兄「おお、いもうとよ。しんでしまうとはなさけない」(136)

兄「よっしゃあボス倒したぁ!」

妹「もー、ゲームで騒がないでよ子供じゃないんだからさー」

兄「身体は大人、心は子供!」

妹「最悪じゃん」

兄「大人になっても子供の心を忘れないのが大事だと思いまーす」

妹「恥を知るほうが大事だよ」

兄「なにこのイベント。理不尽すぎる」

妹「世の中、そんなもんだよねー」

兄「知ったふうな口をききよる。妹のくせに」

妹「兄貴よりはかしこさが上だからな」

兄「レベルアップしなければ!」

妹「まず経験値を得ないとね」

兄「働こっかなぁ……」

妹「がんばれー」

兄「ダ●マの神殿が現実にもあればなぁ」

妹「ハロ●ワークだね」

兄「遊び人に転職したい」

妹「いや働けよ」

兄「いやいやいや、いいのかい? 働いたら妹ちゃんと会う時間が減っちゃうんだぞ?」

妹「あたしは一向にかまわないけど」

兄「愛しい妹が冷たい!」

妹「気持ち悪い」

兄「ほんとに冷たい!」

妹「・・・・・・」

兄「・・・ってあれ・・・?マジで冷たくね・・・?」

兄「このダンジョン難しすぎる」

妹「池袋駅よりマシでしょ」

兄「そこは梅田地下街じゃないのか」

妹「ひとつの駅なのにあれってのがすごいんじゃん」

兄「いったこともないくせに」

妹「ぐぬぬ」

兄「現実にも回復呪文があればいいのに」

妹「MPがないじゃん」

兄「現実でMPってなんだろ」

妹「……記憶?」

兄「呪文いらねえわ」

兄「なんで魔王ってお城から出てこないんだろうな?」

妹「ひきこもりなんじゃない?」

兄「お前が魔王だったのか……!」

妹「あたしは引きこもりじゃねーよ!」

妹「なに、あたしが魔王だとしたら兄貴が勇者だとでも?」

兄「うむ。妹への愛が世界を救う!」

妹「ニートに世界が救えるの?」

兄「お前だけでも救ってみせるさ」

妹「なにそれ。ださ」

兄「写真撮ろうぜ!」

妹「え、やだ」

兄「即答!?」

妹「なんでいきなり写真?」

兄「いやほらさ、ダチとかに妹のこと聞かれたときにさ……」

妹「兄貴、友達いたんだ」

兄「いるわ阿呆!」

妹「すっごく意外ー」

兄「ほらそういう訳だからさ。俺の妹がこんなに可愛い! て自慢させてくれよ」

妹「なに、兄貴シスコン? きもっ」

兄「綺麗な姉ちゃんがいたらシスコンだったかもな……」

妹「変態。死ね」

兄「黙れぺたんこ」

妹「くたばれッ!」

兄「まぁまぁ貧乳には貧乳の良さがあるとして、写真撮ろうぜ!」

妹「貧乳ゆーな! ……ったくもー仕方ないなー」

兄「よーし、じゃあハイチーズ」パシャッ

妹「えっ兄貴は!?」

兄「むふふ。お兄ちゃんと写真撮りたいかい? 妹ちゃん」

妹「ちっ違うし!」

兄「はーいよしよし。撮りまちょうねぇ」

妹「寄んな撫でんなにやつくな!」

兄「ハイチーズ!」

妹「えへへ♪」パシャッ

妹「ねぇ兄貴」

兄「ちょっと待ってこのボスむっちゃ強いヤバイ」

妹「……あたしがさ、いなくなったら、兄貴は泣くかな」

兄「よし、倒した! で、なんて?」

妹「なんでもないよー兄貴のバーカ」

兄「母さん妹が反抗期です」

兄「いい天気だなぁ」

妹「兄貴、就職しないの?」

兄「よし、妹よ。散歩にいくぞ」

妹「現実と向き合えよ兄貴」

兄「いやぁほんといい天気だ」

兄「大丈夫か? 寒くないか?」

妹「へいき」

兄「そか」

妹「兄貴」

兄「ん」

妹「……いい天気だね」

兄「おう」

妹「ごめん、ちょっと疲れた」

兄「すまん」

妹「いいって。ちょっと寝てれば戻るし」

兄「うん。すまん」

妹「もーいいってばー。ちょっと疲れただけだよ」

兄「うん。……うん」

兄「おーさむさむ」

妹「寒いなかご苦労」

兄「無駄に偉そうだな妹よ」

妹「お姫様だからね。とらわれのお姫様」

兄「俺が助けてやるよお姫様」

妹「無職には無理」

兄「無理じゃない」

妹「えっ?」

兄「俺が助ける。絶対助ける」

妹「な、なにさ。……じゃあ、約束ね」

兄「任せておけ! お兄ちゃんは勇者だから!」

妹「無職でしょ」

兄「言うな」

妹「旅行いきたいなー」

兄「よし、明日出発だ」

妹「早いよ! どこに? って聞けよ!」

兄「どこに?」

妹「んー、海がきれいなところ」

兄「サルガッソ海?」

妹「どこなの!?」

パンツ履いている

兄「誰と行くんだよ、って決まってるか」

妹「うん。お父さん、お母さん、ダイスケで」

兄「俺は!? 犬より俺でしょ!?」

妹「兄貴、ダイスケの写真みせて」

兄「スルー!」

妹「あーダイスケかわいーなー」

兄「お前のほうが可愛いよ」

妹「しらねーよ」

兄「照れるな照れるな」

妹「てれてねーよ」

妹「兄貴、この本の続き買ってきて」

兄「当然のように兄をパシるんじゃない」

妹「仕方ないじゃん、外は寒いし」

兄「だから断ってるんですよね」

妹「無職に拒否権はない!」

兄「この前言ってた本買ってきてやったぞー」

妹「え、ほんと?」

兄「あたぼうよ。兄ちゃんが嘘ついたことあったか」

妹「ありまくりじゃん。前のマンガ、続き貸してくんないし」

兄「ああ、あれ、休載」

妹「まじっすか」

兄「ラストダンジョンむずすぎだろ」

妹「仕様ですし」

兄「作ったの誰だよ出てこい!」

妹「魔王じゃないの」

兄「お前だったのか」

妹「私だ」

兄「妹よ! 愛する兄のお出ましだ!」

兄「………」

兄「いないのか」

兄「なぁ。知ってるか。俺がほんとうにお前のことを大事に思ってるって」

兄「信じたくねえよ。なんでお前がいなくならなくちゃならないんだよ。なんでお前なんだよ」

兄「誰だよ、教えてくれよ、誰をやっつければいいんだよ、どこに悪者はいるんだよ」

兄「嘘だろ。お前がいなくならなくちゃならないなんて、嘘だろ」

兄「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……」

妹「……あれ、兄貴」

妹「寝てるし。まったく、そこは病人のためのベッドだっての」

妹「もう。兄貴は仕方ないなぁ……」

妹「ねぇ、兄貴」

妹「いつもありがとう。あたしが今でも笑ってられるのは、兄貴のおかげだよ」

妹「あたしはいなくなっちゃうけど、……けど、忘れないで」

妹「あたしが大好きだってこと―――お兄ちゃん」

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|

   iイ | |' ;'((   ,;/ '~ ゛   ̄`;)" c ミ     i.
   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、 
   丿 `| ((  _゛_i__`'    (( ;   ノ// i |ヽi.
  /    i ||  i` - -、` i    ノノ  'i /ヽ | ヽ
  'ノ  .. i ))  '--、_`7   ((   , 'i ノノ  ヽ  (まだだ、まだ耐えるんだ…)
 ノ     Y  `--  "    ))  ノ ""i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//--'";;"  ,/ヽ、    ヾヽ

兄「妹ーマンガ買ってきたぞー」

妹「え! 休載じゃなかったの!」

兄「実はまた連載していたのだ」

妹「休載がやられたか……」

兄「くくく、やつは四天王のなかでも最弱」

妹「すぐに第二、第三の休載が……」

兄「もう数えきれないよ!」

兄「妹よ。お前ちょっとやつれてるんじゃないか」

妹「そんなことないよ」

兄「でやーっ真実の姿を映し出す鏡!」

妹「ぐあーやーめーろーっ」

妹「んーたしかに痩せたかなぁ」

兄「ちゃんと飯食ってるのか?」

妹「まぁ、食べてるよ。あんまり美味しくないけど」

兄「俺はおかわり三回するぞ!」

妹「聞いてねーよ」

妹「兄貴、タイクツ」

兄「了解、はぁっ!」

妹「それは前屈」

兄「あぁ、主に女性が履く防寒用の薄布の、」

妹「それはタイツ」

兄「いいんだ……どうせ俺なんか、ゴミカスのようなやつなんだ……」

妹「そだね」

兄「鬱屈だよ!」

兄(昨夜、妹は発作を起こして意識を失った)

兄(今は小康状態だが、会って話せそうになかった)

兄(俺は家でひとりでゲームをすすめた)

兄(時間が進むのが遅い)

兄(妹は、大丈夫だろうか)

兄「よう、けんじゃのいしが入り用か?」

妹「あぁ、兄貴。ひさ、しぶり、だね」

兄「会いたくてしかたなかったろう」

妹「まあ、ね」

兄「どうした妙に素直だな。風邪か」

妹「風邪、じゃ、ねー、よ。まぁ、はやく、マンガ、読みたいから」

兄「マンガ目当てかよ!」

妹「ね、兄貴」

兄「なんだ。あんまり無理して喋んな」

妹「じゃ、兄貴が、しゃべって、よ」

兄「まったく注文の多いお姫様だぜ」

妹「お姫様、じゃ、ないし。魔王、だもん」

兄「じゃあ魔王様、古い国のおはなしをしましょう。むかしむかし、あるところに……」

兄「そうして、国は平和になったのでした。めでたしめでたし」

妹「………」

兄「寝てるし」

兄(妹は薬のせいでいつもぼうんやりしているようになっていた)

兄(俺がお見舞いにきても、起きないこともあった)

兄(もとから小さかった手が、ますます小さくなっていく気がした)

妹(真夜中に目が覚めることが増えた)

妹(誰もいない病室で、意識がはっきりしないまま時計の音を聞いてる)

妹(部屋に満ちる静寂に、急に心細くなる)

妹(昼間に意識を取り戻すと、いつも兄貴が手を握ってくれてるのに)

妹(寒い)

妹(とても、寒かった)

兄「俺、参上」

妹「わ、う、あ、兄貴」

兄「なにをわたわたしている妹よ。いついかなるときでも明鏡止水の心でだな……」

妹「あ、ほ」

兄「最後まで喋らせて!?」

妹「兄貴、まだ、そのゲーム、やってんの?」

兄「ラスボスが倒せないんだよ。何回魔力を解き放つんだよ」

妹「そこ、が、ニートの、げんかい、か」

兄「限界を突破してこそ、男だ!」

妹「だから、とっぱ、できて、ないん、じゃん」

兄(妹はくすくすと笑った)

兄(点滴の針が刺さった細い腕を見てられなくて、俺は目をそらせて笑い返した)

妹「あに、き」

兄「なんだね妹くん」

妹「何キャラ、だよ。さいきん、まいにち、きてる、よね?」

兄「家にいてもつまらんし、外は寒いからな」

妹「あした、も、きて、くれる?」

兄「あーどーかなー仕事が忙しいからなー」

妹「だまれ、むしょくの、くせに」

兄「はい、すいませんでした。明日も来ます」

妹「よろしい」

兄「じゃ、今日は帰るわ」

妹「うん。また、あしたね」

兄「おう。また明日なー」

兄(小さく手を振る妹に応えて、俺は病室を出た)

兄(それが、妹との最後の会話になった)

兄(その夜に、妹は息を引き取った)

兄(俺は実感が湧かなかった)

兄(通夜をして、葬式をして、妹が骨だけになっても)

兄(俺は妹が死んだということを受け入れられずにいた)

兄(遺品整理の際に、妹が家族それぞれに宛てた手紙が見つかった)

兄(もう指に力が入らない頃に書いたらしい。文字は乱れていて、読むのに難儀した)

兄(俺は部屋に戻って、ひとりでそれを読んだ)

兄「という小説を書いたんだが」

妹「殺さないでよ!」

妹『兄貴へ』

妹『兄貴には、えーと、なにを書いたらいいのかわかんないな』

妹『あたし、小さいときから、兄貴に遊んでもらってたよね』

妹『外で遊べなくなっても、兄貴はあたしと遊んでくれたね』

妹『入院してからも、兄貴が来てくれて、楽しかった』

妹『すごく嬉しかった』

妹『ごめんね』

妹『ごめん』

妹『いなくなっちゃって、ごめん』

妹『ほんとのこと言うと、しんじゃうのはこわいよ』

妹『さみしいよ』

妹『でもね』

妹『兄貴が毎日来てくれたから、あたしは幸せだった』

妹『ありがとう』

妹『ありがとう、兄貴』

妹『ばいばい』

妹『ps.はやくしゅうしょくしろよ』

兄「うるせえよ、ばか……」

兄「ごめんじゃねえよ……」

兄「謝るのは俺のほうだろ」

兄「お前を助けるって言ったのに。絶対助けるって約束したのに……っ!」

兄「約束守れなくて、ごめん……!」

兄(それでも俺は涙を流せなかった)

兄(それから、かじりつくようにがんばって就職し、妹の死から一年が経った)

兄(俺は一年間レベル上げに徹していたあのゲームで、ラスボスに挑んでいた)

兄(あんなに強かったボスをあっさりと倒して、エンディングを迎える)

兄(エンディングで勇者は、今までの道のりをたどりながら故郷へと帰っていく)

兄(あの場所も、この場所も、妹と過ごしながら通ってきた道のり)


―――また負けたの? 兄貴ってゲームへただねー


兄(どこもかしこも、妹との思い出があった)


―――ボス倒したんだ。まあ兄貴が戦うべきなのは現実だけど

兄(広大な砂漠、呪われた廃墟、大きな街にカジノ)


―――ちょっとー、ゲームばっかしてないであたしの話も聞いてよー


兄(みんなみんな、お前と過ごした日々そのものだった)


―――ゲームやんの? 主人公の名前あたしにしよーよ

兄(俺は机の引き出しを引っ掻き回してあのとき撮った写真を見つけた)

兄(妹は笑っている)

兄「うぅ……」ポロ

兄(ようやく俺は泣くことができた)

兄「ああああああ……っ!」

兄(ぼろぼろと涙を流し、俺は妹の名を搾り出すように呼んだ。何度も)

兄(スタッフロールが終わりを告げ、俺も長い時間を隔てて、妹に別れを告げることができた)

兄「妹よ。――ばいばい」



THE END

妹「という夢だったのさ」
兄「な、なんだってー」

駄目な映画を盛り上げるために簡単に命が捨てられていく
違う 僕らが見ていたいのは希望に満ちた光だ というひとだけ次レスをお読みください

兄「というストーリーはどうだろう」

妹「なにが、というわけさ。きもい」

妹「ただの健康診断の待ち時間にどんだけ妄想ふくらませてんの。ってか勝手に殺すな」

兄「おお、いもうとよ。しんでしまうとはなさけない」

妹「しんでねーし」





おしまい

遅い時間までありがとござしたー

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