櫻子「あかりちゃんって、好きな子いる?」(262)

あかり「好きな子?」

櫻子「うん、好きな子」

ドキドキ。
妙な緊張感だ。
あかりちゃんが不思議そうな顔をしながら首を傾げた。

ドキドキ。
あー心臓の音がうるさいっ。

あかり「みんな大好きだよ!」

うん、予想通りの答えだ。
よっしゃと心の中でガッツポーズ。
じゃあじゃあ、と私は意気込んだ。

櫻子「皆好きなら私とも付き合えるよね!」

あかり「えっ?」

櫻子「あかりちゃん、私と付き合ってくれませんか!」



櫻子「ってことであかりちゃんと付き合うことになった」

向日葵「なにがってことでなんですの」

うるさいなあ、と私は煙を払うような仕草。
向日葵がむっとしたような顔をする。まあ向日葵はいつもそんな顔を
してるけど。

向日葵「経緯はわかりましたけれど、どうして赤座さんと付き合うという発想に
    至ったのか……」

櫻子「あ、そんなこと」

向日葵「そんなことってあなたね」

櫻子「あかりちゃんと付き合いたいから」

それだけに決まってる。
どうしてそれがこのおっぱい星人にはわからないのか。

向日葵「付き合いたいって、それって櫻子は赤座さんのことが好きってこと?」

櫻子「好きになりたいから付き合うの」

向日葵「はあ?」

櫻子「っていうか向日葵だけずるいから、私も誰かと付き合うの」

ぷいっと顔を逸らすと、向日葵は呆れたような溜息を吐いた。
その話題は、それっきりだった。


向日葵が付き合い始めてもう数ヶ月経つ。
なんだか先を越された気分で釈然としないし、向日葵が知っていることを私が
知らないのは嫌だった。

だからだ。

朝、起きて。
時計を見て、慌てて準備して。
ほんの少し前までの生活がすっかり狂ってしまっている。いつも起こすついでに
向日葵が迎えに来なくなってからはずっとこんな調子。

櫻子「うー」

しかめっ面で髪をとかし、唸ってみても何も始まらないわけだけど。

花子が「どいて」と洗面所に入ってくるので押し問答しつつなんとか準備し終え、
朝ごはんは食べる時間がないので「いってきます」もろくに言わずに家を
飛び出す。

そこではたと気付いた。
そういえば私、今日からあかりちゃんと恋人同士なんだっけ。
玄関の前で、あかりちゃんがちょこんと立っていて。

櫻子「あかりちゃん……」

あかり「あ、櫻子ちゃん、おはよぉ」

櫻子「おはよ!」

ぱっと頭に手がいったのは、急いだせいで乱れてないか不安だったから。
気付いたあかりちゃんが、「おかしくないよ」と笑ってくれる。

櫻子「そっかあ、なら良かったー」

あかり「うん」

櫻子「それで、どうしてここで待っててくれてるの?」

あかり「えっ……櫻子ちゃんが昨日、明日から家の前で待っといてって」

櫻子「あ、あれ?そうだったっけ?」

首を傾げながら、あぁそういえばそんなことも言ったっけなあと思い出した。
「言ってたよぉ」と膨れるあかりちゃんにごめんごめんと言いつつ歩き出す。

櫻子「いやあ、久し振りに誰かと登校するかも」

あかり「向日葵ちゃんと最近一緒じゃないんだっけ?」

櫻子「うん、まあべつにいいんだけど。あかりちゃんが一緒のほうが数百倍楽しいよ!」

あかり「そ、そう?」

櫻子「そうだよ!」

思い切り頷くと、「そう言ってもらえるとちょっと嬉しいな」とあかりちゃんが
照れたように言って。
あぁ、やっぱりあかりちゃんは素直で可愛いなあ。

あかり「あかり、昨日本当に吃驚しちゃって」

櫻子「昨日?」

あかり「櫻子ちゃんに付き合ってって言われたとき」

櫻子「あー……」

まあそりゃそうだろう。
自分でも一か八かだったし。(あかりちゃんが断るわけないって妙な自信はあったけど)

あかり「だって、付き合うっていうことはその……恋愛、関係っていうか」

櫻子「うん、そうだね」

あかり「そんな軽く!?」

櫻子「私はそのつもりであかりちゃんに言ったんだもん」

あかり「う、うん……。だから驚いたっていうか。本当に、あかりでいいのかなとか
    色々考えて」

櫻子「あかりちゃんがいいんだよ!」

あかり「……」

あかり「……うん。だったらあかりも、ちゃんと櫻子ちゃんに応えなきゃいけないよね」

一瞬押し黙ったあかりちゃんは、笑顔になるとそう言った。
それで、あらためてよろしくねって。
いくらあかりちゃんの天使具合に慣れてる私だからって、こうあらためて言われると
照れちゃうというか、恥ずかしい。

あかり「櫻子ちゃん?」

櫻子「あーっ!あかりちゃんはもーっ!」

あかり「えっ、櫻子ちゃん!?」

胸の奥がうずうずする。
いいなあ、この感じ。向日葵もこんなふうなの、感じてるんだろうか。
そう思うと、負けてられない。

櫻子「あかりちゃんっ」

あかり「櫻子ちゃん!」

名前を呼んだのは同時だった。
いつもよりあかりちゃんが大きな声で言うので今度は何を言ってくれるのかと
わくわくしたら。

あかり「大変、早くしなきゃ遅刻しちゃうよぉ!」

いや、確かにドキドキはするけどそれは!
あかりちゃんが慌てて走り始める。

あかり「急ごう!」

走り始めて、それでぐっと手を掴まれて。
あかりちゃんの小さな手に引かれ、私も自然に走り始める。

ああ、でもまあいっか。
これからずっと、あかりちゃんと一緒にいられるんだもんね。

―――――
 ―――――

向日葵「今日は遅刻ギリギリでしたわね」

櫻子「向日葵には関係ない」

ぼそりと言って、席に着く。
隣の席に座る向日葵が、聞こえよがしの溜息。一体なにが気に食わないのか。

向日葵「もう、あなたの遅刻の心配はしなくていいのかしら」

櫻子「どうせ心配なんてしてないでしょ」

向日葵「……えぇ、してませんわ」

あかりちゃんとちなつちゃんが揃ってどこかへ行ってしまったせいで、
後ろには誰もいない。
もうすぐチャイム鳴るのにあかりちゃん、どこ行っちゃったんだろう。

向日葵「赤座さんにちゃんと起こしに来てって頼みなさいよ」

櫻子「心配しなくてもあかりちゃんは迎えに来てくれるよーだ。あ、心配してないのか」

向日葵「えぇ、心配してませんわ」

櫻子「……」

向日葵「……」

なんなんだろうこのやな感じ。
最近ずっとこんなだし。

むっとしながら机の茶色を見詰めていると、ようやくチャイムが鳴った。
そっと後ろのドアを見ると、あかりちゃんとちなつちゃんがこそこそと教室に
入ってくるのが見えた。

先生より先に席に戻ったあかりちゃんに「どうしたの?」と小声で訊ねると、
曖昧な笑顔が返って来ただけだった。

―――――
 ―――――

あかり「はー、やっと授業終わったよぉー……」

櫻子「疲れたー……」

机に突っ伏しながら言うと、あかりちゃんが「本当だねぇ」と息を吐く。
それでもあと二時間はまだ残っている。
昼休みがせめて二十時間はあればいいのに!

櫻子「お腹減ったあー」

あかり「給食並ぶ?」

櫻子「うん。もう授業中何度お腹の虫が鳴っていたことか……」

そう言いながら立ち上がる。
ふと横の席を見れば、すまし顔の向日葵がもう自分の分のプレートを机に
置いて座ってるし。

見なかったことにする。
いらいらするから。

あかり「あかりもだよぉ、みんなに聞こえてないか心配で」

櫻子「そうなんだよーあかりちゃんはわかるなあ」

あかり「そうかなぁ?」

櫻子「うんっ!」

給食当番のちなつちゃんにちくわの磯部あげを一つ多めにねだり、ほくほくしながら
席に戻る。
まだ一人ぽつんと待ってる向日葵が目に入ったけど、気にしないであかりちゃんと
机をくっつけいただきますした。

あかり「やっぱり美味しいなぁ」モグモグ

櫻子「生き返るー」ハムハム

ちくわの磯部あげをくわえながら、なんかいいなって思った。
あかりちゃんはなんでも美味しそうに食べるし、一緒にいていらいらしないし
楽しいし、やっぱり付き合うならあかりちゃん!

櫻子「あっ、ちくわの磯部あげなくなった!」

あかり「そりゃ食べたら減っちゃうよぉー」

櫻子「えぇー」

あかり「一ついる?」

櫻子「さすがあかりちゃん!」

それになによりおっぱいさんの誰かと違ってあかりちゃんは優しいし。
ちらりと横を見ると、ようやく戻ってきたらしい。楽しそうに談笑してるのが
目に入った。

少しほっとする。
別にずっと一人なんじゃないのかって心配してたわけではないけど。

あかりちゃんの磯部あげをもぐもぐしながら目線を戻した。
目が合った。

あかり「美味しい?」

櫻子「すっごく美味しいよっ!」

あかり「そっかぁ、櫻子ちゃんっていつもいっぱい食べるよねー」

櫻子「えっ、そう?」

あかり「うん」

櫻子「そ、そんなつもりはないんだけどな……」

向日葵じゃないけどこれでも一応、体重とかそういうの気にしてるわけだし、
食べ過ぎないようにはしてるんだけどな。
(かと言いつつお菓子とかいっぱい食べちゃうけどね!)

櫻子「あ、たぶんお昼だけ!」

あかり「お昼だけ?」

櫻子「最近は特に、朝ごはん食べてないから!」

すいません
二時間ほど離席します

再開します

あかり「えっ、だめだよそんなの!」

うおっ、あかりちゃんが目の色変えた。
確かにあかりちゃんって毎日三食きちんと食べてそうな気はするけど。

櫻子「そ、そう?」

あかり「あかりも食べてないけど!」

櫻子「えっ」

あかり「きょ、今日だけだよ?いつもちゃんと食べてるもん、時間あるときは……」

最後のほうは小さくてよく聞き取れなかったけど。
ほえー。
もしかしてあかりちゃん、私を迎えに来たから朝ごはん食べれなかったのかな。

櫻子「そっかー……」

あかり「だからちゃんと食べなきゃだめだよ!」

櫻子「う、うん」

でも、そうは言われても起きられない。
目覚まし時計は壊れて使い物にならないし。向日葵だったらお上品に玄関の前で
待ったりなんてしないでずかずか入ってきて布団ひっぺがしてくるけど、
あかりちゃんにそこまで要求するのはどうかと思うし。

櫻子「起きられるかなあ……」

あかり「櫻子ちゃん、それじゃああかり、朝ごはんにお弁当持って来ようか」

櫻子「お弁当!?」

あかり「うん、何かあれば櫻子ちゃんも起きるって聞いたから」

櫻子「うわあ、さすがあかりちゃん!」

あかり「それで一緒に学校で食べよっか」

櫻子「いい!それすごくいいよあかりちゃん!」

なんかすっごいそれっぽいし!
付き合ってるって感じ!
胸の奥がうずうずして嬉しくてしょうがない。

早起きして学校で食べるなら家で食べたほうがいいような気もしなくもないけど、
あかりちゃんとももっと仲良くなれるチャンスだ。
逃すわけにはいかない。

あかり「えへへ、そうかなぁ」

櫻子「あかりちゃん最高!」

あかり「褒めすぎだよ櫻子ちゃん~」

櫻子「あかりちゃんは世界一!」

あかり「えぇっ!?」

ギャーギャーとあかりちゃんと騒いでいると、昼休みはあっという間に過ぎていった。
チャイムが鳴る直前、ふと視線を感じて振り返ると、向日葵がいた。
向日葵は一瞬何か言いたそうな顔をして、それから小さく息を吐くと私に背を向けた。

櫻子「……なんだ向日葵のやつ」

―――――
 ―――――

放課後。
私もごらく部に入ればよかったかなあ、なんてことを考えながらふらふら生徒会室を
訪れた。
ドアの前に立ち止まって。

「でも、古谷さん……」
「そやで……にはいかへんて」
「……は、そのつもりです」

最後の声だけ、やけに大きく聞こえた。
杉浦先輩と、池田先輩と、それから……向日葵。

怒ってるみたいだ、向日葵。
杉浦先輩と池田先輩は困ってるみたいだし。
向日葵が先輩方に刃向かうなんて珍しい。
これは面白そうだし、もうちょっと聞いておこうかなと思ったとき、突然肩を
叩かれた。

櫻子「ぎゃっ!?」

ちなつ「すごい声だね……」

櫻子「なんだ、ちなつちゃんか……」

ちなつ「あかりちゃんじゃなくってごめんね」

櫻子「ほんとだよ!」

こんなこと言ったら向日葵に怒られそうだけど。
今向日葵はいないし大丈夫だろう。

櫻子「で、どうしたの?生徒会に用事?」

ちなつ「私こそどうしたのって聞きたいよ、櫻子ちゃん。なんでこそこそしてるの?」

櫻子「こそこそしてるわけじゃ……」

うん、してるんだけど。
だからさっきもちなつちゃんに肩叩かれて驚いて。

ちなつ「へえ……」

櫻子「向日葵がなんかね」

先輩方ともめてるみたい――そう言おうとしたとき、生徒会の扉が勢いよく開いた。
向日葵が、立っていた。

ちなつ「あ、向日葵ちゃん」

向日葵「吉川さん……と、櫻子」

櫻子「と、で悪かったなと、で!」

ぐーっと睨みつけると、向日葵はまた溜息を吐いて。
そんなに私と話すと疲れるのか。

ちなつ「向日葵ちゃん、何かあったの?って櫻子ちゃんが」

櫻子「私は何も言ってないよ!」

向日葵「……私もなんでもありませんわ」

一瞬の間。
向日葵が何か隠している証拠だ。
けど私は関係ないし、あ、でも生徒会のことだったら私だって……。

向日葵「吉川さん、帰りましょ」

ちなつ「えっ、うん……」

櫻子「もう帰るの?」

向日葵「見てわからない?」

そういえば向日葵、もう帰り支度万端だ。
生徒会の仕事はどうしたんだろう。
訊ねる暇もないままに、向日葵はちなつちゃんと一緒に帰ってしまっていった。

櫻子「……」

本当になんなんだろ、向日葵のやつは。
向日葵に思い切り舌を出すと、私は奴のいなくなって清々した生徒会室に飛び込んだ。

櫻子「こんにちは!」

うん、元気元気。
元気元気だけど、先輩たちはそうではなかったらしい。

綾乃「あ、大室さん」

千歳「大室さん、元気にしとる?」

櫻子「えっ、あの、はい?」

千歳「元気やんな?」

櫻子「そりゃあもちろん、このとおり」

池田先輩は恐ろしい形相で私に近寄りながら、確かに、と言って肩を落とした。
杉浦先輩なんて今にも怒るか泣きそうな表情どちらも器用に顔に表している。
正直こわいです、先輩。

たぶん、向日葵の仕業なんだろう。
「あのー、なにかあったんですか?」と控えめに訊ねると、杉浦先輩と池田先輩は
わかりやすすぎるくらいにびくついてくれた。

綾乃「えっ、あの、それはその、ね……」

千歳「そやで、大室さん、それはやね……そ、そうや!プリン食べる?」

櫻子「プリンっ!」

綾乃「ちょッ、千歳、それ私の――」

千歳「ごめんな、綾乃ちゃん……」

なんだかよくわからないけど、プリンをもらえたのでよしとしよう。
それっきり、先輩たちを問い詰めることはせずに私はプリンを食べることに集中した。

―――――
 ―――――

あかり「へえ、向日葵ちゃんが」

櫻子「うん、まあ別にどうでもいいんだけどね!」

あかり「ほんとー?」

櫻子「うん、ほんと!」

今はあかりちゃんのことが一番大事なんだから!
とは、さすがに恥ずかしくて言えないけど。この暗さでならちょっとくらい赤くなっても
ばれないかな。

ようやく放課後終了のチャイムが鳴り終え、生徒会から解放された私は
あかりちゃんと一緒の帰り道。

いつもはこんな時間まで仕事なんてしないのに、今日は向日葵もだけど先輩たちも
変だ。杉浦先輩と池田先輩なんて途中でごらく部行くくせに今日に限って黙々と
書類整理なんてしてたし。せっかく仕事中でもあかりちゃんに会えるかもって
期待してたのになあ。

櫻子「待っててもらってごめんね」

あかり「ううん、全然平気だよー」

あかりちゃんはいい子だなあ。
いくら待たせたって文句なんて言われない。
(ごらく部は一時間ほど前に皆帰ったっていうからびっくりだ)

もうすっかり寒くなっていて、夏はまだ明るかったこの時間帯も真っ暗闇。
あかりちゃんと一緒に帰れて本当に良かった。
今日は向日葵もいなかったし。

……最近はもう、ずっと一緒に帰ってないけど。

そんな私の思考をかき消すように、あかりちゃんの「ねえ」という声が聞こえた。
かじかみそうな手をごしごししながら「ん?」と返事。

あかり「あのね、今日ずっと考えてたんだけど……」

櫻子「うん」

あかり「付き合うって、どういうことするのかな」

恥ずかしそうに、あかりちゃんは言った。
えっ、と思わず立ち止まる。

あかり「あかり、変なこと言っちゃった?」

そんな私の反応に驚いたように、あかりちゃんも立ち止まって私を振りかえった。
そういえば、なにするんだろう。
漠然とこんな感じ、とかは思い描いてたけど。向日葵は具体的に何をして……。

櫻子「えーっと……デート、とか?」

あかり「……うん、そうだよね」

普通に遊びに行くとかとどう違うんだろうなんてことは考えない。
だって私たち、付き合ってるんだし。

櫻子「んーっと……」

それらしいこと、とかは漠然とわかるんだけど。
言われればそれっぽいとか思うし。
けど、実際ちゃんと考えてみると、何をしてどうするんだろう。

櫻子「……手、繋ぐ、とか?」

うん、これならいいかもしれない。
そう言うと、あかりちゃんも「おぉ!」と目を輝かせた。

櫻子「なんかそれっぽいよね!」

あかり「うん、それっぽいね!」

櫻子「じゃあ繋ぐ?」

すっと手を差し出してみる。
あー、私の手、汗ばんでないかな。今更心配したって遅いけど。

あかり「いいの?」

櫻子「いいもわるいもないよ、あかりちゃん!」

あかり「そ、そうだよねぇ」

そう言いながら、あかりちゃんの冷たい手の感触が。
朝握ったときとはまた別の感じがした。
意識、してるからかも知れない。すごく特別っていうか、へんなふうに心臓が苦しい。
でも全然嫌な感じなんかしなくって。

あかり「……」

櫻子「……」

立ち止まったまま、しばらくお互いの手を握り合った。
それからどちらともなく照れ笑い。

あかり「えへへ、なんか恥ずかしいや」

櫻子「うん」

あかり「離す?」

櫻子「ううん」

あかり「そっかぁ」

櫻子「うん」

離したくなんてないな。
猛しばらくは、ずっとあかりちゃんとこうしてたい。
このへんな感じを、もっともっと感じていたい。あかりちゃんも同じことを
思ってくれていたのか、私たちはそのままずっとそこから、動こうとはしなかった。

>>91ミス
>猛しばらくは、ずっとあかりちゃんとこうしてたい。
→もうしばらくは、ずっとあかりちゃんとこうしてたい。


次の日から、あかりちゃんは本当に早起きして私を迎えに来てくれた。
もちろん、お弁当もちゃんと持って。
あかりちゃんがお弁当作ってくるなんて言うから早めに目を覚まして外に出たら
本当にあかりちゃんが待っていたときの喜びといったら。

櫻子「あかりちゃんは私の救世主だあー!」

あかり「えへへ、櫻子ちゃんのためならなんでもしちゃうよぉ」

櫻子「ほんとほんと!?」

あかり「うん!」

ほんと、向日葵とは大違い。

学校に着いた私たちは一番乗りだったのか、校舎全体がしんと静かだった。
これはいい感じだ。

櫻子「誰もいないみたいだねー」

あかり「ほんとだ、あかり、こんな時間に学校来たのはじめて!」

櫻子「私も!」

あかり「起きれないもん」

櫻子「私も」

あかり「でも今日は起きれたね」

櫻子「あかりちゃんが待っててくれたから」

朝っぱらから繋いでいたあかりちゃんの手の力が、
少しだけ強くなった気がした。

千歳「綾乃ちゃんと歳納さんが付き合うことになった」
これ完結させてくれよ>>1
違う奴だったらすまん

あかり「どこで食べよっか」

櫻子「教室?」

は、さすがに人が来て見られるとまずいかな……。
それなら生徒会室とか、なんなら図書室……も無理。

櫻子「ひ、非常階段のとことか!」

あかり「えっ、いいの?」

櫻子「よく隠れてお菓子食べてる子みるよ」

あかり「櫻子ちゃん、生徒会だよね……」

櫻子「うん、そうだけど?」

きょとんとしながら歩き出す。
あかりちゃんは苦笑しながら、「櫻子ちゃんらしいなあ」と呟いた。

>>98
すいません
何度も落としてしまったのでSS速報にて完結させました

むむ、どういう意味だろう。
まああかりちゃんが言うんだから、褒めてくれてるんだよね。
そういうことにしておこう。

廊下をとことこ歩いて、学校の一番端っこに来ると重い扉。
その向こうに、非常階段がある。
ぎいっと音をさせながら開けると、秋の朝の明るい空が見えた。

あかり「三階だったらもっと空、綺麗に見えたかなあ」

櫻子「明日から三階で食べる?」

あかり「えっ、でも先輩がいっぱいだよぉ」

櫻子「大丈夫大丈夫、私がいるし!」

次期生徒会副会長の櫻子様だから、先輩フロアでもなんでも関係ない!
あかりちゃんとゆっくり話もしたいし、あかりちゃんと一緒なら空見てるだけでも
きっと退屈じゃないから。

あかり「そうかなぁ」

櫻子「そうだよ!」

あかり「じゃあ櫻子ちゃんを信じる!」

櫻子「うん、信じて!」

くすくす笑うあかりちゃん。
釣られて私も笑い出す。
あぁ、早起きしたらなんとやらって言うけど、本当にいいことってあるんだなあ。

―――――
 ―――――

櫻子「向日葵、今日も帰るの?」

向日葵「えぇ」

それから昼休みもあかりちゃんと一緒で機嫌の良かった私は、
つい向日葵に声をかけてしまっていた。
放課後。
生徒会室に向かおうとしていた足を止めて、帰り支度をしている向日葵を振り向いて。

櫻子「……へえ」

向日葵「……なんですの」

櫻子「……そんなことしてたら生徒会副会長は簡単に私のものだな!」

向日葵「ご勝手に」

くるっと背を向けられた。
何も言い返されなかった。
そこはいつも、「何言ってるんですの、櫻子なんかに生徒会副会長なんて務まるわけないでしょ」とか
いろいろ言ってくるくせに。

櫻子「……」

首をかしげ、向日葵を見送る。
あかりちゃんとちなつちゃんはごらく部に行っちゃったし。

櫻子「……変なの」

ぼそりと呟いた。


その日からずっと、向日葵は生徒会に来なかった。
学校に来ても私と目を合わそうとはしない。

櫻子「……」

あかり「……」

先輩たちはそんな向日葵のこともなんにも言わないし、
私に話しかける意味なんてないから話しかけられないし。
あと、話しかけたいわけじゃないし。

櫻子「……」

あかり「……」

櫻子「……」

あかり「……あの、櫻子ちゃん」

櫻子「へ?」

そういえば今、あかりちゃんと話してる途中なんだった。
最近の私たちはいい感じだし、あかりちゃんには変な顔させたくない。

櫻子「あ、ごめん。えーっと、なんだっけ?」

あかり「えっ?」

櫻子「えっ?」

あかり「今、何の話もしてなかったから……」

櫻子「あ、そうだったかな……」

しまった。
あかりちゃんは持っていた本を脇に置くと、じっと探るような目で私を見てきた。

あかり「最近櫻子ちゃん、元気ないよね?」

櫻子「え、そうかな」

あかり「うん。あかりが言うんだから間違いないよ」

だって一番近くで櫻子ちゃんを見てるから。
そう言って、あかりちゃんが優しく笑う。

櫻子「うん、そうかも……」

あかり「えへへ、でしょ?」

櫻子「元気ないっていうか調子出ないっていうか」

あかり「そっかぁ」

あかりちゃんが聞いてくれていると思うと、なんでもすらすら言葉が
出てきてしまう。聞き上手っていうのはあかりちゃんみたいな子を言うんじゃ
ないだろうか。

櫻子「こう、うわあっ、てなるんだよね……」

あかり「う、うわあ?」

櫻子「うん、そう」

向日葵があんなだとこっちまでむしゃくしゃするし、
生徒会に来なかったら張り合う奴いなくて仕事も進まないしつまんないし、
別にいなくたって全然いいけどやっぱりなんか足りないっていうか。

あかりちゃんといる時間が増えてよけいに、生徒会での一人での仕事が
身に堪える。

櫻子「どうして来ないかなあ……」

前なら呼ばなくてもほいほい生徒会室来て邪魔なのに一緒に仕事して。
いろいろケンカしてはすぐに機嫌直してまたケンカして、その繰り返し。
それでもそれをやりに生徒会やってたみたいなもので。

いや、そんなわけはなくって……。

櫻子「うーっ」

あかり「……」

唸っていると、突然あかりちゃんが小さな笑いを漏らした。
「どうしたの」と机に突っ伏していた顔を上げる。

あかり「櫻子ちゃん、本当に向日葵ちゃんのこと好きなんだなあって」

櫻子「……」

あかり「……」

櫻子「な、なにいってんのあかりちゃん!?」

がばっと身体ごと起こす。
私が向日葵のこと好きとかありえないし!

櫻子「そんなわけないって!私が好きなのはあかりちゃん!」

あかり「ほんと?」

いつもの調子で、訊ねられる。
私はどうしてか、答えに詰まった。

櫻子「……ほんと、だよ」

それでも、声を絞り出す。
どうして私が向日葵のことなんか。
それに、今付き合ってるのは向日葵じゃなくてあかりちゃんなんだから。

あかり「……だったら嬉しいな」

櫻子「……」

やっぱりあかりちゃんはすっごく可愛い。
どうしてこんなふうに、笑えるんだろう。

ここ最近ずっと感じていた胸のうずうずが、ずきずきに変わったのはたぶん、
あかりちゃんの笑顔があまりにも眩しかったせい。


櫻子「……」

雨だ。
気付いたのは深夜の二時過ぎ。
この時間帯ってたしか、お化けが出るって聞いた気がする。誰だったかな。

櫻子「……向日葵だ」

こんなときにこんなこと思い出すなんてどうかしてる。
こんなときに向日葵のこと思い出すなんてバカみたい。

あかりちゃんが変なこと言うせいで眠れないし、雨だしこわいし。
ベッドに寝転んで思い切り溜息。
隣の花子の部屋からどんどんと壁を蹴る音がしてよけい眠れない。

『櫻子ちゃん、本当に向日葵ちゃんのこと好きなんだなあって』

ないないない!
そんなの、ありえるわけなんてない。
だって私たちはただの幼馴染で向日葵が言うには腐れ縁で、たったそれだけだし。
あと、ライバル。ライバルで、一応友達で、それで。

櫻子「それで、なんだっけ」

向日葵は、私にとって。

櫻子「あぁ、もうわからんっ」

ぐしゃぐしゃと頭をかきまわす。
わからなくてこわくてなんかすっごくイライラする。

第一向日葵が付き合いだすからいけないんだ。なんだよ急に
「お付き合いする人ができたので」って。意味わかんないよ。

櫻子「……」

雨の音が、激しくなってきた。
それと同時に、机の上に放ってあった携帯がぴかぴか光る。

一瞬何かと思ってびっくりしてしまった。
別に怖くなんて、ないし。

自分に言い訳しながら、そろそろとベッドからおりて机の傍に。
誰かからの着信だった。
こんな時間に誰だろう、そう思って開けてみれば、向日葵からだった。

櫻子「!?」

慌てて通話ボタンを押した。
「もしもし」と声がする。確かに向日葵の声で間違いは無い。

櫻子「な、なに?」

こんな時間に電話してくるなんて、向日葵らしくないし。
ちょうど考えてたときに電話かけてくるなんて、向日葵はもしかしてエスパーか
何かなんじゃないだろうか。

向日葵『……起きてましたの』

櫻子「誰かさんのせいで」

向日葵『はあ?』

櫻子「……なんでもない」

向日葵『出なくて良かったのに』

櫻子「はあ?」

向日葵『……なんでもありませんわ』

櫻子「なにそれ」

向日葵『そちらこそ』

そういえば、とふと思った。
向日葵も雨って嫌いなんだっけ。
小さい頃こわいときはよく、こんなふうにお互いのところに行ったり電話してたり
した気がする。

向日葵『櫻子のことだから、今頃とうに夢の中かと』

櫻子「私はそんなに子どもじゃないし!」

向日葵『あらどうでしょうね』

櫻子「そういう向日葵こそ、たまたま目が覚めたら暗くてこわくて吃驚して
   私にかけてきたんじゃないの?」

向日葵『それはその……ちょうど起きてたからこんな時間に電話するのも迷惑だし
    迷惑のかからない櫻子に』

櫻子「私をなんだと思ってる」

ふっと、向日葵が息をこらしたのがわかった。
私も黙り込んだ。
こんなふうに向日葵と話すのは久し振りで。最近全然話していなかったせいで、
変な感じ。

あと、あかりちゃんも変なこと言うから。
喉がカラカラして、まるで向日葵と話すのに緊張してるみたいだ。

向日葵『……』

櫻子「向日葵」

向日葵『はい』

櫻子「どうして生徒会、来ないの」

心配とかしてたわけじゃないし。
ただ、気になったから。

そう早口で付け足す。

向日葵『……もう、辞めると先輩方に言っておいたので』

櫻子「え?」

向日葵『だってこれ以上、心をかき乱されたくはなかったから』

なにそれ。意味わかんないよ。
そういいたいけど、声が出てこない。
意味わかんない。なに勝手なこと言ってんの。

向日葵は私のライバルで、一応友達で、それで。
そんな勝手、許されるはずなんて。

櫻子「……わけわかんないよ」

向日葵『そうですわね』

櫻子「変だ、向日葵」

向日葵『そういう櫻子だって充分変』

櫻子「私は」

……私だって、変だけど。
なにが変なのかとか、よくわかんなくって。

ただ、向日葵は辞めちゃだめだって、そう思う。
私のライバルがいなくなるなんてごめんだ。
そんなの絶対、私が許したりしない。

櫻子「先輩たち、何も言ってなかったよ」

向日葵『受理されてませんもの』

櫻子「それで勝手に辞めた気になってんの」

向日葵『……さあ』

櫻子「なにさその返事」

そう言うと、向日葵はまたふっと黙り込んだ。
次の言葉は、『櫻子、明日遅刻しても知りませんわよ』だった。

確かにいつのまにか午前二時半を過ぎている。
これは遅刻決定だ。

櫻子「……寝る」

向日葵『そうなさい』

櫻子「言われなくてもそうする」

向日葵『言われなくっちゃいつまでも私を問い詰めていそうでしたけど』

櫻子「そんな面倒なことしないもん」

そう言って、ぶちっと電話を切ろうとした。
切るその間際、向日葵の「おやすみなさい」
電話の向こうがツー、ツー、という音にかわっても、いつまで経っても向日葵の
その声は消えてくれなかった。


櫻子「……」

あかり「大丈夫?」

櫻子「だめだ、眠くてすごくぼーっとする……」

三階、非常階段。
秋晴れの清清しい空の下、あかりちゃんの持って来たお弁当をかみかみしながら、
私はぼーっとする頭を必死で起こそうと努力していた。

あかり「昨日遅かった?」

うん、と頷こうとして躊躇った。
向日葵と電話してて、なんてことはあまりあかりちゃんに言いたくなかった。

櫻子「遅かったんだけど……あかりちゃんが待ってると思ったからめっちゃ頑張って起きたんだよ!」

あかり「えへへ、そっかぁ」

櫻子「……うん」

あかりちゃんが嬉しそうに笑う。
私の言った言葉は嘘なんかじゃない。けど、やっぱりずきずきでやな感じ。

櫻子「……」

あかり「……」

一緒に食べるお弁当。
卵が少し、しょっぱい。

私は確かにあかりちゃんが好き。
付き合い始めて、その気持ちは前よりうんっと強くなった。
でも、最初に付き合い始めた理由は向日葵を追いかけるためで。
向日葵だけずるいって。向日葵に負けたくないって。

向日葵が元凶。
向日葵が始まり。
向日葵が。

櫻子「……あかりちゃん、好きって、どんな気持ち?」

私ってバカだからよくわからないんだよね。
だから向日葵と同じのを感じてみたかった。
向日葵が感じる気持ちを一緒に、感じていたかった。

あかり「よくわかんないけど、ずっと一緒にいたい、かなぁ」

のんびりとした口調で、あかりちゃんは言った。
それからやっぱりゆっくりと、あかりちゃんは私を見て。

あかり「だからあかりが櫻子ちゃんに感じてる気持ちも、きっと好きなんだって思うよ」

初めて、あかりちゃんに好きって言われた気がする。
私は驚いて、柄にもなく真っ赤になってしまった。

しかも、そんな真剣な顔で。
反則だよ、こんなの。

櫻子「……」

あかり「櫻子ちゃん」

櫻子「……え?」

あかり「櫻子ちゃんって、好きな子いる?」

チャイムが鳴った。
朝のホームルームが始まってしまう。あかりちゃんは食べかけのお弁当を包むと、
「教室行こうか」
何もなかったみたいに微笑んだ。

昼休みも休憩時間もあかりちゃんと過ごしていたってちっともうずうずせずに、
放課後になった。

ずっと恋がしたかったのは確かで。
それはでも、向日葵が誰かを好きだと言っていたから。
向日葵と同じ気持ちになりたくて、だからたぶん、それってやっぱり、あかりちゃんの
言う通りなのかもしれない。

あかりちゃんに感じている気持ちも、向日葵に感じている気持ちも、
言葉では言い表せない。
でもどっちも同じ好き。

確かに同じ好きで。

あかり「櫻子ちゃん、今日は帰るの?」

櫻子「うん……」

頷きながら二人一緒に廊下を出て、昇降口まで歩く。
生徒会室の前を通りがかったとき、私はふと立ち止まった。

向日葵の声がした。

あかり「……向日葵ちゃんだ」

櫻子「……」

そっと、扉を開けて中を覗く。
向日葵の後姿。
と、くるりとこちらを向いた。慌てて隠れても、もう遅い。

向日葵「……櫻子」

扉を開けて外に出てきた向日葵が、私とあかりちゃんの姿を見て固まった。
立ち聞きしてたわけでもないのに、肩をすくめる。

そのとき、「櫻子ちゃん」とあかりちゃんの小さな手の感触がした。
背中を押される。
振り返ると、「待ってるね」そう言って、やっぱりあかりちゃんは笑った。

駆け出していくあかりちゃんを見送ると、今度は「櫻子」と向日葵の声。
向日葵に視線を戻し、じっと睨み合う。
それで私は、自分がどうしなきゃいけないのか、気付いた。

櫻子「向日葵、私」


向日葵「櫻子、私、あなたのことが好きでした」

先を越された。
私は一旦吸い込んだ息を吐き出すと、もう一度深く吸い込んだ。

櫻子「……私も、向日葵のこと、好きだった、かも」

向日葵「……櫻子らしいですわね、その言い方」

櫻子「だって、なんか悔しいし、こんなこと言うの」

向日葵「私だって」

むっとしたように向日葵は言って。
それから、思い出したように付け加えた。

向日葵「生徒会はやっぱり、続けることにしました」

櫻子「うん」

向日葵「きっともう、大丈夫でしょうから。ただ、ずっと悶々としているのは嫌だったので。
    言ったほうがすっきりするでしょ?」

櫻子「そういうとこまで一緒なんてやっぱやだ」

向日葵「私だって嫌ですわ」

櫻子「……」

向日葵「これからもずっと」

櫻子「ライバルに決まってるじゃん」

向日葵「えぇ、そうですわね」

私はたぶん、向日葵のことが好きだった。
向日葵もきっと同じ気持ちでいてくれて。
だけど向日葵は今は、私より大切な子がいて。
だけど私も今は、向日葵より大切な子がいて。

向日葵「櫻子、赤座さんを待たせちゃだめですわよ」

櫻子「わかってるし!」

そう言って、向日葵に背を向けて。
私はふと振り返った。

櫻子「ねえ、向日葵」

向日葵「なんですの?」

櫻子「もし私が、あの子より早く向日葵への気持ちに気付いて、それで告白してたら」

向日葵「今と少し、変わっていたかもしれませんわね」

櫻子「なら、今度生まれ変わったら向日葵に告白してやろう」

向日葵「あまり嬉しくないですわ」

でも、もしそれなら今度こそ待ってますから。
そんな声が聞こえた気がした。
それで満足。

ありがとね。
心の中で、思い切り小さな声だけど、私は言った。


櫻子「あかりちゃんみーつけた」

ひょいっと顔を覗かせると、あかりちゃんが驚いたように飛び退った。
そこまで驚くことないと思うんだけどなあ。

あかり「櫻子ちゃん……どうしたの?」

きょろきょろ辺りをみまわすあかりちゃん。
向日葵を探しているのかもしれない。

櫻子「いないよ」

あかり「えっ」

櫻子「だからいないんだって」

あかり「な、なんで?」

櫻子「だって私はあかりちゃんと付き合ってるもん」

でも、とあかりちゃんが困惑したように言った。
その目が泣きそうになっていて、それで本当にあかりちゃんが私を好きでいて
くれてたんだなと思った。

それがすごく嬉しくて。
なのに、私まで泣けてきた。

あかり「櫻子ちゃん……」

櫻子「……あかりちゃんのバカ」

あかり「バカって言いたいのはあかりだもん……」

櫻子「そりゃそうか……」

あかり「もう……」

ぶーっと頬を膨らますあかりちゃんが可愛い。
これからもっともっと、あかりちゃんのことを知りたいし好きになりたいな。
だからあかりちゃん、そんなに泣かないでよ。

あかり「……ほんとは、櫻子ちゃん、向日葵ちゃんのとこ行っちゃうって思うと、
    苦しくって、不安で……最初はこんなに好きになるなんて思ってなくって」

なのにね、あかりね。
櫻子ちゃんのこと、こんなに大好きなんだなって。

櫻子「私だって」

前にまわりこむと、ぐいっとあかりちゃんの身体を引き寄せた。
あかりちゃんの香り。
あかりちゃんの温もり。

櫻子「これからももっともっと、あかりちゃんのこと好きになっちゃうからね」

あかり「……えへへ、だと嬉しいなぁ」

やっと、あかりちゃんが笑ってくれた。
向日葵のことも、きっとまだどこかに残ってしまうだろうけど。
それでも今の私は、あかりちゃんが大好きだって思う。これからも一緒にいたいって思うから。

櫻子「約束する!」

あかり「……うん」

終わり

支援、保守、そして最後まで読んでくださった方ありがとうございました
また、ここ最近完結できないのにスレを乱立してしまいすいませんでした
それではまた

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