千早「賽は、投げられた」 (545)
一番最初。
私が気付くよりもずっと前。
生まれたままの姿の私は、何も持っていなかった。
その目は、母親の姿を見つけてさぞ安心したことだろう。
記憶はない。
だから、憶測でしかない。
私の前に置かれた、一枚のシート。
すごろく。
スタート地点に、私の駒がぽつんと佇む。
まっさらな出発地点から、私は始まる。
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私は手探りだった。
何をすればいいのか。
何をすれば幸せになれるのか。
そんなことは、誰も教えてくれない。
私の手に握られたさいころ。
これが私の全てだ。
小さなキューブに詰まった私の未来は、とても綺麗に、輝いて見えた。
さいころを振る。
『1』
駒を進める。
『両親の愛情を得る』
『1マス進む』
良かった。
私は、幸運に恵まれているらしい。
私は幸先のいいスタートを切ることになった。
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