ほむら「ムジュラの仮面?」(263)

魔法少女たちの間に伝わる神話

そこにひとりの少女が登場する

巨悪と戦い、世界を救ったのち、彼女は、神話から姿を消した……

時をこえた戦いを終え、彼女は人知れず旅に出た

冒険の終わりで別れた、かけがえのない友を探す旅に……

――どこかの森――

ほむら「……」

QB「……」

ほむら「……いやに瘴気が濃いわね」

QB「……そうかい?」

ほむら「そうかいって、あなたには感じないの?」

QB「たしかに異様な雰囲気はあるけれど、魔獣のそれとは違う気がするよ」

ほむら「まあ、魔獣ではなさそうね」

ズボッ

 ほむら「!?」

 ほむらとキュゥべえの足元が急にくぼんだ。

次の瞬間には、一人と一匹は深い穴の底にいた。

 ほむら「……」

 QB「ほむら、大丈夫かい?」

 ほむら「……」

 QB「……気絶しているようだ」

 「ヒヒヒッ」

QB「?」

 スタルキッド「引っかかったぞ、マヌケが」

 QBが上方を仰ぎ見ると、二匹の妖精を従えた少年がこちらを覗いていた。

 QB「(妖精……? まあ珍しくもないけど、この地球になぜ妖精が?)」

 QB「(それに……、あの少年のつけている仮面。あまりに禍々しい形相をしている。僕には分からないが、人間が見たら恐怖を抱くのだろうね。ただの仮面ではなさそうだ)」

 スタルキッド「何かいいモン持ってそうだ!」

 少年は妖精と共に穴の中に滑り下りてきた。

スタルキッド「お、コイツのリボン!」

 トレイル「キレイ……」

 チャット「あんたは触っちゃダメよ?」

 スタルキッド「ヒヒヒッ」

 少年はほむらの頭からリボンを外すと、穴をよじ登り、どこかへ消えていった。

 QB「……」

 ほむら「う……ん……」

 QB「気が付いたかい、ほむら」

ちょっと試しにPCに切り替えます

ほむら「ええ……。ここは?」

QB「落とし穴に嵌ったようだ。今、この罠を仕掛けたと思われる少年が君のリボンを盗っていったよ」

ほむら「リボン……ない! どうして止めなかったのよ!?」

QB「無茶言わないでくれ。そもそも彼には僕の姿が見えていないんだ」

ほむら「そ、そいつはどこへ行ったの?」

QB「とりあえず穴から出ようよ」

ほむらたちが穴から出ると、森の土の上に足跡が長く続いていた。

ほむら「物盗りをやるには少し頭が足りていないようね。追うわよ」

足跡は洞窟の中へと続いていた。

ほむら「こっちね」

QB「ちょっと待ってよ。まさかこの洞窟に入るのかい? 悪いけど、リボンひとつにそこまでこだわるなんて理解できないよ」

ほむら「あのリボンはまどかが存在した唯一の証なのよ」

QB「やれやれ、また『まどか』かい。まあ既に感情という精神疾患を持つ君が、さらに精神を病んだところで僕には関係のない話だけど」

ほむら「撃ち抜いてやりたいところだけど今は勘弁してやるわ。行くわよ」

洞窟の中はかなり複雑な構造になっており、高低差が激しいなど、運動能力の高いものでなければ通り抜けられなさそうだった。しかし魔法少女であるほむらは難なく洞窟の奥へと足を進めていった。

ほむら「くっ……! いったいどこまで逃げたのよ……。そろそろ普通の人間が通れるような道じゃなくなってきたわよ」

QB「……人間?」

ほむら「え?」

QB「ああ、僕にとっては意味のない差異だったから言わないでいたけど、彼は恐らく人間ではなかったよ」

ほむら「そういうことは早く言いなさいよ!」

QB「だから僕にとってはたいして変わりないんだって。そうだね。あれは……小鬼とかいうのかな。
  妖精を従えていたし。もっとも小鬼自体が何か特殊な能力を持ち合わせているわけではない。思うにあの仮面が……」

ほむら「仮面? ……きゃっ!」

ほむらは足を滑らせた。道の先が崖になっていたのだ。

落ちてゆく時ほむらには、数多の「顔」が自分の前を通り過ぎていった気がした……。

気が付くとほむらたちは地の底にいた。眼前には小さな沼が広がる。
その沼を超えた暗がりの中に、小鬼はいた。

マミさんナビィの方とは別人です

スタルキッド「ヒヒヒッ」

ほむら「こいつ……」

QB「やはり様子がおかしいね。彼は空中で寝転がるような姿勢をとり、
  リボンも手に持っているようで実は宙に浮かせている」

ほむら「魔力の持ち主だということ?」

QB「それがどんな種類のものであれ……ね」

ほむら「でも関係ないわ……リボンを返してもらうわよ」

スタルキッド「ヒヒヒッ、オマエ、自分の立場が分かっていないようだな」

ほむら「……あまり調子に乗っているようなら、多少強引な手段に出ても構わないのよ」

スタルキッド「調子に乗ってるのはオマエだよ。そうだな、ナニがいいかな……」

ほむら「何を言ってるの?」

QB「! まずい、ほむら! 逃げるんだ!」

ほむら「……!?」

ここで暁美ほむらの意識は半ば飛んだ。ただ、一瞬、見たこともない、
植物と動物の中間のような、気味の悪い生物に取り囲まれるイメージが見えた気がした。

ほむら「……?」

目の前には沼が広がる。その奥には小鬼と二匹の妖精。先ほどと同じ光景だ。

ほむら「(一瞬気が遠くなった気がしたけど……。気のせいね)」

ほむら「(それにしても、ずいぶんと生意気な態度をとってくれるわね。今度はこっちの番……)」

ほむらが違和感の正体に気付くのに、数秒とかからなかった。傍らのキュゥべえが随分大きく見える。機転の効く彼女はすぐに水面に映る自分の顔を覗き込んだ。

ほむら「――っ!!」

ショックだった。自分が、植物とも動物ともつかない奇妙な生物に変わってしまっている。
思わず悲鳴を上げたが、その声ももはや暁美ほむらのものではなかった。

スタルキッド「ヒヒヒッ、いいザマだ……。オマエはずーっとその姿でここにいろ!」

小鬼はそう言うと、空中で寝転がった姿勢を保ったまま、後方に飛んでいった。妖精が二匹、その後に続いた。

ほむら「これはいったいどういうことなの、キュゥべえ!」

QB「分からない。でも、あの小鬼の魔法……そう考えるのが一番自然じゃないかな」

ほむら「そうね。なら元の姿に戻る方法はひとつ……あいつをとっ捕まえるしかないわね」

ほむらは前に踏み出した。身体が軽いせいか、水面を跳ねて進むことができた。

QB「なんだかこの木、君に似ているね」

QBが立ち止まったところには、顔のようにも見える模様のついた枯れ木が生えていた。

ほむら「そんなこと言っている場合じゃないわ。行くわよ!」

やがて人工的な通路にさしかかった。ほむらたちはそのまま進んだ。心なしか、通路は次第に捻れていっているような気がした。
どこかから、心の安らぐ、優しい歌が聞こえた。

――時計塔の内部――

ゴトン ゴトン

扉を開けると、巨大な歯車が目に入った。

QB「この歯車……どうやらここは時計塔の内部のようだね」

ほむら「時計塔……。どうも昔のことを思い出させるようで、いい気はしないわね」

「ホッホッホ」

ほむら「?」

ほむらが振り返ると、大きな荷物を背負った男がいた。手をすり合わせ、気味が悪いほどの笑顔を浮かべている。

お面屋「散々な目に遭いましたねぇ……」

ほむら「……あなたは?」

お面屋「ワタクシはしあわせのお面屋。古今東西、しあわせを求めて旅を続ける行商人。見たところアナタ……仮面をつけた小鬼を追っているのでは……」

ほむら「ええ。どうして分かったの?」

お面屋「実はあの仮面、もともとはワタクシが持っていたものなのです」

ほむら「……」

お面屋「ところで実はワタクシ、アナタを元の姿に戻す方法を知っているのですが……」

ほむら「え!? ほ、本当!?」

お面屋「ええ。すぐにでも元の姿に戻してさしあげましょう。その代わり……」

ほむら「……。どのみちあの小鬼には用があるわ。仮面をとり返してくればいいんでしょう?」

お面屋「アナタならそうおっしゃってくれると信じていました……。小鬼はこのクロックタウンのどこかにいるはずです……。
    出来れば三日以内にお願いします。三日したら、ワタクシはこの街を出ていってしまうので……」

ほむら「そういうワケらしいから、行くわよ。QB」

お面屋「自分の力を、信じなさい、信じなさい……」

ほむらたちは扉を開け、時計塔の外、クロックタウンへと出た。

――クロックタウン――

最初の朝 ――あと72時間――


ほむら「……とは言ったものの。どこにいるのかしら、あいつ」

QB「ほむら、君はあのお面屋に関して、何も感じなかったのかい?」

ほむら「……? どういう意味よ」

QB「僕はあのお面屋に、君たちの言葉で言うと恐ろしいものを感じた。
  『円環の理』に近い、超越的な何かを……」

ほむら「『円環の理』……。なら問題ないじゃない。行くわよ」

QB「行くって、どこに?」

ほむら「手あたり次第聞き込みよ」

QB「聞き込みって……。君は自分が今どんな姿をしているのか、分かっているのかい?」

ほむら「! そういえばそうね。どうしましょう……」

QB「しかし不思議なのは、君は先ほどから街の中心にいるというのに、誰ひとりとして君に興味を示さないことだ。まるで君のような生き物がこの世界にいるのが当たり前のことのように……」

ほむら「……異世界にでも迷い込んだのかしら」

QB「そうかもしれないね。ところでほむら、ひとつ、魔法少女の変身を解いてみてはどうだい?」

ほむら「? まあいいけど」パアア

ほむらは変身を解いた。

ほむら「!」

ほむら「これは……」

そこにあったのは、普段通りの暁美ほむらの姿だった。

QB「やはりね。姿を変えられたのは変身後だけのようだ」

その後、試しに再び変身してみると、やはりあの奇妙な姿になってしまった。ほむらは溜息をつき、変身を解いた。

ほむら「つまり、魔法少女に変身するとあの姿になってしまうということね……」

QB「ということは、君の武器である弓が使えなくなったわけだ」

ほむら「魔法少女としての身体能力は失っていないようね。ともかく、この姿なら聞き込みも出来るでしょう」

ほむらたちはしばらく街を散策した後、「マドカマ亭」という宿屋に入った。宿を確保しておきたかったというのもあるし、聞き込みをする目的もあった。

――マドカマ亭――

まずほむらはフロントへ向かった。

ほむら「どこか泊まれる部屋は?」

マドカ「はい。2Fのこの部屋などは……」

ほむら「……!」

ほむらは、自分が声を上げなかったことが不思議なくらいだった。目の前にまどかがいる。ほむらのかつての道しるべ。この世界を構築した魔法少女。

ほむら「(いや……)」

だがそれがまどかではないとすぐに分かった。彼女の耳は、お伽話に出てくるエルフのように長かった。この街の他の住人と同様に。しかし似ている。似すぎている。

マドカ「どうかされましたか?」

ほむら「いえ。ごめんなさい。じゃあその部屋をとらせてもらうわ」

マドカ「かしこまりました」

ほむら「ああ、あと……仮面をつけた小鬼を見なかったかしら」

マドカ「小鬼……? うーん……、すみません、ちょっと……」

ほむら「そう。ならいいわ。ありがとう」

その後、ほむらたちは自分たちの部屋に向かった。部屋に入ると、すかさずベッドに寝転がった。

――マドカマ亭、ほむらの部屋――

ほむら「さすがに疲れたわ」

QB「しかしあまり休んでいる時間はないみたいだけど。確か期限まであと三日もないんだろう?」

ほむら「分かってるわよ。もうしばらくしたら聞き込み再開よ」

コンコン

ドアをノックする音が聞こえた。ほむらが返事をすると、マドカが入ってきた。

マドカ「食事のメニューです。外で取ってもらっても構いませんが、こちらでも用意しているので。暁美ほむら様」

ほむら「ほむらでいいわ。どうやらわたしたち、あまり歳も変わらないようだし」

マドカ「えっと……、それじゃあ、ほむらちゃん」

ほむら「(こうしてみると本当にまどかみたいね……)」

マドカ「あ、わたしはマドカっていいます。マドカと呼んでください」

ほむら「マドカ……」

マドカ「それにしても、ほむらちゃんは逃げないんだね」

ほむら「逃げない……?」

マドカ「あ、ごめんなさい。最近皆クロックタウンから避難してるから、
    これから泊まろうなんてお客さん、珍しくて。ここだけの話、今このマドカマ亭に泊まってるの、ほむらちゃんだけなんだ」

ほむら「避難? 何かあるの?」

原作だとこの時期のナベカマ亭は満室ですが、ご容赦ください

マドカ「あれ、知らない? あの月が落ちてくるって話」

マドカはそう言うと、部屋の窓を開けた。ほむらは促されるまま、開けられた窓から顔を出した。

マドカ「今日も大きくなってるね」

ほむらはマドカの目線の先を追った。そして目を丸くした。そこには、昼間だと言うのに、
ほむらが見慣れていたものに比べてあまりに巨大な月があった。そしてその月には、鬼のような表情をした顔がついていた。
こんなものが空に出ていて今まで気が付かなかった自分もどうかとは思ったが、恐らく疲れていて空を仰ぐ余裕がなかったのだろう。

ほむら「落ちてくるって……いつ頃?」

マドカ「噂だと、三日以内だって」

ほむら「(三日……。あのお面屋がこの街を去ることと何か関係があるのかしら)」

マドカ「あ、ごめんなさい。お客様相手になれなれしかったですよね」

ほむら「いいえ。全然気にしていないわ」

マドカ「何だかほむらちゃんと話していると懐かしい感じがして……。初対面なのに、変だよね」

ほむら「……そうね。変よ」

そうしてマドカは部屋を出ていった。

ほむら「キュゥべえ」

QB「何だい」

ほむら「わたしの言う『まどか』は、今の子のような外見をしていたわ」

QB「やれやれ、またその妄想かい」

ほむら「……さっさとあの小鬼をとっ捕まえるわよ」

ほむらたちは部屋を出、ロビーに降りた。フロントにはマドカが立っていた。

ほむら「外出するわ」

ほむらはフロントにキーを預ける。

マドカ「いってらっしゃい、ほむらちゃん」

ほむら「……」

ほむらたちは再びクロックタウンに出た。

――クロックタウン――

QB「それにしてもあの月……。ここが僕らの住んでいた世界でないのは確かなようだね。可能性としては……パラレルワールド」

ほむら「(パラレルワールド……。わたし自身複数のパラレルワールドを渡り歩いてきたようなものだし、あまり新鮮な感じはしないわね……)」

それからほむらたちは街の人間に小鬼の行方を訊いたが、参考になるような回答は得られなかった。街を探し尽くしたほむらが次に目指したのは街の外だった。

門番「待ちなさい、君」

ほむら「……わたし?」

門番「ここから先はクロックタウンの外だ」

ほむら「ええ。そのクロックタウンの外に行きたいのだけど」

門番「ダメダメ! 外は危ないんだ。凶暴なモンスターだっている。お嬢ちゃんのような武器も持っていない子どもは出ていっちゃダメだよ」

ほむら「そんな……」

ほむらたちは一旦街の門から退いた。

ほむら「武器……ねえ。本来なら弓矢があるけど、今は小鬼の魔法のせいで使えない」

ほむら「(昔持っていた盾があれば、時間が止まっているうちに門を通り抜けられるけど)」

ほむら「わたしも見た目は子ども。変身後の姿ならなおさらでしょうね」

QB「呪いを解かないうちは街の外に出るのは厳しそうだね」

QB「……呪い?」

QB「ほむら、ちょっとソウルジェムを出してみてくれないかな」

ほむら「……? いいけど。これでどうするの?」

QB「さっきも言った通り、小鬼というのは、それ自身は魔力に相当する力を持っていないんだ」

ほむら「それが何か?」

QB「しかし現に君は姿が変わる魔法をかけられている……」

ほむら「はあ」

QB「もともと魔力を持たない者が魔法を使える……それは希望、または呪いの力を借りたときだけだ」

ほむら「確かにわたしたち魔法少女は希望の力を魔力に変え、魔女は呪いの力を魔力に変えている」

QB「魔女? まあ君の妄想の話はいいとして、仮にあの小鬼が呪いの力を使っているのなら、ソウルジェムが反応するはずなんだ。ソウルジェムが魔獣を感知できるのも、呪いに対するセンサーの機能を持っているからなんだよ」

ほむら「! そういうことはもっと早く気付きなさい」

QB「アイディアを出したのにその言い方はひどいんじゃないか」

ほむら「……まあいいわ。さっそくソウルジェムで奴の居場所を……」

ほむらはソウルジェムを頼りに街を歩いた。ソウルジェムの反応は、時計塔の真下で一番激しくなった。

ほむら「時計塔の周辺に奴がいるとしか考えられないのだけど」

QB「時計塔の内部という可能性は考えなくていいだろう。あのお面屋がいたところだしね。それにあのいたずら好きの小鬼のことだ。
  もっと広々とした場所を好むはず……」

ほむら「……上ね」

QB「しかしどうやって登るんだい? 魔法少女の跳躍力を持ってしても中々難しそうだけど」

ほむら「とりあえず宿に帰りましょう。今は奴の居場所が分かっただけで十分よ」

――マドカマ亭――

マドカ「おかえりなさい、ほむらちゃん。はい、部屋のキー」

ほむら「ありがとう、マドカ。……ねえ、ひとつ訊いてもいいかしら」

マドカ「何かな?」

ほむら「あの時計塔に登ることは出来るの?」

マドカ「うーん……。普段は無理かな」

ほむら「……そう」

マドカ「でもね、今ならチャンスがあるかも!」

ほむら「どういうこと?」

マドカ「ほむらちゃんは旅人だから知らないかな? クロックタウンでは毎年この時期に『刻(とき)のカーニバル』っていうお祭りをやるんだ。
    花火とかも上がって、楽しいんだよー」

ほむら「それが何か?」

マドカ「そのカーニバルは三日後のちょうど0時に始まるんだけど、そのときに時計塔の上の扉が開くの。
    そこから時計塔の上まで登れるかも!」

ほむら「……それはいいことを聞いたわね。ありがとう、マドカ。今の情報、とても役に立ったわ」

マドカ「ティヒヒ。じゃあほむらちゃん、わたしも訊いていいかな」

ほむら「答えられることなら」

マドカ「『狐のお面を被った女の子』を見なかった?」

ほむら「狐のお面……? ごめんなさい、見ていないわ」

マドカ「うん、ならいいんだ。ごめんね、変なこと訊いて」

ほむら「いえ、お役に立てず申し訳ない……。見かけたら報告するわ」

マドカ「ありがと!」

その後ほむらたちは部屋に戻った。

――マドカマ亭、ほむらの部屋――

ほむら「これで準備は万端ね。あとはソウルジェムの反応を見て、奴が移動しないか確認して、三日後の0時になったら時計塔の上まで行くわよ」

QB「まあ問題ないだろう」

ほむら「今日はたくさん歩いて疲れたわ。もう寝ましょう」

翌日、ほむらたちは主に街を散策して過ごした。様々な店や、銀行、市長の家、ポストハウス、射的場、バー……。
それ以外の時間はマドカと話した。マドカが言っていたように、毎年カーニバル前は満室になるのだが、今年は月の噂のせいで客が来ないのだ。
そして……。

最期の夜

――マドカマ亭――

ほむら「出かけるわ」

マドカ「ね、ねえ、ほむらちゃん。よかったらわたしも一緒に行っていい?」

ほむら「仕事はいいの?」

マドカ「お客さんも来ないし、今夜は誰も来るはずがないから」

ほむら「じゃあ一緒に行きましょう。0時まで」

――クロックタウン――

外に出たほむらたちは、カーニバルに関係なく街の様々な場所を巡って楽しんだ。知り合ってから三日とは思えないほど、ほむらとマドカは親しげだった。
そうして時が流れ、時刻は0時に近づいた。

マドカ「月、いよいよ大きくなってきたね」

ほむら「ええ。怖いくらいだわ」

マドカ「あれ、本当に落ちてくるのかな……」

ほむら「どうでしょうね」

マドカ「ほむらちゃん」

ほむら「何?」

マドカ「ごめん」

ほむら「謝られるようなことをされた憶えはないわ」

マドカ「わたし、知り合ったばかりなのになれなれしいでしょ?」

ほむら「気にしていないと言ったはずよ。それに、なれなれしいのはお互い様だし」

マドカ「ううん。……わたし、『狐のお面を被った女の子』を探してるって言ったでしょ?」

ほむら「ええ」

マドカ「実は、その子がほむらちゃんにそっくりなの」

ほむら「……!」

マドカ「わたしとあの子はとっても仲のいい、親友でね……。なのにあの子、急に行方不明になっちゃったの。
    だからわたしはほむらちゃんとあの子を重ねて……」

ほむら「……」

マドカ「ごめんね、最低だよね……。それでね、実はこの前その子から……」

マドカが俯きかけた瞬間、時計塔の鐘が鳴り、同時に数発の花火が光った。

ほむら「『刻のカーニバル』……」

ほむら「マドカ、話の続きはわたしが帰ってきてからにしましょう」

マドカ「ほむらちゃん……」

ほむら「たいした用事じゃないわ。すぐ帰ってくる」

マドカ「……うん。待ってる」

ほむらは時計塔に向かって走り出した。

ほむら「(気に病むことはないわ、マドカ)」

ほむら「(誰かと相手を重ねてるなんて……それこそお互い様だもの)」

時計塔に辿りつくと、マドカの言っていた通り、上の扉が開いていた。ほむらはその扉をくぐり、階段を上った。

――時計塔、屋上――

スタルキッド「……ヒヒヒッ」

小鬼が二匹の妖精を従え、空中で腕組みしながら座るポーズをとっていた。
そのさらに図上では鬼の形相をした月が、今にも大地に触れそうなほどに近づいていた。

ほむら「そのリボン、返してもらうわよ!」

スタルキッド「嫌だね。オイラはこの仮面のおかげでこんなにすごい力を手に入れられたんだ。
       頭上を見ろ! オイラの力にかかればこの街をぶっ壊すことだって不可能じゃないんだぞ?」

ほむら「その月……あなたの仕業だったのね。でもその前に止めてみせる!」

スタルキッド「なら……やってみろ!」

スタルキッドが掛け声のようなものを発したかと思うと、大地が揺れ出した。月がさらに近づいてきているようだった。

QB「どうするんだい、ほむら」

ほむら「あいつは宙に浮いている。……弓はないし、……攻撃する手段がないわ」

QB「!? 僕はてっきり何か考えがあるものだと……。とりあえず変身しなよ! 何かしら魔法は使えないのかい?」

そう言われてほむらは変身をした。今までと同じように、あの奇妙な姿に変化した。

ほむら「そう言われても……。……?」

ほむらは、自分が何か魔力を発揮しようとすると、自分のラッパ状の口にシャボンの膜のようなものが出来ていることに気がついた。

QB「それだよ! 口からシャボンを飛ばして小鬼に当てるんだ!」

ほむら「あまり気分が良くないけど、それしかなさそうね」

ほむらは持てる限りの魔力を使い、シャボン玉を形成した。そしてそのシャボン玉で、小鬼を狙い撃つ。

スタルキッド「何だ何だ! ちょっとオイラが高いところにいるってだけで何も手出しできないじゃないか! ヒヒヒッ……あれ?」ツルッ

シャボン玉が小鬼に命中し、小鬼は手を滑らせてリボンを落とした。ほむらはすかさずそれを拾った。

ほむら「やった、取り戻したわ!」

QB「でもあの小鬼にダメージはないみたいだ。どうするんだい?」

ほむら「……まどか」

QB「ほむら、今は妄想にふけっている場合じゃないだろう!?」

ほむら「このリボンを見ていると、まどかのことを思い出すわ……」

QB「聞こえているのかい、ほむら!」

ほむらがまどかのことを思い出し始めたのと同時に、ほむらの傍の空間が光り始めた。
それは次第に集まって、ひとつの物質を形成していくようだった。

QB「う……魔力を感じる! この光は……!?」

現れたのは、ほむらにとっては馴染みのあるものだった。盾。かつて、再構築される前の世界で、ほむらが使っていた武器。

ほむら「キュゥべえ、残念だけど今あいつを仕留めるのは難しそう」

QB「何だい、その道具は……」

ほむら「わたしの戦場はここじゃない」

QB「これは……!! ほむら、時間操作系の魔法をいつの間に……!!」

ほむら「……また同じ日々を繰り返すことになるとはね」

……

リボンを小鬼に盗まれた。

……

小鬼に、姿を変えられた。

……

お面屋に出会った。

……

ほむら「……ここは」

気がつけばほむらとキュゥべえは時計塔の前にいた。

QB「驚いたなぁ。まさか君にそんなことができたなんてね」

ほむら「……時間遡航は、前の世界でのわたしの能力よ。それが何故……」

QB「ふーん。前の世界とやらが実在したかどうか、僕には確かめようがないけれど、
  もともと魔法少女の魔法というのは本人の強い願いの表れなんだ。強力な祈りが新たな能力を生み出したとしても不思議ではない」

ほむら「そういうことなのかしら」

QB「それよりこれからどうするんだい?」

ほむら「とりあえずお面屋のもとに戻りましょう」

――時計塔の内部――

お面屋「ホッホッホ……。戻ってきましたね。では、約束通りあなたを元の姿に戻しましょう」

ほむら「(まだ仮面を取り戻してないけど、いいのかしら……)」

お面屋「アナタ、何か楽器の演奏ができますか?」

ほむら「……ピアノくらいなら」

お面屋「そうですか。では、ここにオルガンがあります」

ほむら「!?」

気がつくと、お面屋の前に巨大なオルガンが出現していた。

ほむら「(あんなものをいつの間に……)」

お面屋「いいですか、これからわたしが奏でる歌を憶えて下さい」

♪~

ほむらはオルガンの音に耳をすませた。その旋律は、この街に来る直前に聴いたことがあるような気がした。静かな、優しい調べだった。

お面屋「ホッホッホ……。次はあなたが今の歌を奏でて下さい」

ほむらは言われるままオルガンの椅子に腰掛けた。

ほむら「……」

♪~

ほむらが演奏を始めると、不思議な空気が漂った。どこか、魔力に近いものを感じた。同時に、何か、ある一つの命、その一生が脳裏をよぎった気がした。

お面屋「これで彷徨える魂はいやされました。今の歌を『いやしの歌』と言います……」

ほむらは試しに変身してみた。すると見知った魔法少女ほむらの姿になり、弓矢も復活していた。

コロン

ほむら「……ん?」

足元に、仮面のようなものが落ちていることにほむらは気付いた。その顔は、姿を変えられたほむらの顔と瓜二つだった。

お面屋「『いやしのうた』は救われない魂をいやし、仮面にする歌です。アナタに憑いていたデクナッツの魂は浄化され、魔力は仮面に封じ込めました」

ほむら「これは……どうすればいいの?」

お面屋「とっておいて下さい。その仮面をつければ、もう一度あの姿に変身することができます。いつかその仮面が役に立つ時が来るでしょう」

ほむら「そう」

お面屋「……では、ワタクシは約束を果たしました。あなたも例のモノを……」

ほむら「(ぎくっ……)」

お面屋「……」

ほむら「……」

お面屋「まさか……あの仮面……」

ほむら「……」

お面屋「とり返していないとか……」

ほむら「……」

ガバッ

ほむら「!?」

お面屋は目を見開き、ほむらの襟首を掴んだ。

お面屋「なんてことをしてくれたんだ!」

ほむら「!!?」ビクッ

お面屋「あの仮面をそのままにしておけば、大変なことになる!!」

ほむら「ちょ、落ち着いて!」

……

お面屋「……実はあの仮面」

しばらくしてお面屋は落ち着いたのか、ほむらから手を離し、表情も元に戻った。

お面屋「『ムジュラの仮面』といって、とある部族が呪いの儀式で使用していた仮面なのです……」

ほむら「……」

お面屋「恐ろしい力を持っています。場合によっては、このタルミナ世界が滅ぼされることにも……」

ほむら「……そうだったの」

お面屋「とにかく、一刻も早くあの仮面を取り戻してください。三日以内です」

ほむら「分かったわ」

ほむらはデクナッツの仮面を盾にしまうと、時計塔の外に出た。

――クロックタウン――

ほむら「あー、怖かった……。あのお面屋、あまり怒らせない方がいいわね」

QB「しかし仮面を取り戻す、か……。魔法少女としての武器を取り戻したとはいえ、率直な意見を言うと、
  今の君ではあのムジュラの仮面には勝てない」

ほむら「そんな気がするわ」

QB「君にしてはやけに素直だね」

ほむら「それに、どちらにせよ月が落ちてくるんじゃ……この世界は滅びてしまうわ」

QB「何か手段を考えないとね」

ほむら「ん? あれは……」

ほむらがぼんやりポストの方を見ていると、小さな女の子がポストに近づいていった。
身長はほむらの肩より低く、黒く長い髪が腰までかかっている。顔は……狐のお面に隠されて見えなかった。

ほむら「何だか変わった風貌の子ね。狐のお面なんて……」

ほむら「……」

ほむら「狐のお面?」

ほむら「マドカが言っていた子かしら」

ほむら「確かに、あの後ろ姿はわたしに似てなくもないかも……」

ほむら「マドカ……」

ほむら「とりあえず、マドカマ亭にチェックインしましょう」

――マドカマ亭――

ほむら「どこか泊まれる部屋は?」

まどか「はい。2Fのこの部屋などは……」

ほむら「(こういうことには慣れたつもりでも)」

ほむら「(一度知り合った人と初対面からやり直すっていうのには虚しいものがあるわね)」

それからほむらたちは部屋に入り、一度目と同じやりとりを終えた。

――マドカマ亭、ほむらの部屋――

ほむら「ねえマドカ」

マドカ「何、ほむらちゃん」

ほむら「もしあの月を止めろって言われたら、どうする?」

マドカ「え、ええっ!?」

ほむら「ごめんなさい、変な質問だったわよね」

マドカ「うーん、でも……四人の『巨人』ならなんとかできるかも!」

ほむら「『巨人』?」

マドカ「うん。おばあちゃんに読み聞かせてもらった昔話でね、タルミナの沼、山、海、谷の四か所に巨人がいて、この世界を守ってるんだって。
    普段はばらばらなんだけど、世界の危機になったら、『誓いの号令』の鳴った場所に集まるとか。昔話だけどね」

ほむら「そう。ありがとう」

ほむら「(巨人、ねえ……)」

ほむら「(そんなものがいたとしたら月が落ちてくる前に止めていたはずだけど……)」

ほむら「(最期の夜には巨人は来なかった)」

ほむら「(やっぱりただの昔話ってことなのかしら……)」

マドカ「あ、ごめんなさい。わたし夕ご飯の下ごしらえをしなきゃ……。また何かあったら呼んでね!」タタタッ

マドカは部屋を出ていった。

ほむら「キュゥべえ、今の話どう思う?」

QB「うーん、巨人と呼ばれる種族ならこの宇宙にいくらでもいるけど、それがこのタルミナという世界に存在するかどうかまでは分からないなあ」

ほむら「……でも、試してみる価値はありそうね?」

QB「そんな眉唾な話をアテにするって言うのかい?」

ほむら「たとえわずかでも可能性があればそこから潰していくのがループの基本よ。わたしは以前そうしていた」

QB「やれやれ。マドカは何と言っていたっけ……沼・山・海・谷だったかな。とりあえずそのあたりを探せばいいんだね」

ほむら「まずは、クロックタウンから出ましょう」

――クロックタウン・門の前――

ほむら「通してもらえるかしら」

門番「おっとお嬢ちゃん、ここからは……」

ほむら「子どもは通れないのよね。ところで、沼というのはどこにあるか知ってる?」

門番「沼? ウッドフォールの沼地ならこの門を出て真っ直ぐだけど、そんなことを聞いて何を……」

カチッ

ほむら「それだけ聞ければ十分よ」

カチッ

門番「……あれ、今の子は?」

――タルミナ平原――

ほむら「とりあえず目指すのはウッドフォールの沼地ね」

キュゥべえ「……ほむら、そこの草むらから魔力を感じるよ」

ほむら「!?」

ほむらは反射的に草むらに向かって矢を射る。ほぼ同時に、悲鳴のようなものが聞こえた。

ほむら「……」

近寄ってみると、半透明のスライムのようなモンスターが倒れており、傍らには緑色の壺が転がっていた。

ほむら「何かしら、この壺……」

ほむらが壺に手を触れると、ほむらの手のソウルジェムが反応した。
ソウルジェムから穢れが離れ、壺に集まってゆく。やがて壺は砕け散った。

QB「……驚いたなぁ」

ほむら「これは一体……」

QB「どうやらこのモンスターが持つ魔法の壺は、グリーフシードと同様、ソウルジェムを浄化できるみたいだ。実のところ、このタルミナ世界には魔獣の気配が全くなかったからどうしようと思っていたけど……魔力に関しては心配なさそうだ」

ほむら「そうみたいね。……この草むら、火薬のにおいがする……?」

ほむらは試しに草のひとつを引っこ抜いた。すると爆弾や矢が土の中から出てきた。

ほむら「!?」

QB「それは爆弾、そっちは矢だね」

ほむら「それは分かるわよ。……全く、この世界はどうなっているのかしら」

QB「少し嬉しそうじゃないか、ほむら」

ほむら「爆弾で戦うのは得意なのよ」

ほむらは爆弾と矢を盾にしまった。

ほむら「とにかく、この世界は随分とわたしに優しく出来ているようね。さ、日が暮れないうちに行くわよ!」

ほむらたちは南へ走った。

ここから先しばらくの展開(ロックビルダンジョン攻略まで)は
「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」のシナリオにおいて、主人公「リンク」を「暁美ほむら」に置き換えただけに近いものになっていて、
まどマギとのクロスである必要性が薄れています。
よって「ムジュラの仮面」をプレイ済みの人は、すっ飛ばした方がいいかもしれません。
とりあえず各ダンジョンに進みます。

しばらくすると、沼地に出た。

ほむら「う……沼ね。あまり気が進まないけれど、足を濡らして行くしかなさそうね」

QB「いや、気をつけて。どうやらこの沼の水は毒を持っているようだ」

ほむら「本当? なら渡れないじゃない」

QB「ほむら、お面屋に貰ったデクナッツの仮面をつけてみてくれないか」

ほむら「何で? 別にいいけど」

ほむらがデクナッツの仮面をつけるとほむらの姿がデクナッツに変わった。

QB「たしかその姿での君は非常に軽い。水面を跳ねて進むことが出来た筈だけど……それに、その軽さなら浮いている葉っぱの上にも乗ることができそうだ」

ほむら「なるほど。やってみるわ」

ほむらは水面を数回飛び跳ねて、浮いている葉っぱの上に移った。

QB「その繰り返しで進めそうじゃないか」

ほむら「そうね……。ところで、あなたはどうするの?」

QB「僕に毒は関係ないからね。泳いでついていくよ」

ほむら「あなた、泳げたのね……」

さらに進むと生き物が生活しているらしい建物が現れた。

――デクナッツ城――

QB「どうやらあれはデクナッツの城のようだね。どうだい、ここは一つ『巨人』について訊いてみるのもいいかもしれないよ」

ほむら「でも、怪しまれないかしら」

QB「大丈夫、今の君は彼らの仲間だし、僕の姿は基本的に見えない」

ほむらたちはデクナッツの城に入った。生物としては植物に近いデクナッツらしく、主に植物で出来た建物だった。見張りの兵士がいたが、特に何も言われなかった。
やがてほむらたちは広々とした部屋に出た。

ほむら「あの大きいのがデクナッツの王のようね」

QB「ん……あれは?」

QBの視線の先には木の棒に縛り付けられた一匹のサルがいた。

サル「放せよ~。姫をさらったのはオイラじゃないって言ってるだろ!」

デク王「許さん! この者を火あぶりにする!」

ほむら「……何だか揉めてるみたいだけど、丁度いいわ。あのサルに訊いてみましょう」

ほむらは目につかない物陰に隠れるとデクナッツの変身を解き、即座に時を止めてサルに接近した後、再び時間を動かした。

ほむら「いちいち人間に戻らないと時止めが使えないっていうのは面倒ね。まあここなら死角だから人間の姿でもバレないでしょう」

サル「! アンタ、いつのまにここに?」

ほむら「お困りのようね。お望みなら、あなたを解放してあげる。だけどその代わり、わたしの質問にいくつか答えてほしい」

サル「質問?」

ほむら「タルミナを守る『四巨人』が今どうしているか、知らないかしら」

サル「……『巨人』?」

ほむら「知らない? なら別にいいのだけど」

サル「い、いや! 知ってるよ。知らないわけないさ」

ほむら「本当?」

サル「ああ。オイラの願いを聞いてくれたら教えてやってもいい」

ほむら「願い? あなたをここから連れ出すだけじゃダメなの?」

サル「オイラは姫をさらった疑いでここに縛られてるんだ。オイラはやってない。でも姫が行方不明なのはホントのことさ。
   オイラが火あぶりされるまでにはまだ時間がある。だからその前に姫を見つけてここまで連れてきてほしいんだ。そうすればオイラも解放される」

ほむら「見つけてって……どこにいるか見当もつかないのに」

サル「いや、検討はついてる。ウッドフォールの神殿のバケモンが犯人さ! ……たぶん」

ほむら「……いいわ。要するにウッドフォールの神殿に行って姫を連れ戻してくればいいのね?」

サル「ありがてえ! だけどそうだな……あと二日くらいが限界だな。その頃にはオイラも焼きサルにされてる」

ほむら「分かった。出来るだけ速やかに姫を連れ戻す」

サル「あ、待って。この歌を憶えていってほしい」

サルはデクナッツたちに聞こえぬよう、小さな声で歌った。

サル「これはデクナッツ王家に伝わる秘密の歌だ。『目覚めのソナタ』って言う。きっとウッドフォールに入るためのカギになる」

ほむら「そう、憶えておくわ」

ほむらたちはサルと約束をかわし、デクナッツ城を後にした。

QB「やれやれ、とんだ大仕事を引き受けたね。よかったのかい?」

ほむら「『巨人』に関する情報が手に入るなら安いものよ。それに、これから行くウッドフォールが例の『沼』なんでしょう? 散策途中に『巨人』の手がかりが見つかることも考えられる」

その後ほむらたちは、デクナッツの仮面なども利用しながら、ウッドフォールの奥地へと進んでいった。

やがてほむらたちは、祭壇のようなところで道が途切れていることに気がついた。

QB「行き止まりか」

ほむら「ここ、祭祀場のように見えるわね。あのサル……ウッドフォールの『神殿』と言っていた。
    ……例の『目覚めのソナタ』が神殿に入るカギになっているんじゃないかしら」

QB「そう思うなら歌ってみればいい」

ほむら「……歌うの?」

QB「それ以外に君は音楽を奏でる手段を持っていないじゃないか」

ほむら「そうだけど。……分かったわよ。……あ~あ~♪」

シーン

ほむら「……」

QB「何も起こらないね」

ほむら「……何やらせるのよ。恥ずかしいだけじゃない」

QB「方向性としては間違ってないと思うんだけどなあ。うん、ここはデクナッツの土地だ。迷ったらとりあえず仮面をつけてみようよ」

ほむら「……そうね」

ほむらはデクナッツの姿に変身した。

ほむら「……」

QB「ねえ、ほむら。君はさっき、時止めは人間の姿じゃないと出来ないと言ったよね?
  それは道具である盾がデクナッツの姿だと無くなってしまうからだと思うんだけど、魔力保存の法則的に考えて盾がなくなるってことはありえないんだよ」

ほむら「何が言いたいの?」

QB「今、君は無意識のうちに盾をしまっているだけで、強く願えば発現させられるはずなんだ。どんな状態においても」

ほむら「強く願う……ね」

瞬間、ほむらの傍らの空間が光り輝き始めた。ちょうど、魔法少女の盾を取り戻した時と同様に。やがて光は集まり、一つのラッパになった。

ほむら「……ラッパ!?」

QB「なるほど、その姿で盾を発現させるとラッパになるのか。まあ音楽もリズムによって時を動かすものだから、
  魔法の方向性としては同じというわけだね」

ほむら「ここはデクナッツの地。この楽器なら、あるいは……」

ほむらはラッパを使い『目覚めのソナタ』を奏でた。吹き方は直感的に分かった。
ちょうど人間が歌を歌えるのと同じように。

メロディーの最後の響きがフェードアウトした瞬間、地響きのようなものが聞こえてきた。

ほむら「何!?」

沼の底から巨大な建造物がせり上がってきた。それは不思議な、神秘的な雰囲気を持ち、
まさに『神殿』と呼ぶのが相応しい建物だった。

ほむら「なるほど、あれがウッドフォールの神殿ね。行くわよ」

ほむらは人間の姿に戻ると、キュゥべえを肩に乗せて神殿の入口まで飛び移った。

神殿の中は薄暗く、ところどころ灯された明かりには蛾が群がっていた。

ほむら「う……」

QB「人間が虫に対して覚える嫌悪感というのは理解できないなあ」

ほむら「昔は部屋に蜘蛛が出ただけで泣き叫んだものよ」

QB「是非それは見てみたいね」

ほむら「黙りなさい」

ほむらたちが散策を続けると、やがて天井の高い、一際広い部屋に辿りついた。

ほむら「神殿というからには、ここにご本尊でもあるのかしら」

ヤー…… ヤー……

どこからか、人の声とも獣の咆哮ともつかないような音が近づいてきた。

ほむら「っ!?」

ほむらは反射的に身をかわした。つい今までほむらが立っていたところは、巨大な剣の斬撃を受け、床石が砕け散っていた。

ほむらが視線をもどすと、体中に入れ墨のような模様が入った、盾と剣を持った人型の怪物がいた。

密林仮面戦士 オドルワ

ほむら「邪神も神……ってわけね。魔獣のようなものだと受け取らせてもらうわ」

ほむらは間髪いれずにオドルワに矢を打ち込んだ。オドルワは一瞬怯んだ様子を見せたが構わず剣で攻撃してきた。

ほむら「矢のダメージは少ないみたいね……」

次の瞬間、オドルワが今までとは違った高さの声を上げた。それは何かに合図しているようにも聞こえた。

ほむら「なっ!?」

蛾の大群がほむらを襲ってきた。オドルワが声で操っていたのは虫だった。

ほむら「いやっ! 近寄らないで!」

ほむらは手で蛾を払いのけたが、虫の勢いは衰えなかった。蛾といっても凄まじい勢いで突っ込んでくるので物理的なダメージも大きかった。

QB「僕は虫に怯える君を早くも見られて満足しているんだけど」

ほむら「殺されたいのっ!?」

QB「いや。その辺りに生えている爆弾は、虫を散らすのには効果的じゃないかなって」

ほむら「そういうことは……早く言いなさい!」

ほむらが地面に埋まっている爆弾を引っこ抜き、投げると、虫は四方に散っていった。

ほむら「やっと落ち着けたわ。爆弾も補充して……時を止めるわよ」

ほむらの能力により、タルミナの時が止まった。

ほむら「矢でも少しは食らってくれるんだから、爆弾ならもっと効きそうね」

ほむらはオドルワの周囲に無数の爆弾を投げつけ、時を動かした。瞬間、オドルワの周りで連鎖的な爆発が起こった。

ほむら「……静かになったわね」

オドルワを包んでいた炎が消えたと思うと、虫は本能を思い出したかのように明かりに集まり、部屋を再び静寂が覆った。

ほむら「倒したのかしら」

ほむらがオドルワのいた場所に近づくと、仮面のようなものが落ちていた。それは先ほどまでほむらが見ていたオドルワの顔だった。

ほむら「仮面……。亡骸とも言えるかしら」

魔力はもはや感じられなかったので、ほむらはオドルワの亡骸を盾にしまい込んだ。

ほむら「姫をさらった化け物というのはこいつのことよね。なら近くに姫はいるはず……ん?」

気がつくと、天井からほむらの立ち位置に向けて光が差していた。

ほむら「……?」

次の瞬間、ほむらは今までの神殿とは違う、幻想的な空間にいた。

ほむら「あれ、わたし……ウッドフォールの神殿にいた筈じゃ……」

QB「ほむら! あれは……」

ほむら「!」

霞の奥に、人影が見えた。大きい。ほむらやタルミナの人間とは比べ物にならない程大きい。しかし人の形をしているから、
それは『巨人』と呼ぶべきだろう。

ほむら「まさか、あれが神話の『巨人』……!? さっきの化け物の魔力によって閉じ込められていたのかしら」

QB「……何か言っているみたいだ」

「よ・ん・で」

QB「『呼んで』?」

さるくらった
あいぽんに切り替えるのでしばしお待ちを
ちなみに>>1です

ほむら「そういえばマドカが言っていたわ。『巨人』は『誓いの号令』の鳴り響いた場所に集まると……」

 

『巨人』はゆったりとしたメロディーを口ずさみながら、雲の向こうへと消えていった。

 

気がつくとほむらはもとの神殿にいた。

 ほむら「つまりこういうことね。『巨人』は確かに存在した。だけど今はさっきの奴のような化け物に封じ込められていて動けない。
だからわたしたちの目的は、各地で『巨人』を封じている化け物を倒し、巨人を解放すること……」

QB「ま、そう考えるのが妥当だろうね。ところでほむら、姫のことはいいのかい?」

 ほむら「そうだった。……って、あれとかそうじゃないの?」

部屋の奥の壁。蔦のカーテンに隠された空洞の中に、デクナッツらしき影が見えた。

 ほむら「はじめまして。姫で間違いないかしら?」

 デク姫「あ、はい! あなたは……?」

 ほむら「わたしはとあるサルに頼まれて、あなたを連れ戻しに来たの。どうやらそのサル、あなたを誘拐した疑いをかけられて大変みたいよ」

 デク姫「まあ、お父様ったら早とちりして……! 早く城に戻らなくては……」

 ほむら「では姫、多少窮屈でしょうけど、わたしの盾の中に入ってもらえるかしら」

 ほむらはデク姫を盾にしまうと、デクナッツ城に引き返した。

てす

ほむらがデク姫をデク王のもとへ届けると、サルの疑いはたちまち解けた。
ウッドフォールの水も毒が抜けたようだった。

――デクナッツ城――

ほむら「とりあえずこっちは一件落着ね」

ほむらはデクナッツの姿のまま城を出ようとした。

「お待ちください」

ほむら「?」

城の出口に差し掛かった辺りで、老いたデクナッツに呼びとめられた。

ほむら「何かしら」

デク執事「いえ、お呼びとめして申し訳ありません。あなた様が……今は会えない我が息子に良く似ているもので。少し、顔を見たかっただけなんです。
     ……ありがとうございます。では、お気をつけて……」

そうしてほむらたちはデクナッツ城を後にした。

ほむら「……キュゥべえ」

QB「何だい?」

ほむら「この世界に来る前、デクナッツに似ている木があったじゃない。まさかあれが……」

QB「そうであるとも考えられるし、違うとも考えられる」

ほむら「あのお面屋、この仮面はデクナッツの魂を癒して仮面にしたと言っていたわ。
    死んだ者と生き写しの仮面は、本人を思い出させるのね」

QB「それがどうかしたのかい?」

ほむら「いえ……何となく思っただけよ」

ほむらたちはクロックタウンに戻った。

――クロックタウン――

ほむら「ふう、疲れた……。マドカマ亭に戻りたいところだけど……」

ほむらは天を見上げる。

ほむら「もう、時間がないわね」

ほむらは盾に手を伸ばす。

ほむら「……はぁ」

小さな溜息と共に、時間は三日前へと戻った。

QB「さて、これからどうする?」

ほむら「次は『山』でしょ。でもさすがにわたしも寝ないで行動は来るものがあるわ。
    ちょっとマドカマ亭にチェックインして休みましょう」

そうしてほむらは再びマドカとの「初対面」を経験した。

――マドカマ亭、ほむらの部屋――

ほむら「さて、十分休んだし、『山』に行きましょうか」

ほむらは階段を下りてエントランスに出た。

マドカ「……!」

マドカが何やら手紙のようなものを驚きの表情で眺めていた。

ほむら「マドカ? どうかしたの?」

マドカ「あ、ほむらちゃん。ううん、なんでもない! それよりお出かけ?」

ほむら「ええ。少し」

マドカ「行ってらっしゃい!」

――タルミナ平原――

ほむら「さて、北に向かってここまで来たものの」

QB「氷が邪魔して山に入れないね」

ほむら「まあ矢で砕けるでしょう」

ほむらは矢で氷を破壊し、タルミナ平原の北――ゴロンの里へと向かった。

――ゴロンの里――

ほむら「寒い……」

QB「多少北に進んだだけでここまで気候が変わるというのは少し異常だね」

しばらく歩いたところで、キュゥべえが足を止めた。

ほむら「……どうしたのよ」

QB「ねえほむら。あそこに見えるのはひょっとして、君たちの言葉で言う『幽霊』ってやつじゃないかい?」

ほむら「えっ。……へ、変なこと言わないで」

QB「ああ、君は一応元人間だったね。見えなくても仕方がない」

ほむら「な、何を言ってるのよ……」

ダルマーニ「おめぇ、オラが見えるゴロ?」

QB「ああ。僕は君たちの種族に会うのは初めてだけど」

ダルマーニ「……オラはゴロン族のダルマーニ。……オラが見えるってのも何かの縁だ。ここは一つ、オラの話を聞いてくれるゴロ?」

QB「興味深いね。聞こうじゃないか」

ダルマーニ「オラは誇り高きゴロン族の戦士だった。今この山は雪が止まねぇゴロ? これはスノーヘッドのゴートとかいうバケモンの仕業だっつーことで、
      オラはアイツを倒しに行ったゴロ。それが、スノーヘッドにも辿りつけずに吹雪に凍らされて死んじまったゴロ……」

QB「それは無念だっただろうね」

ダルマーニ「悔しいゴロ……情けないゴロ……」

QB「だけど君は安心していい。ここにいる暁美ほむらが、きっと君のかたきを取ってくれるさ」

ほむら「ちょ、何言ってるの!? さっきから何なの!?」

QB「ほむら、ひとつ『いやしの歌』を歌ってくれないか」

ほむら「……またハメる気じゃないでしょうね」

QB「あれは僕がハメたわけじゃないし、浮かばれぬ魂の為だ。さあ」

ほむら「……分かったわよ。……オホンッ。♪~」

ダルマーニ「このメロディー……気持ちが安らぐゴロ……」

気がつけばほむらの足元にゴロンの仮面が転がっていた。

ほむら「これは……?」

QB「誇り高き戦士の魂のようだ。丁重に扱った方がいいよ」

ほむら「???」

QB「とにかくスノーヘッドだ。この先のスノーヘッドに君が倒すべき敵はいる」

ほむら「どこでそんな情報を仕入れたのよ」

QB「今ここでさ」

ほむら「???」

ほむらたちは更に足を進めた。

QB「……と言ったものの、スノーヘッドへの道が分からないね」

ほむら「こういう時こそ聞き込みよ。あそこに誰か住んでそうな家があるわ」

――ゴロンのほこら――

ほこらに入ると、赤ん坊の泣き声がうるさく響いていた。

ほむら「赤ちゃんの泣き声……?」

ゴロンA「ひどい寒さだゴロ。ちびが泣き止まねぇのも無理ないゴロ」

ほむら「……」

ほむらはゴロンの仮面を装着してみた。

ゴロンA「おお、ダルマーニ! おめぇいつ帰ってきたゴロ?」

ほむら「た、たった今だゴロ」

ゴロンB「おーい、長老が見つかったゴロ」

ゴロンA「本当ゴロ?」

ゴロンB「ああ、この寒さで氷づけになっていたゴロ」

長老「……。おおっ! ダルマーニ」

ほむら「ひ、久しぶりゴロ」

ゴロンA「ちびが泣き止まなくて困ってるんだゴロ」

長老「うーん。こういう時はダルマーニの子守唄が一番ゴロ」

ほむら「こ、子守唄?」

長老「忘れちまったゴロ? ほら、これゴロ。♪~」

ほむら「ああ! 思い出したゴロ」

ゴロンA「ほーら、ダルマーニお兄ちゃんが子守唄を奏でてくれるゴロ」

ちび「うぇーん! ダ、ダルマーニお兄ちゃん?」

ほむら「お、おうゴロ」

ほむらが念じると、ほむらの腰回りにタイコが出現した。

ほむら「(た、確かこんなメロディーだったゴロ……。って、ゴロじゃない!)」



ほこらに子守唄が響いた。

ちび「うーん、兄ちゃん……zzz……」

ゴロンA「zzz……」

ゴロンB「zzz……」

ほむら「(寝付いた……それにしても、周りも寝るなんて睡眠作用でもあるんじゃないの、この歌)」

長老「ダルマーニ、おめぇどこ行ってたゴロ?」

ほむら「あ、ああ。ちょっと。それよりスノーヘッドってどっちだったゴロ? 最近物忘れが激しくて……」

長老「スノーヘッドはここから更に北だゴロ。だけどあんまり危ねぇことはするんじゃねえゴロ」

ほむら「分かってるゴロー」

ほむらたちはスノーヘッドへと向かった。

――スノーヘッド――

ほむら「……ところで」

QB「?」

ほむら「何で仮面で変身すると男性になるのかしら。裸みたいで恥ずかしいんだけど……」

QB「もとの魂が男性だったからだろう。それに原型留めていないから気にする必要はないよ」

ほむら「……。それにしても、他人になりすますというのはあまりいい気がしないわね」

QB「そうかい?」

ほむら「だって仮面になった本人は死んでいるんでしょう? 後で本人の死を周囲が知ったときのことを考えると……」

QB「人は『顔』で他人を認識する。逆に『顔』を偽れば人の認識を、いや、自分自身を欺ける。仮面を被るというのはそういうことだね。
  もちろんそれは物質としての仮面だけじゃなくて……」

ほむら「何を言っているの?」

QB「別に。少しそう思っただけさ」

ほむら「……それにしても風が強いわね。吹雪ってやつかしら」

QB「……いや、『霊障』だね」

ほむら「……?」

QB「僕には見えるんだよ。今、巨大なゴロンの霊が、僕らに向かって息を吹きかけている」

ほむら「だ、だからそういうのやめなさいって」

QB「魔法少女をやるからには霊の存在くらい受容したらどうだい? そしてそうだな……あれがゴロンの霊だとすれば、さっきの子守唄をタイコで奏でてみてくれ」

ほむら「……」

♪~

霊ゴロン「ふぁ~……zzz」

QB「よし、ゴロンは眠りについた」

吹雪が、何事もなかったかのように止んだ。

QB「行こう。この先がスノーヘッドの神殿だ」

ほむら「……何だか今回はあなたにいいところ持っていかれてばかりね」

ほむらたちはスノーヘッドの神殿に侵入した。

――スノーヘッドの神殿――

神殿の中も冷たい氷に覆われていた。
ほむらたちは神殿の深部へと足を進めた。

ほむら「……大きな氷ね。……ん?」

ほむらは巨大な氷塊の前に足を止めた。

ほむら「牛のような怪獣が氷漬けにされている……」

QB「仮死状態というやつかな。なら一旦解凍して倒すまでだろう?」

ほむら「……そうね」

ほむらは盾から対戦車ロケット砲を取り出した。

QB「何てものを持っているんだい……」

ほむらは氷塊に向けてロケット弾を発射した。すぐさま氷は砕け散った。

ほむら「……動きだしたわ」

仮面機械獣 ゴート

ゴートは氷から脱出するや否や、神殿の中を駆け回り始めた。

ほむら「? 何なの、あいつ」

QB「追った方がよさそうだね。しかしあの巨体……対抗するにはゴロンの力を借りた方がいいんじゃないかな。それがダルマーニへの手向けにもなるだろう」

ほむら「そうね」

ほむらはゴロンの仮面を装着し、ゴロンの姿になった。
ほむらは身体を丸めて転がり、ゴートを追った。

ほむら「この勢いなら体当たりでもダメージを与えられそうね」

ほむらの目論見通り、ゴロンの姿での体当たりはゴートにそれなりのダメージを与えたらしかった。

ほむら「これを繰り返せば倒せ……っ!?」

ゴートは追われながら光の球のようなものを飛ばして攻撃してきた。

ほむら「くっ、時を止めるには一旦魔法少女の姿に戻らなければならないし……」

ほむらは光の球を何発か身体に受けてしまった。

ほむら「奴を見失った……。いや、でもこの神殿の構造上、奴は一周して戻ってくるはず」

ほむらは一旦魔法少女の姿になり、しばらくして再びゴロンの仮面を装着した。

ほむら「……来たっ!」

やがてゴートはほむらの予想通り神殿を一周して戻ってきた。

ほむら「2……1……」

突然、ゴートの足元で爆発が起こったかと思うと、ゴートがバランスを崩した。
ほむらが前もってその位置に爆弾を仕掛けていた。

ほむら「動きが止まった。今ね!」

ほむらはゴロンの身体で渾身の体当たりをゴートに叩きこんだ。

ほむら「……!」

一瞬の間をおいて、ゴートはその場に崩れ落ちた。

ほむら「これが亡骸ね」

ゴートの遺体は消滅し、その亡骸が残った。
次の瞬間、ほむらはまたあの幻想的な空間に立っていた。

ほむら「二人目の『巨人』、解放成功ね」

霞の向こうには赤い身体をした『巨人』が見えた。

そしてほむらたちはゴロンの里へ戻った。雪は解け、里は春を迎えていた。

ほむら「とりあえずひと段落ね」

QB「しかし死んだダルマーニは戻ってこない……か。そうだね。その通りだよ」

ほむらたちはクロックタウンへ戻り、時間を巻き戻した。

――サクラ牧場――

 ある時、サクラ牧場というところに寄った。
牧場を経営しているのはサヤカとキョウコという二人の少女だった。
サヤカはマドカの親友らしく、色々な話を聞かせてもらった。
宇宙人を退治したり、強盗を追い払ったり、少し手助けもした。
お礼としてサヤカに「ぎゅっ」としてもらった……。

――タルミナ平原――

 ほむらたちはタルミナの西、グレートベイの海岸に着いた。

 ほむら「海なんて久しぶりね……ん? あれはっ!?」

 沖の方に人影らしきものが見えた。

 QB「さっきから動いていない……溺れている可能性が高いね」

ほむら「助けなきゃ!」

 ほむらは魔法少女に変身すると海に飛び込んだ。溺れている者を掴み、岸まで連れていく。

ほむら「大丈夫!?」

 QB「どうやら人間ではないようだね」

ミカウ「……俺は、ゾーラ族のミカウ」

 ほむら「まだ息があったわ」

ミカウ「俺はもう駄目だ……最後に、俺の話を聞いてくれ……」

 そう言うとミカウは今までの衰弱っぷりが嘘のように立ち上がり、ギターを弾き語り始めた。
話の内容は、彼の所属するバンドのボーカルであるルルが、「変な卵」を産んで以来声が出なくなってしまい、
さらにその卵を海賊に奪われてしまった。その解決の為に奔走していたところ溺れてしまったという。

 QB「ほむら」

 ほむら「……ええ」

 ほむらは「いやしの歌」を歌ってみせた。

 ミカウ「ああ……何だか、安らかな気持ちだ……」

……ほむらの足元に、ゾーラの仮面が残った。

ほむら「……。海賊に卵を盗まれた……ね。その卵、取り返してやろうじゃない」

 QB「だんだん君もお人よしになってきたね」

 ほむら「それだけじゃないわ。こういった個人的なトラブルを解決していくことが、この世界を守ることに繋がる気がするの」

 QB「……まあ、現に今までそうなってきたしね」

 ほむら「とりあえずあそこがゾーラ族のたまり場のようね。いつものように聞き込みよ」

てす

――ゾーラホール――

ほむらはゾーラの仮面をつけてゾーラホールに入った。

ほむら「(何と言うかこの仮面は……今までで一番人間に近いというか……リアルな裸っぽくって落ち着かないわね……)」

ゾーラA「お、ミカウじゃないか」

ほむら「! よ、よぉ」

ゾーラA「ルルはまだダメだよ。ずっと自室に籠りっぱなしだ」

ほむら「そうか……。なぁ、海賊の奴らのアジドってどこか分かるか?」

ゾーラA「海岸沿いを北に行ったところだけど……海賊に用でもあるのか?」

ほむら「い、いや。何となくさ。サンキュー」

ほむらたちはゾーラホールを後にした。

――海賊の砦――

ほむら「相変わらず本人のフリというのは胃に来るわ……」

QB「それにしてもすごい見張りだね。見つかったら即追いだされるだろう」

ほむらは魔法少女の姿に変身した。

ほむら「ふふ……こういうのは時間を止められるわたしにとっては何てことないわ」

ほむらは時間を止めながら、女海賊たちに見つからないように砦の中を散策した。
そしてついに、卵の入った水槽を見つけた。

ほむら「これを持ち帰ればいいのね……」

海賊「……何やってんだい?」

ほむら「!」

ほむらが振り返ると、両手にサーベルを持った女海賊がいた。

海賊「その卵、キレーだろ? 渡すわけにはいかないよ」

ほむらは海賊の剣をすんでのところでかわし続けた。

海賊「ふんっ! 丸腰じゃ反撃できない……ねっ!?」

海賊は突如頭をのけぞらせたかと思うと、仰向けに倒れた。

ほむら「……麻酔銃よ」

ほむらは水槽の中の卵を盾に収納した。

ほむら「こんなところはさっさとおさらばね」

ほむらは海賊の砦を後にした。

その後ほむらがゾーラホールで聞いたところ、卵は海洋研究所で孵化させられるとのことだったので、ゾーラの姿で研究所に向かった。

ほむらが卵を水槽に入れると、次々と殻を破ってオタマジャクシが出てきた。やがてオタマジャクシは歌を歌い始めた。

ほむら「(今までの経験上、この歌を憶えておいて損はないわね……)」

その後ほむらはゾーラの仲間からルルのいるという浜辺を聞き、その場所へと向かった。

ルル「……」

ほむら「ま、まだ声が出ないのか? ルル……」

ルル「……」

ほむら「卵は取り返した。ぶ、無事に赤ちゃんも孵ったんだ」

ルル「……」

ほむら「……また一緒に歌おう。ほら、俺がギター弾くから」

ほむらの盾は、今度はギターに変化していた。

ほむら「……『潮騒のボサノバ』」

♪~

ギターの優しい音色に、ルルの様子が変わってきた。
やがて音楽に、一筋の歌声が加わった。

ほむら「……ルル」

ほむらが何か言いかけたのと同時に、背後の海面に何かが浮き上がってきた。
島……いや、カメだった。

カメジマ「お前か? わしを起こしたのは……」

ほむら「……ええ」

カメジマ「……何も言わずとも分かる。グレートベイの神殿はこの先じゃ。わしに乗って行くとよい」

ほむらはカメジマの背中に乗った。

カメジマ「ゆくぞ」

ほむら「ルル……声が戻ったからには、またステージで歌ってくれよ」

ルルは頷いた。

――グレートベイの神殿――

神殿の中にも、至る所に水が入り込んでいた。

ほむら「本当に海の中って感じね。……?」

ほむらの足元で、何か動く影があった。

ほむら「何かしら……」

QB「ほむら、危ない!」

ほむら「!?」

ザバァッ

ほむらの鼻先を、巨大な魚が通り過ぎていった。

ほむら「今のが……この神殿の主ね!」

巨大仮面魚 グヨーグ

ほむら「しかし敵は水中……ここにいてもジリ貧ね」

QB「こんな時こそ仮面を使うんじゃないか」

ほむら「分かっているわよ!」

ほむらはゾーラの仮面を装着し、ゾーラの姿に変身した。
ほむらは水の中に飛び込む。

ほむら「(この腕のひれはブーメランのように飛ばせるみたいね)」

ほむらが飛ばしたヒレはグヨーグに命中し、グヨーグは動きを止めた。

ほむら「(そして身体にバリアを纏うこともできる。これで体当たりすれば攻撃になる!)」

ほむらはバリアを纏いながらグヨーグに体当たりを繰り返した。
グヨーグも反撃を見せたが、執拗な体当たりにやがて動かなくなった。

ほむら「これが亡骸ね……」

ほむらはグヨーグの亡骸を拾い上げた。

やがて、ほむらの前に三人目の『巨人』が現れた。

ほむらたちはクロックタウンに戻り、時間を巻き戻した。

――クロックタウン――

ほむら「これで三人の『巨人』を解放したわ」

QB「残るはあと一人……『谷』の『巨人』だね」

ほむら「『谷』はタルミナ平原の東。急ぎましょう」

――イカーナ渓谷――

ほむら「何だか昼間なのに薄暗くて陰気な場所ね……」

スタルキータ「……」

ほむら「ひっ!?」

ほむらが見上げると、巨大な骸骨が立っていた。

ほむら「ゆ、幽霊……!?」

スタルキータ「あんまり驚かないでくれ。最近この辺り人が来ないからな」

ほむら「あなたは……?」

スタルキータ「スタルキータ。昔ここにあったイカーナ帝国では『隊長』って呼ばれてた」

ほむら「昔あった?」

スタルキータ「イカーナはそりゃ繁栄した帝国だった。だけどあの小鬼が来てから、何か悪いことばかり起きて、今じゃ幽霊の都になってしまった」

ほむら「小鬼……」

スタルキータ「お前、この先のロックビルに用があったりしないか?」

ほむら「え、ええ」

スタルキータ「出来ることなら、途中のイカーナ古城によって、王に挨拶してきてくれないか。そうだな……この『隊長のボウシ』を預けよう」

ほむら「……分かった」

スタルキータ「ありがとよ。それじゃ俺はもうひと眠りするか……」

スタルキータは地中へと潜っていった。

ほむら「小鬼の影響がこんなところにまで……急がなきゃ!」

――イカーナ古城――

イカーナ王「そうか、スタルキータが……」

QB「(あれはほむらにも見えるタイプの幽霊みたいだね)」

イカーナ王「よし、よくここまで来てくれた。これからロックビルに行くのだろう? 礼という訳ではないが、これから先必要になるであろう歌を教えよう。『ぬけがらのエレジー』」

♪~

イカーナ王は哀歌をほむらの前で奏でてみせた。

ほむら「……ありがとう」

ほむらはロックビルへと向かった。

――ロックビル――

QB「このスイッチを押すと、あそこのブロックが動く」

ほむら「でも押しっぱなしじゃないといけない。ここでこの『ぬけがらのエレジー』を使ってわたしの抜け殻、重しを作るわけね」

♪~

ほむらの抜け殻が現れた。

ほむら「……何というか、わたしはこんなホラーな顔はしていないわ」

そうしてほむらたちはロックビルを上り切り、ロックビルの神殿へと辿りついた。

――ロックビルの神殿――

ほむら「……? 仮面が落ちているわね。拾っておいて損はなさそうね」

ほむらは仮面を盾にしまった。

神殿の奥へと進むと、砂漠の真ん中のようなところに出た。

ほむら「何、ここ……。高いところだとはいえ、わたしは建造物の中を歩いていたはず……」

突如、ほむらの前の地中から、巨大なムカデのような怪物が現れた。それも二匹。

ほむら「大きいっ!? そりゃ今までの敵も大きかったけど、今回は桁が違うっ!」

大型仮面虫 ツインモルド

ほむら「くっ、この大きさじゃ、立ち向かう手段がない……」

QB「さっき拾った仮面をつけてみたらどうだい? 困ったらまず仮面だよ」

ほむら「後半はよく分からないけど、とりあえずそうするわ」

ほむらが仮面をつけると、ほむらの身体が数十倍にも巨大化した。

ほむら「っ!? これは……」

QB「さしずめ『巨人の仮面』ってところだね」

ほむら「でもこの大きさなら戦える! あの虫の目玉に向かって……巨大銃弾を撃ち込む!」

ほむらは巨大化したピストルで虫の眼を狙った。眼が弱点だというほむらの予想は当たっていたらしく、たちまち一匹が崩れ落ちた。

ほむら「あと一匹!」

QB「ほむら、急いで! どうやらそのサイズを維持するのには結構魔力を消費しているらしい」

ほむら「ええ、分かってるわよ」

ほむらはサブマシンガンを取り出し、もう一匹の虫に向かって連射した。数秒と持たずに虫は倒れ込んだ。

ほむら「……大きいだけでたいしたことはなかったわね」

ほむらは仮面を取ると、ツインモルドの亡骸を拾った。

ほむら「さあ、最後の『巨人』を解放したわ」

ほむらたちの前に、四人目の『巨人』が現れた。

ほむら「さあ、これで『誓いの号令』の場所に集まってもらうわよ!」

「と・も・を」

ほむら「……?」

「ゆ・る・せ」

ほむら「……『ともをゆるせ』? 誰の事かしら」

こうしてツインモルドの力から解放されたイカーナには光が差し込んだ。
噂だと作曲家の霊が浄化されたり、ミイラになってしまったパパが元通りになったらしい。

ほむらたちはクロックタウンに戻り、時間を巻き戻した。

――クロックタウン――
  ――最初の朝 あと72時間――

ほむら「ふぅ」

QB「これで『四巨人』は解放された。あとは時計塔の上で『誓いの号令』を奏でるだけだ」

ほむら「そうね……ん?」

ポストの辺りを、狐のお面を被った女の子が歩いていた。

ほむら「(確かあの子、マドカが気にしていたのよね……)」

QB「どこに行くんだい?」

ほむら「後をつけましょう」

女の子は、洗濯場の片隅にある小さなドアに入っていった。

ほむら「どうやらあそこが隠れ家のようね。よし、ここの呼び鈴を鳴らして……」

女の子は警戒しながらもドアを開けて出てきた。

ほむら「時を止める!」

ほむらは時を止め、その間に女の子が出てきたドアの中に侵入した。

ほむら「これで待っていれば、彼女と接触できるでしょう」

しばらくして、狐のお面を被った女の子が戻ってきた。

女の子「……っ!? 誰っ!?」

ほむら「マドカの知り合い、とだけ言っておきましょうか」

女の子「マドカの? ……わたしを探しに来たの?」

ほむら「ええ。随分と困ってるみたいよ、彼女」

女の子「……」

女の子はしばらく黙った後、お面を顔から外した。
出てきたのはほむらの幼少期に瓜二つの顔だった。

ホムラ「わたしがホムラよ」

ほむら「っ!?」

ホムラ「どうかした? 妙な顔して。それにしてもわたしたち、よく似ている気がするわね」

ほむら「……マドカの親友という割には歳が若すぎる気がするのだけど」

ホムラ「……小鬼のせいよ」

ほむら「(……また)」

ホムラ「ある日の夜、わたしは小鬼に出会った。そして小さな子どもに姿を変えられた……」

ほむら「それはお気の毒さま。でも、それだけじゃ行方をくらます理由にはならないと思うんだけど」

ホムラ「わたしとマドカは幼馴染だったの。『約束のお面』を分けて持つほどに」

ほむら「『約束のお面』?」

ホムラ「知らない? 小さい頃、『約束のお面』を親友同士で二つに分けて、お互いが15歳を迎える年のカーニバルの夜にかけらを合わせることが出来れば幸せになれる……」

ほむら「なるほど。で、そのお面がどうしたの?」

ホムラ「その年っていうのが、今年なの。それなのにわたしはお面のかけらをスリに盗まれてしまった……」

ほむら「……どちらにせよ、変な意地じゃない」

ホムラ「わたしにとっては大切なのよ! あれを失くして、約束を守れなかったら……わたしは……」

ほむら「……まあ、あなたの気持ちは分からないでもない。ここで会ったのも何かの縁ね。あなたがお面を取り戻すのを手伝いましょう」

ホムラ「……本当? 本当に協力してくれるというのなら、二日後の夜、イカーナ渓谷に来てほしい」

ほむら「イカーナ? 何でまた」

ホムラ「実はスリのアジドは突きとめてあるの。その日、その時間に、お面を取り戻すわ」

ほむら「……分かった」

ほむらはホムラと別れ、マドカマ亭にチェックインし、マドカとの「初対面」を終わらせた。

――マドカマ亭――
  ――次の日の朝 あと48時間――

マドカマ亭に、一通の郵便物が届いた。

マドカ「え……」

ポストマミ「確かにお届けしたのだ!」

マドカ「あの、これって……」

ポストマミ「確かにお届けしたのだ!」

マドカ「そうじゃなくて!」

ポストマンは出ていってしまった。

ほむら「どうしたの、マドカ?」

マドカ「あ、ほむらちゃん。『狐のお面を被った女の子』の話はしたよね?」

ほむら「ええ」

マドカ「彼女から手紙が来たの! 今は事情があって会えないけど、カーニバルまでには必ず会いに行くって!」

ほむら「……よかったじゃない」

マドカ「……。ほむらちゃん、ごめんね」

ほむら「何を謝るのよ」

マドカ「実はその女の子、ほむらちゃんにそっくりなの。わたしは今までその子とほむらちゃんを重ねて……」

ほむら「(確か前もこんなことを言われたわね……)」

ほむらは「最初の最期の夜」のことを思い出していた。

ほむら「まどか。人の顔っていうのは不思議ね」

マドカ「え?」

ほむら「本人がいなくても、似た顔の人を見ると何だか懐かしい気持ちになる。
……でもわたしはそれを悪いことだとは思わない。それは人を想い出す前向きな気持ち、希望だと思うから」

マドカ「……ありがとう、ほむらちゃん」

ほむら「あまり無責任なこと言えないけど、その子、絶対来るわ。あなたのところに」

――イカーナ渓谷――

  ――最期の夜 あと12時間――

ホムラ「あ、来たわね」

 ほむら「(……魔法を使えるわけでもないのに……こんなところまで)」

 ホムラ「サコンのアジドはこの辺りにあるはずなの。だからサコンが現れるのを待って、正確な場所を突き止める」

 数十分後、サコンが来た。

サコンが岩の前に立つと、岩が動きだして入口が現れた。

 ホムラ「! アジドはあそこよ! 行くわよ」

 ホムラが走り、ほむらはその後についていった。

――サコンのアジド――

 ホムラ「あった! お面よ! ……ベルトコンベアーで運ばれている」

 さらに、アジドの中には無数のモンスターが潜んでいた。

 ほむら「……こいつらはわたしに任せて、あなたはお面を追って!」

 ホムラ「……ありがとう」

ほむらは銃や弓でモンスターの対応をし、ホムラはお面を追った。

そしてついに、ホムラが『約束のお面』を手にした。

 ホムラ「やったわ!」

 ほむら「……良かったわね」

ホムラ「今まで付き合ってくれてありがとう。ここからはわたしの問題よ。わたしはいまからマドカのもとへ向かう」

 ほむら「……間に合ってね」

 ホムラはクロックタウンへと走って行った。

 ほむらは魔法を使いつつ、先にクロックタウンへ戻った。

――マドカマ亭、まどかの部屋――

既に時計塔の扉は開き、カーニバルの花火は上がっていた。

ドアを開けたのはほむらだった。

 マドカ「! ……」

 ほむら「そう露骨にがっかりされると傷つくわ」

 マドカ「ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」

 ほむら「マドカ、もう月があんなに迫っている。あなたは逃げないの?」

 マドカ「……わたし、決めたの。あの子を待つって。たとえ月が堕ちてきても」

ほむら「……来るわ。絶対に」

それから数時間の時が流れ、部屋のドアがゆっくりと開いた。

 ホムラ「……マドカ」

 マドカ「……ホムラちゃん」

 ホムラの姿は変わっていた。それでもそれがホムラだとマドカにはすぐに分かった。

 マドカ「わたしたち、約束したよね。15になるカーニバルの夜、『約束のお面』を合わせるって」

ホムラ「マドカ、待たせてごめんなさい」

次の瞬間、マドカはホムラに抱きついていた。

 マドカ「おかえり、ホムラちゃん」

 QB「友達同士なのに、まるで姉妹のようだね」

 ほむら「交わした約束忘れないよってね」

 マドカたちはお面のかけらを合わせ、それは一つのお面になった。

 マドカ「こうして約束を果たせた以上、もう思い残すことは何もない。ここで、月が堕ちてくるのを待つよ」

 ほむら「月が堕ちてくる? 何を言っているの?」

 ホムラ「……え?」

ほむら「月は堕ちない。わたしが止める」

ほむらは夜の街へと駆けだした。

てす

――時計塔の上――

スタルキッド「……またお前か」

スタルキッドは何度目か前の「最期の夜」と同じように、宙に浮いていた。

ほむら「今度こそ……決着をつけてやる!」

スタルキッド「無駄だって! 上空を見ろ!」

既に月は、触れられそうなほどに近い。

ほむら「……」

スタルキッド「これでみーんな終わりだ! オマエらが悪いんだぞっ! オイラを無視しやがって……」

ほむら「……もう無駄よ。『四巨人』が月の墜落を阻止する」

スタルキッド「『巨人』……? まさかっ!!」

ほむらは「誓いの号令」を歌った。



沼から。山から。海から。谷から。
彼らは集まった。世界を守るために。約束を守るために。

スタルキッドは苦しそうな声を上げている。

やがて『巨人』は月を支え……その墜落を止めた。

QB「……どうやら止まったようだね」

ほむら「ここまでよ。あなたのその仮面は邪悪な力を……仮面?」

気がつけば、ムジュラの仮面の向こうに小鬼はいなかった。

「この者の役目は……もう終わった」

小鬼はエネルギーを吸い取られたかのように地面に伏し、仮面だけが不気味に宙を漂っていた。

仮面の眼が怪しく光ると、止まっていたはずの月が動きだした。

月「オデは……食う……全部……食う……」

QB「!? まずいっ! ほむら、あの仮面が本体だ! あれを倒すしかない!」

ほむら「分かっているわっ!」

ムジュラの仮面は月の中へ消えてゆき、ほむらたちもその後を追った。

――月――

ほむら「……ここは?」

ほむらたちは広い草原の中にいた。
一本だけ、大きな木が目につく。その木の下で、四人の子どもたちが遊んでいた。

QB「あの子どもたち……『亡骸』を被っているね」

「キミの本当の顔は」「キミの幸せって」「正しいことって」「キミの友達は」

その近くに一人、輪に入れないかのように木の下で座っている子ども――五人目がいた。
彼は、ムジュラの仮面を被っていた。

ほむら「……」

子ども「お前、俺と遊ぶか?」

ほむら「ええ」

子ども「じゃあ、お前が鬼だ。鬼は鬼の仮面を被るんだ」

ほむら「……」

子ども「じゃあ、行こうか」

いつしか辺りの風景は変わり、禍々しい色の遊技場となっていた。

ほむら「……」

ほむらは鬼神の仮面を被った。ほむらの姿が鬼神へと変わった。

やがてムジュラの仮面の裏から触手が生え、浮遊してこちらに飛んできた。

ムジュラの仮面

ほむら「……ハァッ!」

ほむらが矢を一本射ると、衝撃波のようなものが生じ、仮面は一瞬にして吹っ飛んだ。

次に仮面に手足が生えた。笑いながら走り回る。

ムジュラの化身

ほむらが矢を一本射ると、それは化身の足に命中し、化身はその場で転んだ。

次に化身に頭部が生え、手はムチに変化した。

ムジュラの魔人

ほむらが矢を一本射ると、それは魔人の心臓を貫いた。

魔人の身体は内側から消滅していく。

ほむら「鬼ごっこはこのくらいにしましょう」

月の景色は遠景から崩壊していった。

――タルミナ平原――
  ――新しい日の朝――

邪悪な月は消え去り、一筋の虹がかかっていた。

スタルキッド「オイラはアイツらに捨てられたと思ってた……。でもアイツら、まだオイラのことを友だちだって……。友だちっていいな、へへっ」

スタルキッドは『巨人』たちと一緒にいられなくなったショックからこのような騒動を起こしたらしい。ただ、彼もまた、仮面に操られた被害者だった。

デクナッツの執事は息子の遺体の場所を知り、墓参りに向かったらしい。
ゴロンの里は相変わらず春で、皆楽しく暮らしているそうだ。
ルルはダル・ブルーのボーカルに復帰したらしい。……ミカウとの共演は叶わなかったが。
イカーナ帝国の幽霊たちも楽しくやっているそうだ。
マドカとホムラは……、ホムラも元の姿に戻り、前と変わらず仲良く暮らしている。

お面屋「おお、やはり仮面から邪気が消えている!」

お面屋がムジュラの仮面を手にして言う。

お面屋「では、ワタクシは旅の途中ですのでこれで……」

お面屋は立ち去ろうとした。

お面屋「おや……アナタ、随分とたくさんの人を幸せにしてきましたね。これは実にいい幸せだ」

さらにお面屋は少しの間をおいて言った。

お面屋「そろそろ、あなたも行かれた方がよろしいのでは……?」

ほむら「!」

ほむらは自分の旅の本来の目的を思い出した。

お面屋「出会いがあれば、別れは必ず訪れるもの……ですが、それは永遠ではないはず。その別れを一時にするか永遠にするか……それはアナタ次第。ではワタクシはこれで……」

お面屋はタルミナの外へと消えていった。

ほむら「あのお面屋、意外といいこと言うわね」

QB「じゃあ、僕たちもそろそろ行こうか」

ほむら「さようなら、マドカ」

――見滝原市――

ほむら「憎しみと苦しみばかりを繰り返す、救いようのない世界だけど……ここはかつてあの子が守ろうとした場所なんだ。それを忘れたりはしない。だからわたしは――戦い続ける」

まどか「――頑張って」

E N D

ムジュラの3日間繰り返す設定ってほむらっぽくね? というだけで始めたが大分長くなったな
何だかムジュラのシナリオ追ってるだけみたいになったし色々はしょりすぎですが、ムジュラを思い出せて楽しかったです
鬼神でムジュラ戦やるとリアルあんなのだから許して。
読んでくれた人はありがとう。

あ、あとポストマミはdisってる訳じゃないんだ
ポストマンのイベントも結構感動するのだ

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