結衣「泣かなくなったな」京子「うん」(172)
結衣「……」
たまになんでもないのに寂しくなったり心細くなる時がある。
たとえば風邪を引いて熱を出した時や、眠れない夜や、そんな時に。
今だってそうだ。変に心細くて、嫌な気分。
ふと窓の外を見れば、秋の青空はかげり雨が降りそうになっていた。
結衣「……洗濯物、取り込まなきゃ」
結衣「……めんどくさいなー」ハァ
結衣「よいしょっと」ガタッ
ピンポーン
緩慢な動作で椅子から立ち上がったときだった。
チャイムの音。
ピンポーン
ピンポンピンポンッ
結衣「……」ガチャッ
京子「遊びにきた」
結衣「もう少し静かにしろ」
◆
結衣「……」ムスー
京子「……」ピコピコ
結衣「……」ムスー
京子「……不機嫌?」テイヤッ
結衣「うん」
京子「そんなに不機嫌だと京子たん帰っちゃうぞ☆」ピコロンピコロン
結衣「そんなつもりないくせに」
京子「うん」
結衣「せっかく物思いに耽ってたとこを」
京子「そりゃ悪かった」
結衣「……」
京子「……」テレッテー
結衣「まあ、べつにどうでもいいことなんだけどさ」
京子「へえ」
結衣「なんか飲む?」
京子「ラムレーズン」
結衣「ねえよ。つーかラムレーズンは飲み物じゃないだろ」
京子「私なら飲めるよ」
結衣「飲んでみろよ」
京子「ごめん、嘘」
結衣「お茶しかないわ、お茶でいい?」カポカポ
京子「えー!」
結衣「もういれてるけど」
京子「じゃあいいや、それで」
結衣「何様だ」
京子「お客様お嬢様京子様」
結衣「うん」
京子「何か突っ込んでよ」
結衣「突っ込み方がわからなかった」
京子「結衣様ーっ」ガバッ
結衣「意味わからん」
京子「実は京子たんもわかりませんでした☆」
結衣「星飛ばすなって」
京子「てへっ☆」
結衣「お茶」
京子「あ、どうも」
結衣「……」ズズッ
京子「……」ズズズッ
結衣「けど、珍しいね」
京子「ん?なにが?」
結衣「いや、京子がこんな微妙な時間に来るの」
京子「そう?」
結衣「うん、お昼ちょっとすぎた頃だし」
京子「お昼ご飯食べに来てほしかった?」
結衣「いや別に」
京子「ちぇー」
結衣「けど、なんか……」
京子「うん?」
結衣「京子って、図ったように来るよなっていうか」
京子「どゆこと?」キョト
結衣「……」
結衣「なんでもない」フイッ
京子「なんだそりゃ」
結衣「気にすんな」
京子「じゃあゲームの続きでもする?」
結衣「うん」
京子「あ、けど」
結衣「なに?」
京子「……」
結衣「なんだよ……?」
京子「さっきのとこでライフぜろになったんだが」
結衣「私の集めたライフを返せ」
京子「まあいっか」
結衣「おい」
京子「これで勝てなかったらゲームオーバーだねっ」
結衣「おい」
京子「うん……ごめん」
結衣「……まあいいけど」ハァ
京子「結衣様……っ」ガバッ
結衣「またか」
京子「結衣様、どうかラムレーズンを!」
結衣「なぜそうなる」
京子「ラムレーズン食いたい」
結衣「ねえよ」
京子「ラムレーズンうめぇ」
結衣「とうとう壊れたか」
京子「ラムレーズン欲しいからな」
結衣「……後で買いにいく?」
京子「まじかっ!」バッ
結衣「今は雨、降ってきてるし」
京子「早く雨止まないか!」
結衣「いや無理だろ」
―――――
―――――
かげっていた空からはいつのまにか雨が降り始め、
落ちた枯葉が作った鮮やかな道を黒く暗く濡らしていく。
京子はゲームにも飽きたのか、大きく欠伸をして身体を伸ばす。
結衣「ライフ集め終わった?」
京子「あんたは鬼か」
結衣「楽勝したいタイプなので」
うぅー、と京子がカーペットを敷いた床に倒れこんだ。
そろそろお許しをやってもいい頃かな。
そんなことを思いながら、私はお茶の入ったカップをテーブルに置いて立ち上がった。
並々とカップの中のお茶が揺れる。
京子「結衣ー」
結衣「ん?」
京子「こっち来て寝よう」
結衣「なんでだよ」
雨はまだ、止まない。
京子「眠たくなってきたんだって」
結衣「一人で寝ろ」
京子「やだ」
結衣「ていうかそんなとこ寝転がってたら頭痛くなんない?」
京子「だから結衣の腕枕」
結衣「なんでだよ」
京子「二回目なんでだよいただきましたー」
結衣「なんだそれ」
京子「眠い」
結衣「風邪ひくぞ、そんなとこで寝たら」
京子「じゃあ結衣の胸で」
結衣「やだよ」
京子「部屋の真ん中で寝転びたい」
結衣「寝転んでるし」
京子「大の字になって寝るのが夢だった」
結衣「夢が叶ってよかったな」
京子「結衣の夢もそうだって私、知ってるよ……」
結衣「ちげーし」
京子「昔言ってたじゃん」
結衣「覚えてない」
京子「私ちゃんと覚えてるよ」
結衣「さすがの記憶力だね」
京子「まあ嘘だけど」
結衣「うん」
京子「……」
結衣「眠いなら寝れば?」
京子「……うん」
結衣「……」
京子「一人で寝るのやだ」
結衣「……」
京子「結衣」
結衣「……仕方ないな」
京子「へへっ」
結衣「毛布くらいかけなきゃほんと風邪引くよ」
京子「どうせすぐ起きるって」
結衣「そうかな」
京子「それに結衣がいたら寒くない」
結衣「どういう理屈」
京子「私の理屈」
結衣「……あっそ」
京子「うん」
結衣「よいしょ……」トスッ
京子「うん、あったかいな!」
結衣「なんでだよ」
京子「三回目」
結衣「数えんな」
京子「もうちょっとこっちきてよー」
結衣「えぇー」
京子「しかたないから私がいってやろう」ゴロゴロ
結衣「(蓑虫みたいだな……)」
京子「私蓑虫みたいじゃね?」ゴロゴロ
結衣「シンクロした……」
京子「は?」
結衣「いや、なんでも」
京子「けど蓑虫って転がったっけ」
結衣「さあ」
京子「まあいいか」ピタッ
結衣「そんなにくっついてどうする」
京子「いいじゃん」
結衣「……まあいいけど」
京子「あったかい」
結衣「そりゃどうも」
京子「冬でも炬燵かストーブにできる温かさだ」
結衣「そういわれてもあんま嬉しくない」
京子「嬉しいくせにー」
結衣「いや普通は嬉しくないし」
京子「ぴったんこ」
結衣「なんだそれ」
京子「四回……あ、違うか」
結衣「うん、違うな」
京子「腕枕」
結衣「しない」
京子「胸枕」
結衣「殴るぞ」
京子「いやんっ☆」
結衣「ていうか胸枕ってなんだ」
京子「胸に頭を乗せる」
結衣「やってみろよ」
京子「いいのかい?」
結衣「やっぱだめ」
京子「したらしたで結衣のファンに殺されそうだしな」
結衣「いねえよそんなの」
京子「いるって」
結衣「だれ?」
京子「私」
結衣「自分で自分を殺すのか」
京子「……」
昼飯食ってきます
結衣「寝ないの」
京子「寝るよ」
結衣「じゃあ早く寝ろよ」
京子「一人で寝るのやだ」
結衣「一人じゃないでしょ」
京子「一人じゃないけど」
結衣「目つぶったら」
京子「うん」ジーッ
結衣「つぶれよ」
京子「結衣を見てたい」ジーッ
結衣「飽きるほど見てるじゃん」
京子「飽きを通り越して目の保養」
結衣「なんでだよ」
京子「今度こそ四回目」
結衣「うん」
京子「寝れない」
結衣「眠い言ったのどこの誰だ」
京子「私か」
結衣「うん」
京子「だって結衣が近くにいんだもん」
結衣「なら離れろよ」
京子「それもやだ」
結衣「わがままなやつ」
京子「へへっ」
結衣「……いいけどさ、べつに」
京子「結衣は京子たんに弱いからね☆」
結衣「さっさと寝ろよ」
京子「ごめんなさい」
結衣「……もう」
京子「でもほんとのことでしょ?」
結衣「……さあな」
京子「ほんとのことなんだ」
結衣「うっさい」
今更ながら遅くなってすいません
ID違うが>>1です
京子「そうかー、結衣は私に弱いのかー」
結衣「寝ろって」
京子「でも結衣って他のことには強いよね」
結衣「え?」
京子「ある意味私に弱くて私に強い」
結衣「よくわからん」
京子「なんかかっこよくね?」
結衣「そうかな……」
京子「結衣といると安心する」
結衣「そ」
京子「結衣は強いからさ」
結衣「どうだろな」
京子「ん……」
結衣「眠くなってきた?」
京子「もともと眠いのは眠いもん」
結衣「あっそ」
京子「……子守唄」
結衣「やだ」
京子「……えー」
結衣「恥ずかしいし」
京子「じゃあ撫で撫で」
結衣「こちょこちょならしてやる」
京子「逆に目、覚めるし」
結衣「じゃあ大人しく寝る」
京子「しゃあないなー……」
結衣「……」
京子「……」
結衣「……寝た?」
京子「……寝てない」
結衣「……」
京子「……」
結衣「……」
京子「寝」
結衣「……てない」
京子「なんか笑えてきた」
結衣「なんで」
京子「わからん」
結衣「……まあ、笑えて来たってのは同意するよ」
京子「……なんか昔もこんなことあったよなあ」
結衣「……また嘘?」
京子「これはほんと」
結衣「そ」
京子「なんか、昔は結衣ん家でさ、お昼からずーっとごろごろ寝転んで」
結衣「うん」
京子「畳のうえ、気持ちよかったなー」
結衣「ここに畳がなくって悪かったな」
京子「結衣がいるから許す」
結衣「なんだそれ」
京子「お昼寝は畳と結衣で1セット、けど結衣だけでも畳の効果はある」
結衣「どういう設定だ」
京子「今日みたいな雨の日とか特に結衣に抱きつきたくなる」
結衣「本能的に?」
京子「うん」
結衣「動物か」
京子「人間も動物だ」
結衣「まあな」
京子「けど、なんか雨の日のたびに結衣に抱きついてた気する」
結衣「……」
結衣「本能だからでしょ」
京子「うん」
結衣「……」
京子「……」
結衣「……おやすみ」
京子「……ん」
◆
雨の音に混じって、京子の寝息が聞こえてくる。
あまりにも穏やかなその寝息を耳にしながら、私は起き上がる。
肩だったり首だったりが変に痛い。
結衣「……」
昔のことを、少し思い出す。
私に抱きついて眠る京子のことを、思い出す。
今みたいに、幸せそうな顔じゃなくって、怯えたように縮こまって。
結衣「……昔は可愛かったんだけどなあ、お前」
今はどうだって聞かれれば、
もちろん可愛いなんてことは言ってやらないけど。
すいません、電話来てるので少し離席します
京子が抱きついてくるときは、いつもその目に涙を浮かべていた。
だから守ってやらなきゃなんてへんな使命感を持って。
私は、京子が言った通り京子に弱い。そして、私はきっと、全部弱い。
悔しいけど、京子がいたから。強い子のように、いられた。
雨は止まない。
京子は一向に目を覚ます気配はない。
私はそっと、京子の頭に手を伸ばした。そのやわらかな髪を、撫でる。
指が、とけてしまいそうだと思った。
結衣「……泣き虫」
京子に言ったのか、それとも別の誰かに言ったのかもわからないまま、
そんな言葉がぽろりとこぼれた。
―――――
―――――
京子「結衣ー!」
結衣「……」
京子「おい、結衣ー!」
結衣「……」
京子「起きろゆ……」
結衣「うっさいわ」
京子「おぉ、起きたか!」
結衣「今何時?」
京子「もうすぐ夕方」
結衣「そっか……」カキコキ
結衣「うわ、肩痛い」
京子「こんなとこで寝るからだ」
結衣「お前が言い出したんだろ」
京子「うん」
結衣「京子は大丈夫なの?」
京子「すっごい固まってる」
結衣「えっ!?」
京子「もみほぐして」
結衣「なんでだよ」
京子「……五回目?」
結衣「もういいって数えなくて」
京子「うー、肩いてー」
結衣「自業自得だ」
京子「その自業自得に付き合ってくれた結衣は?」
結衣「……私も自業自得」
京子「共有してるから自業自得なんかじゃない!」
結衣「……うん」
京子「だから肩もんで」
結衣「意味わからん」
京子「マジで肩まわらん」
結衣「どんな寝方したんだよ!?」
京子「普通に寝てたはずなんだけど……」
結衣「しょうがないな京子は……」
京子「てへっ☆」
結衣「ほら、後ろ向いて」
京子「ほい」クルッ
結衣「このへん?」
京子「もうちょい下」
結衣「このへんか」モムモム
京子「あっ、そう……そこっ」
結衣「……」モムモム
京子「あぁんっ」
結衣「変な声出すな」ズビシッ
京子「いてっ」
結衣「まだ痛い?」
京子「結衣が突っ込むから……」
結衣「誰のせいだ」
京子「あ、でも肩はマシになったかも」
結衣「それは良かった」
京子「結衣もやってやろう!」
結衣「いや、遠慮する」
京子「ちぇっ」
結衣「だって京子痛そうだし」
京子「大丈夫だって」
結衣「信用できない顔」
京子「この顔は?」グニンッ
結衣「ぶっ」
京子「この顔」グニャンッ
結衣「くくっ……!」
京子「この顔……」
結衣「もういいから!」ククッ
京子「えー」
結衣「頼むから」
京子「まあいいか。結衣を笑わせて大変満足である」
結衣「それはそれは」
京子「次はどんな顔がいい?」
結衣「満足したんじゃないのかよ」
京子「したけどしてない」
結衣「……」
結衣「ラムレーズン」
京子「あんの!?」
結衣「買いに行かないの?」
京子「あぁ、そういえばそんな話もあったっけ」
結衣「忘れてたのかよ」
京子「いや覚えてた」
結衣「絶対忘れてたな」
京子「うん」
結衣「忘れてたんなら行く必要ないよな」
京子「やっぱり覚えてました」
結衣「どっちだ」
京子「覚えてたけど忘れてて忘れてたけど覚えてました」
結衣「わけわからん」
京子「ほら、雨止んだし行こうぜ!」
結衣「急に元気になったな……」
京子「ラムレーズンとありゃあこの歳納京子!」
結衣「はいはい」
◆
雨が止んだばかりの外は少し冷え冷えとしていて、
もう冬なのだと、妙に意識させる。
結衣「こんなに寒いのにほんとにラムレーズン食べるの?」
京子「ラムレーズンに季節なんか関係ない!」
結衣「あっそ」
そんなこと言いつつ、ひたすら寒そうに身を縮めながら私のところに寄ってくる
のはどこの誰だろうな。
京子はラムレーズンの入った袋を手に提げ、その手に当たるか当たらないかの位置に
私の手。
京子「あ、でもちょっと寒いかも」
結衣「うん」
京子「まあ結衣にくっついてたら大丈夫か」
結衣「私にくっついたまま食べる気か」
京子「結衣にも一口あげよう」
結衣「別にいらんし」
京子「じゃあ全部は食べられんし置いて帰ろう、結衣ん家に」
結衣「私食べないって」
京子「だから私が食べる」
結衣「また家に来るのか」
京子「当たり前だ」
結衣「……まあいいけどさ」
京子「次は明日かな」
結衣「早いな」
京子「早く会いたいからな」
結衣「ラムレーズン?」
京子「うん」
結衣「ふーん」
京子「結衣にも会いたいって言ってほしい?」
結衣「べつに」
京子「言ってやろうか」
結衣「いいし」
京子「会いたいよ」
結衣「……」
京子「へへっ」
結衣「今も会ってるじゃん」
京子「あ、そうか」
結衣「うん」
京子「会ってるか」
結衣「会ってる」
京子「飽きるほど会ってるか」
結衣「うん、会ってる」
京子「でももっと会いたいよ」
結衣「ラムレーズン?」
京子「結衣に」
結衣「会ってるけどな」
京子「うん」
結衣「……」
京子「……」
結衣「……」
京子「この私がずっと近くにいてやろう」
結衣「なに、それ」
京子「言ってみたかった」
結衣「ふーん」
京子が突然私から離れると、先に立って走り出した。
雨でぬかるんだ道。
走ったら危ないと考える間もなく、京子は案の定、滑って尻餅。
京子「……」
結衣「……大丈夫?」
京子「ラムレーズンは平気だ」
結衣「あ、ほんとだ」
ラムレーズンを落とさないように上げたらしい腕をとって、京子を立ち上がらせる。
痛かったのか、顔をひくひく引き攣らせているがたぶん大丈夫だろう。
昔はこんなことでもすぐに泣いていたくせに。
結衣「泣かなくなったな」
京子「うん」
結衣「まあ中学生にもなって転んだだけで泣く奴なんていないけどさ」
京子「泣いたほうがいい?」
結衣「……泣かれると困るからだめ」
京子「でも泣いたら結衣が、きょーこに手を出すなって助けてくれたよねー」
結衣「あれはまあ」
京子「こけて泣いたときもその台詞だったのはさすがの私でもやばかったなー」
結衣「う」
京子「いやあ、あのときの結衣は」
結衣「て、ていうかさ!」
京子「ん?」
結衣「……なんで京子、泣かなくなったの」
京子「泣いてほしい?」
結衣「そういうわけじゃないけど」
京子「なんでだとおもう?」
結衣「わかんないから聞いてんじゃん」
京子「あ、そっか」
結衣「あ、そっかって」
京子「だって、結衣は私に弱いからさー」
結衣「なんでそういう話が出てくる」
京子「弱いのに結衣は泣かないんだもん」
結衣「……意味わからん」
京子「私が泣いたら結衣は泣けないでしょ、泣きたいくせに」
結衣「泣きたくなんか……」
結衣「……ないし」
京子「交代だよ、今度は私が代わりに結衣を守ってやるからさ」
結衣「別にそんなの」
京子「……」
結衣「……」
京子「あーもう結衣たんったらー」
結衣「な、なに?」
京子「私の前じゃ結衣は弱いんだから強がらなくたっていいってこと」
ちゃんと知ってるよ。
結衣がほんとは寂しがり屋なんだってさ。
京子はそう言って笑って。
腹が立つくらい清清しい笑顔で、バカみたいに腕を広げやがって。
京子「泣いてよし!」
結衣「はあ?」
京子「さあ、胸に飛び込んで来い!」
結衣「……」スタスタ
京子「ちょ、スルーですか」
結衣「ラムレーズンとけるよ」
京子「あ」
乾き始めた道に落ちる鮮やかな落ち葉の赤がうつったみたいに、
京子の顔も、たぶん私の顔も赤い。
夕日が出始めた。今日はもう雨は降らないだろう。そんな気がする。
京子「……帰ろっか」
結衣「うん」
意味もなく寂しかったのは。
意味もなく心細かったのは。
いつのまにか空の真っ黒な雲と同時にどこかへ吹き飛ばされてしまった。
行き場のない気持ちは、すっかり消えてなくなって。
結衣「晴れてきた」
京子「うん」
結衣「雨の日、京子はいつも泣いてばっかだったよな」
京子「だから今度は結衣が泣く番だし泊まってってやろう」
結衣「いいよ」
京子「いいの?」
結衣「言うと思ってたから」
京子「さすが結衣だ」
結衣「うん」
京子「じゃあさっさと帰って晩ごはんの用意だな!」
結衣「誰がつくるの?」
京子「結衣」
結衣「おい」
京子「仕方が無いから手伝ってやろう」
結衣「よし」
京子「で、帰ったらゲームの続きでそんでそんで」
結衣「京子」
京子「ん?」
結衣「……」
京子「なに?」
結衣「……来てくれて、ありがとな」
京子「……」
京子「へへっ、そりゃあ私だからな」
結衣「うん、京子だからな」
京子「そんな京子様にラムレーズン一年分」
結衣「無理」
京子「ちぇー」
結衣「ほら、今度こそ帰るよ」グイッ
京子「ん」ギュッ
終わり
結京はかいててもみてても安心する
最後まで見てくださった方、支援保守ありがとうございました
それではまた
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