盗賊・遊び人・商人「ヒマだ」 (212)


盗賊「ねー、マスター依頼無いのー?」

マスター「ありやせんなー、戦闘職や魔法職指定の依頼ならたくさんあるんだがねぇ」

遊び人「まーたそれかよー」

商人「ま、しゃーないやろ、アタシら戦闘力はゼロみたいなもんや」

盗賊「アタシは違うんだけどなー」

遊び人「つったって戦士や武闘家には遠く及ばないだろーが」

盗賊「そりゃそうだけどさー……」

カランカラン

マスター「らっしゃーい」

吟遊詩人「おや、いつもの面々がお揃いで。元気かい?」

盗賊「元気じゃねーよ、相変わらずヒマでしょーがねーよ」

遊び人「いつもの面々って、お前らだって常連じゃねーか、ココの待機組のよ」

錬金術士「うるさいわね、別にいいじゃないのさ」

占い師「まあそういがみ合うでない、仕事にあぶれた者同士、いがみ合ったところで虚しいだけじゃろ」






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錬金術士「だいたい、なんでアタシらみたいな職業が冒険者ギルド登録職なんだろうね」

遊び人「ま、確かにな。盗賊や詩人はまだ分かるが、俺なんて遊び人だぞ?冒険の何に役にたつんだか」

盗賊「アタシはダンジョンなんかでずいぶん役に立つハズなのに……ぶちぶち」

占い師「どっちにせよ本職の戦闘職や魔法職に比べたら、役に立つとは言えぬのう」

吟遊詩人「ま、とはいえ食うのに困りもしないからねえ」

盗賊「むしろ、本業のおかげで食うに困らないってのがもっとタチわりぃよ、生殺しだわ」

錬金術士「何を言ってんのよ、錬金術は金かかるんだからね、食うのに困らない程度じゃ研究が進まないじゃないの」

遊び人「錬金術に金がかかるってのもおかしな話だな、錬金術士なんだから金を作れるんじゃないのかよ」

錬金術士「金を錬成して売ったりなんかしたらすぐに手が後ろに回るわよ」

盗賊「そうそう、見る人が見たら錬成品かどうかすぐ分かっちゃうかんね」

商人「てゆーかなんでアンタこそ手ぇ後ろ回ってへんのや……」

盗賊「アタシがそんなヘマするかっつーの」

カランカラン

マスター「へいらっしゃい」


???「この街の冒険者ギルドはココで良いのかな?」

マスター「へい、そうですぜ、見た所そんな剣ぶら下げてるって事はアンタもウチに登録に来たのかい?」

???「いや、そうじゃないんだ、ちょっと人を頼みたくてな」

マスター「お、そうかいそうかい、ウチにゃ戦士から魔法使いまでいい人材揃ってるぜ」

盗賊「……どうせ魔物退治の仲間募集かなんかだろ(ヒソヒソ)」

遊び人「ま、俺達にゃどうせ縁の無い話だ(ヒソヒソ)」

商人「たまにはアタシらご指名で、って声が聞きたいもんやなあ(ヒソヒソ)」

マスター「おーい!お前ら、どうせヒマなんだろ?ちょっとこっち来てくれや」

錬金術士「どうせヒマは余計だわよ!何の用なの?」

マスター「こちらの方がお前らに用があるそうだ」

商人「ほーん、わりとええ男やん、しかしアタシらみたいな残りモンに何の用や?」

マスター「おまっ、失礼な事言うんじゃない!こちらは先だって魔王を討伐なされた勇者様だ!」

遊び人「ふーん、勇者ねぇ……………ゆ、勇者ぁ!?!?」

盗賊「はぁっ!?勇者って、あの勇者の事!?」

勇者「ああ、どうも、初めまして、勇者です」ペコリ


マスター「急ぎで仲間が必要なんだそうだ……お前らを紹介するのは不安なんだが……何しろ急ぐってんでな」

勇者「いやいや、みなさん戦闘職や魔法職じゃありませんが、その道一流の方々である事はわかります」

勇者「さすが中央の冒険者ギルド、良い人材をご紹介いただきありがとうございます」

マスター「はぁ、まあそういっていただけるならそれで良いんですが……」

勇者「では皆様、改めまして、よろしくお願いします。ええと、マスターどこか人目につかずに話を出来る場所は」

マスター「そんなら二階を使ってくだせぇ、飲み物なんかは後でお持ちしますんで」

勇者「わかりました、では皆さん、上にご足労いただいてよろしいですか?」

遊び人「あーいよ、そんじゃマスター、ついでに俺ビールねー」

占い師「ワシもビールでよろしく頼む」

盗賊「あ、アタシは蜂蜜酒」

吟遊詩人「僕は黒茶をひとつ」

錬金術士「アタシはウィスキーロックで」

商人「ウチは白酒で。もちろん勘定は勇者もちやんな?」

勇者「ええ、もちろん」

マスター「へいへい(嘆息)」



盗賊「ゴッゴッゴ…プハァ~!!そんで、アタシらに一体何の用だい?」

遊び人「言っておくけど、ダンジョンなんかに連れていかれてもロクな働きは出来無いぜ?何しろ俺ぁ遊び人だかんな」

商人「ま、そういう用やったら正直、少し待ってでも戦士なり僧侶なり探す事をおすすめするわ」

勇者「いえいえ、そうじゃないのです。今私が欲しいのは戦闘職や魔法職ではなくて、あなた方のような人材なんです」

錬金術士「ふーん、それなら話を聞こうかしら?でもその前に、貴方、本当に勇者様?」

勇者「ええ、一応……こちらが『勇者の証』です」(ピカァァ)

吟遊詩人「確かに、風貌も英雄譚に謳われる勇者の姿に相違ないし、間違いなさそうだね」

占い師「しかし、魔王を斃した勇者どのがまたなんでワシらなんぞに?」

勇者「そうですね……一言で言うなら、今回の相手は人です。ですから、皆さんのような技能が必要なのです」

錬金術士「へぇ?」

盗賊「ふーん……ま、じゃあとりあえず詳しく聞こうか?」

勇者「ええ、ただ、その前にまず皆さん自己紹介をお願いできますか?」

勇者「ついでに、お使いになる技能についてもご説明いただけると助かります」



盗賊「そうだね、まだちゃんと自己紹介してなかったね。アタシは盗賊」

盗賊「鍵の解錠、罠の設置と解除、あとはスリに変装、隠密行動に軽業。得物はナイフ、一応暗殺もできるよ」

商人「ウチは商人や。基本技能は鑑定と交渉。あとは市場の分析とか、資金があれば相場の操作なんかも出来るで」

商人「得物は一応槍やけど、正直荒事ではアテにせんで欲しいトコやな」

占い師「ワシは占い師。透視に遠視、ダウジングあたりが得意じゃな。あとは予知が少々、といったトコかの」

占い師「得物はカードと、簡単な魔法も使えるが、荒事が苦手なのは商人の嬢ちゃんに同じくじゃ」

錬金術士「アタシは錬金術士。薬品調合や魔法アイテムや魔法生物の生成、あとは物質の変性と簡単な魔法が使えるわ」

錬金術士「得物は特に無い、というか薬品とペンを持ってないと錬金術は使えないからね」

吟遊詩人「僕は吟遊詩人。基本技能は呪歌だ。だいたいの歌は歌えるよ」

吟遊詩人「得物はリュートかフィドルだが、まあ殴り合いなんて野蛮な事は他に任せるよ」

遊び人「俺ぁ遊び人だ。何が出来るって聞かれると困るが、夜遊びとギャンブルに関しては任せてくれ」

遊び人「得物なんてモンはねーよ、危なくなったら逃げる、それが俺の信条でね」


勇者「ありがとうございます。では、今回の仕事の概要を説明しますが、この事は他言無用でお願いできますか?」

盗賊「これでもアタシらプロだかんね、仕事の事をヨソにベラベラ喋ったりはしないよ」

勇者「確かにそのとおりですね、失礼致しました。では、まず皆さん終わりの王国をご存知ですか?」

商人「魔族領に一番近い王国やな、特産品は魔石とミスリルやったかな」

遊び人「あとデッカいカジノがあるな、いつか行ってみたいと思ってたトコだ」

勇者「そうです。交易の要所で、各地から多くの人が往来しています。」

勇者「戦中は、その特産品を使い、魔王軍の侵攻を食い止めていた軍事的要衝でもありました」

吟遊詩人「魔族との和平が実現されてからは人魔交流の場としても栄えているとか」

勇者「はい、おかげで城下には多くの親人派魔族が流入し戦前以上のにぎわいを見せています」

勇者「ところが、この国で、何か不穏な事がおきつつあります」

盗賊「不穏な事?」

勇者「ええ、この国に数多くの魔族が入ってきているというのは先ほどお話した通りですが」

勇者「実は、その魔族の行方不明が相次いでいます」



勇者「魔族というのは、種族にもよりますが、大抵が高い戦闘力を誇ります」

勇者「その魔族が行方不明になる、というのはただごとではありません」

遊び人「その原因を探るのが仕事ってワケかい?」

勇者「ええ、その原因を探り、大元を断つ、それが今回あなた方への依頼です」

盗賊「ふーん、でもさ、なんで魔族が行方不明になったって分かったんだい?」

吟遊詩人「確かにね、ただ単にその街を離れただけという可能性は?」

勇者「その可能性はほぼ無いと踏んでいます。理由の一つとしては、私自身が魔族から相談を受けているからです」

商人「なっ、魔族が!?」

勇者「ええ、彼らとはその昔死闘を繰り広げましたが、彼ら全てと折り合いが悪いわけではありません」

勇者「むしろ、魔王の圧政から解放した、という見方をしてくれる者も居ます」

勇者「もちろん、主君の敵として恨んでいる者も数多く居ますが」

盗賊「そんで?理由の一つ、って言うからにゃもう一つあるんでしょ?」



勇者「ええ……ただ、こちらは確かな証拠があるわけではないんですが……」

勇者「どうやら、魔族の人身売買が行われているようなのです」

遊び人「はぁっ!?魔族を人身売買?あんなモン買ってどうしようってんだ?何の役にも立ちゃしないだろうに」

錬金術士「いや、そうでもないわ…魔族の身体からしか取れない素材ってのは沢山あるから」

占い師「それに、様々な研究にも使えるじゃろうな……魔族というのは魔力の塊のようなものじゃからな」

勇者「ええ、もっとも、それについては確証はありません」

勇者「ただ、私のカンでは、おそらく間違いは無いでしょう」

吟遊詩人「一つ聴いていいかな?」

勇者「何でしょう?」

吟遊詩人「魔王を倒した勇者様といえば、世界中で名声高い英雄だ」

吟遊詩人「その貴方が終わりの国の国王なり将軍なり、しかるべき人物に談ずれば」

吟遊詩人「我々などに頼るよりもよほど力強い味方になってくれると思うんだけどね?」

勇者「それはできません……まず、この事が明るみに出れば魔族と人間の関係は大騒ぎになるでしょう」

勇者「終戦からわずか5年、人魔双方に未だにわだかまりは解けていません」

勇者「今そこで、人間が魔族を囚えて売買していた、などという事があれば、再び両者の関係は凍りつくでしょう」


盗賊「ふん、要するに事を荒立てないために、アタシらに依頼してきた、ってワケかい?」

勇者「ええ……それともう一つ………」

遊び人「国の中枢に敵が居る可能性がある?」

勇者「はい。魔族を捉え、それを売買する、それだけ大掛かりな事を政府にバレずに隠しおおせるでしょうか?」

勇者「どちらかといえば、内部に協力者が居る可能性が高いと考えています」

勇者「ですから、その黒幕を暴き、この事態を隠密裏に解決するためにも皆さんの協力をお願いしたい」

商人「……ええやろ、話はわかった。ウチはその話受けるで。面白そうや」

盗賊「つーか、どうせココでゴロゴロしてたって依頼なんか来ないからね」

吟遊詩人「僕は是非もない。伝説の勇者と旅が出来るだけで新曲がいくらでも書けるからね」

錬金術士「アタシも異議はないわ」

占い師「ふむ……ワシの占いでは、この依頼は吉と出ておる。ワシも行こうかの」

盗賊「爺さんの予知はいつもヘッポコだからなぁ……ま、みんな覚悟した方がいいかもね」

占い師「なんじゃと!」

一同「(笑)」



勇者「では、皆様、改めてよろしくお願いします」

一同「よろしくー!」

勇者「さて、それでは段取りですが、まず終わりの国に旅立つのは1週間後です」

勇者「それまで、それぞれ少し準備をお願いします」

勇者「まずは錬金術士さん、こちらのアイテムをそれまでに用意お願いします」

錬金術士「……わかったわ、結構色々使うのね」

勇者「それから、商人さんは拠点の確保のために、先発して終わりの国で店を開いて下さい」

商人「ほいな」

勇者「盗賊さんは、拘束系の罠と変装用の材料を各種多めに用意して下さい」

盗賊「あいよ」

勇者「他の方々は現地に着いてからの活動になりますので、一週間はお休み下さい」

勇者「準備にかかる経費は私に請求して下さい。費用はいくらかかっても構いません」

遊び人「そいつは豪気だなー」

勇者「……あの、ただの飲み代は経費に含まれないですからね?」

遊び人「ぐぬぬ」



--- 一週間後 終わりの国 ---

商人「ほな、2000Gになりますー」

客「あいよ、それにしてもココはいいモン置いてるねー、ねーちゃん」

商人「おおきに、ウチんトコは品揃えには自信ありまっさかい」

客「いいねー、ねーちゃんも可愛いし、また寄らしてもらうよ」

商人「はいな、ほなまたごひいきに~~」ヒラヒラ

商人「さて……そろそろ店じまいやな」ガラガラ

トントン

商人「なんや、もうカンバンやでー」

勇者「商人さん、私です」

商人「お、ようやくご到着か」

勇者「さすがですね、僅か1週間でずいぶんと繁盛してらっしゃる」

商人「褒められるほどの事ちゃうわ、あんだけ資金用意してもろたらこんなんイージーモードや」

勇者「いやいや、それも商人さんの才覚あっての事です」




商人「ほな二階上がろか、言われたモンは用意しといたで」スタスタ

商人「長机に椅子に、あとはコレがこの街のでっかい地図(ピラッ)向こうに縮尺別であと二枚な」

商人「こっちの壁は黒板になっとる、あと、こっちは変装用の小道具とか化粧品やな」

商人「それから、こっちは占い師用の水晶球や魔法鏡」

占い師「ぬほぉぉ、ずいぶんええのを買ったのう~」

商人「勇者がいいの買っとけって言わはるからな」

勇者「この仕事は儲けが目的じゃありませんからね、道具は良いものを使うに越した事はありません」

商人「上は個室になっとる。ココに寝泊まりする時は好きな部屋使ったらええ」

勇者「バッチリですね、さすが商人さん」

商人「こんだけ条件揃った物件、よー見つけて来はったな」

勇者「魔王討伐の時に色々コネができましたので、知人に探してもらいました」




勇者「さて、ではまず作戦の準備の前に、錬金術士さん、道具の方をお願いします」

錬金術士「結構苦労したわよ、1週間でこれだけ揃えるのは」

錬金術士「まず、みんなこの耳飾りをつけて」

商人「なんやコレ?見たことないアイテムやな」

錬金術士「これは念話の耳飾り。離れていてもお互いの声が聞こえるわ」

錬金術士「効果範囲はまあこの街の中ならば大体通じると思って大丈夫」

錬金術士「ただし、聞かせたい相手を思い浮かべないと声は届かないから気をつけてね」

錬金術士「それからこっちは道具袋。色々とはいってるけど、中身については後で説明するわ」

錬金術士「こっちの符はホムンクルス召喚用の魔法陣。種類別に色分けしてあるわ」

錬金術士「あとは、魔法薬は劣化が早いモノもあるから、材料だけ持ってきてある。必要に応じて錬成するわ」

勇者「ふむふむ確かに。お疲れ様です、ありがとうございました」

勇者「では、作戦会議を始めましょう」

全員「はーい」「へいへい」「あいよー」ガタガタ



勇者「まずは、必要なのは情報収集です」

勇者「とにかく、魔族の人身売買などという事が行われているとしたら、恐らくそれは裏社会での出来事でしょう」

盗賊「そりゃそうだろ、表立って出来るような事じゃないわ」

勇者「もちろん、裏にこの国の権力者が居る可能性は高いですが」

勇者「恐らく国の方にはその秘密を知っている者は多くは無いでしょう」

勇者「実際にそれらを行っているのは何らかの裏社会の者達だと思います」

盗賊「そんじゃアタシの出番かな?」

勇者「それは可能性はありますが、しかしいきなり正面から行ってもそう簡単に尻尾はつかめないでしょう」

商人「ほなどうするんや?」

勇者「まずは取っ掛かりを作るところから行きましょう」

勇者「つまり、この店について黒い噂を流します」

商人「なっ!?」

勇者「ココでご禁制の品がこっそり取引されている、という噂を流すのです」

勇者「そうしたら、裏社会の人々はどう出ます?」

盗賊「当然シマ荒らしだから、怖いお兄さんたちがやってくるだろうね」

勇者「そうですね、そこでまず一つ裏社会との繋がりが出来ます」

勇者「そこから、問題の魔族を人身売買している組織へと捜査の網を広げて行くというわけです」

錬金術士「なるほど、もしかしてこの色んな薬品もそのために揃えたってわけ?」

勇者「その通りです」



勇者「さて、ここから皆さんの役割ですが」

勇者「まず、占い師さんと錬金術士さん」

勇者「あなた方は後方支援です。ここに居て、情報の集約と中継をお願いします」

占い師「何をしたらええんじゃ?」

勇者「基本的には、占い師さんには仲間の動向を追ってもらいます」

勇者「さきほどの地図上で、仲間の居場所がすぐわかるようにダウジングしていただくほか」

勇者「仲間がどこかに出かける時は遠視で追ってもらう可能性もあります」

占い師「なるほど、しかし常にダウジングとなると結構魔力を食うのう」

勇者「そこで、錬金術士さんの出番です」

錬金術士「なるほど、魔力の回復薬を作っておけ、ってワケね?」

勇者「そうです。あとは、錬金術士さんには必要に応じて色々な物を錬成していただく事も多いと思います」

錬金術士「ま、そりゃ本業だから任せて頂戴」

勇者「ちなみに、外に出て顔を見られると厄介な事になる可能性もありますので」

勇者「仕事が終わるまではココに篭っていただきます」

占い師「なんじゃ、つまらんのう、せっかく遠くの街まで来たというのに」

勇者「危険を避けるためです、ご理解下さい」

錬金術士「外に出ないでも良いなんてアタシとしちゃ願ったりかなったりだわ」

占い師「お前さんは引きこもりじゃからそれでいいじゃろうが・・・ぶつぶつ」



勇者「逆に、外に出ていただくのは遊び人さんと吟遊詩人さんのお二人です」

吟遊詩人「良かった、僕までこの家に閉じこもれなんて言われたらどうしようかと思ったよ」

遊び人「全くだな、んで、何すりゃいいんだ?」

勇者「基本的には、お二人ともご自分の職業に忠実に動いていただければ結構です」

勇者「遊び人さんには、表も裏も知り尽くしたベテランの遊び人として、夜の街で顔を売っていただきます」

遊び人「そりゃ俺の大得意だが、そんなんでいいのか?」

勇者「ええ、ただ、一つ注意していただきたいのは、カジノではあまり大勝ちしないで下さい」

勇者「情報収集の段階で、あまりカジノ側から目をつけられるのは得策ではありません」

遊び人「えー、なんだよ、せっかく腕の見せどころなのによ」

勇者「どちらかと言えば、気前よく金を使ってキレイに遊ぶという印象を植え付けて下さい」

遊び人「まあ良いけどよ・・・・ワザと負けるってのも難しいんだぜ?」

勇者「それこそ腕のみせどころでしょう?」

遊び人「まあ・・・・そりゃそうだが」




吟遊詩人「僕はどうすればいいんだい?」

勇者「貴方には上流階級のパーティなどに潜り込んでいただきます」

吟遊詩人「無茶を言うね、いきなり他所から流れてきた馬の骨がそんな所に入れてもらえるワケがないじゃないか」

勇者「そこは私のコネでなんとかします」

吟遊詩人「ほう・・・さすがは勇者様というわけですね」

勇者「そこで、なるべく多くのご婦人方の気を引いていただきます」

吟遊詩人「ま、それは任せておいてくれ」

盗賊「出たよ女ったらしが・・・」

吟遊詩人「それが僕の仕事だからね。泥棒にどうこう言われるほど悪い事をしているつもりは無いけどな」

盗賊「ちっ」

勇者「もちろん、男性でも良いですが、吟遊詩人さんの外見を考えればご婦人方の方が簡単でしょう」

勇者「それに、上流のご婦人というのは、言い方は悪いですが、あまり深くモノを考えない方が多いですので・・・」

吟遊詩人「ま、騙しやすいって事だね」

勇者「平たく言えばそういう事です」



盗賊「んで、アタシは?」

勇者「貴方は今のところ申し訳ありませんが、待機です」

盗賊「えー、何だよそれ」

勇者「恐らく、事が進むにつれ潜入や尾行などの仕事をしていただくと思いますが」

勇者「今のところその対象が居ませんので、しばらくお待ち下さい」

勇者「それと、おそらく今回のチームで最も芝居が達者なのも貴方でしょうから」

勇者「今後"誰か"の役が必要になった時に備えて顔を知られないようにお願いします」

盗賊「わかったよ、しょーがねーな」

勇者「そして、商人さんは当分はこのまま店の経営をお願いします」

商人「あいよ」

勇者「但し、役どころとしてはあくまで"裏では怪しげな商売をしている商人"です」

勇者「別に店に出ている時は普通の商人の顔で結構ですが、一応頭に入れておいて下さい」

商人「了解や」

勇者「それでは、次に占い師さん、例のアレお願いします」



占い師「うむ、お主ら、髪の毛を一本ずつワシにくれ」

遊び人「髪の毛?」

占い師「そうじゃ、コイツにそれを入れる」

盗賊「なにその不格好な人形」

占い師「お主らのうつし身じゃ、いいからさっさとよこさんかい」

商人「なんや気味悪いな、変な事に使わんといてな」プチッ

占い師「変な事ってなんじゃい、コレをこうしてな・・・ほれ」

吟遊詩人「なるほど、それぞれの髪の毛を入れた人形が、地図の上で今居る場所に動く、と」

占い師「そういう事じゃ」

勇者「今回の仕事、危険はなるべく避けますが、万が一という事もあります」

勇者「そのような場合でも、これがあれば・・・」

錬金術士「いつでも居場所が分かるからすぐに助けに行ける、というわけか」

勇者「そうです」

勇者「明日から本格的に動きますので、今夜中に準備は済ませておきましょう」

勇者「具体的には・・・・・ゴニョゴニョ」




-- カジノ --

遊び人「っかぁ~!!やられた!!!」

ディーラー「ジャラジャラ」

遊び人「くっそぉ~~!絶対流れキてると思ったのによぉ~~~!!」

ディーラー「お続けになりますか?」

遊び人「ったりめぇよ!!ココで引き下がっちゃ男が廃るってモンだ!」

ディーラー「では次のゲームです」

遊び人「今度こそ負けねーぞ!!」

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--------

支配人「あの客か、最近派手に遊んでるってのは」

黒服「はい、ここ数日通いつめているようです」

支配人「お前の見立ては?」

黒服「まあ、典型的なギャンブル好きですね」

黒服「特にイカサマを狙っている様子もありませんし、良いカモかと」

支配人「ふん、なら大事に搾り取れ、ああいうのが一人居ると、周りも熱気にアテられて自然と賭け金が増えるもんだ」

黒服「はい、程よく勝ち負けさせておくようにディーラーには言ってあります」




遊び人「おっしゃ!!!読み通~~~~り!!!」

ディーラー「おめでとうございます」ジャラジャラ

遊び人「うっひょっひょっひょ」

ディーラー「お続けになりますか?」

遊び人「あー、いや、ちょっと疲れたな、一回引くわ」

ディーラー「お疲れ様でした」

客2「じゃあ俺もだ、すっかり負けがこんじまった」

客3「そんじゃ俺もちっと休むかな、一旦熱くなったアタマを冷やさないと」

遊び人「なんだい、みんなしてお休みかい?そんじゃせっかく勝ったことだし、一杯奢るぜにーちゃんたち」

客2「お、そうか?悪いね、じゃあお言葉に甘えるとするかな」

ギャラリー「(オイオイ、勝ったって言ったって最初の負け取り戻しただけじゃねーか)」

ギャラリー「(典型的なアホだな、見てて面白いわ)」


遊び人「オイ、俺にキンキンに冷えた白酒を頼むわ、あとこっちの二人に・・・にーちゃんたち何にする?」

客2「じゃあ麦酒を一つ」

客3「俺は蜂蜜酒にするかな」

遊び人「つーことで頼むわ、俺の奢りだ、あとコイツはアンタにチップな」チャリーン

バーテン「ありがとうございます」

遊び人「とりあえず乾杯と行こうや」

客2「お、ごちそうになるぜ、乾杯ー!」

客3「カンパーイ」

客2「それにしてもアンタ随分豪気な賭け方するねえ、見てて惚れ惚れするわ」

客3「全くだ、勝っても負けても腐らないし、遊びってモンが分かってるねえ」

遊び人「そりゃよ、せっかくカジノに来てんだ、パーっとやらなきゃしょーがねーだろ」

客2「ちげえねぇ」

客3「俺もそんな賭け方してみてぇモンだわ」

客2「ま、そんな金ねぇけどな」




遊び人「別に賭ける金の大小なんてどうでもいいじゃねーか、肝心なのは楽しむ事よ!」

客2「それにしたって、アンタの賭け方は太くて見てて気持ちいいわ」

客3「一体昼間は何してるんだい?」

遊び人「ん?あ?そんなんどうだっていいじゃねーか」

客3「そりゃそうだが、あんだけの金賭けられるってのはタダモンじゃないぜ?」

遊び人「まあそう言うなって、別に大した事ぁしてねぇよ」

遊び人「こんなトコに来て昼の話するなんて野暮にも程があらぁ、酒がマズくなっちまうじゃねーか」

客2「そりゃ道理だな、仕事の事なんて思い出したらせっかくの夜が台無しだぜ」

客3「それもそうか、悪かったな、忘れてくれや」

バーテン「・・・・・・・・・・・」

遊び人「おうよ、それはそうとよ、夜の街っつったら、カジノも良いけどよ、もう1個あんだろ?お楽しみは」

客2「お、そっちもイケるクチかい?」

遊び人「そらお前、男に生まれてきてソイツを忘れちゃいけねぇよ」

遊び人「ただよ、俺ぁまだこの街に着いて間がなくてよ、どっか良いトコ知ってるかい?」

客2「そうだな、それだったら3番街のウンヌンカンヌン・・・」

客3「いやまてあそこにはトロルみてーな女がナンタラカンタラ・・・・・」



-- 某貴族の館 --

吟遊詩人「交わした約束~~~♪」ボロロン

貴婦人A「なんて美声なのかしら」

貴婦人B「本当に、しかも見目も麗しくて」

貴婦人C「どこから来たのかしらねえ」

吟遊詩人「神話にな~~る~~~~~♪」ジャン!

パチパチパチ

吟遊詩人「ありがとうございます」ペコリ

当主「いや、見事であった」

吟遊詩人「これはこれは、ご当主どの自らとは恐れ多い」

当主「南方公の紹介であるからには間違いはあるまいと思ったが」

当主「想像以上の名手よな、うむ、後で褒美を遣わすゆえ」

吟遊詩人「は、ありがたき幸せでございます」





当主「時にな、来週に大臣の館で園遊会があるのじゃが」

当主「その折にワシの供をして一曲吟じてはみぬか?」

吟遊詩人「大臣どの!?そのような場に私のような者が?」

当主「いやいや、おぬしの美声にはそれだけの価値がある」

当主「連れて行けばワシの鼻も高いというものよ、どうじゃ?」

吟遊詩人「否なハズがございましょうか、是非ともお供させていただきます」

当主「では決まりじゃな、あー、ちょっと来い」パチン

召使「はい、ご主人様」

当主「この者に褒美を渡しておけ、家令に用意させてある」

召使「かしこまりました」

当主「それから、この者の滞在先を聞いておけ」

召使「はい」

当主「では、頼んだぞ」

吟遊詩人「はい、どうぞよろしくお願い申し上げます」


-- 商人の店 --

勇者「おかえりなさい」

遊び人「あー飲んだ飲んだ、水くれ水」

錬金術士「そこにあるから自分で汲みなさいよ」

遊び人「かーっ、うめぇ」

勇者「どうですか?感触は」

遊び人「そうだな、まあ大分派手に遊んだからな、顔も知られてきたとは思うぜ」

遊び人「これからは色街の方にも手を広げようかと思ってるところだ」

勇者「分かりました、そろそろ周囲も貴方の正体が気になってくるところだと思いますので、注意して下さい」

遊び人「おうよ、任せとけって」

占い師「吟遊詩人がそろそろ帰って来るぞい」

勇者「あちらもそろそろですかね」

ガチャ

吟遊詩人「ただいまー」

勇者「おかえりなさい」




吟遊詩人「いやあ、すごいね、さすが上流の方々は気前が良い」ジャラ

商人「おっ、ナンボ稼いで来たんや!」

吟遊詩人「全く品の無い・・・」

商人「アホ言うな、品性で腹が膨れるかっちゅーねん」

勇者「まあまあ、それで、いかがです?首尾は」

吟遊詩人「来週、大臣の園遊会に誘われたよ」

勇者「なるほど、ご婦人方の反応は」

吟遊詩人「それは抜かり無いよ、今日もそのまま寝所に引っ張りこまれかねない勢いだった」

勇者「さすがですね、園遊会ともなれば、かなりの方がいらっしゃるでしょう」

勇者「そろそろご婦人方との距離も縮めてみて下さい。寝所までは行かなくても良いですけど」

吟遊詩人「まあ、僕にも美的感覚というものがあるからね、褥をともにするのは美女だけにしておきたいね」

勇者「ただ、あくまで自然に、というのをお忘れなく」

吟遊詩人「心しておくよ」






-- 色街 --

娼婦「ああもう最高、ねえ、もう一回する?」

遊び人「まあ待て、ここらで一服しようじゃねーか」

娼婦「そう?まあそうね、汗かいちゃったしね」シュボッ

娼婦「吸う?」プカー

遊び人「ああ」プカー

遊び人「(この痩せ方、目の色からして、コイツは多分間違いねーな)」

遊び人「タバコも良いけどよ、もっと良いモンがあんぜ?」

娼婦「え?」

遊び人「え?じゃねーよ、何気取ってんだよ」

遊び人「良いモンって言ったら決まってんじゃねーか、子供じゃあるめーし」

娼婦「何かしら?」ギラギラ

遊び人「(おーおー目ぇギラつかせちゃって・・・)」

遊び人「コイツはすげぇぞ、出どころは言えねーがな」

娼婦「えー、なんだか怖いわ」ギラギラ

遊び人「ほれ、舌出しな」





-- 園遊会 --

吟遊詩人「太陽の風~~~背に受けて~~~♪」ボロロン

パチパチパチ

吟遊詩人「ありがとうございました」ペコリ

大臣「良い声じゃの、まさかお主がこのような名歌手を知っておるとは」

当主「いやいや、大臣どのほどではございませんが、私も芸術を愛する身でございますからな」

吟遊詩人「(鼻高々って顔だな、とりあえず僕の役目は果たしたというところか)」

当主「うむ、ご苦労じゃった、大臣どのもお喜びだったぞ」

吟遊詩人「ありがたきお言葉です」

当主「まあ、後は好きにそこらを回って良いぞ、帰りにワシの従者より褒美を受け取って帰れ」

吟遊詩人「はい」

吟遊詩人「(さて、と・・・)キョロキョロ」

吟遊詩人「(む、あの婦人は見るからに不安を抱えている顔だな)」

吟遊詩人「(周りに居るのもいかにも火遊び好きといった風情の婦人たち)」

吟遊詩人「(まずはあの辺から攻めてみるか)」




貴婦人A「・・・というわけでございますの」

吟遊詩人「なんと、それではまるで悲恋の物語のよう」

貴婦人A「そうなのよ、もう夜も眠れなくて」

貴婦人B「でもね、この方の旦那様はそりゃあもうヤキモチ焼きでね」

貴婦人B「だから一回だけ逢引の手伝いをしたのよ」

貴婦人C「そうしたら、ますます恋心に火がついちゃったみたいでねえ」

貴婦人A「せめて心安らかになれますよう、何か歌ってはいただけませんか?」

吟遊詩人「それでは、そうですな、とある騎士と姫の許されざる恋の歌をひとつ」

吟遊詩人「と、その前に、こちらを差し上げましょう」スッ

貴婦人A「これは?」

吟遊詩人「これはさる東方の薬師からもらった妙薬、心を落ち着けて、身体を楽にしてくれます」

吟遊詩人「貴女のような心優しきご婦人が夜も眠れず、その美貌に陰りが生まれてはこの世の損失でございます」

吟遊詩人「私ごときの歌だけでは、その深き心の傷を慰める事ができるかどうか・・・」

吟遊詩人「せめてもの助けになれば、と、この未熟な歌い手が貴女さまにできる精一杯の悪あがきでございます」

貴婦人B「(ピン)あら、あの、そのお薬は他にもございますの?」

吟遊詩人「おお、貴女までもがそのような物を必要とされると申される?」

吟遊詩人「一体女神は何をなさっているのでしょう、この世の美女という美女に不幸をお授けになるのが神のなさりようなのでしょうか」

貴婦人B「ああ、どうかお気になさらないで、でも、どうしてもね、眠れない夜というのがございまして・・・」

吟遊詩人「それでは、こちらをどうぞ。この薬はとても強い薬でございます故、くれぐれも使いすぎにはご注意を」

貴婦人B「そんな貴重なお薬を・・・せめてお礼にこちらの簪でも・・・」

吟遊詩人「なんと!貴婦人のつけられた簪など私には勿体無くナンタラカンタラ」

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-- 数日前 --

勇者「あなた方には、麻薬の売人を装っていただきます」

遊び人「はぁ!?」

吟遊詩人「売人!?」

勇者「ええ、禁制の品で、最も用意がしやすく、かつ人脈を広げやすいのが麻薬です」

吟遊詩人「まってくれ、僕はご婦人を不幸にするようなマネは・・・」

勇者「それは大丈夫です、本物の麻薬ではありませんから」

遊び人「だけどそれじゃ買ったヤツにはすぐバレちまうだろ」

勇者「偽物といっても別に小麦粉を高値で売りつけようというのではありません」

勇者「錬金術士さん、お願いします」

錬金術士「本物の麻薬を売るのは言語道断、だけど偽物じゃ意味がない」

錬金術士「そこでアタシの腕のふるいどころってワケ」

錬金術士「コレが、スペシャル・ブレンドの偽麻薬」サラサラ

錬金術士「かなり高値の薬品や素材を惜しみなく注ぎ込んだ逸品よ」

遊び人「ふーん、コレがねえ・・・」

錬金術士「効果は幻覚、気分の高揚、疲労感の除去、などなど、巷で流行ってる麻薬と同じ」

錬金術士「使用すると、最初の一ヶ月は本物以上の依存性がある」

錬金術士「ただし、一ヶ月以上経つと、完全に依存性は消え、むしろこの薬の匂いに嫌悪感を覚えるようになるわ」

吟遊詩人「なるほど」


錬金術士「そして、こっちが中和剤」

錬金術士「あんた達は自分で使わざるを得ない状況になる場合もあるでしょう」

錬金術士「いくら一ヶ月しか依存性が続かないと言っても、大仕事の最中にラリってちゃ困るワケ」

遊び人「なーる、つまり自分で使う時はコイツで中和しとけって事か」

錬金術士「そういう事」

吟遊詩人「よくそんな都合の良い効果の薬が作れたもんだね」

錬金術士「そりゃ大変だったわ、そんなオーダー初めてだったもの」

錬金術士「とは言っても、昔から副作用の無いこういう薬は色々あったの」

遊び人「じゃあなんで流行らねーんだ?」

錬金術士「そりゃ売れないからよ、依存性がなかったら売人にとってはお得意様が作りにくいでしょ」

錬金術士「しかも、その割に材料が高価で入手しにくいのよ」

遊び人「なるほどねー」

錬金術士「今回はスポンサーに勇者様が居たからこそ作れたって代物よ」

勇者「まあ、今回の事は一刻も早く解決しなければいけませんからね、金に糸目を付けている余裕はありません」




勇者「さて、そんなわけで、お二人にはこの偽麻薬の売人になっていただくわけですが」

勇者「まず、遊び人さん」

遊び人「おうよ」

勇者「狙うのは、カジノでも色街でも構いませんが、なるべく常用者を狙って下さい」

勇者「理由は2つあります。まず、一つ目は当然ですが簡単に食いついてくるであろう事」

勇者「もう一つは、麻薬に触れた事の無い人間に、いくら偽とはいえ麻薬の快感を味わわせたくない、という事です」

勇者「この偽薬の依存性はなくなっても、他の麻薬に手をだすきっかけになりかねませんからね」

遊び人「なるほどな、さすが勇者様だ」

勇者「夜の街に詳しい遊び人さんなら、常用者の特徴は見分けられますね?」

遊び人「ああ、まあな・・・」

勇者「あと、あまり"プロ"の空気がある人間は避けて下さい」

勇者「ヘタをすると商売敵の可能性がありますからね」

遊び人「要はなるべくいいカモを見つけろって事だろ?」

勇者「まあ、言葉は悪いですがそういう事です」





勇者「それから吟遊詩人さん」

吟遊詩人「僕には麻薬の常用者なんて見分けられないよ?」

勇者「構いません、上流の人々は遊び方もわきまえてる方が多いですし」

勇者「経済力もありますから、高価な神殿の医療を受けられます」

勇者「神族が薬に溺れて身を持ち崩したりしたら家の浮沈に関わりますから」

勇者「例え依存したとしても、取り返しのつかない所に差し掛かる前に周囲が止めるでしょう」

吟遊詩人「貴族というのも楽じゃないですね」

勇者「そうです、彼らには彼らなりの苦労というものがありますから」

勇者「それこそ不安や焦燥から逃れたいと思っている方も多数居ます」

勇者「その様な人物に、気持ちが楽になる薬がある、などと持ちかけてみるのが良いでしょう」

勇者「もしくは、芸術家気取りの放蕩貴族などに、神の啓示がある、などと吹き込むのも良いかもしれません」

吟遊詩人「ああ、貴族の次男坊が下手の横好きなんてのは良くある話だねえ」

勇者「彼らはヒマを持て余していますから、何か新しい刺激があれば、噂は即座に広がります」

勇者「一人か二人に渡してしまえば、その後は噂を聞きつけた方々が勝手に寄ってくるでしょう」

吟遊詩人「わかった」

勇者「ただ、一つだけ気をつけて欲しいのは、司直や軍に関係する相手は避けて下さい」

吟遊詩人「そこまでマヌケじゃないよ、僕は」




-- 園遊会から数日後 --


遊び人「そろそろ日が暮れるか、今日もお仕事と行きますかね」

勇者「いってらっしゃい、そろそろ貴方の噂が広まっている頃かもしれません、気をつけて下さいね」

遊び人「おうよ、まあ何かあったらすぐコイツ(耳飾り)で連絡すっからよ」

勇者「お願いします」

バタン

勇者「盗賊さん」

盗賊「ん?」

勇者「今日から、遊び人さんに張り付いて下さい」

盗賊「お、やっと出番かよ、待ちくたびれたわ」

勇者「ただし、変装した上で、遊び人さんには気づかれないように」

盗賊「なんで?」

勇者「遊び人さんが貴女に気付いていたら、行動が不自然になる可能性がありますからね」

勇者「そうすると、周囲が何か訝しむかもしれません」

盗賊「そっか、そんで遊び人を見張って何を探したらいいの?」

勇者「基本的には遊び人さんを監視している人物が居ないかどうか、ですね」





勇者「あとは、万が一危険があったら、救出をお願いします」

盗賊「えー、そりゃこの中で戦えるのって言ったらアタシぐらいだけどさあ」

盗賊「本職に出てこられたら手に負えないよ?」

勇者「あくまで目的は救出ですから、正面からチャンバラする必要はありません」

勇者「引っ掻き回してその場を脱出できれば大丈夫です」

勇者「動向はこちらでもモニターしますから、何かあればすぐ私が駆けつけます」

盗賊「それは心強いね」

勇者「というわけで占い師さん」

占い師「ほいさ」

勇者「遊び人さんの遠視をお願いします。水晶球に投影して下さい」

勇者「今日からは出かける方は念のためにこちらでも見ておくようにします」

占い師「お安い御用じゃ」

盗賊「じゃあ、変装して出かけてくるわ」

勇者「お気をつけて」





-- カジノ --

遊び人「おっしゃーー来い来い来いっ!!!」

ギャラリー「アイツは今日も元気だな」

ギャラリー「一体何モンなんだろうな」

盗賊「・・・・・・・・・・・」

勇者『どうですか?盗賊さん』

盗賊『元気に遊んでるよ、賭けてる金額みたら目眩がしてきたわ』

勇者『さすがに堂に入ってますね、すっかり場に馴染んでます』

盗賊『そりゃホームグラウンドなんだから当たり前だよ』

勇者『それもそうですね、ところで、周囲の様子は?』

盗賊『そもそも注目の的だから、あの辺りの連中はみんな遊び人を見てるよ』

盗賊『でも、遠くからじっと見てる、みたいなのは、せいぜい支配人ぐらいかな』

勇者『支配人がそもそも怪しんでいるという可能性もありますから、一応注意しておいて下さい』

盗賊『わかったよ』




遊び人「ちくしょー、今日はツイてねぇなー、ちょっと水を入れっかなー」

ディーラー「お疲れ様でした」ジャラジャラ

常連A「おう、アンタ今日は調子悪いじゃねーか」

遊び人「うるせーや、まだまだ勝負はこれからだっつーの」

常連A「そりゃ俺もだわ、それはそうとよ・・・キョロキョロ」

遊び人「まあ、とりあえずあっちで一杯やろうや」

常連A「あ、ああそうだな」

テクテク

遊び人「アレか?(ヒソヒソ)」

常連A「ああ、まだあんだろ?(ヒソヒソ)」

遊び人「ココじゃ駄目だ、今日は人が多い(ヒソヒソ)」

常連A「じゃあ後で外でどうだ(ヒソヒソ)」

遊び人「2時間後にふたつ先の路地で(ヒソヒソ)」

常連A「わかった(ヒソヒソ)」

バーテン「・・・・・・・・・」




盗賊『勇者』

勇者『どうしました?』

盗賊『一人見てる、カウンターの一番奥、目付きが鋭い』

勇者「占い師さん、カウンター奥映せますか?」

占い師「む、ちょいまて、えーと・・・これでどうじゃ」

勇者「あ、そこですね」

盗賊『今バーテンと話をしている。見える?』

勇者『見えました、確かに独特の雰囲気がありますね、盗賊さんの見立てでは?』

盗賊『多分同業者のような気がする』

勇者『なるほど・・・とすると目的は監視や尾行ですかね・・・』

勇者『ともあれ、その男には注意しておいて下さい』

盗賊『わかった』





-- 二時間後 --

遊び人「あー、今日はこんなトコにすっかなー、おう、精算頼むわ」

黒服「本日もありがとうございました」

遊び人「なーにがありがとうございましただ、明日こそ取り返すかんな!!」

黒服「お待ち申し上げております」

バタン

常連A「そんじゃ俺も帰るかなー、今日は稼がせてもらったぜ!」

黒服「おめでとうございます、またのお越しを」

バタン

盗賊『例の男も帰ろうとしてる、どうする?』

勇者『他に怪しい人物は?』

盗賊『今のところ見当たらない』

勇者『では、ちょっと間を置いて貴女も店を出て、その男を尾けて下さい』

盗賊『オーケー』

盗賊「アタシも帰るわ」





-- カジノ付近の路地 --

常連A「じゃーな、ありがとよ」

遊び人「おうよ、まいどあり」

常連A「スタスタ」

盗賊「(客の方は出てったが見向きもしない、か)」

遊び人「さて、けーるかな・・・」テクテク

謎の男「スッ」

盗賊「(やっぱり遊び人が目的か)」

盗賊『やっぱりあの男は遊び人に張り付いてる』

盗賊『尾行や隠形に関してはかなりの手練だね』

盗賊『遊び人のすぐ後ろに居るのに、アイツは微塵も気づいてない』

勇者『むう・・・・・万が一の時にはすぐ動けるようにして引き続き尾行して下さい』

盗賊『了解』



遊び人「テクテク」

謎の男「スススス」

盗賊「コソコソ」

盗賊『もうすぐそっちに着く』

勇者『ええ、こちらでも見えてます』

盗賊『尾行は相変わらず張り付いてるけどどうする?』

勇者『とりあえずそのまま見張って下さい』

勇者『遊び人さんが戻った後どうするかが知りたいです』

盗賊『分かった』

遊び人「ただいまー」ガチャ

勇者「おかえりなさい」

遊び人「おう、俺はもう疲れたから寝るぜ」

勇者「おやすみなさいー」

盗賊『二階を見上げてる』

盗賊『動いた、東に向かってる』

勇者『東というと港の方ですかね』

盗賊『どうする?つけてみる?』

勇者『いや、今日はここまでにしましょう、戻ってきて下さい』

盗賊『分かった』

勇者「・・・・そろそろですね」




-- 翌日 --

商人「…と薬草と毒消し草でしめて250Gになりますー」

商人「ほいおおきにー」ヒラヒラ

商人「さーてそろそろ店じまいやな」

荒くれ「邪魔するぜ」ガチャ

商人「あ、すんまへん、もう今日はカンバンですわ」

荒くれ「そりゃ丁度いい、ちょっと話があってな」ズイ

商人「な、なんやアンタ・・・」タジ

荒くれ「おう、ココに遊び人ってヤツが居るだろ?ソイツ出してもらおうか」

商人「な、何の話や・・・」

荒くれ「シラ切るってのか?おい、お前ら」パチン

チンピラA「うーす」

チンピラB「ちーす」

荒くれ「俺たちはネエちゃんとたっぷり楽しんでから話聞かせてもらうってのも悪くないんだけどよ」

荒くれ「ネエちゃんも、もしかしてそっちの方が良いのかい?」ズイ

商人「ヒッ」

??「おい、何の騒ぎだ」

商人「(ホッ・・・・・って誰やコレ!?)」

荒くれ「ボスの登場かい」


商人「あ、その・・・(え、勇者やんな?)」

髭面「ウチの看板娘に何の用だ?アンタら」

荒くれ「別にちょっと挨拶しただけよ、用があんのは遊び人って野郎だ」

髭面「誰に用でもいいが、店先にそんなゾロゾロ立たれちゃ近所迷惑だ、中に入ってくれ」

荒くれ「アンタが代わりに俺たちの用を聞いてくれるってんならそれでも良い、おい、こっち入れ」

「へい」「うす」「・・・」ゾロゾロ バタン

髭面「おい、閉店のフダ出しとけ」

商人「あ、は、はいな」

商人「(変装・・・してるんか?声も違うし・・・でも服は今朝の勇者の格好と変わらへんし・・・)」

髭面「で、アンタたちは何者だ?」

荒くれ「なぁに、そっちのネエちゃんと同じく真面目な商売人よ」

髭面「ほう、じゃあ何か良い商談でもあるのか?」

荒くれ「良い商談になるかはそっち次第さ」

荒くれ「アンタたちはどうもこの街に来て短いから知らないみてぇだが」

荒くれ「この街の商売人にもしきたりってモンがあってな」

荒くれ「ソイツを教えてやった方が良いんじゃないか、って親切な人たちが言ってるんだわ」

髭面「ほう、それでわざわざ教えにやって来てくれた、と」

荒くれ「そういう事だ」

髭面「・・・・・・・・」

荒くれ「・・・・・・・・」



髭面「じゃあ、その"しきたり"ってのを聞こうじゃないか」

荒くれ「なあに、別に難しい事じゃない、この街に居る先輩方にアイサツさえしておけばいいのよ」

髭面「ほう」

荒くれ「ま、老婆心から言うなら、アイサツの時にはちゃんと手土産を持っていくこったな」

荒くれ「手土産ってのは気持ちだからな、中身は別になんだって良いけどな、気持ちがこもってるってのが重要よ」

荒くれ「なんだったら、ココにいる嬢ちゃんを手土産がわr・・・う」

髭面「おめぇ、今なんつった?」ザワッ

「ヒッ」「ウッ」

荒くれ「い・・・・いや・・・・」タジッ

商人「(ひえっ、なんつー殺気や・・・ウチまで震えが止まらへん)」ガタガタ

髭面「・・・・・・・・・・・」ジィッ

荒くれ「あ、じょ、冗談だよ、冗談!!」ダラダラ

髭面「・・・・・・・・・わかってるよ、冗談だよな」フッ

荒くれ「ホッ」

髭面「アンタはどうもジョークのセンスは無いようだな、気をつけた方がいい」

荒くれ「あ、ああ」タラ-




髭面「まあいい、俺たちは別にこの街を荒らしに来たワケじゃないんだ」

髭面「ただ商売しに来ただけでな、ご同業と上手くやっていけるならその方がいい」

荒くれ「そ、そうかい?」

髭面「是非とも"しきたり"を守って仲良くやって行きたい、と、その親切な人達に伝えてくれ」

荒くれ「そ、そうだな、それがお互いにとって良いと思うぜ」

髭面「ただし、俺たちの仲間にナメた真似したヤツぁただじゃ済まさねぇ」ギロッ

荒くれ「あ、ああ、わかってるよ、手下どもにもキツく言っておく」

髭面「そうしておいてくれ、それで、いつ行ったらいい?」

荒くれ「え?」

髭面「アイサツだよ、お互い忙しい身だ、早い方がいいだろう?」

荒くれ「あ、ああ、近いうちに迎えを寄越すよ」

髭面「そうか、俺はだいたいココに居るからいつでも呼んでくれ」

髭面「それじゃあ、ろくにもてなしも出来ず悪かったな」

髭面「"親切な人達"によろしく伝えてくれ」ガチャ

荒くれ「あ、ああ・・・じゃあな、おい、帰るぞ」

「へい」「うす」ゾロゾロ

バタン



髭面「ふう、とりあえず第一段階成功ですね」

商人「あー寿命ちぢんだわ、っていうかちょっと勇者アンタそれどないなっとんねん!?」

商人「顔どころか声まで変わってるやんけ!」

髭面「ああ、それはコレのおかげです。"元に戻れ"」ヒョイ

ボワン

勇者「変化の杖です。魔王討伐の旅の途中で手に入れましてね」

商人「ほえええー、それにしてもアンタの殺気えげつないわ、ウチまで小便漏らしそうになったやん」

勇者「あ、あはは、軽い威嚇のつもりだったんですけどね、魔物に比べたら随分大人しい人たちでした」

商人「当たり前やん、バケモンと比べたらアカンて」

勇者「そう・・・ですね」

商人「でも勇者はん、どこであんな駆け引き覚えたんや?」

商人「まるっきり暗黒街のボスみたいやったで」

勇者「まあ、人生色んな事がありますからね、経験が生きたってトコですか」

商人「はぇー、まあそうやなあ、商売かてキレイ事だけじゃやって行かれへんしな」

商人「アンタも随分苦労したんやろなあ、って当たり前か、魔王倒したんやもんな」

勇者「あはは、そうですね」

勇者「さて、二階に戻りましょうか」





-- 二階 --

遊び人「いよっ、千両役者!」

占い師「いやー凄い威圧感じゃったのう、鏡越しでも寿命が縮んだぞい」

錬金術士「そりゃまずいわね、この仕事終わるまで爺さんの寿命が残ってるといいけど」

占い師「何言うとる!わしゃ100まで生きるって自分の占いで知っとるんじゃ」

吟遊詩人「爺さんの占いかぁ、こりゃいつポックリ逝ってもおかしくないね」

占い師「なんじゃと!!」

勇者「まあまあ」

商人「あれ、盗賊は?」

勇者「盗賊さんには彼らを尾行してもらっています」

占い師「やっぱり東の港の方に行くみたいじゃのう」

勇者『盗賊さん、どうですか?様子は』

盗賊『港近くの商館街の一角に入って行くみたいだね』

盗賊『どうする?屋根裏にでも潜り込んでみる?』

勇者『いや、どんな相手が居るとも限りません、深追いはやめましょう』

勇者『可能なら、監視用のホムンクルスを近くの屋根にでも設置して下さい』

盗賊『おやすい御用だ、そんじゃそれ置いて帰るよ』

勇者『お疲れ様でした』





盗賊「ただいまー」

吟遊詩人「おかえり」

錬金術士「ホムンクルスはちゃんと起動した?」

盗賊「フダ剥がして向かいの建物の屋根の上に置いといたよ」

錬金術士「オッケー、アレは数日しか保たないから、近いうちに回収しないとただの土塊になっちゃうわよ」

勇者「2~3日したらまた盗賊さんに回収してもらいましょう」

盗賊「あいよ」

勇者「それはそうと、盗賊さん、帰ってくるなり申し訳ありませんが」

勇者「彼らの接触についてどうお考えになりますか?」

盗賊「ん?」

勇者「つまり、彼らがどういう意図であのような接触を選んだか、という事です」

勇者「裏の流儀に通じている盗賊さんの目から見た分析をお聞かせ願いたいです」

盗賊「そうだね・・・とりあえず、シマ荒らしをしてるヨソ者の所にチンピラを率いて脅しに来る、ってのは」

盗賊「ああいう手合のやり口としちゃ、まあお定まりの一手だよね」

盗賊「ただ、あの荒くれは、身ごなしなんかを見ても、それなりにデキる奴だ」

盗賊「もっとも勇者の前じゃスライム同然だったけどさw」

商人「そらしゃーない、あんなん誰だってちびるわ」







盗賊「という事は、そこらの二束三文のチンピラに任せられる仕事じゃない、と向こうは考えてるんだと思う」

盗賊「あと、アイツら特に名乗らなかったろ?」

商人「そいやそうやったな」

盗賊「あーゆー連中が名乗る時ってのは、その名前を出す事に意味がある時だ」

盗賊「例えば、その名前で相手がビビる、とか、逆に同じ裏社会の人間として信用が得られる、とかね」

盗賊「そうしなかった、ってのは、アタシらにその名前を出しても意味が無い、と考えてる」

盗賊「もちろん、国の内偵を疑ってる場合もそういう態度に出るだろうけど」

盗賊「それにしちゃ脅しのやり方が直接的だし、もしアタシらが国の内偵だったら言い訳が出来ない」

勇者「そうですね」

盗賊「その辺の事をまとめると、アタシらは"素性不明だけど、最近街に流れ込んできた新興勢力"と見られてると思う」

盗賊「多分、与し易いと見たら、今日の初手で叩きのめしてさっさと傘下に加えるつもりだったんだろうし」

盗賊「ある程度手強いようなら、今日は様子見で済ませて、今後のやりようを考えるってトコだろうね」

勇者「なるほど」

盗賊「そして、今日勇者がタダモノじゃないところを存分に見せつけたもんだから」

盗賊「多分、あの荒くれは今ごろ組織の上層部に"アイツらはヤバい、半端な覚悟では手が出せない"と報告してる」

盗賊「上の連中は、鵜呑みにはしないだろうけど、自分の目で確かめようとはするんじゃないかな」

勇者「という事は?」

盗賊「多分近いうちに第二の接触があると思うよ」

勇者「なるほど、分かりました、ありがとうございます」






勇者「盗賊さんの見立ては、私の読みとも一致します」

勇者「おそらく向こうから接触があるでしょう」

勇者「もし我々が警戒されているとするなら、自陣に引き込んでの面会を求めて来るでしょうから」

勇者「その時には私が行きます。が、一人で行くというのはあまりに不自然なので」

勇者「遊び人さん、帯同お願いします」

遊び人「ええええ、俺!?」

勇者「貴方なら、どんな脅しを食らってもハッタリで平然としている事ぐらい出来るでしょう?」

遊び人「んー、まあ・・・そりゃあ出来るかもしれんがよ・・・」

勇者「もちろん、最悪戦闘になったとして、貴方には危険が及ぶ事はないようにしますので安心してください」

遊び人「まあ、勇者がそう言うなら。ただ、俺は殴り合いの役にゃ立たんぜ?」

勇者「大丈夫ですよ、街の悪人程度なら何十人いようと私一人で事足ります」

遊び人「それもそうか、手札に最強のエースがあると思ってのんびりしてるわ」

勇者「まあ、基本的には下手に出て、なるべく友好関係を築けるよう努力するつもりです」

勇者「これであの荒くれさんの組織が実は人身売買に噛んでた、などという事があれば話は早いですが」

勇者「そこまで上手く運ばないでも、横の繋がりで他の組織の噂ぐらいは入って来るでしょう」

商人「そこからたどるんやな」

勇者「そうです」




-- 二日後 --

商人「勇者はん、何してはるん?」

勇者「ああ、商人さん、さきほど回収してきてもらったホムンクルスの映像を見てました」

商人「おもろいモノでも映ってたん?」

勇者「ココを見て下さい」

商人「ん?なんやこのデカブツ」

勇者「これはオークですね」

商人「オークっつーと、あのエルフや女騎士を拐っては楽しむという・・・」

勇者「それは俗説ですよ・・・彼らは確かに旺盛な繁殖力を持っていますから他種族相手でも交配可能ですが」

勇者「極端にメスが減らない限り、他種族のメスになど手を出したりしません」

勇者「我々が好き好んでオークのメスに手を出そうなんて考えないのと一緒です」

商人「そう言われてみりゃ納得やな」

商人「そんで、オークがどないしたんや?別にいまのこの街なら魔族が出入りしてたっておかしくないやろ?」

勇者「もちろんです。そして、魔族といえど様々な者が居ますから、反社会勢力のもとに出入りしていてもおかしくはありません」

勇者「その勢力が、同胞の魔族を拐かして売買したりしていなければ、ですがね」

商人「!!」




勇者「もちろん、人間とて同じ人間を売買する輩も居ますから、一概に決めつける事は出来ませんが」

勇者「私の入手した情報によれば、行方不明になった魔族にはオークも居たと記憶しています」

勇者「彼らの同族意識というのはかなり強いですから、おそらく荒くれさん達の組織はシロである可能性が高いですね」

商人「なんや、せっかくの糸口やったのに、残念やな」

勇者「まあ、最初からビンゴというワケには行かないでしょう」

勇者「逆にシロと分かっているならそれはそれでやりようがあります」

勇者「が、我々だけでやるより、ここは助っ人を頼んだ方が良いかもしれませんね」

商人「助っ人?」

勇者「はい、盗賊さんは?」

商人「今は下で店番代わってもろてるで」

勇者「それでは、戻るときに、盗賊さんにこの手紙を渡して下さい」

勇者「そして、南方公のお屋敷に届けていただくようお願いできますか?」

商人「そんなお偉いさんに何を頼むんや?」

勇者「ちょっとしたコネがありましてね」






-- 翌日 --


カランコロン

商人「へいらっしゃー・・・イギッ!?」

魔族「娘・・・勇者はおるか」

商人「ひゃ、ひゃいっ」

魔族「呼んでもらおうか・・・」

商人「た、ただいまっ!!」ドタドタ

--------------
-------

勇者「やあどうも、わざわざご足労ありがとうございます」

魔族「フン・・・・別に来たくて来たわけではない・・・約定により仕方なく、だ」

勇者「まあそうですね、でも感謝はしていますよ」

魔族「人間の感謝などいらんわ、さっさと話をしろ」

勇者「では早速・・・の前に、ご紹介しておきましょう」

勇者「こちら、先だっては魔王軍の竜騎士団で隊長を張ってた竜人どのです」

商人「た、隊長!?なんでそんな偉い人がこんなトコに」

勇者「まあ、色々ありまして、戦後はこうして誼を通じてるわけです」

竜人「巫山戯たことを申すな、協力はするが慣れ合うつもりはない」

勇者「元が軍人さんですからね、この通りお固い方ですが、悪い人じゃありません・・・いや、そもそも人じゃないか」

勇者「ちょっと私はこの方とお話があるので、上へ行っていて下さい」

商人「は、はあ・・・」







-- 二階 --

商人「ちょ!ちょ!じいさん!じいさん!・・・オイ爺い!!」ベシッ

占い師「なんじゃ・・・ムニャムニャ」

商人「真っ昼間から寝ぼけくさって、さっさと起きんかい!」

商人「下で勇者はんが竜騎士団の隊長とかいう魔族と密談してんねんて!」

「なんだって!?」「マジか!」「どんな奴だよ」

占い師「なんじゃと!?」

商人「ウチは追ン出されてもーたから、一階の様子を映してや爺さん」

占い師「なんと、任せておけ、ゴニョゴニョ・・・・ほいっ」パァァ

吟遊詩人「おお、まさに竜人といった感じだね、サーガに出てくる描写にそっくりだ」

遊び人「それにしても、なんでそんなんと勇者は知り合いなんだ?」

商人「わかれへんけど、ただ、あんまり仲良いって感じでもなかったで」

錬金術士「そりゃそうでしょう、つい5年前まで不倶戴天の敵だったんだし」

商人「なあ爺さんコレ声は聞こえへんのか?」

占い師「無茶言うでない、そんな占いはありゃせんわ」

商人「なんや使えへんなー」






吟遊詩人「あ、話は終わったみたいだね、帰っていく」

盗賊「ねえ、あの竜人の足元見て・・・」

錬金術士「どうかした?」

盗賊「板張りの床があんなに沈み込んでる、アイツ、相当重いよ」

遊び人「なるほどな、あの姿はこの街での仮の姿って事なのかもしんねーな」

占い師「いかん、勇者が上がってくるぞい、消さねば」フッ

トントントン

勇者「ああ、お騒がせしました、もう用は済みましたよ」

商人「お、おつかれー!ほなアタシは店番に・・・」

勇者「ちょっと待って下さい、お知らせしておく事があります」

勇者「皆さんもご覧になったでしょうが、あの竜人さんの協力を仰ぐ事にしました」

占い師「(バレとる)」

遊び人「なあ、ありゃどういう知り合いなんだい?」

勇者「まあ、それはまた追い追い説明しますが、色々あってそれなりに長い付き合いです」

吟遊詩人「どういう関係なんだい?味方なのかい?」

勇者「関係性は一言では難しいですが、とりあえず親友ではありませんが、敵でもありません」

商人「(広すぎやろその範囲)」





勇者「ともあれ、今のところ協力してくださる事は確実ですので」

勇者「例の荒くれさんの組織に赴く時は、同行してもらう事にしました」

遊び人「ふーん・・・ってじゃあ俺も!?」

勇者「はい。まあ基本的には無口な方ですから、放っておけば害はありません」

遊び人「そ、そっすか・・・」

勇者「あと、ちょっと懸念していたのが、ココの守りです」

錬金術士「守り?」

勇者「ええ、万が一、私があちらの組織に行っている間にココを襲われるとひとたまりもありません」

勇者「可能性は低いので、当日は避難しておけば大丈夫かと思っていたのですが」

勇者「あの竜人さんの配下の方が、私の留守中こちらに詰めて下さる事になりました」

勇者「ですので、商人さんは、その方と一緒に店番お願いしますね」ニコッ

商人「えええええー、あんなんおったら商売やりづらくてたまらんわ」

勇者「まあ、竜人さんと同じく無口な方ですから、変わった置物だとでも思っておいて下さい」

商人「置物て・・・・・」

勇者「腕の方は確かですよ、ヤクザ屋さんの10人や20人でどうにかなる相手じゃありません」

吟遊詩人「そりゃあ竜騎士団といえば魔王軍の精鋭だからね・・・」





-- ニ日後 --

盗賊『荒くれたちだ、どうやら店に向かってる』

勇者『分かりました、盗賊さんは商館街の方を引き続き監視お願いします』

盗賊『わかった』

勇者「どうやら来たようです、錬金術士さん、例の使い魔を」

錬金術士「はいよ、ちょっと遊び人窓あけて」

遊び人「ん?ほい」ガラッ

錬金術士「翔んでけっ」バサバサバサ

遊び人「それは?」

勇者「ああ、竜人さんに使いを出したのです、すぐ近所の宿屋に泊まってもらってますので」

勇者「それより、出かける準備をして下さい、もうすぐお迎えが着きますよ」

遊び人「へいへい」

勇者「さて、私も準備をしないと・・・変化の杖よ!」

ボワン

髭面「これでよし、と」

髭面「では、占い師さん、モニターはお願いします」

占い師「ふぉふぉふぉ、任せておけ」





カランコロン

商人「いらっしゃーい・・・あ、アンタかい」

荒くれ「ああ、邪魔するぜ、ボスは居るかい」

髭面「意外と遅かったな」

荒くれ「すまねえな、ウチのボスたちも忙しい身でよ」

髭面「商売繁盛って事かな」

荒くれ「まあ、そういう事かな、準備はいいかい?」

髭面「ちょっと待ってくれ・・・と、着いたようだな」

カランコロン

竜人「待たせたな・・・・・」

荒くれ「いっ!?」

髭面「==%%&&%$」

竜人「###((%%$」スッ

竜部下「**)))$%$#」

髭面「よし、行こうか」

遊び人「へい」

髭面「後は頼んだ」

商人「任せときー」

竜部下「・・・・・・・」







荒くれ「しかし驚いたな、アンタのトコにゃ魔族も居るのかい」テクテク

髭面「ああ、魔族と組めば取引先は二倍に増えるからな」スタスタ

竜人「・・・・・・・」ドスドス

遊び人「・・・・・・・(汗」テクテク

荒くれ「さすが、商売上手だな・・・と、こっちだ」

遊び人「(ん?商館の方とは道が違うな・・・)」

髭面「どこに行くんだ?」

荒くれ「そりゃあ着いてのお楽しみってモンだ」

髭面「そうか」

竜人「・・・・・・・・」

遊び人「(まあ、勇者が何も言わずに着いてくんなら大丈夫って事なんかな)」

錬金術士『そっちに行くと、商館街を通らずに直接港に行くわ』

錬金術士『真っ昼間からいきなりバラして沈めるつもりじゃないでしょうけど、気をつけてね』

遊び人「(へいへい、と、気をつけるったって何か出来るわけでもないけどな)」

盗賊『アタシも上から動向を見てるから安心して』






荒くれ「さて、着いた、こん中だ」

髭面「材木倉庫か」

荒くれ「何しろアンタたちを歓迎するのにどのぐらいの広さが必要かわからなかったんでね」

荒くれ「とりあえず広い場所に案内したってワケだ」

髭面「いいだろう、行こうか」

荒くれ「と、その前に、剣はこっちに預けてくれ」

髭面「ほらよ、そいつも商売道具だ、大事に扱ってくれよ」

荒くれ「ああ、生まれたての赤ん坊のように大事に預かっておくさ」

髭面「行こうか」

遊び人「へいへい」

髭面「・・・・・・」スタスタ

竜人「・・・・・・・」ドスドス

遊び人「・・・・(暗いな・・・良くみえん)」テクテク





???「良く来たな、客人よ」

遊び人「(誰だ・・・?声からすると結構なトシだな)」

???「暗くて不自由をかけるな、今明かりをつけるでな」

シュボッ

遊び人「(魔法の明かりか、少なくともこの中に魔法使いが一人居るってワケだ)」

???「さあ、まずは座りなされ」

髭面「ご招待痛み入る、お言葉に甘えてかけさせていただこう」ガタン

竜人「・・・・・・・・」ガタガタミシッ

遊び人「(テーブルのジジイがボスかね?しかし、ゾロゾロいやがるな)」ガタガタ

遊び人「(しかも、よく見たらトロルやオークまで混じってやがる)」

遊び人「(いくら勇者と竜人といっても、こんだけの数相手に大丈夫なのかね・・・)」

???「うむ、よく来てくれた、ワシはこの辺りで店を構えておる組長じゃ」

組長「まあ、別にただのジジイにすぎんが、この辺りの相談事などをよく受けておる」

組長「元々この辺りはな、古くから交易が盛んじゃから、様々な商売人が集まっておった」

組長「それだけに、商売敵同士の諍いもしばしばあってな、自然とそれをまとめる役目というのが生まれたんじゃ」

組長「古くからみなそうして、仲間同士が争って共倒れにならんよう調整しておった」

遊び人「(けっ古狸め、さも善良な商人みたいな顔しやがって、ヘソで茶がわくぜ)」





組長「さて、今回もワシのところに一つの相談が寄せられた」

組長「つまり、ワシらのもとに新たな友人を迎えるべきかどうか、という相談じゃな」

組長「その友人は、聞く所によると随分と商売熱心なようじゃ」

組長「もちろん商人たるもの商売熱心なのはまことに結構」

組長「じゃが、儲けを出して懐を潤すだけでは商売人としては片手落ちじゃ」

組長「商売というのは一人ではできん。市場というのは、買うもの、売るもの、皆で作るものでな」

組長「じゃから、その友人が、友情に敬意を払うことができるかどうか、見極める必要があったのじゃ」

髭面「なるほど、確かに友情というのは持ちつ持たれつ、お互いに敬意を払ってこその友人ですな」

組長「おお、分かってくれるか、そうなのじゃよ」

組長「じゃから、自分さえ良ければ他の事はどうでも良い、という者は友人とは呼べぬ」

髭面「時に、好奇心から聞くのですが、その新しい友人はどのようにすれば仲間として迎え入れてもらえるのかな?」

組長「なあーに、難しい事は一つもありゃせんのじゃ、ただ礼節をわきまえ、しきたりに従うというだけの事」

髭面「それは当然ですな、礼節をわきまえぬ者は信用がおけん」

遊び人「(お~お~、勇者もまあよくしれっと言うもんだ、キツネとタヌキの化かし合いだね)」




髭面「時に、今日はせっかくのご招待という事だったので、手土産を用意した」

組長「ほう」

髭面「おい」

遊び人「(お、アレか)へい、こちらに」パカッ

組長「おお・・・・・・」

髭面「千回脱皮した竜だけが身につけると言われる竜の千年鱗」

髭面「それを全面にあしらった"千年竜の盾"」

髭面「なかなか手に入るものではないが、それだけに捌くのも難しくてな、我々が持っていても宝の持ち腐れ」

髭面「となれば、この街の商売人を束ねている組長どのにお預けした方が、有効に使ってもらえるかと」

組長「なんと・・・これは見事な・・・・・・」ナデナデ

遊び人「(そんな代物だったのかよこれ!?)」

組長「いや・・・・これほどの品を・・・・・一体おぬし、どこで手に入れた?」ジロッ

組長「そもそも、おぬしは一体何者じゃ」

遊び人「(なんだこの爺、急に空気かわりやがった)」ゾクッ


てす



組長「ワシもな、この世界でずいぶん長いことやっておる」

組長「おぬしが只者ではないのはその眼光を見れば分かる」

組長「しかし、この街はおろか、近隣でも一切おぬしらのような者の噂は聞いた事がない」

組長「もっとも、その立ち居振る舞いから察するに、司直の手の者とも思えぬ」

組長「答えよ!!おぬしはどこから来た!!」

ジャキッ ザッ

遊び人「(やべえ、いつの間にか弓で狙われてやがる)」

髭面「・・・・・・・・・・」ジッ

組長「・・・・・・・・・・」ジッ

髭面「・・・・・九龍・・・・」

組長「・・・・・・・・・・なん・・・・と・・・・・?」

髭面「九龍の暗黒街が俺の出自だ」

遊び人「(なんだ?そら)」

組長「なる・・・ほど・・・なるほど、合点がいった・・・さればこそ竜人の供が着くわけよ」

竜人「・・・・・・・・・・」

組長「うむ、よかろう。おい、弓を下ろせ」

ザッ


組長「おぬしらを我らが友人として正式に迎え入れよう」

組長「酒をもて」

部下「はっ」トクトクトク

組長「これを酌み交わした後は、我らは仲間じゃ」

組長「仲間を裏切る事なきを誓うか?」

髭面「誓おう」

組長「仲間の危機にはこれを助ける事を誓うか?」

髭面「誓おう」

組長「仲間の掟には必ず従う事を誓うか?」

髭面「誓おう」

組長「よかろう、我らはおぬしらを家族とする」

組長「盃を干せ」グビッ

髭面「グイッ」

組長「聞け!!!皆の者!!!」

シーン

組長「今日ここに新たな家族が生まれた!」

組長「互いに助けあい、更なる繁栄を目指そうぞ!!」

「「「「「応!!」」」」」

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盗賊『あ、出てきたよ』

占い師『こちらでも見えておる』

盗賊『さすがに声が聞こえる所までは近寄れなそう』

錬金術士『無理しないで、勇者は大丈夫だろうから』

盗賊『あ、竜人が何か吠えた』

竜人「@@@@@&&&&&&!!」

荒くれ「おっと、ビビらせんなよ、何て言ってんだ」

髭面「ああ、よろしくな、って竜人流のアイサツだ」

荒くれ「そうかい・・・」

盗賊『気のせいかな・・・今の咆哮で、トロルやオークがビクってなってた気がする』

占い師『魔族にしか分からん言葉で何か言ったのかもしれんのう』

商人『それやったら勇者もその言葉分かるみたいやから、後で聞いてみたらええ』

盗賊『そうだね・・・あ、どうやらもう帰されるみたいだ』

盗賊『一応店にもどるまでついていくよ』

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髭面「さあて、帰りますか」

遊び人「・・・・なあ、勇者、聞いていいか?」

髭面「何でしょう?」

遊び人「九龍の暗黒街ってなんだ?」

髭面「そうですね・・・・」チラッ

竜人「我らの故郷だ」

髭面「良いのですか?」

竜人「別に知られて困る事でもない」

髭面「そうですか、なら私から説明しましょう」

髭面「この街が魔族領に一番近いのはご存知の通り、ここから更に南下すると魔族の領土になります」

遊び人「おう」

髭面「魔族領は基本的に人間が立ち入る事はほどんどありません、これは戦後になってもあまり変わりません」

髭面「しかし、その中に、1カ所だけ人間が暮らしている場所がありました」

髭面「それが、九龍の暗黒街です」

遊び人「なんでそんな所に?」

髭面「・・・良いのですね?」

竜人「別にかまわん」







髭面「こちらの竜人さん、なぜ人のような背格好をしているかご存知ですか?」

遊び人「え、いや・・・そりゃそういう種族なんじゃねーのか?」

髭面「違います」

髭面「彼らは、人と竜を掛け合わせる事で生み出された種族なのです」

遊び人「・・・・は?」

髭面「だいぶ昔の事になりますが、魔王軍が精鋭兵を創りだそうと色々な実験をしました」

髭面「その結果、上手く行ったのが、人間と竜の合いの子である竜人です」

髭面「竜族の強靭な身体と魔力に、人間の成長速度と小回りのきくサイズ」

髭面「これにより、精兵を数多く揃えることに成功した魔王は人間界侵略を開始したのです」

遊び人「なんつー・・・戦争のために種族を一つ作っちまうとは・・・」

髭面「つまり、九龍の暗黒街とは、竜人を生み出すための人間の飼育場だったのです」

髭面「多分最初はあちこちから拐ってきた人間を放り込んでおいたのでしょう」

髭面「あとは、放っておけば人間は勝手に増えますから、それを元に竜人を作るというわけです」

髭面「当然そんな場所ですから環境は劣悪ですし、内部の治安も最悪です」

髭面「故に、人呼んで九龍の暗黒街というわけです」

遊び人「そんな場所がこの世にあったとはな」




遊び人「その街は・・・今も?」

髭面「いいえ、もうありません」

遊び人「なるほど、それならそこ出身って言っても、ウラの取りようも無い」

遊び人「しかもいかにもワルが育ちそうな場所だ、ハッタリに使うには最適だな」

髭面「いいえ、ハッタリではありませんよ」

遊び人「えっ」

髭面「私は15歳までそこで育ちました」

遊び人「え、ちょ、え、えええええええ?」

髭面「本当はそんな事をあの場で明かすつもりは毛頭なかったんですが」

髭面「さすがに年の功ですね、あの組長にはヘタな嘘を言っても通用しないと思いましてね」

髭面「これは本当の事を言うしかないな、とね。はははは」

遊び人「あれ、でも、15歳までってお前・・・あれ?どうやっt」

髭面「さて、そろそろ着きますね、もうこの格好をしている必要も無いでしょう」ヒョイ

ボワン

勇者「あ、そうそう、私の生まれの話は皆さんには内密にお願いしますね」

遊び人「え、ま、そりゃまあ・・・ってちょっとまだ・・・・」

勇者「ただいまです」カランコロン

商人「あ、おかえり、無事で良かったわー」

竜人「我はこれで仮巣に戻る」

勇者「ああ、そうですね、ご苦労様でした、ありがとうございます」

竜人「あとは■○△が上手く取り計らうだろう」

勇者「そうですね、では、またお会いしましょう」

竜人「別に会いたくも無いがな、おい、帰るぞ」

竜部下「・・・・」ノソリ





-- 二階 --

勇者「留守中変わった事は?」

商人「特になんもないで」

勇者「それはよかった」

錬金術士「それより、何がどうなったのか教えてよ」

錬金術士「こっちからは映像は見えても声は聞こえないんだから」

勇者「そうですね、まあ、とりあえず結果から言うならば、我々はこれからあの組織の傘下に入ります」

勇者「もっとも、傘下に入るといっても別に特に何か変わりがあるわけでもありません」

勇者「月々の上納金だったり、縄張りの問題だったりというのはありますが」

勇者「どうせあと一ヶ月もこの街には居ないでしょうし、彼らの縄張りを荒らす必要もありません」

勇者「ですから、こちらが大人しくしていれば放っておいてくれるでしょう」

商人「ほんで、ここから先の作戦は?」

勇者「一つめは、最初の計画通り、彼らから他の犯罪組織の情報を集めます」

勇者「順序としては、他にどんな組織があり、どこに居を構えているか」

勇者「そして、それらがどのような"商品"を扱っているか」

勇者「その辺りから、探る対象を絞って行きましょう」

勇者「これは遊び人さんと商人さんで担当して下さい」

遊び人「へいよ」

商人「うえー、アイツらとはあんまりお付き合いしたくないんやけどなあ」




勇者「それから、もう一つのルートがあります」

勇者「魔族たちのネットワークです」

吟遊詩人「ほう?」

勇者「今日行った先には、トロルやオーク、ゴブリンなどの魔族が居ましたので」

勇者「竜人さんに魔族の言語で呼びかけていただきました」

盗賊「ああ、最後に一声吠えたアレか」

勇者「そうです」

占い師「アレは何て言っておったのじゃ?」

勇者「まあ、魔王軍の符丁のようなものなのですが、人間の言葉に訳すなら"出頭せよ"ですかね」

勇者「とある者のところに出頭するように命じる号令です」

錬金術士「誰のところに?」

勇者「そうですね、ある有力な魔族、と言っておきましょうか」

勇者「今回、私に魔族の行方不明について相談を持ちかけてきた人物です」

吟遊詩人「なるほど、その人物を通して彼らを内偵として使えるというわけだね」

勇者「そういう事です」




盗賊「それで、明日からアタシたちはどうしたらいい?」

勇者「まず、遊び人さんと商人さんは、先程も言ったように港の組織の方々と接触して下さい」

勇者「遊び人さんは昨日現地まで行って顔を覚えられていますので、出向けば自動的に誰かから声がかかるでしょう」

勇者「それから、荒くれさんに明日来ていただく事になってますので、そちらの応対は商人さんお願いします」

商人「ちょ、ちょっとまってや、一体何しに来るんや」

勇者「ああ、そうでした。表向きは仕入れについての相談、とぼやかしておきましたので」

勇者「まあ上手いこと話を広げてみて下さい」

商人「またえらいざっくりやな」

勇者「すみませんね、その辺りの話術については商人さんの方が得意でしょうからよろしくお願いします」

商人「まあ・・・ええけどな」

勇者「それから吟遊詩人さん」

吟遊詩人「なんだい?」

勇者「どうやら貴方の方の活動については、彼らはまだ感知していないようです」

勇者「ですので、引き続き本業の方をお願いします」

勇者「ただ、副業の方は多分これ以上は必要ないと思いますので」

勇者「代わりに、上流の方々のうわさ話などをなるべく仕入れていただければと思います」

吟遊詩人「いいけど・・・あの方々のうわさ話は天から降る雨粒のごとしで、聞いていたら年が明けるよ?」

勇者「まあ・・・出来る範囲でかまいません」






勇者「占い師さんと錬金術士さん」

勇者「お二人は引き続き後方支援です」

占い師「ほい」

勇者「錬金術士さんにはもしかするとちょっと複雑な物を作っていただく可能性があります」

勇者「それについては後でご相談しますので」

錬金術士「はいはーい」

勇者「それから盗賊さん」

盗賊「はいよ」

勇者「貴方は引き続き遊軍です、基本的に人に見られずに自由に動けるのは貴方だけですので」

勇者「都度都度で色々お願いする事になると思います」

盗賊「要はしばらく寝てろって事かな?」

勇者「いざという時にすぐに動けるならそれでかまいません」

盗賊「まかしといて」

勇者「それでは、明日からまたよろしくお願いします」

一同「おう」「はーい」「ほいな」

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-- 翌日 港付近 --

チンピラA「おい、おめぇは昨日の」

遊び人「ああ、昨日は世話んなったなあ、これからよろしくな」

チンピラA「何か用か?」

遊び人「いやさ、ボスにこの街のシマについて詳しく聞いてこいって言われたんだけど」

遊び人「ドコに行ったらいいかわかんなくてよ」

チンピラA「なんだおめぇマヌケな野郎だな、ちょっと待ってろ」

スタタタ

チンピラA「こっちっす」

若衆「あんだ、おめぇか」

遊び人「へい、これからひとつよろしく頼んます」

若衆「んで、何が聞きてぇって?」

遊び人「こちらさんに世話になるにあたりましては、皆さんの商売の邪魔をしちゃいけませんし」

遊び人「他の組のシマを荒らして余計な火種を起こしてもいけねぇって事で」

遊び人「ちょっとその辺りの事情をしっかり聞いてこい、ってボスに言われやしてね」

若衆「なんだ、そういう事か、意外と目端の効く野郎だな。立ち話もなんだからこっちへぇんな」クルッ

遊び人「へい」





若衆「ウチの組は基本的に港周りを仕切ってる」

若衆「この港の荷揚げ場は三ヶ所あるが、そのうち2つはウチのシマだ」

若衆「一番北のココだけは北の組が持ってる、今は微妙な時期だからそっちは近づくんじゃねーぞ」

遊び人「へい」

若衆「こっから、ニの大通りまでは大体ウチのシマだ」

若衆「おめぇらの店もそこに入ってる」

若衆「問題はココの赤線のトコだ」

若衆「ココの地区は昔から不文律でな、休戦地帯って事になってる」

若衆「色んな組が入り乱れて店持ってっから、ここらでは間違っても騒ぎ起こすなよ」

若衆「ウチの店はココとココとココ・・・・」

遊び人「あっ」

若衆「どうした」

遊び人「あ、いえ、なんでもありやせん、へへ」

遊び人「(なんだ、あのカジノもこの組の傘下だったのか)」






若衆「おめーらの店でどうシノギをしようが勝手だがよ」

若衆「誰かの店に出入りして商売しようって時はちゃんとアイサツしとけ」

遊び人「へい、そりゃもう」

若衆「ま、同じ組内の事だからな、"ちょっとした"入場料だけであとは好きにやらせてくれんだろ」

若衆「その辺はてめぇらでナシつけな」

遊び人「へい、わかりやした」

遊び人「ところで、ウチの他にはこの街じゃどんな組が居るんですかね」

若衆「そんな事知ってどうしようってんだ」

遊び人「いえ、まだこの街に不慣れなモンで、用心に越したことはねぇかと思いまして」

若衆「ふん、心配性なヤローだな、まあ、この街は色んな連中が出入りしてっからな」

若衆「まず、ウチ以外ででけぇのは全部で5つある」

若衆「西の通りに構えてるのがウンヌンカンヌン・・・」

若衆「それから北にあるのがナンタラカンタラ・・・・」

遊び人「(あーコレ俺覚えられっかな、この地図くれねーかなー)」

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-- 商人の店 --

カランコロン

商人「へいらっしゃい・・・ってアンタか」

荒くれ「ごあいさつだな、これでも一応アンタらの兄貴筋って事になるんだぜ」

商人「せやったな、ほなよろしゅう頼んまっせ」

荒くれ「おうよ、よろしくな、んで、何か相談だって?」

商人「そうそう、あのな、今この街では何が売れてて何が余ってるのか知りたいねん」

商人「今はウチら手持ちのブツ捌いてるけど、これから先は色々仕入れてかなアカンやろ?」

荒くれ「ああ」

商人「でも、せっかく仕入れても他とカブってるモンやったら、値段の叩き合いになってまうやんか」

商人「しかも、身内で同じモン売ったりしたら、お互い損やろ?」

商人「せやから、みんなと違うモン仕入れられたらみんな幸せになるやろ?」

荒くれ「あ、おう、そうだな」

商人「今はとりあえずウチら、薬サバいてるけど、多分これはあんまり先が無いと思ってんねん」

荒くれ「ほう?」

商人「だって、こんなんウチらみたいな稼業の定番やんか」

商人「大体もう売れる所にはどこかの売人がツバつけとるやろ」

荒くれ「まあな、大きな手入れでもありゃ別だがな」

商人「他にはみんなどんな商売してるんや?」

荒くれ「そうだな、まあ定番だがみかじめ料とったり、娼館を経営したり・・・」

商人「あーアカンアカン、そんなん余計に新参が入る隙間なんてあれへん」

荒くれ「あとはそうだな、国軍の物資を横流ししたりウンタラカンタラ」

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-- 夜 --

勇者「皆さん、ご苦労様です」

勇者「遊び人さんと商人さん、今日の成果はいかがでしょう?」

遊び人「とりあえず、この街の勢力図はだいたい分かったぜ」

勇者「詳しくお願いします」

遊び人「まず、俺らの入った港の組、ココは港から向こうの大通りまでを押さえてる」

遊び人「荷上場も3つあるうち2つは手の内だから、表裏の物流にもまあまあ噛んでる」

遊び人「元々が気性の荒い港湾労働者どもを束ねて作った組って事もあって」

遊び人「血の気の余ってる連中が多いみたいだな」

遊び人「主な収益源は密輸と麻薬と売春ってトコだ」

勇者「なるほど」

遊び人「それから、よく小競り合いをしてるのが、北の組だ」

遊び人「元は同じ組だったらしいが、何代か前の跡目争いで割って出た組で」

遊び人「荷上場のもうひとっつはココのシマだ」

遊び人「大元の争いはとっくに手打ちが済んでるんだが、何度代替わりしても折り合いは悪いままみたいだ」







遊び人「あと、デカいのは武闘派の西の組、魔族混成の割合が多い新興の南の組」

遊び人「それから、大通りの商店街を押さえてる中の組、あと、向こうのスラムの連中」

遊び人「この6つがこの街でノシてる顔ぶれだ」

勇者「なるほど、ありがとうございます」

勇者「商人さんはいかがでしょう?」

商人「とりあえずあの荒くれのオッサンからは聞ける事は大体ひっぱりだしたで」

商人「どうもあのオッサン、オツムの方はイマイチみたいで聞き出すのに苦労したけどな」

吟遊詩人「ふふ、帰る時アタマから湯気がでてたからね」

商人「まず、一つ分かったんは、この街の需要が変わってきてる事やな」

商人「つい5年前まではこの街のすぐ先でドンパチやっとったから、とにかく物流の具合が悪かったんや」

商人「せやから、軍需物資を横流ししたり、独自のルートでモノを調達したり、ってのがかなり儲かった」

商人「もちろん、兵隊さんや冒険者も大量に流れこんどったからそっち相手の商売も景気良かったみたいやな」







商人「ところが、戦争が終わって、この街の様相が一変したんやな」

商人「ドンパチの危険が無いから物流が一気に風通しよくなるやろ」

商人「そうすると、戦時中は希少価値があった物資が、一気に値下がりするわけや」

商人「更に、戦時中はこの街におったのは大半が兵隊か傭兵か冒険者の連中やったのが」

商人「戦争が終わった事で、貿易商人やら旅芸人やら、って顔ぶれが増えてくる」

商人「そうすると、当然売れ筋の商品ってのも変わってくるワケやな」

商人「今、この街で一番アツいのは歓楽街や。娼館やカジノやっとる連中は相当羽振りがええ」

商人「逆に、クスリなんか売ってた連中は、戦時中に比べるとだいぶ景気悪くなってるハズや」

商人「ヤクの一番のお得意さんは、毎日魔族相手に神経すり減らしてる兵隊さんやったからな」

商人「兵隊さんらにクスリや女を世話して、その見返りに軍需物資を流してもらって、街で捌く」

商人「これが戦時中のトレンドだったんやけど、そのやり方はもう通用せんようになってしもた」

商人「それに代わるトレンドが、まず一つ目はサービス業ってワケや」

錬金術士「それじゃ、ふたつ目は?」

商人「貿易や」



商人「この街は元々は交易の要所やったから、ドンパチの危険さえなければ世界中のモノが集まってくるんや」

商人「そん中から珍しいモノ、他の国に無いモノや他の国じゃ高いモノ、そいつらを買い叩いて売りさばけば大儲けや」

商人「これが分かってる連中は、これから先明るいで」

商人「そういう意味じゃ、港を押さえてる荒くれオッサンの組も有望やな」

勇者「なるほど、ちなみに、他の組の様子は聞き出せました?」

商人「すまん、そこまでは話持っていけへんかったわ」

勇者「分かりました、まあ一日で全部聞き出そうというのも無理があるでしょう」

盗賊「明日はどうする?」

勇者「そうですね・・・・まず遊び人さん」

遊び人「あいよ、今度はどんな無理難題だい」

勇者「明日も港に行って、今度は組の中枢ではなく、なるべく下っ端の人たちと親交を深めて下さい」

遊び人「いいけどよ、なんでだ?」

勇者「ああいった組織というのは大体下っ端の方が口が軽いと相場が決まっています」

勇者「もちろん、下っ端ですから大事な事は知らないでしょうが」

勇者「我々が今知りたいのは、この街の裏社会の人間なら誰もが知ってるレベルの常識です」

勇者「つまり、他の組がどんな商品を扱っていて、羽振りがどんな様子か」

遊び人「なるほど」

勇者「それぐらいの事なら、遊び人さんならサイコロと酒瓶でもあれば難なく聞き出せるでしょう」

勇者「元々港湾労働者のような方々は、酒と博打には目が無い上に、けっこう気さくな人たちですから」

勇者「接近するには遊び人さんは最適です」

遊び人「ま、賭場じゃよく見かける人種なのは確かだ」




勇者「それから盗賊さん」

盗賊「あいよ」

勇者「貴女は、先ほどの遊び人さんの情報を元に、各組織の勢力圏を偵察してみて下さい」

勇者「あまり深入りする必要はありませんので、大体の構成員の雰囲気や、組の空気といった物を見てきて下さい」

勇者「ああ、もちろん顔を知られるとマズいので、変装はお忘れなく」

盗賊「わかった、まかせといて」

勇者「それから、商人さんは明日から、この街の物価について詳しく調べていただきたい」

勇者「裏、表に関わらず、どんなモノが多く流れて、どんなモノが珍しいか」

勇者「まあ、要は市場リサーチですね」

商人「それやったまあ得意やけどな、店はどないするんや?」

勇者「店は閉めておいて結構です」

勇者「明日、私はちょっとココを空けますので、残った方は誰が来ても居留守を決め込んで下さい」

吟遊詩人「どこに行くのかな?」

勇者「昨日お話した、さる高名な魔族の方のところです」

占い師「ほほう」

勇者「恐らく、先日の竜人さんの号令にそろそろ何らかの反応がある頃だと思いますので」

勇者「一度顔を出しに行ってきます」

勇者「ですので、明日は何か危険があっても私は行けませんので」

勇者「なるべく危険があるような人や場所には近寄らないようお願いします」

勇者「もっとも、すでに我々は組の庇護下にある事になってるので、ある程度安全は保証されていますが」

勇者「念には念を入れて損はありません」

一同「はいよ」「ほーい」「了解」





-- 翌日 --

勇者「それでは、行ってきます、帰りは遅くなるかもしれません」

商人「ウチも出るわ、早速市場調査やで」ウキウキ

盗賊「そんじゃアタシも出てくるわ、5ヶ所も回るとなると結構時間かかるからね」

遊び人「ほいよ、気をつけてな」

吟遊詩人「あれ、君は行かないのかい?」

遊び人「バカ言え、こんな朝っぱらから行ったってみんな仕事中だろが」

遊び人「昼飯時を狙って行くのがちょうど良かんべ」

吟遊詩人「そういうものかい」

遊び人「おめーは今日はどうしてんだよ」

吟遊詩人「僕は夕方からナントカ言う伯爵様のところだよ」

遊び人「おうおう、優雅なこって」

吟遊詩人「バカ言っちゃいけない、お偉方のワガママに付き合わされるのも楽じゃないんだ」

遊び人「ま、そんなモンかもな、確かに一緒に遊んで楽しい連中じゃなさそうだ」






吟遊詩人「ところで、勇者は"さる有力な魔族"って言ってたけど、何者に会いに行ってるんだろうね」

占い師「さあのう、魔族といっても下はゴブリンから上はドラゴンまで色々じゃからのう」

錬金術士「そもそも、なんで勇者は頼みごとをされるような魔族の知り合いがいるのかしら」

遊び人「・・・・わかんねーな、実のところアイツの事は俺たちほとんど何も知らんからな」

錬金術士「そうなんだよね、意外と謎が多いっていうか、自分の事はあんまり話してくれないよね」

吟遊詩人「そうだね、そういえば英雄譚でも、他のメンバーはその生い立ちなんかも詳しく語られているのに」

吟遊詩人「勇者のくだりは"どこからともなく燦然と現れた神託の勇者"としか歌われていない」

錬金術士「ねえ、ちょっと勇者がドコ行ったのか見てみない?」

占い師「ええ?いやそりゃマズいじゃろ、勇者にだってプライバシーってモノが・・・」

錬金術士「別にだってプライベートでどこかに行ったワケじゃなくて仕事の一環でしょ?」

錬金術士「だったらアタシたちが心配して勇者の行方をモニターしたって悪い事は無いと思うわ」

占い師「むう・・・まあ、たしかに見るなとは言われておらんからのう・・・・」

占い師「どれどれ、ムニャムニャ・・・ほいっ!!」

遊び人「・・・・・・何も映んねーぞ?真っ暗だ」

占い師「なんと・・・これは」





遊び人「おい爺さん腕の方までボケちまったのかよ」

占い師「ボケとらんわ!そうじゃない、これは結界じゃ」

吟遊詩人「結界?」

占い師「ワシの占いも魔法の一種じゃからな、魔力を遮断する結界の中には届かんのじゃ」

遊び人「つまり、勇者は今その結界の中に居る、と」

占い師「そういう事じゃな」

錬金術士「結界自体は別に珍しいものでも無いけどね」

錬金術士「王城とかには必ず機密を守るために結界が張られてるし」

錬金術士「アタシたちの同業でも自分の研究を盗まれないために、研究室に簡単な結界を張ってる連中も居る」

錬金術士「暗殺の危険に晒されてるような人物は、常に自分の周囲に結界を張ってるわね」

遊び人「詳しいな」

錬金術士「そりゃあそうよ、その結界を作るのは錬金術士の仕事なんだから」

吟遊詩人「ほほう」

占い師「それにしてものう・・・この結界は一級品じゃ、そんじょそこらで張れるようなモノではないのう」

錬金術士「そうね、ゆらぎ一つ起こさず鏡をブラックアウトさせるなんて、相当強力な結界ね」

占い師「一体何者がこんな結界を・・・?まさかワシらのノゾキ見対策に張ったわけでもあるまい」

錬金術士「さあね、その魔族の有力者とやらが、誰かから狙われてるんじゃないの?」

錬金術士「何しろ戦争が終わってたった5年だからね、誰がどこでどんな恨み持っててもおかしくはないわよ」





吟遊詩人「まあ、分かった事はますます勇者には謎が多い、という事だけかな」

錬金術士「別に勇者とは依頼人と雇われ冒険者の関係でしかないからね、それで良いっちゃ良いんだけど」

吟遊詩人「とは言え、気にならないと言えば嘘になる?」

錬金術士「そうね・・・」

遊び人「・・・・・・・・・・」

遊び人「なあ、ところでお前ら、九龍の暗黒街って知ってるか?」

占い師「なんじゃ?そら」

錬金術士「聞いたこと無いわね」

吟遊詩人「僕は聞いたことがあるな、といっても歌で知っているだけだが」

遊び人「どんなトコなんだ?」

吟遊詩人「なんでも、魔族によって拐かされた人間の末裔が住んでいた街だとか」

吟遊詩人「四方を火の山で囲まれた険しい土地に作られ、九頭の龍によって納められていたそうだ」

吟遊詩人「当然魔族の地であるから、人間が生きるにはあまりに厳しい環境で」

吟遊詩人「魔族による暴虐に怯えながら、人同士もまた少ない食料をめぐって常に騙し合い、殺しあう日常で」

吟遊詩人「それはさながらこの世の地獄のようだった、と歌われているよ」

吟遊詩人「昔から噂にはのぼっていたが、先の大戦で人類連合軍が大侵攻した時に初めてその存在が確認されたそうだ」

吟遊詩人「連合軍と九頭龍との激戦のなか、その街も焼け落ちて今は住むものも居ないと聞く・・・」

吟遊詩人「という内容が、大戦物語の一節にあるよ。それにしても、なんだって急に?」

遊び人「あ?あーいや、組の連中との会話でその名前が出てきたもんでよ」

吟遊詩人「なるほど、ここは魔族領に一番近い大都市だからね、その街の生き残りが流れ着いていてもおかしくないね」

遊び人「そうか・・・・・確かにな」

遊び人「(この世の地獄から来た勇者様・・・・・か)」




-- 夕方 --

吟遊詩人「それじゃ、僕も行ってくるよ、帰る時は一応連絡する」

錬金術士「はいよ、行ってらっしゃーい」

占い師「うーむ・・・分からんのう・・・」

錬金術士「どうしたのよ、爺さん」

占い師「いやな、ちょっと考えてみたんじゃよ」

占い師「今回のこの依頼、魔族の人身売買が行われてると勇者は言ったじゃろ?」

錬金術士「そうだったね」

占い師「しかし、お主に言うのも釈迦に説法じゃが、魔族の素材でも値はピンキリじゃ」

錬金術士「そりゃそうだよ、別にゴブリンの爪程度なら大した値段しないで手に入るけど」

錬金術士「竜の心臓なんて言ったら家の一つも建とうって値段がついてるわ」

占い師「となれば、当然取引されるのはかなりのレベルの魔族になるじゃろう」

占い師「ゴブリンだのインプだの程度の素材を集めるのに、わざわざ法を犯すアホが居るとは思えん」

錬金術士「まあそうだろうねえ、労力に対して成果が見合わなすぎると思う」

占い師「そりゃあ、大量に集めて大量に捌けばそれはそれで稼ぎにはなるじゃろうが」

占い師「そんな真似をしたら、もはや内密になんて言ってられる状況じゃあるまいよ」

錬金術士「行方不明どころじゃなくて、集団失踪レベルの事件になってるだろうね」




占い師「となれば、それなりのレベルの魔族を対象にするハズよな?」

錬金術士「そりゃそうしなきゃ割にあわないだろうからね」

占い師「しかし、相手は魔族じゃぞ?そこらの農村で子供拐かして売り払うのとはワケが違うじゃろ」

占い師「戦争中、トロル一匹を相手するのに白兵戦だと兵士が10人必要だったとすら聞いておる」

占い師「それだって、10人でかかって全員無傷とはいかんじゃろ?」

錬金術士「そうだろうね、戦時中は戦地に近い神殿はどこもパンクだったって言うしね」

占い師「じゃが、今この街で、立て続けにケガ人が神殿に運ばれた、などという話はどこからも出てこない」

占い師「しかも、どこの誰か知らんが10人も20人も繰り出して魔族を襲ったら、いくらなんでも噂が立つじゃろう」

錬金術士「そりゃ・・・そうだろうね」

占い師「じゃが、現実に魔族の行方不明は続いているワケじゃ、これはどういう事なんじゃろう」

錬金術士「そうだね・・・可能性は2つあると思うわ」

錬金術士「その1。勇者が言ってた事は真っ赤なウソで、実は魔族の失踪なんか起きてない」

占い師「ま・・・・・また大胆な仮説を出したモンじゃの」

錬金術士「そうじゃないとしたら、その2、魔族を単独、もしくは少人数で狩れる者が犯行を行っている」

占い師「そ、そんなバカな、魔族の強さはお主だって知っておろう」

錬金術士「そう?でも少なくともそれが出来る人をアタシ達は一人知ってるわ」

占い師「ゆ・・・・・勇者か・・・・・」





錬金術士「もちろん、勇者が犯人だなんて思ってないわよ」

錬金術士「でも、勇者ほどじゃないにしても、魔族とタイマン張れる腕の人間なら何人かは居ると思う」

錬金術士「大戦中に魔族相手に、人間ばなれした武勲を立てた英傑の話はたくさんあるわ」

錬金術士「吟遊詩人ならもっと詳しく知ってるんだろうけど」

占い師「ふーむ・・・しかし、だとすると、ワシらの相手はとんでもない相手という事にならんかの」

錬金術士「だからこそ、勇者はあんなに神経質になってるんじゃない?」

錬金術士「アタシたちが戦闘ではアテにならないって事を差っ引いても、かなり安全に気を使ってるようにみえるわ」

占い師「すると、勇者にはある程度相手の見当がついておるのかのう」

錬金術士「さあね?今アタシたちが辿ったのと同じ理屈で警戒してるだけって可能性もあるけど」

錬金術士「ただ、勇者はアタシたちに明かしてくれているよりももっと多くの情報を持ってる」

錬金術士「これは間違いないと思うわ。理由はわからないけどね」

占い師「うむ・・・・・ただのう、なんとなくじゃが、勇者はワシらには悪意は無いと思うんじゃ」

占い師「ワシらに明かしてくれた事に、恐らくウソは無いと思うんじゃよ」

占い師「ただ、ウソはつかんが、隠し事はある、といった感ところかのう」

錬金術士「へえ、それは占い師のカンって奴?」

占い師「長年街頭でいろんな人間を見ておるとな、なんとなくそういう事は分かるんじゃ」

錬金術士「じいさんのカンねぇ・・・・・・まあ話半分ぐらいに聞いておこうかしら」

占い師「なんでそうなるんじゃ!!」





-- 夜 --

勇者「遅くなりました、戻りました」

「おかえりー」「遅かったじゃねーか」

勇者「思ったより手間取りまして、では早速今日の・・・」

吟遊詩人「ちょっといいかな?」

勇者「どうしました?」

吟遊詩人「その前に、一つ聞きたいんだけど、勇者が会っている"魔族の有力者"ってのは誰なんだい?」

吟遊詩人「もちろん、僕らは君に雇われた冒険者にすぎないし、君の人脈について詮索するのは筋違いかもしれない」

吟遊詩人「だけど、チームのメンバーであり、雇い主でもある勇者が魔族と会っている、というのは気になるんだ」

吟遊詩人「勇者の事を信用しないワケじゃないけど、5年前まで不倶戴天の敵だった魔族と手を取り合い」

吟遊詩人「あまつさえ竜騎士団の隊長まで動かす関係、というのはなかなか尋常じゃないと思うんだよね」

勇者「なるほど・・・・・・」

一同「(ジィッ)」

勇者「お話はわかりました、貴方がたが気にかけるのも当然でしょう」

勇者「しかし、申し訳ありませんが、今はまだ話す事が出来ません」

吟遊詩人「今はまだ、という事は、いつかは話してくれるのかな?」

勇者「ええ、しかるべき時が来れば必ず」

勇者「それこそ、貴方がたを信用しないワケではありませんが、今はその名を明かす事は出来ないのです」

勇者「色々と込み入った事情がありましてね」






遊び人「その事情、ってのも話せないのかい?」

勇者「ええ、すみませんが。それも時が来れば皆さんに説明します」

吟遊詩人「・・・・・・・・・・・・・わかった」

吟遊詩人「勇者がそう言うからには、それなりの事情があるんだろう」

吟遊詩人「僕は時を待つという事で異存ないよ、みんなはどうだい?」

商人「ま、ええやろ、誰だって仕入先を聞かれるのはイヤなモンや」

占い師「ワシも異存ナシじゃ」

遊び人「ま、手札はまだ明かせないってんじゃしょーがねえ、ゲームを続けようぜ」

盗賊「アタシは元からそんなに気にしてないからね、別に明かさないでもいいよ」

盗賊「アタシの世界じゃ知りすぎた奴はあんまり幸せにならないからね」

錬金術士「物騒な事いわないでよ、相手は勇者なんだから、暗黒街のボスとはワケが違うでしょ」

遊び人「(ま、実は文字通り暗黒街から来た勇者なんだけどな・・・ボスじゃないにせよ)」

勇者「すみませんが今しばらくガマンして下さい」

勇者「さて、それでは今日の作戦会議に入ってもいいですか?」

「いいよ」「おっけー」





勇者「まずは、遊び人さんお願いします」

遊び人「あいよ、まず、各組織の懐具合の話だけどな」

遊び人「ウチらのいる港の組と、同じく港を押さえてる北の組はやっぱり景気が良い」

遊び人「密貿易やら、海賊のブツを捌いたりやらで手広くやってるみたいだ」

遊び人「南の組も、魔族とのパイプがあるから、他に真似できないルートの商売で随分儲かってる」

遊び人「逆に、西と中の組は商人の言う"古い商売"がメインだったみたいで、今は羽振りがよくねえ」

遊び人「元が武闘派だったその2組は、街の治安の改善につれてシノギがやりづらくなってるみたいだな」

遊び人「スラムの連中は、元々が自警団的な組織だから、商売についてはあんまり良くわからねえ」

遊び人「あそこの連中は外には出てこないかわりに、中に他の連中を入れさせたがらないらしい」

勇者「扱っている品などについては?」

遊び人「さっきも言ったように、港の2組は手広く何でも扱ってる」

遊び人「西と中の組は、基本クスリとかみかじめ料とかそういったところだな」

遊び人「南の連中は、魔族領でしか産出しない貴重品なんかをバンバン捌いてる」

遊び人「サキュバスの媚薬とか、バジリスクの毒薬とか、危険なモノも多いんだが」

遊び人「買う奴は大金出してでも買うみたいだな」

勇者「ふーむ・・・わかりました」




勇者「では、次は盗賊さんお願いします」

盗賊「あいよ、とりあえずアタシはその6組のシマ内を歩きまわってみた」

盗賊「遊び人の言ったとおり、港あたりのそれらしき連中はかなり肩で風きって歩いてる」

盗賊「逆に西や中の連中はだいぶしょぼくれてる、というか、ちょっとイラ立ってるね」

盗賊「今すぐどうこう、って事は無いだろうけど、ヘタするとそのうち抗争になるかもしれない」

盗賊「南の連中、っていうか南の方はそもそもかなり魔族が多いね」

盗賊「正直、魔族の顔色なんかさっぱりわかんないから、誰が表で誰が裏なのか分からないけど」

盗賊「見てると随分人間の街に馴染んでる雰囲気だったよ」

盗賊「普通に店で金払ってメシ食って、ヘタすると店主と世間話してるようなのも居るくらいだ」

盗賊「それから、スラムだけど、ココは住んでる奴ら全員が組の奴なんじゃないかって雰囲気だったね」

盗賊「道に迷ったフリして入ってみたけど、そこら中の奴がジロジロ見るからロクに偵察できなかったよ」

勇者「なるほど・・・・危険な場所ですね」

盗賊「だから、スラムだけは悪いけどちゃんと見れてない」

盗賊「あとの連中は、アジトらしい場所の目星もある程度ついたよ」

盗賊「ココと、ココとココと・・・・」カキカキ

盗賊「まあ、もちろん本拠地じゃないだろうけどね」

勇者「わかりました、ありがとうございます」


勇者「では、商人さん」

商人「ほいな、とりあえずこの街の市場の動向やな」

商人「継続的に値段を見てるワケやないから、当然人から聞いた値動きやから正確とは限らん」

商人「けど、まあ大体のところはウチのカンではこんなもんやないかと思う」バサッ

遊び人「うえっ、俺ぁサイコロとカード以外の数字は苦手なんだよな・・・」

勇者「ふーむ(ペラッ)一日でこれほど詳細に調べていただけるとは、さすがです」

商人「まあ、大雑把にまとめるなら、大体今まで聞いた街の動向に連動してるわ」

商人「人がよーけ入って来よるから、飲食、流通、宿泊の各業界は需要がうなぎのぼりや」

商人「逆に、近隣の特産品なんかはみんなこぞって売りに来るから、逆に価格競争が激化して値下がりしとる」

勇者「なるほど・・・・ちなみに、商人さんから見て、不自然な値動きのある物はありますか?」

商人「せやな・・・ちょっと気になるんが"冒険者の道具屋"の様子やな」

勇者「というと?」



商人「まあ勇者に言うのは釈迦に説法やけど、冒険者の道具屋は薬草だの毒消し草だの」

商人「要は冒険者御用達の消耗品を扱う店や。まあ店に来るのはそれだけとは限らへんけどな」

商人「せやけど、まあこのご時世や、戦争中に比べて繁盛するとは思えへん」

商人「実際、店にも行ってみたけど、客なんかほとんどおれへんし閑古鳥が群れ作っとったわ」

勇者「それは道理にかなった話なのでは?」

商人「そこまではな。ところがな、そこのオヤジは店先でノンビリ煙草ふかしとる」

商人「商売が厳しい時は、資金繰りに焦ってあーでもないこーでもない、とそこら中を走り回っとるのが普通や」

商人「どう見ても閑古鳥が鳴いとる店の店主とは思えへん、と思って気になって裏に回ってみたらな」

商人「店の裏には、真新しい仕入れたばかりの荷箱が積み上がってたんや」

商人「売れるアテも無いのに大量に仕入れるアホはおれへん、多分それだけの需要があっての仕入れのハズやろ」

商人「せやけど、今のこのご時世に好んで薬草だの聖水だの買ってく奴がどこにおる?」

勇者「なるほど、確かに気になりますね、ありがとうございます」

勇者「最後に、私からひとつ皆さんに報告です」





勇者「といっても、大した成果があったわけではありません」

勇者「というよりもどちらかと言うと悪い知らせになります」

勇者「とりあえず、今日集まった魔族の皆さんから集めた情報ですが」

勇者「魔族の行方不明の事については、彼らの間でも噂になっているようです」

勇者「ただ、人身売買の事までは彼らもまだ嗅ぎつけてないようですが」

勇者「このまま噂が広まると、魔族側で公式に調査に乗り出す可能性があります」

勇者「ですから、もしかすると思った以上に時間が無いかもしれません」

勇者「解決を急がないとマズい事になりそうです」

盗賊「急ぐったって、どうするんだよ」

勇者「少し時間を下さい、作戦を考えます」

商人「どのぐらいやろ?」

勇者「そうですね、2日下さい」

吟遊詩人「わかった、それまでは今まで通りかな?」

勇者「はい、引き続き情報収集をお願いします」

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すみません、ただいま年度末で超多忙です・・・しばらくお待ち下さい

やっと一段落したので再開します。



-- 二日後 --

吟遊詩人「さて、2日経ったけど、今後の作戦は?」

勇者「順を追って説明します。まず、昨日今日で追加で調査した結果得られた情報がいくつかあります」

勇者「本当はもう少し確証を得てから動きたかったのですが、時間がありません」

勇者「なので、それらを元に、こちらから仕掛けます」

遊び人「仕掛けるって、どんな風に?」

勇者「まず、糸口は先日商人さんが報告してくれた道具屋です」

勇者「商人さん、お願いします」

商人「あの道具屋な、戦時中は随分儲かってたらしいねんけどな」

商人「当然戦争終わって需要がなくなってからは青息吐息といったところや」

商人「賢い商人やったら、戦争が終わったあとの事を考えて手を打っとくんやけどな」

商人「戦時バブルに浮かれて、あそこのオヤジは荒い金遣いに慣れてしもたらしくてな」

商人「終戦後もその調子で金を使ってたら、戦時中に溜めた金もあっちゅーまに無くなった」

遊び人「ま、分からんでもないけどな、戦争中じゃいくら金があったって死んだら終わりだ」

遊び人「それなら稼いだ金はその日の内に使い切った方がマシだ」

商人「それは商人の考え方やないな、商売人やったら、その金をどう活かすかを常に考えるもんや」




商人「ともかくな、そんなんで、地元の商人仲間たちもあそこは長くない、と思ってたんやけどな」

商人「半年ぐらい前から急にまた羽振りが良くなってきた、って話なんや」

商人「何か新しい商売でも始めたのかと思って、商人仲間が探りを入れたんやけど」

商人「本人は『大口の顧客がついた』とだけ言って、詳しい事は聞き出せんかったそうや」

勇者「ありがとうございます。半年前、というのはちょうど魔族の行方不明が起き始めた時期と一致します」

勇者「恐らく、何らかの関わりがある、と考えて良いのではないかと思います」

勇者「そして、その道具屋で仕入れている品目について商人さんに調べてもらいました」

商人「問屋の方に聞いてみたんやけどな、大半は薬草とかそういうありふれた代物や」ペラッ

勇者「このリストを見ると、回復系のアイテムがほとんどを占めます」

占い師「このご時世にそんなにケガを・・・・・あ、なるほどの」

勇者「そうです、恐らく、魔族を狩る際に負傷者が出るのでしょう」

勇者「街中の事ですから、本来ならば神殿に行って治療を受けた方が早いところですが」

遊び人「そうすると、怪我人が出た事がバレて足がつく、ってワケか」

勇者「はい。もちろん憶測には過ぎませんが、遊び人さんに調べていただいた結果を見ても」

勇者「裏稼業の方々の大規模な抗争なども今はなく、他に該当するような事があるとも思えません」

勇者「ですので、その道具屋が何らかの形で例の件に関わっている、と推定しました」



勇者「そこで、その大量の品を誰に卸すのかを調べたかったのですが」

勇者「残念ながら昨日も今日もそれらを運び出す気配はなかったので」

勇者「盗賊さんに帳簿の方を盗み出していただきました」

盗賊「盗み出すも何も、帳場に放ってあったからね、表でちょっと騒ぎ起こしただけで簡単に持ち出せたよ」

商人「せやけどそれヤバないんか?いくらボンクラ商人て言うても、店閉める時には帳簿の確認ぐらいするやろ」

盗賊「大丈夫でしょ、持ちだしたのは3ヶ月以上前の1枚だけだし」

盗賊「毎日何ヶ月も前まで遡って帳簿見るほどマメな店主には見えなかったしね」

商人「そんだけ商売熱心やったら今頃もうちょっとマシな店になってるやろな」

盗賊「ま、そうだろうね、そんで、その帳簿がコレ」バサッ

商人「確かに一人だけケタの違う取引相手がおるな、問題はソイツが誰なのかって事やけど」

商人「名前の欄に"魚"としか書いてへんな・・・って何かの暗号かいな」

吟遊詩人「なんだろうね、魚みたいな顔をした男だったとか?」

遊び人「魚人だったとか」

盗賊「もしくは"魚"ってコードネームを名乗った・・・」

錬金術士「それか、万が一にも名前を書けないような相手だった?」

遊び人「例えば?」

商人「取引している事がバレたら評判がガタ落ちになるような相手とか?」

盗賊「名前を漏らしたら消されるようなヤバい相手とかね」

勇者「裏組織ならばどちらも当てはまりますね」

盗賊「逆に権力者ってセンもあるかもよ」

遊び人「確かにな、ヤツらはいざとなりゃ人の一人や二人簡単に消す」

吟遊詩人「あ・・・もしかしたら」

勇者「何か思い当たる事が?」



吟遊詩人「商人、君が聞いて回った中で、その道具屋の店主の出身についての話はあったかい?」

商人「先々代がこの街に店を構えて以来ずっとココに住んでるハズやで」

商人「いわゆる"唐様で書く三代目"って奴やな」

吟遊詩人「なるほど、ならばもしかするとコレかもしれない」

占い師「なんじゃ?」

吟遊詩人「この国の建国サーガに"王と12人の騎士たち"という歌があるんだ」

吟遊詩人「乱れていたこの地を、建国の祖が12人の英雄と供に平定し、王国を建てたという内容で」

吟遊詩人「まあ、どこにでもあるありがちな建国譚なんだけど、その12人の騎士というのが」

勇者「今も続くこの国の名家12貴族の始祖、というわけですね」

吟遊詩人「そう、そして、その12人は人数が丁度良いからか、12属性の魔獣に例えられてたんだね」

吟遊詩人「もう今じゃそういう呼び名もあまり使われなくなってるけど、古い住民なら覚えているだろう」

商人「なんで使われなくなったんや?」

吟遊詩人「そりゃ戦争のせいだよ、火竜だの雷獣だの、本物と戦ってるのに自陣の貴族をそんな呼び名で呼べるわけがない」

商人「それもそうやな」

吟遊詩人「で、問題の魚だけど、怪魚をシンボルとしていた家も当然あるわけで・・・この書状のお方だよ」ペラッ

勇者「内務卿ですか・・・・・」

吟遊詩人「そう、僕が来週お招きに預かっているお屋敷の主だ」

一同「ザワザワ」



吟遊詩人「さて、どうする?」

勇者「わかりました、まずは内務卿に的を絞りましょう」

勇者「以前お話した、上層部の共犯者という点でも、司直を束ねる内務卿はそれをやりやすいでしょう」

勇者「もちろん相手が相手ですから、確証を得ずに仕掛ける事は出来ませんので」

勇者「まずは内務卿の身辺を探りましょう、そして、来週開催される内務卿邸の饗宴までに材料を揃え」

勇者「饗宴の日に仕掛けます」

一同「おう」「わかった」

勇者「まず、盗賊さんは内務卿邸の警備状況などを調べて下さい」

盗賊「わかった」

勇者「商人さんと遊び人さんは内務卿について、街の評判などを聞き込みして下さい」

商人「あいよ」

遊び人「へいへい」

勇者「占い師さんは内務卿の近辺の偵察をお願いします、結界があるようならその場所なども」

占い師「承知じゃ」

勇者「錬金術士さんは、道具屋の方を張るための仕掛けをお願いします」

錬金術士「荷が動いたら分かるようにしておけばいいのかしら?」

勇者「そうですね、追跡もできるようにして下さると助かります」



勇者「他になにか質問などは?」

錬金術士「ひとついい?」

勇者「なんでしょう?」

錬金術士「道具屋の帳簿なんだけど、ちょっと気になる事があるの」

錬金術士「量はそんなに多くないけど月の砂とか妖精の雫とか水銀とか」

錬金術士「この辺、アタシたち錬金術士にはお馴染みの薬品なの」

勇者「なるほど、効果はどんな?」

錬金術士「ある意味すごく基本的な薬品だから、調合によって何にでもなるわ」

錬金術士「ただ、逆に言えば錬金術士以外にはまず無縁の薬品だと言える」

勇者「つまり、敵方に錬金術士が居る、と?」

錬金術士「そうね、そして、その錬金術士は何かを作ろうとしてる」

勇者「何を作ろうとしてるかは分からない、という事でしょうか?」

錬金術士「今の情報だけじゃ何も判断できないわね」

勇者「わかりました、それも一つ頭に入れておきましょう」

勇者「では、明日から内務卿の調査、よろしくおねがいします」



-- ??? --

男「どうだ、進み具合は」

研究者「前回に比べると大分改良されました」

男「どの程度だ」

研究者「前回の反省を生かし、今回はパラケルスス法の変形を使う事で魔力の循環が・・・」

男「御託はいらん、完成までどのぐらいかかる」

研究者「その、現状ではまだいくつか障害があり、ハッキリとした日取りは・・・・」

???「いくつかって、いくつあるんだ?」

男「あ、s・・・・」

???「ジロッ」

男「失礼しました、こちらにいらしたんですか」

???「そりゃそうだ、コイツは俺達の計画の要だからな、気にもするさ」

研究者「・・・・・」

???「で、障害ってのは何だ、具体的に言ってくれ」

研究者「あ、その、まず単純にサンプル数が少ないため、解析が完全にできていません」

研究者「それから、この研究室レベルよりも大きな規模で実験をするには、魔力の出力が足りません」

研究者「そして、それらの魔力を安定して運用するための素材が必要になります」



???「まず、一番目については今よりも供給ペースは上げられない、あるもので何とかしろ」

研究者「わかりました・・・・」

???「それから二番目だが、魔力が必要ってだけなら魔石があるんじゃないのか?」

研究者「そうですが、今の手持ち量では一ケタ足りません、規模が倍になれば必要な魔力は4倍になります」

???「ちっ、大食いめ・・・それはそっちで何とかしろ」チラッ

男「・・・・難しいですが・・・主と相談します」

???「それから、3つめは?安定した運用とやらは何があれば出来る?」

研究者「その・・・実は・・・賢者の石が必要で・・・・・・」

男「賢者の石だと!?バカなっ!!この国でも王室に一つ、王立魔術院に一つしかない貴重品だぞ!!」

???「まて、それは心当たりがなくもない」

男「本当に!?」

???「ああ、ちょっとな・・・で、それがあれば完成させられるんだな?」

研究者「え、ええ、おそらk」

???「おそらく?」

研究者「い、いえ!必ず!!!」

???「当然だな、それだけの労力と金と資材を費やすんだ、出来ないとは言わせない」

研究者「は、はいっ!!!!」

???「さっさと完成させる事だな、でないと・・・・」

研究者「・・・・ゴクリ」

???「お互いに不幸なことになる」カッカッカッ・・・





-- 翌日 --

勇者「さて、改めて、今日から我々は内務卿に的を絞って動きます」

勇者「まず、内務卿の大まかな素性ですが、昨夜吟遊詩人さんの言ったように」

勇者「建国以来の名門の旧家として、代々この国の中枢を担ってきた大貴族の一人です」

勇者「先代は摂政として、先々代は財務卿として、そして当代は内務卿としてこの国を取り仕切っている一人です」

勇者「しかし、当代になって、彼の一門の威光には陰りが見えてきました」

勇者「理由はやはりあの戦争です」

占い師「というと?」

勇者「まず、彼の領地はこちらの地図にあるように、この国の南西にあり、魔族領と境を接しています」

勇者「当然、12貴族のひとつですから、その領は広大なものですが・・・実際はそのうち三割は領地として機能していません」

吟遊詩人「そうか、戦場となった場所・・・」

勇者「そうです、巷間でも有名になったような大きな決戦のうち、いくつかは彼の領地を舞台として繰り広げられました」

吟遊詩人「大侵攻にはじまり、第二次防衛戦、電撃奪還作戦、土の四天王戦・・・」

勇者「それらの戦いの結果、彼の地は焼け野原となり、場所によっては土に毒が混じり、不毛の地と化した所も少なくありません」

勇者「もちろん終戦以来、復旧の手は入っていますが、一度逃散した農民たちはなかなか戻らず」

勇者「また、入り込んだ魔族たちも未だに無許可でうろついているような状況ですので、復興にはかなりの時間がかかるでしょう」

勇者「とは言え、国を代表する大貴族ですから、その程度の事で屋台骨がゆらぐような事はありません」

勇者「領地の三割が機能しなくても、彼ら一門の経営にはそよ風ほどの支障もないでしょう」

勇者「問題は、収入よりも名声の方です」



勇者「あの大戦は周辺諸国と神殿勢力の全てを巻き込んだ大戦争でしたから」

勇者「いくら大貴族とはいえ、一国のいち領主の持つ戦力など、魔王軍の前には蟷螂の斧にもなりません」

勇者「しかし、貴族社会の論理というのはそういった言い訳を許してはくれません」

勇者「つまり、理由はどうあれ"領土の三割を奪われた貴族"という烙印を押されるわけです」

勇者「事情が事情ですから、もちろん失政を犯して領土を失った場合などとは扱いが違いますが」

勇者「少なくとも、一門の名誉に傷がついた事は間違いないでしょう」

勇者「更に、彼の内務卿という役職もこの悪い流れに拍車をかけました」

勇者「これまた彼の責任ではありませんが、あの戦争により国内の行政は滞り、治安は悪化しました」

勇者「これらは最終的には内務卿に課せられる責務ですから、どうしても彼に対する風当たりは強くなります」

勇者「更には、軍務卿や外務卿は戦勝によりその功績を認められ」

勇者「財務卿も戦後の活況の立役者として大きく評価されはじめています」

勇者「それに対して内務卿というのは、平穏無事が一番の功績、という職務ですから」

勇者「大功を得て一発逆転、汚名を雪ぐというワケにはいきません」

勇者「これらの理由がかさなり、以前は12貴族でも三本の指に入る名家だったにも関わらず」

勇者「現在では12家の中でも落ち目の家として見られているわけです」

勇者「"命を失うとも名を失うなかれ"とまで言われる貴族社会の住人として、これはガマンならない事態でしょう」




遊び人「なるほどね、んで、メンツを潰されかけてる貴族どのが一発逆転をかけて魔族を拉致してる、と」

遊び人「一体なんのために?」

勇者「それを探るのがまず第一段階です」

錬金術士「第二段階は?」

勇者「企みを阻止し、実行犯を捕まえ、内務卿の罪をしかるべき筋に伝えます」

錬金術士「シンプルね」

勇者「ええ、そして、私の依頼者に報告して報酬をあなた方に渡す、これが第三段階です」

占い師「言うは易しじゃのう」

勇者「行うは難しですが、それが可能なチームを私は集めたと思っています」

遊び人「お世辞がうめぇじゃねーか?ま、いいだろやってみようぜ」

勇者「ではせっかくですから遊び人さんからの報告をおねがいします」

遊び人「そうだな、とりあえず、まず裏の連中の間じゃ内務卿の評判は当然ながら良くない」

遊び人「取り締まる側と取り締まられる側なんだから、評判が良かったら問題だがな」

遊び人「戦後の治安がここまで回復したのは内務卿のおかげなんだろうから、少なくとも無能じゃないんだろう」

遊び人「しかし、市民たちに圧倒的に支持されるほど有能ってワケでもないみたいだ」

遊び人「戦前と戦後じゃ街の様相が大きく様変わりしているんだが、やってる事は戦前と代わり映えしない」

遊び人「だから魔族とのトラブルや、悪徳商人の流入、スリや詐欺の増加に対してはほとんど有効な手は打ててねえ」

遊び人「もちろん何もしてないわけじゃないが、思い切った手を打った時は逆効果に終わってる」

遊び人「要するに、ちまちま賭けてるウチは小勝ちするけど、勝負に出ると大負けするタイプだ」

勇者「ありがとうございます」



勇者「では、続いて商人さんお願いします」

商人「せやな、遊び人の言っとったような評判は大体ウチも聞いたわ」

商人「役人としちゃ可もなく不可もなく、ってな評価がほとんどやな」

商人「せやけど、商売人としちゃ結構やり手みたいやで」

商人「ヤツの扱っとる商売は大半が農業関係で、食料や繊維作物なんかが主力やな」

商人「当然貴族様やから地盤も信用も資本もケタ違いやけど、そのケタ違いの力を有効に使っとる」

商人「商売敵が現れたら、即座に力で押しつぶすか、逆に飼いならすかして、常に市場に支配力を保っとる」

商人「もちろん他の荘園持ちの貴族とは正面からぶつかるワケには行かんから」

商人「その辺の仲間内は協定結んだりして事を荒立てず、でも決して譲らず、と上手いことやっとる」

商人「ただ、やっぱり機を見るに敏とか、先見の明があるとかそういうタイプやないな」

商人「圧倒的な力で正面から叩き潰す、ってタイプや。よく言えば慎重、悪く言えば鈍重や」

勇者「なるほど」

商人「あと、ちょっと気になったんが、最近はこのオッサン、魔石にも手を出してるみたいなんや」

商人「もちろんこの国の特産品やし、どっかに輸出する、というのは不自然やないけど」

商人「コイツの領地は平地で、今まで鉱山資源なんかを扱った経験はあんまり無いハズなんや」

商人「他の、例えば外務卿なんかは圧倒的に魔石の取引の経験も長いし取引先も持っとる」

商人「そこにわざわざ今参入する、ってのはなんかチグハグな気がするんよな」

勇者「ふむ・・・・・取り扱いの量は?」

商人「そら、うちら零細の商人からしたら大量やけど、貴族様の商売って事を考えたら大した量ちゃうみたいやな」

勇者「そうですか・・・・気になりますね」




勇者「さて、占い師さん、今までの情報から考えるに、内務卿というのはどういう方ですか?」

占い師「そうじゃな・・・まず、さっきから言われてるように、保守的で頭がカタい。道を外れるのは苦手じゃろう」

占い師「それから、他人の評判は結構気にするタイプじゃな」

勇者「というと?」

占い師「役職とはいえ、治安の維持なんていう金も手間もかかる事に、それなりに手を割いておる」

占い師「さっき遊び人が言っておったスリだの悪徳商人だの、なんてのは、貴族にとってはどうでもいい事じゃろう」

占い師「街が大荒れしたり、貴族の館が焼き討ちにあったりせなんだら、仲間内の評判には影響は無いじゃろ」

占い師「じゃが、そこにわざわざ手を打っておるという事は、多分庶民の人気者になりたいんじゃろ」

占い師「そして、思い切った手を打っては失敗してるというのは、変身願望の現れじゃな」

占い師「50まで役職持って国を切り盛りしとったベテランじゃ、自分の特性ぐらいはとうに承知のはず」

占い師「じゃが、心の底でそれを認めたくないんじゃろうな。無難な人、という仲間内の評価を覆したいんじゃ」

勇者「なるほど、さすがに鋭いですね」

占い師「伊達に何十年も他人の悩みを聞いてきておらんよ」

占い師「顔を見て話でもしてみたらもっと分かるんじゃがのう」

勇者「それは少々危険ですからね、今はやめておきましょう」



錬金術士「うーん、ひとつ疑問があるわ」

勇者「なんでしょう?」

錬金術士「もし内務卿が爺さんの言うような性格だとしたら、魔族の拉致ってのはなんだかしっくり来ないんだけど」

勇者「ふむ」

錬金術士「魔族を拉致して何かやってる悪巧みが、今回も"思い切った事をやろうとして失敗する"うちの一つだとして」

錬金術士「目的は分からないけど、どう考えたって皆に褒めてもらえるような事にはならないでしょう?」

錬金術士「"魔族を何人も拉致した結果、私はこんな事をやり遂げました"なんて、誰にも自慢できない」

錬金術士「他人の評判や名声をそこまで気にする人物が手を出すような事とは思えないわ」

商人「確かにそうやな」

盗賊「例えば、その経緯は隠したままでも名声が得られるような事をする、とかは?」

盗賊「方法は伏せたままでも、例えば今死んでる三割の領土を一気に蘇らせたらそれだけで充分な功績でしょ?」

盗賊「それとか、さっき遊び人が言ってたスリだの何だのってトラブルを一掃して見せたら、評判は上がるよ」

盗賊「そのための方法として、他人には言えないような手を使う、って事はありうるんじゃない?」

遊び人「まあ、イカサマでも勝ちは勝ちだからな」

商人「せやけど、それにはいくらなんでも仕入れ値が高すぎるんちゃうか?」

商人「王の居るお膝元で魔族を拉致するなんて、あまりに危ない橋を渡っとる」

商人「その危険をおかしてまで買うのが、その程度の事じゃあソロバンが合わんやろ」

勇者「確かにそうですね、しかも、国王をはじめ、貴族の一部は魔族との交流を国益にかなうと考えています」

勇者「もしも表沙汰になったら、内務卿の名声は地に落ちるでしょう、というかそれだけでは済まない可能性すらあります」

勇者「それだけの危険をおしてまで進めているのですから、よほどの何かがあると考えるべきでしょう」



勇者「さて、次は盗賊さん、お願いします」

盗賊「はいよ、警備体制は貴族の館としちゃあ普通だったね」

盗賊「常設の警備は大体20~30人ってトコだと思う」

盗賊「魔法系の防備もセオリー通り。動く石像、茨の蛇、炎の壁などなど」

盗賊「ただ、ちょっと気になったのは、警備の連中が随分疲れてたみたいなんだ」

盗賊「そこで、コイツを仕掛けてしばらく経って回収してみた」ゴソゴソ

遊び人「なんだいそりゃ」

錬金術士「耳蟲、アタシの作品よ」

盗賊「敷地内に入れると魔法感知に引っかかるから、外回りの声しか拾えなかったけどね」

盗賊「えーと、これだ」

『交代だ』

『やっとか、ったくいつになったら休みもらえんだよ』

『あっちのせいで人が足りねーからな、俺だって一ヶ月休んでないぜ』

『何があるんだか知らねーがさっさと元にもどってもらいたいもんだな』

『あっちはますます殺気立ってるみたいだ、雰囲気が悪いって隊長がこぼしてたよ』

『いったいあんな所に何があるんだろうな、さっさと屋敷に持って帰って来たらいいのに』

『さあな、貴族様には貴族様の事情があるんだろうよ』

『ま、俺たちにゃ分からん世界だからな、さーて、さっさと帰って風呂入って寝るわ』

『お疲れさん』

盗賊「ってなワケ」

なんでホモ話に花が咲いてるんだ・・・・・・・

まあいいや、続き投下します



勇者「なるほど・・・あっち、というのはどこなんでしょうね」

盗賊「そこまでは分からなかった、交代した衛兵をつけてみたけど、家に戻っただけだったよ」

吟遊詩人「会話から察するに頻繁に行き来をしているようだから、領地の屋敷ってワケじゃなさそうだね」

勇者「どこであれ、そこに警備を割いているために、衛兵たちが休みを取れず疲れが溜まっている、と」

盗賊「そうだね、そして、そこをかなり厳重に守ろうとしている」

勇者「怪しいですね、手がかりの一つと考えましょう」

勇者「さて、次は占い師さん、屋敷の内部はどうでした?」

占い師「そうじゃの、一通り占ってはみたが、屋敷全体に簡単な結界が張られているようじゃ」

占い師「ぼやーっとは見えるが、詳しいところはわからんのう」

遊び人「そりゃ爺さんが老眼なだけじゃないのか?」

占い師「やかましいわ!水晶球ぐらいちゃんと見えるわい!」

勇者「まあまあ、それで、屋敷の中はどんな?」

占い師「作りは普通のようじゃな、といっても貴族の屋敷なぞ大して知らんから本当のところは分からんが」

占い師「二階までは普通に見通せたが、三階は別の結界が張られておって、何も見えんかった」

勇者「なるほど・・・・ちなみに、破れますか?」

占い師「それは、相手に気付かれずに、という事かの?」

勇者「はい」

占い師「ふーむ、ちょっとむずかしいかもしれんのう、かなり強固な結界じゃ」

勇者「そうですか・・・・」

占い師「ただ、中から誰かが手伝ってくれれば別じゃ」

占い師「結界というものは、大体内側からは簡単に破れるようにできておるからの」

勇者「分かりました、ありがとうございます」



遊び人「さて、どうするよ?相手は大貴族だ、締めあげて企みを吐かせるってワケにもいかねーだろ?」

勇者「相手が内務卿一人ならそれも良いでしょうが、裏にも繋がる人間が居るでしょうからね」

商人「それもええんかいな・・・」

占い師「それではどーするかの?」

勇者「内務卿が何を企んでるのかはハッキリしませんが、彼がやっている事が重大な犯罪である事は自覚しているはずです」

勇者「と同時に、そこまでの危険を冒してまで達成したい何かがある、という事です」

勇者「そういう状態の人間というのは、ちょっとつつくだけで過敏に反応します」

錬金術士「そうかもしれないわね」

勇者「まずは、内務卿に接近します」

勇者「盗賊さん、貴女は内務卿のお屋敷に下働きとして潜り込んで下さい」

盗賊「どうやって?」

勇者「一人、メイドに病気になっていただきましょう」

勇者「錬金術士さん、1週間ほど寝込むような薬、作れますか?」

錬金術士「お安いご用よ」

盗賊「一服盛って代わりに入り込むってワケね」

勇者「そうです。身元保証の紹介状はこちらで準備します」

勇者「それから、商人さん、貴女は明日から南方公のお屋敷に行って下さい」

勇者「書付を用意しますので、それを持っていって下さい」

商人「ええけど、何をするんや?」

勇者「作戦はこうです、まずは内務卿のお屋敷の夜会までに・・・・」

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-- 内務卿の館 --

女中頭「そこの新入りのあなた」

盗賊「はい」

女中頭「裏にストーブ用の魔石が届いてるわ、受け取りに行くから着いてきて」

盗賊「分かりました」

盗賊「(石炭や薪じゃなくて魔法ストーブかよ、さすが大貴族様だわ)」

ガチャ

遊び人「ちわーす、荷物のお届けにあがりました~」

盗賊「(お前かよ)」

女中頭「あら、いつもの人は?」

遊び人「ああ、ちょっと眠りぐす・・・いや、その、ちょっと腹が痛いって今日は代理でござんす」

女中頭「そう、最近病人が多いわねえ・・・はい、コレ受け取りよ。ご苦労さま」

遊び人「まいどありぃ~」

女中頭「じゃあコレ、地下に運んどいて頂戴」

盗賊「はい」

盗賊「(さて、こん中に・・・)」ゴソゴソ

盗賊「(あった、ヘアピン型か)」

盗賊『聞こえる?アタシだ、今ブツを受け取った』

勇者『よく聞こえます、ご苦労様です』

錬金術士『無事届いたみたいね、他の道具類は箱の底を二重にして隠してあるから』

盗賊『分かった』



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盗賊「潜り込むのは良いけど、問題は道具だね」

盗賊「女中の手荷物なんて着替えぐらいが関の山だ、魔法道具を持ち込むわけには行かない」

盗賊「それとこの耳飾りもマズい、新入りのハウスメイドがこんなモン付けてたら不自然だ」

勇者「お屋敷の魔法感知はどんなタイプだと思います?」

盗賊「まあ、普通貴族の屋敷っつったら魔法のアイテムを全く使わないってワケにゃ行かない」

盗賊「それに、来客だって魔法道具を身に着けてる可能性もあるしな、外せとも言えないから」

盗賊「大抵は敷地の境界に張って、魔力を発する何かがそこを越えたらこっそり警備にだけ伝わるようになってる」

盗賊「あとは、ある程度の出力・・・まあ、攻撃魔法レベルの魔力の発生が敷地内で起きたら、警報が鳴る」

盗賊「こんなトコだと思うよ」

勇者「分かりました、では来客を装うなり、業者を装うなりして貴女の手に渡るようにしましょう」

勇者「耳飾りについては・・・錬金術士さん、何かアイデアはないでしょうか?」

錬金術士「別に耳飾りじゃなくても、耳の近くにあれば機能は果たせるから何か考えてみるわ」

勇者「お願いします、というわけで、2~3日中には盗賊さんの手元に道具類が届くようにしておきます」

盗賊「わかった、よろしくね」

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