【続】矢車想「IS学園…今の俺には眩し過ぎる」 (1000)

したらばのが落ちたんでこっちに移動。ごめんなさい

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前回
矢車想「IS学園…今の俺には眩し過ぎる」
の続き


─第2話─

~教室にて~

生徒「改めて、クラス代表決定おめでとう矢車くん!」

矢車「はぁー……俺はクラス代表なんかやらないと言った筈だが?」

箒「文句を言うな!これはもう決定事項だ!お前に拒否権はないッ!」

矢車「はぁー……」

セシリア「お兄様、心配なさらないで…。あなたにはこの地獄兄妹長女、セシリア・オルコットが
     クラス代表であるお兄様のサポート役としてついております…」

セシリア「お兄様が嫌がるような面倒事は全てわたくしが致しますわ…」

矢車「セシリア…やっぱりお前は最高の相棒だ」ナデナデ

セシリア「まぁ…お兄様ったら」デレデレ

箒(セシリアめ…またしても想の気を引こうと妹ヅラしよって!)

箒「どうでもいいがセシリア、お前その格好はどうにかならないのか?露出度が高過ぎて目のやり場に困る…」

セシリア「フフッ…これは闇世界の住人のみが着ることを許される“地獄スタイル”ですの…。お兄様と、お揃いの…」ポッ

セシリア「お兄様と身も心も繋がっているという証として、そう簡単に手放すつもりはありませんわ!」

箒「はいはい…せめて先生には目を付けられないように気を付けてな」

生徒「そういえば、2組のクラス代表が新しく来た転校生と交代になったんだってね」

箒「転校生?」

生徒「確か中国から来た子だとか」

セシリア「ふん!今のところ専用機を持っているのは1組と4組のみ…誰が来ようともお兄様の敵ではありませんわ!」

鈴「その情報古いよ!」バンッ!

セシリア「だ、誰ですの!?」

矢車「お前は……」

鈴「久しぶりね想!2組は中国代表候補生であるこの私、凰鈴音がクラス代表になったのよ!」

鈴「今日は宣戦布告に来たってわけ!」ビシィッ

矢車「はぁー…相変わらず明るいな、お前…」

鈴「な…何よそのリアクション!?久しぶりの再会だってのに!!」

箒「想、知り合いか?」

セシリア「やけに馴れ馴れしいですわね…」

矢車「…俺の昔馴染みだ」

鈴「昔馴染みって…何よその超簡潔な説明!?
  アンタ、暫く見ないうちに随分と冷たい性格になったわね!」

矢車「地獄の住人に、優しさなんか期待するな…」

鈴(噂には聞いてたけど、随分と厨二病拗らせてるわねコレ…)

セシリア「おほんっ!お兄様、そろそろこの方の素性についてちゃんとご説明してもらいたいのですが」

箒「お前とこの子、一体どういう関係なんだ!?」

矢車「はぁー……」

─矢車説明中─

箒「つまり、私が引っ越した後に入れ違いになって想の学校に転校して来たと?」

矢車「そういう事だ…」

鈴「想とは、私が中国に引っ越した中学二年の時までの付き合いよ。」

鈴「全く、一年前はコイツもこんな性格じゃなかったのに…」

箒(もしかしてこいつも想の事を…?いや、昔の想が好きなら今の想を見て幻滅しているのかもしれんし…)

キーンコーン カーンコーン

千冬「お前達席につけ!もうSHRの時間だぞ!」

矢車(SHT…?)

鈴「うわヤバッ!じゃあね想!また後で来るから!」ダダッ

矢車「はぁー…面倒な奴がまたひとり増えたな…」

箒「一番面倒なのはお前だよ…全く」

千冬「…ってオルコット貴様ッ!何だその格好は!?」

セシリア「こ…これは闇世界の住人のみが着ることを許される地獄スタイルでして…」

千冬「何を訳の分からないことを言っている!?後で職員室に来てもらうぞ!」

セシリア「そ、そんなぁ~…」

~放課後~

鈴「遊びに来たよ想!…って、どうしたのあんた?」

セシリア「はぁー…こってりと絞られましたわ…。服装も元の制服に戻されましたし…」

箒「あの破廉恥な衣装は没収されたか…。まぁ当然といえば当然だが」

セシリア「し…しかしこのセシリア・オルコット!姿形は変われど、お兄様に対する慈愛の気持ちは何一つ変わっておりません!」

セシリア「これからも地獄兄妹の一員として一生付いていく所存でありますわ!」

矢車「気にするなよ相棒…。どんな事があっても、俺達は永遠に一緒だ…」

セシリア「お…お兄様ぁ…」ウルウル

矢車(姿形は変わっても、か…)

セシリア(よし!この流れで…)

セシリア「お兄様!」

矢車「…何だ?」

セシリア「も、もしよろしければ…これからISの操縦訓練でもご一緒にいかがですか?」

矢車「訓練…か」

箒(セシリアめ!また自分だけ抜け駆けしようとして!)

箒「想ッ!私も一緒に」

矢車「セシリア、お前はいいよなぁ…」

セシリア「えっ?」

矢車「まだまだ強くなろうと、高みを目指して努力しようだなんて…
   俺なんか、そんな情熱とうの昔に消え失せた…」

セシリア「わ…わたくしは別に…そんなつもりは!」

矢車「セシリア…俺達は闇の住人だ」バッ

矢車「光を求めるな」


セシリア「ご、ごめんなさいお兄様…。わたくしもまだまだ地獄兄妹としての自覚が足りていませんでしたわ…」

矢車「………」

セシリア「でも!わたくしが強くなろうとするのは、全てお兄様の為ですの!」

セシリア「今より少しでも強くなって、お兄様のお役に立てるようにと…。その為にわたくしは…」

矢車「………」

セシリア「お兄様…?」

矢車「はぁー……分かった。他でもない相棒の頼みだ。軽い手合わせ程度なら付き合ってやる」

セシリア「ほ…本当ですの!?」

矢車「ああ…約束だ」ポンッ

セシリア「お…お兄様ぁ~」デレデレ

矢車「相棒…」ナデナデ

セシリア「お兄様ぁ~…」デレデレ

鈴「何この茶番…?」

箒「私に聞くなッ!」イライラ

箒「おい想!その訓練私も付き合わせて貰うぞ!」

セシリア「フフッ…部外者が何を言って」

矢車「いいぜ、箒」

セシリア「…って、お兄様!?」

矢車「地獄は道連れってヤツだ…。みんなまとめて、地獄に落ちよう…」

セシリア「釈然としませんが、お兄様がそうおっしゃるなら…」

箒「私は地獄になんか落ちないぞ!」

鈴(重症だわこれ…)


~放課後~


セシリア「先ずはわたくしから、手合わせ願いますわ!」

矢車「いいぜ…セシリア」パカッ

ピョーン ピョーン ピョーン

パシッ

矢車「変身…」カシャ

──HENSHIN──

キュイキュイキュイーン

──CHANGE! KICK HOPPER!──

矢車「いくぜぇ…相棒…!」

セシリア「いきますわよ、お兄様!」バシュ

箒「始まったか…」

箒(しかし、間近で見ると改めて分かるが、やはり想の専用機は変わった形をしているな…)

箒(頭部までフルフェイスで覆われているだなんて、まるで仮面だ)

箒(そもそも第何世代のISなんだ?外見だけでは判別出来ん…)

千冬「ほう…放課後も居残って訓練とは、感心だな」

箒「ちふ…織斑先生!」

千冬「そう気張るな。楽にしていい」

矢車「はぁッ!」バシッ バシッ

セシリア(クッ!…やっぱり強い!)


千冬「しかし矢車の奴、見事なまでの戦闘技術だな。
   代表候補生であるセシリアが防戦一方とは」

箒「あの…織斑先生」

千冬「何だ?」

箒「先生は前回のクラス代表決定戦のとき、想の専用機について何か知っているような口振りでしたが…」

箒「先生は、あのISが何なのかご存知なのですか?」

千冬「…私とてあのISについて、その全てを把握出来ている訳ではない」

千冬「分かっているのは、矢車の奴が学園側へ自己申請した機体スペック等の取るに足らんデータのみだ」

千冬「生産国、開発系統など、あのISの出所に関わる情報は一切開示されていない」

箒「織斑先生でも知らないISだなんて…そんな代物を何故あいつが?」

千冬「さぁな。前にその件について矢車本人に直接問いただしてみたんだが、
   知らぬ聞かぬの一点張りでな…まったく困った生徒だ」

箒「そうですか…」

箒(想の過去について知る手がかりが、何か掴めると思ったのに…)

千冬「だが、あれが他のISと一線を画す存在である事は確かだ」

千冬「昆虫を模したような独特のフォルム、火器を一切持たず、肉弾戦のみに主眼を置いた戦闘スタイル…」

千冬「そして何より、飛行能力を一切持たないという、ISの概念からも逸脱した性能…」

箒「なッ!?飛行能力を一切持たない!?」

千冬「高いジャンプ力を利用して、空中を滑空する程度の事なら出来るだろうがな」

箒「そんな…」

箒(てっきり想の奴が相手を嘗めて掛かっているから、今まで手を抜いていたのかと…)

千冬「しかしその一方で、あのISの高い跳躍力には目を見張るものがある」

千冬「キックホッパーの跳躍時のトップスピードは、従来のISの最高飛行速度をも優に超えるスピードだ」

千冬「クラス代表決定戦で矢車がオルコットに逆転の一撃を与えられたのも、この高いジャンプ性能に起因する点が大いにある」

箒「…しかしたったそれだけの性能で、飛行能力を持つ他のISと渡り合えるとはどうしても思えないのですが…」

千冬「その点に関しては私も同感だ。たかが“ジャンプ力に優れている”というだけのISが、
   縦横無尽に空を飛ぶ敵を相手に互角以上に渡り合うなど、とてもじゃないが信じられん話だ」

千冬「だが…現に矢車はあのキックホッパーを駆り、代表候補生であるオルコットに勝利した…。それは紛れもない事実なのだ」

───

矢車「セェアッ!」ドゴォッ

セシリア「きゃッ!!」バタッ

セシリア「や、やっぱり強いですわね…お兄様」

矢車「どうした、もう終わりか?」

セシリア「な、何のこれしき…まだまだですわ!」

矢車「そうか……」

セシリア「もう一度!でやあぁッ!」グワッ

───

千冬「全く…本当に謎が多いのはあのISではなく矢車自身の方だ。
   一体何処であんな戦闘技術を身に付けたのか…」

箒「………」

千冬「そう言えば篠ノ之、お前とあいつは幼なじみの間柄だったな。何か心当たりはないのか?」

箒「……いえ、何も」

千冬「そうか…。まぁ本人が話たがらない以上、無闇な詮索は控えた方がいい」

千冬「あいつはあいつで、聞かれたくない事情というものがあるのだろう」

箒「…はい」

箒(それでも私は…)


~更衣室~

矢車「はぁー…」

鈴「お疲れ想!はいこれ」ポイッ

矢車「スポーツドリンクか…今の俺には眩し過ぎる」パシッ

鈴「何訳の分からないこと言ってるのよ…」

矢車「………」ゴクゴク

鈴「隣座るね」スチャ

矢車「あぁ……」

鈴「………」

鈴(やっと二人きりになれた…)

鈴「…こうして二人でゆっくり話しをするのも、結構久しぶりだよね」

矢車「……そうだったか?」

鈴「そうだよ!小学生の頃なんかしょっちゅうウチの店に来てくれてたのに!」

鈴「中学に上がった頃から段々会話する回数も減って…中ニの頃なんか、
  “生徒会の仕事が忙しい”とか何とか言って、ロクに相手してくれなくなったじゃない!」

矢車「………」



~中学時代~

鈴『想、放課後ヒマ?暇なら久しぶりにウチの店に来な…』

矢車『悪い鈴、これからちょっと急ぎの用があるんだ』

鈴『えっ!?…また生徒会の仕事?』

矢車『……まぁ、そんなところかな。ごめんな』

鈴『う…ううん気にしないで!』

矢車『本当に悪いな。また今度、暇が出来たら鈴ん家のお店にも顔出すよ。
   それじゃあ、お父さんによろしく伝えといて』ダッ

鈴『あ…そ、想ッ!』

矢車『ん?』

鈴『あ、えっと……。う、腕に付けてるソレ!変わったデザインのブレスレットだね!』

矢車『……あぁ』

鈴『へぇー意外~!想もそういうの気にするようになったんだ!?ねえ、それってどこで買っ』

矢車『悪い、急いでるんだ』ダッ

鈴『あっ、想!もう少し話…』

───


鈴(結局、あれ以来想がウチのお店に来ることは二度と無かった…)


鈴「本当、私のいない間に一体何があったのよ?優等生だったアンタがこんな不良まがいな事するなんて…」

矢車「過去の事などもう忘れた……」

矢車「今の俺は闇の世界の住人…栄光から転落し地獄の暗闇へと叩き落とされた、どうしようもないロクでなしだ……」

鈴「栄光から転落したって…何それ?高校受験に失敗したとか?
  それとも中学の時に何か問題起こしたとか!?」

矢車「………」

鈴「優等生ほど一度拗ねたら手が付けられなくなるって言うしね~。
  あんたもその流れで不良になっちゃったってわけ?」

矢車「…違う。俺が味わった地獄は、そんな生優しいものじゃない…」


鈴「ふーん…。何だかよく分かんないけど、あんたも色々苦労したのね」

矢車「軽蔑したか?かつての幼なじみがこんなにまで落ちぶれていて…」

鈴「いやー、この学園に来て今の想の噂を聞いた時はそりゃあ驚いたけどさ…」

鈴「でも、心配した程ではないかな。こうして普通に会話も出来るし、
  何だかんだて…中身は昔の想のままだし!」

矢車「昔のまま?フッ…」

鈴(むしろ、まともに会話もしてくれなかったあの頃の想より、今の想の方が…)


矢車「そろそろ行くか…」スッ

鈴「あっ、想!」

矢車「あっ?」

鈴「あのさ…約束覚えてる!?小学生の頃に私とした約束!」

矢車「約束…?」

鈴「覚えてないの!?ほら、私の料理の腕が上がったらっていう…」

矢車「…ああ、酢豚がどうとかってヤツか」

矢車(具体的な内容は忘れたが…)

鈴「そう!それそれ!!何なら今からでも作って…」

矢車「断る」

鈴「え゛っ!?」

矢車「今の俺に酢豚は眩し過ぎる…。食事なんてカップ麺で十分だ」

鈴「な、何よソレッ!?約束なんだから大人しく私の手料理食べなさいよ!」

矢車「断る」

鈴「うぅ…だったらこうしよ!」

鈴「今度のクラス対抗戦で勝った方が、負けた方に何でも言うことを一つ聞かせるって!」

鈴「私が勝ったら否応なしに、私の作った酢豚を食べてもらうからねッ!!いいわね!?」

矢車「はぁー……」

鈴「返事は!?」

矢車「…分かった。ただし俺が勝ったら、鈴…」ダンッ

鈴「えっ…?」


矢車「お前、俺の妹になれ」


鈴「え……え゛ぇッ!!?妹って…何ソレッ!?」

矢車「………」ジッ

鈴「うぅっ……」ボッ


矢車「フッ、冗談だ…」プイッ

鈴「……は、はぁッ!?」

矢車「冗談だ。今の明るい性格のお前に、闇の住人なんか似合わない…」

鈴「な、なな何訳分かんないこと言ってんのよ!バカッ!!」

矢車「………」

鈴「も、もう許さないんだから!ボコボコにしてやるから覚悟しときなさいよッ!!」

矢車「ボコボコか、はぁー……」スタスタ

鈴(もうッ!何なのよあいつ…)



生徒1「えー!それ本当!?」

生徒2「本当本当!さっき織斑先生が一組の娘と話してるの聞いたんだから!」

生徒1「でも、あの矢車くんのISがねぇ…」

鈴「んっ?」



~クラス対抗戦当日~


箒「初戦の相手は凰鈴音。想の幼なじみとの対戦か…」

山田「彼女の使用するISは甲龍(シェンロン)。中国の第三世代型ISですね」

セシリア「フンッ!どんな機体が相手であろうと、お兄様の駆るキックホッパーの敵ではありませんわ!」

箒「クラス代表としての意地、しっかり見せてこい!想ッ!」

矢車「クラス代表、か…。はぁー……」パカッ


ピョーン ピョーン ピョーン

パシッ

矢車「変身…」カシャ

──HENSHIN──

キュイキュイキュイーン

──CHANGE! KICK HOPPER!──

───

アナウンス『両者、規定の位置へ移動して下さい』

セシリア「行ってらっしゃいませ!お兄様!」

矢車「あぁ…」ダッ


~アリーナ~

鈴「話は聞いたわよ!想ッ!」

矢車「あっ?」

鈴「アンタの使ってる専用機って、飛べないISなんだってね!出来てせいぜいジャンプと滑空程度だとか!」

矢車「………」

鈴「どうやら図星のようね…。そんなISで代表候補生であるこの私とやり合うつもり?」

鈴「何なら他の機体に乗り換えたっていいのよ!」

矢車「…代表候補生の余裕ってヤツか、ソレ?」

鈴「そ、そんなんじゃないわよ!ただ勝負事ってのはフェアにやらないと…」

千冬『両者私語を慎め!試合が始まるぞ!』

鈴「うっ…負けても泣き言言わないでよね!想ッ!」

矢車「………」

ブー

『試合開始』

鈴(あいつには悪いけど、遠距離から一方的にやらせてもらうわッ!)ヒュッ


山田「凰さん、開始早々矢車くんから距離をとりましたね」

箒「いきなりあんな高高度まで機体を飛ばすとは…」

千冬「飛べない上に射撃武器もない敵を相手にするのだ。奴の判断に間違いはない。だが…」

セシリア「甘いですわね、彼女…」


鈴「それッ!」バシュ

矢車(来る…)ピョーン

ドゴォ!

鈴「へぇ…よくかわしたね!衝撃砲は空気を圧縮して放つ不可視の砲弾なのに」

鈴「でも…いつまでも避けられる攻撃じゃないよ!」バシュバシュバシュ

矢車「………」スッ スッ タンッ

ドゴォ! ドゴォ! ドゴォ!


山田(このパターン前にも見たような…)

千冬「流石だな矢車。最小限の動きと俊敏なフットワークで、あの衝撃砲を悉く回避している」

箒「しかし、飛ぶことが出来ないと知られてる以上、接近戦を挑むのは些か困難だな…」

セシリア「甘いですわよその考え……。キックホッパーのジャンプ時のトップスピードは、わたくしのブルー・ティアーズを持ってしても捉えられない程の速度…」

セシリア「油断していると、あっという間に距離を詰められますわ」

鈴「あ゛ぁーもう!何で当たらないのよ!?」バシュバシュバシュ

鈴(こんなに動きが良いだなんて聞いてないわよ!)

矢車「フッ……」シュタッ スイッ ピョーン

ドゴォ! ドゴォ! ドゴォ!

モクモクモク…


鈴「しまった!粉塵が邪魔で想の姿が見えない!」

鈴(お、落ち着くのよ私!想の専用機は飛べない上に、射撃武器も装備されていない)

鈴(仕掛けてくるとしたら近接格闘しかないんだから、このまま距離を置いて遠方からの衝撃砲で向かい射てば…)

ブワッ!

鈴「えッ!?」

矢車「セェヤ!」ブンッ

鈴(ウソ!?速ッ!一気に距離を詰められた!?)

鈴「ひっ!!」スイッ

スカッ

矢車「チッ……」

鈴「あ…危ない危ない!間一髪でかわせたわ!」

鈴(そして墓穴を掘ったわね!想ッ!飛ぶ事の出来ないアンタのISは一度ジャンプしたら最後、一定時間空中で無防備な状態を晒すことになる!)

鈴(私は焦らずにその無防備な状態を狙って攻撃すれば、アンタを必ず仕留める事が…)


矢車「……このまま終わると思っていたのか?」クルッ

鈴「えっ!」


箒「空中で反転した!?一体何のために…?」

山田「方向転換して再び接近を試みるつもりでしょうか?」

箒「しかし、ジャンプを利用し推進する想のISは
  蹴りを入れる為の足場になる物がない限り前に進む事が…」

セシリア「足場になる物…まさか!?」


矢車(こいつを蹴って…)バリバリバリィ

鈴「えッ!?」


山田「まさか!アリーナの遮断シールドを足場として利用して!?」


矢車「ハァッ!」ビューン!

鈴(ウソッ!こっちに突っ込んで来た!!?)

矢車「セイャッ!」ブォンッ
ドゴァ!

鈴「きゃぁぁッ!」

ドーンッ!

セシリア「決まりましたわ!!お兄様の十八番、ライダーキック!」

箒「いや、あれは只の踵落としだ」

セシリア「えっ!?あっ…し、知ってますわよ!当然!」

箒「………」

千冬「しかし、これで形勢は一気に矢車の方へと傾いたな」

山田「…と言いますと?」

千冬「移動手段が地走とジャンプのみとはいえ、キックホッパーの跳躍力、瞬発力は第三世代機のそれを大きく上回る性能だ」

千冬「地上という奴にとってのホームグラウンドに降ろされた以上、
   スピードで勝るキックホッパーから逃れ、再び空中へと舞い戻る事は困難を極める」

千冬「近接格闘戦を得意とする奴の間合いに入ってしまったら、尚更な」

山田「成る程…」


矢車「………」スタッ

鈴「うっ…」

鈴(ヤバい…。想のヤツ、一気にトドメを刺すつもりだ…)

矢車「ライダージャンプ…」カシャ

──RIDER JUMP!──

ピコ…ピコ…ピコ

鈴(避けないと!でも、さっきのダメージがまだ…)ビリビリ

矢車「ライダー…」


バリーン!

ドゴーンッ!


矢車「……?」

鈴「わッ!何ッ!?」


箒「何ッ!?」

セシリア「何!?何事ですの!?」

山田「突然アリーナから爆発が!?」

千冬「試合は中止だ!矢車と凰は直ちに現場から退避!山田先生は他の教員達に応援要請を!」

山田「は、はい!」


キャー! ワー!

鈴「聞いたわね想!私達も今すぐピットに戻るわよ!」

矢車「帰りたきゃ先に帰ってろ。どうやら奴の狙いは、俺の様だ…」

鈴「ヤツ…?」


ゴゴゴゴゴ


鈴(あれって…IS!?)


未確認機『─LOCK ON─』ピピッ

矢車「来るぞ」

鈴「えっ!?」

バシュバシュバシュバシュ

鈴「わッ!?」バッ

矢車「………」ピョーン

ドゴァーーン!


鈴「なッ!何なのよコイツ!?いきなり撃ってきた!?」

矢車「鈴、お前は先に戻ってろ。こいつの相手は、俺がやる…」

鈴「じょ、冗談じゃないわよ!あんた一人置いて行ける訳ないでしょ!」

矢車「そうか…ならお前はそこらで石にでもなってろ」ダッ

鈴「ちょ!想!?」


未確認機『─敵機接近中─』ピピッ

バシュバシュババシュバシュ

矢車(動きが単調で機械的だ…)スイッ スイッ ピョーン

矢車(この感覚…相手は無人機か)

未確認機『─最大出力─』ピピッ

キュイーン…


山田「未確認機の腕部から高エネルギー反応が!」

箒「まずい!逃げろ想ッ!」

セシリア「お兄様ッ!」

千冬「………」


矢車「………」ザッ

鈴「想ッ!逃げて!!」

未確認機『─発射─』キイィィ…

ドワァー!

鈴「うわッ!」

ドグワァッーーン!



パラパラパラ…

鈴(うそ…想…)

未確認機『─目標消失─』ピピッ

矢車「おい…」ズイッ

未確認機『─…?─』ピッ

矢車「後ろだ…セェヤッ!」ブンッ

ドグォッ!

鈴「想ッ!」


セシリア「お兄様ぁーッ!」

箒「あいつ、いつの間に敵の背後を…」

千冬「恐らく、あの高出力ビームの直撃を紙一重の差で回避し、
   敵機がビーム光により矢車を見失った一瞬のスキを利用し急速接近したのだろう」

箒「そんな事が!?」

千冬「タイミングを誤れば只では済まない危険な戦法だ」

千冬(それをあの土壇場で一瞬のうちに決断する判断力の高さ、そしてそれを躊躇なく実行に移せる行動力と度胸…
   とても素人のそれとは思えん。やはりあいつは…)


未確認機『─被弾…危険…─』ピーッ ピーッ

矢車「セヤッ!」ドグォッ! ドグォッ!

未確認機『─近接戦闘に移行─』ピピッ

ブゥンッ!

矢車(パンチか…。図体がデカい分動きは単調で鈍い…)スッ

未確認機『───』スカッ

矢車(隙が出来た…)

矢車「ハァッ!」ドゴォン!
未確認機『─危険…キケン…─』ピー! ピー!

矢車(弱過ぎる…やはりこいつはデータ収集が目的の、只の当て馬のようだな)

矢車(まぁ、誰の仕業かは大方検討が付くが…)

矢車「はぁー……どいつもこいつも!!」ドゴァッ!

未確認機『─……─』ピー!

ドグワシャアー!


鈴「凄い…あんな一方的に…」

鈴(ISの性能差とか、そんなレベルの話じゃない…。
  相当な経験を積んでなきゃ、あんな戦い方到底無理な筈…)

鈴(想、アンタ一体…)


未確認機『─……─』ギギギ…

矢車(…そろそろ終わらせるか)

矢車「ライダージャンプ…」カシャ

──RIDER JUMP!──

ピコ…ピコ…ピコ

ドシュンッ!

未確認機『─……─』ピピッ

矢車「ライダーキックッ!」カシャ

──RIDER KICK!──

矢車「セヤッ!」


未確認機『─最大火力─』キュイーン…

矢車(最後の悪足掻きか…このまま押しきる)

未確認機『─……─』ピピピッ…

未確認機『─…ターゲット変更、了解─』カシャ

矢車(何…?)

鈴「えっ?」


千冬「逃げろ凰ッ!!ターゲットが矢車からお前に切り替わっ」

未確認機『─発射─』ピー
ドワァー!


箒「鈴ッ!」

セシリア「鈴さん!」


鈴(だ…ダメ、避けれない)

ゴアァーッ!

鈴(助けて……助けて想ッ!)




── CLOCK UP ──




ドゴーンッ!

鈴「えっ?」


未確認機『─ギギギ─』バチバチバチ…


ドグヮァーンッ!


鈴「えっ…えっ?」

矢車「無事か、鈴?」ダキッ

鈴「あっ…あれっ!?想!?あんたいつの間に!!?」

鈴(確か、私があのビームの直撃を食らいそうになって…それから…)


山田「み、未確認機の撃墜を確認…」

箒「な、何だ今のは…?突然あの未確認機が爆発したと思ったら、想が鈴を抱き抱えていて…」

セシリア「一瞬の出来事でしたわ…。わたくしには何が何やら…」

千冬「………」


鈴「あの、想…。もう降ろしてくれてもいいから…」

矢車「あぁ…」スチャッ

鈴「あの…ありがとう。助けてくれて」

矢車「………」

鈴「えーと…あのISは?」

矢車「見ての通り消し炭だ」

未確認機『』バチ…バチ…


矢車(やはり無人機だったか…)


鈴「ねぇ、想」

矢車「…あっ?」

鈴「あんた…このISについて何か知ってんでしょ?」

矢車「まさか…」

鈴「惚けないでよッ!こちとら伊達にアンタの幼なじみやってんじゃないのよ!
  アンタが嘘付いてるかどうかなんて直ぐに分かるんだからッ!」

矢車「……知らないと言っている」

鈴「嘘よッ!それにアンタ、何でそんなに強いわけ!?」

矢車「………」

鈴「話によればアンタが初めてISを起動させたのは入学試験の時!
  でもさっきのアンタの戦い方は、どう見ても素人のそれじゃなかった!!」

鈴「想ッ!私が居ない間に一体アンタに何があったっていうのよ!」


矢車「はぁー…前に箒にも言った事だが、俺のつまらない過去などお前らが知る必要はない…」

鈴「そっちにはなくてもこっちにはあるの!だいたいアンタ…」

セシリア「お兄様ーッ!」ダダダ

箒「想ーッ!」

矢車「箒…セシリア…」

セシリア「お兄様!よくぞ御無事で!お怪我は御座いませんか!?」

矢車「あぁ…」

セシリア「それは何よりですわ!もしも…お兄様に万が一の事があったらと思うとわたくし気が気でなくて…」

矢車「心配するなセシリア…。この程度の事、俺が今まで味わってきた地獄に比べてみれば対した事ではない…」

セシリア「流石お兄様ですわ!」

鈴「だから何なのよ!その地獄って!」


セシリア「それじゃあ後の事は先生方に任せて、わたくし達は先に帰りましょうか」

矢車「あぁ、行こう…相棒」

セシリア「はい、お兄様♪」

鈴「ちょ、ちょっと待ってよ!話はまだ終わってな…」

セシリア「部外者は黙ってて!ここから先はわたくし達地獄兄妹の問題ですの!」

矢車「そういう事だ…」

鈴「だーかーらッ!何なのよ地獄兄妹って!?」

矢車「俺やセシリアのように、心に深い闇を抱えたろくでなし共の集まりだ…」

セシリア「同じ地獄を味わった者同士、肉親以上に深く、強い絆で結ばれた間柄ですの…」

矢車「まぁ、今の鈴には関係のない世界の話だ…」クルッ

セシリア「あっ、お兄様!お待ちになって!」タッタッタッ


鈴「ちょッ!想!!まだ話の途中…」

鈴「………」

鈴(…結局、あいつの中の私の扱いなんて、あの頃から何一つ変わっていなかったんだ…)

鈴(何かあっても肝心な事は何も話してくれないで…。私の事なんか、頼りにさえしてくれない…)

鈴(…………)

鈴(闇の住人になれば…あいつも私に心を開いてくれるのかな?)


箒「………」

箒(イカン…完全に忘れ去られてる…)

~その日の晩~

鈴(ここが想の部屋ね…)

鈴「想ーッ!いるんでしょー!出てきなさいよー!」ドンドンドン

ガチャ

鈴「あっ、想ッ!…えっ?」

箒「全く今何時だと…」

鈴「………」

箒「………」


鈴「あ…アンタ!何で想の部屋にいるのよ!?」

箒「こ、ここは私の部屋だ!自分の部屋にいて何が悪い!?」

鈴「あれ?もしかして部屋間違えた?」

矢車「何だ…騒々しい」ヌッ

鈴「あっ!想ッ!やっぱりここ想の部屋じゃない!
  あんたもしかして想と相部屋なの!?」

箒「そ、そんなこと今はどうだっていい!鈴ッ!お前その格好…」

箒「地獄スタイルじゃないか!!」


箒「どういうつもりだ貴様!?まさか、想に頼み込んで地獄兄妹に入れてもらおうと…?」

鈴「あ、アンタには関係ないでしょ!?
  これは…その…ば、罰ゲームよ!」

箒「はっ…?」

鈴「想ッ!アンタ言ったわよね!?“負けたら俺の妹になれ”って!」

矢車「いや、あれは冗談だと…。それに試合は無効試合に…」

鈴「つべこべ言わない!どうせあのまま戦ってても私の負けは確実だったんだから!」

鈴「約束は約束よ!責任取って…私を地獄兄妹の一員にしなさい!」

矢車「………」


箒「フンッ…唐変木な今の想にそんな横暴罷り通る訳が…」

矢車「いいぜ、鈴」

箒「なッ!?」

鈴「ほ…本当!?」

矢車「あぁ、今のお前からは闇を感じる…。転校当日には感じられなかった、新たな闇を…」

鈴「そ、想…」ウルウル

矢車「鈴、俺と一緒に地獄に落ちよう…」

鈴「あ…アンタに言われるまでもないわよ!!
  こうなった以上、地獄の底まで付き合ってやるんだからッ!」

矢車「フッ……」


箒(また…面倒な奴が一人増えた…)クラクラ

箒(クラス代表になりさえすれば、またあの頃の想に戻ってくれると信じてたのに…
  状況はむしろ悪化しているではないか…)

箒「どうして…どうしてこうなるんだーッ!」


──つづく

デデーン!

次回、仮面ISキックホッパー!

山田「今日はなんと!転校生を紹介します!」

矢車(こいつ、瞳の奥に闇が見える…)

シャル「2本目のベルト…?」

デレー

─第3話─


山田「今日はなんと!転校生を紹介します!」

ガヤガヤ…

シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします」

生徒「お…男?」

シャル「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国から転入を」

生徒達『きゃー!!』

シャル「えっ!?」

生徒「男子!二人目の男子!!」

生徒「矢車くんとは真逆のタイプのイケメン!守ってあげたい系!!」

生徒「嫌いじゃないわ!!嫌いじゃないわッ!!」

千冬「騒ぐな馬鹿者!!」
キャー!キャー!

矢車「………」


セシリア「笑顔が眩しい方ですわね…」

セシリア(正に光と闇…。闇の住人である地獄兄妹とは真逆の存在ですわ…)


千冬「今日は第2グランドにて2組との合同訓練を行う」

千冬「矢車、同じ男子同士だ。デュノアの面倒はお前が見てやれ」

矢車「何で俺がそんな面倒事を…」

シャル「よろしくね!矢車くん」

矢車「はぁー……ん?」

矢車(こいつッ!?)ガターン!

ガシッ!

シャル「わっ!?」

グイッ!

矢車「………」ジィー

シャル(えっ!?か、顔近いッ!!)オロオロ

山田「ちょ、ちょっと!!矢車くん!?」

シャル(もしかして…バレた!?)

矢車「………」

矢車(こいつ、瞳の奥に闇が見える…。俺やセシリア達と同じ、地獄を見たか?)ジロジロ

シャル「あの…その……」

矢車(しかし…分からん。何処こんなに明るく眩しい奴が、心の奥に闇を抱えている…?)


千冬「何をやっとるんだ馬鹿者ッ!!」バチーン!

矢車「うぐッ!」ドサッ

シャル「ひっ!?」

千冬「驚かせてすまない。見た通りこいつはどうしようもない変人でな。
   こうして度々、訳の分からん奇行に走る事があるのだ」

シャル「は、はぁ…」

千冬「矢車にお前の事を任せようと思ったのは、この女だらけの環境で
   同じ男子にしか相談出来ない事もあるのだろうと思っての判断なのだが…。
   デュノア、お前が嫌なら無理には頼まんが、どうする?」

シャル「い…いえ、同じ男子同士、矢車くんとは早く仲良くなりたいですし」

シャル「矢車くんには迷惑かけちゃいますけど、よろしくお願いします」

千冬「そうか…分かった。
   こいつがまた何か問題を起こしたら遠慮せず私に言ってくれ。後で〆に行く」

シャル「あ、あはは…」


矢車「おい……」グイッ

シャル「えっ!?」

矢車「更衣室へ行くぞ…。お前はこれから着替える必要があるんだろ?」

シャル「あっ、うん…」スタスタ


箒「珍しいな…。あいつがあんな積極的に初対面の人間と接するだなんて…」

セシリア「お兄様、何故…?あんな光の世界の住人と一緒に…?」

箒(光の世界って…いや、もう何も言うまい)

~廊下にて~


シャル「あの…矢車くん?」

矢車「あっ?」

シャル「えっと…これからは下の名前で呼んでもいいかな?
    苗字で呼ぶって、何か他人行儀な感じがするし」

矢車「……好きにしろ」

シャル「ありがとう!改めてよろしくね、想!」

矢車「……あぁ」



生徒「あっ!?噂の転校生発見ッ!!」

生徒「矢車くんも一緒!」

上級生「こっちへいらっしゃ~い…私がッ!抱きしめてあげる!!」クネクネ

シャル「えっ?何!?」

矢車「はぁー……どいつもこいつも!」グイッ

シャル「うわッ!」ダッ

生徒「あっ、逃げた!」

生徒「追いかけるわよ!」

上級生「盛り時の女の子達から必死に逃げ惑う男子……嫌いじゃないわぁ~!」クネクネ


ダダダダ…

~更衣室~

シャル「ハァ…ハァ…何で皆あんなに騒いでたの?」

矢車「俺達男子がよっぽど珍しいんだろ…あいつらにとっては」

矢車(全く、街灯に群がる羽虫の様に鬱陶しい連中だ…)

シャル「あ、あぁ…そっか」

矢車「………」

シャル「そういえばさっき、“お前は”これから着替える必要があるんだろ?”って言ってたけど、想はスーツに着替えないの?」

矢車「あぁ…必要ない…。何を着ていようが、それに関係なく変身は出来る」

シャル「す…凄い!革新的な技術だよ!ねぇ想、それってどういう仕組みなの?」

矢車「……そんなこと俺が知るか」

シャル「そ、そっか…そうだよね…。流石にそんな専門的な事までは知らないよね…」

矢車(……?)


シャル「じゃあ、僕は着替えがあるから、その…。あっち向いててくれる?」

矢車「……何故だ?」

シャル「えっ!?いやだって!は、恥ずかしいし…」

矢車「………」ジィー

シャル「だから見ないでってば!想のエッチ!!」

矢車「エッチ…?男同士なのにか?」

シャル「えっ!?あ、いや…男同士でも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!とにかくあっち向いて!」グイッ

矢車(この異常なまでの拒否反応……。こいつ、まさか…)クルッ

───


シャル「はい、終わったよ」

矢車「……早いな、着替え」

シャル「う、うん…」

矢車「………」

シャル「………」

矢車「準備が出来たんなら、とっとと行くぞ…」クルッ

シャル「あっ、うん…」スタスタ

~第2グランド~

千冬「これより、1組と2組の2クラスによる合同実習訓練を行う」

生徒達『はい!』

千冬「まずは戦闘の実演を専用機持ちに行って貰う。オルコット、凰、前に出ろ」

セシリア&鈴「はい」

スタスタ…

鈴「面倒いなぁ…なんで私が」

セシリア「フンッ!やる気が無いなら、無理をしてまでやらなくてもよろしいのですわよ?」

鈴「…何よアンタ、随分と喧嘩腰ね」

セシリア「この際だからハッキリと申し上げておきますが、鈴さん…」

セシリア「わたくしはまだ、あなたの事を地獄兄妹の一員だとは認めておりませんのよ!」

鈴「なッ!何よ!想の奴が良いって言ったんだから別に良いでしょ!
  アンタにとやかく言われる筋合いはないわよ!!」

セシリア「“想の奴”ですってえーッ!お兄様の事を実兄の様に敬うのが地獄兄妹の掟だというのに!!」

矢車(…そんな掟あったか?)

セシリア「矢車さんの事は“お兄様”と呼びなさいお兄様と!」

鈴「お、お兄様なんて…言える訳ないでしょうが!こっ恥ずかしい!」

セシリア「お兄様という呼び方が嫌なら“お兄ちゃん”でも“兄さん”でもよろしいのですよ?
     そんな初歩的な事も出来ないとなれば、地獄兄妹の一員として認める事は到底出来ませんわね…」

鈴「あーッ!もうさっきからごちゃごちゃと!何様なのよアンタ!!」

セシリア「何様ですかって…?フフッ…わたくしは…」

セシリア(ここですかさず…)

セシリア「地獄兄妹長女!セシリア・オルコットですわ!!覚えておきなさいッ!」ビシィ!

セシリア(フフッ…決まりましたわ…)


千冬「いい加減にしろ!馬鹿者共がッ!」ブンッ

セシリア「痛ッ!」ゴンッ!

鈴「あでッ!」ゴンッ!

千冬「お前達!地獄兄妹がどうとかの前に、代表候補生としての自覚を持て!」

セシリア(フフッ…ここはお兄様風に…)

セシリア「代表候補生…今のわたくしには眩し過ぎ」

千冬「いちいち口答えをするなァ!」ボコォッ!

セシリア「へぶぉッ!!」ドサッ

千冬「全く埒が明かん!山田先生!とっととこの馬鹿共をとっちめてやってくれ!!」


箒(そういえば、先程から山田先生の姿が見えないが…)

キィィィーン…

箒(……って!あれはッ!?)

山田「ど、どいて下さーい!!」キィィィーンッ!

箒「想ッ!危ない!避けろ!!」

矢車「んっ?」


ドゴーンッ!




矢車「わあああぁぁぁぁぁぁッ!!!」ビューン


のほほん「わー!やぐるーがフッ飛んだー!!」

鈴「そッ!想ーッ!!」

セシリア「お兄様ぁーッ!!」

ビューン…


~暫くして~

山田「本っ当にごめんなさい矢車くん!!私ったら何て事を…」

矢車「笑え…笑えよ……」ボロボロ

セシリア「お兄様…おいたわしや…」ウルウル

千冬(授業が全く進まない…)

千冬「もういい…矢車は大事を取って保健室で暫く休んでろ…」

矢車「保健室、か…今の俺には眩し過ぎる…」

箒「大丈夫だそうです」

千冬「そ、そうか…。それなら良いのだが…」

千冬(はぁー…胃が痛い…)


~それからセシリアと鈴が山田先生に模擬戦で負けたりと色々あって昼休み~


キーンコーン カーンコーン

カップ麺『兄貴塩』

矢車「………」ズルズルズル

カップ麺『妹醤油』

鈴「………」ズルズルズル

セシリア「………」ズルズルズル

箒「…お前達、昼食くらいもっとちゃんとしたものを食べたらどうだ?
  カップ麺なんて質素で味気ないだろう…」

セシリア「はぁー…故郷のマズメシに比べれば全然マシですわ…」ズルズルズル

鈴(意外とイケるわねコレ)ズルズルズル

シャル「えっと…ホントに僕が同席して良かったのかな?」

シャル(って言うか凄く居づらいんだけど…)

矢車「あぁ…構わない」ズルズルズル


つまり「姉妹豚骨醤油」になるな

今更だが箒ちゃんの「大丈夫だそうです」がツボすぎるwww


セシリア「お兄様、ちょっとお耳を…」チョイチョイ

矢車「何だ…?」

セシリア「……お兄様、一体どういうつもりですの?
     シャルルさんと…あんな日向の世界で輝いているような人間と行動を共にするだなんて!」ボソボソ

セシリア「地獄兄妹の長男であるお兄様のやる事とは、到底思えませんわ…」ボソボソ

矢車「……お前は感じないのかセシリア?あいつの心の奥底に潜む、底れぬ闇を…」

セシリア「何ですって!?彼もまた心に闇を!?」チラッ

シャル「……?」

セシリア「……とてもその様な風には見えませんが…」

矢車「確かに見たままのアイツは、お前の言う通り日向の世界で輝いているような眩しい人間だ…。
   だが俺は、奴の心の奥底に秘められている闇の波動を確かに感じた」

矢車「同じ心に闇を抱える者として、アイツの心の内にある闇の正体が一体何なのか、俺は知りたくなった。
   そして今俺は、アイツの…シャルルの心の奥底に秘められている闇の正体を知る為に、色々と探りを入れているところだ…」

セシリア「…彼の心の闇の正体を知り、あわよくば地獄兄妹の仲間に入れようと、そういうことですの?」ボソボソ

矢車「…いや、そこまでは考えていない」

セシリア「そ、そうですか…。しかし彼の心にそんな闇があったなんて…」チラッ

シャル「……ん?」

セシリア「………」ジィー

矢車「………」ジィー

シャル「あの~、僕の顔に何か付いてる?」

矢車「いや……」ズルズルズル

セシリア(やっぱり、わたくしには分かりませんわ…)ズルズルズル


箒「兎に角!こんな粗末な食事を取っていては、いざという時に力が入らん!」

箒「そ、そこでだな…」パカッ

矢車「これは…」

鈴「わーお」

セシリア「……これはまた、随分と豪華なお弁当ですわね」

箒「想にはクラス代表として十分に力を発揮してもらう為にも、精の付く食べ物を食してもらう必要があるからな」

矢車「成る程な…」

鈴「えーと、実は私も…」パカッ

矢車「酢豚…」

鈴「流石にカップ麺だけじゃお腹膨れないでしょ?
  結構多めに作っておいたから、遠慮せずに食べて」

矢車「………」

セシリア「全くあなた方は!お兄様がそんな豪勢なモノ召し上がる訳ないじゃありませんか!」

矢車(確かに、どちらの料理も今の俺には眩し過ぎる…)

箒「……そういうセシリアの手元にあるバスケットは一体何だ?」

セシリア「えっ!?あっ、これは…その…」ガサゴソ

鈴「アンタ、地獄兄妹がどうとか偉そうに語ってた癖に…」

鈴(こいつも想に自分の手料理食べてもらいたいんじゃない)

セシリア「こ、これはッ!闇世界の住人のみが作ることを許される“地獄料理”ですわ!!」

セシリア「この料理なら、闇の世界の住人であるお兄様のお口にもきっと合う筈!!」

箒「地獄料理って……」

鈴「何それ…もうちょっとマシな言い訳考えなさいよ」

矢車「地獄料理か…面白い」スッ

箒「…って、想!」

鈴「アンタねぇ…」

セシリア「お兄様!ささ、お召し上がりになって!」ズイッ

矢車「サンドイッチか…」パクッ

矢車「………」

セシリア「ど…どうですか?お味の程は?」

矢車「……セシリア、やっぱりお前は最高だ…」

セシリア「お…お兄様~!」デレデレ

矢車「全く期待を裏切らない……ゴフッ!!」

箒&鈴&セシ&シャル『なッ!!?』

矢車「いいぜ……地獄が見えるぜ、セシリガハァッ!!」バタンッ

セシリア「お、お兄様ァーッ!!」

鈴「セシリアッ!あんた何てモン食べさせてんのよッ!?」

箒「この馬鹿者がッ!地獄料理だか何だか知らんが、料理に毒を盛るだなんて一体どういうつもりだ!?」

セシリア「わ、わたくし毒なんて盛ってませんわよ!!」

シャル「想ッ!大丈夫!?しっかりして!!」ユサユサ

矢車(影山…もうすぐ俺も、お前のいる所へ…)ガクッ

シャル「想ーッ!」

~矢車さんの部屋~


箒「お前との相部屋生活も、今日で最後だな」

矢車「あぁ、そうだな…」

シャル「これからは僕と一緒の部屋だね。よろしく、想!」

矢車「……あぁ」

箒「シャルル、コイツが何か仕出かしたら遠慮なく私に相談してくれ。
  想の元ルームメイトとして何かしらのアドバイスは出来るだろうし、
  もしもの事があったら…その時はこのバカをひっ叩きに行くから」

シャル「あはは…ありがとう」

矢車「………」

───


矢車「ほら、茶だ」スッ

シャル「あっ、ありがとう…」

矢車「………」ズズッ…

シャル「………」ズズッ…

矢車「………」ジィー

シャル(まただ…想、また僕のことじっと見てる…)

シャル(やっぱり、僕が女だって事がバレたのかな…?)

シャル(もし、気付いているけどあえて気付いていないフリをしているのだとしたら…)

千冬『見た通りこいつはどうしようもない変人でな。
   こうして度々、訳の分からん奇行に走る事があるのだ』

箒『シャルル、コイツが何か仕出かしたら遠慮なく私に相談してくれ』

シャル(……寝込みを襲われたりなんて事も…)

シャル(いやッ!ちょっと変わったところはあるけど、想はそんな事する人じゃないよ!……多分)チラッ

矢車「………」ジィー


シャル(……それでも、ハッキリさせておく必要はあるよね…。いざという時の為に…)

シャル「あのさ、想…。一つ聞いていい?」

矢車「……何だ?」

シャル「その…何でそんなに僕のことジロジロ見るの?今朝からずっとだよね?」

シャル(もしも想が僕の正体に気付いていたら…その時は…)


矢車「……単刀直入に言おう。
   シャルル、俺は始めてお前と出会った時…」

シャル「………」ドキドキ

矢車「お前の心に闇を感じた」

シャル「……えっ、闇?」

矢車「あぁ…闇だ。お前のその明るく眩しい見た目とは対照的な、真っ黒に染まった心の闇…
   俺はそれを確かに感じ取った」

シャル「な、何だ…そんな事か…僕はてっきり…」

矢車「……てっきり、何だ?」

シャル「あッ!ううん!何でもないよ!!」

矢車「………」

矢車(この独特の仕草と雰囲気、そして更衣室で見せた異常なまでの拒否反応…。
   確信はないが…恐らくコイツの正体は女だ)

矢車(しかしどうする?確かめる方法はいくらでもあるが、下手に手を出せば担任と箒に殺されかねん…。
   無闇やたらと手出しは出来ないな…)

シャル「でも、僕の心に闇があるだなんて…。正直、思い当たる節なんてないよ」

矢車「嘘を言うな。俺には分かる…
   お前のその目は地獄を味わった者の目だ…!」

シャル「ほ、本当だよ!僕の過去なんて…そんな対したことないし…」

矢車「………」ジィー

シャル(駄目だ…“そんなこと信じられるか”って感じの顔してる…。
    でも、僕の素性について想に知られる訳にはいかないし…。適当に言い逃れしないと…)


シャル「でも、強いて言うならアレの事かな?」

矢車「……アレ?」

シャル「僕の父さん、デュノア社っていうIS関連の企業の社長なんだけど、最近会社の業績が悪いみたいで…
    それで僕も、先行きの事とか、父さんの事とか…色々と不安があって」

矢車「…それがお前の心の闇と関係していると?」

シャル「うん、多分…」

シャル(嘘は付いてないよ…)

矢車(……コイツの心に闇が生まれた原因がそれだと?
   いや、多分違うな…。先行きの不安だとか、身内の不幸だとか、そんな不明瞭で間接的な出来事がコイツの心に闇が生まれた原因であるとは、どうしても思えない…
   それ程までにコイツの抱えている闇は根深いものであった…
   コイツに闇が生まれた理由はもっと別にある筈…
   そう、コイツの…シャルル自身の身に降りかかった、何かしらの不幸…
   恐らくそれこそが、コイツの心に闇が生まれた真の原因だ)

矢車(それと…コイツの正体が女だということを前提にした話になるが、
   わざわざ男だと偽ってこの学園に入学して来た事とその原因は、何か関係があるのかもしれん…)

矢車(やはりコイツの正体については、もっと探りを入れる必要があるな…
   しかし、担任と箒が睨みを効かせてる以上、下手に手を出す事は出来ないが…)

矢車(まぁいい…共同生活はまだまだ続く…。こちらが焦って行動せずとも、いずれは向こうの方からボロを出す時が必ず来る…
   その時が来るまで、様子見として暫くコイツを泳がせておくのも悪くはない…)


シャル「あの…僕の話はもうこのくらいでいいかな?」

矢車「………」

シャル(腑に落ちないって感じの顔してる…。
    でも、これ以上僕の過去について詮索されるのは色々とマズいし…
    僕に関しての話題はこの辺で切り上げておかないと…)

シャル「そうだ!僕、昔の想についての話とか聞いてみたいな」

矢車「……昔の俺の話だと?」

シャル「うん」

矢車「俺の過去、か…。聞いてどうするつもりだ?」

シャル「ど、どうって…別に深い意味はないよ。
    ただ友達として、もっと想の事を知っておきたいなーって思って…」

矢車「フッ……。俺の身の上話なんか聞いたって、面白くも何ともないぞ?」

シャル「僕の話だって対して面白い話じゃなかったでしょ?」

矢車「………」

矢車(まぁ、コイツになら打ち明けても良いか…
   セシリアや鈴以上の暗闇を心に宿す、コイツになら…)

矢車「いいだろう、教えてやる…
   幾重もの地獄を味わい闇の住人として生まれ変わった、この俺の半生を…」スッ…

ガサゴソ

矢車「栄光からの転落、挫折、そして後悔…。俺の過去は、そんなどうしようもない出来事の連続だった…」ガチャガチャ

シャル(……アタッシュケース?)

矢車「そしてこれが、俺の人生最大の後悔の…その証だ」カパッ


シャル「えッ!!それって想がいつも身に付けてる
    専用機を起動させる為のベルト!?」

矢車「あぁ、それと同型のベルトだ…」

シャル(それって、つまり…)

シャル「2本目のベルト…?」

矢車「そうだ…このベルトは、俺がかつて“相棒”と呼んでいた男が使っていた物だ…」

シャル「相棒…?」

矢車「真っ暗闇の無限地獄を共に生き抜いた、俺の弟分だ。
   こんなろくでなしを慕ってくれた、俺にとって掛け替えのない…」


『俺は…兄貴も知らない暗闇を知ってしまった…』

『連れて行って欲しかったけどさ…。俺はもう、一生この暗闇から出れないよ……』

『サヨナラだ…兄貴』


矢車「そう、掛け替えのない存在だった」


シャル(想のこんな悲しそうな顔、初めて見た…)

シャル(もしかしたら僕、聞いたらいけない事を…)

シャル「あ…あのさ、想。どうしても話したくない事なら、無理に話さなくてもいいんだよ?」

矢車「………」

シャル「あの…想?」

矢車「……もう、こんな時間か。話に夢中になって気が付かなかったな」

シャル「えっ?」

矢車「昔話はここまでだ。俺は先に寝るぞ、シャルル」ガサゴソ

シャル「あっ、うん…。おやすみ」

矢車「………」

矢車(影山、俺は…)

~翌日~

山田「ええっと…今日も皆さんに嬉しいお知らせがあります」

山田「また一人、クラスに新しいお友達が増える事になりました!」

ラウラ「………」

ガヤガヤ…

生徒「えっ?また?」
生徒「2日連続で転校生だなんて…」
生徒「美白ね…。でも、私の方がおっぱいおっきいわ…」

山田「み、皆さんお静かに!」

ガヤガヤ…


千冬「ラウラ、自己紹介しろ」

ラウラ「はい、教官」

矢車(……教官だと?)

ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

山田「……えーっと、以上ですか?」

ラウラ「………」ツカツカ

矢車「……?」

ラウラ「……貴様が矢車想か」

矢車「あっ?」

ブンッ

矢車「………」パシッ!

ラウラ「ほう、私の平手打ちを初見で防いでみせるとは……ますます気に食わん」

矢車「……何の真似だ?」

ラウラ「別に深い意味はない。ただ教室内の目障りなゴミ虫を叩き潰そうとしたまでの事だ」

矢車「貴様…」ギリギリギリ…

ラウラ「……おい、いい加減その手を離…」

グイッ!

ラウラ「なッ!?」

グワシッ!


ピタッ

矢車「………」ジィー

ラウラ「こッ!こいつ!離せッ!!」

山田「や…矢車くーん…」アワアワ

千冬「はぁー……放っておけ、山田君」

山田「し、しかし…」

千冬「今回は先に手を出したラウラの方にも非がある」

千冬(それにもう…いちいち突っ込みを入れるのにも疲れたしな…)


矢車「………」ジィー

ラウラ「このッ!やめろ!!離せッ!!」ジタバタ

矢車「動くな」顔面ガシッ!

ラウラ「ムグゥッ!?」

矢車「じっとしてろ…」ジィー

ラウラ「ンー!ンー!」ジタバタ

矢車(闇だ…。こいつの瞳の奥から、底知れぬ闇を感じる……)

矢車「そうか、お前も俺達と同じ……ん?」

ラウラ「ムグゥッ!?」

矢車(……何だ?この妙な違和感は…?)

矢車(コイツの心から感じ取れる…。闇とは違う、もっと別の感覚…)

矢車(これは……光…?)

ラウラ「ングゥーッ!!」ジタバタ

バッ!

ラウラ「ハァーッ!ハァーッ!貴様ァーッ!!」ブンッ

ボコォッ!

矢車「うグッ!」ドサッ

山田「やッ!矢車くん!?」

セシリア「お兄様ァーッ!」ガターン!

ラウラ「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」プルプル…

ラウラ「私はッ!絶対にッ!お前を認めんッ!!」

矢車「………」

矢車(はぁー……シャルルに続きまた一人、か…)


~放課後 アリーナにて~

箒「珍しいな。お前が私達の訓練に付き合うだなんて」

矢車「セシリアに“どうしても”と頼み込まれてな…」

セシリア「お兄様…やはりご迷惑でしたか?闇の住人であるあなたにこの様な事を……」

矢車「……いや、かわいい妹の頼みだ…断る道理がない」

セシリア「かッ!かかかわいいだなんてッ!!そんな…」カァー

箒「……多分、お前の思っている様な意図で言った訳ではないと思うぞ」

矢車「それに…」チラッ

シャル「……?」

矢車(コイツらの訓練に付き合えば…シャルルの闇の正体について、何か手掛かりが掴めるかもしれないしな……)

鈴「それで、何すんの?」

セシリア「フフッ……今日の特訓メニューはわたくしが考えておきましたわ!題して!」バッ

セシリア「セシリア・オルコット監修!専用機持ち限定“地獄の大特訓”ですわッ!!」バーン!

箒(……ナチュラルに省かれたな、私)

セシリア「これがそのスケジュール表ですわ!」バサッ

箒「なになに…“ガケの上から落ちてくる岩石を、パンチとキックのみで次々と破壊する訓練”?」

鈴「“モトクロスコースを用いたISの走行訓練”?」

シャル「“七人の先輩達からの集団リンチに耐える訓練”?」

セシリア「パワー、スピード、耐久力を同時に鍛え上げられる完璧なメニューですわよ!!」

一同『…………』

セシリア「フフッ……あまりにも素晴らしいメニュー内容に、皆さん声も上げられませんか…!」

鈴「いや…色々とツッコミ所が多すぎて……」

シャル「ISでやる意味ないよね?」

箒「セシリア…お前頭がおかしくなったんじゃないのか?想の奴に感化されたばっかりに…」

セシリア「なッ!?」

鈴「確かに、最近のセシリアってばかなり暴走気味よね」

セシリア「なッ!何をおっしゃいますの!?こんなに素晴らしい特訓メニューなのに!?」

矢車「セシリア…」

セシリア「お、お兄様!お兄様は分かって下さいますよね!?」

矢車「……却下だ」

セシリア「えっ!?…でもッ!」

矢車「却下だ」

セシリア「……はい」


箒「セシリアの案はボツにするとして…。他に何か良い案はないか?」

鈴「う~ん……想は何かやりたい訓練とかない?」

矢車「やりたい訓練、か……それなら」チラッ

シャル「んっ?」

矢車「シャルル、お前と手合わせ願いたい…」

シャル「えっ?」

セシリア「なッ!?」

矢車「どうした?嫌なのか…?」

シャル「あっ、いや…そう言う訳じゃないけど……」チラッ

セシリア(……わたくしを差し置いて…お兄様と……)ジェラシットォー…

矢車「……構うな。そうと決まれば、早速初めるぞ」パカッ

ピョーン ピョーン ピョーン

パシッ

矢車「変身…」カシャ

──HENSHIN──

キュイキュイキュイーン

──CHANGE! KICK HOPPER!──

シャル「あっ、うん」キュイーン

矢車「………」

矢車(これがシャルルの専用ISか…)

セシリア「お兄様!シャルルさんとの特訓が終わったら、次の相手は是非わたくしとッ!!」ズイッ!

矢車「はぁー……分かったから、そこ退いてろ」グイッ

セシリア「グムッ!」

シャル「え~と…そろそろ初めてもいいかな?」

矢車「あぁ…いつでも来い、シャルル……」

シャル「じゃあ、行くよ!想ッ!」ドッ



シャル「先手は取らせてもらうよ!」ズダダダダッ!

矢車「フッ……」スッ タンッ タンッ

ドガガガガンッ!

シャル(速い…!)


箒「あれ程の弾幕を掻い潜ってみせるとは…」

鈴「相変わらず凄い避け方するわね…想」

セシリア「だぁーかぁーらぁーッ!!おッ!にッ!いッ!さッ!まッ!お兄様とお呼びなさいってッ!!
     全くあなたという人は!!何べん言わせれば分かるのですかッ!!?」

鈴「あ゛ぁーッもうウッサいわねーッ!!
  アンタ!想に相手してもらえないからってふて腐れてんじゃないわよ!!」

セシリア「何ですってェーッ!」ムッキー!

箒「………」


シャル(噂には聞いてたけど、凄い回避能力…)ズダダダダッ!

シャル(なら、一気に接近して至近距離からのショットガンで!)グワッ

矢車(来たか…)スタッ

シャル(今だ!)

シャル「たぁッ!」ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

矢車(散弾をバラ撒いて退路を断つつもりか…。だが、甘い……)

矢車「ライダーキック…!」カシャカシャ

──RIDER KICK!──

矢車「ハァッ!」バシィッ!

バチバチバチ!

シャル(えッ!?弾丸を蹴り返して来た!?)

ビュンビュンビュンビュン

シャル「わぁッ!」バリバリバリィ!!

矢車(只の弾丸ではない……タキオン粒子を纏わせ威力を底上げさせた弾丸だ…)

シャル「うッ!」ドサッ

矢車「どうしたシャルル?その程度で限界か…?」

シャル「……いや、まだまだこれからだよ!想!」

矢車「ならば…来い、シャルル…」

矢車(そしてさらけ出せ…お前の心の内の全てを…!)


~訓練終了~

矢車「今日のところはこれくらいにしておくか…」

シャル「そうだね…。相手してくれてありがとう、想!」

矢車「……あぁ」

セシリア「流石でしたわお兄様!相手の放った弾丸を軽快に回避する身のこなし!そして適切なタイミングで間合いを詰める判断力ッ!
     どれを取っても素晴らしいの一言ッ!やっぱり、お兄様は最高ですわッ!!」

矢車「最高、か…はぁー……」

シャル「そういえば…」

矢車「あっ?」

シャル「前々から疑問に思ってたんだけど…想って銃とかの射撃武器の類いは、キックホッパーに装備しないの?」

矢車「……何故そんな事を聞く?」

シャル「えっ!?何故って…。
    近接戦闘型のキックホッパーに牽制用の射撃武器すら装備されていないのは何でだろうって、ちょっと疑問に思って…」

矢車「………」

鈴「確かに…近接戦闘型って言ってもどうせキックホッパーは蹴り技がメインで手の方は空いてるんだから、
  銃器の一つや二つ持っといても特に問題はない筈よね?」

セシリア「何を言っているのですかあなた達!?キックホッパーにとって武器など邪道ッ!無粋の極みですわ!!」

箒「……射撃特化型のISを扱うお前がソレを言うか…」


矢車「射撃武器、か…今の俺には必要ない……
   過度な武装はかえって邪魔になるだけだ…」

シャル「でも僕個人の意見としては、多少邪魔に感じても射撃武器は持っておいた方がいいと思うな。
    こんな事を言うのは余計なお世話かもしれないけど…今の想の戦い方じゃあ、いつまでも上手く行くとは限らないし」

矢車「………」

シャル「何なら、僕がキックホッパーと相性のいい射撃武器を探…」

矢車「必要ない」

シャル「えっ?」

矢車「射撃武器……地獄の住人である俺にとっては、あまりにも眩し過ぎる……」

シャル「は…はぁ?」

箒「気にするなシャルル…。いつもの狂言癖だ」

矢車「……それに、いざとなったらキックホッパーの“クロックアップ”を使えばいいだけの話だ…」

鈴「クロックアップ…?何それ?」

シャル「それってもしかして…キックホッパーのワンオフ・アビリティーの事?」

矢車「……違う。全てのマスクドライダーシステムに、標準的に装備されている機能だ…」

鈴「マスクドライダーシステム??」

箒「相変わらずお前の言ってる事はよく分からん…」


シャル「それで、そのクロックアップって一体どういう能力なの?」

矢車(……いちいち説明するのが面倒だな…)


生徒「ねぇ!あれ見て!」

矢車「あっ?」チラッ


ラウラ(IS展開中)「………」


生徒「あれって…ドイツが開発中の第三世代機じゃない!?」

生徒「まだ本国でもトライアル段階だって聞いてたけど…」

矢車「……ラウラ…」

鈴「ラウラって…今朝想の事をグーパンで殴ったっていう転校生!?」

セシリア「よくも……よくもお兄様を………」ワナワナ…


ラウラ「……矢車想、それが貴様の専用機か?」

矢車「あっ?」

ラウラ「そのIS、まるでバッタか何かだな…
    貴様のようなゴミ虫にはこれ以上ない程相応しいIS、という訳か」

鈴「ちょっとアンタッ!喧嘩売ってんの!?」

ラウラ「ゴミ虫の腰巾着が…貴様に話をしているのではない」

鈴「コイツッ!!」ズイッ

ガシッ

矢車「………」

鈴「想…」

矢車「何の用だ?ラウラ…」

ラウラ「その腰巾着の言う通り、お前に喧嘩を売りに来た。矢車想、私と戦え」

矢車「……成る程な」

セシリア「あなたッ!黙っていればいけしゃあしゃあと調子に乗って!!」

セシリア「お兄様!わざわざお兄様のお手を煩わせる事は御座いません!!
     ここは地獄兄妹長女であるこのわたくしがッ!!」

矢車「いや、その必要はない…」スタスタ

セシリア「お兄様…?」

矢車「丁度いい…これで説明する手間が省ける」

シャル「想、まさかラウラ相手にクロックアップを…?」

矢車「……よく見ておけシャルル。全ては、一瞬で終わる…」


矢車「ラウラ…。喧嘩を買うのは構わないが、その前に一つ条件がある」

ラウラ「……最初に言っておくが、ハンデは受け付けないぞ」

矢車「安心しろ。そんな野暮ったらしい頼みじゃない」

ラウラ「なら早く言え。私は気が短い」

矢車「……交換条件だ、ラウラ…
   もしお前が勝って、俺が負けたら……俺はお前の言うことを何でも一つ聞いてやる」

ラウラ「ほう……」

矢車「その代わり俺が勝ったら……ラウラ、お前の過去に何があったのか…その全てを、俺に洗いざらい話してもらう…」

ラウラ「……私の過去、だと?貴様、一体何を企んで…」

矢車「ラウラ…俺はお前に始めて出会ったあの時、
   お前の瞳の奥底から、ドス黒い闇を感じた…」

ラウラ「……何だと?」

矢車「怨み…辛み…そして絶望……
   俺がお前の瞳から感じ取ったのは、そんな禍々しい“負の感情”だった…」

ラウラ「………」ピクッ

矢車「お前はかつて、自らの心が苛まれる程の深い絶望を味わった…
   そして…その時に生まれた心の歪みは、ドス黒い心の闇として、今でもお前の中に存在し続けている……違うか?」

ラウラ「─ッ!!貴様ッ!知ったような口を叩くな!!」

矢車「どうやら図星のようだな…」

ラウラ「黙れッ!!」ガシャ


箒「なッ!想ッ!危ない!!」

ズドンッ!

矢車「セヤッ!」ブンッ

バシィ! 

ドゴォーンッ!

ラウラ(馬鹿なッ!レールカノンを蹴りで捌いただと!?)

矢車「……俺は、お前の抱える闇の正体について興味がある…
   どれ程の地獄を見てきたのか……どれ程の絶望を味わってきたのか……
   それを知るには、お前の過去に何があったのか…それを知る必要がある」

ラウラ「……その為の交換条件、という訳か…」

矢車「………」

ラウラ「しかし…それはあくまでも、貴様が私に勝つ事を前提とした仮定の話だ…
    矢車想…貴様、本気で私の駆るこの《シュヴァルツェア・レーゲン》に勝てるとでも?」

矢車「…あぁ……」

ラウラ「フン…大した自信だな…」スッ…

ラウラ「……いや、思い上がりかッ!」ガチャ

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

矢車「………」スッ タンッ ピョーン

ドゴォ! ドゴォ! ドゴォ!

ラウラ「チッ!猪口才な!」

スタッ

矢車(“条件は呑んだ”と受け取らせてもらうぞ…ラウラ)スッ…

矢車「クロックアッ…」




教員「お前達!そこで一体何をしている!?」

矢車「………」


ガヤガヤガヤ…

ラウラ「……チッ、邪魔が入ったか…
    まぁいい…今日のところは、大人しく引き下がってやる」キュイーン

(ラウラ、IS解除)

矢車「………続きは又の機会、か…」カシャ

(矢車、変身解除)

ラウラ「……そう言えば、私が勝ったら何でも言うことを一つ聞く、という約束だったな…」

矢車「…あぁ……」

ラウラ「決めたぞ…。矢車想、お前が負けて、私が勝ったら…
    お前には、この学園から速やかに出て行ってもらう」

箒「何ッ!?」

鈴「はぁッ!?」

シャル「えッ!?」

セシリア「なッ!何ですってぇーッ!?」

ラウラ「今さら条件をふいにするのは無しだぞ。
    私に負けたら、二度とこの学園の土を踏まないと誓え」

矢車「……分かった」

セシリア「ちょッ!お兄様!?」

ラウラ「フン…せいぜい首を洗って待っているのだな」スタスタ

鈴「どういうつもりよ想!?あんな条件飲むなんて!」

シャル「いくら想が強いって言っても、もしも負けるような事があったら…」

矢車「………」

鈴「想!聞いてんの!?」

矢車「………お前達は先に帰ってろ。野暮用が出来た…」スタスタ

鈴「ちょっと!想ッ!」

セシリア「あれ!?お兄様ッ!私との特訓は!?」

矢車「…………」スタスタ

セシリア「お兄様ッ!?お兄様ぁーッ!」

箒(哀れな…)


~アリーナ外 校庭~

矢車「………」チラッ

ラウラ「何故です教官!?何故あなたはこんな所でッ!?」

千冬「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ…」

ラウラ「こんな極東の地で何の役目があると言うのですか!?
    お願いです教官!我がドイツで再びご指導を!!」

矢車(やはり…あの担任とラウラの間には、只ならぬ因縁があるようだな…)

千冬「………」

ラウラ「大体ッ!この学園の生徒など、教官が教えるに足る人間ではありません!!
    危機感に疎く…ISをファッションか何かと勘違いしている!
    その様な者達に教官が時間を割かれるなどッ!!」

ラウラ「特に…あの矢車想と言う男はッ!」ギリッ

矢車「………」ジィー

千冬「……矢車?アイツがどうかしたのか?」

ラウラ「……奴に関する情報は、私も以前から常々伺っておりました…
    全人類の男の中で唯一ISを動かせ、尚且つ正体不明のIS“キックホッパー”を所有する、謎多き人物だと…」

ラウラ「そして…そんな奴の人物像は、とんでもない“変人”であるとッ!」

矢車「………」

千冬(……否定しようのない事実だな)


ラウラ「奇抜な服装を身に纏い、意味不明な言動を繰り返す……
    奴の起こす行動は奇行に満ち溢れており、周囲への悪影響が懸念されている、と……」

ラウラ「それだけなら…それだけならまだいいッ!!
    奴が奇行に走ろうが何をしようが、私の知ったことではないッ!
    しかし!奴はよりにもよって織斑教官の受け持つクラスの生徒となってしまったッ!!
    その結果…教官は奴の犯す意味不明な奇行に幾度となく振り回され、苦悶に満ちた日々を送っているッ!!
    その事実を聞かされた時の私の怒りたるや……!!同時に沸き上がったのは、奴に対する激しい憎悪の感情でしたッ!!」

ラウラ「あんなふざけた奴の為に、織斑教官の身に只ならぬ心労が掛かっている……
    そう考えるだけで!私はッ!!」ギリリッ

千冬「……同情として受け取っておこう」

矢車(成る程…ラウラが俺に異常なまでの嫌悪感を抱き、目の敵にするのはその為か……)



ラウラ「何故です教官ッ!?何故あなたはそうまでしてこの学園に拘るのです!?」

千冬「はぁー……何処から得た情報かは知らんが、全くいい加減な話だ…
   ラウラ、お前は一つ大きな勘違いをしている」

ラウラ「えッ!?」

千冬「“苦悶に満ちた日々を送っている”だと?
   私は別に、今の環境に不満など感じてはいない」

ラウラ「し、しかし!矢車の奴があなたを苦しめているのは事実…」

千冬「教師という職に就いている以上、問題児の相手をするのは覚悟の内だ。
   矢車を生徒として受け持った事も、今更後悔などしていない」


矢車「………」


千冬「……まぁ確かに、私が矢車の行う奇行に日々頭を悩ませているのは事実だがな」

ラウラ「それならば何故ッ!?」

千冬「だがな。問題児であろうが何であろうが、今のアイツは私の受け持つクラスの生徒だ。
   アイツが私の生徒である以上、私は指導者として最後まで責任を持って面倒を見る。
   それが、人を教える立場にある“教師”という人間の成すべき義務、と言うものだ。
   故に、矢車の件を今更どうのこうの言うつもりはない」

千冬「それに…問題児の面倒を見るというのも、存外悪いものではない」

ラウラ「なッ!何をッ!?」

千冬「手に余るバカであればある程、それだけ叩き概がある…と言う事だ」

ラウラ「わ…私は……納得出来ませんッ!!」

千冬「まぁ…教えられる立場の人間であるお前にとって、
   教える側の人間の考えなど、到底理解出来る話ではあるまい」

千冬「話は以上だ。お前も早く寮に戻れ。私も忙しい」

ラウラ「─ッ!!……くッ!!」ダッ

───

千冬「そこの男子生徒」

矢車「………」ヌッ

千冬「盗み聞きか?異常性癖とは……いや、お前ならやりかねんか…」

矢車「………」

千冬「用がないのならとっとと寮に帰れ。私も暇では…」

矢車「担任、アンタにはどうしても聞きたい事がある」

千冬「……さっきの話の続きか?生憎だがアレはお前を誉めた訳では…」

矢車「違う…。アンタが俺の事をどう思っているかなんて、興味ない…」

千冬「……矢車、全くお前と言う奴は…
   目上の者に対する言葉使いをだな…」

矢車「俺が興味あるのは、アイツの…ラウラの過去についての話だ」

千冬「………」ピクッ

矢車「アンタはラウラと長い付き合いらしいからな…。担任、アンタなら知っている筈だ。
   アイツの過去に一体何があったのか…。何故アイツは、心の内に深い闇を抱えているのか…」

千冬「……闇、だと?」

矢車「あぁ……俺は今朝、ラウラの瞳を覗いたあの時…
   アイツの心の奥底に宿る、底知れぬ闇を見た…」

千冬(……あの奇行にそんな意味があったとは…)

矢車「その闇の正体を知る為にも、俺はアンタに聞かなければならない。ラウラの過去に何があったのか……
   そう…アイツの心の闇にまつわる、その全てを…」

千冬「……質問を質問で返すようで悪いが…
   何故お前はそうまでして、ラウラの心の闇とやらについて知りたがるのだ?」

矢車「………」

千冬「アイツの弱みを握ろうなどと考えているのなら止めておけ。
   アイツはその程度の事で、どうにかなるタマではない」

矢車「弱みを握る、か……。そんな下らない事に興味はない」

矢車「俺はただ知りたいだけだ…。ラウラの抱える闇がどれ程のものなのか……
   一体奴が、どの様な地獄を味わってきたのかを……」

千冬「……本当にそれだけか?」

矢車「あぁ、他意はない。
   ただ知りたい。それだけだ…」

千冬「……意外だな。お前がそこまで他人に関心を持つだなんて…」

矢車「………」

千冬「……確かにお前の言う通りだ。
   私は…お前の知らないラウラの過去を知っている。
   お前の言う“ラウラの味わった地獄”とやらにも、心当たりがある」

矢車「ならば……」

千冬「しかしだ。本人の了承もなく、他人の身の上話を勝手にべらべら喋る様な趣味など、私にはない」

矢車「………」

千冬「ラウラの件に関しても同じだ。本人が良しと言わない限り…私の口から言う事は、何もない」

矢車「……そうか…」


千冬「話は終わりか?なら今度こそ寮に…」

矢車「いや、もう1つ」

千冬「……手短に頼むぞ。
   私も多忙の身だ。いつまでもお前の与太話に付き合ってはいられん」

矢車「安心しろ…。今度もラウラに関係する話だが、大方の見当は付いている事だ。軽い確認程度で済む」

千冬「………」

矢車「俺は、ラウラの心の中を覗いたあの時…
   アイツの心に、闇以外のある存在を垣間見た」

矢車「それは“光”だ……」

矢車「アイツの心を支配している闇に比べれば微かなものだが…
   それでもハッキリと感じ取る事の出来た、心の内を照らす光…」

矢車「その光の正体は恐らく……担任、アンタだ」

千冬「……何?」

千冬(私が…ラウラの光?)

矢車「あぁ…さっきの二人の会話を聴いて、ある程度の察しは付いた。
   随分とアンタにご執心の様だったからな、アイツ…」

千冬「………」

矢車「アンタとラウラの関係だが…ラウラがアンタの事を“教官”と呼んでいた事から察するに、
   アンタとラウラはかつて、指導者と教え子の…言うなれば師弟関係にあった…」

矢車「アンタとラウラとの間に何があったのかは知らんが…
   今のラウラにとってアンタは憧れ…いや、それ以上の特別な存在である事は確かだ…
   実際、今のラウラはそんなアンタの影を追っている節がある」

千冬「……矢車、お前…」

千冬(思春期特有の痛い思考を持ったバカ者の、只の妄言かと思って聞いていたが…考えを改めなければならないな……
   コイツの洞察力は…本物だ)

千冬(コイツの言う…ラウラの心の内に潜む光と闇の存在とやらも、矢車の出鱈目な妄言という訳ではないのかもしれん…)


矢車「だが…奴がどれ程アンタの事を追い求めようとも、所詮は届かぬ光……
   ラウラは…アンタの様には絶対になれない」

矢車「それでもラウラは、アンタという光を追い求め続けるだろう。
   自らの心に存在する闇を、払拭する為に…」

千冬「………」

矢車「しかし、そういった生き方はかえって己自身を苦しめるだけだ…」

千冬「……どういう意味だ?」

矢車「……闇を受け入れる事で救われる魂もある、という事だ…
   光も届かぬ暗闇に居れば、光に対して過度な期待をする事もなくて済む。
   苦しみに満ちた暗闇も、一度受け入れてしまえば
   それはそれで…己の新たな居場所へと変わる…
   そう…地べたを這いつくばってこそ、見える光があるんだ……」

千冬(……ネガティブ思考もここまで行くと、ある意味ポジティブだな…)

矢車「しかし、ラウラの場合は違った…
   なまじ求める光が見えてしまったばかりに、アイツはそれに手を伸ばしてしまった…
   決して手の届かない、織斑千冬という名の光に……」

千冬「………」

矢車「そんなアイツの今の心境は、言うなれば…“生殺し”の状態だ。
   己の闇を払拭したいという思いと…光を掴み、救われたいという願い…
   幾ら光を求めても、それを手に入れる事が出来ないという歯痒さ…
   そういった終わりのないジレンマが、今も尚、ラウラの心を蝕んでいる…」

矢車「担任…アンタという存在は、ラウラを絶望の縁から救ったと同時に
   ラウラの心を縛り付ける存在として、ラウラの心の在り方までをも変えてしまったんだ…」


矢車「担任…アンタ自身は、ラウラの事をどう思っているんだ?」

千冬「……ラウラは私の大事な教え子だ。それ以上でもそれ以下でもない」

矢車「そうか…。なら、これ以上アイツに過度な期待は与えない事だ…」クルッ

千冬「………」

矢車「アイツは決して、光を掴む事など出来やしない…」スタスタ

千冬「……一つだげ忠告しておくぞ、矢車」

矢車「………」ピタッ

千冬「ラウラの過去に何があったのか興味を持つのは勝手だが…
   それをアイツ本人から直接聞き出そうなどとは思わない事だ」

矢車「何…?」

千冬「アイツは口の堅い奴だ。
   例え拷問をされようが、何をされようが…アイツが喋らないと決め込んでいる以上、
   アイツがお前に、己の過去について語る事はあり得ないだろう」

矢車「……そうか」

矢車(つまり…アリーナで交わした交換条件も、ふいにする可能性があると言う事か…)

矢車「はぁー……」

矢車(まぁいい…。それならそれで、他の方法を試すまでの事だ…)

スタスタスタ…


────

矢車(今日は色々と収穫があったな…
   ラウラの過去については聞けず仕舞いだったが…それでも進展はあった。
   後は…シャルルの闇の正体について、何か知る事が出来れば…)スタスタ


~矢車さんの部屋~

矢車「ただいま…」ガチャ

シャワー…

矢車(シャルルは風呂か…)

矢車「………」

矢車(問い詰めるなら今がその時、か…)


~暫くして~

ガチャ

シャル「ふぅ…」ホカホカ

矢車「……よう」

シャル「えッ!?あっ想ッ!も、もう帰ってたんだね!!」アタフタ

矢車「あぁ……」

シャル(びっ…ビックリしたぁ…
   さっきまで部屋に僕一人だけだったから、ちょっと油断してた…)

矢車「…シャルル」

シャル「なっ、何!?」

矢車「次、俺が入るぞ…風呂」

シャル「えっ?あっ、うん…」

矢車「………」ヌギヌギ

シャル「ちょッ!ちょっと!脱ぐなら脱衣場で脱いでよ!!」

矢車「……はぁー…面倒な…」スタスタ

シャル(し…心臓に悪いよぉ…)ドキドキ

───

シャワー…

シャル(はぁー……こんな調子で共同生活なんて…本当にやっていけるのかな…?僕…
   ちょっと自信無くしてきた…)

シャル(……あれ?このベッドの上に置いてあるのって)ヒョイ

シャル「……想の専用機を起動させる為のベルト…」

シャル(さっき服を脱いでた時に外して、ここに置いていったのかな?)

シャル「………」

シャル(……世界で唯一ISを扱える男性、矢車想と、謎のISキックホッパーのデータ収集…
    それこそが、僕がこの学園に転校して来た本当の目的……)

シャル(このベルトを本社に持ち帰れば…最上のデータが得られるのは確実…)

シャル「……って、何考えているんだろう…僕
    いくら何でも…そんな友達を裏切るような真似なんて出来る訳ないよ」

シャル(バカな考えなんか捨てて、ベルトを元の場所に戻して…)




バターンッ!!

シャル「えッ!?」ビクッ!!
矢車(???)「……そんなにそのベルトが気になるのか?シャルル…」

シャル「ご…ごめんね想!勝手に触ったりし…」クルッ


矢車想(キャスト・オフ)「………」


シャル「ひッ!!きゃああぁぁぁぁッ!!?」ビクゥッ!!

シャル(はだッ!ははは裸ぁッ!!?)

矢車「どうしたシャルル?“男同士”なら何ら問題はない筈だが…」スタスタスタ…

シャル「あッ!いやッ!ふッ!!そのッ!!」アタフタ

ガシィッ!!

シャル「ひッ!?」

矢車「シャルル…お前、女だな?」

シャル「えっ!…あっ…その……」

矢車「あっ?」ズイッ

シャルル「わかッ!分かった!!分かったから服着てよぉーッ!!」

矢車「………」


───

矢車想(プット・オン)「さて…大人しく話してもらうぞ、シャルル……」

シャル「………」

矢車「何故…女である筈のお前が、わざわざ自分の身を男だと偽りこの学園に転校して来たのか…」

矢車「そして何故…俺の身の上を嗅ぎ回り、キックホッパーに関する情報を収集しているのかを…」

シャル「……その事についても気づいてたの?」

矢車「あぁ…。お前の態度はあからさま過ぎるからな……
   キックホッパーに関する話への食らい付き様を見て、大方の察しは付いた…
   お前の正体が女である事も…前々から薄々感づいていた事だ」

シャル「……何だ。それならばそうと言ってくれればよかったのに…」

シャル(何も…裸になってまでカマをかけなくても…)

矢車「どうせ俺が問い詰めたところで、白を切り通すつもりだったんだろ?」

シャル「それは…その……」

矢車「……はぁー…。まぁ、今はそんな話どうでもいい…」

シャル「………」

矢車「もう隠し事は無しだぞ。シャルル、お前には全てを喋ってもらう…
   さっきの質問の答えも、お前の心の闇にまつわる過去についても、何もかもだ…」

シャル「……うん」



シャル「前に…想にも話した事があったよね?
    僕の父が、IS関連の会社の社長なんだって」

矢車「……あぁ…」

シャル「あの話自体は嘘じゃないんだ。
    ただ、その父親と僕との関係っていうのが、ちょっと複雑でね…」

矢車「………」

シャル「実は僕……父と、父の本当の奥さんとの間に産まれた子供じゃないんだ…」

矢車「何…?」

シャル「………」

矢車「……愛人、か?」

シャル「……うん…」

矢車「成る程…つまり、お前はその社長である親父が作った
   愛人との間に産まれた娘…という訳だな」

シャル「……うん。でも僕が物心付いた頃には、既に父とは疎遠になっていて…
    父に初めて会ったのも、つい最近の事なんだ」

シャル「……会ったって言っても、遠目から父の姿を見つけたって程度の事で…
    それも、数える程しかないんだけどね…」

矢車「……それで、その顔も知らない親父と今回の一件…一体何の関係がある?
   いくら実の父親とは言え、既に縁を切った相手だ…。もうお前の人生とは何の関係もない、赤の他人の筈…」

シャル「……そう、僕と父との関係は、もうとっくの昔に終わっていた筈なんだ。
    母さんが亡くなって…僕がその父親の下へと引き取られる事になった、あの時までは…」

矢車「………」

シャル「母さんを亡くして…他に身寄りのなかった僕を引き取ったのは、紛れもない実の父親だったんだ。
    でも…愛人との間に生まれた子供が、新しい家族として快く受け入れられる…なんて事はなかった……」

矢車「………」

シャル「僕のIS適性が高いって事が判明した後は、
    ISに関する基礎知識の叩き込みと、ISの操縦訓練をひたすらやらされる日々だったな…」

矢車「………」

矢車(成る程…その親父がシャルルの事を引き取ったのも
   最初から、シャルルを自分の手駒として利用する為だった…という訳か)


シャル「前に話した、父の会社の業績が悪いっていうのも本当の話でね…
    デュノア社は他社と比べて、第三世代機の開発に大きな遅れを取っているんだ。それで…」

矢車「男で唯一ISを動かせるという俺の情報と、俺のキックホッパーに関するデータを収集する為に…
   お前の親父はお前という…シャルル・デュノアという名のスパイをこの学園に送り込んだ…という訳か」

シャル「……そう。自分の身を男だって偽れば、想と、想の扱う専用機に接触する機会も増えるし
    同時に会社の広告塔としての役割も担えるからね」

矢車「……成る程、それこそが、お前がこの学園に来た真の理由…
   そして…お前の心に闇が生まれた、忌むべき真実、か…」

シャル「心の闇、ね…。そんな物が僕の心の中にあっただなんて…
    正直、自覚なかったな…」

矢車「………」

シャル「でも…本当のこと喋ったら、何だかスッキリしたよ。
    話聞いてくれてありがとう、想」

シャル「これで僕も…心置きなくこの学園を去る事が出来るよ…」

矢車「……どういう意味だ?」

シャル「……僕の正体を君に知られた以上、もう…この学園に居続ける事は出来ない…
    きっと僕は、本国にいる父の下へ呼び戻されるだろうね…。その後は…良くて牢屋行きかな」

矢車「……お前はそれで良いのか?」

シャル「良いも悪いも、僕一人の意思でどうこう出来る問題ではないし……」

矢車「だからって、黙って受け入れるのか?そんな理不尽を…」

シャル「……仕方のない事なんだよ…」


矢車「………」

矢車(コイツ…)スッ…

ガシッ

シャル「えっ!?」ビクッ!

矢車「シャルル、もう一度だ…。もう一度だけ、お前の瞳の奥をよく見させろ…」

グイッ

シャル「えっ?…あの…その……想?」

矢車「………」ジッ…

シャル「……うん…」

矢車「………」ジィー

矢車(何処かを見据えているようで、何処も見ていない…
   一見、生気が宿っているようにも見えるが、瞳の奥は死んだ魚のように濁っている…
   今のコイツの目は、そんな目だ…)

矢車「………」

矢車(……そうか、そういう事か…)

矢車(今のコイツが抱えている感情…それは、自分自身に対する“諦め”だ…)

矢車(今のシャルルの心にあるのは、自分の哀れな境遇に対する絶望でも、己の不幸を呪う憎しみの感情でもない…
   コイツの心の中は、空っぽだ…)

矢車(ラウラのように光を求めようと、足掻こうともしていない…
   何もかも諦めて…己の存在価値すら見限っている…
   希望までをも切り捨てた、無の感情…。それこそが、コイツの心に存在する闇の真の正体だ…)


矢車(しかし…コイツはただ、自分の本当の気持ちを押し殺しているだけだ。
   諦めて蓋をして、見て見ぬフリをしているが…
   コイツ自身の、望みを渇望する心が消えた訳ではない…)

矢車「シャルル…お前の本心を聞かせろ。周りがどうだなんて関係のない
   お前自身が真に求めているもの…お前の本当の気持ちを、俺に教えろ…」

シャル「えっ……でも」

矢車「いいから、答えろ」

シャル「それは…えっと……」

矢車「………」

シャル「……僕だって、本当は帰りたくなんかないよ。あそこに…僕の居場所はない」

シャル「それに…短い間だったけど、僕…楽しかったよ。
    想やクラスの皆と、この学園で過ごした日々…
    だから…本当は僕だって、ここを離れたくなんかない…」

矢車「なら、ここに残ればいい。親父の命令なんか無視して、ずっとここに居ればいい…」

シャル「だから…それは無理なんだって…」

矢車「父親の言う事には絶対服従、か?
   まるで…都合のいいロボットか何かだな、お前…」

シャル「……想に何が分かるって言うの…?」

矢車「………」

シャル「僕だって…僕だって嫌だったんだよ!こんな事ッ!
    男と偽る為に言葉使いまで変えさせられて…
    データ収集の為に想を…皆を騙すような真似までして…!」

シャル「でも仕方なかったんだよッ!あの人の前では僕の意思なんて…無いも同然なんだよッ!」

矢車「………」

シャル「……そうさ…僕にはどうする事も…出来ない…」

矢車「……それで、何もかも諦めるって言うのか?自分の本心までをも押し殺して…
   実の親父に、いいように扱われて…」

シャル「……想には…分かりっこないよ」



矢車「……お前はいいよなぁ…シャルル。
   夢も希望も…己の求めるもの全てを、そう簡単に切り捨てる事が出来て…」

シャル「………」

矢車「俺は、違った…。闇の住人として生まれ変わった後でさえ、光を求めた事は幾度もあった…」

矢車「このベルトの持ち主も…そうだった」スッ…

シャル(……2本目の、ベルト…?)

矢車「いや、アイツは俺以上に未練たらしい奴だったな…」

矢車「かつての栄光に余程の未練があったのか…
   闇の住人の身でありながら、隙あらば光を求め…そしてその度に、痛いしっぺ返しを食らっていた。
   全く…俺達のようなろくでなしが光を求めても、苦痛を味わうだけだってのに…」

シャル「………」

矢車「……だが、ソイツももう、この世にはいない…」

シャル「えっ…」

矢車「アイツは…影山は…」


─『サヨナラだ…兄貴』─


矢車「……死んだ」

矢車「一緒に白夜を見に行こう…と、約束してたのに…
   結局それも叶わなかった…」

矢車「そう…アイツは、行ってしまったんだ…
   何も感じる事のない、無の世界へと…」

矢車「アイツはもう…幸せも、苦しみも…喜びも悲しみも、何も感じる事はない……」

矢車「もう…何も…」

シャル「………」


矢車「何も感じない…そう、今のお前と同じだ。シャルル…」

シャル「……僕と…同じ?」

矢車「あぁ…今のお前は“死人”と一緒だ…
   お前は今、何も求める事のない諦めの境地に立っている。
   光を求める事もなければ、闇と戯れる事もない…
   今のお前が歩もうとしているのは、そんな虚しい…空っぽの人生だ……」

シャル「……僕だって、好きでそうなった訳じゃ…」

矢車「望む、望まないは関係ない。
   他人の身勝手な都合に振り回され、己の人生が狂わされる…
   この世界では、嫌という程よくある話だ」

矢車「その事は、お前が一番よく理解している筈だ」

シャル「………」

矢車「シャルル。お前の居るべき場所は、お前を縛る親父の下ではない…
   親父を裏切ったその先に待ち受けている、苦悩に満ちた道…
   それこそが、お前の居るべき本当の居場所…地獄だ」

シャル「……地獄…?」

矢車「茨の道を行け、シャルル……。這いつくばり、泥を啜れ。
   例えその先に、辛く…険しい日々が待ち受けていたとしても…
   それを止めるな。惨めに足掻き続けろ…」

矢車「そうすれば、何れお前にも見えてくるだろう…
   お前の心の内を照らす、一筋の光が……」

シャル「光…?」

矢車「ろくでなし共にしか見る事の出来ない、一筋の光…
   例えて言うなら…そう、白夜の様な光だ…」

シャル「……でも、光を求めたその先には、痛いしっぺ返しが待ってるんでしょ?」

矢車「それでもだ。シャルル…。お前はそれでも藻掻き続けろ…
   傷付き、苦しみ…痛みを味わう事になったとしても、
   何も感じない人間であるより、幾分もマシだ…」


シャル「……本当に…僕なんかに出来るのかな?そんなタフな生き方…」

矢車「恐れるな。お前はもう、独りじゃない
   俺も一緒だ、シャルル…」

シャル「……えっ…?」

矢車「俺も…お前と同じ地獄を、共に味わう…
   お前の受けた苦しみも、痛みも、悲しみも…俺が一緒になって背負ってやる」

矢車「だから…お前はもう、独りじゃない」

シャル「……想…」

矢車「……改めて言うぞ、シャルル」

矢車「親父との縁を切れ……
   そして、俺の妹になれ」



シャル「想の…妹に…?」

矢車「………」

シャル「……もう、無茶苦茶だよ。さっきから想の言ってる事は…
    地獄を味わえだとか、俺の妹になれだとか…」

矢車「………」

シャル(……でも、何でだろう…
    そんな無茶苦茶な話でも…想の言う事なら、信じられる…)

シャル(根拠なんかまるで無い話なのに…
    本当に…想の言う事が正しいとは限らないのに…)

シャル(……でも、それでも…)

シャル「想…僕は…」


グゥ~


矢車「………」

シャル「えっ!?あっ!これは!その…」

矢車「……腹、減ったのか?」

シャル「……えっ?」

矢車「……ちょっと待ってろ」スクッ

スタスタ…

シャル「えっ…想、何処行くの?」

矢車「……直ぐに戻る」

バタンッ


~食堂~


ガヤガヤガヤ…

箒(何だ?厨房の前に黒山の人だかりが…)

鈴「あっ!箒ッ!ちょっとこっち来て!」グイッ

箒「な…何だ?」

鈴「いいからこっち!」グイグイ

箒「うわッ!?」ズイッ

鈴「ちょっと!アンタ達どいて!」


~厨房前~

鈴「ほら!箒あれッ!」

箒「何…?」

ジュ~

矢車「………」トントントン

箒「そ、想ッ!お前一体何を!?」

矢車「見ての通りだ。麻婆豆腐を作っている…」

箒「な……何ッ!」

箒(そ、想が…料理…だと?)

鈴「どッ!どう言うつもりよアンタッ!
  私の作る酢豚は“眩し過ぎて食べられない”とか言ってた癖に!」

矢車「……それとこれとは話が別だ…」

鈴「何が違うって言うのよ!?同じ中華料理じゃないッ!」

矢車「はぁー…少し黙ってろ。気が散る…」

鈴「なッ!何よその態度ーッ!!」ムッキー!

箒(……食に関して無関心になった今のアイツが…料理だと?
  何故今になって…?)


───

矢車(出来た…)スッ

生徒「矢車くん凄~い!まるでプロみたい!」
生徒「本当に美味しそう!」
ガヤガヤガヤ…

矢車「………」ヒョイ

スタスタ…

箒「ちょ…ちょっと待て!想ッ!!」

矢車「……何だ…?」ピタッ

箒「……その、麻婆豆腐…何故今になって?」

矢車「……いけないのか?俺が料理をしたら」

箒「い、いや!そうは言ってない!しかし…」

矢車「……俺の料理を食わせたい奴が出来た。だから作った。
   ただ、それだけだ…」

箒「えっ!?」

箒(食わせたい…奴?)

箒「そ…その食わせたい奴って、まさか…」

矢車「………」

箒「……セシリアの事か…?」

矢車「……違う」

箒(セシリアではない、だと…?
  だとすると……まさか!?)

矢車「……料理が冷める、話は終わりだ…」クルッ

箒「あっ!?おい想ッ!」
スタスタスタ…

箒(……嫌な予感がする)


~矢車さんの部屋~

ガチャ

シャル「あっ…おかえり、想」

矢車「……メシ、持ってきたぞ」

シャル「あっ、ありがとう」

矢車「ほら」コトッ

シャル「……これって、もしかして中華料理?
    何だろう?初めて見る料理だけど…」

矢車(そう言えば、食堂のメニューには無かったな…麻婆豆腐)

矢車「……麻婆豆腐だ。俺が作ってきた」

シャル「えっ!?想って料理作れたの!?」

矢車「……悪いか?」

シャル「いや、ゴメン…。何だか意外だな~って思って…」

矢車「……メシ、冷めるぞ」

シャル「あっ、うん。いただきます」スッ

モグモグ…

シャル「お…美味しい!!初めて食べる料理だけど…お店に出てるヤツみたい!」

矢車「そうか…」

シャル「あれ…?そう言えば、想の分の麻婆豆腐は?」

矢車「……最初から、お前の分しか用意していない…
   今の俺に、豆腐はあまりにも眩し過ぎるからな…」

シャル「あはは…。やっぱり想の言ってる事はよく分かんないや…」

───

シャル「……あのね、想。僕、想が部屋を出て行ってる間に、色々と考えてたんだ。これからの事…」

矢車「……結論は、出たのか?」

シャル「……うん。それを言う前に…想、一つだけ約束して」

矢車「………」

シャル「絶対に僕を独りぼっちにしないって…ずっとそばに居てくれるって…約束して」

シャル「それが出来るなら…僕は…」

矢車「……言った筈だ。お前はもう、独りじゃない、と…」

シャル「……想…」

矢車「シャルル……俺達は永遠に一緒だ…
   もう、離ればなれになる事はない…。ずっと一緒に、真っ暗闇の無限地獄の中を…藻掻き、苦しもう…」

シャル「う…うん!」

シャル(……良かった。安心した…)

シャル「じゃあ……僕、なるよ。想の…妹に!」

矢車「……あぁ…」

シャル「それと、ふたりっきりの時は、僕のことを…
    シャルロットって、呼んで欲しいんだ…」

矢車「……シャルロット……お前の本名か?」

シャル「うん。母さんが付けてくれた名前なんだ…」

矢車(シャルロット、か…。きらびやかで、眩しい名前だな…)

矢車「……まぁ、俺とお前のふたりだけの時は、極力そう呼ぶようにしよう」

シャル「うん。……ありがとう。僕なんかの事を…こんなにまで気に掛けてくれて…」

矢車「………」

シャル「改めて…ありがとう。そして、これからもよろしくね」

シャル「お…お兄、ちゃん……」カァー

矢車「……あぁ…よろしくな、相棒…」

シャル「─ッ!!うん!」

矢車(……そうだ。今度こそ、絶対に…この手を放すものか…)

矢車(あんな思い…あんな苦しみ…
   俺はもう…二度と御免だ…!)


シャル「そ、そう言えば!晩ご飯まだ食べてる途中だったな~!
    話も終わった事だし、今から全部食べるよ!」スッ

モグモグ…

矢車「……フッ」

矢車(影山…今の俺をアイツが見ていたら、俺の事をどう思うんだろうな?)

矢車(柄でもない事をしているって…笑うのか?
   それとも…闇の世界の住人の癖に、何やってんだって…俺の事を怒るか?)

シャル「うん、やっぱり美味しいよ!この料理!」モグモグ

矢車「……そうか」

矢車(……影山、お前にも食わせてやりたかった…
   俺の、麻婆豆腐…)


~翌朝~

キーンコーン カーンコーン

千冬「お前達席につけ。SHRを始め…
   ……おい、矢車とデュノアはどうした?」

箒(……そう言えば、今朝から二人の姿を見ていないが…)

千冬「全く…揃いも揃って遅刻か?矢車は兎も角、デュノアまで…」

ウィーン

矢車「………」スタスタ

千冬(来たか…問題児)

千冬「遅いぞ馬鹿者。もうとっくにSHRは始まって……」

シャル「………」ザッザッザッ

千冬「……デュノア…何だ…?その格好は……」

シャル「これですか…?これはですね……フフッ」

生徒「えっ…?あの服って…」
生徒「矢車くんと…同じ?」

セシリア「じ…地獄スタイル!?」ガタッ!


ザワザワザワ…

矢車「コイツの服の新調に、少し時間が掛かってな…それで遅れた」

千冬「………」

シャル(うぅ……この服露出度が高くて…
    ちょっと、着てて恥ずかしいよ…)モジモジ

シャル(……けど、お兄ちゃんと…お揃いの服…)ポッ

箒(……嫌な予感が、当たってしまった…)

シャル「これで僕も……本当の意味で、地獄兄妹の仲間入りが出来たんだよね?お兄ちゃん…」

セシリア「お…お兄ちゃんーッ!!?」

矢車「あぁ、そうだ…。これでお前は、その身も心も闇に委ねる事が出来る…」

シャル「そっか……これでようやく…僕は闇の住人に……」


─ブチッ

千冬「こンのバカ者共があぁぁぁッ!!
   デュノア!没収だ没収ッ!!」

シャル「えぇッ!!何でですか!?お兄ちゃんには何のお咎めも無かったのに…」

千冬「コイツは既に手遅れだッ!今更何を言おうがコイツのこの意味不明な人間性は変わらん!!」

矢車「………」

千冬「しかしお前は違うッ!!お前は気の迷いか何かで一時的におかしくなっているだけだ!
   今ならまだ引き返せるんだぞ!デュノアッ!!」

シャル「で…でも…僕は闇の住人……」


─ブチブチィ…

千冬「いいからとっととそのボロ布を脱げェーッ!」グイグイ

シャル「えぇーッ!!そ…それは駄目ですよッ!色んな意味で!!」

千冬「つべこべ言うなァーッ!
   それが嫌なら、今すぐ更衣室に行って着替えてこいッ!!」

シャル「そ…そんなぁ……」

生徒「うわぁ…織斑先生滅茶苦茶キレてるよぉ…」
生徒「最近かなりストレス溜め込んでたみたいだからね…」
生徒「……遂に、爆発しちゃったか…」


矢車「はぁー……。闇の住人である今のシャルルは、
   光ある所に拒まれてしまう運命にある、と言う訳か…」


──ブチブチブチィ…


千冬「貴様がデュノアを誑かしたんだろうがァーッ!!」ブンッ

ボコォッ!


矢車「わあああぁぁぁぁぁぁッ!!!」ビューン


のほほん「わー!やぐるーがまたフッ飛んだー!!」

シャル「おッ!お兄ちゃーんッ!!」

セシリア「お兄様ぁーッ!!」

ビューン…

箒「………」


箒(体重の乗った、いいパンチだ…)



ワー!キャー! ヤグルマクーンッ!


ラウラ「……クッ!」ワナワナワナ…

ラウラ(矢車とその取り巻きめッ!
    またしても織斑教官の事を苦しめおって!!)

ラウラ(教官の鉄拳制裁だけでは収まりがつかん…!
    この私が…直々に引導を渡してやるッ!矢車想ッ!!)


──つづく



デデーン!

次回、仮面ISキックホッパー!


ラウラ(な…何故だ……
    私が…こんな……こんなッ!)

矢車「……消えろ、ラウラ…」カシャ

──RIDER JUMP!──


加賀美陸「久しぶりだね……矢車くん」

矢車「……クロックアップは、使わない」

箒「な…何だと!?」

デレー

徳山「ホッパーゼクター買ってかっけぇーって思いながらいじっててふっと裏みたら止めねじばっかでさwwwwwwww」
内山「どうせパンチホッパーなんて・・・笑え・・・笑えよ・・・」

なんか急にこのやり取り思い出した



─第4話─


ラウラ「─ッ!!がはッ!!」ドサッ

ラウラ(わ…私は……悪い夢でも見ているのか…?)

ラウラ(あの取り巻き二人に制裁を与えていたら……矢車の奴が飛び込んで来て…)

ラウラ(一瞬…ほんの一瞬のうちに、私は……)

矢車「………」

ラウラ(矢車…想……貴様、一体何を…!?)

矢車「………」ギッ

ラウラ「うっ…!」ゾワッ

ラウラ(これは…奴の…殺気…?)

ラウラ(……殺される…のか…私が?)

ラウラ(な…何故だ……
    私が…こんな……こんなッ!)


矢車「……消えろ、ラウラ…」カシャ


──RIDER JUMP!──



~数時間前 アリーナにて~


千冬「これより、IS実機を用いた実習訓練を行う」

矢車「………」ヒリヒリ…

千冬「訓練を始める前に、矢車」

矢車「あっ?」

千冬「お前には、自分の専用機ではなく訓練機を用いて授業を受けてもらう」

矢車「何…?」

千冬「お前のキックホッパーは良くも悪くも特殊なISだ。
   カリキュラムに合わせて授業を進める為にも、
   お前には、従来の訓練機を使って授業を受けてもらう必要がある」

矢車「……成る程、な…」

千冬「分かったのなら、とっとと更衣室に行って専用のスーツに着替えてこい」

矢車「……はぁー…面倒な」スタスタ

───

ザッザッザッ…

矢車(ISスーツ着用)「……着替えて来たぞ、担任」

生徒「ちょッ!矢車くん筋肉凄ッ!!」
生徒「いつもはあのコートに隠れてて分かりづらかったけど…」
生徒「マッチョ!ムッキムキンニク!!」


千冬「よし。早速だが矢車、そこにある待機中の訓練機を起動させてみせろ」

矢車「……はぁー…」スタスタ

箒「………」

矢車「………」スッ…

キュイーン

矢車(IS装備)「これで良いのか?担任」

千冬「……あぁ、上出来だ」

箒「……ちゃんと、起動出来たか…」

矢車「あっ?」

箒「あっ、いや…お前のキックホッパーは、通常のISとは全く異なる外見をしているからな。
  何というか…今になって始めて、お前がISを動かせるという事実が実感出来たというか…」

矢車「………」

セシリア「キックホッパーとは又違った、凛々しい御姿…
     これはこれで素敵ですわ!お兄様!」

セシリア(……何よりも、その逞しいお兄様の肉体が露になるのが…
     全く…素晴らしいですわ…)ジュルリ…

シャル「……セシリア、目が怖いよ…」

矢車「………」


~昼休み~

鈴「へぇ~。まさかアンタが地獄兄妹の仲間入りをするだなんてねぇ…」ズルズルズル

セシリア「人は見かけによらずとは、正にこの事ですわ」ズルズルズル

シャル「えへへ…」ズルズルズル

箒「………」

鈴「でも…アンタみたいな明るい奴でも入れるって事は、地獄兄妹の入団基準って案外緩いんじゃないの?」

矢車「見くびるな。シャルルの抱えている闇は、お前達二人が抱えている闇とは比べ物にならない程に、深い…」

鈴「私達のよりも凄い闇って…マジ?」チラッ

シャル「あ、あはは…」

鈴「……そんな風には全然見えないんだけど」

矢車「なら、よく目を凝らして覗いてみろ。コイツの瞳の奥を…」

シャル「えっ!?」

鈴「ん~どれどれ…」ジィー

セシリア「失礼しますわ…」ジィー

シャル「あ…うん」

シャル(何かもう…慣れたな、コレ)


矢車「……どうだ?見えたか?」

鈴「ふ~ん、成る程…
  …って、分かる訳ないでしょーが!!」

矢車「………」

セシリア「ふ、フンッ!やはり貴女はその程度…」

鈴「何よセシリア!アンタには見えたって言うの!?」

セシリア「も…勿論見えましたわッ!彼の心の奥底に眠る暗闇が、この目でハッキリと!!」

鈴「へぇ~。じゃあシャルルの抱えている闇って、一体どんな感じなのよ?言ってみなさいよ」

セシリア「えッ!ええっと…それは…」チラッ

シャル「んっ?」

セシリア「……シャ、シャルルさんの瞳からは…
     グランドで…ダークネスで…それでいて、エクストリームな闇が見えますわッ!」

シャル「えっ?」

矢車「……全然違う」

セシリア「えぇッ!?」

鈴「なーんだ、結局アンタにも見えてなかったんじゃない」

セシリア「お…お黙りなさい!
     い、今のはちょっと…シャルルさんの闇の感覚を、読み間違えただけですわ…」

鈴「ふーん…どーだか」

セシリア「なッ!わたくしを疑っているのですか鈴さん!?
     いいですか!?わたくしは地獄兄妹におけるナンバー2!長女なのですよ!!」

鈴「いつからアンタがナンバー2になったのよ!
  この知ったかニワカ闇ッ!」

セシリア「に…ニワカ闇ですってェーッ!!」ムッキー!

ガヤガヤガヤ…


箒「………」

箒(楽しそうだな、皆…)


箒(……結局、想のヤツをクラス代表に仕立て上げたところで、変わる事など何もなかった…
  いや…想に感化された連中がいる分、状況はむしろ悪化したと言える…)

箒(……思えばコイツは昔っから、周りへの影響力が人一倍強い奴だったな…)

箒(皆をまとめ上げるのが上手くて、それでいて面倒見も良くて、リーダー気質で…
  そんな想だったからこそ、私は……)

箒(……だが…)チラッ

矢車「………」

箒(今の想は、違う…。
  あの頃のアイツの面影は、もう完全に消え失せている…)

箒(やはり…無理なのか?陰鬱で根暗な今の想を、私のよく知るあの矢車想に戻すのは…)


箒「……何でなんだ」


箒(私はただ、あの明るかった頃のアイツに戻って欲しいだけなのに…)


鈴「どうしたのよ箒?さっきから黙り決め込んで、ムスッとしちゃってさ」

箒「別に…何でもない」モグモグ

鈴「……もしかしてアンタ、拗ねてんの?」

箒「何?」

セシリア「まさか箒さん……自分一人だけが地獄兄妹の一員でないという事に、疎外感を感じて…?」

箒「そ、そんなんじゃない!私はただ…」

シャル「気にする事ないよ箒。
    地獄兄妹の一員じゃなくたって、箒が僕達の友達である事に何ら変わりはないんだから」

鈴「そうそう。アンタはこの面子の中での貴重な常識人なんだから
  むしろ、居てくれなきゃ困るくらいよ」

箒「そ…そうか」

セシリア「貴重な常識人…。まるでわたくし達の中にはマトモな人間が全く居ないと、
     そう言いたげな言い種ですわね…」

鈴「……アンタ、地獄兄妹なんてこっ恥ずかしい事やってる私らが、
  マトモな連中だとでも思ってんの?」

セシリア「えッ!わたくし達がマトモじゃないですって!?」

鈴「……今まで自覚なかったの?アンタが一番アレだってのに」

セシリア「なッ!何を仰っているのですか鈴さん!?
     もう!お兄様もこの人に何とか言ってあげて下さいな!」

矢車「……まぁ確かに、マトモではないよな…俺達」

セシリア「そ…そんなぁ…。お兄様まで…」

箒「………」


~職員室~

山田「け、警視総監がこの学園にですか!?」

千冬「あぁ。今回行われる学年別個人トーナメントの視察に訪れるらしい」

山田「……でも、何でまた日本警察のトップである人が、IS学園で行われる大会の視察を…?」

千冬「……何でもその警視総監、ISに大変な関心…もとい興味を持っているらしくてな」

千冬「今回の件の発端も、警視総監自らの個人的な動機が原因らしい」

山田「こ…個人的な動機、ですか?」

千冬「……ニワカには信じられない話だが、そういう事だ」

山田「そ…そうなんですか…」

千冬「……全く、日本警察の頭ともあろう人間が…
   一学園の校内で行われる大会を観るためだけに、遠路はるばるわざわざ訪れに来るなど…
   正直、暇を持て余しているとしか思えんな…」

山田「は、はぁ…」

千冬(全く、一体何を考えているのだ?この警視総監…
   加賀美陸という人物は…)



~放課後 校内のとある廊下にて~


シャル「あっ、箒!」トテトテトテ

箒「ん?シャルルか。
  ……お前、今朝着て来た地獄スタイルの服装はどうした?」

シャル「えへへ…織斑先生に没収されちゃった」

箒「……そうか、やはりな…」

シャル「箒はこれから特訓?」

箒「あぁ。学年別個人トーナメントまであまり日がないからな。
  ……想の奴は?」

シャル「あぁ。お兄ちゃんなら、先に部屋に帰ってるって」

箒「……そうか」

箒(お兄ちゃん、か…)

箒「……なぁ、シャルル…」

シャル「んっ?」

箒「人の良いお前の事だ。
  無理をしてまで、アイツの起こす奇行にわざわざ付き合ってやっているのは分かるが…
  アイツのバカげたおふざけに、お前が一々付き合ってやる必要は無いんだぞ?」

シャル「えっ…?」

箒「そう、お前は無理をしている筈だ。
  でなければ…お前のような真面目な奴が、今朝のようなふざけた真似をする訳が…」



シャル「……ふざけてなんか、いないよ…」

箒「……何?」

シャル「確かに…今の箒からしてみれば、
    想の…お兄ちゃんのやっている事は、単なるバカげた行動にしか見えないかもしれない…」

シャル「けれどッ!お兄ちゃん自身はふざけているつもりなんて決して無いんだ!
    お兄ちゃんはいつだって本気で、自分の居るべき居場所…地獄について考えているんだ!」

シャル「……そう、だからこそお兄ちゃんは
    僕が抱えている心の闇にだって、真正面から向き合ってくれたんだ…」

箒「……お前の、心の闇だと?」

シャル「……詳しい事は、まだ何も言えないけれど…」


───

矢車『俺も…お前と同じ地獄を、共に味わう…
   お前の受けた苦しみも、痛みも、悲しみも…俺が一緒になって背負ってやる』

矢車『だから…お前はもう、独りじゃない』

───


シャル「でも、今僕がこうしてここに居られるのは、全てはお兄ちゃんのお陰なんだ。
    それだけは、間違いなく言える事だよ」



箒「……シャルル、お前…」

シャル「……ごめんね、箒。僕の心の闇だとか何だとか…
    そんな事いきなり言われても、訳分かんないよね…」

箒「………」

シャル「でも…いつかきっと、箒にも話をするから…
    僕の過去についても、僕が抱える心の闇についても…
    全て、何もかも…」

シャル「そして…そんな僕を心の底から心配してくれた、お兄ちゃんの事についても…」

シャル「その話を聞いてくれればきっと、箒だって分かってくれる筈だから。
    お兄ちゃんの…地獄兄妹のやっている事は、決してバカげた事なんかじゃないって」

箒「……そうか」

シャル「………」

箒「それなら、良いんだがな……」クルッ

スタスタ…

シャル「箒……」


箒(私には理解出来ないんだ…。今のアイツが、一体何を考えているのか…)

箒(なまじ…あの優しかった頃の想を知っているからこそ、それは尚更…)



~アリーナ~

鈴「おっ、どうやら私が一番乗りのようね」スタスタ

鈴(ラッキー。あの小うるさいセシリアが居ないのは有り難…)

セシリア「残念でしたわねぇッ!!」ズイッ

鈴「うわッ!ビックリした!!」

セシリア「一足遅かったようですわね、鈴さん!
     アリーナへの一番乗りはこのわたくし!セシリア・オルコットですわッ!」バーン!

鈴「……はいはい分かった。分かったから…少し、黙っててくれる?頼むから…」

セシリア「なッ!何ですかそのあからさまに不快感を露にした態度はッ!?
     それが目上の者に対して向ける態度ですかッ!?」

鈴「だぁーれぇーがぁー目上の者ですってェーッ!?」

セシリア「誰って…このわたくしに決まってるじゃありませんかッ!!」

鈴「ハァー!?まーた性懲りもなく偉そーな事言ってッ!!
  アンタ、さっきシャルルの闇を見抜けなかったばっかりな癖に!よくもまぁそんな偉そうな事が言えるわねッ!!」

セシリア「あ…あの時はッ!たまたま、調子が悪かっただけですわ……」

鈴「ほーらッ!まーたそうやって言い訳する!
  ハナっから何も見えてないんだから、調子が悪いも何も無いんでしょーがッ!」

セシリア「グッ!そ…そう言う鈴さんだって、人の事をとやかく言える立場ですか!?」

鈴「はぁ?私はアンタみたいに知ったかぶりなんかしないわよ?」

セシリア「そう言う事を言っているのではありません!もっと根本的な問題の話をしているのですッ!
     ズバリ聞きますが鈴さん!あなた、本当に心の内に闇を抱えているのですか!?」


鈴「えっ?」

セシリア「話によれば鈴さんッ!あなたはお兄様との勝負に負けたその罰ゲームとして、地獄兄妹に入団したというではありませんか!」

鈴「それは…そうだけど…」

セシリア「そんな成り行きで地獄兄妹に入団したあなたが、それ相応の闇を持っているだなんて…
     わたくし、とてもそうだとは思えませんわッ!」

鈴「ば…馬鹿にしないでよッ!私だって…心の中に闇の一つや二つ抱えているわよッ!」

セシリア「ほぉ~…なら、聞かせてみて下さいな。
     あなたの抱えている“心の闇”とやらをッ!」


鈴「……えーっと…。親が最近、離婚した」

セシリア「……そ、それはお気の毒に…」

鈴「久しぶりに会った幼なじみが、何か別人みたいにグレてた」

セシリア「………」

鈴「ひとりだけクラスが違うから出番に恵まれな…」

セシリア「わッ!分かりました!!分かりましたからッ!!」



鈴「どう?これでもまだ文句言うつもり?」

セシリア「……ま、まぁ…。あなたの心の中にも、それ相応の闇は存在するようですわね…
     まぁ…良いでしょう。地獄兄妹のメンバーの中でも……補欠としてならッ!
     一応、認めてあげてもよろしいですわ」フフン

鈴「ハァーッ!補欠ゥ!?」

セシリア「不服なのですか?良いじゃないですか。補欠も立派な地獄兄妹の一員ですわよ」

鈴「あーもうッ!またそうやって上から目線で物を言う!」

鈴「アンタのそのエゴイストでいつも上から目線で細かいことにいちいちうるさい
  空気の読めない朴念仁な性格、どうにかならない訳ッ!?」

セシリア「なッ!わたくしがエゴイストでいつも上から目線で細かいことにいちいちうるさい空気の読めない朴念仁ですってェーッ!」

鈴「実際そうでしょーがッ!いつもいつも態度ばっかデカくてッ!偉そーに振る舞ってッ!」

セシリア「何をッ!わたくしが偉そうな態度を振る舞う事の、一体何が悪いと言うのですか!?」

鈴「ハァッ!?」

セシリア「地獄兄妹の実質的なナンバー2、長女たるこのわたくしが!
    補欠の分際たるあなたに上から目線で物事を言うのは、むしろ当然の事ですわッ!!」

鈴「ハァーッ!何言ってんのよッ!?アンタ、地獄兄妹としての実力はからっきしの癖にッ!
  アンタなんかよりも想との付き合いがずっと長い私の方が、地獄兄妹のナンバー2によっぽど相応しいわよッ!」

セシリア「付き合いの長さ…?ハンッ!そんなもの関係ありませんわッ!
     地獄兄妹のナンバー2はこのわたくし!セシリア・オルコットを置いて他なりませんッ!
     それはもはや、変えようのない事実なのですッ!」

鈴「……へぇー、そこまで言い張る…?
  なら…どっちが真に地獄兄妹の二番手に相応しいのか、今ここで決めようじゃないのッ!」キュイーン

(鈴、IS展開)

セシリア「決闘ですか…良いでしょうッ!受けて立ちますわ!」キュイーン

(セシリア、IS展開)

鈴「でやぁぁぁッ!!」

セシリア「ハアァァァッ!!」


ドゴォーンッ!

鈴「えッ!?」

セシリア「ほ、砲撃ッ!?何処から!?」クルッ


ラウラ(IS展開中)「………」


セシリア「……ラウラ・ボーデヴィッヒ…。あなたでしたか…」

鈴「何よ、随分と物騒な挨拶の仕方じゃない。
  アンタも私達の仲間に入りたいっていうの?」

ラウラ「……仲間に、だと?フッ…
    お前達のような虫けら共と馴れ合うなど、考えただけでも虫酸が走るわ…」

鈴「……安心して、今のは冗談だから。
  アンタみたいないけ好かない奴が、地獄兄妹の仲間入りをするだなんて…
  そんなの、こっちから願い下げよ」

セシリア「今回ばかりは、鈴さんの意見に同感ですわ」

ラウラ「……地獄兄妹、か…。狂人、矢車想に感化された、愚か者共の集まり…」

セシリア「……何ですって?」ピクッ

ラウラ「全く、哀れな連中だ…。揃いも揃ってあんなクズに惹かれるとは…」

鈴「……想が、クズですって?」ピクッ

ラウラ「あぁ、何度でも言ってやるさ。
    矢車想…奴は生きるに値しないこの世のクズ……害を振り撒く毒虫だ」

鈴「─ッ!!アンタに想の何が分かるって言うのよッ!」

セシリア「今、お兄様を笑いましたわねぇーッ!!」

ラウラ「………」

鈴「待ってなさいよッ!その減らず口、二度と叩けないようにしてやるッ!」

セシリア「鈴さんッ!ここは一先ず協力といきましょう!」

鈴「えぇッ!二人であのジャガイモ農家をブッ飛ばすわよッ!」グワッ

セシリア「だぁッ!」グワッ

ラウラ「フッ……」




~アリーナ客席~

ガヤガヤ…

箒(何の騒ぎだ?アリーナの前に人だかりが…)

生徒「第3アリーナで決闘だって!?」
生徒「えぇ!何でも、中国の代表候補生とイギリスの代表候補生が、二人がかりでドイツの専用機持ちの子とやり合ってるらしいよ!」

ガヤガヤ…


シャル「えっ!?」

箒「何ッ?」

箒(中国の代表候補生とイギリスの代表候補生…鈴とセシリアの事か!?
  だとすると、相手のドイツの専用機持ちと言うのは、まさか…)

シャル「あっ!箒ッ!あれ!!」


───

鈴「こンのッ!」バシュバシュバシュ

ラウラ「フッ……」スッ

バシバシィ…

鈴「なッ!私の龍咆がッ!?」

セシリア「受け止められた!?」


箒「な…何だあれは!?龍咆の動きを止めた!?」

シャル「……あれはもしかして…AIC!?」

箒「AIC…?」

シャル「うん…。アクティブ・イナーシャル・キャンセラー、略してAIC。
    有効範囲に入った対象を任意で停止させる事の出来る、一種の慣性停止能力を用いた兵器だよ」

箒「対象を任意で停止させるだと…?そんな代物が…」


鈴「あーもうッ!鬱陶しいわねぇ!ソレッ!」バシュバシュバシュ

鈴(何とか…隙を作らないとッ!)

ラウラ「無駄だ…」スッ

バシバシィ…

鈴「チィッ!」

ラウラ「何て無様な射撃だ…。私が直々に、手本を見せてやるッ!」ガチャ

ズドン!ズドンッ!

鈴「なッ!」

鈴(マズいッ!直撃コースッ!?)

ドゴアッ!ドゴアッ!

鈴「わぁッ!」

セシリア「鈴さんッ!」

ラウラ「人の事を心配している暇が…」ヒュンヒュンヒュン

セシリア(これは…ワイヤー!?いつの間にッ!?)

ラウラ「あると思うなッ!」ヒュンッ!

グルグルグル

ガシィッ!

セシリア「しまったッ!絡まっ…」

ラウラ「はあッ!」ブンッ!

セシリア「きゃッ!」ブワッ

ズドーンッ!


箒「なッ!セシリアが地面に叩き落とされたッ!」

箒(鈴とセシリアの二人がかりだと言うのに…まるで一方的じゃないかッ!)

シャル「ほ…箒ッ!僕、お兄ちゃん呼んでくるよッ!」ダッ

箒「あッ!おいシャルル!」

シャル(お兄ちゃんなら…お兄ちゃんならきっと、何とかしてくれる筈ッ!)

ダッダッダッダッダッ…


ラウラ「フン…。イギリスと中国の第3世代機も、所詮はこの程度か…」

鈴「……な…舐めんじゃないわよッ!」

セシリア「まだまだ…勝負はこれからですわッ!」

ラウラ「ほぉ…。まだ立ち上がってみせるか。散々痛め付けてやったというのに…
    矢車の奴を詰られた事が、よっぽど気に食わなかったようだな…」

鈴「少しは黙れってのッ!」グワッ

セシリア「はぁッ!」グワッ

ラウラ「性懲りもなくまだ向かって来るか…
    良いだろう、完膚無きまでに叩き潰してやるッ!」



───

ダッダッダッダッダッ…

シャル「ハァ…ッ!ハァ…ッ!ハァ…ッ!」ダッダッダッ


~矢車さんの部屋~

シャル「お兄ちゃんッ!!」バターン!

矢車「……どうしたシャルロット?そんなに慌てて…」

シャル(あっ、ちゃんとシャルロットって呼んでくれた……。じゃなくてッ!)

シャル「た…大変なんだ……。セシリアと、鈴が…!」ゼェ…ゼェ…

矢車「何…?」


───


シャル「箒ーッ!お兄ちゃん連れて来たよーッ!」ダッダッダッ

矢車「………」スタスタスタ…

箒「想ッ!シャルル!」

シャル「箒、状況は!?」

箒「あぁ、最悪だッ!あれを見ろッ!」

シャル「えっ…?」

矢車「あっ?」クルッ




鈴「がッ!」ドサッ

セシリア「ぐッ!」ドサッ

ラウラ「どうした?まだシールド・エネルギーは残っている筈だぞ?」ガシッ

セシリア「うぐッ!」グイッ
セシリア(く…首が…)

ググググ…

鈴「せ…セシリ…」

ラウラ「フン…」ゲシッ

鈴「がッ!」

ラウラ「最もそれも…大して残ってはいないようだがな」グググ…

鈴「ぐぅ…ッ!」

セシリア「鈴…さん…」

ラウラ「まぁ…私も鬼ではない。
    大人しく私の出す条件を呑むと言うのであれば…
    貴様らを、この苦痛から解放してやっても良い」

鈴「何…を…?」

ラウラ「何、簡単な話だ……
    地獄兄妹の一味を辞め、今後一切、矢車の奴に関わらないと誓え」

鈴「は…ハァー…?だ…誰が…アンタの言う事なんか……」

セシリア「そう…ですわ……
    あなたは…地獄兄妹の……お兄様と私達との絆を…些か侮り過ぎですわ…」

ラウラ「……そうか、よく分かった…
    お前達、よっぽど痛い目に合いたいようだなッ!」ゲシィッ!

鈴「うぐッ!」



シャル「マズいよッ!もうシールド・エネルギーは少しも残っていない筈なのに!」

箒「これ以上は危険だ!最悪の場合…あの二人の命に関わるぞッ!」

矢車「……命に、関わる?」ピクッ

シャル「お兄ちゃんお願いッ!鈴とセシリアを助け…」

矢車「………」

シャル「……お兄ちゃん?」


───


矢車(……死ぬ?)


─『俺は…兄貴も知らない暗闇を知ってしまった…』─


矢車(俺の、相棒が…?)


─『連れて行って欲しかったけどさ…。俺はもう、一生この暗闇から出れないよ……』─


矢車(また…?)



─『サヨナラだ…兄貴』─



───


鈴「がは…ッ!」ドサッ

セシリア「グッ!」ドサッ

ラウラ(……この、虫けら風情が…)

ラウラ「フフッ…」



プツーン…


矢車「笑うなァァァァァアアアッ!!!」


箒「なッ!?」ビクッ!

シャル「ひッ!?」ビクッ!


カシャ

──HENSHIN──

矢車「らァッ!!」ダッ

バリーン!


箒「なッ!想ッ!」

箒(アリーナの遮断シールドを突き破って、無理矢理中に突入しただと!?)


───

ラウラ「うッ!」ゾワッ

ラウラ(何だッ!?この異様な感覚はッ!?)クルッ

ビューンッ!

ラウラ(なッ!何かがこっちに突っ込んで来るッ!?)

ラウラ「クッ!」バッ

ドゴアァッ!

ラウラ「………」スタッ

ラウラ(咄嗟に避けてはみせたが、何だアレは…?場外からの爆撃か?)

モクモクモク…

ラウラ(チッ、粉塵が邪魔で判別が出来ん…)

モク…モク…

ラウラ「─ッ!」ピクッ

ラウラ(いや違うッ!あれは爆撃などではないッ!あれはッ!)



矢車「………」

──CHANGE! KICK HOPPER!──



ラウラ「矢車…想ッ!」ギリッ

鈴「そ……想……」ガクッ

セシリア「お……兄さ……」ガクッ

矢車「………」

ラウラ「……フン、親玉の御出座しと言う訳か?
    かわいい妹達が痛ぶられるのを見て、居ても立っても居られなくなったという…」

矢車「黙れ」カチャ


── CLOCK UP ──




─第4話─


ラウラ「─ッ!!がはッ!!」ドサッ

ラウラ(わ…私は……悪い夢でも見ているのか…?)

ラウラ(あの取り巻き二人に制裁を与えていたら……矢車の奴が飛び込んで来て…)

ラウラ(一瞬…ほんの一瞬のうちに、私は……)

矢車「………」

ラウラ(矢車…想……貴様、一体何を…!?)

矢車「………」ギッ

ラウラ「うっ…!」ゾワッ

ラウラ(これは…奴の…殺気…?)

ラウラ(……殺される…のか…私が?)

ラウラ(な…何故だ……
    私が…こんな……こんなッ!)


矢車「……消えろ、ラウラ…」カシャ


──RIDER JUMP!──



── CLOCK OVER ──


バチ!バチバチバチバチィーッ!

ラウラ「がァッ!!?」ブワッ

ドグワシャアー!

矢車「………」

(ラウラ、IS強制解除)



シャル「えっ…?えッ!?」

箒「な…何が起こったんだッ!?
  一瞬の内に…ラウラの奴が吹き飛ばされて……はッ!」

箒(この状況は、あの時の……
  鈴を狙った未確認機が突然爆発した、あの時の状況と…同じ!?)


ラウラ「─ッ!!がはッ!!」ドサッ

矢車「………」


シャル「……何だか良く分からないけど…
    ISが強制解除されて、ラウラはもう戦えないし…
    とりあえずは、これで一安心だね!」

箒「……おい、シャルル。想の奴、何か様子が変だぞ…?」

シャル「えっ…?」クルッ



矢車「……消えろ、ラウラ…」カシャ


──RIDER JUMP!──


シャル「えッ!!?」

箒「なッ!?何をするつもりだッ!?」

箒(まさかアイツ…生身の状態のラウラに、ライダーキックを食らわすつもりかッ!?)

箒「バカな真似はよせ!想ッ!相手はISが解除された生身の人間なんだぞッ!」


矢車「………」ググッ…

ピコ…ピコ…ピコ


箒「あのバカッ!完全に頭に血が上ってるッ!!」

シャル「お兄ちゃん止めてッ!そんな事したらラウラが…ラウラが死んじゃうよ!」


ラウラ「うぐッ!」ズキッ

ラウラ(身体が…痛んで……動けな…)

矢車「………」

ピコ…ピコ…ピコ


シャル「お兄ちゃん駄目ッ!!」

箒「止めろッ!想ーッ!!」


ガシッ

千冬(IS部分展開)「………」グッ

矢車「……担任…」

ピコ…ピコ…ピコ

千冬「その辺にしておけ。殺す気か?」

矢車「………」

ラウラ(……教…官…)バタッ

矢車「……はぁー…」カシャ

ブォーン…

(矢車、変身解除)

千冬「矢車、これは一体どういう事だ?お前達とラウラとの間に何が…」

矢車「………」クルッ

スタスタスタ…

千冬「………」

千冬(……まぁ、コイツに聞くだけ無駄か…)



スタスタ

矢車「………」ピタッ

鈴「…そ…想……」

セシリア「…お兄…さま……」

矢車「……鈴、セシリア…」

鈴「……み…みっともないとこ、見せちゃったわね……」

矢車「………」

セシリア「ふ…二人がかりでこの有り様とは……面目ありません…。
     わたくし達……地獄兄妹のいい面汚しですわ……」

矢車「……はぁー…」

鈴「………」

セシリア「………」

矢車「相変わらずの減らず口だな。お前ら…」

セシリア「えっ…」

鈴「…な……何よ…!こっちはアンタがいらぬ心配をしないようにと、痛いの我慢して気丈に振る舞っ…」

矢車「………」ガシッ

ダキッ

セシリア「……えっ?」

鈴「……えっ?」

矢車「………」ギュッ

セシリア「えっ…えっ!?」

鈴「ちょ、ちょっと!想!?」

矢車「……無事で…良かった…」ギュッ…

鈴「……あの、想…?」カァー…

セシリア「お…お兄様…?」カァー…

矢車「………」

矢車(……良かった。本当に…)

鈴(……怪我の功名…かな?)

セシリア(し…幸せですわぁ…)デレデレ

矢車「………」


シャル「……お兄ちゃん…」

シャル(やっぱり、お兄ちゃんも怖かったんだ…
    大切な相棒を、また失ってしまうのが…)


~保健室~

千冬「全く聞いて呆れたぞ…。たかが喧嘩にISを持ち出すとは…」

セシリア「それは…その……」

鈴「す…すいませんでした…」

千冬「特にラウラ。お前の仕出かした事は、決して褒められた事ではない。
   ISが解除された相手を必要以上に痛め付けるなど…言語道断だ」

ラウラ「……申し訳、御座いません…」

ラウラ(クッ!!)ギロッ

矢車「………」

千冬「……言っておくが、お前が矢車の奴を責めるのはお門違いだからな。
   少々やり過ぎたとは言え…矢車はあくまでも、止めに入っただけだ。
   今回ばかりは…行き過ぎた行動に出たお前に非がある」

ラウラ「……は…はい…」

ラウラ(グッ…!)ギリッ

千冬「ところで、お前達のISの破損状況についてだが…山田先生」

山田「えぇ。オルコットさんと凰さんのISは、ダメージレベルがCを越えています。
   今回行われる学年別トーナメントへの参加は、難しいでしょう…」

鈴「えぇーッ!」

セシリア「そ…そんなぁー…」

セシリア(わたくしの勇姿を…お兄様に見てもらうチャンスが…)

ラウラ「……私の機体は?」

山田「ボーデヴィッヒさんのISは…受けたダメージは相当なものですが、
   それでも凰さんとオルコットさんのIS程、損傷は酷くありませんでした。
   暫く修復に専念すれば、トーナメントの開催までには十分に間に合います」

ラウラ「……そう、ですか…」

ラウラ(よし、これで矢車の奴に…仕返しが出来る!)


千冬「それと、私の方から一つ報告がある」

矢車「報告…?」

千冬「今回開催される学年別トーナメントの件についてだが…
   大会参加者は、二人組のチームによる参加を必須とする」

箒「……チーム、ですか?」

千冬「あぁ。チーム決めは各自自由に行っても良いが、
   当日までに相手が決まらなかった場合、チーム決めは抽選によって行われる事になっている。
   お前達も、抽選で相方を決められるのが嫌なら、今の内に誰と組むのか検討しておけ」

矢車「………」

セシリア「わたくしと鈴さんが大会に出られないとなると…
     お兄様とのペアは、必然的にシャルルさんという事になりますわね」

シャル「えっ?僕?」

鈴「当たり前じゃないの。
  コイツが地獄兄妹以外の連中と、ペアなんか組む訳ないじゃん」

矢車「………」

鈴「それとも何?アンタ、想以外に組みたい奴でもいんの?」

シャル「いや、僕は全然問題無いんだけど…」チラッ

箒「………」

シャル「ほ、箒は…」

箒「構わん。どうせ想の奴だって、地獄兄妹の面子でチームを組みたいに決まっている」

シャル「そ…そうなの?お兄ちゃん…?」

矢車「……言った筈だ。シャルル…
   俺達は、永遠に一緒だってな…」

鈴(むっ…)ピクッ

セシリア(何ですって…?)ピクッ

シャル「あっ、うん…」

箒「………」

箒(……ほれ見ろ。やっぱり私の存在など、ハナから眼中に無いではないか…)


~暫くして~

鈴「あ~あ…。私とセシリアだけ出場停止かぁ…
  せっかく今まで訓練してきたのに…」

箒「命が助かっただけでも有り難いと思え。
  あのままやられていたら、お前達も今頃どうなっていた事か…」

鈴「……二人がかりであのザマとは、ねぇ…。流石にヘコむわ…」

セシリア「本当に…面目無いですわ…」

鈴「……でもまぁ…大口叩いた割に、想相手には手も足も出せなかったわよね。
  今、カーテン閉めきって熟睡中のお隣さんは…」

ラウラ「………」ガサッ

鈴「さぞや悔しいでしょうねぇ~。自分が毛嫌いしている相手にコテンパンにやられるだなんて…」

シャル「ちょっと鈴…!聞こえちゃうよ…」

鈴「嫌味ってヤツは、聞こえるように言わなきゃ意味ないのよ」

ラウラ「……クッ!」ピキピキ

シャル「で…でも良かった。二人とも、本当に無事で…」

セシリア「あの時…お兄様がわたくし達を助けてくれたお陰ですわ」

矢車「………」

鈴「しっかしビックリしたわ。想ってば、あのラウラの事をあっという間に倒しちゃうんだもの」

セシリア「えぇ。正に一瞬の出来事でしたわ…
     一体ラウラさんの身に何が起こったのか…
     わたくしには、皆目見当が付きませんでした…」

鈴「……想、アンタあの時一体何をしたって言うのよ…?
  1秒足らずで相手をノックアウトしちゃうだなんて…
  セシリアの言う通り、一瞬過ぎて何が何だかよく分からなかったわ」

矢車「………」

シャル「……お兄ちゃん、もしかしてアレが…」

矢車「……あぁ、クロックアップだ…」

セシリア「……クロックアップ…。お兄様が以前仰っていた、マスクドライダーシステムとやらの標準装備…」

鈴「クロックアップねぇ…。前に聞きそびれてた事だけど、それって具体的にどんな能力なのよ?」

矢車「……はぁー…説明するのが面倒だ…」

箒「バカッ!面倒臭がらずにちゃんと説明しろ!」

矢車「……はぁー…」


矢車「……クロックアップ…。キックホッパーの内部に流れるタキオン粒子を操作し、
   使用者の周囲の時間の流れを変える…。まぁ…言ってみれば、高速移動能力の一種だ。
   別の時間流に乗り移るというその特性上、使用者は使用者以外の時間流にいる物体の動きを
   全て、スローモーションで体感する事が出来る」

シャル「スローモーション…?」

矢車「あぁ…。使用者からして見れば、飛び交う弾丸は停止しているに等しいスピードで見え、
   降りしきる雨は、その雨粒の一粒一粒が空中で静止しているかのように見える、と言う訳だ…」

鈴「……何ソレ、反則過ぎじゃん…」

シャル「……そ…そんな凄い機能が、キックホッパーに内蔵されていただなんて…」

箒「……以前、アリーナに乱入して来た未確認機が、鈴にターゲットを切り替えた瞬間に突然爆発したという事があったが…
  あの時にも、お前はそのクロックアップとやらを使ったのか?」

矢車「……あぁ」

箒「そうか、やはりな…」

鈴「クロックアップ、ねぇ…。そんなチート兵器が元から装備されてるんなら、出し惜しみなんかせずにもっとバンバン使えば良かったのに。
  アンタ、何で今までそう頑なに使おうとしなかった訳?」

矢車「……強大な力による圧倒的な勝利…。そんなもの、今の俺にはあまりにも眩し過ぎる…
   ただ、それだけの事だ…」

鈴「……何と言うか、いかにもアンタらしいって感じの理由ね…」


セシリア「クロックアップ…素晴らしい能力ですわ!正に、鬼に金棒ではありませんかッ!!
     それさえあれば学年別トーナメントでの優勝は確実!
     ラウラさんに勝つ事だって朝飯前ですわね!お兄様ッ!」

矢車「………」

セシリア「……お兄様?」

矢車「……クロックアップは、使わない」

セシリア「えっ!?」

シャル「そんな…どうして…?」

矢車「クロックアップは全てを置き去りにする…
   そう、聞こえる筈の心の声もな…」

シャル「心の声…それって、もしかしてラウラの…?」

矢車「……俺がラウラに勝ったところで…アイツが俺と交わした口約束を、そう律儀に守るとは限らない。
   ならば…俺が奴の本心を探るために取る方法は、一つだけだ…」

セシリア「その方法とは、一体…?」

矢車「……戦いを通して、ラウラの心の叫びを感じ取る。
   それ以外に、ラウラの心の闇の正体を知る術は…無い」

鈴「……つまりそれって、拳と拳で語り合うって事?」

矢車「……まぁ、そう言う事になるな…」

鈴「ふーん…。なんだか、アンタらしくない感じのやり方ね」

矢車「……アイツが口を割らない以上、他に方法は無い…
   アイツの心に真正面から向き合い、その内に秘められた全てをさらけ出させる…
   その為にも…クロックアップを使用し、一撃で勝負を決めてしまっては意味がない。
   だから…クロックアップは、使わない…」

ラウラ「─ッ!!」バサッ

ガシャー!

ラウラ「矢車想ッ!貴様ッ!!一体どれだけ私の事をコケにすれば気が済むのだッ!?」

箒「ラウラ!?」

ラウラ「私の心の闇とやらを探るために、ワザと手を抜くだと!?人を嘗めるのも大概にしろッ!!」

シャル「ラウラ!そんなに興奮したら傷に障るよ!」

ラウラ「うるさいッ!取り巻き風情が私に意見するなッ!…うッ!」ズキッ

鈴「アンタねぇ!シャルルはアンタの事心配して言ってやってんのに、何よその態度は!?」

ラウラ「黙れ!黙れッ!」

矢車「………」


ラウラ「矢車想ッ!貴様に一体何が分かると言うのだッ!?
    貴様ごときに…この私の一体何がッ!?」

矢車「……あぁ、何も分からないさ…。俺は…お前の過去につて何も知らない…
   だからこそ俺は、お前の心に直接問い質す必要がある。
   お前の心の闇の正体を…。お前の心に色濃く残る、キズ跡の真実を…」

ラウラ「─ッ!!ふざけるなァーッ!!」

矢車「………」

ラウラ「私は決してッ!貴様なんぞに心を開いたりなどしない!!
    教官を…織斑教官を苦しませた、貴様などにッ!!」ダッ

シャル「あっ!ラウラッ!」


ダッダッダッダッダッ…


箒「出て行ったか…」

鈴「ほっときなさいよ、あんな奴」

シャル「で、でも…。怪我だってしてるのに…」

鈴「心配しなくても大丈夫よ。私らと違って大した怪我じゃないんだから」

セシリア「そうですわ!あんな人…相手をするだけ無駄ですわッ!」

鈴「……想、アンタもアンタよ。
  何であんな奴の事なんかを、そんなに気に掛ける訳?」

矢車「……別に、深い意味はない。単に…アイツの抱えている心の闇に、興味があるだけだ…」

鈴「興味、ねぇ…」

シャル「………」


~矢車さんの部屋~

矢車「ほら、茶だ…」コトッ

シャル「………」

矢車「シャルロット…?」

シャル「……お兄ちゃん、あのさ…
    本当の事を、話してくれる…?」

矢車「……何?」

シャル「お兄ちゃんが、ラウラの事をあんなにまで気に掛ける理由…
    あの子の闇に興味があるって言うお兄ちゃんの話も、嘘ではないんだろうけど…
    理由は、それだけじゃないんでしょ?」

矢車「………」

シャル「お兄ちゃん、本当はラウラの事を助けてあげたいって…そう思ってるんじゃないの?
    心を閉ざして、何もかもを諦めていた僕にそうしてくれたように…
    ラウラの心に手を差し伸べて、救ってあげようと…」

矢車「………」

シャルル「お兄ちゃん…?」

矢車「……今のラウラは、あの頃のアイツによく似ている」

シャル「アイツ…?」

矢車「地位も名誉も…何もかもを失い、絶望の縁に立ち…
   それでも尚、かつての栄光を諦めきれずに
   それを取り戻そうと必死に藻掻いていた頃の、アイツに…」

シャル(アイツって、まさか…)

シャル「……それって、影山さんのこと?」

矢車「……あぁ…」

シャル(影山さん…。僕がお兄ちゃんと出会うずっと前に亡くなったっていう、
    お兄ちゃんの、昔の相棒…)


シャル「……そっか、そうだったんだ…
    だからラウラの事がほっとけなかったんだね。お兄ちゃん」

矢車「……かもな…」

シャル「……ちょっと、安心したよ」

矢車「あっ?」

シャル「何て言うか…いかにもお兄ちゃんらしいって感じの理由でさ」

シャル(やっぱり、お兄ちゃんは優しいんだ…)

矢車「……はぁー…」ズズッ…


~トーナメント開催当日 校門にて~

ブォーン…キィーッ

運転手「到着です。警視総監」

加賀美陸「うん。ご苦労様」ガチャ

スタッ

加賀美陸「ここが、IS学園か…」

───

千冬「ようこそおいで下さいました。加賀美陸警視総監」ペコッ

千冬「わたくし、1年1組担任の…」

加賀美陸「織斑千冬さん…だよね?あなたの話は、常ずね伺っているよ」

千冬「………」

加賀美陸「君も、色々と大変だったみたいだね…」

千冬「は…?」

加賀美陸「………」ヌッ

加賀美陸「……白騎士事件の時は…」ボソッ

千冬「─ッ!??」ビクッ!

加賀美陸「………」

千冬(こ…この男ッ!)

加賀美陸「織斑先生。ちょっと、お願いしたい事があるんだけど…」



~アリーナ~

ワイワイ ガヤガヤ…

シャル「す…凄い数の観客だね!」

箒「あぁ。企業のスカウト、各国の視察等で、学園外から来客者が大勢来ているからな」

矢車「………」

箒(……今の想には、興味の無い話か…)

シャル「あっ!大会の抽選が発表されるよ!」

矢車「……来たか」

バンッ!

シャル「えッ!」

箒「こ…これはッ!?」

箒(ラウラと私がペアだとッ!?しかも対戦相手は…)

矢車「………」

箒(……想と、シャルルのチーム…)

───

ラウラ「ほう…これは好都合だ。待つ手間が省ける」

ラウラ(……この数日間、私はクロックアップに対抗する術を模索してきた…)

ラウラ(いくら矢車本人の口から“クロックアップは使わない”と宣言されたところで…所詮は口約束。
    何時、奴がその口約束を破ってきても可笑しくはない…!)

ラウラ(何百、何千通りもの対抗策を考え、シミュレートを重ねてきた…)

ラウラ(全ては、そう…打倒、矢車想の為にッ!)


\トリックベント/


千冬「おい、矢車」

矢車「あっ?」クルッ

千冬「お前に客人が来ている。至急、応接室に向かえ」

矢車「……客人?」

箒「もう直ぐ試合が始まると言うのに…。何故今になって…?」

シャル「後にしてもらえないんですか?それ」

千冬「多忙の身故に、今すぐにでも会いたいと言うそうだ…。加賀美警視総監は」

矢車「……何?」ピクッ

箒「け…警視総監ッ!?」

箒(警視総監と言えば、日本警察のトップに位置する人間…
  そんな人物が、何故想と面会を…?)

箒(警視総監…警察……はッ!!)

箒「想ッ!まさかお前ッ!」

矢車「あっ?」

箒(ま…まさか想に限って…。いや、それならば全てに合点がいく!)

箒(想がこんなにまでやさぐれてしまった事にも…
  コイツが、自分の過去について私に語りたがらない理由もッ!)

箒「それだけは…それだけはないと思っていたのにッ!」

シャル「ほ…箒?」

箒「想ッ!お前が…お前がッ!」

矢車「………」

箒「前科持ちだったなんてッ!」

矢車「……は?」

シャル「えッ!?」


箒「お前と警察との接点なんて…それ以外に思い付くかッ!
  恐らくその警視総監は…想がちゃんと更正出来たかどうかを確認するために面会をッ!」

シャル「え、えぇッ!?」

矢車「箒、お前な…」

シャル「お…お兄ちゃんッ!どんな過去があっても、僕はお兄ちゃんの事を見捨てたりなんかしないからね!」

矢車「……お前らなァ…」

千冬「……勘違いするな。別にコイツは前科持ちでも何でも無い」

箒「……えっ?」

千冬「警視総監とは、単に個人的な付き合いのある古い知り合いと言うだけだ」

箒「……よ…良かった…。私はてっきり…」

矢車「………」


千冬「……という訳で、矢車。何時までも客人を待たせている訳にもいかん。直ぐに応接室へ向かえ」

矢車「はぁー…」スッ

スタスタ…

シャル「箒。僕達は先にアリーナの方へ行こう」

箒「………」

シャル「……箒?」

箒(個人的な付き合い…。それはそれで気になる話ではあるな…)

箒(……もしかしたらその警視総監…想の過去に一体何があったのか、知っている事があるのかもしれん…)

箒(……よし!)

箒「シャルル、お前は先にアリーナへ行っててくれ。私は野暮用を思い出した」

シャル「えっ!?」

箒「心配するな。直ぐに戻る…」ダッ

シャル「あっ!ちょっと箒ッ!?」

ダッダッダッ…


スタスタ…

矢車「………」ピタッ

~応接室~

矢車(ここか…)

矢車「………」ガチャ

バタンッ

箒「………」ヌッ

箒(……盗み聞きなど、武士として恥ずべき行為だが…)スタ…スタ…

箒(致し方あるまい。アイツの…想の過去を知るためだ)ピタッ


───

バタンッ

矢車「………」


加賀美陸「久しぶりだね……矢車くん」


矢車「加賀美、陸…」


矢車「加賀美陸……。仮面ライダーガタック、加賀美新の実の父親であり、ZECTの元総監…
   いいよなァー…アンタは。ZECTが崩壊した後も、表の顔である警視総監の立場に甘んじる事が出来て…」

加賀美陸「………」

矢車「俺は全てを失って、このザマだ…
   たった一人の相棒も守れずに…惨めに生き続けて…」


箒(……全てを、失った?)


加賀美陸「……影山くんの件は、残念だったね…」

矢車「………」

加賀美陸「しかし、分からないなぁ…」

矢車「……あっ?」

加賀美陸「いや、失敬…。闇の住人を自負する今の君にとって、この学園はあまりにも似つかわしくない場所であるというのに…
     何故、矢車くんはこの学園に入学して来たのか?と、疑問に思ってね…」

矢車「………」

加賀美陸「君がISを起動させたという点は、さして驚く事ではなかったけれども…
     君がこのIS学園で学園生活を送っていると聞いた時は、流石の私もビックリしたよ」


箒(なッ!?“さして驚く事ではなかった”だと!?
  想は…男の身でありながらもISを動かせる、例外的な存在であるというのに!
  やはりこの警視総監…想の過去について、何か重要な事を知っているッ!)


矢車「……アンタには分からないだろうな…
   光に満ち溢れたこの学園に潜む、ドス黒い影の部分を…」

加賀美陸「……フフッ、成る程ね…
     君には、君なりの考えがあって、この学園に入学して来た…という訳か…」

矢車「……アンタ、こんな与太話をするためだけに、わざわざ俺を呼び出したのか?」

加賀美陸「あぁ、ごめんごめん。話が逸れてしまったね…
     では、本題に移ろうか」

矢車「………」


箒「………」ゴクリッ…


加賀美陸「矢車くん。私が君を呼び出したのは、他でもない。
     ある問いに対する、君の意見を聞くためなんだ…」

矢車「……意見?」

加賀美陸「ISは、はたしてワームの脅威に対抗し得る兵器であるのか否か。
     その是非についての意見を、ね…」



箒(ゼクト?ワーム?……この二人、一体さっきから何の話をしているんだ…?)


矢車「………」

加賀美陸「君の言いたい事は、分かるよ…
     ワームは既に、ZECTを始めとしたライダー達の手によって滅ぼされたというのに、何故今更…とね」

加賀美陸「しかし…ワームは一匹残らず全滅したと、本当にそう言い切れるかな…?」

矢車「何…?」

加賀美陸「ワームの擬態能力は完璧なものだ。一度人間の姿へ擬態されてしまったら最後、それを看破するのは非常に難しい…
     ワームに対抗出来る唯一の組織であるZECTが崩壊した今となっては、それを見破る術は…無いに等しいとも言える。
     仮に…運よく生き残ったワーム達が、擬態能力を利用してその身を隠し
     今も尚…人類への逆襲を虎視眈々と企てていたとしても…何ら不思議な話ではない。
     そうは…思わないかね?」

矢車「……ワームの生き残りが、今もまだ存在している…ってか?」

加賀美陸「……断言は出来ないけれど、その可能性は…否定出来ないね」


矢車「………」

加賀美陸「……出来る事なら、かつてのようにZECTの力を用いて
     ワームの残党についての大規模な捜索を行いたいところだけど…。今となっては、それも叶わないしね…」

加賀美陸「……となれば、今の私に出来る事は一つしかない…」

矢車「………」

加賀美陸「来るべきワーム残党との決戦の日に備え、可能な限りの戦力を確保する事だよ。
     新たなマスクドライダーシステムを開発する事が出来ない今となっては、
     現存する兵器の中から、その代用となる代物を探し出すしか…方法はないけどね」

矢車「……今回の視察は、その代用品を見つけ出すための視察だった…って訳か?」

加賀美陸「……そう。今の私は警視総監としての立場ではなく、
     ネイティブの傀儡でありながらも…ZECTを創設し、人類の存亡を掛けて戦った一人の男として、この場に立っている」

矢車「………」

加賀美陸「だからこそ、私には見極める必要があるのだよ…
     元ZECT兵器開発部所属…篠ノ之束博士が、マスクドライダーシステムの技術を盗用し完成させた…
     このISと言う名の超兵器が、如何なる力を秘めているのか…。その真価を…ね」



箒「何ッ!?」ビクッ!

箒(ISが…盗んだ技術を元に開発されていただと!?)


矢車「……“ちょこっと参考にしただけ”とか言ってたがな…あの女」

加賀美陸「……フフッ、成る程。彼女らしい言い分だね…
     しかし技術面から見ても、ISがマスクドライダーシステムに限りなく近い存在である事は事実…
     それ故に…この学園の誰もが、キックホッパーの事をISだと信じて疑わないでいる」

矢車「………」

加賀美陸「君が男の身でありながもISを扱えるという事にも、それは少なからず関係しているだろうね。
     ゼクターの資格者であるが故の、体質的な問題なのか…。それとも、篠ノ之博士が何らかのプログラムを意図的に組み込んだのか…
     その真意は、定かではないけれど…」

矢車「………」

加賀美陸「……まぁ、ブラックボックスの固まりであるマスクドライダーシステムの技術、その全てを把握する事は
     流石の彼女にも、出来なかったようだけどね…」



箒(キックホッパーがISでない!?マスクドライダーシステム!!?
  何なんだ……想とこの警視総監は、一体何を隠しているんだッ!?)


加賀美陸「さて、話を元に戻すとして…君はどう思っているのかな?
     対ワーム兵器としての、ISの是非について…」

矢車「………」

加賀美陸「……と、その答えを聞く前に…」チラッ


箒「………」


加賀美陸「……ドアの向こうの君」


箒「えッ!?」ビクッ!


加賀美陸「そろそろ…出て来てもいいんじゃないかな?」


箒(ば…バレてたッ!?)


矢車「………」スタスタ

ガチャ

箒「わッ!」

矢車「……箒、お前…」

加賀美陸(んっ?箒…?)ピクッ


箒「……あ、あの…想…」

矢車「……はぁー…」スタスタスタ…

加賀美陸「……あれ?矢車くん、何処へ行く気だい?」

矢車「……ISの事なら、俺なんかよりもこの女の方がよっぽど詳しい。
   ISについて知りたいのなら、この女から聞けばいい…」スタスタ

加賀美陸「……困るなぁ…。私はゼクターの資格者たる君の意見が聞きたかったんだけど…」

矢車「………」クルッ

バタンッ!

箒「あっ!おい想ッ!」

加賀美陸「………」

加賀美陸(全く…彼らしいと言えば、彼らしいね…)


箒「あっ!おい想ッ!」

加賀美陸「……君はもしかして、篠ノ之博士の妹さんの…」

箒「えっ?」

加賀美陸「篠ノ之、箒さん…?」

箒「……えぇ。姉の事をご存知で?」

加賀美陸「うん。よーく知ってるよ…。彼女は昔、私の管轄する組織の下で、技術者として働いていたからね」

加賀美陸「その当時は矢車くんも、随分と彼女のお世話になっていたようでね…」

箒「そ、想がッ!?」

加賀美陸「………」

箒(ま…間違いないッ!この人は、私の知らない想の過去を知っているッ!)

箒「け…警視総監殿ッ!」

加賀美陸「んっ?」

箒(ゼクトについて、マスクドライダーシステムについて、気になる事は山ほどあるが…
   私が一番知りたい事は、依然として変わらない…!)

箒「教えて下さい!何故、矢車想はあんなにまでやさぐれてしまったのですかッ!?」


加賀美陸「………」

箒「貴方なら知っている筈ですッ!想の身に何が起こったのか…
  何故アイツが、地獄の住人を自称するような奇人になってしまったのかをッ!」

加賀美陸「……そう言えば、君と矢車くんは幼なじみ同士だったね。
     矢車くんからは、何も聞かされていないの?」

箒「……はい。何一つ…」

加賀美陸「……そっか」

箒「………」

加賀美陸「君からしてみれば、さぞやショッキングな出来事だったろうね…
     親しかった友人が、別人のように様変わりしていたのだから…」

箒「……アイツは、本当に変わってしまいました…
  私の知ってる矢車想は、もっと社交的で、リーダーシップがあって、仲間想いで…」

箒「……尊敬出来る奴でした」

加賀美陸「………」

箒「しかし、今の想は違います…。かつての面影は微塵も無くなり、外見も内面も……別人のように変わり果ててしまいました…
  少なくとも、一年前まではそうではなかったようなのですが…」

加賀美陸「………」

箒「……もしかして、先程の二人の会話の内容と
  想がああなってしまった事とは、何か関係があるのでは!?」

加賀美陸「……さぁ?どうだろうね…」

箒「なッ!教えて下さい警視総監ッ!私はどうしても知りたいのです!いや、知る必要がありますッ!
  想があんな風になってしまった原因を知るためにも!
  アイツを……あの頃の矢車想に戻すためにも!!だからッ!!」



加賀美陸「……オリオンとサソリ、だったかな?」

箒「……は?」

加賀美陸「海神ポセイドンの息子オリオンは、腕の立つ猟師であったが、
     その傲慢な性格が災いし…女神ヘーラーの怒りに触れてしまった。
     そして…女神ヘーラーはオリオンの下に毒サソリを使わせ、オリオンを亡き者にしたという…」

箒「……仰ってる意味が、よく分からないのですが…」

加賀美陸「………」スッ

スタスタ…

箒「……?」

加賀美陸「矢車くんも又ッ!」ズイッ

箒「ひッ!?」ビクッ!

加賀美陸「……己の傲慢さによってその身を滅ぼした戦士の一人、という事だよ…」

箒「……身を滅ぼした、戦士…?」

加賀美陸「………最も、彼が刺されたのはサソリではなく、“蜂”だけどね…」

箒「は……ハチ?」


ピンポンパンポーン

《──間もなく、学生別トーナメント開催のお時間です。出場選手は至急、第3アリーナに集合して下さい。繰り返します──》


加賀美陸「……どうやら、時間が来てしまったようだね…」

箒「えっ!?あ…あのッ!」

加賀美陸「心配する事はないよ。君にも何れ、全ての真実を知る日が必ず来る…」

加賀美陸「そう…君が“選ばれし者”ならば、ね…」

箒(……選ばれし、者…?)

加賀美陸「さて、私も観覧席の方へ行くとしよう…
     健闘を祈るよ、篠ノ之さん」

箒「は…はぁ…」

加賀美陸「それでは、さよなら…」スタスタ…

バタンッ

箒「………」

箒(……手掛かりを掴むどころか、尚更謎が増えただけだった…)




矢車「………」スタスタ

矢車「……ただいま、シャルロット…」

シャル「あっ!お帰りなさい、お兄ちゃん!試合始まっちゃうよ?」

矢車「……あぁ…」スタスタ

───

矢車「………」パカッ

ピョーン ピョーン ピョーン

パシッ

矢車「変身…」カシャ

──HENSHIN──

キュイキュイキュイーン

──CHANGE! KICK HOPPER!──

シャル「よし!」キュイーン

(シャル、IS展開)

シャル「行こう、お兄ちゃん!」ブワッ

矢車「あぁ…」ダッ



~アリーナ~

ラウラ「……始める前に確認しておくが」

矢車「………」

ラウラ「お前と交わした交換条件…よもや、忘れたとは言わせまいぞ」

矢車「……あぁ、分かってる。お前に負けたら、俺は…大人しくこの学園を去る」

シャル「……お兄ちゃん…」

箒「………」

ラウラ「フン…二言は無いぞ、矢車」

矢車「………」

シャル「お兄ちゃん…ここは先ず、二人がかりでラウラを…」

矢車「………」スッ

シャル「……お兄ちゃん?」

矢車「手を出すな。ラウラの相手は、俺一人でやる…」

シャル「えッ!?」

矢車「………」

シャル「そんな!無茶だよッ!だってラウラにはAICが!」

矢車「……聞こえなかったのか?シャルル」

矢車「ラウラの相手は、俺がやる」

シャル「……お兄ちゃん…」

矢車「………」

シャル「……分かった。僕、お兄ちゃんを信じるよ」

矢車「………」

シャル「だから…絶対に勝とうね!お兄ちゃんッ!」

矢車「……あぁ…」


~モニタールーム~

山田「いよいよですね…。矢車くん達と、ラウラさん達との試合…」

千冬「あぁ…」

加賀美陸「……これは、随分と面白い対戦カードが揃ったね…」ヌッ

山田「えッ!?加賀美警視総監ッ!?」ビクッ

加賀美陸「やぁ…」

山田「どど…どういう事ですかッ!?ここは関係者以外立ち入り禁止の筈ですよ!?」

加賀美陸「いやね…折角の矢車くんの晴れ舞台だから、特等席で見たいと思ってね。
     織斑先生に、無理言ってお願いしたんだよ…」

加賀美陸(……観覧席で見ているだけじゃ分からない情報も、
     ここに居れば、全て知る事が出来るからね…)

山田「えッ!?本当ですか織斑先生!?」

千冬「……まあな…」

山田(そんな…あの規律に厳しい織斑先生が、どうして…?)

千冬「………」

加賀美陸「……白騎士事件……」ボソッ

千冬「─ッ!!」ビクッ!

加賀美陸「……フフッ、無理言ってごめんね。織斑先生…」

千冬「…グッ!」プルプル…


ブー

『試合開始』

シャル「箒ッ!君の相手はこの僕だよ!」ブワッ

ズダダダダッ!

箒「何ッ!?」

ドガガガガンッ!

箒「─ッ!!くッ!」


ラウラ「ほぉ…。てっきり、二人がかりで私に挑んで来るのかと思っていたが…
    どうやら、一対一の真っ向勝負がお望みのようだな…」

ラウラ(何のつもりかは知らないが…これは好都合だッ!)ガチャ

矢車(……来る)ダッ

ラウラ「食らえ矢車ッ!」ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

矢車「………」タンッ タンッ ピョーン

ドゴォ! ドゴォ! ドゴォ!

ラウラ(チッ!相変わらず猪口才な…)

ラウラ(だが、これで良い…。奴のISは射撃武器が一切装備されていない、肉弾戦のみという仕様だ。
    このまま一定の距離を保ちつつ、遠距離からの攻撃に徹していれば、奴からの反撃の恐れはない…)

ラウラ(警戒すべきは“クロックアップ”だ…。あの力は、強力過ぎる…!
    無策で挑めば、前回の二の舞になる事は必至……だがッ!)

ラウラ「今の私には秘策があるッ!」ヒュンヒュンヒュンヒュン


矢車「何…?」

矢車(これは…ワイヤー?)

ラウラ(先ず、ワイヤーブレードを矢車の周囲に展開する)

ヒュンヒュンヒュンヒュン…


山田「ラウラさんのISから放たれたワイヤーが、矢車くんの周りを取り囲んで…」


ラウラ(ワイヤーは主に相手を拘束し、動きを封じ込めるために使われるが
    今回は、ワイヤーそのものを武器として利用する!)

ヒュン…ヒュン…ヒュン…ヒュン…

矢車(ワイヤーを、鞭のようにしならせて…)


加賀美陸「成る程、ね…」


ビュン! ビュン! ビュン! ビュン!


山田「矢車くんの下に、振り払われた無数のワイヤーがッ!」


矢車「……はぁー…」タンッ タンッ

ドゴァ! ドゴァ! ドゴァ! ドゴァ!

ラウラ(外したか…まぁ良い。この攻撃は、ちょこまかと走り回る奴の動きを足止めするための、牽制にしか過ぎない…)

ビュン! ビュン! ビュン! ビュン!

矢車(……はぁー、まだ追って来るのか…)タンッ タンッ ピョーン

ラウラ(矢車の周囲に展開された無数のワイヤーブレードは、絶えず奴に攻撃を与える。
    地走とジャンプしか移動方法のない矢車のISでは、四方八方から繰り出されるワイヤーブレードの波状攻撃を回避するのにも限度がある。
    必然的に、奴が進む事の出来るルートは一定のルートに限定される…)

ラウラ「そこに透かさずッ!」ズドンッ!ズドンッ!

矢車「チッ…セヤッ!」ブンッ ブンッ

バシィ!バシィ!

ドゴォーンッ! ドゴォーンッ!

ラウラ(フンッ、蹴りで捌いてみせたか…。しかし…その行動は裏を返せば、防御に徹する事しか出来ず
    満足に身動きが取れないという証拠ッ!)


矢車(……面倒だ、一旦ラウラから距離を取るか…)タンッ ピョーン

ラウラ(フッ…読めるぞ!貴様の退路ッ!!)

ラウラ「逃げようとしても無駄だッ!」ズドンッ!ズドンッ!

矢車「……チッ」ブンッ ブンッ

バシィ! ドゴォーンッ! バシィ! ドゴォーンッ!

ラウラ(ワイヤーブレードの回避に専念するあまり、奴は進行ルートを先読みして放たれたレールカノンまでには気が回らず、直撃コースに入ってしまう。
    砲弾を捌けている今の内はまだ良い…。しかし、そんな急場凌ぎの芸当など…長く持つ筈がない。直ぐに限界が来るだろう!)

ラウラ(……だが、矢車の事だ…。いずれ、この一方的な展開に痺れを切らし、
    クロックアップを使って来るに違いない…)

ラウラ(しかし、ワイヤーブレードの波状攻撃によって退路を限定された今の状況では、奴の進めるルートはたかが知れている…
    いくら矢車が超スピードで動けようとも…私が奴の進行ルートを未然に予測している以上、
    それらを先読みし、反撃のためにこちらに接近して来た矢車を、AICの停止結界に封じ込める事は容易い…
    いくら機動力に優れているキックホッパーと言えど、その動きさえ封じ込めてしまえばこちらのもの!勝ったも同然だッ!)


加賀美陸(……と、今の彼女は考えているところだろうね…)

加賀美陸「……うん。理に叶った戦法ではあるね…」

加賀美陸(自らの運動エネルギーが加わる事により、衝突の際に受けるダメージが増幅してしまう高速移動中の者にとっては、
     通常ならダメージの低い只のワイヤー鞭打ち攻撃ですらも、致命傷になり得てしまう。
     それ故に、高速移動を行う者はワイヤーの展開されていないルートを選ぶしかないが…
     それらの進行ルートが彼女に先読みされている以上、飛び交う弾丸すらも停止させる
     強力な停止結界を発生させるという、AICとやらに動きを止められてしまうのは…確実。
     そうなってしまったら、もう勝負は決まったも同然…)

加賀美陸(……だけど彼女は、クロックアップという能力が通常の高速移動とは
     根本的な面で違っているという点を、見落としているようだね…)


加賀美陸(クロックアップは足を速くする能力ではない…
     タキオン粒子を操作し、通常の時間軸から離れた別の時間軸に干渉、それに乗り移る能力である。
     使用者そのものが別の時間軸に乗り移っている以上、通常の高速移動とは違い、使用者に加速による負荷は掛からない。
     いかに彼女が大量のワイヤーを振るって進路を塞いだとしても、クロックアップの使用者は難なくそれを掻い潜る事が出来るだろう…)

加賀美陸(それに…相手はあの矢車くんだ。
     彼が相手では、小手先だけの彼女のクロックアップ対策など、いとも簡単に看破されてしまうだろうね…)

加賀美陸(もし矢車くんがクロックアップを使用してしまえば、勝敗は…一瞬の内に決してしまうだろう)

加賀美陸(……もっとも、今の矢車くんにクロックアップを使う気があれば、の話だけどね…)


矢車(はぁー…鬱陶しい…)

矢車「ライダーキック…」カシャカシャ

──RIDER KICK!──

矢車「セェヤッ!」ブンッ

ラウラ「おっと!」クイッ

バッ

矢車(……チッ、ワイヤーを巻き戻したか…)

ラウラ「フン、無駄な足掻きを…」シュルシュルシュル…

矢車「………」

ラウラ「全く、お前も馬鹿な男だ…
    出し惜しみなどせず、もっと有効にクロックアップを使えば
    今のこの状況も、少しはマシになるというのに…」

矢車「……言った筈だ。お前の心の叫びを聞くためにも、クロックアップは使わないってな…」

ラウラ「……貴様…」ヒュンヒュンヒュンヒュン

矢車「………」

ラウラ「何時までも減らず口をッ!」ビュン! ビュン! ビュン! ビュン!

矢車「………」ダッ

ラウラ「逃がすかァーッ!」ガチャ

ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!

矢車(……周りのワイヤーが邪魔で、身動きが取りづらい…
   砲弾は、全て捌くしかないか…)

矢車「セヤッ!ハァ!ラァ!」ブンッ ブンッ ブンッ

バシィ!バシィ!バシィ!

ビューン!

矢車(……チッ、最後の1発は捌ききれないか…。ガードで凌ぐ…)グッ

ドゴォーンッ!

矢車「クッ…!」ドサッ

ラウラ(よし!命中だッ!!)グッ



箒「なッ!想ッ!!」

箒(想が…直撃を食らったッ!?)

シャル「人の心配をしてる暇なんかないよ!箒ッ!」ブワンッ

箒「何ッ!」

箒(シャルルの奴、いつの間に私の懐に!?)

シャル(ブレッド・スライサーで、直に切り裂くッ!)

シャル「だあッ!」ブンッ!
箒「─ッ!シャルル!?」ブンッ!

ガキィーン!

シャル「ぐっ…!」グググググ…

シャル(鍔迫り合い、か…!)

箒「シャルルお前ッ!想の奴が心配じゃないのか!?
  アイツは…ラウラに負けたらこの学園から出て行くと言っているのだぞッ!!」グググググ…

シャル「あぁ!僕だって心配だよッ!お兄ちゃんの事が!」ググッ

シャル「お兄ちゃんがラウラに負けたら、この学園から居なくなっちゃうだなんて…
    考えただけでも、怖くて怖くてたまらないよ…!」

シャル「ずっと一緒にいてくれるって、約束してくれたのに…それなのに…」ググッ

箒(……シャルル、お前…)


シャル「でもッ!!」グイッ!

箒「うッ!」ググッ…

箒(な…何てパワーだ…!)

シャル「お兄ちゃんは“絶対に勝つ”って、僕に約束してくれたんだッ!!」

箒「な…何…?」

シャル「お兄ちゃんは、何もかも諦めていた僕に手を差し伸べてくれた!
    地獄兄妹の一員として、こんなどうしようもない僕の事を受け入れてくれた!だからッ!!」ググッ

カキーン!

箒(なッ!刀が弾かれ─)

シャル「だから僕はッ!お兄ちゃんの事を最後まで信じ抜くって、決めたんだァーッ!!」ガシャ

箒(しまッ!)

シャル「シールド・ピアースッ!だぁッ!」ガチャ


ドゴァッ!ドゴァッ!ドゴァッ!ドォゴワァーッ!!


箒「──ッ!!がハァッ!!」ブワッ

ドグワシャーッ!

シャル「………」

箒「くっ……」キュイーン

(箒、IS強制解除)

箒(……私の負け、か…)

シャル「……ごめんね、箒」

シャル(さぁ、次はお兄ちゃんの番だよ)

シャル(……絶対に…絶対に勝ってね!お兄ちゃん!)


───

矢車「………」ムクッ

ラウラ「ほぅ…。流石に1発だけではくたばらないか…」

矢車「………」

ラウラ「……まぁいい。貴様のISが朽ちるまで、何発でも食らわせてやるッ!」

矢車「………」ダッ

ラウラ「逃げる気か。惨めだな…
    最も…ワイヤーブレードの波状攻撃から逃れる術はないがなッ!」

矢車「………」スッ タンッ ピョーン

ラウラ「逃げてようとしても、無駄だッ!」ビュン! ビュン! ビュン! ビュン!

ラウラ(手に取るように分かるぞ!貴様の退路ッ!)

矢車「………」



矢車(……あの大砲、発射の度にいちいちバカデカい薬莢を排出する必要があるのか…
   薬莢が、あたり一面に転がっている…)

矢車「………」


ラウラ(さぁ…どうする矢車?痺れを切らしてクロックアップを使って来るか?
    それとも…苛立ちのあまり頭に血が上り、我武者羅に突っ込んで来るか?
    どちらにしろ…近接戦闘しか能のない奴は、私に接近する必要がある。
    奴が接近して来たところですかさずAICを使えば…私に負ける道理はないッ!)



矢車「………」ピタッ

ラウラ(動きを止めた?諦めたという事か…?)

ラウラ(……いや、奴にクロックアップという切り札がある以上、油断は出来ない…!)

ラウラ「攻め方は変えないぞ!先ずはワイヤーブレードで、貴様の退路を断つッ!」

ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!

矢車「………」

ラウラ(さぁ!もう後はないぞッ!
    クロックアップを使うか、大人しく砲弾の餌食となるか…
    二つに一つだッ!さぁ…選べッ!矢車想ッ!!)ガチャ

矢車「……甘いな、ラウラ…」ゴロ…


箒(……何だ?あの想の足下に転がっている物体は…?)


矢車「………」スッ


箒(あれは……まさかッ!)


矢車「ライダーキック…!」カシャカシャ

──RIDER KICK!──


矢車「ハァッ!」ブンッ

バゴーンッ!

ラウラ(何ッ!?)

ビューン!

ラウラ(何だ!?何かがこちらに高速で突っ込んで来るッ!?)

ビューン!

ラウラ(馬鹿なッ!キックホッパーに射撃武器は装備されていない筈だッ!!
    奴は一体何を発射したんだッ!?)

ビューンッ!

ラウラ(避けられないッ!ここはAICで防ぐしか…!)

ラウラ「くッ!」バッ

バシィ!

ラウラ(─ッ!!これは、レールカノンの薬莢ッ!?)



加賀美陸「流石だね、矢車くん…」

加賀美陸(ライダーキックのパワー+タキオン粒子を上乗せして放たれた薬莢…
    “ただ蹴り飛ばしただけ”の薬莢にしか過ぎないが、その威力は絶大。まともに当たれば致命傷にもなり得る。
     AICで動きを止めなければ、ボーデヴィッヒさんも今頃危なかっただろうね…)


矢車「………」ズザザッ!

ラウラ「なッ!?」


加賀美陸(……最も、彼にとってあの攻撃は単なる“足止め”にしか過ぎなかったようだけど…)



ラウラ(しまったッ!!薬莢に気を取られている隙に矢車に背後を…)

矢車「………」ゲシッ

矢車(足は、添えるだけで良い…)カシャ


──RIDER JUMP!──


ラウラ「なッ!?」

ドシューンッ!!

ラウラ「わあああぁぁぁぁぁぁッ!!!?」ビューン


箒「なッ!ラウラが一瞬の内に吹き飛ばされた!?」

箒(ライダージャンプを…地面ではなくラウラに向けて放ったのか!?)


ビューン…

ドゴアァーン!!

ラウラ「がぁッ!!」


シャル「ラウラがアリーナの壁面に叩き付けられた!」


ラウラ「うっ…」パラパラ…

ラウラ(不味い…!身体が壁にめり込んで、身動きが取れな…)

ラウラ「ハッ!」

矢車「………」ブワッ


山田「跳躍した矢車くんが、ライダーキックの姿勢に!」


矢車(……決めるぞ、ラウラ…)

矢車「ライダーキック…!」カシャ

──RIDER KICK!──

矢車「ゼァーッ!」ブワンッ

ドゴォーッ!

ラウラ「──ッ!!がァーッ!!」バチバチィ

矢車(……連続だ…)カシャ

ドンッ!

矢車「ゼャーッ!」ブワンッ

ドゴォッ!ドゴォッ!ドゴォッ!ドゴォッ!ドゴォーッ!



───

ラウラ(負ける…のか?この私が…あんな奴に…?)


千冬『“苦悶に満ちた日々を送っている”だと?
   私は別に、今の環境に不満など感じてはいない』


ラウラ(何を仰っているのですか教官?矢車想は、あなたの事を苦しめる憎き敵…
    そう…倒すべき敵ではありませんか…!)


千冬『それに…問題児の面倒を見るというのも、存外悪いものではない』


ラウラ(……それなのに、何故なのですか?何故あなたは…)


千冬『手に余るバカであればある程、それだけ叩き概がある…と言う事だ』


ラウラ(……そんなに笑顔で…)


ラウラ(──ッ!!憎いッ!私は奴が…矢車が憎いッ!!)

ラウラ(教官の事を散々苦しめておきながら、教官に許されているアイツが憎いッ!)


──《願うか?汝、力を求めるか?》──


ラウラ(力……そうだ、力だッ!私は力が欲しい!!
    奴を倒せるだけの力!それが欲しいッ!!)

ラウラ(矢車想に制裁を!奴に裁きの鉄槌をッ!!)

ラウラ(私に……力をッ!)


───

ドゴアァーッ!

矢車「……ん?」バッ

スタッ

矢車(……ラウラの様子が…)


ラウラ「うッ!うぅ…」モコ…モコ…モコ…

矢車「……ラウラ、お前…」


ラウラ「がッ!ア゛ア゛アァァァァアアッ!!!」ベキベキベキ



箒「なッ!?」

シャル「えッ!?」


千冬「何ッ!?」

加賀美陸「………」



ラウラ「あっ…アァ……」ボコボコボコ


矢車(ドス黒い塊が、ラウラを包んで…)


ラウラ「……あ…ア……」ボコボコボコォ…


矢車(……そうか、成る程…
   ラウラ…これがお前の…)


ボコ…ボコ…ボコ…


VTラウラ『───』グワンッ


矢車「お前の抱える心の痛みの、その化身…か」


文句垂れたい気持ちもわかるけど
そうやってここに書き込んで荒らしの片棒担ぐのはおやめになって
なんなら↓をNGワード登録しとくといいざんす

変な艦これ劇場 -鎮守府狂騒曲- - SSまとめ速報
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変な艦これ劇場



千冬「試合中止ッ!参加選手は速やかにピットに退避!
   山田先生、教員達を現場に急行させてくれ!」

山田「は…はい!」

加賀美陸「……織斑先生、あれは…」

千冬「警視総監殿、あたも念のため避難を…」

加賀美陸「ヴァルキリー・トレース・システム…だよね?」

千冬「─ッ!何故あなたがそれをッ!?」

加賀美陸「……オヤジのしがない無駄知識、と言ったところかな…」

千冬「む…無駄知識…ですか?」

千冬(VTシステムに関する案件は機密事項であるというのに…
   この男…一体何処からその情報を!?)

加賀美陸(……どうやらアレは、織斑先生とそのISにまつわるデータをトレースしたようだね…
     十中八九、ドイツ軍が仕組んだ事だろうけど…)

加賀美陸(……しかし、姿形をそっくりそのままコピーするだなんて、まるで…)

加賀美陸「……ワームの擬態能力のようだね…」


───


箒「想ッ!私達もこの場から退避するぞッ!」

矢車「……退避だと?」

箒「あぁそうだ!退避命令が出た以上、ここに長居する必要はない!」

箒「それに見ろ!」


ビューン

教員1「ターゲットを確認。包囲します」
教員2「了解!」
教員3「了解!」


箒「私達が何もしなくても、事態は勝手に収拾される!
  後の事は教員の人達に任せて、私達は大人しく…」

矢車「………」カチャ


── CLOCK UP ──

カッシスクペが地面へ2人を叩き付け、そのまま喉輪でギリギリと首を絞める。しかしここで兄弟が咄嗟の機転
『ライダージャンプ』    『ライダージャンプ』
通常は空高く舞い上がる為に使う「ライダージャンプ」を、真下からカッシスクペに足を向けて使用
その威力でカッシスクペの身体は空中に吹き飛びます。無防備に落下してくる強敵に兄弟の目が光る!くらえー!
「ライダーキック!」  「ライダーパンチ!」

理樹・佳奈多「「メル友?」」真人・葉留佳「「おう(うん)」」

理樹・佳奈多「「メル友?」」真人・葉留佳「「おう(うん)」」 - SSまとめ速報
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理樹(バスの事故から3ヶ月、

もう雪が降る季節だ。

僕らは悪夢のような出来事から目を覚まし、

今をこうして悠々と過ごしている)

日常系リトバスSSです!

亀更新ですがよろしくお願いします。



── CLOCK OVER ──

バチ!バチバチバチバチィーッ!


教員1「──ッ!!がハッ!!」バチィーッ!
教員2「わァーッ!!」バチィーッ!
教員3「きゃッ!!」バチィーッ!

(教員達、IS強制解除)


箒「なッ!!はぁーッ!?」

プシュー…

矢車「……邪魔なんだよ…お前ら」

箒「そッ!想ッ!お前一体何を!?」

矢車「……ラウラの相手は俺がやる…そう言った筈だ。
   誰にも…手出しはさせない…」

箒「ば…馬鹿者ッ!ラウラとの試合は、とっくに中止になったのだぞッ!
  何故…今になってお前がラウラに戦いを挑む必要がある!?」

矢車「……試合なんて、ハナからどうでも良かったんだよ…」

箒「な…何ッ!?」

矢車「俺は…ラウラの心の闇の正体さえ知る事が出来れば、それで良かったんだ…
   それを探る手段が“試合”から“殺し合い”に変わったところで…関係ない。
   アイツの心に触れるまで、俺は戦いを止めるつもりはない…」

箒(…そ…想…お前……)

箒「お前…それを本気で言ってるのか…?」

矢車「……あぁ、本気だ…」


プツーン…


箒「─ッ!!いい加減にしろ矢車想ッ!!こんな状況で何を言っているんだ貴様はッ!?」

矢車「………」

箒「ラウラの心の闇だと?笑わせるなッ!!バカも休み休み言えッ!!
  いい加減迷惑なんだッ!お前の狂言癖に付き合わされるのはッ!!」

箒「周りの人間の身にもなってみろッ!!
  お前の犯す奇行に、皆がどれだけ迷惑していると思っているんだッ!?
  昔のお前はそんな単純な事も分からないほど馬鹿では無かった筈だッ!!
  それなのに…それなのに今のお前はーッ!」ブンッ

ボコォッ!


矢車「………」

箒「はぁ゛ーッ!…はぁ゛ーッ!…はぁ゛ーッ!…」プルプル…

箒(……本当に…本当に…)

箒「……私の知ってる矢車想は、一体何処に行ってしまったんだ…」ガクッ

矢車「………」

矢車(……箒…)

箒「………」

矢車「……はぁー…」クルッ

スタスタスタ…


箒「ま…待て!想ッ!」

シャル「箒、行かせてあげて…」

箒「なッ!シャルル!お前まで一体何を!?」

シャル「お兄ちゃんは、ラウラの事を助け出そうとしているんだよ」

箒「……ラウラを、助ける…?」

シャル「そう。……僕からは上手く説明出来ないけど…
    お兄ちゃんは今、心を闇に蝕まれて苦しんでいるラウラの事を、救ってあげようとしているんだ。それで…」

箒「─ッ!!それが分からないと言っているんだッ!心の闇だとか何だとかッ!!」

箒「だいたい何故アイツはそこまでしてラウラに執着するッ!?
  アイツだって、自分がラウラから憎まれている事くらい知っている筈だ!
  前に鈴やセシリアがラウラにやられた時なんて、
  アイツは逆上して…ラウラを殺そうとしたんだぞッ!
  それなのに…それなのにどうしてッ!?そんな相手の事を助けたいだなんて思う!?」

箒「私には…私には理解出来ないッ!
  アイツの行動原理が!アイツの考えていること全てがッ!!」


シャル「箒ッ!」ガシッ

箒「─ッ!?」

シャル「理解出来なくたって良い!今は分からなくたって良いッ!
    けどッ!これだけは信じて!」

箒「えっ…?」

シャル「今のお兄ちゃんには…人の心の痛みが分かる、優しい心があるんだって!」

箒「……優しい、心…?」

シャル「……僕は、箒のよく知る昔のお兄ちゃんが、どんな人だったかなんて知らない…」

シャル「でも!その頃のお兄ちゃんは“優しい心”を持った人だったんでしょ!?」

箒(……昔の、アイツ…)


『箒…離ればなれになっても、俺達はずっと仲間だ!』


箒「……そうだ、あの頃の想は気立てが良くて、誰よりも優しくて…。そう、良い奴だった…」

箒「だが、今の想は……」

シャル「……その優しい心は、やさぐれた今になっても何ら変わってはいないんだよ」

箒「……何?」

シャル「誰よりも人の痛みに敏感で、それを黙って見過ごせない…
    だからこそ、お兄ちゃんは何時だって放っておけなかったんだ…
    セシリアの事も、鈴の事も、僕の事も…」

シャル「そして…」クルッ


VTラウラ『───』


シャル「ラウラの事も…」

箒「………」



ザッ…

矢車「……ラウラ…」

VTラウラ『───』


箒(……想、お前…)

シャル「箒、よく見ていて。お兄ちゃんが、今やろうとしている事を…」

箒「………」

シャル「ラウラとだって…きっと分かり合ってみせるよ。
    だって、今この場で誰よりもラウラの事を心配しているのは…他でもない、お兄ちゃん自身なんだから」


VTラウラ『───』

矢車「……ラウラ、それがお前の答えか?
   その姿こそが…お前の真意の表れか?」

VTラウラ『───』スッ

矢車(来る……!)グッ

VTラウラ『───』ブンッ!

矢車「………」タンッ

ドゴォーンッ!

矢車(……早いな、流石に…)


───

山田「な…何て太刀筋…!」

加賀美陸(……あれが…第1回モンド・グロッソを勝ち抜いた、織斑千冬の剣技…か)

千冬「山田先生!他の教員達はまだ現場に到着しないのか!?」

山田「は…はい!こちらのアリーナへの到着まで…もう少し時間が掛かるそうです!」

千冬「急げッ!何としてでも矢車のバカを下がらせるんだ!何なら私自らが出撃して事態の収拾に!」

加賀美陸「良いじゃありませんか織斑先生。この場は矢車くんに任せてみても…」

山田「な…何をバカな事を仰っているんですかッ!?加賀美警視総監!!」

加賀美陸「大丈夫、矢車くんならきっと何とかしてくれるよ。
     それに…今彼とボーデヴィッヒさんとの間に水を刺すような真似をしたら、
     教員だろうが誰だろうが…矢車くんは容赦なく潰しに掛かって来るだろうし…」

山田「そ…そんな…」

加賀美陸「………触らぬ神に祟りなし、だよ…」



千冬(……はぁー…)

千冬「全くあのバカは…。山田先生」

山田「はい!」

千冬「教員達に、ピットでの待機を命じてくれ…」

山田「えっ!待機ですか!?」

千冬「……あぁ。警視総監殿の言う通り、今…あのバカは本気だ。
   本来なら、ひっ叩いてでもアイツをあの場から連れ戻して来るのが筋だが…
   教員に手を出してまでラウラとの相手を頑として譲らないという事は、
   アイツもアイツで…それ相応の覚悟があってあの場所に居るという事だ。
   ならば…アイツの気が晴れるまで、とことんラウラの相手をさせてやれば良い」

山田「し…しかし…」

千冬「無論、万が一の事態に備える必要もある。
   これ以上の戦闘続行は不可能だと私が判断した場合、
   待機中の教員達に矢車の保護とラウラの拘束を行ってもらう」

加賀美陸「……何だかそれって、矢車くんの尻拭いをさせるみたいで、教員の皆さんに申し訳ないね…」

千冬「……言い出しっぺのアンタがそれを言いますか…!」

加賀美陸「フフッ…ごめん…」

千冬(クッ!このクソオヤジがッ!!)イライラ…


VTラウラ『───』ブンッ!ブンッ!

矢車「………」タンッ タンッ

スカッ スカッ

VTラウラ『───』グワッ

矢車(刀を振り上げた。デカいのが来るな…)

VTラウラ『───』ブォンッ!

矢車「………」タンッ

ブワッ


ドゴォーンッ!


VTラウラ『───』

矢車「………」スタッ


加賀美陸(素早い振りだ。剣圧も凄まじい…
     しかし…矢車くんにとって避けられない攻撃ではなかったね…)


矢車(……所詮は、コピーだな…)

VTラウラ『───』

矢車「どうしたラウラ?……俺の事を叩きのめすんじゃなかったのか?
   俺の事が…心底憎いんじゃなかったのか?」

VTラウラ『───』

矢車(返事はなし、か…)

矢車「……今度は、俺から行くぞ」ダッ



VTラウラ『───』ブンッ!


千冬(横薙ぎの剣撃ッ!素早い一撃だッ!!)


矢車「………」グンッ

スカッ


加賀美陸「ほぅ…」

加賀美陸(既の所で、屈んで回避してみせたか…
     矢車くん、完璧に相手の太刀筋を読んでいるね…)


矢車「………」ググ…ビョンッ

グワッ!


加賀美陸(屈みの姿勢から一気に跳躍、そして…)


矢車「らァッ!!」ブンッ


千冬(跳躍と同時に飛び膝蹴りをッ!?)


ドゴォッ!

VTラウラ『───』グラッ…

矢車「ハアッ!セヤッ!!」ブンッ ブンッ

ドゴォッ! ドゴォッ!


加賀美陸(飛び膝蹴りから一転、続けざまに蹴りのラッシュ)


VTラウラ『───…』グラッ…

矢車「デヤァッ!!」ブォンッ!

ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ!

VTラウラ『───…』バチ…バチィ…


加賀美陸(これは、決まったね…)

山田「や…矢車くん…凄い…!」

千冬「……矢車の奴、相当熱が入っているな」

千冬(アイツがここまでやるとは…
   ……ラウラとの因縁があってこその力、か…)



矢車「その程度か…!その程度なのかラウラッ!?
   お前の抱える憎しみは!!お前の中に存在する闇の力はッ!」ブンッ ブンッ ブンッ

ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォーッ!

VTラウラ『───…ッ!』グッ…

プツーン…

VTラウラ『──……ヤ…グル…マ…』

矢車「………」ピタッ

矢車(……来たか)

VTラウラ『──……ヤ…グルマ…ヤグルマ…』ガクガク…

矢車「………」

VTラウラ『ヤグルマァーッ!』ブォンッ!

矢車「………」タンッ

ドゴォーッ!

VTラウラ『ヤグルマァーッ!ヤグルマァーッ!!』ブンッ!ブンッ!ブンッ!


山田「ラウラさんの動きが更に活発に!」

千冬「まさか…暴走かッ!?」

加賀美陸(……高ぶり過ぎた彼女の感情が、システムを凌駕したか…)



矢車(……そうだ、それで良い…
   お前の心に渦巻く感情の……その全てをさらけ出してみせろ、ラウラ…!)

VTラウラ『ヤグルマァーッ!ヤグルマァーッ!!』ブンッ!ブンッ!ブンッ!

矢車「………」タンッ ピョーン

ドゴォーンッ! ドゴォーンッ! ドゴォーンッ!

VTラウラ『ラァッ!』ブォンッ!

矢車(横薙ぎの振りか…間合いは読めている)

矢車「………」タンッ

矢車(後ろに少し下がるだけで、回避は出来る…)

VTラウラ『────』ピタッ

矢車(……何?)


千冬(途中で刀の振りを止めた…?はッ!)

千冬「マズいッ!!避けろ矢車ッ!!」


VTラウラ『ラァーッ!!』ビュンッ!


千冬(刀の振りを止めたラウラが、今度は矢車に鋭い“突き”の一撃をッ!
   さっきの横振りは、矢車に太刀筋を見誤らせるためのフェイントか!?)

千冬「矢車ーッ!」

山田「矢車くんッ!」

加賀美陸「………」



ブォーン!

矢車(……ライダージャンプ…)カシャ

──RIDER JUMP!──

ドシュンッ!

VTラウラ『───…ッ!?』

スカッ

千冬「なッ!」

千冬(ライダージャンプによる急速上昇を利用して、ラウラの突きを回避してみせたかッ!)

加賀美陸「……次の一撃で、勝負が決まる…」


VTラウラ『───…ッ!!』

矢車「ライダーキック…!」カシャ

──RIDER KICK!──

矢車「ゼェヤーッ!!」ブワンッ!

VTラウラ『─ッ!!ヤグルマァーッ!!』ブォンッ!


バジィィーンッ!!


千冬(矢車の放ったライダーキックと、ラウラの振るった斬撃が激突し、競り合いにッ!!)


バリバリバリバリィ!!

矢車「ハァーッ!」

グッ

矢車「ゼァーッ!!」ググッ!

VTラウラ『──ッ!!』グッ…


千冬「矢車がラウラを押し切って!」


矢車「ラウラァーッ!」グワァーッ!

ラウラ『──ッ!!?』


加賀美陸(……決まった)


バシィーッ!

ドグワァァーンッ!!

そうだな

「・・・今、誰か俺を笑ったか・・・」


概要

作品中には珍しく、マスクドフォームを持たずに、直接ライダーフォームに変身する特異なシステムを持つ(相棒的存在であるパンチホッパーも同様)。
ZECTの精鋭部隊『シャドウ』の元リーダーであり、かつての仮面ライダーザビーの有資格者であった矢車想が変身する。
モチーフはショウリョウバッタ。



基本データ

身長 192cm
体重 93kg
必殺技 ライダーキック【威力:20t】(比:カブト19t)


 全身を緑色の装甲で包んだライダーで、名前通りにキックに特化した攻撃を得意とする。
 利き足にはキック力を増幅させるジャッキのようなハンマー機構(アンカージャッキ)が存在し、キックが命中した瞬間にハンマーも連動することで、20tという破壊力のライダーキックを放つことを可能にする。この数字はカブト・ガタック・ダークカブトのライダーキックを僅かながらに上回る数値である。
 さらに劇中では、応用技として10体近いザコ敵のクリサリスワームを一発のライダーキックからハンマー機構の反動を利用しての怒涛の連続ライダーキックで殲滅という離れ業を披露した。

 実は肩の尖ったパーツも武器であり、ここにタキオン粒子を集約して猛スピードのタックルを放つ技があったのだが、劇中で拝むことは終ぞなかった。



ゲーム版

放送当時発売されたプレイステーション2用の格闘ゲームでは、使用可能キャラの1体として登場している。
キックホッパーの本編登場とほぼ同時期に開発されたソフトだが、本編での登場初期の主な台詞は収録されている。
なおライダーキックは「ジャンプしてからゼクターを操作し左足で1回だけ飛び蹴りを浴びせる技」として開発されていたが、実際の本編でのキックを見たゲーム開発スタッフが徹夜で本編同様の連続キックに作り直したという(雑誌『特撮ニュータイプ』より)。
しかしデモ画面までは修正できなかったらしく、そちらでは1回キックするだけとなっている。

後年のガンバライドやクライマックスヒーローズなどのライダーオールスターゲームに出演したときは、ライダーキックは1回だけ蹴る技となっている。


余談

 実はキックホッパーとパンチホッパーの用いるホッパーゼクターは全く同一の規格であり、リバーシブル構造となっている。キックホッパーの場合、裏返して、景山の様に逆方向からベルトにセットすれば、パンチホッパーにも変身できる。構想段階では矢車が両方を使う予定だったが、最終的に影山瞬をパンチ担当にしたことで地獄兄弟が生まれるきっかけを作った。

 ゼクターが同じ規格だからか、身長・体重・パンチ力・キック力・ジャンプ力・走力といったカタログスペックはキックホッパーとパンチホッパーで同じ数字である。



箒「なッ!爆発ッ!?」

箒(あれでは…想とラウラの身に危険がッ!)

シャル「……お兄ちゃん…」

シャル(……僕は信じてるからね、お兄ちゃん…)ギュッ

シャル「大丈夫…お兄ちゃんなら、きっと…」


メラメラ… メラメラ…


───

──




矢車(……ここは、何処だ…?)



『希有遺伝子実験体C0357。お前の新たな識別名は、ラウラ・ボーデヴィッヒだ』



矢車(……これは…)



『ヴォーダン・オージェの移植…?ISとの適合性を上げるための実験だと?』



矢車(………)



『──ッ!!ふざけるなッ!私はまだ戦える!戦えるんだッ!!』



矢車(……そうか、ここは…)



『お前達の教官として本日付で配属となった、織斑千冬だ』



矢車(……ラウラの心に刻み込まれた忌まわしき過去…
   そして、織斑千冬という名の新たな光を見つけ出すまでの…その記憶の廻廊、か…)



~ラウラの精神世界(アンダー・ワールド)~


ラウラ『………』

矢車『……よう、ラウラ…』

ラウラ『……矢車、か…』

矢車『……何時もの覇気はどうした?お前らしくもない…』

ラウラ『……もう、怒る気力も失せたさ…
    ……私の…完敗だ……』

矢車『………』

ラウラ『どうやら…全てお前の思惑通りに行ったようだな。
    お前の目当てであった私の心の闇の正体とやらも…無事掴む事が出来たのか?』

矢車『……あぁ。お前の心の中を覗いて、俺は全てを知った…
   お前が戦争のための道具として、人工的に造り出された存在である事も。
   ISの適合性を上げるための処置が失敗し、出来損ないの烙印を押された事も…』

矢車『……お前の中で、織斑千冬という人間が如何に大きな存在であるのかという事も…』

ラウラ『……フッ、そうか…。全て…見られたのか…』

矢車『………』

ラウラ『それで?お前は私の心の中なんぞを覗いて、一体何を感じ取った?
    そんなものを見たところで…得る物など何も無いだろうに…』

矢車『……いや、収穫はあった』

ラウラ『何…?』

矢車『お前の心の痛みに触れて、俺は…ある重要な事を知ることが出来た』

矢車『そう…お前が“俺と同じ地獄”を味わっていたって事がな…』


ラウラ『同じ地獄…だと?……貴様、一体何を根拠にそんな戯言を…』

矢車『……俺はかつて、とある組織の特殊部隊の隊長として、戦いに明け暮れる日々を送っていた…』

ラウラ『……何?』

矢車『フッ…“何を訳の分からない事を言っているんだこの男”って感じの顔してんな…
   まぁいい…黙って聞いてろ』

ラウラ『………』

矢車『完全調和《パーフェクトハーモニー》……それが俺と、俺の率いる部隊の信念だった…
   チームプレーを何よりも尊重し、身勝手なスタンドプレーを許さない…。1人は部隊の為に、部隊は1人のために…
   俺の部隊は、その信念の下に集い、戦い、数多くの戦果を上げてきた…』

矢車『……どいつもこいつも…みんなキラキラしていて…
   今の俺にはあまりにも眩し過ぎる…正に光に満ち溢れた日々を送っていた…』

矢車『……何もかもが、上手く行っていた…』



──『おばあちゃんが言っていた…』──



矢車『……あの男と、出会うまでは…』


やさぐれる前後に更に何か地獄を見ていた可能性もあるけどな
ひょっとしたら地獄スタイルも兄貴が創始者じゃなくて他に始祖になった人物が居たかもしれない
例えて言えば「マギー一門の実質的な創始者はマギー司郎だが、実はその前にマギー信沢が居た」みたいに。
まあ、そういう『キックホッパー誕生秘話』は各人で妄想するのに止めておいた方が良いだろう


ラウラ『あの男…?』

矢車『……俺の持つ力と同じ力…ゼクターに選ばれた男だ…
   組織への介入を再三断り続けたその男は、組織によって危険因子とみなされ、
   遂には…組織の抹殺対象となった…』

矢車『組織の命令は絶対だ。だが、俺はその組織の命令以上に…奴に対して強い執念を燃やしていた…』

矢車『それが…俺の誤ちだった…』

ラウラ『………』

矢車『俺は、ただひたすらにその男を倒す事だけを考え…戦った。
   脇目も振らずに、奴との戦いを優先して…。部下達の存在など、この時は眼中にも無かった。
   そう…俺は奴との私闘に専念するあまり、周りの状況が見えなくなっていた。
   部下達の助けを求める声すら…俺の耳元には、何時しか届かなくなっていた…』

矢車『……気が付いた頃には、もう…全てが手遅れだった…
   俺は、部下達を見殺しにしていた…
   俺の身勝手な行動が招いた、哀れな結果がそれだった…』

ラウラ『………』

矢車『結果、俺は隊長としての地位も、名誉も、力も失い…
   信頼していた部下からも見捨てられ…組織からも、お払い箱となった…』

矢車『……そう…俺は、実験の失敗により出来損ないの烙印を押されたお前のように…
   要らない物だと罵られ、ゴミのように捨てられた…脱落者の1人だ…』

誤爆は罪だ
http://i.imgur.com/XVTuDXa.jpg

>>917
今回誤爆をしてしまったのは…私の責任です…
こんな時間まで起きてるから…眠いから…
このコンセレカブトゼクターはお返しします…


ラウラ『……私とお前が、同じだと…?』

矢車『………』

ラウラ『……ならば、何故私とお前でこうも違う?
    何故…お前はそれ程までに強いのだ…?』

矢車『……さぁな。俺が力を得た理由なんて…もう、とっくの昔に忘れた。覚えちゃいない…』

ラウラ『………』

矢車『だがなラウラ…これだけは、確実に言える』

矢車『力なんて、持つだけ無駄だ。
   どれ程強力な力を持っていようが、そんなもの…肝心な時にはクソの役にも立たない…』

ラウラ『……何?』

矢車『俺は…お前の言う“強さ”とやらを持っていながら…
   本当に大切なものですら、守れやしなかった…』

ラウラ『……大切な、もの…?』

矢車『……それだけではない。身に余る強大な力は、何れ…己自身を滅ぼす原因となる』

矢車『ラウラ…お前もこれ以上力を求めるのは…織斑千冬の影を追うのは止めろ』

ラウラ『……貴様…何を…』

矢車『同じ痛みを味わった者だからこそ分かる。
   お前が織斑千冬と言う名の光を求め、足掻き続けたところで…
   逆に…お前の苦しみは増すばかりだ。何も報われやしない…』

ラウラ『な…何を…!』

矢車『お前も…薄々気付いている筈だ。
   光を求めたその先にあるのは…決して自分が救われる明るい未来ではない…
   待っているのは、苦しみに満ち溢れた絶望の道…暗闇だけだってな…』



ラウラ『……それが…一体お前と何の関係があると言うのだ…?』

矢車『……あっ?』

ラウラ『私がどれ程苦しもうが…お前には一切関係のない話ではないか。
    いやむしろ…お前の事を憎んでいる人間が1人、そのために破滅するのかもしれないのだぞ?
    フッ…結構な事じゃないか…。お前に一々ちょっかいを出す邪魔者が居なくなるのだ。
    お前にとっては、願ったり叶ったりの話では…』

矢車『……そんな事、絶対にさせるか…』

ラウラ『えっ…?』

矢車『ラウラ、これ以上…お前を傷付けさせやしない…』

ラウラ『や…矢車…?』

矢車『お前は俺が守る。絶対に…』スッ…

ギュッ

ラウラ『─ッ!?貴様何をッ!?』

矢車『……俺を憎みたきゃ好きなだけ憎め…。何時でも相手になってやる』

ラウラ『なっ……』

矢車『だがな…もう、1人で何もかも抱え込むのは止めろ…
   お前の苦しみは…お前の心の闇は……俺が、一緒になって背負ってやる』

ラウラ『………』

矢車『お前が嫌だと言っても、俺は止めるつもりはないぞ…
   どれ程拒まれようとも…お前は、俺が……』

ラウラ『……矢車…』

矢車『……この手は、もう絶対に離さない…
   今度こそ…もう二度と……』

ラウラ『……何故だ、矢車…。何故…』

矢車『………』

ラウラ『……何故お前は…敵である私の事を…こんな…』

矢車『……さぁな…』




──

───


~保健室~


ラウラ「ま…待て矢車ッ!」ガバッ


シーン…


ラウラ(……ここは…?)

千冬「目が覚めたか?ラウラ」

ラウラ「……織斑…教官…?……うッ!」ズキッ!

千冬「……軽い火傷と打撲だそうだ。
   あまり動くな。傷に障る」

ラウラ「……はい…」

千冬「全く…矢車の奴が機転を利かせて、即座にクロックアップとやらを使い
   お前をあの爆発の中から助け出さなければ…今頃その程度の傷では済まなかっただろう…」

ラウラ「……矢車が、私を…?」

千冬「フッ…皆が固唾を呑んで二人の安否を確認している最中、
   矢車の奴は既にお前の事を助け出していた…という訳だ」



ラウラ「……私は…一体?」

千冬「……VTシステム。お前も聞いた事があるだろう?」

ラウラ「……研究はおろか…開発、使用、その全てが禁止されているという。あの…」

千冬「そうだ。それがお前のISに搭載されていた。
   お前の精神的な渇望、願望等と言った強い感情がトリガーとなり、そのシステムを発動させたらしい」

ラウラ「………」

千冬「……何を望んだかは、言わなくても分かる。
   何せあの時のお前は、矢車の名前を叫びながら剣を振るっていたのだからな…」

ラウラ「………」

千冬「お前は…それ程までに、アイツの事を憎んでいたのか…」

ラウラ「……はい」

千冬「ラウラ、それば“誰のための怒り”だ?」

ラウラ「えっ…?」

千冬「私のためを思って怒り、矢車に牙を向けたのだとしたら…それは、大きな間違いだ」

ラウラ「………」

千冬「前にも言った通り…私はアイツに腹を立てる時こそあれ、アイツに対して恨みの類いの感情を抱いた事など、一度もない。
   お前が私のためを思って剣を振るったのだとしたら…私にとってそれは、単なるありがた迷惑にしか過ぎない」

ラウラ「……教官…」

千冬「ラウラ・ボーデヴィッヒ。私の事を真に思い、考えているのだとしたら、
   もう二度と…矢車想に対して私怨をぶつけるのは止めろ。良いな?」

ラウラ「……はい」

千冬「………」

千冬(……意外と、聞き分けが良いな…)


千冬「そうか。分かれば良いのだが…」


ガチャ


千冬「んっ?」クルッ


矢車「………」


ラウラ「……矢車…」

千冬「……ノックくらいしろ、馬鹿者が…」

矢車「………」スタスタ

ラウラ「………」

矢車「……ほら」コトッ

ラウラ「……これは…?」

矢車「差し入れだ。腹、減ってるだろ?」

千冬(……麻婆豆腐?)

ラウラ「あ…あぁ…」

千冬(……フッ…)ガタッ

千冬「さて…私もそろそろ行くとしよう。
   今回の事件の後始末が、まだたんまりと残っているのでな…」

ラウラ「あっ…あの!織斑教官ッ!」

千冬「んっ?」

ラウラ「……御迷惑を、お掛けしました…」

千冬「……私よりも先に謝るべき相手が、お前の横にいるだろ?」

ラウラ「………」

千冬「それと…助けてもらった礼くらい、ちゃんと言っておけよ」クルッ

スタスタ

バタンッ


ラウラ(……教官…)


───

千冬「……はぁー…やれやれ…」

千冬(全く…矢車の奴を見つけ出したら、開口一番に説教をしてやるつもりでいたが…
   ラウラがいる手前、叱るに叱れん)

千冬「まぁ良い。矢車には、後できっちり御灸を据えてやるとしよう…」


───


ラウラ「……矢車…私は…その…」

矢車「……はぁー…」スチャ

ラウラ「………」

矢車「……飯、早く食わないと冷めるぞ?」

ラウラ「えっ?……あ、あぁ…」スッ

ズキッ!

ラウラ「─ッ!!」ビリッ

矢車「……傷、痛むのか?」

ラウラ「あぁ…まぁな…」

矢車「……そうか…」スッ

スクッ

矢車「ほら、口開けろ。俺が食わせてやる」

ラウラ「な…何…?」

矢車「いいから、ほら」グイッ

ラウラ「……あ、あぁ…」アー

パクッ

ラウラ「………」モグモグ…

矢車「………」

ラウラ「………」ゴクッ

矢車「………」

ラウラ「……う…美味い…!」

矢車「……そうか…」スクッ

ラウラ「………」

矢車「ほら、もう一口…」グイッ

ラウラ「……何故だ?矢車…」

矢車「あっ?」

ラウラ「……何故…私に構う…」

矢車「………」

ラウラ「私は…お前に対して様々な仕打ちを行ってきた張本人だぞ?
    お前の妹達に手を上げ……お前の事を葬る為に、VTシステムにも魂を売った人間だ…」

ラウラ「それなのに…こんな…」

矢車「………」

ラウラ「矢車…お前は私の事が憎くないのか?
    恨めしいとは…思わないのか…?」


矢車「……思わないな。これっぽっちも」

ラウラ「………」

矢車「逆に…俺はお前の事が、心配だった…」

ラウラ「……えっ?」

矢車「お前は…自身の心に闇を抱える身でありながら、その心の闇との向き合い方ってのを全く知らない奴だった…
   それは…下手をすれば己自身を破滅に導く可能性のある、危険な事だ…」

ラウラ「な…何をバカげた話を…」

矢車「現に、お前はあの時…」


VTラウラ『ヤグルマァーッ!ヤグルマァーッ!!』


矢車「自分自身の中に巣食う強大な闇に心を呑まれ、暴走を始めただろ?」

ラウラ「………」

矢車「……俺は、そんな危なっかしいお前の事が…ほっとけなかったんだよ…」



ラウラ「あ…危なっかしいだと!?貴様ッ!私を子供扱いしているのか!?」

矢車「別に…。ほれ…」スクッ

ラウラ「このッ!あむっ!」パクッ

矢車「………」

ラウラ「ふんっ!」モグモグモグ…

ゴクッ

ラウラ「………」

ラウラ(……美味しい…)


矢車「……フッ…」

ラウラ「な…何が可笑しい!?」

矢車「お前の方こそ、俺の事が憎くて憎くて仕方がないんじゃなかったのか?
   前のピリピリした警戒心は、一体何処へ行ったのか…」

ラウラ「そ…それは…だな……」

矢車「………」

ラウラ「……さっき、織斑教官に言われたのだ…
    “お前が私のためを思って剣を振るったのだとしたら…私にとってそれは、単なるありがた迷惑にしか過ぎない”…とな」

矢車「………」

ラウラ「私が教官のためを思い、良かれと思って取った行動は…
    結局のところ、あの人にとっては単なる迷惑事にしか過ぎなかった…
    なら…私が今までやってきた事は、一体何だったんだ…?
    そんな事を考えている内に、何だか…お前に対して腹を立てる事がバカらしく思えてな…」

矢車「………」

ラウラ「だが、勘違いするなよ!
    自分の気持ちの整理が付かないというだけで、私はお前を認めた訳では…」

矢車「……フッ…そうかい…」スクッ

ラウラ「むっ…!」パクッ モグモグ…



矢車「……ラウラ、いい顔になったな」

ラウラ「えっ…?」

矢車「………」ジッ…

ラウラ「……矢車…?」

矢車「……もっと、ちゃんと素顔を見せろ…」スッ

ラウラ「うっ…!」ピクッ

パラッ…

矢車「………」

ラウラ(……眼帯が…)

矢車「………」

ラウラ「クッ……笑いたければ、好きなだけ笑えばいい…
    お前も知っての通り、この左目は私が出来損ないである事の……その証だ…」

矢車「………」

ラウラ「………」

矢車「……笑うかよ…」スッ…

ラウラ「えっ…?」

グイッ

ピタッ

矢車「………」ジッ…

ラウラ「や…矢車…?」

矢車「……綺麗だな。お前の目…」

ラウラ「なっ…」

矢車「金色で、輝かしくて…眩し過ぎる程に…綺麗だ」

矢車(……だが、その瞳の奥には…確かに闇が宿っている…)

矢車「本当に、いい目だ…」

ラウラ「……矢車…」

矢車「ラウラ…もう二度と、何でもかんでも一人で背負い込もうとするのは止めろ。
   お前の苦しむ姿は…見ていて辛い…」

ラウラ「………」

矢車「ラウラ、俺の妹になれ」

矢車「俺に…お前の事を、守らせろ…」



ラウラ「なっ…!」

ラウラ(い…妹…だと?)

矢車「………」

ラウラ「……それはつまり…地獄兄妹の一員になれ、という事か?」

矢車「……あぁ…」

ラウラ「……フッ…。全く、お前の言動は理解不能だ…
    自分の事を貶めようとした人間を、今度は仲間に迎え入れようとは…」

矢車「………」

ラウラ(……だが、不思議と悪い気はしないな…)

ラウラ(何でだろうな…あんなに憎かった相手なのに……)

ラウラ「……まぁ良い。……考えておこう…」

矢車「……そうか…」スクッ

ラウラ「………」

矢車「ほら、冷める前に食べろ」グイッ

ラウラ「……あぁ…」パクッ

ラウラ「………」モグモグモグ

矢車「………」

ラウラ「……やっぱり美味いな。この料理」

矢車「……そうか…」


~保健室のドアの前~

箒「………」チラッ

───

ラウラ「ところで…一体この料理は、何と言う料理なのだ?」

矢車「……麻婆豆腐だ…」

ラウラ「……まーぼー…トゥーフー…?」

矢車「…………」

───

箒「………」

箒(想…お前、本当にラウラと…)


シャル『ラウラとだって…きっと分かり合ってみせるよ』


箒(……シャルル、お前の言う通りだ…
  想は、大した奴だよ…。本当に…あのラウラと分かり合ってみせるだなんて…)

箒「………」

箒(だが…やはり私には分からないんだ…アイツの考えが…
  今の私には…理解出来ないんだ…)



~矢車さんの部屋~

ガチャ

矢車「……ただいま。シャルロット…」

シャル「お帰りなさい、お兄ちゃん!」

山田「あっ、矢車くん!丁度良いタイミングで帰って来ましたね!」

矢車「……あっ?」

シャル「山田先生が僕達に話があるんだって、今さっき来たんだ」

矢車「………」

山田「実は、お二方にとっても良い朗報があるんです!」

シャル「朗報…?」

山田「何と!男子専用の大浴場が、今日から解禁される事になりましたッ!」

シャル「えっ…えぇぇぇーッ!!?」

矢車「………」



~大浴場の脱衣場~

シャル「……お兄ちゃーん…」チラッ

ガラ~ン…

シャル(脱衣場には居ない…。先にお風呂に入ったのかな?)

シャル「………」

シャル(……良い機会だし…これからお兄ちゃんに全てを打ち明けよう…
    僕の考えを…僕が今しようとしている事を…)ヌギヌギ

シャル「お…お兄ちゃん。入るね…」ガラガラッ


~大浴場~

ガラ~ン…

シャル(……あれ?居ない?)



~校庭~


ザバーン!

矢車「……はぁー…」バシャ

矢車(大浴場…今の俺には眩し過ぎる)

矢車(闇の世界の住人である俺には、この“地獄ドラム缶風呂”がお似合いだ…)

矢車「……ふぅ…」ホカホカ

ラウラ「お…おい!」

矢車「んっ?」クルッ

ラウラ「……よう、矢車」

矢車「……ラウラか…」

ラウラ「……お前…こんな所で、一体何をしているんだ…?」

矢車「……見ての通りだ。風呂に入っている…」

ラウラ「そ…そうか…」

矢車「………」

ラウラ「………」

矢車「………」

ラウラ「……よし!」ヌギヌギッ

バッシャー!

ラウラ「うわッ!」ビチャビチャ

矢車「……何をしている…?」

ラウラ「な…何って…一緒に風呂に入ろうと…」

バッシャー!

ラウラ「うわッ!?」ビチャビチャ

矢車「……は?」

ラウラ「に…日本の仲睦まじい兄弟は、時折こうして一緒に風呂に入ると聞いて、それで…」


矢車「……兄弟?…って事は、お前…」

ラウラ「……あぁ…私は決めたぞ。矢車…」

矢車「………」

ラウラ「私は、お前の妹の一人として…お前と共に生き、お前と共に死ぬ人生を選ぶッ!」

ラウラ「そうッ!矢車想!貴様は私の兄だッ!異論は認めんッ!!」ビシィッ

矢車「……フッ…そうかい…」

ラウラ「地獄兄妹としてやるべき事は、お前から追々聞き出すとして…
    まず手始めに、お前と一緒の風呂に入るッ!」ヌギッ

バッシャー!

ラウラ「うわッ!?」ビチャビチャ

矢車「生憎だが、この地獄ドラム缶風呂は一人用だ。
   二人では、とてもじゃないが入る事は出来ん…」

ラウラ「そ…そうなのか?」

矢車「あぁ…無理だ」

ラウラ「そ…そうか、入れないのか…」シュン

矢車「………」

ラウラ「私は…生まれてこの方、“家族”と呼べる存在を知らずに生きてきた…」

矢車「………」

ラウラ「だからこそ…私は…」

矢車「……はぁー…」ザバーン

スタッ

ラウラ「……矢車…?」

矢車「……ちょっと待ってろ」
クルッ

スタスタ…


~数十分後~


ザバーン!

矢車「……ふぅ…」ホカホカ


ザバーン!

ラウラ「……ふぅ…」ホカホカ


矢車「どうだラウラ?湯は傷にしみないか…?」

ラウラ「あぁ、問題ない。良い湯だ…」チャポ…

矢車「……そうか…」

ラウラ「しかし…この短時間でドラム缶風呂を2つも用意するとは…
    ドラム缶なんぞ、一体何処から調達して来たのだ…?」

矢車「あぁ…これは、体育倉庫の中から拝借して来た代物だ…
   訓練に使う小道具か何からしい」

ラウラ「…成る程」




ラウラ「………」チャポ…

ラウラ「……星が、綺麗だな…」

矢車「……あぁ…。だが…所詮アレらは“届かぬ光”だ…」

ラウラ「………」

矢車「いくら必死に手を伸ばしても、触れる事さえ出来ない光…
   今の俺達には…あの小さな星々の瞬きでさえ、あまりにも眩し過ぎる…」

ラウラ「……分かっている…分かっているさ…」

矢車「………」

ラウラ「……だが、決して手の届かない遠い存在であったとしても、
    あの星々が…この夜空の中で美しく輝いているという事実に、何ら変わりはない…」

矢車「………」

ラウラ「……矢車、私も…もう織斑教官の影を追うのは止める」

ラウラ「例え…あの人の存在が、あの瞬く星々のように…
    触れる事さえ出来ない程の…遠い存在だったとしても…
    あの人が…私にとってのかけがえのない…大切な人であるという事実に、何ら変わりはないのだから…」

矢車「……そうか…」

ラウラ「………」チャプ…

矢車「………」

ラウラ「……そ…そう言えば!私が地獄兄妹の一員となった以上、
    これからは、お前の呼び方を地獄兄妹風に改めなければならないな…」

矢車「………」

ラウラ「よし!お前の事はこれから“兄上”と呼ぶことにしよう!
    うむ!よろしく頼むぞ!兄上ッ!」

矢車(……兄上、か…)


教員「こらーッ!貴方逹ーッ!!一体そこで何をしているんですかーッ!?」ダッダッダッ…


ラウラ「な…何だ?」

矢車「……チッ…もう気付かれたか…」ザバーン

ラウラ「やぐ……あ、兄上…?」

矢車「ここからズラかるぞ、ラウラ。
   あの女に捕まったら…色々と面倒な事になる…」

ラウラ「捕まる…だと?……まさか、野外での入浴行為は…禁止されていたのか!?」

矢車「……まぁな…。ほら、今更着替えてる時間なんかないぞ…
   タオルだけでも身体に巻いて、今直ぐ湯槽から出て来い。
   脱いだ服は、小脇にでも抱えていろ」ポイッ

ラウラ「あ、あぁ…」パシッ

ザバーン

ラウラ「………」マキマキ


矢車「……はぁー…」パカッ

ピョーン ピョーン ピョーン

パシッ

矢車「変身…」カシャ

──HENSHIN──

キュイキュイキュイーン

──CHANGE! KICK HOPPER!──

ラウラ「……兄上、何故変身を…?」

矢車「……これで、着替える手間が省けるだろ?」

ラウラ「な…成る程…」

矢車(……それと…)スッ…

ラウラ「えっ…?」

ヒョイ

ラウラ「な…兄上!?何故私を抱き抱えて!?」

矢車「……こっちの方が、手っ取り早く逃げられるからな…」

ラウラ「……な…成る程…」

矢車(……さて…準備は出来たな…)

矢車「……行くぜェ…ラウラ…」ググッ…

ラウラ「う…うむッ!」グッ

ラウラ(兄上となら、何処までもッ!)


教員「あッ!待ちなさーい!!」

矢車「ハァッ!!」グワッ!


ドシューンッ!!


教員「あーもうッ!また逃げられたー!!」


ピョーン…  ピョーン…


~アリーナ~


千冬「……はぁー…」

千冬(後始末は、滞りなく済んだか…)

千冬「………」

千冬(……出来る事なら、あの男にはもう二度と関わりたくないな…)


───


加賀美陸「今回は…私の無理難題にお付き合いいただき、誠にありがとう御座いました…
     お陰様で、とても良いものが見られましたよ…」

千冬「……いえ…今回の一件で、この学園の管理体制の甘さが露呈しました…
   このような醜態を晒す事になるとは…全くお恥ずかしい話です…」

加賀美陸「……そう…」

千冬「………」

加賀美陸「………」ヌッ

加賀美陸「……白騎士事件の件は、何も心配する事ないからね…」ボソッ

千冬「──ッ!?」ビクッ!

加賀美陸「実は…警察内部で白騎士事件の真相について知っているのは、私一人だけなんだ…」

千冬「な…何…?」

加賀美陸「心配しなくても、私はそれを口外するつもりなんてないから、ね…」

千冬「……そう…ですか…」


プッ プッ

運転手「加賀美警視総監、そろそろお時間です」

加賀美陸「……では、私はこれで…」

千冬「……はい…」

加賀美陸「……織斑先生」

千冬「……はい?」

加賀美陸「……矢車くんの事を、宜しくお願いします…」バタンッ


ブロロロー…


千冬「………」


───


───


千冬(……加賀美陸…。結局…あの男は何者だったのだろうか…)


prrr… prrr…

千冬「………」ピッ

千冬「……私だ…」

束『ハロー!ちーちゃーん!!』

千冬「……束…」

束『ひっさしぶりー!元気してたー!?
  もー束さんはちーちゃんに会いたくて会いたくて仕方がなくて…』

千冬「………」スッ

束『わーッ!ちょっと待ってちょっと待ってーッ!
  もしかして今電話切ろうとしてるー!?』

千冬「………」

束『お願ーい!切らないでよー!ちーちゃーんッ!
  今からすっごい大切な話があるんだからー!』

千冬「……用があるのなら、さっさと要件を言え。私も暇ではないのだぞ…」イライラ

束『いやー!ちーちゃんには“世界の真実”ってヤツを知っておいてもらおうと思ってねー!
  それを教えるために、いつも多忙な束博士が貴重な時間を使って、ちーちゃんに電話を掛けたんだよー!
  まぁちーちゃんとの通話なら、24時間いつでもウェルカムなんだけどねー!』

千冬「……世界の真実…だと?」ピクッ

束『そう!この天才博士束さんが、包み隠さず全部教えてあげるよッ!』

束『かつて…この地球上で勃発した、ZECT対ワームの戦いの歴史!』

束『マスクドライダーシステムと、ISの関係性について!』

束『……そして…マスクドライダーの一人として、ワームとの戦いに参加した、
  そーくんの…その壮絶な過去についての話も…ね』



────

~篠ノ之束のラボ~


束「じゃあ!そういう事だから!
  …うん!じゃーねーちーちゃん!愛してるよー!」

プツンッ

ツー… ツー… ツー…

束「……これで良し、と…」

──「……織斑千冬に全ての真相を語るとは…一体どういうつもりだ?篠ノ之博士…」

束「別にー、深い意味はないよ」

──「………」

束「ただ…ちーちゃんは私の数少ない理解者だから、
  事情さえ分かってくれれば、きっとちーちゃんも私達に協力してくれるって思って!」

──「……協力者が増える事は、望ましい事ではあるが…」

束「………」

──「矢車の過去まで彼女に語った理由は何だ?
   他の話は兎も角…矢車の件はどう考えても知る必要のない情報だ。
   そんな取るに足りない情報を彼女に伝えて、一体お前に何の得がある…?」

束「……んー、そーくんの話をちーちゃんにしたのも、別に深い意味は無かったかなー…」

──「………」

束「ただ…全ての真実を知ったちーちゃんが、そーくんの事を説得してくれて…
  あわよくば、そーくんが私達の仲間になってくれたり…
  ……なーんて展開を、この天才束さんは期待しちゃっていたりして!」

──「……お前にとっては酷な話だが、それは期待するだけ無駄な事だと思うぞ」

束「えー!」

──「いくらこちらが事情を説明しようが…あの男が俺達に協力する事など、万に一つの可能性も無い」

──「例え人類が破滅の危機に直面したとしても…
   アイツはそれらに関わりを持たないようにと、黙りを決め込むだろう…」

──「……アイツは、そういう男だ…」

束「あーもーッ!酷いよ!天くん!
  私と箒ちゃんの幼なじみを、そんなに悪く言うだなんてーッ!
  もう!私と天くんの同盟関係も、今日限りで終わりにしちゃうよー!」

──「……その呼び方で俺を呼ぶな。篠ノ之博士…」


──「俺は天の道を往き、総てを司る男……」

──「俺の名は…」スッ…



───「天道、総司だ」───







──つづく



デデーン!

次回、仮面ISキックホッパー!

矢車「……買い物に付き合え…だと?」

鈴「このままじゃアイツ…“臨海学校には行かない”って駄々こねるんじゃ…?」


風間「─ッ!あなたは…!」

加賀美新「よせッ!天道ォーッ!!」


デレー



NEXT LEVEL…


【続】矢車想「IS学園…今の俺には眩し過ぎる」part2

【続】矢車想「IS学園…今の俺には眩し過ぎる」part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1411489771/l20)

乙です
こっちのがいいかも
【続】矢車想「IS学園…今の俺には眩し過ぎる」part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411489771/)

>>986
そだね。すいません

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