八幡「壁殴り代行サービス?」 (38)

建つかな?

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八幡「…よう」


雪乃「あら?どうしてゾンビが椅子に座っているのかしら?」


放課後の部室で本を読んでいるといつものように雪ノ下が毒を吐いてくる。


八幡「おい。なんでナチュラルにゾンビ扱いなんだよ、おかしいだろ」


雪乃「そうかしら。放課後の空き教室に目の腐った男がいれば、普通何かしらの危機感を抱くのでは?」


八幡「百歩譲って俺の目が腐ってるとして、教室にゾンビはおかしいだろ」





雪乃「そんなこと言われても困るわね。私はただ自分の感じたことをそのまま言ったのだから」ニコリ


八幡「お前“親しき仲にも礼儀あり”ってことわざ知ってるか?」


雪乃「どんなに親密な間柄であっても守るべき礼儀はあるという意味ね。まぁ私と比企谷くんには一生縁のないことわざね」


雪乃「ちなみに英語では”A hedge between keeps friendship green”、もしくは”Love your neighbor, yet pull not down your hedge”ね。独語では”Die Hecke dazwischen erfaelt die Freundschaft”よ。仏語では…」


八幡「もうわかったからいいって!お前がマルチリンガルなのはわかったから!ユキペディアどれだけ凄いんだよ…」


なんていうか、歩く電子辞書って言ったほうがいいんじゃないか?






雪乃「いくらなんでも電子辞書を名乗るのは憚られるわね」


八幡「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」


雪乃「あら当然でしょう。自分が努力した成果を人に認められるというのは喜ばしいことでしょう」


なんていうか小さく肩を揺らして喜ぶ雪ノ下は少し意外だった。


八幡「褒められて嬉しいっていうわりには容姿を褒められても嬉しそうじゃなかったよな」


雪乃「当然でしょ。容姿なんていうのは半分以上が遺伝で決まってしまうのだからあまり嬉しくはないわね」





八幡「喜ぶポイントが男前過ぎるだろ…」


雪乃「あら?私のような美少女を捕まえて男前なんていうのはどこのゾンビかしら」


八幡「…お前、さっきと言ってることが違わなくないか?」


雪乃「違っていないわよ。別に容姿を自慢するつもりはないわ。だからといって自分の容姿を過小評価するつもりもないもの」


八幡「…そうですか」


なんていうか雪ノ下雪乃はやっぱり雪ノ下雪乃だった。


夜続き




八幡「………………」


雪乃「………………」


八幡「………………」


雪乃「………………」


八幡「………………」


雪乃「………………」





八幡「…まだ由比ヶ浜のヤツ来ないな」


あと半刻もすれば完全下校時間になるというのに由比ケ浜はいまだに姿を見せない。


雪乃「由比ケ浜さんは用事があるから今日は来ないわ」


八幡「なら今日はもう部活休みで良くないか?」


雪乃「ダメよ。いくら依頼者が来ないからといって自分勝手に部活を終えてもいい理由にはならないわ」


八幡「…優等生の言うことは優秀なことで」


もう少し気楽に生きてもいいだろうに。…頼まれてたセール品残ってるかなぁ





雪乃「さっきから時間を気にしているようだけれど、何か予定でもあるのかしら?」


八幡「まぁな。予定って言うか、小町にスーパーで特売品買ってこいって言われてるんだよ」


雪乃「そう…。小町さんはきっといいお嫁さんになるわね」


八幡「は?小町が結婚とか俺が許さないから、絶対にだ」


小町を嫁にもらう男なんて地球上のどこにも存在しねーよ。特に川なんとかの弟とか絶対に許さねー


雪乃「あなたの小町さんへの溺愛っぷりは侮蔑を通り越して嘲笑したくなるわ」


心象から行動に移ってるじゃねーか





八幡「というわけで帰ってもいいか?」


雪乃「この男は何を言っているのかしら。寝言というのは寝ている時に言うから許されるのよ」ニコリ


八幡「…はぁ、醤油買えるかな」


雪乃「そういえばあなたの口からご両親の話を聞かないわね」


八幡「うちの親か?仕事でほとんど家に居ないんだよなぁ」


雪乃「ということは小町さんは毎日この男の毒牙に怯えて生活しているということかしら?」





八幡「なんでそうなるんだよ。普通に兄妹してるからな?」


雪乃「そう…。ならあなたは愚兄として仕事をこなしているのかしら?」


八幡「当たり前だろ。料理と洗濯と家計簿、掃除は小町が担当して、買い出しとかは俺がしてるからな」フフン


雪乃「つまり家事のほとんどを小町さんに押し付けて自分は楽をしているということね」


八幡「ちょっと待て、なんでそうなるんだよ。ちゃんと仕事してるだろ」


雪乃「それは世間ではお使いと言われるレベルのものよ。犬でさえ番犬として役立っているというのに、ヒモ谷くんは犬にも劣る畜生ね」





八幡「畜生って…。なんで女子高生の口から出てくる悪口が“畜生”なんだよ」


雪乃「あら、私は思ったことをそのまま言っただけなのだけれど、何か間違っているかしら?」ニコリ


八幡「はぁ……ならどうしろっていうんだよ」


雪乃「もしかして小町さんの負担を軽くしようなんて殊勝なことを思っているの?」


八幡「そこまで言われたら兄として黙っていられないだろ」


いくら孤高のボッチであっても戦わなければいけない時があるんだよ。妹のためならば尚更な!





雪乃「小町さんへの気持ち悪い愛が迸っているわ。あとその気持ち悪い顔をやめなさい」


八幡「別に気持ち悪い顔なんてしてないからな!あと小町のことを気持ち悪いなんて言うな!」


雪乃「ならまずはその腐った瞳をどうにかするべきね。小町さんではなくあなたが気持ち悪いと言ったのよ」


八幡「これ以上罵倒されたら泣いちゃうから話を進めようぜ。結局俺はどうすればいいんだ?」


雪乃「小町さんが家計に苦しまなくてもいいように、あなたがアルバイトをすればいいのよ」


八幡「は?」





雪乃「小町さんが家計に苦しまなくてもいいように…」


八幡「いや、言葉は聞こえたからな?意味がわからないっていうだけで」


雪乃「“アルバイト”というのは独語の“Arbeit”から…」


八幡「アルバイトの意味もわかってるからな?」


雪乃「ごめんなさい。いくら私でもゾンビ語はちょっとわからなくて」ニコリ


八幡「ゾンビ語なんて聞いたことねーよ。じゃなくて俺がアルバイト?」





雪乃「そうよ」


八幡「いや…ほら……俺、瞳が腐ってるし」


雪乃「知っているわ」


八幡「それにうちの学校って腐っても進学校だろ?」


雪乃「あなたの小町さんへの愛はその程度のものだったのかしら」クスクス


八幡「は?俺の小町への愛舐めんなよ。小町への愛があればバイトなんて一月は耐えてやるよ!……あれ?」





雪乃「なら明日からバイトをするということでいいわね」


八幡「ちょっと待て」


雪乃「何かしら?」


八幡「いくら俺が今バイトを決意したって、バイト先を探して採用されるまではタイムラグがあるだろ」


雪乃「そのことについては心配しなくていいわ。もうすでにあなたのバイト先は決まっているのだから」





八幡「はい?」


雪乃「あなたが働くアルバイトは“壁殴り代行サービス”という業種よ」


八幡「ちょっと待て…」


雪乃「何かしら?」


八幡「そのアルバイトってネットとかでよくあるやつだよな…?」


雪乃「よくあるかは分からないけど名前の通りの仕事よ」





八幡「いやネタだろ?」


雪乃「“ネタ”というのはどういう意味かしら」


八幡「それってあれだろ。@ちゃんねるとかでよく見かけるネタだろ?」


雪乃「いいえ。きちんとした職業よ」キリッ


八幡「わかった。ハロウィンか何かのネタだろ?で、実際に指定された場所に行ったら待ち呆けを喰らうイタズラだろ」


ソースは俺。一々クラスの女子に手紙を書かせるとか手の込んだ真似するなよ。お前のことだよ、永山。





雪乃「もし質問があるなら答えられる範囲で答えるわ」


八幡「……仕事内容は?」


雪乃「依頼が入り次第、依頼内容の遂行ね」


八幡「……時給は?」


雪乃「二千円よ。二二時を過ぎれば深夜料金になるわね」


八幡「……拘束時間は?」


雪乃「拘束時間五時間で週に五日よ」


八幡「…やっぱりウソくせぇ」





雪乃「疑い深さというのもここまで来ると悪癖ね」


八幡「こんな話聞かされたら怪訝に思うのが普通だろ…」


雪乃「…いいわ。そこまで言うのであれば私と賭けをしましょう」


八幡「賭け?」


雪乃「つまり私が比企谷くんを騙そうとしていると思っているということね。なら私が発言に責任を持つわ」


八幡「というと?」





雪乃「もし私の言うことがウソだったなら、平塚先生が主導の賭けに無条件で私の負けでいいわ」


雪ノ下がここまで言うっていうことは本当なのか?


八幡「わかった、一応お前を信じてみるよ。まぁ本当ならこんな美味い話は他にないしな」


雪乃「時間や場所についてはおって連絡をするから連絡先を交換しましょう」


八幡「へいへい」


雪ノ下と赤外線通信し終わった頃には完全下校時刻になっていた。


結局その日雪ノ下から来たメールには待ち合わせ場所と時間だけが書かれたメールが届いた。



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