貴音「……たんすの角に小指をぶつけました」(152)

貴音「……っ」プルプル

貴音「い……ったぁぁ……!」

貴音「久しぶりにやっちゃったぁ……!」ジワッ

貴音「グスッ……うぅ」

貴音「……って、そんなことしてる場合じゃなかった!」

貴音「あーもう、遅刻!」ドテドテ


……


765プロ事務所

ガチャッ

貴音「ま……間に合った……!」

響「あ、貴音ぇ~! はいさーい!」

貴音「はぁ……ふぅ……。おはようございます、響」

響「どーしたんだ? そんなにゼェゼェ言って」

貴音「……いえ、なんでもありませんよ」

響「あはは! でもめずらしーね、貴音が慌ててるなんてさ」

貴音「そ、そうでしょうか?」

響「うん! 貴音っていつでも涼しそうにしてるから、汗かいたこともないのかと思ってたぞ」

貴音「……ふふっ。私とて、あなたと同じ人間ですよ。
   慌てることもあれば、汗もかくこともあります」

響「へー」


貴音(……四条貴音、十八歳です)

貴音(『アイドルは第一印象が大事』とじいやから言われたので、
   それならーって思ってこのキャラを始めましたが……)

貴音(いつからか、引っ込みがつかなくなってしまいました……)

貴音「響、事務所に来ているのは、あなただけですか?」

響「ううん、ほら、あそこのソファ」


美希「すぴー……すぴー……」


貴音「もしや、あの場所にいるのは……美希ですか?」

響「そうそう。さっきまでおにぎり食べてたけど、
  気が付いたら寝ちゃってたんだ」


美希「むにゃむにゃ……えへへ、真くん……そこは、まだはやいのぉ……」


貴音「……」

貴音(美希はいいなぁ、いつも自然体って感じで)

貴音(私、このキャラを演じるの、だんだん恥ずかしくなってきたっていうのに……)

 
貴音「はぁ……」


貴音(私はいつになったら、このキャラを卒業できるのかな)

貴音(もうゼッタイに嫌だ、ってわけじゃないけど、将来のこと考えたら、
    いつまでも続けるのはちょっと無理があるよね……)

貴音(……それに──)


ガチャ

P「……では社長、失礼しました」

貴音「! ぷ、プロデューサー……」

P「ん? おぉ、もう三人とも揃ってたか。おはよう!」

貴音「……おはようございます」


貴音(それに……)

貴音(いつまでもプロデューサーに、隠し事をするなんて……)

響「プロデューサー、社長室でなんの話してたんだ?」

P「あぁ、それは……今日三人だけに集まってもらったのも、その話に関係してるんだ」

貴音「三人、と言いますと……私と響と、美希……ですか?」

P「うん。実はさ──」

……

響・貴音「「……ユニット?」」

美希「うにっとぉ~……?」ウトウト

P「そう。これまで三人はずっと、ソロで活動してきたけど、
 今度から、トリオのユニットとして活動してもらうことになった」

P「まぁ、とりあえずは期間限定の企画なんだけどな。
 まずはファン達の反応を見て、それから今後の方針を固めていこうと思う」

貴音「あの……」

P「質問か? いいぞ、どんどんしてくれ」

貴音「……反対というわけではありませんが、
   なぜ急に、そのような話になったのでしょうか」


貴音(トリオで活動とか……! そんなことになって二人と四六時中一緒にいたら、
   ボロが出ちゃうかもしれないじゃない!!)

P「ユニット結成の理由か……そうだな、色々とあるけど、
 なによりまず、三人のバランスが良かったからかな」

P「響と貴音、美希は、それぞれ違う個性と魅力を持っている。
 まず響は、底抜けない明るさと、類まれなるダンスの実力。
 貴音は、ビジュアルの良さと、ミステリアスで目が離せなくなるキャラクター……」

貴音「!」

P「……っと、キャラクターなんて言ったら、
 まるで性格を作ってるみたいに聞こえるよな。ごめんごめん」

貴音「……いえ」

P「そして、美希だけど……美希は言わずもがな、だな」


貴音(……美希は、765プロのアイドル達の中でも、特に人気がある子なんです)

貴音(最近では少し考えを改めたのか、努力をする大切さも覚えたみたいだし……
   神様から授かったその才能を、舞台の上で如何なく発揮していたのでした)


P「……とにかく、この三人がうまく調和すれば、きっとものすごい反応が起こるはずだ!
 それこそ、竜宮小町にも負けないくらいの、超人気ユニットになるはず……」

P「これから三人で一致団結して、頑張っていこうな!」

貴音「……はい」

レッスンスタジオ


キュ、キュキュ……


貴音「はぁ……はぁ……!」

美希「はーにかみながら、目ーを伏せって♪」

貴音「……っ……パッと舞って!」

響「ガッとやってっ♪」

美希「ちゅっ♪ っと吸って……」


響・美希「「はーん♪」」

貴音「……はーん♪」


先生「……あら? 四条さん、今のところちょっと遅れたわよ」

貴音「は、はい……申し訳ありません」

 
……

先生「……それじゃあ、今日はこんなとこね。三人とも、お疲れ様」

響・美希「「お疲れ様でしたー!」」

貴音「……お疲れ様でした」

……

貴音「はぁ……」

貴音(なんで響と美希は、さっき渡されたばっかりの新曲を、
   こんな高いレベルで踊りながら歌えるの……?)

貴音(きっつぅ……ついていくのでやっとだよ……)


響「貴音、一緒に帰ろ!」

貴音「え、えぇ……わかりました。それなら、美希も……」

響「美希なら、用事があるんだって言って、すぐ帰っちゃったぞ」

貴音「はて、用事?」

響「うん。プロデューサーに会うんだってさー」

貴音「……そう、ですか」

テクテク……

響「……ねぇ、貴音。今日はどうしたんだ?」

貴音「どうした、とは?」

響「なーんか、ずっと元気ないって感じだぞ。
  なんかやなことでもあった?」

貴音「い、いえ……ただ、急なユニット結成ということで、
   少々戸惑ってしまっているだけですよ」


貴音(本当に、特になにがあったってわけじゃない。
   ただ、これからのことを考えて、少しだけ不安になってしまっただけ)

貴音(……それだけです)


響「……ホント?」

貴音「ええ、もちろん」

響「ふーん……」

響「それじゃ、自分、こっちだから! じゃあね、また明日!」

貴音「はい、お疲れ様でした」

響「……あのさ、貴音!」

貴音「……?」

響「自分達、これからはユニットの仲間なんだし、
  何か相談したいこととかあったら、いつでも言ってよね!」

響「隠し事とか、ゼッタイ無しだからなっ! 約束だぞ!」

貴音「……ありがとうございます。もちろん、隠し事など、いたしませんよ」

響「えへへ……それじゃ、バイバーイ!」


……


貴音(……隠し事は、無し)

貴音(でも、もしも……私の素を、さらけ出したら──)


『貴音は、ビジュアルの良さと、ミステリアスで目が離せなくなるキャラクター……』


貴音(……きっと、ファンの皆さんが感じてくれてる、私の魅力は……、無くなっちゃうよね)

スーパー

店員「……765円になります。当店のポイントカードはお持ちですか?」

貴音「はい!」スッ

店員「いつもご利用ありがとうございます。割引券、お付けしときますね」

貴音「わぁ……ありがとうございます!」

……

<ありがとうございましたー

貴音「うふふふ……」

貴音(小麦粉とタマゴが安かったから、ついつい買いすぎちゃった)

貴音(でも良い買い物できたわぁ。セールは明日もやってるみたいだし、やよいに教えてあげ──)


貴音「……あれ?」


美希「あはっ☆ ねぇねぇ、今言ったの、ほんと?」

P「……あぁ、約束するよ」


貴音「……あれは、美希と、プロデューサー?」

P「もう車に乗ってくれ。家まで送っていくから」

美希「えー、もう帰っちゃうの?」

P「……あのな、美希。お前はもう、無名じゃないんだぞ。
 そりゃ今は変装してるけど、いつ気付かれるかわからないだろ?」

P「それにそもそも、もう中学生が遊んでていい時間じゃない。さ、行くぞ」

美希「ふーんだ……ハニーのケチ!」

P「……その呼び方も、禁止」


ガチャ……バタン

ブロロロ……



貴音「あ……行っちゃった」

貴音「……」

貴音(なんで、こんな……盗み聞きするような真似、しちゃったんだろ……)

貴音(っていうか、ハニーってなに? はちみつ? おいしそう)

貴音(……じゃないよね。あれはきっと、プロデューサーのことで……)

貴音(そして……私達の知らない、ふたりの間だけのトクベツな呼び方……なんだろうな)


ズキッ


貴音「……っ」


貴音「……」

貴音「……もう、帰ろ。お腹空いたし……」


──────
────
──

翌日


チュン、チュチュン……


貴音「……うぷ」

貴音「胃が重い……さすがにカップ麺をダンボール二箱は食べ過ぎたぁ……」

貴音「今日はグルメリポートの仕事もあるし、
   朝食は軽めに、カップらーめん二個にしとこう……」



貴音(昨晩はついつい、ヤケ食いをしてしまいました)

貴音(……なにに対してヤケになっていたかは、わからないけど)

──────
────
──

貴音「四条貴音の、らーめん探訪……
   次回は、どのようならーめんに出会えるのでしょうか」

貴音「それでは皆様、ご機嫌よう……」


<……はいオッケー! 四条さん、お疲れ様でした!


貴音「ありがとうございました」ペコリ

貴音(やっぱりこういうお仕事が、一番楽しいわぁ)

貴音(ドン引きされちゃうから、あまりガッツリは食べられないけど……)


……

貴音「さて……プロデューサーに、収録が終わったって連絡をしないと」

貴音「迎えに、きてもらわないと……」


貴音(……なんでだろう。このボタンを押せば、すぐプロデューサーに電話がかかるのに)

貴音(指が重い……)

貴音「……っ」ポチ


プルルル……


貴音「……」

貴音(私の頭の中には、昨夜見たプロデューサーと美希の姿が、ずっと残ってました)

貴音(……仲良さそうだった。もしかして、ふたりは──)

ピッ

貴音「っ!」

P『もしもし、貴音?』

貴音「は、はい……貴音でございます」


貴音(貴音でございますってなに!? サザエさんか!!)


P『収録終わったんだな、お疲れ様! 何事も無かったか?』

貴音「……はい。いつもと同様、無事に終えることができました」


貴音(……いつもと同じじゃないのは、私の心だけ)

P『ごめん、すぐ迎えに行きたいんだけど、
 こっちの撮影でちょっとトラブルがあってさ……』

貴音「とらぶる?」

P『ああ。あと四十分もすればそっちにいけると思うんだけど……。
 もうちょっとだけ待っててもらえるか?』

貴音「……。それならば、私は一人で帰ることにいたします」

P『え? でも……』

貴音「プロデューサーのお手を煩わせるわけにはいきません。
   私のことはお気になさらずに、そちらの仕事に集中してくださいませ」

P『……そっか。ありがとう、それじゃあ、そうさせてもらうよ。
 またあとで、事務所でな』

貴音「はい、それでは……」

ピッ……


貴音(……四十分待つくらい、なんてことないけど、
   なぜだか今は、一人で頑張らなきゃいけない気がして……)

貴音(だから決して、プロデューサーと顔を合わせたくなかった、
   というわけじゃ……ありません)

 

貴音(──とは、言ったものの)

貴音(ロケ現場まで送ってもらったときに車の中から見た風景を頼りに、
   適当に電車に乗ったけど……)


貴音「……」


わいわい……

    がやがや……


<えー、それマジ?

<マジマジ! ちょーありなくなくない?

<うんうん! ありなくなくなさすぎて逆にありえるって感じ!



貴音「……うう」ウルウル


貴音(見事に迷っちゃったよ……)

貴音(ここ、どこぉ……!?)

貴音(こんなことなら、最初からタクシー使えばよかったかな……)

貴音(……いや、あの律っちゃんが、そんなのを経費で落してくれるわけないよね。
   『それなら最初からプロデューサーに頼ればよかったでしょー!?』
   って言われるのが目に見えてる)

貴音(説明するの、色々メンドくさいし……)


貴音「……そうだ」ティン


『自分達、これからはユニットの仲間なんだし、
何か相談したいこととかあったら、いつでも言ってよね!』


貴音「響……響に助けてもらおう! うん、それが良い!」


……


響『えーっと……それで、自分に電話したの?』

貴音「はい……あの、申し訳ございません、お休みのところ……」

響『それはいいんだけど、貴音、頼る相手を間違ってると思うぞ……
  自分だって、都会の電車はゼンゼンわかんないし……』

貴音(……そうだった。あぁもう、何をやってもうまくいかない……)

響『プロデューサーは? いつもなら、プロデューサーが迎えにきてくれるでしょ?』

貴音「それ、は……」

響『……』

響『よし、わかった! それじゃあ、自分に任せといて!』

貴音「ま、真ですか!?」パァァ

響『うん! とにかく貴音は、その駅で待っててよね!』

貴音「はいっ、お待ちしております……!」


……


貴音「……」ソワソワ

「……貴音!」

貴音「! ひび──

貴音「……えっ!?」


P「はぁ、はぁ……! ぶ、無事か!?」

貴音「ぷ、プロデューサー……!?」

貴音(てっきり、響が迎えにきてくれると思ってたのに……。
   今、私の目の前には、別の仕事をしているはずのプロデューサーがいました)


貴音「プロデューサー、なぜ──」

P「なんともないか!?」ガシッ

貴音「きゃっ!」

P「響から、連絡があったんだ! 貴音が外国人力士の集団に襲われているから、
 今すぐ迎えにいけって!」

貴音「え、えぇ!?」

P「何もされなかったか!? ツッパリされなかったか!?」グラグラ

貴音「……い、痛……!」

P「あ、あぁ……ご、ごめん」

貴音「……プロデューサー、そちらの仕事は……?」

P「そんなもん、抜け出してきたに決まってるだろ!?」

貴音「……っ」

なんか変な感じがするので訂正
× 今すぐ迎えにいけって!」
○ 今すぐ助けにいけって!」
でオナシャス

P「あれ? でも、なんとも、ない……か? 琴欧洲もいないみたいだし」

貴音「……はい。私を襲う者など、誰ひとりとしていません」

P「……? じゃあなんで、響はあんなこと……」

貴音「……そんなことよりも、プロデューサー」

P「ん?」



貴音(──なぜだか、胸が苦しくて)

貴音(伝えたい気持ち、伝えなくてはならない気持ちは、次々に溢れてくるのに)



貴音「あ、あの……!」



貴音(でもそれをうまく伝える言葉を、『アイドルの四条貴音』は知らなくて……)

貴音(油断したら、ボロが出て、全てが崩れていってしまいそうな気がしたから、
   私には、ただ一言……、こう言うことしか出来ませんでした)



貴音「……ありがとう、ございましゅ」

車の中


ブロロロ……


貴音「……」

P「……」



貴音(噛んだぁぁぁっぅぁっぁああぁ……!!!!)





P「あ、あのさ、貴音」

貴音「……なんでしょうか」

P「……いや」

貴音「うぅ……」カァァ


貴音(プロデューサー、とても微妙な顔をしている……)

貴音(噛んだことに対して触れちゃいけないって顔してる……!)

 
P「っと……事務所に寄る前に、一旦、スタジオに向かっていいかな」

貴音「すたじお?」

P「うん。たぶん、美希の撮影、もう終わってると思うから。
 美希なら一人でも帰れるだろうけど、ついでだから拾っていくよ」


貴音(……そうだった)

貴音(プロデューサーはさっきまで、美希の撮影に付き合っていたんだった……)



『あはっ☆ ねぇねぇ、今言ったの、ほんと?』

『ふーんだ……ハニーのケチ!』



貴音(脳裏に浮かぶのは、昨夜見た、美希のはしゃぐ顔……)



貴音「……っ」ブルッ

P「……どうした?」

貴音「……いえ、お気になさらずに」

 
貴音(あの様子を見る限り、たぶん美希は、プロデューサーのことを……)



貴音(……わ、私は、もしかして……)

貴音(私の、つまらない意地のせいで、
   プロデューサーの手を、余計に煩わせただけでなく)



貴音(美希から、プロデューサーと一緒にいる時間を、奪っちゃったの?)




貴音(……ほんの数十分。それだけの時間)

貴音(でも、それでもきっと……、美希にとっては、長い時間)



貴音「……」



貴音(……怖い)

貴音(美希に会うのが、怖い……!)

貴音「……っ」フルフル


貴音(……だけど)

貴音(たとえそれが、事実ではなくても……、私の身を案じて、
   ここまで来てくれたプロデューサーに、これ以上迷惑はかけられない)

貴音(美希に恨まれるなら、それも仕方ないこと……)



ブロロロロ……


P「お、見えてきたな……」

貴音「……」



貴音(今はただ、どうやって美希に謝るかを……)

貴音(『アイドルの四条貴音』として、どう言葉を紡げばいいか……考えておこう)


──────
────
──

 
スタッフ「……ああ、プロデューサーさん!」

P「す、すみません! 途中で抜け出しちゃって……」

スタッフ「いえ、いいんですよ。それより、美希ちゃんのところに行ってあげてください。
     さっきからずっと、落ち着かないって顔してるんですから」

貴音「……っ」


貴音(やっぱり……やっぱり美希は、プロデューサーと離れたくなくて……)


P「……ほら、貴音」ポン

貴音「え?」

P「美希のところに、行ってやってくれ」

貴音「で、ですが、私は──


タッタッタ……

美希「貴音ぇぇぇぇえぇ~!」

ぎゅぅぅっ!

貴音「!?」

美希「大丈夫!? ねぇ!」

貴音「え、え……!?」

美希「お相撲さんに無理矢理ぶつかり稽古させられてたんでしょ!?
    み、ミキ、貴音がアイドルやめて土俵に立つなんて……そんなの、ヤ!」

貴音「……プロデューサー、あの……」

P「……理由も何も言わずに、出て行くわけにはいかないだろ?」

美希「シンパイだったんだからぁ~……!」ギュー

貴音「……っ」



貴音(……言葉が、見つからない)

貴音(キャラを作っているとか、そういうことは全然関係なく)



貴音「み、美希……!」



貴音(ただただ、自分の考えの浅はかさが、情けなくて)

貴音(そして何より、美希の気持ちが、嬉しくて……)

 
貴音「う、ぅ……!」


ぽろぽろ……


美希「貴音、やっぱりどっか、痛いの……?」

貴音「……痛むのは、この心だけです……っ」

美希「こころ?」


ぎゅぅぅ……


美希「うっ……く、苦しいの」

貴音「……美希。耳を、貸してください」

美希「え? 耳?」



貴音(……今しかないと、思った)

貴音(伝えないといけないと……思った)

貴音(私の言葉で、美希に──大切な、仲間に、この気持ちを)

 


貴音「……心配してくれて、ありがとう」

美希「え……貴音? なんか、いつもと……」



貴音「それと──」

貴音「本当に、ごめんね……」

美希「……」


貴音「私(わたくし)……ううん、私(わたし)は……」

貴音「美希のこと、ひとりで勝手に、羨ましがって、妬んでいたんだと思う。
   なにをやっても、なんでもうまくいっちゃう、美希のこと……」


貴音「だから……ごめんなさい」

 

美希「んー……なーんか、よくわかんないけど……」

美希「ミキ、ゼンゼン、怒ってないよ? だから、謝らなくていいの」

貴音「でも……っ!」

美希「あはっ☆ それより、ミキは──」

貴音「え……?」



美希「今の貴音、すっごく可愛いって思うな!」

貴音「……っ」


ぽろぽろ……


貴音「かわ、いい……?」

美希「うん!」

 

貴音(──臆病になって、ずっと隠していた、私の素顔を)

貴音(美希は、可愛いと言ってくれた……)

貴音(認めて、くれた……)



美希「ね、貴音」

貴音「……?」

美希「ミキ、安心したら、なんだか眠くなってきちゃった……あふぅ」

貴音「……ふふっ、そっか」

美希「だから、もう帰ろう?」

貴音「……そうだね」


貴音「帰ろう、私達の事務所に……」

765プロ事務所

ガチャッ

「ただいま戻りまし──


響「あ、おかえりー!」


貴音「……響?」

美希「あれ? 響、今日お休みじゃなかったっけ?」

響「えっへへー、遊びにき

P「コラ──っ!!」

響「うぇぇっ!? な、なんで!? 遊びにきちゃダメだったか!?」

P「そういうことじゃない! なんであんな、嘘の電話をしたんだ!?」

響「だ、だってぇ~!」

貴音「プロデューサー、響を責めないでくださいませ! 全ては私が──

P「嘘付かなくたって、貴音が困っているなら……、それだけで十分だろ!?
 余計な心配をかけさせないでくれよ……!」

貴音「……っ!」

響「うぅー……ごめんなさい……」

P「……ゴホン。とまぁ、今のは『プロデューサー』からの言葉だ」

響「へ? どーいうこと?」

P「やり方はどうあれ、響のおかげで、貴音を助けてやることが出来た。
 それに関しては、響に感謝しなくちゃいけないな」

P「……ありがとう、響。本当によくやってくれたよ。
 プロデューサーっていう立場を抜きにして、俺個人からも、礼を言いたいと思う」

響「……えへへ、ま、まぁ、自分、完璧ってところあるし……でへへ」

P「調子に乗らない。次からは嘘付かずに、ちゃんと本当のことだけ教えてくれよ?」

響「うんっ!」



貴音「……」

美希「貴音、どーしたの?」

貴音「な、なにがですか?」

美希「なーんか、顔、赤くなってるよ?」

貴音「……そ、そんなこと……」

 
貴音「……ひ、響っ」

美希「あ、逃げたの!」

響「なんだー?」

貴音「あの……こちらに来てくださいませんか?
   三人だけで、話をしましょう」

P「ん、俺は仲間はずれか?」

美希「ハ……じゃなくて、プロデューサーはあっち行ってて!」

P「ひどい……わ、わかったよ」



貴音(……話さなきゃ、ダメだから)

貴音(美希には、もうさらけ出した。だから、今度は……!)


──────
────
──

……


貴音「……と、いうことなんだけど」

響「へー」

貴音「……驚かないの?」

響「驚くっていうか……それがどうしたんだ?」

貴音「え」

響「自分、知ってたぞ。貴音がいつも変な喋り方してるの……え、あれ?」

貴音「……」

響「な、なんでそんな顔してるの? 妄想がバレたときのピヨコみたいだね」

貴音「あ、えっと……なんですと?」

響「だから、知ってたって……」

貴音「……!?」

貴音「き、きき……聞かれてた……!?」

響「ううん、聞いたのはこれが初めてだけど……」

貴音「じゃあ、なんで!?」

響「んー……、なんとなく!」

美希「……野生のカン? さすが沖縄生まれ……」

響「えへへ、まぁね!」

貴音「あ、あは、は、は……」


貴音(──恥ずかしい!! あ、あ、あ……穴掘って埋まっていたいですぅ!!!)

貴音(あぁ……どうやったら雪歩みたいに、スコップを召喚できるの!?)


ぽんっ

美希「!?」

貴音「あ、出た……えい!」ザクッ

響「た、貴音っ! 事務所に穴掘っちゃダメだってぇ~!」

美希「な、なんか今……起きてはならないことが起きた気がするの……」

 
貴音「……それじゃあ、怒らないの?」

響「怒る?」

貴音「だって……」



『隠し事とか、ゼッタイ無しだからなっ! 約束だぞ!」



貴音「……だって、私はずっと、響に隠し事を……」

響「これくらい別に、隠し事ってことでもないさー。
  だって、気持ちに嘘ついてたってわけじゃないでしょ?」

貴音「気持ち?」

響「うん! 今までの貴音の喋り方が、本当の貴音とは違ったって……」

響「貴音が持ってる気持ちは、ニセモノじゃない。
  貴音がめちゃくちゃ優しいってことは、自分だけじゃなくて、みんな知ってるし!」

貴音「……!」

美希「……そうだね。うん、響の言う通りなの!」

 
貴音「う、う……!」


ぽろぽろ……


美希「あ、響、泣かした~!」

響「ええ!? じ、自分が悪いのか!?」

美希「あはっ☆ それにしても貴音って、意外と泣き虫さんなんだね♪」

貴音「そ、そんなことありません……! ぐすっ」

美希「隠さなくてもいーの。響が怒るよ~?」

響「そーだぞ、貴音っ。泣きたいときには、泣いていいんだー!」

貴音「……、……!」



貴音「う゛ん……!」



貴音(──私は、本当に)

貴音(たくさんの、素晴らしい仲間に囲まれて……ここにいるんだ)

 
──────
────
──

貴音「……」ゴシゴシ

貴音「……ところで、美希」

美希「んー? なに?」

貴音「……ハニーって、なに?」

美希「ぎくっ!」

響「なにそれ?」

貴音「あと、プロデューサーとの約束って……?」

美希「ぎくぎくっ!」

美希「……」

美希「あ……あはっ☆ な、なんのことかなぁ~……」

響「ねぇ貴音、さっきから何言ってるんだ?」

貴音「実は……」

美希「うわわわ~! ちょ、ちょっと待ってぇ! ハニーに怒られちゃうから~!」

 
響「へー……そんなことがあったんだ」

美希「……」

響・貴音「「美希……?」」

美希「……に」

美希「逃げるが勝ちなのっ!」ダッ

響「あ、待てっ!」

貴音「隠し事は無しでしょう!」

美希「それとこれとは話が別なの~!」


P「……ゴホン!」


美希「あ、ハニー!」

P「お前なぁ……まぁ、ユニットを組んだわけだし、こうなるとは思ってたけど……。
 でも、響達が想像しているようなことじゃないよ」

P「俺と美希は、一切そういうことはないから」

美希「え」ガーン

 
美希「あの言葉はウソだったの!? ミキのことは大切に思ってる、
   だから彼氏にでもなんでもなってやるって!」

P「そんなこと言ってないわ! 確かに、
 大切に思ってるとは言ったけど、それはあくまで……」

響・貴音「……」ジトッ

P「……な、なんでしょうか」

響「……プロデューサーって、誰にでもそういうこと言うんだな。
  実は前に自分もさ……」ヒソヒソ

貴音「まぁ……真、女の敵と言えましょう……」ヒソヒソ

P「誤解だって……」

響「じゃあ、美希とした約束ってなんなんだよー!」

P「ああ、それは……、これ」スッ

美希「あ、ほんとに買ってきてくれたんだぁ~!」

貴音「その箱は?」

美希「これはね~、あの駅前のちょー有名お菓子屋さんの、スペシャルケーキなの!」

P「……ユニット結成祝いってことで、美希から買って来いって言われてたんだよ」

 
美希「みんなで食べよ~!」

貴音「わぁ……! おいしそー……」

P「ん? 今、貴音……」

貴音「……おほん。な、なにか?」

P「なんか今、いつもと喋り方が」

美希「いーから! うそつきさんはあっち行ってて!」

P「……はい」


……


美希「おいひぃのぉ~……♪」モグモグ

響「……でも美希、いいのか?」

美希「え? なにが?」

貴音「プロデューサーのこと、気にしないの?」

美希「……んー……確かに、ちょっとショックだったけど……」

美希「でもそんなの、これからホントにしていけばいいの!」

 
美希「ミキたちにはまだまだ、いーっぱい! 時間があるでしょ?」

美希「それならこれから、今までより、いーっぱい!
   ハニーとの思い出を作って、それでいつか、振り向かせちゃえばいいって思うな!」

響「ふーん……美希らしいね!」

貴音「……ふふっ、そうだね」


貴音(……やっぱり、美希はすごいって思う)

貴音(いつだって自然体で、自分に正直で、
   欲しいもの欲しいと、はっきりと口に出せて……)



美希「それに~……ライバルも、いるみたいだし」チラッ

貴音「え? ライバル……?」

美希「あはっ☆ だからこれから、もっともっと、ガンバるの~!」

貴音「……」


貴音「」ボンッ

響「わ、バクハツしたぞ」

貴音「み、美希! 私は別に、そんな……!」

響「ねぇねぇ、ライバルってどーいうことだー!?」

美希「響、貴音ってホントはね……」

貴音「わーわー!」


貴音(──確かに、美希の言う通り。私達には、まだたくさんの時間がある)

貴音(だから、いつまで羨ましがっているのではなく……
   いつかは私も、美希のように、誰にでも自分をさらけ出せるようになりたいと思う)


P「おーい三人とも、そろそろまた出かけ……って、どうしたんだ、貴音」

貴音「っ!」

P「……なんかあったのか? 顔真っ赤だけど」

貴音「そ、それは……」


貴音(それがいつになるかは、まだわからないけれど……、
   この素晴らしい仲間達と一緒にいれば、いつか必ず、叶うはずだから)


貴音「……とっぷしーくれっとですよ、あなた様」
                                  おわり

おわりです。読んでくれた方支援してくれた方ありがとうございました

今気付いたけど響は休みだったはずなのに最後のPの台詞が出てくるのはおかしいね
あまり気にしないでください

otusien
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>>146
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