小鳥「あははは!あはははは!独身サイコー!」(308)

深夜二時

小鳥「独りって素晴らしい!自由!すべてが自由よ!」


翌朝

小鳥「ううう、頭痛いよぅ」

小鳥「起きたくないよぅ」

小鳥「……休んじゃおっかなあ……」

小鳥「……」グー

小鳥「ああ……こんな時、朝御飯作ってくれて、優しく起こしてくれる旦那様がいたら……」

小鳥「……うう、ううう」

小鳥「うええ、ううう」

P「ふはははは!!最高の独身生活を送るお前に地獄を味わわせてやる!!!くらえっ!!」

小鳥「これは…婚姻届!!」

事務おばさん「孕みてぇ……」

我那覇くん「30代で羊水が腐るらしいぞ」

事務おばさん「やべえもう時間がねえ……」

オカマ「ボクはどうすればいいの」

事務おばさん「あ?タイでもモロッコでも行けや……」

ゆとり「なんか機嫌悪いのー」

事務おばさん「うっせぇなぁ……おめーらガキは黙っとけや。大人の話だ」

まな板「そんな言い方ないでしょう。みんな心配して……」

事務おばさん「お前は真より男らしい身体してるよな」

しけたばかうけ「ちょっといい加減にしなさいよ」

お客さん、こういうところ初めて?
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P「心配しなくても大丈夫ですよ音無さん」

小鳥「えっ。もしかしていい相手でも紹介してくれるんですか?」

P「……もし、よければなんですけどね」

小鳥「はい」

P「俺なんてどうですか///」

小鳥「ピヨオオオオオオオオオオ!!」

こうして二人は結婚することが決まった。


Pと小鳥の突然の結婚に事務所の一同は驚愕した。

アイドルたちに密かに好意を寄せられてることに
気づかない鈍感なPは、みんな暖かく祝福してくれるもの
だとばかり思っていた。

とんでもない間違いだった。

「あの……美希ちゃんとか驚いてるみたいですけど、
 本当に私でよかったんですか?」

「何言ってるんですか。俺には小鳥さん以外の人は
 考えられません。実は入社してからずっと気になってました」

くったくない笑顔でそう言うP。

小鳥は新しい結婚生活が不安だった。


事務員として全員の給料計算はきっちり行ってる。

最も成績を伸ばしてるのは美希だった。

今まで才能を持て余していた美希は、
いよいよアイドルとしての自覚が芽生えたのか、
本気を出すことに決めた。

長かった髪を切り、歌やダンスの
レッスンもまじめに取り組むようになる。

手を抜かず、真面目に取り組むだけ。
それだけなのにあっという間にほかのアイドルたちを
追い抜いて一位になってしまった。

トップアイドルまであともう少しと言ったところだった。

「私たち、幸せになれるんですよね?」

結婚式当日、不安そうにそういう小鳥に対し、
Pは優しそうに微笑むのだった。

小鳥との結婚生活は思ってたよりも普通だった。

小鳥は家でもPCをいじることが多く、どちからと
いうと内向的な趣味を持ってる女性だった。

他のアイドルに遠慮してるためか、
あまり外出したがらなかった。

Pはなぜそんなことを気にする必要があるのかと
訊くが、小鳥ははっきりと教えてくれなかった。

今のPとの関係を崩したくないのだ。
みんなから嫉妬されてることはとっくに知ってる。
気づいてないのは鈍感なPだけ。

二人が結婚すると告げた時、美希がどれだけ
多くの涙を流したこか覚えてないのだ。

いや、むしろ忘れたかったのかもしれない。


変化はすぐに起きた。

事務所で一番の稼ぎ頭だった美希が、
家に引きこもりがちになったのだ。

「えっ。美希は今日も休みなのか?」

「はい。Pさんと会いたくないって。
 Pさんのこと裏切り者とか言ってましたよ?」

「はぁ。ほんとあいつは子供だな。
 覚醒してからようやく大人になったと思ってたのに。
 なあ小鳥。どうすればいいと思う?」

Pは椅子にもたれかかってかったるそうな顔をした。

職場で小鳥と話すときはできるだけいつも通りを
心がけていたが、それでも二人の仲睦まじそうな様子は
他の人に知られてしまう。

遠目に小鳥とPの会話を眺めていた雪歩は、
かつてのようにお茶を用意することはなくなった。


春香は転ぶ回数が減った。

いつもだったらPの斜め前くらいの角度で
よくつまづき、めくれあがったスカートの中身を
披露してくれるのだが。

「くそ。携帯に連絡しても出ないぞ。困ったな」

「美希ちゃんにも心の整理の時間が必要なんですよきっと」

小鳥は美希の心境をよく理解していて、
今はそっとしておきたかった。

「そんなわけにはいきませんよ。
 俺がどれだけ苦労して営業活動したと思ってるんですか。
 来週にはライブだって控えてるってのに」

いきりたったPは、ついに美希の自宅にまで連絡を入れようとした。
社会人としては正しい行為だろうが、乙女心を
全く理解してないという点では愚かだった。

この鈍感男の愚行を見てられなかった春香がついに口をはさむ。


「プロデューサーさんには女心が分からないんですね」

Pはぎょっとした。

春香に非難するような口調で言われてしまい、言葉を失う。
何か自分に落ち度があったのかと悩み始めた。

「どうして美希が休んでるか本当に分からないんですか?」

雪歩がやめなよと春香となだめようとするが、
勢いは止まらない。春香だってPに恋心を寄せていた
乙女の一人。

Pの愚かさが許せなかったのだ。

「急になんで怒ってるんだ春香? 
 まさか美希が俺のこと好きだった
 とか言いたいんじゃないだろうな?」

「気づかなかったんですか?
 あれだけハニーハニーって呼ばれてたのに」


「ははっ。あれは冗談だったんだろ?
 まさか俺と小鳥さんの結婚について落ち込むほど……」

「冗談なわけないじゃないですか!!」

春香の怒声が響く。

「美希は本気でプロデューサーさんのことが好きだったんですよ?
 トップアイドルを目指して本気で頑張ったのだって、
 本当にあなたに認めてもらいたかったからなんです」

「も、もうよしなよぉ春香ちゃん。喧嘩は良くないよぉ」

場の空気をなんとかしようとする雪歩だが、
激昂してる春香特急はまだ止まらない。

「バカです。プロデューサーさんは大バカです!!」

「なっ。そこまで言われるのは心外だな。
 ……ううむ。だが良く考えてみると
 俺に褒められるたびに成績が上がってたもんなあいつ」


Pは考える人の姿勢を取り、
過去の出来事を振り返ることにした。

椅子の上で考える人である。

それほど彼は思い悩んでいたのだ。

「美貴君が辞めるようなことがあれば首だよ君」

後ろを通りかかった社長がさりげなくそう言い、
Pの顔がガリガリ君のように真っ青になる。

「しゃ、社長……そんな殺生な……」

「春香君の言うとおり君は女心が分かってないようだ。
 美希君だけでなく、他のアイドル諸君らからどう思われたか
 知らんのだろう。なあ雪歩君。彼をどう思う?」

いきなり話を振られ、少し戸惑った雪歩だが、

「んー。そうですねぇ。
 穴掘って埋まった方がいいんじゃないでしょうか?」


ついに雪歩からも非難され、がっくりとうなだれるP。

穴掘って埋まってろとは分かりにくい表現だが、
ようはよく反省しろと言われてるのだろうと理解した。

「ううむ。雪歩からもそう言われては返す言葉もないよ。
 さあ困ったぞ。俺はなんとかして美希を復活させな
 ければならん」

「どうするんですかプロデューサーさん。
 明日も明後日もスケジュールが
 お正月の福袋みたいにいっぱい詰まってますよ」

旦那が早くも離職しそうな事態に小鳥もあわてる。

軽いジョークを入れたのは旦那を想うゆえの行動だ。

結婚してくれると言ってくれた時から何かしらの
トラブルにはなるだろうと予想してたが、
いざ起きてみると、どうしたらいいか分からない。

つまることろ小鳥の悩みの種はPが無自覚の女たらし
だったということだ。

小鳥の見積もりでは、彼はほぼ全てのアイドルから
興味を持たれており、妻となった小鳥は大なり小なり嫉妬されてる。

最悪の場合は辞められたり刺されたりすることすら
想定の範囲内。小鳥の知ってるゲームでそういう展開の
シナリオがあったのだ。

「まず俺が直接美希に会わねばならん。スケジュールなんて
 犬にでも食わせておけ。取引先には俺から謝罪しておく。
 ジャンピング土下座でな☆」

「キミィ。本当に大丈夫なんだろうね?
 美希君が辞めるようなことがあれば、
 また貧乏事務所に逆戻りだよ」

社長に念を押されてもPは屈しない。

「大丈夫ですよ社長。俺を誰だと思ってるんですか?
 ここまで美希を成長させたのは俺の力量です。
 これからだってもっと頑張って見せます!!」


根拠はあるのかと言われても答えられなかった。

ただ信じたいだけなのだ。自らの才能と、美希の可能性を。

このPの思わぬ自信家ぶりに社長も驚いてしまい、
これ以上小言を言う気にはなれなかった。

「さっそく美希に会いに行ってきます。
 アポならもう取りましたからご心配なく」

ネクタイをきゅっと絞めてイケメンになった彼は、
まるでできる社会人のような足取りで
事務所を去っていくのだった。

彼の担当アイドルは美希だけではない。

春香や雪歩は今日偶然事務所で待機してたのだが、
一人でPを行かせるのは不安だと思い、こっそり
尾行することにした。

提案したのは春香。雪歩は無理やりつき合わされる
形での動向になった。万が一の事態を考えると、
スコップを持つ手に力が入る。


Pはネクタイを外し、ワイシャツのボタンを外していく。
クールビズだ。

世間はどこでもクールビズ。765プロも同様だった。

本当ならネクタイなしで出社してよかったのだが、
彼なりの信念で夏でもネクタイをする。

なぜなのか?

理由は単純。

小鳥に買ってもらったネクタイだったからだ。

彼にとって楽しみは二つ。

一つは小鳥の手料理。

もう一つは夜の生活///

だった。


彼もまだまだ若い。ずっと憧れていたお姉さんキャラ?
だった小鳥と結婚で来てうかれないわけがない。

結婚してから何もかもうまくいくと信じてただけに、
美希の引きこもりはショックだった。だが、不可能を
可能にしてきた自分ならできないことはないと信じていた。

「ここが美希の家だな」

けっこうな豪邸だった。親が公務員というのは伊達ではない。

公務員というのは現代の特権階級であり
フランス革命時で例えると第一、もしくは第二身分に近い。

Pは断頭台に立たせられたロベスピエールの心境を理解しながら
裏口へ回る。空いてる扉から勝手に侵入し、美希の部屋を目指した。


美希の部屋はすぐ見つかった。

こっそり扉らを開けると騒がしい音楽が耳に入る。
曲はリレーションズであった。

美希はベッドで寝てる。
おそらく音楽を流しっぱなしにして寝てしまったのだろう。

『私のモノにならなくていい ただそばに居るだけでいい』

曲そう歌っていたのでそばに居ることにした。

美希は泣きじゃくった顔で寝てる。
こうしてみると天使みたいだった。

Pは個人的にも髪を切った美希は好きだった。
思わずクールビズを解除し、ネクタイを締めてしまう。

「美希。俺だ。起きてくれ」

そっと声をかけると、夢の中の美希はうぅんと
言いながら寝返りを打った。

昼夜が逆転してるのか、相当眠そうだった。

「お前の気持ちを無視しちまって悪いと思ってる。
 だから今日は謝りに来たんだ。さあ美希。
 おまえのハニーは目の前にいるんだぞ。
 そろそろ起きてくれないか?」

不法侵入者が言う。

「は……ニィ……? そこにいるの?」

「そうだ。おまえのハニーだ。
 おまえが大好きだったらしいハニーだぞ。
 早く現実世界に戻ってくるんだ」

「……んあ?」

「千早の真似か? ははっ。美希も物真似がうまくなったもんだ」

星井美希はついに目を開き、ベッドの横に立ってる人物を
視界にとらえたのだった。会いたくないと思っていた男だった。

彼を見ると、どうしても小鳥の者になってしまったという辛い
現実を思い出してしまうからだ。


そんな彼女の気持ちを知らないのか、
Pはあいまいな笑みを浮かべてる。

本当は大好きなのに会いたくないなんて
こんな気持ちになるの初めてだった。

どうしてここにいるのと美希が訊く。

「美希が心配になって様子を見に来たんだよ。
 最近すっかり会社に来なくなったじゃないか。
 春香や雪歩も美希に会えなくて寂しがってたぞ?」

「……美希はもうお仕事頑張りたくないの」

「あともう少しでトップアイドルになれるのに」

「でも嫌なの。事務所に行きたくない」

どうしてだと訊いてしまえば、自分だけでなく小鳥までも
傷つけてしまうだろうと思ったPは堪える。


美希は宙を見つめてぼーっと顔をしてる。
もし適当なことを言ったら泣かせてしまいそうだった。

だから言葉は慎重に選ばないといけない。

彼女のメンタルの面を管理しなければ、
小鳥との結婚生活すら崩壊してしまう。

平成大不況と言われる昨今で仕事を失うということは、
革命時のフランスにおいて王党派を堂々と宣言するのと
同じくらいの重みをもっていた。

「なあ美希。どうしたらお仕事頑張れる?」

「ハニーが美希のとだけ見てくれれば頑張れるの」

Pは何よりも自分の身に不幸が起きるのを恐れていた。
今彼が守るべきなのは革命の続行などではなく、
小鳥との結婚生活だった。

口にはしてないが、いずれは小鳥との間で
子供を作ろうとすら思っていた。


「俺は皆のことを大切に思ってるんだよ?
 美希のことももちろん大事だ。でも一人だけ
 えこひいきするわけにはいかないだろう?」

「そういう大人の理屈はもうたくさん。
 職場でも小鳥のことばっかり気にしてるし、
 仲良さそうに話してると思うな」

「ぐぬぬ……でも小鳥さんと俺は夫婦なんだから……」

「美希は見てて辛いの。小鳥にデレデレしてるハニーなんて
 見たくないの。くやしいよ」

美希君をどうにかしないと首だよ君。
社長の言葉が脳裏をよぎり、ぞっとする。

悲しげな美希の大きな瞳。歌って踊るだけじゃなく、
グラビアとしても見栄えのする大人のプロポーション。

そういった要素が今は失われていた。
宝石が輝きを失ったのと同じだ。

「ハニー。話はもう終わりなの。
 不法侵入したことは見逃してあげるから早く帰って」

また社長が頭に浮かんだ。全長五メートルくらいに
巨大化した社長が、今まさにハンマーを振り下ろそうとしていた。

振り下ろす先には床に敷き詰められたサファイヤや
オパールやルビーがある。今すぐ彼の暴挙を止めないと
大切な原石が粉々になってしまう。

「待ってくれ美希。まだ話は終わってないぞ」

「嫌なの。もうハニーの顔なんて見たくないの!!」

「美希!! いい加減にしろ!!」

「いやあああ!! はやくでてって!!」

舌たらずな声で物を投げまくる美希。

第一次大戦のフランス軍の砲撃みたいに
雨あられと本やラジオや目覚まし時計(なぜか五種類もあった)
が飛んできてPを退散せせる。


フランス軍の陣地から撤退を余儀なくされ、
憔悴しきった顔で廊下で佇むドイツ兵(Pのこと)

勇敢だった彼の帰りを待っていたのは春香さんだった。

「やっぱりダメだったんですね、プロデューサーさん」

「おう春香か。それに雪歩もいるようだな。
 どうやら俺のアイドルたちは不法侵入に関しても
 プロ並みらしい」

「冗談言ってる場合じゃないですよぉ。
 本当にどうしましょう? 社長に知られたら
 首にされちゃいますよ」

なぜかスコップを手にしてる雪歩が言う。

子犬のような目でPを見ており、最悪の場合は
社長をいないものにしちゃいましょうかと
身の毛もよだつような提案をしてきた。

「それはいけないよ雪歩」

「そ、そうですよね。ごめんなさい……。言ってみただけですぅ」

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3247454.jpg
プロデューサーさん!私ですよ、私!


Pは社長なら穴掘りした方が効果的なんじゃないかと言った。

「穴掘りですか? 事務所ならもう穴だらけですよ?」

雪歩は意味が分からず首をかしげるが、
春香が容赦なくつっこんだ。

「プロデューサーさんはそっち方面にも興味があったんですか?
 すごく……下品ですよ」

「なあに。言って見ただけだ。いつものジョークだよ。
 俺には小鳥さんという大切な人がいるからな……はっ?」

言い終わったところで、春香と雪歩の表情が沈んだのが分かった。
Pはこの時になって初めて自分の鈍感さに気づいた。

この子たちもまた、自分と小鳥の結婚をよく思ってないのだと、
ようやく気づくことができたのだ。あまりにも遅すぎた。

>>89
小鳥と入れ替わった春香にPが間違って告白しちゃうSS思い出したわ


一つ疑問に思った。

小鳥と婚約する前にこの娘たちの気持ちに気づいていたら、
どうなっていたのだろうと。もしかして小鳥以外の女の子と
相思相愛の関係になり、いずれ結婚することになっていただろうか。

それはもしもの話である。

歴史と同じで、過去のことをいくら振り返っても
時計の針は戻せないし、意味のない仮定だ。

「俺はまだ諦めないぞ」

「え」

「雪歩も春香も俺を見くびらないでくれ。
 俺はアイドルのマネジメントも含めて全てが一流なんだ。
 この程度の苦境で諦めてられっかよ」

雪歩がおずおずと口をはさむ。

「でもでも。美希ちゃんすっごく怒ってましたよぉ?
 プロデューサーは小鳥さんと結婚しちゃったし、
 どうやったら関係が修復できるのか見当もつかないですぅ」

――でもまだ終わっちゃいねえってんだよ!!

Pの声が廊下に響いた。


あまりに大きな声を出したので家の人に見つかってしまった。

「まあ、誰ですかあなた達は!!」

美希の母を名乗る女性だった。

妙齢なのに妙に色っぽさがあり、
目元などがまさしく美希の母なのだと訴えてる。

「ども、僕は美希さんのプロデューサーです。
 こっちは僕の担当アイドルの天海春香と萩原雪歩で……」

Pは淡々と状況説明をし、美希の今後の
活動について相談することにした。

美希母は、娘がこのメガネ男に好意を抱いてることをよく
知っていた。Pの人柄を十分に観察しながら話を訊く。

「美希が復活しなければ首になるですって?」

「そうなんです。進退きわまるとはこのことです。
 どうかお母さまからも美希さんを説得してあげてください」


「ですがあの子は人の言うことを聞かない子で……。
 一度家に引きこもると決めたら三年くらいは
 出てきません」

「いやいや、さすがにそれは嘘でしょう。
 変な子芝居挟まないでください」

「あら? 冗談は受けませんでしたか。
 あとはあの子の気持ち次第でしょうね。
 初の失恋です。もう少し気持ちの整理が必要なのでしょう」

小鳥と似たようなことを言われてしまった。

女同士の方がよく分かることなのだろうとPは理解し、
これ以上ここにいても問題は解決できない事を悟った。

美希母に別れを告げ、春香と雪歩と三人で星井邸を跡にする。

敗残兵三人は事務所に戻り、社長に結果を報告する。
事務所には仕事終わりの竜宮組もいた。


帰ってさっそく説教タイムが始まる。
社長は口調には抑揚がなく、相当怒ってるようだった。

「ほう? 美希君は君の説得に応じなかったのかね?」

「はぁ……。お母さまとも話したんですけど、どうも
 まだ気持ちの整理がついてないようでダメでした」

「私が今日言った約束を覚えているかね?
 我が社の利益に貢献しない者には罰を与える必要がある。
 君は……今までは優れたPだったといえる。
 だが今となっては話は別だ」

社長は小鳥に指示し、今日受けた苦情電話や
メールの数々を見せてくれた。美希が休んでる間に
多方面で被害が発生してたのだ。

「一度失った信用を取り戻すのは難しい。
 あと一歩で最上を目指せるはずだったのに、
 君が音無君と結婚してから全て水の泡だ。
 君は……そうだな。もしかしたら961のスパイだった可能性もある」


「そんな……俺がスパイなわけないじゃないですか!!」

誰よりも765のことを想い、ただひたすらに
突っ走ってきた男だ。スパイ呼ばわりされるのは最高の屈辱だった。

「社長言いすぎですぅ!!
 プロデューサーはそんなことしないですぅ!!」

「そうですよ!! プロデューサーさんはいつだって
 私たちの味方でした!! むしろ悪いのは勝手に休んでる
 美希の方じゃないですか!!」

雪歩と春香から援護射撃が加わる。

亜美やあずさは黙って事態を見守り、
伊織は密かに社長を財閥の力で排除する計画を練っていた。

Pは全身全霊を込めて言い返す。

「でもまだ俺は終わっちゃいませんよ!!
 今までの功績だって無駄じゃないでしょう!?
 あともう少しだけ猶予をください!!」

「ふむ……。私もアイドル達から睨みを利かされてる今の
 状況は辛い。おい水瀬君。変な組織に電話をかけるのはよしたまえ」


伊織はロシア語で通話するのを止めた。

「ならちゃんとPに猶予期間を与えなさいよ。
 こいつはちゃらけてるようで仕事はしっかり
 こなす男よ。あたしだってこいつなら美希を
 トップアイドルにしてくれるって信じてるわ」

「そ……そうだね。うむ。水瀬君の言うとおりだな。
 で、君。さっきは誰と話してたのかな?」

伊織はちょっとロシア政府の高官によ、とだけ言ったが、
あいにく社長は多少ロシア語が理解できたので、
恐らく内務省の人間と連絡してるだと思った。

「P君。確かに君の今までの頑張りがなければ美希君の
 躍進もなかったのは事実。なので君に一か月ほど
 猶予期間を与える!! それまでなんとかしたまえ!!」

――分かりました!!

――すべては765のために!!

――765プロは地上最強のアイドル事務所です!!

Pはそう叫び、伊織に頭の状態を心配されたのだった。


今日もくたくたになって帰宅するP。
以前住んでたアパートからマンションに
引っ越したので快適住まいだ。

多少大声を出しても周りから苦情が来ない程度の
立地に引っ越したのだ。お金は結構かかるけど、
愛する二人の力で頑張ると決めた。

「Pさん、今日もお疲れ様です。コーヒー飲みますか?」

「ありがとう。おとな……じゃなくて小鳥」

まだ下の名前で呼ぶことに慣れてないほどの新米夫婦だった。
恋愛結婚というより、縁談に近い。

なにせ今まではただの仕事仲間であり、
結婚は急に決まった話なのだから。

ある日、一人で仕事してた小鳥が、あははは!!
独身サイコーなどと叫んでいるところを目撃したのがきっかけだった。

黙々とPCで文章作成し、エクセルで
数字を並べ、計算してる彼女の姿を見て、Pはついに
この時が来たかと震えたのだった。


Pは最初、音無小鳥が好き好んで独身でいるのかと思っていた。
あれだけの美人でスタイルもよく、面倒見もいい彼女に
男がいないのが信じられなかった。

彼氏はいるのかとさりげなく訊いたことがあったが、
その度に小鳥は首を横に振るのだった。

……もしかして自分にもチャンスはあるのではないか。

そう思ったPは独身サイコー宣言をして泣いてる小鳥を見て、
衝動的に告白してしまい、現在に至ってしまうのである。

まさに……

「電撃結婚!!」

なのである。今発言したのはPである。

「まるでグデーリアン大将の電撃戦みたいな結婚の早さでしたよね。
 私の両親も早く結婚しなさいってうるさかったから、
 結婚の話はすぐ住みましたから」

「俺もバリバリ結婚適齢期だったから満足してます。
 いつまでもこの関係が続けばいいのに」


それは二人の願いだった。

だがこの結婚生活が困難なことは、
今日の星井家訪問が証明してしまった。

さらに社長のあの態度。

普通の人なら退職すら考えるだろう。
なぜそこまで765にこだわるのか。

小鳥はそのことをそっと訊いてみた。

「美希も貴音も真美も真も雪歩も……みーんな
 俺の大事な娘たちなんです。あの子たちを
 置き去りにして、どうして俺が辞められるんですか?」

感激した小鳥は思わずPを抱きしめてしまった。

豊満な胸に顔が押しつぶされるP。
でも不思議と苦しくなかった。

なんどか味わった小鳥の匂いがした。
大人の女の匂い。ここが……あの子たちとの違いだった。


ベッドに横になった二人は時も忘れて
好意に没頭することになった。

何度もキスを交わし、手や足を絡ませる。
このマンションは二人の愛の空間だ。

ここなら誰にも邪魔されることはないし、
文句も言われない。

もともと文句など言われる筋合いがないのだ。

「好きだ小鳥。好きだ」

「はい。もっと強くしていいですよ」

裸にされた小鳥の身体がさらに乱れる。
何度味わっても小鳥に身体は飽きることがなかった。

愛に飢えていた女の身体はPを完全に受け入れていた。
女の声で喘ぎ、愛されるという感覚に酔ってしまう。


避妊など考えてないから、Pは一切の遠慮がなかった。

ただ若い情熱が求めるがままに小鳥を抱き、
胸に顔をうずめ、下腹部に手を這わせる。

小鳥の身体は良く実った果実のようだった。

汗をかきながら体位を変え、いきり立った男の
モノを挿入し、小鳥の反応を確かめる。

「あっ……ああっ……いいですっ……頭おかしくなっちゃう……」

興奮した頭では他のことなんて考えられなかった。
今日あった嫌なことだって、この瞬間だけは全部忘れられた。

「小鳥……おまえだけを愛してるよ……」

「私も大好きですよ……」

火照った顔で目を合わせ、告白しあう。

何度そうしてたか忘れてしまった。

気が付いたら寝てしまい、また朝を迎えてしまう。


朝のシャワーを浴びて小鳥の作ってくれた朝食を食べる。
一人暮らしが長かったためか、小鳥は普通に料理が作れた。

まるでいつでもPと結婚する準備が整っていたみたいで
うれしかった。一方のPはカップラーメンしか作れないが。

出社し、またしても美希が来てないことに落胆する。
社長とは廊下ですれ違ったが挨拶しただけだった。

売れっ子の竜宮小町は今日も忙しい。
Pだって手持ちのアイドルたちと仕事だ。

「さあ、今日も頑張るぞ」

「いってらっしゃいPさん」

小鳥にエールを送られ、出発する。
今日はバラエティ番組に春香たちを出演させた。

みんなアドリブがうまいので、
まあまあの出来で収録を終えてほっとする。


番組プロデューサーから、次もぜひ765のアイドルを
使いたいとまで言われた。向こうから見れば
大成功だったらしい。

このように仕事をさせればうまくこなせるのである。
繰り返すが、このPの弱点は女たらしという点だ。

今日も姿を表そうとしない美希のことを想うと
疲れ切った顔をしてしまうのだった。

「にーちゃんには真美たちがついてるよー?
 そんなに落ち込ま苦手もいいジャン」

真美や貴音などはPに従順だった。

今まさに美希のことで落ち込んでるPの
心境を察してあげ、励ましてくれるのだった。

「美希ならきっとまた笑顔を振りまいてくれる
 ようになります。今はただ待てばいいのです」

うれしさのあまり彼女たちを抱きしめたくなるが、
小鳥の顔を思い出して自省する。


慕ってくれるアイドルはたくさんいるから
まだ大丈夫だと、Pは自分を落ち着かせるのだった。

それは絶望の淵であえいでる彼に差しのべられた光だった。


それから数日が立つ。美希の仕事はストップしたままだ。

決心したPは千早から電話を借りて美希にかける。
どうせ自分の携帯じゃ出てくれないと思ったからだ。

案の定、美希は出てくれた。

「千早さん、何の用? 美希は今誰とも話したくないの」

「あにくだが俺だよ。千早から借りた携帯で話してるんだ」

「ハニー……。しつこいの」

「しつこくてもいい。俺は美希のことが心配なんだ。
 なあ美希。今日は夕方には仕事終わるんだ。
 どこかで会わないか?」


最初美希は難色を示したが、Pがどうしても
会って話がしたいと言うので折れてしまった。

二人はレストランで再開した。
なんてことないファミリーレストラン。

ちょうど食事時なので混雑したが、
二人がいるテーブルだけは静かだった。

互いに沈黙しており、話しかけてくるのを
待ってるような状態だった。美希の顔に涙の跡がある。

Pは彼女にかけてやる言葉が見当たらなかった。

彼女がこれだけ悲しんでるのに、自分は小鳥と熱い夜を
すごしてる能天気野郎なのだから。

「会ってくれてうれしいよ美希。
 その……まだ復帰するのは難しそうか?」

「……昨日ね、お父さんにたくさん怒られちゃったの」

「え」

「ハニーったら美希のお母さんと色々相談してたでしょ?
 あれから二回も家族会議が開かれて大変だったの」


美希はやる気があるのかないのかと父親に叱責され、
へこんでしまったのだという。個人的な理由で休み、
社会の色んな人に迷惑をかけたのは事実だからだ。

売れっ子アイドルとは常にスケジュールに追われるのだ。
自分の時間なんてありはしない。

例えるならデパートやスーパーの
バーゲンセールで必死になる主婦のような感じだ。

ついでに、不法侵入しないでよと美希に注意され、
素直に謝ってしまうP。

確かに社会人としてあるまじき行為であったことは事実。
なぜ玄関から入らなかったのだろうかと今更ながら後悔する。

「美希。ごめん。俺は最低だった」

「そ、そこまで自分を卑下しなくてもいいと思うな。
 美希ね、ハニーに会えてうれしかったの」

「ええっ? そうだったの?」


「美希はハニーのことが大好きなの。知ってた?」

「ああ……。春香がよく教えてくれたよ。
 お前の俺に対する気持ちは遊びじゃなかったんだな」

「そうなの。真剣にハニーとお付き合いしたいと思ってたの。
 今更気づいても遅いけどね」

美希のことはパートナーとしか思ってなかったP。
褒めれば褒めるほど伸びるので一緒に仕事するのは面白かった。

彼女が売り上げを上げれば、それだけPの待遇もよくなるからだ。
考えてみれば、Pの結婚資金を用意してくれたのは
彼女らの頑張りがあったからともいえる。

Pは小鳥より何歳か年下だった。このご時世で二十代半ばで
結婚を決断するのは難しいものである。

「なあ美希。教えてくれ。俺はどうすればいい?」

「美希のことだけ見てくれたらいいの」

またそれかとPは思った。遠まわしに小鳥と別れろと
言ってるのだろうが、そんなことできるわけない。


「美希もハニーのお嫁さんになりたかったの。
 でもそれはもう無理なの。なら愛人でもいいの」

Pはフォークを床に落としてしまった。

美希は今なんと言ったのだろうか?
この子は若干中学生にして愛人などという言葉を
口したのである。

実の親でなくとも、叱ってやりたい気持ちに駆られる。
おそらく美希の父親も同じような心境だったのだろう。

失恋が辛いのは分かるが、社会で働いてる以上は
私情は殺さなければならない。彼女がまだ高校生にも
満たない年齢なのもまた事実だが。

「そういう冗談を口にするのは止めろ。
 誰が訊いてるか分からないんだぞ?」

「ならそいつらに堂々と教えてあげるの。
 ハニーだって美希のこと嫌いじゃないでしょ?」

Pは今すぐ旧約聖書を取り出し、
創世記の欄を読み返したくなった。


今が中世ヨーロッパじゃなくてよかったと思った。

たとえ夫婦間だろうと淫らな性行は神が許さないのに、
妻を裏切って愛人を作るなど石打の刑にあってもおかしくない。

近代の日本ではそういった習慣はないが、
イスラム文化圏では今でも浮気の罪は重いという。

「ハニーが好きって言ってくれたらお仕事頑張るの」

「ばっ……そういう冗談はもういい!!」

「本気で言ってるの。ハニーはすぐ美希を子ども扱いするんだから」

テーブルから身を乗り出し、愛するハニーを間近で見る美希。
小鳥に勝るとも劣らない豊満な胸がそこにあった。

髪を短くしてからぐっと大人っぽくなった美希。
彼女の唇を見つめると血流が上昇してしまうのだった。


Pの家は貧しいカトリックの家系だった。

幼いころから妹と一緒に森で遊ぶことが
多かったPは、帰り道が分からなくて困ってしまうことがあった。

泣くじゃくる妹の亜麻色の髪を撫でながら、
帰り道を探すのだが、どこを歩いても同じ景色が続いてるだけ。

最後には父や母が見つけ出してくれた。

故郷のプロイセンがナポレオン三世の統治下に置かれた時も
神への信仰を捨てなかった。領地は奪われた。
でも敵の大将はPの信仰まで否定しなかった。

それは何よりの救いだった。

Pは、自分が生き延びたのは神のご加護があるからだと
強く信じるようになった。

「ハニー、いつまで考え事してるの?」

「どうしようかなって考えてたんだよ。
 もう少しよく考えさせてくれ」


神の教えに反することなど考えられない。
世界は神が創造したと本気で信じていた。

彼のアイデンティティだった。

長く苦しい塹壕戦(ww1)を戦い抜いたのも、
マリア様が見守ってくれてると信じたからだ。

今でもフランス人への恨みは完全には消えていないが。

「美希。お前の気持ちはよく分かる。
 俺だって小鳥さんが他の男と浮気してるの見たら
 狂ってしまうと思う」

「美希はもっと辛いの。てかハニーいったい何歳なの」

「そっか。そうだよな……。
 俺はお前の気持ちを分かろうとしなかった」

「美希を傷つけた責任とってよ。あとハニーって
 たぶん百年以上生きてるってことになるよね?」

美希の細かい突っ込みなどかまってやる余裕はなかった。
それより問題なのは美希の心の傷だ。


言葉で癒してあげてもよかったが、
あいにくPには良いセリフが思い浮かばない。

だから、彼はこうした。

「ハ……ニー?」

ごつごつした男の腕に抱かれ、呆然とする美希。
何かの冗談かと思った。あの鈍感なPが、
自分のことを抱きしめてくれるなんて。

Pはせめてもの償いだと口にした。

「このことは誰にも言うなよ?」

「うん。うれしい。嘘の関係でもうれしいの」

「関係って……こうしてあげるのは今だけだよ。
 こうでもしないと美希は頑張ってくれないんだろ?」

だからPに不必要なプロフィールを用意するなとあれほど

早稲田卒とかいう設定にしてフルボッコにされたこともあったろうに


美希はキスしてとしつこく迫ったが、
Pは頑なに拒んだ。当然だ。

抱きしめただけでも重罪なのに、
これ以上の関係になどなれるわけがない。

言葉で慰めてあげることができない自分の
不器用さに泣きたくなった。

「ありがとう。少し元気が出たの」

「そっか。明日は来てくれるか?」

「うん。たぶん行けると思う」

美希は久しぶりの笑顔を見せてくれた。
元気な時の美希が戻ってきたのだ。

蛮行ともいえる彼の行為は、確かに一人の
少女の魂を呼び戻したのだ。磨けば光る原石。
星井美希とはそういう少女なのだ。

その才能をくすぶらせておくことはできなかった。


美希と別れて帰宅したPは、小鳥に衣服の匂いを指摘された。
食べ物の匂いとか汗ではなく、別の女の匂いがすると言われた。

「この香水の匂いは美希ちゃんですね。
 Pさんが今日美希ちゃんと会ってるのは知ってました。
 まさかこんなことになるなんて……」

「ちょ……」

Pは浮気を疑われ、激しく叱責された。
なんとか言い訳したかったが、激しい口調で
責められてしまう。

初めての夫婦喧嘩だった。

「私のことは遊びだったんですね!!
 やっぱり若い子の方が好きなんじゃないですか!!
 Pさんの嘘つき!! 影で美希ちゃんと浮気するなんて!!」

「浮気なんてしてないって!! 美希が泣きそうだったから
 ちょっと抱きしめてやっただけで……!!」

「抱きしめたですって……?」

怒りの炎が燃え上がるのだった。


小鳥は怒りのままに怒鳴りちらした。

妻の豹変ぶりに恐怖したPは委縮してしまい、
嵐が過ぎ去るのを待った。

小鳥もまた不安だったのだ。アイドルたちに慕われてるPだから、
いつか自分のもとを去って行ってしまうのではないかと。

今回はその予感が的中し、取り乱してしまったのだ。

確かに浮気が発生しやすい職場ではあるだろう。

三十分ほどして小鳥は落ち着きを取り戻し、
Pの言い訳に耳を傾けてる。

「聞いてくれ小鳥。ああでもしないと美希は立ち直ってくれなかったんだ。
 考えても見ろ。俺はあいつをなんとかしないと首になるんだぜ?
 あの社長の態度を思い出してみろ。奴は血も涙もないゲス野郎だ」

「分かってますけど、それでもPさんが他の女と
 イチャイチャしてるのを見るとムカムカします」

「悪かったよ。この通り謝ってるだろ?
 もう二度とああいうことはしないから許してくれ」


Pは小鳥を抱きしめてキスし、なんとか
彼女の機嫌を直すことに成功した。

小鳥への愛は今でも消えてないし、夫婦生活を
円満に進めたいと思っていた。小鳥もそんなPの
気持ちが伝わったのか、今日のことは許してくれた。

翌日出勤すると、元気そうな美希がいた。
ついに復帰してくれたのだ。

仕事は目白押しだったが、難なくこなす姿に
アイドルとしての潜在能力を感じさせる。

復帰初日だというのに、仕事はほぼ問題なかった。

Pは以前そうしたように美希の頭を撫でてやる。

「えへへ。ハニーに褒められちゃった☆」

美希はうれしそうに目を細めるのだった。
Pもそんな美希を見てうれしい気持ちになった。


美希の復活に社長も気をよくしてくれた。
これで首は繋がったのである。

その後も美希の活躍は続き、順調なアイドル生活を
送っていたのだが……

「美希、いっぱいいっぱいがんばったよね?
 ご褒美が欲しいなって」

「え?」

「ハニー分が足らなくなるとお仕事に気合が入らなく
 なりそうなの。あと一回だけでいいから抱きしめて」

Pはバカな真似は止めろと言ったが、
美希は聞いてくれなかった。

世間のこととか仕事のことを口にするたびに、
美希の目から光彩が失われていくのだった。


「美希が努力したのにハニーは冷たいの」

「俺は妻帯者だ!!」

「そんなの知ってるの。それでもぎゅってしてほしいの。
 ねえいいでしょ? 一瞬だけでいいから」

「ぐぬぬ……」

と拳を握りしめて戸惑うP。野生のPである。

あっちこっちと別の女の場所へ移り住んでは
いけないのだ。彼は遊牧民族なのではなく、すでに農耕民族だ。

「ここなら誰も見てないよ。いいよね?」

「ちょ……」

待ってくれと言う前に美希が抱き着いてきた。

小鳥とは違う女の感触に、血流がまたしても
上昇する。だがまだ理性を完全には失ってない。


誰も見てないとは言っても、事務所の中だ。

いつ誰に見られるか分かったもんじゃない。

「え……? Pさんと美希ちゃん……?」

この衝撃的なシーンを小鳥に見られてしまったのは
偶然というより必然だった。

もちろん美希も分かった上でやってる。

「な……? どうして小鳥がここに?」

「どうしてってここは会社の中ですよ。
 私は休憩から帰ってきただけです。
 そしたらPさんと美希ちゃんが抱き合ってて……」

驚いた様子のPと呆然した様子の小鳥。

またいつかのようにブチ切れるまで
時間はかかりそうになかった。


「ごめんね小鳥。ハニーは悪い人だから
 美希のことが好きになっちゃったの」

「ちょ……」

Pは何言ってるんだと止めたかったが言葉にならなかった。

ふてぶてしい態度の美希に対し、小鳥は激怒しそうになった。

「待ってくれ小鳥!! 怒鳴る前に聞いてくれ!!
 美希のほうから抱き着いてきただけなんだ!!
 やましいことは何もしてない!!」

Pが必死に言い訳するけど小鳥は聞く気に慣れなかった。
衝撃的な浮気現場を目にしては冷静でいられない。

堂々と浮気された。あれだけ愛してると言ってくれたのに。

やっぱりアイドル事務所のPと結婚するなんて
間違いだったんだと思い、ついに最終手段に出ることにした。

「Pさん。死んでください」

「なっ……!!」


突きだされた包丁は、Pの脇腹を直撃するはずだった。

「避けないと危ないよ」

美希はとっさの判断でPを突き飛ばし、かわさせた。
命拾いしたPは顔面蒼白になって後ずさる。

今美希が押してくれなかったら間違いなく刺されていた。
心臓の鼓動が聞こえるほど恐怖していた。

疑問はたくさんある。包丁はどこから取り出したのか。
なぜ美希は冷静なのか。

今後の夫婦生活はどうなるのか。どうしたら
小鳥の機嫌を取り戻せるのか。

「あはっはあ……あははははは。
 おかしいと思ってたのよ。女の子たちにモテモテの
 Pさんが私なんかを選ぶわけないってずっと思ってたの。
 やっぱりうまくうわけないよね。あははあはははあ」

「ひぃぃ」

妻の意外な一面を見せられ、Pは腰が抜けてしまった。
彼に抵抗の余地はなく、十字を切ることしかできなかった。

飯の時間が来ちまった

765の面々を現実のアイドルに例えると誰よ

>>187
当てはまるアイドルはいません

「小鳥、嫉妬はいけないと思うの」

「浮気相手のくせによく言うわ。
 あなたさえいなければ私とPさんは
 幸せな結婚生活が送れたのに!!」

いきり立った小鳥が今度は美希を刺そうとするが、
運動神経がいいので簡単にかわされてしまった。

小鳥が美希を刺すことはできないことが分かった。
美希のほうがはるかに身軽だったのだ。

どうしたらこの娘を捕えることができるだろうかと
小鳥は考えていた。彼女の頭の中で残酷な計算が
行われていたのだ。

「もう手遅れだよ小鳥。ハニーは私の者になったの。
 小鳥のことは忘れちゃったんだって」

「……そう。美希ちゃんたらいけない子ね」


再び小鳥の突きが繰り出されたが、
これが思わぬ効果を生んだのだった。

「君たち、仕事の方は順調かね?」

グサッ

冗談のような音がして、たまたま近くを通りかかった
社長が刺されてしまった。

脇腹を押さえながら倒れる。

ぐふぅなどと言いながらどくどくを血を流してる。
致命傷のようだ。小鳥は外しちゃった☆などと言い、
社長から包丁を引き抜く。

「ぐぬおおおお!!」

彼の悲鳴などお構いなしで、今度はPを刺そうとした。


(やべえ!! 今度は俺かよ!!)

Pは壁際にいて腰が抜けてる。

必死に身体を起して逃げようとするが、
足は動いてくれない。

非常事態なのに役に立たない自分の足を呪った。

(やめてくれ小鳥!! 今ならまだやり直せる!!
 俺たちはまだ幸せになれるんだ!!)

いくら心の中で唱えても小鳥には通じなかった。

「さようならPさん。美希ちゃんなら春香ちゃんが
 押さえてるから安心して死んでね」

偶然近くを通りかかった春香は、成り行きで
美希が悪いと判断し、羽交い絞めにしたのだ。

これでPと小鳥の間を阻むものはない。
ついにPの人生の最後の瞬間が訪れようとしていた。


安心と信頼の修羅場サービス☆
いつでもどこでもあなたを黄泉の世界へ
お届けします。音無引越センター☆
       
そんなふざけたCMがPの脳内で流れた。
走馬灯というにはあまりにもふざけた内容だった。

「刺しちゃだめですうううううう!!」

女神と思われた人物の正体は萩原雪歩さんだった。
春香と同じように偶然近くを通りかかったのだ。

雪歩さんは両手を前に出し、
音無さんを後ろから突き飛ばした。

突き飛ばされた音無さんは反動で
凶器を落としてしまう。

「こんな危ないものはポイです」

雪歩さんは自分の掘った穴(五メートル)のなかに
凶器を捨ててしまったのだ。これで音無さんに凶器はない。


「どうして止めようとするの雪歩ちゃん!!
 Pさんは死なないと幸せになれないのよ!?」

怒鳴る音無。すごい勢いだが、雪歩は怖気づかなかった。

「ぼ、暴力はいけないと思いますぅ。
 殴った方も、殴られた方も後味が悪いと思います」

暴力ってレベルじゃねえぞとPは声に出してつっこんだ。

「Pは私たちのPなんですぅ。エッチのPって意味じゃないですよ?
 Pが刺されそうになったのに助けないアイドルなんていないと
 思いますよ」

「あらそう。じゃあなんて春香ちゃんは私の見方をしてるのかしら?」

小鳥が春香を見る。春香はこう答えた。

「Pさんが浮気したのがいけないと思います。
 音無しさんの気持ちよく分かるもの。
 私だって旦那が浮気したら刺しちゃくなっちゃいますよ☆」


これにはPも黙っていられず反論する。

「俺は何も悪いことはしてないんだ!!
 美希を復活させるために必要な処置をとっただけだ!!
 美希をトップアイドルにしなくちゃこの事務所が大きくなれないんだ!!
 そもそもさっきのは美希の方から抱き着いてきたって言ったろ!!」

Pの演説中に社長は吐血し、ついに気を失ってしまった。
彼の声がやかましかったのが病状を悪化させた原因だった。

彼は気絶する前に最後の力を振り絞って
ダイイングメッセージを残した。

『Pを死刑にしてくれ』

無論、周りにいた人たちは口論に忙しくて
社長のことなど気にしてなかった。

偶然近くを通りかかったのは貴音だった。
社長の死体を横目で見ながら一部始終を聞いていたのだ。

「音無小鳥こそ安易にPを刺そうとするのはよろしくありません。
 彼には765を地上最強のアイドル事務所にするという使命がある
 以上、多少のスキャンダルは大目に見てあげるべきでは?」


社長は不自然な状態で気を失っていた。
うつ伏せに倒れて左手を前に伸ばしてる。

白目をむき、右膝は斜め前に伸ばしており、
まるで芋虫が這うかのような姿勢だった。

「結婚してる人にしかこの辛さは分からないのよ」

と小鳥は言うが、またしても貴音さんや雪歩さんが反論。
彼女たちはPは職務上必要なことを下だけであり、
責任は美希にあると結論付け、Pを援護する。

「でもファミレスでハニーが美希のこと抱きしめてくれたの☆
 あの時はすっごいうれしかったな。ごめんねハニー。
 みんなに話しちゃった」

「ちょ……おま……」

勝手なことを口走る美希にPが憤慨したのだが、
偶然近くを通りかかった伊織に発見されてしまった。

伊織は一瞬だけ社長を見てから言う。


「あんたたちがおかしな漫才やってる間に
 社長が無視の息じゃないの。なんで誰も
 助けようとしなかったの?」

あまりにも常識的なつっこみだった。
というより、全員が意図的に放置したとしか
思えなかった。

伊織は呆れた顔で血の水たまりを作ってる社長を見てる。
彼はウンコを漏らしていて汚かった。

Pはいろいろ考えた後、こう答えた。

「急に修羅場になったので……」

まったく理由になってなかった。
給料をもらってる立場なのに雇い主を
見殺しにするなど言語道断だ。

実は彼は密かに社長に恨みを持ってたのだが、
そのことは秘密にしておいた。


その後、偶然近くを通りかかった真が社長を見て驚き、
すぐ警察に連絡したほうがいいと騒ぎ出した。

バカな真似は止めろとPは言った。
今警察沙汰にしたら今までの功績はすべてパーだ。

今の彼らにとって大切なのは社長の生死などではなく、
765という組織そのものだった。

組織の中核はあくまで『P』
社長などどうでもよかった。最悪の場合は
伊織の親に買収してもらってもよかった。

その後、事後処理が行われて社長はどこかの
病院へ搬送された。社長のお見舞いには
あずさや千早がたまに行ってくれた。


社長は順調に回復し、やがて元気な姿で
765プロに戻ってきてPに退職を求める。
つまり首にするということだ。

「どういうことですか社長!!」

「どうもこうもないだろ。君はアイドルたちと修羅場的
 関係を作り、私を巻き込んだ。もう君がどれだけ優秀だろうと
 関係ない。即刻首だよ。早く出て行きたまえ」

社長室で問答をしてたが伊織が入ってきて
社長に何かを耳打ちすると、彼は真っ青になった。

そして急に態度が変わり、Pの雇用を継続すると言い出した。
社長はもう拷問はごめんだと震えながらつぶやいており、
Pには事情がさっぱり分からなかった。

「んふふ。どう? 首が繋がったでしょ?」

「ありがとう伊織。おまえには何度も世話になるな。
 それで社長になんて言ったんだ?」

「ひ・み・つ♪」

伊織の笑顔が素敵すぎて鼻字を出しそうになった。


伊織の謎のサポートもあってお仕事は順調であり、
美希のアイドルランクもさらに上昇中。

特に問題を起こすアイドルもおらず、
いたって平和な毎日が続いた。

一方で小鳥との生活は以前よりも窮屈になってきた。

美希との一件以来、つねに浮気を疑われ、
一日のスケジュールなど細かくチェックされるようになった。

「おい小鳥。まだ俺のこと許してくれてないのか?」

「当たり前です。Pさんの周りには可愛い女の子ばかりいるんですから」

「アイドル事務所なんだから当たり前だろ」

「でも最近じゃ伊織ちゃんとよく話すようになりましたよね?
 あの子はPさんの担当じゃないのに可愛がりすぎですよ」

「ばっ……そんなわけないだろ!!
 仕事上必要な会話をしてるだけだ。だいたい律子が
 許さないだろそんなの」


小鳥は鎌をかけるつもりで言ってたのだが、
残念なことに図星だったのだ。

Pは伊織に頭が上がらなかった。

社長刺殺事件のあとも事後処理をしてくれたり、
Pを首にしようとした社長を説得したりと、
お嬢様の力の前では自分がいかに無力か思い知った。

現実問題として、伊織がいなければPは
解雇されており、今頃路頭に迷ってる。

妻を持ってる身で解雇されるのがどれだけ
みじめか想像してみるといい。

そんなわけでPは伊織に言うことはなんでも
聞いてやることにしたのだった。

「今日は来てくれてありがと。もっと抱きしめてね。
 あんただってあたしのこと嫌いじゃないでしょ?」

とある休日、人気のないさびれた遊園地で二人は
密会していた。小鳥には昔の友達と会ってくると
嘘を言ってある。


今彼らがいるのは県外だ。
追っ手が来ないように北関東の某所まで逃げた。

こうでもしないとPとの時間を共有できないと思ったのだ。
伊織は警備の者を何人か配備させ、不審なものがいないか
常にチェックさせていた。

「今日もキスして」

Pと抱き合うだけでは飽き足らず、ついに
それ以上の関係になってしまっていた。

こういう公共の場でもキスしてしまうあたりが
美希よりも大胆だ。伊織も心の奥底ではPを
独占したいという欲望があった。

でも自分はまだ学生だし、アイドル。
大人の小鳥には勝てない部分がいっぱいあった。

だから一時的でもPを自分のものに
したいと思うようになったのだ。

例えるならPは便利なレンタカーのようなものだ。


満足できるまでキスし、乗り物に乗り、レストランで食事をする。
そんなことをしてる内に日は傾いてしまう。

つい、ちゃんとした場所(ホテル)で大人の行為がしたくなって
しまうが、さすがの伊織もそこは自重した。

伊織は竜宮小町に配属されてからPとすれ違いの日々が
続いて寂しいと言った。

またいつかのように、自分のためにプロデュースしてくれれば
いいのにと。Pはそのことを聞かされると耳まで真っ赤になった。

性格的にツンツンしてる伊織からも
好意を寄せられていたのが意外だったのだ。

浮気は人として最低だと知りつつ、伊織の無邪気な笑顔を
見てると本気で好きになってしまいそうだった。

(駄目だ駄目だ。そんなことを考えてはいけないぞ。
 俺には小鳥がいるじゃないか。俺はどこまで愚かなんだ)


Pが妻のことを考えて苦しそうにしてると、
伊織はキスしてくる。今だけは小鳥のことを
忘れてと言って微笑みかけてくる。

(しかし……俺は嘘がつける人間じゃない。
 いつか小鳥にはばれちまうだろう……。
 俺はその時生きてられるんだろうか)

その後も伊織との秘密の密会は続く。

次第に二人はお互いを正式に愛人だと思い込む
ようになり、事務所でも目が合うだけでドキドキするのだった。

まるで初恋の相手と一緒にいるみたいで不思議な気分だった。
実際はどろどろに汚れた男女の関係なのだが。

誰にもばれなければいい。Pはそう願った。

しかし、この異変に気付いたのは小鳥ではなく律子だった。

「伊織ったら最近色っぽくなったじゃない。男でもできたの?」

「そうかしら? 私はいつもみたいにキラキラ輝いてるだけよ。
 舞台の上だとお星さまだって出しちゃうんだから」キュピピピーン☆


水瀬伊織さんのギャグは軽くスルーされた。

「伊織、恋愛はするなとはいわないけど
 ほどほどにしときなさいよ。
 マスコミとかにばれないようにしなさいね」

「はいはい。そのくらい分かってるわよ」

律子は基本的に厳しい人だから、もし
Pとの秘密の関係を知ったら激怒するのは間違いない。

伊織は軽くいなしたように見えて内心冷や冷やしていた。

(真美、知ってるんだよ? いおりんが影で
 兄ちゃんとこっそり会ってるの。
 ピヨちゃんにばらしちゃおっかな→)

よからぬことを企んでるのは真美だった。
この前こっそり伊織の携帯を確認したところ、
Pと写ってる写真があったのだ。

見たこともない場所で肩を寄せ合っており、
アイドルとPの関係には見えなかった。


真美はこっそりとその画像を自分の携帯に
送信していた。みだらな大人の関係を見て
最初は絶望したが、浮気性のPのことが許せなくなった。

彼女とてPが大好きな乙女の一人。
最近思春期になってからますます意識するようになった。

真美がにやにやしながら携帯を見てると亜美が近づいてきた。

「真美ーー。楽しそうな顔してナニ見てんの→?」

「えっへへ→。兄ちゃんのとっておきの写真があるんだ→。
 亜美にも見せたげよ→か?」

このような成り行きで双子の亜美まで
事実を知ることになる。

亜美にはまだ早すぎたのか、伊織とPの関係を
よく理解してなかった。ただなんとなく
いけないことをしてるんだなと思った。


真美にどういうことか説明された
亜美は、伊織とPが愛人なのだと理解した。

同時に、社長などに知られたら事務所が崩壊
するほどの危機に瀕することも理解していた。

だから簡単に公にしないようにしていた。

一方、Pの浮気相手は伊織だけじゃなかった。

働き盛りの美希は頑張った報酬として
Pと接吻や抱擁などを交わしていた。
ようは伊織と似たような感じである。

伊織はもちろん知っていたが、仕事上必要なこと
だと割り切って見逃していた。自分だって
愛人の一人なのだから文句を言える立場じゃない。

「あなた、最近はお疲れのようですね」

「ああ、そうなんだよ。仕事がありすぎて
 体が持ちそうにない。時間に追われる生活にも飽きてきたよ。
 そろそろ自由が欲しくなるぜ」

自宅に帰るとPは普段通りを装った。


小鳥の前では良い旦那でいたかった。
家庭と仕事は別だ。

どれだけ仕事ができても家庭が崩壊してる人も
いるし、その逆の人もいる。

できれば両方を充実させたいというのが
彼の願望だった。ここまで浮気しておいて
何を言ってるのかと言われればそれまでだが。

「あなた……今日はしないんですか?」

「悪いな。疲れたから先に休ませてくれ」

あれから仲睦まじい夫婦生活を演じたPは、
小鳥からあなたと呼ばれるようになった。

最初はくすぐったい感じだったが慣れるとそうでもない。
夜の生活の方は以前ほど活発ではなくなった。

小鳥は自分を満足させてくれない旦那に不安を抱いたが、
本当に疲れてるのでそっとしておくことにした。

日課の携帯チェックを行っているが、やましい証拠はない。
それもそのはず。伊織が万全の管理をしてるからだ。


伊織嬢は頭の回転が早く、相手の裏を突くことができるので
簡単に尻尾を掴ませなかった。

小鳥がこれだけ身を光らせているのにである。

ちなみに、美希からの怪しいメールは
すべて自動で削除される設定にされてる。

「んもー、ハニーったら。
 どうして美希のメールに返事してくれないの?」

「あはは。ごめんな。忙しくて返信してる暇がないんだ。
 でも美希とは毎日会えるから問題ないよな?」

「あっ……」

抱きしめて耳を甘噛みした。それだけで美希は
全身の力が抜けてしまう。もう文句など思いつかなくなった。

Pはしたたかなので浮気を隠蔽するのも得意になってきた。

以前社長からスパイ呼ばわりされたことがあるが、
今なら本気でなれそうな気がしてきた。


(兄ちゃんったらひどいよ。ピヨちゃんと結婚して
 真美たちを悲しませたくせに、いおりんや
 ミキミキだけ特別扱いするんだね……)

影でPの愚行を目ざとく見守っていたのは真美だった。

ずっと秘密にしておこうと思ってたけど、
もう我慢の限界だった。

ある仕事の帰り道のことだった。

Pの運転する車に乗った真美は、
二人きりなのをいいことに浮気のことを切り出した。

「あれれ? なんで顔真っ青になってんの→?
 真美はただ浮気はいけないよねって話しただけなのに」

「その画像、どこで手に入れてた?」

「このいおりんと抱き合ってる画像のこと?
 この前いおりんの携帯からこっそり拝借しちゃったYO」


「ふざけるなよ真美」

「ほえ?」

「ふざけるなって言ってんだよ!!
 そんな画像を用意して俺を脅すつもりか!!」

急に激しい口調で責められ、真美は絶句してしまう。

「たしかに俺は妻に隠し事をしてるがな、
 仕事上どうしようもないこともあるんだよ!!
 その画像が世間様に知られれば俺も美希も伊織も
 みんな首になるんだぞ!! 分かってるのか!!」

「……ぐすっ……で、でもにいちゃんが……悪いんじゃん」

「ああそうだな。俺は最低なクソ野郎だ。認めるよ。
 で? おまえはどうしたいんだ。俺を解雇させて
 それで満足か? 二度と真美と会えなくなるけどそれでもいいか?」

「いやだよ……真美はまだ兄ちゃんと一緒に居たい……」

「そうか。そうだよな。
 真美はまだ兄ちゃんのそばを離れたくないよな?」


「うん……真美はいつまでも兄ちゃんと一緒に居たい……」

Pはその辺に車を止めて、真美の涙を拭いてやることにした。

女の子の相手をするのは仕事上必要なスキル。
もちろん泣いてる子を慰める方法もよく知っていた。

「大きな声出してごめん。俺だって真美と離れ離れにはなり
 たくないんだ。だから怒ったんだぞ?
 真美は大人だから俺の言ってること分かるよな?」

「うん……」

「じゃあその画像ももう必要ないよな?」

Pの指示通り、真美はすべての画像を削除した。
これにて一安心したPは、真美にご褒美を上げることにした。

「あっ……兄ちゃん……」

車の周りに人気のないことを確認し、一瞬だけ
真美にキスしてあげた。なおも泣きじゃくる真美の
髪を優しく撫でて落ち着かせる。

お風呂の
      時間が
           来ちまった 


真美はたまに可愛がってあげることを条件に
秘密を守ることを約束してくれた。亜美に
分けた画像も秘密裏に処分してくれたのだった。

「よくやってくれたな真美。
 真美は物わかりがよくて助かるよ」

「うん……/// もっと頭撫でて」

Pはできるだけ真美の匂いがつかないよう注意した。
真美の匂いは子供っぽくて爽やかな匂いだった。

P的には事務所の中でもかなり可愛がってる方だった。

亜美が竜宮で活躍する一方で、
恵まれない環境だった真美の相談事をよく受けてたからだ。

実の妹というより娘に近い感覚で真美に接していた。
これからもPのよくパートナーになってくれることを期待した。


時間が経つごとに浮気相手が増えていくことを
実感するP。いけないと思いつつ、あっちから
迫ってくるからしょうがないと諦めていた。

彼の究極の目標は765プロを日本一のアイドル事務所に
することである。その心があるから今まで頑張ってこれたのだ。

「おかえりなさい。今日は早かったんですね」

「久しぶりの定時上がりだよ。
 ご飯の前にお風呂入らせてくれ」

リビングのソファで一休みしてる間に風呂が沸く。
小鳥に呼ばれてさっそく入浴する。

信じられないことに今日は小鳥も一緒に入ってきた。

「おいおい。夕飯の支度は大丈夫か?」

「もう作ってあるから平気です。
 あなたが帰ってくるのめずらしく早かったから
 たまには一緒に入りたいなって」


見慣れた妻の裸体。

美しく豊満な胸を見て感情が高ぶる。
改めて胸の大きな女性と結婚してよかった
と思ったのだった。

「今日はしてもいいですよね?」

「そうだな。食事前だけどたまにはいいか」

シャワーで軽く身体を洗い長し、
小鳥の下腹部を愛撫した。

Pに背後から抱かれ、短い吐息を吐きながら
身体を震わせる小鳥。いつもより感度がいい。

旦那の仕事が忙しいため、すっかりご無沙汰だったからだ。
うなじを舐め、乳首を吸い上げ、小鳥に刺激的を
次々に責めていく。


「いいですよっ……もっと触って……」

小鳥は自分の年齢のことをしきりに気にするが、
それは十代のアイドルたちと比べてのことだ。

小鳥の美しい肌はPを十分満足させてくれた。
感情が高ぶって小鳥の唇を貪るように求める。

暖かい唾液を交換し、舌を絡ませる。

目を開けると相手の真っ赤な顔が見える。
夫婦のひと時だった。

誰にも責められることのない、二人だけの空間。
小鳥とだけ愛し合えば何の問題もないのだ。

(ちっ。こんなときに伊織たちのことが頭に浮かぶなんて……)

小鳥に知られたらまずいと思い、一気に挿入を始める。
妙にエコーのかかる風呂場で小鳥の喘ぎ声が響いた。


小鳥の身体は最高に気持ちよかった。

男を締め付けて離さない妻の秘所。
きゅっときつくなると今すぐ射精したくなった。

最も我慢する必要なんてないから気が済むまで
行為が続くのだが。

細い腰を掴んでさらに激しく出し入れをする。
止まらない上下運動に激しく乱れる小鳥。

息も続かないほどの様子でPの名を何度も呼んだ。

(これが伊織や美希だったらどんな反応をするんだろう……)

Pだけを見つめて快楽に酔いしれてる小鳥とは対照的だ。
彼の原動力は使命ではなく本能なのかもしれない。

小鳥が満足するまでイカせたが、
事後、他の少女たちが彼の脳裏を占めていた。


その日、夕飯を食べてから小鳥はぐっすり寝た。
久しぶりの夫婦の運動で疲れたのだ。

妻の寝顔を見てると自分よりも年下に思えた。

引っ越したてのマンション、二人だけの生活。
全てが幸せだった。幸せになるはずだった。

(俺は……今までどれだけバカだったんだ……?)

小鳥は無条件にPを愛してくれてる。
裏切ったのは他の誰でもない自分。

彼女が社長を刺したのは狂気の沙汰だったが、
愛ゆえの病みである。

普通なら人に愛されるとは幸せなことである。
だが、束縛されるような愛は少し重いとPは思った。

(小鳥……ダメな旦那でごめんな。これからも
 おまえに迷惑をかけると思う……俺はやっぱり
 バカなんだ。今でも伊織を抱きたくてしょうがない……)


小鳥は寝息を立てて寝てる。
相当眠りが深いようだった。

Pは起こさないようにベッドから出て、
近所のコンビニまで暇つぶしに行った。

小鳥と一緒にいると、よくない考えばかりが浮かぶからだ。

時刻は夜の11時を過ぎたところだった。

「あら、そこにいるのはプロデューサーよね?」

「伊織じゃないか。こんな時間に会うなんて奇遇だな。
 何してるんだ?」

「ちょっと必要なものがあったから買い物にね。
 あんたこそ何してんのよ」

伊織は小さな買い袋を持っていて、
会計を終えたところだった。

「……暇つぶしさ。家に居づらくなったんでね」

すぐそこのベンチで座って話をすることにした。
夜だから危ないかもしれないが、
伊織の周囲には護衛の人がいるから大丈夫だ。


「悩んでるみたいね。小鳥に何か言われたの?」

「そういうわけじゃないんだ。
 妻に隠し事をしてるのが耐えられそうにないんだ」

「まだばれてないんでしょ?」

「そうだが、結構つらいぞ? もしばれたらまた刺されるかも
 しれないし、いつも監視するような目で俺を見てくるんだ」

「ふぅん。やっぱり家庭を持つと大変なのね」

伊織がふいにPの手を握った。
伊織の体温が伝わる。不思議と安心する暖かさだった。

「夏だってのになぜかうれしい気持ちなるな」

「そうでしょ。人肌って暑いようで意外と
 人を落ち着かせるものなのよ。あんたには
 あたしがついてるから心配しなくていいのよ?」

「ああ、そうだな。実は小鳥といる時もずっと
 おまえのことばかり考えていた」


もはや告白に等しい言葉に、
伊織が舞い上がりそうになる。

Pの口からはっきり言われるのは初めてだった。

今までは伊織から積極的に迫っていただけに、
いよいよ次の段階が迫って来てることを予感させた。

「ねえ。それってあたしの方が好きってことよね?」

「そうなのかもしれない。でも俺は今でも自分の気持ちが
 よく分からないんだ。俺はバカだ。小さいころから
 飽きっぽい性格だって親によく言われた」

「……まさか離婚とかまで考えてる?」

「いや……。まだまだ早いよ。それにそんな勇気なんてない」

Pには家で支えてくれる存在が必要だった。
過酷な仕事内容に耐えられたのも、小鳥の支えがあってこそ。

「伊織のことは好きだと思う。でも小鳥のことを裏切るのことは
 できないんだ。おいしいご飯も食べさせてくれるし、
 家事もこなしてくれる。今はあの人がいないと生きていけない」


ならあたしを支えにしてくれればいいじゃない。
伊織はそう言いたかったけど我慢した。

伊織は竜宮小町の売れっ子アイドル。
いつかは美希を追い越してトップアイドルになるのが夢だった。

また、プロ根性のある彼女はファンを敵に回すつもりはなかった。
世間にばれるようなスキャンダルには十分気を付けたし、
舞台の上では誰よりも自然な笑みを作れる。

「つまらない愚痴聞かせちゃって悪かったな」

「いいのよ。気にしないで。困ったことがあれば
 いつでも相談に乗るからね」

もうすぐ12時を回ろうとしていた。
良い子は寝る時間だ。

Pも明日の仕事に備えてベッドに入る。
小鳥の方は見ないようにした。浮気相手と
あったばかりだと気まずかった。


翌朝出勤し、竜宮の伊織とすれ違う。
今朝はグラビアの撮影があるらしく、
朝一で出発するらしい。

「おはよう、伊織」

「うん。おはよ」

会社では短い挨拶しか交わさない。
そういう約束だった。

人前では出来るだけ他人を装い、
不必要な会話を避け、視線も合わせない。

こうするだけで大体ののことは誤魔化せる。

あずさは他人行儀なPを見て不思議に思った。

「プロデューサーさん、なんだか疲れてそうですねー。
 最近暑い日が続いたから夏バテですか?」

「はは。そんなところですよ。
 最近仕事ばっかりの毎日でしたからね」


方向音痴のあずさが朝一で出勤で来てること自体
奇跡だったから、そのことの方が不思議だった。

Pは本当はちっとも疲れてなく、いたって健康だった。
小鳥との夫婦生活は確実にPの健康面を確実に
サポートしてくれた。

愛する妻、美希、真美、女たちの顔が頭に浮かんでは消える。

「兄ちゃん……また女の人のこと考えてるでしょ?」

「亜美。暗い顔してどうした?
 人には言えないことでもあるのか?」

「べつに→。なんでもないもん」

ふてくされた様子でそっぽを向く亜美。

まだ愛とか恋愛の意味は分からなかったが、
最近は真美がPの話ばっかりするのが気になってた。

「こら亜美。これから仕事なんだからしゃきっとしなさいよね」

そう言うのは律子ではなく伊織だった。


伊織はPが不利になるとすぐ助け舟を出す。
いつもの手口だ。彼女の監視の目は小鳥以上に厳しかった。

律子は書類で今日のスケジュールを綿密に確認してる。
書類から頭を上げて一言。

「ほらほら。しゃべってないでさっさと行くわよ?
 それじゃプロデューサー殿。またあとで」

「おう。みんな精一杯頑張ってこい」

竜宮一同は出発していく。
伊織が一瞬だけ後ろ振り返り、Pにウインクした。

Pは年甲斐もなく胸がドキドキしてしまった。
昨日の欲望がさらに膨らみ、本当に伊織を
抱いてしまいたい衝動に駆られる。

「あのぉ。自販機の前で立って何してるんですか?」

振り返ると雪歩がいた。確かに直立不動で
妄想してる人物など不審者以外の何物でもない。

Pは何でもないから心配するなと言い、事務所に入っていく。

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