ほむら「…私は一体、何のために生きてるんだろうか…」 (58)

~ほむらの家~


音を立て、彼女は目を覚ます。
汗びっしょりになりながら、思い出す。

まどか『…ほむらちゃん』

ほむら『ま、まどか…!?』

懐かしい聞き覚えのある声に彼女は興奮していた。
だが、同時にそれは夢であると彼女は知っている。


まどか『ほむらちゃんは私のこと、ずっと覚えててくれたんだよね』

ほむら『…うん…もちろん…』


今日も同じことを聞いてくる。彼女にはわかっていたのだ。
こうして、夢でまどかに会い、この質問をされる。
だが決して回答は変えない。いつも同じ。
向き合っているまどかの顔もいつも同じ。
笑顔ではない、泣いてもいない。普通な顔。
言うなら表情がない顔を浮かべている。

まどか『そっか、ありがと、ほむらちゃん』

まどか『…いつか、必ずほむらちゃんとも会えるから』


お決まりの台詞に、お決まりの答え。
彼女はそれが嫌で、今日こそはと抗ってみせる。


ほむら『ま、待って!』

ほむら『まどか!!』


だが、不意にいつもここで叫んでしまう。
そして、プツンという音と共にこの世界と遮断される。
次に意識が働くときは、ベッドの上。
これが彼女の日常であった。


ほむら「……」

~見滝原中 教室~

…ガヤガヤ

先生「え~この答えからわかるように、因数分解とは…」



ほむら「……」

耳では授業を上の空で聞き
目では青い空を眺める。そんな毎日。
この教室での勉強など、全く意味のないことを知っていた。
彼女は最近よく考える。
それは誰しも一度は考えたことがあることではないだろうか。
だが、それを他人に話したりはしないこと。
彼女もいつからかそんな凡庸な思考が働く、人間になっていたのだ。


ほむら「…私は一体、何のために生きているんだろうか…」


~見滝原市内~

…ゴゴゴゴゴ!

轟音とも爆音とも取れるような鈍い低い音。
同時に”それ”は滅却された。
残った地面には小さな黒い塊。彼女はそれを拾い上げ、小さな袋に入れる。
その塊は彼女に何をもたらすのか、それは彼女にしかわからない。
しかし、その答えは案外あっけないものだろう。
おそらく、人間が生きていくには食べ物を食べないといけないでしょう?
それと同じことよ。と流暢に答えてみせる彼女の姿が浮かぶ。


ほむら「……」

ほむら(今日は…この程度かしらね…)

帰宅の意志がはっきりした彼女の後ろに何かが立っている。
その気配に彼女が気付かないはずがない。
声をかけられるのも厄介と思ったのか
彼女は自ら声をかける。

ほむら「…何かしら」

QB「今日はもう終わりかい?」

ほむら「…ええ、もう帰るところよ」


当然の返事。
そこに躊躇いや、ため息、息遣いの違いや発音の高低差は感じられない。
人間にはあるはずの『感情』が欠如した存在がいた。
彼女は別に驚かない。
”過去”では敵対していたようだが、”現在”では相棒である。
彼女との会話はいつも通り。
それは彼女自身が一番わかっていることだ。

QB「一つ聞いてもいいかい」

変身を違和感無く解き、自宅へと歩き始めた彼女。
その後ろから、主人を慕う犬のように歩いてきたQBは言った。


ほむら「…なによ」

彼女はあしらうように答える。
彼女にはいくつか、どのような質問か、大方予想がついたが
すぐにその期待は裏切られる。

QB「…最近の君はどこかおかしいよ」

ほむら「…」


彼女は驚愕した。3秒ほど思考は停止したが
そのおかげで、先走った結果を出さずに済んだ。

ほむら「どういう意味かしら…」

QB「言葉そのままの意味だよ」

QB「君との付き合いが長いわけじゃないけど」

QB「今の僕でもわかる、今の君は前と違う」

ほむら「前っていつよ…!」

QBの話に間髪を入れずに彼女は質問した。
明らかに感情を露にしている。
それは最近の自分が、いつかの自分と大きく変わってしまったことに
自覚があるからではないだろうか。
図星だった彼女は人間らしい反応をしたと言える。

QB「そうだね、時間的に言うと君が『魔女』について話してくれた時かな」

ほむら「……」


『魔女』その単語を聞いて彼女の記憶は総天然色となる。
思い出したくない『過去』なのか。
それとも、いい『思い出』なのか。
彼女にとっては両方とも正解。
いや、彼女自身わかっていたのだ。
自分が後悔していることに。

ほむら「…そう」
ほむら「感情がないくせに…よく気付いたわね」


彼女は強がってるのか。
それとも、自分は素直ないい子を演じているのか。わからなくなった。
ただ、自分が変わってしまったことには自覚があるようだ。


QB「観察は僕らの得意分野だからね」

QB「僕らとしては別にどうでもいいことなんだけど」

QB「魔獣退治にまで影響してくると厄介だからね」

ほむら「…そう」


ならどうして聞く、まだ影響はしていない。
彼女はそう思ったが、別に言うことでもないと思ったのか。
はたまた、もうこんな奴と会話したくなかったのか。
そっけなく答えると歩幅を広くし、歩き始めた。
QBも会話終了の合図を察したのか彼女の後ろの気配はそれから消えた。

その後
~ほむらの家~


一人の料理。一人の食事。
一人の身支度。一人の入浴。
一人の就寝。一人の囚人。

彼女は今の生活が先の見えない刑務所での生活と同じように感じていた。
もちろん彼女は刑務所になど入所したことはない。
彼女の身勝手なご都合主義な価値観でそのように感じていたのだ。
毎日決まったことをしている自分は囚人と同じで、ずっとこうしていくんだろう、と。


当たり前のことを済ませ、彼女はベッドに入る。
ここからは誰しも自分の時間であり、どんな考え事でも、妄想でも空想でも
思い出にでも、何だって浸れる時間。
もちろんここにいる彼女だって人間だ。
「魔法少女」とうイレギュラーはあるものの
それ以外は普通である。

彼女は最近考える。
『自分は一体、何のために生きてるんだろうか』
本日の議題もそれに決まったようだ。
彼女の脳内には椅子と長机がコの字型に配置され、今日も会議が始まる。


受験のこと、魔獣退治のこと、まどかのこと、魔法少女のこと、
自分の将来のこと、そして最後は自分の人生のこと。
不満を吐くようにぶちまけた本会議の主役は他の参加者に回答を求めた。

一人の参加者が答える。
三つ編にメガネをかけた制服姿の『暁美ほむら』だ。

「まず受験のことですが、これは後述する将来のことに直結してきますね」

「まあ誰しも高校受験なんて通過する壁ですし、そこまで悩むようなことでは…」

主役は意外とそれであっさり納得した。
「確かに」そう言いながら頷くと、「はい次」と指示した。


次の参加者が答える。
この参加者は魔法少女スタイルのピンクのリボンをつけた『暁美ほむら』だ。

「魔獣退治については…仕方ないことじゃないかしら…」

「魔法少女である以上、どうしようもないことでは…」

主役は頷くが、次は納得しない。

「うん…でもね。じゃあ何のために魔獣退治するの?」

主役は参加者に問う。
主役はパジャマ姿で髪には何もつけていない『暁美ほむら』だ。

参加者は答える。

「いや、だから、それは今さっき…」

「魔法少女である以上、生きるために仕方なくって…」

主役は「待って」と言わんばかりに掌を出して参加者の発言を止める。

「ごめんなさい、そうだったわね」

「…質問を変えます」

「じゃあ何のために生きるの?」

どの参加者もここで気付いたが、これが本題である。

主役も参加者も誰もが口を閉じたままだ。
沈黙を破ったのは、おそらく席の配置から
『まどかのこと』の回答をするはずだった参加者だった。
この参加者は三つ編でメガネをかけている魔法少女スタイルの『暁美ほむら』だ。

「…どうして、そんなことを考えてるのですか?」


この質問をした以外の全員の顔が引きつる。
だが誰も答えない。何も言わない。

「…やっぱり、『まどかを助ける』ということが私の生きる目的だったんですか…」


皆は黙りこんだままだった。
沈黙が続いたあげく、参加者の一人は泣きそうな顔までしている。
業を煮やした今回の会議の主役は立ち上がりまた嘔吐した。

「だから、私は一体、何のために生きているのっ!」

「まどかがいなくなって、あの子が守った世界で戦い続けるって決めたけど」

「もう限界なのよ!」

「誰か教えてよ!」

「何のために、魔獣まで狩って、私は生きようとしてるの!?」

「どこかの高校に行ければ、生きる意味が見つかるの!?」

「このまま大人になったとして、何か幸せな未来があるの!?」

「…不安なのよ…!」

「でも…っ!」

「でも…!」

「死にたくないっ!!」

「みんな、みんな、一体何の為に生きてるのよっ!」

間違っていなかった。彼女は人間だ。
強くはない、特別ではない。どこにでもいる人間なのだ。
心の不満は爆発して当然。
将来に不安があって当然。
誰かを頼りたくて当然。
だから人生の答えを探すのも当然。

もしも「まどかを救う」これが彼女の生きる理由であったなら
彼女は”現在”生きる理由がないことになる。だからと言って死ぬ理由も無いが。
ところが、続けて主役は吐いた。

「でも、まどかを助けたとして、それからは一体何のために生きるの!?」

「まどかと友達でいつづけて、それで私の人生は終わり!?」

「まどかだって、そのうち男の子を好きになって」

「私は友達で終わり、最高の友達かもしれないけど、それは恋人以下なの!?」

「てか、私はまどかと恋人になりたいの!?」

「そういうわけじゃなくて!」

「あああ!もうっ!」


伝えたいことが反れたのか、彼女は参加者に押さえられた。
押さえつけられながらも主役は叫び続ける。

「だから!そういうことじゃなくてっ!」

参加者は必死になる。
当然だ。議会は紛糾。決議は出ずに終わった。
この場で今回の議題の決議が出るならば彼女がこんなことに時間を割く必要などないのだから。

ほむら「……」

彼女の脳内で行われた会議の結果はこうだ。
どれだけ複数の自分がいようが、答えなど出ない。
だがそれでも彼女はその決議が見つからないと意味がない。
生きる理由が見つからない。
じゃあどうするのか?
一人で出ないならば、自動的に他の誰かに頼ることになる。


ほむら「……」

そう決めた彼女は宛てが二つほどある。
ただ、正直な話、その宛てを思いついた瞬間から期待などしていなかった。
とりあえず、明日の目的を見つけただけでも安心だ。
と、彼女は闇に落ちていく。深淵へと。

ほむら「まどか」

「……」

同じ夢。ここで聞く台詞はもう聞こえない。
彼女は状況に変化があるのではないかと耳を塞いでしまったから。
そして呼んでみる。
聞こえないだけではない、目も閉じている。
夢の中でも気配だけで、その存在を確かめられのか試しているようだ。

眩しい。ただ眩しい。
目を開けても眩しい。
意識がある。朝だ。
彼女は素っ頓狂な顔を浮かべている。
そうれもそうだろう。
あの夢を見なかったんだから。


ほむら「…そ、そんな」


思考が停止してしまった彼女に
現実であることを伝えるかのように
目覚まし時計のアラーム音がけたたましく鳴った。

考えている暇はない。
今日はすることがあるのだ。
彼女はどこからこの気持ちが湧いてくるのかわからなかったが
今までの彼女からは想像もできないくらいに興奮していた。
一日でも、何かの目的があるだけでこうも朝が気持ちいいのかと。
彼女はこの時気付いていなかった。

昼休み
~見滝原中学 屋上~


高い柵で囲まれた屋上。
そこは誰もが想像するような『屋上で授業をサボる』
そんなシーンが最も似合わないような屋上であった。

マミ「こんなところに呼び出して、話って何かしら、暁美さん」


巴マミ。
学校で魔法少女と言えば、このお方しかいない。
可憐に紅茶でもいただきながら、胸元がはだけた格好をして調子乗ってると紅茶ごと首を持っていかれた張本人。
彼女の中では、マミはしばし、ネタにされる人物のようだ。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
今日は目的がある。聞かなければならないことがある。

ほむら「…変なこと、聞いてもいいかしら」

マミ「…え?」


なぜ前置きを入れた!
別に彼女からどう思われようが、私の人生には関係ない。
と強がってはみたものの誰からも「変な奴」とは思われたくないのは当然のことである。
人間として当然のこと。当然の羞恥心。
これはそれに対する一種の防衛本能なのだろう。


ほむら「巴マミ、貴女は一体何のために生きてるの?」

マミ「…えっ」


予想通りの反応。

マミ「あ、暁美さん…どうかしたの?」


嗚呼。
これは私の悩み事でも聞いて、相談に乗り、仲良くなって自分の寂しさを紛らわしたいパターンね。
なぜそんな結末がこうも簡単に頭の中に浮かぶのか。
巴マミの善意をこんな風にしか受け取れない私。
でも、そんなことが頭にすぐに浮かぶ自分が一番苦手。
だから生きる意味が見つからないのかも。
答えにになってない答えから彼女は答えを見つけだそうとしている。
ただ思考が働き過ぎて、質問の回答を忘れてしまっていたようだ。


マミ「あ、あの…?」

ほむら「…ごめんなさい、ただ……」

ここで、用意していた言葉がないことに気付く。
もちろん、この回答次第でさっき頭に浮かんだような状況になりかねない。
彼女は自覚している。ここでの判断を誤れば自分も巴マミの善意に触れ、甘え、相談してしまう。
そして、当然巴マミも相談に全力で乗るだろうし、仲良くなってしまう。
それなのに自分は巴マミの好意を偽善じゃないかと決め付けそんな自分を更に苦手になる。
最悪なスパイラル。それだけは防がなくてはならなかった。
どうして、この質問をぶつける前に自分は気がつかなったのか。
それは『巴マミに質問する』という行為が私の人生に一日だけでも目的を与えてくれたからだ。
もしここで『巴マミに質問する』という行為すら否定していればまた目的探しから再スタートになってしまう。
嗚呼。怖い。嫌だ。

ほむら「……」

マミ「え、ええっと…ただ?」

ほむら「はっ…」

ほむら「た、ただ…聞いてみただけよ」


これ以外にこの状況で出てくる言葉は無かった。出てくるのは『感情』ばかりだ。
早く一人になりたかった。
相手の考えてることを予想し、それに対応して言葉を選び、駆け引きするのは疲れる。

ほむら「…ごめんなさい、もう行くわ」

マミ「あっ…」


巴マミは何か言いかけたが、それを気にかけている余裕などない。
このままだと壊れてしまいそうだ。
これ以上壊れたくない。
壊したくない。

彼女は自意識がある。自覚がある。
対人恐怖症。PTSD。精神分裂病。
そんな生優しい病気ではない。そもそも病気ではない。
彼女は今、人間の根底にある恐怖と戦っているのかもしれない。
不安。猜疑心。この世界にはどれだけあるだろうか。
目を伏せたいような現実が。
血生臭い現実が。
生きてる理由すら見つからないと嘆く、贅沢な現実が。


ほむら「…はあ、はあ、はあ」


取り合えず落ち着こう。前を向こう。先を見よう。
放課後。
いつも通り下校できていることにも彼女は驚愕している。

ほむら「はぁ…」

ため息をついた。少しは落ち着いたようだ。
このまま今日は落ち着いているといい。
しかし、時間という運命が彼女に良くも悪くも、刺激をもたらす。


「よう、ほむらじゃねえか」


この声を聞きたくなかった。
神出鬼没のお菓子の化身。
佐倉杏子も彼女の中ではネタになっているようだ。


ほむら「…久しぶりね」

杏子「学校帰りか?」

ほむら「…ええ」


会話はきちんとキャッチボールになっている。
巴マミとは違う。
相手次第でこんなにも変わるものかと彼女自身大変驚いている。
結論は簡単だ。
佐倉杏子は食べ物意外に興味はない。
私にも興味もないから、私に優しくする必要も邪険にあしらう必要もないからだ。
私の調子を狂わせないだけで佐倉杏子が神のように思えてくる。

杏子「へえ」

ほむら「……」

ほむら「…ちょっと、聞いてもいいかしら」


この時、私は調子に乗りました。これが私です。
巴マミの時は失敗したが佐倉杏子の時は成功した。こんな小さな出来事を理由に私は危険な挑戦してしまった。
佐倉杏子なら大丈夫なんじゃないかと。
それに、佐倉杏子なら何か答えて、それが私の人生の目的にも繋がるんじゃないかと。
巴マミの二の舞になる危険性など省みず聞いてしまった。
後には引けない。聞くしかない。


ほむら「…佐倉杏子、貴女は何のために生きてるの?」

杏子「…は、はあ?」

予想通り。
さあさあ、後は巴マミのように流しましょう。
そして、気分が悪くなる前にさっさと一人になりましょう。
彼女はこの後のことを考えれば、さっきと同じようになってしまうのがわかった。
なら、次はそうなる前に断つ。
そうなる前に私は逃げる。

「はあ…」

「食えるからだよ」



足の神経に立ち去ろうという命令を出そうとしてた彼女の思考回路はパンクした。



「生きてりゃ、うまいもん食えるだろ…」

「死んじまったら、もう食えない」

「だから生きんだよ」

「…ぶっ!!」

「ふふふっ…」
「あーははははっ!」

私は笑ってしまった。
それは答えを見つけようとしていた私が馬鹿らしくなったからだ。どんな思考を働かせても、これは笑える。
これほど気持ちのいい馬鹿を私は他に見たことがない。

「お、おい、何もそこまで笑うこと」

「はは、はあ、ふふっ」

「ごめんないさい」

「だ、だって、何のために生きてるって聞かれて」

「うまいもん食えるからって…ぷぷっ!」


「おいっ、て、てめえ、馬鹿にしてんのか!」


私が間違いだったのかわからない。
でもこんなに思考を働かせた挙句、こんなにも心の奥底から笑ったのは久しぶりだ。
これほど、何も考えない人間が世の中にいるものなのか。
佐倉杏子は馬鹿過ぎる。
私は人生の目的なんかで悩んでいたことが馬鹿過ぎる。
その二つが下らな過ぎて、妙に笑える。愉快だ。
杏子のこの回答は私の不安や何もかもを豪快なまでに殴り飛ばしてくれたことに間違いなかった。

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