モンスターは一般的に、凶暴で理性を持たないといわれているが、
温和で知能が高いモンスターも決して少なくはない……。
そのようなモンスターは、人里から離れた山や森林に集落を作り、
独自の文化を築きながら静かに暮らしている……。
こういった集落は世界各地に存在し、「モンスター村」と呼ばれる……。
─ モンスター村 ─
スライム「ふう、今日もいい木の実がいっぱい取れた!」プルンッ
オーク「おお、スライム! 精が出るな!」
スライム「母さんはあんまり動けないし、妹はまだ幼いし」
スライム「俺が頑張らないといけないからな!」
ワイワイ……
会長「──でありまして、ハンターが現れたらすみやかに行動しましょう!」
会長「威嚇をかねて、固まって行動すること! これが鉄則です!」
ゴーレム「なるほどナア……」
サキュバス「ためになるわね」
ゴブリン「ふむふむ……」
スライム「──ん? 人間がこの村に来るなんて珍しいな。だれだアイツ?」
オーク「モンスター保護協会の会長だってよ」
オーク「モンスターハンターってのは凶悪なモンスターを退治するのが仕事なんだが」
オーク「最近、無害なモンスターを狙う悪質なハンターが多いから」
オーク「ああやって俺たちモンスターにハンター対処法を教えに来てるのさ」
スライム「へえ、わざわざこんなところまで来て、ありがたい話だな」
< スライムの家 >
スライム「ただいまぁ~! いっぱい木の実が取れたよ!」
妹スライム「おかえりなさぁ~い、お兄ちゃん!」プニプニッ
母スライム「すまないねえ、いつも苦労をかけて……」
スライム「食料を集めてくるくらい、お安い御用さ!」
スライム「父さんはこの村を開拓する時に、事故で死んじまったけど……」
スライム「この村のみんなのおかげで、山の環境もだいぶ整備されて」
スライム「ずいぶん過ごしやすくなったしさ!」
母スライム「お前は本当に優しいスライムだねえ……」
妹スライム「食べよう、食べよう!」
『 狩 る 者 と 狩 ら れ る 者 』
【 PART1 避難するモンスターたち 】
数時間後──
「皆さ~ん! 外に集まってくださぁ~い!」
スライム「ん?」
スライム「この声は……モンスター保護協会の会長さんだ」
母スライム「なんだか、ずいぶん焦っているみたいだねえ」
妹スライム「なにかあったのかな?」プルンッ
スライム「とにかく外に出てみよう!」
『 狩 る 者 と 狩 ら れ る 者 』
【 PART1 避難するノンケたち 】
ザワザワ…… ドヨドヨ……
会長「皆さん、落ちついて下さい!」
会長「すぐ来るわけではありません! 冷静になって、私の指示通りに動いて下さい!」
スライム「なにがあったんだ?」
オーク「ついさっき、あの人のところに情報が入ってきたらしい」
オーク「なんでもモンスターハンターの一団が、この村に向かってるんだってよ!」
スライム「なんだって!?」
オーク「大丈夫さ。村を捨ててあの人のいうとおり避難さえすれば、な」
オーク「もっともこの村は腹いせに壊されちまうかもしれないらしいが……」
オーク「命には代えられないだろ」
スライム「そう……だな」
スライム(ちくしょう、ハンターどもめ!)
;ヾ、,.、,、.、rツ ッッシ、:':' r':' _,、-'゙_, や 公 帰 そ
,、,、,ミッン、,._ _,、-'゙_,、-'゙. っ 園. り ん
、ィッ ,:、 ゙''ゞ=ミ、~.: _,、-'゙_,、-'゙ __, て の 道 な
}; ヾ ゙' {!li;:,. _,、-'゙_,、-'゙ _,、-'゙,::|_| 来 ト に わ
ゞァ''゙ぐ _,、-'゙_,、-'゙ _,、-'゙,、-''" .|_ た イ あ け
,ヘ:'_,、-'゙_,、-'゙..::「┴_,エ ┴ ''"_|_| の. レ る で
└i'゙-ニ,ニエ,.:|ニ「 _エ ┴ ''"_|_ だ に
|エ | ニエ, |ニ「 _エ ┴ __.|_|_
|エ | ニエ, |ニ「 _エ ┴ 「fj.||__|__| _|
|エ | ニエ, |[8] _エ ┴ └‐_|_|__l__,|⊥ |__
|エ | ニエ, |二 _.エ 二.._ |__|__| _|_|_
|エ | ニエ, |┴ _.エ 二.._ |_|__l__,|⊥ |__|
|エ | ニエ, |工 _.エ 二.._ |__|__| _|_|_
|エ | ニエ, |工 _.エ 二.._ |_|__l__,|⊥ |__
-,-=''┷━━|┬ニエ ┬-- .|__|__| _|_|_
''ーニ_''ー::、_ ゙┷ 工_二'‐-、,_|_|__l__,|⊥ |__
二二二二二二二`''ーニ_''ー 、_ |⊥ |__
会長「では村を出て、あちらにあるくぼ地に向かって下さい! あそこなら安全です!」
会長「一ヶ所に固まって、くれぐれもはぐれる人を出さないように!」
会長「私はハンターたちを説得するため、ここに残ります!」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
サキュバス「行きましょ!」
ゴーレム「そうダナ」
ゴブリン「村全員で固まって避難しよう!」
オーク「俺たちも行こうぜ! ほら、お袋さんと妹ちゃんを連れてこいよ」
スライム「ああ!」
─ 山道 ─
ゾロゾロ……
「よかったなぁ」 「協会の人がいなきゃどうなってたか」 「ホントホント」
スライム「でも悔しいなぁ……! 逃げるしかできないなんて……!」
オーク「俺たちは戦いなんかほとんどしたことないモンスターばかりだし」
オーク「ハンターどもは、強力な武器で武装してやがる。しょうがねえよ」
妹スライム「なんだかみんなでピクニックみたい!」キャッキャッ
スライム「コラコラ、はしゃぐなよ」
母スライム「でも心配だねえ……。あの会長さん一人で大丈夫かねえ?」
スライム「…………」
スライム「俺、ちょっと村に戻ってみるよ」
オーク「オイオイ、なに考えてんだ!?」
スライム「だってさ……いくら人間とはいえやっぱり放っておけないよ!」
スライム「もちろん俺、戦うことはできないけど、この山には詳しい」
スライム「会長さんが危なくなったら、逃げる手伝いくらいはできるかもしれないし」
スライム「母さん、妹、悪いけどオークと先に行っててくれ」
妹スライム「すぐ戻ってきてね、お兄ちゃん……!」
母スライム「お前は本当に優しいねえ……」
オーク「気をつけろよ!」
スライム「分かってる!」プルンッ
【 PART2 全ては罠だった 】
─ モンスター村 ─
スライム(会長さんと……ハンターらしき人間が話してる)コソッ…
会長「──全てあなたの指示通りです」
会長「今頃モンスターたちは、くぼ地めがけてまとまって避難していることでしょう」
狩人「クックック、大勢のハンターが待ち伏せてるとも知らずにな……」
狩人「この村にいたのは、ほとんどがゴミモンスターばかりだったが──」
狩人「ゴーレムの鉱石やサキュバスの翼は金になる」
狩人「闇ルートで捌けば、数十万ゴールドにはなるだろうぜ」
狩人「これが、スマートな狩りってやつさ」
会長「……しかし、世間は夢にも思わないでしょうな」
会長「モンスター保護協会のトップである私が、あなたと繋がっているなどと──」
狩人「アンタが話せる人間でよかったよ」
狩人「利益の一部をやるから、協会の活動を抑え、狩りに協力してくれといったら」
狩人「あっさりと聞き入れてくれたんだからな」
会長「公的な組織の長とはいえ、収入や扱いはそれほどよくないんですよ」
会長「しょせんモンスター関連事業など、二線級の部門ですからね」
会長「もっとも、私の部下はモンスターをこよなく愛する者ばかりで困ります」
会長「熱心な協会員たちの活動を、うまい具合に抑えるのも一苦労ですよ」
狩人「さすがの俺たちも、同じ人間と衝突するのは避けたいからな……」
狩人「アンタを“ヘッド・ハンティング”できてよかったよ」ニッ…
スライム(そ、そんな……この二人がグルだったなんて……!)
スライム(すぐ戻ってみんなに知らせないと!)クルッ
パキッ……!
狩人「!」バッ
会長「どうしました?」
スライム(し、しまった! 気づかれた!)プニッ…
狩人「スライムか……死ねっ!」ギリリッ…
ビュッ! ──グサッ!
スライム「あうっ!」ガクッ
会長「おおっ、一矢でスライムを射抜いた! さすがですな!」
スライム「……ぐうっ!」ズルズル…
会長「むっ! しぶとく逃げていきますよ!」
狩人「あれじゃ、どのみちすぐくたばる」
狩人「スライム肉なんか、二束三文にしかならねえしな」
狩人「それより……祭りに遅れちゃマズイ」
狩人「今頃山の中じゃ、お楽しみのハンティング・タイムが始まってる頃だ」ニッ
【 PART3 殺戮 】
─ 山のくぼ地 ─
ギャアァァァァァ……!
ザシュッ! ザンッ! ドスッ! ズシャッ! ズバッ!
オーク(……どうなってんだ!? なんでハンターがこんなに……!)
剣士「いい肉質のオークだな。解体して、胴体だけ持ち帰るとするか」チャキッ
オーク「や、やめろっ……!」
ドシュッ!
ゴブリン「い、命だけはっ……!」
手下A「くたばれやっ!」ビュッ
ザンッ!
手下B「殺すのが惜しくなる体だぜ。たっぷり可愛がってから殺してやるよ!」グイッ
サキュバス「いやあっ! やめてええっ!」
会長「おおっ、みごとにモンスターどもが罠にかかっていますな!」ザッ
狩人「コラコラ、作戦の立案者に獲物は残してねえのかよ」ザッ
剣士「狩人さん、おかげで楽しませてもらっているよ」
手下A「それに獲物なら、ちゃぁ~んと残してますぜ! ほら!」
母スライム(保護協会の会長が、グルだったなんて……!)
母スライム「ど、どうかこの娘だけは……! お願いします、お願いします……!」
妹スライム「お兄ちゃん、助けて……」ガタガタ…
狩人「ちっ、スライム二匹かよ。もっといいのを残しといてくれよ」
手下A「へへっ……すいやせん」
狩人「会長さん、せっかくだし、初ハンティングとシャレこまねえか?」
狩人「一度やってみると、ヤミツキになるぜ? ほら、剣を貸してやるよ」チャッ
会長「そうですな……実は私も一度やってみたかったのですよ」
会長「では……」チャキッ
ズバッ! ザシュッ!
母スライム「かはっ……」ドサッ
会長「おお……! これは……なかなか楽しいですな!」
狩人「だろ?」ニッ
妹スライム「お母さん! お母さん! お母さんっ!」
妹スライム「お兄ちゃん……どこいるのぉ……助けて……」グスッ…
狩人「ま……俺はこれで我慢するか」シェッ
ザシュッ……!
夕暮れ時──
ズル…… ズル……
スライム(途中で気を失っちゃったけど……や、やっと着い──)ズル…
スライム「!」
スライム「み、みんな!」ズル…
スライム「オーク! ゴーレム! サキュバス! ゴブリン! ──なんてことだ!」
スライム「!!!」
スライム「母さん!」ズル…
スライム「妹っ!」ズルズル…
スライム「うわあっ! わあぁぁぁぁぁ~~~~~っ!!!」
【 PART4 スライムの依頼 】
─ モンスター村跡地 ─
スライム(昔……魔物の権利向上のため、あくどい仕事もしてたっていう、父さん……)
スライム(そんな父さんが……話してくれたことがある“勇者”……)
スライム(超A級の、プロフェッショナル……)
スライム(父さんがいっていたとおりの方法で、連絡、したが……)
勇者「お前が、スライムか……?」ザッ…
スライム「!」
スライム「あ、ああ……そうだ! ──がはっ!」ゲホゲホッ
勇者「…………」
勇者「用件を聞こうか……」
スライム「ア、アンタが勇者……か!」
スライム「た、頼む!」
スライム「この村のみんな、母さんや、妹たちの仇を……討ってくれ!」
スライム「狩人の奴が率いる、悪質なモンスターハンターどもを……」
スライム「皆殺しにしてくれぇっ!」
勇者「…………」
スライム「村はこのとおり、焼かれちゃったが……」
スライム「わ、わずかに……お金と、木の実が残って、た……」ジャラッ…
スライム「ア、アンタは人間だけど……」
スライム「モンスターから、の依頼も受けると……父さんから聞いてる……」
勇者「…………」
スライム「お願いだ……勇者……!」
スライム「み、みんなの……仇……」
スライム「とっ、て……」ガクッ…
勇者(…………)
【 PART5 情報収集 】
─ 大図書館 ─
勇者「…………」ザッ
司書「いらっしゃいませ」
勇者「本を探しているのだが……」
司書「どのような本をお探しですか?」
勇者「蛇にそそのかされ……禁断の果実を食べてしまった男の本だ」
司書「申し訳ありません。そちらの本は一般公開はしておりませんので──」
司書「お手数ですが、こちらの部屋へどうぞ」スッ
< 小部屋 >
司書「ご用件をどうぞ」
勇者「モンスターハンターの狩人と、その仲間について教えてくれ……」パサッ
司書「彼らはモンスターハンターの中でも、100名以上を誇る大所帯の勢力です」
司書「もちろん、全員で動くことはめったにありませんが──」
司書「彼らに滅ぼされたモンスター村は、30近くに上るといわれています」
勇者「モンスターを保護する団体も、あるはずだが……?」
司書「ご存じでしたか」
司書「ですが、モンスター保護協会の活動は近年消極化しておりまして」
司書「違法ハンターを抑える役目はほとんど果たせてないというのが現状です」
司書「確証はありませんが、おそらくこれは──」
勇者「もし、俺が狩人の立場であれば……」
勇者「保護協会のトップ、あるいはそれに近い者の懐柔を考えるだろうな……」
司書「!」
司書「さすがです……」
司書「狩人らと保護協会はすでに“パイプ”ができている可能性が高い」
司書「しかし、狩人たちは決してクレバーなだけの集団ではありません」
司書「希少モンスターの情報を得ると、すぐさま現場へ急行します」
司書「レッドドラゴン、ジャイアントワーム、ポイズンフラワー、といった」
司書「強力なモンスターの退治にも成功しており」
司書「モンスターハンターとしての実力もピカイチなのです」
司書「そしてこれらの戦果は、新たに仲間に加わった剣士の力によるところも大きい」
勇者「剣士……」
勇者「かつては傭兵だった男だな……」
司書「はい、元々は腕の立つ傭兵隊を率いていたのですが」
司書「戦争が少なくなった今の世、仕事にありつけずにいたところを狩人に誘われ」
司書「部下ともども、モンスターハンターになったのです」
勇者「…………」
司書「さらに、リーダーである狩人ですが──」
司書「彼は何冊か本も出しており、もちろんこの図書館にも彼の本は置いております」
司書「著書の中で彼はこう豪語していますよ」
司書「“ありとあらゆる狩りを体験したい”」
司書「“幻の竜といわれるホワイトドラゴンをぜひ狩りたい”とね」
勇者(ホワイトドラゴン……)
勇者「分かった……。世話になった……」スッ
司書「おや、もうお帰りですか?」
勇者「…………」ザッザッ…
ギィィ…… バタン……
司書(勇者……相変わらず不思議な人だ)
司書(裏社会では“知恵の実を食べた男”と呼ばれるほどの情報屋である私ですが)
司書(彼のことだけは、なにひとつ分からない……)
司書(もっとも、彼については金払いがいいということと)
司書(彼を詮索することは死を意味する、ということだけ知っていれば十分ですがね)
司書(災いをもたらすパンドラの箱を、わざわざ開けることはない……)
【 PART6 白い竜 】
─ ホワイトマウンテン ─
ビュオオォォォォォ……!
< 洞窟 >
ホワイトドラゴン「ようこそ、白龍の地獄へ!」
勇者「…………」
ホワイトドラゴン「年中雪と氷に囲まれたこの山を登り、単独でここまで来れるのは」
ホワイトドラゴン「人間ではお前ぐらいのものだろう!」
ホワイトドラゴン「なにしろ、人間は馬力がない未熟な生き物だからな!」
ホワイトドラゴン「ところでなんの用だ?」
勇者「牙をいくつか譲って欲しい……抜けたものでかまわない」
ホワイトドラゴン「そんなことならお安い御用だ!」
ホワイトドラゴン「この間、息子の牙が生え変わったばかりだからな!」
ホワイトドラゴン「処分に困っていたところだ! 何本でも持っていけ!」
勇者「……礼だ」ドサッ
ホワイトドラゴン「おお、これはファイアバッファローの不凍肉か!」
ホワイトドラゴン「食料が不足していたのだ、ありがたい!」
ホワイトドラゴン「しかし、礼など不要といっているのに、いつも律儀な奴だ!」
ホワイトドラゴン「もし、お前がいなければ、今頃私も生きていなかっただろうからな」
勇者「…………」
ビュオオォォォォォ……!
勇者「…………」ザクッ…ザクッ…
ホワイトドラゴン(あんなもの、いったい何に使おうというのだ……?)
子ドラゴン「ねえねえお父さん、あれは誰なの?」
ホワイトドラゴン「あれは“勇者”……」
ホワイトドラゴン「人間でありながら、竜以上の強さを持つ超一流のプロだ!」
ホワイトドラゴン「私も奴に命を助けられたことがある」
ホワイトドラゴン「もっともあれは、私を追い詰めていたブラックドラゴンが」
ホワイトドラゴン「勇者の標的(ターゲット)だったというだけで──」
ホワイトドラゴン「奴は私を助けた、とすら思っていないだろうが、な……」
子ドラゴン「ふぅ~ん」
─ 大都市 ─
< 博物館 >
館長「これは、たしかにホワイトドラゴンの牙! 間違いありません!」
館長「登山家さん。こんな貴重なものを、無償で提供してくれるというのですか?」
勇者「ええ……」
館長「しかし、これをどこで発見されたのですかな?」
勇者「イーストマウンテンで登山中に、発見しました……」
勇者「もしホワイトドラゴンがイーストマウンテンにいるとなると、非常に危険です」
勇者「注意を呼びかけるべきだと思いますが……」
館長「そうですな。さっそく各新聞社に連絡を取りましょう!」
【 PART7 モンスターハンター動く 】
─ 狩人のアジト ─
手下A「こないだの狩りの成果、金に換えてきやしたよ」
手下A「あの程度の村じゃ、額はあんなもんでしょう」
手下B「そろそろデカイ獲物が欲しいですね」
狩人「クックック……渡りに船、とはこのことだな」
手下A「え?」
狩人「この新聞記事を読んでみな」バサッ
狩人「つい先日、イーストマウンテンでホワイトドラゴンの牙が」
狩人「登山者によって発見された」
手下A&B「ホワイトドラゴン!?」
狩人「あそこは秘境ではあるが、モンスターはほとんどいないという認識だった」
狩人「盲点だったぜ……」
手下A「どうしやすか?」
狩人「決まってんだろ?」
狩人「牙ですら、闇ルートじゃ数十万ゴールドでさばけるんだ」
狩人「竜族でもっとも希少とされるホワイトドラゴンの死体を丸ごと手に入れたら」
狩人「いったいいくらになるか想像もつかんぜ!」
狩人「俺のハンター仲間総出で、ホワイトドラゴン狩りだ!」
【 PART8 “狩り”の開始 】
─ イーストマウンテン ─
< ふもと >
ザワザワ……
狩人「仲間を総動員する狩りなんざ、久々だな」
狩人「地元民を買収して、他の連中はこの山に近付けないようにしておいた」
狩人「なんとしても、俺たちでホワイトドラゴンを仕留めるぞ!」
手下A「へいっ!」
手下B「はいっ!」
剣士「もし本当にいるのであれば、久々の手応えのある獲物を斬れそうだ」スラッ…
狩人「しっかし、アンタも物好きだな。わざわざ見学に来てくれるとは」ニィッ
会長「この間スライムを斬ってから、狩りの楽しさに目覚めましてねえ」
会長「幻の竜、ホワイトドラゴンが狩られる様を、ぜひこの目で拝見したいのですよ」
狩人「ここはさほど険しい山じゃねえが、足元には気をつけてくれよ」
狩人「アンタに死なれたら、保護協会との関係がまた厄介になるからな」
会長「しかし、もしホワイトドラゴンが見つからなかったら……?」
狩人「そんときゃ、また適当なモンスター村を襲うさ」
狩人「イーストマウンテン付近にも二、三個モンスターどもの集落があるって聞く」
狩人「この人数なら、こないだアンタにやってもらったような下準備もいらねえしな」
会長「なるほど……転んでもタダでは起きない、と」ニッ
狩人「──よし、出発だ!」
ザッザッザッ……
勇者「…………」スッ…
< 中腹 >
手下A「……今のところ、それらしい気配はありませんぜ。どうしやす?」
狩人「この山も広いからな……」
狩人「しかたねえ、隊を三手に分けよう」
狩人「一隊はお前が率いろ。30人ほどつけてやる」
手下A「へいっ!」
狩人「剣士、アンタの部下の30人は、アンタが率いてくれ」
狩人「その方がやりやすいだろ?」
剣士「そうだな」
狩人「俺は本隊として、残りを率いる」
狩人「隊同士の連絡は狼煙を使って行う」
狩人「定期連絡には白を、緊急時は赤の狼煙を上げろ」
手下A「へいっ!」
剣士「了解した」
ザッザッザッ……
手下A(くそっ……ホワイトドラゴンなんか、どこにもいやがらねえ)
手下A(もうこの山からは出ていっちまったのか──)
手下A「──ん!?」ハッ
手下A(あ、あれは……間違いねえ! ホワイトドラゴンの牙!)
「向こうにも落ちてる!」 「あっちにも!」 「おお、すげえ!」
手下A(向こうにずっと続いていやがる……)
手下B「どうする、狼煙を上げるか?」
手下A「いや、ドラゴンを発見してからでも遅くはねえ」
手下A「それに今伝えたら、牙を俺たちだけのモンにできなくなっちまう」
手下A「牙だって数十万ゴールドはするんだしよ」
手下B「それもそうだな」ニヤッ
ザッザッザッ……
手下A「ふへへ、大猟だな。もうこの牙だけで大金持ちになれるぜ」
手下A「いつも狩人さんが儲けを多く持ってくから、こんなボーナスもたまにゃいいだろ」
手下B「そうだな……。バレないように売り払おう」
ザッザッザッ……
勇者(かかったのは30人、か……)シュッ
プツンッ……
ガラガラガラガラ……!!!
ガラガラガラ……!!!
手下A「なんだぁっ!?」
手下B(崖の上から、岩!?)
「ひぃぃっ!」 「逃げろぉっ!」 「うわぁぁぁっ!」
ガラガラガラ……
ドズゥゥゥ……ン……!
手下A「き、牙は俺のもんだ……俺のもん、だ……」ガクッ
手下B「なんで、落石が……」ガクッ
勇者「…………」
【 PART9 “誤算” 】
< 落石現場 >
狩人「定期連絡の狼煙が上がらないと思ったら……こんなことになってやがるとはな」
剣士「落石か……」
会長「あわわ……全員、岩の下敷きに……」
狩人「しかも、こいつらホワイトドラゴンの牙を持ってやがる!」
狩人「ネコババしようとした罰だ! くたばって当然だ、バカどもが!」ドガッ
剣士「いや、単なる事故ではないかもしれんぞ」
狩人「どういうことだ?」
剣士「これは人為的に作られた、“罠”によるものかもしれんということだ」
狩人「なんだと!?」
狩人「ドラゴンがこんな知恵を持ってるってのか!?」
狩人「自分の体を頼りに戦うモンスターに、道具を使った“罠”の発想はないはず!」
剣士「いや……敵はドラゴンですらないのかもしれん」
剣士「もしかすると、ホワイトドラゴンの牙自体が──」
剣士「我々をこの山に誘い出すための餌だったのかも、な……」
剣士「獲物がホワイトドラゴンとあらばあなたは仲間全員を駆り出す、と読んで……」
狩人「いったいどこのだれが……!?」
狩人「俺らを妬む同業者か、あるいは──」チラッ
会長「ほ、保護協会ではありませんよ! なにせ私が来ているんですから!」
剣士「さあな、そこまでは分からん」
剣士「しかし、安心してくれ。モンスターの狩りはあなたたちに一日の長があるが」
剣士「人間狩り(マン・ハント)ならば、我々の方が得意だ」
狩人「フフ……アンタを“ヘッド・ハンティング”したのは正解だったな」
狩人「どこのどいつかは知らんが、どっちが本当のハンターかを教えてやる!」
剣士「狩人さんの手下たちをハメたこの罠は、時限式ではなく手動式だろう」
剣士「この罠を仕掛けた奴らは、今まさに我々がここからどう動くかを見ているはず」
剣士「ならば下手に動くのは逆効果」
剣士「人間の追跡に慣れている我々の部隊だけで、さらに上へと登り」
剣士「罠の主を仕留めてこよう」
剣士「気配を隠すため、敵は少数のはず。我々だけで十分やれる」
狩人「分かった……」
狩人「だが、できれば生け捕りにしてくれよ!」
狩人「ホワイトドラゴンの牙を、どうやって手に入れたか聞き出したいからな」
剣士「了解した。 ──全員、行くぞ」ザッザッザッ…
会長「大丈夫でしょうか?」
狩人「心配いらねえよ。アイツらは歴戦の元傭兵隊だからな」
狩人「久々に人を斬れるかもしれねえから、案外ワクワクしてるんじゃねえか?」ニヤッ
ザッザッ…… ピタッ
隊員A「あそこの木の陰、人の気配がします」
隊員B「隊長、一斉攻撃で仕留めましょう」
剣士「まぁ、そう慌てるな」
剣士「出てこい」
剣士「あの落石、鮮やかな罠ではあったが──」
剣士「こうもあっさり発見されるとは、その後がお粗末だったな」
勇者「…………」ザッ…
剣士「潔いな。仲間はどこにいる?」
勇者「俺一人だ……」
剣士「なに……?」
剣士(たった一人で、これほど大がかりなことをやってのけたというのか……)
剣士「そうか……お前はプロ、だな? それも凄腕の……」
剣士「我々違法なハンターの撲滅を、国か、それに準ずる組織に依頼されたか」
剣士「ずいぶんと思いきった手を打ったものだ」
勇者「…………」
剣士「だが、誤算だったな」
剣士「今、お前を囲んでいる全員が元傭兵だ。対テロリストもお手のものだ」
剣士「どこまで我々に抵抗できるか、楽しませてもらうぞ」
勇者「…………」スッ…
ギュアッ!
剣士「!?」
ザンッ! ザシュッ! ズバッ! シュバッ! ドスッ!
シュッ! ザシュゥッ! ビシュッ! ザクッ! ビッ!
「がはっ……!」 「ぐええっ……」 「は、はやっ……!」
ドザザァッ……!
剣士(なんだと……!? 今の一瞬で10人以上を……!?)
勇者「自分の身の安全が保証されているわけでもない限り……」ザッザッ…
勇者「狩りで“楽しもう”などとは考えないことだ……」ザッザッ…
剣士「お、おのれ……!」
剣士「ひるむな! 残り全員でかかれぇっ!」
ワアァァァァァ……!
ザンッ…… ザシュッ…… ドシュッ……
? ―┼‐ ?ノ ? ?/ ? | ?--ヒ_/ ? / ?\ヽヽ ?ー―''7?
? `」? ?┼, 二Z二 レ? ?/ ?/´レ'?\ ―7 ̄} | ー-、 /?
? (__? (|フ) (__ノ _ノ ∨` ノ /? / _ノ ?\_?
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? ?─┼- / ?| ?‐┼- | ー|―?
? ?─┼─ | \ レ /  ̄Tー / ノ -─?
? (二フヽ \/ _ノ? ?(二フ\ ヽ_ノ ?/ 、__?
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? ?\ ||? || ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ `./⌒?i?` ?/ゝ? _,,..,,,,_?
? ||\`~~´ (キムチ) ? ? \( > ? ?('\\? ./?,'?3 `ヽーっ ・・・・・・。?
? ||\|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|| ̄\`つ ? ?⌒?_) l ?⊃ ⌒_つ?
? ? ?.|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||? ? ? ? ?`'ー---‐?
?(?'A)?・・・。?〃∩?∧_∧? ? ? <⌒/ヽ___?
?/(ヘ)ヘ ? ?⊂⌒(? ・ω・) ・・・。 ?<_/____/ zzzz・・・?
? ? ? `ヽ_っ⌒/⌒c
ザンッ……!
隊員A「ぐはぁっ!」ドザァッ
勇者「…………」チャキッ
剣士(我が傭兵隊が……全滅……!)
剣士「お前は……お前はまさか!」
剣士「傭兵時代……聞いたことがある……!」
剣士「最悪の人食い竜だったブラックドラゴンを、たった一人で退治した男の話を……」
剣士「その男は帝国軍基地に侵入し、司令官を暗殺したとも……」
剣士「西の王国に出現した魔王軍の敗退にも、関与が疑われていると聞く……」
剣士「超A級の……プロフェッショナル!」
剣士「お前が……“勇者”か!」
勇者「…………」
剣士「あっさり我々に追跡されたのも、我々を誘い出すため、か」
剣士「まさか、ドラゴンなどより恐ろしい怪物が、この山に潜んでいたとは……」チャキッ
剣士「どうやら……誤算は我々の方だったようだな……」ジリ…
剣士「しかし、我々とて精鋭……よもやここまで実力差があろうとは……!」
勇者「いかなる名剣とて、研がねば切れ味は落ちるものだ……」
剣士「!」ハッ
剣士「…………」ジリ…
勇者「…………」スッ…
剣士「でやぁぁぁっ!」シェッ
勇者「…………」シュバッ
ザシィッ!
ドサァッ……!
剣士(そっ、そうか……! 無抵抗なモンスターばかりを斬っているうち……)
剣士(いつしか……我々の“切れ味”も落ちて、いたのか……)
剣士(違法ハンターなどに……身を落とした報い、か……)ガクッ…
勇者「…………」
【 PART10 初めて体験する“狩り” 】
狩人「狼煙が一向に上がらない……」
狩人「いったいどうしたってんだ……」
会長「まさか、全員やられたのでは……」
狩人「バカな! アイツらは全員が、名うての剣の使い手なんだぞ!」
会長「し、しかし……他に考えられないじゃありませんか!」
会長「どうするんです!? 早く何とかして下さいよ!」
狩人「ぐっ……!」
ドヨドヨ……
狩人(ド素人が……好き勝手ほざきやがって!)
狩人(保護協会のトップでもなきゃ、この場で殺して埋めてるところだ!)
∩
( ⌒) ∩__
/ ,ノ i 、E)
/ / / /"
/ /_、_ /ノ
`/ /,_ノ`)//
ヽ |good job!!
\ \
ヒュルルル…… グサッ!
狩人(剣が飛んできた!?)
狩人(攻撃か!? いや──)
狩人「こ、この剣は──剣士の……!」
「やっぱり剣士さんはやられたんだ!」 「ひぃぃっ!」 「ウソだろォ!?」
ワァァ……! ヒィィ……! ウワァァ……!
狩人「お、落ちつけ! ──みんな、落ちつけっ!」
ガササッ……
狩人「──あ、あっちだっ!」
狩人「お前ら、矢を打ちまくれぇっ!」
「あの茂みだっ!」 「死ねぇぇっ!」 「うわぁぁぁっ!」
ビュバッ! ビュババババッ! ビュバッ!
シ~ン……
ハァ…… ハァ……
狩人(だ、誰もいない……)ゴクッ…
狩人(もし、さっきの剣や今の音に──)
狩人(俺たちに“バック・フィーバー”を起こさせ)
狩人(矢を使い果たさせる狙いがあったとすれば──)
※バック・フィーバー
…狩りで極度の緊張状態に陥ったハンターが、思いもよらぬ行動に出てしまうこと。
バッ!
狩人「後ろ!?」
勇者「…………」チャキッ
「うわぁっ!」 「なんだコイツは!」 「いつの間に!?」
ザンッ! シュパッ! ドッ! ザシィッ! ドズッ!
ズシャッ! ジャッ! ビッ! ドシュッ! ズバァッ!
狩人(一人につき一撃で、確実に殺してやがる……!)
狩人(なんなんだ、この化け物は……!)
狩人(ま、まさか……今回のことは全てコイツ一人によるものなのか!?)
会長「あ、あわわっ……!」
狩人「ま、まだ、俺の矢は残ってるっ!」ギリリッ…
ビュッ!
勇者「…………」シェッ
ガキンッ!
狩人(この距離で、俺の矢を剣で弾くだとっ!?)
会長「ま、待ってくれ……! 君の狙いは分かっている!」
会長「君は違法なモンスターハンターを、討伐しにきたんだろう!?」
勇者「…………」
会長「私はハンターではない! モンスター保護協会の会長なんだ!」
会長「彼らに脅されて、無理やり狩りに参加させられてただけなんだ!」
狩人「なっ、てめえ!」
会長「助けてくれぇっ!」ダダダッ
勇者「…………」
ズバンッ!
会長「ぐはっ! た、助け、てぇ……」グラッ…
ドザッ……
勇者「…………」チャキッ
狩人「うぅっ……!」ジリッ…
狩人「な、なぁ……アンタ、俺と手を組まねえか?」
狩人「アンタ、金で雇われたんだろ? モンスターハントってのは金になるんだ」
狩人「俺とアンタが組めば、大儲けできるぜ!」
狩人「も、もちろん、分け前はアンタの好きなようにしてくれていい!」
勇者「…………」
狩人「──わ、悪かった! 俺、もう狩りなんかやらねえ!」ガバッ
狩人「今日で最後だ! だから頼む! 命だけは助けてくれぇっ!」
勇者「お前は“ありとあらゆる狩りを体験したい”そうだが……」
勇者「なら……最後に“狩られる側”も体験すべき、だろうな……」チャキッ
狩人「!」
狩人「うわわぁっ!」ダッ
ザンッ……!
【 PART11 モンスター保護協会 】
─ モンスター保護協会本部 ─
会員「副会長、ご覧になられましたか? この記事を……」バサッ
副会長「ああ、驚いたよ」
副会長「違法ハンターの中でも特に悪名高い狩人と」
副会長「調査の結果、狩人と癒着していたことが判明した会長……」
副会長「この二名の抹殺を“プロ”に依頼する資金がようやく調達できた矢先に──」
副会長「会長もろとも、狩人率いるハンターどもが全滅させられてしまったのだからな」
会員「証拠は一切残っておりませんが、やったのはおそらく……」
副会長「我々が雇おうとしたプロフェッショナル……“勇者”だろうな」
狩人「今日で最後だ! だから頼む! 命だけは助けてくれぇっ!」
勇者「お前は“ありとあらゆる狩りを体験したい”そうだが……」
勇者「なら……最後に“狩られる側”も体験すべき、だろうな……」チャキッ
狩人「!」
狩人「うわわぁっ!」ダッ
斬ッ……!
学生「真剣は切れ味がある分あつかいやすいし素人から玄人まで幅広く使われている武士の基本武器
対して研無刀は見た目なんかは真剣とほとんど変わらねぇがあえて斬れない様に鋭く研がない分
硬度と重量をかなり増加させて斬るより破壊を目的とした玄人好みのあつかいにくすぎる刀
使いこなせねぇとナマクラ刀より弱いただの鉄クズみてぇなもんだってのに何であのガキは?」
会員「しかし、我々でも標的二人分の依頼金をかき集めるのがやっとだったというのに」
会員「狩人の一派を全滅させるなどという、大がかりな依頼を行うとは……」
会員「これが勇者の仕業だとすれば、依頼者はいったい何者だったんでしょうか?」
副会長「おそらくは……とてつもない大物が動いたに違いあるまい……」
副会長「我々では到底想像もつかないような大物が、な……」
人間に危害を加えない温和なモンスターを標的(ターゲット)とする
いわゆる“違法モンスターハンター”は深刻な社会問題となっている……。
違法ハンターは人とモンスターの共存を阻害する要因となるため、
各国は対策を試みているが、違法ハンターの取り締まりは非常に難しく、
現在もなお、彼らの暗躍は続いている……。
<END>
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