淫魔幼女 「おれは男だ」 詐欺商人「ありがとうござ淫魔」(160)

城市 隠れ魔法屋


ミミズク 「……幽霊ムカデの足に、のっぺらぼうの瞳、ウンディーネの心臓」

ミミズク 「ホー、やるじゃない。これなら良い値で買い取れるよ」


淫魔幼女 「ありがたい」


ミミズク 「幼女なのに大したもんだ。それからこれは……」

ミミズク 「……何これ。何かの肉?」


淫魔幼女 「ああ、それは」

淫魔幼女 「ごみく……魔法少女のヘソだ」


ミミズク 「へ……」


淫魔幼女 「まだあるぞ」

コロコロコロコロ


ミミズク 「ぎゃ」



淫魔幼女 「これを装備していると、魔法少女耐性がアップするぞ」


ミミズク 「しまいなさい、しまいなさい」


淫魔幼女 「こっちは魔法少女を狩る過程で手に入れた」

淫魔幼女 「魔力たっぷりの何かの卵と、魔力たっぷりの何かのミルクだ」


ミミズク 「出しなさんな、出しなさんな」


淫魔幼女 「そう、何かとはずばり魔法少……」


ミミズク 「次から次に何やってんの!」

ミミズク 「いい加減にしなよこの不吉幼女! 塩まいて追い出すわよ!」


淫魔幼女 「ヘソのゴマに塩でゴマ塩か」

淫魔幼女 「うまいな」


ミミズク 「帰れ」


ミミズク 「いや、やっぱり帰らなくていい」

ミミズク 「この城市で当たり前にこの隠れ魔法屋を見つけて、いきなり人間の体を取引しようとするなんて」

ミミズク 「あんた、よその世界から来た冒険者だね」

ミミズク 「この世界じゃ、人間の体を売ったり買ったりはご法度だ。面倒なことにならないよう、おぼえておきなよ」


淫魔幼女 「そうなのか」

淫魔幼女 「……変身後の魔法少女の剥製もあったのに」


正義の魔法少女だったもの 「…………」


ミミズク 「外套の下からニュルッと出さないの! どうなってるの、それ」

ミミズク 「とにかくしまいなさい。万がいち見つかったらうちもやばいから」


淫魔幼女 「わかった……」

淫魔幼女 「あ、手がすべった」

バタン ゴロゴロ

ミミズク 「ぎゃあ、剥製が倒れてばらばらに!」


ミミズク 「もういらないから。魔法少女関係はもうたくさんだから……」


淫魔幼女 「すまん」


ミミズク 「……まあ良いや。私もこの世界に来る前は人間の内臓とか食べてたし」

ミミズク 「それよりあんた。けっこうな冒険者みたいだけど、腕に自信があるなら第二城市に行ってみると良いよ」


淫魔幼女 「?」


ミミズク 「前に地下から迷宮遺跡ってのが見つかって、ちょっとしたお祭りになってんのさ」

ミミズク 「どうも魔物の神様の神殿だったとか何とかで魔物がうようよいて危険だけど」

ミミズク 「珍しいアイテムなんかもあるみたいで、人が集まってる」

ミミズク 「遺跡の最深部にあるらしいっていう邪神像を壊すと、城から報奨金も出るらしいし」


淫魔幼女 「邪神像か。きっと赤い瞳に青い髪の像なのだろうな」

淫魔幼女 「花にたとえるなら、そう、コスモ……」


ミミズク 「何で花にたとえるの?」

幼女魔王と同じ人?



淫魔幼女 「迷宮遺跡か。何か良いものが見つかるかもしれんか」


ミミズク 「遺跡に入るなら城主さまの冒険許可証がいるからね」

ミミズク 「……くれぐれも、この世界のルールを守ってね。変なことはしないようにね」

ミミズク 「冒険者が宿やアイテム屋を利用できるのは、そこに国があるからなのだよ」

ミミズク 「それを忘れないように。お姉さんとの約束だぞ、黒髪淫魔のお嬢ちゃん」


淫魔幼女 「分かった。……おれは男だ」


ミミズク 「はいはい。じゃあ、コホンッ……」

ミミズク 「故郷なき帰郷者よ、地図は白紙であれ、コンパスは四つ針であれ」

ミミズク 「靴は軽く、足あとは浅くあれ。野を駆ける無情の風のようにあれ」

ミミズク 「錫色の月と空腹のもと幸福であれ。空の孔雀が涙を流すその日まで」


淫魔幼女 「……プフッ」


ミミズク 「きまりだから。これ言うきまりだから」

城市  


パッ パッ

バタム


淫魔幼女 「…………」


ガヤガヤ


淫魔幼女 (本当に塩かけて追い出された)

淫魔幼女 「積もるほどかけるとは……甘い。これ砂糖か」

淫魔幼女 「……さて、城主のところだったな」


??? 「淫魔幼女さまー」


フヨフヨフヨ


淫魔幼女 「……シルフ娘」



シルフ娘 「あいあい。どんな世界も魔法の羽でひとっとび、快速快便宅急便、お届けギルドのシルフ娘でつ」

シルフ娘 「お風呂セットに枕にお洒落グッズに媚薬セットもろもろ」

シルフ娘 「頼まれていたお荷物、お届けにあがりまつたよ」


淫魔幼女 「ありがたい」


シルフ娘 「宿にお運びしまつか?」


淫魔幼女 「まだ決めていないから、魔法の倉庫に移しておいてくれ」


シルフ娘 「あいあい」

シルフ娘 「……淫魔幼女さま、なんか雰囲気がかわりまつたね」

シルフ娘 「白いというか」


淫魔幼女 「……砂糖をぶっかけられた」


シルフ娘 「なんと」


シルフ娘 「それにしても、ここがあの藍天城市でつか。思ったより大きくて賑やかでつねー」


淫魔幼女 「……何だ、その名前は」


シルフ娘 「ギルドの先輩がたに聞いたのでつが、そう呼ばれているそうでつ」

シルフ娘 「この城市のある段々台地の岩や土は空の色をうつすので」

シルフ娘 「離れて見ると、城市が空に浮かんでいるように見えるとか何とか」


淫魔幼女 「ふむ」


シルフ娘 「お酒もおいしいらしいでつよ。とくにここ特有の土で育つ空を凝縮したような果実からつくられた……」


淫魔幼女 「すまない、酒の話は……」


シルフ娘 「そうでつたね。失礼しまつた」

シルフ娘 「……砂糖、よいにおいでつね」


淫魔幼女 「…………」

ペロペロペロペロ


シルフ娘 「第二城市はここよりも少し上段にありまつ。ちょっと遠いでつよ」

シルフ娘 「前は静かなところだったそうでつが、冒険者が増えてこことはまた違った感じで賑やかだそうでつ」

シルフ娘 「定期便が多く出ているそうなので、乗っていくと良いかもしれません」


淫魔幼女 「……わかった」


シルフ娘 「おいしいでつね、この砂糖。疲れていたので助かりまつー」


淫魔幼女 「そうか」


ペロペロペロペロ


トサカ少女 「な、なにあれ、妖精が外套姿の幼女を舐めまわしてる」

蛇髪少女 「冒険者が集まるようになってから、いろんな人が増えたねえ」


ザワザワ

>>6
幼女魔王がスライムの卵吐いたりするやつなら、そうだす。
今回はハメをはずさず健全にやりますので、どうかなにとぞ。

…………

第二城市 天守 謁見の間



ザワザワ ワイワイ


短髪エルフ 「おい、てめえ、そんなとこに突っ立ってんじゃねえよ!」

短髪エルフ 「あんた見てるとイライラすんだよ黒光りのクソ牙豚野郎!」


長髪エルフ 「ちょ、ちょっと短髪……」


黒オーク 「あー、そりゃすまんこったエルフのお嬢さん」

黒オーク 「でがすが、おいらも城主さまから遺跡の冒険許可証がもらいたいもんで」

黒オーク 「なるだけ隅でちっこくなっとりますんで、許してくだせえ」



短髪エルフ 「……け、ケッ! 分かりゃ良いんだよ」

短髪エルフ 「なんだよ……気味が悪いくらい腰を低くしやがって……」


ツカツカツカツカ


黒オーク 「はあ」


長髪エルフ 「ご、ごめんなさい。あの子、黒いオークにいじめられたことがあって……」

長髪エルフ 「それに私たち、堕落するとオークになるぞって聞かされて育って……」


黒オーク 「おー……そりゃ怒るのも無理はねえでがすな」

黒オーク 「あんたがたは、オークになる種類のエルフじゃねえようにも見えるけんど」


ザワザワ


淫魔幼女 「……やっと着いた」

長髪エルフ 「あのう、おわびと言ってはなんですが、良かったらこれを」


黒オーク 「袋叩きメイドパフェ、バッグプール支店?」

黒オーク 「酒場の割引券か何かでがすか?」


長髪エルフ 「たぶんそうだと思います。この城市で働いているという友達が手紙で送ってくれて……」


黒オーク 「へえ。ほう、店員がみんなメイドでがすか。うちの宿でも試してみるかなあ……」


長髪エルフ 「はい?」


黒オーク 「いんえ、こっちの話」


淫魔幼女 「…………」


猫商人A 「幼女にゃ。ベトベトにゃ」


猫商人B 「ほんとだにゃ、ベトベト幼女だにゃ。ツインテールの先からベトベトにゃ」


淫魔幼女 「……おれは男だ」

猫商人A 「べとべとー。べとべと踊りにゃー」


猫商人B 「にゃあにゃあ、今どんな気持ちにゃ? べとべとでどんな気持ちにゃー?」


ルンタッタ ルンタッタ


淫魔幼女 (変なのにからまれた……)


ルンタッタ ルンタッタ


詐欺商人 「……へえ」


ガヤガヤ


騎士団長 「……コホン」

騎士団長 「ちうもーっく!」


冒険者たち 「…………」


騎士団長 「これより、城主さまからあなた達への許可証の授与をはじめます!」

ブシューッ ガション ガコン


丘巨人 「な、なんだあ。変な鉄の塊から煙があがって、天井が開いたぞ!」


丘小人 「熱の魔法を利用した何かの機関だろうか……」


ゴウン ゴウン


城主 「…………」


ゴウン ゴウン


借魔術士 「…………」


偽勇者 「…………」


白髪幼女 「…………」


淫魔幼女 (義足の男を乗せた玉座がおりて来た。……あの男が城主か)



城主 「…………」

城主 「みな、よく集まってくれた」

城主 「私が城主である。いや、私のことなどどうでも良い」

城主 「諸君らも知っていることと思うが、この第二城市で地下遺跡への入り口が見つかった」

城主 「遺跡は邪神の神殿であったらしく、封印がとかれたことで太古の魔物が出現しはじめた」

城主 「わずかに残る文献によると、最深部にある邪神像が魔物を召喚しているらしい」

城主 「魔物は今は遺跡にとどまっているが、いつか溢れ出さないとも限らない」

城主 「剣と魔法の勇気あるものたちよ。どうか忌まわしき太古の魔物を討ち払い」

城主 「邪神の神殿、地下迷宮たる遺跡を踏破し」

城主 「最深部にある邪神像を破壊してほしい」


城主 「富と名誉、報酬は約束しよう。だが……」

城主 「諸君らよりも先に何百人もの冒険者たちが遺跡に足を踏み入れ調査しているが」

城主 「いまだに像の破壊はなされていない」

城主 「命さえ落としかねない困難な冒険になるであろうことは、ここに明言しておく」

城主 「代わりと言ってはなんだが、遺跡内で見つけたアイテムなどは好きにしてもらってかまわない」


短髪エルフ 「像が破壊できてねえのは、そのせいなんじゃねえのか……」


長髪エルフ 「しーっ……!」


城主 「これより、第16次遺跡調査隊の冒険許可証授与とアイテムの支給を始める」


ジャラッ


城主 「死と困難を屈服させる者、我こそは像の破壊者だという者のみ、前に進み出よ!」

ドヤドヤ ワイワイ

騎士団長 「はあい、こちら脱出アイテムと携帯トイレ、薬草毒消し携帯食にその他もろもろです」

騎士団長 「そしてこれは、16次調査隊用の宿の部屋の鍵ですよー」


淫魔幼女 「宿も用意されているのか」


騎士団長 「しっかり休んで、ばんばん冒険してくださいね。でも食事までは出ませんよ」


淫魔幼女 「うむ。それよりも……」


騎士団長 「何でしょ」


淫魔幼女 「この許可証、女性用と書かれているのだが、おれは男……」


騎士団長 「? いいでしょう。男性用にはかっこいい、女性用にはかわいい魔物や動物の絵つきです」

騎士団長 「ちなみにそれはアヒルの子。女性騎士団のみんなで描いたんですよ」


淫魔幼女 「むう」

淫魔幼女 (男性用はアヒルさんの絵ではないのか……。ここは黙って引き下がるしかあるまい)


光の戦士 「おい、お前のは何だった」


闇の戦士 「……クマさんだ」


光の戦士 「くそ、いいな。おれはカメさんだ」


淫魔幼女 (宿を探す手間がはぶけた)

淫魔幼女 (しかし、16次とか言っていたか……)


白髪幼女 「これ、そこの黒づくめの幼女よ」


淫魔幼女 「……何だ、白い幼女」


白髪幼女 「これこれ、幼女がそんな目をするでない。すまんが、ぬしのアヒルさん許可証とわしの許可証、交換してくれんかのう」

白髪幼女 「わしは風呂にアヒルさん人形を持ち込むほど、アヒルさんが好きなのじゃあ」


淫魔幼女 「無理だ」


白髪幼女 「のうっ!?」


淫魔幼女 「アヒルさん人形は大いに理解できるが、だからといって渡すわけにはいかない」

淫魔幼女 「ではな」


白髪幼女 「ままま、待たんかい。じゃあ、どうじゃ、あとで塩焼きぼんじりスティックをおごってやろう!」


淫魔幼女 「いらん」


白髪幼女 「ぐぬぬぬ、手ごわい幼女じゃな。ならば焼き豚肉スティックもつけよう!」

白髪幼女 「幼女が泣いて喜ぶ焼き豚肉スティックさまじゃ! 豚肉の棒じゃからな、のの位置を間違えるでないぞ!」


淫魔幼女 「お前の丸出しのへそにでも突っ込んでいろ腐れ猫耳。アヒルさんは渡さん。ペンギンさんでも無い限り……」


白髪幼女 「この許可証、ペンギンさんの絵じゃぞ」


淫魔幼女 「……!」


淫魔幼女 「……これがアヒルさん許可証だ」


白髪幼女 「ほい、どうもなのじゃ。ではこちらもほれ、ペンギンさん許可証じゃ」


淫魔幼女 「む」


白髪幼女 「おおーう、これはなかなかのアヒルさんじゃ……めんこいのう、めんこいのう、ごろにゃんごろにゃん」

白髪幼女 「のうのう、こやつに名前はついておるのかのう?」


淫魔幼女 「アヘ太郎」


白髪幼女 「むん?」


淫魔幼女 「アヒルのアヘ太郎」


白髪幼女 「……おぬし、頭だいじょうぶか?」


淫魔幼女 「貴様に言われたくない」


ガヤガヤ


城主 「どうやら、みな許可証を受け取ったようだな。頼もしいことだ」

城主 「左足を失った私の心にも、熱いものがよみがえってくるようだ」

城主 「宿のある区画まで乗り物を出す。よかったら乗っていくが良い」

城主 「滞在中にもし金が入用ならば、仕事の斡旋なども行っている」

城主 「いろいろと勝手の違うこともあるだろうが、できるだけ早くこの城市に慣れていただきたい」

城主 「では、諸君らの冒険の成功を祈りつつ、これにて解散とする!」


ブシューッ ガコン

ゴウン ゴウン ゴウン



ザワザワ

白髪幼女 「むっふー。何とも冒険者に親切な町じゃのう」

白髪幼女 「これで宿の飯がうまくて風呂が広くて遊ぶものがあれば、言うことなしじゃな」

白髪幼女 「のう、黒幼女よ。許可証を交換した縁ということで、ここはひとつパーティでも組み肉の絶壁で迷宮のモンスターどもを悩殺……」

白髪幼女 「と……」


ガヤガヤ ドヨドヨ


白髪幼女 「おう、もうおらぬわ。せっかちな幼女じゃのう」

城市 緑化区


ピィピィ チチチ


淫魔幼女 「許可証を貰ってしまえば、あんなところに用はない」

淫魔幼女 「さて、邪神の地下遺跡とやらの探索は明日から頑張るとして、少し町でも見てまわろう」

淫魔幼女 「アイテム屋、武器修理屋に魔法屋……念のためこの城市の歴史も知っておいた方が良いのか? 面倒くさい」

淫魔幼女 「……あつい。何だここは、高地とは思えない。植物もうかれた感じにデカいしくさいし……」


看板 『南国植物と南国鳥入荷しました。 植物ギルド・魔物ギルド・魔法ギルド』


淫魔幼女 「……ふむ」



ジィジィ チュイチュイ


アヒルさん人形 「…………」


淫魔幼女 「よーしよし、もうちょっと胸をはって……いいですねー、いいですねー」

淫魔幼女 「さまざまな異世界を渡る旅のなか、アヒル人形ヒッキーくんの雄姿を記録石に残し」

淫魔幼女 「ゆくゆくはヒッキーくん異世界旅行記としてまとめるのが」

淫魔幼女 「わた……おれのひそかな野望なのだ。ふわははは……」

淫魔幼女 「ちょっとクチバシ濡らしてみようか」

淫魔幼女 「……おお、塗れたオレンジ色のキュンッとしたクチバシが南国に映える。トレビアーン、セシボーン、アザブジュバーン……」

淫魔幼女 「ふはははははは……!」


ガサッ ドサッ


??? 「うわ、いてえっ!」


淫魔幼女 「!?」



??? 「いてててて……根っこでこけちまった」


???B 「ばっきゃろう! 中身がどっか転がってったじゃねえか。はやく探すぞ!」


淫魔幼女 (茂みの向こうに誰かいる。……そっちの痛さか)

淫魔幼女 (ここを見られては都合が悪い。はやく立ち去ろう……)


ゴロゴロゴロゴロ


淫魔幼女 「む?」


ゴロン


おばけ岩 「メケー」


淫魔幼女 (大きな石のモンスターが転がってきた)

淫魔幼女 (町でモンスターに出くわすとはな。まあ良い、ヒッキー君旅行記の肥やしが増えた)


おばけ岩 「メケー」


???B 「お、姿に似合わず甲高い鳴き声。間違いない、こっちだ!」


ガサガサガサ


淫魔幼女 (む、見つかる。いかん、まずアヒル人形を隠さなくては……)


???B 「さーてキメラちゃん、良い子だからおうちへ……」

エプロン男B 「て、なんだお嬢ちゃんテメエ貴様!」


淫魔幼女 「く……!」


アヒル人形 「…………」


エプロン男B 「おおおう!? お、おおうおうおう、何だその恐ろしく愛らしいアヒル人形は。その濡れたクチバシで何やらかそうってんだてめえ!」


淫魔幼女 (間に合わなかった……!)

??? 「おおーい」

エプロン男 「見つかったのかい?」


淫魔幼女 (人が増えた……)


エプロン男B 「おう、だが面倒なことになった。そこの嬢ちゃんにおれたちのおばけ岩を見られちまった!」


おばけ岩 「メケー」


エプロン男 「げえっ。まずいじゃねえか。ほとんどのギルド員にも秘密だってのに、こんなとこを部外者に見られたら……」


淫魔幼女 「……そのモンスターには、お前たちがからんでいるのか」


エプロン男B 「ちいっ、ばかエプロン男め! しかたねえ……」


淫魔幼女 「お前たちが何者だろうと関係ないか……」

淫魔幼女 「ヒッキーくんを見られたからには口封じだ……!」


エプロン男B 「おばけ岩を見られたからには口封じだ……!」



エプロン男B 「いくぞエプロン男!」


エプロン男 「おう!」

エプロン男 「いけっ、ゴロ……おばけ岩! だいばくはつ!」


淫魔幼女 「む……!」

淫魔幼女 「いかん。ヒッキーくん、かわ……」


エプロン男B 「ばっきゃろう!!」


ポカッ


エプロン男 「いってえ」


エプロン男B 「大事なキメラちゃん爆発させてどうすんだ!」


エプロン男 「す、すまねえ、なんかつい……」

エプロン男B 「しゃあねえ、ここはおれがやる」


スッ


わさわさした魔物 「オパー」


淫魔幼女 (革エプロンのポケットから小さな魔物を取り出した……)


エプロン男 「お、おい、それは危険な……」


エプロン男B 「うっせえ、やるっきゃねえだろう……!」

エプロン男B 「……へっへっへ」

エプロン男B 「覚悟しろよ青白い顔のお嬢ちゃん。こいつにとりつかれると」

エプロン男B 「向こう十年はあんな所からこんな所までくすぐられまくりでまともに話せなくなるのだ……!」


淫魔幼女 「……ほう」


エプロン男B 「お嬢ちゃんが悪いんだぜえ? そんなあぶねえモン持ってやがるからよお」


アヒル人形 「…………」


ギラリ


エプロン男B 「へへへ、こええぜ何て人形野郎だ……。この状況でもつぶらな瞳で睨んできやがる」


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 (あのわさわさ、良いな。魔法少女の拷問につかえそうだ)

淫魔幼女 (どんなものか、ためしに攻撃をくらってみるか……)

??? 「待った」


エプロン男B 「! だれ……」


ドゴン 


エプロン男B 「だおっ……」


ドサッ


淫魔幼女 (いきなり現れた男が、エプロン男Bを気絶させた)

淫魔幼女 (たしか、城主のところに集まった奴の中にいたな)

淫魔幼女 (サッカー少年とか言っていたか)

淫魔幼女 (……袋詰めが得意そうな名前だ)

エプロン男B 「…………」


わさわさした魔物 「オパオパ」


エプロン男 「お、おい、エプロン男B……」


??? 「大丈夫、大丈夫、殺しちゃいない」

詐欺商人 「しかし女の子ひとりに男二人はいかんだろう若者たちよ」


ポスケッ


エプロン男 「ぐわっ……」


ドサッ



淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「さて、あとは」


わさわさした魔物 「オパッ」


おばけ岩 「メケッ」


ワサワサワサ ゴロゴロゴロ


淫魔幼女 「む、わさわさが……」


詐欺商人 「逃げたな。凶暴なモンスターじゃないのかな」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「どうも。城主のところ以来かな、お嬢ちゃん」


淫魔幼女 「……おれは男だ」

詐欺商人 「そうなのか、そりゃ悪かった」


淫魔幼女 「……どうしてここに。つけていたのか?」


詐欺商人 「おう。ベトベトの君が猫商人たちにからかわれているのを見てピンときたんだ」

詐欺商人 「あんた、よそ者だろう。この城市の奴じゃないという意味でなく」

詐欺商人 「おれは詐欺商人。ろくでもない旅の格言詩人だ」


淫魔幼女 「いろいろと言っている意味が分からないな」

淫魔幼女 「おれは淫魔幼女」

淫魔幼女 「南国の花の香りに誘われ、ふとここで秘密の暗黒の儀式でもしようと思い立ったただの淫魔だ」


詐欺商人 「そのアヒルをいじりながら話しかけたりアザブジュバーンとか言って顔を赤らめていたのは儀式だったのか」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「安心したまえ。たぶん秘密にしとくから」


淫魔幼女 「……のぞみは何だ」

淫魔幼女 「言っておくが、おれに雌の淫魔としての働きは期待するなよ」

淫魔幼女 「なぜならおれは男だから」


詐欺商人 「いや、別に……」

詐欺商人 「まあ、でも何だ。いちおう君を助けたかたちになるのだし」

詐欺商人 「ここは後腐れなく過ごすために、お礼の一言でも貰っておこう」

詐欺商人 「あとついでに、ここの特産という空酒をおごってもらおう」


淫魔幼女 「幼女に酒をたかるな」


詐欺商人 「お、良い詩が浮かんだ」

詐欺商人 「……アヒルのクチバシは濡らせ」


淫魔幼女 「…………」

詐欺商人 「そんなに渋ることでもないだろう。さあ、まずはお礼の言葉だ。淫魔らしく」

詐欺商人 「ありがとうござ淫魔」


淫魔幼女 「何だそれはじめて聞いたぞ。淫魔ナメてんのか貴様」


詐欺商人 「ほれ、早く言わないと新たな格言がお前を襲うぞ」


淫魔幼女 「貴様、ぜったい自分の職業を勘違いしているだろう。……ありがとうございます」


詐欺商人 「ござ淫魔」


淫魔幼女 「……ござ淫魔」


詐欺商人 「続けて。心をこめてありがとうござ淫魔」


淫魔幼女 「……助けてくださって本当に、本当にありがとう」

淫魔幼女 「打ち落とされて塔に刺さって死ねござ淫魔」


詐欺商人 「はっはっは」

詐欺商人 「さてと、気持ちよくお礼の言葉をいただいたところで、次は酒をおごってもらおうか」


淫魔幼女 「……おい」


詐欺商人 「うん?」


淫魔幼女 「そのエプロン姿の雄ども、息をしていないみたいだぞ」


詐欺商人 「ええ!?」


エプロン男 「……きゅう」


エプロン男B 「……うーん」


詐欺商人 「しているじゃないか。驚かせるなよ……」

詐欺商人 「……て」


ピィピィ キーキー クケーッ 


詐欺商人 「消えてしまった……。忙しい子だ」

詐欺商人
http://i.imgur.com/mRjUW3P.jpg



第二城市 迷路酒場


ガヤガヤ ワーワー


淫魔幼女 「ずいぶん、階段の多い酒場だ……」


酒スライム 「冒険者が増えて、ツギハギに建て増さないと追いつかないからね。この辺はどこもそうさ」

酒スライム 「ご注文は」


淫魔幼女 「おすすめ定食と水」


酒スライム 「良いのかい。ここは酒だけじゃなくてジュースもあるんだよ、お嬢ちゃん」


淫魔幼女 「水が良い」


酒スライム 「おーけぃ」



軽戦士 「また冒険者が増えたらしい。城主のやつ、人を集めすぎじゃないか」


弓戦士 「城主さまの執念のあらわれさ。遺跡の魔物に、奥方の命と左足を奪われたそうだ」


マッパー 「遺跡にのこのこ家族連れで行ってそれじゃとんだ笑いものだぜ」


補助魔道士 「そんな言い方はよそう、おかげで私たちが快適に冒険できるんだから」


ガヤガヤ


淫魔幼女 「…………」


ちび商人 「この酒場でたくさん人を雇おう。できるだけ多くの宝を手に入れるのだ」


のっぽ女商人 「私は、料理人を雇うわー。遺跡でみんなでお食事するのー」


太った商人 「わしは人手は足りとるから、娼婦もやっている冒険者を探すとしよう」

太った商人 「いや、わしがうぶな戦士を一から仕込んでやるのも良いな」


ちび商人 「色ボケはこれだから! そんなことより宝だよ、宝たから宝!」

ちび商人 「おい誰か、金をたっぷりやるからオレ様のために宝を探さないか!」


ドカドカドカ


太った商人 「まったく、品の無いチビめ。さて、わしも物色……」

太った商人 「む、あれは……」


淫魔幼女 「むふふ。よく撮れているぞヒッキーくん。逆光に光る腰の丸いラインがまた……」


太った商人 「……ほほーう」



淫魔幼女 「タイトルは、ヒッキーくん天空の都に南国を見た。とかか」

淫魔幼女 「うむ、良い感じだ」


太った商人 「やあ、お嬢ちゃん。相席させてもらうよ」


淫魔幼女 「…………」


太った商人 「お嬢ちゃんも遺跡を冒険しに来たのかい?」


淫魔幼女 (商人か。言葉に気をつけよう)

淫魔幼女 「……ええ、許可証も無事にいただけました。ところで、おれはおと……」


太った商人 「そうかあ。いやいや、その歳で大したものだ!」


ガシッ


淫魔幼女 (横にきて肩を抱かれた……)

絵自分で描いたの?

淫魔幼女 「…………」


酒スライム 「お待ち。おすすめ定食に水ね」


太った商人 「……おや、何だいお嬢ちゃん。ずいぶん寂しい夕食じゃないか」

太った商人 「いかんぞ。しっかり食べなくては、遺跡でばててしまう」


淫魔幼女 (手が肩から腰に……。外套の上からなのに肌がゾワゾワしてきた)


酒スライム 「ちょっとお客さん。その子、いやがってるんじゃないの?」


太った商人 「あ、ああ、すまない! 娘と話しているようでつい!」


酒スライム 「お願いしますよ。うちで飲み食いしてもらえるのはありがたいけどね」


淫魔幼女 「…………」

>>50
いえす

淫魔幼女 (……料理がきたが、このままでは食べられない)


太った商人 「しかしお嬢ちゃんくらいの歳だといろいろ不便もあるだろう」

太った商人 「頼んだ料理を見る限りでは、お金にも困っているんじゃないかな?」


淫魔幼女 「いえ、特には。それにおれはおと……」


太った商人 「そうだ、わしと一緒に冒険してみないかね?」

太った商人 「わしの金で雇った腕のたつ冒険者がたくさんいて安全だ」

太った商人 「ここの遺跡はすごく危険だ。迷路みたいになっているし、柱や床が崩れたり、怖い魔物が出てきたりする」


淫魔幼女 「…………」


太った商人 「お腹いっぱい食べたくはないかね?」

太った商人 「その細い腰、冒険で引き締まった大人の体も良いが、たまには未発達の華奢な体も……いやいや」

太った商人 「そんな体じゃ、魔物に一撃でやられてしまうよ」


淫魔幼女 「…………」


太った商人 「一緒に着てくれたら、お嬢ちゃんには特別にお小遣いもあげよう!」

太った商人 「そんな黒こけた外套で隠さなくても良い立派な服やドレスも買ってあげよう!」


淫魔幼女 (……おれの食事は、あんまり近くで見せられないのに)

淫魔幼女 「せっかくですが……」


太った商人 「よくない! 遠慮はよくないぞお嬢ちゃん」


淫魔幼女 「頼むから聞けよこら」

ザワッ

太った商人 「うん?」


淫魔幼女 (下の方が騒がしくなったと思ったら、すぐに静かになった)

淫魔幼女 「…………」


太った商人 「こ、これこれ、そう身を乗り出しては落ちてしまうよ、お嬢ちゃん。ここの手すりは見るからに脆いから」

太った商人 「いったい下で何が……」


ツカ ツカ

虹髪飾り女 「…………」


コボルト 「……ゴクリ」


槍使い 「絶世の美女だ……」


拳士 「おお、今日も麗しい……」


虹髪飾り女 「……うふふ」

キイッ


虹髪飾り女 「…………」


鎖使い 「お、お座りになられたぞ……」


丸太使い 「すげえっ」


虹髪飾り女 「……ふう」


酒場の冒険者たち 「…………」


虹髪飾り女 「……ああ」

虹髪飾り女 「今日はとことん、乱れるまで酔い潰れたい気分だわ……」


酒場の冒険者たち 「!!」

僧侶 「……お」

僧侶 「おれに奢らせてくれ!」


賢者 「い、いやおれだ。おれが奢る!」


ワアアア ウオオオ


店員たち 「ちょ、ちょっと、お客さんがたお静かに! お静かに!」


淫魔幼女 (虹色の髪飾りをした女に冒険者の男たちが群がってもみくちゃになっている)


半魚人 「くそ、ここからじゃ声も届かない。飛び降りるぞ!」


ちび商人 「おいあんた、そんなことより宝を……あーあ、行っちまった」


淫魔幼女 (あの女に魅了されていないのもいるか)

ワアアア


太った商人 「…………」

太った商人 「お、お嬢ちゃん、ちょちょ、ちょっと待っていてくれ!」

太った商人 「すぐに戻るから!」


淫魔幼女 「どうぞ。ちなみにおれはおとこ……」


太った商人 「おーい、わしだ! わしが奢るぞぉ~! わしはおそらくこの場で一番の金持ちだぞお!」

太った商人 「あ、手すりが壊れた」


バキッ ヒュルルル


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「しめた」

ドチャン ガチャン ウオオオ


淫魔幼女 「……おれの故郷の淫魔たちは、酒のように媚薬をたしなむ」

淫魔幼女 「酒スライムが持ってきた水に、シルフ娘に届けてもらったお気に入りの媚薬を数滴たらせば」


ポチョン


淫魔幼女 「即席の媚薬ジュースが出来る。媚薬酒とか呼ばれたりもする」

淫魔幼女 「量を間違ってはいけない。間違うと淫魔でも大変なことになってしまうぞ」

淫魔幼女 「……オットセイの媚薬にニオイスミレの香りを混ぜるのが、最近のおれの定番なのだ」


クルクルクル モヤモヤモヤ


淫魔幼女 「よし、よく混ざったな。いただこう」



淫魔幼女 「ゴクッゴクッゴクッ……」


ワアアア


酒スライム 「あーあー、まったく。あのお客がくると男どもがいっつもこうだ」

酒スライム 「……って、あれ。私がさっき黒いお嬢ちゃんに出したの、この城市特産の空酒じゃない」

酒スライム 「あっちゃ~……。無色透明無味無臭だから、水と間違っちゃうんだよねー……」


ワアアア


淫魔幼女 「ゴクッゴクッ……」

淫魔幼女 「!?」

淫魔幼女 「………くぁっはっ!」

淫魔幼女 「ゲホッゲホッ……これ、酒か……!」

淫魔幼女 「あの酒スライムめ、水じゃなくて酒を持ってきのだな……!」

淫魔幼女 「しかしなぜだ、においがまったくしなかった」

淫魔幼女 「まさか、これがシルフ娘の言っていた空を凝縮したような果実からつくられたという酒……」

淫魔幼女 「い、いかん、水以外では混ぜる媚薬の分量が……」

淫魔幼女 「ハラホレヒレハレ……」


バタン


淫魔幼女 「きゅう……」


ワアアア ウオオオ

>>61 訂正
淫魔幼女 「あの酒スライムめ、水じゃなくて酒を持ってきたのだな……!」

虹髪飾り女 「ああ、お酒おいしい。次はあれが食べたいわあん」


ワーウルフ 「わんわん! おれが奢るんだぞ」


忍者 「にんにん!」



ガシャン バリン ワアアア


詐欺商人 「よっ……ほっ……」

詐欺商人 「ははは。いやまったく、すごい騒ぎだね。皿やら椅子やら罵詈雑言やらが乱れ飛んでいる」

詐欺商人 「落ち着いて食えるとこはあるのかな……と」

詐欺商人 「うん? あそこでテーブルに突っ伏しているのは」


淫魔幼女 「きゅう……」


詐欺商人 「……おやまあ」



詐欺商人 「おい、大丈夫かい。おい」


淫魔幼女 「……う、うーん」

淫魔幼女 「したり顔の、ババアが、48人……」


詐欺商人 「したらば48か」

詐欺商人 「なに言ってんだお前」


淫魔幼女 「……きゅう」


詐欺商人 「だめだこれは。完全に酔いつぶれている」



酒スライム 「あちゃー、遅かったか」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「やあ、おれは何もしていないよ。来たら酔いつぶれていた」


酒スライム 「やっぱりかあ。水と間違って酒を出しちゃったんだよ」


詐欺商人 「……もしかして、ここの特産の酒かな」


酒スライム 「そうそう」

詐欺商人 「どれ、ここはひとついただこう」


酒スライム 「こら何やろうってんだい、あんた」


詐欺商人 「大丈夫。この子から酒を奢ってもらうことになっていたんだ」

詐欺商人 「昼間、ちょっとした貸しをつくってね」


酒スライム 「とんでもない奴だね、子供に酒をおごらすなんて」


詐欺商人 「はっはっは」

詐欺商人 「おれはツナパンケーキと焼き豆のスープを頼むよ」


酒スライム 「どっちも無いよ」


詐欺商人 「なんだって、良い店だ」

詐欺商人 「じゃあ、この子と同じものを」


酒スライム 「……はいよ。やれやれ」

ワアアア ドヤドヤ ガシャン


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「…………」

詐欺商人 「無臭と聞いたが、花みたいなかおりがするなこの酒は」

詐欺商人 「………グビッ」

詐欺商人 「!」

詐欺商人 「……へえ、うまいじゃないか」

詐欺商人 「ちょっと甘い気もするが。無味ってのは大げさに言っているだけなのかな」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「………グビッ」


ワアアア ボカン バリン 

ワアアア

…………

夢の中


棺持ち 「姫」


幼女魔王 「まあ、棺持ちさま! お久しぶりですね」

幼女魔王 「桃色のたてがみのライオンがあくびをしたわ」

幼女魔王 「ねえ、見て棺持ちさま。これ、棺持ちさまのお顔よ」

幼女魔王 「会えなくて寂しいってお父様に言ったら、今朝お部屋に転がっていたの。ほかのお友達のも、ほら」


棺持ち 「姫」


幼女魔王 「ねえ、棺持ちさま。棺持ちさまはどこか知らないかしら。お礼を言わなくちゃ」

幼女魔王 「お顔がないと大変なのに。歯茎をめくることもできないわ」


棺持ち 「……待っていてください。いつか、必ずお助けいたします」


幼女魔王 「……まあ、棺持ちさま! お久しぶりですね」

幼女魔王 「どうしたの、棺持ちさま。たいへん、首から上がなくなっているわ。ああ、そうだ、ねえ見て、これ棺持ちさまのお顔……」

迷路酒場

ガヤガヤ ワイワイ

淫魔幼女 「……む、むぅ」


詐欺商人 「お。気がついたか」


淫魔幼女 「……貴様は」


詐欺商人 「酒ごちそうさん。うまいね、ここの飯は」


淫魔幼女 「おれのおすすめ定食」


詐欺商人 「お前が頼んだ分はいただいているよ。さめてしまいそうだったから」

詐欺商人 「そっちも早く食べろ。さめちまうぞ」


淫魔幼女 (おれが頼んだものと同じ料理だ)


詐欺商人 「あと、そっちは水だ。酒っぽいスライムのお姉さんが持ってきた」

詐欺商人 「今度はちゃんと水だぞ。確かめていないが」

淫魔幼女 「あの酒を飲んだのか」


詐欺商人 「おう」


淫魔幼女 「……何ともないのか」


詐欺商人 「別に。あれくらいで酔いつぶれたりしないよ」


淫魔幼女 「そうではなくて……」


詐欺商人 「だが、あれは何ていう酒だったんだろう。同じのをもう一杯頼んだつもりだったが」

詐欺商人 「香りも味も違う。……まあ酒の味なんて分からないけども」


淫魔幼女 (淫魔のおれでも媚薬の効果がきついのに、平然としている……)

淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「いやあ、うまいなオススメ定食」


淫魔幼女 (何なんだこの図々しい男は。この世界の人間じゃない風なことを言っていたが)

淫魔幼女 (そもそも人間なのか魔物なのか)

淫魔幼女 (……詩人とか言っていただけあって、顔はととのっているな。手は逞しい感じが)

淫魔幼女 (……いかん。媚薬のせいで、いよいよ頭の血が煮えてきた)


ガタ


詐欺商人 「どうした、急に立ち上がって」


淫魔幼女 「帰る」


詐欺商人 「宿にか。酒もおごってもらったし、一緒に食う必要もないもんな」

詐欺商人 「……フラフラしているぞ。そんな調子で大丈夫か」


淫魔幼女 「らいひょうふ……大丈夫だ、問題ない」

ガタタン


淫魔幼女 「んう」


詐欺商人 「さっそく派手に倒れているじゃないか……」

詐欺商人 「あーあー、椅子ごと。ほら、手を貸すぞ」


淫魔幼女 「さ、さわるな」


詐欺商人 「外套があるから良いだろう。潔癖な乙女かお前は」

詐欺商人 「ほれ、つかまれ」


淫魔幼女 「らめろ……おれは男だ」

淫魔幼女 (だめだ、雄のにおいを近くでかぐと……。あの酒、どれだけ媚薬と相性が良かったんだ)

詐欺商人 「さあ、水を飲め。顔が真っ赤だし、目もトロンとしている」

詐欺商人 「あ、目は昼間もそんな感じだったな」


淫魔幼女 「すまん……」


詐欺商人 「気にするな。同じ宿だろうから、部屋までおくろうか?」


淫魔幼女 「そこまではいらん」

淫魔幼女 「…………ゴクッ」

淫魔幼女 「!」

淫魔幼女 「くぁっはっ!」


詐欺商人 「ええっ!?」

淫魔幼女 「ほひ、ふにゃけんりゃこらぁ」

淫魔幼女 「こりぇ、まひゃ酒にゃらいかあ……!」


詐欺商人 「い、いや、そういうつもりは無いんだけど……」

詐欺商人 「しかしお前、酒を飲むとおもしろいことになるな」


ドタドタドタ


酒スライム 「ごめん、また間違えた! 下がもうひっくり返っててさあ」

酒スライム 「はい、これ水……て、あら」


淫魔幼女 「おい、くしょスライム、いいひゃへんひひほよぉ……」


酒スライム 「あちゃー、また遅かったみたいね」

詐欺商人 「何か酔いざましになるものはないかな」


酒スライム 「コーヒーもってこようか」


詐欺商人 「殺す気か」


淫魔幼女 「ろ……がいろうの中にろまろやふにゃ……」


酒スライム 「あらまー、酒ですっかりアヘアヘだね。何言ってるか分かんない」


詐欺商人 「外套かな。外套の中に何かあるのか? どれ……」


ゴソゴソ


淫魔幼女 「ひにゅんッ」


詐欺商人 「あ、すまん」


酒スライム 「お客さん、ここで変なことやられたら困りますよ」

ゴソゴソ


詐欺商人 「……お、ふところに何かあった。これかな」


たくさん穴の開いた一口大の球


詐欺商人 「これは……何か違う感じだ。店員さん、悪いが持っていてくれ」


酒スライム 「おーけい」


詐欺商人 「さて、たぶん酔いざましの薬があるんだろうが……」

詐欺商人 「お、外套にもポケットがあるな」


ゴソゴソ


酒スライム 「ねえ、見て見て」


詐欺商人 「ん?」


球をくわえた酒スライム 「モガモガ(装備してみた)」

詐欺商人 「いやあ……それはさすがに使いかたが違うだろう」


酒スライム 「ムホッ。ホムホム(そう? すごいしっくりくるよ)」


詐欺商人 「唾液が垂れまくっとるじゃないか……」


淫魔幼女 「ひゃんらめ、ひょこわ……」


詐欺商人 「このポケットか」


ゴソゴソ


酒スライム 「モガモガ(言ってることよくわかるね)」


詐欺商人 「これでも詩人なんでね。レベル3だけど……お、薬瓶のような冷たい手触り。これだな」


萎えトマト薬


詐欺商人 「これ……かな」

淫魔幼女 「ハア……ハア……」


詐欺商人 「苦しそうだな。ほら、はやく飲め」


酒スライム 「ムフッホ、モガ(苦しそうってより、切なそうな感じだけどね)」


詐欺商人 「そんなばかな」


淫魔幼女 「ゴクッ……ゴクッ……」

淫魔幼女 「!」

淫魔幼女 「くぁっは!」


詐欺商人 「おおう!?」

淫魔幼女 「……ふう」

淫魔幼女 「なんとか、話せるくらいには回復した……」


詐欺商人 「いや、そうか。一瞬ひやりとした」


淫魔幼女 (心地よい雄の声だ。聞いているだけで安心する)

淫魔幼女 (……酒は抜けたが、媚薬の効果がまだ残っているな)


酒スライム 「モガモガ(よかったよかった)」


詐欺商人 「いつまで装備しているつもりだ、それ」


酒スライム 「モガモガ(それがさ、とれなくなっちゃってさあ)」


詐欺商人 「本当か。呪いのアイテムだったのかね。何言っているのか分かるから問題ないけど」


淫魔幼女 (その通り。あれは呪いの咥え球。とてもお子様にはお見せできないことに使うアイテムなのだ)


酒スライム 「モガモガ(呪いか。困ったね)」


淫魔幼女 (わた……おれをこんな目にあわせた報いだ)

淫魔幼女 (よだれダラダラの恥ずかしい姿をひと様にさらす一生を送るが良い)

淫魔幼女 (ふはははは)


酒スライム 「モガ(ま、いっか。私のよだれ酒だし)」


淫魔幼女 「!?」


ワーワー ガヤガヤ


酒スライム 「ムガムガ(お酒でできたスライム。それが私、酒スライム)」

酒スライム 「モゴッンホォ(ここの料理酒として、私の分泌物が使われていたりするのだ。えっへん)」

酒スライム 「モガ(それはそうと。迷惑かけちゃったし、何かサービスするよ)」


詐欺商人 「へえ、ありがたい」


酒スライム 「モゴモゴ(兄ちゃんには酒と、お嬢ちゃんにはデザートと水で良いかな)」


淫魔幼女 「ま、待て。もう水はいらない」

淫魔幼女 (こいつから飲み物を受け取りたくない……)


酒スライム 「モガ(おーけい)」


ガチャガチャ ワーワー


祭具売り 「まだ騒ぎが続いている」


人形売り 「しかたないね。王都でも見られないような美人だ」


祭具売り 「だが怖い噂も聞くぜ。虹色の髪飾りの女と一緒に酒場を出た冒険者は、行方不明になるそうだ」


人形売り 「美人にあやしい噂はつきものさ」


ワーワー


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「店員たちが机をつなげて決闘場をつくったぞ」

詐欺商人 「騒ぎをとめるのはあきらめたか。男たちが列をなして戦ってまで貢ぎたがるとは、美人は得だね」


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 (だ、だめだ……どうしてもこいつから目が離せない。このままでは媚薬が完璧にきまってしまう)



淫魔幼女 「…………」


モジモジ ソワソワ


詐欺商人 「……化粧室なら、あの階段を降りた先だぞ」


淫魔幼女 「はうっ……」

淫魔幼女 (話しかけられただけで心臓が弾む)


詐欺商人 「おい、本当に大丈夫か」


淫魔幼女 「や、やめろ、やさしくするな……。おれは男だ」


詐欺商人 「なに言ってんだお前。心配するのに男も女もないだろう」

詐欺商人 「お、今のいいな。良い格言詩ができそうだ」

詐欺商人 「……心配は恋よりも平等である」


淫魔幼女 (もう駄目だ)


淫魔幼女 (だが帰ろうにも、こんな状態でほかの雄に会ったら……)

淫魔幼女 「お、おい」


詐欺商人 「うん?」


淫魔幼女 「頼む。い、急いでおれの部屋まで、その、おくっていってほしい。金はちゃんとはらうから……」


詐欺商人 「ああ。そのくらいなら金はいらないよ。じゃあ行こうか」


淫魔幼女 「あ、あの……」


詐欺商人 「ん?」


淫魔幼女 「できれば、おんぶで……」

淫魔幼女 (口が勝手に……)


詐欺商人 「ははは、そんなとこは子供らしいな」


淫魔幼女 (おれは男、おれは男……)



ガシャン バリン


白髪幼女 「何じゃあ、騒がしい酒場じゃのう」

白髪幼女 「まあ良いわ。……なぜなら、今日の蛇牙猫耳ちゃんはすこぶる機嫌が良いのじゃ」

白髪幼女 「まさかこんな町で、伝説の魔法テーブルトークロールプレイングゲーム」

白髪幼女 「家畜王ランス~大農家~が手に入るとはのう」

白髪幼女 「むっふっふっふ、この冒険心をくすぐる赤い箱。こりゃあ遺跡のことなんか忘れちゃうかものう」

白髪幼女 「さて、何を頼もうか」


酒スライム 「モガモガ(いらっしゃーい)」


白髪幼女 「おほっ!?」


…………

>>87 訂正
× 白髪幼女 「~今日の蛇牙猫耳ちゃんは~」
○ 白髪幼女 「~今日のわしは~」

理性のふんばりどころが分からんくなってきた


調査隊の宿 淫魔幼女の部屋



ガチャッ ギイ


詐欺商人 「ついたぞ」


淫魔幼女 (首のにおい、雄のにおい。もっとかいでいたい……)

淫魔幼女 (ちがう。おれは男おれは男)


詐欺商人 「そのまま寝るなら、ベッドにおろすぞ」

  
淫魔幼女 「んふ、ふう……ん……っ」


詐欺商人 「おい」


淫魔幼女 「……ッ。ま、待て、椅子だ、椅子におろしてくれ……」


詐欺商人 「わかった、わかった」


詐欺商人 「ほい」


トス ズルル


淫魔幼女 「むう……」


詐欺商人 「普通に座ることもできないじゃないか。全身ふにゃふにゃになっているぞ」


淫魔幼女 「し、心配ない。あと、これを……」


詐欺商人 「縄? この縄がどうかしたのか。というか、その外套の中にどれだけ物を入れているんだ」


淫魔幼女 「その縄でおれを……」

淫魔幼女 「すごくきつく縛ってくれ」


詐欺商人 「…………」

詐欺商人 「え?」


詐欺商人 「いやあ。悪いが、おれはそういう趣味は無いんだよ」


淫魔幼女 「違う、ばか……」

淫魔幼女 「わたしの体を椅子ごと縛ってほしいんだ」


詐欺商人 「あまり変わらない気がするが。……何かいよいよ余裕がなくなってきたなお前」


淫魔幼女 「は、早く。このままじゃ……」


詐欺商人 「ふむ。じゃあ、お前の事情もいろいろと聞かせてもらいたいな」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「……アヒル」


淫魔幼女 「わ、わかった。話すから……」


ギシッ ギュッ グルグル


詐欺商人 「……ふうん。ははは、淫魔が媚薬でやられるとは」


淫魔幼女 「時期も悪かったようだ」

淫魔幼女 「この体は成長期で、定期的に発情してしまう。男の精気を食らいたくなるんだ」


詐欺商人 「へえ。そんなときは動けないようにして耐えているのか」

詐欺商人 「何だってまた、不自然で面倒くさいことを。男だとか言っているのと関係あるのかな」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「…………」

詐欺商人 「よし、こんなもんか」


淫魔幼女 「……おい」

淫魔幼女 「ふざけるな、何だこの縛り方は。何だかものすごく屈辱的だぞ」


詐欺商人 「女の子らしく可愛くしようと思って。良くないか? カメさんの甲羅がらだぞ」


淫魔幼女 「股が痛くてかなわんわこのヘタクソ結びなおせ」


詐欺商人 「…………」


淫魔幼女 「……わ、わかった、ちゃんと話すから」


詐欺商人 「だいぶ追い詰められているみたいだな。何とも言えず愉快だね」

詐欺商人 「お、またよい詩が」

詐欺商人 「……幼女は縄で縛れ」


淫魔幼女 「死ね」



淫魔幼女 「この体はもともと、おれのものでは無いんだ」

淫魔幼女 「お前の言った通り、おれは別の世界の出身だ」

淫魔幼女 「もといた世界、今はもうなくなってしまったがそこで」

淫魔幼女 「ある儀式によって魂をこの体に移されてしまったんだ」


詐欺商人 「ほう、そりゃまた便利な」


淫魔幼女 「魂は体の影響も受ける。気を抜くと、おれの魂は女になってしまう」

淫魔幼女 「だから、ちゃんとそこは意識していないといけないんだ」


詐欺商人 「大変だなあ。……と、お前はもともと男だったのか」


淫魔幼女 「………………心は」


詐欺商人 「またずいぶんと希望をうむ言い回しを」



詐欺商人 「その体、もとの持ち主はいたのかい。人形とかでなく」


淫魔幼女 「……ああ」


詐欺商人 「その子はいったい今どこに」

詐欺商人 「もとのお前の体に入っていたりするのかな」


淫魔幼女 「分からない」

淫魔幼女 「気がつくとおれは儀式を受けたあとで、もとの世界には帰れなくなっていたから」


詐欺商人 「…………」


淫魔幼女 「……ただ世界がなくなる前」

淫魔幼女 「おれが頭のないおれの体を見上げていたことはおぼえている」


淫魔幼女 「……魔法少女を知っているか」


詐欺商人 「ああ、いくつかギルドを知っているな」

詐欺商人 「変身すると魔力が上がって強くなる、どこかのボス魔王たちみたいな奴らだろ」

詐欺商人 「厄介なんだよなあ、とくにあの凍てつく感じの波動とか。おれは敵対関係じゃないけど」


淫魔幼女 「波動?」

淫魔幼女 「……おれのいた世界を壊した奴らの中に、たしかにいたんだ、あるギルドの魔法少女たちが」


詐欺商人 「じゃあ復讐のために、旅を?」


淫魔幼女 「……暇つぶしの八つ当たりだ。本当に奴らがやったのか分からないし」

淫魔幼女 「ちょっと殺してくださいと懇願しても、生かしたまま殺し続けて辱めるだけだ」


詐欺商人 「とんでもない悪人じゃないか」


淫魔幼女 「知ったことかよ。人には人の、魔物には魔物の善悪があり」

淫魔幼女 「そして風景に善悪などないのだから」



淫魔幼女 「ただちょっと、あいつらが人間の中で正義の味方だとか」

淫魔幼女 「大げさに言ったり言われたりしているのが気にくわないだけだ」


詐欺商人 「本当に八つ当たりだな。善悪は必要なものだぞ」

詐欺商人 「自分たちにとって悪人だと思えるから、みんな心置きなくいじめたりあざ笑ったりできるんじゃないか」


淫魔幼女 「どうこうしようというわけじゃない」

淫魔幼女 「……このくらいで良いか?」


詐欺商人 「うん。何となく分かった。モジモジしながら話していたのは気になったが」


淫魔幼女 「見るな……」



詐欺商人 「そろそろおれも部屋に戻るか」

詐欺商人 「一緒に飯を食った仲だ、パーティーを組むことがあれば良かったら呼んでくれ」

詐欺商人 「じゃあな、しっかり休めよ」


淫魔幼女 「ま、待て」


詐欺商人 「うん?」


淫魔幼女 「出て行く前に、その……荷物から替えの下着を出しておいてくれ」


詐欺商人 「しかたないな。他には何かないか」


淫魔幼女 「あの……あとで下着を交換してくれ。……お前の口で」


詐欺商人 「気をしっかり持て。魂が女になっているぞ」

詐欺商人 「女じゃねえよ、変態だ。魂が変態になっているぞどんだけ変態なんだお前」


…………


詐欺商人 が仲間になった


■淫魔幼女
種族:偽サキュバス
職業:外道行商人レベル0057 死霊使いレベル0035 魔女狩りレベル1246
装備:大きな棺
    剣の黒外套
    フリルの下着
    ラバーダック(黄)
    棺の紋章
    

■詐欺商人
種族:人間
職業:格言詩人レベル003 行商人レベル00001  
装備:風の剣
    詐欺師のフェドラ帽
    すごい保健の本
    耳かき
    人魚の紋章


ラバーダックアルバム
001 南国のアヒルさん

ラバーダックカスタマイズ
着色いアヒルさん……パーティの全ステータスが少しアップ



■淫魔幼女
http://i.imgur.com/Af2j8sI.jpg

しますよー。

チュンチュン チチチ


淫魔幼女 「……う……んん」


モゾモゾ


淫魔幼女 「あふ……」

淫魔幼女 「!!」

淫魔幼女 「……おちおち寝てもいられない」

淫魔幼女 「寝ている間も疼きをおさめようと手が動くとは、油断ならない体だ」



淫魔幼女 「……目を閉じると詐欺商人の顔が浮かぶ」

淫魔幼女 「体が淫魔として恋をしているのか。ああいうどこか間の抜けた大人が好みだったのだな」

淫魔幼女 「……厄介だ。いざとなったら、殺すことも考えておくか」


詐欺商人 「朝っぱらから物騒な淫魔だな」


淫魔幼女 「!」


淫魔幼女 「貴様、なぜここに」


詐欺商人 「おお、すっかり元通りの無愛想だ」

詐欺商人 「昨日の乱れっぷりが嘘のよう」


淫魔幼女 「く……」


詐欺商人 「うっかり、お前に鍵を返すのを忘れていてね」


ジャラ


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「あと、これ」


淫魔幼女 「……回復薬?」


詐欺商人 「持っているだろうと思ったが、発情消しだ」

詐欺商人 「淫魔が敵のときなんかに使うアイテムだよ」



淫魔幼女 「……ありがたくいただこう」


詐欺商人 「ござ淫魔」


淫魔幼女 「貴様は淫魔を誤解している。バカにしてんのか殺すぞ」


詐欺商人 「ああ」

詐欺商人 「淫魔の女も恋なんてするのだな。男なんて食料くらいにしか見ていないと思っていたが」


淫魔幼女 「……そういう種族もいるだろうが」

淫魔幼女 「淫魔は恋の生き物だ」


淫魔幼女 「お前の言うとおり、男の精気を吸って命をつなぐ女の淫魔にとって男は食料だ」

淫魔幼女 「だが、それだけというわけではない」

淫魔幼女 「一夜をともにするとき、たしかに恋をしている。相手の男しか見えなくなる」

淫魔幼女 「身も心も、愛しい相手にささげるんだ。相手の男のものになって、相手の男のために生きるんだ」

淫魔幼女 「命を燃やし、身を焦がし、自分のすべをかけて一夜の男を愛するんだ」


詐欺商人 「………ぶはは」


淫魔幼女 「貴様、まじめな話をしているのに笑うな……」

淫魔幼女 「ぷふふふっ……」



淫魔幼女 「人間には理解できないかもしれないが」

淫魔幼女 「これが淫魔なりの愛情なんだ」


詐欺商人 「なるほど。食べちゃいたいくらい好きってわけね」


淫魔幼女 「まあ……」


詐欺商人 「いやしかし、こんな子供に恋されるとは。おれも捨てたもんじゃないね」


淫魔幼女 「おれがお前を好きなんじゃないからな。この体がお前を好きなだけなんだからな」


詐欺商人 「はいはい」

詐欺商人 「はやくしたくしな。どうせだから旅は道連れといこうじゃないか」


淫魔幼女 「むう……」



詐欺商人 「報酬の分け前あたりのことなら心配するな」

詐欺商人 「おれは良い格言詩がうかぶような場所に行きたいだけだ」

詐欺商人 「知人の吟遊詩人にも良い土産話ができるだろうし」


淫魔幼女 「おれも、別に報酬が欲しいわけじゃない」

淫魔幼女 「ある種のアイテム以外、とくに固執はしない」


詐欺商人 「問題なさそうだな」



詐欺商人 がパーティに参加した


詐欺商人 「遺跡の最下層を目指すわけだが、一日じゃ無理だ」

詐欺商人 「遺跡では記憶の方陣を使用できるようだから、それを利用して帰還を繰り返すことになるだろう」

詐欺商人 「ダンジョンからの帰還の際に記憶の方陣を設置することで、次に同じダンジョンに入る場合はそこに飛ぶことができる」

詐欺商人 「記憶の方陣はあまり長持ちせず、また、別のダンジョンに入ると消滅してしまう」

詐欺商人 「対となる方陣を安全な帰還先に置いておくのも忘れないようにな。忘れると大変なことになる」


詐欺商人 「遺跡関係で、いろいろなギルドから依頼もあるらしい」

詐欺商人 「気分転換に城市のギルドを覗いてみるのも良いかもな」


詐欺商人 「……遺跡の上層は強い敵も出ないはずだ。人も多いようだし、気楽に行って大丈夫だろう」

詐欺商人 「さて、酒スライムの酒場で飯を食って行こうか」


…………

…………

邪神の迷宮遺跡 地上 発掘現場


ドン テン カン

ギルド商人男 「遺跡探索の強い味方、シャボンレンズはいらんかね」

ギルド商人男 「これで暗い道も安全。敵の強さもばっちり分かるよ」


ギルド商人女 「おいしく食べてステータスアップ。携帯食はいかがですかあ」

ギルド商人女 「おすすめは早口のど飴。魔法をすばやく唱えられますよお」


熊耳メイド 「姫、そろそろエプロン以外にも何か装備してくだせえ。肌色が多すぎていけねえや」


斧使い姫 「やだね。あたしゃ赤いエプロンしか装備しないって決めてんだ。それより乗り物屋は無いのかい」

ザワザワ


詐欺商人 「朝から活気があるね」


淫魔幼女 「神秘性はまったく無いがな」


ドン テン カン



ブシュー ガコ ガコン


蒸気見習い 「蒸気エレベーター。蒸気エレベーターです」

蒸気見習い 「現在、遺跡内部へおりる階段は崩れて通れません」

蒸気見習い 「遺跡探索の冒険者のかたはこちらへどうぞ」

蒸気見習い 「蒸気エレベーター。蒸気エレベーターです」


ワイワイ ゾロゾロ


淫魔幼女 「蒸気機関……?」


詐欺商人 「辛うじて魔法と相性が良い技術……らしい」

詐欺商人 「昔は色々な原動機やらエネルギー機関があったそうだけど」

詐欺商人 「そのほとんどが世界の空気に嫌われ、魔法に淘汰されたそうだ」


淫魔幼女 「ふむ……」

淫魔幼女 「帰還用の方陣はこのあたりで良いか」


詐欺商人 「ん、そうだな」


蒸気見習い 「蒸気エレベーター。蒸気エレベーターもうすぐ満員です」


淫魔幼女 「……む、やはりもう少しあちらの方に」


詐欺商人 「……怖いのか、蒸気」


淫魔幼女 「ふざけるな」


詐欺商人 「…………」


淫魔幼女 「……あの音がどうも」

淫魔幼女 「魔法じかけなら怖くないが。魔法少女とか余裕で虐殺しまくるが……」


詐欺商人 「……ははは、子供らしくてかわいいかわいい」


淫魔幼女 「帽子あげろお前。絶対いやな笑い方してるだろ貴様」

ワイワイ ギュウギュウ


蒸気見習い 「蒸気エレベーター、下へ向かいます」

蒸気見習い 「歯ァ食いしばれ!」


淫魔幼女 「…………!」


詐欺商人 「手でも握ろうか」


淫魔幼女 「見くびるな」


猫商人A 「……にゃ。見るにゃ猫商人B」

猫商人A 「城主のとこで会ったベトベト幼女にゃ」


猫商人B 「……本当にゃ。今度はお兄さんにベタベタしてるにゃ。ベタベタ少女にゃ」


淫魔幼女 「…………」



猫商人A 「ベタベター。ベタベタ幼女にゃー」


猫商人B 「怖いにゃ? ゴンゴン震える蒸気エレベーターが怖くてしかたないにゃ?」


ルンタッタ ルンタッタ


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「こらこら、あまりここではしゃがないでくれ」

詐欺商人 「蒸気エレベーターが落ちてしまう」


淫魔幼女 「……な」


詐欺商人 「なんて、郷愁の鉄かおる朝に冗談を言ってみたりするおれは格言詩人」


淫魔幼女 「かみ殺すぞ貴様」


詐欺商人 「光栄だね」



猫商人A 「これをあげるにゃ」


淫魔幼女 「……護符?」


猫商人B 「蒸気酔いを防ぐお守りにゃ」


淫魔幼女 「……蒸気酔いなどというものがあるのか」


猫商人A 「ないにゃ」


猫商人B 「からかっただけにゃ。それはただのペンギンさんマークの子供用魔物よけにゃー」


ルンタッタ ルンタッタ


淫魔幼女 「礼を言う……!」


猫商人A 「にゃんと」


猫商人B 「予想外にゃ」



ゴウン ゴウン


蒸気見習い 「間もなく到着いたします」

蒸気見習い 「腹の底に力ぁいれろ!」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「怖かったらおれの服を掴んでいても良いぞ」


淫魔幼女 「見くびるな。ペンギンさんの加護を得たおれに死角はない」


ガコン プシューッ ドッ ドッ ドッ


蒸気見習い 「到着。蒸気エレベーター到着ー」

蒸気見習い 「地下遺跡にとうちゃーく」


ザワザワ

地下遺跡 蒸気門


蒸気ガール 「地下遺跡へようこそ」

蒸気ガール 「この門より先はモンスターが出現します」

蒸気ガール 「殺されてしまうこともあるのでご注意ください」

蒸気ガール 「地下遺跡は広大です。現在、探索ルートは二十ほど発見されていますが」

蒸気ガール 「どれが最深部に続いているかは分かっておりません」

蒸気ガール 「開拓済みのルートには休憩所が設置されています」

蒸気ガール 「未開拓のルートは休憩所もなく危険ですが、珍しいアイテムが見つかるかもしれません」

蒸気ガール 「上層には冒険者用の宿があります。地上ほどではありませんが施設も揃っていますので」

蒸気ガール 「拠点としてお使いいただくことも可能です」

蒸気ガール 「では、開門します」


ガコン ブシュー ゴゴゴ


蒸気ガール 「いってらっしゃいませ」

http://i.imgur.com/7sX5QO2.jpg

地下遺跡 上層 地下一階

ザワザワ ワイワイ

タレ目戦士 「くらえ、邪悪なるモンスターよ!」

熱の剣技Lv.1
幼ワーム に命中 やけどの追加効果

幼ワーム 「ピキーッ……」


タレ目戦士 「ふん、恐れをなして逃げたか。まあ良い、生かしておいてやる」

タレ目戦士 「大丈夫ですか、お嬢さん」


お嬢様 「え、ええ、ありがとうございます。私、お屋敷の外ってはじめてで」


タレ目戦士 「なんと。危ないところでした。僕が助けなかったらグチョングチョンにやられて苗床にされていたところです」


お嬢様 「まあ、怖い……!」


タレ目戦士 「僕と一緒に来ませんか。この剣にかけて君をおと……守ってみせるから」


お嬢様 「なんて頼もしいおかた……!」



丸鼻戦士 「ふん、ピクニック気分の者も多いようですな」


三角鼻戦士 「領主もやたら人を入れるから、冒険者の質が落ちていくのだ」

三角鼻戦士 「あんな奴らに偶然よいアイテムを手に入れて調子に乗られたら」

三角鼻戦士 「腹がたつというどころではない」


無鼻魔法使い 「まあまあ、それも上層まで。あんな奴らが下に行けるはずがありません」


ゾロゾロ ワッハッハ


淫魔幼女 「……人が多い」


詐欺商人 「ははは。この辺はまだダンジョン手前と同じと考えて良さそうだな」


淫魔幼女 「低レベルのくせに。その油断が死を招くのだ」


詐欺商人 「はっはっは、大丈夫だよ……」


ブチッ


詐欺商人 「おっと、靴紐が切れてしまった。結びなおさなくては……」


斬首コウモリ 「…………」


淫魔幼女 (刃のような羽のコウモリが詐欺商人目がけてふってくる)

淫魔幼女 (詐欺商人は気づいていないようだ。おれの弱みを握る男だし、このまま死んでもらおう)


詐欺商人 の弱パンチLv.1
斬首コウモリに 命中  56711のダメージ 風化・猛毒・凍結の追加効果


淫魔幼女 「!?」


詐欺商人 「ん、何か当たったかな。……うお、何だこの肉塊は」

コウモリの肉、野生のギロチン を入手


淫魔幼女 (素手で……)

淫魔幼女 「…………」


淫魔幼女 は アクセサリLv.3を装備


淫魔幼女 (すかすと対象の正体を見極めることのできる石。他の冒険者を勝手に見るのはマナー違反だからこっそり見よう)

淫魔幼女 (精度はちょっと悪いが、パーティ結成時の自己申告よりはましだろう……)


■詐欺商人
種族:大魔王勇者神
職業:格言詩人レベル003 行商人レベル00001 魔王レベル42億 勇者レベル∞  
装備:絶対神の息吹
    万里眼のフェドラ帽
    飛び出る保健の本
    洗脳の棒
    神食いジギタリスの紋章


淫魔幼女 「!? ……ッッ!? ッ。………ッッ!?」



淫魔幼女 「……なっ。あ、え……」


詐欺商人 「む。おい、お前それは」


淫魔幼女 「ひッ……!?」


詐欺商人 「やっぱり、相手の強さを見る道具じゃないか」

詐欺商人 「おれを見ていたのか。駄目じゃないか……」


淫魔幼女 「そ、それは……」


詐欺商人 「言っておくが、そのアイテムの対策はしているからな」

詐欺商人 「すかして見ても、嘘の情報しか得られないぞ」


淫魔幼女 「なっ……そんな技術が」

淫魔幼女 「く、くそ、この詐欺師め……!」


詐欺商人 「はっはっは。お互いさまということで、水に流そう」


地下遺跡 階段堂


ザワザワ


淫魔幼女 「緑色に暗く光る石でできた階段だらけの、大きなドームだ」

淫魔幼女 「数えるのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、高く低く壁一面に出入り口がある」


詐欺商人 「蒸気ガールは道はいくつかあると言っていたが」

詐欺商人 「こういうことだったのかな。さて、どう進もうか」


淫魔幼女 「深層を目指すのだから、下の方の出口へ繋がる階段を選べば良いと考えるところだが」


詐欺商人 「なるべく足あとのついていない道を選びたい」


淫魔幼女 「うむ。冒険者の血だな」

…………


タッ タッ タッ


淫魔幼女 「……上の方の出口を目指して歩いているが」


詐欺商人 「のぼったりくだったり、狭くなったり広くなったり、複雑な道だな」

詐欺商人 「曲がり角でモンスターと出くわしたりするからわりと油断できない」


淫魔幼女 「油断しているくせに……む、何か騒がしい」


ザワザワ ワイワイ


ギルド商人 「はいはーい、この階段堂で道がたくさんに分かれるから、人が少なくなって危険が増えるよ」

ギルド商人 「アイテム揃えておかないと、全滅しちゃうよー」


淫魔幼女 「踊り場で商売か」


詐欺商人 「うん、たくましいことだ」


ザワザワ


詐欺商人 「繁盛しているなあ。おれたちも何か買っていくかい?」


淫魔幼女 「……いや、いらないだろう。役にたちそうにないアイテムばかりだ」


ヒュッ


淫魔幼女 「む」

淫魔幼女 (どこからか何かが飛んできた。まあ楽にかわせたが)



丘巨人 「いてっ」


丘小人 「ん。どうした、相棒」


丘巨人 「ああ、何か首がチクッと………ううっ……!?」

丘巨人 「ごげっ……ゴパッ」


ボタボタ


丘小人 「うわっ、どうした。急に血を吐いたりして」


丘巨人 「今日に気分がおぎゅるがばぎゃ、げげげ……」


バタンッ


冒険者 「う、うわあ。こいつ、血を吐いて倒れたぞ!」


淫魔幼女 (おれがよけた何かが当たったのかな)

ザワザワ ドヨドヨ

丘巨人 「ぐげっ、ぐるじいよう。だじゅげ、丘小びど……」

ゴポッ バシャバシャ


丘小人 「うわあ、また吐血。しっかりしろ相棒。だ、誰か、医者はいないのかあ!」


丘巨人 「ぎご、ごごごご」

ゴポゴポ

丘小人 「だだだ、大丈夫だぞ相棒。でも血を出しすぎだ」

丘小人 「さあ、吐いた血を飲むんだ、飲ましてやるから。あとで帰って酒を飲もうな」

ガボガボ

丘巨人 「ゲポッ……ゴクッ……」

丘巨人 「!!」

丘巨人 「べげげっ」

キュプ ベロロロ


丘小人 「うわああ! どうしよう、相棒が血と一緒に胃袋まで吐いちゃった」



錬金医師 「むむ、丘巨人の首にこんなものが刺さっていた」

錬金医師 「逆転虫の毒針だ。逆転虫が獲物の体の外と内をひっくり返して、内臓を食べるための毒だ」

錬金医師 「ははあ、人にもきくように魔法で改造されているのだな」


丘小人 「相棒はた、助かるのかい?」


錬金医師 「残念だが、無理だろう」


丘小人 「そんな!」


錬金医師 「かわいそに。私もとても悲しいよ」

錬金医師 「ところで、この丘巨人がこれから吐く内臓を採取させてもらえるかな」

錬金医師 「丘巨人の内臓は高く売れる薬になるんだ」



淫魔幼女 (あの巨人はしゃがんでいたとはいえ、首の位置はおれよりも高かった)

淫魔幼女 (針は下から上に向けて放たれたようだ)

淫魔幼女 (……もしかして、狙われたのはおれたっだのか?)

淫魔幼女 (心当たりは……あるが、この世界で狙われるようなことはした覚えがない)


丘巨人 「ぎゃだぎょ、死にだぐな……」


詐欺商人 「つらそうだ」


淫魔幼女 「おれたちには関係ない。先へ行こ……」


詐欺商人 「ちょっと、おれにその巨人をみせてくれないか」


スタスタスタ


淫魔幼女 「…………」



錬金医師 「何だね、君は。まさか君も巨人の内臓を。いかんぞ、私が先に……」


詐欺商人 「おれはアカデミーの錬金術師だ。医療錬金術の心得もある」

詐欺商人 「きみも四大三元素派の錬金術をやるようだが、どの程度かね」


錬金医師 「く、黒パナケイア級だ」


詐欺商人 「おお、何たる奇妙か、おれもだ。ならばここは協力してみようじゃないか」

詐欺商人 「さあ、魂をけがされし患者をみせてくれたまえ。ともにのぞみ、昇華しよう」

丘巨人 「がばば、ばあじゃん、おれがんばっだよ……」


詐欺商人 「うーむ、心臓以外が全部出ている。急がなくては」

スチャ


錬金医師 「何だそれは。耳かきじゃないか」


詐欺商人 「失礼するよ、丘巨人くん」


丘巨人 「あばばば」


淫魔幼女 (詐欺商人が丘巨人の耳そうじをはじめた。何やっているんだ、あいつ)


錬金医師 「何をしているのだ。内臓が出ているのだぞ。耳かきなどでどうにかなるものか」


詐欺商人 「どうかな。丘巨人くん、君はみるみる体調が良くなっていくんじゃないかな」


丘巨人 「がぼ……ごっ……。……本当だ、おれがみるみる元気になっていくぞ」


錬金医師 「なっ……」



錬金医師 「そ、そんな……。私と同じ級のくせに、私の知らない錬金術を」

錬金医師 「い、いや、内臓だ! 内臓はどうするんだ!」


詐欺商人 「丘巨人くん、君はどうして内臓を吐いたくらいで死ぬんだい」

詐欺商人 「君は血も内臓もいらない巨人じゃないか」


丘巨人 「そうだった。そういえば、内臓や血を失っても別に困らないぞ」

丘巨人 「うっかりしていたなあ。医者先生、ちょっと治療を中断してもらっても良いかい」


詐欺商人 「良いとも」


丘巨人 「とうっ」


スクッ


丘巨人 「おお、何事もなく立てたぞ。内臓はなくても元気いっぱいだ」



丘小人 「相棒! 丘巨人!」


丘巨人 「おう相棒。すまねえ、おれうっかりしていたよ」

丘巨人 「おれは内臓のいらない丘巨人だった」


丘小人 「いや、お前は普通のヒルジャイアントだよ。まあ良いか」


ドヨドヨ


錬金医師 「な……そんな、完敗だ……。私が見たことも考えたこともない技術だ」


詐欺商人 「どれこれは不変的にこうあるべきだ……という考えは」

詐欺商人 「詰め込んだ知識にあぐらをかいて知恵を殺す行為にほかならないのだよ、同胞」


錬金医師 「ぐ、ぐぬぬ……」


淫魔幼女 (……本当に何者で何様だあの男は)

丘小人 「いやあ、おかげで相棒が助かったよ」

丘小人 「あんたすごいんだなあ」


詐欺商人 「はっはっは、よしてくれ。おれは通りすがりの錬金術師として」

詐欺商人 「人が困っているのを見過ごせなかっただけさ」


淫魔幼女 (また嘘)


丘巨人 「おお、こんな謙虚な先生さまは見たことねえ!」

丘巨人 「お礼にこれを受け取ってくだせえ」


丘妖精の肥料


詐欺商人 「これは?」


丘巨人 「これをやると草木がすぐに育つんだ」

丘巨人 「おれは草食の巨人だから、手放せねえんでさあ」


詐欺商人 「ありがたくもらっておこう」



丘巨人 「しっかし、先生さま」


詐欺商人 「なにかね、丘巨人くん」


丘巨人 「おれの内臓外に出たまんまなんですけど、大丈夫なんだろうか」


詐欺商人 「大丈夫だよ。内臓がないってことは」

詐欺商人 「もう内臓がいたまないってことだ。前より健康になるよ」


丘巨人 「おおー。さっすが先生さまだ」




詐欺商人 「君を苦しめていた君の内臓は」

詐欺商人 「おれが責任をもって処分してあげよう」


丘巨人 「へへーっ、ありがとうございます!」


丘小人 「あんた、何て良い人なんだ!」


詐欺商人 「あっはっはっは」


錬金医師 「り、理解できない。私の積み重ねてきたものはいったい……」


淫魔幼女 (理解したくないものを遠ざけるのは馬鹿のすることだというが、これは同情を禁じえない)

淫魔幼女 (……あの耳かきのような道具。何か特別な効果でもあるのだろうか)



巨人の内臓 を入手


詐欺商人 「ただいま」

詐欺商人 「いやあ、変わったアイテムが手に入ったな」

詐欺商人 「少し分けてやろうか」


淫魔幼女 「いらん。酒場にでも売っちまえ」


詐欺商人 「ははは。恐ろしいことを言う」


淫魔幼女 「……変わった耳かきだな」


詐欺商人 「ああ、これか。くせはあるが、便利だよ」

詐欺商人 「ある勇者を殺して手に入れたんだ」



淫魔幼女 「……勇者のアイテムだったのか」


詐欺商人 「どこの世界だったかな。まあ、小さな世界さ」

詐欺商人 「そこの魔王相手に商談があったんだが」

詐欺商人 「いろいろもめて……」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「で、何やかんやあって魔王とか側近とか魔将軍とかを殺したところへ」

詐欺商人 「ちょうど勇者が来て」

詐欺商人 「おれを魔王だと勘違いした勇者パーティと戦うことになって」

詐欺商人 「無事全滅させたというわけさ」


淫魔幼女 「どういうわけだ」



詐欺商人 「大変だったなあ、あのときは」

詐欺商人 「三段変身をした魔王をやっとこさ倒したと思ったら」

詐欺商人 「続けて勇者パーティだもの。問答無用だぜ?」

詐欺商人 「疲れてるってのに、彼ら瀕死させてもアイテムや魔法で復活してくるし」

詐欺商人 「もうこりゃ殺すしかないな、て」

詐欺商人 「じゃなきゃおれ過労死しちまうな、て」


淫魔幼女 「理解できない」



詐欺商人 「そのときの戦利品がこれ」

詐欺商人 「勇者の耳かき」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「一度特殊な効果を発揮すると十年単位で使えなくなる上に」

詐欺商人 「効果に応じて使った者のステータスを封印するんだが」

詐欺商人 「普通の武器としても使える魔法の武器なんだ」


淫魔幼女 (わけが分からない。これも嘘なんだろうな)

淫魔幼女 (こいつを理解しようとすると、こちらが呑まれてしまいそうだ)

淫魔幼女 (今のおれでは、こいつはこういうものとしてとらえるしか無いようだ)

淫魔幼女 「……先へ行こう」


詐欺商人 「ああ」


詐欺商人 のステータスが大幅に下がった



カツン カツン


淫魔幼女 「……けっこう高いところまで来たな」


ガララッ


詐欺商人 「おっと。脆くなっているな、階段が一部くずれてしまった」

詐欺商人 「人がいないし、もしどこかに繋がっているなら」

詐欺商人 「未発見のルートを期待できるんじゃないか」


淫魔幼女 「ふむ」



詐欺商人 「おお、あったあった出口だ。この辺の壁、ツタだらけだな」

詐欺商人 「……これは絵の具のあとか。壁画でもあったのかな」


淫魔幼女 「どこに繋がっているのやら」

淫魔幼女 「ここはドームの……かなり上の方だろうか。壁に囲まれてよく分からない」


詐欺商人 「さてな……む」

詐欺商人 「出口を通るのに邪魔なツタを引きちぎったようなあとがある」

詐欺商人 「まさか誰か来ていたのかな」

淫魔幼女 「……つまらん。引き返そう」


詐欺商人 「いやいや、自然にこうなったのかもしれないし」


カツーン ジャッ カツーン ジャッ


詐欺商人 「…………」


カツーン ジャッ カツーン ジャッ


詐欺商人 「出口の先から足音が」

淫魔幼女 「……何か雑音が交ざっているぞ」


詐欺商人 「だいぶ近づいてきたが正面に影はない」

詐欺商人 「あの角から来るのかな」


淫魔幼女 「モンスターかもしれない。戦闘の準備をしておこう」


カツーン ジャジャジャ カツーン ジャジャ


カツーン


??? 「じゃ!」


カツーン


??? 「じゃじゃ!」

白髪幼女 「むむむ、出たな猫耳蛇娘!」

白髪幼女 「がははは、わしが来たからには勝手はさせんぞ悪者め」

白髪幼女 「正義の家畜王猫耳蛇娘が屠殺してくれるわ!」

白髪幼女 「な~のじゃ……」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「…………」


白髪幼女 「あんばびゅう!?」



白髪幼女 「なななななな……」


詐欺商人 「…………」


淫魔幼女 「…………」


白髪幼女 「ぴ……」

白髪幼女 「ぴゅい~……あー、さっきから口笛しか吹いてないの~わしぃ」

淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 (さてはこいつはアレだな)

淫魔幼女 (馬を駆っているときに、誰もいないと思って気持ちよく歌っていたら)

淫魔幼女 (誰かとすれ違ってしまったときのような、アレだな)

淫魔幼女 (こいつは歌でなく一人芝居だったが)



淫魔幼女 「…………ぷふっ」


白髪幼女 「のうっ!?」


淫魔幼女 「……引き返そう、詐欺商人」


詐欺商人 「ああ」

詐欺商人 「ぶふふ……そうだな」


クルリ


白髪幼女 「待たんか」



詐欺商人 「何かな」


淫魔幼女 「相手にするな。ペンギンさんのない貴様と話す時間はない」

淫魔幼女 「ましてや、ダンジョンで恥ずかしい浮かれ妄想マンドラゴラ芝居を繰り広げる」

淫魔幼女 「ド貧えぐれめぐれ乳のクソへそ巫女服ロリババアなど、視界に入れたくもない」


白髪幼女 「そのツインテールを鼻から突っ込んで尻まで貫通させてやろうか」


白髪幼女 「ちょっとこっちがしっとり出れば」

白髪幼女 「眠たげな曇りまくりのまなこで見定めるそぶりなく言葉の刃でぶった斬ってきおって」

白髪幼女 「出会いがしらに全否定とか、泣いちゃうぞわし」


淫魔幼女 「出会う前からこっちをカスみたいなカスのカス世界に巻き込みやがって」

淫魔幼女 「泣くひまもあたえずヘドロスライムの苗床にしてやろうかカスが」


白髪幼女 「おうやってみるが良いわしの無駄がなさすぎて逆に無駄だらけのボディに」

白髪幼女 「はたしてヘドロスライムの触手は伸びるじゃろうかのう。わっはっは!!」

白髪幼女 「うええええん、誰がスカスカ無駄パイじゃぼけえ」


淫魔幼女 「自爆しやがった」



詐欺商人 「まあまあ、二人とも」

詐欺商人 「なあ白髪のお嬢さん、引き返してきたところを見ると」

詐欺商人 「この先に道はなくなっていると考えて良いのかな?」


白髪幼女 「うぬ? おおう、お嬢さんとな。ぬしはなかなか紳士じゃのう」

白髪幼女 「うむ、そうじゃ。この先はどこも道が途切れておったのでな」


詐欺商人 「そうか。どちらにしろ、引き返さなくてはいけなかったか」


淫魔幼女 「無駄足だったか……」


白髪幼女 「ただ、途中に万年杉の一種らしき幼木があって」

白髪幼女 「それを利用すればあるいはとも思ったが」


淫魔幼女・詐欺商人 「!」


白髪幼女 「まさか万年も待つわけにはいかんからの。松だけに」

白髪幼女 「って、杉じゃろ」

白髪幼女 「なんつって。にゃっはっはっはっ」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「…………」


ニヤリ


白髪幼女 「……何じゃ、気味が悪いのう。わしのギャグが面白かったら素直に笑えばよいのに」


淫魔幼女 「いやいや」


詐欺商人 「べつに」


淫魔幼女 「幼い木を一気に……」


詐欺商人 「成長なんてなあ……」


白髪幼女 「…………ほほう」



白髪幼女 「さてと、こんなところで時間をつぶすわけにもいかんし」

白髪幼女 「引き返すとするかのう」


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「…………」


白髪幼女 「……どうした。ぬしたちは引きかえさんのか?」


淫魔幼女 「お気になさらず」


詐欺商人 「ちょっと休んでいくだけだから……」


白髪幼女 「…………」

白髪幼女 「…………………」

白髪幼女 「ま、そういうことなら……」



カツン カツン 


詐欺商人 「…………」


カツン カツン ジャ……


淫魔幼女 「…………」


詐欺商人 「……行ったな」


淫魔幼女 「ああ。……例のあれは?」


詐欺商人 「しっかり持っているよ」


丘妖精の肥料


淫魔幼女・詐欺商人 「…………」


ニヤリ

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