小鳥「アイドルマスターゼロ」(178)

小鳥「うう…緊張するなあ…」

小鳥(お母さんは昔歌手だったらしい、その影響で私も歌が好きになったけど)

小鳥(やっぱりアイドルなんて夢のまた夢かな…うー…)

「それでは次の方、お入りください」

小鳥「は、はい!」

小鳥(えーい、ここまで来たらやるしかない!がんばるのよ小鳥!)

ガチャ

小鳥「お、音無小鳥15歳、高校1年生です!よろしくお願いします!」

社長「……ティンときた」

小鳥「へ?」

社長「合格!合格だよキミィ!!」

小鳥「……へ?」

-後日、事務所-

小鳥「…初めての出社日、不思議とあまり緊張はしないわね」

小鳥(ていうかまだ合格が本当なのかどうかもよく分からない)

小鳥(面接でいきなり合格だよって言われてもねぇ…)

小鳥「……でも書類とかもいっぱい書かされたし、本当にアイドルになれたのよね」

小鳥「…多分」

小鳥「……うん、考えても仕方ない!とにかく中に入ろうっと!」

ガチャ

小鳥「おはようございまーす!」

社長「おお!おはよう小鳥くん!」

小鳥「あ、おはようございます社長」

社長「どうだったかね、昨日は眠れたかね?」

小鳥「あはは…」

小鳥(むしろ快眠だったとは言いにくい)

社長「…さ、それでは今日からキミのアイドル人生が始まるわけだが」

社長「それに伴って、キミのサポートを行うプロデューサーを紹介しよう」

小鳥「プロデューサー?」

社長「入ってきたまえ!」

ガチャ

P「失礼します!」

小鳥(わ、男の人…)

社長「ま、性別はもちろん年齢も少し離れているが…」

社長「彼は信頼できる男だからね、なにかあったらすぐ相談するといい!」

小鳥「あ、はい…」

P「よろしくお願いしますね、音無さん」

小鳥「よ、よろしくお願いします!」

社長「さて、後のことはプロデューサーくんに任せているから私はここで去るとしよう」

小鳥「去るって…」

社長「ははは、外回りだよ!うちはまだまだ弱小事務所だからね!」

P「お疲れ様です」

社長「それでは行ってくる、後は二人でしっかり打ち合わせをするといい」

P「行ってらっしゃい」

小鳥「行ってらっしゃい…」

ガチャ バタン シーン…

P「……」

小鳥「……」

P・小鳥「あの」

小鳥「あ」

P「…あはは、とりあえず座りましょうか」

小鳥「そ、そうですね!私お茶汲んできます!」

P「そんな、担当アイドルにお茶なんて」

小鳥「いいんです!私こういうの好きですし!」

P「はあ」

小鳥「はい、どうぞ」

P「どうも…うん、うまい」

小鳥「えへへ、ありがとうございます」

P「それでは早速今後の打ち合わせなんですが…」

小鳥「…あの」

P「はい?」

小鳥「敬語じゃなくてもいいんですよ?私の方がだいぶ年下みたいですし」

P「……じゃあ、お言葉に甘えて」

小鳥「はい!そっちの方が私も気楽です!」

P「…面白い人だなあ、音無さんは」

小鳥「はい?」

P「いや、それじゃあ打ち合わせに入ろうか、俺が思うに音無さんは…」

-レッスンルーム-

P「違う!もっとそよ風をイメージしたダンスを!」

小鳥「は、はいぃ!」

P「そう!そして歌は真夏の思い出を頭に浮かべる感じで!」

小鳥「こ、この曲は四季を歌った曲なんですけどぉ!」

P「最後にしっかりスマイル!」

小鳥「ピヨー!」ニコッ

P「…うーん、笑顔はかわいくて完璧なんだけどなぁ…」

小鳥「か、かわっ…!」

P「え?どうかした?」

小鳥「な、なんでもないですっ!」

小鳥(…わざと、じゃないわよね?)

-オーディション-

小鳥「え、エントリーナンバー2番!音無小鳥です!よろしくお願いします!」

審査員「はい、元気があっていいねえ」

小鳥「あ、ありがとうございますピヨ!」

審査員「ピヨ?」

小鳥「そ、それでは歌わせていただきますっ!」


~♪


審査員「ほぅ…」

審査員(うん、歌は文句なしにうまいんだけど)

審査員(今時ボックス踏みながら歌うってのはちょっと古い気がする)

審査員(…ま、顔もかわいいし合格にしておくか)

-後日-

P「…はい、はい!ありがとうございます!失礼します!」ガチャ

P「……やったー!!」

小鳥「ど、どうしたんですかプロデューサーさん」

P「テレビだ!テレビ出演が決まったぞ!」

小鳥「そ、それってこの前の…?」

P「ああ!地方番組だけど大きな一歩だ!やったぞー!」

小鳥「…あは、あははっ!やりましたねプロデューサーさん!」

P「今日はお祝いだ!俺の行きつけのバーでなんでもおごっちゃおう!」

小鳥「わ、私まだ未成年ですよぉ!?」

小鳥(はしゃぐプロデューサーさん…なんだか子供みたい)

小鳥「……ふふっ」

-事務所-

P「うーん…むぅ…」

小鳥「お疲れ様です、プロデューサーさん」コトッ

P「ああ音無さん…悪いね、お茶持ってきてもらって」

小鳥「いえ、好きでやってますし……それ、今度のデビュー曲についてですよね?」

P「ん?ああ…わが事務所期待の新人だからな、戦略もしっかり練らないと」

小鳥「期待だなんて…照れちゃいますよぉ」

P「いや、俺はもちろん…社長や他の社員も音無さんには期待してるんだ」

小鳥「あはは、期待が重たいですね」

P「ま、サポートは全力でするから…まずは今度のデビュー曲だな」

小鳥「はい、頑張ります!」

P「あ、そうだ」ゴソゴソ

小鳥「?」

P「はい、これ」スッ

小鳥「なんですか、プレゼントですか?」

P「いいから開けてみて」

小鳥「…?」ガサガサ パカッ

小鳥「あ…」

P「なんかデビューに際して個性付けをって思って…考えた結果のカチューシャ」

小鳥「……」

P「…おかしいかな、やっぱり」

小鳥「…いえ、とってもステキです!」

P「そ、そう?良かったぁ…」

小鳥(黄色いカチューシャ…私の髪色に合うように選んでくれたのかな…)

P「まあ音無さんならなんでも似合うと思うんだけどさ…どうせなら似合うのを、って思って2時間くらい店で悩んで…」

小鳥「…それ言っちゃったらダメですよ」

P「あ!あはは…やっぱりツメが甘いなあ俺は」

小鳥「やっぱりって…誰かに言われたことがあるんですか?」

P「うん、以前友人にね…今はあまり関わりは無いんだけど」

小鳥「ツメは甘いかもしれないけど、プロデューサーさんの優しさはしっかり伝わってますよ!」

P「音無さんまで…ちょっとひどくない?」

小鳥「あ、いや今のはフォローしたつもりで…」

P「あはは、冗談だよ…とにかく今度のテレビ出演は…」

小鳥「プロデューサーさん」

P「うん?」

小鳥「このカチューシャ、大事にしますね」

P「…うん、そうしてもらえると俺も嬉しい」

-テレビ収録-

司会者「続いては新人さんです!音無小鳥で『空』!張り切ってどうぞー!」

パチパチパチ…


小鳥「…」スゥ

小鳥「空になりたい 自由な空へ…♪」


客A「お、おい…あの子本当に新人かよ」

客B「歌も上手いし、顔も可愛いし…こりゃ大型新人だな」

客C「太ももハァハァ…」


番組D「うん、いいんじゃないの小鳥ちゃん」

P「…ええ、ありがとうございます」

番組D「…?」

-収録後、楽屋-

ガチャ

P「お疲れ様、音無さん」

小鳥「あ、プロデューサーさん!お疲れ様です!」

P「…もう他の人は帰っちゃったみたいだね」

小鳥「そうですよぅ!他のアイドルの皆さんはそれぞれのプロデューサーさんがすぐに迎えに来て…」

P「いや、二人きりで話したいことがあったからちょうどいいんだ」

小鳥「ピヨっ!?」

小鳥(ふ、二人きりでって…まさか、プロデューサーさん…!?)

P「あのさ、音無さん」

小鳥「ひゃ、ひゃいっ!?」

P「……今日の出来、何点だった?」

小鳥「な、何点って…」

P「俺しか聞いてないし、仕事のことに関して俺には正直に話してほしい」

小鳥「う……」

P「……」

小鳥「30点…くらいです…」

P「それはどうして?」

小鳥「…さ、最初の歌い出しの音間違えたし、ダンスもボックスしか踏めなかったし…」

P「いや、ダンスは期待してなかったけど」

小鳥「うー、ひどいですよぉ…」

P「…ま、それは冗談としてもさ」

小鳥「うぅ…」

P「…とにかく、自分の思うような実力は発揮できなかったんだね?」

小鳥「……」コクン

P「うん、まあそこには緊張とか偶然もあるんだろうけどさ」

P「100点の音無さんを見せられなかったのは、すごく残念なんだ」

小鳥「100点の、私…」

P「…今日は普段とは程遠い出来だったけど、観客やディレクターさんの反応は良かった」

P「多分、これからお仕事が増えてくると思う」

小鳥「……」

P「次は100点を見せられるように、頑張ろう?」

小鳥「……」コクン

P「…よーっし!それじゃ打ち上げでもいくかー!」

小鳥「打ち上げ…」

P「そう、打ち上げ!音無さんの好きそうな店も見つけておいたからさ!」

小鳥「え!?本当ですか!?」

P「うん、駅前のラーメン屋」

小鳥「なんでそんなオヤジくさいお店なんですかぁ!!」

P「行かないの?」

小鳥「……行きますけど」

P「ははは、それじゃ早く行こう!」タッタッタ

小鳥「あ、プロデューサーさん…」

小鳥「…ふふっ」

『はーい、それじゃ今日のゲストパーソナリティはぁ…』

『今話題の新人アイドル、音無小鳥ちゃんでーす!どうぞー!』

『は、はじめまして!音無小鳥ですピヨ!』

『ピヨ?』

『あ、い、いえ!えーっと!マンボウの顔真似しまーっす!』

『え、あ、ちょっと!?小鳥ちゃん!?』

『ぷくぅ~、ボクマンボウだマンボウ~』

『おい!CMいけCM!』


P「……」

P「ラジオで顔真似は無いよ音無さん…」

司会者「それじゃあ小鳥ちゃんに明日の天気を教えてもらいましょう、小鳥ちゃん?」

小鳥『は、はい!こちら音無小鳥です!』

小鳥『えーっと、明日の天気は…東京近辺は晴れ、大阪は…』

小鳥『あ、違う、先に北海道は季節外れの雪が降って…あ!これ昨日の原稿だピヨ!』

司会者(ピヨ?)

小鳥『す、すみません!ふ、福岡はカラッとした雨が…』

小鳥『あぁ!なによカラッとした雨って!このままじゃ時間内に伝わら』

プツッ ツヅイテハスポーツデース


P「……」

P「…うん、どんまいどんまい」

-それからしばらく-

P「うーん…うまくいかないもんだなぁ」

小鳥「すみません…」

P「いや、音無さんは悪くないよ!体当たりな感じが好きだって人もいるし…」

小鳥「でも3か月くらい経っても、デビューの頃と人気もあまり変わらないし…」

P「…ま、そんな簡単にいったら誰も苦労しないからね」

小鳥「……うん、そうですよね!これからも二人で…」

ガチャ

社長「諸君おはよう!」

P「あ、おはようございます社長」

社長「おお、音無くん!どうだね調子は?」

小鳥「あ、あはは…ボチボチですぅ…」

P「それにしても珍しいですね、社長がこんな時間に事務所に来るなんて」

社長「ああ、みんなに知らせなきゃいけないことがあるからね」

小鳥「お知らせ…?」

社長「二人とも、入ってきたまえ!」

ガチャ

「おっはようございまーっす!…って社員さんこれだけ?」

「ウィ…久しぶりだな」

P「…!!」

小鳥(背の高い男の人と…元気な女の子は私と同じ歳くらいかな?)

P「お前…黒井!」

黒井「ふん…相変わらず冴えない顔をしているな、高木」

小鳥(あ、プロデューサーさん高木っていうの今まで忘れてた…)

高木「……っ!」

「そっちの人は高木さんっていうのね!よろしく!」

社長「ふむ…二人のことは置いといて、早くキミも自己紹介しなさい」

「あ、はーい!えーっと、今日からこちらの事務所でお世話になります…」

舞「日高舞15歳!高校1年生です!よろしくお願いします!」

小鳥(日高、舞ちゃん…)

黒井「…そして私が、黒井崇男だ」

黒井「今日からこの事務所でプロデューサーとして力を貸すことになった、まあよろしく頼む」

高木「プロっ…!?」

社長「黒井くんは大学院を卒業後アメリカに渡り、プロデュース業を学んだそうだ…まあうちの息子とは面識があるみたいだが」

小鳥「へえー、アメリカなんてすご……へ?」

小鳥「え?い、今息子って…」

社長「おや?今まで知らなかったのかね?」

高木「…社長と俺は親子だよ、名字も一緒だろう?」

小鳥「あ、そ、そういえばそうですね!あ、あはは…」

小鳥(今の今まで名字忘れてたなんて言えない!)

黒井「ふん…ぬるい環境で甘えていたお前と本場で実力を磨いた私…」

黒井「どちらが必要とされるかは一目瞭然だな」

高木「…黒井、お前」

社長「黒井くん、私としても息子を悪く言われるのは良い気分はしないねえ」

黒井「…申し訳ありません」

小鳥(アメリカで勉強…黒井さんってすごい人なのかな)

舞「ねえ!早く本題に入ってよ、私だって話があるって言われてここに来たんだから」

社長「おお、すまないね…それでは今後の展望について話そうと思う」

小鳥(…?)

社長「まず新しくわが事務所の一員となった舞くんだが、舞くんには新しいプロデューサーと共に頑張ってもらいたい」

舞「新しい?黒井さんのこと?」

社長「いや、黒井くんとは別にもう一人プロデューサーを雇うことにした…この業界ではそこそこ名の知れたホープだよ」

舞「…じゃあ黒井さんは?」

社長「黒井くんには…音無くん、キミのプロデュースを担当してもらう」

高木「…!」

小鳥「……」

小鳥「え?」

黒井「どうやら最近は伸び悩んでいるようだが…私に任せたまえ」

小鳥「…え、え?じゃ、じゃあプロデューサーさんは?」

社長「ふむ、プロデューサーくん…いや、順二朗には経営を学んでもらおうと思う」

高木「……跡継ぎ、ということですか」

社長「…私もそろそろ次代のことを考えなければいけない歳だ、お前にはこの事務所を継いでもらうつもりでいる」

小鳥「で、でも!まだ半年しか一緒に活動してないのに…!」

社長「小鳥くん、つらいことを言うようだがね」

社長「順二朗にはプロデューサーとしての才能は無い」

高木「っ……」

黒井(……ふん、私よりもひどいことを言っているじゃないか)

小鳥「そ、そんなこと…」

社長「現実、キミのアイドル業はどうかね?うまくいっているのかね?」

小鳥「そ、それはその…デビュー曲はそれなりに売れたし…」

社長「それはキミの歌が評価されたからだ、そこからさらに人気を伸ばせるかどうかがプロデューサーの力量だろう」

小鳥「……」

社長「…キミはこんなところで埋もれる才能じゃない、ならば優れたプロデューサーを…」

舞「…だーもう!まどろっこしいわね!」

小鳥「!」

舞「要はお互い新しいプロデューサーと頑張れってことでしょ!?何をそんなウジウジしてるのよ!」

小鳥「わ、私は…」

高木「……俺なら大丈夫だから、音無さん」

小鳥「プロデューサーさん…」

社長「……舞くんの言う通りだ、これもキミたちアイドルのことを思っての判断なのだよ」

小鳥「…はい」

黒井「ふん…その様子で私の指導に耐えられるか?」

小鳥「……」

黒井「…まあいい、明日からは新体制で動くんだから準備はしておくように」スタスタ

社長「舞くんも明日にならないと新しいプロデューサーくんは来ないからね、今日は適当に事務所内を見学するといい」

舞「はーい!それじゃブラブラしてきまーす!」

ガチャ バタン

小鳥「……」

社長「……キミたちには急な連絡になってしまって申し訳ないが…とにかくこれが最終決定だ」

社長「それでは私は外回りをしてくるよ…あとは順二朗に任せる」

ガチャ バタン

高木「……」

小鳥「あ、あの…」

高木「…カッコ悪いところ見せちゃったね」

小鳥「か、カッコ悪いだなんて、そんな…!」

高木「……黒井とは、大学と大学院で一緒だったんだ」

小鳥「…」

高木「二人とも経営学を学んでいてね…自分で言うのもなんだが、お互いを高めあう良いライバルだったと思う」

高木「…卒業後、あいつは単身アメリカに渡って武者修行、俺は父の会社にすんなり就職」

高木「どっちがプロデューサーとして優れているかなんて、なんとなく分かるだろう?」

小鳥「そ、そんな…やってみなくちゃ分からないし…!」

高木「やってみて、ダメだった結果がこれじゃないのかな?」

小鳥「……っ!」

高木「音無さんは悪くない、俺の力が足りなかったから…」

小鳥「……もういいですっ!」

高木「!」

小鳥「なんなんですか!?自分ばっかり弱音吐いて!」

小鳥「私が…っ、私が毎日どんな気持ちでレッスンして、オーディション受けて…!」

高木「…音無さん」

小鳥「いっそ、私がダメだからって言ってくれれば…」

高木「そんなこと言えるわけないだろうっ!!」

小鳥「…!」ビクッ

高木「……すまん」

小鳥「…ごめんなさい、もう決まったことにとやかく言っても仕方ないですよね」

小鳥「……私、今日は帰ります」

高木「…ああ、気をつけて」

小鳥「…今まで、ありがとうございました」ペコリ

ガチャ バタン

高木「……」

高木「…15歳の女の子に、あんな顔させて、涙を流させて……」

高木「最低のプロデューサーだな、俺は…」

高木「……」

高木「…くそっ……」

-翌日、レッスンルーム-

黒井「ボンジュール!音無くん!」

小鳥「…おはようございます」

黒井「…なんだ、私がせっかく元気なあいさつをしてやったというのに」

小鳥「……ごめんなさい」

黒井「…まあいい、私の考えるキミの今後だが」

黒井「やはりキミの魅力はその歌声だ」

小鳥「歌声…?」

黒井「ああ…それを全面に押し出していけば、ミリオンも夢ではないだろう」

小鳥「ミリオン…」

黒井「それに…明確な結果を出すことで、高木のやつを見返してやりたくはないか?」

小鳥「…!!」

黒井「なんとしても売れてやって、あいつを見返してやろうとは思わんかね?」

小鳥「……ます」

黒井「んん?聞こえんなあ」

小鳥「…やります!」

小鳥「私、なんとしても売れて…高木さんを見返してやります!」

黒井「ふふふ、良い目をしている」

黒井「それではさっそく特訓だ!まずは歌声を安定させるための腹筋300回!」

小鳥「ピヨー!?」

小鳥(…絶対に人気者になってやるんだから)

小鳥(……高木さんを、見返してやるんだから!)

「それでは音無くん!次はテレビ局に挨拶まわりだ!」

「ぴ、ピヨー!」


女子社員「あらあら、小鳥ちゃん忙しそうね」

舞「ま、仕事で忙しいわけじゃないからなんとも言えないけどー」

女子社員「あはは…でも、前よりも充実してるんじゃないのかしら」

舞「……そう?」

女子社員「だって順二朗さんがプロデューサーの頃はのんびりしすぎっていうか…」

女子社員「…おっと、こんなこと口に出しちゃまずいわね、くわばらくわばら…」

舞「……」

舞(充実、ね…)

番組P「それじゃお疲れさん、小鳥ちゃん」スタスタ

小鳥「ありがとうございました!」

黒井「次もよろしくお願いします」

小鳥「…ふぅ」

黒井「ふむ、今日は特に良かったんじゃないか、音無くん」

小鳥「あ、ありがとうございます」

黒井「そうだなぁ…点数をつけるなら90点といったところかぁ?これでも厳しい方だがなぁ!」

小鳥「……うん、そうですね」

黒井「よし!それじゃ今日は私の行きつけのバーで…」

小鳥「…いえ、今日は帰ります…私未成年ですし」

黒井「お、おぉ…うむ、そうか…」

小鳥「それじゃお疲れ様でした、失礼します」

黒井「お、おう…気をつけて帰るんだぞ…」

黒井「……」

黒井(…私は嫌われているんだろうか)


-事務所-

小鳥(事務所戻ってきちゃった…こんな時間だし誰もいないかな…)

小鳥(…高木さんがいたらうれしいかも、なーんて)

ガチャ

小鳥「…ただいまー」

「おかえりー」

小鳥「!?」

小鳥「…って、日高さん!?なんでここに…」

舞「なんでって…一応この事務所のアイドルだし?」

小鳥「そ、それはそうだけど…こんな時間に日高さんみたいな若い子が…」

舞「同い年の人に言われたくありませーん」

小鳥「うう…」

舞「…それに、同い年なのに“さん付け”ってのもイヤなんですけど」

小鳥「あ…」

舞「ね?小鳥ちゃん?」

小鳥「…ふふ、そうだね舞ちゃん」

舞「うん、上出来」

小鳥「同い年なのに…」

小鳥「ところで事務所のテレビで何見てたの?」

舞「んー?小鳥ちゃんがテレビ初出演したときのビデオ」

小鳥「あはは…30点のときの…」

舞「30点?」

小鳥「ううん、こっちの話」

舞「ふーん…?ま、それはいいんだけどさ」

舞「このときの方が、小鳥ちゃんイキイキしてたよね」

小鳥「…それは、まだ芸能界の厳しさもよく知らなかったし……」

舞「ねえ」

小鳥「…?」

舞「何のために歌ってんの?」

小鳥「…!」

舞「小鳥ちゃんがアイドルになったきっかけなんて知らないし、知ったところで関係ないけどさ」

舞「歌を聴いてくれてる人の気持ちとか考えたことあるの?」

小鳥「……わた、しは…」

舞「…ごめん、ちょっときつく言いすぎた」

舞「でも、私が言いたかったのはさ」

舞「自分のやりたいようにやらなきゃ後悔するよってこと」

小鳥「……」

舞「……そんじゃ私はそろそろ帰りまーす!明日早いしね!」

小鳥「あ…もうお仕事決まったんだ…」

舞「んー、私のプロデューサーが本当に敏腕らしくてさ…オーディション行ったらなんか出演も決まってた」

小鳥「そっか、頑張ってね舞ちゃん」

舞「まっかしときなさい!日高舞の鮮烈デビューをお見せするわよ!」

小鳥「あははっ、舞ちゃんなら大丈夫だよ」

舞「うん、私なら大丈夫」

小鳥「…うらやましいな」

舞「ま、私はホントに帰るから…小鳥も早く帰りなさいよ」

小鳥「あ、うん」

舞「そんじゃお疲れ様でしたー!」

ガチャ バタン!

小鳥「……」

小鳥「…もう呼び捨てになってるし」

-後日、街中-

社長「それでは今日はありがとうございました、また機会があればお食事でも」

偉い人「こちらこそありがとうございました…順二朗くんもこれからよろしく頼むよ」

高木「はい、よろしくお願いします」

偉い人「それでは私はこれで…」

高木「失礼します」


社長「ふぅ…私はこのまま帰るつもりだが、お前はどうする?」

高木「俺はちょっと買い物があるから、用事済ませてからいったん事務所に戻るよ」

社長「そうか…元々お前の経営の才能は認めてるんだ、勉強もほどほどにな」

高木「…ええ、それじゃお疲れ様でした」

-電器店-

高木(…さて、必要なのはビデオカメラと新しいテレビと…)

高木(音無さんも日高さんもすばらしい才能の持ち主だ、出来る限りのバックアップを…)

高木「……ん、これ音無さんが出演したっていう」

高木(黒井プロデュースでの初仕事か、ちょっと見ていこうかな…)


『ソレデハコトリチャン、ハリキッテドウゾー』

『…ヒトツウマレタタネ ヨワクチサイケレド…♪』


高木「……あはは」

高木(…)

高木(0点、かな)

高木(…ま、俺が言えたことじゃないけど)

ガチャ

小鳥「おはようございまーす」

女子社員「あ、小鳥ちゃん!舞ちゃんの番組見た!?」

小鳥「あ、昨日の夜ですよね…学校の宿題があったから録画だけしておいたんですけど…」

女子社員「んもー!とりあえず今見なさい!今!」グイグイ

小鳥「え?あ、ちょ…!」


小鳥「……」

女子社員「…どう?」

小鳥「…これ、アイドルなんて域じゃないですよね」

女子社員「私も昨日の夜テレビで見たときは信じられなかったわ…番組が終わるまでテレビから離れられなかったもの」

小鳥「これが…舞ちゃんの実力……」

女子社員「小鳥ちゃんもうかうかしてたらすぐに追い抜かれ…」

黒井「担当アイドルを脅すような真似はやめていただきたいな」

女子社員「ひっ!?く、黒井さん…おはようございます」

黒井「ウィ」

小鳥「…黒井さん」

黒井「……さあ、今すぐレッスンルームに行くぞ」

小鳥「え?でも今日はレッスンの予定は…」

黒井「時間が余っているのなら少しでも実力を伸ばすべきだ、さあ早く!」

小鳥「ぴ、ピヨー!」

女子社員「……ご愁傷様」

小鳥「エントリーナンバー25番!音無小鳥です!よろしくお願いします!」

審査員(歌上手いしかわいいし、場慣れもしてるみたいだし合格っと)

審査員(しかしなんでボックスを踏みながら歌うのだろうか)


小鳥「はい!歌が大好きです!いつも歌のことばっかり考えてます!」

司会者「歌のために何かしてることとかあるんですか?」

小鳥「はい!毎日腹筋を300回してます!安定した歌声をうんぬんかんぬん…」

小鳥(…黒井さんが見てないところではサボってるなんて言えないピヨ!)


千種「あらあら、千早はまだ2歳なのにお歌の番組が好きねえ」

千早「ふっきん…ふっきん…」

小鳥「はぁ…はぁ…」

黒井「…よし、今日のレッスンはここまでにしておこう」

小鳥「は、はいぃ…」

黒井「私は今後の戦略を練ってくる、ストレッチをしたらすぐに家に帰るように」

小鳥「お、お疲れ様でしたぁ…」

ガチャ バタン

黒井「……」スタスタスタスタ

黒井(…ええい、くそっ!なぜうまくいかんのだ!)

黒井(音無くんの歌唱力はこれでもかというくらいアピールしているはずだ!それなのに…!)

黒井(……やはりコネか、コネが足りんのか…?)

黒井(このような弱小事務所では戦略もへったくれも…)

「…どうした鬼みたいな顔して」

黒井「…高木か」

高木「お疲れさん、苦労してるみたいだな」

黒井「……おい、ちょっと付き合え」

高木「へ?」


-バー-

高木「…で、いつものここか」

黒井「別にいいだろう、うるさい客もおらんことだし」

高木「…大学の頃かっこつけて初めて入ったときは、二人ともオロオロしてたけどな」

黒井「……ふん」

高木「どうだ?音無さんの調子は」

黒井「さっき苦労してるようだと言っておいてその質問か」

高木「はは、社交辞令ってやつさ」

黒井「…日高くんはまさに破竹の勢いで名をあげているな」

高木「あの子は…なんというか、格が違う」

黒井「あれなら誰がプロデュースしてもトップアイドルになる」

高木「アイドルの邪魔をしてないって点では、彼はかなり優れたプロデューサーだけどな」

黒井「……どういう意味だ」

高木「俺のことだよ」

黒井「…ふん」

高木「…ま、今の彼女のプロデューサーはお前だ、俺に出来ることがあればなんでも…」

黒井「お前はそれでいいのか?」

高木「…どういう意味だ」

黒井「そのままの意味だ」

高木「……俺は、別に」

黒井「…私はお前がプロデューサーに向いていないとは思わん」

高木「ありがとう、だけど社長の判断には逆らえないだろ」

黒井「…だったらお前が社長になればいいだろう」

高木「はは、何年後の話だよ」

黒井「…お前は」

黒井「お前は、欲が無さすぎる」

高木「だからプロデューサーに向いてないのかもな」

黒井「そういうところが…」

高木「この話は終わり!…今日はとりあえず音無さんの近況を聞かせてくれよ」

黒井「…ふん、今の彼女は前よりも頑張っているぞ」

高木「へえ、なにか目標でも出来たのかな…日高さんに負けないようにとか」

黒井「……どの口がそれを言う」

高木「へ?」

黒井「なんでもない、早く飲め」

高木「お、おいおい…」

P「お疲れ様、舞」

舞「うん、お疲れ様」

P「とか言ってみたけど、全然疲れてないんだろ?」

舞「まあね…周りの子、全然たいしたことなかったし」

P「お前がすごすぎるんだよ…少しは俺にも仕事させてくれ」

舞「プロデューサーは私が100%楽しめるように頑張ってくれればいいのよ」

P「楽しむって…ま、それが俺の役目だしな」

舞「ライバルが早く出てこないと、私アイドル辞めちゃうかも」

P「まだデビュー3か月でそれは困るな、他の事務所にも目をつけておかないと」

舞「他の事務所、ね…」

P「ん?」

舞「…ね、このあとヒマ?」

P「んー、まあ仕事は終わったけどな」

舞「じゃあご飯行こうよご飯!」

P「はいはい、付き合いますよお姫様」

舞「あっはは、それじゃさっそくしゅっぱーつ!」

舞(…小鳥)

舞(私は、私のやりたいように楽しんでるよ)

舞(あなたは、どうなの…?)

P「おーい、置いてくぞー」

舞「今行くー!」

-翌朝、事務所-

高木「…ふわぁ、もう朝か……」

高木「つっ…いてて、飲みすぎたかなぁ…」

高木「……黒井のやつは家に帰ったのか」

高木「えーっと…」

高木「…それもそうか、音無さん今日はオフみたいだし」

高木「しかしこの時間じゃさすがにまだ誰も…」

ガチャ!

小鳥「おはようございまピヨー!今日も一日元気だピヨー!」

高木「ピヨ?」

小鳥「!!!!!!!!!!」

高木「…だからごめんってば」

小鳥「…うぅ~///なんでこんな朝早くにいるんですかぁ…///」

高木「それはこっちのセリフだよ、音無さんこそ今日オフなのに」

小鳥「……朝の事務所で歌うの、すごく気持ちいいんです」

高木「へえ、知らなかった」

小鳥「いつも誰もいないから油断してた…う~///」

高木「……ね、音無さん」

小鳥「なんですかぁ!?うう…///」

高木「いつも通り、歌ってくれないかな?」

小鳥「…え?」

小鳥「…じゃ、いきますよ」

高木「うん、音無小鳥ショーの始まりだ」

小鳥「もう…またからかって…」

高木「……」

小鳥「……」スゥ


~♪


高木「……」

高木(…ああ、やっぱり)

高木(……100点なんだよな、うん…)

高木(…うん)

高木「……」パチパチパチパチ

小鳥「お粗末さまでした」

高木「相変わらず素晴らしい歌声だ」

小鳥「ふふ、お客さんがみんな高木さんみたいだったらもっと人気出るのに」

高木「ミリオン間違いなしだよ」

小鳥「うふふ」

高木「……」

小鳥「…私、お茶汲んできますね」

高木「音無さん」

小鳥「はい?」

高木「…アイドル、辞めたい?」

小鳥「…っ!」

小鳥「…なんで、そう思ったんですか?」

高木「分からない、ただ…」

小鳥「ただ?」

高木「今の歌声を聴いたら、そう思った」

小鳥「……」

高木「…100点だったんだ、今の歌が」

小鳥「…私は」

小鳥「ただ歌うことが好きで、人に喜んでもらうのがうれしくて」

小鳥「……一番近いのが、アイドルかなって思って」

高木「……」

小鳥「…でも、アイドルはなんか私の思ってたのと違ってて」

高木「……甘い世界じゃないからね」

小鳥「……」コクリ

小鳥「だけど、初めて高木さんと会って、一緒に活動して」

小鳥「このカチューシャもらって、デビューして、それで…」

高木「…音無さん」

小鳥「ごめんなさい、高木さん…いえ、プロデューサーさん」

高木「音無さん」

小鳥「私、プロデューサーさんのこと、好きなんです」

小鳥「…大切な人なんです」

高木「音無さん、それは…」

小鳥「気付いちゃったんです、プロデューサーさんと離れてやっと分かりました」

小鳥「プロデューサーさんのために歌えない歌なんて、どうでもいいって」

高木「…それは、アイドルとして言っちゃいけないことだな」

小鳥「……こんなこと、考えた時点でアイドル失格かなって」

高木「音無さん、俺はさ」

小鳥「……」

高木「…俺も、音無さんのこと大切な人だって思ってるよ」

小鳥「!」

高木「プロデューサーとして初めての担当アイドルで、しかもそれが才能のある子で」

高木「…大切にしなきゃいけないと思った」

小鳥「だ、だったら…」

高木「大切にしなきゃって思ったんだ」

高木「…アイドルとして、大切にしなきゃって」

小鳥「……っ」

高木「…それに、俺と音無さんじゃあ年齢も離れすぎてるし、それに」

小鳥「年齢なんて関係無いじゃないですか!」

高木「…!」

小鳥「仕方ないでしょ!?好きになっちゃったんだから!年齢なんて言い訳じゃないですか!」

小鳥「いっそ、いっそ…!女として見れないって言ってくれれば…!」

小鳥「嫌いに、なれるのに…っ!う、ううっ……!」

高木「……」

高木「……落ち着いた?」

小鳥「…すみません、もう大丈夫です」ズズッ

高木「ああ…ほら鼻水出ちゃってるし…」スッ

小鳥「むぅ…」ズビーム

高木「……ごめん」

小鳥「…今更謝られる私の気持ちにもなってくださいよ」

高木「…アイドルとしても、大切に出来なくて」

小鳥「……それも、今更です」

高木「…そうか」

小鳥「高木さん」

小鳥「私、アイドル辞めます」

高木「……うん、そっか」

小鳥「止めないんですか?」

高木「今止めたら…泣いちゃいそうだ」

小鳥「…ふふ」

小鳥「……そういうところが、好きなんですよ?」スッ

高木「…音無さん」

小鳥「……これだけ一緒にいて、“さん付け”もイヤなんですけど」

高木「う…」

小鳥「…お願いします」

高木「…こ、小鳥……くん」

小鳥「………ふふ、上出来です…高木さん」

ガチャ!

舞「おっはようございまー…って、あれ?私お邪魔?」

小鳥「ち、ちが…!」

高木「あ、ああ!おはよう日高さん!今日はずいぶんとお日柄もよく…」

舞「ふーん…?あ、もしや元プロデューサーとアイドルの禁断の恋ってやつぅ!?」

小鳥「…っ!」

高木「…音無さん、そろそろ自主練に行ってきたらどうかな?」

舞(……あれ?)

小鳥「そ、そうですね!それじゃ行ってきまーす!」

ガチャ バタン パタパタパタ…

舞「…もしかして私ミスった?」

高木「……だいぶ」

舞「…ふーん、そんなことがあったんだ」

高木「ああ、彼女なりに少し悩んでるみたいだ」

高木(…まだ辞めるとは伝えないでおこう)

舞「……ねえ、高木さん」

高木「ん?どうした?」

舞「私がなんでアイドル目指そうと思ったかって、話したことあるっけ?」

高木「いや…そういえば聞いたこと無いな」

舞「小鳥なんだよ、私のきっかけ」

高木「…音無さんが?」

舞「うん、小鳥が初めてテレビに出たとき…その番組たまたま見ててさ」

舞「この子すごいな、一緒に競争したいなって思ったの」

舞「それでこの事務所の面接受けたら、ティンと来られて一発合格」

高木「…まったくあの親父は……」

舞「ふふ、それでね?」

舞「自分がアイドルやってみて思ったけど、やっぱ小鳥くらいしかライバルになりそうな人いないんだ」

高木「……」

舞「だから、小鳥にはもっともっと頑張ってもらわなきゃって、それで…」

ガチャ

P「おはようござ…あ、高木さんおはようございます」

高木「ああ、おはよう」

舞「あれ?いつもより早くない?」

P「今日は大御所がたくさん集まる番組だろうが…早め早めに行動するのは当然だ」

舞「えー、高木さんともうちょっと話したかったのに」

P「帰って来てから話させてもらえ…すみません高木さん、お時間とらせて」

高木「…いや、俺も楽しかったから大丈夫だよ」

舞「とにかく小鳥には頑張れって言っといてね、高木さん!」

P「お前、言葉遣い……!」

舞「そんじゃ行ってきまーす!」

P「はぁ…すみません、それじゃ失礼します」

高木「ああ、行ってらっしゃい」

ガチャ バタン! ヨーッシシュッパーツ! オイ、ウデニダキツクナッテ!

高木「……」

ピッ prrrr prrrr

高木「…ああ、黒井か?俺だ、高木だ」

高木「ちょっと話がある」

黒井「…なんだ、せっかくの休みに」

高木「まあいいじゃないか、なかなかいい雰囲気の喫茶店だろ?」

黒井「……ふん、ブラックコーヒーをひとつ」

高木「俺はオレンジジュースで」

黒井「…相変わらずだな、その味覚は」

高木「いいだろ別に、甘いもの好きなんだし」

黒井「ふん」

高木「お前こそ電話口で開口一番『ウィ、私だ』って言う癖やめろよ」

黒井「それこそお前に指図される筋合いは無い」

高木「社長からだったらどうするんだ」

黒井「……私が社長になれば問題無いだろう」

高木「何年後の話だよ」

黒井「ところで用件とはなんだ、くだらないことじゃないだろうな」

高木「…音無さんのことだ」

黒井「…なんだ?まさかもう一回プロデュースしたいとかじゃないだろうな?」

高木「アイドルを辞めると、彼女がそう言った」

黒井「……ふむ、そうか」

高木「…あまり驚かないんだな」

黒井「辞めると言う人間に、辞めるなと言っても逆効果だろう」

高木「それはまた違う話のような気が…」

黒井「…で、報告だけをするために呼びつけたのか?」

高木「いや、相談がある」

高木「アイドルとしての彼女を、最後に大切にしてあげたいんだ」

-それから半年後-

黒井「…これが最後の仕事だな、音無くん」

小鳥「はい、今までお世話になりました」

黒井「どうだった、これまでの半年間」

小鳥「歌のお仕事以外せずに、レッスンも歌に関することしかしないで」

小鳥「…わがまま言ってしまって、申し訳ありませんでした」

黒井「……それは私と社長と、それから高木が判断したことだ…謝る必要は無い」

小鳥「…ありがとうございます」

黒井「後悔は無いのか?」

小鳥「アイドルに関しては」

黒井「他のことに関しては?」

小鳥「……」

黒井「…開演までしばらく時間がある、行って来い」

小鳥「……」ペコ タッタッタ

黒井「…」

黒井「……彼女をトップアイドルに出来なかったのは」

黒井「誰の責任なんだろうなぁ…」

黒井「……」

黒井「…ふん、私らしくもない」

黒井「少なくとも今後は……」

黒井「…彼女のような者は、作っちゃいけないはずだ」

黒井「……そうだろう?高木…」

小鳥「はぁ、はぁ…!」タッタッタ

小鳥「…!」タッタッ…

舞「おーっす」

小鳥「舞、ちゃん…」

舞「あはは、ライブ前に汗かいちゃってんじゃん」

小鳥「あの…お仕事は?」

舞「んー?今日は取材だけだったからキャンセルしちゃった!」

小鳥「ぷ、プロデューサーさんがまた大変になるんだね…」

舞「ま、あの人だからそういうこと任せられるってのもあるけどね」

小鳥「…そっか、いいね」

舞「ね、小鳥」

舞「私、正直ショックだったよ?ギリギリまで引退知らされなくて」

小鳥「う…ご、ごめん…」

舞「…まあ、それが小鳥のやりたいことだって言うなら応援するし、別に今更引きとめる気も無いけどさ」

舞「後悔だけは、しないようにね?」

小鳥「……うん!」

舞「よっし!それじゃ行ってらっしゃい!」

小鳥「ありがと舞ちゃん!」

タッタッタ…

舞「さーてと…」ピッ ピピッ prrrr prrrr

舞「やっほープロデューサー…え?忙しいから電話すんな?いいじゃんすぐ終わるし」

舞「うん、すぐ終わるすぐ終わる」

舞「あのさ、結婚しない?」

小鳥「プロデューサー!」

高木「音無さん…もうすぐライブ始まるのに…」

小鳥「いいんです!どうしても話したかったから!」

高木「…それに俺はプロデューサーじゃあ…」

小鳥「もう!そんなのどうでもいいですってば!」

高木「う、うん…ごめん…」

小鳥「……」

高木「……」

小鳥「…じゃ、じゃあしゃべりますよ?」

高木「ど、どうぞ…」

小鳥「…今日は、一生懸命歌います」

高木「……うん」

小鳥「100点の私を、見ていってください」

高木「…うん」

小鳥「…お客さんには申し訳ないけど」

小鳥「最後の曲は、あなたのためだけに歌います」

高木「……」

小鳥「…ずっと、ずっと好きでした!」クルッ

タッタッタ…

高木「……はは、ダメだ…泣くのこらえられなかった…」

高木「ツメが甘いなぁ…本当に……」

小鳥「…それでは次で、最後の曲です」

「えーやだー」「寂しいよ小鳥ちゃーん!」

小鳥「……ありがとうございます」

小鳥「私がこれまで頑張ってこれたのも、ファンの皆さんのおかげだと思っています」

小鳥「…でも、次の曲は…ある一人のために歌います」

小鳥「その人は、私がアイドル頑張ろうっていう…」

小鳥「きっかけを、作ってくれた人です」

舞「……」

小鳥「…皆さんには申し訳ないけど、そういうつもりで聞いてくださればうれしいです」

小鳥「……最後の曲です」


小鳥「『光』」

今、輝く一番星 ひとつ夢を願った

だけど今日もまた終わってゆく

ただ自分でいたいのに ただ笑っていたいのに

だけど成れなくてもう出来なくて落ちる涙


黒井『音無くん、引退ライブのことだが…』

小鳥『はい』

黒井『新曲を用意しようかと思っている』

小鳥『へ!?い、いいんですかそんなの!』

黒井『引退ライブなのにとは思うが…社長の判断だ、私にはどうしようもあるまい』

小鳥『そ、そうなんですか…』

夜が闇で空を消しても 雲が銀河を隠しても

小さくたって あの花のように

星は光を咲かせてく


舞『へ?小鳥の新曲のタイトル?』

高木『ああ…作詞家の先生が、せっかくだからそっちで付けろっておっしゃってね…』

舞『ふーん?珍しいこともあるもんね』

高木『はは…』

高木(引退だからって言って無理聞いてもらったのは秘密だな…)

舞『そうね…今までの曲が空、花、だから…』

舞『光、なんてどう?』

高木(……音無さん)

高木(俺は、まだまだこの業界に残る)

高木(それでいつか…キミと追いかけた夢を叶えたい)

高木(…もしかしたらそのときはプロデューサーじゃなくて、別の立場かもしれないけど)

高木(そのときは、応援してくれるとありがたい)

高木(……今まで、ありがとう)


どうか負けないで 自分を信じて大丈夫だから

どうかやめないで 夢が朝になっても覚めないなら

明日を迎えにいってらっしゃい

-さらに3ヶ月後-

カランカラン

舞「あら、ステキなお店」

黒井「キミが来たいと言ったんだろうが」

舞「だってあの人は絶対連れてってくれないんだもん」

黒井「未成年をバーに連れていく方がどうかしている…酒は絶対に頼むなよ」

舞「わかりました!どうかしている黒井さん!」

黒井「……ふん」

舞「あはは、機嫌悪くなっちゃった」

黒井「…そりゃあ事務所のアイドルがこの3カ月で2人もいなくなればな」

舞「あら、それって嫌味?」

黒井「嫌味だ」

舞「ま、仕方ないんじゃない?もう決まったことだし」

黒井「ある意味伝説だ…人気絶頂の中、わずか1年で引退するなど…」

舞「…だって、面白くないもん」

黒井「……キミも、そういう意味では恵まれなかったのかもしれないな」

舞「ふふ、後悔はしてないけどね」

黒井「…あんまり彼を泣かすんじゃないぞ?」

舞「いやいや、それって普通男の方に言うことでしょ?」

黒井「……お腹の子供も、ムリヤリ襲われたって彼が…」

舞「黒井さん、それプライベートだから秘密」

黒井(…やはりすごいな、この女は)

舞「で、黒井さんはこれからどうするの?」

黒井「…プロデュースできないんじゃ意味が無いからな、他の会社に移って」

黒井「近いうちに自分の会社を立ち上げる」

舞「おお、シャチョーさん」

黒井「……気付いたのだ、キミのように才能溢れる素材ばかりではないということに」

舞「あっはは、照れるなあ」

黒井「だとしたら必要なのは、事務所のバックアップ、多少強引でも露出を増やす手段…」

黒井「そのためのコネ…いろいろなものを準備しなければならない」

舞「ふーん…ま、私は引退する身だからとやかく言えないけどさ」

舞「それってアイドルの子からしたらうれしいのかな?」

黒井「……」

舞「本人がそれでいいならもちろんいいよ?だけどさ」

舞「自分の知らないところでコソコソやられてたらさ、それこそ面白くないんじゃないの?」

黒井「…しかし、それですべてがうまくいくかと言えばそうではないのも現実だ」

舞「……まあいいや、10年後楽しみにしとく」

カランカラン


「おや?どうして二人が…」

「あ、高木さんだ!やっほー!」

「む、なぜお前が…」

「ねえねえ、小鳥とはまだ連絡とってるのー?」

「そ、それは…」

-4年後、音無小鳥20歳-

小鳥「…へえ、舞ちゃんの子供初めて見た」

舞「もう4歳よ?愛って言うの、かわいいでしょ」

愛「ことりーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

小鳥「う、うん…とっても元気でいいと思う」

舞「今から面接なんでしょ?頑張ってね」

小鳥「うん…まあ自分でも芸能事務所の事務なんてって思ったけど…会社の場所とかもいいしね」

舞「…芸能事務所?それなんて会社?」

小鳥「え?765プロだけど…」

舞「……へぇ~~~~」ニヤニヤ

小鳥「な、なんでニヤニヤしてるの舞ちゃぁん!」

舞「べっつに~~~、へぇ~~そうなんだぁ~~~~」ニヤニヤ

愛「あははははははははは!!!!!!!!!!」

小鳥「もう、なんなのよあの二人…まあ愛ちゃんはなにも分かってないんだろうけど…」

小鳥「…あ、着いちゃった765プロ」

小鳥「うう、緊張するなあ…」

小鳥(アイドルを夢見る女の子たちのお手伝いができればいいなあって思ったけど…)

小鳥(私にそんな立派なことできるかなぁ…うー…)

小鳥(えーい、ここまで来たらやるしかない!がんばるのよ小鳥!)

トントン ガチャ!

小鳥「失礼します!本日入社面接を受けさせていただく音無小鳥です!」

高木「ああ、いらっしゃ…え?音無?」

小鳥「……え?」

高木・小鳥「……………え?」

黒井「…ああ、そうだ」

黒井「今は961プロと名前を変えた…先代のバカ息子が会社を出ていったからな」

黒井「…まあラッキーと言えばラッキーだな、キミの残した資金を使えるのだから」

黒井「……ふむ、音無くんが?」

黒井「高木も前から社名は765プロと言っていたが…まあ音無くんが知らないのは無理もあるまい」

黒井「…別の会社になった以上、アイツは敵だ…叩きのめすつもりだよ」

黒井「…何?再デビューするときはよろしく?何を言ってるんだキミは…」

黒井「……お子さんもいるんだ、無理はしないように、ああ、ああそれじゃあ」

ガチャ ツーツー

黒井「………」

黒井(…彼女ならやりかねないから怖いな)

小鳥「はあ…そうですか、独立して…」

高木「うん……やはりバカだと思うかい?」

小鳥「そりゃあ……まあバカですよね」

高木「うぐ…」

小鳥「…社員さんもいないんでしょう?」

高木「…まだ私だけだね」

小鳥「じゃあ、私が入社してあげてもいいですよ?」

高木「むっ、こっちが社長なのに…」

小鳥「あはは」

高木「…ふふ、相変わらず面白いな音無さんは」

小鳥「あ、まだ“さん付け”なんですか?」

高木「うーん、社長と部下だからねえ…今度からは音無くんでいこうか」

小鳥「じゃあ私も社長って呼ばなきゃいけないですね」

高木「そうだね、音無くん」

小鳥「ええ、高木社長」

高木「…これから、頑張ろう」

小鳥「頑張りましょう」

高木「……」

小鳥「…ぷっ」

高木「あ、笑わないように我慢してたのに!」

小鳥「だ、だって…音無くんに高木社長って…!あは、あっはははは!」

高木「失礼だぞ音無くーん!」

-そして現在、音無小鳥2ピヨ歳-

春香「へえー、小鳥さんって元々アイドルだったんですね」

小鳥「そうよー、まさか社長がテレビ初出演のときのビデオをまだ持ってるとは思わなかったけど…」

真(なんだか不自然な年齢修正が入ったような…?)

やよい「でもとっても歌が上手でキレイですー!」

響「ピヨ助の意外な過去だなー!」

小鳥「もう…みんなに教えるつもりは少しも無かったのに…」

亜美「これも亜美たちが社長室を探検したおかげですな!」

真美「思わぬトレジャーでしたな!」

千早(なんだか当時の音無さんの映像に見覚えがある気が…?)

伊織「ほら!そろそろ新しいプロデューサーが来る時間よ!」

貴音「出迎える準備をしなければなりませんね…」

律子「はぁー…ようやくプロデューサーが増える…」

美希「あふぅ……まだ眠いの…」

雪歩「み、美希ちゃん…そろそろ起きないと…」

ワイワイ ガヤガヤ

小鳥「あはは…みんな元気ね…」

あずさ「音無さん、今度飲みに行きましょうね」

小鳥「へ?別にいいですけど…」

あずさ「今日は話さなかった、社長との思い出はそのときにお願いしますね」

小鳥「!!!??」

あずさ「うふふ」

小鳥(ふ、深い意味は無いわよね…多分)

高木「音無くん」

小鳥「あ、社長…おはようございます」

高木「うん、おはよう…今日は新しいプロデューサーくんが来る日だね」

小鳥「舞ちゃんの旦那さんみたいにアイドルを手籠めにしない人だといいですけど」

高木「いや、それは…うん、なんでもない」

小鳥「?」

高木「日高くんと言えば、娘の愛くんが876プロに入ったらしい」

小鳥「へえー、そっかもうそんな歳かぁ」

高木「…音無くんはどうなのかね、そろそろそういう相手とか…」

小鳥「……それセクハラです」

高木「うぐ…」

小鳥「……まあ初恋が苦い思い出ですからね、そりゃ彼氏いない歴イコール年齢にもなりますよ」

高木「それは、その…むむむ……」

小鳥「ま、別に責任取ってくれなんて言うつもりありませんけど」

高木「そう言われると何も言えないじゃないか…」

小鳥「あはは、冗談ですよ」

高木「そういう冗談はあまり…おっと、来たようだ」

ガチャ

「お、おはようございます!今日からこちらにお世話になります、よろしくお願いします!」

高木「うんよろしく、ここにいるのがわが765プロのアイドル諸君だ」

高木「それからまあ…知っているとは思うが、私が社長の高木順二朗…そして」

小鳥「はい」


小鳥「765プロ事務員、音無小鳥です!」


おわり

というわけでおわりです
妄想に付き合ってくださりありがとうございました

小鳥さんの過去っていうのは想像しだしたら止まりませんね
公式でも宙ぶらりんな今の感じがたまらなく好きです

あと公式では舞さんは3年間活動したってことになってるみたいですが、今回はちょっと無視してます
気になった方もいるかもしれないので、一応補足しておきます

それでは読んでくださってありがとうございました

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