男子高校生「え? なんだって?」 (31)
<六/四 帰り道>
カン、カン、カン、カン、カン
男子高校生「……今なんか言った?」
遮断機の前で電車を待つ少年は、隣に立っている小柄な少女にそう聞いた。
女子高生「えっと」
カン、カン、カン、カン、カン
男子高校生(なんか、言いづらそうだな)
足をクロスして立っている少女。
昔からの馴染みである少年は、仕草を見れば彼女のことは大体わかってしまうのだった。
カン、カン、カン、カン、カン
女子高生「あの、ね」
男子高校生「?」
ごぉ
遠くから電車が近づいてくるのがわかる。
女子高生「私、ね」
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ごぉぉ
男子高校生「?」
女子高生「勇者にえら」
ガタンゴトン!ガタンゴトン!
女子高生「————」
ガタンゴトン!ガタンゴトン!
男子高校生「え!? なんだって!?」
ガタンゴトン、ガタンゴトン……
女子高生「あー……」
男子高校生「今の全然聞こえなかったから、もう一回」
がー
電車は通り過ぎ、遮断機が上がる。
女子高生「……二度は言わない。というわけで帰る」
男子高校生「いやいやいやここまで気にさせておいてそれはひどいだろう!」
少年は自転車を転がしながら前を行く少女の後を追う。
女子高生「……」
男子高校生「おいこら」
少女はスタスタと歩いてく。
男子高校生「……おぅしそれじゃあ、いつもの勝負で決めようぜ」
女子高生「え?」
振り向く少女と横を向いている少年。
その少年が見ている先は古ぼけた駄菓子屋。
女子高生「いつもの、って」
男子高校生「アイスの当り棒出した奴の言うことを一つ聞くってやつ」
女子高生「……あそこの当り入ってる確率超低いのに」
男子高校生「おう、だからこそ、それなら問題ないだろ?」
女子高生「……うん」
少女は黒塗りの車が目の前を通って行くのを眺めていた。
<駄菓子屋>
ガラララ
男子高校生「ばっちゃん、くじ付きアイス二つくれー」
ばっちゃん「ん……おお、最近顔見せないからくたばったかと思ってたよ」
男子高校生「それはお年寄りとかに言うセリフだろう!? 俺まだ16だぞ!!」
ばっちゃん「ふん、このご時世に年齢なんか関係あるもんかい」
男子高校生「む……」
ばっちゃん「……くじ付きアイスだね、いつものソーダは切れちまってるからコーラ二つになるよ?」
男子高校生「んじゃそれでいいや」
チャリン
男子高校生は店主に小銭を渡し、アイスを受け取る。
ばっちゃん「ちょっと」
老婆はその手を握り、少年を引き寄せた。そして、
男子高校生「おわ! 何すんだよ!」
ばっちゃん「なんだい、あの娘なんだか元気がないみたいじゃないか。あんたなんかしたのかい?」
少年の耳に顔を近づけて、耳打ちをした。
男子高校生「いやなんもしてねぇよ。なんか……いきなり暗くなっちまったから」
ばっちゃん「……よく聞きな坊主、女の子はデリケートなんだよ。あんたが自分でわからないうちに何かやっちまったのかしれないだろ」
男子高校生「本当に何もしてない、と思うんだけどなぁ」
ばっちゃん「おっぱい揉んだとか」
男子高校生「!? も、揉んでねぇよ!! てかあいつ無いもん!!」
女子高生「……」
店の外からジト目で睨んでくる少女。
ばっちゃん「そうだったね。あの娘は洗濯板だった。……というかあんた死んだね」
男子高校生「ばっちゃんのせいじゃねぇか……」
少年は肩を落として出口に向かう。
ばっちゃん「……右の方食べな」
男子高校生「は?」
少年が振り向くも、老婆は目を閉じて澄まし顔。
男子高校生「……」
ガラララ
女子高生「何の話してたの?」
男子高校生「いや、なんもなんも」
女子高生「……揉むとか聞こえたけど」
男子高校生「い、いや、その、友達のな」
女子高生「あいつは無いとか聞こえたけど」
少女は胸らしき部位を両の手で押さえている。
男子高校生「いやーその、友達の」
女子高生「へー女友達のおっぱいを? 何?」
男子高校生「い、いやいやいや俺女友達お前しかいないし!!」
女子高生「へー、ダンス部員、友達じゃないんだ」
男子高校生「いやいやいやあいつは友達ではあるけれど!!」
女子高生「なんでそんなどうしようない嘘をついたんだ……はぁ、もういいよ」
少女は少年に向かって手を出す。
男子高校生「お、おぅ」
少年は一瞬戸惑って、
スッ
右のアイスを差し出した。
女子高生「ありがとう」
男子高校生「さてさて……」
少年と少女は袋を破ってアイスにかじりついた。
シャクシャク
男子高校生(どうなるかね……)
シャクシャク
女子高生「……ん、あ、やっぱり外れかー」
半分まで食べ終わった少女がなんともなしに呟く。
シャクシャク
男子高校生「……」
一方少年の方のアイスの棒には、
当
という文字が。
男子高校生(野郎……やっぱりそういうことだったか。っていうか外から当りとかわかるように操作してるのかよばっちゃん。そりゃ確率低いわ)
少年は窓ガラス越しに老婆を睨む。
女子高生「ねぇ……あんたはどうだったの?」
男子高校生「ん? えっと」
シャクシャク
少女の顔を見て少年は思う。
男子高校生(なんだよその顔……そんなに言いづらいことなのかよ)
女子高生「……」
男子高校生「ん、外れだわ」
少年は字が書いてない裏側を見せたあと、棒をゴミ箱に捨てた。
がさ
女子高生「……なんだか怪しい」
男子高校生「なんでよ」
女子高生「だっていつもだったら外れた時もっと悔しそうだもん」
男子高校生(う……よく見てるなぁ……)
女子高生「……そっか」
ぱんぱん
少女は立ち上がりスカートの汚れをはらうと、少年の自転車の後ろに乗った。
がちゃ
女子高生「よし、今日は私の家まで送ることを許可しよう」
男子高校生「何言ってんだ? 二人乗りは法律で禁止されてるっぺ」
女子高生「……えぇ!? な、何もっともなこと言ってるの!! 信じらんない!! 女の子が誘ってあげたのに!!」
男子高校生「いやいやいや、俺、ルールとか遵守する主義だし?」
女子高生「子供のころ万引きばっかやってたくせに」
男子高校生「……昔のことを持ちだすんじゃないよ。だからなおのこと今はルールをだなぁ」
女子高生「今日だけだから」
男子高校生「いや今日だけとかそういう問題じゃ……」
そういって見上げた少女の顔があまりに真剣だったので、少年はそれ以上言えなくなってしまった。
男子高校生「……はぁ、仕方のないおなごだよあんた」
女子高生「はっはっはっ。ゆっくりお願いね、歩くぐらいの速度で」
男子高校生「二人乗りでそれはきついよ!?」
<帰り道>
シャー
男子高校生「やー、さすがに二人乗りだと下り道はえーや」
女子高生「む。言っとくけど私は軽いからね」
男子高校生「そりゃ軽いさ、なんて言ったって夢が詰まってないもの」
女子高生「? 夢?」
男子高校生「そう、夢は胸につまって」
どぼっ!
少女は少年の背中に頭突きをかました。
男子高校生「がはっ!! こ、こら運転中はやめろや!! 的確に肺を狙いやがって!!」
女子高生「なんであんたはいつも私の胸の話をするかなぁ!! それセクハラだからねっ!!」
男子高校生「黙れ!! 無いものは無いだろうが!! 文句あるなら出してみろ!!」
女子高生「ろ、露出狂になっちゃうだろばかーーー!!」
どぼっ!
男子高校生「ごふっ!! い、いやそういう意味の出すじゃないよ、凹んでいるものをこう」
女子高生「凹んじゃいないわばかあ!!!」
どぼっ!!
男子高校生「はぐっ!! ぐ……じゃ、じゃあわかったよ、もうちっと俺にくっついてみ」
女子高生「? くっつく?」
男子高校生「そう、腰に手をまわして、がっちりと」
女子高生「……なんか恥ずかしいんだけど」
男子高校生「いやいやいやこれが男女の由緒正しい乗り方だから。ほら、やってみそ」
女子高生「……」
す……
男子高校生「……はいっ! ぷにっとしなーい!!」
女子高生「!?」
男子高校生「本来ならここで、『あ、あれ!? この背中の柔らかい二つの感触は……まさか!?』 てな展開になるハズなんがはっ!?」
ぎりぎりぎり
少女は回した手で少年の体を締め上げた。
女子高生「〜〜っ!!」
男子高校生「いたいいたいいたい!! あーっ!! ち、力強いんだから剣道じゃなくて柔道部とかに入ればよかったのに!!」
涙目の少女は更に無言で締め上げる。
男子高校生「あたたたた!! ギブギブ!! ギブだってば!!」
ききぃいいい
少年はブレーキをかけて、少女の腕に手を伸ばす。
女子高生「っ」
男子高校生「わ、悪かったって! いつもと変わらぬやりとりじゃねぇの!! なんでそんな……あれ?」
女子高生「っ……っ」
少女は少年の背に顔を押しつけていた。
男子高校生「……え? そんなにショックだったの?」
女子高生「う、うるさいっ!! 早く走らせろ!!」
うわずった少女の声。
女子高生「ひっ……」
男子高校生「……おーらい」
シャー
再び走り出す自転車。
女子高生「……」
男子高校生「……」
女子高生「ねぇ……」
男子高校生「ん?」
女子高生「この前さ、健康診断あったじゃん」
男子高校生「あー……五月のか。四月でもやってたのにおかしいよなー」
女子高生「不思議に思ったことある?」
男子高校生「あるに決まってるだろ。なんでこんな短期間に二度もやんなきゃなんねぇんだよ、って。てっきり四月の健康診断で何か大きな問題でも見つかって再検査なのかとおもったぞ。空手部員なんて、お、おでの尻穴のせいかもしれない、とか言ってうろたえてたのはおもしろかったけどな」
女子高生「……」
男子高校生「それがどうかしたんか?」
女子高生「あの時黒塗りの大きい車が学校の外に止まってたのは知ってる?」
男子高校生「……へ?」
女子高生「あの健康診断、ね……勇者を探すためのものだったんだよ」
男子高校生「……勇者って、あれか? あの、中東の地面から湧き出てきた『魔獣』を倒すとかそんな空想のヒーロー」
女子高生「うん……」
男子高校生「そんな漫画みたいな話……そもそも『魔獣』は三年前すでに国連が大多数を殲滅したんだろ? 後は残ってる少数を時間かけて潰してくらしいしもう必要ないだろう」
女子高生「それ、嘘みたい」
男子高校生「……ん?」
女子高生「本当はね、西イギリスを攻め込んでた魔獣の大半は倒せたらしいけど、魔獣の上位の『魔族』っていうのが出てきて、」
少女は何の感情も乗せない声で
「西イギリスは滅ぼされちゃったらしいよ」
と言った。
男子高校生「……っ」
シャー
男子高校生「……そんなのデマだろ」
女子高生「テレビとか新聞の方がデマなんだよ。海外のサイトだともっと結構わかるもんらしいよ。もっともこの国だと制限多くてほとんど見れないけれど」
男子高校生「……うそー。この国に限ってそんな情報統制みたいなこと」
女子高生「……」
男子高校生「うそー……」
シャー
女子高生「……それでね、その時の戦争で敵の中の階級ってものがわかったらしいの。いっぱいいるのが私達も知ってる『魔獣』」
男子高校生「……」
女子高生「それの上の、幹部級のが『魔族』。そして、一番上に『魔王』っていうのがいるんだって」
男子高校生「……それで?」
女子高生「そもそも魔獣って何らかの力を使って兵器の威力を軽減していたらしいんだけど、魔族はその比じゃなくて、ほぼ無効化できるんだって」
男子高校生「んなばかな話しあるかよ。バリアとか?」
女子高生「うん。西イギリス軍とローマ軍が協力して戦ってたんだけど、それでも魔族に押し切られちゃって、結局東イギリスが核を落として倒したんだって。まだ残ってる国民と兵士ごと」
男子高校生「!!……さ、さすがにそんなこと」
女子高生「でね、その時の魔族の死体を捕獲して色々調べたらしいんだけど」
男子高校生(核食らって死体残ってるのかよ)
女子高生「人間にもその不思議な力を使う機能が備わっている個体がいるらしいの」
男子高校生「!?」
女子高生「魔族の見た目がね、ほとんど人間そっくりなんだってさ。だから国連の人はもしかしたら人にも似たようなものがあるのかもしれないって調べ始めたらしいんだけど、それがある因子なんだって」
男子高校生「……」
女子高生「それを備え持ってる人間は少ないらしいんだけど、でもその因子があれば魔族と互角に戦うことができるらしいの。それを改良すれば魔王かもしれない、とか」
男子高校生「じゃ、じゃあ」
女子高生「五月の健康診断は、政府がその因子を持つ者を調べに来たんだよ」
シャー
男子高校生「……」
べらべらと、およそ一般人の知ることができない情報を喋る女子高生。
少年はわかっていながらも、認めることができないでいた。
女子高生「私、日本で唯一持ってるらしいの。『勇者因子』」
キキィ!!
女子高生「わぷっ!!」
少年は急ブレーキをかけた。
女子高生「い、いたいな!! 急に止まるな!!」
男子高校生「……今の話、全部本当なのか?」
女子高生「……うん」
男子高校生「作り話、とかじゃなくて?」
女子高生「作り話に聞こえた?」
今日の素ぶりを見て、即座にそれはないと思えてしまった。
男子高校生「お前はそんな嘘つかない……嘘だろ……お前、戦いに行くってことか?」
女子高生「う、ん……」
男子高校生「女子高生を戦場につれてくほど、そこまで切迫してるのかよ」
女子高生「アジアはほぼ落ちてるらしいからね……。ここは山間部だからわからないだろうけど、日本だって海の近くは危ないんだって。海はほとんど制圧されちゃってるから」
男子高校生「!! ……い、いきなりすぎて信じられないけど……だったらなおのことお前一人行ったところで何にもならないだろうが」
女子高生「なる、らしいよ」
男子高校生「!?」
少女は申し訳なさそうな、残念そうな顔をして笑った。
女子高生「私が持ってる力はあいつらの天敵になりえるものらしくて、それこそ一騎当千らしいんだ」
男子高校生「……千匹倒しても勝てねぇんじゃねぇのか……?」
女子高生「……かもね」
男子高校生「だったら! ……だからずっと、お前変だったのか」
女子高生「うん……」
男子高校生「いついくんだ?」
女子高生「……明日」
男子高校生「!?」
女子高生「だから……お願い。しばらく図書委員の仕事私の代わりにやっておいてね……たまに電話するから」
夕焼けを背に、少女は笑った。
<六/二十二 図書室>
ゴオオオオオ
男子高校生「……」
窓を開け身を乗り出している少年は、夏の空を飛行機雲が横断していくのを眺めていた。
ダンス部員「ちょっと〜さぼらないでもらえますか〜? 男子高校生君〜」
男子高校生「……あー」
少年に女生徒が声をかけた。
ダンス部員「なんですか不抜けた顔で私のことじっと見て〜。まさか欲情してないでしょうね〜」
そう言って髪をかきあげる女生徒。
確かに彼女はスタイルはよかった。
男子高校生「不抜けた顔をしといて欲情とかお前、どんな人間よ俺」
ダンス部員「見たまんまですよ。はいはい、さっさと作業こなしてください〜返却ボックス溜まってるんですから〜」
腕を引っ張って少年を机の所まで連れてくる。
がさごそ
男子高校生「うぅ……」
ダンス部員「……あの子に頼まれたんですからね、私達は〜。あの子が返ってくるまで……しっかりやらなきゃ〜」
がさごそ
男子高校生「まぁなぁ……」
がさごそ
ダンス部員「……」
ガラガラー
保健教師「あれ? お二人とも図書委員でしたっけ?」
図書室に若い教師が入ってきた。
男子高校生「あ、これは」
ダンス部員「これは違うんですよ〜図書委員の友達の代わりに手伝ってるだけなんですよ〜!」
保健教師「あ、そうなんですか? 偉いですね」
男子高校生「……代わり身はやっ」
どぼっ
男子高校生「ごふっ!」
ダンス部員は誰にも悟られぬように少年の腹部に拳をめり込ませ、耳元で小声で囁く。
、
ダンス部員「いいですか〜……変なこと言ってないでしばらく黙っててくださいね〜。私はあの人とお話がありますから〜」
男子高校生「うぃ、うぃ」
保健教師「あれ? 大丈夫ですか男子高校生君。なんだか具合が悪いんじゃありませんか?」
ダンス部員「い〜え〜大丈夫ですよ〜彼はいつもこんな感じなんです〜」
保健教師「いや、普段の授業の時間だとそうでもないけど」
ダンス部員「大丈夫です大丈夫です〜大丈夫ったら大丈夫〜それより先生、ちょっと人気の無い所に行きませんか〜?」
男子高校生「おまっ!! 先生までぼこるつもりか!?」
保健教師「え、えぇ!?」
ダンス部員「——」
ギン!
男子高校生「ひぃっ!?」
無言で振り向き睨みつける。
ダンス部員「そんなわけないじゃないですか〜……全く何を言っているのかわかりませんねぇ〜。さぁ先生〜? 誰もいないところへれっつご〜」
保健教師「え? あ、あれ? えっとその困るんですが」
有無を言わさぬ押しの強さで先生を連れ去ったダンス部員であった。
男子高校生「……」
ごと
少年はため息をついた。
男子高校生「……今頃どうしてるんだろあいつ」
<六/二十二 ロシア戦場>
ゴオオオオオ
女子高生「……」
赤一色となった大地で少女は一人立ちすくみ、空を裂く飛行機雲を眺めている。
その身は赤い鎧でかためられ、右手には巨大な大剣が握られ、左手の甲にはひし形の盾がついていた。
びちゃ
女子高生「!」
音に反応し振り返る少女。
スペイン勇者「どうやら、生き残ったようだなお前も」
そこには一人の男性が。
女子高生「……はい」
スペイン勇者「よろしい。これで勇者は誰一人かけることなくこの戦いを切り抜けられたわけだ。行くぞ、みんなが待っている」
女子高生「はい……」
ぴちゃ
少女の足元に転がっているのは無数の魔獣の死骸と、
カツン
女子高生「……」
数え切れぬほどの兵士達の死体だった。
<同日、ロシア軍基地>
カツンカツン
女子高生「!」
ざっ
メキシコ勇者「はっ。お前も無事だったんだ? 実戦経験浅いとか言ってたから、てっきりくたばってるものかと思ってたー」
女子高生「っ……」
たたたっ
ベトナム勇者「め、メキシコ勇者ちゃん、ダメだよ、やめようよ。仲間なんだし、女の子同士なんだし仲良くしようよっ!」
慌てて間に割って入る褐色肌の少女。
彼女はこうなることを予想してついてきたに違いなかった。
メキシコ勇者「は? うるっさい。同期だからってなれなれしくすんなって言っただろ?」
女子高生「……」
メキシコ勇者「……なんとか言わないのか? 日本で平和に暮らしてた新しい勇者さんよぉ」
女子高生改め日本勇者「別に……」
カツンカツン
メキシコ勇者「なっ!?」
少女は因縁をつけてきたグラマラスな少女の横を通り抜ける。
カツンカツン
ベトナム勇者「日本勇者ちゃん……」
メキシコ勇者「何だよ……あいつ」
<六/二十四 ロシア軍基地、作戦会議室>
フィリピン勇者(うわ、いっぱいいる……これ全員勇者なのか)
作戦ボードの前に立っている年端も行かぬ少年とスペイン勇者。
スペイン勇者「ではまた我が隊に一人勇者が加わったので、ここで全員の自己紹介をしておこうと思う。よろしいですね少佐」
少佐「あぁ。好きにしたまえ」
ぺら
軍帽を被った初老の男が、椅子に座ったまま書類に目を通している。
スペイン勇者「では向かって一番右の席に座っているのはベトナム出身の勇者だ。参入期は第四期」
がたっ
ベトナム勇者「は、はい! 私がベトナム勇者です。よろしくお願いします!」
名前を呼ばれたベトナム勇者は、立ち上がり頭を下げて挨拶をする。
スペイン勇者「その隣が同じく第四期メンバー、メキシコ出身のメキシコ勇者」
メキシコ勇者「……ういーっす」
スペイン勇者「その右後ろが日本出身の第五期メンバー、日本勇者だ」
日本勇者「……」
少女はこくんと頭をさげる。
スペイン勇者「えー……更にその後ろにいるのが」
ベトナム勇者、メキシコ勇者、日本勇者「「「「!?」」」」
一斉に振り返る勇者達。
???『キキキ』
それもそのはず、彼女達はこの部屋にこれ以上人間がいるとは思っていなかったから。
メキシコ勇者(気配なんて感じなかったけどなー……)
ベトナム勇者(え? え? もしかして、あれなの?)
日本勇者(……生気が感じられなかったから人形なのかと思ってた)
三人が見つめる先には壁にもたれかかったゴスロリの人形のような少女。
スペイン勇者「ロシア出身の勇者、彼女も日本勇者と同じく第五期選出メンバーだ」
???改めロシア勇者『キキキ』
スペイン勇者「そして同じく第五期、おそらく君が最後に選ばれた勇者となるだろう、フィリピン出身のフィリピン勇者だ」
フィリピン勇者「よろしくお願いします!!」
大きな声であいさつをし、ぺこりと頭を下げる。
ベトナム勇者「かわいーですー! うちの弟と同じくらいです!」
メキシコ勇者「はっ。私ガキには興味でないしー」
日本勇者(……最後?)
スペイン勇者「そうだ、彼が最後だ」
日本勇者「!?」
スペイン勇者「勇者の力を持つものが現れる人口比率を考えると、残りの人口の中には恐らくいまい……。いたとしても選出するための費用と時間がない」
日本勇者(心を、読まれた?)
スペイン勇者「ゆえに我々は……っと、私の紹介がまだだった。私はこの勇者小隊の隊長をつとめているスペイン勇者だ。出身はスペイン、選出時期は第二期だ」
フィリピン勇者「よろしくお願いします隊長殿!」
スペイン勇者「よろしい。というわけで、勇者の力を持つ者は我ら六人のみだ。共に力を合わせ、来たる最終決戦を戦い抜こう!」
ベトナム勇者(こ、こわいなぁ!)
メキシコ勇者(あーもうねみー)
日本勇者「……」
ロシア勇者『キキキ』
フィリピン勇者「あ、あの隊長殿、質問いいでしょうか」
スペイン勇者「なんだ? 俺に答えられることならばなんでもいいぞ」
フィリピン勇者「はい。えっと……第五期とか色々あるみたいですけど、第一期と第三期の方々はここにはいないのですか?」
スペイン勇者「あぁ、皆先にあの世に行った」
フィリピン勇者「い!?」
日本勇者「!!」
スペイン勇者「第一期メンバー、第三期メンバーともに全滅している。第二期も俺以外は全員死んでいる」
フィリピン勇者「そ、んな」
メキシコ勇者(あーあ、初っ端からそう怖がらせなくてもいいのに、全く人が悪いねー。ま、私達も通った道だけどさー)
メキシコ勇者は顔だけ振り返って日本勇者の顔を確認する。
日本勇者「……」
パッと見平静を保っているように見えるが、自分が見られていることにも気付かないほど狼狽しているのが見て取れた。
メキシコ勇者(ふふん)
フィリピン勇者「じゃ、じゃあ僕達は……僕達も死ぬ……んですか?」
スペイン勇者「恐らくだが、答えはYES。この場にいる全員が死ぬだろう」
フィリピン勇者「!?」
日本勇者「!」
少女の肩がびくりと跳ねる。
スペイン勇者「いくら我々の力が魔獣達に有効とはいえ、さすがに多勢に無勢だ。……不測の事態や油断さえなければ魔獣自体には後れをとることは無いと思うが、奴らには『大型魔獣』という大型の魔獣がいる。これに遭遇すると死亡確率は飛躍的に高まる」
スペイン勇者はボードに書き始める。
スペイン勇者「大型魔獣と遭遇した場合の生存確率は約三十パーセント。現在までに犠牲になった勇者は二名」
日本勇者(ただでさえ分母が少ない勇者が二人も……)
スペイン勇者「更にこの上には、魔獣の指揮官クラスの『魔族』というものがいる。外見は比較的に人間に近く人語も解す。そしてその力は勇者の力を完全に上回る」
日本勇者「!!」
スペイン勇者「魔族と思しき魔獣と遭遇した場合、必ず援軍を呼ぶこと。決して一人で戦おうだなどと思ってはいけない。かつて三人の勇者が力を合わせ魔族と戦った。その結果は……」
フィリピン勇者「……ごく」
スペイン勇者「同士打ちだ。勇者三人が命をかけてやっと……魔族一体に届く」
日本勇者「魔族は……あとどれだけいるんですか?」
ベトナム勇者「……う」
メキシコ勇者(あーあ)
スペイン勇者「……現在確認しているものだけを数えると、十八体」
日本勇者「!!!!」
フィリピン勇者「そんな……! それじゃあ、どうやっても勝てないじゃないですか!!」
少佐「やかましい、落ち着きを持て少年よ」
ぱさ
軍帽を被った男は初めて書類から目を離し前を向いた。
少佐「事態が絶望的なのはこの基地にいる誰もかれもが知っている。百も承知なのだ。それでも闘わねば一縷の望みすら掴めぬ」
フィリピン勇者「っ!」
少佐の落ち着いていて、威厳のある声は少年を黙らせた。
少佐「ふん、大体全てを貴様らに倒せなどとは言ってはいない。なりふり構わずやつらの脳天に核をブチ込んでやるって手段もある」
スペイン勇者「……現に軍は魔族の二体を核で葬っている」
補足とばかりにスペイン勇者は付け足した。
少佐「……貴様らに貴様らの唯一の使命を言い渡す」
少佐は勇者全員の顔を見てから次の言葉を紡ぐ。
少佐「貴様らは持てる力の全てを出しつくし、魔獣の王、『魔王』がいると思われる城に突撃し、魔王を倒すことだ」
日本勇者「!」
メキシコ勇者「それは初めて聞いた……おいおい嘘だろ? 魔王って魔族より強いんだろ?」
スペイン勇者「それはわからん。やつらのヒエラルキーの頂点に座していることは確実だが、戦闘力そのものはわかっていない」
メキシコ勇者「はっ、よくわからないやつを倒しにいけって? 冗談きついぜ」
ベトナム勇者「頭を潰せば、この戦いに勝てるの……ですか?」
少佐「知るか。だが、それしか策は無いと上層部が判断した」
ざわ
勇者達に動揺が走る。
スペイン勇者「……どの道このままいけば数年も持たずに人類は滅ぼされてしまう。今となっては全ての魔獣を殲滅することもできない。それならば敵の王を倒すしかない、ということだ」
メキシコ勇者「はー。まー私はどの道何やっても負けだと思ってたからさー、今更いいんだけどねー」
少佐「む」
少佐に睨まれるも、メキシコ勇者は何食わぬ顔でそっぽを向く。
ベトナム勇者「魔獣の拠点、城ってどこにあるんですか?」
少佐「我々が勝手に城と呼んじゃあいるがな、見た目は城じゃない。お前らも良く知るペルシャのパサルガダエの地下だ」
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