櫻子「姉ちゃん、焼き餅食べたいんだけど」(115)

撫子「やきもちを食べる……?」

櫻子「? だからそう言ってんじゃん」

撫子「ああ、お餅のこと。どうしたの急に」

櫻子「いや~、少し前に向日葵のやつが何の前触れもなくいきなり私が餅を焼いたとかどうとか言ってきてさ~」

櫻子「なんかそれ思い出したら食べたくなっちゃった」テヘッ

撫子「へえ。ひま子もたまにはふざけるんだね」

櫻子「でしょ!? ま、今餅の話してないし!ってビシッと言ってやったけどね!」

撫子「そっか。ひま子がそんなことを……」

撫子(でもひま子がそんな櫻子みたいなふざけ方をするとは思えないけど。
   粗方、櫻子が何か勘違いしてるってとこかな……)

撫子「ちょっと櫻子、その時の状況詳しく聞かせて」

櫻子「へっ?」

櫻子「え~、やだよめんどくさい」

撫子「まあそう言わずに」

櫻子「餅焼いてくれたらいいよ」

撫子「餅なんかないよ」

櫻子「えぇ!?なんで!?」

撫子「あんなの常にあるような食べ物じゃないでしょ」

櫻子「え~、食べたいのにぃ……」

撫子「そんなに食べたいなら自分で買ってきな」

櫻子「姉ちゃん買ってきてよ」

撫子「なんで」

櫻子「あっ! 買ってきてくれるなら話してあげる!」ニコッ

撫子「それなら話さなくていい。ひま子に聞けばいいし」

櫻子「ぐぬぬ……ちぇ~、わかったよ、仕方ないな」

撫子(話すんだ……)

櫻子「クラスにちなつちゃんって子がいるんだけど」

撫子「うん」

櫻子「向日葵がその子とばっかり遊んでてつまんなかったの」

撫子「へえ……」

櫻子「向日葵は私の下僕!向日葵には私に宿題を見せる義務があるはずなのに!そんなことでいいのか!って思って」

撫子(そっとしておこう)

櫻子「まあ、とにかくつまんなくてさぁ、一緒に帰れないし、宿題もできないし遊べないし、もう我慢できない!ってなって
   向日葵に全部言ってやったんだよね。そしたら」

撫子「そしたら?」

櫻子「『もしかして焼き餅?』だってさ!あはは!向日葵ったらバカだよね」

櫻子「今、餅全然関係ないしっ!!」ゲラゲラ

撫子「バカはお前だ」

櫻子「えっ、なんで? 全然関係ない話したのは向日葵の方じゃん」

撫子「はぁ……。櫻子、あんた国語辞典持ってたよね?」

櫻子「うーん、多分!」

撫子「『やきもち』で辞書引いてみな」

櫻子「食べ物も載ってるの? 『意味:おいしい』とかだったりして」ププッ

撫子「いいから早く」イラッ

櫻子「な、なに怒ってんのさ……。わかったよ部屋にあるから調べてくる」

撫子「うん。調べたら戻ってくるように」

櫻子「はいはーい」

ドヒューン

櫻子「辞書辞書ーっと。おっ、早速発見!」

櫻子「ったく、姉ちゃんったらなんなんだ、突然焼き餅について調べろなんて。そんなのおいしいに決まってんじゃん!」パラパラ

櫻子「えーっと……や……や……」

櫻子「やえ……やお……やか、き……あっ、あった!」

櫻子「なになに……やきもち:自分より優れた者をうらやんだり、ねたんだりすること? ……ん?よくわかんない。
   あっ、えーっ、また、自分の愛する者の心が他に向くのを、……ん?」

櫻子「自分の愛する者の心が?他に向くのをうらみ憎むこと……?」

櫻子「ん?」

櫻子「……」ゴシゴシ

櫻子「えーっと、また?自分の愛する……えーっ……愛する者の心が他に向くのを……」

櫻子「愛する者の……」

撫子「……」ズズーッ

ドダダダダダダ
撫子「……はぁ」

ドダダダダダダガチャッ!!
櫻子「姉ちゃん!!!意味わかんない!!」

撫子「随分時間かかったね」
櫻子「焼き餅って食べ物じゃないの!?」

撫子「落ち着いて。意味、調べたんでしょ?」

櫻子「調べたけどわかんないの!!なんか、へ、変なこと書いてある!!」

撫子「変なこと?なにそれ」
櫻子「やきもちは、愛する者がどーとかこーとか!!」

撫子「? 多分あってるよそれで」

櫻子「へっ……?」
櫻子「愛する者だよ? お餅なのに?」

撫子「お餅だけど、一つの言葉でもあるの。『アメとムチ』のアメも食べ物だけど、意味は『優しさ』とかそんな感じでしょ?」

櫻子「じゃあ、やきもちも……お餅と、言葉の意味があって、その言葉の意味が愛する者がどーたらこーたらってこと?」

撫子「そう。それで、ひま子はその言葉としての意味で使ってたの。あんたは食べ物だと思ったみたいだけど」

櫻子「えっ!?」

撫子「ちょっともっかい意味読んでみな」

櫻子「え、えっと……『自分より優れた者をうらやんだり、ねたんだりすること。また、自分の愛する者の心が他に向くのを、うらみ憎むこと』」

撫子「あんたの場合後者だね」

櫻子「愛する者の~ってとこ?」
撫子「そう。意味は分かる?」

櫻子「バカにすんな! だから、好きな人が自分以外の人と仲良くしてるのが嫌だ!ってことでしょ?」

櫻子「って、えぇっ!?違うし!!そんなんじゃないし!!」

撫子「じゃあ前者なの?」

櫻子「へ?なんで?向日葵より私の方が優れてるじゃん」キョトン

撫子(例のごとくそっとしておこう)

撫子「ひま子が言った『やきもち』って、どういう意味なんだろうね」

櫻子「そ、そんなのわかんない!!向日葵じゃないもん!!」

撫子「じゃあ直接聞いてみたら?」

櫻子「なんで!?」

撫子「さあ?」

櫻子「えぇ!?」

撫子「ま、櫻子が気にならないなら聞かなくてもいいけど」

櫻子「うっ……」

撫子「あ~、でももし前者の意味で言われてたら、ひま子は櫻子より自分の方が優れてるって思ってることになるね。
   ほら、櫻子が一人でさみし~い思いをしてる時に、ひま子はそのちなつちゃんって子と楽しく遊んでたんだもんね」

櫻子「ハッ……!」

撫子「ま、櫻子が気にならないなら聞かなくてもいいけどね」

櫻子「うぬぬ……ぬぐぐ……うぅわあああ!!」

撫子「」ビクッ

櫻子「向日葵ぃぃぃ!!」ダッシュ

ガチャバタン

撫子「びっくりした……。ちょっと焚きつけすぎたかな……」

花子「ただいま。なんか、櫻子がすごい勢いで出てったし……」

撫子「うん、気にしない気にしない」

花子「?」

櫻子「向日葵!!」ガチャ

向日葵「ひっ! な、なんですの突然!?」

櫻子「やきもちってどういう意味だ!!」

向日葵「来て早々なんのことですの!?落ち着きなさいな!」

櫻子「あの時!向日葵とちなつちゃんがマフラー作ってた時!!」

向日葵「あ、ああ……それがどうかしましたの?」

櫻子「向日葵教室で私に『やきもち?』って言ったじゃん!!」

向日葵「あっ……」

櫻子「それ!どういう意味なの!?」

向日葵「そ、それは……別に、あの時私がただあなたを見てそう思っただけで、今更説明するほどのことでは」

櫻子「いいから!優れてるの!?愛してるの!?」

向日葵「あ、愛し!?」

楓(櫻子お姉ちゃんが向日葵お姉ちゃんに告白してるの……すごい場面に遭遇したの)ソーッ

向日葵「ど、どういうことですの!?」

櫻子「向日葵は、自分のこと私より優れてるって思ってるの!?」

向日葵「へっ?」

櫻子「へじゃなくて!」

向日葵「え、ええっと……櫻子のことはしょうがない子だとか考えたことはありますけど、別に劣っているとかそういうことは……」

櫻子「ほんと!?」

向日葵「ほ、本当ですけど……なんなのよ一体」

櫻子「じゃあ向日葵は私が向日葵のこと好きだと思ってるの!?」

向日葵「は、はいぃ!? いえ、えっと、その、あの時のあれはその」

櫻子「ああもうはっきりしないおっぱいだな!このぼんやりおっぱい!!」

向日葵「む、胸は関係ないでしょ!!」

櫻子「もういい!とにかくどっちなの!?それだけでもはっきりしろ!」

向日葵「そ、そんなことを言われましても……」

櫻子「早く!」

向日葵「そ、そう!ただのお餅ですわ!突然『焼き餅』という言葉が浮かんだだけですの!」

櫻子「騙されるか!姉ちゃん言ってたもん!向日葵は食べ物じゃない方の意味でやきもちを使ったんだって!」

向日葵「な、撫子さんまで……ハッ!」

向日葵「そ、それなら撫子さんに聞けばいいじゃありませんの」

櫻子「なんで?向日葵が言ったんだから向日葵に聞いた方が早いじゃん」

向日葵「じ、実を言うと自分でもあの時の気持ちはよく覚えてませんの。
    ほら、あなた結構怒ってたでしょう?それで気が動転してしまって……」

櫻子「えっ、それでさっきから答えがはっきりしなかったの?」

向日葵「そ、そう!そうですわ!」

向日葵「アイタタタ……なんてことなの、私ったらあの時食べ物の意味としての『焼き餅』を使ったのか、
    はたまた言葉としての『やきもち』を使ったのかも忘れてしまいましたわ……」

櫻子「な、なんだってー!?」

向日葵「その点撫子さんは、私が言葉の意味で使ったということまで分かってるなんて……これは私より撫子さんに聞く方が早いですわね」

櫻子「た、確かに……そんな気がしてきた!!」

向日葵「そうと決まれば早く撫子さんのところへ……」

櫻子「うん!行ってくるね!くっそー!姉ちゃん騙したなー!」ダッシュ

ガチャバタン

向日葵「……」

向日葵(た、耐えたー!耐えましたわー!!)ダラダラ

向日葵(あの時、櫻子が私のことを好きだと思ったなんて、櫻子にバレたらどうなることか想像もつきませんもの……)

向日葵(……櫻子は、なんて言うんでしょう。『そんなことあるわけない』とかでしょうね、きっと)

向日葵(そんなの……できれば聞きたくないですわ)

櫻子「姉ちゃん!!よくもー!!」

撫子「おかえり櫻子」モグモグ
花子「うるさいし」モグモグ

櫻子「って、なんでプリン食べてるの!?ずるい!!」

撫子「櫻子待ってる間暇だったから」
花子「おいしいし」

櫻子「私の分は!?」

撫子「冷蔵庫」

櫻子「あ、あるのか。よかったぁ……」

花子「花子は櫻子みたいに人の分まで食べちゃうような意地汚い人間じゃないし」

櫻子「なんだとー!!」グリグリ
花子「ちょ、やめっ……やめて欲しいし!!」

撫子「で、どうだった?聞いてきたんでしょ?」

櫻子「あっ!そうだった!姉ちゃんよくも騙したな!!」

撫子「多分騙されてるのはあんただよ」
花子「聞かなくても分かるし」

櫻子「うっさい!!」

櫻子「でさ、向日葵はあの時、この櫻子様のあまりの迫力に納豆されたみたいで~」エッヘン

撫子「圧倒ね」
花子「むずい言葉使おうとするとすぐこれだし」

櫻子「とにかく!よく覚えてないんだってさ~」

撫子(嘘だね)
撫子「というか私別になにも騙してないよね。櫻子が気になるならひま子のとこ聞きにいけばって言っただけだし」

櫻子「まあそれはいいじゃん」ニヘラ

花子「適当すぎだしっ!?」

櫻子「で、姉ちゃん向日葵はなんでやきもちなんか言ったの?」パクパクモグモグ~♪

撫子「さすがに知らない」

櫻子「え゛っ!?」

花子「少しは自分で考えて欲しいし」

撫子「花子がいいこと言ったよ。えらいね」ナデナデ
花子「えへへっ」

櫻子「ぐぬぬ~……」

2時間後

櫻子「ん~……あー!!」グシャグシャ

撫子(まだ考えてる……)

櫻子「向日葵はどういう意味で言ったんだー!」ウワー

花子「櫻子はどんな時でもうるさいし」

櫻子「わかんないんだから仕方ないじゃん!!」

撫子「はぁ……わかったよ。ヒントあげる」

櫻子「え!?ほんと!? って、姉ちゃんやっぱ知ってんじゃん!!」

撫子「あくまで推測だから。本当にひま子が私の思ってる意味で言ったのかはひま子に聞いてみないとわからないよ」

櫻子「ん~、よくわかんないけどそれでいいや!とにかくヒント!」

撫子「まず自分のことから掘り下げてみることだね」

櫻子「掘り下げる?」

花子「考えるってこと。花子でもわかるし」

櫻子「なーるほど!さすがは私の妹だ!」

撫子(悲しくならないのかな)

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