上条「不幸だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
夜の街並み。辺りにちらほら居るカップル達が甘い雰囲気を出し合っている。
そんな中を私こと上条当麻は、走る、走る、走る。尚、現在進行形である。
「コラァッ! 止まれクソガキィ!!」 「待てッ! この逃げ足王!!」
後ろからは、如何にも「私、不良なんですー」といった感じの身なりをした厳つい顔の男の集団が、所構わず怒鳴り散らしながら追いかけてくる。
周りのカップルさん達に内心土下座三昧だ。
上条「だぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!! そんな熱烈なアタックをされても、上条さんにそっちの気は微塵も在りませんよぉぉぉぉぉぉッ!!!」
何故こんなことになっているのか。敢えて理由を挙げるのならば・・・
7月19日。全てこいつのせいだ。
明日から夏休みというハイな気持ちでファミレスに入って、「苦瓜と蝸牛の地獄ラザニア」なんて頼んでたときだった・・・
「よぉ、キミ今からオレらと遊びに行かねぇ?」
ふと、とある女の子が三人の不良に絡まれているのが目に入った。
仕方ないから助けてやるかー、と
上条「はいはい、ちょっとすいませーん」
話し掛けたのだが。
一人、二人、三人・・・・・・・・・。ぞろぞろ、ぞろぞろ。
上条「えぇーッ!? トイレに集団でぞろぞろは女の子の特権だと思ってましたがーッ!」
そして今に至る。
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上条「ぜぇ・・・・・・はぁ・・・・・・ッ、ぜぇ・・・」
当てずっぽうに走っているが、一体どれくらいの距離をどれくらいの間走ったのだろうか。
いつの間にか馴染みある鉄橋の上をほとんど歩きと変わらない速さで移動していた。
鉄橋の半分ほどを過ぎると、体力の回復と追っ手の確認のために一旦立ち止まった。
膝に手をつき呼吸を整える。すると、少し冷静になったのか、先ほどから罵る声も追いかけてくる足音も聞こえなくなっていることに気が付いた。
上条「はぁ・・・・・・、撒いた・・・のか?」
額の汗を手で拭いながら、安堵の息をついた。
だが、上条当麻は「不幸」である。
安心している最中、後ろからトントンと肩を叩かれた。
思わず「ひぃッ」と情けない声を漏らしてしまうが、勇気を振り絞ってまるで壊れかけのブリキのように頭を後ろへと回転させる。
そして、
御坂「えーい!」
右頬に人差し指が刺さった。
上条「うぉッ・・・・・・てビックリしたぁ・・・美琴かよ・・・」
ファミレスで絡まれていた「とある女の子」、御坂美琴である。
そして俺の幼馴染み、兼妹といった関係だ。かれこれ十年以上といった長い付き合いになる。
その彼女は不良に絡まれた後でも、何事も無かったかのように俺をからかう。
美琴「よっ。お疲れさまね、当麻」
俺もとりあえず、よぉと返した。
上条「つーか、何でお前までここに? ・・・もしかして、後ろの連中が追ってこないのって」
美琴「うん、私がやっといた」
彼女の頭から青白い一筋の閃光が走る。それは電気だった。
これは一体どういうことか?
その問にこの街の人々はすぐ答えるだろう。
ここは「学園都市」。
東京都西部を切り拓いて作られたこの都市は、外より二、三十年技術が進んだ科学の総本山であり、
又、「超能力開発」が学校のカリキュラムに組み込まれており、人口230万人の実に八割を占める学生が日々「頭の開発」
に取り組んでいる・・・
上条「ったく、人がせっかく・・・」
その中で、彼女の能力は「電撃使い(エレクトロマスター)」に分類される。
しかし、ただの「電撃使い」ではない。
この街では超能力をLevel0からLevel5といった6段階評価でランク分けされる。
つまり、下は何の才能もない大勢の一般人から上は凄い才能を持った一握りの天才ということだ。
そして彼女は、なんと7人しかいないLevel5の一人、第三位の「電撃使い」
又の名を「超電磁砲(レールガン)」と呼ぶ。
美琴「なによ、当麻はアイツらの肩を持つ訳?」
上条「ちげぇよ。・・・・・・ただ、お前のあまり良くない噂を時々聞くんだよ」
美琴「えっ? なにそれ?」
上条「例えばだな・・・・・・御坂さん似た人が自販機を蹴ってるーだとか、誰かを追いかけ回してるーとか、路地裏でサバゲーしてるーとかその他諸々」
美琴「げっ! それって本当・・・?」
美琴は少々面喰らった。
上条「だからあそこで電撃飛ばしてまた噂が広まらないように、わざわざ不良に追っかけられたってのに・・・」
美琴「うぅー、悪かったわよ・・・・・・それと・・・ありがと・・・」
上条「まったく・・・。美琴さんはもう少しお淑やかに出来ないんですかー?」
瞬間、美琴の顔が少し引きつったような気がした。
美琴「このぉ、喰らえッ!」
いきなり怒り始めたかと思ったら、此方に向かって電撃を飛ばしてきた。
私、上条のレベルはなんとゼロ。底辺中の底辺。ということは美琴との差は天と地ほどあるのだ。
今飛んで来ている痺れる程度の電撃でさえどうにもできないはずなのだが・・・
キィィンッ!
咄嗟に突き出した右手に電撃が当たると、何かが砕けるような音とともに打ち消された。
美琴「本当に・・・230万人分の一の天災よね、その右手」
そう、この右手には「幻想殺し(イマジンブレイカー)」と言う変な力が宿っている。
能力はどんな超能力でも打ち消してしまうというもので、一見ものすごい能力のように感じるがパンチやキック、武器での攻撃といった物理的攻撃は消せないし、右手首から先という当たり判定も小さい何とも微妙な能力だったりする。
そして、この右手のせいで能力が産まれる筈もなく、意味の無い開発の勉強や実技を毎回やらされる羽目になる無限地獄付きだ。
もしかして俺の不幸もこれのせいでは? と思ったり。
でも、なんだかんだ言ってこの右手に色々と助けられていた。
上条「こらッ! 言ったそばからお前はビリビリすんな!!」
美琴「今のは当麻が悪い」
断言された。
美琴「まるで私が年柄年中じゃじゃ馬娘みたいじゃない!」
上条「アハハ。チガイマスヨー」
美琴「むぅぅぅぅッ!」
電撃をバチバチ言わせながら、威圧感たっぷりにこっちを睨み付けてくる。
それから目をそらしたところで近くの時計台が目に入った。
上条「おい・・・、とっくに完全下校時刻を過ぎてるんだが・・・美琴は大丈夫なのか?」
それを聞くと美琴の怒りはおさまった。と言うより思考回路が停止した様だったが。
美琴「う、そ・・・・・・や、ヤバい! 寮管に殺られる!!」
俺も何回か会ったことがあるが美琴の住んで居る寮の寮管さんは相当凄い人らしい。
別れの挨拶もしてないのに自分の寮の方へと走って行く。
上条「お、おい! ちょっと待てよ!」
引き止めようとするのと同時に、美琴は振り返ってこっちまで聞こえる声で言った。
美琴「ねぇーっ! 明日あいてるー!?」
上条「明日ー!? 2時からなら空いてるぞー!」
美琴「うん、分かったー! なら3時にセブンスミストねー!」
上条「ああ! いいぞー!」
美琴「じゃあ、おやすみー当麻!」
上条「おぅ! おやすみー!」
美琴は何だか満足そうな顔をして走っていった。
鉄橋の下から水の流れる音だけが聴こえる。
上条「さて、俺も帰るか」
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