台の前でインデックスも眠い目を擦りながら顔を洗う為に髪の毛を肩に流す。
髪の毛を縛るという選択肢はないのだろうか、そういえばインデックスが髪の毛を括ったのを見た事がない。
あれだけ長い髪の毛だ、手入れするのも大変だろうに。なんてしみじみと思いながら上条は口を濯いだ。

「ご飯出来てるからなー」

「ありがとなんだよー」

まだ睡眠欲>食欲か、ご飯というワードを聞いてもいまいち反応が鈍いインデックス。
まあいつもの事なので上条もタオルで顔を拭くと台所に向かった。


「行ってらっしゃい。頑張ってねとうま」

「おお、サンキュ。いってくる」

玄関先でフリフリ手を振ったインデックスに手を上げ、上条は学校へ向かう。
日曜日の朝という事で、学生達でごった返すこの街は随分と閑散としていた。

「おー、なんか新鮮だな」

冬の冷たい空気を吸い込み、息を吐く。
なんとなくいつもと違う感覚で、いつもと違う気分だ。

「さて、今日はどうなるんでしょうかね」

やはり試験は難しいのであろう。
それもそうだ、この街を取り締まる風紀委員。
能力開発なんていう他とは違う取り組みをしているこの学園都市。
当然、取り締まる側にもそれ相応の力というものが必要であろう。

「……………………」

右手。幻想殺し。
いままでいくつもの異能の力を打ち消してきた得体の知れない力。
イギリスへ行き、イタリアへ行き、ロシアへ行き、その旅に病院へ行き。
常人なら一生かけても味わえないであろう様々な事柄をわずか半年とちょっとで経験してきた。
今回、このジャッジメントを通してまたお世話になるのだろう。
まあ勿論、受かればの話になるのだが。

グッと右手を握り締める。

「よし」

何となく気合いを入れ、上条は再び朝焼けの街を歩きはじめた。


「上条さーん」

「ん?」

 いつも通り掛かるあの公園にて、後ろから自分を呼ぶ声が響き渡った。

「あれ?初春さん?」

上条が振り返ると、揺れるお花が見えた。
…………もとい、お花を頭に乗せたジャッジメントの少女。
初春は走っていたのか、上条の傍に駆け寄ると息を切らして胸に手を当てていた。

「はぁ、はぁ…………よかった、会えて…………」

「ど、どうしたんだ?」

何かあったのかという初春の必死ぶりに上条は狼狽するのだが、とにかく初春の息が整うまで待つことにした。
幸い、時間はまだある。
少女の吐く吐息は、白い湯気となって冬の鮮やかな快晴の空に溶けて消えた。

「えっと、これを」

そういうと初春は手にしていた鞄からガサゴソと何やら布に包まれた箱の様なものを取り出し、上条に手渡す。
手に受け取ってみるのだが、それはほんのり温かかった。

「これは…………お弁当?」

「はい、そうですよ。これをお渡ししようと探してたんですけど、会えてよかったです」

「これを、俺に?」

「は、はい…………その、もしよろしければ、ですけど…………でも必要ないなら…………」

「あ」

そこで上条は今日の日程の事を思い出した。


午前中は筆記試験、午後は体力試験という風に別れていて。
という事は必然的に昼食を準備する必要があった。
もしこのままいけば、昼食なしで体力試験に臨む事になり…………年頃の健康男子だ、空腹による集中力低下は否めないだろう。
そして今朝の食事でさえ居候にほとんど奪われ、今でさえちょっぴり空腹感を感じている所だ。

「初春さん」

「は、はい」

上条は初春の手を掴み、目をジッと見た。

「~~~~~///」

声にならない声を上げ、初春の顔は一気に真っ赤に染まる。
これはもしや…………もしや!

年頃の少女。
手を繋いでいる。
相手は想い人。
いつになく真剣な表情。
顔も近い。

そこから弾き出す答えは、夢見し乙女なら一つしかないだろう。

「……………………///」

静かに、目をつぶった。













「何やっとんじゃゴラアアアアアアァァァァッッッ!!!!!」

「」

「げげ、御坂!?初春さんごめん!先行く!弁当ありがとう!」

ダダダダッ!という足音と共に一匹の兎が逃げていく。
まるで台風が過ぎたかのように轟音が響き渡り、そして静寂がこの場を制した。


「」

「あ、コラ待ちなさい!!…………って初春さん!?」

「」

「初春さん大丈夫!?アイツに変な事されなかった!?」

「」

「え、あれ。初春さん?」

「」

「おーい……」

「はっ!?」

「わっ」

 頬をプニプニ突かれたような感触で意識を取り戻した初春は、目の前にいる人物が入れ替わった事にそこで気付いた。

「あれ?御坂さん?上条さんは…………?」

「走って逃げちゃったけど…………」

「むぅ…………」

「う、初春さん大丈夫?変な事とかされてない?」

「大丈夫ですよ。寧ろされタカッタノニ…………」

「どしたの?」

「何でもないです」プイ

 何故か不機嫌そうにした初春に美琴は冷や汗を垂らした。


しかしそれよりも気になることがあった。

──何でアイツと初春さんが。

一緒にいたのだろう。
そしてとても仲良さそうに近く、それはまるで…………。

ブンブンと首を振る。
違う。そう思いたくない。

「御坂さんは学校、ですか?」

私服の自分とは違い、常盤台の制服に身を包んだ美琴を見て尋ねる。
いや、常盤台は休日でも制服着用義務があり、日曜日だとしても制服を着ているのはおかしくないのだが、手にしている学校指定の鞄を見て何かあるのかな、と感づいていた。

「うん。ちょっと研究の資料、提出し忘れちゃってね。すぐ出さなきゃいけないんだけど…………」

「そうなんですか」

レベル1の自分とは違い、美琴はこの学園都市230万人の中でも七人しかいないレベル5の中の一人。
自分では想像もつかないような研究とかあるんだろうな、と感慨深げに聞いていた。

「あ、初春さんこの後なんだけど、時間ある?私はこれ提出さえすればもうおしまいだからさ。お茶でもしよっか」

「あ、いいですね。午後はジャッジメントの仕事があるので、午前中だけですが御坂さんに着いていきます」

「ごめんね、じゃあ行こっか」

と、会話しながらも。

──上条さん、大丈夫かな…………

ついつい彼の事を気にかけてしまうのは悪い事なのでしょうか。


「よし、じゃあ始めるじゃん」

ジャージを着たやたら巨乳の教師の号令と共に筆記試験が始まり、ペンが紙を通して机を叩く音が響き渡る。

 上条の周りには、約20人くらいなのだろうか。
上条よりも一回り身体の大きい男子学生もいれば、その逆の小さな女学生もいたりする。

──色んな人が受けてるんだなー

なんて関心しながら、問題を解いていく。

解ける。
解ける。
わからない。
解ける。

結構初春の読みが当たっていたのか、昨日の追い込みが功をそうした様に大体は埋められる。
勿論完璧、という訳でもないのだがそれでも普段上条が受ける試験よりも手応えはありそうだ。

──問題が解けるって、ちょっと楽しいかも。

そんな実感を得て、一通り空欄を埋めひとまずはペンを置く。
そこでふと廊下の方に視線を向けると。

「」

やたらと見慣れたピンク色がちょこちょこ顔を覗かせていた。

──小萌先生、何やってるんすか…………。

なにやら心配そうな表情を上条に向けていて、目が合うと恥ずかしそうにしていたが、キッと真剣な表情を作ると上条に何かを訴えかけていた。

(上条ちゃん、ファイトです!)

それを見るとなんだか暖かくなった様な気がする。
いやまあ随分と小萌には迷惑やら心配を掛けているので、上条としてもここはやはり落としたくはない。

(ありがとうございます)

目で礼を告げると、通じたのか顔をほんのり赤らめていた。

──風邪でもひいてるのかな…………?


 あるカフェにてケーキを口に運ぶ初春。
甘いものが大好物で、その顔はとても幸せそうだ。

「おいしいですー」

「噂で美味しいって言ってたけど、本当美味しいわねー」
それは正面に座る美琴もそうで、心地好い甘みが表情を柔らかくさせている。
午前十時半という時間帯も時間帯なのだが、いざ目にしたケーキの魔翌力に二人は吸い込まれるように注文していた。
噂を聞き、初めて来る店だったのだがどうやら当たりの様で「また今度は四人で」なんて考えている二人の胸中は一緒だ。

「ところで、さ」

「はい」

「あ、あんな朝早くからさ…………アイツと何やってたの?」

初春はそこでピクンと反応する。
恐らく、美琴が言うアイツとは────。

「アイツって、上条さんの事ですか?」

「……うん」

やはり。
最後の一切れを口に入れ、初春は紅茶を口にしながら思案する。

自身が助けてもらった、あの時。
どうやらお互い知り合いの様で、気兼ねなく、という訳でもなさそうなのだが何度も会った事のある様な雰囲気で。

初春自身も二人の関係も気になっていた所だった。


自分よりも付き合いは長いのだろう。
どんな関係で、どんな間柄で。
もし深い間柄ならば…………それを考えると怖いのだが、しかしまあ今は美琴の質問に答えるのが先であろう。

「…………いえ、何もしてないですよ?お弁当渡しただけで」

「…………え?お弁当?」

「はい」

「な、何で…………?」

「上条さん、今日試験じゃないですか。それで助けてもらったお礼と言っちゃなんですけど、お弁当作って持ってったんです。もし上条さんがお弁当作ってたのなら、無駄になっちゃってましたケド」

渡した時の状況を振り返りながら……………………それを考えると初春の思考は停止してしまうのでブンブンと首を振ってどうにか意識を保つ。
それは置いておいて、まあどうせ美琴も上条の試験の事を知っているのだろう。

「試験…………?ああ、そっか。追試験ね。ほら、アイツって成績悪いからね。そんな事よりもなんで初春さんがアイツのお弁当なんか……」

あれ?

「…………あれ、御坂さん、知らないんですか?」

「え、何が?」

「上条さんが、ジャッジメントを目指してるって…………」





「…………………………………………え?」

そこで美琴の時間は完全に止まっていた様に見えた。


「あ、アイツがジャッジメント?」

「はい」

 コクンと首を縦に振る。
もしかして、美琴は知らなかったのか。

「全然聞いてない…………」

「えええええええええ??」

「な、何その反応は?」

だって。
だって自分よりも近いと思う人なのに。

「いえ、てっきり知ってるんだと思ってましたので……」

「知らなかった…………」

「そ、そうなんですか」

当てが外れて初春は少し驚いた。
美琴と上条の絡みは一方的に美琴が攻撃をしかけ、上条が逃げるという場面しか見たことはないのだが、あの後の美琴の呟きや表情を見るに、恐らく特別な何かを抱いているのであろう事は感じていた。
ならば、と初春は美琴と上条の間柄を気にかけていたのだが、そういう話はしないのだろうか、と気になり出した。

「でも、別にほら、アイツの事が気になるとか、そういうのじゃないから」

とは言うが、実際はどうなのだろうか。

聞きたい。
知りたい。
上条の事なら、何でも知りたい。
でも二人は特別な糸やら何やらで結ばれていたとしたら。
それを考えると…………怖い。
だが、それならそれだとしても。


やはり、知りたい。

折角のチャンスなのだ、ここで聞いておきたい────。





しかし。






prrrrrrrr────────────

突如、初春の鞄の方から着信を知らせる電子音が響いた。

「あ……………………」

「あ、うん。出ていいわよ」

「すみません」

携帯を取り出し、画面を確認すると。

「うぇ」

白井黒子という名前が表示されており、恐らくジャッジメントの仕事であるということを示していた。


「よし時間だ。これより昼休憩にするじゃん。また13時に動きやすい恰好でグラウンドで集合するじゃん」

 その黄泉川の声と共に、室内は少し喧騒に包まれる。
お前どうだった?やら昼飯だーやら。
ふう、と一息吐き背もたれにもたれかかった。

筆記問題は、とりあえずは出来た、とでも言っておこう。
手応えは確かにあったのだが、ぶっちゃけ点数はどうなるかはわからない。
しかし昨日の初春の特訓がなければ詰んでいただろう。

「はは、受かったら何か奢ってあげなきゃいけない心境だなー」

お世話になりっぱなしな気がしてきて、それに対するお返しを考えながら鞄を取り出す。
そういえば。

「…………わざわざお弁当、作ってくれたんだっけ」

日程を考えもせずいつも通り弁当など持ってきていない。
いつも購買を使っていた為、学校に弁当を持っていく、という習慣もなく買えばいいや的な感覚だったのだが、今日は日曜日。

購買など、やっているはずもない。

それを考えるとまさに冷や汗ものだったのだが、今朝は女神様に会い命を繋げる食料を渡してくれた。

「助かった、本当に助かった」

うんうんと頷き、弁当箱を包んだ布を解くと一枚の紙切れがある事に気付いた。


「ん?」

そこには可愛らしい文字で、『頑張ってください!』の一言だけが書かれていた。

「……………………」

ここまでしてくれた。
なぜここまでしてくれるのかは分からないのだが、これはますます期待に答えるしかないのだろう。

「ありがとな」

笑みを浮かべ、箸を取り出す。
どんな弁当なんだろうと期待を込めて箱の蓋を開けようとするのだが。

「か~み~じょ~う~ちゃ~ん」

「は、はい!」

その声が背中に届き、上条はビクッと身体を震わせる。
そっちの方にいまだ視線は向けていないのだがそれはそれは可愛らしい容姿に似合わず、まるで般若の様な雰囲気なのだろう。

ぎぎぎと油の切れたロボットの如く、そちらに首を回すのだが。

「お弁当持ってないと思ってせっかく作ってきたのに!その可愛らしいお弁当はなんですか!」

「いや、頼んでませんから…………」

やけに大きな包みを持ったピンク色の悪魔がそこにいた。

「っていうかあなた教師!一人の生徒だけにそういうのはダメですよ!?」

「……………………ふぇ」

「涙!?」

「だって…………先生この試験に関係ないし、上条ちゃんの保護者としてお弁当持ってきただけなのに…………」

般若から一変してまるで怯える子供の様に目に涙をこらえる上条の担任教師。
いや、その容姿は間違いなく子供だと誰しもそういうのであろう。

「おい、あいつあんな可愛い妹さん泣かしてるぜ…………」

「おいおい、ジャッジメントになろうって奴が子供を泣かせるのか?」

「やーねー、世も末よねー」

「だあああああもう不幸だああああああああああ!!」

泣きたいのはこっちだ!と言わんばかりに一瞬の内に弁当箱を持ち小萌と共に上条は教室から飛び出していた。

展開考えるの難しくてこんなに時間かかっちまった…………

また次回、次はなるべく早く来る!


 あれから小萌と共に昼食を済ませ、上条は試験会場であるグラウンドに来ていた。
ちなみに昼食時に小萌からの質問攻めにあったのは言うまでもない。

勉強はちゃんとしたのか。
その弁当は誰製か。
どういう子なのか。
どういう関係か。
ABCどこまでいったのか。

地面に敷かれたピンクの可愛らしいシートの上で(何故か正座)、向かい合ってその一つ一つに冷や汗をかきながら律儀に答えていたのだが、最後の最後でお茶を吹き出したのはいい思い出。
上条が答える度に、小萌の機嫌が遊園地にありそうなアトラクション並に浮き沈みしていたのはスルーしたいところだ。

昼食を食べ終えると。

「結局無駄になっちゃいましたー」

と小萌は横にドンと置かれた一際大きな弁当箱の包みを寂しそうに見ると、上条はいたたまれなくなったか、それともはたまた別の理由からか、

「あ、なら後でいただいてもいいですか?」」

と思わず口走り小萌に泣いて飛び付かれたのは記憶の片隅に閉じ込めておくことにした。

──まあ量も多いし俺とインデックスの夕食のおかずの足しにしよう。冬だし品質的にもきっと大丈夫だ、うん。

しかしそういう考えの上条なので、本心を知れば小萌は報われないのだろうから黙っておこう。


 グラウンドに出ると、まずは目を見張ったのが所々に設置された重々しそうな機械の数々。
その機械それぞれに担当の風紀委員らしき者が配備されており、受験者一同はその大掛かりな様子に驚いていた様子だ。

「おいおい、すげーなこりゃ」

「的?みたいなものもあるわ」

「一体何が始まるんです?」

「ますます落ちらんねーな、お前は大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない」

そんな驚きの声を耳にしつつも、上条も勿論驚いていた。

「随分手の込んだ試験なんだな…………」

はは、と渇いた笑いをしつつ、黄泉川がこちらに向かっている事に気付いた。

「よし、全員揃ったか?」

 普段とは違う、恐らく仕事モードの声色で黄泉川が場を取り仕切ると、談笑ムードだった空気が一変した。

右を見ると、真剣な眼差しのガタイのいい男。
左を見ると、こちらもまた真剣な表情の少女。
ここには生半可な気持ちで来ている人間など、一人もいない。

この空気が、やはり自分をも真剣にさせる。
そして目の前で腰に手を当て、体力試験について説明をしている黄泉川もまた普段よりも真剣だ。

その向こう側のベンチでちょこんと座っているピンクは視界に入れると気が抜けてしまいそうになるため、気にしないことにする。


「よし、ここからまず男女に別れて、それからレベル毎に別れろ」

黄泉川の言葉に集団はバッと動く。
上条も男側、そして無能力者の括りに入った。

内訳を見るとこうだ。

~女子グループ~

レベル3・二人。
レベル2・三人。
レベル1・一人。
レベル0・無し。

~男子グループ~

レベル3・三人。
レベル2・五人。
レベル1・五人。
レベル0・四人。

どうやらこの中にはレベル4の大能力者以上の者はおらず、レベル3までのようだ。
この学園都市ではレベル0の無能力者が230万人でも約六割いるようなのだが、大能力者以上がいないと言えどもやはり風紀委員を目指す有志達は能力が発現している割合が高い。

女子に至っては全員発現している、とのことで上条はある意味感心していた。

──やっぱ皆頑張ってるんだな。

風紀委員を目指すという事はある意味優等生であるというメタファーでもある。
上条のいるレベル0の括りであっても、やはり能力開発に諦めた、という目をしている者はおらず皆ギラギラと目を光らせていた。


「まずは能力者から特性を見る。男子から行くじゃん。レベル3、~~!」

「はい!」

黄泉川から名前を告げられると、呼ばれた男子は勢いよく返事をして一歩前に踏み出た。

「お前は……水流操作か」

「はい!」

「それじゃコントロールを見せてもらおう。クレー係!準備!」

「「ハイ!」」

黄泉川の言葉に勢いよく返事をした係員は、機械を操作し黄泉川に合図を送った。

「クレー射撃の様に投射機からエモノが飛び出す。それを撃ち落とせ」

「はい!」



「よし…………始め!」



黄泉川の言葉と共に投射機からエモノが飛び出してきた。


「ヌン!」


すると男の周りの地面から水が浮き出て、男の身体の周りを螺旋状に囲った。

「はっ!」


スパアアアアァァァァンッッ!!


風船が割れた様な、そんな派手な破裂音と共にエモノは砕け散った。


「「「「おおおおおお!」」」」


その様子に歓声が沸き上がり、受験者の男も心なしか嬉しそうに次々とエモノを割っていった。

「ほえー」

上条もそんな彼を見て素直に感心する。
しかしまあ、水流操作……と言うとある人物を思い浮かんだのだが咄嗟に首を振って打ち消したのは上条だけの秘密。


「そこまで!」

おおおおおおおお、という歓声と拍手が巻き起こり男も嬉しそうに片手を突き上げて歓声に応えている。
そうやら手応えは十分だったのか、勝ち誇った顔をしていた。

「よし次、~~!」

「は、はい!」

次はどうやら発火能力者。発火能力者の場合はクレーではなく、どれだけ操作できる範囲を広げられるか、という測定だった。

「先生は心理学と共に発火能力の専攻なのですよー」

「ん?」

クイクイ、と袖を引っ張られた様な感覚を覚えてそっちの方を見ると、小萌が上条のジャージの袖を掴んでいた。

「あー、そうでしたっけ? さすが我らが小萌先生…………って先生!? 何やってるんすか!?」

上条が冷や汗を垂らして小萌の方に向くと、上条の言葉が嬉しかったか小萌は上条の袖を掴みながらモジモジしていた。
そして上条と視線を合わせると、ニコーッと笑顔を見せる。


…………つーかまあ、笑顔を見せられている場合ではない。


「上条ちゃん、頑張るんですよー」

そういうと小萌はスタスタベンチの方に戻っていった。

「それだけ言いに来たんかい!」

「え、上条ちゃんは先生に傍にいて欲しいのですか?」

「何すかその解釈…………っていいから戻ってて下さい!」

「また後で、ですよー」

顔に手を当てながら、はぁ、と溜息を吐く。
あの人何しに来てるんだ…………というツッコミは野暮なのだろうか。
ある意味只今試験を受けている者よりも注目を浴びていて、やけに周りからの視線が痛くて軽く涙を拭いていた。





「よし、それじゃあ次はレベル0のグループじゃん」

 上条の袖が涙で絞れそうになった頃、とうとう自分のグループの順番が回ってきた事に気付いた。


 レベル0、というのは無能力者だ。
つまりは、能力を持たない学園都市の『外』の人間と一緒。
この学園都市では能力によるヒエラルキーが顕著に現れる。
能力者に比べ、進学や就職、そして奨学金やら何やら色々扱いが良くない。
レベル5とレベル0の差は、それはもう比べるのも馬鹿馬鹿しくなる程だ。

だからこそ能力の発現に夢見て日夜努力を続ける苦学生もいるのだが。


それでも発現しない者もいる。


そしてその能力の無さ故に嫌気が差したり、また迫害されたりしてまた悪の方向に落ちていく────スキルアウトというのは、こうして出来ていく。

そしてそれを制圧するのがアンチスキルという警備員の仕事である。

 スキルアウトと言うのは言い方を変えれば不良の吹き溜まり…………という認識を世間一般ではされている。
事実、そうでもないものもあるのだが、その大部分の素行の悪さにそういうイメージをもはやこの学園都市では植え付けられていた。

能力者に嫉妬しての、破壊活動暴力沙汰窃盗強盗強姦etc…………。
無能力者の全てがスキルアウトかと言われたら、そうでもないのだがそれでも数は多い。
事件の数も多く、それは風紀を律する側として頭の悩ませ所だった。

そしてそれを取り締まる側の人間の絶対数も、少ない。
しかしそれは選ばれた人間からなるのだから、少ないのも当たり前なのかも知れない。
しかし少ないながらも、この街は現状を保っている。

それは、取り締まる側のジャッジメント、アンチスキルの 優秀さが光っているからのこそ。
武力だけではなく、学力、頭の回転、正義感など。


そしてその武力の括りの中でもトップクラスに位置するアンチスキル所属、黄泉川。
彼女は今、何をしているのだろうか。

「よし、レベル0は一気にやるじゃん」

腰くらいまで伸びている長い髪をまとめ。
袖をまくり。
靴紐を固く結び。
立ち上がり、ぽよーんと跳ねる何かを釘付けにさせ。









「組み手開始、じゃん。さあかかってこい!」






「「「「「「「「はい?」」」」」」」」



その場の全員が素っ頓狂な声を上げたという。


「んー、男共はこっちの方が手っ取り早いじゃん。さあ! さあ!」

クイクイ、と手を挑発するかの様にレベル0のグループに振る黄泉川。
上条達レベル0のグループ四人はあんぐりを開けていた。

「反応悪いなあ」

その様子が少々気に食わないのか、黄泉川は不機嫌そうな表情を作った。

「私の顔に一発でも打撃を浴びせるとそいつは合格じゃん」

「mjd!?」

「お、おれやっちまおうかな……」

「でも相手、一応女だし……」

上条を除いた他の三人がそんな言葉を吐く。
上条も上条で困った表情を見せてポリポリ頭をかいた。

「か、上条ちゃんファイト!です!」

ふとそんな声が横から聞こえたので、一応そっちに視線を向けるとどこから出したのかボンボンを装備した小萌が上条にエールを送っていた。





「あ、そうそう上条は抜きで」





「え」


するとそこで黄泉川が何かを思い出した様に上条にそんな声を掛ける。
他の三人も何事かと上条に視線を向けるのだが、当の上条が一番よくわからないのだから仕方がない。

「ど、どうしてなんですか!」

なぜかプンプンと言葉を黄泉川に投げたのは小萌だ。
自分が担当する可愛い生徒を除外されるのは心外か、それとも黄泉川に対して鬱憤がたまっt…………ゲフンゲフン、いやまあそれはないのだが、そんな素朴な疑問だ。

「上条は…………こいつらが終わった後、サシで勝負するじゃんよ」

ゾクウウゥゥゥゥ!!
その黄泉川の何やら悪意に満ちた様な表情を見ると、上条を一気に鳥肌が襲った。

(お、俺なにかしたっけ……………………!)ガクガク

(上条ちゃん、怒らせちゃったんなら謝らないと…………!)オロオロ

(何もした覚えはないっすよおおおおぉぉぉぉ!!)ヒイイイィィィ

小萌と互いに青い顔を見せ合いながら視線で会話をする二人。何故か息ピッタリだ。




「「「ぐはああぁぁ!!」」」



「「え」」


突如、視線を外していた隙に何か野太い悲鳴が響き二人してそちらの方に視線を向ける。

すると……………………。



「あっけなかったじゃん。ツマンネーノ……」



「「しゅしゅしゅ瞬殺────────!?」」



屍と化した(?)三体の山に一瞥するだけして上条に視線を向けた黄泉の悪魔の姿だけがあった。



(フィアンマより)怖い。



膝が笑っているのだが、寒さのせいでは決してない。
いやまあ背中を冷たい汗がツウ、と垂れ落ちたせいでもあるのだが、その元凶は勿論。


「かーみーじょーうー」ゴゴゴゴゴゴゴ


ゆぅっくりと向かって来る黄泉川の姿に、何となく今日が命日となりそうだと感じた。

そうだ、ここで一句辞世の句でも詠んでおいた方がいいのだろうか。




「今日(こんにち)も
   恐らく来世も
     不幸でせう

            とをま」



「上条ちゃぁぁん」ウルウル


軽く一句詠み上げ、黄泉の国へと旅立つ準備を整える。
父よ母よ、旅立つ不幸をお許し下さい…………ああもっと美味しいもの食べておけばよかった…………。

支援
バトル描写前で次回へ続くだったら絶対に許さない
今から徹夜してでも書き上げるべき


美味しいもの。

そういえばさっきのお弁当。



『頑張ってください!』



──そういえば、俺は覚悟を決めたじゃないか。
己の信念に従うって。
守るんだって。


『ジャッジメントって、いいもんだな』


『勿論です』


俺はまだ、返し切れてない。

右手を握りしめる。
幻想殺し。
この右手で、今までやってきたではないか。
己にふりかかる不幸ってヤツを、乗り越えて。
大切な人達の笑顔を、作り切れたかはどうかはわからないけど。

それでも、やってきたじゃないか!!



「上条さんっ!!」

「初春さん…………?」

「頑張ってください!!」

いつ来たのか、視界の端にちょこんと見えた少女の姿。

「まあ、応援はしてあげますの」

「白井さんは黙ってて下さい。上条さん!信じてますから!」

自然と、勇気が出た。

「なんなんですかあの子はー?」

「さて上条」

「黄泉川先生…………一発当てればいいんですね?」

「ああ」






「………………いざ、尋常に」






時が止まる。恐らく勝負は、一瞬。
自分の力がどれだけ通用するのかはわからない。
だが、やらねばならない時がある。

それは、今じゃないのか?

無能力者だろうが、能力者だろうが関係ない。

勝つまで、負けない────────!!






「勝負だ三下ァァァァァッッ!!」






「上条、お前の場合は一方通行にじゃん」







「…………………………………………はい?」






時は止まった。

>>192
ここまでです……うっ……ほんとごめん

前書いた時の様にバンバン投下ってのがなかなかできなくて……
土曜日にはまた投下しに来ます!


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……………………」

脳内で否定する。まさか、ここに一方通行がいるはずがない。

ブンブンと目をつむり、首を振ってこれは幻想だと自分に言い聞かせる。

そして、恐る恐る目を開けると。

「はは、ほらやっぱり幻想だ。ここにあいつがいるはずがない」

上条の目の前に一方通行の姿はなかった。
やはり幻想だったとホッと勝手に安堵していたのだが────。

「っ!!」

嫌な予感が脳裏を過ぎり、上条は咄嗟に身を屈めた。

ブオンッッ!!

と言う風を『切る』──という表現も生温い程、風をバッサリと『切り取る』様な轟音が上条の頭上僅か数cm上で響き渡り、バッと下がって距離を取った。

「ほォ、これを避けやがるかァ」

「いやそれくらうと上条さんの首飛びますからね!?」

能力使用モードの、建物など砂の城の様に軽く破壊できる威力のその回し蹴りの余風で初春のスカートがフワッと上がる。
バッと顔を赤らめ押さえたのだがお目当ての彼は背を向けていて助かったといえよう。

それを抜きにしても一方通行が放ったその蹴りはこのグラウンドに響き渡るほど。
それほどの威力を想像させていた。


──………ふぅ。 ……………いや、もう一度確認しよう。うん。

確認するとそこには右足を突き出した姿勢のままの一方通行がいた。


……………………いや、やはり一方通行。


……………………一方通行?







「なんでお前がここにいるんだあああああああああ!!??」







指差し、あわわわわわという表情とガクガク揺れる膝もそのままにありったけの叫びを浴びせたのだが、一方通行は別段気にしてない様子で体勢を直していた。

「あァン? そこの黄泉川に呼ばれただけだ。気にすンな」

「気にすんなじゃねーよ!! っていうか黄泉川先生と知り合いかよ!! つか何でお前が相手なんだよ!! ああもうツッコミ所が多過ぎる!!」

「ゴチャゴチャうるせェぞ三下。まァ俺は特別講師にと呼ばれただけなンだがな」

「恐ろしい特別講師だな! っていうかお呼びじゃありません!!」

そんな二人の掛け合いに黄泉川を除いた全員がポカンとしていた。
黄泉川は笑いを噛み[ピーーー]かの様に口元に手を当てていたのだ。

──いや、何笑ってんすか黄泉川先生…………一歩遅ければお陀仏だったんすけど。

まあそれはいい。よくはないが。
とにかく、状況判断だけでいっぱいいっぱいだった。

>>211
噛み[ピーーー]


 ちなみに、一方通行がここに来た理由としては。

最初に言っておけば、彼は『悪党だ』と自身を蔑みながらも、実は根っからの善人である。

自身が犯してしまった過ちを贖罪すると言う訳でもないのだが、守ると決めた者を守る為に自身が傷付き。

自身が守ると決めた者の為にロシアまで赴き。

守る者の為に学園都市の闇に溶け込み。

そんな彼なのだ。
そんな彼が、守る者共々普段の生活の中で世話になっている者からの頼みも、無下に一蹴は出来なかった。

そんな彼らの、昨日の会話を一部抜粋。

『一方通行、頼みがあるじゃん』

『あァ? 何だ?』

『明日、着いてきてほしいじゃん』

『用件は何だ?』

『それはまあ、明日になってからの楽しみってやつじゃん』

『はァ? 俺は忙しいンだよ』

『ミサカもー! ミサカも行くー! ってミサカはミサカはあなたとヨミカワに駄々をこねてみる!』

『打ち止めは駄目。プリン買ってきてあげるから大人しく待っててくれると嬉しいじゃん』

『おい、誰が行くって決めたンですかァ?』

『……………………お前の部屋の箪笥の上から二段目』ボソッ

『!? テメェ、どっからそれを…………』ワナワナ

『バラされたくなかったら明日はついてくるじゃん』

『……………………チッ』

『何を言ったの? ってミサカはミサカはあの人を巧みな話術で操ったヨミカワを尊敬の眼差しで見つめてみたり』キラキラ

『一方通行にとっても悪い話じゃないじゃんよ。多分、テンション上がる』


「…………っつゥ訳だ」

「いやそれ普通に脅迫じゃね?」

「くく、モノは言いようじゃん」

あの一方通行と共に生活をしているという情報だけで驚きなのに、更には上手い事操っていた黄泉川の恐ろしさを肌で実感する上条。
次からの体育の授業は恐らく、誰よりも真剣に受ける事になるであろう。

「黄泉川」

「ん?」

そんな中、一方通行が黄泉川を呼ぶ。
黄泉川はいつの間にか、真剣な表情を作って悠然と立っていた。

「俺の顔に一発でも浴びせりゃ、合格させる、だよなァ?」

「ああ、そうじゃん」

「把握した」

ニタアアァァァっという笑みを浮かべ一方通行は上条に見せ付ける。

「黄泉川の言った通り、テンション上がるぜェ…………! 合法的に三下をいたぶれるチャンス到来ってやつかァ?」

「いや、お前法とか気にしないだろ!?」

今更何を言ってやがる!とでも言いたそうに噛み付く上条なのだが、一方通行はニヤリと口の角を吊り上げた表情を崩さない。

「……………………二度ほどテメェにゃ遅れを取ったが…………」ボソッ

「な、何だって?」

「今回こそ愉快なオブジェにしてやンよォォォォッッ!!」

「ちょ、待t」

今、こうして戦いの火蓋は切って落とされた。


──無理無理無理無理無理無理無理無理無理……………………。

かつて一方通行と対峙した時のあの恐怖が蘇る。
傍から見た人がいるのなら、戦績は上条の二戦二勝と言うだろう。

しかし、上条は勝ったなどと一度も微塵に思った事はない。

一度目のあの実験の時だって妹達の力を借りてまでで瀕死の状態まで追い込まれたし、ロシアでの二戦目もお互いそれどころではなかった。

学園都市230万人の中の無能力者という底辺の部類に位置する自分と、相手は230万人の中でも七人しか辿り着いていないレベル5。
しかもその中でも飛び抜けている、第一位なのだ。

改めてこうして対峙しているだけでも震え上がってしまう程の相手。
どうとでも自分を料理出来てしまう腕を持っているのだ。

黄泉川先生なら或いは、などという甘い幻想はぶち殺され、冷や汗がとんでもない事になっている上条。

こ!れ!は!無!理! と旗でも振ってしまいたい状況であったのだが。


「…………………………………………すぅ」

深く、深く息を吸い込む。
チラッと見えた心配そうな少女の表情に、上条は意識を改めた。

自分の時間を削ってまで、付き合ってくれた彼女の為にも。
大切な人達を守る為にも。
己の掲げた正義ってヤツの為にも。

──俺は、負けn

「のわっっ!?」

ズバァァン!!

心の中で言い切る前に、上条は回避行動を取っていた。
すると先程まで上条が立っていたグラウンドの地面が割れ、土で出来た槍が下から突き上げていた。

一方通行を見る。
一方通行は地面に拳を突き落とした状態のまま上条に視線を向けていた。

「てめ、気持ちの整理とか覚悟とかそういうのさせろよ!」

「あァ? いざ事件が起きた時、一々ンな時間設けるつもりなンかよ?」

「それは……まぁ、その……あれだけどさ!」

いざ実戦となると恐らくそういう覚悟云々の時点で上条は動くのだが、どうもこういう場面ではそういう気持ちの整理は必要らしい。

──まァそれがテメェの持ち味でもあるンだがな。

上条のその逡巡も、彼の底抜けの優しさからくる為だ。
自分の事などまるで考えず、他人を助ける上条の姿を見て、彼は学ばされた。

まるでヒーロー。

汚れた自分とは違う、光の中の住民。
そんな奴が相手だからこそ、自分も全力で応えたくなってしまうのは世の理か。

「…………行くぞ三下」

「…………ああ」

光の中の英雄と、闇の中の英雄がここでぶつかり合った。


「…………一体なんですの? あれは」

 気付けば黒子はボソッと呟いていた。

自身が受けたジャッジメントの試験とはまるで様子が違う。
そもそも、格闘要素など風紀委員に求められるものではなく、それはアンチスキルの分野の筈だ。

それがレベル0の順番になった途端、黒子は自身が受けた試験とはまるで違う事に何やら不審、とまではいかないが一体何が起きているのか分からなかった。

唐突に場に飛び込んできた白髪の少年は一体何者なのか。

仕事で何度も顔を合わせている黄泉川からの召喚で現れたその少年。
傍から聞いている限り、あの類人猿との言い争いの内容は恐ろしく仰々しい。
そしてその白髪の少年が見せた能力らしきもの、その威力。

恐らく、レベル4である自分の力など軽く凌駕しているのであろう。

風を操作し、地面を操作し、またその細身の身体からは想像もつかないような威力を思わせるその動き、余波。
ほら、地面がまためくり上がった。

そして何よりも気になるのが。

あの類人猿だけ特別で。
そしてその少年と、見た限り対等に渡り合えているという事。

白髪の少年の攻撃を軽くいなし、類人猿もまた右手を振るう。
いつもの黒子なら右手しか使っていない事に違和感を覚えている筈なのだが、目の前で起きている状況にそれも気付けないでいた。


 あの白髪の少年が飛び出てきた時、初春は目を見張った。

あれは、あの時の。

そう、自分がアホ毛ちゃんと呼ぶあの小さな女の子と一緒にいた時、垣根帝督に襲われた際に助けれくれたあの白髪の少年。

命の、恩人だ。

そんな彼が何故今ここにいるのか。
そして何故上条と戦っているのか。

二人の言い争いから、二人の間に何かとても大きな事があったのが伺える。

「……………………一方通行」

「初春?」

「あの白髪の方の名前、らしいです。つい興味本位で調べた事があるんですが」

「名前? また珍しい名前ですの」

「情報は頑丈に固められていて、私でも解析出来ませんでした。学園都市の中でも相当に機密条項の様です。ただ、これだけは」

「これだけ、と言うと……………………?」





「…………レベル5。その中でも…………第一位、らしい、です」




「な!?」

そんな初春の言葉に、黒子は思わず息を飲んでいた。

「だ…………第一位!? そんな大物が、何故…………!?」

ワーワーと歓声と二人が戦う騒音からか、初春と黒子の会話は他の誰にも届いていない。

砂埃やら爆風やらを巻き上げ、二人は戦っている。
本来なら、こんな戦いは風紀委員である自分達が止めるべき、であるはずなのだが。

そういう気は、起きなかった。

「でも」

「何だか」



「二人とも、楽しそうです」

それは、初春と黒子の二人には、何故かそう見えていたからだった。


 どうする、どうする。

相手は百戦錬磨の一方通行。
最強の名もほしいままにこの学園都市のトップに位置する能力者。

その能力は、ベクトル操作。
あらゆるエネルギーを操作し、自分の力とする。

太陽光を集め、その熱量を操作し放とうとする一方通行に危機感を覚えて右手を突き出す。

パアァン!

という小気味良い音と共にそれを打ち消しては距離を取った。

「このチート野郎め」

「テメェが言うな」

軽口を叩いては一方通行はニヤリと返答する。
上条の言ったチート野郎と言うのはあながち嘘ではなく、一方通行は本当に何でも出来る。

ぶっちゃけ、一瞬出来る隙をついて一方通行が起こそうとする行動を留めるだけしか出来ない。

攻めようにも右手以外は攻撃を反射されてしまう為、一方通行が起こす行動に対処するしか出来ないでいた。

幻想殺しが宿る右手で掴み、攻撃──というのを勿論考えたのだが、一方通行は自分の右手を特性を把握しており、その隙は与えてくれはしない。

ヒット&アウェイならぬ、イマジンブレイク&アウェイ。

それしか出来ないのだ。

しかし距離を置くにも、遠距離攻撃がすかさず飛んでくる為、遠くに離れれはしない。
近距離にしたって、自分の右手に注意を払いながら目にも止まらない早さで連打を浴びせてくる為、それはそれで一瞬でやられる。

──ああもう、どうすりゃいい!!

上条は軽く苦虫を噛んだ。


「避けてばっかじゃ意味ねェぞ!?」

「んなん言われたって攻める手段がねえっつーの!!」

一方通行が拳を振るう。
それはまさに音速で、当たれば通常の人間なら一たまりもない威力。

だが上条には避けられていた。

──チッ、何かコイツ戦闘能力上がってやがンな。

地面のベクトルを操作し地割れを起こしても、風を操作し鎌鼬を作っても。

何故か全て、避けられていた。

演算には能力者それぞれ違うのだが、時間が掛かる。
レベル5という括りは、威力さながらそれはもう一瞬の内に演算式を組み立てられる、という程の演算能力の保持者達でもあるのだが、それでも演算にはほんの一瞬だけ時間を要する。

ほんの、一瞬だけ。

しかし上条はその一瞬を見極め、その忌ま忌ましい右手で能力を打ち消してしまっていた。

「バケモンかよテメェは」

「お前に言われなくないわ!」

「本気でかかってこいよ」

「上条さんは既にもう本気です! ったく一方通行の方が全然本気じゃないんだろ?」

それは嘘だろう。
いや、上条は本当に本気なのかもしれない。
しかし、それは本気の『つもり』。
そう、あくまでつもりなのだ。


別段追い込まれた状況でもない、この試験。
それに、自身の命の危機では上条の真価は問われない。

上条は『他人の為』になるとその真価を発揮するのだ。

それは何となく、今まで上条を見て分かっていた。

──…………どこまでお人よしなヤロォだよ、コイツは。

善人悪人問わず、その右手で救い上げてしまう様な奴だ。
本気になれば、『悪党』でしかない自分など敵う筈もない。

ハァ、と溜息を吐く。
あの上条と再戦できるという事で、テンションが上がっていたのだが自身でそんな事を考え少し気分が沈んでしまう。

──どこの女々しィヤロォなンですかァ? 俺は。

勝手に芽生えた考えで自身に嫌気が差し、構えていた体勢を解く。
帰ってコーヒーでもやけ飲みしてやろうなんて考え、首元のチョーカーに手を掛けようとしたのだが。


「……………………やめだやめ、興ざm」







グワシャ!!






「ブハアアアアアアアアァァァッッ!!」

「えっ、ちょ、あれ、一方通行──────────────!!??」

く……………………空気読めよ三下ァ…………。


 結局あれから何があったのかと言うと。

黒翼出現→上条を残したその場にいた全員避難→罰として上条居残り討伐→病院。

という訳で、現在ワタクシこと上条当麻は病室で目を覚ましました、ハイ。

「不幸だ……………………」

「不幸だ、じゃねェよクソがァ」

上条専用となったいつもの病室に何故かもう一つベッドが設置されていて、カーテンで仕切られた隣では頬にガーゼを当てている一方通行がそれに返事をした。

その声にビクゥ!っと言う反応をしたのだが、状況を判断するにどうやら彼も隣のベッドで横になっているらしい。

「あ、一方通行、いるのか…………。その…………悪かったよ、不意打ちみたいな真似して」

「……………………ケッ。そのけったいな右手さえなきゃ俺ァこンな所いねェよ」

とは言うが、一方通行も深くは掘り下げられない。
勝手に戦闘体勢を解き、殴られて逆上した挙げ句場を無茶苦茶にしたのは自分なのだから。

「…………丸くなったな、一方通行」

「あァン? 喧嘩売ってンのか?」

「いや、いい事じゃねえか。ほら、色んな事があったけど、こうして平穏な日々を送れてるんだぜ? 悪くないだろ、こんな日々も」

「……………………」

上条の言葉に一方通行は返答しなかった。
しかしそれは一重に、肯定しているかのようで、上条も無理に返事を貰おうとはせず、気にしない事にした。


にしても。
結局ジャッジメントの試験はどうなったのだろうか。

あの後は恐らく中止になったのだろう。
そりゃそうだ、あれだけ派手に暴れればあそこにあった機械等はひとたまりもなかった筈。

……………………ってあれ。
機械が全滅。
その原因は一方通行と自分。
いや、元はと言えば殴った自分。

高そうな機械、賠償責任、不幸体質。
そこから導き出される答は、上条を青くするのに二秒もいらなかった。

「うぅ……………………」

「なに泣いてンだよ」

「泣かなきゃやってられないのですよ…………」

「はァ?」

上条の真意が掴めないのか、一方通行はよくわからないという表情をする。

コンコン────────

するとそこで、病室をノックする音が響き渡った。

「あ、はい。どーぞ」

身体を起こし、ドアの方に視線を向ける。

すると、控え目に開いたドアの先に、初春、黄泉川、そして打ち止めの三人の姿があった。


「上条さんっ大丈夫ですか!?」

目が覚めた上条に初春が飛び付く様にベッドの傍まで駆け寄った。

「おー、大丈夫。心配掛けちゃったな」

「心配しました…………でも元気そうで、よかったです」

安堵の表情を見せた初春に、上条も悪いななんてバツの悪そうな表情を見せた。

「おーおー、お熱いじゃんご両人」

「え、そ、そんな………………その///」

「初春さん、大丈夫か?顔赤いけど、風邪でも引いちゃったか?」

その様子を見ていた黄泉川がニヤリと口角を吊り上げ、ニヤニヤしていた。

「あれ? あの人は?ってミサカはミサカは尋ねてみる」


「ン?」

初春と黄泉川の二人と共に姿を現した打ち止めだが、キョロキョロしながらそう言うと隣の仕切りから返事が響く。
その返事に打ち止めはとびっきりの笑顔になり、カーテンを思いっ切り開けてベッドの上に飛び込んだ。

「反射」

「ぴゃあ」

飛び付かれるのを予想していたのか、一方通行は予め能力使用モードにして反射を準備しており。
しかし反射先は一方通行のベッドの足元に設定されていた為、フワリとベッドに落ちた。


「わっ、ふかふかだってミサカはミサカはこの感触を楽しんでみたり」

「病院で騒ぐな、みっともねェ」

そう言いつつも、結局は打ち止めのやりたい様にさせている一方通行の様子に、上条達はニヤニヤ見ていた。

「なンだよ」

「仲いいんだな」

「微笑ましいです」

「ウチでもこんな感じじゃん」

「この人はね、とっても優しいのってミサカもミサカもこの人の優しさを皆に打ち明けてみたり!」

「へえ、一方通行の私生活ってどんな感じか少し気になるな」

「黙れテメェらその口塞ぐぞ二度としゃべれねェよォにされてェか」

そんな温かい空気が病室内で溢れ返っていた。

sagaミス恥ずかしい

また次回!


「あの」

「ン?」


 ベッドではしゃぐ打ち止めを片手で押さえていた一方通行に、初春が恐る恐る声を掛ける。
その声に一方通行は視線を向けると、彼女の視線が自分に向いている事に気付き自分に向けての言葉だと悟った。
打ち止めももぞもぞ動くのをやめ、彼女の方に視線を向けていた。


「前は助けていただき、ありがとうございました」


ちょこんと頭を下げ、一方通行に感謝の意を現した。
その下げられた頭の上に乗っていた花飾りも、彼女の動きに合わせふわりと揺れる。
どういう原理か、彼女の頭から落ちる事はなかった。


「あァ? 助けたって何の事だ?」

「あなた忘れちゃったの? ほら、ミサカがあのホスト風の人に襲われちゃった時に一緒にいたお姉ちゃんだよってミサカはミサカはあなたが若くしてボケちゃったのかなって心配してみたり」

「…………あァ、あン時の」




思い出した。



 学園都市第二位である垣根帝督が、一方通行を倒すという目的で打ち止めに目を付け、その際に打ち止めの傍にいたあの時の少女。

第二位という脅威と対峙したのにも関わらず、決して打ち止めを見捨てる事なく勇敢に立ち向かった。
下手をすれば、死よりも恐ろしい事がその身に起きていたのかもしれないのに、それでも打ち止めを守ろうとしてくれていたのは、打ち止めの後々の話から知った。


「気にすンな。それよりも打ち止めを身を呈して守ってくれたんだってなァ、礼言わしてもらうぜ」

「うん…………でもあの時凄い蹴られたりして…………お姉ちゃん、大丈夫だった? ってミサカはミサカはあの時を思い出して心配してみる……」


そんなちょっぴり落ち込んだ様子の打ち止めに近付き、頭を撫でて笑顔で答える。


「大丈夫、お姉ちゃんこれでもジャッジメントですからね」


ただあの時の行動は、勇気を出したからとか、ジャッジメントだからとか、そういうのではない。
気が付けば、そんな行動を取っていただけで。
恐怖とかそういうのは無かったのかと問われれば、あったと答えるだろう。

しかしそれでも、『自分の信じる正義』を曲げる事はしなかった、ただそれだけの事。


「しかしジャッジメントってのは肝が座ってやがンだなァ」

「そんな話初めて聞いたけど、やるじゃん」

「いえ、当たり前の事をしたまでですよ」


なんて事はない、と初春は謙遜する。
しかしジャッジメントと言えども、まだ中学一年生の女の子。
あんな状況に陥れば、パニックを起こしても仕方がない筈だったのだが、それでも初春は勇敢に立ち向かった。

それを一重に一方通行と黄泉川は感心していた。




「…………………………………………」




「ヒーローさん、どうしたの? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」


そこで打ち止めは、俯いた様に視線を下に向け、黙っていた様子の上条に気付き声を掛けていた。


「…………ん? あー、何でもない。そんな事があったんだなって」


何だか少し元気がない様な返事に、打ち止めは?を頭に浮かべ彼の深い心中は窺えなかった様だった。
そんな彼の様子に、初春も不安を覚える。

何か気分を悪くさせてしまったのだろうか。
自分の何か知らない所での落ち度で彼の気に障ってしまったのだろうか。
そんな事を考えていると、自分もまた気分が沈んでくる。

嫌われてしまったのではないかという思いが、あの時以上の恐怖となって襲い掛かってきた。



すると。



ポン、と頭に乗せた花飾りを上手く避けて自分の頭に彼の手が乗せられた。


「ま、何にせよ無事でよかったよ」


彼の優しい手が、ゆっくりと動く。
温かい、大きな手。
それはつい先程感じていた不安を全て吹き飛ばす程、初春の心を温めていた。


「わ、わ……………………///」

「いいなぁ…………ってミサカはミサカは指をくわえてあなたの顔を見てみる」

「汚ェから指をくわえンな」

「打ち止めは家に帰ったらたっぷりしてもらうといいじゃん」ニヤニヤ


そんな中、二人の少女が病室内に入ってくる。
そしてその光景を見るや否や動きが止まっていた。


「上条ちゃん、いますk……………………」

「お邪魔しますn…………」


…………いや、一人は少女と言ってもいいものなのだろうか、いささか疑問ではあるが。


「上条ちゃん、明後日はすけすけみるみるなのです!」

「初春! この類人猿に変な事されていませんでしたの!?」

「いきなり来てその仕打ち!?」


 この場に姿を現した二人からの攻撃に上条はるるると涙を流す。
とはいえまあ確かに女の子の頭に手を乗せているのはある意味おかしな光景なのかもしれない。
当の初春は顔を真っ赤にして起動停止しているみたいだし。

しかしそこでふと、小萌の言葉の中に少し気になるところがあった。


「って先生、明後日? 明日じゃなくて?」


本日は日曜日。
明日は学校がある日の筈で、今までの経験上小萌ならば即座に補習を課してくると思われたのだが。


「明日はうちの学校お休みなのですよー」

「「へ?」」


その小萌の言葉に上条と、あとなぜか黄泉川も混ざってそんな素っ頓狂な声を上げていた。


「そんな話聞いてないじゃんよ?」

「先生も今さっき連絡を受けたんですけど…………ジャッジメントの試験の時の、上条ちゃん達の戦いの影響で校舎にヒビやら亀裂やら入っちゃったみたいで、改修しなきゃいけないらしいのですよー」

「「え」」


一同その言葉に、上条、そして一方通行の方に視線が集中した。


「あァン? …………俺のせいかよ」


その視線が鬱陶しく感じたのか、舌打ちしてそっぽを向く一方通行。
まああれだけ激しい攻防戦を繰り広げていたのだから、その影響も少なからずあったみたいだ。


「グラウンドもやたらぐちゃぐちゃになってましたし、それにまだたくさんあった機械もそのままらしいのですよ」

「「「……………………」」」


黒翼現出バージョンの一方通行に一般人を近付かせる訳もなく、避難させてそのまま、という事はあの時戦闘した際に粉々になった機械やらめくれ上がった地面やら何やらそのままに放置してあるらしい。
その様子を思い浮かべた上条、黄泉川、一方通行の三人は返す言葉もなく黙りこくるしかなかった。


「まあそんな事はどうでもいいんですけど」


「「いいんかい」」

「いや、よくないじゃんよ…………」


そんな小萌と上条と一方通行のコントの様な会話など途中から耳に入らなくなった黄泉川は、冷や汗を押さえられなかった。

自身が担当した試験にてそんな損害を出してしまった事がヤバい。
恐らくこれより数日は始末書の処理に追われるのだろうとガックリと頂垂れた。


「ヨミカワ、どうしたの? ってミサカはミサカは尋ねてみる」

「…………はは、いや、これから数日睡眠無しの生活に覚悟を決めていただけじゃん……」

「?」


心配そうに首を傾げる打ち止めの頭をクシャリと撫でつつ、溜息を吐いた。


「それよりも、上条ちゃん今日入院ならシスターちゃんうちで預かるですよ?」

「あー……………………すみません。お願いしていいですか?」

「ならばその見返りとして、補習かデートかどっちがいいですかー?」

「なら補習で」

「補習という名の課外学習ですねー、了解しました」

「それ結局同じ意味じゃないっすか…………不幸だ…………」

「「「」」」

「小萌……………………生徒に何させてんじゃん…………」

「パネェ、三下のフラグ建設能力パネェ」

「ミサカはあなた一筋だよ? ってミサカはミサカはキャッ/// 言っちゃった///」

「そ、そんなのダメですよ!」


そんな会話を聞き流していた初春も、さすがにその様子に黙ってはいられない。


見た感じ明らかに自分よりも年下の女の子の筈なのだが、やり取りを見て本当に学校の先生なのだと理解させられていた。

教師、らしいのだが。
上条を見る目は、生徒を見るそれではない。
恋する乙女は分かってしまった。

思わぬライバル出現だと悟った瞬間だった。
























「チイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマチイサナオネエサマ………………」

「「「「「」」」」」


しかし約一名の、打ち止めを見て呪詛の様に呟く変人によって即座に思考を停止させられたのだが。


「カッコよかったなぁ……………………」

「は?」


 お見舞いからの帰り道、初春のそんな呟きに横にいた黒子が反応した。
時刻はそろそろ夕方に差し掛かるという所で、夕日が沈んでいくのをポーッと見つめながら歩いており、いつもならキラキラと目を光らせてフラーっと寄ってしまう彼女のお気に入りの洋菓子店にも目もくれずほわーんと歩いていた。


「…………あの殿方さんに対するその様な感情は理解出来ませんの」

「分かって下さいなんて言ってませんけどね」

「全く、あの類人猿のどこがそんなにいいのやら……………………まあ確かに、只者ではない、というのは理解しましたが」


第一位と互角に渡り合うその戦闘能力には、黒子も驚愕していた。
そう言えば、自分がお姉様と慕う美琴のレベル5の電撃もいつも軽くあしらっていて、その事を今まで不思議に思わなかったのを不思議に思ったくらいだ。


「白井さんは前から知ってたんでしたっけ。いいなぁ…………」

「知り合い、程度だけですの。安心なさいな」


そんな会話をしながら歩く町並みに、そろそろ街灯が点り出す。
冬の時期は陽が落ちるのが早く、午後五時間前だと言うのにもう暗くなってきていた。


「……………………にしても、あのアホ毛ちゃん」

「……………………ええ」


ふと初春が呟いた言葉に、黒子は真面目な表情になって返事をする。

打ち止め。
ミサカという一人称。
そして、幼くあるが共通の友人である美琴そっくりのその顔。


「妹さん、なのでしょうか…………御坂さんが妹がいるっていう話、聞いた事あります?」

「……………………いえ、ないですの」


見た感じ、第一位と上条にとてもよく懐いている。
一方通行には、特に。
すると、上条と一方通行は一体どういう関係なのだろうか。

無能力者とレベル5の第一位。

とても接点がある様に思えないのだが、二人を見るにとても親密な間柄に見えた。


「謎が多い殿方なんですの」

「…………そう、ですね」


二人の間には何かがあった事は一目瞭然だ。
しかしそれを聞くのは、随分と躊躇われてしまう。
何だか聞いてはいけない、そんな空気を二人は感じ取っていた。

まあその三人を巡る、あんな事があったとは想像もつかなかったのだろう。
表の世界で生きていては気付く筈もない。
彼女らが思っている以上に、学園都市の『裏』は闇に紛れていた。


「あー、そういえば」

「ン? どォした?」


 見舞いに来た彼らのゆかりのある者達が次々に帰宅していくと、一気にその騒がしさは嘘の様に閑散となった。

そんな中、上条が思い出した様に呟くと、隣で手持ち無沙汰から黄泉川が持ってきた本を読んでいた一方通行が反応した。


「いや、そういえば弁当のお礼してなかったなって」

「弁当?」

「ん。今日の試験の為にわざわざ作って渡してくれたんだよ」

「誰ンだ?」

「初春さん」

「花女か」

「何だよその呼び方」

「見たまンまだが」

「……………………」


一方通行の言葉に何となく反論の言葉が見付からず、ちょっぴり納得してしまった上条。
そんな上条を見て、一方通行は何故かドヤ顔になっていた。


「メールでもしてやったらいいンじゃね?」

「んー…………メールもいいんだけどこういうのは直接言わなきゃなぁ…………」

「お前意外と律儀なンだな」

「マナーとか礼儀とか、結構そういうのは気にする質なんですよ、上条さんは」

「……………………」

「なんだよその沈黙は」

「いや、別にィ…………」


数々のフラグ建てておいてほったらかしってのは礼儀がなってねェンじゃねェの? とても言いたい気分だったのだがどうせ上条に言っても無駄な気がした為、一方通行は放っておく事にした。


「…………まぁ、でもメールでも言ってからまた会った時に言えばいいか」


チラッとベッドの横に置いてある鞄の中に潜む包みを見る。
まさに助け舟で、あれがなかったらどうなっていたやら。
きっと、空腹で試験どころではなかったのかもしれない。

携帯を操作し、電話帳を探る。
以前勉強を教えてもらった時、初春の剣幕に押されて番号を交換していた為、既に連絡先は知っていた。


「んー…………文面はっと。普通に『弁当ありがとう、美味しかった』でいいか」

「ンだよ、面白くねェ」

「お前は何を期待しているんだ」ポチポチ

「別にィ?」

「まあいいけどさ…………送信っと」pi

送信しました──の画面を確認すると、携帯をベッドの上に置く。
夕食は小萌特製の弁当もいただきましたし、さてさて何しようかななんて考えていた。

入院とはいえども今日一日だけ、それに全然大した怪我でもない為、このまま寝転がって過ごすだけというのもそれはそれでつまらない。
とはいえ隣で本を読む一方通行に声をかけても、どうせ適当にいなされるだろうし。

はぁ、なんて溜息を吐くと突然電話が鳴る。

prrrrrrrrr────────

んー? なんて思いながら画面を確認すると。




「……………………!?」



『着信:神裂火織』




という画面が映し出されていた。


「おー、神裂か? どうしたんだ?」

『……………………………………上条当麻』

「え、何か怒ってらっしゃる………………?」


電話口から聞こえてきたのは、何故かどす黒い雰囲気の声色の女教皇。
聖人と呼ばれる彼女の力を、一度その身をもって味わった上条はそれだけで震え上がるに等しかった。
しかしそこはさすがは上条当麻と言うべきか、そんな声色を別の意味で捉えてしまう事もしばしば。


「おい、どうしたんだ? まさかまた何かあったのか?」

「ン?」


もしや、イギリスで何かあったのか。
それともインデックスの身に何か起きるのか。

隣では一方通行が聞き耳を立てているらしく、余程の案件だろうと予想して席を外す為にベッドから身を起こしたのだが。


『……………………先程のめぇるは、どういう意味なのでしょう?』

「……………………はい?」


メール?
どういうことだ?
神裂にメールなど送った覚えはない。
というか、機械に疎い彼女がメール機能を使える事に驚きなのだがそれはこの際関係ないだろう。


『弁当、ありがとうなどと言うめぇるが私の元に届いたのですが』

「え…………何で……? ってまさか!」


──……………………俺、送信先間違えた?


『上条当麻からめぇるが来たなんて喜んd…………ゲフンゲフン、とにかくどういう意味なのですか?』

「あ、いや、別に、その…………すまん。送信先を間違えたみたい『女教皇様! もももしかしてかかか上条さんとででで電話しているのですか!?』なんだ……『こ、これはちち違います!』けど……さ……」


電話口が何故だか一気に騒がしくなった。
ぎゃーぎゃー耳に届くその爆音に携帯を一旦離すのだが、それでも病室内に響き渡る程の音量だ。
さすがは聖人と聖人崩し、その有り余るパワーを声量としてもいかんなく発揮している様だった。


「何の騒ぎですかァ?」

「あ、いや、何でもないんだ…………はは」

『む!? そちらにまだ誰かいるのですか!? 魔法名名乗りに向かいますよ!?』

「それはやめて! 割とガチで!」


神裂と五和と一方通行の戦いのその凄まじさを想像して、身震いしたのだがそれはまあ仕方のない事だろう。


「と、とにかく! それは間違いメールだから気にすんな! ごめんまたな!」

『あ、ちょっとまだ話は終わっt』pi

「………………ふぅ」

「病室内では静かにお願いしますゥ」

「……………………すまんかった」

こりゃまた恐ろしい相手に間違いメールを送ってしまった、と上条は嘆く。
次神裂か五和と会った時、また面倒事になるんだろうななんて考えて鬱になった。


「不幸だ……………………」

「いや、自業自得じゃね?」


そんな一方通行のツッコミに何も返せなくなると、再び携帯を操作する。
今度は間違えずに…………つかまあ、電話の方が早いだろうと席を立った。

「トイレ行ってくるわ…………」

「ごゆっくりィ」











オー、モシモシウイハルサン? イヤ、タイシタコトジャナインダケドサ…………


「礼儀、ねェ……………………あン時の様子といい、こりゃもしかしたら花女の一人勝ちも有り得る、かァ?」


上条がいなくなったその病室で、そんな一方通行の意味深なニヤついた独り言が響き渡っていた。


「んで、初春」

「はい?」


 ざわざわと昼休みを楽しげに騒ぐクラス内の同級生達。
日曜日も空け、月曜日という憂鬱曜日のまず始めの休息時間を満喫している様子だ。
そんな中、目の前の佐天が何やら楽しそうに口を開いた。


「昨日が噂の彼の試験だって言ってたじゃん。結局どうなったの? 進展あった?」

「し、進展って…………///」


目の前の彼女が協力的な姿勢を見せてくれるのは嬉しいのだが、一々からかってくるのが玉に瑕。
まあ彼女独特のからかいだと言うのは分かっているので、別に何て事はないのだがやはり意中の少年の話になるとどうしても赤面を隠しきれない。


「じ、実はですね…………」

「うんうん」




「今度、ご飯行かないかって……………………誘われちゃいました///」




「えええええええええええ!? やったじゃん初春!!」


両頬に手を当てて、赤面を隠す様に呟いた初春に佐天は素直に祝福する。
友人の色恋事はこれが初めてで、自身もぶっちゃけそういった経験は殆どないのでドキドキが佐天を襲っていた。



平常心、平常心。



いつも彼女をからかうポジションとしては、テンパってる姿を見せるのは御法度だ。
とはいえ、そんな微笑ましい初春の様子にニヤニヤがへばり付いて取れなかった。


「でもさ! それって初春に脈ありって事なんじゃない?」

「え、え///」


ぽふんっと言う音が聞こえそうな程、更に顔を真っ赤にした初春。
もう赤く染まった顔を隠すのも無駄なほど、手まで赤くなっていたりしていて。


何この子、超かわいいんですけど。


こりゃこんな可愛い素直な友人を応援しないなんて事は出来ないなーなんて思っていたりして、佐天はにやけ顔もそのままに初春の弁当の卵焼きを突いていた。

ここまで

また次回!

んー自治スレでローカルルールの話し合いか。

とりあえず落ち着くまで書き溜めてくる!自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

自治スレ見たけど落ち着くまでまだ時間掛かりそうだなー。

投下してっても大丈夫そうかな?

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

俺は気にしないよ↓のは
みんなはどうなんだろうか自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

>>274把握した

結構他スレでも気になるって人いるみたいだからレス毎の最後に行間空けて投下してく



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中




コンコン────。

「どうぞー」

「……………………」


 現在時刻は正午過ぎ。
帰り支度をし終えた上条と一方通行の病室にノック音が響き、上条が返事をした。


「もう支度は済んだじゃん?」

「帰ろー! ってミサカはミサカは反射されない様に演算補助を切ってあなたの胸に飛び込んでみる」

「ぐほっ」

「ぷっ!」

「ぎゃは、あなたの無様な顔を拝みに来たよ」


 場に姿を現したのは黄泉川と打ち止め、そして一方通行がロシアで出会い今現在は黄泉川家の新しい居候となった番外個体だ。


「堪能したから演算補助再開! ってミサカはミサカは大満足!」

「笑うな三下ァ…………ぶっ[ピーーー]ぞ……」

「わりーわりー。それにしても策士だな、打ち止め」

「おお、あなたが噂のヒーローさんなんだね」

「おお、噂の番外個体か! ん…………んー?」

「どうしたの?」

「いや、本当に似てんだなーって。ふむ、御坂が成長すればこうなるのか」

「あはは」


一方通行から話に聞いた番外個体を見て、上条が感嘆と声を上げた。
こんな所での初の顔合わせになったが、それはまあいいとして。
一方通行によれば妹達の中で一番ひねくれている、らしいのだが上条はちっともそんな印象を受けず、明るいいい子なんだなという感想を持ったくらいだった。





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「おい番外個体。俺と接する時と随分対応が違かねェか?」

「え、何? 嫉妬してんの?」

「はァ? 鏡見てからモノを言いやがれ」

「何言ってるの? 殺すよ? それにミサカこれでも結構モテるんだよ? 街出ればナンパ、ナンパ、ナンパ。まあ素体のお姉様にそこは感謝してるね」

「…………何だこの会話」

「家でもこんな感じじゃんよ」

「あれでも何だか楽しそうだから嫉妬しちゃうかもってミサカはミサカは心配してみたり」


一方通行との会話でそんな番外個体の素の一部が垣間見えた所で冷や汗を流した上条。
こんな会話が常に家で交わされていると思うと………………ダメだ、きっと胃がやられる。
とはいえ、打ち止めの言う通り確かに楽しそうな感じもしたので、別段心配する程の事でもないのだろう。


「にしても、番外個体の服…………なんつったっけ、アオザイ?」

「おお、よく知ってるね。ミサカも同居人が福引で当てた服を着てるだけなんだけど、どうかな。似合う?」

「おー、似合ってるぞ。そういう民族衣装の似合う子って何かいいよな」

「…………わお。これがお姉様を落とした無自覚のアソコジュンジュンテクなんだね。こりゃクラッと来るよ、ミサカはわかんないけど」

「あそこってどこ? ってミサカはミサカはあなたに確認してみる」

「……………………気にすンな」

「子供の前であんまりそういう言葉言うなじゃんよ…………」

(…………なんつーか、やっぱお前の言う通りだったわ)ボソッ

(…………だろォ?)ボソッ

「どうしたのいきなり二人で内緒話なんかしたりして。あ、まさかそっち系だったりする? ぎゃは」

「テメェは少し黙ってろ」

番外個体の無双ぶりに上条は少々面食らい、一方通行が手綱を操るかのようにツッコミをいれる。
やはり彼女の相手には一方通行しか出来ない様だった。

……………………ただ、とても扱いきれてはいないが。




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 とはいえ一方通行にとって、番外個体を上条に会わせるのはぶっちゃけ賭けだったりする。
妹達の調整を引き受けているのは、上条も常に世話になっているあの名医。

一方通行も世話になった、あの冥土帰しだ。

 かつては一方通行を殺す為に製造されたのが番外個体で、ロシアでは一方通行を精神崩壊寸前まで追い詰めた存在。
ミサカネットワークに接続はしているのだが、一万弱いる妹達とは違い打ち止めの命令を受け付けず行動できる個体で。
また「悪意」の感情の塊であり、その真逆の存在でもある上条とは性質がまるで違うのだ。

それゆえに、もし悪い方に転がれば番外個体はその精神を崩壊してしまう危険性もあったのだが。
そこはやはり世界一の名医の調整が功を奏し、信頼のゴーサインを受けていた。

 かねてより妹達を救い、なおかつ一方通行を救った上条には元々興味を持っていた番外個体であり、彼女もまたその危険性をしっかり把握しながらも一度は会ってみたかったらしかった。

一方通行としても、これ以上妹達の中で一人でも犠牲者を出すつもりもなく、しっかりと冥土帰しの話を聞いた上での自身が決断した結果でもあったりする。


閑話休題。





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「いやまあ一方通行は可愛い子達に囲まれて羨ましいです事」

「テメェはどの口でその言葉を吐いてやがるンだよ」


 青椒肉絲を口に運びながら、上条が言い放った言葉に一方通行が溜息を吐きながら答える。
ある中華料理店にて、丸い大きめのテーブルを黄泉川家+上条というなんとも珍しいメンバーで囲っていた。

上条としては居候のおかげであまりこういう料理を堪能出来るチャンスはそうそうない為、しっかりと吟味しながら幸せそうな表情を醸し出している。
昼食代は黄泉川が出してくれるとの事。
勿論一度は遠慮したのだが、打ち止めの「一緒に食べようよ」の言葉と、よく考えれば次にいつ来るのかわからないチャンスだった為に相伴に与っていた。


「ふーん…………」

「何ですかァ? その意味深は視線は」


食事も終わり、テーブルに肘を掛け顔を手で支えている番外個体がニヤニヤしながら一方通行を見ていた。
食後のコーヒーに口を付けながら、そんな番外個体の視線を不快に思ったのか表情を歪ませながら一方通行は答えた。





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「いやあ、お二人さん仲いいんだねって思って」

「そりゃあなたの憧れの人だもんねってミサカはミサカは同調してみるっ」

「へっ?」

「はァ? 何寝ぼけた事言ってやがるンだァ?」

「おっ、その話興味あるじゃん」


心外だ、と言わんばかりの一方通行に四対の視線が集中する。
答えるのが面倒臭いとばかりに無視を決め込む事にしたが、そうそう逃がしてくれるのだろうか。


「えー、だってあなたが家でボソボソ言ってるの聞いた事あるよ?」

「……………………何をだァ?」

「『その幻想を、ぶち殺す』だっけ。ぎゃは」プププ

「テ、テメェ…………」ワナワナ

「え、何それー。この人がそう言ってるのをミサカは聞いた事ないってミサカはミサカはわきわきしながらあなたの顔を見てみたり!」ワクワク

「どっかで聞いた事ある台詞だな。誰が言ったんだっけ」

そんな楽しそうな会話が繰り広げられていて、そんな楽しそうな雰囲気に店員さんも微笑ましく感じていたりして。

……………………まあそれはいい。






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「あ、そういえば」

「ん? どうした?」


上条としては聞いておきたい事があった。


「ジャッジメント試験、結局どうなったんですかね」

「あー、それか。とりあえず採点してからの判断だから、合否の知らせはもうちょい待つじゃん」

「…………まあ、そうですね」


黄泉川としてもあれだけの動きを見せられて正直驚いていたりしていた。

あの学園都市第一位である一方通行相手に、あの善戦。
黄泉川の予想としては、ぶっちゃけてしまうと五秒も経たずに一方通行が勝つものだと信じてやまなかった。

ところが、蓋を開けてみてどうだ。

勝ち負けは途中でうやむやになってしまったとはいえ、あの動き、判断力。
それを見せられてしまっては黄泉川としては十分に合格点を超えていた所。
それ以上の上条の姿を見て、ただただ驚いているだけだった。


「ジャッジメントって何? 審判?」

「この街を守る風紀委員さんだよってミサカはミサカは番外個体に教えてあげる!」

「ほー。ヒーローさんは皆のヒーローになるんだね」

「はは、ヒーローってのやめてくれると嬉しいんだけどな…………」

「チッ」


番外個体はまだ学園都市に来て日は浅い。
そして調整の日々が続いていた為、あまりこの街の生活観やら文化やらに触れておらずまだまだ色んな知識は疎く、まだまだこれから知るべき事はいっぱいあり。
打ち止めの言葉に納得し、上条に視線を送ると上条は苦笑いで反していた。




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「あ、ジャッジメントで思い出したけど。打ち止めも番外個体も、白井って奴に気をつけた方がいいぞ」

「…………誰だそいつはァ?」

「だれだれ?」


上条の思い出した様な言葉に一同は食いついた様に反応した。
ちなみに真っ先に反応したのは一方通行で、やはり妹達に対する思いは強いみたいだ。
打ち止めは杏仁豆腐を美味しそうに頬張りながら視線を上条に向けるだけ。
黄泉川も何故か納得したようにうんうんと頷いていたりしていた。


「常盤台に通うお嬢様なんだがな、打ち止めと一方通行は知ってるだろ? 昨日会ったあのツインテールだよ。んで、白井ってのは、なんつーか、その…………」

(一方通行、黄泉川先生は妹達の事情知ってるのか?)

(あァ、あのツインテかよ…………ン? あー…………詳しい所までは知らねェだろ。ただ超電磁砲があいつらのお姉様だっつゥ事は知ってる)

「また何か内緒話始めたよ」

「ちょっと本当に心配になったりってミサカはミサカは…………」

「どうしたじゃん?」

「あ、いやー別に。はは。ま、とにかく。打ち止めと番外個体のお姉様には白井ってのはご執心らしいから、気をつけた方がいいぞ」

「? それがどうしたの? ってミサカはミサカはよくわかんないや」




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「下手すりゃ…………拉致られる」






「「「………………は?」」」

「上条の言う通りじゃん…………」


黄泉川も見た事あるが、美琴に対する黒子の言動を思い出してもはや溜息を吐くしかない。
一方通行と打ち止めと番外個体の三人はまだよくわかってはいないらしいが。


「白井ってのは二人の姉に異常な愛情を抱いててな…………もしあいつが姉にそっくりな二人を見かけた時にゃ…………」ブルブル


縄に縛られた打ち止め、もしくは番外個体。
黒子はそれに血走った目で息を切らしながら近寄り…………。

容易に想像出来てしまうその様子を妄想して身震いをする上条。
そんな上条を見て打ち止めと番外個体もただ事ではない事を感じ、深くは追求はしないがコクコクと頷いてただ従う事にした。




「…………ちょっとそいつ殺ってくるわァ」




「だー! ストップ! 根は悪い奴じゃないんだよ! …………タブン」

「そ、そうじゃん! 正義感溢れたいい奴じゃん! 上条のはちょっと言い過ぎなだけじゃん! …………タブン」

「…………テメェらの最後の呟きが不安になるンですけどォ?」


ぎゃーぎゃー騒ぐこの家族のグループに、店員さんはとても困っていたという。

……………………まあそれはいい…………いや、よくはないのか?





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「初春ーっ、一緒に帰ろ」

「はぁい。佐天さん、あそこのケーキ屋さん寄ってっていいですか?」

「うん、行こ行こっ」


 放課後のチャイムがなると同時に、静かだった教室内は一気に喧騒が湧く。
帰ろーぜという声や、ゲーセン行かない? なんていう声も。
初春の友人もその例に漏れず、二人で肩を並べて教室を後にした。

 本日はジャッジメントの仕事はなく、非番だ。
その事もあってか、はたまた別の事も相俟ってか初春の気分は非常に良い。
人生で、ここまで高揚したのは初めて…………それは恐らく言い過ぎではないのであろう。


「青春してるねー?」ニヤニヤ

「も~、からかわないで下さいよ」///


肘で初春の二の腕辺りをつんつんなんて突きながら反応を愉しむ佐天。
それにいちいち顔を真っ赤にして反論する初春のそんな反応に初々しく感じていた。

 季節は冬の白い吐息も見える夕暮れ。
冬、といえば女の子にとっては…………いや、カップルにとっては、と言い直しておこう。
一大事なイベントが待ち受けていたりして、街中もそれに向けて段々とその特徴色とも言える赤がちらほら目立ってきていた。




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        クリスマス────。




 日本人にとってはカップルの聖なる日とも言える一年の内の一回だけの一大イベント。

1960年代に世界中で超人気を博したバンドの中の一人の、日本人であった妻との合作であるあの名曲も、自然とどこからか耳に入ってくるそんな季節。
恋する相手がいるのならば意識せずにはいられなく、初春もまさにその中の一人であったりする。


「お、この曲好きなんだ。いいよねー、これ」

「そうですね。まさにクリスマスって感じがします」

「それまでにいけそう?」

「え、あ、いや…………いけたら、いいなとはオモイマスケド…………///」


恥ずかしさから声量が段々と萎んでいく様子の初春を佐天はニヤニヤしながら見つめる。
顔が赤いのは、恐らく夕日だけのせいではないだろう。


「もう、初春ったら可愛すぎるよー」


ギュッと横から抱き着かれ、初春もえへへーと顔が緩むのを隠せない様子だ。
まだ決まっている訳ではない。
決まっている訳ではないのだが初春の脳内ではもはやそのシチュエーションが完璧に再現されていたりする。





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 それは待ちに待ったクリスマスイヴ。
町並みもすっかりクリスマス色に染まり、周りを見れどどこもかしくもカップルばかりだ。

待ち合わせは午後六時、待ち合わせ場所はここ、第七学区の駅前に設置された巨大なクリスマスツリーの前。

 彼がジャッジメントの一七七支部の所属になって、まだ一週間ほどではあるが。
いまだ研修生という身であるのに、彼の手によって解決された事件の数は両手の指では足りない程。
同僚はそんな猪突猛進な彼を見て、呆れてはいるのだが実は感心、信頼を寄せているのは私は知っている。

困った人を見れば、助けずにはいられない。

まだ研修生だから。
という理由で止まる彼ではない。
そしてそんな彼だからこそ、私は好きになった。

初めて過ごす彼とのクリスマスに、私は期待せずにはいられなかった。




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後一時間程で来るであろう寮の門限は、今日は気にしない。
寮監には「親が来るから」という理由で今日は帰らない旨を既に告げており、思いっ切り彼に甘えようと私は計画していた。

プレゼントは既に用意してある。この二週間、寝る間も惜しんで編み上げた赤いマフラー。

彼に合うかな。
合えばいいな。
気に入ってくれるかな。

そんな思いを一縫い、また一縫いと糸に託し、何とか完成したのが昨日の話。

ふあ…………最近あんまり寝ていなかったから、少し眠い。
でもこれから彼がやってくると思うと、私の心臓がより早く動く。
それが、今の私の何よりも効く目覚まし時計だ。
でも、規則正しくは動かない彼時計。

トクントクンと、彼を思う度ほら、こんなに早くなってしまう。

ああ。彼との素敵な時間って、だからこんなに早く流れちゃう様に感じるのかなって…………何か私、詩人みたい。


『飾利ー!』


そんな中、彼の私を呼ぶ声が耳に届く。
私の心の音が、より振り幅が増した様だ。


『あ…………!』




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ちょっぴり時間が遅れちゃったのを詫びる様に、彼は早いスピードで駆け寄って来る。
本音を言うと、もう少し早く来てほしかったかも。
でも、膝に手をついて息を整える彼を見て、そんな事言えない。

…………言えない。


『はぁ、はぁ…………ごめん、待たせちゃったか?』


『いえ、大丈夫ですよ…………あ……』


言葉の途中でギュッと抱きしめられる私。



…………ほら、言えなくなっちゃった。




『冷たいじゃないか…………ごめんな、飾利。これを家に取りに戻ってたんだ』


彼はそういうと、掌サイズの小さな箱を私に手渡した。
そのラッピングされた箱は、可愛らしくリボンで大事に、とても大事に包まれていた。


『この日の、最初にこれを開けてほしいんだ』


彼の温かい手を頭で感じながら、抱きしめられたその至近距離の彼の胸元でゆっくりとその包みを開ける。





自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中


『これは………………』


開けると、中にはもう一つの箱が。
それは上下に開くタイプの小さな箱で、後ろの部分を金具で止めてあり…………。

ここで、中身がわかった瞬間涙が溢れてきていた。


『とうま、さん…………』


『これを飾利に、つけてほしくて、な』


そういい笑顔を見せて、指の腹で私の目元を優しく拭ってくれる。
箱の中を開けると、予想通り。

銀色の指輪が、入っていた。


『これ』


『ん?』


『当麻さんから…………着けさせて下さい』


私はそういい、彼にその指輪を渡す。
彼もそれに納得したような表情を見せて、じゃあ、と言ってポケットからもうひとつの指輪を出して私に渡してくれた。





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『飾利』


『……………………はい』


そういい、手を差し出す。
そして彼は、私の薬指に優しく、それを嵌めてくれた。


『えへへ』


嬉しい。
嬉しすぎて、まるで違う世界に来ちゃったみたい。
周りも何も見えない、二人だけの世界。


『飾利。俺のも、お願い出来るか?』


『はいっ』


私より一際大きな彼の手をギュッと握り、そして指輪を彼の手にすっと嵌めていく。
私に着けてくれた指輪と、おんなじ指輪。
彼と同じもの、共通点が増えていく。


『はは。ちょっと恥ずかしいけど、でも嬉しいもんだな、これ』

『えへへ』


そういいお互い顔を見合った後、私は彼の胸元に飛びついた。




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『お、おいおい…………』


困った様な彼のそんな声。
でも、私は知っている。
彼の、私の背中に回してくれた腕が、語ってくれている。

私を、好きでいてくれている。


『当麻さん! 大好きです!』

『ああ、俺も大好きだ。飾利』


まだクリスマスは始まったばかり。
二人の始まりのクリスマスは、きっと終わりまでずっと繋いでくれる。
ううん、終わってもずっと一緒だよ?

心も、身体も、全部全部。






ずっと、一緒だよ?










「おーい」





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「はっ! こ、ここは!?」

「ケーキ屋さんの前だよ? さっきからずっと呼んでたのに反応しないからびっくりしちゃったよー」


 気付けばいつもの洋菓子店の前だ。
見慣れた看板と、いつもの友人の顔が目の前にあり初春は ちょっぴりたじろいだが、首をぶんぶん振って何とか意識を戻す。
もはや自分の妄想癖が飛びっぱなしな事に心臓が報せを告げる。
ダメだ、彼の事を考えるとすぐにトリップしてしまう。


「…………当麻さん、ね」ニヤニヤ

「えっ!?///」

「名前、出してたよ? その口から」プクク


もはや笑いが堪えられないという様子の佐天に、初春はあわわわとなった。
口に出ていたのか。


「うぅ…………///」


カァ~っと赤くなった自分の顔を静める事は出来ずに、あうあう言うしか出来ずにいた。
通行人の女子高生らしき人物もニヤニヤしながら通過していく。
微笑ましい様子なのだが、当の本人にとってはそれどころではない。






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「も~佐天さん///」ポカポカ

「いたいいたいって初春ー」ニヤニヤ


頭をポカポカ叩く仕草をして、何とか照れ隠しをするのがやっとだったりした。
でも、そうなればいいなあ。

そうなりたいなぁ。










「ありゃ、初春さん?」










「え……………………」

「おや? おやおや?」


そしてその噂の彼が、こんな所でいきなり顔を出すもんだから初春の意識がトリップしてしまうのは仕方のない事だった。




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これ書きながらニヤニヤしてた俺きめぇ、saga忘れとか誤字脱字も多いしマジで死ね

書き溜めてきます、また次回!自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中


「かかかかかかかかかかかかかかかか上条さんっ!!」

「え、ど、どーしたんだ?」

「どーどー、落ち着きなよ初春」


 妄想から復帰した矢先の事。
正に頭の中にいた想い人の登場に、初春はたじろいでとても落ち着ける状況ではなかった。
佐天もそんな初春を落ち着かせるようにしているのだが、効果はどうなのだろうか。


「初春、深呼吸深呼吸。それ、ひっひっふーひっひっふー」

「は、はひ…………ひっひっふー、ひっひっふー」

「それちょっと違うと思いますが…………」


 逆に力が入りそうな呼吸法に、上条が冷や汗を垂らしながらツッコミをいれる。
まあこうなったのは恐らく自分の責任(?)なので落ち着くまで待つ事にした。


「上条さん、ですね? 初めまして、初春からお話は聞いてます! 佐天涙子と言います」

「これはこれはご丁寧に。ワタクシ上条当麻と申します。以後、お見知り置きを…………なんつってな。いやー話に聞いていた通りで」


馬鹿丁寧に挨拶を交わしたのはいいが、途中で何だか恥ずかしくなって言葉の最後にそう付けざるを得なかったのはまあいいだろう。
初春とはまた別のタイプの活発な感じの佐天に、上条はなるほど、と納得したような表情を見せた。




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そんな上条の様子に佐天はキョトンとする。


「へ?」

「はは、佐天さんの事も初春さんから話を聞いてましたよっと」

「え、え。そうなんですか?」

「うん。何でも元気過ぎてたまに困っちゃうだのなんだの」

「そ、そんな事言ってたの? う、初春めー!」

「えぅ、だって事実ですー」


初春も何とか落ち着きを取り戻したか、非難するような佐天に何とか言葉を返していた。
上条も佐天の事は初春と会話をしている時に、こんな友達がいるんですよ程度に聞いており、受けた印象は正しくその通りであった。


「こ、こうなったら…………」プルプル

「え、まさか…………ちょ、佐天s」






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「てりゃ──────────!!」







「え────────」


ファサ────────。

佐天の下から上に突き出した腕。
それは勿論初春に対する佐天の必殺技で。


スカートが、揺れる。





「ぬお!? み、水玉……………………!」


「え……………………? ひゃ、ひゃああああああぁぁぁ───────!!」


ここ一番の少女の悲鳴がそこで響き渡った。






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「ヒグッ………………グスッ………………」

「ご、ごめんってば」


 それからというと、少女の泣き声が響くばかりで、佐天もただひたすら謝っていたりしていた。
上条としてもまさかの展開にオロオロするだけで、対処に困っている。
ただしゃがみ込んで目元を押さえる初春を見て、頭をかくしかなかった。


「ほら、見てないから。上条さん、何も見てませんから!」

「エグッ…………ヒック…………だって…………水玉って…………」ポロポロ

「ぐはっ!?」ドキーン

「あ、あははー……………………」


 初春の目線に合わせ、上条もしゃがみ込む。
ぶっちゃけ、上条の対女の子用のバイブルには白紙のページが続いてこういう時の女の子のあやし方などどこにも載っていない。
周りからはフラグ野郎だの百戦錬磨だの色々言われてるが、自身としては身に覚えのない話だ。
だから上条の、泣いている女の子の対処法などこれっきしもない頭を振り絞って、決まって無意識にワンパターンの行動を取るしかなかった。


「ほら、もう泣くなって」


初春の頭に手を乗せ、撫でる。
柔らかい髪質を傷付けないように、あくまでそっと、そっと。






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「ふぁ……………………」


その優しい甘美な手触りに、初春はそこで泣き止んだ。
彼の感触を確かめる様に、じっと動かず確かめるように。
心なしか、そそそとゆっくり彼に近付いていた。


「ん。もう大丈夫か?」


泣き止んだ初春を見て、上条がそっと呟く。
どうやら初春からの泣き声が聞こえなくなった事に気付いて、ホッと一息胸を撫で下ろしていた。


「はい……………………」


顔を上げ、上条と視線を合わせる。
多分、自分の目は真っ赤になっているのだろう。
そして彼の手が自分の目元に来ると、そっと指で涙を拭ってくれた。

……………………………………これは。

先程自分が夢見た、あの場面ではないか。
勿論状況的には厳密には違うのだが、『自分の中の彼』と『現実の彼』が起こしてくれた行動は一緒。

やはり、彼は優しい。


「ふわ……………………」


コテン、と彼の胸に頭を預けると、また優しく頭をそっと撫でてくれた。





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「お、おお…………」


そんな上条と初春の様子を見て、佐天は感嘆の声を漏らす。
彼女としては、いつもの反応の通り「何してるんですかっ佐天さん!」と顔を赤くして怒るいつもの反応を予想していて。

まさか、泣き出してしまうとは思いもしなかった。

それほどまでに初春の中の上条が大きな存在だと言うことを悟り、罪悪感が広がる。


「………………ごめんね、初春」


大切な友人を傷付けてしまったのかと思うと、心苦しく。
また自分に対してちょっぴり嫌悪感を感じたりしていた。


「……………………大丈夫ですよ」


コテンと上条の胸に頭を預けながら、初春が視線だけをこっちに寄越した。
相変わらず、上条の手は初春の頭を撫で続けている。
何となく初春の顔を見れなかったが、ふと初春に視線を向けると。

──あれ?

初春は顔を真っ赤にしていて。
そして口角が釣り上がっていて。

──ちょ、めちゃめちゃ幸せそうな顔してるんですけど────!?

佐天から視線を外し、すりすりと上条の胸に頭を擦り合わせる様に甘えていた。
ここは誰にも渡しませんよ? という意思表示みたいなものも感じた佐天。
それを見ると、そこまで深く反省しなくてもいいんじゃないかななんて思えてきたりしていた。





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「そ、そろそろいいか?」


「え……………………」


落ち着いたのを見計らった頃に上条が初春に声を掛ける。
初春としてはまだまだこの感触を味わっていたいらしく、思わず聞き返していたのだが。


「ほら、場所も場所だしさ………………その、周りの視線が気になるというか」



注)初春行きつけの洋菓子店の真ん前です。






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セイシュンダネー ナンカカワイイ クリスマスモチカイシネー
ワタシモコイシタクナッチャッタ カミヤンアシタハカクゴシトキーヤ アシタハサイバンダニャー




「ご、ごめんなさい上条さんっ///」

「はは、大丈夫。元気になったんならよかったよ」


自分がどんな状況かを冷静になって思い返した初春はバッと体勢を戻し、立ち上がった。
その顔は林檎如く真っ赤になっていて、とてもじゃないけど上条の顔を見ていられる状況じゃなかった。


「と、とりあえずここから離れましょうか」


そんな様子を見て、苦笑いを浮かべた佐天の言葉に一同反対する訳もなくそそくさとその場を立ち去る事にした。



オーオーニーチャンカノジョヲシアワセニシテヤンナ! ヒューヒュー!
ガンバレヨー! カミヤンアンナカワイイコタチフタリヲハベラカシテ マタカミジョウカ カミジョウクンノ。ウワバキニガビョウヲシコム テツダウニャー

三人の背中に届いたのは通行人達のそんな生暖かい(?)視線だった。





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「はは、やっぱ白井っていつもそんな感じなのか」

「そうなんですよー。この前の夏休みの皆でプール行った時なんて御坂さんの更衣室に空間移動して突っ込んでましたからねー。すぐさま粛正されてましたけど」

「あの時は面白かったよねー」


 放課後らしい賑わいを見せるファミレス内で、三人もまた例に漏れず談笑していた。
上条としては女子中学生二人に男子高校生一人という組み合わせは正直周りの目が気になって勘弁願いたい所だったのだが、似たようなグループもちらほらいた為少しほっと胸を撫で下ろしていた。

…………あくまでそれは恥ずかしさ&世間の目というのがネックだった訳で、この二人といるのが嫌かと聞かれれば全然そんな事はない。



「ところで、上条さん」

「はい?」



そこで佐天が会話が一段落付いたのを見極め、上条に尋ねる。
その表情は…………口角が釣り上がっていて、どうしてもこの質問が聞きたくて仕方がない、という表情だった。


「初春の事、どう思ってます?」




「ぶふぅ────────!?」





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「Oh……………………」ピチャピチャ

「あちゃー……………………」

「ケホッ、ケホッ…………かっ上条さんっ、ご、ごめんなさいっ!!」バッ

「はは、大丈夫。こういう不幸慣れてるから………………はは…………」フキフキ


その質問を浴びせると同時に初春は吹き出してしまい、真正面に座っていた上条は紅茶の飛沫を一身に受けていた。
それに青ざめた初春がばっと上条の傍に駆け寄り、持っていたハンカチで拭きながら謝る。
上条も自身が持っていたハンカチで顔を拭きながらまた泣きそうな初春をあやしていた。

キッと佐天を睨む初春に対して、佐天は両手を合わせてごめんごめんと軽く謝りをいれる。
全く、先程した反省の色はどこに飛んでいったのだろうか。

まあ結局、そのまま初春は上条の隣に座る事となった。


「初春さんの事?」


顔を拭き終わった上条が顎に手を当てて考える仕草を見せる。
テーブルを拭いていた初春も、いつの間にかその手は止まっていた。

彼が自分の事をどう思っているのか。
彼の中の自分はどういう女の子なのか。

隣に座る彼の顔をチラッと見てみると、相変わらず考えている仕草のまま。

もし、もし。
変に思われてたらどうしようと考えると不安になってくる。
自分が彼に見せた姿と言えば………………ダメだ、いいところを見せた覚えがない。
しかし今は、彼の言葉をただ待つしかなかった。





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「んー。癒し、かな」


ふとそこで上条が隣に座る初春に視線を向ける。
彼と目が合った瞬間、初春はその言葉の意味を噛み締めると同時に一気に顔を赤くし、フリーズ。
そんな彼女にお構いなく、佐天は事情聴取する刑事如く何故か手帳サイズのノートとペンを持っていた。


「ふむ。癒し、ですか」

「うん。まあ、まだそんなに付き合い長くないし、何とも言えないけど。可愛いし、落ち着くし、料理も美味しかったし、受けた印象がそれかな」


「……………………ほう」ニヤ

「え……えっ……わ、わぅ………ぅ……………///」


その上条の言葉を反芻するかの様に、吟味する。


──か、可愛い……………………? 私が、可愛い…………の…………?


まさか上条の口からそんな言葉を聞けるとは思っていなかった。


「あ、でも。ジャッジメントとしての初春さんは凛々しくもあるよなー」

「あ、やっぱ上条さんもそう思います? 初春、ああ見えて結構頑張り屋さんですしね(あれ? これ私手伝わなくてもいけそうなんじゃね?)」

「はぅっ///」


こういう社交的な場として彼の口から出る言葉がお世辞だとしても、初春は嬉しさから妄想世界へと再び飛び立ってしまいそうになった。

上条の口から出た、可愛い。
その一言が何よりも初春を嬉しくさせ、また。

また、彼への想いが増していったのが分かった。






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「むむむ……………………」

「ふんふーん♪」


 空腹からか手にしていた箸をスティック代わりにして机というドラムをBPM=160の2ビートで刻みながら、台所に立つ上条の後ろ姿をじっと見つめる。
揺れる銀髪もそのままにズッダンズッダンというリズムが部屋で響き渡っているのだが、フライパンを振る上条の耳にその音は届いていない様子だ。

 昨日小萌が突然迎えに来て、何かと尋ねればまた上条は入院との事で。
お見舞いに行きたいと言ってももう時間は遅かった為に小萌に咎められ、結局そのまま小萌の部屋にお泊りとなっていた。

そして先程帰ってきたら帰ってきたで、妙に機嫌が良さそうに見える。
上条の奏でる鼻歌と自身が刻むリズムは全くと言っていいほど合っていない、まあそれはどうでもいいが。

待たせた罰として噛み付いてやろうかと画策していたのだが、いざ飛び付いたら彼の着ている服からいつもと違う匂いがする事にそこで気付いた。
完全記憶能力を持つ自分としては、その匂いが何なのかを知っていた。





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あの時の、この部屋を訪れたあの少女の匂い。

その少女の匂いが、彼の服から漂っていたのだ。

何故その子の匂いが上条から漂ってくるのか。
何があったのか。
恐らく、染み付くまで寄り添っていたのだr



「ふんにゅ──────────────!!」



ドガンドガン!!

そこまで考えると妙に怒りが沸いて来て、いつの間にか顔面ドラムに変わって爆音と共に机が揺れた。
みしみし言っているのだが、机は大丈夫なのだろうか。


「お、おいインデックス! 何やってんだよ?」


その音に気付いたのか上条が視線だけをこちらに向ける。
手元は相変わらずフライパンを振っているのであくまで、視線だけ。
それでも彼が気にかけてくれたのが嬉しく感じてインデックスはパタリと動きを止めた。

…………単純な女などと、思わない。






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ジュー…………という音と共にフライパンを持った上条がコンロの前から1m程横にずれる。
恐らく盛り付けの段階に入ったのだろう。


「ほらよ、できたから」


そういい、かに玉の乗った皿を机の上に置き、ご飯も持ってきてくれた。


「悪かったよ、インデックス」


真剣な表情の彼がふと口にした謝罪の言葉。


「とうま…………」


ああ、やっぱり鈍感鈍感と言われる彼も分かってくれたのか。
自分が不機嫌になった理由を、気付いて汲み取ってくれるのか。
やっぱり彼は自分を、一番に思ってくれるのか。

いつだって守ってくれた。
いつだって救ってくれた。
どんな危険な目にあっても、悲壮という幻想をぶち殺してくれた。

ならばそれはこれのお膳立てだろうか。
彼からの、愛の言葉への────────





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「そこまで腹空かさせしちまって、悪かったよ」









──……………………は?


「ちょいと前ここに来た子達とお茶しててな。ご飯遅れちまって、すまん」

「」ピキ


前言撤回。


「お茶してたって何かなあああぁぁぁ? それよりとうまは何で私が怒っているのか分かってないのかなああああぁぁぁ?」

「え。ご飯遅くなったからに決まっているだろ?」

「とうまは私を何だと思っているのかなああああぁぁぁ?」

「な、何でそんなに怒ってんだよ…………だからご飯遅くなって悪かったって…………」

「もうこれは噛み付かれても仕方ないよねええええぇぇぇ? 乙女心が全くわからないって神に背く冒涜行為だよねえええぇぇ?」

「んな神がいるか!? ちょっと待て! 他に何かあるなら謝るかr」

「問答無用!!」

がぶっ。

「みぎゃああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


やっぱり鈍感過ぎるのも、罪かも!




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とりあえずここまで!

なかなか先に進まないのは何故かって?
ただ単に展開思いつかなくて伸ばし伸ばしにしていr

また次回!自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

ってか書き込んだ時絶対エラーになるんだけど、ちゃんと全部書き込めているよな…………?


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「ふむ」


 ある薄暗い一室で、不気味な声が響く。
それは男のものか女のものか、はたまた若々しいのか年老いているのか声色からは判別が着かない。
ただその雰囲気からは絶対的な自信を匂わせていて、それはこの場で生命維持漕のビーカーで逆さまに浮かんでいる彼(と言っておこう)を睨むサングラスをかけた金髪の少年も緊張を解いていない。


「お前の差し金か? アレイスター」


 いつもとはまるで違う、冷酷な口調を浴びせるのは土御門元春。
サングラスに金髪というその風貌からは想像も付かないが、陰陽博士という最高位の陰陽術の使い手であり、天才魔術師である。
表の顔では、ある高校に通うちょっとやんちゃな高校生ではあるのだが、『必要悪の教会』に属し、また学園都市の暗部『グループ』にも属している多重スパイという裏の顔も持つ。
しかしそんな激務も難なくこなしてきた土御門なのだが、そんな土御門でも目の前にいる彼と対峙するには少々覚悟が伴う様だ。
それは土御門がここに来るとき術媒体とする折り紙を必ず手にしている所から見て取れていた。


「何の話かね?」


 アレイスター=クロウリー。
その正体はこの学園都市の最大権力者、学園都市統括理事長であり、また伝説級の魔術師でもある。
彼は土御門の質問に対し、まるでわからないという様な声を返した。


「決まっているだろう。幻想殺しの事だ」


 その他に何がある? と言う意味も交えて浴びせる。
心なしか、私情も入ったかの様に語気が強くなっていた。




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「何の事かね?」

「上条当麻の有用性についてあれだけ語っていたお前が奴の近況を掴んでいない筈がない」

「ふむ、それもそうなんだけどね。彼には第三次世界大戦で大いにプランを崩してくれたからね、怒り心頭だよ」

「…………、誤魔化すな。俺の質問に答えてない」


 アレイスターの言葉に土御門がグッと拳を握り締める。
その言葉の言質を取ると、幻想殺し…………上条当麻に降り懸かる危険性を意味している。
しかし今はそんな言葉を求めているのではなく、上条がジャッジメントになるという事が何を意味するのかというのを把握しておきたかっただけ。
アレイスターが持つ滞空回線にて、上条の動向は常にアレイスターの手元に入っている筈だ。
ゆえに、知らないとは言わせないつもりだった。


「…………ふむ、例えばの話だが。私がそれの指揮を取っているとして、君に何の関係があるというのだ? 君も彼を利用するだけの立場なのだろう?」

「………………何を企んでいる?」

「さあね。別に、とでも言っておこうか」

「…………………………………………」


真意が掴めないアレイスターの言葉に土御門は押し黙ってしまった。
確かに、土御門は上条を利用はしていた。
戦争を起こさせない為に自身は奔走し、また彼も使う。
実に利害関係として使っていたと言っても過言ではない。

ただ、土御門としてはそれだけの関係で使ったつもりは全くない。
上条の力を信じ、人間性を信じ。
使う、利用するのではなく、上条を信頼して頼み込む。
周りから、上条からどう思われようが自身の心情的にそうしてきたつもりだった。

事実上条は、被害者を救い、加害者を救う。
そしてその果てに彼の元に大きな力が集まってきた。
上条勢力、というらしいのだが、それには勿論自分も入っている。

上条を苦しめ、仇なすものは排除するつもりで。

つまる所、土御門にとって上条は親友、ただそれだけの事だった。





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「お、上条」

「あ、黄泉川先生、どうもです。昨日はご馳走様でした」ヒョコヒョコ

「気にするなじゃん。それよりどうした? 足でも痛めたか?」

「いえ、画鋲を踏んじゃったみたいで…………」

「気をつけるじゃんよ」

「痛み入ります」


 長い髪の毛を揺らし、昼休みの廊下で足をかばう様にして歩く姿の上条に黄泉川が声を掛ける。
窮屈な服装はあまり好まない彼女はいつものジャージ姿だ。
実はアンチスキルの仕事の時に着る防護服も動きにくいという理由であまり着たくないみたいなのだが、そこは仕事上仕方なく着ている様だ。
スーツ着用義務があったとしても、彼女は恐らく着る事はしないだろう。


「そうそう、明日ジャッジメント試験の合否の報せが私のところに届くじゃん。明日放課後職員室に来てくれるか?」

「意外と早いっすね。了解です」

「それじゃ、午後はちゃんと授業受けるじゃんよ。あまり小萌を泣かせるなよ」

「はは、善処します」


教室内に入っていく上条を見届ける。

今回の件で上条を見る目が少し変わっていた。




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 以前は小萌が「手のかかる生徒なんですよー」と愚痴を吐かれてばかりだったが、あの試験の時の力を実際に見せられたなら上条に対する考え方を改めなくてはならない。
それに、何故アンチスキル上層部がまるで上条を推薦するかの様に通達を寄越したのか。
それは恐らく上条のあの力目当てなのだろうが、全容は分からない。

もっと、複雑な何かが動きはじめている、そんな気がした。











オイカミヤン ゴチソウサマデシタッテドウイウコトヤ
キノウノアノフタリトハマタベッケンカ? コリャダイニカイガッキュウサイバンヒラクヒツヨウガアリソウダニャー
トウトウ。ヨミカワセンセイマデオトシタノ?
カミジョウ、キサマハセイサイヲウケナキャナラナイヨウネ
オイオイナンノハナシダヨ
ウルセー! カミヤン、オマエハオレヲオコラセタ! クラエ! オンミョウマジュt
チョットマテツチミカド! パキーン
グハァッ!
ツ、ツッチードウシタンヤ!? イキナリチヲハイテタオレタデ!?
ダ、ダレカキュキュウシャー!


「…………………………………………」


そんな気がした、気の迷いでなければ。




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『おー、初春さん? いや、別に大した用事じゃないんだけどさ』

「…………えへ」ポワーン

『この前手伝ってもらったお礼に、今度ご飯でもどうかなーなんて電話してみたんだけどさ』

「…………えへへ」ポワポワ

『初春さん何が好きなの?』

「そ、それは………………カミジョウサンデス///」ドキドキ

『おー! そうなんだ、俺も結構好きだな。んじゃ今度、食べに行こうか』

「は、はいっドコデモツイテイキマス…………///」キュンキュン




「ごきげんよう…………って初春電話中でしたの?」

「!? ししししししししし白井さんいつからそこに!?」ピッ

「? 今来たばかりですの。それより電話はもういいんですの?」

「い、いつでも聞けますからいいですけど」ハラハラ

「?」ハテ


 ジャッジメント第一七七支部にて。
暇な時には聞いているあの時の録音した電話を聞いていると、背中越しに聞こえた黒子の声に狼狽して初春は慌てて切った。
初春の言葉がいまいち理解出来ないのか、頭に?マークを浮かべる黒子だったが気にしない事にした。
録音に返事をしている姿などとても人に見せられるものでもなく、追求して来ない黒子にホッと胸を撫で下ろしていた。




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「こんにちは。二人とも早いのね」

「あ、固法先輩こんにちは」

「こんにちはですの」


そんな中、初春と黒子と同じくジャッジメント第一七七支部所属の爆乳高校生、固法美偉が姿を現した。
眼鏡を掛けた、凛とした綺麗な顔立ちの初春と黒子の尊敬すべき先輩だ。
彼女はジャッジメントのこの支部に来るとまずは必ず飲むムサシノ牛乳を冷蔵庫から取り出すと、机に置いてある書類に目を通しはじめた。


「ん。やっぱり美味しいわね」


 その天晴れとも言える飲み姿を披露しながら本日の仕事を確認する。
今日は出張った仕事はどうやらなく、書類整理の日になりそうだ。


「この分だと今日は早く仕事が済みそうね」

「事件が起きなければ、ですが「prrrrrrrrr」うぇ」

「言ったそばからこれですね。まあ私はどっちにしろ情報整理ですから頑張るのは白井さんですけど」


早く仕事が終わるのを期待していた矢先に、第一七七支部に電話の音が響き渡る。
それを聞くや否や黒子はがっかりとした表情を見せて頂垂れた。




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「はい、第一七七支部です。……………………。はい、では向かわせます。白井さん、出動よ。能力者がまた暴れてるらしいわ。初春さん、データ受信来てる?」

「はい、今来ましたね」

「全く懲りない者共ですの…………初春、場所は?」

「はい。えっと…………第九学区の大通りのショッピングモール付近ですね」

「では行ってまいりますの」

「気をつけてね、白井さん」


その固法の言葉を聞くや否や、黒子は空間移動にて第一七七支部を後にした。
ジャッジメント第一七七支部は、大体固法指揮の元に動く。
実動部隊の黒子、諜報部隊の初春、指揮官固法といった具合にして様々な事件に対応している。
今だ幼さが抜けない女子供達ではあるのだが、実は他の支部よりも功績を上げていて、ジャッジメント上層部や周りの支部からの信頼も厚い。
故に仕事も回ってくる確率が高く、なかなかに気の休める事はない。
とはいえ、あの名門常盤台の空間移動のトップが向かったなら後は安心して帰りを待てばいいのだろう。


「それじゃ私達はちゃっちゃと書類を片付けちゃいましょうか」

「はいっ」


 カタカタとキーボードを鳴らし、ファックスで送られてきた書類を整理する。
普段はおっとりとした性格で、基本人に対する接し方は丁寧(黒子を除く)。
ただ仕事に対する姿勢は真剣で、やはり根は真面目の様だ。
そして処理能力も高く、彼女にかかれば一時間は掛かるであろう処理を彼女はものの数分で終わらせてしまう。
その凛とした姿は、普段の生活では中々お目にかかれないものなのであろう。




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──……………………そういえば。

カタン、とエンターキーを押してふうと一息ついた。
机に置かれた紅茶を口にすると、あの時の言葉を思い返していた。


『ジャッジメントとしての初春さんは凛々しくもあるよな』キリッ

「……………………。……………………///」


あの時の言葉が初春の脳裏に蘇った。
おまけに「可愛い」とも言われた事を思い出し、初春の顔は更に赤くなっていく。
胸の動悸が、速くなっていく。
あの時の頭を撫でてくれた感触が忘れられない。
優しい彼の手、温かかった彼の手。

──上条さん……………………会いたい、です。

あの優しさに触れたのなら、きっと誰だって堕ちてしまう。
それは同居しているらしいあの少女も。
そして恐らくだが、尊敬すべきレベル5の少女、友達である美琴も。
「不幸体質でよく事件に巻き込まれるんだよ」という言葉から、今まで成り行きで助けられただろう人達もきっとそう。

──でも、私なんかが……………………。

きっと、彼に好意を寄せる女の子達の人数は自分が想像する以上なのだろう。
そしてそれはそのどれもがレベルの高い女の子達で。
ちんちくりんな自分など、彼は見てくれはしないのだろうか。

そんな事を考えては、気分が沈んできた。




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彼に見合うには、もっと大人の女性じゃなければならないのだろうか。


「…………………………………………」

「どうしたの? 初春さん」


そんな中、固法から声が掛かった。


「いえ、別に………………あ」

「?」


初春の後ろで作業をしている固法に目をやると、初春は目を見張る。
彼女の視線は、ある部分。
ふくよかな膨らみが、遠慮もせずにその存在を主張していてそれは世の男性を恐らく魅了するものなのだろう。


「固法先輩」

「は、はい?」


初春のギラッとした目付きに一瞬たじろぐが、何とか返答をした。


「牛乳飲めば、いいんですか?」

「な、何が……………………?」

「牛乳飲めば、私もそこまでいけますか?」


ズイッと近寄ってきた初春に固法は面を食らったが、そこで初春が何を言いたいのかを理解した。




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彼女の視線が自分の胸に行っていることに気付くと、固法はニヤッと口角を吊り上げる。


「ははーん。さては好きな人でも出来た?」ニヤ

「えっ///」

「えっ」


 初春の顔がそこで一気に林檎の様に赤く染まった。
固法としては、ぶっちゃけただ単に狙ってもいないカマをかけただけなのだが、まさか釣れるとは思ってもなく初春のその反応に驚いていた。


「初春さん、もしかして」

「……………………///」

「好きな人でも、出来たの?」

「っ!!///」カァ-


ああこれは間違いない。
モジモジとしだした初春を見れば、確定的に明らかだ。
これはニヤニヤするしかないと見た固法は、自身の仕事も終わった為いじり倒す事にした。






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「どんな人なの? お相手は」

「あの………………高校生で…………」

「へえ。カッコイイの?」

「///」コクコク

「キスはしたの?」ニヤ

「!? そっそこまでまだしてません!!///」

「まだ? する予定はあるの?」ニヤニヤ

「っ!/// そ、それは…………その…………シタイデスケド……ツキアッテモナイデスシ…………///」

「あら、告白はいつするの?」

「こっこここここここ告白!?///」アワワ

「あら。好きなんでしょ?」

「………………ハイ///」

(何この子抱きしめたい)


目の前で身体全体を使って照れ隠しをする初春にキュンと来たのはまあいいだろう。
しかし相手は高校生か、と関心を寄せていた。
自分の知っている人なのだろうか。


「その人のお名前は?」

「上条、当麻さんです…………///」

「あら、よくこの支部でも名前上がってる人じゃない。会ったんだ?」

「はい///」


上条という名を聞いた事があった。
それはいつも、という訳でもないのだが事件現場に出くわす回数が多く、彼のおかげで解決した事件も割と多い。




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 その度に何故か黒子が不機嫌そうに報告をしてきたのを思い出した。
それをよく巻き込まれる人ねーなんて流していただけだったのだが、ここでその名前が上がった事に固法は関心を覚えた。


「でも……………………」


そこで初春が口を開く。
その様子がさっきとは違う、少し落ち込んだような声色に固法は何だろうと思いながら彼女の顔を見る。
その表情は、やはり沈んだ様な表情だった。


「自信が、ないんです…………」

「……………………」


その沈んだ表情から、彼女がどれだけ深く悩んでいるのかを悟る。
それと同時に、どれだけその彼を想っているのかを知った。
それはもはや彼しかいない、という様な表情。
彼以外、考えられないという思念。

固法にとって、初春は可愛い後輩だった。
黒子と喧嘩しながらも、垣間見える彼女の正義の元にこの仕事を選び、その思いを見てきたつもりだ。
こんな可愛い後輩が恐らく初めて出来たであろうその想い人へのその想い。
それに、かつての自分を当て嵌めながら固法は考えていた。


「上条さんには、もっと魅力的な人がいますし、そっちの方が合うんじゃないかと思うんです…………」

「……………………」




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「上条さんはすごい人で…………でも私なんか能力も変な能力だし、子供体型だし…………」

「ふーん………………でもさ」

「はい……………………」

「勝手に諦めて、満足しちゃうの?」

「!」

「諦めつくの? 何も伝えてないうちに」

「……………………」


初春は静かに首を横に振った。
同時に、彼女の頭に乗った花飾りも揺れる。
花のいい香りが漂うと、固法は言葉を続けた。


「あなたはあなたなりにいい所があると思うの。それは他の誰も持ってない、あなただけのいいところが。私はあなたはそれを誇ってもいいと思うの」

「……………………」

「好きなら好き。そうぶつけてみてからでも、考えるのは遅くないんじゃないかしら」

「……………………」

「そう言いたくても……………………言えない人もいるからね」

「固法先輩……………………」


彼女には、辛い思いをしてほしくない。
かつての自分がそうだったように、離れてしまってからではもう遅いのだ。
好きなのに好きだと言えない辛さ、それは一番固法が理解している事だった。





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「だから、笑顔でいなさい。あなたの一番の可愛さはやっぱり笑顔にあると思うから」

「ありがとう、ございます…………っ」


泣きそうになった初春の頭をキュッと抱きしめる。
彼女も固法の胸にしがみつき、そのままじっとしていた。
いつだって、笑顔でいてほしい。
可愛い後輩を泣かせてたまるもんですか。

そうして、時間は流れていった。













「…………固法先輩。やっぱり牛乳ですか? その柔らかさを得るためにはやっぱり牛乳なんですね?」

「え、初春さん?」

「いただきます!」グビグビ

「ちょ、私のムサシノ牛乳がああああああああああぁぁぁぁぁぁ」


それ以降、黒子が帰ってくるまでしばらくそんなドタバタが続いたらしーです。




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  キーンコーンカーンコーン。

 放課後を告げるチャイムが響き渡ると、一気に教室内は騒がしくなる。
それは恐らくこの教室内、学校内だけでは収まらず恐らく全国共通、いや世界共通なのだろう。
その開放感を味わうべく、上条の横の席を陣取る土御門が伸びをしていた。


「カミやん、この後ゲーセンでもいかないかにゃー?」

「いや、今日はパス。悪い、用事あるんだよ」

「また女の子か!? またなのかー!?」


この世の終わりの様に叫び声を響かせた青髪ピアスにツッコミチョップで黙らせ、鞄を持ってじゃあなと教室を後にする。

 今日は、昨日黄泉川が告げたジャッジメント試験合否の発表の日。
それを受け取る為、上条は職員室に向かった。
ぶっちゃけ今日の授業など頭に入ってこなかった。
落ちたらどうしよう、留年確定か、などと考えながら過ごしていたらあっという間に放課後になっていて、授業内容など頭に入っていなかった。

……………………元々、そうでなくとも頭に入らないのであろうがな。


「うるせえよ」


事実だろうが。





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 コンコン、とノックをする。
中からどうぞーという声がしたので意を決して入室すると、黄泉川と小萌が何やら話し合っているのが目に入った。

──ううむ、大丈夫かな?

自分の合否について話し合っているのだろうか。
何やら深刻そうに見えるし、またそうでないようにも見える。
だが二人の表情は真剣そのもの。
二人の発するオーラに、近付いてもいいものだろうかと少し思案するが、待っていても仕方がないだろう。
そそそと近付いてみた。




「だからーあそこの焼鳥はパサパサして美味しくないじゃんよ」

「何言ってるんですかー! 黄泉川先生の言うお寿司屋さんだってネタとシャリが合ってないじゃないですかー!」

「だあああああぁぁぁ」




その会話の内容に大袈裟にこけると、黄泉川と小萌の二人が上条の姿に気が付いた。


「か、上条ちゃん! だ、大丈夫ですか!?」

「お、上条。来たか」


転んだ上条に小萌がちょこちょこと駆け寄ると、上条の頭をキュッと抱きしめる。
悲しいかな、期待した弾力はなかった。





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「先生、何してんすか」

「えへ」

「と、とにかく! 離れて下さい!」

「……………………」ウル

「涙!?」

「小萌………………せめて場所を考えるじゃんよ…………」

「いやツッコミ所おかしいでしょ!?」

「まあまあ」


俺がずれてんのかな、と少し不安になった上条だが何となく気にしたら負けの様な気がしたので無理をして気にしない事にした。
体勢を整えると、黄泉川がちょい、と椅子に指を指し、上条は座る。
黄泉川が机から一枚の書類を取り出すと、それに目を通しはじめた。


「ど、どうっすかね…………?」

「…………………………………………」


黄泉川が目を通しているのは、恐らく合否の通知だろう。
小萌も様子を固唾を飲んで見守っているらしく、何も喋ったりはしなかった。




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 沈黙が漂う。聞こえるのは職員室にて業務をしている教師達の作業の音だけ。
上条の問いに、返ってくる言葉はない。
それはつまり、落第、を意味しているのであろうか。

──やっぱ……………………淡い期待だったか。

騒ぎ立てる心の臓を感づかれないように、冷静を装って黄泉川の顔を見てみる。
黄泉川も難しい顔をして、一枚の書類から目を離す事はなかった。

──これはもう、落ちたのだろう。


「……………………あの、その。俺、また来春目指しますから。はは、今年進級出来るかわかんないですけど。小萌先生もすいません。迷惑掛けちゃいましたね」

「ん? 何の話をしてるじゃん?」

「えっ、何のって……………………ジャッジメント試験、落ちたんですよね? 俺」

「ああ、その話? ってあれ」


ん? ん? どういうことだ?
自分の空気と黄泉川の空気がまるで違う。
まるで試験の事など二の次の様に話題から外していた黄泉川に、上条は首を捻った。


「ああ、そうか」


そこでふと納得した様な表情を見せた黄泉川。
悪い悪いなんて言いながら彼女が目にしていたプリントを机に放り投げるかのように置くと、上条の目にもその内容が飛び込んでくる。





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──あのプリントは……………………。

   店舗名       TEL       住所
鳥停『アホウドリ』 ○○○-△△△△  第七学区~
和食処『勝膳』   ○△○-△○××  第七学区~
洋食『オムスター』 ××○-☆☆☆☆  第七学区~
居酒屋『三源』   △△△-☆○×○  第八学区~
   :         :        :
   :         :        :
   :         :        :





「って何見てんだあんたああああああああぁぁぁっ!!??」



「あぁ?」ギロッ

「あ、何を見ようと個人の自由ですよね。どうぞどうぞ、他のものも何でも見てやって下さい」ペコリ ガクブル

「黄泉川先生、そろそろいいんじゃないですかー?」


上条の心からのツッコミを一睨みで黙らせた黄泉川に、小萌が苦笑いをして声を掛ける。
上条が少し可哀相と思ったのか、上条のシュンと丸まった背中にポンポンと手を当てて撫ではじめていた。





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「はは、悪い悪い上条。今小萌と、どこの飯屋に行くか相談してた所じゃんよ」

「はぁ、それはわかりますけど」

「あ、ちなみにそれに上条ちゃんも来るんですよー」

「……………………はい?」


いやいや、何で俺が?
というか、聞きたい話ではそれではないのだ。
試験とこの話は何も繋がってはいない。
合否を聞くまで実は気が気ではなく、早いとこ聞いておいて気を沈めておきたかった所だったのだが。
この二人のペースにまんまと乗せられ、ついつい話題のおいてけぼりをくらってしまい上条は少々面食らっていた。


「えへ、主賓には来て貰わないとですからー」

「そうじゃん。主役は上条だから」

「………………へ? それってどういう………………」


ここまできて、気付かないのは上条くらいなものだろう。まあそれは仕方がない。
だって上条だから、としか言いようがないし。










「「ジャッジメント試験、合格おめでとう(じゃん&なのですー)」」


「…………………………………………へっ?」


こうして本人も気付かない内に。
最弱であり最強でもある、幻想殺しを持つ風紀委員が誕生していた。



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ここまで!
もしかしたらこれから超展開とか厨二展開とかくるかも

言葉選びに無い頭を絞り出してるもんだから疲れちゃう、困っちゃうなのーぶひ

また次回!自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

乙!ちなみに靴に画鋲又は尖った金属の類を入れる悪戯は行為自体もそうだが
錆びていた場合シャレにならない事になる可能性もあるので絶対にしちゃいけない自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中

>>358
あっ、そうだね
ごめん注意書き書いておくべきだった

腐った釘とかの場合、錆の鉄イオンは細胞に対する毒性がめっちゃ強いみたいだから傷口から腐っていっちゃうってばっちゃが言ってた

絶対真似してはいけません!

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破傷風は怖いですよね。

乙です、一気に読ませて頂きました。
面白いんですけど、「ぶっちゃけ」が多くて読みづらいというか、変だなと感じました。
ぶっちゃけって話し言葉だと思うんですが。


あ、黄泉川→小萌は月詠センセとかじゃないっけ?

          ∠ニ、ヽ
         ___)ノ
       /: : : : : : `ー.、                                  _,. -―‐- 、

      ノ://: / /: : :ヽ: :ヽ                               /  ,.  \  \
  -=≦: /://、_レイ:/|: : ∧: :}                               { / >―-ヽ  ヽ
   ___ノ: :V: !: N__j/ j/!/_ V八                                 <j 《       ヽ  ハ
  ´ ̄フ: :{ !∧ | ´ ` 、 ´ `{┌ヽ                            / ∧7T ‐ァ 、__》_  i
   -イ: : ノ>V (⌒ヽ  人}、〃`_                           / レヘト芯レヘ斗<  <  |
    -=≦_,.イ} ≧=-'⌒ヽ=-{{〃⌒ヽ                     /∧_j\!ゞ'  弋り八「 ̄ ,ノ!
     〉 r'´_〉 / /、ー-、  r ヽ、\                         } ,j_ぅ}:::::ヽ' ___,. イ∧   ト、
  ___/ 冫  } { ト、 \  \U-、_〉〉′                    _/_/_/:::::::::::::::::::::::::::::/ ヽ\   \
. /    ヽ_// ヽ ! \ \  } 八´                     _{>::::::::::::::::::::|::/:::::::::〈{  | ヽ\    \
|     /  |   :ト、_,ヘ_ト、_メ、  ! \                    _,.≧:::::::::::::::::::j∧::「ヽ!::\__j :!  :}     \
|   ∠  レク  j_∧_j乂}トrゥ从ト、「 `                         />∧/jハ「レ'|7、::::::Y^V≧┤ ハ   __ヽ
八___/从ト〈〈} 八个‐″ ,ノ 、イ人! ヽ                      //j爪{厂,  {厂j/!:::::ミ、ノ< 〉   }___/   \
   \ _j∧_,厶イ人    _,  人   }                 //:〈 iニ八      j∧:::ハ「三V   /  ∧ ̄ ̄ヽ
    ≫=ヽ冫  }> 、 _´,.イ     ∧                / ∧ V三ニ ヽ ‐- ,. イ/Vニ /三ヽ  ∧_/ | i
   〃 /ヽ'   /ハ厂/   _,. <! ∧                   | :| ヽ∧三三三》´  く三三/三三ハ'  |   :! !
   {{ / | : \∧  \_,. イ  ∧ | : : |               | :|  |ヽ三三ニ《_ヽ /ヽ三/三三三:!  :ト、 :| |\
    冫 | : : : \\    ヽ{  !  :|\/!               \!  |三三三 ∧_{ }__,/ニ/∧三三ニ|  ∧\ | |\\_,
   /!  ! : : : : : >〉   八  |__ノ   |                ヽ. !三三三ニ 》 V /三=∧三ニ/、 :/ ト、j乂   ̄´
  /: {___ヽ__/V-'  __ /: :} ̄「: : \/!                      |三三ニO〃==V三三ニ!ヽ.∧ V   ! ヽ__ハ
  〈: : __/  ゝ--(_,ノ : /: : :ト、 : : : ∧        ,.≦≧=-、_     !三三三/ー――ヘ三三 !三三!、______} }>‐、
. /三ニヽ     ∧___/: : :∧ヽ : : ∧ |       〃三三ヽ三≧---|三三O《、_____|三 ∧三 ∧ \____,jノ-- 、 〉

/三三三\   /{ ヽ: : : : : : : : : :〉 \/  ハ         V三三三\三三ニ!三三ニ∧     /|三 | ∧ニ|三三三三三三ハ{ノ/
|三三三三 \{  \ \ ----/、    /: : }       V三三三三三ミ、:!三三三 |   / :!三 |三ヽ:!三三三三三三ニ}/
V三三三 ヽ三ヽ   !\__\/{: : : \_ /: :/〉        |三三三三三三∧三三三|  〈_ /三/三三|三三三三三三 /
. ヽ三三三=!三 |   |: : : // ヽ : : : / ̄ /-、        \三三三三ニ/三i三三三!    /ニ∧三/三三三三三三/
  |三三三=!三八  \/ : {   \_/ /三三\        \_三三三三:|三三三!    《ニ/三/三三三三三 >'´
  ヽ三三三}三三\__{: : :ヽ    /∠三三三三> 、       〉三三三ニ≧=ミ、》≦ニ≧V三三三三三三三/
  | \三 /ニV_三三三{\: : :\__/三三三三三}三三> 、     \三三三三三三《、r--、ニ》三三三三三三/
  |三≧≦三} `ー- ノニ/`ー―〈三三ニ=― /三三三ニヽ     \三三三三三 》 /三三三三三三三/
  |三三三三ハ    r1´三三/ | 「三三ニ /三三三/三}        |三三三三ニ/ {三三三三三三ニ/
  /三三三ニ/ニ》    冫ニ /三ニレィ´三三〈三三三/ニ/      |三三三ニ/ /∧三三三三三_/




ガチャリ。


「ただいまー」

「おかえりとうま」


 何となくまだ実感が湧かずにいる上条は、自室に戻ると居候に挨拶を返しながら机に鞄を置いた。
そして床に敷いてある座布団に座るや否や、鞄から一枚の紙を取り出し、何度目か分からないのだが再び目を通す。


『風紀委員認定証』


──右の者は来たる今日より、風紀委員試験を合格し、本日より風紀委員である事をここに表す──

堅苦しい縦書きの文章の右端に自分の名が書かれている事を再確認すると、見間違いではなかろうかと目を擦るのだが、やはりそこに書かれているのは自分の名だと言う事を視認した。


「とうま、何見てるの?」

「ん? ああ。これなんだけどな」

「なになに?」


 上条から差し出された一枚のプリントを受け取ると、インデックスもそれに目を通しはじめる。


「んーと、なになに? 風紀委員認定証? …………って事は」

「ん。そうやら俺、合格しちまったらしい」

「すごいじゃんとうま! やったね!」


素直に称賛するインデックスに上条も悪い気はしなく、サンキュとだけ返すとそのプリントを再び受け取った。
これで俺もジャッジメントか、と感慨深げに感傷に浸りながらプリントを机の上に置く。
インデックスも何処で聴いたのかは知らないが、楽しそうに「やった、やった♪」などと葉っぱを括り付けたブリーフ一枚だけの服装を着たあのグループの歌を口ずさみながらクルクルその場で回っていた。












「豪華なーご飯ー♪」

「……………………」

 お祝い的な意味で豪華なご飯が食べられるという期待で目をキラキラさせながら替え歌を歌っていたインデックスを見て、結局コイツはこれかと心の中でツッコんでおいた。


 上条当麻は右手を構えていた。

緊迫した緊張感から、彼の頬に汗が伝うが彼はそれを拭おうとはしない。
今目の前にあるそれは、圧倒的な存在感を醸し出しながらも微動だにしていない。
まるで上条と対峙しようが、動く必要がないとばかりにただ凛と構えているだけ。
今まで様々な能力者、魔術師達と戦ってきたが、それはまた異質の強さを誇り、上条にとってはなす術もなくただ睨むだけだ。

その横で心配そうに行方を見つめるインデックスも、苦虫を噛むだけだった。
自分の頭の中にある10万3000冊の魔導書をもってしても、それに対処できるものは何処にも載っていない。
考えを張り巡らせ、打開策を探ってもまるで意味のない事の様に思えてしまう。

相手は、魔術など何の関係もなしにこちらに大打撃を食らわせてくる。
術式、予備動作など一切なしの攻撃。
精神も闘志もズタボロに引き裂いてしまうその威力は甚大だ。
上条の右手をもってしても何の意味も無いだろう。


「くそ………………ここまでかよ………………!」


上条が悔しそうに表情を歪ませる。


 ジャッジメントになったというのに。
自分は何も守れないのか、何も救えないのか。
平和な世界を望む自分は、こんな所で諦めてしまう事になるのか。
右腕を切り飛ばされても、ロシアの海に投げ出されても。

それでも、自分はやってきたと言うのに。


「ダメだ、インデックス……………………!」

「とうま……………………っ」

「俺には出来ない……………………っ」

「……………………うぅ…………っ」

「次元が、違い過ぎたんだよ……………………」











「俺には……………………和牛ロース一人前2000円という高級すぎる幻想はぶち殺せねえんだよっ!!」

「と、とうまあああああああああああぁぁぁぁ!!」






「焼肉屋の前で何やってるじゃんよ……………………」

「ほっとけェ」


焼肉屋の価格設定が書かれた看板に罵倒を浴びせ、勝手に崩れ落ちた上条に対する黄泉川と一方通行の二人の言葉は酷く冷たいものだったという。


「ま、とにかく入った入った!」


「え、ちょ黄泉川先生」

「オイ、シスターも早く入れ。ンなとこで騒いでたら他の客に迷惑になンだろォが」

「う、うん」



 背中を押されてされるがままに焼肉屋に入店するのだが、先程見た高級そうな値段設定に上条は少したじろいでしまう。
こんな所に来れば、自分とインデックスの食べた分のお金など払える余裕もなく、尚且つ手持ちもない。
という事は黄泉川か、先程職員室で交わした会話から恐らく来ている小萌からお金を借りる事になりそうだ。
遠慮するにも、ここまで来たのだ、このまま引き返す訳にもいかない。


まあそもそも何故上条とインデックスがこの焼肉屋の前にいたのかというと、小萌から電話が掛かってきて呼び出されたに過ぎない。



『お祝いパーティーするから夕方六時半に第七学区の駅前の焼肉屋に来やがれなのですー。こなかったら明日の朝礼で上条ちゃんと先生の婚約かいk『あ、了解っす』ちょ』pi



それ以上聞くと何やら精神力が削られそうなので用件だけ聞くと、電話を切った。
しかしお祝いパーティとは、そういうのは週末等休みの日にやるもんとばかりに思っていたので少し驚いていたが、どうせ家に食料もなかった為に天の恵みと言っても過言ではなかったのかもしれない。
まあさすがにインデックスを置いて、という訳にもいかなかったのでこうして二人して来ていたのだ。


 玄関に入ると、まずはしっかりとした造りの下駄箱が目に入った。
どうやら靴を脱いで入るタイプの店舗だとわかると不安げに靴を脱ぎ、中に入っていく。


「いらっしゃいませー! 何名様ですかー?」

「あ、先に入ってるとこのだから大丈夫じゃんよ」

「かしこまりましたー!」


店員さんの威勢のいい声が掛かり、それにビクついてどうしようかと表情を引き攣らせると後ろから黄泉川の助け舟が入り、ホッと一安心していた。
後ろでは一方通行はズカズカ、インデックスがちょこちょこついてきてる様で、こういう場でインデックスが我を無くして騒ぎまくると思ったのだが、予想外に萎縮していて静にしていた。


「というか、何で一方通行がここに…………?」

「あァ? 焼肉屋に来るのに理由なンざいらねェだろ。肉ある処に俺ありだ」

「何だよそのお前理論」


一方通行なりのジョークに上条の心が少し楽になると、そこでようやく笑ってみせた。
何故一方通行がここにいるのかというと、恐らく黄泉川先生辺りに呼ばれたのだろうと予想は付く。
一方通行も祝ってくれてんのかなーなんて感慨深げに思いながら黄泉川についていくと、ある個室の前まで来ていた。

まあ彼がいてくれてよかった、と心底思うのはもう少し後の話になるのだが。


──わざわざ個室まで取ってくれてたのか……………………って、うん?


 個室の前まで来ると、中から黄色い話し声が聞こえる。
その様子から察するに、一人や二人ではない。
ですのーとか、ミサカはーなんて声が聞こえてきたのは気のせいだろうか。


「んじゃ、入るじゃんよ」


その声と共にドアが開けられ、中の風景が飛び込んでくる。
その個室の中に入るや否や。


「かっかかかかか上条さん!?」

「あっ上条ちゃん、お待ちしていたのですよー!」

「あら…………ふーん、あの子がね、初春さん」

「あ! 助けて! ってミサカはミサカは」

「ぐへ。お待ちになって下さいの~、ほらあなたのくろk……………………チッ、何で類人猿がここに…………」

「おー、やっとお出まし? ミサカくたびれたよー」

「あら、やっと来たのね、愛穂」


と様々な声が響き渡った。
その思っていた以上の面子に驚きながらぎこちなく入室する。
一部若干変なものも混じっていたが気にしない方がいいのだろう。

もしこの場に青ピがいたのなら彼は震えてこう言うのかもしれない。


『こ、ここは…………! と、桃源郷やー!』


と。

 集まる視線にたじろぎながら、上条は黄泉川に促され入室する。
先程の言葉を発した順番から確認すると、初春、小萌、固法、打ち止め、黒子、番外固体、後は白衣を着た黒髪セミロングの見た事のない女性の計六人。
それに自分ら四人を合わせると十人の大所帯となった。


「さ、上条。適当な所座るじゃんよ」

「は、はぁ」

「「!」」


黄泉川がそう言うと、曖昧な返事を返しながら何処に座ろうか、なんて思案顔をする。
その時、花と桃が特徴の約二名の肩が揺れた。


「かかかか、上条さんこっちへどどうぞ!」

「上条ちゃーん、上条ちゃんは先生の横に来るのですよー。それとも先生の膝の上に座りますかー?」

「いや小萌、それ無理だから。見た目的にも危ないから」

唐突に場に姿を現した上条の姿に少々フリーズしたが、これはチャンスだと言わんばかりに行動しはじめた初春と、最初からここが勝負時だと狙っていた小萌の声がほぼ同時に響く。
黄泉川は同僚の言った言葉に冷や汗を垂らしながらツッコミを入れたが、彼女には効果はあまり効いてない様子だった。


「おいツインテ。テメェ打ち止めに何してやがる」

「助けてぇ…………」

「そこの貴方! その子を私に渡して下さいですのおおおぉぉぉ!! その子の見た目と匂いからお姉様の血縁者だと言うのはカ・ク・テ・イ・テ・キに明らか! 私にお姉様分を補給させろですのおおおおおおぉぉぉ!!」

「うわぁ…………ヒーローさんの言った通りだったよ…………」

「大人っぽいお姉様も私の横に置いて……………………ぐへへへへ、夢の黒子要塞の完成ですのおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」

「救いようがないね、こりゃ」


──……………………うーん、カオス。


それをなるべく視界に入れない様にして上条が取った位置取りはというと。

「上条さんはこっちです!」ギュ

「ダメですー。あなたは上条ちゃんの何なんですかー?」ギュ

「わ、私は上条さんの…………ゴニョゴニョ…………と、とにかく! きょ、教師ならここは生徒に譲るべきです!」

「あー! ダメだよ、とうまは私と一緒の所に座るんだよ!」


適当に座ろうとした所、初春に左腕、小萌に右腕を掴まれ動けなくなってしまっていた。
その様子にインデックスも参戦すると言わんばかりに噛み付く直前の犬の様に歯を光らせ、上条の頭部にロックオンしていた。


「ちょ、初春さん、小萌先生! いで、腕がちぎれる!」

「だ、大丈夫ですか!? ほ、ほら、先生なら上条さんを離してあげてください!」グイ ドキドキ

「お断りですー。上条ちゃんは先生の可愛い生徒ですから、しっかりと大人の女性が着いていなきゃダメなのですよ」グイ

「……………………とうま。覚悟は出来てる? 辞世の句は詠み終わった?」ガチッ ガチッ



「だああああああもう! どうすりゃいいんだっつーの!」



この状況を打開する術があるのならすぐ早く迅速に早急に慌てず急いで上条さんに教えて下さい!


 その後なんだかんだで初春と小萌の二人の間に座る事で解決した。
インデックスが小萌の横でカチカチ歯を鳴らしていたのだが、食糧さえ確保出来れば収まってくれるだろう。
うん、それに賭けるしかない。


 注文を取りに来た店員に黄泉川が乱雑にメニューに指を指して選ぶ。
ありゃ明らかに適当に選んでるだろうな、と感想をもらしつつとりあえず初春に聞きたい事があったので話題を振ってみた。


「んで。初春さん達はどうしてここに?」

「あ、はい。私達もジャッジメントの仕事だと言われて呼び出されただけなんですよ。第一七七支部の全員で来いって言われた時にはおかしいな、とは思いましたけど」

「あそこの支部の全員と言うと……………………えと、あの人もジャッジメントさんだったりする?」


上条が視線を向けた先には、ニヤニヤして初春と上条のやり取りを見つめている固法の姿があった。
彼女が上条に対して軽く会釈をすると、上条もつられて会釈をし返す。
何と言うか、ボリューム的でパワフルな人だななんて失礼な印象を感じて、勝手に気まずさを感じて初春に視線を戻した。

「固法先輩ですね、そうですよ」

「はじめまして、固法美偉と言います。よろしくね」

「あ、はい。上条当麻です」


するとテーブル越しに固法から挨拶が飛んできたので上条もペコリと頭を下げると、固法はふーんとかへーなんて感嘆の声を漏らしながらジロジロ観察していた。


「あ、あの。なんでせうか」

「いやね、うちの支部でも上条くんの名前結構上がってたから、どんな人なのかなって思ってたけど」

「へ? そうなんですか?」

「あなた、しょっちゅう事件に顔出して人を助けてるって話じゃない。通報受けて向かったら「また終わってる」って白井さんがよく言ってたわ」

「いやあ、よく巻き込まれるだけなんですけどね」


本当によく街を歩いていたら事件に出くわすだけなので、別段大した事もしてないと上条は謙遜する。


 ただ巻き込まれたなら巻き込まれたで普通の人間ならばスルーか通報するかのどちらかなのだが、彼の場合はその身一つで全力で犯人を鎮圧しようとするのだがそれは単に彼の性格から来ているものであって、何も狙っている訳でもない。
ただ身体が動いていただけと彼は言う。



「おかげでうちも簡単に犯人の拘束も出来てる事も多々あるし、あなたには一度お礼を言っておいた方がよさそうね」

「いえ、別に本当にただ巻き込まれてるってだけですから」アセアセ

「上条ちゃんはうちの自慢の生徒さんなんですよー」

「……………………ふーん、なるほどねぇ」ニヤニヤ

「な、何ですか固法先輩」



 話を横で聞いていた小萌がまるで自分の事の様にエヘンと胸を張るのだが、イマイチ迫力に欠けている。
固法は初春に視線を移し、意味深な笑みを浮かべては上条と初春を見比べる。
なるほどなるほど、と何かを言う訳でもなく納得した様な表情を見せていた。




「お待たせしましたー!」




そこでお盆に人数分の飲み物を乗せた店員さんが勢いのいい声が響き渡り、初春にとってはある意味助かったと言えよう。


「んじゃ、全員飲み物持ったか?」

「持ったー! ってミサカはミサカは勢いよく返事をしてみたり!」



「乾杯といきたい所だけど、その前にここで重大発表があるじゃん!」

「「「「「おお?」」」」」



音頭を取った黄泉川が一旦仕切り直し、上条に視線を向ける。
相変わらず上条はキョトンとしていて、彼はここに来て殆どそんな反応しかしていないのだがそれはまあいいだろう。


「まずは上条! ジャッジメント試験、合格おめでとうじゃん!」


「「「おお!」」」ヤルジャネーカサンシタァ

「「「ほえ?」」」ウカッタンデスカ!? カミジョウサン!

「あ、ありがとうございます」


その黄泉川の言葉で、黄泉川家一家(+小萌&インデックス)は祝福、第一七七支部グループは驚きの表情というくっきりと反応が別れていたが黄泉川は気にせず先を続ける。


「そして! 何でこの第一七七支部の面子が呼ばれているかわかるじゃんよ?」


「「「「……………………もしかして」」」」


ああ、大体予想は付く。
口を揃えてもしやという言葉を発した上条と第一七七支部の三人は気付いていた。







「本日より! 上条当麻は第一七七支部配属とするじゃん!」


「やっぱか!」コノシブカ

「キャー!」キタワァ!

「ケッ……………………何であの類人猿が」ボソ

「あら。よろしくね」





「まーお堅い話はこれくらいにして…………今日は無礼講! 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎでもして英気を養うじゃん! 今日は全て一方通行が出してくれるって言うから遠慮は無用じゃん!」

「お、おい…………一方通行、い、いいのか…………?」

「あくせられーた……………………」

「あァ? 第一位の財力ナメてンのかァ? 寝て起きても入ってくる金額で十分賄えるわボケが。テメェは黙って普段食えねェ肉でも食ってその美味さに涙でも流してろォ。シスターも遠慮しねェで腹一杯になるまで食え……………………あっゴメン、やっぱお前は腹八分で」

「一方通行……………………お前って奴は!」ブワッ

「あなたかっこいいよ! 輝いてるよ! ってミサカはミサカは感動に打ちひしがれてみる!」






「まあとにかく! 今日は上条の試験合格を祝して…………」








「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」



一際大きな揃った声が個室内に響き、悦びと祝いの空気を作っていった。


「いやまさか一方通行がスポンサーだとは、な」

「あァ? 文句でもあンのかコラァ」

「いや、かなり嬉しいぞ! こんなに美味い焼肉なんて食ったの初めてだ」

「……………………へっ、そォかい」

「うっわ照れてるよこの白モヤシ……………………きんもー☆」

「黙れクソアマ。それよか焼肉屋に来て米ばっか食ってンじゃねェか三下とシスター。肉を食え肉を」

「だって……………………二人して染み付いたこの貧乏性が抜けなくて…………」

「これ、大丈夫? このお肉とうまの右手で消えたりしないよね?」

「おー、そげぶの出番だねってミサカはミサカはヒーローさんの目の前にお肉を持ってきてみる」


そんな温かい(?)会話が流れるこの異質の面子が集まった個室。


 実際上条もインデックスも感涙を流しながらご飯を掻き込んでいるのを見てほぼ全員がそれに冷や汗を垂らして見ていたり。


「美味しいんだよ! 美味しいんだよ!」ズババババッ

「おぉ……………………口の中で美味さと言う名の聖人が暴れてるぜ…………」


そんな黄泉川家一家の会話の内容と上条家のお涙頂戴の食事情に第一七七支部の三人娘は言葉を失っていたり。


「ってかあの人って第一位だったのね……………………」

「あああああぁぁあの腐れ類人猿め、小さなお姉様にあーんしてもらえるなんて羨ましけしからん事を…………」

「か、上条さん………………それなら私がマイニチゴハンヲツクリニイッテモ…………///」ゴニョゴニョ

「でもこれからジャッジメントの仕事、彼と一緒って事になるのね」

「大大大大大大大歓迎です!」キュピーン

「はっ! そうでしたの! グフフ、先輩権限使ってさも奴隷かの様にコキ使ってやるんですの…………」

「そんな事したら白井さんの秘密の動画ファイル、御坂さんに送り付けちゃいますよ?」

「う、初春! それはやめてくださいですのおおおおおぉぉぉ」グオオオォォォ









「な、なんかあの人が叫ぶと身構えちゃうねってミサカはミサカは震えてみる」

「」ピク

「う、うん…………下手すりゃミサカより歪んでるよ、ありゃ」

「」ピクピク

「気ィ付けろォ。何かあったらすぐ俺を呼べ。いいな」

「」


また大人三人集は三人で固まって酒を飲み交わしていたり。まあそちらは明日も学校やらある為に控え目ではあるのだが。


「明日も学校なので、今日は少なめなのですー」

「とはいっても、もう生ビール五杯目じゃんよ」

「ふふ、私は別に酔い潰れても構わないんだけどね。明日も別にやる事ないし」

「桔梗…………たまには家事とかしてくれたっていいじゃんか…………」

「私はね、結局甘いのよ。他人にも、自分にも、ね」

「あ、上条ちゃーん、ちょっとこっちに来やがれなのですー」



などなど、まあ何だかんだ言い合いながら、それぞれ中々にこないこの機会を楽しんでいる様であった。



「はいはい、なんでございましょう?」


 小萌からの召集に応じ、上条は教師陣で固まっていたテーブルの端の方に移動した。
何故か黄泉川家一家にうまく肉を焼けるメンバーがいなかった為、自分が焼肉奉行として肉を焼く係だったのだが何故かやる気まんまんになっていた黒子が代わってくれるとの事だったのでトングを渡して後を託していた。


「あなたが上条くんね」

「あ、はい、そうです。挨拶が遅れましたね、上条当麻です」

「私は芳川桔梗。好きな様に呼んでくれて構わないわ」


そういえばここに来て、まだ挨拶を交わしてなかったなと思いながら頭をちょこんと下げる。
大人びた落ち着きからして年上なのだろうが、黄泉川家の関係者なのだろうか。


「了解っす。して、自分は何故ここに」


と言いかけた所で、芳川が再びその口を開いた。


「見た目は、随分歳相応の子なのね」

「へ?」


自分の顔をじっと見つめて芳川は言う。
うわー綺麗な人だなという感想を漏らしつつ、恥ずかしげにポリポリと頬をかいた。
異性と目を合わせ続けるなんていうこっぱずかしいのは出来ない上条は勿論とっくに視線を彼女から外していた。


「あなたが、一方通行とシスターズを救ってくれたのね」

「…………え…………」


その言葉と共に、再び彼女の方に視線を向ける。
そのワードに引っ掛かりを覚え、上条は少し身構える。

 言葉に出て来たシスターズ。
そしてそれを何故この人が知っている。
妹達の事については、数少ない人しか知らない筈だ。


「芳川さん……………………あなたは」

「そうね……………………研究者、だったとでも言っておこうかしら」


キッと上条の表情が険しくなる。

研究者、という事は。
この芳川は、あの実験────絶対能力進化実験に関わった研究者だというのか。


「まさか…………………………っ」

「ええ。多分あなたが考えている事で、間違ってないわ」


訳のわからない私利私欲だけで研究の世界に陶酔し。
人の命など何も考えずに勝手に造り出し、勝手に殺し。
人を人などと思わないあのクソッタレの実験。

それに、関わっていたというのか。

あのクソッタレな実験で、どれだけの人間の心を傷付けたのか。
クローンの素体となったオリジナルの美琴は勿論、それによって生み出された妹達も、そして乗せられた一方通行も。


 この場で糾弾したい気持ちもあったのだが、ここには無関係の人間が多数いる。
勿論、こんな話など聞かせる訳にもいかない。
沸き上がる衝動をグッと堪え、いつしか握っていた拳から力を抜いた。


「……………………あれ」


でもさっきこの人は何て言った?


『あなたが、一方通行と妹達を救ってくれたのね』


その言葉から察するに、芳川は妹達と一方通行の事を…………?


「ヒーローさん」


すると、後ろから打ち止めの声が掛かる。
上条がそれに振り向くと、一方通行と番外個体も上条達の様子を伺っているみたいだった。


「ヨシカワを、いじめないであげてね。ヨシカワも、あの人と同じでミサカ達を、あの人の事も守ってくれたんだから」


芳川の腕を掴み上条にそう諭す。
打ち止めの顔は、とても優しい顔をしていた。
まるで芳川が大切だと言わんばかりに、逆に自分が守ると言う風に。


「……………………そっか」


上条はそれだけを呟くと、半ば立ち上がりそうになっていた体勢を戻す。
自分の表情から、険しいものが取れていくのがわかった。


──この人も、妹達を大切に思ってくれてるんだな。


打ち止めの反応を見れば、わかりきった事だった。



 左手で打ち止めの頭を撫で、右手の指で目元を拭う芳川を見て上条は心底猛省した。
研究者という肩書だけで勝手に加害者扱いをして、下手をすればそこで罵倒していたかもしれない。
拳さえもいれていたのかもしれない。

短気な自分に少し嫌悪感を催し、それを押し殺して芳川に再び目線を向ける。



「その、すみませんでした」

「いえ、いいのよ。あなたもあの子達を大切に思ってるんだって分かったから。助けて終わり、とかだったら逆に私が怒っていたのかも」



苦笑いを浮かべる。
でもこれで、本当にこの人が妹達を大切に思っているのがわかって少し嬉しく感じた自分は現金な男なのかも知れない。




「これからも、あの子達と仲良くしてあげてね」

「それは勿論です。こっちからお願いしたいくらいですから」




あんないいやつらをぞんざいには出来やしまい。
お互い助け、助けられて。
正に『人間』としての理想の形なのではないか。
もう一度、自身にも刻み込むように深く頷いた。


「なら仲直りの握手! ってミサカはミサカは二人の手を握ってみたり!」

「な、仲直りって……………………」

「ふふ、別に喧嘩した訳じゃないのよ?」


打ち止めが楽しそうに二人の手を合わせる。
それに応える様に、上条は芳川の手を握った。












「あー! ダメですよ上条ちゃん! 先生以外の他の人に手を出しちゃ先生怒ってぶん殴るぞこらですよー!」

「もぅ………………無理、りゃんよ………………」

「えいっ!」

「ぬお!? ちょ、小萌先s」

「キャッ!///」


その言葉と共に、酔い潰れた黄泉川を余所に小萌が上条の横から飛び掛かり、上条が後ろに倒れ込む。
その勢いと意外な重圧に咄嗟に身体を捻って腕で身体を支えようと床に回したのだが、上条のすぐ後ろで実は聞き耳を立てていた初春を押し倒すかの様に縺れて倒れ込む事になった。


「あわ、あわわわわわわわわわわ……………………///」


初春の胸に顔を埋めるかの様な状態の上条に、初春はあわわわわと目を回すだけ。


「い、意外と柔らかい感触……………………!」


「へ、へっ?///」


とうとうその言葉に顔をポンッと音を立てて赤くした初春。
何故か無意識の内に上条の頭に腕を回していた。うん、無意識で。


「不純異性交遊発見ですの…………………………」



「え、ちょ、白井s



「覚悟しやがれですのこの腐れ類人猿が!!」



「ぐほっ!!??」



空間移動にて上条の真上に現れ、身体にエルボーを叩き込み意識を刈り取った黒子。
全てが終わった時、彼女は右手を上に突き上げていた。
こういう時彼女は決まってこう言うだろう。









「「「ジャッジメントですの!」」」

「そこ! 第一位さん! 大きな妹さん! 固法先輩まで人の台詞取らないで下さいましぃっ!!」

>>360
指摘感謝!

>>362
あ、そうだったっけ
まあ時間経って仲良くなったって脳内補完おねしゃす

やっぱ見返すと所々誤字脱字、文章の変なところもあるなー

また次回!

>>370
つーか計算合ってねーじゃねーかよ死ね


この話はけっこう長編なのかな?


「あ、そういえば門限…………」

「それなら黄泉川先生が皆さんの寮に連絡しておいてくれたらしいですよー」

「そうなんですか。なら大丈夫ですね」


 思い出したように呟く初春に、潰れた黄泉川に視線を向けながら小萌が答えた。

彼女も黄泉川以上に飲んでいた筈なのにケロッとしている様子で、その小さな身体の神秘のポテンシャルにこれ以上触れたら何か危険そうな匂いがしたのでそこには触れない事にしておく。
教え子の前なので、さすがに喫煙は控えているらしく一応教師としての面目は守れている様だった。

また黄泉川が寝ている反対の壁側の方では、打ち止めと番外個体の電撃責めで黒焦げになった黒子が沈んでおり、何処から持ってきたのかは知らないが木の枝で少々ビクビクしながらツンツンと突っついてる打ち止めの様子があった。


「…………ったく、白井の奴…………」


脇腹を押さえる様にして起き上がる上条。
いまだダメージが残っているのか、少々痛そうに顔を歪めていた。


「あっ、上条さん大丈夫ですか?」

「おー、大丈夫。ありがとう初春さん」

「い、いえ……………………///」


その様子にムッとした表情を見せた小萌と、ニヤニヤしてその行方を見守る固法。
固法は沈んだ黒子に代わって焼肉を焼いており、打ち止めに「面倒見のいいお母さんみたいかも」などと言われてピシッと石化していた。



「」ガツガツガツガツ

「これがブラックホール…………!」

「こンなに食ってンのに身体はちっとも成長しねェンだな…………」

「不思議ね。彼女の身体について研究してみたいわ」

「いつかは成長するんだよ! 主に胸とか胸とか! 失礼しちゃうかも!」

「へェへェ。悪ゥござンした」


固法の焼く肉を片っ端から片付けていくインデックスに一同は絶句している様で、一方通行はその食べっぷりを見て上条に少々同情していた。






「インデックス。腹八分にしとけよー」


「まだお腹四分くらいかも!」ガツガツ


「「「「「」」」」」


「上条さんと一方通行さんって仲良いですよね」

「あァ? 花子は何言ってやがンですかァ?」

「は、花子って何ですか! 違います! 初春飾利です!」

「ぶは! は、花子……………………」プルプル

「ぷっ! な、ナイスネーミング…………」プルプル

「か、上条さんも固法先輩も笑わないで下さい!///」


 バージョンアップされた呼び名にさすがに耐え切れず上条と固法は吹いてしまっていた。
一方、変なあだ名を付けられた本人としては笑い話ではないようで、真っ赤な顔をして反論していた。
しかし彼女の可愛らしい容姿が相俟って、迫力は悲しいほどなかったりする。


「でもこの二人が仲良くしてるの見ると微笑ましいよねってミサカはミサカは言ってみる!」



「性格とか、真逆なのにね。基本プラス思考のヒーローさんと、基本マイナス思考のあの人と。一緒に生活してるとこっちまで気が滅入るよ…………まあミサカはそっちの方が気楽なんだけどさ」



「「い、一緒に生活!?」」

「ど、どういう事なんですの!?」



「「「「「「あ、起きた」」」」」」



 ジャッジメント二人娘が告げられた驚愕事実に驚いていると、残りの一人もそれにハッとしながら問い詰める。
一方通行が番外個体にジト目を送ると、番外個体も口が滑ったと言わんばかりに少々気まずそうな表情を見せた。


「うん。ミサカとあの人とわーs「お姉ちゃん、ね」とこのヨシカワとあそこのヨミカワの五人は家族なんだよってミサカはミサカは教えてみたり!」

「へ、へー…………そ、そうなの? アホ毛ちゃん」

「まあ俺もこの前初めて知ったんだけどなー」


 打ち止めの喋っている最中におかしな単語を聞かれない様に芳川が言葉を挟み込む様に入れる。
上条としても一方通行が黄泉川家で暮らしてるなんて事実はあのジャッジメント試験の時に初めて聞いたばかりで、いまだに彼らがどんな感じで生活をしているのかは想像についていない様だ。


「どういう生活してんのか分からんけど、黄泉川先生と芳川さんの大人二人がいるのならまあ安心か」

「俺をガキ扱いしてンじゃねェよ。それにだ」

「ん?」

「こいつが一番堕落した生活送ってやがンから、ガキ共の見本になりゃしn <スパーン!! 「はい、そこまでね」痛ェだろクソ!」

「すげぇ…………芳川さんのあのハリセン、幻想殺し宿ってんのかな?」

「あの人は家族には反射しない様にしてくれてるんだよってミサカはミサカは伝えてみる!」

「へー、そうなのか。へへ、何かいいな、そういうの。俺も触れられれば仲間と見てもらえんのかな?」

「テメェ相手だと反射効かねェじゃねェか」

「えーと……………………どういう事なんですの…………?」

「私もわかりません…………」


どこから持ってきたのか知らないが、ハリセンを一方通行の頭に叩き込む芳川を見て上条が感嘆の声を漏らす。
内輪だけの様な会話内容にジャッジメント三人娘はついていけない様で、ただその様子を見ているしか出来なかった。
ただ、とても仲がいい。
それだけは分かった。


「でも、ヒーローさんって…………何?」

「ヒーローさんはヒーローさんだよってミサカはミサカは答えてあげてみる!」

「うーん…………ヒーローってのやめてほしいんだよなぁ」


固法の言葉に打ち止めが答えていると、上条が苦笑いして呟いていた。

 上条としては特に大した事はしていないし、別に崇められたくもない。
救いを求める者を助けていたらこうなった、とだけ言う。それは別に偉い事でもないし、当たり前の事で。
そこで繋がった絆を大切にしたい気持ちの面でも、そんな英雄扱いされても上条としては一歩引いてしまう所であったりする。


──上条さん達の間で、何があったんでしょうか……………………。


第一位に君臨する一方通行との仲。
余りにも友達に似過ぎている打ち止めと番外個体。
そして上条の事をヒーローと呼ぶ彼女達。

やはり上条の事を何でも知りたい初春としては、とても気になる所。
しかし何だか特別そうなその事情に、何となく聞けずにいるのはどうしてだろうか。


「えー、じゃあ何て呼べばいいの? ってミサカはミサカは考えてみる!」

「上条でも当麻でも。名前なら何でもいいぞ」

「うーんと。むむむ……………………」

「三下」

「それはやめて!」アクセラレータデジュウブン

「上条さン」

「……………………何か背中が痒くなった」

「とォま」

「おい       おい。鳥肌立ったぞ、どうしてくれる」ゾワ

「ミサカもだよ……………………」ゾワワ

「俺もだァ……………………言うンじゃなかったぜェ…………」ゾワワァ




「うーん、これかな?     お兄ちゃん! ってミサカはミサカは「ぶぼっ!」」




「白井が鼻血を出して倒れた!?」

「打ち止めァ! 俺の後ろに隠れろォ!」

「み、ミサカも隠れさせてもらうよ」

「その扱いひど過ぎですの!」

「ホルモン美味しいかも!」

「あなたはまだ食べるのね…………っていうか白井さん、鼻血出しながらだと説得力ないわよ」


 そんな会話を聞き流しながら上条の横顔を見つめる。
力強い目と、比較的整った鼻。
形のいい口と、シュッとした顎。
すぐ目の前にいるのに、自分の知らない上条の顔、繋がりを見せられて。

ちょっぴり、寂しく思っていたのかもしれない。


「う、初春さん? あの、近いんですが」

「はっ!!///」


考え事をしながらじっと見つめていると、いつの間にか近寄っている事に気付いてハッと顔を赤くする。
目と鼻のすぐ先に想い人の顔がある事に初春は動転し、すぐ離れればよかったのかもしれないが胸の動悸の激しさからなかなかそれをするのは困難を極めた。


(打ち止めァ)

(? どうしたの? ってミサカはミサカは耳打ちしてくるあなたにドキンとして近寄ってみたり)

(三下の背中、思いっ切り押してやれェ)ニヤニヤ

(それ面白そうじゃん。あなたもなかなかに粋な事仕掛けるね)ニヤニヤ

(わかった! ってミサカはミサカはいざ突撃ぃ!!)




「どーん!!」



「ぬお!?」

「ひゃ────────────




上条の背中に思い切りタックルする打ち止め。
打ち止めも全力で突っ込んでいった為、上条を倒すには十分の力が働き。





「「」」





二人して縺れ込んで倒れたのは必然の事。

ただその際に起きた出来事は偶然の事だった。


「「「「「おお!?」」」」」

「「「」」」


 その様子を見て歓声を上げた一方通行、打ち止め、番外個体、芳川、固法。
また絶句したのは小萌、インデックス、黒子。
いや絶句した中に、上条と初春の二名も含まれていた。


「う、初春さん………………ごごごごごごごごめんなさいぃっ!!」

「……………ぁ……………ぃ………………///」


倒れた体勢から勢いよく跳ね上がり、空中で土下座の姿勢を作ってそのまま着地。
そして床にガンガンと頭を打ち付ける。
この間実に一秒も掛かっていない。


速攻再起動した上条に対して、初春はその身を起こす事はしたのだがそれ以外の事は出来やしない。
いまだ触れた感触が肌に残り、それが初春コンピューターのウィルスとしてCPUを蝕んでおり。
心のハードディスクをその感触だけで空き容量を全て埋め尽くしてしまったみたいに動きが鈍くなっていた。


「三下ァ。やっちまったか? やっちまったのかァ?」ケラケラ

「●RECしたんだけど、これMNWにうpしたらどうなっちゃうのかな? ぎゃは」

「でもいいなぁって指をくわえてあなたの顔を見てみる」

「や、やっちまったってなんだよ! か、上条さんは無実だ!」


 言われたい放題の上条は反論するので精一杯で、彼も先程感じた柔らかい感触にどぎまぎしていた。
当然だろう、女の子とあんな事した経験などないのだ。
彼も正常な思考に戻るまでもうちょっと時間が掛かるのかもしれない。


「か~み~じょ~う~ちゃ~ん~」

「とうまあああああああぁぁぁぁぁぁぁ?」

「初春!? 大丈夫なんですの? しっかりしなさいな!」



ゴゴゴゴゴゴゴゴという音が聞こえそうな程どす黒いオーラを発して上条に近付く小萌とインデックス。
その後ろには夜叉の様な「何か」が上条に見えた。



「ちょ、待て! こ、これは無実だ! 無実なんだよおおおぉぉぉ!!」


「女の子を押し倒しておいて、それはないでしょううううぅぅぅぅぅ?」


「確かな罪があるのに認めないって、主が聞いたらどう思うのかなあああああぁぁぁぁぁぁ? 救いも何もなくなると思うかもおおおおおおぉぉぉぉ?」



「三下ァ。花子の唇の感触はどォだったい?」ニヤニヤ

「それはもう柔らかく………………って違う! 一方通行! 打ち止めをけしかけたのってお前だろ!」

「はァ? あれくらいのつっぱりも耐え切れないお前が弱かったンじゃねェのかァ?」

「どすこーい! ってミサカはミサカはおすもうさんの真似してみる!」

「小さいお姉様! 今度は黒子と取っ組み合「「えい☆」」あbbbbbbbbbb」ビリビリ


ダメだ。この空気だと本当に犯罪者扱いされてしまう!
とは言え、さっきの柔らかい感触がまだ残っているのだが先に初春に気を遣わなければならないだろう。


「だ、大丈夫? 初春、さん……」


「は、はぃ……………………///」



お互いの顔など見れやしまい。
顔を真っ赤にして俯くだけしか出来ず、上条も初春も正座のままじっと下を見つめていた。



「ンで。初キスはレモンの味だったかァ? 花子ォ」






「いえ……………………唇には、触れませんでしたので……………………フレタカッタデスケド///」






「「「「「「「「えっ」」」」」」」」





しかしまあ上条にとってはセーフと言えただろう。
何せ触れたのは、お互いの口の横僅か五センチ程の頬と唇の間の辺りだったのだから。

今日はここまで

美琴ハブにしてる訳じゃないんだよおおぉぉぉ
美琴好きで前に上琴も書いた琴あるし

>>393
うーん、結構長くなりそうかな
ダラダラやるのもあれなんだけど、それでも見てくれると嬉しいっす

>>415
可愛く言ったつもりなんだろうからほっといてやれよww

それはそれとして>>1
素直なセロリとか乙女な女性陣がいい感じですな。

ところで気になったことが。
なにげに第三次大戦後なので新約なはずなんだが、美琴のスタンスが序盤レベルに戻ってるのはなぜだろう?
まぁ美琴は、素直になるより素直になれなくてすれ違ったり報われなかったりするモヤモヤ担当が一番輝くという定説に従ってるだけなのかも知れず、私が突っ込むべきところじゃないのだろうけれど。


「「「チッ」」」

「何故に舌打ち!?」


 一方通行、番外個体、打ち止めの三人は実は触れ合ったのが唇ではないという初春の言葉を聞くと苛立った様に揃って舌打ちをしていた。
顔を赤くしながらも何とかツッコミをいれる上条なのだが、先程の唇と横数cmに触れた柔らかい感触が忘れられない。
当の初春は顔を真っ赤にして俯くだけだし、何かを期待して言ってみても反応薄なのだろうと上条はその身を縮めていた。


「まァ、ごちそうさン」

「初々しい感じがまたソソるものがあるよね☆」

「この初々しさ、甘酸っぱい! てミサカはミサカはニヤニヤが隠せなかったり」


外野陣は本当に愉しんでる様子。

仕組まれた本人達───初春はどう思っているのかは知らないが、上条はそれどころではなかった。
危うくいたいけな少女のファーストキスを事故とはいえ奪ってしまう所だったのだから、それはもう本気で「危なかった」という感想が心の中で漏れる。
心情的にはセーフとばかりに両手を横に広げていたい気分であった。

ここで間違いを犯してしまえば空間移動能力者の制裁が飛んで来る事は目に見えていて、下手をすれば「ジャッジメントですの!」という言葉を聞きながら連行される事になりかねない。

───つーか俺もジャッジメントじゃねえか!

ハッと気付き顔を青ざめる。
ジャッジメント試験合格を告げられた日に捕まる事になるとは前代未聞過ぎる。
翌朝の新聞の見出しには

『新人風紀委員、浮かれて淫行』

などと書かれて目線を入れられた少年Kの顔写真が…………ここまで想像して、上条は息をヒュッと慣らせた。

───シャレになんねえよ……………………。


「♪///」

「あれ、意外と怒ってない………………………………?」


 それから少し時間が経ち、再起動した初春は食後のデザートを満喫していた。
マンゴー味のアイスクリームを美味しそうに頬張る彼女は何だかとても幸せそうで、「ああそれで機嫌直してくれたのかな」とホッと一息ついていた。


「「「「「……………………鈍感」」」」」

「「むぐぐ……………………」」

「な、何だよ…………そしてインデックスと小萌先生は何でそんなに機嫌が悪そうなのでせうか」

「とうまはやっぱりとうまなんだよ」

「店員さん! ビールの追加注文をお願いするです! こうなったらヤケ飲みなのです!」


妙に膨れている右隣に座るインデックスと小萌はまあよしとして、初春の機嫌が直ってくれたという事で上条も随分気楽になっていた。
明日から彼女と一緒に仕事をしていく上で、いきなり不仲になったら上条としては持たないのだろう。

主に胃が。


「美味しいですー♪」


左隣を見る。
本当に美味しそうにアイスを頬張る彼女がそこにはいた。
鮮やかなオレンジ色のシャーベットがスプーンを介して彼女の口に次々と放りこまれていく。
その、形のいい小さな口、に。

小さなピンク色の唇が、ほんの少し開く。


「…………………………………………」


───やべ、何意識してんだ俺!


先程起きた出来事からか、彼女のそれにどうしても注目してしまう。
食べた後は、本当に幸せそうにその唇がほんの少し横に広がっている。

見ているこっちが幸せにしてくれそうな、そんな笑顔。


「あ、あの……………そ、そんなに見られると恥ずかしい、です………///」

「あ、あぁ………………ご、ごめん」


するとそんな自分の視線に気付いた初春が、こちらの方を向く。
恥ずかしそうにはにかんで、ほんのり頬を上気させていた。


───あれ………………何でだろう、初春さんがより可愛く見えて……………………って俺はまた何を考えてんだよこのバカヤロー!
   さっきあんな事があったんだ、警戒してるに決まってんじゃねーか!


何故か発生している胸の動悸を何とか押さえながら、上条は彼女から視線を外した。
何だか顔が熱くなっていた気がしたが、それは気のせいなのだろうか。


一旦落ち着こう、まだ慌てる様な時間じゃない。


───ってこれは違う! 違うって何が!?
   まだ慌てる様な時間じゃないって何だよ!? この先に何か続くフラグなのかよ!
   だあああああああ何だよ俺の思考!
   落ち着け、落ち着くんだ。クールダウンだ。それ、ひっひっふー、ひっひっふー。


「花子ォ。三下のヤローはそれが食べてみてェンじゃねェか?」ニヤニヤ

「えっ」

「………………………………!」

「そこに気付くとは………………あなたって天才? ってミサカはミサカはあなたの髪を撫でてみる!」ピョンピョン

「跳ねンな、はしゃぐな。みっともねェ」

「「……………………」」ギロッ


その言葉を聞いた瞬間、初春の顔が一瞬何かに気付いた様な真剣な表情になり、次第に戻っていく。
上条はその一方通行が言った事に怪訝に思ったが、左隣からくるその初春の様子とと右隣からくる小萌とインデックスの様子にタジタジになりろくに反応出来なかった。


「か、上条さん。食べてみたいですか…………?」

「え、う、うん? んー、まあ食べてみたい、かな?」


スプーンで一掬いした所で初春の動きが止まり、上条に確認する。
上条もそんな言葉が飛んで来るとは思っていなかったのでしどろもどろながらも気付けばそんな返事をしていた。
とはいえアイスに別に興味があった訳ではない。
上条が見ていたのは、アイスよりも引き付ける『何か』なのだ。


「か、上条さん!」

「ん?」

「そ、その。は、はい、あーん……………………」///

「」


おずおずと差し出されたそれ。
それには初春が食べていたアイスが乗っけられており、緊張からか上下左右に小刻みに振動を起こしていた。


「……………………えと」


「ぜ、是非。食べてください……………………///」


「「「「「Oh……………………」」」」」

「と、とうま! それはダメなんd「お肉焼けたよってミサカはミサカはシスターさんの目の前にお肉を」美味しいんだよ!」ガブガブ

「か、上条ちゃん! だ、ダメでs「ほらァ、飲み足りねェンだろ?」ちょ、グビグビ」

「ヒーローさん、もらっちゃいなよ。ほら、早くしないとアイス溶けちゃうよ?」

「初春………………結構積極的なんですのね」コリャビックリ


周りから囃し立てる声が響く。
というか、それがより上条の動きを鈍くさせているのだがこの空気はもはや満場一致で「食っちまえ」のムードだ。
不満を唱える二人は取り敢えず打ち止めと一方通行が黙らせ、後は上条がそれを頬張るだけという空気をお膳立てしていた。


「は、早くしないとアイスが……………………」


どうする、どうする。
ここは甘んじてあーんで食べるか。
しかし初春が持っているのは彼女が使っていたスプーンで。

それは間接キスというものになるんじゃないだろうか。

別に男はそういうのは気にしないと思うのだが、相手は思春期真っ盛りの女の子で。
それに先程の出来事も加えて、どうするべきかと考える。


こんなシチュエーションなど経験した事はない。
記憶喪失前の自分ならもしかしたら、とは思うが今の上条からしてみれば全くの初体験の事態だ。

しかし。


「い、いや、そういうのはですね、初春さん……………………」

「上条さんは嫌、なんですか……………………?」


少し悲しそうにした初春の表情を見て、上条は動いていた。




「……………………ん」


「あ……………………///」




「「「「「いったあああああああああ!!」」」」」







「とうまのばかー!」ガツガツ

「上条ちゃん明日はすけすけみるみるですぅ!」グビグビ


言っておこう。

そのアイスは今まで食べたそれの中でも一番甘かった、と。


「お、おいしいですか?///」

「おーこれがマンゴーアイスってやつなのか。結構美味いな、これ。ありがとう初春さん」ニコ

「ぃ、ぃぇ……………………///」キュン

「何だよ。三下の反応は意外と普通かよ」

「初春のお姉ちゃんみたいな反応じゃなかったねってミサカはミサカは期待を裏切られた気分だったり」

「お前らは何を期待してんだよ………………食べちまえば一緒だろ」


───私ってば、ほぼ無意識であんな事……………………!///

 彼が、食べてくれた。
まるで恋人同士の様な振る舞いをしてくれた。
その事実が初春の思考を幸福の絶頂へと導いていて、いましばらくは言葉を発するのにも時間を要するだろう。

しかしそれは幸せを噛み締める時間。
初春の脳内コンピュータではその映像が何度でもリピート再生されていて、初春の心を奪ってやまない。


「……………………ダイスキデシュ、カミジョウサン…………///」

「ん? 何か言った?」

「ぃ、ぃぇ…………な、何も…………///」

「」

(((((……………………今さりげなく告白しなかった?)))))


「ふんにゅ────────────────!!!」

「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「……………………インデックスと小萌先生はどうしたんだよ…………」


そんな会話を聞き流しつつ、自分も残ったアイスに取り掛かる。
口に含むと、先程よりも甘く感じられた。


───あ……………………か、間接、キス…………


何故より甘く感じられたのか、わかった。


 幸せだ。幸せに幸せを重ねた様な気分。
隣の彼は、皆と談笑をしていてとても楽しそうに笑っている。
彼のその笑顔を見られるのがとても嬉しい。

そして特に嬉しいのが。

そう、彼がジャッジメント試験に受かったって事だ。
しかも配属は、自分と同じ第一七七支部。
という事は、彼といられる時間が必然的に増える。
もっと彼と話していられる。
彼の傍にいられる。

その事実が、私を何よりも幸せにさせていた。


上条さん。上条当麻さん。
知り合ったのは最近の事だけど、もはや私の生活の中で彼の存在は欠かせないものになってきている。


今日だって彼と一緒にいられたし、彼の隣で食事も摂る事も出来た。
その、事故とは言え、き、キスまがいな事もしたし。
使ったこのスプーンも持ち帰りたいくらい。


「~~なんだよ。酷い話だよなー」

「あはは、何それーってミサカはミサカはあなたの話に笑い転げてみたりー!」

「いやいい加減厄介事に巻き込まれ過ぎだろォ」

「不幸体質って聞いたけど、ここまでとはね」

「ったく、いつも事件現場にいると思ったらそんな事してらっしゃったんですの」

「そしたら青ピっていう変態な同級生がいるんだがな、そいつがさー」

「青ピちゃんは悪い子じゃないんですけどねー。でもちょっと度が過ぎの所があるんですよねー」






でもやっぱり楽しい時間って早く流れちゃうみたい。





「一方通行、まじご馳走様でした!」

「「「「「ご馳走様でしたー!!」」」」」

「気にすンな。俺が肉食いたかったついでだ」

「この人数分出しておいてそんな事言えるのはお前くらいしかいないよな……………………」

「カカカ! 涙でも流しながら俺に感謝しとけェ!」

「マジで……………………ありがとな…………いい飯食えた」ブワ

「本当………………嬉しいんだよ…………家じゃ絶対に食べられないんだよ…………」ウル

「ちょ、ホントに泣いちゃったよこの二人…………あなたの気持ち悪い笑顔が怖かったんだね、きっと」

「あァ!? まァいい。三下ァ、テメェは花子にでも慰めてもらっておけェ」

「えっ///」

「ニヤニヤしながら行方を見守るよってミサカはミサカはニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤおっと下位固体暴れないで」

 この楽しかった時間はもう終わりの様で。
今日はビックリしたけど、でもそれ以上に嬉しい事がいっぱいあった。
それは全部上条さん絡みの事で。
今日でハッキリとまた一段と彼への想いが増したのがわかった。


「それじゃ皆、今日は本当にありがとう。皆の励まし、すっげー嬉しかった。またな!」

「あ、はい、おやすみなさい! 上条さん、明日から頑張りましょうね!」

「ああ。初春さんも、また明日な」

「はい///」

「むー……………………」

「むー……………………あ、一方通行ちゃん、芳川さん、黄泉川先生をよろしくお願いしますね」

「ン」

「ええ」

「それじゃ!」

「またなんだよ!」



「「「「「「「おやすみなさい!」」」」」」」



 明日から上条さんも一緒に仕事する事になる。

私、頑張ります!

>>416
えっまじで?
美琴ちゃんそんな事になってんの?

うん 明日新約買ってくる


という事でまた次回!


 ある一室に水が滴る音が響く。
机の上に置かれた花飾りは、ご機嫌な主人に相乗するかの様にいつもより可憐な色を見せているかの様。
今はこの場ではなく、浴室にいるであろうその少女をただひたすらに、微笑ましく満開に咲き誇っていた。


 上から下に向けて絶え間無く落ちてくる適温の湯を目をつむりながら顔から浴びる。
閉じた目の、瞼の裏にいるのはただ一人だけ。
ここに閉じ込めて、絶っっ対に逃がさないとキュッと更に目をきつく閉じる。


「……………………………………」


そして自身の唇と、その数cm横の頬と唇の間の部分に手を触れる。
まだ、感触が残っている。
彼の唇の感触、頬の感触。

愛しい。

胸の動悸が収まらない。
こんなに気分が高揚したのは初めてだ。
慎ましい胸に手を当てると、骨と肉、皮膚を越えてその心情を主張していた。

ほら、もうこんなにも彼に会いたい。
もっともっと彼と話がしたい。
もっともっと彼を知りたい。
触れたい。
触れてほしい。

今の彼女の欲求を表すとすれば、それだけであった。
欲しい物、とかなりたいもの。
そんな様なモノは全て彼方へ吹っ飛ばしていて


『彼と一緒にいたい』


その気持ちだけで、今のこの身体の細胞組織の形成が出来ている───

そんな気さえもしていた。


「あれ、メールだ………………」


 風呂から上がり、濡れた髪の毛をバスタオルで乾かしながら机に置かれた携帯に目をやると、メール着信を告げる緑色のランプが点滅している事に気が付いた。

誰だろうと携帯を手に取り画面を確認すると、初春の思考はほんの少し止まる。


『無題
 22:28 当麻さん』


という二列の文字列だけで初春をフリーズさせる事が出来るのは、恐らくその電波からの着信だけであろう。

また初春の携帯には、上条の番号は下の名前で登録してあり。
いつか、そう呼べる日が来るのをという思いを込め、漢字も上条から教えてもらっていた。


「あわわわわわわわわわ……………………///」


入浴で温まった身体の温度が更に上昇したのが分かる。
鏡は見ていなくとも顔も赤いのだろうと容易に想像出来てしまう。

ドキドキしながら携帯の画面をタッチすると、文面が書かれた画面に移った。


『from  :当麻さん
 subject :無題
 ────────────────
 初春さん、今日は本当にありがとう

 初春さんが手伝ってくれたおかげで
 上条さんも試験合格する事が出来ま
 したよ!

 はは、まさか今日あそこにいるのは
 ビックリしたけど、これから仕事が
 一緒になるんだよなー

 でも一緒でよかった
 あとたくさん面倒かける事になると
 思うけど、ご指導ご鞭撻の程よろし
 くお願いします!

 それじゃ温かくして寝るんだぞー
 おやすみ!』


「当麻さん……………………」


文面に目を通すと、無意識の内に彼の名を呟いていた。
口に出したのは下の名前だったのだが、そんな事などまだまだ誰もいないここでしか出来ないだろう。
しかし勿論聞くものはおらず、その声は虚空で消えていく。
それでも、初春は呟いた。


『保護しました』


と、その画面を確認すると、すかさず返信画面に切り替える。
慣れた手つきで返信の文を打ち込むと、送信ボタンを押した。



「本当は…………声が聞きたいけど」


しかし時間も時間だ。
寝るにはまだ早い時間だとは思うが、こんな時間にいきなり電話を掛けるのは迷惑になるのだろう。
しかもしっかりと文面を考える時間があるメールと違って、電話はそうにもいかない。
話題に詰まったらどうしよう、しどろもどろになって変に思われたらどうしようとか、そんな失態など晒す事も出来やしまい。


『to:当麻さん
 Re:おめでとうございます(≧▽≦)
 ────────────────
 確かにビックリしちゃいましたねー
 (f^_^;
 合格できたのは上条さんの頑張りが
 あったからですよo(^-^)o!

 一緒の支部になれてよかったです!
 私の方こそ、よろしくお願いします
 (=^∇^=)♪』



『送信しました』


その画面が表示されたのを確認すると、もう一度彼からのメールを読む。
一字一句逃さず暗記するかの様に、彼の声で脳内変換してもう一度。


「私の方が、一緒で嬉しいです……………………大好きです、当麻さん」


いつかは面と向かってそう言える様になりたい。
そんな関係になりたい。

そんな想いを馳せ、今日は早めの就寝を取る事にした。
この幸せの感覚を噛み締めながら、夢に出て来る事を望みながら。


 ここは一体どこなのだろう。
暗く人気のない寝静まった夜の街に自分はいた。
知っている様な気もするし、知らない場所の様な気もする。
登場人物は二人で、自分は相手を追っている。

───オイ

その相手は無表情を装っているが、逃げるのに必死な事は分かる。
それに対して、自分の気持ちとは裏腹に己の口角が斜め上へと釣り上がっているのが感覚で分かった。

───ヤメロ

自分視点で逃げている相手の背中がどんどん近くなっていた。
相手は振り返る毎に、その絶望感を段々と大きく滲ませている様だ。

───止まれ…………止まりやがれ…………

距離にしておよそ二メートルになった瞬間、相手の顔に諦めの色が浮かぶと共にやぶれかぶれ銃口をこちらに向けた。

───やめろ! ンなモン撃つンじゃねェ!


刹那、発射。そして出血。


客観的に見ている自分とは対照的に、夢の中の自分はさも愉快そうに笑っているのが分かる。
撃たれた筈の自分は何ともない。

その代わりに────────胸から血を流し、倒れていく少女の姿が瞳に写った。

───オイ…………やめろ…………どォするつもりなンだ…………?

仰向けに倒れ伏した少女が更に近付いている。
いや、近付いていくのはその少女ではない。

『自分』だ。

聞こえる。
風を切った様な、虫の息の呼吸が。
まだその少女は生き絶えてはいない様だった。
そして『自分』は少女を優しげに起こそうとしているのか、その腕を引っ張って、少女の身を軽々と持ち上げていた。


───そォだ。早くそいつをあの医者の所に────────


…………しかし、引っ張った腕の根本に自分の足がかけられた事に疑問を持つ。

───…………………………………………ア?

待て。
自分は何をしようとしている。
その足は何だ。どけろ。

その心からの嘆願と共に、胸の奥から激しく警鐘が鳴った。

『……………………ギャハ』

その声が『自分』の口から漏れた事に気付く。

───なンで…………っ、テメェは笑ってやがる……………………!?

今すぐ『自分』の身体の主導権を握らなねばならない。
今すぐ少女を助けなければならない。
必死にもがく。もがくもがく。




しかし、代わる事はなかった。




『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!!!!!!!』

そして『自分』は、まるで雑草でも引っこ抜くかの様に、持っていたそれを────────



「やめろォォォォォォォォォッッッ!!!」



 暗い一室で一人の男の叫び声が響き渡る。
その音はまるで部屋の中を荒らすかの様に響き、机の上に置かれたコップや窓ガラスをカタカタと揺らしていた。

───ハァ……………………ハァ……………………

息が苦しい。
冷や汗が頬を伝っていて、部屋の中と言えども冬の冷たい空気を相俟ってより冷たくそれが感じられた。


「一方通行!」


その声と共に四人が部屋になだれ込む。
『自分』とは違う「自分」に届いたその声と姿が見えると、自分がどんな状況だったのかを思い出す。

夢を見ていたのか。
息を整える。

                    ・・
「ハァ、ハァ……………………悪ィ…………また起こしちまったか」

「ミサカは大丈夫ってミサカはミサカはそんな事よりあなたを心配してみる……………………」

「……………………大丈夫じゃんよ? 一方通行」


打ち止めと黄泉川の二人の心配そうな声が耳に届くが、一方通行は口をつむんだ。


悪い夢────────そんな生易しいものではない。
クソッタレな自分の経験として、今でも映像として脳裏に焼き付いてしまっているあの地獄。
必死に生きようともがく罪なき者を、残虐の限りを尽くして傷める自分の経験として、一段落ついた筈の今でも気を抜けば思い起こしてしまう。

自分がこうして悪夢にうなされ、悲鳴の様な叫びを上げる事はまだまだある。
しかしそれでも彼と共に生活する住人達は、彼の事を本気で心配してくれているのが手にとって分かってしまう。

分かってしまうから、申し訳ないという気持ちが先行してしまうのは自分が弱くなったからなのだろうか。


「…………………………………………」


 心配そうな表情を浮かべる打ち止め、そして番外個体を見る。
もしかしたら被害者になりえた者達。
もはやクソッタレ以下の自分の、手に掛かったかもしれない少女達。

唐突に覚えた嘔吐感を必死に押さえた。


「う……………………!」

「一方、通行……………………!?」


あのロシアの時、番外個体に言い放った言葉が脳裏に蘇った。
一生懸命生きながらえろ────────どの口がそんな事を言えたのか。




……………………そこでふと、背中に温かい感触を覚えた。

打ち止めが自分の背中を優しげに撫でていたのが分かった。


「いらン心配、すンな…………、…………クソガキ」

「ミサカはどこにもいかないよ……………………あなたの傍にいるよ」


自分の見た悪夢の内容を知っているのか、打ち止めがそんな事を言う。
涙声混じりのその声に、罪悪感を覚えた。

弱い。
脆い。
こんなにも自分は弱かったのか。
こんなにも自分は脆かったのか。

その打ち止めの撫でる腕を払い落とす事も出来ず、ただジッと佇む。
そんな資格などありもしないのに。
それでも打ち止めは、優しく撫で続けている。

───…………………………………………チッ

心の中で、力一杯憎しみを込めて舌打ちをする。
勿論対象は自分。

守ると決めた存在に、守られている様な感覚にどうしようもない怒りが湧いていた。


「ふっふーん♪」


 鼻歌混じりに昼休みの廊下を歩く。
上条はいつになく機嫌が良かった。
昨晩はこれから先、当分食べられないであろう豪華な夕食も摂る事が出来たし、何はともあれジャッジメント試験に合格したという事実が上条の気持ちを高ぶらせていた。
今日からジャッジメント第一七七支部所属の人間だ。


「ん…………………? そういえば」


上条は立ち止まり、顎に手を当て昨日黄泉川の言った言葉を思い返す。
そういえば、今日から第一七七支部所属だと言っていたのだが。

いつ、どこで何をすればいいのか聞かされてはいない。


「うーむ」


一応支部の場所は知っている。
第七学区にある、柵川中学校の近くにあるビルの中だ。
上条の通う学校と柵川中学校は割と距離が近く、平凡な学校同士、柵川中学から上条の通う高校へと進学していくパターンが多い。

まあ放課後に行ってみればいいのかなと考えながら教室へと再び足を動かそうとすると、上条の教室の方から長い髪をなびかせて出て来た黄泉川の姿に気が付いた。


「黄泉川先生じゃないですか」

「お、上条。ここにいたか」

「ほえ?」


黄泉川のまるで自分を探していたという口ぶりに上条は首を捻った。
上条の中で『教師に呼び止められる=補習の予告か授業態度の注意』という公式が成り立っていて、嫌な予感しかしないと内心焦りはじめてきていた。
何故そんな公式が上条の中で成り立つのかと聞かれれば、それはまあ上条自身のせいでもある。


それはまあいいとして、何故自分を探していたのかを聞かねば何も分かりはしまい。


「いや昨日言い忘れてた事があったじゃんよ。今日の放課後、第一七七支部に行くじゃん」

「その事でしたか」

「ん? どうした?」

「あ、いえ、何でもないっす。分かりました、放課後あそこの支部に行けばいいですね?」

「場所は知っているじゃんか?」

「大丈夫です」


ホッと一息吐いて安心した様な表情を見せた上条に黄泉川は疑問符を浮かべるが
まあそこまで気にする事でもないのだろうと聞かない事にした。


「あ、昨日はどうもありがとうございました」

「ん? あー、別にいいじゃんよ。というか私よりも一方通行に礼を言ってやるとあいつ喜ぶじゃん」

「そうですね」


改めて礼を言う。
試験の時は迷惑も掛け、昨日はわざわざ自分の為にパーティーみたいなものまで開いてもらった。
昨日のスポンサーは一方通行だったとはいえ、実際に一昨日には黄泉川にもご飯をご馳走までしてもらっている。
しかしまあ一方通行とこの黄泉川の繋がりは大いに驚きはしたのだが。


「黄泉川先生と一方通行って同居してたんですね」

「ん? ああ、まあ同居って言うか引き取った? 感じじゃん」

「へえ、そうなんですか?」

「桔梗っていたじゃんか? 桔梗とは昔馴染みで桔梗からあいつらをよろしくって任されてさ」

「……………………なるほど」


黄泉川の言葉に上条は頷いた。
なるほど、そういう背景があったのか。
というか素直にそれに応じる一方通行、というのがなかなかに想像につかなかったのだが恐らく何かあったのだろうと推測して納得していた。

まああの頃の一方通行と今の一方通行は違うしな、と思案する。
勿論根本の所は変わらない。
ただ素直になっただけ、というのが上条が持つ一方通行への印象だったりする。


「……………………それでさ」

「はい?」


そこで黄泉川の声色に変化が起きた。
明るい彼女の口調とは違う、まるで落ち込んだかの様なその様子。
上条はその変化が非常に気になり、黄泉川の方をじっと見つめていた。

黄泉川は廊下の窓の手すりに前屈みの状態で肘をつき、ボーッと窓の外を眺めている。
それに上条も廊下の窓側に立ち、黄泉川の言葉に耳を傾ける姿勢を作った。

昼休みを楽しむ喧騒がやけに大きく聞こえる。
窓の外には、誰もいないグラウンドが写っていた。


「一方通行のヤツ、何か悩みを抱えてるみたいじゃん…………」

「……………………悩み?」

「ああ。寝てる時によくうなされるじゃん…………悲鳴を上げるかの様に起き上がってさ。あいつは大丈夫だって言うんだけど」

「…………………………………………」


黄泉川の言葉に黙って耳を傾けている。


「打ち止めも番外個体も桔梗もさ、あいつを心配してんじゃん…………多分何かを抱え込んでるって思うけど」

「…………………………………………」

「あいつらに何かがあったって事は知ってるじゃん。桔梗に深くは事情は聞かないであげてって言われてるから聞かないけど……………………きっと、私の想像につかない事があったじゃんよ」

「…………………………………………」

「あいつ、あのままだと壊れてしまいそうじゃん……………………だから上条も、あいつを助けてやってほしいじゃん」

「黄泉川先生………………………………」

「上条も知ってるじゃんよ? 打ち止め、番外個体を含めたあいつらに何があったかを」

「…………………………………………はい」


黄泉川の言葉から、一方通行をどれだけ大切に思っているのかが窺えた。
本当に大切な家族、というのが言葉の節々から感じられる。
だから黄泉川のその質問に、素直に答えた。

 最初は知らない、と答えるつもりだった。
あんな実験、あんな大戦など人に言えるはずもなく。
どれだけ一方通行が苦しんだかを上条は知っている。
それでも一方通行は何を守ろうとしているのかを知っている。
それと同じで、黄泉川も一方通行を守ろうとしていたから、上条は素直に答えていた。


「あいつとはいいダチみたいなもんですから」

「そっか。あいつ、ウチのヤツらしか信用しないって感じだけど、上条も信用してるって感じじゃんよ。だから上条もあいつを見てやってほしいじゃん」

「はい」


無能力者の自分など信用されてるのかは知らないが、一方通行の力になれるのならば協力は惜しむ事はない。
人が『闇』でい続けなきゃならない理由などこれっぽっちもない。
一方通行は言ったのだ。

『こォいう生活も……………………悪かねェか』

ならばその答えはただ、救ってやる────それだけの事だった。


「初春ーっ! 今日ジャッジメントの仕事でしょ?」

「そうですけど…………何で佐天さんが知ってるんですか。後、一応部外者は立ち入り禁止ですよ?」

「あはは、固い事は言わないの。お茶菓子持っていくから」

「もう、佐天さんってば」クス


 放課後の喧騒にその二人の会話も加わる。
クラスメイト達は帰る、遊ぶムード一色で、これから仕事だというのに初春にそう話し掛ける佐天もそのクラスメイト達と同じ様な雰囲気だった。
部外者だと言うのにまるで正規のメンバーみたく支部室に入り浸る佐天だが、別段彼女を断る理由もなく二人して第一七七支部に向かう事にした。


───今日から……………………


上条も、そのメンバーの一員。
いつもの仕事風景に彼の姿が加わる────そう考えると、初春はいてもたってもいられなかった。


「初春、今日はどうしたの? なんか張り切ってるみたいだけど」

「えっ、そ、そうですか? 別にそんな事はないですよ」


いつもと違って歩くスピードが速い初春に気付き、佐天が隣で不思議そうな顔をしている。
佐天にはまだ上条が今日から加わるという事は伝えてはいない。
彼女にこの話を持ち掛けた所で、からかわれるだけというのは目に見えていたので、別に隠しはしないが自分からは口にはしていなかった。


昇降口で靴を履き変える。
履き慣れた小さな黒の革靴に足を入れると、佐天は既に履き終えていたみたいで初春を待っていた様子だった。


「よしそれじゃ行こー!」

「はぁい」


 夕暮れの校舎をバックに校門へと歩き出す。
今日は冬にしては比較的暖かい陽気の日で、初春も気持ち良さそうにんーと伸びをする。



これから彼に会える。



それだけでテンションはまるでレーシングカーのスピードで富士山頂上まで一気に駆け上がるみたいに上がっていくのが自分でも分かってしまう。
彼に会えるのだ、テンションが上がらない筈がない。



「やっぱり今日、何か機嫌良さそうだね」

「そうですかー?」

「ははーん。さては上条さんと何かあったな?」

「そっ、そんな事……………………!///」

「分かりやす過ぎだよ、初春ー」ニヤニヤ



ほら、やっぱり彼関連でちょっかいを掛けてくる。
上条という言葉だけでもはや過剰反応してしまう初春の様子に佐天はニヤニヤと肘を肘で突っつき始めていた。


 さて、いざ校門に差し掛かると言った所で。


「あ、あの……………………う、初春さん…………」

「……………………はい?」

「んー?」


気弱そうなそんな声が届いた。
名前を呼ばれた初春と佐天が振り返ると、そこには眼鏡を掛けたクラスメイトの男子がもじもじとしながら立っている姿があった。


「何でしょうか?」


普段話も全くしないその男子。
というか話した事も一回あるかないかくらいの別段仲良くも何でもないクラスメイトだ。
どうしたんだろう? と首を捻っていると、佐天はピーンと来たのか途端にニヤニヤ笑い出した。


「ほう……………………これはこれは」

「あの、その……………………」


そのモジモジとした様子に、初春も段々と怪訝に思ってくる。
何だろう。用事なら出来るだけ早目に済ませてほしい。
彼との時間が、短くなってしまう。
到底恋人達の蜜の時間とは違うが、それでも彼といられる大切な時間。
全然付き合っても何でもないが、気分的にはそれ。

相変わらず佐天はその表情を貫いており、完全に傍観者へと成り代わっていた様だった。

するとそのメガネ君(と名付けておこう)がその重い口を開く。










「う、初春さん! ずっと前から好きでした! 僕と付き合って下さい!」








「ぬお、積極的……………………!」





「え…………………………………………?」

「およ?」


するとそのメガネ君のその言葉と共に、初春にとって何よりも聞きたい人の声が響いていた。



「かかかかかかかかかかかかか上条さん!?」

「あれ、上条さんだ」

「え、誰……………………?」


 思いがけない想い人の登場に初春の時計は一瞬止まる。
校門の柱の陰からひょいと姿を現したその人は、正しく初春の頭の中に絶えずいたその彼だ。
佐天もどうしてここに? という表情を見せながら取り合えず挨拶でペこりと頭を下げると、上条も負けじとこんにちはとぺこり頭を下げた。


「いやーはは、第一七七支部に行く途中でここを通ったら初春さん達の姿が見えまして」

「ほえ、そうなんですか」


こりゃまた変なタイミングで見つけちまったなと苦笑いを見せる上条。
初春の思考は勿論止まりっぱなしで、ぽーっとただ上条の顔を見つめていた。
そそそと上条に近付き、同じく第三者として行方を見守ろうと佐天は続きを促す事にする。


「ってどうしてまた第一七七支部に?」

「今日が初出勤です、はい」

「え、それって………………?」

「上条さん、今日からジャッジメントなんですよ」

「わ、試験受かったんですか!? おめでとうございます!」

「はは、ありがとう…………えーと、とりあえずどういう状況なんだ? これ」

「初春、告白されたんですよー。メガネ君に」

「メガネ君にか」

「メガネ君にです」


本人達よりも第三者の方が盛り上がるとはこれやいかに。
まあそんな会話をしつつも上条もその行方を見守る事にした。


───……………………何で上条さんは睨まれているんでせうか。


見守る事にしたのだが。
メガネ君の方からまるで親の敵かという様な恨みの視線を感じる。
また初春の方からも視線を感じるのだが、とりあえずメガネ君の視線の感情がやたら黒かったのでそちらに意識を向けた。


「えー、初春言ってくれてもよかったじゃーん。っていうか通りで機嫌が良かったのか…………」

「えっ?」

「まあこちらは気にしないで。という訳で、続きどうぞー」


佐天のその言葉に慌ててメガネ君が初春の方に向き直る。
視線が外れた事にとりあえずほっとした上条は、んーと思案顔をする。


「……………………」

「……………………」

「…………………………………………」

「…………………………………………」

「………………………………………………………………」

「………………………………………………………………」


沈黙が場を包む。
メガネ君はもじもじ時々こちら睨みだし、初春もチラチラとこちらを窺っていた。
なかなか動かない状況に、どうしたもんだかと考える。
メガネ君が初春に告白、らしいのだが。




「!」


そこで上条が閃く。
とりあえず変な空気になってしまった。いや、してしまったというのが正しいか。
という事は仕切り直したい筈だ。
仕切り直したいという事は告白し直したいという事。
しかし状況が動かないという事は何かが邪魔をしているという事。
つまりこの場で邪魔と言うのが。





───俺じゃねえか!





そう思うと行動は早い。


「はは、えと、とりあえず時間もないと思うから俺行くな。それじゃお邪魔しましたー」


時間がないとかそういうのは教えて貰わねば全然分からないのだが、とりあえずの理由付けとしてはいいだろと自己完結して踵を返す。
さいならーと上条は立ち去る事にした。

その様子を見ていた佐天も少し思案し、何かが閃いた様に表情を輝かせた。


「あっ、上条さん待ってくださーい、私も行きます! それじゃ初春、先行ってるから。頑張って! …………初春の答えはとっくに分かってるけど」

「えっ、か、上条さん、佐天さん……………………っ」


最後の方は初春だけに聞こえる様に耳元で囁く。
そんな佐天に初春もバッと視線をそちらの方に向けた。


 彼の背中が遠ざかっていく。
そしてそれについていく様に、佐天の背中も遠ざかる。

あ、隣に並んだ。

それはまるで、とても仲が良さそうに。
そして自分がどうしてもなりたいポジションの様に。

そう、初春の目には写っていた。









「だ、ダメです────────────当麻さんっ!!」







「ん?」

「えっ、下の名前だと…………?」

「ちょ待ってういはr────────ぬおっ!?」



初春は、気付けば自分の声に振り返った上条の胸に飛び込んでいた。


「え、ちょ、初春さん!?」


 胸にしがみつく初春に狼狽しながら声を掛ける。
ガッチリ背中まで初春の腕がホールドされた為、華奢だとはいえ解くのは困難を極めるだろう。
というか、いきなり抱き着かれるという状況に上条も驚き半分かなり激しく動悸がしていた。


「ほ、ほら、ここ道端だし、皆見てるし」

「…………………………………………ヤデス」ギュウ

「更に強く!?」

「…………………………………………」ギュウウウウ

「ぬお…………! これは俺がジャッジメントされかねん…………!」

「…………………………………………ワタシガハナシマセンカラ」ギュウウウウウウ


「ごめん、ちょっと、息苦しい、かも」ケホケホ


「! ご、ごめんなさい!」バッ



 上条のその言葉に初春はハッとなり、回していた腕を離した。
ふう、と一息つきながら初春の顔を見てみる。


「ごめんなさい…………………………………………」ウル

「いや、大丈夫だから…………って初春さん! 泣かないで!」

「う、初春……………………?」


目尻に涙を溜めはじめた初春を見て、上条と佐天はオロオロし始めた。
俯いた初春のその顔。
心なしか頭に乗ったその花飾りも萎れている様な気がした。




「ほら、もう大丈夫だって」




その言葉と共に、今度は自分からは初春の肩を抱き寄せて初春の頭を撫でる。



「ふぁ………………………………///」



これで泣き止んでくれればいいと、上条は無意識でその行動を取っていた。
周りの目か、それとも泣いている目の前の女の子か。
どっちを優先するかなど、上条にとって天秤に掛けるまでもない問題だ。

泣いている人がいれば、全力で救う。
常にそのスタンスを取っている上条にとって、最早周りの目など些細な事であった。


 また味わう事が出来た彼の匂い、温かい温もり。
今の自分の、何よりも効く涙と悲しみに対する特効薬だ。
触れている肩と顔と身体と頭と。
全身が今彼に触れられていると思うと、どうしようもない喜びと幸福感が初春を支配していく。

いつまでも、触れていたい温もり。
今まで味わう事のなかったその温かさに、ずっと触れていたい。

そんな気分だ。もう涙など、出てはいなかった。


「ん……………………」


また目元を指で拭ってくれた。
大切に扱ってくれるかの様な彼の優しさが、初春を満たしていく。

うん、もう大丈夫だ。

そのまま彼の手が自分の頬に当てられると────────



そのまま、横に引っ張られた。



「ったく。本当にさっきはちょっと苦しかったんだぞー」

「ひあ、ひっはらないふぇくらはぁい///」


びょーんと伸びている自分の頬のせいで、うまく喋れない。
でも彼の手は離したくないし、痛くもない。
それよりも彼が自分にそんな事をしてくれる────態度が軟化したのだろうか。

それがとてつもなく、嬉しかった。

随分と落ち着けたし、初春は体勢を整えてメガネ君と視線を合わせる。
彼にも気付いてもらえる様に、メガネ君に言い放つ。






「………………ごめんなさい。そういう事ですので、あなたとは付き合えません」



 メガネ君の視線がじっとこっちを見ているのがわかる。
それはもう恨みや憎しみ、そういう視線だというのは肌で感じている。

様々な死線をくぐり抜けてきた上条だから、そういう視線には鋭い。

そりゃそうだろ、告白した好きな子が別の男とこんな事している所を見せ付けられているのだから。

勿論悪いとは思っている。
ただ、目の前で初春が泣いた、それだけで上条は放っておける訳もなかった。







でも、どうしてだろうか。







「………………ごめんなさい。そういう事ですので、あなたとは付き合えません」



初春がそう言った言葉に、心底安堵感を覚えたのは。



「お、お前には絶対負けないからな!」


という捨て台詞と共に涙の咆哮を上げて走り去ったメガネ君の背中を見て、上条はそう思っていた。

ここまで

また次回!


 ちょっと緊張している。

それはこれからの初仕事のせいなのか、それともここ───第一七七支部に来るまでの道中の経緯のせいなのか。


「まだ白井さんと固法先輩は来ていないみたいですね」


と鞄を下ろした少女が、ここに来るまでつかず離れず僅か数cmといった距離で隣を歩いていたせいなのだろうか。
歩く時の動作でちょこちょこ触れちゃう感触がどうにも気になって、だからとはいえ「近いからもうちょい離れて」とは言えなかった自分が情けない。

 まあ恐らくその全てが原因なのだろうが、それよりも仕事に集中だ、と上条は考えるのをやめる事にした。


「んー、とりあえず何したらいいのかな」


自分の机やら荷物の置場やら全く勝手がわからなく、ポリポリと頭をかいて初春に確認した。
以前来た時も思ったが、積み重なっている書類やら棚にビッシリと整理されているファイルやら見るに、これは相当な激務が予想される。
覚えなければならない事が思ったよりも多そうで。
身体を使う事になんら問題はないのだが、頭を使う業務が多そうな事に上条はこりゃ大変だ、と一息入れていた。


「んじゃとりあえずお茶でも煎れようかな」


一方では、佐天がそんな事言いながら手際よくお茶を準備している様子が目に入り、風紀委員でもない彼女がここで何故ゆえ手慣れた作業が出来るのかが気になったのだがそれはまあいいのだろう。
彼女がいる風景が当たり前、といった具合に初春も気にしてないみたいだし。


「あ、固法先輩が来るまでとりあえずのんびりしてて下さい……………………あ、そうだ」

「ん?」


初春が何かを思い出した様に手を合わせる。
上条が初春の方を見ると、初春はおもむろにコンピュータを起動させ、マウスに手を当てはじめた。
パソコンを使った業務もあんのかなと上条はそっちの方を見ていたのだが、起動中のモニターに表示された『wiharus177』というロゴを見て表情を引き攣らせた。


「……………………『wiharus177』? 何これ新種のOS?」

「!!」


その言葉に初春がバッと上条に振り返る。
何故だろうか、その顔は赤くなっていた。


「…………………………………………見ました?」

「う、うん」

「…………………………………………ぇぅ///」


初春の言葉に上条が頷くと、初春は恥ずかしそうに俯いた。
何で赤くなってんだろうと上条は考えるが、先程自分が呟いた言葉をもう一度反芻する。


「『wiharus177』…………………………………もしかして」

「…………………………………………///」







あ、作ったんだ、OS。







「えっ」

「わあああああああああああああああぁぁぁぁぁ!?///」

「ど、どうしたの!?」


そんな初春の叫び声に給湯室に引っ込んでいた佐天が飛び出してきたのも仕方のない事だったのだろう。


 この学園都市では外界とは違い、科学的に数十歩先に進んでいる。
上条の通う学校も例にもれなく、学食を購入する時を例に取ってみるが、券売機でのチケット前買い方式なのだがそれもタッチパネル方式の他では一歩先に進んだ技術が垣間見える。
それでもこの学園都市の中では遅れている方だと言うからもう凄い。

上条も機械に疎い訳でもなく、課外提出の際に纏めるレポートもパソコンを使用したりしていた。
OSというのが何かをわかっているし、それを構築するにとてもでは言い表せない程のプログラミング技術を要するのは知っていて。

それを目の前の小さな女の子が作ったのか、というのがわかると上条は驚きを隠せないでいた。


「ぇぅ…………………………………………」


ただその上条の反応を、初春はどう感じたのだろうか。


───変な子って、思われちゃった…………………………………


初春の最も得意とする分野、コンピュータ。
その能力は超一流のハッカーでさえも彼女が構築したセキュリティを突破出来ない程。
『守護神』の異名を取り、その道ではその名を知らぬ者はいないとも言われ畏れられている。

ただ、そんな事を言われようが初春としてはどうでもよかった。
それよりも今懸念すべきは、上条からの見る目。
いや懸念すべきという言葉どころの問題ではなく、それが彼女にとって全てだ。

初春が上条に見せたい『女の子』っぽいところとは、日本とブラジルの距離くらい掛け離れているところ。
自分の見せたい所はそんな所ではなかった。

寧ろ逆だ。

ネーミングセンスだってない。
というかそれどころの話ではない。
こんな気持ち悪い所を見せてしまった。
変な子だって思われてしまった。


上条の顔を見る事が出来ない。
彼は今、どんな表情をしているのだろうか。
視線はどこに向けているのだろうか。
何を感じ、何を思っているのだろうか。

彼に嫌われるという初春にとって、何よりも耐えがたい恐怖が初春を襲いかk



しかし。







「すげえ!」







「…………………………………………へ?」




ポンと頭に乗せられた手とその言葉が初春の元に届いた時、初春の思考は止まっていた。


「え、え」

「いや、こりゃすげえよ! OS作るなんて頭良くなきゃ出来ないだろ? こんなの作れる人、上条さんは尊敬しちゃいますよ!」


ぐりぐりと頭を撫で回されながら、どういう事か未だによく把握出来ずにいる初春。
触れてくれた上条の手の感触をじっくり味わう余裕もなく、いつの間にか見ていた上条の顔がその動きに合わせて揺れた。


「俺、頭悪いからなー。いっつもいっつも補習、補習ばっかでさ。小萌先生にも「上条ちゃんのバカさにはさすがの先生も苦笑いですよー」なんて言われてるしさ………………あれ、なんだ、自分で言ってて涙で前が見えねえ」


よっぽどの事なのか、自分の言葉に勝手に傷付いてるーと涙を流しはじめてしまっては始末に困る。
しかし上条には怪我をしては入院コースの為、授業に遅れてしまう、という理由もあるのだがそれを抜きにしてもお世辞にも成績はいいとは言えない。
上条にとってはそこまでの頭の良さというのはある意味羨望でもあり、何故こんな頭脳なんだろうと嘆くばかりだ。
まあ全ては自分の責任であるのだから、誰も責められはしない。


「変な子だって……………………思わないんですか?」


内心恐怖を感じながら怖ず怖ずと初春は上条に尋ねた。
いつしか頭にあった彼の手を、ギュッと両手で握り締めていて、指を絡ませる様に動かしていて。


「それは思わない。だってそこまでなれたって事は凄い頑張ったからって事だろ?
 自分の好きな事を見つけて、自分で自分を伸ばして。それの何処が変に思うところがあるんだ?」

「……………………………………上条、さん」

「初春さんくらいの年齢の時って、ほら、多分俺おちゃらけてただけだと思うしさ。
 だから初春さんくらいの時でそこまで自分を奮い立たせてさ、なりたいもの、やりたい事。
 そういうものに向かって精進して頑張るって、なかなか出来る事じゃないと思うぞ?」



「………………………………………………」




「だからさ。誇っていいと思うぞ」



彼のその言葉が温かい。
まるで絶望の底から引き上げてくれるかの様で。
自分のやって来た事を、彼は認めてくれた。


それが何よりも、嬉しかった。


完全に指は絡めていて、もう離さない、といった具合にキュッときつく握り締める。
彼もまた握り返してくれて、自分を元気付けようとしてくれているのがわかった。


もうダメだ。
完全に自分は彼に堕ちている。
話せば話すほど、触れば触るほど。
彼を好きだという気持ちが、大きくなっていく。

込み上げて来る何かをなんとか抑えるのにも、一苦労で。
いや、抑える必要もないのかもしれない。


でも、まだだ。
もっと自分に自信が持てる様になるまで。
時が来たら、思い切り彼にぶつけよう。


だから今は、思い切りの笑顔の花を咲かせていよう。




「上条さん……………………ありがとうございます」

「ああ」




そして二人の指は、佐天がニヤニヤしながら煎れたお茶を持ってくるまでしばらく繋がっていたらしい。


 つか、何でこんな話になってたんだっけ?
ああそう、『wiharus177』というOSから派生した話なんだった。
壁殴り代行を頼みたくなる会話を中断させた佐天にGJを入れつつ、話を戻す事にした。
まあそんな俺の出来損ないの地の文などどうでもいい。
字数稼ぎにしか過ぎない。


「何言ってるんだ? こいつ」

「何なんでしょうね?」

「さあ?」

「それよりも、お茶美味しいな」

「美味しいですねー」

「あはは、ありがとうございます」


ズズッという音が支部内に響き渡る。
冬の季節にこの温かいお茶はより美味しく感じられ、暖房を点けたとはいえまだそこまで暖まってない室温の中では三人をまったりとした気分にさせるのは十分だった。


「でもそれで、初春さん何しようとしてたんだ?」

「あ、そうでした!」


上条の言葉に初春がハッと気付いた様な反応を見せると、バッとパソコンの前に戻った。
カタタタタタタタという一人では到底出せない様なスピードのキーボードを叩く音を響かせると、ターン! という音と共にあるウィンドウを表示させた。


「上条さん、こっち来てもらえますか?」

「ほいほい」

「これに手を置いて下さい」

「ん? これか」


椅子に座る初春の斜め後ろに立つと、初春と共にモニターを覗き込んだ。
表示されていたのは四隅にカギ括弧、真ん中に十字の記号がある真っさらなウィンドウ。
初春が小型のスキャナーの様なものに上条の手を引き、それに乗せる。

手が乗ったのを確認すると、初春はマウスをポチッとクリックしていた。


「これは?」


ウィーンという音がして、画面には上から点の様な記号の様なものが順番に映し出されていく。
何だろう、指紋採取の様なもんかな? なんてちょっぴり犯人気分を味わった上条であったが、そんな彼の質問に初春が答えた。



「はい、支部に入るのにはジャッジメントを証明する生体認証がないとロックが開かない様になっているんですよ。それで上条さんのを登録してるんですよ」

「へえ、そうなんだなー」

「私もジャッジメントじゃないですけど、初春に無理言って登録しちゃいましたー」


「……………………だから色々と手慣れてたのね」


「あは」



支部の入室には指紋、静脈、指先の微振動パターンのチェックが必要だ。
先程、初春がこの支部に入る際に扉の横に設置されたパネルの様な機械に手を当てていた事を思い出し、頑丈なセキュリティなんだなーなんて感想を覚えたのを思い出していた。




ガチャリ──────。


「こんにちは……………………ってあら」

「ごきげんよう……………………げっ、類人猿」


 するとその扉が開き、二人の人物が入ってきた。
固法と黒子の第一七七支部所属のジャッジメントの二人だった。
固法の反応はまあいいが、黒子の反応は嫌そうな顔をしており、上条も苦笑いを見せていた。


「まあそんな顔せんでくれ、白井が俺を嫌っているのはわかってるけど」

「……………………まあいいですの」


跳び蹴りか何かを予想して身構えたのだが、黒子は首を一回縦に振るという会釈か挨拶かわからない仕草を見せる。意外な展開に上条は首を捻った。


「あれ。てっきり殴られるか何かされると思ったんだが」

「あなたを傷付けると初春が怒りますから抑えてあげてるんですの」

「ん? 何でだ?」

「えぅ……………………///」

「「あらあら、まあまあ」」


まあ黒子としても上条に傷付けると美琴に告げ口されるからという理由もあったりするのだが、言った言葉に嘘偽りはない。
はぁ、と意味深な溜息を吐き自分の持ち場の所に鞄を置くと、ちょこんと腰を掛けた。


「全く白井さんったら、少しは年上の人に敬意を持ったらどうかしら?」

「生憎この殿方にその様な配慮など無用だと心得ておりますの」

「はは……………………白井らしいや」

「白井さんと上条さんと知り合いだったの?」

「そうみたいですよ」


苦笑いをしながら黒子を咎める固法だったが、黒子はいくら尊敬すべき固法の言葉だとはいえ上条に対する態度は変える事はしない様だ。
そんなやりとりを見ていた佐天がそんな素朴な疑問を抱いていると、黒子を恨めしい様に視線を向けていた初春が答えていた。



「これで皆揃った感じ?」


上条が初春にそう尋ねると、初春は頷いて返事をする。
全員が椅子に座ったのを確認すると、上条は立ち上がりコホンと一回咳ばらいをした。


「それじゃ、改めて自己紹介をば」

「あ、そうね。私達もやっておいて方がいいわね?」

「あ、そうしてくれると嬉しいです」

「ん。上条くんからお願い」

「了解っす」


ビシッと敬礼をする様な仕草を見せると、上条は一度全員に視線を寄越した。
何だか期待に満ちた表情をした初春と心底どうでもよさそうな黒子の様子に何やら温度差を感じたが気にしない事にする。


「高校一年の上条当麻です。えと、色々至らない所もあると思うけど、よろしくお願いしまっす!」

「よよよよろしくお願いします!///」

「はい、よろしくね」クスクス

「…………まあ、宜しく、ですの」

「私も一応返事した方がいいのかな…………よろしくお願いしまーす!」


ペこりと一礼すると、パチパチという拍手が起こった。
人数が少ないせいでいかんせん迫力に掛けるのだが、別にそんなのを求めていなかった上条は照れ笑いを見せる。
ここが職場になるのか、と感慨深げにしみじみと感傷に浸っていた。


「それじゃ私も改めて、高校生の固法美偉です。上条くんより年上だけど、年齢は聞かないでね。能力はレベル3の透視能力持ちです。一応ジャッジメント第一七七支部の支部長やらせてもらってます。よろしくね」

「(そういえば固法先輩ってどこの高校か知ってます?)」

「(いえ、聞いた事ありませんの、何年生かっていうのも、知りませんの……………………恐らく、三年生辺りではないのかt)」

「ふふ、初春さんと白井さんは何の内緒話をしているのかしらね」ニタァ

「「 」」ゾクゥゥ!!

(なんか怖ぇ……………………)ブルブル

(参加しなくてよかった…………)プルプル


固法のとっっっっても優しそうな笑顔を見た一同は、その裏に何かを見たという。
上条の固法だけには逆らわない様にしようと決めた瞬間であった。


「そ、それじゃ次は私ですわね。常盤台中学一年生、白井黒子ですの。殿方さんも皆さんもご存知の通り、レベル4の空間移動能力者ですの。まあよろしくお願い致しますの」


固法の迫力に押されてか、若干早口で一気に自己紹介を終えた黒子。
下手な事を口走れば色々危ないと、これだけ言ったら後は余分に口を開いたりはしなかった。


「そ、それでは。柵川中学一年生、初春飾利です。能力はレベル1の定温保存です。か、上条さん是非是非よろしくお願いします!」

「う、うんよろしく……………………ってかサーマルハンド?」

「あ、はい、私の能力で…………持ってるものの温度を一定に保てるっていう能力なんですけど」

「何それ便利そう。飲み物とか、弁当とかの保存に良さそうだなー」

「その代わりずっと持ってなきゃダメなんですけどねー」


「あー、なるほど……………………そりゃ大変そうだ」

「わかってくれますか? この前佐天さんなんて持っててーなんて言ってずっとお茶を持たされて」

「ちょ、ちょっと初春ー、変な事言わないでよー」

「話が脱線してきましたわね」

「初春さん、話を脱線させないの。佐天さん、友達にそういうのさせちゃダメよ」

「「す、すみません……………………」」

「すげえ」

「(固法先輩を怒らせない方が身の為ですの、上条さんも気をつけて下さいまし…………)」

「(ああ、その様だな…………)」

「そこ、何の話をしているのかしらね?」

「「 」」ゾク

「むぅ…………なんか仲良さそうに話してる…………」

「初春、大丈夫だよ。御坂さんハンターのあの白井さんだよ? 万に一つもないって」


余計な事を口走ったパターンだとこうなるな、と深く心に刻み込んだ上条達。
もう余談はしないぞとここぞとばかりに力を入れて沈黙する事にした。


「あれ、これは私も自己紹介した方がいいのかな? ま、一応って事で、柵川中学一年生、初春とはクラスメイトの佐天涙子です。無能力者ですけど、よろしくお願いしまーす!」


元気よく挨拶を済ませた所で佐天もこれ以上は何も言うまいと口を堅く閉じた。
実際に初春と黒子が制裁を受けている所を目の前で見た事がある佐天としては、下手に彼女を怒らせない手段を心得ているという事は佐天が世渡り上手というのを示しているからであろうか。

全員の挨拶が終わった所で、固法が口を開いた。



「そういえば上条くんは何か能力を持っているの? あ、ちょっと待ってね、当ててみる…………………………………………って、ええっ!!??」



「「「「?」」」」




ジーッと上条を見つめた固法が途端に驚きの叫び声を上げると、全員が何事かと一斉に固法を見ていた。
固法はまるで信じられないという表情を見せる。

透視能力というのは、眼球を頼らずに視覚情報を得る能力だ。
つまり陰に隠れていようが、遠くにいようが彼女が能力を使えば一発でどこにいるのか、何をしているのかがわかってしまう。
ただ彼女としては多用をしてしまうと、とても疲れてしまうとの事。
それで必要時以外は能力を全く使用しようとはしないのだが、たまには訓練しないと衰えてしまうらしい。

透視能力の質が上がれば、ものの内部の解析なども出来る様になる。
情報を正に『視る』能力で、固法レベルの能力だと対象が何の能力者かというのも僅かにわかってくるレベルであったりもした。

そこで固法が興味本位、訓練がてらで上条を透視しようとしたのだが。

おかしい。


「透視だと、上条くんが見えない……………………」

「「「ええっ!?」」」

「あー……………………」


能力を使うと、上条の姿が全く消えてしまうのだ。
初春、黒子、佐天の三人がそれに驚いた様な表情で上条に視線を向けるのだが、上条は理由を把握しており苦笑いを見せていた。





「な、何で……………………?」





「それはなんて言うかですね……………………」








「あー。そいつはね、特別なのよ。ね?」








その疑問に上条が口を開こうとしたのだが、この場に姿を現した人物に全員の視線が集まり。


「「御坂さん!?」」

「お姉様!?」

「あれ、御坂」

「あら、御坂さん」


異口同音に一斉に揃った声を向けられた先には。

学園都市第三位の超電磁砲、御坂美琴の姿があった。

俺の中でのメガネ君のイメージはイナズマイレブンに出てくるあのメガネ君

わかり辛いよカス

また次回!


美琴「ドアの外でずっとスタンバってました」

美琴「焼肉屋の時も店の前でスタンバってました」

>>490
あれ、目から汗が…
あれ?止まらないぞ…(;_;)

あれ、美琴って一人で入口のセキュリティ通れるっけ?

>>493
ハッキングしているはず(超電磁砲より)

投下しようと思ったけどimodeのIPアドレス帯域? ではありませんって何さ

書き溜めた分をPCに移植してくる

sageんの忘れてるし




「はぁ……………………」




 その日の美琴の一日は溜息から始まっていた。
ここ最近の近況と言えば、大量の書類の提出が課せられていて、それの処理に追われるばかり。
休息も取れていると言えば取れているのだが、美琴にとって何よりも心が安らぐ「アイツ」には最近会えていなかった。


分かっちゃいたけど。


あの第三次世界大戦の勃発時に取った美琴の行動が、どうにも学園都市は気に食わなかったらしい。


 ハイジャックをして、ロシアに行って、ロシアの軍隊を一蹴して。
そんな事をしたのも全部「アイツ」の為なのだが、そんな自分の身勝手な行動の腹いせかそれ以来美琴は大量の能力研究資料の提出を託けられていた。


学園都市第三位の能力者という理由だからか、どうにも学園都市は自分をここに縛り付けておきたいらしい。




「一目会うだけでも疲れ吹っ飛ぶのになー」




そんな彼女の独り言は、冬の寒空に掻き消えていく。




「それにしても、アイツがジャッジメントねー」


「ジャッジメントだ!」という逞しい声を張り上げて、颯爽と事件現場に現れて。
囚われの姫となった自分を救出する為に、まるで捨て身覚悟の様な行動で結局は事態を収束させてしまう。

そんな彼に助けられた自分は、感極まって彼の胸元へ――――――――――


「キャラじゃないし。そりゃ憧れもあるけどさ」


自分で自分に苦笑い。
こうしてあの自販機の前でじっと佇んでいるだけっていうのも何か違うし、と美琴はコツンと自身の頭を叩いた。


「それにしても、言ってくれたっていいじゃない………………………………」


以前、友人から聞いた彼のジャッジメントを目指しているという事。
そんな事、全然知らなかった。
何で言わないのよ、と頬を膨らますのだが最近はあまり会話も出来てないのを思い出した。
友人である、初春と一緒にいる所だけ見掛けていて。
初春が弁当を渡したと言ったあの日も、それはまるで恋仲の様なやり取りに思えて。

随分と、仲が良さそうな雰囲気を感じて。




「…………………………問い詰めてやるわ」




そう思うが否や、美琴は直感を信じて歩きだしていた。
今日はジャッジメントの仕事があるという事を同室の少女から聞いている。
もしかしたら、コトが進んでいて既にあそこの一員なのかもしれない。
なんだかんだ言って、今まで色んな事があってもうまくやりこなしてきた、そんな彼がいるであろう場所へと。




実際のところ、あくまで直感でしかなかった。

彼がジャッジメント試験に合格し、ここ――――――第一七七支部室にいるという事は、あくまで直感だった。
試験に合格していたとしてこの支部所属になる可能性は随分低いものであったのだろう。
まさかね、いるわけ無いじゃんははーん的な軽いノリで来てみただけだったりしたのだが。


―――ホントにいる……………………


 一分くらい前の話。
いざドアの前まで来たら来たで支部室の中から話し声が聞こえてきた。
それに彼の声が混ざっているとわかると、条件反射の様に演算解析ハッキング余裕でしたというのは美琴の気持ち。

超頑丈なセキュリティで閉ざされたこの扉も恋に夢見る少女の全力にはなす術もなく、されるがままになっていた。
だがそれも、今現在上条の横に陣取っている彼女が構築したものならば突破は恐らく出来なかったのであろうが。


「あれ、御坂?」

「み、御坂さん…………?」


考えていた二人が揃ってポカンとした表情をこちらに向けていて、それが息の合ったコンビプレイみたいに思えて頬を膨らませずにはいられなかった。


チクリ、と胸が痛む。


だからこそ自分しか知らない彼を自慢するかのような言い方をして姿を表そうと思ったのは、自分の心が小さいからだろうか。


「その、特別って…………………………………………?」


上条の僅か数cm横で椅子に腰を掛けている初春がそんな質問を呟く。
近いよぅ。


「……………………。コイツはね、能力を消しちゃうのよ」


「「能力を……………………」」


「「消す?」」


「この右手が、だけどな」


しみじみと右手を顔付近まで上げて、それをじっと見ていた上条が補足する。
その周りの反応に、この場で彼の右手を知っているのは自分なんだと美琴は悟った。



「幻想殺っつって。異能の力ならばなんでも打ち消しちまうんですよ、上条さんの右手」

「私の電撃も消しちゃうもんね、おかげで私はコイツには全戦全敗」





「「「「えっ?」」」」





「何言ってんだよ。俺は打ち消すだけしか出来ないし、それなら御坂の方が全然強いだろ」

「それが能力者にとってどんだけの痛手かわかんないの? それに電撃の速さに対応して打ち消してくるアンタの方が十分すごいと思うけど?」

「そりゃたまたまだろ。右手構えたら消えてただけだし」

「よく言うわね……………………超電磁砲も消しちゃうクセに」

「あんなん身体にぶつけられたら死ぬわ!」

「砂鉄剣も結局無効化してたしね」

「お、おう…………………………………………切られたら痛いだろが!(えっなにそれ知らない)」

「だいたいアンタは………………………いつも…………………っ」

「……………………ど、どうした?」






―――……………………この辺りも、記憶ないのかな………






何かを言いかけて口を瞑んだ美琴を見て、上条が怪訝な表情を見せた。


 上条当麻は、ある所を境目にして記憶がない。
そして美琴は記憶喪失については色々あって知った。
ただ、どこまで消えてどこまで覚えているのかは知らない。
だから、彼の知らない彼との思い出があるというのが美琴は悲しく思えたりもしていた。




「つーかまあ、御坂に勝負を仕掛けられた事なんかないよな………………? 不幸のビリビリはあるけれども」

「び、ビリビリ言うなっての! それに不幸って何よ!」

「理不尽な電撃浴びせられりゃ誰だって不幸だと思うわ!」





「アンタねええええぇぇぇ、人がせっかく素直になろうとしている時に…………………………………………っ、はぁ、まあいいわ」






「? さっきから何か変だぞ?」




ダメだ、気を抜くと以前の自分に戻ってしまう。
それが自分らしいといえば自分らしいと言えるのかも知れないが、彼に悪印象を持たれるのはだけ勘弁なのだ。
彼のペースに乗せられっぱなし、っていうのもなんだか悔しい気もした美琴は、溜息を吐いて一旦落ち着く事にした。



「上条さんって…………………………………………」

「…………………………………………すごい人?」


その会話に全員がポケっと見守るだけだった。
というか学園都市第三位の美琴にここまで言わせるのは、恐らく上条だけなのだろう。

いや、ただ実際には初春と黒子の二人はジャッジメント試験の際、彼の戦闘を見ている。
第一位と対峙し、互角の戦いを見せたあの試験。



「あ……………………それじゃあ、あの時……………………」



初春は前にも一度、上条が能力を打ち消していたのを見た時の事を思い出した。
能力者達が喧嘩をしていて、仲裁しようとして。
突き飛ばされ、肘を擦りむいて。
痛さと自分では止められない悔しさと情けなさを感じて。
その時に上条に初めて出会い、ハンカチを渡してくれて。
能力者の片方から炎が出て、上条に向けられて。



危ないと思った瞬間に炎が消えていて、彼は右手を突き出していて。



隣に座る上条を見る。
彼は右手を見ていて、なんだかそれが絵になっている様にも思えた。



「…………………………………………///」


って違う違う、今は頬を染めている場合ではない。

この場に姿を現した美琴、そして上条とのやり取り。
美琴の言葉に、初春は俯いてしまった。

自分が知らない彼の姿が美琴の中にあって。
自分の知らない出来事が彼と美琴の間にあって。
自分の知らない彼を美琴は知っていて。
自分の知らない、自分の知らない────────


キュッと手を握り締める。
自分のスカートの上で丸まった手を見て、やはり自分では彼に見合うには足りないのだろうか。

先程の会話から、美琴が彼を好きだという事を確信した。



『せっかく素直になろうとしている時に』



そんな言葉を出されては気付かない筈がないだろう。
恐らく、この支部にいるであろう全員が美琴の思いに気付いた筈だ。



それを、彼はどう答えるのだろう。



考えると、怖くなった。



 相手は学園都市第三位という首席クラスで、道を歩けば人が振り向くくらいの美貌の持ち主で。
今まで美琴とは幾つか事件を解決してきたのだが、そのどれもが美琴の活躍で。
能力の使い方も、威力も凄まじいものがあって。
でもそれは、努力の末手に入れたものだと聞く。


それから察するに、人間性も恐らく美琴の方が上。





 それに比べて自分はといえば。





能力も温度を保存するだけという何に使うのかもわからない様な能力。
別に自分が可愛いなんて思ってもないし、実際佐天の方が人気者。
泣き虫だし、寂しがり屋だし、ヤキモチ焼きだし、子供っぽいし。


そう思えば思うほど、美琴との差を感じて初春はどんどん落ち込んでいった。
隣に座る上条の顔も見れやしない。
いつもならずっと見ていたい顔が、今は見れない。


もし今か近いうち、美琴が彼に想いを告げるとして。
そんなすごい美琴からの交際の申し出に、それを断る人間などいやしないのだろう。


ズキ、と胸が痛む。
気付けば、手も震えていた。
思いっきり握っているからか、それとも恐怖からか。



恐らく、そのどちらの理由もあるのだろう。







「初春さん、どうしたんだ? 顔真っ青だけど……………………大丈夫か?」





キュッ―――――――――




「なっ………………………………………………………………!?」



「……………………………………………………………………………………っ!!」





すると、そんな自分の様子を窺うかの様に彼から声が掛かった。
手には、温かい感触。


力強く握っていた自分の手に彼の手が乗せられていた事を気付くのに、ほんの少し時間が掛かった。

短いけどここまで!

PCの方にいい加減慣れとかんといかんかな
でももしもしの方が寝転がって書けるから楽なんだよー、そっちの方が思い浮かびますしおすし

また次回!

>自分のスカートの上で丸まった手を見て、やはり自分では彼に見合うには足りないのだろうか。

ぼけてんのかな俺


「まーた泣きそうになってる」


 彼の手が自分のそれに重なる。
腕と腕が触れ合って、手と手が触れ合っていて。
先程の無意識の恋人繋ぎが思い出される。
その彼の温かさはまだ残っていても、幸せとドキドキが更に上書きされていく。


「あわわわわわ……………………///」


その手の温かさが、凍てつきそうになった自分の心をまるごと温めてくれているかの様だ。

彼が視界にいるだけで周りが見えなくなる。
彼が触れてくれるだけで五感の全てがその感触に集中する。
視界もふやけて何も考えられなくなる。
ずっとその幸せ症候群に侵されっぱなしでもいいくらい────────


「だ、大丈夫です……………………ょ………………///」

「おー、そうか。ならよかった」


初春にとって、それほど彼の存在は大きかった。





「ちょ、ちょっとアンタ何してんのよ!?」





ただ、この場にいる美琴の事。

それを考えると、それをずっと味わうという訳にもいかなかった。


「御坂さんってもしかして……………………うひゃー、これ修羅場ってやつ?」

「あの類人猿んんんんお姉様に飽き足らず初春まで……………………デモウイハルトクッツケバオネエサマハフリーニ」ブツブツ

「これもまた、青春ね」


完全に傍観者に成り果てている三人の呟きは渦中の三人には届かなかった様だが。


 美琴はつい大声を張り上げずにはいられなかった。

アイツと初春が、手を繋いでいる。
その繋がった手を見て、彼の手を両手でもじもじと包み込んでいる初春を見て。


まるで、恋人同士の様なやり取り。


───………………………………まさか。


二人は、既に付き合っているのではないだろうか。
そう疑わずにはいられなかった。

彼女は彼が好きで。
彼も彼女が好きで。
まるで自分は第三者。
………………第三位と掛けた訳じゃない。

自分も彼と手を繋いだ事はある。
彼の手の温かさに胸が動悸し、心が踊る様な思いもした事もある。

それも、何度か。

あの罰ゲームの時も、色々理由付けて買い物に付き添わせた時も。
フォークダンスをした時もそう。
携帯のペア契約した時だって、彼の手を引っ張って携帯ショップに連れてきた。
彼が入院した時だって、彼は眠っていたけど手を握った。


ただ──────────────。


思い返してみれば、彼から手を握ってきてくれた事なんてなかった。

いつも手を繋いだのは自分からで。
いや、繋いだという表現も違うのかもしれない。
自分が手を引っ張っただけで。


ただ、今見たのは彼が自分から彼女の手を握っていたという事。


それを見た美琴は、自分の手をギュッと強く握り締めるしか出来ずにいた。


「いや、何ってなあ。初春さん、体調悪そうに見えたから気になったんだが」

「わ、私は大丈夫です」

「んー……、大丈夫ならいいけど。でも辛かったらすぐ言うんだぞ?」

「ぁ、ぁりがとうございましゅ……………………///」

「ん? また顔赤くなった………………熱でも出たか?」

「こ、これは……………………その……………………///」

いちゃいちゃ。


「………………………ね、ねえ……………二人って付き合っt『prrrrrrrrrrrr』うぇ」

「あら、電話ですの」ナンツータイミング

「事件発生かしらね?」ナンツータイミング

「ですかね?」ナンツータイミング


 覚悟を決め、二人の関係を問い詰めようとした所で第一七七支部の電話が鳴り響いた。
それに肩スカしをくらった様に言葉を止めた美琴は、ここで一旦溜息をついていた。

ただ視線は、今だ繋がっている彼らの手。
初春が上条の手を包み込んでいるところから見ると、二人の関係がどうであれとにかく初春は上条に恋い焦がれているのであろう事はわかった。


───まあ…………また聞けばいい、かな……………………?


実の所、答えを聞くのも少し怖かったりして。
ほんの少し、ホッとした気持ちもあった。


「もしもし、こちら第一七七支部です。………………はい、わかりました」

「固法先輩、事件発生っすか?」


 電話応対を終えた固法に上条が尋ねる。
今日が初仕事で、まだ右も左もわからない事だらけなのだが、今の電話は事件か何かだという事は把握出来た。
電話を切った固法はそんな重い案件ではないわね、と苦笑いを浮かべていた。


「ええ、事件って言うより迷子の保護ってところね。白井さん、出動準備を。上条くんも研修ってコトで白井さんについていってね」

「了解ですの。それでは上条さんも準備なさいな」

「了解っす」


黒子が腕章を腕に着けるのをまじまじと見る。
腕章か、と別に憧れ少年心が騒ぐ訳でもないのだが、やはり正規の認められた印というものに興味はある様だった。
そんな上条に固法が思い出した様に彼女の机の引き出しから中に入っていたものを取り出すと、上条に手渡した。


「んじゃ、上条くんもこれを」

「あ、はい……………………おお、俺にもついにこれが」

濃い緑色の生地に白の刺繍で描かれた盾をモチーフとした紋章。
それにくっついている安全ピンを見ると、付け方は至って原始的に見えた。
何かこう、カチってはめるとかそういうのではないらしい。


「初春、データを」

「はい、これですね。第七学区の○×スーパーです」


そしてジャッジメント諜報隊の初春が素早く受信したデータを画面に表示させ、情報を確実に伝達させる。
その手慣れた手つき、そして凛とした姿に感心を覚えた。
タイピングやらマウス捌きやら、とてもじゃないが自分には出来なさそうな動きだった。

「っていうかあそこかよ……………………上条さんご用達のスーパーじゃないか」

「えっ、そ、そうなんですか? ……………………イツモアノスーパーニカミジョウサンガ」

「あそこの特売セールにはいつもお世話になってるんだよなー」

(つまり偶然を装ってあのスーパーで張ってれば当麻さんに会えてまた料理を振る舞えるのかな……………………」

「初春! 心の声が出てますし、上条さんも余計は話は慎みなさいな!」

「わ、悪い……………………」アチャー

「え、ええっ! す、すみません……………………か、上条さん聞こえました?///」

「へ?」

「な、なんでもないですっ///」


いつもお世話になっているスーパーにまた違う目的で行くってのに不思議な感覚を覚えた。
なるほど、ここからなら距離もそんなに遠くはない。

他に準備はいるのか、と黒子を見たがどうやらもう準備するものはなく、いつでも出発できる様だった。


「それでは、行ってまいりますわ。上条さん、肩を失礼しますの」

「ん? なんだ?」

「むぅ……………………」

「空間移動で飛びますの。それではお姉様、皆さん、いってまいりますの」

「う、うん………………気をつけて」



「空間移動か……………………いや、まさかな」



まさかとは思うが……………………………………





「あれ……………………? ってもしや!」




いざ演算を開始した黒子の表情が引き攣る。
その様子に一同はキョトンとした様子を見せたのだが、上条が何かを気付いた様に手を打つ。
空間移動とは、黒子の能力で。
能力ということは、異能の力で。
そして自分が持っている、異能の力を消してしまう幻想殺し。

どうやら、自分は飛ばせないらしい。


「やっぱ……………………飛ばせねえか? 幻想殺しの影響で」

「「「「 あ 」」」」

「演算は出来ますが、上条さんは飛ばせないみたいですの……………………このままテレポートは出来ますが、恐らく」

「多分、学ランがテレポートされるんだろうなぁ……………………いや、学ランだけじゃなくて服だけ全部飛んだりして」フコウタイシツダシ

「「っ!?///」」

「それはまずいわね」

「ってかよく途中で気付けましたね……………………」


例え幻想殺しが宿る右手で触れられていなくとも、上条を空間移動で飛ばす事は不可能の様だ。
演算は出来ても『何か』が邪魔をしてどうにもうまくいかない。
無理矢理空間移動した所で、上条を包んでいる服だけを飛ばす形になってしまっていたのだろう。
下手をすれば、上条を包んでいる服だけ全てを空間移動……………………それを想像して顔を真っ赤にする少女が二人がいるのだがここではあえて触れておかない。


「にしても、困りましたわね……………………」

「何か……………………………………すまん…………」


落胆の様な、諦めの様な声で黒子が溜息を吐いた。


 他の支部よりも優れていると言われているこの第一七七支部での功績は、黒子の空間移動による迅速な対応というのが大きい。
空間移動という能力のおかげで被害拡大を防いでいたり、早急の犯人確保というのが出来ていると言っても過言ではなく。
その空間移動が使えないとなるとやはり足で事件現場に向かわなければならない様だ。


───まあ、でも。


気分は乗らないが、上条は風紀委員の後輩になった。
面倒だが、後輩ならばやはり先輩が面倒を見てやらなければならないのだろう。




───……………………この殿方の本質というものはまだまだわかりかねますし。




黒子には、上条を置いていくという選択肢はなかった。

 それは同僚と憧れのお姉様が、上条という男にあれだけ惚れ込む理由というのも知りたかったのかもしれない。
右手を見て、妙に落ち込む様子の上条を見て黒子はもう一度溜息を吐いた。




「……………………まあ私も研修生の時、固法先輩に空間移動抜きで連れていっていただきましたし。
 仕方のない事ですわ。ほら、テレポート出来ないなら走っていきますわよ。
 ついてきなさいな、年上の後輩さん」


「……………………サンキュ。了解しやした、年下の先輩さん」




そう言い、ほっとしたように笑う上条を見て。
ふん、と一息つくと黒子は上条を伴い現場に向かう事にした。


「行っちゃいましたねー……………………」

「そうね」

「………………………………」

「………………………………」

「あは、は……………………お茶おいし」チラッ

「さて、私は仕事しなくちゃ」スクッ

「え、ちょ固法先輩……………………」

「……………………………………………………」

「……………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………」

「」グスッ

───ちょ、この沈黙は無理ぃ………………二人ともドアを見つめて止まってないでよぉ


 佐天は困った。

あれから初春と美琴の二人はドアの方をじっと見ていて静止していて、沈黙に堪えきれず声を掛けてみても反応はなかった。
頼みの固法も自身の仕事に取り掛かり、そちらの方に意識を集中させていてこちらの方は見向きもしない。
基本的に人付き合いがよく、雰囲気を大事にする傾向の佐天はこういう空気が苦手であったりした。

というかまあ、その様子を見てそんな二人を釘付けにする上条は一体何物なんだろうと考えていた。


佐天の知っている情報といえば、高校生で。
初春の好きな人で。
そして美琴も知り合いで、彼女もその人が恐らくだが好きで。いや、それは確定的か。
幻想殺しという能力(?)を持っていて。
なんか色々とすごい人っぽい。
後は……………………鈍感?


今までのやり取りでわかった事と言えば、それだった。


「……………………上条さん、かぁ」ボソッ

「「 」」ギロッ

「ひぃっ!?」


名前を呟いたと思ったら鋭い視線がこちらに向けられた。
美琴はともかく、初春からもものすごいプレッシャーの様なものを感じ、佐天はたじろいでしまう。
彼の関わる事全てをまるで一字一句逃さずに聞き付けてやってくるのだろうと容易に予想できる。



(うぅ、早く帰ってきて下さい………………責任取ってもらいますからね!」



「…………………佐天さん」ギロ


「責任って……………………どういうことかしら?」ピリ


「ぅひっ!? 心の声が出てた!? って違いますよそういう事じゃないです!」




場の空気を和ませようとしただけなのに……………………不幸だーと何かが乗り移ったかの様に佐天は心の中で叫んでいた。


 あるファミレスでは上司にいいようにコキ使わされる男がいた。

放課後から夕食時に差し掛かろうという時節、一日の疲れを忘れてわいわいと盛り上がる学生達で溢れるそのファミレスの中で、ある意味異質な四人組がテーブルを囲っている。
見た目的にはそれはまた学生達と大差ないそれなのだが、その中身を見るととてもそうは言ってはいられないのだろう。


「浜面、アイスコーヒー」

「私は超紅茶で」

「……………………ったく、俺は奴隷じゃねえっての」

「グチグチ言ってないで早く取って来なさい」

「所詮浜面は私達の言う事を超聞いてればいいんですよ」

「わぁったよ。滝壺、お前は?」

「私はいいよ。自分で取りに行くから」

「どうせ行ってくるんだ、ついでだついで。滝壺も紅茶でいいか?」

「……………………うん。じゃあ紅茶。はまづら、ごめんね」

「はっは、任せろ」

「……………………ずいぶん私達の時と反応が超違いますね」

「御託はいいからさっさと行く」

「へーへー」


呆れか、諦めかどっちとも取れるような苦笑いを見せて男が席を立つ。
コップを持つその手から、随分それに慣れている様な様子が見て取れた。


麦野沈利。学園都市第四位『原子崩し』レベル5の超能力者。
絹旗最愛。『窒素装甲』レベル4の大能力者。可愛い。
滝壺理后。『能力追跡』レベル4の大能力者。
そして先程ドリンクバーの飲み物を取りに行った(行かされた)浜面仕上。

この四人からなる組織『アイテム』の面々が集まるそのテーブル席は、ある意味注目の的でもあった。



(おいおい、あそこの席の子達、めちゃくちゃ可愛くね?)

(俺あの小さい子が一番好みだな)

(ピンクのジャージの子も恰好はあれだけど、素材はかなりいいぞ)

(おい、あの三人組の所、さっき一人男が混じってたぞ)

(はあ? 爆発しろ)

(もげろ)

(あかん。何となくそいつ殴らな気がすまんわー)


という声も聞こえたりしていて。
とは言いつつもこの三人は陰でそう言われる事など慣れてたりもしているので気にする事はない。
周りの目など気にしたところで仕方のない所で生きてきた。


「ほらよ、持ってきてやったぞ。感謝しろ」

「はぁ? 何でそんなに偉そうなの?」

「浜面に感謝する事なんて死んでも超しませんから」

「はまづら、ありがとう」

「せっかくアイテムの一員になれたってのに結局この扱いなのかよ…………滝壺おおおおぉぉぉぉ」


るるると涙を流しながら力無くツッコミを入れるのだが、その内の二人は相変わらず上から目線が取れない。
まあ実際に力関係でもそちらの方が上だとわかっているので強くは言えない浜面であったりもしている。


「よしよし」


そんな浜面の頭を優しく撫ではじめた滝壺は、アイテムの中で浜面の唯一の癒しであった。
癒し────というか実際恋人同士だから、という理由もある。


「なんかくっそムカついた。浜面一発殴らせて」

「嫌だよ! っていうか何で麦野はそんなに機嫌が悪いんだよ!?」

「あんたらが目の前でイチャイチャするのがいけないだろぉが!」

「それもありますけど、先程のこっちを見る超イケてない男共の私達の超可愛さ評論に麦野の事はスルーされてたっていうのも超ありますけどね」

「絹旗ああああああああぁぁぁぁぁ?」

「大丈夫、私は可愛いのに性格でもったいない事になってるむぎのを応援してる」

「応援されても嬉しくないわよ!」



そんなドタバタな会話が繰り広げられるそのテーブル席。
ただその麦野から沸き上がった殺気のオーラはまさしく一般人のそれを軽く凌駕していて、ファミレス内の他の客達はそれにビクビク怯えてフォークやらスプーンからポロッと食べ物が落ちる事になっていたらしい。



とは言いつつも結局はこの『表』の様な生活は満更でもない。
アイテムには、色々な事があった。
悲しい事、苦しい事、絶望する事。
それらを乗り越えて、今またこうして集まっている。
例え一人欠員が出たとしても、結ばれた彼らの絆はもうそう簡単に切れる事はない。


『闇』が『光』になれないのかと聞かれれば、彼らを見ればわかる通りそうでもなく。
別段用事もないのにこうして四人が集まっているというのは、それからも見て取れていた。

それも全てある男に殴られた事から始まった────といっても浜面は否定しないのだろう。

とりあえず書けたところまで

また次回!

乙!

しかし、1点だけ気になるところが・・・
黒子は上条さんがテレポートできないの知ってるよ

実験を止めに行く日、常盤台の寮を尋ねたときに寮監から隠すために外に飛ばそうとして出来なかった

>>537
吊ってくる

指摘感謝!


黒子「ただいま戻りましたの」

上条「ただいまーっと」

初春「あ、上条さんお帰りなさい!」

佐天「お帰りなさーい」

固法「お帰りなさい」


 あれから一時間くらい経過した所で、先程この部屋を後にしていた二人が任務を終え帰還してきたようだ。

彼の顔を見た途端、はちきれんばかりの笑顔を隠しもせず初春は声を掛けるのだが、それは上条にだけ。
姿が見えないのか、はたまた別段声を掛ける必要もないのか黒子の事はガン無視していたのだが、黒子はそれよりもキョロキョロと部屋の中を物色している様に見渡していた。


黒子「あれ? お姉様はお帰りになられたんですの?」

固法「ええ、何でもレポートを纏めなくちゃいけないって言ってもう帰ったわよ?」

黒子「そうなんですの………………最近、本当にお忙しそうにされててお疲れのようですので、帰りに黒蜜堂にでもお誘いしようと思っていたのですが」


残念、とちょっぴり寂しい表情を浮かべた黒子。
帰りにお姉様と一緒に甘いものでも食べて元気を出してもらおうと画策していたのだが美琴が既に帰ったとの情報を耳にするとシュンと落胆していた。
最近は寮でも机に向かってる時間が多く、「ああん、もう!」なんて言いながら一生懸命書類を片付けていく姿ばかり見ている。
それでも黒子が声を掛けると返事をしてくれ、構ってくれている。
そんな「優しすぎるお姉様」の事が黒子は大好きで、その最近の美琴の忙しさは余所から見ても実に大変そうに見えていた。


固法「ケーキでも買っていってあげたらどうかしら? きっと御坂さんも喜ぶわよ」

黒子「ええ、そういたしますの」

佐天「あそこのケーキは美味しいですもんね」

上条「おぅ……………………あんな高価な店、俺じゃ気軽には行けねえってのに……………………くっ、これが格差社会か!」


傍から会話を聞いていた上条が涙を飲みながら呟いていた。
万年金欠生活を送っている上条としては耳が痛くなりそうな話だったりする。
まあ無能力者で貰える奨学金が少ない上に度重なる入院のおかげでとてもじゃないけど裕福なんてなれる訳もなく。
それは居候がいようがいまいが結局は同じ話なのだろう。


黒子「あの時はどうもですの。美味しかったですわよ、フルーツゼリー」

上条「そりゃ一個1400円もするやつは美味しいだろうな」

黒子「お手頃な価格ではありませんか。そんな安物でしたの? あれは」

上条「なん、だと…………………………………………」

初春「えっ………………ちょ、ちょ、白井さん…………? ど、どういう事なんですか!?」

佐天「どーどー。落ち着いて、初春」


その会話に、なぜか顔を真っ赤にしながら上条の背中をぽんぽん叩いて慰めていた初春の動きが止まった。
また自分の知らない上条の話が出て、気にせずにはいられなく。
しかも、今度はまさかの黒子。


黒子「以前、わたくし入院した時がありましたわよね? その時上条さんがお見舞いに来てくださった時にそのフルーツゼリーを頂いただけですの」


まあ特に隠すことでもない。


初春「それだけですか!? 本当にそれだけなんですか!? 後に何かあったんでしょう!?」

上条「ど、どうしたんだ? 初春さん。それに、何かって?」

初春「え、あ、いゃ……………………その…………」

黒子「ありませんわ。というか、ありえませんの」

初春「で、では本当にそれだけなんですね!?」

黒子「安心なさいな」

上条「?」

佐天「本当に純粋にわからないって顔してる…………」


鈍感においては上条の右に出るものはおらず、佐天も黒子もそんな上条の様子に初春と美琴を不憫に感じながら一旦話を落ち着けた。
さてさて、といった具合に固法は書類を取りながら事件経過について尋ねる事にした。


固法「それで、どうだったの? 迷子の子は」

黒子「ええ。無事に母親の元へ帰りましたわ」


 結局、仕事については特筆するものは起きなかったので極々簡単に説明すると。


 場所はあの時一度上条が迷子を保護したあのスーパー。
上条と黒子の二人がスーパーに到着した途端上条の服がちょいちょいと引っ張られ、そっちの方に振り向くとその子の姿があった。

 通報元はどうやらそのスーパーで夕方時の忙しい時間帯ゆえに余裕はなかったらしく、仕方なく風紀委員に通報したみたいで傍についていた店員さんが申し訳なさそうによろしくお願いしますとちょこんと頭を下げると黒子が引き受けていた。
迷子になった理由として、その女の子に聞けばなんでも「ここに来ればお兄ちゃんに会える」との事。
お兄ちゃんが誰を指すのかはその子の反応を見ればまるわかりで、あの時一度面倒を見た際に接した上条の事がとても気に入ったのか、懐きまくっていたのだった。
ただ黒子の姿を見た途端、泣きそうな表情になったので上条が慌てて抱っこしてあやしたという事はまあ大した事ではないだろう。

その後は黒子が空間移動で母親を探し回り、見つけ出したのが数十分後。
どうやら今回『かざりちゃん』がいないのをちょっぴり寂しく思っていたのだが、上条が来てくれた事で相当の喜びを表していた。

まだ物心ついていない子にさえもフラグを立たせてしまう男・上条。
ちなみに見つかった母親に、その子を帰す時になぜかその母親からも「みおが気に入ったから」とかなんとか言われて食事に誘われたりしたのだが、仕事が残っているという理由を付けて早々と切り上げてきた(逃げてきた)。
とまあ上条の初仕事はこんなもんであったという。





初春「特筆する事起きてるじゃないですかっっ!!」ダンッ




上条「わっ!?」ビックリシタ

初春「あ……………………ご、ごめんささい…………」



>なぜか母親からも~の所で初春が机をバンと叩いた所で自分の失態に気付き、しおしおと萎れる初春に一同冷や汗を垂らしていた。

そんなこんなで上条の初仕事の一日は特に問題なく(?)過ぎていった。


 余談ではあるが、ジャッジメントの仕事は完全下校時刻をもってその日は終了となる。
いつもは補習だらけの毎日を送っている上条としては、結局いつもより帰りが実はほんの少しだけ早くなったりしていてここで補習免除という特例に上条は感涙を流したりしていた。
しかもジャッジメントの仕事は毎日必ずあるというわけでもなく、日常生活に支障をきたすというような事は全然なかったりするのだ。


インデックス「とうまー、今日ジャッジメントの初仕事だったんでしょ? どうだったの?」

上条「んー? ああ、今日は迷子の保護の仕事でな」

インデックス「へー。無事に帰れたの? その子」

上条「ん。ちゃんと見つかったぞ」

インデックス「そっか、よかったんだよ」

上条「機嫌よさそうだな。なんかいい事でもあったか?」

インデックス「ううん、別にー?」


ジャッジメントの仕事を始めたという事で上条の帰りが遅くなるだろうと当初心配していたのだが、いつもより帰りが早くなるだろうなという上条の言葉に機嫌をよくしたインデックス。
しかし勿論彼女が機嫌をよくするそんな理由にも気付かない上条はよくわからないという顔をして今日の自信作のもやし炒めを次々に口に運ぶ。

まあ機嫌がいいに越した事はないと別段気にする事もないのだろう。
いまだ彼女の頭の中にある10万3000冊の魔導書を狙う輩はいる。
「必要悪の教会」から成り行きで任された事になっている、彼女を守るという事は今までの暮らしと変わらず出来るのだろうと上条も安心したりしていた。




初春「大人の女性、大人の女性……………………と」




 カチ、カチとマウスのクリック音と一人の少女の声が室内に響き渡る。
お風呂上がりなのか濡れた髪の毛の上からバスタオルを垂らしたままなのだが、一心不乱にパソコンの前で忙しなくマウスを動かしていた。




初春「む、これは……………………!」




『大人の女性力診断テスト!』




というタイトルのURLリンクを目にするや否や気付けばリンク先に飛んでいたのは大人のオンナを目指す彼女にとっては仕方のないことなのだろう。


どれどれ、と内容に目を通す事にする。



1)一人でバーに入る事ができるか。

初春「バーって………………。えぅ、お酒飲んだ事もない……………………」

 Yes [No] ポチッ


2)強いお酒を飲めるか。

初春「だからお酒飲んだ事ないって……………………」

 Yes [No] ポチッ


3)不倫の恋をした事があるか。

初春「不倫はダメですぅ!」

 Yes [No] ポチッ


4)どんな状況でも冷静に振る舞えるか。

初春「……………………当麻さんだと…………ちょっと無理かも…………///」

 Yes [No] ポチッ


5)聞き上手であるか。

初春「んー……………………こっち、かなあ?」

 [Yes] No ポチッ


6)褒め上手であるか。

初春「いいことをしたら、ちゃんと褒めてあげたいな」

 [Yes] No ポチッ


7)一夜限りの恋をした事があるか。

初春「い、一夜限りって……………………あれ、なのかな…………///
   い、いつかは私も当麻さんと……………………はぅぅ、一夜だけじゃなくて………………///」

 Yes [No] ポチッ


8)常に相手を襲えるか。

初春「し、質問の意図がわかりません!///」プルプル

 Yes [No] ポチッ


9)ハメ上手であるか。

初春「ハメ…………? 卑怯な手でってコトかな? 卑怯な手はダメです」キリッ

 Yes [No] ポチッ


10)にがうりを使用した事があるか。     20000

初春「にがうり………………? 料理に使った事があるとか? これ大人の女性と何の関係があるのかな…………それに20000の数字は何だろ?」

 Yes [No] ポチッ


 その10問目の質問に答えた所で画面が切り替わり、計測中の文字と共に砂時計のイラストが画面に表示される。
なんだかよくわからない質問が半分くらいあったのだが、あれが大人の女性に必要なものなのかな、と初春は考え込んだ。


初春「むぅ……………………」


彼に見合いたい。
彼の好みはまだ聞いてはいないのでわからないのだが、しっかり者の彼(あくまで初春の主観)に合うのはやはり大人の女性なのだ。
ただ自分の体型もこんなだし、性格もこんなの。
嫌われてはないとは思う。
ただ彼が自分を選んでくれるという自信はやはり持てなく、不安が付き纏うのも当然の事だった。


『診断結果』


初春「あ……………………」


すると診断結果という文字が書かれたページに自動更新され、初春の目はそれに釘付けになった。




『貴女の大人の女性力は 20% です。
 貴女は大人の女性とは到底言えないのでしょう。
 残念!




                by MSK NETWORK』



初春「残念って……………………」ガクッ


まああの質問に大人だと言える答えが出来たのは10問中2問だけ。
単純計算で20%になるというのは予想できたのだが、改めて示されたその文字に初春はガクッと頂垂れた。


初春「やっぱり私じゃ……………………ダメなのかな…………」


正直、ショックは大きかった。
彼の趣向がどうであれ、日頃から子供っぽい自分をどうにかしたいと考えていたのにこの結果はそれを真っ向から叩き落とすかの様なもので。
ダメだ、気を抜くと涙さえ出てきてしまいそうになる。
泣き虫な子なんて好む男というのはあまりいないのだろう。
ただ泣きそうになると彼はその温かい手であやしてくれる。

その時の感触を思い出すと、彼に甘えたくなった。





♪~~~♪~~──────────




すると、突然そこで初春の携帯が鳴り響いた。


これは。この着信音は。





初春「当麻さん!?」





彼だけの専用の着信音だ。
聞き間違いではないのか、それとも何かのアラームを寝ぼけて設定してしまったのではないかと目をゴシゴシ擦りながら携帯の画面を確認すると。



『着信:当麻さん』



初春「あわわわわわわわわわわわわ……………………」




間違いは、なかった。




初春「ももももももももしもももししし///」

上条『ぷっ、どうしたんだ初春さん』

初春「はぅぅ///」


 開口一番、冷静に「もしもし」と言えなかった自分に上条の笑い声が電話先から届いた。
それに恥ずかしくなり、あわわわわわと慌てふためくのだが深呼吸して落ち着く事にする。
勿論録音は忘れてなどないし。


上条『いやさ、この前言った一緒にご飯食べに行くって話。あれいつがいいかなー? なんて電話掛けてみたんですけど』

初春「え? え?」


初春は驚いた。
今度ご飯食べに行こうと言ってくれたのは彼なのだが、その事ならあの焼肉でつい消化されたものだと思っていたのだ。
寧ろ気分的には、あの時にあったあのキス寸前の一件でこちらがありがとうと言いたい所でもあったし。


初春「ど、どうして……………………」

上条『あー……………………やっぱ嫌か? ま、そりゃ知り合って間もないやつからいきなり誘われても嫌だよなあ……………………』

初春「そんな事ないです! 上条さんとご一緒するのを楽しみにしてましたから! 行きます、絶対に行きます! 雨が降っても槍が降っても絶対に行きますぅ!!」

上条『お、おお……………………あ、ありがとな…………』

初春「……………………っ///」


彼の寂しそうな声を聞いた瞬間、何かが溢れ出すかの様に初春は叫んでいた。
彼が誘ってくれた。
その事実が初春をまるで楽園に導くかの様で。
嬉しさのあまりちょっぴり目尻に涙が溜まりそうなのを何とか堪え、日取りを上条と決めた。



上条『うん、それじゃ今週の土曜日、ジャッジメントの仕事が終わってからだな。了解、どこ行きたいか決めといてくれなー』

初春「は、はいっ!///」

上条『それじゃ、今日はありがとな。暖かくして寝るんだぞ、おやすみ』

初春「は、はい、おやすみなさい///」



そういうと、暫く電話を耳に当てたままで静止する。
折角の彼からの電話だ、自分から切るなどという愚行はしない。
ツー、ツーという電子音が流れるまで、暫くそのままにしていた。

余韻に浸りながら、初春の心は歓喜で踊っている。
嬉しさのあまり、何かをギュッと抱きしめたくなった。



初春「当麻、さん。当麻さん……………………///」



好き。
好きという言葉では表せないほど、好き。
キュンと来る胸もそのままに、初春はじっとそのままで静止していた。
彼女が動き出すまでもう少し時間は掛かるのだろう。
先程までのあの落ち込みはもう何処にもなかった。


 その数十分後。
そんな幸せ気分に浸りながら、寝る前についついあるものの検索を掛けてしまったのが間違いだったのだろうか。


初春「え……………………………………?」


それを見た瞬間、初春の心臓は跳ねた。


初春「な、何………これ……………?」


初春の目の前のモニターに表示されているのは、画像の検索結果画面。
横に平均七、八枚、縦に何十枚ものある数えきれない程の画像が映し出されている。


初春「何、で……………………当麻さんの画像が、こんなに……………………!?」




そう、そこにあったのは無数の上条の写真────────


ご飯を食べている写真や、授業を受けている写真。
不良に追いかけ回されている写真や、黒子に蹴り飛ばされた時の写真や。
夕暮れか若干オレンジ色がかって顔に影が差しながら真剣な表情をしている写真や……………………

少し先に進むと、美琴やあのシスターちゃんと一緒にいる時の写真もあり、また自分の知らない人物といる時の写真もある。




そして。



自分を抱き寄せ、頭を優しく撫でているあの時の写真も。



初春「これは、まさか……………………!」



その全ての写真がこちらに視線を合わせていない。
所々こちらを見ているものはあるのだが、完全にこちらを見ているものはなかった。





そう、まるでその全てが盗撮かのような、そんな写真ばかり。
確信した。


間違いなく上条は、狙われている。





初春「当麻さんは……………………私が守る!」





こうして初春にとって、絶対に負けられない戦いの幕があけた。

ここまで!

これから登場人物増えるし、一度の場に一緒に出てくる人数も多い機会があると思うから「」の前に名前をつけたんだけど、
やっぱ途中からだし、変だったかなと反省。

でも俺にはこれでしか捌けない気もしたのでこれからはこれでいかせてくだしあ><

また次回!

┌──────────────────────────────────────────────┐
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└──────────────────────────────────────────────┘





 誰だ。誰が何の為に。

初春は目の前に写し出されているその画面に食いつく様に見ていた。
その一点一点、何か不自然な所はないかを探す。
勿論、不自然な点だらけではあるのだがその画像の殆どがそんな状態ゆえに、おかしい所を感じにくくさせてしまってもいる。


『自然な不自然』


木の葉を隠すなら森の中とは少し違う気もするのだが、何かの意図を隠す為にこの大量の画像が貼られたのだろうか。
その一枚一枚を解析の為に保存する。
断じて他意はない、断じて。
初春認可のセキュリティソフトを通しても、至ってこれといった反応はなかった。

それから彼が写っている場所、角度、距離を計る。
その一枚一枚のどれもがバラバラで、手当たり次第に撮影されたものなのだろうか。
画像のExif情報を取ってみると、全ての画像が同一機種だという付加情報が記されている。



恐らく犯人は一人だけ、か。



偶然にもこちらに視線が合っている画像をまじまじと見る。


初春「…………………………………………///」


熱い眼差しに顔が熱を帯びた様な気がしたが、慌てて首を振って調子を整えた。

彼(画像)と視線を合わせていられるという喜びを断腸の思いで断ち切り一旦その画像を閉じて、初春は再び手を動かす。


次に考えなければならないのは、その画像の出所と動機。

出所は至って問題ない。
初春にかかればどんな所に隠そうが所詮は網羅しているネットワークの中で、ほんの少しの時間があれば解析出来てしまえる。

ただ、犯人が何の為にこの無数の画像を撮ったのかが一番のネックだ。

まるで彼の生活の一部始終を見るかの様に、まるで彼全てを付け狙うかの様に。

嫌な予感がする。
もしそれが、上条の命を狙う様な動機だとしたら。


初春「…………………………………………」


もし彼が、何者かに────────────────

と考えると、初春は震えた。
マウスを持つ小さな手も、うまくカーソルを合わせられない。
あんな優しい彼が、温かい彼が。


初春「イヤ……………………イヤ……ぁ……………………当麻、さん…………」


ここでしか言えない彼の名前を呟く。
恐怖を感じずにはいられなかった。


『ほら、もう泣くなって』


ただ、彼の温かい温もりを思い出す。


自分が泣きそうになった時、優しく温めてくれた。
胸に抱き寄せてくれた。
指で自分の涙を拭ってくれた。
そんな優しい愛しい彼の顔を思い浮かべて、初春は顔を上げる。

自分がそんな事ではどうする。
彼は自分の特性を褒めてくれたのだ。
人には自慢出来そうにないものを、誇っていいと言ってくれたのだ。
先程も、自分が守ると決めたのだ。


初春「……………………うん、よしっ」グッ


両手を握り締めて、気合いを入れ直す。
犯人がどんな動機であれ、必ず尻尾を掴んでやる。
それで自分にどんな危害が降り注ごうが、彼を守り抜く。

今だ知らぬ見えざる敵と、戦う覚悟は出来た。




初春「…………………………………………えっ」




 とは先程シリアスな場面を作っておきながら。





初春の目は点になっていた。



彼女の目に映るモニターには画像キャッシュから取れたサーバーデータ、IPアドレスが映し出されていて出所は極々簡単に絞れていた。


初春「これは…………女子高……………………………………?」


自身が持つ情報網を探り、正確な場所を探し当てる。


『日舞女学園』


という、発信元は第九学区に所在する成績もちょっといいくらいの至って平凡な女子高校からで。
能力者レベルの平均は3の様だ。
学校の情報を調べるに芸術系の学校が数多くある学区の中でも普通科が目立つ学校の様だった。

その画像が貼られた場所のリンクを踏む。
学校掲示板、と書かれた掲示板からだった。


初春「これかな…………………………………………」


『1:出身中学晒して被ったら補習(112)』
 2:発火能力者ちょっと来い(21)
 3:体育教師がwwwwwwズラwwwwづらwwww(340)
 4:学校一美人と言えば(3)
 5:コンビニでたむろってたらピンク色の子供に注意された(654)
 6:【イケメン】今日襲われそうになったけど男子高校生に助けられた【画像あり】(999)
 7:【速報】足が臭い(1)
 8:17才♀だけど01:00までに200いったらおっぱいうp(198)
 9:(^q^)(12)
 10:姉の子供がDQNネームで泣けた(510)
                      :
                      :
                      :
                      :
                      :
                      :
                               』




初春「……………………………………………………」



この女子高って結構お下品なのかななんていう感想を持ちながら該当のスレッドにカーソルを合わせた。




『【イケメン】今日襲われそうになったけど男子高校生に助けられた【画像あり】(999)』カチッ





──────────────────────────────

1:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
書き溜めはないから遅いけどちょっと聞いてくれ

2:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TIhiuyd90
クソスレ立てんなks

3:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:PpOqzerEO
は?画像は?

4:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yUU83riC0
さっさと画像うpしろks

5:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
まああれだ、もれ高揚してるから文章うまく書けないかもしれね
バイトの帰りにちょっといつもと違う道で帰ろうと思ったのが間違いだったんだ
その時にDQN4人に絡まれたんだよ

DQN全員ブサメンでさ
それでナンパとかうわあ・・・って思いながら
ごめんなさい、急いでるのでっつって立ち去ろうとしたんだ

6:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:tu6HI2340
うわぁ・・・のAA↓

7:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
画像は?

8:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:tu6HI2340
>>7空気嫁糞もしもしEXILE

9:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:GyhTO2uL0
>>7
IDちょっとすげえ

10:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:dsToRfro0
>>7
記念

11:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:G4tf56RsO
>>7-8
ちょっとワロタ

12:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
ちょ>>7いいとこ持ってくなwww

それでさ
帰ろうとしたら一人が後ろからもれの腕を掴んでさ
気持ち悪い笑い方で遊んでこーや、姉ちゃんとか言ってくんのよ
あ、バイト先は第七学区にあるファミレスなんだけど、その帰りな


13:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
画像はないの?

14:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yO0UbAiy0
>>7記念パピコ

15:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
>>13ちょっと待ってろww

それで嫌だっつって振り切ろうとしても離してくんねーの
結構強く掴んでくるもんだから腕も痛いし帰りたいし、あ、これ俺ヤラれんのかなって思ってた時にさ

16:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yUU83riC0
はよしろ

17:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
画像マダー?

18:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
>>17どんだけ欲しがってんだよwww
しゃーねーな、その微妙な神IDに免じてくれてやるよ、ほら

http://uploader.nth.~~~~~~~.jpg

19:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:GyhTO2uL0
それって第七学区のあの噂のロリ教師なんじゃね?

20:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:GyhTO2uL0
誤爆

21:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:GyhTO2uL0
>>18
キタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━!!

22:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:PpOqzerEO
キタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━!!

ってかちょっとイケメンじゃねーかww俺と変われww

23:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:G4tf56RsO
>>19-21
なんかお前ワロタww



24:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
もっとないの?

25:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:tu6HI2340
なんだこのドヤ顔wwwwwwwwwwwwww













保存しました

26:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yUU83riC0
>>24
お前はどんだけ飢えてんだよwwww





初春「……………………………………………………」イラッ




まるで便所の落書きの様なそのスレッドを見た初春のこめかみに青筋が浮かんでいた。


 とはいえ、状況はとりあえずここまで把握できた。
レス番18に貼られた画像リンクは、確かに彼の画像だ。 その後のレスを読んでいっても、彼に感謝や好意を示すかの様な1のレスと貼られる画像達。
そしてそれに評価、歓喜をしていくスレッドの住民達。
それらの情報を吟味しつつ、とりあえず分かった事がある。


上条の命を脅かす────────そういうものではないらしい。


しかし、それだとしても何故写真が撮られているのか、盗撮のようなものをされているのかがわからない。
彼が女子生徒を助けた、それはわかった。
しかしそれでは何故その助けられた本人が彼の画像を所持しているのかが繋がらない。



初春「むー…………………………………………」



考える。
もう一度その1のレスを読んでみる。




初春「あ」




最後辺りまで読み進めると、答えが見つかった。


860:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
ふぅ……

つか何で>>1はこんな画像持ってんの?

861:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:Yo45Drg0
あ それ俺も気になった

862:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
ああ
それは俺の能力なんだ



初春「え………………………の、能力…………………?」

能力、といった文字に初春は食いついた。
しかし能力と盗撮画像と、一体どんな関係があるのだろうか。

もう少し、読み進めた。



885:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
あんま言うと特定されっから詳しく言えないけどさ
俺、目にしたものを画像に出来るっつー能力持ってんだよ、レベル3の

886:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:Wt56weFTO
>>885
特定した

887:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
>>886
ちょwwwwお前俺のクラスメイトか?www












頼む、見逃してくれ





初春「………………………………………………#」ピキッ


完全に自分のこめかみから何かが切れた音が自分にも聞こえた。


あと。そういえば。
1のレスにもあったあの文字。


『第七学区のファミレスのバイトの帰り~』


あの時を思い出す。

つい最近、上条が女子生徒を助けたとの事でこの支部にやって来た事を。
確か、上条が襲われていた女子生徒を助けて、上条が怪我をして自分が手当をして。


初春「……………………………………………………まさか!」


確信はないのだが、恐らく。

詳細を見るまでだが、犯人は────────────。

とりあえず今は自分の考えを照らし合わせる情報が手元にはない。
ただ、第一七七支部に書類として残してある筈だ。


初春「……………………………………うん、よしっ」ググッ


明日のジャッジメントの仕事に一つやるべき事が出来た初春は、両手を再びグッと握り締めていた。

今日はここまで

NRSは能力者な
ってかパソコンの知識も全然詳しくないくせに何で今回こんな方向になったんだろ・・・

多分、ツッコミ所とかいっぱいあると思いやす

あと不正クラッキングは犯罪だからな!
絶対すんなよ!絶対だぞ!

また次回!


翌日、昼休み。


初春「むー……………………………………………………………………………………」

佐天「初春ー? 難しい顔して、どうしたの?」


箸をくわえたまま唸り声を上げている初春を見て、佐天は首を傾げていた。

 今日の授業中も、初春はずっとそんな表情をしていた。
珍しい。
ここ最近、幸せですーというオーラを発してばかりいた彼女が今日は至って思案顔をしているのだ。
初春といえば授業態度も真面目で、教師からの信頼も厚い。
ジャッジメント所属、というのもあるのだが、それを抜きにしても模範的生徒でもあったりしていて。

そんな彼女が得意であるはずの数学の授業中に指されても、「わかりません」と教師の出題を一蹴していた。
むしろ「考えている暇などありません」という雰囲気でさえも醸し出し、「いつもは先生の話を真面目に聞いてくれるのに!」と年老いた数学教師を泣かせていたのはつい先程の話であった。


こりゃ何かあったな、と佐天は考える。


ぱぁっという笑顔の花はまだ今日見ていない。
日頃それを見ている佐天としては、少々物足りないところで。
なんだかからかいもあんまり効かないなあ、と少し頬を膨らましていた。


佐天「ねえってば」

初春「…………………………………………………………………………………………………………」


ちくしょー、こうなったら。


佐天「あ、上条さん」



初春「!? ど、どこですか!?」



佐天「お、やっと反応した。それにはちゃんと反応するんだね」ニヤニヤ

初春「さっ佐天さん!///」


やはり今の初春をいじれるキーワードはこれなんだねと口角を釣り上げる。
一気に顔を真っ赤にしぶんぶん腕を振り回す初春を見て、佐天は満足気に表情を緩めた。


―――この子からかうの楽しー。


なんて笑う佐天はきっとSだ。
佐天だけにS………………………………………………………………はは、正直すまんかった。


佐天「それで、どうしたの? 難しい顔して考え込んじゃってさ。なんかヤな事でもあった?」

初春「あ、いえ、その、そういう事じゃなくて……………………………………………あ…………………でも、ヤな事、ですね」


慎重に言葉を選ぶみたいだ。
誰にも言えない悩み事を抱え込んでしまったみたいな、そんな雰囲気。
言いたくない事、言えない事なのだろうか。

ただ佐天はそんな初春が口を開くまでじっと待つ。
親友というポジションを自負する自分としては、言えるならば相談してほしいし協力もしてあげたい。
なんだかんだ言って初春が大好きだし。


初春「その、ここではあまり大きな声では言えない事なんですけど…………………………実は」


―――…………………………………………ん?


佐天「っ、ちょっとま、待って初春」

初春「…………………………………………? 佐天さんどうしました?」


初春の言葉を途中で止める。
そんな佐天の様子に今度は初春が首を傾げており、何事かとキョトンとしている。
その時の佐天の視線は、初春ではなく。

教室内の窓の方向――――――――――――――――――厳密には、ある人物の方を視界に収めていた。


―――うわぁ…………………………………………すっごいこっち見てる…………………………………………。


昨日、初春に交際の申し出をしたあのひょろっとした男子・メガネ君がじっとこちらを見ていた。


 まるでこちらの動向をすべて図るかのような強い視線。
逆に見ている視線に気付いていないのか、はたまた意に介してないのかただメガネ君は初春の後ろ姿をじっと見つめている様子だった。

 あの時、初春は明確な「NO」を示したのだが、メガネ君は上条に「お前には負けない」とかなんとか言い放って立ち去っている。
それはまだ。
初春を諦めてはいないという事になるのだろうか。

ううん、きっとそうなのだろう。
今もガン見にガン見を重ねがけしてずっと初春を見ているし。
彼の気弱そうな感じの割にその強い意志の様なものを感じられ、正直驚きもしたのだが。

だが、結局は。


佐天「結局、ダメだと思うけどなあ………………………………………………………………」

初春「? 何がですか?」

佐天「ううん、なんでもない。それよりここで言いにくいならさ、ちょっと教室出ようよー」

初春「あ、はぁい」


―――親友のきっと初めての恋だし、余分なものはなるべく取り除いてあげておきたいし。まああれだけ上条さん一直線の初春だから、薮蛇かも知んないけど、ね。


初春がどれだけ上条を想っているのかは知っている。
だって、あれだけの飛び付き(ダイレクトの意味で)も見せられたんだし、と昨日校門の前で初春が上条にした場面を思い出しながら心の中でそっと呟いていた。
それでも、恐らく。
自分が感じている以上に想っているのだろう。

そう思うと、余計に初春に幸せになってもらいたくなった。

傍目から見ても可愛い初春を、より可愛く魅力的にさせているのはやはり上条で。
こうなりゃ大事な親友をここまでにさせた責任は取ってもらわないと、と佐天は意気込んだ。

感じられるメガネ君のやけに鋭い視線を背中で払い落としつつ、初春を伴って佐天は教室を出る。
それは親友としての思いやりであって、決してからかうネタが増えるからという理由ではない、うん。


「あぁ? 捜し物をしてほしいだぁ? なんで俺に頼むんだよ、自分で探すかアンチスキルに頼むかにしろよ」


 ある部屋の一室で、電話を耳に当てて不機嫌そうに話す男が一人いた。
彼の表情は呆れ半分、面倒くさい半分となんとも人の神経を逆撫でさせるチンピラの顔をしていて。


「あ?」


まあそれは言い過ぎた。


『頼むよ浜面。最近、何でも屋みたいなモン始めたんだろ? 客だと思ってさ、どうせ暇なんだろ?』

浜面「あぁ? こう見えて俺は超多忙な日々を送っているんだぞ」

『嘘つけ。この前なんか可愛い女の子達とファミレスでたむろってたっつー話を聞いたぞ。それに商売するんなら、顧客は大事にした方がいいと思うけどよ?』

浜面「…………………………………………ちっ。ってかアンチスキルとかにゃ頼まんのか?」

『……………………………………………………………………………………黄泉川苦手なんだよ』


―――ああ…………………………………………それはわかる……………………………………。


 電話先の相手からの言葉に妙に納得してしまった浜面。
元スキルアウトの彼は、よく黄泉川という警備員に世話になっていた。
問題を起こしては黄泉川が来襲し――――――――――といった感じだったのだが。

あのパワフルな羽交い締め、一発で骨の髄まで粉々にされそうなパンチ力、一瞬で黄泉の国までのチケットを発行するあの裸絞め――――――――――――――――。


浜面「…………………………………………余計な事思い出さすんじねえよ」

『すまん。ま、俺もお前も随分あいつには世話になったもんなー。あいつさえいなきゃ俺達だってよ…………………………………………』

浜面「みなまで言うな、あん時の痛みがぶり返すだろが」

『だよなあ…………………………………………俺だってあの時やられた脇腹があいつの顔を思い出す度に疼いちまってよ……………………』

浜面「うう…………………………………………」

『うう………………………………………………………………



                    って違あああああああああああああああああああう! こんな痛みを思い出す為に電話掛けたんじゃねえぞ!?』



浜面「うるせえよ、お前から言い出したんじゃねーか」

『…………………………………………そうだったな、すまん』

浜面「ったく…………………………………………………………………………………………………………で?」

『で、とは?』

浜面「ま、お前の言う通り暇してんのは事実だ。スキルアウト時代のお前からの頼みでもあるし、しゃーねーから手伝ってやると言ったんだが」

『いや、初耳だが? ってそうじゃねえ! まじか! 手伝ってくれんのか!? ひゃっほおおおおおおおおおおおおおううう!!』

浜面「それで報酬かなんかは出んのか? …………………………………………奢らされっぱなしで金がねえから金がいいんだが……………………ムギノトキヌハタノヤロウ……………………」

『あん? なんだって?』

浜面「いやすまん、気にすんな。で? 出るのか?」


『ああ、報酬か。…………………………………………………………50万出るっつったらどう思う?』


浜面「………………………………………………………………は? なんだよ、ダイヤでも見つけんのか?」

『いや、なんかな。マイクロSDみてえな小さいデータカードらしいんだがな』

浜面「なんだよそのウワサ話みてえな言い方は」

『ああ、俺も実は実物見ちゃいねーんだ。ただスキルアウトの中でよ、見つけた奴にゃ100万っつーホットな話があんだよ。
 それで俺達スキルアウト共が別々に躍起になって探してんだが、どうにも見つけにくい上に競争率も激しいみたいでな。
 それで俺とお前とで組んで山分けにしようって思ってたんだが』

浜面「まだ見つかってないのか?」

『見つかってたら電話しねーよ。この辺にありそうだって情報も聞いたし、頼むよ。俺と探そうぜ?』

浜面「………………………………………………………………まあ、暇つぶしにはいいか」

『まじか! サンキュー! 今日三時に一旦待ち合わせしようぜ! って浜面空いてっか?』

浜面「今日かよ、いきなりだな。まあ空いてるが」

『よっしゃきた! んじゃ三時に俺達のいつもの溜まり場で待ってっから、そこに来てくれよな!』

浜面「ん、りょーかい」

『っしゃ! サンキュ! また後でな!』

浜面「ああ」pi


 ふむ、と浜面は思案する。
なんか怪しい気もするが、スキルアウト時代の信頼できる仲間からの相談だ、出来れば乗ってあげたくもあった。
正直今の生活は結構キツキツな財政状況の上にアイテムの集まりでは必ずと言っていい程奢らされる。
そこでもし見つけたら50万、というおいしい話を浜面は見逃せる筈もなく、乗る事にしたのだ。

 第三次世界大戦以降、アイテムは学園都市の暗部とは縁を切った生活をしている。
もっともそれは、常に「闇」の中にいた彼らにとってはどんなに望んでも手に入らなかったものであり、それが叶った今ではとても充実した平穏な日々を送っていた。

…………………………………………が。

二度と戻りたくない「闇」の方には、まだ仕事があった。
当時のポジションとしては下っ端も下っ端であったのだが、それなりに収入はあったりしていたのだ。

だが、それも今はない。

加えて無能力者というヒエラルキーの底辺に位置する浜面。
奨学金などもってのほかで、生活するには自分でなんとか稼ぐしかなく。
仕事がない上にアイテムの面々は揃いも揃って浜面に奢らせてくる。滝壺は別だが。

麦野はレベル5、絹旗はレベル4の上位の能力者勢はそんな浜面の懐事情を気にしてはくれないのだ。

まあそれで今回この話を乗ることにした。
それに、50万はでかい。かなりでかい。

たったのデータカード一枚を見つけるだけで50万だ。
もしかしたらデマなのかもしれない。
しかしそう思い行動しなかった所で「あいつが見つけたらしいぞ」とかいう話を聞いたら絶対に後悔するだろう。
まあそれだけだ、アイテムの面々にも別に知らせる必要はないだろうし。
というか秘密で稼ぎたいし。

そう思い、浜面はそれに縋る事にした。








とは言いつつも、収入があった暗部の頃に戻りたいかと聞かれれば浜面はその質問者を殴りかかるほど否定するのだろう。
もう二度と、あんな思いをしたくないし、アイテムの面々にあんな思いをさせたくはない。
結局、浜面はそんなアイテムの立派な一員であった。


上条「ふんふーん♪」

初春「上条さーんっ!」ブンブン

佐天「こんにちはーっ!」

上条「おお初春さん、佐天さん。今から支部に行くところ?」

初春「はいっ、そうです。ごご、ご一緒しましょう」

上条「そっか。じゃあ行くか」

初春「はぃぃ///」

佐天「」ニヤニヤ


 上条の通勤ルートはこの柵川中学の前を通り過ぎる。
昨日ここで偶然上条に出くわした事で、初春は上条がやって来るのをわくわくドキドキしながら待ち伏せしていた。
彼女のこれからの通勤は、ここで上条を待って一緒に行くというルートで確定したようだ。

 今日一日ずっとしていた難しい顔も、上条の顔を一目見るだけですべて吹き飛んでしまっていた。
こうして隣を歩いていられる。
その事が初春を高揚させて、幸せ気分に導いていた。

 昼休み、佐天に例の件をすべて話していた。
それを聞いた佐天も初春に協力するよっと言ってくれていて、今日も支部について来てくれるみたいだ。

 昨日あの掲示板で見た『目にしたものを画像にする能力』という情報。
あれだけ大量の、日付もバラバラ、状況も様々である画像が貼られていたという事は、一日だけではない。
何日かにかけて…………………………………………いや、毎日なのかもしれない。

もしかしたら、今もこの辺に隠れてひっそりと上条を見ているのかもしれないのだ。

出来ることなら、なるべく上条の近くにいた方がいい。


―――これ以上、当麻さんのプライベートを侵害させるわけにはいきません!


大好きな大切な人を守るため、と初春は意気込んでいた。


固法「今日は白井さんとパトロールね」

上条「あ、はい。了解しました」


 今日の仕事はパトロールか、と思案する。
そういやパトロール中の白井とも出くわした事もあったなーと感想を持ちつつ、腕章を用意した。

 風紀を律する者の仕事として、一番の理想は犯罪を未然に防ぐ事である。
起きてしまった事件を対処するのも勿論大事な事なのだが、こうして出回る事で少しでも犯罪が起きる可能性を減らしていくという事はかなり重要な事なのだ。

安全ピンで学ランの腕辺りに縫い付け、準備をする。
隣では、なぜか初春も腕章を付けていた。


固法「あれ? 初春さん腕章付けてどうしたの?」

初春「私も行きます」

黒子「初春は自分の仕事があるのでは?」

初春「行くったら行くんです」

佐天「私も行きますよー」

固法「うーん…………………………………………ま、いいか。それに」

初春「固法先輩?」

固法「(上条くんと一緒にいたいんでしょ?)」ニヤニヤ

初春「(…………………………………………ぁぃ///)」カァッ

上条「?」

黒子「この男は……………………」

佐天「」ニヤニヤ


まあ厳密にはそれだけではないのだが、彼と一緒にいられるという状況が喜ばしくあった。
今回事情を知っている佐天もいるし、何より「空間移動能力者」の黒子がいる。
事情は知らなくとも、彼女がいれば安心出来るのだ。

…………………………………………支援。

…………………………………………三点リーダの多さ


 今回の件について、上条には知らせるつもりはなかった。
どうやら自分が被害を被っているという事には気付いていないようで、知らないのならば知らないままがいいだろうと初春は考えていたのだ。
それに、上条はジャッジメントになったばかりで他の事に気を回してはいられないのだろう。


ジャッジメントは覚える事が多く、激務でもある。
だから4ヶ月という長い研修期間を要していて、それに自分も辟易した事も覚えている。


だから彼に余計な気は使わせたくない。
そういう思いと、あとはもう一つ。





自分の力で、彼を守ってあげたい。






黒子「…………………………………………まあいいですの。それでは、行ってまいりますの」

上条「それじゃ、行ってきます」

佐天「行ってきまーす」

初春「行ってきます!」

固法「はい、行ってらっしゃい」


そうして四人(一人は風紀委員ではないが)といういつもよりも大人数の見回り隊が出動していった。



そして歯車も、様々なその意味を持って大きく回りだしていった。


ここまで

>>596
なんか癖みたいなもんになっちまってる
訂正してこれからもうちょい短くした方がいいんかな

また次回にずつきます!



佐天「それで初春ったら、「こういう事ですので、付き合えません」って断っちゃったんですよー」

黒子「初春がクラスメイトの殿方から交際を申し込まれていたとは」

初春「もう、佐天さんっ///」

黒子「「こういう事ですので、付き合えません」ねえ…………普通はその言葉の真意に何かを感じる筈なのですが」

上条「ん?」

佐天・黒子「はぁ……」

初春「ぇぅ///」



 第七学区の大通り。
午後四時過ぎの学生達の帰宅ラッシュ時は、人通りが忙しなく動いていた。


前を黒子、佐天が歩き、後ろで初春と上条がそれについていく二列の形をとっている。
この陣形を取るにあたって、初春が黒子に無言のプレッシャーを与えていたのは言うまでもないだろう。


とはいえ、はにゃーん的な気分に浸っているだけではない。
前方の佐天、後方の初春で上条を見る怪しげな視線がないかくまなく探してもいるのだ。


手には携帯電話を常に握っており、新しい画像が貼られやしないかも時々チェックしている。
先ほど第一七七支部に到着してから出る僅か数分の間に、事件簿ファイルから例の女子生徒のデータも抜き出していた。



  『田代まさこ』


あの時の女子生徒の名前は、そう言った。
日舞女学園の二年生、能力はレベル3の『認識投影』。
視界に入れたものを脳に蓄積し、特定の機材にデータ化をするもの、らしい。

…………随分変わった能力だと感じた。

どういう原理でデータ化をするのかはわからない。
念動力か、はたまた電気能力でも兼ね備えているのか。
詳しいことはわからないのだが、まあ別にその能力の全てを知る必要もないのだろう。
状況証拠はもう十分揃っていたから。

間違いない。その女子生徒によるものだ。

動機は、あの掲示板にも書いてあった通り――――助けてもらった事によって恋心でも芽生えたのだろう。


初春「……………………」イラッ


でも。
だからとは言え、能力使って盗撮まがいの事までしていいのか。
自分で鑑賞する分にはまあ彼女の『自分だけの現実』によるものだし、譲歩するとはいえども。
理由がどうであれ、彼女はやり方を間違えた。


上条「初春さん、どうしたんだ? 難しい顔をして」

初春「えっあ、いえ…………すみません」

上条「なんかあったか?」

初春「な、なんでもないですよ…………大丈夫です」

上条「ならいいけど。なんかあったら相談とかも全然受けるぞ? はは、俺じゃ頼りないかもしれないけど」

初春「そ、そんなことないです! でも、あ、ありがとうございます!」

佐天・黒子「(これが無自覚天然フラグメイカーの実力…………!)」


そんな難しい顔をしていた初春も、そんな上条の一言によって一瞬で笑顔になっていた。


 それから少し歩くと、初春の携帯の画面に変化が起きた。


―――!!


あの『日舞女学園』の学校掲示板に新しいスレッドが立ち、一覧表の一番上にその文字が表示されていた。
それを見た瞬間、初春の目が大きく開かれた。


『1:今目の前に好きな人がいるんだが』


普段ならそこまで気にしないようなスレッドがやけに嫌な予感がして、条件反射の様にボタンを押していた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
  前にも一度貼ったけど、なんか消されてたからまた貼ってく

  http://uploader.nth.~~~~~~~138.jpg

  画像は俺の能力で撮ってるからバレずに撮れるわwwwwwwww
  でもなんか風紀委員と一緒にいるぞ…?
  つか腕に風紀委員の腕章付けてる…

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――きた!!


その貼られた画像のURLリンクを踏むと、画像が展開されていく。
拡大されているのか、上条の横顔が画面いっぱいに表示された。

 その瞬間、初春は周りを見渡した。
どこだ。どこで見ている。
画像を確認すると、ついさっき通った店が端に写っていて、ほんの数分ほど前に撮影されたもので近くにいるであろう事が窺える。
角度的に女子生徒がいたであろう方向を見るのだが、今は目ぼしいものはない。

どうする、どうする。
犯人を探すべきか、それとも今はスレッドの住民達にせがまれて次々と貼られていくのを止めるべきか。


 考えていると、歩いていた黒子の足が止まった。


黒子「少し休憩にいたしましょうか」

上条「ん、りょーかい」

初春「あ、はい」

佐天「はーい」

初春「(…………佐天さん)」

佐天「(ほえ?)」

初春「(多分ですけど…………この辺りに、います)」

佐天「(!!)」



佐天の表情にも緊張感が走る。
首を何度も左右に振り、怪しげな人物がいないか確認をしていた。


とは言え、場所はコンビニの前。
時間も夕方で学生達でごった返していて、特定の人物を探すのには一苦労してしまう。
更に二人できょろきょろと視線を泳がしすぎると、犯人に警戒されてしまう危惧もあるだろう。


やはりまずは、スレッドの動きを止めるのをした方がいいか。


そう思うと、初春は携帯を再び操作し始めた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

18:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
  かっこよすwwwwwww

  http://uploader.nth.~~~~~~~154.jpg
  http://uploader.nth.~~~~~~~155.jpg
  http://uploader.nth.~~~~~~~156.jpg

19:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yPor73jG0
  うおおおおおおおおおおおおおお

20:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:Aer9UijF0
  なにそのツンツン頭wwwwwwwww


















  やべ、俺も好きになりそう

21:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:UehGGht90
  今夜は寝れねーな


初春「警告でもしましょうか…………」


22:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
  >>20
  だめ

23:警告 ID:???
             /ヽ  ,. . .-‐…‐- . .
          {_/)'⌒ヽ: : : : : : : : : 〉`: 、

          {>:´∧;;;;;/. : : : : : : : : : : : : :ヽ
        /: : : /;;;;;;Y: : : : : : : : : : : : : : : : : : .___
  .   /: : : :/丁⌒: : :∧ : : /: /` }: : : : : :ハ;;;;;;}

     /: : : :/: : :{: : 八: :{:>x/| /   |:i : : :}: : : };;;∧
  .  /: : :/} : : :八Y⌒jY´んハ从  从-‐ノ: : :/Y: : :.
   /: : / /: :/: : : V(.  弋ツ    心Yイ : ∧ノ: : ハ
   !: : :!//i: : : : : 个i ''''     , {ツ /彡く: ハ: : : :i
   }: : :ヽ  / : : : i: :´{入   _     /: : : ∧: i i: : : |  このスレはジャッジメントに
  〃. : : : ∨: : : :/l: :/⌒ヽ、  `  イ: : : :/ }: リ: : :ノ           監視されていますの
  : : :/\: : V : /ノ:/     VT爪_八: : : { 彡. : イ{  
  : :( /: \:} /: :/{     rv\j  { >‐=ミー=彡ヘ: ヽ 
  `)' ){: (  ): : :{八   /ヘJ ̄ ̄ {_/ /   \j: : 八: :} 
   (  ー=ミ  彡'  ト、 / / 〔o〕     `トしヘ. _ \{ j ノ
     r=彡' ー=ァ |\{.      . -‐、‐=ァ′  ヽ  \(  
     `フ   (   |   \_/  x个彳)   ∧   \   
               ヽ   | _/  ∨ {\  /、ヽ     ヽ
              ヽ  ー-ヘ.    ∨j   ヽ{__>  . _} 
              〉    \   \
                 /       \   \
             /           \   \
              〈               j\   \
            / ー--==ニニ=く 

24:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:UehGGht90
  は?

25:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
  >>23
  は?

26:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:Aer9UijF0
  おい、ID・・・

27:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
  !? やべっ最強の風紀委員か!?

28:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yPor73jG0
  おい何があった

29:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:WeThgYL7O
  今北産業


30:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
  お前らすまん、風紀委員にこのスレばれたみたいだわ
  俺はこの場からとにかく逃げる

31:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:UehGGht90
  >>29
  >>1が盗撮画像貼る
  風紀委員にバレた
  高飛び

32:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TbnBbd560
  その後>>1の姿を見た者はいない・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――




初春「白井さんっ!!」

黒子「どうしたんですの?」

上条「ん?」




 その時、初春の視界の端に一目散に逃げ出していく女子生徒の後ろ姿が写った。
叫び声を上げた初春に驚き、黒子は怪訝な表情を見せたがそんな事よりも。


初春「盗撮魔です! あの人を追ってください!」

佐天「うわっすっごい逃げてる」

上条「盗撮魔!?」

黒子「本当ですの!?」

初春「はい! 説明は後でしますからとにかく!」


そう言い切る瞬間に黒子は姿を消していた。


『空間移動能力者』


逃げる者からすれば、これほど嫌な追手はない。
それはどれだけ逃げても、逃げても。








黒子「ジャッジメントですの!!」








「ひぃっ!!??」


一瞬で追いつかれてしまうからだった。


「ごべんばざいいいいいいぃぃぃぃ…………ヒグッ、グスッ…………」

上条「あの時の…………っつか被害者って俺だったのかよ…………」

初春「こんな写真まで…………」

佐天「あは、あはは…………」

固法「こんな事してたのね…………」


 神妙に縄についた女子生徒を第一七七支部まで引っ張ってきたのはつい先ほど。
女子生徒はさっきから泣きじゃくり、謝罪の言葉をただ延々と呟き続けるだけだった。

見ていてこちらが痛々しいほど泣いていて、ちょっぴりやりすぎたかなと反省する。
しかし初春にとって許す事のできないその所業と照らし合わせて、どうしたもんだかと頭を悩ませていた。

とりあえず証拠物品を押収し、調書を取る。
固法も苦笑いを浮かべながら事情聴取をしていたのだが、どうにもやりにくそうだ。


「ごめ、ごめんなざいいぃぃぃぃうわあああああああああぁぁぁぁぁぁんっ!!」

固法「うーん…………」


一際大きい鳴き声が支部内を揺らす。
捕まってしまったという気持ちと、好きな人にこんな姿を見られたという気持ちと、やってしまった事の後悔と。
色んな感情がごった返して、くしゃくしゃに泣きじゃくるその顔を机に突っ伏して埋める女子生徒は、この中で一番年長にはとても見えなかった。

…………固法先輩が一番上じゃないかって? そう書くと何やら明日生きられないような気がしt


固法「うふふふふふふふふふふ…………」


「「「「 」」」」ゾクッ


ごめんなさい。


黒子「それで。結局被害者は上条さんという訳なのですが。あなたはどうするおつもりで?」

上条「俺か?」

佐天「盗撮された上に、不特定多数の人に見られる掲示板に貼られたわけですもんね…………」


 んーと上条は考える。
自分が被害者、とはいっても特にこれと言った被害を被ったわけではない。
それよりも、この目の前で思い切り泣かれるという状況の方が上条にとって気分的に辛かったりする。
正直自分は本当になんともないし。


初春「上条さん…………」


初春の声が耳に届く。
聞いた話で、初春が一番この件で動いてくれていたらしい。
すると彼女の心境を考えるとどうか。

どうすればいいのかという答えはわからない。
わからないのだが、ここまで反省している女子生徒に対して糾弾できる度胸も持ち合わせてもいない。


上条「まあ俺は気にしちゃいないし、許してやってもいいんじゃないか?」


「っ!!?? ほ、ほんどうでずがぁぁぁ!?」

黒子・佐天「!?」

初春「っ」


初春に対して申し訳ない、という表情を見せながらそう言い放った。

 ただやはり、心を鬼にする事など上条にとってできる事ではなかった。
誰かが傷ついたのなら上条としても許せない事だったのだろう。
男女関係なく制裁を食らわせてきた上条だ、その辺りの分別はしてきているつもりだ。

しかし心から反省している様子の相手に、これ以上言う言葉もないのだろう。
これから直してくれれば、それでいい。




上条「ただ! もうこんな事は絶対しちゃダメだぞ。それが約束出来るのなら、俺は許す」



「はい…………もう絶対に、しません…………」

上条「そうか。ならいい」

黒子「はぁ……………………この男は優しいのやら甘いのやら」

佐天「これ、いいんですかね?」

固法「まあ本人が許すって言っちゃってるから、調書も取ったし私達にはどうにも」




女子生徒が今度は逆の意味の涙を流すと、上条は困り果てた顔を見せた。

まさかこんな事が起きていたとは、とため息を吐く。

なぜ黒子がため息を吐いたのかは知らないが、気にする事でもないのだろう。


上条「初春さん…………ごめんな」

初春「え?」


ふとそこで上条が呟いた言葉に、初春は上条の顔を見た。
本当に申し訳なさそうな、そんな表情。


上条「いや、なんつーかその、頑張ってくれてたんだろ? 俺を助ける為に。なんかそれを無駄にしちまった様に許しちゃって」

初春「ぃ…………ぁぅ…………///」

上条「俺全然知らなかったんだ、こんな事が起きてたなんて。それに気付いて動いてくれてたっつーのに、情けないよな、俺」


自嘲する様にため息混じりに苦笑いを見せる上条に、初春は気付けばその手を両手で包んでいた。


初春「っ、そ、そんな事ないです! 許す事が出来るのは、上条さんが優しいからなんです!
   むしろ上条さんがそれほど優しいって事が知れて、嬉しいんです!
   そんな上条さんが……………………


   ……………………って、はっ!!」


黒子「おぉ………………」

佐天「わお………………」

固法「ほう………………」

「……………………グスッ」

上条「お、おう……………………ありがとな、初春さん」


 自分が言おうとした事の重大さに途中で気付き、言葉を何とか止めた。
周りからは感嘆とする声が響き、初春はその顔を一気に真っ赤に染め上げる。
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうなほど、初春の心は動揺していた。


初春「はぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……………………///」


上条「はは。でも本当にありがとう、初春さん」


きゅっ―――――――――――


更に手を握り返される感触が、初春を包み込む。
その暖かな柔らかい彼の感触が、恥ずかしくもまた昇天しそうなほど嬉しかった。


初春「えへへ……………………」

黒子「緩みきってますわね」

佐天「うはー、見ているこっちが恥ずかしくなっちゃいそうな所見せつけちゃってー、この初春め」ニヤニヤ


 支部からの帰り道、隣を歩く佐天のくいくいと腕で腕を押されるのだが、その感触は恐らく初春に届いていないのだろう。
黒子もなんだかなーという表情を見せているのだが、初春には届く事はない。
先ほど味わったあの感触は、忘れたくない。

上条の優しさをまた見れて、初春はそれがまるで自分の事のように喜んでいた。
自分の好きな彼の優しさが見れて、本当に嬉しい。
彼と一緒に仕事が出来る事になって、本当によかったと思える第一弾の事だった。


佐天「でもさ、初春」

初春「はい? なんですか?」




佐天「浮かれるのもいいけど、鞄忘れちゃダメだよ」


初春「えっ

   ああああああああああああああああああああああああああああああ」


しまったーという声を上げる。
というか気付いていたのなら早く言って欲しかったと佐天を恨めしげに睨むのだが、ふやけきってる彼女の表情は全くと言っていい程迫力はない。


佐天「ごめんごめん、私も今気付いた。取りに行ってくる?」

初春「あ…………はい、ごめんなさい、ちょっと行ってきます!」

佐天「はーい、行ってらっしゃい」

黒子「わたくし達はここで待っていますから、早く行ってらっしゃいな」

初春「すみません、すぐ戻ります!」


だだだーっと走っていく初春の後ろ姿を見て、黒子はもう一度ため息を大きく吐いていた。



初春「えへへ…………大好きです、当麻さん…………」


一人になり、言いたいことをここぞとばかりに言う。
ビルの間を小走りに駆けながら心の中は彼の事で埋め尽くされていた。



「ほら、探せええええええええ!!」

「うおおおおおおおお100万はもらったああああああああ!!」



初春「…………なんか今日、スキルアウトの人達多いなぁ」


すると初春の目の前を数人のスキルアウト達が横切っていく。
駆けていた足を止め、去っていったスキルアウト達を横目で見ながらやり過ごすと、再びその足を動かし始めた。




あの時。







黒子達と離れなければよかった。








そう思う事が身に起きる事はまだ知らずに、初春は第一七七支部への道を駆け足で向かっていった。



ここまで

また次回!


初春「鞄忘れちゃうなんて、私おっちょこちょいだなぁ」


 誰に言い聞かせる訳でもなく、自分で自分に苦笑いをしつつ置き去りになっていた鞄を持ち第一七七支部から室外に出る。
扉を閉めた一秒の後、電子ロックが掛かった音を確認すると初春はビルの出口の方向へと足を進めていた。


初春「………………………………」


 完全下校時刻が近い時間帯で、冬の夕方は夜の帳が下りるのが早い。
人気が少なくなった――――いや、無くなったと言っていい程このビルは静かになっていて、閑散とした静けさに少々心細くなってくる。
タッタッと駆け足気味に歩く自分の足音がやけに大きく感じられた。


―――早く戻らなきゃ。


人気がなくなったとは言えども、ビル内を照らす灯りはきちんと灯っていてそれがせめてもの気持ちの救いになっていた。

 初春にとって大きな事件は、本日あっけなく幕を下ろした。
事件が発覚してからの翌日スピード解決。
それについては一安心、と胸をなで下ろしていた。

自分が解決させた云々よりも、彼の力になれたという事が何よりも嬉しい。
結局彼は犯人を許したとしても、何ら不満はない。
むしろそんな彼の優しさが見れて、非常に嬉しかったのだ。


初春「当麻、さん…………」


胸がトクン、と脈を打つ。
会いたい。声が聞きたい。
抱きしめたい。抱きしめて欲しい。
強く、強く。ふわわ……

明日はジャッジメント非番の日だ。
今までの初春なら、休暇を喜んでいたのだが、今は違う。
また明日会えるかな、会いたいなとボソリと呟きながらビルの外へと出て行った。


しかしビルの玄関の外に出た矢先に機嫌が悪そうな野蛮な声が初春の耳に届き、足が止まってしまった。


「んで? データカードは見つかったのかって聞いてんだよ」

「い、いえ…………す、すみません…………まだd」

「見つけて来いって言っただろうがよ!?」ゴッ

「ぐはっ!! す、すみませ…………」

「おらぁっ、てめぇもだよ!」バキッ

「そ、そんな……ごふっ!!」


初春「っ」


 ビルの柱の陰に隠れるようにしてそこから覗き込む初春の目に届いたのは、ビルの駐車場で数人の男達が一人の男に次々に殴られていく場面。
何かグループ内で揉め事でも起きたのか、リーダー格らしき体格のいい男が数人の男達に罵倒を浴びせ暴行を働いていた。
無抵抗の相手を殴り倒した所で、それでもまだ機嫌は収まらないのか鉄パイプを手にして側に駐車してあった白いセダンの車の窓ガラスを割る。

ガシャン! という音が一際大きく響き、窓ガラスはあっけなく粉々になっていった。


「あー、ムカつくなぁおい。クソむかつく。聞けば浜面の野郎が動き出したらしいじゃねえか。ああ?」

「は、はい…………そ、そうみたいですね!」

「あいつ俺達のグループ見捨てやがったと思ったら女達に囲まれてヘラヘラしやがって…………クソ!」バゴッ!!

「っひぃ!?」


初春「っ!」


そう言ったと思えば鉄パイプで怒りに任せてボンネットを一心不乱に叩き、壊していく。
その様子はまさに野蛮の一言で尽きてしまうほど荒れ狂っていた。


「あー…………クソだな、本当にクソだ。最近ヤレてねえし、女でも犯してスッキリしてぇなおい」




「おい、君達何をしているんだ!? ああ、私の車が…………!?」




すると、ビルの自動ドアが開き中からスーツ姿の中年の男性が出てくる。
駐車場から聞こえる物々しい大きな音に気付き、出てきたのだろうか。
男性はその車を見ると、怒りの視線をリーダー格の男に向ける。
どうやらその車は、その人の車だった様だ。


「ああ? ……………………はん、いいカモ見つけた」

「どうしてくれるんだ! 私の車を…………弁償してもらうぞ!?」

「おっさん、カネ持ってますかあ?」

「ふざけるな! いいかお前ら、通報してやる!」

「あ?」


自分が潜む柱を通り過ぎ、車の元へと向かう。
その人も怒りで冷静になれないのか、出てしまえばどうなるのか考える余裕はなかったらしい。
寄ってくる男性を一瞥すると、リーダー格の男はその仲間達に視線を向け、首でちょい、と何かを指図するように動かしていた。


「黙らせろ」

「「「は、はい!」」」

「な、なんだ君達は!?」


そのリーダー格の男の命令を元に、男達がすぐさま男性を囲むように動く。
…………マズイ、このままでは。



初春「あ…………ダメ…………!」


このままでは、男性が暴行を受けてしまう。
下手をすれば殺されてしまうかもしれない。
学園都市では頻繁に、という訳でもないのだがそんな物騒な事件が度々起きる。
ジャッジメントの自分としては、そんな状況を見逃せるものではなかった。

応援を呼んでいる暇はないのだろう。
早くどうにかせねば、どうなるか想像に難くなかった。
恐怖はないのかと聞かれれば勿論そんな事はない。
しかし、そんな悠長な事は言ってられる状況ではなかった。

弱者の味方に、弱者の救済に。
自身が掲げた正義の元に、初春は動く。





初春「ジャッジメントですっ!」


「あん?

















 …………………………………………ぐへ、女か」




初春「…………………………………………っ!!」





姿を現した初春の姿に、リーダー格の男の目が光った様な気がした。



「ちょうどいいトコに現れたなあ、おい」

初春「そ、その人を離してください!」

「ああ? 俺達はまだなぁんにもしてねえぞ、可愛い風紀委員サン?」

「な、何を言っているんだね!? 私の車をこんな風にしておいて!」



 リーダー格の男が初春に近づいてくる。
腕に付けた腕章に目をやると、初春がジャッジメントだと気付いたのか更にその目を狡猾に細めていた。
後ろでは男性のそんな声が上がっていたのだが、リーダー格の男の下っ端らしき男達が取り囲む様に男性との距離を縮めると、男性の威勢よく上がっていた声が情けなく萎んでいく。
自身の身に降りかかるであろう危機にようやく気が付いた様子だった。



初春「っ…………!」



近づいてくる男に、初春はその身を強張らせた。
男の表情は、まさに卑猥に歪んでいる。
自分が風紀委員だろうが何だろうが、そんな事はお構いなしにただ自分の欲求を満たしたいという気持ちさえ感じ取れてしまう雰囲気に、初春は息を飲んだ。


まずい。
周りに目を向けるが、自分の力になれそうなものは何一つない。
ただ男と、今更恐れる男性とそれを囲む男達と。



「ま、確かに捕まるような事をしちゃうかもしれねえけどなぁ?」



ガッ――――――と腕を掴まれ、身動きを取れなくされてしまった。


初春「っ!!」

「さぁて、俺達はお楽しみタイムにでも洒落込もうかぁ」

初春「そ、そんな事したら自分がどうなるかわからないんですか!?」

「あぁ? 俺を捕まえようってか? はは、安心しろ嬢ちゃん。そんな事気にならない程の快楽の世界に連れてってやるからよ?」

初春「!? い、いや…………離して!!」

「ま、恨むんなら自分の運のなさに恨むんだな。はっ、いや寧ろ幸せだって思えるようにしてやんぜ?」

初春「ぃ、いや…………!」


なぜ、この男はそんなに血走った目をしているのだろう。
なぜ、自分は力がないのに飛び出してしまったんだろう。
なぜ、自分は力がないのだろう。


なぜ、こんな事になったんだろう…………………………………………。




「ほらぁ! さっさと入れや!」





初春「きゃっ……………………い、いや…………と、当麻さん……………………!」



乱暴に引っ張られ、男達が乗ってきたと思われるワゴン車に押し込まれる。


初春の力では、到底跳ね返せるものではなかった。


佐天「なんか初春おそいなぁ…………」

黒子「鞄が見つからないのでしょうか?」


 先ほど別れた道の途中で、大分時間が経つのだが初春が戻ってくる気配がない事に佐天と黒子は疑問を持ち始めていた。
場所は第七学区の彼女らが度々訪れているファミレスの真ん前。
暗くなった空の黒に反発しあうような明るさは、まだまだ少女である彼女達にとって少しでも気分を休めてくれるのだが今は違う。


「いいからさっさと来る。わかった? 30秒だけ待っててあげるから。遅れたら壁のシミよ?」pi

「全く、超馬鹿面の癖に私達の呼び出しに応じないとは超お仕置きの必要がありますね」

「大丈夫、私はそんなはまづらが一週間床に伏す事になっても看病する」


ふとそんな会話がファミレスから出てきた女の子達三人から聞こえる。
初春と同年代くらいの女の子の声がして、彼女がもしかしたらいるのではないだろうかとそちらに目を向けるのだが当然彼女の姿はそこにはなかった。

何か、嫌な予感が抜け切らない。

基本的にしっかりしている初春の事だ、どこに鞄を置いたのだろうとか、道に迷ったとかそんな事にはならずにそんなに時間もかからずに戻ってくるだろうと予想していたのだが。
しかしあれから何十分が過ぎようとしていたのだろうか。
ここからなら、支部は五分もかからずに着ける距離のはず。
鞄を取って戻ってくるだけの話だ、10~15分もあれば十分なのに。
最近幸せに浸って上の空の時が多いといえども、ものの分別はしっかり出来る子だ、それなのに。

まだ、彼女は戻ってこない。


黒子「何かあったのでしょうか……………………」

佐天「私、電話掛けてみます」


妙な嫌な予感を感じたまま、佐天はおもむろに携帯電話を取り出す。
初春の番号はショートカットに登録してあるため、彼女の番号を呼び出すのは造作も無い。
pi、piと二回ほど携帯のボタンを押すとすぐさま電話を耳に当てた。


―――初春……………………!


prrrrrrrr、prrrrrrrrrrr………………


 相手の応答を待つ音が佐天の耳に響く。
1コール、2コール、3コール。
早く、早く出て。

prrrrrrrrrっ

そして5コール目で、その音は止まった。


佐天「もしもしっ、初春っ!?」


しかし。


『おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか電源が入っていないため、かかりません』


『もしもし』と可愛らしいいつもの声とは違った。
顔も知らないのに聞きなれた女性のアナウンス音が佐天の耳に届くと、佐天の表情もいよいよ険しくなる。

おかしい。
彼女は自分からの着信は必ず取ってくれていたのに。
今まで時間がない時でも、それでも出て返答をしてくれていた。
だが今は、出ない。

バッと初春が歩いていった方向に目を向ける。
もう近くまで来ていたから、応対する必要がないために出なかったのではないだろうかと期待を寄せてそちらを見たのだが。
しかし、あってほしいものはなかった。


『ご用件の方は、ピーッと言う発信音の後にお名前とご用件をお話ください…………』

佐天「もしもし初春!? 気付いたら、すぐ電話して!」


そのままでいた佐天の耳にアナウンスの続きが聞こえると、佐天はそう言うとすぐさま電話を切った。


黒子「出ませんでしたの?」

佐天「はい……………………初春…………」

黒子「大丈夫でしょうか…………?」

佐天「早く戻ってきて…………!」


半ば嘆願するかのように呟く佐天。黒子も勿論心配の色が取れずに初春の身を案じていた。
いつ彼女がここに戻ってくるのかはわからない。
電話が繋がらない以上、下手に動いてもすれ違ってしまうだけだろう。


「しかしこのクソ広い学園都市の中で一枚のそのメモリーカードを探すなんて無理なんじゃねえか?」

「最初は俺もそう思ったんだがな。だがこの有力情報をあたってみてから考えようぜ?」

「ま、それもそうだな。たったそれだけで50万な訳だもんな」

「50万もあれば女何人喰えるんやら…………へへ、楽しくなってきたぜ!」

「……………………そろそろお前も特定の相手を見つけろよ」

「うるせぇ! スキルアウトやめて三人もの女に囲まれてるテメェには言われたくねえよ!」

「俺は一人に絞ってるんだって!」

「は、それはどうだか。前に聞いた女三人全員を食っちまってr 「はーまづらぁ……………………?」 ひっ、だ、誰!?」

「げ、む、麦野!? ファミレスん中で待ってるんじゃなかったのかよ!?」

「そりゃあんたが来るの遅かったからねえ……………………?」

「ってかその隣の超見てくれの悪いヤンキー男は誰ですか?」

「み、見てくれの悪いヤンキーって…………」グサ







佐天「……………………」

黒子「……………………佐天さん、初春はもしかして」


『スキルアウト』という単語が佐天と黒子の身を一瞬震えさせた。

スキルアウト―――原則的には無能力者の武装集団を指す。
もっと簡単に言えば、不良やチンピラの様なもの。
そしてそんなスキルアウトによる残虐な事件や抗争の仰々しさを物語るニュースが、この学園都市では後を絶たない。

『普通』の世界の者達からすれば、絶対に関わりたくない存在だ。


そんな騒がしい会話を横で聞いていた佐天と黒子の嫌な予感が更に強くなる。
もしかしたら、初春は……………………

佐天は嫌な予感が更に強くなっていったのを感じた。
初春が、初春が。

そうであってほしくない。
大切な友人の身に、なにかあってほしくなんかない。



「ってかおい、まじでカワイイ子達じゃねえか……………………それより浜面、『ブル』の奴からなんかさっきメールが来たんだけどよ、女捕まえたとか言ってやがったぞ?」

「はあ?」

「浜面…………滝壺さんという人が超ありながら…………」

「はまづら…………? どういう事…………?」

「た、滝壺、ち、違う俺じゃない! ってかなんでお前今そんな事言い出すんだよ!」

「いや、なんかここで言えばお前が面白い事になりそうでな?
 なんか『土下座したら浜面も参加させてやる』とかなんとか書いてあったぜ?」

「浜面ぁ…………………………………………?」

「これはもう超言い逃れできませんね…………?」

「はまづら…………もう、応援できないよ…………」

「違うんだ! 滝壺おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「にしても、『ブル』の奴。写メも送ってきやがったんだが、まだ子供じゃねえか。ほら浜面、見てみろって」

「見ねえよ!?」

「浜面に余計なもの超見せないで下さい」パシッ

「なになに? どんな子なの?」

「俺も…………参考までに…………」

「はまづら…………………………………………」

「ウソウソ! 冗談だって滝壺!」






ただやはり悪い予感というものは。





「うわ、まだ小さな子じゃない!」

「私と同じくらいでしょうか…………? あれ、この子超ジャッジメントですか?」

「頭に花飾り、カワイイね。それより、捕まえたって何?」

「ん、んぅんん!! 滝壺は気にしなくてもいいからな?」














佐天「え………………………………………………………………?」

黒子「…………………………………………っ……………!!??」



どうして、こんなにも的中してしまうものなのだろうか。



モタモタしちまった、ごめん

また次回!


初春「んー! んん!」

「大人しくしてろよ? 痛くしねえからよ、グヘへ」


 怖い。怖いよ…………。

 数人の男達と初春を乗せた車が走る。
口にはガムテープを張られ、両腕も後ろに縛られて身動きが取れない。
ワゴン車の後部座席に押し込まれ、隣には男が陣取っており初春に視線を寄越す度に卑猥な笑い顔を見せていた。

ただ、身体を震わせて縮こませるだけしかできない。


―――いや…………いやぁ、当麻さん…………っ


車は走っているのは分かる。どこに向かっているのかを考えている余裕などない。
等間隔に置かれた街頭の灯りを二、三秒毎に走り抜けているのが視界に映っているが、見ているというだけで頭には入ってこない。

これから自分はどうなってしまうのか、どうされてしまうのか。
恐怖が初春を支配していて、視界も涙で滲み出してきていた。


「ゲヘ、女の涙ってたまんねえよなあ」

初春「っ……………………!」


その涙も男を喜ばす材料にしかならない。
絶体絶命―――という言葉が初春の頭を駆け巡った。


 初春は弱い自分が嫌いだった。
それは身体的にも、内面的にも。
同僚である黒子という少女は、自分とさほど変わらない体格であるのにも関わらず身体能力・演算能力が自分のそれとはさほど違う。
そしてたった一つだけ年が上の美琴は、自分と比べるのが失礼なくらいの次元の存在で。
こんな状況など、どうとでも対処出来てしまうのだろう。

しかし、自分にはそんな力はない。

能力だって、身体だって、力も何もなく。
ジャッジメントの仕事中でも目の前で起こった事件に立ちすくむ事だってあった。


 周りの人達は『女の子なんだから仕方がない』と言う。
しかし自分としてはそんな理由で自身が掲げた正義から引き下がりたくなかった。
それならば、何の為にジャッジメントになったのか。
何をしたいが為にジャッジメントになったのか。

弱者を、守りたいからではないのか。

だったら今、こんな男に屈している訳にもいかない。
この男の、言いなりになるものか。


初春「……………………っ」

「おいおい、なんだよその目は。そんなに凄まれると俺興奮しちまうぜ」


 男の手が自分の太もも辺りに置かれた。
気持ち悪い。嫌悪感しかない。
触るなと男の手から逃れるように足を動かすと、男はその目を更にキツく歪めた。






「おーおー、強がっちゃって。そんな子、嫌いじゃないぜ?」






初春「…………………………………………!?」






しかし、男の手が…………………………自分のスカートを、めくり始めていた。



黒子「その話、詳しく聞かせなさい!」

浜面「おわっ、な、何だ!? いきなり女の子達が目の前に…………!」

麦野「あ? なんだこいつら」

絹旗「超ただならぬ様子ですね」

滝壺「……………………空間移動?」

佐天「すみません、ちょっと失礼します!」

浜面「おわ、ちょ」



『ジャッジメント』『頭に花飾り』


耳に届いた二つのワードが、今自分達が探している少女だという事を悟らせると二人は一瞬の間もなく行動していた。

 空間移動で黒子と佐天が浜面の元に移動すると、佐天は浜面が手にしていた携帯電話を取り上げるようにして画面を確認する。


佐天・黒子「……………………………初春!!」


 間違いなかった。
画像に写っていたのは、怯えた表情の初春の姿。
場所は走っている車の中なのだろうか、初春の後ろに写る光が不自然に横に線を描いていた。
間違いであってほしかった。
しかしその画像を見るだけで十分状況は理解出来てしまう。


黒子と佐天の二人の心臓は、大きく脈を打っていた。







 初春は、攫われたのだ。





浜面「んあ? この画像の子と知り合いなのか?」

黒子「初春は今どこにいますの!?」

佐天「初春…………初春……………………!」


 胸ぐらを掴みかかるかの様に詰め寄られた浜面は、その勢いに圧倒されていた。
彼女の様子からして、ただならない雰囲気の様で。
ツインテールの少女の後ろで知らない女の子も両手で顔を覆って泣き出してしまっている。

状況を把握するに、恐らく画像の女の子は彼女達の知り合いか。


黒子「お願いですから…………教えてくださいましっ!!」

佐天「お願いします! 大事な友達なんですっ!」


土下座でもするかの勢いで頭を下げる二人に、浜面は困った表情を見せる。
その様子から、本当に二人にとって大事な子なんだという印象を受けていた。
恐らく年齢は、絹旗くらいのまだ小さな女の子。
そんな子が、スキルアウト時代に耳にした暴れん坊の異名で知られる『ブル』に捕まった、という事は。


純潔を、散らされるという事を意味している。


 元々浜面からしてみれば、別に大して関心も持たない事だった。
スキルアウト達は、窃盗、略奪、強姦、殺人など様々な犯罪を犯す。
かつで自分もATM荒らしや窃盗などの犯罪は繰り返してきては警備員に捕まった事も多々あった。
しかし、強姦や卑猥な行為は今まで一切してきてはいない。

どうしても、悲哀の念を感じてしまう。

元々どうして浜面がスキルアウトになったのかというと、傲慢、高圧的に振る舞う能力者達に対抗する為だった。
能力が発現したからといって、能力者達の無能力者達を蔑み侮蔑しまた虐げた行為が浜面にとって許せるものではなかった。
それはこの学園都市に対する疑問でもあったし、能力がないからゴミの様に扱うという常規を浜面は憎んでいた。


 一矢報いたい。

裏を返せば、無能力者達と共にその体制と戦いたいという優しさからくるもので。
弱い者の味方に―――――とは聞こえはいいのかもしれない。
しかしそのつもりだった。

 だから今まで、『女を捕まえた』という仲間達の誘いは全て断ってきていた。
どうしても可哀想という思いが先行してしまい、とてもではないが参加する気は起きなかった。

しかし、それで今はよかったと思える。

命に変えても守りたいと思う大切な者も出来たし、それがどんな相手でも立ち向かっていくだろう。


滝壺「……………………はまづら」

浜面「滝壺……………………」


 女の子二人の様子を見て、心配の色を浮かべるその大切な者の自分を呼ぶ声が浜面の耳に届く。
恐らく、その捕われたという少女の危機を彼女も肌で感じたのだろう。
もし、もし。

捕われた、というのが大切な者だとしたら。



浜面「おい。『ブル』の野郎と連絡取れるか?」

「ん? はっ、浜面も参加したくなったか?」

浜面「違ぇ。やめさせるんだよ」

「……………………ああん?」

絹旗「浜面…………」

麦野「浜面、あんた」

滝壺「……………………それでこそ、はまづらだよ」

浜面「頼む。手遅れになんねえ内に…………!」

「……………………ったく、わかったよ」



黒子「感謝致しますの!」

佐天「あ、ありがとうございます……………………!」


そう考えると、浜面はそう行動していた。


prrrrrrrrrrrrrr―――――――――――――


「ああ? んだよんな時に」pi

初春「……………………っ…………!」


 太ももを露にされ、それを不快な笑みを浮かべて眺めていた男の携帯の着信音が車内に響き渡った。
興奮していたのだろうか、少々息も荒いようでそれが更に初春の恐怖心を煽っていた。


「なんか用か?」

『よう』

「ああ? その声……………………浜面かよ。どうした? 参加する気にでもなったか? ゲヘ」


初春「……………………っ!?」


『……………………んー…………まあな』

「ほう? テメェ、可愛い子達に囲まれてるっつー噂だったんだが、なんだよ。ヤラせてくれねえのかよ? 欲求不満なのかぁ?」

『はは、ま、そんなところかもな。ところで、今どこにいるんだ?』

「教えてやってもいいが、土下座する覚悟は出来てんだろうな?」

『ああ。お前はもう手を出しちまったか?』

「いんや、まだだ。しかしなあ…………くく…………情けねえやつだな、てめえはオイ。まあいい。今は移動中よ」

『どこに向かうつもりだ?』

「第十一学区の俺達のアジトだ。場所は分かるよなぁ?」

『ああ、わかった…………それより、俺が来るまでまだその子に手つけないでおいてくれっか?』

「はあ? てめえにそんな指図受ける筋合いはねえぞ?」

『頼む』

「ああ? 中古は飽きたから初物をいただきたいってか? か~、モッテルオトコは違うねぇ」

『んじゃ、俺もそっち向かうから』pi


「…………………………………………ちっ」


 電話をまるで楽しんでいたかの様だったが、愉快に歪めていた表情を消すと男は苛々した様子で乱暴に携帯を投げ捨てる。
バキ!という音と共に、電源も落ちたのかディスプレイから光が消えていた。


初春「………………………っぁ……………ぃ……」


物々しい会話の内容に、初春はその身を震わせていた。
相手先が誰なのかもわからないし、電話口から漏れた声も全て聞き取れた訳でもないのだが、男の口から出た純潔の危機を匂わす言葉に心底恐怖を覚える。



イヤダ、イヤダ、イヤダ……………………。



その男の視線が自分の捲れたスカート、太ももに来ると再びその口角が厭らしく釣り上がった。




―――当麻さん……………………当麻さん当麻さん……………………!!


ギュッと目を瞑り、心底会いたい彼の名を心の中で叫び続ける。
悲しくて、苦しくて。
目の端から、涙さえ溢れてきていた。
もしこんな形で純潔を散らしてしまったとしたら。

もう二度と、彼とはいられない。

汚れた自分を見て欲しくない。
汚れた自分が彼に近づく事で、彼を汚してしまいたくない。
でも、会いたい。


恐怖と畏怖と後悔と想いと、頭がどうにかなってしまいそうだった。



浜面「……………………第十一学区だ」


 電話を切った浜面は、苦虫を噛んだような表情で呟く。
そんな浜面の様子を穴が開くほど見つめて窺っていた黒子と佐天の目が見開かれ、お互いの顔を見合った。


黒子「第十一学区……………………!」

佐天「く、詳しい場所は……………………!?」

「スキルアウトの野郎共の巣窟にしてる、あの廃墟ビルだろうな。詳しい場所は……………………口じゃ説明しづれえな」

黒子「くっ……………………!」

佐天「早くしないと初春が……………………!」



 浜面から電話を受け取ったスキルアウトの男がそう言うと、黒子と佐天にまた暗い色が差す。
第十一学区だというのがわかっても、詳しい場所がわからなければ恐らく立ち往生してしまうだろう。


しかし、迷っている時間などない。
それに黒子は空間移動能力の保持者だ、見つかるまで怪しげな所を覗いては次を探す――――――その一縷の希望に縋るしかないと黒子は再び顔を上げた。



黒子「ご助勢感謝いたします!」

佐天「白井さん、行きましょう!」



一分、一秒だって惜しい。
手遅れになってしまってからでは仕方がない。
恐らく、今だって震えて泣いているはずなのだ。
初春の心の中にいる人を、ずっと思い浮かべながら。




滝壺「はまづら……………………」

浜面「ああ、わかってる。おい嬢ちゃん達、俺の車に乗っていけ。そっちのが早いだろ?」

黒子「え…………しかし…………」


場所を知っているのなら、連れていってもらった方が望ましいだろう。
しかしそうは言っても、結局浜面も黒子からしてみればスキルアウトで、信じ難い相手だ。
しかもこう考えては失礼なのかもしれない。
もしかしたら、罠にかけられているという可能性も。

しかし、それでも。
結局今は信じるしかないのだ。
この躊躇している時間だって惜しまれる。
初春が危ないというのに、自分の身の心配などしていられない。

それに、浜面という男の袖を心配そうな表情でくいくいと引っ張る女の子の様子が、彼を信じていいものかと思わせてしまっていた。


麦野「まあここまで来ちゃったし、ねえ…………浜面呼んだには呼んだけどどうせ暇だったし?」

絹旗「なんか最近超平和で暴れ足りないですし?」

浜面「いや絹旗、お前は大変だっただろ…………」

佐天「すみません……………………お願いします…………!」

「『ブル』の奴、なんか最近調子乗ってやがるからな……………………アァデモメモリーカードドウシヨ」


佐天ももはや縋るしかない、といった様子で頭を下げる。
この面々が一体どんな関係の集団なのかはわからないが、今は信じるしかなかった。


佐天「初春…………初春…………!」

黒子「きっと…………大丈夫ですわ…………」


 猛スピードで国道を走り抜ける車が一台。
運転席に浜面、助手席にスキルアウトの男が乗っていて、黒子と佐天は後部座席に座っていた。
佐天の隣では滝壺が佐天の背中を撫でており、その黒子の言葉と相乗して佐天の気持ちを少し落ち着かせていた。
三列目では麦野と絹旗が陣取っており、その二人は何やら楽しげに場違いのヒソヒソ話をしていたが、それについては黒子はとやかく言うつもりはなかった。
なんやかんや言って巻き込んでしまったようなものだし、結局協力してくれるとの事なのだ。

無事でいて欲しい。
黒子と佐天の二人の胸中はこれだけだった。
もし、もし。
初春に何かあったとしたら…………と考えるだけでも意識が遠のいてしまいそうなほど。

彼女とてこんな事になって、今感じている恐怖感、絶望感は計り知れないものなのだろう。
せめて、自分ならよかったと黒子は苦虫を噛むばかりだった。
なぜあの時一人にしてしまったのか。
なぜ自分がついていかなったのか。

後悔の念しか浮かんでこない。

初春だって、好きな人が出来て近付けるという事だけでこっちにまで幸せにしてくれそうな笑顔を見せてくれて……………………。



そう言うと黒子ははっとし、携帯を取り出した。


佐天「白井さん…………?」


考える。
上条を、呼ぶか。
呼んだところでどうにかなるのか―――――しかし、黒子は上条の電話番号を無意識で呼び出していた。

初春が今一番会いたいのは、彼のはず。
それはどんな状況でも、どんな事があっても。
あれだけの想いを見せつけられれば、何よりも彼の事を考えているというのがわかる。

自ずと答えは決まっていた。


prrrrrrrrrrrrr―――――――――


数回のコールの音がした後、上条の声が届いた。


上条『もしもし、白井か? どうしたんだ?』

黒子「上条さん……………………初春が、初春が……………………」

上条『ん? 初春さんがどうしたんだ?』

黒子「初春が…………スキルアウトに、攫われましたの…………!」










上条『………………………………………………………………何だと?』










浜面「ん? 上条?」

黒子「はい、それで今…………『おい……初春さんは大丈夫なのか…………? 無事なのか!?』っ」


麦野「…………すげえ馬鹿でかい声」

浜面「あいつの声じゃねえか」


上条『白井っ! 初春さんは無事なのかよ!? クソッ、今どこにいるんだ!?』

黒子「え、ええ…………今浜面さんという方に協力していただいているのですが…………」

上条『それより初春さんはどうなんだよ!? 無事なのか!?』


浜面「あいつ俺の事はスルーかよ」

麦野「知り合いなの? 浜面」

浜面「んー、まあな」



黒子「きっと、無事です…………場所は第十一学区、どこかにある廃墟ビルのようなのですが…………」

上条『第十一学区だな!? わかった、今から行く!』




 その言葉が響くと同時に通話が切れ、機械音が黒子の耳に届く。




滝壺「すごい怒ってたね」

佐天「初春…………もう大丈夫、上条さんが来てくれるから…………」




そして、ヒーローは動く。
世界の混乱を止めた、歴戦の英雄が動く。

初春にとって、かけがえのない大切な人が動く。






その電話口の雰囲気から、尋常ではない怒りをまき散らして。

初春が危険に晒された事による、怒り。

それは、まるで全てを燃やし尽くしてしまいそうな想いさえも感じさせていた。





また次回!


走る。走る。
陽も暮れた夜の町並みも置き去りにして、上条当麻は走る。


上条「畜生…………! 間に合ってくれ………………!」


嘆願にさえも聞こえる彼の呟き。
それは走り抜ける彼の尋常ではないスピードで、帰路に着く学生達の耳にも触れず溶けていく。

シュンっ!

という風の切る音だけが学生達に届いただけ。
突如吹き抜けた風と音に何事かと後ろを振り返るが、学ラン姿の少年が一瞬の内に遠ざかっていったのを僅かに確認できただけだった。

 自身が住む学生寮に着いた矢先に、風紀委員の先輩になった黒子からの着信に気付いた。
何だろうなと電話を受けると、そこで上条の空気が変わっていた。


初春が危ない。


黒子から告げられた実にシンプルな言葉は、上条の心をえぐった。
なぜだ、なぜ。
なぜ彼女が危険な目に合うのか。

自室に鞄を放り投げるように置くと、インデックスも驚いた様にしていたのだが説明している時間もなく。
隣の部屋に住む土御門に彼女を託すと、上条は全力で駆け出していた。


上条「無事で……………いてくれ…………………!」


情報は第十一学区、ただそれだけ。
詳細も何もわからないのだが、それでも走る。
いてもたってもいられなく、ただひたすら走った。
並走していた車を追い抜く。

上条当麻は風になった。


「おら、入れ!」

初春「──────っ!」


ここは一体何処なのだろうか。
見た事もない、辺りも薄暗い地下駐車場で車は止まった。
シミやらゴミやらで地面は汚れていて、この学園都市の中では類を見ない程の汚さだった。
車を下ろされ、腕を引っ張られて廃れたビルの中に連れ込まれていく。


───い…………ゃぁ………………………………っ


口元に貼られたガムテープは、口を開く事も許してくれない。
一体中で何をされてしまうのか────それはまだあどけない少女でも、嫌でも簡潔に予想させられていた。

キィッ────────

鉄製の重々しいドアが錆び付いた悲鳴を上げて開かれる。中はいまだ電気は通っているのか、薄暗くだが廊下を確かに写し出していた。
中ではどこの部屋からだろうか、知らないヒップホップ調のBGMが爆音で垂れ流されていた。


「お、『ブル』さん。ばわッス」

「チャース」

「っと、『ブル』さんそこのスケはなんなんすかあ?」ニヤニヤ


初春「…………っ!?」


部屋を照らすライトにフィルムでも貼られたのだろうか、やけに赤い部屋から三人の男達が出てくる。
初春をさらってきた『ブル』という名の男の仲間のようだった。
男達も初春の姿を見ると、『ブル』と同じ様に下品で不快な笑みを浮かべていた。


「おお、お前らか。俺ぁ今から忙しいから部屋入ってくんじゃねえぞ」

「か~、今日はまためっちゃ可愛いコっスね」

「『ブル』さん、終わったら俺らにも回してくれませんかね?」

「『ブル』さんの後なら抵抗しねえからヤリやすくていいっす」


初春「……………………っ」


 似合わない長髪やモヒカン、顔中、舌にもピアス。
そして下劣すぎる会話、言葉。
初春の一番嫌いな人種達だった。


「そんじゃーな、邪魔すんなよ」


初春「んん………………っ!」


三人の自分の背中を追い掛ける視線を感じながら、『ブル』に腕を引っ張られて連れられある部屋の前まで来てしまった。


───いや……………………いゃ……………………っ


この部屋の中に入ってしまったら────────。

きっと、何かが終わってしまう。
しかし初春の力ではやはり抗えるものではなく、安々と『ブル』に連れ込まれてしまった。


浜面「ん──────あれは上条?」

白井「上条さんがいるんですの!?」

佐天「どこ!?」

「あそこで走ってるヤツがそうか?」


 第十一学区に入り、少し走ると前方の方で浜面の知っている背中が見えると声を上げていた。
こちらは車、そして向こうは足。
上条を呼び止めようと浜面は車のスピードを上げたのだが、なかなかに追い付けない事に浜面は驚愕した。


浜面「あいつ、なんて脚力してんだよ…………」

「人間の走るスピード越えてやがる……………………」

滝壺「……………………すごいね」

麦野「一体何者なのよ、その男……………………」

「なんだ? なんかの能力か?」


 先程黒子が電話を掛けたのはこの車に乗り込んでからというものの。
あの学生寮からここまで、どれだけ距離が離れているのか、それは相当な距離のはず。
しかし上条は乗り物も何も使わず、ただ自身の脚だけでこの短時間でここまで来たということに一同はただ驚いていた。


浜面「いや、無能力者だぞ、あいつ。………………………………多分だけど」

絹旗「私は知っている訳ではないんですけど…………『新入生』の事件の時、結局その人が超止めたらしいですしね」

滝壺「すごい人?」

麦野「へぇ、そうなんだ」

「無能力者かよ、おいおい……………………バケモンみてえなスピードじゃねえか」


黒子「……………………上条さんを変に言わないでいただきたいですの」

浜面「いや、そんな風に思っちゃいねーさ。あいつはすごい奴だって事は知ってるからな」

黒子「………………………………っ…………」

佐天「白井さん……………………?」


───…………………………どうして、わたくしは。


 黒子は無意識に出た言葉に自分自身で驚いていた。
あの類人猿などお姉様に付き纏う邪魔者の存在だったはず。
しかしなぜ今、彼を擁護するような言葉が出たのだろうか。
彼が悪く見られるかの様な言葉にムッとした自分の気持ちは一体何なんだろうか。


浜面「上条!!」

上条「浜面!?」

浜面「乗れ!」

黒子「上条さん、乗ってくださいまし!」

上条「白井!? 何で浜面と一緒に? ……………………まあいい、このまま飛び乗るぞ!」




 スライド式の後部座席のドアを開け、走っていた上条に黒子が声を掛けると上条はその顔に驚きを貼り付けていた。
しかし逡巡する事もなく、そういうと上条は並走していた車に飛び乗った。




浜面「飛ばすぞ! 捕まってろよ!」

上条「頼んだ!」




飛び乗って窓の上に付いている取っ手を確かに掴むと、ドアも閉めずに身体半分車の外に出したまま上条が叫ぶ。

その言葉を聞くと浜面はアクセルペダルを思い切り踏み込み、『ブル』が篭城しているあの廃ビルへとそのスピードを上げていった。


初春「んん…………!」


 『ブル』が上着を脱ぎ捨てて近寄る。
初春はその身を縮こまらせ、ただ身を震わせるしかできなかった。
危機感、恐怖感が最高潮に達する。
嫌だ。嫌だ。
こんな男に、自分は。


「ふへ…………苦しかったろ? ガムテープ取ってやるから」

初春「っ」


その汚い手で顔も触られたくない。
しかし『ブル』は触れる事を嫌がる初春の口元に手を当てると、ガムテープを引き剥がした。


初春「くは……………………っ、か、帰してください!」

「げへへ……………………よく見ると可愛いじゃねぇか」

そのガムテープの口が付いた部分を舐め取るかの様な仕草を見せた『ブル』に、初春は心底嫌悪感と嘔吐感を覚えた。
醜い。醜すぎる。
ガムテープを丸めて投げ捨てると、『ブル』はナイフを取り出し今度はそれを気味悪く舐め回し始めた。


初春「い……………………いや……………と、当麻さん………!」


そのナイフで何をしようとしているのか。
『ブル』が手にした鋭利な刃物に初春の胸の警鐘が激しく鳴り響く。


コンコン────────────。


───!?


するとそこでドアをノックする音が響き、『ブル』は一旦その動きを止め、邪魔された事に苛立ったか忌ま忌ましげに扉の方に目をやった。


「すんません『ブル』さん」


しかし、初春が期待したものとは違う男の声が扉ごしに響く。
助けになるでもでもなく、初春の心は更に頂垂れる思いだった。


「なんだよ? 邪魔するなっつっただろうが」

「へへ…………」

「まあ入れ」

「お取り込み中すんません、げへっ…………」


 ドアが開く。
そこにいたのは、先程見た三人組の一人だっただろうか。
長髪に眉、鼻、口にピアスを開けている男が手に『何か』を持って入室してきていた。


「ああ? んだよそれ?」

「げへへ、これっスか?」


初春「……………………………………っ!?」



長髪が手にしていたのは、銀色の手にすっぽり収まる大きさのもの。
何かの機械か。



「それほどレベル高いコなら高く売れるんじゃないっスかね?」

「てめぇもモノ好きだな。俺の顔撮りやがったらぶっ殺すけどな」

「わかってますって。今まで『ブル』さんのをどれだけたくさん撮ってきたと思ってるんスか」



『カメラ』だという事を、そこで悟った。



初春「ぃや……………………ぃやぁ…………!」


首をぶんぶんと振って身体を起こそうと抵抗するのだが。
長髪の持つカメラのレンズがこちらに向けられると、初春の目から更に涙が溢れ出してきていた。


「さぁて、再開、再開っと」

『ブル』も大してカメラが気にならない、といった雰囲気でナイフを再び逆手に取ると、初春の方に向き直る。



「くくく、どぉんな身体かまずは見せてもらおうかねぇ」



下劣な笑いを再び浮かべると、『ブル』はセーラー服の前の部分を引っ張りそのナイフを一気に引き下ろした。



ビリリッ────────────!



初春「い…………いやああああぁ!!」


破かれた音と共に、初春の上半身が露にされていく。
下着を残して、セーラー服は見るも無残に切り裂かれてしまっていた。



「確か、この辺だったな……………………久々に来たからあんま覚えちゃいねえが」

上条「……………………あれは!!」

黒子「ど、どうされたんですの!?」

上条「浜面! 一旦車を止めてくれ!」

浜面「了解っと!」



 キキッ!という音を上げて車が止まる。
黒子の何事かを尋ねる声もそのままに上条は止まった車から飛び降りるように下りると、道の端の方に走り出した。




上条「……………………………………くっ」



そこにあったのは────────彼女が身に付けていた物。

色とりどりの、花飾りだった。


 間違いない。彼女の物だ。
上条はそれをそっと優しく持ち上げると、苦虫を噛む。
スキルアウトらしき男の言葉によると、『ブル』とやらが潜むその廃ビルはどうやらこの辺りらしい。


黒子「上条さん!?」

佐天「どうしたんですか……………………ってこれは!?」


続けて下りてきた黒子と佐天が上条の手に持つ物を目にすると、二人も苦しげに表情を歪める。
二人にとっても見慣れた、初春がいつも頭に付けていた花飾りだった。


黒子「それでは……………………!」

「思い出した! そこだ!」


スキルアウトの男が開けた窓から身を乗り出し、上条達の裏手の方を指差す。
そこには地下駐車場に続く緩やかなスロープの道があった。


上条「すまん! 恩に着る!」

黒子「わたくしも行きますの! 佐天さんはここに残ってくださいまし!」

佐天「いえ、私も行きます!」

黒子「しかし……………………!」


佐天を止める様な言葉を考える黒子だったが、既に地下駐車場への道へと走っている上条を見て途中で言葉を止めた。
ここで押し問答をしている暇はなく。
佐天にも何かあったら……………………いや、その時は空間移動で逃がせばいい。
彼女も、初春の身を本気で案じる親友だ。


黒子「行きましょう、佐天さん!」

佐天「はい!」


 そして二人は既に遠くに行った上条の背中を追い掛けていった。


上条「初春さん、何処だ!?」


 バンっ!!と地下駐車場から中へと進む扉を蹴り開けると、上条は大声を張り上げる。
薄暗い廃ビルの中は、爆音で流されている音楽やスキルアウト達で騒ぐ声でざわついており、自分の声は届いたか届いていないかはわからない。
この中に、彼女は連れ込まれたのか。


「ああ? 誰だよテメー?」

「なんだなんだぁ?」

「おいおい殴りこみにでも来たのかぁ?」

上条「おい、ここに女の子が連れ込まれなかったか?」


しかし流されるBGMや騒ぎの中、ドアを蹴破った音と自身が上げた声に気付いたか、中から五~六人のスキルアウト達が姿を表す。
男達は上条の姿を見ると、敵を見るかの様な目付きに変わった。


「連れ込まれてたとしたら?」

「今頃ヤラれてんじゃねーの?」




上条「………………………………………………………………あ?」





「つーか俺達の縄張りに土足で踏み込んで挨拶も無しかぁ?」

「丁度いい。データカードも見つからなくてムシャクシャしてたところだ」

「ちょっと俺達と遊んでもらおうか!」


 バギンッッ――――――――――――――!!


「「「「「「!!??」」」」」」


という破壊音と共に、上条の手が打ちっぱなしのコンクリートの壁から引き抜かれる。
上条の表情は俯いていて、どんな顔をしているのかは見えない。
ただその圧倒的に感じさせるオーラと怒りは、まさに上条を取り囲もうとしたスキルアウト達を震え上がらせていた。

ゆっくりと、上条がその顔を上げる。

彼のその表情は、怒りに満ちていた。



上条「…………………………………………言え」


「お、おい、何だよコイツ…………やばくねーか?」

「た、たまたま壁がボロくなってただけなんじゃねーの!?」

「お、お前ら、得物忘れんなよ」

「最悪、殺すしかねえなぁ」


ただスキルアウト達も、グループ間の抗争や能力者達との争いにて戦果を上げてきた者達で。
たった一人、単身で乗り込んできた如何にもシャバの人間に臆する場合でもなく、男達は啖呵を切る。
六人でかかれば、たった一人の少年だ、どうとでも出来るという風に上条に向かって行った。


上条「てめえら…………覚悟しろよ!」

「はぁっ!!」


鉄パイプを持った男が上条に殴りかかる。
しかしそれを僅か数cmで見切ると、その男の顔面に思い切り拳を打ち込んだ。


「ぐはぁっ!!」

「「うおッ!?」」


その男は後ろにいた二人の男を巻き込み、5m程後ろに吹き飛ばされた。
その様子を見るや否や、残りの三人が同時に上条に蹴りやら木刀やらを撃ちこむ。
しかしそれを上条は飛び越えると、壁を蹴り三角飛び蹴りの要素で膝蹴りを木刀を持った男に突き立てると、男は鼻から血を出して盛大に倒れ込んだ。


「ぶごっっ!!」

上条「ッ!!」


そして間髪入れずにその隣にいた男を回し蹴りで蹴り飛ばす。
胸元に上条の足が入ると、何処かの部屋のドアを巻き込んで男は吹き飛んでいた。


「ぐあッッ!!」


それを一瞥すると、残った一人に上条は向き直る。
残りの一人は戦力の違いを悟ったか足を震わせているようだった。


上条「何処にいるんだ!? 言え!!」

「あ、あそこです……………………」



胸倉を掴み、締め上げるかの様な上条に男は恐怖からか呆気無くある部屋のドアを指差した。
その差した指も震えていて、ガタガタと歯を鳴らしながら自身に降りかかる危害を何とか逃れようと必死の形相をしていた。



上条「あの部屋か……………………!」

黒子「上条さん!!」



すると後ろから黒子の声が響き、上条は男を投げ捨てるように離す。
その男はドサッという音と共に地面にへばり付き、腰が抜けたかどうやらもう立てない様子だった。
黒子は既に倒れ伏している男達五人の姿に目をやると驚愕の表情を浮かべていたが、次第に渋い顔付きになっていった。



黒子「上条さん! 怒るのもわかりますが貴方はジャッジメントですの! くれぐれも配慮をしてくださいまし……………………!」

上条「……………………っ、そう、だったな」

佐天「すごい……………………この人数を、一瞬で……………………?」

黒子「それで、初春は!?」

上条「あそこの部屋だ!」

佐天「今行くよ、初春!」


男が指を差した方向に顔を向けると、一同はドアの方に駆け寄ってく。
中で何が起きているのか……………………という事も想定する余裕だって今はない。

まだ、何も起きてないでくれ――――――――――――

三人の胸中はそれに尽き、無事を願ってそのドアの前まで辿り着いた。


上条「はぁッ!!」


そしてその扉を蹴り開けた先にあったのは――――――――――――――――――――。






上条「っ!!??」

黒子「初春っ!?」

佐天「初春!!」






「何だよ、今日は厄日かよ、まだヤレてねえってのに……………………っつーか、何だ? てめぇらは」



初春「むぐ……………………ぅぐ……………………!?」



全身を下着姿にされ、『ブル』に羽交い締めされ口元に手を当てられ。

そして首元にナイフを突き立てられている初春の姿だった。


初春「……………………むぐ、ぐ……………………!!」

上条「てめぇ……………………!」


 怒りが更に高まる。
上条の姿を確認すると、初春のその大きく開かれた目から涙が溢れ出していた。
どれだけ泣いたのだろう、初春の頬には既に涙の跡が何重にも残り、更にそれを新しく上書きされていく。


「おやおや、コイツを助けに来た王子サマってやつかぁ?」

上条「…………てめえが『ブル』って奴か?」

「あぁ? おいおいこんなシャバい野郎にも俺の名が知られてるなんてな。とうとう俺も有名人になっちまってたのかぁ?」

上条「うるせぇ。さっさとその子を離せ」

「くぅー、女の子二人連れ込んでるってのに更に女を求めるっての? なんだぁ? ハーレム王国でも建設しようとしてんのか?」


下品に下品を重ねた笑いを浮かべる『ブル』に、上条達は怒り、そして吐き気さえ覚えた。
先程の『ブル』の言葉から初春はまだ服を剥ぎ取られただけというのが分かり取り敢えずは安堵したのだが。
こんな醜悪の塊の様な男に、初春は穢されそうになったのか。

 上条はグッと拳を握る。
自身の拳から血が出そうなほど、強く握っていた。


黒子「……………………く、能力が使えない!?」

佐天「白井さんどうしたんですか!?」

「おやおや、何かの能力者かぁ? はっ、まあここは能力者達に攻めこまれた時の為にビル全体にAIMジャマーを設置してるからな。使えねえのも無理はねえなぁ」


能力を使えば、この程度の状況などいくらでもしようがあった。
しかしここで黒子は空間移動か使えないと分かると、悔しげに顔を歪めていた。

どうすれば、どうすれば。
初春を傷付けずに、救える?
下手に動けば初春が危ない。
初春に傷が付く恐れを三人は一番の念頭に置いて、思案する。


初春「ぐ……………………っ」


「ったくよぉ……………………今日は本当に腹立つ日だぜ。データカードは見つからねえしよ、いいとこで邪魔されるしよ、コイツもとう…………………………………………

 はん、当麻さんってお前の事かあ?」


上条「んだよ」

「コイツが当麻さん、当麻さんなんつー声を上げて嫌がる素振りを見せやがってたからなあ、はん、てめえの事かよ」

上条「…………………………………………っ」

黒子「初春……………………」

佐天「うぅ……………………」


刹那、初春と目が合う。
恐怖に濡れた色と、後は何をその心に秘めているのだろうか。
わからないが、助けを求めている事に変わりはない。


初春「……………………っ」

上条「!?」


その瞬間、初春の眼の色が変わった。
何かをしようとしているのだろうか。
じっと上条の目を見つめ、コクンと頷く。




「なんだぁ?」




その微かな初春の動きに『ブル』は反応すると、初春は思い切り―――――――――――口元を覆った、その手に噛み付いた。



「ぐわッッ!? いてええぇぇッッ!?」

上条「がぁッッ!!」


『ブル』の手は、急激に襲った痛みから初春の身動きを封じていた腕を一瞬緩めてしまう。
その隙をついて上条はまず初春に突き付けていたナイフを持つ腕を掴むと、初春の方向からずらした。
冷静さを欠いた『ブル』は、羽交い締めにしていた腕の方も離してしまうと上条に交戦するために向き直る。

もつれ込むようにして空を切ったナイフは、上条の頬を横一線に切り傷を作っていた。


「クソがぁぁぁぁッッ!!」

上条「ッ!!」

黒子「初春!」

佐天「初春ぅ!!」

初春「と、当麻さん!!」


腕を離され、地面に倒れ込むようになった初春を咄嗟に駆け寄り、佐天が抱き止める。
初春の身体を包み込む様に佐天はギュッと抱き締めるのだが、初春は上条の情勢の方に意識が向いていた。


「クソッ、こんな簡単な手に引っかかっちまうとは!!」

上条「覚悟しろ……………………!」


初春の身が解放された事に気付くと、上条は一瞬表情を緩めるが瞬時に『ブル』に向き直ると構えを作る。
『ブル』もナイフを完全に持ち直すと、今度は上条に矛先を向けて突きつけていた。


「てめえらは完全に俺を怒らせやがったなぁ……………………生きて帰れると思うなy―――――――――――――

上条「おらぁッッ!!」

「ぐほっ!?」


しかし、『ブル』がそう言い切る前に上条は瞬時にナイフを持つ手を絡め取り、床に這い蹲らせた。

まさに一瞬。

瞬きする間に消えた様な速さで『ブル』の腕を掴むと、そのままうつ伏せに床に押さえ込む。
背中を思い切り踏み付けると、『ブル』の肺から空気が抜き取られたか咳き込んでいた。


「く、くそ、速ぇ……………………てめぇはナニモンだよ、クソがぁ……………………!」





上条「…………………………ただの、ジャッジメントだ」





上条の『ブル』に対する冷たく冷酷な声……………………しかし初春にとって、何よりも暖かく優しい声がそこで響いていた。


初春「とう、まさん……………………うぅ、当麻さん……………………!!」

上条「初春さん……………………もう、大丈夫だからな」


 黒子が『ブル』に手錠を掛け、更に縄で縛っている所で佐天の腕に支えられて立っていた初春が上条に声を掛ける。
彼女の顔は涙で濡れ、更に今度は安堵の涙でまた濡れていた。
その表情が痛々しく、上条は着ていた学ランを脱ぐと初春にそっと着せる。

その瞬間、初春は上条の胸元に飛び込んでいた。


初春「当麻さん……………………! 当麻さぁん!!」

上条「ああ、もう心配しなくていいからな…………!」


上条も初春のその小さな身体を思い切り抱き締めるように包み込むと、着ていたワイシャツに初春の涙が染み込んでいく感触を覚えた。


―――こんな小さい身体で……………………!


どれほどの恐怖をその一身に浴びていたのか。
きっと男の自分には感じた事のない、想像を絶するものだったのだろう。
もう大丈夫、心配いらない。

傍にいるから。

様々な想いを乗せて、その小さな身体を抱き締める。
ギュッと背中を引き寄せられる感触に、上条はいまだ震えるその身体を自身もただ抱き寄せていた。


佐天「よかったよぉ……………………初春ぅ……………………」


佐天の泣き声も響き、黒子からも温かい様な視線が初春を包んでいた。


黒子「すぐにアンチスキルも来るそうですの」

上条「そっか」

初春「…………………………………………グス、ヒック」

佐天「初春ぅ…………」

上条「ほら、もう泣くなって」

初春「……………………っ」


初春の目元を指で拭う。
されど次から次へと流れだす涙は、なかなか止められなく。
それでも上条は、ただ拭っていた。


初春「あ……………………」

上条「ん?」


今度は初春が泣き顔もそのままに上条の頬に手を当てようとすると、初春の顔は更にくしゃっと歪んだ。
上条の頬から、赤い血が一線流れていた。


初春「えぅ、当麻さん……………………顔に、傷が…………!」

上条「あ、さっきちょっと切られたんだっけ。でも大した事ないから大丈夫だ」


さすがに傷口に手を当てる訳にもいかず、初春は手を引っ込めるとその手を首元に置いた。


初春「私のせいで…………!」

上条「んにゃ、それは違うぞ。それに初春さんを守れてこれで済んだんなら安いもんじゃねえか。唾でも付けときゃ治る治る……………………ん?」


なんとでもないという風に軽口を叩くと、ドアの外が何やら騒がしい事に気付き上条が反応し声を上げた。


「アンチスキルだ!」

「おお、君達か! 大丈夫かね!?」


一同ドアの方に目を向けたのだが、姿を表した人物が頑丈に防護服に身を包んだアンチスキルの見た事のある顔の者だと分かるとホッと一息ついていた。


黒子「ええ、この者と廊下にいた者達の連行をお願いしますの」

「ああ、わかった。それで君達にも話を聞きたいんだが」

黒子「勿論ですの。 ……………………でも、その前に」

「ん?」

黒子「上条さんの…………手当を先にお願いしますの」


上条の頬に出来た切り傷を見て、黒子が言う。
上条は平気な顔をしているのだが、そこから細菌やら何かが入ってしまわれるのを危惧していた。


「おお、君が第一七七支部に配属になったという上条くんか。
 頬に傷が出来てるね、救急箱持ってきてるから応急処置するけど、一回病院連れて行くよ」


上条「は、はぁ。よ、よろしくお願いします」

初春「……………………あの、あと毛布とかあれば……………………」

「被害者は初春くんだったのか…………災難だったな」

初春「は、はい…………でも、助けてくれましたから」

「君も一回病院で診てもらった方がいいな。上条くんと一緒に一旦病院連れて行くよ」

初春「……………………当麻さんと一緒…………///」ボソッ

佐天「…………もう普通に当麻さんって呼んでるね」ニヤニヤ

黒子「…………………………………………」

初春「えぅ……………………///」




黒子「それでは行きますわよ、初春、佐天さん…………………………………………当麻さん」




初春・佐天「えっ」

上条「??」


初春ではない、黒子が口にしたその名前に。
初春と佐天の二人は素っ頓狂な声を上げていた。







一方、その頃。





浜面「だから俺は違うって!」

黄泉川「こんな車に女の子達連れ込んで何しようとしてたじゃん? 免許もない奴が怪しまれるのも無理ないじゃん?」

浜面「俺は上条達を送り届けただけだっての!! ほら、お前も何か言ってやってくれ!」

「ヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイ…………………………………………」ブツブツ

浜面「滝壺! 麦野! 絹旗! 説明してやってくれえ!!」

滝壺「は、はまづらはちg 「そうなんです…………私達、実は浜面くんに…………」 モゴモゴ」

絹旗「さっきも今日は帰さないって超鼻息荒くしてました……………………超怖かったです…………」

黄泉川「…………………………………………ほぅ?」

浜面「おおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいい!?」

「ヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイ…………………………………………」ブルブル



あれから何があったのか、所々焦げていたり、鉄パイプが折れ曲がっていたり、そして大量に転がる気絶したスキルアウト達の近くで、最強の警備員に職務質問されて仲間にも陥れられる男の姿がそこにあったらしい。

ここまで
また次回!


黄泉川「結構無茶したじゃん?」

初春「当麻さん……………………大丈夫、ですか?」

上条「大した事ないって……………………いつっ」


 ワイワイ、ガヤガヤという警備員達がスキルアウト達を連行していく喧騒や無実が晴れて浮かばれながら仲間の少女達にいじられる男の叫びが開けっ放しの後ろのドアから聞こえる中。
三又の矛をモチーフにしたデザインが描かれた専用車両にて、上条は黄泉川から手当てを施されていた。

 頬の傷口に消毒液が染み渡る。
ピリッとした様な痛みを感じ、上条は小さく悲鳴を上げるとそれを心配そうに隣に座る初春も痛々しい表情を作った。



黄泉川「こりゃ…………ちょっと跡残るかもしれないじゃん?」

初春「………………………………っ」



黄泉川が見たところ、傷は思ったよりも深い。
とはいっても頬を貫通するまでには全然至っていないのだが、それでも跡に残りそうな傷であった。
頬を流れ落ち、上条のワイシャツに赤い染みを作ったその流血量から見てもわかってしまわれるのだろう。



初春「ごめ、なさい……………………当麻さん、ごめんなさ、い………………っ」



それを聞くと、初春の目尻に再び涙が溢れ出していた。


 彼の顔に跡に残る程の傷が付いてしまった。
それも、自分を助ける為に。
ポロポロと頬を流れる涙を拭う事もせずに初春は俯いてただ涙を流していた。

これも、自分が不甲斐ないせいなのか。
いやきっとそうだろう。
自分だけで打開する力があれば、自分に降り懸かる危険を察知する力があれば。

自分が、あそこで出なければ────────。

後悔は尽きない。
いくら後悔しても、しきれない。
情けない自分のせいで、彼が傷付いたという事が一番初春にとって悲しく悔しいものであった。


上条「…………………………大丈夫だって」


ギュッ────────。


初春「当、麻さん……………………っ」


肩に腕を回されて引き寄せられる感触に初春は顔を上げる。
上条の学生服の上に毛布を掛けたその上からでも、彼の温かさが直に伝わる気がした。


上条「さっきも言ったけど。初春さんが助かってこれくらいで済んだなら全然問題ないぞ」


コツン、と彼の肩に頭がぶつかる。
彼の温かさ、優しさ、声が初春の心に染み渡った。


上条「それに。初春さんが無事で、本当によかった」


後一歩。後一歩だけ遅かったら、初春はどうなっていたのだろうか。
きっと、二度と笑う事の出来ない思いになってしまっていたのだろう。
もう二度と、彼の顔を見られない、見てはいけないという思いにさせられていたのであろう。


初春「…………………………ヒグッ、当麻さぁん…………」


自分も彼の身体に腕を回してもっとギュッと近寄る。
彼の胸元に縋り付くように顔を置くと、初春はずっとそのままそうしていた。


黄泉川「おーおーお熱いねえ、ご両人? それに、当麻さん?」ニヤニヤ

上条「そ、それは……………………そういえば、いつから俺の事を名前で?」

初春「………………………………///」ギュッ


黄泉川の言葉に照れたのを顔を埋めて隠すように上条の胸元から初春は動かない。
自分の部屋ではずっと当麻さんって呼んでましたーなんて恥ずかしくて言える訳もないだろう。


黄泉川「これでよしっと! んじゃとりあえず病院連れてくじゃん」

初春「あ………………、はい」

上条「すみません」


どうやら応急処置は済んだらしく、上条と初春を病院へ連れていく為黄泉川は開かれた後ろドアから一旦下りた。
くっついている二人を見るとついついニヤついてしまい、 上条に怪訝な表情をされたが別に黄泉川は気にする素振りもなくドアを閉めようとしたが、後ろからやってくる少女に気付くとドアをそのままにして自分は運転席に向かっていった。



佐天「初春ー!」

初春「佐天さん」


一先ずの話は終えたか、佐天がちょこちょこと駆け寄り初春の名を呼ぶと、初春も埋めていた上条の胸元から顔を上げて返事をした。
佐天は二人の体勢を見るや否やこれはこれはと気まずそうな顔をしていたのだが、どうにもニヤニヤが先行してしまうようで少々表現の難しい表情を作っていた。


佐天「私もこっちの車に乗ってっていいんだって」

上条「お、そうなのか」

佐天「ごめんね初春ー? あ、でもお邪魔になっちゃうからやっぱり遠慮しようかな?」ニヤニヤ

初春「そ、そんな事は……………………///」


佐天のからかう言葉に初春は顔を赤くして誤魔化す様に佐天に呟くが、そこから全然初春は動こうとはしない。
説得力もありゃしなかった。




黒子「わたくしはお邪魔させていただきますの」




初春・佐天「!?」


すると、そこで黒子の声が響き渡る。
その言葉は何を意味するのであろうか。
驚いた表情を作り、初春と佐天はそちらに視線を向けていた。


上条「おお、白井。話はいいのか?」

黒子「ええ。後はアンチスキルの支部で詳しい事情をお聞きになるんだそうですの」

上条「そっか。もう夜だし冬は寒いから早めにそうしてくれてよかったよ。初春さんの恰好もこうだしさ」

黒子「それも…………そう、ですが…………」

佐天「白井さん……………………?」

上条「?」



初春「………………………………」ギュ




黒子「……………………いたしかたない、ですの」





上条の身体に縋り付きながら、自分の顔をじっと見つめる初春を見て黒子は容認する様な言葉を吐く。
上条と初春が座る対面側の座席に佐天の隣に座ると、外にいた眼鏡をかけたアンチスキルの女性にドアを閉めるよう頼んだ。



黄泉川「閉めたら鉄装も乗るじゃん」

「はぃぃ><」



黄泉川に声をかけられ、その女性は気弱そうな返事をしながら車のバックドアを閉めると助手席に乗り込む。
シートベルトをかけたのを確認すると、黄泉川は車を走らせた。



佐天「上条さん、血が……………………」

黒子「…………………………っ」


 夜の街を走る車中、佐天が上条の頬に当てたガーゼやワイシャツに染み込んだ血を見て呟いていた。
今までずっと親友の為に必死になっていて、気を回す余裕がなかったのか改めてそれを見た佐天もその表情を暗くさせていて。
その隣の黒子は、とても痛々しい、思い詰めた様な表情をしていた。


黒子「わたくしの能力が使えれば、あなたが傷付かずともあれくらいの事件など…………!」

上条「だから大丈夫だって。なんか見た目あれかもしんないけど、あんま痛くないし」


 そんな様子の黒子を慰める様に上条は気遣った。
そういう傷、たまにあるだろ? という風になんてことはないと上条は取り繕う。
事実、出血量に対して自身が感じている痛みはそれほどだし、もう既に流れ出る血も止まってきている。
それよりも何だかんだ言って尊敬すべきジャッジメントの先輩にそんな顔をされるのは予想外というか、見たかった訳でもなかった。


上条「助かったんだし、それでいいじゃねえか」


他に何がある?と黒子、佐天、そして初春を見る。

実にシンプルだ。

能力があれば?なければ?
『~~たら』『~~れば』など結果から見た過程上の願望にしか過ぎない。
過ぎた事は仕方がないし、それに助ける事が出来た。
これ以上の事はないだろ?と優しく上条は諭す。

その言葉に、黒子は後輩に傷付かせてしまったという罪悪感が晴れていく様な感覚を覚えた。


この類人猿は、殿方は。

上条さんは……………………当麻さんは。



───…………………………なるほど。だからお姉様も初春も。この方に心を奪われたのですね。



自身もかつて救われた事がある。
どんな相手だろうが、上条は救ってしまうのだ。

トクン、と胸を打つ音が大きく響いた、そんな気がした。




















上条「それに………………頬に傷って、なんかかっこよくねえか?」

黒子「………………………………ふぁい?」


ここで黒子は、このシリアスな空気が飛ばされるとは微塵にも思っていなかった。


初春「ほぇ?」

佐天「お?」

黄泉川「ほう……………………」

上条「なんか技使える様になる気がしないか? ほら、龍槌閃、とか九頭龍閃、とかさ?」

鉄装「天翔龍閃の方がいいですぅ><」

黄泉川「んー私は牙突の方が好きじゃん?」

上条「おお! お二方はわかってくれますか!」

佐天「な、何の話……………………?」

初春「わ、わかりません……………………」

上条「そうだな、まずは逆刃刀を入手して……………………神裂、余分に持ってんのかな……天草式とか当たれば置いてそうだしな……」

初春「と、当麻さん……………………?」

黒子「何をおっしゃっているんだか。それにその脚の速さからして縮地の方g










 ってわ、わたくしは何を!?」

黄泉川「ほう、白井もこっち側の人間、か?」ニヤ

鉄装「侮れませんね><」


上条「白井……………………低俗だ、上品ではないと言いそうなイメージだったのに………………」

黒子「ち、違いますのおおおぉぉぉ! お、お姉様に付き合っている内にいいいいぃぃぃ!」


上条「ははっ、わかってるわかってる。可愛いとこあるじゃねーか」


黒子「なっ!!///」

初春「!!??」ビクッ

佐天「……………………わぉ」


上条「白井はあっちだろ? テレポートする時、額に二本の指を立ててテレポートしちゃう方なんだろ?」


黒子「ヤードラット星人からは教わっていませんの!! ってちが」


黄泉川「……………………結構マニアックじゃん」

鉄装「なんか語れそうですね><」

上条「それは知らなかった……………………」

黒子「うぅ…………………………お姉様が…………わたくしに………………」

初春・佐天「……………………………………」


黒子としては本当に美琴による影響なわけなのだが。
意外な黒子の趣味が知られた所で、まあなんとかかんとか。
そんな会話が病院に着くまでの車中で行われていたらしい。

短いけどまた次回にずつきます!

何で俺ヤムチャの事忘れてたんだろう・・・


黒子「ふぅ……………………」


 自然と溜息が出る。
上条の治療に自身も付いて行き、それからアンチスキルの詰め所へと事情聴取に赴き事後処理が終わった後の廊下で黒子は窓から外を眺めていた。

 目に映るは街灯り月明かり、綺麗に光るネオンは学園都市の栄えを余す事なく主張している。
この街には様々な人、学生達がいる。
能力者でしかり、無能力者でしかり。
この街で培ったそれを元に、何をして何になって生きるのかは千差万別だがその目的は結局は皆同一。

『自分だけの現実』を持ち、望み、高める。
演算能力をそれに加えて手に入れた能力は──────今日、何一つ活かせなかった。

大事な友人、同僚が危険に晒され今日ほどそれを奮うべきだとわかっていたのに。
たかだか演算を狂わせられるものに、自分の特性は封じ込められてしまっていて。

 結局、彼の力がなければ大事な友人は救えなかったのであろう。


『助かったんだし、それでいいじゃねえか』


自身は跡に残るという傷を負いながらも、他人の為、彼女の為なら傷付くのも厭わないその言葉。
なかなかに言える言葉でもない、と黒子は思う。

見返りを求めない彼の優しさ、強さ。
守ると決めたら一貫して、守り抜く。
助けると決めたらどんな困難な状況だとしても、守り抜く。
付き合いはさほど長くない。
なのに、なのに。


黒子「……………………羨ましい、かもしれませんの…………」


先程、搬送中にずっと目にしていた彼と彼女の距離の近さ。
彼の身体に縋り付く彼女と、そして彼女の肩に腕を回して引き寄せる彼と。
それを見ていると、胸が痛んだ。

何故、こんな気持ちになるのか。
この胸の痛みは、何なのだろうか。
自分がかつて類人猿と罵っていた彼を、自分は────────。


 元々、上条に対しては自身の言動ほど嫌っている訳でもなかった。
いや、寧ろ興味があった方だ。
なぜ自分の憧れのお姉様があれほど熱心に熱い視線を向けるのか、彼にだけ素の自分をさらけ出しているのか。
なぜ彼は憧れのお姉様から憧れの視線を向けられているのか。
その理由が、黒子は知りたかった。


『俺にも、守りたいものがあるんだ。信じてみたい、己の正義ってやつを』


彼が掲げる正義とは、守りたいものを守り抜く事。
弱者の為に立ち上がり、大切な者の為に戦う。
今まで接してきた中で、その熱い思いの節々は感じてきていた。

その無条件の優しさ、暖かさ。
強さ、信念。
あれは反則だろう。
それに直に触れた初春なんて…………いや恐らく、美琴もそのはず。
直に触れていない自分にさえ、心を開けさせられるかの様だった。

なぜ彼に初春や美琴は惹かれたのか。
それは理解した。…………しかし。
それを理解するという事は──────つまり。


黒子「どうなのでしょう、かね………………………」


まだ、この気持ちに名付けるのは時期尚早なのかもしれない。
憧れか、恋慕か。
答えを出すのはまだ早いだろう。


しかし、彼に抱きしめられていた初春が─────羨ましく思ったのも、また事実だった。


窓に置いた手は冬の外気に触れて水滴を作り、一線地面に向かって流れ落ちていく。

それは、涙の様にも見えたのかも知れない。



「あら」

「ん?」


ふとそこで、上品さを押し出した様な声と、野太い野生の色を感じる声が響き渡った。


黒子「浜面さんと麦野さん、でしたか………………先刻はどうも、お世話になりましたの」

麦野「気にしないで。いい暇潰しになったわ」

浜面「おう、助かってよかったじゃねえか」

麦野「あんたもそんな殊勝なコト言えるのね」

浜面「俺は気遣いを知らない男じゃねえし」

麦野「誰と比較しての言葉かにゃーん?」キュイーン

浜面「そんな意味合い含めた訳じゃねえ! つかこんな所でそんなん撃つんじゃねえよ!」

麦野「いつからそんな偉そうな口叩けるようになったのかしら?」キュウウウゥゥ

浜面「すいません! 謝るから勘弁して下さい!」ガバッ





黒子「……………………………………ぷっ」





浜面「白井っつったか!? 笑ってないで助けてくれぇ!」




 ついには土下座をし始めた浜面を見て、黒子は笑顔を見せ始めていた。
麦野とのやり取りがまるで息の合った漫才の様に思えて、本当に仲がいいのだなと感じさせている。
まあ黒子は知らない事だが、あれほどの屈強を乗り越えまた結束した仲なのだ、それが例え恋仲でなくとも二人のやり取りからそう思わせらていた。


黒子「まるでコンビ組んでるみたいですの。美女と野獣とかいう名前でテレビに出てもおかしくないかもしれませんわね」

麦野「浜面とコンビってのは気に食わないけど、美女って言ったのは認めるわ」

浜面「…………………………麦野一人でどっちも体言してるだろうがよ」ボソッ

麦野「あぁん!? なんつったはまーづらぁ? ブチコロシカクテイネ」

浜面「ひいぃっ地獄耳!? まじすんませんっした! 何でもするからどうかお許しをっ!!」

麦野「……………………何でも?」ピク

浜面「何でもしますぅ! だからそのかざした手をどうかお静め下さりませええええぇぇぇっ……………………ってはっ!?」

麦野「……………………何でも……………………ウフフ」


───……………………何やらいけないスイッチでも入れてしまったようですの。


 麦野から発せられる圧倒的なオーラと抑圧的なもう一つの顔に、これから彼女と接する機会がある場合絶対彼女を怒らせないようにしようと深く心に刻みながら黒子は尋ね事をする事にした。


黒子「後のお二人は?」


麦野と浜面がここにいる理由として、事情聴取等があったからなのだろう。
だが先程同じ車中にいた残りの二人の姿がない事に疑問を感じていた。
確か、滝壺さん、と絹旗さん、という二人だったろうか。


浜面「ん、まあ絹旗は小さいし滝壺はまだ身体が心配なんでな。黄泉川ももういいって言ってたし、二人とも先に帰した」

麦野「ま、事情聴取なら私達だけでも十分だしね」

黒子「そうでしたの」


身体が心配、という言葉に気になった部分はあるのだが、つい先程知ったばかりの人間だ、事情を聞くのも野暮だろうと黒子は追求はしなかった。
それよりも聞きたい事は色々ある。


麦野、浜面、滝壺、絹旗の四人は一体どんな間柄なのか。
そして浜面と彼の関係は、一体何なのか。

こう言っては失礼なのだが。
黒子から見た浜面は一端のスキルアウトの様で、先程共にいた場所を案内してくれたあのスキルアウトの男と同じ雰囲気を漂わせている。
ジャッジメントの自分からしてみれば、スキルアウトはまさに敵のようなものだ。
黒子が検挙してきた数々の暴力事件、窃盗事件、その他諸々の犯行はほとんど彼らの出。

そんな雰囲気を持つ浜面は、上条と一体どんな間柄を持つのだろうか。

知りたい、聞きたい。
しかし。


───まあ、それも野暮ってものなのでしょうね。


結局は浜面達とも先程知り合ったばかりで、それを聞くのはなかなかに躊躇われてしまう事であった。


麦野「白井さん、だったわね。あの小さいコが助かったっていうのにあまり元気ないわね」

黒子「あ、いえ。その……………………」

麦野「ま、私が気にする事でもだろうけど」

浜面「……………………意外だ、麦野がそんな事を気にかけるとは」ボソッ

麦野「はまづらぁ?」

浜面「何で俺は口が滑るんだ…………………………」ヒクヒク


麦野の言葉に黒子は取り繕う。
自分のそんな雰囲気を察せられて、少々気まずく苦笑いを浮かべた。


黒子「初春が助かったのは勿論喜ばしい事ですの。いえ、助けなければ初春は………………と考えるとゾッとするほど、初春は大事に思っているのですが…………」

麦野「うん」

黒子「結局、わたくしの力では救えなかったというのが悔しく思っておりまして…………」

麦野「うん」

黒子「能力がなければわたくしはただの力なき女子中学生、という事にわたくし自身に憤りと情けなさを感じておりますの」

麦野「そうなんだ」

黒子「ええ……………………」


情けない。
後輩となった彼の力がなければ、初春は。
ジャッジメントの先輩として、手本になるべき所だったのかもしれない。
いや、それを抜きにして大事な友人がこの手で救えなかった、ただ見ているだけしか出来なかったという悔しさはあった。
能力を封じられた時の対策用としても、血反吐が出るほど訓練したと言うのに。

なのに、友人を盾に取られて身動きが出来なかった。
それが、悔しかった。
情けなかったのだが。






浜面「うーん……………………何か違う気がする」


黒子「え……………………?」






しかし、その浜面が呟いた言葉に黒子は反芻するように聞き返していた。


黒子「………………と、おっしゃいますと?」

浜面「元気がない理由。それじゃねえと思うんだよな」

麦野「やっぱり浜面もそう思う?」

黒子「っ」


浜面が言ったその何気なさそうな言葉に、黒子は核心をつかれた様な思いを感じた。

 自分の元気がない、その理由。
それは黒子が先程言った事に嘘偽りはない。
だが、それだけではなかった。


浜面「あん時の取り乱しを見りゃその初春ってコをどれだけ大事に思っているのかはわかってるさ。それでそのコが助かった事にさ、白井さん…………何か言いにくいな、白井でいいか?」

黒子「構いませんの」

浜面「あのコが助かって白井が本当に喜んでいるのはさっきの様子でわかったさ。その時能力が使えたか使えなかったってのはわからねえし、知る由もねえけどさ」

黒子「………………………………」

浜面「でもな、大事な友達が助かったっつー事に、今はもっと嬉しそうな表情をするべきなんじゃねえかと俺は思うんだよ……………………あー、俺自分で何言ってるかわかんねえ」

黒子「つまりわたくしは初春が助かった事を望んでいなかったと……………………?」

浜面「ちg「ううん、そうじゃない」ぬぉ」

黒子「……………………………………」


一体、何が言いたいのだろうか。
自分の今の本当の気持ちが感じ取られているのだろうか。
この二人に心を見透かされた様な思いに駆られた不安を押し殺し、黒子は続きを促した。


浜面「……………………麦野、タッチ」

麦野「そのつもりで口を挟んだ。それで白井さん。浜面も言ってたけど、あなたがそのコが助かった事を喜んでいるのは間違いないわ。でも、今あなたが気にかけているのはその事じゃないはず」

黒子「………………………………」

麦野「そうね……………………大方、『上条』とかいう男の事じゃないかしら?」

黒子「っ」

浜面「そうそれ! それが言いたかった!」


麦野が口にした彼の名前に、ほんの一瞬だけ肩が跳ねる。
それは、まさに黒子が考えていたワードであり、今現在黒子の心境を覆うものであった。


しかし、何故。
何故この二人には、それがわかった?


心の内を読み取られたか焦燥感の様な動悸が、黒子を襲っている。
確かに彼の事を考えていた。
認めざるをえない彼の力、心の強さ。
行動力、判断力も優れていてそれはもう戦いを知った男の動きでありもした。


なのに。
それをおくびにも出さず、虚栄する事なく、慢心する事なく、謙虚さとそして暖かさを持って接する優しさ。
人の為になるとその力を遺憾無く本領発揮する彼の本質というのを触れて────────それもきっと、彼のほんの一部分なだけなのだろう。




その優しさを向けられる初春が、羨ましい。

そう感じてもいたりしたのだ。



麦野「当たり、でしょ?」

黒子「なぜ……………………」

麦野「あの車の中で。その男を庇う様な事言ってたじゃない? それでなんとなく、ね」



ああ、あの時か。
つい自分の口から自然に出た言葉。


『上条さんを変に言わないで下さいまし』


それに、心の機微を感じ取られていたのか。


参ったな、と苦笑いを作る。
ここで否定しようにも、意味もないし麦野に口で勝てるとも思わない。
たったあれだけの事でそんな自分の抱え込む複雑な感情を読み取られていたとは、これは参った。

恐らく、彼女にも何かあったのだろう。
それは多分、横にいる浜面という男も交えた、何かが。
それも自分では想像つかない、様々な事が複雑に絡み付いた事情を乗り越えてきたのであろう。


黒子「正解、ですの」クス

麦野「ようやく笑ったわね」

浜面「(麦野にビビっただけなんじゃねえの?)」

麦野「壁のシミ決定ね」

浜面「何も言ってねえじゃねえか!」


本当に息の合った二人だと思う。
それに、女性に言い寄られて……………………とは少し違うか。
からかわれて本気でたじろぐ浜面の姿に、少し彼の姿がダブって見えたりもしていた。





上条「んあ、白井?」






黒子「ふぇ」

浜面「おう、上条」

麦野「あら」


噂をすれば影というものなのだろうか。
思わぬ人物の登場に一瞬心臓が止まった様な気もした。


上条「何してんだ? こんな所で。それに浜面も」


不思議そうな目で黒子を見つめる。
その視線に黒子は戸惑った様でも、また恥ずかしくもあったりしていた。


黒子「い、いえ、その………………」

浜面「いや、事情聴取も終わったし立ち話を少し、な」

上条「そうか。白井も終わったのか?」

黒子「あ、はい…………」

麦野「」ニヤニヤ

上条「と。そちらはさっき車に乗ってた──────」

麦野「あなたが上条くんね? 麦野沈利って言います」

上条「これはご丁寧にどうも。上条当麻と申します」

浜面「(キャラが違ぇ)」


ペコリと頭を下げる上条と麦野。

そんな様子(麦野)に浜面はまるで見た事がないものを見たかのような表情をしていたのだが、そこは麦野に感付かれなかっただけでも彼は運がよかったと言えよう。


とまあそれは置いておいて、上条には気になった事が一つ。



上条「つか、さっき何だか白井が泣きそうに見えたんだが…………」


黒子「っ!?」


上条の言葉に黒子はたじろぐ。
何があった? と心配そうに見つめる視線に黒子は戸惑った。


上条「はっ、まさか! おい、浜面。てめえが白井を泣かせたんじゃねえだろうな…………?」

浜面「何でそうなるんだよ!? 何もしてねえよ!」

麦野「そうなのよ。実はね、さっきね」

黒子「ちょ、ちが」

上条「オーケー浜面、歯ぁ食いしばれ。俺の拳はちっとばかし響くぞ」

浜面「だから違ぇって! それにお前のパンチなんざもう二度と食らいたくねえ!!」

黒子「お、お待ちになって下さいまし! そうじゃありませんの!」

上条「ん? そうなのか?」

黒子「ええ、浜面さんは別に何もしていませんの」

浜面「助かったああぁぁ~」

麦野「もう二度とって…………どういう事よ、浜面?」


黒子の説得で握った拳を緩める上条を見て、ホッと一息つく浜面。
まあ自分の思わず呟いた一言でまた麦野から質問責めをされるだろう事は予定調和か。




上条「それならいいけどなー、はは」




クシャ────────




黒子「なっ!?///」




ふと黒子は頭に暖かい感触を覚えた。
それを辿ると、学生服の腕の部分が見える。
それは彼の方から伸びていて、つまり今自分の頭を撫でているのは。

考えさせられていた、彼の手であった。


黒子「ちょ、ちょ、かみ、じょうさん!///」

上条「んー?」


髪に触れられているその感触は暖かく。
傷付かない様に、癒す様に。
まるで、ゆりかごを優しく揺さぶられているかの様な、優しい感触。
少し前までは異性に身体を触られる事すら嫌だったというのに。
でも彼にだけ、触れてほしいと思うこの感情は一体。

しかし、やはり気恥ずかしさが先行してしまうのは仕方のない事なのだろう。


黒子「あ、頭を撫でないで下さいましっ!!///」ガバッ

上条「あ……………………すまん、そうだよな」


払いのける様に振り返った自分の照れ隠しの言葉に、上条は気まずそうに苦笑いを浮かべその手を離す。
本当に悪く思ったのか、彼は次第に真剣な表情になっていた。


上条「そりゃそうだよな、直接じゃなくてもあんな場面見ちまったんだし。男に嫌悪感を持つのもしょうがねえよな」

黒子「ぁ…………………………」


何て事してるんだ、という様な上条の自分で自分を責める様な言葉と雰囲気に黒子は息を飲む。
言葉になくともその顔は謝罪をしているかの様だ。


上条「ましてや嫌っている男に触られたくもねえよな」

黒子「え…………………………」


悪い、と言葉を付け加えて上条は謝ってしまった。

違う。それは違う。
嫌ってなどいない。
断じて違うのだ。


彼の自嘲する様な乾いた笑いに、黒子はその手を取った。



上条「白井……………………?」

黒子「あなたの事。………………嫌ってなどいませんわ」


いや、寧ろ────────。

だがそれをここで言うのは違うのだろう。
はっきりと堂々と胸を張って、とまでではまだない。

答えはいつか、彼と接していく内に自ずと見つかるはず。

上条「そっか。ならよかった」


繋いだ彼の手の感触と、暖かさから。
不思議とそう思えていた。











浜面「何だよ麦野、頭下げて」

麦野「………………………………察しなさいよ、バカ」

浜面「??」


傍観者と成り果てた二人の間にそんな会話があったのだが、それはまた別の機会にしようとしますかね。
本妻、滝壺と愛人(?)麦野と浜面を賭けたドロドロの戦い────────。

それはまたどうなるのかはお楽しm「ブチコロカクテイネ」ごめんなさい。


初春「あっ当麻さん!」


そんな中、立ち話をしていた廊下にて一人の少女の声が響き四人はそちらに視線を送る。
その少女は彼の姿を見かけると、嬉しそうに駆け寄ってきていた。


上条「おー、初春さん。もう終わったのか?」

初春「はい、今終わったとこなんですよ……………………って!?」


初春の言葉は途中で止まる事となった。
目線は彼の顔から下の方。
彼の身体、腕、手。
その手は、今────────自分の知る、同僚の少女と繋がっている。



初春「………………………………白井さん?」ジト


黒子「はっ!? こ、これは違いますの!」バッ

上条「ぬお」パッ


自分の視線に気付くと、黒子は焦った様に彼から手を離した。
今まで、何をしていたのだろうか。
まったくもって羨ましい事をしていたのか。


初春「当麻さん! 行きましょう!」グイ

上条「のわっ、ちょ」


そう思うと何か嫌な予感の様なものがした気がして、彼の腕をつい引っ張ってしまったのは仕方のない事だ。
黒子から離そうと歩き出そうとしたのだが、そこで先程見た男性と女性の姿に気付くと初春はその足を止める。



………………彼の腕は、抱きかかえたままだが。



初春「あ、さっきの……………………」

麦野「大丈夫だった?」

浜面「上条、お前って奴は……………………」


先程自分が救出され、ビルの外に出た際に目にした人達だった。
聞けば、自分を助ける為に上条達に助力をしてくれたらしいのだ。
男性の方は彼に何やら恨めしいようなそんな目線を送っているのが気になったが、知り合いなのだろうか。


初春「あの、本当にありがとうございました」ペコ


頭を下げる。
先程、彼らがいなかったらもしかしたら助けられなかったのかもしれないと上条は呟いていて、初春は見知らぬ二人に心底感謝していた。


麦野「よかったわね」


ニコリと笑う女性を見て、やけに包容力のある人だな、と感じた。
それにしても………………。


麦野「……………………どうしたの?」

初春「えっあっ、す、すみません…………その、綺麗な方だなって思いまして…………」アセアセ

麦野「ふふ、ありがとう」

浜面「(やっぱキャラ違うってえええええええぇぇ!!)」

麦野「はまづらぁ」

浜面「(……………………もう何も思わん、うん、思わないったら思わん)」


まさに初春が目指す理想の『大人の女性』を体言した様な容姿、包容力を目の当たりにして初春は見とれてしまっていた。
そんな自分の視線を不快に思われてしまったのかちょっぴり不安になったのだが、クスクスと笑う彼女を見て初春はホッと一息ついていた。




上条「そうだな、俺からも言っておくか」



黒子「それでは、わたくしからも」



上条・黒子「「本当にありがとうございました」」



初春「あ、ありがとうございました」




初春はもう一度頭を下げて礼をしたのだが、上条と黒子のシンクロする動きに嫉妬して自分もとかは思っていない、うん。

頭を上げると、もういいのにと言った表情で麦野と浜面はお互いの顔を見合って苦笑いを浮かべていた。



浜面「つか上条。お前このコ達とどんな関係なんだよ」

上条「ん?」


 四人で廊下を歩きながら浜面が上条に尋ねていた。
どんな関係と言われても、と苦笑いをして右隣を歩く初春(腕はなぜか組まれている)、左隣を歩く黒子(なぜか近い)を見る。
ちなみに初春はアンチスキルに支給された服に着替えたか、ダボダボの三又マーク付きのジャンバーとジャージのズボンを履いていた。


上条「尊敬すべき先輩達、仲間かな?」

浜面「ん? 先輩達?」


先輩という言葉に浜面は怪訝な表情を浮かべていた。
上条が先輩ではなく、彼女達が先輩。
どういう事だと聞き返していた。


上条「そ。つかまだ言ってなかったな。俺ジャッジメントになったんだよ」

浜面「なぬ」

麦野「へえ」


その上条の言葉になぜか嬉しそうにしている両隣の二人はまあ置いておくとして。
前を歩く浜面は思わず振り返っていた。


浜面「ジャッジメント? 上条が?」

上条「なんだよその言い草」

浜面「いや、な。そりゃお前に合っているかもしれんが」


そういうと浜面は前を振り向き直す。
何やら他にも言いたい事あんのかななんて右隣を見た。



初春「えへへ」


自分の視線に気付くと、彼女はニッコリと笑ってついには手に指が絡んでいく。
その感触に上条はどきまぎしながらもその手を握り返していた。


尊敬すべき先輩、仲間。
先程はそう言ったのだが、多分。



……………………その言葉では収まらないのだろう。
この右手を包む感触も────────。




麦野「そうそう。あなたのお花、浜面の車に置いてあるわよ」

初春「あっ。ありがとうございます」

浜面「んじゃ帰るか。皆送ってくぞ」

上条「いや、いいよ。初春さんと白井は俺が送っていく。ありがとな、浜面」

黒子「ええ、そこまでご迷惑をおかけする訳にもいきませんの」

浜面「そうか、了解」




ずっと、守るべき、守っていきたいと上条は思えていた。


麦野「あー、浜面コンビニ寄ってって」

浜面「ほいほい」


 帰りの車中、麦野の言葉に了解の意を告げると浜面は前方に見えたコンビニの駐車場にハンドルを切った。
鮭フレークか何かでも買うのかと思いながら夜の道中には眩し過ぎるくらいの明かりに近付いていく。
手慣れた手つきでバック駐車を済ませると、意気揚々と麦野が車から降りた。


麦野「鮭♪ 鮭♪」

浜面「やっぱりか」


そんな彼女の様子に苦笑いを浮かべると、浜面もコーヒーでも買うかと車を降りると、コンビニの自動ドアが開き、中から一人の女性が出てきたのに気付いた。


浜面「あいつが、ジャッジメントねぇ…………そんなんで収まるタマでもねえだろうがよ」ボソッ

麦野「!」

浜面「ん? どうした麦野?」


その女性を見た麦野の空気が変わった────────そんな、気がした。








番外個体「ったく………………コーヒーくらい自分で買いに行けっつの…………最終信号もお菓子なんかねだらないでよ………………ん??」


麦野「てめぇは……………………超電磁砲? あ、でも何か違う」

浜面「何だ?」


そうして、また新たな事件は起きていく。

黒子についてはこれからどうなるか俺が一番わからなかったりする

つかここまで書いておいてまだ書きたい構想の半分進んだか進んでないかのとこくらい…………ダラダラ過ぎるかな?

また次回に頭突き!

>>771
だから人数四人じゃなくて五人だろうがks
幼稚園からやり直して来いボケが


乙です
超電磁砲と風紀委員
の物語が交錯か…
このスレだけで足りる?

>>778 そんな事でいちいちつっかかんなks
見ててイライラするわ 帰れ

>>780
ごめんなさい
それよりもこのスレだけで全然終わる気がしない。最初は終わらせるつもりだったんだが……

それでも見てやってくれると嬉しい


番外固体「えー、なんかすっごい睨まれてるんだけど………………」

麦野「……………………………………」

浜面「お、おい、麦野………………?」


 困った様な表情を浮かべ、そのコンビニから姿を現した女性は言う。
どこかの民族衣装なのだろうか、白のそれに包まれたその人物は両手に買い物袋を引っ提げており、どうやらこれから帰路に着くのだろうと推測された。


浜面「ん?」


店内からの逆光にて浜面にはしっかりとは女性の顔は見えなかったのだが、目が慣れてくると女性の顔がどこかで見たような顔だと言う事に気付く。


───あの顔、どっかで見たぞ? 確か………………


浜面「確か………………御坂美鈴か?」

麦野「あぁ?」


浜面にとっても、その人物の顔は見知ったものであった。

 それは浜面が今は亡き駒場という男の後を継いでこの第七学区のスキルアウトのリーダーになった直後の話。
学園都市上層部からの命で学園都市にやってきた第三位の母親の殺害を実行しようとしたのだが、しかしそれは上条と一方通行に阻止され失敗に終わっていた。

完全に思い出した。
その顔は、その時の被害者になる予定だった顔だ。

忘れようにもない。
自分が変わる一番最初のきっかけとなったあの事件なのだ。
それも今思えば、実際に自分を止めてくれた上条には感謝をしている。

 詳しい事情は聞かされてもなく。
ただ殺せとだけ命じられただけだった。
後で聞いた話によると、美鈴はローマ正教と学園都市との戦争に子供が巻き込まれないように連れ戻そうとしただけ。
本当に、未遂に終わって良かったと今ならばそう思えていた。

とはいえ出来ればもう二度と顔を合わせておきたくなかった人物でもあった。
それも当然だ、殺してしまいそうになった人物に今更どの面下げていればいいのかわからない。
いきなりこんな所で出くわして逃げられるか、悲鳴を上げられるかいっそ糾弾でもされんのかなと考えていると、その人物の口が再び開いた。


番外個体「誰それ?」

浜面「………………………………あん?」

麦野「ちょっとどういう事だぁ? 浜面」


肩透かしを食らったような気分になったのは浜面の気のせいではないと思う。


番外個体「ま、とりあえず急いでいるから帰らせてもらうよ。そうそうそこのお兄さん、隣の彼女さんに言っておいてくれる?」

浜面「人違い……………か? いや、確かにあの時の顔だぞ………………
   ん? 何をだっつーか彼女じゃねえ」

番外固体「あっつーい視線を向けられるのは別にいいんだけどさ、ミサカにはその趣味はないよって」

麦野「あぁん? 誰が熱い視線を送ってるだって?」

番外個体「ほら、ミサカってば結構モテちゃうから。きゃー、またあの人が嫉妬して夜枕とパンツに染みを作っちゃうよ。ぎゃは☆」

浜面「ちょ、ここコンビニの前d」

麦野「誰がてめぇなんざに劣情を持つかよ。はっ、なんなら今からてめぇのパンツに恐怖の黄色いシミを作らせてやろうか?」

浜面「ここコンビn」

番外個体「えー、ミサカは別に怖いっていう感情はないんだけどなぁ……………………」

麦野「じゃあ今からその感情を身体に刻み込んでやるよ、そのクサレマ○コから内蔵引きずり出してやろうかぁ!?」

浜面「麦野こk」

番外個体「おお、綺麗な顔して結構エグイ事言うんだね。昔のあの人みたいだよ、ぎゃは☆ 昔のあの人実際には知らないけどね」

麦野「はっ、強がって話そらそうったってそうはいかねえぞ? 今だってションベン漏れそうなの我慢してんだろぉ?」

浜面「だかr」

番外個体「もー、なんで初対面の人にいきなりコンビニの前で喧嘩売られなきゃいけないの?」

麦野「ああ? てめぇは御坂美琴じゃねえのかよ?」

番外個体「違うよ?」

麦野「そうか。悪かったな」ウィーン

番外個体「うん、じゃあね」スタスタ





麦野「って納得いくかあああああああああぁぁぁッッッ!!」ダダダッ


番外個体「もー、何なのかなー」モー


浜面「やべ、ちょっともうついていけね」


どっちかっていうと事件というより、喜劇の始まりというのかも知れない。
まあ浜面にとってはとてもそうは言えそうにないのだが。


浜面「どうしてこうなった……………………」


 コンビニの前で延々と女の子達に卑猥な叫び声を上げさせている訳にもいかず、浜面は二人を(命懸けで)車に押し込み自身も運転席に引き下がっていた。
車中では物凄い殺気やらのオーラが飛び交っており、窓ガラスがかたかた悲鳴を上げている様な気さえする。
女性を見て