両津「夏海の誕生日?」小鞠「そう」 (151)

両津「れんげの誕生日を祝ったばかりだろうが」

小鞠「れんげのはね。夏海は来月の24日が誕生日なんだけどさ」

両津「ふ~ん」

小鞠「何をあげたらいいかな」

両津「ゲームでいいんじゃないか。あいつゲーム好きだろ」

小鞠「そうなんだけど……夏海ももう中学生だし、いつまでもゲームとかじゃ子供っぽいかなぁって」

両津「お前も夏海もまだ十分子供だろうが」

小鞠「うっさい! 両さんと夏海ってなんか似てるから、参考までに聞いてみようと思ったのっ」

小鞠「両さんが今欲しいものとか教えてよ」

両津「似てるか? ……まあ、わしが欲しい物はひとつしかないぞ」

小鞠「なに?」

両津「金だ」

小鞠「両さんに聞いた私が馬鹿だったよ……」

両津「それ以外に何があるんだ? 金さえあれば欲しいものが買えるだろうが」

両津「中元やら引き出物も全部現金にすればいい。そう思うだろ?」

小鞠「いや、別に」

両津「最近はカタログなんか送りつけて『ご自由にお選びください』なんてぬかすが、金の使い道を制限されているみたいで気分が悪いぞ」

両津「本当に欲しい物は本人にしかわからんのだから、わざわざ推測しないで金を渡して『好きな物を買え』で十分だろ」

小鞠「そ、そうじゃなくてさ、気持ちの問題だよ!」

両津「気持ちぃ?」

小鞠「自分のために一生懸命選んでくれたっていうのがいいんじゃん」

両津「それで要らんもん渡されても嬉しくないがな」

小鞠「だぁ~! そうじゃなくて! とにかく、お金以外で夏海が欲しそうなものってなに?」

両津「他の奴に聞け。蛍とかそういうことに詳しそうじゃないか?」

小鞠「だって後輩だし……」

両津「妙なプライドを持つやつだ……いいから呼んでみろ。ついでに雪かきを手伝わせる。お前もだぞ」

小鞠「え~……まあ、今回はしょうがない……」

蛍「センパ~イ」

小鞠「ああ、蛍っ。こっちこっち」

蛍「こんにちは。雪かきしてるんですか? お疲れ様です」

両津「おう。ほら、スコップ」

蛍「あっ、私もやるんですね……」

小鞠「それより蛍。もうすぐ夏海の誕生日なんだけどさ」

蛍「ええ。れんちゃんから聞いてますよ」

小鞠「何をあげたらいいかな。プレゼント」

蛍「私はマフラーを編んで渡そうかなぁって」

小鞠「そっかー、蛍はお裁縫が得意だもんね」

両津「季節的にもいいんじゃないか? 実用性もあるしな」

小鞠「実用性のあるものか……そのほうがいいかも」

小鞠「はぁ...夏海の好きなものかぁ...」

両津「おっと誰か来たようだ」

れんげ「これはこれは勘吉殿!!よくきたのん!!」

両津「久しぶりだなれんげ元気にしてたか?」

れんげ「元気なのん!!」

両津「ちょっとお前にも手伝ってほしいことがあってな...雪か」

小鞠「ちょっとちょっとちょっと!!待ってよ!」

両津「なんだようるせえなぁれんげ並にロリ幼女の癖に」

れんげ「ロリ戦隊ロリレンジャー参上!!なのん!!」

小鞠「いぇーーーーい!!!」

両津「うっほ!!!おっほぉ...」シコシコシコシコ

小鞠「ところで蛍。そのスーツケースなに?」

蛍「両さんに衣装をお返ししようと」

小鞠「衣装?」

蛍「犬の衣装が学校に置きっぱなしになってたので、持ってきました」

両津「そうか。すっかり忘れてた」

小鞠「犬の衣装って、この間のれんげの誕生日の?」

蛍「はい」

両津「れんげの時みたいに全員で何かをプレゼントするってのもアリかもな」

蛍「またお芝居をやるってことですか?」

小鞠「……『新桃太郎2』……思い出したくない」

蛍「散々でしたからね……」

両津「何言ってんだ。れんげは大喜びしてただろ」

小鞠「その代わりに私たちが消防署の人に怒られたじゃん……」

―――

~12月3日~

ナレーション(このみ)「さあ、いよいよ最終決戦です! 桃太郎は鬼を倒せるのでしょうか!?」

桃太郎(卓)「……」

キジ(小鞠)「や、やい! 鬼ども! 地獄へ落ちる覚悟はいいかぁ!」

犬(両津)「てめえら成仏させてやる!」

猿(ひかげ)「報いを受けろぉ! 六時間かけて戻ってきて猿役やらされて腹立ってんだよぉ!」

ズダダダダダダダダ

鬼A(楓)「なんで銃つかってくるんだよ! 昔話じゃなかったのか!? くそ、は、反撃だ!」

鬼B(夏海)「撃っちゃうぜ~!」

鬼C(蛍)「先輩、ごめんなさいっ」

ズダダダダ バキュン バキュン

両津「ん?誰か来たようだな。」

れんげ「勘吉ィ!!久しぶり!!!なのん!!!!」

小鞠「こらこら...両津巡査でしょ...」

両津「がっはっはっはっ!!気にするな!れんげ!!!だがお前にも雪かき手伝ってもらうぞ!」

れんげ「うちそんなんするためにきたんじゃないのん...」

小鞠「何しに来たの?」

れんげ「なぬっ!!その顔!!ひどいのんな!!!」

小鞠「あっ...ごめん...じゃあ...


この顔でどうだ!!!!!?」

両津「やるじゃないか!!!ロリ幼女にも色気って奴がついてきたか!!!」

小鞠「ロリ幼女いうな!!」

れんげ「小鞠なんてBBAなのん!!」

小鞠「BBAいうな!!!」

両津「うっほ!ギャラクシーィ!!!ちんぽこぽこぽん!チョベリ具!へィ!おっほぉ...」シコシコシコシコ

メキメキ ズダァーン

キジ「わぁー!!!」

鬼A「おい、背景が倒れてきたぞ!」

犬「ん? なんか焦げ臭いような……うおっ! 舞台袖のストーブが炎上してるぞ!」

鬼B「えー!」

猿「はぁ!? やばいじゃん!」

鬼C「火事~! 火事ですよ~!」

犬「消火器持って来い! 桃太郎!」

桃太郎「……」ギュン

鬼B「あー! 桃太郎が逃げた!」

キジ「お兄ちゃん逃げるのはやっ」

鬼A「ん?誰か来たようだな。」

れんげ「勘吉ィ!!久しぶり!!!なのん!!!!」

猿「こらこら...両津巡査でしょ...」

羊「がっはっはっはっ!!気にするな!れんげ!!!だがお前にも雪かき手伝ってもらうぞ!」

れんげ「うちそんなんするためにきたんじゃないのん...」

鬼B「何しに来たの?」

れんげ「なぬっ!!その顔!!ひどいのんな!!!」

鬼B「あっ...ごめん...じゃあ...


この顔でどうだ!!!!!?」

鬼A「やるじゃないか!!!ロリ幼女にも色気って奴がついてきたか!!!」

鬼B「ロリ幼女いうな!!」

れんげ「小鞠なんてBBAなのん!!」

鬼B「BBAいうな!!!」

両津「うっほ!ギャラクシーィ!!!ちんぽこぽこぽん!チョベリ具!へィ!おっほぉ...」シコシコシコシコ

ナレーション「なんということでしょう! 鬼ヶ島が炎上してしまいました! 私も逃げさせていただきます!」

犬「狼狽えるな!!! これはわしの仕掛けた炎上魔法だ! まいったか鬼ども!」

キジ「芝居続けるのぉ!?」

鬼A「まいったからはやく火を消せぇ!」

れんげ「スペクタクルなん! ウチ興奮してきました!」

一穂「……あのー、質問なんですけどー。これって台本通り?」

犬「おおむねな!」

鬼B「消火魔法! 消火魔法!」

キジ「焼き鳥になる~!」

鬼C「消防車呼んできます!!!」

犬「火消と言え! よし、観客も参加だ! れんげ! 先生! バケツリレーするぞ!」

ナレーション「消火器持ってきました!」

一穂「あっ、ガチのやつですか」

れんげ「ウチもお手伝いするのん!」

―――

両津「全員で協力して鎮火させてのグランドフィナーレは盛り上がったな」

小鞠「あんな盛り上がり方は嫌だ……」

蛍「結局、出火原因は何だったんですか?」

両津「風に煽られた幕がストーブに貼り付いたらしい。舞台を外に設置したのが裏目に出た」

小鞠「風が強かったのに強行するからああなるんだよ」

両津「誕生日にやらなきゃ意味がないだろ。で、どうだ。また劇をやるのは」

小鞠「あんなことはもう嫌だし……夏海はお芝居で喜ぶって感じじゃないかな」

蛍「そうですね。夏海先輩は玩具とか、楽しめる物のほうが喜びそうです」

両津「ならゲームでいいんじゃないか?」

小鞠「だから、それだといつもと同じじゃん」

両津「面倒だな……」

れんげ「両さーん、にゃんぱすー」

両津「なんだ、れんげも来たのか」

れんげ「コマちゃんとほたるんもいるん?」

小鞠「ちょうどいいや、れんげにも聞こ。ねえ、夏海の誕生日になにあげる?」

れんげ「ウチはオノマトペをあげるのん」

小鞠「えっ?」

蛍「おのま……?」

れんげ「ガッとか、バキッとか、グルーンとか、ドカーンとかなん」

蛍「え~っと?」

両津「擬音のことだ。漫画とかで効果音を文字で書いてあったりするだろ。あれだ」

れんげ「両さんからもらった発泡スチロールでつくったん! ちょうどひとつ持ち歩いてるん!」

【フヒィーン】

れんげ「いつでもどこでも漫画の世界に入ったみたいになるのん!」

小鞠「へ、へぇー。独特だね。フヒィーン? それつかって遊ぶの難易度高そう」

れんげ「喜ぶなっつんの顔が浮かぶのんなー」

小鞠「うーん……」

両津「おい、手を動かせ」

小鞠「ますますわからなくなってきた。何にしよう……」

れんげ「なっつんに聞けばいいん」

蛍「それじゃだめだよ。内緒にしておかないと」

小鞠「う~ん…………ああ、どうしよう」

両津「そういえば、肝心の夏海はどうしたんだ?」

小鞠「今日は出かけるって言ってた。電車に乗るらしいから、町にでもいくんじゃない?」

れんげ「ウチにいいアイデアがありますが」

小鞠「なに?」

れんげ「お出かけするなっつんの後をつけるのん!」

小鞠「えっ」

れんげ「なっつんが欲しそうに見てるものをあげればいいん。我ながら完璧なん」

蛍「でも、後をつけるなんて……」

両津「手っ取り早いな。それでいけ」

両津「ショーウィンドウの服やらバックを眺めてる女にそれをプレゼントすると喜ぶだろ」

小鞠「そんなトレンディドラマみたいなことあるの?」

両津「例えだ。夏海を追跡すれば欲しい物のヒントが得られるかもしれん」

蛍「ここで悩んでるよりもいいかもしれませんよ」

れんげ「コマちゃんいくん! れっつごー!」

小鞠「わ、わかった。両さんも付き合ってよね」

両津「なんでわしが」

小鞠「尾行とかうまそうだし」

両津「なんかひっかかる言い方だ……まあ、ここで雪かきしてるよりかはマシか」ポイッ

両津「ちょっと待ってろ、営業終了の看板を立てておく」

小鞠「急ごう! もうでかけちゃってるかもしれない」

両津「おう」

蛍「両さんが駐在所を離れることにはもう誰もつっこまなくなりましたね……」

小鞠「ああー! バスまってぇ!」

ブロロロロロ

蛍「行っちゃったぁ。次は……五時間後、ですね」

れんげ「はやくしないと電車が出ちゃうのん」

両津「くそ、田舎はこれだから……ん?」

男「……」

両津「おい」

男「ん? なんだいお巡りさん」

両津「その自転車リヤカー、貸してくれ」

男「えっ!」

両津「お前ら乗れ。駅まで突っ走る」

れんげ「おぉー!」

両津「フルスピードでいくからな」

小鞠「ちょ、ちょっと」

両津「出発!!!」

両津「うおおおおおおおおおおおお」

ギャルルルルルルルル

ガタガタガタ

小鞠「ひぃぃぃぃぃ! 落ち、落ちるぅ~!」

れんげ「ウチ、風になってるのん! うおおおぉ」

蛍「れんちゃん! 立ったら危ないよっ!」

両津「到着!!!」

キキィィィィィ

ドテン

小鞠「うえっ」

蛍「センパイッ! だ、大丈夫ですか?」

小鞠「は、鼻打った……」

れんげ「両さんすごいのんなー。バス追い抜いたん」

両津「よし、お前ら降りろ……ん? ホームにいるの夏海じゃないか?」

蛍「あっ、そうですね。これから電車に乗るんでしょうか」

れんげ「おーい! なっつーん!」

小鞠「ちょ、ダメだってっ」

ガバッ

小鞠「ここで見つかったら尾行の意味がないじゃんっ」

れんげ「はっ、そうでした。うっかりしてたん」

蛍「ちょうど電車が来るみたいですよ」

小鞠「よし、見つからないように夏海とは違う車両に乗って……」

両津「車両がひとつしかないぞ」

小鞠「そうだった! どうしよう、次の電車を待つ?」

蛍「でも、一緒の電車に乗らないとどの駅で降りるのか分かりませんよ」

小鞠「あぁ、そっか。もう、なんで車両がひとつだけなのかなぁ」

両津「赤字ローカル線だからな……しかたない。わしが乗るからお前らは次の電車でこい」

両津「連絡用にケータイの電話番号教えろ」

れんげ「ウチ持ってないのん」

小鞠「私も……まだ買ってもらえない」

両津「ならこれ使え。わしのガラケーだ」

小鞠「えっ、いいの?」

両津「わしは何台か持ってるからな。先に行くぞ」

れんげ「いってらっしゃーい」

蛍「でも、あのまま行ったら夏海先輩に見つかっちゃいますよ?」

小鞠「そうだよ。両さんどうするんだろう」

タッタッタッタッタ ヒョイッ

蛍「えっ!?」

小鞠「電車にはりついた!?」

れんげ「おぉー! 両さん忍者なん! にんにん!」

蛍「あ、相変わらず無茶苦茶ですね」

小鞠「なんかゴキブリみたい……」

~電車内~

夏海「ふんふふーん。金も溜まったし、やっと買えるなぁ~」

夏海「あっ、そうだ。帰りにレンタルビデオ屋よってこう」

夏海「両さんに教えてもらった『ジョニーは戦場へ行った』とかいうコメディ映画借りよっと。ハハ~」

~電車外~

ズルッ

両津「うおっ、あぶねっ!」

ガシッ

両津「ふぅ。落ちたらさすがにやばいぞ」

ガタンゴトン ガタンゴトン

両津「ちんちん電車のタダ乗りとは比較にならんスリルだなっ。スパイ映画みたいだ」

~数十分後~

両津「ん? 夏海が降りたみたいだな。よし」

ササササッ

駅員「うわっ!?」

両津「やばい! 見つかったか!」

駅員「あ、あんた、そこでなにをしているんだ!」

両津「慌てるな。わしは警官だ」

駅員「うそつけ! 警官が電車にタダ乗りするわけがない!」

両津「うそじゃない! ほら、警察手帳も……あれ?」

両津(しまった。駐在所に忘れてきた)

駅員「いいから、付いてきなさい。警察を呼ぶから」

両津「くそっ。面倒事はごめんだ!」

ダッ

駅員「あっ! こら逃げるな!」

両津「まさか本当に警官を呼ばれるとは……!」

警官A「待てー!」

両津「誤解だ! 怪しいものではない! 駐在所勤務の警官だと言っているだろうが!」

警官A「嘘をつけ! 偽の制服まで着て怪しいやつだ! 大人しくしなさい!」

両津「わしは何もしとらんぞ!」

警官A「不正乗車しただろう!」

両津「切符は買ったんだって! ほら! 改札を通さなかっただけだ!」

警官A「話は署で聞かせてもらう!」

両津「悪人と決めてかかってるな……! くらえっ、まきびし!」

バラッ

警官A「うわっ! くそ、なんだっ」

両津「さらばだ明智君!」

れんげ「ほたるん! 今っ!」

蛍「え、えっと、は、波紋カッタ~!」

【フヒィーン】

れんげ「押しが弱いのん! もっと、こう! フヒィーンってやるのんな!」

蛍「ご、ごめん。だけどれんちゃん、電車の中だから静かにしないと……」

ブブブブブブ

小鞠「あっ、メールがきた。え~っと……」

『○○駅で降りた。警官に追われている。後で合流しよう』

小鞠「なんで!?」

蛍「どうしたんですか?」

小鞠「両さん、警官に追われてるって……」

蛍「…………えっ」

れんげ「両さんドロケイやってるん?」

両津「どんどん警官が増えていくぞ……どれだけ人員を割いてるんだ……!?」

警官A「待てー!」

警官B「なんて身軽なやつだ……!」

警官C「屋根伝いに逃げてるぞ! 網を持って来い!」

両津「ハンターかよ! くそっ、街に迷い込んだ猿の気持ちがわかる……!」

ドダダダダダ

夏海「ん? なんだろう。やけに騒がしいけど……」

夏海「まあいいや。お腹減ったし昼ごはん食べよー」

~数十分後~

夏海「やっぱハンバーガーはうまいなぁ。ひか姉は都会じゃ毎日食べてるとか言ってたけど」

夏海「ほたるんも東京で毎日食べてたのかなー。羨ましい」

警官B「くそっ、どこへ行った?」

警官C「あっちを探そう!」

タッタッタッタ

夏海「わっ、まただ。何があったんだろう……気になるけど、無闇に首を突っ込まんほうがいいか」

夏海「おっ、ゲーセン。せっかくだしちょっとやってこうかな」

~ゲーセン~

両津「くそっ。地方の警官はしつこいな……普段刺激が無い反動でハイになってんのか? 走り通しで熱い……上着を脱ごう」

バサッ

両津「小鞠たちは……あと少しで着くか……。合流しようにも警官が邪魔で身動きがとれん」

両津「……ん? あれ、夏海か?」

ササッ

夏海「~♪」

ドコドコドコドコ  50コンボだドン!

両津「完全に見失ったと思ったが、運よく発見できたな。とりあえずメールでゲーセンにいることを伝えて……」

警官D「あんた、そこで何をしているんだ?」

両津「げっ」

警官D「もしかして、凶悪偽警官……!?」

両津「誇張しすぎだろ……! わしは何もしとらん!」

警官D「怪しい……!」

警官D「大人しくしなさい!」

両津「だから、本物の警察官だと言ってるだろうが!」

警官D「こら暴れるな! ……!? そのホルスターの拳銃は……本物か!?」

両津「これか? 本物に決まってるだろ」

警官D「こっちへ渡しなさい!」

両津「……」

ダッ

警官D「あっ! 逃げるな! 本部! ゲームセンターにて偽警官を発見! 拳銃を所持ている模様!」

警官D「待てー!」

~ゲーセン~

小鞠「ついたけど……両さんどこにいるんだろう」

蛍「見当たりませんね」

れんげ「いたのん!」

小鞠「どこ?」

れんげ「なっつん!」

小鞠「えっ、か、隠れよう!」

蛍「えっと、えっと」

れんげ「ここに隠れるん!」

ササッ


夏海「ん? 今ねーちゃんとれんちょんの声が聞こえたような……気のせいか」

小鞠「ふぅ……見つからなかったみたい」

れんげ「これもゲームなん?」

蛍「ダークエスケープ、だって」

小鞠「夏海があのゲームを終わらせるまでここに隠れてよう」

れんげ「ウチ、これやりたいのん!」

蛍「じゃあやろっか。先輩もやりますか?」

小鞠「わたしはいいよ。真ん中のとこに座ってる」

れんげ「うち頑張るのんなー!」

蛍「100円を入れて……」

小鞠「ところで、これどういうゲームなの?」

小鞠「ぎゃあああああああああああああああ」

れんげ「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお」

蛍「きゃ~(コマ先輩が抱き付いてくる~)」

小鞠「ゾンビが! ゾンビがきたうあああああああああああああ撃って撃って撃ってえええええええええ」

バリーン 

れんげ「くるーーーん!!!! ぬおおおおおお!!!!!」

小鞠「なんか風が!!!! 風がきたんだけど!!!! ぎゃああああああああ揺れる! 揺れ!」

蛍「ひゃ~」

小鞠「死ぬかと思った……」

れんげ「楽しかったのんなー!」

蛍「私も楽しかったぁ~」

小鞠「……あれ、夏海いないし」

蛍「ゲームやってる間に行っちゃったみたいですね」

れんげ「どうするん?」

小鞠「どうするったって……あ、両さんからメールきてる」

『駅近くの路地裏にいる』

蛍「警官に追われていたことは解決したんでしょうか……?」

小鞠「どうだか。指定された場所からして真っ最中っぽいんだけど」

~路地裏~

小鞠「あれ、誰もいない。ここのはずなんだけど」

蛍「両さんはまだ来てないんですかね」

れんげ「両さーん!」

パカッ

両津「きたか」

小鞠「わーっ! 驚かさないでよ!」

蛍「ゴミ箱に隠れてたんですね……」

両津「町中の警官に追われているからな。なりふり構ってられん」

れんげ「ドラマみたいなん」

小鞠「どうしてそんなことになってんのさ」

両津「成り行きだ。電車にしがみついてたのがまずかったらしい。東南アジアでは普通なのにな」

小鞠「ここ東南アジアじゃないし……」

両津「しかしまいったな。夏海のプレゼントどころじゃないぞ」

小鞠「見ればわかるよ……」

蛍「今日は諦めて帰りますか?」

両津「それも癪だな。わざわざここまで来たんだ」

小鞠「だけど、警官に追われてちゃ夏海の後をつけるなんて無理でしょ」

小鞠「そもそも、夏海を見失っちゃったし」

両津「うーむ……。ん? 蛍、そのスーツケース持ってきたのか?」

蛍「あっ、はい。両さんが駐在所を閉めてしまったので、外に置いておくのもどうかなぁと思って」

両津「……よし。いいアイデアがあるぞ」

蛍「え?」

犬(両津)「これで完璧だろ」

れんげ「わんこ! 両さん、わんこなんなー! お手!」

犬「やるか!」

小鞠「ほんとによくできてるよね。本物にしか見えないもん」

犬「同僚のペットに変装するためにつくったやつだからな。素人には見抜けん」

蛍「ペットに変装……?」

犬「ほら、夏海を探しに行くぞ」

蛍「あっでも、ペットをリード無しで散歩させると怒られちゃいますよ」

小鞠「そうなの?」

蛍「はい。街中だと流石に……」

れんげ「首輪をつけるん」

犬「おい」

小鞠「首輪とリード買ってきたよ~」

犬「本気でやるのか……」

れんげ「ウチ! ウチがリード持つのん!」

蛍「はい」

れんげ「おぉ! ウチ、トレーナーなん! 両さん、お手!」

犬「やらんと言ってるだろうが」

小鞠「じゃ、行こうか」

蛍「はい」

犬「おう」

小鞠「両さん犬でしょ」

れんげ「わんこは『わんわん』言うん」

犬「……わん」

犬(女子小学生に首輪で繋がれるとは、冷静に考えるととんでもなく変態的だぞ。妙な背徳感がある……)

れんげ「いーぬーのーおまわりさん♪」

小鞠「なんか視線が集まってるような」

蛍「おっきな犬ですからね」

犬「羞恥心が凄い……」

小鞠「喋っちゃだめっ」

蛍「夏海先輩、見つかりませんね」

小鞠「うん……見当無く歩き回ってても駄目かな」

犬「ばう。ばう」

れんげ「? 両さんが何か言いたそうなん」

小鞠「なに?」

犬「………」ピピピピピ

蛍「器用にメール打ってますよ」

『さっきゲーム屋を見た。そこに行ったんじゃないか?』

れんげ「なっつんゲーム好きなんなー」

小鞠「どうでもいいけど凄いシュール」

~ゲーム屋前~

蛍「あっ、夏海先輩いますよっ」

小鞠「ほんとだ。結局ゲームか……」

れんげ「突入するん!」

蛍「れんちゃん待って」

小鞠「見つからないようにしないと」

犬「ばう」

蛍「犬はお店に入れませんよ」

れんげ「しかたないのん。ここに繋いでおくん」

小鞠「おーよしよし。大人しく待ってるんだよー」

ナデナデ

犬「ガルルルルル」

小鞠「ひっ。じょ、冗談だよ」

蛍「怒ってるみたいですね」

~ゲーム屋~

蛍「店員と話してますね」

小鞠「棚の影に隠れよう」


夏海「すいませんっ! あそこのケースに入ってたやつは……」

店員「ああ、あれね。売れちゃったよ」

夏海「えええぇぇぇえぇ!?」

店員「悪いね」

夏海「そんな……」


小鞠「……なんか欲しかったのかな」

れんげ「なっつん落ち込んでるん」

夏海「はぁ……せっかく金溜めたのに……あーあ……なんか一気にやる気なくした」

犬「……」

夏海「うおっ! なにこのデッカイ犬!」

犬「……」

夏海「……? あっれー、なんか見覚えあるような」

犬(やばいっ。夏海は劇でこの姿を見てたか……!)

夏海「……どこで見たんだっけ、テレビ? でかいなー。お手」

犬「……」

夏海「ほれ、お手」

犬「……」パシッ

夏海「払われた!? なにこの犬、超生意気じゃん」

夏海「ほれ、お手だって。お手ー」

犬(しつこいな……あっちいけ)

シッシ 

夏海「わん公のくせに夏海ちゃんにそういう態度とるんだ。ふーん」

夏海「意地でもお手をさせたくなってきたなー」


小鞠「あわわっ。夏海が両さんに絡んでるよっ」

蛍「だ、大丈夫でしょうか。バレちゃうんじゃ……」

れんげ「なっつんわんわん好きなん?」

夏海「お手」

犬「……」

夏海「お手」

犬「……」

夏海「お……手ぇ……!」グイグイ

犬「……!」

ググググググ

夏海「お手!」

犬「っ!」

ガシッ

犬「いい加減にしろ!」

夏海「」

夏海「えっ」

犬(しまった)

夏海「ええええええええええええええ!?!?!?!?」

犬「……わんわん」

夏海「いやいやいや! 今しゃべったよね!? うっそ! 犬ってしゃべれんの!?」

犬「わん?」

夏海「とぼけんなって! しゃべったじゃん!」

犬「わん?」

夏海「しゃべってみ! ほら!」グイグイ

犬「……ばう」

夏海「しゃべりなって! ほれ! さっきみたいに!」グイグイ

犬「……」

夏海「おーい!」

夏海「わん公~」

警官A「ちょっと君。何を騒いでるんだい?」

犬(やべ、よりによって警官が……!)

夏海「あーいや、この犬がしゃべったもんで」

警官A「犬が……?」

夏海「ホントなんですよ。なー、わん公」

犬「……ばう」

警官A「はっはっは。そんなわけないじゃないか。君の犬かい?」

夏海「いや違いますけど……さっき喋ったんだけどなぁ」

警官A「……ん? 犬の背中に何かついてるな」

夏海「え? あ、ほんとだ。なんだろう。金属?」

犬(ファスナーだ!!!)

犬「ばうっ」フルフル

夏海「なに、どうしたの。急に背中を庇いだしたけど」

警官A「針でも刺さっているのかな?」

夏海「とってやるから、こっちおいで」

犬「ばう!」

ガバッ

夏海「わっ! 立ち上がった!」

犬「ばうばう!」

ダッ

警官A「な、なんだ!?」

夏海「あ、ちょっと!」


小鞠「走ってっちゃったよ!」

れんげ「運動選手みたいなん」

蛍「完全に人間の動きですよ、あれ……」

夏海「なんだったんだろう、あの犬……」

警官A「……さあ。ああ、それよりも、君。ここらで警察官を見なかったかい?」

夏海「警察官? えっと」

警官A「ああ、僕じゃなくてね。怪しい風貌の警察官を見てないかな」

夏海「いえ、見てませんけど。何かあったんですか?」

警官A「いや……見てないならいいんだ。それじゃあ」

夏海「はぁ、どうも。……なんだろう。さっきから騒がしいのと関係あんのかな」

夏海「まあいいや。目当ての物買えなかったし、もう帰ろう」

夏海「……あ、そうだ。レンタルビデオ店に寄ろうと思ってたんだ。せめてそっちだけでも達成せんと」

蛍「駅とは反対方向に歩いていきましたね」

小鞠「他の用事があるのかな。追いかけようっ」

れんげ「両さんどうるすん」

小鞠「どうするって……どっか行っちゃったし」

ブブブブブブ

小鞠「と、噂をすれば……」

『駅前のコンビニにいる』

小鞠「コンビニ? 犬の格好で?」

蛍「着ぐるみを脱いだんでしょうか」

れんげ「とにかく行くのん!」

~コンビニ前~

犬「きたか」

小鞠「なにその格好!?」

犬「ゴミ捨て場にあったコートと帽子だ。辛うじて毛深い人間に見えるだろ」

れんげ「ウチ、知ってるん! 名探偵ホームズなん! わんこが服着てるのん!」

蛍「どうしてわざわざ犬の格好に重ねて変装してるんですか……?」

小鞠「変装道具を手に入れたならその着ぐるみ脱げばいいのに」

犬「わしもそうしようと思ったんだが、背中に手が届かなくて脱げないんだよ」

犬「着ぐるみを脱ぎたいから、人気の無い所へ行こう。変装しなおして夏海探索の再会だ」

~路地裏~

犬「よし、背中のファスナーを下ろしてくれ」

小鞠「うん」

グググググググ

小鞠「と、届かないっ。ちょっと、犬なんだから立ってないで四つん這いになってよ」

蛍「あの、私がおろしますよ」

犬「ああ、たのむ」

蛍「……あれ?」

犬「なんだ?」

蛍「えっと、えいっ。ふんっ」

れんげ「ほたるんどうしたん?」

蛍「す、すごく、かたくて……全然下りません」

犬「なに!?」

小鞠「錆びてるのかな」

犬「……その可能性はある」

れんげ「どうするん? 両さんずっとわんこのままなん?」

犬「冗談じゃないぞ。おい、潤滑油買ってこい」

小鞠「どこで?」

犬「……このさいサラダ油でもいい。滑りをよくして一気に下げてくれ」

~数分後~

ピシャシャシャシャシャ

犬「くそ、屈辱だ……」

蛍「これで滑りは良くなったはずですけど……」

小鞠「ふんっ……! だーめだ、全然動かない」

蛍「……よく見ると、生地を噛んじゃってるみたいですね」

犬「おい! 油をかぶった意味がないじゃないか!」

蛍「す、すいませんっ」

れんげ「両さん、野良犬みたいになってるん」

犬「みすぼらし姿になってしまった……」

小鞠「しょうがないよ。とにかく、夏海を探そう」

蛍「あっちの方へ行きましたよね」

犬「わしはこのままか!?」

~レンタルビデオ店~

夏海「えーっと、あったあった。『ジョニーは戦場へ行った』」

夏海「本当に面白いのかな、これ……姉ちゃんも誘って一緒に観てみよ」

店員「次の方どうぞー」

夏海「ラッキー、ちょうどレジが空いた」

ドンッ

男「……」

夏海「わっ」

男「……」ギロッ

夏海「ってー……横入りぃ? めっちゃ睨まれたし……はぁー、今日は厄日かな」

男「……」

店員「? あの、お客様?」

男「金を出せ!」ギラリ

店員「ひぃ!」

客「うわっ!」

夏海「え? なに?」

男「騒ぐなぁ! おい、てめえはやく金を出せ!」

夏海「えぇぇぇぇぇ!」

犬「くそ……油でギトギトする……」

れんげ「両さん、しゃべっちゃだめなん」

犬「……ばう」

小鞠「たしかこっちのほうへ歩いてったよね」

蛍「はい。……あ、この先にレンタルビデオ店がありますね」

小鞠「ああ、きっとそこだ。私たちよくここの店使うんだ」

犬「レンタルビデオ店へいくためにわざわざこんな遠出するなんて面倒だわん」

蛍「もう普通に喋っちゃってるじゃないですか……」

れんげ「? パトカーがとまってるん」

犬「なに!? まさかわしを探して……!?」

小鞠「違うみたいだけど……」

蛍「なにかあったんでしょうか」

~店内~

強盗「くそっ! なんで今日はこんなに警官がいるんだよ!」

刑事『犯人に告ぐ! 人質を解放して、投降しなさい! 君は完全に包囲されている!』

強盗「うっせー! いいから金持って来い! 逃走用の車もだ! じゃねえとこいつらぶっ殺すぞ!」

客「ひぃぃ……」

店員「そ、そんな……」

夏海「なんでこんなことに……兄ちゃん……姉ちゃん……母ちゃん……うぅぅぅ」

~レンタルビデオ店・駐車場~

刑事「ちょっと、君たち危ない! 近寄っちゃ駄目だ!」

蛍「あの、な、何があったんですか!?」

刑事「強盗だ。人質をとって立て籠もっている」

蛍「そ、そんな……!」

小鞠「夏海!? 夏海が! 夏海ぃ!」

れんげ「なっつーん!」

刑事「近寄ったらだめだって! 後ろに下がってなさい!」

犬「夏海……!」

ガバッ

刑事「おわ! なんだこの犬!? 急に立ち上がって……」

犬「おい! あの店に裏口はないのか!?」

刑事「犬がしゃべった!?」

犬「いいから答えろ!」

刑事「あ、ある。いま突入の機会をうかがっているところだ……」

犬「よしっ」

ダッ

小鞠「あ、両さん!」

蛍「どこへ!?」

犬「決まってるだろ。夏海を助ける! お前らはここで待ってろ!」

れんげ「両さん……!」

小鞠「な、夏海を……夏海を……!」

犬「心配すんな。こういうのには慣れてるからな」

刑事「あ、おい! そこの犬! 待ちなさい!」

犬「このまま要求に従っても逃げられるだけだ!」

刑事「なんで犬がしゃべってんだ!? どういうことだ!」

犬(人質のメンツを見る限り、逃げる時の盾として夏海が選ばれる確率が高い……速攻で片づけてやる)

犬「よし、あそこが裏口か……」

機動隊員「……? 犬?」

犬「わんわん」

機動隊員「ここは危ないぞ。しっし」

犬「わん!」

バッ

機動隊員「うおっ」

刑事「その犬を止めろ!」

犬「ばうばう!」

機動隊員「あ、犬が! こら!」

スッ

機動隊員「裏口から入ってっちゃったぞ!」

刑事「くそっ、遅かったか……」

~店内~

強盗「ッチ……はやくしやがれってんだ……」

夏海「……」ガクガク


犬(……武器は……ナイフか)

犬(下手に飛び出すのはまずい。何かで気を引いて……)

ゴソゴソ

犬(……ん、2B弾か……使えるな)

犬(あ、着ぐるみの中から出せんぞっ。……そうか、口は開くんだった)

カパッ

ポイッ

犬(よし、こいつに火をつけて……)

犬「…………」

チッ チッ

犬(くそ、この手だとライターが扱いづらいな……火をつけてから外に出せばよかった)イライラ

犬「……」

犬(……この! この!)

チッ チッ

犬「……ふんっ」

シュボッ

犬「よし、ついたっ」

ボワッ!

犬「ぬお!!!! 着ぐるみに火が移った!!!!!!」

犬「うおおおおおおおおおお熱いぃいいいいいいいいいいいいいいいい」

バッ

強盗「な、なんだ!?」

客「ひぇ!」

店員「ぎゃあああああああバスカヴィル家の犬だあああああああああああああ」

夏海「え!? なに!? うわっ、さっきのわん公!」

犬「あっちぃぃぃ!!!! くっそ! こうなりゃヤケだ!!! こいつ!!! 道連れにしてやる!!!!」

強盗「うわあ!!!! く、くるなあぁ!!!!」

犬「逃がすかこの!!!! 一緒に火だるまになれ!!!!!」

ダッ

強盗「うぎゃああああああああ」

ゴロゴロ

刑事「うわっ!? なんだ!?」

犬「バーニングタックル!!!!!!」

ドガッ

強盗「あついいぃぃぃぎゃあああああ焼け死ぬうううううううううううううううう」

刑事「しょ、消火器!」

小鞠「両さん!?」

れんげ「燃えてるーん!」

蛍「あわわわ」

犬「確保!!! あっちー!!! おいはやく消せ!」

ブシャアアアアアア

両津「ふぅ……死ぬかと思った」

警官「あっ! 偽警官!」

刑事「なに!?」

両津「やべ! 着ぐるみが焼け落ちたか!」

刑事「ふたりとも確保だー!」

両津「なんでわしまでー!!!!!」

~警察署~

中川「先輩っ」

両津「おお、中川きたか」

刑事「本当にこのひと警官なの?」

中川「えっ、あ、はい。一応は……」

両津「一応とはなんだ! 正真正銘の警察官だぞ」

刑事「まさか、あの有名な両津勘吉とはな……噂は本当だったのか」

中川「何をしたんですか?」

両津「強盗と一緒に火だるまになっただけだ」

中川「もう……」

中川「まさか転勤先でも立て続けに騒ぎを起こすとは思いませんでしたよ……」

両津「がっはっは。悪かった悪かった、身元を保証させるにはお前が一番だと思ってな」

中川「まったく……じゃあ、僕は帰りますよ。部長にも報告しなければなりませんから」

両津「ああ、ちょっと待て。せっかくここまで来たんだから、頼みたいことがあるんだ」

グイッ

中川「まさか、そっちが狙いなんじゃ」

両津「はは、まあな」

中川「嫌な予感がする……」

両津「まあ聞け。実はな、知り合いの誕生日プレゼントに――」

~1月24日・越谷家~

「「「誕生日おめでと~」」」

夏海「いやぁ~、どうもどうも」

れんげ「なっつん! ウチからの誕生日プレゼントなん!」

夏海「おー! さんきゅー!」

【フヒィーン】

夏海「なにこれ」

れんげ「オノマトペなん!」

夏海「へ、へぇー、ありがとう! すっげー欲しかったんだよねー! うん」

れんげ「むふっ! やはりウチの選択は間違いではなかったのん!」

蛍「夏海先輩、わたしからはマフラーのプレゼントです」

夏海「おっ、ありがとー! はー、器用だなぁ。さすがほたるん」

蛍「えへへ」

小鞠「私からはこれ」

夏海「おっ、姉ちゃんからかー。なんだろうなー。センス微妙だからなー」

夏海「!? こ、これ!!!! 夕闇通り探検隊じゃん!」

小鞠「っそ。この前の騒動があったとき、アンタがゲーム屋で買おうとしてたやつでしょ?」

夏海「すっげー! これなかなか手に入らないんだよ!? 姉ちゃんどうやってゲットしたのさー!」

小鞠「それはまあ」

両津「わしの知り合いから買ったんだ。布教用でいくつか持ってるやつがいたからな」

夏海「両さんの入れ知恵かー、やっぱりね」

小鞠「やっぱりってなんだよ。私が頑張って選んだんだからねっ」

夏海「うん、姉ちゃんありがとう。めっちゃ嬉しい」

小鞠「お、おぉ……うん。なら良かった」

両津「なんだ小鞠、照れてんのか?」

れんげ「コマちゃん真っ赤なん」

小鞠「そ、そんなことないよ!」

夏海「なーに、こまちゃん照れちゃってんのー? お子ちゃまだな~」

ツンツン

小鞠「こまちゃんいうな! つっつくな! 自分だってあの時泣いてたくせに!」

夏海「な、泣いてないよ!」

両津「泣いてたぞ。夏海とは思えんほど可憐に怯えていたな」

夏海「あー! 言うなよー!」

両津「はっはっは」

蛍「無理有りませんよ。強盗なんて」

れんげ「両さんかっこよかったのんなー」

小鞠「最後連行されなければね」

両津「それは言うな……」

卓「……」

小鞠「? お兄ちゃんどうしたの?」

卓「……」バッ

蛍「ギターですか?」

夏海「演奏してくれんの?」

卓「……」コクン

小鞠「へぇー。曲のプレゼントかぁ。粋だね」

夏海「おー、やんややんや!」

卓「……」

ジャ

両津「待て、その前にわしからのプレゼントを披露する」

夏海「えっ、両さんもなんかくれんの!?」

両津「まあな」

卓「……」

スッ

両津「これだ」

ピラッ

夏海「え、なにこれ。チラシ?」

【中川レンタル 1月24日オープン】

小鞠「中川レンタル……?」

蛍「なんですか? これ」

両津「レンタルビデオ店がこの村で開店する。わし(正確には中川)からのプレゼントだ」

両津「DVD借りるのにわざわざ何駅も先まで行くのは不憫だからな」

夏海「うっそ!? ウチのために!?」

両津「ああ」

小鞠「い、いくらなんでもやり過ぎなんじゃ……!」

れんげ「これでウチらも都会っ子なん!?」

蛍「さすがにレンタルビデオ店だけじゃ都会とは言えないかな……」

~中川レンタル~

中川「……中川エクスクルーシヴの社長、中川圭一です」

両津「よっ! 日本一!」

中川「今回は、半ば強制的にレンタルビデオ事業へ着手することとなり……一号店をこのような素晴らしい場所に――」

楓「開店セレモニーなのに全然人いないぞ」

両津「まあな」

小鞠「本当にお店を出しちゃうなんて……」

蛍「相変わらずやることが派手ですね」

両津「わしの後輩は心が広い! 夏海の誕生日プレゼントのために、赤字上等で一肌脱いでくれた! お前ら、ちゃんとお礼を言うんだぞ」

夏海「ありがとーございます!」

小鞠「今回は、その、妹の誕生日プレゼントに、ありがとうございます!」

れんげ「お礼にこれあげるん」

【グッパオン】

中川「ああ、うん。どうもありがとう……ハハハ」

司会「それでは、オープンです!」

夏海「わーい!」

れんげ「ウチ、ドラえもん借りるん!」

一穂「はーい。旧作だけだよー」

小鞠「せっかくだから何か観ようかな」

蛍「あ、センパイ、おすすめの映画がありますよ」

ワイワイ

中川「先輩、この村にDVDレンタルを利用するような客層は……」

両津「ほぼいないだろうな。そもそも人口が少ない。まあ、頑張れよ」

中川「やはり……」

両津「わしも協力してやるよ。早速だが、ちょっとアダルティなDVDを選別してくる。じゃ」

中川「…………子供たちが喜んでいるのがせめてもの救いか……」

―――数日で経営難に陥った中川レンタル一号店は、翌月には閉店した。

~完~

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月22日 (水) 01:23:54   ID: KL_WaGCf

面白かった!

次回作希望!

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom