魔王「お前は弱すぎる」勇者「貴女は強すぎる」 (46)



━━━━━ 迸る閃光、そして爆撃。


王の命を受けて国を出た私達を迎えたのは、一声の宣戦布告だった。

それだけではなく。


勇者「みんな…戻って!! 逃げてぇ!!」

< 「うわぁああ!! な、なんでこんな所に……」

勇者(王国の防壁まで仲間を逃がすのが精一杯…僕が止めるしか、ない……!)



そう。



魔王「……ここが貴様の旅の終わりだ、勇者よ」



旅立ちの直後、そこに立っていたのは純白の美しいドレスに身を包んだ。

『魔女王』、だった。



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勇者(迷っている暇はない……ここで、魔王を討ち取ってみせる!)

抜刀し、尚も壮絶な爆撃魔法を撃ち込んでくる魔王を見据える。


威力と引き換えに命中精度は低いのだろうか、未だ仲間や自分に当たっていないのは幸いだった。

故に、私は構え、そして全身に力を込める。


魔王(来るか……)スッ


勇者「行ける…ッ」

私の構えを見たのだろう、魔王が爆撃を止めて小さな短剣を取り出している。

一騎討ちを受けようと言うのなら、挑む所だ。

私がこの刃の元に討ち倒す!!





━━━━ ゴゥッッ!!

地を抉り、叩き割るように私は踏み込んでいく。

未だ魔法などはレベルすら上げていない私には扱えないが、身体能力ならば負けはしない。

たとえ、相手が魔王だとしてもだ。


魔王「【クイック】」

勇者「ッ!?」


パシンッ!

…という破裂音が響くのと同時に神速の剣撃を繰り出そうとしていた私を、強烈な衝撃が襲う。

凄まじい鈍痛、全身に広がる衝撃が私の次の行動を遅らせる……。


勇者(動け動け動けッ!! 僕の体…動けぇ!!)グンッ

魔王「!」


動いた。

私の体はまだ動ける、まだ戦える。

至近距離で互いの眼光が交差する中で改めて別の寒気を感じた。

魔王は…僕のような女性とは、人間とは比べ物にならないほどに、美しい。


勇者(…魔族らしさの欠片もない……ッ)

魔王「ふむ」ヒュッ




━━━━━ ギィンッ!! ガガガガガガガッッッ!!!


……バキィンッ!!

勇者(!?!?!?)

勇者(たったこれだけの打ち合いで…ミスリルの剣を短剣で折った……!!)


恐ろしい程の強さと、異質すぎる美麗さ……装備に差があるのも引いても、私がその加減を誤るとは思えない。

何より、この魔王は私と同等以上の力を有しているのは明らかだった…。

滴り落ちる鮮血を払い、折れた剣を放る。

そしてその剣の柄を狙い、回し蹴りを放とうとする。


魔王「【ブローダー】」



━━━━━ ゴォォォッッッッ!!!


勇者(…な………っ……)


信じられない様な圧迫感を感じ、視界が縦にブレる。

尋常ではない轟音が鳴り響き、私の足元……大地を割って漆黒の巨壁が天へ昇るように現れたのだ。

どれ程の高度まで上がるのか、風すら切り裂く速度で上昇していく巨壁の上で私は張り付くのが限界だった。


勇者(で、デタラメ過ぎる……ッ、こんな魔法があるなら軍が魔王城を落とせない理由も分かる…!)

勇者(どこまで上昇するのかは知らないけど、僕でさえ降りられないような高度になる前に降りなければ…)



━━━━━ ヒュォオッ・・・!!


空気が渦を巻く中で巨壁の上を脱し、そのまま数十m下にいる魔王目指して落下していく。

……そこで、私は気づいた。


勇者(・・・ッッ!? この壁、王国の周囲を囲むように出現している…!!)


救援、ましてや私の逃走すら封じようと言うのか。

何より、どんな魔力があればこんな神業が可能となるのだ?


勇者(これが…魔王?)ザッッ

魔王「……」

勇者(……底が見えない、今の僕じゃ…勝てるビジョンが見えない)


王国の外周は暫く平原が続いている、つまり離脱してから隠れる事も出来ない。

これだけ見晴らしの良い平原では、とてもではないが逃げ切れる自信もない。

つまり。

つまり私は。


勇者(ここで……負ける)

勇者(まだ王様に勇者として送り出されたばかりなのに…)

勇者(まだ、仲間と一夜も越えていないのに…)

勇者(……ッ)ギリッ


魔王「ほう、まだそんな目が出来るか」

魔王「ならば足掻けよ、若き勇者」スタスタ


優雅に歩いてくるその姿を、私はその眼に刻みつけながら拳を握る。

強大な力が歩み寄ってくるその負の足音を耳に焦がすように焼き付けながら歯を食い縛る。


悔しい、こんなにも悔しいとは思ってもいなかった。


これが敗北の感触、そして死を前にした自身の感情。


魔王「どうした、悔しいならば私に一矢報いて見せよ」

魔王「勇者ならば」

魔王「その若さなら、決して諦めはしないのだろう?」


その美麗な顔をほんの少しの嘲笑で彩り、私を見下ろすような目で見ている。

何故か、違和感を覚えた。


勇者「ぅ…」

魔王「さぁ来るといい、私は逃げたりはせんよ」

勇者「うぁぁあああああ!!!」


ドッッッ!!という地響きすら叩き伏せるように大地に拳を降り下ろす。

火柱の如く土砂が巻き上がり、巻き上がった砂塵の中に飛び込んだ。

砂色の視界を刺し貫くように、横を緋色の光線が数十とそのラインを描く……。


勇者(正確にさっきいた僕の体を貫くように撃ってる…ッ)ザザザザ


止まらず、その土砂の影を縫い繋ぐように、私は駆け抜ける。

そして見つけた。

魔王の背中、死角だ。


勇者「 ━━━━━ ッ!!」バッ


砂塵を吹き荒らしながらその背中に渾身の一撃を突く。


魔王(! なるほど、そっちだったか)

勇者「っな、ぁ!?」


一瞬の拳撃を背後から放った、その筈なのに魔王はそれを背筋から噴き出すような魔力の放出で逸らす。

なんだ、これは。

私はそう愕然としながらも、決死の連撃へと繋げる。


勇者「『正拳突き』ッ!! 『五月雨突き』ッ!! 『爆裂拳』ッ!!」

━━━━━ ゴッッ!! ガガガガガッ!!! ゴバァァッ!!!


魔王「ぬるいよ、それじゃ━━━━━ 」フッ


私と魔王の残像を互いの踏み込んだ衝撃波で掻き消し合いながら、刹那の死闘で打ち合う。

初手の正拳を真っ向から妖しい光の障壁で相殺した魔王が魔力の破片を払うように、橙の光を帯びた手刀を放った。

それを、紙一重の差で伏せて避けると、ステップで距離を取りながら遅れてきた正拳突きの爆風と爆音と共に連打を打つ。

僅かな隙や躊躇する場面があれば即死する世界で、私は残された拳を振るい続けた。

たとえ連打を全て障壁と先程の『クイック』という魔法で相殺されても、即座に薙いだ爆裂拳で更なる一撃を穿つ。


それを、それすらも。


魔王「どうした?」

勇者「ッ・・・、は…ぁっ…はぁっ…!!」


直撃した筈だった。

しかしそれでも魔王はその純白のドレスに一片の汚れを許すことなく、君臨した。

全力の一撃をこの魔王は何らかの魔法で『無かったことに』したのだ。

これでは、私はどう足掻いても……。


勇者(……ごめん…なさ、い…)ドサッ


辺りで遅れてきた死闘の余波が吹き荒れる中で、私は倒れる。

身体に力を入れようという気力すら、この刹那に使い果たしてしまった。

爆音と轟音が鳴り響く平原の大地に君臨する魔王は、私を見下ろしたままで呟いた。






魔王「お前は弱すぎる」



……一言、その言葉が私の胸を抉る。


勇者としての使命がそうさせるのかはよく分からなかった、だが私はこう魔王に言い放つ。



勇者「貴女は強すぎる」



薄れ行く意識の最中で、精一杯の言葉が、これだった。


情けないとは思った。


けれど卑屈になるつもりもなかった。


私にはこの魔王への一言が、何らかの糸口になると思った。


そしてそれは、確かに変化を起こした。




魔王「……弱いよ、私は」




彼女は、寂しそうに笑っていたのだ。


勇者「……………」



私にはその真意を考える体力も気力もなければ、気になる事も無かった。


そのまま、私は……どうなったのかは、知らない。





━━━ 【王国から東に数百km先にある、とある城】


悪魔「陛下が戻ったんですか!」

骸骨「らしいよ、凄い騒ぎだぜ城中」

悪魔「ご無事だったんですね…いま、陛下はどちらに?」

< ヒュンッ

ドラキー「まおーさまがぎょくざにおもどりだよー!」パタパタ


骸骨「早いな…さっきまではまだ庭園で民に囲まれてたのに」

スライム「まおーさま 帰ってきたの?」ニュルニュル

悪魔「そうみたいですよ、行ってみましょう!」


< ザワザワ・・

< ザワザワ・・・


妖精「魔王様ー!」

獣人「魔王様が帰ってきたー!」

亜人「こっち向いて魔王様ー!!」



< キャー!!

悪魔「あはは、流石魔王様ですよね」

夢魔「おや、来たのかい悪魔のお嬢さんやい」

悪魔「こんばんは夢魔さん」

夢魔「ふふ、こんばんは♪」

悪魔「魔王様、どうしてお帰りに?」

夢魔「さぁ…? 何かしらのお話はあるらしいよ、アタシにはよく分からないねぇ」


魔王「……剣王、城の近辺に何か変化は?」

剣王「特には無い…」

魔王「ふむ、では城内の様子はどうだ、術王」

術王「貴女がお帰りになられ、大変な騒ぎになっている位ですねぇ、あー…まてよ」

魔王「なんだ」

術王「新たにスライムの集落を我が城に迎え入れたので、地下7階層の平原フィールドに集落を移しました」

魔王「スライム……か」


魔王「……後で私が挨拶に行く、その際に『客人』も連れていくので拘束の術式を頼む」

術王「分かりました」

魔王「それと、スライムの集落に害しそうな生物は近づけるな…我々も極力干渉はしないように」

術王「ええ」ニコッ


騎士王「陛下、ご無事の帰還を嬉しく思います」ザッ

魔王「久しいな騎士王、私も嬉しいよ」

騎士王「して、陛下……此度の長期に渡る御忍びの理由と、ご帰還なされた話とは?」

魔王「移動できる民をこの玉座の間の周囲に集めたならば、今から私が話そう」

騎士王「? 何故ですか」

魔王「待ち望んだ事を告げてやりたい、そう思うのが私らしくはないか?」

騎士王「……はぁ」


剣王「ゆ……客人はどうする、魔王」

魔王「『見せる』、その方が良いだろう」ポゥ


< ドサッ

勇者「…」

剣王「……可愛いな、流石」

術王「ですね」

魔王「黙れ」


< 「おい! あれ!」

< 「魔王様だ!!」


悪魔「!」

夢魔「…すご、アタシも長年サキュバスやってるけど…魔王様には敵わないわね」

悪魔「綺麗……」

夢魔「ああいうのを女神って言うのかしらね、いつも思うけれど」



魔王「……」

魔王「この場に集まってくれた者達には感謝する、そして久しく会ったな諸君」


< 「「ザワザワザワ・・・」」


魔王「分かっている、やはり今回諸君が私から聞きたいのは私が何をしていたかだろう」

魔王「非常に難しい事だ、何をどう話せば正解か、私にも分からん」

魔王「だから一言で告げる」


魔王「この戦争を終わらせる事の出来る者を手に入れた」

魔王「それが、この者だ」スッ

術王「はっ」


< ヴゥンッ

勇者「あぅ…!」ドサッ

勇者(い、た……っ?)パチッ

勇者(なっ!?)


< 「あれが我らを救って下さる神の戦士…?」

< 「美しい娘だが、魔王様の方が余程美しいし強いのでは…」

< 「どことなく魔王様に似ているような気さえするな」

< 「あんな小娘が勇者ぁ?」


勇者(なんだ…ここ)

< 「「ザワザワザワザワ」」



目を覚まして最初に驚いたのは、私を囲むようにして観ている様々な種族の者たちだ。

相当の数だった、どう見ても具体的な数はともかく千や二千どころではない。


勇者(なんで……僕、こんな所に…ッ!?)

勇者(動けない……なんだこの帯状の光は……)グググ


次に驚いたのは両の腕に螺旋状に帯を巻く、淡い光を放つ拘束具だ。

どれだけの力を込めても、引き抜こうとしても、まるで動かない。

そもそも、腕に力が入っているのかさえよく分からなかった。

私は自分のいる場所が円上の祭壇だと認識すると、即座に背後を見た。


魔王「おはよう、勇者」

勇者「魔王……なんの真似だこれは」

魔王「さぁな、少し話を聞いていて貰うぞ」


そう無表情のままに告げると、魔王はすっと呼吸を整えた。

何か違和感を私は覚えたが、とにかく現状をどうすべきか思考する。


魔王「この者こそが数百年の混沌に終止符を打つべく生まれた、勇者だ」

魔王「本来ならば私は勇者と死闘を繰り広げ、そして私か勇者どちらかが果てるまで血を流さねばならない」

勇者(……死闘、にすらならない程の差はあるけどね)

魔王「だが、私はその運命に従うつもりはない」


< 「「・・・・・」」


魔王「諸君、私は……今日より本格的に『敵』を討つために剣を取る」

魔王「他でもない、勇者と共にだ」


勇者(……)

勇者「ッ!? ぇ、あ、はっ!!?」


まさかのここに来て最大の意味不明。

私は混乱とかそういうもの以前に、何がなんなのか全く理解できていない。

色々と今の魔王の言っていた事は分からないことしかない、もっと分かりやすく説明してほしい。


< 「やったー!!」

< 「これでもう終わりなんだ!!」

< 「魔王様ばんざーい!!」

< 「勇者様ばんざーい!!」


悪魔「……」

夢魔「へぇ、いよいよこの戦争も終わるのかい」

悪魔「そう‥ですね」

夢魔「どうかしたのかい悪魔」

悪魔「いえ、何となく‥‥勇者って本当に私たち魔族の味方になってくれるのかなって」

夢魔「さぁねぇ…? アタシはよくわからないよ」

悪魔「ですよね、すいません」

悪魔(……何だろう、凄く苦手というか…嫌な感じがする、あの勇者)


結論は出た。

もうなるようになるしかない、現状としては今ここで何か動いても意味はない。

魔王にこの状態で勝てるとも逃げ切れるとも思えないし、何より…。

『いる』のだ、魔王の臣下と思える者達が。


勇者(……上の吹き抜け、柱の影に隠れてる仮面の剣士)


剣王(こちらに勘づくか……やるな)

気づかれたからか、それとも余裕の表れか、少しだけ柱に体を預ける仮面の剣士。

軽装だが、その腕に付けられた籠手と腰に下げた一本のシンプルな銀色の剣が、仮面と合わさって只者ではないと予感させる。

・・・恐らく、配下の中では速い方の部類なのだろう。

それも、下手したら私以上の。


勇者(……それと、あっちの…魔王より後方の『影』そのもの)


術王(……見破れるとか、本当にレベル1なんですかね)

魔王の影に隠れていた『影』が立体的な黒い人型のような姿で浮き出ると、そのままスゥッと空気に溶けていく。

まるで、透明になったように。


勇者(……っ?)

勇者(あれも…魔王の臣下かな)


私が見ている視線の先には、魔王とは反対に位置する恐らく出入り口らしき門がある。

その下に一人の小柄な体躯の仮面を被った……やはり人型の魔族が空中で座っていた。

しかし、その服装も装備も、ましてや魔族らしい特徴もない。


仮面「……」


まるで人間のようにも見えるのだ。


勇者(………)

< ガシャッ

勇者「っ!」

騎士王「立て、勇者」グイッ

勇者「うぁ……自分で立てるよッ…(この男、いつのまに背後に!?)」


突然私の腕を掴み、一気に立たせる。

背後にいつから立っていたのか、胴部分のみがインナーらしき皮を覗かせる、妙な鎧を着た仮面の男がいたのだ。

もしかしたら性別がはっきりと分かるのはこの配下くらいかもしれない、後は声を直に聴いてみなければとても判別は出来ない。

もっとも、あの魔王の配下では性別による勝敗など関係ないのだろうが。

問題なのはその存在が触れられるまでに気づけなかった事だ。


勇者(……僕はどうなるんだろう)

たまには落ちる宣言した方が良いか…
折角なので書き溜めようとは思うが、とりあえず言わせてくれ

レスは自由につけていいけど、凄まじい展開予想はよそうな
まぁまだ始まって全然のあれだが


仮面(……)






魔王「勇者の拘束を解け」ボソッ

術王「分かりました」ボソッ


勇者(……!)

< パシィンッ!


拘束を解くよう魔王が指示すると、勇者の腕を封じていた帯が消える。

弾けるように消滅をした帯を見ると、やはり魔法の類いだと理解したのか、勇者はその腕を擦りながら背後の騎士王を見る。

振り向き様に強烈な打撃を与えたらどうするつもりだったのだろうか。

勇者は騎士王か、魔王の指示を待つようにそこで立ち尽くしている。


勇者(どうしろと?)

魔王「……」バッ

< スタッ

勇者「!」


魔王を勇者が見上げるのと同時に、その視線と交差するかのように勇者のもとへ降り立った。




魔王「諸君、私は弱き民を守りたい」

魔王「この城は私の魔力を使用して築いた結界の一種だ」

魔王「大抵の魔法は防ぐし、物理攻撃も都市攻略型霊装でも持ち出さなければ通らぬ」

魔王「だが……それでも、守りきれない物が確かに存在してしまうのが現実だ」

勇者(……)


思わず足元の床を踵で軽くトントンする勇者。

恐らく魔王の言う事を半分信じられなくての行動かもしれないが、残念ながら真実だ。

そのまま本気で踏み抜いても城内は破壊できない。

そんな事を私が考える間でも、魔王は言葉を民衆に紡ぎ続ける。

『私』には民を、他者を、大切な者達を守ることが出来ないと。

そして、それを守ることが出来る者こそが、魔王の指差す先に立つ者だと。


魔王「私がこの城を、そして人々をこの勇者が、民 達を守る」

魔王「この使命を果たすことに、何の異議があろう? 勇者よ」

勇者「……!」

勇者(…僕を、臣下に加える……ということか)


勇者「………」


勇者「……僕は、勇者だ」

勇者「誰に命じられて使命を果たす訳でもない! 僕は僕だ、そして守る為に戦う事が使命だ!」


魔王と正面から対峙して、先日敗北を喫したにも関わらずその瞳に恐れの色は無い。

その眼光に宿っているのはやはり勇者特有の不屈の闘志、折れぬ剱という事だろう。

やはり勇者は、私が思っている以上に強いらしい。


勇者「魔王、僕はお前を倒す」

魔王「……」クスッ

勇者「だけど、ここにいる魔族……亜人獣人、お前が民と言う人々を弱き者だとするなら、僕はそれを余さず救って見せる!」

魔王「ならば問おう、そして抜いてみせよ」


いよいよか、と私は呟く。

この続きは見るまでもない、これはまだ始まりに過ぎないのだから。

民衆が静まる中で行われたこの問答は、大勢の者の記憶に残った筈だ。

進撃、反撃、衝撃、攻撃、いよいよこの瞬間から魔王が造り上げた城で過ごしてきた弱き者にとっての『攻』が、叶うのだ。



魔王「汝、救われぬ者の為にその刃を盾にし、その身を刃に出来るか否か……!!」


勇者「やってみせる…僕は全てをこの力で守って見せる!!」



無意識のうちに勇者は何もない筈の腰に手を伸ばす。

それが、まるで合図のように……民衆なら歓喜と驚愕の声が広がっていった。


悪魔「……え?」

夢魔「悪魔?」

悪魔「む、夢魔さん……あれ!」

夢魔「は……っ!?」



騎士王(……出したか)


術王(まさかこうも早く出せるとは思いませんでした…何なんですかね)


剣王(聖剣……)



仮面(聖剣『 Ancient Overload 』……勇者として選ばれた者だけが手に出来る魔剣…)


辺りから驚きと喜び、者によっては畏怖すら覚える中。

四人だけはその存在が何なのかを理解し、そしてそれを顕現させた勇者を僅かに訝しげに見据える。

私もまた、この時は驚きを禁じ得ずにはいた。

初めて見たあの時の私は、勇者がそれを顕現させた瞬間に見えた『光』の持つ輝きに、目を奪われていた。

七色では足りない。

十二色でも足りない。

名状しがたき程の色という色が、その刃を顕現させる刹那に弾けていたのだ。

一本の刃幅が広い、ロングソード……いや、正確にはバスターソードとでも呼ぶのか。

何処か壮厳な気配を纏いながらも、その刃に込められた魔力は絶大なモノを秘めている、魔剣。


若き日の私は、それを見つめてはこう言った。


魔王(……相も変わらず、見てくれは立派なものだ)

悪魔「………綺麗…」


……と。


勇者「……こ、これ…?」

魔王「驚いたような顔をするんじゃない、これだけの民衆の前で啖呵を切っておきながら間抜けな声を出すのか?」ボソボソッ

勇者「~~~……」

勇者(魔王が、この剣を僕に…?)

勇者(でも…この手に馴染む感触はなんだろう?)



< 「「 勇者様万歳ッッッ 」」

< 「「 魔王様万歳ッッッ 」」



勇者(……っ)

魔王「悪いが今は耐えてもらうぞ」

勇者「え?」

魔王「……」

勇者(今……なんて?)



< 「「オオオオオオオオオオオオ!!!!」」


術王(頃合い、でしょうかね?)チラッ


勇者と魔王が互いに手を取り、勇者にとっては全くの正体不明の敵と戦う事を誓う。

それを目にした数千の集まった者達が歓声を更に大きくさせた。

それぞれが様々な思いを胸に、その様子を目に焼きつけていく。


騎士王(だな)チラッ

剣王(問題ない)

剣王(……最後のサプライズと、テストだ…若き日の勇者さんよ)クイッ


この希望に満ち溢れた民衆の顔を絶望に染めない事を願いながら。

仮面の奥で憂鬱とした瞳を覗かせる剣王が、合図を送る。


私に、だ。


仮面(……勇者)

仮面「私の期待を裏切らないで下さいね」キィィィンッッ

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