妹 「お兄ちゃん! あたしのプリン勝手に食べたでしょう!」(26)

兄 「……そういや、台所にプリン置いてあったな」

妹 「あれあたしのプリン! 返してよあたしのプリン!」

兄 「返せったって、プリンはもう胃袋の中だぞ?」

妹 「じゃあ買ってきてよ!」

妹 「買ってきてくれるまでお兄ちゃんとは口聞いてあげないんだから!」

兄 「……」

母 「こら二人とも、喧嘩しないの」

妹 「あ、お母さん聞いてよ! お兄ちゃんがあたしのプリン勝手に食べたの!」

兄 「……」

母 「それはいけないわね、兄君が悪いわ」

母 「悪いことをしたんだからちゃんと謝りなさい、兄君」

兄 「……母さん、悪いのは妹だけじゃないぞ!」

母 「……どういうこと?」

妹 「……」 ギクッ

兄 「コイツはな、俺がとっておいたおやつを盗み食いしやがったんだよ!」

妹 「……」 ギクッ

母 「……本当なら、話は変わってくるわよ?」

妹 「だ、だって、お腹空いてたんだもん」

兄 「俺はお前のことを思って、わざわざ見逃してやったのによ」

妹 「そ、それとこれとは話は別でしょ!」

母 「こらこら、喧嘩両成敗よ?」 ニコニコ

妹 「お兄ちゃんだって、お母さんのへそくり盗んだくせに!」

兄 「……」 ギクッ

母 「……話、聞かせてもらおうかしら」 ニッコリ

兄 「ど、どうしても金が必要だったんだよ……」

兄 「か、金がなきゃ、友達がみんないなくなっちまう……」

兄 「そうなったら俺は、俺は……!」 ブルブル

妹 「カモ兄ちゃんのへタレ! 意気地なし!」

兄 「な、なんだと……!」

母 「手をあげるのはやめなさい、兄君!」 パシン

兄 「……っ」

母 「……兄君は、仕方なしにやったのよね」

兄 「……」 コクリ

母 「……でも、盗んじゃだめよ?」

兄 「……」コクリ

母 「わかればよろしい」

母 「妹にもほら、ちゃんと謝って」

兄 「!」

兄 「あ、あれはアイツにだって非があるだろ!」

母 「……お母さんは貴方を許してあげたわよ?」

兄 「……は?」

母 「だから、兄君も妹ちゃんを許さないといけないの」

兄 「……そ、そんな理屈!」

妹 「……ふふん」

「こらこら、なんの騒ぎだ」

妹 「あ、お父さん?」

父 「どうした、可愛い可愛い娘よ」

妹 「お兄ちゃんがね、あたしのおやつとお母さんのへそくりを勝手に盗んだの!」

母・兄 「!?」

父 「……へそくり? お前、どういうことだ」

母 「……いいじゃないの、少しぐらい」

父 「よかない、夫婦間での隠し事はしないと、昔決めただろう」

母 「そんな昔のこと、忘れちゃったわ」

父 「……」 イラッ

兄 「……」

父 「……お前は歯を食いしばれ!」 ドカッ

兄 「ギャアッ!」 バタン

兄 「な、なにすんだよ親父!」

父 「お金というのはな、大人が汗水垂らして働いてやっと手に入れられるものなんだ」

父 「それを楽して手に入れようとするとは不届き千万! 恥を知れ!」

兄 「……」

父 「まったく、お前という奴は……」

男 「汗水垂らすような仕事につかなきゃならなかったのは、アンタの学歴が足りないせいだろうが!」

父 「……なんだと?」

兄 「ああ、何度だって言ってやるさ!」

兄 「俺の学校での成績はいつも首位! 大学の推薦だってもらってる!」

兄 「俺はアンタみたいに昼も夜もなく体を動かし続ける仕事に就く気はねえ」

兄 「エリート街道まっしぐらの、将来バラ色なんだよ!」

父 「お前と言う奴は……! 仕事を舐めるな!」 ドカッ

兄 「はっ、負け犬がなに喚いてやがる!」

兄 「アンタみたいなバカはなぁ、せいぜいほかの頭の緩い女と遊んでりゃいいんだ!」

父 「!?」

母 「……言い過ぎよ、兄君」

兄 「母さんはこのロクデナシの味方をするのかよ!」

兄 「こいつが母さんの知らないところでなにをしてるのかも知らないくせに!」

母 「……え?」

父 「……まさか、兄……!」

妹 「や、やめてお兄ちゃん! あれはあたしたちだけの秘密って約束だったはずだよ!」

兄 「お前は黙ってろ!」

妹 「……おにい、ちゃん」

兄 「これを聞いてくれ、母さん」 っボイスレコーダー

母 「……」

父 「や、やめろ! やめるんだ兄!」

母 「貴方は黙ってなさい」 ギロッ

妹 「ご、ごめんお兄ちゃん! 全部あたしが悪かったの!」

兄 「黙ってろ! これは俺の問題なんだよ!」

父 「ヤメロォォーーーッ!!」

ピッ

ザザーッ

ピッ

「今日も可愛いな、不倫子」

「そんなぁー、やめてくださいよぉー」

「どうだ、今夜も楽しもうじゃないか」

「いいんですかぁー? 奥さんが悲しみますよぉー?」

「あんな臭う家内なんてな、もう女じゃないさ」

「ひっどーい!」

「はっはっは! それに引き替え君は本当に魅力的だ……」

「やーん、父さんのエッチー……」

ピッ

母 「……」 スタスタ

父 「ま、待ってくれ! これは……」

母 「問答無用よ、私達はもう終わり」

父 「そ、そんな……!」

母 「さようなら」 スタスタ

父 「……ご、誤解なんだ、誤解」

母 「さわらないで、ゴミ」 スタスタ

父 「……ま、待って、くれ……」

兄 「へっ、どんなもんだい」

妹 「……」

父 「……お前が」

兄 「あ? なんだよクズ」

父 「お前が、あんなものを聞かせたりしなければ……!」

兄 「はっ、逆ギレかよ!」

父 「逆ギレだと……?」

兄 「ああそうだよ!」

兄 「アンタは母さんをこの家に縛り付けていたくせして」

兄 「アンタ自身は、母さんの知らないところでほかの女と遊んでやがった!」

父 「……家族が家族でいるためにはな、目をつぶるべきところはつぶらなければならんのだ!」

父 「俺はいつも苦労している、これぐらい許されてしかるべきはずだ!」

兄 「浮気は悪だと親に教わらなかったのかよ!」

父 「一夫多妻が許される国もある!」

兄 「ここは日本だ!」

父 「親に飯食わせてもらってる青二才の分際で、親に意見する気か!」

兄 「自分のことを棚に上げるようなゴミクズが親ぶるな!」

妹 「け、喧嘩はやめてよ二人とも!」

兄・父「お前は黙ってろ!」

妹 「……」 グスン

その後、お母さんとお父さんは離婚してしまいました

あたしとお兄ちゃんの親権は裁判の末、お母さんの手に渡りました

裁判を終えてからというもの、あたしはお父さんの姿を見かけていません

今も知らない女の人と仲良くしているのでしょうか?

でも、それをお兄ちゃんやお母さんに聞くことはできません

だって、聞こうとすると殴られちゃいますから

あたしは、時々考え込んでしまいます

もしあの時、あたしがプリン一つで喚いたりしなければ

もしあの時、あたしがお兄ちゃんに泣き寝入りしていれば

あたしは、こんなにも多くのものを失わずにいられたのでしょうか?

表面上は、今まで通りのそれなりに仲のいい家族でいられたのでしょうか?

……考えるだけ無駄なんですけどね

だって過ぎ去ってしまった時間はもう、元には戻らないのですから

でも、この経験を未来に生かすことはできました

というのも、あたしはあの出来事を経て、どんなことがあっても泣き寝入りすることを学びました

理不尽な暴力を振るわれても、意地悪されても、無茶苦茶にされても

あたしは、なにもいいません

言わなければ、あたしのせいでそれ以上事が悪いほうに進むことはなくなりますから

あたしのせいでなにもかも壊れてしまうのは、怖くてたまりませんから――





20XX年 ○月×日 ある精神科医のカウンセリング記録より

おしまい

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom