先輩のお仕事 (22)

小さな物音に気付いて、ボクは目を覚ました
まだ夜明けまで少し時間があるのか、ほとんど闇と言える部屋の中で動く影
それが誰なのかをボクは知っている

おかえりなさい、先輩

「……」

先輩から返事はない
でもそれが先輩の当たり前なのだと、ボクは分かっているので
棚から取り出した包帯を解きながら、先輩の傍へ擦り寄る
先輩の小さな息遣いが、ボクの耳に届く

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前回に巻いた包帯は、もはや意味をなすものではなくなっており
ボクはそれを丁寧に取り換える
その間先輩は黙ったまま
だけどボクは知っている
その目がちゃんと、ボクの方を見てくれていることを
だからボクも何も言わず、ただ先輩の方を見つめ返す
こんな生活が始まったのは、あの日から

世界の終末なんて、訪れるのは一瞬で
誰か一人でも壊れてしまえば、いとも簡単に崩れるようなバランスで成り立っていたのだと
あの頃のボクは思ってもみなくて
みるみるうちに人が減って
友達だった人は友達じゃなくなって
気付けばボクの傍には先輩しかいなくなっていた

どうして先輩がボクの傍にいてくれたのか
最初の頃は分からなかった
ボクから見ればただの先輩だったその人は
孤独なボクの手を少し強引に引いて
ボクに世界をくれた

実のところ、ボクはもうすでに先輩がなぜボクといてくれるのか
確信はないけれど予想が付いている
でもあえて、気付かないふり
なんだか、口に出してしまうのは怖い気がして
先輩もなんだか、怖がっているような気がして

……先輩?

「……」

先輩からの反応がなくなると
ボクはいつも先輩の口元にそっと頬を寄せて
温もりが伝わってくることをちゃんと確認すると
もう一度二度寝の準備を始める
本音を言うと、ずっとこうしていたいのだけれど
先輩には仕事があるのだ

再び目が覚めた時
そこにさっきまでいたはずの温もりは無く
いや、それがさっきなのかすらも分からなかった
日差しの届かぬ位置にあるこの場所でも明るさを少し感じられる所を見ると
先輩はまた、お仕事に行ったのだろう
この時間がボクは大嫌い
二度寝を少し後悔しながら、ボクは先輩の帰りを待つ

気が向いたら書きます

よかったら見てってね

ボクはまた物音に目が覚めた
目を擦りながら辺りを見るが、一面闇だ
いつもと違うのは、そこにいるはずの気配がない
ぎゅっと身が縮むのを感じる
先輩以外の人の気配なんて、一体いつぶりだろうか
縮こまりながらもなんとかボクは後ずさりする

「へぇ、あいつこんなの飼ってたのか」

っ!?

自分でも驚くぐらいに体が大きく跳ねた
声が聞こえたのは、ボクの背中側
つまりすでに侵入されていたのだ

「あーあー、その物騒なもんをしまってくれ。俺が悪かったよ」

「……」

……

侵入者と、ボクと、間に先輩
先輩は何かを侵入者に向けているようだ

「しかしお前にこんな趣味がねぇ……」

「……」

「分かった分かった、もう言わねぇよ……黙っといてやるって」

普段見せない、先輩の仕草
なんだか自分でも分からないけれど、むっとしてしまっているボクがい

「……俺、もしかしてお邪魔虫?」

「……」

「睨まなくてもいいだろ、まったくよぅ……それじゃあな」

ごくごく自然に、それがさも当然であるかのように
そっとボクの髪に手が伸びてきて、さらりと撫でた
またボクの体がビクリと揺れて

「……」

先輩の飛び蹴りが思い切り侵入者を吹き飛ばした
ドアまで思い切り飛んだ彼はそのままゴロゴロと回転したまま飛び出していき
そのまま帰ってくることは無かった

その日の先輩は、いつものように無言だったけれど
ボクを膝の上に乗せて、ずっと手を握ってくれていた

「……」

……

これは侵入者さんに感謝なのかもしれない
また来てほしい、なんてことはまったく思わないけれど

夢の中のボクは、あの日にいた
なぜ夢だと分かるのかと言うと、あの日はもう過ぎた日だから
だからなぜあの日のボクが泣いていたのかも思い出せないし
別に無理して思い出そうとも思えなかった

……

目を覚ましたボクの横には
当然のごとく誰もおらず
先輩が置いていったと思われる布きれが一枚転がっているだけ
ボクはそれをギュッとしながら天井を仰ぐ
もう一度寝ると、またあの日の夢を見てしまいそうで
ゴロンゴロンと転がりながら、ボクは先輩の帰りを待つ

誰かの声で、目を覚ます
何故だか頭が痛い、ボクは頭を揺らしながら体を起こす
侵入者のように、部屋の中に誰かがいる様子はない
ボクはドアの方へと這いより、耳を澄ます

「――――っ」

「……」

先輩と誰かが話している
声の判別までは出来なかったけれど
音の高さから、男性ではないことは分かる
ボクはドアから離れ、また布きれを被る
今日は先輩が帰ってきても起きないように寝てしまおう、そうしよう

また書きにきます

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