八幡(なんだ迷子か……?) 留美「……」 (40)

母の日 自宅


小町「ちょ、お兄ちゃん! せっかくの母の日なんだから、一緒に祝おうよ!」

八幡「俺はそういうここぞとばかりにイベントに乗っかる風潮が大っ嫌いなんだよ。クリスマスとかバレンタインとか死ねばいいのに」

小町「まーた始まったよお兄ちゃんの病気が……」ハァ

八幡「つーわけで、俺の分まで祝ってくれ。じゃ」

小町「あっ、もう! そんなんだからお兄ちゃんは――――!!」

公園


八幡「はぁ……」

八幡(思わず飛び出してきちまったけど、どうすんだ後12時間近く)

八幡(いやいや流石に夜には帰るとして、後8時間くらいか)

八幡(ったく、平日は学校に居場所ないし、休日は家に居場所ないとか軽く死にたい)

八幡「……ん?」


留美「……」

八幡(なんだ迷子か……?)

留美「……」

八幡(あぁ、迷子だな。案内板……この辺りの住宅地図なんて見て楽しいってわけじゃないだろうし)

八幡(にしても今時あんな地図で道を調べるとか珍しいな。ケータイとかで調べられるものなんじゃねえのよく知らねえけど)


留美「……!」コクン


スタスタ……


八幡(行っちまった。まぁ時には道に迷うのも人生だ、頑張れ小学生)

八幡「……なに小学生相手に偉そうにしてんだ俺。しかも心の声で」ハァ

 

雪乃「あら、犬の死体が捨てられていると思ったら、比企谷君じゃない」


八幡「すげえな。たぶん今の俺の人生で一番酷い挨拶だったぞ」

雪乃「あなたの人生の記念になってしまったわけね。心の底から不快ね」

八幡「……で、何だよ。こんな休日にまで俺の心を抉りに来たのか?」

雪乃「まさか。あなたは私の事をそんな精神異常者として見ていたのかしら。名誉毀損で訴えるわよ」

八幡「その裁判、俺は負ける気はしねえけど」

雪乃「ただの偶然よ。偶然、運悪く、犬の死体……いえ、魚の死体に出会ったのよ」

八幡「死んだ魚の眼をしているって言いたいのはよく分かった」

雪乃「それより、あなた。私の体の事誰にも言っていないでしょうね?」

八幡「言ってねえよ。言う相手もいないし」

雪乃「あなたにだって家族くらいは居るでしょう」

八幡「……まぁ、居るには居るけど」

雪乃「家族しか居ないでしょう」

八幡「言い直して攻撃してくるのやめてくんない。居るよ家族以外にも。平塚先生とか」

雪乃「平塚先生も毎日毎日あなたのような問題児を押し付けられて愚痴ばかりこぼしているわよ。早く死なないかな、とか」

八幡「おいやめろ。死ぬぞ俺が」

雪乃「何か困っている、というか悩んでいるようね?」

八幡「……俺だってたまには悩む。人間なんだからな」

雪乃「人間?」

八幡「そこ突っ込むなよ。俺の事何だと思ってんだよ。あ、いい、言わなくていい」

雪乃「分かったわ。それで、あなたは何について悩んでいるのかしら? どうして自分は生まれてきちゃったんだろう、とか?」

八幡「それは中学の時に散々考えたわ。女子にフラれてクラス中にバラされて笑いものにされた時とかに……っておい何言わすんだこえーな」

雪乃「別に私はあなたの遺体……じゃなくて痛い過去を訊くつもりはなかったのだけれど」

雪乃「それで、あなたは何について悩んでいるの? 未知の生態系の研究に協力しなさい」

八幡「俺は新種の生物かよ。すげえな突然変異ってやつか」

雪乃「別にあなたが突然変異しても誰も気が付かないでしょうけどね」

八幡「そういう人を傷つける正論を言うのをやめないとお前いつか人を殺すぞ」

雪乃「そう、肝に銘じておくわ」

八幡「つーか、この流れで誰も自分の悩みをお前に言いたいと思うわけねえだろ」

雪乃「まぁ、話したくないのなら無理に聞こうとは思わないけれど」

八幡「そもそも、お前は何でそんな事訊いてくんだ? 言えば解決でもしてくれんのかよ」

雪乃「持つ者は持たざる者に手を差し伸べるべき、そうは思わない?」

八幡「つまりお前はハイスペックを活かしての人助けが趣味ってわけか。ご立派なこったな」

雪乃「人助け……とは少し違うかもしれないわね。人は勝手に助かるものよ、私はそのお手伝いをするだけ」

八幡「同じじゃねえのかよ」

雪乃「全然違うわ」

八幡「そうかよ……まぁ、別にいいからそういうのは。自分の事くらいは自分で何とかできる。お前みたいに深刻な悩みってわけでもねえ」

雪乃「あなただけで解決できる事なの?」

八幡「おう。むしろこんな事で誰かの手を借りるとかありえねえ…………ん?」


留美「……」


八幡(あれ、あいつ。さっきどっか行ったはずなのに、また戻ってきてやがる)

雪乃「何を見ているのロリがや君」

八幡「お前俺が何見てるか分かってるよね?」

八幡「そんなに人助けがしたいなら、あの小学生に道教えてやれよ。迷子みたいだぜ」

雪乃「…………」

八幡「どうした。あぁ、お前子供とか苦手そうだよな」

雪乃「いえ、あなたの言うとおりに行動するのが癪だというだけよ」

八幡「そうかよ」


スタスタ……


雪乃「ちょっといい? 道に迷っているの?」

留美「……大丈夫」

八幡「なら良かった。悪かったな邪魔して」

雪乃「本当に大丈夫なのかしら」

八幡「本人が大丈夫だって言ってんだから大丈夫なんだよ。それなのに周りが手伝おうとするとか、もはやありがた迷惑でもなくただ迷惑だ」

雪乃「そう……かしらね」

 

それから俺はぶらぶらと適当に時間を潰した後家に帰った。

案の定小町にがみがみと色々言われたが、とりあえずは来年はちゃんと家に居ると約束して収まった。

まぁ、その約束を守るかどうかは決めていないから、ただ先延ばしにしただけっていう感じもあるが。


道に迷っていた小学生がその後どうなったか。
あの後ちゃんと目的地に辿り着けたのか。

部屋で漫画を読んでいる時に、ふとそんな事が頭に浮かんだが、すぐに消えていった。



おわり

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