れんげ「にゃんぱすー」キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「!?」 (26)

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「貴様……」

金髪の幼女とも見違える吸血鬼は耳を疑った
にゃんぱす
それはかつて消えた小国の言葉でお前に死をもたらすという意味の言葉であったからだ

れんげ「ふすーっ」

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに相対する、同じ年頃に見える少女は指笛を鳴らそうとしたがそれは失敗した

狸「……」ノソリ…

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「口寄せだと……」

吸血鬼である彼女は、人間の耳では聞き取ることのできぬ音域までを拾う事を可能とした
幼女は人間の耳では聞き取れぬ超音波によって獣を呼び寄せたのだ
古くからこの国で狸や狐が妖として存在している事は吸血鬼の知識にもあった
そして確信した
この幼女は危険であると

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「にゃんぱす……だと……?」ギリッ

れんげ「なんで怒ってるん?」スッ

幼女はまるで殺気すら持たぬかのようにキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの目前に迫っていた

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「!?」バッ

吸血鬼はとっさに飛びのいた
何の武器も持たぬ幼女が吸血鬼の警戒をくぐり接近する事が可能なのか?
可能
そう、可能であったのだ
幼女は殺気を持たず、相手の警戒の網をかいくぐり吸血鬼の顔色をうかがった
それはキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの敵対心を煽るには十分だった

狸「にゃーん」

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「!?」

れんげ「こら、具!知らない人に吠えたらいけません!」

吸血鬼は狸にも注意を払わざるを得なかった
古今東西「にゃーん」などと鳴く狸は存在を知られていなかった
そう、やはり狸は並の獣を逸脱した存在であったのだ

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「……」

吸血鬼は向かい合う幼女と一匹の獣を凝視している
人畜無害に見える幼女だが、出会い頭の殺害予告
ただの幼女であるわけがないという考えが、吸血鬼が迎撃という行動を取るのを躊躇わせたのだ

れんげ「外国の人なん?」

そう言うと少女は持っていたポーチから何やら草を出し、少女に差し出した

れんげ「これ、あげるん。今が旬で美味しいのん」

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「これは……!」

草の正体はギョウジャニンニクであった
ニンニクは吸血鬼の弱点とされている
吸血鬼の頂点に立つ彼女には効果は無いが、これで彼女の疑念は確信に変わった

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「やはり儂の正体を看破しておるのじゃな……」

れんげ「?」

幼女は小首を傾げている

れんげ「あっ」

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「!?」

幼女の声と視線に釣られるように彼女は振り向く
そこには木の棒を持った少女が立っていた

れんげ「なっつん。この子……」

幼女の声が少女に届くより早く、少女は持っていた棒を吸血鬼に突きつけていた

夏海「……ッッ!?」

少女は言葉すら出せず、棒をキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに突きつけたままだ

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード(やはりこ奴も儂の正体に……)

夏海(やべぇ……。外国人の女の子だよ……。驚きのあまり声も出ねぇ……)

吸血鬼の少女は、棒を差し向ける少女と獣を連れた幼女に挟まれる形で田舎道に立つこととなった

吸血鬼は能力もわからぬ幼女と獣、そして少女に挟まれ身動きが取れない状況に陥っていた

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード(差し向ける木の棒……。儂の心臓を狙っておるという牽制のつもりなのか……?)

刻々と時間のみが過ぎる

れんげ「なんで何も喋らないん?」

夏海「う、うぁ……」

緊張の糸を切らした夏海が発した一言は吸血鬼を凍り付かせた

夏海「にゃんぱすー、なんちって」

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「!?」

日に二度も殺害を目前で予告されたのだ
吸血鬼の顔色が青ざめる

れんげ「なっつん、この子この辺りじゃ見ない顔なのん」

夏海「だよねー。おーい、うちの言う事わかりますかー?」

少女は残酷にも、にゃんぱすという言葉が意味する事が何なのかという事を訊ねてきた
これは吸血鬼に、「お前を殺す」という意思を再確認させると認識させるのに十分足りていた

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「貴様らっ……」ドンッ

吸血鬼が怒気をはらんだ声を出すと同時に二人と一匹は飛びのく

れんげ「あっ」

夏海「あっ」

二人は揃って上を向いた

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「その手は食わん!」

吸血鬼は二人の視線の動きには釣られなかった
ボタッ

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード「!?」

吸血鬼の頭の上に降り注いだのは鳥の糞であった
二人が見上げたのは糞をする鳥だったのだ

れんげ「あー……」

幼女は言葉を出すのもはばかれるといった面持ちで吸血鬼を見下ろしている

夏海「ここらは田舎だから仕方ないよ。うん」

少女はえんがちょ指切ったなどと呪詛めいた呟きを漏らし、何やら呪いめいた動作をした

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード(こやつらは危険じゃ……)ドンッ

吸血鬼は頭を濡らす糞もそのままに、大空に飛び立っていった

れんげ「……宇宙人だったのん?」

夏海「わかんねぇよ、れんちょん……」

この事件は二人により捻じ曲げられ集落を伝わり、頭に糞を乗せた空飛ぶ異人として伝承される事となった
吸血鬼は意図せずまた一つ伝承を増やしたのだ

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