小鳥「幸」(112)
春香「楽しみだね!今度のライブ!」
真「すっかり忙しくなっちゃったからね……仕事で全員集まるの、久しぶりじゃない?」
雪歩「み、みんなの足を引っ張らないように、私、頑張るね、真ちゃん」
やよい「今度は、ライブ以外にも、お話し会があるんですか?」
律子「お話し会って、学芸会か何かじゃないんだから。トークよ、トーク。」
伊織「芸人魂の春香やあみまみ始め、おバカなやりとりを期待しているお客さんも多いのよ」
千早「……私は、歌さえ歌えれば。それ以外は、あまり気が乗らないわね」
亜美「あいかわらずお堅いねぇ、千早お姉ちゃん!」
真美「千早お姉ちゃんは、声きれいだから、トークしてもその声でみんなうっとりしちゃうよ~」
小鳥(相変わらず、今日もにぎやかで、かしましい、765事務所です)
響「やっぱり歌って踊れるライブが一番楽しいよね!自分、毎日だってやってもいいぞ?」
あずさ「体力的に大変そうだけど、面白そうね~。ダイエットにもいいかもしれないわね」
貴音「いっそのこと、旅団のように全国全世界を回りながら公演をしつつ、その土地の美味を……」
美希「……あふぅ」
P「みんな、気合入ってるな。いいことだ。」
社長「それで、適度な緊張感も持っていて、とてもいい雰囲気だね」
社長「君たちも、忙しい中、急に無理を言ってすまなかった」
律子「何を言いますか。確かにスケジュール調整は困難でしたが、これくらいは私たちの仕事ですし。」
P「3か月も先なのに、まさかチケットが即日完売とは……。なんだか、巧く事が進みすぎて、夢みたいだよ」
小鳥「あはは。でも、これからもっともっと忙しくなるんですよね?頑張らないと!」
律子「ええ。稼げるうちが華、ですよっ!?」
小鳥「……商魂逞しいですねぇ」
ヴヴヴ…ヴヴヴ…
春香「誰か、ケータイ鳴ってるよー?」
小鳥「あれ?私のだ」
真美「ピヨちゃんが電話なんて珍しいねぇ。」
亜美「あれぇ?ひょっとして男でも出来たぁ?」
小鳥「そ、そんなわけないでしょ?……でも誰からだろ。知らない番号」
小鳥「もしもし、音無ですが……はい……」
小鳥「……!」
美希「……?」
小鳥「もしもし、詳しくお話を聞いてもいいですか?場所を変えますので……」
美希(……小鳥の目の色が、変わった?)
・・・・・・
社長「……。そうか。」
社長「私も、酷く混乱しているが……受け入れるしか、無いのだろうな」
社長「このことは、プロデューサーの2人には伝えておこう。彼らには、知ってもらう必要がある。」
社長「アイドルたちには……音無君の言うように、今は、内密にする方向でいいと思う」
小鳥「……」
・・・・・・
律子「どうしたんです、社長。プロデューサーミーティングを今日行うなんて」
律子「定例なら明後日ですし。もしかして、何かトラブルでもあったんですか?」
P「……ま、何かあるなら、早いほうがいいさ。」
社長「うむ。まず、落ち着いて聞いてもらいたい。」
社長「音無君について、大変急なのだが、今週末をもって事務所を辞めることとなった」
律子「え?今週!?なんでいきなりそんな話が?引継ぎは誰が……って、そもそも理由は??」
P「律子、落ち着こう。話は、まだ続きそうだ」
律子「……そ、そんな。若年性の!?」
律子「な、何とかならないんですか?半年……いえ、1年でも2年でもいい!休養取って復帰とか……!」
社長「いや……」
社長「酷なことを言うようだが」
社長「今は、音無君に『これから先のこと』をあまり考えさせないほうがいい」
社長「それは本人にも、余計なプレッシャーとなってしまうだろう。今はね」
律子「……でも」
社長「律子君」
社長「厳しいが、受け入れるしか無いのだよ。」
社長「状況……あるいは現実が。極めて厳しいということを。我々もね。」
律子「……。うぅ、小鳥、さん……」
P「律子……」
響「ええ!?ぴよ子、本当の本当に、事務所辞めちゃうのか?」
やよい「ちょっと急すぎるかなーって……」
小鳥「ごめんね。みんな。私もちょっと突然のことだったんだけど……」
真「小鳥さんがいない事務所は寂しくなるなぁ……。でもさ、もし都合がついたら、また戻ってきてよ!」
春香「詳しい理由は……やっぱり言えないんですね?」
小鳥「うん……話せるときが来たら、話そうと思うけど、今は。」
春香「そっか……。」
春香「うんっ!あんまり湿っぽくなるのは面白くないよ!仲間なんだから、笑顔で送り出そう?」
春香「何もこれが一生の別れになるわけじゃないんだし!」
小鳥「みんな」
小鳥「こんな急に、お別れになってしまってごめんなさい」
小鳥「私なりに、いろいろ考えて、これが一番だと思いました」
小鳥「お別れ会とか、そういうのは、いいです。」
小鳥「みんな忙しいことはわかっているし、私も、すぐに準備しないといけないこと、色々あって」
小鳥「でも、みんなのライブには……ライブには、必ず、行きたいと思ってます」
律子「……!」
小鳥「私が、いなくなった後でも……元気にやってるよ、という姿を……」
小鳥「ライブで、見せてもらえればなって……」
小鳥「ご、ごめんね?やっぱりこういう場面、慣れてなくて……あはは……」
律子「……っ!」
美希(……律子?どこに行くの?)
律子「……小鳥…さん……。」
律子「ううう…うああ……っ!」
美希「……律子、さん?」
美希「律子、さん。酷い顔なの。どうしてそんなに泣いてるの?」
美希「小鳥とのお別れが、そんなにつらいの?」
律子「美希……美希っ!」
美希「……律子?」
律子「うう…ぁぁ…っ!!」
美希「律子、話して。知ってるんでしょう?」
美希「こんな急に、小鳥が辞める理由を。」
美希「教えて」
美希「小鳥は!?」
千早「ついさっき、事務所を出たけど。何かあったの?」
美希「……」
美希「ハニーっ!」
P「な、なんだ……美希」
美希「本当のことを教えて。どうして、小鳥は辞めたの」
春香「え?」
P「……」
雪歩「さ、さっき小鳥さんが、今は話せないって……」
美希「小鳥が話したくないのを、無理に聞き出すのは良くないと思う」
美希「でも、美希たちが知っておかなきゃいけないことが、もしかしてあるんじゃないの?」
美希「じゃなきゃ、律子があんな風に泣くはずがないよ」
伊織「……っ!」
P「待て、伊織!」
伊織「な、何よ……律子の様子を……」
P「律子は……今は一人にしてやってくれ」
伊織「……まさか美希の言うように、何か隠しているんじゃないでしょうね?」
P「言ったはずだろ?小鳥さん、今は話せないって」
P「確かに、俺や律子が知っている事はある……」
P「でも、それをみんなに、今この場で知らせるのは、小鳥さんの本望じゃないんだ」
伊織「何よ、それ……っ!」
伊織「じゃあ話してよ!?事務所の仲間で隠し事されて、そんな中で信頼関係は生まれるの!?」
P「……伊織。時が来たら、きっと話す。」
P「それだけは、約束する。ただ、今すぐには言えない。頼む……わかってくれ」
伊織「……。」
・・・・・・
P「社長」
社長「来たね。」
P「ここが…小鳥さんの入院している病院…」
社長「律子君。本当に、大丈夫かね?」
律子「え、ええ…大丈夫…です」
社長「律子君も、ここに来るのは初めてだったね」
社長「正直、かなりショッキングかもしれない。受け止められ無いようであれば来ないほうがいいのだが」
律子「……。乗り越えられないと、ダメなんです。」
社長「わかった。ただ、無理はしないでくれ。」
社長「律子君が精神的に疲弊しているのは、私も彼も感じている。」
社長「律子君を、今、事務所の戦力的に失うわけにはいかないからね」
社長「音無君は、現在、投薬治療が主になっている」
社長「知っての通り、投薬治療は全身に影響が及ぶため、副作用が強く出る」
社長「ここ最近は容体も安定しているとのことで、急きょ、多忙な君たちを呼んだわけだ」
社長「ちなみに、今日、面会が許された時間は、10分間だ。」
P「10分しか……」
社長「10分間は、短いかね?」
社長「私は10分間 “も” あると思うよ。私はかなりの頻度でここに通っているが」
社長「大抵は面会謝絶だ。出来たとしても、2、3分がいいところ」
社長「君たちにお願いしたいのは、音無君の、心のサポートだ」
律子「心…」
社長「こんな場所で、一人で戦っている音無君だ。精神的にも大分弱ってきている」
社長「最新の医学で最善は尽くしてもらっているが、人の心というのは」
社長「簡単に、どうこうできるものではないのだよ」
社長「……どうか、頼む」
コンコン…
社長「音無君。失礼してもいいかな」
小鳥「社長?……どうぞ」
社長「調子はどうかね?」
小鳥「まずまず…ってところです」
P「小鳥さん……」
小鳥「あ、プロデューサーさんに、律子さんも。今日は勢ぞろいなんですね」
小鳥「やだなぁ…みんな来てくれるなら、ちょっとぐらいお洒落したのに」
律子「小鳥さん……もしかして、髪……」
小鳥「薬の副作用らしくてね……ごっそり。でも、半年くらいすれば、また生えてくるって。」
律子「うっ……」
小鳥「そんな辛い顔しないで律子さん。」
小鳥「せっかく、こんなところにわざわざ来てもらったのに……」
小鳥「みんな、元気にしていますか?」
P「え、ええ……。ライブも間近に迫っているので、すごく気合が入っています」
小鳥「ふふっ、よかった。久しぶりの事務所主催のライブですからね。」
小鳥「気合の入ったみんなの姿、簡単に目に浮かびます」
小鳥「……みんなには、まだ私のことは」
律子「はい……まだ話していません。でも、ライブが終わったら、話すつもりです。」
律子「あの娘たち、何かを抱えながら何かに集中するなんて器用な真似、できそうにないから」
小鳥「律子さんは厳しいのね。」
律子「……正直、今の私が、そうですから」
小鳥「ライブまで1か月……か」
小鳥「せめて、私からみんなに、話せればいいのだけれど」
P「律子、そういえば、あれは?」
律子「……ああ、そうだった」
律子「小鳥さん。ささやかですけど、これ、お見舞いのお花です」
小鳥「ご、ごめんね?気を使わせたみたいで」
律子「いいんです。今の私たちには……これくらいしか」
小鳥「綺麗な花…。」
律子「ガーベラのフラワーアレンジです。」
律子「ガーベラは、開花している時間が長いんです。この先半月くらいは咲けるかも」
律子「花言葉は、『神秘』『究極の美』」
小鳥「あはは…こんなかわいいのに、カッコいい花言葉持っているのね」
律子「それと、『前進』『希望』」
P「小鳥さん。今は治療で精一杯だと思います。…でも」
P「俺は…俺たちは、無事それを乗り越えた小鳥さんと、その先のことを話せる日を、待っていますから。」
社長「……長居して悪いね、音無君。また来るよ」
小鳥「わざわざありがとうございます。……忙しいのであれば無理はしなくていいですからね?」
社長「はは、私は暇だからね。気にすることはないよ。」
小鳥「それに、お二人も。体に気を付けて。ライブ、絶対に、成功させてくださいね?」
P「はい。ありがとうございます」
律子「また、私も来ますから……。失礼します。」
小鳥(……)
律子「私は、あずささんと亜美のいるレッスンスタジオに戻ります。」
P「あれ?伊織は?」
律子「今日は休むって言ってた。家のほうで用事があるらしくて」
P「そっか。俺と社長は事務所に戻るよ。……気を付けて。」
P「社長。実際のところ、小鳥さんは……」
社長「……正直、順調とはいいがたい状況らしい」
社長「音無君は、あまり前例のないケースらしく、医師団のほうもかなり苦戦しているそうだ」
社長「それはもちろん、音無君の負荷としてもあらわれる」
社長「音無君が、生きる意志を失わないか……そこがきっと、最後の砦だ」
社長「それさえも萎れてしまえば……」
P「……」
??(……)
??(まったく。揃いも揃って、だらしないんだから……)
・・・・・・
小鳥「げほっ、げほっ」
小鳥「はー…はー…」
小鳥(今日は、一段と……お薬の症状きついな……)
小鳥(律子さんの言っていた通り、この花、あまり手入れもしていないのに、まだきれいに咲いてる)
小鳥(あなたは、強く育って、今、私のために、力強く綺麗な花を咲かせている)
小鳥(咲かせ続けている)
小鳥(私は……私は、どうなのかな)
??「今日は面会できませんから、お引き取り下さいっ」
??「しつこいわね、だから、すぐ終わるって言ってるでしょ?」
小鳥(廊下が騒がしいな……?)
伊織「……にひひっ、失礼するわよ?小鳥」
小鳥「い、伊織……ちゃん……?」
小鳥「ど、どうしてここが……げほっ」
伊織「小鳥。喋らなくていいわ。なんなら寝ててもいいわよ、勝手に私が話すから」
伊織「社長もプロデューサーも律子も当てにならないから、私が勝手に調べたわ」
伊織「ま、調べるというか。小鳥がここにいると分かった時点で、おおよその察しはついたけどね」
伊織「まったく、こんな大事なことを隠すなんてそれは思いやりでもなんでもなく、不幸な嘘よ」
伊織「……まあ。そうした、社長たちの気持ちも、わからないでもないけど。」
伊織「手短に用件を話すわね」
伊織「このことについては、もちろん他の事務所のメンバーにも話したわ」
伊織「そりゃみんな驚いていたし、千早や真あたりは最初社長たちに激怒していたけれど」
伊織「昔のように物わかりの悪い、単純な私たちでもないのよ。何年一緒にいたと思っているのかしら」
伊織「小鳥の調子が悪いのに、いつもの調子でワイワイガヤガヤされちゃ、小鳥もたまらないでしょ?」
伊織「なので、本日のゲストは、私が選んだこの人だけよ。」
貴音「失礼します」
小鳥「あなたは……え??貴音、ちゃん…?」
小鳥「ど、どうしちゃったの……?髪がすごい短くなってるけど」
貴音「小鳥嬢。早速ですが、あなたには、これを差し上げます」
小鳥「……!」
貴音「私の地毛から作り上げた、かつらです」
貴音「髪は女の命と言います。小鳥嬢は、今それを一時的にではありますが、失ったと訊きました」
貴音「よろしければ、ぜひこれを、お使いいただければと」
小鳥「た、貴音…ちゃん……そんな……」
貴音「私のことは気にすることはありません。」
貴音「切った髪などまたすぐに戻りますし、こう見えて私、髪が伸びるのがとても速いのです」
貴音「それに、髪は女の命、とのことですが」
貴音「私は、小鳥嬢であれば、我が命を捧げることに、何の迷いもないのですよ?」
伊織「にひひっ、似合ってるじゃない小鳥。まるで貴音の妹みたい」
伊織「あ、小鳥のほうが年上なら姉かしら?でも、小鳥ってあまり姉ってキャラじゃないのよね」
小鳥「……ありがとう、伊織ちゃん。貴音ちゃん」
小鳥「ごめんね」
貴音「…なぜ?なぜ、そこで謝罪の言葉が出るのですか?」
小鳥「だって、このお返し、できそうに……ないから……げほっ」
伊織「……小鳥。さっき私、喋らなくていいって言ったけど。その理由は端的に訊かせてくれない?」
小鳥「だって……私、もうそんな長くない気がする……から」
伊織「……!」
小鳥「お医者さんや看護師さん、社長は、日々励ましてくれる……けど」
小鳥「目を見れば…わかる。…何かに焦っている、ということが」
小鳥「私自身も、わかる。何をするにも体が応えてくれなく、なってきたし…」
小鳥「変わっていないはずのお薬の副作用も……日に日に強くなってる」
小鳥「こんな状態から……また元の生活に戻れる、なんて、思えない」
小鳥「今の私にできることは、迷惑かけてるみんなの負担を、少しでも軽く」
小鳥「少しでも……早く」
小鳥「私が……最初から、そういう運命に、あるのであれば」
伊織「……っ、小鳥っ!!」
小鳥「っ!」
貴音「み、水瀬伊織……大声はいけません」
伊織「黙って訊いてれば、あんた何なの!?」
伊織「病気がつらいのは、百も承知よ!」
伊織「……いいえ。真の辛さなんて、小鳥にしかわからないことかもしれない」
伊織「でも、辛いのは…種類や重さは違っても、辛いのはあんただけじゃないの!」
伊織「こんな辛い現実を、一人で抱えようとしてた律子も!」
伊織「そんな辛い現実を知らずに過ごして、後になって知らされた私たちも!!」
伊織「私たち、仲間なのよ?楽しいことだって共有してきたし」
伊織「辛いことだって共有できるから、だから、仲間なんでしょ!」
伊織「どうしてみんな、自分一人で抱え込もうとするのよ!?」
伊織「事務所を辞めたからって何なの?難病だから?それで、私たちの絆まで勝手に断ったつもり?」
伊織「悪いけど、私は…私たちはそんなつもり一切ないから!!」
伊織「私だって、わ、わたし…。うっ…。わたしだって…っ!」
伊織「あんたの…あんたの苦しそうな、そ、そんな姿…見たくないっ、み、見たくないのよ…っ!」
伊織「でも、受け止めなきゃって…こと、小鳥が…戦っているんだ…って、信じてたから…っ」
伊織「そんな、そんな…小鳥のそんな泣き言を……き、聞きたく…ないわよ…っ」
看護師「ちょっと、あなたたち…病室で何をして…」
伊織「音無小鳥っ!!」
小鳥「!」
伊織「最後まで、あきらめるんじゃないわよ!」
伊織「どうせ生きるなら…生きるのなら…っ」
伊織「最後の最後まで、音無小鳥で生き続けなさいよっ!!」
伊織「その役割は、あ、あんた以外、誰がっ……勤まるのよ……っ!!」
小鳥「い、伊織、ちゃん……」
貴音「水瀬伊織。今日は、もう帰りましょう。」
伊織「……うぅ……。」
小鳥「……」
貴音「お騒がせしました。小鳥嬢。また、機を見て訪れますので」
伊織「私は…私はもう、来ないわよ。こんなところ」
貴音「水瀬伊織」
伊織「こんな殺風景で、消毒液臭い病院なんて…二度とごめんだわ」
伊織「だから……待ってる。私は」
伊織「みんなで、ぎゃーぎゃー騒げるいつもの場所に、小鳥が戻ってくるのを。待ってるから」
小鳥「……」
小鳥「……うっ……」
小鳥(……ごめんね、ごめんね伊織ちゃん)
看護師「大丈夫ですか、音無さん」
小鳥「は、はい……」
看護師「申し訳ないです、私たちの不手際で」
看護師「今日は面会謝絶とドクターから強く言われていたのに」
小鳥「いえ……いいんです。」
「「ことりさーーん」」
小鳥(??)
小鳥(誰かの呼ぶ声?)
看護師「中庭にいるのってもしかして……」
小鳥「……すいません、私にも見せて、ください」
看護師「で、でも……」
小鳥「お願い……します」
響「こんなマンションみたいな病院じゃ、小鳥がどこにいるかなんてわかんないぞ…」
千早「だいたい、こんなことしていいのかしら?」
春香「大丈夫。1発で終わらせるから!」
真美「なるほど、ぶっつけ本番か……燃えてくるね!」
亜美「でも失敗したらどうなるの?社長とかに怒られる?」
やよい「うぅ~、怒られるのは嫌です~」
美希「でも、美希は小鳥のためなら別に怒られてもいいって思うな」
真「だいたい、伊織が小鳥さんを窓際に呼ぶって作戦、うまくいってるの?」
雪歩「一応約束の時間だけど……連絡来ないし、電話もつながらないよぉ」
あずさ「あの、どうします?春香ちゃん?」
春香「……ええい、きっと伝わるよ!やるっきゃない!」
春香「みんな、いくよー?せーのっ!」
「「ことりさーーん!頑張ってねーーー!!」」
小鳥「みんな……」
看護師「…………」
看護師「まったく、困ったお友達ですね」
小鳥「……すいません」
看護師「音無さんが早く元気になってもらわないと、私たちもいろんなところから怒られそう」
看護師「よろしくお願いしますね?」
小鳥「はい……はいっ。」
看護師「苦情が来る前に、あの娘たち追い払わないと……やれやれ」
看護師「音無さん。引き続き、絶対安静です。お願いします。」
小鳥(みんな……)
・・・・・・
春香「プロデューサーさん!ついにライブですよ、ライブ!」
春香「久しぶりの事務所単独ライブです!」
P「そうだな。春香も、みんなも。この忙しい中、それぞれアイディア持ち寄って…」
P「前回よりもずっと、いいライブになると思うよ」
春香「よーし……景気付けにみんなに気合を入れてこようっ、気合気合!」
P「はは、なんだよそのキャラは。」
P「気合はいいけど、走って転ぶなよ?本番前なんだから」
春香「はーい!」
律子「準備は順調のようね」
P「律子。そうだな。みんなそれぞれに経験を積んでるから、前より余裕が感じられるよ」
律子「それもそうだけど。何というか、あれからみんなすごく大人しいのよね」
律子「その……小鳥さんのことで」
律子「伊織がばらしたときは、もっとみんな混乱すると思ってたし」
律子「先日病院でひと悶着あったことだって、正直何回も続くかと思っていたのに」
律子「あれ以来、病院にも行ってないみたいだし、小鳥さんのこと自体、何も言わなくなって」
P「……。律子が思っているほど、みんなももう子供じゃないってことだよ」
律子「あからさまに心配しろとか、おせっかいを焼けと言っているわけじゃないわよ?」
律子「辛い気持ちを……無理に溜めこんでいないかどうか。それだけが、すごく心配」
律子「確かに、あの娘たちは、私たちが考えているほど、子供じゃないかもしれない。」
律子「けど、そんな短期間で、心が強くなるとも思えないのよ」
社長「どうしたのかね?ライブ直前に、プロデューサーの二人がそんな曇った顔をして」
社長「楽屋にいるアイドルたちは、開場はまだかと目を輝かせているよ」
社長「実に頼もしい限りだ」
P「社長……」
社長「ところで、今日は、君たちにここを任せてしまってもいいかな?」
律子「いいですけど、社長はご覧にならないんですか?」
律子「久しぶりの事務所単独ライブなのに」
社長「そうしたいのはやまやまなのだがね…」
社長「先ほど病院から連絡があったので、ちょっと様子を見てくるよ」
P「……!」
社長「大丈夫だ、心配はいらない。」
社長「なに。ちょっとのことでも連絡をしてくれと頼んだのは、私なのだよ」
社長「そして、ちょっとのことでも私は行くようにしている」
社長「……では、成功を祈っているよ!頑張りたまえ!」
P・律子「……はいっ」
P「みんな!待ちに待った単独ライブだ!」
P「今回のライブのチケットは即日完売だった。お客さんも、きっと、この日をずっと楽しみにしていた」
P「みんなの持っている実力を発揮して、最高に楽しいライブにしよう!」
律子「いつも言っていることだけど、ライブは生モノだから、想定外の出来事はつきもの」
律子「ライブは、完璧であることを目指す必要はないわ。お客さんとみんなの一体感を大事にして」
律子「あとは、いつものようにやっていけば、自ずと結果もついてくるものよ。みんな、頑張ってね!」
「「はい!」」
春香「よーし、みんな、いくよーっ!!」
春香「765プローっ!」
「「ファイト、おーーー!」」
春香『みんなー!今日は来てくれてありがとうーー!!楽しんでいってねー!!』
ワアアアアッ!
P「……律子、今回はステージに上がらないんだ」
律子「ええ。今回は、遠慮したわ」
律子「時間を見つけてレッスンしたりもしてたんだけど」
律子「何というか、自分に余裕、なくって」
律子「万全の状態で披露できないなら、最初からステージに立つべきではないわ」
律子「それは竜宮はじめ、みんなにいつも言っていること」
律子「それを私が出来ていないようじゃ、示しが……ね」
P「……。それでも、きっと、律子の歌う姿を期待してた人も多いと思うよ」
・・・・・・
美希『みんなー!ありがとうなのー!!』
ワアアアアッ
美希『…春香』
春香『うん。みんな、ステージに集まって』
律子「え?次は……春香・千早・あずささんの『Vault That Borderline!』のはずなのに」
ざわざわ…
P(春香……何をするつもりだ……?)
春香『ファンの皆さん。』
春香『皆さんに謝りたいことが、あります』
春香『今日の私たちは、皆さんに100%のものをお届けできていないかもしれません』
ざわっ…
春香『……本来であれば、ここにいる皆さんへ歌をお届けするべきです』
春香『でも、今の私たちは……ここにはいない、ある一人の人へ、歌を届けたいと思っています』
春香『その人は、たった一人で、見えない敵と戦っていて……』
春香『たった一人で、とても耐えきれないほど深刻な重荷を背負って……』
春香『そんな状態でも、たった一人で。私たちに気遣いをしてくれました』
律子「ちょっと春香……!」
P「律子。ここは、春香たちに任せよう」
律子「で、でも」
P「信じよう……みんなを。」
P「責任や後始末は、俺たちがやればいい。きっとこれが、春香たちの答えなんだ。……見届けよう。」
律子「……っ」
春香『私たちには、どうすることもできません』
春香『元気づける言葉も、励ます言葉も、見つかりません』
春香『ただ、その姿を見つめることしかできなくて』
春香『……いいえ。見つめることすら、できなくて』
春香『私たちが、ただ一つできることは、歌を、歌うことなんです』
春香『歌を届けること……私たちは、それしかできなくて、それしか考えられなかった』
春香『……。あはは、リハーサルしてなかったから、うまくまとまらないや……』
春香『……あの!皆さんに、わがままを言ってもいいですか!?』
春香『これから先、私たちは、皆さんにではなく、一人で戦い続けているあの人に、歌を、気持ちを届けたい』
春香『届けたいんですっ!』
春香『私たちの姿は見えないし、実際の歌声は聞こえないかもしれないけど……』
春香『それでも、なんとしてでも、届けたいと願っています』
春香『何を言っているのか、わからないと思います。……わからないですよね』
春香『えっと』
春香『どうか、ファンの皆さんも、ここにいる私たちを応援するのではなく』
春香『今日は、遠くにいる誰かに、気持ちを届けるつもりで……私たちのライブに参加してほしいんです』
春香『それは、今日ここにいない友達でもいいです。恋人でもいいです。ご両親でもいいです』
春香『その人に、皆さんが今、ここにいることを、届けるつもりで』
春香『気持ちを届かせるつもりで!……盛り上げてほしいんです』
春香『すいません、こんな生意気なことを言って……』
春香『でも、皆さんの力、必要なんです』
春香『……お願いしても、いいですか……?』
…………
春香『…………』
P「……」
律子「……」
やよい『……こ』
やよい『小鳥さんに、届け―――っ!!』
ざわっ…!?
やよい『……こ、こんな感じで、「私元気かなー」ってところ、一緒に表現してほしいんですっ!』
やよい『私、頑張ってるよーーーっ!!!』
ざわざわっ
P「頑張れみんな……頑張れっ、もう一息だ!」
真美『……み、みんなーーーっ!!元気かーーーっ!?』
お、おーーーっ!!
真美『風邪なんかひいてないよねーー??』
おーーーーっ!!!
真美『そうそう、そうだよ!そんな感じ!!』
真美『みんなが元気ってこと、いつものように示してよ!!』
真美『わけわかんない病気がさ、ビビッて吹っ飛んじゃうくらいにっ!!』
うおおおおお!!!
亜美『うんうん!亜美も正直難しいことよくわかんないからさ……』
亜美『いつものように、元気に!激しく!楽しく遊ぼうよ!兄ちゃん、お姉ちゃん達!!』
亜美『あ。ちなみにいっとくけどー、その人って、律っちゃんのことじゃないからね?』
亜美『律っちゃんなら、怖気づいてぇ、そこのステージ袖で体育座りして縮こまってるからー』
律子「ちょっと!?」
律子「や、やめてよね……っ、今日は裏方に徹するつもりなのに……」
P「律子、ほら」
律子「え、ええ?む、無理よ!衣装用意してないし、こんな格好だし……」
P「俺じゃないよ。」
P「ステージのみんなと、ファンのみんなが、律子を待ってるよ」
P「ちょっとぐらい、顔出してもいいんじゃないのか?」
あずさ『律子さーーーん、みんな、呼んでますよーー?』
律子「……っ、まったくもうっ」
P「律子。ライブには想定外の出来事が付き物なんだろ?」
P「完璧よりも、一体感だ!」
律子「知った風な口聞いて……あーもうっ、わかったわよ、行くわよ!どうなっても知らないんだからっ」
律子「ちょ、ちょっと!あんたたち、暴走しすぎ!」
ワアアアッ!!
律子「うわっ……ど、どうも……すいません、こんな格好で……」
律子「や、やっぱり駄目よ私、明らかに浮いちゃってるし」
春香「律子さん!」
律子「な、何よ……」
春香「ここからは、小鳥さんのために、私たち、みんなで歌います。」
春香「律子さんも、一緒に歌いましょう!」
律子「……。まったく、しょうがないわね」
律子「いいけど、こういうことは、あらかじめ相談してよね。いきなりなんて、困るんだから」
春香「みんな、手を貸して」
春香「それじゃ、いくよ?」
春香「音無小鳥ーーっ」
「「ファイトーーっ、おーーー!!!」」
『…………』
『……みんなの声が聞こえる』
『みんなの、歌う声が、聞こえる』
『みんなが、踊っている姿が、目に、浮かぶ』
『みんなの輝いた汗と、はじけるような笑顔……』
『みんな、みんなが主役』
『見守っているのが、舞台袖であっても、控室であっても、遠く離れた事務所のテレビの前であっても』
『……それがどこか見知らぬ場所であったとしても。』
『みんなが、輝いている姿を、静かに見つめるのが』
『大好き』
千早(この歌声……っ)
春香(小鳥さんに……届けっ!!)
『如月 千早ちゃん
千早ちゃんは、いつも歌に対して真摯で、真剣で。一切の妥協がなく。
そして歌が誰よりも大好きで。でもちょっぴり不器用。だから、最初はいろいろ悩んだのよね?
でも、最近は、とても柔らかい笑顔になって、すごく魅力的でいいなって。きっとみんな思ってるよ。
少しずつ、でも着実に、ぶれることなく夢を叶える千早ちゃんは、私の憧れでした。』
『天海 春香ちゃん
春香ちゃんの親しみやすさは、デビュー当時から、いまやみんなのアイドルとなった今でも
変わらずに輝き続けている事は、何でもないようで、すごく大切なことなんだと思う。
そして、個性のデパートのような765事務所で、気付くと中心に立っていて
みんなの心を一気につかんでまとめあげる、不思議な魅力を持った春香ちゃんは、私の憧れでした。』
『春香ちゃん。千早ちゃん。ありがとう。』
『大好き。』
伊織(小鳥、ちゃんと聞こえてる!?)
やよい(私たちの歌声を、小鳥さんに……っ!!)
『水瀬 伊織ちゃん
伊織ちゃんは、すごく大人で、いつもすごく色々なことを考えていて。
でも、本当は誰よりも恥ずかしがりやで、甘えん坊で、かわいらしくて。
ちょっと言葉がキツイこともあるけれど、それは伊織ちゃんなりの愛情なんだと、いつも感謝してるよ。
いつも自信満々で、向かうところ敵なしで、何事にも強く立ち向かえる伊織ちゃんは、私の憧れでした』
『高槻 やよいちゃん
やよいちゃんの元気いっぱいの笑顔に、私はいつも励まされてたなぁ。
私だけじゃない。事務所も今の軌道に乗るまで、決して順風満帆ではなかった。
けれども、やよいちゃんの元気な声を聞くと、みんな不思議と元気になり、笑顔になった。
それに、強い心を持ったしっかりもののお姉ちゃんでもあるやよいちゃんは、私の憧れでした』
『伊織ちゃん。やよいちゃん。ありがとう。』
『大好き。』
真(小鳥さんっ!ボクの元気を少しでも…いや、全部持っていってもいいっ)
雪歩(私たちの歌声を……小鳥さんに……どうかっ)
『菊地 真ちゃん
真ちゃんは、誰よりも女の子らしくありたいと願っていて、自然と外見も柔らかくなった気がするよ。
でも、真ちゃん生き方そのものがカッコいいからこそ憧れるファンも多いし、
これからはもっと男女問わず人気になると思うな。765の女の子ファンは貴重だよ?
デビュー以来、内面からみるみる輝きを増していった真ちゃんは、私の憧れでした』
『萩原 雪歩ちゃん
正直、雪歩ちゃんがアイドルを続けられるのかと、私ながら不安に思ったこと、一時期あったんだ。
でも、苦手なものを理解して、克服しようとするのは、誰もが簡単にできることじゃない。
そんな難しいことを、迷いながらも自分自身でやり遂げたからこそ、今の雪歩ちゃんがいるんだね。
いつも謙虚で、素直で、でも着実に心の成長を遂げている雪歩ちゃんは、私の憧れでした』
『真ちゃん、雪歩ちゃん。ありがとう。』
『大好き。』
亜美真美((ピヨちゃんに、私たちの元気ー、とどけぇーっ!!))
『双海 亜美ちゃん
まだまだ遊びたい盛りに、竜宮小町という大役を預かった亜美ちゃん。
きっと、かなりのプレッシャーだったはずなのに、そんなことを感じさせない明るい振る舞いは
同じく初めて尽くしだった伊織ちゃんやあずささん、律子さんに事務所のみんなも勇気づけられたと思うよ。
どんな苦境も面白く楽しめる状況に、意識せず持ち込める才能を持った亜美ちゃんは、私の憧れでした』
『双海 真美ちゃん
実のところ、最初は私も区別のつかなかった二人だけど、はっきり分かるようになったのは、
やっぱり亜美ちゃんが竜宮に入ってからかな。その頃から、真美ちゃんがグッと大人になった気がする。
思い返してみれば、真美ちゃんは亜美ちゃんと同じことをしていても、お姉ちゃんらしい気遣いがあったよね。
皆を盛り上げるムードメーカーだけど、周りもしっかり見えている真美ちゃんは、私の憧れでした。』
『亜美ちゃん。真美ちゃん。ありがとう。』
『大好き。』
あずさ(私の歌を、どうか、音無さんに……っ)
美希(小鳥、ちゃんと聞いてる?…聞いてなかったら承知しないんだからっ!)
『三浦 あずささん
アイドルとしての実力は、事務所で一番、完成形となっているあずささんですが、
いつまでも少女のような純粋で美しい心をもっていて、まるで澄んだ青空のような素敵な女性ですよね。
だからこそ、誰もあずささんには逆らえないし、大切に思うし、すごく尊敬されているんだと思います。
等身大で接して、誰からも隔てなく親しまれるあずささんは、私の憧れでした。』
『星井 美希ちゃん
まさにアイドルになるべくしてなったような美希ちゃん。765に来た時は、それはもう衝撃で。
この娘が来たからには、絶対にうちの事務所は、やっていける。そんな確信になったものよ。
プロデューサーさんもいろいろ手を焼いているようだけど、でも美希ちゃんのキャラは憎めないのよね。
自然体に生きて、恋に生きる。そんな女の子の理想を地で行く美希ちゃんは、私の憧れでした。』
『あずささん。美希ちゃん。ありがとう。』
『大好き。』
貴音(小鳥嬢、聞こえていますか、私たちの……想い)
響(届け、届け、届け、ピヨ子に届けーーーっ!!)
『四条 貴音ちゃん
初めて会った時も、正直今でも、ミステリアスというか不思議な娘だなって思っているけど、
でも一つだけ言えるのは、貴音ちゃんは、誰よりも普通の娘ってことだよね。
貴音ちゃんは進んで話しするタイプではないけれど、話をすると、すごく身近な雰囲気を感じるんだ。
アイドルとしてのプライドが高いけれど、好奇心旺盛でちょっと愉快な貴音ちゃんは、私の憧れでした。』
『我那覇 響ちゃん
貴音ちゃんと同じくらいに事務所入りした、響ちゃん。南国のような笑顔で、事務所はぐっと明るくなった。
いつもは自信満々だけど、でも不安なことはすぐに顔に出ちゃうのが、すごくかわいいなって思う。
それに、すごく寂しがり屋だもんね。765はお節介焼きが多いから、響ちゃんにとって最高の場所だよ。
頼りになるときも困った時も、いつも常に自分らしくある響ちゃんは、私の憧れでした。』
『貴音ちゃん。響ちゃん。ありがとう。』
『大好き。』
律子(まったく、こんなことになるなんて……)
律子(小鳥さん。元気になったら色々きっちり、返してもらいますから……!)
『秋月 律子さん
律子さんには、昔からずっと、迷惑をかけっぱなしでしたね。…もしかして今も未熟って思われてます?
最初は事務員兼任のアイドルとして、忙しい中でも私の仕事のフォローに回ってくれて。
プロデューサーになった今、完璧度は増すばかりだけど、たまには年相応にリラックスしてもいいと思うな。
仕事に対する熱い情熱と、それを確実に実現し成功させてしまう律子さんは、私の憧れでした。』
『律子さん。ありがとう。』
『大好き。』
TLLL…
P「もしもし、社長。どうしました?」
P「え、小鳥さんが…!?」
P「……っ、俺も」
P「俺も、今から向かいますっ!」
P(くそっ、小鳥さん…!届いてくれ…っ!)
『プロデューサーさん
あなたが、ここに赴任してきてから、いろいろなことが良く回っている気がします。
もしかしたら、いろいろ良いものを持っている福男だったのかも?それなら、誰もが納得ですね。
色々と難しい年頃の女の子を相手にするのは大変だと思うけど、引き続き、みんなをお願いします。
信頼されて、その信頼を一手に引き受けて夢へと導くプロデューサーさんは、私の憧れでした。』
『プロデューサーさん。ありがとう。』
『大好きです。』
社長「……」
ピッ
社長(……音無君。届いているはずだ。みんなの想い、願い)
社長(どうか、彼女たちの健やかな願いを、叶えてやってはくれないか……頼む)
『高木 順二朗社長
順一朗会長の誘いがあって、社長の支えがあったからこそ、私はここまでこれたんだと思います。
私なんて、未熟者だし、何をやっても中途半端だし……。却って、なんで私なんかを使ってくれるのか、
正直今でも謎です。もし、話せる機会があったら、教えてくださいね?あ、説教は嫌ですよ?
私やアイドルのみんなの居場所を大切にしてくれて、育ててくれる高木社長は、私の憧れでした。』
『高木社長。ありがとうございます。』
『大好きです。』
・・・・・・
P「はぁ、はぁ…っ!社長!!」
社長「おお、もうついたか、早いね。」
P「はぁっ…そ、それよりも、小鳥さんは……」
社長「まずは落ち着いて、息を整えたまえ。話はそれからだ」
『音無 小鳥
あなたは、どう思う?
私は、すごく恵まれた人生だったと思うよ。素晴らしい人たちの笑顔に囲まれて。
でも……それで満足なのかな。ここでエンディングを迎えちゃって。
それはちょっと違うと思う。
きっと、ここで話が終わっちゃうのは、違うよ。まだまだ、続きがあるはずだよ?
だったら、もうちょっと、頑張ったほうがいいんじゃないかな。
私、もっとこの話の続きを知りたい。もっと、この世界とともに歩みたい。
あなたは不器用で、ちょっと頼り無くて、何をするにも不安定で。
でも、完ぺきな人間なんて、いないじゃない?自分自身だもの。欠点は目立っちゃうよ。
だから、これから、それをもうちょっといい方向にして、もっと楽しい人生、続けていこう?』
『私自身と、私を取り巻くすべての世界が、大好き。』
『これからも……よろしくね?』
小鳥「…………」
P「小鳥、さん……」
・・・・・・
ワアアアアッ!!!
春香『はぁ、はぁ、はぁ……』
春香『みんな……みんな、ありがとう』
春香(届きましたか、小鳥さん。私たちの、想い……)
春香(私たちの願い、生きている……意味)
・・・・・・
・・・・
・・
・・・・・・
小鳥(自分という名の、宝物。)
『おはよーございま…うわっ!!いたた……』
『……春香、いい加減その転ぶ癖、直したほうがいいわ。怪我してからだと遅いわよ?』
『おっはよーございます!!あれ、ボクが一番乗りじゃなかったかぁ。残念』
『お、おはようございますぅ。今日も、おとなしくお茶汲み係りで頑張りますね……』
『おはようございます……はー。まったく、どこ行くつもりだったの、あずささん』
『ごめんなさいね、律子さん。いつも通りの電車に乗っていたつもりだったんだけど』
小鳥(目を閉じれば、昨日のことのように、思い出す)
小鳥(自分に成る為に、生まれてきた)
『にひひっ、今日もいい天気ね。スーパーアイドル伊織ちゃんが活躍するのにふさわしいわ!』
『おはよーございますっ!あ、今日皆さん早いですねー!いい日になりそうかなーって!』
『『おはよ→ちゃ→ん!!みんな?今日もシ・ク・ヨ・ロ→!!』』
『ちょっと!亜美真美にまた変な単語と芸風仕込んだの、誰!?』
『おはようみんなー…って、あれぇ?私が一番最後??』
『遅いわよ、小鳥。なにしてんのよ。』
『小鳥さんも一応事務員なんですから、ちゃんと事務所の管理してくださいよ。』
『ピヨヨ……ごめんなさい……』
小鳥(この居場所は、私にとっての、誇りだった)
小鳥(心と意味を持って生きている)
『じゃあ、誰が最初に鍵を開けていたんですかー?』
『私だよ!おはよう諸君!』
『うわっ、社長どこに隠れてたんですか、びっくりしたなぁ』
『か、隠れてたわけではないのだがね……』
『……あふぅ』
『うわぁ!!!』
『み、美希いつからそこにいたの……!?』
『……う~ん、わかんない。あふぅ』
『隠れてたのは、社長じゃなくて美希のほうだったのね……』
小鳥(この絆は、決して断たれることはない)
小鳥(みんなに逢う為に生まれてきた)
『ねえねえ、社長。今度来る新しいメンバー、ダンスがすごい上手なんだって?ボク、楽しみだなぁ!』
『ああ。はるばる沖縄から上京してくるのだが、そちらではナンバーワンの実力らしい』
『人懐っこい娘でもある。いいライバルであり、良き仲間になってくれるだろう』
『もう一人の娘は、ちょっとよくわからないんですよね。出身地とか、経歴が結局謎のままで』
『……なんでそんな人呼んだの。?本当に大丈夫なの~?』
『うむ、だが実力は本物だよ。ちょっと不思議だが、根は素直で真面目な娘だ。きっとうちの戦力になる』
『着々と所属アイドルが増えてて、いいことね。仕事がたくさん取りやすい』
『……でも、そうなるとマネージメントできる人が、そろそろ必要な気がするんですけど?』
『自分で仕事の管理していくのは、いろいろ無理がありますよ?』
『う、うむ……そこは、鋭意、対応中だ……』
『よーし、じゃあ、今日の朝礼はわたしがやっちゃおうかな?』
『おお?小鳥さん、えらく気合入ってますね!いいなあそういう展開。ボク、燃えてきますよ!』
『小鳥がやるの?ちょっと不安ね。肝心なところで失敗しそうで。』
『う、酷いよ、伊織ちゃん』
『にひひっ、冗談よ。ほら、さっさとびしっと、決めて頂戴?』
『みんな!今日もあまり仕事がないかもしれないけど』
『そういう余計なことはいいですから!』
『日々の積み重ねが大事からね!今日もレッスンに地道な営業!頑張ろう?』
『さ、いくわよー、765プロー、ファイトーっ!』
『『おーーーー!!!』』
小鳥(とても眩しく、光り輝くみんなとともに、私も歩み続けたい)
『やればできるじゃないですか、小鳥さん!さすがです~』
『これくらいできて当然ですっ。』
『はいはいはーい、午前中ボーカルレッスンの人、手ーあげてっ』
『はーーい!春香さんと一緒なんですね!がんばりましょう!!』
『ダンスレッスンの人は、ボクと一緒に、スタジオまでランニングね!!』
『……あふぅ。真くん、私担いでランニングしてくれない?トレーニングになっていいと思うな』
『それじゃ、小鳥さん!社長!行ってきますね!』
『いってきま~~す』
『うむ、しっかりと成果を上げてくれたまえよ?』
『気を付けて、いってらっしゃーーい』
小鳥(ずっと、ずっと…)
・・・・・・・
P「……さんっ、小鳥さんっ!」
律子「はぁ、はぁっ…!」
P「律子っ!」
律子「小鳥さん、小鳥さんは……っ」
小鳥「…………」
律子「小鳥、さん?……あれ?笑ってるの?」
律子「あ、あはは……何よ、心配して、損、したじゃない……。」
律子「驚かせ、ちゃって。そんなドッキリ……小鳥さんらしく、ないんだから。もう悪ふざけも……」
小鳥「…………」
律子「あっ」
P「小鳥さん、涙……」
小鳥(みんなに。)
小鳥(ずっと、ずっと。)
小鳥(幸、あれ)
<おしまい>
重たいお話、読了お疲れ様でした。
これを読んだら、「幸」も聴こう!
あと、小鳥さんを、みんなで幸せにしてあげてください。
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