あかり「ずっと贈りたかった言葉があるんだよ」(1000)

「ありがとうございましたー」

店員さんの機械的な声を背に、私は買ったばかりの肉まんを口にくわえた。
熱い。
もうそろそろ寒いとはいっても、まだ帰り道にほかほかの肉まんを食べるのには
早すぎる季節なのかもしれない。

ちなつ「はーあ」

溜息を吐いて、立ち止まる。
高校生になって三年目の冬は、もう目前だ。いっそ早く冬になってしまえばいいのに。
中途半端な時期に生まれてしまった自分自身を呪いたい。

今年の誕生日も、一番大切な人からはきっと祝ってもらえない。
だって、一番大切な人なんていないから。

ピッピッピッ
ブレザーに入った携帯を開け、私は今振られたばかりの子からの着信やメールを
すべて削除した。

高校生になって、これで何度目だろう。
この三年の間にたぶん数回は恋してそれで全て振られた。

当たり前といっちゃ当たり前なのだろうけど、でも告白せずに終わりたくはなかった。
初めて好きになった人のことがあるから。

中学生のときの初恋。その人は先輩で、本当に素敵な人で、だけど私は何も出来ないまま
彼女は卒業してしまった。それっきり、今でも連絡はあるけれど、彼女には他に大切な人がいる。
一年のブランク。それが長かったわけじゃなく、何も伝えられなかった私が悪い。

だから玉砕するとわかってはいても、私は伝えてしまいたかった。

ちなつ「……もう、高校卒業するまでは恋愛はお預けかなー」

携帯を閉じて、もう一度肉まんにかじりつく。
もうすっかり熱は冷めてしまっていた。


家に帰って机に向かっても、今日は勉強する気なんてまったく起きずに早々に
布団にもぐりこんだ。
温かい布団が気持ちよくて、まだ早い時間なのにうとうととする。

だから最初、枕元の携帯がぴかぴかと光っていることに気付かなかった。
それでも暗闇の中、何か光が瞬いているのに気付いて携帯を開けた。
京子先輩からの電話だった。

京子『もしもーし』

ちなつ「京子先輩……?」

京子『もしかして寝てた?』

ちなつ「寝そうになってましたよせっかく気持ちよかったのに」

京子『わるいわるい』

そう言って笑う京子先輩の声はまったく中学生の頃と変わっていない。
けれどこの前会った京子先輩は、驚くほど大人っぽくなっていて。
そりゃもう大学生だし、それなりに京子先輩だって思うところはあるんだろうけど。

やっぱり、結衣先輩と一緒にいるからなのかな。
そんなふうに思ってしまうときがある。
まだ未練あるのかなとか、バカなこと考えてしまう。
私はそんなに未練たらたらな女じゃないはずなのに。

ちなつ「どうしたんですか?」

京子『んー?勉強頑張ってるかなって……』

ちなつ「寝てたって言いましたよね」

京子『頑張ってないのか』

ちなつ「まあ……第一志望は一応推薦だから受かると思います」

京子『第二志望は?結衣もさ、もちろん私もちなつちゃんと同じ大学に行きたいなって思ってるんだけど』

第二志望の大学は京子先輩と結衣先輩の通う学校。
私でも手が届かないほどレベルの高い学校というわけでもなく今からでも少し頑張れば
入れるところだけど、私はどうしても、行きたくなかった。それはもちろん、昔みたいに
結衣先輩たちと一緒にバカ騒ぎできたらいいと思う。それに今はもう、失恋の傷だって癒えてしまっている。
それでもなんとなく、嫌だった。

けれど誘われているのに志望校にすらいれないのもそれはどうかと思って、一応形だけの
第二志望として受験することになっていた。
念のために第一志望校は絶対に入ることのできる場所を選んで。

京子『まあ推薦で受かるんだったら無理か』

ちなつ「ですね」

京子『あかりも違う大学受けるって言ってるしなあ』

寂しげに溜息を吐きながら、京子先輩が言った。
あかり。
その名前を久し振りに聞いた気がする。

赤座あかりちゃん。
中学校のときに同じクラスで、同じごらく部のメンバーとして仲良くしていた。
けれど高校が別々になってしまってからは、あまり会わなくなってしまった。
始めの方はそれなりに電話やメールもしていたのに、今じゃそれも途絶えてしまっている。

ちなつ「そういえばあかりちゃん、どこ行くんですか?」

京子『なんかお姉さんと同じとこ行きたいみたい』

ちなつ「あそこって難しいんじゃ……」

京子『浪人する覚悟でとか言って笑ってたよ。まあ、あかりだし行けるんじゃね?』

たしかに、あかりちゃんは中学校のときもこつこつ勉強してたから結局すごく
レベルの高い高校に行っちゃって。
今だってこつこつ勉強してさーっと手の届かないところに行っちゃうんだろうな。

ちなつ「……遠いですよね」

京子『遠いね。お姉さんは家から通ってるけどあかりは家出たいって言ってたしね』

ちなつ「あかりちゃんが一人暮らしって、想像できないかも」

京子『まああれでも結構しっかりしてるしなあ』

ちなつ「よけい会いにくくなっちゃうな……」

ぽつりと呟いただけなのに、京子先輩は『最近会ってないんだっけ』とご丁寧に
その言葉を拾ってくれた。

ちなつ「中々会う時間もないですし」

そう答えると、京子先輩は『うん』と頷いて押し黙った。
そのまま時間が過ぎる。

あかりちゃん、元気にしてるかな。

突然そんなことを思った。
最後にメールが来たのはたぶん夏休みが入る前。まだ数ヶ月前なのに、もう随分と
懐かしい記憶のような気がした。

京子『たまにはあかりに電話でもしてやったら?』

やがて京子先輩がまた口を開いて。
私は「そうですね」
頷いた。

それでもたぶん、私からあかりちゃんに電話することはないと思う。

>最後にメールが来たのはたぶん夏休みが入る前。

最後にメールが来たのはたぶん夏休みに入る直前。

私たちの卒業式の日。
あの日から、私たちの友達としての関係は崩れてしまったような気がする。
でもたぶん本当はあの日からなんかじゃなくって、もっと前からだ。

あの時突然、目の前が真っ暗になって、それで――
今でもまだあかりちゃんの唇の感触を思い出すことが出来る。
それは練習としてではなくあかりちゃんの意思によるもので、それでも重ねた唇が
震えていたことを、今でもよく覚えている。

今までありがとう。

あかりちゃんの声が、確かにそう言っていたことも。

ちなつ「……」

人差し指でなぞる唇。
リップを塗っていないそれは、少しガサガサしていた。

京子『んじゃ、そろそろ切るね』

ちなつ「あ、はい。本当に用、勉強してるか確かめるためだったんですか?」

京子『いや、久々にちなつちゃんの声が聞きたいなってさ』

結衣先輩がいるくせに。
そう呟いた声が聞こえたのか、最後に「ごめんね」という声が聞こえた。
謝って欲しかったわけじゃなかったのに、私こそなんだか申し訳なくなってくる。

ちなつ「おやすみなさい」

だから私はそう言った。
京子先輩は、明るい声で「おやすみ」と返してくれた。

―――――
 ―――――

次の日。
京子先輩からの電話で紛れた気も、突然深夜にぐずぐずとやな感じの気持ちが
広がって結局うまく眠ることが出来なかった。京子先輩から電話が来なかったら
ちゃんと眠れてたかもしれないのに、なんて理不尽な怒りを覚えつつ今日最後の授業を受ける。

もうほとんど教えられることなんてないはずなのに、どうして授業に出なきゃ
いけないのか。
そんなふうなことを考えてうとうとして。

昨日振られてしまった子とはもう話していないし、違うクラスの子でよかったと
思う。こんな姿を見られたら、本当に自分のことが好きだったのかと疑いをもたれそうだ。
失恋したはずなのに呑気に居眠りなんかして、今までもそうだったからこそ振られちゃったのかもしれないけど。

実際本当に好きだったんだと思う。
本当に好きでも、後を引くほど好きになったわけじゃない。
告白して、気持ちを伝えてしまったら全てがなんだかすっきりして、もういいや、と
思ってしまうのだ。

ちなつ「……」

きっと、結衣先輩に関してだけは違って。
あれほど好きになった人にはなにも伝えられないままなのに、なんとなく人生って
ひどいものだなあと思う。

もう結衣先輩以上に好きになれる人なんていないんじゃないんだろうか。
なんて。
たまに不安になる。


キーンコーンカーンコーン
校舎中を震わせるほどのチャイムが鳴り響いてすぐ、私は帰り支度もそこそこに
教室を出た。

結局最後の授業はずっと半分眠ったまま聞いていたから、ろくにノートもとれていない。
一応最後の最後まできちんと授業を受けなきゃなんないはずなのにな。
ぼんやり考えながら駅まで歩いて電車に乗る。

ちなつ「帰ったら単語して……」

うとうと。
うとうと。

いつのまにか電車の椅子に座って揺られているうちにまたまどろんでしまっていたらしい。
気が付けば、二駅も乗り過ごしていた。
慌てて立ち上がった。今止まったばかりの駅をおりて、走り去っていく電車を見送る。

ちなつ「あ……」

その電車が過ぎ去ってすぐに、私は思わずそんな間抜けな声を上げていた。
顔もたぶん、ひどく間抜けだったと思う。
見慣れたその人も、同じようにぽかんと私を見ていた。合った目も逸らせずに。

人身事故のため七森駅方面の電車が遅れています。
そんな駅のアナウンスが、私たちを現実に引き戻してくれた。
目が逸らされ、でも確かにその人の唇は私の名前を呼んだ。

ちなつ「あかりちゃん」

私もそう、返した。
その人は――あかりちゃんは、遠くでもわかるくらいに、
中学生の頃とちっとも変わらない困ったような顔でこくんと頷いた。

――――― ――

あかり「ちなつちゃん、久し振りだね」

ちなつ「うん、久し振り」

この辺りじゃすっかり珍しくなってしまったセーラー服に身を包んだあかりちゃんが
私の隣を歩きながらそう言った。
高校生になった頃メールで見せてもらった写真よりも今のあかりちゃんは随分とその制服が
板についていた。

あかり「まさかここで会うとは思わなかったよぉ」

学校へは反対方向だし、帰る時間帯も違うから帰り道に会うなんてことはこの三年間、
一度だってなかった。
「私も会うとは思わなかった」と溜息混じりに答える。

あかり「乗り過ごし?」

ちなつ「そんな感じかな」

そんな感じもなにも、そうとしか言いようがないわけだけど。
乗り過ごしたなんてことを素直に言うのは少し恥ずかしい。

あかり「そっかぁ」

ちなつ「あかりちゃんは今帰りだったの?」

あかり「うん、久し振りに早く帰ろうかなって思って」

最近はあんまり家に帰らないで図書館やどこかのお店で勉強してるんだぁ、と
にこにこあかりちゃんが言う。

ちなつ「あー、じゃあ残念だね、早く家に帰れなくて」

けれどさっきアナウンスがあったとおり、今は事故で電車が動かない状態で。
動くのには少し時間がかかると駅員さんが説明しているのが聞こえた。
あかりちゃんは「うん」と苦笑しながら、でも、と付け足した。

あかり「ちなつちゃんとこうやって話せるからラッキーかなぁ」

さっきの困ったような顔と同じく変わらない笑顔であかりちゃんはそう言った。
私は突然気まずくなって、あかりちゃんが見られなくなった。
もうだいぶ昔のことなのに、おまけに自分からしたことだってあるくせに、なんだか
目を合わせづらかった。

ちなつ「そ、そっか」

あかり「うん」

ちなつ「……」

あかり「……」

不自然な沈黙。
こういうとき、いつも先に口を開いてくれたのはあかりちゃんだった。けれど今日は、
あかりちゃんはずっと何も言わないままで。
私はいたたまれなくなって、「駅、出る?」と小さな声で言った。
あかりちゃんは「そうだね」といつもの声で答えた。

―――――
 ―――――

乗り越した分のお金はもちろんちゃんと払って、あかりちゃんも駅員さんにきちんと
伝え、私たちは駅を出た。
少しずつ暗くなってきた空をあかりちゃんはちらりと見上げた。

あかり「雨、降りそうだね」

ちなつ「あ、ほんとだ」

雨の降り始めのときのように、私たちはぽつりぽつりと会話を交わしながら
駅前の喫茶店に入った。
あかりちゃんはよく来ている場所らしく、慣れたように奥の席へと進んでそこに
座った。私もその前の席に腰を下ろす。

ちなつ「慣れてるね」

あかり「えへへ」

あかりちゃんはそう笑っただけで、「何か頼もうか」と私にメニューを差し出してきた。
確かに入って何も頼まずにいるのはまずいので、適当に一番安いコーヒーを注文することにした。
あかりちゃんも同じらしく、やってきた店員にそれを二つくださいと注文した。

あかり「最近はお金節約するようにしてるんだ」

ちなつ「あ、そうなんだ」

あかり「一人暮らしの資金、ちょっとでも貯めなきゃね」

昨日、京子先輩から聞いていたからそれほど驚かなかったとはいえ。
やっぱり本人の口から実際に「一人暮らし」という言葉が出るとなんだか突然、
おかしな気持ちになった。

ちなつ「……うん」

あかり「ちなつちゃんにはまだ言ってなかったかな」

ちなつ「昨日京子先輩から聞いたよ」

あかり「そっか、京子ちゃんも結衣ちゃんもね、あかりがそう言うとすっごく驚いた顔されちゃった」

ひどいよね、二人ともとあかりちゃんは膨れながらも笑っている。
そんなあかりちゃんを見ながら、やっぱり今でも、と私は思う。
やっぱり今でも、その関係が崩れて変わってしまったとしても、私の中じゃあかりちゃんの存在自体は
決して変わっていない。

こうして寂しくなるくらいにはあかりちゃんのことが嫌いになんてなれていなくて、
今でもまだ、私の中じゃあかりちゃんは大切な友達としての存在を保っている。

ちなつ「……私だって驚いた」

あかり「えぇー、そんなに驚くことかなぁ」

ちなつ「驚くよ、あかりちゃんが遠くへ行っちゃうってことでしょ」

あかり「ずっとじゃないけどね」

ちなつ「それでも、しばらくはばったり会うことだってなくなっちゃうよ」

あかり「……うん、そうだね」

今みたいに、ばったりも会わずに、会いたいときにも会えなくて。
中学校を卒業したあの日から、なんとなくあかりちゃんとの距離はこのままずっと
離れていくだけだと思っていたのに。それでいいと思っていたのに。
いざ、こうしてあかりちゃんと会って話をしていると、なんだかそれは違う世界の出来事のような
気がして、そんなのは嫌だなんて、矛盾した気持ちが溢れてくる。

ちなつ「家からでも通えるんでしょ」

あかり「お姉ちゃんはそうしてるけど、あかりは家を出たいから」

ちなつ「どうして家、出たいの」

あかりちゃんは答えなかった。
ただ、「高校に入ってからずっと考えてたことだから」と。
店員さんがやってきて、私たちの前にぬくぬくと湯気をあげたコーヒーカップを
置いていった。

あかり「ここのコーヒー、苦いんだよね」

一緒に置かれた角砂糖を二つ、真っ黒な液体の中にぽちゃんと落とす。
そんなあかりちゃんの真似をして、私も角砂糖を白と茶色を一つずつ、落としてみる。
ついでにミルクもいれたけど、あかりちゃんはいれなかった。
あかりちゃん、こういうところのコーヒーはミルクをいれなきゃ飲めなかったのに。

ちなつ「……」

あかり「……」

変わったのか変わってないのか、わからないよ。
心の中で呟いた。

白いカップに口をつけ、あかりちゃんの言う苦いコーヒーを少しだけ喉の奥に
流し込んだ。
冷ましもせずに飲んだから、熱くて味なんてわからなかった。

「熱っ」
置かれていた、コーヒーの倍の量の水を流し込むと、あかりちゃんがぷっと噴出した。

ちなつ「も、もう、笑わないでよー」

あかり「……えへへ、ごめんね。懐かしいなあって思っちゃって」

ちなつ「中学生の頃も、こんなことあったっけ」

あかり「そうじゃないけど……こうやって、ちなつちゃんとお茶飲むの」

お茶というよりコーヒーだけどね、とあかりちゃんはまた笑った。
私はカップを受け皿に戻すと、もう一口冷水を口に含んで。
こくん。
それが喉の奥を通っていくのを感じながら、「そうだね」と頷いた。

確かに、あかりちゃんの言う通りだった。
こうやってきちんと向き合って話をするのは、中学校を卒業して以来。
これまでも会ってはいたけどこんなふうに話したのは一度だってなかった。

あかり「久し振りにちなつちゃんのお茶、飲みたいなぁ」

ちなつちゃんの淹れてくれたお茶はすごく美味しくて、
今でもあかりのお気に入りなんだよ。

お姉ちゃんに教えてもらったお茶の淹れ方。
それに色々手を加えたりして勝手に編み出した、チーナ式茶道を思い出す。
今思うと、なんともダサい名前だなあなんて思うけど。

そのお茶をいつも美味しい美味しいと飽きずに言って飲んでくれていたのは
あかりちゃんだった。

ちなつ「知ってるよ、あかりちゃんが気に入ってくれてたの」

あかり「えへへ、そっかぁ」

だからいちいちそんなこと言葉に出して言わなくてもいいのに。
照れ臭いし、なにより今の私は、そんな言葉は声に出してしまったら消えてしまうんじゃないか、
そんなふうに思ってしまうから。

本当に言いたいことはずっと言えずに、
伝えなくてもいいようなことを伝えてしまえばもうその気持ちは嘘になる。
もちろん、あかりちゃんの言葉が嘘だなんて思わないけど。
嘘になってほしくはなかった。

あかり「また、飲めるといいな」

そんなこと言うなら遠くに行くなんてこと、やめちゃえばいいのに。
あぁ、本当に私は矛盾してる。
別にあかりちゃんがここからいなくなってしまっても構わなかったはずなのに、
どうして今はこんなこと思ってしまうんだろう。

それほどにあかりちゃんの存在は大切で、あかりちゃんは私にとって一番の友達だった。
なのに中学生の最後、どうしてあかりちゃんは自分からそれを壊すようなことを
してしまったんだろう。

そんなふうな、おかしな怒り。

ちなつ「……うん」

それを押し殺して私は頷いた。
あかりちゃんは一瞬だけ、寂しそうな顔をした。

そんな顔、しないでよ。
どうしてそんな顔しちゃうのよ。

ちなつ「あかりちゃん、淹れ方教えてあげよっか」

あかり「え?」

ちなつ「……一人暮らしするとき、ちょっとは役に立つかも」

これであかりちゃんと会うのは最後だったかもしれないのに。
私は突然、自分で考える間もなくそう言っていた。
あかりちゃんが驚いたような顔をする。

あかり「いいの?」

ちなつ「今日は無理だけど、別の日に家に来てくれたら教えられるよ」

そう言うと、あかりちゃんは一瞬迷ったような表情をした。
私は自分でも何を期待していたのかはわからない。
だけど、あかりちゃんが「うん、わかった」と。
そう頷いてくれたとき、私は確かに安堵した。

あかり「……ありがとう、ちなつちゃん」

ちなつ「……うん」

ぬるいコーヒーを、口に運ぶ。
苦いはずのコーヒーが、固まった砂糖でひどく甘かった。


携帯が鳴った。
誰からだろうと開けてみると、京子先輩でも学校の友達からでもなく、結衣先輩からの
着信だった。

ちなつ「も、もしもし?」

結衣『あ、ちなつちゃん。久し振り』

ちなつ「お久し振り、です……」

だんだん声が小さくなる。
今帰って来たばかりで、だらしなく着崩した制服のままだ。
脱ぎかけていたブレザーだけはせめてきちんと着直して、私は椅子にちょこんと
腰掛けた。別に結衣先輩が見ているわけでもないのに。

結衣『昨日、また京子がどうでもいい電話したでしょ?』

ちなつ「あ、はい」

結衣『ごめんね』

ちなつ「い、いえ!結衣先輩が謝ることじゃ――」

結衣『……うん、そうだね』

どうしたんですか。
私は訊ねた。『ううん』と結衣先輩が小さく息を吐いたのが聞こえた。

結衣『……ちなつちゃん、昨日ちょっとへこんでたって聞いたから』

やがて、白状するように結衣先輩が言った。
その言葉に、私は今でも結衣先輩のことが好きなんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。
結衣先輩は優しい。優しいから、時々その優しさを酷いと思ってしまうときもある。

ちなつ「……また振られちゃったんで」

だから少しだけ、攻めるような口調になってしまった。
結衣先輩は『そうなんだ……』と戸惑ったような声を搾り出して。

結衣『……新しく、いい人が見付かるといいね』

ちなつ「……はい」

そんな簡単に見付かってしまえるのなら、今だって私はこんな気持ちにならなくて
済んでるはずなのに。
結衣先輩の傍にはずっと京子先輩がいて、きっと結衣先輩も京子先輩もお互いのことしか
見えていなくって。だからそんなふうに、新しい恋なんてすぐに見付かるなんていう錯覚に
陥ってしまうのだ。

結衣『ごめん』

もう一度、結衣先輩はそう言った。
まるで昨日の京子先輩と同じだ。こういうところも、嫌だった。
嫌なのに、どうしてあのとき、あんなに好きになってしまったんだろう。
こういうところも含めて。

早く、早く忘れてしまいたい。
なのに忘れてしまえるほどの気持ちを誰も私に与えてくれない。酷い話。

ちなつ「……結衣先輩」

結衣『……なに?』

ちなつ「一番近くにいる人を好きになれたら、きっと一番楽なんですよね」

たとえば結衣先輩が京子先輩の幼馴染で、ずっと近くにいたように。
だから気持ちが通じ合って、今も一緒にいる。
だったら私も、結衣先輩の近くにいたかった。幼馴染じゃなくてもいい。
一番の友達として、もしくは一番の後輩として、傍にいたかった。

結衣『……そうだね』

でもきっと。
結衣先輩は、言った。

結衣『でもきっと、一番近くにいるからこそ気付かない事だって多いんだよ』

風呂いってきます

私がずっと、京子のこと気付かなかったみたいに。
京子だって、私のこと気付かなかったみたいにさ。

自嘲気味にそう言ったあと、結衣先輩は『そろそろ切るね』と優しい声で。
私はこくんと頷いた。
電話なのに、見えないはずなのに。

結衣『勉強頑張って』

はい、と小さく答えた。
その返事を聞いた直後に、通話は切れる。

ツー、ツー、ツー

ちなつ「……」

勝てない。
そんなのわかりきってたことだ。だから、今更泣くなんてバカみたい。

私はふるふると犬か猫みたいに頭を振った。
溢れてきそうになる涙を堪えながら、乱暴に制服を脱ぐ。
ブレザーやスカートはハンガーに吊るして、リボンは机の上に置いて。
置きっ放しの部屋着を適当に着て、私は机の前にどすんと座り込んだ。

ちなつ「……」

こういうとき、寂しさを紛らわすために電話をしていた子は、振られてしまったために
できるはずもなかった。
それなら誰に。
そう思った時浮かんだのは、他でもないあかりちゃんだった。

つい昨日までは、私からあかりちゃんに電話することなんてないと思っていたはずなのに。
私は携帯を取り上げて、アドレス帳のあ行を辿っていった。
赤座あかりと、最初の方にその名前を見つける。

今日会ったばかりとはいえ、久し振りに電話をかけるのは少し緊張した。
通話ボタンを押してしまえば済むことなのに、どうしてもそれを押すことが
できなかった。

そのうち、そんな自分までが嫌になってまたバカみたいに泣きそうになって。
思わず携帯を壁に投げつけてやろうと思った時だった。

携帯が震える。
メールだった、あかりちゃんからの。

『件名:久し振りにメールするね
 本文:今から電話してもいいかな?』

そんな短い内容なのに。
今の私には、どんな長文の励ましメールよりも、誰かからの告白よりも嬉しくて
仕方が無かった。

そういえば、いつもそうだったなあと思った。
あかりちゃんは、いつも私が話したいと思った時必ず傍にいてくれた。
まるで私の気持ちがわかっているみたいに。

『件名:RE:
 本文:待ってるね』

たった五文字が、あかりちゃんのもとへ。
そしてそう何分も――もしかして、何秒も経たないうちに電話は来た。

ちなつ「はい」

少し待ったりなんてしなかった。
電話だってメールだって間をあけたほうがいいなんて聞いたことがあるけど、
たぶん相手があかりちゃんだからこそそんな小細工なんてする必要さえなくて。

あかり『えへへ、あかりだよ』

ちなつ「……うん」

あかり『ごめんね、突然電話していいかななんて』

ちなつ「ううん、大丈夫」

電話してきてくれて嬉しかったよ。
心の中で、そうあかりちゃんに伝える。

あかり『そっか……』

ちなつ「うん」

どうしたのとは聞かなかった。
用があってもなくても、あかりちゃんに電話を切って欲しくない。せめて今だけは。
誰かと繋がっていられることを確認していたかった。

あかり『……ちなつちゃん、元気そうで良かった』

ふいに、あかりちゃんはそう言った。
私も「あかりちゃんだって」と返す。

あかり『ずっとちなつちゃんのこと、気になってたから』

ちなつ「……」

あかり『会えて良かったよ、久し振りに一緒にお茶も出来て嬉しかった』

なんだか、まるでその言い方はこれで最後みたいだと思った。
本当にそんな口調で言うから。
きっと、今抱えていた寂しさもあったんだと思う。だから私はあかりちゃんの声を
遮って、「いつ来るの?」

あかり『……え?』

ちなつ「お茶の淹れ方、教えてあげるって言ったもん。私はその約束ちゃんと守るよ」

夕方だって、あかりちゃんは来るって頷いたじゃん。
ありがとうって、そう言ってくれたじゃん。

私はあかりちゃんに何も無いのにありがとうなんて言われるような
人間じゃないし――本当はあの時だって、今でもどうしてありがとうなんて言われたのか
わからないけど。

あかり『……』

ちなつ「私は受験、もうすぐ終わるからいつでもいいよ」

あかり『……うん』

控えめにあかりちゃんは頷いた。
それから、次の土曜日でいいかな。そんな声がした。

ちらっとカレンダーを見た。
何も無いことを確認する。ちゃんと確認する前に、頷いてしまっていたけど。

ちなつ「わかった」

あかり『ちなつちゃん』

ちなつ「どうしたの」

あかり『本当に、いいの?』

そんなあかりちゃんの声で、あかりちゃんだって何も気にして無いわけじゃないんだと
悟った。卒業式の日のことを。

ちなつ「あかりちゃんが来て、悪いことなんてないよ」

だったらやっぱり、私たちは友達だ。
まだ、友達でいられるし、友達でいたい。

あかり『……』

ちなつ「あかりちゃん?」

あかり『……そっか』

ちなつ「……うん」

それから私たちは他愛も無いことを話して、どうでもいいようなことを報告し合った。
中学校の一年生の頃担任だった先生がとうとう結婚したそうだとか、
同じクラスの○○ちゃんが誰々と駆け落ちしただとか、そんな噂話のようなものまで、
あまり話のできなかったこの数年間を埋めるように、私たちは話した。

一年のブランクなんてちっさいと思えるくらい長いブランクがあったはずなのに、
あかりちゃんとはそんな長い間の静寂なんて感じさせないくらい、以前のように
話すことが出来た。

やっぱり、あかりちゃんは一番の友達だったのだと、改めてそう思って。
『でもきっと、一番近くにいるからこそ気付かない事だって多いんだよ』
結衣先輩のその言葉を、私は忘れた振りをした。

やがて電話を切った頃にはすっかり夜になってしまっていて。
結衣先輩の隣にいられない寂しさは、あかりちゃんの声によって埋もれてしまった。
その代わり、誰かの声が聞こえない寂しさに襲われる。

ちなつ「……」

『件名:RE:RE:
 本文:また電話していい?』

『件名:もちろん!
 本文:明日もあかりからかけるね』

やっぱり短いメール。
だけどなんだかほっとした。

すまん明日早いのでそろそろ書けない
午後には戻る、保守してくれたら嬉しいですすいません

http://i.imgur.com/NTmD5.jpg

グハァ・・・
http://i.imgur.com/UUJfV.jpg

実習が終わるまで残っててくれよ・・・
http://i.imgur.com/Th2pd.jpg

保守ありがとう
>>139から続ける

キター!!


あかりちゃんは中学生の頃と変わらず優しかった。
勉強で忙しいはずなのに、あの夜からずっと私に電話を掛け続けてくれていた。
だから私は、結衣先輩からの電話を待っていたはずがいつのまにかあかりちゃんからの電話を
待つようになっていて。

それくらい、あかりちゃんの存在が私の中でまた大きく膨らみ始めていた。
中学生の頃とは違って、友達とはまた違う意味で。

失恋して寂しいときに優しくしてくれた人を好きになるとはよく聞くけど、だから
こんなふうにあかりちゃんの電話を待ってしまうようになったのは当然といっちゃ
当然なのかもしれない。
今までだって、結衣先輩からの電話後、必ず電話した相手のことを好きになったみたいに。

携帯が、小さく震えた。
私はろくに動かしもしていなかったシャーペンを放り出して、電話をとる。

あかり『もしもし、あかりだよー』

ちなつ「ん……」

あかり『昨日はすぐに寝ちゃってごめんね』

ちなつ「ううん、私こそ、毎日電話してもらっちゃって」

そう言いながら、小さく欠伸を一つ。
あかりちゃんの声を聞いているとなんでか眠くなってしまう。
まるで子守唄みたいだと思う、あかりちゃんの話も、あかりちゃんの声も。

あかり『今日はちなつちゃんが眠そうだね』

ちなつ「うん、そうかも」

あかり『切る?』

ちなつ「えっ、いいよそんなの」

ここ最近、沈黙が出来ても久し振りにあかりちゃんと会った日のように
気まずくはならなくて、むしろその沈黙さえ心地いい。
こういうとき、私は必ず中学校の頃を思い出すようになっていた。

あの時も、私たちの間になにも音がなくたって平気で。
それくらい、私たちは仲が良かったんだと今になって思う。

だからこそ、あかりちゃんに対して感じているこの微妙な感情は、結衣先輩や
他の女の子に対して感じていた気持ちとは違うものなんじゃないかとも思って、
わからなくなって。

恋ってなんだっけ。

そんなことを、考える。
たとえば卒業式の日、結衣先輩のことを忘れられずにいた私が結衣先輩を忘れていたら。
あかりちゃんのことを好きになったのかなとか。あのときのキスを、受け入れられたのかなとか。
今、あの日と同じことをあかりちゃんにあの日と同じことをされたら、私はどうするんだろう――とか。

ただ、結衣先輩のことを思い出さないでいられると、自信を持っては言えないと思う。
だからこの気持ちが本物なのかどうかわからずに。

あかり『あ、そうだちなつちゃん』

ちなつ「え?」

どれくらい、お互い黙り込んでいたのだろう。
突然、あかりちゃんが電話の向こうで思い出したように声を上げた。

ちなつ「どうしたの?」

あかり『明日、土曜日だよね』

ちなつ「あ……そういえばそうだね」

私はあかりちゃんに言われてそっとカレンダーに目を向ける。
そういえば、あかりちゃんと約束していた日は明日。
本当は先週の土曜日だったのに、あかりちゃんが行けないと今週に変わったのだ。

もしかしてまた来れなくなったのかなと身構えたものの、その後に聞こえたあかりちゃんの
楽しそうな声になんだと力を抜いた。

あかり『久し振りにちなつちゃんのお茶が飲めちゃうよぉ』

ちなつ「最終的にあかりちゃんが淹れるんでしょー」

あかり『あ、そっか。頑張って覚えちゃうよ!』

ちなつ「うん……」

頷いたものの、そういえば、と思う。
あかりちゃんが家に来るのは私にお茶を習いに来るからで、その理由はあかりちゃんが
もうすぐ遠くへ行ってしまうからだ。しばらくずっと、電波だけだとしてもあかりちゃんの
近くにいたから、そのことを忘れてしまっていた。

ほむほむほむ

あかり『明日楽しみにしてるね』

私の考えていることなんてきっと何も知らずに、えへへとあかりちゃんが笑った。
これで今日は切るつもりらしい。
それじゃあまた明日。そう言い掛けたのがわかって、私は「あかりちゃん」と呼び止めた。

あかり『なあに?』

ちなつ「えっと……あかりちゃん、私たちね」

あかり『うん』

なにも言えなくて言葉に詰まった私を、あかりちゃんは辛抱強く待ってくれた。
私たちね。友達だよね。
言おうとして、言えなかった。私が言いたくなかったわけじゃない。きっと、そう言ってしまえば
楽になれると思った。だけど、あかりちゃんに否定されたりしたら、そう思うと言えなかった。

ちなつ「……やっぱいいや」

あかり『……そっか』

ちなつ「ごめんね」

あかり『ううん』

ちなつ「……おやすみ」

あかり『……うん、おやすみ、ちなつちゃん』

―――――
 ―――――

翌日の土曜日、天気は微妙な曇り空。
それでも学校の無い土曜日はすっきりと目が覚めた。
ずっと土曜日に学校がなかった中学時代を過ごしていたから、この三年で慣れてしまったとはいえ
休日であるはずの朝の早起きは辛い。なのに休みになると自然と目が覚めてしまうのは不思議。

ともこ「ちなつ、お姉ちゃん出かけてくるね」

すっきり目覚めたついでに、部屋の掃除でもしようかとごそごそしていると
お姉ちゃんがなんだかご機嫌に私の部屋を覗いてきた。
今年で24歳になるお姉ちゃんは、大学も無事卒業して今は小さな印刷会社に勤めている。

ちなつ「今日休みなの?」

ともこ「ふふっ、そうなの」

ちなつ「デート?」

「えっ」と今にも家を飛び出していきそうだったお姉ちゃんがかあっと赤くなって
固まってしまった。
どうやらそのとおりらしい。

ちなつ「ふーん、そっか」

ともこ「えっ、あの、その……」

お姉ちゃん、いつまで経っても初心なんだよね。
休みの日なのにこんな早くに家を出て、しかもいつもより可愛い格好してご機嫌なんて、
誰がどう見たってデート以外考えられない。

ともこ「……うん、そう、なるのかも」

お姉ちゃんが恥ずかしそうにこくんと頷いた。
まあ、まだ認めるようになっただけマシかなあ。

ちなつ「頑張ってね」

ともこ「も、もちろんよ!」

ちなつ「そんなに気負わなくてもいいよ、お姉ちゃん可愛いし」

ともこ「そんなことないわよ!そういうちなつだって、気負わなくてもいいでしょ?」

ぽこんと頭をはたかれた。
髪についていた埃がぱらぱらと落ちていく。

ちなつ「あ……」

ともこ「今日は誰が来るの?また新しい子?」

ちなつ「……あかりちゃん」

ともこ「えっ」

お姉ちゃんがまた驚いたように固まってしまった。
何かあったらすぐカチンコチンになっちゃうんだから。こういうところが少し、
あかりちゃんに似てる気がする。

ちなつ「うん、あかりちゃんなんだよね……」

私ははあと大きく息を吐いて、今度は自分を落ち着かせるために呟いた。
あかりちゃんなのになあ。

いつまでも固まっているお姉ちゃんを玄関に追いやりながら、気負ってるわけじゃないと
自分に言い聞かせた。
けれど実際気負ってるのは誤魔化せない。

友達でいたい。
でも好きかもしれない。
矛盾した気持ち。

ちなつ「ほら、お姉ちゃんは行かなきゃいけないでしょ、デート」

ようやく我に返って「ご挨拶しなきゃ!」とかわけのわからないことをぶつくさと言っている
お姉ちゃんを送り出し、ようやく一人。

ふと時計を見ると、あかりちゃんが来るまであと数十分だった。

それから掃除しているはずだったのに逆によけいに散らかっている部屋をなんとか
片付けて、約二十分。
着替えたり髪を梳かしたりでもう二十分。いつもどおりの髪型にセットし終えたちょうど
そのとき、呑気なチャイムの音がした。

ちなつ「……」

ぴくっと鏡の中の自分が震えたことに気付いたけど、無視。
私は一度だけすっと大きく息を吸い込むと、玄関に駆けていった。

――――― ――

ガラリとドアを開けると、にこにこした笑顔であかりちゃんが立っていた。
「久し振りに来たから道に迷いそうだったよぉ」ととてもそうなっていた人とは
思えない口調でそう言って、あかりちゃんは少しだけ乱れていた髪を手で梳かした。

ちなつ「迎えに行けばよかったね」

そう言いながら、あかりちゃんを迎え入れる。
「お邪魔します」と、あかりちゃんは丁寧に靴を脱いで並べた。
こうして実際に会うのは数週間ぶり。

ちなつ「……」

あかり「どうかした?」

ついじっとあかりちゃんを見ていたせいで、靴を並べ終えて顔を上げたあかりちゃんが
不思議そうな顔をした。

ちなつ「あ、ううん……ちょっと髪伸びた?」

あかり「えっ、そう?」

ちなつ「そんな気がする」

私の中のあかりちゃんは、ほぼ中学生の頃の姿のまま留まっているからなんだか
随分と髪が伸びたような気がする。
この前会ったときは気づかなかったんだけど。

あかり「うーん、今ね、ちょっと伸ばしてるの」

ちなつ「髪?」

あかり「そう、さらさらロングヘアー、憧れてて」

そういえばあかりちゃんのお姉さんは髪長かったんだっけ。
前にお姉ちゃんに見せてもらった写真を思い出す。

ちなつ「そっかー、似合うんじゃない?」

あかり「えへへ、ありがと」

そう嬉しそうなあかりちゃんが、ふと動きを止めた。
そこに何かあったわけじゃない。けど、あかりちゃんが何を見ているのか
わかった気がして少し居心地が悪くなる。

練習のつもりでしたことだったけど、あかりちゃんはあのとき何を思っていたんだろう。
触れていた指の温もりが今にも蘇ってきそうになる。

あかり「……あ、お茶」

ぽつりとあかりちゃんが呟いた。
私はあかりちゃんに差し出しかけていた手をそっと背中に隠す。

あかり「ちなつちゃん、お茶淹れてくれる?」

そう言って、あかりちゃんはいつもどおりに立ち上がった。


あかり「誰もいないの?」

ちなつ「相変わらずお父さんもお母さんもお出かけ中」

あかり「そっかぁ」

とりあえずリビングのソファーにあかりちゃんを座らせて、私はかちゃかちゃと
お茶の用意。
あかりちゃんと再会してから、また自分でお茶を淹れるようになったからそれなりに
手際よくはできるけど腕は落ちちゃってるかもしれない。

ちなつ「前みたいに美味しくないかもよ?」

あかり「ちなつちゃんのは全部美味しいよ」

根拠のないことをあかりちゃんは平気で言って。
でもあかりちゃんが根拠もないのに大丈夫と言ったことは大抵大丈夫だから、
美味しく淹れられたのかもしれない。
そろそろと熱いお茶を、あかりちゃんの前に置く。

ちなつ「はい、どーぞ」

あかり「あっ、ありがとー。ずっと楽しみにしてたんだよ」

一旦あかりちゃんは居住まいを正すと、「いただきます」と手を合わせた。
お茶を飲むのに手を合わせる人なんてそうはいないから、なんだかおかしい。
熱いのにろくに冷まそうともせずあかりちゃんはお茶を口にした。

こくんと喉が動いて、それからすぐに幸せそうな顔になった。

あかり「ちなつちゃんだぁ」

ちなつ「……なにそれ」

あかり「えへへ」

それからすぐ、お茶が冷めてしまわないうちに私は「はい」とあかりちゃんに前にお姉ちゃんが茶道部で
使っていたお茶の淹れ方が書かれているコピー用紙を手渡して簡単に説明した。
あかりちゃんはわかったようなわからないような顔で頷くだけだった。

ちなつ「まあそんな感じかな」

あかり「また家に帰ったらやってみるね」

ちなつ「うん」

いつのまにかもうすぐ昼前。
どうでもいいような話も挟みながらだったから、簡単に終わらせるはずがかなりの
時間が経っていたようだった。

あかり「ちなつちゃん」

私と同じく時計を気にしていたあかりちゃんが、コピー用紙を持っていた鞄に
仕舞いながら言った。

あかり「あのね」

久し振りに見た、あかりちゃんの困ったような顔。
困ったような、というよりもきっと今のあかりちゃんを言い表すには泣きそうのほうが
ぴったりかもしれない。

あかり「あかり、そろそろ帰らなきゃ」

ちなつ「えっ……」

あかり「勉強、しなきゃいけないから」

ちなつ「あっ、うん……そうだよね」

まだお昼にもなっていないのに、あかりちゃんは鞄を持ってソファーから立ち上がる。
私はまだ向かい側に座ったまま、あかりちゃんを見上げた。
もう少し何か言いたそうに、あかりちゃんが私を見ていたから。

あかり「ちなつちゃんももうすぐ受験だよね」

ちなつ「一応だけど……」

あかり「お互い、頑張らなきゃだよね」

あぁ、と思った。
これからあかりちゃんが言わんとしていることが、わかった気がして。
私は「そうだよね」と、もう一度呟いた。

あかり「……あかり、しばらくちなつちゃんに電話もメールもできないかも」

ずっと練習してきたような口振り。
私は「うん」と頷いて。

あかり「ごめんね」

何度、私はごめんねと言われればいいんだろうか。
結衣先輩にも、京子先輩にも、そしてあかりちゃんにまで。

ちなつ「しかたないよね。受験、頑張ってね」

わかってた、きっとあかりちゃんの邪魔になってるだろうなってこと。
だけど毎日電話してきてくれたあかりちゃんにずっと甘えていたくて。
好きだとか好きじゃないとか、今はそんなことはどうでもよかった。
ただ、あかりちゃんの声が聞けない夜のことを思ってひどく怖いと思った。

「またね」と手を振った。
あかりちゃんは何も言わずに私に手を振り替えしただけだった。

その背中を最後まで見届けて、私は真昼なのになんだかひんやり寒い家の中に
戻った。
むなしい気持ちが押し寄せてきて、私はかたんとドアを背に座り込んだ。

ちなつ「……」

結衣先輩に会いたいな。
真っ先に思うのはそんなこと。

大丈夫。
私はまだ、結衣先輩のこと忘れてない。
あかりちゃんのことなんか、好きになんてなっていない。

おい・・・おぃいいい(´ ; ω; `)
切ないやないけ・・・

                 ィ- 、        ィ-..
           /⌒    /:   \   /   ヽ
       ゝ´⌒`´⌒`丶.、 ヾ::::::>-┴┴―<:::::/     -――‐- 、´ ̄`゙v-、, .-――‐-  、,-<_´  ̄⌒ヽ、
  ィ'⌒>'´          `<./            \ > イ::           \(⌒イ         く )⌒ヽ、  `、
  {{ ∨             /             く :              ヽ               ヽ `ヽ    ゙i
  八/ /   / |   | |  l ヽ/     /{  ∧     !:    /{:::∧  ::::  メ !    . ハ         i, ハ   ハ  ハ|
 / /    / 八 | { ∧/  ヽ/{_ /  . /_ ノ    .i:ヽ/{::/!::/ _i ノ ::::   .iィヽ.ハ | .| ||:ノΛ:::||l::ノ i    }: ノ |
 \{ l l /∨  \{ 八{ |{/|  / ∨  ∨    ヽ   |./ リ 乂   リ ヽ ::::メ }|__/└┘゙ーハ_,」 .ー|/ /」::   i/
   | l N≧z    z≦ ノ | ∨三≧    ≦三 ∨ !.三≧    ≦三 ∨::::: }三≧    ≦三 /::::く' )::.  (
   | :八|{ '''          ''' | .{ '''          '''  |  i'          '''  | ::: /''          ''' ∥ハ |"::)、{
   从 ハ      _ ノ    | ハ      _ ノ    .|/  |     _ ノ   ハリ:ハリ.     _ ノ   ノ' "ヽノ ヾ
   \Y^ゝ、. ____ /⌒Y^ゝ、. ____ /⌒Y Y^ゝ、. ____ /⌒YY^ゝ、. ____ /⌒Y

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―――――
 ―――――

その日の夕方だった。ぼんやりとテレビを見ていたら、意外な人からの電話。
その人は、「久し振り」の一言もなしに突然『ほんとなの!?』と
うるさいくらいの声で訊ねてきた。

ちなつ「えっ、ほんとって……?」

櫻子『あかりちゃんだよあかりちゃん!』

ちなつ「あかりちゃん?」

櫻子『だってだって、こっから離れちゃうって今日向日葵から聞いて吃驚してさ!』

中学の頃のクラスメイトだった櫻子ちゃんが、興奮したように早口でそう言って。
私はそっと電話を耳から離す。
結構そういう話って同級生の間でまわるものなんだなあ。そういえばあかりちゃんの前にも
誰かが上京するという話を聞いたことがある気がする。そこまで仲良くなかった子だから
聞き流していただけで。

ちなつ「あー……ていうかどうして私に電話なの?」

櫻子『ちなつちゃんが一番早く知ってるかなと思って!一番仲良かったし』

櫻子ちゃんとも高校は離れてしまって、連絡は絶え絶えだった。
だから私とあかりちゃんが会わなくなっていたことを知らないのだろう。
今日も。
あの日電車なんか乗り過ごさずにあかりちゃんと会わずにいたら、結衣先輩からの
電話のあと、寂しいなんて思わなかったら。

今日だって、私とあかりちゃんの距離はずっと離れたままだった。
一旦近付いてまた離れてしまう悲しさなんて、感じずに済んでいた。

櫻子『ちなつちゃん?』

ちなつ「……私もよく知らないよ」

櫻子『そっかー、やっぱ変わるもんなんだなー』

そうだよ、変わるものだよ。
中学から同じ関係が続くわけなんてない。そういう人たちがいたとしてもきっと一握り。
櫻子ちゃんと向日葵ちゃんがどうなっているのかはしらないけど。

まるで昔に戻ったみたいなんて思っていた。
あんなの、きっと錯覚だった。

ちなつ「櫻子ちゃんは?」

櫻子『うん?何が?』

ちなつ「向日葵ちゃん」

櫻子ちゃんと向日葵ちゃんは、確か別々の高校に通っていたはずだった。
見ているこちらとしてはどうにも仲良くケンカしてるなあとしか思えない関係だった二人。
今も向日葵から聞いたと言っていたからそれなりに連絡はとりあっているんだろうけど。

すいません飯食ってました
再開

書き溜めて改めてスレ立てしてほしいなぁなんて、ふひひ…

櫻子『えっ……あー、うん』

櫻子ちゃんの返事は浮かないものだった。
変わらないものなんてない。だけど、櫻子ちゃんと向日葵ちゃんは漠然と
同じ関係を続けてるんじゃないか、なんて思っていた。

櫻子『あかりちゃんの話聞いたあと、ちょっとケンカしちゃってさー』

ちなつ「あ、そうなんだ……」

櫻子『だからつい誰かに電話したくなっちゃったってわけだ』

ごめんねーと櫻子ちゃんが乾いた笑いを漏らした。
それで、そのケンカというのが中学生の頃とは違う種類のものだと悟った。
やっぱり櫻子ちゃんは京子先輩と少し似ている。あの人も、辛い時ほど明るく
笑っていようとするから。たぶん、あかりちゃんも。

ちなつ「私こそ変なこと聞いちゃって」

櫻子『いや、いいよ!愚痴りたかったってこともあるし』

やっぱり、みんな変わるもんなんだよねー。
櫻子ちゃんがもう一度、そう言って珍しく小さく溜息を吐いたのが聞こえた。

>>425
このスレ落ちたらSS速報でやる、遅くてごめん

櫻子『ま、変わってない人もいるけどね』

ちなつ「変わってない人って?」

櫻子『杉浦先輩と池田先輩!学校違っても相変わらず仲いいみたいだよ』

なんとも懐かしい名前が。
杉浦先輩っていえば、いつも「歳納京子ー!」とごらく部の扉を蹴破って(しまうくらいの勢いで)
転がり込んできた人で。
池田先輩は、京子先輩と杉浦先輩の二人でなにやら妄想しながら鼻血ドクドク出してた人。
そういえば、櫻子ちゃんも生徒会だったんだっけ。

ちなつ「へえ……」

櫻子『あの二人はほんと安泰だよねぇー、ちょっと羨ましい』

私はそっか、と頷きながらもふと首を傾げた。
池田先輩はよくわからないとして、杉浦先輩がごらく部に来ていた理由。

ちなつ「杉浦先輩って、京子先輩のこと好きだったんじゃなかったっけ」

櫻子『あー、そういえばそんな話向日葵から聞いた気がする』

ちなつ「今になって思えば、絶対そうだよね……」

櫻子『あのときは気付かなかったけどなあ。私って鈍感なのか』

まあそうかもしれない、とは言えないけど。
向日葵ちゃんの気持ちのこと。櫻子ちゃん自身の気持ちのこと。
私だって、それもまた最近気付いたことなんだけれども。

ちなつ「けど、京子先輩は」

櫻子『船見先輩だったっけ?』

うん、と小さく頷いた。
私は結衣先輩のことが好きだった。杉浦先輩は、京子先輩のことが好きだった。
なんだか同じ境遇。

櫻子『でもまあ、吹っ切れたんだろうねー。池田先輩と付き合ってるんなら』

なんかね、ずっと落ち込んでたのを池田先輩が励ましててめでたく両想いなったんだって。
櫻子ちゃんが『なんのドラマだって思ったし』と笑った。

櫻子『まあ素直にお祝いできたけどね!』

ちなつ「……うん」

池田先輩と杉浦先輩は、確か親友同士だった。
だったら、失恋して落ち込んでいる杉浦先輩を池田先輩が慰めて当然だ。
そして優しくしてくれる池田先輩を、杉浦先輩が好きになるのも当たり前で。

それが、私とあかりちゃんに重なった。

ちなつ「……ねえ、櫻子ちゃん」

櫻子『んー?』

ちなつ「そういうのって、ありだと思う?」

へ?という櫻子ちゃんの不思議そうな声。
だって、杉浦先輩はずっと京子先輩のことが好きだったんでしょ?
それを、池田先輩はずっと見守っていたんでしょ?

ちなつ「杉浦先輩も池田先輩も、それでいいのかな」

櫻子『……ちなつちゃーん?』

ちなつ「そんな簡単に、好きになれるの?よくわかんないよ、私」

そんなに簡単に他の人を好きになれるほど、杉浦先輩の気持ちは軽いものだったはずはない。
池田先輩だって、自分が京子先輩の代わりなんじゃないかって、そう思わないんだろうか。

櫻子ちゃんは戸惑ったように何も言わなくなった。
それで私は、自分が泣き声で櫻子ちゃんに当たっていたことに気付いた。
恥ずかしさと申し訳なさで、「……ごめん」という声も自然と小さくなった。

櫻子『……吃驚した』

ちなつ「私も吃驚した」

櫻子『……でもさ、私はありだって思うなー』

ぽつりと櫻子ちゃんがそう言って。

櫻子『だって、お互いちゃんと向き合った結果だったんならさ、私たちがとやかく言う
   必要ないもん。きっと、先輩たち二人とも前向きだったんだよ』

ちなつ「前向き……?」

櫻子『今までの気持ちも関係も壊しちゃえって。かっこいいよねー』

私ももっと前向きにならなきゃなー。
櫻子ちゃんがそう、自嘲気味に呟いた。
櫻子ちゃんもやっぱり大人になってるんだな、なんて。いつまで経っても
立ち止まったまま動けずにいる私が、とてつもなく幼く思えた。

もふもふ・・・


あかりちゃんからの電話がない夜は、想像以上に暗かった。
いつのまにかあかりちゃんを待っていることに気付いては、溜息。
勉強、頑張ろうね。
そうあかりちゃんと約束したのに、勉強なんてとてもやりたい気分ではなかった。

早々に布団にもぐりこんで電気を消すと、よけいに部屋は真っ暗になって、
何も見えなくなってしまった。

ちなつ「……前向き、かあ」

ぽつん。
天井に投げ出した言葉が、すぐに私に返って来た。
前向きになれれば。もしくは、完全にあかりちゃんを友達だと思えれば。

キスなんか、しなきゃ良かった。

結局結衣先輩とキスなんてできなかったのに。
あかりちゃんとはキスしちゃって。

ちなつ「……」

あの卒業式の日、あかりちゃんがどういうつもりであんなことをしたのか、まったく
気付いていないわけじゃない。
だからこそ私は今でもあかりちゃんに甘えられて、あかりちゃんならどんな話でも
聞いてくれると信じていたのだ。実際そうだったし、ただ今は。

いつのまにこんなに不器用になっちゃったんだろう、私。
眠れない中、私はぼんやりと思った。

友情と恋の境界線なんて、さっさと飛び越えちゃえばいいのに。
いつのまにこんなに臆病になってしまったんだろう。
本当に好きかもしれない、なんて。そう思うと、自分自身の気持ちを直視できなく
なってしまう。

あかりちゃんとは友達でいたい。
だけどほんとは、きっと好き。

こんなにもやもやするとき、私はいつもどうしていただろう。
つい最近振られたときのことを思い出す。よく、思い出せないけど。
きっと、私は気持ちを伝えて。

あぁ、そうだ。
伝えちゃえばいいんだ。

伝えて、嘘にしちゃえばいい。
私が気持ちを伝えてしまったら、きっといつもみたいに嘘になってくれる。

臆病になって、なかったことにしてしまいたいんならそれがいい。
そうよチーナ。
それが私のやり方でしょ。

ほんとはまた誰かのことを好きになるのが怖いんだから。

手にとった携帯。
その冷たくて硬い感触がぼんやり熱くなっていた私の頭の中を冷やさせた。
ねえ、本当にそれでいいの。
私は思った。ちゃんと向き合わなくて、後悔しないだろうか。

わからなくて、頭の中が熱くて仕方が無くなったとき、お姉ちゃんが「ちなつ!」と
青ざめた顔で部屋に飛び込んできた。

>わからなくて、頭の中が熱くて仕方が無くなったとき、お姉ちゃんが「ちなつ!」と
青ざめた顔で部屋に飛び込んできた。

わからなくて、頭の中が熱くて仕方が無くなったとき、お姉ちゃんが「ちなつ!」と
部屋に飛び込んできた。廊下の明かりで、お姉ちゃんの顔は青ざめているように見えた。

ちなつ「お姉ちゃん?」

ともこ「ただいま……!」

ちなつ「おかえり……」

息を切らせたお姉ちゃんは、よろよろと壁にもたれかかった。
それから「はあ」と深々息を吐くと。

ともこ「ちなつ、知ってたの?」

ちなつ「なにが?」

ともこ「あかりちゃんのこと。今日、向こうに行くって」

向こうって?
そう訊ねた私の声は、震えていたのかも知れない。お姉ちゃんがしまった、というような
顔をした。

ともこ「私も今、赤座さんに聞いたばかりで……。早めに向こう行って環境に慣れるんだって。
    ちなつは知ってるんだと思ってた」

ちなつ「知らないよ。私、そんなのなにも」

聞いてない。
あかりちゃんはなにも言ってくれなかった、そんなこと。
でも、「またね」とあかりちゃんが返してくれなかったのは。

ちなつ「高校、どうするの?まだ私たち卒業もしてないのに!」

ともこ「通える範囲だからって」

ちなつ「だからって」

ともこ「あかりちゃんがどうしてもって、ご両親に頼み込んだんだって……」

お姉ちゃんにこんなこと訊ねたって、お姉ちゃんを責めたって、意味ないことはわかってる。
だけど止まらなかった。

ちなつ「おかしいよ、そんなの一度も聞いたことないし、あかりちゃんは――!」

あかりちゃんは。
しばらく、電話もメールもできないと言っていた。
それってもう、電話もメールもしないで、って。そういう意味だったのかな。

ちなつ「……なにそれ!……なんなのよそれ」

ともこ「……ちなつ」

胸のどこかが、苦しい。
頭はもう、冷たいのか熱いのかもわからない。ただ、ぽろぽろと溢れ出てきた涙だけは、
その感触を感じられた。

今さら。
今さら、私はあかりちゃんへの気持ちを嫌でも理解した。

私って、どうしてこんなんなんだろう。
初恋は何も伝えられなかった。
今度の恋は伝えられるチャンスはたくさんあったのに、気付く前に、伝えられなく
なってしまった。

ちなつ「私、あかりちゃんに嫌われちゃったのかなあ」

ともこ「……」

ちなつ「……どうしてうまくいかないんだろね、私」

この歳になっても、こんなに涙が出てくるものなんだなと、そんなおかしなことを
考えて。
お姉ちゃんは戸惑ったように、それでも優しく、ほんとに優しく私を抱き寄せて
頭を撫でてくれた。

あかりちゃんに似ているはずのお姉ちゃんも、やっぱりあかりちゃんの代わりにはなれなくって。
それでも私はお姉ちゃんに抱きついて泣いた。
熱いほどのお姉ちゃんの体温に、私は身を任せた。


ごめんなさい。

そんな声を、ぼんやりしながら聞いていた。
あー、またか。
これで何度目だっけ。

頭の中で計算しつつ、私は今直立不動で頭を下げていた後輩の女の子に背を
向けた。
普通、こういうときさっさと立ち去るのは振られたほうじゃなくって告白された
ほうなのになあ。

あれから数日。
なんとか立ち直った私は、あかりちゃんに言えなかった分の好きを、色々な子に
ばらまいてしまっていた。大して好きでもないのに「この子いいな」
それだけで、告白しては振られて。いい加減「ごめんなさい」も慣れてしまった。

せめて、誕生日の日くらいは私が少しでも「好き」と思った人に祝ってもらいたい。
けれどそう上手くいくはずなんてなく、私の生まれた日がどんどんと近付いていく
だけだった。

もういいや。
そうも思うのに。

あかりちゃんからは、相変わらずなんの連絡もなかった。
待っているわけじゃない。けど、やっぱりまだ踏ん切りがつかなくて。
アドレス帳から消しちゃえばそれで済む話、でもそれさえできないでいた。

ちなつ「次は誰がいいかな」

そんなことを普通に考えてしまっている自分に気付いて、悲しくなってくる。
大学受験はつい昨日終わった。
結果はまだわからないけど、面接だけだったから大丈夫なはず。顔さえひどくなかったら。

そろそろ暗くなってくる時間帯だった。
私はコンビニに入ると、豚まんを一つ。熱いそれを齧りながらの帰り道。

ちなつ「……熱っ」

思わず呟く。
けれど笑ってくれる人はいない。
立ち止まって、冷ましてみた。
けれどいつまで経ってもそれは冷めてくれない。

―――――
 ―――――

お風呂に入って、蜜柑でも食べてほっと息を吐こうとした頃だった。
小さく、着信。
一瞬あかりちゃんかもしれないなんて期待して、ディスプレイに出た名前が結衣先輩だったのを
見て溜息。それから、結衣先輩からの電話を喜べなくなった自分に気付いて驚いた。

ちなつ「もしもし?」

結衣『あ、ちなつちゃん。久し振り?』

ちなつ「……はい」

結衣『第一志望の受験、昨日だっけ。お疲れ様』

結衣先輩の優しい声も、今の私にはなんの癒しにもならなかった。
あんなに好きだったはずなのに、今はあかりちゃんのことでいっぱいで。

もしかして、杉浦先輩もこんな気持ちだったのかもしれない。
池田先輩のことをこんなふうに好きになって、それで一緒にいられる。
それってすごく幸せなんだろうなあ、と思う。

ちなつ「疲れちゃいましたよー、ほんと」

私は笑った。
結衣先輩が、『ちなつちゃん?』と怪訝そうな声を出す。

ちなつ「……好きです、結衣先輩」

ぽつりと言ってみた。
もしかしたら、まだそんな気持ちがどこかに残っていて、言葉にすることで蘇ってくるかも。
そんなことを思って。
だけど、「好きです」なんて言葉は、いつもみたいに嘘っぽく響くだけだった。

ちなつ「先輩のこと、すごく好きで、それで……大好き」

――あかりちゃん。

結衣『……ちなつちゃん、それ誰に言ってるの?』

ちなつ「結衣先輩です」

結衣『中学の頃の友達に聞いたんだけど、今ちなつちゃん、誰彼構わずそう言ってるんだよね?』

ちなつ「……」

結衣先輩の声は、少し怒っているようだった。
私は何も言えずに、結衣先輩の次の言葉を待った。

結衣『私の知ってるちなつちゃんはさ、そんなんじゃなかったよ』

ちなつ「……じゃあ、結衣先輩が私のこと、見てくれたらよかったんです」

結衣『……』

ちなつ「私は本当に先輩のことが好きでした、すごくすごく大好きだったのに!」

今さら、告白。
こんなふうに、言いたくなんてなかったのに。気持ちのこもってない告白は、
ただただ薄っぺらい。

結衣『……ごめん』

ちなつ「……謝らないでくださいよ」

結衣『あかりが』

全ての動きが止まった気がした。
結衣先輩は、私の反応がなくなったことに気付いて続きの言葉。

結衣『あかりが、ちなつちゃんに何も言わずに行っちゃってごめんねって』

ちなつ「……どうして、そんなの」

私に直接伝えてくれればよかったのに。
そんなことを思いながら、でもあかりちゃんが私のことを気にしてくれていることは
充分伝わって。ひどいよあかりちゃん。そう思うのに、それだけで胸がいっぱいになった。

結衣『あかりは元気にしてるよ、ちなつちゃんに教えてもらったお茶の淹れ方でお茶を
   飲んでみたら』

とっても美味しくできたんだぁ。
これを飲んだら頑張れる気がする、ちなつちゃんもそっちで頑張って。

結衣先輩の声が、あかりちゃんの声になって。
あかりちゃんが私に話しかけているような錯覚に陥った。

結衣『もしね、あかりのことで今のあかりちゃんみたいになってるんだったら、
   きっとあかりはすごく落ち込んじゃうよ』

だからあかりのためにも、自分を見失わないで。

ちなつ「……先輩」

結衣『きつい言い方しちゃってごめんね』

ちなつ「……私」

結衣『今日はもう遅いから寝たほうがいいね、おやすみ』

私、あかりちゃんが。
有無を言わさない調子で電話が切れた。結衣先輩は、きっと本当に心配してくれて
いたんだと、ようやく気が付いた。

ちなつ「……おやすみなさい」

私は呟いた。
やっぱり、結衣先輩は優しい。優しくて、本当に憧れの人。
でも今本当に好きなのはあかりちゃん。こんなに好きで好きで仕方がなくって。

――忘れたくない。会いたいよ、あかりちゃん。

>もしね、あかりのことで今のあかりちゃんみたいになってるんだったら、

もしね、あかりのことで今のちなつちゃんみたいになってるんだったら、


『ハッピーバースデー、ちなつちゃん!』

そんなメールで、ぼんやりとしていた頭がようやく目覚めてくれた。
京子先輩からの、ちかちかするくらいのデコレーション文字。
あぁ、今日は誕生日なんだ。

確認したカレンダー。
ぐちゃぐちゃに印がつけられた、その日にち。

結衣先輩からの電話があった日から、私はもう告白なんてしなくなった。
ただ抜け殻みたいな毎日。
誕生日の事だって、すっかり忘れてしまっていた。

私はメールボックスを開けた。
京子先輩以外にも、たくさんの人からのお祝いメール。もちろん結衣先輩からも、
櫻子ちゃんは久し振りの向日葵ちゃん、あとクラスメイトやその他色々な人たちから。

ちなつ「……ないよねえ」

けれど、やっぱり一番欲しかった人からのメールはなかった。
あかりちゃんの名前は、どこを見たってみつからない。
わかっていたことだけど。

ちなつ「……」

こんなに引きずるとは思わなかった。
やっぱり私は、未練がましい女なのだろう。

誕生日プレゼント、なにがいい?
中学校の三年間、誕生日を迎えるたびにあかりちゃんが自分のことのように嬉しそうに
私に訊ねて来てくれた事を思い出す。

今の私がそう訊ねられたならば、きっとあかりちゃんが欲しいって言っちゃうんだと
思う。
今日は学校もなくて一日ずっとごろごろしていただけだったから、身体がなまっていた。
携帯も中々開かずにいたけど、そろそろありがとうくらいはメール返さなきゃ。

そう思ってぽちぽちとメールを作成しはじめる。
外はもう暗くて、今日が終わってしまう。

ちなつ「……」

次第に、0時が近くなってきて。
携帯を持っている手に力がこもる。

ちなつ「……」

今日が、最後のチャンスなのかもしれない。
私はそう思った。
誕生日。少しくらいわがままでも、あかりちゃんならきっと許してくれる。






通話ボタンを押す。
呼び出し音。






『ただいま電話に出ることができません。ピーッとなりましたら――』





ピーッ







ちなつ「……あかりちゃん、会いたい」

11月6日23時59分。
メッセージを保存しました。

ぎりぎりセーフ。
あかりちゃんに、少しでも伝わってほしいと願う。

だから、11月7日0時1分。
着信が鳴ったときは驚いた。驚いたけど、同時にすごく嬉しくて申し訳なくて。
ごちゃまぜの気持ちで、私は電話に出る。

ちなつ「……はい」

『――ちなつちゃん?』

すまん限界だ
明日は夕方まで戻れないが保守してくれたら嬉しいですごめん
絶対明日には完結させる

続き見たい奴が保守すればいいってことか。
ほしゅ

>>633
今気付いたんだが、
保守を続けるとこのまま完走して、
続きは見れなくなるんじゃないだろうか…

まあ、それも面白そうだから保守する

>>635
ホントだ。もう600越してるということに気がつかなかった。
しかし面白そうだから保守。
いざというときはSS速報だな。

    \
     `- 、          いい加減にしろっ‥‥‥! ゴミども‥‥‥‥!

      , ヾ                         捨ててやる
     ハ N                     ,  -‐-`ヽ.    こんなスレ‥‥‥!
     ノヽ.|`                  /       ∟
   ,n=r=ト、             /          _ヽ うんざりだ‥‥‥‥!
  r'/| | (_ i }                 /   , -、 _,.ィ.イl/l. ヽ` もう‥‥‥
.  ヽ| | U'レ'             /  :{.f7/ b\|」│ N   うんざり‥‥‥‥
   U u ト、              /    V/v ` -┌‐ル'   うんざり
   /|、   Lj         /   ,/l. l ,-、 r v:|  rっ   うんざり‥‥‥!
.  /u| }r┬`         ,イ.イイ /: :ヽ.l |.u\ヽ_ 、j     反吐が出るっ‥‥!
__/  l '‘┴;        /"l/ l/ \ : : ヾ. l ┌'     ⊃
:::: \lu  「        / \   /: ,. -‐-ゞー'        オレも保守しなきゃ
─‐-:ゝ、_j      /,イ:::::::>'´ /: : : : : : ヽ    ヽ)    いいんだろ‥‥‥!

:::::::::::::::::::`::ー-..、.._ /!レ:ノ)/: : :/: : : : : : : : : |  U

残ってた、保守ありがとう
>>567から再開します


確かにあかりちゃんの声だった。
ずっと聞きたかった、あかりちゃんの。
『ちなつちゃん』
私は「うん」とほとんど声にならない声で頷いた。

あかり『えへへ……久し振りだね、ちなつちゃん』

ちなつ「……うん」

頷くだけで精一杯。
ずっと話したかったはずなのに、声が出てくれない。
あぁ、違う。
これ以上何か言おうとしたら泣き出してしまうから。

あかり『今日一日、あ、もう昨日かな。昨日一日、ちなつちゃんのこと、考えてた』

ちなつ「……うん」

あかり『でも電話もメールもできないって言っちゃったから、あかり、なにも出来なかった』

あかりちゃんはゆっくりと、一言一言噛締めるみたいに言った。
今、あかりちゃんはどこにいるんだろう。
電話の向こうはひどく静かで、時々寒々しい車の音や、そんなものが聞こえるだけ。

あかり『……ほんとはもう、ちなつちゃんに電話、しないつもりだったのに』

ちなつ「……ごめん」

暗い部屋。
熱のこもった布団の上で膝を抱えた。
いつのまにか布団の位置が壁際まで移動してしまっていて(こんなに寝相悪かったっけ、私)
ことんと固い壁に背中を預けた。

あかり『違うよ、謝らなきゃいけないのはあかりだもん』

ちなつ「でも、あかりちゃんは私に電話したくなかったんでしょ?なのに変な留守電いれちゃって」

自然と早口になる。
あかりちゃんが『留守電?』と不思議そうな声で言った。

ちなつ「えっ?」

あかり『……えっと、これ、公衆電話からかけてて』

じゃあ、あかりちゃんは私のいれた伝言を、聞いてないのだろうか。
「……なんで」という言葉が自然とこぼれでた。

あかり『ちなつちゃんに連絡しないようにって、一日携帯開けてなかったから……』

そっと画面を確かめた。
確かに、あかりちゃんの携帯からではなく公衆電話からとあった。
何も確かめずに電話に出た私だけど、もしあかりちゃんからの電話じゃなかったら
かなり恥ずかしいし落ち込んでただろうな。確かめる余裕さえ、なかったんだけど。

なのに結局かけてるんだから、意味ないよね。
あかりちゃんがもう一度ごめんねと言って笑った。

ちなつ「……」

あかり『……』

ちなつ「公衆電話って、まだあったんだね」

あかり『うん、あかりも驚いたよ』

カタン
時折聞こえたその音は、あかりちゃんが十円玉を継ぎ足す音だ。
お金、もったいない。
そんなことを考えて。

ちなつ「……あかりちゃんの声、聞けてよかった」

あかり『あかりも、もう一度ちなつちゃんと話せて嬉しかったよ』

ちなつ「勝手に出て行っちゃうなんてひどいよ」

あかり『ごめんね』

ちなつ「……」

今だったら、あかりちゃんに言える気がした。
ずっと積もりにつもって、苦しいくらいにたまっていた言葉。
減りもせず、変わりもせずに私の中で消化も出来ずに漂う気持ち。

だけど言ってしまったら全部終わってしまいそうな気がしたから、
私は何も言い出せなかった。
結衣先輩のときだってそうだった。結局、本当に大切な気持ちほど、言葉に
できなくなってしまう。

カタン
また、あかりちゃんが十円玉を落とした音がした。

少しでもあかりちゃんと繋がっていたい。
だけど。

あかり『ちなつちゃん』

ちなつ「……うん?」

あかり『お誕生日、おめでとう。少し遅くなっちゃったね』

ちなつ「……うん」

だけど。

唐突の、おめでとう。
私はありがとう、と小さく心の中でしか言えなかった。

誕生日プレゼント、なにがいい?

形式的な問い掛け。
それであかりちゃんは、私が何か言っても何か言わなくても、このまま終わらせて
しまうつもりなんだと思った。

私たちが本当の友達だった頃。
あかりちゃんはそこから動く気なんてないんだきっと。
そして私は。

それでも私は。

ちなつ「あかりちゃんに会いたい」

さっき直接伝えられなかったこと。
今度はあかりちゃんに伝わるように、あかりちゃんがちゃんと聞こえるくらいの声で、
私は言った。

これは本当に私のわがまま。
もう誕生日でもなんでもないけど、18歳になってはじめての、わがまま。

読んでるとこんな顔になってくる

       / ̄ ̄ ̄ ̄\
      /;;::       ::;ヽ
      |;;:: ィ●ァ  ィ●ァ::;;|
      |;;::        ::;;|
      |;;::   c{ っ  ::;;|

       |;;::  __  ::;;;|
       ヽ;;::  ー  ::;;/
        \;;::  ::;;/

          |;;::  ::;;|
          |;;::  ::;;|
   / ̄ ̄ ̄      ̄ ̄ ̄\
   |;;::              ::;;|

   |;;::              ::;;|


           /.:.:.:.:. 、:.:.:/:.:.:,イ/|:.:.:.:.|!:.:.:.:.:.:.ヽ
            ,'.:/.:./:.:.:.:7x∠_/_, !:.:.:/|ハ:.:.:.:.:.:.:.',
         j:/.:.:,':.:.:./,ィチ:て`  j:.:/、_斗:.:.:.:.:.ハ}
        〃.:.:.{:.:.:イ ' 弋zノ  / チ圷Z}:.:/
          /.:, イ:∧ハ{ :.:.:.:.:.:.    弋ノ//Ⅵ >>752-754
       // |:.\ゝ           ' .:.: ハ.:.ヘ
             レヘ:.:` フ    - 、   ノ ヾ '、
       ,∠三 ̄ヽト{   ヽ     , イ     \ ・・・
       /    `ヽ  ヽ   /`zチ…-x、
        /   ヽ   ヘ. ハ 、 , -|   j| ハ
     /.!    \  !   !、__.ノ|   〃/ !
      /.::|       ヽ|\ |`…ソ /,イ  |

ちなつ「今は無理でも、いいの。あかりちゃんの受験が終わってからでも、いつだって私は」

何も言わないあかりちゃんに、私は焦って言った。
今じゃなくてもいい。
またあかりちゃんに会えるチャンスがあるなら、それでいいから。

あかり『……ねえ、ちなつちゃん。今、外出れる?』

ちなつ「え、外?」

私は立ち上がって、窓から外を覗いた。
夜中なのだから当たり前に真っ暗で、おまけに少し風が強そうだった。
私は「出られるよ」それでも、頷いた。

―――――
 ―――――

あかりちゃんは、そこにいた。
私の見間違いなんかじゃなくって、本当にそこにいて。

真夜中の公園。
よく、二人で帰ったときは愚痴だったり結衣先輩への気持ちだったり、そんなものを
垂れ流しに寄り道していたことを思い出す。

ちなつ「……」

あかり「……」

公園の入口に立ったままでいる私を見つけると、ブランコを小さく揺らしながら寒そうに身を
縮めていたあかりちゃんは立ち上がった。
急いで出てきたとはいえ部屋着の上に適当に上着を羽織っただけの格好だった私とは対照的に、あかりちゃんは
きちんとした服装で、恥ずかしくなって髪に手をあてた。せめて髪だけでもちゃんと
梳き直してくればよかった。

言い訳みたいなものだけど、まさかあかりちゃんが本当にこの場所にいるとは思わなくて。

だから普通は、「どうして」や、それとも「久し振り」とか、そう言うべきだと
思うのだけど。
私はそのどれとも違って、最初に発した言葉は「髪、切ったんだ」

あかり「……あ、うん」

ちなつ「伸ばすって言ってたのに」

あかり「お姉ちゃんの真似、するのはもういいかなぁって」

ちなつ「そっか……」

髪を切ったあかりちゃんは、暗い中で顔を合わせているせいか少し幼く見えた。
身体自体は成長しているはずなのに、中学生の頃のあかりちゃんを見ているみたいだった。

ちなつ「似合ってたのに」

あかり「えへへ」

あかりちゃんは曖昧に笑っただけだった。
目が合って、すぐに逸らした。
実際に会ってみると、何を話せば良いかわからない。ただ、あかりちゃんの元気そうな姿を
見られただけで、それでもいいかなとも思って。

すぐに今あかりちゃんがいるべき場所に帰っちゃうんだろうなと察しはついたから。
あかりちゃんの持つ、鞄。あかりちゃんが行ってしまったあの日と同じものだった。

気持ちを伝えたって、あかりちゃんがここにいないのなら意味がない気がした。
だから初めて、伝わらなくてもいいや。
そんなことを考えて。

ちなつ「……寒いね」

あかり「もう11月だもんね」

ちなつ「あかりちゃん。風邪、引いちゃうよ」

あかり「……平気」

少し震えてるくせに、あかりちゃんはそう言って首を振った。
このまま帰って欲しい。
一瞬そう思ったりもしたけど、もう少し傍にいてくれると知ってやっぱりほっとした。

――――― ――

自販機で熱い缶コーヒーを二人分買って、あかりちゃんに手渡す。
あかりちゃんは「ありがとぉ」と落としそうになりながらも受取った。

ちなつ「お金、また返すから」

あかり「いいよー、百円ちょっとくらい」

ちなつ「でも……」

あかり「ちなつちゃん、お誕生日なんだからコーヒー奢るくらいはさせて」

ベンチに座りながら私を見上げてそう言うあかりちゃんは相変わらずにこにこと
笑っている。
出かけるとき携帯以外何も持ってこなかったことを後悔しつつ、「わかった」と
私は頷いてプルタブを開ける。あかりちゃんも真似して開け、コーヒーを喉へ流し込んだ。

あかり「……苦っ」

ちなつ「え、ブラックだった?」

慌てて今飲もうとしていた缶を確かめる。
いつ間違えたのか、無糖と書かれた黒い缶。

気付かずに、購入しようとしていたコーヒーの横にあったブラックコーヒーの
ボタンを押してしまったらしい。
あかりちゃんは「の、飲めるようになったから……」と言いつつそれでもけほけほ
している。

ちなつ「ご、ごめん……」

変えようかと言おうにも私のも同じくブラックだし。
あかりちゃんと再会した日も、そういえばミルクはいれないまでも砂糖はしっかり
いれてたんだっけ。

心配げな私に、あかりちゃんはもう一度「飲めるよ!」と言いながらこくんと
黒い液体を流し込んだ。
今度は咳き込まずに飲み込んで、「ほら」と得意げに笑ってみせる。

優しいんだから、とぼんやり思う。
私もあかりちゃんの真似をして熱いコーヒーを喉に流し込んだ。
やっぱり熱くて味なんてわからなかったから、よかった。

あかり「ちなつちゃん、立ってないで座ったら?」

ちなつ「えっ……あ、うん」

私は躊躇いがちに頷きつつも、あかりちゃんの隣に腰を下ろす。
少し開いた距離。どうしてもあかりちゃんのすぐ隣には座れなかった。

しばらく、微妙な距離を保ったまま私たちは苦いコーヒーを身体の奥へと
流し込んでいた。
昼間よく眠ったせいか、それともあかりちゃんが隣にいるからなのかはわからないけど、
目は完全に冴えてしまっていて、ぱちぱちと乾いた目で何度も瞬きした。

ようやく全部飲み終えかけたとき、あかりちゃんが言い訳をするような口調で
「休みの日は家に帰ってきなさいって言われてるから」ぽつりと言った。

ちなつ「……そうなんだ」

あかり「……うん」

上手く言葉が出てこず、出てきたとしても繋がらない。
電話と違ってあかりちゃんが近くにいることで、よけいにそれが目立って私は
少しばかり焦った。

本当にこのままでいいのかな。
私は私の中で、自問自答を繰り返す。
冷えてきた缶と、そして冷たい風が吹きつけて徐々に体温を失っていく身体。
そのくせ、頭の中だけは悶々と熱かった。

ちなつ「あかりちゃん」

あかりちゃんの「なあに?」
顔はこちらに向けてくれない。だから私はあかりちゃんの横顔を見詰めた。

友達としてあかりちゃんの傍にいた中学生の頃。
卒業式の日のキスの意味。
再会して好きになってしまった、私の気持ち。

伝えたいことも聞きたいこともこんなに沢山あるのに。
何から言えばいいのか、どんなふうに聞いてしまえばいいのか、わからなかった。

ちなつ「……あかりちゃん、去年やその前の誕生日、私にメールくれた?」

あかり「えぇっ、忘れたの!?」

何言ってるんだろうと思ったけれど。顔をあげたあかりちゃん。
一旦飛び出した言葉に釣られるように、「だけど」と私は続けた。

ちなつ「……今年はずっと、あかりちゃんからのメールだけ、待ってたんだよ」

あかり「……」

ちなつ「……それだけ」

何が言いたかったのかと聞かれそうだけど。
今私が言える精一杯のことだった。
本当に欲しかったのはあかりちゃんからのメールだけ。
一番大切な人から、おめでとうだけでもいい、そんなメールが欲しかった。

目の前で、言ってもらえたことはすごく嬉しい。
だけどそれが終わりを前提してだったのなら、おめでとうなんて言葉、聞きたくは
なかった。

やっぱり、あかりちゃんと離れたくない。
突然、そんな気持ちが湧き上がってきた。あかりちゃんと一緒にいたい。
あかりちゃんの傍にいたいし傍にいてほしい。

あかり「だって今年は、別のこと、送っちゃいそうだったんだもん」






あかりね。
ほんとはおめでとうの他に、ずっと贈りたかった言葉があるんだよ。






ちなつ「……え?」

あかり「六年前からずっと、なんだぁ。困っちゃうよ」

恥ずかしそうにはにかみながら、あかりちゃんが言う。
ようやく私のほうを向いてくれたあかりちゃんの表情は確かに笑っていた。
笑っていたけど、その目尻に私は涙のようなものを見た。

あかり「ずっとずっとずっと、ほんとにずっと、好きな人がいたの」

ちなつ「……うん」

あかり「だけどね、その人はずっとずっとずっと、ほんとにずっと他に好きな人がいて」

何度も忘れようとした。
だけど忘れることなんて出来なかった、本当に好きだったから。

あかり「一緒にいることも辛くて、だから嫌われようともしたんだよ。それで一旦、
    気持ちに踏ん切りがついたはずだったのにその人はまだあかりのことを友達だって
    思ってくれてるんだなぁって」

前のように変わりなく接してくれるから、やっぱりずっと忘れられない。
冷めかけていた気持ちがまた戻ってきそうで怖かった。

あかり「……でもね、もしかしたらあかりのこと、今度はちゃんと見てくれるんじゃ
    ないのかなぁって期待もしてたんだぁ」

ちなつ「……あかりちゃん」

あかり「卒業式の日から、会えなくなって辛かった。だけどそれなりにちゃんと
    過ごせてたし、その人に再会できて、誰よりも近くにいられて、嬉しかったけど
    だからこそあかり、期待していいのかなってわからなくなっちゃった」

ずっと友達だった。一番の、友達だった。
その一線を飛び越えていいものなのかわからずに、そして友達として傍にいられる
妙な安堵感に、このままでもいいやと。

だけど。
そんなものさえ飛び越えてしまった先輩たちのことを、少し思い出して。

あかり「このまま一緒に居たらまたすごく好きになっちゃうって思ったの。
    だったら今のうちに離れちゃえばいいって、無理言って早いめに向こうに
    引っ越したのに。……おめでとうくらいは言いたくて」

生まれてきてくれてありがとう。
いつも、あかりちゃんからのおめでとうは、そんな気持ちが感じ取れた。
ただの文面だとしても、声に置き換えられたものだとしても。

それが私は嬉しかった。
だからあかりちゃんからのメールは、本当は結衣先輩のものと一緒にこっそりと
残してある。

私はあかりちゃんのくれる素直な言葉を、そのまま額面どおりに受取ってしまっていた。
結衣先輩以外、見えてなかったこともあるけど。
何も、あかりちゃんの気持ちなんて考えたことがなかった。私たちは友達だったから。

でも、今はもうそんなんじゃなくって。
私たちは変わってしまった。
変わったからこそ、伝えられることがあるし伝えなきゃいけないこともある。

あかり「戻ってきちゃった、ここに。実際ちなつちゃんと話したら、おめでとう以外は
    言えなくなっちゃうもん。……ごめんねしか、言えなくなっちゃうもん」

あかりちゃんはごめんねとまた、そんな言葉を。

忘れられなくてごめんね。
今でもずっと好きでいてごめんね。
友達としてちなつちゃんの傍にいられなくて、ごめんね。

声が、出なかった。
寒い風が私の声を凍らせてしまったように。ごめんという言葉はすっかり
慣れっこになってしまったはずなのに、あかりちゃんのごめんねはただただ私の
身体の奥から奥を湿らせていった。

何か言わなきゃ。
だって、あかりちゃんが泣いてる。
いつも笑ってるはずのあかりちゃんの瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちていく。

伝えなきゃ。
あかりちゃんに。
私だってあかりちゃんのことが好きなんだよって。

だけど、ちゃんと伝えられる自信がなかった。
またこれまでのように嘘みたいに聞こえてしまうんじゃないかと不安だった。
もう既に遠くへ行ってしまったあかりちゃんへの、慰めの言葉としてとられるんじゃないかとか。
そんなことをぐるぐる考えて。

これじゃあ、本当に結衣先輩のときと同じだ。
あかりちゃんはちゃんと、私のことを見てくれているのに。怖がることなんて、ないのに。

変わってしまった私たちの間に開いた距離。
けど、あかりちゃんの気持ちは変わっていないしこの距離だって、きっとすぐに
詰めてしまえる。

『だって、お互いちゃんと向き合った結果だったんならさ、私たちがとやかく言う
   必要ないもん。きっと、先輩たち二人とも前向きだったんだよ』

『今までの関係も気持ちも壊しちゃえ』

ちなつ「私はもう、友達としてあかりちゃんの傍にいたいとは思わないよ」

あかり「……え?」

一番の友達としてでもない。
結衣先輩の代わりとしてでもない。
私があかりちゃんの傍にいたいのは、あかりちゃんと同じ好きだから。

膝の上に置かれていたあかりちゃんの冷たい手を掴んで、引き寄せる。
久し振りに重ねたあかりちゃんの唇は、冷たくてしょっぱい味がした。

これでもう、後戻りはできない。
私たちは友達でもなんでもないし、あかりちゃんが謝る必要なんてなくなった。
私だってあかりちゃんに対して同じことをしたんだから。

あかり「……ちなつちゃん」

寒いはずなのに、頭から足の先まで火照って仕方がなかった。
本当に好きな人とキスするのって、こんなにも恥ずかしくてふわふわして、幸せなんだと思った。
あかりちゃんがきょとんとした顔で私を見ているから、照れ隠しにもう一度――

あかり「……だ、だめっ」

はっと気が付いたあかりちゃんが、私を押し止めた。
暗闇の中、あかりちゃんの表情はよく見えなくて、唯一あかりちゃんを感じられる
繋いだ指先の力が、幾分か強くなった気がした。

あかり「だめ、だよ……」

ふるふると、あかりちゃんは首を振った。
そのまま、ことんと倒れこむようにして私の胸に自分の頭を押し付けてきて。

ちなつ「あかりちゃんのこと、好きだよ」

どうして今さら。
そんな声が聞こえた。

あかり「……だめだよ」

ちなつ「だめなんかじゃないよ」

臆病な私。
臆病なあかりちゃん。
だから、あかりちゃんの気持ちは痛いほどにわかった。

お互い、変なところで似てるんだななんて思う。
今だって、今までのあかりちゃんとの関係を突き崩してしまった今だって、
やっぱり不安で仕方が無い。

友達から一歩進んでしまった私たちはもう、戻れる場所もないし、先に広がっているものが
なんなのか、まったく見えなくて。
私だって怖くて仕方が無いし、だけどそれでもあかりちゃんに触れていたい。

ちなつ「だめなんかじゃないよ」

もう一度、言った。
伝わって欲しいと思った。私の気持ち。伝わらないでいて。それでもちゃんと伝わって。

ちなつ「ずっと、私たちは前を向けなかっただけで」

臆病で怖がりの私たち。
本当はもう変わってしまっていたのにそれに気付かない振りをしていただけの私たち。

あかりちゃんがね、今でも好きって言ってくれなかったら。
きっとこのまま動けなかったし、これっきりになっていた。
だからこそ、泣きながら、ごめんねと言いながら伝えてくれたあかりちゃんに、
私もちゃんと伝えなきゃいけない。

けどうまく言葉に出来なくて、もどかしくて。
どうすればあかりちゃんを笑顔にできるんだろう。
どうすればあかりちゃんは。

ちなつ「……結衣先輩の代わりなんかじゃないよ」

あかり「……」

ちなつ「誰の代わりなんかでもなくって、私は」

ぎゅっと。
あかりちゃんが、空いた腕で私の服の裾を掴んで。
繋がっている指先の力もまた、強くなった。痛いくらいに強くなった。

あかり「だったら、離れたくないよ」

ちなつ「……」

あかり「今さらそんなこと言われたら、もう向こうに帰れなくなっちゃうよ」

今離れたら、見失ってしまいそうだとあかりちゃんは言った。
ようやく掴んだ手。
あかりちゃんはだけど、遠くへ行ってしまっていて。

随分遠回りしてしまったんだと、改めて思った。
だからあかりちゃんを傷付けて、私自身も傷付いて、色々な人に迷惑を掛けて
心配させてしまった。

そして今だってあかりちゃんを不安にさせてしまう。

ちなつ「……待てるもん」

あかり「……へ?」

ちなつ「……私、待てるもん。誰よりも諦め悪いんだから」

結衣先輩のときがそうだったみたいに。
あかりちゃんのことだって、当分忘れられそうに無い。
それに忘れようとしても忘れられないことは、もう知ってしまっている。

ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
一応SS速報貼っておく

あかり「……ちなつちゃんが諦め悪いのは知ってるよ」

ちなつ「……うん」

あかり「でも、あかりだって諦め悪いよ」

そうだね。
私は頷いた。

あかり「あかり、ずっと好きだったんだから」

ちなつ「……うん」

六年間、あかりちゃんはずっと好きでいてくれた。
だったら大学の四年間を、私が耐えられないわけがない。
それに、私たちの間にある距離なんてもう、関係ないのだ。

ちなつ「だから、待ってるよ。あかりちゃんがこっち帰ってくるの」

あかりちゃん以外の誰も好きになれないんだから。
繋いだ指先を、私もぎゅっと握り返した。
あかりちゃんはようやく、「受からなかったら戻ってきちゃうけどね」と笑った。


あのときのあかりちゃんの笑顔はもちろん曇ることなく、あかりちゃんはお姉さんと同じ
難関大学をストレートで受かってしまった。
私はといえば、推薦入試で受かるはずだった第一志望を見事に滑り落ちた。

京子「まあ、ドンマイだって」

ちなつ「うっさいです」

結衣「でもちなつちゃんがうちの学校来てくれてちょっと嬉しいかも」

京子「私は!?」

結衣「まあどうでもいいな」

京子「結衣ー!」

それでなぜだか第二志望の学校には通ってしまい。
高校を卒業した今は、元ごらく部の三人でのんびりキャンパスライフを楽しんでいたりする。
今でも少し、京子先輩と結衣先輩が目の前でいちゃいちゃしてたら思うところもあるけど、
それはきっと結衣先輩を独り占めする京子先輩への妬みじゃなく、会いたい人にすぐに会える
二人への嫉妬心だ。

京子「あれ、ちなつちゃん?」

立ち止まった私に気付いて、京子先輩が振り返る。
京子先輩に組まれた腕を離すのを諦めて(とは言っても対して嫌そうじゃない)
結衣先輩も「どうしたの?」と振り返った。

ちなつ「あ、桜が……」

私は呟きながら、上を向いた。
先輩たちも釣られて見上げ、「おぉ」と声を上げる。

結衣「ここの並木道、こんな綺麗だったんだな」

京子「これは次の休み、花見決定だな」

結衣「えー」

私はそっと携帯を頭上に掲げた。
今はあかりちゃんと繋がっているための唯一の道具。
カシャンと音をさせて、桜の姿をそれに焼き付ける。

これ送ったら、あかりちゃん羨ましがるかな。そんなことを考える。
これに贈りたい言葉も添えて。
けど、どうやら先を越されてしまったみたいだ。震える携帯。

『件名:桜がきれい!
 本文:こっちで撮った写真だよ。きれいでしょー。
    ちなつちゃんと一緒に見られたら嬉しいなぁ』

『件名:RE:
 本文:ほんとだー、こっちもきれいだけどね!
    私も一緒に見たいから、今度の休みの日、会いに行くね』

『件名:うん!
 本文:待ってるね!』

離れていたら、こんなことだけでも幸せだと思えてしまう。
遠回りしたからこそ、嬉しいことだって沢山ある。

「おーい、ちなつちゃーん」
京子先輩の声がして、私は携帯をポケットに仕舞いこんだ。
「バイトの面接遅れるよー」
結衣先輩の声もする。

私は走り出した。
寒い季節はいつのまにか、こんなにも温かい。

終わり

長い間支援保守、本当にありがとうございました
最後はかなり無理矢理まとめてしまってすいません
それではまた

乙乙乙
http://i.imgur.com/LnZVB.jpg

乙でした
後日談とかあったら嬉しい

>>933
天使が二人…

夜更かししてでも保守して良かったって思えるSS

二日間保守したかいがあったな。
俺はしてないけど。


                 ./´
               ._( , - ´ `丶 、
             / _  〃ゞ     \, ─ ,、
            /  "      i     ヽ=} }
          _/   , / i    ハ |. ヽ  ヽ ノ ノ
        /:{.=/.,  .| /| .,.|:、 |、ハ|ヽ| ヽ|   | 、 ミ、

       /.){ /)  ./|.| ヽ|、l .l:/,/=、ヽ,| , 丶 ,/゙ 皆様乙であります!
        /.//∠-っ、 l.-リ- 、゙ ㍉ヾ .イ ): :} ヘ|l l |  t´
     /    イ壬、|〃心: l   ゙  辷.ノ´ | : ,.l l.|
   ./   ...._ .,斗-‐‐'从゙ .辷.ノ  ,    ''''' .ノノ/l , |
  /  __ _ `二)  ,: ゙ ヽ ''''         ´ノ/l /., .l
 ./   /  ´  .| l .l  .ヽ.    ,.-一   / :リ /.ソ
. /   |     l.,、ヾ: 、l  、       ィ ' ,//i/
. l    | -----/ rnゝ--,ヽゝ_` . ┬ - ´ l─ - - 、
..l    .!    .|n| |.l´|    /:::::::::ゝ ./:::::::::/ ´ ヽ
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       /            -ァ一' /::/  ,' / 丶、 :::::::j::::::::::/    〈\
.     /   /^''ー- 、_,,∠/   //  /      \V_/      ノ  \
     (__, ´       \___,,∠∠. ./        (X)]    ∨┼┼| ト、
                       \             厂{       | `  │|
                        |             //i |.     |.    /:/\
                        │      / //  |.     |   /:/゙   \
                        i          //  i |.     ト--く::/     \

櫻子達どうなったんよ!

                  {   _,. -─- .
                X⌒´  -─=ミ 、>'⌒ヽ
              /'⌒_  {/⌒ヽ  `'く⌒ソ }
          , -==ァ' /          丶 くミ.
 フ      { (⌒{/)┐:′:  |  :ト、    Vヘ ヽ
  ッ      人 _∨ //)i: :.  ト、 :∟斗    } V´
        /:/   う|入 、 |⌒:{  ,Y     }
.          ⌒〉  爪{ヘ|  \ト{  -=彡|i   } V
         rァ′ / !小 -=彡  ,    '' |i ハ/ jハ あかり褒められる照れるな…
         |:\ .ハ 从 ヽ ''     _ ノ ノ/ /}八{
         |.:.:.:.\}:V \>==- . __ . イ > //∧
 (⌒  ノ  |:.:.:.:.:.:.:7` <{///////><//////∧_
 {_ノ    |:.:.:.:.:.:/_r==vヘ//////////////////,ハ

                    __                `` '¨¨`丶、
                V´ `/   /⌒   .  ⌒\   \⌒} Y
             { /         /         丿./}
             <                 丶.    ∨ソ=ミ
              / .′      ハ         ト 、 \   ト.、 \
           / / :|.       /       {   |.  \    ハ \ ./
             ´ ``i}     /   ∨ ! V  |    \    \ノ
.               ∧  |  /    \{_ \{_     }    }
           /  ト  |ヽi. =≡=      =≡=  リ,/   ゚ .
            ' / 人ソハ , , , ,        , , , ,  ∧    ヽ
         ({  {  /|  人_.         _       /ソ .     .
       -‐──} {‐| .  /∧       i  l            |`ヽ.  l
        \:::::::八 {::::..  |八 ゝ .    丶 ’    / 乂 )}  } 丿
.           \ ::::::::::::::\{  )∧ >        <  /YY^i
      /⌒ヽ. \::::::::::::::::::::::::::::::::::.i     |: : , -‐' // /
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         ・l:::::::::::::::::l:|・''TlllllllT'' ・リ' ・TlllllllT・|::::/|::::l::|・
         ・|::l:::::::::l::::::| 弋__丿    ・弋__丿・|レ:::l::/・l|・
.      ・ ・ ・|:|V::::::l::::・l・:::::::     ,    ::::::・/:::l/・
          !|・∨::|:::::l\          ・ ・ハ:::/・
            l::|∨ヽ、     ・_    / |/|・
            |ノ ∨:::>・、   ・ ・ ・イ::| ・/・
            、 ・ノ_:::イ ・`` ー<:し」/・
          ・-―`'´´ ・〈      |\``・ー-・、・
         ・/\\   ・∧     ・ ・}   ・ }\・


ちなあか 結あか 京あか 綾あか 櫻あか

これかわ

         ..-:‐…‐…‐-....
      /--     .-─-<  \_
   〃 フ           _ _     ヾY / ,>
   {{ (/  '¨´        ヽ    V  ∧ }
   ,V   .′                 \{.xく
 /./    .!i .′  |i   }     ヽ ヽ   \
/ ./     .八{   .|i  /ヽ}      .  \:/
 ̄  .′ /⌒{j\  |i: / ⌒.\    }.  |
  | |  Nx=ミ  ヽ:|i/ x汽ミ ヽ.   |i  |
.  Y:{  |:{i ..ノiハ      .ノi:ハ }i '!   .|i  |  
  |人ハ..弋辷ノ     V辷ソ从}      |
  .   ハ ,,,   '     '''   /  / / .|   ぱくっ
. 八 {ヽ .人           /  ,/ /}.ノ
   \ハト、 ,≧:´:: ̄:L  ャ≦ヘj//|/
    {⌒´: : : : : : ___: : 〉   /三≧ x
    〉: : :__/`ー’o }:ハ  /三三三 ≫ 、

    ヾ:_:_{ o   ,r:irマニ/,三三三/ > -}
    /)/)∩ _ -イ| || | }i仁三三,/ /   :|

彡ィ /      /  /           _. -}- |、 ヽ  |∨ノ/ノ
/'||     {   ∧- : |     |:  ハ ト、 |   |  ':ー '⌒ヽ、
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ヽ | j :    |  ヽ!   \ |:   / j/.ィチ丁ミjハ: ト:l   |  :, }リ
: :||   | ィチ丁ミヽ \{ヽ/  〃 ノ ハ: }||l   | イ}/
ヽ |     |/:/、ノ ハ           うーイ  }' | j     |
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`Tl    \ヾ   乂(ノン            l''「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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