美希「プロデューサーなんていらないもん」(220)

もういいの。

いくらミキがアピールしても、ぜんぜん振り向いてくれないし。
ミキといるときは困った顔しかしないクセに、他のアイドルたちと話すときはいっつも笑顔。

もしミキと仲良くしてくれたって、最後には他の子になびいちゃうんでしょ?
ミキの気持ち、知ってるクセに。

どうせ諦めるなら早いうちなの。
ミキ、まだ若いんだし。いくらでも素敵な人、見つけられるよね。


美希「だから、プロデューサーなんていらないもん」

P「…………は?」

美希「これからは1人でアイドル活動するの。ジャマしないでね、プロデューサー」

P「……ど、どうしたんだ。悪い物でも食べたのか?」

美希「ミキ、プロデューサーのそういうとこ、キライ。いつまでも子供扱いされたくないの」


律子、さんや、あずさは大人扱いするのに。
なんでミキにもおんなじようにしてくれなかったの?


P「お前、呼び方……」

美希「もう縁を切る人を『ハニー』なんて呼びたくないって、ミキ思うな」

P「…………怒ってるのか?」

美希「怒ってないよ。自分の中で色々ケジメがついただけだから」


ぽかんとしてるプロデューサーを放って、ミキは事務所を出てった。
はあ、スッとした。毎日毎日プロデューサーのことばっか考えて、ムダな時間過ごしちゃった……

今日は気ままにウインドウショッピングでも楽しもうかな。
誰か誘ってカラオケでも行こうかな。

……それとも、男の人でもひっかけちゃおっかな。
ミキって可愛いから、いっぱいお誘いあると思うし。


美希「……なーんて、ね」


分かってるの。
プロデューサーに頼らないってことは、仕事もスケジュールも全部自分でやるってこと。

プロデューサー、毎日忙しそうだった。
ミキ、こんなところで遊んでる場合じゃないんだよね、ホントは……

でも、いざやるってなるとめんどくさいの。
ミキのために向こうから勝手に仕事が来ればいいのに。

……ま、やっぱり今日はいいや。
ゲンジツトウヒだけど、ショッピングに出かけるの!


美希「わー、ダッサイ服!」

美希「このバッグ欲しいなぁ。今のミキだと手が届かないけど」

美希「あっ……この香水、値下がりしたんだ……」

美希「………………」


この香水。

はじめてプロデューサーと一緒に化粧品を買いにいったとき。
プロデューサーは、この香水をプレゼントしてくれた。

でも……そういう気が無いんだったら、プレゼントなんていらなかったのに。プロデューサー……

ミキ、ダメだよね……
自分から縁を切るって言ったプロデューサーのこと、思い出しちゃってる。

その後は2時間くらいショッピングモールを見て回ったけど、特にめぼしい物も無くて。
気がついたら、事務所に戻ってきてた。


美希「…………ただいま」

小鳥「おかえりなさい。さっき、プロデューサーさんが美希ちゃんを探してたわよ?」

美希「ふぅん」

小鳥「……あれ? 反応薄くない?」

美希「レッスンにでも行こうっと」

小鳥「え? み、美希ちゃん!?」


着替えを持って、スタジオに行く準備をする。今日は仕事は無いはずだし。

それにしても……
こんなに暗い気持ちでレッスンすることなんて、今までにあったかなあ。

レッスンをしてても身が入るわけもなく、1時間くらいでやめてしまう。

しょうがないから、いつもプロデューサーがやってるみたいに仕事を取ってこようと思って、
スポンサーさんに電話してみたら、いろいろ難しい話をされたから切っちゃった。


美希「はぁ……」


ミキ、一人じゃ仕事できなさそう。そんなのは分かってたんだけど。

かと言ってプロデューサーと一緒にいても、プロデューサーはミキのものにならないの。


美希「アイドル、やめるしかないかなぁ……」

でも、さすがにやめるのは早すぎるよね。
ミキもまだトップアイドルになってないし……


―――その3日後。

事務所に来ると、ホワイトボードにたくさんお仕事が書いてあった。
ほとんどミキのお仕事。二週間先までいっぱいなの!

……でも、なんで?


P「迷惑かもしれないけど、俺が取ってきた仕事だ」

美希「……プロデューサー」

P「プロデューサーとアイドルがうまく掛け持ちができるようになるまでは、フォローさせてもらうよ」

美希「余計なお世話なの」

P「ごめん」

美希「……ふんだ」

プロデューサーは、ミキがプロデューサーとアイドル、両方掛け持ちできるって信じてるみたい。

でも、ごめんね。

ミキはこの3日間、家でごろごろしたり、30分だけレッスンしたり、自分のCDを何回も聴いたり、
なんだか生きてるか死んでるか分からないような生活をしてたの。

本当は、自分でも分かってたから。
プロデューサーのお仕事が、そんな簡単なものじゃないって。だから半分諦めてる……


P「あ~、それにしても疲れた」

美希「まだ朝だよ?」

P「昨日まで、足を棒にして仕事取りまくったからな……疲れが抜けてないんだよ」


そう言うとプロデューサーは、事務所のソファに寝転がった。
プロデューサーがそんな姿を見せるなんて珍しいの。写メ撮っとこ。

……あれ? 写メ撮ってる間に……


P「……すぅ……すぅ」

美希「プロデューサー?」

P「…………すぅ……すぅ……」


え!? 完全に寝てるし! うそ、プロデューサーって人前で寝ることあるの!?

……あ。
それだけ疲れてるってことだよね。ミキがワガママ言ったから……


美希「……あっ、そうだ」

P「すぅ、すぅ……」


ミキもソファーに座って、プロデューサーの頭を膝の上に乗せてあげた。
あたしのために、いっぱい頑張ってくれて……ありがとう。プロデューサー。

眠い、寝る。後は任せた。

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