「ミカサ?入るよ?」
アルミンがミカサの部屋を訪ねると、
彼女は窓際の椅子に腰掛けて、目を閉じたまま、何か小さな物体を抱きしめていた。
悔しいことに、彼より10センチも身長の高いはずの彼女が、とても小さく、今にも消えてしまいそうに感じた。
入室時に声を掛けたにも関わず、ミカサはアルミンの存在に気がついていないようだった。
彼女の性格上、精神が壊れてしまっても、何の不思議も無い事態がつい先日起きた。
「ミカサ?大丈夫?」
もう一度声をかけると、ようやく気がついたようだ。
顔をあげで、彼女の黒曜石の瞳が彼を捉える。そして笑顔でこういった。
「アルミン、エレンが帰ってきた。」
あぁ、やはりエレンはミカサを連れて行ってしまったんだ。
ミカサの無邪気な笑顔を見つめて、アルミンは絶望する。
前回の壁外調査にて、エレンイエーガーは命を落とした。
僕はその現場を見ていないが、りヴァイ兵長とミカサはその場に居合わせたらしい。
無数の巨人と戦い、噛み付き、齧り取られ、最期は巨人体のまま、灰になって燃え尽きてまったそうだ。
思いの外、ミカサは冷静だった。
もしもエレンに先立たれることがあったら、きっと、身も世もない程に泣き崩れるものと勝手に思っていたけれど、そんなことはなかった。
それどころか、エレンを守れなかったこと僕に詫び、涙を流す僕の肩をずっと抱いていてくれた。
あぁ、ミカサはもう、ずっと前からエレンの死をを覚悟していたんだって、僕は安心していたのに、、、、、。
くすっ。
ミカサが声を出して笑った。白い月がミカサの表情を照らし出す。
「安心して、アルミン。私は正常。
帰ってきたのはこれ。さっき、兵団の人が届けてくれた。」
右手を差し出したミカサの手のひらには、一つの金属片が乗っていた。
ードックタグ。
兵団では、遺体の損傷が激しく、亡くなった人物を特定出来ない場合が多々ある。
その場合に遺族は、いつまでも帰らぬ人を待つことになる。
希望を捨てきれ無いというのは残酷だ。疲弊しつつ、いつまでも死んだ同僚の帰りを待ち続ける遺族たちを見て、兵士達は、自分の家族には、同じ思いをさせたくないと思い、自主的にこの札を持ち始めた。
また、せめてこの札だけでも、自身の分身として、愛する人の元に帰りたいと願って。
焼けて少し溶けていたが、確かに表面には
toミカサアッカーマン エレンイエーガー
じんと刻んであった。
「私とエレンは家族。でも、もうシガンシナの家もないし、もともと血のつながりもない。」
ミカサの眼は強かった。
「だからせめて、お互いがお互いの家になろうって。
お互いがお互いの最期に帰る場所になろうって決めていた。決めて、二人で持っていた。」
ミカサが手のひらの上のドックタグを裏返す。
「エレンらしい。せめて、最期のメッセージなんだから、愛しているとか、洒落たことを書けばいいのに。」
裏面にはひとこと、
「ただいま」と。
「おかえりなさい。エレン。」
ミカサは微笑んだ。
突然すみません(^_^;)
欝展開なエレミカですが、短いので良ければ暇つぶしに読んでくださーい。
台風ですしね!
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