貴音「運命には抗えぬのです」 (35)

似非ファンタジーアイマスSSです。
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ナムコ皇国とクロイ帝国の戦争は熾烈を極めていた。
両陣営共に決定打を欠き、時間だけがただただ過ぎて行くばかりである。なにか決定打は無いのか、兵士たちも疲労していくばかり、このままでは共倒れだ、そんな声が聞こえ始めていた。
長きにわたって続くこの戦いを終結に導くためナムコ皇国の上層部は有る男に依頼を出した。なんでもその男は凄まじく強い兵士を匿っているようで、その兵士は一騎当千の力を持っているとされていた。

「お任せください、私が育てた”コレ”を使えば必ずや我が国に勝利がもたらされるでしょう。」

 メガネの男は不敵に笑い依頼を快諾した。その後ろには美しい銀髪に端正な顔立ち一見すればただの少女が静かに立っていた。

「こんな小娘がなんの役にたつというのかね?」

 ある士官が男に尋ねた。無理もない、こんな少女が一騎当千の力を持っているなどと言われて誰が信じるだろうか。

「皆さんどうか私を信じてください、報酬は後払いでも構いませんので。しかし約束していただきたいことがあります。」

「言ってみたまえ。」

「全ての戦闘は彼女に一任していただきたい、すなわち彼女には命令をしないでください。きっとその方が彼女の力が発揮されるはずです」

 なんとも自信にあふれた男の口ぶり、さらに報酬は後払いでも構わないときた。約束が有るにしろ使い物にならなければ報酬など払わなければ良い、そんなことを考えながら上層部は彼女を使うことを決定した。

「良かろう、君の要求を飲むことにしよう。」

「有難うございます、さぁ貴音、自己紹介をしてごらん?」

「四条貴音と申します。」

銀髪の少女は軽く自己紹介をしてみせた。男の後ろにいるときは分からなかったが、彼女の目は寒空に煌々と輝く満月の如くとても冷たいものであった。

 出生、生い立ち等など全てが謎に包まれている少女、分かっている事といえば名前ぐらい。しかし彼女がまさしく一騎当千の力を持っている事が知られるのにそう時間は掛からなかった。

明くる日、早速彼女は戦地に赴いていた。彼女がいるのは最前線、最も戦いが激しいクロイ帝国との領土の境、何ヶ月も前から激しい戦闘が続いている言うなれば死地。

 「ここは私にお任せください。」

指揮を執る士官にそう言い残し彼女は戦いの真っ只中へと消えていった。真新しい光り輝く銀色の甲冑、腰には細身の剣が一振のみ、おおよそ激しい戦いになど到底向かない装備である。あまりに頼りない彼女の姿を見た味方の兵士たちは口々に言った。

「あんな娘っ子が生きて帰ってこられるわけがねぇ。」

「きっと気でもふれているんだろうさ。」

そんな話をしていた途端、急に強い一陣の風が吹き、砂埃が辺り一面に広がった。辺りには金属と金属がぶつかり合う音と男のうめき声だけが響いていた。そんな中1分も経っただろうか、砂埃も落ちつき視界も晴れてきた。

「み、見てみろ!」

急いで周りの兵士たちも目を凝らしてみる、そこには静かに揺れる銀髪、銀の甲冑を真っ赤に染めた彼女が立っていた。
周りにはすでに事切れているクロイ帝国の兵士たちが何百、いや何千と横たわっていた。
そして、まだ息のある兵士にトドメを刺そうというまさにその瞬間であった

「や、やめてくれ、降参だ、命だけは・・・」

男は命乞いをしているのだろう、今にも泣き出しそうな顔で口をパクパクさせている。しかし、彼女は全く聞く耳を持たず、静かにこう言った。

「これはあなたの、そして私の運命なのです。」

彼女はただそれだけ言うと男の胸に刃をたてた。その顔はどこまでも無表情でその目はどこまでも冷たかった。

「バケモノだ・・・」

味方の兵士がふとそんなことを呟いた。

四条貴音の噂は瞬く間に両国に広がった。
ナムコ皇国の民衆からはその活躍ぶりから救世主と、また自国の心ない兵士からは殺戮人形と揶揄されていた。
クロイ帝国からは死をも恐れぬ戦いぶりと畏怖を込めて銀の銃弾[シルバー・ブレット]と呼ばれるようになっていた。
四条貴音が戦いに参加してどれくらいの月日が経っただろう、彼女が参加してからというもの日に日にナムコ皇国の優勢が目立つようになってきた。
これもひとえに彼女の大車輪の活躍があってのことであろう。そんな彼女も連戦に次ぐ連戦で疲弊していたのか珍しく傷を負って帰還した。

「私にはお構いなく、この程度どうということありませんので。」

そう冷たく言い放つと自室に帰ろうとしていた、その時。

「待ってください!!あなたの噂は聞いています。とてもお強い方だと聞きましたが傷を負った兵士放っておくわけにはいきません!」

彼女が振り返るとそこには短く切られた髪をブラウンに染めた白衣の少女が立っていた。首からは[軍医 萩原雪歩]と書かれた名札を下げている。

「ご心配なく、あなたの手を借りるほどのことではございません。」

「そうはいきません!私にも軍医としてのプライドが有るのです。あなたは人を[ピーーー]のが仕事でしょうが私は人を治すのが仕事なんです。ここは引き下がれません!」

ここで貴音はあることに気付いた。見れば目の前にいる少女は体を小刻みに震わせており、自分を怖がっている様子である。

「どうしたのです?怖いのであれば近づかなければよろしいではありませんか。」

「嫌です!軍医になって日も浅くてダメダメな私ですけど、あなただけは放っておいたらいけないと思ったんです!」

貴音は心になにか引っかかるものを感じた。

「おかしな方ですね、分かりました。そこまで言うのなら仕方ありませんね。」

貴音は彼女の診察を受けることにした。
診察を受けたかった訳ではない、むしろ診察をする彼女の方に興味がわいたのだ。
彼女は明らかに自分に対して恐怖していた、自分に恐怖する者の取る行動といえば命乞いか背を向けて逃げるものばかり、だから恐怖してなお自分に相対してきた彼女が不思議で仕方なかったのだ。

「こ、こちらにどうぞ」

さっきの威勢はどこへ行ったのやら、頼りない背中の後を貴音はただ黙ってついて行った。程なくして簡素な診察室へとたどり着いた。

「まずはその甲冑を脱いでいただけますか?」

「はい。」

彼女はまだ自分を怖がっている様子である。

「そう怖がらずに、別にとって喰おうとも思っていませんので。」

貴音の顔は全く笑っていない、あのいつもの無表情のままである。内心雪歩もまだ怖がっていた。無理もない、殺戮人形と呼ばれている人物が目の前にいるのである、軍医になりたての雪歩に怖がるなと言う方が無理な話である。

「これでよろしいですか?」

甲冑を脱いだ貴音の姿に雪歩は唖然とした。彼女の透き通るような白い肌には無数のアザ、切り傷、やけどの痕など見るにたえない姿であった。

「な、なんでこんなになるまで放っておいたんですか!?もっと早く来ていただければそれなりの処置はしたのに・・・」

「なにをそんなに驚いているのです?私の傷など自国の勝利には取るに足らない代償、戦いの中で死ぬのならそれもまた私の運命なのでしょう。」

雪歩には彼女の言葉が理解できなかった。この人は自分の命なんて命と思ってない、死ぬことをこれっぽっちも恐れていない。
この人とはやはり住んでいる世界が違うんだと雪歩は思った。
それからというもの雪歩は彼女に話しかけることが出来なかった、気持ちの整理がつかない、ただ黙々と処置を施すだけであった。

ありがとうございました。失礼致します。」

それだけ言い残すと貴音は自室へと帰っていった。

 結局あまり会話をすることが出来なかった、しかし彼女を放っておいたらいつか取り返しの付かないことになる、雪歩の勘がそう言っていた。一晩中考えて雪歩はひとつの決心をした。

自室に戻った貴音もやはり彼女のことが気になっていた。
なぜ彼女は自分の姿を見て驚いていたのだろうか、戦場での傷は当然の事、戦場での死も当然の事、軍医である彼女がそんな事を知らないはずがない。
ならば彼女はなぜあんなに驚いていたのか。
自分の言動、姿にどこか問題でもあったのだろうか。
考えてもわからない。そしてふと気がついた。

「はて、人とあれだけ話したのはいつぶりでしょうか・・・」

あんな些細な会話でも貴音にとっては長らく経験していなかったことである。よくわからない感情が渦巻いていた。少し胸が痛むのを貴音は感じた。

ナムコ皇国はその後も一気に攻勢に転じ、クロイ帝国をじわじわと追い詰めていた。

そして次の遠征から兵士達が帰ってきた時、雪歩は真っ先に駆けつけ貴音の姿を探した。きっとまた無茶をして帰ってきているに違いない、雪歩には確信があった。程なくして銀色の甲冑を真っ赤に染めた彼女の姿をみつけた。

「四条さん!!」

貴音もこちらに気づいたようで、こちらに向かって歩いてきた。

「そんなに慌ててどうしたのです?」

「いいから早く診察室に来てください!」

いわれるがままに貴音は雪歩の後をついて行った。前とは様子が違う、なにかを決心したような顔つきの雪歩に貴音は戸惑っていた。そしてまたあの診察室についた。

「どうしたのです萩原雪歩?前とは様子が随分違うようですが。」

「四条さんはおかしいです!あのあとゆっくり考えましたけどやっぱり四条さんはおかしいんです!」

まただ、また得も言われぬ違和感が胸をよぎる。自分は全くおかしいところなど無い、ただ兵士として当然のことをしているだけ。しかし目の前の彼女は兵士というものを知りながらおかしなことを言っている。思い切って貴音も自分の思いを言うことにした。

「萩原雪歩、以前私の傷を見てあなたは驚いていましたね?あなたも軍医なら分かるはずです、傷を負うのは兵士として当然の事、戦場で死ぬことも兵士として当然のことではありませんか?なのになぜあなたはあの時あそこまで驚いていたのです?」

「違います!確かに四条さんの傷跡にも驚きましたけど本当に驚いたのはそこじゃないんです。」

そこじゃない?ならば一体どこに驚いたと言うのだろうか、尋ねる前に彼女から口を開いた。

「四条さんは自分の命を軽く見過ぎです、なんで自分より国のことが大事なんですか?死んじゃったらなんにもならないじゃないですか!そんなんじゃ本当にただの殺戮人形ですよ!!あっ・・・」

雪歩は言ってから自分の言葉に耳を疑った。自分がこんなに酷いことを言ってしまうなんて思ってもみなかった。

「ご、ごめんなさい・・・」

「謝ることはありません、萩原雪歩。あなたには話しても良いでしょう、私の生い立ちを。」

貴音は不思議とそんな気分になった。この人になら、初めて自分に思いをぶつけてきたこの人になら誰にも言っていない自分の秘密を言っても良いと。

「私は物心ついた時からあの方と共に暮らしていました。親もわかりません、どこの生まれかも分からないのです。ずっと教えられてきました、兵士とは自国のためなら自らの命を投げ売ってでも勝利を掴まなければならないと。だから殺戮人形と呼ばれるのもしかたのないことかもしれません。むしろ当然です、私には人を切ることしか出来ませんから・・・そして戦場で死ぬのならそれが私の運命なのです。私にとっては私の命など軽いものなんです、それが私の普通なんです!!」

貴音が初めて声を荒げる、かなり感情的になっているのを雪歩は感じていた。薬品の瓶が床に落ちて割れる。しかし雪歩も退いてはいられない、なぜならこの人を何とかして助けると雪歩はあの夜決心したからである。

「なんでそんな悲しいこと言うんですか!?四条さんが死んだら私は悲しいんです、戦ってる皆だって誰一人死んでいいなんて思ってない、家族や大切な人を守るために戦ってるんです!みんな死にたくないから、死なせたくないから戦ってるんです!四条さんの戦う理由はおかしいですよ!!」

「私の戦う理由を愚弄するのですか!?萩原雪歩、あなたなら分かってくれると信じていたのに!」

 貴音はその時剣を抜いていた、こんなに感情的になって剣を抜いたのは初めてだろう、この刃はもう止められない。

「だったらなんで!」

瞬間、貴音の刃が止まった。

「だったらなんで四条さんは今泣いてるんですか?」

「えっ?」

自分でも気付かなかった、涙なんて見たことしか無い、ましてや理由など分かるはずもない。仲間を亡くして涙する兵士、分からない。遠征から帰ってきて家族と抱き合い涙する兵士、分からない。何度もそんな場面に遭遇したが理由など一度たりとも分かったことがなかった。しかし今自分の頬を液体が伝っている。なぜ、分からない。

 その時、そっと雪歩が貴音を抱きしめた。貴音にはなぜだか分からないが涙が溢れてきた。

「泣きたいときには泣いたらいいんです。あなたは殺戮人形なんかじゃありません、心のある人間なんです。」

 四条貴音はその晩雪歩の腕の中で一晩中泣いた。赤ん坊が初めて産声をあげた時のように、ただ無心で・・・

それから貴音と雪歩は積極的に会話をすることが増えた。
はたから見れば姉妹のような、そんな普通の女の子二人の姿がそこにはあった。
貴音も笑顔が増え、殺戮人形といわれていた事が嘘のように表情豊かになっていった。

しかし、戦争は待ってはくれない。
貴音は以前の如く兵士としても働かなければならないのだ。
貴音の活躍によりもうすぐこの長い戦争に終止符が打たれようとしている、しかし、度重なる戦闘、遠征により兵士は疲労困憊、物資も備蓄が底を付きそうになっていた。
あとできる戦いは1回のみ、この1回でクロイ帝国の主城を陥落させなければあとはズルズル後退していくのみ、更に戦争が長期化してしまう。
そうさせないためにも次の1回で決めるしか無い。
上層部の決定により、最終決戦は夜、敵のすきを突いて行う事となった。

「それでは雪歩行ってまいります。」

「貴音さんお気をつけて、必ず帰ってきてください。」

黙って頷くと貴音は最後の戦いへと赴くのであった。空には煌々と満月が輝いている。この戦いが終われば戦争が終わる。雪歩と一緒に静かに暮らそうと二人は約束していた。

?

各隊が配置につく、チャンスは1回きり。火矢の斉射を合図に各隊が動き出す。貴音もすでに動き出していた。最初のあの頃となんら変わらないあの見事なまでの身のこなしで、一陣の風とともに敵をなぎ倒していく。敵も相当弱っている、また、夜の作戦が功を奏し主城の制圧にはそう時間は掛からなかった。

 これで戦いが終わった、これで帰れる、これでもう人を殺さないですむ、銀色の甲冑を真っ赤に染めるのもコレで最後か、そんな事を思っていた。なんだか不思議な気持ちだ、しかし嫌な感情ではないなと貴音は思った。その時・・・

ドスッ

腹部に激痛が走る。

「シルバー・ブレットも道連れだ・・・」

どうやら一人仕留め損ねていたようだ、前まではこんなこと絶対になかったのに、嫌だ、死にたくない、雪歩にまた会いたい、会って話がしたい、雪歩の事を考えていたら自然と涙が出てきた。徐々に体に力が入らなくなってきた。意識が遠のく、結局人が何故泣くのか、理由はわからずじまいでしたね。

どうやら、遠征部隊が帰ってきたようだ。しかし、なんだか様子がおかしい、誰かが担ぎ込まれてくる、それは一番見たくなかったあの真っ赤に染まった銀色の甲冑だった。

新米軍医にはどうすることも出来ず、先輩の軍医に貴音を任せることしか雪歩には出来なかった。死なないで、こんなお別れは嫌だ、もう一回話がしたい、悲しくて涙が溢れてきた。結局、雪歩は貴音を助けることが出来なかった。泣き疲れて雪歩は寝てしまった。

「貴音さん、お体は大丈夫ですか?」

「雪歩、もう心配することはありません。この通り傷もすっかり塞がりましたから。」

あの後、例のメガネの男が現れ、手術をしたところ見事貴音は一命を取り留めた。その後男は「貴音はここに置いていきます。」

とだけ言い残し何処かへ姿を消したようだ。あの男が何者なのか、当の貴音に聞いても詳しいことは全くわかっていない。

戦争も終わり、貴音も雪歩も軍からは退き今はこうして二人で暮らしている。

「はて、人間はどうして泣くのでしょう・・・結局分かっていないのです。」

「それはきっとこれから分かるようになりますよ。そんな事より貴音さんはこれからは私が守りますからね!」

「そうは言っても私が守るのが妥当なような・・・」

「うぅ、ひどい?こんなダメダメな私でも頑張ってみせますから。」

お互いに誓った約束を再確認し、これからも二人は夜空に輝く月のように穏やかな生活を送ることだろう

Fin

これで終了です。
おめ汚しすみませんでした

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